エンパイアウォー⑱~鬼将来たりて
●軍神vs猟兵
「魔軍将『上杉謙信』に攻撃する好機が訪れた」
ところはグリモアベース。壥・灰色(ゴーストノート・f00067)が淡々と言葉を紡ぐ。
「奴は車懸りの陣を組み、多数の守護兵に護られて軍団を指揮している。……ここに集まった皆には、車懸りの陣をほかの猟兵が攻める間に、陣の深くまで侵徹。上杉謙信を直接叩いて欲しい」
灰色が立体パズル状のグリモアを操作すると、宙に上杉謙信の姿が投影される。
凜とした美丈夫だ。その周囲には十本の刀が衛星のように浮く。
「手にした刀は『毘沙門刀』という。そのすべてが、それぞれ異なる属性を持つ刀だ。謙信はこれらを手足のように操って戦うとのこと。――陣を組み、軍を動かしながら戦う将だけど――直接相対しても、そんじょそこらのオブリビオンとは比べものにならない能力を持っている」
灰色は目を細めながら、一つ息をつく。
「それぞれの毘沙門刀の能力を活かした弱点攻撃や、十二本の刀を使う単純な力押しの連撃、更には属性に応じた天変地異を引き起こす能力と、攻撃のパターンも多彩だ。弱点らしい弱点を案内することもできなくて、申し訳ないけど……今は、きみたちの力を信じて送り出すしかない」
灰色は立体パズルの六面を揃え、現地へ至る“門”を開く。
グリモア猟兵はいつでも――彼ら猟兵を死地に送り出すたび、歯痒さに似た思いを感じるものだ。おれも、現場に行って手伝えたなら――そう思っているのだろう。目を伏せ、瞑目。ややあって顔を上げて目を開く。
「最善のサポートを約束する。……どうか、奴を討ち果たしてくれ」
そして深く頭を下げて猟兵らに、この大一番を託すのだった。
煙
『ご注意』
「このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。」
お世話になっております。
煙です。
まずは特殊ルールの説明から。
『特殊ルール:車懸かりの陣』
軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
……ということで、こちらは⑱、上杉謙信との直接戦闘シナリオとなります。
今回の描写範囲は、日に三~四名様を、期限いっぱい書けるだけ、というところで参りたく思います。
プレイングの受付開始は、「2019/08/09 08:30」より。
プレイングの受付終了は、「2019/08/11 23:59」までとなります。
強敵との戦闘となります。皆様、努々お覚悟の上、全霊を賭して死合いましょう。
それでは、よき戦いを。
第1章 ボス戦
『軍神『上杉謙信』』
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POW : 毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
イラスト:色
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●再臨の軍神、現る
車懸かりの陣を抜け、戦陣の最奥に至った猟兵らを迎えたのは、その高名現代にまで語り継がれる戦上手、上杉謙信である。越後の虎、越後の龍、そして軍神。華々しき戦歴と数々の異名を持つ猛将と、猟兵らは今まさに相対した。
「来たか――猟兵」
猟兵らは駆けてきた勢いのままに攻撃する事を採らなかった。なぜか。――その男の佇まいに、あまりに隙がなかったためだ。迂闊に打ち掛かれば――逆襲を受け、断たれかねぬ。そのような、凶悪なまでの重圧が陣を包んでいる。
軍配を懐に直し、謙信は床机よりゆらりと立ち上がる。長身の美丈夫だ。落ち着き払った所作で、両手に刀の柄を取り、抜刀。露わになる、白の刃と黒の刃。
「先ずは我が精鋭らを退け、ここまで至った事を称えよう。よくぞ我が元へ辿り着いた。流石、我が終生の強敵、信玄を阻んだだけの事はある」
白き刀をひゅうん、と振り上げる。呼応するように、彼の背の刀掛けより十本の刀が浮き、独りでに鞘払い。露わになる十色の天剣。
「――而してここが終着だ。我が『車懸かりの陣』ある限り、貴公らでは私を滅ぼせぬ。――そして、これなるは我が十二の刃、『毘沙門刀』。知謀術数のみの青瓢箪と思って貰っては、些か心外なのでな――」
ひゅんッ!!
白の刀の切っ先が落ち、猟兵らを射竦めるなり、浮いた十本の毘沙門刀もまた、猟兵を睨む如く地と水平に刃を据える!
「貴公らに見せよう、我が毘沙門刀術の精髄を。そして地に浸み、ここで果てよ。――おお!! 毘沙門天の加護ぞある!! 常勝不敗の我が刃、恐れぬものから前に出るがいい!」
――エンパイアウォー、序盤の山である!
敵対象、魔軍将――“軍神”『上杉謙信』!
グッドラック、イェーガー!!
御鏡・十兵衛
名高き越後の軍神と戦えるとは、まさに望外の幸運。
色々と裏を知っているようでござるが、そんなことはどうでも構わぬ。
今はただ、この刃を届かせるのみ。
しかし、先手を取れるからと、闇雲に手の内を晒すは愚策よ。
取るは受けの構え。12の刀の攻勢の流れを冷静に【見切り】耐え凌ぎ、勝機を見出さん。当然、傷など厭わぬ。この刃届くならば、腕や足の一本くらいくれてやっても良い。
仕掛けるべきは某の背後から来る刀と奴とが一直線に結ばれる瞬間、奴の刀に映った『奴自身』の鏡像を斬り、現実に写しとる。
距離も防御も関係ない。『映った』ならば、そこは某の間合い。
幻を斬って現と為す。それこそが水鏡の奥義が一『斬映』
●因果反転の天剣
「名高き越後の軍神と戦えるとは、まさに望外の幸運よ。何やら色々と裏を知っているようでござるが――今はどうでも良い事。我が刃、神に届くか――一手死合うて、確かめよう」
いの一番に踏み出したのは、御鏡・十兵衛(流れ者・f18659)。その目は爛々と金色に輝き、この戦いを言葉の通り、常にない幸運と認めるかのようだ。
相対距離六間半――謙信が空色の目を瞬かす。
「ほう? ――教える、教えないの別はともかく。猟兵ならば私の言葉の意味を探るものかと思っていたが」
「不要。剣戟にて語ろう。某、姓は御鏡、名は十兵衛と申す」
試すような謙信の言葉に、竹を割ったようなさばさばとした調子での返し。
十兵衛が抜く刃は冬の湖水が如く、澄み渡り透き通った刀身をしている。十兵衛は『止水』と呼ぶその刀を正眼に構え、真っ向、輝く目もそのままに啖呵を切った。
「我が水鏡の剣でお相手致す。参られよ、謙信公」
謙信が儀式魔術『Q』の存在を知る事も、グリモアの存在を知っている事も――全て些末だ。そも、問い糾そうとも真実が返るとは限るまい。ならば剣を交えるのみ。十兵衛は言外にそう言い、軍神を前に構えを取ったのだ。
「よくぞ吼えた。ならば、我が毘沙門刀の威、その身にて確かめるがいい」
――その在りよう、潔し。
僅かに口元を笑みに歪めた謙信が、動いた。瞬足。
ど、ば、ばあん!
地面が連続して爆ぜて、瞬きの後には十兵衛の至近に謙信の姿! 十兵衛は襲いかかる白黒の刃の斬撃より辛うじて身を捌き、懸命に回避行動を取る。
(闇雲に手の内を晒すは愚策よ)
謙信に先手を取る能力がないとは言え、その力は強大。己の武器は、切り札は、最後の一瞬まで隠すべきだ。それ故の啖呵、それ故の受けの構え。
謙信は一呼吸で四合の斬撃を叩き込んでくる。十兵衛は一刀にてそれを捌かねばならない。速度、地力、全てにおいて上を行く謙信に、しかし十兵衛は気迫と覚悟にて応じた。
打ち下ろされる斬撃をいなす。そのまま切っ先を胴まで下げ、胴薙ぎ払いを受ける。火花が散る。先に払った打ち下ろしが切り上げに変じ首に飛んでくるのを顎を逸らして回避――
打ち合い、避けて、十一合までを辛うじて凌いだ十兵衛だが、しかし謙信の攻撃は加速するばかりだ。
「なかなか骨がある。――だが我が毘沙門刀はただの二刀にあらず」
苛烈な二刀斬撃に加え、周囲から更に複数の毘沙門刀が降り注ぎ、逃れんとする十兵衛を追撃する!
「ぐうっ……!」
さしもの十兵衛といえど、手数が違いすぎる。二刀のみでも長くは保たないと思われたものが、その六倍の手数だ。加速する剣戟に瞬く間に追い詰められ、闇・火・風の毘沙門刀がその腕に脚にと突き刺さる。
「……ッ!!」
蹌踉めいたところに踏み込む謙信の渾身の斬撃。戦士としての十兵衛の本能が刃を跳ね上げた。辛うじての受け太刀。直撃を回避こそすれど、撃ち込みの撃力は凄まじく、十兵衛の身体は木っ端のように吹き飛ぶ。
謙信に油断はない。吹き飛んだ十兵衛の周囲に向け放たれた毘沙門刀が、彼女を全周囲より取り囲んだ。
「まず一人」
宣言する如く告げ、右の黒刀を振り下ろす!
刀を杖に辛うじて立とうとする十兵衛に、全方位からの毘沙門刀が襲いかかり――
十兵衛の金眼が、煌めいた。
ただ、その一瞬を待っていた。奴が放つ刃に、奴の姿が映り込むその瞬間を。
この奥義の前には、距離も、防御も関係ない。十兵衛は周囲から飛び来る刀のうち、三本――最もよく『謙信の姿が映った刀』に狙いを定めた。
――手足の二本三本、くれてやる。止水を握るこの右手があればよい。……『映った』ならば、そこが某の間合いよ。
十兵衛は歯を剥いて笑い、修羅が如く舞った。一瞬にて三閃。斬・ざ、斬ッ!! 振り抜いた刀が、毘沙門刀三本を打ち払い――即ち、『映り込んだ謙信』を斬り――
それを、『鏡像を断った』という因果を、『現実に写し取る』ッ!!
「――!!」
ぶし、と血の飛沫。謙信の胸に三条の傷が刻まれた。その隙に十兵衛は、コントロールが狂った毘沙門刀の間を転がり抜ける。
鏡像を断ち、その因果で本体を断ずる。幻を斬って現と為す――これぞ水鏡の剣、奥義の一つ、『斬映』である!
「毘沙門刀、美事なり。――しかし某の『斬映』も、中々のものでござろう」
「……認めよう。御鏡・十兵衛」
重い声で言う軍神。しかして血はすぐに止まり――構えを改めた謙信は、今だ十二分の余力を残して見えた。
「これで終わりではあるまい。続けようぞ、猟兵」
――斯くして、戦端は開かれた。
猟兵らと軍神の戦いは、未だ始まったばかりである!
成功
🔵🔵🔴
喜羽・紗羅
◎
何とか辿り着いたが……
(随分弱気ね、らしくもない)
当たり前だ、敵は軍神――越後の龍だぞ
勇気だけで立ち回れる相手じゃねえ
らしくないわね、本当に
あんたがそんなに怖がってどうするのよ
――分身が、紗羅と鬼婆娑羅が二つに分かれ
私はもっと怖いわよ。だから
……そうだな、さっさと終わらせるか
紗羅は地形を利用し偽装バッグの機関砲で援護射撃
身体能力を活かして牽制を
鬼婆娑羅はそんな紗羅を守ると見せかけ
徐々に間合いを詰めて一足一刀まで近寄る
弱点はどう見ても私よ
だからあんたに託すわ
間合いに入ったら太刀を薙刀に変形
一太刀目で毘沙門刀をなぎ払い攻撃を受け流し
二太刀目で鎧ごと貫く突きを放つ
耐えろよ紗羅! これで終いにする!
メルノ・ネッケル
右手にトンファーを、左手にリボルバーを構える。
……【勇気】を出すんや。
奴を打ち破らん限り、うちの故郷に未来はない!
軍神・上杉謙信……いざ尋常に、勝負っ!!
まずは向こうの先手!
懐に入られれば斬られるのは必然、無傷ではすまん……けど!太刀筋を【見切り】、トンファーで【武器受け】!
少しでも刀を捌き、致命傷だけは避ける!
そう……深く傷を負う、それも反撃への布石。
瀕死で無ければ、出来ないことがある!
助けてくれ……『戦場の亡霊』!
うちとこの地の亡霊とで、奴を挟み撃ちにする!
拳銃は慣れへんやろうけど……何、火縄のアレより簡単。狙って引き金を引く、それだけや!
二人で放つ二連射、【2回攻撃】……受けろ、軍神!!
●デモンズランス・ウィズ・ゴーストバレッツ
十兵衛が切り開いた戦端に雪崩れ込むように、猟兵らが続いた。
まず飛び出したのはメルノ・ネッケル(火器狐・f09332)。右手にトンファー、左手にリボルバーを構え、彼女は真っ直ぐに強大なるオブリビオン――謙信を睨み据える。
本当は、震えてしまうほどに恐ろしい。然りとて、恐れるばかりでは何も守れぬ。抗わねば呑み込まれるのみだ。
――奴を打ち破らん限り、うちの故郷に未来はない!
メルノは勇気を振り絞る。このサムライエンパイアに生まれた身として、この世界が骸の海に沈むなどとは断固として容認できない。愛する世界を救う、ただそれだけのため。ひとかけらの勇気を燃やして、狐は声も高く吼えた。
「軍神・上杉謙信……いざ尋常に、勝負っ!!」
「よかろう。土産首は幾つあろうとも悪いものではない」
相互確認は一瞬。メルノはすぐさま跳ね上げた『アサルトリボルバー』で三連射を放つ。
しかし僅かに謙信の剣先が揺らめいたと見えるや、三つ火花が咲いて銃弾が逸れた。息するような容易さで銃弾を弾いたのだ。そのまま、後の先を取る如く踏み込んでくる。やはり速い。メルノが次弾を放つ前に一瞬で距離が詰まり、空が落ちてくるかのような重圧を伴う振り下ろしの一撃が放たれた。
「くうっ!」
メルノはトンファーを振り上げ、角度をつけて刃を受け流す。続けざまの胴払いを地を這う如く屈んで避け、上からの打ち下ろし突きが来る前に水面蹴りで敵の脚を狙った。謙信は片足跳びに飛び退くなり、飛ぶ毘沙門刀を車懸かり式に連射、連射、連射!
メルノは最早声もなく、飛び来る毘沙門刀をトンファーで、銃のバレルで弾き、吹き荒れる刃風の間を這々の体で駆け抜ける……!
