4
【蛮勇譚】芳香揺蕩うは彩花の塔(作者 金剛杵
5


●英雄の軌跡
 蛮勇振るうゲオルゼルク。
 アックス&ウィザーズの世界中にてその戦いの痕跡が見られるドラゴンスレイヤー。
 かつて郡竜大陸に渡った勇者の一人であり、無類の戦闘好きにして強敵好きである。
 生涯を強敵との戦いにのみ費やした彼の冒険譚は自然と戦記じみており、未知の領域に踏み込んだ記録なども環境に対する記述そっちのけで強そうな動植物についてばかり語られている。
 そもそもゲオルゼルクは何かを書き残した事は無く、その伝承の大半が本人の語った武勇伝と状況証拠からの推測でしかなかった。

●聖地巡礼の旅
「おかげで大変だった」
 そう言って楽しそうに笑うのはワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)、グリモア猟兵だ。
 一見そこらのオブリビオンより凶悪な怪物然としてはいるが一応竜派のドラゴニアンである。が、猟兵でなければアックス&ウィザーズでは魔物に分類されていたであろうことは間違いない。
「猟兵である事に感謝しなければな」
 などと言いながらテーブルに広げたのは依頼書と数々の資料だ。
 アックス&ウィザーズの世界では猟兵達は冒険者として認識される事が多く、ワズラなどは実際に冒険者として依頼をこなしつつ信頼と情報を得ていたりもする。今回集めた情報も、一般人の冒険者達から聞き込みをした結果でもあった。
「ゲオルゼルクの聖地近くの村、あそこの村人が大体は冒険者になると言う話でな。ならばと冒険者達にゲオルゼルクや蛮勇の勇者について聞いて回ったんだ。
 で、そこからは予知と調査の繰り返しだな」
 言いながら取り出した資料は、テーブルに撒かれた資料の数倍は有る。それらは無駄足だったのだろう。ワズラは特に気にした風も無く、要らなくなった資料を焼き捨てた。
「いや、伝記に纏めれば歴史的資料になるんじゃ……」
「そう言うのは学者にやって貰え」
 にべもない。
 いや、興味が無いのか。
 しかしそれは他の猟兵も同じ事。平時なら兎も角、今は依頼の方が重要だ。
「依頼は三つ、どれも『クラウドオベリスク』の破壊だ。
 三カ所にまで絞りはしたがどこも強大なオブリビオンが居座っていてな。現地までの露払いはしたが、此処から先は転移役に徹せねばならんだろう」
 心底惜しいが。と言う呟きは皆聞き流す。
「転移を用いればほぼ同時攻略も可能だ。一刻も早くオブリビオンを討ち払いクラウドオベリスクを圧し折りたいなら可能な限り協力しよう。
 どの場所も連戦になるので支援役は戦闘と同時に仕事をこなさねばならんだろうが、一人でも居てくれれば心強い。
 いつも通り、単騎突撃でも、現地での即興連携でも、打ち合わせてからの共闘でも構わん。皆全力で挑んでくれ」
 ワズラの言葉に猟兵達が頷くと、ワズラも頼もしそうに頷いた。
「では、状況を説明しよう」

●彩花の塔
 クラウドオベリスクは花園の中心部にある。
 大きな森の中央、花に覆われた丘の中心だ。
 塔を守るのは花園の主、庭師ミラベル。
 予知に視た光景では咲き乱れる花々を手折り飾りつけ美しき庭園へと変えてた。
 その手腕は塔にさえ伸び、鮮やかに彩られた塔は『彩花の塔』と呼ぶに相応しい。
 ――猟兵達は、その塔をこそ手折らねばならない。
 無数の妖精に守られ、育まれている森を抜けて。

