エンパイアウォー④~毒蜘蛛は霊峰で嗤う
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「集合お疲れ様。今回はサムライエンパイアでの作戦だよ」
グリモア猟兵の花凪・陽(春告け狐・f11916)は集まってきた猟兵達に一礼し、説明を始めていく。
「今回皆に向かってもらいたいのは霊峰富士山の麓、広がる樹海だね。そこでオブリビオンが『太陽神の儀式』をしようとしてるから止めてきて欲しいの」
儀式を目論んでいるのは魔軍将の一人『コルテス』だ。
どうやら彼の配下であるオブリビオンが樹海に儀式場を設置して、何か良からぬ事をしようとしているらしい。
それを阻止するのが今回の作戦となる。
「儀式が完遂してしまうと、富士山が噴火しちゃうんだ……。そうなってしまえば幕府は救助や支援のために軍を回さないといけなくなっちゃう。信長との決戦に必要な人手が足りなくなってしまうんだよ」
決戦の敗北も勿論、噴火による被害も考えたくない。
陽は顔をしかめながら話を続ける。
「儀式の内容自体も酷いんだ……。コルテスは太陽神ケツァルコアトルを隷属させていて……儀式にはその子供を生け贄に使うんだよ」
ケツァルコアトルの子供である子竜を殺し、その血を聖杯に注いで祈りを捧げれば儀式は完遂される。
ただでさえ恐ろしい儀式に無関係な神の子供まで利用されるのだ。決して気分のいいものではない。
「具体的にどうすればいいかも説明していくね。敵が潜んでいるのは樹海の中だから……私達もそれを利用しちゃえばいいんだよ」
猟兵達にして欲しい事はいくつかある。
まずは樹海の中に隠されている儀式場を探す事。敵の居所が分からなければ戦うことすら出来ないからだ。
そして敵を発見出来たなら、地形を利用すれば奇襲する事も可能だろう。
勿論そのまま戦いを挑んでもいい。最終的に敵を討伐出来れば問題はないのだ。
「敵の名前は『オモイデククリ』。攻撃によってこちらの記憶や感覚をぐちゃぐちゃにしてくるオブリビオンだよ。だから出来るだけ攻撃を食らわないで戦える方がいいかな……。もしくは攻撃を食らっても自分をしっかり保つように意識するのもいいかも」
敵は少女のような姿をした蜘蛛のオブリビオンだ。
嗜虐的な性格をしており、恐らく子竜の事もすぐには殺さない。
かといってゆっくり探索するのも得策ではないだろう。出来るだけ早く発見・討伐して欲しいと陽は付け加える。
「皆ならきっと大丈夫。富士山のまわりに住む人達も、ケツァルコアトルの子供も絶対に助けてあげて……!」
改めてお願いするね、と陽は再び頭を下げた。
ささかまかまだ
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
こんにちは、ささかまかまだです。
富士山の噴火を止めるべく頑張りましょう。
このシナリオでは「まず樹海を探索し、敵を探す」必要があります。
樹海の中をどのように探索するかをプレイングに書いておくといいでしょう。
敵を発見してからどうするかは皆さんに委ねられます。奇襲をするか、正面突破をするか、はたまた別の方法を取るかは皆さん次第です。
自由な発想で挑んでいただければと思います。
今回は戦争シナリオですので、青丸の数がオーバーキル気味になりそうな時等はプレイングを却下させていただく場合がございます。ご了承下さい。
また戦争の詳細ページ、マスターページ等も適宜確認していただければと思います。
それでは今回もよろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『オモイデククリ』
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POW : フイノアイジョー「抱きしめたげる☆」
【直前の記憶を失う呪いの糸】が命中した対象に対し、高威力高命中の【無数の穿脚で抱くような刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : カナシミムスビ「かーわいいー♪」
自身が【嗜虐心】を感じると、レベル×1体の【悲嘆の毒蜘蛛】が召喚される。悲嘆の毒蜘蛛は嗜虐心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : アマイキズグチ「もっと遊ぼ♡」
【穿脚による刺突で苦痛】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【歓喜の毒蜘蛛】から、高命中力の【苦痛を快感や安らぎに連結する毒糸】を飛ばす。
イラスト:朝日奈臣(あさひな おみ)
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「浅倉・恵介」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エルネスト・ポラリス
子供を殺すとは、また悪趣味な……ええ、止めねばなりませんね。
儀式場が作られているのなら、ある程度樹海を踏みならした跡があるのでは。
人狼としての嗅覚、つまり『野生の勘』を活かして、その痕跡を『追跡』しましょう。
子竜を見つけたなら、奇襲のチャンスを捨てることになっても、『ロープワーク』を用いた『救助活動』でこちら側に引き寄せたいですね。そうすれば、『かばい』ながら戦うのも楽になるかと。
相手の呪いの糸……まあ、『武器受け』で対応しますけど……あれ、なんで戦ってるんですっけ私。
いえ、どうでもいいことですね。
私はお兄ちゃんなのです。
何を忘れても、震える子供を見捨てる選択肢など、ありません!
