エンパイアウォー⑯~百渦繚乱
●風魔の首ひとつ
風魔忍法『隕石落とし』を見事封じられ、さて、かの百面鬼『風魔小太郎』はさぞかし悔しかろうと思いきや。
「――笑止よ」
どの貌も表情など浮かべぬ忍びは、強かに笑った。
「なれば、この魔境で止めてくれよう。無数の風魔小太郎――その武をもって」
彼が佇むは静かなる石室。
一見すると、いずこにも出口も無く――また、入口も無い。
厚い石壁の向こう、カラカラと何かが絶え間なく音を立てている。
「それ以前に、此処まで辿り着ける猟兵があるか、見物だな」
低い声音は自信の現れ。この屋敷もまた乱破の粋であるのだから。
●猟兵たちが征く道は
――ということで、百面鬼『風魔小太郎』に切り込めるようになった。
黒金・鈊(crepuscolo・f19001)はそう切り出し、猟兵たちを一瞥した。
「しかし一首魁。易々目通りできるほど、甘くは無い。奴と戦うには、まず忍者屋敷の攻略が必要だ」
かの風魔小太郎が待ち構えるは、屋敷のいずこかにある石室。
一見、何処にも出入り口の無い奇妙な石室だが、実は出入口はいくつもある――外観はごく普通の屋敷だが、耳を澄ませば、壁の向こう、柱の中から、からからと音が聞こえてくるはずだ。
そこを破壊すれば、待ち受けるのは鋭く尖る鉄の串。油が塗られており、つるりと滑るが、それをかいくぐって石室を目指さねばならぬ。
敷かし、それはただ回っているだけではない。石室の近辺に金属の鉄櫛が待ち構えており、鉄串と弾き合って、オルゴールのように音を立てている。
無策に飛び込めばそこで串刺し、或いは金属通しに挟まれ膾となる、という罠だ。
耳を澄ませ、不確かな足場を辿り、向かわねばならぬ。
「それを潜り抜けても、待ち構える風魔小太郎は強敵。先制を喰らうは避けられず、複数の手を用意しようが、相手も同じく畳み掛けてくる。充分に心得て仕掛けるんだな」
彼はそこまで説明すると、人の悪い笑みを浮かべた。
「死にそうになったら、すぐに戻してやるから心配するな――ただ、確り首をとってこい……本当に百あるか、数えてやれ」
黒塚婁
どうも、黒塚です。
目が痒いとき大変ですネ。
●プレイング受付期間
オープニング公開後、即時送っていただいて構いません。
【~8月8日8:30】までのプレイングを優先して描写予定です。
受付中は送っていただいても構いませんが、撃破に充分な数が揃っていた場合、返金させていただく可能性が高くなります。
また期間内に送っていただければ必ず採用するというものでもございません。
諸々ご了承の上、ご参加くだれば幸いです。
●忍者屋敷捕捉
OP説明の通り。
プレイングの三分の一程度は対応が必要です。
その上で突破の判定を行い、突破できても負傷している可能性があります。
また、技能の列挙では優位になりません。一点であっても、或いは具体的な技能を持たなくとも、使い方が大切です。
●戦闘ルール捕捉
百鬼面・風魔小太郎は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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それでは、皆様の活躍を楽しみにしております!
第1章 ボス戦
『百面鬼『風魔小太郎』』
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POW : 風魔忍法『風魔頭領面』
自身の【身に着けた『面』】を代償に、【召喚した風魔忍者の軍勢】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【忍者刀と手裏剣】で戦う。
SPD : 風魔忍法『六道阿修羅面』
自身の【髑髏の面の瞳】が輝く間、【六本の腕で繰り出す忍具や格闘】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 風魔忍法『死鬼封神面』
【歴代風魔小太郎たち】の霊を召喚する。これは【極めて優れた身体能力を持ち、手裏剣】や【鎖鎌】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
スティレット・クロワール
双代君(f19412)と
UDCを召喚して、耳を澄まして音を探る
この辺りが怪しいかな
蛇くんに壊してもらお
鉄の串に油か、燃やしたいけど駄目だよねぇ
蛇君を先行させて仕掛けの動きを観察
ぺたんしたら再召喚
足場を確認して冥府の衣で速度を上げ
加護は空に還し、蛇君と一緒に慎重に進もう
やぁ、忍君
本当に顔が百個あるか数えさせてくれる?
サーベルを使い近接で戦闘を
忍具は腕で受け、強化されても私も速さがある
腕の一本や二本…って思ったけど
今はもう、この手は、我が剣を取る為にある
容易くあげる物でもない
その手で私に触るな、忍びが
格闘にはサーベルで手首を狙い、蹴りで距離をとる
首を貰おうか
じゃ。双代君のおにーさんを召喚、だね?
