エンパイアウォー④~そして、その死が死を呼んで
●樹海に蠢く
「皆様、お集りいただきありがとうございます。世界コードネーム:サムライエンパイアにて、オブリビオンの出現が確認されました」
楽譜を抱えたグリモア猟兵が、自分の呼びかけに応じてグリモアベースに集った猟兵達へ語りだす。
「――まあ、皆様もご存じでしょう。魔空安土城攻略のため、幕府軍は既に進軍を開始しています」
オブリビオン・フォーミュラ『織田信長』が築き上げた『魔空安土城』。
この攻略の為に必要なのは、城の防護を唯一崩せるユーベルコードを持つ、『首塚の一族』と、それを補佐する兵たちだ。
「ですが、10万人の幕府軍は、城のある島原にたどり着く前に全滅する……そのような予知がでてしまいました」
天よりの隕石、不気味な屍の群れ……様々な脅威により、ユーベルコード発動の条件である1万人すら目的地にはたどり着けないというのだ。
無論、このタイミングでのこれらの苦難が偶然であるはずもない。
織田信長に付き従う『魔軍将』たち。彼らの陰謀が、猟兵と幕府軍の行く手を阻まんとしていた。
「今回、皆様に向かっていただく富士の樹海でも、侵略渡来人『コルテス』の配下であるオブリビオンが、魔術的な儀式の準備を進めております」
樹海に隠された儀式場。
そこで行われる生贄の儀式によって引き起こされるのは、サムライエンパイア最大の火山である、富士山の噴火だ。
あれほどの大火山の噴火が起これば、当然周辺は大惨事である。
そうなれば、幕府軍としても、救援の為にいくらかの人員を裂かねばいけないだろう。
「で、我らはまた一歩、安土城攻略から遠のくというわけです」
げんなりとした表情で、グリモア猟兵が説明を続ける。
大噴火が起これば、戦力の低下だけでなく、救援が間に合わずに命を落とす者も、当然出てくる。
あらゆる意味で、見過ごすわけにはいかない企てであるのだ。
「初めから中々のスケールですが……オブリビオンが無辜の人々に牙剥くのなら、ええ。皆様のお力を借りる時ですね」
戦争はまだ始まったばかり。
ここで躓いてはお話になりませんよと、グリモア猟兵がグリモアベースから異世界への扉を開く。
その向こうで、昼なお暗い森が、静かに猟兵を出迎えていた。
●静かなる死
人であり、蜘蛛であり。
まさしく異形と呼ぶべきオブリビオンが、樹海の中の儀式場で微笑む。
彼女が見下ろすのは、儀式場の中心で怯えた様子の、小さな子竜。
地より灼熱を呼び寄せる為の『太陽神の儀式』はいよいよ大詰め。
あとは、この哀れな贄の血を聖杯に注ぎ、祈ればいいのだ。
「どれくらい死ぬのかなぁ……楽しみだなぁ……」
樹海の闇の中、童女の楽しげな声が、不気味に響いていた。
北辰
=============================
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================
OPの閲覧ありがとうございます。
戦争始まりましたね、北辰です。
今回の舞台は富士の樹海、儀式を止めねば富士山が噴火するそうです。いきなりスケールが凄いですね。
儀式の内容は、竜を殺し、血を聖杯に注ぎ、祈る事。
これらの工程を完遂されればシナリオは失敗です、お気を付けください。
また、現地は樹々が生い茂る樹海の中。
儀式場を効率的に見つけるには一工夫必要ですが、逆に言えば、儀式の準備をするオブリビオンを上手く奇襲するチャンスもあるでしょう。
如何に敵を見つけるか、見つけられないか。プレイングボーナスの匂いがしますね!
それでは、サムライエンパイアを救う為。
今回も皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『オモイデククリ』
|
POW : フイノアイジョー「抱きしめたげる☆」
【直前の記憶を失う呪いの糸】が命中した対象に対し、高威力高命中の【無数の穿脚で抱くような刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : カナシミムスビ「かーわいいー♪」
自身が【嗜虐心】を感じると、レベル×1体の【悲嘆の毒蜘蛛】が召喚される。悲嘆の毒蜘蛛は嗜虐心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : アマイキズグチ「もっと遊ぼ♡」
【穿脚による刺突で苦痛】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【歓喜の毒蜘蛛】から、高命中力の【苦痛を快感や安らぎに連結する毒糸】を飛ばす。
イラスト:朝日奈臣(あさひな おみ)
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「浅倉・恵介」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アトシュ・スカーレット
うーん…
富士山って大きい山なんだっけ
噴火は大変だなー…
儀式をするなら、それなりに開けた場所でやるんじゃないかな?
