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【蛮勇譚】悪魔蔓延るは墓石の塔

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #クラウドオベリスク

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●英雄の軌跡
 蛮勇振るうゲオルゼルク。
 アックス&ウィザーズの世界中にてその戦いの痕跡が見られるドラゴンスレイヤー。
 かつて郡竜大陸に渡った勇者の一人であり、無類の戦闘好きにして強敵好きである。
 生涯を強敵との戦いにのみ費やした彼の冒険譚は自然と戦記じみており、未知の領域に踏み込んだ記録なども環境に対する記述そっちのけで強そうな動植物についてばかり語られている。
 そもそもゲオルゼルクは何かを書き残した事は無く、その伝承の大半が本人の語った武勇伝と状況証拠からの推測でしかなかった。

●聖地巡礼の旅
「おかげで大変だった」
 そう言って楽しそうに笑うのはワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)、グリモア猟兵だ。
 一見そこらのオブリビオンより凶悪な怪物然としてはいるが一応竜派のドラゴニアンである。が、猟兵でなければアックス&ウィザーズでは魔物に分類されていたであろうことは間違いない。
「猟兵である事に感謝しなければな」
 などと言いながらテーブルに広げたのは依頼書と数々の資料だ。
 アックス&ウィザーズの世界では猟兵達は冒険者として認識される事が多く、ワズラなどは本当に冒険者として依頼をこなしつつ信頼と情報を得ていたりもする。今回集めた情報も、一般人の冒険者達から聞き込みをした結果でもあった。
「ゲオルゼルクの聖地近くの村、あそこの村人が大体は冒険者になると言う話でな。ならばと冒険者達にゲオルゼルクや蛮勇の勇者について聞いて回ったんだ。
 で、そこからは予知と調査の繰り返しだな」
 言いながら取り出した資料は、テーブルに撒かれた資料の数倍は有る。それらは無駄足だったのだろう。ワズラは特に気にした風も無く、要らなくなった資料を焼き捨てた。
「いや、伝記に纏めれば歴史的資料になるんじゃ……」
「そう言うのは学者にやって貰え」
 にべもない。
 いや、興味が無いのか。
 しかしそれは他の猟兵も同じ事。平時なら兎も角、今は依頼の方が重要だ。
「依頼は三つ、どれも『クラウドオベリスク』の破壊だ。
 三カ所にまで絞りはしたがどこも強大なオブリビオンが居座っていてな。現地までの露払いはしたが、此処から先は転移役に徹せねばならんだろう」
 心底惜しいが。と言う呟きは皆聞き流す。
「転移を用いればほぼ同時攻略も可能だ。一刻も早くオブリビオンを討ち払いクラウドオベリスクを圧し折りたいなら可能な限り協力しよう。
 どの場所も連戦になるので支援役は戦闘と同時に仕事をこなさねばならんだろうが、一人でも居てくれれば心強い。
 いつも通り、単騎突撃でも、現地での即興連携でも、打ち合わせてからの共闘でも構わん。皆全力で挑んでくれ」
 ワズラの言葉に猟兵達が頷くと、ワズラも頼もしそうに頷いた。
「では、状況を説明しよう」

●墓石の塔
 クラウドオベリスクは死都の中心にある。
 そこに元より塔が有ったのか、塔の周りに都市を作らせたのかは分からない。
 塔を守るのは死都の主、ネクロポリス。
 予知に視た光景ではかつて都市で暮らしていた者の骸で玉座を作り鎮座している。
 屍の山は塔の根元さえ覆い尽くし、骨の様に白く聳え立つ塔は『墓石の塔』と呼ぶに相応しい。
 ――猟兵達は、その塔を破壊しなければならない。
 死都に蔓延る悪魔の軍勢を押し退けて。

「嗚呼、退屈だ。人を攫わせ死都に住まわせようか。
 生み増やし栄えた所でまた滅ぼせば、あの方の糧にもなろう」


金剛杵
 初めまして、お久しぶりです。
 リプレイのテイスト等に関してはマスターページをご確認ください。
 基本、苛烈です。

 今回は連携ものっぽくなっていますが、依頼間連携は御座いません。全てに参加して頂く事も可能ですし大歓迎です。
 要するにやってみたかっただけです。
 過去の依頼で書かせて頂きました『ゲオルゼルク』に関しては名前だけの登場になっていますので、興味が無ければ一切触れずとも問題ありません。おそらく過去依頼を読んでも今回の依頼のヒントにはならないかと思います。
 そう言う訳で、興味が御座いましたなら何方様でも御参加頂きたく思います。

 第一章補足ですが、依頼は死都の入り口から始まります。
 敵とは死都の中で遭遇します。奇襲したりされたりももしかすると有るかも知れません。
 相手は魔神級と称される悪魔。
 努々油断なさらぬ様。

 それでは、善き闘争を。
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第1章 ボス戦 『アークデーモン』

POW   :    妖星招来
【宙に描かれた巨大な魔法陣から放たれる隕石】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が大規模に変動する程の破壊が余派で発生し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    魔神の軍勢
【無数の生贄を捧げ、悪魔の軍勢を召喚する。】【その上で邪悪な神々に祈りを捧げ、】【悪魔の軍勢にそれぞれ邪神の加護】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    攻性魔法・多重発動
レベル分の1秒で【詠唱も動作も無しに、呪縛や破壊の中級魔法】を発射できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルル・アークライトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

伊美砂・アクアノート
【SPD 羅漢銭・須臾打】
【視力5、聞き耳5、第六感5】で周囲を警戒しつつ、死都の探索を実施する
……悪魔、ね。どれくらい強いのかしら。

戦闘に入ったら、手持ち武器を入れ替えつつ、敵との距離に合わせた武器で攻撃。……困ったな。ボクは他の猟兵みたいに、魔法やら重火器やら、威力の強い一撃は出せないのだけれど…!
【早業10、投擲10、スナイパー10、2回攻撃10】…何しろ、必殺技が『コイン投げ』だ。笑っちまうほど地味だろ? だけど、伊達に手先の器用さと速度だけで猟兵やってないからな…! 【地形の利用5、見切り5】で必死に敵攻撃の回避を試みつつ、ヒットアンドアウェイで少しづつ攻撃を当てていく。


茲乃摘・七曜
心情
死者の都…、捕らわれないようにしたいものですね

指針
奇襲に備え、罠などに警戒しながら移動
「悪魔…ですか、邪悪で狡猾な相手と思っておきましょう

行動
街並みからの奇襲や、家等を破壊し誘い込む等の誘導、自身の有利な場所での戦闘を行うと予想
※特に攻性魔法・多重発動での襲撃に警戒
「この待ち構えられる状況を最大限に活かしてきそうですね
※Angels Bitsによる超音波探査で異変の察知に努める

戦闘
『流転』と二挺拳銃による属性弾で呪縛と破壊の魔法を打ち消すように行動
仲間の攻撃のチャンスを作ることを主軸に弱点を考察する
「代償が必要な魔術ならばその隙を付けるように気を払いましょうか
※詠唱や魔力の高まりに注視する


花月・椿
【POW】

群竜大陸?蛮勇?そんなの知りません、ただ強い者と戦い全力で殴りたいだけですっ!

まずは悪魔ですか、強そうですがグリモア猟兵さんの情報では魔法主体の様子。近づいて私の右手の一撃を食らわせてやりますっ!

【ダッシュ】【気合】で死都を全力で駆け抜け、【第六感】【野生の勘】で悪魔を勘で見つけます。こそこそ隠れてる悪魔に先手を取られても、隕石が落ちる前に見つけ出して絶対にぶん殴ってやりますっ!
『臆病なあーくーまーさーん、怯えてないで出ておいでーっ!』とか叫んで挑発もしてみます。

見つけたらその顔面目掛けて、赤手を付けた右手の『UC:灰燼拳』でぶん殴ります!
『あなたがクレーターになっちゃえっ!』


ゼット・ドラグ
「今度の相手は悪魔か。よっしゃ、一つやってやるとするか!」
ワズラの久しい顔を見たし、竜じゃなくてもやる気は十分。今回も死合せてもらうとするか。
相手の奇襲に注意しつつ、奇襲を受けたら回避するか投擲槍に変形した【竜を殺す百の刃】の【咄嗟の一撃】で攻撃を叩き落とす。
隕石だったら直接触るのはやばそうだからな。攻撃は投擲槍と両手の飛び道具で対処していこう。
バズーカやミサイルで爆風を起こして攻撃チャンスを作りつつ、【ドラゴンチェイサー】を変形させたバスターブレイドに【竜を殺す百の刃】を合体。悪魔に効きそうな十字架型の大剣【クロスバスタード】で【怪力】と落下する速度を合わせた渾身の【地裂断】を頭に放つ。


望月・鼎
死者や悪魔が相手なら私の出番ですね!
巫女の力でどんどん浄化調伏しちゃいますよーぅ♪
(扇子ふりふり)


イラナイツの皆さんを召喚して軍勢を相手してもらいましょう!
私はイラナイツの指揮や他の人の援護に回りますかー。
多分攻撃力や耐久力は私よりももっと凄い人が居るので、その人達が十全に戦える様にサポートです!
火力は劣りますけど、軍勢やら何やらに横槍を入れられる懸念が無いだけでも動き易いと思いますし♪
後は隕石と魔法ですかね。
隕石はもう喰らわない様に逃げるくらいしかなさそうですね?
魔法は巫女パワーを込めた扇子やお札、両剣なんかでぺしっと弾けたら良いですねぇ♪
曲がりなりにも巫女ですし!


※アドリブ・共闘ばっちこい


トール・ペルクナス
【三羽烏男唄】で連携

死者の都か……
それでも私は救えるモノを救う

適材適所、探索は十六夜君に任せ私は入口で腕を組み待機
閃光を確認次第UCを発動してこの身を雷電へと変異させ雷速で駆けつける

都合良く水浸しになっている所へ籠手から【属性攻撃:雷】で雷電を放ち【範囲マヒ先制攻撃】

そのまま魔神とバリツによる近接格闘戦
雷を纏った拳で殴り合う
相手の攻撃は籠手で【武器受け】し連打を叩きこむ
このままだと決め手に欠けるが……

いいタイミングだ来ると思っていたよ少年

少年の一撃により出来た隙に両手の電界の剣の雷刃による【二回攻撃】の連撃で斬り刻む

十六夜君の無効化に合わせ【力溜め】した特大の落雷を放つ
悪魔よ雷光で無に還れ!


梅ヶ枝・喜介
【三羽烏男唄】で連携

あの遠くに見えるでっけぇ塔をへし折ってやるんだよな!
任しとけ!昔っからデッカい塔だの城だのは崩れる運命にあるもんだ!
この不気味な街ごとペシャンコにしてやらァ!

それにしても酷ぇ有様ヨ!こんなトコで待ち構えてる敵ってぇのはどんな面してんだ?
どうせ陰気な顔付きなんだろうが……ま!後で嫌というほど見ることになるか!

家々の屋根を蹴って駆けながら合図を待つ。
おれたちの中でいっちばん早ぇのは十六夜だ。アイツの居場所が真っ先に戦場になる!

光った!急がにゃあナ!
続く雷霆の輝きに向かって飛び込み横槍を入れ!
悪魔の脳天に渾身の一太刀を見舞わせてやる!
ようお前ら!遅参した分の働きは剣で返すゼ!


月代・十六夜
【三羽烏男唄】で連携。

さて、ここは相手のホームグラウンド、奇襲だけは避けないとな。
実戦闘は二人に任せていいだろうし、こんなこともあろうかとってな。

【超過駆動:感覚】を使用して死都を探索。建物内を通ったりして死者を避け、隠密しながら魔神を探索。
見つけ次第、上空に光の結晶を投げて味方に場所を知らせる。
続けて、鍵箱からこんなこともあろうかと島への依頼に行った際に溜めておいた海水を周囲に開放して、牽制と共に味方の攻撃の布石にする。
ここまでやったらあとは味方の攻撃に巻き込まれないように適当に逃げ…んん、魔法陣?
そんな大技通すわけねぇだろボケェ!降ってきた隕石に【霞む幻刀】で抜刀カウンターをくらえ!!



●死の街で待つ
 その都市には名前すらない。
 恐らくは幾度となく再興と滅亡を繰り返して来たのであろう、無人の都市。
 知る者が見れば建築様式も生活痕も時代から何から滅茶苦茶なのが見て取れただろう。
 まるで箱庭。
 悪魔達は知っているのだ。人を住まわせ、文化的な生活を送らせる事で、最も大量の『死』が手に入る事を。
 人は飲食に限らず、娯楽と称してさえ他の生き物を飼い、殺す。アックス&ウィザーズの世界ではそう簡単に都市など作れないだろうが、悪魔の庇護下となれば別である。
 悪魔は何時だって人に優しい。甘い言葉で唆し、その願いを何だって叶えてくれる。そうして欲望のままに肥え太らせてから最後に美味しく頂く為に。
「人など、我等の家畜に過ぎぬ」
 廃教会の屋根の上、十字架に腰掛けた悪魔が眼下を見下ろして言う。
 だらしなく尊大な態度で語る悪魔は手下の低級悪魔達を街の中心へと差し向ける。そこには大きな広場が有り、枯れた噴水の中には水の代わりに夥しいまでの数の骸が詰め込まれている。
 そして噴水の真ん中には白い柱、クラウドオベリスク。
 一応は悪魔の仕事はあれを守る事である。眼下の死都に人影を見れば部下を守りに向かわせるのは必然。そして自らは威力偵察という名の退屈凌ぎへと向かうのだ。
「さりとて、家畜に殺される者も偶には出て来るものである。
 戯れるには幸か不幸か、さて――」
 にたり、と、口角を歪ませて、悪魔が紅い皮膜の翼を大きく広げた。
 向かうはそう、訪れた猟兵達の下へ。


●悪魔の軍勢
 UDCアースやヒーローズアースの様な近代的な都市と違い、アックス&ウィザーズの都市に高層ビルなんてものは無い。
 魔法を利用した独特あるいは巨大な建築物が存在したりもするが、アルダワ魔法学園の様に数は多くなく、大抵は生物の力を借りていたようだ。
 建物は精々三階建てで木造か石造。街道は馬車の往来の為に非常に広く、つまりは空がよく見える。
「……悪魔、ね。どれくらい強いのかしら」
 見上げた死都の空に悪魔の群れを見付け、伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)が目を細めて呟いた。
 周囲は警戒しているが、どうやら悪魔達には先に見つかってしまったようだ。そうと判断出来るほど分かり易く悪魔達がクラウドオベリスクの下へ向かっていた。
 だが見つかる事自体は問題ではない。と、伊美砂は改めて周囲を警戒する。
 必要なのは隠密行動ではなく奇襲警戒。目と耳と第六の感覚を研ぎ澄ませて死都に落ちる無数の陰へと神経を張り巡らせる。
 幸い周囲の悪魔の気配は無い。
 人の気配、生き物の気配すらないのは、この都市が最後に滅んでから随分と経っているからか。
 それは考えても知れる事ではないが、伊美砂は『今現在、人間が飼われている都市』では無くて良かったと思う事にした。
 盾にされるのも、新鮮な贄にされるのも、避けられるのなら有難い。
 だがその分、より一層死都は不気味に佇んでいた。
「死者の都……捕らわれないようにしたいものですね」
 伊美砂に並んで茲乃摘・七曜(魔導人形の騙り部・f00724)が言う。
 人型魔法人形・ミレナリィドールである七曜にしても、ここまで人気の無い都市は気味が悪い。いや、人気が無いのが気味悪いのではなく、生活感溢れる大都市から生き物の影形だけが忽然と消えているのが不気味なのだ。
 さしずめこの都市は抜け殻の様で、『死都』とはよく言ったものだと七曜は唇を結ぶ。
 七曜は超音波探査での索敵も行っている為に、余計に空虚さを感じずにはいられなかった。
 そして思う。
 何故悪魔達はこの都市で暮らさないのだろうかと。
 何故、死都であり、魔都ではないのか。
 ――これもまた、考えて分かる事ではないのかも知れない。七曜は首を振り、再び周囲に音の波紋を広げていった。

「来る」

 先に反応したのは伊美砂。
 殆ど同時に七曜が身を退き構えた直後、二人の前方の突然火柱が上がった。
 淀み腐るかの様に停滞していた死都の空気が炎熱に晒され、暴風と成って吹荒れる。それを当然の様に回避して見せた二人の下へ、一柱の悪魔が舞い降りた。
「嗚呼、やはり仇敵か。人ならば飼ってやろうと思っていたが、貴様等ならば生かしておく理由は無い」
 火の渦を踏み付ける様にして堂々と立ち塞がるは、偉大なるアークデーモン。魔神級と称される悪魔の中の悪魔だ。
 挨拶代わりの無詠唱魔法の威力は猟兵でなければあっさりと焼け死ぬほどのもの。
 嗤う悪魔が明確に此方を見下していると分かっても、それが当然だと理解してしまうだけの威圧感を放っていた。
「退屈凌ぎの果てに、あの方の糧となるがよい」
 告げるのもまた詠唱ではない。
 詠唱を必要としない中級破壊魔法。
 それを悪魔は、無数に連ねて放つ事が出来る。
 ――速い。
 魔力の動きや高まりに留意していた七曜が、それでも放たれた魔法に制される。
 抜き放った二挺拳銃から放つ属性弾も相性を考慮する暇が無く、咄嗟に自身へ命中するものだけを相殺するので精一杯だ。
「く――ッ!?」
 腕が軋む。
 街道の石畳を撃つ破壊の魔法が、飛礫を生み出していた。
 そこまで防御が間に合わない。
 圧倒的な速度と物量に押し込まれる七曜を、横から伊美砂のコインが救う。
「手数ならボクに任せて」
 伊美砂は言うが、何の変哲もないコインでは破壊の魔法そのものを弾く事は出来ない。
 だから手数を。そして速度を。
 七曜が撃ち漏らし、地面や建物を崩す魔法。そこから生じる瓦礫と言う名の攻撃ならば、伊美砂のコインでも撃ち落とせる。
「助かります!」
 これなら、と、七曜が更に二挺拳銃の回転率を上げる。
 相殺する魔法は最小限に、余波での被害は仲間に任せ、生まれた余力で悪魔へと弾丸を撃ち込む。
 が、届かない。
 悪魔は三つ目を細めて嗤い、無数の魔法の内の一つを自分の周囲に向けて放つ。
 渦巻く炎が孕む熱風。それは容易く弾丸の軌道を捻じ曲げ、そして掻き消える。
 相殺出来るのは七曜だけではない。
 分かっていても、こうも容易く防がれるものなのか。
 それでも挑み、破らねばならない。七曜は微かにも打ちのめされず、瞬時に次の手を考える。
 奇襲に応じ、防ぎ切れただけで上々。
 戦いはここからだ。
 そしてそう考えるのは敵も同じ。
「手数は任せよと言っていたか」
 嗤う。
 酷く醜く、悪辣に。
 そうしてゆっくりと、六本の腕が天を仰いだ。
「大いなる父よ、邪悪なる神々よ! 我等が下僕共に御身の加護を与え給え!」
 祈りを叫ぶ悪魔の声。
 今だ荒れ狂う破壊魔法の中、二人が止める間も無く、空を暗雲が覆っていく。
 悪魔の群れはオベリスクへと向かった。しかしアークデーモンだけが猟兵達へと襲い掛かって来た。
 それがオベリスクを守る為であるなら、何故単身で戦いを挑んだのか。
 答えは単純だ。
 アークデーモンが新たに軍勢を呼び寄せられるから。
「さあ、自慢の手数で凌いで見せろ」
 嗤う悪魔の頭上、暗雲から生まれ堕ちるかの様に、無数の悪魔の軍勢が猟兵達の下へと降り注ぐ。
 いずれも知性の無い下級悪魔。しかし、アークデーモンの捧げた祈りと生贄を受け取った邪神の加護は、悪魔達の戦闘力を大幅に強化する。
 代わりに代償として己が身の一部まで奉じたアークデーモンの顔からは血が噴き出すが、悪魔はそれを意にも介さない。
「大量の生贄……都市の人達、ですか」
 七曜が冷たく呟く。
 此処は敵陣。地の利を活かし、待ち構えられるという状況を最大限に活かして来るとは思っていた。
 だが、思い到らない所もある。
 いったい、既にどれほど大量の生贄を捧げて来たのかと言う事。
 最悪アークデーモンはその身全てを捧げて死都を埋め尽くすほどの軍勢を呼び出せるのかも知れない。
 そんな最悪の予想が脳裏を過ぎる。
「笑っちまうほど地味だろ?」
 伊美砂もコインをばら撒きながら言う。
 堕ちてくる悪魔の軍勢は二人を、特にコインなんて物を投げ続ける伊美砂を見て嗤っていた。
 脆弱な人間の、矮小な武器。
 アークデーモンが無数の魔法を操りながら軍勢を呼び出し加護まで授けているのに対し、伊美砂はただひたすらにコインを放ち続ける事しか出来ない。
 それを悪魔達が嗤う。
 地味だ。そして、無様だと。
 だが、地上に迫り、伊美砂の射程内に飛び込んだ軍勢は、にやけた醜悪な面を撃ち抜かれ、『首無し』となって絶命する。
 一瞬悪魔達には何が起きたか分からなかっただろう。
 いや、一瞬後にも分からなかった。悪魔達は即座に七曜の放った弾丸のせいだと誤解したのだから。
 しかしそうではない。
 多くが風や炎と成って放たれる魔法と違い、悪魔の軍勢は物質界に顕現したおかげで瓦礫同様コインが通じる。
 通じるならば、撃ち落とせる。
 爆風に吹き飛ばされた凄まじい速度の瓦礫を容易く弾き返せる程の精度と速度を持つコインが、ただ真っ直ぐに向かって来るだけの悪魔の急所を撃ち抜けないわけがない。
「だけど、伊達に手先の器用さと速度だけで猟兵やってないからな……!」
 伊美砂が悪魔へと嗤い返した。
 途轍もない速度で放たれた硬貨という金属は極大の弾丸と化して悪魔を撃ち落とす。
 たかがコイン投げ。
 それを神業の域に高め、常軌を逸したこの技を地味だなんだと笑えるのは、同じく常軌を逸した者だけだ。
 伊美砂の常軌を悪魔が逸する事が出来るかどうか、命懸けのコイントスが悪魔達へと放たれる。
 オールデッドで賭けにもならず次々と撃ち落とされていく軍勢。
 隙を突こうにも0.023秒でコインが撃ち出され、急所を守ろうと分速約2500枚ものコインが悪魔達を圧殺する。
 加えて七曜の二挺拳銃がばら撒く弾丸も悪魔を撃ち殺すのに不足は無く、更には強引に突っ込んだ悪魔がアークデーモンの魔法に巻き込まれて粉々になったりもし始めた。
 だが、足りない。
 常軌を逸し、超常と成り、世界の摂理さえ捻じ曲げるに至ったユーベルコードを以てしても。
 属性を付与し乱射する二挺拳銃と魔弾の雨を以てしても。
 アークデーモンとその軍勢を押し留めるには至らない。
「ならば、もうひと押しを」
 伊美砂が作ってくれた隙と、アークデーモンが召喚の為に魔法攻撃の手を弛めた時の隙。この二つの隙にばら撒いた特殊な弾丸を起動する。
 弾丸は魔導弾。空中に撃ち込まれたかの様に浮遊し、停止する。
 そこから放たれた杭が魔術回路を描き出す。
 ……敵は強大。なら、もっと念入りに術式を作りたかった。
 だがそんな余裕すらも与えてくれない敵に、強引にでも突き崩すしかない。
「封印術式『流転』――!」
 起動。
 と、同時に、アークデーモンの動きが止まる。
 周囲全てを飲み込む程の効果は無い。悪魔の軍勢は止まらないが、アークデーモンの魔法が止まってくれればマシになる。
 今の内に、更に魔導弾を撒いて――
「――ッ!?」
 魔導弾が。
 七曜を表す杭が。
 組み上げた術式が。
 破壊の魔法に呑まれ、消し飛んだ。
「効かない……!」
 違う。
 効いてはいた。
 だが動きを止める程度では、詠唱も動作も必要の無い中級魔法は止められない。
 やはり術式をより強固に、身体だけでなく、精神も、七曜の全てを以て止めなければならない。
「あと一手――ッ!」
 もう少しだけ足りないのだ。
 あと、もう少しの余力が有れば。
 そう思った瞬間、二人の後ろから第三の猟兵が飛び出した。
「死者や悪魔が相手なら私の出番ですね!」
 振るう扇子はコミカルに、邪気を祓い沈んだ空気を吹き飛ばす。
 窮地に笑顔を、心と戦場に齎すは余裕を。
 黒髪を靡かせて舞う戦巫女、望月・鼎(宵闇の寵児・f02401)はアークデーモンへ向かってにやりと笑う。
「私もおふたりが作ってくれた時間で軍勢を呼び寄せました。
 さあっ、巫女の力でどんどん浄化調伏しちゃいますよーぅ♪」
 陽気な言葉に押される様に、鼎の後ろからは大量のおっさんや地味メン達が歩み出た。
 彼等は不遇闘士(イラナイツ)。鼎が召喚した戦闘用低パラメーターユニットだ。
「え、弱いの?」
「ハイッ!!!」
 伊美砂の言葉に溌剌と答える巫女。
 そしてその言葉通り、悪魔の軍勢へと殴り掛かった34名のイラナイツがぼこぼこにされ返り討ちにされていた。
「ええぇ……」
 戦時は冷静に努める七曜すら呆気にとられつつ、それでもイラナイツが稼いでくれたほんの僅かな時間にいっそう多くの弾丸をばら撒いていく。
 イラナイツは頑張った。
 悪魔に殴り倒され、おっさんの顔がより醜く拉げ、地味メンが派手に顔を張れ上がらせたり、そんな風に薙ぎ払われながらもイラナイツは立ち上がる。
 そして言う。
 悔しい、と。
「――こっからですよ♪」
 鼎が笑う。
 イラナイツは弱い。
 三一(サンピン)と馬鹿にされるくらいに弱い。
 戦闘力だけじゃなく面立ちから何から微妙で低スぺなのがイラナイツ。
 しかしてイラナイツはただ一つ、成長と言う名の武器が有る。
「悔しさを力に変えて! 立ち上がるのです!! イラナァーーイツッ!!!」
 鼎が言い放つ鼓舞を受けて、イラナイツの面々が立ち上がる。
 人一倍コンプレックスを抱えているからか実はそう言う才能に恵まれているのか、本当にイラナイツは立ち上がった。
 そしてまた負けた。
 また負けて、もう一度立ち上がった。
 何度も何度も打ち倒され、その度に少しずつ強くなり、立ち上がっては悪魔達に組み付いて行った。
「これは――」
 余力が生まれる。
 鼎の指揮の下、イラナイツが猟兵達を守り、悪魔の軍勢を押し留める。
 その隙に伊美砂と七曜は悪魔達を撃ち落し、時々鼎も指揮のついでに巫女パワーで悪魔を滅していく。
 そして遂に、軍勢の動きが止まった。
「成程、力押しでは捩じ伏せるのも骨か」
 アークデーモンが笑う。
 今度は見下すのではなく、ただ退屈が紛れたと。
 その頭上で渦巻く暗雲から光が溢れた。
「追加の軍勢ですか……!」
「いいや違うとも」
 身構える猟兵達にアークデーモンが言う。
 楽しそうに。
 次の玩具を引っ張り出す様に。
 ただただ悠然と、手を伸ばす。

