エンパイアウォー⑧~水晶の様に凍える手を伸ばして
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鳥取城に悪意が蠢く。
10体程の怨霊は、鳥取城内部にて、蠢いていたが。
仲間を求め、外に出た。手頃な生者を探し、捕らえる為に。
――そこには、絶叫が在った。
関ケ原やそれ以外の戦場での苦難を逃げ延びて。
この地に至った農民の腕を無造作に掴んだ。
掴んだ手は握力が強く、疲れた精神や心では容易く引き剥がせない。
怨霊は、掴んだ農民を連れ去り仲間に変えんと、引張り続ける。
――そこには、悲鳴が在った。
逃げる足音は誰の思惑か、鳥取城へと逃げ場を潰す。
理性的な考えを持ち得ない彼らの狩りが、じわり、じわりと進行する……。
●
手でぱたぱたと風を送りながら、ソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)は君たちの姿を確認した。
「お疲れ様だねぇ。全土での戦争は、こんなに大変なんだぁ……」
あぁ、うん、こっちの話、と話を戻す。
「救った農民が、またしても災難にあっている、という予知でね」
運が悪い農民一派が居て、彼らは一様に西へ、西へと逃げたらしい。
東へ、と誰も提案しなかったことで、そちらに逃げていったようだ。
「鳥取城、という城を防御指揮官である安倍晴明は拠点としているらしいんだ。つまり……」
必然と、『水晶屍人』の姿があるという。
戦力補充のための準備をしているともされており、仲間を無差別に増やしに増やしていた奥羽地方での『水晶屍人』とは少し違い、『水晶屍人』はこの地で発生したものだ。
城の怨霊を利用して作られたもので、人への恨み、圧倒的な飢餓感、彼らはそれが異常に強い。
「……選ばれた厳選された個体が、居るんだ。その土地で無念で悲惨な死を身に受けた、個体がね」
鳥取城とは、『鳥取城餓え殺し』が行われた場所であり恨みの瘴気は異常に濃い。
伝承のある城で再び、閉じ込め飢え死にさせる人員を出すことで、飢餓と恨みと増した更に強い『水晶屍人』を量産するつもり、とも言われている。
「出会うだろう個体はそう多くはないけれど、10体程度で猟兵と渡り合う事が可能なくらい、強化されてるからね」
下級兵と見れば痛い目に合うし、先日発生した『水晶屍人』と同じと見ても手傷を負う可能性がなくもない。
「僕が言えることは、僕の予知は農民の腕を離さない個体はまだ、城へ連れ込んでいないんだ、ということさ」
連れ込まれる前なら、救う手立てはまだある。連れ去る彼らには肩から水晶が飛び出している為、見間違うこともないだろう。
「彼らの脅威は、村人を恐怖に落とすほど人だった名残はないよ」
だから、彼らを今度こそ眠りに誘おう。
「えっと……敵軍の戦力補充を阻止しよう、ってことだね。人助けと人助けも合わさってるよ!」
伝えたいことが色んな方向に飛ぶ事をなんとか修正しつつ、ソウジは頭を下げる。
「伝えそびれるところだった!彼らに説得は無駄だよ、理性は……既に心が眠る死者の国に忘れてきてしまっているからね……」
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
ゾンビに手を引かれ、集団で狩りされるって、怖くね?
