エンパイアウォー②~忌みの児戯
●サビシガリヤ、ホシガリヤ
――その刃は、元は五穀豊穣を願われ、奉納されたものだった。
あくる年、奥羽の地を記録的な飢饉が襲う。為政者の、農民達の努力も空しく降り注いだ豪雨は、作物を腐らせ、多くの人を…いとけない子どもを黄泉の国へと連れ去る凶事となった。
多くの父が嘆いた、多くの母が哭いた。麦が、粟が、黍が、稗が、豆が、何時の様に実っていたのならば、愛し子は今も笑顔の花を咲かせていただろうにと。
人々の心を慰める為、とある刀鍛冶はその持てる力を振り絞り、一振りの大太刀を生み出す。磨かれた鏡の如く曇りの無い刀身は、奉納されるや否や、曇天を晴らし晴天を齎したという。
――そのまま絶える事無く語り継がれたのならば。奉じ続けられたのであれば。それは過去を知らしめる伽話として親しまれただろう。けれど記憶はやがて薄れるもの。その謂れも、銘すら喪われた刃は神社の片隅で毀れるのを待つだけの身となった。その身に宿った心の嘆きは、刀を曇らせるには充分だった。
だから、きっと。刀は寂しかったのだろう。悲しかったのだろう。思い出して欲しかったのだろう。けれどそれは、邪悪なる者の呪法を帯びて大いなる悲劇へと姿を変える。
『おっかあ、おっかあ…痛いよぉ…苦しいよぉ…』
『おとう、おとう、寒いよ…だっこしてぇ……』
「ああ、あああああああ!茂吉!茂吉ぃぃぃ!!」
「おとよ!おとよ!何で、何でだぁぁぁぁぁ!!」
鉱物の輝きを纏う、見知らぬ誰かの子が我が子を喰らう。引きちぎられた喉から血飛沫が上がる。命が溶けて消える。やがて濁った瞳のままに立ち上がり、祖父母に、両親に、きょうだいに襲い掛かるのだ。
いとしいこを、だれがころせようか。怪物になろうとも同じ姿を、同じ声をしているというのに。
「おお、おお、ご覧下され「お館様」!貴方様の威光を忘れた者達に神罰が降る様を!」
「愚か者達の血がお慰めとなりましょう、さあ、さあ!」
狂信に澱んだ瞳を見開く剣士達に掲げられ、かつての神刀は凶刀へと姿を変えていく……。
●襲撃、惨劇
「ああ、忙しい最中に呼び立ててごめんね。来てくれて有難う」
元々鋭い瞳を更に凶悪に歪めつつも、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は笑みを浮かべて猟兵達を労う。
「皆も恐らく知っての通り、サムライエンパイアは現在戦争の真っ只中だ。今回はその渦中の一つ、奥羽のとある神社に跋扈するオブリビオンの討伐をお願いしたい」
言葉と共に振るわれた指先、宙に描き出された電子の窓に映し出されたのは剣士達に厳かに支えられた刀と多くの屍達。――それが子どもばかりだと気付いた猟兵の一人が思わず口元を覆う。
「気付いたかい。「あれ」は魔軍将の一人、安倍晴明が生み出した『水晶屍人』という存在なんだけど…何故か、この地域では「子どもばかり」を狙う。周辺の集落は相当数が犠牲になっている様だね。ああ、猟兵は咬まれても彼等の仲間入りはしないから、そこは安心して欲しい」
無論、大人達も屍人の手に掛かっているのだが、彼等は大人には決して咬み付かず殺めるだけに留める。代わりの様に幼い子ども達には咬み付き、蠢く死者の群れに加えているのだと言う。
「恐らく、これらを統率するオブリビオン――この刀が出した指令によるものと思われる。視えた範囲では屍人の数は大よそ300、剣士達は10人程かな。数が多いからこそ真っ先に刀を破壊したいところだけれど、先の屍人達や剣士達が妨害してくるから注意してね」
オブリビオンを討伐してしまえば烏合の衆、諸藩の武士達で充分倒せる相手ではあるが、ある程度は数を減らしておく必要があるかも知れない。無論、策を練ってオブリビオンをいきなり狙う事も難しくはあるが不可能ではないだろう。
「戦場になる神社は廃棄されて久しい様だね。辛うじて形を残しているのは本殿だけ、他は…火事でもあったのかも知れない。ただの更地になっているよ。…敵はきっとここで祀られた、所謂ご神体だったのだろう。本殿をまるで守るかの様に、外に布陣を敷いている」
あらゆる異能の行使に障害となる事はなさそうだ。そして、敵が本殿に執着しているのであれば、そちらを狙う事で隙が出来る可能性もある。
「子どもは、慈しまれ、守られなくてはならない。苦しみなく、笑顔でいられるようでなければならない」
自らの過去を思い出しているのか……掌に浮かび上がる三華を握り込んだ古狼は、静かに頭を下げる。
「苦しい戦いになると思う、けれどキミ達にしかお願い出来ないんだ。世界を、子ども達を、どうか救ってあげて」
伏せた顔は窺い知れないが、震える語尾が、握り締めた掌から滴る血が、その答えだった。
冬伽くーた
●このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
ご無沙汰しております、冬伽 くーたと申します!
