エンパイアウォー②~夢境の華
●夢境或いは無響
寛永三方ヶ原の戦いに勝利した猟兵達が手に入れた『第六天魔軍将図』そこには8つの名前があった。即ち、第六天魔軍将の名だ。
三方ヶ原で討ち取った武田信玄以外の『第六天魔軍将』達が、サムライエンパイアを征服せんと、一大攻勢をかけてきたのだ。
「だが、奪われようとする者もただ奪われ蹂躙されるわけではない。徳川幕府軍は、この国難に立ち向かう為、諸藩からの援軍もあわせ幕府軍10万招集したーーという話は、君たちであれば耳にしているかな」
集まった猟兵達にそう告げたのは、白の司祭服に身を包んだ男であった。結い上げた長い髪を揺らし、にこり、と微笑んだスティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は告げる。
「幕府は総力を挙げ、織田信長撃破の為に動き出した。ーーまぁ、そうなればあちらも当たり前のように阻む為の動きを始めるということです」
軍勢を抑える為には、軍勢を。
危機に陥っているのは、奥羽諸藩だ。
「奥羽地方で大量の『水晶屍人』が発生しているようでね」
『水晶屍人』は『魔軍将』の一人である陰陽師『安倍晴明』が屍に術をかけて造り出した、肩から奇妙な水晶を生やした動く屍だ。
「死者に鞭を打って仕事をさせるのは、如何なものかとは思うのだけれど」
何にしろ、とスティレットは告げる。
「この『水晶屍人』によって奥羽諸藩が危機に陥っているのは事実でね。戦闘能力こそ高くは無いけれど、『水晶屍人』に噛まれた人間は新たな『水晶屍人』となってしまう」
さて、こうした時、と司祭は告げる。
「軍勢となった彼らが進み続ければーー当たり前のように、屍と死が増えていくでしょう」
『水晶屍人』の軍勢は『安倍晴明』配下のオブリビオンが指揮している。各地の砦や町を落としながら、江戸へと向かって南下してきているのだ。
「もし、江戸に迫られるようなことがあれば、幕府軍は全軍の2割以上の軍勢を江戸の防衛の為に残さねばならなくなる。本命との決戦を前にして、ね」
そんなことが無い為にも、とスティレットは猟兵達へと微笑を浮かべた。
「君達に集まっていただいたのです」
『水晶屍人』の軍勢を指揮する、オブリビオンを倒す為に。
●時花神
「敵の総数は不明ですが、幸い『水晶屍人』は先に説明した通り戦力としてはさほど高くありません」
数百、数千という軍勢であっても取り囲まれ、命を失うことだけは無いだろう、とスティレットは告げる。
「ですが、数における視界の強奪は存在している。君達には『水晶屍人』の軍勢の中に飛び込み、彼らを蹴散らしながら指揮官であるオブリビオンを探し出し、そして撃破していただければと」
猟兵は噛まれても『水晶屍人』にはならないが、傷としてのダメージは受ける。
無傷ではいられないだろう。
「ですが、その先に目指すべき司令塔は存在する」
どのように『水晶屍人』を防ぎ、どのように突破していくのか。どのように指揮官を見つけ出すのかは鍵となるだろう。
「あぁ、それと。敵の指揮官にはどうぞお気をつけを」
彼の纏う気配は、最初にその姿をみた時ーー踏み込んだ瞬間に、一種の幻のような「夢」を見せるのだと、司祭は告げた。
「嘗ては神と呼ばれた、祀られた存在であるが故か。嘗ての流行り神は、相対するものに悪夢か、忘れていた、或いは自らが自覚さえしていなかった幸いの夢を見せる。ーーそれが悪夢であれ幸いであれ、あまり浸ってはいけないよ」
過ぎ去った日々に、可能性の中に何を見出すとしても。
「君たちが今生きているのは、この地、この時なのだからね」
司祭めいた言葉を一つ口にして、司祭はふ、と笑った。
「真実、骸の海へと還る時まで、かの神は時花神は忘れられたく無いとその力を振るい続けるのでしょう。説得も不要。この地にて指揮官として固定されたかの神に、応じるだけの理性は既に残されてはいないのですから」
ならば打ち倒し、死者の行軍を止めるだけ。
「まぁ、駆け抜けて倒して来てねってことかな」
最後にころり、と司祭めいた口調を零し、スティレットは笑った。
「生きて、戦い抜いて帰るべきだ。君たちは、明日をも生きるのだから。さーて、案内しようか。運命の至る地へと」
しゅるりと姿を見せた蛇が、青の光に寄り添う。転移の淡い光が、猟兵達をーー包んだ。
秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●プレイング受付
8月3日8時31分〜です。
締め切りについては未定ですが、決定次第MSページ、告知アカウントでご連絡させていただきます。
●ボス戦
敵は『水晶屍人』を指揮するオブリビオン:時花神・紫翡翠。
POW・WIZを攻撃に使用時のみ、接敵時に幻を見ます。
POW……悪夢。
WIZ……忘れていた、自覚していなかった幸せな夢。
戦闘時は、プレイングで使用したのと同じ能力値の戦闘方法で反撃してきます。
SPD選択時は、幻は出現しません。
夢に攻撃能力(ダメージ判定)はありません。
どのように『水晶屍人』の攻撃をどのように防ぎ、どのように群れを突破するのか。
また、どのように群れの中からボスを見つけるのか。
あたりも重要となってきます。技能の羅列ではなく、明確な方法の記載がプレイングにある良いかと。
●猟兵は『水晶屍人』に噛まれても『水晶屍人』にはなりません。ダメージは受けます。
それでは皆様、ご武運を。
第1章 ボス戦
『時花神・紫翡翠』
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POW : あなたにゆめを
【悪夢を見せる催眠作用のある衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : わすれないで
【時花神に触れたものに病と】【戦闘終了まで癒えぬ疼痛と】【精神を蝕む衝動を与える力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : われこそが
【幸福】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【夢を喰らう花々】から、高命中力の【蔓の触手】を飛ばす。
イラスト:龍烏こう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠無供華・リア」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●水晶屍人
屍の行軍は、大地を染めるかのようであった。数千、数百という数ともなれば大地の色彩など失って久しく、群れというよりはいっそ、彼らは壁のように猟兵達の前に存在していた。
「ぁあぁ……」
「ァ、ァアア」
落ちる声は、言の葉としては意味をなさず。
知性を持たぬ水晶屍人は、肩から生えた奇妙な水晶に光を受けながら進む。ひかかった服は、この地のものであったのか。それとも二つ前の町のものであるのか。役人めいた上着は血に濡れ、またある者は足に鎖をつけたまま前へ、前へと進んでいた。噛みつかれ、取り込まれた地はどれだけあったのか。
これ以上、屍の行軍を許すわけにはいかない。
水晶屍人の軍勢の何処かにいる指揮官オブリビオン・時花神・紫翡翠を探す為に猟兵たちは駆け出した。
ヘンペル・トリックボックス
静かに無駄なく迅速に。参りましょう──
極力消耗を減らすため、屍人を避けて統率個体の【暗殺】をメインに行動。
開幕UCを発動し、【目立たない】ように【忍び足】を駆使しながら戦場全体で【情報取集】。敵の陣形や密度、尖塔の痕跡等を【戦闘知識】と照らし合わせながら敵将を【追跡】、発見次第戦闘を開始します。
見るであろう幻は、まだ若かった頃の幻影。親友二人と桜の下、三人で語り合ったいつかの記憶。それと連鎖して思い出されるのは、炎上する都と砕けた夜空。親友との決別(ころしあい)。
──嗚呼、まったく。愛しくも厭わしい記憶だ。
手持ちの金行符に【破魔】の力を籠め、斬撃【属性攻撃】で過去の光景もろとも切り捨てます。
●永遠の動く影
「ァア……」
「ぁ、ぁあ、あああああ」
骸の行列は死を呼び、血の匂いを長く帯のように揺らす。荒れ果てたその地に悲鳴は無く、数百、数千の群れだけが男の前にはあった。
「静かに無駄なく迅速に。参りましょう──」
帽子深くかぶり直し、一つだけの息を吐く。すらりとした長身の影は、落とす息と共にーー揺れる。
「摩利支天に帰命し奉る。我らを陽炎の内に隠したまへ」
グローブに隠された指先から呪符が消える。じゅ、と燃えるようにして落ちていけば、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)の姿が、消える。歩き出した男の、その二歩目からがかき消えれば知性を持たぬ水晶屍人にそれを『追う』だけの挙動は生まれない。
(「気がつかれぬままでいれば……でしょうか?」)
そっと、ヘンペルは息を落とした。目立たぬように、水晶屍人の群れを見る。透明になっているとはいえ、物音や体温は残る。忍足を駆使して、するり、するりと歩いて行けば屍の群れが進んでいくのが見えた。
「……」
さほど情報収拾に時間を掛けることはできないだろう。戦闘の痕跡を探そうにもあれだけの群れが進み続けているのだ。足跡にかき消されーーその足跡さえ、進み続ける彼らにかき消され見えない。
(「敵の密度から見た方が良さそうですね。そうなれば……」)
「彼処、か」
一箇所、その群れの歩みが違う場所がある。流石に水晶屍人を躱しながら進むことはできないだろう。そうなれば、後はーー。
「突破しながら進むだけ、でしょうか? やれやれ、予想以上の仕事となりそうですね」
肩を竦めーーだが、たん、とヘンペルは地を蹴る。浮かぶ表情は、まだ、どこか恍けた雰囲気のままーーだが、瞬発の加速と共に紳士は行く。
「ァア、ァア」
「ァアアア」
透明であれば、接近にはまだ気が付かれず。眼前、密度が濃くなれば蹴り上がり、水晶屍人の肩を踏む。
「失礼」
短く告げた先、前へ飛ぶ。着地点の水晶屍人も金行符に放ち、崩れ落ちた屍を飛び越え密度の高い場所を行けば自ずと、指先に、腕に、足にと傷が増えていく。自分たち以外ーーそれを外敵と見るのは知性よりは半ば反射か。
「ルグァアアア……!」
「ァアアア!」
死者が吠え、水晶の光が集まる。だが、その中を駆け抜けーーそうして、ヘンペルは自らの予測が正しかったのを知る。
「ーー……」
水晶屍人の群れの中、その密度の濃い空間に一人立つ姿。すらりとした長身に黒い角。白い髪が揺れればーー瞬間、視界が『揺れた』
ふと、声がした。
あぁ、己を呼ぶ声だとーーそう、ヘンペルが思ったのはその声に覚えがあったからだ。
『 』
まだ若かった頃。
舞い踊る桜の下、交わした言葉があった。親友二人と桜の下、三人で語り合った。いつかの記憶。幸いと、確かにそう言って良い記憶に、せり上がった名前たちと共にーー思い出す。炎上する都と砕けた夜空。そして親友との決別。
あれは、ころしあいであったと。
「──嗚呼、まったく」
舞い踊る桜に、幸いを誘う香りにヘンペルは息を吐く。
「愛しくも厭わしい記憶だ」
手持ちの金行符に破魔の力を載せる。バチ、と派手に雷が点り過去の光景もろとも振り払うようにーー斬った。
ゴォオオ、と風が唸る。吹き飛んだ幻影の向こう、ひゅ、と鋭い音と共に蔓の触手が来た。穿つ一撃に金行符を放つ。一撃、散らし切るには足りずーーだが、肩口、攫っていった蔓に息を吐く。
「やれやれ。お気に入りの上着だったんですが」
「……なぜ」
声が、落ちる。屍たちの群れの中、ただ、あることにより指揮官として機能する嘗ての神、時花神・紫翡翠は「なぜ」と紡ぐ。
「幸いを、厭う。ひとのこはみな、幸いを求めたというのに。なぜ、なぜ、なぜなぜなぜなぜ」
紡ぐ声は掠れ、時折ひどく歪む。指揮官として添えられたその時から、対話らしい能力は残されてはいないのだろう。繰り返す言葉はやがて、くるりと殺意に変じる。
「われこそが時花神」
その言葉に、背後の屍たちが蠢きだす。先の一撃で斬った神の肩口から血の代わりに花が溢れている。金行符を構え直し、ヘンペルは息をついた。
「急ぎの仕事となりそうですね」
地面から湧き上がる花々に、意識を引き寄せようとするそれに、地を蹴る。飛びかかってきた屍を蹴り倒し、確保した足場からまっすぐに神を見た。敵意は抱けず、だが殺意だけを高め、声を精神を歪ませていく嘗ての神を。
