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エンパイアウォー②~石英の墓群

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●叢る無辜
 ――処はサムライエンパイア。
 寛永三方ヶ原の戦いの果てに、猟兵たちは『第六天魔軍将図』に名を連ねる一角、武田信玄を討ち取るに至った。
 残る敵軍の柱は七つ。これらの一斉攻勢という国難に立ち向かうべく、徳川幕府軍は十万の軍勢を招集する。
 敵軍を束ねる織田信長を撃破するためには、この軍勢を一人でも多く先へ進める必要がある。
 それを易々と許すほど甘い敵であれば良かった。だが。

 奥羽地方より南下する敵群ありとの報が齎される。
 暗躍するは魔軍将が一角、安倍晴明。
 かの軍将が造り出した傀儡『水晶屍人』は、奥羽諸藩に在るものたちを見境なく噛み、新たな『水晶屍人』を生み出して、規模を愈々拡大しながら江戸へ迫っている。
 この戦力を削ぐことが叶わなければ、江戸の防衛に幕府軍の二割を残さねばならない。――無論、信長との決戦に必要な戦力が割かれることとなる。
 ならば、と猟兵たちは腰を上げる。
 胸の悪い術者の姿を拝む前に、謂れなき死に落とされた人々の行軍を止めてみせよう――と。

●誘い
「サムライエンパイアに思い入れていなくとも構わない。水晶屍人の軍勢と、それを束ねるオブリビオンを倒す意志さえあるのなら」
 ただ一つ、気に食わない。戦う理由はそれだけで十分だと、ヨハ・キガル(夜半の金色・f15893)は静かに告げた。
 『水晶屍人』とは、魔軍将の一角・陰陽師『安倍晴明』が屍に術を施し造り出した、肩から奇妙な水晶を生やした動く屍体。
 それ自体の戦闘能力は決して高くはない。だが、噛みついた人間を殺し、新たな水晶屍人とするという特性から、数は増え続け、奥羽諸藩に危難を齎している。
「俺たち猟兵であれば、噛まれても屍人と化すことはないが、数は暴力だ。全ての屍人を倒す前に、新たな屍人が生まれる。きりがない」
 指揮官として紐付けられたものを倒さぬ限り、進軍を止めることは叶わないとヨハは断じる。
「それは炎を纏った悪鬼の姿をしている。屍人たちとは格を並べられない。――強敵だ」
 怒り、蹴り、殴り。立ち塞がるものを滅殺することだけを核とする、破壊と殺戮の映し身、純然たる暴力。
 言葉は届くまい。ただ怒りに任せた咆哮を以て軍勢を束ねる激情の化身は、正しく『修羅』と呼べるだろう。だが。
「もとより誼を通じる必要はない相手だ。戦って、狩ればいい。それに頷けるなら来て欲しい」
 傀儡とするためだけに殺された者のなれのはて、水晶屍人たちには胸を痛める者もあるだろう。それでもとヨハは僅かに語気を強める。
「弔いの言葉も餞も、手を割けるのはこの戦争が終わった後になる。今できるのはあるべき眠りへ就かせてやることだけだから」
 今はただ、戦いを。頷いた猟兵たちは、明滅するグリモアの光の中に身を投じる。
 屍人たちを正しく屍とし、その肩にある水晶を今、かりそめの墓標とし――率いる悪意をただ、討ち倒すために。


五月町
 五月町です。
 お目に留まりましたらよろしくお願いします。

●ご一読ください
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●ご参加について
 冒頭部の追加はありません。公開直後からプレイングを受付します。
 届いたプレイングから検討し、達成もしくは失敗と判断した時点で受付を終了します(採用を確約するという意味ではありません、ご注意ください)。
 今回はマスターページでのみ受付終了をお報せしますので、送信前に一度マスターページのご確認をお願いします。

●ボス戦:『修羅』
 数百~数千の水晶屍人の軍勢の中に飛び込み、蹴散らしながら指揮官『修羅』を探し出して撃破するシナリオです。
 猟兵が屍人の攻撃で水晶屍人化することはありませんが、ダメージは通常通り受けます。
 プレイング次第ではボスに辿り着けない可能性もありますのでご承知おき下さい。
 技能を羅列するプレイングはお勧めしません。キャラクターが技能をどう生かして戦うか、どんな気持ちで戦うかをプレイングに込めていただけましたら幸いです。

 それでは、どなたにも好い道行きを。
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第1章 ボス戦 『修羅』

POW   :    蹴り殺す
単純で重い【山をも穿つ足技】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    殴り殺す
【ただ力任せに拳を振り抜くこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【巨岩をも砕く風圧】で攻撃する。
WIZ   :    怒り殺す
全身を【黒曜石の角】で覆い、自身の【眼に映る全てに向けられた殺意】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。

イラスト:保志ミツル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠光・天生です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ファルシェ・ユヴェール
水晶は魔術との親和性が最も高い、とは言われますが
本来は清廉な、邪気祓いの石…
屍人を瀆す呪いの如き術に使われるのは不快です

屍人達を解放する為にも
この中から首魁を見つけ出すには、自身は少しでも余裕が欲しい
ならば、と自身も水晶を取り出し、翳す

――我が騎士よ
罅入る石を代償に
UCで呼び出すイメージは「水晶の騎士」
彼を先陣に、護られつつ周囲を確認
より守備が厚い方、又は破壊の威力が大きい方
何か差異を感じる方向へ斬り進む

首尾よく首魁の元に辿り着けたなら
我が騎士と、他の猟兵と、協力を
自身に矛先が向くならばカウンターを狙い
矛先を合わせ武器落としを試みます
僅かでも隙を作れれば
誰かがその隙を逃さず捉えてくれるでしょう


冴島・類
己の痛みなどこの場では要らぬ
鼓動は
それに鳴らすぐらいなら
彼らの無念
受けた分
全てあの鬼を斬る力に

鳴れ、疾く駆ける為に
今懸けず、何時懸ける

可能な限り他猟兵と協力

戦場を埋め尽くす屍人に
最低限を迅速に死に還し
先へを優先できるよう
両眼に魔力を集中
操られている核や動力
その流れを断てぬか探り
瓜江引きつけと、初撃は
相手の隙を縫い
薙ぎ払いで攻撃