…あー…でも、空から見ればバレるか
……しょーがない、バレるの覚悟でやるか
【視力】は高いから見つけれるとは思うけど…
発見次第、空から急襲をしかけるよ!
ルルディを槍に変身させて突撃!
【激痛耐性】はあるから、ユーベルコードをある程度なら防げる…といいなぁ
もし子竜が怯えて動かないなら、話し(【動物と話す】)て離れてて欲しいってお話しできないかな?
アドリブ、連携大歓迎
篁・綾
アドリブ連携歓迎で
餌を撒き、近くに残っている動物を【おびき寄せ】、【動物と話す】で【情報収拾】。
話した後、避難したほうがいい旨を伝え別れる。
道を聞けたらそれに従い目的地へ。
無理なら【第六感】に従い、【空中戦】で木の上を移動しながら探索。
発見したら周囲に潜み射程内に入るまで接近。
入ったら指定UCを使用。刀一本を残し、武器を桜吹雪へ。
【マヒ攻撃、鎧無視攻撃、目潰し、範囲攻撃】で彼女らを幻惑。
望む幻の中に誘うわ。
引っかかったら小竜に話しかけ、【乱桜ノ庭】に入って貰うわ。
あとは逃げましょう。
基本的に小竜の救助を優先ね。
立ち回るなら【見切り、残像】で回避、【武器受け、オーラ防御、毒耐性】で受け。
●奇襲と救出
森の中、開けた広場には、鉄臭い赤で描かれた魔術陣があった。
薄暗い森の中でも、ある程度の陽の光が差すそこは、暖かな空気とは裏腹に、肌を刺すような冷たい雰囲気に満たされていたのだった。
「うーん、怯えててかわいそー♪ ごめんね、もう少しで助けてあげるから!」
陣の中心で震える子竜へ、オブリビオン――オモイデククリが微笑む。
優しい声を竜へ投げかけるも、その刃物のように鋭い脚は、竜が望む『救い』をもたらす気が無いという事を、雄弁に語っていた。
そんな、愉悦と絶望が入り混じった空間に、影が差して。
何がが風を切り落下する音と、直後に響く甲高い金属音。
空からの奇襲を察知したオモイデククリと、奇襲を仕掛けた猟兵、アトシュ・スカーレット(銀目の放浪者・f00811)の視線が真正面から交差した。
「あー、やっぱバレるか。にしたって、正面から受け止められるとは思わなかったけど」
槍に変じた相棒と共にオブリビオンから距離を置きながら、アトシュが呟く。
空からの探索、これにより奇襲がバレるであろう事は覚悟していたことだ。
とはいえ、自身の体重も乗せた槍の突撃を、穿脚で受け止められてしまったことはちょっとした誤算。
こちらを見つめ、笑みを深めるオブリビオンとの位置関係もよくはない。
震える子竜と、自分を隔てるように立たれていては、逃げるように声をかけるのも難しい。
総じて、当初の狙いは達成困難と言っていいだろう。
で、あるので。
アトシュは早々に、『第一案』を諦めた。
「おや、その槍も竜かな? 2匹捧げれば、儀式の進みも早くなったり……なにこれ?」
アトシュへと感じる嗜虐心。
それが望むままに毒蜘蛛を呼び出していくオモイデククリの瞳に、桃色の花弁が映りこむ。
――桜だ。
次の瞬間には、むせかえるような血の匂い。
オモイデククリにとっては甘美なものでもあるそれだが、こうも唐突に現れれば警戒もする。
派手に上空から来た男に気を取られすぎたか。
なんにせよ、毒蜘蛛も含めた此方の手は無数にある。
ましてや、森の木々や藪に囲まれたこの空間に人が立ち入る方法はおのずと限定されるのだ。
「まったく、変な小細工をして、!?」
そう思考を重ねるオモイデククリにとって、木の上から飛び出してくる影への対応は、いささかの隙を生じるものであった。
人が通れる道には限りがある。
けれども、篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)が儀式場を探り当てる為に尋ねた相手は、人ならぬ獣たちであった。
彼らが語る、藪の小さな隙間、木々の上を渡る道。
人であれば通るだけでも一苦労する道であったが、狐の姿も持つ綾にとっては、そう困難なものでもなかった。
