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エンパイアウォー②~いざや往け往け一番勝負

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●怪気炎波瀾万丈
「イ…………ァァ……」
「……………………………………」
「グ、ン、ウウ、ウ? ……エ…………ア」
 奥羽。陸奥国と出羽国を合わせてそう呼ばれる、サムライエンパイアの東北方面に存在する地方。
 その中の街道の一つを、埋め尽くさんばかりに何かが闊歩している。何か……、いや、人の形を取っているらしい。だが、皆一様に生気はない。
 土気色の顔を隠そうともせず、ただれた素肌で地面を歩き、もはや何を見ているのかも釈然としない眼でただ歩く、肩から奇妙な水晶を生やした動く屍の群れだ。
「――アアアアアアアアアアアヨッシャアアアアアアアアアア!! 破壊……アァァ!! 一番……槍だ……ゼ……! オイ、ギィィアァァハハハハ!!!」
 蔓延するかの如くにある死の中で、一つだけエネルギーに満ちた影があった。全身から赤い何か――闘気とでも呼ぶべきそれを立ち上らせながら、目だけを朱く爛々と輝かせて。
 まるでこれから戦が始まることが分かっているような。
 その上で、戦うことが至上の喜びであると妄信しきっているような、その影。
 それは、名を『修羅』といった。破壊と殺戮の衝動に身を任せて、眼に映る生命全てを砕かんとする悪鬼。ただ純然たる暴力がユーベルコードの域に昇華されし暴虐の化身。
「破壊………………ハカイ!! 全部……破壊だァァ! 来いヨ……猟兵ッ! 俺をッ、止められるものなら……! 止めてみやがれェ!! 奥羽屍人戦線の始まりだァ!!」
 溢れ出す衝動に身を任せている影響か、言葉も満足に話せてはいない様子である。
 だが、どうやら分かっているようだ。自分の敵が何者であるのか。そして――決戦の時は、近いということを。

●から騒ぎの幕開け
「お疲れさん。さてさて、詳しいことは各々知ってるな? サムライエンパイアで戦争だ。どの戦場にも敵がわんさと居やがるぜ」
 グリモアベースの一室へ集まる猟兵達に向けて、納・正純が笑いを崩さず話しかける。どのような敵が相手であろうとも、君たちの勝利を信じて疑わないためだ。
 今回の戦場も以前の戦争と変わらず多くあり、そして脅威となる敵たちは以前の戦争時よりも多く感じる。今回の敵群を率いるのは、オブリビオン・フォーミュラ『織田信長』と、彼に付き従う『魔軍将』。甲斐の虎を除いたとて、此度の戦争には7人もの強敵が存在するのだ。
「で、だ。今回お前たちに行ってほしいのは奥羽方面になる。もう知ってることとは思うが、この戦場の特徴は『敵の軍勢』そのもの。『水晶屍人』とやらがオブリビオンの指揮下で悪さを働いているらしいんだが……。そいつがどうにも厄介でな」
 『水晶屍人』とは、敵軍の陰陽師である『安倍晴明』が屍に術をかけて造り出した、肩から奇妙な水晶を生やした動く屍のこと。
 知性を持たず、指揮を行うオブリビオンさえいなければ奥羽諸藩の武士たちでも対処は可能な力量ではあるのだが、厄介なのは『数』と『性質』であるという。
「面倒なことに、コイツらは生きた人間を『水晶屍人』に変えながら徐々に江戸へと南下しているらしい。それも、今の時点で奥羽を埋め尽くさんばかりの数が確認されている。放置していい案件じゃねェ」
 事態解決のため、猟兵の皆に頼みたいことは一つ。街道に溢れんばかりの屍人の群れを切り抜ける、あるいは蹴散らす、もしくはすり抜け、そして敵指揮官であるオブリビオンへ打撃を与え、これを撃破すること。
 指揮官という頭を失ってしまえば、知性に乏しい屍人たちの処理は武士たち主導の下で如何様にでもできるだろう。だが、武士たちだけの力でオブリビオンの撃破は不可能だ。だからこそ、猟兵には敵指揮官の相手を願いたいのである。
「真正面からブチ破って進む、影に忍んで裏を狙う、他の猟兵が起こした騒ぎに乗じる、空や地下から攻める、あるいは屍人の目をごまかしてすり抜ける……。やり方は、いつも通りお前たちに任せる。だが、無策じゃ厳しいだろうな。工夫を織り交ぜながら、お前らの一番得意な方法でやってくれ。きっとそれが正解だからよ」
 舞台は山間部の程々に広い街道だ。道を挟んで、背の高い樹木や空き家などもいくらか存在している。足元は前日降った雨の影響かややぬかるんでいるようだ。
 全ての技術、全ての経験、全ての知識。地形や敵の情報も含めて、各々が持てる全部を活かし、この戦争の火ぶたを切ってくれれば幸いだ。敵も屍人や地形を利用しながら立ちはだかるだろうが、なに。君たちならば、やってやれないことも無いはずである。
「おっし、準備良いな? 上等だぜ。それじゃ、健闘を祈る。最初から、でっかい活躍を見せて来な。健闘を祈る」


ボンジュール太郎
 お疲れ様です、ボンジュール太郎です。無理なく戦争依頼を書かせて頂きます。
 皆様のPC様の魅力を最大限引き出せることを目指し、全力で取り組ませて頂きますので、今回もよろしくお願いいたします。

 ●戦争です
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 ●構成
 以下の構成でお送りします。
 1章
 『修羅』との戦闘。

 以上です。
 このシナリオフレームは【ボス戦】で『水晶屍人』を指揮するオブリビオン1体を撃破する事が目的となりますので、どうか使える全てを駆使してその目的のみを目指してください。
 水晶屍人はオブリビオンの撃破後に武士たちが頑張ってくれます。また、水晶屍人に噛まれても猟兵は感染しないので平気ですが、攻撃のダメージ自体は喰らってしまいます。
 屍人をどう切り抜けるか? 言い換えれば、オブリビオンの元へどう辿り着くか? が重要になるかと思います。

 ●アドリブについて
 アドリブや絡みを多く書くタイプであることを強く自覚しています。
 アドリブ増し増しを希望の方はプレイングの文頭に「●」を、アドリブ無しを希望の方は「×」を書いていただければその通りに致します。
 無記名の場合はアドリブ普通盛りくらいでお届けします。

 ●判定について
 その時々に応じて工夫が見えたり、そう来たか! と感じた人のプレイングはサイコロを良きように回します。

 ●プレイング再提出について
 私の執筆速度の問題で、皆様に再提出をお願いすることがままあるかと思います。
 時間の関係で流れてしまっても、そのままの内容で頂ければ幸いでございます。

 ※プレイング募集は08/02(金) 08:30~からとさせて頂きます。
 その前に頂いたものは一度流してしまうかと思いますので、その旨よろしくお願いいたします。
222




第1章 ボス戦 『修羅』

POW   :    蹴り殺す
単純で重い【山をも穿つ足技】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    殴り殺す
【ただ力任せに拳を振り抜くこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【巨岩をも砕く風圧】で攻撃する。
WIZ   :    怒り殺す
全身を【黒曜石の角】で覆い、自身の【眼に映る全てに向けられた殺意】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠光・天生です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●祭り囃子に合わせて踊れ
 べちゃべちゃと、不快な音が辺りを覆っていた。
 一つだけならまだよい。しかし、今聞こえてくるのは何百、何千、いや何万にも上るかと思うような泥踏みの音、音、音。一つ、二つ、三つ、四つ、たくさん。敵陣からやや離れ、実際の敵を目にしていない今ここでさえ、音が途切れる時間などない。
 もはやこれは音の進軍と言っても良かった。姿が見えない敵であろうとも、ここまで派手に音を立てれば位置関係などすぐにわかるというもの。
「……これまた碌でもないものを……。……おや? お久し振り、梶本の一件以来……かな」
「ん? おー、どっかで見た忍び殿ではないか。同じサムライエンパイアの土でまた相まみえるとか奇遇じゃのー」
 そこで言の葉を交わすのは二人の猟兵であった。
 誰も戦端をまだ開いておらぬ今、緩みもしないであろう気を窺うというのもそれこそ無駄な話。一番槍である彼と彼女にとっては、決めておくべきことが一つだけあったのだろう。
「妾が真正面に出て目を惹く。侍部隊もいくつか借り受けた。あのクソけったいなクソろくでもないクソ屍人とやらは全部任せてもらうぞ? ぜ~~ったい製作者の性格最悪じゃろあんなん」
「それじゃ、俺は裏から。……同感だね。清明、だったか。後で相応の目に遭わせてやる。合図は?」
「祭り囃子が鳴れば、それで。……さて、大量に迫りくる屍人の群れ! それを迎え撃つ無双の太刀! ふふ、武勲を立てる絶好の機会よ! ブッ殺す!!」
 決めておくべきそれとは、即ち『機』。そして今この瞬間、祭りの機は定まった。
 進軍、開始。
神羅・アマミ

大量に迫りくる屍人の群れ!
それを迎え撃つ無双の太刀!
ふふ、武勲を立てる絶好の機会よ!

街道から固まって来るというなら、敢えて正面から受けて立つも一興。
コード『箱馬』により、空気の壁や天井を利用した三次元的な戦闘で翻弄してやれば、ぬかるんだ地べたでのたうつゾンビどもなぞ死霊の盆踊りも同然!
敵陣へ切り込み撹乱を行い、注意を引きつけてやれば、後続の武士たちと連携する形にもなり戦局も御しやすくなろうというもの。
侵攻を街道で食い止め切れば、結果として被害を最小限に留められるのではなかろうか。
ふふ、盾キャラしとるじゃろ妾?
エンパイア史上空前の手柄として、侍たちに末代まで語り継がれてしまうかもしれんにゃー!


月凪・ハルマ


……これまた碌でもないものを

清明、だったか。後で相応の目に遭わせてやる

◆SPD
【忍び足】と道中にある空き家等の遮蔽物を利用して
水晶屍人の軍勢に発見されない様に修羅の元へ向かう

後は向こうの察知能力によるな

『こちらは修羅を発見したが、修羅はこちらに気付いていない』
状況であれば、手裏剣の【投擲】で不意討ちしてから
気付かれてるなら、そのまま素直に戦闘開始

どちらの状況でも【瞬身】を使用してから戦いに挑む

敵の攻撃は強化した技能で躱し、【忍び足】で死角に移動しつつ
【早業】の手裏剣+旋棍で攻撃

敵がこちらと距離がある状況で殴る様な事前動作を見せたら
UCの使用と判断
できるだけ大きく回避して被害を減らす様に試みる



「……アァァ!? ヘッ、来やがったなァ性懲りもなくよォ! クソ野郎共! クソ行きやがれクソがァ!」
「ウゥゥ……グェ……ア……」
 屍人に囲まれた『修羅』が、未だ目視できぬ猟兵の接近に気付いた訳。それもまた、音であった。音と言ってもぬかるんで湿った音などではない。
 それよりもっと鋭く、派手で、弾けるようななにかだ。バチン、バチンという快音。そして、声。声と言っても屍人の出す苦悶の声などではない。
 それよりもっと力強く、勇ましい、生きている声だ。ウオオオ、と遠くから聞こえる。『彼女』が始めたのだ。侍を引き連れ、真正面から、ドデカい祭りを、である。
「っしゃァコラァ! 街道から固まって来るというなら、敢えて正面から受けて立つも一興ッてな寸法じゃアホが! 妾に敵うと思うなよボケクソ屍人共!」
「続け! 続け! 彼らに続くのだ! 我らはここより先に進む屍人のみを斬ればよい! 一人に対し複数で当たれ! 梶本村の浪人……いや、侍の意地の見せ所じゃァ!」
 魁となるのは神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。彼女は後続の武士たち――どこかの田舎村上りの浪人、という風情の者共もいるが――と連携する形を取りつつも、自分は独りで敵陣へと切り込んでいくではないか。
 命知らずとも思える彼女の行いはあまりにも多勢に無勢。だが、その主な狙いは撹乱だ。派手に暴れつつも、アマミは決して引き際を見誤らない。注意を引きつけてやれば一つ跳び、屍人が寄らば二つ飛び。
 アマミは敵の伸ばす腕を躱し、和傘で敵の首元を抉り、敵の噛み付きは和傘を引いた推力で空中へ逃げ、ユーベルコード【箱馬】により敵の頭上で舞っていた。まさに戦場の華もかくやの大立ち回りである。
「甘い甘い甘い甘い! 所詮は数だけのクソザコよ! そうら、祭りの始まりじゃぜー!」
「むう……! アマミ殿、さすがと申すべきか! 拙者らも負けてはおられんぞ! この国の危機は、我らこそ踏ん張らねばなるまい! 今こそ猟兵の皆に恩を返す時よ!」
 空気の壁や天井を利用した三次元的な戦闘。屍人を翻弄しているアマミの取った戦法は、魁として道を作るに最適解と言える。『道が無いなら、空中に作れば良いだけのこと』。バチンと弾けるようなこの音は、空中で四肢を自在に動かして遊び舞うアマミが立てる音。
 裏拳めいた籠手の殴打で動きの鈍い屍人の首根っこをブチ折り、和傘で敵の水晶から脊椎からブチ割り、時折空高くまで上がったかと思うと、急降下しながら鉄下駄によるストンプを敵陣にブチかます。手の付けられない凶暴な猿の如く、彼女の動きは自由自在。アマミが大きく暴れれば暴れる程、敵の攻勢は鈍り、侍たちの士気は高まっていくではないか。それほどまでに、彼女の一番槍として動きは見事なものであったのだ。
「ぬかるんだ地べたでのたうつゾンビどもなぞ、死霊の盆踊りも同然じゃッつーの! オラオラまだまだァ! こっち見てるか指揮官ー! ギャハハハハハハハハ!!」
「チィ! クソがよォ、テメエ! おい屍人共ォ! 良いようにやられてンじゃねえ、猟兵にも侍にもだァ! もっと密度高くして――ッ」
 いよいよ『修羅』も目の前で行われている猟兵有利の戦況に嫌気がさしてか、大きく声を張り上げると屍人たちに指示を出そうとしている様子。
 だが、その時である。
「――悪いけど、アンタに指揮官として働かれるのは避けたいんだよね。だから、その号令はそこまでってことで」
「アァァ!? 新手……! 手裏剣とは痛ェだろうが、陽動と潜入とは生意気な真似すンじゃねェかよクソがァァ!」
 四方八方、棒に波。敵陣真っただ中での肉塊の合間をすり抜けて、寸分の狂いもなく複数の種類で構成された手裏剣の雨嵐がオブリビオンの胴を強襲する。それは月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)の投げた一矢。アマミの陽動のお陰で気付かれずに敵陣深くまで潜り込んだ、彼の放つ最初の手である。
 ハルマは泥のような地面であっても音もなく駆け、道中にある空き家等の遮蔽物を全て余すことなく利用し、敵の誰にも気付かれずに移動を完遂していたのだ。アマミたちが屍人と真正面からぶつかってくれたからこそ、そして彼自身の卓越された足さばきの妙が成し得た功績だ。
「『こちらはアンタを発見したが、アンタはこちらに気付いていない』……。俺にとっては、願ったり叶ったりの状況だったよ。さて、やろうか」
「上等だよボケ! コソコソ隠れやがる奴が、真正面から俺と殴り合って勝てると思うンじゃねェぞ!」
 そして、戦場にまた新たな華が咲く。いや、この輝きは華というよりも星か。頑強な肉体を誇る『修羅』の右腕が、ハルマが牽制のために放った新たな手裏剣群を全て薙ぎで弾いて咲いた火花の群れだ。
 だが、それくらいは彼も想定のうち。むしろ右腕を使ってくれたのならばと、振るわれた右腕の隙を突く形で回り込んで走り、その腕に握った旋棍で敵の開いた右脇腹へ痛打を入れていく。だが、欲張りはしない。
「大振りだね、間合いは一間くらい?」
「その間合いがうぜェんだ、すぐに黙らせてやるよォォォオラァァァァ!」
 ハルマは敵の反撃が来る前に『修羅』の腹を強かに蹴りつけて打撃を更に重ねるとともに死角へ飛び上がり、敵から距離を取るや否やもう一度手裏剣で隙を作り出していく構えを見せる。
 『修羅』の周りに屍人がいるのも、ハルマにとっては好都合だ。動きの鈍い彼らなど、【瞬身】を使用して身体能力を向上させた彼にとってはもはや眼中にはなく。屍人を利用して『修羅』の視線を切り、早業による手裏剣の投擲を全方位から行い、敵の背後から接近。
 背後を取られた関係で一瞬反応が遅れた『修羅』の振り向きざまの殴打は的確に間合いを見切ることで間合いギリギリで躱し、そしてまた旋棍で敵の伸びきった腕などへダメージを加えていくハルマの動きは、まさに盛んな星の如くに戦場で煌めいていた。
「アアアアァァァァァァイラつくぜテメェの戦い方! ちょこまかとよォ!」
「クレームは受け付けてないんだよね。それが俺のやり方なもんで」
「そンならこっちもこっちのやり方ってモンを見せてやらァァァァァァァ!! テメェら猟兵は【殴り殺す】ッ!!」
 ハルマの動きに翻弄され、焦れた『修羅』がやや遠間から何らかの攻撃の構えを取った。手を振り上げ、まるでハルマの前の空気を思い切り殴るかのような、そんな構え。
 ――敵の、ユーベルコードの前兆だ!
「まず……くもないな。頼れる盾が来てくれたみたいだ。肩借りるよ」
「おいおいオブリビオンくーん! ここで大技っつーのはちっと読みが甘いンじゃねーかのー!! 盾キャラ的にはそういうの見過ごせないんじゃよなー! やれ、忍びィ!」
「テメェ、いつの間に……ッ!?」 
 だが、敵のユーベルコードがハルマに向けて発動されるその瞬間、空を飛んで何者かが現れる。――アマミだ!
 彼女は手に持つ和傘を閉じて敵の拳の軌道上に置き、真正面から敵の殴打をハルマの代わりに受け止めてみせる。こうなれば風圧もクソもない、ただの押し引きの一幕である。だが、彼女がいくら盾キャラとは言え敵が放つのはユーベルコード。防げるのは一瞬だった。
 ――だが、その一瞬で事足りた。『瞬身』が『箱馬』の肩を借りて『修羅』へ飛ぶには、その一瞬だけで十分だったのだ。
「ンだとォ!?」
「あらかじめ警戒しておいて良かったよ。できるだけ大きく回避して……と思っていたけど、そのおかげで反応ができた。……シッ!」
 残像を残す速度で空を飛び、自身の持つ全ての勢いを利き腕の中で回転させた旋棍に乗せ、ハルマは無防備な敵の頭蓋へ思い切り一撃をかまして見せる。
 いくら『修羅』が頑強とはいえ、この確かなダメージには一瞬意識をぐらつかせる他ない。二人は敵に打撃を与えたことを確認すると、躊躇なく敵から距離を取り始めた。
「オイオイ幸先良いンじゃねー?! 最初の一撃をブチかまし、指揮官の動きを鈍らせ、ひいては侵攻を街道で食い止め切る! 結果として被害を最小限に留められるこの功績はよー、エンパイア史上空前の手柄として、侍たちに末代まで語り継がれてしまうかもしれんにゃー! ナーイス一撃!」
「いやいや、そっちこそナイス防御。後は皆に任せて一度下がろうか、屍人に囲まれて退却できなくなるのも癪だしさ」
 これはハルマの事前の敵の攻撃に対する心構えと、そしてアマミの盾キャラとしての在り方の二つが生んだ活躍である。彼ら二人は、一番槍としてこの上ない成果を文字通り『叩き出して』みせたのだ。実にお見事な御手腕である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ネグル・ギュネス
【銀輪部隊】●
さあ、そこらは解らないが
少なくとも、人を化け物に変えるよか、万倍マシだと思うがね!

───来い、ファントム!
水衛さん、後ろに!鎧坂さん、開戦の号砲を!

UC【幻影疾走・速型】
いざや行かん、向かうは敵の首だ!

我が【騎乗】を持ち、障害物を避け、或いはスピンしながら放つ【衝撃波】で、雑魚を轢き散らす

真っ向から敵指揮官に走り抜け、加速と共に、バイクから我が身体を射出!
バイクはA.I自動運転に切り替え任せながら、弾丸のように指揮官へ突貫!

雷の如く閃く速度から、武器に手をかける
【破魔】を宿した黒刀を引き抜き、射出の勢いのままに、指揮官の首を断ち切る!

随分ぶっ飛んだ戦術だろうが、勝てば官軍だろう?


リル・ルリ
■櫻宵/f02768


わらわらいるね
ここは君の故郷で、僕の大好きな世界
守らなきゃ
でも、櫻が居なきゃ意味が無い

やる気満々の櫻宵に溜息零す
そんな君を守り支えるのが僕の役目だ
はぁ?あんなのを愛するなんて許さないからな!
……玄関にあれはちょっと

歌唱の鼓舞をのせて歌うよ
嬉嬉と駆ける君の背を推せるように『凱旋の歌』を
血色の櫻の後を追い、攻撃はオーラ防御の水泡でいなし防ぐ
櫻宵ごと守るんだ

櫻が傷つくのは哀しくて身を裂かれるように辛い
その怒りを封じよう
その飛翔を封じよう
その蹴りを殴りを風を封じよう
歌唱に誘惑のせて、無理矢理にでも聴かせてやるよ
この命をかけて歌う『星縛の歌』

僕の櫻はけして
手折らせさせない
壊させない


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762


破壊破壊と騒がしい
エンパイアはあたしの大事な故郷なの
あなたなどには壊させない
壊れるのはあなたの方

綺麗な黒い首!
玄関飾りに丁度いい
リルの歌は心地よく
あたしに力をくれる

邪魔なのよ
退いて頂戴
刀に宿す破魔
地形は空中戦で飛んで
広範囲になぎ払い屍人を跳ね除け『鶱華』で街道を真っ直ぐ駆けて修羅の元
修羅には修羅を
ねぇ殺し(愛し)あいましょう!
壊と快も同じ事
斬撃に宿す呪詛は生命力吸収、怪力込めて全て砕き壊すが如く振りかざし
グラップルの動作も織り交ぜて
傷を抉り壊す様斬りこんで五月蝿いわと喉を裂く
見切りで躱して咄嗟の一撃

星瞬く歌が聴こえた?
黙ってお聴き
リルに手出しはさせないわ

さぁ、首を頂戴な


鎧坂・灯理
【銀輪部隊】
まあ道交法自体ありませんしね、この世界
ミスタ・ギュネスの言う通りかと

では、音頭を取らせて頂きます
UC発動――吠え猛れ、我が愛機

わずかとはいえ浮いているから泥に車輪を取られる事もない
慣性を無視しているから無茶苦茶な制動も出来る
屍人の海を音も置き去りにして突っ切ってやるさ
ぶつかって死なない奴は引き摺って殺す
数が多ければ鎖自体切ればいい

修羅には全力で突っ込む、と見せかけて急旋回
攻撃を空振りさせ、別方向から突っ込む
後は周囲の屍人を轢殺しつつ、隙を見て囮でもしよう

今回は上品な皮肉に定評のある京都人と、
力技の一号が居るからな
私は周囲の掃除に専念しよう

決して、邪魔は、させない


白波・柾
ボス狙いの猟兵たちの露払いに専念する
「目立たない」を使用しつつ、息を殺し路の脇や茂みなどに潜み
ボス狙いの猟兵たちや舞台を陰から援護
水晶屍人が邪魔をするならば「なぎ払い」「吹き飛ばし」で妨害
他の目的を同じくする猟兵がいればできれば協調して戦っていきたい

それでも突貫隊を集団で襲う者共がいれば
その時は敵を「おびき寄せ」て俺自身が囮になり
味方の巻き添えの心配がないところへ誘導したなら
「先制攻撃」「鎧無視攻撃」「鎧砕き」をもって【千刃の鋩】でまとめて攻撃しよう


自分がダメージを受けるならば
「オーラ防御」と「激痛耐性」で耐え抜きたい


メルノ・ネッケル

……ええで、止めたるわ。故郷やられて黙っとれる性質やなくてな。
うちの大切な世界を、壊させはせえへん!!

固すぎるくらいの守りやけど、頭を叩けば後はどうにかなるはず。
ならばやる事は一つだけ。突っ込み、蹴散らし、叩く!

