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エンパイアウォー③~敵意の峠道

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●吹きすさぶ風の牙
「サムライエンパイアで、とうとうオブリビオン・フォーミュラとの決戦が始まるわ」
 グリモアベースにて、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)がそう切り出した。
「知っている人も多いと思うけれど、改めて説明するわね。オブリビオン・フォーミュラの名は織田信長。現在、島原に『魔空安土城』というものを構え、配下の第六天魔軍将と共に、サムライエンパイアの征服に乗り出したところよ」
 徳川幕府側はこれに対抗すべく、諸藩からの援軍もあわせ、幕府の総力をあげた10万の軍で討伐へと向かっている。
「戦の為の人数が必要なのは勿論だけど、この人数には、もうひとつ重要な意味があるの」
 織田信長が構える『魔空安土城』は、どんなユーベルコードも防ぐ無敵の城と言われている。
 だが、たったひとつ。徳川家秘蔵の『首塚の一族』の操るユーベルコードを用いることが勝機に繋がるという。
「私も詳細は家光様のお話以上のことはわからないわ。それでも、そのユーベルコードを万全の体勢で使用する為には、より多くの兵を連れた状態で、安土城まで辿りつかなければいけない。これは確かよ」
 だが、敵としてもこれだけの兵をむざむざ放っておくはずがない。
 戦力としても、ユーベルコードの妨害としても。
「実際、この行軍にはあらゆる苦難が待ち受けると、多くの予知が出ているわ。……そして、今日の本題はそれ。行軍の数を減らそうとする魔軍将の手勢を、押し返して欲しいの」

 幕府軍は、本隊が東海道を、中山道方面軍が中山道を通り、畿内への玄関口である関ヶ原へと向かっている。
 今回対処する障害は、中山道方面軍へのものになる。

「中山道の要衝である信州上田城の周辺は、魔軍将である上杉謙信の軍勢により制圧済み。その手勢は城の周囲の山岳地帯に配置されているわ」
 信州上田城が小さな城であり、全オブリビオンの収容ができないことが理由ではあるが、結果的に複数部隊のオブリビオン戦力が周辺に伏せられていることになる。
 何も手を講じなければ、中山道方面軍の2万は簡単に壊滅するだろう。
 そこで、幕府軍より先行して主力級の部隊を撃破してゆき、上杉軍の戦力を削ぐ作戦だ。
「私の予知した部隊は、数は大体10から20。首の無い白虎のすがたをした、風を操る力に長けたオブリビオンよ」

 能力としては、やはり風に関するものが目立つ。
 ひとつは、彼らの身長の2倍の、3つの竜巻を召喚する能力。竜巻は白虎の動きをトレースし、白虎の牙や爪を更に巨大にした威力の攻撃を行う。
 ふたつめは、触れるものを切り裂く暴風を纏った突進による、超高速かつ大威力の一撃を放つ能力。強力だが、自身から30cm以内の対象にしか使えないという弱点もある。
 みっつめは、相手の動きを読む風の鎧をまとい、高速移動とかまいたちによる遠距離斬撃の放射を可能とする能力。ただし、強力な分、毎秒寿命を削る側面がある。

「全体的に、風との親和性が高いみたいね。相手の動きを風の流れで察知するときもあるみたい」
 その特質を活かし、中山道方面軍がとある峠を越える瞬間を狙うつもりだろう、というのが、コルネリアの予知した光景だ。
「行軍中は勿論警戒しているけれど、下り道に差し掛かる辺りは、視界が開ける反面、木々の陰や高低差で、死角や隙も多くなる。それを狙って、峠近くで待ち伏せを行おうとしているわ」
 テレポートによる移動自体は少し離れた場所になるが、峠道方面からでも、その周辺からでも、やりやすい地点から攻めることが出来る。
 今から移動すれば、待ち伏せに適した場所を探しているタイミングでの遭遇となるだろう。
「個体としても強いし数も多いけれど、攻め口は色々あると思うわ。奇襲を仕掛ける時間や隙もある。各々利用出来る能力や経験を活かしてね」
 例によって、具体的な方法は皆に任せる、と告げた後、コルネリアはふと声のトーンを落とした。
「最低でも一万。そして集まった十万。戦に、そしてユーベルコードに必要なのは勿論だし、命令というだけでなく、自分の住む国を守る為に立ち上がった人達よ。……ひとりひとりが、今を精一杯生きている」
 己の住む世界を懸けた戦だ。彼らには相応の覚悟と願いがある。
 十万の向こうに、彼らに繋がるたくさんの人の願いがある。
「どうか、少しでも多く、幕府軍の人達を守って。――覚悟を決めた人達の、その決断と、意志を」
 猟兵たちひとりひとりの目を見て、コルネリアはそう願った。


