エンパイアウォー⑨~灼熱の空
●灼熱の空
「今から皆さんに向かって頂きたいのは、山陽道です」
グリモアベースの一角にて、月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)は、その場に集った猟兵達へそう願い出る。
――『第六天魔王』織田信長の居城・魔空安土城へ向かう幕府軍は、最大の難所である関ヶ原に集結した。
ここからは関ヶ原で幕府軍を待ち受ける信長軍を突破し、さらに山陽道、山陰道、そして南海道の三手に別れて進軍することになる。
そのうちのひとつ、山陽道に待ち受けているのは侵略渡来人『コルテス』だ。
コルテスは幕府に叛意を持つ長州藩の毛利一族を手駒にして多くのオブリビオンを生み出し、幕府軍を迎撃するための準備――儀式を行っている最中なのだという。
「山陽道周辺の気温を極限まで上昇させて、進軍してくる幕府軍を熱波によって茹で殺すとかいう作戦を練ってるみたいで、現地は真夏どころじゃない暑さになってます」
現在山陽道の平均気温は夜間でも35度を超えており、このままコルテスの儀式が進めば平均気温は50度を超える殺人的な暑さとなるだろう。
さらに、コルテスは熱波だけではなく、同時に南米原産の風土病をも蔓延させ、幕府軍に死を撒き散らそうと画策しているのだという。
だが、この風土病のウィルスは、極度の高温でなければ死滅する類のもの。
そのため儀式を行い熱波を生み出しているオブリビオンを撃破できれば、同時に風土病も阻止できるだろう。
「皆さんには、この熱波を生み出しているオブリビオンの軍勢の撃破と、オブリビオン達が儀式に使っている……富士山の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉の破壊をお願いします。……オブリビオンは、コルテスが長州藩士を生贄にして生み出したものですが、」
生贄にされた武士達を救うことは叶わない。だが、猟兵達の手でオブリビオンを倒し、その魂を救ってほしい。
「どうか、宜しくお願いします」
蒼汰は説明を終えると、手の中にグリモアの光を灯した。
小鳥遊彩羽
ご覧くださいましてありがとうございます、小鳥遊彩羽です。
今回は『サムライエンパイア』での戦争シナリオをお届け致します。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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ご一緒される方がいらっしゃる場合は【お相手の名前(ニックネーム可)とID】もしくは【グループ名】をご記載下さい。
なお、今回はシナリオ成功に必要な最低人数~余力の範囲内での採用となります。そのため、プレイングに問題がなくとも採用出来ない可能性がありますので、大変恐れ入りますが予めご了承の上でのご参加をお願い致します。
それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
第1章 集団戦
『模倣刀『偽村雨』』
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POW : 雹刃突
【呼び起こした寒気】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 怨呪流血斬
自身に【過去の被害者の怨念】をまとい、高速移動と【止血し難くなる呪い】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 氷輪布陣
【氷柱】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を凍らせて】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:ボンプラム
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
クラウン・メリー
皆を苦しませるなんて許さないっ!
生贄にされている人達も出来れば救いたかったけど……
戦争。良いことなんて何一つないよ。
早く皆の笑顔が見たいな。
君がお相手かな?
その冷たい冷気少しでもこっちに分けてほしかったな!
さぁ、俺の芸を見てよ!火のついたクラブを取り出して芸をするよ!
この熱い炎で溶かしてあげる!
攻撃をしてきたなら、飛んだり黒剣で対抗するよ
多少の怪我を喰らっても痛くないさ!
シルクハットから鳩さんを取り出して敵に向かわせて爆発させ
煙で【時間稼ぎ】が出来たのならその隙に火の輪で拘束して
【傷口を抉るように】黒剣で【2回攻撃】するよ!
