エンパイアウォー⑦~其は真白き地の黒壁
●阻み斃し滅する者は
「来てくれてありがとう。早々に申し訳ないんだけれど、本題に入らせてもらうよ」
グリモアベースにて、刀を佩いた長身の男性――グリモア猟兵の結布院・時護(時と絆を結び護る者・f11116)は、いつものように穏やかな声色ではあるが、その言葉はどこか急いでいるようにも聞こえた。それもそのはず、彼の後ろに広がる景色は関ヶ原――サムライエンパイアの中でも今、まさに戦いの中心とされている場所であるからだ。
「関ヶ原には魔将のうち、軍神『上杉謙信』と大帝剣『弥助アレキサンダー』が配置されているようだよ。そこで君たちに向かってもらいたいのは、軍神『上杉謙信』のところ……とはいえ、上杉謙信と直接対決するわけではないんだ」
直接対決を期待していたのなら申し訳ないと告げた時護だが、でもね、と言葉を続ける。
「これは上杉謙信を倒すために欠かせない一手なんだよ」
時護によると上杉謙信は『軍神車懸かりの陣』という特殊な陣を敷いているという。
この陣は、上杉謙信を中心にオブリビオンが円陣を組んで敵陣に突入し、全軍が風車の如く回転しながら最前線の兵士を目まぐるしく交代させるものだという。
「上杉謙信のずば抜けた統率力がなければ、とても実現不可能な陣形だろうね。けれども実現された以上、この厄介な『超防御型攻撃陣形』をなんとかしなければならない」
最前線で戦っている以外の敵軍は、十分な回復時間とバフの時間を得ることができて、更に中心にいる上杉謙信は自身の復活時間を稼ぐためにもこの陣を使用している。つまり、謙信の周囲に配置された上杉軍を倒さなければ、上杉謙信を倒すことはできないのだ。
「君たちには、この陣を構成するオブリビオンのうち、最前線に立っている一団を倒してもらいたい」
最前線にいる一団は、身を守る力と共に最大限の自動治癒効果を授かっている。つまり最高の状態で襲いかかってくるのだ。並大抵の攻撃力では、猟兵の攻撃に耐えきった上で回復してしまう。
「敵の防御を撃ち抜くような……そんな大ダメージを与えられる方法で、一体ずつ撃破していくのが最善だろうね。もしも一撃で倒せないようならば、回復される前に連携攻撃などでダメージを重ねないと、回復されてしまうから注意してほしい」
最前線に配置されているオブリビオンの数は、そんなに多くはない。その代わり、とても強化された状態だということだ。時護はそう伝え、陣のもたらす厄介な効果の説明を終える。
「君たちに戦ってもらうのは、『禍鬼』――『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』と呼ばれる悪鬼だよ。人型で棍棒と雷霆を操り、サソリのような尾を持っている。現場にいる禍鬼達は統率が取れているようだね……恐らく、リーダーの様な役割を果たす個体がいるのだと思うよ」
弱者を優先的に狙うような性質があるという禍鬼には、もちろん説得など効果はない。
「敵は陣の効果もあって、一段と厄介な存在になっている。けれども俺は、君たちなら任務を遂行できると信じている――向かってくれるかい?」
時護は、集った猟兵たちの顔をひとりひとり見て、告げた。
篁みゆ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
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こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。
敵に関する特殊効果はOPのとおりです。
●採用について
通常はできる限り採用を心がけておりますが、期日のある戦争シナリオであることも鑑みて、状況次第ではプレイングをお返しさせていただく可能性もございます。
●プレイング再送について
プレイングを失効でお返ししてしまう場合は、殆どがこちらのスケジュールの都合です。ご再送は大歓迎でございます(マスターページにも記載がございますので、宜しければご覧くださいませ)
●お願い
単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください(今回に限っては、お相手とプレイング送信時間が大幅にずれた場合、プレイング締切になってしまう場合もあるかもしれません)
また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。
皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
第1章 集団戦
『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』
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POW : 伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(毒属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 欲欲欲
【血肉を求める渇望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ : 鳴神一閃
【全身から生じる紫色に光る霆(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:ヤマモハンペン
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ステラ・アルゲン
狐珀(f17210)と参加
車懸かりの陣……とても厄介な陣形ですね
ならば全力をもってこの陣形を崩しに行くのみ。
さぁ共に参りましょうか、狐珀!
先に【属性攻撃】で氷の盾を宙に作り出す
盾には【オーラ防御】を施して敵の攻撃から盾で身を【かばう】
一つを私、もう一つを狐珀の近くへ作り出しておく
敵への攻撃は【流星雨】を【高速詠唱】【2回攻撃】で回復の隙を与えることがないよう絶え間なく振らせ続けよう
【全力魔法】の【破魔】で威力も強化し狐珀の矢の雨と共に、流星の土砂降り雨を降らそうか!
