エンパイアウォー⑨~叶わぬ夢の合間に
●舞う手毬は叶わぬ夢を見る
トン、テン、トン。
山陽と山陰を隔てるある山中の一角で手毬が弾む。
トン、テン、トン。
ひとりでに動く手毬は言葉が話せぬ。しかし意思は持っていた。かの渡来人からの伝達によると、この儀式を遂行したなら主人が欲する極上の茶器が手に入るだろうと。
その言葉を信じ、意思を持つ手毬は儀式のために儀式場の周辺を舞う。中央に供えられしは『富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉』。この儀式の成就により願いは叶う――。
トン、テン、トン。
主を思い舞う手毬は知らない――自身がその主人を生け贄として呼び出されたのだということを。既にこの世に居ない持ち主を想い、手毬は舞う。
●オブリビオンを倒して儀式を阻止しよう!
「集まってくださり、ありがとうございます!『エンパイアウォー』へ参加するみなさんへユーノからのお願いです!」
グリモア猟兵のユーノ・エスメラルダ(f10751)はグリモアベースに集まってくれた猟兵たちにぺこりとお辞儀をすると今回の戦場の説明を始める。
「皆さんのおかげで、無事に幕府軍は関ヶ原へ着くことが出来ました。しかし最終的な目的地、『魔空安土城』まではまだ道程があります!」
ユーノは持ってきたノートへ、ペンでざっくりした絵を描いた。それは西日本の簡易的な地図。ユーノはその山陰山陽方面へ赤い色鉛筆で丸を描いた。
「この幕府軍の進路上、山陽道に対して『侵略渡来人『コルテス』』の手下が妨害のための儀式を行っている予知ができました」
ユーノはページをめくるとさらに説明を続ける。
「幕府に叛意を持つ長州藩の毛利一族に『コルテス』が接近し、手駒とした『長州藩士を生贄にして』オブリビオンを呼び寄だした様です。そのオブリビオンは『コルテス』の指示の下、次の儀式を進めています」
ユーノが描いたのは丸い玉。光り輝くエフェクトが書き込まれている。
「その儀式とはこの『富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉』を使い、『山陽道周辺の気温を50度を超えるほどの極限まで上昇』させ、『南米原産の風土病もばら撒く』というものです」
この儀式が成功してしまえば、進軍する幕府軍のみならずこの地域に住む多くの罪なき人々も亡くなる大災害になる。ユーノはこの儀式を進行する、今回の予知で見つけたオブリビオンの特徴を説明していった。
「今回この儀式を進めているのは、『蒐集者の手毬』です。この手毬は主人の欲しがる蒐集物のためならば手段を選びません。この儀式はそのためであると信じて疑っていないようです。……その主人は既にこの世に居ませんが、その事を知っても絶対に信じないため説得などは不可能です」
ノートへ丸い手毬が描かれていく。
「この手毬は自分と同じ能力の手毬を召喚するため、たくさん居ます。また、相手に対して『自身がよく知る死者』を呼び出して戦う意志を挫きながら精神を通してダメージを与えてくるようです。他にも望みを再現した理想郷に捕えようとしたりするようです」
つまりは自身に縁のある故人と向き合い、乗り越えるような戦いになりそうだ。
「能力そのものは強くないため心を強く持つか破魔などで幻惑を打ち破れば対抗できるかもしれません。今回は転移でこの儀式場へ直接乗り込むため、即座に戦闘となります」
●偽りの中で踊る手毬
「説明は以上です。今回は敵を倒しきった後にこの霊玉を砕くことで終わりとなります。この儀式は、誰も幸せになれません……! どうか、止めるために皆さんの力をお貸しください」
そう言うと、ユーノは猟兵たちを転移さる準備を進めながら無事の祈りを捧げる。
「ユーノはみなさんを転移させなければならないので同行はできません。みなさまが無事でありますように……」
ウノ アキラ
はじめましての方は初めまして。そしてこんにちわ。
今回の戦争イベントはなんだか忙しいですね……。ウノ アキラです。
このオープニングに興味を持っていただき、ありがとうございます。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●お得情報
リプレイの執筆は書けそうな時に勧めますが、スケジュールの都合上、土日(17日、18日)に一気に書き進める形になりそうです。基本的にはプレイングが届いた順に書きます。
他にもマスター紹介のページは一読頂けると文字数を少し節約できるかもしれません。
よろしくお願いいたします。
●依頼について
書けそうなタイミングで順にリプレイにしていくため、基本的に順番に入れ替わりながら戦闘する形になる想定です。いつもの戦争シナリオのパターンでいきます。
今回は書けそうな人数分だけとなります。『書きやすそうな方から採用する』ためプレイングは不採用になる可能性があります。ご了承ください。
集団戦なので敵は弱いです。戦闘にはあまり力を入れなくて良いかもしれません。敵の能力的に、何かしら死に別れの因縁がありましたら掘り下げてみると描写が濃厚になるかもしれません。
敵の台詞や心情描写はただの趣味です。別に意味深なフラグはありません。
第1章 集団戦
『蒐集者の手毬』
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POW : あなたと共に在るために
【自身がよく知る死者】の霊を召喚する。これは【生前掛けてくれた優しい言葉】や【死後自分に言うであろう厳しい言葉】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 理想郷にはまだ遠い
【自身と同じ能力を持つ手毬】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ : いつか来る未来のために
小さな【手毬】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【全ての望みを再現した理想郷】で、いつでも外に出られる。
イラスト:にこなす
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
イリス・ウィルター
【POWで判定 アドリブ歓迎】
自分とよく知る死者か…、該当する人はいるな
師匠、貴方は言いましたよね?自分と再度会った時、斬るようにと
妖刀の持ち主としては未熟ですが、強くなったでしょう?