アドリブ連携可
美国・翠華
【アドリブOK・痛めつけられるのも大丈夫】
「オ前ノ血デモ効果アルカモナ?」
…そんなコト関係ない。止めるよ…儀式を
樹海の中なら、木の上から忍び足で勧めそうね。
この辺の鳥や風でのゆらめきに見える程度には抑えられそう
敵に上手く近寄れたら
上から奇襲を仕掛ける。
暗殺のスキルを行使すれば多分可能なはず
敵がすぐにこちらを始末するような相手じゃないのは好都合…
必死で攻撃して…
痛めつけられたならユーベルコードで逆転して
敵を仕留める
これくらい…の痛みでなんとかなるわけない…
(嗜虐心を唆る雰囲気は出している)
花房・英
やる事がロクでもないな。……どうでもいいけど。仕事だから、阻止する。
『エレクトロレギオン』で樹海に機械兵器を放ち探索。マッピングしながら、範囲を狭めていく。
儀式場や敵を見つけ次第、個体を集合させ奇襲攻撃。先んじて敵に攻撃されても破壊音で位置把握できればいいかなと。
※見つけても、奇襲を狙う猟兵サンがいるなら攻撃せず待機。
機械兵器を囮にしつつ、Rosa multifloraで距離を取りながら攻撃。相手の攻撃を食らわないように。
自分一人じゃ厳しいと判断したら、全ての機械兵器を惜しみなくぶち込んで他の猟兵サンのサポートとその為の時間稼ぎに切り替える。
グラナト・ラガルティハ
戦のために火山を一つを噴火させるか…。
基本人間に自然現象に手は出せないがオブリオンには出来てしまうのだな。
…戦一つに火山の噴火はリスクが多すぎる。
勝つためなどと理由では到底ゆるせぬな。
【動物と話す・動物使い】で見つけた動物に不穏な気配のある場所に案内させる。怖いだろうが少々協力してほしい。下手をすれば住処自体がなくなる事態だからな。
敵発見次第【高速詠唱】でUC【業火の槍】発動【属性攻撃】炎で威力を上げを撃ち込む。
命中を確認しだい神銃に【属性攻撃】炎と【呪詛・呪殺弾】を乗せ攻撃
敵攻撃は【戦闘知識】で対応。
お前に抱きつかれる気にはならんな。
シノギ・リンダリンダリンダ
コルテスとかいう奴が気に食わないので邪魔してやります
侵略渡来人……侵略は我ら海賊団の専売特許ですよ?
