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エンパイアウォー⑥~重歩の壁と黒いもふもふ

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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「ぴぴよぴよー!」


「まず、順に説明するねぇ」
 ソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)は地図の上下を間違いながら、集まった猟兵に声をかける。戦いの場所は、関ヶ原。
 幕府軍は魔空安土城への戦場に、その場を避けて通る事ができない。先ずは関ヶ原で待ち受ける信長軍を討ち、進軍するための経路を確保するのが優先と成る。
「最大の難所であるのが、関ヶ原ってことだね。気合い入れなきゃ、だよ」
 関ケ原に陣取る軍神『上杉謙信』と、大帝剣『弥助アレキサンダー』。
「僕の予知は、後者の手が掛かっている軍だね」
 大帝剣『弥助アレキサンダー』が所持する『大帝の剣』には、広範囲の洗脳能力が在る。洗脳された者は、道行きの村々の農民たち。弥助アレキサンダーに従って、幕府軍を迎え撃たんと待ち構えているのだ。
「ただの農民と思っちゃダメだよ?」
 彼らは『日野富子から徴収した金銭』で『長槍』を右手に。
『大盾』を左手に装備している。農民から、さながら農民兵となっていて武装済みだ。
「密集陣形『ファランクス』で陣を固めながら、その中央に指揮官を配置してるみたい」
 集団として密集して立ち塞がり、槍で攻め入る者を攻撃、盾で隣への攻撃を護る。
 ファランクスとは基本そういう陣形だ。16×16の256名が1部隊として形成している。これに対し、指揮官と言っても、彼らに指示を出しているわけではない。
『大帝の剣』の洗脳能力を農民兵に伝達する中継機のような扱いであるだけだ。
「だから、配置された一体のオブリビオンが、言葉を話さなくても、問題なくてね……」
 大きいもふもふが、食べ物を食べ続けてるだけの光景があるという。
 洗脳された農民たちの備蓄を、奪う苦労を一切せず食べまくっているのだ。
「率直に言うとファランクスを形成する農民兵の壁をどうにか突破して、指揮官を倒してほしいんだ」
 農民たちは武装しただけの一般人なので、出来るだけ殺害行為は好ましくない。
 洗脳が解ければ、陣形の崩壊は必須となり、農民兵は農民へと戻るだろう。
 彼らに戦意なんて元から存在していない為、続々と降伏してくることは必須だ。
「指揮官はとても自由に過ごしているけど、緊張感は切らないでね」
 自由な大きいもふもふに256人も動員していると想うと、笑わずには居られないだろうが。立ち回りは戦場に赴く猟兵に一任される。
 ――君たちの考えで、助かる者の数は変わるのだ。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 何処までも囲まれて、逃げられないのがふぁんたじぃ。
 私はコレを、運命(DESTINY)と思います。

 =============================☆
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 =============================☆

 16×16というのは縦かける横。
 つまりそういう陣形のど真ん中にボスが居ます。見方を変えれば鉄壁の布陣。突破方法を工夫しないと、ボスとの戦闘に影響が出る事があります。この依頼では人丈よりもだいぶ大きい為、ボスを見つけること自体は容易かも知れません。
 戦場に赴く猟兵次第の依頼となっています。ボスは『喋りません』。
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第1章 ボス戦 『まっくろピヨたろう』

POW   :    超もふもふひっぷあたっく
単純で重い【もふもふなお尻 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    ぱくぱくもぐもぐ
戦闘中に食べた【食べ物 】の量と質に応じて【眠くなってしまうが】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    もふもふあたっくはいぱー
【もふもふ体当たり 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:Miyu

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠御剣・誉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

二天堂・たま
オブリビオンは過去から蘇った存在なのだから、確かに現在の住民を気にかけるわけではない。
確かにそうなのだが…自由すぎやしないか?あの黒いヤツ。
まぁいい。とりあえず将を討ちとれば兵は勝手に瓦解する。

UC:ピヨの波動で兵を無力化していく。
炎も斬撃も生まない精神攻撃だ。体力を奪われて動けなくなれば指揮官までの道を作れる。
接近されても“ケットシーの肉球”で応戦すればいい。
触れた者の負の感情を浄化する。あの農民達は操られているだけだから長くは止められないだろうが。


カーバンクル・スカルン
洗脳された農民を動員させて、食糧奪って、下手すれば生命も失う、と。んなこと許してたまるもんですか。

とはいえ、それにはお互いに無傷で農民の壁を突破する必要があると。

でしたら【クラスタライズ】を使って堂々と近づいて乗り越えてやりますよ。見えなければ普通の農民相手ならたぶん当たっても「気のせいかな?」か「隣の人と当たったかな?」で誤魔化せるでしょう。

で、壁を越えてオブリビオンの元にたどり着いたら思いっきり金槌を振りかぶってぶん殴ります! 最後の晩餐はもう終わりですよー!


