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エンパイアウォー⑥～重装歩兵の中心で銃眼を覗く八咫烏

作者：緑城雄山

●関ヶ原、あるファランクスの中心
「この俺が信長の戦力になるとは、世の中わからんものだねェ……」
　鈴木『孫一』重秀は、自身が受け持つファランクスの中心で、何処か感慨深そうに呟いた。彼の周囲の農民兵は弥助アレキサンダーの『大帝の剣』による洗脳能力によって集められた者達であり、日野富子の財力によってもれなく『長槍』と『大盾』で武装させられている。
「まァ、過去は過去だ。報酬を出して雇うと言うなら、相応の仕事をするまでさ」
　孫市はサングラスをくい、と押し上げると、迫り来る幕府軍を待ち受けた。

●八咫烏を墜とせ
「関ヶ原に『車懸』はまだしも、ファランクスですか……しかも、その一隊を率いるのが雑賀孫市とは……」
　何処か呆れたように、緑の板金鎧とマントに身を包んだエメラルドのクリスタリアン、ウィルヘルム・スマラクトヴァルト（緑の騎士・f15865）はつぶやいた。だが、周囲に集まった猟兵達に気がつくと、手短に礼を述べてから、依頼の説明に入る。
「関ヶ原に敷かれている『車懸』については、私も先に予知したとおりですし、もう知っている人も多いことでしょう。ですが、関ヶ原にはもう一つ厄介な陣が敷かれていたのです」
　それが、弥助アレキサンダー率いる、ファランクスと呼ばれる密集重装歩兵陣形。一般の幕府軍ではこの陣を突破するのは不可能であり、放置しておけば『車懸』と同じく幕府軍の半数を壊滅せしめてしまうと言う。
「故に、こちらも殲滅しなければならないというわけですが、問題は集められた兵士が弥助アレキサンダーの持つ『大帝の剣』によって洗脳された、農民達だと言うことです」
　無辜の農民を洗脳して戦場に駆り出す。その所業に、人々を護る騎士として説明しながら悔しそうに歯ぎしりするウィルヘルム。
「では、農民達と戦わなくてはならないのか？」
　猟兵達の間から疑問が出るが、その必要はないとウィルヘルムは返す。
「『大帝の剣』もそこまで万能ではないようで、部隊を率いる指揮官たるオブリビオンを中継することで、農民達に陣形を組ませています。つまり、指揮官さえ倒してしまえば、農民達は戦意を失って降伏し、ファランクスは瓦解します。ただし、その指揮官が……」
「さっき言ってた、雑賀孫市と」
「はい。彼は銃を得意とする傭兵集団雑賀衆を率いており、生前は信長を苦しめたとさえ言われています。決して、侮ってかかれる相手ではありません。それと、もう一つ問題がありまして……」
　雑賀孫市は密集しているファランクスの中央にいる。そのため、何も考えずにファランクスに突入してしまうと、農民兵達との戦闘を強いられることになる。猟兵が農民兵達に傷つけられることはないであろうが、殺したくない相手との戦闘は消耗も大きいだろう。
「ですから、何とか上手くファランクスを突破する工夫をして下さい。それから……どうか、可能な限り農民兵達を殺めることのないよう、お願いします」
　深々と頭を下げつつ、ウィルヘルムは片手に握った巨大なエメラルド――グリモア――に念を込める。緑色の光が周囲を包み込み、参戦する猟兵達を関ヶ原に送り出して行った。

