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波音は黄昏の幻想曲、薄闇の夜想曲

#スペースシップワールド #【Q】 #お祭り2019 #夏休み #挿絵 #ハートフル

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 夕日が水面を染めた。
 しかしビーチではまだまだ楽しそうな声が聞こえている。
 ここでは、夕日が海を染め上げる今頃からが本番。
 夕日が沈み行き、闇の色が染み出してくれば、ポウ……と不思議な光の玉が宙に現れ、月とともに光を提供してくれる。
 ここでは夜でも海を楽しむことができる。
 光の玉により幻想的になった海で、波音に耳を澄ませるのもまた――。

●ごあんない
「皆様、いらせられませ」
 グリモアベースに佇む彼女を見て、ひと目で『彼女』だと判別できた人がどれくらいいるだろうか。
「海辺へ、遊びに行きませぬか?」
 その声と言葉遣いでようやく彼女が誰だか気がつくのも無理はない。
 いつもの彼女は季節の襲の十二単を纏った姿で。
 今目の前にいる彼女は、大胆な水着姿なのだ。
「……どうかなさいましたか?」
 驚いている様子の猟兵たちに、グリモア猟兵の紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)は小さく首を傾げた。

「わたくしがご案内いたしますのは、スペースシップワールドにございますリゾート船のひとつ、『トワイライト・ビーチ号』にございます」
 そのリゾート船は海と浜辺をメインとしており、そして夕方から夜の時間をメインとしている。
 夕日の沈んでいく中でバーベキューや砂遊び、貝を探したりもちろん海に入ったりもできる。
 陽が落ちたあとは、月の光だけでなく、ふよふよと空間に浮かぶ、言うなれば人工精霊光のようなものが光源を兼ねつつロマンチックな雰囲気を醸し出す。バーベキューももちろん継続できるし、岩場でロマンチックな時間を過ごすのも、花火で遊ぶのも、ビーチチェアで横になるのも、何をするのも自由だ。
「制約があるとすれば、『夕暮れから夜』までの時間に限られるということのみでございます」
 船内で大抵の食料や道具は手に入るし、ビーチ近くには軽食をテイクアウトできる店の他に光泳ぐ夜の海を見ながらディナーを楽しめるレストランもある。もちろん、水着や浮き輪も売っていて、身体ひとつで訪れても問題ないくらいに設備が整っている。
「わたくしも初めての水着で、少し浮かれております……。皆様も、ぜひ楽しんでくださいませね」
 馨子はそう微笑んで頭を下げた。


篁みゆ
※このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。

 こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
 はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオの目的は、夕方~夜の海を満喫していただくことです。

 リゾート船のひとつ『トワイライト・ビーチ号』は、夕方から夜までの海を楽しめる場所です。
 食材や道具類、もちろん水着もありますし、飲み物や軽食、アイスなどからビーチの見えるレストランも。

 基本的によほど無茶でない限り、海でできることはできますし、物も売っています。

 夜はとてもとても幻想的な光景になります。

●1章のみの日常フラグメントです
 なので、いろいろなことをするプレイングよりも、したいことを絞ったプレイングのほうが濃い描写ができると思います。
 夕方か夜かの指定がある場合は、プレイングの何処かに【夕】【夜】(【】は不要)とご記載いただけると助かりますが、ない場合はこちらで判断させていただきます。
 プレイング内容で夕方か夜か判断できる場合は、記入は不要です。

 提示されているP/S/Wの選択肢は気にせず。
 ワイワイでもラブラブでもシリアスでも心情でも。
 ただし公序良俗に反したり著作権的なものに触れるようなものは採用できないことがあります。
 年齢制限のかかるようなラブラブは直接的な描写はいたしませんが、らぶらぶな雰囲気をマシマシ予定です。

●馨子について
 今回は普通に参加させていただきます。
 ひとりでフラフラしていると思いますので、お声掛けいただけましたら喜んで顔を出させていただきます。

●プレイング再送について
 日常フラグメントという関係上、万が一ご参加いただける方が多くなった場合は、プレイングの再送をお願いする可能性がございます。

 基本的にプレイングを失効でお返ししてしまう場合は、殆どがこちらのスケジュールの都合です。ご再送は大歓迎でございます(マスターページにも記載がございますので、宜しければご覧くださいませ)

●お願い
 単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
 また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。

 皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りに勤しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夕日は水面を照らし、ゆっくりと海へと沈み始める。やがて来る夜空は月を伴い、漂う光は尊い時間を照らす。
 波の音は平等に、囁くようなメロディを奏でる――。
 
 夕日の降り注ぐ水面は、ゆらゆらと、ゆらゆらと静かに揺れている。
 ここが船内だとは思えないほど、その夕日は美しくて。
 ある程度人工的に制御された波だから、なんて無粋なことは言ってはダメ。
 さあ、この時間は、この景色は。
 今、あなたたちのものだから。
アウレリア・ウィスタリア
馨子(f00347)にお礼をっていうのは変でしょうか?

以前、ボクは馨子にクッキーの作り方を教わりました
それに馨子の案内で大切なものを思い出せたと思います

だからお礼を言いたい
ありがとう、私を導いてくれて

ボクは夕方から夜になるほんの僅かな一時
太陽が沈んだ直後の真っ青な世界が好きです
だから、あとは歌いましょう
この世界に愛が満ちますように

そういえば水着というのは不思議ですね?
ボクは厚着が苦手なのでこれくらいがちょうど良いのですけど
みんな特別なものみたいに着飾ってるようで?
馨子は今の姿の方が気軽だったりしませんか?
普段の馨子も綺麗ですけど
ボクとしては水着の姿も素敵だと思います

アドリブ◎
無茶ならスルーOK



 夕日に照らされた砂浜を歩きながら、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)はきょろきょろと視線を巡らせていた。
 確かにここに来ているはず――ふぅわりっ……ひときわ大きな風が吹いたので、思わず風に流されるサイドの髪を押さえた、その時。
「……あっ……」
 水に墨を流したかのようなその光景に、アウレリアは探し人の居場所を捉え、砂浜を蹴る。
 風に流される長い黒髪は、探し人の背丈以上。ふた色の翼で羽ばたき上がったアウレリアは、確信を持ってその黒髪の持ち主へと迫る。