自分がよく知る死者はこの世界で暮らしていた着物に笠をかぶった人物、師匠になると思う
よく頑張ったなとか優し気に声をかけてくると思うが、覚悟と狂気耐性を使い、耐えて、生前の師匠の望み、敵となったら斬るようにという言葉を実行する
使用する技能は二回攻撃、戦闘知識、捨て身の一撃、妖刀ではなく普通の刀の業を見せる
優しさで一撃で終わらせようとする
終わったら、刀を鞘に納めて一礼する
●敬愛なる師
儀式場へつくと予知による情報の通りに多数の手毬がテン、テン、と跳ね回っていた。その手毬の中央にあるのが件の『霊玉』だろう。
イリス・ウィルター(刀の技を磨くもの・f02397)は『妖刀:紅葉姫』の柄へ手をのばし親指でスッと鯉口を切ると素早く抜刀しまずは『蒐集者の手毬』を片手で数えるほど切り捨てた。
その微かに紅色に輝く刃を続けて構え、次の敵を切り伏せようと振り向くとイリスの眼前に影がぼんやりと現れる。それは『着物に笠をかぶった人物』。
(自分とよく知る死者か……、該当する人はいるな)
これも事前の情報通りであった。現れた『自身がよく知る死者』はイリスの師。懐かしい顔、懐かしい声、在りし日と変わらぬ姿形がイリスの胸を締め付ける。
「――息災であったか? よく頑張っている様だな」
かつては自分の人生をまるで呪う様に荒々しい戦いを主に行っていたイリス。だが、そんな彼女を師の剣技が変えた。あの魅入られる技を見たあの日から、イリスは剣の教えを受け剣を学んだ。
かつての日々を思い起こしながらイリスは妖刀を鞘に収め、普通の刀『月牙』を抜刀する。イリスの胸に浮ぶのは生前の師匠の言葉――『敵となれば、斬れ』。そして師に見せるのは、妖刀ではなく普通の刀の技。
シャ――と刀が鳴る。山中の木々から漏れた日が刀身に当って瞬き、振り下ろされるどこか優しささえ感じる静かな一閃が二つ。
イリスは師の教えの通りに『敵』を斬った。切断されたのは、敵として現れた目の前の『自身がよく知る死者』とその後ろに居た『蒐集者の手毬』。
「師匠、貴方は言いましたよね? 自分と再度会った時、斬るようにと」
イリスは消えゆく師の姿へ別れを告げる様に語りかけた。
「妖刀の持ち主としては未熟ですが、強くなったでしょう?」
『――ああ、技のみではなく心も、な』
斬られて霞んでゆくその姿は、そしてその表情は、安心している様にみえた。
敵を斬ったイリスは、刀を鞘に収めると敬愛する師の消えゆく姿へ一礼した。
――いつか……手が届きますように。
大成功
🔵🔵🔵
宙夢・拓未
&&
呼ばれる死者の霊は『宙夢・拓未』
人間として死んだ、かつての俺自身だ
彼は俺を責める
なぜ、自分と同じ顔で、生きてるフリを続けるのかと
俺は生きていない、ただの機械で
宙夢・拓未は死んだ、という現実から目を逸らしている、と彼は言う
彼は叫ぶ
『俺が生きるはずだった、幸せな人生を返せ!』
俺は答える
「……いいや、俺は生きてるさ。人と言葉を交わし、笑い合うことができるんだからな」
「俺が死んでるってことも繰り返し考えてきた。でもな、俺は過去にしがみつくのはやめたんだ」
「俺は、お前の分まで未来を生きる」
【ヴァリアブル・ウェポン】で肘から振動剣を抜き、霊や手毬に振るう
霊は最後に何か言葉を残し(MSに一任)、消える
●共に生きる
儀式場へ転移されるや転がりくる小さな手毬。足元にきたそれに気づかず宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)は手毬に吸い込まれてしまった。
その中はかつて自分が過ごしていた部屋……意識を機械の体に移されてしまう前、まだごく普通の人生だった頃の住み慣れた懐かしい空間。
「ここは……」
