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エンパイアウォー⑧~餓鬼道より来たる者

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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 その日は蝉が騒がしく、日差しが農民の目を灼くようだった。
 緑色の田んぼで草を刈っていた農民らは、ふとした違和感にその手を止める。
「おい……なにか臭わねぇか?」
 その声を聞いた三人の農民が確かに、と辺りを見回す。異様な臭いが風上から漂ってきているのだ。
 妙な薬でも近くにあるのか。もしあれば、田に悪影響が出る。彼らは連れ立って、異臭の元を辿っていく。
 動物の腐ったような匂いと、どこか覚えのある不吉な匂いが混じっていた。農民らは鎌を握り直し、注意深く歩く。
 歩いた先に、彼らは発見した。ボロボロの着物を着た人間が這いつくばっている。
 ゆらゆらと頭を上下に揺らすさまを見て、なんだ酒狂か、汚い身なりだ、と微かな安堵が彼らを慰めた。
「おい! 吐いてんのか? そんなとこでするな、お前――」
 近付いた男は、それを見た。その人間が口に咥えた「人間の手」を。
 その人間――水晶屍人の口の中から助けを求めるように、手が不気味に揺れる。尻餅をついた農民は、さらにその奥にあるものを見てしまった。
「あ……ああああぁぁぁぁっ!」
 獣が気まぐれに啄むように、無秩序に食い散らかされた死体だ。
 おそらく同じ村の住人だろう。だがそれが誰だったのかもわからないほど、その死体は損壊していた。
 両肩から水晶を生やし、あらゆる意志を失った瞳。その水晶屍人は、自らの肉体も無数の歯型で削り取られていた。ふらふらと立ち上がり、ゆったりと歩いてくる。
「に……逃げろ! 逃げろぉ!」
 捕まればどうなるか。瞬時に理解した彼らは、必死に纏まって逃げ出した。
 その先にさらなる地獄があると彼らは知らない。彼らの走る先には、鳥取城が厳かに佇んでいた……。

 グリモアベース。戦争の忙しさが一段落することはなく、新たな魔軍将の発見によりむしろその激しさは増す一方であった。
「皆さん、お疲れ様です。先日行われた奥羽での屍人との戦いを覚えていらっしゃるでしょうか」
 式島・コガラス(呪いの魔銃・f18713)は、細かくメモが書き込まれたサムライエンパイアの地図を広げ、集まった猟兵にそう切り出した。
 奥羽地方で、肩から水晶を生やした屍人が大量発生。彼らは噛みつくことで自らと同じ存在を増殖させる性質を持つ。その圧倒的な物量に手を焼かされた猟兵も多いだろう。
「今回は、山陰道……鳥取城の周辺にて、その水晶屍人が確認されました」
 その報告はそれほどの脅威には映らなかっただろう。特に、実際に水晶屍人らをバタバタと倒してきた猟兵にとっては、彼らの力は大したものではないと実感できている。
 だが、今回の作戦はそう楽観視できる代物ではない。
「……今回発見された強化型水晶屍人は、前回のものの戦闘力を遥かに上回ります。攻撃力、耐久力……諸々総合して、およそ十倍以上の脅威と思ってください。
 今作戦は、その量産を阻止するものです。この作戦が失敗し、強化型水晶屍人が奥羽と同量まで量産されれば……或いは、幕府軍はおろか、猟兵も全滅しかねません」
 十倍以上の脅威。元の状態ですら、猟兵に傷を負わせる程度はできた水晶屍人だ。
 その戦闘力がさらに上がったとあれば、人の手に負えるものではない。ましてその数が増えたならば……最悪の結末すら想起させられる。
「陰陽師安倍晴明は、これらの水晶屍人を『鳥取城の怨念』から作り出しました。鳥取城飢え殺し……という、戦国最悪の惨状を齎した籠城戦の犠牲者たちです」
 それは端的に言えば兵糧攻めの犠牲者だ。羽柴秀吉の軍略によりあらゆる兵糧を断たれた当時の鳥取城の住人たちは、城に生える全ての草を食い、それが尽きると城内の藁を食い、それも尽きると終いに死者の肉を食べ始めた。
 彼らは息のある親族を殺して喰らい、そうして生き残った者をさらに殺して喰らう。
 そんな地獄で死んだ者達の怨念が水晶屍人を強化した。次に安倍晴明が狙う「量産」とは、その再現による怨念の増加だ。
 水晶屍人は現在、周辺住人を鳥取城に追い立てるように動いている。逃げ込んだ住人たちを鳥取城に閉じ込め兵糧を断てば、過去の地獄の再現が完了する。
「……少し概要が長くなりました。強化型水晶屍人は今はまだそこまでの量ではありません。皆さんには手を打てるうちに、彼らを殲滅していただきます」
 水晶屍人らを殲滅することは、安倍晴明による鳥取城飢え殺し再現の阻止に繋がる。
 その再現さえ阻止できれば、水晶屍人の量産は叶わない。実際のところ、作戦はシンプルだ。
「同じ見た目でも、今回の個体の戦闘力は全く別物です。気を抜かずに作戦行動を。よろしくお願いします」
 コガラスは一礼し、グリモアによる転送を開始した。


