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エンパイアウォー⑱~毘沙門天の十二刀

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #上杉謙信

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●車軸に佇む
「――今のところ戦況は大きく動いていない、か」
 自軍の置かれた戦況を眺め、つまらなそうに呟く男がいた。背はさほど高くない。だが、その白布姿はオブリビオンの軍勢の中でひときわ目立った。男の名を上杉謙信、名高き戦国の名将。それが過去より蘇った者。
 彼は配下からやってくる報告にいちいち頷いて、その動きを督戦していた。

「現世の軍もなかなかやる。私の得意、車懸かりの陣をよく防ぐものだ」
 青い瞳を涼し気に細めて、余裕ありげに呟く。『車懸かりの陣』には自信があった。
 得意と嘯くだけはあり、彼の采配は見事そのもの。最前線となる敵と対峙する部隊を次々と入れ替え、休憩と魔術的な加護――バフを与え、敵と戦うのは常に士気の高い部隊となるよう戦線を維持し続ける。一方、常に戦闘による拘束を続け、敵を疲弊から逃れさせない。『車懸かりの陣』と一言で表せても、それを実現するには戦況を完全掌握し、隙を突かれない絶妙なタイミングで指示を続ける技術が要求される。神業―― 軍神の業という他ない。

 この戦場でも、『車懸かりの陣』は猛威を振るっていた。
 だが、彼の瞳に驕りは見られない。冷めたように戦場の観察を続ける。

「――趨勢が決するまで、今少し。早くやって来ると良い、猟兵」
 オブリビオンの将は静かに呟いた。毘沙門刀に添えた手は、どこか楽し気だった。

●戦いが始まる
「と、いうわけでですねー。皆さんには上杉謙信と戦ってもらいますー」
 グリモアベースの一角で、グリモア猟兵は飾り耳を揺らす。グリモア猟兵、東風・春奈(小さくたって・f05906)はいつだってマイペースだ。

「はい、こちらが戦場――関ヶ原の現在の陣形図となりますー。車輪のように配置されているのが敵の上杉軍、それと対峙しているのが幕府軍ですねー。この車輪のような陣形、『車懸かりの陣』というのが曲者でしてー、一刻も早く打破して欲しいんですー」
 上杉軍が敷く『車懸かりの陣』は、軍隊対軍隊における有利だけでなく、上杉謙信というオブリビオンの討伐の障害でもあるのだという。というのも、謙信にダメージを与えても『車懸かりの陣』で時間を稼がれ、体力を回復させられてしまうのだ。

 すなわち、『上杉謙信』と『車懸かりの陣』は同時に倒さなければならない。

「皆さんは、その内の『上杉謙信』担当というわけですねー」
 ここまではよろしいですかー? と春奈は猟兵たちを見回した。
「残念ながら、『上杉謙信』の目の前に転送することはできませんー」
 『車懸かりの陣』を強行突破し、『上杉謙信』の前に辿り着く必要がある。その方法は、猟兵各々の手段に任されている。とにかく、辿り着いて戦い、倒すこと。それが猟兵に与えられた任務だった。

「肝心の『上杉謙信』の能力は『十二本の毘沙門刀を操る』ことですー」
 曰く。背に浮かぶ、『水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇』の10属性の回転する毘沙門刀と、両手に持つ『アンヘルブラック・ディアブロホワイト』の2本のそれを自在に操る毘沙門刀使い、それが上杉謙信だ。

「相手に応じて毘沙門刀を使い分け、必要があれば『自然現象』をも巻き起こす一撃を放つそうですー。先制攻撃能力こそありませんが、簡単に勝てる相手でないことは間違いありませんねー」
 間違いなく、強敵ですよーと春奈はどこまでもマイペースに呟く。

「有効なアドバイスは、私にはできませんー。ですが皆さんなら、きっと勝てると信じていますよー」
 軽い力を込めたガッツポーズで、集った猟兵を春奈は励ます。

 春奈がぴっとボタンを押すと、コンソールからグリモアの光が広がった。


隰桑
 お世話さまです。
 陣形とか軍略の話になると、早口になってしまう系隰桑です。
 あ、判定はもちろんルールに則って行いますよ。ご心配なく。

=============================
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================

●特殊ルール
====================
 軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
 つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
====================
 当依頼は『⑱決戦上杉謙信』に属し、『上杉謙信』一体との決戦依頼となります。
 配下の軍を突破し謙信と対面するシーンから始まり、配下との戦闘描写はありません。

●難易度
 高いです。厳しめに判定します。ご注意ください。

●演出
 文字数に余裕があれば、上杉謙信軍をどう突破したかを記載していただければ、演出として採用するかもしれません。なお、どう突破したかは上杉謙信との戦闘判定結果を左右しません。(突破でダメージを負った演出をしても、負っていない状態と同じように判定します)

 ほぼほぼ間違いなく苦戦します。苦戦描写が絶対にダメという方は、その旨プレイングに記載いただけますようお願いします。最大限、尊重いたします。隰桑の苦戦描写については、過去の戦争ボス依頼などをご確認ください。

●隰桑について
 アドリブは呼吸のようなものです。やめられないとまらない。

●受付期間
 『受付開始:8/9(金)朝8:30~』。
 『受付締切予定:8/11(日)夕方18時頃』とします。11日夕刻まではどれだけプレイングが来ても、〆切らない予定です。プレイングが十分数集まらなかった場合は、順次締め切りを伸ばして募集します。
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第1章 ボス戦 『軍神『上杉謙信』』

POW   :    毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ロク・ザイオン
(森番は森と獣の理に生き。愚直であり。搦め手を不得手とし。
故に、傷つこうが呆れるほどの直進を選んだ)

(森番は森に立つ。その天と地が荒れようが、森は逃げない。
ならば、森番もそれに順応する。
【野生の勘】と【地形利用】で厳しき自然から生き延び、【ダッシュ】で肉薄。
この天地を操る力、狙いは甘いのだろう。
ぴったりとくっ付いていれば、襲い来る自然からお前も逃げ得まい)

("烙印刀”と"閃煌”の二刀による【二回攻撃】
「烙禍」で足元を崩し、戦場をおれの利に変えながら【早業】で【傷口を抉る】)

……ここは。
生きるものの世界だ。
死を拒む"病”は、灰に。土に。
森へと還れ。



●生きる者のために
「――ようやく来たか」
 兵士の騒ぐ声が、次第に自分に近づいてきたのを察して、『彼』は一人呟いた。
 一瞬遅れるようにして、陣が割れる。
 飛び出してくる様は、さながら燃え盛る彗星。
「――――――ォォオオオ!」
 眼前の『病』を焼き尽くさんとする声が響く。
 手にするのは二刀。日の光を反射して、朱金が輝きを放った。
 護衛の兵士陣を抜けた事実だけを確認したあと、脇目も振らずに駆ける。
 他の何物にも目をくれず、ただ走るその様は――。

「――まるで獣のごとしだな」
 過去より蘇りし魔将――『上杉・謙信』は動じず、くっくと喉を鳴らす。十秒と経たぬ内に自らに迫ろうとする猟兵の姿に彼は動じない。
「笑うのもここまで。いい加減、迎え撃つとしようか」
 くるくると背に浮かぶ毘沙門刀が回転を始め、その内の一本を彼は握った。

「(――来る!)」
 その動きを遠目で見て、背筋に寒気が走った。森番の少女は自らの危機を直感する。ひらけた地形で、上杉軍の陣地らしく幾らかの陣屋はあるが遮蔽物としては心もとない。それ以上に考える余裕が残されていない。初撃が来る。

 暗い色をした毘沙門刀が軽く振るわれる。
 刹那の後現れるのは、猟兵を飲み込まんとする『大波』。
 『闇』の色をした『津波』が、大口を開けて動き出す。
「(――『自然現象』をも巻き起こす、なるほど。こういうことか)」
 青い瞳が冷めたまま、それを睥睨する。焦りはない。彼女は予知を聞いていたし、何より自らが恃みにする野生の勘がそうせよと囁いた行動に身を任せていた。
 津波の口が閉じられても、彼女の身体はそこにない。

 なぜなら、すでに彼女は跳んでいるのだから。

「――燃え、落ちろ」
 ロク・ザイオン(明滅する・f01377)が振るう一刀は、燃え盛る烙印刀。
 その一撃の名は【烙禍】。
 魔将の雷を纏う竜巻を空中で身動きすることなく躱し、落下の勢いを保つ。
「一人目から、気骨のある奴が来たものだ。しかし、その一撃を莫迦正直に受けてやる意味はないな」
 白頭巾の下で男は楽し気に微笑んで、大きく後ろへ跳躍する。
「――ちっ!」
 森番の少女の落下と同時に、大地が崩れ、巨大な陥穽が生じた。

「見事な破壊力、そして獣の直感か。"小僧"、見事だ」
「……うるさい。死人が、喋るな」
 首を振って、森番が駆ける。炎の尾に曳かれて、青いリボンが揺れる。
「死人。死人か。私は今、死んでいるつもりはないのだが。私を蘇らせたのは世界であると考えれば、不自然ではないと言えようか」
 謙信がいた場所が、またしても大穴に変わる。ひらりひらりと躱す彼は、未だ余裕そのもの。会話を楽しんでいるようですらあった。
「いいや、死を拒み、世界を蝕むその在り方は、自然ではありえない」
「見解の相違だな。世界を蝕むというが、他者を犠牲にして自分の生を希求する在り方も、他の生命と変わりないではないか」
 毘沙門刀に斬り裂かれて、ロクの腕から鮮血が迸る。

 それを無視して、二刀を握りしめる。
「――――いや、違う。違う。それでは巡らない。巡らないのは、森の在り方じゃない」
 浮かんだ言葉を口にする。敵に伝わる文章になっていない気がした。
 それに、敵に向ける言葉は決まっていた。

「……ここは。生きる者の世界だ」
 少女は跳ねる。首にさげた鎖が音を立てる。
「死を拒む"病”は、灰に。土に――」
 白熱した炎が煌めいて、光の雨を防ぐ。
 大樹のごとき褐色をした毘沙門刀に、烙印が刻まれる。