少しでも、痛みが感じない様に黒剣に【毒】を塗っておくね。
……ごめんね。
「皆を苦しませるなんて許さないっ!」
クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)は金色の瞳に怒りの火を灯しながら敵群を見据え、それからぐっと唇を噛みしめる。
(「生贄にされている人達も、出来れば救いたかったけど……」)
だが、その命は既に目の前のオブリビオン達に注がれてしまった。
そして、そのオブリビオン達は更なる惨劇を引き起こすべく、熱波を生み出す儀式に臨んでいる。
「……早く、皆の笑顔が見たいな」
戦争なんて、何一つ良いことがない。
戦いが起こる度に誰かが傷つき、苦しみ、そして悲しんでいる。
そのことに痛む心を今は笑顔の下に閉じ込めて、クラウンは居並ぶオブリビオン達へと向き直る。
――誰かを笑顔にするには、まず、自分が笑顔でなければならないから。
「君がお相手かな? その冷たい冷気少しでもこっちに分けてほしかったな!」
クラウンは火のついたクラブを取り出し、宙へ放り投げる。
まるで太陽のように燃え盛りながらくるくると空中で回転し、弧を描いて落ちてくるそれを器用に受け止めジャグリングを。
「さぁ、俺の芸を見てよ! この熱い炎で溶かしてあげる!」
無論、それをただ黙って見ているようなオブリビオンではなく。熱を凍らせんばかりの寒気をそれぞれの妖刀に宿しながら、オブリビオン達はクラウンへと踊りかかった。
「おっと、危ない!」
クラウンはジャグリングを続けながら白い翼を広げて後方に飛び、繰り出された刀の切っ先を黒剣で弾く。
敵の攻撃は予測出来ていたものの、それでも全てを躱しきることは叶わず。凍る刃が身体を斬り裂くが、奔る痛みも熱もクラウンにとってはさしたるものではない。
一見不利とも取れる行動も、あくまでもクラウンのピエロとしてのパフォーマンス。それを敢えて敵の前ですることで自身の身体能力を大幅に増大させ、クラウンは次なる一手に打って出た。
とん、と軽やかに着地したクラウンは、シルクハットから鳩を取り出し敵へと放つ。
それは本物の鳩ではなく、けれど愛らしく鳴きながら敵群へと向かい――そして、大きく爆ぜた。
途端に辺りを覆う煙に巻かれ、虚を衝かれたオブリビオン達が慌てふためく気配がわかる。
時間稼ぎは上々、クラウンはすかさず火の輪を放ってオブリビオンを拘束し、少しでも痛みを感じることがないようにと毒を塗り込めた黒剣で斬り捨てた。
同じように残るオブリビオン達も、クラウンは油断せず黒剣で斬っていく。
「……ごめんね。それでも俺達は、先に進まなくちゃいけないんだ」
大成功
🔵🔵🔵
シル・ウィンディア
あ、暑い…
氷の精霊と風の精霊で温度下げたいけど
戦闘前に消耗は避けたいしなぁ…
ササッと、倒すに限るっ!(ぐぐっ)
まずは
【空中戦】で空に飛んで【残像】【フェイント】を駆使して
撹乱機動から開始っ!
剣の間合いに入ったら【フェイント】をいれつつ
二刀流の光刃剣で【二回攻撃】
あと、風属性を【属性攻撃】で付与するよ
儀式、止めさせてもらうからねっ!
暑いんだからーっ!!
数度切り結んだあとは
敵の周りを【残像】【ダッシュ】【空中戦】と移動し
【高速詠唱】【全力魔法】のUCで一気に撃ち抜きますっ!
精霊電磁砲の【一斉発射】のオマケつきだよっ!
敵の攻撃は
【第六感】で感じて【見切り】で回避
回避機動は【残像】【フェイント】を使用
「あ、暑い……」
身を覆う真夏の暑さに、シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は既に半ばぐったりと。
この気温の中で敵と戦っていたら違う原因で倒れてしまいそうで、氷の精霊と風の精霊に力を借りてせめて体感温度くらいは下げたいとシルは思ったが、戦闘前に消耗を重ねるなどすればある意味敵の目論見通りと言えるだろう。
シルはぐぐっと拳を握り、うん、と大きく頷くと、力強く地を蹴って空へと舞い上がった。
「こうなったらもう、ササッと、倒すに限るっ!」
空を翔けながら、シルは残像とフェイントを駆使しての撹乱機動を開始する。
一息に群れの只中へ飛び込むと、両手にそれぞれ持った二刀の光刃剣に風を纏わせ、さらにフェイントを絡めながらの攻撃を繰り出していく。
「儀式、止めさせてもらうからねっ! 暑いんだからーっ!!」
けれど敵の攻撃による氷柱が、一時の暑さを忘れさせてくれたのは幸いか。研ぎ澄まされた直感により難なくそれを躱し、一度見切ってしまえばもう当たることもないだろう。
鮮やかな刀捌きで攻め込んでくるオブリビオンの集団と真っ向から打ち合い、数度切り結んだシルは、敵の周りを残像を纏い空を翔けながら移動しつつ、滑らかに淀みなく詠唱を紡ぎ上げる。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ……我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