事前に聞いていた敵の能力を思い出し、すぐに此処から出ようと部屋の出口の方向へ向く拓未。しかしその出口の扉の前にはもう一人の『拓未』が居た。
(人間として死んだかつての俺自身……それが『自身がよく知る死者』って訳か)
意識を『移され』た拓未にはそのコピー元になる存在が居た。そのオリジナルが霊として現れたのだ。拓未は無意識に拳を強く握り、強ばる心を手の痛みでほぐして立ちふさがる自分を見る。
先に言葉を発したのは、オリジナルの方。
「なんなんだ……なんで『生きている』フリをする。俺と同じ顔で、同じ名前で……はっきり言うぞ、宙夢・拓未は死んだ。……死んだんだ。俺は生きていない、ただの機械だ」
その声は責める様に続く。現実から目を逸らしているだけなのだと。
「俺が生きるはずだった、幸せな人生を返せ!」
黙って相手の言葉を聞いていた拓未は静かに言葉を返す。
「……ならそんな顔するなよ」
拓未を責め立てる『拓未』の表情に見えるのは恐らく、恨みではなく悔しさ。
「『俺は生きていない、ただの機械だ』……か。……いいや、『俺』は生きてるさ」
悪いのはこの機械の体へ意識を移した実行者であり、その結果うまれた存在に罪はない。きっと『拓未』は生きたかった無念と悔しさのぶつけ所に困りながらも、拓未を前にして耐えきれなかったのだろう。だから目の前のよく知る俺は、『生きていない、ただの機械』を『俺』と言ったのだろう。
だとするならば――拓未は『拓未』へ伝えなければならない思いがある。それを伝えるために拓未は言葉を続けた。
「俺が死んでるってことも繰り返し考えてきた。でもな、どんなに悩んでもやっぱり宙夢・拓未としての記憶はあるし意識もある。人と言葉を交わせるし、人と笑い合ったり悩み合ったり、悲しみや楽しさを分け合ったりもできる」
それはどこか旧友と語らうような穏やかな口調だった。
「だったら俺は『俺』なんじゃないか? そう思ったんだ。だから俺は過去にしがみつくのはやめたんだ。俺は、お前の分まで未来を生きる」
そう言うと拓未は『ヴァリアブル・ウェポン』による内蔵武器よ振動剣を肘から取り出した。
「……カッコいいな、それ。まるで――」
「――映画のヒーロー、みたいだろ?」
振動剣を見た『拓未』が漏らした言葉へ拓未が続きを重ねる。すると、二人はフッと微笑み合った。
剣が振るわれると『自身がよく知る死者の霊』は召喚元の手毬と共に切り払われた。そして霊は、清々しく微笑むと一陣の風のように消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
アース・ゼノビア
ウルスラ(f03499)と
酔狂の付き合いで和装姿。
郷に入っては郷に従え、か…
いけ好かない渡来人の邪魔には丁度いいかもね
和装には不似合いな洋剣を抜き
高速詠唱で神樹の槍に変じたら、命中率を強化
特にウルスラが囲まれないよう庇い
氷属性魔法を纏った衝撃波なぎ払いで勢いを散し
愛しい幻も破魔と狂気耐性で耐え
自らに振り切るための鼓舞を
もう逢えないと、知らない方が幸せなこともあるさ
幸いエンパイアでは死の先にまた廻るんだろう?
祖国、父母、妹を……戦禍から救えたならと想う
それも遠き理想郷。今の俺では居場所がない
だから描くなら、違う未来でなければ
凍てる刃で燃える魂ひとつひとつに安らかな眠りを
もういいよ。ゆっくりお休み
ウルスラ・クライスト
アース(f14634)と
初めてのエンパイア、和装姿で堪能中なの
ええ、今は戦争なのよね?勿論お仕事しますとも
憐憫を顔に張り付けたアースと舞う毬を眺め
かわいそうねと愉し気に愛し気に
護衛してくれるそうだけど
破魔の力は彼の助けにもなるかしら?
