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【蛮勇譚】芳香揺蕩うは彩花の塔

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #クラウドオベリスク

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●英雄の軌跡
 蛮勇振るうゲオルゼルク。
 アックス&ウィザーズの世界中にてその戦いの痕跡が見られるドラゴンスレイヤー。
 かつて郡竜大陸に渡った勇者の一人であり、無類の戦闘好きにして強敵好きである。
 生涯を強敵との戦いにのみ費やした彼の冒険譚は自然と戦記じみており、未知の領域に踏み込んだ記録なども環境に対する記述そっちのけで強そうな動植物についてばかり語られている。
 そもそもゲオルゼルクは何かを書き残した事は無く、その伝承の大半が本人の語った武勇伝と状況証拠からの推測でしかなかった。

●聖地巡礼の旅
「おかげで大変だった」
 そう言って楽しそうに笑うのはワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)、グリモア猟兵だ。
 一見そこらのオブリビオンより凶悪な怪物然としてはいるが一応竜派のドラゴニアンである。が、猟兵でなければアックス&ウィザーズでは魔物に分類されていたであろうことは間違いない。
「猟兵である事に感謝しなければな」
 などと言いながらテーブルに広げたのは依頼書と数々の資料だ。
 アックス&ウィザーズの世界では猟兵達は冒険者として認識される事が多く、ワズラなどは実際に冒険者として依頼をこなしつつ信頼と情報を得ていたりもする。今回集めた情報も、一般人の冒険者達から聞き込みをした結果でもあった。
「ゲオルゼルクの聖地近くの村、あそこの村人が大体は冒険者になると言う話でな。ならばと冒険者達にゲオルゼルクや蛮勇の勇者について聞いて回ったんだ。
 で、そこからは予知と調査の繰り返しだな」
 言いながら取り出した資料は、テーブルに撒かれた資料の数倍は有る。それらは無駄足だったのだろう。ワズラは特に気にした風も無く、要らなくなった資料を焼き捨てた。
「いや、伝記に纏めれば歴史的資料になるんじゃ……」
「そう言うのは学者にやって貰え」
 にべもない。
 いや、興味が無いのか。
 しかしそれは他の猟兵も同じ事。平時なら兎も角、今は依頼の方が重要だ。
「依頼は三つ、どれも『クラウドオベリスク』の破壊だ。
 三カ所にまで絞りはしたがどこも強大なオブリビオンが居座っていてな。現地までの露払いはしたが、此処から先は転移役に徹せねばならんだろう」
 心底惜しいが。と言う呟きは皆聞き流す。
「転移を用いればほぼ同時攻略も可能だ。一刻も早くオブリビオンを討ち払いクラウドオベリスクを圧し折りたいなら可能な限り協力しよう。
 どの場所も連戦になるので支援役は戦闘と同時に仕事をこなさねばならんだろうが、一人でも居てくれれば心強い。
 いつも通り、単騎突撃でも、現地での即興連携でも、打ち合わせてからの共闘でも構わん。皆全力で挑んでくれ」
 ワズラの言葉に猟兵達が頷くと、ワズラも頼もしそうに頷いた。
「では、状況を説明しよう」

●彩花の塔
 クラウドオベリスクは花園の中心部にある。
 大きな森の中央、花に覆われた丘の中心だ。
 塔を守るのは花園の主、庭師ミラベル。
 予知に視た光景では咲き乱れる花々を手折り飾りつけ美しき庭園へと変えてた。
 その手腕は塔にさえ伸び、鮮やかに彩られた塔は『彩花の塔』と呼ぶに相応しい。
 ――猟兵達は、その塔をこそ手折らねばならない。
 無数の妖精に守られ、育まれている森を抜けて。

「この森に夏なんて来ませんの。
 私が居る限り春は続き、幸福を振り撒くのですわ」


金剛杵
 初めまして、お久しぶりです。
 リプレイのテイスト等に関してはマスターページをご確認ください。
 基本、苛烈です。

 今回は連携ものっぽくなっていますが、依頼間連携は御座いません。全てに参加して頂く事も可能ですし大歓迎です。
 要するにやってみたかっただけです。
 過去の依頼で書かせて頂きました『ゲオルゼルク』に関しては名前だけの登場になっていますので、興味が無ければ一切触れずとも問題ありません。おそらく過去依頼を読んでも今回の依頼のヒントにはならないかと思います。
 そう言う訳で、興味が御座いましたなら何方様でも御参加頂きたく思います。

 第一章補足ですが、依頼は森の入り口から始まります。
 敵とは森の中で遭遇します。奇襲したりされたりももしかすると有るかも知れません。
 相手は小さな妖精。ですがボス級。
 努々油断なさらぬ様。

 それでは、善き闘争を。
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第1章 ボス戦 『麗らかな隣人』

POW   :    紅涙の理由
【花咲かす魔法の杖】を向けた対象に、【毒性を増したアネモネ】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    毒を食らわば
自身の装備武器を無数の【毒性を増した鈴蘭】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    不幸な西風
【小型爆弾へと変わるヒヤシンス】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を一面の花畑に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ダーシャ・アヴェンダ
絡み歓迎

「クラウドオベリスクを折るにはまず森を抜けないといけないのね」
物陰に隠れつつ【視力】で辺りを警戒し【第六感・見切り】で不意打ちに備えながら進むわ
「厄介な妖精が居るみたいだし一筋縄ではいかなさそうね」

妖精はどうやら毒を使ってくるようね?
私は【毒や激痛】には血中ナノマシンによる耐性があるわ
「このぐらい平気よ…!」

敵の「毒を食らわば」に対し「死操演舞」を使い【第六感・見切り・早業・武器受け】で攻撃を捌ききり、【2回攻撃】でサイファー達で隊列を組み
人形に仕込んだ火炎放射器とガトリングで【一斉発射の範囲攻撃】で面制圧するわ
勿論弾丸には【麻痺毒】が塗ってるわ
「目には目を、歯には歯を。毒には毒よ!」


アマータ・プリムス
塔の破壊とそれを護る妖精ですか
やらねばならぬのならやりましょう

花を操るのですか少々面倒ですね
こういう時は焼き払うのが一番です
アルジェントムを【武器改造】して火炎放射機へ
それとUCも発動し油の入った瓶を取り出し周辺へ【投擲】しておきましょう

そのまま花畑を【属性攻撃:炎】の【範囲攻撃】で焼き払います
綺麗な花を焼き払うのは心苦しいですが相手の仕込みならば仕方ありませんね何も残しません
花畑を焼き払えば相手も無防備
他の方が動きやすいようにお膳立てしておきましょう

花畑が燃えていては戦いづらいでしょうしアルジェントムを再改造して消火活動です
「自分で燃やして自分で消火……まぁ仕方ないですね」


メルティア・サーゲイト
 三面同時攻略か、いいねェ面白そうだ。こっちは私担当だな。
「さーて、来る事が分かってる奇襲を防げなきゃ間抜けだぜ」
 右肩はレドーム装備だ。索敵を重視しながら森を踏み荒らすぜ。隠密行動の類は他を当たれって話だ。むしろ、私を囮に使う位でいい。
「タンク役だからなァ、文字通りにな」
 メインは毒による攻撃みたいだが、だから私が此処の担当なんだなァ。元から宇宙戦闘を前提として設計されている私に毒の類は無意味だぜ。
「毒属性には火属性! 常識だな!」
 攻め手は火炎放射器。射程は短いが長距離戦闘を視野に入れる事も無いだろ。一応、森林火災には注意して打ち上げ式散布型消火剤は用意しておくが。



●常春の森へ
 その森は美しい花が咲く。
 魔法の花も普通の花も、珍しい花からありふれた花まで。
 一面の花畑は勿論のこと、木々にさえ花が付き、森はどこを見ても色づいている。
 差し込む陽光すら穏やかで、ただただ優しく鮮やかな光景が広がっていた。
「クラウドオベリスクを折るにはまず森を抜けないといけないのね」
 ダーシャ・アヴェンダ(人形造形師・f01750)は森の奥へと向かいながら呟く。
 目的はクラウドオベリスクの破壊と、その邪魔をするオブリビオンの掃討だ。
 厄介そうなオブリビオンの情報ばかりで舞台が『森』としか聞いていなかったが、さすがにオブリビオンが棲み付いているだけあって、森自体も普通ではない。
 物陰に隠れながら進もうとは考えてはいたのだが、木々の他にも背の高い草花まで生い茂っているせいで、逆に隠れ難い。下手に隠れてしまうと視界の通らない場所が増え過ぎて逆に危険度が増してしまうからだ。
 隠密を取るか、自慢の視力を活かすか。さてどうしたものか。
「私が索敵する。タンク役だからなァ、文字通りにな」
 悩むダーシャの直ぐ近くでメルティア・サーゲイト(人形と鉄巨人のトリガーハッピー・f03470)はそう言った。
 こちらは悩みが無いと言うよりは最初から割り切り、優先順位をきっちり決めていたからこその大胆さで進んでいく。
 選べるのなら隠密も索敵も両方取るのが最善なのは当たり前だが、こう言う場合も有る。そして、メルティアが隠密を捨て囮役を買って出る事で、ダーシャは直ぐに隠密を優先し支援に回る事も出来るのだ。
 奇襲警戒もメルティアを見守る事に注力すれば動きもスムーズになる。
 ただ、物理的にはやはり動き難い。
「うっとおしいったらないな」
 メルティアが渋い顔で花を蹴散らした。
 この森には動物の気配が無い。鳥さえ飛んでおらず、あらゆる者の侵入を拒んでいるかのようだ。
 ただでさえ異常に植物が密集、成長しているこの森で、肉食草食問わず生き物が居ないという事は、獣道の一つも存在しないという事。結果、猟兵達は草木を掻き分けながら進まなければならず、それは口にするより何倍も体力を消耗する。
 メルティアも女性型のドールユニットが前を行くのを諦め、本体であるゴーレムユニットの肩に担がれている。囮役でなければ非難されかねないくらいの堂々さだった。
「敵は花を操るのでしたか。少々……いえ、かなり面倒ですね」
 そう口にするアマータ・プリムス(人形遣いの人形・f03768)は銀のトランクケースを手に、隠密寄りで行動する。
 辺り一面の花畑は足に纏わりつき疲弊させる天然のトラップと化している。
 いっそ火炎放射器で焼き払いたいのだが、生花や生木を焼けば煙が酷く、結局進むのに時間が掛かってしまう。
 そして敵に見つかり、奇襲を受けるか、あるいは焼き払った花畑が復活されるか……。と、デメリットが大きいため実行には踏み切れなかった。
 結局は遅かろうと歩くのが一番だと、三人は森を掻き分けながら進む。
 だが、その我慢からは直ぐに解放される事となる。
「……花びら?」
 ダーシャが上空を舞う花吹雪に気付いた。
 それを聞いてアマータも空を見上げ、首を傾げる。
「おかしいですね」
 ここは常春の森。枯れる事も朽ちる事も無く花が咲き乱れる場所。
 無論、花が散り、花びらが舞うという事も無い。
 つまりあれは、森の『咲かされ続ける花』とは別の物だ。
「ビンゴだぜ。アレは、敵だ」
 いつの間にか足を止めていたメルティアがにやりと笑う。
 ゴーレムユニットの右肩に装備したレドームが、上空の花びらに僅かな異質さを感知した。
 その異質さは世界にとっての異質さ。摂理から外れたものである証拠。
 つまりあれは、ユーベルコードだ。
「鈴蘭って、花びらだけだとよくわからないわね」
 呟きながらダーシャが屈んでより身を隠し、アマータも合わせて下がる。
 逆に前へ出るメルティアが更にレドームでの索敵に集中しつつ、武装を背後のバインダーから展開させた。
 そして、レーダーに影が一つ。
 極小さな鈴蘭の花びらにさえ覆い隠されてしまう様な、小さくて可憐な妖精。
 この森を常春に縛り付ける異形、『麗らかな隣人』だ。
「――待ってたぜぇ!」
 メルティアのドールユニットが叫びながら飛び降りる。
 それと同時にゴーレムユニットが掲げた近距離殲滅用大型火炎放射器が業火を吐き出した。
 メルティアを中心にした半径40mが瞬時に火の海へと化す。殲滅の名に偽りなく、事前に聞いていたダーシャとアマータも危うく避け損なうくらいの広範囲攻撃だ。
 だが、隣人は微かに笑う。
 感付かれていると気付いたらしく、炎に呑まれる前に逃れたらしい。
「ようこそいらっしゃいましたわ。私の森の、こやし様」
 可憐に麗しく、晴れ晴れと。
 隣人は「心から歓迎しますわ」と小さくおじきなぞして見せた。
「むっかつくなぁ、オイ!」
 そんな態度にむしろ笑って言い返し、メルティアは武装を構え直す。
 その間にも周囲は再び鈴蘭の花吹雪に覆われ、熱気により荒れた風をあっさりと呑み込んで制御下に置いていた。
 花を愛でるだけの妖精、では、無い。
 些細な事だが、操るユーベルコードの精度を見るだけでも隣人がどれだけの高位存在かが知れた。
「どうぞ、召し上がれ」
 隣人が手を差し出す。
 言葉と同じく、まるで料理を差し出すかのように。
「それを喰ったら死ぬ事くらい私でも知ってるわ」
 メルティアが再度火炎放射器で花びらを焼き払う。
 鈴蘭の花びらは炎熱に晒された瞬間千々に吹き荒れ、焼き尽くされた。
 相手が格上だろうと火力においてはメルティアが圧倒しているのだろう、範囲外を待っていた花びらだけが残り、ゆっくりと降りてきた隣人の周りへと返っていく。
 毒には火だ。と、揮発性・引火性わ持つ毒ガスを丸ごと無視してメルティアがにやりと笑う。
 そもそも宇宙戦闘を前提として設計されたウォーマシンであるメルティアにとって、口にしなければ効かない毒など無意味も無意味。
「だから降りてこいってんだ。でなきゃこの森焼き尽くすぜ」
 ちょいちょいとメルティアが指先で隣人を誘う。
 その挑発に乗ったわけではないだろうが、それでも隣人は一気に高度を下げ、メルティアへと突っ込んできた。
 周囲には鈴蘭の花吹雪。
 毒は効かない。突風にあおられ体勢を崩したりしなければ問題無い。
 そう、問題は無い。
 しかし無い物を作り出すのがユーベルコードだ。

「私の鈴蘭は、食べなくても死にますわよ?」

 悍ましい程に美しく笑う。
 彼の隣人の言葉に、一瞬遅れてメルティアが防御姿勢を取った。
 殺到する花びらの洪水はメルティアの全身を打ち付け押し流さんとする。
 しかし所詮は花びら。一歩後ずさりする事すらなく、メルティアは耐え切り、火炎放射器で吹雪を払い除けた。
 口には入らなかった。
 入った所で替えの利くドールユニットだ。実害はない。
 だが、メルティアを呑み込んだ鈴蘭の毒は、確実にその身体を蝕んでいた。
「――やってくれるじゃねえか!」
 メルティアが咆える。
 鈴蘭に触れた全身から煙を上げながら。
 身体が熱い。胃が竦む。視界が揺れて、循環器系が加速する。
 その症状はドールだけでなく、ゴーレムにまで現れていた。
 熱を発し、爛れだす装甲。僅かに狂い出す探知機類。逆流しそうになるエネルギーは、まるで吐き気をに苛まれているかの様だ。
「お辛いのでしたら、眠っていただいて結構ですわ。そう、永遠に」
「私を寝かしつけたきゃ子守歌でも歌ってくれよ。悲鳴でな!」
 煽り合い、向かい合う。
 突き付けた火炎放射器が焔を撒き散らし、隣人は踊るようにそれを避ける。
 釣られて踊る花吹雪は流れる様にメルティアを打ち付けて呑み込み、更に症状を悪化させる。
 嘔吐。
 頭痛。
 眩暈。
 血圧低下。
 心臓麻痺、等々。
 鈴蘭を摂取する事で現れる諸症状がメルティアを苛む。
 毒性の強化。即ち、毒性発揮経路の強化。
 隣人の鈴蘭は、触れるだけでも、対象が無生物でも、構わずに毒を流し込む。
 加えてメルティア以外が相手なら強引に口内へ侵入させる事も出来るのだ。
「最悪だな……!」
 だから焼け死ねと、再度放射器の引き金を引く。
 しかし、何時の間にか花びらで埋められていた噴射口が、大量の花びらと一緒に燃料を吐き出し、そして、火が点いた。
 引き起こされた爆発が花びらとメルティア自身を破壊し、しかし隣人には音と弱い爆風だけしか届かない。
 ――強い。
 それは認めざるを得ない。
 恐らくはユーベルコードを後押しするような、例えば風の魔法の様なものも使っているのだろう。
 兎に角、対応力がおかしい。
 その種族的な非力さが全く問題にならない程の立ち回りに、思わず舌を巻く。
 だが、猟兵はその上を行く。
「よく見させてもらったわ」
 敵が引き起こした派手な爆発。それを逆手に取って隠れ蓑にし、ダーシャが花畑から飛び出した。
 メルティアが焼き払った辺りは走る邪魔になる草花も無く、爆発を受け後ろへと傾ぐメルティアの隣を刹那で駆け抜ける。
 ダーシャの武器は絡繰り人形サイファー達。
 ダーシャの十指から伸びる糸が四十を超える人形達に隊列を組ませ、その腹に仕込んだ絡繰り武装を解放する。
「貴方たちも鈴蘭はいかがかしら」
 不意を打たれてなお優雅に、隣人は微笑み花びらを操る。
 だがダーシャの方が早い。
 後列のサイファーがガトリングガンを、前列のサイファーが火炎放射器を構え、弾幕と焔幕に双璧を以て面制圧を開始する。
 巻き込まれた花吹雪はバラバラにされて焼却処分され、隣人の身体にも弾丸が突き刺さった。
 小さな身体では銃弾を受け止めるのも不可能なのだろう。あっさりと吹き飛ばされ、上空へと押し上げられる。
 だが相手もさる者。
 魔法で障壁でも張ったのか、風穴どころか大したダメージは負わず、ノックバックを活かしてダーシャとの距離を取った。
 加えて、何度でも花吹雪を再発生させて猟兵達へと差し向けた。
 束ねれば焼き払われる。
 それを忌避した隣人は、その有効射程の広さを活かし、ダーシャとメルティアを全方位から包囲した。
 渦巻く花びらの鳥かご。
 幻想的でありながら、一撃喰らえば死に瀕する悪魔の猛毒。
 毒に耐性のあるダーシャと言えど、その耐性が摂理に反するものでない限り毒は受けてしまう。
 ユーベルコードは「毒耐性を持つ」という事実を、「毒が効かない」と言う現実を、捻じ曲げる。
 下手をすればサイファーさえ侵しかねない猛毒の鈴蘭を、サイファー達が炎の壁で阻み、弾丸の雨で打ち貫く。
「そんなに毒が好きなら、そっちが喰らいなさい」
 ダーシャが言いながらも更にサイファーを操る。
 小柄な隣人を決して逃さない為の範囲攻撃に、再び隣人が被弾し、またも高度を取る。
 高度を取り、そして、落ちて来た。
「あら――?」
 隣人の笑みが消え、小さく驚く。
 羽が動かない。
 いや、全身の感覚が、鈍い。
 これは――、
「麻痺毒よ」
 毒は毒を以て制す。
 ダーシャが仕込んだ麻痺毒添付済みの弾丸は、サイファー達のガトリングガンでばら撒かれる。
 射程範囲に入れば回避を許さない弾幕に、触れれば自由を奪い去る麻痺毒。その凶悪な組み合わせに花びら対策の火炎放射まで搭載したダーシャの絡繰り人形軍が麗らかな隣人を追い詰める。
 が、追い詰められる度に妖精はひらりと身を翻すもの。
 隣人もまた、落下する前に風を起こし、空へと逃げる。
 惜しかったわね、と。微笑みを湛えて。
 そしてその直後に、余裕の笑みが油塗れになった。
「……?」
 笑顔のまま硬直する隣人。
 下を見れば空き瓶が転がっていて、直ぐにそれが油入りの瓶だと分かる。
 さらに、周囲の花畑に次々と油入りの瓶が投げ込まれていく。
「こういう時は焼き払うのが一番です」
 言いながら木陰より現れたアマータがトランスケースを火炎放射器へとトランスフォームさせる。
 仕込みは終えたと、メルティアとダーシャに合図を出して自らも戦列に加わった。
 無論、周囲の花畑に火を放って。
「……酷い事をなされるのね」
 隣人は悲しそうに目を伏せる。
 油に塗れた長い髪を両の手で梳くように拭い、中空にまたも花を産み落とす。
 ヒヤシンス。
 数多の花びらが楕円に連なり、一塊となった花。
 それを、無造作に猟兵達へと放る。
 それは小型爆弾だ。
 地に落ちたヒヤシンスの花々が連鎖的に爆発し、周囲を吹き飛ばした。
「ッやってくれるなあ! あぁ痛え!」
 その爆発を仲間の盾となって受け止めたメルティアが炎を撒いて隣人を熱気で炙る。
 麻痺した身体で飛ぼうと風邪の魔法で無理矢理浮いている隣人は、自身に風で纏うが故にすぐ近くに火や熱が有ると自らそれを纏ってしまう。
 流石に表情が苦悶に歪んだ隣人が更に距離を取り、ヒヤシンスをまた投げ付けた。
 連なる花型の爆弾が爆発し、何度でもメルティアが受け止める。その足下が、焼き払われた一面が花畑に戻ってしまった。
 どころか、その花畑に降臨した隣人は、そらに戦闘力を増していた。
 そして、アマータを見下ろす。
「当機も綺麗な花を焼き払うのは心苦しいですが、相手の仕込みならば仕方ありませんね」
 返す言葉は冷淡で、隣人が少しだけむっとした。
 要は「お前が花を焼いても私がまた咲かせる」という挑発だ。
 受けて立たねばならないとしてもアマータは自然体でトランクケース『アルジェントム』を持ち上げた。

