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エンパイアウォー⑨~炎陽遊糸

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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 ――乾いた土に、根を下ろす緑さえも力無く枯れて。熱気を孕んだ風は、恐るべき病を彼の地へと運んでくる。
 ――ゆらり、ゆらり。熱波に揺らぐ陽炎の彼方、白昼夢の如く空を泳ぐのは、幽玄なる海月の群れ。
 水晶宮――竜宮からの使者は、儚きひとびとを夢に捕らえて海底へ、彼岸の国へと引き摺り込んでいく。
 ――ほら。また、竜宮から迎えが来たよ。

「た、大変だよー!」
 両手をわたわたと振り回しながら、息せき切って駆けこんで来たのは、篝・燈華(幻燈・f10370)。世界の存亡を賭けてのエンパイア・ウォー――『第六天魔王』織田信長の居城、魔空安土城への進軍を続ける中で、山陽道にて待ち受ける苦難を予知したのだと、妖孤の若者は言う。
「それは、魔軍将のひとり……侵略渡来人『コルテス』の軍勢なんだ。このままだと、四万もの幕府軍が全滅しちゃうんだよ!」
 ――コルテスの展開する作戦は、山陽道熱波地獄。これは山陽道周辺の気温を極限まで上昇させ、進軍してくる幕府軍を、熱波によって茹で殺すと言う非道なものになる。
 ちなみに8月10日時点で、山陽道の平均気温は夜間でも35度を超えており――このままコルテスの儀式が進めば、平均気温が50度をも超える殺人的な暑さとなってしまうだろう。
「ううう、想像しただけであせもが出て来そう……しかも脅威は熱波だけじゃなくて、同時に『南米原産の風土病』も蔓延させてしまうみたいなんだよ……」
 暑さに加えて未知の疫病が瞬く間に広まれば、山陽道は死の大地に――正に、この世の地獄と化してしまう。しかし、コルテスの策を阻止する手段はあるのだと、力強く燈華は頷いた。
「この風土病のウイルスは、極度の高温でないと死滅する種類なんだ。だから、熱波を生み出しているオブリビオンを撃破すれば、病の蔓延も止められるんだよっ!」
 狐の耳をぴんと立てて、彼が示した敵は『水晶宮からの使者』――それは手駒の長州藩士を材料に、コルテスが生み出したオブリビオンの軍勢となる。
 怪火を操る海月の亡霊たちは、なるほど熱波地獄を齎すものとして相応しいのかも知れない。まるで夏の陽射しにゆらゆらと揺れる、陽炎のように――彼らの灯は、望む望まざるに関わらず、対峙するものを幻影の檻に沈めていくだろう。
「それでも……僕らは進まなきゃいけない。熱波の地獄を越えて、最低でも一万以上の軍勢を魔空安土城に到達させなければ、いけないから」
 どうか真夏の夢に囚われないよう、心を強く持って戦って欲しいのだと――説明を終えた燈華は、いつしか額に滲んでいた汗を、一息に拭ってから猟兵たちを送り出したのだった。


柚烏
 柚烏と申します。暑い日が続きますが、夏バテなど体調の方は大丈夫でしょうか。今回は、暑さ厳しい戦争シナリオとなります。夜でも35度って、本当に恐ろしいですね……!

●シナリオについての説明
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●プレイング受付につきまして
 戦争シナリオと言う特性上、必要数のプレイングが揃った時点で受付を締め切る予定です。その際はリプレイ冒頭、またはマスターページやツイッターで告知致しますので、お手数ですが其方をご確認の上、プレイングをお願いします。
 参加人数にもよりますが、頂いた全てのプレイングを描写出来るかはタイミング次第となりますので、ご了承頂ければ幸いです。

 厳しい戦いが続きますが、熱波地獄を阻止する熱いプレイングをお待ちしております。それでは宜しくお願いします。
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第1章 集団戦 『水晶宮からの使者』

POW   :    サヨナラ。
自身に【望みを吸い増殖した怪火】をまとい、高速移動と【檻を出た者のトラウマ投影と夢の欠片】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    夢占い
小さな【浮遊する幻影の怪火】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【鍵の無い檻。望みを何でも投影する幻影空間】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    海火垂る
【細波の記憶を染めた青の怪火】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。

イラスト:葛飾ぱち

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


□□□□□(油揚げ)□□□□□

8/12一杯で、プレイングの受付を締め切らせて頂きました。
ありがとうございました!