この依頼では、OPの通りがっしり掴まれた冷たい手から逃げられない村人を救出しながら、10体程度の『水晶魔人』を倒そう、という流れ。
彼らは意味ある言葉を喋らない可能性が高く、説得は無意味です。
恨み言などはいうでしょうが、その程度。疎通はほぼ無理ですね。
最少人数での依頼達成、という意味なら一人が相手をするのは二人程。
連携をとりながら襲い、牙を突き立てんとします。ようこそ同族。
集団戦というほど集団ではありませんが、言葉が通じない時点で純粋な戦闘とも言えます。彼らの恨み、体験した事は凄惨なものですので、多少描写がぐろくなる可能性もありますが、ないかも知れないので、解決に動く猟兵さん次第となるでしょう。
思い出したら、村人、農民をどうか助けてあげて下さい。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「おらの手を離せよぉ!」
農民の言葉は、空を掴むほど彼らの耳には届かない。
……それよりも、彼らの掴む握力が尋常ではなく。
どんなに力一杯引っ張っても腕は全くこちらに引き寄せられない。
「あんたぁ、何したらそんなにつよく……ひぃ!?」
振り向く『水晶屍人』の口元、上半身は乾いた赤色に彩られ。
よく見れば、掴んだ手も、握られた鍬も。
落ちることのない赤褐色で染まっていた。
「それ……あんたが……?」
農民はそう問うが、返答はない。
その代わり、返答のように更に強引に引っ張った。
――飢えがある。絶えない飢え。消えない飢え。乾く喉。満たされない心。
――これは、……生者。バラバラにして、飢えが満たせるだろうか。
水元・芙実
…止めるわよ
これ以上陰険な敵にやらせるものかしら!
幻炎合成法で鉄の板…即席のギロチンの刃を作って村人を捕まえようとしている屍人の腕を断つわ!
その後はすぐに逃げてって、村の人に言うわ
本当は治療とかもしたいけど…、それは後ね
もう生体じゃない、ドローンみたいなものね
じゃあ力技しかないか
鉄を炭素の粉に変えて水晶に貼り付けて光を封じるわ、…あとは破壊する事を目的に鉄で板を作って攻撃するわ
…中世の処刑人みたいに
私に怨念を祓う力があれば良かったんだけど、あいにくそうじゃない
もしそういう事ができる人がいれば、サポートに回るわ
そっちのほうがスマートでしょ
手枷足枷をつければ時間稼ぎにはなるでしょ
安倍晴明…か
鈴木・志乃
どうか
……
いいや、これは私のエゴだ
彼らの無念は彼らにしか分からない
それでも、どうか
その呪いに一瞬でも光が射せば良いと、そう思ってしまった
※全てにおいて祈り、破魔、呪詛耐性を付与※
怨念の塊かつ質量の有りそうな敵の攻撃は第六感と聞き耳で見切り
光の鎖を念動力で操って、農民との間に割って入る
そのまま早業で縛り上げたり、足をなぎ払って転倒を狙ったりする
敵及び敵UC対抗として自UC発動
その呪詛を、怨念を、全てを祈りに変えてやろう
もうこれ以上誰かを呪わなくて良いように
その存在そのものを祈りへと変質させる
怨念が力の源なら、この攻撃は効果覿面だろう
……これ以上誰かを食べたり呪ったりしなくていいんだ
どうか、……。
●Wait a moment!
猟兵が彼らを視認出来る場所まで来たときには、『水晶屍人』に手を掴まれている村人が一人増えていた。噛まれているというわけではなく、逃げたいがすごい力で引きずられる事に怯え、泣き咽ぶ始末。
彼らにも分かるのだ……冷たく強引な腐敗した手から逃げ出せなければ、絶対的恐怖が待っていると。
城の中に連れ込まれたら最後、ただ殺されるだけでは片付かない、事が起こるだろう、という予感がして背筋が凍った。故に、叫ぶ声は喉からこ零れ落ちない。決して最近のものではない赤褐色から、濃厚な血の匂いが恐怖を更に煽るのだ。
「痛てぇっ……!」
握られた部分が、徐々に深い海を思わせるような紫みを思う暗い青へと変じてきていた。あきらかな、鬱血症状。
ひたすらに強く、捕らえたからには絶対逃さないという意思だけが異常に強く、村人の手を握っている。
「……止めるわよ」
水元・芙実(スーパーケミカリスト・ヨーコ・f18176)は未来に起こるだろう事を予想し、自体は一刻も争うのだ、と思う。
――これ以上陰険な敵にやらせるものかしら!