吉備・狐珀
ステラ・アルゲン(f04503)殿と参加です
最前線に配置されている数は、そんなに多くはないということですが…。
陣の効果で強化されているとなれば、こちらも様子見などせず最初から全力でいきます。
UC【破邪顕正】使用。
御神矢に【破魔】の力をさらに上乗せして禍鬼の群れに【一斉発射】し絶え間なく矢の雨を降らします。
万が一、仕留め損ねた禍鬼が列を交代するのを防ぐため矢には【毒】と【麻痺】の効果もつけて追撃し、動きを鈍らせます。
ステラ殿が氷の盾を出してくださるなら、私の千早の【オーラ防御】の加護で禍鬼の毒と麻痺からステラ殿を【庇い】つつ自分も身を守ります。
禍鬼の攻撃に怯まず攻撃の手は絶対止めません。
クラウン・アンダーウッド
アドリブ・連携歓迎
どんなときでも笑顔で楽しく!それがボクの戦場での在り方さ!
複数の応援特化型人形からなる人形楽団による◆楽器演奏で周囲の味方を◆鼓舞する。
さぁ、ボクらと一緒に踊ろうじゃないか♪
UC使用。投げナイフを手に10体のからくり人形がガントレットを手にした主人を切りつけ、傷から血のように吹き出す地獄の炎でその身を紅く染め上げ笑い声をあげる。人形から受けた傷はヤドリガミの特性で癒し再生させる。
主人と人形達は衣服を◆オーラ防御で強化し、◆空中浮遊◆空中戦で空中を踊るように移動し敵一体につき全員で攻撃する。敵の◆情報収集を行い敵の動きや弱点の掌握を図る。防御すると危険な事象は◆第六感で回避。
白い白い大地に、黒い、黒い大きな壁がいくつも立っている。
それは、軍神への道を阻むと同時に、軍神を守護している。
「車懸かりの陣……とても厄介な陣形ですね」
「最前線に配置されている数は、そんなに多くはないということですが……」
ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)の声に答えた吉備・狐珀(ヤドリガミの人形遣い・f17210)は、黒壁の数をざっと数える。一体一体は巨躯ではあるが、数は片手で足りるか足りないか。
「陣の効果で強化されているとなれば」
「ならば全力をもってこの陣形を崩しに行くのみ」
宵空と青空の視線を合わせ、頷きあう。
と、その高揚しつつある心を更に奮い立たせる物があった。
「「クラウン殿!」」
まるで出陣式に華を添えるようなその演奏に振り返ったふたりが見たものは、その旋律を奏でるからくり人形たちの人形楽団と、それを操る見知った姿。
その名を呼べば、クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)は常に浮かべている笑顔を一層強いものにして。
「さぁ、ボクらと一緒に踊ろうじゃないか♪」
その呼びかけは、頼れる仲間が増えたことを示している。
「そうですね。共に参りましょうか、狐珀!」
「はい、ステラ殿!」
ふたりも視線を黒壁に戻して。ステラは宙に作り出した氷の盾を、一枚は自分の前に、もう一枚は狐珀の近くへと配置した。
その間にクラウンは、『狂妄舞踏』を発動させて下準備を整える。瞳輝く10体のからくり人形は自律的に動き始め、主であるクラウンを手にしたナイフで切りつける。
『キャハハハハ!!』
『アハハハッ!!』
クラウンの傷から血のように吹き出した地獄の炎は人形たちを紅く染め上げ、狂気じみた笑い声を上げさせた。ヤドリガミであるクラウンは、即座に傷を負った部分を再構築し、人形たちへと視線を向ける。そして共に地を蹴って、宙を蹴って跳んだ。
「一二三四五六七八九十 布留部 由良由良止 布留部 霊の祓」
一方、狐珀が唱えるのは『破邪顕正』の詠唱。その身の周囲に徐々に浮かび上がる御神矢の持つ破邪の力に、狐珀の有する破魔の力を上乗せして。更に毒や麻痺をもたらすよう、力を込めた。
「それでは、私も」
ふたりの様子を見てステラが抜いたのは、己の本体でもある『流星剣』だ。狐珀と同じく破魔の力を高めてゆく。
「どんなときでも笑顔で楽しく! それがボクの戦場での在り方さ!」
クラウンのその声を合図にして、10体のからくり人形が宙から滑るように黒壁へとナイフを突き立て、切りつけてゆく。何度も、何度も、何度も――。
追うようにして狐珀の放った御神矢が、黒壁に突き刺さる。突き刺さったそれの痛みを感じさせるよりも早く、次の御神矢が飛来して。
更に。
「降り注げ、流星たちよ!」
素早い詠唱で瞬く間に出現した流星は、ステラが『流星剣』の剣先を向けた、ふたりが狙うのと同じ黒壁へと降り注ぐ。回復のいとまも与えぬよう、全力で、重ねて降り注ぐそれは――まさに雨。
「ウオォォォォォォォォッ!!」
だが黒壁とて、何もせずにやられるほど弱くはない。恐らく視界は非常に悪い。矢と流星が降り注ぎ、10体分のナイフが己を傷つけ続けているのだから、集中するのも難しいだろう。けれども黒壁は、紫色を帯びて。
「あれは、霆? ああ、気をつけて、霆が来る!」
