エンパイアウォー⑨~廻る少女剣舞
●絶対灼熱黙示録
『この暑さで敵は倒れる……分かります』
侵略渡来人『コルテス』の命を受けた異国の少女剣士達は、山陽道周辺の気温を極限まで上昇させ、進軍してくる幕府軍を、熱波によって茹で殺す誠にファビュラスな作戦を遂行すべく、手に入れた『富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉』を使って怪しげな儀式を行っていた。その正体はオブリビオン――長州藩士を生贄にして、骸の海からコルテスに召喚された、見た目とは裏腹にやたら強い連中だ。
『合わせて灼熱の状況下という極限環境で猛威を振るう風土病まで投入とは』
『流石コルテス様、恐るべき侵略パゥワー』
ぱぅわー。少女達が合唱する。それこそが儀式。多感な少女の感情が恐るべき妄執を実現するというメランコリックな魔法に、このままでは幕府軍が文字通り熱中症レベルでメロメロになってしまうだろう。
「何よこのテロップ!」
ばたばたと下敷きで己を扇ぐ喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)が、グリモアベースのスクリーンに映された予知まとめを見て憤慨した。
「もうちょっと真面目な予知だったわよ……とまあ、兎に角今度は灼熱の山陽道が舞台です。凄い暑い。もうサイアク」
現時点で山陽道の平均気温は夜間でも35度を超えており、このままコルテスの儀式が進めば、平均気温が50度を超える殺人的な暑さとなってしまう。人体を構成するたんぱく質は、凡そそんな極限環境には耐えられない。如何に熱中症対策をした歴戦の兵だって、こんなに熱ければ倒れてしまうのは猟兵の皆も知っての通りだ。
「敵はそんな猛烈な熱波と風土病で幕府軍を死滅させるつもりなの。でも、元凶の儀式を行っているオブリビオンを退治して、その中心の『富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉』を壊す事が出来れば、この儀式も風土病も止める事が出来るわ」
熱波もだが、風土病が蔓延してしまえば幕府軍だけでは無く周辺の住民たちにも多大な影響を与えてしまうだろう。合わせて、放置しておけば三万人近い幕府軍の兵達が命を落とす事になるらしい。何としても、この儀式を阻止しなければならない。
「それに幕府と仲が悪いからって、罪の無い長州藩士を生贄にしてオブリビオンを召喚だなんて――」
ゆらりと、紗羅の瞳が真紅に染まって――鬼婆裟羅が姿を現す。その瞳は怒りに燃えていた。戦に関係の無い無辜の民まで既に多く巻き込みつつあるこの戦、そういったものを人一倍許せないこの男は、握るスマホを砕かんばかりの勢いで手に力を込めていた。
「許せるわけ、無えよなぁ。頼むぜ皆……吉報を待っている!」
そしてスマホのチャイムが鳴って――グリモアが開かれた。
ブラツ
ブラツです。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。1フラグメントで完結し、
「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
戦闘は【集団戦】となります。
不明な数のオブリビオンを次々と撃破する戦闘シナリオです。
戦場は少女達が歌う様に怪しげな儀式をしているそれなりに開けた場所です。
特にギミックはありませんので、思う存分大立ち回りを致して貰えれば幸いです。
判定完了後に霊玉は自動で破壊されますので、特に指定はいりません。
猟兵の活躍が無ければ、多くの幕府軍は、山陽道を抜けられず壊滅するでしょう。
プレイング募集は8/13(火)8:30以降です。今回は戦争シナリオの都合上、
8/20迄の判定を確実にする為、採用をお見送りさせてもらう場合があります。
連携アドリブ希望は文頭に●を、同時参加を希望の方は識別子をお願いします。
それではご武運を。よろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『異国の少女剣士』
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POW : 跳躍飛翔
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
SPD : 縮地法
【瞬間移動】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【至近距離からの斬撃】で攻撃する。
WIZ : 憑呪宿奪
対象のユーベルコードに対し【その属性や特性を奪い取る斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:ちーと
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
榎・うさみっち
あつい~~!!煮える~~!!
こう暑いとうさみっちゆたんぽの売れ行きも最悪だぜ…!
というわけでこの儀式、何としても阻止する!
【こんとんのやきゅみっちファイターズ】召喚!
UDCアースではこの時期、野球少年達が
ここと同じくらいの気温の中で勝利目指して戦っている…
つまりやきゅみっち達もこんな暑さ屁でもない!
……と自分達に言い聞かせて突撃!
