4
エンパイアウォー⑥~御鏡の守護陣

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー


0





 猟兵たちの姿を見るや、赤装束は笑みを浮かべて立ち上がった。アルティア・パンドルフィーニ(剣とペン・f17416)は、さしたる気負いもなく、強気な笑みで空間を指し示す。
「いよいよ関ヶ原。皆さんのお陰で幕府軍に損耗はなし、幹部の方も着々と見つかってはいるけど、こっちの仕事もかなり大事ってことで。よろしくお願いするわね」
 ――揺らぐ景色が示すのは、大挙する人々だ。どう見ても農民だが、その手には似つかわしくない大盾と長槍を装備している。
 魔軍将が一、大帝剣『弥助アレキサンダー』の布陣である。所持する大帝の剣によってもたらされた広範囲な洗脳が、周囲の農民を操って手駒としている――という顛末だ。
「ファランクスって奴かしら。このままぶつかっても、こっちの軍に勝ち目はないわ。半数壊滅が予知されてる。だから先んじて潰しましょうって話ね」
 露出した右半身を右隣の兵が守り、前の者が倒れれば後ろの者が進み出る。正面からの激突には極めて強い。幕府軍にとってはひとたまりもない話だ。
 そのうえ、集められた農民兵の数は二五六にも上る。
「――自分で言ってて、途方もない数だけど」
 この布陣の中央に、一体のオブリビオンがいる。剣による洗脳を農民たちに伝播する――いわば中枢部だ。
 元よりただの農民たちだ。洗脳効果が解けさえすれば、すぐさま降伏する。つまりは中央にいるオブリビオンを倒してしまいさえすれば良いのだが。
「これは私の我儘ってことで、聞き流してもらっても結構なのだけれど。まあ、こんな状況だし、一般人の生死は問わない――訳なのよ。それでもなるべく、後味の悪い結果にはしたくなくてね」
 なるべく殺さずに。
 そう告げるアルティアが瞬いた。無茶な注文であることは分かっている。殺さずに突破するにはある程度の策が要るだろうし、さりとて真正面からの突撃ではまともに妨害を喰らうことになる。一般人からの攻撃が猟兵を傷付けることはほぼないとはいえ、不利な状況となることは間違いない。
 それでも――突破したのなら。
「中心にいるのは『無邪気な封魂鬼鏡』鏡輝。元々が人に擬態して騙す性質だし、どう見ても普通の女の子だから、どうもこの手の洗脳とは相性が良いみたいよ」
 命を蝕む瞳、魂を捉える手鏡で、人を攫う鬼だ。無邪気な少女としての見目と言動は、庇護欲に訴えかけるに最適だろう。
 だが、どんな見目であろうがオブリビオンはオブリビオンだ。倒さぬことには先には進まない。
「考えることは少なくないけど、突破しなくちゃいけないところだわ。どうか、お願いね」
 そう笑うアルティアの手の中にて、グリモアは焔のように揺らめいた。


しばざめ
 しばざめと申します。
 ファランクスと言うと悪魔の魂的なゲームの塔を思い出します。火炎壺。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 一般人で構成されたファランクスを突破し、中央のオブリビオンを倒すのが目的となります。
 どうぞよろしくお願い致します。
175




第1章 ボス戦 『『無邪気な封魂鬼鏡』鏡輝』

POW   :    暴力は、いけないんだよ!
【生命力を奪う双眸からの純粋な視線】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    もっとあたしとお話ししようよ!
【敵である事を疑う程の無邪気な言動と共に】【照らした者の生命力を強力に奪う手鏡の光と】【捉えた者の生命力を奪う双眸からの視線】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    ずうっと鏡輝と「お友達」でいましょ?
小さな【手鏡へ、一気に生命力を奪う鏡から放つ妖光】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【既に魂の「お友達」を幽閉する一面鏡の部屋】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は渡辺・紅牙です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヨシュカ・グナイゼナウ
◯◇

人は意思を持つ生き物だ。確固たる意思を持って戦うべきである。その意思を奪うのは
「良くないですよね」

両の手袋を外し【惑雨】を風に乗せ。殺さずに止めるにはこの惑雨はちょうど良い
「少しだけ、夢を見ていてください」
それは良い夢であれば良いけれど

突破出来る程度に動きが止まれば、【地形の利用】大盾の縁を【見切り】それを足場に軍勢を超えて行く
水面を走るよりかは些か容易い

中央のオブリビオンを視認出来れば、【暗器】のひとつ千本を少女に向かって放つ
狙いは手鏡【武器落とし】その手鏡厄介そうな気がひしひしと。【野生の勘】かな
鏡が落ちれば距離を詰め、攻撃は【残像】で躱し。【早業】で狙うは人中【串刺し】です