空中から、矢や流星の降り注ぐ合間からその兆候を捉えたクラウンの声に、地上のふたりは身構える。だが、決して攻撃の手を緩めるようなことはなかった。
「くっ……」
「っぅ……」
「きゃっ……」
盾やオーラで多少の霆を防ぐことはできたが、紫の光は酷く眩しく、衝撃は身体を痙攣させそうなほど強い。
けれども。
「もう一度、行くよ!」
ステラと狐珀のもたらす『雨』が止まぬことを確認したクラウンは、一度からくり人形たちを宙へと引き上げさせ、今一度、自身を切りつけさせて黒壁へと向かわせる。
「オオオオアアァァァァァァァァァ!!」
それは黒壁の苦悶の叫びか、それとも裂帛の気合か。ゆらり、サソリのような尾を上げた黒壁だが。
(「絶対、に、攻撃は、やめません……!」)
どれほど御神矢を降らせ続ければ、目の前の壁は倒れるのだろうか。一瞬、疑問に揺れた狐珀だったが、強い心で矢を降らせ続ける。
「っ……」
全力で、常よりも多い流星を降らせ続けているステラもまた、歯を食いしばる。幸いにも霆で麻痺が残ることはなかったが、それでも無傷であったわけではない。だが、ここで攻撃の手を緩めてはいけないことは重々承知。
「土砂降りの雨の中へ沈め!!」
叫びとともに落ちた流星は不思議と強い力を持っていて。
どすんっ……。
流星の地に落ちる音とはまた違う大きな音が響き、大地を揺らしたかと思うと。
黒壁の足元だった辺りから黒い靄が立ち上り、そして白き地を舞うようにして消えていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
忌場・了
リッキー(f09225)と
陣から離れ多くの敵が視界に入る場所から
巨躯の個体等に【第六感】であたりを付け威嚇射撃
陣形が乱れたり守りが固くなった箇所に居る個体をリーダーと予測
いやぁ良いね、後先考えずやれるってのはよ
後は任したぜデリック
いつもと違う呼び名で呼んだ頼もしい友を背に
鉄塊剣持ち手薄な方面から陣に滑り込む
他からの攻撃は躱し一気に接敵
尾の攻撃を剣で受けつつ負傷は承知で懐へ
【カウンター】【捨て身の一撃】で全力の斬撃
追い打ちのブレイズフレイムで禍鬼を派手に焼き尽くし相方への合図と
血も肉も仮初だ
幾らでも好きなだけ持っていけ
ただ忘れるな
対価はテメェの命だってことを
さあて出番だ、いい曲頼むわ
アドリブ歓迎
デリック・アディントン
了(f18482)と
多くの敵を視界に捉えて
了があたりを付けた相手の
僅かな動きの違いも逃さぬように目を凝らそう(視力)
私も指揮をしている分、統率者の雰囲気は掴めると思うよ
…あれが怪しくないかい?
了、道を開くから頼んだよ
普段と違う名の響きに背筋がぞくりとしたのは嬉しさからか
信頼する友の道を阻むものをrigorosoで他方へ蹴散らそう(援護射撃)
自身の防御はgrandiosamenteを使って
全く、勢いよく懐へ飛び込んでいくのはいいけれど
友が傷付く所は余り見たいものではないよ
燃え上がる炎を合図にUCで(全力魔法)の攻撃を
あぁ、曲名は何がいいかな
「怪しいのはあの辺りかね」
「ああ、他の猟兵が一体倒したのだろうね、敵陣に動きがありそうだよ」
敵陣から離れた位置で、敵の動きを観察していた忌場・了(燻る・f18482)とデリック・アディントン(静寂の調律師・f09225)は、敵陣の一部に降った『雨』と、それが止んだ後の様子もしっかりと観察していた。
「リッキー、しっかり見といてくれ」
「もちろんだよ」
了は『弐式』を構え、他の猟兵達の行動で生じた敵陣の動きと自身の勘を元に、威嚇の一発を撃ち込む。
突然の狙撃に対応すべく、動く敵陣。次の弾を気にしているのだろうその動きを、寸分たりとも見逃すまいとデリックは目を凝らす。
自らも指揮者として動くこともある彼は、『統率者』としての動きを判別すべく敵陣を注視していた。
と、一体の黒壁が下がり、別の黒壁が入れ替わるようにして弾丸の飛来した方角――デリックと了のいる側へと下がったのが見えた。なるほど、と心中で頷いて、デリックは控えめに指をさす。
「……あれが怪しくないかい? 今こちらを警戒している禍鬼の、その奥の」
「あれか。個体差があまりないみてぇだから、見失わないようにしないとなぁ」
リーダーとあたりをつけた個体を見失わないようにしつつ、了が取り出すのは『鉄塊剣』だ。
「いやぁ良いね、後先考えずやれるってのはよ」
剣を手に伸びをしながら告げる了は、言葉通りにコトの後先を考えていないわけではない。その言葉は、『信頼して任せることのできる相手がいる』嬉しさから出たものだ。
「了、道を開くから頼んだよ」
手にした『rigoroso』を構えるデリックの横を、友は踏みしめるようにして過ぎてゆく――その時に。
「後は任したぜ、デリック」
紡がれたのは、紡いだのは――『いつも』と違う呼び名。
嗚呼、背筋をぞくりとさせたこれは、嬉しさだろうか。
嗚呼、口元に浮かぶ笑みは、背を預けた友の頼もしさ故だろうか。