「何も残しません」

 銀のトランクが火を噴いた。
 辺りに撒いた油が気化し、種火を貰って燃え上がる。
 生花も生木も煙が出る様な燃え方をするが、むしろ煙幕となって隣人から距離を取れる。
 隣人は隣人で被った油のせいで猟兵達の火炎放射器を気にしなければならず、迂闊に高度を下げられない。
 だからこそのヒヤシンスだ。
 絨毯爆撃の様にばら撒かれる小型爆弾。
 衝撃に周囲も地面も吹き飛ぶが、次の瞬間には荒れた場所全てを花畑が覆っている。
 鮮やかに、艶やかに。
 春を彩る無数の花が咲く。
「ほら、貴方たちも幸せでしょう?
 貴方たちも花のこやしにしてあげますわ。光栄に思いなさい」
「残さないと言いました」
 花も、春も、貴方様も。
 爆撃と花畑の再生。その威力と速度には、結局、アマータは敵わなかった。
 いくら焼こうと煙を上げ火が燃え移る様になる頃には別の場所が再生を終えている。
 それでもアマータは周囲を燃やした。
 隣人を中心にして、円形に。
「……あら? あら、……っ!」
 炎が上がり、煙も上がる。
 撒いた油が燃え尽きても草花がきちんと炎を引き継いでいる。
 そうして火柱が上がれば風が起き、乱れ、荒れ狂う。
 大気が乱れれば、風で浮いているだけの隣人が、真面に飛んでいられなくなった。
「多少の戦闘力強化には目を瞑ります。ですので、代わりに墜ちて頂きます」
 アマータの宣告通り、局所的な乱気流に呑まれ、隣人がふらりふらりと上下する。
 そこをダーシャの麻痺毒に撃たれ、アマータの炎に崩され、更に高度が落ちていく。
 それでも流石の強敵はサイファー達の弾幕も躱し、アマータの火炎放射も掻い潜った。
 だが、高度を下げ、逃げ回るうちに、突き当たる。
 花畑の中に鎮座する、メルティアと言う名の鉄壁に。
「『CODE INCINERATE』……」
 近距離殲滅用大型火炎放射器が真っ直ぐに隣人へと向けられる。
 射程、半径40m全域。
 効果、範囲内無差別全体殲滅。
 そして、隣人との彼我の距離は、5mだ。

「毒なんかで私の肌を焼いてくれた分だ。ゆっくり小麦色に焼いてきなぁ!!」

 獰猛な笑顔で叫ぶメルティアとその武装。
 成す術も無く業炎に包まれた隣人は、もう少しも笑っていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エウトティア・ナトゥア
チーム【酔兵団】※アドリブ・連携歓迎
ゲンジロウ殿(f06844)、十六夜殿(f10620)、アシェラ殿(f13819)と一緒に参加するのじゃ。
中々よい森じゃの、精霊が豊かな土地なのじゃ。
じゃが、咲き誇る毒花はちと邪魔じゃな。
すまぬが摘み取らせて貰うぞ?

(援護射撃+目立たない+騎乗+誘導弾)
まずは巨狼マニトゥに騎乗し、ゲンジロウ殿に追従しつつ騎射でけん制。
花による毒や爆弾については、風の精霊の力を借りて【浄化の風】で『麗らかな隣人』が咲かせる花を吹き散らして無効化するとするかの。
風を吹かせたら吹き散らされた花を目くらましに一気に接近して両手に構えたナイフで切りつけて隙を作るのじゃ。


アシェラ・ヘリオース
【連携、アドリブ歓迎】
「毒か。可憐な見た目と裏腹に厄介な事だな」
時間も余り無い状態だ、手早く済ませたい。

【情報収集、戦場知識】で戦況を把握し、協力者がいるなら【礼儀作法、鼓舞、威厳】で共闘を行おう。

「幾つか簡易の陣を敷く。一時凌ぎにはなるので活用しろ」
妖精達に近づくためのルートに、黒刃の短剣を飛ばして簡易の力場を幾つか形成する。【オーラ防御、拠点防御、時間稼ぎ】
長く持つ強度ではないが、1~2呼吸程度なら毒の攻撃をやり過ごせる。
そして、これはあくまで攻撃のための橋頭堡だ。

「敵の攻撃の切れ目を計れ」
指示を出しつつ、機を見て赤光の剣を延ばし妖精達をまとめて攻撃したい。
【範囲攻撃、念動力、衝撃波、】


ゲンジロウ・ヨハンソン
○アドリブ歓迎
○チーム【酔兵団】わし含め3名で連携予定

○事前準備
おいしい蜂蜜たっぷりの、くるみ入りクッキーを用意してみたぞ!
これで罠をしかけるとしよう…
お皿の重量が減ると、大音量で【選択したUC】の「めっちゃカッコイイBGM」がラジカセから流れるという物じゃ。
理由?わしがしょっぱなからUC発動状態で飛び込むためじゃ!

○戦闘
罠にかかったことも含めからかい調子で【挑発】し、妖精の気を引くのが役目じゃ。
このロボアーマーにプラスして、【盾受け】や【オーラ防御】を駆使し
仲間が攻撃チャンスを作るまで、味方も【かばう】こと忘れず戦おう。
攻撃チャンスが生まれりゃ、このロボアーマーの【怪力】で滅多打ちじゃの。


月代・十六夜
【酔兵団】で連携。
さて、かくれんぼの鬼なら得意だぜー。
っと、ゲンジロウさん、そのクッキー幾つか貰っていい?

【視力】【聞き耳】【野生の勘】等の五感を駆使して周囲の状況を精査。
居そうなところにはゲンジロウさんのクッキーを撒いて本命の皿まで誘導させるぜ。
罠にかかったら【韋駄天足】の【ジャンプ】で飛び出して相手の鈴蘭毒の発動を狙って、濡れ鉢巻で口元を覆った簡易マスクと風の結晶で舞い散る毒を軽減。
居合【フェイント】と高速離脱を繰り返して【時間稼ぎ】を行う。

武器を分解した状態じゃ武器からの強力な毒は使えねぇだろ!
やっちまえゲンジロウさん!



●麗らかなれば
「酷い目に遭いましたわ……」
 まったくもう、と、麗らかな隣人が零す。
 美しい髪や透き通った翅が煤けて汚れ、木陰に溜まっていた朝露を掬って洗い落とさなければならなかった。
「サイボーグにウォーマシンにミレナリィドール……だったかしら。
 人型人外娘の間では火炎放射器が流行っているのかしら?」
 迷惑だわ、野蛮ですわ、と怒りながらも、それはどこか楽しげだ。
 麻痺毒は抜けたが、ダメージは残った。
 もともと小さな身体だ。残ったダメージも非常に小さく見えるが、それは隣人にしてみればとても重大な事。
 それでも隣人はすぐに暗い気分を振り払い、再び麗らかな笑顔と心で微笑みだす。
「そうよ。あの子たちの相手は他の子たちにして貰いましょう」
 うふふ、と笑いながら、空中をくるくると回る。
 眼下に広がる常春の森は相変わらず鮮やかに咲き乱れ、芳しい花の薫りが隣人の身も心も癒してくれた。
 やっぱり春は幸せだ。
 そんな事を思いながら幸せそうに漂う隣人は、ふと、森の中に異物を見付ける。
 それは猟兵でも無ければ生き物でもない。
 真っ白い皿に置かれた黄土色の小さな円盤。
「これは……クッキー?」
 拾い上げたさくさくお菓子は、蜂蜜に塗れ、砕いた胡桃でコーティングされていた。


●春よ来い
「妖精と言えば、こういうのが好きなイメージだな」
 花畑の中に身を隠したゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)が言う。
 じっと見つめる先には御手製のトラップにお手製のクッキーが乗っている。
 鍛え上げた料理スキルの粋を集めて焼き上げた最高級の焼き菓子には、厳選し粒の大きさにまで拘りぬいた胡桃と、雑味を徹底的に排除したまろやかな蜂蜜がたっぷりと掛かっている。
 甘さは控えめ、その分バターと胡桃、蜂蜜の風味を最大限に引き出した一品。
 舌の上での味だけではなく、舌触りから鼻を抜ける空気まで、飲み込み胃に収める全ての動作で味わえる。そんな最高のクッキーだ。
 そんな罠に掛からないわけがない。
 罠の方は特に知識も技能も無いので雑に作ったが、機能すれば問題無い。バレへんバレへん。
「中々よい森じゃの、精霊が豊かな土地なのじゃ」
 ゲンジロウと並んで隠れながら鼻を鳴らすエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)は、伏せた白い巨狼『マニトゥ』の上で自分も伏せていた。
 花の香りに緑の匂い。まさに春の気配に満ちた良い森だ。
 ただ生き物にとっては毒花毒草が厄介か。素人が山菜取りに来ようものならあっさりと死んでしまうだろう。
「毒か。可憐な見た目と裏腹に厄介な事だな」
 毒花は摘み取らねばと言うエウトティアの言葉にやや離れた位置に立つアシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)が反応する。
 伏せる、腰を落とすと言った動作とは相性の悪い外套と戦闘服故に、樹の影での待ち伏せを選択した。
 手早く済ませたいとは思うものの、多くの戦闘経験を積んできたアシェラは準備の大事さを知っている。
 むしろ準備に時間を掛けた方が戦闘及び戦後処理が早く済む傾向にある。罠に掛け奇襲を仕掛けるのなら決着も一瞬だろう。
「麗らかな隣人はそろそろこっち来るはずだぜ。誘導用のクッキーもばっちりだ」
 言いながら月代・十六夜(韋駄天足・f10620)もやや離れた場所で身を隠す。
 罠なんて設置して数日放置するくらいが効率的だが、急ぎの場合は「追い込み」か「誘い込み」が必要になる。今回は罠が罠なので後者を取ったが、その出来に不安は無い。
 十六夜が聞き耳を立てれば、あの暢気な隣人の微かな鼻歌が近付いて来ているのを確認出来た。
「作戦は打ち合わせ通りだ」
「私も可能な限り合わせて動かせて貰う」
 真剣な面持ちで言うゲンジロウに、現地合流したアシェラが返す。その様子に残りの二人も頷いた。
 動き出すのは隣人が罠に掛かった瞬間だ。
 罠の上に有るクッキーを手にし、皿が軽くなれば、罠のスイッチが入る。
 その時こそ戦闘開始の合図。
「あら、こんなところにも」
 息を飲む四人の前に、遂に麗らかな隣人が現れた。
 美しく可憐な、なぜか朝露に濡れきらきらと輝く妖精。
 オブリビオンでなければ……いや、オブリビオンだとしても多くの人の目を奪う様な姿。
 浮かべた微笑みさえ春の陽気に似る彼女は、クッキーに手を伸ばし、……風の魔法で粉砕した。
 あ。と思った直後には、粉々にしたクッキーを周囲にばら撒き始めていた。
 どうやら森の養分にする心算らしい。
「なんでだぁああ!! 妖精ってこういうの好きなんじゃないのかぁ!?」
 若干泣きそうな顔でゲンジロウが叫ぶ。
 突然背後から大声を出され、ビクッとした隣人がすぐに微笑んで返す。

「私、花の蜜と草葉の露しか口にいたしませんの」

 にこりと優雅に、ごめんなさいねと謝罪付き。
「せれぶじゃ! あやつ、妖精界のせれぶじゃ!」
 その返答にエウトティアがやや興奮気味に言う。
 品格が高い。俗世に染まりがちな昨今の妖精・精霊界では珍しささえ感じる個体の様だった。
 ともあれ。
 クッキーは食べて貰えなかったが、罠には掛かってくれた。
 空になった皿が持ち上がり、雑でもしっかり機能した罠が大音量で音楽を流し始める。
 至近距離で爆音をぶつけられた隣人がゲンジロウの大声より驚き、「ひゃん!?」と身を竦めて跳び上がった。
 それが合図。
 流れる音楽はめちゃくちゃ格好良い戦闘BGM。いわゆる勝利確定、激熱必至、予定調和の代名詞。
 悲しみを振り払い飛び出したゲンジロウはBGMに合わせて『超未来変形屋台バイク』と合ッ体!!し、巨大なロボへと変身する。
「最初からクライマックスだ!!」
 叫び、花畑をものともせずに駆け抜ける。
 アシェラがその背を「行け! ゲンチャンダー!!」と鼓舞し、自身も別ルートで駆け出した。
 同じく、ユーベルコード『韋駄天足』による超加速と共に跳躍した十六夜が、回り込む様に隣人へと肉薄する。
 三方向同時攻撃。
 罠に掛かった隙を突く、完璧な連携。
 いかなオブリビオンと言えどこれを打破出来るわけがない。
 さあ、どう出る――?
 迫る三人が隣人を見詰め、次の行動に注目する中、隣人は小さな掌を振り上げた。
 その手に渦巻くは、風の魔法。
 ユーベルコードではない、アックス&ウィザーズの世界ではありふれた、『通常攻撃』に類する行動。

 それを、罠に接続されたラジカセに向けて放った。

「っぶねぇぇえ!!」
 十六夜が叫びながら滑り込み、間一髪でラジカセを回収する。
 いや、そりゃ突然驚かされた上にやかましい機械が有れば怒ってぶっ壊すかも知れないけどさ、と思いながら十六夜がラジカセをゲンジロウへと投げ渡す。
 ラジカセも屋台の備品。無くすと地味にユーベルコードが弱体化するのだ。
「わしがクライマックスじゃった……!」
 小声で言いながらロボアーマーにラジカセを組み込み、真の力を解禁するゲンチャンダー。
 その脇を抜けていくアシェラは、取り乱す仲間達の中で威厳を保ち、声を張る。
「落ち着け! ――攻撃に合わせろッ!」
 短く、はっきりとした言葉。
 それを聞いたゲンジロウと十六夜が気を引き締め、加速する。
 しかしそれを敵前で語るには迂闊に過ぎる。
 案の定麗らかな隣人は余裕をもって振り返り、事の起こり、『最初の攻撃』を見極めんと回避に集中した。
 ただし、それは目に見える範囲にのみ。
 アシェラの振るう赤光の剣と、ゲンジロウが振り上げた拳。或いは一度通り過ぎたが神速で切り返し飛び掛かってくる十六夜か。
 誰であろうと、躱す。
 その意識の外から風を切って弧を描く矢が飛来した。
「――っ!」
 寸での所で上体を反らし、矢を躱す。
 そのまま空中で一回転しそうになりながら、隣人はようやくエウトティアの存在に気が付いた。
「よく躱せたのう! じゃが次が閊えておるぞ!」
 言いながら放たれる二射目。
 矢羽をむしった矢は軌道をぐにゃりと曲げ、予想のつかない方向から敵を狙う。
 走る巨狼に跨っての射撃でありながらこの精度。加えて、巨狼ごと存在を隠し続けたその腕前に、隣人が感嘆の声を漏らす。
 それでも弓を躱し、赤光の一閃を潜り抜けたのは、流石としか言いようが無かった。
 が、その小さな体躯からすれば範囲攻撃に等しいゲンジロウの拳までは躱し切れず、受け損ねた末に錐揉み状に吹っ飛ばされた。
「掠っただけか! まだまだ――」
「待て! 焦るな」
 追撃を仕掛けようとするゲンジロウをアシェラが制し、距離を取らせる。
 飛ばされた隣人は血を流しつつも落ちる事は無く、宙に座する様にぴたりと止まる。
「酷いですのね。私はあなた方も幸せにして差し上げたいと願っていますのに」
 そう言って、憐みの表情を浮かべた麗らかな隣人が風を纏う。
 風は花びらを孕み、花びらは毒を孕む。
 それは猛毒のユーベルコード。与えるのは幸せではなく死の一文字。
「妖精や精霊の価値観は人とは違うからの。どうせ土に還って花と共に生きよとか言うんじゃろう?」
「はい、その通りですわ」
 エウトティアの嫌味に理解ある友人を見付けたかのような笑顔で返す。
 狂っていると言われているようなものだと言うのにそれに気付く素振りも無く、隣人はいかがですかと手を差し伸べた。
 常春の森。
 花が咲き乱れ、散る事も枯れる事も無い場所。
 土と成り、糧と成り、この森に吸い上げられる事になれば、それは永遠の命を手に入れる事と同義になる。
 それは幸せな事だと、隣人は言う。
「あいにく、おんなじ事だらけの永遠より、新しい未来の方が欲しいんでな」
 ゲンジロウが秒も迷わず切り返す。だから一人で土に還れと。
「そうですか。では仕方が有りませんね」
 にっこりと笑う隣人は慈母に溢れ、優しく言う。無知で無理解なあなた達でも、私はちゃんと幸せにしてあげます、と。
 決裂。
 直後に巻き起こるのは花びらを含んだ旋風。
 花びらが口に入らない様にと濡れ鉢巻きで口元を覆う十六夜が前に出る。
 が、花びらが当たった箇所が毒に侵されるのを見て、静止した。
「おいおい……」
 予想外の毒の変質。
 毒性の強化。それが単純に毒の致死量が変わると言う程度なら問題無かった。
 鈴蘭の毒は食すなどして摂取しなければ問題無い。が、隣人の用いる鈴蘭は接触で毒に侵し、それも無機物にまで被害を及ぶす。
 そして元々の、接食での毒性は、恐らく即死級だろう。
「マスクじゃ無理だな」
「毒耐性も辛そうじゃ」
 そこはユーベルコード。
 緩和は出来る。だが、無効化には至らない。
 なら、次の手を打つまで。
「俺に毒は効かないぞ!」
 前に出るのはゲンジロウ。その鋼のボディにはユーベルコードとめちゃくちゃ格好良いBGMによる守りがある。
 いかなる毒であろうと通さない。
 そして、その身は仲間を守る。
 吹き荒れる風を大きな掌で受け止め、押し返す。
 風は乱れ、花びらも不規則に散るが、それを十六夜が投げた『風の結晶』から吹き荒ぶ突風で押し流した。
 ロボアーマーの装甲表面が熱を持ち、爛れだす。
 毒は通さないまでも効かないわけではない。
 ただ、その巨体に対し、鈴蘭の花はあまりにも小さ過ぎた。
 丸一日攻撃した所でロボを完全に融解する事は叶わないだろう。
「相性最悪ですわね」
 なら、と、花びらを収束させ、魔法の杖を作り出す。
 その杖が指し示す場所にはアネモネが咲き乱れ、鈴蘭同様、増強された毒性を持って敵を蝕む。
 毒は効かない。だが、土も水も無く咲くアネモネは、ロボアーマーの関節部を埋め尽くす様に咲き乱れる。
 変形機構搭載故の内部の空間の多さが仇と成る。アネモネは磨り潰されようと生え続け、やがて関節が全て動かなくなっていく。
「相性最悪だな」
 こんな手で動きを止められるなどとは思ってもみなかった。
 しかしそれでも冷静に、アシェラはゲンジロウへと衝撃波を叩き込む。
 詰まった花が弾き出され、ゲンジロウは動くようになった腕で残りのアネモネを取り払った。
 ――厄介過ぎる。
 ゲンジロウしかまともに近付けず、ゲンジロウだけではあしらわれる。
「時間稼ぐ」
 と、十六夜が言う。
 突破口を抉じ開けなければ、勝機は無い。
「わしとマニトゥも十六夜殿と共に行こう」
 牽制と機動性に長けたエウトティアもそう言って前へ。まだ切っていない切り札も有る。切るなら、ここだろう。
「では指揮は私が担う。情報は得られた、対策は任せて欲しい」
 アシェラの言葉に、三人は頷いて返す。
 彼女の言葉には力が有り、その指揮に従う事はただ漫然と連なるより確かな力を得られる。
 そのカリスマ性はユーベルコードの域に有り、常識を覆し、実際に猟兵達を何倍にも強くする。
 そうでなくとも信頼する仲間の言葉を疑うわけがない。
 四人は、微笑む隣人へと向き直る。