攻撃の苛烈さは凄まじい。彼女に類い希な見切り、そして防御の技術なくば早晩落命していたであろう。肩を、腕を、脇腹を、貫かれ割かれ。しかして致命傷だけは回避する。
どう見ても劣勢だ。しかしメルノは諦めぬ。その瞳から、光は消えない――
「――なんとか辿り着いたが、……」
喜羽家を遡る事遙か、名にし負う無頼漢たる鬼婆娑羅が辿り着いたのは、まさにメルノが血みどろのクロスレンジ戦を演ずるその最中であった。
メルノとて一流の猟兵。それを一方的に防戦に立たせる軍神の戦闘力とは如何ばかりか。僅か心に浮く怖気を、振り払うように心の裡に声が響く。
(随分弱気ね、らしくもない)
――当たり前だ、敵は軍神――越後の龍だぞ。勇気だけで立ち回れる相手じゃねえ。
心の裡に独言を返す。溜息を挟んだような暫時の沈黙のあと、鬼婆娑羅の身体が二重にぶれて遊離し、人の形と質量を持って地面に着地する。『オルタナティブ・ダブル』。
降り立つのは鬼婆娑羅と全く同様の姿をした――否、瞳だけが栗色の、少女。
「らしくないわね、本当に。あんたがそんなに怖がってどうするのよ」
喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)だ。鬼婆娑羅の子孫にして、彼を心の裡に宿す猟兵である。
「あんたが怖いんならね、私はもっと怖いわよ。……でも、立ち向かわなきゃいけない。違う?」
真っ直ぐな紗羅の目が、鬼婆娑羅の紅の瞳を射貫くように見据えた。
鬼婆娑羅は、謙信への怖れが揺れていた瞳を二度瞬かせ――は、と嘆息一つ。
「……お前に説教されるとはな。――だがまぁ、そうだな。やるしかねぇのはその通りだ。さっさと終わらせるか」
「ええ。……私が援護するわ。あんたは、前に切り込んで」
「応」
意識を合わせ、二人はそれぞれの役割を果たすべく走り出す。
「くうっ……!!」
メルノは機関銃めいた速度での六連射を放つ。しかしそれすら謙信の周りに浮かぶ十刀が、盾の如く回転して全て弾いて退ける。
「それが貴様の限界だ、猟兵」
言い含めるような謙信の声。メルノの意思を挫こうとするかのような、重い声。
「うちは……まだ、やれるっ……!!」
対して、血を吐くような声で絞り出すメルノ。否、真実その口端からは血が滴り落ちる。貫かれ、傷ついた肺腑よりの喀血。想像を絶する苦しみであろうに、メルノは尚もアサルトリボルバーに魔力を注ぎ、自動詠唱に依って再装填。
「――死なねば分からぬか」
哀れむような語調で言うなり謙信は手にした毘沙門刀を引き、メルノの首を断たんと斬撃を繰り出す――が、その刹那。謙信が目を見開く。
「む……!」
ガガガガガガガガガッ!! 左方より突如として機関砲の連射! 謙信を狙った的確な援護射撃だ。謙信はダメージを避けるべく黒白の毘沙門刀を翻し、二刀にて砲弾を払って跳び下がる。一瞬前の殺意の知覚。野生の勘めいた鋭さだ。
「混ぜてもらうぜ。――紗羅! 撃ちまくれ!!」
「言われなくたって――あんたに全部託すわよ!」
紗羅が機関砲で謙信を猛撃し、その隙に鬼婆娑羅が前進する。砲弾の切れ間に身体をねじ込むようにして、疾駆! 瞬く間に鬼婆娑羅は敵の至近に到り、軍刀拵太刀『奇一文字改』を電磁抜刀ッ!!
「っせああああッ!!」
「新手か。――単純な剣だ」
鬼婆娑羅渾身の電磁抜刀からの一太刀を、謙信は二刀で真っ向受け止めた。撃力に数メートル推されるがしかし、即座に毘沙門刀十二刀を回旋。切っ先を鬼婆娑羅目掛けて放つ!
「単純かどうかは……こいつを見てから言うんだな!」
しかしそれよりも鬼婆娑羅の次手が速い!電磁レールを内蔵した鞘『ムーバブルシース』が奇一文字改の柄とジョイントし、大薙刀の体を為す! 嵐の如く振り回し、毘沙門刀を弾き散らしながら前進!
「なんと――」
そのあまりに突然の変形、そして間合いの変化に謙信が瞠目した一瞬の隙を衝き、鬼婆娑羅は弾けるように前進。腕の振り、腰の回転、走り発生するその運動エネルギーをフルに伝達し、鬼婆娑羅は大薙刀の最大射程――その間合い、敵前約三メートル地点より薙ぎ払いを繰り出す!
「むうっ!」
含み気合、二刀にて受け止める。撃力にて一瞬動きが止まったところを、
「こいつで終わりだ、貫けッ――!!」
大薙刀をまさかの片手保持、右片手平突きッ!!
「――舐めるな!!」
並のオブリビオンならばその乾坤一擲の一撃の前に為す術なく滅びていただろう。しかし、此度の相手は常勝不敗の軍神である。謙信は飛葉の如く右前に踏み出し、鎧の表面にて大薙刀の刃の反りを撫で流す!
「避けるかよ、今のを……!」
謙信はそのまま間合いの内側に踏み込み、鬼婆娑羅を貫かんと白刀を引く――!
だが!
「終わってへんって……言うたやろ!」
そこに再三メルノが割り込む! 彼女は鬼婆娑羅が駆けるその後ろを、満身創痍の身体を押して追いかけていたのだ。――そう、今まさにその身体は死の淵、瀕死の重傷にある。
「またぞろ当たらぬ火縄を放つか、狐!」
「何度だって試すわ。――この世界の、うちの故郷のためならッ!!」
吼えるなりメルノは引き金を引く。謙信は弾道を完全に予測し、刀を構え――
そして、銃声が響いた。
・・・
――その数、十二発。
「なんと……、」
謙信の防御は完璧であった。確かにメルノが放った六発の銃弾は残らず弾かれたのだ。……だが、しかし!
メルノが流血を押して尚も前に駆け来た理由がそこにある。何度も愚直な銃撃を放ち、『攻撃は前からのみ』と刷り込みをかけ――その上で、瀕死にならねば召喚できぬ『戦場の亡霊』を敵の背に喚び寄せ、アサルトリボルバーによる六連射を前後から浴びせたのだ。
「――どうや、軍神。『当たらぬ火縄』の味は」
「ッ……味な真似をする……」
蹌踉めく謙信。メルノもまた不敵な笑いと言葉を最後に膝をつく。
「いい一撃だった――見届けたぜ」
となればこれは、鬼婆娑羅の機!
「今度こそ――喰らいやがれ!!」
メルノの一撃の間に体勢を整えた鬼婆娑羅が放つ渾身の薙ぎ払いが、謙信の身体を真芯から捉え――吹き飛ばすッ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒川・闇慈
「毘沙門天の化身、上杉謙信ですか。お手並み拝見といたしましょう。クックック」
【行動】
wizで対抗です。
属性攻撃、高速詠唱、全力魔法の技能を用いて氷獄槍軍を使用します。
天変地異の攻撃をまともに喰らってしまうと危険ですねえ。攻撃範囲も広そうですし、きちんと迎撃しましょう。氷槍の半分は天変地異への迎撃に使用します。
天変地異をしのいだら、残りの氷槍で謙信本体を攻撃です。刀で迎撃しきれないよう、氷槍を多方向から一斉に斉射するといたしましょう。
「流石は戦国最強とも名高い軍神ですねえ。本人も随分お強いことです。クックック」
【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】
アルトリウス・セレスタイト
◎
祀られてこそ神だろう
鎮座して祈りでも待っていろ
破天で対処
魔力を溜めた体内に魔弾を生成・装填
高速詠唱での最速の装填を、纏う原理――顕理輝光『再帰』で循環させ更に高速化
溢れる分を周囲にオーラで押し留め保持
それら全て統合し、自身と周囲の球形空間を巨大な死の魔弾と化して対峙する
攻めるに必要なものも含め、『超克』にて魔力を“外”から汲み上げ供給
『無現』『虚影』にて迫る驚異を虚無へ往なし
『励起』『解放』で魔弾を推進力に変換し戦闘機動を構築
『天光』『天冥』にて目標を逃さず捉え
『絶理』『討滅』にて魔弾を形成した刃で斬り捨てる
●今一度、過去/未来と対せ
前衛が入れ替わり立ち替わりと攻撃を繰り出すのを見つつ、間接距離より機を伺う二つの影がある。
「毘沙門天の化身、上杉謙信ですか。お手並み拝見といたしましょう。クックック」
「……毘沙門天というのは、東洋の神の名前だったか」
薄ら笑みを頬に貼り付け、泥を煮詰めるような笑い声を漏らすのは黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)。対照的に感情を表さず、無表情で戦況を伺うのはアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)。両者、優秀な超常の術師である。
「そうですね――梵名をヴァイシュラヴァナ、仏教における四天王の括りでは多聞天とも称します。上杉謙信は己をその生まれ変わりだと称して憚らなかったとか……クックック、武神を名乗るとは剛毅な事です。戦国最強と伝えられるだけの事はありますねえ」
「……気に入らんな」
闇慈の詳細な説明を聞いているのかいないのか、アルトリウスは相変わらず表情を動かす事なく、言葉だけで不快を表明した。
「おや――思うところがおありで?」
薄ら笑いのまま闇慈が問うと、アルトリウスは視線を交える事のないまま端的に答えた。
「祀られてこその神だろう。それが骸の海から這い出て、利益どころか災厄を撒いている。――大人しく鎮座して祈りでも待っていればいいものを」
「ははあ、なるほど。道理でございますねえ。……では一つ――神殺しと行きましょうか、クックック」
闇慈が詠唱を開始すると同時に、アルトリウスもまた己が体内の魔力を術式に通した。顕理輝光『再帰』、起動。術式をその名の如く再帰的に循環させ、詠唱を単純に高速化する。
「離れていろ」
「仰せの通りに」
トッ、と闇慈が脇に跳べば、アルトリウスの周囲三メートルの球状範囲が、蒼い光に埋め尽くされる。死の概念を固めた魔弾である『破天』を無数に構築、体内に装填、余剰分をオーラ操作によって体外の球形空間に留めおき――彼は、彼自身を一発の巨大な魔弾へと練り上げていく。
「また面白い術を使われますねえ」
「殺傷効率を求めると、ここに帰結するだけの話だ」
事も無げに応えながら、アルトリウスは前衛の猟兵達が打撃を受け後退を余儀なくされた瞬間、ぐん、と前傾姿勢を取った。
「先行する」
「ご随意に」
闇慈が応えた瞬間にはもはやアルトリウスは地を蹴り、飛翔していた。その推進力もまた、周囲に満たした魔弾を運動エネルギーに変換することで生み出されているもの。言うならば、今のアルトリウスは彼自身そのものが自律思考推進式のマジック・ミサイルだとでも言うべきだろう。
「クックック……せっかちな方だ。まさに弾丸と言ったところですか。さて……私は私で、すべきことをすると致しましょうかねえ」
闇慈は詠唱を重ねていた魔術の照準を遠距離より謙信に絞る。――その刹那だ。謙信がそれに気づいたかのように闇慈の方へ視線を走らせる。
「おや」
闇慈は軽く目を瞠った。彼我の距離、約四十メートル。届く物音もなしに、闇慈が詠唱する魔力の存在に気づいたとでも? ――そんな訳はあるまい。何かしらのからくりがある。
「第六感では片付けられないですねえ。……まあ、構いません。真正面からぶつかるのも、私の魔術の性能を証明するためのいい機会でしょう、クックック」
視線の先で、魔弾となったアルトリウスが謙信に向けて流星の如く突っ込んでいく。応ずるように謙信が二刀で天を示す如く、刀を高々と掲げた。
その瞬間、巻き起こるのは――周囲にある陣幕を、軍議用の机を、床机を、刀掛けを、何もかも灼き尽くすような巨大な炎の竜巻であった。おそらくは炎と風の属性を持つ毘沙門刀を掛け合わせたのだろう。
さしものアルトリウスといえど道を阻まれた。否定の原理でその炎を挫きながらでは攻撃に転じられぬ。
逆に言えば――あの炎を切り拓けば、アルトリウスが攻撃を叩き込むことができる。押すならば、今だ。
「――ならばご覧に入れましょう。一切全てを貫き駆けよ――」
魔術杖『メイガスアンプリファイア』を地に衝き、闇慈は己が編み出した魔術の真名を開帳する。
コキュートス・ファランクス
「――氷 獄 槍 軍」
周囲の気温がまるで、熱を奪われたかの如くに急激に低下。闇慈の周囲に百本あまりの氷の槍が析出する。
「行きなさい」
先ずは生成した第一波を面的に叩きつける。唸り飛ぶ百本の槍。それは炎の竜巻を掻き消すにはあまりに心細く思えたが――なにも、掻き消す必要があるわけではない。
一対一で相対したならば難儀しただろうが、今の彼は一人ではない。
「……道を開け!」
アルトリウスを避けて飛んだ氷の槍が、爆ぜた。爆ぜたと言うよりは――分化した、という方がふさわしいか。分かたれて矢のサイズとなった無数の氷弾が炎の竜巻の一角に突き刺さり、一瞬で昇華。水蒸気爆発を引き起こし、穴を開ける!
「――!」
「さあ――第二幕です」
炎の竜巻の中心で目を瞠る謙信めがけ、アルトリウスが光を纏い、要塞めいた炎の竜巻の中へ突っ込んだ!