俺は【早業】でうさみっちゆたんぽに熱湯を入れ
やきゅみっち達はそれを球にして敵に打ち込む
まずぶつけた衝撃で敵はダメージ受ける
ゆたんぽが弾け熱湯が撒き散らされ更にダメージ
更に更に高温+湿気で蒸し風呂状態に!
というコンボを決めていくぜ!
ジャンプして逃げようが打ち落とす!
●やきゅみっちのホームランダービー
灼熱の空間、石造りの祭壇を囲んで少女達が歌う。
鈴の音の様な合唱で唱える言葉は呪い。
地獄の熱波と恐怖の病魔を呼び起こし、蹂躙する為。
「あつい~~!! 煮える~~!!」
その悍ましくも美しい儀式に割って入る妖精が――榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)がぶーんと儀式場へやってくる。
『そうするつもりでーすー』
なにやつー。少女達が合唱で突然の闖入者に呼び掛ける。
「というわけでこの儀式、何としても阻止する!」
はなしきいてー。いいや聞かないね。こう暑いとうさみっちゆたんぽの売れ行きも最悪だぜ……! 絶対に許さねえ! 怒りの炎がうさみっちを熱く燃やす!
「なあお嬢ちゃん、UDCアースではこの時期、野球少年達がここと同じくらいの気温の中で勝利目指して戦っている……そう、甲子園を目指して!」
『UDし……え……何?』
うさみっちの放言に一斉にきょとんとする少女達。何処よそこ。甲子園って何よ。ワタシコノクニノヒトジャナイカラワカリマセン。しかしその言葉こそがうさみっちの超常――揺らめく陽炎が形を成して、釘バットや鉄球を構えた野球服うさみっち団がぶーんぶーんと大量に姿を現した。ちょっと角度を変えれば正に世紀末!
「つまり、やきゅみっち達もこんな暑さ屁でもない!」
『監督! 1号が熱中症です!』
「水でも掛けとけ!」
これだから平成生まれは……ブツブツと何事かを呟きながら、しおしおの1号にバケツで水をぶっかけるやきゅみっち達。
『しょうしー。この暑さには耐えられないー』
『では行きます』
いきますー。合唱しながらするりと小剣を抜いて、一列に並ぶ少女達。目隠れの奥でその殺意を燃やして……。
「双方、礼!」
『え』
審判やきゅみっちが両者の整列を確認すると共に号令を掛ける。
「プレイボール!」
さあ始まりました武蔵坂やきゅみっちファイターズ対山陽道コルテスガールズ、この放送は私やきゅみっち31号と解説のうさみっち監督でお送りします。
「よろしくー」
ブイブイとカメラ目線で合図を送るうさみっち。先行はやきゅみっちファイターズ、バットを振り被って湯たんぽを打った! いい当たりだ左中間一直線、コルテスガールズの守備が追い付いて……直撃だぁぁぁぁぁ!!!!!!
『yeeeeeaaaaah!!!!!!』
『ちょ、熱い! 熱い!』
暑いじゃなくて熱い! 爆ぜた湯たんぽから沸騰した熱湯が降りかかるここは熱闘甲子園番外地! 仁義なき地獄の野球対決はやきゅみっちファイターズの先制点で、幕を開けました!
びっちゃびちゃに濡れた服からもうもうと湯気が立ち込めて、少女が一人熱中症というか火傷で倒れる。そして口をパクパクと金魚の様に虚ろな表情を浮かべて、ばたんと気絶した。
『おのれ、ちょっと小さくて可愛いからって調子に乗るな!』
「おう、湯たんぽは準備万端だぜっ!」
『人の話を聞いて!』
ぎゃあぎゃあと喚く少女達の抗議に一片たりとも耳を貸さず、うさみっち監督が灼熱のやかんから愛情をこめて熱々の熱湯を湯たんぽに注ぎ込む。
『それでは続いて第二打席――コルテスガールズは皆さん空を飛んでますねー』
「ここはアメリカ帰りのやきゅみっち55号の主砲が火を噴くでしょう」
腕を組みドヤ顔るうさみっち。そして球ならぬ湯たんぽを送るやきゅみっち13号の動きに合わせて、やきゅみっち55号が次々と柵越えアーチに匹敵する猛打を量産する! その迫力は流石のアメリカ帰り、メジャー級である!