●花びら一枚分
「『韋駄天足』――!」
「駆けよ、マニトゥ!」
 十六夜と巨狼が走る。
 花畑という足を取られる環境で、それでも自身の役割を果たす為に疾駆する。
 十六夜は跳躍し、『韋駄天足』による無反動走法を決行。蹴り飛ばした花は揺れる事さえなく、蹴って跳んだ十六夜だけが加速する。
 花びらだろうと雨粒だろうとそこに何か一つでも足場になるものがあるのなら十六夜に走れぬ道は無い。
 だが、完全に花畑から身を出してしまえば、それだけ攻撃に身を晒す事になる。
「さあ、土へと還りなさい」
 案の定狙われたのは十六夜だ。
 鈴蘭の花びらがうねる風の塊と共に殺到する。
 それで良い。
 もともと敵が操る花びらは範囲攻撃のユーベルコード。それを引き付けるには、攻撃を集中させなければならないと認識させる必要がある。
 超高速移動にフェイント。油断すれば即座に首を落すというハッタリ。
 毒が効いても効かずとも、やる事は何も変わらない。
 この場所に用意したのは、罠だけじゃない。
 アシェラが陣を敷き、簡易的ではあるがオーラでの防御拠点となっている箇所が有る。
 十六夜は花びらを躱し切れなくなる度にそこへと逃げ込み、攻撃が弱まったところに風の結晶をぶつけて押し返した。
 エウトティアとマニトゥは逆サイドから攻撃を仕掛ける。
 十六夜と違って身を晒さず、地を滑るように走るマニトゥが時折高く跳躍した時に矢を射かけた。
 神速の十六夜の脅威度は当然高い。だが、油断すると突然姿を現して矢を放つエウトティアは、攻撃が届くが故に十六夜よりも脅威度が上だ。
 神速と奇襲。どちらも一瞬の油断で見失い、取り返しのつかない一撃を見舞われるというプレッシャーを放つ。
 その二人を囮に、ゲンジロウとアシェラが突っ込んで行く。
「――っ!」
 その姿を捕らえ、麗らかな隣人の注意が逸れる。
 与えたプレッシャーが緩み、引き付けた注意が別に向く。
 そこに、二人が攻撃を仕掛けた。
「遍く精霊よ、風に宿り力を示せ!」
 エウトティアが弓を収め、手をかざす。
 初めに彼女は、ここは精霊が豊かな土地だと言っていた。
 それが真実だと示すかのように、エウトティアの呼びかけに答えた大勢の精霊たちが一つの球体を作り出す。
 嵐を閉じ込めたかのようなそれは、直ぐにほつれ、横向きの竜巻となって空中を薙ぎ払った。
 それは曰く『浄化の風』。
 世の理から外れたものを浄化し、理の中へと戻す風。
 毒性を増した鈴蘭の花びらは浄化され、魔法の杖に戻り、もう一度花びらに代わる。
 それが何度も繰り返す、その隙を、十六夜が光明の矢が如く駆け抜け、貫く。
 右手を刀の柄に添え、背を丸めて飛び込むは、麗らかな隣人の眼前。
 目が合った。
 隣人の身体は固まり、動かない。
 いや、動かないのだ。
 十六夜が放つ居合斬りを躱すべく、抜刀の瞬間を見極めんとする。
 ――やはり、この敵は強い。
 だからこそ、この刹那の攻防で、こうまで見事に引っ掛かる。
 時間にして一秒も無い瞬きの間。
 その時間の全てを十六夜に釘付けになっていた隣人は、どうしようもなく隙だらけだった。

「抜かずの太刀だ、斬られとけ」

 十六夜が笑う。
 その瞬間に、隣人の背後で狼が吼えた。
 振り向く暇さえ与えない。
 花畑から飛び出して来たエウトティアの両手には黒曜石のナイフ。
 振るわれた斬撃が、深々と妖精を引き裂いた。
「ん……!?」
 深い。
 オブリビオンでなければ間違いなくバラバラに出来たであろう、痛恨の直撃。
 肉を断ち骨を断つ感触が有った。
 それでも致命傷には至らない。
 だが、次が来ている。
「これ以上は、駄目ですわ……!」
 風が吹き荒れる。
 花びらが風に舞う。
 猛毒の花。しかし、毒などおまけだ。
 元よりこれは花びらを以て敵を殲滅するユーベルコード。
 花吹雪が猟兵達を打ち付け、切り刻み、吹き飛ばす。
 十六夜の韋駄天足が切れ、飛ばされたまま花畑へ落ちる。
 エウトティアも彼女を庇ったマニトゥごと押し退けられ、花の中へ落ちた。
 ゲンジロウだけはその巨体で踏み止まり、毒も無視して突き進む。
「滅多打ちじゃあ!!」
 もはや食い止める術など無い。
 華奢で小さな妖精の身体を巨大で重厚なロボアーマーの拳が殴り付ける。
 人間だろうと即死する衝撃。妖精はそれを受けて、流した。
 凄まじい怪力と重量による破壊的な一撃を、華奢な妖精が受け流す。
 右に、左に、自由に、自在に。
「――やはりか」
 アシェラがゲンジロウの影から飛び出し、呟いた。
 足下の花畑。その無数の花が、淡く、光を放っている。
 この森は麗らかな隣人が支配する森。
 常春の森の花畑はどうやって維持しているのか。
 どうやって作りだしたのか。
 簡単だ。
 この花畑こそ、警戒していた『ヒヤシンス』のユーベルコード。
 花畑を生み出し、その上に立つ麗らかな隣人を強化する超常。
 その気になれば初めからこの程度の肉弾戦をこなせる程に、妖精は花畑による強化を受けられたのだ。
 だが、そうと分かれば容易い事。
 アシェラは飛び出してすぐに短剣を辺りへ投げ放った。
 黒刃の短剣。それは十六夜が使った簡易防御拠点の要と同じ。
 刺さった場所に守護の力場を発生させる。
 それが妖精の足下に突き刺さり、花畑から強化の力を消し去った。
「く……!?」
 強化が解かれ、ガクンと弱体化した妖精が呻く。
 すかさずゲンジロウの拳が、隣人の手を押し込んだ。
 受け流せず、弾かれるようになり、妖精が押し込まれる。
 僅かに距離が開き、妖精とゲンジロウが真正面から向き合った。
 追い詰めた。
 だが、妖精にはまだアネモネを咲かせる技が有る。
 けれど、
「武器を分解した状態じゃ武器からの強力な毒は使えねぇだろ!」
 十六夜が体を起こし、叫んだ。
 その身に受けた花びらは、武器が変化した物。
 これがなければ武器を再生出来まいと、わざと花びらを使わせ、受けて、奪い取ったのだ。
 エウトティアも毒耐性で痛みに耐えながら、一握りの花びらを抑え付ける。
 焼いて灰にしても灰から再生出来たかもしれない。
 だから。
 これが最善だと、そう信じる猟兵達の前に、無情にも魔法の杖が生成された。
「初めから杖は何本も有ったのですわ」
 事もなげに言う妖精が杖をゲンジロウへと突き付ける。
 武器は一つとは限らない。
 そして、全てを花びらに変えて混ぜてしまえば総数など分かるはずも無い。
 そんな事も予想出来なかったのかと言う様に、隣人は笑う。

「強かな女は、幾つも武器を隠し持っているものですの」

「――その通りだ」

 赤い光が瞬いた。
 突き付けられた魔法の杖。
 その杖が、空中に舞っている。
 硬直する妖精。その足下で、アシェラが剣を振り上げていた。
 その切っ先は先程より長く、地上から魔法の杖を弾き飛ばす程に鋭い。
「私の隠していた武器だ」
 驚いてくれたか?と問うアシェラを凍り付いた笑顔で見て、妖精は何かを呟く。
 それを、超絶めちゃくちゃ格好良いBGMのラスサビが掻き消した。
「やっちまえゲンジロウさん!」
「やってしまえゲンジロウ殿!」
 声援だけが届く。
 振り被った拳が熱い。
 踏み込む足が花畑を粉砕し、放った拳が悪を討つ。
 渾身のパンチが辺り一面の花びらを吹き飛ばし、一陣の爽やかな風を生んだ。
 
「わしらの方が、花びら一枚上手じゃったのう!」

 快活に笑う男は、勝利BGMを背に勝利の高笑いを上げたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
枝葉の剪定なんて門外漢だけど、手折るだけなのであろう?
ならば得意分野だよ。

で、森の中で奇襲されるかもしれない、と。
襲ってくるなら野生の勘で殺気を察知できないかな。
出来なかったなら、相手の技が毒だから毒耐性と気合で
進行を遅らせて、戦闘続行!
攻撃してきたなら居場所は割れてる!

相手に真っ直ぐ突っ込んで行ってぶった切る!
足止め目的で重ね掛けしてくるなら僥倖。
見失う確立が減る。
さぁさ、どっちが先に音をあげるか!
ボクが倒れるかそっちが倒れるか。
それともお前が逃げるか!ボクは決して逃げはしないぞ?

ああ、生半可に隠れても見つけるぞ?獲物を簡単に逃がす気は無いぞ?


茲乃摘・七曜
心情
常春…、見目には美しいですが変わらぬことは寂しいものですよ?

指針
相手に地の利があることを前提に索敵に力を入れ行動
「なるほど、侵入した時点で位置はバレていると思いましょう

行動
Angels Bitsからの可聴域外の超音波で周囲を索敵
「視野に惑わされず動くものを見定めましょうか
※花の増殖や爆弾への変遷、新たに咲く等の変化を読み取る

花畑での戦闘時は水分量の多い花は冷気での氷結、少ない花は火炎での焼却で利用させないように消滅させてゆく
「地の利を少しづつでも構築して参りましょう

『流転』
ヒヤシンスの花を見定め戦闘中に細かく封印をかけてゆく
「相手へのトラップにできれば最善ですが…、まずは動きを留めましょう


イーファ・リャナンシー
いつもは相手との体格差を活かしてちょこまか戦ってるけど、相手が同じ妖精だってことならそうも言ってられないわね
空中戦で勝負よ

【フラッシュ・フライト】を発動、素早さを強化することで、敵の攻撃に当たらないように動き回るわ
攻撃を避けた結果、地形が花畑になってしまったとしても、敵が地に足を付けられないくらい空中で攻め立てるわ
仮に敵が花畑の上に立って自身の戦闘力を高めたとしても、反対にこっちは自分だけが空中を飛んでいるメリットを活かして空中から攻撃するの
避けられないために出来るだけ敵の視界の外や死角から狙いつつ【全力魔法492】で攻撃するつもりよ
敵も私だけ見て戦ってるわけじゃないし、その辺りをうまく使うわ



●騒めく森
 アルダワ魔法学園、と言う世界がある。
 蒸気機関と魔法が発達し、その組み合わせでどの世界にも無い独自の発明を数多く生み出している世界だ。
 茲乃摘・七曜(魔導人形の騙り部・f00724)が愛用する二基の『Angels Bits』も他に類を見ないアイテムの一つ。
 自律式多機能小型蒸気機関式拡声器。つまりは拡声器なのだが、多機能と一纏めにされている機能も中々侮れない逸品である。
 そう、例えば『超音波放射機能』。
 ……非常に使用用途を限定される機能であり、だからこそ多機能として纏められているのかも知れない。
 なお、そんな機能を索敵用超音波センサとして普通に活用しているのが七曜である。
「常春……」
 そんな七曜が風景を見渡す。
 森は木々も野原も花に溢れ、差し込む陽光の穏やかさもあって美しい。
 ただ、生花とは思えない程に綺麗過ぎる。
 造花の森と言うか、あるいは絵画の中の森と言うべきか。
 動物の気配も音もしないせいで余計に違和感が強い。
「うーん……なんか気持ち悪いな?」
 そんな違和感を野生の勘で感じ取った宮落・ライア(ノゾム者・f05053)が自分の両腕を抱く様にして肩を持ち上げる。
 この森には動物が居ない。
 これだけ豊かならむしろ動物は沢山居そうだが、野鳥が寄り付きもしないという事は、動物には分かる何かしらの危険なサインが発せられているのだろう。
 ライアは性格的なものか恐怖を感じているわけではないようだが、あちこちを見ては「気持ち悪いな? あっちもっと酷いな!」などと賑やかである。
「私は何も感じないわね……?」
 イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)はすいーっと空を飛びながら辺りを見渡すも、これと言って違和感も不快感も感じない。普通の森だ。
 大抵の一般人はイーファと同じく何も感じないだろう。花も木も生きているし、花の多さ以外に特別異常な部分も無い。
 動物は居ないが、それも含め、植物園に来たような感覚にはなるかも知れない。
 やがてそんな森の異常性よりも、敵との戦闘の方にへと注意が傾いたころ、ライアがぴくりと反応した。
「なんか来るぞ!」
 弾むような声で言って、楽し気にライアが武器を構える。
 続いて七曜の索敵にも引っ掛かったのか、イーファに方向を告げて下がった。
 高速接近する正体不明の何か。
 七曜は、それが無数の微小な物体だと感知し、それが何か察した。
「避けて下さい! 攻撃です!」
 叫んだ直後、最前列に立っていたライアに森の奥から花吹雪が襲い掛かって来た。
 余りに不自然かつ花びらが速過ぎた為、傍目には虫の大群のに襲われたかのように見えた。
 当のライアは凄まじい機敏さで横に飛んで回避し、わき目もふらずに花びらが来た方へと走って行く。
「こっちから来たってことは、こっちに居るってことだろう? 墓穴を掘ったな! そのまま埋めてやる!」
 邪魔な草花は二刀で斬り捨て、身を隠す事も考えずに突っ走る。
 その後を七曜が追い、イーファが空から追い掛ける。
「なぜあなた達は私の慈悲を受け入れて下さらないのかしら」
 その妖精は直ぐ近くで待っていた。
 残念そうな口調ながら、微笑みは絶やさず。ちょっとやんちゃな子猫を見るような目で猟兵達を見下ろす。
 母性さえ感じられるその態度が示すのが「死んで土に還れ」だという歪さに狂気を感じる。
 それに怯む事無く、ライアが切り込んだ。
「ぶった切る!!」
 元気いっぱいの宣言とともに、大剣と刀を対の袈裟切りにして放つ。
 迷いも何も無いどストレート故の最速攻撃を、しかし麗らかな隣人はひらりと躱す。
 それどころか、返しに放った何の変哲もない風魔法だけでライアを吹き飛ばした。
 ライアは歴戦の猟兵だ。
 特に豪胆さを活かした真向勝負は同レベルの猟兵でも屈指のもの。
 だと言うのに、得意の正面戦闘で容易く吹き飛ばされるのは、普通ではない。
「やっぱり――」
 その余りの戦力差に七曜が理解する。
 ここは敵陣。それも敵が作り出した常春の森。
 初めからこちらの居場所くらいは割れているだろうと想定していたが、それ以上に嫌な想定である『森の花畑が全てユーベルコードの産物』が当たってしまっていた。
 イーファも直ぐに気が付く。周囲の花々から隣人へと力が送られている事を。
「しかたない、援護するわ!」
 言いながら発動させた『フラッシュ・フライト』によりイーファが豪奢なドレスを纏う。
 麗らかな隣人が静かな森に棲む癒し系のフェアリーなら、イーファは花の都に暮らす愛され系フェアリー。
 しかし、そんな愛らしい姿も、常人では肉眼で捉えられない程の超高速にまで加速する。
 七曜からは辛うじて光の軌跡が見えるかどうかという超スピードを、軽やかに踊る様に隣人は避け、避け続け、避け切った。
 掠りもしない。
 だがそれは想定済みだ。
 七曜はイーファが頑張ってくれている間に、七曜は花畑の処理に回る。
 せめてこの辺りの花畑をどうにかしなければ勝機は無い。
「……なかなか速いわね……それなら空中戦で勝負よ!」
 十の燐光を引き連れたイーファが互いに互いを捕らえ切れない中で宣戦布告する。
 戦闘力強化を与えているのが花畑なら、少しでも花から引き剥がせばその効果は薄くなる。
 隣人もその事は理解した上で、高度を上げるイーファを追い掛けた。
 そして纏うのは風の魔法と鈴蘭の花びら。
 喰らえば一撃で決着が付きかねない火力差が有る。それを飲んだ上で回避率を上げる為に、機動力だけでも敵を圧倒しなければならない。
 だからこそ高度を上げる。
「それにここなら、他の二人は巻き込めないでしょう?」
 花びらの範囲攻撃は凶悪だが、距離を取れば精度も速度も威力も落ちる。有効射程内ならどの距離でも全力で戦えるわけではないのだ。
 そんなに距離と言うのは軽くない。
 そして、『全力』と言うものも。
「――遅いわ!」
 ついに隣人の背後を取ったイーファの魔法が炸裂した。
 まるで戦闘機同士の戦いの様に、一種の切なささえ覚える瞬間。
 しかし隣人は墜ちない。
 イーファが機動力で圧倒出来る程度の戦力強化だったとしても、他の能力では圧倒されているのだ。
 もはや妖精とは思えないほどに強くなり、背中を打った風魔法くらいではびくともしない。
 ただ、背中は無傷でも胸の傷が開いた様で、隣人が急に高度を落した。
「降りて来たなっ!」
 そこには既に戦線復帰したライアが待ち構えている。
 風の魔法の直撃で追ったダメージは戦線復帰に影響なく、振るう剣にも曇りが無い。
 隣人も殺しに掛かる気なのか、魔法の杖を取り出しライアに向けた。
 宙に幾つものアネモネの花が咲く。
 大輪の花。それは茎で編まれ、リース状に組み上げられる。
「盾のつもりかな? そんなんじゃボクは止められないよ!」
 言葉通りに粉砕すべく、ライアは大剣を振り被った。
 ――アネモネは全草に毒を持つ。
 その毒は特に茎の汁に多く含まれ、食べれば胃腸を、触れれば皮膚を焼き爛れさせる。
 そんな毒性をユーベルコードで増幅し、更に花畑の力で強化され、生み出されたアネモネのリース。
 砕けば、骨まで溶けて、爛れ死ぬ。
「させません……!」
 七曜が叫ぶ。
 凍て付く声で、冬の歌を。
 それは二基のAngels Bitsからも紡がれ、三重奏となってライアと隣人の周囲を氷り付かせた。
 直後に振るわれた一撃がアネモネのリースを木っ端微塵に叩き割る。
 凍った花畑は踏み込みついでに踏み砕いた。
 茎の汁まで凍り、飛び散らずに砕けた。
 それでも、アネモネの破片に触れたライアは火が点いた様に肌が焼け、爛れた。
 ――だから、どうした。
 一切怯まず、痛みに呻かず、更に一歩と踏み込んだライアが刀を振るう。
 華奢な身体に刃が滑り込む。
 肉を斬り、されど骨で滑り、両断には至らない。
 だがそれは十分に深手だ。
 アネモネのリースと違い、麗らかな隣人は鮮血を撒き散らして後退する。
 血が止まらない。
 小さな身体にして見れば決して看過出来ない深い傷。
 対するライアも耐性と気合で我慢しているが、毒が皮膚を焼く激痛は確実に広がっていく。
「さぁさ、どっちが先に音をあげるか! ボクが倒れるかそっちが倒れるか! 命懸けの一本勝負と行こうか!」
 事ここに至り楽し気に、ライアが二刀を構え啖呵を切る。
 七曜の支援が無ければ死んでいたかも知れない。だが、それが無くても敵を両断したかも知れない。
 そう思わせる程の凄味がライアには有り、隣人は僅かにたじろいだ。
「それともお前が逃げるか。ボクは決して逃げはしないし、逃がす気も無いぞ?」
「あら、怖いのね」
 笑顔での宣言に茶化したように笑って返す。
 麗らかな隣人は春の様に麗らかに笑う。
 地に濡れようと、いつまでも。