双代・雅一
スティレット(f19491)が敵と遭遇、交戦開始した頃を見計らって、彼の側に転移。
吹雪の発生と俺の出現は同時。それまで居なかった存在にどう先制出来るもんか。
仮に出現を見越した攻撃が放たれていたとしても、槍を構え振りかざし薙ぎ払い牽制しつつ現れる。
司祭殿が布石となってくれたお陰でさほど消耗も無くこいつとやり合える。
あなたの労に報いる戦いをしてご覧に入れようか。
氷属性纏った槍で吶喊。
肘関節を狙い腕を壊し手数減らすの狙いつつ、隙を見て胴等のの傷口狙い貫く。敵の攻撃は恐れずに。
どんな人体構造してるのか、医者の端くれとしては非常に興味深いな。
さあ、手術(オペ)は終わらない。解剖(バラ)してやろうか。
●白が呼ぶ、青き吹雪
屋敷は人気が無く、深閑としていた。さもありなん、此処は猟兵たちを待ち構える門に過ぎぬ。
人の営みの無い、戦場への顎。
或いは試練。人を虚仮にするような、戦場に立つ資格があるか見極める篩い。
「この辺りが怪しいかな」
銀の髪を結い上げた男が場違いなほど泰然と、手袋に包まれた指を壁に這わせた。白い袖から腕を伝う白蛇が、壁を窺うように身体を伸ばす。
蛇は暫しうろうろと頭を巡らせると、何かを報せるように鎌首をもたげ振り返り、ちろりと舌を見せた。
「そっか。じゃあ蛇くん、よろしく」
スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)が気さくに命じれば、蛇は一瞬、機械めいた本質をさらけ出し、壁へと頭を打ち付けた。
UDCであらば、壁を破る程度、造作も無い。
それも破壊されることを前提とした仕掛けならば――。
カラカラと音を立てる機構がある。安易に飛び込めば、鉄串が待ち構える回転する罠だ。鼻を突く匂いは油のもの。火を掛ければよく燃えることだろう。
「鉄の串に油か、燃やしたいけど駄目だよねぇ」
暢気に放ってみたが、焼け死んでくれる相手ではあるまい。
気流から察するに、下へと降りねばならないようだ。
ここに飛び込むんだよねぇ、と誰にでも無くスティレットはひとりごちると、微笑を切り替える。
「誘うは深淵への儀式。冥府の棺に告げよ、凄惨にして蒼古なる青。ーーさぁ、我が声を聞く者」
謳い、纏うは冥府の衣――今は不要な加護を天へ還し、串の隙間に身を躍らせた。
――風魔小太郎は石室の中心で、腕組み、その時を待つように瞑想していた。
割れ目のひとつもない石室に、ひとつの闇色が浮かび上がったのは――彼の想定する時間の内か外か。
ふう、と。
「やれ、どんな無骨な武人が訪れるかと思いきや――」
忍びはやや拍子抜けした息を吐く。
そんな反応は露とも知らず、やれやれ服が疵だらけだ――わざとらしく肩を竦めた、白き司祭は、親しい友人に出会ったかのような言葉を投じた。
「やぁ、忍君。本当に顔が百個あるか数えさせてくれる?」
戯けたような声音とは裏腹に――スティレットの藍色の瞳は、冷え切っていた。
「ならば、己で確かめてみるがいい」
対する風魔の、揺るがぬこと。
髑髏面の紅眼を爛と輝かせ、一気に距離を詰めてきた。
――殺すと心を定めた忍者に、油断の二文字はない。波濤の連撃は、刃物に拳に、その大きさも速さもそれぞれ異なる。
「じゃ、遠慮無く。首を貰おうか」
飄飄と言い、――鎌がぶんと空を裂くをスティレットは美しきサーベルで合わせた。敷かし、次の瞬間、舞うような扇の一閃が、彼の構えを崩し、一際巨大な黒腕が腹を薙いだ。
思考が一瞬、白んだ。
吹き飛ばされたと認識した瞬間には、既に赤髪が視界に入っていた。本能的に腕が動いて、サーベルを前へと繰る。
踏み込みの無いそれは無軌道に空を貫いただけだが、相手の攻撃の呼吸を乱し、スティレットに立て直しの猶予を与えた。
身体を捻り、石造りの床を叩いて、衝撃波を操る冥界の護りを再び身に纏う――途端、彼自身も目にも止まらぬ速さで、風魔へと迫った。
ほう、と、髑髏面の忍びは笑った。
流れを読むように扇が水平に滑る。次いで二本の腕がサーベルの軌道を遮れば、スティレットが軽やかに左右に撫でた。更なる剣戟のために地を蹴ると、じくりと胸が痛んだ。折れてるねぇ、と呟くも、彼は止まらなかった。
面はもうすぐそこだ――風魔が首を差し出すように前のめりになる――銀の輝きが視界に入って、彼は左腕を掲げた。
忍刀が死角より振り下ろされた。灼熱が左肘から肩へ走る。白衣が朱で染まる。
(「腕の一本や二本……って思ったけど」)
その瞬間、痛みと異なる感情で、視界が赫と燃えた。
「今はもう、この手は、我が剣を取る為にある――容易くあげる物でもない」
不思議とすべての痛みが消えた。掴みかかる腕に、くるりと返したサーベルの鋭い一閃を喰らわせると、風魔の胴を強か蹴りつける。
「その手で私に触るな、忍びが」