二作目は遂に戦争に突入したサムライエンパイアよりお届け致します。自らを慰める為だけに子どもを狙う、邪悪なる大太刀の破壊をお願いします。
●成功条件
「御神刀」の撃破。
OPにも記載させて頂いている様に、屍人の討伐は必須項ではありませんが数が多い為、対策を取らないまま放置すると思わぬ損害を被る事になりかねないでしょう。戦闘能力自体はそこまで高くなく、単純に咬み付いたり、手に持つ農具を振るう程度です。
また、今作は戦闘描写が多くなります。戦闘スタイル、武器の詳細を無理のない範囲で構いませんのでプレイング内にご記載頂けると助かります…!(特に銃器類)
8/10までのシナリオ完結を目指します為、プレイング預かりは少数となる予定ですが、どうぞ宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『御神刀』
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POW : 不可侵の神域
全身を【囲う注連縄を強固な結界】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 神剣の加護を望む者たち
【レベル×1人までの、御神刀を信奉する剣士】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 魂振カミヤドリ
【『刀剣』に分類される器物だけに響く刃音】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
イラスト:烏鷺山
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠田抜・ユウナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
薄荷・千夜子
元は良き御神刀でしたでしょうに……
こうなってしまっては、清め祓うしかありませんね
神楽鈴である[操花術具:神楽鈴蘭]をシャンと鳴らし、UC【操花術式:花神鈴嵐】をUC効果範囲内の屍人を対象に使用
神楽鈴を鈴蘭の花に変化させ【全力魔法】【破魔】【属性攻撃:炎】【吹き飛ばし】で浄化の炎を纏わせた花嵐で屍人を攻撃しつつ御神刀へ
子供たちも救えれば良かったのでしょうが、もうここで終わらせることしかできないのが歯痒いですね
それでも、進まねばなりません
御神刀まで辿り着ければ短刀[夜藤]に同じく【破魔】【属性魔法:炎】で炎の加護を纏わせ御神刀の撃破を試みます
「これ以上、被害を出させるわけには参りません!」
灰神楽・綾
…「あれ」はただの倒すべき敵だよ
そう思わないとやってられないよねぇ…
まずは屍の数を減らす事に集中
その際、頭部、心臓部など
攻撃する部位や順番を個体ごとに変え
どうすれば最短で倒せるか調べる
…なるべく時間をかけずに殺してあげるのが
俺なりの慈悲ってやつだよ
敵の攻撃は避けずに[激痛耐性]で耐え
とにかくこちらも攻撃し続ける
敵の討伐具合、自身の負傷具合ともに
頃合かなと感じたら【レッド・スワロウテイル】発動
以降はダメージは紅い蝶に肩代わりさせ
飛翔能力で一気に本殿へ向かう
刀の側面に叩き込むようにEmperorで斬りかかる
戦闘スタイル:Emperorを主力武器、
Jackをサブ武器とした近接戦がメイン
時雨・時雨
やあ、こない場所に赴くんも久しぶりやけど、少しでも力になりとうてなあ
うちは戦うんは苦手なんよ
でも、癒やすことは出来るさかいなあ
うちの獲物はこの鳥籠と折り鶴や
鳥籠ひらいて折り鶴飛ばして、みなはん癒して回りましょ
【無償の愛を一欠片】に【優しさ】と【破魔】の【祈り】をのせて【救助活動】をするつもりや
前線出るより後方控えて、傷ついた猟兵のみなはんに癒やしを届けるんがうちの戦いかたやからねえ
もしもうちが狙われることがあるようやったら
鳥かご盾にして後方へ逃げるさかい、かんにんなあ
敵前逃亡とそしられてもかまへんよ
うちは癒し手やさかい、まずは自分が生きなならんのや
真馳・ちぎり
◎
何が悲しかったのでしょう
私には到底理解出来ない感情です
何が辛かったのでしょう
私には一切理解したくもない劣情です
私が祈るは神ただそれだけ
さて其れでは――貴方に神の祝福が御座います様に
私の武器はこの天秤ですが、殴るも良し祈るも良し
神の名の下に、敵は容赦なく殲滅します
慈悲?
子供だから、其れが何か?
せめて安らかに眠る事が慈悲に御座いましょう?
私は主に後衛から攻撃を加えます
UCは【冤罪符】を主に使用しましょうか
大物を倒すよりも周囲に蔓延る屍人の処理を行います
『2回攻撃』が有効であれば【三本の釘】で御神刀の動きに制限を入れましょう
白波・柾
子どもを、狙う、だと……!
彼らは集落にとって未来への希望であり心の安寧を保つよりどころだ!
