エンパイアウォー④~プライドと力の天秤
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富士樹海某所。
薄暗く湿った雰囲気の中に、一際異彩を放つ一角がある。
金色の祭壇。彩るのは鮮血の赤。
サムライたちが刀を携え、竜の子を連れてくる。
「ほほ、儀式は順調といったところですね」
首魁らしき男は扇で口元を隠し、竜の子を見つめた。
きいきいと鳴くその姿は哀れっぽく、親に助けを求めているようにも見える。其の様を男――オブリビオンは冷たい目で見降ろして、一言だけ告げた。
「殺しなさい」
かくて、富士山は鳴動す。
今こそ生き返れ不死の山よ、炎と溶岩にまみれた産声を上げると良い。
「蘇ってみれば信長の配下というのは気に食わないが……まあ良い。今の麻呂には、その不満を上回る力がある……! 見ていなさい、猟兵ども……!」
●グリモアベースにて
「集まってくれてありがとう! エンパイアでの戦いは、今のところこっちが優勢でうまくいってるみたいだよ!」
メッティ・アンティカ(くろねこダンス・f09008)は集まってくれた猟兵にぺこりと脚立の上でお辞儀して、今回はね、とノートをめくった。
「今回は、富士山の噴火を阻止して欲しい。――すごい大変な事だよね? 大変な事だよね! 太陽神の力を使って、富士山を噴火させようとしてるやつがいるみたいなんだ!」
太陽神・ケツァルコアトル。そうメッティは言った。……エンパイアではそうでなくとも、異国の神であるはずだが……。
「敵のオブリビオンはこのケツァルコアトルの子を何処からか手に入れて、其の血を使って儀式をしようとしてるんだ。見た目は竜の子みたいな感じなんだけど……何も知らないのに儀式のために殺されちゃう。……ひどいよね、可哀想だよ……」
メッティの桃色をした瞳が伏せられて、うるり、と涙が溜まる。
強いグリモア猟兵は泣かないんだ。ぐしぐし、と腕で涙を拭って、メッティは続ける。
「場所は富士樹海……のどこかなんだけど、何処かまでは見えなかったんだ、ごめんね……! でも、祭壇は金色をしていたし、うまく探せばすぐに見つかると思うんだ。見付けたらすぐにケツァルコアトルの子を保護してあげてね!」
言って、メッティはグリモアを起動する。向こう側に移るのは、緑ばかりの樹海の様相。さて、君たちは無事に帰る事が出来るだろうか。
key
こんにちは、keyです。
今度は富士樹海での戦闘になります。
●目的
「竜の子を救出し、敵オブリビオンを倒せ」
●シナリオについて
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●エネミー
「今川・義元x1」
「護衛のサムライxいっぱい」
今回の敵はサムライを戦術的に配備して攻撃してきます。
最優先事項は竜の子救出ですが、その為には空路を行くなどのイレギュラーな手段が必要になるでしょう。
ただし、素直に空路を選んだところで通してくれる相手ではありません。
●立地
富士樹海のどこかに儀式祭壇が隠されています。
金色に輝いていますが何故か見つけにくく、見つけるには何らかの工夫が必要です。
発見に注力するか、撃破に注力するか、両方を取るか、スキルの使い方が重要になるでしょう。
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アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、健闘を祈ります。
第1章 ボス戦
『今川・義元』
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POW : 火燕弓
【飛行する弓ユニットから火矢】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 黄泉津返し
戦闘用の、自身と同じ強さの【屍人槍兵】と【屍人弓兵】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : 鬼神楽斬舞
【特殊な神楽舞】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【斬撃】で攻撃する。
イラスト:童夢
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「政木・朱鞠」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
草野・千秋
富士山の噴火だなんて関東全域大被害じゃないですか!
なんて事を企む敵なんだ……
熱さだったら僕らも負けてませんよ!?
竜の子さんだって必ず守る
人を守るのもヒーローと猟兵としての誓いと矜持だ
変身!断罪戦士ダムナーティオー推参!