『痛い! 熱い! 何なのもう!』
サムライエンパイアの妖精は野蛮デース! 空中を飛ぶ少女達が湯たんぽの直撃を避けようと剣を振れば、割れた湯たんぽから熱湯が全身に降りかかる。湯たんぽを避けようにもメジャー級の一打はそんな回避を許さない。バックスクリーンの代わりに少女にぶち当たった湯たんぽがそこいら中で灼熱の熱湯をばら撒いて――空気は湿気を孕んで淀み、辺り一面砂漠と熱帯を混ぜた様な罰ゲームじみた空間へと変貌した。
「……お嬢ちゃん達、まだまだ走り込みが足んねーな」
ばたんきゅーと地面に転がる少女達を見やり、うさみっちはぼそりと呟いた。
この戦い、やきゅみっちファイターズの一回コールド勝ちである。
もう儀式は無茶苦茶だ。
成功
🔵🔵🔴
白木院・雪之助
(アドリブ・連携OK)
なんじゃこの暑さは!! 確かに夏であるから暑いのは当たり前であるが、異常であろう!!
味方が倒れても困るである
仕方ない、我の神さまとしての力を見せてやろうぞ!
【勾玉の首飾り】の【封印を解く】
これにて抑えていた妖力を少しばかり解放しUCを使うであるぞ
このような暑さ、吹雪の嵐にて吹き飛ばしてくれる!
技を相殺するような斬撃は【破魔】の札を【投擲】して防ぐであるぞ!
●ストロング絶対零度
「なんじゃ……この暑さは!!」
元より気温35度以上とは聞いていたが、それ以上ではあるまいか――白木院・雪之助(雪狐・f10613)は陽炎揺らめくうだるような暑さの儀式場を一瞥して、あまりの息苦しさに憤慨した。
「確かに夏であるから暑いのは当たり前であるが、異常であろう!!」
放っておけばこれ以上の被害が出るという。更には疫病も蔓延して市井に甚大な被害をもたらすだろう。この世界に生きる者として、絶対に止めなければならない。
「それに、何かジメジメしてるし……人が倒れてるし」
儀式場の足場は随分とぬかるんでいた。立ち込める湿気が纏わりついて、何と言うかぐっちゃぐちゃのべっとべとである。そんな泥濘の上で大の字になって倒れている少女達が、息も絶え絶えに雪之助に視線を投げかける。タ・ス・ケ・テ、と。
「おい、大丈夫――」
ややっ! オブリビオン! こ奴ら全部オブリビオンではないか! これは重畳、一網打尽にしてやらんと懐から魔力の篭った扇を取り出す。
『タス、ケテ……。アツイ』
……流石に、何と言うかむごい。うん、逆の立場だったら我も似た様な感じになっていただろう。オブリビオンも流石に酷暑は堪えられないものか。
「……仕方ない、我の神さまとしての力を見せてやろうぞ!」
パチリと扇を閉じて、首元の勾玉に手を添える。途端、青白い光と共に涼やかな風が――封印されていた雪之助の超常が発揮された。
涼やかな風は徐々に勢いを増して、雪之助を中心に当たりの景色を一変させる。凍てつく波動はじめっとした大気を瞬く間に凍らせて、きらきらと煌く氷の結晶が宝石の様に景色を彩る。ぬかるんだ大地に霜が張って、樹状の氷の大木めいた美しい塊がそこかしこに隆起した。
「ほう……まるで雪じゃな」
集まった氷の結晶がちらちらと儀式場に雪を降らす。優しく吹いた吹雪の嵐が、たちまち溢れる球児達の一夏の思い出を、雪の華咲き乱れる絶景へと変貌せしめた。
「フフ、こんな夏だというのに……雪が降るなんて、面白いのう」
そう思わんか? 傍らの少女に問いかけるも、少女は別の意味で死にそうだった。
『サ……ムイ……』
「あー……すまぬ」
確かに我も寒いのは苦手じゃ。濡れた衣服がカッチカチに凍って冷凍マグロの様に倒れたままの少女が恨めし気に雪之助を睨む。
『トメ……テ……』
気力を振り絞りわずかに腕を上げ、手にした剣をプルプルと振るわせて雪之助に突きつける。
「……矢張り、オブリビオンと分かり合う事は出来ぬ、か」
いやそういう問題じゃない。肩を震わせながらゆっくりと立ち上がった少女が、必死の形相で雪之助と対峙する。雪之助は懐から札を取り出して、僅かに顔をこわばらせつつ――少女の瞳を見据えた。
少女が駆ける。さっきまで鋒鋩の体で倒れていたとは思えない程、俊敏な動きで雪之助との間合いを一気に詰める。
「意外と元気だのう……しかし!」
雪之助が目前にかざした札へ破魔の呪を込めた。札はぼうっと真紅の光を帯びて――一枚、二枚と重ねて放たれる。その札を冷気が包んで、縁を刃の様に鋭く立たせて。超常を帯びた破魔の札はまだ本調子ではない少女を切り裂いて、じわりと滲んだ真っ赤な血が冷気で固められた。