「――くぅ、お前らぁ!!」
先に語った通り、オモイデククリの取れる手段は多い。
槍を受け止める強靭な脚、呪いを孕む糸に、彼女に付き従う無数の毒蜘蛛。
けれども。
空から堂々と仕掛けてきた男に注意を引かれ、女へ気づくことが遅れたこと。
桜の見せる幻の中で、正確な攻撃が不可能になったこと。
それでも自身の代わりに、子竜を仕留めんと動き出した毒蜘蛛も恐れず、男が槍を手に踏み込んできたこと。
それらが、オブリビオンの武器を一つ一つ封じていけば。
「痛た……まずいな、ちょっと噛まれた」
「真正面から突っ込めば、それはそうでしょうね……でも」
その交差は、数瞬にも満たず。
アトシュの身体には、綾のカバーをするために毒蜘蛛から受けた無数の傷が。
そして、綾の腕の中には。
今なお震える竜が、優しく抱き留められていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ストーム・アルカー
【WIZ】
儀式かぁ。大噴火を起こす程の儀式となれば、相応に規模は大きそうなものだけれどこの樹海だと…
…一人で見つけるのは難しいだろうねぇ。
…では【掃除屋】を呼ぼう。数が増えると考えるのは大変だけれど…
3人1組で隊列を組ませ、それぞれ違う方向から探させる。
見つけた場合は射撃を許可しよう。音を頼りに他の掃除屋も向かう筈だ。
……あぁ、オブリビオン以外は攻撃しちゃダメだよ?
さて、僕は掃除屋とは別方向から近付こうかな。
儀式場の作りを見て、何を必要としているかを判断しないと。
生贄が居るなら…見殺しにしたくはないし、守るように戦うか…。
僕だけで倒せるとは思ってないし、他の猟兵が来るまで耐えるとしよう。
シーザー・ゴールドマン
【POW】
オブリビオンの場所は儀式に適した場所を推察した後は勘頼り。
(世界知識×第六感)
先制攻撃で竜とオブリビオンを引き離す又は聖杯の破壊、どちらか成功率が高いと判断した方を試みる。
(先制攻撃×衝撃波)
その後はオド(オーラ防御)を活性化して戦闘態勢へ。
オーラセイバーを千変万化の剣術で振るって戦う。
(先制攻撃×怪力×鎧砕き)(フェイント×2回攻撃×鎧無視攻撃)など
大技としては動きを見切っての破邪の太刀
(見切り→怪力×属性攻撃:炎×破魔×オーラセイバー)
敵POWUC対策
『呪いの糸』を直感で回避又は見切って破邪の炎で空中で焼き尽くす。
(第六感×見切り)or(第六感×見切り×属性攻撃:炎×破魔)
●勝てぬ戦い、繋げる戦い
「もーしわけないんだけど! その子を逃がすと、コルテス様から怒られちゃうんだよねぇ」
オモイデククリが嗤いながら手を天に掲げれば、そこから放たれるのは呪いに満ちたオブリビオンの糸。
あえて猟兵を無視して展開されるそれは、儀式場の周りを乱雑に覆っていく。
もちろん、この程度の呪い、猟兵ならばうち砕き、逃れることは造作もない事。
未だ震える、無力な子竜を見捨てれば。
だからこそ、その包囲が完成する前に。
銃声と共に、この悪徳の儀式の場には不釣り合いな集団が踏み込んできた。
「んー? なに君たち、猟兵……じゃあ、無いよね?」
答えはない。
次々に現れるガスマスクの男たちは、手に持った拳銃でオモイデククリへと攻撃を仕掛けていく。
正直に言えば、大した脅威ではない。
猟兵そのものでもない彼らの銃撃など、鬱陶しい以上のものではありはしないのだ。
故に警戒すべきは、目の前の彼らではなくて。
「それを囮にしてくる、本命だよねぇ!?」
「……そう、上手くはいかないか!」
ガスマスクの集団、【記録1-1:掃除屋(スカベンジャー)】とはまったく別の方向から飛び出してきたストーム・アルカー(次元の旅人・f18301)の黒い大剣を、オブリビオンの強靭な脚が受け止める。
深追いは禁物。
