9
エンパイアウォー②~血風、屍染めゆきて

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー


0




●奥羽屍人戦線
 此度の戦争の舞台はサムライエンパイア。
 "第六天魔軍将"による征服を阻止せんと旗を上げた徳川幕府軍に協力してほしい。

 皆が知っているであろう前ぶりは簡潔に、ニュイ・ミヴ(新約・f02077)は続けて。
「みなさんにまず向かってもらいたいのは、こちらです」
 エンパイアの地図の上の方を示す。
 作戦は、奥羽地方で発生した大量の"水晶屍人"――肩から水晶を生やした知性の無い死肉と、それを指揮する黒幕の撃破。
 襲撃を受けたひとつの村落を通り抜けて、その先の原での激突となるだろう。首魁さえ潰せたならば、烏合の衆と化す屍人の殲滅は奥羽諸藩の武士達でも可能であると説明は進む。
「水晶屍人は噛みついた相手を同族に変質させる力を持つようです。みなさんは大丈夫でしょうが、村の方々は……もし、"半端な方"を見かけても、迷われませんよう」
 この異変を解決する。
 それだけが犠牲者たちに報いる道だ。
「おそらく騒動の大本は魔軍将のひとり、陰陽師"安倍晴明"。ですが戦力を貸し与えられたのか、この戦場では別のオブリビオンが指揮をとっているようですね」
 "修羅"。見目こそ羅刹のそれに近いが、力は現地民と程遠い。
 その一撃は山をも割り、地を砕く。破壊にのみ純然と特化した悪鬼。
 屈強な体躯に見合わず、否、だからこそか身のこなしまで軽いときた。体には水晶と異なり黒曜石が生えているため、見分けはつくだろうとニュイ。
「間合いには、どうぞお気をつけて。……それでは」
 乱戦、怨嗟渦巻く戦場が予想される。が、今日渡る者たちがこそ憂き世染め変える力を持つ。
 故に。
「八面六臂のご活躍、お祈りしています!」
 グリモアは輝く。

●血風、屍染めゆきて
 いくつも、いくつもいくつも夥しい数の足跡が重なりに重なって、草もまばらな地面は赤茶くえぐれている。
 砕けて折れた柱、樹木。藁葺きの屋根にまで飛び散った血の跡が、天災ほどの非情さで通り過ぎていった災禍を物語っていた。

 この一瞬にも腐り落ちつつある軍勢を連れ、二本角の生えた頭は機嫌良く左右に揺れる。
 コロセ。 ウバエ。 スベテ――、鬼の眼は嗤う。
 もがれた頭が地へ跳ねて、屍の足裏が平らに潰す。

 命乞い。悲鳴、飛沫いた血を孕む。
 酷くなまぬるい風が、吹いていた。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、戦乱の最中にあるサムライエンパイアへとご案内いたします。

●第1章について
 このシナリオは、『戦争シナリオ』です。
 1フラグメントで完結し、『エンパイアウォー』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 主戦場は村落を出たところの原。ボスは『修羅』。
 数千を超す『水晶屍人』を指揮しており、戦闘中は常に屍人による妨害が考えられます。体を使った方法の他、錬度の低い刀や槍、弓等。
 軍勢の中に飛び込み、蹴散らしつつ進みましょう。
 『水晶屍人』の戦闘力は低く、この戦いで全滅させる必要はありません。
 強行突破、やり過ごす、敢えて引き付けを担う……等、思い思いの戦法でボスの撃破を目指してください。

 村は壊滅状態で、無事な生き残りがいるとは到底思えません。
 また、屍人化した人間を救う術は現状、ありません。

●その他
 シナリオ公開時よりプレイング受付開始。導入はございません。
 戦争日程上、問題のないプレイングでもお戻しが発生する可能性がございます。
 補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 痛い、救いがない表現が多めとなる想定です。猟兵側も同様に。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
175




第1章 ボス戦 『修羅』

POW   :    蹴り殺す
単純で重い【山をも穿つ足技】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    殴り殺す
【ただ力任せに拳を振り抜くこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【巨岩をも砕く風圧】で攻撃する。
WIZ   :    怒り殺す
全身を【黒曜石の角】で覆い、自身の【眼に映る全てに向けられた殺意】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。

イラスト:保志ミツル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠光・天生です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エンジ・カラカ
なになに?頭の高いヤツがいるのカ?
賢い君、賢い君、行こう行こう。

コレは誘き寄せて支援に徹する。
まずは先制攻撃、賢い君の毒を。
コレの足は自慢の足。
賢い君はとても賢い。
敵サンの攻撃を鈍らせたら、属性攻撃ですかさず毒を仕込もう。

あくまでも支援。
この毒でトドメはささない。
苦しんで苦しんで苦しめばイイ……。
だってそうだろう?
村を不幸にしたのならその分だけ苦しむしかないンだよなァ……。
対価って知っているカ?

村のヤツは望むままに
きっと彼方に行く方が幸せなンだ。
なァ……そうだろ賢い君。
うんうん、そうだそうだ。

バイバイ、バイバイ
また明日。


ステラ・ハーシェル
死者の尊厳を踏み躙るか……【涙垂れ過去を穿】を発動する。ならばこの力、貴様らが蹂躙してきた民の力と知るが良い。重ねて【巨星顕現】を使う。

「行くぞ。私の名前はステラ・ハーシェル……貴様らに死を齎す星の名だ」

【残像・早業・騎乗】を足した速度を持って修羅目掛けて敵陣を駆ける。接敵次第【フェイント・早業・鎧無視攻撃・部位破壊】を持って攻撃を仕掛け、【見切り・騎乗・残像】で攻撃を回避を試みる。更に【殺気・恐怖を与える】を交え【2回攻撃】を行う。

「貴様の首を奪えるならば……寿命など幾らでも捨ててやろう」


イリーツァ・ウーツェ
【POW】
あれを。あの敵を、殺せば良いのか。
わかりやすいな。良い事だ。
私のやる事もわかりやすいぞ。
力任せに全てを薙ぎ払い打ち壊し踏み潰しながら
あの将を殴り、殺す。それだけだ。
ああ、殺意を感じる。敵意を向けられている。
知性の無い、純粋な敵意だ。
良いぞ。その全てが私の力になる。
憎み恨み呪い厭え。
害意一切を喰らい、我は邪竜とならん。
全ての憎悪を転換し、貴様等を殺し操る者の部下へと叩き付けてやる。
山より重い怨情を身に刻め、修羅とやら。


深海・揺瑚
これはまた、ずいぶんと獲物がたくさんね
倒せば水晶ゲット、はさすがに無理かしら
血みどろになって戦うのは趣味じゃないのよ
水晶屍人を片端から片付けておきましょ

少しばかり後ろから、メインディッシュに向かう猟兵の回りを中心に、前菜を狩っていくわ
水晶屍人から拾えたならその水晶を使って

あらあら、ほんとに数だけみたい
これだけいると狙わなくても当たっていくわね
面倒だし引きつけたりはしないけど
まとまってる辺りにだいたいの方向性だけつけちゃって
猟兵たちなら避けるぐらい簡単でしょ?
遠慮なく飛ばして、まとめて片付けちゃうわ


ロカジ・ミナイ
合戦かい?いいねぇ
こう見えて僕は合戦が大好きなんだ
鍛錬した分だけ楽しくて、運を拾った分だけ悲しい
此れが侍帝国の侘び寂びよ

合戦は一時だけの夢幻
後先なければこそ
全てをかけ得る仕事がある
しがない薬師の僕だけど
この時ばかりは己の中の修羅が顔を出すんだよ

ひとでなしが好物の大蛇と共に
血を呑む長刀でロカジ無双
最終手段は拳と逃げ足
こいつがたぶん一番つよい

治らぬ流行病の始末もまた薬師の役目
兆しも末期も須く滅すべし
すまないね、役立たずなりにまっとうさせておくれ
そんで、失せる病に喜ぶのもまた僕で

そして狙うは大将首だ
てんで笑っちまう様な
やべぇ病(代物)を持ってきやがって
どうした、大将も笑いなよ!合戦は楽しいねぇ!!




 一筋、轍を刻みつける。
 向かい風の中。唸りを上げるこの世界には異質に過ぎる"足"はステラ・ハーシェル(蒼き星雷・f00960)のもの。宇宙バイク・ヘール・ボップの黒々としたからだは、現地民が目にしたならなんと呼んだろうか。
 ――そんな想像すら虚しくなるくらい、此処にはなにもない。
「……下種が」
 噛み潰す吐息も置き去り最高速で駆け抜ける景色に、屍人軍団の最後尾が捉えられたと同時ぽつぽつ、光が灯った。
 光のようでいて女と進路を同じくしほぼ等速で突き進むそれは、刃。
「これはまた、ずいぶんと獲物がたくさんね」
 倒せば水晶ゲット、はさすがに無理かしら――硬貨で遊ぶに似てピンと指で弾き上げられた宝石が曇天を映す。僅かな光明、再び手のうちに収め踏み出した足元で水音。
 二輪が掻き混ぜた粘りつく空気に髪を払った深海・揺瑚(深海ルビー・f14910)。