こんな森の中に隠れているとは片腹痛い
【飽和埋葬】で死霊騎士を召喚し、森中に放ちましょう
人海戦術こそ至高
儀式場を発見しましたら、近くの猟兵がいましたらお付き合いいただきましょう
仲間がいてもいなくても、私がやる事は正面突破です
真ん前から堂々と行きます。他の方の奇襲の手助けにもなるでしょうし
敵には死霊騎士達でフェイントをしつつ拳で殴ります
騎士達が傷口をえぐり、恐怖を与えながら私は堂々と殴ります
攻撃を食らっても、私にはジョリー・ロジャーがあります
自分は海賊である。それさえ忘れなければ、私は私です
レナータ・バルダーヌ
見通しが利くかわかりませんけど、炎の翼で飛行して空から探してみましょう。
もし他の方より先に見つけたら、炎を明滅させて合図します。
いずれにしても降下のタイミングを計るため、戦闘には後続参加になるでしょうから、援護に回って【念動力】で敵の動きを妨害します。
敵の攻撃はサイキック【オーラで防御】しますけど、呪いの類までは防げません。
ですが、一瞬意識や記憶が飛ぶ状況は割と経験します。
直前何をしていたか忘れたら、いつもの状況……今回も“復讐”の最中だと思い違うかもしれません。
「約束どおり最後までお付き合いいただきますよ」
脚が刺さっていれば掴んで、念動力で動きを封じ、【ブレイズフレイム】で敵を燃やします。
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猟兵達は富士の樹海へ辿り着くと、各々が得意とする方法で儀式場を探し始める。
「子供を殺すとは、また悪趣味な……」
ええ、止めねばなりませんね。そう決意しながら樹海を進むのはエルネスト・ポラリス(赤く錆びつく月の下・f00066)。
彼は自分自身の人狼としての嗅覚、つまり野生の勘を活かして探索を始めている。
儀式場という人工物を作っている以上は樹海を踏みならしたりしているはず。
エルネストはその痕跡を見逃さず、確実に樹海の奥へと追跡を進めていた。
「オ前ノ血デモ効果アルカモナ?」
「……そんなコト関係ない。止めるよ……儀式を」
自身と融合したUDCと会話をしつつ進んでいるのは美国・翠華(生かされる屍・f15133)。
彼女は地上ではなく生い茂る樹木の上を進んでいる。慎重に進めば不審な物音は発生しない。風や鳥も多く動いているのが幸いだ。
今はそれよりもUDCの反応の方が不安である。
戦うためとはいえ、またしても痛めつけられるのだろう。そんな予感が頭を過る。
一方でユーベルコードを用いて人手を増やす作戦に出る者もいた。
「やる事がロクでもないな。……どうでもいいけど」
どこか面倒くさそうに機械兵器達に指示を出しているのは花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)だ。
相手の目論見が何であれ、仕事だから、阻止する。UDC組織の一員としてはよくある事。
かといって英自身も手を休める事はない。樹海に行かせた機械兵器達からの報告をしっかり記録し、確実に敵の居所を探っていく。
「戦のために火山を一つを噴火させるか……」
戦一つに火山の噴火はリスクが多すぎる。勝つためなどと理由では到底許せぬな。
その決意と共に樹海に住む動物を引き連れて進むのはグラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)。
動物達もオブリビオンを恐れているが『下手をすれば住処自体がなくなる事態であり、怖いだろうが少々協力してほしい』という説得を受けて協力している。
彼らも既にオブリビオンの姿を見ているようで、道案内はバッチリだ。
「侵略渡来人……侵略は我ら海賊団の専売特許ですよ?」
コルテスとかいう奴が気に食わないので邪魔してやります。