奇襲で痛手を与えられなかったストームは、素早く竜を抱える猟兵とオブリビオンを隔てるように儀式場に降り立つ。
少しの観察で見る限り、目の前の相手は、儀式場そのものにはまったく執着していない。
重要なのは、あくまで子竜の血。
そうでなくても、見殺しになどしたくない。
掃除屋と自分、どちらの攻撃も有効でない以上、独力でこのオブリビオンを打倒するのは現実的ではない。
だからこそ、彼はガスマスクの友人たちへハンドサインを送る。
ここで、誰かの為の時間を稼ぐ、潰れ役に徹する指示を込めて。
「むむむ……邪魔だなぁ。うん、ただただ邪魔」
数合の交差の後、大した負傷も負っていないオモイデククリがぼやく。
その視線の先では、肩で息をするストームと、大きく数を減らした掃除屋たちの姿が。
数には数と言わんばかりにオブリビオンが呼び出した毒蜘蛛を含めて、子竜を守るための奮戦は楽ではない。
仲間は次々に倒れ、ストーム自身もオブリビオンとの剣戟で少なくない傷を負った今、もう稼げる時間は長くはないだろう。
それでも。
「――お疲れさま、皆。任務完了だ」
「ああ、良く耐えてくれた」
「ッ!?」
突如、儀式場を覆う呪いを引き裂いて降り立つ赤。
ストームの稼いだ時間は確かに、シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)が儀式場にたどり着くまでの僅かな間を埋めていたのだ。
シーザーの思考が、瞬時に竜と聖杯を天秤にかける。
オブリビオンの企みを打倒すべく、手を伸ばすべきはどちらなのか。
瞬く間に弾き出される結論に従い、シーザーの千変の剣がオブリビオンの身体を引き裂く。
呪いなどものともしない彼自身の破邪の炎に加えて、最後の力を振り絞るように援護に入る掃除屋たちが、オブリビオンの動きを止める。
「がっ、ぐううぅぅ!!」
轟音と共に吹き飛ばされたオモイデククリが、樹海の木々に打ち付けられる。
聖杯は未だ彼女の手に、けれども、贄たる竜はますます遠のいた。
「いいのかい? こちらが優先で」
「ああ、聖杯もこちらも、どちらを狙っても変わらなさそうだったからね」
なら、功労者の思いを優先するものさ。
そう笑ったシーザーの声には、傷だらけのストームとその友人たちへの賞賛が、確かに込められていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
遠呂智・景明
【富士樹海遠足班】
さて、と。まずは儀式してる場所を探さなきゃいけねぇわけだが。
これだけ樹があると邪魔だな。
斬りながら進むか!
そうすりゃそのうちたどり着くだろ。
さて、儀式場に着いたら敵もいる訳だが。
UCもあるし、警戒してく、ぞ?
あれ、祢々いなくね?
ってかもう敵のとこにいるし。
……めんどくせぇから纏めて斬るか!
あいつなら上手く躱せるだろ!!
風林火陰山雷番外 雷・火。
儀式場の邪魔な木々やら、敵の糸やらを纏めてぶった斬る。
大丈夫大丈夫、ちゃんと狙いは正確だから。
正確に敵ごと狙ってるから。
ふぃー、見通しよくなったな。
さて、あとは斬るだけだな。
祢々と合わせて一閃。
はっはっは、まるでぴくにっくだな。
上泉・祢々
【富士樹海遠足班】
さて、やってきました富士樹海!
木がいっぱいで邪魔くさいですが景明先輩が斬ってくれるので楽チンですね
で、あれが例の儀式ですか
(糸が命中し)
はて? 何しに来たんでしたっけ?
なんだかぐるぐる巻き
しかも斬撃が飛んでくる
とりあえず身体を捻って避けてついでに糸も斬りましょう
それになんだかこっちに刺突を繰り出す蜘蛛が
邪魔ですね
景明先輩の太刀筋は見たことがありますしここは合わせて脚を破壊します
衝撃を内部に浸透させればいくら堅くても壊れるでしょう
ダメなら壊れるまで殴るだけです
トドメは景明先輩の一閃と私の手刀を合わせて首を狩ります
で、何しに来たんでしたっけ?
