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エンパイアウォー④~惨劇の前触れ~

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●儀式
 呪詛のような声が響く。それは真実呪詛であったのかも知れない。
 人には理解できない言語で、恨みの籠もった声で。
 幼い竜が、鳴いていた。
 ――あるいは、泣いていた。
 聞き止めるものがいるはずなのに、何かが返されることはない。
 言葉も、視線も、意識も、その幼い龍へは、向けられない。
 ただ一つ、関心だけはあったかも知れない。しかしそれは竜そのものへではなく……。
「ギャゥッ」
 呪詛のような声が、止まる。
 どろりと溢れる血が、ぱたり、ぱたりと盃に注がれる。
 その鮮血色こそが、彼が、求めていたものだった。

●霊峰に至りて
 ケツァルコアトルの幼竜を助けてあげて欲しい。
 切り出しはそんな願い。けれどその願いには、別の目的も含まれていた。
「敵は魔軍将の一人である侵略渡来人『コルテス』、その配下。彼らは太陽神ケツァルコアトルの力を使って、富士山を噴火させようとしておりますの」
 富士山の周囲に広がる樹海に設けられた儀式場にて、配下のオブリビオンが『太陽神の儀式』なるものを行っているのだと、ソフィア・エーデルシュタイン(煌珠・f14358)は語る。
 その儀式の内容は血腥いものだ。儀式場にてケツァルコアトルの幼竜を殺し、その血を聖杯に注ぐ。たったそれだけの、単純で残酷な儀式。
「幼い命が無闇に失われるのは許されませんわ。それ以上に、その儀式が成されてしまえば、富士山の噴火によってかなりの地域が壊滅的な混乱状態となりますの」
 徳川幕府が総力を上げての行軍を進めている最中に、そのような大混乱が起きてしまえば、無論、軍の多数を割いてでも救援に向かわねばならない。
 敵対者の戦力を削ぎ、サムライエンパイアの人々にも打撃を与える、あまりに効果的な策と言えよう。
「人々を救うためにも、儀式の阻止は必須。阻止に至れば、幼い命も救われますわ」
 そのためにまず必要なのが、儀式場の特定。
 富士の樹海の何処で儀式が行われるかは、残念ながら不明なのだとソフィアは一度肩を落とし項垂れるが、すぐに顔を上げて「痕跡はあるはずですわ」と強く語る。
 敵は翼を持つ鴉天狗。戦闘に至ればその翼に翻弄されることもあるかも知れない。
 しかし富士の樹海は狭く、なおかつ暴れる幼竜を連れてとなれば、不用意に飛ぶことは避けるだろう。
 暴れた幼竜の爪などが木々に傷の一つでもつけているかも知れない。
 予知で見る限りは、殺すに至るまでに何らかの段取りを踏む必要があるようで、上手く手段を講じれば、儀式の最中の奇襲も可能と言える。
「曖昧な情報になってしまって申し訳ありません。ですが、皆様ならきっと、たどり着いてくださると信じておりますわ」
 どうか、武運を。祈るような声と共に、ソフィアは道を開いた。


里音
 可愛らしい竜を殺すなんてけしからんことですね。張り切って懲らしめてまいりましょう。

 捜索からのスタートし、発見後に戦闘となります。
 戦闘場所は儀式場。障害となるものはありません。どんなに順調に捜索が進んでも、樹海内での戦闘にはなりません。敵が到着した直後に追いつくぐらいです。
 儀式は殺して終わりの簡単な仕様ではないようなので、幼竜の無事を確保しつつ奇襲などを狙うタイミングもあるかもしれません。

 ※このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 皆様のプレイングお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『鴉天狗』

POW   :    錫杖術
単純で重い【錫杖】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    大風起こし
【団扇から大風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    天狗火
レベル×1個の【天狗火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は式神・白雪童子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナザール・ウフラムル
神様の子供に手を出そうもんなら、親の神様ブチギレは確定だもんなー。ケツァルコアトルは炎の神としての面もあるし、火の山「富士山」への悪影響は免れねえか。