「落ちよ、妖星」

 暗雲が消し飛び、巨大な魔法陣が空を覆う。
 幾重にも三次元的に重なり交わる複雑な魔法陣。その中心から一条の流星が放たれた。
 流れ星。
 伊美砂のコインが速度と質量を以て十分な必殺の武器になる様に、ただ空を流れて行くだけの岩は、地上にクレーターという名の傷跡を残す程の破壊力を持つ。
 真面に受け止める事など出来やしない。
 猟兵達が一塊になっていた事、そして軍勢を押し留める為に自らも押し留められて居た事が仇となった。
 そこらの家屋より巨大な赤熱した隕石が、猟兵達を真っ白に染め上げる。
 コインでは撃ち落とせない。
 弾丸では反らせない。
 イラナイツでは受け止められない。
 では何なら止められるか。
 そんなもの、同じ流星くらいなものだ。
 流れ星を打ち砕く流れ星。
 それは、死都の街道を踏み砕き、気合いと全力疾走の末にやって来た。
 流星一条、花月・椿(百鬼粉砕・f12960)の一撃が。

「あなたがクレーターになっちゃえっ!!!」

 怒号と共に流星を穿つは真っ赤に染まる灰燼拳。
 その拳を彩る赤手『燎原の火』が、その名の通り野原を焼き尽くすが如く隕石を衝撃で呑み込んだ。
 流星はクレーターを穿つ。
 隕石に穿たれたクレーター、そこから広がる亀裂が隕石を割り砕き、全てを飲み込む様な閃光と衝撃と共にその破片を周囲にぶちまけた。
 アークデーモンが、呆気にとられ、黙り込む。
 飛び散った隕石の欠片が周囲の建物を崩落させ、辺り一体は瓦礫と砂塵で覆われていた。
 それを眺めながら、やがてアークデーモンはくつくつと笑い出す。
 嗚呼、愉快だ――と。
「いっ、今何が!?」
 ひょこっと煙の中から巫女が顔を出す。
 咄嗟に鼎を庇っていたイラナイツも無事な様で周囲をきょろきょろと見渡し、その少し遠くで七曜がワイドプリムから砂を払いつつ立ち上がる。
「洒落んなんねえ……」
 伊美砂も無事な様で、立ち上がる前に煙に紛れてコインを回収していた。
「さっきの子は?」
「衝撃でどこかに吹っ飛んでいきましたよ」
「どんだけだよ」
 猟兵達が集まり、再び戦列を組み直すと、またぞろ街道の向こうから流れ星がやって来た。
「やりますね! 強いですね! ぶん殴り甲斐がありますっ!」
 見た所椿にも怪我は無いらしく、元気いっぱいに突っ走って来る。
 それどころか「さっきは顔面殴ろうとして隕石に邪魔されましたが、今度は隕石より速く顔面殴ります!」と息巻いている。流星を超越する気満々である。
 しかしそうと分かれば話は早い。
「先程は咄嗟に使う前に割り込んで貰えましたが、今度は私が割り込みます」
 七曜が言いながら二挺拳銃をリロードする。体術と組み合わせる事を前提にした拳銃だからか、片手でのリロードも慣れたものだ。
 それでも、技を磨き武器を研ごうと、七曜は自身一人では力及ばぬ場面が多い事を知っている。
 だから、支える事をも考える。
 椿の一撃をアークデーモンに届かせる事が出来れば。
 相殺し、拮抗して、押し留めるのがやっとの相手だ。このままでは一撃見舞えるかも怪しい。だがその一撃で決着が付くなら、全てを賭ける価値が有る。
「あたしは道を作るわ」
 伊美砂がそう言ってアサルトライフルを持ち出した。
 これに限らず、伊美砂は無数の武器を隠し持つ。コインもその一つだが、かなりの量を消費した上に暗器としては致命的な程にその性能を見せつけてしまっている。
 だからこそ、今まで使わなかった武器が暗器としてより隙を突くのに使えるのだ。
 むしろここからが本領発揮と言える。
「私もまだまだ戦えますよ♪」
 続けて言う鼎も、その手には巫女パワー充填済みの扇子や札が握られている。
 イラナイツもぼっこぼこではあるが鼎の武器を借り受けてやる気でいる。
 火力も耐久も鼎は他に劣ると思っている。だが、無力だとは思わない。
 改めてイラナイツの陣頭指揮を取り、アークデーモンへの攻撃を届かせる。その為に支援に徹すると告げた。
「では」
 参りましょう、と、七曜が言った。
 その後ろで椿が拳を握り、大きく一歩踏み込んだ。
 跳躍。
 しかし、すかさず高度を取ったアークデーモンには届かない。
「むうぅ! 逃げましたね!?」
 当たり前だと、口にはせずに悪魔は鼻で嗤う。
 隕石を正面から打ち砕く様な一撃を喰らってやる道理はない。
 人を家畜とみなす悪魔だからこそ、その家畜の危険性ぐらいは当然把握している。
「その蛮勇、かつて我が身を滅ぼした愚か者を思い出す。
 奴はその蛮勇故に郡竜大陸に渡って死んだと聞いたが、貴様では大陸に辿り着く事も出来ぬだろうよ」
 怒る椿を文字通りに見下して言うアークデーモン。
 返す椿はどうでもいいと切って捨てる。
「群竜大陸? 蛮勇? そんなの知りません、ただ強い者と戦い全力で殴りたいだけですっ」
 ふんっとふんぞり返って胸を張る。
 その姿もまた蛮勇に似るのだろうか。悪魔は目を細めて嗤った。
 だがしかし、椿の「臆病なあーくーまーさーん、怯えてないで降りといでーっ!」という挑発に、「我は貴様の様な弱い者と戦うのは好かん」と突き放した。
 言葉選びからして意地の悪さが滲み出ているが、更に意地の悪い事に悪魔は軍勢を再度送り込む。
 今度は一斉に飛び掛からせる事も無く、中空に布陣する。
「いっそ逃げ出してくれればクラウドオベリスク破壊しに行けて楽なんですけど」
「そうは行かんな」
 悪魔が嗤う。が、口から血が零れる。
 軍勢は無尽蔵ではない。生贄がどうあれ、アークデーモンが代償を支払えなければ打ち止めになるはずだ。
 故にアークデーモンは逃げられない。
 軍勢だけでは仕留め切れぬと知っている。なら、軍勢と共に自身も戦わねば押し切られる。
 それに次々にやってくる猟兵達が他にもまだ潜んでいないとは言えないのだから。
「そろそろ終わらせようか」
 デーモンが呟く。
 と同時に、全員が動き出した。
「斉射……!」
 伊美砂がその場に腰を落とし、アサルトライフルの引き金を引いた。
 空中で大群なんて良い的だ。弾をばら撒くだけで勝手に当たる。
 当たって怯めば、その隙に七曜の拳銃が急所を撃ち抜く。
 二人の遠距離攻撃手に苦戦し薙がれる悪魔達は一斉に散開し、猟兵達を囲い込む。
「イラナイツ・バリケード! 組体操でないです! 並んでー!」
 鼎が言いながらフラッグ代わりに扇子を振り、イラナイツが猟兵達を守るように円形にスクラムを組む。無論弱いが、突破だけはさせないという強い意志を感じる。
 そんなイラナイツの背中を踏み付け、椿は真っ直ぐにアークデーモンを睨み付ける。
 握り締めた右の拳。
 全てこいつ一本で終わらせる。
 その覚悟と気合を嘲り、アークデーモンは六本腕を広げて見せた。
「さあ、糧となれ」
 言葉と共に放たれるのは破壊の魔法。
 無詠唱で無数の魔法を連ねる。それだけでも異常な程に強力なのに、中級魔法とは思えない程に一撃ごとの破壊力が高い。
 それを七曜が一つ一つ属性弾で撃ち抜き、相殺させる。
 が、そこに違和感を感じた。
 その悪寒に七曜が躊躇う。
 ユーベルコードの使用を。
 準備は出来ている。後は起動するだけだ。
 なのに、戦闘知識が、第六感が、得体の知れない警鐘を鳴らしている。
 その違和感の正体を確かめる間も無く、伊美砂と鼎が軍勢を押し込んだ。
 アサルトライフルからマチェットに持ち替えた伊美砂が手前の悪魔の頭蓋を叩き割り、その向こうで飛んでいた一群を更にショットガンへと持ち替えて吹き飛ばす。
 散弾を受けて身を竦めた悪魔達に鼎の札が飛び、巫女の力で悪魔達を縛り付ける。
「今だ!」
「跳んでください!」
 二人の声に椿はイラナイツに飛び乗った。
 その背中を走り抜け、助走をつけて悪魔達の群れに突っ込む。
 だが目的は下級悪魔じゃない。
 跳んだ先に居る悪魔。散弾と札で硬直しているその悪魔の肩や背中を踏み付けて、椿は更に高く跳ぶ。
 当然、飛び移って狙うのは大将首。
「せえぇいっ!」
 椿が振り被る。
 それに合わせて、七曜が『流転』を起動した。
 魔導弾はばら撒く度に薙ぎ払われ、用意出来たのは先程と同じ動きを止めるだけの術式。
 だが、アークデーモンの動きを止め、回避と隕石を封じられれば、椿の一撃はアークデーモンの顔面をぶち抜く筈だ。
 筈、だった。
 アークデーモンが止まる。
 そして、椿も止まる。
 悪魔と猟兵が空中で向き合ったまま止まり、その周囲に幾つもの攻撃魔法が生み出される。
「――呪縛の魔法か……ッ!」
 伊美砂が叫び、分銅鎖を投げ付ける。
 鎖は椿の脚に絡まるが、伊美砂が引き寄せるより先に魔法が椿に襲い掛かった。
「……ッ!」
 爆発が起きた。
 身を捩る事さえ出来ないまま、椿が業火に呑まれ、絡めた鎖が焼き溶かされ伊美砂の手元に落ちてくる。
 間に合わなかった。
 が、椿は落ちて来なかった。
「はっ、破片も残らず……!?」
「隕石砕くような子がそんなやわじゃないだろ」
 慌てふためく鼎に、伊美砂が安堵の溜息を吐きながら言う。
 七曜も一瞬遅れて破られた術式を再度張り直す為に魔導弾をばら撒いた。
「間に合ったな」
 そこに、宇宙バイク『ドラゴンチェイサー』に跨ったゼット・ドラグ(竜殺し・f03370)が現れる。
 ついでかの様に両腕に仕込んだ火器で周囲の悪魔達を薙ぎ払い、あっさりと合流する。
「私また吹っ飛ばされたんですが!」
 と、またもダッシュで椿が合流する。
 ゼットが咄嗟に放った投擲槍で椿が攻撃圏内から離脱出来たのだが、それが分かったらしく、椿の手には槍が握られていた。
 それをお礼と共に返しつつ、受け取ったゼットが戦況を問う。
「攻撃を防ぐので精一杯と言った所でしょうか」
 七曜が言うとゼットは深く頷いた。
 遠目で見ただけだが、アークデーモンの動きが止まった事、椿の動きも止まった事、割と洒落にならない威力の魔法を動きを止めても乱発してくる事は確認している。
 そして悪魔の軍勢だ。
 正直、これの対処が無ければまともに戦えるのだが、しないわけには行かない。下手な攻撃より余程厄介だ。
 成程。例の戦闘狂が出した依頼なだけは有る。
 以前もゼットは彼の依頼でやたらと手強いワイバーンを屠った事が有る。
 敵が弱ければ本人が始末し、結果強敵の依頼ばかり出されるのではと思う程に、奴の依頼は過酷だ。
 あと、ワズラは猟兵を信頼し過ぎているので情報が省かれがちだ。
 今回の件で言えば、「既に無数に捧げられている生贄」がそうだろうか。考えれば思い付くであろう事を、あの戦闘狂はわざわざ説明したりしない。
「今度の相手は悪魔か」
 言って、ゼットが上を見る。
 新たに猟兵が訪れた事でアークデーモンの警戒度が上がったのか、一時的に攻撃の手が緩んでいる。
 こんなのが敵の先鋒だと思うと、頭が痛くなると言うか、血が湧き肉躍り出すと言うか。
 兎角。真面に打ち合ってどうにかなる相手ではないのは分かった。
「――よっしゃ、一つやってやるとするか!」
 声を上げ、ゼットがドラゴンチェイサーの座席を叩く。
 巨大な相棒がバイクからバスターブレイドに変形していき、更にそこへ投擲槍『竜を殺す百の刃』を合体させる。
 出来上がった十字型の大剣『クロスバスタード』は、悪魔を斬り殺すにはうってつけだろう。
「退屈とは、難儀なものよな」
 頭上から声が一つ。
 アークデーモンが腕を組みながら腰に手を当て、露骨に猟兵達を見下していた。
 三眼に浮かぶ期待の色は、「己を討ち破る者への期待」ではない、ただ「己を楽しませてくれる玩具であってくれ」という期待のみ。
 その期待に応える心算は無い。
「お願いがあります」
 七曜がそう言って、鼎を見た。


●猟兵の本気
「遅れてきた分、派手に暴れさせて貰うぞ!!」
 咆哮を上げ、ゼットが武装を解放する。
 バズーカにミサイル、ガトリングガン等々。伊美砂の暗器・銃器から携帯性や隠密性を取り払ったかの様な重火器の数々を惜しげも無く、そして躊躇も無くぶっ放す。
 狙いは軍勢の駆逐。
 唯一アークデーモンにダメージを与えているのはアークデーモン自身が支払った代償の分だけだ。
 再度軍勢を召喚すればそれだけでダメージが入り、しないのなら直接攻撃を狙う事が出来る。
 つまり、攻撃チャンスを作る。
 その為にもゼットは思い切り爆炎と爆風を撒き散らした。
「お前ら悔しくはないのかー!!!」
「悔しいですー!!!」
 そんな爆発シーンを背景に、鼎がイラナイツに喝を入れる。
 ぼこぼこだけどまだ頑張れると言うイラナイツは根性も成長しているのか、目に火が灯っていた。
 それを更に後押ししてもう一段パワーアップを促す鼎指揮官の激励をアークデーモンが不思議そうに見下ろす。
「ぼこぼこにされて悔しくないのかー!!!」
「悔しいですー!!!」
「役に立てなくて悔しくないのか―!!!」
「悔しいですー!!!」
「女の子に踏み台にされて悔しくないのかー!!!」
「それはちょっと嬉しかったです」
「だよね」
 分かる、と頷く鼎にやや引き気味な伊美砂。
 それを尻目に七曜が鼎に合図を出した。
 合図を受け、鼎がイラナイツににっこりと笑い掛ける。
「それじゃー最後のチャンスです! ……頑張ってね」
 戦巫女の激励を受け、イラナイツの士気が跳ね上がった。
 拳を突き上げ、血だらけでボロボロな身体で吼え猛る。
 イラナイツ、総勢34名。
 全員がその勢いのままに悪魔の軍勢へと殴り掛かっていった。
「成程、面白い」
 様子を窺っていたアークデーモンが嗤う。
 敵う筈がなかろうと。
 しかしそれは直ぐに逆の意味の嗤いになった。
 イラナイツが、邪神の加護を受けた悪魔の軍勢を圧倒し始めたのだ。
 それを見たゼットは攻撃対象を空中の悪魔に変更する。
 地上は巫女と巫女率いるイラナイツで十分だと悟ったからだ。
 これが作戦か。
 アークデーモンは嗤う。
 成程、あの弱き集団は敗れる程に強くなるようだ。そして強くなった奴等で軍勢を抑え、手が空いた者達で我が身を討たんとす。
 ……普通だ。
 だから、嗤う。
 そしてノーモーション・ノーワード、加えてノールックで魔法を放った。
 ゼットの撒き散らす爆炎を上から圧し潰す様な爆炎。
 荒れ狂う竜巻が猟兵を押し退け、刻み始める。
 だが今回は、七曜がそれを相殺しない。
 代わりに、イラナイツが自分や倒した悪魔の身体で魔法を受け止めたのだった。
「受け過ぎないで、悪魔の死体使ってね!」
 鼎の呼び掛けに応え、またぼこぼこになりながらも魔法を物理的に相殺させていくイラナイツ。
 その間に七曜は魔導弾をひたすらにばら撒いていた。
「降りてこい臆病者ーっ!」
 椿は当たらないと分かっていても拳を振り上げ、時折悪魔を踏み台にしたりイラナイツに協力して貰い跳躍とパンチを繰り返す。
 支援するのは伊美砂。分銅鎖や銃器を駆使し、少しでも椿の攻撃が届く様にと立ち回る。
 実質的に脅威と捉えられているのは椿の一撃だけだ。
 だからこそ、作戦が変わろうと、椿が拳を振り上げる限りアークデーモンはそちらに意識を割かなければならない。
 そこに必ず隙が生まれる。
「『流転』を使ったのは二回。そのどちらも身体の動きを止めただけ」
 だから、勘違いしているだろう。
 七曜の『流転』が、その程度のユーベルコードだと。
 勘違いを重ねて、油断させて、最後にその隙を貫く。
 その為に。
「これで全部だッ!!」
 ゼットの放った榴弾が空中に居た残りの悪魔を全て吹き飛ばす。
 地上の悪魔も全て斃れ、遂にアークデーモンと猟兵達だけの戦いとなる。
 ――さあ、どう出る。
 息を飲む間に、アークデーモンは決定を下した。
 三度、軍勢の召喚。
 ごぶりと喉奥から溢れた血の塊を吐き捨ててアークデーモンが嗤う。
 分かっているのだ。猟兵が消耗して居る事を。
 イラナイツだけではない。今しがた参戦したばかりのゼットでさえ、既に無傷とは言い難い。
 邪神の加護を得た『軍勢』をたった五人とイラナイツで殲滅出来る事自体が異常なのだ、無傷でも無ければ余裕も無い。
 故に、このまま軍勢をけしかけて磨り潰す。
「そうすると思いました」
 七曜が微笑む。
 自らと同じ名を持つ『七曜』の封印術式を起動して。
「イラナイツの皆さん、最後の最後のお仕事ですよーっ」
 ばっと両手の扇子を開き、指揮を取る鼎。それに従い、イラナイツは力を合わせてジャンプ台となった。
 両手を広げ、足を乗せ、それを真上へ放り投げる人力ジャンプ台。
 届かない筈。
 そう思いながらも、先程までとは明らかにやり方が違うのを見て、アークデーモンが高度を上げた。
 もっと一瞬でジャンプ台を作れたなら、その油断を突く事も出来ただろう。
 だがアークデーモンは一瞬早く離脱した。
 だから。
 代わりに、伊美砂は別の隙を突く。
「ボクのこと、忘れてたでしょ」
 伊美砂と言う暗器使いにして狙撃手の、その神業を。
 意識の外から現れ出でて命の全てを奪い去る。それが『羅漢銭・須臾打』。地味だが、必殺のユーベルコード。
 殺したのは、アークデーモンの全ての翼。その赤い皮膜をコインが撃ち抜き、飛行能力を完全に殺ぎ落とした。
「くっ」
 嗤う。
 アークデーモンが嗤う。
 見事だ。だが甘い。
 軍勢を滅ぼし、第三陣が来るまでの隙を突いての連携。
 それでもまだ悪魔には魔法が有る。
 翼が折れようが四肢が捥がれようが、まだ戦える。
 まだ。
 まだ、油断している。
 油断したまま、アークデーモンは完全に停止した。
「封印術式『流転』……有限が作り出す無限の円環……幽玄たる時間の監獄へようこそ」
 七曜がスカートの両端を摘まみ上げる。
 七曜と同じ名を持つ『七曜』とは五行たる火水木金土に陰陽の日月を加えた理。
 相生と相克に陰陽の転化。善しに悪しきに万物の循環の全てを意味するもの。
 完全起動した『七曜』は無尽蔵に循環を続ける永劫の封印と成る。
「代償を支払い、僅かにでも弱っていなければ、これも通じなかったかも知れませんね」
 呟く七曜の隣を、椿が全速力で駆け抜ける。
 その力強い踏み込みを受けて椿が跳んだ。
 高く、高く、人を見下す悪魔より高く。
 凍て付くアークデーモンの顔面に、左の掌を突き付ける。

「ぶっ飛べっ!!!」

 気合一閃。
 放たれた渾身の一撃が、アークデーモンを撃ち抜いた。


●魔神の生業
 悪魔とは、人を家畜扱いする者。
 人を騙し、欺き、貶める者。
 人に騙される事が無いわけではない。
 だが、人を騙せない悪魔は居ない。
 例え己が騙され、窮地に立とうと、最後に騙し勝つのが悪魔である。


●命懸けの退屈凌ぎ
 七曜が感じた違和感の正体は、『流転』を発動させた時に判明した。
 ――代償を支払い、僅かにでも弱っていなければ――
 そう思った時に、気が付いたのだ。
 グリモア猟兵から得たアークデーモンの情報。
 ユーベルコード『妖星招来』の、その効果は、

