エンパイアウォー⑩~超巨大鉄甲船団を強襲せよ!
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「皆、集まってくれてありがとう」
緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)が目の前の猟兵たちに頭を下げる。続いて浮かべたのは笑み。
「皆の活躍で、幕府軍は関ヶ原まで辿り着けたわ。一切の被害無く、ね!」
ここまでは喜ばしいことだ。しかし冬香の表情が曇る。
「でも、この先ちょっとマズイことになるの。私が予知(み)たのは関ヶ原の後」
関ヶ原で合流した幕府軍は、この後3つに兵力を等分して、山陰道、山陽道、瀬戸内海を進む。その先、瀬戸内海――すなわち南海道にて。
「幕府軍が『大悪災『日野富子』』の手勢から攻撃を受ける。それによって大きな犠牲が出てしまうわ」
その大打撃は今回の作戦を中止に追い込みかねないダメージになる。
「そんな未来を掴ませるわけにはいかないの。だからお願い、皆でこれを防いで」
それこそが今日、冬香が皆を呼んだ理由なのだ。
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事の詳細はこうだ。
まず、大悪災『日野富子』は幕府軍を襲撃するために、そのありあまる財を用いて『『超巨大鉄甲船』の大船団』を建造した。その大きさ、ひと船あたり、全長約200m×全幅約30m。
「あくまで造れたのは『船の部分』のみ。だから今から船員を見つけたとしても、普通に運用なんてできない」
どんな船とて、乗ってすぐに自在に操れる者の方が希少だ。ゆえに『戦い抜ける船団』として成り立たせるには色んな意味で時間と練度が足りない、という話になるはずなのだが。
「そこは、さすがオブリビオン、と言っておきましょうか」
日野富子は船員となる者を骸の海から呼び出した。
「戦国時代に瀬戸内海を席巻した大海賊『村上水軍』の怨霊。彼らがこの船団の船員よ」
彼らを船員にあてがうことで、超巨大鉄甲船を即戦力どころか、大規模海戦すら耐えられる最強の水軍に仕立て上げたのだ。
海からの砲撃、さらには最強とも謳われた村上水軍の手腕による作戦だ。幕府軍が正面からまともにやりあえば、確実に不利な状況へ追い込まれる。
「その現場に私たち猟兵が介入したとしても大きな被害は免れないでしょう」
ならば、どうするか。
「幕府軍が超巨大鉄甲船団と遭遇する前に、私たちが叩く。これしかないわ」
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超巨大鉄甲船団を叩くのに、いくつかの注意点がある。
「まず、村上水軍の怨霊は何があっても死なないし消滅しないってこと」
刀や鉄砲による攻撃はもちろん、いかなるユーベルコードであっても消滅はしない。強力な攻撃で消し飛んだとしてもすぐに復活する。その存在はもはや呪いにも等しく、何があっても船の上に復元・復活する。
「唯一、この怨霊たちを消し去る方法。それは『帆柱に掲げられた村上水軍旗を引きずり降ろすこと』よ」
村上水軍旗とは『〇の中に上と書かれている旗』のこと。この旗を帆柱から引きずり降ろす、外す、あるいは原形を留めないほどに破壊する。これによって怨霊たちは船の上から消え去る。海賊にとって旗を奪われるとは負けを意味する、そういうことだ。
「でもこれも簡単にはいかないわ。怨霊たちの護衛がいるの」
これは日野富子配下のオブリビオン『切支丹女武者』たち。彼女らが船団への直接襲撃に備え、待機しているのだ。
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「皆にやってもらうのは3つよ」
冬香が指を3本立てる。
「ひとつめは、船団を捕捉。そのうちのひとつに乗り込んでもらう」
船団は海上にいる。そのため、陸から船に渡る手段がいる。
「小舟ならこちらで手配できるけど……正直、敵に見つかる可能性もあるから」
小舟で行って乗り込む前に見つかった場合、高確率で鉄砲での狙撃を受ける。
そのため、見つからないように、あるいは見つかっても攻撃を受ける前に、または攻撃をかわせるように。空を飛んだり、海中を潜ったりと別の手段を用意してもいい。