それを狙うなど、敵はどれほど悍ましいのか
……大丈夫だ、俺の刃が感情により鈍ることはない
俺はなまくらなどではない―――それを、証明して見せよう
俺は水晶屍人に対する、主要敵またはボス狙いの猟兵たちの露払いを行おう
「戦闘知識」と「地形の利用」を併せて利用しつつ
各個撃破という目標に最も有効的に寄与できそうな個体を選択
「殺気」を放ちこちらに「おびき寄せ」て意識を向けさせてから、
「なぎ払い」を併用した【正剣一閃】で攻撃する
攻撃を受けそうならば「オーラ防御」からの「カウンター」かつ「シールドバッシュ」で反撃を行いたい
レイブル・クライツァ
◎
未来有る者の生きる道を奪うだなんて、無礼が過ぎるわね
1も300も、敵である限り排除する対象でしかないわ
礼儀作法として、ではないけれども数を相手にするなら薙ぎ払う方が効率的に良いから
巫覡載霊の舞で、厄介な数を纏めて相手するわね
…大丈夫、何も心配なんていらないわ
奪われた絶望の声が聞こえるのも
間に合わなかった事に対する葛藤も全部、全て
骸の海まで私が案内してあげるわ
奪う側に回ってしまう苦しい時間を、少しでも早く終わらせて
私は、敵を壊す為に作られた存在だから…こういう役割は得意なのよ
同情を誘う為に子供をこうしたのかもしれないけれど
体格といい経験にハンデのある兵を使おうだなんて発想は、見通しが甘過ぎるわ
逢坂・理彦
◎
かつての御神刀を壊すのは少し気がひけるけれど子どもを狙って水晶屍人にするのはいただけないな。自分の子供に弱い親なんて山ほどいるだろうし子供はもちろん尊い。
だからこそ戦わないと。
本殿に執着してるならまずそっちを狙ってみようか。廃棄されてるとはいえ神社を破壊するのは罰当たりな気がするけど。
UC【狐火・穿ち曼珠沙華】
三割ほど曼珠沙華を撃ち込んで反応したところを対応しようか。本体が釣れたら残りの曼珠沙華も遠慮なく打ち込もう。
薙刀・墨染桜で【早業・なぎ払い】
敵攻撃は【第六感】と【聞き耳】で【見切り】ついでに【カウンター】を決められれば僥倖ってね。
自身が何故御神刀だったのかその意味を忘れてはいけないよ。
アレクシス・ミラ
アドリブ、連携歓迎
戦闘スタイル:片手半剣と大楯による防御重視、盾役
…既に、多くの未来が奪われたのか
ここで終わらせよう
刀も、屍人も、その身を縛る力ごと…悲劇の運命を、断ち斬る
敵が多すぎて大将が狙いづらいなら
僕は皆を守る盾となり、道を切り開く為に戦おう
主に屍人の相手をする
光属性を剣に纏わせ、光を拡げるように範囲攻撃
存在を示し、敵の注意を僕に引きつける
味方に攻撃がいきそうなら、かばい、盾で受け止める
…だが、各個撃破では長期戦になりそうだな
ならばと【天聖光陣】を展開
御神刀には防がれるかもしれない
だが、道を切り開き、戦力を減らすには十分だ!
射程範囲の敵全てに光柱を放つ
…光を以て、導こう
君達に夜明けを
エレアリーゼ・ローエンシュタイン
◎
昔のお話なんてエルは知らない、神様の剣だなんてどうだっていい
昔の飢饉と同じか、それ以上か…とにかく、今はもう沢山の
何も悪くない子達の命を奪ったモノなんだもの
だったらもう、早く処分してしまうしかないでしょう?
布陣の外周を回るように、少しでも守りが薄いポイントを探すわ
近付く子達は鞭での【なぎ払い】や【部位破壊】
頭か首を狙えば止まらないかしら
数が多ければ【敵を盾に】
突破出来そうな所を見つけたら、そこを狙って【ランブル・キャンディ】
本殿目掛けて、一点集中で叩き付ける
言葉通り、壁ごと穴を開ける気持ちでね
…ごめんなさい
エルのキャンディは暴力だもの、あなた達への餞にはなり得ない
それでもどうか…幸せな夢を
ジュジュ・ブランロジエ
◎
メボンゴ=からくり人形名
白兎頭のフランス人形
これ以上の悲しみが生まれないように
そして屍人になった子供達に安らかな眠りを
行こう、メボンゴ
屍人へは火属性付与したUC白薔薇舞刃を早業&二回攻撃
荼毘にふす代わりに
せめて少しでも早く
剣士もなるべく多くを巻き込むように
御神刀へは属性なしのUCを二回攻撃
一度本殿のほうへ花弁の刃を向けると見せかけてから一気に剣士や御神刀へ叩き付ける
悲しみに寄り添う刀のはずがこんなことになってしまって悲しいね
もう終わりにしようよ
敵からの攻撃は第六感での察知や攻撃への予備動作などを見切り
武器受けで対処
武器受けの際、メボンゴから衝撃波を出して衝撃緩和を試みる
メボンゴガード!