自信に溢れた表情を少し曇らせて、考える。何を行えば救えるか。素早い救出に辺り、確実に倒すには、被害をださないように動くには。
「……」
――どうか。
鈴木・志乃(オレンジ・f12101)は、疲れや疲労を振り払いながらここまで来て、目を伏せる。決して、戦う事が嫌になってのことではない。ただ……。
――これは、私のエゴだ。彼らの無念は彼らにしか分からない。
願いや、祈りで照らせる場所が本当に無いかを模索する。
――彼らの無念の体験を身に受ける事が出来ない以上……それでも、どうか。
ゆっくりと、目を開いて。心の在り方を定める。
――その呪いに一瞬でも光が射せば良いと、そう思ってしまった分だけ。
「留めよう。……必ず」
声にやっと出した返事は、とても淡白なものとなってしまったが、志乃にとってはそれが限界の返事であった。心に疼くモノを感じて、芙実は何も言わずに頷いた。眼鏡の奥の茶色の瞳はすぐさま、『水晶屍人』の方を向く。
「走って追いつくだけじゃ、意味ないわよね……そうだっ!」
茶色の瞳は、そこら中に存在する無機物、即ち空気を対象に『水晶屍人』の衣服の傍で景気良く狐火を燈して、鉄の板に変じさせた。
村人が思わず狐火に驚いたようにするが、恐怖が勝り声がでない。
気付かれないならこちらのものだ。
「その場に留めるようにするなら……」
光の鎖を念動力で繰り、蛇のように虎視眈々と這わせるような低空を飛ばして。
万が一の事が起きれば、瞬時に縛り上げて動きを止められる場所まで移動させる。 どちらに転んでも、準備はOK。
「それをどうするかっていうと~……こう、よ!」
手のひらを、グッ、と握り込む動作と共に織り成された即席のギロチンは『水晶屍人』の腕を喰み、結合を砕く。
相当の勢いで握り込む動作と連動し、腕はガリガリのほぼ腐った肉しかなかった為に、バチン、と枝を斬るような音と共に切断された。
腕は本体と別れ、農民を掴んだままとなったが……どういう原理か全く離れる気配がなかった。引き千切れた腕が引きずっていたはずの重みが消えても尚、『水晶屍人』の歩みは直ぐには止まらない。
志乃はコレ幸いと、軽めに光の鎖で結んで『水晶屍人』から引き離し、なるべく優しく穏便に、近場まで移動させて下ろす。そんな姿を見て、芙実は助け出した村人に駆け寄りながら、声をかける。なるべく、簡潔に。
「本当は治療とかもしたいけど……、それは後ね」
手首の痛みが消えない恐怖、離れたはずの部位が掴み続けてる握力に怖がりながらもぶんぶん、と村人は逃げ出した。ところどころ足を縺れさせながら、どこかで見ていたのだろう村人に支えられて、無事にその場を離れられたのだ。
「さて……? もう生体じゃない、ドローンみたいなものね」
心は既にここになく、動くだけの屍。考える頭を持たない。
遠隔で操作されているようなものとも、確かに言える。
「じゃあもう力技しかないか……」
ようやく、『水晶屍人』は落とし物をしたことに気が付き立ち止まる。
腕こそ失っても両肩の水晶は健在で。
明らかな敵の邪魔が入ったのだ、と本能が叫ぶ。
――喪失。それは、永遠の飢餓と同じく、満たされないもの。
カタカタカタと、肋骨が音を鳴らし、肩の水晶からこぼれ出るように霊が溢れ出した。一体ではなく、幾つも。水晶に籠もった恨みを持って現れたのだろうがその姿は、肉が物理的に削げており、亡い。
頬の肉が、腹の肉が、無い。腕がない、骨すらも折られ欠けて、殺意の籠もる眼球すらない窪んだ黒ずみで猟兵を睨んだ。
――憎い。憎い。正常の生を歩む者。
喉仏すらも毟られて鳴らない音で叫びながら、吹き出す様にどす黒い感情を転じさせる。曰く、黒く染まり切った上で、――水晶に色だけ溶かされた光の煌きを。
「耳が……痛い」