成功
🔵🔵🔴
薬師神・悟郎
俺の知る指揮官というものは良くも悪くも目立ちたがりが多いが、今回はどうだろうか
可能なら事前に存在感を消した状態で地形の利用、高い場所から戦場を見渡し把握、視力、聞き耳、情報収集+UC
これで指揮官が見つかれば良いが、簡単にはいかないだろうな…
弓で狙える範囲ギリギリの位置、遠距離から攻撃
敵は指揮官を守るように移動しているかもしれないと
事前に把握しておいた、敵が最も多く密集する場所へ範囲攻撃、毒使い、マヒ攻撃、吹き飛ばしで蹴散らしながら進む
第六勘、野生の勘、逃げ足で適切な距離を保ち行動
指揮官発見後、攻撃目標を水晶屍人から切り替え
先制攻撃、視力、スナイパー、見切り、毒使い、マヒ攻撃、暗殺で狙い討つ
●東風吹かば
屍の群れは、湿った土の匂いだけがした。呻く水晶屍人の歩みは決して遅いものではなく、多くがその口元を赤く染めていた。
「俺の知る指揮官というものは良くも悪くも目立ちたがりが多いが……」
流石に事前に存在感を消した状態での、偵察は難しかった。利用できる地形も然程多くは無く、辛うじて一箇所見つけた高所から薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は戦場を見渡していた。大地を、埋め尽くす程の軍勢だ。数百、数千とは聞いていたがーー確かに、これだけの数、しかも傷を受ければ自らも「あれ」になる可能性があるとなれば、奥羽諸藩も危機的状況に陥っても不思議はない。
「流石に、簡単にはいかないか……」
耳を澄まし、目を凝らした先ーー悟郎が捉えたのは進み続ける屍の群れであった。前へ、前へと向かう彼らに知性は無いとはいえーー否、だからこそ高所から「こちら」を見ている悟郎の姿を単純に外敵と、障害物とみなす。
「ァアアア」
「ァア、ァアアアアア!」
死者の咆哮に、息をついた。
「これ以上、情報収拾はしていられない、か」
だが分かったこともある。水晶屍人が集中している空間だ。密度の違いとーー何より、僅かだか服装に違いがあった。どちらかと言えば、密度の濃い場所が『違う』のではなく、前にある水晶屍人たちの服装が違うのだ。鎧装束。掠れてはいるが見えた紋を思えば、彼らは水晶屍人に喰いつかれた方だろう。軍勢の前方を構成する水晶屍人たちにそれが多いということはーー即ち、奥羽諸藩の武士達は誰一人指揮官にまで辿り着けはしなかったということ。その奥には、町人らしい姿が見える。
「ルァ、ルグァアアア……!」
「……、ここまでか」
そこまで、見つけたところで悟郎は岩を蹴った。距離は詰めすぎない。駆けてくる水晶屍人に向かって、遠距離から矢を放った。
「ル、ァアアアア」
「ァアアア!?」
それは痛みへの反応か、それとも攻撃を受けたことに対する反応なのか。
(「敵は指揮官を守るように移動しているかもしれないと思ったが……、成る程、彼処だけ動かないか」)
攻撃に対する反応が、一部薄い所がある。知性のないとされる水晶屍人にが、攻撃に対して向かってこない理由。それは、襲撃者よりも重要視する「何か」が彼らにはあるということだ。
「ーーなら」
相手が群れている以上、離れたまま指揮官を狙うことはできない。た、と一足に駆け出し、三連に番えた矢で眼前の水晶屍人たちを射抜く。
「ルグァアア!」
咆哮と共に腕が来た。距離を保ちながら、矢を放っては来たがーー奥に進めば進む程それが難しくなる。あちらにも、距離を空けられるのだ。向かってきている事が分かれば、あちらとてその軍勢を更に厚くするだろう。
「不思議は無い、か。なら、行くだけだ」
肩口、追いすがる水晶屍人の腕が食い込み、背後から食らいつこうとした屍に矢を放つ。ただ、矢を放つだけではこれだけの数、吹き飛ばしきれないか。近距離で矢を放ち、傾いだ水晶屍人にを蹴り飛ばしてーー一気に前に出た。
「ーー」
目が、会う。
時花神の長い髪が揺れていた。
「見つけた」
矢を番える腕に血が滲む。倒れる程では無く、だが、確かな痛みの中、それでも悟郎は矢を放った。ひゅん、と穿つ一撃が屍たちを超えて届けば、ぐん、と時花神がこちらへと踏み込んできた。
「わすれないで」
「ーーッ」
告げる言の葉と共に、花が舞う。踏み込みにひとさし、舞うように流れた指先が一撃を生む。衝撃が悟郎の腕を裂きーーだが、まだ辛うじて触れてはいまい。は、と荒く息を吐き、ずれかけたフードを深く悟郎はかぶり直した。
「問題ない。次も当てるだけだ」
そうして、この神を、死者の軍勢を終わりにする。
成功
🔵🔵🔴
ジャスパー・ドゥルジー
腹に腕に躊躇なくナイフを突き立て肉を抉る(激痛耐性)
さぁ出番だぜ『相棒』
屍人には知性が無いというし
火を帯びて目立つ相棒は格好の標的だろう
惹き付けて貰ってるうちに突破するぜ
親玉を見つけやすいように大きく群れを扇動してくれよ
さて
幻影使いだって?
俺にどんな悪夢を魅せてくれるんだ
大切な人に裏切られる?
見棄てられる?
どんな悪夢にだって惑わされねえ
あいつに限ってそんな事はしねえ!!
UC使用時の痛みで足りなかったら
傷を増やしてでも我に返る
幻術なんてまだるっこい事してんじゃねえよ
殺してえならその身でぶつかってこい
俺のナイフじゃ与えられる傷はたかが知れてるだろうが
かまやしねえよ
アンタを狙うのは俺だけじゃない
尭海・有珠
忘れられたくないっていうのは分かる
私もそうだし…忘れたくないな。特に大事なものは、とピアスをひと撫で
だからと言って屍人の蔓延る世界はな、私の思う楽しく幸せな世界とは程遠そうだ
敵の指揮官の位置は、
屍人の発生源、敵の流れの源流の方
あとは極地的に敵が密集している場所は、護衛として集めてる可能性がありそうなこと、
より統制が取れている方…等を踏まえ索敵
高く飛び上がって見回した方が発見は早そうだ
やる者がいるなら支援か周囲の安全確保くらいは手伝おう
幸いの夢は
師匠に笑って小突いたり、ふと触れられたり、些細なやりとり
「もう、いないんだよ」と寂しく笑い
氷の、剥片の戯を進行方向に展開
進む先へ攻撃を放ち道を抉じ開ける
クロト・ラトキエ
如何な戦場でも。
猟兵らしく、傭兵らしく、いつも通りの飄々風で言うわけです。
さぁ、オーダーを果たしましょう。
木々や丘陵等、地形を使えれば遠見も…とは思えど、楽観は困難か。
見得ぬなら、拓くまで。
敵陣中へ吶喊。
消耗を抑えるを第一に、UCで風の魔力を纏い防御力強化。
神…祀られる者ならば殊、侍る者の多い方に在ると思う故に、敵の層の厚い方へ。
鋼糸を躍らせ首を断ち切る…のが常なれど。
逐一倒す必要は無い、只踏み越えれば良いと、
足元を掬い、腕を引き胴を傾がせ、道を作り穿ち進む。
何も喪う事の無い平穏――
けれど、そんな悪夢は、刹那だ。
過去は抱えない。僕が生きるのは、現在(ここ)
阻むならば、
神とて堕としてみせましょう
●烈火の行軍
骸は前に進む。死者の行列に腐臭は無くーーだが、帯のように血の臭いが続いていた。むせ返る程の強さは無い。ただ、口元を、腕を、赤く染め上げた水晶屍人が蠢めいていた。
「ァア、ァアアア」
「ァアアアアア……」
生えた水晶が腕をつないでいるのか、だらり、と体の形を崩しながらも屍は進む。空手であっても、食らいつき手を伸ばしーー掴んだ石でさえ武器と変え、棒切れ一つを強化して向かってくるのだろう。
「……」
その水晶屍人の軍勢を指揮するのは嘗ての「神」だという。
「忘れられたくないっていうのは分かる」
冷えた風に黒髪が揺れていた。長い黒髪は一瞬、娘の青の瞳を隠しーーやがて攫うように舞い上がる。
「私もそうだし……忘れたくないな。特に大事なものは」
ピアスを撫で、尭海・有珠(殲蒼・f06286)は息をついた。
「だからと言って屍人の蔓延る世界はな、私の思う楽しく幸せな世界とは程遠そうだ」
揺れる髪をそのままに、息一つ落とした娘の横、同じように黒髪を揺らしていた青年は静かな笑みを浮かべていた。ええ、と紡ぐ言の葉は壁のように進む水晶屍人の軍勢を前に、揺らぐことも臆することもなく告げる。
「如何な戦場でも」
猟兵らしく、傭兵らしく、いつも通りの飄々風でクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は言った。
「さぁ、オーダーを果たしましょう」
屍の群れは止まることなど無いのだから。
●果ての星
踏み出せば水晶屍人の軍勢、一部が外敵に気がつく。自分たちと違うものに『気がついた』という程度なのだろう。木の上からクロトが確認した限りでは、軍勢の前ーー面の屍たちの多くは鎧武者の姿をしている。武士たちが水晶屍人に噛まれた結果だろう。半ばには町人。
「こちらに武器は無く……、だが、やはり遠見では見つけきれないか」
最も、何処を探せば良いのか見当も付かないーーという程のことでは無い。傭兵としてクロトは多くの戦場を渡ってきた。声の行き交う戦場もあれば死者の行列のように、死んだ目の兵士ばかりが並ぶ地もあった。そこを、生き抜いてきたのだ。
クロト・ラトキエは生還のみを得手とする雇われ兵なのだから。
とん、と足裏で地を叩く。ふわり、と舞い上がった風が黒髪を揺らした。風の魔力を纏い、上げたのは防御力だ。
「神……祀られる者ならば殊、侍る者の多い方に在る」
「成る程。私も敵の流れの源流。極地的に密集している場所は、護衛として集めてる可能性がありそうだと思っていた」
より統制が取れている方も、な。
そこまで言って有珠は息を吐く。高く飛び上がって見回す者もいないとなればーー後はやはり、行くだけだ。
「見得ぬなら、拓くまで」
「援護しよう」
先に出ます、と軽々と告げるクロトに有珠は魔力を回し頷く。二人とて分かっている。あの軍勢は倒しきる必要はない相手だ。ならばーー。
「ルグァアア……」
「グルァアア!」
たん、とクロトは身を前に飛ばした。体ひとつ、倒すようにして瞬発の加速から水晶屍人の群れの前、足をーー払う。
「グルァア!?」
迎え撃つように伸ばしていた腕は、沈み込んだクロトを前に空を切った。ひゅん、と蹴り飛ばすように足を払い、倒れてきた屍の群れの下を一気に抜ける。重なり合うように倒れた先、くぐもった声と共に有珠の放つ魔術が届く。
「澪棘」
青の仕込み杖が淡く輝き、起き上がろうとした水晶屍人の腕を落としーー飛び越える。淡く、輝いた水晶が力を帯びるその前に突破してしまえば良いだけのこと。先行するクロトは慣れた様子で水晶屍人たちの間合いへと踏み込んでいく。獲物が来たと、口を開き、喰らい付こうとする屍の腕を取りーーぐ、とそのまま、引く。
「グルァア……ッ!?」
「鋼糸を躍らせ首を断ち切る……のが常なれど。逐一倒す必要は無い」
こちらへと、向かってきていた体は容易に倒れこむ。一瞬、ぐん、と引き寄せれば例え己より背丈があろうともクロトには関係の無いこと。ただ、踏み越えれば良いのだ。
「ルグァアア……!」
「グルァア、ァアア……!」
「ーーおや」
前へ、前へと食らいつくように向かってきていた水晶屍人の軍勢の一部が、揺らいだのだ。
「あちらで動きですか」
「そうみたいだな」
死者の群れの一角が、そこに向かっていたのだ。見えたのは青白き炎。オウガ、と口にしたのはどちらであったか。だが、あの炎がそうであればーー同じ、猟兵だ。
「ならばこの時間、頂きましょう」
「あぁ」
二人の猟兵が頷きあい、軍勢の密度が濃い場所ーー踏み込む二人に対して迎撃に出てこない一区画へと狙いを定めていた頃、青白き炎をこぼした青年もまた死者の群れを駆けていた。
『さぁ出番だぜ『相棒』』
最初にナイフを突き立てたのは腹だった。白い肌が赤く染まり、引き抜いた驟雨をジャスパー・ドゥルジー(Cambion・f20695)は迷いなく腕に突き立てた。ガチ、とぶつかった感覚は骨に触れたからか。ボサボサの黒髪が揺れ、は、と笑った青年から零れ落ちたものこそが、あの青白い炎だったのだ。ジャスパーに憑依するオウガ。鬼と、悪魔と言われ続けた青年は、果たして最初から「そう」であったのか。「そう」なっただけのことであるのか。魔炎を操る竜の血液を取り込んだジャスパーから零れ落ちた赤が、ぱた、ぱたと地を濡らし、揺らぐ。
「うまくやってるみたいだな」
屍人には知性が無いという。火を帯びて目立つ相棒は、ジャスパーの予想通り格好の標的だったのだ。