修羅は咆哮や戦況の激しさの中心にいるのだろうと探し

見つけ次第
瓜江は相手の視界から外し
自身は相手の攻撃動作を注視
見切りと残像用い
直撃だけは避け
他猟兵が一撃当てる隙を
作る為、引きつけを

自身や、味方へ
避けきれぬ拳の一撃が向けられたら
糸車で受け、返し
相手の風を利用し体制を崩したい


ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

軍勢…というよりは群れのようですね
前に置いてったら微妙な顔したのどっちです?
ーーえぇ、共に往きましょう

死者は生者には還らない…ですね
焦がれの空にて罠を作る弾丸を作り出し
弾丸の雨を敵へと降らせる。罠は踏むでしょう?貴方達は軍勢だ
俺が戦場で武器に疑問を抱きはしない

ザハール、槍の足場ですが行けますよね?

羽を広げ槍を足場に司令官へ
銃弾で罠を張り、霊符には雷の属性を乗せてザハールの援護を
足技は水晶を盾に。無理なら霊符でずらせれば


…っあんたは、足を失わさせる気ですが、俺に

銃弾の凡てで雨を降らし、水晶の檻を描く
修羅の動きを鈍らせ、一撃を霊符で

あんたの説教はそれからですザハール


ザハール・ルゥナー
ルカ(f14895)と

さて、仕事といくか。
こういう群れを見ると腕が鳴る。
ルカに囮として飛んでもらうのもありか?
冗談だ――共に征こう。

犠牲者は哀れだが、もはや屍。躊躇わずに蹴散す。
刃嵐で加速し、一気に駆け抜ける。
敵がこちらの得物が短いと油断するなら僥倖。
私の一挙一動が風の刃だ。

足場、有り難く利用させてもらう。
槍の上を駆けて首魁の喉元へと。

鬼と刃、どちらが勝るか勝負といこう。
低い姿勢から仕掛け、拳を躱すよう試みる。
風を打ち消すのはまた風。符の動きから雷を追って斬りつける。

足りぬなら自ら罠を踏んで槍を誘発し、相手を刺し貫くを狙う。
ルカには悪いが、足の一つや二つ、この行軍を止めるならかまわぬさ。




「軍勢……というよりは群れのようですね」
 鳶色の髪に覗く瞳は、常は親しみを感じさせるものであるのに――元軍属とはいえ、戦場に立てば冴える瞳の緑は現役と変わりなきもの。原野に在って統率のまるで取れていない水晶屍人たちの動きは、軍の名で括るよりはまるで獣のようだとルカは呟く。そうだなと首肯して、ザハールは薄い唇をごく微かに吊り上げた。――さて、仕事といくか。
「こういう群れを見ると腕が鳴る」
 軍用ナイフをその心と命宿す礎に持つものらしく、静かな笑みにも鋭いものを覗かせる男は、昂揚余って舌の滑りも良いようだ。ルカの六枚羽に目を遣りくすりと、
「ルカに囮として飛んでもらうのもありか?」
「前に置いてったら微妙な顔したの、どっちです?」
「冗談だ――共に往こう」
 被り直す帽子の影に沈んだ途端、柔く和いでいた眼が冷える。えぇ、共に往きましょう――と言葉重ねたルカの翼が、空を覆う。
 戦場に到来した猟兵たちの存在に、屍人らはすぐに気付いたようだった。敵として、ではない。既に理性を失い、傀儡と化している彼らにとって、人も猟兵も等しく『敵』でしかなかった。
「死者は生者には還らない……ですね」
 迫り来る敵を羽戦きで攪乱しつつ、強化銃に放つはシルバーブレット。魔を穿つというそれに次々と屍人たちを捉えながら、ルカはぽつり、と零した。実感が滲むのは、自らも取り返せぬものを手に持つ故に。それをああ、と躊躇うことなく肯定した、男の声だけが僅かに優しい。
 犠牲者を哀れと悼む心ばかりは捨てきれるものではない。だが、それをなきもののように振舞う術は、軍属たる互いの身に確と得ていた。――いっそ痛い程に。
「もはや屍。躊躇わずに蹴散らす」
「ええ、勿論」
 銀弾の雨を縫い、駆け抜けるザハールの風は触れれば斬れる不可視の刃。僅かでも命の残滓が意識に掛かれば、振るわれる一閃が鋭くも綺麗に命に幕を引く。躍る刃の嵐は疾風を呼び、地を蹴る暇すらその脚から奪い速度を上げていく。そこへ、
「これより描くは幻想の森。水晶の森。銀の種より、水晶の穂よ――芽吹け」
 皮肉なほど青い空に、白き翼が躍る。風の加護を得た男を躱し撃たれたルカの銀弾が、地に突き刺さる。
 僅かに地表より浮かび上がったザハールと、かの屍人たちは違う。重みを持ち、罠を踏むもの。何が起こったか知れぬまま、屍人たちは種を踏み――そしてたちまち天を目指す水晶の茎に貫かれるのだ。暗き月の名を持つ武器に迷いなき心を向けるもの、そうでなくては扱えぬ巫術の果て。
「敵の司令官は、ルカ」
「向こうに。ザハール、槍の足場ですが行けますよね?」
「ああ、有難く利用させてもらう」
 傍らに伸びた一本を掴み、引き寄せる。その見目軽やかな挙動で、ザハールは男の体ひとつを槍の上へと持ち上げる。貫かれる暇も与えず駆け抜ける男が屍人の群れの中へ落ちぬよう、先導するルカは銀弾の罠で空の道を拓いていく。
 そうして貫かれながらも迫り来る屍人の群れ、傀儡と化した命のすべてが、僅か数日を遡れば命の光をその瞳に映していた筈のものだ。
 主君に仕えること、貧しくとも妻と子を守り精一杯働くこと、余生を穏やかに過ごすこと。あらゆる幸いに、生きることの輝きを受けていた筈の屍人たちの身に今、宿る光は――肩に生やされた呪詛の水晶のそれ、ただひとつ。
 それらをただ漫然と、駆ける身の傍らに流れる光景のひとつとして見ていられる類ではなかった。だが、同時に知っていた。その顔に、喉に、溢れ出しそうになる感情の動力を回すべきは今、他にあるのだと。
 心の気配を匿し、ただ地を蹴る脚に力を籠める。速く速くと、飛ぶように。そのすがたに常の青年の柔さはなく、ヤドリガミとしての神性を滲ませる。
(「――己の痛みなど、この場では要らぬ」)
 命奪われる瞬間、その心がどれほど痛んだか。体がどれほど苦しんだか。それを思えば、ずぶりと食い込む爪もぎりりと噛みつく牙もどれほどのものか。痛みのうちに入るまい。――それでもなお、この身は生きて在るのだから。
 抜き放したままの短刀を凝った血肉が汚し、鈍らせる。それを迷わず裾に拭い、その僅かな暇にも喰らいついてくる者たちの体の芯へドッ、と突き立てる。しがみつく力を失い、二度目の屍へと還ったものらを振り返ることは今はない。
(「鳴れ……もっと鳴れ、疾く駆ける為に。今駆けず、何時駆ける」)
 傷口にどくりと脈が鳴る心地を、屍人の胴を両断する一閃で振り切った。そこに鳴らすくらいなら、この胸で。かの鬼へ、修羅へ、その先に在る邪悪なる陰陽師へ至るための力と貸せと、自らに課して。
 若草を宿す眸は鋭く燃え、神懸かりな光を宿す。屍人らを一同に操る糸めいた気の流れはどこかにあるのだろうが、視覚には捉えきれない。――だが、その仄暗い力が集まる先ならば、分かる。
(「向こうか」)
 その方角に立ち塞がるものを斬り払い、転がした亡骸を跨ぎ越え進む。それに続きながら、ファルシェは低く呟いた。
「――不快ですね」
 この乱戦、混沌たる戦場の中にはいないものを思い、輝石をまた一つ砕く。
 罅の曇りひとつなき輝きを代償に生み出されるのは、主の信揺らがぬ限り強く在り続ける水晶の騎士。
 黒ずみ凝った血と肉の断片をその身に、振るう剣に残すことなく、騎士は浄い気ですべてを斬り払っていく。その後に続き、死に損じたものを仕込み杖で確実に貫きながら、倒れ伏すものの肩に根付くものに瞳を眇める。まるで、そうすることで首魁が見えてくるとでもいうように。
 紛い物であれ本物であれ、石と名がつくすべて、そこに宿る数多の物語をこよなく愛し、商うファルシェは無論、知っている。
 水晶とは本来、清廉なるもの。邪気を祓い人に幸いを齎すもの。それを恥知らずにも、屍を望まぬ生に冒瀆する呪いの如き術に使う。
「いかに魔術との親和性が高いとはいえ……ええ、不快です。我が騎士よ、逃す手はありませんよ」
 邪なる心を知らぬ騎士は言葉もなく、ただ武を以て主に応える。薙ぎ払われた屍人らが吹き飛べば、ファルシェの周辺には一瞬、それらの気配が希薄になる。今、と騎士を盾に巡らす意識に、それは掛かった。
 ――あまりに禍々しい破壊の気配、それを取り巻く屍人の気配。
 ファルシェは皆様、と声を絞り上げた。
「――首魁の首は、南西に!」