玄野久三郎
 玄野久三郎です。オープニングをご覧いただきありがとうございます。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 水晶屍人、再び。今回は指揮官のオブリビオンではなく、直接水晶屍人と戦う形になります。
 今回は、農民たちを襲い追いかけている水晶屍人と戦うシナリオです。周辺は田んぼで、遮蔽物は数本の木しかありません。
 水晶屍人の数は十体ですが、その数で猟兵と渡り合えるほどに強化されています。決して油断せずに戦ってくださいますよう、お願い申し上げます。

 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『水晶屍人』

POW   :    屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

二天堂・たま
あらゆる死因の中で最も絶望を与える物…それが餓死だと聞いた事がある。
あの水晶屍人を放置すれば多くの絶望が積み上げられてしまう。
一刻も早く、防がねばならん。
過去からの来訪者に、現在を潰されるわけにはいかんからな。

UC:フレンズコールで相棒達を召喚する。
ロープワークの技能でボビンケースの糸を張り、足止めや捕縛をする。
生存者たちが逃げる隙も作れるだろうしな。
これだけでは倒せないだろうから“ケットシーの肉球”で負の感情を浄化し、元の屍に戻ってもらうとしよう。
全く…厄介な敵ばかり増えるのだな。困ったものだ。


夷洞・みさき
死体の躰だけを使うのなら、容赦の必要もなかったんだけど。
間際の想いをこびり付かせているなら、安らかに還ってもらいたい所だね。
それが、骸の海になってしまっていても。

”飢え”という感情を依代にしているのなら、それを晴らしてしまえば良いのだろう?

【WIZ】
ダークセイヴァーに間違って出現する空気を読めないずんび百姓達を召喚し、飲めや食えやの大宴会を開く。

お互い死人同士だし、話は通じるだろう?