大量の怨念は、志乃の耳に大きく爪痕を残す音を発していた。
怨嗟と、無念な心。救われなかった、過去。
「足で蹴り上げたって、霊にまで届かないんだよね……」
霊が嫌う破魔の力を込めたとしても、彼らの実体は無いからだ。苦しみ続ける者へ、痛みとして叩きつける事自体、果たしてどうかと、志乃は考えてしまう。
「……あたしはね、光なの」
光の鎖が徐々に解けて、輝く花びらの一片として空を舞う。
「綺麗な光を放つ闇じゃなく、絶望を希望に変える為に生まれた、光なの」
志乃の指の動きに合わせて、花吹雪として流れ、踊る。
「闇を垂れ流させるのは勘弁ね、そぉれ!」
『水晶屍人』の肩に生えた水晶に、芙実が発生させた鉄を炭素の粉に更に変えて埋め尽くすように光を遮断した。漏れ出た霊は水晶の反射する光の中に還る事も出来ず、光源が減った事に狼狽える。
――こうして容易く喪う。
――救われる場所は亡く、帰る場所は此処に在るハズも亡い。
「そして、あなたも彼女の光をちゃんと『その目』で見ていくべきよ」
破壊することを目的に、鉄で板を作って攻撃に備える。板をもう一つで挟み込んで、視界を固定。『水晶屍人』が神々しいまでの暖かい光で止まらないのなら、潰す事しか、芙実には思いつかなかったのだ。
「もうコレ以上、誰かを呪わなくて良いように」
――存在そのものを、祈りへと変質させる事が、出来たなら。
呪詛を包む花びら、空間の怨嗟を包む光。
それらが怨念に触れて輝きを増しながら捕らえた『水晶屍人』へ、優しい雨のように降り注ぐ様に指を動かす。痛みのない光の雨に触れて、呻きが上がった。言葉に聞こえない、言葉。震えることもできなくなった口が紡ぐ音は、果たしてなんといっていたか。猟兵の耳には、届かない。
――怨嗟が力の源なら、この攻撃は効果覿面だろう。
「……これ以上誰かを食べたり、呪ったりしなくていいんだ」
爽やかな雨が触れていた質量が、突然失われた感触を感じた。
芙実の挟み込んでいた板も同様に、姿の消失を思う。
心から浄化され、水晶の破片すら残さず、『水晶屍人』は消え去っていた。
村人を掴んだ腕も、そう時間が掛からないうちに消え去るだろう。
手当はしないと危険ではあろうが。
「安倍晴明、……か……」
歩くための足を、授けた陰陽道の使い手は、何を考えこうしたのか、疑問が残る。
――どうか、……。
祈りと願いと希望の雨に流されるように消えた『水晶屍人』と運命を共にするように。闇の光を放つ霊は、霧散して消えた。
――トト様。カカ様。置いて、行かないで。
――坊、坊。こちらへ。もう、一人で悲しい思いをしなくて、いいんだよ。
――消失。それは、身を捧げて順番に思い人を遺した食された誰かの灯火。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アレクサンダー・ヴォルフガング
恐らく他の猟兵も同じ考えだろうが、村人の救助が最優先事項だ。
まずは【目立たない】ように身を潜め奇襲のチャンスをうかがう。時機が来たら敵を強襲して村人を掴んでいる手をロンリーウルフで斬り落とす。【部位破壊】
村人の解放に成功したら退避を促した後に戦闘を再開する。水晶屍人が攻撃をしかけてきたら【見切って】【カウンター】となる左腕の一撃を入れてやる。
一対多の状況なら囲まれないことが重要だ。培ってきた【戦闘知識】で常に的確な位置取りを行う。
一筋縄じゃいかないこいつらの強さは恨みの強さからくるものか。だが、この世界はもうあんたたちがいていい世界じゃないんだ。大人しく帰ってくれ。
スペードスリー・クイーンズナイト
彼らの恨みや無念、それに対して思う所はある……だが!今を生きる罪のない者達を襲うとなればそんなことはどうでもいいこととなる!