 ギギ、

 肩から結晶を生やしたヒトガタが体を軋ませて、反応を見せかけたときには"後の祭り"。
 矢が弓から放たれるに近く。一段と加速をつけた珠玉の剣たちが的へ突き立っていた。
『ガッ』
『オ――オォォアア』
 どデカい雹が絶え間なく屋根に打ち付けるほどの騒音!
 汚泥じみた判別不能の叫び声。痛む声。過ぎゆくステラの手には刀の形をした恒星――二度と彼らが拝めぬ光を刹那に灯し、しずかに斬り通して、 先へ。
「行くぞ。私の名前はステラ・ハーシェル……貴様らに死を齎す星の名だ」
 顔も、名も知れぬ頭部が舞う。上体があとに崩れて落ちる。
 あまりにスピードの乗った騎乗攻撃は、ピアノ線で引くように軽快に肉を刎ね落として苛烈。まるで"ひと"を殺した手応えがない。
 いいや。彼らは既に人ではなく。敵。
 憧れのものに、力無き者の剣になる――いつかの誓いがただ前だけを向かせる。死者の尊厳を踏み躙るものへの怒りを代弁した嘆きの風は、棘同然鋭く"障害物"を貫いて、ステラの通り道に死を敷いて。
「ふむ。わかりやすいな。良い事だ」
 吹きつけてきたボロボロの骨片をぱしっと手に収め、開いたならば塵芥へ。
 イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は首を鳴らした。
 私のやる事もわかりやすい。 バイクが真っ直ぐに割っていった軍勢を、次は面で捲り上げる強烈な拳撃はなんてことのない呟きとともに。
『ギ、ァッッ』
「潰して。殺していけばいずれ辿り着ける。そうだろう」
 あの、貴様等を殺し操る者の部下まで。
 頭蓋を足蹴に越えて、跳んで、――精悍な長躯からの振り下ろし。直撃を受けた屍人の上体は文字通り消し飛んだ。周囲数体も巻き添えにもつれ合って外向きへ倒れ、爆弾かなにかを落とされた地点のよう。
「やあ、はじまってるね」
「なになに? この奥に頭の高いヤツがいるのカ?」
 湧き出てきた……という表現がぴったりだろうか?
 合戦大好きロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)と首なら突っ込むエンジ・カラカ(六月・f06959)には。
「エンジくんや、この生肉はやめときなよ。ところで君もイケるクチ?」
「アァ……そうだな、"おまつり"はスキ」
 がちゃがちゃがちゃ!!
 雑談に重なって響いたのは幾多の鈍ら刀の動く音。屍人らのものだ。生前、刀など扱う身分にあったのかすら定かでないほどままごとな振り、キィンと涼しい音で煙管が受け止める。
「だと思った」
 侍帝国の侘び寂びにのっとって、"修羅"をお見せしようか。
 煙を吐いて。悠々、も一度口に咥えるだけの余裕を以て引っ張り出した刀をロカジは抜く。否、もう断っている。
『ア?』
 お隣さんが半分にずれて崩れる事態を知覚できたとて、屍人には恐怖を抱く間もない。もとよりそんな、頭もない。そして更には物理的にもなくなった、エンジが糸で絡げたから。
「きのせい、きのせい」
 バイバイ、バイバイ。
 また明日。
 囁いて落とす。
 しゅるん、と、祝いの席の引き出物にするのしの如くに結んで解いて、ときには数体まとめて縊って。きっと望むまま。自らのそれだって分からないのに死肉の幸せを推し量ってやって、彼方へ行きたいだろうと、――そう。
「なァ……そうだろ賢い君」
 うんうん、そうだそうだ。  一人二役はいつだって、響き渡る絶叫にも邪魔されない。

 アッチかな、と。
 狼男がくんと鼻をひくつかせ見上げた先。
 屍人軍団の中あたりでも、ばらばらと足を止めるものが出始めていた。なにせ後方で仲間が空を飛びはじめた!
『ウゥ、あ……?』
 そうして腕をだらんと下げたまま動きを止めるということは、それだけ死に近付くということ。
 前触れなく。軌道上のいくつもを薙ぎ倒しながら、弾丸めいて飛んできた"仲間の頭部"は鋼球と化して胴にぽっかり穴を開けてゆく。
『――ァァァァアア!?』
 イリーツァだ。
 もいだ後に残った肉を明後日へ放り捨てる様は、欠片の慈悲もなく映るだろうか。
 元・民衆の間に渦巻く敵意は肌を刺すほど。……まじないに上塗りされたものであれ、望んだ感情が得られることに男はちいさく息を吐いた。
 "負"を糧とすユーベルコード、害意呑食・剣丹渦。
 力の昂りを感じるままに駆け出せば、置き土産程度の竜族の尾のひと薙ぎで脆い人垣は破裂する。
「どうした、敵はここだ。殺してみろ」
「あらあら、ほんとに数だけみたい。目もついてるか――怪しいものね」
 ドッ!
 竜人へ伸びかけた真白い手を、背後のご同輩へ縫い留めてしまうは揺瑚の輝くつるぎ。纏う海水が蠢くなら、弾みと重みで地へと押し潰して。
 我武者羅に突き出された槍へは宙舞ううちの宝剣一本、掴み、側面同士を滑らせて辿った手指を裂く。
 歩みを止めるまでもない。至ってスマートに。血みどろになって戦うのは、趣味じゃないの――唇に乗せた艶色には、断頭台の様相、血花咲かせ振り下ろすヒールのみが似ていた。
「すまないね。役立たずなりにまっとうさせておくれ」
 此度の災厄はまるで治らぬ流行病。
 並走するロカジが力振るう手が真実ならば、薬師として眉を顰めるのもまた真実。いましがた、女だったもの、を殴り飛ばした拳の痛みも、同様に。
 ぱきんと水晶が砕ける。
 そのひとかけらが地面へ届くかといったとき、あろうことか大地は割れてそこから大蛇が顔を出すのだ。人間まるまるひとのみにして前菜にすらならぬと、ずるり、這い出る七つ首が。
「悪いようにはしないからさ」
 申し訳なさげにもからっと晴れた男の、人好きのする笑みと蛇の赤い口が並んで。

『ギャッ、ヤ、』
『ヒイィィ』

 首が七つで口も七つ、お食事が捗るってな話。ああ、一足す必要もある。
 肉壁がざらりとさらわれれば。
 奥に二本角が、見えたから。
「見つけた」
 ヘール・ボップがぬかるむ土をひときわ激しく跳ね上げる! 衝撃波にのけ反った諸々を轢き倒しながら宙に駆けあがり、空転する車輪が次に踏みしめる先は――。
「待たせたな」
『フン。猟兵ドモカ』
 ――同じく闇同然に黒い、首魁……修羅。その片腕。
 身体能力は聞き及んだ通りか、寸でで盾として伸ばされたそれに深々タイヤ跡をつける。べきぼきと骨の軋む音がするが折れはせず、瞬時に逆の手が迫るのを刀でいなし、シートを蹴り跳び騎手は躱した。
 二者の間に立つ砂煙。
 それは直後、空振り大地へ突き立った鬼の剛腕が散らす。
 代わりに飛び跳ねるは石礫、
「お招きには、お礼をしなくちゃいけない。だっけなァ賢い君?」
 弾き落とすはエンジの赤糸。
 金属同士の打ち合うに似た音が響き、キンキンキンと鉄琴を奏でるほど耳障りだけは良い。だからといって惚け顔で見送っていたら、そこなる"彼ら"とお揃いに穴だらけになる他ない。
 欠け落ちた水晶たちを、次、地で迎えるは蛇ではなく水。
「それなら私にも答えてあげられるわ。イエス、だってね」
 世界が逆再生されるかのように!
 水に……"海"に触れたばかりの水晶がより鋭利に砕け。舞い上がり。磁石よろしく回転する。ぐるんと一斉に指す先は修羅の周囲へ固まらんとよろめいた屍人ら。
 魔法使いによる号令のひとつなくとも、正確に。
 進み――――。
 水晶の元のもちぬしに一矢報いさせてやりたいからなんて崇高な志でなくて、便利に転がっているから――無論、自ずから剣を取るものの方が好ましくはあるけれど――揺瑚の"蒐集癖"は、数多の生の残滓を穿ちて新たに掌中へ収めた。
 質は知れているが数だけはいる。
 即席の身代わりに屍人を引き寄せ、崩れたあとの肉塊を修羅が潰す。轍の走った腕をごきりと音立てて捻りながら、一同を見回して。
『奇術ゴトキデ、』
「まァだだヨ」
 その、"盾"が及びきらなかった足元。ひそかに貼り付いた宝石片。
 告げて、手を叩く狼男は種も仕掛けもございませんと言外にとっておきの芸を披露した。
 毒だ。宝石伝いに肌を通り抜け侵食する毒は、修羅がひとの身を持っているからこそ阻みようがない一手。
 仕上がりは先であろうがそれでいい。
「対価って知っているカ? 村を不幸にしたのならその分だけ苦しむしかないンだよなァ……」
 だからこそ、イイ。  じっくりゆっくり、苦しんで苦しんで、苦しめば。
『目障リナ』
「私の手土産は、こうだ」
 欠片払いつ剃刀じみて繰り出された足の間合いに飛び込む影は、翼広げた竜のもの。
 がぢっ、 不吉に鈍い音で、しかし一歩と揺らがず、イリーツァの五指がそれを半ばで掴みあげていた。
 遅れて吹き荒ぶ嵐が尾を翼をはためかせる。屍人なぞはその圧にすら四方へ散らされてゆくというのに、大地に靴底を沈めるほどに踏みとどまった男は微動だにしない。
「山より重い怨情を身に刻め、修羅とやら」
 そうして縛めとなる――刻にして一瞬。
 だが十分。
「ここで断つ」
 長い黒髪を躍らせて、前へ身を飛ばしたステラがミルファクを滑らせる。滴るまでに多くの紅色を浴びてきた筈の刀身はいま澄み渡り、一太刀目で捉えていた"隙間"へ、儘、吸い込まれて。
 ザンッ!
 修羅の身からはじめて血飛沫が上がる。
 斬り抜けた女を追って吹く、幾千分ものオブリビオンへのうらみの刃風は赤の傷跡を細かに幾重にも刻み付け、見届けイリーツァも低く踏み込めば渾身の力で逆側の腹を殴り抜けた。
『グ、 』
 後ろ髪を引き戻さんと伸ばされる手は――。
「おーっと、ちょいと後ろ失礼。……てんで笑っちまう様な、やべぇ病を持ってきやがって」
 振り返りきる前に、別のものに阻まれる。
 どっと背に重い衝撃。修羅の腹からはそれそのものが墓標のように、長刀の血ぬめる刃先が顔を出す。肩越しに覗く、  にたぁ。笑む双つの青は狐面みたいに愉快そうで。
「どうした、大将も笑いなよ! 合戦は楽しいねぇ!!」
 ――しかしつめたく射殺す。
 張り付く男が……ロカジが見切りの判断もはやく、あらよと伸び退いた直後を足元が波打ってゆく。

 殺気。

『――……面白イ』
 空気をも燃えつかせる殺戮の衝動が、地を割りあたりの骸を消し飛ばしたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
野伏りに蹂躙されたような風景ですね。故郷を思い出します。
こうやって滅茶苦茶にしてきたっけな…
あ。金目のものを盗ってないなら手温いです。

烏合の衆に興味はありません。元が人間だっても、介錯してやる義理もなし。
退避する時《敵を盾にできる》ワケですし。怨まれますかね?

