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エンパイアウォー⑦～軍神の謀

作者：灰色幽霊

●グリモアベースにて
「皆様お疲れのところ申し訳ありませんが新たな予知です」
　そう言って猟兵たちを出迎えたのはアマータ・プリムス（人形遣いの人形・f03768）だった。
「上杉謙信率いる上杉軍精鋭部隊が、関ヶ原で幕府軍を蹂躙しようとしています。軍神車懸かりの陣は、上杉謙信を中心に、オブリビオンが円陣を組んで敵陣に突入、まるで全軍が風車の如く回転しながら、最前線の兵士を目まぐるしく交代させるという、上杉謙信のずば抜けた統率力が可能にした「超防御型攻撃陣形」です。敵は常に万全の上杉軍と戦わねばならないにも関わらず、上杉軍側は充分な回復とバフの時間を得ることができるのです。また上杉謙信は、自身の復活時間を稼ぐ為にもこの陣形を使っているため、上杉軍も倒さなければ、謙信を倒すことはできないようです」
　つまりまずは周囲の兵の数を減らしながら上杉謙信の元へとたどり着かねばならないのです。
「ですので、まずはこの車懸かりの陣の最前線にいる上杉軍のオブリビオンと戦って撃破してください。最前線の上杉軍は、最高のコンディションで襲いかかってきます。並大抵のダメージでは、耐えきったうえで回復してしまうでしょう」
　そんな相手を倒す方法は2つ。とアマータは2本の指を立てながら言う。
「１つは回復をさせぬ圧倒的火力で１体ずつ確実に撃破すること。範囲に分散させる攻撃では耐えきられるかもしれませんので確実に1体を狙うのがよろしいかと。２つ目は回復される前に連携などで連続攻撃を行うこと。1人の攻撃では足りないかもしれませんが複数人でしたら可能でしょう」
　最後にアマータはカーテシーをしながら猟兵たちに告げる。
「今回の相手は強敵揃い。各個撃破が得策でしょう。どうかこの陣を突破し軍神の元へとたどり着いてくださいませ。どうかご武運を」

　優雅な礼と共に猟兵たちの転移が開始された。

第1章 集団戦 『魔神兵鬼『シュラ』』

POW   :    剣刃一閃・奪命 【近接斬撃武器】が命中した対象を切断する。 SPD   :    剣刃一矢・報復 敵を【近接斬撃武器による突き】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。 WIZ   :    剣刃一弾・止水 対象のユーベルコードに対し【近接斬撃武器による弾き】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。 イラスト：森乃ゴリラ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●軍神へと向かう者たち

　関ヶ原の一角、車懸かりの陣をが敷かれるその戦場を見下ろす位置に降り立つ猟兵たち。予知に従い集まった彼らの目的は只一つ。この陣形を突破し上杉謙信の元へと辿り着くこと。しかし陣を敷くオブリビオンたちもまた精鋭。彼らを倒すには入念な準備が必要だった。
「オレが足を止める。そこへ速攻を仕掛けろ。チャンスは一回だ、しくじるなよ」
　故に先手を打つのは神宮寺・絵里香（雨冠乃巫女・f03667）が買って出た。それは車懸かりの陣に類似した陣形への対処が絵里香の修める水術に対抗策として存在していることが第一の理由。
「要は車輪が上手く回らないようにすればいい。こうやって軍が回転するルートに底なし沼を作ったりとかな」
　車懸かりの陣は回転による交代で常に万全の状態で戦いを行うというモノ。つまりその回転の速度が落ち、交代が遅くなれば攻撃のチャンスが増え、各個撃破が行いやすくなるということだ。ただし、この奇襲は失敗すれば対応されてしまう。故に一度限り許された戦法であり失敗は許されない。だが今ここに集まる猟兵たちの中にその心配をしている者は誰一人としていなかった。
「いと深き深き湖沼の主、大いなる水を司りし白蛇の神よ！汝が住処をここに顕現させよ！」
　陣を見下ろすその場所で背に奉りし白蛇の神を呼び出し狙うは回転し続ける陣の一角。