 ――この人垣の向こうに敵の首魁がいる。
「……、……」
 進路を塞ぐ屍人らの壁に、類のかすれる呼吸はもう、相棒たる瓜江の名を紡くことすらできない。だがそれでも、繋ぐ紅の十糸が彼を、呼んだ。
(「――、瓜、江」)
 封を解かれた人形が、主であり友であるものを庇うように躍り出る。十糸の彩は時折戦場の熱に融け、視得なくなればまるで己の意志で躍るかのようだ。攻めもしただ躱しもし、くらりくらりと屍人の群れを弄び、集める。そこを――ひといきに、
「……あああああ!」
 肚の奥から絞り出した声、裂帛の気合に加速する斬撃で薙ぎ払う。水晶の群れが一掃されれば、そこにはぎろりと敵意を巡らせる鬼――それこそが修羅だった。
 全身を武器と化したそれが、突如目の前に迫る。速い、と思うより速く力に任せ振り下ろされる拳は、類の残像を叩き消した。研ぎ澄ました六感により僅かのところで躱した青年を、二の拳が狙う。石塊のような巨大な手甲で明らかに穿ちに来る、うちの二度はぎりぎりで避け、続く一撃は避けられないと直感が告げた。
(「廻り、お還り――禍々しい力の源へ」)
 ふと、類の体から戦意が失せる。帯びる覇気も何もかも消え失せて、ひととき、人形のように。隙に塗れた懐に突き刺さるかの一撃は、眸と同じ鮮やかな緑の光に阻まれる。そして、たたらを踏んだ修羅の背に迫る影は、
(「糸の先を預けよう、瓜江」)
 ぶわり、敵の左右に拡がる十糸。類の身に立ち戻った戦意を映し、機敏に駆けるその糸の先――瓜江が放つは、主に害為さんとした暴虐の一手。
 ――ウガアアアアァァ……!!
 轟く悲鳴に臆さず駆け込んでくるもの。それは、騎士を擁したファルシェだった。
「……――ッ」
 堅固な盾たる水晶の騎士に、罅が刻まれる。ファルシェの心が揺らいだ為ではない。自らの扱う『商品』への信頼が揺らぐ筈もない。――山をも穿つという敵の蹴撃をその程度で耐えたのは、充分に誉に値するだろう。
 怒気の炎が騎士の全身へ罅割れを広げていく。破壊は免れないとファルシェは一瞬で理解する。ならば、凛々しき盾が盾として機能するうちに。
 透き通る騎士の身が、透かし見るファルシェの像を歪めて修羅の眼に届ける。左、と見た敵の右手から、不意打つように踏み込んで振り抜く渾身の一閃。
 誘導された修羅の眼力がファルシェを射抜く。騎士を蹴り砕いた脚が、自身をも砕きに来る。受ければ立ってはいられまいと知りながら、ファルシェは笑った。
「これが今生の別れになるでしょう。――砕ける前に共にもう一仕事してくれますね、我が騎士よ」
 騎士の刃とファルシェの刃、噛み合ったふたつが一瞬、修羅の脚を押し留める。ぐら、と傾いだ巨躯を力任せに押し込み、今です、とファルシェは叫んだ。理解した仲間の声が耳に届いた、それが意識に残る最後だった。
 死力を尽くし、水晶の騎士は砕け散る。それに庇われながらも、ファルシェがその場にくずおれる。
 だが――その清らかなる水晶の輝きを繋ぐものがある。
 銀弾より生まれる水晶の槍が、群れなす屍人らの力添えで拓く空の道。その光を架け橋として渡り来るザハールと、
「あんたが司令官ですね。……容赦はしません」
 高みより足許へ、罠を打ち込むルカ。地に沈んだ銃弾が、芽吹く。知らず踏む足を貫く水晶の槍に、倒れた体もまた新たな芽生えを生んで――漆黒の身に突き刺さった槍の数は両手では足りず、まるで檻をなすようだ。
「蝶を留めるようにはいきませんが」
「充分だ。――鬼と刃、どちらが勝るか勝負といこう」
 地上より放たれる槍と空のルカとの因果を掴めなかったか。より近く降り立ったザハールへ、強烈な風を呼ぶ拳が駆ける。薄く笑った男の姿がふつと、自ら纏う風に融けた。
 風を打ち消すもまた、風。衝突する二つの気流が視界を歪め、目を細めてその向こうを透かし見ようとしたルカは――息を呑んだ。
「――ザハール!!」
 仲間の付した傷を果敢に狙いゆくザハールの刃。身を低く、風を越えて懐へ踏み込もうとする男の意図が、ルカには分かる。修羅ひとりでは踏み切れぬ槍、それを縫い留めようというのだ――自らの足で、罠を踏んで。
「! ルカ」
「……っあんたは、足を失わさせる気ですか、俺に」
 分厚い風を無理矢理に裂いて飛んだ翼が乱れている。貫かれることなく空中へと攫われた男は、何の気もなくこう言うのだ。
「すまない。……だが、足の一つや二つ、この行軍を留められるならかまわぬさ」
(「……っああ、そういうところだ、この人は」)
 初めから儚き命として生まれたものとの差異が、ふたりの間に立ちはだかる。モノたるヤドリガミには喪失や傷の定義が薄いものがある。
「……あんたは最悪のお手本ですね」
 倒れた仲間の傍へ投げるように青年を下ろし、ルカはきっと男を睨み据える。身の裡に暴れる言い知れぬ怒りが、雷撃に染まる霊符を修羅へと叩きつけた。
「――あんたの説教はこの戦いが終わってからです、ザハール」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花房・英
助けられないなら、これ以上屍人を増やさないよう戦うだけ。
感傷は、いらない。