さぁ始めるで!【騎乗】するのは機械仕掛けの炎の軍馬、「キツネビサイクル」!
遠慮は無しや。元より被害は覚悟の上!
フルスロットルで真っ直ぐ突っ込みながら、片手で「R&B」を乱射!
修羅までの道を無理やりこじ開ける……!

……修羅ぁ!!いざ、勝負っ!!

放つのは後の先、つまりカウンター!
奴の必殺の足技を【見切り】、バイクを蹴って跳躍回避!
屍人ごと雨に降られて貰うで……受けろ、『狐の嫁入り』!!


御鏡・十兵衛
別段、戦狂いな性質ではないでござるが…少し、昂っているやもしれぬな。

さて、敵将を狙うは良いが……屍人は、些か面倒にござるな。雑兵と言えど、こうも数が多くては日が暮れてしまう。

ほほう?地面がぬかるんでいる、と。
うむ。良い事を聞いた。然らばまずは水源を探す。
山間部ならば近くに一つくらいはあろう?そこから触媒の水をたっぷり拝借し、どでかい水の大蛇を呼ぶ。
そうして、街道を見下ろせる斜面より大蛇と突っ込み…接敵直前に水に『戻す』

するとあら不思議、ぬかるみで踏ん張れず、津波に足を取られて流されて、屍人は土左衛門に。敵将へは近づき放題斬り放題にござる。
ま、大将首をなどと欲は言わぬよ。一傷、頂いてくでござる。


セゲル・スヴェアボルグ
まぁ、俺は飛べば済む話なんだがな。
だが、それでは他の奴等が進めんか。
ならば、飛行で先に前方に出て、
狂飆の王を叩きこんで一掃するとしよう。
向こうがパワー勝負で来るのならば、
こちらも相応の一発を叩きこんでやらんとな。
互いの攻撃がぶつかった瞬間、
半径約140m以内の水晶屍兵は一網打尽だ。
生き残るやつも言うだろうが、
多少なら他の奴でも簡単に処理できる。
少々周囲が消し飛ぶかもしれんが……
人がおらんのなら問題はなかろう。

その後は殴り続けるのもいいが、
とりあえずは壁役をこなしながらだな。
もろに喰らえば流石に傭兵と言えども無事では済まん。

俺自身はまぁ……気合と根性で何とかなるだろ。
盾もいくらでも出せるしな。


アメリア・イアハッター

集団に突っ込み目立つ事で囮になり指揮官を炙り出そう

宇宙バイクに乗りUCを発動
地獄に付き合ってくれる人がいるなら喜んで乗せるよ

バイクで空を飛び集団へ最高速で突撃
前輪を上げ、飛ぶ高さは後輪が屍人の頭にあたる位置
ぬかるんだ足元じゃ跳躍も容易にはできず、この速度なら掴まる事もそう無いでしょう
勿論油断はせず、ある程度轢けば空へ逃走

知性に乏しい屍人なら、空に届かぬとわかってもこちらに惹きつけられる筈
その間味方は動きやすくなるかな

指揮官が釣れれば高速飛行してくると予想し常に警戒
飛翔物を視認又は感じた瞬間にバイクの小回りを活かし逃走
空き家に突っ込む等して派手に逃走すれば、聞きつけた味方が来てくれるでしょう!


水衛・巽
【銀輪舞台】●

…エンパイアでは道路交通法は無効ですよね?
(視界確保のためノーヘル

ギュネスさんの後ろに乗せてもらった上で
雑魚掃討、のち指揮官を強襲
激しい挙動に振り落とされぬよう
霊符で脚を車体へ拘束しておきますか

周囲の雑魚は破魔、鎧無視、暗殺、鎧砕きを乗せ
個別に朱雀凶焔で焼き払う
鎧坂さんと協力し最短距離をこじ開けます
後方は追いかけて来る屍人のみ頭部を狙って吹き飛ばす

修羅と接触したさいは最大火力で側頭や腹部を狙い撃ち
あまり頭は良くなさそうなのでこれで苛立ってくれれば
…挑発もオマケするべきですか?
しかしここで骸の海へ還るものに、わざわざぶぶ漬け出しても…ねえ?


虻須・志郎

屍人の群れにぐだった地形
高低差はそこそこか……
網を張るにゃ勘所を見切ればいい具合か

内臓無限紡績兵装、最大展開
始末は任せて俺の仕事に徹するぜ

敵軍を誘導する様に木々の間に毒と電撃を流す網を張る
掛かれば感電、避ければ群れが固まりになって
ズブズブの足場に捕われる様に配置だ
敵軍の動きが止まれば勝手に沈むか
仲間の攻撃で纏めて倒せる筈

そうすりゃボスもよく見えるだろう
地形ごとぶっ壊す攻撃なら
地形に網を張って即席の足場を作ってやる

という罠だ。ボスを誘導して奈落に落とす
こっちはロープワークで地形を利用して三次元機動が取れる
咄嗟に捨て身でブン殴って一撃離脱を狙うぜ

耐える覚悟は十分、連携して確実に仕留めてやらあ


ジャガーノート・ジャック


(ザザッ)
セット・オン・ポジション。
標的を捕捉、相対距離凡そ"40km"。
射程に問題なし。
此より標的の狙撃ミッションを開始する。

(ザザッ)
視覚機能強化、対象をロックオン。
(視力+追跡+情報収集)
対象の動きを観察。
標的情報の修正・補正開始。
(戦闘知識+学習力)

修正完了。

UC起動:"Thunderbolt"。
サイズ規定を3×3㎝に設定、43㎥の残りを射程に。
最大射程凡そ47.8km、3×3㎝の厚さの光線。
ナノ秒で完成する特性を利用しひしめく水晶屍人らの頭上を越え、遥か先にいる対象を直接狙撃する。

既知の者がいれば援護射撃として放つのも考慮する。

発動まで、3.2.1――Fire.
(ザザッ)


向坂・要
いやはやこりゃまた大人数でのお越しときたもんだ
ま、温度差が凄そうですがね

なんて屍人と修羅を第六感や展開させた精霊の力を借り常に俯瞰で把握
嘯きつつも油断せず

展開させるは陽炎と猛毒を宿した不可視の鴆を模した精霊達

毒により相手の動きを鈍らせつつ姿を隠し
念動力や暗殺技術を生かしつつ大将首を狙わせてもらいますぜ
首置いてけ
ってね

眼に映る全てに怒りをぶつけなきゃ気が様ねぇんでしょうが眼に映らねぇ相手にはどうしますかぃ?

早けりゃいいってもんでもありませんぜ
精霊や仲間と連携して撹乱
見切りを生かしてカウンターも狙わせて貰いますぜ

この世界にも関所ってもんがごさいましょ?
通行手形のねぇお人らはお帰り願いますぜ


パウル・ブラフマン
●【SPD】

ども~!エイリアンツアーズでっす☆
敵軍結構な数いるなぁ…でも
オレら猟兵は噛まれても問題はないんだよね?
だったらアレっしょ♪
UC発動、行くよGlanz…【迷彩】モード!

視認され辛くした愛機Glanzを【運転】して
猟兵の皆を
修羅を射程範囲に納められる位置まで
ガンガン☆ピストン輸送しちゃうぞ♪
運転手の腕の見せ所ってヤツ?
【地形の利用】を念頭に
壁面走行や【ジャンプ】等テクニカルな技を駆使したいな。

走行の邪魔になる屍人はGlanzで【吹き飛ばし】つつ
必要に応じてKrakeで狙撃して振り落としていくね。

修羅と対峙した際
遮蔽物がなければGlanzに盾になって貰って仲間を【かばう】よ。

※同乗歓迎!


ヨシュカ・グナイゼナウ
天気晴朗なれど
中々に良い風が吹く。前日の雨で大気中の埃も落ちて丁度良い。べちゃり、と泥濘みを踏み荒す音達は不愉快だけど

偶然風上に転送されたのは運が良かった。ならばそれを存分に利用させて貰おう。これも【地形の利用】になるのかな
両の手袋を外し、掌から金色を垂らす。ごう、と音を立てて風が通り抜けた。ああ、良い風だ。これならきっと【惑雨】も遠くまで届く

彼らが夢を見ている間にあなたの下へ。この【惑雨】はあなたにも届いたんじゃないかな。隙は少しだけ良い
この鋭春が一振りはその軽さ故に人智を超えた【早業】を可能にする。隙を【見切り】狙うは一点【串刺し】です


ロク・ザイオン

…ここは。森と。人の為の場所だ。
病葉は。病は。
土に。森の糧に、還れ。

…病む前にたすけてやれなくて。
ごめん。

(森番は、森の地形を得意とする。
【地形利用】し、最短、最速で進む。
後続の為に、藪や梢等邪魔なものは幾らか拂おう。
「惨喝」を放ち更に太刀筋を鋭くする。
この声で屍人の動きが鈍るなら【ダッシュ、ジャンプ】で駆け抜け、
向かってくるものがあれば「燹咬」で灼き断つ)

…お前が、ひとを食う“病”か。

(修羅に「惨喝」で喧嘩を売るのは、単純に許し難いからだ。
蹴りは【野生の勘】で察知。合わせて「燹咬」で突っ込む。刃が触れさえすれば、灼き断てる。
人を食う、森を食うお前に対しての“熱”は、充分なのだから)


真守・有栖


この破狼たる私にお任せあれっ
一切合切、ずばっと成敗よ!

太刀振る舞うは光刃『月喰』
迸る斬光にて、周囲の骸を一刀にて弔う

……んんん!?

ちょーっと数が多いのでは!?
って、わぅう!?私をがぶがぶしても美味しくないわ…っ…し、尻尾はぁぁあああああ!!?

ぜぇ…っ…ふぅ……よーやく、斬り抜けたわね!?

ふぅん?めらめらでぎらぎらじゃないのっ
いいわ。受けて、断つ。真守・有栖、参る……!

蹴撃
避けず、防がず。直撃
その威に大地ごと壊されて、破られて

山をも穿つ一撃をまともに“喰らって”

死地に窮地に己を晒し滾らせ

狼は嗤う

刃に込めるは“断”の烈意

月をも穿つ一刀にて、一切を喰らい尽くす

――光刃、烈閃

迸る極光にて、修羅を断つ


リア・ファル
SPD
アドリブ・共闘歓迎

梶本もボクの大切な取引先さ
彼らの明日の為に、修羅を打倒する!

『多次元ポケットくん』に「迷彩」を施し、複数体を先行させ、
探査波を射出。
『ディープアイズ』で動体センサ、反響波、カメラアイで
修羅の位置を「失せ物探し」「情報収集」

無事特定できたら近くの猟兵の所にお邪魔しよう
UC【神出鬼没の緊急配送】使用、ついでにお助けアイテムもどうぞ!

近づいたら『イルダーナ』の出番!
「空中浮遊」「空中戦」で水晶屍人は、
ほぼ無視しつつ、一気に接敵!

そのまま上空から「援護射撃」!
ボク特製の「マヒ攻撃」付き「呪殺弾」だ!

「全弾持ってけぇーっ!」


ギルバート・グレイウルフ
さぁて、戦争だ戦争。ここでがっぽり稼がないでいつ稼ぐんだよ?ってな。
敵さんは水晶生やした死人に、暴力の化身ってところか。
……あの水晶持って帰ったら売れねぇかな?いやいや、もちろん余裕があったらだよ余裕がな。

数は力ってな。まともにやりあってちゃ敵わんわ。
屍人の脚を何匹がぶった切って転がしておくとしますか。障害物として多少の足止めにはなるだろうよ。足元の環境は元々悪いみてぇだしな。

さって、敵の大将は。
そんなに殺気立たれると嫌でも【忍び寄る死の気配】が反応しちまうな。
別段真っ向勝負が好きなわけじゃないんでね。刀にナイフに拳銃に、なんでも使わせてもらうぜ?
敵の嫌がることを率先してやる。それが仕事だ。


ヴォルフガング・ディーツェ
【SPD】
どこを見ても屍ばかり…晴明とやらは悪趣味の塊だね
大人ばかりであれば左程思うところはないが…子どもが屍人に交じるのであれば、少々荒ぶってしまいそうだ

自前のサイバーアイで敵軍の挙動観察
利用出来そうな地形は余さず把握し、修羅の攻撃動作や弱点も分析

最初は屍人の数減らしから

分析情報も元に囲まれない様対処し【全力魔法】【範囲攻撃】でルーン魔術を展開
「火」を意味するカノ、「太陽」を意味するソウェイルを組み合わせ、地に落ちた天道が燃え盛るが如き劫火で一気に焼き払おう

適度に数が減り、他猟兵が接近出来たら【調律・流転せし黒犬】で黒犬…テオと共に接近
弱点属性を込めた魔銃の銃撃、テオの爪牙で殺しに行こう


ヌル・リリファ
●、連携も歓迎
簡単な言葉は平仮名、難しめのものは漢字です

UC起動
幻影をめだつように真正面からいかせて、敵をまきこんで自爆させる。
それによる混乱にのっていく。
もしすでに混乱してたら魔力を温存する

たどりつけたらルーンソードできりかかる。地面がひどければシールドを展開、即席の足場とするよ。
相手が攻撃しようとしたらUC起動。
幻影といれかわってわたしは一旦離脱。
幻影は攻撃された瞬間自爆させて閃光でめをくらませつつダメージをねらう

そのすきに本体のわたしはルーンソードに【属性攻撃】をのせて、【怪力】をいかした本命の一撃をいれるよ

貴方がどれだけつよくてもわたしのやることはかわらない。貴方を殺す。それだけだよ


矢来・夕立
【無音】端役さん/f01172・傭兵さん/f01612

【紙技・化鎮】。隠形術。
《忍び足》で音も殺して先行します。
目指すは修羅。大将首ひとつ。
他の猟兵の攻撃も隠れ蓑に使いながら、必要なら《敵を盾にして》進行。一直線です。
ぬかるんだ場所は敵の死体を足場にして通る。
盾にも使えなくなったやつとかですね。

修羅を撃てる距離まで詰められたら、あとの仕事は端役さんと傭兵さんがしてくれるでしょう。

――今作戦におけるオレの役割はシンプルでしてね。
座標マーカー。
あとは不意を突いて《だまし討ち》でヒビでも入れます。

この状況は…宛ら鉱脈といったトコでしょうか。
ココに黒曜の鬼が埋まってます。一山当てていきましょう。


ヴィクティム・ウィンターミュート
●【音無】

このプランの要は夕立、お前だ
見せてくれ…お前の鮮やかな業ってやつをな
なーに、ナビゲートで補助くらいはしてやる
超小型通信機を持っていきな

ハッハー、あれが本物の隠形か
惚れ惚れするぜ…っと、到着したな
そんじゃ、匡
"飛ぶ"ぞ──座標指定、矢来・夕立!
ジャンプ完了、強化パルス実行
電撃作戦だ!ラン!ラン!ラン!

【ハッキング】でサイバネをオーバーロード、【ドーピング】でさらに強化を盛る!
【ダッシュ】【フェイント】【早業】【ジャンプ】で変幻自在の高速機動
奴が拳を溜めたら【見切り】【第六感】で紙一重の逸らし
【カウンター】で【マヒ攻撃】乗せたナイフで【目潰し】

さぁ、チューマ───
Geek(ぶっ殺せ)


鳴宮・匡

【音無】

周りは派手にやってるな
……ま、その分仕事はしやすいけどさ

ヴィクティムのUCで、敵の懐へ入り込んだ夕立の元に転移

……ああ、いい距離だ
オーケー、完璧な仕事を見せてくれたんだ
こっちも相応に報いるさ

風圧は腕の振りを【見切り】回避
そんな大振りに当たってやれるほど温くないんでね

観察と【戦闘知識】で相手の動きはある程度予測できる
【千篇万禍】、狙撃するのは頭だな
どんな生物でも頭を潰せば終わりだし
どれだけ硬い外殻があろうが、同じ箇所に攻撃を重ねればいつか通る
十、二十、それで足りなければ足りるまで全て撃ち込むさ
この距離だ、一発たりと外さない

――ああ、釣りは要らないぜ
そのまま還ってくれりゃ文句はないからさ


浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(f01757)と

んー。あ。これでどー?
絡繰ル指で複製した鳥籠で足場を形成
浮遊させ操りそれ自体も移動させてく

わりーがこいつらの対処、よろしくネ

範囲攻撃の扇で彼女の補助もできるようにするケド
基本は移動と周囲の観察に集中

よっと飛び降りる
引き付けてくれてる間に
鍵刀を手に敵に向かい早業で傷口を抉る
敵の殺意が此方に向いたなら
そのまま衣を派手に揺らめかせ誘惑
そーそー。お前の相手はこっち

微かでも攻撃を受ければにやり
自分の血液を操る鳥籠に散らせば

いろいろあんのよ、これの使い方

変形した鳥籠は鉄屑と花弁の刃となり
視界を奪いつつ敵を襲う

…で。こっちばっかに集中してっと
――氷漬けになっちまうぜ?


ヘンリエッタ・モリアーティ
【破竜】●
さて――破壊を謳うっていうなら
私を相手してもらおうじゃない
――絶滅の時間よ、愚図が。
爆弾どころじゃすまさないわ、安心してくださいね穂結さん
援護をお願いします、兄さん

焔でぬかるんだ地面は固めてもらいます。
屍人どもは進みながら私もフォン・ヘルダーでたたき伏せてやりましょう
兄さんの呪詛が修羅をつかんだならば――【黄昏】を起動

力比べと行きましょう
「ひとごろしき」竜に敵うと思って?
ただ殴るだけじゃ駄々っ子でもできるから――そうね
殴る蹴るでパターンが安定してきたら双銃『S.E.Ve.N 277』で零距離の一撃
ふらついたりしたら――とどめのアッパーをぶちこむ

喧しいだけの阿呆は嫌いよ
出直しておいで


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【破竜】●
ふはは、水晶屍人に修羅な
相手取るには充分って感じじゃあないか
穂結の援護があって、ヘンリエッタの力がある
私がしくじる訳には行かんよな!

足場とは穂結に任せて、ヘンリエッタと共に修羅の元へ
穂結の炎を逃れる屍人がいるなら、海竜を斧槍に変えて『なぎ払い』だ
修羅の元に辿り着いたら、ありったけの『呪詛』を載せ、【灰燼色の呪い】を叩き込む
一瞬でも動きが止まれば充分だ
ヘンリエッタの攻撃が通る隙を作れれば良い
冥途の土産に――「壊す」ってのがどういうことか、その心にしかと刻んでやろう

ふはは、心も体も壊されて、気分は如何だ、修羅とやら
悪いがこちらも修羅を飼っていてな
そんな生半可な破壊じゃあ、満足出来ないなァ


穂結・神楽耶
【破竜】●
ヘンリエッタ様/f07026、ニルズヘッグ様/f01811

本日の役割は宅配便。
ただし運ぶ『者』は爆弾も驚きの一大戦力です。
モリアーティのご兄妹を消耗させることなく、指揮官まで導くのがわたくしの仕事。
どうぞ憂いなくお進みくださいまし。

【朱殷再燃】を起動。
ぬかるんだ地面を乾かして固め、足場を安定。
行く手をふさぐ屍人は炎で《なぎ払い》片を付けます。
指揮官──修羅、でしたか。
そこまでお二人を届けたならあとは任せます。
お邪魔でなければ《かばう》くらいの支援は致しますが……
この分だと必要なさそうですかね?
本当に、敵に回したくないご兄妹だこと。


ヴァーリャ・スネシュコヴァ

綾華(f01194)と

確かに数が多過ぎるのだ…
綾華?どうしたのだ?
…! うむ、それならきっといけるな!

予め《フヴォースト・スネグラチカ》を《メチェーリ》にギュッと結びつけ
綾華のUCで浮かぶ鉄籠たちを足場に
ボスの元まで素早くジャンプして駆けていく

迫る周囲の屍人たちは
尻尾を結びつけ、冷気を纏わせたメチェーリを遠心力でぶん回しなぎ払い
綾華が籠の操作に集中できるようにする

敵の元まで近づけたなら
ほらほら、こっちだぞ!と叫び気を逸らさせ
ぬかるんだ地面を凍らせ、素早く滑りつつ敵の攻撃を誘う
攻撃を避けるタイミングは【第六感】で察知

綾華の攻撃が当たった瞬間
俺も敵の懐へ潜り込み、『亡き花嫁の嘆き』を叩き込む!


マルコ・トリガー

フーン、街道の屍人の群勢
指揮官さえ倒せばいいんだね
ま、やってみようか

まずは背の高い樹木から【目立たない】ように様子を伺おう
指揮官の居場所の目星をつけたいね

大量の屍人相手にぬかるんだ足元は戦いにくいな
ま、正面から突撃するのは柄じゃ無いから空から攻撃してみようか
道を挟んだ樹木から樹木に向かって【竜飛鳳舞】で何度も跳ぼう
ジグザグに跳んだりして敵の攻撃をかわせるといいな

跳びながら【フェイント】をかけた【2回攻撃】に【誘導弾】を織り交ぜて緩急をつけた射撃をしてみよう
他の猟兵がいるなら【援護射撃】にもなるかな
ボクが敵の注意を引きつけて【おびき寄せ】ることで他の猟兵の攻撃のチャンスに繋がればいいね