「馨子、馨子……!」
「……!」

 頭上からの視線に探し人――紫丿宮・馨子は顔を上げて。
 彼女が目を細めて微笑んだのは、夕日が眩しいからだろうか。

 * * *

「アウレリア様の水着は、どこか中華風で……いつもとはまた違った雰囲気にございますが、とてもお似合いですね」
「そう……ですか?」
 馨子から差し出されたアイスマカロンの入った小さなバスケットへと手を伸ばし、アウレリアは自身の水着を見下ろす。
「そういえば水着というのは不思議ですね? ボクは厚着が苦手なのでこれくらいがちょうど良いのですけど、みんな特別なものみたいに着飾ってるようで?」
 以前、普段の装いが水着みたいだと言われたことがあった。アウレリアとしては普段着のつもりだったので、認識の違いに驚いたのだが、今回のこれはきちんとした水着であるがゆえに、褒められるとなんとなくむず痒い。それと同時に多くの人が水着を特別な装いだと認識しているのが、なんだか不思議で。
「そうでございますねぇ……。人にもよりますが、暑い寒い以前に肌を晒すのが苦手な方も、そもそも肌を晒さない風習の場の出身の方もいらっしゃいますから、やはり……人前で肌を晒すのには多大な勇気を要するという方が多いのかもしれませんね」
 今回のようなコンテストという催しをきっかけとして、勇気を出した方もいらっしゃるのではないでしょうか――馨子の言葉になるほど、とアウレリアは頷く。確かに猟兵の中にも、普段から肌を晒すのに躊躇いのない者もいれば、常に着込んでいる者もいる。文明の発達した世界であれば、着込んでいても暑さを逃すすべが講じられているのかもしれない。
「馨子は今の姿の方が気軽だったりしませんか?」
「わたくし、でございますか?」
「普段の馨子も綺麗ですけど、ボクとしては水着の姿も素敵だと思います」
 まっすぐに向けられたアウレリアの言葉を、馨子はしっかりと受け止めて、そして微笑む。
「ふふ、そう言っていただけると、初めて水着に挑戦した甲斐があるというものです」
「初めて、でしたか」
 おそろいですね、とふたりで笑い合って、もう一つずつアイスマカロンを手に取った。
「……」
「……」
 しばらくふたりでアイスマカロンを咀嚼していれば、自然、波音と海を楽しむ猟兵達の声だけが、響く。
「以前……」
 ぽつりとその沈黙を破ったのは、アウレリアの方だった。
「ボクは馨子にクッキーの作り方を教わりました」
「ふふ、アルダワ魔法学園の調理室でのことにございますね。わたくしも、とても楽しい時間を過ごさせていただきましたよ」
「それに馨子の案内で大切なものを思い出せたと思います」
「……、……」
 その言葉を受けて、馨子は口を閉じる。アウレリアが思い出せたということ、それが楽しい記憶ではなかったことを知っているからだ。それでも、それが彼女にとって大切なものだということも分かっているので、否定はしない。
 けれども次にアウレリアが紡いだ言葉は、馨子にとって予想外のものだったようだ。

「だからお礼を言いたい。ありがとう、私を導いてくれて」

「っ……!!」
 まさか、こんな風に礼を言われるとは思わなかったのだろう。馨子は口元に手を当てて、アウレリアを見つめている。
 仮面越しではない、素顔の彼女が、目を細めて笑ったものだから。
「わたくしこそ……お礼をさせていただかなくてはなりません。わたくしの予知に力を貸してくださり、ありがとうございます」
 馨子が眩しそうに微笑んだのは、夕日が眩しかったからではない。アウレリアの笑顔が眩しかったからだ。

 * * *

「ボクは夕方から夜になるほんの僅かな一時、太陽が沈んだ直後の真っ青な世界が好きです」
 小さなバスケットの中のアイスマカロンをすべて食べ終わる頃、夕日はその姿をすべて隠してしまおうとしていた。
 腰を掛けていた岩から砂浜へと降り立ったアウレリアは、大きく息を吸い、紡ぐのは旋律。
 それは彼女がこれまで様々な場所で紡いできた、愛の歌。知らないはずの旋律なのに、不思議と心に響き、記憶の底の蓋を開ける鍵となるだろう歌。
 アウレリアが伸びやかに歌う様子とその旋律を耳にした馨子は、所持品から具現化させた緋毛氈を砂浜に敷き、同様に具現化させた七弦の琴の前へと座った。
「……!!」
 歌の邪魔にならないように爪弾かれる琴の音が、色づいてアウレリアの周囲を舞う。
 太陽が眠りについて夜が目を覚ますまでのほんの少しの間、青がすべてを満たし――。
 その間も途切れることのなかった歌声と琴の音は、徐々に現れ始めた淡い人工精霊光と共に、波音を伴奏として響き渡っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

ほんとだっ
ほたるみたい

さわれるかなあと光に近づいて
砂の上をさくさく
ねえアヤカ
ぐるんと勢いよく振り返ったら砂に足を取られて
わわわっ

伸ばされた手をつかんで嬉しそうに揺らし
はなびはなびっ

花火、したことあるよっ
こういうの
と手持ち花火をもって

動けるじゅんび?
首を傾げ
走り出す花火にびっくり
わあ、なにこれなにこれっ
たのしい
アヤカがすきなのかなあ
こっちにもきたっ
わーって言いながら笑って逃げて

わたしもない、きんぎょはなびっ
やってみよっ
えいっ
水につけてもぱちぱちしてる
ふしぎ、とぱちぱち瞬いて
水から出したら火も元通り
すごい、これもまほう?

ふふ、夢があるある
楽しくなって真似て

もういっかいやろっ


浮世・綾華
オズ(f01136)と

ぽやぽやと浮かぶそれはあの時一緒にみた光のようで
螢みたいじゃネ?

転ぶ彼には呆れたように目を細め
――ほら、と手を伸ばす
揺れる手はされるまま

オズは花火、やったことあるんだっけ
そっか。じゃあ今日はこれだ
…動ける準備、しておけよ?