第1章 ボス戦 『鈴木『孫一』重秀』

POW   :    八丁念仏 【斬られた事に気付かせぬ切味の名刀八丁念仏】が命中した対象を切断する。 SPD   :    血華繚乱 【敵に肉薄した状態で拳銃】から【敵の傷口に銃弾を複数、霊距離】を放ち、【体内に銃弾を放たれた痛みと流血】により対象の動きを一時的に封じる。 WIZ   :    八咫烏の加護ぞあらん 【拳銃が狙撃銃】に変形し、自身の【移動速度と近接戦闘能力】を代償に、自身の【命中率と射程距離】を強化する。 イラスト：たがみ千 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●はかない少女は空を飛び
（どんな陣であろうが、誰が相手であろうが、別にやる事はいつもと変わらぬ。近づいて斬る、それだけじゃ。第一のう……）
　ユーベルコード『希望の断片』で背に大鴉の翼を生やし、ファランクスの上空に飛び上がったのは、黒く長い髪に紅い瞳のキマイラの少女、ルルティア・サーゲイト（はかなき凶殲姫・f03155）。
「空を飛べるのが当たり前の猟兵相手に、ファランクスは無意味じゃぞ？」
　重装歩兵の列を悠々と飛び越えて、ルルティアは孫市を眼下に収める。
「いーんだよ。少なくとも、徳川の兵達には有効なんだしよ。それに、猟兵だろうとそんなところを飛んでるといい的だぜ？」
「妾にそんな物は当たらぬぞ！　ほれほれ、当てられる物なら当ててみせい」
　平然と返しつつルルティアを銃撃する孫市だが、ユーベルコード『縮地法』により射撃を回避する技量を極度に上昇させ、ジグザグ飛行で翻弄するルルティアには当てられない。
「ちッ、面倒な飛び方をしやがって。つか手前ェ、痴……」
「おおっと、何のことかのう？　――死の閃きにて永きを断つ、すなわち死閃永断衝！」
　『何か』を目の当たりにして動揺した様子の孫市に対し、それ以上は言わせぬとばかりにルルティアは急降下して接近し、ユーベルコード『死閃永断衝（シセンエイダンショウ）』を発動。旋回させて遠心力を乗せた大鎌『凶鳥の翼』の一撃を見舞う。
「……くっ！」
　ザシュッ！と『凶鳥の翼』は孫市の胸板を横一文字に斬りつけ、深い傷を付ける。孫市は反撃とばかりに零距離射撃を見舞うが、今のルルティアには容易く回避されてしまい当てられない。
　ルルティアは孫市を仕留められなかったものの、深い傷を負わせたことに満足し、再度飛翔して一旦離脱する。
（あやつのあの反応……容易く見せる妾ではないが、もしや見られたかのう。ふふふ、それならそれで、興奮するのう！）
　下着を履かずに飛行した自身の『深奥』を孫市が見たかもしれない。そう思うと、背筋にゾクゾクとするものが走るルルティアなのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●四刀流ＶＳ八丁念仏
　続いて孫市の陣の前に姿を現したのは、周囲に変態・奇人として知られている武人、大豪傑・麗刃（変態武人・f01156）。だが、自分の世界の未来を左右するとあってか、この戦争の間の彼は奇行を抑えて戦っていた。
「はああああああああああっ！」
　今回もファランクスを前に一切の奇行に走ることなく、気合いと共にユーベルコード『スーパー変態人２（スーパーレイクンツー）』を発動する。
　青白いスパークを伴う金色のオーラを纏った麗刃は、ファランクスの周辺を猛スピードで飛び回り、残像を発生させる。周囲に現われた残像のどれに備えればいいのか、農民兵達が困惑し翻弄される様子を見せると、陣形に乱れが生じ始める。その乱れの最も大きい場所に麗刃は強引に突入し、孫市への道を切り開いた。
「これは、挨拶代わりなのだ！」
「ハッ、そんなモン！」
　孫市に接近する途中で投げ槍を放つ麗刃だが、これは孫市の八丁念仏で弾かれてしまう。
「わたしの刀達とその八丁念仏、どちらが強いか勝負なのだ！」
「ちいッ！　デタラメな刀の持ち方しやがって！」
　だが、それは織り込み済みといった様子で右手に刀二本、左手に剣二本の四刀流で迫ってくる麗刃に対し、孫市は毒づきながら八丁念仏を構え直す。
　ガキィン！　上段から振り下ろされる麗刃の右手の刀二本を、八丁念仏を翳すようにして孫市は受け止める。しかし、そのために隙だらけとなってしまった孫市の右の脇腹を、麗刃の左手の剣二本が横に薙ぐ。どだい、如何な名刀であろうとも一刀で二刀を防ぎきること自体が無理な話なのだ。
「……うぐっ！」
　孫市の脇腹に、二筋の刀傷が刻まれる。孫市はユーベルコードを発動して麗刃を八丁念仏で斬る機を伺うが、一刀では四本の刀による守りを突破出来ず、逆に少しずつ手傷を負わされ続けていく一方だった。
「『次』が来たようなのだ。勝負は彼に譲るのだ」
　幾度かの攻防を続けた彼らの元に新しい猟兵が現われると、その言葉どおり、麗刃は孫市との勝負をその猟兵に譲った。