ほら、そこの君達、生前は食べ合ってしまったかもしれないけれど…、
今は仲良く料理を楽しむと良いよ。
死人に宵越しの食べ物なんていらないのだから。

お腹が膨れたら、眠るといい。おやすみ。

アドリブ絡み歓迎



「よ、よせ……来るな、来るなぁッ!」
 悲痛な農民の声が響く。飛び出していた大石に足を強か打ち付けた男は、迫る水晶屍人から逃げられずにいた。
 水晶屍人はほんの僅かに思考した。食うか、追うか。だが、与えられた役目さえ、ほんの数秒その頭を過ぎっただけだった。
 喰ラウ。
 決断した水晶屍人は口を開け、やや足を早めて男に迫った。
 獲物を前にしたその屍人は気付かなかった。自らの足元。歩く先に、すでに糸が張られていることを!
「そうはさせん」
 水晶屍人はそれに躓き、前に向かって受け身も取らずに倒れこんだ。痛覚もなく、反射行動もない。それは躯がただ人を喰らうだけの怪物となった証だ。
 やや大きめなひよこ達が、嘴を器用に用いて糸を咥え、ちょこちょこと屍人の上を歩き回る。屍人が起き上がる頃には、彼はすでに糸で雁字搦めに拘束されていた。
「うむ、よくやってくれた。そこのキミ、早く逃げたまえ」
「は、はいぃ!」
 二天堂・たま(神速の料理人・f14723)は足を引きずりつつ逃げる農民を見送り、相棒のひよこたちの仕事に満足気に頷いた。次に、拘束された屍人の表情を見る。
 それは怒りか、憎しみか。口を開け、眼前にある肉を食らうことしか考えていないようだ。あらゆる死因の中で最も苦しく、絶望に満ちて死んでいく……。
(吐き気を催すような作戦だ。兵糧攻めなどと)
 餓死という死に様は、料理人である彼にとって許せない代物であった。まして、その絶望が広まるというならば看過できない。
 ――そこに、微かに食物の匂いが漂ってきた。温かな、野菜を煮込むような匂いだ。それを持ってきたのは、ほっかむりを被った百姓たちだ。
 それを召喚した夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は、やや複雑な表情でそれを見守る。
「呼んだはいいが……大丈夫なのか、こいつらで」
 餓えを依代にした亡霊ならば、その苦しみを晴らしてやればいい。そう考えての召喚だが……えっほえっほと呑気に食べ物を運ぶ百姓を見ていると、どうにも不安になる。
「さぁさお客人、たんとお食べ」
「野菜も肉もあるぞ」
 そして、水晶屍人を囲むようにして宴会が始まった。同じく屍人の浄化を図れないかと考えていたたまも、その顛末を静かに見守る。
 屍人は拘束されたまま、目の前に広がる料理を濁った瞳に映した。刺身、漬物、粥。それを差し出す気のいい百姓たち。
 ――仮に。水晶屍人が単なる食事の足らない餓死で死んだならば、彼は目の前の料理に喜び、そのまま消えてくれたかもしれない。
 だがこの水晶屍人は違う。城を出れば無慈悲に撃たれ、城に篭もれば飢えで死ぬ。極限状態の中、肉親をも殺し食らった彼らの精神は……とうに、人間のソレではなかったのだ。
「か……ゆ……どく……はしば」
 屍人を拘束していた糸が張り、ミシミシ、プチプチと鳴る。糸が勢いよく引きちぎれ、その両腕が自由になった。
「あたま……のう……アアァァァガアアァァァ!」
 屍人が食らいついたのは、料理ではなく百姓たちの方だった。用意された皿は踏み割られ、中身は辺りに散乱する。
 屍人は百姓の頭を掴むと、その頬の肉に食らいついた。百姓らの悲鳴が上がる。
「だめか……!?」
「くっ、止まれ!」
 たまがその肉球から波動を放つと、水晶屍人の体が大きくぐらつく。
 悪意と殺意を浄化する衝撃波。屍人を動かす負の思いを強制的に打ち消す。その結果……屍人はゆっくりと自らの姿勢を戻していく。
「ぐぅぅ……アァ……」
 その唸り声には怨嗟がなく、ただ反射的に声を上げているだけだ。百姓が呼び起こした怨嗟の激情を、たまの力が浄化したのだ。
 だが、救われてはいない。その魂は報われることなく、その肉体は強化を失ったただの水晶屍人へと戻った。放っておけば誰かを襲い、奥羽の悲劇を生むだろう。
「……そうか」
 それを理解したみさきによって、水晶屍人の頭蓋は巨大な車輪で潰された。
 この屍人らは救われない。安倍晴明に目をつけられた時から、或いは鳥取城の餓え殺しに巻き込まれた時から。
 すでに、救われる運命にはなかったのだ。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

非在・究子
す、水晶屍人の、強化、型か。ぞ、ゾンビアクションゲーだと、強化型が、出てくるのは、基本だよ、な。

ま、まともな、近接戦、でも、遅れを、とる気は、しないけど……
せ、戦場は、しゃ、遮蔽物も、ない、開けた、田んぼ、なんだよ、な?
つ、つまり、遠くからでも、敵が、丸見えって、ことだ。
だ、だったら、ここは、ゆ、UCを、使った、超遠距離、からの、飽和連続魔法、で、すり潰す、ぞ。
に、2km、離れた、ところ、から、50回分の、氷魔法を、叩き込む、ぞ。
え、NPC(村人)を、巻き込まない、ように、調整、しつつ、氷のオブジェクトに、変えてやると、しよう。


シャルロット・クリスティア
開けた場所の戦闘は、あまり得意ではないんですけどね……
けど、贅沢は言っていられませんか!

こうなれば割り切りましょう。
遮蔽が無いなら無いで、ギリギリからの長距離狙撃で数を減らします。
身を隠すことはできませんが、逆に言えばこちらに注意を引ける……村人を狙っている相手を優先して撃ちます!

出来るだけ粘りたいところですが、距離を詰められて来たら狙撃をやめて早々に離脱。
他に前衛の方がいるなら、そっちに注意を引いていただければいいんですけどね。
撃っては離れを繰り返して、限界になれば欲張らずに撤収するとしましょう。

虫唾が走る行為ですが……だからこそ、冷静さを欠いてはいけませんからね。


ヘンペル・トリックボックス
相も変わらず、悪辣な実験と開発が趣味のようですねぇ……アレは。その企み、疾く挫くと致しましょう。えぇ、紳士ですので。

UCを発動。口ずさむ童謡は崩落と再構築の歌──『ロンドン橋おちた』。
水晶屍人が密集している水田地帯を崩落させ、落下によるダメージと足止めを狙います。次いで他にも村人たちを追う屍人がいれば、地面と木々を利用して障壁を再構築。全村人の退避を目視したタイミングで土壁による包囲を完成させるとしましょう。
仕上げに全方位の土壁を崩落。【全力魔法】で【範囲攻撃】化させた土石流──水と土の【属性攻撃】で完膚なきまでに圧し潰します。ロンドン橋には人柱が必要ですので、ネ。