シルの手から放たれたのは火・水・風・土の四属性の魔力砲撃。四色の鮮やかな魔力の奔流を迸らせながら、シルは同時に折り畳み式のレールキャノンを展開させ、精霊電磁砲の魔力砲弾を一斉発射で解き放っていた。
圧倒的な魔力の奔流に呑まれ、敵群の一つが消し飛ぶ。
だが、まだまだ戦いは終わらず暑さも収まるところを知らない。
涼しい場所に帰れるのは、もう少しだけ先のようだ――。
大成功
🔵🔵🔵
白波・柾
この国はただでさえ、夏は蒸し暑く過ごし難いというのに……
このような術は完成させてはいけないし、人々に危害を加えるならば見捨てては置けない
さぁ―――尋常に、勝負だ
氷柱については「激痛耐性」「氷結耐性」で耐え抜いて
もし回避しきれなかったら「怪力」「なぎ払い」で斬り落としたい
「戦闘知識」「地形の利用」で一斉掃射に有利な地形を選び
近接してきた敵は「なぎ払い」「吹き飛ばし」ていき
「範囲攻撃」「鎧砕き」「鎧無視攻撃」「傷口をえぐる」を添えた
【魔刃の軍勢】で一斉にダメージを与えていこう
自分が攻撃を受けそうになったならば「オーラ防御」で防御しつつ
「カウンター」で「咄嗟の一撃」を放ち「シールドバッシュ」で反撃
黒鵺・瑞樹
アレンジ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
脅威はさっさと排除してしまおう。
熱波だけでなく風土病までまき散らされちゃかなわない。
【存在感】を消し【目立たない】ように移動、そのまま【先制攻撃】で【奇襲】【暗殺】のUC剣刃一閃で攻撃。強化させる暇もなく切り捨ててやる。
確殺できなくとも動きの制限狙いで【マヒ攻撃】、かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
一撃離脱の動きで確実に倒し、数を減らしていく。
相手の物理攻撃は【第六感】で感知、【見切り】で回避。
回避しきれなものは黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】【氷結耐性】でこらえる。
富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉――それを用いて儀式を行っていたオブリビオンの集団。
刀を持つ剣士のオブリビオン――模倣刀『偽村雨』達は、すぐに猟兵達の存在に気づき、迎撃の体制を整える。
既に辺りに籠もる熱気は、それだけで戦意を削いでいきそうだったが、かと言って足を止めるわけには行かない。
「脅威はさっさと排除してしまおう。熱波だけでなく風土病までまき散らされちゃかなわない」
黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)は右手に胡、左手に黒鵺のナイフ――己が本体である一振りを携え前に出る。
その傍らに立った白波・柾(スターブレイカー・f05809)も、自らの本体である大太刀――“星砕丸”を抜き放ち、静かに歩み出た。
「この国はただでさえ、夏は蒸し暑く過ごし難いというのに……このような術は完成させてはいけないし、人々に危害を加えるならば見捨てては置けない」
柾は橙色の瞳で真っ直ぐに敵の群れを見据え、告げた。
「さぁ――尋常に、勝負だ」
次の瞬間には、存在感を消し目立たぬよう敵群との距離を詰めていた瑞樹が、先手を取って奇襲を仕掛け、二振りの刃で敵の一体を斬り捨てていた。
為す術もなく崩れ落ちる最初の一体。残る敵が瑞樹へ向けて冷気を放つが、既にその場から離れた後だった。
斬ってすぐ離れ、また近づいて斬って――ヒットアンドアウェイを繰り返し、一撃で倒せなくとも麻痺を塗り込めた刃で傷口を抉るなどして動きを鈍らせながら、瑞樹は着実に一体ずつ数を減らすことを念頭に置いて戦っていた。
瑞樹が倒しそこねた敵に止めを刺しつつ、柾も得物の大太刀を手に戦場を舞う。
飛来した氷柱を怪力込めた大太刀で薙ぎ払って粉砕しつつ、さらに接近してきた敵を大きく薙いで纏めて吹き飛ばし、そうしてなるべく敵が多くいる場所に狙いを定めて、柾は告げた。
「魔法は不得手だが、……俺にもこれくらいはできる」
自身に向けられた冷えた殺気を媒介として、柾が召喚したのは小刀の群れ。それらは柾に殺気を向けたオブリビオン達をどこまでも追いかけ、守りを砕き、深く突き刺さっては抉るように刀身を捩じ込んでいく。
柾の小刀が倒し損ねた個体はすかさず瑞樹の手によって倒されて。
特に交わす言葉こそないものの、二人は息を合わせるように連携しながら戦い続けるのだった。
大成功
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アレクサンダー・ヴォルフガング
……暑いな。心頭滅却すれば火もまた涼し、とか嘘だろ。時間をかけずとっとと終わらせるぞ。
特別な暑さ対策はしていないが、敵の放つ寒気で少しマシに……いや、冷静に考えて避けるなり防ぐなりしないとマズイか。暑さで判断力が鈍っているのか?