●天気晴朗なれど、降り注ぐ力は雨のごとくに
「私は右からいくけど、めるねぇは?」
「決まってる、うちは真正面からや! 固すぎるくらいの守りやけど、頭を叩けば後はどうにかなるはず。ならばやる事は一つだけや。突っ込み、蹴散らし、叩く!」
「ふふ、そういうと思った。わかった、それじゃ私はあの辺りの集団に突っ込んで目立つね。指揮官を炙り出すから、その後はお願いしてもいい?」
「おやおや、それは良きことを聞いたでござる。それがしもそこに一枚噛ませてはもらえぬか? ほれ、この通り……刀はあれど足が無く、少々難儀していたところ。連れて行っていただきたい場所がある故、お願いしても?」
「もちろん。地獄に付き合ってくれる人がいるなら喜んで乗せるよ。どうせ、後で合流するんだしね。それじゃ、――始めようか」
 三人の猟兵が息を合わせる算段を整えて、二つのバイクが嘶いて、一つの目的が定まった。エンジン音がどこまでも轟くのは、まるで不快な泥音をかき消さんとしているかのようで。
 メルノ・ネッケル(火器狐・f09332)が駆るのは、呪法改造宇宙二輪キツネビサイクル。アメリア・イアハッター(想空流・f01896)が御鏡・十兵衛(流れ者・f18659)をバックシートに乗せて走らせるのは、空を駆けることを夢見るバイク、エアハート。
 橙と赤のファイアパターンに、黒い流線型の異なるバイクが、二つの軌跡を描いて戦場に尾をたなびかせた。炎とツバメが、一振りの刀と共にここを駆けているのだ。
「敵将を狙うは良いが……。屍人は、些か面倒にござるな。雑兵と言えど、こうも数が多くては日が暮れてしまう。……そこで、それがしに考えがあるでござる。アメリア殿、運んでくれて助かり申した」
「いえいえ、お気になさらず。それじゃ、こっちが仕掛ける時はその作戦に乗ろうかな。タイミングはお任せするね。そうだな……。――『雨が降ったら』で」
「天気晴朗なれど、これからこの場に雨が降ると?」
「うん、降るよ。分かるんだ。なんたって、私は空が好きだからね」
「……ふ、心得た。では、その時に。水を引き連れて参ろうぞ」
 突入前にアメリアが十兵衛の願いで訪れていたのは、奥羽の街道よりほど近い場所にある、山間部の水源であった。アメリアのユーベルコード【Sky Up My Heart】は、エアハートごと風の魔力を纏うことで空を駆けることすら可能にする力。
 超高速で空から探していたこともあり、水源自体は実にスムーズに発見できた。十兵衛はそこで一度アメリアと別れ、そして祭りのための仕掛けを行ってから合流するらしい。
「さて、めるねぇ一人で頑張らせるわけにもいかないし、早く戻って……おや?」
 奥は街道を挟んで両側に山が多く、湿気はそれぞれ左右の山の頂で雨となって消え去り、そのおかげかここは中々に良い風が吹いていた。山の上側から吹く風である。
 前日の雨で大気中の埃も落ちて丁度良い。べちゃり、と泥濘みを踏み荒す音達は不愉快だけど――。
「偶然風上に転送されたのは運が良かった。ならばそれを存分に利用させて貰おう……あれ。これはこれは同業者様。こんな場所で奇遇ですね」
「あら、本当に。奇遇だね? ……ね、ね。きみ。これから、雨降らそうとしてるでしょう? 分かるよ。そこでどうかな……。『風に乗ってみない?』もちろん、もしよければ、だけど」
 アメリアがそこで偶然会ったのは、ヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)である。全くの偶然ではあるが、ヨシュカは十兵衛が探していた水源のそば、山からの風が街道へ向かう、そんな場所に転送されていたのだ。
 それならばと地形を利用した作戦を思いついていた様子のヨシュカではあるが、彼はごう、と音を立てながら風と共に現れたアメリアを見て何を思ったのだろうか。それはわからない。だが……猟兵同士であるのならば、協力し合うのも不自然な話ではない。それは確かなことであった。
「――ああ、良い風だ。これならきっと【惑雨】も遠くまで届く。……ご一緒させていただきます。風を使いたいなと、わたしも思っていたところでしたので」
「OK、それなら後ろに乗って。皆で、アイツに一撃食らわせてやろう」
 一つ星を空駆けるツバメの後ろに乗せて、二人の猟兵は戦場へと戻るために空を走る。それはまるで、天空を滑る流れ星。ほどなく見えてくるのは、敵陣の中に引かれる橙のライン。
 メルノが、敵陣の中でひた走っているその証拠である。彼女はキツネビサイクルをフルスロットルで走らせて、敵陣まっただ中にいる『修羅』へと真っ直ぐ突っ込みながら、片手で手持ちの武装であるR&Bを乱射、乱射、乱射!
 左手でハンドリングを行い、右手で熱線銃による攻撃を行っては、屍人の群れをなぎ倒して。両の眼で進むべき道を選んだら、機械仕掛けの炎の軍馬で敵を踏み越えてどこまでも真っ直ぐに。メルノは少しずつ、だが確かな足取りで修羅までの道を無理やりこじ開けていく。
「ッッ、しゃらくせェ奴がいるじゃねェか! ほらどうしたァ?! それが全力かよ、もっと来やがれ猟兵共!! 俺を止められるモンなら止めてみろォ!」
「……ええで、止めたるわ。故郷やられて黙っとれる性質やなくてな。うちの大切な世界を、壊させはせえへん!! おまえは……!! うちが倒すッ!!」
「よく吠えたァ! だがよォ、無駄なあがきってモンだぜソイツは! テメェの大事な大事にな世界はこれからぶっ壊れる! そんでテメェはここで死ぬんだよ! 何も救えやしねえのさ、テメェは! なぜならテメェは――俺直々に【蹴り殺す】からなァッ!!」
「それならこっちも好都合! 遠慮は無しや、元より被害は覚悟の上! それに……! そこまで言われて、黙ってられるかぁっ!! ……修羅ぁ!! いざ、勝負っ!!」
 どれだけ屍人に邪魔されようとも、メルノは決して進軍をやめない。やめるわけにはいかないのだ。彼女には、ここで引けないわけがある。だから前に出る。前へ進む。
 いい加減うざったいと感じた『修羅』が相手でも、まだまだ無数にいる屍人の群れの中に一人でいても、それでも彼女は諦めない。だから行く。往くのだ、往かねばならぬのだ。そして、そんな風にどこまでも真っ直ぐに進む彼女の背中だからこそ――他の猟兵たちも、メルノの後を追えるのだろう。
「――――お待たせ、めるねぇ! ちょっと待って! 一人でやらせてごめんね! 頼れる助っ人も連れてきたから――皆でやろう! 一人で背負わなくて良いんだよ!」
「どうも、頼れる助っ人です。お任せください、私が隙を作ります。敵は、皆で倒しましょう」
「~~ッ、っとぉ! 待ったで、アメリアちゃん! それに助っ人くんも! でも間に合ったからセーフや、全部許した! OK、……! 頭冷やしたァ!」
 多勢に無勢、あまりにも不利な状況でオブリビオンとの戦闘を開始するところであったメルノをすんでの所で止めたのは、空を飛んで彼女に合流したアメリアとヨシュカである。
 メルノはこの世界を救うつもりだ。その可能性がどれだけ低くても、たとえ一人だけであっても、彼女はきっと最後まで挑戦を諦めない。だが、ここには仲間がいる。同じ目的を持った仲間がいるのだ。協力して事に当たれば、敵を撃退できる可能性だって高くなる。それが分かっているからこそ、メルノは二人の言葉で一時引くことを選べたのだ。
「アイツと戦う前に、まずはこの辺りの屍人を無力化しなくちゃだね! ヨシュカちゃん、首尾はどう!?」
「はい、打ち合わせ通りです。 ……これも、地形の利用になるのかな。風に乗せて雨を運ぼう……そう、思っていたけれど。まさか、『風に乗って雨を降らせる』ことになるなんて」
 エアハートに乗るアメリアの背後で、ヨシュカはすでに両の手袋を外し、掌から金色を垂らしていた。いつからか? 野暮な話である。『山間で風に乗った、その瞬間から』に決まっている。
 ユーベルコード、【惑雨】。ヨシュカの掌にある十字の亀裂から、黄金を溶かした様な揮発性の液体を放ち、幻覚により敵の行動を阻害するチカラ。惑雨の素となる液体は、常に彼の体内に満ち満ちている。ヨシュカたちはこの力を用いながら空を進み、時に地を駆けながら屍人の間隔へ篠突く雨を降らせてきている。
 すでに猟兵たちにとって、幻覚の中で止まない雨に惑い続ける屍人などは敵ではない。彼らは敵からただのギミックへ、ステージの障害物へと成り果てた。ヨシュカとアメリアの活躍による大手柄である。
「めるねぇ、今のうちに加速付けてきて! 十兵衛ちゃんもそろそろ来ると思うから!」
「OKや! さぁ始めるで! 騎乗するのは、『キツネビサイクル』! おまえを倒すのは、ここにいるうちと仲間たちや!」
「逃がすと思うなボケ! 群れることで俺に適うと思ってんならイラつく話だ……! まとめて死ねッ!」
 だが、味方と同じタイミングで攻めるため、一度引こうとしてドリフト走行を行うメルノを『修羅』が見逃すはずもない。彼は瞬時に片足を振り上げて、地面へ深々と『それ』を突き刺す。――あれはただの暴力ではない。それ以上の力、ユーベルコードだ。
 屍人を巻き添えにすることすらお構いなしに放たれる、見境なしの広範囲に渡る周辺地域の破壊。メルノを、引いてはほかの猟兵たちの足場を悪くさせて引くのを妨害する狙いもあるだろう。『修羅』を中心に組み立てられていたバトルフィールドが、同様に『修羅』を中心に瓦解していく。足元の地割れ、岩盤の隆起。その全てが猟兵たちへ無慈悲に襲い掛かってくるではないか。
「うわ、すごい攻撃……! でも残念、エアハートはそんなんじゃ捕まえられないんだから! ヨシュカくん、飛ばすよ!」
「遠慮はせず、ご自由にどうぞ。戦陣と地形攻撃の合間を縫って自由に吹くのはお得意であるようにお見受けいたしました。だって、――イアハッター様は、『良い風』ですから」
 戦場に走る亀裂と、そこらじゅうにいる障害物たちの隙間を通り、時に跳ねとばし、時に飛び、轢いては駆けていく二つの『線』があった。橙のラインと、それに合流して走る、黒を下地に金色のライン。交差しながら迷うことなく最高速で戦場を駆け、加速を止めず、まだ効果の表れていない屍人たちへも幻惑をかけていくそれ。
 アメリアはドリフト走行で大いに車体をはねさせ、ヨシュカの放つ雨を方範囲にまき散らしながら加速。そして次の瞬間にエアハートは空を飛び、位置エネルギーも足した速さで『効きの悪い』敵集団へ最高速で突撃していくではないか。
 前輪を上げ、飛ぶ高さは後輪が屍人の頭にあたる位置にしっかりと。ぬかるんだ足元では、屍人たちも跳躍も容易にはできず、この速度なら掴まる事もそう無いだろうと踏んでの見事なライン取りである。
「……そうか、お前かァ……。お前が面倒だな、ええ? あのキツネ女も、あのまま一人で来ればよォ、苦しまずぶっ殺してやったのによォ……。上等だ……それならまず、テメェから【怒り殺す】ッ!! 覚悟しやがれ帽子の女ァ!!」
「アメリアちゃん、そっちいったで!」
「OK! 大丈夫、油断はなしだよ! ――それに、他の皆も来てくれたみたい!」
 陸路で屍人たちを誘導し、機を窺いながら空へと逃走しつつ、三次元的な軌道で同時に幻惑の雨も散布していく。その動きは知性に乏しい屍人たちにとって、否が応でも惹きつけられるものであった。
 彼女が目立った分だけ、メルノが良い位置を取りやすくなる。だが、味方を活かす彼女の走行に『修羅』も気付いたか。全身を黒曜石の角と殺意で覆いながら、音速を超える速度で急接近してくる敵影。
 高速移動を予想し、常に警戒していたアメリアでさえ、完全に逃げ切るのは難しい。彼女は敵を視認した瞬間、バイクの小回りを活かして逃走。そのまま勢いよく空き家に突っ込み、派手に音を立てながら時間を稼ぐ。――だが、敵の姿はすぐそこまで迫っていた。敵の振るう拳が、蹴りが、目の前に――。
「終わりだ女ァ! 逃げるなんざ無駄なあがきなんだよォ!! 蹴って殴って……ブチバギに殺すッ!!」
「――いいや、無駄じゃなかったようだぞ。少なくとも、俺たちがここに間に合ったんでな。壁役は任せろ」
「――フーン、屍人の相手が面倒だと思ってたけど。要は指揮官……アンタさえ倒せばいいんだね。ま、やってみようか。援護はするから」
 その通り。彼らの言うとおりだ。猟兵の行動に、無駄なことなど何一つとしてありはしない。何かの行動は次の行動の足掛かりになり、それらは思わぬところで意外なほどに噛み合う。
 敵は一人。だが、こちらは一人ではない。全員がやれることをやればいい。龍と銃が、アメリアの立てた轟音を聞いてここに現れた。マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)と、セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)という名の、いずれ劣らぬ精鋭である。
「ッ、新手かァ! 構う訳ねェェェェェェだろうがゴラァァァァァァアアアアア!!」
「ああ、その通りだな。別に俺たちに構わずとも良いし、そっちの攻撃を止めずとも良いぞ。殴り続けるのもいいが、とりあえずは壁役をこなしながらと考えていたところなんで……なッ!」
「そういうこと。ボクらもアンタがなにしようと気にしないし、好きにするからさ。ほら、早くかかってきなよ」
 敵が今にも打撃を与えようとして振りかぶった右足の蹴りを、セゲルが構えた重盾【スィタデル】で真っ向から受け止める。
 えぐりこむように走る左手の殴打が生んだ風圧は、マルコのブラスターから放たれた熱線のビームが相殺していく。
「がァァァァァァァァァァァァ!!!!」
 だが、それで止まるような敵ではない。『修羅』が放つ強化された乱撃の全ては、もはやその一つ一つがユーベルコードに等しい威力を伴って猟兵を破壊せんとする。
 『修羅』はマルコが続けて放つ攻撃のための熱線の弾道を読み、わずかな身じろぎのみで全てかわしていく。そしてそのまま重盾に止められた右足を伸ばして盾に引掛け、下半身のばねの収縮のみでセゲルの盾へ組みついては、盾の上から殴打を行う構えをみせた。
「器用だね? でも、それなら援護射撃もしやすいってもんだよ」
「おう、助かる。ンじゃ、そろそろ離れてもらおうか?」
 瞬時に展開される至近距離での高速戦闘の中で、マルコが目を付けたのは『修羅』がセゲルへの組み付きのために使用した下半身である。攻撃を続けるための変幻自在な構えであっても、組み付いた以上そこが動くことはないからだ。
 一つ、いや二つ。高速連射によるブラスターでの下半身へ向けられた熱線を、『修羅』は攻撃の構えを止めてかき消すために腕を使う。二本の腕で風圧を起こし、今度は敵側が攻撃を無力化していくが、そうなればセゲルが動く時間ができる。彼は組み付いた敵ごと盾を地面にたたきつける構えを取り、そして実際にそうしてみせた。
「チィ……! やるじゃねェか……面倒だぜ、お前ら……。それなら、これでどうだァ!」
 瞬間、轟音。重盾が地面とぶつかった際に生まれるインパクトの音だ。しかし、『修羅』は済んでのところで組み付かせていた足の構えを解き、盾を蹴りながら跳躍して距離を離して打撃を回避していた。
 瞬く間に、いくつかの快音が響く。空気を『修羅』が殴る音。盾を構えるセゲルへと、拳による風圧を大量に生み出してみせた音だ。その数、数十。
「それくらい、俺が受けきれない数だと思ったか?」
「盾で受けてもらえばそれで良いんだよ馬鹿が! そうすりゃテメェの足が止まンだろ……! 狙いはテメェだ、ドチビ!」
「なるほど、ボクに狙いを変えたわけか」
 そして、敵が動く。音速を超える彼の踏み込みは、ワンアクションでマルコへ接近することを可能にしてしまう異常な力だ。そしてそのまま踏み込みの勢いの乗った拳が、マルコの顔面へと襲いかかろうとする。
 しかし、敵の目論見をそう簡単に通す二人ではない。マルコは動き続ける敵から接近ルートを推察し、そこに熱線を『置いていた』。置き射撃による迎撃の形である。また、セゲルも敵の狙いを把握するや否や、錨斧【イースヴィーグ】の強大な振り落としで風圧の全てを消し去っていく。悠長に全て盾で受けるより、そちらの方が早いとみての事だ。
「……、ッ! 死角から俺の道に射撃を置いておくたァよォ、生意気な坊主じゃねェか?」
「大きなお世話だね。良く言われるよ」
「俺の前で足を止めて良いのか? 戦闘中だろ」
 その時間は僅かとも言えぬ、ほんの些末な瞬間であった。マルコの置き射撃に気付いた『修羅』が、接近のためのルートを再計算しようと試みたほんの小さな躊躇。そこを見逃さず、二人の猟兵はさらに攻撃を重ねていくではないか。
 だが、それでも敵はそう簡単に打撃を受けたりなどはしない。セゲルが先の迎撃に続ける形で振り上げた錨斧へはタイミングを合わせながら後ろ斜め方面へと宙返りすることで躱し、過たず放たれたマルコの熱線は空中で腕を思い切り振り上げることで風圧を生み出し、その反動で無理やり体を動かして避けていく。
 両者譲らぬ、高速の攻防といったところである。埒が明かないとお互いが感じていた時に、いよいよそれはやってきた。状況を動かす『大波』である。
「――それがしは別段、戦狂いな性質ではないでござるが……。いや、実にお見事な打ち合いであった。当てられて……少し、昂っているやもしれぬな」
「……ほォ? なら、次はお前も一緒に遊ぶかい? 歓迎だぜ……壊しがいのある相手はよォ!」
 背後から一閃、『修羅』の死角から放たれた斬撃はどこまでも澄み渡っていて。透き通るような静けさのままに伸びた袈裟斬りを、敵が躱すではなく受けたくなったのも分かるというものだった。
 止水を操り、水鏡のごとくに煌めく剣閃にて現れたのは十兵衛である。彼女はすでに面倒な準備は全て済んだと見えて、楽しそうに剣を振るっていた。
「いいや、遊ぶのはそれがしではないでござる。それがしが望むは尋常なる立合いにて。『そうれ、少し遊んで貰って来るが良かろう』――」
「この音……ッ! まさかッ!」
 ユーベルコード、【大蛇崩し】。十兵衛の用いる技の中でも特殊な部類に入るその技は、流水の大蛇が地形を大量の水に沈めながら暴虐の限りを尽くす力である。
 十兵衛がアメリアに連れて行ってもらった水源にて行っていたことというのは、すなわちこれだ。山間にたっぷり溜まっていた触媒の水を全て拝借し、その全てを利用したどでかい水の大蛇を呼ぶこと。それが彼女の狙いである。
 そうして先ほど街道を見下ろせる斜面より大蛇と突っ込み、接敵直前に水に『戻した』。そういうからくりだ。ほら、ここまでくれば誰の耳にも明らかである。聞こえるだろう、津波の音が。全てを飲み込むうわばみの鳴き声が。空き家を飲み込み、屍人を飲み込み、全てを押し流そうとする水の音が。
「――いや、なに。雨の匂いがしたもので。であれば、水の氾濫も起きようというものでござろう? ま、大将首をなどと欲は言わぬよ。一傷、頂いてくでござる」
「馬鹿が、俺がこの程度で足元の制御を失うとで、も――」
 膝まで、いや腰までか。異常な水量が街道を覆いつくし、誰かれの区別なく戦場にいる全てが水で覆われていく。津波はぬかるみを生み、幻影で微睡む屍人は踏ん張りも聞かずただ流される土佐衛門と化していく。
 そして、足腰の制御が難しくなるのは、何も屍人に限った話ではない。『修羅』もそうだ。もちろん、これがただの大波であればそうはいかなかったろう。だが、『修羅』は確かに動きを止めたのだ。
「――彼らが夢を見ている間に、あなたの後ろを取るのは難しいことじゃなかった。その様子を見ると……さっきの風が、そしてこの波が、【惑雨】をあなたにも届けてくれたんじゃないかな。隙は少しだけで良い。……水鏡先生、合わせます」
「おや、奇遇は重なるものでござるなあ。水練以来か、ヨシュカ殿。では、二人で参るとしよう。……ふ。その様子を見ると、水を蹴るのは上手くなったと見える」
 壊れた空き家から水面の上で。鮮やかに切り替わった戦場で相対し、真っ向から打ち合いを行う十兵衛と『修羅』のもとへ背後から迫るのはヨシュカだ。その腕の中には、一振りの斬魔が握られている。
 彼は人形だ、水には浮かぬ。しかし、水を蹴ることはできるのだ。それは慣れない教えの中で、『彼女』が『彼』になんとか教授できたことでもある。
「この鋭春が一振りは、その軽さ故に人智を超えた早業を可能にする――。この刃、受けてもらいます」
 ヨシュカは波打つ水の上を走る、走る、走る。沈むことなく、水を蹴って、どこまでも。常人であれば動きが鈍るような場所であっても、彼の歩みが鈍ることはない。
 彼はどのような状況でも道を切り拓いていける力を永海から託され、その手に有している。その上、水鏡流の薫陶を受けているのだ。であれば、『水蹴り』からなる『水走り』など――、どうしてできない道理があろうか。
「師匠としては、弟子に負けるわけにもいくまいなあ。修羅殿、お覚悟めされい」
「~~~~ッッッッ!!!!」
 正面から放たれる、水飛沫を友として放たれた十兵衛のあびせ斬りが、幻惑の中で揺蕩う『修羅』の首元を確かに切り裂いてダメージを与える。
 それに加えて襲いかかるのは、今しがた生まれた隙を逃さず伸びていくヨシュカの突きだ。彼が放った一刀も、また確かに敵の胴を貫いて串刺しへ至る。
「まだまだ」
「逃がしません」
「ア、ガ、ァァァァ!!」
 確かな一撃が二度決まり、しかしてそこで終わるはずもない。波は続けて起こるものだ。二振りの刃がさらに『修羅』の体を襲わんとして放たれたその時、痛みでわずかに意識を取り戻した『修羅』が思い切り踏み込んでそこから逃れる。
 しかしヨシュカが念入りに降らせた惑いの影響か、上半身の自由はまだ利いていない模様だ。敵が逃れるのは水の流れのままの方向である。無論それを逃す猟兵ではない。
「待ったでこの時を! 絶好機や……! さあ、修羅ぁ! 今度こそ勝負!」
「ナ……舐め、ン、なァァァァァァァァ!!」
 そこへ地を走り、波に乗り、空へ跳んで現れたのはメルノである。そう、彼女は先ほどからこれを狙っていたのだ。敵が蹴りしか使えなくなる状態を。他のみなと協力してやれる、今この時を。
 先んじて放たれるのは『修羅』の蹴り。だが、明らかにそれはヨシュカの雨の影響で精彩を欠いていた。これなら――いける。
「マルコくん、頼むっ!」
「はいはい、任せて。……水鉄砲で戦った振りだね、しっかり合わせてよ?」
「上等や! あのときの引き分け勝負、まだ決着付けないまま死ぬわけにはいかんもんな! 決めるで!」
 足を振り上げた『修羅』を上空から襲うのは、【竜飛鳳舞】で空中で舞うように跳ねる能力を得たマルコ。これならぬかるんだ地面も、全てを巻き込む大津波もお構いなしだ。彼はフェイントを的確に織り交ぜた、2回……いや、数えられないほどの熱線の雨を降らせて敵の動きを止めていく。
 敵の周りへとわざと放って壁のように弾を使いながら、本命は誘導弾による緩急をつけた制圧射撃。『修羅』もこれにはひとたまりもなく、致命傷になる弾だけを弾きながらも着実にその体にはダメージが蓄積されていくではないか。どこかの水鉄砲勝負でハイスコアを取った腕は伊達ではないということだ。
「ガ、ギ、ア、……! アアアアアア!! キツネ女ァァァァァァ!!」
「ナイスやマルコくん、ありがとう! 惑う雨に続いて、もう一度雨に降られて貰うで……!! 受けろ、『修羅』ァ!」
 マルコの熱線の雨に晒されながら、それでも『修羅』がメルノへ蹴りを敢行するのは、あるいは意地、もしくは譲れぬ矜持のようなものによるものであったのかもしれない。
 だが、それもメルノにとっては好都合。こいつに勝つには、全力で放たれた攻撃を『乗り越える』のは一番手っ取り早い。故に狙うのは後の先、つまりカウンター。彼女は敵の必殺の足技を寸前で見切り、自身のバイクを蹴って跳躍回避を行っていく。だが、蹴りから逃れるにはまだわずかに高度が足りない――。
「――めるねぇ!」
「サンキューッ、アメリアちゃん! ――【狐の嫁入り】!!」
 それを救ったのはアメリアだ。彼女はエアハートで空を飛び、そしてメルノの足掛かりとなって彼女を助けた。
 二つのバイクを利用して高度を稼ぎ、そして敵の頭の上を取った彼女のR&Bが、今吠える。銃弾熱線雨あられ、天気雨が敵へと降り注ぐ。無防備な脳天へと突き刺さっていく雨のしずくは、確かに『修羅』の頭部や肩部、上腕部や背部などへ大きなダメージを与えて見せた。
「グ、ギャアアアアアアアアアアアアア! ……ア、アアアア、くそがァアァァァァ、くそがァァァァ!」
「言葉を返すようだけどさ、無駄なあがきだよ」
「もう一度言うが、その通りだな。そんな苦し紛れの攻撃なんざ、俺にとっては気合と根性、それから盾で何とかなる」
「ヨシュカ殿、好機でござる。ここは一つ、竜殿の援護というのは?」
「良いアイデアだと思います、先生。ここはもう一つ欲を張ってみましょう」
 朧に霞む鈍色の刃金と、金色の手を持つ星が水に乗って追撃に現れ、敵のあがきで放たれた風圧は空を舞う鳳には当たらず、力任せに振るわれる蹴りは――真正面から、空飛ぶ竜が押しつぶさんとして迫っていた。
 【狂飆の王】。ぬかるむ地面など、空を飛ぶ竜には関係のないことだ。そして、竜は力比べから逃げる気はさらさらなかった。周囲を巻き込む暴風のごとき一撃が、山をも砕く蹴りと真っ向からぶつかっていく!
「そっちがパワー勝負で来るのならば、こちらも相応の一発を叩きこんでやらんとな。……暴風を、見せてやろう!」
 拮抗していたのはほんの僅か。空中からのマルコの援護射撃が敵の気勢を削ぎ、ヨシュカの雨が敵の目を再度曇らせ、十兵衛が水流操作で敵の足元をすくう。アメリアの協力を受けたメルノの攻撃で痛んだ体は敵の体から十全足りえる力を奪い――そして、インパクト。
 結果を語るは野暮というものだが、答えはすでに詳らかになった。セゲルの力が、敵を圧倒したのだ。シンプルな話でしかない。二つの力がぶつかれば――力の強い方が勝つ。セゲルは修羅の片角を折って、敵へ大きな痛打を与えることに成功したのである。
「~~ッ、ッ、ッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 互いの攻撃がぶつかった瞬間のことだ。その威力は破裂し、半径約140m以内にいた流されるままの水晶屍兵は一網打尽となってもはや戦闘に復帰する力も失っていくいく。これなら退却も容易であろう。
 目くばせしながら猟兵たちは各自散会していく。『修羅』も消耗しているが、それはこちらも同じこと。深追いは危険であるゆえだ。雨が呼んだのであろうか、いつの間にやら空には虹がかかっていて。それは――どことなく、猟兵たちの大活躍を褒め称えているかのようだった。あと僅かだ。片目片角を失って、敵はもはや満身創痍。決着の時まで、あと一合二合と言う所。良き追い詰めである。