普段森の中で見かけるようなものじゃないだろうし、【動物と話す】で森の動物たちに「見慣れないものが来なかったか」って聞いてみるか。見たやつがいたら道案内を頼もう。
儀式場近くに来たら、大気を圧縮して屈折率を変えて自分に【迷彩】を施す。ユーベルコードは不意打ちに使いたいな。隙を見て仔竜を掻っ攫うことができれば、後々戦いやすくなる。
相手の風は【属性攻撃】(風)で真空刃で切れ目を入れる。空気が動いて風が起こる以上、空気が無い真空なら風も起こらねえからな。


サンディ・ノックス
※アドリブ、連携歓迎

この世界を守る意欲は充分、でも単純に幼竜を殺すのが許せないんだ

・探索
移動の跡や羽根等の痕跡を虱潰しに探す
特に竜の抵抗の跡を探したい
見つけたらその子の必死さに考えが行きそうになるけど今はそれどころじゃないと気持ちを切り替える

・戦闘
竜の安全確保が最優先
避難させるようなUCを持つ同業者が居るなら竜のことは任せ、敵の気を引くため「見つけたよ、オブリビオン!」とか叫んで突撃
居なければ後述の戦闘を行いながら強引に救出し終わるまで抱いている

解放・星夜を俺に近寄らせないように展開、攻撃させ足止め
俺も黒剣で牽制
敵の攻撃は癖を見切って回避を試み、受けても耐える
俺の痛みで命が救えるなら安いものさ


フィリア・セイアッド
幼い仔の命を使って もっと多くの人を苦しめようだなんて…
そんなこと 絶対させない

どうかよりよい道を選べますように 小さく祈りを
飛行で空へ
高い位置から 音や竜の爪痕や血痕等の痕跡を探す
小鳥や小動物を見つければ動物会話で声をかけて
小さな竜を見なかった?
烏天狗が連れて行ってしまったの
早く見つけないと 何か知っていたら教えてちょうだい
わかったことは仲間に周知
そちらへ急行

【WIZ】
竜を発見したら 「やめなさい!」と声をかける
引きつけている間に 仲間が割って入れるよう
怖かったね もう大丈夫
春女神への賛歌で竜や仲間を回復
竜や後衛の盾をしながら 歌で鼓舞と支援
自分への攻撃はオーラ防御ではじく


月代・十六夜
【韋駄天足】の【ジャンプ】で木々を足場に跳躍を繰り返すことで高速移動。これで樹海の足場の悪さは問題ない。
一気に先導させてもらうぜ。

【視力】で森に残された痕跡を追って、ある程度まで近づけばそのまま【聞き耳】で仔竜の鳴き声とか錫杖の音も聞き取れるだろ。

光に気づいたであろう相手にけむり玉を投擲。
そのまま距離を保ったまま攻撃を相手の初動を【視力】で、風切り音を【聞き耳】で【見切っ】て【時間稼ぎ】だ。
おらおらどうした、ウインドゼファーに比べたら大したことねぇな!

因みに他にかまけるようなら【鍵のかかった箱チェック】で仔竜は奪わせてもらうぜ、油断大敵ってな。


依神・零奈
……土着神を征服するだけじゃ飽き足らず
霊峰たる富士の山でその仔を生贄に儀式とは
気に食わないね

ま、いいや、私の役目は現世の護り、ただそれだけ
幸い周囲は木々とその葉で埋め尽くされてるし
【情報収集】や【第六感】を駆使して周囲を調べるよ
踏み荒らされた葉や傷づいた樹木、鴉の羽……それらを重点的に
探して儀式場の位置を特定してみよう

鴉天狗を発見したら気づかれる前にUCを発動
宣誓布告を兼ねて舌禍で満ちた先制攻撃を仕掛けよう

「キミの運命は此処に確定した」
「其の羽は地に堕ち、縛られ、太陽に焼かれる」

舌禍で相手の阻害を兼ね病にも似た症状を引き起こし
無銘刀で攻撃をする
構えからの抜刀でまずは一撃で深い傷を与える事を狙う


冴島・類
※フェレスちゃん(f00338)と

力を貸す
そう言ってくれたこの子の刃
優しい心の芽
手を取れど、傷は負わせぬと

彼女の感覚を頼りつつ
自身も暗視と第六感を活用しながら
辿る途中、樹海にいる獣あれば
烏天狗と竜を見なかったか動物会話で問い、痕跡追い

儀式場につけば
忍び足でなるべく音を避け
フェレスちゃんとも
声ではなく視線や手の仕草で合わせ強襲
確保しに行く彼女と竜の子を守るため
烏の反撃を防ぎかばうよう割り入り
糸車で返し距離を取らせ