「――これ以上続けても、お主の傷が増すだけよ。ここは手を引いてくれぬか?」
雪之助の問いに少女は、いいえと答える以外の術を知らない。凍傷と擦過傷が全身を蝕み、内より破魔の呪いが存在そのものに深く傷を与えるのだ。少女はぐらりと体勢を崩して、その場に倒れ込む。酷暑の後の極寒、矢張り身体が耐えられる道理は無かった。
『ここまで――ね。でも……』
「うむ。せめて最後くらいはな」
勾玉を再び掴んで、雪之助は吹雪を止めた。酷暑の後の極寒は地形を滅茶苦茶にしてしまった。最早山陽道泥祭りである。かろうじで石造りの祭壇は見えるものの、肝心の霊玉はいったいどれかと……。
「――すまぬが、儀式は止めさせて貰う。だからせめて」
今は陽光の中で安らかに眠るといい。
狩衣を翻し、雪之助は霊玉を探しに歩みを進めた。
成功
🔵🔵🔴
烏丸・都留
●アドリブ共闘可
「私の守りは抜けないわよ……」
UC:アイテールの威武氣で対象を捜査、位置特定した上で仲間と連携、無数に召喚したアサルトユニットα/Γで殲滅。
並行して事前に幕府軍兵士をメンテナンスユニット内(約4万人の内部療養可能)に取り込み、変わりにクラスタード・デコイ/リレイ(索敵可)セットで擬装した兵と入れ替えた上で、それらと自身(隠蔽状態のCICユニット内統制管理:即時配置転換可)で進軍。
※進軍する兵数以上の隠蔽状態ガードユニットやアイテールの護衛隊(熱/対NBC)で進路上は全て範囲防御を行う。
※CQB支援ユニットの認識タグを全員装備する事で情報連携と能力強化で戦況の変化に即座に対応可。
バロン・ゴウト
このままどんどん気温が上がったら、兵の皆さんだけじゃなく、周りの動植物や水源にも影響が出るのにゃ。そうなったら被害はどんどん大きくなるにゃ。
そうなる前に、何とかして儀式を止めてみせるにゃ!
【POW】
暑さは【火炎体制】で対策にゃ。
まず敵の少女剣士を【おびき寄せ】るにゃ。
跳躍飛翔で飛びかかってきた相手に、【トリニティ・エンハンス】の風の魔力を【高速詠唱】でレイピアに【全力魔法】で纏わせて、【カウンター】を叩き込むのにゃ!
絡み、アドリブ大歓迎にゃ。
●剣が舞う
灼熱と極寒が戦場を支配する少し前――幕府軍兵士と同道した烏丸・都留(ヤドリガミの傭兵メディック・f12904)は、進軍の万全を期す為にある策に打って出た。
「幕府軍兵士を狙うのなら、こちらにも考えがあるわ」
外気温35度以上、この状態で具足甲冑を身に着け行軍するという事が如何に負担となるか、メディックでもある都留にとって、歩くだけで被害をもたらすであろう状況は到底看過出来る事では無かった。
「メンテナンスユニット展開、44の統制区画を形成――戦略生体型クラスタード・リレイに諸元を入力。並行してデコイユニットの生成を開始」
元々戦術級戦闘ユニット、平たく言えば宇宙戦艦のヤドリガミたる彼女にとって、数万名規模の部隊運用は決して難しいものでは無い。自身の周囲に展開されたホログラフディスプレイを叩けば、瞬時に幕府軍兵士を収容する設備と、彼らの代わりに行軍する戦闘単位を欺瞞するデコイユニットが続々と姿を現した。
『おお……これは一体』
涼やかな風が流れる金属質の巨大な箱に入り、幕府の兵達が感嘆の声を上げる。
「大丈夫だにゃ。きっとこれは……これは」
これは何なんだにゃ。バロン・ゴウト(夢見る子猫剣士・f03085)は都留が呼び出した随分と巨大な装備群を見やり、一緒に驚いた。
「涼しいにゃ。ボクもこっちの方がいいにゃ」
「あなたはこっちよ剣士さん。この先は私達が先導しないとね」
残念だにゃ。後ろ髪を引かれるバロンをデコイユニットの幕府軍の元へと案内する都留。この先の戦場は恐らく灼熱の地獄――尋常の戦力ではなく、我々の様な超常の戦士の力が必要となるのだから。赤い外套を翻し、バロンはしぶしぶ大軍の前へと歩み出た。
「地獄……だにゃ」
所変わって現在の儀式場。まるで巨人の子供が泥遊びをしたような異常な景観を眺め、所々で倒れるオブリビオンの少女達を見やり溜め息を上げる。
「本当――幾ら超常の力があるとはいえ、これは想定の範囲外だわ」
一回戦コールド(試合結果)負け、二回戦コールド(気象状況)負け、面食らったのも無理はない。何これ。
「野球って凄いのにゃ」
「いや突っ込む所そこじゃないからね」