越行通
 こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
 今回は「エンパイアウォー」に関わるシナリオとなります。

 OPにもありましたが、改めて、峠に近い山の中で、オブリビオンの集団と戦うシナリオです。
 舞台は山岳地帯にある山道であるため、緑による陰が多く、道もあちこち蛇行しています。
 オブリビオン集団は、最適な奇襲場所を探してうろうろしているところです。これの撃破が勝利条件になります。
 奇襲、暗殺、真っ向勝負、色々あると思います。どうか自分らしい、自由なプレイングをかけてみて下さい。

 皆様のプレイングをお待ちしております。


 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 集団戦 『堕ちた白虎』

POW   :    旋風
自身の身長の2倍の【3つの竜巻】を召喚する。それは自身の動きをトレースし、自身の装備武器の巨大版で戦う。
SPD   :    飄風
【触れるものを切り裂く暴風を纏った突進】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    凱風
自身に【相手の動きを読む風の鎧】をまとい、高速移動と【かまいたちによる遠距離斬撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

秋山・小夜
アドリブ歓迎。

「敵は虎なのか。わたしは狼だ
けど、打ち破ってみせる!」

初手に80cm砲のグスタフとドーラを展開し、敵に砲撃。回数はお任せします。

その後、一番数値の高いSPDを生かして回避しながら右手に妖刀夜桜、左手に巨大メイス 崩山を展開して敵に斬りかかりに行く。邪魔が入るなら全て斬っていく。とにかく暴れまわる。コードの発動タイミングはお任せします。

例え相手から反撃されても怯まず斬りかかりに行く。


シン・ドレッドノート
アドリブ連携OK
【SPD】

「幕府軍の皆さんを、無事に家族の元へ帰すために…!」
私にも無事を願って待っていてくれる人がいますし、皆で無事に帰りましょう。
貴紅に騎乗、樹上ギリギリの高さに空中浮遊し敵を探索します。
怪盗の単眼鏡のセンサーで風の動きを計測、敵の居場所を探索しますね。

「ターゲット・ロック…目標を狙い撃つ!」
敵を発見したら、【異次元の狙撃手】とスナイパー技能を発揮して、じっくりと狙いをつけて超遠距離からの狙撃を行います。
怪盗の単眼鏡で照準を付けたら、真紅銃と精霊石の銃、ライフルビットで一斉射撃。
敵の反撃に対しては、閃光の魔盾のビームを展開して受け流しつつ、カウンターの射撃を撃ち込みます!


メイリン・コスモロード
POW判定の行動
アドリブや他猟兵との絡み歓迎

■心情
首の無い虎ですか、ちょっと怖いですけど
ここで退く訳には行きませんね

■行動
現場に着いたら、先ずは山岳地帯の中で目立たない&迷彩を駆使し
敵に気付かれない様注意します。
物音を立てない様に気を付けつつ、視力で相手を視認。
敵を見つけたら、敵が近づいた頃を見計らい
暗殺&先制攻撃で奇襲しますね。

攻撃は飛竜の聖槍を使い、攻撃回数を重視します。
範囲攻撃&なぎ払いで横に並んでいる敵を纏めて攻撃。
串刺しで縦に並んでいる敵を纏めて攻撃します。

敵の旋風には、見切り&ダッシュで避ける様にし
避けきれない時は盾受けで防御

常に周囲を野生の勘で注意を払い
敵に囲まれない様にする。


リュカ・エンキアンサス
俺も真っ向勝負は得意じゃないから
地形を利用して、奇襲に適しそうなポイントをいくつか探しておく
それを見張れる場所をいくつか探しておいて(あんまり上のほうは見ないだろうから、木の上とかがいいかな)そこに足場を作っておいて、陣取っておく
あとは順番に上から狙撃
あまり同じところにとどまるとこっちの居場所がばれても困るから、適度に場所は変えながらの攻撃を繰り返す
交戦中の猟兵もしくは幕府軍がいるなら援護射撃
万一移動中や狙撃中に敵に接近されるならダガーを抜いて早業と暗殺で切り抜ける。念のために絶望の福音も使用しておく

人命第一、無理しない
俺は使命とかそういうのは解らないけど
自分も他人も、怪我が少ないほうがいいね


ソラスティベル・グラスラン
歴史書の英雄たちが集う一大決戦…
この世界はわたしの友人の故郷でもあります、敗北は許されません
無辜の民を守る為、今こそ【勇気】を奮う時!
いざ、勇猛にッ!!