短杖をくるくる振るい
高速詠唱で紡ぎあげるは雷の属性攻撃と誘惑を灯したはじまりの蝶
丁寧にひとつずつ減らしましょ
夢物語を見せてくれるなんて
いじらしい毬。いい子なのね。
でもごめんなさいね、理想なんてちょっと思いつかないわ
家族を思い出そうにも、昔に別れちゃったもの
平和な世界は幸せかしら?今は戦うのも楽しいの
見るならあなたの夢でいいのよ。
来世があるなら、幸せにおなりなさいな
●木々の薄闇に舞うは、蒼と蝶
儀式場で跳ねる手毬たちを、蒼い魔石を芯にした宝剣が薙ぎ払う。前に出て剣を振るうのはアース・ゼノビア(蒼翼の楯・f14634)、そしてその背後に控えるのはウルスラ・クライスト(バタフライエフェクト・f03499)。翼を持つ聖騎士に護られし古城の女主人は蝶の形をする魔法の印章を周囲へと放った。
「蝶よ囁け。その囁きは風のきざはし、幻は駆けあがり渦となりて――霹靂に至らん」
ウルスラが素早く詠唱し杖をくるくると振ると無数の蝶が広がる。蝶から蝶へと雷が走り周囲の手毬を焼いていった。その隙にアースも素早く詠唱を行う。
「遠き祖国、凍てる神樹、白の座の護り手よ。その戒めを借り受ける」
アースは蒼い魔石を芯にした宝剣『アンロック』を魔槍――『神樹の槍』へ変化させその攻撃の精度を高めた。
二人は和服姿だった。それはどうやらウルスラの希望によるものらしくウルスラは何処か楽しそうにしている。
(初めてのエンパイアだもの、和装姿で堪能したいわ。勿論お仕事もしますとも)
アースの方は少し動きづらそうにしていた。 しかしウルスラのことを一目置いているアースはその和服で戦うという提案に乗っていた。
(酔狂の付き合いで和装姿。とはいえ郷に入っては郷に従え、か……いけ好かない渡来人の邪魔には丁度いいかもね)
発案元の女主人を酔狂と評しつつもその案に乗り武器を振るうアース。コルテスの作戦は被害の規模が大きいものばかりでコルテス本人も人々の命や尊厳を何とも思っていない節が見られる。
それならば、あの渡来人の妨害をサムライエンパイアの服装で行うことは意味がある様に思えた。ましてや戦禍から救えなかった家族と、救えなかった居場所があるアースにとってこのエンパイアウォーでいたずらに人々が亡くなるのは避けたい事。
手毬を一つ一つと仕留めていくとアースの眼前にモヤが現れた。そのモヤはアースの父と母、そして妹の姿をとるとその魂は優しい言葉でアースの迷いを揺り動かす。
ウルスラはこの一連のアースの様子を愛し気に、愉し気に眺めていた。
(護衛してくれるそうだけど、破魔の力は彼の助けにもなるかしら?)
柔和で明朗な彼が茶色の髪から覗かせる金の瞳に悲しみを纏わせる様は美しい。しかし、もし苦戦するようであれば――。
「あら?」
ウルスラの足元にいつの間にか小さな手毬が転がってきていた。ウルスラはユーベルコード製の空間へと吸い込まれる。
●望むのは、今とそこから連なる未来
ウルスラは吸い込まれた先でその空間を見渡した。確か敵のこのユーベルコードは望みを再現した理想郷を見せてくれるということだが……。
「いじらしい毬。いい子なのね。でもごめんなさいね、理想なんてちょっと思いつかないわ」
ウルスラが吸い込まれた先は、古城だった。そこはウルスラが現在住まう古城。時おり訪問者が訪れ、知り合いと過ごす。そんな今現在と変わらない場所であった。
「……家族を思い出そうにも、昔に別れちゃったもの。平和な世界は幸せかしら? 今は戦うのも楽しいの」
見慣れた古城で、ウルスラは楽しげに今を語る。
「ウルスラ! 無事かい!?」
護衛の聖騎士の声が響くと『望みを再現した理想郷』が崩れた。この空間を作り出した手毬が倒されたのだろう。
ウルスラは今に満足していた。だから、いま以上の理想は望まない。こんなにも愛しく愉しませてくれる人が居るのだから。
愛しい幻――召喚された霊たちを振り払いウルスラを助けにきたアース。そんな彼へウルスラは意地悪く問いかける。
「家族との別れはもう良いのかしら?」
「今の俺では居場所がない。だから描くなら、違う未来でなければ」
周囲をなおも跳ねる手毬たちを見てアースは想う。彼らもまた大事な人にはもう会えないのだ。
「もう逢えないと、知らない方が幸せなこともあるさ……幸いエンパイアでは死の先にまた廻るんだろう?」
輪廻の転生の果てに、いずれ再会出来るというのなら――。そんな憐憫を顔に張り付けたアースと舞う毬を、ウルスラはかわいそうねと愉し気に愛し気に眺める。
「見るならあなたの夢でいいのよ。そこで幸せにおなりなさいな」
ウルスラが蝶の印章を放つと、その雷撃に合わせてアースは魔槍で手毬たちへ凍てる刃を突き立てていった。
「もういいよ。ゆっくりお休み」
――彼らに安らかな眠りを。
大成功
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川咲香・忍
【&&】
俺がよく知る死者の霊…?…ああ、そうか、アンタだな。俺の命の恩人で、俺の生きる道を教えてくれた…『隊長』…。
「己の信念を信じろ」…だと?ああ。もちろん信じてるぜ。だからてめえらオブリビオン…隊長や大切な仲間を奪った奴等…残さず撃ち殺して世界に平和を取り戻してやるんだよ!それが俺の信念だ!