了は禍鬼の一団と、加速度的に距離を詰めていく。だから、デリックは引き金を引く。
弾丸となった『音』が、こちらを警戒していた禍鬼に当たり、その禍鬼の意識は、発射元であるデリックのいる方へと向いた。その時にはもうすでに、了は別角度から一団を目指していて、その禍鬼の視界に入ることはない。
続けて『音の弾丸』を放ち続けるデリック。その弾丸だけでは、何発撃ち込んでも禍鬼の再生力に勝つことはできない。だが、それでいいのだ。これはあくまで援護射撃。銃声は、友が『そこ』へとたどり着くまでのプレリュード。
紫に輝(ひか)る霆から身を守るように『grandiosamente』を展開し、デリックは前奏曲を奏で続ける。あちらからデリックの姿は見えていないのか、幸いにも直撃は避けられたけれど、地に落ちる霆の衝撃が地を、身体を揺らす。
けれども、狙いだけは過たぬように。友を阻もうとする禍鬼を、的確に狙う。
素早く一団へと接近した了が、デリックの援護で一番手薄になった部分から敵陣へと飛び込んでいくのが見える。
(「全く、勢いよく懐へ飛び込んでいくのはいいけれど、友が傷付く所は余り見たいものではないよ」)
だからこそ、デリックは『音』を紡ぎ続けるのだ。
* * *
接敵したことにより、デリックの射撃に意識を割いていた禍鬼たちの意識が、幾分か了へと向く。全てではないことがありがたい。振り下ろされる棍棒を躱した時に頬をかすったのは、その大きく刃の如き爪だろうか。ビシッと痛みが走った頬からは血が流れ出しているかもしれない。けれども了は、そんな些末なことは気にせずに一団の奥へと潜り込む。ここで足を止めては、友の動きを無駄にしてしまう。
(「あれか」)
とうとう正面に見据えることができた目的の巨躯に、了は迷うことなく地を蹴る。ひときわ力強いその踏み込みで一気に距離を詰めたいところだったが、さすがにそう上手くは行かず。振り下ろされた尾を、なんとかその尾に負けぬ巨大な剣で受け止める。しかし尾の先の爪のように鋭い針は、了の胸元を切り裂いていた。
痛みと、毒という不純物が体内を駆け巡る苦しみを感じる。けれどもこれも、想定内だ。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
受け止めていた尾を弾いて了が繰り出すのは、捨て身の反撃。一歩で禍鬼の懐へと入り、柄を握る手から自身の血が伝う『鉄塊剣』で深く、深く斬りつける。
その禍鬼が気づいた頃には、もう遅い。
己を切りつけた剣が纏っていたのは血だけではなく、地獄の炎だ――そう認識した時、その炎は禍鬼自身を包み込んでいた。
「血も肉も仮初だ。幾らでも好きなだけ持っていけ」
それはまるで、巨大な松明――否、燃え上がる篝火のよう。
「ただ忘れるな。対価はテメェの命だってことを」
そう、これは、遠目からでもわかる『合図』。
「さあて出番だ、いい曲頼むわ」
この声は、離れた位置にいる友へは聞こえていない。
けれども、いらえはあった。
敵陣へと飛来したのは、掌サイズの紙片。
禍鬼の巨躯からすれば、紙吹雪のようなものだろう。戦闘で舞い上がったただの紙――恐らくそんな認識……否、その存在を認識すらしていないのかもしれない。
その紙片に五線と音符をちらりと見た了だけが、微かに口の端を上げた。
――あぁ、曲名は何がいいかな。
即興で書き込まれたその旋律を、了が読むことはできないけれど。そんな友の声が聞こえた気がして。
「アァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
篝火となった禍鬼が、一段と大きな声をあげる。その身体に張り付いた紙片が激痛の元であることを、あの禍鬼が認識することはないだろう。
了の炎と、デリックの全力を込めた五線譜から放たれる痛みに苛まれ、禍鬼は苦しみから叫び、そして逃れようと暴れまわる。
「あんまそっち方面わからねぇから、『何とかの狂想曲』とかでいいんじゃねえの?」
届かぬと分かっていても了がそう呟いたのは、リーダーと思しき巨躯が倒れ伏し、『演奏』が終わったからだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
過剰な火力で討つのなら問題は無いのだな
破天で掃討
纏う原理――顕理輝光『超克』で“外”から供給する魔力を溜めた体内に魔弾を生成・装填
溢れる分はオーラで押し留め保持
高速詠唱での装填を『再帰』で循環させ最速で満たし、全て統合した巨大な魔弾を構築
自身と周囲の球形空間を、触れる全て死に絶える一個の死の魔弾として対峙する
そのまま途切れなく生成した分を射出し攻撃
全力で魔力を注いだ2回攻撃の一回分は都度放ち、残る一回分を統合した魔弾を続けて浴びせ確実に仕留めていく
決定打にならねば纏う死の魔弾全てを解放し、周囲一帯を纏めて吹き飛ばして始末
フィリア・セイアッド
この陣を破らないと 沢山の人が犠牲になってしまうのよね
あまり強くはないけれど 少しでも力になれたら