冷ややかな声で言い放つと、サーベルが忍びの頸を掠めた。直接の斬撃よりも、その動作、剣閃によってもたらされた衝撃波が、風魔の赤い髪をぷつりと断った。
美しい刃を染めた朱は、幻ではあるまい――然れど。寿命を代償とする高速移動をもってしても、逃れられぬ鎌の横薙ぎに右腕から胸まで繋ぐ朱線を刻まれた。
間合いの外まで一気に出ながら、はは、ざーんねん、と彼の声音が元に戻る。
「じゃ。双代君のおにーさんを召喚、だね?」
不意に、極寒で荒ぶ、何もかもを凍らせる冷風が石室に広がる――目の前の男が直接、隠し球を放ったわけではない――直感的に理解しつつ、風魔は跳び退いた。されど、風魔の髑髏の面の瞳は再び輝き、六の腕は虚空に向かって振り下ろされた。
「それまで居なかった存在にどう先制出来るもんか……なるほど、嫌な未来でも見えたか?」
双代・雅一(氷鏡・f19412)が振り翳した槍が、鎌の刃と当たって火花を放つ。
澄んだ青い瞳は冷静に状況を探り出す――後何歩下がれるか、頬を撫でる青髪が揺れて、足は踊るように石畳を叩く。
「司祭殿が布石となってくれたお陰でさほど消耗も無くこいつとやり合える」
絶対零度の吹雪と共に現れた彼も、風魔に対し、ある程度の予見を持って応じた。罠の突破による体力の消耗、及び負傷を無とした彼は、ほぼ万全。
身体を一気に持って行かれそうな膂力に怯みながらも、何とか槍を大きく振り薙いで躱すと、低く構える。
「じゃ、後は任せるね」
その背で、何とか踏みとどまっていたスティレットが美しく笑う。
横目でちらりと一瞥した雅一は口の端を僅かに持ち上げ、
「――あなたの労に報いる戦いをしてご覧に入れようか」
左手を軸にぐるりと回した槍で、忍刀を捌いて、前へと跳ぶ。
弾き、縦へと鮮やかに返すと振り上げながら懐へ、雅一は肩のひとつを定めて、槍を繰った。
裂帛の一声と共に、彼は鋭く踏み込んだ。深く貫くべく放たれた突打が避けがたい身体の中央へと伸びる。
「――甘い」
さりとて、風魔の首魁は早かった。
点を突く穂先を軽く跳ね上げると、柄を辿るように踏み込んで、徒手の拳で強か殴り飛ばす。
風圧が弾けるような音が耳で弾ける。眩暈と、瞬時に血圧が変化したことで視界が明滅した。
――ああ、裡から破壊されたか。
悟りながら、雅一は踏みとどまる。そして身体が動く限り、前に進むことを止めなかった。
大仰に鋒を動かし相手の攻撃を誘導すると、身を翻して相手の腕を蹴りつけ、空へと逃れる。
奇妙なことに、雅一が槍を振るう度、彼の疵が増えていく。白衣は斬撃で赤く染まり、力任せに掴まれた腕はみしりと悲鳴をあげた。
まさしく嵐の中へと槍を投じるような戦い。触れる毎に、削られてゆく。ひとつを受け止めたところで残る五つがばらばらと動くのだ、苦笑を持って応じるより他にあるまい。
「どんな人体構造してるのか、医者の端くれとしては非常に興味深いな」
それでも――徐々にその動きを見極められるようになってきた。身体の傾いた角度から次の攻撃を計算し、合わせて貫くのだ。
石突きで刀を弾くと、全身の遠心力を載せて、彼は薙いだ。
風魔の派手な着物に氷の槍が一筋の疵を残す。
「さあ、手術(オペ)は終わらない。解剖(バラ)してやろうか」
とはいえ、これ以上は厳しいか。刀を合わせた時の衝撃で、骨の芯まで苦痛が響く。
俯瞰的に戦場と負傷状態を見極め、冷静な自分が囁いた。恐らく、弟ならとっとと逃げ出しているだろう。
それでも微笑みを湛え、舞踏は続く。彼が動けなくなるまで――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レイッツァ・ウルヒリン
花世(f11024)さんと一緒
絡繰り屋敷とは中々面白そうじゃない。攻略し甲斐があるよ
まずは手近なところから調べてみようか
畳の下、箪笥や掛け軸の裏、押入れの奥…意外と厨や厠なんかにも隠し通路は眠っていたりして
花世さんと手分けして、色んなところを探そう!
無事当たりルートを引けたら手早く進むね。こういう時の為に滑らない靴履いてきたんだよ、ガンガン行こう
さて、敵は絶対先制という事で、攻撃は僕の分まで花世さんに受け持って貰おう
こっちが後手に回る利点もある…それは攻撃後の隙を叩けるってこと!
一人だと難しいけど、今は花世さんと一緒だからね、強気に攻めるよ/ありったけの力を込めて衝撃波を放つ!
アドリブ歓迎
境・花世
レイッツァ(f07505)と
あは、その意気や良しだ
罠の中でも常と同じにかろやかに笑って
壁や床、天井の色や模様の違いを“視”てみよう
違和を感じる場所は互いに声掛け、
ジャンプで飛び越えるか迂回路を探し
首魁に辿り着けたなら真っ直ぐ相対
お望みの猟兵がここにいるよと挑発しよう
振り下ろされる刃には早業で花鋏掲げてカウンター
わたしにはこの身を投げ出す戦い方しかできないんだ
傷付いても痛くても構わない、だからこそ、
――その攻撃、受け止めてみせる!