「――森へと還れ」
 毘沙門刀の一本が、悲鳴をあげた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンノット・リアルハート
【ノイギーア】を限界まで縮めて靴の中に隠しつつ【メタルハート】の全速力を出して謙信軍を一直線に突破
十二本の刀による攻撃は基本メタルハートを【操縦】して回避しつつ、避けられないものは【シュヴェールト】で【武器受け】しましょう
この『見えない武器がある』という事実で相手の意識を散らします【戦闘知識】
始めは防御に撤して相手が距離を取ろうとしたら反撃開始
メタルハートから飛び降りて自動操縦に切り替え、正面から突撃させます
ただしこの攻撃は目眩まし
【スナイパー】で相手との距離を計って、着地と同時に靴の裏からノイギーアをUを描くように地中へ伸ばして地面から相手を奇襲
ヒットしたらUCを発動し決定打とします


ミハエラ・ジェシンスカ
【対艦魔剣】(演出)で突破
敵陣の一角を文字通り切り崩す

12本の刀とは随分な邪剣を使う
軍神だと?
貴様はむしろ荒ぶる禍つ神の類いだろうよ
それにその黒白の2本
何故かはわからんが気に食わんな

私も出し惜しみはしない
両腕の2刀、2本の隠し腕、ドローン2基
6刀×【2回攻撃】=12の剣で戦い
【見切り】【武器受け】からの【カウンター】を駆使
属性攻撃には【念動力】で対抗する

尤もこの程度ではこちらの劣勢は覆るまい
だが、私には第13の剣が存在する


――と、ヤツにそう信じ込ませる
ヤツが存在しない剣の実在を信じた時にこそ我が邪剣は完成する
【催眠術】と併用しサイキックエナジーに乗せて【殺気】を放出
【だまし討ち】【鏖殺領域】



●メタルハート・ベーゼン
「――もう! 簡単に近づけないの、誤算ね!」
 愛箒『メタルハート・ベーゼン』を急上昇させると、悲鳴をあげたような風切り音が聞こえた。まだ毘沙門刀の一撃を見えざる剣で受け止めた衝撃が手の中に残っている。アンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)は上空から敵将『上杉・謙信』を見下ろしていた。
 高機動の魔法の箒による戦闘は、彼女の想定よりもはるかに難易度が高かった。魔将の毘沙門刀は、その本数に見合った手数で攻撃を繰り出す。小回りの利きづらい騎乗戦闘は彼の攻撃を防ぐので手一杯だった。

「どうした、もう終わりか。見えない一撃だろうと、攻撃する場所は推測ができる。狙いは私以外ありえないのだからな」
「(簡単に言ってくれちゃって……!)」
 敵が口にする言葉を鵜呑みにするほど、アンノットは未熟ではない。なにより宮廷政治というものを知っていれば、たかが言葉に威圧などされるはずがない。
「(でも、想定が外れたのは事実ね。十二刀――今は十一刀かしら。とにかく、手数自慢だけはあるわ。『見えない武器がある』事実に割いてくれる意識がほとんどないなんて。全然隙が見つけられない)」
 視界にかかった銀の髪を左手でかきあげながら、思考を積み重ねていく。

「(――攻撃の手を緩めなければ、きっと勝機が見つかるはず!)」
 メタルハート・ベーゼンの機首を下に向け加速しながら、紫の瞳が油断なく輝いた。

●小細工と嗤われようと
「その珍妙な光る剣を腕で四本、宙に浮かべた二本。計六本か」
「――っ」
 隠し腕を炎を纏った毘沙門刀に斬り落とされて、叛逆の機工騎士は口を歪ませた。
「相応に手数自慢だったようだが、私から言わせればまだまだ甘いな」
「その口も剣も、何もかも、気にくわん奴め」
 残った腕でフォース・セイバーを握りしめながら、ミハエラ・ジェシンスカ(邪道の剣・f13828)の赤い瞳が明滅する。言葉の間に迫る毘沙門刀を残った隠し腕の光剣が受け止めた。
「私の技を受け止めようと思うなら、小細工を弄するのではなく本気でなくてはな」
 魔将『上杉・謙信』の毘沙門刀が迫る。明らかに劣勢であった。

「――なるほど、軍神と呼ばれるだけはある。だが、神は神でも貴様はむしろ荒ぶる禍つ神の類いだろうよ。打ち倒されることこそ似合う」
 それでも彼女は戦いを続ける。まるで未だ隠された手があるかのように。

●王女の竜と鏖殺領域
「いずれ私も打ち倒されるかもしれぬ。だがそれは今ではない。まして貴様によるものでもない」
 無慈悲な言葉と共に白布が翻り、毘沙門刀が振るわれる。
 赤い光がそれらを受け止める。一本、二本、三本、四本、五本――そして。
「いざ、――覚悟されたし!」
 鍔競り合う状況で『フォールンセイバー』を拘束された今、彼女は追撃を受け止め切れない。すわやられたかと覚悟したその時。

「――ぐっ!?」
 魔将が仰け反る。背に突き刺さるのは槍――アンノット・リアルハートの『ノイギーア・シャッテン』。帷子で防がれたようで、刺さり方は深くない。
 竜と呼ばれた男が咄嗟に振り返る。
「――はは、私に竜をぶつけてくるとは!」
 その眼前に迫るのは、【ドラゴニック・エンド】で呼び出された魔竜。王女の命を受けて、忠良なる竜はその咢を男へと向けた。その脅威たるべき姿を見てもなお、いや、むしろオブリビオンはいっそう楽しそうに笑った。
「さあらば毘沙門刀よ、真の竜のなんたるかを教示せよ!」
 軍神の刀が振るわれる。牙と刀がぶつかって、甲高い音を鳴らす。
 カン、カンと音が続く。竜の爪が舞う。軍神が跳ねる。
 その頭に飛び乗り、背を裂きながら、竜の後ろに控えていた王女へと走り出す。
 背を廻っていた赤い毘沙門刀を謙信が掴み――。

 ――まるで時が止まったかのように謙信が立ち止まった。
 そして、何かから回避を試みるように跳躍した。

「私を忘れてもらっては困る――そして、その勘の良さこそ、私の狙いだ」
 空中のオブリビオンに向けて、悪意に満ちた声がした。
 同時に、彼が手にした炎の毘沙門刀に罅が入る。
「……そこから斬撃を飛ばすとは」
 毘沙門刀を投げ捨てて着地しながら、謙信はミハエラへと視線を向けた。
「いいや、私は剣を振るってすらいない。今貴様を斬ったのは殺意を逃さず気づく、有能なる貴様自身なのだ」
 邪道を名乗る騎士はその技の在り方を淡々と告げた。
 どうせ、この敵に二度とは使えぬとわかっていた。

「余裕を見せていてもこうして槍の一撃をもらい、刀も一本折られた。……まったく況や修行不足よ。だが、今ここでそれを託っても仕方がないな」
 魔将は笑う、戦況を楽しむように。冷徹な仮面が歪んでいく。

「ねえ。私達、前進しているのよね」
「敵の刀は折った。戦況は動いているだろう」
「……そうだと、いいんだけど」
 戦友の理屈を耳にしてもなお信じきれない状況に、王女が苦笑した。
 敵将の底は未だ見えない。戦いはまだ続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

パル・オールドシェル
軍神上杉謙信、見事な戦術指揮能力であると認めざるを得ません。
ですが私もかつて軍神たれと人々に祈られ在った機械。
紛い物であろうと一矢を報いて見せましょう。

星歌隊艦隊全艦をもって上杉軍上空を強行突破。2割も生きて抜ければ上々です。
いいえ、2割以上の生存を最低限の勝利条件に。艦隊を生きて抜けさせるためならば私自身の損傷も許容しましょう。

後、艦載機動部隊による強襲降下と艦隊の空爆によって謙信を襲撃。
艦隊規模の航空攻撃は初めてでしょう?
異世界の戦術で以て、彼の術法制御に割く集中力を乱すことに全力を。

私は祈ります。旗艦パルラス・アテーネⅡ、人々の希望の神たる我が偶像の身が、真なる軍神に打ち勝たんことを。


弥久・銀花
「こんにちは軍神さん! もう一度昇天させて仏様にしてあげましょう!」

ユーベルコードのワイルドエールを使用した状態で周辺の軍を突き破って、他の特異者の戦いに横槍を入れる形か、即座に追撃する形で突撃します。
全ての攻撃を防ぎ切れるなどと自惚れる気は有りませんが、【見切り41】で攻撃の軌道を読み取り、多少なりともその、何かふわふわしてる刀をワイルドエールで吹き飛ばして、私の愛刀の白嵐玉椿の刃を変な頭巾に叩きつけてみせます。

相手は最低でも二刀流なので私も白雪桜の鞘で【武器受け37】をして、【鎧無視攻撃42】や【鎧砕き42】を【怪力42】で強引にお見舞いします。


アウル・トールフォレスト
神様?でも何か違うような…
まあいいや
悪い人なら、倒さなきゃね

【新緑、始まりの息吹を此処に】を使用し、狼に似た獣化形態に変身
陣の突破のために、最初は地面と同化して潜む(目立たない、迷彩、地形の利用)
隊列の入れ替わる瞬間を狙って全力で猛ダッシュ!ダメージは気にせず、軍隊をすり抜けて一気にボスの元まで向かうよ!