ヴェル・ラルフ
人は傷つけたくないし
なんだか見た目は気が抜けるけど、油断大敵だね

SPD
■作戦の概要
空中から、食糧→指揮官の順に攻撃

陣形のど真ん中、かぁ…安全な巣にいるわけだね
巣にいる小鳥は空から襲う大型の鳥に気を付けないとね?

空からいこう、【雄凰】
上空からなら真ん中の指揮官がすぐ見つかるだろう…1匹だけ、鳥だし。大きいし。なんか食べてるみたいだし。

洗脳された農民兵が槍で攻撃してこないとも限らないし、上空から距離を保ちつつ雄凰の吐く炎で攻撃
農民の苦労の結晶には申し訳ないけど…食べ物で強化するのも厄介だし、敵の周囲にある食糧から燃やす
燃やし尽くしたら敵の本体を攻撃
僕自身もナイフを投擲して応戦


★アドリブ・連携歓迎


ナイ・デス
密集陣形、練度も悪くない……
とはいえ、それはどうとでも対処できそう……ですが、洗脳された農民というのが、厄介ですね
できれば、無事に解放したいとこ……

指揮官だけを、狙いましょうか

人丈よりも大きな鳥さんの姿を視認
【覚悟】決めて
短剣を自らの心臓にさくりと刺して『フェイタルムーブ』発動

と同時、視認していた鳥の死角に現れ
【鎧無視する暗殺】剣技で、一撃します
そして黒剣通して【生命力吸収】
不意打ちと虚脱感で動き鈍らせたとこで
食べ物奪い離脱!

【地形の利用】陣形の外ではなく、内側から越える
【第六感、見切り】奪った食べ物【激痛耐性、かばう】しながら
【忍び足ダッシュ】や【ジャンプ】
自身【念動力吹き飛ばし】離脱です


スペードスリー・クイーンズナイト
罪のない村人達を洗脳し備蓄を奪い戦わせているだと……許せん!必ず仕留めて村人達を助けねば!

【ホログラフィック・オーラ】を使用
村人達は洗脳され戦えるようになっているとはいえ空中戦はできないだろう
なので空中から指揮官に接近する
投げ槍をされないよう高い位置を飛ぶ
今の私は明確に「村人を救う!」という意志に燃えている
ユーベルコードも絶好調のはずだ
指揮官の上まで行ったら急降下で指揮官に接近しランスで攻撃を仕掛ける
村人の抵抗があった場合、私は強化されているので多少のダメージなら無視する
指揮官との間に入られる等攻撃の邪魔になる場合は体当たりやパンチで手加減して攻撃する

アドリブ、絡み歓迎


月代・十六夜
いや、真面目な話、備蓄を無駄に消費されるのは馬鹿にならないというか端的に言ってよろしくねぇな?

【韋駄天足】と【スカイステッパー】を使ってファランクスの頭上を跳躍。
槍の届かない高度なら気にするべきは弓矢での迎撃のみ。
それなら【空中戦】の要領で【見切っ】て突っ切るぜ。

飛び越えたらボスはとりあえず無視だ。
近くに積まれているであろう食料を【虚張盗勢】で掠めとって片っ端から【鍵のかかった箱チェック】に突っ込んでいく。
そのままボスから逃げながら回収しながら代わりに幻覚キノコを置いて【時間稼ぎ】。

はーっはっは、回収した食料はありがたくこっちで使わせてもらうぜ!
お前は別の依頼で回収した幻覚キノコでも食ってろ!