『隕石の余波で地形が破壊され、その上に立つ自身の戦闘力を高める』

 ……隕石は確かに周囲を破壊した。
 だが、その後に魔法を相殺した時、七曜はアークデーモンが強くなったとは思わなかった。
 直接大地に立っていないからか?
 いや、そんなに極端に範囲の狭い効果ではないだろう。
 では、何故。
 その考えに行き着いた瞬間、周囲に散らばっていた隕石の破片が紅く光り出した。
「まずい……!」
 最初に異変に気付いたのは伊美砂。
 アークデーモンが動き出している。
 伊美砂の言葉で猟兵達は気付く。
 しかし誰も、何も出来なかった。
 猟兵達が見上げる中で、アークデーモンが六本腕でガードを固める。
 そして、その頭上に、巨大な魔法陣が描き出された。

 だが、それでも椿は止まらない。

 隕石より速く殴る。
 その一念を胸に振り被ったのだ。
 ガード? 隕石? 知ったことじゃない。
 ただ、右手に全ての力を込めて。
「――ぶっ飛べ!!!」
 握り締めた右拳が、ガードの上からアークデーモンの顔面を打つ。
 雷鳴が轟く様な爆音を放ち、血飛沫を撒き散らしながらデーモンは地上へと叩き付けられた。
 その衝撃で小さなクレーターが出来上がる。
 が、それより巨大なクレーターが今生まれようとしていた。
「逃げろ!!」
 ゼットが叫び、全員が動き出す。
 逃げ場など無い。
 それでも逃げなければ。
 そして、星は地に落ちる。



「嗚呼、実に刺激的だった」

 満足気に呟いた魔神は、悪魔の軍勢に運ばれ、巨大なクレーターを後にした。
 残った物は、瓦礫と、隕石片と、血痕と……。


●偵察
「……マジか」
 死都に二つの星が落ちた。
 一つは打ち砕かれ周囲を瓦礫の山に変え、もう一つは瓦礫の山をクレーターに変えた。
 情報通りなら、あれはアークデーモンの招来した隕石。
 空に魔法陣を展開して隕石を呼び込むと言う派手な技で、前動作がどうやっても隠し切れない大技だ。
 が、魔法陣はともかく、隕石の速度と威力は凄まじい。
 宇宙の彼方から飛来すべき物を都市上空なんて星単位では目と鼻の先から放つのだ。そりゃあ隕石を確認した直後にはクレーターが出来上がるくらいに猶予(ラグ)は少ないだろうが……。
「躱せるか、あれ……」
 速くて重くて広範囲。チートかよ、と突っ込みたくなるが、そう言えばユーベルコードって自然の摂理に反するチートコードだったわ。
 などと考え、十六夜はやや凹む。
 自分も今ユーベルコードを使っているが、それは視力と聴力を常人域から逸脱させ、野生の勘までも研ぎ澄ませるものだ。効果は絶大だが、直接的な戦闘力は皆無である。
 この能力を駆使して都市を探索していたが、今ので敵の場所と、周囲の状況が分かった。
 先ずアークデーモン。
 あれは手負いだ。悪魔の軍勢に抱え上げられ、自己回復しながら都市中央部へ移動中。
 次いで都市中央。
 遠目にもクラウドオベリスクの先端が見えるが、同時にその周囲に夥しい数の悪魔が居るのも分かる。
 その二つ以外は自分の現在地を含め、誰も居ないし、何も無い。
 隕石が降った衝撃は途轍もなく大きな地震の様だったが、どれだけ耳を澄ませようと周囲からは人や生き物の音がしなかったからだ。
 流石にこの状況で音を立てずに隠れて居られる奴が居るとした、それはもう負け確である。
「で、見付けてからやる事は、と」
 十六夜は偵察役だ。
 仲間と共に此処に来て、先に死都の探索に出ている。
 単独偵察任務。
 それはつまり、仲間と合流するまでの全ての行動を自分で判断するという事。
「……選択肢は一つだな。
 死都の真ん中にアークデーモンが辿り着く前に、別の場所に引き付けて戦う。
 それが出来なきゃ、最悪アークデーモン率いる悪魔の軍勢withドラゴン、なんて無理ゲーさせられちまう……」
 考えるまでも無く無理だ。
 猟兵達も数十人とか連れて来ないと勝てる気がしない。
 だから、十六夜は走り出す。
 取るべき選択肢は決まっている。だから悩むのは、何処で戦うか。
 仲間の性質と敵能力を省みて最善のポジショニングをする。
 地の利は敵に有ったとしても、猟兵達が地形を活かせないなんて事は無いのだ。
 が、
「あの作戦、このままじゃ使えないよな……」


●火と雷
 死都は円形に広がり、末端はあまり良い作りとは言えない建物が並んでいる。
 居住区自体がもう少し中央寄りなのだろう。死都入り口から見渡す舗装されていない道ばかりの風景は、死都と言うよりはただの廃墟群じみていた。
「死者の都か……」
 それでもトール・ペルクナス(雷光騎士・f13963)は思う。ここには救われず失われた何万もの命が有ったのだと。
 人間として晩年まで人助けの為に戦って来たからこそ、助けられなかった命を何時まで経っても軽くは捉えられない。そこを軽んじれば、人助けなど投げ出すだけだ
 しかし、命を救うだけが人助けではない。
「それでも私は救えるモノを救う」
 この死都の最奥には未だ奪った命を貪り続ける者が居るのだ。
 それを討ち、弔う事を、救いに変える。
 そうする事で後に生まれるかも知れない被害者だって救えよう。
「なぁ、あの遠くに見えるでっけぇ塔をへし折ってやるんだよな!」
 思い耽るトールに、妙に明るく梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)が話し掛ける。
 指差す先には白い塔の先端が見える。
 オベリスクと言う言葉通り、その塔は柱状の巨大オブジェクトの様だ。塔と言っても建物ではなく、柱と言っても天井を支えているわけではない。
 だが、オベリスクの別の名は『保護』を意味する。……名前と意味に関わりが有るかは不明だが、少なくともあの塔が郡竜大陸を隠し、保護している事に違いはない。
 だから折る。
 オブリビオンは存在するだけで世界を滅ぼしてしまう。大陸に引き篭もっている限りは無害だ、などとは決して言えない。
 そう考えて頷くトールの顔は真剣だが、喜介の方はやはり明るく胸を叩く。
「なら任しとけ! 昔っからデッカい塔だの城だのは崩れる運命にあるもんだ! この不気味な街ごとペシャンコにしてやらァ!」
「それだと私達まで潰れそうだな」
 違えねぇ!と笑う喜介の底なしの明るさに幾分心も軽くなるのを感じ、トールが細く息を吐く。
「それじゃ、おれぁ先に行くぜ!」
「ああ、私も後で先に行くよ」
「はっはっは! おもしれぇ!」
 終始笑ったままで、喜介はトールと別れて走り出した。
 壁をよじ登り屋根から屋根へと飛び移っていくその姿は人に似た動物を連想させるが、本人はそれより余程強く、速い。
 見送ったトールもなるべく高く見晴らしの良い場所を確保して死都を眺める。
「……光ったな」
 合図ではない。
 遠方から雷鳴が聞こえる。それと、地震が。
 聞いていた隕石の召喚と言う物だろう。都市内部での戦闘音が入り口まではっきりと聞こえる程の戦い。それだけで苛烈さがよく分かる。
 だからこそ、急がねば。
 人を助けるには最速が望ましい。
 手遅れになれば、この死都に住まう人々の様になってしまうかも知れないのだから。
「今度のは合図だな」
 空に閃光が奔る。
 その光が消えるより速く、トールの姿もその場から掻き消えていた。


●蔓延る者共
 アークデーモンの負傷は大きい。
 六本の腕はどれもが最低骨折、最悪壊死しているような状態だ。
 翼は再生が間に合ったが自在に飛べるとは言い難い。
 何より、自ら放った妖星招来の余波により、身体の前面に無数の瓦礫が突き刺さっていた。
 全て抜けば血が止まらず、軍勢召喚の代償と相まってアークデーモンはふらつく程に疲弊していた。
 それでも、凶悪な敵であり、クラウドオベリスクを守護する迎撃役である。
 目の前に仇敵『猟兵』が現れれば、追わざるを得なかった。
「まだ居たのか。先刻滅ぼしてやったと思っていたのだがな」
「まだまだ居るぜ! お前が滅ぼしたと勘違いした連中も全員な!」
 アークデーモンの軽口に挑発で返し、十六夜が街中を駆け抜ける。
 折角見つけた都合の良い場所、そこからなるべく動きたくはないが、何せ多勢に無勢だ。一人で、それも碌に戦闘手段を持たずに軍勢全員を相手になどしていられない。
 一刻も早く合図を出したい。
 が、まだやらなければならない事が有る。
「くそっ! 聖水でも喰らえ!!」
 十六夜がそう言いながら水を撒くが、悪魔達はそれをひょいと躱し、追って来る。
 地面にぶちまけられた聖水も低空飛行であっさり躱し、どこまでも淡々と十六夜を追って来る。
 追って来て、追い詰める。
 それも時間の問題だろう。
「やっぱり触ってくれないよな……!」
 撒いた聖水こそ作戦の一つだが、アークデーモン含め、飛行能力を持つ悪魔達はおいそれと水に触れようとしない。
 せめて直接ひっかける事が出来ればと思ったが、軍勢は兎も角アークデーモンは難しい。
 そもそも近付けないのだ。
 撒くだけでは足りない。せめて浴びせてからでなければ――!
「――詰まらん」
 背後から声が聞こえた。
 それより一瞬速く、背筋を走る悪寒に従い、十六夜が大きく身を捩る。
 眼前を掠めていく深紅の鈎爪。
 その切っ先が、十六夜が持って居た聖水入りの箱を弾き飛ばした。
「ぶわっ!?」
 予想外に自分までずぶ濡れになり、目に染みる聖水を拭いながら十六夜が逃げて行く。
 それを見送るアークデーモンはやはり詰まらなそうに歯ぎしりをする。
「聖水。いや、海水か。傷口に染みさせたかったのか……?」
 先程までの猟兵達とは全く違う。
 嫌がらせの様な事をしてくるが、下級の悪魔の一柱も倒せていない。
 妙に素早く勘が良い以外は普通の少年にさえ見える。
「……いや」
 油断。
 そう、油断だ。
 先程はそれで痛手を負った。
 猟兵とは脆弱である分、そうやって戦う事に長けているのかも知れない。
 ならば、油断してやらねばなるまい。
「くくっ」
 アークデーモンの口から嗤い声が漏れる。
 悪魔とはそう言う者よ。
 永遠の秩序に唾を吐き、刹那も待たずに移り変わる混沌こそを愛する。
 逆に、極上にして一瞬の快楽が得られるならば、悠久に等しい安寧に身を顰める事だって出来る。
 無論、我が身を危険に晒す事も、厭わない。
「我が神よ、貪りたまえ。我もまた貪る為に」
 祈る。
 悪しき神々、邪なる神々に。
 さすれば暗雲は渦を巻き門と成って悪魔の軍勢を送り込む。
 そして邪神の加護はより強くなる。
「げ」
 十六夜はそれを悟る。
 と言うか目の前に見えている。不自然に立ち込めた暗雲の中から降りてくる悪魔の軍勢の姿が。
「ここに来て追加かよ……!
 ええい、ままよ! 聖水効かないんなら今度は聖光を喰らえ!」
 追い詰められた十六夜が、今度は何か小さな結晶を空へと放り投げた。
 それは瞬く輝き、一瞬天地の全てを真っ白に染め上げる。
 が、それだけだ。
 聖なる光と聞いて思わず身構えた悪魔の軍勢も、受け入れる様に腕を開いたアークデーモンも、特に何の影響もなく立っている。
 それを見た十六夜が目の前の悪魔に残った聖水と言う名の海水をぶちまけ、颯爽と逃げて行った。
 そして言う。
 負け犬の遠吠えの様に。
 しかし、聖なるお告げの様に。

「聖なる光は、今から来るんだぜ?」

 軍勢は止まる。
 その言葉の真偽を疑って。
 だが、考えるも早くそれは来た。
 真っ白に大気を焼き尽くす、聖なる裁きの雷が。
 先程の先攻とは比べ物にならない程強烈な光にアークデーモンが目を細める。そして次に目を開いた時には、目の前に居た悪魔達は全員が黒焦げの細切れになっていた。
「遅れたか?」
「いや、速過ぎるくらいだ」
 自信無くすぞ、と言う十六夜のぼやきに背を向けてアークデーモンへと向き直るのは、雷を纏う猟兵、トール。
 雷を操り、自らも雷に成れる男の紫電一閃は、死都の端から此処まで駆け付けるついでに悪魔達を焼き払っていた。
「それで塩水か」
 納得がいったと、アークデーモンは嗤う。
 下らん。が、愉快だと。
 言い終わらない内に振るった爪撃はトールの籠手で防がれ、籠手から放たれた電撃が濡れたアークデーモンを焼く。
 が、畳み掛ける前に悪魔の軍勢が押し寄せ、トールへと襲い掛かった。
「傷口に塩を塗り込まれるよりは刺激的だ。それで、次はどう楽しませてくれるのか」
 嗤うアークデーモンに、トールは笑わずにただ睨む。
 軍勢が邪魔だ。
 籠手に纏った雷撃で焼き払おうにも、飛んでいる者も多い。
 直接雷撃を叩き込み、片っ端から足下の海水へ叩き落とさなければ広範囲高出力は難しい。
 が、出来なくはない。
 バチンと大きく手を叩く音が聞こえる。その次の瞬間には、トールの周囲の悪魔達が皆顔中の穴から黒煙を噴き出し、ぶっ倒れた。
 さっきまでの圧倒的な優位を容易く押し退けるトールは、雷撃の籠手で受け、雷撃を流し、時に放つと言う攻防一体の戦いで軍勢を蹂躙する。
「これなら私一人で軍勢を名乗れるな」
 押し寄せる悪魔を端から焼き尽くし、バリツと雷撃による稲妻の如き一撃が生き残った悪魔に止めを刺す。
 その鮮烈さは聖なる光、裁きの雷。
 故に、悪魔達はその光を穢したがる。
 トールへと殺到する悪魔の軍勢は怯むどころか勢いを増し、遂には笑いながら武器を振り上げ飛び込んで来るにまで至る。
 異常だが、邪神の加護を得た悪魔達にして見ればそれが普通。
 神の加護を得ている身で、他が神の威光になど屈せるものか。
 次第に悪魔の死骸が積み重ねられ、遂には足元の塩水など見る事も叶わなくなる。
「――キリが無いのが、武器なのか」
 悍ましいと掃き捨てるトールに、アークデーモンは嗤う。
「我が武器とは言い難いがな」
 何せ見ているだけだ、と。
 その言葉が事実であり、トールは一歩下がる。
 警戒はしているがアークデーモンは魔法を使って来ない。負傷のせいか、それとも油断しているだけか。
 何方にせよ、軍勢全てを撫で斬りに処すのを待っていてはくれないだろう。
 だがそれは味方も同じ。
 決着が付くのを黙って待って居る程、あの少年は利口じゃない。

「そこかぁ! ど畜生がぁぁあ!!」

 怒声と共に、屋根から飛び降りた男が木刀を振り下ろす。
 それはトールの雷撃よりも雷の様に轟き、悪魔の頭蓋からアバラの下までを粉々に粉砕した。
「お前らみてぇな悪魔どもの脳天にゃあ渾身の一太刀を見舞わせてやる!」
 駆け付けた喜介は言いながら剣を振り上げ、突然の強襲に混乱する悪魔達の脳天を再び叩き割った。
 その一撃は単純だが重く、鋭く。咄嗟に頭を守った悪魔の腕ごとでも容易く脳を破壊する。
 もはや喰らえば即死の一撃必殺と成り果てた剣撃を携えた喜介は、トールに群がっていた軍勢を次々に打ち砕いていく。
 全く、言動だけでなく剣までも痛快な男だと、トールが笑って籠手を構え直した。
「いいタイミングだ。来ると思っていたよ少年」
「遅参した分の働きは剣で返すゼ!」
 再開した二人が一言交わして並び立つ。
「『火の構え』!」
「『雷撃王』!」
 叫び、解き放つはユーベルコード。
 世界の法則性をも斬り捨てる一刀を。
 自然の摂理さえ置き去りにする一閃を。
 振るわれる剣と拳が悪魔の軍勢を骸の軍勢へと作り替えていく。
 その凄まじさを目の当たりにして、十六夜は逃げた。
「いや、さすがに無理だ。俺はサポート専門だから」
 こっからのガチバトルは二人の独壇場だ。
 二人で独壇場と言うのも変な話だが、並び立っておいて無双と言うのも何かが違う。
 一方的。
 だが、それでもアークデーモンには届かない。
「えぇい、まだるっこしい! にやけ面がちっとも近付けねぇぞ!?」
 叫ぶ喜介が言う通り、彼我の距離は縮まらない。
 敵を斬り伏せ進んでいる筈なのに、気付かない内に押し返されているのか、進まない。
「少しずつ退いている……わけでもないか」
 十六夜が選んだ場所は狭い路地だ。
 家屋に挟まれ、空も狭い。軍勢が降り立ち、攻め込むには狭過ぎる。
 だからこそ四方八方から襲われると言う事も無く、殆ど前方の敵郡にのみ集中出来ているのだが、しかし、これは――
「――拙い」
 トールが言う。
 敵は強いが、敗けはしない。
 だが、悪魔達はある目的を確実に果たしている。
 汗が流れる。
 杞憂で済むはずがない。
 その顔を、アークデーモンが見て、嗤った。
「来たな、隕石!」
 十六夜が叫ぶ。
 知っていた。
 分かっていながら、此処を選んだ。
 この狭い場所で小さな空を活かすなら、軍勢で押し固めた上で真上から隕石を降らせるのが一番だ。
 だから、計算通りだ。
「計算通りなんだから、落ち着け、俺」
 言いながら十六夜が走り出す。
 頭上には暗雲を払い除け広がっていく巨大魔法陣。
 あれが完成し隕石が顔を覗かせれば、ほぼノータイムで地上は更地に様変わりだ。
 それを、俺が止める。
 ろくに戦えない支援特化の俺だからこそ、あの何もかも台無しにしやがる一撃を止められる!
「十六夜ぃ! 乗りやがれぇ!!」
 声を張り上げ、喜介が一刀を振り下ろす。
 粉砕された悪魔が飛散し、そこに出来たスペースには喜介の木刀の切っ先が有る。
「行くんだろ?」
「ああ、頼んだ」
 笑い合う二人。
 殺到する軍勢。
 開けた空間が再び埋められる前に切っ先へと十六夜が飛び乗れば、喜介はそれまで通りに木刀を握り締める。
「火の、構えぇ!!!」
 天地を結ぶ大上段。
 それは、逆を言えば地より天へと向かう剣。
 切っ先の乗った十六夜は、その勢いに乗って、空高くへと打ち上げられた。
「はっはぁー! こんな時でも前見て構えてらぁ! あいつがしくじれば全員仲良く御陀仏様だなぁ!」
「私は信じているとも。彼も、君もな」
「それならドンと構えてなぁ! おれが全部、斬り伏せてやらぁ!」
 頷くトールが両手に剣を携える。
 電界の剣、その二振り。
 構えは、重く、遅い。
 トールの動きが止まった隙は、喜介の烈火の如き斬撃が埋め合わせる。
 そしてそれを全て押し潰さんとする隕石は、ただの支援型猟兵一人が受け持った。
「諦めよう」
 託された十六夜は言う。
 無理だ。
 隕石なんて止めようがない。
 だから諦める。
 全身の力を抜いて、有るがままに受け入れる。
 さあ、もう瞬きする間も無い。
 そうやって、無我の境地に至った十六夜の無防備な肉体を、極大の隕石が容赦なく粉砕した。


●一閃と一閃
 痛い。
 と、思う間もない。
 即死と言って良い。
 苦しむ事も無かっただろう。
 なにせ隕石の前に投げ出され、身構える事も無く浮かんでいたのだ。
 十六夜は受け身がどうのこうのと言う次元を超えて、どこから隕石にぶちのめされたのか分からないまであった。
 だが、それで良かった。
 自力で飛び出していたら、脚が竦んでいたかも知れない。
 距離が足りないとか高度が低いとかを気にしていたかも知れない。
 喜介にぶん投げられたから、あの馬鹿の馬鹿さが感染って、良い具合に肩の力が抜けたのだろう。
 だから諦められた。
 なるようになれ、ではなく、なるようになんだろ、と他人事の様に。
 故に、此処に『完全なる脱力』が成された。
「ここ一番で使うには発動条件がキツ過ぎるんだよなぁ!」
 叫ぶ。
 叫び、剣を取る。
 全身粉々、跡形も無くなり、苦痛の苦の字も無く即死した十六夜が。
 その事実を押し付けてくるユーベルコードを、事実ごと打ち消して。
 摂理を捻じ曲げるユーベルコードを更に捻じ曲げるユーベルコード。
 それが、十六夜の切り札『霞む幻刀』。
 受けたユーベルコードを無効化し、それを光の刀身に変えて抜き放つ。

「そんな大技通すわけねぇだろボケェ!」

 こちとら支援特化だぞ。
 仲間守って支える為だけに世界の法則を捻じ曲げて来たんだ。
 脳死ブッパの大技が、この月代・十六夜に通るわけがない。
 その宣言が当たり前だと、真下の仲間が笑っている。
 そうとも、だからこいつも支援の一撃。
 戦況を切り開く、反撃の一撃だ。
「ってこれ、制御ミスったら下の二人死ぬんじゃ?」
 そう気付いた時にはもう遅い。
 抜き放った一刀一閃がアークデーモンを袈裟切りに引き裂いた、その瞬間。
 衝撃と余波が周囲の地面を吹き飛ばし、陥没させ、クレーターを生み出した。
 その衝撃波に十六夜自身が吹き飛ばされ、転がっていく。
 巻き添えを喰らった軍勢も土砂と共に巻き上げられ、ズタズタに引き裂かれながら死都の空へと散っていく。
 その中心で、直撃を喰らったアークデーモンが、肉体の半分を消し飛ばされてなお生きていた。
「く……くかかかか……!」
 嗤う。
 まだ嗤い続ける。
 なんだこれは。
 何がどうしてこうなったのだと、余りの衝撃に、余りの刺激に、面白過ぎて狂ってしまうと。
 だがまだ終われないし、終わらない。
 余力の全てを注ぎ込み、さっきの猟兵を討たねば。
 しかし、駄目だ。
 まだ立っているのだ。
 開けた視界、全滅した下僕共、奴等が抑え込んでいた筈の人間共が、結果として悪魔の群れを肉盾へと変えて。
 まだ立って、そして、構えている。
「漸く届いたな」
 トールが二刀を引き抜き、言い放つ。
 為に溜め込んだ力と雷撃と共に。
 雷雲が雷を溜め込めば、解き放たれた雷撃はその数と威力を増す。
 トールの一撃もそれと同じ。
 それは降り頻る幾筋もの雷光の如く。

