エンパイアウォー②~あぁ美しき虎の鉄波紋
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「いやぁ、いい。壮観だ!」
水晶を生やした大量の亡者を率いる宗教家・ニェポス。
彼は逃げも隠れもせず、水晶屍人に支給し、持たせたモノの姿を褒め称える。
「あれもこれも全てが虎徹! 実に良い!」
刀剣をこよなく愛し堕ち、溺れていた。
ある一振りの刀に、魅せられ宗教として確立し、祭り上げんと立ち上がったのだ。
それが、力強い波紋を奔らせた……大量の贋作であったとしても。
「誰にこの軍勢を率いよ、と命ぜられたか等、この風景をみよ! どうでも良きことよ!」
熱弁を振るい、雪だるま式に贋作を持たせた亡者の同士を増やし続ける。
「持たせた主に知性が無かろうとも、魅せられ行脚し、目指そうではないか!」
――はて、どこであったか。
「細かいこと等きにするでない。さぁ行こう、進め!そう進むのだ!」
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「ねぇ、聞いた? サムライエンパイア……奥羽地方で、大変な事が起きてるんですって」
空裂・迦楼羅(焔鳳フライヤー・f00684)は慌てるでもなく、地図を開きココらへんと燃え盛る爪先で指差す。
「あぁ必要な場所は確かに沢山あるわね、でも大変なのよ……宗教家がね、酷いのよ」
動き出した『魔軍将』、陰陽師『安倍晴明』が要らないことをしたのだ、と迦楼羅は言う。……わりと、残念そうな表情で。
「ほかのグリモア猟兵の予知とそこまでの差はなく、『水晶屍人』を侍らせた軍勢が江戸を目指して進軍しているんだけど……」
歩く屍は肩から水晶を生やし、噛まれた者は新たな亡者の同胞を増やし続ける。
通り過ぎた場所から人は消え、亡者の数は増すばかり。これは止めなければならない。
「えっと、宗教家というより純粋に愛好家、かも知れないんだけど……」
言葉を濁す迦楼羅は、説明しにくそうにする。
「『水晶屍人』は全て、贋作の日本刀を所持しているわ。勿論スッパリ切り捨てられる本物よ」
屍人を増やすために、一旦切りつけて、完全な死に至る前に噛みつき『水晶屍人』として変生させるのだ。
「宗教家は、刀の素晴らしさを満足気に布教しながら歩いているから、煩い誰かが居たら、確実にソレが指揮官でしょうね」
はぁ、と溜め息をひとつ。これは、方向性がずれて入るものの、徳川幕府軍の助けになる予知で、あるはずである。
「彼はとても、虎徹という日本刀を溺愛してるようでね……」
日本刀はいいぞ、とひたすら刀への愛を主張するのだ。
「死後、一人一振り持ち込めば、必ず来世で幸せになれる、と胡散臭い事を言っているようなの」
魂だけになった後、物体をどうやって死後の世界に持ち込むというのか、というツッコミどころはさておき。それだけ刀に魅せられているというのだから、猟兵たちも気をつけなければならない。
「語らせれば思うツボよ、でも……」
逆にノッたり、刀の話をすると引き寄せられるかもしれないという裏返しである。
「狂信するヒトっていうのは、折れない心で心酔してるものなの。だからこそ、強いのよね……危ない宗教を、人知れず滅ぼしに行きましょう」
刀が悪いわけじゃないが、贋作の数だけ増え続けるのを止めないわけにはいかない。
さぁ、猟兵による、――刀狩りの始まりだ。
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
ふぁんたじぃえんぱいあにならないよう、気を引き締めていきます。
それでもふぁんたじぃになったら、……そういうことですので。
『水晶屍人』は全てが、日本刀『虎徹』を持ちます。
ただし、全て贋作で、サムライエンパイアに現存するかもしれないソレとは異なり、虎柄だったり、物理的にドット柄だったりするあからさまな偽物で、普通の日本刀ではないのです。これらはボスの秘蔵コレクションみたいなものです、壊してしまっても何も問題はありません。ただ、ボスがすごく悲しい思いをするだけです。
この場に真作の『虎徹』はありません。
戦況は、ボス自称『宗教仲間』と出くわしたところから始まっています。
多少でも対策を立てないと、刀で切りつけられます。
山のように居る亡者の中で、どうやってボスと出会い、そして戦いに持ち込むかは、戦場に飛び込む猟兵次第となっています。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。一フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 ボス戦
『宗教家・ニェポス』
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POW : ニューレリジョンメーカー
技能名「【洗脳式勧誘・調略術】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD : ゴートリック・パースエイジョン
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【対象の脳内に教義を語り意識を混濁させる声】が出現してそれを180秒封じる。
WIZ : アフターライフガチャコンダクター 37
【サムライエンパイアの民草の現世への未練】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【洗脳を強化し、信者を自決すら厭わぬ殉教者】に変化させ、殺傷力を増す。
イラスト:いぬひろ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「リダン・ムグルエギ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可
「虎徹」か…強そうな名前のカタナだな!