だがバロンの言う通り、雪解けの泥濘地と化した儀式場は尋常では無い湿度と、所々に残る冷気が綯交ぜとなったカオスの権化。尋常の兵では目まぐるしく変わる状況に対応出来るとは言い難い。
「それに、敵はまだ健在の模様……」
都留の言う通り、倒れていた少女が一人、二人と続々面を上げる。
「バロンさん、余り時間がありません。これより強行索敵と突破を同時に行います。その間先へと進んで――霊玉を探し、破壊をお願いするわ」
「了解だにゃ」
ふんすと気合を入れ、駆け巡る魔力が己に力を与える。引きつれたデコイ群を置いて、バロンは一足先に戦場へと躍り出た。
「さて……」
交戦範囲は宇宙戦艦の自身にしてみれば恐れる程ではない。地形を走査し、背後に控える本体を守りながら突破する航路を改める。
「私の守りは抜けないわよ……」
瞬間、不可視の波動が戦場を舐める様に放たれる。
「エンゲージ、脅威判定完了。さあ」
始めましょう。統制されたデコイ群を前面に出し、三度目の戦が幕を上げた。
『寒いの……』
『熱いの……』
『何だったの……』
ふるふると頭を振って、意識を集中。妖精と妖狐の妖しげな術に翻弄された彼女らは、それでも戦う事を諦めず、儀式を再開しようと歩み出た。しかし。
『あれは、幕府軍』
『もうこんな所に……』
『いけないわ、コルテス様に叱られる』
あの飽きっぽいサディストの髭にこんな状況がバレたら本当にヤバい。霊玉を安置した祭壇を見やり――あれ。
『玉が、無い』
『ああ、それなら』
『さっき、高校球児が』
盛大に飛ばしていたわ、バックスクリーンに。
『……探しましょう、そうしましょう』
広域に展開した幕府軍に先を越されてはならぬ。事態は一層の混迷を深め、少女達はやむを得ず前線へと躍り出た。
「来たわね――数は3。騒ぐ程の数じゃないわ」
でも、おかしい。開戦前に把握した情報だともっと数がいた筈……。しかし今は、眼前の脅威を排除する事が先決。都留は戦術共有したデコイ群に作戦を伝達。幾ら少数とは言え相手はオブリビオン。正面からやりあって到底勝てる相手ではない。
「スコードロンα1からΔ3、先制火力支援の後に攻撃開始。敵の進軍を阻止して」
都留の号令にデコイ群が反応する。見た目は完全に幕府の兵隊、しかしその正体は宇宙世界の強襲揚陸戦闘ユニットだ。この世界においては尋常ならざる戦力である事に変わりはない。指令を受けたデコイ群が続々と偽装した制圧火器を取り出して、突撃陣で儀式場へと進軍した。
「フォース・オブ・ジ・アイテール――トレース完了。続いて攻撃開始」
都留から放たれる不可視の力場が泥濘の地獄絵図と化した儀式場を改めて、再び敵の位置を把握する。更にはその上で見えざる威力の波が少女達を襲う。
「――第一波着弾、敵が散開したわ。コマンド、デルタフォーメーションのまま交戦開始。対空監視を厳として、各個撃破に注力して」
地を這う威力の波頭を耐えた少女達は宙を蹴って空を舞う。しかしそれは予測済み、捕らえた影をデコイ群の一斉射撃が牙を剥く。剣で弾き、体を捌き、殺到する銃弾の尽くを回避する。しかし止めどなく放たれる銃弾は少女達に大地への帰還を許さず、その姿を中空に晒し続ける。
「ターゲット固定完了、スコードロンε、狙撃準備」
そして都留の放った超次元波動がそれを逃す筈も無く。全軍で共有された敵の位置情報は、後ろに控える狙撃部隊へと直ちに伝達――火縄銃に偽装した狙撃用ブラスターが銃口を少女達へ向けた。
「全軍データリンク、タイミング……今!」
都留の号令と共に前線に光条が奔る。稲妻の様に大地から放たれた光の筋が十重二十重と連なって、宙を舞う少女達を次々に撃ち落としていった。
「……敵の無力化を確認。お疲れ様、陣形を整えて引き続き進軍、以上」
驚異の消失を確認した都留は、それでも休む事無くデコイ群へ指示を飛ばす。目的は儀式の破壊とここの突破、万端の準備で速やかにここを抜けねばと、全軍は再び歩みを進めた。戦いはまだ終わっていない。
「うーん……それにしても歩きにくいにゃあ」
勇んで前へと進んだものの、都留の指定に従って踏み込んだ先はぐっちゃぐちゃの足場に寒暖合わさった地獄の熱帯だった。
「こうもベトベトすると自慢の毛並みが台無しだにゃ」
『本当……お化粧も落ちちゃうし嫌になっちゃうわ』
ねえ、と少女が小首をかしげる。少女――オブリビオンだにゃ!