●phalanx Wall

「オブリビオンは過去から蘇った存在なのだから、確かに現在の住民を気にかけるわけではない」
 二天堂・たま(神速の料理人・f14723)は関ケ原に訪れて、思う。
 陣形はあれが一般人で構成されていると思えないほどの完成度。
 目が虚ろで、物腰は農民そのものだ。
 ――確かにそうなのだが……。
「自由すぎやしないか? あの黒いヤツ」
 時折、上機嫌なぴっぴーよーぅと声が上がっている。
 敵の入り込む場所のない安全な場所で食料を食べまくれるというのは、確かに至福の時間だろう。
 農民兵たちはそれについてなにもアクションを起こさない。
 ――まぁ、いい。
「とりあえず将を討ち取れば兵は勝手に瓦解する」
 平和な食事の時間は、終わりを告げるのだ。
「それにしても、あの黒いヤツを護る布陣として配置される事にも何とも思わんだな……」
 顎の下の体毛を弄りながらたまは語りかけるようにするが、長槍を向けるだけで彼らは何も言わない。
 洗脳されている彼らには個別の意思疎通ですら必要ないのだろう。
「しかし、ワタシの声が聞こえていないわけではない、……そうだな?」
 返答はないが、農民兵は身じろぎする。
 時折小言を呟いているようだが、それぞれの洗脳から漏れた独り言か。敵対者の反応を伺うような動きにようにも見えなくはないが……たまは小さめの体躯に対して大きく息を吸う。手を出さない限り動く気がないなら、好都合。
「ぴよーっ!」
 思わず叫び声に応じたく成る声色、その気合いは声として発せられる。
 反響する波動は密集する陣形の中でそれぞれが携える盾に乱反射するように飛んでいく。たまから近い農民兵は動じないものだが、遠くに行けば行くほど、波動は四方八方から無差別に浸透していった。
 集合陣形としての致命的な弱点でもあるのだ。
 ……すなわち『彼らは単体として陣形を離脱できない』。
 炎も斬撃も生まない精神攻撃は、結果的に波動の声の届く範囲に、致命的な精神損害を齎したのだ。
 精神的に染み込んだ波動を受けてふらふら、と頭が揺れているのが見える。
「体力を奪われて動けなくなったのは……うむ、此処からでは少し距離があるか」
 ばたばたと倒れる音がする、それも結構大量の音であった。
「おや」
 長槍をたまに向け、悪意ある敵意を農民兵から迸った。
「そう焦らなくていい。ワタシに一撃加えられる者から順にくるといいさ」
 応戦の意を示し、自慢の肉球をむにゅっと押し付けると触れた対象は膝の力が突然消えたように倒れ込む。負の感情が浄化され、洗脳とのバランスが取れなくなり意識がなくなっているようにも見えた。
「ほらこの通り」
 ――農民達は操られているだけだから長くは止められないだろうが。


 たまが陸上で正面で奮闘する頃、猟兵があれやこれやと手段を模索し、ファランクスに挑んでいた。
 ――洗脳された農民を動員させて、食糧奪って、下手すれば生命も失う、と。
 カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの咎人殺し・f12355)は実際に運用されている陣形を見て、憤りを感じた。
 ――んなこと許してたまるもんですか。
 命の重さを考えない戦法。
 動員された全てを傷つけないにしても、膨大な数となる。
 ――お互いに無傷で、農民の壁を突破する必要がある、と。
 カーバンクルは想うだけに留めて声には出さずに行動を移す。
 すなわち、クリスタライズを利用して透明化して、堂々とファランクスに歩み寄ったのだ。人として姿を視認しない限り、彼らは敵として認識しない。
 ――おっと。ちょっと失礼。
 行列の間を縫うように、多少無茶な方法で農民兵の間を通る。
 時折体が周囲にぶつかるが農民兵たちには目視されていなかった。
『そこは半歩そっちに居てくれねぇと俺が足踏むぞ』
 ――あ、うっかり踏んじゃった。
『アンタの目は節穴か、おらほはまだ動いてねぇ』
『……はて、気の所為か?』
 ――残念、犯人は私でした!
 小言と通しの会話が発生していた程、見事にすり抜けをしてみせた。
 多少乱れる呼吸を整える余裕は、出来そうだ。
 たまの波動の影響で倒れている農民兵から大盾を拝借し、身を隠しながら透明化を解除する。倒れながら戦況が変わるタイミングを待つ。
 なにしろ、――空から攻めた彼らの動きにつられ陣形が動き出したから。