成功 🔵​🔵​🔴​

●無念と憎悪と正義の前には
「……ふむ、彼らに害がないようにですね！」
　それでは、と、緋色の外套と帽子を身に着けた案山子、ラックラ・ラウンズ（愉快口調の荒れ案山子・f19363）は『届かぬ先の巨砲』に大量の魔法の種を詰め、ファランクスの上空で広がるように撃ち放つ。
　着地した魔法の種からは一斉に蔦が生え、次々と農民兵達の脚を絡め取って転倒させていく。その中をラックラはダッシュして通り過ぎ、『祈り宿す巨盾』を構えながら孫市に迫る。
「――ち、考えやがったな」
　孫市はラックラを寄せ付けまいと牽制の銃撃を放つが、全て巨盾に阻まれ、ラックラの突進を止められない。ラックラは孫市に接近すると、その勢いのままに巨盾を叩き付けた。
「行くぞ、うおおおおおおっ！」
「ぐッ！　だがなァッ！」
　巨盾で殴られた孫市は、ユーベルコード『血華繚乱』で反撃に出る。ラックラの身体にビシッ、ビシッと何発も銃弾が食い込み、血を流して苦痛を与える。
「……この程度で、俺の動きを止めるつもりか！　舐めるなよ、糞オウガが
！！」
　ラックラは激痛に顔をしかめつつも、ユーベルコード『遺術・落涙捲握（マモルタメノチカラ）』を発動。ラックラの脳裏に今まで守れなかったアリス達の姿が、そのアリス達を殺めたオウガ達の姿がよぎる。
「死んでいったアリス達の無念、彼らを手にかけたお前達への憎悪、アリス達に笑顔を取り戻すと決めた俺の正義の前には……こんな痛み、何てことはないんだよ！」
　双眸から血の涙を流しながら、『血華繚乱』による痛みや出血など存在しないようにラックラは動き出し、残った魔法の種を孫市の足下に蒔く。
「！？　しまっ――」
　孫市には、『血華繚乱』が決まりラックラが動けなくなったと言う油断があった。故に、自身を拘束せんとする蔦への対応が遅れ、身動きを封じられた。
「これでも、食らえや！」
「ぐううっ……がはっ！」
　ラックラの視界は紅く霞んでいるが、それでも動きを奪われた『糞オウガ』を逃すことはない。孫市の鳩尾に『届かぬ先の巨砲』を押し当てると、強烈な砲撃を浴びせた。その威力に、孫市はたまらず血反吐を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