「冬は嫌いよ」

 ふと、七曜を冷たい視線が貫いた。
 瞬間、宙にヒヤシンスが咲き乱れる。
 数多の花が連なり大輪を成すヒヤシンスが、小型爆弾と化して踏み荒らされた花畑へと落下する。
 自ら作り出した花畑を犠牲に、強烈な爆風を叩き付ける。直撃を避けても衝撃波に殴り付けられ、ライアと七曜が地面に転がった。
 そして直ぐに立ち上がれば、目の前にはまた花畑が広がっている。
 霜が降り踏み荒らされていた花畑は影も形も無く、春らしく活気溢れる花畑からは隣人へと力が流れ込んでいた。
「無駄ですのよ」
 何をしようと、常春の森に冬は来ない。
 穏やかに微笑む妖精は、再び数十倍に強化され、いとも容易くライアの懐を潜り込む。
 零距離の風魔法、プラス、鈴蘭の花びら。
 肌を焼くだけでは止まらないなら、そのハラワタを吹き飛ばさんと隣人が笑う。
「それならわたしは、あなたの頭を吹き飛ばしますわ」
 風が巻き起こる。
 それはイーファの魔法。
 その腕に揺れる花の腕輪『プリムローズ』を通して高められた魔力が荒れ狂う風の槍を形成する。
 槍は隣人の生み出す風より速く、頭上と言う死角から放たれた。
 隣人はライアとは違う。
 危険を察知した隣人はあっさりとライアから離れ、逃げだした。
 それをまたイーファが追い、超高速の魔法と超火力の魔法の撃ち合いが始まる。
 やはり地上に近いと分が悪い。が、七曜が打開の可能性は示した。
「花を凍て付かせても一時的にしかならないのなら、今度は時を凍て付かせましょう」
 七曜が服から土を払い、その手で二挺拳銃を引き抜いた。
 込めた弾丸は魔導弾。
 ばら撒かれ宙に留まるその弾は、七曜の杭を放ち、封印の術式を刻む。
 変わらぬことは寂しいことだと七曜は思う。
 そんな彼女が用いる封印術式『流転』とは、変わらずに変わり続ける永久循環のユーベルコード。
 一度囚われれば抜け出せない。
 そんな常冬の世界に花畑の花々を誘った。
「あら……?」
 途端、がくりと隣人の飛翔速度が落ちる。
 その隙を逃さずにイーファが魔法で隣人の背を撃ち、隣人が高度を落した所をライアの二刀が攻め立てた。
 咄嗟に魔法による防御障壁と魔法の杖でのガードをするも、弾き飛ばされた隣人から更に血の華が咲く。
 押され始めた。
 花畑が無効化されたと知ってヒヤシンスを咲かせてみても、イーファの超高速の魔法と七曜の歌が凍らせ、焼き払い、新たに生まれようとした花も『流転』に絡め取られ芽も生えない。
 鈴蘭の花びらもアネモネのリースもイーファは容易く掻い潜り、ライアは無視して斬り掛かる。
 そのライアを二人が支援する事で一番火力の高い二刀の切っ先が麗らかな隣人へと届く。
「ああ、嫌だわ。このままじゃ散ってしまいそう」
 困ったように言いながらイーファと空中戦を続け、その目は最大脅威のライアから離れない。
 埒が明かないと思っていたのは、猟兵達の方だ。
 花畑の強化を失ってから、隣人は露骨に逃げに徹していた。
 イーファの立ち回りがその場に隣人を釘付けているとはいえ、その為にも深追いは出来ず、結果として戦闘が長引いていく。
 長引けばライアの浴びた毒が更に彼女を蝕んでいく。
 そうなれば、いずれ最悪が訪れる。
 そうなる前にと、イーファと七曜が視線を交わし、作戦を切り替えた。
 イーファによる強引な攻撃。
 隣人がそれを避けて高度を下げた瞬間に七曜の歌が隣人を凍らせる。
 完全ではないが、ほんの僅かに動きが止まる。その隙に、ライアが真っ直ぐに飛び込んだ。
 完全ではない。なら、妖精は容易くライアを押し返せる。
 再びライアと隣人の間に生まれたアネモネのリース。それを凍らせ砕かれても、隣人が受けるダメージよりライアに入る毒の方が大きい。
 ライアさえ倒れれば今の均衡は崩れる。
 それが分かっているからの、猟兵達による強引な一気呵成の攻撃だ。
 が、ライアはリースを凍る前に叩き斬った。
 飛び散るアネモネの汁は返り血の様にライアを濡らし、そして、地獄の業火となって肌を焼く。
 じゅうじゅうと音が聞こえる程に、煙が上がる程に、猛毒はライアを侵し、苦しめる。
 その無謀さに驚愕しながらも隣人は続く斬撃を魔法の杖で受け止めた。
 のけぞり、押し込まれる。
 だが、その程度で済んだ。
 逆にライアは重傷を負い、刀を振り抜いた姿勢のままに身体が傾く。
「ごめんなさい」
 七曜が呟いた。
 リースを凍らせ被害を軽減する。その支援を放棄した七曜。
 ライア自身が我が身を省みていなかったとはいえまるで仲間を見捨てたかのような感覚に七曜が唇を噛む。
 だが、歌わぬ代わりに別の支援行動は行っていた。
 それは『流転』の起動。
 対象は花畑全域に加え、麗らかな隣人本体だ。
 しかし、いかな流転と言えど術式を広げ対象を増やせば効果は薄くなる。
 精々、一秒。
 たったの一秒、隣人の動きを完全停止させるのが限界だ。

「十分ですわ」

 イーファが微笑む。
 十の燐光を纏い、華やぐドレスを翻し。
 プリムローズを通す魔力はその身の全てを注ぎ込み、たった一つの魔法を放つ。
 全身全霊を以て、有りっ丈を込めた一撃。
 使えば力尽き、外せば終わる。
 そんな血の一滴まで絞り出す極限の『全力魔法』。

 たっぷり一秒掛けて紡いだ魔法が、麗らかな隣人の頭上、零距離で放たれる。
 星が生まれたかの様な閃光が、隣人と、その足下の花畑を呑み込んでいった。


●春の終わり
「酷いですわ」
 麗らかな隣人が不満げに頬を膨らませる。
 辺りには誰もおらず、ただ花だけが揺れている。
「日に三度も死にかけるなんて……私が消えてしまっては常春が終わってしまいますのに!」
 そんな事はあってはならない。
 他ならぬ猟兵達が幸せになれなくなると、隣人が喚く。
「あ、いたた……」
 それが傷に障り、隣人は花畑の中で身を丸めた。
 その肌には、僅かな火傷、切り傷、全身骨折の痕が歪に残っている。
 それらを塗り潰すかのような深い切り傷と全身を焼く魔力傷は先程受けた物。
 命辛々逃げて来て、今は療養中だ。
 花畑による戦闘力強化は生命力や回復力をも強化する。
 既に二度同じ様にして窮地を脱した隣人は今回も慌てない。
 ただいつもの様に麗らかに、傷が癒えたらまた救いに行くだけだ。
「……でももう、終わりかしら」
 翅が焼け落ち、血が足りず、隣人はもう一歩も動けない。
 回復はしている。このままなら一時間もしない内に復活出来るだろう。
 だけど駄目なのだ。
 森中の花を通してそれとなく伝わって来る侵入者の気配。
 その中でも一番濃い殺意が、真っ直ぐこちらへと向かって来ている。

「逃がす気は無いって、言ったよな」

 やがて現れたのは全身を毒に焼かれた宮落・ライア。
 逃げ延びた事を気付かれた事も意外だが、その重傷の身で追って来たのも意外だった。
「ええ、言っていたわね」
 でも、ライアだから諦めは付く。
 この子からは本当に逃げられないと。
 ああ、でも、この子は枝葉の剪定が苦手そうだな――、なんて。
 そんな風に考える隣人の首を、ライアが刎ねた。
 剪定は苦手だからと、まるで力任せに手折る様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『花と星の妖精』

POW   :    花を操る
自身が装備する【色とりどりの花】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    森の恵み
【食べると幻覚が見えるキノコ】【硬く巨大なきのみ】【どっしりと実った果実】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    星詠み
【占い】が命中した対象に対し、高威力高命中の【様々な結果】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夏の始まり
 常春の森の、春が終わった。
 麗らかな隣人は消え去り、後には森と花だけが残った。
 差し込む日差しは柔らかさを潜め、ただ激しく暑苦しい。
 夏が来たのだ。
 いずれ花は散り、土へと還り、今度は夏の花や実が成るだろう。
 森に棲む花と星の妖精達はそれを憂いたりはしない。
 常春でなくたって木々や花々は残るのだから。

 ――ただし、猟兵は赦さない。

 森を荒らし、花を踏み躙り、同胞である春の妖精を殺した猟兵達を。
 それは森を守る妖精からしてみれば至極当然の事。
 彩花の塔を目指し進む猟兵達を、今度は森の全ての妖精達が狙い、動き出していた。
アマータ・プリムス
【酔兵団】で連携です

おや、皆様もいたのですか
ではご一緒させていただきましょう

数が多い相手にはこちらも数で対抗です
邪魔をさせていただきますね

UCを発動して周囲にアルジェントムから剣を持った騎士人形を呼べる限り召喚して敵とこちらの壁に
その中から10体にフィールムを繋ぎ操作して攻撃と防御を仕掛けます
「目には目を、数には数です」

基本は皆様を守るように操作して壊れたらまた次の人形へフィールムを繋ぎます
無防備な妖精は人形が手にしている剣で攻撃
倒す目的ではなくあくまで時間を稼ぐこと

当機の役目は前座
主役へと続く道をしっかりと作り上げましょう
最後に人形を操作して妖精を一カ所に誘導
「どうぞやってくださいな」


アシェラ・ヘリオース
【酔兵団】にて
憤りの気持ちは当然だがこちらにも退けぬ事情がある。
元より戦闘は不可避と言うことか。

「黒気収束……唸れ黒渦」
初手に【先制攻撃、念動力、属性攻撃、】で闇のフォースを纏わせた風車手裏剣を【サイコキネシス】で合せて全力攻撃。
回避されても【誘導弾、二回攻撃】でしつこく追尾。防御されたらそのまま回転を強め【鎧砕き、傷口を抉る】で削りに行く。
強引な攻めの本分は相手に防御を意識させる事だ。この環境下で妖精の攻撃の自由を十全にさせれば飽和攻撃をもらう事になる。

「それはそれとして気を抜けんがな」
自身は赤光剣での伸長刺突の隙を伺いつつ、【オーラ防御、拠点防御】で自他を防御しよう。


月代・十六夜
【酔兵団】で連携。

お、アマータ嬢良いところに。ちょっとあいのりさせてもらっていい?
あといいもん持ってんじゃねぇかお前ら、片っ端から貰ってくぜ!

大量に召喚される騎士人形に合わせて【早着替え】で【照猫画虎】で【変装】して紛れる。
そのままモノマネ【パフォーマンス】しながら接近。
相手の攻撃は【視力】【野生の勘】で【見切っ】て最低限は避け、ある程度は身代わりの護符で耐えながら【時間稼ぎ】を行う。
ある程度相手の動きを把握したら再び【早着替え】で騎士装束を脱ぎ捨てて【韋駄天足】の【ジャンプ】で一気に懐に飛び込む。
そのまま高速化した【虚張盗勢】で投擲物を盗んでいく。

懐に飛び込んでしまえばそうそう撃てまい…!


ゲンジロウ・ヨハンソン
○アドリブ歓迎
◎チーム【酔兵団】わし含め5人で参加。

そう、わし達ゃ泣き上戸も黙る猟兵チーム酔兵団!
我がチームの愉快な仲間を紹介しよう!
美しき司令塔にして超能力者!アシェラ!
舞い踊る愛しきマスコット!エウトティア!
その一瞬を見逃さない、卓越の一手!十六夜!
終わりのカーテシーも麗しい!アマータ!
そして無敵のこのチームのリーダーにして、居酒屋の店長であるわし!
ゲンジロウ・ヨハンソン!
我ら酔兵団、悪戯妖精にだって…容赦はしねぇぜ!!

◎作戦
皆のUCが決まり、敵を無力化&一纏めにできたら、
【選択したUC】にて天空から超巨大ロボを喚び出し、
【捨て身の一撃】宜しくでまとまった妖精達を着地と同時に踏み潰すぞ!


エウトティア・ナトゥア
※連携・アドリブ歓迎
チーム【酔兵団】で参加。

妖精を一所に誘導する。
まずは【秘伝の篠笛】を吹いて狼の群れを呼び出し、アマータ殿の騎士人形の動きに合わせて空隙を埋めるように狼達にも包囲させるのじゃ。『動物使い』
戦いの勢いを決める先駆けは大切じゃし、【疾風の凱歌】を【歌い】、狼達やアマータ殿の騎士人形とアシェラ殿の風車手裏剣にイザヨイ殿・ゲンジロウ殿の身体能力の速度を強化しておくかの。『歌唱』
更に後方からアシェラ殿の風車手裏剣を追う様に衝撃波を纏わせた矢を射掛けて妖精の動きを封じるのじゃ。『属性攻撃+援護射撃+誘導弾』
【星詠み】によって放たれる【様々な結果】は、根拠のない【野生の勘】で回避じゃ。