俺の戦い方…、つまりは隊長が教えてくれた技術…、【スナイパー】【第六感】【戦闘知識】で敵の動きを正確に見極めて、素早く的確に撃ち抜く。隊長には敵わねえけど、教えに忠実に…。
…利いた風な口をきくんじゃねえぞオブリビオン!隊長は…仲間達は…俺の技術に、俺の記憶に、そして俺の心に今も生き続けてるんだからよ!
●その心を燃やすのは
転移により儀式場へ着いた川咲香・忍(クズでおなじみ・f18903)は即座に近くの木を確認。トラップの有無をチェックするとライフルの『Gewehr 777』を構え木の背を確認。背後の危機が無いことを確認し、最後にその木を背にし背後から奇襲を受けない体制で見えている驚異である手毬へと向いた。
一連の動作はこれまでの経験で忍が身につけた癖のようなものだ。たとえ敵が跳ねる手毬しか居ないと解っていても、渡り歩いてきた戦場で染み付いた警戒と驚異の確認はそう抜けるものではない。不条理な戦場では臆病者ほど生き残れるのだから。
続けて引き金を――と、忍が攻撃へ移ろうとしたところ前方にモヤが現れた。
(確か、俺がよく知る死者の霊……だったか? さて……鬼が出るか蛇が出るか)
今まで多くの敵や味方の死に遭遇してきたため、誰が出てくるか検討もつかない。忍は携帯していた小さなボトルを取り出し中のウィスキーを一口あおった。こういう緊張する場面は酒を飲まなければやってられない。
「……ぷはぁ、で、誰だ……? ……ああ、そうか、アンタだな」
普段なら飲みすぎたかと考えたかもしれない、だが、まだ一口目だしこのオブリビオンはそういう能力だと事前に知っていた。だから、忍はこの霊が誰なのか確信した。
「俺の命の恩人で、俺の生きる道を教えてくれた……『隊長』……」
「貴様、まさか戦闘中に飲んでいるのか!」
隊長の霊は忍を見るなり酒気を帯びていることを察知し怒鳴り声を上げる。
「どうせギャンブルも止められんのだろう! レーションも勝手に食うしタバコも多めに持っていく、貴様は呆れたやつだ!」
この懐かしい厳しい言葉は忍の心をえぐった。脳裏に浮かぶのはかつて所属していた部隊が全滅した時の事。
(酔いが覚めちまった。こいつはキツイ……だが)
忍は隊長の説教をよそにもう一口ウィスキーを飲むと、厳しく小言を言う隊長へ昔のように言葉を返す。
「一口くらいじゃ、酔いませんよ」
言葉を返す忍の目に宿るのは、信念。それは『あの日』から決めた生き方。忍はその信念の為に目の前の『よく知る死者の霊』へ銃口を向け、引き金を引いた。
『……強い目をするようになったな。己の信念を忘れるな……部隊に入った頃の思いを、信念を信じろ……』
隊長の姿をした霊はそう言い残し消えた。
「『己の信念を信じろ』……だと? ああ。もちろん信じてるぜ」
忍はライフルを構え、前方を跳ねる手毬を照準へおさめ引き金を引く。タタタ、と乾いた連続音が鳴り手毬は弾けて消えた。
「だからてめえらオブリビオン……隊長や大切な仲間を奪った奴等……残さず撃ち殺して世界に平和を取り戻してやるんだよ!」
忍はさらに次の標的を狙い、引き金を引いていく。それは的確に一体ずつ撃ち抜き敵を屠っていった。
「それが俺の信念だ! ……利いた風な口をきくんじゃねえぞオブリビオン!」
忍は声を荒げる。
「隊長は……仲間達は……俺の技術に、俺の記憶に、そして俺の心に今も生き続けてるんだからよ!」
その胸に燃えるのは、オブリビオンという存在そのものに対する復讐心と怒り、そして――尊敬する隊長を利用した敵に対する、怒りだった。
大成功
🔵🔵🔵
ナターリャ・ラドゥロヴァ
ルー(f19531)と
「やっぱり、君か」
霊が模る儚げな少年は、難病で死んだ弟
君を治そうと医術を志したけど間に合わず、死に目にも会えないだけの結果だった
その後は自棄で見ての通りだしね
「…何?何か伝えたいの?」
その声を聞くべく近寄ろうとして、踏み止まる
甘やかすのは昔から悪い癖だ
今もまた手間のかかる大切な子がいるんだよね
自らの太腿にメスを突き立てて痛みで自分を叱咤する
「ルー、起きてる?」
大丈夫そうなら何より
【月下の殺人鬼】で自身とルーを指定、遠慮なくルーを斬りつけてから手毬を斬る
無論ルーの傷は後で縫うよ
跡を残さないことくらい造作もない、けど、何、残したいの?