『エレクトロレギオン』で召喚した機械兵器で屍人に対応、倒させる。
余る機械兵器は、俺と一緒に修羅との戦闘に利用。
修羅からの攻撃は自分や機械兵器だけでは防げないと判断したら…悪いけど屍人も盾にさせてもらう。罪悪感はあるけど手段を選べるほど、俺は強くないから。
空中に飛び上がるなら、機械兵器を階段状に並べて踏み台にして接敵を試みる。
Rosa multifloraで捕獲を狙い、縛り上げられればそのままの勢いで無銘で修羅に斬りかかる。
他の猟兵と共闘できる場合は、機械兵器で敵の意識をこちらへ向けるよう立ち回り、サポートに回る。


サフィー・アンタレス
気に喰わない…それはまあ、分かりやすい理由だな
俺自身はこの世界にさほど興味は無い
けれど、好き勝手やっている奴はまあ、気に入らないな

とりあえず、目の前の水晶屍人を倒しつつ頭を探すか
敵の視線、やって来る方向、空気
その辺りを意識すれば、頭の居る場所は把握出来るだろう
情報収集は得意だ、戦場の異変は見逃さないよう意識を張って

エレクトロレギオンを使用して、周囲の警戒と敵の撃破
数には数で対抗
さほど強くないと云う水晶屍人なら、コイツ等でも足止め位は出来るか
ボスである修羅を見つけたら、優先して蒼炎で攻撃
踏み込めれば近付くが、無理なようなら遠距離から

相手が力だけならば、迷う事は無い
何も考えず、倒すだけなら簡単だ


鳴宮・匡
無数の屍のうちを歩くのは慣れたものだ
雲霞のごとき敵を相手にした経験には事欠かない
今更、気負うこともないか

無数の敵にいちいち目を向けてもいられない
【落滴の音】――直感に任せ
近づく敵から順に散らしながら進む

炎を纏った化身というなら
膚に感じる熱の強さで凡その方向は判るだろうか
或いは既に交戦が起きているならば
【聞き耳】を立てれば大気の燃える音、戦闘音などが拾えるかもしれない
自身の持ちうる知覚機能を最大限に利用し
相手の位置を探る

首魁との戦いでは、まず被弾を避けることを第一に
風圧は腕の振りを【見切り】回避
攻撃動作を終えた一瞬の隙を狙って攻撃を重ねる
出来る限り同じ部位を狙い
ダメージを着実に蓄積させていくよ


玖・珂
騒がしいな

闘いは好まぬ、などと大法螺を吹く心算は無い
水晶屍人という術も気に食わぬ

『修羅』なれば気迫も抜きん出ておろう
破壊音なども目印に修羅の方向を目指し
先ずは屍の路を拓くぞ

最小限の手数で仕留められる部位は何処か観察し情報収集
深傷でなければ瑣末事
黒爪で生命力吸収しつつ怪力で掴んだ屍を敵軍へ投擲し
視界を圧し広げよう
…余り手荒に扱いたくは無いのだが