アドリブ連携大歓迎です。


アヤネ・ラグランジェ
日本史上最悪の兵糧攻め
親子が兄弟がというアレか

史実と敵の強さは比例しないだろうけど
二手目三手目の用意は怠らずに行こう

敵の攻撃に対抗して
電脳ゴーグルを使用
敵の姿が見えたら温度感知などに切り替えて
光学的な妨害を予め遮断する
遮蔽物は無し
暗闇の戦闘と思えば支障は無い

Phantom Painを装備
中距離から射撃を試みる
攻撃の結果を観測
相手が固ければ戦法を変更する

貫通しないのであれば
Silver Bulletを使用できる
近づいてくる敵に対して
UC発動
近距離で拘束する
銃を持ち上げて狙う
重すぎて一発しか撃てないけど
反動もまとめてもらってネ

倒せたらゴーグルを取って確認
おえ、近くで見るものじゃないな、コレは



 三体。新たに三体の水晶屍人が確認され、猟兵たちは急行する。
 そこには手遅れとなった村人が二人、まだ走る余力のある農民たちが十余名、不気味な死体から逃げ惑っていた。
「皆さん、こちらに! 走ってください!」
 シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は銃を構えつつ、農民たちに逃げる方向を示した。走る彼らの背後に迫る水晶屍人に、彼女は照準を合わす。
 ライフルが一発火を噴く。その火に紛れて雷が空気を走り、屍人の左胸を弾丸が穿つ。勢いの鈍い血液が噴き出した。
「浅い……。まともに命中したはずなのに」
 その弾丸は貫通しておらず、かなり浅い部分でその進行が止まっていた。ともかく、その攻撃により敵の的はシャルロットに切り替わる。
 足は遅いが、怯まない。さらに二発撃ちこんだシャルロットは、敵の頑強さを実感していた。果たして農民たちに被害が及ばないうちに倒しきれるか……?
 その時、テノールボイスの歌声が聞こえてきた。曲調は明るく、歌詞はどこか不吉。「ロンドン橋落ちた」の童謡である。
 その歌に呼応するように、水晶屍人らの足元にヒビが入る。それが巨大化し、中心が落ち窪み……やがて、崩落した。
「落ちておゆきなさい」
 ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)は帽子を押さえつつ、崩れた地面の下を覗く。三体の水晶屍人は問題なく落下していた。
「陰陽師、安倍晴明……その企み、疾く挫くと致しましょう。えぇ、私は紳士ですので」
「な、な、なんだ、なんだ?」
 その崩落に寄って来たのは非在・究子(非実在少女Q・f14901)とアヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)の二名だ。二人もまた、遠距離からの攻撃を扱う名手である。
 すなわち、この状況はすでにほとんど勝利のようなものだ。
「ぐ、ぐひひっ……こ、これなら、安全な場所から、撃ち放題、だ」
「そうだね。卑怯も何もないもんね」
 アヤネは電脳ゴーグルを装備する。暗闇の空洞の中に体温の低い人型が見える。彼女はアサルトライフル「Phantom Pain」を構え、連射した。
 一秒間に数十発の弾丸が放たれ、穴を登ろうとしていた水晶屍人を叩き落とす。オォォ、とうめき声が反響した。
「どう? 効いてる?」
「いえ……ダメです。私の時と同じで、当たっているけどほとんど効いていない……」
 ゴーグル越しで視界が今ひとつ明瞭でないアヤネに代わり、シャルロットが敵の傷を確認する。だがその結果は芳しくない。ダメージにはなっているはずだが、ひどく小さいようだ。
「な、なら、違うやり方だ。こ、これで、どうだ!?」
 究子は一歩身を乗り出し、水晶屍人に氷の魔法を放った。屍人の体の、すでに弾丸で削られていた部位の血液が凍り付く。
「よ、よし。これなら、氷漬けにしてやれる。ぐひ、ぐひひ……」
「なるほど、了解。そういうコトね!」
 アヤネはマガジンを再装填し、水晶屍人の体に全身くまなく弾丸を叩き込んだ。血飛沫が舞い、その体勢が崩れる。
 その全身を覆った血液を、究子が氷魔法で凍らせた。屍人はもはや動くことができず、わなわなと震える氷像が出来上がる。
「なるほど、氷ですか。ならば紳士として手助けせねば」
 ヘンペルが再び歌う。ロンドン橋の再構築を歌ったフレーズに移ると、崩落した穴の中の土が独りでに動き出す。
「木と泥で、橋は再び創られるのです」
 それらは緩やかに水晶屍人を拘束し、或いは穴を登ろうとする屍人を叩き落とす。蠢く土はさらに、その内部から水を発射した。