「悪魔よ、雷光で無に還れ!」

 一撃の内に無数の斬撃を束ねた落雷が、アークデーモンの残った身体を引き裂いた。


●決着
「未だだ」
 悪魔が嗤う。
 雷光に焼かれ、その身を崩壊させながら。
 恐るべき生命力。否、執念か。
 トールが放った雷撃は殆ど全ての力を込めた。
 二の太刀など既に振るい、三も無ければ四も五も無い。
「未だだろうなぁ!」
 そこへ飛び込むのは二の太刀知らずの梅ヶ枝・喜介。
 振るうは何時だって一の太刀。
 大上段からの、縦一閃だ。
 ベぎり、と。
 それを受けて残った身体が更に砕かれようと、アークデーモンは嗤う。
「――野郎……ッ!」
 喜介が叫ぶ。
 打ち砕いた身体、その手応えの無さを感じて。
「嗚呼、我が父、我等が神よ。この身、この魂、最後の一欠片まで捧げましょうぞ……」
 最期の最期に、滅びゆく自身の全てを代償に、悪魔は悪魔を呼び寄せる。
 血反吐を吐き毒に侵され呪われ縛られようと、今の魔神にはなんら失う物は無い。
 ただただ愉快だ。
 退屈に苛まれる事は無く、極上の遊戯の末に終えられる。
 嗚呼、なんと幸せな事か。
「冗談じゃないぞ……!」
 嫌な予感がする。
 この死都がなぜ死都となったのか。
 それは悪魔を見れば分かる。軍勢を呼ぶための贄とする為だ。
 問題は、その贄が人でなければならないのかどうか。
 もし、その贄が、骸が、『悪魔』の物でも良いのなら――、今ここにぶちまけられた悪魔の軍勢達も、別の何かの贄と成る。
 別の、例えば塔を守る、ドラゴンの。
「察しが良いな」
 トールの表情を見て悪魔は嗤う。
「そうとも。我が身も、我が下僕も、あの方の糧に過ぎん。
 貴様等を捧げられぬのは惜しいが、なに、あの方自ら貴様等を貪り喰ろうてくれるだろう」
 最期に残す、呪いのような言葉。
 その言葉に揺さぶられる程にアークデーモンは恍惚として嗤う。
 ただでさえ何度も軍勢を呼ばれたと言うのに、もう後一度だって呼ばれたくはない。
 だから呼ぶ。
 悪魔はそんな猟兵達の気持ちを知っているから嘲笑う。
「嗚呼、邪悪なる神々よ! 受け取り給え、我が供物を! そして此の世に災いと言う名の娯楽を産み落とし給え!」
 喜介が剣を振り上げる。
 しかし、振り下ろすより速く、悪魔の身体から血が噴き出した。
 代償が支払われる。
 そして、翼がはためいた。
 更に吹き荒れるのは、魔法の乱打。
 空へと逃げる悪魔。それを追う喜介に呪縛と破壊が降り注ぐ。
 既に死に体の悪魔が放つ攻撃など物の数ではない。が、それでも、生み出す衝撃は悪魔を空へと押し上げ、僅かな鈍りは喜介の一刀を空振らせた。
「ええい歯痒い! もう一刀ぉ!」
 咆えて剣を振り上げる喜介。
 トールも籠手を構え、追い打ちの構えを取る。
 だが、そこまでだ。

「見付けたぞ」

 空から声が降って来た。
 悪魔の軍勢より速く、巨大な十字剣を振り被り。
 その単純で重い一撃を、アークデーモンの脳天へと叩き落した。
 天から地へ。楽園から投げ落とされた最初にの悪魔の様に、アークデーモンが瓦礫の中へと叩き付けられる。
 打ち付けられた額が砕け、衝撃が周囲の地形ごと悪魔の身体を叩き割る。
「なに――ッ!?」
 突然過ぎる奇襲に、アークデーモンが呻く。
「貴様……何故、生きている……!」
 十字剣を振り上げ、肩に担ぎ直した男を見上げ、悪魔は戦慄いていた。
 その言葉に、悪魔を叩き潰した男、ゼットが立ち上がり返す。
「俺だけじゃない。俺達全員、生きてるぞ」
 良かったな、と、悪魔を嗤う。
 伊美砂がヒット&アウェイ戦法の為に目星付けていた避難場所が役に立った。
 結局は元の思惑通りには活用出来ていなかったが、無駄になるどころか全員の命を救った。
 加えて殆ど全員が隕石を警戒し、身構えていた。だから全員助かり、そしてゼットはドラゴンチェイサーに跨って再び駆け付け、一撃を見舞えたのだ。
 それと、とゼットが続ける。
「空にアイツを置いてきた。どうしてもって言うんでな」
 その言葉の意味は、悪魔には分からない。
 が、分からせるように、空からもう一人の猟兵が降って来た。
 天上より天下まで、振り下ろされるは右手の拳。
 椿が振るった一撃が、ここで漸く、悪魔の顔面へと叩き込まれたのだった。
 ――その顔面を、打ん殴る!
 たった一つの目的の為に死都中を駆け抜け空まで飛んでやって来た少女。
 その一撃で更に周囲の地形は砕け散り、クレーターの中に何重ものクレーターが出来上がる。
「やっぱり顔殴らないとですね!」
 ふんすと鼻息荒く胸を張る椿をアークデーモンの残骸が睨む。
 三眼は二つ潰され、鼻も口も穴と化した顔面で。
 もう嗤う事は出来やしない。
 祈りの言葉も紡げない。
 ただ、ただ滅び去るのを待つばかり。
「酷ぇ有様だな。街も、アンタも」
 喜介が言う。
 木刀を振り上げて。
「やっぱりお前らは、不気味な街ごとペシャンコにしてやらァ!」
 もう一度、トールに言った言葉を繰り返し、喜介は剣を振り下ろす。
 介錯だとは言わずに、ただいつも通りの渾身を。



 そうしてアークデーモンは、四重のクレーターの底で塵へと還った。

 最後に笑って立っていたのは――、言うまでもないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『レッサーデーモン』

POW   :    悪魔の三叉槍
【手にした三叉槍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    金縛りの呪言
【手で複雑な印を結んで】から【呪いの言葉】を放ち、【相手を金縛り状態にさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    呪いの鎖
【投げつけた三叉槍】が命中した対象を爆破し、更に互いを【呪われた漆黒の鎖】で繋ぐ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●死都の王
 とうの昔に滅んだ死都に、真新しい死の匂いが満ちる。
 立て続けに地震が起こり、老朽化していた幾つかの建物が倒壊したようだ。
 ――戦闘が起きている。
 それがどう言う事か分かっていながら死都の王は動かない。
 代わりに低級悪魔達を送り出した。
 守るべき物、クラウドオベリスクを背にして、単騎で十分だと言い切って。
 そもそもアークデーモンを倒すような奴がレッサーデーモンに止められるとは考えにくい。
 護衛とはしては邪魔で、敵を倒せる見込みも無い。
 だから王は願う。
 ただ、悪魔の軍勢がより良い贄に成り果てる事を願って。
伊美砂・アクアノート
【SPD 打縫術・磔展翅】
……帰ったらあのグリモア猟兵ぜってーシメる…。敵の規模と強さの割に、こっちの人数足りてねーだろが畜生…。

ぶつくさ言いつつ、【罠使い10、毒使い10、破壊工作8、物を隠す5、地形の利用5】、遊撃要員として他猟兵のサポートに回る。糸と毒、手榴弾で罠設置。……これで挟撃は避けられるかしらね?
ちうても、あての武器も無尽蔵とはいかんちや。鉈一本は残して、撃ち尽くす心算で行くぞね。……他の猟兵さんが羨ましいわぁ。拙者も魔法とか使いたいでゴザル。
【投擲10、援護射撃5】で、惜しみなく武具投擲。銃は撃ち捨てて、暗器の類も回収を考えずに射撃。……敵数が多いかな。ジリ貧になる前に走ろう。


花月・椿
いやー、勢いのまま進んだらまさか隕石を破壊できるとは。考えてみればこちらが使うのと同じUCなんですから対処不能というわけでも無かったですね、とはいえアークデーモンを一撃で仕留められなかったのは悔しいです。もっともっと強くならないとっ!

っと、そうでした。私、隕石と強敵のアークデーモンを倒せた喜びでこのまま満足して帰るところでした。
クラウドオベリスクの破壊がまだでしたね、頑張らないと。

でも私、数で攻める敵を一体一体倒すのって苦手なんですよねー。囲まれて死角を突かれないように、ひたすら【ダッシュ】で足を止めずに切り抜けようかな?今回ばかりは回避優先でちまちまと数を減らすことにしよう。



●舞い降りるは悪魔の軍勢
 もしこの都市が死都ではなく、人の営み続く街であったなら。
 もしこの悪魔に挑んだのが猟兵達ではなく大勢の冒険者達であったなら。
 アークデーモンの真の脅威を、隕石招来でも魔法乱発でもなく、軍勢召喚だと言っただろう。
 広大な都市を埋め尽くさんばかりの軍勢が暗雲を地獄の門に見立ててやってくる。
 都市の一つや二つ、一夜で落とせる程の軍勢が。
 しかしこれは前座、あるいは中継ぎなのだ。
 アークデーモンと言う埒外の怪物に、未だ姿を見せぬ守護者たるドラゴン。
 猟兵達であろうと楽に勝てる相手ではない。
「……帰ったらあのグリモア猟兵ぜってーシメる……」
 恨み言を吐きながら死都を歩き回る伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)も敵の強さや規模の大きさを認めていた。
 認めていた、と言うか、むしろ強過ぎるし多過ぎると思っていた。
「敵の規模と強さの割に、こっちの人数足りてねーだろが畜生……」
 とは言うものの送り込まれる猟兵は自ら志願した者のみ。それは戦争であっても変わらない。
 だが、戦争と違って支援により短期決戦形式になっていないのも依頼難度を上げていた。
 しかし伊美砂は知らない。件のグリモア猟兵はその手の苦情を「だが勝利し生還したではないか。流石だな」と言って返すのである。
 要するに聞き耳持たないので文句を言うには取り敢えず信頼を裏切る所から始めなければならない。
 無論、伊美砂は狙ってそんな事はしない。
 不満が有ろうと無かろうと、死都を駆け回り、悪魔の軍勢が地上へ降り立つまでの僅かな間に可能な限りの仕掛けを施していく姿はプロ猟兵そのものである。
「私は今すぐ帰るところでした!」
 隕石と強敵のアークデーモンを倒せた喜びで満足しちゃって、と言いながら花月・椿(百鬼粉砕・f12960)が走って来る。
 こちらは罠や仕掛けなどはせず、近くの悪魔を端から殴り殺しているだけだ。
 今は逸れ者や斥候などの少数を相手にしているだけなので問題無いが、椿自身囲まれるのは拙いと認識して動いている。
 一撃で彼のアークデーモンを屠れる程に強くなる為にも、椿はこんな所で足下掬われてなんていられないのだ。
「軍勢は来てた?」
「来てますね! そろそろ足音が聞こえると思いますよ?」
 伊美砂の問いに椿が答えると、その通りに遠くから地鳴りの様な大量の足音が聞こえてきた。
 罠と仕掛けの関係で空中戦を避けたかった伊美砂は、中心街近くで上空連絡通路の多い区画に陣取った。その為、有翼のレッサーデーモンも徒歩で猟兵達を探しているのだろう。時折破砕音がして建物内が荒らされる音が聞こえてくるのも含めて、実に都合よく事が進んでいる。
「では、参りますっ!」
 それを聞いては辛抱堪らんと椿は拳を握って走り出す。
 伊美砂の仕掛けの場所は主に空中に集中している。地を駆け敵を討つ限りは掛からないだろう。
「いざ! 灰燼に帰せっ!!」
 気合いと共に角から飛び出した椿は、出会い頭にレッサーデーモンの顔面を殴り飛ばす。
 右手に装備した赤手が返り血で更に赤くなり、殴られた悪魔は首から上を血煙と化した。
 椿はそこで勢いを止めず、振り抜いた拳をそのまま更に後ろまで振り回し、独楽の様に一回転する。ちょうど一回転する時に地を蹴って振り被れば、右腕一本のラッシュが完成した。
「脆い! 脆い、脆い、脆ぉーい! 隕石はもっともーっと硬かったですよっ!」
 走り抜けながら何度も何度も拳を振るう椿。対する悪魔の軍勢は成す術も無く粉々になり、椿の攻撃を躱そうとした者は罠に掛かって落ちて来て結局殴り飛ばされた。
 殴り飛ばされ辛うじて生きていたとしても後続の悪魔に叩き付けられ、むしろ仲間の邪魔にしかならずに再度拳を叩き込まれて死んでいく。
 助走とユーベルコード次第で隕石と同等の破壊力を繰り出せる真っ赤な拳を、いったい誰が止められると言うのか。
 少なくとも、単騎では無理だ。
 そう思うのは自然の流れで、軍勢は数を活かし壁を作る。
 しかしその壁すら殴り飛ばして瓦解させるのは椿にとって容易い事。
 椿が足を止め、拳を解いたのは、悪魔達が三叉槍で槍衾を作ってからだ。
「まー、そう来ますよね……っ!」
 面倒そうに椿が一歩退く。
 拳、それも右腕一本を扱う椿の弱点は多いが、悪魔達がその中でも目に付けたのが射程の短さだ。
 体格的に腕をめいっぱい伸ばしても届く範囲は限定されるが、更にユーベルコードとして超然の一撃を放てるのは約30cm圏内のみ。腕を伸ばすどころか頭突きや膝蹴りの間合いである。
 それに対しての槍衾――即ち、三叉槍を隙間無く並び立てた迎撃の陣形は、椿の間合いに槍しか入らない上に無理して突っ込めば容易く囲い込まれる陣形。
 加えて、悪魔的な力を宿した三叉槍には、決して敵を逃さないと言う呪いじみたユーベルコードが発現している。
 ――ダッシュで掻い潜って殴り飛ばす、ってのも無理か!
 くそーっと悔しがりながらも椿は退く。
 退く為に囲まれぬよう駆け回っていたのだ。不利を承知で飛び込む蛮勇は持ち合わせていない。隕石には突っ込んだけど。
「あてが行くきぃ、ざんじ攻め立てにゃぁいかん!」
 後ろから飛び出した伊美砂が悪魔達の槍衾へ向かって投げナイフを投げ付ける。
 如何に猟兵の一投と言えど、この数の軍勢相手に真正面からでは容易に弾かれる。……のだが、それも計算の内。
 弾かれたナイフは中空に張られたいとの一本に引っ掛かり、その設置先で手榴弾のピンを抜く。
 巻き起こる小規模爆発に軍勢の何体かは怪我を負い、何事かと騒然となる。
 と、その頭上で連絡通路が傾いた。
 爆破されたのは連絡通路の根元となる壁。そこがぽっかり穴になれば、当然通路が支え切れず、崩落する。
 それに気付いた悪魔達はいっそう大声で騒ぎ出すが密集して居たのが仇となり、結局多くが逃げ切れずに押し潰された。
「おおっ! 面白いですっ!」
「まだよぉ、もう一工夫しておかなきゃぁ」
 言いながら投げた棒手裏剣が別の糸を寸断し、それと連動して今度は毒ガスが噴き出した。
 悪魔に効くかは分からないが、猟兵を巻き込まない様に、あるいは巻き込んでも大事に至らない様にと選んだ毒は、制圧用催涙系毒ガス。皮膚や粘膜を侵す激痛はそれだけでは死なないし解毒も容易だが、解毒出来なければ痛みに涙を流しながらのた打ち回る事になる。
「わや上手く行ったべや。したっけ、あのはんかくさい連中ばぶっちゃかせ!」
「了解っ!」
 自分の真後ろで爆発と崩落の音が鳴り仲間の悲鳴が続けば目の前に集中なんてしていられなくなる。
 そうして槍衾を形成していた最前列の悪魔達までざわつき出し、時折振り返る様になった好機に椿が拳一つで飛び込んでいく。
 疾駆、突破、そして、殴打。
 あからさまで隙だらけなテレフォンパンチ。
 しかしそれ以上に隙だらけな悪魔のど頭を吹き飛ばすには上等に過ぎたくらいだ。
 ワンパンでただの肉塊になった悪魔が仲間を巻き込んで盛大に吹き飛ばされ、開いた空間に椿が躍り込む。
 楽しげに、嬉しげに、振るった拳が燃え上がる。
「退き時は任せますねっ!」
「承りました」
 獅子奮迅の活躍をする椿の背中を守るべく、伊美砂も有りっ丈の武装を解放し前へ出た。
 必要なのは弾数に連射性能。
 引き抜いた銃を撃ち放ち、弾が尽きればそのまま捨てる。
 ただ捨てるでなく少しでもノイズになるよう、悪魔へと投げ付けて、その影で暗器の類も投げ付ける。
 上投げ下投げ自在に投げナイフを放り、かと思えば回転投げで視界を遮る。
 それより小ぶりな棒手裏剣も抜き放ち、同じく上下に回転と投げ分ける。
 例え相手がより強力なオブリビオンでも対応し切れない程の大小無数、緩急自在の刃の嵐。
 弾丸に引けを取らない速度と威力の直投げに加え、弧を描きゆっくり敵へ向かう回転投げ。どれに対応すべきか迷えばいずれかに抉られ、動きが止まれば椿の右手に打ち砕かれる。
 そんな地獄の中でナイフと手裏剣に隠れて放たれる毒針の存在には穿たれ毒に蝕まれ倒れたとしても気付かない。
 当然、罠の利用もかかさず、軍勢は混乱が混乱を呼ぶ内に収束する間も無く殲滅される。
「こっちも少しは支援しちゃいますよっ!」
 そう言う椿も言葉通りに支援へ走る。
 殴ると言う物理的支援。
 投擲や射撃と言う攻撃法の関係上、伊美砂は中衛から後衛の立ち位置に収まる。その位置は敵の懐へ飛び込む椿と違い、敵の中後衛から狙える位置でもある。
 そうなると遠距離攻撃に晒されるのは必然であり、悪魔達は皆一様に金縛りの呪言を唱え始める。
 椿の言う支援とは、その余所見している悪魔達の懐へ走り込んで吐いた呪言を拳で叩き戻す事。
 椿にして見れば伊美砂が囮を買って出てくれている気さえする程に呆気無く悪魔が吹き飛ばされる。
 蹂躙。
 たった二人の猟兵相手に、邪神の加護を得た悪魔の軍勢が滅ぼされる。
 そんな光景を目の当たりにして慌てて逃げようとしたり逆に攻めに転じようとしても逆効果だ。
 そうなれば伊美砂が手を下すまでも無く毒が撒かれ火が爆ぜ橋が崩落し、悪魔だけが大勢死ぬ。
「いやあ一方的ですねっ! さっ、さすがに息がっ! 上がってきましたがっ!」
「……某も」
 こういう時には範囲攻撃など多彩な魔法が羨ましい。拙者も魔法とか使いたいでゴザル。などと言いながら一時撤退を伊美砂が提案する。
 疲れたからだけではない。付近の仕掛けを粗方使い、かつ目立ち過ぎたからだ。
 この場に留まるメリットはもう殆ど無く、逆にリスクは増すばかり。
 ならば逃げようと言う潔さ。勿論、投げた武器暗器は投げっぱなしだ。帰りに回収出来れば御の字、最悪後日になるだろう。
 それでも迷わない。
 迷っている暇は無い。
「脚は残っとるかい?」
「もっちろん! はんぶん止まって戦ってたから温存出来てます! それじゃあ退路を切り開きますよ!」
「おう、頼むのぅ」
 二人は頷き合い、椿を前に、伊美砂を殿にして逃げて行く。
 止められる筈が無く、負い付ける筈も無い。
 二人の悪魔大虐殺は弾と体力が尽きるまで続いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月代・十六夜
【三羽烏男唄】で連携。

ほい、これ渡しておくから。音は遮断できるけどその分連携は取り…そもそもあんま取ってねぇな?んじゃ問題ねぇな!
ぽいっとな。拾ってもいいけどそんな時間ねぇと思うぜ?

事前準備として二人に耳栓代わりに音の結晶を渡して、自分も耳に詰めておく。
相手集団を見つけたら挨拶代わりに光の結晶を投擲。
目潰しをすると共に懐に飛び込んで居合【フェイント】からの【虚張盗勢】で相手の武器を盗んでその場に投げ捨ててすぐさま離脱。
味方の大暴れに紛れて片っ端から相手の武器を無力化していく。

トールさんが武器を操り始めたら好機。
盗んだ後の動きをトールさんへのパスに変更して一気に片付けちまおう!


梅ヶ枝・喜介
【三羽烏男唄】で連携

来やがったか!

十六夜が渡してきた石を耳に詰めようとしたところでオッサンの声を聞く。

競争だァ!?
へっ!上等ゥ!

さっきの黒いのは気合いが入ってた!
それを下したおれたちが、ここで負けちまったらあの世で笑われらァ!

木刀一閃!剣の間合いに入ったヤツばらを打ち据える!

いちいち数えてらんねぇナ!
競うってんなら一際デカいヤツをぶっ飛ばして決着をつけてやんよ!

飛んでくる有象無象の山羊頭を踏みつけて大跳躍!
この連中を仕切ってる素振りを見せた大物の脳天を、掲げた槍ごとぶち抜く!

見たか一太刀!

振り返っと渡される武器をぶん回す姿が見えた!

はあっ!?
そっち十六夜が手ェ貸してんじゃねーか!ズルすんな!


トール・ペルクナス
【三羽烏男唄】で連携

悪魔の軍勢……どちらが多く倒せるか、競ってみようじゃないか少年

十六夜君から音の結晶を貰い耳に詰め
敵を目視した所でUCを発動し身体を浮かせ空を駆け突貫
同時に5本の電界の剣も操作し防御
私自身は雷を纏った手足で近接格闘

数ばかり多い……これでは少年と差が付きそうにないな
む、あれは……

十六夜君が投げ捨てた敵の槍をUCで操作
使える物は積極的に使っていく
空中から戦場に落ちる武器を操作し敵を攻撃
ついでに雷電も付与しておこう

十六夜君もこちらの意図に気がついたようだ
これでどんどん手が増える
最後に全ての武器を空へ上げ武器と落雷の嵐で敵を一掃

科学の―――勝利だ!