竜の子は…包んだまま保護

もう大丈夫だよ
怖かったろう

以降、瓜江を用いてのフェイントやかばい
二回攻撃の薙ぎ払いにて
前に立つ彼女を決して孤立させず
共に刃となれたら

生贄で産む災禍など
させて堪るか


キトリ・フローエ
森の獣達に何があったか聞ければいいけれど
こんな嫌な気配を感じたらきっと隠れてしまっているわよね
注意深く第六感を研ぎ澄まして、何か痕跡が探れないかしら
聞き耳を立てて、呪詛の声や幼竜達の声が届かないかしら
あたし達のことを呼んでほしいの、すぐにでも飛んでいくわ

儀式の場が見つけられたら、まずは幼竜達を助けに行くわ
可能ならフェアリーランドの中に匿いたいけれど
難しいなら儀式の場から少しでも離れた場所に

鴉天狗には、高速詠唱、全力の夢幻の花吹雪で視界を覆い
一緒の皆が戦いやすいよう、道を開くわ

目的なんてどうでもいい
ここに世界があるのなら、理不尽な終焉を迎えていいはずはない
だから、鴉天狗。あなたは止めるわ。全力で


フェレス・エルラーブンダ
るい(f13398)と

このおとこが、このおとこが住むせかいがなくなるのは
ただ、いやだとおもった
だから手を貸そう
そう、おもった

聞き耳と野生の感
自身の獣の嗅覚を駆使して捜索
子竜の爪が、牙が、天狗たちにつけているだろう傷の血のにおいを辿る
不自然に乱れた足跡は、折れた枝葉はないか
なるべく音を立てぬよう、息を、気配を殺し乍ら

儀式場に着いたら
るいと出るタイミングを合わせ奇襲救出を
ぼろ布を脱ぎ捨て天狗に斬りかかり怯ませよう
被っていた布で子竜を傷付かないよう包む
その後は前衛にて、互いの足りぬ所を補うように

共闘には慣れない
けれど、独りよがりにならないように
ちいさいのも、るいも、瓜江も
傷つけさせない
……ぜったい


草野・姫子
※アドリブ・連携歓迎
儀式もだいぶ阻止でき、神域もその場に敷いてきた
もう一息じゃ
次は、鴉天狗――山は彼らの住処にして聖地というに、何故じゃ

捜索
【産土の着物】に担当範囲の土地の気を反映し、重い物を引きずる等異常を感じ取り【草花の化身】で植物に真偽を問う

戦闘
今回は小竜の救出に注力する。私の怪我も許容じゃ
他の猟兵が戦闘に入った隙に【忍び足】で小竜に近づきUC【袖の中の大自然】で身柄を確保して【注連縄】を伸ばし離れたい
恐怖で拒まれれば【神の漬物】が一つ、桃の蜂蜜漬けと【礼儀作法】【祈り】でその心身を癒し、願おう