リステル・クローズエデン
無邪気とは時に残酷であるか……

仕込みとして。
装備しているサプライズボムを
武器改造+メカニック+毒使い+医術で、
殺傷力を最小に、
マヒと気絶の効果と薬品散布範囲を極力最大になるよう改造。
また、色違いで範囲を狭めて目潰しと火力を高めた物も用意。

戦場ではユーベルコードを防具改造で発動。
迷彩と空中浮遊を駆使し陣形の上から用意した
殺傷力を下げたサプライズボムを投擲。
範囲攻撃+マヒ攻撃+気絶攻撃で攪乱する。

その後、視力で確認後、上空から指揮官へ強襲。
サプライズボムを投擲。
マヒ攻撃+目潰し+属性攻撃で攻撃。つまりは殺傷力ありの閃光弾です。

相手の攻撃は、呪詛耐性と激痛耐性を耐える。

最終的には呪剣で斬る。


ヴィクティム・ウィンターミュート
〇◇

この陣形を越えりゃいいんだな?
あぁ、いいとも。パンピーを殺さないように、何とかしてやる
無茶なオーダー?あぁ、そう思うよ
だけど命削りゃ、どうにかはなる…任せておけよ

ファランクスには弱点がある
側面への攻撃に弱い事、前進と後退以外の機動力が低い事、長槍と盾のせいで取り回しが劣悪なことだ
セット『VenomDancer』
──俺を前にして、まともに陣形組めるかな?
なりふり構わず殺したくなるよな?
左右に振って移動しちまえば、ファランクスは俺に追いつけない

そら、道が開けた…踊ろうぜ、クソガキ
逃げ回りながら猛毒と鈍化のパルスを撃ち続ける
長期戦になるほどに、効いて来るぜ
こんなところで、止まれない
必ず、勝つぞ


狭筵・桜人
わあ暑苦しい。
いやまぁ一塊になってくれるのは有り難いですね。

「殺すな」、ね。はいはい。
『名もなき異形』。UDCを喚び出します。
幕府軍――つまり人間の軍勢を想定した陣形でしょうし
足元を這わせれば目につきにくいでしょう。
二、三人。足を掴んで“仰向け”に転ばせたら
ドミノ倒しみたいになりません?

通れる程度で良いので。
道が出来たら踏んづけて歩きます。已む無しですって。

どうも、こんにちは。
暴力?いやいやまさか。
私も暴力は苦手なんですよ。
あなたとは気が合いそうですね。

オブリビオンの視線を私へ誘導。
あとはUDCにやらせまーす。

やだなあ、私は何も命令してないですし。
だとすればルール違反じゃないでしょう?


鵜飼・章
○◇

一般人を虐殺するのが趣味の人って
もしかして織田信長なんじゃない?
僕は織田さんじゃないし
なるべくと言わず避けるよ

UC【相対性理論】で隼に乗り
農民兵の頭上を抜け空から鏡輝を襲撃する
飛び道具を持たない民に為すすべはないだろう
痛くしないから大人しくできるよね
念を入れ【優しさ/恐怖を与える】で圧をかけておく

鏡輝はまず図鑑から召喚した闇で覆い
鏡の輝きを遮断すると共に【目潰し】をかける
言動には【コミュ力】で雑な返事をしてあしらい
【投擲/早業】で空から武器を投げ続けよう

お兄さんは大人だから働かないといけない
今日も大事なお仕事頼まれててね
きみを倒すお仕事

この人達にも帰るべき日常がある
分からない子はおしおきだ


ユリウス・リウィウス
どこから兵を調達したかと思えば、洗脳した農民を駒に使っているのか。胸糞悪い。指揮官を討滅して早期決着を目指すぞ。

まずは戦場全体を覆うほどの死霊の霧。「精神攻撃」と「恐怖を与える」を乗せて。
敵の視界を奪った上で精神を動揺させれば、陣形を保ってはいられんだろう、なあ、おい。
ついでに、亡霊騎士団を呼び出して、霧の中で見え隠れさせて陽動とする。今回は戦闘が目的ではない。

そして、混乱からは役に立ち直る部隊が指揮官の居場所ってわけだ。乗り込むぞ。

お前が人攫いの鬼か。神隠しの物語と言うよりハーメルンの笛吹きだな。
「生命力吸収」「精神攻撃」を乗せた虚空斬で切り捨てる。
今更戯言など聞くと思うか? 骸の海へ還れ。


荒・烏鵠
@WIZ
ほーん。一般人を洗脳するたァふてーヤローだな!野郎じゃねーけど!
マ、いーや。つまっとこパンピーを傷つけないまま真ん中のガキンチョやったらイインだろ?
ヨユーヨユー!ピッタリカンカンのがあっから!
とゆーワケでおいでませ牛鬼ご夫妻!
奥方、たっぷり水出して!旦那、水を操って!
一般人を呑み込みながらも傷つけねーよーに外へと押し流して運んじゃってー!
ン、で、だ。
チューシンに居るっつーガキンチョはァー?そのママ水で呑み込んでェ!持ち上げてェ!叩き付けるッ!!
鏡が割れるかオジョーサンが割れるか耐久ショーブと行こうかィ!