●夏の始まり
 燦々と輝く太陽が緑の葉を通り抜け、森の中へと手を伸ばす。
 淡い木洩れ日が小さな日溜まりを作るだけだった春が終わり、日差しは森中を明るく照らし、色濃い影もコントラストとして明るさを際立たせていた。
 夏。
 身を焦がすような太陽は森の緑も焼き、それに抗う様に、あるいは寄り添う様に、森の草木は青々と生い茂る。
 既に季節は廻り始めている。
 春の陽気に微睡んでいた森の精霊達も、夏の気配で目を覚まし、熱に浮かれた様にはしゃぎだす。
 そんな急激な変化に、常春の森へ訪れていた猟兵達は面食らっていた。
「まるで祭りのようじゃな」
 精霊達の賑やかで楽し気な空気にあてられ、思わず頬を緩めながらエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)が言う。
 はしゃぐ妖精達が枝葉を揺らすので風も無いのカサカサと鳴る。人にとっては気味が悪いかも知れないが、自然と精霊と共に生きるエウトティアにとってすれば子供達が元気に遊び回っている声を聞くののに等しい。
 しかし自体はそう悠長では無く、猟兵達の立場も危うかった。
「……うむ。怒りも強く感じるのう」
 精霊達は無邪気なものだ。
 ただ、妖精達はそうはいかない。
 精霊達と同様に夏の訪れを喜び、活気付く自然につられて自らも活力を得て踊り出す。
 そして妖精達は、猟兵達を探し始めるのだ。
 同胞を殺し、森を荒らした仇敵である猟兵を。
 無論、見つけ次第攻撃を仕掛けてくるだろう。
 いくら非力で矮小な妖精達であっても油断すればやられてしまう。そうすれば森を追い出されるか、森の肥やしとなって土へ帰るか。どちらかの末路を辿る事になるだろう。
「憤りの気持ちは当然だがこちらにも退けぬ事情がある」
 アシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)はそう言って強めに拒絶する。
 森を荒らすのも妖精を殺すのも必要だからやった事。それ自体を楽しんでいた者は居ない。
 そうして自分達の正当さを主張するが、続き「元より戦闘は不可避と言うことか」と呟いたのをエウトティアが聞いていた。
 避けられたなら避けたかったというニュアンスを含んでいたように感じ、そこにはアシェラの生真面目なりの優しさが込められていた。
「まあまあ。上手い事オブリビオンの妖精だけ倒せば森のためにもなるでしょ」
 そう言って重くなりそうな空気を適当に掻き混ぜ、月代・十六夜(韋駄天足・f10620)が木々の向こうを見やる。
 塔を目指したいがうっかり怒り狂った妖精達に囲まれてもマズいと周囲を警戒していたのだが、妖精ではなく知り合いを見付けて小さく声を上げた。
「お、アマータ嬢! 良いところに!」
「おや、皆様もいたのですか」
 木陰で銀色のトランクケースを開いていたアマータ・プリムス(人形遣いの人形・f03768)が、十六夜に声を掛けられて振り返る。
 こう言うのも縁が有ると言ったものか、今回の依頼はよくよく現地で知り合いと出くわしがちだ。
 どうせならと十六夜は言う。
「ちょっとあいのりさせてもらっていい?」
「ええ。ではご一緒させていただきましょう」
 単身で参加したとは言え、単独を良しとしたわけではない、ちょうど人手も欲しかったとアマータは立ち上がり、すっと一礼する。
 その足下では開きっぱなしのトランクケースから次々に騎士人形が飛び出して来ていた。
 騎士人形は偽物の身体に偽物の鎧を纏い、本物の剣を掲げている。人間大よりはやや小さいが精巧な作りの人形騎士団が出来上がりつつあった。
「これはなにをやっておるのじゃ?」
 アマータと繋がる糸一本に操られシャキシャキ歩く騎士人形達を見てエウトティアが興味深げに指差した。
「対妖精騎士団です。数の多い妖精を相手取る上で、こちらも数で対抗しようかと」
 アマータが用いたのは『Ab uno disce omnes(アブ・ウーノー・ディスケ・オムネース)』、――複製のユーベルコード。
 オリジナルの騎士人形を延々と複製し続けていればこんな事まで出来るのだ。
 ただし総量に上限が有るので一体一体は小さめに。
「皆様の盾役としてもご活用ください」
「いや、それも良いのだが――」
 アシェラがアマータの騎士団を見ながら何事かを思案する。
 豊富な戦闘知識を持つアシェラの琴線に何かが触れたのだろう。
 持ち寄った道具と能力で何を為せるか。そこから作戦と呼べるものを組み上げていく。
 そんな様子を、一人の男が頷きながら眺めていた。

●花は吹雪き、雪崩る
 森は光に溢れている。
 大気中の水分がきらきらと煌めいて、木陰の花の彩りまで美しい。
 そんな中、雷雲が日差しを遮ったかのように、ごく一部の空間が光を失った。
 そのまま時間を置かずにその闇は周囲の光を貪り喰らい、墨を零したかのような惨状を作り上げる。
 やがてその異常な闇はアシェラの手の内へと収まった。
 闇のフォース。
 それを纏うのは、風車型の手裏剣。
 投げ放たれた幾つものそれは弧を描き空を切って木々の隙間を縫って進む。
 狙うは、怒れる妖精達。
 寸分狂わずに妖精へと届いた手裏剣は、いとも容易く妖精を両断した。
「黒気収束……唸れ、黒渦」
 アシェラが言い放ち、更に無数の手裏剣を投げ放つ。
 前方全方位に撒かれる刃は弧を描き、かと思えば空中で軌道を捻じ曲げ、逃げる妖精を確実に捕らえ、真っ二つにした。
 ――『サイコキネシス』。
 念動力を用い、手を触れずに対象を操作・攻撃する力。
 それだけなら多少便利で、防ぐのが難しい攻撃でしかない。
 有するサイキックエナジーの多寡が威力に直結し、中には凄まじい破壊力を持ったサイコキネシス使いが居るかも知れない。
 ただ、アシェラは違う。
 技能として裏打ちされた念動力の扱いは威力以上の脅威となり、放たれた手裏剣の回転数を落とさずに軌道だけ捻じ曲げる。
 落とさないどころか回転数や速度を上げる事さえ出来、加速した手裏剣で防御ごと妖精を真っ二つにしていく。
 防げば加速、隠れれば追尾。
 単純だが、無数に投げ続ける手裏剣一つ一つに対しそれらの効果を効果的に付与出来るアシェラ自身が最も恐るべき存在だった。
 だが、アシェラ自身にはそんな神業を誇るような余裕は無い。
 無数の手裏剣をホーミング弾の様に扱い執拗に妖精を追い回すのも、回転速度を上げ回転鋸の様な手裏剣で盾にした樹ごと引き裂くのも、闇のフォースで過剰な破壊力を付与し妖精達を脅かすのも、余裕の無さの表れだ。
 妖精達は非常に多い。
 森中に潜み、自然の力を用いて猟兵達に襲い掛かる。
 もし妖精達が全員全力で襲い掛かって来たなら、猟兵の防御などあっさりと突破されてしまうだろう。
 数の暴力とはその飽和攻撃の脅威でもある。
 回避にしろ回復にしろ防御にしろ、それを上回る物量で攻撃されれば磨り潰される。
 だからアシェラは強引にでも攻撃を仕掛け、敵の意識を守りへと向けさせたのだ。
 余裕が無いから作り出す。
 さも当然の様に成し遂げられたその作戦の難易度を誰も知らないまま、アシェラは勝ち取った『余裕』を次の一手の為に使う。
 アシェラからの合図を受け、前に出たのは11体の騎士人形。
 剣を眼前に構え前進を開始する騎士達。その隙間を縫って、狼の群れが飛び掛かる。
「畳み掛けるのじゃ!」
 叫ぶエウトティアが『秘伝の篠笛』を吹き奏でれば狼達は逃げ惑う妖精達を追い駆け、喰らい付く。
 流石にただの獣の一咬みでオブリビオンである妖精が即死するという事は無い。だが体格差もあれば、即死しないとしてもダメージは確実に入る。
 手負いとなって動きが鈍れば、例え狼から逃げた所でアマータの騎士人形に切り伏せられるかアシェラの手裏剣に傷口を抉り取られるかして止めを刺される。
 数には数を。
 アマータが口にした作戦は、仲間と合流する事で更に手数を増して効果的なものとなる。
 そして、エウトティアの言う『畳み掛け』はまだまだ続く。

「風よ、勝利の歌を!」

 エウトティアが声を張り上げる。
 紡ぐは風精霊の唄、『疾風の凱歌』。
 背中を押す追風。
 共に駆け抜ける疾風。
 力が渦巻く旋風。
 音と香りを届ける微風。
 その全てが猟兵達の、猟兵達に味方する者達の力と成る。
 騎士人形達や狼達は益々妖精達を追い立て殺し、アシェラの手裏剣は更に複雑な軌道をなぞりながら回転投げとは思えない速度で妖精を追い掛ける。
 そんな複雑な軌道を描く風車手裏剣の影に潜む様に、エウトティアの放った一矢が時折混ざる。
 それは手裏剣ほどではないが奇怪な軌道で妖精を追い、着弾の衝撃を周囲に広げ衝撃波を巻き起こす。
 薙ぎ払う為の衝撃ではなく、あくまでも足を止める為の物。足を止めれば、後は狼か騎士か仲間達が討ち果たした。
 しかし、一方的に蹂躙される妖精達は、ここでようやく反撃に転じる。
 減じてはいるが妖精達は未だに数が多い。
 周囲の木々や花畑の中から次々と現れ、少しずつ、着実に猟兵達との距離を詰めて来ている。
 それを見たアマータは騎士人形に盾を構えさせる。
 両手の十指と人形操作用糸『マギア・フィールム』で繋がっている騎士人形達は猟兵達を守る様に再配置される。
 そんな騎士人形達を打ち据えたのは、大量の色とりどりの花だ。
 無数の妖精が操る無数の花。それ単体では非常に美しく実害も殆ど無いユーベルコード。だが、洪水か雪崩かのような物量となってしまえば、それは疑いようも無く攻撃だと認識出来た。
「皆様、盾の後ろへ」
 アマータが言って、自らも騎士人形の影に隠れる。
 アシェラとエウトティアが手裏剣や衝撃波や風で花の雪崩を押し止めようとするも呑み込まれるばかりで、どうしようもなく騎士人形の盾の後ろに隠れる。
 直後、濁流に呑まれたような衝撃と共に騎士人形がベキボキと悲鳴を上げ、花が通り過ぎた後には殆どの人形が粉々になっていた。
 肉厚な花は重い。単純な速度と質量による破壊力も凄まじいだろう。
 だがより厄介な事に、例の花雪崩の中には毒キノコや堅い木の実、どっしりと実った果実が含まれていた。
 木の実や果実が直撃すると、騎士人形が盾ごと潰れ、吹き飛ばされる。猟兵であっても喰らえば大きなダメージを受けるだろう。
 アマータは次の攻撃が来る前に壊れた人形からフィールムを外し、予め量産していた騎士人形にフィールムを接続する。
 攻撃に耐えられたのは一体だけ。残りの十体はただの一撃で砕かれてしまっていた。
 猟兵達にはダメージが無かったのは僥倖だろう。
 その為にアマータが騎士人形を操作したのだが、それにしても想定外の一撃だった。
 あれが数の暴力。数十体の妖精が力を合わせた合体ユーベルコード。
「頭上に気を付けて。ガードしても圧殺か窒息死の可能性が有る」
 アシェラが言いながらも手裏剣を放つ。
 方針は変わらない。
 兎に角攻撃し、敵の攻撃機会を奪う。
 妖精の数を減らす事が文字通り火力を削る事にもなる。
 たった一度守勢に回っただけで人形ほぼ全てが破壊されたのだ。これで益々攻撃に偏重せざるを得なくなった。
 いつの間にか最後まで耐えて残っていた騎士人形も見当たらなくなり、アマータは十体の騎士人形で立ち回る。
 何が起こるか分からない妖精達の『占い』が脅威にならないのは他の妖精と力を合わせ難い上にそもそもの効果がランダムだからか、あるいは占いが外れているのか。
 たまに引き起こされる不可解な現象も猟兵達は勘や経験から咄嗟に回避する。
 回避出来なかった者もいたが、狼が空中で犬掻きし始めるくらいで実害はない。
「とにかくあの合体技をどうにかしなければならんのう……!」
 つまりはそこだ。
 妖精達も馬鹿ではない。
 猟兵達の猛攻で次々に落とされながらも最も有効だった合体技をもう一度使うべく隙を伺い続けている。
 そんな隙は無いと言いたいが、どうしたって隙は生まれる。
 マズいと思った時にはもう、打ち消しようがないほど大量の花が渦巻く塊となって顕現していた。
 放たれる花雪崩に猟兵達は咄嗟に身を守る。
 色とりどりの花の中に混じる木の実や果実が盾ごと人形を潰しに来る。
 兎に角耐え、過ぎ去った直後に反撃に転じなければ。
 そう思ったが、猟兵の予想が外れた。
 花雪崩に呑まれる猟兵達。
 狼は全力で一時離脱し、騎士人形達は猟兵達の盾となる。
 さっきと同じ。
 さっきと同じなのに、被害は驚くほど軽微だった。
 騎士人形は損傷しつつも誰も倒れず、猟兵達にも何の影響もない。
 明らかに威力が下がっている。
 それが何故かと言えば、十一体目の騎士人形が知っていた。

「よう! あらかた盗んでやったぜ!」

 そう笑うのは大量の花やらきのこやらを抱えた十六夜だ。
 十の指に十の糸に、十一の人形。それは唯一攻撃を耐えた人形。
 その違和感にさえ妖精達は気付かない。
 そして花雪崩の威力が落ちたのが、十六夜が花雪崩の材料になる花や木の実類を妖精から盗みまくったからだった。
「さて、これで形勢は決したな」
 アシェラが言う。
 十六夜は宙を蹴り、今度は変装も早業も無く、真正面から飛び込んでいく。
 アマータは騎士人形を攻撃に向かわせ、エウトティアが狼達と共に攻め込む。
 ――形勢は決した。
 即ち、舞台は整った。
「あとは任せた」
 その言葉に、ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)が胸を叩いて頷いた。

●絶対勝利
「そう、わし達ゃ泣き上戸も黙る猟兵チーム酔兵団!」
 ゲンジロウの大声が森に響き渡る。
 森の木々がざわつき、妖精達が耳を抑える。
 そんな事はお構いなしよとゲンジロウは前に出て、更に声を張り上げる。
「我がチームの愉快な仲間を紹介しよう!」
 そして始まるお友達紹介。
 いったい何が起こっているのだと妖精達はたじろぐが、そんな事は猟兵達にも分からない。
 きっとゲンジロウにも分からないが、それでも熱く激しく語るのみ。

「美しき司令塔にして超能力者! アシェラ!」

 名を呼ばれたアシェラが挨拶代わりに風車手裏剣を投げ放つ。
 念動力による不規則不可解な軌道を以て敵を切り刻む闇の刃。
 攻撃の要となった彼女の作戦は、何一つ破綻しなかった。

「舞い踊る愛しきマスコット! エウトティア!」

 エウトティアが笑い、狼達が一斉に遠吠えをする。
 その演奏は獣の心を掴み、その唄は風精霊の心を掴んだ。
 仲間の質も量も支援し高め、それが最後まで全員を支え切った。

「その一瞬を見逃さない、卓越の一手! 十六夜!」

 片手を上げて十六夜は森の奥へ消える。
 何処に居たのか、何をやっていたのかは、分かる者にだけ分かるだろう。
 目立たない彼の働きが、この戦いを一気に決着まで導いた。

「終わりのカーテシーも麗しい! アマータ!」

 守りの要となった人形遣いが騎士に剣を掲げさせる。
 彼女の前準備と騎士人形が居なければ初めの雪崩で終わっていた。
 攻撃最優先の中で守るべきを守り抜いたのだ。

「そして無敵のこのチームのリーダーにして、居酒屋の店長であるわし! ――ゲンジロウ・ヨハンソン!」

 威風堂々と仁王立ちするゲンジロウ。
 そして真っ直ぐに妖精達へと向かって歩き出す。
 雌雄は決した、全てが整った。
 故に後は俺の出番だと、この為に温存していた全てを解き放つため、前へ出る。
 何処からか熱く滾るBGMが聞こえてくる。
 それが何を意味しているのか、分からない奴なんていない。

「来いッ!! 超ド級爆操店舗!!!
 ゲンッッチャンッッ!! ッダイナァァアアアアアア!!!!!」

 天を衝く咆哮が、天へと突き上げられた拳が、空の向こうの奴を呼ぶ。
 呼ばれりゃ必ずやってくる。
 全長37m52cmの巨大ロボ。正義の味方、お酒の御供、ゲンチャンダイナー。
 妖精達を森の木々ごと踏み潰し、超ド級ダイレクトエントリー。

「我ら酔兵団、悪戯妖精にだって……容赦はしねぇぜ!!

 その言葉とともに爆発する背景。
 ここに妖精達との戦いは完全決着を迎えたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

茲乃摘・七曜
心情
さて、赦されなくとも進ませていただきましょう

指針
物量に対抗し相手の苦手な戦場に構築する
「自然を切り開くのはいつも生きている存在ですからね

行動
Angels Bitsの輪唱で金属壁を出現させつつ移動
相手に包囲されないよう意識し、進行方向の木や草花からの奇襲に留意する
「麗らかな隣人が消え、夏が来た……ならば環境を変えれば妖精に影響を与えられないでしょうか?
※二挺拳銃からの氷雪弾で冷却し、金属弾で破壊をしてゆく

対占い
都合の悪い結果でも次に繋げる形で利用してゆく
※攻撃が外れるなら外れた弾を、負傷するなら零れたオイルを利用し環境を攻撃してゆく
「人生万事、塞翁が馬……その結果の先に進ませてもらいましょう


フォーネリアス・スカーレット
「当然だ、私もオブリビオンを赦す事は無い。全て殺す」
 状況判断によるエントリーで死角から電磁居合斬りで強襲をかけ両断。
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
 刀を投げ捨て両手を合わせて挨拶。これは礼儀ではない。これから貴様らを皆殺しにするという意思表示だ。
「やはり火は有効なようだな」
 鞘から炎剣を次々と抜き投擲。直接当てる事は狙わずなるべく多くを一か所に固める。
「サップーケイ……!」
 両手を合わせ、囁く。殺風景の迷路に閉じ込めて分断する。後は一匹づつ仕留めるだけだ。
「成程、中々に使い勝手がいい。相手が向こうから来るからな」
 特に出口付近は重点的に抑え、罠も仕掛ける。皆殺しだ。