「この森に夏なんて来ませんの。
 私が居る限り春は続き、幸福を振り撒くのですわ」





第3章 ボス戦 『ミラベル』

POW ●庭師の審美眼
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【無数の赤い花びら】が出現してそれを180秒封じる。
SPD ●フルブルーム・リーパー
【踊るように鎌】による素早い一撃を放つ。また、【美しく踊る】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ ●フラワーズ・チアリング
戦闘力のない【ファン(ドラゴン)】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【ファンの強化魔法とサポート】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11 🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アルト・カントリックです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●竜の庭師
「春が終わりましたわね」
 花が溢れる丘の庭園で桜色のドラゴンが呟く。
 どこか遠くを見る様に、けれど直ぐ近くの森を見下ろしながら。
 その顔に憂いは無い。むしろどこか嬉しげに言う。
「春の花ばかりでは物足りませんものね」
 そう言いながら、ドラゴンは前脚に生えた鎌を振るう。
 近くの花の、余計な枝葉は斬り飛ばされ、粉々になって地に落ちる。
 ドラゴンはやはり楽しげに言う。また妖精に花を育てさせなくちゃと。
 全てはこの庭園の為に。
 その為に、全ての命をこの手に掛ける。
「ああ、たのしみですわ。次の花はどこに飾りましょう」
 ドラゴンは楽しげに口遊みながら歩き出す。
 庭園は広い。だがその全てを管理しなくては庭師の名折れ。
 さあ先ずは肥料を取りに行かねばと、ドラゴンは妖精の様な翅を広げた。

 ――その足下には、無数の動物達の死骸が細切れになってばら撒かれていた。
茲乃摘・七曜
心情
何事もバランスが重要…、私達にも言えることですけれど

指針
魔龍に整えられた花園は死地と意識し行動
「周囲に丁稚や応援が潜んでいるなら…、まずはそちらの排除を

行動
花園における死角や木々や噴水などの設置物の状況を確認
中距離を維持しつつ二挺拳銃で魔龍の鎌の側面や翼を狙い牽制
(応援が龍なら飛んでいる可能性も…?)
※Angels Bitsからの指向性の轟音と二挺拳銃で光属性の炸裂する魔導弾でファンの視野と聴覚を遮り妨害や支援を防ぐ