「親玉を見つけやすいように大きく群れを扇動してくれよ」
オウガにその声は聞こえたのか。獣のように素早く踏み込み、暴れる。穿つ拳が屍を砕き、喰らい付こうとする水晶屍人を払うように腕を振るえば、青白い炎が揺れる。炎は、ジャスパーの予想通り水晶屍人たちを惹きつけ、その群れの奥ーー開いた空間に、開いてしまった空間に立つ指揮官の姿を露わとする。
「……」
時花神・紫翡翠だ。
「さて、幻影使いだって? 俺にどんな悪夢を魅せてくれるんだ」
笑いながら、迷い無く踏み込む。残った屍を蹴り倒し、その肩を踏みーー飛ぶ。瞬間、視界が歪んだ。
「 」
幻だと、そう分かるのは大切な人が裏切る瞬間の、そんな光景だったからだ。名前を呼びながら、ゆるく振った首。見棄てるように去っていく姿。
「は……」
その悪夢に、ジャスパーは笑う。口の端を引き上げ、は、と落とした二度目の笑みは長く伸びた髪を揺らし、紫の瞳は弧を描く。
「どんな悪夢にだって惑わされねえ。あいつに限ってそんな事はしねえ!!」
強く、つよく拳を握った。炎を呼ぶ触媒に、契約に使った傷を深めるように。手の甲に残る痕が鈍く痛む。だが、痛みがジャスパーの意識を引き戻す。現実へと立ち返った青年は、たん、と地を蹴った。
「……なぜ」
「幻術なんてまだるっこい事してんじゃねえよ。殺してえならその身でぶつかってこい」
僅か、眉を寄せた時花神が指先を向ける。放つ衝撃波に、だが、ナイフを振り上げジャスパーは踏み込んだ。
「俺のナイフじゃ与えられる傷はたかが知れてるだろうが、かまやしねえよ」
ギン、と鈍い音が響く。悪夢が、追いかけてくるような気がして拳を握る。腕が、じくじくと痛みーーだが、迷い無く飛び込んだ先、ジャスパーのナイフは時花神に届いた。
「……!」
「アンタを狙うのは俺だけじゃない」
小さな瞬き。薙ぎ払うナイフの一撃に、血の代わりに花が舞う。淡く色づいたそれに、ジャスパーのその言葉に時花神は一角を見る。
「来たれ、世界の滴」
そこにいたのは、有珠とクロトだった。
「群れよ、奔れ―ー」
舌打ちひとつで、省略詠唱のできる術式を有珠は今、紡ぐ。
(「……師匠」)
幸いの夢の中、師に出会った。小突いたり、ふと触れられたり。そんな些細なやり取りにーーだが、分かってしまうのだ。こんな時間がもう、無いことに。
『もう、いないんだよ』
寂しく笑い、氷の薄刃にて幻を切り裂いたのだ。だから、今もまた。
「剥片の戯」
冷気がーー踊る。
ジャスパーの一撃に、気を取られていた時花神の腕に、薄刃が届く。出現は時花神の真下。舞い上がった氷刃に、た、と時花神は地を蹴るがーー僅か、刃の方が、早い。
「なぜ拒む。なぜ拒む。拒む拒む拒む。生あるもの。われこそは、時花神」
ザン、と肩口が避けた。花びらが舞い、僅か傾いだ時花神の腕に、ひゅん、と鋼糸が絡みついた。
「これは……」
「何も喪う事の無い平穏――けれど、そんな悪夢は、刹那だ」
クロトだ。幻の中、見せられた悪夢を振り払うように告げる。
「過去は抱えない。僕が生きるのは、現在(ここ)」
腕に、足に、浅くだが傷は残っている。だが、指揮官を見つけたこの状況で、自分は立っているのだから。
「阻むならば、神とて堕としてみせましょう」
鋼糸が軋み、腕をーー落とす。ぶわり、と舞い上がった花の中、瞬時に形を戻したのは流石に神ということか。だが、接合面が濡れている。ダメージそのものは残っているのだろう。
「なぜ。なぜ、なぜなぜなぜ阻む。われこそは時花神。あなたにゆめを紡いだというのに」
なぜ、と上がる声が歪み、狂気にーー濡れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
司令官というものは戦場を見渡せ、なおかつ比較的安全な場所にいるものですからね
「視力」で敵司令官の位置を把握
発見できたなら彼とともに其方へ直行
水晶屍人に対しては「衝撃波」「吹き飛ばし」「気絶攻撃」で
近づく者、ひとを襲う者を特に狙って攻撃します
司令官の場所へとたどり着いたならば
最後の主人に引き取られた際の
義妹との三人で昼餐を囲んだ時の夢を見るでしょう
ああ、僕たちにもこのようなときがあったのだ
けれども主人はもういないのです
僕は現在を見据えて生きていく、愛しい彼とともに
幻影を見る彼の手を強く握り引き戻し
【天航アストロゲーション】にて、ボスを撃ち抜きましょう
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
司令官というならば敵の中心に居るのではと宵と『視力』にて確認
見つけたならば其方へ向かおう
その際は俺が前に出『盾・武器』受けつつ『怪力』を乗せたメイスで『カウンター』
『なぎ払い』道を開き進んで行こうと思う
司令官の元へ着けば
初老の女性の指の上から見た光景の幻を見るのだろう
孫と子と共に笑う女性の嬉し気なその顔に
何れ、その孫に逆恨まれ虐待死させられる所有者の絶望を識るが故に胸が締め付けられる
互いを尊ぶ心と穏やかな時間があの場には確かにあったというに
心とは不思議な物だ
だが…きっと変わらぬ物もあるのだろうと。そう宵の手を握る手に力を込め幻を振り払う様に【蝗達の晩餐】を司令官へぶつけよう
●天は巡り銀は瞬く
「ルグァアアア……」
「グルァアアアアアア……!」
水晶屍人の群れが、前へ、前へと進んでいた、死者の行軍に僅か深宵の瞳を細めると、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は薄く唇を開く。
「司令官というものは戦場を見渡せ、なおかつ比較的安全な場所にいるものですからね」
さて、と視線を向けた先、宵は僅かに眉を寄せた。どうにも進み続けるこの軍勢において、指揮官たる時花神は、安全な場所にいる訳では無いらしい。
「存在しているだけで水晶屍人を指揮する存在として機能している……、いえ、させられているのでしょうか」
「そのようだ」
同じように、引き上げた視力で戦場を見据えていたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は息をつく。最初の探索で見つけられなかったからではない、指揮官とされた神への僅かな想いだ。群れを見た二人の瞳が見つけたのは、鎧を纏う武士の果て。水晶屍人へと変じた彼は、その手に持った折れた刀と共に仲間を、街を襲い続けるのだろう。
「……」
止めることができなければ。
先に、沈黙を破ったのはザッフィーロの方だ。やはり、と口を開いた彼に、宵は瞬く。
「ザッフィーロ君?」
「指揮官が敵陣の奥にいるのは正しい。中心にいるようだ」
あそこに、とザッフィーロは告げる。先に駆け抜けていった猟兵たちもいるからだろう。多少ばらつきの出た戦場において、ザッフィーロが指差した一区画だけは屍たちの動きが鈍いのだ。行軍そのものが遅れているという訳ではない。ならばーー……。
「彼処に指揮官がいるから、彼らは迎撃に出られない、ですか。流石はザッフィーロ君ですね」
「宵が道をつけていたからな。さて」
行こうか、と告げた瞬間、駆ける屍の姿が見えた。流石に悠長に探索をさせてはくれないか。
「ルグァアアア!」
「ーー」
そこに、迷いなくザッフィーロは踏み込む。突き出された拳を受け止め、弾きあげれば青の髪が揺れーーひゅん、と風が来た。
「援護はお任せください」
宵だ。
指先は魔力を紡ぎ、放つ衝撃波がザッフィーロと飛び込んできた骸を撃ち抜く。倒し切らずとも、一撃に水晶屍人が吹き飛ばされれば、ぐらり、と一拍、動きが止まる。麻痺だ。
「眠りなさい」
告げた宵の言葉を耳に、ザッフィーロは道を開き進んでいく。食らいつくように伸ばされた骸の手を、メイスで受け止め、そのまま横に弾く。
「進ませてもらおう」
怪力を乗せたメイスの一撃に、水晶屍人が崩れ落ちればーーやがて、それは見えた。
「……」
水晶屍人の群れの奥、踏み込んだ二人を目にしながらも飛びかかって来ない屍たちの中央に立つ長身。
「われこそが時花神・紫翡翠」
その言葉が耳に響いた瞬間、ザッフィーロの視界がーー歪んだ。
「……」
そこに見えたのは手に皺を刻んだ女性の姿だった。知っている、とザッフィーロは思う。これは、初老の女性の指の上から見た光景だ。
(「幸い……」)
これは、この幻は幸せな夢だという。確かに、この瞬間は幸せであっただろう。孫と子と共に笑う女性の嬉し気なその顔に、ひどく胸が痛んだ。知っているからだ。その先を。サファイアの指輪のヤドリガミたるザッフィーロは彼女の行く末を知っている。何れ、その孫に逆恨まれ虐待死させられる所有者の絶望を識るが故に、胸が締め付けられた。
「互いを尊ぶ心と穏やかな時間があの場には確かにあったというに」
言葉は、知らず唇から零れ落ちていた。涙は無く、だが己というものを、形作り何かを見失うような情動が一瞬湧き上がりーーだが、何かが自分を引き戻した。
「ーー」
手だ、とザッフィーロは思う。手を、己という存在の手を握る力。宵の、手がザッフィーロを引き戻そうとしていた。
「心とは不思議な物だ。だが……きっと変わらぬ物もあるのだろうと」
その手を強く握り返しながら、幸いの幻を振り払っていく。
「ザッフィーロ君」
「ーー宵」
「はい」
目が合えば、漸く一度息をつくことができた。幻を見ていたのは宵も同じ。あれは最後の主人に引き取られた際の、穏やかな時間。義妹との三人で昼餐を囲んだその時のこと。
『ああ、僕たちにもこのようなときがあったのだ』
旧き天図盤のヤドリガミたる宵が過ごした時間は、最初の2代を除き盗人や蒐集家の元であった。人の世の移り変わりを、ずっとそうして見てきた。
『けれども主人はもういないのです』
この穏やかな光景にいるひとは、誰も。
「僕は現在を見据えて生きていく、愛しい彼とともに」
それは幻を振り払うようでいて、幸いの光景告げるようだった。微笑んだだろうか、それとも仕様が無い、と言ったのだろうか。まるで計ったかのように幻の中で彼らは笑いーーそうして、宵は彼の手を強く握っていたのだ。
「行きましょうか」
「ーーあぁ」
握りしめた手は離さぬまま、宵は紡ぐ。
「彗星からの使者は空より墜つる時、時には地平に災いをもたらす」
向けるのは宵帝の杖。星の属性を持つ魔法に特化した杖が魔力を帯び、淡く光る。
「それでもその美しさは、人々を魅了するのです」
空が震える。頭上より来たるその力に、時花神が、は、と顔を上げた。
「ーー空を」
ごぉおお、と轟音と共に隕石が来る。戦場に巨大な影が落ちる中、ざぁああ、と蠢くものがあった。蝗の大群の影だ。それは人々の罪穢。ザッフィーロが顕現せし力のひとつ。
「お前達も他の命を食い生きているのだろう? ……きっと、それと、同じ事だ」
「星降る夜を、あなたに」
隠して、天地において術式は完成した。ごぉおお、と空を震わせ、降り注いだ隕石が時花神を撃つ。一撃、交わすには蝗の大群の影が嘗ての神を捉えていたのだ。
「ーーぁあ、ああ」
花が、舞う。血の代わりに淡く輝く花が。何故、と歪んだ声が響いた。
「幸いを、厭う。ひとのこはみな、幸いを求めたというのに。なぜ、なぜ、なぜなぜなぜなぜ」
何故、何故何故、と重ねーーひゅん、と蔓の触手が放たれる。一撃に、盾となるようにザッフィーロが踏み込んだ。ぶわり、と瞬間、影が舞った。
「選んだからですよ」
対話などできぬ。既にあの神からその機能は失われている。分かっていても宵はそう言った。
「生きていく、と」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒金・鈊
まったく。くだらん雑兵を増やしてくれる。
屍に鞭打つ、面白い話だ。
水晶屍人とやらが堅く守る場所が指揮官の陣と相場は決まっている。
より密集した屍人の間をバイクで駆け抜け、探す。
足で走り回るよりは効率的だろう。
無論、負傷は元より想定している。
傷から噴き出す炎を喰らわせ、蹴散らす。
目立ち誘き寄せれば、他の者の役にも立つだろう。
紫翡翠とやらを見出せば、バイクを叩きつけながら、
鋼の炎を刃に纏わせて斬りかかる。
悪夢、か。
俺は何時でもあの赤赤とした炎のなか。誰も救えない。己すらも。
だが――今の我は主の剣。
夢などに捕らわれて、足を止めるか。
笑いながら、傷から溢れる炎を儘に、幾度でも踏み込む。
さあ覚悟はできたか?