どうかより良い未来が掴めますように、と祈りを込めた後翼を開く
「WIZ」を選択
支援します 皆さん、お気をつけて
ライアを奏で 「雪雫の円舞曲」を歌う
仲間を鼓舞し 辺りに満ちる禍の気配を祓うよう(破魔)
戦いは嫌いだけれど この世界にも一生懸命生きている人がいるのだもの
過去の悪夢が今を浸食するようなこと させられない
怪我をした仲間へは「春女神への賛歌」で回復
自分への攻撃は基本回避
動けない仲間がいれば前に立ち 「オーラ防御」も使って盾に
基本 回復・支援役
傷つく人がひとりでも少なくすむように
(「この陣を破らないと 沢山の人が犠牲になってしまうのよね」)
視界を遮る漆黒の巨躯たちに、恐怖を感じないといえば嘘になるだろう。それでもフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は、少しでも力になりたい、そう強く願うから。
「どうかより良い未来が掴めますように」
祈り、その純白の翼を広げた。
他の猟兵たちの行動によって傷を負い、あるいはすでに骸の海へと帰った黒壁もいる。けれどもその、陣由来の再生力と防御力故に、一体ずつ相手取って確実に沈めてゆかねばならぬのが現状だ。狙われていない黒壁たちとて、間抜けに突っ立っているだけではない。仲間へと攻撃を仕掛けた者たちを狙っている。
「過剰な火力で討つのなら問題は無いのだな」
端的に状況を確認したアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、即座に自身の行うべきことに行き着いた。『顕理輝光『超克』』を使用してまずは『外』から体内へと魔力を溜めていく。その魔力で体内に作り出すのは、魔弾だ。人のカタチには収まらぬ分の魔力は、オーラを利用して押し留める。
その時アルトリウスの耳へとたどり着いたのは、弦の音。戦場においてなお、その雑音に紛れぬ旋律が広がり、猟兵達の耳元へと向かってゆく。
「支援します。皆さん、お気をつけて」
そう告げた声を、アルトリウスは耳にした。弦の音に歌声が重なり、広がってゆく。
それは『菫のライア』を爪弾く音。魔を遠ざける歌声。フィリアの旋律は、不思議と戦場の雑音に紛れることなく、猟兵たちの耳へと届く。
(「戦いは嫌いだけれど この世界にも一生懸命生きている人がいるのだもの」)
そう、目の前の黒壁の、そしてその奥に座する者を、その上にいるだろう者の思い通りにさせては、この世界は蹂躙されてしまう。
(「過去の悪夢が今を浸食するようなこと、させられない」)
だから、だから力の限り、願いと思いを込めてフィリアは歌い上げる。
「力が、増したか」
掌を見、アルトリウスは呟いた。想定外の助力により、求める結果までの道は強化されども、妨げになることはない。
高速詠唱にて魔弾を装填するアルトリウスは、青の光――『顕理輝光『再帰』』でそれを循環させ、最速で満たす。
更に統合されてゆく魔弾は、徐々にその規模を増し――最終的に発射されたそれは、アルトリウスと周囲の空間を球状に切り取ったようなサイズで、死の魔弾として黒壁へと向かってゆく。
「があぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
初弾を躱そうとした黒壁だったがそれは叶わず。息を吸ういとまも与えられぬほどに撃たれ続け、その巨躯は衝撃からか、まるで痙攣しているようだ。
それでも黒壁は、負けじと紫の霆を放つ。しかし幾条の光が落ちようとも、アルトリウスは微動だにせず射出を続ける。
幸い、霆はすべてアルトリウスへと向かっている。その間に戦っている仲間たちの様子をできる限り確認したフィリアは、紡ぐ歌を変えることを決めた。
「降りしきれ春の陽射しよ 清らに咲ける花のため なお踏み耐える根のために」
彼女が新たに紡いだものは、春の女神へと呼びかける歌。その優しい春の日差しで、傷を癒やしたまえと願う歌。
その歌は、傷を負った猟兵たちの元へと届き、その傷を癒やすことで彼らの心を支えてゆく。
(「傷つく人がひとりでも少なくすむように」)
彼女のその思いが、歌声となって戦場を駆け抜けていく――。
「決定打になるか?」
彼が全力で魔力を注いだ青く輝く弾丸。青い雨……否、まるで津波のようなそれは、黒壁の身体を強く『打ち』、『撃つ』ことで飲み込んでいく。
ぐらり、わずかではあるが巨体が傾いだのを、アルトリウスは見逃さない。
「終わりだ」
それはまさに死の宣告。
彼の放った最終弾は巨躯を飲み込み、そして。
その青い光が収束したのち、そこには巨躯が存在したことを証明する靄すら、なかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
城島・冬青
【お父さん…城島・侑士(f18993)と】
今度はお父さんと鬼退治かー
いや鬼退治というよりサソリっぽいけど
しかも大ダメージで即撃破必須か
火力勝負だね
お父さん、足引っ張らないでよ?