セルマ・エンフィールド
……例えどんな姿をしていようと、元が誰だろうと、スコープの向こうにいるのは獲物だけです。
両手にデリンジャーを持ち、屍人の集団と剣士を【絶対零度の射手】で撃ち抜き、凍り付かせていきながら突破します。
……過度に損壊するよりはマシでしょう。
突破は本殿に向かって。きっとそこに御神刀はあります。
本殿が射程に入れば射程の長い本殿に向けてフィンブルヴェトで【絶対零度の射手】を。そのまま当たってくれても剣士がかばってもどちらでも構いません。
守る者がいなくなれば御神刀を狙い銃撃、氷の弾丸で撃ち抜きます。
過去がどうあれ、人に害をなすのであればただの邪神です。
フィンブルヴェト=イラストで持っている改造マスケットです
――それは深く、陰惨な夜であった。無数の蠢く影は燈篭に揺らめく焔に照らされても尚、月の如く白いまま。
立ち込める鉄錆は目前の屍兵達のみに留まらず、恐怖に、或いは絶望に目を見開いたまま事切れた多くの死者、彼等の名残であろうか。
そんな悪夢の如き者達に相対するは11の勇士。
300余りを数える敵兵に対して、言葉少なに戦術を共有し合うその数は決して多くはない。
けれど、彼等には覚悟があった。信念があった。
ある者は死者への弔いを胸に。
ある者は御主への祈りを胸に。
ある者は邪悪への憤怒を胸に。
ある者は邪刀への想いを胸に。
誰もが決して引かず、武器を構える。
「おお、おお、「お館さま」!貴方様の威光を否定する輩がここにも!」
「倒さねばなりませぬ、殺さねばなりませぬ!哀しみが軽んじられる事は、あってななりませぬ!」
「行け、屍の兵共!奴らを血祭りにあげるのだ!」
熱に浮かされた様な剣士達の叫喚に応えるかの如く、屍兵達は走り出す。刀は妖しく輝く。
――おっかぁ、おっかぁ……
――おとう、おとう……
――ひとりにしないで……
――たすけて……
――さむいよ……
戦場の幕は、悲痛と共に開ける――
●祈り奉ずる二花
「元は良き御神刀でしたでしょうに……」
「…けれど未来有る者の生きる道を奪うだなんて、無礼が過ぎる」
「…はい、こうなってしまっては、清め祓うしかありませんね」
新緑の瞳を憂いに翳らせる薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)を案ずるかのように、ちらりと目線を遣りつつも、再び眼前の敵を捉えたレイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)の眼差しは鋭く、険しい。
この場所に座した神とは異なる神を奉ずる千夜子にも、レイブルにも分かっているのだ。ここで手を抜く事は更に多くの人命が喪われるという事だと。
――シャァァン
故に、為すべき事は唯一つ。神に奉ずる音色は屍人達の足音が轟く最中でも、凛と響き渡る。多くの目がその御業を目撃し、吸い寄せられるように手を伸ばした。疾うに血の気が喪われた、小さな、小さな青い指はまるで縋る様に折り曲げられていた。
「これ以上、被害を出させるわけには参りません!」
UC「操花術式:花神鈴嵐」――朱藤に連なる花術は、神楽鈴を破魔の力を宿す鈴蘭の花嵐へと変え吹き荒れさせる。腐った肉を清める花はやがて大いなる浄化の炎となり、屍人達を焼き尽くす。
――あり、がと
――あったか、い
けれど、その火は激しいだけではなかった。まるで少女の心を移すが如く、温かく、優しいものであった。苦痛に歪んでいた彼等の顔が、崩れる中でも笑んで見えたのは――きっと気のせいではないだろう。
(それでも、進まねばなりません)
本当は救いたかった、そんな言葉を飲み込んで。千夜子は夜藤を引き抜き、戦乱へと身を躍らせる。
彼女の御業は数十の屍人を天に還したが、依然としてその数は多い。生まれた間隙を埋める様に雪崩れ込む敵兵は、千夜子の柔肌に咬み付かんと押し寄せるが、そうはさせじと白刃がその首を空へと飛ばす。
「同情を誘う為に子供をこうしたのかもしれないけれど…体格といい経験にハンデのある兵を使おうだなんて発想は、見通しが甘過ぎるわ」
何処か悲し気な紋を纏う薙刀――白黒と銘打たれた刃を操るレイブルの耳には、喪われた多くの者の声が木霊していた。その数は目前の数百や倒れ伏す屍すらも越えるかも知れない……その現実が娘の白皙に伸し掛かる。
――どうして、助けてくれなかったの
――どうして、間に合わなかったんだろう
もっと早く逃げれば良かった。もっと抱え込んで逃げれば良かった。何もかも振り捨てて、そうすれば、もしかしたら。
「…大丈夫、何も心配なんていらないわ」
死者の嘆き、間に合わなかった事に対する葛藤も全部、全て。