屍は土へ、御霊は彼岸に
送り還すのも守り人の責務だ
みな均しく逝くがいい

視力凝らしちらりとでも修羅が見えれば十分
今から屠りに征くぞと恫喝の殺意を放ち気を惹いてみるぞ
飛来してきたなら其の攻撃、覚悟を持って受け止めよう
姿捉えた敵を指示し
―羽雲、黒曜石ごと砕いてやれ


コノハ・ライゼ
「柘榴」肌に滑らせ【紅牙】発動
巨大な鋸刃のような牙と化し
右目の「氷泪」も雷解放
薙ぎ払うばかりじゃ埒があかないンでしょ
なら狩猟態勢全開でいこうじゃナイの

壁を崩すよう『マヒ攻撃』乗せた『範囲攻撃』にて柘榴を一閃
屍人を足止めし『2回攻撃』ですぐ隙間へ踏み込みもう一閃と道を開けこうか

この刃も雷も異形を喰らう為の牙
より「上質」な獲物を逃しはしないヨ
軍勢の中心へ向かいながら修羅の咆哮、殺気、それから獲物としての匂いを探ってく

修羅へは柘榴で斬りつけ2回攻撃
『傷口をえぐる』よう喰らいつき『生命力吸収』
反撃は『オーラ防御』と『激痛耐性』で凌ぎつつ『カウンター』で更に牙食い込ませ
反撃の反動込みで喰い千切ったげる


花剣・耀子
――、此方に居られたのは、むっつまでだったかしら。
師匠が居て、戦場を渡って、いくさばかりの日々だったけれど。
いまはもう、帰る場所ではないけれど。

そうね、『気に食わない』
好き勝手に食い荒らされてなるものか。

機械剣を握って、軍勢へと踏み込みましょう。
見える限り・白刃の届く限りの屍人へ【《花剣》】
敵将は、いっとう目立つ。
辿り着くために、広く嵐を起こしてなぎ払いましょう。
からだと、剣が届く隙間があれば良い。
痛みも呪詛も後回し。
あの悪鬼を斬り果たさなければ、誰も、何も、浮かばれない。