半径三メートル超の輝く魔弾と化したアルトリウスは纏う魔弾の光を推力に変え、真っ向から謙信へ迫る。『死の原理』たる光を纏うアルトリウスに対し、しかし謙信の対応は冷静を極めた。
彼は直ぐさま、斬れると――何の疑いもしないかのように身体を巻き、右の黒刀を構えた。
アルトリウスの背に、湧き上がるような戦慄が這う。突撃し、身体ごとの体当たりで滅却するつもりでいた彼は、その危険信号に逆らわずコースを逸らした。半径三メートルの球場領域の隅で、かすめるように謙信を『削り取ろう』とし――
しかし、斬られた。破天により作られた魔弾領域が、敵の一刀にて断たれた。アルトリウスはそのままにフライパス。己に被害があるわけではないが、しかし術理を破られたことに変わりはない。
「む――」
アルトリウスは驚愕を露わとはしない。――だが、敵が何をしたかが分からぬ。
「意外そうだな。猟兵よ」
「――」
謙信の言葉には応えない。アルトリウスは現状を分析する。――生み出した魔力の総量が減っている。敵の刀が、『死の原理』を断った。何をしたのか。
地面に降り立ち、破天を再詠唱、再装填しながら向き直るアルトリウス。
先ほどよりも薄れつつある炎の竜巻を背に、謙信は謳うように言った。
「我が毘沙門刀のうちでも、この二本は特別でな。これら二刀は過去を読み、未来を詠む。貴様がいかなる術を纏おうが、我が二刀は『それが発生する前』と『それが消えた後』を現出し断つ――人呼んで、アンヘルブラック。そして、ディアブロホワイト」
黒騎士と白騎士の名を冠する二刀。ここでその名を聞くとは思わなんだか、アルトリウスも驚きに目を見開く。
「さて、次は何を見せてくれる、猟兵」
一人の武士として、正々堂々と手の内を明かす高潔さを見せつつ、謙信は事も無げに続けた。アルトリウスは沈黙を挟み――球状領域を解除。最低限の魔弾を足に装填。残りを全て右手に集める。周囲から魔力を汲み上げ、より、高密度に。より、固く。球状領域で斬られるのならば、あれよりも存在密度を高めればよいとの判断。
結果、生まれ出ずるのはただ一本の青き剣。
「ほう」
興味深そうな謙信の声を余所に、アルトリウスは破天の蒼光にて成した剣を手に、脚に溜めた魔弾を励起、解放。瞬足の踏み込みにて疾駆し、謙信へと蒼剣を振り下ろす。謙信も応じて刀を振るった。黒刀と蒼剣がぶつかり合い、その余波で周囲の紅き竜巻が弾けるように霧散する!
「如何程使うか――試して進ぜよう」
翻って、謙信が攻勢に出る。
剣戟、剣戟! 最早防御を棄てて回避力と攻撃力に全てを充てたアルトリウスでさえ、謙信の攻撃を凌ぎきれぬ。斬撃がその身体を刻み、血を飛沫かせる!
だが打ち合えている。存在密度を高めれば、過去を辿っての消去も、未来を辿っての消去も遅れる。決して、謙信の剣は無敵ではない! アルトリウスは眦を決し、一際強く打ち込んだ。同時に、軋みを上げる原理蒼剣を爆ぜさせる!
「ぬうっ?!」
爆光を上げて一瞬だけ目を眩ませ、上方に跳躍。目を後方に走らせれば、言葉も交わさぬのに、闇慈が再び魔杖を構えていた。
「クックック――斯様な嵐のような戦場、恐ろしくて近づけもしません――故、遠くから失礼しますよ」
今一度、闇慈が魔杖で地面を衝けば、氷獄槍軍が無詠唱で吹き荒れる……否! それは、先ほど詠唱し放った――残りの半分だ! 既に詠唱の済んでいたものを放つだけとしておき、闇慈は最適なタイミングを計って氷槍の嵐を吹かせたのである!
「時間差か……!」
謙信は周りをぐるり取り囲み唸り跳ぶ氷槍を次々斬り払い、打ち払う。さりとて氷槍は一瞬にて一〇〇余! 再び炎の嵐を起こせば防げたろうが――あの規模の攻撃を連発はできぬのだろう。謙信は十二本の毘沙門刀を車懸かりに廻し、氷槍の一斉射を払うが、
「ぐうっ!!」
果たして、防ぎ切れぬ数本の氷の槍が突き立ち、飛沫いた血までもが凍る!
そこへ血を霧の如く散らしながらアルトリウスが落ちた。剣は先ほどまでよりも細く短い。しかし、脚に集中させた魔力は最速を極めるが如く苛烈に爆ぜた。
「お前は神ではない。ただの過去の染みだ」
アルトリウスは断じ――彗星の如く疾った。蹌踉めいた謙信の身体に蒼の剣が吸い込まれ――獣めいた叫びと、赤き血が迸った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
明智・珠稀
◎
あぁ…なんと美しい…!(恍惚)
美しさ、佇まい、貴方が敵でなかったら
お仕えし車懸りの陣に加えていただきたい程…!
(UC【トキメキに死す♥️】発動。
妖刀を構え、上杉軍風の服に身を包んだ明智達出現)
12本の剣対、本体含め50人の明智
勝負です…!
■戦闘
半分の明智は妖刀を、半分の明智は黒革の長鞭を装備
【先制攻撃】にて鞭組が敵の攻撃を【武器受け】し阻み
また【武器落とし】を
妖刀組が【衝撃波】と【鎧砕き】の妖刀による斬撃を
「色んな耐性は持ち合わせております…!」
敵攻撃&敵UCには各種攻撃耐性や【激痛耐性】、オーラシールドによる【オーラ防御】を
「ふふ、総力戦です…!」
車懸りの陣の如く激しく動き翻弄する攻撃を
形代・九十九
車懸りの陣か。……なるほど、覚えたぞ。
ならばおれもその真似をさせてもらうとしよう。
歴史を紐解くならば、かるたごのはんにばるという名将の戦術を、ろーまの大すきぴおとやらが、模倣し見事意趣返ししたという。
俄仕込みの猿真似だが、おれでも有効に活かせるのなら、それだけおまえの戦術が強力だという事だ。
……せいぜい悪く思え。
「偽・百鬼夜行」にて分身をレベル体作成、本体を囲んだ陣形にて相対。
分身は攻撃しては退き、次の攻め手へ交代する連続攻撃を仕掛けつつ本体を襲う毘沙門刀への【盾】となる。
本体は【学習力】で謙信の攻めの癖を分析、手薄と判断した箇所に【激痛耐性】で堪えつつ【捨て身の一撃】での【串刺し】を見舞う。
●合戦車懸り・二重螺旋
アルトリウスが加えた有効打の流れに乗るように、更に二人の猟兵が寄せた。
「車懸りの陣か。……なるほど、覚えたぞ。ならば、おれもその真似をさせてもらうとしよう」
呟くのは形代・九十九(抜けば魂散る氷の刃・f18421)。
「あの上杉謙信公に車懸りの陣をぶつけると? これはまた――ふふ、滾ってしまうような事を仰るのですねぇ」
頬に手を当て、上気させながら応じるのは明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)。
「なにも特別な事であるまい。歴史を紐解くならば、かるたごのはんにばるという名将の戦術を、ろーまの大すきぴおとやらが、模倣し見事意趣返ししたという。その再演をしてやろうというだけのこと」
九十九は戦史を珠稀に事も無げに答えると、自身の周囲に、彼自身を模した人形を無数に召喚する。
ユーベルコード『偽・百鬼夜行』。人形はそのそれぞれが五尺の野太刀『物干し竿』を模した刀を手にしていた。一瞬で本人含め三九名の軍勢となり、駆けるその横で、珠稀もまたすらりと妖刀『閃天紫花』を抜刀する。
「そういうことであれば私にも心得がありますので、ご一緒させて頂きましょう」
「心得……?」
九十九が目を瞬く間に、彼らの接近を悟った先行猟兵がスイッチするように戦線を退く。
「新手か。まるで我が車懸りを見るかのようだな」 長身の美丈夫は空色の瞳で珠稀と九十九らを睥睨する。そのさまにはぁ、と桃色吐息で身をくねらせる珠稀。
「あぁ……なんと美しい! その凜とした佇まい、精強な体躯、刀も含めて一枚の絵画のような美しさ! 貴方が敵でなかったら、お仕えし車懸りの陣に加えていただきたい程……!」
珠稀は謙信の姿に感銘するように、己の内心を吐露する。――昂ぶる感情が、周囲の空気をぐにゃりと歪めた。
「これは」
九十九は『心得』の意味を悟る。
ユーベルコード、『トキメキに死す♡』。珠稀の感情の昂ぶりに従い、分身を召喚するユーベルコードだ。現れる珠稀らは一様に上杉軍の装いを真似ている。
その数、本人を含めて五十名。その半数が黒革の長鞭を持ち、本人含む半数は妖刀を持った編成だ。「……惜しいな。そのような多勢を一人で実現できるとあれば、さぞやよい戦働きが出来たであろうに」
謙信は目を細め、迫る猟兵の群れに向き直り構えた。
当初二名だった九十九と珠稀は、今や総勢八九名の軍勢となった。地を揺るがし駆ける百名近い一軍と、たった一人の孤軍、上杉謙信が今、真っ向からぶつかり合う――!
分身で外を固め、中央に本体を置いた陣形で、九十九と珠稀は謙信に襲いかかった。
「ふふ、総力戦です……!」
珠稀・九十九連合において先手を打つのは最前衛にて鞭を持つ珠稀らだ。先ずは長鞭によって謙信の持つ毘沙門刀を叩き落とし、絡め取る狙いである。しかし謙信もまた強力なオブリビオン、彼が操る毘沙門刀は巧みに長鞭を斬り払う。一本が柄を絡められれば他の刀が束縛を斬り離す。
――だが、そのように鞭の対処に追われるということは、つまり攻撃する機会を損失しているということに他ならない! 距離が詰まる。白兵戦の間合いだ!
「廻れ、廻れ!」
九十九の指揮に従い、鞭持つ珠稀らが後ろに回り、続いて九十九の人形と、刀持つ珠稀の分身が前に出る。
珠稀らが刀から衝撃波を放っては後退する中を、人形らが前進して接近戦を挑む。
ど、ど、ど、どうっ! 地を砕きながら走る衝撃波を謙信は両手の二刀にて舞踊が如く回り斬り裂き弾いた。
そのまま一時とて止まらず、爆ぜるように前進。謙信を中心として十本の刀が放射状に円陣を組み、回転鋸めいて高速輪転! 人形らが斬り裂かれ、瞬く間に数体が薄れて消えるが、しかしそれを支えるように後ろから次々と珠稀の分身らが襲いかかる!
戦況は拮抗して見えた。真っ向から――この強大なオブリビオン相手に、九十九と珠稀は正面から渡り合っているのだ!
「我が陣を模倣してみせるか、猟兵」
「俄仕込みの猿真似だが、おれでも有効に活かせるのなら、それだけおまえの戦術が強力だという事だ――せいぜい悪く思え」
「思おうものか。武人の誉れである」
謙信は一歩も退く事なく、両手の毘沙門刀をヒュンと宙に放り、両手で刀印を組んだ。
「なれば我が本式の車懸りもお目にかけよう。廻り廻れ、毘沙門刀・車懸り!!」
「!」
両手の二刀を刀の円陣に加え、全てを毘沙門刀の操作に割り当てたか! 十二本の毘沙門刀は速力を増し、まさにそれぞれが謙信の手に持たれたような速さで回転する。
「衝撃波を!」
「はい……!」
珠稀らが前に出、妖刀の衝撃波にて謙信を一斉迫撃するが、それは白と黒の剣――未来と過去の現出を司る剣により斬られ、『発生前』と『消滅後』に還元される。即ち、凪。攻撃は謙信に届かぬ。
「今度はこちらの番だな」
ぎゃ、ら、ら、ら、ららっ! 謙信の周囲を円形に囲んでいた毘沙門刀が穂先を戦線に向け、整列! 追撃をかけようとする九十九の人形らを猛撃する! 刺突、斬撃、火焔、流水、飄風、土礫、氷柱、天変地異が如き苛烈な攻撃! 穿たれ断たれ次々と消えていく人形。それをフォローしようとした珠稀の分身も同じだ。如何に耐性があろうとも――限度を超えるダメージを負えば消滅するは道理。
「ああ、ああ、ゾクゾクしてしまいますねぇ……! 流石は天下無双の軍神、刀とはいえ元祖の車懸り!」
九十九の分身に数で勝る珠稀が、鞭持つ分身に抜刀させ前衛の数を補う。しかしそれも焼け石に水か、斬りかかる珠稀らを、篠突く雨のごとく繰り出される毘沙門刀の突きが次々と沈めていく!
最早総戦力は当初の三分の一。だが、珠稀の顔から恍惚は失せず、九十九の目から光は消えぬ!
「――車懸りを棄てる!」
九十九は策を切り替えた。この指示は彼の学習力の賜物だ。
車懸りはある程度数がなければ回転が上がらず、疲弊するだけの陣形となる。謙信は疲れを知らぬ十二の刀を、しかも高速で操る事でその回転を高め、グラインダーのようにこちらの兵力を削り取って見せたが、それに正面切って対抗するのは愚策だ!
ならば、どうするか!
「全員で前進! 前衛は守りを固めろ!!」
「承知致しました……!」
珠稀が分身に命を下すなり、珠稀の分身らは手袋からオーラシールドを展開。その効果範囲を隣接する分身と重ね、強固にして強力な盾を形成する!
「全員、突撃ッ……!!」
三〇名余の分身を前衛に置き、九十九と珠稀は己の武器を構えて謙信を圧殺せんと前進。
「ふ――」
その判断に声を漏らし笑う謙信。そこには嘲弄の響きはない。より柔軟に、水の如く策を変じる事がこそ戦の肝と知るが故の笑いか。
「……来るがいい、猟兵!」
謙信は車懸りを継続。珠稀らの盾を穿つべく毘沙門刀を連続射出するが、過去を喚ぶ黒刀と未来を喚ぶ白刀以外の攻撃では、珠稀らが張った強固な盾をすぐには砕き得ぬ。
それでも、保った時間は五秒程度。盾が割られ、次々と分身に刀が突き立つ。薄れ消えていく分身を乗り越え、妖刀・物干し竿を携えた九十九の人形らが荒波の如く寄せた。多方より一斉に打ち掛かる分身らを、毘沙門刀による同時迎撃で受け止める謙信!
だが密集陣形から襲いかかった人形の数はその数十一、僅かな隙間を縫って一体の分身が毘沙門刀・車懸りを抜けて謙信へ肉薄! 吼えながら振るう五尺の妖刀が謙信を袈裟懸けに裂かんとしたその刹那、
「――我が車懸りにここまで食らい付くとは、美事なり、猟兵」
謙信の手に黒刀と白刀が参じ、それによる受け太刀が妖刀を防いだ。間髪入れぬ突き返しが九十九の分身を貫く!
薄れ、霞の如く消える九十九の人形。周囲で毘沙門刀が次々と分身に突き立ち、戦闘の趨勢が今まさに付くかと思われた、その瞬間!
空を裂き、黒鞭が撓る! びゅるりと伸びた鞭が謙信の両手首を一手に捉え、束の間、手の二刀を封ずる!
「ぬうっ……!?」
「軍での戦いではやはり及びませんが――嗚呼、あと少しだけお付き合い下さいませ、謙信公……!」 珠稀である! 本体が鞭を抜き、その一瞬の隙を作りだしたのだ! そして――
駆ける。妖刀・物干し竿を右手に構え、形代・九十九が駆ける!!