そう言って火を灯したのはねずみ花火
しゅるしゅる動き出すそれはオズの方――
じゃなく此方に向かってきた
あ、待て、あっち行けと慌てて避ける
オズの方へ向かうと
よし、いけー!とけらけら

はぁ~…はは、面白かった
さぁて、次はどれ?
あ、俺、金魚花火はやったことない
水の中でも消えないんだってよ

いや、でも仕組みは分かんねーし
魔法ってことにしとこ
だってその方が夢があるからな



 景色が夜に切り替わると、ぽぅ……ぽぅ……と淡い光が浜辺や海を照らし始めた。ふよふよ、ふよふよとときおり風に乗って泳いでみたり、かと思えば夜を楽しむ人々のもとへふわふわと寄り添ったりと、まるでそれ自身から意思の感じられるような動きをしている。
 確かこれは人工精霊光のようなものだと聞いた気がするが、己の瞳に映るその幻想的な光を見ているうちに、浮世・綾華(千日紅・f01194)はそんなこと忘れてしまってもいい気がしてきていた。
 むしろこれは、アレに似ている気がする。そう、あの時一緒に見た――。
「螢みたいじゃネ?」
 隣を歩く彼に告げれば。
「ほんとだっ。ほたるみたいっ!」
 プラチナブロンドとキトンブルーの瞳に光を受けたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、無邪気に砂を踏んでゆく。
 さくさく、さくさく、さくさく。
 伸ばせば届きそうな光の前で足を止めて手を差し出せば、その光が指先に触れそうなところまでふよふよと近づいてきてくれたものだから。
「ねえ、アヤカっ……」
 彼にも知らせたくて思わず、ぐるんっと勢いよく振り返ったその足を。
「わわわっ……!?」
 悪戯な砂がオズの足を絡め取り、ぽふんっと砂上に尻をつかせた。
「び、びっくり、した……」
「……ほら」
 一連の様子をしっかりと見ていた綾華は、呆れたように目を細めつつもサクサクと砂を踏んでオズのそばに立ち、上半身を折り曲げて手を差し出す。その手をしっかりと掴んだオズは、嬉しそうにその手を揺らして。
「ねえアヤカ、はなびはなびっ!」
 ねだるように告げれば、ぐいっと砂から引き上げられる。それが、承諾の合図。

 * * *

 ふたりが選んだのは、誰かの邪魔にならぬようにと岩場の影。岩で風を防いで蝋燭に火を灯して。
「オズは花火、やったことあるんだっけ」
「花火、したことあるよっ」
 綾華の問いに答えようと、オズは買い込んだ花火の入った袋の中に手を入れて。
「こういうの」
 取り出したのは、手持ち花火。
「そっか。じゃあ今日はこれだ」
 その答えを予測していたかのように綾華は取り出した花火を、笑みながら蝋燭の炎へと近づける。
「……動ける準備、しておけよ?」
「動けるじゅんび?」
 首を傾げたオズが彼の言葉を理解するより早く、綾華が炎へと触れさせたのは――ねずみ花火だ。
 手慣れた様子でそれが動き始める前に砂上へと放り投げた綾華。しゅるしゅると動き出したねずみ花火は、綾華の狙い通り、オズの方へと向か――わなかった。
「あ、待て、あっち行け!」
 砂上を走るねずみはなぜか綾華へと向かってきて。綾華はそれを慌てて避ける。
「わあ、なにこれなにこれっ!?」
 オズはといえば、走り出す花火にびっくりしたのは最初だけ。すぐにそれは興奮と楽しさへと変わっていった。
「アヤカが好きなのかなあ」
 綾華を追いかけるその様子を見てぽつりと零せば。
「こっちにもきたっ!」
 ねずみは気まぐれに、今度はオズ目指して走りゆく。
「よし、いけー!」
 解放された綾華は、当初の目的通りオズを追い始めたねずみへと、けらけら笑いながら声援を送る。
「わっ、わぁっ……!?」
 声を上げながらも逃げるオズは笑顔を浮かべていて、楽しげな様子が確かに伝わってきた。

 * * *

「はぁ~……はは、面白かった。さぁて、次はどれ?」
 ねずみ花火を色んな意味で堪能したふたり。息をつくのは笑いすぎたせいか。
 綾華が手にした花火の袋をふたりで覗き込む。
「あ、俺、金魚花火はやったことない。水の中でも消えないんだってよ」
「わたしもない、きんぎょはなびっ」
 水の中でも消えない花火とは、如何様なものか。やってみよっ、と迷わずそれを手にしたオズに倣うようにして、綾華も金魚花火を手に取る。
「えいっ」
 火をつけてパチパチし始めたのを確認して、思い切って透明なバケツの中の水へと花火を入れたオズ。本当に消えないのだろうか……そんな思いは一瞬で消え飛んだ。
 水の中でなお消えぬ花火の赤は、まるで泳ぐ金魚のよう。パチパチと散る火花を纏い、ゆらゆらと、だが確かにそこに存在している。
「ふしぎ……」
 音のない火花に合わせるようにぱちぱちと瞬いたオズは、すっと金魚花火を水から取り出す。水から出しても花火はやはりパチパチしていて元通り。
「すごい、これもまほう?」
「魔法……んー……」
 無邪気な瞳のオズに問われ、綾華はしばし悩んだ。厳密に言えば科学的な原理などがあるのだろう、が。
(「いや、でも仕組みは分かんねーし、魔法っとことにしとこ」)
「そうだな。魔法かもな。だってその方が、夢があるからな」
「ふふ、夢があるある」
 オズがその言葉を真似るのは、楽しくて楽しくて楽しいから。
「もういっかいやろっ!」
 手元の火花が散り終えても、まだまだ用意した花火はたくさんある。
 この海の夜は長い。
 次はどんな花を咲かせようか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【SPD】おもてなしは、全力で
ペイン(f04450)と、夜に臨んで

ここのところ色んな世界で戦ってばかりだったからね
こんな機会の時くらい、ゆっくりしようか
……とは言え、あまり思いつくこともないんだよね
とりあえずは、海の見える場所で、取り留めない話でも

んー……サービスは、充実してるんだけど……
こう、ペインに人が寄ってくると、気が散るというか、モヤモヤするというか……
……、あーっ、もう!

【千呪万華鏡】で自らの写し身をぞろぞろ、ぞろぞろ―――(写し身は全員水着)
ペイン、何かあれば“私達”に言ってよ
希望があれば、何でも叶えてあげるから……ね?

その分、ちゃんと私を見てくれないと……やだよ?