UC発動で飛行能力を得る
これで少しでも僕も飛べるでしょうか?
戦闘は2回攻撃とスナイパーを主軸に戦う
武器改造による氷の属性攻撃も忘れずに
アサルトウエポンでよく狙って
着実にダメージを与えていく
敵体力が削れて弱ってきたら
接近戦に切り替えヒーローソードを振るい
怪力パンチをお見舞いする
敵からの攻撃は激痛耐性、盾受け、武器受けで耐え凌ぎ
仲間が攻撃されそうならかばう
なんのこれしきですよ
政木・朱鞠
WIZで行動
金色に輝いているってヒントだけじゃ決め手としては少し大雑把だね。
情報の空白を埋める一手として、樹海内の索敵と竜の子の現状の確認のために感覚共有した『忍法・繰り飯綱』を先行させるように放ち【追跡】や【情報収集】を駆使して祭壇の位置を探るよ。
戦闘
お痛をした咎の責任はキッチリと取って、骸の海から抜け出て成仏して貰うんだからね…お覚悟よろしくって?
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】でダメージを与えたいね。
もし、仕留めることが出来たら。
自慰行為かもしれないけど、今川公を含めて倒した武士に弔いの言葉を送らないとね…。
アドリブ連帯歓迎
「富士山の噴火だなんて……そんな事が起きたら関東全域が大きな被害を被ることになりますね」
「そうだね。竜の子のためにも、早く止めないと……」
草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)の不安げな呟きに、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)が頷く。手のひらを翳し、朱鞠はすでにユーベルコードの準備に入っているようだ。
「では、探索を宜しくお願いしますね」
「うん、任されたわ。お互い全力で、噛み合わせていきましょう」
「はい! ――変身!」
断罪戦士ダムナーティオー。其れは千秋のもう一つの名前。千秋の体表をナノマシンが覆っていき、富士山噴火を阻止するという強い意志を表すかのように鉄色に煌めく。
「急急如律令……我が魂魄の欠片よ」
朱鞠の詠唱に答え、小さな魂たちが目を覚ます。こぎつねこんこん、樹海を駆けて、主人と共にした瞳で祭壇を探し――血生臭い一角に目を付けた。
「草野さん、あったわ! 三匹向かわせるから追って! 私も後から追いつく!」
「はい! 行きます!」
千秋は三匹の狐を追い、空を駆ける。飛行と空気摩擦への対処に特化したナノマシンが、千秋にかりそめの翼を与える。
樹海の中、迷わずに分霊と戦士は駆けた。其の先に見つけた――
「金色の祭壇……!! 其処までだ!」
「む? 猟兵の邪魔が入ったか」
そこには判で押したような、死人色の肌をしたサムライに囲まれて――竜の子を掴もうと手を伸ばす義元がいた。
「全く、神聖なる儀式に無粋な。その様な鉄の衣を纏うなど……弓兵、構え!」
鉄の衣、と義元は言ったが、己は純和風で戦うとは言っていない。召喚した弓ユニットはサイバーじみていて、なんというか……
「言ってることと取り出すものが違うでしょう!」
「別に? 麻呂は鉄の衣など纏わぬし? 撃て!」
弓ユニットが火矢を放つ。千秋は其れを片手でいなしながら、愛銃「ordinis tabes」を取り出し、片手で狙いを定めて撃つ。
まるで曲芸のように空を旋回しながらの射撃は、しかし、うまくサムライの陰に隠れる義元には届かない。ち、と千秋が舌打ちをした、其処へ。
「草野さん!」
「政木さん! 義元はサムライの中心にいます!」
朱鞠だ。狐たちを追って駆けてきた彼女もまた、武器を構える。――拷問具「茨野鎖」。鎖のあちこちにスパイクが付いたような形状をした、禍々しい武器だ。
「おイタをした咎の責任はキッチリと取って、骸の海へ帰って貰うんだから。お覚悟よろしくって?」
まるで鞭をさばくように拷問具をしならせ、したたかにサムライを打ち据える朱鞠。屍人の腐った肉が裂け、生臭い血が飛び散る。広範囲を一直線に叩く攻撃に、サムライの陣形にわずかにひびが入った。
「女は囲みなさい」
義元の指示が飛ぶ。弓ユニットは千秋を打ち落とし、朱鞠へ牙を突き立てんと火矢を放つ。