UC【廃園の鬼】を発動し目星をつけた敵に【ダッシュ】で接近、そのまま反動で深く武器を突き刺す【串刺し】攻撃を繰り出す
鬼、死んだ?死んでなければお父さんトドメ宜しく!
死体蹴り…じゃなかった生死確認は大事だね
復活されたら面倒だし
鬼を一体沈めたらまた次の鬼へ
伽日良の鐵は発動気配を【第六感】で素早く感知できるようにする
発動気配を感じたら【ダッシュ】で攻撃の範囲外まで全力で退避する
お父さん
次の話は鬼が出てくるのとかどう?
なーんてね
城島・侑士
【冬青(f00669)と】
アドリブ可
サムライエンパイアは昔に一度来たことあるような…来てなかったような
うーむ、曖昧だ
娘は何度か来ているようだな
軽口を叩いて敵に突っ込んでいくのを見ると慣れてるな…と思う
…てか単独突出はやめなさい!
娘の合図で【援護射撃】で鬼の【傷口をえぐる】トドメを刺す
動かなくても死んだふりをしてるかもしれないので立ち去る前に追撃は忘れない
…死体蹴りじゃないから
鬼に接近されたら【オーラ防御】で防ぎ至近距離で【二回攻撃】して距離を取る
容赦なく鬼を屠る娘を見てるとかつての自分を思い出すが、強い意志が宿った瞳を見てるとあの時の自分とは真逆だと感じる
…連携して確実に数を減らしていこう
(「サムライエンパイアは昔に一度来たことあるような……来てなかったような」)
曖昧な記憶をまさぐりながら、 城島・侑士(怪談文士・f18993)はやや遠目に立つ黒壁と白の景色を眺める。結局の所、決定的な記憶は引き出せそうにはないのだが。
(「今度はお父さんと鬼退治かー……いや鬼退治というよりサソリっぽいけど」)
隣に立つ侑士の娘、城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は手をひさしのようにかざして、黒壁たちを見据えている。その姿は15歳の少女とは思えぬほど堂々としていて、彼女がこの世界に何度も来ているだろうこと、そしてブランクのある侑士よりも遥かに『現在』の戦闘に慣れていることを示していた。
「大ダメージで即撃破必須か。火力勝負だね」
グリモア猟兵の言葉を思い出し、呟いた冬青。ただでさえ巨躯の相手が並外れた耐久力と回復力を持ったとなれば、撃破難度が上昇するのも想像に難くない。まさにそれは壁、だ。
すでに他の猟兵たちも攻撃を始めているようで、黒壁達はそれに対応しているようである。だがその動きが変わったことに、冬青は目ざとく気がついて。
「お父さん……気づいてる?」
「ああ、敵の動きが乱れ始めたな。リーダー格が倒れたか」
侑士とて、ブランクはあれども戦闘経験の豊富さでは冬青を凌ぐ。僅かな敵の動きから情報を読み取るそれは、小説執筆のために欠かせぬ人間観察や様々な機微を感じ取ることに応用できると気がついたのは、いつのことだっただろうか。
「誰かがリーダーを倒してくれたんだね。じゃあ、敵が混乱しているだろう今がチャンス!」
父の言葉にうんうんと頷いた冬青は、もちろんこの機を逃すつもりなどない。『花髑髏』の柄をしっかりと握りしめて。
「お父さん、足引っ張らないでよ?」
揶揄するように告げて地を蹴る冬青。軽口を叩いて一気に敵との距離を詰める娘を見て「慣れてるな……」と思った侑士だったが、一瞬ののちに我に返る。
「……てか単独突出はやめなさい!」
その声は届いているだろうか。侑士はため息をつきつつ、いつ娘からの合図があってもいいようにと『シミュラクラ』を手にした上で、集中を始めた。
まるで一瞬で移動したかのように一体の黒壁へと接近した冬青は、その時点ですでに『花髑髏』の封印を解いていた。対してその黒壁は、他の黒壁を攻撃する猟兵を狙おうと、冬青たちから見て横向きの体勢だった。己を貫く視線、近づいてくる気配には気がついていただろう。だが冬青のそれは常人を超えていて、そして黒壁の予測をも大幅に上回っていたのだ。
冬青は一気に距離を詰めたその速度を殺さずに、漆黒に染まった『花髑髏』を突き刺した。ぐぶりぐぶりと刃が巨躯の脇腹へと潜ってゆく。
それを一気に引き抜いて、同じ箇所を刺して刺して刺して刺して刺して――ぐわん、と突き刺した『花髑髏』ごと身体を持っていかれる感覚。嫌な予感。
「お父さん、トドメ宜しく!」