「そしてそれは、洗い流される」
 激しい水流により、一体の屍人が壁面に叩きつけられる。そして、その全身は水浸しだ。
「今だっ……!」
 すかさず究子がそれを凍らせる。これで二体分の全身凍結が完了し、残るは一体。
「ひ、ひひっ……すぐにまた凍らせて……って、あ、あれ? ど、どこだ……」
 残る一体の水晶屍人は穴の中から消えていた。ヘンペルの土石流操作に紛れたのか、或いは埋まったのか? アヤネがゴーグルの設定を温感から動体に切り替え、周囲を見渡す。
「ふむ……どうしたものでしょう。その死体を確認しないことには、帰るわけにも行きますまい」
「多分、まだ近くに……近く……」
 アヤネはぐるりと見渡したが、それらしいものを発見できない。次にソナーによる音声感知カメラに切りかえる――すると、反応があった。
「危ない、究子さん! 地面の下だ!」
「えっ、うえぇっ!?」
 究子は咄嗟に飛び退こうとするが、一瞬早く、地面の下から手が伸びて彼女の足を掴んだ。地中からせり出してきたのは、三体目の水晶屍人である。
「は、は、離せこの! ゾ、ゾンビゲーの、お約束、み、みたいなことしやがって!」
 シャルロットは彼女のもとに駆けつけると、地中から僅かに覗く屍人の両目を狙い二発の弾丸を撃ちこんだ。悲鳴めいた声とともに屍人が地面から飛び出し、その全身が露出する。
「大丈夫ですか。お怪我は」
「な、ないよ、多分……」
 ヘンペルが究子を助け起こし、やや後ろに下がらせた。シャルロットは注意深く屍人の動向を照準越しに伺う。……その時、屍人の両肩の水晶が、やや光の強さを増した。
「何――!?」
 シャルロットは急いで目を背けるが、その光を一瞬視界に入れてしまった。目に映る全てがぼやけ、敵の位置が掴めなくなる。その光を受けたのは、ヘンペルと究子も同様だった。
「しょうがない。重すぎて嫌なんだけど、そうも言ってられないか!」
 唯一被害を免れたのはアヤネであった。ゴーグルをつけていた彼女だけが屍人の閃光から目を保護できていた。ハッキリと、その輪郭が見える。
 アヤネは影から伸びる蛇で屍人を拘束すると、巨大なライフルを取り出した。重量は十キログラムを越す対UDCライフル、「Silver Bullet」である。
「さぁ。反動も弾丸もその後の爆発も。まとめて全部もらってネ!」
 彼女はSilver Bulletを敵の背と地面の間に挟みこむように固定した。重い引き金を引くと、ズドンという轟音とともに屍人が吹き飛ばされる。
 地面に落下した屍人がヨロヨロと立ち上がる……が、すぐにその背中に撃ち込まれた弾丸が内部で炸裂。屍人の上半身は、水晶とともに爆散した。
「ふぅ……なんとかなった」
 ゴーグルを取ってアヤネは死体を確認するが、すぐに目を逸らした。
 しかし任務はまだ終わっていない。二体の氷漬けの屍人は未だ穴の中に入り込んだままだ。あとは、これにとどめを刺すのみ。
「氷漬けなら、私の弾丸で……!」
 シャルロットは再び電撃の弾丸を放つ。二体の屍人の眉間に撃ちこまれたそれは、脆くなった表面を破り、屍人の内部から全身の氷に衝撃を波及させた。
 頭部と全身に雷の走った屍人らはようやくその動きを停止させる。生命反応はなくなった。
 ヘンペルが再び歌う。築かれた橋は落ち、消えていく。穴の中の地形が再び変わり、屍人たちをすっかり土で呑み込んで消し去った。
「これで良し。ロンドン橋には人柱が必要ですからね」
「あ、あんなんが、埋まってる畑……作物、育たなそう、だ」
「そうかも……」
 アヤネは目に焼き付いた先程の死体を思い出しながら苦笑した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
【破晶】

なるほど、晴明は随分と策略がお得意らしい
悪辣で効率的、素晴らしい作戦だとは思うが──
俺達を相手に通じると思ってるのが、間抜けなんだよ

では、状況開始だ
セット『VenomDancer』
敵陣のど真ん中に降り立ち、強烈なヘイトでターゲットを俺に向ける
これでパンピーどもへの意識は逸れた
後は──こいつらが死ぬまで踊るだけさ

【ダッシュ】【ジャンプ】【早業】【フェイント】【見切り】、そしてUCの高速移動で超高機動で逃げ回りつつ、デバフと猛毒のパルスを乱打
敵を集めて、誘導したら後は主役のお仕事だ
ハッ──長期戦になるほど、毒と鈍化が重くなるぜ
どうぞ道化と一時の夢物語を──お楽しみください、ってな?