山道を竜の翼で飛んで偵察しますっ【空中戦】
敵の首なし虎さんは風を読む、であれば高度はなるべく上げましょう

虎さんを一匹でも発見したら…【誘き寄せ】
ぽいっと迷宮産食料セットから取り出したお肉を落とします
彼らが食べれるかはわかりませんが、集まってくれれば充分ですっ

彼ら目がけて【ダッシュ】急降下!全速力の奇襲!
拳を振り被り、全力の【怪力】を今こそ!
【北の大地激怒】!これがわたしの隕石落としですッ!!
【範囲攻撃】も!皆さん纏めてブッ飛んでくださぁい!!


尾崎・ナオ
行動は奇襲。

転送後にすぐ周囲の木を確認。頑丈で折れにくく、重さを掛けても揺れない枝を【第六感】で探して木登り。ナオちゃんの真の姿は黒猫。勿論今は人型だけど、木登りは得意なんだよね。ささっと登って、ただ静かに待つ。

もし転送してすぐ気配がしたり、最適な木が見つからなかった場合は即座に周囲の木陰に隠れて状況確認。敵の位置や数を確認してから、冷静に対処しよう

敵の姿が確認出来たら、可能な限り距離を取った状態で【指定UC】で攻撃。10秒の集中は、息をひそめて、静かに。

敵SPDは近接されなきゃ問題ないと見た。UCを撃った後は【クイックドロウ145】の二丁拳銃で早打ちしながら距離を取って確実に仕留めるよ。


眼健・一磨
加藤清正じゃないが虎退治か。
風を操る相手に腱糸傀儡は相性が悪いな。
味方も居るけど、格闘は〔鬼神招来〕で鬼神にやってもらうか。
俺は遠距離からサイコガンで【スナイパー】する。まぁ【誘導弾】だが。
攻撃は速射の【2回攻撃】で一頭づつ確実に狩っていく。
優先度は「味方を攻撃しようとする個体」が一番、二番は斃せそうな個体。
自分が狙われた時は【見切り】で回避し、【怪力】を使い鋼糸で【敵を盾にする】
十分盾にしてボロボロになったら【零距離射撃】でトドメ。
それまでにダメージを受けてたら【生命力吸収】もしておく。
戦闘では【オーラ防御】を用い、〔絶望の福音〕で敵の動きを予測。
【フェイント】を使って確実に敵を撃ち抜く。




 サムライエンパイア、山中。
 踏み固められた道の先、峠に当たる場所を見上げ、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は僅かに目を細める。
 道を少し逸れれば、重なる緑がすぐに視界を遮る。だが、こちら側から上を見上げて風で切り裂く分には、何の障害もない。
 ――真っ向勝負より奇襲を選ぶとしたなら、こういった場所。
 自身ならばどう攻めるか。そこから逆に読み取り、これから白虎が隠れ場所にしそうな地点に目星をつけてゆく。
 ――峠に注目している必要がある。その状態を更に真上や後方から見張られることは、すぐには考えにくい。
 枝が大きく張り出した樹を選んでよじ登り、より上の方の枝をロープで固定して即席の足場を作る。
 狙撃が出来る程度の隠密性と安定さがあることを確認し、また別なポイントへ移動しようとしたとき、ふいにリュカは視線を巡らせた。
「やあ」
 どうやらずっと、そこに居たらしい。
 わざと視線を向けて存在を伝えた尾崎・ナオ(ウザイは褒め言葉・f14041)が、太い幹の影から頭と片手だけを出していた。