ペイン・フィン
ファン(f07547)と

ん。お疲れ様
確かに、戦いばっかりだと、ヘトヘトになっちゃうからね
今日は、のんびりしようか
大丈夫。ファンと一緒なら、それだけでも、嬉しいから

……んー、でも、思ったよりも、人多いかな
騒がしい、と言うほどでは無いけど
できれば、ファンと二人きり、というのは、贅沢かな……

……って、え、えと、ファン?
な、なんで、こ、こういう……
希望があればって、言われても……
その……、目のやり場に、困る……
ファンの水着、似合ってるとは思うけど……
その、ラインがはっきり出てて、そして、分身までされると……
あううう……
(目をつぶったりはしないけど、どうしようも無く、慌てている)



 夕陽がすべてを照らし、穏やかな波音が耳に届く。楽しそうな人々の声も、ふたりでいればただの雑音だ。
「ここのところ色んな世界で戦ってばかりだったからね。こんな機会の時くらい、ゆっくりしようか」
 胸元に大きく名前の書かれた黒のスクール水着を纏っているのは、ファン・ティンタン(天津華・f07547)。いつもはゆるく編んでいるオパール色の豊かな髪は、高い位置で一つにくくっている。
「確かに、戦いばっかりだと、ヘトヘトになっちゃうからね。今日は、のんびりしようか」
 施設などに続く道路から砂浜に降りるための階段のひとつに腰を掛けたファンに、ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)はキンキンに冷えたミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
 海辺らしく、紺色に明るいグリーンのラインの入ったウェットスーツに身を包んだペイン。仮面はつけたままではあるが、身体のラインがはっきりと出るこの格好は、いつもの印象とはぜんぜん違う。
「……とは言え、あまり思いつくこともないんだよね」
「大丈夫。ファンと一緒なら、それだけでも、嬉しいから」
 ファンの言葉に間髪入れずに答えるペイン。ファンの呟きは彼の答えを予測した上で零されたものなのかは、彼女しか知らぬけれど。自身用のペットボトルを手に隣に腰を掛けたペインに向ける彼女の視線は、どこか満足げに見えた。
 ふたりが腰をおろしているのは、砂浜へ降りる階段の一番上である。同じような階段は他にもいくつかあるが、この階段を使う他の人の邪魔にならぬよう、ファンは右端に寄って座り、階段を上り下りする人から彼女を守ろうとするかのように、ペインは人が行き交う側に腰を掛けている。

「ヤド箱でも結構な数、コンテストに出たみたいだね」

 ざわざわ。
 ざわざわ。

「そう、だね。でも、自分には、ファンが一番、だよ。いつ、でも……誰がいても、ね……」

 ざわざわ。
 ざわざわ。

 いい雰囲気である。恋人たちが醸し出す、甘い空気である。だが、だが。
(「……んー、でも、思ったよりも、人多いかな。騒がしい、と言うほどでは無いけど」)
 ペインの感じたとおり、浜辺にも海にも施設にも、意外と人が多い。密集して騒いでいるとか芋洗い状態だとかそういう感じではないけれど、こう……否応なく他人の存在が意識の端にちらついてしまう。
(「できれば、ファンと二人きり、というのは、贅沢かな……」)
 隣に、視線の先に彼女がいるだけで十分だと、そう思いたいけれど。やはり彼女だけを感じていたいと思うのも、本心。
 他愛ない会話を続けながら、ファンもまた、会話以外の方向へと意識を割かざるを得なかった。だって、だって。
(「んー……サービスは、充実してるんだけど……」)
 なんだか気持ちが晴れない。
(「こう、ペインに人が寄ってくると、気が散るというか、モヤモヤするというか……」)
 そう考えている間にも、ペインの横を通って階段をのぼっていく大胆なビキニスタイルの女性や、階段を降りていく、パレオから細い足を覗かせる女性が。ペインは自分の方を見ている。それは分かっているのだけれど。座っているからして、高さ的に自然と、彼の頭付近を、女性たちの際どい部分が通過していく。

 モヤモヤモヤ。
 モヤモヤモヤ――イラッ!

「……、あーっ、もう!」
「ファン?」
 突然声をあげて立ち上がった彼女はいったい、どうしたのだろうか。ペインは問いかけ、彼女の顔に視線を移しきる前に、ぐいっと強く腕を引かれた。そのまま階段を降りていく彼女に立ち上がらされる状態になる。
「ファン? どうしたの?」
 彼女は振り返らずに、ペインの腕を引いて砂浜を歩いてゆく。どこか目指すところがあるのだろうか?
「……ペイン」
 彼女が足を止めたのは、最初にいた階段からそこそこ歩いた先の、砂浜にある岩陰だ。ペインとともに岩陰へと入ったファンは、彼の手を離して彼と向かい合うように立つ。そして、一瞬の後、現れたのは――。
 ぞろぞろ、ぞろぞろ、ぞろぞろ――水着姿のファンの写し身だった。
 写し身たちは素早く移動し、岩を背にしているペインを囲むように広がって。暗に逃さないとでも示しているような、猛禽類が自分の獲物だと主張しているような――。
 だが、ペインの方は彼女の意図が全くわからない。
「……って、え、えと、ファン?」
 本体であるファンを窺うように見て。
「な、なんで、こ、こういう……」

「ペイン、何かあれば『私達』に言ってよ」

 胸に手を当てて、そう訴える彼女。

「希望があれば、何でも叶えてあげるから……ね?」

 甘い、甘い誘惑の、猫なで声。
「希望があればって、言われても……」
 そう言われたペインとしては、戸惑うしかない。希望がないと言えば嘘になるけれど、けれども今は、目の前の光景を受け止めるので精一杯だ。
(「その……、目のやり場に、困る……」)
 彼女の水着はとても良く似合っていると思う。だが水着という性質上、身体のラインはハッキリ出ているし、その薄布一枚しか身に着けていないという事実が、青少年を惑わせる。
 しかも、同じ姿の彼女が、目の前に、たくさん。

「その分」

 彼の心境を知ってか知らずか、ゆっくりとペインとの距離を詰める本体のファン。

「ちゃんと私を見てくれないと……やだよ?」

 吐息がかかるほど間近で告げられたおねだり。夕陽が彼女の白い肌を仄赤く照らしている。これは夕陽の効果ではなく、彼女も照れているのだろうか――そう考える余裕は、今のペインにはない。
「あうううう……」
 かろうじて紡げたのは、呻き声にも近いその言葉だけ。彼女から目をそらしたり目を閉じたりはしないけれど、どうしようもなく心乱されているのは確かだ。

「ねぇペイン、夕陽よりも顔が赤いよ。……どうして、かな?」

 意地悪げに囁く彼女の魅了から、未来永劫逃れられる気がしない――逃れるつもりなんて、微塵もないけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小烏・安芸
夜の海を眺めつつ浜辺のレストランで軽めのディナーや。やっぱしここはシーフード系……海らしくシーフード焼きそばでも食べよか。それと、紹介してもらったお礼もかねて折を見て馨子ちゃんに声かけよ。

確かに海は苦手やけど別に嫌いなわけやないよ。こうして海を満喫しとる皆を見るんも、ロマンチックな夜景を眺めるんも風流なもんやろ。
浜辺で夜の海を見ながらディナーとか滅多にない機会やし、連れてきてくれてほんとありがとさん。
ま、ウチの場合は見ての通り花より団子なとこもあるけどな。馨子ちゃんも楽しんでなー