「密集陣形、練度も悪くなかったですね……」
 ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)は静かに見据えていた。
 ――とはいえ、それはどうとでも対処できそうですが、洗脳された農民というのが、厄介。倒し穿つ事は攻撃を避けれない。悩ましい光景だ。
「……できれば、無事に解放したいとこ……」
 ――指揮官だけを、狙いましょうか。他の事は得意な方が、きっと。
 人より大きな鳥の姿は、苦労せずに見つかる。
 溜め息を一つ。手元に短剣を握る手に、力が籠もった。
「今、……貴方の後ろにいきましょう。私は、ここにいて……」
 短剣を自らの心臓に的確にさくりと、刺す。
 このタイミングはいつも、おかしな気分だが、それらが引き金となり……ファランクスに何かをすることなく、ナイはその場に崩れ落ちた。


「罪のない村人達を洗脳し、備蓄を奪い戦わせているだと……許せん!」
 虹色のオーラに身を包み、飛翔能力を得て空に在るスペードスリー・クイーンズナイト(女王の騎士・f20236)。
「必ず仕留めて村人達を助けねば!」
 騎士道が叫ぶ。心に積もる意思の力はアリスランスの冴えを強化する。
「見るがいい、我が輝きを!」
 サムライエンパイア、それも白銀が似合う関ケ原に虹色を放つスペードスリーの姿は、空に在って存在感を増した。
 ――村人達は洗脳され、戦えるようになっているとは言え空中戦は対策されていないだろう。長槍を投擲されても当たらぬように、高度を調整し飛ぶ。
 スペードスリーを追い越すように、かっ飛ぶ速さで空を疾走る者があった。
 月代・十六夜(韋駄天足・f10620)は階段を跳ねるように空中を蹴り、加速する。
 蹴る回数を重ね、自身をまるで弾丸のような速度で跳躍させる、それは飛翔と大差無い速度と飛行速度であった。
「雄凰、目標が見えるかい?」
 大きなヘビクイワシに騎乗したヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)はもふもふ、もとい大きな鳥を高度を高めて目標を見据えた。
 確かにある、ど真ん中。整う並びの中に、黒い毛玉が。
 食べる動作が突然止まっているようだ。
 ここまでの間に食べまくった分、眠りに誘われて様子。
「人は傷つけたくないし……なんだか見た目は気が抜けるけど、油断大敵だね」
 高度を落とせば、戦略として装備している右手の槍を一斉に投げてくる事も考えられ、指示があれば、一斉に地面から槍の雨が振る。
「巣にいる小鳥は空から襲う、大型の鳥に気を付けないとねぇ……?」
 思わず不敵に笑って雄凰を撫でようと思うところだったが、手を止めた。
 使い手への手厳しさと気紛れを持ち合わせる雄凰に指示以外で触るは、あまり得策ではないか。
「食料への対策を僕は取るよ。雄凰の炎で燃やし尽くすつもり」
 ほかに目指す事があるなら、少々待つ、という雰囲気で言葉を切ったヴェル。
 食料はよく燃えるだろう。罪悪感はあるが、仕方がない。
「まじか! 少しだけ待ってくれっか、なぁに……空中戦は速さで攻めるぜ!」
 トン、トンと加速する足を奔らせて。
「このまま――突っ切るぜ!」
 ズシャァアアア、と派手な音を立てて十六夜は着地する。