 同じく樹上からの奇襲を選んだナオは、転送後すぐに頑丈で折れにくく、重さを掛けても揺れない枝ぶりの樹を探し出し、狙撃の瞬間に備えてじっと潜んでいたという。
「もし即刻遭遇してたり、良い感じの木が見つからなかったら悠長にはしてらんなかったろーけどねぇ」
「もう少し峠寄りになると、増えてくると思うけど……今はまだ、どこにどのグループが行くかの分担中みたいだね」
 20体の虎は奇襲にあたってグループを分け、峠を中心にそれぞれ伏せる地点を探している。
 空中を浮遊出来る備えのあったシン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)が割り出した位置関係を参考に、各個撃破で着実に仕留めることで、20体を一度に相手にすることは避けられるだろう。
「それを参考に、敵の近くまで忍び寄って奇襲をかけようとしてる人も居るみたいだね。俺もそうだけど」
 真っ向勝負は得意じゃないから、と手元のロープを引き、足場の調節を終えてリュカは立ち上がる。
「じゃあ、また後で。お姉さん」
「あれ。それほってくの?」
「適度に射撃場所を変えたくて、複数作ってるんだ。なるべく穴があかないように仕留めたいし」
「あーあー。居場所バレないのは最初の一発だけってのね。ナオちゃん知ってる知ってる」
 ナオの言葉に小さく頷き、別な場所に向かおうとしたらしいリュカが、ふと思い出したように振り向いた。
「そういえば、奇襲よりもっと強烈なのが来るらしい。それから逃げてくる奴も居るかも」

 風も匂いも届かない、遥か上空。
 ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)が、決意に満ちた表情で翼を広げて飛翔していた。
 彼女が視線を巡らせれば、未だ小さな豆粒ほどに見える距離に、ここを通るべき幕府軍の姿が見える。
「歴史書の英雄たちが集う一大決戦……。この世界はわたしの友人の故郷でもあります、敗北は許されません」
 胸の前で一度拳を握り、彼方に見える行軍をもう一度見て、彼女は強く胸を張る。
「無辜の民を守る為、今こそ勇気を奮う時! いざ、勇猛にッ!!」
 これから行おうとしていることを思い、震えたのはほんの僅か。
 敢えて声を出して自分を勇気付け、地上を行く白虎を視界に捉える。
 携えてきていた、アルダワ迷宮の恵みを詰め込んだ荷物から新鮮な肉を取り出すと、その白虎めがけて無造作にぼとりと落とした。
 ……それは、白虎にしてみれば、突然上空から風もへったくれもなく『肉の匂い』がする物体が降ってきたという形になる。
「やっぱり、頭が無いと食べないんでしょうか……でも、ちゃんと集まってくれてますね」
 警戒に満ちていても、ある程度は近づかなければ正体がわからない。
 そして、異変を前にした白虎たちは、ある程度まとまった数で行動しようとする。
 それこそが、狙い。
「これぞ竜族の一発芸! そーれ!」
 翼を畳み、『彼ら』めがけて急降下をかける。
 気合は十分。落下全ての勢いを込めて、拳を振り被る。
 白虎たちが何をしようとも、もう、遅い。
「これが! わたしの、隕石落としです!! 皆さん纏めてブッ飛んでくださぁい!!」
 地面に叩きつけられた拳が地を穿ち、瞬く間にひび割れが走り、轟音と共に石と砂礫と衝撃が周囲の白虎全てに襲い掛かった。
 ソラスティベルの一撃を真っ向から食らった数体は、その身を維持できず風へと還る。辛うじて生き残った虎たちは、咆哮に変えて竜巻を喚ぶ。
 途轍もない衝撃の余波は山全体を揺らし、そこに居る全てのものに、開幕を伝える。
 
 ――奇襲されたのはお前たちであると、示すように。

 凄まじい音と、乱れる大気に動揺する白虎を目指し、機を窺って潜んでいたメイリン・コスモロード(飛竜の鉾・f13235)が、竜のオーラを纏わせた槍を手に突進する。
 彼女の槍の大きな一薙ぎは固まっていた虎たちを強かに打ち据え、一度大きく飛ばして、地面へと叩きつける。
「首の無い虎っていうのは、ちょっと怖いですけど」
 そのまま槍を回すように彼女が突き出した槍のオーラが竜のかたちをとり、立ち上がろうとする虎を串刺しにするように貫いて、一箇所に縫い付ける。
「……しぶとい!」
 強烈な攻撃を二度、食らった虎たちであったが、それでもそのうちの何匹かがゆらりと身を起こし、吠え声の代わりのように風を呼び起こす。
 竜巻の襲い来る予感に、一旦大きく距離を取って魔法陣の盾を構えるメイリン。
 ほんの数秒遅れて盾に叩きつけられる風圧に、彼女の足が僅か、地面に沈む。
「ですが……ここで退く訳には行きません」
 3つの竜巻と虎の動きを見て、風を受け流したそのままの勢いで横へと飛び、即席の風の檻をすり抜ける。
 囲い込みを突破したメイリンを更に追おうとした虎のうち一匹を、青白い炎が被さるようにして覆う。
 炎を手繰ったのは、荒々しき鬼神。
 眼健・一磨(祀ろわぬ民・f09431)が呼び寄せ、憑依させたその存在が虎たちを威圧すると共に、憑依主の一磨がサイコガンによる攻撃を次々と繰り出し、一体ずつ虎を仕留めてゆく。
 その隙に囲みを突破したメイリンが、みたび槍を振るい、虎の背を強かに打ち据える。
 まるでまだ頭部があるかのように身を捩った白虎が音も無く風に解け、竜巻も緩やかに風へと変じた。