ところでルーはどんな幻影を見たんだろうね
ウルウ・エイシィ
せんせ(ナターリャ(f19517))と一緒
過去はレテに全部食べられてるから、死者は見えない
けれど
足元で弾む夢見る手毬が可哀そうで、抱きしめてしまう
せんせ?…小さくなった?違う、僕の背が伸びたんだ
ここは理想郷…寿命の短い先生が、僕が大人になっても隣にいてくれる世界
ううん、これは夢で終わらせない
せんせが長生き出来る道を、探すんだ
未来のせんせを、ぎゅっと包み込んで
守れるくらいの大人になるから…待ってて、ね
うん、起きたよ
いつものように身体を差し出す
せんせの寿命が減らないように傷をもらおう
そのダメージを『強制的過共感』で毬に当てる
痛みを押し付けても、傷は消えない
後で縫ってもらうけど…残ってもいいからね?
●雛が巣立つまで
弾む手毬が訪れる者たちの心に触れていく。ナターリャ・ラドゥロヴァ(Moon Howler・f19517)もまたよく知る死者の霊と対面していた。
「やっぱり、君か」
前に現れたのは儚げな少年――ナターリャの弟だった。彼はナターリャが医者を志したきっかけである存在。
「君を治そうと医術を志したけど間に合わず、死に目にも会えないだけの結果だった。その後は自棄で見ての通りだしね」
自嘲気味に吐息を漏らすと、ナターリャは目の前の難病で亡くなった弟を見つめた。その表情に見えるのは再開の喜びか、それとも力が及ばなかったことへの後悔か――。
ナターリャ――せんせの横顔をウルウ・エイシィ(忘レモノ・f19531)はじっと見た。これは邪魔をしてはいけない気がする。
(過去はレテに全部食べられてるから、死者は見えないけれど……)
ウルウ――ルーは足元で弾む手毬を見た。
(この手毬にも、もう会えない大事な人が居るんだ……)
自身に取り憑くオウガ『レテ』に代償として度々記憶を食べられているルーは、親しい人を失う悲しみの実感は薄い。……それでも、ルーはこの手毬を可哀そうだと感じた。ルーは足元で跳ねる小さな手毬を思わず抱きしめてしまいユーベルコードによる空間へ吸い込まれていく。
「ルー? ルー!」
ルーが消えた、恐らくは『全ての望みを再現した理想郷』へ吸い込まれたのだろう。いつでも外に出られる筈だが心配ではある。
直ぐさまルーを助けに行こうとしたナターリャは、しかし目の前の弟が何を言おうとしていることに気づき足を止めてしまった。
「……何? 何か伝えたいの?」
召喚された霊とはいえ、救いたかった大事な弟。会えなかった年月そして救うために努力を重ねた年月だけ、ナターリャが弟を想う気持ちは強い。しかし弟へ近づこうとしたナターリャは踏みとどまった。
(甘やかすのは昔から悪い癖だ)
ついその言葉を、思いを、一字一句漏らさず聞いて叶えてやりたい衝動に駆られるが『今』は弟にそれをすることは出来ない。過去のもう戻らない存在ではなく、今居る大切な存在のために――。
ナターリャは自らの太腿にメスを突き立てた。その痛みで自身の意思を強く持つ。
「今もまた、手間のかかる大切な子がいるんだよね」
●巣立ちのさらに先へ
ルーは気がつくとよく見知った少しレトロな洋館に居た。そこでよく知った人とプリンを食べている。しかし、そのよく知った人はすこし小さく見えた。
(せんせ? ……小さくなった?)
ルーは周囲をキョロキョロと見渡す。
(違う、僕の背が伸びたんだ)
ルーは事前に聞いていた敵の能力を思い出していた。
(ここは理想郷……寿命の短い先生が、僕が大人になっても隣にいてくれる世界)
「どうしたの? ルー」
せんせはルーの挙動に首を傾げた。よく見ると目元に小ジワが在る気がする、これは10年後だろうか? それとももっと先?