狙うのは敵が一撃を放った直後。
咄嗟に鞘を当てて威力を削ぎ、飛び散る地面を足がかりに転身、旋体。
その首を、落としにゆくわ。




「気に喰わない……それはまあ、分かりやすい理由だな」
 理由付けとしてこれ以上に単純なものは無いだろう。短絡にしてそれは時に真理だと、僅かに笑った心の端を顔に示すことも、息乱すこともなく、サフィーは羽織った白衣をひらひらと躍らせて戦場を駆けていく。
 このサムライエンパイアの窮地に、あからさまな憤りを見せるものは周囲にはなくも、屍人らをなぎ倒し、必死にそれらを束ねる首魁を探す仲間たちは、誰しもひどく真剣な面持ちをしていた。不真面目である訳ではない、けれどサフィーには、そこまでの感慨はない。
 それは人形――ミレナリィドール故ではなく、性格に拠るものだ。そもそも必死に心傾けるほど、この地も縁深い世界という訳でもない、格別な興味がある訳でもない。
 その思考が、サフィーの精神を『いつも通り』、冷ややかに平静に在ることを可能にする。
「確かに。……好き勝手やっている奴は、俺も気に入らない」
 そう結論づければやるべきことは一つ。――情報収集なら得意とするところ、異変なら何ひとつ見逃しはすまい。
 奮戦する仲間と敵とをすり抜けるように駆けながら、目線の高さに浮かべたショートグローブの指先が素早く空間を撫でる。何もないと思しきそこにすかさず現れたモニター、淡い明滅の中を駆け抜ける白文字の羅列、データは、サフィーの意識に掛かるこの戦場のすべて。光のモニターの向こうに透かし見る屍人らの視線、湧き出す方向、空気中に漂う魔力の密度。サファイアンブルーの瞳が眼鏡の向こうに見定めた全てが、ひとつに集約されていく。――見えた、しかし。
 現地点より距離にして約300メートル、方角は北北東。意識は一際大きな魔力の塊を感知するも、その姿は視界に入らない。肩の水晶に操られしものたち、屍人らは、波のように押し寄せては視界を、命を奪わんと手を伸ばす。
「……こうも行く手を遮られてはな。仕方ない」
 短い溜息にもついに苛立ちが上ることはなかった。左右にモニターをスワイプし、拓けた視界に喚び出す青白いひかり。細やかな回路を結び、輪郭を得たそれらは実体を持つ戦闘機械群、エレクトロレギオンと化す。個々の強さは屍人にも僅かに及ばないが、
「数には数だ。この傀儡たちくらいなら、コイツ等でも足止めくらいは出来るだろう」
 自分や仲間の消耗を幾分肩代わりさせるだけでも、猟兵たちに利する筈。叩き壊され還った光を絶え間なくレギオンへ編み直しながら、サフィーは圧し拓く道で向かうべき方角を仲間に示す。
「行ってくれ。――修羅とやらはこの方角だ」
「了解、任せて頂戴。狩猟態勢全開でいこうじゃナイの」
 居所が知れたならもう、薙ぎ払うだけでは埒があかない。首魁たる鬼の首を獲れば、生ける屍たちにも安らかな終わりが訪れるのなら――今はただ、無力化するだけでいい。飛び出したコノハの身を撫でた鉱石の短剣は、柘榴の赤を鈍く美しく輝かせ、巨大な牙へと変化した。
「紅牙、発動――さ、使われるだけの獣たちはもうお休みなサイな」
 その光が、屍人の壁へ流れる。横一線、ひといきに刻みつけた刃が、肉の壁を切り崩す。致命には至らない筈の一閃に屍人たちが起き上がって来ないのは、刃に宿らせた麻痺のまじないに拠るものだ。そして、
「喰らう口は一つじゃナイの」
 にこりと笑んだコノハの左目より零れる冷ややかなる泪もまた、牙。氷色の刻印より生み出されたもうひとつの刃が、すかさず傀儡たちの波の隙間に喰い込む。一閃目を運よく逃れた屍人らは、青冷めた一閃に宿る雷撃に縛られ、次々に膝を落としていく。
「修羅とやら、もっと分かり易く騒いじゃくれないかしらネ。……こんなモンじゃ、物足りないじゃナイ?」
 数だけ揃えた急拵えの獲物など、いくら喰らおうと満ち足りる牙ではない。求めるはより『上質』な獲物――そしてそれは、この壁を切り崩した先に在る。
 仕方ないと零す苦笑いを映し、鋸めいた巨刃が躍る。飢える血に駆り立てられるまま探る強敵の匂いは、壁を削ぐ度に強まっていく。その一助にと、英は少し億劫そうに――けれど素早く躍るゆびさきで、電子の光を紡いだ。
 光のかさねがかたちを生む。まずひとつ、生まれた機械兵器が、主たる英の背に伸びようとしていた手を弾き飛ばす。そしてふたつ、みっつ。次々と描き出される輪郭が実体を持ち、電子の海より英の先兵を増やしていく。
 それでも、原野にはあまりに多くの屍人が溢れていた。抑えつけるそばからまた、どこからともなく流れてくる群れに、作り出した安全圏は安定しない。もとより先兵たるエレクトロレギオンも、守りに堅いものではないからだ。
 それらが幾度消え失せてもなお、隼は集中を切らさず造り続ける。目の前に次々と現れる屍人の虚ろな顔に、感情は動かない――いや、動かされないよう努めている。