その瞬間、刹那に生まれる隙は
きみへ繋ぐ絶好の好機
レイッツァの攻撃に敵が怯んだなら、
もう片手で銃を取り出し敵の眼を狙い撃ち連射
息もつかせずふたりで攻撃を畳み掛ける
●紫影と華
「絡繰り屋敷とは中々面白そうじゃない。攻略し甲斐があるよ」
水墨画の描かれた掛け軸をひっくり返して、床の間を探るレイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・f07505)が嬉々とした声をあげる。
黒衣を翻せば、赤紫の長い髪もあわせて踊る。怪しいと目論んだところが空振りでも構わぬ様子で次へと瞳を輝かせるレイッツァに、
「あは、その意気や良しだ」
境・花世(*葬・f11024)は口元に指の背を当て、軽やかに笑った。
彼女はひとまず、彼の好奇心に付き合った。人気の無い屋敷を鮮やかな色彩もつ二人が駆けていく。
「ここなんてどうかな、花世さん」
「……うん。そうだね――やってみようか」
箪笥を、厠を、厨を、ひとしきり探索したレイッツァは厨の土壁に目を付ける。伺いを立てた花世は少し目を伏せ、そこを『視』て――肯く。
同意を得るなり、彼が思いっきり衝撃波を叩きつけると、壁はあっさりと崩れて、向こう側を見せた。躊躇いの無い行動に、またしても花世は微笑を浮かべる。
穿った穴に、くるりくるりと回転する殺意。暗闇にてらりと歪む色は油。陥れようとする悪意を隠さぬ罠を前に、屈託無くレイッツァが振り返る。
「こういう時の為に滑らない靴履いてきたんだよ、ガンガン行こう」
「ふふ、頼もしいね。でも気をつけて」
すっと白い指で先を示す。彼女が華やぐ視線を向けて『視』たところは、脆く加工された罠がある。
掛かれば奈落の底だよ――指摘する彼女の声も、仄かにかるい。そんなものに引っかかりはしないだろうという信頼と、自負か。
「大丈夫、ヘマはしないよ」
ふたりは戯れるような声を掛け合いながら、闇へと身を投じた。薄紅と赤紫の髪が暗闇に緩く軌跡を描き、下へ、下へ。
回転する串を足場を、レイッツァは軽々と渡っていく。花世が見つめ、違和感を覚えると声をかけ。ひどい場所をするすると移動していく様は、実に楽しげであった。
――石室を割る、新たな闇。
まるで玄室だね、花世は淡く囁いて、直に『そう』なるんだよ、とレイッツァが朗らかな表情で辛口に言う。
場は冷気で少し冷える。それが先の戦いの僅かな残滓。
彼方を向いている風魔小太郎へ向け、真っ直ぐに進み出ながら花世は告げた。
「お望みの猟兵がここにいるよ」
「ほう、新手――二人か」
振り返った多貌は定めるように二者を見つめると、結構結構と肩を振るわせると、腕の一つで自らの面に触れた。
「――風魔忍法『死鬼封神面』……!」
風魔が面より解き放ったは、彼とよく似た風貌の者達――歴代風魔小太郎は、それぞれ手裏剣や鎖鎌を手に扇状に広がって、距離を詰めてきた。
その速度たるや、呼吸のいとまも許さぬほど。
「花世さん……!」
レイッツァの言葉を背に残し、軽やかに彼女は前へと駆る。
鮮やかな花の香りを漂わせながら花世は花鋏を掲げて、風魔たちへ挑戦状を叩きつける。
「――その攻撃、受け止めてみせる!」
嘲笑うような呼気が空気を揺らした。
前進する花世を、手裏剣が襲う。回避はできぬ――両腕で頭部を、心臓を、庇うように身体を倒す。肩や脚に走る灼熱は、知らぬ振りをする。
孤を描いて、飛来する鎖鎌の刃は鋏で応じた。ひとつ、ふたつ、左右に翻せば金属が音を立てて、あらぬ方へと弾かれる。
レイッツァに向かう攻撃をも受け止めると決めた花世に、冷静にその軌道や数を確かめている余裕はない。
肌が感じる、或いは右目が教えてくれる予感に従って、刃を走らせるだけ。目まぐるしい刃の嵐の中に身を置いても、彼女は微笑んだ。
(「わたしにはこの身を投げ出す戦い方しかできないんだ」)
――傷付いても痛くても構わない。
回転して戻って来た鎖鎌の刃が肩を割ろうと、彼女は止まれない――止まらない。
焼けつくような痛みをただ堪え、目の前に立ち塞がる風魔小太郎どもを、踊るように蹴散らし、空間を作る。
彼女が躍動することで、赤い雫がきらきらと舞った。
「レイッツァ!」
彼女は強く、名を呼んだ。
たった刹那の、唯一にして――絶好の機会。
うん、答えた声音は明るく、力強かった。
「こっちが後手に回る利点もある……それは攻撃後の隙を叩けるってこと!」
彼が差し向けた両の掌から、凄まじい電流が迸り、後方に構えている風魔小太郎本体へと結ぶ。
よもや、他の風魔を排しきらずに己に攻撃が向かうとは、それも思わなかったのか。
咄嗟に構えるも、遅い。
「ありったけを叩きつけてあげるよ」
雷光に輝くレイッツァの紫眼は、強気で彩られていた。
石室を縦断する白雷に呑み込まれながら、風魔は吼えながら、刃を振るって跳躍した。
「仲間を囮にしたか――しかしッ!」
彼の放った電流は風魔の命を脅かすようなものではない。身体が痺れて自由が効かぬ程度――花世が片手で垂直に振ってきた鎌を花鋏で受け止めながら、半身を返した。
真っ直ぐに伸ばされた白い腕の先には、白き銃身。
「わすれたら、わすれても」
囁く唄は、末まで続かぬ。
――お前はお前でいられるのかな。
銃声は目の前で起こる喧噪に掻き消えたが、感情や記憶を蝕む銃弾は放たれた。
風魔はなすすべも無く、仮面のひとつ、眼窩を穿たれた。
その裡をどろりと溶かすような喪失を、それはどう受け止めたか。彼女には解らない。追撃に向かおうとレイッツァが力を重ねようとした瞬間、一体の風魔がそれを遮った。
扇型の包囲網を穿てば、決壊した防波堤の如く。
彼らの間を数多の風魔が入り乱れ、花世の視界から、レイッツァの姿を隠した。それでも、双方の息づかいが聞こえる限り、抗わねばならぬ。
――為すべきは、為した。
それでも――迫る刃を受け流しながら、ふたりは踊る。冷たい石室の中、刻限に至るまで。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
明日知・理
上等だ、やってやるさ
石室では先ず聞き耳で探る
音が聞こえたなら怪力なりでこじ開ける
金属の鉄串は、範囲攻撃も併せ一度UC『華仙』で斬り捨てようと試みる
弾かれたならば勇猛果敢に挑む
怪我をしても耐え
助力を必要とする者がいたなら手を差し出す
風魔小太郎と相見えたならば、最大限の礼儀をもって
いざ、尋常に
──勝負!