穂結・神楽耶
【破晶】
鳴宮様/f01612、ウィンターミュート様/f01172、鎧坂様/f14037、マリー様/f07026

うんうん、成程。
繫忙期の農村を襲って人手を削りつつ、それを使って自陣の兵力を増やす。
支配が成ったあとの弾圧にも効果がありそうで。
効率的な手段ですね。
反吐が出る。

それでは、赤き女王様の花道に僭越ながら介添えを。
光、あれ──【猩猩緋宴】。
水晶屍人の動きを止めれば、あとは鳴宮様とマリー様の獲物です。
存分に斬って撃ってくださいませ。

動きを止めることに注力しますが、隙があればこちらも打って出ましょう。
…この方も、犠牲者ですものね。
ごめんなさい。
どうぞ安らかに、眠ってくださいね。


鳴宮・匡
【破晶】
◆ヴィクティム/f01172、マリー/f07026、鎧坂/f14037、穂結/f15297

悪辣で効率的な手段、結構だと思うぜ
ただ――悪いがそういうのは嫌いなんでね

さしずめ女王様に付き随う兵隊役ってところかな
いいさ、ご要望通り花道を彩ってやるよ
動きの鈍った相手から【千篇万禍】で撃ち抜く
狙撃点は太腿、頸など損傷で大出血が狙えるあたりに絞る
お誂え向きに露出してる肺も狙い目かな

ああ、まだ倒れられちゃ困るぜ
本番は女王様のダンスだからな
こっちは邪魔にならないように
マリーへ襲い掛かる敵を縫い留めるよう援護射撃

こんな形で操られるなんて本意じゃないだろ
――弔砲代わりくらいは務めてやる
迷いなく還りな


鎧坂・灯理
【破晶】
マリー/f07026 鳴宮殿/f01612 Arsene殿/f01172 非女神殿/f15297

飢殺しか。秀吉はやはり頭が良く冷酷で、効率的だ。
腕力がなくとも殺す技の数々、実に参考になるな。
対策する側として。

と、今はそれどころではなかった。
手を叩いてUC起動、執事を呼び出して避難誘導させよう。
戦えない分、他はプロ裸足だからな。
しゃべれないなりにうまくやるだろうとも。

さて、私は私で戦うか。
Arsene殿が集めてくれた敵を撃ち殺そう。
変形はスペクトラでいいか、弾数重視だ
念動力で握り潰して拘束しながら撃つ。

ああ、ああ、真っ赤だな。文字通りの屍山血河だ。
よく似合っていますよ、マリー。


ヘンリエッタ・モリアーティ
【破晶】
今日はルビーちゃんでお送りしちゃいまぁす
「マリー」って呼んでくれてOK!
トットリ?ヒデヨシ?ねえねえ、灯理。私難しいことわかんないかも
後でまた教えてくれると嬉しいなって!レキシ?のことわかんないし!
Arseneも難しいこと知ってるの?みんな頭良くてうらやましいなぁ

頭のいいプレーは後ろに任せちゃうけど
私は私のできることをやるだけよぉ
じゃあ両腕にBLOODY-LADY握って、エンジン・スタート!
【女王乱舞】で派手にやっちゃうわよ
すんごいうるさい音するから一般人はどいてどいて~っ

ふふ!うふふ!ぐやちゃんもきょーくんも血まみれになっちゃいましょ!
赤に染まって、――みんなきれいね?あは!