「――っ! どきなさい!」
朱鞠が囲もうと動くサムライに鎖を叩きつける。其処に火矢が降り注ぎ、彼女のかんばせを紅く照らし……
「危ない!」
訪れない痛みに、つむっていた目を開ける朱鞠。其処には己を庇って空中で火矢を受ける千秋の姿。
「あ、あなた……! 大丈夫なの!?」
「なんのこれしきですよ。さあ、突っ切りましょう!」
武器を剣に持ち替えて、サムライを袈裟懸けに切りつける千秋。彼の背を守るように、囲い込もうとするサムライたちを打ち据える朱鞠。義元の姿は今は見えないが、この調子なら斃れたサムライの数の方が多くなるのは目に見えて明らかだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
白寂・魅蓮
相手が竜の子を使って噴火を起こしてきたらこっちの有利もひっくりかえってしまいそうだね…。
敵は最小限に片付けつつ、発見と救出に注力していこう。
敵の護衛は沢山、そして場所は緑ばかり…地上で探すのは難しそうだ
【見切り】【ダンス】を駆使して、サムライ達の身体を乗り継いでいくように跳んで移動していこう
これで多少なり高い場所に移りつつ、上空から探せるはず
攻撃する敵には蹴りをお見舞いして、いざという時には【幽玄の舞「泡沫語リ」】を使おう
祭壇は金色に光る、といっていたね。
確か儀式に使われるのは太陽の神様の子供…太陽や光を使えば、何かわかるかも?
光を使って注視しながら探してみよう。
※アドリブ、他猟兵との絡み歓迎
マヤ・ウェストウッド
「面妖な。富士山と言やア、祀ってンのはコノハ……いやちょっと待て、このニオイは」
・[野生の勘]を頼りに血や呪物のニオイをかぎとろうとする。
・何も儀式には竜の血肉だけではなく、お香や劇薬等の呪物も使うであろうから獣人特有の嗅覚でそれらを探知しようとする。草木の生い茂る空間においてそれらの臭いは異質と感じ取れよう
・接敵後は護衛のサムライを優先して範囲攻撃を仕掛ける。今川氏への攻撃の橋頭堡を造る所存
・捕えられた幼竜には[動物と話す]技能で助けに来た旨を伝え、[かばい]ながら避難を誘導する。尻で木々を薙ぎ倒しつつ活路を拓く
「アサマしきかな、今川軍。アンタらが拝むべきは、アタシの尻だろうが!」
「竜の子で噴火を……か。こっちの有利があっという間にひっくり返りそうな策だね」
「面妖な。富士山が祀ってるのは、確かァ……って、待て。嫌な臭いがすんな」
白寂・魅蓮(黒銀の華・f00605)を手で制したマヤ・ウェストウッド(犬耳のマヤ・f03710)は、地面に鼻を近づけ、立ち上がり上を向いて、すん、と鼻を鳴らす。
「血の匂いがする」
「血……?」
「腐った血の匂いだから、竜の子とやらではないと思うがね」
「いや、でも急ごう。戦闘が始まっているとしたら、相手が儀式を強行する可能性もある。確か祭壇は金色に光る、とか……ちょっと肩を借りても?」
「ああ、どうぞ。走りながらでいいなら!」
臭いの元へ駆け出すマヤ。其の肩を、とん、と軽く叩くようにして飛んだのは魅蓮。日の光が強い上からなら、何か見えるものもあるかもしれないと。
「――光を反射してる個所がある。2時の方角だ。あれかな」
「近かったらビンゴだ! 臭いも強くなってる!」
「全く、無粋も無粋……」
義元は扇をきつく握り締め、増えた猟兵に唇を噛んでいた。儀式を強行してしまえば良い。それは判っている。だが、このような無様な姿で儀式を成すなどプライドが許さない。儀式は勝利を礎に行われなければならない。例えそれが、主君の望みに反するとあっても。
「これより踊りまするは――」
魅蓮が謳い、黒い花弁の渦を展開する。蓮の花弁は宙を舞い飛び、護衛のサムライ達を次々と切り裂いていく。
「大丈夫か!? もう大丈夫だ、今助けるからな!」
「キューッ! キューッ!」
義元の傍にいるサムライが掴んでいる竜の子に、マヤが呼び掛ける。動物との疎通を可能とする彼女の言葉は、竜の子に伝わったようだ。此処にいる、と竜の子がにわかに鳴く。
そして、マヤが高く飛んだ。
「どっこい…………しょッッッ!!!」
バキッ! メキメキ、バリッ!!