少年、これはズルではない。連携だ



●三羽烏男唄
 猟兵達は各々の判断で行動する。
 アークデーモンを打ち倒した後、その場にはアークデーモンが最後に召喚した悪魔の軍勢が降って来ていた。
 が、その場に居た全員がそれに応戦する事を選んだわけではない。
 当然ながら別の場所にも召喚された悪魔の軍勢は居るし、始めから死都に蔓延っていた連中も居る。
 ともなれば、自然、猟兵達は分かれて行動する事を選ぶ。
「ここはおれらが始末を付けろってことか。いいぜ、足りねえくらいだ!」
 ゆっくりと降下してくる悪魔の軍勢。邪神の加護を受け禍々しい瘴気を立ち上らせるその姿を地上から見上げ、梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)が不敵に笑う。
 手にした木刀一本で悪魔の軍勢を打ち払おうと言うのだから、この男の豪胆さたるや、並々ならぬものが有る。
 しかし男は猟兵で、一廉の剣士。ともすれば、こんな戦いに挑む事くらい蛮勇どころか勇猛とも謳えまい。
「いやー、でもこれ、下手すると普通に囲まれてボコられそうだな」
 最低限固まって動くべきかと思いながら月代・十六夜(韋駄天足・f10620)は『音の結晶』を用意する。
 端的に言えば耳栓の類で、戦闘中にそんな物を付ければ敵の動きはおろか仲間の声も聞こえず連携もガタガタになりそうなものだが、
「……そもそもあんま連携取ってねーか。問題ねぇな!」
 と、あっさり斬り捨てた。
 連携と言うと相互支援が思い浮かぶが、喜介は支援を受け、受けた支援を最大に活かす形での連携を得意としている。
 となると信じて成すべきを成すのが最善であり、声掛け合って臨機応変に対応すると言うのはやれる事を絞り一芸に特化した喜介では難しい。
 それ故に特化した能力が猟兵最高峰足り得るわけだが、兎も角。
「私も問題無い。借り受けよう」
 三人目の猟兵、トール・ペルクナス(雷光騎士・f13963)も連携をかなぐり捨てて十六夜から音の結晶を預かった。
 トールはむしろ器用な方なのだが、喜介の扱いとしては好きにさせる方針らしい。
 UDCアースに伝わる『スタンドプレイから生じるチームワーク』とやらを連携と信じているのかも知れない。
 しかしながらこれが機能し、最善にして最大の結果を得るのが猟兵と言うもの。
 喜介も音の結晶を受け取り、耳に詰める。
 と、その直前に、トールが喜介へ向き直った。
「悪魔の軍勢……どちらが多く倒せるか、競ってみようじゃないか少年」
 これ程の数ともなれば倒す内に飽きても来る。
 飽きてくれば油断も生まれる。
 油断は悪魔よりも手強い大敵だ。一瞬で全てを台無しにしかねない。
 だから緊張感を保つ為に……と言う意図が有ったかは分からないが、トールは真っ直ぐ喜介を見る。
 喜介は勿論、即・了承。
「競争だァ!? へっ! 上等ゥ!」
 木刀を握った右手に左掌をバシン!と叩き付け、気合の入った心に更なる闘志をくべる。
 喜介から見れば、最後の最後まで猟兵達に苦難を与えようともがき抗ったアークデーモンも『気合い』の入った敵だった。それを下した自分が負けたら笑われると、更なる気合を心に吹き込む。
 ……こうして発破を掛けるのが一番の連携なのかも知れない。
 と言ってもトールも負けるつもりは毛頭ない。
 自分から提案し仕掛けた喧嘩だ。「少年の本気を引き出したかっただけ」なんて言い訳がどれほど寒いかは言うまでも無い。
「さて」
 見上げればいよいよ悪魔の形相が見えてくる。誰も彼もがにやにやと、主が討たれた事など気にしていない。その山羊面を喜色に歪め、眼下の獲物に向かって降りてくる。
 いよいよだと構える喜介と十六夜。
 トールも纏った雷で電界の剣を五本全て引き抜き、自身の周囲に浮かべる。
 雷を操るトールのユーベルコード『電磁誘導』は電磁力を放つ。見えざる磁力の腕は電界の剣を五本同時に抜刀し別々に振り回すだけの精密操作も可能であり、剣と言わず、大抵の物は掴み上げる事が出来る。
 例えば、自分の身体さえも。
「今回も先手は頂かせて貰う!」
 トールが磁力の腕で自分と地面を反発させ、敵と自分を引き寄せ合う。
 電界と磁界を操るトールは、悪魔の軍勢が地に降り立つより先に自ら切り込んで行けるのだ。
「そんなの有りかァ!?」
 喜介が驚愕の声を上げる。
 空中走行も出来る十六夜は何も言わないが、今現在空を駆けるような真似の出来ない喜介にしてみれば反則にも見えるだろう。
 が、ユーベルコードとはそう言うものである。
 稲妻を宿すトールの籠手は電磁飛翔の勢いを損なう事無く悪魔を撃つ。
 速度・威力共に文字通り『雷に打たれた』悪魔は口から悲鳴ではなく黒煙を吐き出して落ちていく。
「いや速過ぎるっての!!」
 そう言いながらトールに集まった視線を利用し、十六夜が『光の結晶』を放り投げた。
 疑似閃光弾として中空で弾けた結晶が周囲を真っ白に塗り潰すと、軍勢の半数近くが呻き声を上げながら墜ちていく。
 目を焼かれながら墜落まではせずにもがく者も居れば、難を逃れる者も居る。被害はまちまちだが挨拶代わりの一投とは思えない程の戦果を挙げていた。
 しかし此処からが本番なのには変わりなく。
「悠長に構えていては出遅れるのも当然と言うもの。少年よ、雷光に追い付きたいのなら急ぐといい」
「ハッ! 流石、咆えたなオッサン! いや、雷様よォ! それならおれぁ雷切くらい成してやらぁ!」
 トールの雷電纏う機械籠手が稲妻と共に悪魔を撃ち落とし、反撃の三叉槍が殺到するのを五つの剣が防ぎ捌く。
 放電による爆ぜ連なる破裂音。
 それが直撃し大気を揺るがす爆裂音。
 即ち雷鳴。
 轟く度に悪魔は雷光に焼かれ、消し炭と化す。
 対抗するは木刀天衝く『火の構え』。
 喜介が磨き上げた極みの一刀。
 それは只人は童にさえ再現可能な剣の技。
 ただ真っ直ぐに振り上げて、ただ真っ直ぐに振り下ろす。
 ただそれだけなのに、ただならぬのが喜介の剣。
 その切っ先は大気を両断し、叩き潰す剣圧が熱を帯びる。刀身を濡らし流れて行く緋色は血か火の色か。
 修羅の笑みを湛え振るう剣は烈火の如く。
 火柱が上がる度に二つに割れた悪魔が燃え滓と成って消えていく。
 雷光纏うトール。
 気焔滾る喜介。
 二人はまさに電光と石火と成りて、数多犇めく悪魔の軍勢を天から地へと地から天へと討ち滅ぼして焼き尽くす。
 悪魔達もやられっぱなしではない。
 焼かれた目が治る頃には現状を把握し、隊列を組むかのように槍を構え並び出す。
 如何なトールと喜介の二人だろうと殺到する悪魔の軍勢をその身一つで端から捌き切れるわけではない。
 目の前の敵を片付けている間に後ろや横から詰め寄られ、倒した敵の後ろからまで詰めて来るとなれば、明らかに手が足りない。
 本来なら二人で死角を潰して数の足りなさを補い合って戦うものだが、これは勝負であり、そんな事は出来やしない。
 それでもトールは雷電を帯びた四肢で次から次へと悪魔を屠り、背中だ横だと攻めて来る悪魔は五本の電界の剣で捌いていた。
 が、悪魔もただ同じ事を繰り返して死に続けるほど愚かではない。
 その内に三叉槍を受けて捌く電界の剣を、三叉槍で受けて捌く様になっていく。
 数の暴力とは恐ろしく、ある悪魔が電界の剣を槍で抑え込めば、その隙に他の悪魔は別の剣を抑えたりトールへ攻撃したりする事が出来る。
 だから囲まれてはならない。
「――流石に処理し切れないか。効率は落ちるが仕方ない」
 何度か弾き返したものの電界の剣を抑え付けられ、トールは僅かに悩んで決意する。
 電磁力の腕、反発の磁力場。
 電界は磁界に作用し、トールと悪魔の間に強烈な猛反発を引き起こす。
 トール自身も身を軋ませるが空中と言う踏ん張りの利かない場所で押し退けられた悪魔達は吹き飛び、一瞬にしてトールは包囲網を脱出する。
 だが効率は落ちる。
 これは勝負で、内容は撃墜数比べ。
 ともすれば、敵を遠ざけ、討伐スピードを落とすのは悪手も悪手だ。
 背に腹は代えられないが、それでもこれで最初の差は詰められたか。
 ふと見れば喜介は特に何か対策を講じるでもない。
 右に寄らば右を斬り、左に迫れば左を割り、後ろに立たば後ろを砕き、前に出でれば前を断つ。四面楚歌なら八面六臂の活躍で押し返そうと言う至極単純な無理難題を押し通していた。
 無理を通せば道理が引っ込む。
 そうしてユーベルコードにまで成ったのが『火の構え』なのだろう。
 火の車とはこの事だ!と笑顔で叫ぶ喜介はまさに火の点く様な熱気の中で剣を振り続ける。
 金銭とは関わりが無いにしても切羽詰まっているのは確か。加えて、悪魔に地獄へ叩き落とす火車役を担う喜介が言うのだからそれらしい。
「いや、さすがにジリ貧だ」
 と、やや距離を取って割り込むのは十六夜だ。
 軍勢は兎に角数が多い。猟兵達は無数の悪魔と戦っている様に見えて、実際は周囲の六~七体程度としか戦えていない。
 結果、順番待ちの様に戦闘中の猟兵達を見守る悪魔も多かった。
 十六夜がやっていたのは、そんな悪魔から武器を奪い取る事。
 武器さえなければ悪魔に出来るのは肉弾戦と『金縛り』くらいのもので、至近距離で戦うトールと喜介にとって予備動作が隙だらけの『金縛り』は大した脅威にはならない。
 だから武器を奪い取ると言うのは重要で、それを成すだけで悪魔が取るに足らない存在へと落ちるのだ。
 実際に十六夜が武器を奪った何体かは他二人と目が合っただけで瞬殺された。
 そうして二人が気付かない内に支援を(特に無防備になりがちな喜介へ)送っている。
 役には立っているが、何と気長な話である事か。
 などと思うのは十六夜を知らない者だけだ。
 ――最初は失敗した。
 真正面から悪魔に挑み、抜刀し斬り掛かるフリをする。そのフェイントで動揺した隙に武器を奪おうと言う魂胆だった。
 だが抜刀フェイントを仕掛けられた悪魔は身の危険を察知して反射的に武器をより強く握り締めるのだ。これでは奪い取るのも至難の業。
 だから十六夜は隠れ潜み、奇襲を仕掛けたのだ。
 背後から突然襲われ、目の前で武器を抜こうとしている。そうなればガードにしろアタックにしろ手持ちの槍を振り回す。それを見切り、合気か護身の要領で制圧する。
 二度目にはその方法を取り、三度目には完璧に見切った。
 見切り、動きを最適化する程に速く、瞬時に武器を奪い去る。
 最終的に十六夜は三体同時に仕掛けて武器を奪うと言う荒業を成し遂げた。
「こんなもんかな」
 そう言って三叉槍を適当に放り投げる。
 喜介の傍の悪魔の武器は粗方奪った。これで喜介が多少へばってもやられたりはしないだろう。
 喜介は喜介で素手で殴り掛かってくる悪魔を見て気合が入ってるなと喜ぶかも知れない。
 そう思いながら ふと上を見れば、トールはトールで奮戦中だ。
 こちらは非効率と分かった上で敵を押し退け、結果として喜介との勝負にやや劣勢となっていた。
 そんなトールが、十六夜が投げ捨てた悪魔の三叉槍を電磁力の腕で引っ掴み、それでもって悪魔を薙ぎ払う一助としていた。
 パッと見リサイクルに見えなくもない。
 三叉槍を使うより電界の剣を使った方が威力も効率も良さそうなのだが、剣は盾役で手一杯だ。
 何より嬉しい誤算が1つ。
 悪魔の三叉槍には、『邪神の加護』が宿っていた。
 ただの槍なら大した事は無い。しかし槍そのものに多少なりとも理を凌駕する力が有るのなら、これを利用しない手は無い。
 手が足りないなら手を貸すのが十六夜の役割。
 トールと十六夜の視線が一瞬交わり、その瞬間に両者は互いの仕事を理解する。
「待ってろ、ダースどころかグロスで届けてやるからなぁ!」
 見得を切って走り出した十六夜の抜刀フェイントは更に切れ味を増し、何一つ切っても無いのに無数の武器を奪い取る。
 獲るや否やで空へと放った槍は見えざる腕が引っ掴み、群がる悪魔を薙ぎ払う。
 武器が増える程に威力と範囲は増していき、終いには磁力を使って『押し退ける』のではなく『引き寄せて』まで撃ち落とし始めた。
 悪魔の軍勢はたじろぐ。
 真向から、さして地の利を活かし逃げ回るでもなく、真っ向からぶつかってなお軍勢を圧倒する猟兵達の存在。
 それは邪神の加護を得た悪魔達からすれば有り得ない存在だったろう。
 慌てふためいたところでどうしようもなく、逃げようとしても逃げ場など無い。
 故に軍勢は恐怖を押し殺して暴虐へ挑む。
 しかし、誤算は重なり、崩壊は加速する。

「――大将首、見付けたゼェ!!」

 喜介が跳んだ。
 迫る悪魔の頭を踏み付けて、渾身の跳躍を果たす。
 狙うは一際大きく、偉そうな奴。
 喜介は考えていた。討伐数なんてもうとっくに数え切れないほどに屠っていてよく分からん、と。
 だから大物仕留めりゃあ優位になるかもと思ったのだが、その発想が他には無かった。
 考えてみれば当たり前だ。
 軍勢とは軍隊なのだから、呼び出したアークデーモンがトップだとしても、その他全てが雑兵などとは限らない。
 幾らかずつの班や隊が有り、それを纏める役が居るのは自然。
 だが思い至ったのは喜介ただ一人。
 それ故に、見つけ出したのも喜介だけ。
 空中で放った『火』の一撃は、掲げた槍ごと敵指揮官を真っ二つに両断した。
「見たか一太刀!」
 勢い余って縦一回転しつつ着地した喜介は再び大物を探しながら剣を振る。
 そうして振り返った戦場には、指揮官を一体失い動揺と混乱で足並みが乱れた悪魔達が見え、その隙を突く様に構えたトールが見えた。 
 一言で言えば、嵐。
 邪神の加護と雷電を帯びた無数の三叉槍がトールを中心に渦巻くように回転し、槍同士の間にも黒く染まった稲妻が行き交う。
 電界の極致。
 限界まで雷を溜め込み、真っ白に輝き崩壊し始めた槍。
 それらを全て、一撃に変えて戦場を薙ぎ払う。
 頭上に立ち込めた暗雲からまでも落雷が降り注ぎ、万雷が辺り一帯を轟音と閃光で塗り潰した。
 あるいは隕石などより遥かに膨大なエネルギーが渦巻き、爆発する。
 そうして過ぎ去れば、跡形も残らないのが嵐だ。
 トールと十六夜の渾身の合わせ技は、動きの鈍った軍勢を天も地も無く一掃したのだった。

「科学の――勝利だ!」

 残った剣を鞘に納め、トールは真っ直ぐに胸を張る。
 それを見て、危うく悪魔と一緒に消し飛ぶところだった喜介が噛みついた。
「はあっ!? なんだよそれ! そっち十六夜が手ェ貸してんじゃねーか! ズルすんな!」
「突っ込むのそっちなのか!?」
 巻き込まれそうになったのは良いんかいっ!と言う十六夜。
 噛み付かれたトールは落ち着き払って言う。
「少年、これはズルではない。――連携だ」
「連……携……ッ!?」
 喜介ががくりと膝を付く。
 これが連携。
 十六夜が武器を奪い、敵を弱体化。
 同時にその武器を受け取り、トールが戦闘力強化。
 結果、一人では起こせない限界を超えた最大火力の一撃を放てたわけだ。
 それが連携だと言われれば、有無など言えるはずも無い。
「負けたゼ、オッサン……!」
 そう言って悔しそうに笑い、トールに握手を求める喜介。
 それを見ながら十六夜は「連携にしても片方に肩入れし過ぎたらズルじゃないのか?」と言う言葉を呑み込んだ。

 かくして軍勢は敗れ去る。
 たった三人の猟兵に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茲乃摘・七曜
心情
存分に役目をはたして消えましたか…、魔神級の悪魔としては本望なのかもしれませんが乗り越えさせていただきましょう

指針
贄を封印し、オベリスクを護る『あの方』の糧にならないように行動
「倒さない訳にはいきませんが相手の思惑を越えられるように努力しましょうか

行動
数の暴力で囲われることに注意し、両手と穂先の動きに注意し撃破は仲間に任せ二挺拳銃での牽制を主軸に歌唱で補助をし行動
「申し訳ありませんが、家は足場に利用させて頂きましょう

流転
倒された下級悪魔の死体が残るならそのまま封印
消え去ならば消え去らないように封印
「供物にされないように浄化というのも手なのかもしれませんが
※陽の力での完全消滅も考慮し試行する


ゼット・ドラグ
「あんな強い奴が出たと思ったら今度は大量の下級悪魔か。解せんな」
とはいえ、倒すほかに道はねえ。
大量にいるならば合体剣【クロスバスタード】で悪魔を殺す技の洗練に使わせてもらおう。
こういう時【リヴァイヴモード】は便利だ。死を恐れる必要も気にする必要もないからな。もし復活したら、攻撃力重視で更に激しく敵を攻めたてよう。
【クロスバスタード】の柄の左右両端部分で敵の三又槍を防ぎつつ、【咄嗟の一撃】で走り抜けるような動きで敵に攻撃して、囲まれないように立ち回る。
攻めあぐねてる時は敵の隙を作るため、左手の【バトルハンドMK2】の手の甲から、ドリル形状の刃を発射する。
「まだまだ!俺はもっと強くなれるはずだ!」



●不滅なる者
「存分に役目を果たして消えましたか……」
 茲乃摘・七曜(魔導人形の騙り部・f00724)がアークデーモンが討たれた事を聞き、そう零した。
 覚悟をもって死の恐怖を乗り越える者は猟兵、オブリビオン問わず、多く居る。だがアークデーモンは死の恐怖や守護者としての役割以上に、ただ己の愉悦のみを優先していた気がする。
 だからこそ、死の間際でまで猟兵が最も嫌がる事、つまり塔の守護に効果的な行動を選択し実行出来たのだろう。
 それを恐るべきと見るか忌まわしきと取るかは分かれるだろうが、それよりも今は目の前の事だ。
「あんな強い奴が出たと思ったら今度は大量の下級悪魔か。解せんな」
 七曜と並走するゼット・ドラグ(竜殺し・f03370)は思案顔で言う。
 七曜にアークデーモンの事を報告がてらに合流し、今は塔を目指して走っている。
 悪魔の軍勢は大きく分けて三つのグループを形成していた。
 一つは教会付近、アークデーモンと最初に遭遇した辺りに召喚され放置されていた一軍。
 一つはアークデーモンを討ち果たした場所、置き土産として召喚され今まさに降り立つ間際だった一軍。
 そして最後の一つは、元から都市に蔓延り、塔の付近を守っていた一軍。
 それほどまでの大軍勢を用意するのは明らかに過剰だろう。
「贄にする心算なのではないでしょうか」
 と七曜が言えば、ゼットは前を見たまま唸って返す。
「軍勢を呼び出すのにも贄が居るんだろ? それも大量に。
 それで呼び出した軍勢が贄として優秀だって言うならわざわざ死都なんて作る必要はないだろう」
 延々と悪魔の軍勢を贄に悪魔の軍勢を呼び出し続ければ良いだけだ。
 ただ場当たり的に贄を消費して軍勢を生み出し、その軍勢を贄にして、結果低コストな戦力を用いているだけかも知れない。
 考えられる可能性は他にも有るだろう。
 が、今は先へ進むだけだ。
 ゼットの言葉に七曜は頷き、自分も釣られて考え込むのを止め、前を見た。
 町並みは中央部に相応しく、建物が大きく立派な作りになっている。
 中には城に近しい巨大建築も有り、かつては政務者などの重要人物が暮らしていたのだろうと推察出来る。
 その目と鼻の先に墓石の塔を作り出した悪辣な竜が、この先に居る。
「来ます」
 その前に、七曜が短く告げた。
 行く道を挟み立ち並ぶ家屋。その屋根の縁からこちらを覗き込むようにして見下ろす悪魔の軍勢。
 それを確認した途端、そこから次々と悪魔達が降りて来る。
「囲まれるのだけは避けないとな」
「ええ。数の暴力は脅威です」
 ゼットが巨大な合体剣『クロスバスタード』を構え、七曜は二挺拳銃を引き抜いて後ろに下がる。
 気配を探り、振り返って見ても、後ろには悪魔は居ない。
 飽くまで進行を阻害する為に現れたのか、それとも戦闘に集中している所を取り囲む心算なのか。後者の可能性が有る以上、油断は出来ないと、猟兵達は息を飲む。
 緊張の糸を張り詰める中、悪魔の軍勢は隊列を組む。
 槍衾を作って並ぶ地上部隊。
 槍投げの構えで並ぶ飛行部隊。
 槍を地面に突き立て、こちらを睨む後方部隊。
 そして屋根の上から降りて来ない観察部隊。
 指揮系統が有るのだとすれば狙うべきは屋根上だが、距離が有る上に飛んで逃げる事も出来るので深追いは出来ない。
 狙えるのは飛行部隊か地上部隊だが、
「地上から、ですね」
 七曜の言葉にゼットが頷く。
 作戦は簡単だ。『薙ぎ払う』――ただそれだけ。
 それだけを成す為に、知と力の限りを尽くし、押し通る。
「行くぞ悪魔ども。贄になる前に、この俺の糧になれ!」
 声を張り上げ、ゼットが駆ける。
 自然、視線が集中する中、七曜は家屋側へ走りながら弾丸を撃ち込んだ。
 ゼットに気を取られていた悪魔達はあっさりと被弾するが、毛皮が弾丸を通さない。
 低級の悪魔と言えど人外の怪物である事には変わりない。生半可な攻撃は痛痒を感じさせる事さえ叶わないだろう。
 と、認識を改めた上で、ゼットの大剣が悪魔を数体纏めて両断した。
 余りの火力差に愕然とした悪魔達が慌てて槍を構え直し、襖を閉める。
 が、動揺は隠し切れず、二の太刀を防ぐ間も無く槍ごと粉砕された。
 クロスバスタードはバイク+αの合体変形体だ。バイクを思い切り振り被って叩き付けられただけで大抵の生物は挽き肉になるが、それは悪魔であっても変わらない。
 ましてや剣であり、刃先に衝撃の全てが集約されるとなれば、例えドラゴン相手だろうと無傷で済ませるわけもない。
 更なる問題は、この交通事故級の斬撃が幾度となく繰り返されるという事。
「手応え無さ過ぎて空振ってるかと思ったぜッ!」
 断たれ千切れ飛ぶ悪魔の胴体を巻き込み、更に深く踏み込んで薙ぎ払う。
 圧し折り砕け散った三叉槍の破片が巻き添えで弾き飛ばされ、破片までもが悪魔達を傷付けた。
 軍勢が再び隊列を組んでゼットの斬撃を受け止められるようになったのは、飛行部隊が槍を投げて牽制しゼットの動きを制限してからだった。 
「分かり易く引っ掛かりましたね……」
 建物の影に隠れながら七曜が呟く。
 隊列を組んだ時は少し驚いたが、やはり知能はさして高くは無いようだと分析。そして弾丸も先程の様なものではなく、魔力と属性を付与しておく。
 敵は多い。
 付け入る隙は逃さず突き崩し、削れるだけ削って行かなければならない。
 軍勢相手となれば長期戦は必至。どれだけ消耗せずに切り抜けるかが問題になる。
 それに……、と、七曜が通りを覗き見る。
 ゼットに両断された悪魔達の死骸は生々しい断面を晒し、血と臓物を辺りに零し広げていた。
 ――消えていない。
 オブリビオンの死体は消える事も有れば残る事も有る。その法則性は不明だが、今回に限っては恐らくオブリビオンはわざとそうしていると思って良い。
 あるいは死体が残るからこそ利用しようと考えたか、だが、何方にしても大筋は変わらない。

 死体は須らく『あの方』の贄となる。

 七曜はそう推察していたが、となるとゼットの先程の言葉が引っ掛かった。
 ただの贄のリサイクルが一番無難だ。
 そこに理由が有ったとして、これっぽっちの情報で答えに辿り着けるものだろうか。
「考えている時間は有りませんね」
 それより先に、悪魔に有効な属性を探らなければ、と、七曜は幾らかの属性弾を悪魔達へと向かって撃ち込んだ。
 狙いは飛行部隊。
 ゼットにとっても七曜にとっても最も厄介なのは遠距離攻撃だ。
 そもそも遠距離攻撃の利点は『攻撃を集中出来る』と言う点にあり、その集中度合いで火力の一点集中による与ダメージ特化から多少ばらけさせた疑似的な範囲攻撃まで応用が利く。
 集団戦において少数対大多数ともなると敵に遠距離攻撃が有るかどうかで組む作戦も大きく変わるのだ。
 ただ、悪魔の持つもう一つの遠距離攻撃は今回大きくは問題にならない。七曜の『陽属性』を含んだ解呪の歌声が逆位相の超音波となって悪魔達の呪言を相殺するからだ。
 ついさっき聞いた同種の悪魔の呪言を記憶し、かつ呪を祓う属性を用意出来たからこその、今回限り特別だ。
 七曜が歌うなら、悪魔が文字通り耳元で呪言を囁かない限り、猟兵が金縛りにあう事は無い。
「……やるな」
 その様子はゼットからも見えている。
 まるで声が出なくなったかの様に口をパクパクさせて慌てる悪魔に、構えた槍に雷撃を撃ち込まれ感電して地に落ち転げまわる悪魔。
 荒れ狂う暴風の様なゼットの猛攻を受けず、一方的に攻撃を仕掛けられる部隊が、たまたま組んだ猟兵一人に完璧に封じられているのを見ると……滾ってくる。
 七曜は一人で二部隊だ。
 なら俺は一人で一部隊、足りない分は封じるではなく滅ぼす事で埋め合わせよう、と。
 気合いと共に振り上げたクロスバスタードが、柄に三叉槍を受け止め、そのまま振り抜いて槍部隊を薙ぎ倒す。
 両断までとはいかなかった、ならばと振り上げ、転がされた悪魔を叩き付ける様にして斬り潰す。
 軍勢が相手だろうと引けを取らない、それが一騎当千の猟兵である。
 だが、快進撃は続かない。
 ふいに屋根の上から山羊や牛の様な鳴き声が響いた。
 それを聞いた直後、悪魔達の動きが明らかに変わる。
 呪言を封じられた後衛部隊は全員飛行部隊へ。七曜の妨害を受けながら、七曜とゼットの双方の動きを阻害する様に動き始める。
 地上部隊は槍衾の矛先を下げ、迎撃から防御に特化させる。
 その程度で、と思って叩き付けたクロスバスタードが、斜めに構えられた幾つもの槍の柄で滑り、悪魔達の頭上へと放り出された。
「……ッ!」
 いなされた。
 拙いと思った時には既に、手の余った地上部隊の悪魔から三叉槍の刺突が飛んでいる。
 重いクロスバスタードはゼットに振り回され、ゼットを振り回す。それ故に急に身を翻す事も出来ず、ゼットはあっさりと串刺しになった。
 血を吐き、息を詰まらせる。
 しかし、避けられないと悟って咄嗟に引き戻した大剣がその重量だけで群がる槍を圧し折った。
「――援護します」
 投げ出されるように倒れたゼット。もはや手遅れであろうその身を守る様に、七曜が家屋の二階から属性弾の雨を降らせた。
 歌声に宿した水の属性が辺りを霧で満たし、降り注ぐ氷と風の属性が悪魔達を凍て付かせる。
 駄目押しの様に撃ち出された土の属性の弾丸は鋼を纏い、拳銃の口径を無視した破壊力を叩き込む。
 さっきまでは嫌がらせの様な支援行動を中心に立ち回っていた七曜の猛攻に、悪魔達はまたも隊列を変えた。
 全体、遠距離攻撃。
 敢えて七曜が居る家屋に飛び込もうとせず、槍を投げ付け、着弾時の爆破で家屋を破壊し七曜を炙り出そうとする。
 低級悪魔にしては理にかなった作戦に七曜が一先ず顔を引っ込める。
 すると、入れ替わって今度はまたゼットが攻勢に出た。
 穿たれた風穴は致命傷。
 抉られたハラワタは千切れて飛び出し、常人ならその苦痛だけで死に至る。
 いや、ゼットであろうと、死は免れない傷だった。
「こんなもんかよ。悪魔ってのは随分と生温いぃんだなあ!」
 だが、ゼットは怒号と共に大剣を振るう。
 槍を投げようと高く構え、胴ががら空きになった地上部隊へ。
 剣に触れた者は例外無く千切れ飛ぶ。
 死に瀕しているどころかその膂力は倒れる前より溢れ出で、振り抜いた余力で地面を大きく抉り、止まらない。
 勢い余って体勢を崩したゼットが、今度は首と片目を抉られた。
 くらりと揺らぐ身体、それを七曜が歌と弾幕で守れば、数秒でゼットが復帰する。