最初から黒いヤツだけ狙います。
《忍び足》で稼げる時間はあまりないかな。可能な限り背後を取ります。
この一発だけ。
誰にも気づかれない《だまし討ち》が入ればいい。

【紙技・速総】

式紙が当たれば、それがアンカーになる。
場所を入れ替わって追撃。
だまし討ちの一発目。《暗殺》一手の二発目。
黒曜ごとき斬れない道理はありません。
頭ブチ割って殺します。


黒江・イサカ
昔、「ちゃんと毎日息を切らせ」って言われたんだ
それは“こういうこと”もそうで…
だからまあ、そう 息を切らせに来たんだ

狙いは水晶屍人だけ
数千いるらしいけど、僕、何人殺せるかしら
いいや、いいや、とにかくたくさん 僕が殺してあげなくちゃ
それをしに来たんだもの

【先制攻撃】【見切り】【戦闘知識】
戦うにはいい地形だね
障害物はあるし、ちょっと屋根なんて登れそうだし
人間じゃないものを殺すには向いてるよ
上下左右の動きに対応出来るのは、予測の出来る生き物だけさ
【炯眼】 僕に死線を見せておくれ


さ、息が切れるくらい一生懸命に
ナイフが尽きたら其処らの刀を、刀が尽きたら其処らの槍を
槍もなくなったら……ナイフを拾うよ うん


穂結・神楽耶
【共闘命令】狭筵様/f15055

狭筵様って、お仕事をデートに換算できるタイプなのですか?
それではあまりモテられないかと思いますが…
…ウソですよ、とか言った方がよかったです? 

此度は本命の打撃を担当致します。
露払いと索敵はお任せしましたので、どうぞご指示を。
…見つかりましたか? はい、ありがとうございます。

【朱殷再燃】──
《呪詛耐性》《オーラ防御》《激痛耐性》を盾に、血霧を突破致します。
屍人達は狭筵様の獲物ですので、霧の中の悲鳴には耳を塞いで。

狙うは首魁の首級ひとつ。
過去如きに、これ以上今を奪わせてたまるものですか。
疾く、焼き尽くします。骸の海に還りなさい。


狭筵・桜人
【共闘命令】穂結さん/f15297

血腥いデートですねえ。
いやいやモテない系とかどこかの誰かさんじゃあるまいし。
あーそういうの悪いとこうつってますねー。
ウソですけど!

指揮官までのナビゲートと露払いを引き受けます。
大将首を獲ってきてくださいね。

索敵。サイバーアイで生体反応を探知。
“腐りかけ”を除外。指揮官のいる方角を検出。
はい見っけ。【追跡】します。
標的の移動にも対応出来るようインカムを使用して適宜指示を出します。

それでは始めましょう。

――呪瘴、展開。
血霧の水蒸気は彼女の炎で蒸発することでしょうから
遠慮なく【呪詛】を重ねていきますね!

ほらほら女神様のお通りですよ。
通行の邪魔になる奴は撃ち殺します。




 故郷を思い出す。
 とっとと後ろにした惨劇に、矢来・夕立(影・f14904)は、野伏りに蹂躙されたような風景であると評した。
 金目のものを盗っていないなら手温い、とも。
「ああやって滅茶苦茶にしてきたっけな……」
「おや。やんちゃな頃の君の話、紅茶でもお供に聞きたかったのにな」
 回想なんて綺麗なものじゃないのなら、ああ、時を同じくしてよほど満ち足りた空っぽな笑みで帽子のつばを引いた黒江・イサカ(アウターワールド・f04949)と同じ世界が見れる筈もない。
 互いにほんの風の音程度の呟きを拾う。
 ――昔。
 "ちゃんと毎日息を切らせ"と、かつて少年だった青年は、そう教えられた。それは"こういうこと"にも適用されて……。
「だからまあ、そう。 息を切らせに来たんだ」
 骨張った男の手でナイフが躍る。
 ぱちんっと賑やかな声で鳴いて、二つ折りのからだを伸ばした彼らは嘘なんてひとつもつかない。正直に、実直に、指を離れたならあるがまま突き立つ。
 イサカの狙いはそうして脆くも頽れた水晶屍人のみ。何人――なんてことはどうでもよくて、だって、とにかくたくさん僕が殺してあげなくちゃ。
「いってらっしゃい」
「はい。――いってきます」
 対して首魁のみを求める夕立を送り出す。
 君に決めた。  蠢く肉へとんとんとんとリズミカルに白羽の矢は立って、しかし選ばれたことに不安など抱かせぬまま次々、次々。ナイフが穿ちゆく最中へ飛び入る少年に足音はなく。
 すれ違い様に薫るものなんて鉄臭い風。
 ひとごろし(すくうひと)同士、そんな程度でいい。

「血腥いデートですねえ」
「狭筵様って、お仕事をデートに換算できるタイプなのですか? それではあまりモテられないかと思いますが……」
 まるで和気藹々としたおしゃべり。
 ところ変わってこちらはピクニック会場?
「いやいやモテない系とかどこかの誰かさんじゃあるまいし」
「……ウソですよ、とか言った方がよかったです?」
 本日のお弁当は血霧でこしらえた泡立つ生肉――、  狭筵・桜人(不実の標・f15055)お手製。溶けきらなかった水晶なら踏み割ってフレークだ。
「あーそういうの悪いとこうつってますねー」
 ――ウソですけど!
 口真似合戦にくつくつ笑えば呪い孕む瘴気は桜人の肺いっぱい、すかさず加える穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)の"隠し味"。
 朱殷再燃。
 蹴りつける地面が火種もなく燃え立った。大気中の血珠はジュウと蒸発し、入れ替わりにはらと火の粉が散る。
 焦げ臭く溶けのたうつ有象無象の輪郭がまだひとをやめきれずに手を伸ばす、その土気色を――触れず炎が、斬り払う。
「そうそう、道合ってそうですよ」
「ええ。……はい、ありがとうございます」
 重ねられた血色の霧に呑まれて行き先知れず。耐性を持たず並走する意識だって掠め取られそうだ。
 ただ、飛び散った肉片が他の個体へとぶつかる端から火を移してゆくので、ぼんやりと神棚に蝋燭が揺れるような、世界は朧な明るさをしていた。
 サイバーアイにて生体反応を探知し続ける桜人が展開した呪瘴にて路を開くから、神楽耶は炎を呼び駆けるだけでいい。
 止まらずいるだけでいい。
 "だけ"  握りしめる"己"が、呪の所為の他に重くとも。

 ――深々と突き立てられた長刀を、黒い腕が引き抜いて放った。
『面白イ、ナア、理外レドモヨ』
 鮮血は吹き出した直後には蒸気をあげて消える。
 鬼人の帯びる闘気が一段と高まった、そのときだ。 多くの肉片とともに弾け飛ばず、唯一、抉れた地スレスレからすくいあげる道筋でよく似た黒が舞い込んだのは。
 背の刀傷にひたり吸い付く。 鳥?
 とてもそんな生物にできる芸当じゃあない。
 ならば。
「実はそれ、はじまりなんですよ」
 ……、忍びの術の類。
 ――紙技・速総。
 刹那、アンカーの役目を果たした紙の鳥ごと刺し貫く雷花の一手。
 真横に引いてぢぎと骨と骨との間を潜れば脇腹へ抜け、揮い手、夕立が嘘のようにそこにいた。
『ナッ……、ニ』
 赤黒の双眸が見開かれて。
 見上げる夕立の瞳もまたくれない。血の色は熱を持たず、しかし、本物の灼熱は彼方より迫っていた。
 ゴォ!
 死に損ないどもを巻き込みながら咆える炎塊が間近に弾ける!
 ひといきに打ち立てられた火柱は修羅と咎人殺しを別つようぐるっと走って、輪を描いて。神の火はヤドリガミの女が遣わしたもの。辿り着いたひとの身が炎に染め上げられて揺れる、
 一瞬を。
 脇へ跳び、駆け、炎の渦へと突っ込む夕立。
 掴み盾にしたそのへんの人間だったものはたちまち灰へ。渦が開けると同時両手が空いて"計算通り"、撫で斬るかたちに振り抜いた斬魔の刃が相対す首から肩にかけての肉を黒曜石ごと削ぎ落した。
 炎に化かされたか。カウンターで突き入れられた修羅の拳は、わずかに左へ逸れている。
 ――心の臓なんて、暴かせなければ無いのと同じだ。
 迫る追撃の火球!
『チ』
 苛立たし気に足を振り上げる首魁。一拍のちを過ぎてゆく風切り音、そして質量。斜め前方へ身を転がして夕立はやり過ごし、代わって火の玉が砕け、小規模な衝撃波を湧き起こした。
 熱風が吹きつける。
「過去如きに、これ以上今を奪わせてたまるものですか」
 厭というほど知る、いくさばの風が。
 いざなわれるように。なにかに背を押されるように。跳ね飛んだ神楽耶は詰めた間合いで白銀の刃を引く。
「骸の海に還りなさい」
『女一匹ガ――笑止!』
 拳とかち合えぱ風景が歪む。
 すべて溶かさんばかり。勢いを増す炎は、娘の腕の表皮をもべらりと捲り上げ、
「ッ――ぅああああ!」
 煙上げる赤黒の肉が。
 その、奥の骨の白が。
 ……止まってはならぬと。力揮う手に一層の信念を乗せさせて、  遂げさせる。
『ガッ、 女ァ! 冥土ノ土産ニクレテヤロウ。貴様ノ命ナゾ、オレノ腕一本ノ値ダァ!』
「……腕、一本。っは、」
 圧し切られ、宙を舞う炭化した悪鬼の片腕。
 安い腕ですね。 脂汗すら失せる炎の中で神楽耶はわらった。希望を見た、人の子がそうするように。