……実を言うと、今度は使い手なり恋人なり、ええ仲のお相手と来れればなーとは思っとるけど、そこはウチの胸に締まっとこ。



 空調の整った室内。全面ガラス張りのこのレストランの特等席は、やはり海辺の見える席だ。
 夕陽が眠りについたあと、人工精霊光がぼんやりふわふわと闇を照らし、淡い光が穏やかな波飛沫を輝かせる。
(「はー、綺麗なもんやなー」)
 その特等席のひとつに腰を掛けた小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)は、闇に漂う光を眺めて感心したのち、メニューに目を落とした。
(「軽めのディナーといきたいところやけど……やっぱしここはシーフード系……」)
 せっかく海に来たのだから、とシーフード系のページを開いたその時、テーブルに近づいてくる気配を感じた。
「小烏様」
「ああ、馨子ちゃん」
 水着姿ではあるが腰から下に和柄の薄布を巻いた紫丿宮・馨子が、テーブルそばまで歩いてきていた。安芸は自分の目の前の椅子を勧める。
「お誘いありがとうございます」
「礼ならウチこそ。ええとこ紹介してくれてありがとな。馨子ちゃんは、何食べるん?」
 メニューをふたりで眺められるように置き変えて、安芸は問う。問われた馨子は開かれたままのシーフードのページに視線を落とした。
「小烏様はもう、お決まりですか?」
「ウチは海らしく、シーフード焼きそばでも食べよかと」
「ではわたくしは、この、おまかせシーフードパスタにいたしましょう」
 注文を終えて、料理が届くまでのしばしの時間。この時間をどう使うかは、同席した者同士の関係性にもよるのだろうけれど。
「実は、小烏様が海にいらっしゃるとは……予想外でございました」
 そう告げて微笑む馨子のそれは、いい意味での想定外だったのだろう。
「あー……。確かに海は苦手やけど、別に嫌いなわけやないよ」
 短刀のヤドリガミである安芸にとって、水――とりわけ塩水は、『錆びる!』ということで敬遠したい気持ちになるのも頷ける。
「こうして海を満喫しとる皆を見るんも、ロマンチックな夜景を眺めるんも風流なもんやろ」
 そう告げて、視線を馨子から海辺へと移動させる安芸。夜の海ではまだまだ海を楽しむ者や花火など、夜ならではの遊びで楽しむ者の姿が見える。
「浜辺で夜の海を見ながらディナーとか滅多にない機会やし、連れてきてくれてほんとありがとさん」
 頬杖をついて、視線を再び馨子に戻す安芸。
「ふふ……そんなふうに言っていただけると、嬉しゅうございます」
 馨子の柔らかい笑顔が、視界に入った。
「小烏様、水着はやはり……?」
「あー、それなぁ。確かに薄着は落ち着かんし、器物は手元に確保しとかんと落ち着かん上あんまし人前に晒しとうないから、水着なんて想像もつかんかったんやけど」
 水着コンテストが開催されると発表があった時、自分には全く縁のない行事だと思っていた。思っていたけれど。
「実際に皆の水着姿を見るとなぁ、来年は参戦してみたくなるわ」
「まあっ……それは、来年が楽しみですねぇ」
 ふたりして笑いあったその時、ちょうど頼んだ料理が運ばれてきた。魚介類特有の香りが、ふたりの鼻孔をくすぐる。
「ま、ウチの場合は見ての通り花より団子なとこもあるけどな」
「この場合は『海より魚介』、とでも言いましょうか……わたくしも、今は『食』優先にいたしまする」
 安芸は割り箸を、馨子はフォークを手にとって、さていただきます、と構えたところで馨子が手を止めたのに気づき、安芸は声をかける。
「どうかしたん?」
「……小烏様、よろしければ、でございますが……少し、シェアいたしませんか?」
「それええな。同じシーフード系でも違う味付けやろし」
 持ってきてもらった小皿に少しずつ取り分けて、交換。誰かと一緒だからできる楽しみ方である。
(「……実を言うと、今度は使い手なり恋人なり、ええ仲のお相手と来れればなーとは思っとるけど」)
 胸に湧いた思い。それは、来年以降に期待して。
 またここに来ることができればいい、という思いとともに、安芸は自分の胸の中へと締まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛月・朔
今年の水着(ウェットスーツ+サーフボード)で参加します。

ヤドリガミとして肉体を得てからの初めての海(宇宙船だけど)、初めての水着、初めてのサーフィンで、今回の水着イベントは前々からとても楽しみにしていました。

せっかく忙しい合間を縫ってきたバカンスです、半日遊ぶだけじゃ物足りません。夕方になり、多くの人が海から上がってもなおも1人でサーフィンを楽しみます。
今日が初めてのサーフィンですが、波がコントロールされた宇宙船の穏やかな海ならコツもパターンもつかみやすいですし、夕方の時点ですでに初心者脱却していることでしょう。
あっ、宇宙船のスタッフさん。ちょっと夕日を背景にカッコよく写真撮ってくれませんか?



「さて」
 小休止、と岩に腰を掛けていた雛月・朔(たんすのおばけ・f01179)は小さく声を上げて立ち上がる。
 ヤドリガミとして肉体を得てから初めての海、初めての水着、初めてのサーフィンということで、実は今回のコンテストから始まる一連の催しを前々からとても楽しみにしていた。小休止の前にすでに半日遊び倒していたのだが、まだまだ海へ入る気満々だ。
(「今思えば、波がコントロールされている宇宙船の穏やかな海で良かったのかもしれません」)
 朔にとっては初めての海なのだが、ここは宇宙船内――いわゆる自然の、天然の『海』ではない。陽も海も人工的に用意されたものである。だが、それにも利点はあった。
 サーフィン初挑戦の彼にとっては気まぐれな自然の波よりも、人工制御された波のほうがコツがつかみやすく、何度も挑戦しているうちに自ずと波のパターンも見えてきて。パターンが分かれば狙った波で狙った練習ができる――つまり効率が良いのだ。
 休憩をとらなかったわけではないが、半日をほぼサーフィンに費やした朔の腕前は、費やした時間の分だけ確実に上がっている。
「再開、といきましょうか」
 黒地にオレンジのラインが鮮やかなウエットスーツもだいぶ身体に馴染んだ気がする。黄色地に水色で模様の入ったマイサーフボードを抱え、朔は夕陽に照らされている砂浜を踏む。
 通常であれば陽が傾き始めれば、海から上がる者は増える。だがこの海は夕方と夜の時間が長いようだと耳にしている。夜は人工精霊光の灯りで真っ暗にはならないというが、さすがに暗くなってからは危険だろう。朔からは見えていても、浅瀬で遊ぶ他の者達が朔を認識できない(諸般の事情で)可能性もある。だとすれば、陽が完全に落ちるまでが勝負。
 練習の成果を確かめたい――その一心で、朔は海へと入る。パドリングにも慣れ、ボードを水平に保ったまま加速することもできるようになった。この海のポイントはすでに頭に入っている。狙うポイントの沖までたどり着き、波を待つ。
(「どうせなら、一番大きい波に乗りたいですね」)
 頭の中に叩き込んだ、身体が覚えた波のパターンと実際の海の動きを照らし合わせ、次に一番大きな波が来るタイミングを予測する。
 ひとつ、ふたつ、みっつ……じっと待っていた朔が動き出す。波と同じ速度になるよう、パドリングで加速していき――。
(「ここっ!」)
 勘と感覚で捉えた一瞬。一気に身体を起こしてボードの上へと立ち上がる。
 まずはパドリングで苦労して、パドリングに慣れたと思ったら、テイクオフが上手く行かずに何度もバランスを崩し、海中へと落下した。けれども諦めなかった。悲嘆や諦観よりも、悔しさや楽しさばかりが増えていったのだ。
 初めての海、初めてのサーフィン。最初から上手くできるなんてそんなうまい話はない。だが上達するまで耐えられない者や、緩やかな上達を感じ取れずに挫折し、諦めて投げ出してしまう者もいる。けれども朔はそうならなかった。練習を重ねれば重ねるほど、少しずつではあるが上達を実感できたし、何度テイクオフに失敗してボードから落とされても、楽しい、次こそは、という気持ちが湧いてきたからだ。