あ、ピクニックですか
●ぴくにっく
ずんっ……ずんっ……。
暗い森の空気を、重い音が規則正しく震わせていく。
その中心に目を向ければ、木々の生い茂る樹海の中で、器用に刀を振るう男が1人。
「これだけ樹があると邪魔だな……まさか、樵の真似することになるとは思わなかったが」
ぼやきながらもその太刀筋は少しもぶれず。
木を斬り倒し、樹海を真っ直ぐに進む遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)の足取りは大変順調なものであった。
そこに、1つの問題があるとすれば、それは。
「しかし、ただ斬り倒すのも面倒には変わりないな……おい、そろそろ変わってくれ……あれ?」
振り向き、キョトンとした顔で宙を見つめる視線の先に、居なければならない筈の人物。
楽チンなどと言いながら自分の後ろを着いてきていた少女。
彼女の姿が、何処にもない事だろうか。
「はて? 何しに来たんでしたっけ?」
気がついたら、なんだか身体は糸でぐるぐる巻き。
よく分からない蜘蛛みたいな女が脚で貫いてこようとするので、それを身をよじって躱しながらも、上泉・祢々(百の華を舞い散らす乙女・f17603)は考える。
先輩と呼び慕う景明と共にこの樹海にやってきて。
何かを探していて、それを見つけたのでそこへ駆けだして。
そこまでは覚えているのに、その後どうなったか、何を探していたのか、どうにも思い出せないのだ。
もしかして、この蜘蛛女は敵なのだろうか。
器用に縛られたまま攻撃を回避する彼女がそんなことを思っていれば、そこへ投げかけられるよく知る声。
「……いねぇと思ったら、抜け駆けしようとはいい度胸じゃないかお前」
チャキリと、刀に手をかけながら儀式場に踏み込んでくる景明。
言葉ほどの怒気は感じないが、祢々にはよく分かる。
あれは、イチイチこちらに気を使って刀を振るのを、心底面倒くさいと考えている顔である、と。
「――風林火陰山雷、番外」
大きくこちらに踏み込むように、前傾の姿勢を取る景明に、オブリビオンの表情が変わる。
女は未だ縛られてこちらに居るのに、まさかもろとも斬るつもりと言うとか。
ええ、彼はそういう刀です。
その背後に突き刺さる祢々の視線に込められた思いなど、オブリビオンに伝わるはずもなく。
「【雷・火】ァ!」
景明が放つ無数の斬撃が、祢々とオブリビオンを飲み込んでいく。
強靱な脚でそれを凌ぐオブリビオンとは対照的に、祢々はギリギリのところで身を捻ってそれを躱す。
薄皮一枚の差、本来であれば皮膚なり、衣服なりを切り裂いたであろうそれは、祢々を縛る糸を斬り解いて。
「ようやく自由の身ですね! お手伝いしますよ先輩!」
「お前が先走らなきゃ最初から2人がかりだったの、忘れてねぇからな俺!!」
景明の斬撃を受け止めるオブリビオンに、背後から突き刺さる少女の拳。
【上泉・祢々(オレズマガラズ)】、鍛錬により磨かれたその徒手の刃が、オブリビオンの身体を容赦なく引き裂き、その体勢を崩していく。
そうなれば、もはや蜘蛛にはどちらの斬撃を防ぐ術もなく。
前後から突き刺さる、その刃は、オブリビオンの頑強な肉体を、確かに抉り、切り裂いた。
「しかし、こうも見通しよくなると、まるでぴくにっくだな」
「あ、何しに来たんだっけと思ってたら、ピクニックだったんですね!」
斬撃の嵐が去った後の、緊張感のない2人の声。
それに否と唱える者は、もうどこにも居なかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アリス・レヴェリー
嫌な儀式ね……過程も、結果も、ろくなものじゃないわ。
早く見つけたいけど空からは見えないし、魔力を感じるって訳でもないし……そうだわ。ダイナを喚びましょう。
彼にこの近隣の大地を微かに揺らしてもらうわ。儀式場として森にあるなら、返ってくる感覚で彼なら分かるでしょう
敵を発見したらダイナによる大地の大隆起で奇襲。森を燃やすわけにもいかないしね
糸で飛んだりしそうだし、ダイナに共鳴して黄金の靴に変じた【身にまとう親愛】の力で、せり出す大地を足場に跳躍して一度ダイナと別れて【空中戦】
隙を見つけたら靴の踵から噴射する火勢を頼りに敵をダイナの居る大地に蹴り降ろすわ
……はしたないからあんまりやりたくないのだけどね
草野・姫子
※アドリブ・連携歓迎
富士巡りも終わりが近い…しかし最後まで気は抜けぬ
儀式場の後始末に神域を敷いて清めねば
此度の相手は――蜘蛛の妖、か
探索
出遅れてしまったが、虫や動物たちの噂が聞こえる
UC【自然の協力者】で【情報収集】と共に先行した者たちを追跡する
途中で難儀する猟兵がいれば案内を買ってでよう
戦闘
他猟兵の支援と防衛を重視
敵が蜘蛛ならばその糸が長所であり短所
樹海という【地形の利用】は私に任せよ
探知の要の糸を揺らすよう【草花の化身】で木々に願い【注連縄】も伸ばし撹乱する
そのまま【破邪清浄の磐境】で神域を張り、毒を受けた者を癒し呪いの【破魔】を狙う
樹海ならば私の神力は尽きぬ
どこまで絡めとれるか、勝負じゃ
梅ヶ枝・喜介
ざッけんな!糞食らえだ!