異国の神の子、どうか御身を私にお預けください
必ずや貴方の父母にお返ししますれば、しばしお隠れを




 深く、深く。木々の立ち並ぶ間を縫うように進みながら、猟兵達はあるはずの痕跡を、追っていた。
「――足跡」
 視線を落とした足元に見つけたそれを、フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)は屈み込んで確かめる。
 鴉天狗は一本下駄を履いていると聞いた。人のものとも獣のものとも違う、それでいながら整った形のそれは、間違いなく、探す敵のものだった。
 ただ、それがずっと続いているわけでもない。あちらも猟兵という存在に警戒ぐらいは抱いているのだろうと思案し、切り替え。フェレスは再びの捜索に戻る前に、ちらり、傍らで同じ痕跡を確かめるように見ていた冴島・類(公孫樹・f13398)を見やる。
 フェレスがこの仕事に赴いたのは、類に力を貸すために。
 とてもとても、単純なことだ。類が、類が住む世界が、なくなるのはいやだと思った。ただ、それだけ。
 そんな簡単な思いを、類はきっと、汲んでいる。汲んで、願い出された助力を快く受け入れて。
 それでいて、思うのだ。
 彼女に、傷は負わせぬと。
 同じように、フェレスが類や彼の持つからくり人形の瓜江を傷つけさせはしないと願っていることは……さて、当人同士のみが、預かり知ることである。
 思惑は、それぞれに。
(神様の子供に手を出そうもんなら、親の神様ブチギレは確定だもんなー)
 怖い怖い、とおどけるような調子を見せつつ、ナザール・ウフラムル(草原を渡る風・f20047)は贄として捧げられようとしているケツァルコアトルの幼子へと思いを過ぎらせる。
 幼き血すらも儀式に用いるだけの力を宿すというのなら、炎の神としての側面も持つこの竜の怒りを買うことは、火の山でもある富士山への影響は免れまい。
 精霊術士として力を行使するナザールだからこそ、その恐ろしさにはひやりと背筋の凍る思いが湧いたものであった。
「あ、待って、あなた、ねぇ!」
 と、ナザールの視界の端を、すぃ、と横切る小さな影。
 木陰に潜むようにして佇んでいたリスを見つけたキトリ・フローエ(星導・f02354)は、この物々しい空気に怯えているだろう小動物を刺激しないように気をつけながらも、リスへと声を掛ける。
 それを見て、動物と話す技能に長けたフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)も、他の者より高い位置で巡らせていた視線をそちらへ向け、キトリと共に近寄った。
「小さな竜を見なかった? 鴉天狗が連れて行ってしまったの」
 見かけたような、見かけていないような。リスから得られるのは、曖昧な返答。
(幼い仔の命を使って、もっと多くの人を苦しめようだなんて……そんなこと、絶対させない)
 早く、見つけてあげなければ。焦る気持ちはあるが、それが表に出ないように気をつけながら、フィリアはゆっくりと動物たちの言葉を促す。
「竜でなくても……見慣れないものが来なかったか」
「そう、そう、いつもは見ない生き物とか、声とか」
「他に知っていそうな仲間が居るなら、それでも構いませんよ」
 ナザールにキトリ、類も加わりそれぞれに問えば、リスは、変わったものならあちらの方に、と小さな手で同じ景色にしか見えない樹海の奥を指し示す。
 そちらでは、依神・零奈(忘れ去られた信仰・f16925)が草木に紛れるようにして足元に落ちていた羽を一枚、拾い上げているところだった。
「確かに、こちらを通っているようだね」
「うん、竜の子が抵抗したような痕跡もある」
 更に進んだ先の木肌を撫でて、かすかな引っかき傷に眉を寄せるのは、サンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)。
 小さな体で一生懸命抗う幼竜の姿を想像してしまうと、思考が暗く澱みそうになるけれど。
(今は、それどころじゃない――)
 頭を振って、気持ちを切り替えて。見つけた痕跡を辿りながら、確実に樹海を進んでいく。
 身に纏った着物と草花と通じ合う勲章を通し、草野・姫子(自然を愛するモノ~野槌~・f16541)はそこに動かず存在し続ける樹木や草花達の声を拾う。暴れる幼子を引きずるようにして進む異形の存在は、彼らが、しっかりと見ていた。
(鴉天狗……山は彼らの住処にして聖地というに、何故じゃ)
 それも、骸の海へ堕ちたせいだろうか。姫子が怪訝に眉を寄せた時、がさっ、と頭上で木の葉が揺れる音がした。それは、月代・十六夜(韋駄天足・f10620)のもの。
 ユーベルコード『韋駄天足』と跳躍行動により自らを発射することで、超速の移動を可能にした十六夜は、度々樹海の先へと進んでは、その道に痕跡が続くか否かを確かめていた。
「こっちは空振りだ。意外と用心深く進んでるんだろうな」
 ならば、と。猟兵達は新たに見つけた痕跡を、追う。