 ひとつ。銃声が響く。

 肉体を限界まで酷使した異能大会の前には拍子抜けするほど、なぁんの変哲もない銃口の先が、細く煙を吐いていた。
「あれれ? もしかしなくても私、寝てたっていけてましたかね」
 これは損したなあ――桜人が大仰しく手をひらつかせるその視界で、いまこそ女の首を刎ねんと振るわれていた残る片腕が、真逆の向きへひん曲がっていた。
 肘の骨が砕けた、否、撃ち抜かれている。
「見違えるほど男前になりましたね」
 ウソですけど。
 敵味方何れへ向けた一声か続けざま、夕立の式が修羅とカミの合間に落ちる。たちまち炸裂したそれはちいさな爆弾じみて、爆風により二者をいささか強引に引き剥がし――。
「わー出た。どういう場面で使うのが正しいんですかそれ」
「特別まごころを込めたいときとか」
 本場ものだところころ笑う桜人へ、さらと告げる夕立。動かぬ両腕を盾に使えずいた修羅は煙のうちからゆらり立ち上がれば、深く長く、息を吐いた。
 しゅうう、う、と、空気の抜けるか萎む音。
『――イイダロウ』
 黒曜の角がシルエットを崩すほどに突き出す。
 砕けた肘も、落ちた腕も、覆い尽くして"組み換える"。
『死ネ』
 踏み出せば立ち昇る怒気。……けれども桜人ときたら、前髪をふわふわ揺らがせながらも前のめりになって値踏みするみたく顎のあたりに手を添えていた。
「あっはは。知ってます? それったらねえ、私らの界隈じゃフラグっていうんですよ」
 巨大化しかり暴走しかり。
 カタチこそ今時の現代っ子は、カラになったマガジンを手遊びしながら笑顔のままに血霧を呼んで。三本いただけるなんて、 神楽耶は折れぬ腕で構えた。

 いわば"奥の手"を使わせたのだ。一行が修羅の消耗を加速させる傍ら。
 軍勢から離れ村へと引き返すものたちを、ひとりの男が眠らせる。
 イサカにとって、よたよたとした"彼ら"を追うのは訳なかった。ちょーっと木の上なんかで見守ってやれば気付くこともなく背を見せるから。
「ご家族かな。一列に並んでくれてありがとう」
 そっと降り立って、添え、掻き切る動脈。
 炯眼。――、右にも左にも溢れている"死線"は街中で只人を前にしたときのそれと変わりなく、けれどイサカはひとりひとり丁寧に相手していった。
 ナイフが尽きれば刀。刀が尽きれば槍、果ては矢の一本……屍の手に余る道具をも使って、息が切れるくらい一生懸命に!
「はあ」
 濁った目玉を貫通して通り抜けた矢伝いに、腐臭漂う体液が滴って指を汚す。
 それを、うつくしいものを閉じ込めるみたくもう一方で撫ぜる。すぐに乾きはじめてぱりぱりと零れるいのちの欠片。
 何百、何千。 この手ですべて殺せたなら、どんなによかったのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
ヨハン/f05367と

みんな元々は人だったなんて……むごすぎる

ヨハン
強行突破するために力を貸して
今回ばかりは、無茶するな、なんて言っちゃ駄目だよ
あの鬼を殺さないと、犠牲になった人が報われない

次から次へと妨害されてやりづらい
討ちたいのは修羅なのに……!
でも私達が散らすべき屍人は数千じゃない、そのうちの一握り
扱いの下手な槍は余裕で【見切り】
妨害を目論む屍人達の間に敢えて入り、【範囲攻撃】

長期戦は不利みたい……
UCで攻撃力を強化
防御は捨て、【力溜め】も併用し火力を最大限まで高めたら
【捨て身の一撃】で修羅の首を狙う
足技は間に合えば【見切り】、難しければ【武器受け】で対処

誰も救えなかったけど、せめて――


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

……言われなくとも
力を貸すのは当然、無茶するなと言っても聞かないでしょう
やれやれと溜息吐きつつも、……思いが遂げられるようそのための道を考える

……犠牲者を悼む気持ちは俺には必要ないので

『焔喚紅』から黒炎を爆ぜさせる
<呪詛>と<全力魔法>で威力を高め
道を作ります、避けてください

細くとも修羅に続く道を作れたなら
『蠢闇黒』から闇を振るい、道に入る屍人の水晶を穿ち、進む

元より俺も短期が好ましい
隙を作るため、修羅の周りに黒刃を展開、【降り注ぐ黒闇】を浴びせよう
後は彼女に託し、その身が敵に裂かれぬよう闇を繰り防御に徹するのみ


リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎

嗚呼
櫻の故郷が、美しい世界がこんな
君の世界を、壊させはしない
君自身も傷つけさせはしない

櫻!勝手にとびだしていくなよ!
舞うように屍人を斬り殺し駆ける櫻宵を追う
駆ける君のためにできること
僕にはこれしかできない
歌唱にこめるのは櫻宵への鼓舞と無事の願い
「凱旋の歌」歌い刃を研ぎ澄まさせて
君への攻撃をオーラ防御の水泡で守り防ぐ盾とする
僕自身も泡で守って、櫻に僕を庇う手間をかけさせないよ
僕の櫻をみるな傷つけるな、手折るなんて許さない
歌う「魅惑の歌」
殺意も悪意も蕩かし縫とめる

その首を、櫻に差し出すといい
漆黒の殺意から、僕の櫻を守るんだから

はやくはねて、僕のところに戻ってきてよら


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎

美しい光景がなんてこと
あたしの故郷たる世界をよくも
清明も面倒なのを生み出してくれたわね

は!修羅!面白いじゃない!
ああよい香り
血煙の香りは昂るわ
破壊の悪鬼を斬り殺すなんてときめくわ
愉しいわ!
リィには手出しさせないわ
あの子が着いてこれるように道をつくりましょ
真っ直ぐ「鶱華」で屍人蹴散らしながらかけるわ

響く歌はあなたの証
大丈夫、リルがいるから幾らでも
けしてリルを傷つけさせはしない
刀に破魔を宿らせて、生命力吸収の衝撃波放ち薙ぎ払う
鍔迫り合いには怪力込めて
見切り躱して咄嗟の一撃、斬りこみ傷を抉り2回攻撃
痛みすらも心地よい
斬って潰して砕いて殴って―あなたの愛(首)を頂戴な




 軍勢は、俄かに統率を失いはじめて見えた。
 いたるところから水晶を生やした兵たちが迷い子のように空を見上げる。
 そのくすんだ灰空、きらりと光るものは太陽ではなく――。
 磨き上げられた槍の穂先。
 ゴッッ、と、大地を裏返しながら突き立つ投槍。着弾点たる元村娘が受け止めきることは到底困難で、数"枚"まとめて貫かれながら何メートルもを転がり滑る。
「――っ」
 泥と体液といやに煌びやかな水晶にまみれた肉塊。
 あとに空を滑り来たオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)は苦々しい面持ちで愛槍を引き抜いた。 ……呪いの結晶を、粉々に叩き割る。
 得物を、屠る以外で救えぬ無力をこそ握りしめすぎて屍人と変わらぬほどに白む指。
「みんな元々は人だったなんて……むごすぎる」
「オルハさん」
 触れて絡めるわけでも、あたためるわけでもない。
 だがヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は隣にいて、少女と同じものを見、同じ世界を受け止めた。声に顔を上げて、オルハは頷く。ヨハン。名を呼び返し、
「力を貸して。今回ばかりは、無茶するな、なんて言っちゃ駄目だよ」
「……言われなくとも。力を貸すのは当然、無茶するなと言っても聞かないでしょう」
 ――あの鬼を殺さないと、犠牲になった人が報われない。
 踵を返すや否や踏み出すオルハの一歩目に寄り添う姿で、影は躍った。焔喚紅と名を受ける宝石は道行きへ黒色の爆炎を手向ける。
「道は作ります。いつも通りに」
 花火以上に塗り替え天をも焦がさん大爆発とも、猛る娘のそれとも真逆の平坦な声だった。悲哀も、憤怒も、すべて包み消す夜闇の如くにそっと。
 ひとだったものが細かになって落ちてくる。
 我知らず、ヨハンがついた溜め息は渦巻く絶望へではなく彼女の身を案じて。
 犠牲者を悼む気持ちなど必要ない。血飛沫の伝う硝子越しに、見失わずいたい色などひとつきり。