●朽ちる森
 夏の訪れは森を激的に変えた。
 と言うよりは、『常春』が終わったのが原因だろう。
 鳥も獣も居ない森で野にも木々にも花が咲く。その為の栄養は全て麗らかな隣人が賄っていたのだ。
 魔法と言う栄養がいきなり消失した植物達は、言わば胃の中を空にされた動物と同じだ。だが、土地は元より枯れていた。
 だと言うのに花々や木々の数は異常に多く、直ぐに栄養の奪い合いが始まった。
 半日と待たずに多くの花が散るだろう。
 季節外れのものもそうだ。
 そうして春の終わりは多くの死を招き、そしてその死を糧に新たな森が生まれるのだ。
 花や木だって土に還り、新たな命の糧となる。
 それが自然の摂理。
 この森に足りなかった物であり、多くの者が感じた違和感の正体の一つだ。
「自然の匂いがしますね」
 生まれ変わる為に今まさに死んでいく森、その中を歩きながら茲乃摘・七曜(魔導人形の騙り部・f00724)が呟く。
 万物の循環を表す名と術を持つ七曜は、その生と死、陰陽の循環の気配をも感じ取っているのだろう。
 ミレナリィドールである七曜には命の循環は無いかも知れないが、それでもその内を循環する物は有る。己の内にさえ有るものがこの森からは感じられなかった。
 だが今、正しく世界が巡り始めた。
 だから、『そうでないモノ』が浮き彫りになる。
 森全域が世の理の内に還ってなお、外れたままで留まる者。
 オブリビオン。
 例え元が自然を愛する妖精であり、今もその願いが変わらないとしても、理から外れた存在は理自体を歪めてしまう。
 自然を愛し守る者が自然を脅かし滅ぼす毒そのものであるという皮肉。
「赦さない……許さない……」
 妖精達は口々に呪詛を唱えながら七曜を遠巻きに取り囲む。
 真に許されない存在がどちらかなど、考えもつかないのだろう。
 七曜とてその恨みに反論するつもりは無いし、逆にオブリビオンである事を罪だという事も無い。
「赦されなくとも進ませていただきましょう」
 ただ前を見据えて、歩み出る。
 そんな七曜に、妖精達が殺到した。
 迎え撃つは二つの銃口。音も無く抜き放たれた二挺拳銃が吼える度、鉛が妖精の身体に風穴を開ける。
 反動で跳ね上がる腕さえ利用し、銃を横に倒した七曜が回りながら全方位へと鉛玉をばら撒いた。
 そんなガン・ダンスに添える音楽は七曜とその愛機『Angels Bits』から紡がれる。
 冷たく鋭い歌声は輪唱となり、氷雪と金属の冷たさが二重唱となる。
 凍て付いた森は鉛玉を受けて砕け散り、弾幕を潜り抜けた妖精は金属壁によって遮られる。
 壁が自分の視界と弾幕さえ遮るのを分かっている七曜は森を進み場所を変えながら冷気と鉛を振り撒き続けた。
 通った後は自然が破壊されていく。
 物量ではどうあっても敵わない。ならばと七曜が取った戦術は地の利を奪うというもの。
 元々の樹の多さに金属壁を加え遮蔽物を増やす。それを飛び越えて来た者を撃ち落とす事に集中すれば、敵の小ささによる視線の上下を軽減出来る。
 小柄で飛行も可能な妖精に接近されると足下と頭上それぞれに注意を向けねばならず、加えて大勢に囲まれるとなれば対応出来る方が異常だ。
 七曜の金属壁は盾と言うよりは区切り、敵の動きを制限する意味で非常に活躍していた。
 加えて氷結と粉砕。
 自然破壊と言うと聞こえは悪いが、これも妖精の行動、それも攻撃を大きく制限していた。
「上々ですね」
 七曜がブレスついでに呟き、喉の調子を整える。
 敵は妖精。そのユーベルコードの多くは自然の力を借りる物であり、武器さえも花である。
 つまり、周囲の自然を破壊してしまえば、攻撃を大幅に弱体化出来るのだ。
 妖精達が振るう花弁は舞う内に凍て付き、七曜に当たるとパリンと割れる。木の実や果実は遮蔽物が邪魔になり、弓なりで投げ付けても当たらず、近付けば撃ち抜かれる。
 結果、妖精達の攻撃手段は自然と一つに絞られる。
 ――『星詠み』。
 妖精達は『森の妖精』ではない。正しくは『花と星の妖精』だ。
 自然を破壊され、弱体化してなお、星々の加護を得られる。
 星詠みのユーベルコードはそんな星の力を用いた占星術の一種なのだろう。
 具体性は無い。当たるも八卦、当たらぬも八卦。幸も不幸も運次第。
 ただその占いは、何かを引き起こす――。
「――ッ!?」
 七曜が足を滑らせる。
 何事かと思えば、凍て付かせた草花が折り重なり、それを踏んづけたようだ。
 転倒は免れたものの体勢を崩した七曜に妖精達が襲い掛かる。と、今度は体勢を崩した拍子に変な角度で生み出した金属壁が盾になって妖精達を阻む。
「人間万事塞翁が馬、ですね」
 引き起こされるのが幸か不幸か分からないなら、不幸を幸に変えてまえば良い。
 占いとは本来そう言うものだ。
 訪れる幸福を享受し、振り掛かる災厄から逃れる為、人は吉兆を占うもの。
 とは言え、だ。
「数が多過ぎますね……!」
 七曜が呻く。
 下手な鉄砲も妖精の占いも数撃ちゃ当たるのは同じなのだろう。
 幸か不幸かの判断がつかないほど七曜の周りでは異変が立て続けに起きていた。
 転べば草花が衝撃を吸収し、代わりに毒花の花粉を吸った、と思えばミレナリィドールには無害、だが歌声が濁って効果が落ちたり。
 弾が外れたが金属壁に跳弾し、代わりに目の前の妖精は止められず、と思えば跳弾が当たった妖精が横から突っ込んで来て目の前の妖精とぶつかる、しかしその二体の持っていた花が七曜の顔面に飛んでくるなど。
 幸と不幸が二転三転し、七曜の判断力を上回っていく。
 混乱する前に判断を保留したのは流石と言っていいだろうが、それは同時にこれ以上の対処法が無いという事でもある。
 あとは出来る限り削るだけ。
 そう思った時に、彼方から何かが跳んで来た。
 木々を蹴って飛来したそれは妖精達の死角から突如現れ、紫電奔らす居合の一刀で妖精数体纏めて両断した。
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
 刀を投げ捨て両手を合わせて挨拶したのはフォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)。
 鉄仮面の下から妖精達を射抜く眼光は恐ろしく鋭く、その挨拶が礼儀ではなく、死の宣告である事を思い知らせる。
 続いてフォーネリアスは走り出し、炎剣を妖精達に投擲し始めた。
 火を纏うルーンソードは妖精を斬り裂きながら樹の幹や地面に刺さり、周囲を焼く。
 生木や草花は燃え難いが、それでも火は脅威だ。燃え広がらないとしても焼けた部分は細胞が破壊され、二度と癒える事は無い。
 そして焼かれる内に水分が飛べば一気に燃え広がっていく。
 妖精達もそれは恐ろしいらしく、露骨に炎剣を避けてフォーネリアスへと襲い来る。
 それを避け、時に斬り捨てながら、なおも炎剣を投げ続ける。
 だが如何に脅威と言えど投げた所で倒せるのは一、二体。むしろ手に持って振り回した方が効果的だろうに、フォーネリアスは次々に炎剣を手放していった。
「そう言う事ですか」
 七曜が呟き、指針を変える。
 フォーネリアスに合わせ、遠くの妖精を狙う様に。
 ただでさえ的が小さい上によく動く妖精達は距離まで離れると攻撃が中々当たらなくなる。
 七曜の二丁拳銃が作る弾幕は範囲攻撃に見えて穴が多く、距離が離れる程にその穴も大きくなる。
 ともすれば遠くの妖精を狙ったとしても非常に当て難く、効率が悪い。
 ただでさえ数の多い妖精達を相手にするのに倒し難い後方から狙うのは自殺行為なのだが、敢えてフォーネリアスはそうしていた。
 何故かは七曜も分からなかったが、そこに何か意図が有るのには気付き、手を貸した。
 結果、二人は妖精達に取り囲まれた。
 遠くで様子見していた妖精達まで炎剣や弾丸で刺激した事で更に包囲網は狭く厚くなり、移動を続けていた七曜ももう踏み止まって応戦するしかなくなってしまっていた。
「赦さない……許さない……!」
 妖精達は呪詛を唱える。
 破壊に次ぐ破壊、遂には火まで放とうとした猟兵達へ。
「当然だ、私もオブリビオンを赦す事は無い」
 それに対して冷たく言い放つフォーネリアスが包囲網の中心で足を止める。
 ――全て殺す。
 囲まれようと狼狽えず、ただ敵意に殺意を以て返す。
 眼光が油断無く妖精達を睨みつけ、フォーネリアスは両手を合わせた。

「サップーケイ……!」

 フォーネリアスが囁く。
 瞬間、世界が塗り替わる。
 草花の絨毯は祝儀敷の畳に置き換わり、木々や金属壁は墨絵の描かれた鋼鉄襖へと変貌する。
 殺風景の迷路。
 そのたった一つの出口に陣取り、群がる全ての妖精達を閉じ込めた。
「これはまた……!」
 七曜が声を上げる。
 そういうユーベルコードが有るのは知っていても、見れば何度でも驚ける大技だ。
 地の利を奪うの究極系。相手が迷路を力づくに突破出来る様な怪物でなければ一発で戦況を傾けられる。
 突然迷路にぶち込まれ、仲間とも鉄襖で区切られ分断された妖精達は焦り出す。
 それをわざわざ叩く必要すらない。
 フォーネリアスはただ出口で待ち、向かって来た者を片っ端から斬り捨てるのみ。
 事此処に到ればもはや不幸も不運も関係無い。
 多少の反撃を受けた所でフォーネリアスは気にも留めず、七曜はそれを活かそうと動く。
 妖精が怯み攻めあぐねれば、フォーネリアスは悠々と罠を張り始める。
 もはや出口は無いに等しい。
 愛した森の土に還る事も出来はしない。
 妖精達の末路は始めから決まっている。
 オブリビオンとして、ただ討たれ、骸の海へと沈むのみ。
「成程、中々に使い勝手がいい」
 相手が向こうから来るからな、と、フォーネリアスが武器を抜く。
 七曜も合わせて拳銃を構えた。
 群がる無数の妖精をフォーネリアスの罠と七曜の『流転』が食い止め、返す刃で撫で斬りを果たす。
 ここからは戦いではない。
 始まるのは、ただただ無慈悲な掃討だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

宮落・ライア
毒が残っててかなりグロッキー。
隣人と別れてそのまま一人でふらつきながら進む。
進む間に【侵食加速・自己証明】を無意識に発動して
侵食と、頭に響く声の頭痛に唇をかむ。

一つ攻撃が当たった時点で膝を付き
【飢餓暴走】発動。
背中の肉が肥大化増殖し伸び巨大化し
妖精を追跡して喰らう。
相手が放つ果物や、隠れている木々なども纏めて暗い尽くす。
ある程度周囲の物を食べつくしたら収縮し何もなかったように元に戻る。

そして静かになった後、暫くの後にまた立ち上がり歩き出す。



●「     」
 妖精達が泣いている。
 森が滅ぶと泣いている。
 自分も滅ぶと泣いている。
 泣いて喚いて、戦っている。
 そんな妖精達を猟兵達が蹂躙する中、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)はさまよっていた。
 行く先も目的も半ば見失いかけていたのだ。
 戦いで受けた怪我や毒が酷く、いつ事切れてもおかしくない程の重傷だった。
 応急手当も受けずにここまで来れたのが奇跡的な程にライアは消耗し、それ故に朦朧としていた。
 そんな彼女の頭の中に響く声が有る。
 それは祈り。
 多くの、絶え間なく続く、祈りの声。
 それがライアの中で響き続けるのだ。
 頭が割れる程に、ただひたすらに、声が、何度も、何時までも。
 ライアは叫んだ。
 いや、唇を噛んでいた。
 自分の声などもう聞こえない。
 叫んでいたのかも分からない。
 朦朧とした意識でそれでもライアは歩き続ける。
 背負い切れない期待を背負い、聞き取れないほどの祈りを聞き届けた。
 そうして宿った決意という名の狂気が、ライアの歩みを進ませる。
 止まる事は許されない。
 倒れる事は許されない。
 死ぬ事も、逃げる事も。
    が、それを、絶対に許さないから。
 そんな死に体を引き摺って歩くライアを妖精達は見逃さない。
 ライアは麗らかな隣人に止めを刺した、一番の仇敵だ。
 許さない、赦さないと、妖精達は口々に呪詛を吐き、ライアへと襲い掛かった。
 死に体だった。
 触れただけで死にそうな程に弱っていた。
 事実、妖精がライアの背中に木の実をぶつけただけで、彼女は膝を折って倒れたのだ。
 呆気無く。
 ただの一撃で、ライアは一線を超えてしまった。
 倒れ込む。
 その背中に、木の実が深々と突き刺さっていた。

「――おなか、すいた」

 か細い声が、ライアの口から洩れた。
 血と共に零れて溢れ、流れ出た。
 そして、背中に刺さった木の実が、噛み砕かれた。
 背中が木の実を噛み砕く。砕いて喰らい、隆起する。
 肥大化し、増殖し、巨大化し、伸びていく。
 それは何本も枝分かれし、どんどんと増えていく。
 その末端には、歪な口が、涎を垂らす。
「――ッ」
 悲鳴が聞こえた。
 妖精か、あるいは森の。
 食事が始まったからだろう。
 生きたまま貪り喰らわれるのは妖精であろうと植物であろうと苦痛を伴うのだろう。
 ライアの背中から伸びた幾つもの巨大な口が周囲の木々や花々、妖精が放つ木の実や果実、果ては妖精達そのものを喰らっていく。
 食い千切る。
 何度も引っ張り、幾つにも千切る。
 噛み砕く。
 ぐちゃぐちゃと咀嚼し、割って砕いて擦り潰す。
 呑み込む。
 啜り、吸い上げ、一つも残さず飲み下す。
 聞こえる。
 悲鳴が、聞こえる。
 聞こえる。
 祈りが、聞こえる。
 止まる事は許されない。
 倒れる事は許されない。
 死ぬ事も、逃げる事も。
 だからライアは立ち上がる。
 そしてまた歩き出す。
 足取りは、揺るがない。
 今度はもう、倒れない。
 気が付けばもう何も聞こえない。
 祈りも、悲鳴も、何もかも。
 そう、何も。
 聞こえるわけがない。

 ライアの周りにはもう、何も残っていないのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『ミラベル』

POW   :    庭師の審美眼
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【無数の赤い花びら】が出現してそれを180秒封じる。
SPD   :    フルブルーム・リーパー
【踊るように鎌】による素早い一撃を放つ。また、【美しく踊る】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    フラワーズ・チアリング
戦闘力のない【ファン(ドラゴン)】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【ファンの強化魔法とサポート】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルト・カントリックです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●竜の庭師
「春が終わりましたわね」
 花が溢れる丘の庭園で桜色のドラゴンが呟く。
 どこか遠くを見る様に、けれど直ぐ近くの森を見下ろしながら。
 その顔に憂いは無い。むしろどこか嬉しげに言う。
「春の花ばかりでは物足りませんものね」
 そう言いながら、ドラゴンは前脚に生えた鎌を振るう。
 近くの花の、余計な枝葉は斬り飛ばされ、粉々になって地に落ちる。
 ドラゴンはやはり楽しげに言う。また妖精に花を育てさせなくちゃと。
 全てはこの庭園の為に。
 その為に、全ての命をこの手に掛ける。
「ああ、たのしみですわ。次の花はどこに飾りましょう」
 ドラゴンは楽しげに口遊みながら歩き出す。
 庭園は広い。だがその全てを管理しなくては庭師の名折れ。
 さあ先ずは肥料を取りに行かねばと、ドラゴンは妖精の様な翅を広げた。

 ――その足下には、無数の動物達の死骸が細切れになってばら撒かれていた。
茲乃摘・七曜
心情
何事もバランスが重要…、私達にも言えることですけれど

指針
魔龍に整えられた花園は死地と意識し行動
「周囲に丁稚や応援が潜んでいるなら…、まずはそちらの排除を

行動
花園における死角や木々や噴水などの設置物の状況を確認
中距離を維持しつつ二挺拳銃で魔龍の鎌の側面や翼を狙い牽制
(応援が龍なら飛んでいる可能性も…?)
※Angels Bitsからの指向性の轟音と二挺拳銃で光属性の炸裂する魔導弾でファンの視野と聴覚を遮り妨害や支援を防ぐ