「骸の海まで私が案内してあげるわ」
自らの命すらも削り、神をその身に降ろす巫覡載霊の舞――レイブルが纏う者は、きっと彼女にしか知り得ないだろう。けれど、その力は刃の先にすら十全に通う。斬滅を宿業とする娘が舞えば、境界を告げるヴェールもふわりと追従する。まるで光と影、一対の存在であるかのように。けれどそれは、白には決して染まらぬ黒。どこまでも対を為すもの。
その舞が止むと同時に多くの屍人の首が飛び、青く濁った血を吹き散らす。今を、未来を脅かすのならば、葬る事を躊躇わない。その決意は数多の敵を退ける。
「行くのでしょう、あの刀の許へ」
「はい、援護をお願い出来ますか」
「任せて」
変わらず密やかなレイブルの問いに、千夜子は迷わず頷き走り出す。炎が舞う、刃が舞う。千夜子に追い縋る影を切り伏せるレイブルに怖れはない。そう、教えてもらったのだから。
●戦揚羽に守護の剣閃、支うは鶴
「…既に、多くの未来が奪われたのか」
「子どもを、狙う、だと……!彼らは集落にとって未来への希望であり心の安寧を保つよりどころだ!それを狙うなど、敵はどれほど悍ましいのか!」
「…「あれ」はただの倒すべき敵だよ。そう思わないとやってられないよねぇ…」
険しい表情を浮かべるアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)、怒りを露わにする白波・柾(スターブレイカー・f05809)、遣る瀬無さに頭を振る灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)……反応は三者三様であれども、犠牲者に想いを寄せる心持ちは一緒であった。
盤面を引っ繰り返す一手の為、敵の攻撃を敢えて引き受ける事にした綾には倒し易いと踏んだのか、多くの屍人達や剣士が殺到する事になった。必然、仲間を庇う事を視野に入れていたアレクシス、屍人の露払いを買って出た柾はその流れを食い止めんと共闘に至ったのである。
仲間達もそれそれ奮闘し、相手の手数を削ぐ事に成功しているが、如何せん今回の戦場は広大だ。猟兵達の多くが屍人の排除を優先する事に気付いた御神刀は、剣士達を通じて屍人達を統率し、分断を図る様にそれぞれの集団に当たる戦術を取っていた。
そうした中で、混戦とならずに済んでいるのは彼等の力量は元より、己を見据え、出来る事を最大限に生かしたもう1人の猟兵の功績であろう。
「やあ、こない場所に赴くんも久しぶりやけど、少しでも力になりとうてなあ」
「時雨、21時の方角から屍人達が飛び出してくるぞ!気を付けてくれ!」
「おおきになあ、柾」
時雨・時雨(私を忘れないで・f03831)は今回の参加者の中で最も戦闘経験は少ないものの、その争いを好まない性格そのままに仲間達を癒して回り、時に迫りくる屍人の攻撃を鳥籠でいなす事で時間を稼ぎ、前線を担う3人の負担を軽減する事に成功していた。戦事と地形を読む事に長ける柾の助言もあり、早々に危険な目に遭う事はなさそうである。
「綾、例の作戦には移行できそうか?」
「んー…出来ればもう少しダメージを受けておきたいのと、射線を開けておきたいかな」
「了解した、なら…」
――僕が道を切り開こう。
言葉と同時に屍人の引っ掻きを盾で弾き飛ばしたアレクシスは騎士剣――赤星に光を纏わせ、薙ぎ払う。光の軌跡は多くの屍人の水晶を砕き、その遺骸を塵に還す。盾を避け、その足を狙い口を開けた屍人は返す刃で打ち払われるのみ。
守るべき者の為、運命に抗わんと日々鍛錬を続ける青年の剣は、その年若さに反し鋭く、重い。そうして空に、地に刻み付けられた光は更なる浄化への軌跡に過ぎぬ。
「払暁の聖光を今此処に!」
青年の呼び声に応えるかの様に、陣は聖なる光を放つ。天聖光陣――秘奥と呼ぶに相応しいその技は光の柱を立ち昇らせ、哀れな死者達を更に光へと還していく。
「…光を以て、導こう。君達に夜明けを」
それは冥夜にあっても尚、輝けるもの。闇に沈んだ者達を引き上げる祈り。柱に沿う様に、多くの光が立ち昇る――その姿は、正に人が描く理想。蔓延る害悪から人々を守護する騎士、そのものであった。
「やるな、だが俺もなまくらなどではない―――それを、証明して見せよう」
アレクシスの光を背に、柾は地を駆ける。彼の慧眼は既に最適な道筋を見出している。屍人達は元が幼い子どもである事も手伝ってか、単体では知性は低く、ろくろく考える事も出来ない様子であった。ならば、それを統率するのは。
「刀より力を貸し与えられた剣士、お前か」
「…やらせはせぬ、「お館様」の悲願を邪魔するなぁ!!」
言葉と共に柾から発せられる殺気は剣士の心胆を凍えさせる。剣士には分かっていた、目前の義憤に駆られた青年は決して自分を見逃す様な甘さは持ち合わせていないと。