繰り出される先制攻撃には此方も刀で武器受けし受け流し、回避
『華仙』を己がUCとした身だ。速さで負けるわけにはいかない
又目立たない特性や暗殺技能で培った気配を殺す能力を最大限に用いて相手の隙を狙う
一瞬の隙を見逃す事なく反撃
更に捨て身の攻撃にてこの一太刀に全てを賭ける
──その首
頂戴する
_
アドリブ大歓迎
コノハ・ライゼ
また派手なお出迎えで
絡繰り解除は得意じゃないンだけどねぇ
壁壊し罠の隙間、串部分へ【彩雨】降らせ凍らせ
一時的に動きと脅威を止めてる間に素早くすり抜けよう
櫛は表面を平らに凍らせようか
駆動部が見えりゃ其処を狙っての『部位破壊』もイイね
通る隙間が狭けりゃそン時だけ銀毛の狐に化けて抜けよう
傷でも負っていたら初っ端からまともに攻撃喰らうのは避けたいトコ
鎖鎌なら軌道読み見切り避け、カウンターで鎖掴み引き倒してみようか
手裏剣はオーラ防御展開しつつ高速詠唱の彩雨で氷の盾作り弾くヨ
傷は激痛耐性で凌ぎ
本体をスナイパーで狙い針降らせたら2回攻撃で傷口狙い抉って生命力を頂こうか
ねぇその顔のひとつ位、喰わせて頂戴な
●水晶が降り、刃が走る
はてさて、小さな嘆息を零したのはコノハ・ライゼ(空々・f03130)であった。
壁に腕組みもたれ掛かり、薄氷の瞳は茫洋と虚空を眺めている――ようであり、その耳には絡繰りの音を捉えていた。この壁を打ち破れば、道は拓く。
「絡繰り解除は得意じゃないンだけどねぇ」
数多色彩を浮かべる紫雲の髪をひと掻き、拳を叩きつけるようにナイフを振るった。
金属の輝きを確認するや否や、彼は水晶の針を次々に撃ち込んだ。
七彩を宿す鮮やかな水晶の雨は金属の罠を次々と凍らせた。一時的であれ、凍って止まった仕掛けを、彼は軽やかに駆け抜けていく。そうしてしまえば、なんてことも無い、ただの足場だ。
しかし凍らせたことで弊害もある――コノハが通るには狭すぎる路だ。みっしりと針が飛び出した隙間は、彼の体躯では潜れぬ。
回転すれば動いて開くだろうが――彼は動じることもなく、ましてや氷を溶かそうとはしなかった。長躯の男は忽然と姿を消して、美しく輝く銀の毛並み、小柄な一匹の狐がするりと凍り付いた針の隙間を抜けていった。
誰も知らぬ、誰にも会わぬ旅路を、彼は飄飄と潜り抜けていく。
――その、壁の向こう側。
ひとりの青年が、一見何の変哲も無い壁を、強く睨めつけていた。
「上等だ、やってやるさ」
明日知・理(月影・f13813)が怪力に任せ、壁を破壊する。拳を振り下ろしたような姿勢から、瞬間、転じる抜刀の仕草。
――、とただ息の抜ける音がする。
素早く抜き払らわれた妖刀が暗所に煌めく。刹那に放たれた不可視の斬撃は金属をぐわんと揺らして、がらんどうの空間に大きな唸りを響かせた。
殷殷と甲高い音が鼓膜を苛む――。
先客が施した氷の欠片が、ぱらぱらと落ちてくる。目の前の仕掛けには深い疵が穿たれたが――機構の全てを破壊し尽くすことは叶わず、串の脅威は健在だった。それでも、いくつかへし折れ、幾分容易に渡れるようにはなったか。
無表情に近い貌で、そこへ視線を落とした理は、軽く飛び込んだ――今は己の技倆への反省は裡に秘め、為すべきことを為しにゆくべきだ。
元より疵を怖れぬ青年は、風を斬りながら、真っ直ぐに進む。鼻を突く臭いは饐えきっており、猟兵のものではないようだ。地が近づけば、串刺しになった骸が、白骨を晒していた。
こうはなるまい――思っていても、胸を過ぎる様々な思いを見透かすような冷たい風が一陣、頬を撫でていった。
三つ目の入口が解き放たれた――戦いの気配が色濃く残る石室で、既に姿を揃えた風魔たちの視線が新たなる参戦者へと注がれた。
「雁首揃えて――また派手なお出迎えで」
ゆらり、姿を現すなり陽炎のように、男は揺れた。口元には微笑。
コノハは室内に飛び込むなり、前へと駆った。
ほぼ同時、風魔小太郎たちが手裏剣を投射し、或いは鎖鎌を振り回しながら、向かってくる。速度はやはり、あちらが上だ。
両の手に美しき獰猛な刃を握り、彼は跳躍した。落ちた影を縫い止めるように手裏剣が刺さり、腕が作る軌道を追って、鎖鎌が走る。
鎖が織りなす狭い檻の中で、彼は笑みを深める。ひとつを敢えて掴みかかると、力任せに引く。ひとりの風魔が、釣られて前に出る。手裏剣の軌道がブレて、頬を掠めていく――浅い傷は、血を零さぬ程度。