だがカタナは武器なんだから、強くなくちゃあダメだよな。だから、俺と勝負しようぜ!
今回使う武器はフラッシュブレードだけだ。左腕に格納してあるんでちょいと取り出して…【2回攻撃】で【サウザンド・フラッシュエッジ】を発動! 大体2500の2倍…約5000の剣刃を飛ばしまくって水晶屍人共を片っ端からぶった切るぜ!
切られたくないなら、そのご自慢の「虎徹」とやらで防いでみな。
本物なら一発位【武器受け】出来るだろ。だがなまくらの刀だったら…用はねぇ、黙って切られな!
さて、自慢の虎徹がぶった切られる所を見て黙っていられるかな?
鈴木・志乃
そっと、息を吸った
普段は秘匿しているUC発動
今は戦争中なんで、惜しみなく使わせてもらう
私の世界(オブリビオン含む)への愛を代償に
その意思感情、オールキャンセル
洗脳も纏めて消し飛ばしてやろう
お前の感情も持ってくぞ
【祈り、破魔、催眠術】を籠めた【歌唱の衝撃波】で諸共全てを【なぎ払う】よ
まったくなってないなぁ
本気で戦うつもりならもっと来てよね
事前に自分に【催眠術】をかけておく
たった一つの守りたいもののことしか考えられないようにね
敵物理攻撃は【第六感で見切り】光の鎖で【早業武器受けからのカウンターなぎ払い】
【オーラ防御常時発動】
敵死体、虎徹を【念動力】で巻き上げ嵐と化し
敵にぶつけて差し上げよう
オブシダン・ソード
【剣狐】
いすゞの背で剣として
刃を崇める方針は素晴らしいと思うんだけど、君はどう思う?
屍人は知性に欠けそうだから、ちゃんと通る理屈を大声で喋ってるのが首謀者かな
派手な身なりとかも特徴になりそう
耳を澄ませて目を凝らして、まずはボスを見つけよう
その後の接近と潜入は、口の回る相棒に任せる
そういうわけで、今日の僕は虎徹だよ
どうだい、この夜空のような美しい刀身、これが虎徹でなくて何だというのかな
途中思わず口を出す
あ、最近の虎徹は喋るんだよ
知らないのかい? 遅れてるね
いいよ相棒、任された
言葉でいすゞを誘導しながら、斬撃に合わせてUC
邪魔者は蹴散らすしボスも刀も斬る
僕は虎徹じゃないけどね、切れ味は負けないよ
小日向・いすゞ
【剣狐】
背に器物状態のセンセを背負い狐変身
やかましく話す宗教家を物陰から探すっス
人の姿で無ければ即斬られる事も多分無いスよね
いやー
苦行させられてるって感じっス
発見後はこっそり人に戻って接近
背のセンセは
勿体ぶり柄以外は見えぬ様
自尊心を擽り会話っス
おや
アンタも虎徹を?
奇遇っスね
あっしも虎徹を持っているンスよォ
へえそんなにも
ならば勿論ご存知でしょうが
コレは彼の名刀工長曽禰興里…虎徹が
黒曜石を鍛えたと言う最上大業物!
黒曜石で日本刀が作刀できる訳が無い?
エ?