 胸痛め思い遣ることで、そのいのちが蘇るというならいい。けれど彼らは、もう二度と生きて光を見ることはないのだ。与えられた死がどんなに理不尽で、いわれのないものだったとしても。
(「助けられないなら、これ以上屍人を増やさないように戦うだけ。――感傷は、いらない」)
 心を惑わせる間に一体でも多くを倒し、還す。その意志を淡々と形にしながら、紫水晶の眸に差した影はどこか割り切れないものを映していた。
 そんな少年を案じるように、ちらと視線送ったのは一瞬のこと。
 戦場に立つ身なればこれも越えるべきものだろう。目端に見守りつつ、さて、と一つ息吐いて、匡は『異邦人』の銘を持つ拳銃を迷いなく屍人へ向ける。
 迷いを生じるにはもう、あまりに多くの戦場を踏み過ぎた。無数の屍のうちを歩くのは慣れたもの、雲や霞のように捉え難き敵を相手取った経験も星の数。今更気負うこともないと力の抜けた肩は、不意打ちに飛び掛かってくる屍人を見ることもなく反応する。
「――滴一つ落ちるより、命一つ刈り取る方が早い」
 戦場で得た真理を籠め、一射で突き放す。雑兵の一人に心の痛みを感じるほど、もう自分は青くはないのだ。
 ひとりが撃たれた気配に、ひとり、もうひとり――と近づき来るものたち。連なる銃声で次々に地へ還しながら、駆ける匡の意識は彼方へ向かっている。肌に探すのは熱、耳に探すのは燃焼と戦いの音。巨躯に炎を纏う鬼というならば、その気配を感じ得られるのではないか――。
「……こっちだな」
 炎の熱か、或いは匡も戦場に知る、昂揚の熱かは知れずとも。傭兵の血を騒がせるものがこの先にあると、六感が告げている。
 道拓く銃声のかたわらを、不意に風が駆け抜けた。
 それはまさに天災。空を衝くように翔け上がった花弁の如き白刃のひかりが、押し寄せる屍人らの懐へ突き刺さり、吹き飛ばす。
 苛烈なる剣戟の嵐の中心で、制御を担う耀子の胸はちり、と微かに灼かれていた。
(「――、此方に居られたのは、むっつまでだたかしら」)
 一閃に打ち倒されていく屍人らが、知己であった訳でもない。ただかつて自分が在り、生きた地に根付いた命であった。それだけの縁だ。けれど『それだけ』が、耀子の遠い記憶を呼び寄せる。
 師と共に戦場を渡り、いくさばかりの日々を経て――至った今の耀子には、此処はもう帰る場所ではない。ないけれど。胸裏に過る想いは確かに『私情』だ。
「それが何だというの。そうね、『気に食わない』――好き勝手に食い荒らされてなるものか」
 羅刹の血がざわりと沸き、深い青の眸に熱が燈る。かつて戦場に見た野花を、景色を、そして人を。見える限り、届く限りにと『花剣』の射程を伸ばせば、躍らせる刃は花を散らし、草を薙ぎ、すべてを斬撃に平らげていく。眼前の脅威がひととき退いたと見るや、眼鏡の奥の眼差しは油断なく彼方に首魁の姿を探した。
 敵将は、この戦場に於いて一等目立つはず。無力なる屍たちの望まぬ二度目の生も、その肩に深く根付かされた呪詛も――自身の体と心に刻まれる痛みも、すべて。巻き起こす嵐にひといきに捉えて、耀子はひたすらに薙ぎ斬っていく。屍人らの密度の高いところを狙い、華奢な体を僅かな隙間に滑り込ませ、喰らいつきにくる牙も爪も受け止めながら。
(「そうでしょう。だって、そうしなければ」)
 この地の悪夢を終わらせる術はただひとつ、行軍を終わらせることだけだ。それ以外に、殖え続ける水晶屍人を減らすことなどできはしない。
「あの悪鬼を斬り果たさなければ――誰も、何も、浮かばれない」
 悲痛を滲ませぬ娘の代わりに、機械剣『クサナギ』が唸りを上げる。耀子を芯に、花散るように駆け抜けた白刃がまた、嵐の中に屍人たちを斬り飛ばす。
「――気配が騒がしいな」
 身の奥に白々と秘めた炎ほどは熱を帯びない声。発した喉に屍人らが喰らいつく前に、玖珂は鈍く輝く黒爪でその胸倉を掴み上げる。湧いて出るかのような敵の群れに眉ひとつ動かさず、羅刹らしい力強さで軽々と屍人を投げつければ、今まさに迫らんとしていた他のそれらが将棋倒しになる。
 不意にぞく、と血を沸かせる殺意に振り返る。押し寄せる屍たちの腕を捻り、擲つ。一見して手荒なようであり、白い頬には何の感慨も上っていないようでありながら、その実は思い遣りに満ちている。
 ――望まず命を奪われたものの二度目の死を、長く苦しめようと誰が思うだろう。叶うならば一撃で、その身に痛みを感じる暇もなく。
 表には表れぬ代わり、玖珂の両手に猛る二爪によって、願いは現にされていく。一裂き重ねるごとにより苛烈に、より洗練され、息つく間にも軍勢を薙ぎ払っていく。
「それが最たる弱点という訳でもなかろうが……これ以上追い縋るも、お前たちの本意ではあるまい」
 狙うは脚、そして腰。それ以上の追撃を許さぬ玖珂の一撃は、動きを止めるのみならず確実に屍人たちを還していく。
「屍は土へ、御霊は彼岸に。送り還すのも守り人の責務だ。――蘇り得ぬ命ならば、みな均しく逝くがいい」
 肚から張った声が凛と戦場の空気を揺らす。獰猛なる気配だけで存在を知らしめる修羅のもとへ、道は拓かれた。