ボス戦では強化された反応速度を活かして、フェイントとか緩急をつけて翻弄するように走りながら、慎重に爪や牙で攻撃

属性刀は氷に一番気をつける。凍結、停止、成長を阻害するもの…来た場合は兎に角避けるか、真逆の属性の『息吹(ブレス)』をぶつける(野生の勘、視力、聞き耳、属性攻撃、衝撃波、範囲攻撃)



●息吹吐く怪物
「――ちょっと攻撃、早いんだけどぉ!」
 怪物を名乗るにしては、いささか普通すぎる悲鳴が響いた。青の瞳を爛々と輝かせた、樹の角の生えた狼のような姿をした金の怪物が氷柱を躱す。後ろ足で着地して、前足が着くより早くその口から『炎の息吹』を吐き出し、氷柱が広がるのを防いだ。
 無力化したことを確認してアウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は、再び走り出す。

「そのような我武者羅な突撃を、近づけたりはしませんよ」
 軍神――『上杉・謙信』は一瞥して、再び毘沙門刀を回転させる。投射の前の予備行動。それは前進しては後退させ、アウルの動きを十分に阻んでいた。ゆえに彼は冷静そのものだった。
「(ううーん……突破が、できないなぁ)」
 心の中で頭を抱える。謙信麾下の軍勢と謙信までの距離を詰める算段がなかったのだ。毘沙門刀の投射を回避することはできた。しかし、それを掻い潜って進むには敵が強力だった。
「(ダメージ覚悟で……ううん、たどり着けるかわからないよね)」
 一瞬でも隙があれば、と願わずにいられない。
 隙さえあれば、それを突くに十分な力を彼女は持っていた。

●星歌艦隊
                    キミ
「――ならば、その隙を私が作りましょう、戦友よ」
 歌う様な声が頭上から聞こえた。その声は、艦隊を連れていた。
「残存する星歌艦隊よ、前へ。損害を厭わず進みなさい」
 彼女が連れるのは、軌道防衛艦隊δ-61。ユーベルコードで呼び出したそれらは、決して万全の状態でポテンシャルをフルに発揮できるものではない。しかし、多対多の戦況で量を補填するそれの貴重さは語るまでもないだろう。

「ほう、見事な威容だ。これもまた、ユーベルコードの力というわけだ」
 魔将は動じない。ただ冷静に、手近な猟兵を相手取る。

「その冷静さ、どこまで保つでしょうか。なにより、艦隊規模の航空攻撃は初めてでしょう?」
 パル・オールドシェル(古き戦友・f10995)は手を広げ、軍神を指し示す。
「――艦隊、砲撃開始」
 その号令に星歌艦隊が吼声をあげる。

「なるほど、航空攻撃とはこういうものか。なら、その相手は私ではない」
 軍神は砲撃のただ中にあっても変わらない。自分に砲弾は当たらないと確信しているかのように。ただ一言、部下に駆逐せよと命じたのみ。
 『車懸かりの陣』に配属されたオブリビオンには、空を飛べる者も多く含まれていた。呼び出された『星歌隊』の弱点は脆く、一撃で屠られるということ。じりじりと数を削られていく。

「私は祈ります。――旗艦パルラス・アテーネⅡ、人々の希望の神たる我が偶像の身が、真なる軍神に打ち勝たんことを」
 パルラス・アテーネⅡの衝角が軍神へと向けられ、突撃を敢行する。
 軍神が水を纏う刀を握りしめ、振るう。水流が渦を巻き、その衝角を飲み込み、そして砕く。衝撃は水に飲み込まれ、そして消えゆく。
「――その祈りは、無意味と知るが良い」
 魔将『謙信』はただつまらなそうに首を振った。

「いいえ、目的は果たしました。私の勝利です」
 パルは目を閉じたまま、ただ淡々と告げた。

●狼の吠声
「ウゥォォォオオオオオオオン!」
 それは、外縁の陣地から響き、一挙に音量を増していた。
 砲撃に紛れて、一挙に距離を詰める。狼は跳び、跳ね、そして眼前へと至る。

「こんにちは、軍神さん! 今度は仏様にしてあげましょう!」
 弥久・銀花(隻眼の人狼少女剣士・f00983)は笑う。舞うように襲い掛かる毘沙門刀を身を逸らして躱し、飛び越え、踏みつけ、ぱちりとウィンクをして守り刀を振りかぶる。だが、刀は刀に受け止められた。
「ほほう? 貴様が他力本願を成就せしめんというか、ふふふ」
「そういう馬鹿にした言い方、嫌いなんだけど!」
 背から襲い掛かる毘沙門刀を鞘で受け止めながら、強がるように少女は吠える。吠声は力となって、毘沙門刀を逸らし――えない。
「――その程度の実力では、私の刀を止めることなど不可能だとも」
「(……声のユーベルコードじゃ、止められない……!?)」
 相性差は埋めがたく、次々と襲い掛かる毘沙門刀が銀花を突き刺す。
 鮮血が噴き出る。突き刺された数本の刀を引き抜くことなく、剣士は前へ進む。

「まだよ。――ユーベルコードが阻まれても、私には剣がある!」
 右だけの赤い瞳の闘志が燃える。白いポニーテールを揺らして、刀を振り下ろす。
「――破れかぶれの攻撃などと!」
 闇の毘沙門刀がその一撃を受け止める。刀を握る義腕が、びりびりと熱を放つ。
「――舐めるなァ!」
 白い桜吹雪が舞う。鎧すら砕く一撃を胴に目掛けて、横薙ぎに叩きつける。
「私の毘沙門刀は、まだあるということをよもや忘れてはいるまい」
 木の葉を纏ったオブリビオンの刀が、その一撃をもいなす。
「……いいえ、これで全部でしょう?」
 銀花の体に刺された刀、そして今の一撃を受け止めた刀。
 咄嗟に動かせる刀はもう、ない。

 ゆえに。

「くらえ、私の一撃!」
 パルと銀花が作り出した隙を突いて迫ったアウルの爪が、『上杉・謙信』の甲冑を切り裂いた。毘沙門刀の反撃で斬り付けられながらも、アウルは確かな感触を手にしていた。

「……なるほど。陽動に陽動を重ねてもぎ取った一撃。見事だ」
 魔将『上杉・謙信』は刀を引き抜きながら、猟兵を称賛する。
 その瞳には、昂ぶる闘志が宿っていた。
 これで終わらないことを語る、何よりも雄弁な色をしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

法月・志蓮
軍神か……一筋縄ではいかないだろうが、やってみよう

まずは関ケ原を一望できる松尾山に『目立たない』ように『迷彩』し潜伏する
謙信のいる戦場は遠いだろうが……対物ライフルベースの愛銃なら、この山からであれば関ケ原の戦場内ならほぼ射程圏内のはず。当たるかどうかは、俺の『スナイパー』としての腕次第だな

銃を構え【致命への道筋】を使用。スコープと『視力』を活かして謙信の戦いを観察し、行動予測や急所等の『戦闘知識』を蓄積していく
相手はかの軍神。そう何度も撃ち込めるとは思えない
『暗殺』の要領だ。気配を殺し警戒が比較的薄い一射目で最大の効果を叩き出す。そのタイミングを図り、『見切』れば……撃つ

※連携アドリブ歓迎


マリアドール・シュシュ
永一◆f01542
アドリブ◎

強敵のオーラ感じ少し体が強張るが、変わらず隣にいる永一のお陰で和らぐ

言わずとも
利用しているだけだとしても
あなたはマリアの信頼にいつも応えてくれるから
揮う力そのものに
嘘偽りはないのでしょう?

同居人さんが暴れられるようマリアが勝利への道(ロード)を作るのだわ!
任せて

高速詠唱で【華水晶の宴】使用
41体召喚
3体合体させ背に乗り移動
先行し一角獣で軍を一掃
謙信の元へ

12体×2で合体させ12本の刀全てを迎え討つ
攻撃緩和させ他の一角獣で攻撃する為の隙作る
10体合体させ数本の刀を使用不可に
4体は護衛+刀対策の補助

鋭敏な音の誘導弾で援護、連携
竪琴で銀河の旋律を奏でる(楽器演奏・マヒ攻撃


霑国・永一
マリア(f03102)と

いやはや、トイレにでも籠っててくれれば楽で良かったのになぁ。それじゃ、気は進まないけど暴れるとしようか。頼むよ、《俺》。そしてマリア
『頭だけじゃなく、周りも喰らっていいとか豪勢じゃねぇかよ!ハハハハッ!』

狂気の戦鬼を発動
周囲の陣はあの小娘(マリア)が蹴散らしてくれるってんだから、俺様は軍神をぶち殺すぜ!
相手同様高速移動し続けて死角に移動を狙い、衝撃波をぶち込みまくるぜ!
なるべく連発して俺様以外に意識向けさせねぇようにはするが、小娘が危ねぇなら仕方ねぇがちっと助けてやらァ!
毘沙門刀は回避か衝撃波で相殺狙うぜ。隙あらば一本くれぇ盗むぜ!
「いいもん持ってんな!命ごと寄越せ!」


ジャハル・アルムリフ
*如何様にも

また一人炙り出されてきたか
逃さぬ様還してやろう、過去の海へ

高めた防御と感知
あとは覚悟ひとつ供と連れ
退屈はしておらぬか、強者たる者よ

怪力を以て短剣と黒剣で斬り付け
足捌きで左右を、
擦り抜けつつ後方の死角を狙わんと間断なく
無数に負う手傷も策も見えておらぬように
視線はただ武将だけに注ぐ

十二の刃と、何よりその実力
――ああ、これでは届かぬだろう
打ち倒される事など予測のうち
足掻かんと見せる為、剣は離さぬままに【忌仔】を発現
軍神の死角をも穢しているだろう血より喚び出す

…呪いの仔、眠る化け物
一口でもいい
あの澄ました顔を、喰らい、歪ませてやれ
此処に在る猟兵らであれば
その一瞬すら決して逃しはすまいよ



●三者の戦い
「退屈はしておらぬか、強者たる者よ」
 竜人は軍神に黒剣と短剣のステップを以て問いかける。
「退屈、退屈か。しているとも、大いにな。」
 軍神は竜神に毘沙門刀の一撃を以て答える。

「ならば、このジャハル・アルムリフがお相手つかまつろう」
 足さばきで何重にも及ぶ毘沙門刀の斬撃を躱しながら、表情乏しき竜人――ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が名乗りをあげる。
「ならば期待しよう。従五位下上杉弾正少弼謙信、お相手致す」
 青い瞳を細めて、軍神は毘沙門刀を振るう。
 舞うように立つ場所を変えて、斬撃は無限の軌道を描いた。
「名にし負う戦に長けし毘沙門天の技、というわけだ」
 黒剣が刀を阻み、火花を散らす。受け止めるので精一杯。
 その底なしの黒き瞳だけは、敵の隙を見つけようと油断なく動いていた。

「ハハハ! おいおい、抜け駆けはなしだぜ! 俺様も混ぜな!」
 割って入るように、暴虐な色をした笑い声が響く。
 謙信の死角を突くかのように、視界の外から黒いフードの影が迫る。その笑い声は、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)――いや、【盗み纏う狂気の戦鬼】で呼び出された、その別人格のもの。短刀を真っすぐ突き立てる。毘沙門刀に阻まれると距離を取り、また詰める。
「好きにするが良い。私は、二人相手でも負けはしない」
「良い自信じゃねぇか!」
「自信ではない、確信だよ」
 魔将『上杉・謙信』の言葉と共に、二人の猟兵の後背から毘沙門刀が襲い掛かる。