 だから――今、この海で一番の大きな波に乗った朔の姿は堂々としていて。半日前まで初心者だったとは思えないくらいだ。

 波に乗ったこの気持ちよさは、体験したものにしかわからない。癖になる快感。
「ふぅ……」
 充実感とともに浜辺へと戻った朔だったが、なにか引っかかっているというか、僅かな『物足りなさ』を感じていた。それはサーフィンに直接関連するものではないような気もするが、無関係ではないような……。
 そんな彼の前を通りかかったのは、スタッフ章をつけた男性。その手にあるのは、カメラだ。
「!」
 物足りなさの正体に気づいた朔は、スタッフへと駆け寄って。
「スタッフさん。ちょっと夕日を背景にカッコよく写真を撮ってくれませんか?」
 そう、物足りなさの正体はこれだ。波に乗れるようになった証、初めての海の思い出の証。何らかの形で手元に残しておきたい。
 スタッフの快諾を受け、朔は再び沖と向かう。そして待つのはやはり、先程と同じ大きな波。
(「来た――」)
 夕陽色に染まった波に乗った朔の姿が、スタッフのカメラによって切り取られる。
「どうでしょう?」
 浜へと戻ってきた朔へ撮影した数枚の写真をモニターに映しだしたスタッフは、なぜか得意げだ。
「よく撮れてますね」
「好きなものをプリントしますよ。何ならデータも」
 さてどれにしよう――朔は迷うようにモニター上で視線を動かして。
 最終的に一枚には絞れず、数枚ピックアップすることになったが、あとであれももらっておけばよかったと後悔するよりは断然いいだろう。
 今日の思い出は、逃してしまったら二度と取り戻すことはできないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エイミ・メルシエ
うみー!海です、海!…撮影じゃないですよ?
耐水ニスがあるので、水も怖くありません!

…ふむ、ここはお店ですか?
マカロンは…アイスが?くださーい!
あとは、この…たこの入ってないたこ焼き?と、あとはタピオカミルクティーをくださいな!
…って、これがタピオカミルクティーですか?鈍器みたいになってて…あ、上の方に随分大きな容器が…わたし、試されてる…?

む、…すっかり夜ですね。
わたし的本題ですっ、海の方にも行ってみますか。
…ふむ、ふむ。水蹴るのも楽しいですね!
あっ…ビート板とか借りれば良かったかな?浮き輪買えば良いのかな?
ん?何か踏ん…はっ!マカロン貝発見です!ちゃんと2つ揃ってます!やったー!



「うみー! 海です、海!」
 白地にピンクの差し色を使用したフリルつきの水着、頭には共布の髪飾りをつけたエイミ・メルシエ(スイート&スウィート&プリンセス・f16830)は、テンションマックスである。ちなみにアイドル活動をしている彼女ではあるが、撮影で訪れたわけではない。本人曰く、仕事で水着にはならないと決めている、とか。
「耐水ニスがあるので、水も怖くありません!」
 ぐっ、と拳を握ってそう宣言する彼女を、近くにいたカップルが不思議そうに見て、そして離れていく。
 いや、さすがに肌に耐水性のニスを塗るなんて真似はしない。ようは気持ちの持ちようが変わってくるという話だ。
 エイミは、マカロンタワーの食品サンプルのヤドリガミである。ヤドリガミは器物によっては肉体を得てからも、器物が苦手なものには苦手意識を持ってしまう者がいる。樹脂粘土で作られたマカロンを使用しているエイミも、そのままでは水に弱いが耐水性のニスを塗ってあるため、そのおかげで水への抵抗感は少ないというわけだ。
 しかし海を見てひとしきりはしゃいだエイミは、まずは食べ物を売っている区画へと足を運ぶ。海辺にいた人たちがなんだか美味しそうなスイーツを持っていて、しかもその中にマカロンが見えたのだ。
(「海でマカロン……一見変な組み合わせのように見えますが、わたしのマカロンセンサーに狂いはないはずですっ」)
 絶対の自信をもってエイミが向かった先には、冷たい飲み物やかき氷、アイスなどを中心とした売り場がある。持ち運べる軽食などもあり、屋外のイートインスペースも完備だ。
「……ふむ、ここはお店ですか?」
「そうですよー。アイスもソフトクリームもジェラートもありますよ。モナカやマカロンアイスは海辺にもっていきやすいので人気です」
「マカロン……マカロンアイスが? くださーい!」
 即決である。だが、彼女には次の試練が待っていた。
「どのタイプになさいますか?」
「えっ……」
 店員が笑顔で取り出したマカロンアイスのメニュー表に目を向けるエイミ。

 ★レギュラー……直径7センチほどのマカロンアイス。フレーバーが各種選べる。
 ★アソート……直径3センチほどのミニマカロンアイス。各種フレーバーがカップやミニバスケットなどに詰められていて、個数で選べる。