　【白蛇神域】により召喚された白蛇により放たれた激流の息吹は陣の最前線を走るオブリビオンを呑み込み一度限りの奇襲が開始される。
「敵襲ッ！」
「いくぞッ！」

　絵里香の放った攻撃によりダメージと生み出された底なし沼により動きを止めた最前線の一団に迫る猟兵たち。
「これが話に聞いた車懸かりの陣。確かに派手な陣容じゃねぇか。だが、今この時は邪魔だな」
　先陣を切るのは遠呂智・景明（いつか明けの景色を望むために・f00220）。その腰に携えた自らの本体たる『大蛇切 景明』へ手を懸けて居合の構えで戦場を駆ける。狙いは全身全霊を賭けた最高の一刀。全てを込めたその一刀が狙うのは最前線に位置するオブリビオンの中でも先頭にいるただ一人。それ以外は今必要ではない。不要な物は削ぎ落とし、研ぎ澄まされたその刃が狙うのは相手の首のみ。
「先ずは貴様かッッ！」
　その間合いが一足一刀へと辿り着いた時、景明の腕が幽かにブレる。肉眼では目視も叶わぬその抜刀。そこから放たれるのは景明の最大火力にして雷光の如き速度を持ち烈火の如き威力を持つ【風林火陰山雷番外 雷・火】の五百へ至らんとする斬撃の嵐。その一撃一撃がシュラと呼称されるオブリビオンの身体を余すことなく斬り刻み鮮血に染まるシュラの身体。刀を抜くことすら叶わねば躱すこともいなすこともできはしない。
「グァァァァアアアア！！！」

「はっはっは！　いい攻撃だ！　いい斬撃だ！　しかしこのシュラを倒すにはまだ足りん！」
　その言葉通り千切れかけた腕は既に接合され身体中余すことなくつけられた傷は既に修復が開始されている。この防御力と驚異的なまでの回復能力こそ車懸かりの陣の最たる脅威。だからこそ猟兵はそれを許さぬ連撃を用意した。

「我が内に宿る星の刃よッ！ボクに思いに答えろッ！抜刀ッ！」
「甘いわ！」
「チッ！」
　【星剣抜刀】に覚醒し景明の斬撃の嵐に続くように放たれたチトセ・シロガネ（チトセ・ザ・スターライト・f01698）により振り下ろされた稲妻のような一撃。その身に宿る武装をすべて解放し脚部に設置されたバーニアを吹かしチトセの持てる力全てを込めたその一刀はシュラが手にする刀により惜しくも弾かれる。シュラの身体も軋みをあげるがその程度のダメージでは即座に回復し効果がなかった。

　しかしチトセの攻撃はまだ終わっていなかった。

　チトセの身体に組み込まれた光刃制御システム『エッジオブハート』は両手からしか刃を出せぬわけではない。その身に宿る『フォトンセンス』が次なる攻撃の一手を掴み取る。
　先の一撃を弾かれたことによりのけ反る身体。
　一撃を弾いたことにより振りあげられたシュラの刀。
　そして未だ自由に動く己の両足。
　
「まだダ！」
　そこから導き出された答えは反動を利用したサマーソルトキックだった。脚部バーニアの加速と脚部に『エッジオブハート』により展開された光子の刃がシュラの身体を下から上に斬り裂いた。
「ガハッ」

「さぁ阿山殿、共に参りましょう！」
「行くよ、ステラ！　我が魂を受け入れな！」
　続けざまにシュラに迫るのはステラ・アルゲン（流星の騎士・f04503）と櫻庭・阿山（無数の瞳を持つ魔妖・f14179）の２人のヤドリガミ。阿山はその身を霊体化しステラに憑依する。これが阿山の【憑目神】による能力。霊体と化しダメージの肩代わりと戦闘力増強を行う阿山の得意技。
『手はず通りに頼むよ！』
「ええ、お任せください」
　この状態ならばダメージは阿山が肩代わりをしてくれる。だからこそステラは防御のことを考えずに攻撃にだけ専念することができる。シュラの振るう刀を避けることすらせずその身に受けても霊体の阿山が全て吸収してくれる。
『背後からの奇襲はなし！　気にせずやりな！』
　【憑目神】の恩恵はそれだけではない。本来であれば死角となってしまう背後すら阿山が視ることで死角となり得ない。つまり奇襲を考えながら戦闘する必要がなくなりステラは全力でシュラと切り結ぶことができる。
「侍というには少し風変わりな者か？　なんであれ刀を持つもの、我が剣と勝負と行こうか！」
「いい度胸だ！　相手をしてやろう！」
　絶え間なくその身に与えられた傷が癒え切らぬままシュラはステラと切り結ぶ。片や驚異的な回復能力、片や【憑目神】によるダメージの肩代わり。勝負は千日手になるかと思われたがそうはならなかった。対峙するステラとシュラの違いはやはり共にいる者の有無だった。
　ステラの力はダメージが嵩むほど増していく。幾度目かの鍔迫り合いの後距離を取るステラ。
「そろそろいいですか？」
『あの刀で、どれだけの人を殺してきたのやら……情けも容赦も必要ないね！　もう十分さ！』