足に力を入れて花髑髏を引き抜いた冬青は、己の嫌な予感を疑わない。疑うその一瞬が命取りになると、知っているからだ。
黒壁の尾が振るわれるより早く、冬青は接近したときと同じ速度でそれから距離を取る。尾が突き刺したそこに、もう冬青はいない。
一瞬、黒壁が戸惑った。
その一瞬だけで、十分だった。
侑士は冬青の抉った傷口を狙い、連続して矢を、次いで弾丸を放った。それは狙い過たずに傷口へと入り込み、体内深く在る傷を抉って抉って抉って――。
「オォォォォォォ……!?」
悶え苦しむ黒壁は徒に尾を振るうが、それが冬青を捉えることはなく。
暴れる黒壁にも正確に撃ち込まれる矢と弾丸。
どごおっ……土煙と振動を発生させて倒れた巨躯に、侑士はまだ追撃をかける。
倒れてもまだ息がある、または死んだふりをしている可能性がある、それを識っているからだ。
「死体蹴り……じゃなかった。生存確認は大事だね。復活されたら面倒だし」
「……死体蹴りじゃないから」
いつの間にか自分の横まで戻ってきていた娘の言葉に、苦笑しつつも追撃を続けた結果、倒れ伏した巨躯は靄となってカタチを無くしていく。
「お父さん、次の話は鬼が出てくるのとかどう? なーんてね」
安堵の息をついた侑士は、そんな提案をしてきた娘の瞳を見つめる。
容赦なく敵に『花髑髏』を突き刺し続ける娘を見ていて、かつての自分を思い出した。やはり血は受け継がれている――そう思ってしまった。けれど。
(「……眩しい」)
娘の瞳には、眩しいほどの強い意志が宿っていて。
ああ、あの時の自分とは真逆なのかという実感に、胸をなでおろしたのだった。
成功
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リル・ルリ
■クロウ/f04599
アドリブ歓迎
クロウの因縁の――
弱気になるなんて、君らしくないよ
大丈夫、今度は届く
いや、届かせる
もう、奪われる命のないように
その記憶が君自身を、傷つけないように
僕は歌で、守るから
君のために歌おうか
その刃を、輝きを取り戻せるように
歌唱に鼓舞を込めて歌う「凱旋の歌」
少しでも、君の力になりたい
僕の歌ならばたんと召し上がれ
大丈夫、ひとりじゃないよ
クロウなら、できる
オーラ防御の水泡で僕を庇う君ごと守ろう
毒も痺れも打ち消すように、「星縛の歌」を歌おうか
蕩けさせてあげる
そんなものに、君を縛らせはしないから
存分に、力を奮っておいで
闇を切り裂いて、未来を映すんだ
そんな君はとても、綺麗だと思う
杜鬼・クロウ
リル◆f10762
アドリブ◎
回復…陣の効果か、クソが
時間稼ぎと分かっていても骨が折れるぜ
斬っても斬っても蘇る
届かぬ手
零れ落つる華(命)は数知れず
嗚呼、俺はまた
故郷で相対した禍鬼
血溜りの海と屍
噎せ返る
負の想いに蓋をし剣振るうも普段より鈍る
【トリニティ・エンハンス】使用
攻撃力up
リルが狙われたら反射的に剣でいなし尾に連撃(咄嗟の一撃・かばう・武器受け
リルから貰った瑠璃の腕輪が視界の端に映る
何ヤってンだよ俺は
…リル、頼みがある
俺一人じゃ火力が足りねェ
だから
お前の歌(ちから)全部、俺に寄越せよ
泣くの堪え巣食う心の闇を祓う
一撃に総てを賭ける
深呼吸
平正眼の構えで緋の焔を剣に集め一点集中(属性攻撃・部位破壊
グリモア猟兵からその姿を、その名を聞いた時からずっと、心の奥がひりついている。記憶の奥がざわめいている。
「回復……陣の効果か、クソが」
振るった『玄夜叉』が斬りつけた禍鬼の傷は、すぐに塞がってしまう。それがこの陣形の効果だと、説明されていた。
「時間稼ぎと分かっていても骨が折れるぜ」
それでも杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、目の前の巨躯の黒を斬って斬って斬って――嗚呼、記憶が震える。
遠き日に出会ったその黒は、斬っても斬っても斃せなかった。
噎せ返るような血溜まりは海となり、屍が浮かぶ。
それは、伸ばしても伸ばしても、目の前の黒を斬っても斬っても手の届かなかったもの。
零れ落ちた命の華の、成れの果て。
甦るのは、懐かしの故郷の風景。されどその屍は、嗚呼、嗚呼――目の前の黒と同じ姿をした禍鬼が――。
「っ……」