【ランス・アフターレイン】を使用
まず、村人を助けねばならんな
地面からのランスの奇襲で引っ張っている腕を攻撃し村人の解放を試みる
これで解放されなかったら私自身のランスで敵の腕を貫き切断しよう
解放後は地面からのランスで壁を作り屍人が村人に手を出せないようにする
敵が複数いる以上庇いながら戦うのは厳しいからな
戦闘では一対一で戦えるよう敵の位置に注意し立ち回る
直接戦っている屍人には地面からのランスと私自身のランスで攻撃を行い他の屍人には地面からのランスで攻撃と牽制を行う
アドリブ歓迎
●Please stop!
「彼らの恨みや無念、それに対して思う所はある……」
あまり知らない世界では在るサムライエンパイア、鳥取城の城下でスペードスリー・クイーンズナイト(女王の騎士・f20236)は幾度目かの依頼に赴いている。
強い想像を持ってしても、限界が発生する事件があの城では行われたのだという『鳥取城餓え殺し』は、想像を拒絶した。事件の記憶が拒むように。苦しみや怨嗟は再現も、想像も許さず渦巻く黒い孔と化している。
――生者が触れるに能わず。しかし、……それは、否。
――死者も幽世からも、触れるに能わずが是である。禁忌の、咎である。
現在に産み堕とされた途絶した記憶は足を持ち、村人の手を強引に引いて、地獄の門の入口へ招く。一人、二人、少数でも連れ込めば達成される。例え手を引かずとも、城へ追い込みぐっと押し込めば、それでも達成される地獄の鍋だ。標的は、スペードスリーのだいぶ先を、もう一体の『水晶屍人』と共に歩いている。
増援などは無いようだが、悲鳴にも嗚咽にも似た音が耳に入るような気がして、実に嫌な気分にさせてくる……生者が決して聞き取れない音。
恐らく高速詠唱する永遠の呪いの怨嗟であるが、それは意味をなさない。
言い続ける事に堕とされた者への救いがあり、同時に呪詛として縛り付ける枷となるのだ。彼らもまた喉の肉が削げており、例え聞き取れたとしても、それは言葉ではなく、やはり音としか言い表せない。
「だが、だがだ。今を生きる罪のない者達を襲うとなればそんなことはどうでもいい事となる!」
スペードスリーは声高に、声を張り上げて注目を引くようにする。
しかしそれは、『水晶屍人』の気を引くためではなく。
助けるべき囚われの者へと救いが来たと宣言すると同時に、騎士道精神が勝った為だ。それと、もう一つ。身を潜める誰かの奇襲の手助けと、手を貸しているに過ぎないがそれを知る者は猟兵だけである。
――恐らく他の猟兵も同じ考えだろうが、村人の救助が最優先事項だ。あのヒトはよく分かってるな。
アレクサンダー・ヴォルフガング(孤狼・f21194)は『水晶屍人』に気づかれないように目立たない道に身を潜め、隠れていた。こちらは城に近く、『水晶屍人』の進行方向より先だ。隠れ潜み、最高のタイミングを、待つ。
「こちらに気が付かない、興味がないならそれでも良い……だが、足元が」
お留守だぞ、と言い終わる前に、白銀のアリスランスが道を埋めるようにざわざわと生える。地面の下を走る生き物のように無数のランスが奔り、近寄って……意図的に村人を避けて、『水晶屍人』の足を縫い付け貫く。
歩み続けた足が上がらず、がくん、と止まる歩み。
何故か、と振り向く動作は遅く、絡みついてるものなら引き剥がせばいいと足を強引に持ち上げるために、なけなしの血液がぴしゃ、とランスを赤く染めた。
転んだ擦り傷と共に出る流血並の少さしかない血液の飛沫に、近場で伺っていたアレクサンダーは思わず顔をしかめる。
突き出したランスに驚く村人が居たが、奇襲は成功し、剣と銃が融合した特殊な武器、ロンリーウルフを携えて、走った。前へ進むことしか思考しない『水晶屍人』の手を、冴えた切れ味の一閃で切り裂き、切り落とす。
……ぼとり、という音もなく。まるで花を摘むような脆さで、村人を握る手は『水晶屍人』から離れた。
破壊し、切り離された『水晶屍人』の喪われた手から滴る物も染める物もなく、ただ、なるべくしてそうなったような雰囲気が漂う。
「お見事。ここはこの通り危険だ、さぁ早く避難を!」
「あんたの陽動あってこそだよ」
無数のランスの生やす位置を変え、村人への手出しを拒絶するスペードスリーの行動に、『水晶屍人』は足が砕けて引き裂かれるのも気にせずに足を前へ突き出す。