ヘンリエッタ・モリアーティ
なるべく殺さずに、というオーダーだ。よろしい、ではそのように。
洗脳、洗脳ね
なんだ、じゃあ洗脳を「上書きしてあげれば」いいんだろ
【死せる戦士の女王】でお相手しよう
月で狂えよ。――狂うのは、あの女でない
農民たちに状態異常(せんのう)を施してあげる
さあ、もうお帰り。数百の君たちにも数百の未来がある
明日のいのちを喜んで、君たちは帰る場所に帰るのだ
誰一人私は傷つけはしないよ。生きている手合いはね

ただ、――仲間外れが一人いるな
そう、君だよ。君を私は撃ち抜く。
双銃『S.E.Ve.N 277』――何処にあたってくれるかな
大丈夫、苦しませて殺すのが目的なのだ。早々に頭に当たってはつまらない
何発目で死んでくれる?


杜鬼・クロウ
アドリブ厨二◎

無邪気な顔して残忍なコトしやがるぜ
…一刻を争う
村人を救う為に今からテメェを斬る(玄夜叉を地面へ刺す

いつか同類と闘う日が来ると思ってた
同じ鏡として見過ごせる筈も無く
互いの鏡(め)にはどう映るか

情け無用
悼むは同じモノ同士戦う一点

黒外套翻す
【錬成カミヤドリ】で神器の鏡を48個複製
敵を囲う様に展開
敵の光は自分の鏡でジグザグに反射させ跳ね返す(カウンター
敵の視線は鏡を盾に(見切り

村人が危険なら人命優先
身を呈しかばう
剣を持ち紅炎を剣に宿し助走つけた勢いで炎の熱を敵の胴へ(属性攻撃・2回攻撃・部位破壊
敵が持つ鏡を剣で一刺し

嗚呼
苛々する

敵か己にか
この手に残るは咲き誇る華(命)
護れたという確かな証


ヌル・リリファ
○◇
簡単な言葉は平仮名、難しめのものは漢字でお願いします

殺さない。面倒だけど、一応努力はする。

【生命力吸収】で殺さない程度にエネルギーをうばう。一般人なら抵抗もよわいし。そうしてよわらせたところでシールドを展開、一気に範囲をひろげる【シールドバッシュ】ではじきとばして空間をつくって突破する。

たどりついたらUC起動。視線がこっちにあたらないよう幻影でひきつけ、そのまま爆破。強烈な閃光で相手の視界をうばってあてれないようにする。
同時に、そのすきをついてルーンソードでおそいかかるよ。