「「――っ!」」
 死角を突こうとしていた二人の死角を突く奇襲。
 しかし、それを阻む声がした。

「あら、人数を数え間違えているわ。三人――いいえ、たくさんよ!」
 歌うように彼女は奏でる。竪琴の音色にあわせて、宝石でできた一角獣が舞い踊る。
「一角獣さんたち……お願い!」
 庇うように身を乗り出した一角獣が毘沙門刀に切り裂かれ、悲鳴をあげて倒れ伏す。
「……有象無象がいくら増えようと」
「そうかしら。これだけ手数があれば、十分気を削げるんじゃなくって?」
 ユーベルコード【華水晶の宴】で呼び出された一角獣が次々と倒れ伏すのを、心の底で悼みながら、マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は不敵に笑って見せる。
「それにほら、戦いの本命はマリアじゃなくってよ?」
 竪琴をかき鳴らし、その先で戦う二人を勇気づける。

「――おらおら! どうした!」
 一角獣の背を踏んで、永一が跳ねる。掌から衝撃波を放ち、毘沙門刀を弾き返す。反撃とばかりに放たれた斬撃を、一角獣を盾にして躱す。隙を作らんと、死骸となった一角獣の影からダガーを永一が投擲すれば、謙信は毘沙門刀で真っ向から叩き落す。
「そちらばかり相手されては困るな」
 ジャハルは毘沙門刀をくろがねの籠手で受け止め、黒剣を真っすぐ突き、斬りはらわんとする。軍神はその一撃を跳躍をもって回避し、闇の竜巻で返礼した。
 再びその背に永一が音も無く迫る。
 謙信は振り向くことなく、脇の間から背後の永一へと刀を突き立てた。
 永一はそれをバックステップで回避する。
 軍神――『上杉・謙信』はそれを確かめるや否や刀を戻し、眼前から斬りかかっていたジャハルの黒剣と短剣を受け止めた。竜人の黒い瞳が、軍神の青い瞳の満足そうに歪む様を見た。

「――バケモノかよ!」
「――簡単には倒せぬとわかってはいたが」
 猟兵は口々に呟く。強敵と相まみえた悦びの色を湛えていた。

「曲芸ごときで驚かれては困るな――しかし、いささか飽きたな」
 軍神が笑って、再び動き出す。

「――マリア!」
「……え?」
 当人よりも早く、敵の目的にいち早く気づいたのは永一だった。
 警告は間に合わない。軍神の動きは、まさしく神業。
 戦いの機微を読み、一番隙のありそうな場所へ。
「――っ!」
 光と闇の二色をした、毘沙門刀の閃きが見えて、マリアは咄嗟に目を瞑る。
 だが、いつまで経っても斬撃は訪れない。
「――ほう?」
 謙信が愉快そうに声を漏らすのが聞こえて、おそるおそる目を開けた。
「……永一!」
「世話焼かすんじゃねーよ、馬鹿野郎」
 背を十字に裂かれ、そのまま倒れる。
 気を失ってこそいないが、すぐには動けないのが見て取れた。

「……これで一人、また倒したか」
「まだ俺がいる。それで十分だろう」
 呟き終えるのと同時に、誓いの黒剣が白布を裂く。その鎧には届かない。
「ならば、その力を示すが良い。退屈を紛らわせてくれるのだったな?」
 毘沙門刀が斜めに走り、その根元を黒き短剣が抑える。紫色をした毘沙門刀を竜はその前腕で、竜鱗のごとき防具で受け止めた。そのまま黒剣を滑らせて、胴へと突き立てる。軍神は足首を回し、身を翻し、竜神の背を取る。その動きに合わせ、踊るようにジャハルもまた身を翻す。戦いは、ますます続いた。

 気づいたときには、無数の切り傷を負っていた。
 それでも、竜人は軍神と斬り合うことをやめない。
「なかなか頑張ったと褒めて進ぜよう」
「……三発しか、入れられていない」
「私相手に単独でそれは、十分な戦果だと言っているのだ」
 斬りつけられた脇腹と腕をとんとんと叩きながら、『上杉・謙信』は告げる。
「だが、もうこれで終わりだ。貴様の一撃は、届かない」
 手を振り降ろす。
 それは、ジャハルを包囲するように浮かんだ毘沙門刀への一斉攻撃指令に他ならなかった。

「(――ああ、届かぬだろう。打ち倒される事など予測のうち)」
 全身を貫かれても、その身から黒々とした血が広がっても、瞳は闘志を失わない。
「……出て行け」
 剣をしっかと握ったままに、それを呼びだす。

「……呪いの仔、眠る化け物。一口でもいい」
 あの澄ました顔を、喰らい、歪ませてやれと念じる。ユーベルコード【忌仔】に呼び出され子、呪われし黒竜は笑う。主が倒れ伏すのも意に介さず、目の前の獲物をうっとりと眺める。巨大な咢が開き、魔将を飲み込んだ。

「くっ、小癪な――動けぬというか!」
 粘液に囚われた瞬間、軍神の動きは止まる。
 猟兵の自らの血をも賭した一撃から逃れる術はない。
 そして、その瞬間をじっと待ち続けていた男がいた。
             、、、、
 『上杉・謙信』の左腕が、はじけた。

●致命への道筋
       A M R
「……命中。対物ライフルの味、存分に味わってもらえたな」
 その声は、戦場から離れた場所――松尾山の茂みの中で小さく響いた。法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)という猟兵は、数多の戦友の危機を見逃し、確実に当てられる瞬間を、ジャハル・アルムリフという竜神が作り出すまで待ち続けた。オブリビオンとなった軍神の、常識の埒外にある戦闘力のデータを観察し続け、その一撃を放つまで確実に当てられるようシミュレーションを繰り返した。ゆえに、ユーベルコード【致命への道筋】は、まっすぐに進んだ。

「(心臓を狙ったつもりだったが、外れたか。あるいは、外されたか)」
 おそらくは後者だろうと彼は推測した。当たる瞬間、スコープ越しにこちらへ視線を向けられたような気がしてならなかった。だが、十分に致命傷であると確信していた。普通、腕を破裂させられて生きていられる人間など、いないのだから。

「(どうなるにせよ、一発撃った以上は基本に忠実にいこうか)」
 一発撃ったら射点を変える。狙撃手の基本動作である。
 それがゆえに彼は駆けだす。万が一ということはありうるのだ。
 ことに、オブリビオンという常識の埒外にいる存在との戦いは。
 ゆえに彼は知りえない。スコープを覗いていたら見れたかもしれないそれを。
 結末――魔将『上杉・謙信』の軍略を。

 志蓮の耳には、未だ幕府軍と上杉軍の奏でる戦場音楽が響いていた。

●軍神の策
「ハハハッハハッ! 他の奴らには悪いが、トドメは俺様がもらってやるぜッ!」
 狂気の戦鬼は高笑いしながら、一挙に距離を詰める。
「下賤な者に打ち取られるほど、この謙信の首は安くないわ!」
 衝撃波を毘沙門刀が生み出した蔦が受け止め、はらはらとその葉を散らせる。永一は刀の斬撃を身一つで躱して、大きく跳ねた。土の竜巻が迫るも、それが出来上がる寸前で相殺する。
「そうは言っても、隙が大ありだぜ!」
 竪琴の音色が響いている。毘沙門刀の動きが鈍るのを感じる。
 暴虐な笑みに満ちた金の瞳が軍神の青い瞳を覗き込んだ。

「――ハハッ! いいもん持ってんな! 命ごと寄越せや!」
 最も手近にあった毘沙門刀を手に掴み、そして体が半分しか残っていない謙信の胸の中央、心臓へと突き立てた。

「これで終わり――」
「――永一!」
 勝利を確信した永一の金の瞳が驚きで見開かれる。
 マリアの警告の声は、一瞬間に合わない。

「心臓に、突き立てただろう。なんで動けんだよ」
「――うむ。本音を言えば、危なかったとも。特に半身を打ち砕かれては、さしもの私とて取りうる手段がほとんどなかった。どうせ移動しているだろうが、松尾山に妨害の軍団を派遣せねばあるまい。……しかし、言っただろう。下賤な者に打ち取られるほど首は安くないと。貴様が手に取る刀を誘導するくらいのことは、当然私ならできるということだ。そして、貴様の本気の一撃こそが、治癒力となって私を癒してくれたのだ」
 その言葉を聞いて、永一の脳に事前に聞いた毘沙門刀の属性が次々に浮かんで消えた。
「……そーいうことか」
 『薬』属性の毘沙門刀を悔しそうに握りしめながら、永一は倒れ伏す。

「そういうことだ。さあ、毘沙門刀を返してもらおう」
 忌仔と呼ばれた邪竜を振り払い、完全に回復した上杉・謙信が地に降り立つ。
「……む?」
 だが、その視線が永一の手の中にある毘沙門刀で止まる。

 腹に大きな赤い染みを作りながら、もはや身体を動かせぬ永一が中指を突き立てる。
「俺様が、ただでやられてやるわけねーだろ。バーカ」
 それだけ言って、彼は気を失う。真っ二つに折れた毘沙門刀の柄を握りしめながら。

「くく、ふふ、はははははははは」
 軍神は、猟兵たちをもう一度眺めたあとで、大笑した。

「――そこまでよ、上杉謙信。永一に触れたら、私が相手になるわ」
 一角獣に跨り、竪琴を持ったマリアが凛とした声で告げる。
 戦力差は明らかだ。しかし、彼を守らなければならなかった。
「ん? ああ、良い。連れていくといい。そこの盗人は腹を刺しただけよ。すぐ手当をすれば治るだろうさ」
 軍神はあっさりと踵を返す。
「……聞いちゃいけないことかもしれないけれど、いいの?」
 そのあまりの抵抗のなさに、マリアは訊ねてしまう。

「勇者と莫迦の価値は異なる。そして、その違いもわからずに、戦いに身を投じるものをこそ莫迦という。それだけのことだ」
 ジャハルにも永一にも目もくれず、オブリビオンはもはや振り返らずに歩き出す。

 彼の視線の先には、未だ次の猟兵がいた。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
斃す要は無い、只越え進んだだけ

貴方と違って、生者ってのは厄介でして
何属性だろうと、死は何れの傍にもある…
つまりが何だって弱点たる訳です

刃は、来る
故に十二の切先、角度、揺らぎ…放射の兆しを“視”る
軌道予測、放たれた瞬間には躱しに動いておき
属性も襲い来るだろう
刀側へ鋼糸を振るい、又は外套で払い
傷受けようと致命と機動減だけは避け征く

但し奴の高速移動…
神域の武、応変の技ばかりは質が違う
確実に己の死角を取り、応ずる間も無く襲うだろう
避け切れぬ可能性なら…

その運命、固定する
“伍式”

手の届く唯一
全てはその刹那の為
反撃はは鋼糸にて
巻いて引き斬る2回攻撃

十二手先まで見切れねば死ぬと云うなら
やってやるって話ですよ


御堂・茜
愛馬に跨がり戦線を突破します
軍神上杉謙信殿…!
お逢い出来て光栄にございます
貴方の宿敵、信玄公が掲げた
【風林火山】より名を戴いた技で
いざ寛永の川中島と参ります!