「ううん、これは夢で終わらせない。せんせが長生き出来る道を、探すんだ」
ルーはそう呟くと椅子から立ち上がり、未来のせんせを抱き寄せた。
「なんだい、急に甘えて……」
戸惑う未来のせんせの温もりと小ささを確認したルーはテーブルから離れ部屋の出口へ向かう。
「プリンは良いのかい?」
そう問う未来のせんせへ、ルーはこう言葉を返した。
「守れるくらいの大人になるから……待ってて、ね」
青年の青い瞳は決意に満ちていた。
現実へ戻ってきたルーは空間を移動した影響かすこしぼんやりしている。
「ルー、起きてる?」
戻ってきたルーへ、せんせは呼びかける。ルーはせんせの声に応えた。
「うん、起きたよ」
「大丈夫そうなら何より」
せんせは太腿に包帯があり赤く染まっていた。応急処置はされているとはいえ、せんせが傷を負ったことはルーにとって心苦しい。
せんせがメスを手に取るとルーはいつものように身体を差し出した。それは二人の戦いの儀式。中空に上弦の月が召喚されるとナターリャの灰色の瞳が輝いた。ユーベルコード『月下の殺人鬼』……その代償としてルーは自身の身を捧げる、大切なせんせの寿命を守るために――。
残る手毬たちは次々とナターリャのメスで切り裂かれ消えていった。ルーもまた自身に与えられる痛みを呪術ナイフに乗せ――ユーベルコード『強制的過共感』によって手毬へダメージを与え、倒していく。しかし痛みは押し付けても傷は消えない。
一通りの敵を打ち倒したあと、ナターリャはルーの傷の手当てをした。
「跡を残さないことくらい造作もないけど」
ナターリャの言葉にルーは首を横に振る。取り憑くオウガに定期的に記憶を食べられるルーにとって、体に刻まれる傷跡は消えない記録だった。
「……何、残したいの?」
眉をひそめるナターリャに対し、ウルウは大切そうに傷跡を撫でる。傷の数だけせんせと居られた証になる。そしてせんせのタイムリミットを測る指標の一つにもなるだろう。
見た夢を、夢で終わらせないために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリオン・ライカート
&&&
・心情
本当に、世界は残酷だね
どんな思いも、拉げた鐘を響かせる事は無いんだ…
・現れる死者
名前も顔も思い出せないけれど、けれど…多分「大切だった人」
そんな気がするんだ
・戦闘
ごめんね
きっと君はボクの「大切な人」なんだろう?
でも、ボクは憶えていないんだ
君の事も、…自分自身の事も
だから君が、ボクにどんな言葉を投げかけても答えられないよ
ねぇ…これ以上残酷な事ってあるかい?
心を【鼓舞】して、この理不尽を切り拓くよ
そして終わらせよう、この悲しみしかない茶番劇を…
・戦闘後
さようなら…
名前も知らない「ボクの為の君」
そしてありがとう
こんなボクの前に現れてくれて…
ボクにも、君と言う繋がりがあったと教えてくれて…
●記憶の底から
儀式場で跳ねる手毬たちをマリオン・ライカート(Noblesse Oblige・f20806)は革命剣で斬り伏せていく。その数が片手で数えられなくなる程になるとマリオンの眼前にモヤが現れた。
現れるのは『自身がよく知る死者の霊』。しかし、マリオンはその現れた相手を思い出すことが出来なかった。
彼はマリオンの首元のブローチと同じ襟飾りを付け騎士のようで王子のようにも見える服装をしている。見知らぬ騎士はマリオンを見ると安堵の言葉を言った。
「ああ……無事な様で何より」
見知らぬ騎士の安堵の笑みが、そしてその声がマリオンの胸を締め付ける。マリオンには過去の自分についての記憶がない。それでも記憶の底から心が訴えかけてくる。
(名前も顔も思い出せないけれど、けれど……多分『大切だった人』。そんな気がする)
見知らぬ騎士は多くは語らなかった。一言か二言、『お元気ですか』『無理はしていませんか』と気遣う言葉をかけるのみ。しかしその言葉が却ってマリオンの心を苦しめる。
(きっと君はボクの『大切な人』なんだろう? でも、ボクは憶えていないんだ。君の事も、……自分自身の事も)
その声も、その微笑みも、その眼差しも。心の何処かがかけがえのない相手だと叫ぶのを感じる。しかしそれでも、彼が誰で自分とどのような関係で、彼とどう過ごしたのかが一切思い出せない。自分が何者かすらも――。
(だから君が、ボクにどんな言葉を投げかけても答えられないよ)
大切な人だということだけは心で解るのだ。しかしそれ以上の事が思い出せず、何をしたら彼のためになるのかが解らずマリオンは苦しんだ。再会した大切な人の素性も、思い出も、何もかもが分からないのだ。
(ねぇ……これ以上残酷な事ってあるかい?)