 ようやく拓かれた道の向こうに、禍々しくも聳えるものがある。見つけた、と気安く踏み込もうとすれば、放たれる気魄がそれを拒んだ。
 鋭く輝く赤い眼がきろりと英を射る。闇で塗りつぶしたかのような姿、その輪郭を浮き立たせる炎。咆哮ひとつで屍人らを操る将の姿は猛々しく、殺気に満ちている。だが、ここで退く選択はない。――これ以上、あの痛々しい屍人たちを増やさぬためにここへ来たのだから。
 付き従うレギオンたちに拓かれた道を閉ざしにかかる屍人らの対処を任せ、英は乙女椿咲く刃をぱちりと開き、敵意の中に飛び込んだ。
 修羅との戦いに、レギオンたちの援護は見込めない。抑えに回して余りあるほど、屍人らの数は少なくないのだ。けれど、
「――這い、花開け」
 英を助けるものはそればかりではない。修羅の足許へ擲った野薔薇の一輪は、たちまち根付き芽吹いて戒めをなす。それは蜘蛛の巣でも払うように易々と、強健なる鬼の脚に引き千切られた。長き拘束となり得なくとも構わない――ただ一瞬、気を惹けたなら。
 ナイフを手に躍りかかる。その一閃はユーベルコードほどの威力は持たず、黒曜石の鎧を貫通するには至らない。足許から自身へ移動する修羅の視線が肌を灼き、英ははっと息を呑む。
 ――……ガアアアアア!
 咆哮とほぼ同時に至った岩の如き拳は、引き寄せた屍人越しでも鋭い衝撃を英に伝え来る。屍人を盾となし、顔色ひとつ変えないように見せながら、英の胸裏にはじく、と膿むような痛みが明滅していた。
 無論、罪悪感はある。自分やレギオンたちでは防げない、だからと罪なき亡骸を身代わりに難を逃れることに。けれど、
(「手段を選べるほど、俺は強くないから。……悪いけど、盾にさせて」)
 その代わりに、と沈む眼差しに光を呼ぶ。――屍人が屍人を作り出すこの連鎖は、必ず断ち切ってみせるからと。
「それでいい、少年。お前は何も間違っちゃいない」
 街角に挨拶を交わすように、知己と何気ない雑談を交わすように。軽く気負わず掛けられた声に振り向こうとする英を、匡は制止した。
「振り向くな。戦場で敵から目を逸らしたら、死ぬぞ」
 ただひとり、鬼の注意を集める少年から自身へと。狙い逸らさせる速射は黒々とした鎧にめり込み、獣めいた眼力が自身を射抜き返す感触におっと、と笑う。
「――見た目通り、骨のあるところを見せてくれよ」
 振り上げる腕は予備動作。風が来る、と英を突き飛ばし、匡は敵前に転がり込む。見切った通りに通り過ぎた風圧が屍人らを薙ぎ倒すのを横目に、地を蹴って横に跳びながら銃口を鎧の下へ潜らせる。次の動きに出るまでのほんの一瞬を、タァンと鋭く撃ち抜く音が華やかに埋めた。
 ――……ァア!!
 怒り任せに振り回す腕が、新たな風を生む。岩をも砕くと謳われるのは伊達ではなく、跳び退いた後の大地を抉ったその威力には口笛吹いて、
「当たればひとたまりもないな。当たれば、だが」
 仁王立ちする修羅の股下を滑り抜ける瞬間、寸分違わず同じ一点を重ね撃つ。
 近距離にて攪乱を重ねる二人の耳に、昂る戦意が届いた。それは修羅のものではなく、
「待ちかねた――さあ、屠りに往くぞ」
 静かな黒色の夜の凪のような眸にふと、獣めいた光を宿した玖珂のもの。
 暗く濁った炎を纏う、影の鬼。巨躯をさらなるくらがりに染めたのは、頭上へと擲たれた屍人の影。
 白く清らかな、死出を見送るものの装束の裡より恫喝の殺気を解き放ち、群れを左右に投げ飛ばし、掻き分けて迫るもの。玖珂の静かにして獰猛な戦意は、虫を払うような一動で降る屍人を振り払った修羅の敵意を買うに充分だった。
 到着を待たず、修羅が跳ぶ。重たげな体をぐんと飛ばす脚力を見せつけ宙に躍った、と思えば目の前に紅い眼が迫る。
 玖珂は驚きはしなかった。低く、静かに、高揚していた。
「この期に及び、闘いは好まぬ――などと大法螺を吹く心算はない」
 薄い笑みを見せつけ、黒曜石の手甲が堅く守る拳を受け止める。黒き修羅と、白の羅刹はがちりと両の手で組み合った。踏みしめた足の裏がじり、と地を擦り、力勝負の軍配は修羅へと上がろうとする。それは玖珂にも分かっていた。だが、
「――羽雲」
 割った唇から零れたのは、呻きにあらず。呼ぶ名に応え、背より空へと駆け抜けた純白の杖は、虚空を一巡りする間に翼もつ友へと変わる。
「黒曜石ごと砕いてやれ」
 ――ピィィ――!
 応えて鳴いた猛禽の嘴が喉に修羅に突き刺さる。一瞬早く身を退けた玖珂の支えを失い、猛進する首魁は自らその嘴に深々と身を突き立てることとなった。
 ――グァァァァァァァア!!
 怒声が天地を震わせる。その声は、修羅の殺気を辿り来ようとしていた猟兵たちにその在り処を知らしめるに十分。
「そう易くは砕けぬな。――だが、それも何時まで保つものか」
 ひらりと白い衣を躍らせ、暴れ狂う手足から逃れた羅刹が退いた空間へ、蒼き焔が飛び込んだ。後方から放たれたそれは僅かに逸れ、外れたか、と然程悔しがる風もなくサフィーは頷いた。
「それなら、次を」
 重ねる試行は誤差を減らす。躱された一撃をもデータに組み込んで、次撃を狙い定める冴えた眼の前に、不意に飛び込んでくる黒き影。
(「! 速い――」)
 飛ばれた。距離を保つか踏み込むか、それを迷う暇もなく眼前へ黒曜石の一撃が迫る。咄嗟に逸らした身は直撃こそは避けたものの、庇った腕ひとつが使い物にならなくなる。
「……は、粗野だな。分かり易いが」
 冴えた眸に険を映したサフィーの声が、微かに笑う。怒り任せの力押し、故に攻撃は愚直なほど。確かに速い、そして強い。しかし懐に飛び込んでくるのであれば、もう群れに身を隠させはすまい。紅黒い怒気の炎を塗り替えるように叩きつけた、冷静なる青い炎の一閃を旗印として。
「首魁はここだ。――思う存分やればいい」
「そうね、そうするわ」
 漸く見つけた、と低く呟いた声は、唸る鋸刃の音の中に掻き消える。速く単調で直線的な一撃、その反動から修羅が身を起こす前に、サフィーの前に割り込んだ耀子は白刃の嵐を真正面からぶつけていく。跳び退く敵将に落とさんと願うものは、ただひとつ。
「おまえに求めるものは、一つだけ。その首を、落としにゆくわ」
 明確な敵意に、修羅の殺意も膨れ上がる。地形すら突き崩しかねない蹴撃の威力を、咄嗟にぶつける鞘で削いだ。それでもなお、重い一撃は耀子を掠め、地を砕いて余りある。
 衝撃に跳ね上がった大地の一片を足場に借り、風のように身軽に翻した耀子のからだはくるり、宙を躍る。ひらりと戦いだ裾を逃すまいと追った修羅の眼が――漆黒の面が、上がる。その瞬間を、逃さない。
 水晶に操られ、安らかな死にすら手の届かない人々の嘆き、痛み。その報いを受けさせるべき真の首魁は、この地にはない。だから今は、
「おまえの身で贖わせるわ。――散りなさい」
 隙なく身を覆う堅固な黒曜石の鎧。その喉へ叩き込んだ『天災』が、その護りに罅を入れる。喉を潰す。
 ――……ォォォ!!
 怒号はもう、声にはならない。放出する怒気だけがびりびりと空気を震わせ、一瞬で巡った脚撃が耀子を蹴り飛ばす。余裕のない動きに、地を転がり受け身を取った娘はすぐに跳ぶ。砕いたばかりの喉を狙い、二度、三度――叩きつける嵐の剣戟。
 そこに、紅の光が流れ落ちる。
 自身より大きな獣を狩らんとする、獰猛なる獣。姿には進んで見せない狐の性を、躍りかかる一閃に映しコノハが迫る。短剣より変じた巨大な牙が、仲間たちの攻撃に緩んだ鎧に喰らいつき、叩き割る。
「……ほぉら、美味しそ。――喰らうばっかじゃフェアじゃないデショ。あとはこっちが喰い千切ったげる」
 ――……ァァ!!
 諾、と答えが返る筈もない。耳元に囁くコノハを振り切らんと翻る蹴りは、躱されない。真正面から受け止めた山すら穿つという威力は、淡くコノハを包み込むオーラの輝きに僅かに削がれる。
「もうチョット骨がある一撃を期待してたんだケド……見掛け倒しネ」
 耐性の加護により鈍らせた痛みも、とてもではないが無いと言えるものではない。吹き飛ばされまいと耐えるのが精一杯だ。それでも気丈に、気丈とすら思わせぬ嘲りに、コノハは笑った。増幅する怒気も殺気も、その全てが愉しいと。
 黒曜石の鎧はもはや用をなさない。深傷は互いのものだ。それでもなお盛り猛る修羅の炎は、退く意志などないと言わんばかりに燃えている。それを、
「――叩き消す」
 衝撃に竦んだかに映ったその身は、流れるように懐へ。紅滲む牙を翻したコノハの頬から、笑みが消える。
 ――…………!!!
 声なき絶叫が原野を駆け抜けた。腹から背へ、仲間の重ねた傷を狙ってもう一尖、突き重ねた牙が厚い身を穿つ。命を着実に削がれながら、決して潰えることなく猟兵たちを威圧していた覇気が、魔力が、巨躯から抜けていく。
 修羅の抜殻は威容を失わず、立ち尽くしていた。過去からこの地に紐付けられたその命が本当に終わったことを知らしめたのは、雪崩れるように倒れてゆく屍人たち。
 一様に見開かれた虚ろな目は閉じ、悲嘆や無念の表情に立ち戻り、眠りゆく。けれどそれは、悲しくも終わってしまった彼らの、立ち戻るべき姿でもあった。

 亡骸の肩に輝いていた水晶が、原野に小さな墓群をなす。
 手向け花も弔いも捧ぐ暇なく先を目指す猟兵たちは、その輝きに祈りを託した。
 傀儡は亡骸へ還り、修羅のいのちもまた、過去のものとなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月08日


挿絵イラスト