●花吹雪は歌に乗って
「破壊破壊と騒がしい……。エンパイアはあたしの大事な故郷なの、あなたなどには壊させないわ。壊れるのはあなたの方」
 戦場に、桜吹雪が舞っていた。花がその身を散らすは宿命である。散ってこそ、花は美しい。誰かが桜に戀をするのは、桜がそうあらんとするからこそであるのだろう。散ることを厭わぬ気高き花だからこそ、桜は――きっと、どうしようもないほど誰かを惹きつけるのだ。
「これは随分とわらわらいるね? ここは君の故郷で、僕の大好きな世界。守らなきゃいけないけど……。でも、櫻が居なきゃ意味が無い」
 しかし、その一方で。せわしなく吹いてはすぐに桜の花びらを散らしてしまう春の山風を恨む歌も、サムライエンパイアにはある。桜はきっと『限りあれば』と思うからこそ美しい。だが、それは今でなくても構わないだろうに。だからそうする。こんな場所で、桜を散らせてなるものか。
「オイオイオイオイ……随分としゃらくせェな、アァ? おしゃべりするために来たんじゃねーだろうがよ……来いやァ!!」
「ゥ……ギ、イ、イ、……ィィアア……」
 『花には歌がよく似合う』。そんなことなど、サムライエンパイアにおいては当然のごとくに常識である。人は美しいものを尊ぶ際、どうしようもない気持ちを表現したくて歌いあげるのだ。歌こそが、生き物が持てる中での花へ送れる最上の贈り物なのだから。
 故に、花と歌の風流を解さぬ慮外者などには――『それ相応の報いがあってしかるべき』だ。そうだろう?
「はぁ……、無粋ね、あなたたち? 言葉も失ってしまった詰まらない肉の塊。――邪魔なのよ。退いて頂戴」
 故に誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は屍人の群れを躊躇なく斬る。斬って捨てる。斬って、はらって、そして前へと歩を進めるのだ。愛しの人魚に背中を預けて、刀に宿す破魔の切れ味はどこまでも鋭く。腐れて呪われた屍人の肉など、櫻宵の前には塵芥と同じである。
 風を受けるかの如くに空を飛んで広範囲になぎ払いを行えば、塵である屍人などはいともたやすく跳ね除けられる。風を起こせば塵が吹き飛ぶのと同じ、全く当たり前の理だ。右へ、左へ。彼の手に握られた屠櫻は、断末摩の悲鳴ごと屍人を切り払って朱に染まる。一撃で屍人の意思を殺し切るその剣の技は、あるいは桃色の慈悲であったのやもしれぬ。
「ねえ、リル! ほら、綺麗な黒い首が見えてきた! 玄関飾りに丁度いいわ」
「飾れるモンなら飾ってみなァ!! ヒイラギの葉っぱに相応しいのは、どっちの首か教えてやるよッ!」
 屍人の壁を櫻宵が千切るようにして進めている訳は二つある。一つは、彼自身のユーベルコード、【?華】による側面が大きい。彼が用いるのは、自身の体に屠桜の宿す妖の怨念が成す血色の桜吹雪を纏って、高速移動と花嵐の如く吹き荒れる千万の斬撃と衝撃波の放射を可能とする力。
 その『奇跡』は他のユーベルコードと比肩しても劣らないどころか、発動した際の爆発力を見れば非常に攻めに優れた力であるといえるだろう。但し、その代償は大きい。櫻宵が過去を消すためにこの力を使えば、そのたびに彼は寿命を削る――言い換えれば、自分の持つ未来そのものを消していると言えるだろう。未来を代償に過去と戦うとはどこか皮肉でもあるが、それもまた彼らしいといえるのかもしれない。
 文字通り自らの命を花と散らして、街道を真っ直ぐ駆けて。『修羅』を目がけて、修羅はひた走る。目には目を、『修羅』には修羅を、である。
「はぁ? あんなのを愛するなんて許さないからな! ……それに、玄関にあれはちょっと」
「悪いな、相手付きは俺の方から願い下げだッてンだよ! もっと熱烈なアプローチがありゃ話は別だがなァ!」
 屍人を裂きながら血をかぶり、その身を赤く染めながらも道を拓く櫻宵へ向けて、『修羅』は拳の風圧による遠距離からの迎撃態勢を取る。右こぶしで6つ、左で4つ。敵が空気を殴るたびに音がはじけ、そして質量をもたぬ弾丸が『櫻』を散らさんとして襲い来る。
 しかし、櫻宵はそれに対して防御姿勢を一切取らない。彼はただ、ひたすらに前へ進むだけ。そんな彼を守り、支えるのは――リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の役目であると信じて疑わないが故に。
「……チッ、アアアァァァ?! 水だとォ……?! 的確でクソ面倒な防御だ、イラつくぜェ!」
「こちらこそ悪いね、僕はこの世界を櫻宵ごと守るんだ。君みたいな奴の攻撃で、櫻を傷付けさせたりはしないんだよ。絶対にね」
 櫻宵のすぐ近くに控えているリルが口を開いて音を出せば、それに呼応するかのように風圧は彼に当たる寸前ですべて無力化されていく。それを可能にしているのは、彼の操る水泡だ。
 泡沫のごとくの彼のオーラが、櫻宵に害をなさんとする攻撃を包み込んで代わりに弾けている。それも全て、櫻宵の進路を邪魔しない場所で、だ。獲物を振りかぶる両の腕、屍人の攻撃をかわすための上半身のひねり、『修羅』へと向かうための下半身の踏み込み。その全てを良く知る彼にしかできない防御法。
 櫻宵の呼吸に合わせてリルは歌い、彼を守る。そこに特別な力はない。リルの声に乗るのは、ただ特別な思いだけ。嬉嬉と駆ける君の背を推せるようにと願いを込めて、血色の櫻の後を追っては防御と鼓舞をメロディに乗せて歌い上げている。ただ、それだけのこと。コツなどない、ただただシンプルな方策である。だが、だからこそ、櫻宵は何の衒いも疑いもなく、リルの防御に身を任せて進めるのだろう。それが彼の歩みを軽くしている二つ目の理由だ。
「ありがとね、リル。信じてた。リルの歌は心地よく、あたしに力をくれる――。ねぇ、殺し(愛し)あいましょう!」
「うん、そうだろうと思ってた。櫻が傷つくのは哀しくて身を裂かれるように辛い――。だから、君の力を封じよう」
「~~ッ、ンだこりゃァ!? 俺の力が……! そうか、テメェの!」
 怒りを、飛翔を、蹴りを殴りを風を封じよう。リルがこの命を、もてる全ての技をかけて歌うは、【星縛の歌】。魅了し蠱惑し思考蕩かす迦陵頻伽の如き歌声が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる、彼の文字通りのキラーチューン。
 星すらも魅惑され惚れて堕ちる、硝子細工の歌は、艶やかに清らかに――心を魂を捕らえる。であるならば、怒れる化身ですらその捕縛から逃れるすべはない。
「僕の櫻はけして手折らせさせない。壊させない。――櫻宵」
「ええ、もちろん」
「だったらまずは歌手の方から潰せば良いだけだろうがァ!」
 しかし、ユーベルコードなしの状態でも『修羅』は強敵だ。奇跡の力は、あくまで敵の動作を補強するためのものに過ぎない。至近まで迫った二人の猟兵へ、敵は臆することなく踏み込んでいく。狙いはリルだ。まずは自分の力を封じる歌を止めることが先決であると結論付けたのだろう。
 だが、その決断は悪手であったことを、『修羅』は次の瞬間に気付くのだった。
「星瞬く歌が聴こえた? それならその口を閉じて黙ってお聴き。リルに手出しはさせないわ」
「邪魔を……ッ!」
 『修羅』の踏み込みに合わせ、櫻宵は自分自身の獲物を敵の首筋へと伸ばしていく。一度目は外そうとも、刃から発動する衝撃波は確かに敵を捕らえ、防御を余儀なくさせる。そして一度防いでしまえば、もはや『修羅』が攻撃に転じることは不可能になった。
 そう、余りにも攻め手の数が多いのだ。櫻宵の放つ本身の斬撃、またそれに付随する衝撃波、そして血色の桜吹雪が折り重なるようにして発動する千万の斬撃。その全てが『修羅』の体を容赦なく切り刻もうとして彼を襲うのだから、無理のない話である。
「……ッ、ッチィ! それならやっぱりテメェからだろうが!」
「五月蠅いわよ――さぁ、首を頂戴な」
 致命を受ける攻撃にのみ反応し、『修羅』は僅かな傷で済むような攻撃の全てを食らって櫻宵へと拳を振り上げる。抉るようなフックで風圧をとばし、踏み込みながら風圧をまとわせたストレートを放つ。
 だが、やはりユーベルコードの有無は大きい。櫻宵は敵の動きを自身が放つ攻撃の感触で全て捉えていた。生命を奪う呪詛や持ち前の怪力などの全てを込めて、砕き壊すが如く獲物を振りかざしては風圧を消し去っていく。そして伸びきった相手の腕を片腕で掴んで絡め取ると、傷を抉り壊すような斬撃を喉元へ向けて放って見せるではないか。
「ガ…………ッ…………! 誰が……、やるかよボケがァァ!! 離れやがれッ!」
「ま、こんなもんかしらね。援護助かったわ、リル」
「どう致しまして。櫻宵、怪我はない?」
 瞬く間の攻防の中で、『修羅』は確かに首へ多大なるダメージを受けたと言って差支えないだろう。櫻宵にそれ以上の追撃をされないように放った横殴りが冴えていないことからもそれは明らかだ。
 それを櫻宵は鮮やかに見切ってわずかに身を捻ることで躱し、咄嗟の一撃を回避時の回転エネルギーを利用しつつ敵の傷口に重ねるように加えてさえ見せる。二人の猟兵は敵の撃破へ大きく貢献することに成功したのだ。お見事な連携である。

●ほむらくるみの罪と罰
「湿気がすごいわね……。ねえ、穂結さん穂結さん、今日の晩御飯は何かしら」
「はいはい、今日の晩御飯は一日寝かせたカレーですよー。まだ量があったので、明日は残ったルーを使ってカレーグラタンにしましょうかね」
「ええー、それは昨日みんなで食べたじゃない。穂結さんのカレーは美味しかったけど……でもでも、三日間同じ味はちょっと飽きがくると思うわ」
「……フッ……どうやら知らないらしいな。二日目のカレーはな? 一日目よりも更に旨いのだぞ、マダムよ。とてもよいことを聞いた、今日も明日も穂結の作るご飯が楽しみだな。では、気張るとしよう」
 路傍に屍人、空気に鮮血、ぬかるみに焔。煮凍りのように街道を埋め尽くす非日常の中で、異常なまでの日常さがそこにあった。
 三人は談笑しながら斧槍を振るい、双剣を血に濡らし、ほむらで死をくるんでいく。彼らの歩みを止める物は何もない。彼らの目的である屍人の排除、ひいてはオブリビオンの撃破に当たって、彼らを止め得るものなど、どの観点から見ても――何もありはしないのだ。
「そろそろ足回りが不快になってきたな。穂結、手筈通りに頼めるか?」
「ええ、もちろん。私の本日の役割は宅配便ですからね。モリアーティのご兄妹を消耗させることなく、指揮官まで導くのがわたくしの仕事です。お二人におかれましては、どうぞ憂いなく――このまま、お進みくださいまし」
「頼もしいわね、穂結さん。それじゃ、大船に乗ったつもりでいさせて貰おうかしら」
 そうは言っても、死と暴力が支配するこの場において進み続けるのは常ならざる困難を伴う。手を伸ばせば屍人の腕がそれをからめ捕らんとして手を伸ばし、歩みを進めれば倒れ伏す屍人が生者の足元から噛みついて来ようとする。
 ここは地獄だ。罪と死と悪に満ち満ちている。控えめに言ってもそうならば、対処法は一つだ。それに対抗する、あるいはそれらを消し去る何かを呼ぶのが手っ取り早い。罪には裁きを。死には清めを。悪には無垢なる焔をもって当たるべきである。暗き道に明かりを灯すかの如くに、地獄には劫火こそが相応しい。
「ただし、私が運ぶ『者』は爆弾も驚きの一大戦力です。火の元には十分注意を払っているつもりですが……さて。火の灯った導火線には、気軽に触れない方がよろしいかと存じますよ」
 猟兵の一人が、ユーベルコードを発動する。【朱殷再燃】。悔悟を燃やして残った墨のようなほむらが、敵の陣に燃え広がって道を作る。朱殷とは時間がたった血のような暗い朱色のこと。凄惨な様子を表現するのに使われるこの表現は、しかしてここに良く似合う色だった。
 屍人とて人であるとのたまう輩がいるかもしれぬ。しかし、それは否だ。彼らはすでにこの世にうつろう陰でしかない。自意識の無い、死と破壊をまき散らして自動的に増殖する機構を持った、『ただの人形』だ。人ではない。ならば、燃やすのはこの色でしかありえない。そして彼女は容赦をする気はない。
 穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)は自らの身を炎に焼かれ続ける無名の神霊に変じさせ、纏った炎を飛ばしながら道を切り拓いていた。彼女の寿命を費やして燃え盛るほむらは、屍人の体に当たった途端にその火勢を強めて敵の体を覆い尽くす。死と穢れを許さぬほむらくるみが、黒一面の敵陣の真ん中へと向かう導火線を描いてゆく。
「ギ、アア、ア……!」
「失礼。せめて安らかに」
 『炎』という概念は暴力だ。だが、炎は罪と呪に対する赦しと清めという側面を持つ。神霊と罷り成った穂結のほむらはひどく強靭で、粘土の高い延焼は敵陣と足元の二つを焼く。だが、荒々しいまでのその力は、殺戮のための力では決してない。
 この炎は浄化のそれだ。蔓延した死を焼き祓い、穢れを燃やし盡すそれだ。しかしそれでも、裁きから逃れ得る屍人はいるもので。しかし、清めの火から逃れた罪人などは昔から相場が決まっている。裁きから逃れるために楽園を拒んだ愚か者は、獣の牙で首を刈り取られるのだ。
「あら、爆弾どころじゃすまさないわ、安心してくださいね。穂結さんの焔で、ぬかるんだ足元も十分固まったことだし」
 正面の敵を切り結ぶ。すでに死んでいる屍人を殺すというのも不思議な話ではあるが、ある存在を完膚なきまでに叩き伏せるということは、その対象に死を告げるのと同様だ。
 まっすぐ、地獄に蜘蛛の糸が伸びる。中心に存在するであろう『修羅』へと延びる導火線の流れをコントロールし、目の前に存在する邪魔な屍人を切り払って進むのはヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)。
 逆手で振るわれる黒の牙、フォン・ヘルダー。漆黒で相手を狩り獲る牙。それを巧みに操って、犯罪の王たる彼女は罪人たちの結び目を切り開いていく。『水晶屍人』という名前の犯罪の解法を良く知っているかのごとくに彼女の振るう牙は軽く、全ての障害の首元に食らいついていく。どこを斬ればこの事件が立ち行かなくなるかなど、ヘンリエッタにとっては簡単なパズルでしかない。
「うむ。これで踏み込みの腰も入ろうというものだ。ヘンリエッタ、正面を任せる。撓まずいくぞ。罪と呪に塗れるなど、私たちには慣れたものだ」
 正面以外の敵を薙ぎ払う。地獄に糸ともなれば、それに群がるのは罪人の性だ。サムライエンパイアの御伽話に残る糸が切れたのは、どこまでも伸びる糸がぶら下がる罪の重さに耐えられなくなったがため。
 燃え続ける導火線の火を絶やすわけにいかない。まっすぐ伸び続ける蜘蛛の糸を切れさせてはならない。まとわりつく屍人の足を根切りにするのは、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)。
 蒼い鱗の小さな海竜こと、Merを物騒な斧槍に変えて。穂結の放つ焔から逃れた敵の足へ向けて、彼はその牙を大きく振り回して威を示す。『水晶屍人』という名前の呪いの在り方を良く知っているかのごとくに彼の振り回す斧槍は強靭で、全ての障害の足元へと噛み付いていく。『ばけもの』である彼にとっては、足を斬ることで縁を切れるこの程度の呪いなど相手にならぬのだ。
「来たかよ、オイ! オイ! オイ!! ようやく来やがったかよオイ! 分かるぜ、お前らの匂いは――俺と同じで――破壊し甲斐がありそうだ!!」
「さて――破壊を謳うっていうなら、私を相手してもらおうじゃない。――絶滅の時間よ、愚図が。援護をお願いします、兄さん」
「ふはは、山のような水晶屍人に『修羅』な。相手取るには充分って感じじゃあないか? 穂結の援護があって、ヘンリエッタの力がある。私がしくじる訳には行かんよな!」
「それではお二人とも、武運を。私は舞台の維持に尽力いたしますので」
 さあ、そして本懐が見えてきた。焔が道を拓き、二つの牙がここに現れた。力を残して、粛々と。本陣はここだ。敵の首魁はそれだ。食い散らかす時は、今を置いて他にない。
 罪と呪たる二人が、焔に運ばれて『修羅』の目の前で獲物を構える。ヘンリエッタとニルズヘッグがこの場所まで損耗せずに来れたのは、穂結による功績が大きい。彼女が焔で舞台を暖めてくれた。焔の柵に止められて、愚かな観客は舞台の上で踊る三つの陽炎に手を触れることあたわず。屍人に対して、穂結の焔は天敵だ。これ以上ないほど、黒幕の人形たる彼らはこの焔に弱い。
 害し、殺し、壊す時間の幕開けだ。
「死ねッ!!」
「兄さん」
「応」
 『修羅』の動きは怒りで増幅され、三次元的な動きを伴って猟兵の二人を相手取る。左足で跳ねて下半身を大きく廻しながらの右踵落としをヘンリエッタに向けて放ちつつ、空中で回転するわずかな動作の中でニルズヘッグへと指を弾いて指弾を飛ばす。
 だが、残像を残すほどの速さで行われる戦闘機動に対し、二人の猟兵は息を合わせて対していく。二人は即座に立ち位置を交換し、多大なる威力を伴って放たれる踵落としは『彼』が斧槍にて勢いを削ぎながら斜めに柔らかく受け、指で飛ばされた高速の指弾という殺意は『彼女』が双剣を用いて空中で切り落とす。
「まだまだァ!!」
 だが、踵落としを受けられた『修羅』の攻勢はまだ止まらない。敵はニルズヘッグの斧槍で止められた右足を脚先の指で絡め取ると、そのまま右足のみを軸にして全身を真横にブン回し、ニルズヘッグの背骨を折ろうとして右腕での殴打の構えを見せる。
 そんな敵の動きを即座に持ち替えた双銃で牽制するのはヘンリアッタだ。至近での近接戦闘での味方への援護射撃は高い技術無しには成し得ぬのが常ではあるが、二人の付き合いの長さがそれを可能にしてみせたのである。
 ヘンリエッタの放つ銃弾が『修羅』の右拳を僅かに弾いて狙いをそらし、その間にニルズヘッグはOrmarを黒い長槍に変じさせ、背中に構えて狙いの外れた殴打を持ち手で防いでいく。強化された『修羅』の力と、猟兵二人の連携は正に互角。このまま戦っていてはどちらにも軍配は上がらないだろう。
「だがよォ? このまま打ち合ってても俺は構わないんだぜェ? 分かンだよ……お前らのお仲間の焔! ありゃ命を燃やして発動する代物だろうが、長くはもたねえ!! ならよォ、俺はテメェらと楽しく打ち合ってりゃそれで良いってわけだ! ハッハハハハハァ!」
「分かっていないな。まるで分かっていないよ、お前は。穂結は私たちを信じてこの舞台に連れてきてくれた。それなのに、私たちが――お前を効率的に壊す手段を持っていないとでも? 良いだろう。良いところに来てくれたものだ、よりにもよって……世界に呪われた男の背後とはな。冥途の土産に――「壊す」ってのがどういうことか、その心にしかと刻んでやろう」
 『呪詛』というものがある。すそ。のろい。悪逆たるねがい。悪意を以てのみ行使され、何かを害なす時にのみ用いられるそれ。その力はとても陰湿で、そして容赦がなく、慈悲もない。そして、ニルズヘッグの操るその力は、性質上――前面よりも、まずは後面に集まる傾向にあったのかもしれない。
 ユーベルコード、【灰燼色の呪い】。対象の心から、呪いを囁く不定形の霊を召喚するその力。現れた零はニルズヘッグに傅くようにして背後に現れ、そしてそれは即ち――彼が力を発動したその瞬間、『修羅』の目の前に零が現れたということでもあった。
「呪い……ッ、ハッハァッ! 甘ェんだよボケがァ! 俺は破壊の化身だぜ!? そんな俺が、今更何を恐れるって――」
「敵の指揮官──修羅、でしたか。お二人を届けたならあとは任せ、お邪魔でなければかばうくらいの支援は致すつもりでしたが……これくらいならば良いでしょう」
 ニルズヘッグの放つ呪いの霊は、対象が最も苦痛を感じるものや直視したくないものを現世に移しこんで相手を攻撃する。だが、破壊の化身たる『修羅』が恐れるものなどそうあるものではない。『普通ならば』不発に終わる類のそれだ。
 しかし、この場には二つの尋常ならざるそれがある。一つは、ニルズヘッグのたぐいまれなる呪詛の力。そしてもう一つは――戦いの舞台を囲み、今なお強く燃え盛る穂結の焔だ。ここはまるで『灼熱の国』。強き呪いが生まれ出でる場所。そして、映らぬ恐れを表すのは――きっと、どこまでも燃え盛る陽炎なのだ。
 穂結の焔と、ニルズヘッグの呪いは相性が悪い。もしくは、『良すぎてしまう』。その二つの力がここに蔓延し、常の『修羅』の目には移らぬはずの怖れが現出しようとしていた。
「……な、……テメェら……! 何を、何をしやがった?! 俺を呼び出すなんざ、趣味の悪い……ッ! はっ、離れやがれェッ!!」
『破壊……ィィ……アア、破壊だ……『俺』は、『俺』を赦さねェ……アアアアアアア……!』
 そして生まれたのは、体を焔に包んだもう一人の『修羅』。それが纏う焔は怒りの色に似て、この世界の全てを壊す以上に、きっと、自分自身を燃やし尽くしてしまいたがっていた。
 ニルズヘッグの背後にて、彼が生み出した霊体の『修羅』が、本物の『修羅』へと組み付いて放さない。その結果、二人はどちらもが焔に当てられていて。怒りの焔が、彼らの体をどこまでも痛めつけていた。自責の念――あるいは、自らの存在を許さぬという怒りによって。
「ふはは、心も体も壊されて、気分は如何だ、修羅とやら。悪いがこちらも修羅を飼っていてな……先ほどのような生半可な破壊じゃあ、満足出来ないなァ。――認めろよ。『それこそが貴様だ』」
「熱い…………ッ!! グ、アアアア!! やめろ、やめろォォォ! 俺を燃やすのを……止めやがれェ!! 俺は、俺以外の全てを破壊するだけ……それだけだァァ!!」
「兄さん、それに穂結さん、ありがとう。いい援護だったわ。待たせたわね、『修羅』。力比べと行きましょう? ただし……『ひとごろしき』竜に敵うと思って?」
 自分を破壊せしめんとする自分自身の霊から目をそむけ、『修羅』が逃れた先に立つのはヘンリエッタ。彼女はニルズヘッグたちの援護を受けてユーベルコードを発動した状態でそこに立っている。
 【黄昏】。邪魔をする物すべてに対する激憤と憎悪を代償に、己の攻撃力を倍加させる力。竜をも素手で引き裂く暴力を得る力だ。彼女は今、高い知性と鋭いかぎ爪を持つけだものと成り――、『修羅』の目の前に降り立った。
「邪魔すんなァァァ!! 退きやがれクソがァ!!」
「当らない。ただ殴るだけじゃ、駄々っ子でもできるのよ? それじゃせいぜい――皆殺しができる程度ね」
 風圧を伴った敵の殴りを真っ向から右肘で受け、左膝で『修羅』の腹へ膝蹴りを放ち内臓系を破壊する。力任せの殴り飛ばしは、敵の拳をつかみながら手首を回転させて勢いを削ぐとともに手首の腱を破壊する。
 手首の拘束を解いて一瞬距離を取り、踏み込みながら放たれる蹴りは止めずに敢えて打たせ、寸でのところで躱しながら敵の足が伸びきった瞬間に足を掴んで関節を極める。衝動的な破壊とはわけが違う。彼女の操るのは論理的で計算高い破壊だ。突発性殺人と計画的殺人ほどにその性質は異なるものだ。皆殺しではなく絶滅こそを望む破壊。殺意は研ぎ澄ませてこそ――鋭さを増して、相手の体を突き刺せるのだから。
「喧しいだけの阿呆は嫌いよ。出直しておいで」
「アアアアアア!!」
 体中を丹念に破壊され、動けはするが多大なるダメージを受けた『修羅』の行動パターンなど、犯罪王が読み切れないはずもなく。彼女は敵のクロスカウンターをわざと誘うような大ぶりの殴打を放ち、そして寸前で敵の拳をよけて懐に入る。
 取り出すのは先ほども活躍した双銃『S.E.Ve.N 277』。まともに打ち合う気などない。必要なのは効率だ。ヘンリエッタが放つ腹部への容赦ない零距離射が『修羅』の体を打ち抜いて、ふらつく顎へとどめのアッパーがブチこまれる。内臓、腱、関節、脳、そして心。その全てを、彼ら二人は徹底的に痛めつけて。
「ギ、ア、グ……!!」
「まったく――本当に、敵に回したくないご兄妹だこと」
「あら、褒め言葉? ふふ。ね、ね、穂結さん? そういえば、今日の夕ご飯にトマトのスープは出るかしら?」
「朱いものは見飽きたろうに、まだ足らぬのか」
 『なにかを破壊すること』においては、『修羅』よりも向いている人材がいたということだ。穂結が展開していた焔壁の一部を解くと同時に、三名の猟兵は大きな戦果とともに『修羅』の目の前から去っていく。
 現場にいらぬ手がかりは残さぬが吉。欲を張ってもいいことはない。追わせない逃げこそ、一流の作戦に不可欠なファクターである。完全犯罪の様相を呈している彼らの攻めは、確かに敵を痛めつけることに成功したといって良いだろう。お見事な立ち回りである。