オブリビオンならマスターの敵で、それならむこうの敵意の有無も外見も関係ない。殺すよ。わたしはマスターの人形だからね。




 人とは意思を持つ生き物である。
 ならば確固たる意思を持つべきだ。武器を持つ必要があるとして、その決定は個々の選択の果てにあった方が望ましいに決まっている。
 その意思を奪うのは――。
「良くないですよね」
 ぽつりと呟くヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)は、見渡す限りの真白に響く鬨の声を聞く。星の如く煌めく蜜色の瞳が、白い外套を揺らす風を浴びて瞬いた。
 その隣に立つ純黒の女――ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)の裡に在る一人、マダムが、銀月色の目を細めた。耳の良すぎるきらいのある彼女にとって、この戦場は少々騒々しい。
 ――だが。
「なるべく殺さずに、というオーダーだ」
 よろしい――ならばそのように。『お願い』に無意味に抗することはない。慈悲あるようで冷厳な、合理的な善意の判断でもって頷くマダムへ、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が追随する。
「あぁ、いいとも。パンピーを殺さないように、何とかしてやる」
 無茶なオーダーだ。それはそう思う。この強固な陣形を、誰の命を奪うこともなく突破するなど、並大抵のことではない。
 ――けれどヴィクティムには策がある。やれるならば、やる。それだけのことだ。
 眼前には槍と盾の群れ。それ自身が意志持つ塊のように動くのは、剣による洗脳の賜物か。とはいえ。
「わあ暑苦しい」
 思わず本音が漏れた。いやまあ一塊になってくれているのはありがたいと、続ける表情には揺らがぬ笑み。甘く優しい桜のような容貌から、至極辛辣な言葉を繰り出して、狭筵・桜人(不実の標・f15055)はこちらを捉える農民兵たちを見た。
 二五六――と言ったか。ならば横並びに十六列となったファランクスの縦深は、同じく十六列ということになる。成程、猟兵たちにとっては問題となる数でなくとも、一般兵同士のぶつかり合いであれば打破は困難を極めよう。
 しかし、あれだけの数を殺さないというのは――。
「面倒だけど、一応努力はする」
 桜人の思考を声にしたのはヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)である。透き通る青い瞳に、ともすれば白原に隠れてしまいそうな銀の髪を揺らして、少女もまた激突の準備を整える。
 遠視機能を搭載する天眼は、ファランクスに守られる少女の姿をはっきりと捉えている。その姿をしかと記憶して、ヌルは静かに足を踏み出す。
「どこから兵を調達したかと思えば、洗脳した農民を駒に使っているのか。胸糞悪い」
「ふてーヤローだな! 野郎じゃねーけど!」
 眉を顰めるユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)に応じながら、荒・烏鵠(古い狐・f14500)が唇に描くのはいつも通りの笑みだった。
「マ、いーや。つまっとこパンピーを傷付けないまま真ん中のガキンチョやったらイイんだろ?」
「余裕そうだな」
「そりゃもうヨユーヨユー! ピッタリカンカンのあっから!」
 その笑声を聞きながら――。
「一般人を虐殺するのが趣味の人って、もしかして織田信長なんじゃない?」
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)がそう軽口めいた声を上げるのも、この場に揃った全員が殺戮の意を持たないと確信しているからだ。
 勿論、かの第六天魔王の魂を欠片も宿していない彼自身にも、そんな意図はない。
 高らかに響く指笛の音の後方、突撃のための仕込みを行うのはリステル・クローズエデン(なんか青いの・f06520)だ。手にある時限式の爆弾――サプライズ・ボムに薬品を詰め込めば、後は仕上げを残すのみである。
「無邪気とは時に残酷である、か……」
 漏れ落ちる嘆息は独り言だ。
 農民兵たちの息の根を止めるつもりは毛頭ない。けれど動きを止めねばならないのは事実で、多少は痛い目に遭ってもらう必要もある。勿論、命に別条のない範囲で。
「全くだ。無邪気な顔して残忍なコトしやがるぜ」