潰すぜ!この儀式!
この世にゃ何があろうとやっちゃイカン事がある!
無関係の人間をただただ徒に殺す事ヨ!
森の何処かにはぜってェ居るんだ!
端まで駆け回りゃあ自ずと見つかる!
足が折れようと走り続けてやる!
敵を見つければ奮起し、真っ正面から木刀で打ち掛かる!
糸だァ!?こんなの目眩ましにも…
ふと全てを忘れた。
そして背中から何かが突き抜ける灼熱で目が覚める!
がふっと血を吐き、目の前の蜘蛛の化生に困惑す。
訳も分からぬ命の危機に、手の甲で血を拭うと、おれのきったねェ字が在った。
蜘蛛ヲ倒セ。
おれは何も思い出せん!だが!
目の前の化生の襟元を掴み、渾身の頭突きを食らわせる!
てめぇはブッ倒すっ!
●決着
「ま、まだだ……まだ、コレさえあれば…」
既に、オブリビオンの身体はボロボロだ。
それでも、震える脚を引きずり、樹海の奥地を征くその手の中には、竜と並ぶもう一つの儀式の要、聖杯を確かに掴んでいた。
猟兵たちは確かに強い。
けれども、自分の目的は彼らを打倒することではなく、儀式の完遂だ。
消えたフリをして息をひそめれば、必ず竜から意識を逸らす瞬間も訪れるはず。
その瞬間を狙いすまして、一気に血を奪って聖杯に注ぐのだ。
苦痛も与えずにすぐ殺すなど、自分の性にはまるであっていないが、もはやその方法しかないだろう。
ふらふらと揺れる身体を、与えられた使命への執着で繋ぎとめる。
その精神力は、オブリビオンでありながらも、まさしく驚異的なものであり。
だからこそ、踏みしめる大地の、不自然な揺らぎに気付けなかったのだろうか。
「……なに、地震? いや、これは!?」
オモイデククリが顔色を変えた直後に、真下から襲う衝撃。
激しく揺さぶられ、眩む視界でどうにか捉えるのは、自分を宙へと押し上げる石柱と、下方から此方を睨む金色の獅子。
猟兵の攻撃だ。
だけど、あのライオンはあくまでユーベルコードの力。呼び出した本人が、近くに。
「……はしたないから、あんまりやりたくないのだけどね」
思考を遮る声は、空へと押し上げられるオブリビオンの、さらに上方から。
顔を上げた蜘蛛がアリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)の姿を見つけた時には、彼女の履いた黄金の靴から激しい炎が噴き出す、まさにその瞬間。
友の力を借りたその蹴りが、小さなドールが持つ以上の大きな力で、再びオブリビオンを地へ叩き落す。
痛みに次ぐ痛み。
石柱で、蹴りで叩きつけられた身体が、軋みながら嫌な音を立てる。
立て、前を見て、呪いを飛ばせ。
明らかにこの場所に狙って叩き落された、追撃がすぐに来るぞ。
「——嗚呼ああぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!」
どうにか立ち上がりながら、叫びと共にでたらめに放たれる呪いの糸は、当初自在に操っていたころに比べれば、苦し紛れの拙い扱いだ。
もはやなりふりなど構ってはいられない、後先も考えずに放たれる呪いは、だからこそ最も強く、その周囲を冒していく。
「ちっ、まさに窮鼠というわけか……!」
それを、伸ばした注連縄で受け止める草野・姫子(自然を愛するモノ~野槌~・f16541)の表情は険しい。
樹海から溢れるほどの神力を受け取る今の彼女ならば、最後と言わんばかりに暴れるオモイデククリより先に力尽きるなどあるはずもない。
けれども、むやみやたらに呪いを振りまき、この樹海の樹々をどんどん弱らせていくオブリビオンは、自然を愛する神として、あまり時間を駆けたくはない存在だ。
それに、途中で合流した他の猟兵のことも、まあ少しは心配……ちょっと待て。
オブリビオンを追い詰めてくれたアリスは、無事に着地して彼女の友である金色の獅子と合流した。
そして、もう一人は?