□□□□■(お焦げ)□□□□□
香神乃・饗
病っすか…(亡くした事が脳裏によぎる、両頬叩き喝
終わった事は終わった事
別の話っす
絶対、感染者を出させないっす!

あーつーいーっす、えーこれ炬燵越えじゃないっすか?(汗だらだら

香神写しで武器を増やし
暑くてもやり遂げる覚悟で挑むっす
剛糸で敵を引き寄せ敵を盾にして身を護り
苦無でフェイントをかけ、剛糸で絞め苦無で暗殺していくっす!

望みっすか…
今の俺は、残念ながら一人で叶えたい望みはないっす!
誰かとだったり皆とだったり、人と一緒に叶えたいっす!
今、俺は一人で戦っているっす
隣に人が居ないから叶わない、これは幻影だって解るっすから!
だから、檻には囚われないっす!
例え囚われても何度でも何度でも外に出てやるっす!


水標・悠里
何としてでも、私達は手勢を率いて織田信長の元へと参らねばなりません
ここで兵を失うことなく、魔空安土城へと行くのです
愛し憎し、我が故郷をオブリビオンの手で滅ぼさせるものですか

黒翅蝶で死霊を呼び【鬼神楽・壱】にて鎌鼬を招来
ふふ、可愛らしい軍勢ですね
ですが、道を塞がれては困るのです
今は時間が惜しいので、弱ったものから確実に倒していきます

あら、あの影は…
陽炎の中に、懐かしい姿を認めた気がします
一時の逡巡の後、再び鎌鼬を放ち攻撃へと戻ります

未だ断ち切れぬ未練は、いずれ己が手で決着を付けましょう
その為に今、私が居た故郷を守るために進むのです
大義のためといえど、私の願いはそれだけ
後悔する前に、今できることを