　霊力は既に限界まで高まった。ここに流星の一閃が顕現する。

「ヤドリガミの合せ技、見せてくれようか！」
「見せてみろ！　最高の一撃を！」
　離れた距離を全力で駆け、横薙ぎに振るわれる『流星剣』。その天駆ける一筋の流星の如き斬撃が放たれる瞬間。
『一点集中！　全力で叩き込んでやりな！』
　阿山がこれまで集めた全ての霊力を刀身へと収束させその威力を極限まで高める。
「……【流星一閃】」
　振り抜かれたその一閃はシュラの胴を深く切り裂いた。

「は、はははは！　良い、良いぞ！　最高の一撃だ！」
　その身に刻まれた夥しい量の傷。
　千切れかけた四肢。
　身体の中心にに走る剣痕。
　そして未だ血がとめどなく溢れる腹部。

　シュラは既に満身創痍。しかしまだ倒れはしない。

（共鳴・保管庫接続正常、能力強化。無限連環具現化術式起動。概念制御、効果・対象指定、具現）
「舞え…」
　だが猟兵たちもまだ諦めてはいない。月宮・ユイ（捕喰∞連星・f02933）がその両手に『連星型共鳴コア：星剣『ステラ』』と『ドラゴン『ケイオス』』、星剣と槍を繋げ合わせた剣槍を構えシュラへと突貫する。その背後には【概念兵装『不死鳥』】により具現化された概念、増殖す滅し喰らい癒し浄化す選別の炎が数多浮かぶ。これまでの他の猟兵の攻撃でシュラの耐久力と対処能力は把握している。浮かぶ選別の炎を剣槍に宿しユイはシュラと切り結ぶ。
「徐々に力が増すのはいいがこの身の傷も癒えてしまうぞ！」
「もう十分です」
　わざわざ選別の炎を一発ずつ纏わせたのは最後の一手の布石。残る全ての炎をその身と剣槍へと宿し【概念兵装『不死鳥』】の全力を解放する。
「舞い貫きなさい」
　剣劇の刹那、ユイの手にする剣槍がシュラの身体を貫き燃え盛る炎で包み込んだ。

「まだ終わらん！」
「―――っ！？」
　もはや回復も追いつかないほどにダメージを受けたシュラが最後の悪あがきとばかりに手にもつ刀を振りあげユイを狙う。
「いい加減にしろ」
　しかしその刀は突如現れた薙刀によりはじき飛ばされる。
「死ねよ前座、越後の竜はテメェらの先だろう？　悪いが、テメェらに構ってる時間はねぇんだよ」
　武器を失ったシュラの身体に突き刺さるのは
　燃え盛る剣槍
　雷を纏いし薙刀
　蛇殺しの妖刀
　光り輝く光刃
　流星の剣
「ここ…までか……」


　数多の攻撃をその身刻み、最後はその身を剣山と化したシュラは塵となり骸の海へと還っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●狙う者と止める者