「にゃ! こんな所にどうして!」
『……あれ、猫さんが喋ってる』
とろんとした表情の少女が――熱中症だろうか、眼前のバロンを見て不思議そうに再び首を傾げて。
「させないのにゃ! こんな儀式、このままどんどん気温が上がったら、兵の皆さんだけじゃなく、周りの動植物や水源にも影響が出るのにゃ」
スラリと金色のレイピアを抜いて少女と対峙するバロン。その瞳には一点の曇りも無い。自身が猟兵としてやるべきを、ここで果たすだけだにゃ!
『本当、暑いよねー。早く帰りたい。海へ還りたい』
「そんな事言って、油断させようとしても駄目だにゃ! 被害がどんどん大きくなる前に、何とかして儀式を止めてみせるにゃ!」
気怠そうな少女に向かい一閃――レイピアの切先がふらつく少女の肌を掠る。
『痛いなぁ……どうしても、見逃してくれない?』
「……駄目だにゃ」
じゃあ仕方ないか。いつの間にか小剣を手に取って、少女が空中を駆ける。その軌道は尋常ならざる不規則。立体的に踏み込む少女に、レイピアを合わせて果敢に立ち向かうバロン。リーチはこちらの方が上……ならば確実に、必殺の一手を返してみせる。
「お姉さん、何か辛そうだにゃ」
『つらいよーモフモフさせてー』
駄目だにゃ。辛いね。現実とは無常だ……こんな出会いでなければ、もう少しマシだったかもしれない二人の邂逅は巻き戻す事など出来ない。ストンとぬかるんだ地面に着地した少女は、小剣の切先をバロンへ向けて腰を落とす。
『足場も悪いし、何かもうサイアク』
「だったらこんな事止めるにゃ」
駄目だにゃ。少女が駆ける、風の様に。バロンが塞がる、巌の様に。手にしたレイピアが金色の煌めきを放って――再び跳躍した少女を捉え、その切先を捻りこむ。疾風が螺旋を描いて、少女がぐらりとよろめいた時、伸びた黄金が少女の首筋に赤い筋を付けた。
『ハハ、強いね猫さん』
「ボクはケットシーだにゃ」
甲高い声で誇らしく宣言する子猫の妖精は、倒れた少女の傍へと寄った。
『ホント、何でこんな事になっちゃったんだろう』
でも、あっちは多少涼しいから――その言葉を最後に音も無く剣を落とし、少女の身体が虚空へと消えた。
「……さて、先を急ぐにゃ」
レイピアを仕舞ってバロンは再び、消え去った霊玉を探しに暑苦しい儀式場へと戻っていく。こんな思いをする人を、二度と増やさない為にもと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
愛久山・清綱
普段から鍛えているから、この程度の暑さは平気だ。
……だが、「人間」には耐えられないかもしれんな。
急ぎ儀式の妨害に向かわねば。
■闘
大なぎなたを手に取り戦うぞ。
先ずは敵が儀式を行っている場所を【ダッシュ】で襲撃。
そこから敵の集団目がけて大ぶりな【剣刃一閃】を放ち、
【範囲攻撃】を仕掛けることで大量撃破を狙う。
また、空を飛んだ敵が現れたら此方も【空中戦】技能で
空を飛び、追跡しつつ切り伏せる。
敵の剣による攻撃は【野生の勘】を働かせて剣の軌道を
【見切り】、【怪力】を込めた【武器受け】で押し返す。
相手がバランスを崩したことが確認出来たら、そこから
【カウンター】の一撃を放つ。
※アドリブ歓迎
●兵の道
「普段から鍛えているから、この程度の暑さは平気だ」
……だが、「人間」には耐えられないかもしれんな。愛久山・清綱(飛真蛇・f16956)は清廉な抜き身の大なぎなたを手に、力強い足取りで儀式場へ歩みを進める。これまでの猟兵の猛攻により、勢いを増した灼熱が冷え固められて、再び呪いが熱を齎し、辺り一面異常な熱帯と化していた。清綱の言う通り、とても人間では耐える事も難しい状況――故に猟兵が、超常の兵がこの地へと舞い降りたのだ。