そんな事を考えつつ現場に赴いたのはシノギ・リンダリンダリンダ(ロイヤルドレッドノート船長・f03214)。
こんな森の中に隠れているとは片腹痛い。リンダは呼び出した死霊騎士達に次々と指示を出し敵を追い込む。
人海戦術こそ至高。このような相手と戦う時こそ、侵略する側としての適切な戦い方を見せてやる時だ。
そして空からも猟兵の目は行き届いている。
「怪しい所……あちらでしょうか?」
レナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は炎の翼を広げて空を飛んでいた。
樹海は見通しが利きづらいが、それでもわざわざ儀式場を拵えるぐらいだ。何かしらの痕跡は見えるはず。
事実レナータの目はしっかりと怪しいものを捉えていた。それはそこそこの大きさを持つ祭壇。
ケツァルコアトルに由来するであろうその造りは富士の樹海では異物感がありすぎる。
レナータはその方向を皆に伝えるべく、手元に生んだ紫色の炎を明滅させた。
猟兵達は皆同じ方向へ向かって進んでいる。
野生の勘や着実な足取り、自らが呼び出した仲間や森の動物達の協力、そして空からの確認。
その全てが敵の居所を指し示し、激しい戦いへと導いていく。
そこで猟兵達が目にしたのは異国風の祭壇と蜘蛛の巣に囚われた子竜。そして嗜虐的な笑みを浮かべる蜘蛛女だ。
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「大丈夫、まだ殺さないわ。だからもっと弱ってちょうだい♪」
蜘蛛女は子竜を少しずつ弱らせてから殺すつもりだ。今は呪いの糸が子竜の身体を蝕んでいくのを楽しんでいる様子。
ならばここぞとばかりに踏み込んでやろう。まずはエルネストとシノギが動いた。
「そこまでです! その子を解放しなさい!」
「惜しげもなく、リッチにいかせていただきます。ええ、堂々と」
二人は樹海の影から挟み撃ちの形で蜘蛛女に迫る。
まずはシノギが騎士達と共に前へ出た。騎士は波のように攻撃を仕掛け、蜘蛛女の注意を引いていく。
「ちょっと!? 何なのよ、もう!」
「このような侵略は美しくないので。骸の海で反省して下さい」
騎士達の攻撃をフェイントとして利用しながらリンダは思い切り前に出た。その間にスクラップを展開させ拳に装着する事も忘れない。
そしてその勢いを殺さずに拳を振りかぶれば、蜘蛛女は胴で受け止め地に伏せる。
その隙にエルネストは器用にロープ付きのワイヤーを操り、蜘蛛の巣から子竜を引っ張り上げた。
そのまま子竜を抱き、絡まった糸を外していくエルネスト。子竜の身体は弱っているものの命に別状はないようだ。
「良かった……必ず安全な場所へ連れていきますからね」
子竜の様子は幼い頃の弟妹を思い起こさせて、兄としても猟兵としても使命感が燃えてくる。
必ずこの子を助け出そう。エルネストは強い決意と共に蜘蛛女を睨む。
当の蜘蛛女はよろよろと起き上がりつつあった。だがその表情には余裕が戻ってきている様子。
「……いいわ、それじゃあアナタ達を先に抱きしめたげる☆」
蜘蛛女の抱擁するような仕草と共に、突如シノギとエルネストに向かって蜘蛛糸が放たれた!
「呪いの糸、ですか……」
「っ……危ない!」
シノギは死霊とスクラップに糸を払わせていくが、如何せん敵との距離が近い。
エルネストも子竜を庇いつつ仕込み杖で対応するも、やはり万全とは言い難い。
二人の手足に糸が絡みつき、身体を呪いが蝕んでいく。
「本命はこっち♪」
甘い囁きと共に放たれるは穿脚による抱擁。だがそれが二人に届く事はなかった。
突如強い力が蜘蛛女を拘束し攻撃を中断させたのだ。
「間に合ってよかった、大丈夫ですか……!」
力の正体はレナータのサイキック能力だ。