鶴翼の陣を敷き【勇気】を持って謙信公を包囲なさい!
御堂家が誇る精鋭部隊を【鼓舞】し
【気合い】を家臣や仲間へ分け与えます

一人、いえ二人で一本
毘沙門刀を食い止めれば充分
正確性を重視し命だけは護るのです!
負傷兵は直ちに下げ新たな兵を補充します
その間に大将たる御堂が謙信公に一太刀浴びせられれば…!

愛馬を駆り【捨て身の一撃】を入れる【覚悟】で
太刀を手に突撃します

祖、御堂正義は弱小大名にございますが
民の為大義の為戦い抜きました
御堂家の侍魂、ご覧あれ!



●戦況は動かじ
「(刃の軌道は読める。しかし――)」
 鋼糸の先端の刃が、毘沙門刀とぶつかって火花を散らした。勢いを失ってもなお猟兵へと襲い掛かる軍神の刀の投射を跳躍して躱し、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は眼鏡の位置を指先で直す。度の入っていない伊達眼鏡でも、それは習慣のようなものだった。
「(致命傷こそ避けられているが、毘沙門刀の一撃がこうも重いとは)」
 傷ついた自らの体を庇いながら軍神の刀の投射を再び躱し、青い瞳が"視" る。
 素直な軌道は十分に躱すに足る。しかし、それ以上になりえない。
 回避を行えば、進めない。進もうとすると、回避ができない。
 敵の意図は明白だった。
「(こちらが軌道を読むことを計算に入れて回避先を誘導している、か)」
 苦笑する。思った通りの行動ができない。その苦戦を楽しむように。
 刃が舞い、異形の天変地異が踊る戦場で猟兵の進むべき道は未だ開かれない。

●御堂の手勢
「ただ刃を掻い潜るだけでは駄目……猟兵だけでは、手数が足りないですね」
 どれだけ戦ったかわからない。その間たった一度、クロトが接近の機会を活かして近づいた際に受けた胸の傷が疼いていた。
 
「ならば、その任務は御堂どもがお引き受けいたしましょうッ!」
 蹄の音に続いて、凛と響く声が聞こえ、柔和な顔の猟兵が振り向く。
 そこには、馬型ロボットに跨った姫の姿があった。
「姫様とお見受けします。――失礼ながら、あなた"方" は?」
 貴人への礼に倣い腰を折って、クロトが尋ねる。
「戦中ゆえ、馬上のままで失礼。――を知領とする、御堂家の茜と申します。そして、彼らは私がこの世で最も恃みにする者たちです」
 御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)はそれを当然のものと受け入れ、貴人のなんたるかを証す。結った茶髪を小さく揺らし、彼女が示すのはその麾下、家中の兵士たち。姫の言葉に兵士たちはめいめい武器を掲げて応じた。

「わかりました、麗しい姫君。あなたの采配に呼応して、私も仕掛けることにします」
「話が早くて助かります。――さあ、行きますよッ!」
 二枚目半な彼の言動をあっさりと受け流し、茜は愛馬サンセット・ジャスティスの腹を蹴る。馬は嘶き、謙信へと駆け出す。その様子は、優美さや奥ゆかしさというよりは、元気溌剌という言葉が相応しいなとクロトは内心苦笑した。

「……おい、若い猟兵」
「なんです?」
 そんなクロトに、進みだした家臣団の一人が立ち止まって声をかける。
「姫様に色目を使うのは許さんからな」
 まさか内心がバレたわけでもあるまいに、優男は少しドキリとした。
「まさか。そんな無礼、しませんよ。茜姫……でしたっけ。慕われているんですね」
 一番無難と思われた回答で返す。実際、そう思った。
「当然よ。姫様は身を挺して我らを守ってくれる、領主の鑑よ。あんな良い子を守らんで、我ら藩士は身の立てようもないというものじゃ」
 甲冑で覆われた胸を拳で叩いて、老兵はにやりと笑う。
「じゃから、頼んだぞ。お主が働けるよう、儂らも懸命にやるからの」
 そうして、御堂家の武士が走り出すのを彼は見送った。

「言いたいことを言う人たちだ。……けど―― ま、頑張らないとな」
 柔らかな表情は変わりない。だが、鋼糸を手繰る指はどこか柔らかだった。

●最後の二刀
「赤池隊、下がりなさい! 貞弘隊、前へ!」
 茜の指揮に従って、傷ついた部隊が下がりまだ比較的傷の浅い部隊が前進する。
「命を落としてはなりません! 戦友を庇い、味方を助けながら戦いなさい! 手堅く戦うことこそが、強敵と相対したときに勝利を掴む方法です!」
 姫の督戦は続く。上杉謙信とその毘沙門刀を半包囲する形の鶴翼陣形、その左右の翼を行き来して、疎漏を作らぬよう戦線を維持する。
「祖、御堂正義は弱小大名にございますが、民の為大義の為戦い抜きました。なればこそ、この茜もまたそれに殉じましょう。御堂家の侍魂、ご覧あれ!」
「「「「「 応 ! 」」」」」
「「「「「 応 ! 」」」」」
「「「「「 応 ! 」」」」」
 茜の意気に、兵士たちが呼応する。彼らは今、自らが慕う姫と共にある。無様を見せられようはずがない。士気は軒昂、恐るべき毘沙門刀を前にしても彼らは一切臆さない。

「(さて、隙ができた―― ならば!)」
 そして、隙ができる。それをクロトは見逃さない。
 黒い外套を翻し、鋼糸を燻らせて、彼は駆ける。背後から襲い掛かる毘沙門刀を、御堂の手勢の一隊が連携して受け止める。炎を纏った竜巻を跳躍して躱し、魔将の前に躍り出る。
「また抜けてきたのか」
「ええ、あなたの移動は十分"視" ることができました」
 瞬間、魔将『上杉・謙信』の姿が消える。だが、猟兵は動じない。
「――背後です!」
「――ちぃ!」
 毘沙門刀をしゃがんで躱す。腕を緩衝材にして前転し、振り返りざまに鋼糸を放つ。
 オブリビオンはその一撃を容易く払い落し、再び走る。
「(さすがに、速い――だが!)」
 近接戦に長けたオブリビオン、その一撃を正面から受けることはできない。
 確実に己の死角を取り、応ずる間も無く襲うだろう。
 だが、避け切れぬ可能性ならばこそ――。

「その運命、固定する――」
 その瞳は、己の取りうる、選びうる可能性を収束する。最善の道は、ただひとつ。

「――“伍式”」

「私の一撃を回避してみせたところで、その程度の攻撃では!」
 襲い掛かる鋼糸を斬りはらい、それでもなお撓る二本目のそれに体を裂かれても、魔将は優位を維持している。怯んだ様子はない。臆した様子はない。仁王立ち、クロトの首を落とさんと毘沙門刀を振るう。
「いいえ、これで十分。あとは届くことでしょう」
 間近にあり、回避は不可能。迫る刀を腕で受け流しながら、猟兵は淡々と呟く。
 その意図を謙信が解するよりも早く、それは来る。

「イヤァアアアアアアアア!」
 叫び声と共に、彼女がやって来る。
 大きく体勢を崩した上杉・謙信に、その一撃を避ける術はない。
 体幹に、一文字の大きな切り傷ができる。
「――――これが正義の一撃ですッ!」
 サンセット・ジャスティスが小気味良く、蹄の音を鳴らし、止まる。 
「――なるほど、突破してきた兵どもの将か」
 斬られてもなお、魔将は涼し気に言葉を発する。
「御堂家の茜と申します。軍神上杉謙信殿……! お逢い出来て光栄にございます」
 敵意と敬意を入り交ぜた声で、上杉・謙信の青い瞳をまっすぐ見つめる。
「良い目、良い声だ。きっと良い姫なのだろう。ならばこそ従五位下上杉弾正少弼謙信、礼をもって全霊でお相手しよう」
 その声を聴いて、満足げに口を曲げたオブリビオンが腰に残った刀を抜く。

「その刀は――」
「アンヘルブラックと、ディアブロホワイトというらしい」
「――ここからが、本番というわけですかッ!」
 クロトと茜の前で、最後まで抜いていなかった二刀の姿が露わになった。
 魔将は白と黒の二色の刀を握ってもなお、表情を動かさない。ただ、それを選んだというだけのこと。誇りも、驕りもなく、勝利を希求せんとする。

「武器が変わろうと、やるべきことは変わりません。死は何れの傍にもある……なんだって弱点たる訳ですから」
「ええ。貴方の宿敵、信玄公が掲げた【風林火山】より名を戴いた技で、いざ寛永の川中島と参ります!」
 戦闘は未だ続く。敵味方両者の戦意は衰えを見せていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

カガリは敵の手にある剣が銀河帝国の騎士に由来し、過去や未来に干渉する力を持つのでは無いかと言う
ならば、その手の剣を一本、仲間の為に破壊する

狙いはディアブロホワイト
カガリの推理通りなら未来を読む力があるかもしれないからだ

カガリが泉門変生の城壁に入ったら、外に出ようと十本の剣を壁に向けたその隙を突く
【黒華軍靴】のダッシュ、【金月藤門】の敵を欺く力を駆使して急接近
敵の剣撃によって流す血を元に【真紅血鎖】を発動
血の鎖で剣と己とを繋いで捕らえ、剣を【碧血竜槍】の鉄の鎧をも砕く力で粉砕
捨て身の一撃だ