 その手際を横目に、己が刃を握るのは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)である。事態は一刻を争う。集まった戦力は、既に道を切り開くには充分と判断した。
 ならば彼は――この中にいるという首魁に肉薄するのみだ。
 寄せ集められた人々の、意志なき咆哮が草原に響く。刹那に猟兵たちへかかる大きな影を見るや、弾かれたように九の人影は飛び出した。
 残る一人――章に寄り添うのは、今しがた影をかけた名もない隼だ。静謐な瞳に確かな知性を宿す相棒と、交わす言葉はなくて良い。章がまたがれば、意を察した名無しの彼は、一声鳴いて舞い上がった。
 下方に見える二五六の人の群れへ、不意に降り注ぐ威圧感。遮られた太陽の方を覗き込んだ彼らの目には、その巨大な姿は怪鳥のようにでも映ったろうか。
 うろたえる彼らの足が止まる。狼狽の声音は波のように広がって、驚愕に見開かれた瞳が恐怖に染まった。それをはっきりと見据え、章はひどく優しい笑みを浮かべて、槍の攻撃範囲を逃れる程度に低空へと下降した。
「痛くしないから大人しくできるよね」
 視認する怪鳥の主より言われてしまえば――。
 槍を投げるための、技術も経験も知らぬ彼らに、成すすべはない。
 巨大な鳥の影の下で――。
 まず動いたのはユリウスだった。気だるげな緑玉の瞳を確かな怒りに閃かせ、彼は腕を一振りしてみせる。
 ――苦しみのうちに斃れた死霊達よ。
 呼応するのは死者の怨嗟。ユリウスが手にかけてきた者のみではない。この関ヶ原にて虐殺された数多の怨霊をも伴って、凍てつく地獄の霧が逆巻いた。
 怨憎の叫びが戦場を覆う。遥かな過去より呼び起こされた無数の辛苦が、生者の精神に手を伸ばす。
 己らを覆う霧の先に、農兵は何を見たろうか。恐怖に凍り付く表情は、その絶叫は、怨嗟の中に吸い込まれてすぐに消える。最早至近の相手の顔すら見えぬ濃霧の中で、ちらちらと覗く亡霊騎士たちの影を見ては――。
「陣形を保ってはいられんだろう、なあ、おい」
 狂乱の中にある人々に声は届かない。だが、怨憎の指揮者には濃霧の先がよく見える。この狂った陣形の中、いち早く体勢を立て直す集団――。
 ――中枢が、見えた。
 刹那に霧が晴れる。左翼最奥、最も堅固な壁の後方。波立つように盾が構え直されるのが、その場にいる全ての猟兵の目に映った。
 場所が分かれば――後は易い。
 先陣を切って飛び込むのはヴィクティムである。歳の頃にしては小柄な体躯には、既に細工が施してある。ファランクスの弱点など彼にとってみれば基礎知識だ。正面からの激突に特化したが故、側面――特に右翼よりの攻撃に弱いこと。長槍と大盾により取り回しが劣悪なこと。
 そして。
 ――密集と連動こそが要の陣形であるが故に、機動力が低いことだ。
 電脳魔術士Arseneが纏うプログラムは『VenomDancer』――敵とした者の敵意の全てを己へ向けるコード。だがそれだけではない
「なりふり構わず殺したくなるよな──俺を前にして、まともに陣形組めるかな?」
 崩れるように殺到する人々の雄叫びの合間、ヴィクティムの姿は掻き消えたように見えた。
 寿命を代償とした機動力で、正気を失った兵の群れの左右を跳ね回る。もう一つの切り札――発するパルスの向かう先は農兵たちではない。その中央、先の姿より推定座標を取得し終えた首魁だ。
 崩れる陣形の最中に切り込む甘い桜色が、琥珀色の視線を落とした先は――地面。
「殺すな、ね。はいはい。起きろ化物」
 低く呟く声が零れ落ち――。
 既に崩れきった陣形に更なる混沌と混乱が波及する。地を這う『名もなき異形』が、ヴィクティムに気を取られた彼らの足を絡め取ったのだ。
 一人が足を取られて転べば、その前後もまた忘我のうちに倒れ伏す。ドミノ倒しとなって開けた道の先、狼狽する少女に向けて、桜人の足が躊躇なく踏み出した。
 倒れ伏す農兵の群れ――それなりに配慮はするが、時折踏みつけてしまうのはご愛敬。それもまた已む無しというものだ。命にかかわるような踏み方はしていないのだから、オーダーには違反していない。
 混乱の中を、桜色が軽やかに踏み越える。彼の姿が圏内より脱したと見るや、即座に降り注ぐのは毒を孕んだ爆弾だ。
 サプライズ・ボム。仕込みの終わったそれを混沌とした戦場に投げ入れるのは、中空に飛び上がったリステルである。青い髪を閃かせ、赤い瞳で真っすぐに睨む先は、農兵ではなくオブリビオンだ。
 鎧装変換、斬刃の翼、断空の鎧。かの司令塔を斬る――その意志にて纏う鎧より伸びる、光刃で出来た翼がその体を支えている。