樹海の木々がへし折られ、サムライ達に向かって倒れ込む。マヤの“超獣技法・急尻下爆撃”にあっては、この程度の木々などスティック菓子のようなものだ。
「わあ……すごい」
魅蓮は驚き半分、感嘆半分に声を漏らしながらも、花弁でサムライを薙ぎ倒す。其の鋭く美しい刃がついに義元に届くか、と思われたとき。
がりりりり、とまるで剣と剣が齧りつきあうような音が響いた。義元の剣神楽が花弁の群れを弾いたのだ。
「麻呂に舞いで勝負を挑むとは」
「おや。あなた、舞いも出来たんだね」
「ほほ、舞いと蹴鞠なら麻呂の得意分野。そして――」
ゆけい、弓兵!
義元が呼んだ弓ユニットが、魅蓮とマヤに降り注ぐ。魅蓮は花弁で防ぎ、マヤは火矢をあちこちに受けながら一直線に走った。狙うのは義元ではない。ルートを巧妙に変えながら――
「アサマしきかな、今川軍。アンタらが拝むべきは、」
アタシの尻だろうが!
二度、マヤの尻落としが唸る。すれ違いざまに生贄を掻っ攫いながら、周囲の地面を轟かし揺らし、サムライ達の体制を崩す。
「キュ、キュー!」
「よっし! 大丈夫みたいだな!」
手の中の生贄――竜の子に笑いかけながら、傷だらけでマヤは笑う。魅蓮に手を振って、奪還のサインを送る。あとは守り抜きながら、目の前の麻呂野郎をブッ倒すだけだ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヘンリエッタ・モリアーティ
【天秤崩壊】
私よりも偉そうなやつがいるのは気に入らないな
しかも竜をどうするだって?おい、うちの家紋だぞ
――気に食わん。灯理、頼んだよ
私は【いざや傅け我が命に】であぶり出しを行う
ああ、我が子らよ
「母(わたし)」の言うことは聞いておくれ?
溢れだしたような怪物どもは、有象無象を食い荒らす
樹海の端々まで染みわたる怪奇だ――叫び声の一つも上げさせるだろう
灯理が見つけたなら、行こうじゃないか
暴れるのは二人に任せるよ
私は護身用に二丁拳銃を一応は握るだけ
さあ、「モラン」
――人間が恐ろしくなっただろう哀れな仔竜には、竜同士が一番仲良くなれるだろ?