 指し示された道を、不規則に見つかる足跡を、落とされたものを、遺されたものを。見つけて、探して、選んで。
 絞られていく道を、猟兵達は急いだ。
「――! 声、聞こえるわ」
「真っ直ぐだ。その先が、開けてる」
 注意深く聞き耳を立てていたキトリの耳が、自分達のものとは違う、嘆くような、恨むような、重い声を聞き止めた。
 同時に、十六夜の促す声。聞いて、まっさきに駆け出したのは、フィリアだった。
「竜の子の安全を確保できる手段を持ってる人は?」
「無論、そのために私は来ている」
「うん、助かる」
 問に応じたのは、真っ直ぐな姫子の声。幼竜を保護する事が可能なユーベルコードの存在を確認して、サンディもまた駆ける。
 その背を見送り、類と共に奇襲のために少し迂回する位置へと向かったフェレスは、すん、と鼻を鳴らす。
(血の臭い……)
 獣の嗅覚が捉えたそれは、かすかなもの。幼竜が傷つけられたわけではなく、彼の抵抗の結果、鴉天狗に負わせた傷が、あるのだろう。
 幼竜がまだ無事であることを確信して、類と、瓜江と、共に幼竜も守ることを改めてフェレスは誓う。
 儀式場、真正面。
 他の猟兵達がそれぞれに襲撃のための備えを済ませていることを信じて、フィリアとサンディは、堂々と姿を晒した。
「やめなさい!」
「見つけたよ、オブリビオン!」
 声を張れば、錫杖を揺らし、小さな舌打ちと共に鴉天狗がその両翼を広げた。
「く……猟兵め……貴様らに邪魔はさせん!」
 足元でじたばたと暴れている幼竜の前に立つ姿は、まるで庇うようにも見えたけれど。
 鴉天狗がその幼い命に向けているのは道具としての期待のみだということを、良く、知っているから。
 囀る舌先に呪いの言霊を乗せて、零奈は囁きかける。
「キミの運命は此処に確定した」
 土着神を制服するだけでは飽き足らず、霊峰たる富士の山でその仔を贄に儀式を行うような輩。
 命じられていることだからと疑問を持たぬのか。あるいはその手段に賛同しているのか。
 どちらでも変わらない。どちらでも、気に食わない。
「其の羽は地に堕ち、縛られ、太陽に焼かれる」
 これは、宣戦布告だ。
 だけれど太陽の神たる竜の怒りを自ら買ったのは、彼らだろう。
 零奈の言霊が鴉天狗に及ぶと同時、広げられた両翼が朱色に染まる。
 飛び退ろうとも、自らの翼が炎を発している状態には変わらず、苦悶の声をあげ、自ら、その羽根を散らした。
 こちらを翻弄しうる機動力は削がれた。すらりと無銘刀へと手をのばす零奈の頭上、絡み合うような枝木の隙間から、何かが放られる。
 ぼふん、と音を立てて辺りに広がったのは、煙だった。
「おらおらどうした、ウインドゼファーに比べたら大したことねぇな!」
 翼がなければそれまでか、と煽るような声と共に十六夜が投げた煙玉が辺りに広がり、鴉天狗の視界を奪った。
 その瞬間を見計らい、姫子は幼竜の元へと駆けつけ、その身を抱きしめる。
 何が起こっているのか、幼い心には判別しきれていない幼竜は、突然触れてきた存在に思わずと言ったように抵抗をするが、その爪がかすめようが、憤るような声に咆えられようが、姫子は微笑み、穏やかな声で語りかける。
「異国の神の子、どうか御身を私にお預けください」
 ふわり、甘い香りが漂う。芳醇な桃と、蜂蜜の香りが、幼竜のささくれだった心を甘く癒やしていく。
 桃の蜂蜜漬けを、備えるように差し出し、柔らかな笑みはそのままに、瞳には真摯を訴えて、姫子はそっと着物の袖を広げた。
「必ずや貴方の父母にお返ししますれば、しばしお隠れを」
 彼女の着物の袖に施された蔓草の刺繍は、こことは別の空間へと誘う道しるべ。
 幼竜の眼差しから怯えや恨みが消えるのを見届けて、そっと、包み込むように抱きしめようと、して――。
「させん!」
 やり取りを、静観などしているわけがない。鴉天狗が錫杖を振るい、辺りの煙を払い除けながら姫子へと迫る。
 けれど、それをこそさせまいと、キトリは全力を込めて、その視界を眩ませる無数の花びらを放った。
「花よ、舞い踊れ!」
 力を注げば答えてくれる花の精と共に、守り、救うための一助を。
「――目的なんてどうでもいい」
 いま、目の前で幼い命が危機にさらされている。
 いま、目の前で共に戦う仲間が危害を加えられようとしている。
 いま、ここで仕留めねば、理不尽な終焉へと向かいかねない世界がある。
 ただそれを見逃せない。そんな終わりを迎えさせていいはずがない。
「だから、鴉天狗。あなたは止めるわ。全力で」