●鐵の残り火
「グルァアアア……」
「ルァアア!」
ずるり、と腕を引きずりながら、むき出しになった骨の上、引っかかるようにある布は町人の服であったかーーそれとも、この地を示す旗の名残であったのか。
「……」
反面焼けた顔と、抉られた肩に喰らい付かれた跡を残しながら。
「まったく。くだらん雑兵を増やしてくれる」
腐臭はなかった。戦場を抜ける風が、血の匂いだけを棚引かせ、空を割る。黒髪を揺らしながら、声を落とした青年は息をつく。
「屍に鞭打つ、面白い話だ」
案内人であった男の告げた言葉が頭を過れば、屍の群れから声がひとつ、上がった所だった。
「ルァアアア」
「ルグァアアアアアア……!」
「生憎、仲間に加えられるほど存在でもない」
焼けた身だ、と黒金・鈊(f19001)は口の端を上げ、バイクのクラッチを切る。唸るようにエンジンが吠えた。
「水晶屍人とやらが堅く守る場所が指揮官の陣と相場は決まっている」
彼らにとって指揮官がどういう存在であったとしても、指揮官にとっては己の身を守る存在として使うだろう。若しくは指揮官として添えた者自体がそのように配置する。水晶屍人は正しく、江戸へと迫らねばならないのだから。
「ルグァアアアアア……!」
「ーー悪いが」
二度、三度とエンジンを吹かすと、飛び込んできた水晶屍人に向けーー前に、出た。
「喰われる気は無くてな」
クラッチレバーから手を離し、ぐん、と加速するバイクで水晶屍人の眼前へと鈊は飛び込んだ。ガゴン、と派手な音が響き、吹き飛んだ屍が地へと変える。突然の襲撃者に驚いたのは死者たちの方か。屍の群れの意識がこちらを向き、飛びかかるように駆けてくる。走るだけでは追いつけないと知ったか。跳躍から来る死者を、加速するバイクで避け切ると鈊は、飴色の瞳を真っ直ぐに前へとーー密集した屍の群れへと向けた。
「少々騒がしいが、足で走り回るよりは効率的だろう」
死者の群れに突っ込む恐怖などと言うものは、結局、鈊には無い。相手が己を死者の群れに加えようとしているのであればーー尚更。
「ルグァアアアア!」
「グルァアアアア!」
水晶屍人たちの咆哮が、敵意に満ちた。飛び込んでくる屍たちの間、縫うようにバイクを走らせれば、ばた、ばたと揺れる外套を掴むように死者の腕が来た。
「ーー」
「ルグァアア!」
そのまま食らいつこうと、半ば、バイクに飛び乗ってきた屍がーー不意に、燃えた。
「グルァアア!?」
鈊の地獄の炎だ。バイクで群れの中を突き進んでいるのだ。傷一つ、つかずにいられる訳もなくーーだが、受けた傷が、足に、腕に、背に追いすがるようについたそれが、今、紅蓮の炎となって水晶屍人を、燃やす。
「降りてもらおうか」
走りにくい、と腕を振るう。ゴォ、と地獄の炎に燃やされながら、屍はバイクから転げ落ちた。蹴散らされた死者の咆哮は長く響き、その数が増す。鈊の予想通り、随分と目立ったようだ。動きを止めるわけにはいかない。
なぎ払い、蹴散らしーーそうして、鈊のバイクはその一角に辿り着く。これほど派手に踏み込んだというのに、群れの密度に変化が無かった場所ーー即ち、指揮官のいる場所に。
「……なぜ」
吹かしたバイクと共に、迷い無く飛び込めばすらりとした長身の神、時花神・紫翡翠がこちらを見据えていた。問いかけと共に、ぶわり、と踊るのは花か炎か。だが変わらず、鈊はバイクを叩きつけた。爆圧の一撃が届いたか否か。だが瞬間、鈊の視界を炎が覆った。
『ーー鈊』
それは誰の呼ぶ声であったか。赤赤とした炎のなか。鈊は立っていた。いや、倒れていたのだろうか。それすらも分からぬまま、だがただ一つこれだけは分かっている。炎のなか。誰も救えずにいるのだ。己すらも。
「だが――今の我は主の剣」
ごおお、と幻影が燃えた。炎の中、焼き尽くさんとした赤とは違う。地獄の炎。
「夢などに捕らわれて、足を止めるか」
笑いながら、鈊は腕に触れる。傷から溢れる炎を儘に口の端をあげる。炎は真闇を伝っている。薙ぎ払う一撃が幻を裂きーーそのまま、一気に鈊は踏み込んだ。
「さあ覚悟はできたか?」
着地の瞬間、地を短く蹴って前に出る。神の間合い。は、と笑った男は深く沈み込みーー切り上げた。
「……ッなぜ、なぜなぜなぜなぜ……!?」
衝撃に時花神・紫翡翠の体が僅かに浮く。血の代わりに吹き出した花を躍らせながら、時花神は腕を振るった。
「おわらぬゆめを」
放つ衝撃波を焼き払い、悪夢を引き寄せようと引きずり込む感覚に男は笑う。血の流れる感覚に、痛みに。今更、足を止める気など無いのだと。
大成功
🔵🔵🔵
終夜・凛是
トトリ(f13948)と
どんなとこだって、トトリと一緒なら不安はない
…ひと、だった
でも今はそうじゃない。ならきっと正しく送られるべき
トトリの言葉に頷いて、その背を借りて本当に撃つべき相手を探す
俺は探すのに注力
どうしても相手にしないといけない場合だけ対処
みつけたらトトリに知らせて、目印付けてもらう
敵を拳で倒しつつ距離を詰めていく
懐潜り込んで力の限り
トトリが傍にいるから、悪夢に負けない
俺の傍から離れていく、誰も居なくなってひとり
ずっとひとりは、いやだ
でもこれは悪夢だから…ちがう
傍にトトリがいる
こんなの見せられていい気はしない
…お前に、悪夢を返す
俺たちにやられるのは、お前にとって、悪夢になるだろ
トトリ・トートリド
凜是(f10319)と、戦う
数が、多い…見えないの、つらい
切り開くから、凜是、トトリに乗って…さがして
しろさん、お願い
賢者の月白の羽矢…全力、乗せて、放射状に射る
…この人たちも、多分、何も悪く、なかった
助けられないのが…くやしい
時花神、見つけたら…孔雀緑青の絵具の飛沫で、目印
凜是、あそこ
幸せな夢にみるのは、たぶん
凜是や、ほかにも…たくさんのともだち
…ずっと、ひとりだったから
とても幸せで、嬉しかった…けど
惑わされない
だって、凜是はここに、いるんだ
おまえの幻なんかと、間違えたりしない
…蔓、なら、トトリも負けない
…!
孔雀緑青で戦場を塗り替えて
悪夢が晴れるように、強く凜是の名前を呼ぶ、んだ
負けないで
●終わりの告げ人
血の匂いが、棚引いていた。死者の行列に嘆きは無く、だが、武者の一人が足を引きずりながら行くのが見える。肩から生えた水晶がそれを為すのか。仔細は分からずともーー彼らが奥羽諸藩の武士であることはトトリ・トートリド(みどりのまもり・f13948)にも分かっていた。
「……」
同じ姿でいるひとを見たのだ。指揮官さえどうにかできれば、後は自分たちが、と告げた人たちと同じ色。同じ紋。きっと、同じように此処を守っていた筈の人たちは、噛み跡を体に残しながら水晶屍人と成りーーきっと、あのひとたちとも戦ってしまうのだろう。
「……この人たちも、多分、何も悪く、なかった。助けられないのが……くやしい」
守ったのだろう。戦ったのだろう。
それでも足りずに、もしかしたら誰かを逃す為にこうなってしまったのかもしれない。きゅ、と手を握るトトリに、ん、と小さく終夜・凛是(無二・f10319)は息を落とした。
「……ひと、だった。でも今はそうじゃない。ならきっと正しく送られるべき」
蠢く死者の群れでは無く、起き上がって誰かを襲うようなこともなく。眠りにつくべきだ。
数百、数千という水晶屍人の軍勢は、まるで壁のような。傷を受けたとしても、猟兵であれば水晶屍人に変じることは無いとしてもーー今度は、無事に指揮官へと辿りつけるかどうか、という問題もある。こちらが倒されるようなことが無くとも、水晶屍人達が江戸に辿りついてしまえば終わりだ。なら、あの群れの中に向かうしか無い。
(「どんなとこだって、トトリと一緒なら不安はない」)
行ける、と凛是は口の中、言葉を零す。きゅ、と握りしめた拳を、寡黙な友人はこくりとうなずいてゆるゆると解いていく。
「凜是、トトリに乗って……さがして」
切り開くから、と言うトトリに頷いて、背を借りる。流石に、ぐん、と視界がひらけた。頭一つ、群れの中から飛び出せば、分かりやすく屍達が吠えた。
「ルグァアアア」
「グルァアアア!」
咆哮と共に水晶屍人達が駆け出す。飛びかかるように、ぐん、と地を蹴った一体へとトトリは羽矢を構える。ひゅん、放射状に放たれた矢に屍達が崩れ落ちる。傾ぐだけで終わった相手は、今はおやすみなさい、とだけ告げて、トトリは前をーー先を、切り開く。
「トトリ、右から」
来る、と告げる凜是に頷く。
「任せて、だから……」
「うん。見つけるから」
間違いなく、迷いなく。ぴん、と狐の耳は立って、凜是の瞳は戦場を見据える。
「しろさんの、力……トトリに、貸して」
二人なら見つけられる。そう分かっているから、トトリは風の精霊を呼ぶ。それは白梟の姿をしていた。ふわり、としろさんはトトリの指先に降りて、淡い光を零す。
「ーーうん」
それは微かに虹の輝き帯びる白い羽矢。指先を向け、放つトトリの背で「あぁ」と声が落ちた。
「凜是?」
「見つけた。ーーあいつ、あそこだ」
指先が迷うことなく示した一角。屍達の密度が濃い空間。これだけ踏み込んでも、水晶屍人達が揺らがない場所がある。
「……なぜ」
「見つからないと思ったのかよ」
風に乗り、声が届く。群れの中央に立つ指揮官ーー時花神・紫翡翠のものだ。
「アンタ」
「凜是、あそこ」
孔雀緑青の絵具が、空に絵を描く。至上の色彩に名を借るペイントローラーを振り上げて、絵具の飛沫でトトリはその場所を凜是へと告げた。教えてくれたその場所を、迷いなく示すように。
「うん。見えてる」
見失っていない、とそう言って、トトリの背を降りた凜是は地をーー蹴った。瞬発の加速。飛び込んできた屍を拳で打ち倒し、傾いだそこ、関節へと拳を叩き込む。
「ルグァアア!?」
倒し切らなくても良い。今は、彼処に辿り着く。そう、凜是は決めていたのだ。飛びかかってきた水晶屍人の腕より先に、身を低めて。飛ぶように前に出た瞬間、空間がーーひらけた。
「……あなたにゆめを」
「ーー」
瞬間、視界が歪んだ。薄靄のかかったその空間に、声は無く。ただ足音がしていた。
(「俺の傍から離れていく、誰も居なくなってひとり」)
世界はどんな色をしていたのだろう。ひとりきり。ひとりだけ。落ちる影さえ闇と違わずーー。
「ずっとひとりは、いやだ」
歪む視界は、トトリの元にも訪れていた。色彩は鮮やかに、淡く、柔らかい空間。
「……」
凜是や、ほかにも……たくさんのともだち。
みんなが、トトリを読んでいた。遊ぼうと、鳥たちの声がする。森に、花畑に色彩が溢れている。
(「……ずっと、ひとりだったから。とても幸せで、嬉しかった……」)
けど、と言の葉を区切る。息を吸う。
「惑わされない」
その言葉に、幻が揺れた。霧が掠れるように裂けていく。遠く、聞こえる幻の声に琥珀の瞳をそれでもまっすぐに向けてーー言った。