 ――疫病みの熱波が吹き付ける山道を、軽やかに疾駆する影がふたつ。
(「……何としてでも、私達は手勢を率いて織田信長の元へと参らねばなりません」)
 その内のひとり、射干玉の髪を揺らす水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)はと言えば――涼しげな相貌を微塵も崩すこと無く、黒翅蝶の宝玉を陽光に翳して死霊を呼ぶ。
(「ここで兵を失うことなく、魔空安土城へと行くのです」)
 刹那、黒き燐光に導かれた蝶の群れが、死者の魂を取り込み空へ羽ばたいていって。魂の運び手たちを従える妖しの鬼と化した悠里は、呪扇を手に神威を顕現――辺りに鎌鼬を招来させた。
「ふふ、可愛らしい軍勢ですね……ですが、」
 ――そうして行く手を遮る、水晶宮からの使者たちへ向けて、微かな笑みを浮かべたのも一瞬。
「今、道を塞がれては困るのですよ」
 時間が惜しいとばかりに、扇を一閃させた悠里のまなざしの向こうでは、目に見えぬ風の刃に切り裂かれた海月の群れが、白昼夢のように宙へ溶けていく。
「あーつーいーっす、えーこれ炬燵越えじゃないっすか?」
 その一方で香神乃・饗(東風・f00169)は、ひっきりなしに滲んでくる汗をぐいと拭い、快活な声を響かせていた。真夏のおこたに想いを馳せつつも、香神写しの秘技を駆使する彼は、愛用の武器を次々に複製――そのまま一気に攻め立てる。
「と、暑くてもやり遂げる覚悟で挑むっす。絶対、感染者を出させないっすよ!」
 鋼の遺志が形を成したかのような剛糸が、海月の一体を絡め取れば、すかさずそれを盾にして怪火を凌いで。続けざまに苦無を放つ饗の脳裏には、何時しか喪失の記憶が――手を伸ばして亡骸を抱きしめた、ひととしての肉体を得た時の記憶が、まざまざと蘇っていた。
「ああ、それは……終わった事は終わった事! だから別の話っす!」
 感傷に浸る時間は無いのだと、両の頬を叩いて喝を入れる饗。そんな彼に続き、悠里がふたたび鬼神楽を舞おうと扇を構えた所で――陽炎の中、ゆらりと幻影の檻がふたりに襲い掛かった。
「あら、あの影は……」
 ――それは、怪火が魅せる夢占い。望みを何でも投影する、真夏のまぼろし。
「望み、っすか……」
 其処に懐かしい姿を認めた気がして、悠里が目を細める傍らで、饗は嘗ての主が見ていたであろう夢を――彼の理想を思い起こし、ぐっと拳を握りしめる。
「……今の俺は、残念ながら一人で叶えたい望みはないっす!」
 その漆黒の瞳は夢の先を確りと見据えており、故に饗は、幻影に囚われたりなどしなかった。自分の望みは、誰かとだったり皆とだったり、人と一緒に叶えたいものだけど――今こうして各々が幻影と向き合う中では、自分自身で打ち勝つしかないのだと、彼は理解していたから。
「だから、檻には囚われないっす! 例え囚われても、何度でも何度でも外に出てやるっす!」
 ――ああ、愛し憎し、我が故郷。世界の全てであった大切な存在を育み、そして無残に殺した地よ。逡巡はほんの僅かのことであり、悠里がゆっくりと顔を上げたその時、一陣の風が水晶宮からの使者を切り裂いていた。
「……滅ぼさせる、ものですか」
 そう――未だ断ち切れぬ未練は、いずれ己が手で決着を付けるのだ。その為に今、自身がすべきこと。それは、自分が居た故郷を守るため進むことだ。
(「大義のためといえど、私の願いはそれだけ」)
 鎌鼬が吹き荒れる戦場を、苦無を手にした饗が駆け抜けていく。せめて苦しく無いよう、一息に――覚悟と共に繰り出される刃の群れが、オブリビオン達を骸の海へと返していく中で、ふたりの猟兵は願いの先へ向けて手を伸ばし続けていた。
(「……そう。後悔する前に、今できることを」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
神に騎乗するだけでは飽き足らず、病まで広げようとは……随分と強欲な事だね
その鼻っ柱、盛大にへし折ってあげよう

相手の高速移動に併せて【欺瞞の王威】を展開
逃がしはしない、ここで必ずや打ち倒そう…その為ならこの命、多少燃え付きようと些事に過ぎないさ

闇と炎の魔力を纏わせ、縦横無尽に鞭の乱舞を見舞おう

罪深く、暗く焼き付く焔…まるでゲヘナの様だろう?一欠すら残さず焼き払うだけだ

もしも幻が見えるならーーそれは大切な片割れ、養い子達
けれど彼らの声は忘れ、顔すらも朧気だ

これが不自然に長く生きるという事、掌から砂のように零れ落ちる愛しさの骸

抱えてさ迷うことには慣れている、老兵をあまり見くびってくれるなよ?


千家・菊里
時節は奇しくも盂蘭盆の――しかしまた困った亡霊が溢れかえったものですね
彼岸には彼らのみを、送り返しましょう

先制・範囲攻撃でUC広げ全体牽制
炎には※自由許さぬ呪詛とマヒ攻撃も混ぜ、他の方が動き易くなるよう援護

衰弱敵発生or数減少時は、炎を合体強化&※を亡霊祓う破魔の力に変え、回復される前に滅する様に
また第六感と見切りで敵の狙いや動きも警戒
自身や仲間が危険ならその周囲を守るよう炎展開し怪火と相殺試行