縫い付けられた足は強引な方法に絶えられずに容易く折れたが、痛みも、体のバランスも気にせずに『水晶屍人』は生者を求めた。
――帰郷。戻る場所は、満たされる場所であるべきだ。
――満たされた時、崩壊する運命であろうと、渇望は消えない。永久に続く怨嗟の、呪いだ。
邪魔をした猟兵であろうと、生者である。
喪した手と、砕けた足の代わりに、片腕の鋭い爪で顔面を掻く。
――欲しい。欲しい。餓えるかわりに、欲しい。
「あんなにつらそうに掻くわりに、流れる血は……ないんだな」
――流し尽くした、と見るのが妥当か。
「『ウルフ』でも食べ切れるか……」
「血涙すら流せぬ苦悶、またはその生涯の最後が相当非業であったとは推測できるな」
二人の猟兵の会話に、流せる物があったなら。
返せる言葉があったなら、『水晶屍人』がなんと答えたかは分からない。
「満身創痍の者と、もうひとり……どちらも縫い付けてしまえば、あとは着実に誘えるだろう」
――本来、彼らが在るべき永久の眠りの国に。
地面から生えるランスに何度縫われてもなお、『水晶屍人』は歩みを留めることはなく。肉のない、誰にも届かぬ手をのばす。生者の方に、首に、……そう、アレクサンダー目掛けて。
「やるわけにはいかないんだよな、悪いけど」
ぶん、と加速した『水晶屍人』の腕は虚空を掻いた。
アレクサンダーが見切り、避けただけなのだが、異形と化した腕がざわめく。
「あぁ、……わかってる。加減はできないぞ……吹き飛べ!」
捕食・融合を繰り返してきた左の腕で一思いに顔面を殴り飛ばす。
がちゃ、とガラスが砕けるような音と共に、派手に吹き飛んだ。
見た目以上に軽く、体重もない。削げた肉以外にも、臓器すらないのかもしれない。彼らは血も涙も、人として在るべき物は何もかもが生前に亡くしている。
生きるために人体を食した、籠城のための決死の策で……。
「何も、ないのか? 違うだろう」
アレクサンダーがふっとばした『水晶屍人』を見届けているうちに這い寄った別の個体の胸を、スペードスリーがアリスランスで穿つ。
感触は確かに刺し貫いているが、それだけだ。骨に挟まっただけ、という感触。
「人として生きた事は、確かに在るだろう!」
「全く……一筋縄じゃいかないこいつらの強さは、恨みの強さからくるものか」
振り向きざまに、もう一撃、異形の腕を顔面に叩き込むと、今度はその場で大破し崩れ去った。
脆く、儚い、骨身の体の水晶が異様なほど簡単に砕ける。
「だが、もうあんたたちがいて良い世界じゃないんだ」
――大人しく帰ってくれ。送料はいらないから。
「牙も爪も、届かせる自信があるのなら、私は正々堂々迎え撃とう」
ガッ、とアリスランスの柄で地面を叩いたスペードスリーは言い放つ。
「その姿になったとしても、確かに『此処に居たのだ』と、戦いの記憶を共有することは、出来るのだから!」
ランスが地面を刳り、拳が残り漂う彼らを打ち砕くにはそう多く時間は掛からなかったのは、言うまでもない。
――震撼。確かに、ここに居たんだ。
――腐り腐敗し、蛆が歩いたこの体でも『確かに此処に居た』と。
――居た事すら亡かった事になった俺も。皮以外を遺して喪した我が子達も。
――確かに『此処に居た』のだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
杜鬼・クロウ
アドリブ惨劇◎
時間が惜しい
人の命を弄ぶ卑劣非道
最高に苛つくし胸糞悪ィわ
まだ救える命があるならば
必ず…(決意固く拳握る
この剣はその為の力
人あっての世界
任務中に余所見をする暇など
ある訳がない
それでも
何が為の俺なのか
矢筈の構え
まだ無事な村人達がいるなら自分に注意向け(挑発
村人達を背に臨戦態勢(かばう
唇のピアス引き千切り【無彩録の奔流】使用
敵の攻撃は一切避けず剣で防御(武器受け
攻撃されて生まれた隙を突く
剣で横薙ぎもしくは顔面を回し蹴り(カウンター・咄嗟の一撃
弔いの炎宿した剣で敵へ連撃(祈り・属性攻撃・2回攻撃・部位破壊
彼らの恨みや悲惨な出来事全てを知り憐みを抱こうとも
俺がヤるコトは結局一つ
進むしかねェ
●Obstructive!