「だって、凜是はここに、いるんだ。おまえの幻なんかと、間違えたりしない」
幸いの幻がーー晴れた。
「……拒むか。なぜ、なぜなぜなぜなぜ……!」
荒れた声と共に、ひゅん、と花が舞い蔓が来た。穿つ蔓にトトリは雨弓を振り上げる。踊る色彩は孔雀緑青。
「……蔓、なら、トトリも負けない」
戦場を塗り替えて、チリチリと痛む腕を今は置いて、トトリは悪夢が晴れるように強くーー呼んだ。
「凛是。負けないで」
「ーー……」
声が、した。強く、強く自分を呼ぶ声。あぁ、と凛是は息を落とす。ひとりっきりの暗闇の中。立ち去っていく背を見た先。でも、と凛是は声を紡ぐ。言葉を出す。
「これは悪夢だから……ちがう」
否を紡ぐ。小さく、折れていた狐の耳はぴん、と立って。凛是は告げた。
「傍にトトリがいる。こんなの見せられていい気はしない」
悪夢の幻が消え去る。闇が裂け、最初に見えたのは踊る色彩。それと、なぜと繰り返すカミサマの姿。
「あなたにゆめを」
ひゅん、と放たれた衝撃波を、凛是は避ける。掠りかけたその場所にトトリの援護が届く。迷いなく、凛是は時花神の前へと踏み込んだ。沈み込んだ体が、拳が力を込める。
「……!」
「……お前に、悪夢を返す」
ガウン、と全力一発が大地を通りーー時花神を穿つ。僅かに浮いた体。血の代わりに溢れた花びらが、地に落ちるより先に消える。
「俺たちにやられるのは、お前にとって、悪夢になるだろ」
かみさま。とひとつ告げた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
冴島・類
数多の骸が溢れる戦場
満ちる無念の気配に
器の臓腑が燃えそうだ
群がる屍人達は
瓜江を操り
彼の打撃で初撃を弾き
攻撃引きつけ
自身は体捌き崩れた隙を狙い
破魔の薙ぎ払いで攻撃
防ぎきれぬ際は
焚上で炎纏い、受ける力を
無念の分だけ
紫翡翠を断つ力に変えて
その際、指揮官が何処にいるかを探る為
魔力を両目に集め
これだけの数だ、指示は言葉ではないだろうと
封印を解く際に用いる応用で
魔力の痕跡、流れを探り
指示出す流れがないかたどれたら
見つけたら
近くの猟兵にも共有
連携など歓迎
幻は…
どれだけ幸せな夢だろうと
炎纏わせた、刀で断つ
嘗て神と呼ばれた割には…
鈍感だな
僕のさいわいは
生きる命の先にある
止まれば、それが消える
逆効果だよ
海へ、還れ
●葬送の徒
「ルグァアア……」
「グルァアアア!」
飛びかかる死者へと、少年が指先を向ける。舞うようにひとさし、空へと滑らせれば赤い絡繰り糸が揺れ濡羽色の髪が揺れた。ザン、と滑るような踏み込みから、冴島・類(公孫樹・f13398)の操る絡繰り人形・瓜江だ。
「数多の骸が溢れる戦場。満ちる無念の気配に。器の臓腑が燃えそうだ」
瓜江の打撃に合わせ、屍たちの攻撃を引きつける。弾き上げた水晶屍人の刃は弧を描き、故に開いた胴へと素早く類が踏み込む。
「終わりだ」
短く告げて短刀で薙ぎ払う。銀杏色の組紐飾りが揺れ、見目よりも随分と老成した瞳が戦場を見据えていた。
「……」
類はヤドリガミだ。見目と年齢は然程関係は無くーーだが、故に、屍の葬列に、そこにある日々の欠片に胸が軋む。前を行く武者の手にある刀は民を守る為だっただろう。半ばにある屍は町民か。羽織る衣は、似合わぬが故に分かる。誰かから託されたものなのだろうと。
「ルグァアア……」
「グルァアア!」
言葉は無かった。言葉など、とうの昔に彼らからは奪われてしまっていた。人を愛し慈しみーー故に一度病んだ鏡は、今は言の葉と共に手を、伸ばす。
「聞かせて。君の業、その全てを」
その言葉を合図とするように、類の体に炎が灯る。あの日、焼き尽くした炎では無い。向けられた負の感情を喰らい、浄化する炎。
「ルグァアアア!」
「君の無念の分だけ」
肩口、沈み込んだ水晶屍人の刃に類は告げる。受け止めたそこから、炎が這い上がる。手の短刀へと落ちる力に息を吸い、迷いなくーー突き立てた。
「ルグ、ァア、ア……ッ」
屍の声は跳ね、ぐらり、と類の胸元へと崩れ落ちるようにして消えていく。その姿に、一度だけ息を吸う。今、迷えば彼のような人を増やすことになる。魔力を両目に集め、類は戦場を見据えた。
「これだけの数だ、指示は言葉ではないだろう」
数百、数千の群れだ。指揮官のオブリビオンが、その役割をたとえ与えられただけだとしてもその指示に何らかの力は存在している筈。魔力の痕跡、流れを探るように見据えた先でーー類はそれを見た。
「彼処だね」
群れの奥、既に辿り着いた猟兵達のお陰か。僅かに軍勢が揺らいでいる場所があった。何かが踏み込んだ跡地さえ、かき消すほどに前に進み続けている軍勢が、ただ一箇所だけ魔力が集中させられていたのだ。まるで、あの場所を最大限維持させるように。そこから、細く長い魔術の痕跡が軍勢の全体へと続いていたのだ。
「行こう」
迷いなく、類は瓜江と共に進んでいく。舞うように指先を踊らせ、少年の体は軽やかに水晶屍人を飛び越えーーそして、目があった。
「みつけたよ」
「……われこそが」
群れの奥。魔力の最も濃い場所。その中央に、時花神・紫翡翠の姿があった。ぶわり、と視界が歪む。幸いの夢。穏やかな空間にーーだが、類は枯れ尾花に触れる。炎を纏った刀がーーザン、と幻を断った。
パリン、と破砕の音と共に、視界が開ける。なぜ、と時花神の声がした。
「幸いだと言うのに。しあわせをもとめるというのに、なぜ、なぜなぜなぜなぜ」
何故、と叫ぶ声と共に蔓が来た。穿つ一撃に刃を払い上げ、その身に浅く受けながらも類は告げる。
「嘗て神と呼ばれた割には……鈍感だな」
「なにを……」
「僕のさいわいは生きる命の先にある」
肩口が赤く染まる。痛みに息を吐きながら、それでもあの時受け取った無念を返す為に、類は踏み込む。時花神の間合いへと。沈み込んで刃を抜いた。
「……っく、ぁ」
「止まれば、それが消える。逆効果だよ」
花が、し吹く。血の代わりだと言うように。
「海へ、還れ」
葬送の声が戦場へと響いた。
大成功
🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
嘗ての神と屍人の国か、無残なものだ
…来ると解っているならば
師父、手を借りる
花の神を目にした瞬間
視界を埋める砂塵と風
何処かに置き忘れてきた記憶の断片
繋いだ誰かの手が砂に混ざり解けて消えて行く
否、
その手を強く握り直せば
先に在る黎明色の貴石
これだけが、今ある真実
知らず噛み切っていた唇の血を吐き捨てて
…ありがとう、師父
離し、駆ける
二度も騙されはせぬ
衝撃波放たんとするその腕の破壊を狙い
相殺せんと、同じく衝撃波乗せた【竜墜】で迎撃
黒剣で切り結び、敵が師に触れぬよう付いて抑える
は、貴様と同じで諦めが悪いのでな
要らぬ神が、烏滸がましいぞ
もはや役目を終えたなら
花に倣って散るがいい
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ふん、実に美しくない傀儡だ
斯様な物を作り出した輩の美的感覚には不愉快極まりない
然し幻覚の花…何が起こるか分らぬ故
お前も警戒は怠るでないぞ、ジジ
従者の後方、展開した宝石に魔術を充填
【妖精の戯れ】を広範囲に放つ事で屍人を薙ぎ払う
視野が開かれれば指揮官を探し易かろう?
常に周囲に警戒を怠らず
視界に屍人と異なる者を確認次第ジジへ
姿さえ捉えたならば触れる事なきよう
後方より魔術を編み、屠るのみ
この身が呪いに蝕まれようと呪詛耐性、激痛耐性で耐える
っは、阿呆め
貴様の方が自らの呪いでぼろぼろではないか?
幻に囚われたジジの手を強く握る
嘗て怖い夢に魘されていた子をあやす様に
…全く、仕方のない子だ
●骸の行列
死者は、自ら何処に行こうというのか。その肩に水晶を生やし、死者は水晶屍人と変じていた。染まる口元は生者であった者へと喰らい付いた跡地だ。真新しい着物を纏う女とて、この血に住まう人であったというのに。
「嘗ての神と屍人の国か、無残なものだ」
長く、帯のように血の匂いが続いていた。僅かにジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は瞳を細める。
「ふん、実に美しくない傀儡だ」
ルグァア、グルァアア、と落ちる声はいっそ獣に似ていた。アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は息を吐く。
「斯様な物を作り出した輩の美的感覚には不愉快極まりない」
然し、と言葉を切る。ひとつ、気になることがあったのだ。
「幻覚の花……何が起こるか分らぬ故、お前も警戒は怠るでないぞ、ジジ」
「……来ると解っているならば」
屍達の軍勢に、指揮官として収まっているのは時花神・紫翡翠。嘗ての神だという。どれ程の因果でこの場に収まったかは知れず、だが真面に成立する会話はできないだろうと言われていた。指揮官として「副えられた」ものであるが故に。
「師父、手を借りる」
短く告げたジャハルに、アルバは何も言わずーーだが、沈黙は答えとなった。
「ルグァアア……」
「グルァアア!」
「ふん。気が付いたか」
水晶屍人たちの咆哮が、戦場に響き渡った。ただ倒れているだけの骸など何処にも無い。駆け出した死者の一歩が、ぐん、と人のそれ以上に来れば、アルバの前、踏み込んだジャハルの刃がギン、と鈍い音を響かせる。
「視野が開かれれば指揮官を探し易かろう?」
触媒の宝石を前へと放つ。空に浮き上がった宝石が淡く光り、展開する。溜められた魔力は、多重の魔法陣と共にーー穿たれた。
「ルグァアアアア……!?」
薙ぎ払う魔力の光に、水晶屍人が身を飛ばす。砂となって崩れ落ちれば、その向こう、飛び込む筈の屍が足を滑らせる。
「随分と見れるようになったな」
「……そうだな」
ややあって頷いたジャハルは、見事なまでに開いた一区画を見たからか。ふ、と口元、笑みを浮かべて告げたアルバは手にした宝石に魔力を溜める。
「ルグァアア!」
「グルァ、グァアアアア!」
駆ける足音は荒く、飛び込んだきた屍へとアルバは再び、魔術を放つ。キラ、と光る力が前へと勢いよく放たれれば視界が、開ける。
「あれは……、ジジ」
「ーーあぁ。師父よ。間違いない」
居た、と告げる声と共に、瞳は一点を見据えていた。屍人とは明らかに違う姿。整えられようとする死者の群れの中、ひどく厚い区画に「その」姿はあった。
「……なぜ」
目が合えば、そんな声がアルバの耳に届いた。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ!」
叫びにも似た声と同時に、風が震えた。魔術の一種か。舞い上がった花が、切り裂く一撃へと変わるより早く、アルバは宝石を展開する。