 作戦コード、「破晶」。残る水晶屍人を撃破すべく、五人の猟兵が新たに水田地帯に踏み込んだ。
 彼らが到着した水田は村に近く、既に八人の農民が五体の屍人から逃げている。もしこれらの屍人が村に到達すれば農村はパニックとなり、人々は最寄りの城に逃げていくことになるだろう。
 それはすなわち鳥取城。水晶屍人を発生させた陰陽師、安倍晴明の本当の狙い。その為にも、彼らは農民を落ち着かせ、かつ屍人を殲滅する必要があった。
「万一、村に通しでもしたらパニック状態か」
「そんな想定する必要あるかしら? だって、たったのこれだけなのよねぇ?」
 怜悧な瞳で屍人の群れを見つめる鎧坂・灯理(不退転・f14037)に対し、ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)――その人格の一つ、ルビーは楽観的な様子を見せた。
 それが単なる過信でないことを、共に訪れた四名、そして彼女の手にした赤のチェーンソー剣が静かに証明する。
「とはいえ、油断は禁物です。これまでの屍人とは次元の違う強さの相手……くれぐれもお気をつけくださいね」
「いかにも脆そうだが、実は相当硬いって報告が来てる。ちゃんと全力でやるようにな」
 穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)がさらに忠告を添えた。それに従い、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)がゴーグル越しに屍人のデータを収集する。
「だな。こいつぁかなり妙な改造だ。パッと見脆く見えるかもしれねぇが、そんなもんほとんど見せかけさ。筋肉やら皮膚の下に、何層もバリアみたいなもん貼ってやがる」
 おそらくこれが、鳥取城の怨念が纏わせている障壁なのだろう。一つ一つの硬度が高く、さらにそれが何重にも積み重ねられているのだ。
 だが、それだけだ。ヴィクティムは笑う。
 確かにこの障壁は攻撃を通しづらくし、一般の兵士の対処を難しくするだろう。しかしそのカラクリは見切った。種の割れた手品に驚いてやるほど、安い観客はここにはいない。
 水晶屍人の一体が唸りながら前進した。すかさず神楽耶が鞘から刀を僅かに抜くと、夏の陽射しを反射しギラリと刀身が輝く。
 その光に当てられ屍人は歩みを止めた。目を閉じ、ふらふらと歩く。
「仕様のない連中だな。どれ、先に避難か。手伝ってくれ」
 灯理が二度手を叩くと、その傍らに燕尾服の男性が姿を現した。恭しく礼をしたその執事の頭は燭台のようになっており、一切の表情が伺えず、口もないので喋ることもない。
 そんなハンディキャップを物ともせず、彼は速やかに農民のもとに急行。怯える彼らを慰め、その背に手を添えながら村へと誘導していく。
 獲物を取られる、と理解したのだろう。水晶屍人たちは一斉に活発に動き始めた。
「おっと、あいつらが気になるかい。そいつはダメだな――お前たちにそんな余裕はない」
 五体の屍人の前に立ちはだかったのはヴィクティムだ。その身に纏ったヘイト収集プログラムは、理性なき屍人らにも十分に機能した。その目はヴィクティムに釘付けになる。
 一体の屍人が彼に迫り、手にした鍬を振るう。動作には洗練も何もないが、空を切るその音は剣豪が振るう刀のようだ。想像以上の速度の攻撃をすんでの所で躱し、ヴィクティムは口笛を鳴らした。
「こりゃ怖ぇ。こいつら、弱いのに強い」
「どっちなんだ。まぁ、言いたいことはわかるが」
 彼の軽口に溜息で答えながら、匡はヴィクティムに迫る二体目の屍人の露出した肺に発砲した。バス、と鈍い命中音。貫通はしていない。
「足止めは有効なようですが、やはりまずは仕込みが必要なようですね」
 神楽耶は再び刀から放たれる光で屍人らの目を灼いた。隙だらけの固体を袈裟懸けに斬りつけるが、手応えは酷く硬い。切れてはいるのだが、刃を無理やり浅い部分に逸らされている感覚だ。
「オーケー。任せておけって」
「頑張ってねぇ、Arsene〜!」
 ルビーの応援にひらりと手を振り返す余裕を見せつつ、ヴィクティムは再び振り抜かれた鍬を避けた。返しに、猛毒のパルスを相手に送信する。
 同時に彼は、水晶屍人が持つ数十層のバリアを少しずつ解除させていた。ファイアウォールの解除と原理はさして変わりない。相手が電子媒体か、肉体か、それくらいの差だ。
 彼は踊るように、屍人らの障壁を少しずつ取り除いていく。ある程度まで弱体化が完了すれば、あとは端役の自分の仕事ではない。
