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エンパイアウォー④～忍ぶ猫の儀式場

作者：雨音瑛

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　猟兵たちは寛永三方ヶ原の戦いに勝利し、８つの名前が記された『第六天魔軍将図』を入手した。
　しかし直後、三方ヶ原で討ち取った武田信玄以外の『第六天魔軍将』達が一大攻勢をかけてきたのだ。どうやら彼らは、サムライエンパイアの征服を企んでいるらしい。
　このような国難に立ち向かうため、徳川幕府軍は諸藩からの援軍も合わせて幕府軍10万を招集すべく動いた。
　目的は、オブリビオン・フォーミュラである織田信長の撃破だ。
　猟兵だけの力で織田信長を撃破するのは難しい。そのため、徳川の軍勢は是が非でも必要になる。
　此度の戦いにおいて、猟兵たちは関ヶ原に集おうとする徳川幕府軍を信長軍の攻撃から守らなければならない。そのうえで、行く手を阻む信長軍の魔軍将達と戦っていくことになるのだが――。
「富士の樹海に向かって欲しいんだよ！」
　資料の紙類をばっさばささせながら、佐伯・キリカ（陽気な吸血魔法使い・f00963）が猟兵たちに語りかける。
　というのも、魔軍将の一人、侵略渡来人『コルテス』が、太陽神ケツァルコアトルの力を用いて、何やら企んでいるらしいのだ。
「コルテスの配下であるオブリビオンが、富士の樹海に隠された儀式場で『太陽神の儀式』を行っているんだよ。儀式の内容は『簡易的な祭壇を作してそこで小さな竜を殺し、その血を聖杯に注ぎ入れ、祈る』といったものらしいんだけど……この儀式が実行されると、富士山が噴火してしまうんだよ……！」
　そこから先を、キリカは難しい顔で話し始めた。
　万が一富士山が噴火しようものなら、東海・甲信越・関東地域は壊滅的な混乱状態となる。さらに此度の戦いで重要となる徳川幕府軍が、全軍の２割以上の軍勢を災害救助や復興支援のために残す必要が出てくる。
「信長を撃破するためにも、徳川幕府軍の力が削がれるのはなんとしても避けたいところだよね。だから、猟兵さんたちにはまず富士を探索して儀式上を発見、その後太陽神の儀式を行っているオブリビオンを撃破して欲しいんだよ」
　キリカが予知で発見したオブリビオンは『戸沢・三毛猫斎』という、猫にまつわる忍術を得意とする忍者だ。かわいい猫たちを放って敵の士気を挫いたり、巨大な山猫になっての戦いを得意とするらしい。
「猫好き、っていう特性をうまく使えば捜索だけでなく奇襲もうまくいきそうだよね。それじゃ、準備はいい？　樹海へれっつごーテレポート、なんだよ！」