 その場は既に、倒れた農民兵があり、敵の巣の中で、渦中とも言える場所であった。眠るボスは、訪れ増えていく外敵の存在に気が付かない。
「ぴ……ぴ……」
 放棄された仮初の肉体の意識が途絶えると同時に、ナイは指揮官、ボスである鳥の背後に現れた。寝息を立てるピヨたろうは、物音程度では起きない熟睡をみせる。
「そんなにぐっすりさんなら、痛さで起きちゃうかな」
 再構成された仮初の肉体でも、ナイは気にせず動く。
 慈悲は何処かに置き忘れた動作で、短剣を抜くと、ふわふわもふもふをも貫く剣技で一閃下から上に、切り裂く。
 ぷしゅ、と嫌な音が耳に届くが、それは無視だ。振り抜いた最後に短剣を突き立てて、短剣を通して限界以上に回復していた生命力を奪い取る。
「……ぴ?」
 不意打ちに目を開けて、まっくろピヨたろうは起きた。
 切り裂かれた背中は黒い羽毛で流れる血は見えないが、結構な深手と即座に認識したのか侵入者を目視して鳴く。
「ぴぃよ~!!」
 立ち上がろうとするものの、強靭な足が言うことをきかずにガクリと巨体が傾く。
 勢いよく流れる血で、一意的な貧血に陥ったようだ。
「ごちそう、さま?」
 ナイ首を傾げて、傾く巨体に呟く。
「――よし、獲ったぁ!」
 近くに積まれていた稲穂のまま袋に詰め込まれた兵糧、みっちり袋に詰められた米。塩などが山程積まれていた食料の中で、十六夜は素早く米袋に目をつけて片っ端から自身の所有する小さな鍵のかかった箱に突っ込んでいく。
 食料に抵抗する事はなく、徐々に十六夜の箱に消えるように収まっていくが、村人達の蓄えた備蓄は、全てを回収するには多かった。
「それなら、ナイも持てるだけ……」
 両手に抱えるくらいだけ兵糧を持ったナイの行動を見届けてから、十六夜は以前どこかの仕事で調達した幻覚キノコを代わりに取り出す。
「じゃーん、これを代わりに置いていこう!」
「それ、は……」
「食べざかりの鳥には、おかしいと思うところなんかないさ。はーっはっは、回収した食料はありがたくこっちで使わせてもらうぜ!」
 十六夜は満足したように離脱する。再び空に向かって。
 その評定に悪びれる様子はなく、この後どうせ消えるものだったのだ、と言い聞かせて。訪れた道を引き返すついでに、待機してる数人の攻撃範囲から逃れるように。
「お前は別の依頼で回収した幻覚キノコでも食ってろ!」
 米や稲穂以外の食料をついばみ丸呑みする姿を見た、十六夜は笑いが止まらない。
「指揮官が叫んでも、……こちら、見ないですね」
 ナイは内側から、今度は離脱の路を探す。奪った食べ物を護り切るように徹して。
 長槍を振りかざされても引かず、届く場所を見切って避ける。一部に今だ、鉄壁を見せる半壊した布陣を一番脆い箇所を狙い、転がるように走った。
「越えられない高さなら、念動力と吹き飛ばしの応用で……離脱です」
 自身を念動力で支え、人垣を越えて着地する。
「お、戻ったか」
 たまが最前で戦っていたが、相手にした農民はやはり崩れ倒れていた。
 誰も彼もに傷はなく、平和な戦いをしている。
「はい……微量ですが、備蓄はナイがごく一部。他の人も、持ち出して、ましたね……」
 返還する気があるかは、彼の気分次第な気もするがナイは補足しなかった。
「じゃあ後は……焼き鳥、だな」
 燃え上がる物理的な闘気は、目に見えて空の色を赤く染めている。