「小癪な真似を!」
 単なる目眩ましに如何ほどの力があろうかと吠える声に、十六夜は、短く笑う。
「その目眩ましに右往左往してるくせに」
「ぬかせ!」
 錫杖と対の手に、大きな団扇を握り、鴉天狗はその場の全てを蹴散らすような大風を巻き起こした。
 それは敵も味方も関係なく巻き込むものだけれど、配下はおらず、猟兵へと攻撃し、邪魔な目眩ましを散らし、元より殺す気でいた幼竜を血に染め上げられるもの。
 もっとも、幼竜は既に心を許した姫子の腕の中、一本の木の洞を出入り口とする大自然で身を清めているわけだけれど。
(各地での儀式の阻止も進んでいる。ここにも神域を敷ければ、霊峰の力となろう……)
 もう一息。幼竜へと慈しみを向けるようにそっと袖を撫でて、姫子は戦場から身を引くために用いた注連縄を握りしめた。
 彼女と入れ違うように、一陣の風が刃となって奔る。それはナザールが放つ真空の刃。
 如何な強大な風と言えど、そこに空気が存在しなければ、その流れである風も途絶えるだろう。己の力となる風の性質を知るゆえに突き得た穴。
 刃に切り裂かれるように一つ過った風の切れ目へと、二つの影が飛び出していく。
 守るべき竜の子はすでに仲間の腕の中。ならば身を包んでいたボロ布は、ただ置いていけばいい。
 ダガーを構えたフェレスの布が風に巻き上げられて行くと同時、空気抵抗の減った彼女は瞬間的に鴉天狗との距離を詰め、短い一閃をその身に刻んだ。
 身軽に駆けるフェレスと、飛び出す刹那に合わせた視線をちらと思い起こし、半歩だけ後ろへ下がった類は、敢えて大風の軌道に乗るように身を投げだした。
「廻り、お還り」
 カラカラ回る糸車が糸を紡ぐように、類が受けた『攻撃』は、糸繰りの瓜江へと流れ込み。
 そうして、吐き出される。
「フェレスちゃん」
 囁くような一声は、その場の大勢にとってはただの音でしか無いけれど。
 前へは出過ぎない。孤立はさせない。類が自分で決めたフェレスとのやくそくごとを言葉なく伝える。
 吐き出された風の衝撃で身を傾げた鴉天狗へ、フェレスは追い打ちをかけるように刃を振るう。
 共闘というものには、まだ慣れないけれど、深追いは避け、類と瓜江を護れる位置をと意識することで、独りよがりに特攻することはなくいられた。
「傷つけさせない。……ぜったい」
 口元だけでの呟きは、もう随分と弱まった風に吹かれて掻き消える。
 詰められた距離を開けようと、下駄の歯を鳴らして飛び退った鴉天狗は、不意に、歌を聞き止めた。
「降りしきれ春の陽射しよ 清らに咲ける花のため なお踏み耐える根のために」
 高らかに歌い上げるフィリアの声は、戦場に立つ猟兵達を癒やすための歌声。
 どうかより良い未来を選べますように。祈りを込めた歌は、無闇に傷つけられようとした幼竜へも届くようにと願い、紡がれる。
 決して奪わせはしないという意思を込めて、姫子を庇う位置へとふわり羽を広げて飛び、歌い上げるフィリアの姿に、鴉天狗は短く舌を打った。
 しゃん、と柄を強く地面を打ち付けるようにして錫杖を鳴らせば、禍々しさを帯びた幾つもの炎が周囲に浮かぶ。
 それぞれが独立した動きをする炎は、近くの者から遠くの者まで、狙いすますように追い立てていく。
 ――鴉天狗の視界に入るもののみ、だけれど。
「風が駄目なら炎でってことっすか?」
 自身に施した迷彩により身を隠していたナザールは、交戦中の隙をついて素早く駆けつけ、風を纏った手刀を背後から食らわせる。
 ――北風は刻むもの。この身を刃と成す。
 四肢に風を帯びたナザールの動きは身軽で、咄嗟に炎を差し向ける頃には、その場からひょいと飛び退っていた。
「おのれ……ッ」
「ねぇ、きみには――」
 この子達、どう見える?
 わら、わら、わらと。足元に小さな生き物が群れる。
 炎を当てずとも、足蹴にすれば一撃で葬りされるような小さくて脆い人形のようなそれ。
 だけれど、踏み込んで本体であるサンディへと攻撃を入れるには、小さな手足に魔力を帯びた戦闘隊の群れは、邪魔なものだった。
 小癪な、と唸ったのは何度目だろう。聞き流し、サンディは小さな水晶の戦士達の助力を得ながら黒剣を振るう。
 放たれる炎や錫杖の先端が時折身体を掠めても、その程度の痛みや衝撃で、怯むはずもなかった。
「俺の痛みで命が救えるなら安いものさ」
 一歩深く間合いに入り込んで、サンディは抉り取るように大きく鴉天狗の身を薙ぐ。
 顧みなければ、容易いのだ。踏み込むことなんて。