伝う汗は焦燥を呼び起こす。破れかぶれに刀を抜き放ち、上段の構えより斬り掛かるが稚拙な剣はあっさりと見切られ、その手より刀を弾き飛ばす。
「俺の一刀―――受けてみろ!」
極限まで研ぎ澄ました精神集中による神速の一撃――言葉にするのは容易でも、実行するのには気の遠くなる様な鍛錬を要する業が走る。
その一閃、天の極みを垣間見ん。
斬られた剣士は何が起きたか、把握も出来なかったに違いない。何処か呆けた表情のまま固まるも、その躰に緋の線が走り、やがてぐちゃりと鈍い音を立てて上体が地に堕ちる。吹き出す血には目もくれず、柾は歩き出す。やるべき事はまだまだ残っているのだから。
追い付き、自分を追って来ていた屍人を屠った柾に礼を返しつつも、時雨は自分の心には重く湿った霧が立ち込めているのを感じ取る。
――それはきっと、多くの人の涙雨で出来たもの。戦場に転がる遺骸、屍人達の中には、最早元の姿の判別も付かぬ程に損壊したものをも多く見られるようであった。
その凄惨な有様に潤んだ瞳を瞬かせては誤魔化し、時雨は破魔と、慈愛を込めた祈りを紡ぐ。それは生ある仲間達に届く確かな力。
大技を紡ぎ、精彩を欠きながらも尚戦い続けるアレクシスと柾の疲労を癒し、傷負う事に意味がある綾がそれでも決して倒れない様に言祝ぐ。
「かんにんなあ、敵前逃亡とそしられてもかまへんよ」
そう紡ぐ言葉に、一体誰が悪罵を返せようか。全てを覚悟し、それでも尚戦わぬ道を選ぶ事がどれ程の苦難を呼び込むか。それは、戦場に立つ者達が一番分かっているのだから。
「さて、そろそろかな」
大きく数を減らした敵、そして自らが追う傷。蝕む痛みを何処か遠く感じる最中、それぞれの天秤が釣り合った事を感じた綾は腕に咬み付く屍人を振り払い、愛用のハルバード――Emperorで薙ぎ払う。せめてもの慈悲を、と屍人達の弱点を探っていた綾が辿り着いた結論はシンプルだった――即ち、狙うのであればこれみよがしな水晶か、人体の急所である脳か心臓。
倒れ伏す者達は二度と動く事はない、それは的確な攻撃が――下された慈悲が正しく機能している事に他ならない。その姿は正しく、彼岸に魂を運ぶ蝶。
機は熟した。請う様に、願う様に、おいでと囁きが零れれば、彼に惹かれる様に彼岸花より尚紅い蝶が舞う。ひらり、ひらり。黒の揚羽に朱が混じる。羽搏き、向かわんとするは今なお周囲に幾人もの剣士を侍らせる刀の元。
「――もう、行くん?」
疑問の形を取りながらも、確信を帯びた時雨の問いに頷いた青年は地を蹴り、空を舞う。
●計略の狐火、壊乱の童話
「かつての御神刀を壊すのは少し気がひけるけれど子どもを狙って水晶屍人にするのはいただけないな」
「昔のお話なんてエルは知らない、神様の剣だなんてどうだっていい。昔の飢饉と同じか、それ以上か…とにかく、今はもう沢山の何も悪くない子達の命を奪ったモノなんだもの」
――だったらもう、早く処分してしまうしかないでしょう?
尖ったガラス片を思わせる様な、少女の潔癖さと繊細さを言の葉に乗せるエレアリーゼ・ローエンシュタイン(メロウマリスの魔女・f01792)に、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は飄然と肩を竦めて応える。その返しは是とも否とも取れ、老獪な年月を窺わせる。
仲間達と打ち合わせ、正面からの攻勢を任せた2人は敵の布陣をなるべく避けつつ本殿へと向かっていた。どうやら仲間達の陽動が功を奏している様で、空に届かんとする炎や光柱に気を取られているのか、散発的に屍人と遭遇する以外は順調に距離を詰めていく。その分、屍人と交戦した際は迅速な処理が求められるのだが。
「一番手薄なのは、やっぱりあそこかしら」
「奇遇だね、おじさんも同意見だよ」
2人の視線の先には布陣の左寄りの地。グリモア猟兵の予知の一端、御神刀の本殿への執着を戦略的に活用できないかと思案した2人は、夜闇に身を潜めながら、最も襲撃が容易である地点の割り出しを行っていた。
敵は中央――御神刀の周囲を注意深く固め、喪われた戦力の補充は陣の端から向かわせて補う形を取っている様だった。
「さて、おじさんはまず狐火を打ち込んでみるよ。エレアリーゼちゃんはフォローお願い出来るかな」
「ええ!大丈夫よ、いざとなればエルのキャンディーでどかん!と穴を空けてやるから!」
少女の力強い頷きに笑んだ刹那、理彦の周囲には200を優に超える火杭が浮かび上がる。狐火・穿ち曼珠沙華――彼岸に咲く華の如く鮮やかな緋は全てが理彦の思うがまま。その内の一部の燃え盛る杭が一斉に本殿に放たれる――!
――ドドドドド!!