空から急降下したレナータはそのままの勢いで蜘蛛女に体当りし、そして二人の元まで飛んでいく。
すぐに二人から糸を外すも、既に呪いは発動してしまっているようだ。
「ありがとうございます。ですが……」
「……あれ、なんで戦ってるんですっけ私」
「大変……どうしたらいいんでしょうか……」
シノギもエルネストも少し混乱している様子。レナータもどうすべきか迷い始めたが、戦いは容赦なく続いていく。
一方で蜘蛛女もまた混乱の最中にあった。
「猟兵、まだいるの!?」
「ああ、お前達の行動は見過ごせない。何としてでも止めてやろう」
焦る蜘蛛女に更に炎が迫る。
グラナトの生み出した炎が槍と化し、次々に敵へと集中していく。
「業火の槍のよ貫き燃やせ」
グラナトの『業火の槍』の勢いは止む事がない。
仲間や森を必要以上に焼かないように神の炎は悪しき者だけを燃やしていく。
猟兵達からの攻勢を受けて蜘蛛女も再び焦りだすが、彼らの攻撃は止まらない。
森の奥から機械兵器と野バラの花が飛び出すと次々に蜘蛛女へと殺到していったのだ。
野バラの棘は次々に彼女の身体を貫いて、その動きを制限していく。
英は慎重に木々の影から姿を現すと、蜘蛛女の性質について観察し始めた。
「どの攻撃も厄介そうだな……別にいいけど」
厄介な攻撃ならば食らわなければいい。
距離を取りつつ『Rosa multiflora』の棘と機械兵器達で確実に敵を仕留める。これが英の作戦だ。
もちろん蜘蛛女としてはそんな彼の様子は気に食わない。一気に距離を詰めて英へ脚を伸ばすが……。
「させない……!」
木々の上から降下した翠華がそれを阻んだ。翠華は培ってきた暗殺の技術を用いてギリギリまで敵に接近していたのだ。
彼女の手にしたナイフが一気に蜘蛛女を切り裂き、毒々しい色の血を流させていく。
「次から次へと……いい加減にしなさいよ! まとめて抱きしめてあげるわ!」
蜘蛛女もいよいよ生命の危機を感じ始め、半ば自暴自棄のような攻撃を仕掛け始めた。
そこらじゅうに蜘蛛の糸が散布され、次第に視界も悪くなっていく。だが当てずっぽうな攻撃は先程よりも狙いが散漫としている。
「自棄になるなよ」
「お前に抱きつかれる気にはならんな」
英は出来るだけ糸を機械兵器と木々に吸わせる事で攻撃を回避し、グラナトは戦いの神らしく攻撃の薄い部分に炎を当てて打ち破っていく。
二人は無事に攻撃を凌ぎ切るも、視界が開けた時に見えた光景は信じたくないものであった。
それは蜘蛛の脚に身体を貫かれた翠華とレナータの姿。翠華は大木に、レナータは地面に縫い付けられるように胴を貫かれていた。
「これくらい……の痛みでなんとかなるわけない……」
翠華は歯を食いしばって痛みに耐えるが、腹部からはとめどなく穢れた血が流れ出していた。
顔からはどんどん血の気が失われ、その度に小さな体がびくりと震える。
その様子は蜘蛛女からすれば極上だ。なんと嗜虐心を煽る少女なのだろう。
「なん、で……一体何が……わたし、さっきまで……?」
一方でレナータには呪いも併発していた。身体への被害も大きいが、何よりも記憶の混濁により呆然としている様子。
ただひたすらに目の前の光景を眺めている彼女だが、このままでは大量失血は免れない。
口の端からも血が溢れ、レナータの目はどんどん虚ろになっていく。
「あはは、やったわ! 二人ともかーわいいー♪ 後でゆっくり遊んであげる!」
形勢逆転を確信し、蜘蛛女は大きく笑う。その度に脚が揺れれば貫かれた二人の身体も揺らされ、確実に死へと導いていく。
しかしその笑い声が不意に止まった。凄まじい衝撃が蜘蛛女を襲い、その身体を大きく吹き飛ばしたからだ。
「煩いですよ。まだ勝ってもいないのに笑うとは。やはりまだまだですね」
衝撃の主はシノギ。彼女は再びバラックスクラップを拳へと装着し直し、全力で蜘蛛女を殴り飛ばしたのだ。