「おおおおっ!!」
「くっ!」
反応が一瞬遅れるも、謙信は鞭を振り払うよりも周囲の刀を操作する事を選んだ。ミサイルのように飛ぶ刀が九十九を襲うが、しかし九十九は最早疵も厭わず、意思の通わぬ、念動力で動かすだけの左腕を盾にして、謙信に肉薄――! 左腕が断たれ、脚に刀が突き刺さるも、念動力で身体を突き動かし――
「貫けッ――!!!」
「っぐ、ううううううっ!!」
九十九が放った渾身の刺突が、謙信の身体を貫き通す――!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
戎崎・蒼
◎
…流石は“越後の龍”といった所かな
兎も角、12本もの毘沙門刀から打ち出される攻撃が厄介だ
早急に対処をしようか
【SPD】
先ずはマスケットにSyan-bulletを装填して攻撃を(スナイパー+クイックドロウ)
しかもこれはテルミット系の弾丸だ。場合によっては混乱も誘えるかもしれない
ただ、相手は弱点を突こうと接近戦を行う可能性がある
そうなったら敵の攻撃が“運良く当たる”か、そうでなければ斃死用魔銃を自身に向け、引き金を引こう(この時点でUC発動)
相手から傷を受け斃死しそうになるのか…自殺するのが早いか…ともあれ
........
上手く斃死出来たのなら、反撃を開始しよう
…この攻撃で常勝無敗を突き崩す
●彼にとって、終焉とは一時のもの
多数の猟兵が太刀を浴びせた。銃弾を、魔術を、雨霰と注いだ。しかして軍神、未だ折れず。手にした刃、黒の剣『アンヘルブラック』が負傷を『過去の状態』へ巻き戻し、謙信の獅子奮迅の戦いを支える。
――しかし、それがノーリスクであるわけがない。一見すれば絶対無敵かに見える謙信だが――彼が『攻撃を防ぎながら戦っている』ことが何よりの証座だ。
リスクも対価も無しに回復できるのならば、『攻撃を防ぐ事に意味などない』。
故に猟兵達は諦めぬ。己が咲くの全てを以て謙信を猛撃する!
「――流石は“越後の龍”といった所かな。異名は伊達ではないってことか」
呟くのは戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)。手にした青と白のマスケットを持ち上げる。それは歪な兵器だった。後装型ガトリングガンとしての連射性能を持ちながら、形状はマスケットという、矛盾した形状と性能を両立する兵装。名を、『Sigmarion-M01』。
その性能は、彼が持つ特殊可変型銃弾『Syan bullet-#00FFFF』に支えられている。連続で銃身内にSyan bulletを召喚・装填する事で、Sigmarionはマスケットながらにガトリングガンと比肩する連射性能を得るのだ。
蒼はストックに頬付けし、立射姿勢で謙信に狙いを定めた。相対距離二十メートル少々、先行した味方猟兵が謙信と距離を開けた瞬間を縫い、Sigmarionを連射する! 水晶めいた透明な弾頭が射出され、内部の火薬が劇的に反応。銃弾はまるで燃え盛る星の如くに輝き、謙信目掛け雨霰と降り注ぐ!
謙信は即座に反応し、衛星が如く回る毘沙門刀にて弾丸の雨を弾き散らしながら蒼に視線を向けた。貫くような眼光。
「火縄か。しかし――些か単調だな」
謙信は白刀で蒼を指し示す。即座に毘沙門刀が数本、蒼目掛けて疾った。蒼は飛び退きながらSigmarionを更に連射。毘沙門刀を撃ち落とさんとするが、しかして謙信の追撃が速い。速射六発で一刀を弾く間に、二刀が襲いかかるペース。
「くっ――」
畢竟、劣勢は免れ得ぬ。
まさに車懸り式に繰り出される刀が一つ蒼に突き刺さらば、後は芋蔓式に次が、次が、次、次々に突き刺さり、蒼の身体から赤い血が迸る……!!
「かは、……」
「苦しかろう。楽にしてやる」
六本の毘沙門刀に貫かれ、ピン差しの標本めいて藻掻く蒼の口から、冗談のような量の血が溢れた。最早死に体の男へ向け、謙信が悠然と歩く。差し向けた黒刀に従い、とどめの一刀が唸り飛ぶまさにその刹那。
「それには、……及ば、ないよ」
蒼は最後の力を振り絞り――己の胸に、S&W M500――最強の狩猟用リボルバーの銃口を押し当てる。
片眉を跳ね上げる謙信に構わず、蒼は引き金を引いた。爆発音にすら似た銃声が響き、銃弾が蒼の胸を貫いた。貫通した銃弾が肉を爆ぜさせ、背中から翼めいて血飛沫が舞う。
「天晴れな散り際よ……」
躊躇のない自死のさまに、謙信が感嘆するように言った直後の事。――宙に散った血と肉がざわりと、殺意を孕んで広がった。
「……む!」
謙信とて、そればかりは予測できなかった。武士は己が屈辱を、雪辱を、他殺と自死によって注ぐ生き物だ。死は区切り。終わったと見たのだ。思おうはずもない。
・・・・・・・・・・
――斃死が攻撃の階になるなどと!
蒼にとって死は親しき隣人。そのユーベルコードを用いる間の死は、彼にとって『一時的なもの』だ。ユーベルコード――『第三楽章 『魔弾の射手』より「終焉」』! 宙に散華した血と肉が、瞬く間に無数の魔銃となり、歩み来ていた謙信を取り囲む。
――しかも、毘沙門刀の半数はいまだ蒼の身体に埋まったままだ――!
「何という――呪いめいた兵か!!」
唸るような謙信の声を、宙に連なる無数の銃声が呑み込んだ。防御を固める謙信を、しかして削り取るように無数の放火が押し包む――!!
成功
🔵🔵🔴
アルエ・ツバキ
大物狙いは苦手なのだが、仕方ない。
【九死殺戮刃】を発動し、両手のナイフでの「2回攻撃」で謙信と切り結ぶ。
だがこれだけでは足りんだろ。上の服を破り捨て、包帯のみとなり背中の皮を代償に【オウガ・ゴースト】を発動。
クソいてぇ。「激痛耐性、捨て身の一撃」
(外観は3mの金棒持った大鬼、スタンドっぽい)
更についでだ、流れた血を代償に【悪鬼羅刹】を使って武器とオウガを強化する。
基本は攻撃を弾く事に集中。下手に動けば出血で倒れる。地に足つけて真っ向から。
そして隙を見出し一撃を入れる。
神聖な属性刀には注意する。こんな身である以上、それはとても痛い。
軍神、一つ鬼退治は如何か。
神仏踏み躙る悪鬼羅刹は此処にいるぞ。
●鬼が来たりて、神穿つ
――大物狙いは得意ではない。
得意ではないが――やらねばならぬ時もある。
車懸りの陣を越え、無数の猟兵の戦働きの後に漸く得た好機。それを無にするわけには行かぬ。
「軍神、一つ鬼退治は如何か。神仏踏み躙る悪鬼羅刹は此処にいるぞ」
女が、進み出るなり言った。応ずる謙信。
「――我が毘沙門天の加護を前に、鬼を名乗るか、猟兵よ」
「応とも。その方がこっちを見る気になるだろう」
両手にするのは長い殺戮刃物――長めのコンバット・ナイフ。上半身の服を破り捨て、包帯で覆った肢体を露わにしつつ進み出たのはアルエ・ツバキ(リペイントブラッド・f20081)。その行動は伊達のためでも外連味のためでもない。
「試してみろよ。毘沙門天の加護とやらで、私のオウガを祓えるか――!」
背中の皮、肉を代償として、アルエはその身に憑依したオウガを召喚。三メートル近い巨体の幽鬼が、紅く染まるアルエの背より立ち上り、青い炎を口元から溢れさせ吼えた。
「面妖な。――ならば斬って進ぜよう、死ぬ覚悟をして吼えたのであろうな、猟兵よ!」
ど、と地を蹴立てて踏み込む謙信。両の手に持つ黒刀と白刀に先んじて、機関銃の如く毘沙門刀が降り注ぐ!
アルエは『九死殺戮刃』による超加速を成し、火花を散らしつつ受け太刀。オウガもまた手にした金棒で迫り来る太刀を弾き散らす。防戦に回ったアルエへ、瞬く間に肉薄した謙信が二刀にて打ち掛かった。
が、ががが、が、ががががっ、がきぃん!!
二人の間に瞬く火花、火花、火花! 加速したアルエの速度を以てしても、なお謙信は速い。いや、二刀を用いてのみならば拮抗する速度だが、それに周囲の毘沙門刀が車懸り式に襲いかかるのだ。
腕が二本である以上、守り切れぬ密度の攻撃。アルエは燃料のように自分の寿命を燃やして、九倍速で謙信の攻撃を捌き続ける。更にはオウガを援護に回らせ、抗戦する――しかし、手に足に胴に、瞬く間に大小様々の傷が刻まれていく。辛うじて致命傷を避けての防戦。
誰が見ても劣勢だ。だが、アルエにも意地があった。
「まだだ――まだ、これだけじゃ足りんだろ。軍神相手の大立ち回りだ――」
流れ出た血をオウガに吸わせる。アルエの傍らに侍る、巨大な幽鬼の筋肉がパンプ・アップしたように膨れる。
「あぁ、クソいてぇな……!! ブチかませ、鬼野郎!!」
アルエが吼えるなり、オウガは今までに倍する速度でその腕を振り下ろした。力任せの殴打。
「ぬうっ!」
飛び退き躱す謙信に追い縋るように地を揺らして踏み込み、右手の金棒を振り下ろす大鬼! 謙信はそれを真っ向から受ける事なく、サイドステップで躱しながら、地にめり込んだ金棒の切っ先を蹴り上って身体を捲いた。
「地獄へ還るがいい、化生!!」
振り抜かれる黒刀。頸を狙った致死の斬撃。……しかし、オウガは紙一重、ほんの紙一重でそれに反応する。アルエが流し込んだ血が、ユーベルコード『悪鬼羅刹』の力がオウガを加速していなければ、そこで終わっていただろう。首を退く。半ば断たれるも、斬首には到らず。オウガは口腔に溜めた炎を、喉を押さえて間近の謙信に吹き付ける!!
「ぐッ?!」
殺ったと思った瞬間の反撃に目を焼かれ、バランスを崩して地を転がり跳ね起きる謙信。
――その好機を、アルエが逃すわけもない。
滲む謙信の視界の中で――血に塗れた、白髪の女が。朽ちた翼を血で染めた、長身の女が迫った。
軍神振るう白刀をくぐり、黒刀を砕けかけのナイフでいなしながら――アルエが振るった右手のナイフが、牙の如くに謙信の脇腹を噛み裂き、血を飛沫かせる――!
成功
🔵🔵🔴
真守・有栖
◎
狼語りをする余裕はないわね!
えぇ、語るは刃にて
真守・有栖。いざ、参る
一閃
抜き放つは光刃
正々狼々。己が刃を明かして、魅せて
連刃。太刀向かうは白刃にて
光刃(きば)は剥かず
間合いの外を意識させて
傷追えば昂ぶり
血流せば滾るが本能
連斬。視聞れども、まだ足りぬ
効き手(ひだり)で捌き。己で受けて、致命を繋ぎ
まだ、至らぬ
刃を活かして五感を阻まれ――ならば目も耳も要らぬ
嗚呼、要らぬ。そう、何もかも。唯、欲すは――
無明。無音。無心に浮かぶは銀月
月視て狂うは性(さが)なれど
月己て醒るは我が意にて
餓狼。此処に極まれり
――月喰
四肢が裂かれど、牙は折れず
咥えた刃を牙と為し
――光刃、月閃
阻むもの喰らう烈光にて、悉くを断つ
●無尽の光刃
それは、言葉に尽くせぬ死闘であった。
真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は戦場に参じるや否や、高らかに吼えた。
「希代の軍神、相手にとって不足無し。刃狼、『真守・有栖』、いざ参る!!」
しゃ、りィンッ!! 抜き放つ刃は彼女の狼牙。
妖刀工“永海”が九代当主『永海・鍛座』の鍛鉄せし烈光の刃。清冽なる光湛えるその刃の銘は、光刃『月喰』!
「新手か」
優に二十間をおいてなお凄烈に伝わる、只ならぬ有栖の覇気に、謙信が身構えた瞬間――
キバ
有栖は、真一文字に輝刃を振るった。
「……ぬうッ!」
何にも届かず空振るばかりかと思われた有栖の刃が、輝き、伸びた。――それこそその刃、月喰が持つ力。『光閃』。意念を光の刃に変え、彼方を斬裂する特質である!
反応が遅れた謙信だが、黒と白の刃にて辛うじて撃剣を防御! 黒刀にてその光を蝕み、『発生する前の状態』を再現する事で光閃を断裂、打ち払う!
己の手の内を何の躊躇もなく初手で晒し、正々堂々――否、正々狼々と光刃を見せつけた有栖は、防御された事を意にも介さず、間を詰める!
ぎゃら、ら、らら、らららっ! 謙信の周りを守るが如くに毘沙門刀が衛星軌道を描き廻る。左足前二刀構えにて、謙信は走る有栖へ真っ向、向き直った。
「何たる猛剣よ。応えねばなるまいな」
「応。ならば刃にて」
――いざ、死合おう!!
刃鳴り散る火花。謙信の二刀が飛燕の如くに翻り、その切っ先が有栖の首を狙って突き出される。有栖は月喰の白刃一つにてそれを受け、流し、一歩も譲らず打ち合ってみせる。
太刀向かう。怖気抱けど無理もないこの強敵に! 有栖は最初の一閃以降、月喰の光閃を使わず、敵の意識を拘束しながら継戦した。即ち、その十全なる威力を最初に見せ、いつ使ってくるか――と敵の警戒リソースをわずかにそこに向けさせることで、注意力と攻撃の気勢を削ぐ狙いだ。
しかしそうした策を練り、十全の体勢から挑んでなお!
戦国最強、上杉謙信、強大なり!
「荒くも凄まじき剣よ。――しかし我が車懸りを前にして、その気勢を通せるか!」
毘沙門刀・車懸り!
二刀による苛烈な斬撃に加え、謙信の周囲を回り回る十の毘沙門刀が攻撃に加わる!
対する有栖はただ一刀、手数にして謙信の十二分の一である。しかも地力では、謙信相手に及ぶべくもない。それをただ勘働きと、一瞬ごとに更新される戦闘識覚、そして研ぎ澄まされた五感のみで補って戦う。
右腕を、足を、肩を、穿たれ、断たれ、焼かれ、凍らされ。
すぐに右腕は用を成さなくなった。しかしまだ利き手が生きている。有栖はけして離すまいと左手で月喰を構える。まだ足は生きている。足捌きにて敵の太刀居振る舞いを躱し避け潜り、隙あらば突き返しの一撃を振るう。
「よく凌ぐものよ。しかし、これはどうだ!」
瞬間、不意を打って謙信が横っ飛びに跳んだ。彼自身の身体により隠されていた、『風』の毘沙門刀が弾丸めいて有栖の顔面に迫る!