…アンタ程のお方が知らぬ筈
無いっスよね?
ならば見て貰うっス
管狐纏い斬りかかる
少し話し始めるの早いっスよォ
狐が化かすのは仕事っスよ
後は剣
相棒の仕事っス
リンダラ・ナンダラ
胡散臭いけど、もしかしたら本当に来世で幸せになれるのかもしれない。仮に嘘でも心から信じられたら楽に生きられるよね?
とりあえず、刀を手に入れよう
最低一人からはあえて攻撃を受けて【ダーク・ヴェンジャンス】を発動させる
刀も生命力も貰っちゃおう
戦えない位ダメージを受けるかもだけど、それならそれで私なりに考えた結果だし仕方ないかな
刀を奪ったらボスに仲間にしてって声を上げて探し回る
屍人は襲ってこないなら無視、襲ってくるなら刀を奪ったのと同じ目にあってもらう
ボスを見つけたらあの世への刀の持ち込み方について詳しく聞きたいな
ちゃんと説明してくれなかったら心から信じられないから始末しちゃおう
アドリブ歓迎
●Rain sword ,crystal corpses
ほのぼのとした日和を、軍勢が歩いている。
帯刀ではなく、抜身の刀を煌めかせて。
やや離れた場所に送られた猟兵達の目にも、軍勢の確認は容易であった。あからさまに、刀を持つ人影に知能は無く、肩に生えた奇妙な水晶が隣の人影とぶつかり、転倒する。それらを後に続いてきた人影が気にせず踏んでいくのだ、踏まれた側にも痛いという声はなく。
「……んー、あれが噂の『虎徹』とやらか。強そうな名前のカタナだな」
アーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)は標的の数を数えようとしたが、目に見えて多い。
同じ光景を見ているはずの鈴木・志乃(ブラック・f12101)は何も言わず、歩く様を見ていた。手を伸ばし、普段秘匿しているユーベルコードを発動し、敵の全てを持ち去り消し潰す。
ただそれだけの為に来たものだが、それを待ったと言う声があったのだ。
――私の護りたいものは、一つ。……そう、たった一つだけ。これを合図の声で、解き放つ。
先行した数人を待つだけなら、せめて力の精度をあげておこうと、志乃は自身に自己暗示を掛けていく。惜しみなく、代償を払う最大の攻撃を仕掛けるために。
「大人数を消し飛ばすのは簡単だが、これだけたくさんのカタナ武器だ。利用しない手はないぜ」
――武器として、強くなくちゃダメなんだぜ? 飾りじゃだめだ。
純粋な戦いを望む者として、成り行きを見守っている。
既に死した力無き人々の無念を、打ち破る光と成るために。
「合図が来たら、俺らと勝負しようぜ」
アーサーはニヤリ、と笑って全てを相手にする好機の、――合図を待つのだ。
『水晶屍人』の大群、その末端に近づく影がある。
――聞いた話じゃ胡散臭いけど、もしかしたら本当に来世で幸せになれるかもしれない。
「仮に嘘でも、心から信じられたら楽に生きられるよね?」
リンダラ・ナンダラ(クズエルフ・f18802)が独り言のように話しかけたが応答はなかった。ただ歩き、まだ敵対行動をしていないリンダラを、敵だと認めていないだけかも知れない。
「とりあえず、はじめよっか」
全ての敵が所持しているというのなら、奪う事自体は簡単にできそうなもの。
スッ、リンダラがダガーを持ち構えると、虚ろな目を向けて彼らはゆるゆると『虎徹』を構えて敵対者だと認識した。
「逃げもしないよ? ほら、かかっておいでよ」
全身を黒い粘液で覆って、挑発の言葉と若干のやる気を出した語気。
彼らに挑発の言葉が届いていたのか、反射的な動きなのか日本刀を棍棒のように雑に扱い斬り付ける。何のためらいもなく、剣の心得も戦う意気込みも持たない、ゆるい振りかぶりだった。
痛手を追うような攻撃では無意味だと、あえて攻撃の範囲に身軽に飛び込み、派手に切りつけられるリンダラ。
「痛……! まぁ、でも。私にしたら上出来だよね」