防御
激痛態勢で耐えつつ相手の視線から攻撃の軌道を読み取り被害を減らす

流転
魔龍が飛行しする場合、翼の一部を封じて行動を阻害
「飛ばれると後援者から見えやすいということもありますしね


●開園
 春が過ぎ、夏が来た。
 命が終わり、死に絶えた。
 不自然な自然は猟兵達に破壊され、自然は自然の摂理に則って朽ちていく。
 花を守る妖精達はもう居ない。
 森が荒野に変わるか、或いは再び森として正常化するか。何方にせよ、暫くは花が一輪咲くのにも苦労する土地になるだろう。
 だと言うのに、庭師は笑っていた。
 楽し気に、嬉し気に。
 憤りなど欠片も感じさせない佇まいで竜の庭師『ミラベル』が立っていた。
「もっと恨まれるものと思っていましたが……」
 茲乃摘・七曜(魔導人形の騙り部・f00724)はミラベルの笑顔に笑みで返しながら、そう零す。
 現に妖精達は呪詛を吐きながら襲い掛かって来たし、消えていく時でさえ憎悪をぶつけてきた。
 あの妖精達を使役していたのがミラベルなら主人もまた憎々しく思っているだろうと、そう考えるのは自然な事だろう。
「花が台無しになるのに、いちいち怒ったりはしませんわ」
 くすくすと笑う魔龍。
 ドラゴンの表情を読むなどそう経験出来る事ではないが、どうしても嘘偽りの気配を感じられない。
 それだけに、警戒は否応無く強まっていく。
「ずいぶん慣れているのですね。同じ様な目に遭った事が?」
 七曜が問い掛ける。
 理由の掴めない不安は危険だ。無駄な警戒は精神を消耗する。
 聞いてボロを出すかは知れないが、出さないのならそれはそれで警戒に値する。
 そんな七曜の思惑をも気に掛けず、ミラベルはまた微笑んだ。
「いいえ。『遭った事』はありませんわ」
 含みの有る答えだった。
 やはりその言葉に嘘は感じられず、七曜の微笑みが薄れていく。
 ミラベルは笑んだまま視線を外して近くの花を見てその花弁へと指を這わせた。
「水も、土も、花自身でさえ、花を台無しにしてしまいます。それは仕方のない事。どこにでもありふれている事ですわ」
 花は、誰かに愛でられるために咲いているわけではない。
 美しさも芳しさも全ては生き残る為に有る。
 故に花は散るのだ。死ぬ時だけでなく、生きる為にさえ。
「ですが、あなたはそれを嫌って常春の森を作ったのでは?」
 自然摂理を受け入れた様な物言いに七曜が問いを重ねた。
 あの摂理を無視した森は生きる事も死ぬ事も許されない場所だった。
 そんな場所を配下まで使って作ったのなら――いや、違う。
 考えながら七曜が違和感に気付く。
 ここは庭園、あそこは森。
 ミラベルは庭師だ。
「いいのですよ、もう。春の花は一通り集め終えましたから」
 返ってきた言葉が、七曜の考えを肯定する。
 あの森はただの花屋代わり。庭園を飾る花を仕入れる為の場所でしかないのだ。
 例え猟兵達が森を火の海に沈めたとしてもミラベルは気にしない。粛々と猟兵達を退け、その後に新たな森を作るだけだろう。
 言葉通りなら寧ろ好都合だと思っているかも知れない。
 ……ああ、そうだ。森が枯れ果てる、それと同じ様な目に『遭った事』は無くても、『遭わせた事』なら有るのだろう。
 庭師ミラベルが求める花を摘む為だけに。
「なるほど。こうして笑顔で出迎えていただけた理由も納得出来ました。恨むどころか喜んでいらしたのですね」
 微笑みを取り戻した七曜が言う。
 警戒する理由が知れた。得体の知れない恐怖が具体的になり、無駄が削がれる。
 対するミラベルは、笑みを深めて頷いた。
「花は、色んなものを糧にして咲きますの。土や水、魔法や、薬。何をどう用いるかで花は色を変えるのですわ」
 咲かせるだけなら妖精がいれば良い。
 しかしそれでは同じ色の花しか咲かない。
 色とは個性。
 同じ種類の花でも全く違う花になるのだとミラベルは語る。
 だから、喜ぶ。猟兵の登場を。
「あなたに根を張り血を啜った花は、どんな色で咲くのでしょう」
 妖精や森とは違う、願ってもそう簡単には手に入らない花の糧。
 庭師としてはそこらの花より余程価値がある。
 だって、妖精が咲かせた花も、妖精を苗床にして咲いた花も、もうアレンジに行き詰っていた時期だから。
「――ッ!」
 七曜が突然身を屈めた。
 カウボーイハットの様に上から抑え付けたワイドブリムの頭上で風が裂ける音がする。
 一瞬。文字通り瞬きの隙を突いて放たれた一閃。
 ミラベルの腕に生えた鎌状の翼。見た目だけでなく本物の鎌を凌駕する切れ味の武器。
 それは庭の手入れ用具。
 花の糧たる猟兵を程よく解体する為のもの。
「あら。躱されるのは困りますわ」
 と、ミラベルが初めて笑みを消す。
 抵抗すれば痛いだけ。大人しく断ち切られろ、と。
「生憎、花の栄養になりそうな血肉は持ち合わせていませんので……!」
 二閃、三閃。立て続けに振るわれる両腕の鎌を避けながら七曜が返す。
 七曜はミレナリィドールだ。厳密には生物ではなく、人形である。
 例え生物であろうと大人しく細切れにされる心算は無い。
 不意打ち気味の三連斬りを躱した後は、淑女然とした姿格好からは想像出来ない程の立ち回りで悠々と斬撃をいなしていく。
 生物でも無ければただの人形でもない。銃撃戦から肉弾戦、魔法戦から歌合戦まで、何でもこなす万能ドールだ。
 しかしそれだけでは器用貧乏で終わるだけ。
 万能型の真価は、相手の強さを抑え、弱さを突いてこそ発揮される。
「何事もバランスが重要……、私達にも言えることですね」
 だから崩す。
 七曜に振るわれた鎌が僅かに肌を裂く。
 血の代わりに流れるオイルが刃を濡らし、その刃へと弾丸が撃ち込まれた。
 意図的に回避を、守りを捨てる事で、攻めへと転じる。
 何時の間に抜いたのか、七曜の両手に握られた二挺拳銃が魔導弾を乱射した。
 ミラベルの腕に生えた鎌状の翼と、それとは別に背中から生えた妖精に似た翅。それらを的確に狙い撃つが、穴の一つも穿てない。