俺に過去は無く、いずれこの身も尽きよう
ならばカガリの内で敵を道連れにするまで


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

属性が何であれ、カガリは防ぐのみだが…
アンヘルブラック、ディアブロホワイト
どう見ても、銀河帝国の二将を思わせる銘なのだが
杞憂かもしれんが、用心しておこう

毘沙門刀を如何様に使うかは、使い手の自由自在だとか
ならば――特定の用途に使わざるを得なくしよう
【泉門変生】でまるごと謙信を囲い封じる
内から破るには攻撃力か、回数を上げてくるだろう
オーラ防御・全力魔法で更に封印を堅固にしつつ、壁を狭めていく
内には、まるがいる
目の前の敵と、狭まる空間
十全な振る舞いがいつまでできるか

まるが刀の一本を破壊したら、
壁を解いてまるの前に【鉄門扉の盾】を念動力で飛ばす
悲しい事にはさせないぞ、まる



●竜人と城壁
「アンヘル、ディアブロ……銀河帝国の二将を思わせる銘なのだが」
 金色の髪の奥で、紫の瞳は鉄門のように動かぬままに声だけが生まれる。
「その力があると、そう言いたいのか?」
 くしゃくしゃと黒髪を掻いて、竜人はほとんど同じ背丈の友の言葉をかみ砕く。
「わからない。杞憂かもしれん。だが、用心しておこう」
 出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は小さく頷いて、門を構えなおす。

 その視線の先には、二刀を握り、今や全身で殺意を発揮する軍神の姿があった。

「――とにかくカガリが陽動を行うから、なんとかしてくれ。まる」
「おう。やってやるさ。任せておけ、カガリ」
 まると呼ばれた男――マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は応えるように獰猛に笑った。

●ディアブロホワイトの破壊
「――なるほど、これは厄介だ」
 軍神『上杉・謙信』は自らを囲うように張り巡らされた金色の壁を見て、本気ともつかぬ口調で呟いた。自らを囲う鳥かごを切り裂く。傷はつけど、破れはしない。唯一の出口たる鉄門には固い錠がかけられ、一目で脱出の困難がわかった。
 なれば、打ち破るしかあるまい。魔将はただちにその体制に移る。

 ――しかし、それをこそ待つ男がいた。

「敵将、上杉・謙信! ――覚悟ッ!」
 長槍を振るい、襲い掛かるはマレーク。敵が城壁で囲まれ、大きく身動きが取れないその隙を逃さんと。軍靴が地を鳴らし、鋭撃をもって軍神を屠らんとばかりに迫る。
 ――しかし。

「いやはや、未熟よ。未熟。槍さばきにいささか自信があるように見えるが、地形を理解していないと見える。あるいは、別の目的があるのかもしれんが――その程度の策、推し通る!」
 城壁で相手を閉所に閉じ込め、拘束するユーベルコードと、槍の相性は悪い。敵の機動力が奪われる場所ではあるが、隘所に飛び込んでは長柄の武器を十分に振るうことはできない。ゆえに。容易く。軍神はその懐に入り込む。
「――ちっ!」
「――遅い!」
 鮮血が迸る。一か所や二か所どころの話ではない。優美なまでに速い斬撃を前にして、猟兵の体が無数に切り刻まれる。激痛で意識が飛びそうになるのを、竜神は必死に抑え込む。

「――まる!」
 戦友の苦境を前にして、カガリが咄嗟にユーベルコードを解除しそうになる。
「馬鹿野郎――カガリ、作戦通りだ!」
 しかし、マレークが叫ぶ。この苦戦は織り込み済み。想定の範囲内。
 そのせいでたとえ、命の火が消えかけたとしても。

「――隷属せよ、汝が身を縛りしは我が血の鎖」
 唱える。その言葉にあわせて、噴き出した血が鎖となって、魔将の体の自由を奪う。
 その鎖の名は、【真紅血鎖】――竜の血で作られた、命の鎖。

「この程度の鎖、切り払えば――」
 属性を纏いし毘沙門刀は、城門を破壊させんと放ったばかり。
 だからこそ、手にとる二刀でそれを破壊せんとする。
 そして、それこそが――。

「――予想通りだ」
 碧玉が、持ち主の闘志に応ずるように輝く。
 狂暴な顔を浮かべて、その槍を構えた竜人の闘志にあわせて。
「俺に過去は無く、いずれこの身も尽きよう――」
 狙うは白き毘沙門刀――ディアブロホワイト。
 迷いのない、真っすぐな一撃がその刀身に罅を入れる。

「――貴様は道連れだ」
 策の成功を見届けて、猟兵が倒れる。
 続くように、割れたディアブロホワイトの刃が、地面に触れる甲高い音がした。

「――見事。せめてもの情け。トドメを刺してやろう」
 淡々と、軍神は介錯を告げる。残った黒刀を無視の息の竜人へ振り下ろす。
 ――だが。
「……なんと、城壁を飛ばしたか」
 その一撃を、鉄扉が弾いた。
 投擲の勢いを活かし、そのまま竜人を軍神の前から弾き飛ばす。
 念動力でまるでブーメランのように、扉が仲間を持ち主の前へと連れてくる。

「悲しいことにはさせないぞ、まる」
 カガリの見る、友の顔は満足げだった。まだ息をしている。
 彼を守った甲斐があると思った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

この世界に来る度、あの願い流しの祭りを思い出すんだ
…世界を、願いを、無かった事にはさせない

君の方こそ。気を引き締めて
…征こう、此処が正念場だ
地に展開するは【天聖光陣】
この光で君を支え、護ってみせよう

敵が繰り出す刀に対し、光柱を障壁のように放つ
刀を弾き、軌道を逸らさせ、その切っ先が向かう先を阻む為に
光が効かない刀もあるだろう
剣では見切って弾き返し
盾ではシールドバッシュの要領でぶつけて受け流す
剣と盾と光柱で隙を見せないように
なるべく、セリオスへと向かう刀は減らそう
攻撃からもかばう
セリオスが全力で攻撃するなら、僕は全力で護る
…彼を活かす為、護る為に僕がいる
守護の意志は、誓いは、貫く


セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
この世界に来ると流れる人型を思い出す
アレスといるなら余計にだ
…あの祭り事無かったことにはしたくないんでね

さぁって、漸く本命だ
バテてねぇだろうな、アレス?
歌うは【暁星の盟約】
馴染む根源の魔力以上に
アレスの魔力が近くていくらでも戦える

先制攻撃は譲ってやる
俺は…な
アレスが防ぐその隙に力を溜めて全力で攻撃
剣に炎の属性を纏わせて
2回連続で斬りつける
アレスが防ぎきれない攻撃へは
咄嗟の一撃
もう一本の剣を抜き
受けるんじゃなく弾き返す
12本には及ばねぇが
こっちも戦い方は1つじゃないんでな
剣がダメなら蹴りでも拳でも
その全てに全力の魔力をのせ
青く燃やせもっともっと
アレスとなら負ける気がしねぇんだよ



●双星の輝き
「さぁって、漸く本命だ。バテてねぇだろうな、アレス?」
「君の方こそ。気を引き締めて。……征こう、此処が正念場だ」
 黒鳥は歌う。
 歌うのはコンサート・ホールで聴く上品さとは程遠い、戦場音楽に違いない。
 騎士は輝く。
 纏う鎧と握る剣に誓いを籠めて。

 多くの猟兵が戦う戦場を、二人そろって走りだす。
 離れはしない。そう、約束したのだから。

「敵がいかに増えようと、私が動じるとでも思うたか!」
 青い瞳が敵意を示す。毘沙門刀が回転し、輝きを放って投射される。

「――払暁の聖光を、今此処に!」
 軍神が繰り出した刀の障壁たらんと、光の柱がそびえたつ。
 騎士の守りを避けて、毘沙門刀が曲線を描いて襲い掛かる。
「その程度の攻撃で、僕たちを阻めはしない」
 白銀の盾が毘沙門刀の軌道を逸らす。土の重みを載せた一撃が、盾を持つ騎士の手にびりびりと振動を与えた。誰よりも大事な彼を守る為に、騎士は武器を執る。再び迫る毘沙門刀を白銀の剣が弾き飛ばす。
 鉄壁の騎士は護衛に専念する。
 彼を無事に届けることこそが、彼の誓いであり、意思だった。

 そして、彼は誓いを貫いた。

「――セリオス、今だ!」
 眼前には軍神。黒き刀を構えて、襲い来る二人を撃退せんと構える。

「応よ、アレス。歌声よ、俺の体を青く燃やせ! もっと、もっとだ!」
 拳を握りしめる。声を張り上げ、歌う。
 それは戦いの歌ではない、セリオスの心を表す歌。
「――下郎め!」
 アンヘル・ブラックと呼ばれる刀が振り下ろされる。
 迷いはない。刃に向けて、まっすぐまっすぐ、拳を突き出す。
 その一撃は受け止めるためのものではない。
 その一撃は防ぐためのものではない。
 ただ、愛しき者に害なすものを打ち砕くだめの純粋な一撃。
 ゆえに。
「――莫迦な!?」
 砕ける。黒刀に青き光が筋走り、ひび割れ、崩れる。

「悪ぃな。――アレスとなら負ける気がしねぇんだよ」
 今や機能を果たさなくなった黒き毘沙門刀に視線もくれない。
 セリオスの目はいつだって、傍らのアレスに奪われたままだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鎧坂・灯理
【反神】
ハティ/f07026 義兄殿/f01811 非女神殿/f15297

先制攻撃がないというだけでも助かるな
強敵?苦戦必至だと?
笑わせるな
私はいつだって命がけだ
こちとらただの人間だぞ
死に怯えるのは日常茶飯事だよ

ああ対峙するだけで解るぞ
貴様は強い、とても強い
――その強さが命取りだ

縛り付けろ【嫉妬の鎖】
我が劣等感の権化
強いものほど、この鎖は壊せない
そのふざけたUCごと封じてやる

さすがにこいつ相手に思考を分割する余裕はないな
全力で拘束する事だけを考える
義兄様が守ると言った
ハティと非女神殿が倒すと言った
ならば疑う余地などあろうものか

私は私の役目を果たす
意識が飛ぼうと果たす
くたばれ軍神


ヘンリエッタ・モリアーティ
【反神】
軍神?人間じゃないの
なんだ、期待して損したわ

神様であろうとなんであろうが――絶滅させるだけのこと
私を苛立たせるのは未来と仲間を脅かすすべてなので
初めまして、上杉謙信。貴方の天敵(竜)ですよ
【燻狂う神鳴嵐】でこの戦場一帯
それから仲間以外のすべてを感電させ拘束
ええ、――貴方も貴方の剣たちも等しくね

私の愛しいつがいが命を削ってまで
貴方を止めるといって食いしばってるの
私の義兄も、私の友も――全てが今命を削るというのなら
私は『死樹の篭手』で義兄に振るわれる攻撃を防いで硬度をあげます
そのまま殴り掛かる。殴り続けるわ。怪力でね
刺し殺せるものならやってごらん、虎よ!
――竜に敵うかよ、此処で絶えて死ね!