ともかく、接近してロンリーウルフの斬撃と【零距離射撃】による【二回攻撃】を仕掛ける。あとは手あたり次第左手で殴る。
オブリビオンたちが儀式で使う霊玉を探して破壊するまでが任務だが、まずは敵の一掃が最優先だな。
「……暑いな。心頭滅却すれば火もまた涼し、とか嘘だろ」
時間をかけずとっとと終わらせるぞ。そう吐き捨てるように呟き、アレクサンダー・ヴォルフガング(孤狼・f21194)は地を蹴った。
特別な暑さ対策を講じてきたわけではないが、敵の放つ寒気で少しはマシにならないだろうか――。
「……っと、」
そんなことを考えていたアレクサンダーの脇腹を、冷気を纏った刀の切っ先が掠める。
冷静に考えて、どんなに暑さが和らごうとも刺されれば痛いものは痛い。避けるなり防ぐなりしないとまずいと直前で悟ることが出来たのは、不幸中の幸いだっただろう。
(「暑さで判断力が鈍っているのか? ……ああ、きっとそうだ」)
身体を包むのはサムライエンパイア特有の、湿度の高い、生温かい風。気を抜くと意識ごと奪われてしまいそうだが、気候に倒されるわけにも行かない。
緩く頭を振って意識を切り替え、アレクサンダーは踏み込んだ。
ロンリーウルフと銘打つ銃剣を振るい、オブリビオン達の偽りの妖刀と果敢に斬り結び、あるいは零距離からの銃撃を撃ち込む。
そうしてアレクサンダーが解き放ったのは、禍々しい色彩を纏う異形の左腕。
「加減はできないぞ……吹き飛べ!」
力任せに殴りつければ、まるで魂を喰われたかのように崩れ落ちていくオブリビオン。
アレクサンダーはそのまま手当たり次第にオブリビオン達を殴って、殴って――殴り飛ばした。
この地に集ったオブリビオン達が行っている儀式と、それに使われている富士の噴火の力を閉じ込めた霊玉を探し出して破壊するまでが任務だけれど、まずは敵の一掃を最優先に、アレクサンダーは立ち向かっていく。
大成功
🔵🔵🔵
黒門・玄冬
偽妖刀に風土病…酷な真似を
せめてこの戦いを終えた後には散った命を弔いたい
軍勢とは戦闘知識、地形の利用、見切り
力溜め、なぎ払い、二回攻撃、敵を盾にする、カウンターで格闘
遭遇の敵数が三以上で有れば共闘で切り抜け
共闘不可であれば檸檬を使用
オーラ防御、激痛耐性、その他耐性を駆使して進む
常に情報収集、失せ物探し、第六感で霊玉を、儀式場を探し
発見次第近くの仲間へ報せ情報を共有
その後は最優先で破壊を目指す
対偽村正には狂気耐性と氷結耐性
高速移動が捕まえられぬ時は
攻撃を一度受け
力尽きると見せた演技でおびき寄せ
フェイントとだまし討ちで掴み
離さぬまま檸檬を仕掛ける
「道連れにはなってやれないが…すまないな」
「偽妖刀に風土病……酷な真似を」
せめてこの戦いを終えた後には散った命を弔いたい――そう思いながら黒門・玄冬(冬鴉・f03332)はずらり、居並ぶ軍勢を見据え。
幾度も潜り抜けてきた戦いの知識を活かし、黒衣を翻しながら玄冬は戦場を駆け抜ける。
繰り出された刀の切っ先を見切って躱し素早く敵の背後に回り込むと、その手を捻り上げて敵の前に盾として突き出した。
冷気を纏う偽村正の刃が、同胞たるオブリビオンを斬り伏せる。だが、敵は集団。まだその数を多く残していると悟った玄冬はすぐさま次の一手を講じた。
「僕も使いたくないが……悪く思わないでくれ」
玄冬は何かを堪えるように呟くと、内に眠るもう一人の自分が製造した特製の爆弾を敵群へ叩きつける。爆ぜる衝撃と爆炎に呑み込まれたオブリビオン達が瞬時にして吹き飛ぶのを見て、玄冬は再び地を蹴った。
逃すまいと繰り出される氷刃をオーラで弾き、貫かれても痛みを堪えながら玄冬は周囲に意識と直感を張り巡らせる。
玄冬が探しているのは敵ではなく、今まさに儀式が行われているであろう場と、そこにあるはずの――富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉。
だが、その前に怨念を纏った偽村正の武士が立ちはだかる。
素早く移動しながら斬りつけてくるオブリビオンはすぐには捉えられず、そこで玄冬は敢えてその一撃を身に受けた。
「……っ」
鮮血が噴き出す肩を抑えながら玄冬はその場に膝をつく。今にも倒れそうな玄冬に止めを刺そうと近づいてきたオブリビオンを寸前まで引き付けて、玄冬はその手を力強く掴み、離さぬままに再び爆弾を放った。
「道連れにはなってやれないが……すまないな」