「――さあ、覚醒の時ぞ」
ひとつ、ふたつと輝きを重ね。溜められた魔力はこの瞬間に覚醒する。キュインン、と高い音と共に多重の光がーー放たれた。
「グ、ァア、ァアア……!? なぜ、なぜ、なぜなぜなぜ!」
われは、と時花神は吠える。声は軋むように歪んだいた。獣の咆哮さえ似て、甲高い音を一拍交えながら、ぐん、と顔を跳ね上げた時花神は、だん、と地を蹴った。
「われこそは時花神」
踏み込みは、接近の為か。遠距離から魔術を編んでいたアルバは、回避の為に地を蹴ろうとしたそこでーー気が付いた。
「ーージジ」
立ち竦む姿。薄く開いた唇が何かの名を呼ぶように震えている。
(「……やれ」)
息をついたのは内心であったか。飛び込んできた時花神に、その拳に魔術を展開する。穿つ一撃は、殴る為というよりは触れる為か。ぐ、と引きずりこむような疼痛が全身を覆う。
「っは」
息を吐く。呪詛には耐性のある身だ。痛みにも。崩れ落ちはしない。砕けはしない。
「この程度、耐えれば良いだけのこと。もっとも貴様は何処まで耐えうる」
神の零す呪いは、神自身をも代償を受けるもの。流れ落ちる血が、それを示していた。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ」
ぐら、と身を揺らした時花神が腕を振るう。今度こそ迷いなく至近から穿ち、た、と距離を取った先で、アルバはジャハルの手を強く、握った。嘗て怖い夢に魘されていた子をあやす様に。
「……全く、仕方のない子だ」
●眠れる竜
ーー音が、していた。風の音。砂の音。視界を埋める砂塵と風が、ジャハルの世界を覆っていた。
「……」
それは、何処かに置き忘れてきた記憶の断片。
繋いだ誰かの手が、砂に混ざり解けて消えて行く。崩れるように消えて、繋いでいた筈の己の手だけが残る。どうして、と紡ぐ筈の声が出ない。ただただ、砂塵と風の世界に自分だけが残されてーー……。
「否」
血を吐くように、ジャハルは告げる。そう口に出す。掌に感じた熱。握られているのだと、そう気がつけば強く、強くジャハルは握り返した。先に在る黎明色の貴石。
「これだけが、今ある真実」
口にすれば、ぶわり、と風に巻き上げられるように悪夢の幻は消え去った。口の中、広がった血の味に気がつく。知らず唇を噛みきっていたらしい。
「……ありがとう、師父」
血を吐き捨て、握った手を。握り返された手を今ーー離す。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ……!」
時花神の声が歪み、咆哮へと変わった。悪夢はひとをとらえるのに。払うように腕が動き、舞い散る花と共に嘗ての神は告げる。
「あなたにゆめを」
「二度も騙されはせぬ」
衝撃波を放とうとする、その腕を見据え、一気にジャハルは踏み込んだ。飛ぶような加速、ぶつかるような勢いと共に腕が変ずる。
「墜ちろ」
竜化した腕。呪詛を帯びた拳でーー打ちこんだ。叩きつけた拳は、払う神の腕を壊すように、手首を砕いた。
「ァア、ックァアアア!?」
衝撃波が空に抜ける。だらり、と落ちた腕からばらばらと花が散る。血の代わりか、ぐん、とこちらを向いた時花神が、残る腕を払うように向けた。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ!」
手刀か。白い指先からは想像もつかぬ鋭さに、ジャハルは黒剣を引き抜く。浅く、受け止め弾き、は、と息を吐く。
「貴様と同じで諦めが悪いのでな」
アルバにこれ以上触れることは無いよう、付いて抑える。
「っは、阿呆め。貴様の方が自らの呪いでぼろぼろではないか?」
盾のように立つジャハルに息を吐き、再びの魔術をアルバは灯す。指先で力を編み、ジジ、と呼ぶ。頷きの代わりに、黒剣が時花神に届いた。
「グァア、ア……ッ」
「要らぬ神が、烏滸がましいぞ。もはや役目を終えたなら、花に倣って散るがいい」
剣を引き抜き、身を飛ばせばアルバの魔術が戦場に光を放っていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マリアドール・シュシュ
アドリブ◎
その煌きは美しくないわ
誰も水晶屍人になんかさせないのよ(竪琴構え
ケープ羽織り
軍勢は強行突破
敵の攻撃はオーラ防御・音の誘導弾で封殺
高速詠唱で【透白色の奏】使用
麻痺の糸絡めた旋律で演奏攻撃(楽器演奏・マヒ攻撃
敵の動き観察(情報収集
複数が同じ人物を庇ったり、
指揮の開始時の合図や指揮官のオーラある者を注意深く見る
違和感抱いた処を音で叩く
夜空の星の下
藁色と白磁色が月を背に奏で謳う
マリアを挟む二人が好きな星座を語り愛を語る
幸せに満ちた日々
※育て親:一角獣の獣人と人魚の女。故郷の紛争で逝去。記憶朧げ
何故楽しい事ですら
忘れてしまっているの?
再び星芒の眸に隠され
指揮官へUC使用
心臓を一刺し
茉莉花が馨る
●天蓋へ至る戦慄
死者の行軍は長く、帯のように続く。あちらこちらで戦闘が起こっているのだろう。剣戟は耳に届けどーーだが、大きく群れが崩れることは無い。数千、数百の水晶屍人が軍勢となって動いているのだ。多少の戦闘で、その動きが止まることもなく、だからこそ、屍は眠ることも許されぬまま進み続けているのだろう。
「その煌きは美しくないわ」
肩から生えた水晶がそれを成すのか。
眉を寄せた娘は、黄昏色に眩くハープを構え、まっすぐに告げた。
「誰も水晶屍人になんかさせないのよ」
ケープを羽織り、たん、とマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は地を蹴った。乾いた地面は、けれど少し水の匂いがする。踏み込めば血の臭いが強くする。
「ルグァアアア」
「グルァアアアア!」
生者を見つけ、ぐん、と水晶屍人は顔を上げた。飛び込むように、だん、と大地を蹴り、伸びてきた腕をマリアドールは見る。
「煌き放つ音ノ葉を戦場へと降り注ぎましょう──さぁ、マリアに見せて頂戴? 玲瓏たる世界を」
星芒の雫の瞳にその姿を納め、指先を滑らせたハープの奏でる旋律が空を引き裂いた。
「ル、ァアアア!?」
何が起きたのか、分かりもしなかったのだろう。吹き飛んだ腕が転がり、傾ぐ体がそれでもと食らいつこうと大口を開ける。とん、とマリアドールは軽く、足を引く。ダンスでも踊るように少女の髪は揺れ、指先が竪琴に触れた。
「グル、ァ、ア……?」
「おやすみの時間よ」
歌うような旋律に込められた響きが、水晶屍人の動きを一瞬、止める。それだけでは倒しきれないのは分かっている。前に進むには多少、彼らを倒すしかないのだろう。敵の数が多く、それ故に彼らは壁のように立ちふさがる。
(「同じ人を庇うような動作はないのね。声で指揮をしている様子も、今のところ無いの」)
なら、とそれ以外の方法で、指揮官は合図を出しているのだろう。意識を集中し、オーラのある者を注意深く、見る。演奏を止める暇は無く、進み続けるマリアドールの白い肌には傷が見えた。防ぎきれぬものもある。引き止めるような爪痕は、ぱたぱたと血を流せども。
「終わらせるのよ」
この悲しい行軍を。
覚悟と共に息を吸った瞬間、星芒の雫に染まる瞳が光を、見た。花だ、と思ったのはどうしてか。舞い上がったそれが、血の代わりにし吹いたものだと少女は知る。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ……!」
重なり響く言葉は歪み、獣の唸り声に変わる。受けた傷がそうさせるのか。死者の群れの奥。その最も層が厚い場所に時花神の姿があった。
「見つけたのよ」
たん、とマリアドールが踏み込んだ瞬間、時花神がこちらを向く。目があった、とそう思った瞬間ーー視界が、歪んだ。
「ーー」
そこにあったのは、夜空の星。
その下で、藁色と白磁色が月を背に奏で謳う。マリアドールを挟む一角獣の獣人と人魚の女が、好きな星座を語り、愛をーー語っていた。
「……ぁ」
それは、確かに幸せに満ちた日々だった。そう、幸せであった筈なのに。外の世界を教えてくれた育て親のことを、あの日々を。どうして、どうして自分は覚えていないのか。朧げな記憶に震えるような声が出た。
「何故楽しい事ですら、忘れてしまっているの?」
戸惑いと涙に濡れた声は、だが再び星芒の眸に隠され。ーー幻が、明ける。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ……!? それはさいわいであっただろうに」
だからこそ。そうであったから。あぁわれこそは。
重なり響く声は、最早とうに歪みきってしまったが故なのか。真っ直ぐにマリアドールは時花神を見据え、旋律を紡ぐ。
「──さぁ、マリアに見せて頂戴?」
「……っく、ぁあ……」
衝撃に、衣が染まる。血の代わりに舞い踊る花に、茉莉花が馨る。僅か、身を傾いだ嘗ての神が、ざぁあ、と舞う花の中、腕を振るった。
「われこそが」
歌うような声音と共に、蔓が穿たれる。浅く、受けながらもーーだが少女は旋律を紡ぐ。駆ける他の猟兵達の姿が、その足音を確かに見つけられたのだから。
成功
🔵🔵🔴
木元・杏
双子の兄、まつりん(祭莉・f16554)と
ん、遅れない
灯る陽光を野太刀にしてオーラ放出
まつりんとわたしを包む防御壁を作り、走り出す
屍人が集まってきたらオーラの量を一気に増やし、その光を水晶に反射させて倍増
目眩まして怯ます
まつりん、今
まつりんが屍人を薙ぎ倒す空間から
指揮官の位置を確認しつつ進む
神さま
一度会ったあの時と同じように【華灯の舞】
幸せな夢
…まつりんが一緒にいてくれる
「当たり前」が「幸せ」ね
でも、それは夢じゃない
現在、過去未来続く当たり前
それは事実
ね、まつりん(ふんわり笑って)
神さま、あなたの花々に食べさせる夢は
あなた本人の夢じゃなきゃだめ
忘れないで
うさみみメイドさん、近接して殴り飛ばして
木元・祭莉
双子の妹、アンちゃん(f16565)と!
うん。考えるのはアンちゃんに任せよっと♪
おいらは、屍人を野生の勘で嗅ぎ付けて、そちらへ突進!
遅れずについてきてね!
敵、連携とか報告とかする素振りない?
様子を見ながら、方向転換。
如意な棒からの衝撃波で、屍人を薙ぎ払いながら、どんどん進むよ!
紫のかみさまに会うの、二度目だ。
悪夢。
アンちゃんが、血だらけで怯えて、泣きながら走ってきて……
目の前で倒れた。
……無い。
アンちゃんがそんなワケ、無い。
だって、アンちゃんがおいらに見せるのは、笑顔だけ。
痛くても、辛くても、無理してでも、笑顔だもん!
幻を打ち払い、至近距離からの灰燼拳。
今回も、きちんと骸の海に返してあげるね!