切りつけられた分の痛みと伴った流血に半笑いを零しながら。
ギリギリ戦えないくらいのダメージかも知れないが、それでもいい。
――私なりに考えた結果だし、仕方がないよ。うんうん。
「じゃあ、貰っていくから」
切りつけられた黒い粘膜が切った対象へ飛びつき、張り付いた部分から一気に生命力を奪う。元々、屍として歩いていた者である以上、そこまでの生命力をもっていなかったが、刀を持つという行脚の資格を失った。
所有していた『水晶屍人』は消え去り、残された波紋が斑模様の『虎徹』を拾って、悪びれもせずにリンダラは声をあげる。
「ねぇ! この刀……『虎徹』っていうんだよね。私、入信したいと思うんだよね!」
入信という言葉がきっかけか、屍人たちは『虎徹』を持ったリンダラに攻撃の素振りを見せない。
これは彼らにとっての宗教者、上官が覚え込ませた単語のせいである。
「入信! ほほうどこぞ、その声は。こちらだ、こちら。こちらへ顔をだすがいい」
声が上がる。無言で歩く屍の中で、楽しげな声だ。
――見つけた。
リンダラが視界に喧しい男を捉えた時。
別の方向からも確信を持つ者達が忍び寄る。
器物状態のオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)を背負い、狐に変身した小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)である。ココン。
――器物状態のセンセを背負った狐とあらば、即斬られる事も多分無いスよね。
『虎徹』ではないものが、生者が、混ざり込んでいる事に『水晶屍人』は意に介さず、歩き続ける。
いすゞの背の剣として同行する、オブシダンは想う。
――刃を崇める方針は素晴らしいと思うんだけど。
「君はどう思う?」
「ん、風景的な感想で言うなら、苦行させられてる感じっす」
教祖のもとにねずみ式に増産されただけで、信者たちに知性がない以上、死者の奴隷に変わらない。それは果たして、信仰として成り立つだろうか?
「まだ誰も近寄ってなさそうっスかね?」
大小様々な『水晶屍人』に紛れるように、いすゞは人の姿に戻って接近を試みる。さきほど声を上げた『誰か』と成りすまし、呼ばれたのできましたよ、というような陽気さで。友達感覚、と言わんばかりの気安さで。
「いやー、絶景っすね、どこを見ても刀、あっちも刀、こっちも刀!」
「ほぉ、先程の声は貴方ですか。これらの良さが分かるのですね。関心が高いのは良いことです」
「あっしも刀を扱う身、コレでもかと抜き身で歩いているモンだから、つい……」
いすゞは背に背負うオブシダンの柄をチラリ見せた。
刀身は見せないように、上手いことを隠し、様々な刃を指差し褒める。
「あれらは模造刀ではない、真実の刀。贋作も多いというが、これほど集めて並べれば全てが本物に等しい!」
「ほほう、銘ある名高きもので?」
――んー、相変わらず口の回る相棒だね。
オブシダンが耳を澄まして、成り行きを聞いているとニェポスは愛するが故に、最も頂に抱く名を口にする。
「その名も『虎徹』ですとも!」
「おや」
「知っている銘でしたか?」
「えぇえぇ。アンタも虎徹を?」
「……『も』、ですと。つまり」
「あっしも虎徹をもっているンスよォ。そんなにもお好きとあらば勿論ご存知でしょうが」
掛かった、といすゞは内心にぃと笑って、応じた。
背に背負った刀がそうだ、と見せて捲し立てる。
「コレは彼の名工長曽禰興里……虎徹が黒曜石を鍛えたと言う最上大業物!」
――今日の僕は、虎徹だよ。どうだい、立派だろう。
刃を光らせて刀身をアピールすると、宗教家の顔はどんどん雲行きが怪しくなっていく。
「虎徹を、黒曜石で……? そんな、……」
絶句する。刃を持つ以上、斬る事に特化した形状だ、とニェポスは思う。しかし、しかし、と調べ尽くし、集め尽くした『虎徹』の刀と似ても似つかないその形状。