「さぁて、楽しんでいただけたかな? 道化の前座はそろそろ終わりさ」
 ヴィクティムは後方でワクワクした様子でチェーンソーを構えるルビーに視線を送り、指でOKサインを作ってみせた。彼女のチェーンソーのエンジンが入る。
「OK! OKなのね! それじゃ、行っちゃうわよ〜!」
 ルビーは無限の刃を持つBLOODY-LADYを駆動させ、敵陣に突っ込んだ。すす、とヴィクティムが道を譲ると、無作法に屍人に斬りかかる。
 バキバキという音は水晶の砕ける音か、あるいは骨の砕ける音か。それらがエンジン音に塗り潰され、そこに添えられるのは飛び散る血液の水音だ。
 絶えず肉を削りくるチェーンソー剣は、死んだ体の屍人からも多量の血液を噴出させた。材木から出る木屑のように血と脂が舞う。
「ふふ……うふふふふ!」
 ヴィクティムのハッキングにより脆くなった肉体は、彼女の攻撃を受け止めることができない。水晶屍人は大きく口を開けながら、その肉体を真っ二つにされた。
「それにしても……飢え殺しか。秀吉はやはり頭が良く冷酷で、効率的だ。腕力がなくとも殺す技の数々、実に参考になるな」
 あくまで対策する側として、だが。ルビーの乱舞を見守りつつ、灯理は自らの腕輪を軽く撫でた。腕輪は液体のように緩く変形し、やがてその形状が固定される。角ばった小さなそのフォルムは短機関銃だ。
 スペクトラ(亡霊)の名を持つサブマシンガン。銃口をまだ動いている屍人に向けると、引き金を引いた。
 ミシンのような規則的な炸裂音に屍人は歪な踊りを見せる。その衝撃から後ろ向きに倒れかけたその屍人の首を、灯理は念動力で掴み起き上がらせた。
「どこに行く気だ。逃げるな」
 残る弾丸を全てその屍人に吐き出すと、ようやくその固体の動きが止まる。全身を蜂の巣にしたその固体もまた、大量の血を噴き出し辺りを赤く染めた。
「ねえねえ、灯理ー! トットリとかヒデヨシってなーにー!?」
 エンジン音に潰されないよう、ルビーが大きな声を上げた。薙ぎ払ったチェーンソーに血飛沫が後から付いてくる。
「秀吉は信長の後、徳川の前に力を示した武将ですよ。その作戦はどれも効率的で……」
「えー!? よく聞こえないー! 後でまた教えてくれるー!?」
「……ええ、いいですよ」
 苦笑混じりに灯理が頷くと、ルビーはまた嬉しそうに剣を振るった。その背後に一体の屍人が迫る。
「これは女王様のダンス、お触りは厳禁だ。跪け」
 その足を匡が撃ちぬくと、屍人がその場に膝をついて崩れる。なおも手を伸ばそうとするが、続いて放たれた弾丸に関節を撃ちぬかれると腕がだらんと落ちる。
「お前も、こんな形で操られるなんて本意じゃないだろ」
 弔砲代わりに、二発の弾丸が屍人の両肩の水晶を砕いた。抵抗力を失った屍人にルビーがチェーンソーを振り下ろすと、その肉体は中心で裂け真っ二つに割れた。
「ぐやちゃんもきょーくんも血まみれになっちゃいましょ! パーティよ!」
 既に全身を赤く染めたルビーからの誘いで、神楽耶は残る二体の首を斬り落とした。噴水というには勢いの足らない血液が漏れ出し、地面の土を濡らす。
 それは介錯のように慈悲ある刃であった。たとえ痛みのない屍人であろうとも、綺麗で悼みなき終わりを。躊躇いのない太刀筋が速やかにその歪な生を終わらせたのだ。
 ――気付けばそこは、まさしく地獄のような光景であった。
 バラバラに引き裂かれ、或いは首を落とされた死体が散らばっている。周辺も、そこに立つ人間もみな血液に覆われていた。
 肉塊に混じって、上半身だけの状態で蠢く一体目の固体を匡は見逃さなかった。その胸を踏み付け、頭部に三発弾丸を撃ち込む。今度こそその息は絶えたようだ。
「うふふ! どこもかしこも赤に染まって、――みんなきれいね? あは!」
「ああ、ああ――真っ赤だな。文字通りの屍山血河だ。よく似合っていますよ、マリー」
「ありがと、灯理! 灯理も似合ってるわ!」
 全身ずぶ濡れのルビーの返り血に対し、灯理が浴びた返り血は微々たるものだ。遠くからの射撃ゆえ、せいぜいが勢い良く飛んだものが足や顔に跳ねた程度。
 それが彼女らには似合っていたのだろうか。ヴィクティムは念の為ゴーグルで周囲の生体反応を確認すると、ニヤリと笑い高らかに宣言した。
「状況終了! 鮮やかなる赤の女王様の勝利だ!」
 陽射しに照らされ、赤色の水面が輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月15日


挿絵イラスト