「確かに俺様一人なら完全に力不足だが…」
　フィッダ・ヨクセム（停スル夢・f18408）は己の力不足を実感している。故にここでとる行動は一つ。
「来い、バス」
　己の身の丈の倍ほどもあるバスを自称し、妖怪に昇華した喋る鬣犬を呼び出し騎乗する。しかしそれでもまだ足りないという自覚はある。しかしそれでいい。フィッダの為すべきことはまた別にある。自身の本体であるバス停の裏側に『回転動力炉』をつけ炎の魔術を全力で展開し打撃力もあげる。
　ここまでしても目の前のオブリビオンを倒し切る火力には届かない。だが届く者は他にいる。ならばフィッダの役目はその露払いをすることだろう。
　バスに跨りバス停を振りまわしフィッダはシュラの注目を集めていく。
「俺様ァここだぞォ！」
「……いい度胸だ」
　そこへ足元の泥濘を臆することなく進む一人のシュラが釣り出される。

「行くぞッ、ブラックバード…！」
　ミスト・ペルメオス（銀河渡りの黒い鳥・f05377）はそんなフィッダの後を追うように機械鎧『ブラックバード』をその身に纏いサイキック・フィールドとエネルギーバリアを惜しげなく展開し防御を固め、限界稼働状態へと移行する。そのままスラスターを全開で吹かし音速の壁を超えフィッダが喰いとめているシュラの元へと突貫する。そのままシュラの頭上で旋回し『ブラックバード』に搭載された武装を全て解放し全てがシュラへと撃ちこまれていく。空からの攻撃に晒されるシュラだがその手に持つ刀を振るい致命傷を避けそれ以外はその圧倒的な防御力と回復力で無効化していく。
「吻ッ！」
　地上スレスレの限界高度を飛ぶミストへと迫る凶刃。なんとか寸前で回避するミストだがこの限界挙動は鎧はともかく中のミストの肉体がもたない。
(早く決めてくださいよ……)

　2人の猟兵が足止めを続ける間、遠く離れた位置からその戦闘を見つめる者が2人。迷彩で隠れながら愛用のライフル『アサルトウェポン・カスタム《ThunderBolt》』を構え機を伺い続ける法月・志蓮（スナイプ・シューター・f02407）と大型レーザーボウガン『binary star』で狙いを定めるアスカ・ユークレース（電子の射手・f03928）。2人のスナイパーの目的は圧倒的火力でシュラを撃ち抜くこと。スナイパーの役割はその一瞬の隙を見逃さず撃ち抜くこと。

　その時はまだ来ない。

「破ァ！」
　そんな中シュラ渾身の突きがフィッダの腹部に突き刺さる。しかし血反吐を吐きながらもフィッダは刀ごとシュラの腕を放さない。
「突きだろうが関係ねェ！てめェを俺様に繋ぎ止めちまえばこッちのもんだ！」
　そんなフィッダの姿をバスが笑う。主の持っていたバス停を目印にその場に突き立てて。
「笑うなバカ、煩い。俺様の目的はバス停、…停留所たる、誰かの目印となること。一人を確実に倒せる高火力はだせなくても……強い奴はな、こういう隙を見逃さねェんだよ！」
　フィッダのその言葉の通りこの隙を見逃さないスナイパーが2人。
「lock on！ 逃がしませんよ？」
　『binary star』の先端から伸びるマーカーをシュラへと合わせるアスカ。
「虎の子の弾丸だ……食らっていけ」
　虎の子の弾丸である徹甲炸裂焼夷弾をライフルへと込める志蓮。

　2人のスナイパーの視線はシュラを捉え引き金は引かれる。

「フィッダさん！」
「すまねェ！」
　弾丸がシュラを捉える直前にミストがバス停ごとフィッダを回収する。それとすれ違いになるようにシュラへと迫る志蓮の【崩壊の一撃】による徹甲炸裂焼夷弾とアスカの【フレシェット・ノヴァ】のレーザー。刀をフィッダごと奪われたシュラにとれる防御の札はなく、為すすべなくその身に弾丸とレーザーを撃ちこまれる。

　着弾したその2発は周囲の地形ごと1人のシュラを問答無用で塵へと還した。

「任務完了だ」
「更地にするのって……楽しいですね……！」
　アスカの物騒な発言はさておき猟兵たちは目的を達成した。



　こうして猟兵たちの活躍により軍神への道は切り開かれた。残すは軍神・上杉謙信のみ。関ヶ原の決戦は佳境を迎える。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月12日