彼が纏うオーラが、創ごと包んでいるということもある。だが次々に刃を浴びせながら、脅威的な身体能力で逃れゆく忍びどもを前に、彼は柳眉を顰めた。
「減らさないと、厄介だネ――煌めくアメを、ドウゾ」
柘榴の刀身を差し向ければ、彼を取り囲む二百を越える水晶の雨。きらりと輝く七色の針路はばらばらに、畳み掛ける手裏剣を弾きながら、石室を艶やかに濯いだ。
ほう、と。奥で泰然と構えていた風魔小太郎が、漸く忍刀を一閃して流れ弾を弾きつつ、コノハの立ち回りに感心した瞬間だ。
側面の戸が開かれて、理が飛び込んできた。
「いざ、尋常に──勝負!」
強者に最大限の礼儀を払い、妖刀を抜いて距離を詰める――ふ、と風が薙いだ。身体がふわりと浮きそうになるのを堪え、理が蹈鞴を踏んだ。何故かを確認するまでもない。
拳が、脇腹を捉えていた。攻撃を捌こうと剣を振るったが、凄まじい乱打の嵐すべてを避けることは叶わぬ。
そのひとつを喰らっただけで、この衝撃か――肺が萎縮し、呼吸が儘ならぬ。口の裡に血の味が広がる。
相手の速さは想像の上をいく。なにより戦闘の感覚そのものが、理に勝っている。
少なからず負傷し、体力を消耗しているにも関わらず、間合いも気運も、熟知した身体捌きをもって、雄々しく踏み込む青年を退けた。
だが、彼にも自負がある。粋を極めた一太刀。
(「――速さで負けるわけにはいかない」)
されど、根性だけで踏みとどまり、理は身体を反らしながら、六の腕の裡へ飛び込んだ。
「――、」
奥歯を噛みしめ、彼は刹那の斬撃を閃かせる。下から唸る刃が、風魔の屈強なる腕に食い込んだ。
呼吸が自由にならぬのが良かったか。踏み込んでから剣を閃かせるまで、驚く程、滑らかだった。
「おおォ!」
雄叫びが返る。殆ど反動といえよう、逆襲の雨が理を苛む――転がり出るように間合いを逃れ、跳び退く足を鎌が低く薙いで裂いた。
だが、苦痛の声を理はあげなかった。精悍な眼差しで相手をひたと睨めつけたまま、体勢を立て直すと、横へ跳んだ。
彼のいた位置より、水晶の針が水平に走った。
後ろを向いていても、風魔の面はそれを見つめ、六の腕のひとつが対処出来る。刀を握る腕が大振りに振り下ろされると、斬撃の風圧で水晶が砕けていく。
はたして、それは氷属性の針だ。粉々に砕けた氷の魔力が、それの剣と腕に霜で覆っていく。
「はっ、もしかして、と思ったけど――その目、やっぱり節穴じゃナイ?」
嘲る言葉は、コノハ。針で風魔達を縫い止め出し抜き、更なる攻撃を重ねた彼は風魔の背後で笑った。
「――む」
咄嗟に彼を退けようと振り下ろされた屈強な腕へ、ひとつの牙を突き立てる。
傷口を抉りながら、もうひとつ。噛み千切ってやろうと、腕を交差させ、両腕を一気に広げた。腕の一つが半ばで断たれ、吹き飛んだ。
ぐん、と目の前の風魔が身を翻した。畳まれた扇の親骨が、強かにコノハの頬を張った。
――にも関わらず、愉快そうに唇を歪めている彼に、風魔は何かを悟ったか。
振り返るまでも無く、ひとつの面が捉える視界――床に残る血の跡が、跳んでいた。
――足を負傷した理の、駆った跡は血が全て記録している。初めは線であったそれが、次第に小さな点となって消えている。
慌てて背後を確かめても、もう遅い。既に理は横に薙いだ鎌を躱して、柄にかける指の力を締め直す。
先の戦いで潰された右の瞳。その視界が有用であると、コノハが教えてくれた――相対しながら気配を断ちて、機を窺っていた理は、好機に、全てを賭した。
この一太刀――これこそが。
守りも何も投げ捨てた、渾身の剣戟は。
風魔が彼の姿を確かめた時、既に放たれていた。
「――その首、頂戴する」
面のひとつが、弾けて跳ぶ――血の代わりに、赤い髪がはらはらと舞う。黒い骸骨が床に落ちて、頸は赤黒い断面を覗かせた。
「貴様――!」
怒りにまかせ、忍びは正面から理へと掴みかかった。
全力で刀を振り下ろしていた彼は、なすすべも無く喉を掴まれた。
風魔にとっては、片手で縊るも容易な細い頸だ。だが、理は不敵な笑みを浮かべて、妖刀を一閃した。息が詰まって崩れ落ちても、その表情は変わらなかった。
ああ、またしても。その接近に気付きながら、対応を誤った。
面の一つは、ふらりと近づく、牙が見えていた。だが、振るうべき腕は、その男に断たれていたはずだ。
「ねぇその顔のひとつ位、喰わせて頂戴な」
疵だらけになろうとも貪欲に、腹を満たそうとする獣がひとり。逆の面を剥がして、たわやかに笑んだ。
成功