「ッ!!」
それをも刹那に見切り、紙一重で毘沙門刀の刺突を回避する有栖。しかし、その刃が纏う風が額を裂いた。噴き出た血が視界を隠す。右手はとうに挙がらぬ。左手は刀を握る。拭う暇などありはしない。
勘と、匂い。そして本能と、ここまでに学習した謙信の太刀筋。それらのみを頼りに、有栖は視界を奪われてなお、左方へ逃れた謙信に向けて踏み込んだ。
「――いかれめ」
謙信の笑うような声を聞いた。なるほど、自分は物狂いなのやもしれぬと有栖は思う。赤く閉ざされた世界で、尚も戦うことを選ぶなど。諦め、下がり、ほかの猟兵に任せればよいではないか。
だが、そうしない。
――彼女は刃にこそ生きる狼なれば。
まだ、至らぬ。もはや痛覚は麻痺し、刀を握る感覚すら曖昧だ。視覚は尽き、聴覚も曖昧に。
本能だけが有栖を突き動かす。迫る刃を、心の刃を振りかざし打ち払い、くぐり抜ける。有栖の意念が向いた先を、月喰の斬閃が追う。先鋭化した意思が、動かぬ身体を引きずって駆動する。
絢爛たる打ち合いの中、裂かれる身体と痛みを覚えど、有栖の心は静か。
無念無想の境地にて、彼女の無心に浮かぶは銀月。
サガ
月視て狂うは性なれど、
月己て醒るは我が意にて。
餓狼。此処に極まれり。
四肢はとうに動かず、有栖はもはや動かぬ身体を推して、月喰の柄を咥えた。意念をくみ取った月喰が、――その、主の瀕死の折に、何より強い光を発した。
「――!?」
四肢が動かぬ有栖がいかにして、謙信へ跳ねたか。
――伸びる月喰の『光閃』の反動にて、跳んだのだ。
それは格好のつかぬ、筋力任せの不様な機動。
しかしてそれは謙信の虚を突き、有栖の一念を果たす楔。
――光刃、月閃ッッッッッッ!!!!!!
四肢は潰えど輝刃折れず! 跳んだ餓狼の決る顎に従い――
阻むもの食らう烈光が、謙信の身体を引き裂くッ――!!!
成功
🔵🔵🔴
白斑・物九郎
●POW
混沌、ケイオス、ワイルド
ソレが俺めの統べるモザイクの本質
空間内のエレメントはベクトルもハイロゥもしっちゃかめっちゃか
この【迷彩】、適切に腑分けられると思うなら試してみなさいや
モザイク空間から出し入れ自在、ソレが俺めの魔鍵の性質
モザイク空間を広域展開した今、この性質はタダの便利収納ってだけじゃ無くなるってトコ、見せてやりまさァ(地形の利用)
・空間内で魔鍵を瞬間移動させまくり取り回しを超高速化させると共、剣先を【野生の勘】で読み十二刀に対抗
・魔鍵を【怪力】ないし【念動力】で操り、刀を【武器受け・なぎ払い】で掻い潜る
・謙信狙いの【串刺し】を物理透過【精神攻撃】モードで繰り出す(だまし討ち)
●パラドクス・パラダイス・イン・モザイク
身体から噴き出る血、負傷を黒刀により巻き戻しつつ、謙信が飛び退いた矢先。
空間が突如軋み音を上げ、広域に渡ってモザイクタイル状にひび割れる。まるでバグでドットがグチャグチャに崩れたゲーム画面めいて崩壊する空間識の中、一人の猟兵が進み出た。
「混沌、ケイオス、ワイルド。それが俺めの統べる、モザイクの本質。空間内のエレメントはベクトルもハイロゥもしっちゃかめっちゃか。――この混沌の『迷彩』、適切に腑分けられると思うなら試してみなさいや。上杉謙信」
「随分と自分の力に自信を持っているようだ。――その自信、過ぎれば身を滅ぼすぞ、小僧」
謙信の声をせせら笑うは、黒髪の少年であった。その右腕は異形の獣腕めいて膨れ、細かなモザイクにびっしりと覆われている。
「自分の力に自信も持てず――この戦国の涯ての地平に来られるわけがないでしょうや。それに、果てるのならば最後まで、自分を疑わずいてェもんでさァ」
『心を抉る鍵』を取り回し、快男児――白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は、不敵に笑った。
「始めましょうや、軍神。ご自慢の車懸り――この白斑・物九郎が、鍵で抉ってこじ開けて、ボコボコにしてやりまさァ!」
「大きく出たな――後悔するなよ、猟兵」
謙信が、白黒の二刀を構えて僅か膝を撓めた。地が爆ぜる。爆発的な勢いでの前進。小刻みに剣先を揺らし、出がかりを幻惑しながらの右手平突き! 物九郎は一拍早く身を翻し、刀の峰のある左側に身を捌いて回避。続けざまに繰り出される左胴打ちを魔鍵で受ける。
野生の勘による攻撃先読み。二連撃を凌ぎ、物九郎は白刀と魔鍵を軋らせながら、地面を衝くように魔鍵の切っ先を衝き下ろす。
――その切っ先が、地面に突き刺さる前に『モザイク空間に沈んだ』。
「むうっ!」
刹那、切っ先が、謙信の横っ面を殴るように真横から突き出る。謙信は顎を逸らしギリギリで回避。生まれた隙にねじ込むように物九郎が飛び込み、獣めいた握り固めて拳を叩き込む。撃力で後ろへ飛び退く謙信が体勢を立て直す前に、物九郎は魔鍵を投げ放った。
鍵が四方八方、壊れたモザイク状の空間に突き立っては、また予測のつかぬ位置から飛び出し、空間を縦横無尽と跳ね回る。たった一本の鍵のはずなのに、消失と発生が引っ切り無しに繰り返される結果、それは擬似的な弾幕めいて空間を席巻する!
「俺めの鍵はモザイク空間から出し入れ自在。モザイク化したこの広域空間でなら、この性質はただの便利収納じゃァなくなる。手数比べといきましょうや!」
「我が車懸りに手数で挑むと? ――よかろう。己の愚を知るがいい」
謙信を護る如く十本の刀が高速で宙を回転! 切っ先を物九郎に据えるなり、射出された銃弾めいて毘沙門刀が連続飛翔! 対する物九郎はモザイク空間とモザイク空間を繋ぐ最短経路、最も効率的に刀を弾ける線分を算出すると同時に念動力にて鍵を飛ばし、飛翔する毘沙門刀を弾きながら駆け抜ける。
しかし、十刀を巧みに鍵一つで防げども、謙信本人の突撃までは止められぬ!
謙信は縮地めいた勢いで距離を詰め、手にした白黒二刀にて物九郎へ苛烈に打ち込む。そうなれば鍵を呼び戻し、物九郎も受け太刀に回らざるを得ぬ。二度受け太刀した瞬間、再度飛刀の防御に回す前に宙から連続で毘沙門刀が注ぐ!
「く――!」
次々に物九郎の身体に突き立つ毘沙門刀。発する凍気と熱気が傷口から物九郎の身体を苛む。
「十刀防いで見せたは美事。しかし我が無双の毘沙門十二刀、そう易々と防げると思ってもらっては困る」
一瞬での形勢逆転。謙信の圧倒的な力の前に、物九郎は何も出来ぬのか。
――否! その金眼が、光を失わず謙信を睨む!
「まだ終わってニャーですよ!」
物九郎は間近から、力の限り振り上げた魔鍵を振り下ろした。単調な、唐竹割りの打撃。謙信は当然のように二刀を構えそれを受けんとし――
物九郎は笑った。
謙信は目を剥いた。
鍵が――刀を、擦り抜ける!
「なんと!?」
そのまま振り抜かれた魔鍵は、精神を穿つ楔となって謙信を打った。『心を抉る鍵』、精神攻撃モード! 精神、言うならば意気、意思を穿つ一撃。謙信が一瞬よろめいたその次の瞬間、物九郎は獣の右腕をバックスイング。その表面に呪紋が這い、励起して輝く!
――タメ時間は一瞬。それ以上の時間は取れない。この瞬間が、こじ開けた好機!
「俺めの一撃――持っていきなさいや!!」
デッドリーナイン・ナンバーセブン。『フルドライブ』!!
よろめいた謙信の顔面を、獣の拳が打ち抜いた! 謙信は撃力に推され、地面を削りながら後方へ声もなく吹き飛ぶ……!
成功
🔵🔵🔴
芥辺・有
◎
それほど強いってことなんだろうけど。軍神とは大層なことだ。
…………まあ。神なんてのはいずれ死ぬ。
一息に駆け出しながら、奴の操る刀の動きをよく観察して。急所に迫るものだけ避けるか、あるいは杭で打ち払う。
今動くなら、傷はいくら負おうが構わない。浅くとも深くとも。……手間が省けてありがたいくらいだからね。
懐に潜り込めたなら杭を振るい、蹴りを放つ。
杭と蹴りなどフェイントでもいい。攻撃の隙に蚦蛇で奴の手を掴めるなら。
男の動きを封じられたなら、流した血で赤い杭を創り出して。視線は男に、離さず。
……お前のお陰だ。残さず喰らってくれ。
●咲くは赤椿
芥辺・有(ストレイキャット・f00133)の言うところによれば、『神なんてものは、いずれ死ぬ』ということだ。いかに、上杉謙信が軍神を名乗ろうが。
武勇、高名、鳴り渡るだけの功績はなるほど確かに残したのだろう。軍神という渾名が今この世にまで残って伝わっているのだから。
けれどそれすら永遠ではない。……過去の染みとして蘇らなければ、今この瞬間まで、『上杉謙信』を、目の前に迫った脅威として認識するものがなかったように。
人間は忘却する生き物だ。忘れられてしまえば、神は死ぬ。きっと、いつか崇められることすらなくなって、死ぬ。
「……今回の場合はもっと単純だ。なにせ、触れられる。そこに居る。それなら、」
この杭を臓腑に打ち込めば、もっと原始的に殺せるだろう。
有は駆けだした。既に十数名の猟兵が戦闘し、その技能の限りを尽くして謙信を攻撃している。しかし未だ、謙信はその動きを曇らせることなく毘沙門刀を取り回し、自らに近づく猟兵を猛撃する。
有は毘沙門刀の動きをよく目に焼き付ける。宙に浮いた刀は有機的な軌道を取り、いずれも予測しづらい挙動を取る。それでもいくらかの動きのパターンは掴めた。一人で同時に十本、或いは両手のものも含めて十二本を操るのだ。あらかじめ決めた動きのパターンを幾つも組み合わせて放つのでもなければ、到底操りきれるまい。
有は武器鎖『蚦蛇』のついた黒杭――『愛無』を右手に、真っ直ぐに謙信めがけて駆けた。謙信はそれを予測していたかのように、周囲を十本の毘沙門刀で薙ぎ払った後、うち一刀、過去を司る黒刃、アンヘルブラックを手に取り有を睨む。
「打ち払えど打ち払えど、貴様らはまるで、背水の死兵の如くに纏わり付くのだな」
「死兵なんて、ずいぶんな物言いじゃないか。――これから死ぬ側を間違えるなよ」
有はシニカルに返し、武器鎖を手に持って撓らせ、思い切り振り回した。空中から射出された毘沙門刀を、急所を射貫くものだけを優先して的確に払う。――当然ながら一度に払える数には限度がある。謙信が本気で攻撃をしてきたならば、急所を護るので精一杯。
有の腕を、脇腹を、肩を、次々と毘沙門刀が掠める。深く斬られ、血が飛沫くこともあった。だが有は一顧だにしない。傷など、いくら負おうが構わない。死ななければ――動けなくなることさえなければ、ただそれでいいと言わんばかりの動きだ。
当然、そのような捨て身の動きを軍神とまで謳われた男が見逃すわけがない。詰め将棋をするように、次々と放たれる車懸りの毘沙門刀。降り注ぐ毘沙門刀の時雨を、有は己の全力を賭して駆け抜ける。――相対距離、もう三メートルを切る。もはや至近距離。
「傷を恐れぬか、いかれめ」
謙信の涼しげな声。杭を投げ放たんとする有の肩口に、カウンター気味に炎の毘沙門刀が突き立った。文字通り火箸で傷を抉られるような痛みが有を襲う。しかしそれにも構わず有は愛無を振るった。――正確には、愛無から伸びる蚦蛇を。
血の滴る武器鎖が、謙信へ伸びた。
当然のように謙信の刀が疾る。その威力を以てすれば、ただの武器飾りに過ぎぬ蚦蛇は一刀のもとに断たれてしまうだろう。――そう思われた刹那。有は鎖に伝う血を、『杭として硬化させた』。
「む……!!」
アンヘルブラックの刀身が、蚦蛇に纏うよう伸張した茨のごとき杭に食い込む! 切断を免れ、アンヘルブラックに巻き付く蚦蛇。
「小細工をッ!」
――謙信が過去を読み、杭を『固まる前に戻す』、その前に。
蚦蛇を引き寄せ、有が迷いなく踏み込んだ。吐息のかかるような距離に寄せ、煙草の残り香を漂わせ、
「逃がさない」
女は謳うように言った。抱擁するような距離、彼女が流した血が棘のように固まり、伸張し――無数の杭を成す!!
「ああ、私の身体を散々切り刻んでくれたんだ。因果応報さ。……この杭、全部、お前のお陰だ。残さず喰らってくれ」
言い捨てる有の声と同時に、杭は弾丸のように伸張した。力の限り後方に逃れようとした謙信の身体を、有の言葉の通りに逃がさず、血杭が次々と穿ち抜く。
……苦悶の声と、血が、飛沫く!
成功
🔵🔵🔴
鎧坂・灯理
【鎧坂探偵社】
どうも、軍神殿
名乗るほどのものでもありません
お気になさらず
「刀はすべてたたき落とす」とヘイゼル君が私に言った
ならば彼はそうするのだ、何があろうとも
で、あれば――信頼以外は不要だろう
UC【人の見えざる手】
私の持つ念動力の九割を注ぎ、
腕に纏った『思念の鎧』を突撃槍の形へと変える
他部分の鎧は限りなく削る
リソースを回せ、堅く鋭く強くしろ
一瞬の隙を逃すな
一割の念動力で己を吹き飛ばし、
力一杯その胴体ブチ抜いてやる
後の事など終わってから考えればいい!