防御
激痛態勢で耐えつつ相手の視線から攻撃の軌道を読み取り被害を減らす

流転
魔龍が飛行しする場合、翼の一部を封じて行動を阻害
「飛ばれると後援者から見えやすいということもありますしね



●開園
 春が過ぎ、夏が来た。
 命が終わり、死に絶えた。
 不自然な自然は猟兵達に破壊され、自然は自然の摂理に則って朽ちていく。
 花を守る妖精達はもう居ない。
 森が荒野に変わるか、或いは再び森として正常化するか。何方にせよ、暫くは花が一輪咲くのにも苦労する土地になるだろう。
 だと言うのに、庭師は笑っていた。
 楽し気に、嬉し気に。
 憤りなど欠片も感じさせない佇まいで竜の庭師『ミラベル』が立っていた。
「もっと恨まれるものと思っていましたが……」
 茲乃摘・七曜(魔導人形の騙り部・f00724)はミラベルの笑顔に笑みで返しながら、そう零す。
 現に妖精達は呪詛を吐きながら襲い掛かって来たし、消えていく時でさえ憎悪をぶつけてきた。
 あの妖精達を使役していたのがミラベルなら主人もまた憎々しく思っているだろうと、そう考えるのは自然な事だろう。
「花が台無しになるのに、いちいち怒ったりはしませんわ」
 くすくすと笑う魔龍。
 ドラゴンの表情を読むなどそう経験出来る事ではないが、どうしても嘘偽りの気配を感じられない。
 それだけに、警戒は否応無く強まっていく。
「ずいぶん慣れているのですね。同じ様な目に遭った事が?」
 七曜が問い掛ける。
 理由の掴めない不安は危険だ。無駄な警戒は精神を消耗する。
 聞いてボロを出すかは知れないが、出さないのならそれはそれで警戒に値する。
 そんな七曜の思惑をも気に掛けず、ミラベルはまた微笑んだ。
「いいえ。『遭った事』はありませんわ」
 含みの有る答えだった。
 やはりその言葉に嘘は感じられず、七曜の微笑みが薄れていく。
 ミラベルは笑んだまま視線を外して近くの花を見てその花弁へと指を這わせた。
「水も、土も、花自身でさえ、花を台無しにしてしまいます。それは仕方のない事。どこにでもありふれている事ですわ」
 花は、誰かに愛でられるために咲いているわけではない。
 美しさも芳しさも全ては生き残る為に有る。
 故に花は散るのだ。死ぬ時だけでなく、生きる為にさえ。
「ですが、あなたはそれを嫌って常春の森を作ったのでは?」
 自然摂理を受け入れた様な物言いに七曜が問いを重ねた。
 あの摂理を無視した森は生きる事も死ぬ事も許されない場所だった。
 そんな場所を配下まで使って作ったのなら――いや、違う。
 考えながら七曜が違和感に気付く。
 ここは庭園、あそこは森。
 ミラベルは庭師だ。
「いいのですよ、もう。春の花は一通り集め終えましたから」
 返ってきた言葉が、七曜の考えを肯定する。
 あの森はただの花屋代わり。庭園を飾る花を仕入れる為の場所でしかないのだ。
 例え猟兵達が森を火の海に沈めたとしてもミラベルは気にしない。粛々と猟兵達を退け、その後に新たな森を作るだけだろう。
 言葉通りなら寧ろ好都合だと思っているかも知れない。
 ……ああ、そうだ。森が枯れ果てる、それと同じ様な目に『遭った事』は無くても、『遭わせた事』なら有るのだろう。
 庭師ミラベルが求める花を摘む為だけに。
「なるほど。こうして笑顔で出迎えていただけた理由も納得出来ました。恨むどころか喜んでいらしたのですね」
 微笑みを取り戻した七曜が言う。
 警戒する理由が知れた。得体の知れない恐怖が具体的になり、無駄が削がれる。
 対するミラベルは、笑みを深めて頷いた。
「花は、色んなものを糧にして咲きますの。土や水、魔法や、薬。何をどう用いるかで花は色を変えるのですわ」
 咲かせるだけなら妖精がいれば良い。
 しかしそれでは同じ色の花しか咲かない。
 色とは個性。
 同じ種類の花でも全く違う花になるのだとミラベルは語る。
 だから、喜ぶ。猟兵の登場を。
「あなたに根を張り血を啜った花は、どんな色で咲くのでしょう」
 妖精や森とは違う、願ってもそう簡単には手に入らない花の糧。
 庭師としてはそこらの花より余程価値がある。
 だって、妖精が咲かせた花も、妖精を苗床にして咲いた花も、もうアレンジに行き詰っていた時期だから。
「――ッ!」
 七曜が突然身を屈めた。
 カウボーイハットの様に上から抑え付けたワイドブリムの頭上で風が裂ける音がする。
 一瞬。文字通り瞬きの隙を突いて放たれた一閃。
 ミラベルの腕に生えた鎌状の翼。見た目だけでなく本物の鎌を凌駕する切れ味の武器。
 それは庭の手入れ用具。
 花の糧たる猟兵を程よく解体する為のもの。
「あら。躱されるのは困りますわ」
 と、ミラベルが初めて笑みを消す。
 抵抗すれば痛いだけ。大人しく断ち切られろ、と。
「生憎、花の栄養になりそうな血肉は持ち合わせていませんので……!」
 二閃、三閃。立て続けに振るわれる両腕の鎌を避けながら七曜が返す。
 七曜はミレナリィドールだ。厳密には生物ではなく、人形である。
 例え生物であろうと大人しく細切れにされる心算は無い。
 不意打ち気味の三連斬りを躱した後は、淑女然とした姿格好からは想像出来ない程の立ち回りで悠々と斬撃をいなしていく。
 生物でも無ければただの人形でもない。銃撃戦から肉弾戦、魔法戦から歌合戦まで、何でもこなす万能ドールだ。
 しかしそれだけでは器用貧乏で終わるだけ。
 万能型の真価は、相手の強さを抑え、弱さを突いてこそ発揮される。
「何事もバランスが重要……、私達にも言えることですね」
 だから崩す。
 七曜に振るわれた鎌が僅かに肌を裂く。
 血の代わりに流れるオイルが刃を濡らし、その刃へと弾丸が撃ち込まれた。
 意図的に回避を、守りを捨てる事で、攻めへと転じる。
 何時の間に抜いたのか、七曜の両手に握られた二挺拳銃が魔導弾を乱射した。
 ミラベルの腕に生えた鎌状の翼と、それとは別に背中から生えた妖精に似た翅。それらを的確に狙い撃つが、穴の一つも穿てない。
 躱されたわけではない。単純に堅いのだ。
 鎌も翅も花弁の様に柔らかくしなやかで、直撃したはずの弾丸さえ受け流してしまう。
「効きが悪いですね……!」
 腐ってもドラゴン。
 花の様に可憐で、ともすれば儚げでもあるミラベルも、生物の頂点たるドラゴンである。
 真面に挑めば長期戦は必至。
 だが、長くは七曜の方が持ちそうにない。
「逃げられると本当に困ってしまいますわ」
 ザギン、と異様な音を立てて、鎌が振るわれる。
 地面ごと切り裂く縦の斬撃だ。
 辛うじて避けはしたが、続く横薙ぎの斬撃には対応出来ず、咄嗟に後方へ跳ぶ。
 ドラゴンたるミラベルは七曜の攻撃を意に介さない。効かないわけではないが、一撃で鱗を砕いて肉を抉るとまではいかないのだ。
 対する七曜は一撃貰えば致命的だ。
 単純に七曜が脆いからとかミラベルが強いからと言うだけではない。ミラベルが防御を捨てて攻め立てているのが主な原因だ。
 肉体の強靭さを盾に、他の防御を捨てる極端な戦術は、七曜のバランスを崩す為の戦術。
 ミラベルとしても七曜の強さを認めているからこそ、七曜の作戦を崩す為に無理をしている。
 自然、対応する七曜の攻守のバランスは守備へと偏り始める。
 そして、そうしてさえ、押し込まれていく。
 強い。
 しかし元より真向勝負を挑む心算は無い。
「時間稼ぎはここらが限界ですね」
 言って、七曜は再度敵から距離を取る。
 今度は中距離維持ではなく、大きく後方へ。
 中距離くらいの距離ならミラベルは一息で詰められる。一見して遠距離戦の間合い、これで漸く中距離扱いだ。
 後方への退避、これを好機と見て突っ込んで来たミラベルへ向かって銃口を突き付ける。
 引き絞った引き金が撃鉄を打ち下ろし、炸裂した魔導弾がミラベルの額へ突き刺さった。
 だが効かない。
 七曜の火力を目の当たりにし、十全に試したミラベルは、その弾丸が効かない事を知っている。
 実際に弾丸は額を割る事も見戦に皺を刻む事も無かった。
 代わりに、ミラベルの両眼を焼いた。
 着弾と同時に炸裂する閃光。フラッシュグレネード顔負けの光属性弾だ。
「十分見せて貰いました。庭園も、あなたも」
 怯んだミラベルへ向けて七曜が拡声器を向けた。
 二機の浮遊式拡声器『Angels Bits』から放たれた轟音が七曜の脇を抜けてミラベルの鼓膜だけをぶちのめす。
 若干の時間差。視覚を奪い、他の五感に頼った瞬間に聴覚も奪う。
 ただ奪うだけでなく精神的な苦痛を叩き込む事で二度怯ませ、その隙に七曜が戦線を離脱した。
 真向勝負をする心算は無い。それでも真正面から会話していたのは、地形把握の為だ。
 情報収集は基本中の基本。出迎えが無ければもっと多くを見に行けたが、今はこれで良い。
「っと、ベストポジションですね……!」
 ミラベルの脇を抜けて走って直ぐ、噴水付近に七曜が身を隠す。
 この噴水だけは全部花で出来ているわけではない。障害物として機能する筈だ。
 ミラベルは庭園の入り口で待っていた。それは楽しみ云々抜きにすれば、庭園に戦闘の余波を与えたく無いからだろう。
 利用しない手は無い。
「――困る、と、言いましたわよね?」
 ゾッとするような凄味の有る声がして、七曜の頭上で噴水の上半分が細切れになった。
 一瞬理解が遅れるも七曜は瞬時に噴水から離れる。
 噴水には花や蔦も絡まっていたがお構いなしだ。利用するどころではない。
「ええ。存分に困らせます」
「困ったお方ですわ」
 庭園の奥へと目指して走り出した七曜へミラベルが斬撃を放つ。
 もう目も耳も回復したのか無理をしなければ躱せないだけの正確さで放たれた斬撃。その速度は勿論、威力が桁違いに上がっていた。
「何時の間に……」
 七曜が呟く。
 僅かに振り向いた先でミラベルが召喚陣を展開していた。
 そこから産み落とされるかの様に呼び出される無数のドラゴン。小型のそれは、直接的な戦闘力を持たないサポーターだ。
 彼等が存在する限り、ミラベルはただでさえ手に負えない鎌や鱗が強化される。先の斬撃がその結果だ。
 そして、ドラゴンは増え続けていた。
「ッ削ります!」
 このままでは逃げる事も叶わないと、七曜が属性弾で小型ドラゴンを端から撃墜する。が、その隙さえ致命的だ。
 ふわりと風に乗る優しい足取りでありながらミラベルの斬撃はあまりに鋭く、重い。
 小型ドラゴンに戦闘力は無い。当たれば投石でも落とせるだろう。
 ただ数が多い。
 そしてミラベルの攻撃を躱しながらでは狙えない。
 ではミラベルを抑えようとすれば小型ドラゴン達がミラベルをどんどん強化していく。
 どうしようもない。
 ただでさえ銃弾が碌に通らない身体がさらに強化されたとなると、魔力も予備弾薬も全部空にしたって削り切れないだろう。
 早々に小型ドラゴンの掃討を諦め、七曜は息を吐いた。
「――逃げましょう」
 こうなっては出来る事など嫌がらせくらいだ。
 精々その強化された身体を駆使して大事な庭園を破壊しろ、と言わんばかりの嫌がらせ。
 脱兎の如く駆け出した七曜。向かう先が庭園の奥である以上、ミラベルはそれを無視出来ない。
 嫌がらせに乗る様に、強化された翅に力を込めた。
 音を立てて軋む骨。膨れ上がる筋肉。
 ミラベルの背を押すべくファンのドラゴン達が強化魔法を翅に授けた。
 瞬間、空気が爆ぜた。
 超高速を越えた亜音速。
 ソニックブームだけで人を殺せるレベルの突撃。
 逃れられる筈がない。
 庭園の奥へ行かれる前に、多少の犠牲は飲んで即決着を。
 構えた両腕の鎌を交差させ、巨大な枝切狭へと変えたミラベルが微笑む。
 対する七曜に出来る事は、迎撃のみ。
 回避は無理だ。逃避も同じ。
 ならば逆にと撃ち出した魔導弾がミラベルを穿つ。
 幾重にも強化された強固な鎧も、尋常では無い突撃の威力を利用すれば突き刺さる。
 だがそれだけだ。
 幾らか手傷を負わせたとして、ドラゴンがそれで止まるわけも無い。
 止まられては困るのだ。

「封印術式、起動」  
 
 七曜が紡ぐ。
 撃ち出した魔導弾が、生成した『七曜の杭』が、ミラベルに突き刺さったまま術式を解放した。
 途端、がくりと高度を落とし、ミラベルが墜落した。
 音速に程近い速度での墜落。
 凄まじい轟音と共に地面を削る巨体。
 最終的に七曜との間に有った噴水に激突し、その残った下半分まで粉々に吹き飛ばしていた。
「何を――?」
 頭を振りながら立ち上がったミラベルに致命傷は無い。それでもかなりの損傷を与え、ミラベルは額を垂れる血を乱雑に拭った。
「翅を封じさせて貰いました」
 返す七曜は眼前に立つミラベルを見上げて言う。
 封印術式『流転』。
 七曜(シチヨウ)の名を持つユーベルコードは、万物を循環と言う名の檻へと閉じ込める。
 決まれば勝ちが確定するレベルの強力さだが、それ故に敵に破られる事も多い。
 だからミラベルの全てを封じない。
 封じたのは背中の翅の一部だけ。
 全力でたったそれだけを封印した。
 それで十分。
 突撃中に突然飛行能力に異常をきたしたミラベルは狙い通りに墜落したのだった。
 そして、痛手を負ったミラベルが立ち上がる頃には、取り巻きのドラゴンを一掃し終えていた。
「さて、振り出しですね」
 微笑む七曜の手には拳銃が一対。
 いかなミラベルと言えど零距離射撃を強化無しで受ければ無傷で済むわけも無い。
 が、仕留め切れるかは別問題。
 さあここからどうするか。と悩む七曜にミラベルはやっぱり笑いかけた。

「あなた、素敵ですわ。庭園に植木鉢として置いてあげても良いくらい」

 す、と構えた腕の鎌が七曜に向く。
 投げられた言葉には、初めて殺意が込められていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ(サポート)
あらあら、盛り上がってるわねぇ
お忙しい所、お邪魔しまーす!
新しい販路を求めてやってきた花屋です
宜しくお願いしまーす(ぺこりんこ)

~なの、~なのねぇ、~かしら? そっかぁ
時々語尾がユルくなる柔かい口調
商魂たくましく、がめつい

参考科白
んンッ、あなたって手強いのねぇ
えっあっヤダヤダ圧し潰……ギャー!
私も気合入れて働くわよー!
悪い子にはお仕置きしないとねぇ
さぁお尻出しなさい! 思いっきり叩いてあげる!

乗り物を召喚して切り抜けるサポート派
技能は「運転、操縦、運搬」を駆使します

広域では営業車『Floral Fallal』に乗り込みドリフト系UCを使用
近接では『シャッター棒』を杖術っぽく使います

公共良俗遵守



●花屋と庭師
 ミラベルが振り上げた鎌は、草花を活かしたままに刈り取る刃。どんなに堅くしなやかな枝や茎でも撫でるようにするりと裁断され、庭園にふさわしい形へと変えられていく。
 人や獣とて例外ではない。その庭師の手に掛かれば、庭園を飾る花々の土壌に変貌させられる。
 ただし生きてはいられない。ただ活かされるだけだ。
 そこに例外があるとすれば、そもそも命などもたない、鋼のみ。
「あらあら、盛り上がってるわねぇ」
 楽しげな声が聞こえた。
 直後、凶暴な唸り声を上げた鋼鉄の怪物がミラベルの眼前を通り過ぎる。
 何事かと思いながら擦れ違いざまに振るった刃をその身で弾き返した怪物が、庭園の床をぐしゃぐしゃに踏み荒らして停止した。
 怪物の名は『Floral Fallal』、五速四駆の自動車だ。
 それを操るはニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)という名の猟兵。凶悪な移動販売車で高速スピンをキメながらにっこり笑う狂気の花屋である。
「お忙しい所、お邪魔しまーす! 新しい販路を求めてやってきた花屋です、宜しくお願いしまーす!」
 明るく楽しく元気よく、車を降りてきたニコリネが笑顔でぺこりと礼をした。
 対するミラベルは鎌を弾かれた体勢で硬直していた。
 それもその筈。自分の自慢の庭園が四駆のドリフトで踏み躙られた上に、そんな事をしでかした張本人が花屋を名乗るのだから当然だ。
「車は、嫌いですわ」
 辛うじて絞り出した言葉はそれだけ。
 花が踏み躙られることはどうでも良い。庭が破壊されるのも、まあ良い。
 ただし、排気ガスを撒き散らし花も土も空気も汚す車は駄目だ。人や獣と違って土に還る事も無く、百害有って一利も無い疫病神である。
 そんなものに乗って現れたのがよりにもよって花屋であるという。
 しかしその考えは、根本からして違う。
 周囲の花は踏み躙る前から死んでいた。他ならぬミラベルの戦闘の余波によって。
 花好きの花屋が庭園に車で乗り込んで来るのに躊躇わないはずも無い。
 なんなら花屋は、主たる庭師よりも庭園の花を守ろうとしていた。
「買う気も売る気もありませんわ。疾く立ち去って下さらないかしら」
 ミラベルが冷たく言い放つ。
 花の為の贄となるならいざ知らず、車は要らない。持って帰るなら貴重な肥料であるニコリネを見逃しても良いと思うくらいに。
 しかしニコリネの方はミラベルに、その自慢の庭園に、興味津々だ。
「立ち去る前に訊いてもいいかしら。ここの花、あなたが一から育てたの?」
「当然ですわ。あなたのような守銭奴の手を借りなくとも、庭園の花はすべてこの手で摘んできていますもの」
 そのための常春の森。
 そのための妖精たちだ。
 何故そんな問いを、と訝し気に首を傾けるミラベルに、ニコリネは笑顔で返す。

「なるほど! つなまり、『あなたが死んでも花は残る』と言うことですね!」

「――……」
 絶句。に、近かった。
 ミラベルはオブリビオン。この世の理から外れた存在である。
 形を持った超常現象であるが故に、その末路も普通とは違う。死骸が残ることもあれば跡形も無く消え去ることも珍しくない。
 ユーベルコードも然り。花を咲かせる超常現象は数多いが、咲かせた花が一生命として根付き、消えず散らずに生き残ることは難しい。
 しかしそうではないならば。
 ミラベルの庭園にはそんな力に頼らずこの世の理に則って芽吹いた命しか無いのなら、庭の主が去ったとて、朽ち果てる事も無い。
「あなたは、もしや……」
「えぇ。絶賛販路拡大中です!」
 交差する疑念と笑顔。
 その次の瞬間、ミラベルの鎌が振るわれた。
 咲いて散るのは緋色の火花。金属音を響かせ、割り込んだ自動車が衝撃で前輪を浮かせる。
「さあ! たっぷり仕入れさせてもらいますよぉ!」
「ああ、前言撤回いたします。その喧嘩だけは、買ってさしあげますわ!」
 ニコリネに釣られるようにミラベルも笑った。
 ただしその笑顔に浮かぶのは憤怒の情。
 怒りに染まった真っ赤な花弁がミラベルの周囲にわっと沸き上がり、花吹雪が販売車を襲う。
 一足先に運転席に舞い戻ったニコリネに直接的な害は無いが、花売りにはその花がただの花弁でない事くらい見て取れた。
 が、こちらとて退く気はない。
 売った喧嘩の代金は耳を揃えて払わせねばならないのだから。
 再び唸り声を上げて駆け出した販売車。その下りたシャッターや窓やらに赤い花弁が纏わりつく。
 鋼鉄の怪物がそれで止まるのかと言えば、止まる。元よりこれは弱点を看破し封じ込めるユーベルコード。吸気口や排気筒を詰まらせるくらいはしてくるに違いない。
 だからニコリネはペダルを二枚揃って踏み抜いた。
 悲鳴を上げる怪物がぶん回されたハンドルに従って高速回転を始め、纏わりつく花びらを強引に引き剥がす。
 花びらだけで止まらぬならと振るわれる竜翼の鎌が高速スピンする車体を弾き飛ばし勢いを殺ぎ取っていく。
 もはや踏み躙られた花など誰も見ていない。
 ただ向かい合った花屋と庭師の間には、幾度となく火花が咲いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アレクシア・アークライト
猟兵を苗床にすることくらい、既に他の誰かがやっているんじゃないかしらね
今まで見たこともない花を咲かせたいなら、そこにうってつけの肥料があるんじゃない?
そう、そのオベリスク
粉々に砕いて撒いたら、どんな花が咲くのかしら

・オベリスクを背にし、又は盾にする。敵が攻撃を躊躇するなり、オベリスクを破損させるなりしてくれればOK
・1層の力場を広域に展開し、敵の動きを把握。残りの力場で攻撃を逸らし、弾く
・リミッターを解除。念動力で牽制し、動きを阻害しつつ接近。UCを叩きつける

残念だけど、世の中には貴方が決して生み出せない花があるわ
貴方の身体を苗床にして咲いた花よ
後で骸の海に送ってあげるから待ってなさい


キャロル・キャロライン
確かに綺麗な花園です
ですが、それは見た目だけのもの
その身に染み付いてしまったせいで、自身では気付くことができないのでしょうね
この地がこんなにも死臭にまみれていることに
神の力をもって浄化いたしましょう

神翼で飛翔し、《召喚》した幾多の神槍を敵や花園に一斉に放ち、浄化します

敵の攻撃を神盾で受け流し、神鎧や神衣で防ぎつつ接近します
多くの血を吸ったのであろうあの花びらは、触れる前に浄化の力で《抹消》することを試みましょう
近付くことができたならば、神剣で敵を切り裂くと同時に再び神槍を《召喚》し、近場からその全身に放ちます