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吉城・道明
未熟なれど
微力なれど
国の一大事とあらば
■屋敷
耳澄ませ音の調子や変化確認
少しでも鉄密度低い所無いか探る
剣豪の力は玉鋼すらも一刀両断するもの
ならば
鉄は厄介・鋭利な部分断ち、潜り抜け易く出来ぬか試す
※併せてオーラ防御を急所と手足に集中
滑る・痛手受ける可能性軽減
※傷は、覚悟と激痛耐性で凌ぐ国も命も――譲りはせぬ
■先制
※継続
残像利用し敵影の中を縫う様に駆け、集中攻撃受けぬよう翻弄
また個々や全体の動作探り、見切りで深手だけは避ける
隙あらば早業で手元狙い武器落としを
■攻撃
上記流れから軍勢の隙や守り薄い所狙い突破試行
UCを鎧無視攻撃とし一息に頭領に届ける
一太刀だけでも構わぬ
せめて、僅かでも、誰かの助けとなれば
雅楽代・真珠
忍者屋敷、厄介だね
まずは『主命』
僕自身は移動速度が落ちるから如月の腕の中
感覚が鋭い如月と皐月に全て任せるよ
異音で無くとも手を当てれば微かな振動がして解るかもしれないね
罠が粉砕出来れば良し
出来なければ足場に気をつけ進もう
風魔に会えたら如月の腕から降りて浮かぶ
お前が風魔?
忍者は忍ぶものなのに
お前は忍べていないね
顔がとても目立つよ
歴代の小太郎たち
皐月が鋼糸で絡み取り動きを封じ
如月は飛び道具を撃ち落としたり
皐月が止められなかった小太郎から僕を庇う
隙あらば小太郎たちを倒すよ
顔を活かすという事を教えてあげる
『人魚の涙』
魅せてあげる
ひれ伏して感謝して
動きを止めている隙に僕の刃たちがお前の首を獲るだろう
●泳ぐびいどろの金魚、喰らいつく狼
黒髪が、白い目蓋の上に散る。集中を高めるように瞑目し、俯きがちに構えた剣豪がひとり、空虚と口をあけた闇の前に居る。
「未熟なれど、微力なれど――国の一大事とあらば」
心底寄りの意を言葉に載せ、吉城・道明(堅狼・f02883)の双眸がひらかれる。
鋭い光を宿した紫眼が、一点を捉える。無造作に踏み出した一歩と共に、すとんと重力に従って下降しつつ、彼は鯉口を切った。
不可避の串の先を、玉鋼が斜めに落として、道を作る。
全てが全て、斬れるわけではない――ただ一点、彼は致命となりそうな刃のみを潰しながら、降りていく。
同じ事を考えた者がいるのだろう、破壊された一部を見つめ、その鮮やかな断面に、集中を高める。彼が今こうして下を目指すのは、つまるところ、まだ風魔小太郎は永らえているということだ。
自分の未熟を自覚する彼にとって、それは何よりも――それ以上を考えぬように。深い藍色は、冷静に闇の底を見つめた。
――時をほぼ同じくして。
「忍者屋敷、厄介だね」
白い袖を引き寄せるように、雅楽代・真珠(水中花・f12752)は人形の腕の中にいた。
眉は顰めたものの、声音は儚くも愉しそうに響いた。
「――僕を失望させないでね」
ただひとつ命じれば、ふたつの従者は力を増す。真珠を抱く如月と、導くように先を征く皐月は、当然だが表情ひとつ変えず、くるくると少しずつ表情の違う串の間を抜けていく。
闇に咲いた牡丹、ゆらゆらと白い尾を靡かせ、真珠は珊瑚の瞳でその奇っ怪な旅路を優雅に眺める。
破壊出来るものならさせてみようと思っていたが――既に試せる限りは尽くしたようだ。
「ああ、切り拓いた人達がいるんだね――」
ついた傷痕を眺めて目を細め、彼はのんびりと言う。
信を置く人形たちに丁重に運ばれながら、真珠は最果てに辿り着く。櫛の刃に鮮血は殆ど無く、乾ききった汚れや亡骸だけが横たわる。それを人形は事も無くまたいで、闇の中を迷い無く駆け抜けた。
幾つもの余所の扉が開き、戦闘で歪んだ石室の戸から、光が零れてる。
皐月が戸を開けて、如月がするりと滑り込む。
石室の中は、血だらけだった。それは猟兵が流したものであり、風魔が流したものでもある。忍びは六の腕をもっているという話だが、ひとつは切断され、またいずれの腕も深手も負っている。
面は頸ごといくつか喪って、不格好だ。如月の腕から降りて、ふわりと空に浮かんだ真珠は、首を傾いで見せた。
「お前が風魔? 忍者は忍ぶものなのに、お前は忍べていないね。顔がとても目立つよ」
「――ふ、」
真珠の言葉に風魔小太郎は笑った。最早、自嘲を隠さぬ。
「既に死に体。だが、おめおめと飛び込んできた羽虫を二匹潰すに、問題はない」
二匹。