「少し、眠ってもらいますよ」
 此度の調合は殺傷力を持たぬそれ。気絶さえ誘発する強力な麻痺毒に解毒剤を混ぜ込み、極力効果範囲を広げたそれは、まさしく毒使いと医療術の面目躍如だ。
 ユリウスにより全員が共有した中枢の位置に基づくヴィクティムの撹乱と桜人の行動阻害は、果たして目標を一定の範囲に抑え込んでいる。リステルの調剤がその粋を発揮するための環境は完璧だ。体の自由を奪われ、或いは意識を失って、倒れ伏す人々の合間を、白銀の髪が駆け抜けた。
 ――調合者は、その効き目を最も良く把握している。隣を駆け抜ける隼には間違っても当たらない。まして、下方を駆ける味方など、巻き込みようはずもない。
 リステルによる薬剤の効果とは別に、膝をつく農民兵の影がある。ヌルのもたらす生命力の吸収は、決して命を奪わない。標的は一人、それを倒すことが目標なれば――犠牲を良しとしない者の意志に、逆らう必要はない。
「どいて」
 常の無邪気な少女のそれではない。冷徹な響きで零した言葉は、その耳へ届いたかどうか。
 ヌルの周囲に即座に展開されるシールドが、農民兵たちを吹き飛ばす。勿論、容赦はしている。小柄な体一つが、通り抜けられる空間があれば良いのだ。
 見据えるのは、寄せ集めの盾の先にある少女の姿のみ。無垢なる殺戮兵器はオーダーを違えない。過去よりの侵略者はマスターの敵で、ならば。
「殺すよ」
 彼女はマスターの人形であるのだから。
 静謐に、煌々と光る水面めいた瞳の先を切り拓くのは――。
「洗脳なら、洗脳で上書きしてあげればいいんだろ」
 ねえ。
 銀月の瞳を瞬かせた悪徳教授は、手袋を外した少年人形をちらと見る。同意ともそうでないともつかぬ仕草で、ほんの少し金月の色を細めたヨシュカは、掌に刻まれた十字の亀裂より、己の中に満ちる黄金の幻惑を風に乗せた。
「少しだけ、夢を見ていてください」
 ――それは、良い夢であれば良いけれど。
 零れ落ちる呟きより、マダムは即座に観察を始める。揮発性の液体。恐らく幻覚作用がある。神経に作用する形の――。
 ならば。
 彼女が追随するに、絶好の好機ということになる。
 殺さずに動きを止める――その意志は皆同じ。なればマダムが扱うのは、己に元よりある、人を操る天性の才能だ。
 瞬いた瞳は金色へ。瞳孔は縦に細く、長く。己を呪い、渦巻く怨嗟の声を、伸ばした蜘蛛糸が絡め取る。
 ――私に従え。揺れ動く者よ。
 ヨシュカの放つ幻惑が何を見せたか――農夫たちは動きを止める。刹那に飛び込む白影が、呆然とする彼らが持つ大盾の縁を蹴った。
 次いで着地する先も、厚いとはいえ蹴るに適さぬ盾の上。とはいえ固形だ。踏んだとて沈みはしない。見極めさえ誤らねば――水の上を行くよりは些か易い。
 水面を蹴るようにして軽やかに進む彼の後方より、竜宿す女は悠々と歩み寄る。内に喰らった呪いのお陰か、その言葉はいつもよりも朗々と――はっきりと耳を打つ。
「さあ、もうお帰り。数百の君たちにも数百の未来がある」
 それはまるで演説のように。子がシャツのボタンを掛け違えていることを、やわりと指摘する母の如く。
「明日のいのちを喜んで、君たちは帰る場所に帰るのだ」
 そう――笑えば。
 男たちは次々と武器を捨てた。その波は確かに奥部までを打ち、強固な洗脳がもたらした兵は烏合の衆へと変わっていく。
 ――勿論ながら。
 それをそのまま放置しておくのも、不利に繋がりかねない状況だ。
「ここでオレサマってワケよ!」
 ――暝神に帰依し奉る。浮石を踏みて木葉を沈め、辿りて来たれ老椿。
 高らかな烏鵠の声に呼応するのは――。
「おいでませ牛鬼ご夫妻!」
 海の怪、牛鬼と濡女の夫婦である。蛇体の妻が生み出した大量の水を、六の足持つ夫が華麗に操る。烏鵠のジェスチャーに合わせるようにして、彼らの潮騒の香りが、農夫たちを武器ごと遠くへ押し流していく。
 召喚術式、牛ノ淵。人を喰らう、荒ぶる海の化身たち。けれども今は人の味方だ。武具の先が間違っても人を傷付けぬよう、荒々しい海は抱擁の凪を湛えて、誰の命をも奪わず草原を流れ行く。
 その流れは激流というには柔らかい。それでも抗うことなど出来はしないのだ。
 上空から放たれる、章の優しい威圧が逃げ場を失くす。ユリウスのもたらした濃霧の精神的動揺は、そう短時間では克服できない。桜人の放った怪物によって折り重なった体には相応の負傷が見受けられる。自らの寿命を代償に、ヴィクティムの撹乱によって蓄積した疲弊が自由を奪い、リステルの撒いた神経毒が虚脱を誘発する。ヌルによって奪われた生命力が気力を弱め、ヨシュカの見せる甘やかな幻覚は躊躇を生み、マダムがもたらした大帝の剣をも上回る強固な洗脳は抵抗力を鈍麻させる。