 ――何度死のうと蘇る。

 ユーベルコード、『リヴァイヴモード』。
 ドラゴンの呪いはゼットに不死性を与え、死と生を繰り返す毎にその力を増していく。
 大剣を握る腕はまるで別物になったかのように内側から作り替わり、手にした大剣を片手で振り上げた。
「聞いていましたが、これは――」
 七曜が窓から顔を覗かせゼットを見る。
 わざと味方を死なせる、と言う作戦は今まで試した事は無い。
 囮でもなく、取捨選択の結果でもなく、ゼットはその身に槍を突き立てられる事を良しとした。
 命を奪われる度に新たな命と力を授かる呪い。
 その苦痛と絶望をどう思っているかは知らないが、ゼットはただ、敵だけを見詰めていた。
 ここまで来るとゼットは攻撃を躱そう、槍を捌こうとは考えず、自ら攻撃を受けながら剣を振るっていた。
 幾度となく死に、再生し、その度により多くの命を奪う。
 それを支える七曜の役割は死んだゼットが復活するまで守る事。
 復活自体は瞬間的だが、負傷から死に至るまでの間に数秒動けない時が有る。その隙に捕らえられれば、――例えば脳と心臓を槍で貫いたまま固定されてしまえば、復活と死を繰り返すだけで動けなくなってしまう。
 それではどれだけ強くなっても指一本動かせず思考すら出来ないで詰んでしまうのだ。
 死ぬ直前にユーベルコードを解除されること、あるいは海底の水圧や瓦礫で押し潰される事も避けねばならない。
 だがそれらさえ避けられれば、実質的に無敵であり、ゼットは際限なく強くなる。
「まだまだ! 俺はもっと強くなれるはずだ!」
 防御に回った悪魔達を手の甲から射出した螺旋状刃弾で穿ち、突き崩してからクロスバスタードで薙ぎ払う。
 超重量の大剣を片手で扱えるほど強化されたからこそ出来る芸当だが、既に片手で扱うどころか小刀を振るかの様に出鱈目な速度と機動で悪魔達を蹂躙していった。
 遂には悪魔の槍がゼットの心臓を貫く前に圧し折れるに至り、頃合いだと察した七曜が歌と属性弾で締めの舞台を整える。
 敵は数十、未だに多し。
 されど今や、物の数にもなりはしない。
 七曜が紡ぐ歌声が陽の属性で魔を祓い、悪魔達の動きを縛れば、二挺拳銃から雨霰と放たれる風の属性弾が不可解な軌道を描いて屋上の悪魔の羽を蜂の巣にする。
 ゼットに怯え竦んだ軍勢は七曜の歌声にまで締め付けられて動けない。
 屋上から落とされた悪魔達を含め、全ての悪魔が眼前に揃った時、ゼットは地を割る程の踏み込みで剣を掲げた。
 片手で扱える巨大剣を、敢えて両手で握り振り被る。

「竜殺しの力ぁ! 見せて! やるぜええええええええええ!!!」

 咆哮と共に振り下ろされる剛剣。
 悪魔ごと地を割り、なおも止まらないクロスバスタードが周囲一帯を崩落・倒壊させる。
 竜殺しの一撃は悪魔の軍勢をも叩き潰し、逃れた悪魔をも倒壊した家屋の瓦礫で圧し潰す。
 百体は居た筈の悪魔が全て血溜まりと化し、最後には何度も死んだゼットだけが立っていた。


●ひとつの結論
 ゼットが渾身の一撃を放つ時、七曜は家屋から離れ、崩落から逃れていた。
 殲滅を確認したゼットとは直ぐに合流したが、七曜は七曜で悪魔達の死体を見に戻って来た。
 時間は無い。
 障害を取り除いたのなら先に進むのが普通だ。
 だが七曜はどうしても死体が気になった。
 死体は『あの方』の供物。
 ならばとユーベルコード『流転』による封印術式を施そうと思ったが、これだけの量を封印するとなるとその維持に綻びが出る。
 単純に封印の強度が低くなるか、永遠の封印でありながら効果時間が限定されるか。
 いずれにせよ不安はどうしても残る。
 そこで思い返すのはゼットの言葉だ。
 贄にするなら何故贄を使って呼んだのか。
 単なる再利用以外の可能性が有るとして、もう一度推理してみる。
 そうして思い到ったのが、『贄』が別の物を指す可能性だ。
 そもそもアークデーモンと『あの方』が両方同じ贄を使うのだとすると、効率が悪い。取り合いになってしまうからだ。
 では別だとするなら、アークデーモンの贄とは何か。『あの方』の贄とは何なのか。
 ……後者は簡単だ。予知にも出て来ていた、大量の骸がそうだろう。
 死都には亡骸どころか血痕一つ無く、しかし塔の傍には掻き集めたかのように山となって積み重なっている。
 それが意図的でない筈がない。
 ではアークデーモンの使った贄が死体以外だとするなら、悪魔的には魂、あるいは命だと仮定するのが無難だろう。
 いずれにせよ形無き物。それを贄として、軍勢という名の更なる贄を取り寄せる。
 人間の死体という贄と、悪魔の死体という贄の、両方を手に入れられると言うわけだ。
 そう考えればアークデーモンと『あの方』とは如何に凶悪なペアだったかが想像出来る。
「もし、想像通りなら――」
 やはり死体は残せない。
 七曜はそう考え、用意していた別の方法で死体に処理を施す事にした。
 陽の属性による相克、相殺、消滅。
 七曜は『流転』の応用として悪魔達の死体に陽の属性をぶつけ、死体を跡形も無く葬り去った。
 これなら封印の維持に気を使う事も無い。
 欲を言えば他の場所で倒した悪魔の死体も消し去りたいが、手遅れとなる可能性も高い。処理する前に回収されると判断し、諦めた方が良いだろう。

「これで、相手の思惑を越えられたでしょうか……?」

 七曜は呟き、顔を上げた。
 崩壊した街並みは視界を遮る物が減り、
 ――瓦礫の向こうに、真っ白な塔が見えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ネクロポリス』

POW   :    デス・ストマック
戦闘中に食べた【死体と死霊】の量と質に応じて【力を取り戻し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    生者への煽り
質問と共に【翼で煽ることによる腐臭を纏う風】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
WIZ   :    ジェ・ルージュ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【赤い目のゾンビ】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルト・カントリックです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●命嘲る死都の王
 広大な都市中央広場の枯れ果て埋め尽くされた噴水中心部に『塔』は有る。
 蒼白なる巨大な方尖柱は、塔とは言うが中には入れず、柱と言うが何も支えてはいない。いわば記念碑の様なオブジェクト。
 どうやって郡竜大陸を隠しているのか、原理も何も分かっておらず、破壊する事でしかその機能を止める術は無い。
 ただ分かっているのは、それは確かに郡竜大陸へと繋がっている事と、それ故に強大な守護者が待ち構えているという事だけ。
 ここ、『墓石の塔』と呼ばれるクラウドオベリスクの前にも、強大なドラゴンが鎮座していた。
 その足下には無数の骸。
 肉も皮も無く風化しかけた物から、腐り果て異臭を放つ肉塊まで。
 人も悪魔もいれば、家畜から小動物まで。
 死骸であれば何でも良いとばかりに掻き集められた骸の玉座にもたれかかる様にして、その竜は居る。

 死を貪る者、ネクロポリス。

 死体も死霊も喰らい尽し、生きている者は殺し、死んでいる者は操る。
 その力を増す為に墓地に現れ墓を暴く事も有れば、都市を襲い死都へと作り替える事も有る。
 それ故に一部では『悪魔』とさえ呼ばれている。
 幾つもの強力なユーベルコードを自在に操る力を持ちながら、ただの爪や牙が必殺の域に有り、飛行するだけで足下の人間は吹き飛んで死にかけると言う。
 まさしく、ドラゴン。
 ただの生物としてさえ生物界の頂点に君臨する者。
 その竜は、絶大な力を以て、真正面から人間を捩じ伏せんとす。
クレア・フォースフェンサー
自らが殺した者の死体を食らい、己が力を強める邪竜か。
あのような強大な存在となるまでに、いったいどれほどの街を滅ぼしてきたのであろうな。

加えて質が悪いのは、己が力を強めることが手段ではなく目的だということじゃな。
区切りが存在せぬゆえ、際限なく死者を作り、食らい続けることじゃろう。

――その悪食、今日で終わりにさせてもらおうぞ。

とは言うたものの、あの巨躯に正面から戦いを挑むはちと無謀か。
まずは光珠を展開。敵の動きを見切り、光弓の一撃をその眉間に叩き込もう。

敵が光剣の間合いに入るまでは、光弓での攻撃を継続。
間合いに入ったならば、刀身を伸ばした光剣にUCの力を込め、片翼を斬り落とすことを狙おうぞ。



●屍の山に坐す者
 骸の海。
 全ての可能性が過去として行き着く場所。
 終わりの集う場所は、幽世や地獄と言って差し支えない。
 そんな死の国より出でて生の国を脅かすのがオブリビオンだ。
 潰えた可能性や、滅びた存在から、文字通りの復活を果たした怪物。
 だと言うのに、
 そのドラゴンは、今まさに滅び去ろうとしていた。
 朽ち果てた肉体、腐り落ちた翼、濁った双眸に、それら全てを穢す不浄の体液。
 生きているとは思えない。しかし、その竜は確かに生きていた。
 その竜だけが、生きていた。
 竜の足下には無数の屍。『屍山血河』のその上で、竜は霞みの如き死霊を食む。
 生きてなお死せる如き者。
 死してなお生き返る者。
 死と生の狭間に在り、その両方を貪る者。
 骸の海に在ろうとも、屍の山に在ろうとも、その悍ましき脅威は変わらない。
 やがてこの場に辿り着いた全ての猟兵が悟る事になる。
 クラウドオベリスクを守る為にこの竜が居るのではない。
 この竜が居たから、ここにクラウドオベリスクを建てたのだ、と。



●死との謁見
「自らが殺した者の死体を食らい、己が力を強める邪竜か」
 都市中央広場へ繋がる大通り。そこからでも見える竜の威容に、クレア・フォースフェンサー(UDCのエージェント・f09175)が目を細めた。
 死都として長らく死に絶え続けたが故の据えた臭いに、先までの激戦によりぶちまけられた血の臭いが混ざり、辺りには新旧問わぬあらゆる死の臭いが漂っている。
 その死は土にも海にも還る事は無い。
 全てはただ一匹の竜の供物。
 下僕の様な配下オブリビオンを使い掻き集めた死体と死霊は、彼の竜をどれ程までに肥え太らせて来たのか。
 今なお貪欲に喰らい続けるドラゴンを前に、クレアは更に嫌な想像を巡らせる。
 小間使いである悪魔達を蹴散らした今、この死都の『死』を喰らい尽せば、あのドラゴンは自ら狩りに赴くのではないか、と。
 そうなれば『墓石の塔』を守る者は居なくなり、破壊が容易になる。――と言う話ではない。それは最悪の死都が新たに産み落とされると言うことだ。
 おそらくクラウドオベリスクはあのドラゴンが居るからこの街に建設された。そして悪魔達によって贄を掻き集める事であのドラゴンをこの死都に留めていたのだろう。
 更に言うなら、クラウドオベリスク自体にもドラゴンが固執する仕掛けがあるに違いない。
 どう考えても緊急性が高いのは塔よりも竜だ。
「質が悪いのは、己が力を強めることが手段ではなく目的だということじゃな」
 塔の守護も猟兵の殲滅も眼中に無いのは明らか。そして死の貪食に目的が無いからこそ、それは際限無く何時までも何処までも喰らい続けられる。
 悪魔との激闘に対し、何らかのリアクションでもあればまだ作戦の立てようもあったが、見るからに竜は一歩も動いていないし気にもしていない。
 正面より挑む他無い。
 しかし、猟兵とて、中でも列強たるクレアでさえ、それが無謀なのは知れていた。
 無謀を承知で挑むのも無しではない。命懸けでぶつかれば勝算も零では無いだろう。
 ただし当然敗北の確率は上がるし、敗れれば喰われ、竜は更なる進化を遂げる。
 故に求むるは、必勝のみ。
 取り出し放った光の珠が宙を舞い、白金の髪を照らす。
 その淡い光さえ蝕みかねない瘴気を振り払い、クレアが駆ける。
 小細工は無い。
 どの道不意を打とうが何をしようが痛手を負わせる事すら困難だろう。
 良くて間合いを詰められるくらいの利点しか無いのなら、それを捨ててでも間合いを詰める『過程』を取る。
 全力で駆け抜けても数百メートルの距離。その長過ぎる道程での攻防こそが、相手の射程と力量を測る値千金の情報となるのだ。
 が、予想は易々と超えられた。
 まだ遠い。効く効かぬはさておいて、先手なら打てる、と。そう思って構えた光の弓が、横薙ぎに弾き飛ばされた。
 光珠による結界と光弓が盾となって砕け散り、クレアは光の破片を浴びながらも無傷で走行を継続する。
 ――何があった?
 疑問と共に視線を巡らせれば、目につくのは砕けた家屋と粉塵。そしてその中をのたうつ『赤黒い蟲竜(ワーム)』の様な、
「ハラワタか」
 うねり、再度横薙ぎにクレアを襲うそれは紛れも無く竜の腸。ただの臓物さえ長大であり振り回すだけで脅威と成るが、それを実演する狂ったドラゴンはそうはいない。
 ましてや己のハラワタに瓦礫を詰めて破壊力を増すなど。
「――ッ!」
 光が二度、三度と爆ぜる。
 正面からは受け切れない、結界で逸らすのが精いっぱいだ。
 敵の火力が如何程か、たったこれだけでも嫌と言うほど思い知らされた。
 ワタでこれなら、爪や牙など逸らす事も出来ないだろう。
 加えて、この射程。
「さて、ハラワタは人で何メートルあったかのう」
 くく、と笑ってクレアが光珠の結界を蹴り付けた。
 大跳躍、その眼下で、竜のハラワタが地面を打ち付け煉瓦を捲り上げる。
 ざっと見積もっても彼のドラゴンの攻撃範囲は数百メートルを下らない。
 ハラワタの長さも数も異常な再生によって増やせるだろう。
 しかしそれは所詮ハラワタ。それ以上に脅威と成るであろう尾や翼、爪や牙の有効射程内となれば、こんなものでは済まないだろう。
 ならば、この程度で怯んではいられない。
「骸は骸らしく、骸の海に還るがよい」
 ギリ、と、音の代わりに輝きを増した光弓が引き絞られた。
 放たれた閃光は巨大なハラワタを家屋の壁面へと撃ち付け、肉を焼いて縫い留める。
 一矢では物の数にもならない。しかしクレアの卓越した技量は、ネクロポリスがハラワタを手繰るより速く次の矢を番え放てる。
 所詮ワタはワタ。縫い付けてしまえばそこから先端は動かない。
 矢継ぎ早に放たれ続ける閃光がハラワタを壁に地面にと縫い留め続け、そうしながらも間合いは一気に縮まっていく。
「選べ。ワタを千切り児戯を続けるか、その腐って玉座にへばり付いた腰を浮かすかをのう」
 クレアが竜の濁った眼を睨んで弓を引く。
 放つ一矢は、竜の眉間を一寸違わずぶち抜いた。
 これでくたばってくれたなら、などと淡い期待は微塵も抱かず、ぐらりと傾くネクロポリスへと駆け寄った。
 それは塔の前に鎮座する竜。
 遠目にも巨大だとは思っていたが、近付く程に巨大なんてものでは済まないとわかる。
 並ぶ廃屋の屋根越しにも見える背中。四つ脚を伏せ玉座に横たわってなおその高さだ。屍の山で下駄を履かせているとしても、余りにもでかい。
「斯様な強大な存在となるまでに、いったいどれほどの街を滅ぼしてきたのであろうな」
 忌々しく、悍ましき腐死の巨躯。それは積み重ねられた犠牲の多さをそのまま表す。翼を広げたそれは、背後の『墓石の塔』にすら収まりそうにない。
「ならばその図体、切り崩してくれようぞ」
 投げ捨てる様に弓を放り出すと、それは光の粒子へと解け、次には剣となってクレアの手に収まった。
 今度は縫い付けるなんて事はしない。
 脳天に風穴を空けた竜が首を持ち上げた瞬間、光の剣はその首を刎ね飛ばした。
「その巨体には御誂え向けの長剣じゃ。不浄の身には染みるじゃろう」
 ふん、と笑って言うも、効いていないのは百も承知。
 断たれた首の骨が伸び、宙に浮いた頭とあっと言う間に接合し、爛れた肉や襤褸糸の様な神経も繋ぎ直される。
 生首の方は変わらず濁った瞳で死霊を咀嚼している。
 だと言うのに、反撃は来た。
 うねるハラワタを切り飛ばした直後、千切れ掛けた尻尾が光珠の結界ごとクレアを弾き飛ばす。
 寸での所で自ら飛びずさっていなければ、腕か脚かが砕かれていただろう。
「これもまた御誂え向きかのう」
 地を蹴り壁を蹴り、跳ね飛ばされた勢いを殺すクレアに向かって、更なる追撃が襲い掛かる。
 だがそれも光珠と光剣で捌き切り、全て完璧にいなす。
 ユーベルコードの為せる業、ではない。
 これはただの超絶技巧。『見切り』の一種だ。
 それも生半可では回避不可能なネクロポリスの超広範囲攻撃すら見切り切る、もはや未来視に等しい先見の明。
 その巨体と腐敗故に見切り難いネクロポリスの攻撃予備動作を全て読み切っているが故の完全回避だった。
 自然の摂理を超越するユーベルコードが相手では、見切りも上手くは働かない。しかし相手は飽くまで自己強化のユーベルコードを用いるばかり。攻撃自体はユーベルコードでも何でも無いのだ。
 だから、御誂え向き。
 これほどまでに凶悪にして強大なドラゴンを相手にしながら、クレアは一歩も退かない。
 回避可能な間合いを完全に見切り、決してそれ以上前に出ない。そしてその距離から攻撃し、手傷を負わせ、回避可能な間合いを広げ、更に詰めていく。
 クレアが用いる武具に不浄を焼き払う聖なる効果は無い。
 だが、猟兵として、死せる者を死に帰す機能は備わっている。
 首も腸も切り落として効果が無い。ならば更に再生が困難な個所を落とすまで。
 稲妻の様な鋭い回避と踏み込みの合わせ技から放たれた縦一閃は、文字通りの閃光を放ち、竜の片翼を引き裂いた。
 刀身を限界まで引き延ばした斬撃。それでも腐り果てた翼膜と風化した骨を断つには十二分。
 あまりの巨大さにスローモーションのようにゆっくりと地に落ち、地響きを鳴らす翼は、その衝撃で以て砕け崩れ去った。
「さあ、これで――」
 どう出るか。
 そう思って見上げたネクロポリスと、目が合った。
 濁った瞳。だが、空虚な意思を湛えた空洞が、真っ直ぐにクリアを射抜く。

「… … 皐 蠅 か と 思 え ば … … 鬣 犬 か … …」

 声。
 に、聞こえた。
 それは敵意も悪意も無い。なのに、クレアは歩みを止める。
 動く。その予想自体は当たった。
 だが内容は酷く簡単で、緊張感が無い。
 だからか、余りに自然に見逃してしまった。
 ――ネクロポリスが、足下の死骸を一掴み、口に運ぶのを。
 まるでポップコーンを貪る様に、ごくごく自然に行われた動作。
 だがそれは儀式だ。
 死を糧に、死竜はどこまでも強くなる。
 ボリボリと骸を貪れば、ボキボキと音を立てて翼が再生していく。
 骨が伸びただけで翼膜も無いが、それも直ぐに戻るだろう。
「……御誂え向きはお互い様か」
 溜息が漏れる。
 超常的な攻撃が無ければ大抵見切れるクレアと、超火力の攻撃が無ければ大抵再生するネクロポリス。
 決定打に欠けるが、このままやり合えば削り切られるのがどちらなのかは明白だ。
 それでも。
 光の剣を握り締め、クリアは切先を竜へと向ける。

「――その悪食、今日で終わりにさせてもらおうぞ」

 宣戦布告。
 その覚悟と敵意を前に、竜は、舌なめずりで返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花月・椿
【POW】

ようやくたどり着きましたねっ!クラウドなんとかっ!

っと、最後の守りはドラゴンですかこれはまた強そうでとても殴りがいがありそうな身体をしてますねっ!鱗が割れるといったいどんな音がするのか今から楽しみですっ!てかよく見たら骨っ!骨が見えてるっ!意外と脆いのかも…。

相も変わらず赤手を装備した右手で殴ることだけを考えます!また悪魔の時のように何度も空を飛ばれると厄介なので今度は【ダッシュ】で助走をつけて、【ジャンプ】でドラゴンの頭を上から殴りつけるように心がけようかとっ!

『戦闘中にお食事しちゃう失礼な子には、お仕置きですっ!』
あっ、お腹を殴れば死体とか吐き出して弱くなったりするのかな?