ここでの創意工夫は、その後の戦況を有利に持ち込める可能性が高い。
「ふたつめは、切支丹女武者たちを倒すこと」
超巨大鉄甲船といっても所詮は船の上。出て来る数には限りがある。一人当たり10人ほども倒せば、敵の数が尽きるはずだ。周りへの被害を考える必要は無い。思いっきりやってほしい。
「そして最後。旗を引きずり降ろすこと」
帆柱に旗があるのは確実だが、それは1本とは限らない。見つけ次第引きずり降してほしいが、切支丹女武者がいる限り、その作業はやらせてもらえないだろう。なので、女武者を倒す→旗を降ろすの順番をキープしてほしい。
「あ、最後には脱出してね? 怨霊が消えたら船が沈むと思うから」
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「最後にこれは役に立つかどうかわからないんだけど……」
少し困り顔で冬香が続けるのは、村上水軍の怨霊についてだ。
「彼らは、富子を恐れている者と、大金で雇われたので喜んで協力している者とが混在しているみたい」
結局のところ、旗さえ引きずり降ろせばいいので、話しかける必要などないのだが。もし、何かを話しかけたい、あるいは利用したいというのなら、それに止める理由は無い。
「さて、ここまで説明はOK? 準備は万端かしら?」
冬香がグリモアを取り出すと、淡い光がグリモアに灯る。
「ここを超えれば島原まではもう少し。皆、幕府軍への助力、よろしくね!」
そう言って冬香は、猟兵たちを転送していくのであった。
るちる
はじめまして、あるいはこんにちは、るちるです。
さぁさぁ、戦争もだいぶ段階が進んでまいりました。瀬戸内海での戦いをお届けします。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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シナリオの補足です。
リプレイは、船団に乗り込むところから始まります。そして切支丹女武者との戦い、水軍旗に対する行動ときて、船の脱出で終わります。
そのため、プレイングは『船団に乗り込む手段』『戦闘に関するプレ』『水軍旗をどのようにして引きずり降ろすか』を中心にお書きください。3つ万遍なくもいいのですが、どれか一つに絞った方がプレを書きやすいと思います。また、この3つの内、どれかひとつがあれば、後はるちるが適当にアドリブで書くことも可能です(アドリブOKって書いておいてね)。
村上水軍の怨霊と言葉を交わすことも可能ですが、何か情報を持っているということはなさそうです。うまく利用すればあるいは?
お盆の時期ですが、ある程度プレが揃いましたら、書き出し始めますので、お早めにどうぞー。今回は再送をお願いする前に片を付ける所存。
それではプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『切支丹女武者』
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POW : 鉄砲三段
【鉄砲の一斉発射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 部位狙撃
【鉄砲】から【トリモチ弾】を放ち、【手や足を狙う事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 聖母の慈悲
【聖母に捧げる祈り】を聞いて共感した対象全てを治療する。
イラスト:森乃ゴリラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
本山・葵
船団に乗り込む手段
・UCで空を飛んで船団に乗り込む
「ひゃっほ~、トラトラトラっす~!」
・ブラスターで射撃してけん制する
「自慢の腕前をお見せするっす!」
・常に動き続けて、照準をあわせられないようにする
「弾幕が薄すぎっすね、そんなんじゃ当たらないっすよ!」
技能:スナイパー、早業、野生の勘、誘導弾、援護射撃、一斉発射
※アドリブ、共闘ご自由にどうぞ
マクベス・メインクーン
へぇ、海賊船てか幽霊船だな
船を沈めるって結構な挑戦じゃね?