「え、え~……」
 食べごたえがあるのはレギュラーだろう。だがすべてのフレーバーを購入すると、かなりの個数になる。アソートにすれば色々なフレーバーを少しずつ楽しめるが、物足りなさを感じるかもしれない。
(「うーん、フレーバーは全部試したいんですよねぇ……自分のお店で出すマカロンアイスの参考にもなりますし。でも、味わって食べていたら残りが溶けてしまうかも……」)
 冷めても美味しい、的に溶けても美味しいのが一番である。そういった意味では、溶けたものを食べてみるのもいい経験になるかもしれない。
「よしっ。ここからここまでレギュラーをひとつずつくださいっ。残りはまた買いに来ます」
 たどり着いた答えは、複数回に分けて購入するという妥当なもの。それにしてもレギュラーサイズを一度に5個以上頼んでお腹が大丈夫なのも、溶ける前に食べきれる自信があるのも、エイミだからである。少しでも不安がある人は、真似してはいけません。
「あとは、この……たこの入ってないたこ焼き? と、タピオカミルクティーをくださいな!」
 エイミの注文に店員は一瞬、『えっ、この子ひとりでこれ全部食べるのかしら?』という表情を浮かべたが、すぐに営業スマイルで覆い隠して。『きっと連れがいるのね』と店員がひとりで納得していることに、エイミは気づいていない。
「……って、これがタピオカミルクティーですか?」
 注文品を乗せたトレーを受け取ったエイミが目を丸くするのも無理はない。タピオカミルクティーを見るのが初めてだ、という以前の問題が……。
「上の方の大きな蓋? の影響で、鈍器みたいになってて……わたし、試されてる……?」
 ここのタピオカミルクティーは、使い捨ての背の高い容器に入れて売られているが、その蓋となっている部分が立体的なのである。よく見かけるようなドーム状の……ではなく。どうやら『トワイライト・ビーチ号』の形をした蓋のようで。しかも、蓋の部分はカップの直径に合っているが、『トワイライト・ビーチ号』の部分がカップの直径からはみ出していて……例えるならば、タピオカミルクティーの入っている部分も含めて全体を見ると、トンカチのようなフォルムなのだ。この蓋を考えた人は何を思って提案したのか。そして何を思ってこの蓋が採用されたのか、なぜこのサイズ感なのか、謎である。

 * * *

「む、……すっかり夜ですね」
 食を堪能していたエイミだったが、気がつけば陽が沈みかけていた。あと数分もしないうちに完全に夜のターンになるだろう。
「わたし的本題ですっ、海の方にも行ってみますか」
 裸足で砂に降りれば、まだ残った太陽の熱が足の裏が伝わってくる。
「あつっ……まだ結構熱いですねっ……!?」
 熱さから逃れるように浅瀬へと走っていけば、水を踏むのも蹴るのも意外と楽しくて。
「……ふむ、ふむ。楽しいですね! あっ……ビート板とか借りれば良かったかな? 浮き輪買えば良いのかな?」
 流石に膝の上以上に水面が来る深さには、少し不安になって。お店で浮き輪でも買おうかなと砂浜へと戻る。ふよふよと漂う人工精霊光が綺麗だなーなんて思いながら歩き出せば。
「ん? 何か踏ん……」
 足の裏に感じたのは、違和感。足をどけてしゃがんでその正体を探ろうとすれば、光もふよふよと降りてきてくれた。
「はっ! マカロン貝発見です!」
 驚くべき速度で繰り出した手で、エイミはそれを手に取る。それは貝のようだが普通と違うところがあるとすれば――マカロンの形をしているというところだ。
「ちゃんと2つ揃ってます! やったー!」
 分類的には二枚貝のようなものなのだろう。マカロンの上部と下部、運良く揃っていたことに思わず喜びの声を上げる。
「もしかして、この辺にもっとあったり? 色違いとか……」
 たくさん見つかったら、お店のディスプレイに使えるかも、なんて考えつつ、エイミは浮き輪を買いに行くことなど忘れて、マカロン貝を探して回るのだった。
 ちなみに最終的に、色違いやサイズ違いも含めて、親切な人がくれたバケツ一杯分拾えたとか拾えなかったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
遊ぶだけってのは確かに…
よーし今日は楽しむぞ!
アレス…お前何でこんなとこまで剣もってきてんだよ
置け置け!預けろ!

大きな浮き輪をもちワクワクと海に
…なぁアレス
向こうまで運んで♡
浮き輪を占領してアレスにおねだり
あーあー今急に泳げなくなった!
笑いながら
な?っとアレスを伺って
んーすっげぇ楽しい
運んでくれてるアレスを労るように満面の笑みでわしわしと撫でる

光ってるのがあるからもうちょい遊べねぇか?
一瞬しゅんとしつつもすぐ復活
…まあ、無理でもとっておきがあるからな!
手持ち花火をバーンと掲げ
だって楽しまなきゃ損だろ
指の間に挟みゃ一気に8本くらい…なんでわかったんだ!?

最後は線香花火で
綺麗だな


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

海で遊ぶのは…もしかして初めてじゃないか?
折角だから浮き輪を買って泳ごうか
…え。鎧を脱いだから、せめて剣はと…
…駄目?
仕方なく剣はロッカーに預ける…

気を取り直して泳…え、運べ?
君、泳げるだろ…?
いや、急にって
甘えるようなセリオスに仕方ないなと苦笑する
はいはい、お望みのままに。…よっと
浮き輪に掴まり、押しながら泳ぐ
乗り心地は如何ですか

遊んでる内に夜になり
灯りはあるけど、夜の海を泳ぐのは危ないと思うよ?
少し名残惜しいけどーーおや
それ、花火…だね?いつの間に買っていたんだい?
…まだまだ遊ぶ気満々だな
よし、最後まで付き合うよ
あ、沢山持つんじゃないぞ?

手持ちも線香花火も
…うん、綺麗だね



「海で遊ぶのは……もしかして初めてじゃないか?」
「遊ぶだけってのは確かに……」
 ロッカーに荷物を預けたアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)の言葉に、同じく荷物を預け終えたセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)が頷く。任務を兼ねてだったり任務で海に入ることはないわけではない。だが今回のように遊ぶことが主目的になることは初めてだ。
「折角だから浮き輪を買って泳ごうか」
「よーし今日は楽しむぞ!」
 嬉しそうに宣言したセリオスであったが、ちらり、アレクシスの腰へと視線を向ける。
「アレス……お前何でこんなとこまで剣もってきてんだよ」
「……え。鎧を脱いだから、せめて剣はと……」
 そう、水着を着ているアレクシスの腰には、しっかりと愛用の騎士剣が下げられているのだ。アレクシスとしては、鎧を脱いだのだから、と譲歩したつもりではあるのだが。
「……駄目?」
「置け置け! 預けろ!」
 夜明けの空色の瞳で子犬がねだるように見つめられても、セリオスはほだされない。
「つーか、持ってっても流石に海に入る時には邪魔だろ? 砂浜に置いておく方が無防備だし、全力で遊ぶならなおさら邪魔だ。今回は海中にオブリビオンもいないんだから、そいつの出番はないだろ。違うか?」
「……、そう、だな……」
 ビシィっと正論を突きつけられて、アレクシスは仕方なく剣もロッカーへと預けたのだった。