●籠に氷の大立ち回り
「せいっ!」
「よいしょ……っと。そろそろ、多くなってきたね」
「確かに、数が多過ぎるのだ……!」
 氷の魔力が辺りに舞って敵の動きを阻み、鍵刀が拓く道の中に血の花を咲かせる。屍人を倒すのは容易だが、屍人の群れの中を二人だけで進むのは中々の苦行だ。
 足元は悪く、斃した敵は泥濘の中に倒れて障害となり、そして倒しても倒してもやってくる。敵陣の奥深くでこのまま戦えば消耗は必至であることは、二人とも良く分かっていた。
「これから先に進むには、力任せじゃちょっと厳しいか。んー……。あ。これでどー?」
「このっ! ……綾華? どうしたのだ? ……っ、おお! うむ、それならきっといけるな!」
 『だからこそ』、二人の猟兵は知恵を働かせて工夫を練る。それはすでに死者と化した水晶屍人にはできぬ強み。事態解決のための最適解を練り上げ、そして得意分野を組み合わせて互いの力以上を打ち出す作戦を組み立てる。
 猟兵の力の本当の根幹は、練り上げられた技能ではない。ましてや奇跡を操るユーベルコードでもない。それらは根幹に付随する力でしかない。オブリビオンには到底できない猟兵たちの根幹の力とは、信頼できるものに背中を預け、そして諦めずにもっともよい方策を新しく打ち立ててみせることだ。それは停滞した過去には不可能なことであるが故に。
 彼の歩みを進めるのは、彼女が諦めずに剣を振るうのは、ユーベルコードの力によるものではない。自らと、そして自らを信じてくれる大切な人の力があるからこそ、二人は苦境の中にあっても新しい道を切り開くことができるのだ。
「――コレをこうして、こうな? ヴァーリャちゃん、それであとはコレをああして、こうして――どう? 良さげじゃない?」
「……ふむふむ……ほうほう……おお! すごいぞ綾華! それで行こう! 一人より二人、俺も綾華も込み込みでの作戦が一番なのだ! そこでだな、俺が足場の上で……ごにょごにょ……」
「……うん、うん、……いいネ、それ。それじゃそういう感じで行こうか。ヴァーリャちゃんに負担がかかっちゃうような気もするケド、そこは俺の腕の見せ所ってやつかな、ふふ。任せといて」
 二人の中で作戦は決まったようである。浮世・綾華(千日紅・f01194)にまとわりつく屍人の群れを、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)がトゥーフリ・スネグラチカと氷の魔力による足元を凍らせて高速移動しながらの連続キックで一気に吹き飛ばしていく。
 その間に綾華が作り出すのは、屍人の上を進めるようにする『空中の道』。彼は【絡繰ル指】で自身の装備である鉄屑ノ鳥籠を大量に複製してみせると、四十数個もあるそれらで足場を一気に形成してみせるではないか。
 彼の発動させたユーベルコードは、自分自身の選んだ一つの道具を複製し、自由に操れるようにする力。大量に生み出した鳥籠を浮遊させ、操り、足場自体も移動させていくことなど、綾華にとっては造作もないこと。特にヴァーリャの援護もあるならば、器物の操作に余計な雑念が入ることもないというものだ。
「それじゃヴァーリャちゃん、わりーがこいつらの対処、よろしくネ。信じてるから、任せた。援護はお任せだよ」
「うむ! 俺も信じてるし任せられたぞ、綾華! こいつらを少しくらいはやっておかないと、オブリビオンと戦うときも大変だろうからな! えーいっ!」
 綾華の力で戦場に点々と浮かぶ鉄籠たちを足場に空中を自在に跳ね回るのは、予めフヴォースト・スネグラチカをメチェーリにギュッと結びつけておいたヴァーリャである。
 彼女の狙いは、オブリビオンと戦う前に周囲の屍人を一網打尽にすることだ。空中にいれば屍人の手が届くことはないだろうが、いずれ地面に降りることになるのなら、今のうちに減らせる数は減らしておいた方がいいという判断によるものだろう。
「くらえっ、おりゃあっ! こっちだぞっ!」
 フヴォーストとは、尾の意味を持つ言葉である。尻尾を結びつけ、空気すらも凍らせてしまえるような冷気を纏わせたメチェーリを、ヴァーリャは空中で大立ち回りを行いながら遠心力を利用してぶん回し、敵の屍人たちをまとめてなぎ払っていく。
 空中から地上へ降りながら縦にメチェーリを振り回して複数の屍人を一気に倒し、囲まれる前に横に薙ぎ払って敵の足元を凍らせ、動けない敵の頭部などを足場に空中の鳥かごに戻って見せる。わざと大げさに動いて屍人の注意を惹くのも、綾華が籠の操作に集中できるようにするためである。
「はいそこ、おさわり禁止だよ。……ヴァーリャちゃん一人に、危ない真似はさせられないんでネ」
 ヴァーリャが屍人相手に舞うように戦い、そして綾華はそんな彼女を助けつつ戦場を移動するために力を注いでいく。彼は九尾扇である夏ハ夜を巧みに操ると、ヴァーリャの進路を邪魔するような屍人はあらかじめ機先を制して斃し、そして彼女がまとめて足元を凍らせた動けない屍人はまとめて一気に排除して見せる。
 もちろんそのような補助も全力以上に行いながら、彼は同時に器物全てを動かして自身は空中を移動してみせる。周囲の観察を行いつつヴァーリャが移動しやすいように鳥籠を配置し、彼女の死角から手を伸ばすような無粋な屍人には扇の一撃でその手を切り落として見せる。
 二人の息はピッタリと合い、目線一つで二人は万の言葉以上に言葉を交わしながら、着実に前へと進んでいく。そして――敵の姿が見えてきた。
「どう乗り越えてくるかと思っちゃいたが、そうかい……屍人の上を通るとはなァ……!! うぜェ真似しやがるじゃねェかよ、ボケどもがァ! 叩き落としてやらァッ! ハァァァッ!!」
「綾華ッ!」
「おっけー、まっかせといて」
 敵陣真っ只中に存在する『修羅』は、二人の猟兵の姿を目視でとらえるや否や自身の損傷も厭わずに風圧による攻撃を幾度も幾度も行ってくる。すでに体は猟兵たちの攻撃でボロボロのはずなのだが、彼はむしろ傷を負えば負うほど怒り、そして攻撃の切れ味は良くなる一方だ。
 『修羅』の狙いは、空中で跳ねながらこちらに向かうヴァーリャとその後ろで足場を移動させながら近付いてくる綾華の両方。敵の攻撃は強力ではある。だが、遠くからの見え見えの攻撃に当たってやるほど、猟兵の二人も甘くない。
 綾華はヴァーリャの合図を受けた瞬間、即座に周囲の鳥籠を一斉に操作しながら彼女の足場と自身の盾を生み出して。敵の風圧は躱されるか鳥籠で防がれ、そうしている間にヴァーリャは『修羅』の元まで素早くジャンプを繰り返して空中を高速で駆けていく。上方右、下方前、下方左。『彼』は『彼女』の呼吸を知っているからこそ、彼女の今欲しい場所に足場を移動させて足掛かりとすることができるのだ。 
「よし! ありがとう、綾華! ほらほら、俺はこっちだぞ!」
「近付いてきたんなら好都合だぜェ! グルグルとまとわりつきやがってうぜェんだ、これで一気にぶっ殺してやらァッ!」
 素早く空中を三次元的なステップで走り抜け『修羅』の元に近づいたヴァーリャは、敵への挑発を繰り返しつつぬかるんだ地面を凍らせて敵の周囲を高速で旋回していく。
 狙いは敵の攻撃を引き出し、それを回避することで隙を生み出すことであるが、どうやら怒りに身を任せている状態の敵にとって、彼女の作戦は効果覿面であったようだ。
「……きたッ!」
 放たれるのは、周囲の地形すらも粉々に破壊する敵の強靭な蹴り。高速で移動するヴァーリャと彼女の立つ地面目がけて、敵は右足での超高速ストンピングを放ってみせる。
 だが、それをみすみす受けるような彼女ではない。第六感にて敵の攻撃タイミングを察知したヴァーリャは、高速移動で得た推進力をバネに大きく跳んで敵の蹴りを回避し、破壊されて隆起する岩に対してはトゥーフリ・スネグラチカによる氷のブレードを見事に合わせて足場に変え、敵の視界から逃れる超テクニックさえ披露していく。
「どこ行きやがったァ、隠れてンじゃねェ――ッ?!」
「――悪いね、後ろから失礼――。ナイスだよ、ヴァーリャちゃん。よっと」
 そして目の前から消えたヴァーリャを探す敵の上空から飛び降りつつ、手に持つ鍵刀で敵の背面に存在する他の猟兵が付けた傷口へ重ねるように大きく斬りつけてみせるのは綾華である。
 一度の攻撃では飽き足らず、彼はそのまま流れるように斬り落としからの逆風、逆風からの突き、突きからの引き袈裟と繋げて敵を切り刻んで見せる。一手一手に込められた力はさほどではないが、それらの攻撃は確かに敵の体にダメージを残し、そして敵の目を綾華に誘導するのに十分すぎるほどの効果を伴っていた。
「アアアアアアアアッッ!! 殺すッ! 殺してやるッ、テメェッ!!」
「そーそー。お前の相手はこっち」
 激昂して攻撃を連続で行ってくる『修羅』を見つめながら、綾華は攻め手を緩めて次の一手に向けた防御行動を見事に行っていく。
 敵の拳による叩き落としは鍵刀の刃を僅かに当てながら逸らしつつ敵の身を裂き、フェイントを交えた敵の連続ジャブはその全てを見切りながら必要に応じて刃にて真っ向から受けて見せる。
 下半身を大きくひねった回し蹴りへは着弾点を予測して刀の柄頭で受けることで対応し、そして本命――敵の角を利用した頭突きへは、刀の鍔で止めながら勢いを削ぎ、その上でわざと僅かに自身の手首を切らせてやる。
「柄受けに鍔受けたァ器用だがよォ! そのまま防御するばかりじゃ俺には勝てねェなァ、アアアア!?」
「いろいろあんのよ、これの使い方。それに防いでるだけのつもりもなくってね」
 攻撃をわざと受けた綾華がにやりと笑むには理由がある。彼はほほえみを崩すことなく、敵の頭突きを受けて出血した手首から滴る血液を操る鳥籠に散らしてみせた。
 すると、次の瞬間である。綾華の血液に反応して変形した周囲の鳥籠は、瞬く間に鉄屑と花弁の刃と変じ、四方八方から敵を襲いつつ視界を奪っていくではないか。
「目つぶし……! 小癪な野郎だッ! こンなもん、一個一個潰して――!」
「お褒めの言葉をありがとう。……で。こっちばっかに集中してっと――氷漬けになっちまうぜ?」
「そう、綾華の言う通りだ――! 『よそ見してたら、足元を掬われるぞ?』 喰らえ、『修羅』! 【亡き花嫁の嘆き】!」
 綾華が散らした大量の鳥籠。その本当の目的は、敵に対する攻撃ではない。その本髄は、先ほど岩陰に身を隠したヴァーリャの援護である。
 彼女は『修羅』が籠の対処に追われている中、敵の背後より高速で滑り来る。そしてそのまま凍らせた地面をブレードで蹴って敵の懐へ入り込むと、身を捻りながらの見事な回転蹴りを、敵の背中へと繰り出して見せた。美しくも悲しく、激しい、ヴァーリャの得意技の一つである。
 靴裏に精製した氷のブレードによる蹴りが命中した対象に対し、ダイアモンドダストのような冷気を放つ彼女のユーベルコードが発動し、綾華が切り刻んでみせた敵の傷口は更にヴァーリャによって破壊されていく。氷の魔力が敵の傷口から中へ入り込み、内部から敵を凍らせていくではないか。
「グ……!! 離れろッ、クソ……!! アガアアアアアアアア!! 邪魔だ、邪魔だ邪魔だ邪魔だックソがァァァァァァァ!!」
「ヴァーリャちゃん、撤退するよ」
「オッケー、綾華! へっへー、ぶい!」
 敵の背面から入り込んだ魔力は、脊椎や背中の筋肉へもダメージを及ぼしたと見える。先ほどと同様拳を振り回して放たれる風圧の勢いの弱さがそれを物語っていて、二人は敵に打撃を与えたことを確信したのだった。
 終わりは近い。敵の体はすでに損傷が激しく、勝利は目前といえるだろう。二人の活躍が、また一歩猟兵の勝利を近づけてみせたのである。

●死の奏で
 音がする。複数の金属音。敵といずれかの猟兵が武器を合わせた音か。ぬかるみに人の形をした何かが倒れる音。風の音。夏の音。赤けき音。唸る音。ひしめく音。
 戦場の音。死の蔓延する音。そしてその中を走るわが身の音。そんなもの、――慣れっこだ。
「焔に氷、華に詩。にぎやかですね」
 久しからずや、命を散らす浅ましき異音。無聊を託つは、常に刃を散らす快音であったことを思い出す。
 自分が通る道はいつも泥濘と血に塗れている。いつ死んでもおかしくはなかったやもしれぬし、きっと死ぬ時でさえ自らは散りゆくこの身に何を思うでもないのやもしれぬ。
 この作戦の途中でさえ、――いや、しかし。
「……引き受けたなら、走るだけか。もう着きますよ。そっちの準備を」
 それに、殺しの手練手管には些か昔取った杵柄というものがある。きっと彼らと同様に。ついでに言うなら、敵もこの雑魚どもにも負ける気はしなかった。それ故、彼は走る。
 死ぬのは恐ろしくない。だが、奴らなどに殺されるのは癪だ。断固として御免こうむる。『殺すこと』において、自分以上の相手であるならまだしも――怒るだけの愚物へ、ましてや意思を喪った人形になど、傷を負ってすらやるものか。
「忍法、隠形の型――紙技・化鎮。殺せるのは、何も形ある物だけじゃないんですよ」
 その身に備わる忍び足で殺すのは、音。矢来・夕立(影・f14904)の身のこなしともなれば、屍人の支配するこの空間は穴だらけも同然だ。影は染み入る場所を選ばない。
 一直線に進むは『修羅』の元。大将首ひとつを目指す故、夕立は時に走り、時に伏し、時に隠れて時に跳ねる。彼がいつから戦場に紛れているかなど無粋な質問だ。最初からに決まっている。他の猟兵たちの攻撃も、時には屍人やその亡骸すらもを盾にしながら敵の視線を殺し切って、遠く離れた味方に首尾を伝えていく。
「殺すッ! 殺す殺すッ! 殺す殺す殺す殺すッ!! 馬鹿にしやがって畜生、なめんじゃねェぞクソがクソがちくしょう!! 戻って来やがれや、オラァァァ!!」
 ぬかるんで音が鳴るような場所は、盾にも使えなくなった程に痛んだ屍人を用いてその上を歩く。死によって舗装された道を通るのも手慣れたものだ。そしてほら、目的の場所に手が届く。
 怒りに狂う『修羅』の背後に付き従う屍人の群れ。その真っ只中、目標との距離はおおよそ三間というところか。オーダーはこなしたといって良いだろう。
 影は闇を作り出し、闇はその中から何かを現世に呼び覚ます。時には天使。時には悪魔。時には死神。人ならざる死の運び手は、闇から出づるが定石である。
「――ハッハー、あれが本物の隠形か! 惚れ惚れするぜ……っと、どうやら到着したな? そんじゃ、匡。"飛ぶ"ぞ──座標指定、矢来・夕立!」
「……ああ、いい距離だ。オーケー、完璧な仕事を見せてくれたんだ、こっちも相応に報いるさ。飛ばしてくれ、ヴィクティム」
「ッ、!? テメェら……! どこからッ!」
「――今作戦におけるオレの役割はシンプルでしてね。座標マーカーだったんですよ、オレは。さあ、そちらのオーダー通り、あの野郎を撃てる距離です。背後を取るっておまけ付き。あとの仕事は――端役さんと傭兵さんがしてくれるんでしょう?」
 時計の針を少し戻そう。彼らの進軍がどのような手筈で行われたのか、それを説明するには必要な手順だ。
 時は作戦開始前。夕立が敵陣に忍び込む前のことになる。場所は敵陣よりやや離れた街道である。
「良いか? もう一回確認しておくぞ? このプランの要は――夕立、お前だ」
「……一応、こちとら忍びでやってるんですけどね。それにも関わらず、作戦の要に据えるとか……。……作戦。上等なのがあるんですよね?」
 三人の猟兵がそこに集まり、そして何事かを話し込んでいた。話の論点としては、どうすれば『修羅』の元に首尾よく移動を完了できるかというところにあるようで。
 作戦はこうだ。まずは『誰か』が屍人の群れを乗り越えて、『修羅』の近くまで接近を行う。敵の背後がとれれば尚良しだ。そして、その後に移動を完了した味方の元へ、ユーベルコードを用いて待機している二人が瞬間的な移動を敢行し、戦闘行動を開始する。
 完璧な作戦ではあるが、一つ問題がある。それは、誰が実際の潜入を行うかという点。そして議論の結果、白羽の矢が立ったのが――夕立であったというわけだ。
「周りは派手にやってるな……。ま、その分仕事はしやすいだろうけどさ。それに、確かにその作戦なら敵の不意を付ける、か。頼んでいいか、夕立?」
「見せてくれ……お前の鮮やかな業ってやつをな。なーに、ナビゲートで補助くらいはしてやる。この超小型通信機を持っていきな」
「……買われてますね? 随分と。どこから噂が漏れたのやら。――引き受けました。傭兵さんと端役さんにも、恩は売っておきたかったので。……あと、この小型通信機、気に入ったら返しませんから。手数料ってことで」
 と、そのような顛末によって。夕立は見事に屍人の群れを無傷で進み、そして他の二人も同様に消耗無しで敵の背後に現れたという運びである。
 実に見事な作戦によって、彼ら三人は持てる力のほぼすべてを『修羅』にぶつけることが出来るだろう。適材適所とは言うは易しだが、彼らは正にそれを成し得て見せたのだ。
「――二人とも、やるぞ! 電撃作戦だ! ラン! ラン!! ラン!!!」
 雄叫びを上げることで開戦の狼煙と代えながら、ユーベルコード【Warp Program『Archangel』】によるジャンプを完了させ、『修羅』の背後に存在する屍人の群れの中から突如として姿を現したハッカー。その名は、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。
 彼が走らせていたプログラムは、散布型の強化パルスを周りの味方へと配りながら、任意の味方の元にテレポートする力。だがもはやテレポートシステムは既に完了済だ、メモリを裂く必要はないと判断してそちらのシステムは一度落とす。
 代わりに全てのサイバーニューロンをオーバーロードさせて最上位の目的に置くのは、強化パルス実行のプログラム。自らのサイバネを無理やりハッキング、電子ドラッグを脳内にキメることで必要以上の効果を出すドーピングも盛り盛りの悪魔的な力である。
「任せろ」
「こっちはもうずっと走ってましたけどね」
 ヴィクティムの散布する強化を受けて、『影』は右方に存在する全ての屍人の足首や手首を匂に朱が混じる脇差にて斬りおとし、薙ぎ捨て切りを放って無理やりに千切っていく。ひたすらに動きを殺し、そして『修羅』へと駆ける影は夕立である。
 影の傍ら、左方に存在する屍人の群れへ突っ込んでは刃渡り7.5インチ、諸刃の戦闘ナイフを巧みに操りっては屍人の太ももや脇下を抉るように突き、向かってくる屍人は攻撃を見切ってすれ違いざまに頸動脈を掻き斬る傭兵。その名は、鳴宮・匡(凪の海・f01612)。
 二人は息を合わせるでもなく、ただただ同様に同じことを同じようにこなしていく。その結果、彼らはまるで一つの意思を持つ殺人機構であるかのような正確さと躊躇の無さで、屍人の群れを死体の群れへと変じていく。
「胡散臭ェ野郎どもだ、死臭がしやがるぜェ!! さっさと死に晒せやダボがァ!! 景気が悪くなっちまうンでなァ!!」
 二つの影が屍を殺して、そして開いた進路から飛び出すヴィクティムへ向けて、『修羅』は拳から放つ風圧にて対応していく。当然だ、いくら不意を突かれたとて『修羅』も彼らに劣らぬ強者であることは間違いない。屍人の群れが見る見る間に死んでいくその異変をすぐさま捉え、振り向き様に右の拳で空をたたくその動作。常人であれば見切れぬその速度の芸当を、しかしてヴィクティムは拡張された現実の中で確かにとらえていた。
 守護天使よりもっと悪辣で有能な、『自分も含めた味方の能力』を強化するヴィクティムのユーベルコード。その力が、彼の視力を、そして身体能力をまとめて向上させているが故。敵の風圧は当たらない。
「ヒュー! 全身黒尽くめのヤツに言われても応えねェセリフだな? 死ぬのはどっちか、賭けでもしてみるかい? エースオブスペーズの押し付け合いと行こうや!」
 他の猟兵よりも『少し早い』駆け足にジャンプ、極めた猟兵が見れば『すぐに見破れるような』ステップフェイント。『本業には適わぬ』ナイフ裁きの早業。
 ヴィクティムの用いる能力は、ハッキングを除いてそのいずれもが『それなり』の代物だ。だが、それがいい。戦いというものは、単一的な記号と数字のみで語られるSLGではない。複合的な要素とコマンドの組合せによるリアルタイムアクションだ。
 だからこそ、彼は能力の使いようを心得ている。強化された肉体でできるギリギリのラインを通って、『辛うじて』敵の攻撃をステップで避け、『なんとか』風圧を機械仕掛けのナイフで切り裂いていく。泥臭いというやつもいるだろう。みっともないとすら言われるやもしれぬ。だが、それこそが彼の神髄だ。――端役は、手段を選ばない。
「お前を攻略する道筋なんていくらでもある。ついでに一つ教えてやるよ。その風圧は止めた方がいいぜ? 遠距離戦ならまだしも、近距離戦では――アドバンテージがないだろ、それ?」
「~~~~ッ!! イラつかせるのが上手いクソヤローが!! それなら近距離でこの拳を受けてみろボケがァァァァ!!」
「おーよ、出してみな? 受けてやるからよ、早く殴りかかって来い」
 『修羅』を挑発しながら距離を詰め、ヴィクティムはその手に握ったナイフを再度構えなおす。敵の拳は今まさに振りかぶられて放たれようとしている真っ最中だ。風圧をまとった拳。だが、近距離ではただの殴打となんら変わらない。
 そう、『変わらない』のだ。威力はともかくとして、『避ければ』――敵の攻撃はただの殴打となんら変わりはしない。だからこそ、ヴィクティムは近距離での殴りを待っていた。
「ッ、テメェ!! 避けやが――」
「……クク。『ウソですよ』ってな。受ける訳ねえだろ? 俺は非力なもんでな――匡、夕立。やれ」
「人の台詞、パクらないでください」
 敵が拳を溜めたその瞬間、ヴィクティムは作戦がすでに締めの段階に入っていることを確信した。この作戦の最終段階は、自らの身を囮にして敵に隙を作り出し、さらなる連撃のきっかけとすること。
 第六感にて敵の拳を察知した彼は自分の顎目がけて飛んでくる拳を見切って紙一重で逸らし、カウンターの如くに逆手に持つナイフを用いて敵の腕から目に向かって一文字に切り裂いて見せた。目を潰せば敵の視界は不鮮明になり、そして痛みで僅かに麻痺するだろう。
 舞台は整った。祭り囃子は用意した。あとは静かに――作戦を遂行するまでだ。
「目がッ……!! クソッ、良く見えやしねェ……!! どこにいやがらァァァァァ!!」
「さぁ、チューマ───Geek(ぶっ殺せ)」
 ナイフと脇差が、ヴィクティムの後ろから敵の隙をついて飛び出した。
 夕立は未だ視界がぼやけている敵の大振りな蹴りを前転で回避しつつ懐へと忍び入り、そしてもう一度ユーベルコードを発動しながら敵の右目を斬り付ける。【紙技・化鎮】。自分と任意の味方一人を透明にするこの力だが、今回は自分のみを消すだけで充分であった。
 彼の役割はだまし討ち。そして、匡の援護にある。であれば、透明になるのは自分一人で良い。
「この状況は……宛ら鉱脈といったトコでしょうか。ココに黒曜の鬼が埋まってます。一山当てていきましょう」
「先に当てれば合わせるぜ、夕立。そのあとは援護頼む」
「ガアアアアアアアアッ!!」
 詳細不明の影の刃が見えずのままでいる自分を切り裂いたのを痛覚で認知した『修羅』は、手当たり次第にあたりの空気を殴り飛ばして風圧と変え、周囲に存在する気配全てを弾き飛ばそうとする。
 だが、無意味だ。既に匡は敵の腕の振りを記憶し、そして見切ることができるようになっている。論理も術理もない、ただの癇癪のごとき悪あがきならなおの事。
「そんな大振りに当たってやれるほど温くないんでね――見えた。そこだな」
 鳴宮・匡という男の武器は、武装ではない。武装は彼の持つ手段でしかない。匡の武器とは、その人並み外れた観察能力にある。相手の呼吸、動きの癖、パターン別の対処法についての確立、思考に対する一定の方向性――その全てを、彼は『良く見て』把握する。
 相手の生きた情報が手に入れば、あとは自前の戦闘知識と組み合わせて対処法を練るだけだ。そして、いつも対処法はシンプルな方がいい。今回だってそうだ。ユーベルコードで、敵の頭部を狙撃することにしよう。鳴宮・匡はそのように考える。
 『おそろしいな』、と夕立は思う。効率的に何かを殺すのは自信があった。だが、匡。そして、ヴィクティムという男たちは――きっと、自分に負けず劣らず『何かを殺すことが上手い』のだ。それは例えば敵であったり、障害であったり、はたまた自分自身であったり――。おっと、思考がずれた。集中しろ――。敵は今まさに匡に殴り掛かる瀬戸際だ。援護のタイミングは一瞬。敵が空中に飛び上がり、逃げ道を失ったその時を見計らえ。
「死ねェェェェッッ!! アアアアアアッ!!」
 敵の右殴り掛かり。それを匡は同じく右方向へのステップで躱す。続いて上半身を捻った左の裏拳。回避は想定済みだったか。ならば身を屈めて避けるまで。おっと、上半身のひねりのエネルギーを活かした左足の蹴り。これは避けきれない。銃弾を敵の脚部の付け根に放ち、体幹を無理やりズレさせることで退路を作る。
 グラついた蹴りの勢いを縫って前方向へスライディングし難なく回避。ぬかるむ地面が不快だが致し方ない。背後へ回ったが、それでも敵の攻撃は続くようだ。右足で飛び上がっての縦回転によるサマーソルトでこちらの脳天を割るつもりか? ――それは好都合だ。
「~~ッ、ッ!?」
 超高速で繰り広げられる『修羅』と匡の至近の戦いを援護するのは、夕立の放つ脇差の一撃。彼は無言のままに匡の動きを補佐するべく動き、そして縦横無尽に回転を繰り返す敵の攻撃を匡と同じく避けながら、空中で縦に回転した相手の目玉、すなわち先ほど斬り付けた場所をもう一度切りつけて敵を怯ませていく。
 敵の右目への集中攻撃。そして、夕立の生みだした隙を見逃す匡ではなかった。
「踊ってくれたおかげで、こっちも好機を待つことができた。――ああ、釣りは要らないぜ? そのまま還ってくれりゃ文句はないからさ。二人とも、合わせろ」
 【千篇万禍】。観察からなる行動予測にて、敵の急所へ銃撃を行うユーベルコード。どんな生物でも頭を潰せば終わりだ。どれだけ硬い外殻があろうが、同じ箇所に攻撃を重ねればいつか通る。ましてや、それが目ならば言うまでもない。
 夕立が重ねて斬りつけ、ヴィクティムがこの身を強化してくれている。十、二十、それで足りなければ足りるまで全て撃ち込むだけだ。今ならそれができるのが良く分かる。『影も形も見えないが、二人からの協力は確かにある』とハッキリ理解できる。故に、彼はためらわずに引き金を引く。
 この距離だ、一発たりとも外さない――。
「「「死ね」」」
「………………ッッッッ!!」
 凪の海、影の刃、冬寂。三つの声が一度だけ重なって、敵の右目へと暴力が折り重なるようにして放たれていく。匡の銃撃に合わせるようにして、他の二人も同様に敵へ攻撃を重ねている。
 その後に連携の声はなく、音はなく、至って戦場は静かであった。静寂が支配する。敵があまりのダメージに沈黙しているのだ。頃合いだろう。敵の死角を増やし、痛手を与えた。クレバーに考えても――これ以上ない戦果だと言えるだろう?