面白そうじゃん、やってやろうじゃねぇか
自身の翼に風の精霊の力で速さ強化して船まで飛ぶぜ
太陽や雲に紛れる感じで隠れながら接近する
接近出来たら【先制攻撃】で上から奇襲するぜ
魔装銃に雷を宿してUCを使用
雷【属性攻撃】で【範囲攻撃】して敵を撃ち抜く
更に【2回攻撃】で追撃しながら【空中戦】をして
敵からの攻撃は【フェイント】で撹乱させながら回避
飛び道具は風の【オーラ防御】で防ぐぜ
敵を倒したら旗を降ろして脱出だな
旗を上げている紐を風の弾丸で撃って切る
脱出手立てがない味方が居たら風で運んでるぜ
※アドリブ・共闘OK
キア・レイス
アドリブ共闘OK
「大きい船…だからこそ狙いやすい…か?」
【人の身に余る火砲】を呼び出し、陸地から砲撃を行う。
UDCアースの物を参考に造り上げたそれは数キロ先まで届くし元は戦艦の砲、元来の用途で使う事になる。
初撃は船底を撃つ、大きく揺れれば火縄銃での狙いは狂わせられるだろうし、水軍の怨霊が混乱したり運良く船室にでも穴が開けば水面から入る猟兵が楽になるかも。
それ以降は帆柱を狙う、できれば帆柱を根本からへし折りたいが、女武者が体を張って砲弾を止めたり撃ち落とそうと視線を誘導させるだけでも猟兵の援護になるはず。
撃つ度に自分は吹っ飛ぶが気力と体力があれば連続攻撃は可能だ柄ではないが、根性で撃ち続けよう。
オリヴィア・ローゼンタール
なんとも大きい……まるで方舟のようですね
【転身・炎冠宰相】で白き翼の真の姿を解放
【ダッシュ】【空中戦】で高速飛翔して鉄甲船へ
吶喊の勢いそのまま、船体を蹴り飛ばし(踏みつけ)て揺らし、狙撃の邪魔をして後続の味方の援護
甲板へ乗り込んだら【属性攻撃】【破魔】で聖槍と四肢に聖なる炎の魔力を纏う
主を信仰する者よ、同胞たちよ
世界を破滅へと導く魔王に加担することが、貴女たちの正義ですか!
我が聖槍の輝きを前に、確と頷くことはできますか!(存在感・威厳)
【怪力】を以って聖槍を振るい、【衝撃波】を起こして弾丸を【吹き飛ばす】
縦横無尽に斬り打ち穿ち、【なぎ払う】
それが答えならば――覚悟を!
(アドリブOK)
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『大悪災『日野富子』』の配下たる『超巨大鉄甲船団』。相対すれば、その巨大さ、強大さ、頑丈さゆえに正面から打ち倒すのは難しい。
だが、その規格外の大きさゆえに、狭い瀬戸内海では小回りが利かない、という弱点もまた存在する。幕府軍を密かに待ち受ける必要性から、船団は今散り散りになっている……。
この隙に。グリモア猟兵が捉えた『超巨大鉄甲船団』のひとつ、符合にて『鬼海星』と呼ばれる鉄甲船。
それに目掛けて、空を飛翔する3人の猟兵たちがいた。
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陸を離れる少し前。
グリモア猟兵からの事前の情報通りに、鬼海星を見つけたマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は岬の上にて。
「へぇ、海賊船ってか幽霊船だな」
その感想を呟く。見た目は鉄の塊だがその中身を見れば。マクベスの評は言い得て妙だ。だが、その外見は先も言った通り、いわゆる幽霊船とは全く違うもの。
「船を沈めるって結構な挑戦じゃね?」
そんな言葉が出て来てもおかしくは無い巨大な鉄の船。村上水軍の怨霊たちを消し去れば、戦力の無力化は可能。ここだけではない、少なくない数の強襲作戦が成功すれば、船団そのものの力を無力化できる。
これはその一歩。
「面白そうじゃん、やってやろうじゃねぇか」
そう言って、マクベスは自身の、竜の翼を開く。精霊術士たる彼の導きに応じて、風の精霊がその力を翼に宿す。