痛みを堪えながら立ち上がった玄冬は、再び儀式場と霊玉を探して駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
薄い着物の俺でも茹だっちまいそうなんだ、鎧なんざ着てたらどうなる事か
…人を、もう何百と贄にするじゃ飽き足らず、次いで疫病たァ業腹だ
あゝ、くそ
で、お前ェ自体は冷気使いかよ
この熱さでなかなか墨が乗りやしねェが、お誂え向きサ
【早業】で描いた無数の千鳥に二重三重の【範囲攻撃】、火の【属性攻撃】乗せてぶつける
その氷、真黒に染めちやら
嬉しかねェが、俺達ァちいと似たとこがあるらしい
さァ勝負だ
氷が先か、墨が先か
この熱じゃあそっちのが分は悪そうにゃ見えるがね
氷柱はなるべく【見切り】てェが、如何せん勝負に夢中なんで多少は受けても仕方ねェ
富士山の熱なんてェ…そねぇな事も出来るのかい
も、ちいと有益に使ってみろってんだ
「……あゝ、くそ」
浮かぶ汗を着物の袖で強引に拭い、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は毒づく。
ただでさえ薄い着物しか纏っていなくとも、真夏の暑さを超える熱量に茹だってしまいそうだというのに。鎧を纏う武士達がこのままここに現れたら、一体どうなってしまうことか。
だが、彌三八の心を燻ぶらせている想いはそれだけではない。
「……人を、もう何百と贄にするじゃ飽き足らず、次いで疫病たァ業腹だ」
そして彌三八は使い慣れた筆を手に、オブリビオン達へと向き直る。
「で、お前ェ自体は冷気使いかよ。この熱さでなかなか墨が乗りやしねェが、お誂え向きサ」
彌三八は筆を掲げ、さらりと素早く宙に無数の千鳥を描き出す。二重三重に想いを重ね、筆先に灯る炎をそのまま移し解き放てば、千鳥達は翼を広げ一斉にオブリビオンへと襲いかかった。
「その氷、真黒に染めちやら。――さァ勝負だ」
決して嬉しいものではないが、どうやら自分達は少し似たところがあるらしい。
用いる“技”が似ているのであれば、余計な小細工など不要。
真っ向からぶつかり合って、どちらが勝つかを決めるだけ。
「氷が先か、墨が先か。この熱じゃあそっちのが分は悪そうにゃ見えるがね」
羽ばたく千鳥を撃ち落とさんと放たれる氷柱に千鳥が正面からぶつかり、一瞬で黒く染め上げられた氷柱が溶かされ墨色の水が地に落ちる。
互いにぶつかり合って消えていく千鳥と氷柱。そして地形が凍り、あるいは千鳥模様で埋め尽くされていく。
その時、飛び回る千鳥の隙間を縫うようにこちらへ向かってきた氷柱が、咄嗟に躱そうと身を捻った彌三八の肩口を掠めていった。
だが、痛む肩もそのままに、寧ろ痛みなど感じぬというように、勝負に夢中な彌三八の口元には隠しきれぬ笑み。
駆け出した彌三八は千鳥模様の陣の上に立ち、再び筆を走らせた。
やがて、辺りに一瞬の静寂が戻る。
そこかしこの地面が凍り、あるいは千鳥模様で埋め尽くされた戦場の只中。どっと押し寄せてきた疲れに引き摺られるように彌三八はどっかりと座り込む。
遠くではまだ同胞達が戦っている剣戟の音が響いている。この広い戦場のどこかで行われている儀式、それに用いられているのは富士の噴火の力を閉じ込めた宝玉だという。
「富士山の熱なんてェ……そねぇな事も出来るのかい。も、ちいと有益に使ってみろってんだ」
やれやれというように肩を竦め、彌三八は一度空を見やり、そしてオブリビオンが残した氷の地面に向けて吐き捨てた。
大成功
🔵🔵🔵
尭海・有珠
ふぅん、生贄にして生み出されたオブリビオンか
その命、もう助けられないというならそれを始末するより他ないな
それで魂が救えるというなら…偽善でも、いや私が気に入らないから倒してやるさ
高温で広まるともなれば此方とて、気温を下げる手段を取りたいところだが
ほう、お前は冷気に因る技使うのか
「氷にて相対するのも良いが、躱しても長引く可能性があるのであれば」
正面から向かって突っ込んでいき、氷柱には≪涯の青≫を展開
痛いものを好き好んで受ける心算はないが、自身を強化されても困る
攻撃そのものは下半身を狙って全力で杖で殴りつけ、バランスを崩させるか杖に注意を向けさせる
本命は剣で叩き切ること
霊玉も剣を突き刺して破壊する
「……ふぅん、生贄にして生み出されたオブリビオンか」
凪いだ海の瞳で、尭海・有珠(殲蒼・f06286)は妖刀を携えたオブリビオン達を一瞥する。
「その命、もう助けられないというならそれを始末するより他ないな」
それで魂が救えるというなら、偽善でも――思考を巡らせ、有珠はいや、と小さく首を振った。