 ――修羅。
 ――血煙のよい香り。
 破壊の悪鬼を斬り殺すなんてときめかずにはいられない!
 風が、吹いたろうか? うつくしい、季節外れのさくら花弁混じりの。
 ァ、ウ、と顔を見合わせた屍人たちが、なにかを欲するかたちに伸ばした手。その手指の先から順に包丁で微塵切りにしてゆく料理のように、すぱんと線が刻まれる。
 肘まで。肩まで。 頭のてっぺんまで。
 イダテンジンライ。
 誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)の通り道に艶やかな血の花吹雪。
「櫻! 勝手にとびだしていくなよ!」
 ばらばらと散る人体の合間を追って宙を泳ぎ進む人魚、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は、進むごとに強まる血の香りに眉を顰めた。
 綺麗だったはずのこの地。
 櫻宵の故郷たる世界。
 壊した悪を思って――傷つく彼を想って。
 身よりも遥かに早く届くものがなにか、リルは知っていた。
(「駆ける君のためにできること……、僕にはこれしかできない」)
 歌だ。噎せ返るほど苦く、ともすれば途切れてしまいそうな息をいっぱいに吸い込んで、溢れさせたならば願いはユーベルコードの奇跡を経て昇華される。
 凱旋の歌――希望、勇気を儚くとも唇に紡ぐのはひとえに、想い人の鼓舞と無事のため。
「ええ、ええ。大丈夫よリル、あなたがいてくれるもの」
 たのしい、タノシイ、愉しい!
 ……けれども。
 いつ"妖刀"に引き摺り込まれてもおかしくはない意識を此の岸へ繋ぎ止める声音だけは大事に抱え、彼への手出しだけはさせぬと剣鬼は唇を噛んだ。
 魔を滅す神聖なる一閃で薙いだ向こうに、赤く光る瞳を見たから。

「リィ!」
「オルハっ、さん!」

 櫻宵にヨハン、軍勢を散らしたそこで並び立つかたちとなった二者の声が重なり互いの相方を呼ぶ。
 からだはそれよりずっと早く動いていて。
 修羅が殴りつけた大地がぎざぎざと錘状の岩棘を生みながら地割れ起こして裂けるのを、影の刃と紅き刃が迎えて断ち割った。
「!」
 ちょうど進路上を進んでいたオルハ、リルも即座に事態を飲み込めば地を宙を蹴り"敵"の正面から逸れる。
「随分な歓迎だね。……いいよ。私も、会いたくて仕方なかったんだ」
 串刺しにせんと着地地点で兵より掲げられていたボロ槍の束を、重力味方に叩きつける三叉槍で砕いて一度に下ろさせる。キッとおもてを上げたオルハの緑こそが燃えるよう。
 腕を交差して槍を引き戻す所作でいくつもの頭を殴りつけ、跳ね飛ばしながら加速。すかさずヨハンが降らせた闇は後に続いて。
「ありがとう、櫻」
 人魚の尾鰭は硝子細工めいて繊細なまま保たれている。そのひと揺れまでもが歌声の質を高めるように、――宙混ぜればぽわりと、なにもない大気中へ湧き出る水の泡。
 いとし花の身へも届ける守護に己も身をひたす。
(「はやくはねて、僕のところに戻ってきて」)
 万一があったって手間なんて、かけさせたくないとの一心。 声が途絶えぬことに先ず無事を知る、こころのうちで胸を撫でおろした櫻宵は勢い殺さず修羅へと飛び込んだ。
「ねえ。あのこへ手を出す死にたがりさん。 あなたの愛を――首を、頂戴な」
「捉えたよ」
 そこに飛び来たオルハの刺突、ヨハンの黒刃が合わさって。
 羽根が、花弁が散って降る。 重みに修羅の肉体が地面を擦りながら後方へと圧し運ばれる。
『グ、ク――……カカッ、カカカカ!』
 くぐもった音は、しかし苦悶の呻きから高笑いへ。
 黒曜石に覆われた腕、だったものが削れながらも輝きを増せば超常の力で敵対者を押し上げる! ぼごっ、と、一段凹む地面から砂粒が舞って。
 地へ穂先を逃せば突き立て楔とし、冷静に体勢を整えるのがオルハなら、餓え、喰らいつくのが櫻宵。
「笑っておきなさいな、今際の淵にたっぷりと」
 一歩と退かず、跳ねられた刀身は一周躍って斜め下より斬り上げる。背を見せたほんの一瞬すら修羅の拳が穿つこと叶わずいたのは、強い抑止力を持つ歌声があたりへ満ちているから。
 魅惑の歌。 ……僕の櫻をみるな。 傷つけるな。 手折るなんて、許さない。
 ともに柄を握るようにリルの想いが添う。
 櫻宵持ち前の怪力もあった。混ざり合うふたつは剛力を誇る修羅にかち合う腕をなんと震わせて、それ以上は拳を先へ進ませず。
『無駄ダァ!』
「っ無駄だなんて、絶対に言わせない!」
 誰も救えなかったけど、せめて――。
 叫び突き立つ矢は、舞い上がり急降下をしたオルハそのひと。先に悪鬼の影を突いたそのとき、"スカー・クレヴォ"は完成していた。深く――、身の丈以上ありったけの力で首から胸を穿つ、ウェイカトリアイナ。
 衝撃にオブリビオンが後退る。
 生まれたのは微かな間隔だった。
 そうして、僅かな懸念をも掬い上げるのがヨハンの務め。
「仕事だ」
 喚ばうにひと呼吸。曇天をさらに夜へ近付け、黒き闇は降り注ぐ。オルハ、修羅。櫻宵にリル。すべての頭上にしとしとと、じくじくと。
 しかし地上へ届く頃にはどうだろう。一点集約されたそれは他の誰へも触れず、修羅の周囲にだけ秒針の如く整然と展開されていた。
『ヌゥン!』
 はじめオルハを打ち砕かんと風を裂いた鬼の右足が、合間に浮き出た影に触れる。
 そのまま薙ぎ払える"ただの靄"と踏んだのだろうか? ――だとするならば、目出度い話。

「喰らえ。 彼女よりも余程口に合うだろう」
 ずぐ。 黒刃に裂かれた……呑まれた骨からは黒曜石が削げ落ちた。腿、足首。脛よりはじまった侵食は雨天の大地のように、じわじわとだが急速に"まだら"を増やして。
『――ウ゛、ゥ』
「あーら残念ね。山だって砕けるんじゃなかったかしら?」
 結局、一度も魅せてもらわなかったままだわ?
 囁きもうつくしく咲う鬼のつるぎが、崩れに崩れた防御の合間を鮮やかに縫って裂いて、開いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
国のことはあまり良く分からぬが
この戦場は実に、単純明快
落とすべきは大将首ひとつ

つまり、それまで屍人どもは

――ならば

防御を固め、翼で飛翔
敢えて水晶屍人の目に入る様
弓は籠手で払い落とす
少々の傷には構うまい

修羅へと向かう他猟兵が見えれば
その背を追う水晶屍人の群れの中
地へ向けて方向転換
勢いのままに只中へと【竜墜】を叩き込む
散れ、有象無象

*万が一にも隠れていた無事な者が居た場合は抱えて空へ

子供の背丈や、無辜の民の面影を残すもの
俺は自ら望んで此処へ来た、詫びもできぬ
恨むなら恨み、呪えばいい
…故、もう眠れ

修羅へと到達、あるいは援護できる場合は
竜墜を以て、自身も地形破壊による余波も
攻撃を受け止める盾として


蘭・七結
壊れた村、さまよう屍人たち
ナユはとても、かなしいわ
愛しの国を悲嘆に染めるだなんて、いやよ

お相手は修羅、ならば
ナユのすることは、たったひとつ
そうでしょう――『かみさま』、
この国の、あなたの嘆きを、払ってみせる
首に連ねた、褪せた柘榴石に口付けて
〝かみさまの言うとおり〟

〝あなた〟を降ろした猩々緋で、重い足技を見切り躱して
破壊された地形を利用しながら、間合いを詰めるわ
手にするのは『彼岸』と『此岸』
生命を剥奪する力と、毒を潜めたもの
あなたが護り抜いた、ふたつの残華

ナユたちを阻む屍人も、修羅も
まとめて散らしてみせましょう
フェイントに2回攻撃を重ねて、戦場に舞って魅せましょう
どうか美しく、咲いてちょうだい


神埜・常盤
アンデッドの類は何度も見て来たが
コレもまた例に漏れず悍ましいねェ
此処で灰に還してやるのが彼等の為かね

此処は強行突破と行こうか
召喚した管狐の焔で屍人達を範囲攻撃
破魔宿す浄化の焔で燃やして仕舞おう

――いいかね、九堕よ
焔に巻くのは屍者だけだ、死体だけを燃やせ
生きている者はくれぐれも燃やすなよ
まァ、生存者が居る望みは薄いがね

僕は破魔の護符を広範囲に投擲して、屍人達の動きを封じよう
修羅の姿を見つけたら暗殺技能を活かして接近
此の腕が届く距離なら、影縫にて捨て身の一撃を
届かぬ距離なら影縫を投擲して串刺しにしよう

傷は激痛耐性で堪え、喪った体力は修羅を吸血して取り戻そう
蹂躙される側に成るのはどんな気持ちかね、君


花剣・耀子
望まぬいくさを無くしたかった。
ちいさなあたしと師匠は、確かにそれを望んでいたのにね。
これを見たら、何を想うかしら。

死人は何も想わないのよ。
何も想わないから、終わらせましょう。
行き会った屍人は斬り果たし、真っ直ぐ向かうわ。
無傷で済むとは思っていない。
首魁を斃すまで命が続けばそれで良い。