●いざ必殺の付け焼刃
「───来い、ファントム! 水衛さん、後ろに! 鎧坂さん、開戦の号砲を!」
「はい、何卒よろしくお願いいたします。露払いはお任せを」
「……では、音頭を取らせて頂きます。UC発動――吠え猛れ、我が愛機」
 三人の猟兵が戦場を走る。二機の鉄馬にその身を任せ、一つ目指すは敵の首。きっと屍人の群れに突入するカウントは既に0を指し示していて、それは即ち戦いの幕が開いたことを誰もが分かりやすく理解していた。
 S R・ファントムに跨り、ユーベルコード【幻影疾走・速型】を用いて敵陣の中においても加速を止めぬのはネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)である。
「いざや行かん、向かうは敵の首だ!」
 彼は自身の優れた技能の一つである騎乗を見事に活かし、物言わぬ屍や隆起した岩壁などの障害物は巧みなハンドルさばきとアクセルワークで避け、ネグルらの行く手を阻もうとして立ちはだかる屍人たちには、車体をスピンしながら放つ衝撃波を一気に放って雑魚を轢き散らしていく。
 機動性はこの戦場において最も優れた美徳の一つであると言える。況や、回避行動や迎撃行動をとっても尚速度が落ちぬとあれば、屍人の群れなどなにができようはずもなく。ネグルとその『相棒たち』の道の上では、障害物など無きに等しくあったのだ。
「……サムライエンパイアでは、道路交通法は無効ですよね?」
 視界確保のためノーヘル状態で――というか、三人ともノーヘルではあるのだが――ネグルの駆る愛機の後部座席に乗り込んでいるのは、水衛・巽(鬼祓・f01428)。彼は激しい挙動に振り落とされぬようにと貼りつけた霊符で自分の脚をある程度車体へ拘束し、安定性を高めた状態でバイクに立ち乗りを行っていた。
 彼らの目的は、雑魚掃討、のち指揮官の強襲。実はこの作戦において、この二つは同一の目的でもある。この作戦の肝は、バイクによる機動性だ。
 速度を落とさぬように進路の邪魔になる雑魚を払っていくのと、そもそもの進む目的である『修羅』の撃破に向けて高速で進むことは、彼ら三人にとっては同じことである。
「さあ、そこらは解らないが……。罪の在り方について論じるなら、少なくとも――、人を化け物に変えるよか、万倍マシだと思うがね!」
「まあ道交法自体ありませんしね、この世界。ミスタ・ギュネスの言う通りかと」
「たしかに、お二人の言うとおりですか。では、容赦なくいきましょう――『焼き尽くせ、朱雀』」
 三人の装いはいずれもフォーマルな正装である。まるでどこかのパーティに招待されたかのような出で立ちで、彼らは歓談を交わしながらその手に握る鮮烈なグラスを傾ける。
 ユーベルコード、【朱雀凶焔】。巽の繰り出す煌々と輝きながらの真っ赤な炎は、破魔の力を持つ朱雀の火。ネグルの走らせる幻影から次々に放たれるそれらは、周囲の屍人どもの首元へ鋭い焔の嘴を向け、瞬く間に敵を無力化していくではないか。
「これは見え透いたことをおっしゃる。容赦も遠慮も、最初からするつもりなどなかったでしょうに」
「さてさて」
 穢れを許さぬ焔であれば、やはり屍人への攻撃にはよく適していて。前方にて進路の邪魔になる屍人の殆どは、首元を食いちぎられては骸ごと消え去って灰と化していく。
 だが、時折全身を灰に変えることなく現世に残る者もいる。下半身のみで、もしくは腕のみでこの世に未練があるかのごとくに生き残っている敵たちも、稀に戦場に現れた。ここは呪いと穢れの温床なれば、時に未練が残るのも無理のない話ではある。
 そして彼らは手を伸ばし、足を運んで聖者の歩みに纏わりつこうとする。意思はなくとも同じこと。わずかに撃ち漏らした水晶屍人の成れの果ては、ネグルと巽の周りに移動してはその進路に立ちはだかるではないか。
「これは――しつこいッ! 鎧坂さんッ! 未だに死に切れてない奴がいる、前方に7! 右と左にそれぞれ8!」
「おやおや、土葬ではないのに立って歩き、おまけに未練もちとは。良いだろう。燃えて死なない奴はぶつけて殺す。ぶつかって死なない奴は引き摺って殺す。お気遣いに感謝を、ミスタ・ギュネス」
 だが、それらを鎧坂・灯理(不退転・f14037)は跳ね飛ばす。こじ開ける。押しつぶして罷り通る。この場を走るバイクは一つだけではない。
 S R・ファントムの隣を並走していた灯理の愛機たる改造単車、『白虎』は開戦の号令の時のようにひとつ雄たけびをあげて急加速すると、超音速状態まで一気にその身を駆り立てては邪魔な障害物どもを一切轢殺せしめていくではないか。
 【DCサーキット】。デッドリーチェイスの名を冠するユーベルコードによって、灯理は僅かに浮遊したバイクを巧みに操っては巽が開けた敵壁への穴を押し広げていくではないか。
「さすがです、と言うべきですかね? このまま最短距離でいきましょうか」
「御謙遜を。先程から後方から来る邪魔が入らなくなったのは貴方の仕業でしょうに」
 巽が後方から広範囲へ朱雀の炎による各個撃破を成し、僅かに残った残滓のような敵は灯理が轢きつぶして形すら残さず道を作る。ネグルはその道を全速力で駆けながら、そしていずれ来る敵との打ち合いへ集中する。
 実に完璧な布陣といってよかったろう。灯理の走らせる『白虎』は僅かに浮いている故、泥に車輪を取られる事もない。慣性を無視しているから無茶苦茶な制動も出来るため、この悪路を先導するにはうってつけの機動力であった。
 また、彼女が屍人の海の中で音も置き去りにして突っ切ることができるのは、巽が灯理が通れるような道筋を予め後方の広い視点より見極めを行っているからでもある。最短距離をこじ開けられるように朱雀の焔で道を踏み鳴らすのが灯理ならば、事前に整えているのは巽なのだ。
「これはこれは、全く! 私は頼れる同僚を持ったものだ! ――そろそろだ、飛ばすぞ!」
 『陰陽師』が後方から追いかけて来る屍人の頭部を狙って焔にて吹き飛ばし、『探偵』がダートコースを縦横無尽に駆け巡っては敵の障害物を鎖で引き連れ、屍人どもを『轢き回し』ていく。
 鎖でつなぐ敵の数が多くなれば一気にネグルから離れた場所まで急加速した後に急旋回を行い、そのタイミングで鎖を千切ってやれば、引き連れていた敵の体自体が高速で敵陣の中に放り込まれる弾丸となる。鮮やかな強襲。――さて、見えてきた。
「見えてきましたね。では、手筈通りに。私は奴の側面から」
「了解! 私たちは真正面からだ! いこう、水衛さん!」
 灯理の敵の視認とネグルの合図に合わせ、彼らは更にその速度を上げて『修羅』へと突き進んでいく。
 まず初手を打つのは巽である。彼は周りに撃破する屍人がいないことを確認すると、一度発動を溜めてから自らの最大火力による術式を空中へ展開する。
 未だ無防備に近い『修羅』の側頭や腹部を狙い撃ちするように、数十にも及ぶ彼の焔が空を飛んでは敵にぶつかって弾け、焔の羽を敵の体で羽ばたかせて散っていく。
「……、ッ、!? 休む間も、ねェ……!! 腹立つぜ……イラつくぜ、ムカつくぜェェェ!! テメェらの死体をこの目で見るまで、俺のこのイラつきは収まらねえェェェアアアァァァァ!!」
「あまり頭は良くなさそうなのでこれで苛立ってくれれば……と、思ってはいましたが。ここまで効果覿面とは。これならぶぶ漬けを出す必要もありませんね」
「~~ッッ!! 黙れ黙れ黙れ黙れェェェェ!! 舐めンじゃねェぞクソがァ……ッ!! オラァァァァァァァッ! まとめて潰れろッッッ!」
 時に『挑発を行わない』ということ自体が挑発となることもある。怒りを自らの全てとして暴力を振るう『修羅』にとっては、巽の攻撃や言動の全てが攻撃する理由となりえたのだ。
 【怒り殺す】を発動し、自らの身体能力を怒りで強化した『修羅』は、まだ遠くにいるにも拘らず全力による殴打の構えを見せる。それも、普通のそれではない。怒りによって最大限にまで威力を増している風圧による遠距離攻撃。一つでもまともに食らえば、待っているのは確実な死だ。
「ここまでは打ち合わせ通り。単細胞は扱いやすくて良い」
「ああ、そしてこれからも作戦通りに! 二人とも、敵の目を頼む!」
 だが、いくら敵の攻撃が怒りで更に強化され、音速を超える速度での風圧が彼らを襲ったとしても、それ如きで歩みを止める彼らではない。ネグルは流星の様な敵の攻撃を見事なドリフト走行によって全て躱して更に接近していくではないか。
 そんなネグルの高速接近よりも早く、『修羅』めがけて超音速で駆けるのは灯理である。しかし、彼女の目的は攻撃ではない。
「オラァァァァ!!」
「残念、はずれだ。今回は上品な皮肉に定評のある京都人と、力技の一号が居るからな。私は周囲の掃除に専念するつもりでね。いらぬ手間をかけさせないでくれると嬉しい」
 彼女の目的は、急速接近の後に行う急旋回による、敵の攻撃をギリギリで避ける事で隙を生じさせるというもの。即ち、囮である。
 高速の風圧を避ける必要はない。そもそもの話として、敵の拳の前兆を見切ってその延長線上から外れれば良いだけのこと。灯理はそれをよく分かっているからこそ、無茶な運転と無理に近いライン取りで敵の攻撃を高速で回避しながら敵の周囲を旋回し続ける。
 周囲の屍人を轢殺して空間を開けつつ、まるで『隙を伺っているかのような動き』を行い続ける理由はただ一つ。『黒刀』の輝きを、敵の目から逸らし続けるためである。
「アアアアア! 炎も車も邪魔くせェ……!! ならよォ!! うざいクソバイク二台ごと、この辺一帯まとめてぶっ潰してやればそれでいいだけだろうがァ! お前ら『三人』なんざ――ッ!?」
 遠距離から絶えず放たれている炎は自分の身に纏わりついて離れず、至近を旋回し続ける単車は自分の意識からいつまでも退かない。そのような状況に焦れた『修羅』が取ったのは、盤面を一気に覆すための大技。一瞬の跳躍によって成層圏まで飛び上がった『修羅』は、そこから降下しながら天高くよりの踏みおろしを猟兵に向けて放ってみせる。
 敵は『全身を震わす怒り』によって自身の力を増し、空から流れる星のように速い蹴りを放って自分たちの頭上から落ちてこようとしている。確かにそれは恐ろしい。一撃の威力や制度は異常なまでに向上している。だが、――『怒りは、敵の目を曇らせていた』。故に、この作戦は酷く敵に効く。巽の焔と灯理の囮は、敵の視界から一人の男を見事に消失させたのだ。
「お前はもう、勝ち目を見失った。ミスタ・ギュネス」
「ええ、今が千載一遇の好機かと。補助いたします」
 二つのバイクにばかり意識を取られていた。自分の真下に存在する、高速で戦場を駆け抜ける二つの影。うろちょろとうるさく挑発を繰り返し、焔による攻撃と超速機動による回避なんぞを当てにして俺の前に向かってくる奴ら。
 それをつぶせば、それがまとめて猟兵を破壊することにもつながるだろうと。そう思っていたはずなのに――。『なぜだ?』という疑念が、『修羅』の頭の中に現れる。
 ――『なぜ、自分の真下には二人しか猟兵がいないのだ?』そんな考えが彼の頭に浮かんだ時、すでに猟兵たちの作戦はほぼ完了していたといって良いだろう。幻影の乗り手は、既に地にはいないのだから。
「二人が敵の目を惹いてくれるうちに、加速を繰り返してバイクから自分の身体のみを射出――随分ぶっ飛んだ戦術だろうが、勝てば官軍だろう? 水衛さん、破魔を私にッ! 鎧坂さん、妨害をッ! 見事に一撃入れてみせようじゃないか!」
「――ンだと、テ、メェェ……! 空中に……!? 俺とタイマンやるつもりかよ、この、クソバカ野郎がァ!!」
 その通り。ネグルは既にバイクには乗っていなかった。今巽を乗せて戦場を駆けているのは、S R・ファントムに積んである自動運転型のA.I.である。
 繰り返し続けた加速と共に、バイクから自らを射出した彼は、弾丸のように空中から舞い降りる『修羅』へ向けて突貫の形を取っているのだ。彗星の様な飛び蹴りへ、彼は雷光伴う黒刀の一閃にて立ち向かう。
「ええ、お任せを」
「もちろん。都合よく、先程敵の右目をつぶしてくれた者たちがいるようですし。決して、邪魔は、させない」
 それを援護するのは二人の猟兵だ。破魔の力を帯びた巽の朱雀が、ネグルの刀身へ乗り移って彼の力を増加させる。一瞬の間だけ――、黒刀には、破魔の火焔が乗り移った。
 そして、灯理が一発だけ地上から放つのは、可変式銃器『朱雀』による敵の左目を狙った銃弾だ。矢面に立つのは自分ではない。だが、まあ。仕事のうちには、彼らの邪魔をさせぬというのも入っているもので。
「ギ、ッ、ガ……!?」
 そして、空中で力が衝突する。かたや高速で落下しながら放たれる飛び蹴り。かたや雷の如く閃く速度から放たれる、火焔を纏った居合切り。
 だが、敵は一人で、そしてこちらは三人だ。こちらには補助も妨害もある。左目にわずかなダメージを負って、敵の動きは精彩を欠いた。手の内を絞り、そして抜き放とう。破壊するのは、目の前の過去だけで十分だ。
「二人とも、感謝を! ――ハアアアアアアアアアアアアッ!」
「~~ッッ、クソッ!! クソがァ! クソ、クソ、クソォォォ!!」
「お見事」
「ええ、まさに」
 破魔を宿した焔交じりの黒刀を引き抜いたネグルは、射出の勢いのままに指揮官の首を断ち切るがための一撃を抜き放つ。蹴りと居合切りが交差し、黒刀が先に敵の首へと閃くに至る。斬りおとし――てはいない。
 だが、彼が斬り付けたのは先ほど『桜』たちが手傷を負わせた部分と全く同じ個所。敵は首元から多く血を流し、肩で呼吸するのもやっとという有様で戦場の土に落下していく。三人の協力が、一合の打ち合いの中で敵の攻撃ごと窮地を切り開いて見せたのである。