「――私が気に入らないから倒してやるさ」
今を生きる命を媒介に生み出された過去の骸など、存在する価値はない。
辺りは既に熱気に包まれて、茹だるような暑さと言っても過言ではないだろう。
その上儀式が続けばさらに気温は上昇し、まるで灼熱の地獄のようになるのだという。
こちらも少しでも気温を下げ、暑さを和らげる手段を取りたいと思っていた所に現れたオブリビオン達は、纏う色彩もあってか妙に涼しげだ。
その時、不意に放たれた氷柱が、咄嗟に一歩後方に飛び退った有珠が直前まで立っていた場所に突き刺さった。
氷柱は瞬く間に溶けるように崩れ落ちながら、地面を凍らせてゆく。
「ほう、お前は冷気に因る技を使うのか」
凍りついた地面を見て、有珠は軽く眉をひそめた。
同じ氷の魔法にて相対するのも良いが、躱しても氷の地面に立たれることで自身を強化され、それにより戦闘が長引く可能性が少しでもあるのなら。
逡巡は一瞬、有珠は正面から敵陣へと体当たりをするように突っ込んでいき、素早く魔力を編み上げる。
痛いものを好き好んで受ける心算は毛頭ないが、かと言って自身を強化されても困る。ゆえに――。
「来たれ、世界の澱――集えよ、凝れ、『涯の青』」
力ある言の葉によって綾なす魔力が空と海の涯を重ねた青の、等身大の魔法障壁となって有珠を守り、放たれる氷柱の尽くを相殺していく。
自らの技を阻まれ驚愕するオブリビオン。その一瞬の隙を突き、有珠は“海”の宝珠を抱く青色の仕込杖で下半身を狙い強かに殴りつけた。
「――ッ!」
バランスを崩してたたらを踏んだ瞬間に、有珠は更に黒藍の剣で叩き切る。
杖はフェイント、本命は剣による一撃だ。
それを繰り返しながら有珠は儀式場と霊玉を探し、群れの只中を突き進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
※フェレスちゃん(f00338)と
熱い、な
彼女は大丈夫かと見て
下がる尾と耳見て
気を使いつつも駆ける
彼らと霊玉を断てば
生贄にされた彼らの魂も
自由にできる
あと少し、と駆け
会敵次第
フェレスちゃんに並び
速さと牙を貸しておくれ
初手薙ぎ払い仕掛け気を引き
以降、瓜江は彼女に添わせ
フェイント交えた動きでの引きつけと連携で
その刃が届きやすいようにと
自身も敵の攻撃を注視
生まれた隙を縫う
けれど、氷柱による攻撃だけは…
強化されたくないので
舞で威力軽減し、受ける
大丈夫
涼しいぐらいさ
彼女の影で動きが鈍ったなら
一気に踏み込み
破魔込めた衝撃波で断つ
霊玉見つけた合図あれば
頷きその射線開きに
死なないよ
ひとを、生かしに来たんだから
フェレス・エルラーブンダ
るい(f13398)と
湿った空気に篭る熱に耳と尾が下がるけれど
文句は言わない
手を貸すと、ちからになると、きめてきたから
二回攻撃、残像を駆使して敵の手数を削ぐ
一撃一撃は大した傷を与えられずとも
足止め叶えば、その分ふたりが暴れられる
――るい!
無茶をしない、背中を預ける
るいとのやくそく
だから、わるいな
ずるをするぞ
ずるりと自身の影を伸ばす
宵闇のせかいで生きる為に覚えたもの
影縛で傀儡の四肢を絡め取らんと
刃が鈍れば避けるも容易い
私のほうが、足がはやい
霊玉を見とめられたら、るいに合図を送る
自分の射線が切り拓けたなら千里眼撃ちを
これ以上奪わせない
おまえもだぞ
しなせない
生きて、……『たのしい』を、もっとおしえて
「……熱い、な」
場に満ちた熱に冴島・類(公孫樹・f13398)は思わず零し、傍らを見やれば、フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)の耳と尾は湿った空気に籠もる熱にすっかり下がっていた。
「フェレスちゃん、大丈夫?」
「……ん、平気」
耳も尾も、いつもより重い。けれど、フェレスは文句の一つも言うことなくいつも通りに淡々と答える。
この地に立つことを選んだのは己自身。
手を貸すと、力になると、――決めてきたから。
そうして、二人はどちらからともなく駆け出していた。
「あと少し、」
この地に蔓延る物の怪達と霊玉を断てば、生贄にされた彼らの魂も解放できる。
視界の端にその姿を捉えるまで、然程時間は掛からなかった。
足を止めたフェレスの横に並び立ち、類は乞う。
「――速さと牙を貸しておくれ」