穂結・神楽耶
【反神】

軍神。強敵。苦戦必至。
だからといって戦わない理由にはなりません。
全力を尽くします。

鎧坂様の拘束とヘンリエッタ様の雷を待ちます。
行動抑制が成立次第、ニルズヘッグ様に喚んで頂いた蛇竜の影に潜んで突貫。

こちらが立てる物音は竜の羽ばたきにかき消されることでしょう。
拘束され、雷に撃たれ、動きを封じられ。
それでも勝利しただなんて、軍神相手に驕れるはずがありません。

だからもう一手、鞘を使った《だまし討ち》。
これも我が身の一部なれば迫真となるでしょう。
ですが本命はこちらです──【鉛丹光露】!

ここまで繋いで頂いて外せるはずがない。
勝たせていただきます。
さあ倒れなさい、上杉謙信──!!


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【反神】
軍神――軍神か
気に入らんな

アカリ女史とヘンリエッタの拘束が入るまでには準備を整えよう
持てる『呪詛』の全てを使って【リザレクト・オブリビオン】を強化する
喚ぶのはなるべく巨大な蛇竜と、なるべく硬い騎士だ

穂結にタイミングを合わせ、攻撃役兼遮蔽物としての蛇竜を吶喊させる
私自身はなるべく拘束組と距離を近くし、騎士にまとめて守ってもらうとしよう
どちらかが消えればまた喚び出せば良い
代えが利くのが、こいつらの利点だ
蛇竜に渾身の一撃を叩き込んでもらい、私自身は負傷を避けるよう努める
尤も動けんがな。騎士頼りだ

生憎と「神」を自称する類が嫌いでな
貴様の軍功など知りはしない
大蛇に呑まれ、ただの人として死ぬが良い


矢来・夕立
【龍墜】端役さん/傭兵さん
総じて良し。問題なく行けます。

平原では《忍び足》も無駄だったでしょうね――『オレひとりなら』
端役さんと傭兵さんが惹きつけてくれる、ヤツの意識の外に忍ぶ。
とはいいましても。
端役を自称するなら目立ち過ぎもよくない。速めに決めましょう。

攻め手は傭兵さんとの打ち合わせ通り。
二人がかりでユーベルコードを封じる。
【紙技・影止針】…に、《だまし討ち》を混ぜます。
ココまでお膳立てしてもらって『本命を外しました』なんて、笑えないんで。
そっちはウソ。あっちもニセモノです。
ホンモノはいまの三枚。…というのもウソかもしれませんね。
封殺ついでにもう一発、『黒揺』で《暗殺》
お釣りは結構です。


ヴィクティム・ウィンターミュート
──各自用意はいいな?
では…状況開始(ラン)だ

機動力に任せて敵陣を突破、謙信と接敵
UC起動、『祝福の踊り子』展開
【ハッキング】で自己サイバネを全て出力限界突破
【ドーピング】でコンバット・ドラッグ摂取
強化した身体能力、知覚能力、反射神経で前を張る

【ダッシュ】【フェイント】【早業】【見切り】【ジャンプ】を併用して高機動力で回避しつつ、ヘイトを俺に集める
適宜強化パルスを夕立と匡に配り、負傷したなら治癒パルスを自分にも
万が一夕立と匡に攻撃が降りかかったら【かばう】

2人の封じ込めがきちんと当たるように位置の調整を忘れない
悪いが──テメェが死ぬまで、俺と踊ってもらうぜ
越後の龍を地に堕としてやれ!!


鳴宮・匡
【龍墜】

I copy.
いつでもいけるぜ

必要に応じて掃射で敵の足を止めるなど
ヴィクティムの道行を援護しつつ敵陣を突破

接敵後はヴィクティムの方へ意識を向けた敵を横合いから射撃していく
多方向からの攻撃で多少でも意識を乱せれば
その分あいつも避けやすくなるだろう

急所狙いの射撃に紛れさせて
動きの要を狙う狙撃を交え動きを阻害
全て決まれば相手の手を封殺できるが、そこまで甘くはないかな

けど、
これを凌いで一瞬でも「防ぎ切った」と思ってくれたなら
こっちの狙い通りだ

――じゃ、任せたぜ

封殺が叶えばあとは畳みかけるだけだな
長引かせたくないんでね、遠慮はなしだ
軍神だろうが、龍だろうが
動いている相手なら殺せるし、殺してみせる



●竜を墜とす
「──各自用意はいいな?」
 正体のつかめない、軽やかな声が傍らに向けられた。
「総じて良し。問題なく行けます」
「I copy. いつでもいけるぜ」
 二人の猟兵がそれに応じる。
 片方は聞く者がどうも信じきれない胡散臭い声で。
 もう片方はそれが当然であると疑わせない平坦な声で。
 それを聞いて、問いかけた男の青い瞳が電子光を放つ。
       ラ ン
「では、……状況開始だ」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が口を歪ませる。その言葉を聞いて、二人の男――矢来・夕立(影・f14904)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)が迷いなく駆け出す。今、作戦が開始された。

●祝福の踊り子
「二人は所定の位置に着いた。なら俺もいくぜ――」
 高性能スマートフォン――『ヘルメス・ブレイバー』を片手で操作し、規定のプログラムを呼びだす。コードを伸ばし入力端子へと"それ" を接続し、スパイナル・コードを通じて"自らへのハッキング" を開始する。それはすなわち、自らの限界を超えるための動作――人為的な脱抑制の開始。
「(反動がキツいから使いたくはないんだが……アイツらが待ってるからな)」
 コンバット・ドラッグの入ったアンプルを割り、注射器に差し込む。針を自らの皮膚に突き刺し針が筋肉へとたどり着いた感触を確認して、そのピストンを押し込む。快感とは程遠い灼熱が広がる。
 指が震える。シンパセティック・ニューロンが賦活し、腕が、足が痙攣する感触を必死に抑え込む。目の前の魔将『上杉・謙信』の剣撃の隙を見計らう。
 舞台に踊り出る、最高の時宜を待つ。

「セレベルム・ドーピングまで完了。――いくか」
 ゴーグルで自らのサイバー・アイを覆い隠す。バイタル・データがディスプレイ上に表示される。オールグリーン。問題ない、ならば。
 走り出す。言いようがない殺気。敵将の青い目が自分の目に向けられるのを感じる。

 ナイフを投擲する。いとも容易く毘沙門刀が弾き返した。
 返礼とばかりに、毘沙門刀が光の速さで投射される。
「(あぁ、いいぞ。俺だけを見てろ。俺と地獄の底まで踊ろうぜ?)」
 焼けつくような小脳の感触を感じながら、横跳びに避ける。
 彼の視界に、敵将へ向けて放たれる匡の銃弾が見えた。
 問題ない。作戦は順調に推移している。
 やるべきことは、己の役割の完遂。

「(――テメェを破滅させる英雄が完成するまでなァ!)」
 ユーベルコード【祝福の踊り子】の力に身を任せ、ヴィクティムは戦場で踊り続ける。

●戦場傭兵
「よく避ける。銃撃を躱しながら刀を自在に振るうのは――軍神というのも伊達じゃないってことだな」
 誰か猟兵の仕業だろうか――戦場にできた大きな穴に身を隠し、マガジンポーチから取り出してアサルトライフルの弾倉を換える。銃弾はほとんど当たっていなかった。しかし、鳴宮・匡という猟兵はそれを悔しがらない。頭をだして、銃弾を放つ。ただ目的を果たすための機械的な行動――そんな印象を与える、淡々とした射撃。どこか狂気すら感じさせる平然さ。凪いだ海のような、平穏さ。
「――」
 毘沙門刀がヴィクティムに迫るのが見えて、BR-646Cが高らかに音を鳴らす。牽制射撃を軍神の刀が躱し、戦友はその隙を見逃さずに離脱した。その成果にも笑みすら浮かべない。自分の戦友であるならば、それぐらいできて当然とでも言わんばかりに。
 敵将謙信と会話しようとするそぶりも見せず、ただ黙って撃ち続ける。
「(はじめは銃弾を受け止めて防いでくれたが、回避狙いにシフトしたな。俺だけで封殺は叶うまい。なら、夕立の準備ができるまでは時間を稼ぐだけだ)」
 自分単独での成功なる栄誉に未練を残さず、匡は射撃を続ける。

 視界の端で、夕立が頷くのが見えた。

●嘘吐きが始める
「(さて……自称端役さんを目立たせ過ぎるのもよくないですね)」
 手の中の手裏剣を確かめながら、赤い瞳が白い軍神を見据える。

 視界の中央には、ヴィクティムへと毘沙門刀を振りかぶる謙信の姿。攻撃が迫っても、ヴィクティムの顔はどこか楽しむようですらあった。大きくしゃがんで横薙ぎの斬撃を躱し、宙返りで後ろに下がり距離を取る。見事な囮っぷりであった。
「(あれなら、もう少し任せていてもいいでしょうか。そうしちゃいましょうか。……ウソですよ)」
 一瞬だけ、思考を弄ぶ。そんな選択は、全く非合理で、非効率的であった。

 離れた場所の匡と視線があう。
 彼もまた、自分を待っていたはずだった。

「――では、いきますよ。早めに決めましょう」
 夕立が頷いてみせると、銃弾の音が一層激しくなった。

●BlessDancer
「悪いが──テメェが死ぬまで、俺と踊ってもらうぜ」
「小賢しい木っ端な弾丸め!」
 軍神はまるで回るように、軽やかに舞う。一層激しくなった弾幕を躱し続ける。にやにやと笑う猟兵が投げたナイフをはたき落とし、毘沙門刀を再び投射する。また躱される。だが、良い。弾幕には必ず途切れる時がくる。その隙を突けばいい。
 オブリビオンは、時が来るのをじっと待ち続ける。