●病断ちメルトダウン
「ア、アアア……! クソ、クソ……! ゲ、ガ、ハァッ……! 許さねえ……ッ! クソが……!! 殺す……!! ぶち殺してやるよ、猟兵ッ!!」
 『修羅』はすでにその全身に傷を負っていた。片角と片眼を失い、脊椎を始めとして全身の骨はほとんど砕けているだろう。刀傷や弾痕も数え切れぬほどにその身に受けて、それでも彼はまだここに立っていた。
 常であれば立てぬ。痛みも、体の損傷も、その全てが戦闘を続行など出来ぬほどに激しくその身を苛んでいるというのに。それでも彼が立って猟兵に向かって吠えるのは、彼が使える杖は『怒り』しかない故だ。
 痛みも、手傷も、屈辱も、その全ては怒りとなって『修羅』の体を巡り、骨の代わりに体を支える。怒りは蔓延する病だ。その根源から立たねばいけぬ。だからこそ、猟兵たちは走るのだ。世界を、怒りという病が覆い尽くす前に。
「貴方たちの相手をするのはわたしじゃない。貴方たちの相手をするのは、水晶にうつるわたしの幻影。水面にうつるつきのように、いくらてを伸ばしても――わたしには決してふれられないよ」
 自らが放つ幻影を、あえて敵陣の中へ目立つように真正面から複数方面に向けて一気に展開。本体の代わりに屍人たちの注意を大きく引き、その上で攻撃を食らうと自爆による攻撃を行うその虚像。
 姿かたちは全く同じ。しかしてその本質はまるで本物とは程遠い。水面に映る月のごとく、砂漠で揺らめく蜃気楼のように虚ろなそれらは、月に等しい輝きを放てど虚像でしかない。けれども、視線を引きつけるには十分だ。【虚水鏡】にて、自らと同じ姿の幻影を放っているのはヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)である。
 倒れていくのは手を伸ばした屍人から。彼らは一様にヌルの虚像へと惹きこまれるように、その爪を、その腕をただひたすらに伸ばす。好都合だ。その方が、多くの屍人を巻き込んで自爆させることができる。
 そこいら中で爆発の音がする。時折屍人のうめき声もする。作戦はどうやら成功だ。音と火力は敵をさらにひきつけて、本体から目を逸らしてくれる。とりあえず、進軍に対しての目論見は当たったといって良いだろう。ヌルの目的は、混乱をもう一度この場に引き起こすこと。虚像を大量に生み出して戦場にばら撒いたのは全てそのためだ。
「梶本もサムライエンパイアも、ボクの大切な取引先さ。彼らの明日の為に、修羅を打倒する! この混乱に乗じて、今なら……! 行って、『多次元ポケットくん』!」
 多次元ポケットくんとは、彼女――リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)の手持ちに存在する配達ドローンのことだ。リアはそれらに予め迷彩を施し、戦場の上空に複数体を先行させておいたのである。
 そしてヌルが敵陣に混乱を齎した機に乗じ、リアは多次元ポケットくんから探査波を三次元的に放射、広範囲に射出。何もなしではその痕跡を屍人たちに気取られたかもしれないが、何せ今のこの状況、彼らは虚像の月に夢中の様子。ならば、この機を逃すほかはないというものだ。
「屍人の群れが想定以上に多い……! でも、他の猟兵たちも数を減らしてくれた今なら、きっと……」
 複数の戦場に放った目から、ARディスプレイであるディープアイズ越しにリアの視界へ伝わってくる情報は非常に多岐に渡ると言って良かった。
 動体センサは、もはやデフォルトの設定では反応が多すぎて役に立たぬほど。反響波も同様だ。この戦場には屍人が多すぎる。空いた空間が余りにも少ないために、音波の反響が著しく偏ってしまっているのだ。カメラアイに映るのは、その8割が屍人の群れ。あと2割はヌルが引き起こす爆発で、『修羅』の影すら見えはしない。
 普通ならば捜索を諦める局面だ。だが、リアはそうしない。彼女はこういった時の情報の扱い方をよく心得ているためである。彼女は全センサーの設定基準値に無理やりアクセスすると、その場でプログラムを書き換えてこの場に適した状態にしていく。動体センサからは、動きの緩慢な存在をシャットアウト。反響波は爆発音に隠れる程度に音波の出力を上げていく。カメラアイは視野角を更に広くして、得られる情報を増やしていく。
「…………見つけたっ! それに、あの虚像は……。データ送信……OK! ユーベルコード発動シークエンス、開始!」
 そして、リアは無数の死骸の中から『修羅』を発見する。黒ずんだその全身を、その怒気を、彼女は全てのセンサーでとらえて見せたのだ。位置は把握した。そして、『思わぬ副産物』も見付けることが出来た。
 あとは攻め入るだけ。敵の懐に入ることとしよう。【神出鬼没の緊急配送】は、それを可能にする力だ。
「座標指定、ロク・ザイオン(明滅する・f01377)! お助けアイテムは、この戦場の3Dマップで!」
 さて、少しだけ時間を巻き戻そう。ヌルが戦場に混乱の種をまき、リアが『修羅』の居場所を見事に把握せしめた瞬間より、ほんの少し前のことである。
 『森番は、森の地形を得意とする』。当然である。そうでなければ森は守れぬ。営みを救うことはできぬ。病を斬り落とすことはできぬ故。林も梢も、藪も枝葉も、その全てが彼女にとっては足場であり、同時に手がかりにもなる。
「ここは……」
 ロク。ロク・ザイオンという名の彼女は、入り組んで湿ったその地形を最大限に利用し、戦場の脇を、本来ならば人が通れぬような獣道を、最短、最速で進んでいた。
 入り組んでいるならば歓迎すべきだ。覆い茂った自然の環境は、森番をその中にひた隠しにしてくれる。湿っているのもむしろありがたい。乾いているよりも、湿っている方が痕跡や手がかりは残っている。ものごととは、須らくそのようなものだ。葉の湿り、枝のしなり、虫と鳥の鳴き声と羽ばたき、泥中の揺らぎ。その全てが、ロクを走らせる。まだだ。まだ、『修羅』はこの奥だ。
 もしかしたらこの場所をほかの猟兵が通るかもしれない。そう考えた彼女は、後続の為に藪や梢等の邪魔なのみを幾らかだけ拂っていく。そしていよいよ林から出て、敵陣の中へと進むべきその時、ヌルの目の前に彼女が現れるのであった。
「……っ!? ……リア?」
「や、ロクさん。驚かせてしまったなら申し訳ない。助けに来たんだ、一緒に行こう? 敵陣の中を進むなら、人手は多い方がいいはずさ。ヌルさんもこの辺りにいるよ。それに、ロクさんの相棒も、ね」
「……そうか。なら……。うん。皆で行こう」
 そう、『修羅』から一番近い茂みの中にロクがたどり着いたのと、リアが敵の位置を発見したのは全く同タイミングでのことだったのである。考えてみれば、茂みを通っていたとはいえ屍人の注意がこちらに全く向かないというのも不思議な話ではあった。
 それはきっとロクの森の中での立ち振る舞いが熟達の域に達していたこともあるだろうが、ヌルが幻影で敵の目を惹くのとロクの進軍が同じ時であったことも関係していた、ということだろう。
 森の道は『森番』がまっすぐ進んできた。そして、これから先。屍人の中に存在する道は、『運び屋』たる彼女が先導する番だ。その道筋と敵の位置をロクと共有するための3Dマップである。
「……やっぱり、そうだ。病葉は目の前にいる。もう近い。……ような、気がする」
「ロクさんがそう感じるなら心強い。それじゃ、やっぱりこの先だ。センサー類の見間違いじゃなさそうだね。――行こうか」
 そして二人は屍人の群れに向かって躍り出る。道を示したのはリア。道を切り開くのはロクである。
 森番の手に握られるのは二振りの刃。一つは咎を焼き潰して灰と代え、命のらせんを紡ぐ烙印刀。そして永海生まれの緋迅鉄、その結晶たる閃煌が二つ目だ。
「……タ……ァァ……ス、ウ……」
「……ここは。森と。人の為の場所だ。病葉は。病は。土に。森の糧に、還れ」
 屍人に対しての彼女のその切り口は、実に鮮やか。端正極まるといっても良い。御綺麗な言葉で飾り付けられるようなものではないそれは、しかして確かに術理であった。経験と知識の二つからなる、極まって見事な技術の一だ。
 首の柔らかい肉を右からの剣鉈による薙ぎで裂き、左手で操る烙印刀を腹部へ押し付けるように刃を添えて。右背後より来る屍人は手首足首を的確に取り除いて動きを止め、真正面より新たに現れた敵は二刀を首と脇下に突き刺して息の根を止める。
「……病む前にたすけてやれなくて。ごめん」
「……アア……リィ……グ、……ア……」
「――っ! ――ああァアアア!!」
 彼女は心得ているのだ。病を帯びてしまった葉の落とし方を。どう斬り落せば良いのか、どこを斬り落せば良いのかも。そんな彼女だからこそ、あるいは屍人のうめきは声となって耳に届き――。
 そして、ロクは更にと太刀筋を鋭くこの場を走る。【惨喝】。ここには炎と病がある。病は彼ら。炎は彼女。だから、すべてを焼き尽くさねばならないのだ。やまいは、残してはいけないものだ。
 ロクはざらつく鑢の声音で叫び、屍人の動きを鈍らせる。鈍った敵の相手などは最小限で構わない。治療で真っ先に優先すべきは、病の根源を断つことだ。彼女の思いを知ってか知らずか、意思のない屍人がその声を恐れてか。仔細は分からぬが、結果として――ロクとリアの目の前の道が開く。水晶屍人の群れが割れたのだ。
「これなら……! ロクさん、ありがとう! 乗って! イルダーナで駆け抜ける!」
「……リア。急いでほしい。おれは、このやまいを運んできた相手を赦せない」
 二人を乗せたイルダーナが、最高速で戦場を駆ける。屍人の群れの中で唯一開いた道筋をたどるように駆ければ、目的はすぐに見えてきた。
 『修羅』。彼は水晶屍人を作った黒幕ではない。しかし、許せぬ。赦そうとも思わない。街道に死という病を蔓延させたのはコイツだ。怒りという病に身を浸して、破壊という症状を溢れさせているのはコイツだ。
「……お前が、ひとを食う“病”か」
「そうだっつったらどうすンだよ、アア?! かかってきやがれ、クソ猟兵ども! 俺は今、虫の居所が悪いんだ……!」
「そうだとしたらどうするか? ……簡単だ。おれは、おまえに喧嘩を売る」
 ロクが『修羅』に喧嘩を売るのは、単純に許し難いからだ。病が許せぬからだ。病を運ぶこいつが許せぬからだ。だからこそ、彼女は閃煌を両手で構えて敵へ突っ込む。敵が大技を出しやすいように。大技を出した瞬間、斬りこめるように。
 ――だが、『修羅』もそれは察知している。故に、ユーベルコードは使わず身体能力を強化したロクと打ち合う形となった。
「ハハハッハッハハァァ!! 喧嘩は買うぜェ!! だが、テメェ……何か狙ってやがんな、そうだろ!?」
「……っ! 刃が……!」
「二人がかりで、手が足りない……!」
 そうなれば、結果として至近でのシンプルな戦闘となる。こちらはロクの踏み込みとリアの援護射撃による立ち回り。しかして敵はその全てをいなし、ロクの刃は躱すか峰を弾いて止め、リアの射撃は真っ向から拳で打ち払っていく始末。
 事ここに至って、瀕死のはずの敵は――さらにその拳の冴えを増したのだ。体に広がる痛みは彼の原動力となるが故に。
「――ふたりとも。わたしも、手伝う」
「新手――ッ! ハハハッハハァ! 上等ォ!」
 意図せず膠着状態に陥った戦場を動かすのは、敵の背後より現れたヌルだ。彼女もまた、敵への不意打ちの機を窺っていたのだろう。飛び出したタイミングはまさに『修羅』が右足でロクの刃を弾き、左足でリアの射撃を打ち落としていたタイミング。つまりは、絶好機である。
 ぬかるんだ地面へ即席のシールドを展開し、足場としながら腰を入れた踏み込みでルーンソードを抜き放つヌル。――しかし、まだ足りない。『修羅』は即座に振り替えると、ヌルが放ったルーンソードの袈裟斬りを身をよじって回避を行う。そしてそのまま反撃を行おうとして――動きを止め、両足で大きく跳躍しながら距離を離すと空中からの風圧を放って遠距離攻撃に切り替えていく。
「分かる……分かるぜェ、至近距離だからかァ? お前らの狙いが手に取るようにわかるッ! 俺が反撃をかまそうとした瞬間に、虚像を生み出して反撃しようとしてやがるだろォ!? だが生憎と、さっきの爆発は見てンだよォ!」
「……ッ」
 『修羅』の反応はさらに高まり、膂力はさらに上がり。傷を負えば負うほどに、敵は力を増していくようであった。空中から大量に降り注ぐ風圧を防ぐ猟兵たちへ、先に着地して走り寄った『修羅』の山をも砕く蹴りが迫る。狙いは――ロクだ。
「まずは目障りな刀をもってやがるテメェから! その後はバイクに乗ってるテメェ! そンで最後は面倒な能力のテメェを嬲り殺しにして終わりだァ! さっさと死にな、クソ猟兵がァ! ハッハッハハハハハッハッハァァ!!」
「ロクさんッ!」
「――『大丈夫』。おれは信じてる。約束したんだ。沢山、助けてもらうって」
「全く――、"援護射撃"は任せろとは、たしかに言ったが。ロク。踏み込みの用意はいいか?」
 ザザッ。その瞬間のことである。ノイズ交じりの声が、確かに誰かの耳には聞こえたような気がした。
「セット・オン・ポジション。標的を捕捉、相対距離凡そ"40km"。射程に問題なし。此より標的の狙撃ミッションを開始する」
 ザザッ。またしても異音交じりのそれ。『彼』がその戦場にいる音だ。遠く離れて、しかし、確かにここにいる。
「視覚機能強化、『Dag's@Cauldron』から受け取った3Dマップデータを利用。対象をロックオン」
 狙撃には必要なものが多くある。技量、心構え、体力、観察力、忍耐力。他にも数を上げれば数えきれないほどではあるが、ともかく。
 『彼』は優れた視力と、そしてリアが予めドローンにデータを託して渡しておいた3Dマップデータを手にして敵の動きをずっと見ていた。戦場でヌルが敵の目を惹き始めたその時から、ずっと、静かに、息をひそめて、兵士の如く。『彼』はひたすらに戦場を移動し続ける『修羅』の姿を、スコープ越しに追跡して情報収集を行っていたのである。
「対象の動き、観察完了。標的情報の修正・補正、同じく完了」
 ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)。それが『彼』の名だ。彼はひたすらにこの時を待ち続けていた。――目指すは、敵の撃破であるがため。
 彼の持ちえる戦闘知識は、全ての知識を総動員して熟考を重ねても、その時が今であることを彼に教えてくれていた。彼が会得した学習力は、集めた敵の情報から判断して、その時は今を置いてほかにないと警鐘を鳴らしていた。
 頭の中で声がする。『撃て』と聞こえる。『オーヴァ』と答えて、ユーベルコードを展開する。風向き、天候、湿度、温度、飛来物、時刻、重力、月の引力、全て承知している。『今が、その時』だ。
「――修正完了。サイズ規定を3×3㎝に設定、43㎥の残りを射程に。最大射程凡そ47.8km、3×3㎝の厚さの光線をここに」
 【"Thunderbolt"】。合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作るユーベルコードだ。ただし、ナノ秒で完成・崩壊する接触物を破壊する光のみは例外で――それだけは、他を置いてなお完璧な本物と成る力。
 ジャガーノートの狙いは、ナノ秒で完成する特性を利用してひしめく水晶屍人らの頭上を越えた光を即時作成し、遥か先にいる対象を直接狙撃すること。具体的には――ロクを始めとする猟兵たちの、援護射撃である。
「ターゲット・ロックオン。特殊破壊光線兵器"サンダーボルト"発動準備完了。発動まで、3、2、1――」
 破壊の雷光。その牙が敵に届く迄の時間は、僅か1/10億秒。瞬きの間より疾く敵を穿つ。敵が蹴りを放つより早く。構えなおすより早く。こちらに気付くより早く。意識に捉えるより早く。
 これこそは、すべてを置き去りにする雷霆だ。
「――Fire.」
「――ガッ――ッッ!?」
「待ったぞ、ジャック」
 ノイズ交じりに声が響くのと同時に、戦場を真っ白い閃光が支配した。誰もが唐突に奔るその稲妻に身を一瞬止めるが、彼女のみは違っていた。ロクだけは、相棒の援護を信じていたのである。
 『彼女』は『彼』の援護射撃に合わせて突っ込む。その手に握られしは閃煌。魂魄奮えば白熱を生む、炎の化生を鋳込んだ剣鉈。先ほどは防がれたが――刃が触れさえすれば、灼き断てる。人を食う、森を食うお前に対しての“熱”は、既に充分なのだから。雷霆を頭に受けて動きを止めた『修羅』の胴体を、まっすぐロクは斬り抜いてみせる。
「ギャアアアアッ!! ……ギ、ガ、アアアア……!!」
「そこ……!」
 雷と炎が、敵の体を焼き尽くす。大きな隙だ。撃破には至らぬまでも、大きなチャンス。この機に乗じて再度ルーンソードを構えなおすのはヌルである。
 敵の体は既に破壊の限りを尽くされている。見ればすでに足にはほぼ力が残っていない様子。走ることも飛ぶこともできはしないだろう。とどめを刺すなら、今なのだ。
「ッ、ア、グ、アアアアアア!! 近づくんじゃねェ……!!! ヤメロォォォ!!」
「――そう、このときなら。貴方はちかづくわたしが本物でも幻影でも、どっちにしても攻撃するしかない。――ねらい、どおり」
 そしてこの土壇場において、ダメ出しの如くにヌルの力がもう一度発動していた。そう、退くこともできぬこの状況であれば、敵は自らを切り払おうとして近付くヌルが『どちらであっても』攻撃する以外に選択肢はないのだ。
 それは、ヌルにとってこれ以上ない絶好機。ユーベルコードによって、大きくダメージを与えることができる千載一遇のチャンスであったのだ。
「チクショウ……ッ!! ふざ、けんな……ァァァァァァァ!!」
 『修羅』は自分の身に近づくヌルの幻影をまんまと攻撃し、そして幻影は攻撃された瞬間自爆を敢行する。瞬間、もう一度戦場を閃光が支配して。敵は視界を奪われ、そしてまたもや大きく体を焼かれることとなった。
「援護するよ、ヌルさん! 全弾持ってけぇーっ!」
「消えろッ……ガッ、き、え、ろォォォ!! 俺が負けるかァァァァァァァ!!」
 全ての攻撃をその身に受けてふらつく『修羅』を、本物のヌルとリアとが包囲する。ヌルは地上をシールドで走り、リアは空中からイルダーナで向かう形。
 敵がふらつきながらも振り向いて放つ拳は、無意識の内に行われる破壊だ。すでにその眼にヌルの姿は見えていないはずなのに、敵の拳はまっすぐヌルに向かって伸びていく。
 だが、それを許さぬのがリアの放つ麻痺毒を乗せた呪殺弾による援護射撃である。彼女は振り上げられた敵の腕を狙ってその射撃を命中させると、敵の右腕の自由をなくしてみせた。さあ――もう一撃!
「貴方がどれだけつよくてもわたしのやることはかわらない。貴方を殺す。それだけだよ」
 ロクとジャガーノートが大きく敵の体勢を崩し、リアが見事な援護で隙を繋げてみせた。それに応えるべく、ヌルは踏み込みを深くしてさらに加速。
 精緻な魔術刻印が施された特殊合金の剣、ルーンソードに属性と怪力を全て乗せ、敵の伸びきった右腕目がけて本命の一撃を入れていく。腰の入った上段からの斬り落しが、敵の右腕を切り裂いた。
「ギィィィヤアアアアッッ!! おま、おまえらァ……!! おれ、おれの……!! 片腕を……ッ!! 斬り落し、やがったなァァァァァァクソがァァァァァ!!」
 だが、敵はまだ立っている。四人の猟兵は大打撃を与えてみせたが、ここは一度引くべきだろう。
 見事な連携と信頼が、敵の腕を一本斬り落して見せた。四人すべてがやれることを尽力した結果、今までほかの猟兵たちが与えてきたダメージがいよいよ顕在化するに至ったのである。