遅かった。足りなかった。間に合わなかった。届かなかった。
だから死ぬし、失われる。
そうなりたくないのなら、進み続けるしかないのよ。
知っているわ。

御幣と鞘代わりの布をはためかせて、風を読み避けながら。
避けられないなら、風すら割いて。

――あたしは怒っているの。
おまえ、いつまで首を付けているつもり?
頭が高いわ。落ちなさい。




 ――ガアァァァァァ!!
 響き渡ったそれは、まるで獣の咆哮。
 近い。
 御幣が、鮮やかに染められた布がはためく。花剣・耀子(Tempest・f12822)の所在をしらせるものは、なによりもまず、そのつるぎだ。
 呼び声に呼応するみたく低く唸る駆動音がこそ少女のクランケヴァッフェ・クサナギ。横へと薙いだ先の肉壁にジグザグとした歯形を残して喰い千切る。
 ……望まぬいくさを、無くしたかった。
(「ちいさなあたしと師匠は、確かにそれを望んでいたのにね」)
「これを見たら、何を想うかしら」
 大振りの力に華奢なからだは引き摺られ、踏み外したかに見えた、次の一歩も剣舞の最中。突き出された鈍ら刀をへし折って。槍なら柄から断って。
 ほんのちょっと水晶を生やしている他は、なんら自らと変わらぬ背格好の少年少女を叩っ切る。
 光の褪せたまなこは一度とて視線絡むこともなかった。
 みんなみんな、ただの死体。
 ――死人は何も想わないのよ。
「何も想わないから、終わらせましょう」
 顔を上げる。耀子の頬を飛び散った紅色が伝って、それを酷いにおいだなんて厭う感覚ももう、麻痺してしまうのと同じ。
 斬っても斬っても減らぬ腐肉の渦が押し寄せる景色に、ひとつ、影が差して。
 そうして風。 否、破壊そのもの――高空より舞い込んだジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は隕石めいて大地へと"墜ちた"。
「路なら開こう」
 ざざざざざざ、と一面の麦の穂を掻き分けるように人波が崩れ開ける!
 "着弾地点"で五指に鷲掴んだ頭はあらゆる過程を飛び越えて骨のみになっていた。それを立ち上がりざま地中深くへ押し埋め、ひとたびだけ瞑目。身を起こす頑強なる竜人に、一歩を引く雑兵どもはしかし二歩目といかない。
「アンデッドの類は何度も見て来たが……此処で灰に還してやるのが彼等の為かね」
 悼ましやと声が釘付ける。吟ずるように朗々と。
 そうして飴色のインバネスコートの襟を正す紳士然とした所作、神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)の周囲にぽっと湧いた人魂は、……人魂に近くゆうらり尾を揺らす火の神の加護受けし管狐らは、翔けた。
『オォォアア!』
『アグ、ッ゛、ゥゥゥ!!』
 幾筋と道に広がれば炎の海。
 ジャハルが砕いた肉片も、耀子が撒いた残骸も、破魔の熱量が彼方の岸まで連れてゆく。
「――いいかね、九堕よ」
 焔に巻くのは屍者だけだ、死体だけを燃やせ。
 ひと鳴きしたろうか。白の毛並みが任せておけと突き進むのに続くかたちで、引き摺るチェーンソー剣で轍を刻みながら耀子は駆け抜けた。
「感謝するわ」
「ああ、武運を祈るよ。また後で」
 小粋に二本指なんて掲げてやって。見送るは片や鷹揚、片や武骨な首肯限り。
 ふっ、と、宴の音に誘われるほどささやかな足取りで彼らの傍らへ歩み来た娘はまた別な、戦場に見合わぬ淡い微笑を湛えている。
 壊れた村、さまよう屍人。悲嘆に染まる愛し国。
「とても、かなしいわ」
 伏せた睫毛を震わせて。
 くちづける首元の柘榴石を祈りのかたちに指が包む。 蘭・七結(戀一華・f00421)。
「お相手は修羅、ならば。ナユのすることは、たったひとつ。 そうでしょう、」
 しずかに開かれた双眸は、紫に血のしずくを落としたかのような彩をしていた。
 ――かみさま、と。
 紡げば刹那、風の如くに掻き消えて。

 ゆめまぼろしの光景だ。
 残り香だけ微かな甘さでいるから、後を追わせぬ覚悟を持っていられるけれど。
「竜の君よ、見送るだけでいいのかい?」
「じきに続く」
 左右より襲い来る人波へ、同時に手を翳した常盤、ジャハル。
 遠くまで炎を届けに向かっていたはずの管狐はぽんっと主の前に現れて、なにか御用? と首を傾げるままに迫る腐肉を焦がす。
 ドーナツだとかの洒落た洋菓子をつくるみたいに炎は二人の周囲をぐうるり囲み、外へ外へ、外へ……弾かれた勢いで顔を上げたジャハルが、殴りつけた腕と入れ替わりにその輪へもう片腕を突っ込むまでが束の間のことだった。
「っ! まて、」
 いま。
 岩陰、炎の中に水晶を持たぬ幼子をみた。
 己の半分ほどの背丈しかない、ボロを纏った娘を。
 "生者は焼くな"との指示を受けていた狐火が男の腕を避けるべく揺れて、そうしてできた僅かな隙間にその人影は座り込んでいた。
『あつ、ぃ……いた゛いよぉ、おっかあ』
「――――」
 屈みこみ、肩に触れる男の血まみれた手が面を上げさせる。
 期待など、疾うに捨てた筈だった。この戦場を選んだ時点で。
 それでも――いつかあのひとが己を拾い上げてくれたように。
『ギ、ぅ、うゥ!!』
 と。 顔面の半分を"喰い千切られている"娘だったものが、儘、牙を剥いた。
 ぐらついた赤茶い歯が抜ける。脆い。脆いひとの子の精一杯のいのちの叫びは、竜の首筋を裂けねど最奥にはなにより――なにより。
「恨むなら恨み、呪えばいい。……故、もう眠れ」
 振り払いもせず、そっと抱き込むようなかたちに禿げた後ろ頭へ手を添えるジャハル。
 ほんの僅か。力を込めるだけで、熟れた果実同然にそれは弾け飛んだ。いままさに娘の肩へ突き出かけていた水晶がひび割れる、  呆気なく。
『あっ――あアアあ!』
『コノぉ、ひと殺しどもがァ!!』
 自らが焼け爛れたとて溶けかけの農具を振り上げる彼らは、ともすれば肉親だったのだろうか。
 しかしその抗いが通ることはない。
 如何に正しき叫びでも、正しくはない存在と堕ちたならば、清めの業火に巻かれるが定め。
「ジャハル君」
「ああ。――邪魔を、したな」
 九堕はたしかに約束を守っている。
 ごおと力強く、竜人へ届く前に一切合切は焼き祓われて。重ねて護符を放つ常盤が這い出るを縫い留めたなら、ああまったく酷く綺麗な、みちができた。

 遅かった。
 足りなかった。間に合わなかった。届かなかった。
 ――だから死ぬし、失われる。
「知っているわ」
 そうなりたくないのなら、進み続けるしかないと。
 チリリと頬をひりつかせる拳の風が、こびりついた返り血の名残を削っていった。低く身を倒し、包帯の切れ端をくれてやる代わりクサナギを振り抜きて巨腕を弾き上げる耀子。
 修羅は数多の傷を抱えながらも未だ二本の足で立つ。
 脚、と。そう呼ぶにはいささか削れ過ぎていた軸はコマにも似ていた。だから七結はくすくすわらって、御前様と至近で囁く白刃は"彼岸"。
「ナユとも遊んでくださらなきゃ、いやよ」
 花切り狭を閉じる風に、添わせるは"此岸"。 ――"あなた"が護り抜いた、ふたつの残華。
 この国の、あなたの嘆きを、払ってみせる。
 薄皮一枚ちょっきんと断つだけでも生命を奪い、毒を贈るには事足りた。先に墓守より受けた呪詛が身を廻りはじめたというのに、新たな劇薬を注ぎ込まれときに不規則に悪鬼の肉体は跳ね、軋む。
 入れ替わり立ち替わりに過る刃とその揮い手二人は花々の舞いの如く、柔よく剛を制すの諺を体現しながらすらりと身を翻してゆく。
『ド、ケェッ!!』
 七結目掛け突き入れられた足を払うように、耀子が駆動刃を叩きつければ悪鬼の構えが大きく崩れた。
「退くのはおまえよ。この世からね」
 ――あたしは怒っているの。おまえ、いつまで首を付けているつもり?
 そうね。 ドッ、と続けざま罅の走った肩口へ突き立つ白牙は神聖さを失って尚もうつくしい。手向け七結は、恍惚と。
「どうか美しく、咲いてちょうだい」
 蹴倒す。
 装束の裾が羽衣めいてふわりと広がり。
 接吻跡よりいくらも過激に踏みしめた顔面にくっきりとアトを残して、乙女が飛び退いた空間を舐める"甘くなさ"で裂傷だらけの指はクサナギを駆った。
 幾重にも刻んできた傷の深さはついに穴から向こう側の景色を覗かせる。
 大きく――、
『オ――オオオオォォ!!!! 殺セ! 殺スコロスコロスゥ!』
 のけ反るままに天仰ぎて雄叫びを上げる修羅。炎纏い宙へ蹴り上がりつつ、地獄の底から湧き出るかの怒号は彷徨っていた屍人らを呼び集めて。