強引に連行されていた村人たちを、猟兵達が救出したところで、彼らの行動は変わらない。
一部の同族が、現世から消え失せ永劫の牢獄から脱出していったのだとしても。
常に欲し続け、常に求める飢餓感は、渇望と慟哭の果てに生者を求める。
――唯一人でも、連れ込めれば良。城へ入れば死者でも出られぬ。
――追い込め、退路を絶て。我らの手で新たな悲劇の同族を歓迎しよう。
ふらふらよろよろ、と城へと追い詰めんと誘う『水晶屍人』の数は2。
村人たちは追い込み漁の如く、『水晶屍人』の動きに怯えながら誘導されていく。
見た目が脅威。肩の水晶が不気味。思いはそれぞれ。そこに合わせて腐臭すらも漂うのだから、生者が怯える原因など多種多様に存在する。
――時間が、惜しい。
杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は思わず舌打ちするが、その思いを『アレ』らが理解する事はなく。
機敏な動作で地を蹴り、一番手近な村人を掴む。容易い捕獲。
吸血鬼が人の首筋から地を啜るが、『水晶屍人』に慈悲も美徳もありはしない。
遠慮すらない乱暴な動作で首筋に牙を突き立てて、首の後ろの肉ごと貪り喰らう。
最も血液を噴く箇所を、生のまま千切った事で、赤い鮮血を体中に浴びた。古びた赤褐色も目を焼く鮮血で赤いべべへのように変ずる。
味すら感じる舌も無くした口いっぱいに咀嚼しながら、首の肉の削げた即死体を見守るその視線は。眼球すら乾き、陥没した眼光は、歓迎するように優しげで。狂気の果てを映していた。
村人の死体は苦痛に終えた生と同時に、徐々に体が変貌していく。
肩が異常に突起し、水風船が弾けるようにまだ暖かい血を吹き出しながら、『水晶屍人』へと変わっていくのだ。
――人の命を弄ぶ卑劣非道。
『水晶屍人』を最初に作り出した存在の、趣味の悪さに悪態を付く。
「……最高に苛つくし、胸糞悪ィわ」
頬にまで飛んできた今しがた、殺された者の血を拭いながらクロウは更なる被害を起こさない為の行動を始める。
顔を良く知る村の者が殺害された事で、追い込まれていた村人達の心境は恐慌状態となり、誰もが冷静では居られない。
「まだ救える命がある、ならば……必ず」
拳を強く握り、決意を固める。
――この剣はその為の力。
「人あっての世界。此処もそう、まァどこもそうだが」
矢筈の構えのように、やや大げさに。
ゆっくりとした歩みで、しかし威厳を強めた眼光で睨みながら。意思疎通すら無くした亡者にクロウは言葉をかけながら村人と『水晶屍人』の間に割り込む。
「任務中に余所見する暇などあるわけがない。それでも……」
――何が為の俺なのか。
「あ、あんたあぶねぇよ……! 早く逃げ」
「お前は錯乱もなく無事だな、ならそこは安全だ。他の奴らを宥めてそこで待て」
誰よりも健康そうなクロウの乱入に『水晶屍人』合計3体が、血肉を欲して駆け出す。牙を剥き、赤色に染めた爪を鈍く光らせて。
「そうだよなァ! その爪と牙が、俺を求める気はしていたぜ」
村人に背を向けて、絶対死守の防衛ラインを敷く。
同胞の血が撒き散らされたその場所を、踏ませぬように。
同胞の爪や牙で、決して傷つき、そちら側の災害とならぬように。