●狼『たち』が通る道
「……チィ! アアアアアアアアアアアア数が多いンだよクソめんどくせエ! ……ッグ、アアア!! ……猟兵のクソ共、聞こえてやがるかァ?! 隠れて俺に近付こうなんてのは、もう許さねェからなァ……!!」
 『修羅』は自分自身の状況と、戦場の詳細について再確認する。
 まず、自分の体はもはや満身創痍。あと何発かまともに受けただけで、この身は消え果てる事くらいは分かる。右腕、右目、そして片角の欠損。頸椎と背部、首への損傷も著しい。特に首は後一発でも貰えばまずい。死守せねばならない箇所だ。
 恐らく猟兵たちは先ほどの騒ぎに乗じ、様々な方向から自分へとどめを刺すべく狙ってくるだろう。最上に近い形で口火を切られ、そして続けて混乱に乗じられたのだ、それも仕方のないことである。だが、だからこそ『それが利用できるかもしれぬ』。
 『修羅』は決して知性に乏しいわけではない。破壊に全ての力を注ぎ込むということは、どうすれば敵を効率よく破壊しつくせるかを思いつくのも容易いということ。それが出来るセンスと知性、そして何より実力を高いレベルで保持しているからこそ、彼はこの作戦の指揮官としてここにいるのだ。それほどの強敵、ということである。
「………………オイ、テメェらァ! 数で当たれ数でェ! 猟兵一人に対し百で当たれやァ! ……少しでも時間を稼げばそれで良い! ア、後は……! 俺がブッ殺してやるからよォ!!」
 いよいよ敵が取った方策はこうだ。多方向からそれぞれ現れるであろう猟兵に対し、『屍人の壁』を配置する。当然それだけで猟兵たちの進軍を止められるとは考えていない。大事なのは、多方向から現れるそれぞれの猟兵たちと相まみえるその瞬間を分散させること。
 いくら猟兵が強かろうと、屍人に囲まれたリングで一対一ならば各個撃破が可能である。『修羅』はそのように読み、そして陣を配置していく。すると不思議なことに、知性を感じられぬ屍人たちは見事な陣形を整え、まさに戦場の壁としてあるようになったではないか。今までの混乱はどこへやら、まるで『修羅』の意思に反応するかの如くである。
「――それで、この陣を見るに……。敵さんはそんなふうに考えたンだろうよ。数は力ってな。まともにやりあってちゃ敵わんわ。進軍するのも厳しそうだが……作戦あるかい?」
「いやはや全く。こりゃまた大人数でのお越しときたもんだ。ま、温度差が凄そうですがね。指揮官は熱く燃えてるようですが、肝心の兵士たちは冷めきってる。狙うとしたら、まずそこかなと」
「どこを見ても屍ばかり……。晴明とやらは悪趣味の塊だね。ともあれ、オレもその方向で異論ない。最初は屍人の数減らしといこうか。斬り込んでとどめを刺すのはその後だ」
「願ってもない。他の目的を同じくする猟兵がいれば、協調して戦っていきたいと思っていたところだ。俺は露払いに専念する。援護は任せて欲しい」
「了解だ。屍人の群れにぐだった地形、高低差はそこそこか……。網を張るにゃ、勘所を見切ればいい具合かね。『陽炎』に『鋩』があれば、一網打尽の方は上手くやれるだろ。あと必要なのは……足、かね」
「ども~皆さん! エイリアンツアーズでっす☆ 敵軍は結構な数だけど、オレら猟兵は噛まれても問題はないんだよね? だったらアレっしょ♪ 足なら任せてくださいな、何せ八本あるもんで!」
「斬り込むならこの破狼たる私にお任せあれっ! 一切合切、ずばっと成敗よ!」
「お、頼れるね。――さぁて、戦争だ戦争。『ここでがっぽり稼がないでいつ稼ぐんだよ?』ってな。行こうか」
 七人の猟兵たちが、整えられた屍人の陣へと向かっていく。引き絞られた矢のように、空を走る流れ星のように、輝き続ける宝石のように、止まることのない車輪のように、匂いを嗅ぎつけた狼のように。
 敵は数千の水晶屍人、そして一騎当千の『修羅』。いずれも劣らぬ面倒な敵である。だが、それがどうしたというのだろう。七つの意思はここに集まり、そして一つの目的だけを見て前へと進み始めた。
 己と、そして六人の目的を共にする猟兵たち。敵陣へ斬り込むために、他に何か必要なものがあるだろうか?
「UC発動、行くよGlanz……【迷彩】モード! ヘイ、志郎さん! シートベルトは絞めた? ココから先は――ノーブレーキだぜ!」
「内臓無限紡績兵装、最大展開……。おうよ、上等だぜパウル! 俺を振り落としくらいの気持ちでアクセルブッ飛ばしてくれ! ――蜘蛛とタコの共同戦線といこうや!」
 彼らのなかで最初にアクセルを踏んだのは、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)だ。虻須・志郎(第四の蜘蛛・f00103)を愛機Glanzのバックシートに乗せ、彼らは屍人の群れへ向かって一路突き進む。
 二人の狙いは、自分たちの持つ八本の足の影響を隅々までこの戦場に届かせることだ。彼らの足とは、すなわち『機動力』と『罠』である。不思議なことだが、彼らが走る林の中は実に走りやすく道が形成されているようで。まるで誰かが、後続のために邪魔な枝葉を落としてくれたかのようだった。
「オラオラオラァ! 血の通ってない屍人の群れが、――生きたオレらのリズム邪魔できると思うなよッ!」
「イッ、……ギ、ァァ……?」
 パウルは視認され辛くした愛機――戦闘機エンジンを搭載した白銀宇宙バイクであるGlanzを見事に操り、志郎を乗せたまま戦場をどこまでも自由に駆けていく。
 壁がなんだと言わんばかりの彼のドラテクの前では、水晶屍人たちの群れは無力でしかない。パウルの装備の一、固定砲台Krakeが壁に穴を開ければ、バイクのタイヤが『壁をなぎ倒して』前へと進む。
 彼の動きを警戒し、壁を厚くする構えの布陣を前にすれば、パウルは既存のルートに構わず新たに迂回するルートを独自に作り、そして並んだ屍人の群れを壁と見立てて『壁走り走行による急旋回』を見せてひた走る。
「ヒュウ、やるね。ナイスなドライビングじゃないか。ワイルドで俺好みだよ」
「運転手の腕の見せ所ってヤツでしょ? ンじゃ、もっと飛ばしていくからヨロシク!」
 時に右側の樹を上って高度を稼いでジャンプしながら敵を躱すテクニックを見せ、時に左側の屍人の群れに存在するわずかに人員が少ない部分へウイリー走行のままに勢いで突き進んでいく。
 パウルの操縦は変幻自在であり、その挙動を読むことはできないと断言できるほど。彼は直感とビート感に任せ、その場その場で組み立てた最適な道へハンドルを切り、そしてアクセルを踏む。だからこそ、下手な対策は『修羅』もとれない。
 敵が対策を講じ、布陣を動かすその僅かな隙に、パウルは進路をねじ込んでくるからである。彼はそれができるBaby Driverだ。敵もそれをわかっている。
「ゲホ……。フン、うざってェのが来やがったらしいな……。ここまでは小さな布陣の穴を突いてきやがったようだが、そンならよォ……! 俺の意のままに動きやがれ、屍人ォ! ――壁でダメならよォ、塊でどうだァ!!!」
 次に『修羅』が取った方陣は、空間を埋め尽くすような密集陣形。今までも屍人の壁と呼べるほどに空間の密度は高かったが、これはそれをも上回る。整列した状態で縦横に広がり、進軍する屍人はまるで動く肉塊そのもの。
 足の踏み場もないほどの敵陣は、どこからも攻略の手立てがないように思えた。――だが、そこに道をこじ開ける男がいた。
「――そちらが邪魔立てするならば、こちらも手を打たせていただこう。突貫隊の援護が俺の仕事だ」
 今まで息を殺し、路の脇や茂みなどに潜んでいたのは絶好機を伺うため。敵に悟られず、最上の機で味方を援護するためだ。
 白波・柾(スターブレイカー・f05809)はそのために待つことができる男である。生真面目な面がある彼は、この作戦の中でも最も重要といって差し支えないポジションに付いていた。即ち、全体を見、そして援護を行う遊撃要員である。
「『俺の刀は敵を斬るためにある』――。敵の司令官も斬ってやりたいところだが、まずは貴様等の相手が先決だ。味方のため――そこを退いてもらおうか」
 彼の構える妖刀『星砕丸』は、三尺以上の大太刀であった。間合いは一限一尺にも届かんとするその刀には逸話がある。『嘗て、降り注ぐ隕石を砕いた』――。その刀と彼の前に、隕鉄ならまだしも水晶屍人など物の数にも入るものか!
 馬手の握りは柔らかく、腰は落として肩肘張らず、上腕骨のしなりを意識した柾の右なぎ払いは、実に見事な太刀筋を誇っていた。屍人たちの焦点定まらぬ眼には到底見えぬ剣閃は、一度奔れば多数の敵を無力化していく。利き足の踏み込みが効いた突きは凩と共に敵群を突き飛ばして、純然たる実力の元に彼は敵陣へと穴を開けていく。
「――っ、進路確保ぉ! 柾サン、サンキュー!」
「どうということもない。だが、賛辞は素直に受け取っておこう。ここは任せろ」
 柾が塊を突き崩し、盤石と思われた敵陣へ穴を開けた。その穴をパウルの駆るGlanzが拓き、道に変えていく。そして、ここからは志郎の出番だ。
 ようやく『修羅』が見えてきたこのタイミングが、きっと一番良い頃合いだから。
「ナイス援護だな柾! パウルもありがとうよ、ここで降ろしてくれ! 俺は俺の仕事に徹するぜ! この戦場には糸を巡らせてやった。だからここは――」
 猟兵の皆を修羅を射程範囲に納められる位置までピストン輸送を行うパウルの後ろで、志郎は今まで何を行っていたのか。
 実に簡単な問いである。志郎は『網を張っていた』のだ。タコの足が戦場を自在に駆けるその裏で、張り巡らされた蜘蛛の糸はどこまでも伸びていた。さすがに戦場全域とまではいかないが、目に見える範囲、そしてこちらの進軍のための範囲はすでに――!
「――もう、俺の掌の上だ。発動しろ! 【死紡誘伎】ッ!!」
 既にこの戦場には仕掛けが施されている。パウルの戦闘機動にあやかって巡らされた、敵軍を誘導する様に木々の間に張られた網。それは目立たないながらも敵軍の移動を妨げ――。
 そして志郎がユーベルコードを発動したタイミングで、この戦闘区域中に毒と電撃をまき散らして見せたのだ!
 そこかしこで掛かった屍人は超高圧の電流をまともに受けて感電し、毒で体の自由を奪われていくではないか。避けようとも、それまでの方策によって固まっていた敵の群れが志郎の網から逃れることは叶わない!
「あー、よしよし。屍人さんたち、俺の糸で痺れたり毒が回って動けないとこ失礼だがね? そこにまとまってるなら――」
「――志郎さんの言う通り。そんじゃこちらも失礼して……。あんたら、まとめて焼いちまいましょうかね」
「――俺も乗った。飛び道具は得意ではないが……。これならば当たるだろう」
「……まさかッ?! テメェ!!」
 もう遅い。『修羅』は既に気付いたようだが、気付いたところで止められるはずもありはしない。悪意と破壊の権化だからこそ、すぐに思い至った猟兵たちの真の狙い。それが、突貫と見せかけた広域破壊であるということに!
 塊のような敵軍に対してパウルが突っ込んだのも、機動力を手にした志郎が網を張ったのも、柾が先ほど姿を現したのも、――向坂・要(黄昏通り雨・f08973)が精霊たちの力を今解き放ったのも、すべては今この時、この瞬間のため!
 タコの運転手が戦場の隅々に足をかけ、第四の蜘蛛が作った毒糸の陣に敵はまとめてひっかかっている。そこに浴びせられるのは陽炎と毒、そして幾千もの鋩!
「……ッ、そういうことかよクソァ! 無理矢理進路を切り開くと見せかけたのは、俺を警戒させて密集陣形を誘発させるため――ッ、奴らの狙いは俺じゃねえ! 最初は屍人狙い――ハメられたッ!!」
「この世界にも関所ってもんがございましょ? 通行手形のねぇお人らはお帰り願いますぜ」
 『もう遅い』。屍人と修羅の位置を、第六感や展開させた精霊の力を借りて俯瞰で把握し続けている要には、この戦場のどこに糸が伸びて、どこで敵がより固まっているのか手に取るように把握できる。そして、『お呼びじゃない奴らを始末するために』、どこに点火すればいいのかも、どこに毒をまき散らせばいいのかも、だ。
 嘯きつつも油断せず、展開させるは陽炎と猛毒を宿した不可視の鴆を模した精霊達。緑色の羽毛と真っ赤な嘴を持つ妖鳥は、一度羽ばたけば周り一面に敵の動きを止める猛毒を散らし、一度鳴けば敵へと嘴から陽炎を放っていくではないか!
「良い仕事をしてくれる。皆のおかげで敵にも程よく火が入ったらしい。おまけに重なる毒で元々鈍い動きも更に遅い。これならば、外す方が難しい――!」
 要の【エレメンタル・ファンタジア】が敵陣を蹂躙しているその隣で、柾の【千刃の鋩】も同時に発動していく。要の行動が罠にかかった敵を広く広く潰すためのものだとすれば、柾の行動はその中でもまだ動けるような屍人の群れにとどめを刺していくためのもの。巻き添えの心配はない。出し惜しみは――ない!
 オブリビオンは猟兵よりも強大な1だ。だが、1+1は常に1よりも大きい。猛毒と陽炎とが糸にかかった敵たちの足を止め腕を焼けば、数えきるのも馬鹿らしいほど数多の投擲用刀剣が屍人の頭部や首元、心臓部などに空を裂きながら突き刺さっていく。
 個人よりも集団の方が強い。そして、互いにシナジーを得られるような人員が揃えば尚のこと。『修羅』の周り、そして目の前の空間が――ぽっかりと空いた。屍人の群れは三人の猟兵の行動によって排除され、ここには『道』ができたのだ。
「おうおう、ずいぶんすっきりしたモンだ! こうすりゃ『修羅』のヤロウもよく見えるぜ!」
「みんなほんとサンキュー! この仕事終わったら飲みいこーよ♪ 輸送は任せて、みんなをアイツの近くまで運んでみせるからさ!」
「~~~~ッ!! ……舐めンじゃねェぞ、……群れなきゃ何もできねえ雑魚共がァァァァァァ!! そっちから俺の姿が見えるってことはよォ、こっちからもテメェらの姿がよく見えるってことだぜボケがァァァァァァ!!」
 ここまで状況を整えられたのは、紛れもなく四人の猟兵の手腕による物だった。これで敵と打ち合う一合、もしくは二合ほどの時間は屍人に手間をかけずに済むだろう。だが、『修羅』の言う通りでもある。
 空いた空間に手を掲げる敵の狙いは、『新たに三人の猟兵たちを乗せて走る、パウルへのユーベルコードによる攻撃』。左手だけで幾度も幾度も放たれる、ただ力任せに拳を振り抜くことで生み出された巨岩をも砕く風圧が、彼らを襲わんとして迸る。
 だが、それを避けるための方策があった。死の気配に敏感である臆病な狼が、パウルの後部座席には乗っているのだ!
「――さって、敵の大将はアイツかい。そんなに殺気立たれると、嫌でも【忍び寄る死の気配】が反応しちまうな。運転手殿、指示するぜ」
 敵の攻撃を自らの経験則によって予測し、的確な指示で躱す合図を送るのはギルバート・グレイウルフ(臆病者の傭兵・f04152)。彼のユーベルコードは、10秒後の自分への攻撃を予想できるというものだ。
 臆病だからこそ、生き延びてなんぼという考えを持つ彼だからこそできる、思考と経験による絶対無敵の回避策。それがパウルの運転テクニックと合わさって、敵の放つ風圧の浪々を全て寸前で躱しながら前へと進むことを可能にしていた!
「次は右に15度、その次は左に8度。おっと、三つ続けて低く来るな……跳べるかい?」
「もち! まっかせといて、こちとら宇宙出身の運転手、飛ぶ浮く跳ねるは自由自在ってね!」
 人数オーバーであるはずの四人走行にもかかわらず、パウルはドリフト走行で滑るように戦場を右へ左へひた走り、そして前輪を上げると僅かな地面の小石を利用して空中へと空高く飛ぶ!
 迷彩で見えにくい彼のバイクは、敵が捉えることあたわず。そこに気配に敏感な狼の予測と助言があったればこそ、四人を乗せたバイクは『空の道』を駆ける。タイヤが噛んで進むのは、敵の飛ばした風圧の上である! 敵の懐まではあと僅か、距離にして2間というところ!
「アアアアアアアアアア!! うぜェうぜェうぜェうぜェうぜェうぜェ!! 殴りで殺せねえンなら……、テメェら全員【蹴り殺す】ッ!! 諸共に死ねッ!!」
「――ふぅ……よーやく、斬り抜けたわね!? ふぅん? めらめらでぎらぎらじゃないのっ! いいわ。受けて、断つ。真守・有栖(月喰の巫女・f15177)、参る……!」
 接近する猟兵たちへと『修羅』が新たに構え、別の技を繰り出そうとして身をよじる。上半身をひねり、左足を大きく大きく上げ、放とうとするのは山をも穿つ蹴りの一撃だ。至近距離の地形をも変える大技で、猟兵たち全員を一挙に葬り去ろうというのである。
 しかし、それを許さぬ狼がここにいる。この距離はすでに彼女の間合いだ。有栖と名乗るその猟兵は、バイクから飛び出して勢いを付けると――なんと、敵の蹴りの間合いへ我が身を差し出して見せた!
「馬鹿が! 他の奴らを守るッてンでもあるめェに! ――テメェは死ぬぜ!」
「言ってなさい。死地に窮地に己を晒すのは――滾らせるためよ」
 空を跳んで敵の間合いに入った有栖には、蹴るための地面が存在しない。つまりは途中で回避行動をとれない状況にある。だが、『空を駆ける狼は嗤っていた』。
 避けず、防がず。そのつもりなどハナからなく。直撃覚悟、その威に大地ごと壊されて、破られても構わないという、彼女のどこまでも固い意志。刃に込めるは“断”の烈意のみ。防御策など知ったことか。
 【我狼】。――追い詰められた狼が如く、自身の本能の為に敢えて不利な行動を取ることで、有栖の身体能力は爆発的に増加していく。斬るか蹴られるか、二つに一つ。先に技を放った方が勝つ!
「もう遅ェッ!! こっちはもう振りかぶってンだよォ、この辺一帯ごと……ブッ潰れなァ!!」
「――月をも穿つ一刀にて、一切を喰らい尽くす。『光刃、烈閃』!」
 光刃『月喰』より迸る光刃は、寸分違わず彼方の敵をも断裂する。であれば、至近の蹴りを切り裂けない道理があろうか。いや、ない。かかと落としの形で有栖の頭部を狙って振り下ろされる敵の左脚部へ、彼女の剣閃がきらめいた。
 自身が飛び出した勢いに、バイクの推力をも刃に乗せて。自分に襲いかかる蹴撃など意にも介さず。――彼女は迸る極光にて、修羅を切り裂いてみせたのである。亜光速の早さで奔る剣技、実にお見事。有栖の剣技に加えて、バイクの加速があったからこそ成し得た、狂気すら孕む紙一重の攻防であった。
「グ、ガアア……ッ!? あり……ありえねェ!! 俺の方が早く構えてたろうが、なんでそんなことが出来やがるンだよクソがァ!! 屍人どもォ!! いつまで好きにされてやがる、早く来やがれェ! こいつらを分断しろォ!」
「いや、あり得るんだ。悪いけどね。これだけ数がいるのに、君は一人だ。対してオレたちは、数は少ないけれど一人じゃない。――分断も、させないよ。少しばかり――荒ぶる気持ちを、抑えられそうにない」
 『修羅』は有栖から受けた斬撃を、今のこの状況を確認する。……左足はもうまともに動かないだろう。そして、恐ろしいのはまだ追撃が来る、ということだ。ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)が、『修羅』の目の前に立っている。屍人を呼ばなければ。隊列の再編成を行い、そして距離を取れなければならない。そうしなければ――負ける。
 さて、敵はこの状況をどうするか必死に考えている。とても皮肉な話だが、『修羅』はここまで追い詰められてようやく、今初めて感じ取ったことがあった。『怒り』についてだ。『怒り』は、自らの専売特許であると考えていた。自らが最も怒れる存在である、自らが最も破壊を行える存在である、と。だが、どうやらそうではないのかもしれない。目の前の男は、もしかしたら自分よりも――。
 ――大人ばかりであれば、彼が左程思うところはなかったろう。……だが、子どもが屍人に交じっていれば、話は別だ。ヴォルフガングは戦場を移動する最中に確かに見た。大人が大半の屍人の群れの中に、年端もいかぬ子供たちすらもが水晶屍人に変えられているという、許しがたい事実を。思うところがあるのは当然の事だった。
「手加減はなしだ。余さずやらせてもらう」
「狙いは分かったぜ。糸ならもう張り巡らせてある。点火は任せた」
 彼は自前のサイバーアイ、ヘルメスの片視鏡で敵軍の挙動をつぶさに観察し、それと同時に地形、並びに『修羅』の解析も行っていた。
 先んじた調査はすべて、利用出来そうな地形は小石から小さなぬかるみまで残らず把握して利用し、『修羅』の攻撃動作や弱点を先に知っておくことで敵の行動を予測、もしくは潰すことを可能にするためだ。
 そこに志郎が予め敵陣に仕組んでおいた糸という要素が絡まる。屍人の動きを止め、そして様々な場所で一塊にしておいた彼の糸を掴み、ヴォルフガングは全力で広範囲への魔法攻撃を行うべく――ルーン魔術を展開していく!
「さ、せ、るか……ァァァ!!」
「おおっと残念! お客様を守る義務があるんだよね、運び屋的にはさ!」
「それに、何か勘違いしてないかしら? 攻める時間なんて、もう与えないわよっ!」
 ヴォルフガングの詠唱を止めようとした『修羅』がなんとか放つ風圧を、Glanzを盾にすることで仲間をかばうのはパウル。彼の後ろからもう一度踏み出し、更に追撃を狙うのは有栖だ。
 二人の援護は万金を積んでも買えぬ時間を生み出して、ヴォルフガングの術式が完成する。『火』を意味するカノ、『太陽』を意味するソウェイル。それらを組み合わせ、地に落ちた天道が燃え盛るが如き劫火を――彼は仲間の協力の元で、生み出して見せたのだ!
「さあ、――屍人ごと、燃え尽きてもらおうか」
「ギッ……ギャアアアァァァァァァァ!!」
 劫火はヴォルフガングの周囲に存在する屍人と、そして『修羅』を確かに燃やしていく。そして、糸に火が付いた。劫火は糸を伝い、この戦場の全域にまで拡がっていく。
 きっと――今度こそ、消し炭すら残らない。屍人を狙って行動した四人の猟兵たちの活躍で、この戦場にいる屍人の群れは壊滅したといって良いだろう。あとは『修羅』を倒すだけ。いよいよ以て、大詰めである。
「オ……オ、オレ、ハアアア……! マ、負ケ……ネエエエエエ!! 俺ハ……ァ、アアァァ……!!」
「おやおや、思った以上にしぶとくていらっしゃる。眼に映る全てに怒りをぶつけなきゃ気が済まねぇんでしょうが、眼に映らねぇ相手にはどうしますかぃ? 首置いてけ――ってね」
「そういうことだ。年貢の納め時というやつだな。引き続き、囮は引き受けた」
 黒尽くめであった全身がさらに焦げるほどの熱量攻撃をその身に受け、しかして『修羅』はまだ生きている。彼を動かすのは、もう『怒り』以外にないのだろう。
 彼は戦場に残った動くものに反応して、ただただ暴力を放つだけの機構と化してしまった。もはや限界。だが、考えることが少なくなった分、振るわれる暴力は研ぎ澄まされているようだ。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
 まともに使えるのは片手片足という状態で、それでも『修羅』は全身をバネにして跳躍を行う。左手を地面にたたきつけ無理やり上半身を起こすと、左足だけで思い切り踏み出して跳躍。殴りかかるために推進力を得て、柾に飛びかかる形である。
 だが、それを邪魔する要素がある。要が先ほどから姿を隠しながら散布していた、大気中の毒がそれである。全身の火傷や多く受けたダメージで意識を失っている『修羅』は、すでにそれを思い切り吸い込んで体の動きを鈍くさせてしまっている。ならば、動きを読むことは不可能ではない。
「よっ……と、ついでだぜ。悪いがとことん邪魔させてもらおうか」
 体をねじれさせながら空中で踊る『修羅』を確かに捉えてみせるのは、Glock Customを手に持つギルバートである。元々牽制を目的としたこの拳銃から放たれる弾丸は、逃げ道のない『修羅』の体を確実に空中でとらえ、敵の体勢を崩してみせた。
 それは決して簡単なことではない。だが、狼の目にはそれが出来るのだ。彼は、戦いとは何かを心得ている故に。
「ギャ、アア……!」
「援護助かる。これならば、受ける必要もない……!」 
「動きが早けりゃいいってもんでもありませんぜ。カウンター、頂いていきますわ」
 ギルバートの援護を受けて、柾と要が空中で体勢を崩した敵の胴体へ斬りこんでいく。彼らの操るLuckeと『星砕丸』が空中でそれぞれ右と左に薙がれ、交差する剣閃の中で敵の体のみを切り裂いていく。
 手の内を柔らかく保たれた二つの抜き胴は、敵の胴を深々と裂いて。確かな手ごたえとともに、敵を空中から地に落とすことに成功した。
「この世界にも関所ってもんがございましょ? 通行手形のねぇお人らはお帰り願いますぜ。屍人のみなさんはみんな帰った。あとはアンタだけでさぁ」
「そろそろ倒れてもらうわ! 食らいなさい!」
「マ、ダ……マダ、マダ、マダマダアアアァァァァァア!! 俺ダケで……死ヌカヨ、クソ野郎ォ!!」
 地に落とされる『修羅』へ、さらなる追撃を行わんとするのは要と有栖である。だが、無意識状態の『修羅』は彼らの追撃の気配を鋭敏に察知すると、それに対抗しようと右足による蹴りの体勢を取るではないか。
 敵の狙いは猟兵ではない。破棄する対象は自分の真下に存在する地盤。――自らの体ごと、猟兵たちをまとめて地下深くに落とし込んで道連れにする構えだ。敵の蹴りは誰よりも早く地面を砕き、周辺の地形を大きく筒状に破壊。全てを奈落に落としてみせた。猟兵たちの足元からすっぽりと地面が失われ――ここにいる全員が、地下深くへと落下していく!
「ヒ……ヒヒ、ヒヒヒ!! 俺ダケジャネェ……!! コレデ……テメェラモ終ワリダゼ……!! 死ネ!!」
「――おいおい、奈落に落とす罠とは気が合うね。だが、そいつはもともと俺の作戦だろ? ま、そのおかげで――助かったわけだがな」
「――ッ、ナ、ア……!?」
 猟兵たちの窮地を助けたのは志郎である。彼は元々敵が地形ごと破壊する攻撃に備え、地形に網を張って即席の足場を作っておいたのだ。最も、実のところそれはボスをそこまで誘導し、奈落に落とすという二重のトラップであったわけなのだが――。
 それでも、彼が猟兵たちの危機を救ったことに違いはない。この状況を予期していた志郎は、この場の誰よりも早く行動を開始する。幾分か落下したことで高さが生まれ、僅かにロープワークによる三次元機動が取れる事に気付いた彼は、咄嗟に捨て身の行動を開始する。即ち――『修羅』に対して挑む、空中での殴り合いである!
「一発なら耐える覚悟は十分、連携して確実に仕留めてやらあ! パウル、そっちどうだ!?」
「志郎サン、こっちもOK! 全員バイクで網の上に救出済み! ――トドメ、いけるよ!」
「クソ……!! ドコマデ邪魔シヤガル……アアアアアアアクソガアアアアアアアア!!」
 志郎が空中で先んじて敵の頭をブン殴り、返される一発を糸の盾で防ぐ間に、パウルは落下しながら愛機を空中に張り巡らされた糸を辿ることで全猟兵を救出。網の上まで送り届けてみせた。彼らの行動を皮切りに、五人の猟兵が空中の敵へ向かっていく。
 フィニッシュといこう。『怒り』を纏った『修羅』に、裁きを下す時だ。
「クソ猟兵……!! 至近距離ノ殴リ合イナラ、勝ツノハ俺ダッタ……!! ナノニ、クソガアアア!!」
「おいおい、冗談だろ? こっちは別段真っ向勝負が好きなわけじゃないんでね。刀にナイフに拳銃に、なんでも使わせてもらうぜ? ――敵の嫌がることを率先してやる。それが仕事だ。あんま戦場を舐めンなよ」
「得意なことを分担し、その上で確実に敵を仕留めるのが戦いだろう。ルールのある試合ならいざ知らず、随分と的外れだな」
 ギルバートが空中で策を失った敵を見事に撃ち抜き、苦し紛れに放たれた最後の風圧は柾が白兵戦用盾で防いでみせる。もはや敵には何もさせない。
 ここまで多くの猟兵たちが『修羅』を追い詰めてきた。その身に受けてきたダメージを、今こそ結実させる時が来たのである。
「いやいや、まさに。毒に精霊、攪乱に妨害。なんでもありの殺し合いでしょうよ、こいつは。ちっとばかし……あんた、怒るばかりで脳みそが足りてなかったと見える」
「そういうことね! さあ、アンタの御託ももう飽きてきたわ! トドメいくわよっ!」
「電子界・ミーミル接続……。登録者の身体・魂の電子情報化・再構成準備、マーカー登録者付近への転移開始。サポートユニット『テオ』を設定。やるぞ、テオ」
 攻撃を防がれた敵が再度構えようとするのを、要と有栖がそれぞれの武装で押しとどめていく。『月喰』の斬り上げが敵の右足を切り裂き、Farbeから放たれる弾丸が敵の左腕を射抜いて。
 最後に攻撃を加えるのはヴォルフガングと、その黒犬。ユーベルコード、【調律・流転せし黒犬】を発動した彼と一匹は、志郎が作成した網の上を走り抜け、そして先に至近距離で攻撃を加えていた味方の元へ跳躍。
 落下を続ける敵の身体に接近すると、破魔の力を込めたスニークヘル――魔銃の零距離射撃と、テオの爪牙による見事なコンビネーションアタックを敢行してみせた。
「…………ア……ガ……オレ……ハ……マケ……ナ……」
「もう黙れ。それじゃあな」
 テオの牙が『修羅』に残った片角も折って、ヴォルフガングの魔銃が敵の額を撃ち抜いた。一瞬ののち、敵はいよいよ言葉を完全に失って――。
 七人の猟兵たちは、見事的にとどめを刺して見せたのである。
「……あの水晶、持って帰ったら売れねぇかな?」
「結構な曰くつきなんで、さすがに売れないような気もしません? ……はい、地上に到着っ♪」
 パウルが地中から全員を上げて、猟兵たちが地上を見ると、そこにはもはや殆ど屍人も残っていなかった。猟兵たちの多岐にわたる活躍が、『修羅』と屍人の群れの両方を消し去って見せたのである。
 もちろん、これで全ての脅威が失せたわけではない。ここは数ある街道の一つに過ぎないからである。だが――。
 とにもかくにも、この街道に連なるサムライエンパイアの土地からは、屍人とオブリビオンが消え去った事は確かだ。それに感謝しない住民たちはいないだろう。
 君たちの活躍は、確かに――多くの人の生命を救ったのである。胸を張って良い、最上級の功績だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月09日


挿絵イラスト