「黒曜石で日本刀が作刀できる訳が無い、そういうお顔ッスね」
一点を極めたと思ってヤマないマニアの顔が崩れていく。
「そりゃそうですとも、それで刀ができるものですか!日本刀と称するのも」
「エ?」
いすゞは言葉の途中に噛みつき、大げさに驚く。
「アンタ程のお方が知らぬハズ無いっスよね? ならば見て貰う方が早いっス」
「どうだい、この夜空のような美しい刀身、これが虎徹でなくて何だというのかな」
ニェポスの表情は、怪しさと相まって感想の言葉すら失った。
「話す『虎徹』!? そんなものは『虎徹』の贋作でもなく、ただ名前を騙るだけ、ただ自称するものでしょう!」
――思わず口を挟んでしまったね。まぁ、いいか。
「あ、最近の虎徹は自分で喋るんだよ。知らないのかい? あぁあぁ、遅れているね」
「意志を抱いた時点で、それは『虎徹』ではありません!」
手を上げて、周囲の『水晶屍人』に合図をすると、『虎徹』を構えて怪しい二人に剣先を向ける。
「貴方たちの死した無念の分、『虎徹』の切れ味を見せて差し上げなさい! 貴方がたが一番、『虎徹』を知り、愛し、使い方を知っている!」
宗教仲間として鼓舞し、ニェポスは場を盛り上げる。
活気として返じる声もなければ、つい数日の間に屍とかした彼らには骨のように軋む音すら無い。時折距離を認識しそこねた水晶がぶつかる澄んだ音だけだ。
――夜の守日の守に守幸へ賜へと、恐み恐みも白す。――守給へ幸給へ管狐。疾う疾う、如律令!
「少し話し始めるの早いっスよォ」
相棒へ口を挟むはやさを指摘しつつ、管狐を召喚し、器物の刀身に纏わせて指示を仰ぐ。敵対の準備は、万端だ。
「そろそろ良いかと思ってね、いいよ相棒、今度はこちらが任された」
一斉に刀を向けてきた屍を足蹴にいすゞは敵の懐で、舞い踊る。
「僕は確かに虎徹じゃないけどね、切れ味は負けないよ」
「やはり違うではないですか! 嘘吐きは地獄に落ちればよろしい!」
「地獄……? あの世、ってこと?」
リンダラは、成り行きを『水晶屍人』に混ざって見守っていたが知った言葉に反応した。ココぞとばかりに、問を重ねていく。
「そうですが、今私は忙しいのですが入信希望なら少し後に……」
「ねぇ、あの世への刀の持ち込み方について教えてよ」
説法として、ニェポスが教える宗教はその様に謳っている。
身一つとなった後、魂だけでどう刀を持ち込むというのか。
「自ら腹に付き立て自害するに使うのです。死した理由を作った刀となれば、地獄へ証拠物と押収されましょう。そうすれば次の生まで共に居ることが可能です。その後は、地獄での過ごし方次第でしょう」
「ふーん? それ、ちゃんとした説明になってないよね」
リンダラが視線をいすゞへ向けると、召喚された管狐は空へ駆け上がり、占術として最善を啼く。
――あぁ、合図だ。
合図を見た猟兵が、一気に殲滅に動く。
あの場所に指揮する者が居て、残りは全て、兵隊として動く者に過ぎない。
あれはそういう目印の合図だ。そうとなれば、話は簡単になっていく。
ニェポスを残し、殆ど全てを無力化することが出来れば、打倒する事は容易いほうだろう。
「今回使う武器は、フラッシュブレードだけだ。左腕に格納してあるんで……」
義手の中より光の刃を持つ刀を、スッ、と掴むアーサー。
派手に切り刻むべき標的は、山のように見える。
それら全てを叩き伏せるなら、何処へ打ち込んでもかならず当たるものだ。
「ぃょし!……待たせたな、さぁやるか!【Select……SLASH ACTION!】」
派手にポーズを決めながら、フラッシュブレードを振り抜く。
全てを纏めて切り伏せる光の刃。それらが二度、素早く放たれる。
「ごめん、神様。あたしこの絶望を希望に変えたい」
志乃は合図を目にして直ぐに、ユーベルコードを開放した。
自己暗示もあって、すぐに、