類の両手が払うように宙で弧を描く。その動きに従うように十指に結んだ赤糸の先に繋がれた絡繰人形の瓜江が、濡羽色の髪をふわり、揺らしながら敵群を薙ぎ払った。
そうしてオブリビオン達の狙いを類と瓜江が引き付けた僅かな間に、フェレスが馳せる。
寄り添うように、瓜江が傍へ。仕掛けると見せかけてフェイントを交え、刃が届きやすいようにより一層敵の意識を絡め取ろうとする瓜江に甘んじることなく、フェレスは陽炎のごとく揺らめいて残像を結びながら、闇に溶ける二振りの刃を手に飛び掛かった。
右手の刃で敵の持つ刃へと喰らいつき、左手の刃を潜らせるようにして敵の腹を切る。向けられた凍えるような寒気の刃を、すかさず瓜江が弾く。
一撃一撃は大した傷を負わせられなくとも、足止めさえ叶えば、その分、二人が暴れられるから。
フェレスが猛追する間に類もまた敵の攻撃を注意深く追い掛け、生まれた隙を縫うように躱し、短刀で払って。
――けれども、オブリビオンがその手に氷柱を生み出したのを見て、類はふと動きを止めた。
躱せば地面に氷輪が刻まれてしまう。それは、オブリビオン達の力を高めるもの。
敵の強化だけは避けたいと、類は短刀に風を集める。
「風集い、舞え」
銀杏色の組紐飾りが舞い上げられ、魔を祓う風が包み込んだ次の瞬間、神霊体へと変じた類は真正面から氷柱をその身に受け止めた。
「――るい!」
焦燥滲むフェレスの声に、類は微笑んで答える。
「大丈夫、涼しいぐらいさ」
フェレスが小さく、安堵の息をつくのがわかった。けれどもそれは本当に一瞬のこと、フェレスはすぐに瓜江と共に残る敵へと向き直っていて。
無茶をしない、背中を預ける。
それはここに来る前にフェレスが類と交わした約束。だから――、
「わるいな、ずるをするぞ」
動くな、と、フェレスは静かに命じる。
すると足元に落ちた濃い影がずるりと伸びて、傀儡たるオブリビオンの四肢を絡め取らんとその影に強く結びついた。
それは、フェレスが宵闇のせかいで生きる為に覚えたもの。
「私のほうが、足がはやい。……これ以上、奪わせない」
強張った腕から繰り出される刃は避けるのも容易い。動きを鈍らせたオブリビオンの元へ類は一息に距離を詰め、破魔の力を込めた衝撃波で過去の楔ごと断ち切った。
猟兵達の奮闘により、敵の数は着実に減っていた。
この場に集ったオブリビオン達、その全てを倒しきるのも時間の問題だろう。
この地のどこかで行われている儀式の場、そこにあるはずの霊玉を探して、二人はさらにオブリビオン達を屠りながら駆けていく。
「おまえもだぞ、るい」
その途中、フェレスは不意に呟き、類を見た。どこまでもひたむきで純粋な色を瞳に灯して。
「しなせない。生きて、……“たのしい”を、もっとおしえて」
未来を、“これから”を。願うように響いた声に、類はふと目を細めてから、しっかりと頷いた。
「……死なないよ。ひとを、生かしに来たんだから」
大成功
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玖・珂
海も茹ってしまうのではないか
などと悠長に構えている暇は無いな
熱波、風土病は捨て置けぬ
それに
斯様に使われるのは武士の本懐ではなかろう
介錯をば仕る
右目に翠の花を咲かせ暑さの軽減を図るぞ
火炎耐性もあるが念の為
熱気を吸い込まぬよう口元を布で覆っておこう
此処に在っては氷柱は涼やかで良いが磔は御免被る
全力魔法で長杖に疾風纏わせ刀の切れ味を再現し
敵の視線、挙動から攻撃の軌道を読み薙ぎ払うぞ
凍結した地に立たせねば良いのだろう?
氷柱割くが早いかダッシュで接敵
杖の羽根を疾風と滑らせ首を斬り落とそう
可能なら吸血、生命力吸収を
無念があるなら此の先へ、其の想い連れて征こう
霊玉が転がり出たなら石突で怪力籠めてかち割るぞ
クロト・ラトキエ
いつだって真っ先に貧乏籤引かされるのは、弱い者。
珍しからぬ事。否定は致しません。
ですが。
生者を踏み台に過去がのさばる…
気に食わないんですよね、そういうの。
風向き、敵の動きや集い方…
玉は儀式の只中、護られているとみて、位置にあたりをつけ吶喊。
トリニティ・エンハンスの炎の魔力を防御力に。
阻む敵は、刀の動き、温度差による空気の揺らぎ等、攻撃の兆しを“見切り”極力回避。
この暑さには丁度良いそよ風ですねぇ。
等と余裕は崩さず、避け切れずとも身を捻り或いは庇って、
致命傷と機動力の低下は避けたく。
すり抜け様、刀持つ手へ鋼糸を掛け、勢い付けて引く“2回攻撃”。
戦力を削ぐ。
そんな理由でぶち壊します。
御免あそばせ?