●突入するのではなく、手繰り寄せる
「これは好機ですね。早く孫市の元に向かいましょう」
「まぁ、待ちなよ。アタシに考えがある。アンタはそこで待っててくれるかい？」
　足を絡め取っている蔓から逃れ、転倒から立ち上がろうとする農民兵達。彼らを見て、長い黒髪をポニーテールに結わえた巫女装束の御剣・神夜（桜花繚乱・f02570）はチャンスとばかりに孫市の元に向かおうとする。
　それを制したのは、ワイルドな印象の顔立ちにウェーブのかかった長髪の数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）である。
「行くぜ相棒……天翔ける、翼となれ！」
　多喜はユーベルコード『人機一体・天（チャージアップバディ・ジェットドライブ）』で『宇宙カブJD-1725』を赤をベースにしたパワードアーマーに変形させ、飛翔してファランクスを俯瞰する。農民兵達が転倒していることもあってか、陣の中央に目をこらすと、すぐにただ一人他の農民兵達とは明らかに異なった風体の男を発見できた。
（あれが孫市で間違いないね。これで仕込みは完了さ）
　孫市をはっきりと認識した時点で、多喜のユーベルコードの発動条件は整った。
「捕まえた、そこっ！」
　『縁手繰る掌（アポート・アンド・テレポート）』。およそ二.七キロメートル以内の自身が認識する対象と共に、同じ世界にいる任意の味方の元に出現する、多喜のユーベルコードが発動する。
　瞬時に、多喜と孫市の姿が神夜の前に現われた。
「自分の陣から引きずり出された気分はどうだい？　後はボッコボコにしてやるよ！」
「これは、見事ですね。……孫市、銃の始祖の名を冠しながら剣術も嗜むとは、意外に多才なようで。では、剣術がいかほどの物か、採点してあげましょう」
「……なッ！？　手前ェ等は一体……！？」
　孫市の周囲の光景が一変し、農民兵達が視界から消え、代わりに赤いパワードアーマーを来た女と巫女装束の女が現われる。困惑する孫市だったが、二人から話しかけられ、向けられた敵意を察し、状況を把握した。
「どうやったかは知らねェが、それで容易く俺を殺れると思うんじゃねェぞ！」
　孫市は吼えると共に、右手に拳銃、左手に八丁念仏を構える。同時に、ユーベルコードを連続して発動。まずは多喜の額に銃口を押し当て、『血華繚乱』で数発の銃弾を放つ。続いて、『八丁念仏』で大上段から神夜を両断せんとする。だが、そのいずれも実ることはなかった。
「今のアタシは音より速いんだ！　そんな銃撃に当たりはしないよ！」
　ユーベルコードの効果により最大でマッハ四以上の速度で飛翔しうる多喜は、孫市が銃口を押し当ててから引金を引くまでの間に、上空に逃れていた。
「……その程度ですか。落第点ですね」
　神夜は直感を交えて孫市の太刀筋を見切り、『豪刀・牙龍』で八丁念仏を受け止める。のみならず、八丁念仏を払い除けると、素早い一閃で孫市の左腕を肘から斬り落とした。
　八丁念仏が地に落ちると同時に、孫市が悲鳴を上げるよりも速く、多喜の音速の蹴りが孫市の顔の右半分をぐしゃりと砕く。
「後は任せた！　やっちまいな！」
「わかりました！　……農民達を盾に使うとは、随分と卑怯な手を。その様な相手に、私達は絶対負けません。信長の下でこのような隊の将になったのが、運の尽きです」
　多喜の呼びかけに、神夜は必殺の一撃を放って決着を付けんと、剣気を全身に漲らせる。孫市は神夜を寄せ付けまいと拳銃を放つが、常人の域を越えた直感と見切りの技量を持つ神夜には一発たりとも当てられない。そして、三発撃ったところで弾切れとなり、引金を何度引けどもカチカチと虚しい金属音が響くだけとなる。
「……覚悟！」
　裂帛の気合いと共に放たれる、大上段からの野太刀一閃。神夜のユーベルコード『剣刃一閃』により、孫市は断末魔を上げる暇も与えられずに、頭から左右真っ二つに両断された。
　――指揮官である孫市を喪ったファランクスでは、洗脳が解けたことにより農民兵達が次々と長槍と大盾を投げ捨てて投降。彼らは無事、幕府軍に保護されたと言う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月16日