頬を一粒だけ涙が伝った。何をしたら良いかは解らない。しかし、どうしたいのかは解っている。
「ごめんね」
果たしてこの言葉は、この見知らぬ騎士へ向けたものか。それとも記憶の底で叫ぶ過去の自分に対してのものか。
マリオンは見知らぬ騎士へ革命剣の刃先を向けた。これから、大切だと感じる人を何も解らないまま斬らなければならない。
「この理不尽を切り拓くよ。進むんだ、未来へ、希望へ。だから……君を振り払う」
マリオンは決意と共に剣を振り下ろす。
『それでこそ君らしい。どうか、より良き未来へ――』
かき消える間際に『よく知るはずの死者の霊』はそう言い残して微笑みと共に消えた。
「さようなら……名前も知らない『ボクの為の君』。そしてありがとう。ボクに君と言う繋がりがあったと教えてくれて……」
霊が消えると目の前には霊を召喚をした手毬が跳ねていた。マリオンはすぐさま目先の手毬を一閃して消滅させる。
マリオンの胸に手毬たちの境遇が過ぎる。既にこの世に居ない大切な人のためと騙され、誰のためにもならないことをさせられ――。
「本当に、世界は残酷だね。どんな思いも、拉げた鐘を響かせる事は無いんだ……」
それでも、この儀式を放っておけばより多くの人が『大切な人』を失うだろう。この悲しみは何処かで止めなければならない。
「終わらせよう、この悲しみしかない茶番劇を……」
マリオンは剣を振るった。理不尽を断ち切る理想の王子であるために。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
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手鞠の怪か。怪談話にでも出てきそうな代物ね。
それじゃあ、村崎・ゆかり、陰陽師。いざ参る!
あたしの周りで鬼籍に入った方なら、この道を教えてくれた先師のお婆様ね。
とにかく厳しく、懸命に頑張って術を使えるようになってもそれが当たり前。些細なことで怒られてばっかりだった。
今のあたしを見ても、術を打つ時の甘さを指摘されたでしょうね。
――お久しぶりです、お婆様。
はい、私はまだまだ呪者として完成には程遠く。ですがそれ故に、伸びしろはまだあると思っております。
少なくとも、この程度で心を揺らされることはなくなりました。
ノウマク サンマンダ バザラダン カン! 不動明王火界咒で先師様の姿を炎の中に消し去る。
●不器用な愛情
儀式場へ着けば視界に見えるのは山中の木々の合間で跳ね回る手毬たち。
「手鞠の怪か。怪談話にでも出てきそうな代物ね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は霊符の『霊符『白一色』』をとり、手毬たちをいざ焼かんと真言を唱えようとした時だった。眼前にモヤが現れ、次第に人の形を取ってゆく。
(あれが『自身がよく知る死者の霊』ね。あたしの周りで鬼籍に入った方なら……現れるのはこの道を教えてくれた先師のお婆様)
現れた霊……背筋の伸びた和装の老婆は、ゆかりを見ると息をスゥと吸い、一喝。
「そこで止まるでない!」
これまでも師に些細なことで怒られてきた経験からゆかりは反射的にビクと強ばる。
「相手が強く、操る術が強ければお前は死んでおる! 攻めるなら攻めきりなさい」
厳しい言葉がゆかりの精神へダメージを与えていく。
(この人はとにかく厳しい。懸命に頑張って術を使えるようになっても、それが当たり前だと言ってくる)
オブリビオンによるものとはいえ、召喚された師の霊へゆかりは頭を下げ礼を示した。
「――お久しぶりです、お婆様」
(それに、あのまま攻撃してもそれはそれで『礼がなっておらん』って怒るくせに)
それでも怪異と戦う術を教えてくれた恩師だ。教え方に不満はあれど、教えそのものには感謝しかない。ゆかりは師へ自分の考えを言葉で返す。
「はい、私はまだまだ呪者として完成には程遠く。ですがそれ故に、伸びしろはまだあると思っております」
そう言いゆかりは霊符である白紙のトランプを投擲した。
「ふん……手の返しが甘い。それに腰が高い。反撃があれば防御に転じきれぬわ」
厳しい指摘を受けながらもゆかりは真言を唱える。少なくとも、もうこの位で大きく動揺することはもう無いのだから――。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン!」
ゆかりの放った白紙のトランプから噴出した炎が老師の霊とその後方にあった手毬を纏めて絡め取り燃やす。
「なる程、術そのものは昔より上手くなっておる」
ユーベルコード『不動明王火界咒』による炎に包まれながら、ゆかりの先師は口角をニィと上げ少し嬉しそうに言葉を続けた。
『だが自惚れるな小童、精進せい。おまえにはわしの倍は生きてもらわねばな――』
カカカと笑い弟子の天寿を願う言葉を残して、『よく知る死者の霊』は消えた。
「……ほんとあの人、素直じゃないわ」
ゆかりは頭を抑えてため息をつきながら次の霊符を手に取った。続けて残る手毬を焼き払いながら先師の言葉を思い返す。
(『伸びしろはまだある』って反論は否定されなかった。なら、伸びてやろうじゃない)
●
猟兵たちによりこの儀式場の手毬たちは一掃できた。さらに中央にある富士の霊玉も砕かれこの場の儀式の阻止は無事に成功する。
全ての儀式が阻止されたなら幕府軍のみならず、山陽道で生活する人々もまた救われることだろう。
関ヶ原を突破したなら次は島原となる。信長の居る『魔空安土城』まであと少し――。
大成功
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