第1章 ボス戦 『戸沢・三毛猫斎』

POW   :    きゃっ遁・大山猫変化の術 【巨大な山猫】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。 SPD   :    きゃっ遁・猫津波の術 戦闘力のない、レベル×1体の【かわいい子猫】を召喚する。応援や助言、技能「【誘惑】」を使った支援をしてくれる。 WIZ   :    ぐらび遁・でっぷり落としの術 【怪しい印を結んで重力装置を起動すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【でっぷりした猫を上空から落下させること】で攻撃する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「思ったんだけど、富士山噴火したらサムエン全部ヤバくね？」
　そう言って、パウル・ブラフマン（Devilfish・f04694）は首を傾げた。しかし次の瞬間には拳を握り、ぷんすかと怒りを口にする。
「侵略するなら後の生活のコトもちゃんと考えておいて欲しいな！」
「いや、そもそも侵略するのがダメだと思うぜ？」
　なんてツッコミを入れつつ、篝・倫太郎（災禍狩り・f07291）は華焔刀 [ 凪 ]を肩で支えながら歩いている。
「そういえばそうかも？　って、狐くん発見！　狐くん狐くん、なんか変なもの見なかったかな？　えっ、あっちの方に見慣れない猫がいる？　そっかそっか、どうもありがとう！　このへんはちょっと危なくなるから、動物たちに遠くに逃げるよう言っておいてくれる？　うん、それじゃあね☆」
　狐に手を振ったパウルの周囲を、グァンデ・アォ（敖 広徳・f10200）が飛ぶ。
「あのさ、太陽神の儀式だって話だったよね。そうすると儀式は太陽の当たる場所で行われるのかも？」
「なるほど、グァンデの言うことも一理あるな。パウル、どう思う」
「あり得るかも！　日が当たるところなら、ねこちゃんたちも気持ちいいよね？」
　二人の言葉を聞いたグァンデはさっそく上昇し、日の当たっている場所を探し始める。
「いた！　日向ぼっこしている猫！　あとは木に隠れて見えないけど、この近くにいるはず……おっと、大声で呼んだら相手に気付かれてしまうよね。それなら――」
　グァンデは「この下にいる」と言わんばかりに上空で旋回を始めた。
「おっ、グァンデが何か見つけたみたいだぜ」
「よし、急いで向かおう！」
　倫太郎とパウルが駆け出すのを、グァンデは上空から見ていた。
　そうして二人が現場付近まで来たところでグァンデは急降下する。仮面をつけた『戸沢・三毛猫斎』の姿を樹木ごしに見て、グァンデは、はて、と体を傾けた。
（「もしかして暗黒面なのかしらん……？　っと、今はそれどころじゃないよね」）
「まずはオレに任せて☆　行くよGlanz！　投影機モード♪」
　白銀の宇宙バイク「Glanz」を変形させて騎乗しながら、パウルは何やらスイッチを切り替えた。プロジェクションマッピングで映すのは、バズりまくりの超可愛い猫動画だ。
『ねこちゃん！！！！　こんなところにいると危ないですよ、さあ、私の懐においでなさい……フヒッ』
　よだれを拭う三毛猫斎がおいでおいでをしつつ動画に近寄ったところで、パウルはGlanzのエンジンを噴かした。
　飛び出し、三毛猫斎を轢き殺――ではなくタイヤをスピンさせて薙ぎ払う。
『に゛ゃんっ！』
　無様な悲鳴を上げながら吹き飛んだ三毛猫斎は、木を足場にした後、軽やかに着地した。
『なんと卑劣な罠よ！　ええい猫津波よ、誘惑をお願いしますよ！　ふふ、そのようなものに乗っていてはかわいい子猫たちを轢いてしまいますよ……？』
「ははっ、心配ないぜ☆」
　華麗な運転テクで器用に回避しつつ、触手の表面に装着した固定砲台から射出される弾丸を三毛猫斎に浴びせるパウル。
「もいっちょ、ダメ押しだよ！」
　続いて放たれた誘導弾は、猫の鳴き声を響かせながら樹海を行く。
『またねこちゃん！！　いやこれは罠、でも猫ちゃん！！』
　あわあわと立ち往生する三毛猫斎を、倫太郎は素早く拘束した。
『うっ……！』
　拘束しているものの正体は、三毛猫斎には見えていない。しかし拘束されていることには変わりないから、ただただ身じろぎして戒めから解かれようと足掻く三毛猫斎だ。
「儀式は成功させねぇ、お前はここで仕舞いだ！」
　だが、拘束を解くよりも早く倫太郎が迫っていた。まずは華焔刀を一閃、続いて刃先を返してのすぐに第二波を。衝撃波の乗った攻撃を受けた三毛猫斎は吹き飛び、祭壇に背を打ち付けた。
　常に三毛猫斎の後ろに回り込むように攻撃を繰り出す倫太郎は、弱々しい竜の鳴き声を聞いて祭壇へと駆け寄った。
「……良かった、まだ生きてる」
　倫太郎が小さな竜を抱きかかえると、三毛猫斎の目が怪しく光る。
『今です！　きゃっ遁・大山猫変化の術！』
　三毛猫斎が煙に包まれたかと思いきや、巨大な山猫が姿を現す。
『にゃおおおん！！』
　三毛猫斎は地面を揺らしながら倫太郎へと向かう。小さな竜を抱えたままでは、戦闘もままならない。三毛猫斎の巨大なシルエットが倫太郎を覆い隠したその時――
「ここはボクに任せて！」
　グァンデが、三毛猫斎の足元に絡みつくようにして飛行し始めた。
『にゃっ！　にゃにゃん！』
　思考まで山猫のそれとなってしまったのか、三毛猫斎は楽しそうにグァンデを追い回しては飛びつこうとし始める。
「さあ、今のうちに！」
「おう！」
　竜を避難させた倫太郎は再び華焔刀を手に取り、刃を三毛猫斎の背に向けて振り下ろした。
『ギャンッ！』
　短い悲鳴の後、三毛猫斎は人の姿へと戻る。
『おのれ……何かちょっと楽しい記憶がありますが、今のは結構痛かっ――ふぐっ！？』
　言いかけて、三毛猫斎は腹部を押さえる。
「あれもしかして今何か言ってた？　だったらごめんね☆」
　固定砲台Krakeから白煙を立ち上らせながら、パウルは朗らかに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　「敵は猫好き」という情報をグリモアベースで得たものの、残念ながら猫を扱う技能は持ち得ないジュリア・ホワイト（白い蒸気と黒い鋼・f17335）だ。
　といっても落ち込む様子もないし、自信に満ちた笑みはいつもと同じである。
「まぁいいさ、普通に戦えばいいだけの話だからね。――列車が行く所、駅も必ずある。そして駅があれば、駅員も当然居るのさ」
　ジュリアの招集に応えて出現したのは、50体近く駅員の亡霊たちだ。彼らに手分けして樹海を捜索させ、『戸沢・三毛猫斎』の姿を探すつもりだ。やがて戻ってきた駅員の亡霊の報告を聞いて、ジュリアは直ちにその場所へ向かった。