(雲に紛れる感じで行くか)
速度を増した翼にて、雲の間を縫って。マクベスは空を駆けた。
「なんとも大きい……まるで箱舟のようですね」
オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は沖に浮かぶ鉄甲船を見て、そう呟き。ユーベルコード『転身・炎冠宰相』を解き放った。直後、黄金の炎に包まれたその身は、破邪の霊気と聖なる武具で纏い、翼を備えた『吸血鬼を狩る』者の姿へと変身して。柔和な笑みは崩さぬまま、高速飛翔して鉄甲船へ向かう。
そして本山・葵(ユートレマジャポニカ・f03389)は。
「ひゃっほ~、トラトラトラっす~!」
ユーベルコード『アイアン・イカロス』を発動。飛行ユニットを装着した空中戦仕様となった葵は、スラスター噴射の勢いのまま、空を飛びまわる。本体は眼鏡だ、落とさないように気をつけて。
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――それは戦場を貫く一本の槍のごとく。
オリヴィアが高速飛翔の勢いを緩めることなく、逆にその勢いをそのまま乗せた蹴りの一撃を。
「ハァァァァッ!」
吶喊する相手は鉄甲船の『船体』! 鉄という強度があるがゆえに、鬼海星は砕けることも破裂することもなかったが、その分『オリヴィアが突撃した衝撃』をまともに受けることになる。
「て、敵襲!」
甲板で警戒活動に当たっていた切支丹女武者たちが叫ぶ。周囲を見渡す切支丹女武者たちの目に映るのは、再び空へ飛びあがったオリヴィアと。
今まさに鬼海星に辿り着こうとしている葵。捉えられた距離は既に鉄砲の射程内。
「ヤバいっす?!」
「構え、撃……きゃぁぁっ!?」
切支丹女武者たちが弾丸を発射するその瞬間。もう一度船体が大きく揺れる。
それはもう一人の猟兵の、陸からの攻撃であった。
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「ぐっ……」
呻き声をあげながら草むらから起き上がる猟兵の名は、キア・レイス(所有者から逃げだしたお人形・f02604)。側には彼女がユーベルコード『人の身に余る火砲』で呼び出した12cm砲の砲身が横たわっていた。キアの魔力で生成したこの砲身は、UDCアースで見たという戦艦の艦砲を参考にしたもの。これこそが『元来の用途』ならば、この作戦に最適といえよう。
「撃つと自分も吹き飛ぶが……」
反動だけが難点らしい。しかし、今回の標的はちょこまかと動く相手ではない。
「大きい船……だからこそ狙いやすい……か?」
構え、じっくりと狙いを付けて。単純で重い、だからこそ一撃必殺となりうる、榴弾の一撃を叩き付けることができる。
その思惑通り、初撃の一発は船底の付近へ着弾。今もなお混乱が見て取れるほど船体が揺れている。これでは鉄砲の狙いを付けることすらままならないだろう。
「これで少しは楽になるだろう」
仲間の猟兵たちはいずれも空中戦を仕掛けているので、影響はほぼ無いはず。
しかし戦闘はまだ終わっていない。次は鬼海星の帆柱を狙うべく、キアはもう一度砲身を抱え上げるのであった。
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キアの直撃ともいえる援護射撃で。甲板に配置されていた切支丹女武者たちは浮足立つ。銃身の長い鉄砲は構えて狙いを定める必要があるが、大きく揺れる甲板でそんなことができるはずもなく。
それは空飛ぶ猟兵たちにとって攻め入る絶好の隙。
だんっ、と。
オリヴィアが甲板へ垂直に着陸する。左舷に偏った荷重がさらに船体を揺らして、敵の戦線を乱し。
(ここで!)