 が、しかし。
「自ら所在を教えてくれるとは」
 化物が下に見ている猟兵の方が、幾倍も立派な耳と頭を持っている。
 翼で風を裂きながら低空に飛び来たジャハルが次々に跳ね飛ばしてきた肉塊がぼとぼと後に落ちて、戻れぬ選択の数々を彩るようだった。
 修羅ごと上から殴り潰すべく、降り立つ大地へ叩きつけし拳を覆う竜の鱗。
 舞い上がるひとくず。折れた矢、矢。
『ナァ!?』
 鬼が抉れ崩れながらも繰り出した拳は、そうした諸々の"かたまり"に阻まれぱあんと風船割りに興じる程度の成果しか得られずに。
 合間を縫って駆けた常盤の外套が赤く染まる。
「いやはやまったく」
 おどけた風に口角が上がった。袖から零れ覗く鉄製の時計針は串刺し刑にぴったりで、その通りに、飛礫を足場に踏み切ったならば我が身も顧みず間合いへ跳ぶ。
「蹂躙される側に成るのはどんな気持ちかね、君」
 よくみせておくれとでも言いたげに視線の絡む瞳を覗く。 どんと、深々刺し貫かれた刹那の、修羅のまなこには何が過っていたろう。
 ……驚愕? それが一番近かったろうか。
『コノ、オレガ』
 ――終わるはずなどないと。
 ボコボコ隆起しはじめる黒曜石は制御を失ったように身を裂いて突き出た!
 赤黒い液体はもう止められず、びしゃりと零れて同じ色に翳った大地を真新しくしとどに濡らす。
 衝撃波に押し戻される常盤の背をジャハルが止め、共にすぐ攻勢に転じる真横を三本の刃、携え七結と耀子は。
「刻限よ」
「頭が高いわ。落ちなさい」
 真っ向より、斬り結びて"破滅の予感"を"確定された未来"へ近付ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
黒曜の角あれど
…同族、とは違うようですわね
ふふ、あなた
随分と愉しそうなことをなさって
私も混ぜてくださる?
あなたの御首を以て犠牲者への手向けと致しましょう

高速移動で視認をさせず
見切りで常に相手の死角を取って行動
水晶屍人はやり過ごすか囮に使わせてもらいますわ
移動しつつも生命力吸収を載せた斬撃を打ち込み
じりじりとその命ごと削って恐怖を与えてあげる
あら、動きが段々と鈍ってきたのではなくて?
一瞬の隙も見逃さない
好機と見れば
二回攻撃の刃で御首をいただきましょう

本当は
義憤よりも大きい戦への昂り
血に酔うは羅刹の狂気
嗚呼、村人の皆様
ごめんなさい
どんなに取り繕っても
私とて悪鬼羅刹
血桜の下には骸が埋まっていますの…


ネライダ・サマーズ
水晶屍人の数が多いならこっちも数をぶつけてやる
俺は、他の猟兵が指揮官へ辿り着けるように屍人へ【荒海の追跡者】を
怒りは目を開けてるだけで湧いてくる
屍人の性質は地獄を作るだけだ
あんなもの、あってたまるか
残してたまるか
腹を立てた事はあるが、純粋な怒りを覚えたのは今日が初めてだ
だからお前達、こいつらを狩り尽くせ!

俺に向かってくる奴は杖でぶん殴って水鯱に放り投げる

半端な奴にまだ言葉が通じるのなら、目を閉じさせる
かけられる言葉はないから、手早く終わらせる
完全に変えられる前に、人間のままで逝けるよう
屍人への怒りを種にして、水鯱を呼ぶ
痛みも絶望も与えず、一瞬で
今の俺に出来るのは、それだけだからな


コノハ・ライゼ
"半端な方"ね
そーゆーのは「向くヤツ」が請け負った方がいいデショ

先ずは屍人に道を開けさせよう
攻撃の届くトコまで踏み込んだなら足元より即座に【黒電】喚び
稲妻に『マヒ攻撃』のせ視界内すべての敵に向け放つ

基本的には屍人排除に動き、首魁を狙う猟兵の邪魔をさせない
『スナイパー』で確と狙い『2回攻撃』で撃ち損じのないように
全部倒す必要ないとはいえ
残したって誰が喜ぶモンでもねぇし

首魁の攻撃は『見切り』躱し、避けきれぬ分は『オーラ防御』と『激痛耐性』で凌いで
コレも好機と『カウンター』で右目に仕込んだ「氷泪」から紫電を奔らせ『傷口をえぐる』よ
雷が首魁を捉えたなら『生命力吸収』
頂くのはアンタだけと決めてるンだ


冴島・類
血の匂い
同族を増やさんとする骸達
ようも…ここまで
奪い尽くしたものだ

此処は地獄では、ない
これ以上はと、想う分
刀抜き駆ける

屍人達は
瓜江手繰り、フェイントと残像交えた動きで撹乱、引きつけ
出来た隙を狙い
2回攻撃で破魔の力込め断つ
成り立ての半端、なものは
躊躇わず斬るものの…
攻撃受けようと
なるべく苦ませぬ致命傷狙い
見極め首を断つ

最低限の屍人を相手にしつつ
響く音に耳澄ませ
戦場注視、修羅発見次第向かう

接近戦だけとは見ず
間合い図り
薙ぎ払いで気を引き締き
他の猟兵が一撃を食らわす隙を作りたい

相手が拳振りかぶり
強烈な一撃を察知すれば
力抜き軌道見切り、その先に
糸車で受け、返す

嗤うな
奪った数には到底足らぬが
骸の海に、沈め


ペチカ・ロティカ
眠らないひと、眠れないひと。
ペチカはそれに、とばりをおろすの。
今は夜。おてんとさまが上にあっても、屍人は眠るべき、夜。
だからペチカはあかるくなって、影は大きく育つのよ

広げられるだけ、ひろげた影の手のひら。
遠くからその手を伸ばして、
水晶屍人ごとひときわ大きな修羅を飲み込もうと。
ずぶりずぶりと噛み付いて、絡み付いて
ねえほら、すこうし、目を閉じていて。(WIZサポート)




 空から落とされたかのような、三日月の軌跡は真空波。
 まだ距離もあるうち、二本角を目にした瞬間に短刀・枯れ尾花で薙いだ冴島・類(公孫樹・f13398)は屍もろとも吹き飛ぶ修羅を無言のうちに見遣る。
 抜けるほどきつく踏んだ足音はざりりと粉っぽく。
 ならば何の粉なのか、など、確かめる気も起きはしない。 血の匂い。同族を増やさんとする骸たち。
「ようも……ここまで。奪い尽くしたものだ」
 此処は地獄では、ない。
 翻す刀を、鞘に納めず抜き身のまま駆けゆく瞳は鏡面の如くに澄み切って。
『ゾロゾロトォ!』
 碌に受け身も取れず、傷に加え泥塗れになる悪鬼が地に拳を突き入れて漸く止まった先。剥き出しの背に、ふにんと柔くぶつかるものがあった。
「お互い様との言の葉も御座いますのよ、ねぇ」
 ひとの足。
 棒状の持ち物の先端に結ばれた桜花飾りがさやさや揺れる、角を生やした、影。
「ふふ、あなた。随分と愉しそうなことをなさって――私も混ぜてくださる?」
 振り仰いだそこでは装束の袖を口元に添えて、淑やかに艶やかに微笑む鬼娘と本物の月が未だ白く顔を出していた。
 あなたの御首を以て犠牲者への手向けと致しましょう。
 ――刹那。ヂッと空気が焦げ付いて。
 膨れ上がる殺気。
 即座に刀を拳を振るう千桜・エリシャ(春宵・f02565)と修羅は同時、火花に鉱石散る剣戟の音を奏でた。半ば足を縺れさせつつ飛び退くオブリビオンは一拍のち、踏みしめた筈の大地が己を包み込まんと蠢くことにもまた気付く。
 沼、だとしてもずっと底のない――。
「眠らないひと、眠れないひと。ペチカはそれに、とばりをおろすの」
 童謡でもうたうような声が、ころころと鼓膜を震わせた。
 悪鬼のもとへ漸く駆けつけた屍人第二陣が生気の無い顔で首を捻る。煙る戦場の中、視線は右へ左へそれから、うんと下へ。
「今は夜。おてんとさまが上にあっても、屍人は眠るべき、 夜」
 だからペチカはあかるくなって、影は大きく育つのよ。
 曇天にぼんやり明るいアンティークランタンを抱いたペチカ・ロティカ(f01228)はそれほどちいさな幼子だった。 ウバわねバ。コロさネば――我先にと転びでる屍人らの足元までもがぼごんと波打てど、まさか眼前のこのこどもが元凶とは思えぬほどに!
 老いも若きも男も女も、異形だって、まとめて食べちゃう"くらやみさん"。
 闇が、影がうんと腕を広げるから、ひとまとめにされて修羅と屍らは蟻地獄にでもはまった様相。
『ぁ、ゲェっ、 イヤ、イヤァ!!』
『グズドモガ、  散レ!』
 そして必死に屍は主へしがみつく。死にたくない、助かりたい、闇を恐れるは僅かなれどひとの習性残った個体だからか。歪な針山と化した剛腕が彼ら彼女らの頭を殴り落として黙らせるから、それは本当にもう、醜い有り様で。
 すこしの抵抗も見せずにずくずくと消えていった肉とどちらが見るに堪えただろう?
 ――などと。
 纏わるすべて秒で殺し尽くして悪鬼が宙に躍り出る。そんな束の間だって、はらぺこのやみは膝から先、すっかりもげかけだった両の脚をおいしくいただいていた。