攻撃にはオーラ防御と呪詛・火炎耐性で抵抗
元より望みは希薄
それに炎や亡霊の扱いは俺も多少覚えがありましてね
易々と飲まれてはやりませんよ

熱も病魔も悪夢も、目論見は全て水泡に――骸の海に
鎮めて差し上げましょう



 時節は奇しくも盂蘭盆――ならば此の世に過去の残滓、オブリビオンが迷い出たのも、何かに惹かれてのものであったのか。
「しかし……また困った亡霊が溢れかえったものですね」
 口ぶりに反しつつも、千家・菊里(隠逸花・f02716)は泰然とした態度を崩さず、熱波が生んだ陽炎のなかでも涼しげに佇んでいて。
「それに……神に騎乗するだけでは飽き足らず、病まで広げようとは……随分と強欲な事だ」
 一方のヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)も、老獪さを湛えた紅の瞳を無邪気に細め、熱波地獄の招き手たる魔軍将に向けて吐き捨てる。
「その鼻っ柱、盛大にへし折ってあげよう――」
 怪火を纏う、水晶宮からの使者たちを一瞥するや否や――彼に課せられた狼王の呪詛が、辺りに吹き荒れた。溢れ出す闇と炎の魔力を従えてヴォルフガングが繰り出すのは、鞭の絶技たる欺瞞の王威。
「ほら、罪深く、暗く焼き付く焔……まるでゲヘナの様だろう?」
 一息で振るわれる鞭の乱舞は、その身の一欠すらも残さず焼き払おうと、地獄の業火を思わせる勢いでオブリビオン達を消滅させていく。
「……ええ。彼岸には彼らのみを、送り返しましょう」
 狐の尾を優雅に揺らして、菊里もまた妖しき狐火を幾つも生み出すと――自由を許さぬ戒めを込めたそれを、辺り一面に降り注がせて援護を行った。
「それと。炎や亡霊の扱いは、俺も多少覚えがありましてね」
 ――陽炎の中で揺らめく狐火は、或る時は重なり合い強さを増し、また或る時は数を増やして牽制を行い、目まぐるしくその勢いを変える。
「……易々と飲まれてはやりませんよ」
 呪詛と炎の耐性に加えて、元より己の望みは希薄であるのだと――本心を窺わせぬ微笑を浮かべたまま、放たれる菊里の狐火が、幻影の怪火を次々に相殺していった。
「逃がしはしない、ここで必ずや打ち倒そう……」
 直後、縦横無尽に振るわれるヴォルフガングの鞭が、宙を泳ぐ海月の群れを一瞬で消滅させて――その間際に怪火の残滓が、彼へ夢の欠片を運んできたけれど。
(「……ああ、もう彼らの声は忘れ、顔すらも朧気だ」)
 ――大切な片割れと、養い子達。ほかには何も要らないと思った存在でさえも、その記憶はいつしか掌から砂のように零れ落ちてしまうのだ。しかし、それも今更のこと――愛しさの骸を抱えて、さ迷うことには慣れているのだと、ヴォルフガングは笑う。
「老兵をあまり、見くびってくれるなよ?」
 己の命など、多少燃え付きようとも些事に過ぎないと告げて、ヴォルフガングが狼王の呪詛を行使し続ける中で――破魔の力を乗せた菊里の狐火が、竜宮の亡霊を祓うべく一気に燃え上がった。
「熱も病魔も悪夢も、目論見は全て水泡に――骸の海に鎮めて差し上げましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳来・澪
熱波と疫病と、悪夢の蔓延
そんな地獄絵図を、これ以上現にはさせん

寿命構わずUC使用
神霊の身と武器に、オーラ防御と破魔の加護も宿し、怪火に抗い亡霊を祓う力を高める
更に打ち負けんよう
『誰もがまた穏やかに過ごせるよう、悲歎に溺れて沈まんよう――必ず魔の手を払い除ける』
と自分を鼓舞し、覚悟も強め臨む

数が多い間は衝撃波を範囲攻撃+炎弱めるよう水属性攻撃で強化
味方や自分が包囲されたり視角突かれたりせんよう、或いは敵の連携や集中を乱すよう、より多数を巻き込むようにしてなぎ払い