やあ軍神殿
私は鎧坂灯理、彼の伴侶だ
その身に刻んで、とくと死ね
ヘンリエッタ・モリアーティ
【鎧坂探偵社】
よォ、上杉謙信
初めましテ。正々堂々と挑むサムライだ
名をヘイゼル・モリアーティ
覚えとくかどうかは――てめェで決めてくれ
相手は軍神だ。奇襲で仕掛けねェよ
真正面、堂々と俺様がやってやる
【実行犯】だ
嘴喰構えて、命削ってやらァよ
九倍だぜ。宣言しといてやる
てめェの刀全部叩き落してやるよッ!!
俺様に魔術の心得はねェ、そんな頭は持ち合わせねェ!
だがなァ――!「俺」は、「勝ち」の心得しかねェんだよ!
身体が焼けようが凍ろうが止まらねぇ
俺の弱点が何処にあるってェ!?教えてみやがれ、俺は最強だッッ!
それを信じてゆるがねェ、だから
灯理に、託すぜ
バカがよォ
俺様がまともに挑み切るわけあるかい
だまし討ちだ、死ね
●犯罪王のパープル・バレット
繰り広げられる死闘。血を流しつつも飛び退いた謙信めがけ、新たに二人の猟兵が乱入する。
「どうも、軍神殿。――ああ、名乗るほどのものでもありません。お気になさらず」
黒いショートカット、眼鏡の麗人が嘯いた。整った容貌だが、紫色の――鋭く、敵を射貫くような、鮫めいた目をしていた。慇懃な口調を隠そうともせず、女は――鎧坂・灯理(不退転・f14037)は、名乗りもなしに、飛び退く謙信を追い、駆ける。
「よォ、上杉謙信――初めましテ。正々堂々と挑むサムライだ。名をヘイゼル・モリアーティ……覚えとくかどうかは――てめェで決めてくれ」
その横を固めるのもまた女。跳ねるような軽妙な名乗りを上げる女は、黒髪に銀の瞳、右手に刀身まで漆黒の黒打刀――永海・鋭春作、斬魔鉄製打刀『嘴喰』を手にしている。彼女の名はヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)。――此度言葉を連ねるは、多重人格者たる彼女の一人格、戦闘を嗜好する『ヘイゼル』。
灯理とヘイゼルは最後の意思確認めいて、一度だけ視線を重ねる。頷き合うなり、ヘイゼルが弾けるように前へ出た。
「――覚えるべき名が多いことだ。貴様で何人目だったか……よかろう、参れ。我が車懸りを越えられるか、試してみるがよかろう」
身体から流れる血をアンヘルブラックによる過去再現能力で癒やしつつ、謙信は十刀を回転鋸めいて身体の周囲で輪転。地面を靴で掻き毟り、爆発的に前進する。
必然、先行したヘイゼルが先に謙信とぶつかり合う。謙信の毘沙門刀・車懸りに対しヘイゼルが取る作はごくごく単純なものだ。
軍神相手に奇策など不要。策を弄せば穴を衝かれよう。――正々堂々。真正面。力を叩きつけ応じるべし!
ヘイゼルは銀の瞳を煌めかせ、己の命を燃やしてユーベルコードを行使する。ユーベルコード、『実行犯』。
「俺様の手数ァ九倍だぜ。てめェの刀、全部叩き落としてやるよ!!」
がががっ、がが、がきィんっ!! 凄まじい速度で、放たれる毘沙門刀・車懸りを弾き、弾き、弾きまくるヘイゼル。その凄まじき速度を見て尚、謙信の目は小揺るぎもしない。
「九倍か。その一刀を九倍したとて、我が毘沙門刀車懸り、十本をすら防げまい」
絶えず連発される毘沙門刀の刺突を、常の九倍の手数で弾き続けるヘイゼルだが、謙信の冷徹な指摘の通り、ただそれだけでは一刀の余りが出る。そこに加えて、謙信自身が持つ白黒二刀の斬撃だ。瞬く間にヘイゼルの身体に傷が刻まれていく。火炎が、氷が、『彼』の身体を苛んでいく。
――だがヘイゼルは退かぬ。
魔術の心得などない。緻密な計画、罠、作戦、そんなものも持ち得ない。しかしヘイゼルには、たった一つ、絶対に折れない芯がある。
勝利を求める貪欲さ。『勝ち』の心得。敵を打破することだけが、バトル・ホリックの彼の存在意義を証明する。
言い含めるような謙信の言葉に、げらげらと笑いながらヘイゼルは頬の血を拭う。
「ならよォ、コイツを使やァ、二かける九で十八だってことだよなァ!!」
ヘイゼルは左手に、金属で補強の入れられた刀の鞘を取った。刀と鞘との二刀流。篠突く雨の如くに放たれる毘沙門刀の連続刺突を、加速した二刀流で弾いて弾いて弾いて弾いて弾き散らすッ!!
ヘイゼル・モリアーティは疑わない。己の強さを疑わない。身体が焼けようが凍えようが、打たれようが裂かれようが、彼は決して止まりはしない。止まってやりなど、するものか!
「てめェの車懸りは人の弱点を衝くって言うがよォ――俺の弱点が何処にあるってェ?! 教えてみやがれ、俺は最強だッッ!!!」
自身の強さを疑わないということにかけて、彼を上回るものはそう居るまい。圧倒的なエゴ。車懸りの連撃を弾き散らしながらヘイゼルは啖呵を切る。彼の言った単純計算ほどの速度は出ずとも――十刀連撃、毘沙門刀・車懸りを、しかと捌いて見せる。それどころか、突き返し・切り返しの攻撃を交え、謙信に反撃まで行って見せた――荒々しい剣だ。型も、なにもない。敵を破壊し、殺すことだけを目的とした我流と思しき実践剣術。
「狂犬め」
謙信は呆れたような声を漏らす。言葉とは裏腹、彼の口元には笑みがあった。九倍の手数を、二刀にしてさらに増し、傷だらけになりながらも車懸りを真っ向から阻もうとするとは。いくさ狂いの益荒男が、当代に至ってもまだ生き残っていたのだと、確認した風な笑いだった。
前衛のヘイゼルと謙信の間で絢爛豪華な剣戟響く中、やや後方で停止し、戦況を伺っていた灯理が、音もなく念動力を練る。支援攻撃をするわけでもない、援護をするわけでもない。はたまた、車懸りの速度を緩めようと何かしらの策を講じるわけでもない。一見すればそれは、ヘイゼルを捨て石に使っているように見えたやもしれぬ。
しかし、それは灯理なりの信頼だ。ヘイゼルは、戦う前に――そして、先ほど、謙信と相対して真っ向口にしたのだ。
――刀は全て叩き落とす、と。
ならば彼はそうするだろう。彼が、彼自身の力のみで、それを果たすだろう。ヘイゼルはそういう男だったし、無用な手出しは不要に違いない。
故に。彼女は、ただ己に出来ることをする。信を託し、機を見定め。……ただ、一撃だけでいい。
無双の槍を、あの軍神に叩き込むのみ。
「――Egoistic hand...」
鎧坂・灯理は超能力者。猟兵分類においてはサイキッカーにして電脳魔術師ということになる。彼女は身を守る拒絶防壁『思念の鎧』を六枚連立で張り、それをまるで紙を斜めに巻くように円錐形に巻いた。右腕に纏わせる。ユーベルコード、『人の見えざる手』。思念の鎧を任意の形状に変更・強化し、それにより敵を攻撃するユーベルコードだ。
他の部分の装甲など、二の次だ。ただ堅く、鋭く、強く、そうあれかしと願いながら、灯理は思念の鎧を形成する。ほぼ全てのリソース――灯理が持ちうる念動力の実に九割を注ぎ込み、その腕に集中して、此度結実するのは――
ランス
……突撃槍。練り固めた念動力の灯理の右腕が、軍神を殺すためのただ一本の槍となる。
灯理は身をぐっと撓める。膝のバネを溜め、ヘイゼルと謙信が打ち合う戦いの様相を睨む。めまぐるしく二人が位置を立ち変えながら、火花を散らして打ち合う。圧倒的な力を持つ謙信に、自らの寿命を燃やしながら剣を振るい、束の間互角以上に打ち合ってみせるヘイゼル。
ヘイゼルが踏み込み、『嘴喰』で力の限り打ち、わずかに謙信の身体を後ろに推す。謙信は即座に隙を消すように周囲に浮く毘沙門刀を連発するが――その瞬間、ヘイゼルはそれにも構わずに前に出た。
「む……?!」
「おらァァアアァ!!!」
それこそ全く正気の沙汰ではない。攻撃を加えられているのにそれを無視して疾るなどと。当然のようにヘイゼルの身体に毘沙門刀が突き立つが、それすら無視するように彼は踏み出した。対する謙信はまだ体勢を立て直せていない。体幹が揺らいでいる。
ダメージを無視して踏み込んだヘイゼルの刀が、嘴喰が、謙信の肩口を捉える……!!
「ぐうっ――?!」
「バカがよォ――剣を出しゃ追っかけてこねェって思ってんのが見え見えなんだよォ!! この犯罪王が、まともに挑みきるとでも思ったかァ!!」
――そう。そしてその一撃は引き金でもあった。既に装填された、鎧坂・灯理という銃弾の。
灯理は、その一瞬の隙を逃がさぬように踏み込んだ。同時に、その背中を蹴飛ばすように、残り一割の念動力を爆ぜさせ、推進力とする。
駆ける。いや、それはもはや飛行だった。翔ると書くべきだろう。
「っくう、おっ……!! させるものかよ!!」
斬撃に呻きつつも飛び退き、謙信は風と炎の毘沙門刀を反応させ、真っ赤に燃え立つ炎風の壁を張る。迫る灯理を阻むためのものだろう。
――しかして、加速を始めた不退転の女を、その程度で止められるわけがない。
ど、ばうっ!!!
右手に不可視の槍を引っ提げ。
殆ど体当たりめいて炎の壁を突き破り。全身にやけどを負いながら。
――ようやく、『名乗るべきもの』になったとばかり、灯理は右腕をバックスイングして叫んだ。
「――遅れ馳せながら、軍神殿。私は鎧坂灯理、彼の伴侶だ――その身に刻んで、とくと死ね!!!」
右腕を、その無双の撃槍を! 最大戦速のままに、胴へ叩き込むッ――!!
「ぐ、っおおおおおおおおお!!」
貫かれ、徹された撃力のままに、謙信の身体は遙か後方へ吹き飛び、木を薙ぎ倒して砂塵を上げる!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ユエイン・リュンコイス
…成る程、思い出すね。あの八刀流の剣豪を。あの時は質量で圧倒したけど、あれから刀の扱いにも習熟した。
さぁ、往こうか。
基本は機人を前面に格闘戦、ボクは後方で支援射撃だ。機人が【グラップル、カウンター、フェイント】で相対しつつ、『観月』による【先制攻撃、援護射撃】で攻撃の出掛かりを潰そう。
ただ相手は前よりも更に多い十二刀流。ボクも機人も無傷ではいられないだろう。だが、それで良い。
斃れるか否かの寸前を見極め、UCを起動。本来は真の姿時の切り札だ、十全とは言い難い。けれど、これだけ傷を負った状況なら。
赤熱せし黒鉄の鎧、手にせしは永海が筆頭八本刀が一つ、焔刃煉獄。
数など不要、この一刀さえあれば…十分だ。
●極まれり、『煉獄乙女』
『永海』という、刀工の里があった。
ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はかつて、その里を襲ったオブリビオンを討伐した猟兵の一人だ。オブリビオンの名は八刀・八束。八刀流の剣豪にして、七代永海の八本刀を七本まで集めた蒐集家。恐ろしい力を持つ彼を下したユエインは、彼の持つうちの一本を受け継ぎ、今日までその扱いに慣れるべく研鑽を積んできた。
「思い出すね、彼を。……あのときは八本、今度は十二本か」
此度の相手はおそらくは、あの八束をさらに超える強力なオブリビオン。上杉・謙信その人だ。だが、ユエインの中に退くという選択肢はない。
「――世界を護る大一番だよ、『煉獄』。力を見せてくれ」
ユエインは刀を抜いた。『七代永海』筆頭八本刀が六。焔刃『煉獄』。
相棒たる機甲人形『黒鉄機人』を伴い、ユエインは姿勢も低く、謙信に向けて駆ける。
「はァ、はッ……実に、惜しいな。これほどまでの力、我が生のうちに見いだせていたのなら。天下を私が取ることも――決して夢ではなかったろうに」
息を弾ませ、傷を塞ぐ謙信。しかしその治癒も徐々に鈍りつつある。アンヘルブラックによる過去再現能力に陰りが出つつあった。
「夢だよ。――だってもう終わってしまったことだ。あなたはもう、過去の残滓。もう、上杉謙信は既にこの世にはいない存在なんだから」
ユエインは言う。そう――彼はもうオブリビオンなのだ。戦国の世は終わって久しく、太平に向かいつつある世を、再び騒がす悪しき黒点。
「ここで断つよ。覚悟してくれ」
「……舐めるな。私は――未だ、ここにいる。また、ここから始められるというのだ!! 我が覇道を!!」
毘沙門刀のうち数本を、謙信は五指に挟むように同時に八本手に取る。まるで爪の如く握られた刀がギラリと煌めいた。残り四本は彼の回りを護るように周転する。構えを取った謙信をめがけ、ユエインに先行して黒鉄機人が飛び込んだ。
「おおおぉっ!!!」
謙信が凄まじい速度で繰り出す、八刀流・毘沙門刀狂い裂き。鋼鉄で出来た黒鉄機人のガードの上から、氷の毘沙門刀と炎の毘沙門刀が立て続けに打ち込まれ、それに続いて地の毘沙門刀が重く凄まじき一撃を重ねてくる。ガードに回した右腕が一瞬で拉げ、軋む。
「なんて威力だ……!」
ユエインは黒鉄機人を支援すべく後方から『観月』による牽制射撃を放つ。空気圧で初速を得て、それをさらに電磁加速。無数のボルトを撃ち出し、謙信を猛撃する。しかして謙信は両手の八刀をまるで旋風の如くに振り回し、弾き散らす。
「我が覇道の第一歩――その礎となれい!!」
謙信には、既に余裕などなかった。それ故、彼の技は今までにも増して無駄なく、恐ろしいほどに冴え渡る。八刀による連続斬撃に加え、さらに宙に浮く四刀が音速を超えて飛翔、黒鉄機人の間接部に突き立ち、鋭断する……!!