 攻撃は随分と与えられた。もう一息、だろう。
 儀式場だった場所はその名残が伺えないほどにめちゃめちゃだし、再び同じ目論見を企てようとも、上手く事が運ぶようにはなるまい。
(生贄で産む災禍など、させて堪るか――)
 糸を繰り、敵を薙ぐ類へ、フェレスが「るい」と短く声を掛ける。
 先程の類と同じように、その声に込められた慮る感情はするりと類へ伝わって。彼はただ頷いて、前へと出掛けた己の足を律した。
 幾度も吹き荒れた無限の花吹雪が、ざぁと音を立てて戦場を包む。
 全力を込め続けたキトリの息は上がっていたが、杖を振りかざす手に込められた力は、微塵も衰えないまま。
 深く切り込み、その感覚を未だ、慣れないと感じながらも、零奈は再び刀を構えて――。
「……あぁ、もう、いいのか」
 真っ直ぐに、胴を貫いた黒き剣が引き抜かれれば、鴉天狗はずるりとその場に崩れ落ちた。
 確かな討伐を確かめるだけの間を置いて、肩の力を、抜いて。サンディは水晶で出来た戦闘隊達を還すと、案じるように幼竜を保護した姫子を振り返る。
「無事に退治たようじゃの」
 袖の中の大自然からひょこりと飛び出した幼竜は、きょろきょろと周囲を見渡す。
「もう、怖いものはいないわ」
 そう言って、フィリアが微笑みかければ、ずっと聞いていたのと同じ心地よい歌声を紡いでいたその声に惹かれるようにぴょこぴょこと擦り寄り、それから、くるり、つぶらな瞳で見渡した。
「頑張ったな」
「無事で何より」
 十六夜やナザールがにかりと明るく笑いかけるのに応じるように、禍々しい雰囲気を帯びていた儀式場が柔らかな空気に包まれていく。
 優しい顔が幾つも見つめてくるのを、一つ一つ、見つめ返して。
「ギャゥ」
 屈託のない、嬉しそうな声をあげた。
 かくして、魔将軍が一人『侵略渡来人コルテス』の企てはまた一つ潰えたのであった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月08日


挿絵イラスト