瀕死発生か3体以下なら単体狙いに
回復受けそうな敵や隙の大きな敵から2回攻撃で確実に海へ還す

迎えなんてお呼びやない
誰も連れて行かせんよ


華折・黒羽
これ以上暑くなるなんて…御免被りたいものだ

肌を撫でる熱波に顔は自然と顰められる
ただでさえ暑さに向いていないこの身体
酷暑のこの夏を辛くも過ごしている日々だというのに

広げた両翼で戦場方々へ
漂う敵を薙いでは斬り捨てる

ゆらり目の前に形作られ始める幻影
熱い、熱い、火に囲まれたあの日の記憶
幾度となく見てきた、─嘗ての家族の影

…わかっている
乗り越えなければ、いけないものだって事くらい

構える屠が纏うは氷
縹が齎す絶対零度の刃

──花雨は、白姫

空気伝う詠唱で刀身はひらり花弁となって舞う
熱さに焼かれるその地を冷ます氷の涙が
迷う事無く幻影の向こう、敵へと放たれる

…もう少し、時間をください

乞うたのは
乗り越えるための時間



(「これ以上暑くなるなんて……御免被りたいものだ」)
 ――常ならば涼を運んでくれる筈の風も、今は熱波と化して容赦なく肌を灼いてくる。ただでさえ、暑さに向いていない漆黒の毛並みを持つ、華折・黒羽(掬折・f10471)の苦悩は如何ほどのものだろう。
「……酷暑のこの夏を、辛くも過ごしている日々だというのに」
 自然と顰められた顔を、意志の力でどうにか抑えつつ――烏の両翼を羽ばたかせた黒羽は、戦場に漂う水晶宮からの使者たちへと狙いを定める。
(「熱波と疫病と、悪夢の蔓延……そんな地獄絵図を、これ以上現にはさせん」)
 そして地上からは、鳳来・澪(鳳蝶・f10175)が己の寿命を代償に、巫覡載霊の舞を繰り出していた。幻影の怪火に抗い、亡霊を祓う破魔の加護を宿し――彼女が抱くのは、笑顔を守る為に戦うのだと言う強い覚悟。
(「そう、誰もがまた穏やかに過ごせるよう、悲歎に溺れて沈まんよう――」)
 必ず魔の手を払い除けると、陽炎のなかで踊る海月たちを睨みつける澪の右目、其処へ一筋に走る傷痕がちりりと熱を持って。神霊の身と化した己を鼓舞するように頷いた後、澪の構える薙刀が衝撃波を呼ぶ。
「迎えなんてお呼びやない……!」
 水晶海月の群れを纏めて薙ぎ払うべく、振るわれる刃は清浄なる水を纏い――怪火の力を少しでも弱めようと、辺りにきらきらと飛沫を散らした。
「……誰も連れて行かせんよ」
 ――返す勢いで、更に周囲を薙いでいく刀。生命を燃やして戦い続ける澪のまなうらには、今なお焼き付く地獄の光景が、鮮やかに蘇っていたのかも知れない。
 そんな彼女の鬼気迫る勢いに背中を押され、黒羽もまた海月たちを、薙いでは斬り捨てていたのだが――突如ゆらりと、漂う怪火が彼の目の前に幻影を形作っていた。
「あれ、は……」
 熱い、熱い――火に囲まれたあの日の記憶。そうだ、これは幾度となく見てきた――嘗ての家族の影だ。
「……わかっている。乗り越えなければ、いけないものだって事くらい」
 指の隙間から零れ落ちた筈の幸いに、浸るのは容易だったけれど。黒羽の掌には、大切な約束が残されていたから。
(「いつかの再会を、そして幸いの続きを」)
 構えた屠の黒剣が氷を纏い、呪印の縹は絶対零度の刃を齎して――空気伝う詠唱の果てに、刀身はひらり氷の花弁となって辺りに舞う。
「──花雨は、白姫」
 ああ、熱さに焼かれる彼の地を冷ます、氷の涙よ。どうか迷う事無く、幻影の向こう――水晶宮からの使者たちの元へ、辿りつけ。
(「けれど、どうか……もう少し、時間をください」)
 そっと乞うたのは、過去を乗り越えるための時間で。亡霊の群れが氷花に呑まれていくのと同時、澪の薙刀が、熱波を生む霊玉を粉々に砕いていた。

 ――一片の希望の海に、身を投げるようにして戦い続けた後。やがて竜宮から迎えは、白昼夢のように夏空へと溶けて、陽炎は終わる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月14日


挿絵イラスト