 躱されたわけではない。単純に堅いのだ。
 鎌も翅も花弁の様に柔らかくしなやかで、直撃したはずの弾丸さえ受け流してしまう。
「効きが悪いですね……!」
 腐ってもドラゴン。
 花の様に可憐で、ともすれば儚げでもあるミラベルも、生物の頂点たるドラゴンである。
 真面に挑めば長期戦は必至。
 だが、長くは七曜の方が持ちそうにない。
「逃げられると本当に困ってしまいますわ」
 ザギン、と異様な音を立てて、鎌が振るわれる。
 地面ごと切り裂く縦の斬撃だ。
 辛うじて避けはしたが、続く横薙ぎの斬撃には対応出来ず、咄嗟に後方へ跳ぶ。
 ドラゴンたるミラベルは七曜の攻撃を意に介さない。効かないわけではないが、一撃で鱗を砕いて肉を抉るとまではいかないのだ。
 対する七曜は一撃貰えば致命的だ。
 単純に七曜が脆いからとかミラベルが強いからと言うだけではない。ミラベルが防御を捨てて攻め立てているのが主な原因だ。
 肉体の強靭さを盾に、他の防御を捨てる極端な戦術は、七曜のバランスを崩す為の戦術。
 ミラベルとしても七曜の強さを認めているからこそ、七曜の作戦を崩す為に無理をしている。
 自然、対応する七曜の攻守のバランスは守備へと偏り始める。
 そして、そうしてさえ、押し込まれていく。
 強い。
 しかし元より真向勝負を挑む心算は無い。
「時間稼ぎはここらが限界ですね」
 言って、七曜は再度敵から距離を取る。
 今度は中距離維持ではなく、大きく後方へ。
 中距離くらいの距離ならミラベルは一息で詰められる。一見して遠距離戦の間合い、これで漸く中距離扱いだ。
 後方への退避、これを好機と見て突っ込んで来たミラベルへ向かって銃口を突き付ける。
 引き絞った引き金が撃鉄を打ち下ろし、炸裂した魔導弾がミラベルの額へ突き刺さった。
 だが効かない。
 七曜の火力を目の当たりにし、十全に試したミラベルは、その弾丸が効かない事を知っている。
 実際に弾丸は額を割る事も見戦に皺を刻む事も無かった。
 代わりに、ミラベルの両眼を焼いた。
 着弾と同時に炸裂する閃光。フラッシュグレネード顔負けの光属性弾だ。
「十分見せて貰いました。庭園も、あなたも」
 怯んだミラベルへ向けて七曜が拡声器を向けた。
 二機の浮遊式拡声器『Angels Bits』から放たれた轟音が七曜の脇を抜けてミラベルの鼓膜だけをぶちのめす。
 若干の時間差。視覚を奪い、他の五感に頼った瞬間に聴覚も奪う。
 ただ奪うだけでなく精神的な苦痛を叩き込む事で二度怯ませ、その隙に七曜が戦線を離脱した。
 真向勝負をする心算は無い。それでも真正面から会話していたのは、地形把握の為だ。
 情報収集は基本中の基本。出迎えが無ければもっと多くを見に行けたが、今はこれで良い。
「っと、ベストポジションですね……!」
 ミラベルの脇を抜けて走って直ぐ、噴水付近に七曜が身を隠す。
 この噴水だけは全部花で出来ているわけではない。障害物として機能する筈だ。
 ミラベルは庭園の入り口で待っていた。それは楽しみ云々抜きにすれば、庭園に戦闘の余波を与えたく無いからだろう。
 利用しない手は無い。
「――困る、と、言いましたわよね?」
 ゾッとするような凄味の有る声がして、七曜の頭上で噴水の上半分が細切れになった。
 一瞬理解が遅れるも七曜は瞬時に噴水から離れる。
 噴水には花や蔦も絡まっていたがお構いなしだ。利用するどころではない。
「ええ。存分に困らせます」
「困ったお方ですわ」
 庭園の奥へと目指して走り出した七曜へミラベルが斬撃を放つ。
 もう目も耳も回復したのか無理をしなければ躱せないだけの正確さで放たれた斬撃。その速度は勿論、威力が桁違いに上がっていた。
「何時の間に……」
 七曜が呟く。
 僅かに振り向いた先でミラベルが召喚陣を展開していた。
 そこから産み落とされるかの様に呼び出される無数のドラゴン。小型のそれは、直接的な戦闘力を持たないサポーターだ。
 彼等が存在する限り、ミラベルはただでさえ手に負えない鎌や鱗が強化される。先の斬撃がその結果だ。
 そして、ドラゴンは増え続けていた。
「ッ削ります!」
 このままでは逃げる事も叶わないと、七曜が属性弾で小型ドラゴンを端から撃墜する。が、その隙さえ致命的だ。
 ふわりと風に乗る優しい足取りでありながらミラベルの斬撃はあまりに鋭く、重い。
 小型ドラゴンに戦闘力は無い。当たれば投石でも落とせるだろう。
 ただ数が多い。
 そしてミラベルの攻撃を躱しながらでは狙えない。
 ではミラベルを抑えようとすれば小型ドラゴン達がミラベルをどんどん強化していく。
 どうしようもない。
 ただでさえ銃弾が碌に通らない身体がさらに強化されたとなると、魔力も予備弾薬も全部空にしたって削り切れないだろう。
 早々に小型ドラゴンの掃討を諦め、七曜は息を吐いた。
「――逃げましょう」
 こうなっては出来る事など嫌がらせくらいだ。
 精々その強化された身体を駆使して大事な庭園を破壊しろ、と言わんばかりの嫌がらせ。
 脱兎の如く駆け出した七曜。向かう先が庭園の奥である以上、ミラベルはそれを無視出来ない。
 嫌がらせに乗る様に、強化された翅に力を込めた。
 音を立てて軋む骨。膨れ上がる筋肉。
 ミラベルの背を押すべくファンのドラゴン達が強化魔法を翅に授けた。
 瞬間、空気が爆ぜた。
 超高速を越えた亜音速。
 ソニックブームだけで人を殺せるレベルの突撃。
 逃れられる筈がない。
 庭園の奥へ行かれる前に、多少の犠牲は飲んで即決着を。
 構えた両腕の鎌を交差させ、巨大な枝切狭へと変えたミラベルが微笑む。
 対する七曜に出来る事は、迎撃のみ。
 回避は無理だ。逃避も同じ。
 ならば逆にと撃ち出した魔導弾がミラベルを穿つ。
 幾重にも強化された強固な鎧も、尋常では無い突撃の威力を利用すれば突き刺さる。
 だがそれだけだ。
 幾らか手傷を負わせたとして、ドラゴンがそれで止まるわけも無い。
 止まられては困るのだ。