男の狙い通りに着弾した火杭は、宿す力を存分に開放し、炎の舌を生み出す。ぱちり、ぱちり、最初は小さな火も瞬く間に大きなうねりへと姿を変える。少しばかり距離を開けている自分にすら伝わる熱気は、容易には消せないレベルにまで延焼している事を暗に伝える。
(廃棄されてるとはいえ神社を破壊するのは罰当たりな気がするけど)
そんな思いが頭を過ぎるが、柔和な、ともすれば優し気にすら見える理彦はそれでいて使える手を打つ事に躊躇はない。まごつく屍人達に残りの杭を差し向けながら、戦況を用心深く見守っていく。
「…ごめんなさい。エルのキャンディは暴力だもの、あなた達への餞にはなり得ない」
生者であったのならば、少女の駆使する飴は屍人達にとってとびきり魅力的に思えた事だろう。なれど、彼等は最早彼岸の住人。その口が噛み砕くのは人の血肉だけであるのならば、齎す隙は唯一つしかないのだ。
理彦の齎す焔の花に紛れ、蕾の少女は駆け出す。その接近に気付いた屍人達が、すかさずエレアリーゼに追い縋るが、茨を模した黒の棘鞭でその頭を砕かれ、くたりと力を失うに留まる。
空中でくるりと身を捩った少女の両手には――遍く大地を砕く、理彦に優るとも劣らぬ数のキャンディ・ケーン。
「甘ーい舞台で踊りましょう、壊れて砕けてなくなるまで!」
――それでもどうか…幸せな夢を
少女の祈りを宿す砂糖菓子の群れは土煙を立てて本殿を砕き、地に突き立つ。罅割れ、砕かれた大地にまた幾人かの屍人が呑み込まれるのが見えた。
軽やかに大地に降り立った少女に屍人の群れは殺到する――も、駆け付けた理彦の振るう薙刀・墨染桜の神速なる一断ちでばらばらと解けて消える。
「理彦!」
「エレアリーゼちゃん、お疲れ。頃合いみたいだ」
本陣がやって来る――理彦の鋭敏な聴覚は、どたどたと走る屍人に紛れた武人の足音を拾い上げていた。左右から襲い掛かって来た屍人を陽動を交え、突き放す。互いにぶつかり、もつれあった死者達を斬り捨てながら告げる言葉は重い。
「そう、ようやくメインディッシュの時間なのね!」
応えるエルの表情は楽し気な言葉を裏切り、複雑な笑みを浮かべる。――それは童話の終わり(フェアリー・テイル)。やがて来る境界を思わせる何かであった。
●火蕾と零度、その境界
「これ以上の悲しみが生まれないように、そして屍人になった子供達に安らかな眠りを――」
「……例えどんな姿をしていようと、元が誰だろうと、スコープの向こうにいるのは獲物だけです」
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は祈る様に、けれど瞳を翳らせる事なく白兎の淑女を掲げて。
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は冷静な言葉と裏腹に、両手に握るデリンジャーに力を込めて。
真正面から斬り込むこのチームにも相応の数の屍兵に加え、剣士達が差し向けられていた。セルマの絶対零度の射手は高速で氷の弾丸を打ち出し、あらゆる敵の動きを阻害する。更に踏み込む相手は抜き放たれたスローイングナイフで脳天を縫い止められ、その動きを止める。
「ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョンを!」
思う儘に動けぬ彼等には、ジュジュが柄に薔薇咲く銀のナイフを無数の白薔薇へと変える業、白薔薇舞刃が追撃を掛ける。
屍人は清く、無垢なる劫火の花びらをその身に受け、弔われるかの如く燃え盛る。それすら全力を投じて転げる様に躱した剣士は、死の淵でその判断を後悔する事になった事だろう。
「何が悲しかったのでしょう」
――私には到底理解出来ない感情です
「何が辛かったのでしょう」
――私には一切理解したくもない劣情です
「私が祈るは神ただそれだけ」
さて其れでは――貴方に神の祝福が御座います様に
それは敬虔な祈りの響きを帯びている筈なのに、耳にする剣士は震えが止まらない。厳かに聖句を紡ぐかの如く歩を進めるのは真馳・ちぎり(ミセリコルデ・f03887)。
先の仲間達はまた異なる宗派に属する彼女が身を包むのはシスター服。こてり、理解が出来かねるという様に首を傾げる様は、その服装と合わさり神秘的であり、可憐であるが――彼女がそれだけの存在でない事は、剣士の視線の先からも容易に知れよう。
その繊手が抱くのは冤罪の天秤――天秤が付いたメイスだ。自らを慈悲の短剣と称する彼女は信心深い信徒であるのと同時に罪人を狩る者である。自らが正しき者である、そう自認する彼女は躊躇いなくそのメイスを振り降ろした。
背後で響く鈍い音にジュジュは思わず首を竦め、セルマは冷静を心掛けて受け流す。後ろは振り向かない。その余裕がないという事もあるが「慈悲?子供だから、其れが何か?せめて安らかに眠る事が慈悲に御座いましょう?」――そう、ひしゃげた屍人を前に問い返す彼女の姿が目に焼き付いているからだ。
「大分数は減らせたかな…2人は怪我とか大丈夫?」
「問題ありません」
「私も支障はございません、ですが、邪悪な者達の姿が見えない様ですが…」
「本当だ、本殿にいる筈だけど」
襲い来る屍人を、剣士を退けながら見渡すがそれらしき影は見えない――そう思った刹那。
――ごう!!