唇のピアスを躊躇う事なく引き千切り、口に鉄錆びた味を感じた。
多少流れ溢れる事も気にしない。
――『痛い』のは、果たしてどちらか……みたいなところがあるな。
「森羅万象の根源たる玄冬に集う呪いよ、秘められし力を分け与え給え」
黒魔剣は刀身のルーンを輝かせる。赤き、熱源として力の籠もる六番目の文字が異常なほどに輝いて熱量を爆発させていく。
「術式開放――我が剣の礎となり、払い弔いの牙となれ」
熱量を感知し、『水晶屍人』はクロウの玄夜叉に手をのばした。
「避けはしない。その爪は、掴むべき者を掴めなかった手だ」
カンと甲高い音が上がり、ぶつかる。
尖った爪を剣の身で弾き、勢いよく仰け反らせる。
「その口は、血を啜る為に生を受けたわけじゃないだろ。ほら、忘れモノだ」
横から連携して襲い来た『水晶屍人』を剣で横薙ぎに払う。が、一体がその場に残った。強い意志で、その場に残ろうとする執念を、素早い回し蹴りで一蹴する。
――軽い。本当に空っぽなんだな。
蹴った個体の骨が砕ける音が足越しに伝わった。骨自体もスカスカで、なにもない。本当に歩く屍としか形容はし難く、生前にどんな悲惨な目に合えばそうなるのか、想像は難しかった。
「中途半端で悪かった。せめて、痛めつけた分は弔ってやるぜ」
強く燃える剣は、業と燃やし尽くす炎と似ていたが、それとは少し違う斬撃。
もやは避けることすら満足に出来ない個体が、威力で熱され、消失する。
焼き殺す斬りではなく、祈りが乗った焼き送る斬り。
送り火より荒々しいが、彼らの再びの目覚めが、せめて安らかに逝けるように。
――彼らの恨みや悲惨な出来事全てを知り、憐みを抱こうとも。
二人目。骨が砕け、衣服が燃えて。
臓器の類の燃える匂いのない、呆気ない最後を見届けて。
鮮血に彩られ、出会って間もなく『水晶屍人』へと変じてしまった元村人の腹を薙ぐ。誰よりも人で、意志まで送る事が出来るかは分からないが、せめてもの手向けと一層火力を高めて、上方から斬り捨てる。
「俺がヤるコトは結局一つ。……進むしか、ねェのさ」
自身の血を拭い、燃える彼らを眺めてクロウはやや深い溜め息をつく。
この場所に遺されたいずれ消え去る血の染みは、根深くこの地にあり続けるだろうと想う。刻まれた永劫の飢餓は決して癒やされぬものだと、思えて仕方がなかった。
――不覚をとった私をどうか許して欲しい。
――決してこの願いは届かないものであるけれど。
――私のひとりの犠牲で、他の人を護れたならば誇らしい。
――理解。お前は生粋のこの地の者。
――なればこそ、呪われし自己犠牲に愛を想う。
――故にコレを、咎と言う。全員が助かる道筋は、何処にも無い絶望の孔から生まれし罪である。
●
「これで、よし」
消え去った『水晶屍人』に掴まれた部位は、鬱血していたものの、致命傷までに至っておらず。最悪の場合腕を落とすような事はなかった。
猟兵達は胸を撫で下ろすとともに、そこまで遠くない鳥取城を見上る。
あそこに無念を抱く者達を、明確なを悪として使い潰したやつが在るのだ――。
大成功
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