 途轍もない振動、動揺する虎たちを視界に収めながら、息をひそめ、静かにナオは刻を数える。
 心の中で10を数えた瞬間、ナオのユーベルコードが練り上げた『矢』が、遥か離れた虎の一匹、恐らく心臓と思しき箇所を撃ち抜く。
 音も無く風に消えゆく一体を見て、周囲の個体が次々と暴風を纏い始めた時には、既にナオは愛用の拳銃二丁による早撃ちで、暴風よりも早く鉛玉を叩き込む。
「うわ、樹へし折れてんの。やっぱアレ、全力で距離取るのが正解か」
 横転した虎の激突を受け、ナオの居る樹より若干低い程度の樹が根元から曲がるのを見て、ナオはしなやかな動きで枝を蹴った。
 攻撃の方角そのものは、虎たちも理解しただろう。そして、こちらを追いかけてきている。
 だが、狩るのはこちら側だ。
 素早く体勢を入れ替えて射撃を繰り返し、虎の列を引きずる一方で、少しずつ確実に削り落としてゆく。
「おっと」
 ナオの行く手、前方に、今まさに倒れ伏し、風へと解けゆく個体が一体。
 足を止めずにちらりと見れば、視界の上の方で片手だけを覗かせ、ある方角を示した。
「ホントにすぐ後だった」
 ナオがにんまりと口に弧を描き、示された方角へと移動してゆく。
 そちらではまさに、大きな音と光、衝撃の乱舞が開催されているようだ。
 もう少し減らしてから向かうか、と考えた時――
 ナオが引きずりまわしてきたうちの一体が、遥か遠くからの熱線を浴び、蒸発した。

 ソラスティベルによる開幕の一撃は、山中のオブリビオンに動揺をもたらした。
 その動揺が醒めぬうちに、包み込むほどの大きさの80cm砲――グスタフ・ドーラを担いだ秋山・小夜(細かいことは気にしない自由気ままな狼少女・f15127)が、虎が我に帰るまでの間、しっかりと両足で地を踏みしめ、80cm砲から発せられるビームによって虎の群れに穴をあけ、道を作り出す。
「聞け、虎ども。わたしは狼だ。けど、てめぇらを打ち破ってみせる!」
 虎たちの無言の咆哮、竜巻にも怯むことなく吠えた小夜は、右手にすらりと抜いた妖刀夜桜を、左手は2mを超えるメイスへと持ち替え、敵の中心めがけて躍り込んで行った。
「無茶をしますね。色々な意味で」
 怪盗の単眼鏡――ぱっと見は普通のモノクルを通してそれらの状況を把握したシンが、騎乗する宇宙バイク『貴紅』の高度を調整、真紅銃と精霊石の銃、ライフルビットといった武装類を一斉に励起させる。
 己の無事を願って待っていてくれる人の存在を思い、皆の無事を願う。
 そして、小夜のように戦場の中心に立とうとする者を、無事にと願うならば――、一刻も早い決着こそ近道。
「やるべきことに、変わりはありません。幕府軍の皆さんを、無事に家族の元へ帰すために……!」
 怪盗の単眼鏡を通して、小夜を狙って放たれる竜巻の牙、なくした頭部の代わりに渦巻く暴風を抱く虎、その動きを仔細に分析、照準を合わせる。
「ターゲット・ロック……目標を狙い撃つ!」
 精密に計算されたタイミングと照準で、ビームやライフルビット、精霊の力そのものが超遠距離を計算通りに正しく駆け巡り、暴風と一体化した白虎の群れを一斉に制圧していった。