 それらの全てを、烏鵠の呼ぶ怪がもたらす清らの水が飲み込んだ。
 さあ。道は――拓けた。
 叩きつける波に、少女もまた揉まれている。
 ――烏鵠の狙いは一般人の退避だけではない。
 武具の全てを遠くへ運んだ波が、途端に荒さを増していく。人の味方となった母なる海は、人を弄ぶ過去を決して許さない。
 荒波が少女の姿を呑み込み、持ち上げ、一気に叩きつける。非力な少女に自然の暴威に抗う術などない。悲鳴すらも呑み込まれ、細腕がゆらゆらと海面を漂うのを、烏鵠は会心の笑みで見詰めている。
「さァ、鏡が割れるかオジョーサンが割れるか、耐久ショーブと行こうかィ!」
 ――一方的で、どうあっても猟兵が勝つ、見ようによっては理不尽ですらあるものであるけれど。
 全ての憂いを押し流す水流を越え、動いたのはクロウだ。今は無き社の御鏡は、今より同じ『モノ』と相対する。
 荒れ狂う水の最中、開いた戦場にて向き合えば、互いの瞳は合わせ鏡となる。情けは要らない。今はただ、そこに敵意が映ることだけを悼む。その道をどこで違えたか、最早分からぬけれど。
 刃を地へ突き立て、着地するのは社の鬼。その横を駆ける暗器が――少女の手を穿つ。
「あっ――」
 可憐な唇より零れ落ちる悲鳴は、その手を鏡が離れた故か。
 ヨシュカの放った千本は、寸分たがわず手鏡を奪った。乾いた音を立てて転がるそれを、鏡輝の手が掴むより早く。
「上手くいきましたか。あれからは厄介な気がひしひしと」
「助かった。これで――楽になる」
 ――クロウの剣が、躊躇なく叩き割った。
 絶叫めいた悲鳴を上げるのは、髪を振り乱す鏡輝である。壊れた手鏡に涙をこぼす姿は、成程いたいけな少女と何も変わらない。
「な、何するの! 鏡輝の、鏡輝のお友達が――」
「お前のそれは、お友達ではないだろう」
 頭上よりかかる影が――。
 両の手に持つ黒剣を、横薙ぎに開き払う。命を喰らい魂を啜る双刃が、華奢な体を庇う細腕をまともに穿った。
 噴き出る鮮紅は人のそれと寸分と違わない。しかし、ユリウスの瞳はその程度では揺るがない。己が手にかけてきた亡霊すらも操る男にとって、如何なる形をしていようとも、過去の残滓を斬ることなど容易い。
「人攫いの鬼か。神隠しの物語と言うよりハーメルンの笛吹きだな」
「ち、違うもん――みんな、みんなお友達だもん!」
「今更戯言など聞くと思うか?」
 細めた青い瞳は冷然と。昏く鎖したそれは深海の如くに閃いて、笑みの一片もなく雑音を受け流す。
「骸の海へ還れ」
「その通り。帰り道が分からないなら、お兄さんが案内してあげる」
 無垢なる鬼が声を発するより早く。
 低空を飛ぶ隼に乗る章が、手元の図鑑を開く。現れるのは意志ある闇だ。声も形もないそれが、それでもひどく嬉しそうに主の手元へ擦り寄って、その指先に導かれるままに少女へ向かう。
「やだ! 帰りたくないの! お兄さん、遊ぼうよ!」
 纏う妖しい輝きが放たれる刹那、章の手元を離れた闇が彼女を覆う。遮断されたそれに狼狽する少女に向けて、迸る剣は背部より。
「いいえ。わたしと遊びましょう」
 ――白銀の髪がなびく。金色の隻眼が星を孕む。
 ヨシュカの放った空切は、少女の体を杭打ち穿った。呆然と血を吐く鏡輝の瞳が、限界まで見開かれて彼を捉えた。
 その刹那。
 空より降り注ぐ無数の武器が――彼女の体を狙い撃つ。
「残念だけど、お兄さんは大人だから働かないといけない。今日も大事なお仕事頼まれててね」
 ――きみを倒すお仕事。
「あの人達にも帰るべき日常がある。分からない子はおしおきだ」
「いや、いや、かえりたく、ない――」
「ああ勿論。そう簡単には還さないとも。安心しておくれ」
 降り注ぐ武器の最中、悠々と歩み寄った影は、知らぬ間に少女に銃口を突き立てた。両手に持った対の銃、最愛よりの贈り物が、マダムの手の内で乾いた音を立てる。
 そう簡単には殺さない。苦しませるのが目的だ。故に、さして狙いも定めぬ弾が、頭を抉らなかったのは僥倖だ。
「さて、何発目で死んでくれる?」
 試すように、否、観察するように。マダムの銀月がゆらりと細められて――。
 降りかかる辛苦より逃れるように身をよじった少女が、はっきりと意志を籠めて叫んだ。
「暴力はいけないんだよ!」
「おっと。私も暴力は苦手なんですよ。あなたとは気が合いそうですね」