聖槍を一回転させ、その穂先に宿すは破魔の属性をもたらす聖なる炎。次いで四肢にも炎を灯し、オリヴィアが再び飛ぶ。
至近距離の脅威であるオリヴィアに注意が向いたその時。
「よそ見してんなよ!」
それは雲を目くらましに、鬼海星の上空を取ったマクベスの奇襲。ユーベルコード『ガトリングショット・エレメンタル』で、雷の属性を宿した銃弾を雨あられのごとく放つ。
奇襲ゆえに対処することもできず、銃弾の雨に撃たれていく切支丹女武者たち。
「そらっ」
『ファフニール』と『リンドブルム』、竜の名を冠する二丁の魔装銃から、再度銃弾が放たれる。続けざまに、マクベスは急降下。自身の翼で態勢を維持しながら、次々とファフニールとリンドブルムで切支丹女武者に銃弾を叩き込んでいく。
空からのマクベスに対して反撃すべく、切支丹女武者の銃口が空を向いた……その瞬間。
「自慢の腕前をお見せするっす!」
スラスター噴射をコントロールして、横合いからスライディングのように突っ込んできた葵がブラスターの援護射撃。素早く、かつ一斉射撃で切支丹女武者たちの足元へ制圧射撃を仕掛ける。たまらず、態勢を崩していく切支丹女武者たち。
そこへ再び、キアが砲撃した榴弾が降り注ぐ。それは甲板にある帆柱に直撃して。
護衛の切支丹女武者たちが護衛らしき活動を一切できない中へ、オリヴィア、マクベス、葵の3人が甲板へ降り立った。
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砲撃の反動で後方へ吹っ飛ぶキア。今度はなんとか態勢を保ち続けることに成功した。
「もう一発!」
そう言って、すぐさま三回目の砲撃態勢に。狙いを定め、間髪入れずに砲撃。着弾。
帆柱に当たってはいるのだが、根元からへし折れた様子は確認できない。しかし未だ、遠目であっても戦いが続いていることはわかる。撃ち続けることが仲間への援護にもなるはず。
「柄ではないが、根性で撃ち続けるとしよう」
あの、帆柱の上ではためいている水軍旗が消えた時。それが猟兵の勝利の時なのだから。
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最早、甲板上は混乱の極みにあった。陸から飛んでくる榴弾は直撃せずとも少なからず船体にダメージを与えていく。直撃を避けるには切支丹女武者たちの迎撃が必要だ。
しかし当然のことながら、『目の前の敵たち』を無視して榴弾に備えるわけにもいかない。
どちらの対処をするか。その判断を迫る、そのことが猟兵たちの最大の攻撃となっていたのだ。
切支丹女武者の鉄砲三段が猟兵たちに向かって放たれる。数も減って注意力散漫な状態での一斉射。それを見て葵が叫ぶ。
「弾幕が薄すぎっすね、そんなんじゃ当たらないっすよ!」
自身に向かって飛んでくる鉄砲の銃弾の中を、葵はスラスター噴射を巧みに操作して、ジグザグに回避、切り抜ける。常に動き続けて、狙いをつけさせず。跳び上がって上空から放ったブラスターは誘導弾、鉄砲ではありえない軌道を描いて切支丹女武者を仕留めていく。
「おっと」
マクベスが取ったのは回避では無く、防御。自身の周囲に風を逆巻かせて、さらにそこへオーラ防御を纏わせる。風の盾が銃弾を弾き返し、受け流し。
「こいつはお返しだぜ」
銃弾を遮る風がやんだ後、マクベスはファフニールを構えて、素早く二回、銃弾を放つ。続けざまに雷の銃弾が切支丹女武者を貫いて、骸の海へ還す。
葵とマクベスの攻撃を受けて傷を負った切支丹女武者たちが銃を置き、聖母に祈りを捧げる。その祈りを聞いた者が、共感した者が聖母の慈悲で傷を回復していく。
……その中には、シスターであるオリヴィアも含まれる。
「主を信仰する者よ、同胞たちよ。世界を破滅へと導く魔王に加担することが、貴女たちの正義ですか!」
オリヴィアは問いかける。切支丹女武者たちの存在を。