モランが連れてこれたら御の字だ
ぶち壊しだよ、ロイヤルかぶれめ
鎧坂・灯理
【天秤崩壊】
ああ、マダムがお怒りだ。
では仕方がない、恨みはないが滅ぼさねばな。
『玄武』よりカメラドローンを大量に放ち、空中から儀式場を探す。
文明的に機械には疎かろうよ。ステルスモードにしておけば気付かれまい。
金色の祭壇など目立って仕方ないだろう、上から見れば必ず見つかるはずだ。
映像は全て『麒麟』で管理。「視認」さえできればUCは発動出来る。
では、参りましょうかお二方。
二人を伴い、視認した儀式場へ「転移」する。
ではミスタ・鳴宮、よろしくどうぞ。
私は念動力で自分たちを守りつつ肉盾を退かして本体を晒す。
あとはミスタ・鳴宮が片付けてくれるだろう。
マダム、首尾は如何です?
鳴宮・匡
【天秤崩壊】
鎧坂/f14037、マダム/f07026、の二名と
あぶり出しと索敵は二人に任せ
こちらはいつでも動けるように備えておく
万が一、祭壇発見前に手下に絡まれたら
その排除は請け負おう
位置が割り出せたようなら転送とほぼ同時にこちらもUC起動
転送直後、敵の迎撃態勢が整う前に
首魁が狙えるなら脳天目掛けて一撃
無理なら手下どもを薙ぐように掃射かな
マダムの「怪物」で相手は浮足立っているだろうし
鎧坂の念動力で粗方道を開いて貰えるなら、あとはこっちの仕事だ
動きを見切って、確実に急所へダメージを重ねていく
尊い身の上だろうが
戦場においては、全てが平等だ
――そう、相手がなんであろうと
撃てば死ぬなら、変わりはしない
ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)は怒っていた。
まず、自分より偉そうなやつがいるのが気に食わない。尊い血だとか、公家だとか、そんなものは隣家の犬の餌よりどうでも良い。
そして、竜をどうこうする儀式も気に食わない。何故なら、ヘンリエッタ・モリアーティ――彼女の家の家紋は、竜を模したものだから。
「気に食わん。灯理、頼んだよ」
「あいさ、マダム。お怒りだねえ、これは仕方ない。恨みはないが滅ぼさないと」
鎧坂・灯理(不退転・f14037)は軽薄にそう言って、“玄武”からドローンを呼び出す。迷彩起動、ステルスモード。
「ではマダム、どうぞ」
仰々しく灯理が言う。マダム、と呼ばれた人格は――すら、と指揮棒のように人差し指を遊ばせる。
「行っておいで、我が子らよ。くれぐれも、母(わたし)の言う事は聞いておくれよ」
ぞろり。
ぺた。ずるり。ぐちゃ。
其れは産毛も総立つ光景。無数のUDCがヘンリエッタの影から這い出て、樹海を蹂躙する。進撃というよりは、最早侵略といっても過言でない其の光景。
いつ見ても恐ろしいねえ、と灯理は呟いて、微かに聞こえた悲鳴をドローン越しに検知する。
「10時の方向。割と近いな。お見事です、マダム。では参りましょうか――お二方」
「ああ。手下の動いている気配はないな。マダムの怪物と戦っているのか……」
近くの刺激にしか動けないノロマか。其れとも、主にただ従うだけのポンコツか。どれでも変わりはないな、と鳴宮・匡(凪の海・f01612)は呟く。どのようなノロマでもポンコツでも、撃って動かなくなれば其れでおしまい。ゲーム・エンド。
灯理の風精散歩(エスコート)で祭壇に降り立つ三人は、千々に乱れた陣形と、猟兵の一人が竜の子を携えて去っていく姿を見た。
「どうやら、家紋を汚される心配はなくなったようで」
「珍しいな。匡が冗談を言うのは」
「たまにはね、良いだろ」
言いながらも、彼は既にBHG-738C"Stranger"を構えている。銃というものはとても簡単にできている。構えて、狙って、トリガーを引く。これだけだ。ぱん、と乾いた音がして、銃弾がサムライの隙間を縫い――
「はずれー」
「これだけいれば仕方ないだろ」