黒鉄機人の目から光が失せ、銃弾の嵐に巻き込まれたスクラップめいて、バラバラになった人形の部品が宙に浮く。
「――ッ!!!」
ユエインは断たれ、砕かれた相棒の元に、矢も盾もたまらぬといった風に駆けだした。
「死に急ぐか――それもよかろう!」
謙信が浮いた四刀を即座にユエインめがけ放つ。手にした刀で弾くも、しかし手数の差がある。肩を、脇腹を、太腿を、次々と裂かれて血が飛沫く――だが、ユエインは止まらない。
――ああ、機人、――ボクに応えてくれ。――ボクは――
こいつに、勝ちたい!!
ユエインはユーベルコードを起動した。バラバラになって宙を舞う機人の瞳が赤く、ヴン、と音を立てて光る。ユエインと機人を繋ぐ糸が張り、黒鉄機人の部品が次々にユエインに引き寄せられる!
「――何をする気だ、小娘ッ!!」
四刀を引き戻し再度放つ謙信を前に――黒鉄機人の部品がユエインに重なった。
その瞬間、炎が天を衝いた。
――長くは保たぬ。それでいい。
持つは焔刃煉獄、ただ一刀。十分だ。
赤熱せし黒鉄機人の装甲を纏い。ユエインは、『右手』に煉獄を取る。
黒鉄機人の持つ超高熱発振機能、『サブリメーション・インパクト』の熱を、己が意念とともに煉獄に流し込む。
振り上げた煉獄は、もはや天まで届く炎の柱。
ああ、その出力はかつて八刀・八束が彼女に振るったあの焦天炎剣が如く!!
「覇道なんて、ないよ。ここであなたは燃え尽きる。ボクの――この剣がそう言っている!!」
――雲が燃えて裂けた。
放たれるは絶焔緋刀・『煉獄乙女』!!
天より落ちるがごとき炎の一刀が、謙信を叩き伏せ、爆炎に巻き込み吹き飛ばすッ――!!!
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
終着かどうかを決めるのはお前では無い
『嘗て』の常勝無敗等、今や既に意味は無い
此れより意味を持つのは屈さぬ意志の力のみ
使うは剣怒重来
彼我の差を見極められん程愚かではない
真面に当れば恐らく届かん
ならば受けるものを総て、此方の力へと変えてくれよう
致命傷だけは見切りと第六感にて躱すか、武器受けにて弾く事に務めるが
其れ以外は敢えて受け、激痛耐性にて耐えて攻撃力の増強を図る
血反吐吐こうが膝は屈さん、止まりもせん
怪力乗せた捨て身の一撃、カウンターにて叩き込む
お前を恐れる理由なんぞ何処にも無い
私は唯護る為に在る刃
為すべきを成す為に在る意志
過去の残滓、其の手足と成り下がったものに屈する道理など無い
●専心、此一刀
ど、ど、どど、どうっ!!
天を焦がす剣の一撃に吹き飛ばされ、勢いを殺すように転がり、地を踏み数転する謙信の横を、一人の眼帯の男が刀を右手に飛び駆ける。
「お前は言ったな。ここが私たちの終着だと。――それを決めるのはお前ではない。『嘗て』誇った常勝不敗などと、そんな意味のない記憶と栄光に縋り付いているお前では――私たちには、勝てん」
「言ってくれるではないか、猟兵……!」
謙信は地面を蹴り、空中で身体を廻し、ようやく受けた勢いを殺す。火傷に覆われた身体が、じりじりと巻き戻り癒えていく。猟兵ら、総勢五十名ほどと間断なく戦った結果、少なくともこの個体の力は底をつきつつあった。
然りとて、油断の出来る相手では決してない。駆けながら、宙へ跳んだ謙信を睨む男――鷲生・嵯泉(烈志・f05845)もその程度、よく理解している。
「此れより意味を持つのは、屈さぬ意思の力のみ。――それを教えてくれよう」
「吼えたものだ。ならば我が毘沙門刀の天変地変、その威を受けて同じことを言えるか、試してみようではないか!」
謙信が右手の刀を振るうなり、立て続けに数本の毘沙門刀が嵯泉めがけて迫った。嵯泉は飛び退いて直撃を躱すが、地面に突き立った刀がごごう、と音を立てて地を揺るがした。おそらく地属性の毘沙門刀。一帯を揺るがす地震、そしてひび割れる地面。稲妻めいたクレバスが、嵯泉を飲み込まんと口を開く。
嵯泉は落ち着いて開いた断崖に落ちぬようサイドステップするが、その動きを読んでいたように氷雨が降った。氷の毘沙門刀で作り出された氷槍が、乱風に乗って超高速で嵯泉へ目掛け
降り注ぐ。
「……!」
嵯泉は、しかして声も上げぬ。彼我の力の差を見極められないような男ではない。真正面から事に当たれば、恐らくは及ばぬであろうことも知っている。
故に、今は全て耐え忍ぶ。嵐のように降り来たる氷槍の嵐を、鞭状に変形させた刃『秋水』にて迎撃。打ち払う。無論天より注ぐ無数の槍を全て打ち落とせるわけではない。幾つもが肩を、額を穿ち、流れ落ちる血と傷の痛みが嵯泉を苛む。
しかし、彼が刃を振るう手を止めることはない。衝撃波を帯びた秋水の剣先が、周囲の空気を爆ぜさせながら氷槍を叩き潰し続ける。
「なかなかしぶとい――ならば、これはどうだ!」
しなやかに着地しながら、謙信は炎と樹の属性を合わせ、再び嵯泉を猛撃すべく刀の切っ先を彼に向けた。
地がボコボコと波打ち、燃え立つ樹が次々と飛び出して嵯泉を貫かんと伸びる。
嵯泉は目を見開き、自分の心臓を貫きに掛かるものから優先して断ち、弾いた。数こそ氷槍に劣るが、今度は一打一打が重い。『破群領域』による鞭化した刃では、一打での破壊がままならぬ。故、引き戻した刃で斬り払いながら前進するが、炎の樹へ対処に加え、毘沙門刀による車懸り式の連撃がそこに重なればどうなるか――
「ぐ、ゥッ……!!」
見切り、そして第六感とも言える戦闘識覚により致命傷を避けながらも、必定、傷は免れ得ぬ。嵯泉の肩を、腕を、腹を、頬を、脚を、毘沙門刀と鞭めいて撓る炎の樹が、次々と斬り、焼き、凍らせ、砕いた。
常人ならば痛みの余り死んでいたやもしれぬ。左腕は折れ、体中の切創から血を流し、突き刺さった刀が内臓に傷を刻んで、口からは血反吐が迸る。
しかし、それでも。
「――お前を恐れる理由なんぞ、何処にもない」
嵯泉は言う。圧倒的な力の差を前に。
「私は唯護る為に在る刃。為すべきを成す為に在る意志。過去の残滓、其の手足と成り下がったものに屈する道理など無い。――未練がましく人の世に染みを落とすな、愚物め」
「――首を落とさねば、その無礼な口は止まらぬか!!」
息も絶え絶えであろうに朗々と発される嵯泉の声に、激怒した謙信が前進する。地を爆ぜさせる電瞬の前進であった。動きの鈍った嵯泉では、到底避けられぬかに思われた。
だが――嵯泉は、その瞬間をこそ待っていた。
未だ刀を手に取る右手に力を込める。敵の攻撃を受け、溜め込んでいた力を脚に集める。その怪力の全てを集め、嵯泉は『今まで受けた全ての攻撃の威力を溜め込んだ』、己のユーベルコードを解き放った。
――踏み込み地揺れ、空気爆ぜ割れ、疾るは此一刀。
剣怒、重来。
謙信が目を見開いた瞬間には、その脇腹より夥しい憤血。
刹那、弾丸めいて駆け抜けた、嵯泉による後の先の斬撃が――不敗の軍神の身体を、深々と抉っていた。
成功
🔵🔵🔴
桜・結都
【桜風】
相対するだけで手が震えてしまいそうになりますね……
ええ、気を引き締めましょう
グィーさんが隣にいるのだから
一人ではないのだから
『桜霊符』を展開させ<破魔>と<全力魔法>で障壁を作ります
グィーさんが風を繰るのなら私は雷を
雷霆を錫杖に纏わせ、謙信公の攻撃にぶつけます
グィーさんの切手が消されてしまわぬように
恐れているのですか?紙片すら
あなたの相手は私たち。余所見する暇など与えません
【桜色の君】にお願いし防御の雷に紛れて<マヒ攻撃>をしてもらいます
僅かでも足止めが出来れば上々
一撃でも構いません、雷霆を彼の元に見舞います
グィーさん、あなたの風と共に吹き飛ばしましょう
その涼しいお顔を崩してみせますよ
グィー・フォーサイス
【桜風】
彼は格上だ
尾の先がビリビリする
気を締めていこう、結都
そうだよ、僕等は一人じゃない
まずは『配達区分』
君は強そうだし必要な切手も多そうだ
沢山ばらまいて追跡
敵に当たらなくてもいい
ここら一帯を僕の管轄とさせてもらうよ
地形を利用していくのは郵便屋として当たり前
君の攻撃を掻い潜って、君に切手を届けてみせるよ
敵の属性魔法には反対の属性をぶつけて
相殺…は狙えなくとも、見切りながら軽減を目指すよ
精霊たち、よろしく頼むよ
僕と相性がいいのは風属性
ジェイドには風の障壁で防御を担ってもらう
結都の桜の君と僕の風が合わされば春の嵐になるだろう
さあ、結都
春告の雷鳴を轟かせて
結都の攻撃に合わせて風の衝撃波をお見舞いさ
●春告の雷鳴を聞け
これだけ戦って尚、謙信はその動きを止めない。当初に比べれば精彩を欠くとも思われたが、未だ底を見せず猟兵達と戦い続けるその姿、まさに軍神の名に相応しい。
――尾の先がビリビリする。完全なる格上というに相応しい相手に、グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)は身震いしそうになる身体を押さえ、他の猟兵と戦う謙信を遠目に見た。
「相対するだけで手が震えてしまいそうになりますね」
小さな猫の郵便屋の横で、細く息をつくのはまだ年若い少年猟兵。桃色の髪がちらりと揺れて、僅かながらに孕んだ恐れと不安を告げるよう。
グィーは顎を反らして少年――桜・結都(桜舞・f01056)を見上げて、その腰あたりをぽむ、と肉球で叩いた。まるで勇気づけるように。
「大丈夫だよ、結都。気を引き締めていこう」
目を瞬く結都に、グィーは薄く笑う。その目が語っていた。――いかに強大と言えども、彼相手に、一人で挑むわけではない。
結都は少しだけ目を大きく開けてから、顎を引くようにかすかに頷いた。
「ええ――そうですね。グィーさんが隣にいるのだから、……きっと怖くない」
「そうだよ。僕等は一人じゃない。きっと、負けやしないさ。――作戦通りに行くよ!」
「はい!」
斯くして、グィーと結都は肩を並べて戦場へとひた走る。
「認めぬ――我が覇道、未だ潰えず! ここで貴様らを退け――今一度、世を戦国にし覇を唱うが我が道よ!」
おもい
「残念だけど――その妄 念はどこにも行けないよ。宛先不明で、返送さ」
叫ぶ謙信に、グィーが呟くように言った。紙吹雪めいて空中に振りまくのは無数のオリジナル切手。
「行け!」
相対距離二十メートルほど。グィーが鋭く命じる声に従って、切手がまるで嵐めいて吹き荒れる。謙信目掛け放たれた紙片の嵐が、謙信を切り刻もうと唸り飛ぶが、謙信も座してそれを待つわけではない。
「小癪!」
火の毘沙門刀と風の毘沙門刀がその暴威を振るった。天を衝くような炎の竜巻が巻き起こり、巻き込まれたグィーの切手の悉くが灼き尽くされていく。しかしグィーは切手を続けて放つ。
――実のところ、当人に当たらずともいい。彼が放つ切手は攻撃のためだけではなく、それによる番地構築を目的としたものでもある。ユーベルコード、『配達区分』。謙信が己の身に来る攻撃を警戒している間に周囲に切手を貼り続け、グィーは己の攻撃命中率を密かに高めていく。
「――その紙片すら恐れているのですか。戦場の神、軍神として謳われた人が」
「なんだと?」
グィーが策を巡らせるその傍ら、挑発するように結都が言う。
「見る相手を謝るようでは、その命も先が短いでしょうね」
「――言ってくれるではないか、小僧。ならば次はこちらの番だ……!!」
防御に回っていた謙信は、激したように唸ると、黒の毘沙門刀を振りかざした。炎の嵐が爆ぜるように収まり、回転するのは三本、炎と風に加え、光の毘沙門刀。三刀が交わる鳴り、空中に光熱が球の形となって謙信の周りに浮く。
「消し炭も残すまい。燃え尽きろ、猟兵……!!」
刀を差し向けてくる謙信。結都は、両手に広げた『桜霊符』をびっしりと空中に張り広げ、そこに破魔の力を全力で注ぐ。
「させません!」
結都の藤色の瞳が煌めいた。瞬間的に生まれ出るのは、角度をつけた障壁である。
どうっ、ど、ど、ど、どうんっ!!
音低く爆ぜた風が熱線を運んでくる。光炎の弾丸を風で叩きつける、毘沙門刀三刀の合わせ技を、結都が全力の結界で防ぎ止める。
「う……く、ぅっ……!」
「結都!」
「大丈夫……ですっ!」
結界を維持する結都の右の手指、爪がフィードバックのために爆ぜ、血が零れ落ちる。それほどまでの威力の術。げに恐ろしきは戦国最強、上杉謙信。しかして結都も一歩も退かない。左手に握った錫杖を振るい、雷霆の魔術を発する。
発された雷鳴が、唸る敵の光炎の弾丸を打ち据え、撃墜。空中に爆炎が咲き、まさに魔術での砲撃戦めいた様相を呈する。
「あの属性の弱点を衝くには――」
そこに加え、グィーが横から援護するように風の精霊『ジェイド』の力を借り、魔術を行使する。彼の得手は風の魔術。敵が扱うのは風、光、炎の複合属性攻撃だ。ならばと水の魔術を起動、風の魔術で大気を逆巻かせ、発生した水球をドリルのような形に整形し、風にて射出! 結界の影より射出された水の錐が、敵の放つ光炎の弾丸を撃ち落としていく。
グィーと結都の全力攻撃により、射撃戦は膠着状態になった。しかし、謙信が次の策を案ずる前に、既に行動していたものがある。
――結都である。
防御のために発する雷霆の煌めき、そして破裂音。更には、グィーが光熱の弾丸に水の錐をぶつけることによる水蒸気爆発の大音に紛れ、彼は己のユーベルコードを走らせていたのだ。名を、『桜色の君』という。
「――む!」
当初その数、二十五体。爆炎・爆光散る戦場を潜行させたために、巻き込まれて消えたものが十二体。しかして残る十三体が、突如、不意を打つように謙信を取り囲む!