先程まで呆然としていたはずの彼女が何故? 疑問の色を浮かべる蜘蛛女にシノギは堂々と宣言する。
「私にはジョリー・ロジャーがあります。自分は海賊である。それさえ忘れなければ、私は私です」
彼女が手にしているのは豪華絢爛な冠を被った骸骨に金の骨の描かれた海賊旗。
理由は覚えていないがこれはとても大切なもので、これさえあれば自分の心は取り戻せる。
その意志は呪いを砕き、再び彼女を立ち上がらせていた。
更に蜘蛛女の身体を激しい斬撃が襲う。今度はエルネストが仕込み杖で敵を切り裂いたのだ。
「覚えていなくてもやるべき事は分かります。私はお兄ちゃんなのです。何を忘れても、震える子供を見捨てる選択肢など、ありません!」
彼はロープで優しく子竜を固定し庇い続けていた。
自分の傍で震える子竜の姿を見れば、兄としての意地も燃え上がる。
それこそが彼の『背中を見られる者の義務』。それは決して呪いに阻まれない。
「嘘、呪いを打ち破るなんて……ぁ」
予想外の攻撃は続く。先程まで倒れていたレナータが蜘蛛女の背後へと迫っていたのだ。
しかし彼女の目は未だに虚ろで、既に見ているものは違う。彼女の目に映るのは自分を囚えていた吸血鬼だ。
意識はまだ朦朧としているが、だからこそ彼女は被虐と報復の輪廻にあった。
「……約束どおり最後までお付き合いいただきますよ」
彼女が為すのは“復讐”の再演。腹部から流れる血も厭わずに、レナータは溢れる炎で蜘蛛女を燃やしていく。
その炎はレナータ自身も燃やしていくがそれでも構わなかった。だって復讐は終わらないのだから。
猟兵達の攻撃もまだまだ止まらない。更に無数の刃が蜘蛛女を貫いたのだ。
「私に……協力して……」
その発生源に立っているのは翠華だ。彼女の血は身体に宿るUDC達を開放し、活性化させていく。
「少しだけ……自由をあげる……」
解き放たれたUDC達は蜘蛛女へと殺到し、次々にその身体を嬲っていく。
代償として翠華の身体も激痛に苛まれるが倒れる事は許されない。だからこそ翠華は前を向き、蜘蛛女が嬲られる様を見つめ続けていた。
「この、この、いい加減に……!」
「それはこっちの台詞……もうあんたに興味はないけど」
怒り狂う蜘蛛女へと再び機械兵器が殺到しだした。往生際の悪い蜘蛛女に呆れるように、英は淡々と指示を飛ばしていく。
だがその手際は素晴らしいものだ。機械兵器達は確実に蜘蛛女の弱点を暴き、その身体を抉っている。
更に英は他の猟兵の手助けもするように機械兵器へと指示を飛ばす。
ここまで来たのだ、後は皆が全力で動けるようにしてあげたい。彼の面倒見のいい人柄が作戦から滲み出ていた。
「……そろそろ終わりだ。この地に暮らす者と竜の子を脅かした報いを受けろ」
グラナトは神銃を構え蜘蛛女を睨んでいた。
彼が感じているのはこの地に住まう者達の怒り。そしてどこかに囚われ子供を殺されかけた異国の神の怒り。
戦いの神として、彼らの怒りを背負い解き放つのが自らの役目だろう。
その感情を呪詛の炎弾へと纏め上げ、グラナドは引き金を引いた。
それに合わせて再び拳が振るわれ、斬撃が放たれ、血の炎が猛り、穢れた血は弾け、野バラが舞う。
そして一瞬の静寂の後、悪しき蜘蛛は倒れ伏す。その身体は塵になりぐずぐずと消えていった。
こうして猟兵達は侵略者の下僕を倒し、富士の山と子竜を守り抜く事が出来た。
子竜もじきに回復するだろう。彼も神の子、オブリビオンにさえ捕らわれなければもう大丈夫だ。
だが肝心の親であるケツァルコアトルは未だコルテスの手中にある。
戦いはまだまだ続く。猟兵達の目も次なる戦いへと向けられていた。
大成功
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