 思わず鏡輝の瞳が逸れた。その先に立つのは桜人。甘やかな蜂蜜色を、さも人が好さそうに細めた彼は、首を傾げて手を広げる。
「暴力? いやいやまさか」
 ただの――餌の時間だ。
 放たれるのは内に飼う怪物の暴威。桜人は何一つ命じていない。彼らはただ、生存本能に従って、目の前にある上等な餌にかじりついているだけだ。
 娘の悲鳴は何に対するものか。逃れようにも烏鵠の呼ぶ水が周囲を覆っている。ヨシュカの剣は堅固、ユリウスの斬撃とマダムの銃撃は熾烈。纏わりついた闇が視覚を奪い、章の放つ刃が動くことを許さない。
「ぼ、暴力は嫌いって――」
「やだなあ、私は何も命令してないですし。不可抗力ですよ」
 にこにこと笑う表情は揺るがない。ご馳走に齧りつく超常の獣たちを眺め、桜人はふと上方よりの気配にその場を退いた。
「皆さん! 行きますよ!」
 その声と共に飛来するのはリステルのサプライズ・ボム。投擲の瞬間に、章の命令を受けた闇が娘を離れる。向かう先はこの戦場にいる全ての同胞の目だ。
 同時に飛び出すのはヌルの生み出した幻影である。リステルの放つそれの着弾を見計らい、動けぬ少女の前に飛び出して――。
 自壊。着弾。
 刹那に炊かれた強い光が、鏡輝の目を焼いた。役目を終えた闇が手元の図鑑に戻るのを一瞥し、章は全ての攻撃の手が止んでいないことを確認する。
 完全に目を潰されたのは、絶叫と共に悶える少女だけ。ヌルの幻影が自爆の瞬間に放った閃光が、殺傷力を持つ閃光弾となったサプライズ・ボムのそれと重なることで、一瞬にして視神経を焼き切ったのだ。
 目を瞑ったくらいではどうにもならない。それを覆うのが章の暗黒である。全ての光を吸収し、恐るべき光が味方に牙を剥くことを許さない。
「助かるね。私は目が弱いものだから」
「全く。あれの直撃は勘弁してほしいところだ」
「アレ直撃はヤバいわ。マジメに死にそーで」
「流石に盲目にはなりたくないですからね」
 生ける者たちがそう言葉を交わす中、人形たちもまた同時にゆるりと目を細める。
「当たっても、どうにかなるとは思うのですが」
「やったことはないから――わからない」
 言うなり駆けるヌルの刃が、急降下するリステルの刃と交錯する。呪いと魔導を纏う剣たちは、血を流す目を押さえてもんどりうった少女を確かに捉えた。
 再びの絶叫。喉も裂けんばかりに押し出されたそれは、最早獣のものと言って相違なく。少女の悪足掻きが、体より妖光を放つ。
「鏡輝は、鏡輝は――!」
「ああ、苛々する」
 黒外套を翻し――低い声が割って入る。同じ鏡として、その果てにあるものとして。クロウは鏡輝の全てを見届け、そしてはっきりと悟った。
 これは。
 ――己が叩き壊さねばならぬ。
 展開するのは四十八の宝物。クロウの本体たる鏡だ。少女の放つ妖光を反射して、彼女自身より生命力を奪っていく。
 それでもなお、炎を灯した男の剣に抗おうとして――。
「甘いんだよ」
 ――青年の声が、その体の異常を嗤う。
 現れるヴィクティムもまた限界だ。この長丁場で寿命を削り続けた代償に、眩暈と頭痛がやまない。口の中に溢れる血の味もまた、彼に休息を訴えている。
 けれど――それは相手も同じことだ。
「あ、あ」
 そこに至り、少女はやっと気づいたろうか。
 ――命を削り、道化が踊った意味に。
 ヴィクティムが打ち込み続けたパルスは鈍化と猛毒。彼が囮となり飛び回っていた間からずっと、鏡輝の体は侵されている。
「毒の味はどうだ? クソガキ」
「どうして――」
「俺たちは、こんなところで止まれない」
 そうだろう。
 ヴィクティムが問えば、剣を携えた鬼は首肯で応じる。浄化の炎に映し出すのは、人に仇なす過去の遺物。
 狂気と対峙し、鏡鬼は目を細める。かつてあった鬼の住む社、その宝物の怒りを買った罪は――重い。
 烏鵠の水によって包囲された白原が。ヌルとリステルによって奪われた視界が。マダムの放つ銃弾によって傷付けられた体が。ヨシュカの貫いた傷が。桜人の怪物によって喰らわれる身が。ユリウスによって奪われる命と魂が。
 ――炎を纏うクロウの剣に、呑まれんとする。
「や、やだ、鏡輝は――!」
「終わりだ」
 それ以上の言葉は、溢れた鮮紅に溺れて消える。断末魔さえも斬り裂いたクロウの一閃が、その体を跡形もなく焼き尽くした。

 そこに残るは咲き誇る命の華。護り抜いた全ての証。
 白原に凪の風が吹く。水に濡れ、露を纏った草原に、無垢なる狂気の影はない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月16日


挿絵イラスト