「だからこそ、急ぎ儀式の妨害に向かわねばな。こんな事止めなければ」
そして自身は平気だとしてもこの酷暑はサムライエンパイアの民にとっては地獄そのもの。民の為にも、世界の為にも一刻も早くこの状況に終止符を。静かに決意を秘めてぬかるんだ足場を一歩一歩進み、開けた儀式場に入った清綱は、辺り一面にかがんで何かを探す少女達を見つける。その姿はまるでボール拾いをしている球児達の様。
「……何をしているのだ?」
『すいません。霊玉を無くしちゃって』
ああそれは大変だ。否、好機! 途端に大上段から振り下ろした大なぎなたが、一人の少女を吹き飛ばす。
『! 何者!?』
猟兵か、周囲の少女達が一斉に清綱の方を見やる。
「……名乗るほどでも無い。ただの猟兵だ」
故に、狩らせてもらう。ブンと全身を捻る様になぎなたを後背に構える清綱。
『そんな……後ろ向きで私達を倒せるとでも?』
そうだ。息もつかずに放たれた裂帛の一撃が嵐を纏って、再び少女らを大勢巻き込み空へと吹き飛ばす。
『馬鹿ね、空中戦こそ私達の本領……』
「奇遇だな、俺もだ」
ばさりと背後の翼を広げ、清綱が少女を追撃する。その姿はまるで天狗の威容――そのままなぎなたの柄の端を強く握り、体勢を崩した一人目に無慈悲な大振りを放つ。直撃を受け地面に激突した少女がそのまま気を失った。
『しかし、たった一人で!』
たった一人でやりあうから、これを選んだのだ。背後から強襲する少女の先を取れば、スルリと伸ばした石突きをぶち当てて墜落せしめる。これで二人。
『これだけの人数を、纏めて相手出来るとでも!?』
出来るさ。だからこうやって来たのだ。構え直したなぎなたを下段に、迫る三人の少女へ払いあげる様に切先を当てて、反動を利用して振り下ろした追撃が、それぞれを肩口からバッサリと斬り落とす。そのまま大地へ落ちる少女達。
「……脆いな、これで終いか」
ふわりと大地に戻った清綱――しかし一瞬、ぬかるんだ足元に気を取られて体勢を崩してしまう。
『終いは……お前だ!』
影からの奇襲。小剣を腰だめに構えた少女が、背後より清綱の脇腹目掛けて疾駆する。
「いいや……その速さでは」
届かない。なぎなたを離して一閃――今刀の居合い抜きが振り向き様に少女の身体を両断した。
『そんな……馬鹿な……』
さあ、霊玉は何処だ。血振りをして刀を納めた清綱が少女に尋ねる。
『その……それを……探して、ました』
「……そうだったな」
厄介な、誠に厄介な……だが清綱の猛攻は既に少女の大半を地に落とした。
敵の戦力はあと僅か、探す時間は十分。儀式の破綻は目の前に迫っていた。
成功
🔵🔵🔴
ミハエラ・ジェシンスカ
●
今度は一種の気象兵器というわけか
次から次へとこの手数の多さは見習いたいものではあるがな
ふん? 空中戦をお望みか
良いだろう相手をしてやる
【念動加速】で飛翔しつつドローンによる対地攻撃を仕掛けて敵を空中へ誘導
完全な飛行ではなく跳躍ならば加速と減速にはタイミングがあるだろう
こちらが高度で上を保っているうちは自由落下を利用した加速も難しい
可能な限り高度優勢を維持しつつ
フォースレーダーによる【情報収集】を全周に行い敵の動きを【見切り】着実に仕留める
上を取ろうとする敵は跳躍のタイミングを狙い【念動力】で叩き落とす
それでもなお上を取られたならば落下の勢いを乗せてくるであろう一撃に隠し腕による【カウンター】
●空中騎行
霊玉を探す少女達は儀式場を離れ、樹が生い茂る森の方へと足を進めていた。
『まさか……あんなに飛ぶなんて』
『守備がしっかりしてたら、あんな失点は無かったのに』
「その様だな」
何者!? 喋りながら草を掻き分ける三人の少女の前に、長身痩躯の機械騎士が姿を現す。
「最初から見ていたぞ――よく飛んでいたな、これは」