その記憶に紐づく思いは、悔しさもどかしさ悲しさ辛さ――すべてを内包した『痛み』であり無力さの極み。
それに意識的に蓋をしたものの、あの日と同じく在るその黒を認識せざるを得ないこの状況は、クロウの剣を鈍らせる。
「畜生っ……!」
だがその鈍りを誰よりも理解しているのは、クロウ自身だ。炎、水、風の魔力を宿して見据えた禍鬼は、その尾をしならせて。
「――っ!?」
その狙いの先が自分ではないと気づいたクロウは、反射的に動いていた。尾が狙うのは、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)。だがそれが彼を打ち付け、突き刺す前に、クロウの『玄夜叉』がそれをいなす。
――そう、クロウの因縁の……弱気になるなんて、君らしくないよ。
尾をいなした時に視界の端に入った瑠璃色が、出発前のリルの言葉を思い起こさせる。
――大丈夫、今度は届く。いや、届かせる。もう、奪われる命のないように。
あの後彼は、何と言ったのだったか。
――その記憶が君自身を、傷つけないように。僕は歌で、守るから。
そう、だった。
「何ヤってンだよ俺は……」
低い声で吐き捨てたクロウは、背に守ったリルへと言葉を向ける。
「……リル、頼みがある」
彼は戦うクロウを後方から支援してくれていた。けれども彼がこの場で真価を発揮するためには。
「俺一人じゃ火力が足りねェ。だから」
クロウがそれに気づく必要があったのだ。
「お前の歌(ちから)全部、俺に寄越せよ」
人に頼み事をする時のセリフとは思えぬほどの、傲慢で尊大なその言葉。けれどもリルは、その要求に笑顔を浮かべる。
「君のために歌うよ。その刃を、輝きを取り戻せるように」
彼自身が気づかなければ、意味がなかった。だから、リルは口を出さずにいたのだ。
「少しでも、君の力になりたい。僕の歌ならば、たんと召し上がれ」
大きく息を吸い込んで、そしてリルが紡ぐのは、鼓舞するような旋律。それを紡ぐ彼の儚くも力強い歌声は、心昂らせ希望や勇気を喚ぶ。
「――君の勝利を歌おうか。希望の鐘を打ち鳴らす絢爛の凱旋を。この歌が聴こえたならば この歌が届いたならば さぁ、いっておいで」
――大丈夫、ひとりじゃないよ。クロウなら、できる。
嗚呼、歌声に込められたリルの心(おもい)が、クロウを包み込み、彼自身の持つ力を膨らませてゆく。
「オラァッ……!!」
接敵し、振り下ろした刃が禍鬼の胸を深く傷つければ、その巨躯が纏う紫が霆としてクロウを打つ。
「くッ……」
リルの広げたオーラの水泡が、衝撃を和らげてくれた。だがぴりぴりとした痺れが、クロウの全身を苛んでゆく。
けれどもその回復を待つために、リルは紡ぐ。それまでの歌声とは打って変わったそれは、暴力的に思考を蕩かす魅惑の歌声。
「綺羅星の瞬き 泡沫の如く揺蕩いて 耀弔う星歌に溺れ 熒惑を蕩かし躯へ還す――黙って僕の歌を聴いてろよ」
その歌声に、禍鬼の動きが鈍る。
あんなものに、クロウを縛らせはしない――強い意志の歌でもって、禍鬼を縛り上げるリル。
――僕が力を貸すよ。存分に、力を奮っておいで。闇を切り裂いて、未来を映すんだ。
彼の言葉がクロウの心を奮い立たせる。泣いてなど、いられない。
泣くのを堪えて強き意志を宿せば、心に巣食う闇と同時にクロウの身体を縛る紫電が祓われる。
「……、……」
深呼吸をして、禍鬼を見据え。
平正眼に構えた『玄夜叉』に宿すのは、緋の焔。
一撃に、総てを賭ける――地を蹴り、そして。
「ハアァァァァァァァァァッ!!」
裂帛の気合を籠めて狙うは一点。
「ガッ……」
その禍鬼は、他の禍鬼のよう呻きも叫びもしなかった。
それは、その一撃が、仮初の命を刈り取ったことを意味する。
もわり、禍鬼の身体が黒い靄となり、散ってゆく。行方を無くした剣先を地につけ、クロウはそれを見上げた。
そこにはもう、迷いも怯えもなく。
(「そんな君はとても、綺麗だと思うよ」)
リルから見ても今の彼の瞳は、未来を映す輝くものに見えた。
(「嗚呼、終わったのか……」)
靄が消えたその地には、もはや黒の巨躯は無く。
他の猟兵達の尽力もあって、この陣にいたすべての禍鬼が骸の海へ還されたのだと、クロウにも知れた。
大成功
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