歪められた心では歪んだものしか生み出せません
庭師を騙る紛い物、この地より消え失せなさい



●守護者の受難
「まったく、甚だ不愉快ですわ」
 ミラベルが両翼と鎌刃をひゅんひゅんと振るう。
 いつもの調子が崩れ、傍目にも怒気を感じられる語調。ともすれば振るわれた刃が周囲の草花を切り刻むのも八つ当たりと見えるものだが、事実は違う。
 剪定。それも、恐ろしく早く、正確な。
 猟兵達の襲撃により荒れ果てた庭園を修復しつつ、次に植え育てる花の事を想う。ミラベルは、生粋の庭師だった。
 故に害虫ならぬ害猟兵を駆除し切れていない事が腹立たしい。最早庭の肥やしにする事に拘っている場合でもなかった。
「ああ、きっとあれらは良い彩の華を咲かせたでしょうに……」
 そうは言っても惜しいものは惜しい。
 歯ぎしりして悔しがるミラベル。その背後に、一人の猟兵が立った。
「猟兵を苗床にすることくらい、既に他の誰かがやっているんじゃないかしらね」
 惜しむ事は無いだろうと、猟兵は言う。
 赤い髪に赤い瞳、赤いコートを羽織った赤い華。アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)、という名の猟兵が。
「そうですわね。前例程度はあるでしょう。ですが、この庭には咲いていない」
 ミラベルは笑顔で振り返る。
「庭師が欲するのは、自分の庭園に飾る華。前例の有る無しは、それほど重要ではありませんの」
 ああ、ですが、培養し新種として確立出来るなら――庭園の彩りを根本から変えられるかも知れませんわね。と、ミラベルは笑った。
 同時に放たれる斬撃には一切の容赦が無い。
 剪定に怒気を孕まなかった様に、猟兵の首を落とすのにも殺意は含まない。
 まるで当然の様な流れは、しかし、アレクシアの眼前で捻じ曲がる。
 神速にして精密。その一閃が、滑る様に逸れて、ミラベルが一瞬目を見開く。
「あら」
 疑問。
 と同時に放たれる乱撃。
 両翼が瞬く間に幾重にも放つ斬撃を、アレクシアは飛び退いて回避した。
 当然それを逃すのでは神速などとは呼べはしない。だが事実として刃はただの一度もアレクシアに触れず、獲り逃した。
「今まで見たこともない花を咲かせたいなら、そこにうってつけの肥料があるんじゃない?」
 逃げ果せたアレクシアは距離を保ったまま背後を示す。
 攻撃が躱された、と言うより『逸らされた』事に思案していたミラベルも、アレクシアの言葉に視線を巡らせる。
 アレクシアの背後は、庭園の奥。そこに聳え立つのは庭園最大のオブジェクト。
 無数の華に彩られた『クラウドオベリスク』だ。
 あれは郡竜大陸を覆い隠す秘儀の要。どういった理屈かは不明だが、大きな力を持つ事に違いは無い。
 また物質としても不明点は多い。一部の無機物同様、植物の育成に何らかの効力を持つかも知れない。
 猟兵を苗床にするのと同じく、確かに興味深い物ではある。
 だが、庭師も猟兵も分かっている。
 彼の塔に対しては猟兵は破壊者であり、庭師は守護者である事を。
「その提案は、この世界がドラゴンの支配下に置かれるまで先送りにさせて頂きますわ」
「そう。残念だけど、助かるわ」
 ザギン!と甲高い音を立てて周囲の生垣がバラバラになった。
 柵も鉢植えも諸共に解体する凄まじい斬撃。しかしそれは決してクラウドオベリスクには届かない。
 人も花も散って散らせて次の華へと謳うミラベルだが、クラウドオベリスクだけは破壊するわけにはいかないのだ。
「猟兵には困らせられてばかりだわ」
 ふうと息を吐いてミラベルが両翼を翻す。
 斬撃は途切れず、アレクシアを襲っては寸での所で逸れていく。
 それは念動力を用いて作られた力場による防御。しかし、それでも受け切れずにアレクシアは回避を余儀無くされる。
 ミラベルがクラウドオベリスクを気遣い踏み込まずにいるからこそ、鎌の切先を逸らせているのだ。
 力場は十層。一層は広域に展開し、ミラベルの動きを把握する。残りの九層で斬撃を逸らし、それでも間に合わない分はアレクシア本人が回避行動を取る。
 そこまで守りに徹して、漸く拮抗する。
 逆に言えばたった一人でミラベルと渡り合えるということ。
「この程度なのかしら?」
 器用にオベリスクの裏へと回り込みつつ、アレクシアが笑う。
 そうしてオベリスクを盾にされる度、露骨にミラベルの動きが鈍る。
「そちらも、反撃はまだかしら」
 鈍ってなお攻撃は熾烈だ。アレクシアは隙を突いて体勢を整え距離を取るのが精一杯で、打って出るには至らない。
 それをしたなら、斬って落とされる。
 ――このままなら。



●散華
 クラウドオベリスクはドラゴン達にとって命を賭して守るべき物。
 それ故にミラベルはこの地に留まり、庭園を築いた。
 だから庭園の中心はオベリスクであり、庭園の敷地を広げたとしてもそれは変わらない。
 守るべき物、離れられない理由。結果として、ミラベルの庭園の中でオベリスク周辺が最も豪奢に彩られていた。
 テーマや季節ごとに区切られていた別所とは違い、季節もテーマも全ての粋を集めて飾り立てた華の楽園。
 見目麗しいだけでなく入り混じる華の香りにまで拘り抜いたそれは正しく『芳香揺蕩う彩花の塔』。
 庭園として見るならば、これだけ素晴らしい物は無い。
「確かに綺麗な花園です。ですが、それは見た目だけのもの」
 キャロル・キャロライン(聖騎士・f27877)が顔を曇らせ、庭園に踏み入る。
 激戦の跡は残っているが、それでも庭園は美しい。だが踏み締めた土の下に何が在るのか、キャロルは知っていた。
 数え切れないほどの死骸。
 自然界でも草花は死肉を糧に芽吹く。それはただの命の循環であり、世界の正しい在り方だ。
 ただ、この庭園は違う。
 死肉を糧に咲いた花は、誰に喰われる事も無い。食物の連鎖の頂点に君臨し、散ってなお他の花の糧と成る。
 花の為に作られ、花だけが生き続ける。歪められた死の螺旋の先に咲くもの。
 それが正しい筈も無い。
「その身に染み付いてしまったせいで、自身では気付くことができないのでしょうね。この地がこんなにも死臭にまみれていることに」
 もはやこの地の花は花ではない。
 自ら咲く事も散る事も出来ない、ある意味では糧と成った死者よりも残酷な目に遭う花々。
 たとえ朽ち果て、枯れ落ちたとしても、解放しなければならない。
 それが、キャロルの為す浄化だ。
「参ります――!」
 キャロルが庭園の土を踏む。
 その背には神より授かった白銀の翼を広げて。
 目指すは庭園の中心にして最奥、クラウドオベリスク。
 アレクシアと斬り結んでいたミラベルもすぐ傍に居り、塔に接近したせいか即座にキャロルの存在に気が付いた。
「あなたは……」
 見れば分かる。相手が仇敵である事が。
 ここに来て新手の猟兵。アレクシア相手に攻めあぐねている場合ではない。
 対処しなければと攻撃の手を止めたミラベルへ向かって、キャロルは上空から神剣グラディオスを振り下ろした。
 それは攻撃ではない。号令だ。
 振り下ろされた剣を合図に、キャロルの周囲に無数の光が浮かび上がる。
 光はやがて、白銀の槍となり、庭園に降り注ぐ雨となった。
「神の力をもって浄化いたしましょう」
「――ッ!」
 銀の雨は、まるで無差別に地を穿つ。
 夥しいまでの神槍、それをミラベルでもなくオベリスクでもなく庭園に降らせる事に意味らしい意味は無い。
 ただしそれは戦闘面ではの話。
 キャロルが神より賜りし使命を全うするのに、意味も効果も必要無い。
 ただ浄化する。
 死に塗れ、血に染まったこの土地を。
 その結果、庭園が物理的に壊滅したとしても。
「あなたは、まるで、疫病ね」
 ミラベルが静かに告げる。
 気付けば一瞬のうちにキャロルへと肉薄し、その翼鎌を振り抜いていた。
 浴びれば即死の一閃を、キャロルの神盾が防ぐ。最悪盾ごと両断されそうな重い一撃も飛行中であれば弾き飛ばされるだけで済む。
 そして開いた距離を埋める様に、更に銀の槍が降り注いだ。
 飽くまで狙いは眼下の花園。
 神槍は容赦無く花を散らし茎を折り根を断ち土を穿つ。
 それと共に広がる浄化の力が穢された大地を癒していく。――見た目がどれだけ凄惨であろうとも。
「あなたから落としてあげますわ!」
 ミラベルが飛ぶ。
 その豪速に比べればキャロルはただ浮いているに等しいが、神の盾が、鎧が、衣が、凶刃を全ていなし受け流す。
 その間にも庭園が浄化され、崩壊していった。



●赤い花弁
 ずたずたに引き裂かれる花々。
 舞い散る花弁と違い、吹き荒れているのは無残にも引き千切られた残骸だ。
 それだけじゃない。
 丹精込めて作り上げた土壌が、浄化と称してスカスカの土塊に変えられていく。
 これでは花をただ植え直しただけでは元に戻らない。
 一から、土いじりから始めなければ、もう雑草くらいしか生えては来ないだろう。
 大事な大事な庭園が、もう手の施しが無い程に壊滅していく。
 守らねばならないのはオベリスクだ。
 だが、守りたかったのは……。
「――許せませんわ」
 ミラベルは微笑む。まるで泣き顔の様に。
 背に生えた妖精の翔は透き通った見た目からは想像も出来ない程力強く風を叩く。
 神速なのは剣速だけではない。降り注ぐ銀槍を掻い潜り、ミラベルがキャロルを斬り付けた。
 盾だろうが鎧だろうが関係無い。弾き飛ばした先に回り込み、更に弾き飛ばす。
 受け切れなければ即死。受け切ったとして衝撃でぐしゃぐしゃになれ、と。
「っ!」
 耐え切れず、キャロルは召喚し続けていた神槍の矛先をミラベルへと向けた。
 超広範囲攻撃から一転、超集中砲火を放ったものの、それは『赤い花弁』に遮られる。
「嫌と言うほど見せて貰いましたわ!」
 赤い花弁が舞う。
 神槍に纏わりつき進路を変え、召喚自体を遮って封じ込め、無効化する。
 ユーベルコード封じのユーベルコード。
 不条理を不条理で返す、まるでオブリビオンと猟兵の関係の様な秘儀。
 対象がユーベルコードのみであるからこそ、その『赤い花弁』は対策が殆ど不可能に近い。
 しかし赤い花弁は弱点を看破しなければ効果が無い。それ故に先に打ったユーベルコードは封じられずに発動出来るが、キャロルはその絶好の機会を庭園浄化の為に使っていた。
 全ては神の意志。穢れた地を浄化する為。
 ならば現状に不満は無い、と、キャロルが神剣を構える。
 反撃の隙など無いのは承知済み。だが受け続けていられないのも明白だ。
 だから信じる。
 神を。
 そして、仲間を。
「ッ!?」
 ガィン!と不自然な音が響く。
 鳴ったのはミラベルの鎌。
 それは、刃が弾き返された音。
 キャロルの防具に、ではない。目には見えない何らかの力にだ。
「まだいらしたのですね……!」
 庭師が忌々しげに眼下を見下ろせば、アレクシアが不敵に笑って返す。
 念動力による力場。それも、限界を超えた出力の。
 先は逸らすだけで精一杯だったのが、今のは真正面から防いで見せた。
 限界を超えた結果吹き出る数々の不具合は隙と成る。しかしそれもキャロルに向き合っているミラベルには突けない隙だ。
 逆に意識を引っ張られて生まれた隙をキャロルが突き、神剣でミラベルの鱗を切り裂いた。
 決して脆くはない鱗が裂かれ、鮮血が飛び散る。
 そこへ追撃を仕掛けようとしたキャロルへ返す刃が振るわれ、これもアレクシアの力場が弾く。が、ミラベルは強引に力場ごと押し込み、逆に力場の向こう側に居たキャロルを弾き飛ばした。
「追い込まれても諦めてはくれないってわけね」
「あら、追い込まれているなんて気付きませんでしたわ」
 アレクシアの言葉にミラベルが笑い、両翼を広げた。
 左右二対、合わせて四翼、四枚刃。
 飛翔は背中の妖精翔に任せ、武器として振るう四本の鎌は、限界を突破したアレクシアの力場を切断出来ずとも押し負けない。
 やはり厄介なのは、アレクシアだ。
 そう判断したミラベルは押し退けたキャロルが戻る前にアレクシアへ向かって飛ぶ。
 その眼前にさえ不可視の力場が生じるが、強引な軌道修正と更に強引な突破で切り抜ける。
「それでも守護者はオベリスクを傷付けられない」
「もちろんですわ」
 そう言いながら、ミラベルは飛び込んだ勢いのまま斬撃を放つ。
 深い踏み込みと、全力の横薙ぎ。
 九層の力場によって僅かに逸らされた斬撃は、クラウドオベリスクの表面を深々と斬り付けていた。
「警戒していて正解だったわね……!」
 寸での所で回避していたアレクシアが飛び退く。
 塔を盾にしても攻撃が止まない可能性は考慮していた。おかげで回避出来だが、しかし危機は去っていない。
 クラウドオベリスクを守る。その為ならば『多少のリスクやダメージは仕方が無い』と呑み込んだミラベルの刃に迷いは無い。
 巨大な尖塔の表面を僅かに引き裂いた所で簡単には瓦解しない。それで済むのなら猟兵達は守護者を放置してクラウドオベリスクだけを先に破壊する作戦だって取れた。
 それをしなかったのは、塔が余りに頑丈で、守護者の攻撃を掻い潜って破壊するのが非常に難しいと判断されたからだ。
 それはミラベルの攻撃にしても同じ事。
 多少の攻撃でびくともしないのであれば、巻き込んだ所で問題無い。
 問題なのはこのままミラベルが倒され、猟兵達がオベリスクを好き勝手に出来る様になる事。
 故に、最早、ミラベルの操る両翼の刃には一点の曇りも無い。
 粉砕機じみた超高速乱れ斬りを力場と回避でやり過ごすアレクシア。両者の間に割り込んだキャロルも、今度は脚を踏ん張って衝撃を耐えきって見せる。
「『召喚』――!」
「無駄ですわ」
 肉薄、ほぼ零距離で、キャロルが神の槍を呼び寄せようとして、防がれた。
 舞い散る赤い花弁。これが在る限りキャロルのユーベルコードは使えない。
「それなら、浄化を!」
 キャロルの持つ浄化の力は、ユーベルコードに頼らない。
 しかしそれは、ユーベルコードには至らないという事。
 吹き荒れる赤い花弁を浄化の力で消し去っては見たものの、花弁の勢いは衰えない。
 浄化に専念すれば、と一瞬思ったが、それでは隙が出来るし、何より花弁を押し退けた後にユーベルコードを使う暇が無い。
「さあ、覚悟なさい」
 ミラベルが四翼を構える。
 ユーベルコードに頼らない、竜であり庭師である自身の在り方に由来した戦闘方法。
 ユーベルコードを封じた今、最後に物を言うのは純粋な素の力。
「この地は穢れている。歪められた心では歪んだものしか生み出せません」
 キャロルが花吹雪に押される形で後退しながら、盾を構えて言う。
「ユーベルコードで世界の法則を歪めておきながら言えた事ではないでしょう。所詮あなたは、自分の歪みを他に押し付けているだけですわ」
 返すミラベルは自分が歪みそのものたるオブリビオンである事を棚に上げて嘲笑う。
 ミラベルにとって大事なのは庭園が自分にとって素晴らしいものである事。
 その上で、ミラベルが花の配置やアーチの歪みを気にすることはあっても、その根底に疑問は抱かない。
 そもそも歪みそのものであるオブリビオンが、自己否定に陥るような考えを持つ事など無いのだ。
「所詮は世界を汚す不純物、あなたごときに理解できる話ではありませんか……!」
 元よりオブリビオンの心を浄化してやろうだなんて気は欠片も無い。
 神装と力場で無数の斬撃を受け流し、斬り掛かる。
 が、ミラベルの四翼は強引な反撃を容易く捌く。
 筈が、それも力場で弾かれた。
「私のことを忘れてもらっちゃ困るわね」
 アレクシアが、疲労の色を浮かべながらも気丈に笑う。
 リミッターとは本人を守る為に有るもの。それを解除して行使する念動力は、確実にアレクシアに反動を与え精神を削る。
 それでも、今ダメージを受けたのはミラベルの方だ。
 防げるはずの神剣が深々と突き刺さり、竜は呻いて一歩下がる。
「――神よ」
 生じた間隙に、キャロルは囁く。
 距離を詰めての追撃より、キャロルはユーベルコードの起動を選んだ。
 当然、ミラベルはそれを許さない。開いた距離を埋める様に赤い花弁を撒き散らし、しかしそれは浄化と力場によって阻まれる。
 ユーベルコードを技能や技術で破る事は殆ど不可能だ。何せ相手は不条理。自然の摂理の内でどれだけ足掻こうとも、届く筈も無い。
 届きはしない。
 それでも、一瞬の時間ぐらいは生み出せる。
「ぐ――ッ!?」
 浄化が消し去り、力場が抉じ開けた空間に、無数の神槍が殺到した。
 一度起動し、なおかつほぼ零距離で放たれた槍は、赤い花弁では防げない。
 咄嗟に振るった四翼でも捌き切れない数の暴力に晒されて、ミラベルはその全身に己の鮮血で赤い花弁を散らしていた。
 しかし終わらない。
 踏み堪えたミラベルが、妖精翔で大気を打って前へ飛ぶ。
 もはや決死の形相で振り被った鎌は、力場だろうが神盾だろうが正面から叩き斬る気概に満ちていた。
 逸らせないし、防げない。
 その一閃が、――猟兵達の頭上を通過した。
「何故――」
 零れた言葉の答えは、聞かずとも知れた。
 力場だ。
 攻撃を反らし、防ぎ、弾き返した念動力の力場。
 それが今度は、ミラベルの背中を押したのだ。
 勢い余って空振りしたミラベルの直ぐ真下に、アレクシアの微笑が浮かぶ。
「これが最後。有りっ丈をあげるわ」
 指先が鱗に触れる。
 十層の力場は解け、触れた指先に全ての力が収束する。
 それは竜の全力に拮抗するだけの力を、更に何倍にも増幅した文字通りの『全力の一撃』。
 赤い華が咲いた。
 成す術もなく弾け飛んだミラベルは、鮮血を撒き散らしながら宙に舞う。
「安心なさい。これは一日一回限りの奥の手よ。……花びらは、要らないわ」
 降り注ぐ赤い花弁と、それによく似た血濡れの鱗を尻目に、アレクシアは髪を掻き上げて笑った。



●廃園
 庭師ミラベル。花を愛し、自ら花を生み育てる竜。
 猟兵さえ苗床として花を育てようとしていた狂気の竜。
 しかしそんなミラベルも、ミラベル自身を苗床にして咲いた花を見る事は叶わない。
「だから送ってあげようかと思ったのだけど」
 と、アレクシアは言う。
 送ると言っても骸の海にだ。結果的に踏み躙る事になるが、それはそれとして、キャロルは首を振る。
「これは塵芥。存在すら許されない不純物です。このまま残し、花を咲かせるのを待つなどできません」
 庭師を騙る紛い物はこの地より消え失せるべきだと主張して譲らない。
 なにせ彼女の使命は浄化である。
 彼女が歪んでいる、穢れていると断じたこの庭園と同じ事をしようとするアレクシアを許容する筈も無かった。
「あとで送ってあげる、なんて約束しなくて良かったわ」
 そんな余裕も無かったけれどと言ってアレクシアは下がった。
 限界を超えて全力の一撃を放った直後だ、最後の後始末に取り掛かる余力も無いのだろう。
 代わりにほとんど無傷のキャロルが前に出る。
 眼下には骸となったミラベルが。眼前には美しく飾り立てられたクラウドオベリスクが在る。
 最後の後始末とは、それらを消し去る事。
 阻む者の居なくなった地で、キャロルは銀の槍を降らせた。
 庭園を壊滅させ、汚染土壌を浄化し、塔も竜も粉々に打ち砕く、神の槍。
 やがてその浄化の雨が止む頃には、庭園は跡形も無く消え去っていた。
「風の匂いがするわね」
 アレクシアが笑う。
 ずっと否応無しに嗅がされていた芳香が消え失せ、ようやっとまともに呼吸が出来ると。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月16日


挿絵イラスト