その言葉に真珠は軽く瞠目した。如月と皐月のことだろうか――否、この二体が人形であることなど、容易に見抜けるはずだ。
空気が、揺れた。
羽織をはためかせ、道明が跳び込んできた――風魔はひとつの面を外す。
「――風魔忍法『風魔頭領面』……!」
手にした面を自ら砕くと同時、忍者刀と手裏剣を手にした風魔忍者の軍勢が石室に現れる。
そして彼らを指揮するように前に立つ歴代の風魔小太郎は、残り二体となっていた。
忍者たちは道明に向かって雪崩れ込む。無数の手裏剣が、彼の行く手を遮ったが、彼はオーラで局所的に守りを堅め、割り込んだ。
間を縫って駆けながら、降りてくる忍者刀を弾く。鈍い音と手応えを置き去りに、彼は前へと駆る。忍び一体一体は、大した力量でも無い――だが個対軍勢。みるみる内に、道明の身体が朱に染まっていく。
片や、二体の風魔小太郎は鎖鎌を手に、真珠に襲い掛かろうとする。
その前に立ち塞がった皐月は――品良くスカートを摘み、無表情の儘、簡略なカーテシーを見せた。同時、その指先は空へと躍り、鋼糸が煌めく。
ぶん、と鎖鎌が唸った。振り子のように孤を描いた刃を、如月が素早く撃ち落とす。
皐月が鋼糸で搦め捕り、それらの動きを阻害することで、やや浅く飛んだ刃を弾いた如月は、風魔に向かって掴みかかった。
ただ――やはり、力には差があった。
瞬きの間に、鎖鎌は彼らの身体を割って、鋼糸は断たれていた。それでも人形は破壊されるに至らず、未だ果敢に忍びと斬り結んでいる。
攻撃自体は真珠までは届かなかったが、その白い髪をふわりと風圧が揺らしたことに、彼は僅かに目を細めた。
倒すことが不可能、とも思わぬが――犠牲も無い儘、長い時間対峙するのは厳しいだろう。
ねえ、真珠は彼方に構える風魔小太郎を呼んで、ひたと見つめた。
喧噪は彼の周りで起こり、彼自身には及ばないものだと信じてやまぬ、康寧そのものであった。
「顔を活かすという事を教えてあげる」
――恐らくその時、風魔は彼が何を言ったのか、理解出来なかったであろう。
色彩の幽かな存在が、衣を翻して、表情を消した。
「――魅せてあげる。ひれ伏して感謝して」
白皙の肌にひとすじ輪郭を確かめるように溢れた。輝く泪が顎を伝い、落ちる瞬間、宝石と変わる。
彼は泪を流しただけ。だというのに、そこから目を離せなくなる。つくりもののように美しい貌が悲しみに曇ることに、胸が痛む。
それは個の感情をねじ曲げるほどの魅力を放ち、捕らえる力。
ゆえに、その耳元に咆哮が迫ろうと――身じろぎ一つ、できないのだ。
立ち塞がる最後の一体を斬り伏せ、軍勢を切り抜けた男がひとり、刀を振り上げている。真っ赤に染まった肩、羽織も着物も無惨に刻まれても尚、道明の表情は精悍さを保ち、踏み込む足の力強さは変わらず。
追いかけてきた手裏剣が、その無防備な背を捕らえても、彼は足を止めなかった。
息が上がり、正確な姿勢を保てない。だが、最後の一太刀――この機を逃すわけにはゆかぬ。
「国も命も――譲りはせぬ」
片手で握った柄に、もう片手を添える。深く息を吐けば、脳裡は静謐に満たされて、苦痛も、熱も、引いていくように集中出来た。
一息に、風魔小太郎にぶつかるように駆って、太刀を振るう。最も正面の、太い首。
猟兵としての感覚が、此処が命の根であると報せ、彼は素直に従った。玉鋼の煌めきは作法を忘れたような大上段から、身を折る如く足下まで、斜めに走った。
それを、風魔は如何なる手段をもっても防禦することは叶わぬ――それは、未だ人魚の涙に捕らわれている。
朱線が爆ぜて、道明の上に降り注ぐ――それは、奴の髪だろう。
ずるりと、それの頸が線に沿って、ずれていく。離れることも出来ぬ儘、粗い息をつき、彼は淡淡と告げる。
「これは我が力に能わず。すべての猟兵が紡いだ、一太刀だ」
未熟さを自覚する道明だからこそ、そう告げた。
風魔が代々、その身を次への犠牲としてきたように――その視線に含まれる意志を読み、ふ、と忍びは笑いを零して動かなくなった。
忍軍も風魔も忽然と消え、戦いの残滓だけを残し。石室は静寂に包まれる。
やがて、この夢か現か解らぬ屋敷も消失するのだろう。
あぶくのように。真珠は傷付いた従者を招きながら、瞳を閉じた。
――斯くして、サムライエンパイアを縦断する戦場の一舞台は、猟兵の勝利で幕を下ろしたのであった。
成功
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