　鏡のような銀色の瞳に樹海の色を映す真幌・縫（ぬいぐるみシンドローム・f10334）は、翼の生えた猫のぬいぐるみを抱きかかえながら何かを探していた。
　一度立ち止まってあたりを見回すと、ちょうど木に登ろうとしているリスを発見する。
「こんにちは、リスさん。ちょっと聞きたいんだけど、このへんに猫のお面を被った人がこなかった？」
　丁寧に頭を下げて笑顔を向ければ、リスはおずおずと方角を示す。
「ありがとう！　それじゃあっちに向かって出発！」
　木立に身を潜めつつ、縫はリスが示した方向へ進んでいく。
　猫が好きだという三毛猫斎に、縫はちょっとだけ親近感を抱いていた。けれど彼女が行おうとしている儀式は、サムライエンパイアに住む人々のためには何としても止めなくてはならない。

　重い足取りで、草野・姫子（自然を愛するモノ～野槌～・f16541）は富士の樹海を歩いていた。
「分霊体を使っておるとはいえ、なかなかに骨じゃな……」
　しかしここで休むわけにはいかない。山と自然の化身として努めを果たさねばと、姫子は背筋を伸ばす。
「ええと、次は――」
　概要を纏めてもらった半紙を取り出して広げると、そこに書かれた文字のひとつが信じられなくて、姫子は目をこすった。しかし何度見ても、確かに書かれている。
「猫？　猫じゃと？」
　毒気を抜かれたように肩を落とすが、そうしている時間も勿体ない。
「すまぬが、手伝ってくれぬか」
　姫子の周囲に、数十体の小動物が出現する。姫子は屈み、温かな口調で小動物たちに話しかけた。
「猫の声を探してもらえないじゃろうか？　見つけたら、私に報せるのじゃぞ」
　可愛らしい動作でうなずいた小動物たちは、一斉に散らばっていった。
　やがて小動物たちに導かれて儀式上を訪れた姫子は、ジュリアと縫の姿を見つける。
「これは奇遇。折角じゃ、猟兵同士協力するというのはどうじゃ？」
「うん、ぬいは賛成だよ！」
「ボクも賛成だ。では、先に仕掛けさせてもらうとするよ」
　二人に向かってうなずいたジュリアが、すぐさま三毛猫斎へと戦闘を仕掛ける。
「ヒーロー、オーヴァードライブ参上。覚悟してもらおうか」
『見つかってしまいましたか。それなら仕方ありませんね』
　三毛猫斎が尻尾を揺らすと同時に、100匹ほどの子猫が出現した。
『さあ、子猫たち。彼奴らを誘惑するのです！』
　確かに子猫たちは可愛い。子猫たちはジュリアに駆け寄ってきたり、ジャンプして飛びつこうとしたりする。
　しかしそれらは、駅員の亡霊によって阻まれる。実体がない亡霊にじゃれつく猫たちは、とても楽しそうだ。
　これで猫の妨害は完全に防いだ。
「ぬいもお手伝いするよ！　ぬいぐるみさんたち、お願いするね」
　颯爽と飛び出して召喚するのは、４０あまりの猫のぬいぐるみ。
『ね、ねこ！！！』
　三毛猫斎が吸い寄せられるように猫のぬいぐるみへと近寄っていく。
「よし、今だ！」
　素早く詠唱を終えた縫の前から、虹色の光が束となって三毛猫斎を貫く。
『ああ、わかってはいました――！』
　反転、三毛猫斎は手で猫のような形を作り出し、まるまる太った猫を空から落とし始めた。だが、１匹たりとも縫に当たることはない。
「どこに落ちるか、みーんなわかるよ」
　跳ね、着地し、ステップを踏む縫は、まるで木立の中で踊るようにも見える。
「しかし見事に猫だらけじゃな……ならば」
　そう言って姫子が取り出したるは、神の漬物が一つ、藁納豆。個体にもよるが、納豆の匂いが好きな猫はそれなりに多いという。
「ほら、こちらへ来るのじゃ！」
『にゃーん！』
　駆け寄る何匹かの猫たちを納豆の元に集めつつ、姫子は三毛猫斎の対処に動くことにした。
　落ち来るでっぷりした猫たちを巨大化した鎮守の帯で受け流し、ジュリアを守る。
「樹海ならば私の神力は無尽蔵。支えることなど造作もない！」
『くっ、儀式は失敗ですか……こんな可愛い猫たちにほだされぬとは、何者なんです――？』
　問われ、ジュリアは三毛猫斎に向かって4連詠唱ロケットランチャー「ML106」を構える。
「残念だったね。仕事に私情はもちこまないんだよ、特にヒーローはね！」
　白煙をたなびかせながら飛ぶロケット弾は、三毛猫斎めがけて飛ぶ。まさか猫の誘惑を断ち切る者がいるとは思わなかった三毛猫斎は成す術なくロケット弾を受け、消滅した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月06日 宿敵 『戸沢・三毛猫斎』 を撃破！