 それでは、水晶屍人の第三陣は?
 答えはかんたん、いままさに"なくなった"。
 夥しい数の澄んだ結晶にその色を揺らぎを移ろわせながら、黒き稲妻と海のギャングが駆け巡る。
「――はァい、イラッシャイマセ」
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)。
「…………」
 ネライダ・サマーズ(アイギス・f17011)。
 将と兵との境に立ちふさがる二人の男。
 黒電はコノハの足元より放射状に伸びている。なにせこれは影だ。ちいさき狐の姿をして、痺れを与え狩りをする影。
 そうして"足"を奪われて倒れかけたものは、海中より芸術的なアーチを描いてブリーチングする本物と同じ、水で構築されし鯱がかぱりと口を開き喰らってゆく。
 違いといえば水面でなく地面に消えてかえることくらいで、荒々しさは使役するネライダの心模様を表すよう。
 キーはただひとつ、燃え立つほどの"怒り"。いままでに憶えのない純粋な憤怒。
 記憶力に自信はないくせに、屍人らひとりひとりの顔と最期とは焼き付いて離れない。
(「あんなもの、あってたまるか。……残してたまるか」)
 目を背けることだって出来る。が、ヒーローたる男はそれをせず。
 足は竦むんじゃない。いまにも腐った人垣を掻き分けて、たったひとつでも残る希望を探し出したくて駆けだしてしまいそうだ!!
 それでも今望むべきが我が身投げ打つ美談より、この地獄の連鎖を断つ我慢と分かるネライダはかなしいまでに"適格者"。
「だからお前達、こいつらを狩り尽くせ!」
 なれば突きつける杖が喚ばう鯱、その一体ずつがきっと、男の怒れる牙そのものであった。
(「"半端な方"ね。そーゆーのは、向くヤツが請け負うべきかと思ってたケド」)
 共に露払いを買って出た横顔をちらりと盗み見。ひどい顔しちゃってまぁ、心内で言葉零すコノハはごくごくさりげなく立ち位置を調整しながら、より深刻な症状のものを引き受けては屠っていた。
 複数混ざり合ったもの。
 人の言葉が上手なもの。
 矢鱈と綺麗な瞳のもの。
 ――タスケテ。聲にも、
「ご注文にゃ応えらんないヨ。ココ、ウチん店じゃないもの」
 等しく、くれてやるのは雷撃ばかり。

 広範囲に及ぶ遠距離攻撃を主体としたコノハ、ネライダの戦いは、多くを引き留めて逃がさない。
 だから時たま抜けたり回り道をしてくるものがいたって、こう。
「瓜江」
 千歳緑の指貫は全部で十。ばらばらに動かす類はピアノ弾きよりも器用に、背負い来た箱のうちで眠る己が半身を起こす。
 かしゃん、と、僅かな音だけが人ならざる者であると伝えるほど精巧なつくり。
 瓜江と呼ばれたからくり人形は影に溶け込む濡羽色をして、ふわりと舞い降りた先でひとつ頭を蹴り抜いた。 跳ぶ。
 反撃をと斬り付けた屍は数秒遅れ。裂くは残像のみならず、同様に獣以下の知能に成り下がってしまった嘗ての隣人と我武者羅に刃を振るい刻みあうのが関の山。
『ギィいぃぃ、ッたあぁィ』
『もモウい、 や』
 あのように浅い傷では死ねぬだろうに。
 痛むだけだ。
 からくりが惑わした後に続いて地を蹴り刃を滑らせる主は、あらゆる呪縛からひといきに"彼ら"を解き放つための致命の一手を求めた。
 深く、踏み込む必要がある。鈍らが己が肩を胸を殴りつけたとて、深く――短刀の先が首に触れるまで。
「案ずることは、ないよ」
 儘、刎ねる。
 断った骨の感触、鈍い痺れ、知らぬ貌して握り込む指には片割れへの次なる言伝だけ冷酷に籠っていれば、……いまは。
 足止めに真っ先飛び出した類の後方でやり合うのはエリシャとペチカ、そうして首魁。
『ツノガ生エタトコロデ、風除ケニモナラヌトハナ。アァ――貴様ラノ後ニハアレラ全テヲ殺シ尽クスカ。ククッ、喚キ声ダケハ立派ダロウ?』
「あら、動きと反対にお口は滑らかになっておいでですのね」
 くすりと戯れに"付き合ってやって"、エリシャは墨染の切っ先を突き入れた。鬼のかいなをも覆う黒曜の角をざりざりと砕き落として、同族とは異なる存在であると改めて感じるのだ。
 未だ刎ねたことはないかしら。
 だとするならば、素敵なこと。
 ごうと煮える殺意の波動にも一歩を踏み込んで追いかける、ただただただただ、見えぬなにかに酔い痴れるかのさくらの瞳は春宵深く。
『フン』
 失った脚だけではない、全身にガタがきて久しい修羅は決め手に欠け守りに寄る。ならば、優位を取れるは――。
 そうやって空へ逃れたつもりの胴をしゅるると巻き取るものは夜闇。あちこち穴あきだから、通して掴んで引き摺り下ろすのも楽々で。
『!? ニ、』
「くらやみさん」
 そう、楽々。 ずぶりずぶりと噛み付いて、絡み付いて。
 ――ねえほら、すこうし、目を閉じていて。
 ペチカが乞うと真っ逆さま! 手酷く大地へ縫い付けられた弾みで黒曜の角は折れた。三半規管なんてものを有するか定かでないが、とにかく縛めを裂き再び浮くには数秒を要して……。
 跳ね、そばへ"飛び込んできたごちそう"にすぐ駆けだすコノハを引き戻さんと伸びた無数の腕たち、その持ち主を、恵まれた体格任せに殴りつけるネライダのフルスイング杖がもと来た道へと弾き転がす。
「――行ってくれ!」
「ん。アリガト」
 飛ぶように前傾する獣が詰めれば数歩。土跳ね上げ、真上へと落ちながら拳を叩き込むコノハを僅かだけ左へ転がり避けて修羅は、笑みに口のかたちを歪ませる。
『死ネェィ!』
 もはや脚では軸に足らぬから、片腕を地面に突き刺してから繰り出される拳撃は異形のそれ。
 さりとて並の人間程度の尺はある。視線が絡む距離ならば、ちょうど頭を砕ける高さ――もっとも。
 その、人の身では到底割り込めぬほどの間合いに、割り込めるものがいれば話は別であるが。

「嗤うな」

 いる。
 はじめに赤の糸が空より降り落ちて。
 するりと身を躍らせるヤドリガミが、ひとり。
 側頭部に拳を"吸い込んだ"類のからだが大きく傾いだ。しかし完全には崩れ落ちず、中ほどで踏み止まる。あいた頭ひとつ分の空白を、修羅のものととよく似た豪速の拳が飛んだ。
『ギッ、ィ!? 貴様――』
 ユーベルコード、糸車。瓜江に"吐き出させた"類はぴんと強く繋ぐ糸を引き絞る。
「奪った数には到底足らぬが。 骸の海に、沈め」
「あらら。本日はナイト様が尽きないネ、役得役得――っと」
 もとよりカウンター狙いであったから、思わぬ助けにウインク贈ってまたたいた次の瞬間にコノハの右目からは紫電が奔った。
 化かし合いで敗ける気はない、そう。
『ア』
 崩壊しかけ、またからくりに組みつかれ逃れられぬ修羅の眼に同じ色を焼いて焦がして。留まらず、飛び入った眼窩より抉り駆け抜ける骨肉のうち。
「腹も減るって。頂くのはアンタだけと決めてたンだ」
『亜ァァ、ァ嗚呼ァァ アアアア』
 聞こえちゃいない、頭……というよりも脳を掻き抱き悶える黒鬼には。
 見下ろす桜花は音もなく降る。
「其れではお約束通りに、頂戴致しますわ」
 そのとき修羅の足元に湧き立った赤々とした闘気は未だ戦は終わっていないと告げたかったのやもしれぬが、それは永遠に解けぬ謎だろう。
 エリシャが舞った。
 回転を乗せた斬撃が、薪を割る風にぱかんと両腕ごと首を断った。
 残るからだは後ろへ数歩分、もがく風にのたうって。
 大の字に広がったあとはぴくりとも動かず、ひとと同じにゆるやかに土へ還るであろう残骸をペチカのくらやみが呑んだ。
「あなたはこっち。もっともーっと、昏いところで、眠るのよ」
 その行いはまるで、汚泥に、消し炭に、粉微塵に消え自然の摂理に従うさだめすら奪われた"彼ら"の怨嗟をなぞるのようでもあったし。
 いとけなくひとつの悪意もしらず灯る、モノが故のようでもあった。

 事実上のカシラを失った烏合の衆は逃げ出すでも襲い来るでもなく、ただしんと佇んでいる。
 殺戮衝動が教え込まれたものならば、このまま放っておいたって――どこからかそんな希望が湧いてしまう前にコノハは影を、来たときよりずっと長く引き摺って歩きはじめた。
「全部倒す必要ないとはいえ、残したって誰が喜ぶモンでもねぇし」
 ね、と誰に納得させるためでもなく紡いで黒電。
 働き者の狐が再びあたりへ広がる中、やっとひとりでお使いができるようになったんじゃないかってくらいの童を前にして。屈みこむ茶髪の大男。 肩に水晶は、嗚呼、ある。当然だ。
「よく、――……」
 頑張った? 待っていてくれた? 常みたくに撫でてやってかけられる言葉なんて持たぬこと、ネライダは悟っていたから杖が曲がらんばかり力を込めた。
 痛みも絶望も与えず、一瞬で。ちいさなそれを頭から喰らい、水鯱は主の手が接した大地へと染み入って。
 とぷんと海が失せればそこにはじめから何も無かったかの如く。
 こんな、ことが。
「許されていいわけがあるか……!」
 けれど幼子のように純真に、堰を切ってあふれる感情。握りしめた拳が同じ土を殴った。
 すべて理解していた。していても――震える肩は偽れぬネライダの向かいでは、足の踏み場もない屍の山を歩みエリシャが曇り空を見上げていた。
 いくさの匂いが、未だ絶えない。
 昂る心――本当は、義憤よりも。
(「嗚呼、村人の皆様。ごめんなさい」)
 どんなに取り繕っても、私とて悪鬼羅刹。血桜の下には、骸が埋まっていますの――。
 "次"を求めて飛び降りたそこは、赤。
 水たまり、跳ねた飛沫がまた大気に溶けて。

 烟たく苦く甘く饐えた。
 酷くなまぬるい風が、吹いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月06日


挿絵イラスト