――私の世界、そう勿論彼らも含むけど。それらへの愛を代償に。
「意志感情、全てをオールキャンセル。洗脳も纏めて消し飛ばしてやろう」
志乃は冷たく言い放ち、光の体へと姿を変える。
光の速度で、屍が嫌がる破魔と祈りの力を込めて、声に乗せて言い放つ。
「お前の感情を、持ってくぞ!」
二人の猟兵の光の攻撃は、志乃の全てを薙ぎ払うような歌唱の衝撃波を、アーサーの剣戟が後押しし、個別に直接叩き込む。
届かぬ光の刃は存在しない。それらは全てが確実に突き刺さる。
「何故なら、大体2500の2倍……約5000の剣刃を飛ばしまくっているからだ!」
突然説明口調に成るアーサー。
「片っ端からぶった切るぜ!」
「まったくなってないなぁ。悲鳴すらあがらないなんて。本気で戦うつもりならもっと意欲を持ってきてよね」
まるで塵のように散らされていく『水晶屍人』。
彼らに対抗出来るほどの、実力が無い彼らは駆逐されていく一方だ。
幾らかは拙い刀の扱いで、払い除けようとするが衝撃波を刀で捌く技量はなく。
光の刃を切れる力量もなかった。彼らに、『光』と敵対する手立ては、はじめから無かったのだ。
次々にニェポスが持たせた『虎徹』は無残にも地に落ちて、泥や砂に塗れる。
「光の刃など……ヤイバとは認めませんよ」
散らされた『虎徹』を一振り拾いあげ、ニェポスは自分に飛んできた光の刃を切り捨てた。
見に受ければ感情を持ち去られると目ざとく察知し、払い除けて避ける。
「さて、自慢の虎徹が無造作に扱われる所を見た感想は?」
「最悪ですね、貴方たちは刀の扱いひとつも理解しない邪教徒なのでしょう」
アーサーが問えば、苦虫を噛み潰すような顔で答えた。
「『虎徹』の素晴らしさを理解しない、『虎徹』を所持する者が増えていく環境の素晴らしさを、誰も理解しない」
なんと悲しいことか、と出てもいない涙を拭くような仕草をした。
躯の海に帰る度、集め持ち帰り増やしに増やした『虎徹』が、大切な私物が盛大に汚れている。
彼の言うところでは、地獄の果てまで持ち帰り、持って還ってきているようだが、それは果たして愛だろうか。
「邪教徒で結構。そんなに言うなら全部お持ち帰り希望だよ」
倒れ伏した『水晶屍人』や地面に転がる『虎徹』を念動力を使って志乃は一斉に巻き上げる。
全てを持ち上げるのは至難ではあるが、持ち上げた全てを使って竜巻を生成する道具として使ったならば。
それは微風から、旋風に。旋風は嵐へと変わっていく。
抜身の刃が風に乗ってデストラップとしてぐるりぐるぐる空を舞う。
「や、やめなさい! 刀はそんな使い方を……」
「虎徹はよく切れるんでしょ? よかったじゃん」
「なまくらの刀なら切れないだろ? 切れる業物がこの中にあるか、試し切りされてみな!」
志乃は言い訳を聞くこともなく、ニェポスに巻き上げた嵐を叩きつけた。
ざりざりざり、と砂を擦る音と、よく鍛えられた鋼が同じものとぶつかり立ち合うような音が上がる。
「ぎゃぁああぁああぁぁあああああ!!!」
鋼の虎たちは、一方的で圧倒的な熱意で愛した男を愛さなかった。
立ち向かった一振りだけでは対抗するにも生まれたての子猫に等しく。
見事な切れ味で、彼との決別を示し……
大量の『虎徹』が持ち主を失って、――からんからん、と戦場に残された。
抜身の刃は刃こぼれすることなく、その場に転がる。
手入れをして、鞘に収めて持ち主を所有者を選別すれば、これらはカタナとしての活躍が出来るだろう。無事にこの部隊の進軍を妨害する事は出来たが、個性的な波紋ばかりの『虎徹』をどうするか、猟兵達はすこし頭を悩ませるのであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月03日
宿敵
『宗教家・ニェポス』
を撃破!
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