泉宮・瑠碧
…悲しい行軍だな
彼らは進む程に、喪うだろうに
…もう終わりにしよう
僕は弓を手に精霊祈眼
風の精霊による風を纏い空中浮遊
水晶の有無や動き方にも注意して空からの捜索や
攻守でも第六感を研ぎ澄ます
被弾は見切り
水晶屍人へは浄化を願う破魔を乗せた水矢
射った矢を分散させて範囲攻撃
発見時の夢は…
幼い頃に
転んで怪我をした僕を姉様が背負い
一緒に歌いながら帰った時の事
…だが
幻が幸せな程、僕には幸福よりも悲しみが満ちるな
…もう戻りはしないと、痛感して
それでも蔓の触手が伸びたら
植物の精霊へ願う
この花々が望むものは此処に無いから帰してあげて、と
時花神へは
氷の精霊で氷柱を降らせよう
目印にもなれば
屍人も
時花神も
どうか、安らかに…
●幸の在り処
「……悲しい行軍だな。彼らは進む程に、喪うだろうに」
血の匂いが、帯をひくように続いていた。その多くが口元を赤く染めているのは、一人、また一人と故郷の誰かを喰らったからだろう。水晶屍人に噛まれた者は、水晶屍人となってしまう。町人であろうが、武士であろうが関係無く。
「……」
着崩れた着物でいるのは商人だろう。奥にいるのは書生か。軍勢の先頭に武士が多いのは、前線で起きた戦の結果であろう。
それは、果たして戦であったのか。命を奪い取られただけであったのか。悲劇であったことに、まず違いはないのだろうと泉宮・瑠碧(月白・f04280)は深い青の瞳を細める。水晶屍人を、押しとどめる為に出た者達が、その中の数人か、数十人かがああして取り込まれーー残る武士たちは、知った顔を斬らねばならない。それが水晶屍人の指揮官が生存している間は、長く強い敵として現れ、続くのだ。
「……もう終わりにしよう」
終わりにして良い筈だ。こんな悲しみは、きっともう。
すぅ、と息を吸い、知らず握ってしまっていた拳を解く。
(「どうか、力を貸して……この願いを聞き届けて」)
開いた掌に、柔らかな風が触れた。それは伝心ですらあった。森の巫女として幽閉されて尚、その心は森の精霊たちと心を通わせていたのだから。幼少の頃より、そうしてきた瑠碧の声を、かれらは聞き届ける。祈る娘の瞳がまっすぐに水晶屍人を捉えた。
「……行こう」
静かに、告げた瑠碧の体がふわり、と浮く。風の精霊の加護だ。その力と共に舞い上がった瑠碧へと水晶屍人たちが気がついた。
「ルグァアア」
「グルァアアアア……!」
ひゅん、と最初に届いたのは槍であった。取り込まれた武士が所持していたのか。とん、と瑠碧は空を蹴る。風の精霊と共に空を舞う。見上げる屍達に向け、精霊杖を掲げ、変じた弓を構えた。
「……終わりで良いんだ」
弦を引けば、矢を番えずにあった弓に水の矢が生まれる。陽の光を受け、キラ、と光る矢、引きしぼる力から破魔が宿る。浄化を願うその想いが眼下の屍達に放たれた。
「ルァ、ァアア!?」
一矢、放った矢は届く前に分散して。降雨の如く降り注ぐ矢が、水晶屍人達を撃ち抜いて行く。肩口に、額に。水晶へと矢が届けば、ぐらり、と崩れるようにして屍達は倒れ、灰へと還る。その奥からも、ぐん、と飛びかかるように来た水晶屍人の弓が瑠碧の足に触れた。
「ーー」
小さく、息を飲みーーだが、それだけだ。それだけで痛みを飲み込んで、外に置いて瑠碧は弓を引きしぼる。纏う風に、また一つ願い破魔を宿す。天地の攻防は、水と血に彩られていた。軽やかに空で躱し、真上から放つ矢が雨となって降り注げば、跳躍で飛びかかろうとする死者のナイフが空を襲う。水晶屍人たちが狙ってくるのは、見えている生者であるからだろう。自分の他にも一区画、屍たちの動きが僅かにずれている所があるのが上から見える。
(「……いや、待て。あの場所は……」)
動いていない。
口の中、そう転がした言葉に、瑠碧は解を得る。踏み込んだ猟兵たちを前に動じない区画。動じない無いのでは無く、それ以上に重視するものがあるからだ。即ちーー。
「指揮官の存在」
なら、と瑠碧は空を蹴る。空から一気に踏み込む。最後の一体、屍の肩を蹴り、た、と跳躍するように前に飛び込んだ瑠碧の視界で長い、髪が揺れた。
「……なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ。われの邪魔をする」
「……何を」
言って、と紡ぐ筈の言葉は、瞬間、ぶわりと視界を覆った『景色』に、見えたその人の姿に掠れて消える。
「姉様……」
姉が誰かを背負っていた。自分だ、とそう思う。幼い頃に、転んで怪我をしたのだ。怪我をした瑠碧を姉様が背負ってくれて。一緒に歌いながら帰ったのだ。
歌声がする。優しい歌声か。
「……だが、幻が幸せな程、僕には幸福よりも悲しみが満ちるな」
瑠碧は知っているのだ。姉はもういないのだと。もう、戻りはしないと痛感して。唇に、その名を乗せることもできぬままに溶けるように消えていく幻に、一度、瞳を伏せる。次に開けばそこにあったのは、戦場だ。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ。幸いであっただろうに。幸いを望むものだというのに」
幻の紡ぎ主・時花神・紫翡翠は叫ぶ。薙ぐように振るった手は、だが、花を生み出すことはなく、何故、と叫ぶ声に呼応するように空気が爆ぜた。爆風を、瑠碧は矢で弾く。とん、と弓を叩き、しゅん、と杖の携帯に戻すと水気と共に、力を紡ぐ。
「屍人も、時花神も」
空に集うは水の精霊。娘の声に寄り添うのは水の魔術。掲げる杖が淡く輝き、水は、氷の柱へと変じた。
「……!」
「どうか、安らかに……」
祈るように告げる言葉が、送る合図となった。ゴォオオオ、と地面を震わせる一撃に、時花神が傾ぐ。は、と落とした息が、凍りついた腕からばらばらと花が落ちる。血の代わりに見えたそれは、僅か体を再構成させようと動くがーーだが、それさえ上手く動かない。すでに猟兵たちから多くの傷を受けていたのだ。だが、その事実にさえ、神たる彼は気がつかずーーいや、気がついたところで気にするつもりさえないのか。何故、と紡ぎ、幸いを零し、悪夢を紡ぎ。幻へと猟兵たちを沈めながらも時花神は力強い瞳で、瑠碧を見据えていた。
「……」
臆する気は無い。元より氷柱は目印の為だ。時花神を穿ち、四散した先で囲うように氷が立つ。不意に、あそこ、という子供たちの声が瑠碧の耳に届いた。
「まつりん、あそこに氷が見えるよ。合図みたい」
こっちでやっぱり間違って無かったんだ、と少女は声を上げた。黒髪が揺れ、グルァアアと飛びかかってきた水晶屍人に、刀を縦に構える。
「いくよ」
野太刀へと変じた灯る陽光の纏うオーラの量を一気に、増やす。眩しい程を、更に木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)は水晶屍人の、肩口から生える水晶屍人へと向けた。
「グルァアア!?」
「ルァアアア!?」
光は、倍増される。目眩しに水晶屍人の動きが鈍った。
「まつりん、今」
「うん。アンちゃん!」
ぴん、と耳をたて、木元・祭莉(サムシングライクテンダネスハーフ・f16554)は 如意みたいな棒を迷いなく振るった。薙ぎ払う一撃は衝撃波を生み、僅か、浮き上がった屍の体を打ち据える。
「うん、やっぱりあそこだ。流石はアンちゃん。遅れずについてきてね!」
「ん、遅れない」
前に行く祭莉が残る道を切り開き、踊るようにたん、と地を蹴って、飛びかかる屍を払う。決して二人迷うことは無いよう、離れ離れになることは無いように駆け抜けていけば、頬を、水の気配が撫でた。
「ここ……」
冷気に、先に気がついたのは杏だった。氷柱による一撃によるものだろう。舞い上がる花びらと共に、水を操り時花神と剣戟を交す瑠碧が、こく、と頷く。そうして、視線を正面へと向けた瞬間。
「神さま」
そう、口にした瞬間ーー空間が、歪んだ。
『アンちゃん』
ふわりと、柔らかな双子の兄の声がしていた。手を握った兄の、祭莉の声。ね、と落ちたそれに、うん、と杏は小さく頷いた。
「……まつりんが一緒にいてくれる。「当たり前」が「幸せ」ね」
でも、それは夢じゃない。現在、過去未来続く当たり前。
「それは事実」
そう言って、杏はふんわりと笑った。
「ね、まつりん」
幻が溶けるように消える。霧のように淡く、歪んでいた視界が開ければ、杏の視界で花が踊る。
「われこそは時花神」
次の瞬間、ひゅん、と穿つ蔓が放たれた。捕えるよりは槍ほどの鋭さか。穿つ一撃が、僅かに腕を擦りーーだが、杏は指先を時花神へと向ける。
「射て」
と迷いなく、少女はそう告げた。一度会ったあの時と同じように。指先を向ければ、桜の花弁を思わせる白銀の光が、向かう。美しき白銀の力は、蔓を砕きーー神へと、届く。
「神さま、あなたの花々に食べさせる夢は、あなた本人の夢じゃなきゃだめ。忘れないで」
「……っく、ぁあ。なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜ……! 幸いは、いつだって望まれたというのに。救われねばならないというのに。否、われを忘れたものなど、など、など……!」
「……」
歪む、声がどこまでも軋むように。きゅ、と杏は唇を引き結んだ。
「まつりん……」
双子の兄はまだ、幻の中で戦っていたのだ。
「……え?」
最初に出たのは、そんな疑問だった。なんでだろう、と祭莉は思う。杏が血だらけで怯えて、泣きながら走ってきてーー目の前で倒れたのだ。
「なん……」
血が広がる。血だまりが広がっていく。アンちゃんの髪も、手も、赤く、染まってーー……。
「……無い。アンちゃんがそんなワケ、無い」
だって、と祭莉は声を上げる。
「だって、アンちゃんがおいらに見せるのは、笑顔だけ。痛くても、辛くても、無理してでも、笑顔だもん!」
声がする。アンちゃんの呼ぶ声が。
うん、と頷いて祭莉は目の前の幻から、意識を取り戻した。
「アンちゃん!」
「まつりん」
砕け散った炎の向こう、元気な杏の姿を見て、視線を合わせて頷きあう。たん、と地を蹴っていくのはーー祭莉だ。
「うさみみメイドさん、殴り飛ばして」
瞬発の加速。うさみみメイドの拳に、僅か、体を浮かした神の間合いへと祭莉は沈み込んだ。だん、と足で地を捉え。
「紫のかみさま。今回も、きちんと骸の海に返してあげるね!」
ーー穿つ。
高速の一打を、防ぐことなど出来る筈も無い。
「グ、ァアアア……!?」
何故、と声が落ちる。歪む声音は獣の咆哮に似て、怨嗟を紡ぎ出す。嘗ては、そうでは無かっただろうに。血の代わりに、こぼれ落ちた花が風に巻き上げられて消えていく。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ、はばむ」
あと少し、あと少しで時花神の核へと確実にーー届く。かの神を、この行軍を止める為のその場所に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
身に着けたヒトガタの依代が
呪に震えて裂ける、敵の懐まで
第六感を研ぎ澄ませつ
屍人がより多く集う昏い闇を目指しひた奔る
オーラ防御で身を包み
空蝉の如く攻撃をひらり躱して
空に指で描いた五芒星は
破魔と範囲攻撃力を高める祈り
扇状に開いた符の衝撃波で群がる敵を祓いし後
紡ぐ花筐
ふわり撒いた符が無数の葩となり
周囲の屍人を散華させ、突破
時花神の姿、と共に
見える景色は
手紙屋の宵
皆との談笑
私にとっての幸いは
現であったのかと笑み深め
――故に「夢」ではない、
地へと踏み込む確かな一歩で放つ花筐にて
幻影を打ち砕く
幸いを見せてくれた
あなたの生は「幸せ」でしたか?