――海も茹ってしまうのではないか。
ふと思案して、玖・珂(モノトーン・f07438)は緩く頭を振った。
「……などと悠長に構えている暇は無いな」
その傍らにすっと、まるで最初からそこにいたようにクロト・ラトキエ(TTX・f00472)が歩み出た。
「いつだって真っ先に貧乏籤を引かされるのは、弱い者。珍しからぬ事。否定は致しません。……ですが」
クロトはにっこりと笑って玖珂を見やると、小さく肩を竦めて。
「生者を踏み台に過去がのさばる……気に食わないんですよね、そういうの」
クロトの言葉に玖珂は頷き、現れたオブリビオン達を見遣った。
「そうだな、熱波はおろか、風土病も捨て置けぬ。それに、斯様に使われるのは武士の本懐ではなかろう。――介錯をば仕る」
「さて、霊玉は一体どこにあるんでしょうねえ~?」
風向きや敵の動き、それから不用意に集まっているところはないか――。霊玉そのものは儀式の只中、護られているものとみて、クロトはおおよその位置にアタリをつけて玖珂に声を掛ける。
「おそらく、あの辺りです。向かってみましょう」
猟兵達の戦いにより少しずつ、この地に集ったオブリビオン――模倣刀『偽村雨』の数は減ってきていた。にもかかわらず、群れの中央に向かうほど敵の数が増えるということは、オブリビオン達が儀式を行っている場所は、単純に群れの中心部にあるのだろう。儀式の要、富士の噴火のエネルギーを封じたという霊玉の所在はまだ不確定だが、あるいはそこにいるオブリビオンの誰かが猟兵の襲来に備え隠し持っているかも知れない。
どのみちここにいるオブリビオン達をすべて倒すことに変わりはなく、一体ずつ倒してゆけば、霊玉はいずれどこかで見つかるはずだ。
玖珂は右目に翠色の花を咲かせ、暑さの軽減を図る。熱に対する強さを持ち合わせてはいるが、念の為に熱気を吸い込まぬよう、口元を布で覆い、準備を終えてから敵陣の中心部、その只中へ駆け出していく。
クロトは炎の魔力を守りの力へと変えて、玖珂と並び駆け出した。
二人の気配に気づいたオブリビオン達が、歪められて妖刀と成り果てた刀に冷気を宿しながら、邪魔者を排除しようと斬りかかってきた。
クロトはすっと目を細め、刀の動きや明確な温度差による空気のゆらぎなどから見て取れる攻撃の兆しを極力見切り、無駄のない動きで回避していく。
「此処に在っては氷柱は涼やかで良いが、磔は御免被る」
敵の視線や挙動から攻撃の軌道を読みながら、玖珂は杖へと変じた精霊の羽雲に疾風を纏わせて刀とし、一息に薙ぎ払う。
「この暑さには丁度良いそよ風ですねぇ」
クロトはいつものように余裕も笑みも崩さずに、避け切れぬものは身を捻ったりあるいは敢えて自身で庇うなどして――致命傷と機動力の低下だけは避けながら駆けていく。
すり抜け様に、クロトはオブリビオン達が刀を持つ手へさりげなく鋼糸を掛け、そのまま勢いをつけて引き倒したりもして。
「……ッ!?」
ついでにうっかり、首やら手足やらまで斬ってしまっただろうか。もっともそれを確認することもなく、クロトはひたすら前へと駆けていってしまうのだけれど。
「凍結した地に立たせねば良いのだろう?」
己に向けられた氷柱を割くが早いか玖珂は疾く駆け敵の懐へ、くるり、翻した杖の羽根を疾風と滑らせ刀持つ本体の首を斬り落とす。
羽雲が吸い上げる血と命が、玖珂の中で新たな力となって巡る。
「無念があるなら此の先へ、其の想い、――連れて征こう」
――やがて、二人は儀式の場と思しき領域に辿り着いた。
「当たり、のようですね。さっきまでとは段違いな暑さです」
「其の様だな。霊玉は……嗚呼、あれか。さっさとかち割ってしまおうか」
額に浮かぶ汗を拭っても、次から次へ溢れてくる。そんな熱がこの場に満ちていた。
その“熱”の出所――儀式の中心の場に設えられた祭壇に、周囲の空気を揺らめかせながら置かれている玉――それこそが富士の噴火のエネルギーを閉じ込めた霊玉に違いない。
「僕はさっきも言いましたけれど」
生者を踏み台にして、今ここに在るべきでない過去がのさばるなど、純粋に気に食わない。
「ですから、そんな理由でぶち壊します。……御免あそばせ?」
クロトが黒染めのナイフを突き立て、さらに玖珂が渾身の力を籠めて杖の石突で霊玉を穿つ。
ばりん、と、硝子が割れるような音が少し重く響いて、霊玉は粉々に砕け散った。
その時、一瞬だけ涼しい風が吹き抜けていったのを二人は感じ――そして、まだ続く戦いと、これから始まる更なる戦いの予感を覚えるのだった。
大成功
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