 山中にて奇襲の機会を窺っていた20体。
 奇襲をかけるつもりが奇襲を受け、天空からの一撃で大きく数を減らした上、統率が取れぬまま猟兵たちのペースに持ち込まれてゆくのを、止められない。
 だが、それでも、猟兵という天敵を前にした虎たちは、止まらない。
 竜巻を轟かせ、届かぬ突撃を繰り返し、付近をひたすらに傷つけて回る。
「――……」
 その時、リュカは『間にあわない』という閃きを得た。
 この枝には留まらない。だが、予定通り移動してはいけない。
 思考より早くナイフを抜き、苦し紛れの大きな突進の余波を利用して飛び降りると、身を捻って白虎の背中に着地、踏みつけ際に前足の付け根を深く抉る。
 苦し紛れに暴れた勢いを利用して飛んだリュカは、すれ違うようにして飛んだ鋼糸に目を細めた。
 あっという間に拘束され、尋常ではない力で吊り上げられた白虎の身体がぐるりと円を描き、別な方角から襲い来る暴風を受けきってずたずたになり、解ける。
「ありがとう。助かった」
「そちらこそ見事な手並みで。――まるで、10秒後を見てきたような」
 一磨の言葉の意味を一瞬考えたリュカは、それでもやはりいつもの淡々とした声で応じた。
「10秒後は、今だよ」
「違いない」
 静かな言葉に対する一磨のかすかな笑みは、忍装束と戦場の喧騒に隠れた。

 小夜は、ひたすらに暴れ回っていた。
 切り裂く風を紙一重でかわし、妖刀の一撃で風ごと切り裂く。白虎を取り巻く風の刃にも構わぬまま。
 メイスを軸に飛び上がって刃を閃かせ、着地と同時にメイスを引きずり上げて叩きつける。
 間を縫って降り注ぐシンからの支援射撃によって敵の位置を知り、邪魔と感じれば武器のどちらかで対処をしてゆく。
「頭ごと牙を抜かれた、かと、思ってた」
 荒く息を吐き、闘志に燃える目で小夜は白虎たちを睥睨する。
 ――この身のあちこちを切り裂いた、風の牙。
 彼らは牙を抜かれた獣ではない。頭を失おうとも、元から持っていたものだというならば。
「――夜桜」
 突進してくる虎にメイスを叩きつけ、小夜は呼びかけた。
 小夜の正気を呑む、己の牙へと。

 それまで右手に携えられていた妖刀夜桜を、ゆっくりと持ち上げる。
 小夜の動きが、明確に、変わる。
 傷を、反撃をものともしない所は変わらない。
 だが、四方から竜巻に包まれ、傷ひとつ負わず。
 それどころか、振りかぶった妖刀で竜巻の流れごと周囲を削り散らす。
 突進する白虎たちを、まるで虫でも散らすように駆逐してゆく。
 動くもの、すべて、敵であると――
「るぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 血を流さぬ白虎の只中で、小夜が吠えた。
 いつのまにか、直線の光が、鋼の弾丸が、聖なる竜のかたちが、精霊の力が、次々と集まって白虎と自分を踊らせている。
 音がする。透明な何かが風を弾く音。風が、何か硬いものを叩く音。防御。交代。盾。――誰かの声。
 たくさんの音と暴風の只中で。素早く動くすべての敵を斬る。斬る。斬る。……。

「間にあいました! 幕府軍の人、到着までまだ時間あります!」
「道は整えないといけないね。倒れた樹はどかすとして、地面は、どうしようか」
「小夜さん、お疲れ様です。もう終わりましたよ。……お疲れ様です」
「いやー隣飛んでく弾まで斬ろうとするとかまじパねぇ。誰か当身いっとく?」
「エッ。ワタシ、ダダダメデ、あの、今の、小夜さんに、手荒なことは」
「いやいや、そろそろ活動限界だと……、闘気も縮んでいる。これなら、直に」

 ぷかりと。浮かび上がるように聞こえてくるのは、そんな会話。
 暴風は、いつのまにか止んでいた。


 荒れた痕跡を残す山道を、幕府軍が行く。
 出来るだけ片付けた戦闘の痕跡に、彼らそれぞれが何を感じたかは、千差万別だろう。
 確かなのは、その行軍が守られたということ。

 柔らかな山の風が、猟兵たちを撫でる。
 ――激しい戦闘の疲れも、怪我も、奮闘も、それに伴うあらゆる思いも。全てを包んで、そのまま、遥か西の空へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月06日


挿絵イラスト