同じく神と呼ばれるものの最期
忘れませんよ
だから、
安らかに眠りなさい
●水晶の屍 血濡れの行列
「ルグァアアア」
「グルァアアアァア……!」
屍の咆哮が、戦場に響き渡っていた。水晶屍人の軍勢に加えるべくーーと、そこまで強い意志がある訳でもないのだろう。あれは、おそらく本能の類だ。食らいつき、仲間を増やせと、少なくともこの場にいる水晶屍人たちは『そうなっている』と都槻・綾(夜宵の森・f01786)は思った。
「グルァアア!」
だん、と獣のように身を低め、飛びかかってきた水晶屍人の腕に、軽く足を引く。半身となって交わし、引いた足を軸に身を回す。ひらり、舞うように。正面へと向直れば、白い指先には霊符が構えられていた。
「終わりにしましょう」
ピン、と張った符に宿るのは破魔の力。空に描いた五芒星は祈りとなって綾の身に降りていたのだ。加護を紡ぎ、その身に降ろし。綾は指先から符をーー落とす。戦場へと、ただ、はらと落ちる筈であった霊符は向けられた綾の指先に、向かう先を知る。
「どうか良い眠りを」
瞬間、扇状に開いた符の衝撃波が水晶屍人達に触れた。
「グァアアアア!?」
それは衝撃であったか。斬撃であったのか。
弾くように向けた腕から衝撃波に砕かれ、灰となって消えれば、その向こうから飛び超えるようにして屍は来る。
「グルァアア!」
獣が食らいつくように、大口を開けてくれば手にした薄紗が落ちる。力が発動するより早く、死者の牙が綾の腕に来た。
「ーーおや」
流石に全ては躱しきれないか。
肉を裂き、生者を食らわんと食らいついてくる水晶屍人にーーだが綾は一つ息をつく。ぱたぱたと落ちた血に息を飲むことも、声を詰まらせることもなく。
「数が多いのは、事実ですしね。ですが……」
傷は受けても、立ち止まりはしない。
口の中、そう言葉を作って綾は短く息を吸ってーー紡ぐ。
「いつか見た」
この身は、主であった陰陽師の映し鏡たる姿。
その生の続きを、眼差しの先を綾は生きるのだ。
「――未だ見ぬ花景の柩に眠れ、」
地に落ち、濡れた薄紗がぶわり、と揺れる。舞い上がる風が戦場に生まれる。髪を揺らし、前髪の奥、その瞳で綾は真っ直ぐに敵を見据えた。
「ルガァ、アアア!?」
何かが違う、とそう思ったのか。反射的に飛び退いた水晶屍人へと符を散らす。ふわりと巻いた符は無数の葩となりーー届く。
「ァア、ァアアア……!」
触れたのは頬であったか。指先であったか。
同胞の血に濡れ、自らもそうして取り込まれてきた水晶屍人が崩れ落ちていく。灰へと帰ることは定めであるのか。消えゆく姿を見送り、綾は水晶屍人が多く集う闇を見据えた。
「やはり、彼処ですか」
第六感を研ぎ澄まし、見出したその方向。残る傷に、ただ息だけをひとつ置いて綾は戦場を見据えた。
「……なぜ」
辿り着いたその先で、舞い上がった葩が水晶屍人を送っていた。指先、舞い上げた綾の符は戦場に色彩を添え、己を守るように置かれていた水晶屍人たちが消え失せたのを時花神・紫翡翠は知る。
「なぜ」
「なぜ、ですか」
声は問いかける程の色を持たず。だが、血に濡れた瞳が真っ直ぐに綾を捉えーー視界が、歪んだ。
「……」
薄靄の世界。真昼か、夕暮れか。否、宵だと綾は思う。此処は知っている場所だ。
手紙屋の宵。
皆との談笑。
笑い合い、過ごすこの時間にーーあぁ、と綾は小さく息を零す。
「私にとっての幸いは現であったのか」
笑みを深め、男は笑う。幸いを、己にも幸いと思う何かがあるのだとそう知って。それが現であると知ればーー。
「――故に「夢」ではない、」
地に踏み込む確かな一歩。舞い上げた符は、舞い踊る葩と共に幻影を打ち砕いた。かき消すように現の幻は去り、そのまま迷うことなく神へと行く。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ!」
厭うのか。
叫ぶような声に獣の咆哮が混じり、われこそは、と告げる時花神が腕を振るう。瞬間、舞い上がった花を綾は見る。穿つ蔓が、ひゅん、と腕を貫いた。
「幸いを見せてくれたあなたの生は「幸せ」でしたか?」
ばたばた、と血が落ちる。手にした符が血に染まる。だが構わずに綾は問うた。
「ーーな……」
「同じく神と呼ばれるものの最期、忘れませんよ」
どれほど血を流し、傷を受けようともーーこの戦場は、神の揺かごだ。この地で受けた軛を外す。屍の行列を止める為に。猟兵たちにはその覚悟はとうに、できている。
「だから、」
腕を貫いた蔓に綾は触れる。はらはらと花が舞う。花筐は己の持つ武器の全てを花びらへと変えるもの。手にした符だけではない。
「安らかに眠りなさい」
「ーーっぁあ、ぁあああ……!?」
舞い上がった花びらが、時花神を包み込んだ。
成功
🔵🔵🔴
蘭・七結
カヨさん/f11024
うごめく屍の群れ
ぞろりぞろりと増えてゆく一方で
なんだか、むつかしい間違い探しのよう
ええ、カヨさん。〝感じる〟わ
得た第六感を研ぎ澄ませ
あなたの見遣る向こう側へ
つらなる屍たちは数を増してゆく
どうやら正解、のようね
手にするのは黒鍵の刃
たんたんと、屍たちを薙ぎ払って
救えないのなら、戻れないのなら
せめて美しく、散らせてみせましょう
見て、カヨさん。みつけたわ
かくれんぼは、終いにしましょう
紅を纏うあなたは、いっそう美しいわ
花の盛りも、散りゆく時も、何時だって
その美しさの代償を、じいと焼きつける
『あなた』には、彼女の美しさが理解るかしら
潜む毒牙に、融解を齎す猛毒の彩を添えて
〝満つる暗澹〟
境・花世
七結・f00421と
屍の歩んでくる流れを“視”て
動きの中心、守りが堅固な場所を探ろう
彼処の方角――七結、感じる?
二人のちからを重ね合わせて、
行くべき方向を見定めたなら
扇一閃、渦巻く風で屍を退けて
本丸へと一直線に駆ける、進む
きみの美しい眼差しの先、
――みぃつけた
敵の視認と同時に血葬を発動
この身を糧に咲く花、人ならざる姿
きみにはもうとっくに見せていたね
だから今、躊躇いもなく咲き誇ろう
高速移動で瞬時に接敵したならば、
早業で刻印宿す手を伸ばす
蝕まれても痛くない
花が爛れ散っても構わないのだと
かろやかに笑ったままで指を穿つ
このまま斃れるかもしれない、後先など知らない
けれどきみが終わらせてくれると、信じてる
●夢境の華
屍の行軍は、長く帯のように続いていた。猟兵たちの踏み込みさえ、その歩みを止めるには足らないのかーー否、止まる気など最初から無いのか。踏み込み、道を押しひらけば、波のように衝撃が伝わり、群がるように飛びかかる。その腕を、手にした武器を浚うように切り上げ、突破だけを目的として突き進む。流石にその全てを躱すことはできずーーだが、大地を濡らした血さえ踏み抜くように水晶屍人は前へ、前へとーー江戸へと、進み続けていた。そうしていれば何れ、辿り着くとでも言うように。足りなくなれば、生者を食らえば良いと。数千、数百の軍勢は進み続ける。
ーーその牙が、猟兵たちを取り込むには足りずと気がつけぬまま。
「ルグァアアアア!」
「……」
蠢く屍の群れを。見据える娘たちの姿があった。
「ぞろりぞろりと増えてゆく一方で、なんだか、むつかしい間違い探しのよう」
艶やかな髪が、戦場に吹く風に揺れていた。あかい牡丹一花を冠った蘭・七結(戀一華・f00421)が、ほう、と息を零す。最前列を行くのは武者であったのだろうか。鎧を身に乗せたままーーだが、千切られた腕をだらりと引きずっている。半ばに見えたのは町民か。浴衣姿の娘に、水風船のカケラを手にした青年が見える。
「ーーうん」
あれは、襲撃の順番なのだろう。
薄紅の八重牡丹を瞳に、映える赤の髪を揺らす境・花世(*葬・f11024)は静かに息を吸った。
「町を襲い、進み続けた姿がそのまま出ている。このまま行けば、彼らは同じ地を守る者たちとぶつかることになるんだね」
武士はーーまず間違いなく、奥羽諸藩の者たちだろう。全てが全て見知った姿とは限らず。だが、家紋を見れば、姿を見れば思うのだろう。仲間であったのだ、と。
「終わらせよう」
短く、花世は告げる。瞳に一度、力を入れる。淡く、花を宿す片割れが光を帯びたか。屍の歩んでくる流れを花世は視る。前へ前へと進み続け、その数を増やし続けている水晶屍人を思えば単純に層が厚いのは後方。だがその一区画に、妙な違和感があった。
「彼処の方角――七結、感じる?」
「ええ、カヨさん。〝感じる〟わ」
花世の『視た』ものに、七結も頷く。第六感を研ぎ澄まし、彼女の見る向こう側にあるものを感じ取る。
それは強大な気配。魔力の発生源にして終着地。そう、とやわく七結は告げる。
「そこから凡てを伝えているよう、ね」
なら、と誘う声ひとつ。いきましょう、と誘う声音は遊びにでも誘うように。美しい少女の笑みに、百花の娘も微笑んで頷いた。
「ーーあぁ」
その声音は凛々しく。た、と地を蹴る。ルグァアアア、と吠える屍に扇を振るった。斬り付ける為では無い。
「グルァアアア!?」
生まれたのは渦巻く風だ。
巻き込まれるように水晶屍人が身を飛ばす。無理に踏み込んだ屍が灰へと代わり、風に巻き込まれた一体が転がり落ちれば、たん、と娘たちは軽やかにその場を飛び越えた。
「どうやら正解、のようね」
水晶屍人達はその数を増してゆく。たんたん、と屍達を黒鍵の刃で斬りはらい、浅く、受けた傷をそのままに七結は静かに告げた。
「救えないのなら、戻れないのなら」
「ルグァアアア!」
飛び込んできた屍の腕を、避ける。たん、と身を横に飛ばし、黒鍵の刃を持つ腕をーー伸ばす。舞うように、踊るように。少女は黒鍵を振り上げた。
「せめて美しく、散らせてみせましょう」
「グルァアア、ァアアア……!」
屍は、灰へと変わる。体が残らぬのは水晶が故か。この地が故か。開いた視界に、七結は長く揺れる髪を見た。
「見て、カヨさん。みつけたわ」
舞い踊る花は、戦いの名残か。し吹く血の代わりに時花神は花を零す。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ……!」
「かくれんぼは、終いにしましょう」
囁くように告げる七結の声。その美しい眼差しの先にかみさまを見つけて花世は告げた。
「――みぃつけた」
ぐん、と時花神がこちらを向いた。目があった瞬間、叩きつけられたのは明確なーー敵意だ。
「なぜ……!」
声は獣の咆哮にさえ似ていた。迷いなく花世は飛ぶ。前へ、踏み込む。
「あかいだけ、あまいだけ」
それは一つの鍵。亡くした右目に咲く薄紅の八重牡丹。花世の身を糧に咲く花、人ならざる姿。
絢爛たる百花の王をーー纏う。
(「きみにはもうとっくに見せていたね」)
口の中、ひとつ言葉を作って笑いーー前に、出た。
「だから今、躊躇いもなく咲き誇ろう」
瞬発の加速。踏み込みは飛ぶように、花の香りが追う。は、と僅か、顔を上げた時花神へと刻印宿す手を伸ばす。触れたそこから、痛みが走った。癒えぬ疼痛。精神をひどく揺さぶる力に、だが指先は僅かに跳ねただけで。ーーそう、それだけだ。
「花が爛れ散っても構わない」
病に、痛みに。意識を揺さぶる力に、花世はかろやかに笑い。指をーー穿つ。
「ーーっく、ぁ」
衝撃に、時花神が揺らぐ。踏鞴を踏み、ばたばたとこぼれ落ちた花が、血の代わりに戦場を染め上げていく。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ……!」
吠える神の声が大地を震わせた。穿つ衝撃に、花世は腕を振り上げる。舞い上がった花びらが衝撃波を散らし、打ち合いの間、頬に、腕に傷が走る。
このまま斃れるかもしれない、後先など知らない。
(「けれどきみが終わらせてくれると、信じてる」)
花が舞い、血が踊り。打ち崩されそうになりながらも、た、と前に行く。迷いなく触れ、穿つ指先は色彩を変じていたか。ばたばたと花世の血をすくい上げるように花が舞う。
「紅を纏うあなたは、いっそう美しいわ」
花の盛りも、散りゆく時も、何時だって。
囁くように告げて七結は、その美しさの代償を、じいと焼きつける。
「『あなた』には、彼女の美しさが理解るかしら」
嘗ては、その存在は「神」であったという。仔細は知れずーーだが、この屍の行軍に、派生する死の行軍の要石として時花神・紫翡翠は添えられていた。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ……!」
叫ぶ声は歪み、獣の咆哮に似てーー舞う花びらは、羽ばたきを呼び起こす。水晶屍人の軍勢を動かす為、この地に指揮官として固定された時花神に対話に応じるだけの理性は残されず、幸いと悪夢の幻をただただ紡ぎ続けていた。
「われは、わたしは、なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ……!」
それも、もう此処で終わりだ。
潜む毒牙に、融解を齎す猛毒の彩を添えて。
「おちてゆくの、つめたい夜へ」
猛毒の入った香水瓶を七結は増やす。満たすように。終わるように。
身もココロも蕩かせて、ひとつに結びなおして。
「ーーようこそ、果てへ」
甘く、猛毒の彩りは時花神の手をーー取った。
「っぁあ、ぁああああ……!?」
なぜ、と叫ぶ声は最早なく。ただ、ぶん、と手を振り、首を取るように伸びてきたその腕へと花世が踏み込む。払い上げ、軸線を僅かずらすがーーだが、既に多くの傷を受けていた娘の視界が揺らぐ。
「ーーだが」
低く、静かに絢爛たる百花の王を纏う娘は告げる。ーーえぇ、と微笑み恋鬼は告げる。
「これでもう、おしまい」
とろり落ちる猛毒の色彩が、肩口まで染め上げ。は、と息を飲んだ時花神・紫翡翠が頭を振る。
「なぜ、なぜなぜなぜなぜ……っわすれないで、救われるべきだと、なぜ、なぜなぜなぜ……!」
生命は……!
叫びと共に腕が伸びる。それは、嘗て神であったかの存在が数多の生命に縋られ、手を差し伸べてきたが故か。ひとは、と叫ぶ声は掠れ、血の代わり、こぼれ落ちる大量の花と共に時花神・紫翡翠は崩れ落ちーー消えた。
水晶屍人の軍勢が、揺らぐ。要石たる指揮官を失い、統制が崩れていく。
いずれ、この地の屍も皆還り行くだろう。痛みを胸に、けれど、いつか前を向く為に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