ギラリと熱を帯びて煌めくそれは、正しく目当ての霊玉。
『それを寄越しなさい――絡繰り風情』
スラリと小剣を抜いてミハエラへ迫る少女達。だが、そう来る事はお見通しだ。
「これが気象兵器の大元というわけか。次から次へとこの手数の多さは見習いたいものではあるがな」
霊玉を体内へ格納し、二振りの光剣を抜く。その刀身は血の様に、赤黒い。
「御託はいい、駆け引きも――面倒だ」
ミハエラが仕掛ける。長身を地を這う様に大地へ屈めた姿は肉食獣の様。
『だったら、力づくで!』
少女らが宙を蹴り上げ、空を舞う。空中――三方向からの同時攻撃。しかし。
「ふん? 空中戦をお望みか。良いだろう」
相手をしてやる。背面より放たれたのはセイバードローン。上空へ向けて放たれた一対の光剣が、飛び回る少女達の見えざる足場に牙を突き立てる。
『これはただの飛び道具……じゃない!』
如何にも、宇宙世界の小道具だ。自在に動く活殺の剣――どんなに跳ね回ろうと、それを躱す事は容易ではない。
『だが、地に足を付けた状態で私達を』
「私達を、何だ?」
少女の背後からミハエラの声が――鮮血の如きオーラを纏ったウォーマシンが、冷たい貌で少女を睨む。
「空中戦の相手をしてやるといったはずだぞ?」
瞬間、ミハエラの手にした光剣が一人目の少女を貫く。焼き切れた傷口で血が固まって、赤黒い跡を残して少女は消えた。
『この……よくも!』
激高した二人目が更に宙を駆け上がってミハエラの上を取る。だが少女達は知らない。このウォーマシンが如何ほどの性能を秘めているかを。
「完全な飛行ではなく跳躍ならば、加速と減速にはタイミングがあるだろう」
であれば、合わせるのは至極単純――精神に干渉する念動波が、少女が止まる瞬間に合わせて放射される。直撃した一撃は心身共に少女の動きを止めて、空中でドローンがその命脈を容赦なく断つ。そのまま、二人目も空中で姿を消して――残りは一人。
『……恐ろしいわね、猟兵』
すとんと着地した少女。余りにも分が悪いと認識したのだろう、それもその筈、宙間戦闘が日常茶飯の宇宙世界において、三次元戦闘は『出来て当然』なのだから。
「降りろ、というのか。いいだろう」
奇襲を仕掛けようにも上は自分が取っている。悠然と少女の前へと降り立ったミハエラが二振りの光剣を携えて、真っ向から対峙する。
『もう、終わりね。儀式も、何もかも』
ならばせめて、あなただけでも……倒す! 少女は自分の真後ろを蹴って、巨大な弾丸の様に吶喊してきた。
「正面から来るか、ならば」
光剣を下段に、返す刃で葬ろうと身構えるミハエラ。だが少女はミハエラの目前で、再び強引に進路を変える。
『ふ……やあぁぁぁぁッ!!!!!!』
足を突き出し空中を斜め後ろに蹴り飛んで、Zの字を描く様にミハエラの背後を狙う。
『捕らえた、今!』
「いいや、遅い」
その背後――小剣を突き立てようとした少女を襲ったのは、二振りの光剣、背面より伸びた隠し剣が、無慈悲に少女の上半身を貫いたのだ。噴き出る血がミハエラを赤く染め、至近距離で肉の焼ける臭いが立ち込める。そして少女は断末魔も上げられずに、骸の海へと消え去った。
「これで、終いか」
格納した霊玉を取り出して、念動力で圧を加える。ぱりぱりと表面に亀裂が走り――そして木っ端微塵に砕け散った。
「……外気温の変動を感知、終わりだな」
風が吹いて霊玉だった塵を飛ばす。その風が僅かに涼を運んで、儀式場は今度こそ平穏を取り戻した。恐るべき気象兵器はここに潰えたのだ。残るは敵の本陣のみか――猟兵達は再び歩を進める。サムライエンパイアに平穏を齎す為に。
大成功
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