●骨を打つ骨
 広場に繋がる大通りは一つではない。
 なにせ交通の要である。大通りだけでも四方に、枝道を含めれば蜘蛛の巣状に道は広がっている。
 加えて家屋越しにも見える『墓石の塔』とネクロポリスの巨体だ。地図が無くとも方向音痴であろうとも辿り着けない者はいまい。
 しかし花月・椿(百鬼粉砕・f12960)は言う。
「ようやくたどり着きましたねっ! クラウドなんとかっ!」
 ぎゅっと握り締めた左右の拳を前後に振り回し、懸命に通りを駆け抜けていく。
 迷ったわけではない。障害物が多過ぎたのだ。
 その細腕にして豪腕を振るい、アークデーモンもレッサーデーモンも粉砕した。ただ、容易くはなかった。思いがけず流星を殴り飛ばしさえしたのだ。
 そうまでして守られていた塔、その最後の防壁たるドラゴンの殴り心地とは如何に。
 見上げる巨体は露出した骨や臓物の目立つスカスカのボディ。しかしその骨さえそこらの大木より数倍太いのだから華奢だとは思えない。
 加えて、竜は再生する。
 骨は肉を纏い、肉は皮を纏い、皮は鱗を纏う。
 ばり、ぼり、と、何かを貪る音が響く度に眼前のドラゴンは力を取り戻していく。
「その鱗、割れるとどんな音がするのか確かめさせてもらいますよっ!」
 異常な光景を前に引くどころか滾る椿が地を蹴った。
 異常と呼ぶなら椿の跳躍力もまた異常。
 隕石を粉砕する程の怪力は脚力にも表れるのか、助走も跳躍もいち羅刹の域の物ではない。踏み込みは地面を放射状に減り込ませ、反動で撃ち出された身体は易々と家屋の屋根を越えていく。
「まずはぁ! いっっっぱつ!!」
 振り抜いた右の拳が、壁の様な竜の尾を撃ち抜いた。
 鳴り響く破砕音は骨の砕け散る音。余波で腐肉も穢血も諸共に吹き飛ばす。
 ――脆い。
 これならば隕石はおろか、アークデーモンの面の皮の方が分厚かっただろう。
「っとお!」
 椿が手応えを確かめていると、着地する間も無くハラワタが飛んで来た。
 咄嗟に空気を殴り飛ばして弾くが、それだけで潰れ、血を撒き散らす。
「骨見えてるから意外と脆いのかも……って思いましたけど! これじゃー拍子抜けですよっ!」
 せえい!と叫んでハラワタを蹴り飛ばし、着地と同時にまた走る。
 しかし、竜は意に介さない。
 ハラワタどころか、竜尾さえぶち抜かれると言うのに、悠長に足元の死体を貪っている。
 戦闘中の食事。それ自体は猟兵でも行うことはある。だがこの竜の食事は『戦闘の為の食事』ではない。
 ただ喰いたいから喰う。
 そもそもとして戦闘中の食事ではなく、食事中の戦闘だと思っているか、あるいは戦闘だとすら考えていないのだろう。

「 … … 皐 蠅 が … … 増 え た か … … 」

 振り向かず、手も止めず、ボリボリと骸を噛み砕き飲み下しながら竜は言う。
「さばえ? なんのことかわかりませんけど、失礼ですよ!」
 それは食事の手を止めないことに対してか、見向きもしないことに対してか。
 どちらにせよ殴った手応えも話した手応えも無いネクロポリスを相手に椿は拳を振り被って突っ込んだ。
 それを阻むのはまたも尻尾。
 うねる肉壁に鉄拳が着弾し、硝子の様に脆い鱗が爆ぜ飛んだ。
 ――が、
「っ堅い!?」
 爆ぜたのは鱗だけ。
 その皮膚下の肉は椿の拳に突き破られたものの弾け飛ばず、再生と筋肉の収縮で椿の腕をぎっちりと捕えていた。
 まずい、と思った瞬間、椿の腕が埋まったままの尻尾が振り回される。
 慌てて自前の怪力で腕を引っこ抜けば、遠心力で空高く吹っ飛ばされ、家屋に叩き付けられた。
 凄まじい衝撃。だが、直接尻尾ごと叩き付けられるよりはマシ。
 派手に倒壊する家屋とは裏腹にまだまだ元気な椿は、けほけほとむせながら立ち上がる。なるほど、と頷きながら。
 ネクロポリスの食事はそれ自体がユーベルコード。朽ち果て、腐り落ちるその肉体に、喰らう程に力を取り戻していく超常現象だ。
 血肉は腐り、骨とて朽ちる。今のゾンビめいたネクロポリスが脆いのは当然。そして、死を貪り力を取り戻す程に堅くなっていくのもまた当然だった。
「手応えが変わるのかあ……おもしろい!」
 俄然、やる気が湧いてきた。
 最初は骨まで砕いた竜尾も、二度目には肉に阻まれた。この調子なら次は鱗さえ破れない。
 竜は、何処までも硬くなる。
 完全復活を遂げたあかつきにはどれ程の脅威になるのか。
 それを確かめる必要は、無い。
 待ってやらねば脆いままだと言うのなら、所詮それはそれまでだと言うこと。
「どこまで堅くなれるのか、どこまでこの拳が通じるのか、確かめされてもらいます!!」
 言葉と同時に、竜尾が叩き付けられた。
 爆散する煉瓦片。堅さだけではない、破壊力も凄まじい速さで上昇している。
 直撃すれば砕かれるのは椿の方だ。
 それでも、退く事は考えない。
 全てはこの右手で敵を打ん殴ることだけを考える。
 叩き付けられる竜尾を走って掻い潜ったのだって回避行動ではない。
 矢継ぎ早に襲い来るハラワタを跳躍で避けたのも同じだ。
 全ては殴る為に。
「戦闘中にお食事しちゃう失礼な子には、お仕置きですっ!」
 地を蹴り腸を踏ん付け、肉薄したネクロポリスの腹部目掛けて、椿の赤手『燎原の火』が炸裂した。
 爆発的な火力に加え、本物の爆炎まで噴き出す渾身の一撃が、鱗も皮膚も筋肉も全てぶち抜き吹き飛ばす。
 風穴と言うには洞窟の入り口並みにぽっかりと開いた傷口からは、溶岩と硫酸を混ぜたような胃液が流れ出した。
「これで弱くなったりするのかな?」
 ……していない。
 と言うか、弱体化したとしてもそれすら瞬時に再生してしまう。
 ネクロポリスのユーベルコードは食事がトリガーだが、『死』を消化・吸収し、血肉に変えているわけではない。その側面はあれど、それは生物として当然の摂理であり、ユーベルコードとは別のものだ。
 死体、そして死霊を貪る。その行動が引き金と成って、喰われた死を贄に直接力へと還元されている。
「だったら狙うべきは、やっぱり頭!」
 口か喉か、両方か。兎角頭部を叩き潰せば食事など出来ないだろう。
 それに何より、飛ばれたくない。などと考えている内に、腐り落ちていた翼まで再生し始める。
 徐々に、確実に力を取り戻すネクロポリス。その両翼が揃えば、いよいよもって椿の拳は届かなくなるだろう。
 ――逃がさない。
 飛ばれる前に、椿が跳ぶ。
 竜の巨体を駆け上がり、広げた翼を突き破り、相も変わらず死骸を貪る竜の頭蓋へと。
 その脳天に、隕石をも上回る衝撃がぶち込まれた。
 爆音と爆炎。轟くは大気が爆ぜる音と、頭蓋が陥没する快音。
 その衝撃を支えられるわけも無く首は圧し折れ、地面に叩き付けられた竜の頭部が広場にクレーターを生む。
 衝撃と反動で空へと浮き上がった無数の骸と瓦礫が雨の様に降り注ぎ、椿は竜の鼻先へと着地した。

「頭蓋骨陥没止まり! 首から上を吹き飛ばすつもりで殴ったのに、堅いですねっ!!!」

「 … … 餐 儀 の 碍 … … 喰 ろ う て や ろ う … … 」

 死の竜が首を擡げた。
 潰れた脳も頭蓋も意に介さず、ただ食事の邪魔だと憤る。
 果たして戦闘中に食事を始めるのが失礼なのか、食事中に戦闘を仕掛けるのが無礼なのか。
 どちらにせよ重要なのは礼ではない。
 椿の拳骨とネクロポリスの頭骨。
 そのどちらが堅いのか、重要なのはただその一点のみだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
塵も積もれば山となる
そんな言葉があるそうですが、所詮は塵芥の山、随分と醜悪な姿になったものです
あのような存在はこの世界に必要ありません
神の名において抹消します

死体を食べ、力を増すというのならば、まずはその餌を取り上げましょう
両手に構えた神剣と神盾、そして身体を覆う神衣で敵の攻撃を防ぎつつ、背中に広げた神翼で敵の懐に飛び込み、《全開》の力で周囲の空間を浄化、死体や死霊を消滅させます

餌を求め他の所に行くことなど認めません
神牢の「捕縛」の力を《発現》させ、周囲に巨大な檻を生み出します

続けて幾多の神剣を《召喚》し、その身体全てを貫いていきます
骸の海に還ることすらなく、この地で消え失せなさい



●死を雪ぐ光
 ごおぉん、と、鐘に似た音が響く。
 それは死都の支配者『ネクロポリス』の頭蓋が打たれた音だ。
 快音、されど勝利を告げるものに非ず。続く地響きも竜の巨体が地面に倒れ伏した事を表すが、その竜は未だに健在だった。
「塵も積もれば山となる、ですか……」
 キャロル・キャロライン(聖騎士・f27877)は通りを駆け抜けながら竜を見上げる。
 竜の巨体が地に叩き付けられた衝撃で宙を舞った死骸がばらばらと降ってくる。
 それらはごく一部。竜の贄として捧げられた死者の、コンマ数パーセントにも満たない端数だ。
 キャロルの言葉通り、ネクロポリスの足下には山と積まれた死骸がある。人と、獣と、悪魔共の、見境なく只々死を集積した塵芥の山が。
 ネクロポリス。そのもの『死都』を意味する名。彼の竜はその名の通り、死都を築く怪物だ。
「あのような存在はこの世界に必要ありません」
 グ、と神剣を握り締め、キャロルは加速した。
 幸い竜は愚鈍で、猟兵に然したる興味は無い。懐に飛び込むだけならば相応の加速力が有れば事足りる。
 只人ならば降り注ぐ瓦礫や死骸に打たれただけで昏倒するだろうが、キャロルは怯む事さえ無い。
 神剣とは逆の手に掲げた神盾が身の丈程の岩石をも弾き返し、身に纏う神衣が無数の飛礫を振り払う。時折荒れ狂うハラワタが飛来するが、尾と違って骨も鱗も無い肉の鞭は神剣で易々と刎ね飛ばした。
 容易い。
 油断、慢心、怠惰。加えて今は別の猟兵との格闘中だからだろう。
 その隙を突いて懐へ飛び込んだのなら、狙うは普通、致命の一撃だ。
 しかし脳髄を潰されてなお悠々としている不死者を相手に致命も必殺も無い。
 故に狙うのは『致命』ではなく、『致命的』な一撃。
「死体を食べ、力を増すというのならば、まずはその餌を取り上げましょう」
 キャロルにとって『不死』への対処は慣れたもの。
 バキン、と、踏み込んだ足が屍を踏み砕く。
 ネクロポリスの懐、つまりは屍の山の端。
 業に穢れた魂が、蟲に塗れた骸が、堆く積み重なった生贄ならぬ死贄の祭壇。夥しい数の人柱の上に建つのは墓石の塔。
 生と死を冒涜するその悪趣味極まりない山の端に、キャロルは神剣を突き立てた。
 これは贄だ。
 決して『生贄にされた者達の残骸』ではない。『捧げられたが未だ手付かずの贄』なのだ。
 つまり、この贄を消し去ってしまえば、竜は贄を喰らえない。
 死都を生み出してまで掻き集めた『死』を、己が力へと変換する前に奪い取れる。
「神よ、不純不浄の一切を洗い浄めたまえ――」
 祈り。
 神の名において、この地の穢れを祓う聖宣。
 突き立てられた神剣グラディオス。その身に宿る神の御力が、刀身を伝い曙光となって辺りを染め上げる。
 浄化の光。か弱くも暖かな、神の慈悲。
 その光は骸の血を拭い、腐食を取り払う。
 その光は魂の業を祓い、無念を取り除く。
 穢れ無き骸。穢れ無き魂。
 浄化は穢し尽くされた死者の全てを慈しみ、清らかな存在へと、あるべき姿を取り戻していく。
 それに如何程の効果が有るかは、ネクロポリスが直ちに証明してみせた。
「ッ!」
 キャロルが咄嗟に剣を引き抜き、盾を構え、直後、その盾に竜の鼻先がぶつかってきた。
 受け流せるような衝撃や速度ではない。
 放たれた矢の様に吹き飛んだキャロルは背中から神翼を生やして羽搏き、何とか衝撃を殺して着地する。
 その眼前で、ネクロポリスが死体を貪っていた。
 清められた死体、洗われた死霊。その両方を、最も汚らわしい竜の顎が噛み砕き、竜の舌が絡め取る。
 そして、竜は、力を取り戻す。
 先程の食事よりも、遥かに大きな力を。
「逆効果、ですか」
 それもそうだ。
 ネクロポリスの食事、ユーベルコードは、死体や死霊を喰らい、その質と量に応じて力を取り戻すというもの。
 長らく放置され腐食と風化でボロボロになった死体や死霊より、浄化され穢れ無き存在になったそれらの方が『質』の良い糧となるのは当然だ。
 結果、賞味期限切れの残飯でさえ力を取り戻せるネクロポリスは、新鮮で大量の『死』を得て更なる力を呼び戻していた。
 気付けば出しっ放しになっていた竜のハラワタも腹に収まり、剥き出しの骨格も筋肉や鱗に覆われ始めている。
 竜は、嗤った。
 にたりと口角を歪めたそれがキャロルに対する嘲笑なのか、あるいは上質な死を喰らった事による歓喜の笑みなのかは分からない。
 どちらでも同じ事。どちらにせよ、その後キャロルに背を向けた事が、キャロルを敵と見做していない舐め腐った態度の証明となっていた。
「――犠牲者よ」
 キャロルが、飛んだ。
 背に負った翼が風を叩き、真正面に構えた神剣を竜へと突き付ける。
 その刀身は光を放つ。
 浄化の光を。蒼褪め、凍て付く聖なる光を。
 それと同時に、キャロルは無数の神剣を召喚した。
 宙に並ぶ神の剣。その刀身にも浄化の光を宿し、その切っ先は戦場全域へと広く向けられる。
 浄化は逆効果だ。
 贄の質を高め、竜の復活を助ける形にしかならない。
 せめて除霊や破魔の力であったなら、死霊や悪魔共の骸は消し去れたかも知れない。
 或いは掃除の力であれば清めるだけでなく片付けてしまえたかも知れない。
 しかし、キャロルの授かった力は『浄化』のみ。
 それが神意ならば、キャロル・キャロラインは全霊を以て応じるまで。
「神の名において、抹消します」
 言葉と共に、神剣が放たれた。
 降り注ぐ刃は、より全盛に近付いたネクロポリスの鱗に傷を付けられない。
 ただただ地を穿ち、そこに有る死体をズタズタに引き裂いていくだけ。
 粉々になるのは骸だけではない。神力を纏った剣は彷徨う魂さえも切り刻む。
 魂は囚われていた。
 骸もそうだ。
 浄化されてなお成仏出来ず、浄化されてなお朽ちる事も無い。
 死体と死霊は、恐らく竜か墓石か悪魔共の手によって、この場から離れられなくなっていた。
 だから土にも空にも還る事が叶わない。
 ――ならばせめて、骸の海へと還しましょう。
 浄化の光が、一際強く瞬いた。
 無数の神剣が放つ光が、別の神剣の刀身に反射する。連鎖的に広がり、浄化の力が強まっていく。
 穢れとは微細なるもの。染み付き、こびり付いた、物質や想念の総称だ。
 浄化の力がそれらを消し去れるのなら、死体も死霊も文字通り『塵芥』に変えてしまえば、浄化の力で消し去れる。
 骸の海へと、送ってやれる。

「 不 敬 な る 者 よ 」

 突如、憤怒が上から降ってきた。
 並び立てた神剣より高く、天を衝く大翼の、その翼爪が。
「ッ!」
 先程の頭突きなど比較にもならないほどの衝撃が、掲げた神盾の表面を抉って通り過ぎる。
 神衣と神翼が暴風を抑え込んでなお弾き飛ばされ、キャロルが家屋の壁へと叩き付けられ、それごと更に吹き飛ばされた。
 アークデーモンの落とした隕石。そのレベルの衝撃と破壊力。
 直撃すれば跡形も無いが、それ故に自分の贄が有るこの場では使わないであろう攻撃。
 それも、キャロルが周囲の贄を消し去ってしまった今なら遠慮無く放てるという事。
 だがそれで良い。
 初めて見せたネクロポリスの激情。
 苛立ちや不快を越えた、焦りさえ滲むその憤怒は、キャロルの浄化が『致命的』であることを示していた。
 あとは、再び力を失うまで削るだけ。
 それが如何に困難であろうとも関係無い。不死者と言う永遠に決着のつかない怪物相手に、終焉を示せただけで十分だ。
 だが、キャロルはそれで終わらない。
 神の名において、抹消すべきは死者だけではない。
 むしろネクロポリスこそが何よりも消し去るべき不浄そのもの。
「餌を求め他の所に行くことなど認めません」
 瓦礫の中から立ち上がり、キャロルは周囲の粉塵を浄化する。
 その手には剣と盾を、その身には衣と翼を。そして頭上には数え切れないほどの刃を。
 加えて展開した神牢が捕縛の御力を以て空を覆う。
 逃がさない。その宣言通り、決して竜を逃さぬ檻を作り上げる。
 とは言えネクロポリスが本気で逃げようとすれば破られるだろうが、その隙を逃さぬのであれば結果は同じ。逃れられない事に変わりない。

「あなたは骸の海に還ることすらなく、この地で消え失せなさい」

「 永 劫 を 我 が 血 肉 と し て 生 き よ 」

 浄化の光が、竜の双翼に覆われる。
 神剣は暴風に煽られ、力を取り戻した不死の竜は猟兵達を圧倒する。
 未だ贄は残っている。
 未だ力も残っている。
 ネクロポリスは益々強大な存在と化して立ちはだかる。
 しかし、
 浄化の神剣は、不死竜の退路を完全に絶っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
わしの一刀は、奴にとって一掴みの食事と同じか。
こちらは全てを躱さねばならぬというのに、まったく不公平なことじゃな。

じゃが、それほどまでに力の差があると――わしらを小うるさい蠅に過ぎぬと侮ってくれるならば好都合じゃ。
蠅が多少光ったところで気にしたりはせぬであろう?
光紋を発動し、完全戦闘形態へと変身し、

――その思い違い、正してやるとしよう。

思い違いと言えば、あの図体には見事に騙されたのう。
あれは言わば城。城壁を削ったところで直されるだけよな。
狙うべきは、中におる総大将じゃ。

尾や爪を掻い潜り、至近距離に接近。
敵の核を見極め、UCを込めた光剣で切り裂こう。

ハイエナは優れた狩人だと知るがよいぞ。


神楽坂・神楽
なんとも巨大な竜よな。
しかし、あやつを倒せぬようであれば、帝竜など土台無理な話。
わしらの力、ここで試させてもらうとしようか。

死体や死霊を喰らうことがUCの発動条件だというのなら、あの娘のように頭蓋を狙うのが得策か。
UCで敵の頭上に瞬間移動し、集束した《氣》を叩き付けよう。
その顎を、その牙を砕き、何ら喰えぬようにしてやる。

頭をもたげようが、翼を生やし空を飛ぼうが、逃がしはせぬ。
再生するというのなら、UCの時間加速により再生速度を超えて砕いてやろう。
砕いた身体が再びくっつくというのなら、《刻印》で欠片を全て喰らってやろう。

屍肉喰らいの竜よ。
よもや自分が喰われる立場になろうとは思いもしなかったか?


フィロメーラ・アステール
「ここはやっぱり力を合わせなきゃ!」
小さな星の輝きが集まれば広大な宇宙になる!
つまり強大な敵より大きなスゴ味が出る!

という訳で【生まれいずる光へ】を発動だー!
【空中浮遊】して【ダンス】するように光の粒子を散布!
【念動力】も絡めて仲間に届けて支援する!

これは【破魔】と【浄化】の聖なる光!
【武器改造】【防具改造】を施したり、穢れた戦で疲弊した体に【エネルギー充填】して【元気】を与えたりする!

敵がこっちに攻撃しようとしたり、支援を利用しようとしたら【カウンター】するぞ!
【気合い】を入れ念動【衝撃波】を放ち、光の粒子を聖なる【属性攻撃】に転用する!
【目潰し】程度でも効けば仲間が隙を突いてくれると思う!



●熾光一閃
「わしの一刀は、奴にとって一掴みの食事と同じか」
 ふう、と一息吐きながらクレア・フォースフェンサー(UDCのエージェント・f09175)がぼやく。
 竜の片翼を落とした一閃も、新たに生えた完全な竜翼を見上げてしまえば無駄だった様に思える。
 そんな事は無い。再生の力は有限だ。
 ……そう分かってはいても、納得は出来なかった。
 なにせ此方は有限どころではない。一撃貰えばそのまま死に得る火力差が有るのだ。
 無傷で竜の片翼を落としてなお、優勢どころか劣勢を感じずにはいられない。それほどの不公平さを押し付けて来るのがネクロポリスだ。
 だが、理不尽や不公平などはいつもの事だ。
 猟兵にとって討ち果たすべき敵とは常に自然の摂理を越えてくる。存在そのものが不条理なのだから。
 だからこそ、それに対する術を、全ての猟兵が持ち合わせ、磨き上げている。
「――わしらを小うるさい蠅に過ぎぬと侮ってくれるならば好都合じゃ」
 見上げた竜は、此方を見ない。
 気になるのは贄と、せいぜい頭部への破滅的な一撃程度。片翼を落としたと言うのにクレアの方には視線も攻撃も寄越さない。
 それならそれで良い。
 舞い上がった粉塵と死霊の瘴気、更に竜と塔の陰に覆われ、周囲は矢鱈と薄暗い。その中でクレアの持つ光剣はどうしても目立つ。
 加えて新たに発動した『光紋』はクレアの身体に浮き上がり、その身と周囲を淡く照らし出した。
 ネクロポリスのユーベルコードは、その腐敗した肉体を最盛期へと近付ける。
 再生は負傷に留まらず、肉体の疲弊や魔力の枯渇さえも無効化するだろう。
 平たく言えば、それは戦力維持だ。
 強大なドラゴンとしてのポテンシャルを常時最大限に発揮出来るのがネクロポリスの不条理。
 それはつまり、ネクロポリスは『最盛期』以上の力を得る事は無い、と言う事。
「ならば、それすら凌駕してしまえば、奴は決してわしらに追いつけんということじゃな……!」
 光紋が強く瞬く。
 照らされたクレアの全身の細胞――いや、全身を構築するナノマシンが、光紋の力を得て脈動する。
 なんて事は無い。サイボーグに備わったいち機能を開放しただけだ。
 完全戦闘形態への変移・変形。即ち『変身』。
 それ自体は人造人間なら誰しも行える、何の変哲も無い行動。
 ネクロポリスの再生能力に比べればささやかで取るに足らない変化に過ぎない。
 だが、クレアは猟兵だ。
 オブリビオン同様に、その存在そのものが摂理から外れた異端者。
 その異常性を、『光紋』と『変身』が極限まで引き上げていく。
 いわば、対オブリビオン完全戦闘形態へと。
「小蠅が少しばかり光ったところで気にも留めまい?」
 ふっ、と零した笑みと言葉。
 それらが届くより速く迸るは鮮烈極まる横一閃。
 腕ごと光速に至ったかのような光の剣の斬撃は、闇を、それを産み落としていた竜の翼を、諸共に斬り飛ばしていた。