「我が聖槍の輝きを前に、確と頷くことはできますか!」
その信仰が偽りでないことを問う。言葉の覇気、そしてオリヴィアが纏う存在感と威厳。それらが相まったためか、何かを感じた切支丹女武者らの手が止まる。
しかし……答えは返ってこない。
何故なら彼女らはオブリビオン。会話や戦況を測る程度の思考力は、骸の海から戻ってきた過去の存在。既に生も無き、そして信仰すらも『堕ちた』存在。
オリヴィアの求めていた答えは……こない。返ってくるのは、数多の銃弾。
「それが答えならば――」
聖槍を握る手に力を込める。純粋な膂力で以て聖槍を一閃するオリヴィア。振るわれた軌跡が衝撃波となって、銃弾を跳ね返す。
続けざまに甲板を蹴って、オリヴィアが駆ける。接近して、斬り、打ち、穿ち。そして。
「覚悟を!」
聖槍が切支丹女武者らをなぎ払った。
戦況は完全に猟兵有利。最早甲板上に護衛部隊の姿は無く。
「残ってるのは……」
「あそこっす!」
マクベスと葵が見つけたのは船内から出てきた切支丹女武者たち。これが最後の護衛部隊のようだ。
「こいつら片付けて終わりにしようぜ!」
「ひゃっほーい!」
空へ飛びあがるマクベスと甲板に水平飛行する葵。切支丹女武者たちが構える暇など与えず、マクベスが空から雷の銃弾を降らせ、葵が突撃しながらのブラスターを連射する。その攻撃に成す術もなく、切支丹女武者たちが倒れていき。
鬼海星を守る護衛オブリビオンは一掃されたのであった。
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「じゃ、行ってくるっす」
と葵がスラスターのスイッチを入れる。敵がいなくなった以上、キアの砲撃はもっとタイミングを考えて行う方が効果的だ、という意見から伝達役である。
しゅぱーっと飛んでいった葵を見送って、マクベスはリンドブルムを構えた。狙いは、帆柱の上、村上水軍旗。
「こいつでどうだ?」
全てを斬り裂く風を纏った弾丸が、旗をとめている紐を撃ち抜き。纏った風が紐を細切れに切り刻む。はらり、と旗が甲板に落ちてきて。
直後、がくん、と船体が揺れた。どうやら怨霊たちが消滅したらしく、船の進軍に影響が出ているようだ。
いくつかあがっている水軍旗の悉くをマクベスが撃ち抜いていく。すべての旗が甲板に落ちた瞬間、それはこの鉄甲船が海に浮かぶただの鉄と化した瞬間であった。
一方、陸では。
「あ、合図っすよ」
「わかった。仕留めるとしよう」
鬼海星の上空に飛び上がったマクベスとオリヴィアの姿を確認して、葵がキアを振り返る。その言葉に応じて、キアがもう一度ユーベルコード『人の身に余る火砲』を発動させる。砲身を構え、狙うは鬼海星船。これは鬼海星に対する最期のトドメとなる一撃。
「いけっ!」
同じ頃、鬼海星船の上空にて。
「天来せよ、我が守護天使。王冠を守護する炎の御柱よ――」
オリヴィアがユーベルコード『転身・炎冠宰相』の力を引き出すべく、再度詠唱を紡ぐ。
直後、響く轟音。鋭く風を切って飛んできたキアの榴弾が鬼海星の火薬庫に直撃した。爆発する鬼海星の船倉。
「万魔穿つ炎の槍、不滅の聖鎧、そして天翔ける翼を与え賜え――!」
詠唱を終え、オリヴィアの聖槍を構える。狙いは鬼海星の甲板、炎を宿した穂先を最高速度で、炎に燃える隕石の如く、甲板へ叩き付ける!
その衝撃で鬼海星の甲板がひび割れ。
「てめぇにゃ、コイツをお見舞いするぜっ!」
そこへトドメと言わんばかりに、マクベスのユーベルコード『ガトリングショット・エレメンタル』が叩き込まれる。雷、炎、風。マクベスのマクベスの魔装銃が絶え間なく、銃弾を撃ち続ける。
――そして起こる大きな爆発。それは船体を真っ二つにするには十分な衝撃で。
猟兵たちの活躍で、巨大鉄甲船・鬼海星は海の藻屑へと変わったのであった。
大成功
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