愚直に樹海を駆け回ろうとしていた首根っこを掴んで連れてきたはずの、梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)の姿が近くにない。
慌てて見渡した姫子が、その姿を認めた時には。
「……あれ、俺、なんで此処に? 何してたんだ?」
呪いを受けて、戦いを忘れてしまった少年の姿があった。
喜介は怒っていた。
無関係の命を徒に奪うその所業、許せるはずもない。
だからこそ、一刻も早く除かねばならぬと、地に落ちたオブリビオンめがけて駆け出して、今に至る。
分からない、何も思い出せない。
煮えたぎるような何かが、ことりと自分の中から落ちて行ってしまったような感覚。
可愛らしい顔を、この上なく醜悪にゆがめたオブリビオンが、その槍のような脚をこちらに向ける。
その更に向こうでは、何やら大きな獣に乗った金糸の髪の少女が慌てた様子で何かを叫び。
熱い、何かが自分を貫くような感覚が。
『背中から』、彼の意思を揺さぶった。
「まったく、世話が焼けるにも限度があるじゃろうに!」
【破邪清浄の磐境(ワザワイヨ・サレ)】。
姫子の操る注連縄が喜介の背中に叩きつけられる。
本来ならば場を清める為の力であるが、そんな悠長なことができる状態ではない、破魔の力を目の前の小僧に叩き込んで、直接呪いを浄化する。
まごうこと無き荒療治、猟兵でなければ、そのまま神力に耐えられないかもしれないほどだ。
だけども、目の前の男はただ踏みにじられるだけの無力な存在ではなくて。
背中からの衝撃で身体がふらつく。
身体を蝕んでいた呪いの仕業だろうか、口からは赤く暖かい血がこぼれだす。
手の甲で血を拭えば、その汚れが、自分に命じているようにも思えた。
蜘蛛ヲ倒セ。
相変わらず何も思い出せない。
けれども、瞳に光を取り戻した自分を、安堵の眼差しで見つめる少女と。
厳しくも、どこか暖かい声を投げかける背後の女性と。
きっとこの意思は同じものだろうという、根拠のない確信が、心のうちから湧いてくるのだから。
「えっ、いや、ちょっと!?」
急に動き出した、呪いで動けない筈の男に襟首を掴まれた蜘蛛の制止など、当然聞くはずもなく。
喜介の渾身の、無我の頭突きは。
オブリビオンの頭蓋を、確かに叩き割ったのだ。
●戦果
「……気絶してるわね」
「ああ、思いっきり伸びておるのう」
気づかわし気に、呆れたように。
アリスと姫子が見下ろす先には、口から、額から血を流して倒れている喜介の姿。
呪いを受けて、そのまま突き進んでいったのだから、当然ともいうべきか。
「どうしようかしら、ダイナに運んで行ってもらう?」
「そうだな……いや、ちょっと待て」
アリスの提案に同意しかけた姫子が、それに待ったをかける。
こんな無茶をする人間など、さっさとグリモアベースに連れて帰った方がいいのは事実だが。
「目を覚ますまで待ってやろう……自分が何を守ったかくらいは、見せてやってもよかろうて」
そう、柔らかく微笑んだ姫子の視線の先には。
こちらへと駆けよってくる猟兵たちに抱き留められた、小さな子竜の姿があった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