「小細工を弄するか!」
毘沙門刀・車懸り!
両手の二刀も含め一瞬でその斬閃、十二! 次々断たれる桜の精だが、ただ一体――一体だけが謙信に取り付き、その身体をびりりと痺れさせる!
「ぬうッ……!」
一瞬の運動機能障害。毘沙門刀を迎撃に廻したため、光熱弾の弾幕も消える。――そうなれば、魔術が届く。結都が描いていた戦闘展開である。
「――あなたの相手は私たち。余所見する暇など与えません」
結都が言うなり、その錫杖の先端から雷霆が跳ねた。
「その涼しいお顔を崩してみせます――グィーさん!」
「ああ! 行くよ、結都!」
結都が名を呼べば、グィーが当意即妙に応じた。
錫杖から放たれた雷霆が空気を爆ぜさせた。結都が一直線に放った雷が、謙信の身体を打ち据え、全身を痺れさせる! 桜の君が作り出した、ごく僅か、たった一瞬の隙を、その雷がこじ開ける。
「ぐ――!?」
それは、全く綱渡りめいた――ギリギリの戦いだった。グィーが一人でも、結都が一人でも、決してこうはならなかっただろう。まさに、最初に、二人が確認したとおり。『一人ではなかったから』出来たこと。
それを知るが故に、郵便屋は稚気もたっぷりに笑う。いかに偉大な軍神が相手だろうと、『二人なら』、絶対に負けやしない。
「さあ――ここら一帯はもう、僕の管轄だ。どこに逃げたって届けてみせる。――春告の雷鳴を聞いたかい、上杉謙信。君という険しい冬は、もうおしまい――春が来るよ。さよならの時間だ!」
グィーが三度、切手を放った。その速度は先ほどに倍する。周囲に貼られた切手が、彼の攻撃の命中率と性能を向上する。風に乗って謙信を取り巻き、切手がその身体を切り刻む。
「ぐあああああっ!!」
吼える謙信の叫びを飲み込むように、結都が再度力の限り雷霆を放つ。空気を破裂させる紫電が、雷鳴を伴い謙信を打ち据え――そこに、グィーがジェイドとともに力の限り練り上げた、風の衝撃波が迫った。
猛撃の春嵐。
謙信の身体が、遙か後方に襤褸切れのように吹き飛ばされる……!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
矢来・夕立
【絶刀】ヒバリさん/f15821
世界の趨勢がどうとかよりも、永海の里が滅ぶ方が問題です。
それに謙信公の十二刀、相手に取って不足ありませんよね?
ヒバリさんが盾になるんで、ラクに進めそうです。
動く遮蔽物ですね。《忍び足》で歩調を合わせて様子見。
隙をよく狙って【紙技・速総】…《だまし討ち》。
初手はブラフの『水練』。
二撃目が本命、『牙道』。
……というのはウソです。
数えて三撃目。『雷花』。
コレがホントの本命です。
…ってのも、正しくはウソですね。
あのひと。
後ろでくたばってると思いましたか?
あちらが文字通りの真打ちですよ。
あなたに毘沙門天がついてるって言うなら、
オレには戦神《イクサガミ》がついてるんです。
鸙野・灰二
【絶刀】夕立(f14904)
そりゃ大問題だ、こいつらを里帰りさせる予定が駄目になる。
じゃア行くか。常勝不敗の軍神に毘沙門の十二刀、相手に取って不足無し。
俺は前に出る。《先制攻撃》で注意を此方に引きつけ
夕立への攻撃も引き受けて《かばう》。
太刀筋を《見切》り、佩いた三振り全て手数として使う。
受けた傷は《激痛耐性》で凌ぐ。盾の役目、全力で果たして遣るとも。
本命が出たら俺の役目は終わりだ
後は全て夕立に任せて、戦いの行方を見届ける。
…… “ウソですよ”
鸙野(おれ)が真打だ。
手足の動きに問題無し。射程、隙、闘志に殺意――総て良し。
此処で討ち取る。
《早業》【刃我・灰燼】
天から地まで落ちて来い、軍神。
●斬り裂くは 嘘か誠か いくさがみ
「世界の趨勢云々が懸かった争いだってのは承知ですが、永海の里が滅ぶ方が問題です。エンパイアに消えてもらっちゃ困る」
「そうさな、大問題だ。こいつらを里帰りさせる予定が駄目になる。なア、斬丸、雷花」
飄々とした少年の声と、刃が喋ったような、鈍色の声がした。
それぞれ、手に提げるのは永海・鉄観が作、斬魔鉄製脇差『雷花』。そして、“七代永海”・筆頭八本刀が一……『斬丸』。
「里帰り、そのうち機会があればいいんですけどね。まあ、なければ作りゃいい話ですが。そうするためにもこの戦いを凌がないといけません。――それに、謙信公の十二刀。相手にとって、不足ありませんよね?」
「応。常勝不敗の軍神に、天下無双の毘沙門十二刀。お前の云う通り――この上のねえ相手だ」
ずら、り。
刃の声の男が、左手に『斬丸』を抜いた。灰の長髪に浅黒い肌。もう片手に、無骨だが優美な日本刀を抜き放つ。銘を『鸙野』。――いかにも。その男こそ、鸙野・灰二(宿り我身・f15821)。鸙野を本体に戴くヤドリガミにして、無類のいくさ好きである。
「じゃア行くか、夕立よ。死合いによ」
「コンビニ行くみたいに気軽に死地に旅立つのやめてくださいよホント」
踏み出す灰二の脇を固めるのは、雷花を逆手に携えた黒髪の少年。
緋色の瞳を瞬かせ、咆哮とともに天を焼く――災害のような男を遠目に見て、彼は、矢来・夕立(影・f14904)は目を細める。
もはや、謙信は自壊寸前の身体を引きずり、それでも再殺を拒むが如くに荒れていた。もう一度の覇道を夢見た男は、きっともうすぐそこで潰える。
――否。絶つのだ。此度最後のこの絶刀、二振りの閃を以て。
「……付き合いますよ。行きましょうか。そろそろ幕も引き時でしょう」
夕立の答えを聞いてから、灰二は唇を笑みにゆがめ、地を削るほどに踏んで駆けだした。夕立もまた、それに続く。
「おお――お、」
再度この世に生を受け、このエンパイア・ウォーという乱痴気騒ぎを終わらせて、己が道を歩くはずであった。
覇道を、嘗て果たせず散った道を。此度はきっとこの力を手に、走りきれると信じていた。
だが、終わるのか。もはや、身体の傷は巻き戻せぬ。骸の海より持ち参じた力のほぼ全てが、猟兵達の猛攻により削り切られた。――最早、これまでか。
世の無常を嘆くように慟哭する謙信の周囲に、毘沙門刀が共鳴るように、炎の嵐が荒れる。その炎の嵐の中を、駆け来る一つの大柄な影があった。
灰色の髪を振り乱し。両手に二刀を携えて。
「上杉謙信だな――御命、頂戴」
「貴様らに渡せるほど――安い命ではないわ!!」
謙信は吼えた。毘沙門刀・車懸り。十刀を立て続けに射出し、謙信自身もその後ろに続いた。
剣戟が咲く。炎が荒れ、周囲の木立を焼く中で、最後の打ち合いが始まった。
先手を取ったのは灰二であった。二刀による乱撃。軍神、上杉謙信を前に一歩も譲らぬその気迫。真正面からの馬鹿正直な打ち込みだが、しかしその剣は唯々、純粋に早く苛烈だ。満身創痍であるとはいえど、謙信ですら蹈鞴を踏むような打ち込みである。
しかし、当然ながら謙信の手札は両手にしたその二刀のみではない。周囲に浮遊する毘沙門刀が連続で嵐の如く繰り出される。灰二は鸙野と斬丸を巧みに振るい、飛び来る毘沙門刀を立て続けに弾く、弾く、弾く! 近づけば斬撃の余波で肌が切れそうなほど冴える灰二の太刀筋。
「小癪にもよく耐える――貴様の首を手柄首とさせてもらおう!!」
「選んでもらったのは嬉しいが――生憎、まだまだ暴れ足りねえ。付き合えよ軍神殿、」
歯を剥く剣鬼、刃が如く唸る!
たちあい
「大一番の断ち合いだぞ。――笑えよ。なア!!」
灰二は言葉の通りに笑って十二刀を二刀にて防ぐ。しかして手負いとはいえ軍神の全力攻撃を一身に集め、無事で済むわけがない。灰二の二刀の隙間を縫い、次々と毘沙門の刃が襲い、灰二の身体を裂き、貫く。しどどに血に濡れながらも、彼はその一身に攻撃を集め続けた。
がきん、と音がして斬丸が天高く弾かれれば、すかさず斬魔鉄製脇差、影打「忘花」を抜刀! 降り注ぐ刃の嵐に、斬り裂くが如く雄々しく太刀向かう!
さて、剣乱業火の火花乱れ散るこの折。単身、真っ向より敵の剣を受け、防ぎ止める絶刀の片割れを置いて、もう一振りがどこに行ったかと言えば。
――何のことはない。最初からそこにいた。灰二がその身で、全ての攻撃を防ぎ止めるその後ろ。まさに宿り我身の影となって、矢来・夕立は駆け来ていたのだ。忍びの足は伊達ではない、その存在すら知覚させぬ隠形隠密!
車懸りの十刀が途切れた刹那、灰二が不意に身を屈めるなり、その背を駆け上って夕立が飛び出す。まさに灰二を動く盾とし至近に迫った後の奇襲。夕立の得意は虚言嘘吐き暗殺奇襲、駄目押し一手の騙し討ち!
「ぬうっ!?」
「余所見は感心しねえなア!」
一瞬注意を奪われた謙信に、鋭く打ちかかるは灰二! 忘花と鸙野による袈裟に払いにの四連斬閃が謙信の脇腹を、肩口を抉る!
「ぬうゥッ、あああああ!!!」
全身から血を流す灰二に、同じく各所より血を飛沫かせながら全力で応ずる謙信。灰二の追撃を打ち払い、その身体に四本の毘沙門刀を打ち込んで、二刀揃えての轟撃にてその身体を吹き飛ばすッ!
「があ、……ッ!!!」
後ろに吹っ飛ぶ灰二だが、彼に護られ未だ無傷の夕立がそれに続いた。空中から放つは『水練』。紙で出来た手裏剣。――しかしそれは千代紙の忍びたる夕立が折った『式紙』である。紙と侮るなかれ、その強度は鋼鉄に勝る!
「この程度ォッ!!」
がが、ががががっ、がきいん!!
火花を散らし、黒刀と白刀にて、驟雨の如く降り注ぐ水練の嵐を謙信は弾き散らす。何たる剛剣、何たる技か! しかしそれすら『折り』込み済み、夕立は既に次の手に入っている。
一手目の水練は囮。本命は、
「はッ!!!」
羽織を打ち振るなり紙製の棒手裏剣が嵐の如く降り注いだ。式紙『牙道』、我道を行く夕立の歪な真っ直ぐさを形としたかのような手裏剣である。空気を裂いて襲いかかる棒手裏剣の雨を、
「乱波者が、この上杉謙信を絶てると思うてかッ!!!!!!!!」
謙信は風の毘沙門刀を奔らせ、衝撃波めいた風で棒手裏剣の嵐を弾き散らし、防ぎ止める。防ぎ切れぬ数本を刀で受け、宙の千代紙の忍びに目を戻す――が。
いない。既に。
「残念、ウソです」
式紙『牙道』の嵐すら囮。手裏剣を『受け』た時点で謙信は夕立の術中だ。宙に滞空させた式紙を蹴り、自由落下より遙かに早く、夕立は地に降り立って疾駆していたのだ。
「馬鹿なッ……、」
速い。夕立はその影を地に落とさぬような速度で疾った。逆手にするは斬魔鉄製脇指『雷花』。地を爆ぜさせながらに駆ける忍びに、今や鈍った毘沙門刀・車懸りは追いつけず、次々地に突き立つばかり。
「妖刀地金、『斬魔鉄』の極み、ご覧じろ」
擦れ違い様に雷花が閃いた。まさに一瞬、重さを感じさせぬ、群れ成す飛燕がごとき斬閃。謙信は数発を弾くも受けきれず、全身より噴血。よろめき、蹈鞴を踏んだ彼の足下に、コロリと転がる紙箱一つ。
「――あのひと。
後ろでくたばってると思いましたか?
――あなたに毘沙門天が憑いてるっていうなら――
イクサガミ
オレには、 修 羅 がついてるんです」
矢来・夕立は嘯いた。
謙信の足下に転がった紙箱――否、式紙『封泉』が地雷めいて炸裂。
「ぬうァッ――?!」
謙信の身体が吹き飛ぶ。
その先に。今まさに、首を地面に立て、その反動のみにて跳ね起きた男がいた。
「――“ウソですよ”」
「……使用料、高いですよ」
夕立の決め台詞を取って立ったのは、既に斃れたかに思われた――まさにまさに、最後の真打ち。鸙野・灰二。
吹き飛び、空中で藻掻きながら落ち来る軍神に狙いを絞る。
――忘花を納め、天に手を突き上げる灰二。導かれたかのように、宙高く高く打ち払われたはずの斬丸が、その手にしかと収まった。
――鸙野よう! なあ! やつを斬らせろよ!! おれを、振るえよう!!
「応さ。ここで討ち取る」
手の内より響く斬丸の声に従い、灰二は構えを取った。
右手に鸙野。左手に形見の斬丸。
あの剣鬼、八刀・八束を思わせる、天下無双の構えにて。
四肢に漲る闘志と殺意。身体に纏うは今まで負った、謙信の攻撃全てより放練り出した闘気を――刀気を纏いて!!
ここに成るは、『刃我・灰燼』。
二刀を携えたまま、灰二は力の限りに地を蹴った。
天より地へ、落ちる軍神へ。
それが手向けの二刀であった。
「おおおおおォおおおおおオぉぉぉっ!!!!」
宿り我身、斬丸とともに吼え。
防がんと繰り出された白と黒の刀を砕き。
矢来・夕立が称した如く、その様、正に、イクサガミ。
斬丸が、謙信を頭から唐竹割りに。身をひねりながらの鸙野が、胴打ち一閃、謙信の身体を天地に分けた。
最早、声もなく。
覇道、此所に潰える。
毘沙門刀が宙で崩れ、猛将、上杉・謙信はそこで果てた。
空に、光咲く。爆光上げて、その身体が四散する。
血に濡れて地に降り立った灰二の手で、鈨桜が、弔うように煌めいた――。
大成功
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