義元の脳天を吹き飛ばすかと思われた其れは、咄嗟に庇いに入ったサムライの脳天を見事に吹き飛ばし、地に引き倒した。鳴宮選手、50点です。
ヘンリエッタも二丁の拳銃を手に持った。手に持ったが――撃とうとする様子は見受けられない。凪いだ湖面に似た瞳を己の影へ落とすと、ふと、呟いた。
「怒っているのね、モラン」
爪が。
「いいのよ、其の怒りのままに食い荒らしなさい」
牙が。まさに竜のような巨躯が。そしてぬるり蠢く尻尾が――其の姿を現した。名は“モラン”。不定形の怪物を意味する其の名を携え、這うように蠢きサムライを食らう怪物に、義元は其れでも恐れる様子はなかった。己も怪物だからなのか、別の理由があるのかは判らない。
「槍兵! 弓兵! あの怪物を縫い留めておしまいなさい!」
ぞろり、と現れたるは義元の私兵。屍人色の肌をした彼らは、既にマダムの怪物に食い荒らされているサムライ達よりは有能そうだった。
弓兵が弓を引き、鳴らすように撃つ。槍兵がサムライを食らう怪物に果敢に立ち向かい、其の槍を突き立てる。最も、有効かどうかは別にしての話だ。
ヘンリエッタ達に迫る弓。其れを弾いたのは――灯理だった。念動力を用いて、其の矢を払い、サムライ達をついでに払い、一筋の細い道を作る。
其れは人の通れない、細い細い道。通れるものがあるとすれば、
「そこだな」
銃弾くらいだろう。
匡の拳銃が嘶く。1、2、3と放たれた銃弾は細い細い、灯理が作り出した道を通り抜けて――義元の肩を撃ちぬいた。鳴宮選手、80点です。
「ぬうあっ!?」
「尊い身の上だろうが、戦場においては全てが平等だ。撃って当たれば死ぬ。当てれば生き残る、其れだけだろう」
「こ…の…平民あがりが私に傷を……!」
ふ、ふ、と、蝋燭の明かりを消すように屍人の弓兵槍兵が失せていく。あるいは怪物に見る影もなく弄ばれて。或いは念動力でひしゃげて。或いは銃弾を受けて。或いは――義元が傷を負った事によって。
「誰に傷をつけたのか、判らせてやろうでは、っ、お」
たん、たん、たん。
リズムよく放たれた銃弾が、義元の声を途切れさせる。お前と話す意味を見出せない。そう込められた銃弾は、容赦なく其の痩躯を貫いた。
撃たれてどう動くのか。反射でどちらへ傾くのか。其れすらも精密に予測された射撃によって、確実に急所を穿たれていく義元。
「あっけないもんだな。指揮官ってのはそういうもんか?」
「さてね。或いは、彼が私たちのやり方を予測できなかったのかも」
「ドローンにも全く気付けていなかったみたいですしねぇ」
「おの、おの、おのれ……また死ぬのか……? 信長如きに打ち取られ、ようやっとうつしよに返ってくれば、今度はこんな、」
「死ぬんだよ」
「そう、死ぬんだ」
銃弾が――
「全く関係のない、猟兵(おれたち)に殺されるんだ。別に恨んでも良いぜ」
義元の額をねじり、えぐり、潰れながらゆっくりと其の骨を叩き割り脳内に入り込んで――
「終わってみれば呆気ないものね。ねえ、モラン」
ヘンリエッタに喉の下をなでられて、黒い怪物は嬉しそうだ。“仲間”が無事だからというのもあるかもしれない。
「大した事なかったな。もっとやってくれるかと思ったが」
「竜の子を盾にされていたら判らなかったかもな」
三人は消えていく金色の祭壇を見上げる。もう義元は灰となって消え、何処にもその痕跡は残っていない。
プライドに傾けば奢る。
力に傾けば侮る。
決して傾いてはいけない天秤を、義元はいたずらに揺らしてしまった。猟兵は其の皿に飛び乗り、器用に伝いながら――かくして敵の首魁の首を引き裂いた、という訳だ。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月08日
宿敵
『今川・義元』
を撃破!
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