「――今だ」
 弾幕が途切れる。今までの戦闘と照らしても、そのタイミングに違和感はない。
 ならば今こそ、いい加減目障りになってきた男を排除する時。そう確信して。
「よく頑張った。だが、終わりだ。覚悟――」
 ヴィクティムを斬り付け、避けさせ、誘導する。
 彼を追い詰めんと軍神が飛ぶ。逃がしはしないと言わんばかりに。
 毘沙門刀がその背で回る。光輝を放つ一本を握りしめる。

「―――!」
 その一撃は音も無く。しかし、軍神はすんでのところで気づく。
 光の渦が生じ、二発を飲み込む。
 しかし、残る一発が放物線を描き――。
「――甘いわ」
 いや、それすらも謙信は叩き切る。
 真っ二つに割れた手裏剣が力を失ってはらはらと落ちる。

「――ドレック」
 吐き捨てるような声がする。
 毘沙門天の化身は、その言葉の意味を解さない。代わりに振りかぶり――。

「――もういいでしょう。お静かに」

 ひとつ。ふたつ。その首に突き刺さる。
 細く、血が流れる。
「――貴様!」
 三つ目だけは、咄嗟に躱し、返す刀で叩き落す。

「ココまでお膳立てしてもらって『本命を外しました』なんて、笑えないんで。そっちはウソ。あっちもニセモノです」
 軍神の視界に、赤い瞳をした黒い男が映った。
「ホンモノはいまの三枚。……というのもウソかもしれませんね」

「ユーベルコード封じ――」
 痛みはほとんどない。だが、毘沙門刀に感じていた力を感じない。
 それで、謙信は全てを悟った。

「御明察です。では、封殺ついでにもう一発。失礼します――」
 夕立が走る。手に握るのは苦無状に折った式神。
 まっすぐ、敵の傷を抉らんと――。

「いいや――まだ、終わってなどおらぬよ」
「――!」
 走る夕立の背後に、オブリビオンの将が現れた。
 装填を終えた匡が牽制の射撃を放つ。しかし、その一刀に銃弾が追い付けない。

「惜しかった。私に残された技がこれであったことが貴様の不運よ」
 三枚中二枚当たった式神は、効果を発揮するも、十分ではなかった。 
 オブリビオンが毘沙門刀を振り下ろす。夕立の背が裂ける。
 致命傷ではないことを確かめながら、咎人殺しは距離を取る。

「――逃がしはしない。貴様を殺せば、この厄介な術も解けよう」
 軍神が迫る。毘沙門刀を抜きながら、刃を滑らせる。
 逃れられないことを、夕立は悟る。

 ここまでか。


 ここまでかと覚悟した夕立の耳に、聞きなれた声が響く。

「神様であろうとなんであろうが――絶滅させるだけのこと」
 その言葉にあわせて、オブリビオンの動きがぴたりと止まる。一瞬遅れて轟音が響き、その身体が紫色に包まれる。轟音が続く。それはユーベルコード【燻狂う神鳴嵐】の織りなす奇跡。仲間を脅かすものを許さぬ暴威。
「その状況。増援がいるのではありませんか?」
 からかうような明るい声が続いた。
 落雷の轟音の中でも、それははっきりと聞こえた。
「――いいえ、要りませんよ。とびっきり有能で悪辣な手助けなんて、特に」
 だから胸に確信を抱いて、夕立は笑う。
「――どうせそれも、ウソでしょう」
「――ええ、ウソですけど」
「やっぱり」
 女は一層面白がって笑う。

「――もういいでしょう、ハティ」
 それに分け入るように声がする。
 暴力を待ちきれぬとばかりに。嫉妬を我慢しきれぬとばかりに。
「そうね、お願い。私の愛しいつがい」
 ハティと呼ばれた――ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)がほほ笑む。
 雷の雨が割れて、道ができる。その道を猟兵が走る。

 最後の狼煙があげられる。猟兵と軍神の最後の戦いの。

●嫉妬の鎖
「ああ解るぞ。貴様は強い、とても強い――その強さが命取りだ」
「――何奴!?」
 雷に撃たれ、自らの身が焦がしてもなおその足を確かに踏ん張らせ、絶え間なく襲い来る銃弾を躱す。魔将『上杉・謙信』は未だなお健在。その眼前で、新たな声が響く。金属が触れ合う甲高い音が響く。魔将の体をどす黒い――嫉妬の色をした鎖が縛る。

「縛り付けろ【嫉妬の鎖】――我が劣等感の権化」
 鎧坂・灯理(不退転・f14037)は目を剥き、胸を抑えながらも、強者を見つめる。

「この鎖。命だけを対価に得られる代物ではあるまい」
「御明察さ。強いものほど、この鎖は壊せない――つまり、お前にこの鎖は壊せない」
 生命を削る痛みを堪えて、灯理は歯を見せて笑う。

「なるほど。ならば、貴様を殺し、それからあの式神の術者を殺せば元通りだ」
 それでも、軍神は止まらない。より窮地に立たされようと、彼は勝利を諦めない。
 もはや毘沙門刀は自在に動かない。その術力をオブリビオンは持たない。
 彼が唯一恃みにするのは、自らの剣技のみ。
「――覚悟!」
 首を落とさんとする毘沙門刀が止まる。受け止めるのは黒銀の籠手。
 軍神の膂力をもってしても微動だにしないのは、そのすさまじき怪力。
「軍神? 人間じゃないの。なんだ、期待して損したわ」
 つまらなそうに、見下したように、興味をうしなったかのように呟く。
 肘を大きく後ろに引き、軍神を名乗る男の腹に勢いよく殴りつける。
「――がはっ!」
「――竜に敵うかよ、此処で絶えて死ね!」
 勢いよく殴りつけた結果、オブリビオンの身体が放物線を描く。

 追撃をしようとして、ヘンリエッタは自らの肩に置かれた手に気づいた。
 それは灯理の静止に他ならない。もう十分だろうと彼女の赤い目が言っていた。決して同情のような安い感情でないことは、彼女の人柄を知るまでもなくわかっていた。
「御馳走目掛けて、我慢しきれない義兄殿と非女神殿が来るからな」
「それは……とっておかないと怒られるわね」
 膝を突きながら、指を突き立て灯理が嘲笑う。
 その傍らにヘンリエッタが腰を下ろした。
 二人で握りしめた鎖の端だけを決して離さないようにして。

●蛇竜が咆え、太刀が結ぶ
「蛇竜よ、舞台は整った。喰い殺せ――――」
「ゴォオオオオオオオオオオオオオ!」
 吼える。吼える。内を呪詛で満たした蛇竜が咆える。

 竜と呼ばれた軍神を食いちぎらんと蛇竜が迫る。
「――ちぃ!」
 鎖で縛られながら、舌打ちながらも謙信は懸命に藻掻く。毘沙門刀が竜の牙をなんとか受け止め、いなす。騎士に守られながら、離れた場所から覗くニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)の金の瞳が愉悦で歪む。
「生憎と『神』を自称する類が嫌いでな。貴様の軍功など知りはしない」
 上杉・謙信が実際に自称したかどうかは定かではない。間違いないことは、そう呼ばれていた事実がニルズヘッグという猟兵の逆鱗に触れたということだろう。
「――大蛇に呑まれ、ただの人として死ぬが良い」
 それゆえに、竜は吼える。主の願いを叶えるために。

「――蛇竜ごときに!」
 魔将の刀は止まらない。竜の爪を足蹴にし、咢を折れかけた毘沙門刀で封じ、鎖に縛られたまま跳躍する。もはや色を纏わぬ毘沙門刀を握りしめ、竜の頸に突き立てる。
「まだ、負けぬ。この程度でこの上杉弾正小弼謙信が敗れはせぬ!」
 満身創痍の強がりに違いない。
 しかし、一片も信じる余地がないとは誰が思えるだろうか。

       、、 、、
「――いいえ、この程度で。御仕舞です」
 凛とした声が響く。赤色の柄を握りしめる音がする。
 艶やかな黒髪が揺れる。赤い瞳はただ一念の色のみに染まる。

「――竜と共に、接近したか」
「ええ、ここまで繋いで頂いて外せるはずがない。勝たせていただきます」
 眼前に跳躍する少女の姿を見て、策の全貌を理解する。
 回避は不能。だが、差し違えるぐらいなら。

「それが本命か!」
 毘沙門刀が、神気を放つ左手の黒塗りの――鞘を斬り付ける。

「はい、私の本体による――陽動です」
 腹に刀が突き立ち、毘沙門天が呻く。

「燃えて弾けて、灰と散れ。さあ倒れなさい、上杉謙信──!!」
 それはさながら火の柱。ユーベルコード【鉛丹光露】が焼き尽くす。
 穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)が太刀を収める。

 その背には、炭も同然となったオブリビオンの残骸があった。

 竜神は、堕ちたのだ。




         クー・ド・グラ
●無慈悲に満ちた、『慈悲の一撃』
「……はぁ、はぁ。まだ、我が軍団と合流すれば勝機が――」
 抑えきれない荒い息をしながら、ぼろぼろの体を押して男は歩く。
 白布は焦げ、整った顔は煤で汚れ、切れ長の青い瞳は疲労に満ちている。

「――なあ、ヴィクティム。お嬢ちゃんたちは気づいていたと思うか?」
「……さあな。あの犯罪教授あたりは絶対気づいているだろうけど」

「――ここまでか」
 自らの死を悟り、謙信は深くため息をついた。
「ああ、ここまでだよ。お前は」
 ヴィクティム・ウィンターミュートはにやりと笑う。
「……どうして気づいた?」
「史実を見る限り上杉謙信は高潔であると同時に、激情家で、奔放だ。決して冷静なだけの人間じゃない。それにな」
「……それに?」
「スワッグ――優れた作戦家ってのは意地が悪くて、最後まであきらめないもんなんだよ。だから、絶対バグ・アウトを図ると思ってたんだよ」
「……なるほど」
 謙信は笑う。そして、目を閉じた。
 BHG-738Cの乾いた音が鳴った。
 それは、今度こそ間違いなく、彼は骸の海に帰ったことを意味した。

「ああ、そっか」
 その死を見届けた後で、匡が口を開いた。
「どうした?」
 何を言い出すのかとヴィクティムが首を傾げる。
「……さっきの、同じ穴の貉ってことか」
 手を打ち合わせて、間の抜けた感想を漏らす。
 今までの戦闘が無かったかのような間の抜けた言葉にヴィクティムは苦笑する。
 そして、未だ続く合戦の中へと戻っていった。

 関ヶ原の空には、大きな夏雲が浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月14日


挿絵イラスト