●Grilled chicken
 
 立ち上がったピヨたろうは視界が揺れる不思議な体験をしていた。
 少々小柄な自分と同じような姿の個体が、あっちにこっちにたくさん見える。
 豊富な食べ物に満足し、うっとりしたように眠る様がまるで楽園の様相。どれだけ食べても無くならない食料が目の前に広がっている、なんだ、ここが、天国か。
「……なんだか、様子がおかしいけど。いこう、雄凰」
 身を翻して、雄凰は大きく羽ばたきながら、炎をごうと吐き出した。
 撃ち出した標的は、残された兵糧。村人兵たちの、恐らく冬を越えるための毎年積み重ねてきた備蓄。
 ――農民の苦労の結晶だろうから、申し訳ないけど。
「……食べ物で強化されるのも厄介だし」
 申し訳無さと、厄介さは比例する。助けるためには何かは犠牲にするしかなかった。兵糧として彼が一人無意味に食べ漁り尽くすくらいなら、いっそ燃やした方が皆の為となる。考えながら、方向を指示し燃やし、燃やし尽くす。
 風に煽られて、炎に焼かれた一部からの火種はどんどん大きくなり、兵糧置き場全てを飲み込む波となって燃え盛った。
 近場の農民兵が普通に燃え盛る様子を見守っていたが、これは戦法として洗脳が作用することではなかったのだ。
 無慈悲に燃え、白い関ケ原に黒い煙が上がっていく。
「よし、これで……!」
「いざ行かん、村人を、救う為に!」
 スペードスリーはヴェルより早く指揮官の真上辺りにたどり着くと急降下し、ピヨたろうに急激な接近を試みた。
 村人はファランクスの維持の方を優先し、抵抗を見せない。
 彼らにとって、陣取る事以外の指示はないのだろうか。
「ぴよぴよ、ぴぃよぉ~~!!」
 強靭な足で、黒い巨体は地を蹴り飛び上がり、くるりくるり回りながら攻撃体制をとるピヨたろう。
 音を受け取る耳は正常なので、音を頼りに攻撃を仕掛けてきたのだ。
 ただし、視界はおかしな楽園が見えていて、目測は完全に誤っている。
 もふもふなお尻で踏みつけるような落下をすると、落下した地点は燃えまくっている備蓄、もうすぐ跡地。
 ピヨたろうのお尻に、物理的に火が燃え移った。
「それを哀れ、とは言わないぞ。村人の為だ、焼き鳥にはなりたくないだろう」
「ぴぃいぃぃいいいいい~~~!!!!」
「鳴くだけ? キミは一応、偉い立場なんだろう?」
 炎を撒いた犯人のヴェルは、泣き叫ぶだけの鳥を指摘する。
 鳴く言葉以外を発しないなら、意思疎通は出来いないが。
「その翼も、もう要らないよね。尾羽が燃えたら、立派すぎると不格好だものね?」
 ナイフを構えて、ヴェルは投擲する。……無駄なものを削ぎ落とすように。
 羽目掛けて投げられたナイフに、雄凰が炎を灯し、炎の剣となって羽に突き刺さ燃え盛った。お尻の熱さを消せないかバタつくピヨたろうの災難は、続く。
 もふもふしているのが、仇となったのだ。
 ……どんなにもがいても、燃える炎は消えそうにない。
「そろそろ私の出番ってわけね」
 拝借していた大盾の影に隠れて現れてたカーバンクルは、人の背丈ほどある巨大な金槌を振りかぶって、飛び上がり……ピヨたろうの側頭部目掛けて思い切りぶん殴った。ごぉん、という打ち付けた音と共に、折れる音が耳に届く。
「び。びぃいいいいい!」
 痛みにのたうち回りながら、彼には見えない陥没した頭で、丸焼けの火の鳥は体当たりを繰り出した。
 最大級の手負いを残した、カーバンクル目掛けて。一心不乱に。
「最後の晩餐は、もう終わりですよー!」
 声を出して誘導しながら、どどどどと走るピヨたろうの走りが直線である事を確認して飛び退く。
「焼き鳥なら、串は刺すべきだろう。これは串ではないが……仕方がない!」
 アリスランスを構えたスペードスリーがカーバンクルの立っていた場所に庇って割り込み、ランスチャージの勢いで思い切り突き刺した。
「今ならまだ、ウェルダンかもね」
 ――こんがりといい匂いがするから。
 ヴェルの真意はともかくとして、ピヨたろうの決死の体当たりは、威力として誰かを傷つける事は出来ず。
 ランスに貫かれた事で、もがく最後の力すら失っていく。
 瞳の戦意は消えることはなかったが、そのまま燃え続ける羽の炎を消すことも出来ずに彼の延焼は維持されて焼け続け、彼が戦場に形成した巣を黒く焦がして消失した。眠るように、焼け落ちていったのだ――。


 黒いシミを戦場のど真ん中に作った頃、バタバタと倒れだす音と。
 大盾と長槍を取り落とす音が響いた。続いて、ざわざわと話し声。

 指揮官の消失をもって、彼らは何故こんな場所にいるか困惑しているのだ。
「まぁまぁ、不安がることはない。とりあえず、場所を移動うしよう」
 たまの言葉に、農民たちは頷いて戦場に倒れた村人を助けながら、重装備を置き捨てて軽歩でその場を離脱した。
「心が辛くなったのなら、いい言葉を教えよう」
「へぇ……それは?」
「ぴよーっ、だ」
 あるケットシーがそう言った事で、周囲に笑顔が生み出された。
 猟兵達は多少の苦笑いを浮かべたが、洗脳は無事に解かれたのである。

 やるべき事は達成された。
 一つのファランクスが解体され、少しとは言え、だ。
 ――敵側の戦力を削ぐことが、できたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月12日


挿絵イラスト