大きな音を立てて、本殿が燃え上がる様子が3人の目に飛び込む。そして、仲間と刃を交わす敵影も。
「――いた!」
「どうやら御神刀自身は自分で動く事は出来ない様ですね」
「そこに付け入る隙がある…といったところで御座いましょうか」
未だ、剣士達に作り上げたであろう台座に鎮座し、異能で攻撃をいなす御神刀の姿にそう推論を立てる。――だが、それならそれでやり様はあるのだ。
「私はここからフィンブルヴェトでの狙撃を試みます――ご武運を」
「了解、気を付けてね!」
「セルマ様にも神のご加護がありますように…」
そうして、3人は果たすべき事を果たしに動き出す――結末はもう、直ぐそこまで見えていた。
●ホシガリヤ、サビシガリヤ
少しずつ、だけれども確実に。交戦するエレアリーゼと理彦に削られ、仲間達の手に掛かり屍人達は消えていく。剣士達との姿も最早ここにはない。
――ィィィィィン!!
その刀は美しくも、禍々しい意匠であった。神に捧げられるに足る風格を兼ね備えながらも、やはり纏う気配は色濃く黄泉のそれ。まるで苛立つかの様な音色を響き渡らせると、自らの手足となる信奉者を呼ばんと試みるが、
「おや、遅刻してしまった、かな!」
「まさか、パーティはたった今始まったばかりよ!」
高速での飛翔で意表を突き、刀の側面に叩き込むようにEmperorで斬りかかる綾にエレアリーゼは鞭で援護しながらも微笑んで返す。
構造上の脆さを強化された戦闘能力で叩き潰された刀には亀裂が入り始め、いななきはどんどんと高くなる。――刀は知ったのだ、目前の敵は自分を破壊するだけの力を持つと。
――イイイイイン!!
その身を震わせるかの如く揺らがせた刀は、今度は不可侵なる結界を纏う。遊撃の2人の攻撃を何度となく阻んだ力ではあるが、間近で観察する機会に恵まれた理彦の眼は誤魔化せない。
「その力、注連縄を起点に展開しているね」
「――なら、私の力がお役に立てるはずです」
言葉と共に駆け込んだ千夜子は再び神楽鈴を破魔の花へと転じる。燃え盛る花弁は注連縄を焼き尽くし、その異能を砕く。
「悲しみに寄り添う刀のはずがこんなことになってしまって悲しいね…もう終わりにしようよ」
「――我は正義を執行する者。我を汝を蔑する者なり」
最後に追い付いたのはジュジュとちぎり。白薔薇の花刃は2度に渡り吹き荒れ、入った罅を更に深める。そしてちぎりが向けた偽りの罪状は、3本の木杭の呼び水となる。
その隙を、セルマは見逃さなかった。2人の目配せを受けた少女の引き金は疾うに準備万全であった。狙撃地点を探す中で見つけた遺骸達、その有様を見た時から、ずっと。
「過去がどうあれ、人に害をなすのであればただの邪神です」
スコープ越しに見える刀は、小さな子供の様であると感じられた。けれど、ただ思うには刀は余りに罪を重ね過ぎていた。道は、最初から交わる事はなかったのだ、
――撃ち抜きます。少女の決意と卓越した技術は音速の氷弾となって、刀を貫く!
――イ、イイイ
御神刀が最後に発した音は、泣いているかのようであった。
「自身が何故御神刀だったのかその意味を忘れてはいけないよ」
諭す様な理彦の声は聞こえただろうか――何処か、解き放たれた清々しさを残しながら、刀は砕け、消えていく――
●戦い終わって
「終わった、か?」
「多分な…見ろ、屍人達の動きが変わっただろ」
「ほんまやなあ」
外に残り、屍人達をあしらい続けたアレクシス、柾、時雨の疲労は色濃い。後始末を引き受けた彼等の尽力もあり、最早まばらに点在しているに過ぎなかった屍人達も
糸が切れた人形の様に崩れ落ちる。……掃討には手間は掛からないだろう。
「結局、どうして子どもをわざわざ素体にしたのかしらね」
「ああ、レイブルもお疲れ様。…どうだろうな、復讐、単純に寂しかった。色々考えられるけれども」
ひょっとしたら、御神刀自身も分かっていなかったのかも知れない。そう応えるアレクシスに、そういうものかしらね、と返すに留める。
「何でも良いわ、夜が明けるならそれで」
その言葉通り、長き戦いは夜更けから朝焼けへと姿を変えていった。
多くの者が迎えられなかった朝。けれど、多くの者が迎える事が出来る朝を、猟兵達が守ったのだ。
成功
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