●屍肉喰らい

「 … … 快 哉 … … 」

 竜が笑み、己の愚かさを認める。
 両翼を落とされた苦痛など微塵も感じさせずに。
 喰らうべき贄を守り、喰らう為の頭部を守る。それだけで勝てる筈も無かったのだと。
 猟兵は一人一人が竜を打倒し得る傑物だ。それを忘れて屍の山に胡坐をかいていれば、その山ごと崩され転落するのは当然の帰結。
 とは言え、贄は守らねばならない。頭部もだ。それを維持した上で、全方位全猟兵を相手取らなければならない。
 そんなのは当たり前の事。それを漸く竜が認め、応じた。
 浮かせた前脚に、高く擡げた頭部。長い尾が地上を薙ぎ、浮いた屍と死霊を喰らう。
 斬り飛ばされた両翼も断面から伸びた管が絡まり合い、今度は地に落とさずに結合していく。
 一から全てを再生するよりも千切れた肉片を取り込み繋ぎ合わせた再生の方が完治が速く、贄も少なくて済む。
 なまじ断面が鋭く細胞が潰れていないからこそ出来る芸当だ。
「つくづく相性が良いみたいじゃな!」
 ふんと鼻で嗤ってクレアが剣撃を瞬かせる。だが、ネクロポリスの攻撃を掻い潜りながらの反撃では先程と同様の威力は発揮出来ない。
 それでも堅牢な竜の鱗を易々と断てるのは流石と言う他に無い。
「鱗の内まで挽き肉に変える程の破壊力は持ち合わせておらん。故に、バラ肉に変えてやろうかのう」
 治されるのは分かっている。しかし少しでも戦闘力を削がねばどうにもならないのも分かり切っている。
 竜の巨体は城壁と同じ。どれだけ裂いても本命には届かないが、切り崩さねば本命は拝めない。
 一撃に特化した構えを解き、逃げながらも迫る脚爪や尻尾を切り刻む。
 血煙と化して散っていく肉片は、一部が傷口に吸い込まれて再生してしまうが、多くが周囲にぶちまけられた。
 狙い通りの再生阻害。ただ、それで止まる竜ではない。
 元より骨のまま闊歩し、ハラワタを振り回していた怪物だ。刻まれようが潰されようが、一切怯まずに猛攻を継続する。
 クレアの剣技以上に冴え渡り研ぎ澄まされた『見切り』の技能が無ければ既に二桁は壁の染みになっていただろう。
 しかし贄が切れる前にクレアの体力が枯れるのは必然。そうなれば見切った所で躱せない。
 だからこそネクロポリスは当たりもしない猛攻を仕掛ける。

「 … … 朽 草 も 燈 ら ば 喰 ら わ ん … … 」

「蠅にハイエナに今度は蛍とはな。とことんまで人を見下したいらしい」
 人も獣も虫も、竜から見れば皆同じ。
 大き過ぎる尺度のせいで緻密に測れなくなるのは分からないでもないが、猟兵相手にその考えは致命的だ。
 サイボーグの事さえ知らないのではないか。
「となると、わしの『これ』も知らぬのではないか?」
 クレアに迫る竜尾。それを飛び越え蹴り付けて、黒髪の猟兵が飛び出した。
 急な新手の登場にほんの一瞬竜の動きが鈍る。と同時に、その隙を突いて避けた尻尾をクレアが細切れにした。
 再生阻害の微塵切り。
 それに便乗し、黒髪の猟兵が『刻印』を振るう。
 それは血肉喰らう呪印。身体の内に刻まれる屍肉喰らいの因子。この世界には存在しない、異界の恐るべき戦闘能力だ。
 無論、喰らう『屍肉』はネクロポリスの肉片だ。
 生きながらに死んでいる死の竜の肉は『刻印』によって捕食され、細切れの血肉は再生能力の許容範囲から逸脱する。
「屍肉喰らいの竜よ。よもや自分が喰われる立場になるとは思いもしなかったか?」

「 … … 同 胞 か … … 」

 馬鹿を言うな。と、言い返し、黒髪の猟兵――神楽坂・神楽(武術指導監・f21330)が走り出す。
 クレアの微塵切りに合わせて肉片を喰らうのは有効だが、猟兵二人が同じ場所に居ては的になるばかりだ。
 それに、神楽の芸は残飯処理だけじゃない。
「再生を封じるにしてもこれでは一時凌ぎ。やはり頭蓋を狙うのが得策か……」
 贄が尽きるまで刻んで喰らう作戦には多少無理が有る。
 贄より先に体力が尽きれば詰むのはクレアだけではない。おおよそ全ての猟兵に言える事。
 ならば一番の再生阻害の有効打は、頭蓋を砕き、喰らう牙も喰らう意志も一撃で粉砕する事だ。
 ただ、それは最も有効であるが故に、最も対策がなされている。
「なんとも巨大な竜よな」
 足下まで駆け付けて、見上げてみて改めて思う。
 広げた両翼、上げた両脚、擡げた首。足元の猟兵達から頭部を物理的に引き離した体勢は、クラウドオベリスクに届かんばかりの巨躯だった。
 巨大さは強大さだ。体格差・体重差がどれだけ戦闘力に影響するのかは武術指南監である神楽には嫌と言うほど分かっている。
 同じ人間同士でもそうなのに竜と人とで向き合えばその間にどれだけの絶望が横たわっているかは知りたくなくとも理解する。
 だから、神楽は全力で飛び込んだ。
 絶望ごと巨大な竜を捩じ伏せる為に。
「覚悟しろ竜よ。その顎を、その牙を砕き、何ら喰らえぬようにしてやる」
 大言壮語も甚だしい。と、もう竜は嗤わない。
 氣を高め、迷いなく突き進む神楽に返すのは全力の攻撃。
 長大な尾がしなり荒れ狂う様に飛び掛かり、それを躱せば後ろ足で蹴り砕いた瓦礫片が飛礫となって飛来する。
 常人ならば一つでも即死級。猟兵でも無傷では済まされない。
 そんな暴力の嵐を前に、神楽は更に大きく踏み込んで、
 ――嵐に呑まれ、掻き消えた。
「……ッ!」
 暴力の嵐は神楽一人を呑み込んだだけでは止まらない。
 瓦礫と竜尾の烈風がクレアさえ呑み込もうとして、無数の斬撃とほんの僅かな体捌きで凌がれる。
 ネクロポリスも考えている。クレアにこんな荒業が通じるわけも無いと判断し、むしろ土煙で見失わない様にと慎重に攻撃を繰り出していた。
 ただし荒業を躱せるのは神業だけ。
 屍肉喰らいの同胞も無数の瓦礫は喰らえまいと踏み切った一撃は、易々と神楽自身を挽肉に変えた。

「とでも、思ったのか?」

 ――頭上から声がした。
 上体を起こし首を擡げたネクロポリスの、頭上から。
 何故、など問う暇も、顔を上げる隙も無い。
 降ってきたのは声だけでは無かった。
 滾り集束した『氣』を込めた拳が、竜の頭蓋を真上から叩き割る。
 衝撃は脳を潰し角を砕き、上顎を千切り飛ばす。
 宣言通り、神楽は屍肉喰らいの頭部を半分吹き飛ばしていた。
 一体何処から、どうやって。なんて問うたところで答えは無いだろう。
 ネクロポリスは脳を失い本能と反射のままに爪を振るった。
 それとて一撃必殺の暴力だ。砕いたのは飽くまで頭部のみ、最盛期の筋肉膂力を有する前脚の爪撃は鋼の城だろうと引き裂く程の威力を持つ。
 それを神楽は、今度こそ躱せない。
 どうやったのかは兎も角、空中に身を投げだした以上、空でも飛べなければ躱せるはずも無い。
 だが神楽は躱す。
 今度も、回避不可能な死の圧力を眼前に。
 空中ではなく、『空間』を飛び越えて。
「さすがに堅いな……!」
 瞬間移動。『時空操作』の末に辿り着いた逆理の御業。それを用いて荒れ狂う竜の連撃を全て躱し切って、神楽は地に降り立った。
 隕石を砕く一撃でも残る堅牢無比なる竜の頭蓋は、隙を突いてさえなお堅い。
 必殺に近しい一撃ではあっても、それでもネクロポリスは起き上がる。
 不死なる竜。その名に、一切の偽りは無い。
 最重要機関である頭部は脳を失っていても最優先で再生するらしく、神楽が地に立ち再び見上げた時には既に竜の双眸が神楽を睨み付けていた。

「 よ も や 我 を 喰 ら う 者 が 在 る と は … … 」

 竜が言う。
 屍肉喰らいを喰らう、神楽を指して。
 砕かれた頭部、その破片も神楽の『刻印』は喰っていた。
 巨大さを掻い潜る空間転移と、再生を妨害する屍肉喰い。天敵とも言える異能を持った神楽には、さしもの竜を敬意を示す。
 そして笑い、感謝を述べた。

「… … そ う 。 我 が 身 既 に 『 屍 肉 』 也 … …」

 嫌な予感がした。
 身の危険ではなく、ただただ悍ましい気配。
 その悪寒に神楽とクレアが身構えた、その目の前で、
 ネクロポリスは、自分の前脚を喰い千切っていた。



●降り注ぐ光
 ネクロポリスは不死の竜にして死する竜。
 生きながらにして死に、死にながらも生きている。
 腐敗した肉体、朽ち果てた骨格、罅割れた鱗の破片に、こびり付いた襤褸の如き翼膜。
 生きている方がおかしい。そんな風体をしていた筈だ。
 更には猟兵の攻撃で幾度と無く身を砕かれ骨を断たれ死に瀕している。いや、死んでいる。
 再生の力が有るとしても、それにだって限界はある。
 例えばそれは、『効果時間』と言う名の限界。
 猟兵達も知っていた。その再生能力がユーベルコードであり、そしてその効果が戦闘を終えるまでしか持たない事を。
 それは勿論ネクロポリスも知っている。
 再生した肉体がユーベルコードを解いてもどれだけ残るのかはネクロポリスしか知らない事だ。
 そのネクロポリスが断じたのだ。この身は既に、死んでいると。
 だから、喰う。
 その、何よりも極上の『死肉』を。
「そんなの有りか……!」
 どちらが言ったか、クレアと神楽が同時に息を吐いた。
 出鱈目だ。自分を喰らい、自分を再生する。そんなマッチポンプが有り得て良い筈が無い。
 しかしそれを為すのがユーベルコード。
 これぞ不条理の極み。
 ネクロポリスは、たった一度、この場この戦限りの永久機関を完成させた。
 その不条理さを猟兵に示さんと咆哮を上げる。
 大気が鳴動した。
 それはまるで悲鳴の様だ。
 贄が尽きず、永久に傷一つ無い全力全開の怪物を前に、世界が震え上がり、悲鳴を上げていた。
「ッ!」
 息を吐く暇も無く、横薙ぎの竜尾が二人の猟兵を叩きのめす。
 クレアの剣が通らない。
 いや、通るが、再生の力で押し返される。
 斬る速度より治る速度の方が速い。
 光の剣であるが故に斬り結ぶ事も叶わず、目と鼻の先に無傷の尾が迫る。
 そんな馬鹿な話が有るかと毒づく暇など無い。クレアは咄嗟に斬撃の方向を変え、何とか竜尾の軌道を反らして回避した。
 瞬間移動で危機を脱した神楽も、眼前の新たな危機に息を呑む。
 移動は瞬間。空間は跳躍出来る。
 それでも、回避出来ない攻撃がある。
 瞬間移動が間に合わない程の速度。転移先を選ぶ暇も無く、危機を感知していてからでは間に合わない。
 連続で転移し、再び頭上を取った所で翼が暴風を引き起こし神楽を引き剥がす。
 氣を練って命懸けで打ち込んでもクレア同様ノータイムで再生される。
 仕方なしに距離を大きく取って安全圏に移動しても、そこも直ぐに破壊の波が押し寄せるだろう。
 屍肉喰らいは笑っていた。
 己の手足を引き千切り、美味そうに貪りながら。
 足元の死骸も周囲を漂う死霊もついでの様に貪り喰らう。
 それと同時に、ただ全力で、全身を打ち振るう。
 たったそれだけで、最早手の打ち様が無い暴力の権化と化していた。

「 嗚 呼 。 我 が 塔 よ 。 我 が 墓 よ 。 我 が 安 寧 を 願 え 」

 轟々と響き渡る咆哮。
 猟兵が委縮する事は無くとも、聴覚を直撃し、音による連携を許さない。
 この都市は『死都』にして『死地』。
 聳え立つ墓石の塔は、その壁面にネクロポリスの名を刻む。
 死者の安かな眠りを願う墓石を、死者たるネクロポリス自らが守る。
 竜は望んでいた。
 己の、真の意味での『死』を。
 死に安らぎは無い。
 死ねずの竜は死してなお生き、死ねたとして蘇る。
 骸の海も、屍の山も、安らげる事など何も無い。
 死ねない苦痛。永劫の退屈。
 生きても死んでも何も変わらない。
 ただ、今は『墓石の塔』が有る。
 安らかな死を願う塔。それを守り切って死ねたなら、或いは――。
 もしそれでも安らぎなど無いとしたら、オブリビオンとして生きるのみ。
 世界を滅ぼし、全てを『死』ではなく『無』に帰す為に。
「っとお! 思ったより大きいな! ちょっとかなりでかすぎじゃない?」
 荒れ狂う破壊の嵐の中、最後に飛び込んだ猟兵が強風に髪を靡かせながら「あーあー!」と叫ぶ。扇風機に向かってやるあれだ。
 空気が読めないんじゃない。空気にノるのが正義なんだ、と言わんばかりのテンションで、新手の猟兵が突っ込んで行く。
 その名はフィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ)、星と光と宇宙の妖精だ。
 巻き上げられた粉塵が完全に陽の光を遮断した暗闇と絶望の中、颯爽と現れた一筋の光。
 その流星は、果敢に挑み掛かったが粉塵や瓦礫と一緒に巻き上げられていった。

「 … … 朽 草 が 増 え た か … … 」

 ネクロポリスが唸る。
 虫けらなどと言ってはみても、その目にはもう油断など無い。
 己はとうに死んでいる。
 その死に体に止めを刺すべく現れた猟兵が、見た目通りの弱者などとは到底思えない。
 だからこそ暴風を巻き起こすが、小さな身体が幸いしてか、あるいはやはり強者なのか、フィロメーラは傷一つ負う事無く舞い上げられるだけに留まった。
「うおおっあっ……ッけーい! やっぱあたしのステージは高くなきゃね! ほらスターだし!」
 ガチめの悲鳴を上げつつ取り繕って、フィロメーラがばたばたと空中で姿勢を正す。
 上り詰めたステージは、ネクロポリスの眼前上方。
 キッと睨んでみたところで竜の笑みは崩れない。
 ならいっそもっと笑顔にさせたろかとフィロメーラは踊り出す。
 死と暴力の嵐のステージで、闇と絶望を跳ね除ける様に。
 空気が読めないんじゃない。空気を作るのが正解なんだ。
 辺りが絶望の空気に染まっているのなら、その妖精は決して染まらぬ希望を生み出す。
「ここはやっぱり力を合わせなきゃ!」
 フィロメーラは叫び、踊り、そして輝く。
 舞い散るのは光の粒子。か弱く頼りなさげでありながら、暴風の中でも吹き飛ばされずに舞い踊る希望の光。
 されど星が一つでは届かない。
 絶望の暗黒を照らすには、満天の星空くらいの光が必要だ。
「さあ! 逆転劇だ! 仲間のみんなもあたしのステージに上がって来なよー!」
 妖精が笑う。
 竜の笑みとは根本的に違う、愛と希望と光に満ちた表情で。
 その笑顔と言葉を前に、動かない猟兵はいない。
「まるで自分が上位存在みたいな言い方じゃな」
 光紋を浮かべたクレアが剣を片手に笑う。
 背中に背負った光紋。そこにフィロメーラの降らせた光が注がれ、光翅が生える。
 それは背中を押す力。
 光は剣にも宿り、光剣はより強く、鋭く輝いた。
「そのステージとやらも飛び越えて見せよう」
 ぱき、と拳を鳴らし、神楽も歩み出た。
 破壊の波は家屋を倒壊させ、範囲を広げ続けている。これ以上逃げるなら戦闘からも離脱せざるを得ない。
 神楽にそんな心算は毛頭無い。まだ吐いた言葉は残っていると、拳を握る。
 そこに降り注ぐ光の粒子が、拳に、心に、力を授ける。
 それは氣として練り上げられ、全身を淡く輝かせた。

「 朽 草 共 、 我 が 血 肉 、甘 く は な い ぞ 」

「上等じゃ」
「飲み干してやろう」
「みんなの力でな!」
 悲鳴が轟く。
 大気の悲鳴が。
 死者の悲鳴が。
 大地の悲鳴が。
 死霊の悲鳴が。
 それを捩じ伏せて、死の竜は呵々大笑する。
 振るう爪は死。
 薙ぐ尾は死。
 仰ぐ翼は死。
 喰らう牙は死。
 その身その振る舞い全てが死を生み死を喰らう。
 墓石の塔の守護者にして死都の王、ネクロポリス。
 この一戦に限り、無敵に等しい力を手にした死の竜。
 相対する猟兵達は、妖精の号令と応援を受けて飛び出した。
「いざや、死する竜に死を穿とう!」
 神楽が地を蹴り、高く跳ぶ。
 それに喰らい付く様に薙ぎ払われる竜尾を瞬間移動で回避し、飛び込んだ懐で後ろ脚を蹴り飛ばす。
 インパクトの瞬間、閃光が瞬いた。
 身に宿した妖精の光が、破魔と浄化の力が、氣と共に撃ち込まれて炸裂した。
 砕け散った肉片も当然返さない。『刻印』が屍肉に喰らい付き、力へ変換する。
 それだけではない。
 フィロメーラの授けた光は破壊力だけでなく、気力や体力まで強化・回復していく。
「どうだ! 元気になっただろう!」
「思ったよりも、な!」
 技も頭も冴え渡る。
 瞬間移動にも踏み込みにも迷いは無く、常に渾身の一歩を踏み出せた。
 砕いて喰らったところで竜は再生する。
 瞬時に、何度でも。
 なのに、不思議と敗ける気がしない。
「今度はわしの番じゃ」
 クレアの振るう閃光がネクロポリスの腕を切り裂く。
 落とすとまでは行かないが、その切っ先は確実に竜の骨肉を抉っている。
 これも光の粒子の力。
 それだけでは無力。だが、仲間が居る事でその力を何倍にも引き上げる力。
 ネクロポリスは『最盛期』に戻る事は出来ても、それを越える事は出来ない。
 しかし猟兵は限界を超え、限界を引き上げ、新たな限界をも超えていく。
「ハイエナは優れた狩人だと知るがよいぞ!」
 閃光が瞬いた。
 斬撃が迸り、千切れ掛けた腕を、指を、肩口を、ざく切りに切り刻む。
 再生の力を破魔と浄化の光が阻み、そこへ更なる斬撃が斬り込まれる。
 一太刀で届かぬなら、二の太刀で。
 三度斬っても落とせぬなら、六度斬る。
 幾度と無く。
 幾度と無く、光剣が抜き放たれ、その都度竜の身体が血霧に消える。
 手を止めれば直ぐに再生する。
 ならば止めなければ良い。
 押し切る。
 光翅がこの背を押す限り。

「 … … 黄 泉 返 れ 、 伽 藍 共 … … 」

 堪らず竜は地に前脚を叩き付けた。
 轟音は号令。
 死者に鞭打つ絶対の命令が、広場に散らばった死骸達を起き上がらせた。
 ジェ・ルージュ。
 戦場の意識無き者を『赤い目のゾンビ』に変えて操る、ユーベルコード。
 ここに来て切った最後のカード。
 だが贄は多くは喰らわれ、或いは浄化され、残りも粉砕されて吹き飛ばされ、命令に応じる者は少ない。
 それでもざっと数千を超える死者の群れ。
 力技が通じぬからと自棄になって使ったのではない。
 この場だからこそ、その登板には意味が有る。

「 光 を 奪 え 」

 二度目の命。
 短い言葉は、その危険性も含めて猟兵達にも聞こえていた。
 フィロメーラの光。武具や猟兵自身を強化し、元気付ける、光の粒子。
 踊る妖精から降り注ぐ粒子はクレアや神楽達に力を与え、絶望をひっくり返そうとしている。
 ならば、その力を奪ってしまえば良い。
 破魔も浄化も、粒子の段階ならばそう大した事は無い。
 空中でフィロメーラがビシッ!とポーズを決める。
 こんな激戦の中、瓦礫の雨を躱しながら懸命に踊る妖精。
 それは猟兵に力を与える為であり、決して敵に奪わせる為では無い。
 しかし妖精は言った。
「欲しけりゃどーぞ! 力が欲しけりゃくれてやる!!」
 一層激しさを増す妖精のダンスに呼応して光の粒子は更に膨大な量が撒き散らされた。
 中心で踊るフィロメーラはまるで星海の水面で舞い踊っているかのようで幻想的で。
 ただ、降り注ぐ光は赤い目のゾンビ達にまで宿る。
 宿り、力を与える。
 その結果、ゾンビ達は弾け飛んだ。
 破魔と浄化の力。それ自体はそれほどの威力は持たない。
 ただし、光に宿っているのはそれだけではなかった。
「衝撃波も力だろ? 物理的に!」
 妖精が悪戯っぽく笑う。
 力を与える光の粒子。
 仲間には元気やエネルギー、戦闘力を与える。
 敵には、破魔や浄化、衝撃波や属性攻撃と言った力(ダメージ)を与える。
 嘘は、まあ、言っていない。
 馬鹿正直に受け取る方がどうかしているのだ。
 戦場全域に沸いて出た赤い目のゾンビ達が、降り注ぐ光に弾かれて粉砕され消えていく。
 元より風化し塵に還る寸前の死骸だ。手数に頼り耐久面を度外視したのが仇となった。
 フィロメーラは猟兵支援の精鋭。
 ただ力を与えるだけではない。その往く道を切り開くのも支援の内。
 ゾンビが如何に光を奪おうと、それを上回る大量の光を降らせるだけ。
「さあ、みんなで踊ろうぜ! ダンス下手なゾンビっちはあたしが躍らせてやるからさっ!」
 指を鳴らし、片目を閉じる。目尻からばちこーんと星が飛ぶようなスマイルは、無数の光を降り注がせた。
 嵐の中を無視して舞い散る光の粒子。それはフィロメーラの念動力によるコントロールの賜。
 それが十全に発揮されたのは、ゾンビ達が光から逃げ始めてからだ。
 破魔と浄化、衝撃と光属性の攻撃。それらは逃げ惑うゾンビを追い詰めて爆ぜ飛ばし、高速戦闘を行う猟兵達にさえついて行く。

「 … … 羽 虫 風 情 が … … !」

「あたしが魅力的だからって、釘付けになってていいのかなー?」
 言う通り、フィロメーラに注意が向けば、強化された猟兵達が動き易くなる。
 それが分かっていても無視出来ない能力と存在感を発揮する。それが支援猟兵の恐るべき強さ。
 今更妖精に躍起になった所でもう遅い。
 その爪は届かない。
 その牙も、その声も。
 それら全て、頭上から降ってきた神楽の一撃が、木っ端微塵に粉砕したのだから。
「おぬしを倒せぬようであれば、帝竜など土台無理な話。わしらの力、ここで試させてもらうとしようか!」
 砕けた鼻先。その上に立ち、衝撃に傾ぐ竜へ向かって、神楽が踏み込む。
 全身全霊、全ての氣と光を込めた一撃を捧ぐ。
 眉間。
 その先の、延髄へ。
 叩き込まれた拳は新星の如く輝き、竜の脳髄を破壊した。
 衝撃は首の骨を伝って割り砕き、残った下顎までもを吹き飛ばす。
 頭部の完全破壊。
 しかし。
 それでも、不死の竜は倒れない。
 ユーベルコードが有る限り。
 死して死なず、死なぬのなら倒れない。
「クライマックスだ!」
 フィロメーラが指を弾いた。
 倒れない竜。
 再生を始める頭部。
 そこへ集まる光の粒子。
 銀河中の星を集めた様な光の奔流が、竜の再生を阻害しながら、一人の猟兵へと集まっていく。
 光の剣を提げ、光の紋を背負う剣士へと。

「死ぬがよい」

 斬光が、首の断面を縦に引き裂いた。
 与えられた力の全てを込めた一閃。
 星の光を束ねた明星の閃光。
 それは首を裂き、逆さ鱗の先に在る竜の核を焼き切った。
 核とは魂の核。
 核とは命の核。
 核とは、『力を取り戻す』核。
 それを失い、ユーベルコードが途切れる。
 摂理を捻じ曲げるユーベルコードも、また摂理。
 理に従い、ユーベルコードは解除され、その力は霧散する。
 竜は死んでいた。
 初めから。
 そして、今、やっと。

 猟兵達の前に倒れ伏したネクロポリスは、
 ただの風化した骨の残骸の様になっていた。



●骸の海の泡
 光の洪水が広場を覆う粉塵を消し飛ばした。
 それは浄化の光。彷徨える魂も、囚われた骸達も、跡形も無く消えていく。
 後に残ったのは墓石の塔だけ。
 再び差し込んだ陽光に照らされ、その悍ましい塔は、純白に煌めいていた。

「 … … 我 が 死 よ 。 … … 見 事 也 … … 」

 死都を流れる風の音が、そんな言葉を運んできた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月17日


挿絵イラスト