「封印術式、起動」  
 
 七曜が紡ぐ。
 撃ち出した魔導弾が、生成した『七曜の杭』が、ミラベルに突き刺さったまま術式を解放した。
 途端、がくりと高度を落とし、ミラベルが墜落した。
 音速に程近い速度での墜落。
 凄まじい轟音と共に地面を削る巨体。
 最終的に七曜との間に有った噴水に激突し、その残った下半分まで粉々に吹き飛ばしていた。
「何を――?」
 頭を振りながら立ち上がったミラベルに致命傷は無い。それでもかなりの損傷を与え、ミラベルは額を垂れる血を乱雑に拭った。
「翅を封じさせて貰いました」
 返す七曜は眼前に立つミラベルを見上げて言う。
 封印術式『流転』。
 七曜(シチヨウ)の名を持つユーベルコードは、万物を循環と言う名の檻へと閉じ込める。
 決まれば勝ちが確定するレベルの強力さだが、それ故に敵に破られる事も多い。
 だからミラベルの全てを封じない。
 封じたのは背中の翅の一部だけ。
 全力でたったそれだけを封印した。
 それで十分。
 突撃中に突然飛行能力に異常をきたしたミラベルは狙い通りに墜落したのだった。
 そして、痛手を負ったミラベルが立ち上がる頃には、取り巻きのドラゴンを一掃し終えていた。
「さて、振り出しですね」
 微笑む七曜の手には拳銃が一対。
 いかなミラベルと言えど零距離射撃を強化無しで受ければ無傷で済むわけも無い。
 が、仕留め切れるかは別問題。
 さあここからどうするか。と悩む七曜にミラベルはやっぱり笑いかけた。

「あなた、素敵ですわ。庭園に植木鉢として置いてあげても良いくらい」

 す、と構えた腕の鎌が七曜に向く。
 投げられた言葉には、初めて殺意が込められていた。
大成功 🔵🔵🔵