 * * *

 さて、ようやく砂浜に降りて、海へと入ったふたり。気温と陽の熱さと海水の温度差が気持ちいい。
「気を取り直して、泳……」
「……なぁアレス」
 名を呼ばれ、アレクシスがそちらを見やれば。
「向こうまで運んで♡」
 いつの間にかセリオスが、持ってきた大きな浮き輪に乗っていた。こう、浮き輪の穴に腰を落として、上半身と足は浮き輪に乗せるようにして。
「……え、運べ? 君、泳げるだろ……?」
 そもそもまだ、腰辺りまでしか深さがない場所だ。しかしセリオスには、浮き輪から降りる気はまったくない。
「あーあー今急に泳げなくなった!」
「いや、急にって」
 困ったような、呆れたようなアレクシスの表情を見ると、もっともっとおねだりしてみたくなるから不思議だ。セリオスは笑いながら「なっ?」ともうひと押し。彼の様子をうかがえば、苦笑を浮かべてはいるが気分を害した様子はない。
「仕方がないな。はいはい、お望みのままに。……よっと」
 なんだかんだ言いつつもこの幼馴染は、自分の我儘に付き合ってくれる。けれどもそれは、無条件に甘やかすこととイコールではない。間違った選択をすれば、諌め止めてくれるだろう。だから、それが、心地いい。
 アレクシスは浮き輪に掴まり、セリオスごとそれを押しながらバタ足で泳いでゆく。決して早くはないが遅くもないその速度が、周囲の時間からふたりだけが切り離されたようにも感じさせた。
「乗り心地はいかがですか」
 わざとかしこまって問えば。
「んー、すっげぇ楽しい」
 夕陽を背負った彼は満面の笑みを向け、伸ばした手で労るように金糸をわしわしと撫でてきた。髪はくしゃくしゃになってしまったが、これから海で遊ぶのだ。そんなのはすぐに気にならなくなるだろう。

 * * *

 気がつけば、太陽は眠りにつき、夜空が目を覚ましていた。あっという間すぎる気もするが、それだけ夢中で遊んでいたということだろう。ふよふよと海の上に浮かぶ人工精霊光が、水面を照らして淡く燦めく。
「そろそろ戻ろうか」
「光ってるのがあるからもうちょい遊べねぇか?」
「灯りはあるけど、夜の海を泳ぐのは危ないと思うよ?」
「そっかー」
 アレクシスの正論に、しゅんとするセリオス。まるでここに来たときと逆の光景だ。
「……まあ、無理でもとっておきがあるからな!」
 だがセリオスは一瞬で見事に復活してみせる。彼にはとっておきのアレがあるのだ。
 砂浜に戻り、浮き輪を預けてくる、と浜辺のスタッフのもとへ駆けていくセリオス。そんな彼の後を追うようにゆっくりと砂浜を歩いていくアレクシス。そろそろ遊びも終わりの時間かな、と思ったのだが。彼の言葉を思い返せば――買った浮き輪を預けてくる、と言っていなかったか?
「アレス!」
「少し名残惜しいけど――おや?」
「まだコレが残ってるぜ!」
 アレクシスがスタッフのもとにたどり着くよりも早く、踵を返して彼の元まで駆けてきたセリオスがバーンと掲げたのは、花火セットだ。
「それ、花火……だね? いつの間に買っていたんだい?」
「だって楽しまなきゃ損だろ」
「……まだまだ遊ぶ気満々だな」
 答えになっていない答えを受けて、アレクシスは息をつく。だがその顔に浮かんでいるのは、苦笑ではなく笑み、だ。
「よし、最後まで付き合うよ。あ、沢山持つんじゃないぞ?」
「指の間に挟みゃ一気に8本くらい……なんでわかったんだ!?」
「むしろ、なんでわからないと思ったんだい?」
 袋の中から手持ち花火をまとめて取り出そうとしていたセリオスは、アレクシスの鋭い指摘に驚いて振り向く。だが、やめるとは言っていない。
「ほら、こうするともっと綺麗だろ?」
 指の間に挟んで複数の花火を手にしたセリオスは、両手を広げたまま、くるくると回ってみせる。すると火花が尾を引いて、確かに綺麗だ。
「綺麗だが……危ないから気をつけるんだぞ」
「わかってるって……あつっ!」
「ほら……」
 自身の持つ花火が飛ばした火の粉を受けたセリオスを見て、アレクシスはため息をつくのだった。

 * * *

 いつまでもこうして楽しく遊んで、笑い合っていたい――それでも、何らかの形で終わりは来るもの。
 最後に残ったのは、線香花火。
 複数に一度に火をつけて、大きな火の玉を作ると言い出すのではないかとアレクシスは少し考えていたが、それは、静かに始まって。
「綺麗だな」
「……うん、綺麗だね」
 パチパチと、音も出さずに弾ける小さな火。小さな花。しゃがんでふたりは自身の身体で風からこの小さな灯火を守る。
 それ以上の言葉はいらない。
 言葉を紡げば、無粋になってしまう気がしたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

海神・鎮
●歓迎
※アドリブ歓迎、絡み歓迎。好きに動かしてくれてええよ。

【口調】
(プレこの口調じゃけど、負担じゃったら、丁寧語でええけー。)

【心情】
 薫子のねーちゃんに御礼をしたいなあと。
 でも何したら喜ぶんか、よう分からんのよな。

【行動】
 とりあえず礼を。
「この前はありがとうなー。礼にしては安ぃけど、食事でも奢らせてくれんじゃろうか。甘味でもええよ」
 
※問題がなけりゃあ「水着よう似合うとるよー」と軽く祝辞を送らせてな。



(「さて、どうしたもんかのー」)
 海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は夕陽に照らされて揺れる水面を眺めながら、頭を悩ませていた。
 ここに来た目的はあるのだが、あるのだが――その目的を達成した上で、更に上を行く手段が見当もつかないのだ。
(「馨子のねーちゃんに御礼をしたいんじゃけど……何したら喜ぶんか、よう分からんのよな」)
 礼の言葉を告げれば、それだけでも心は伝わるだろう。けれどもそれだけではなく、喜んでもらえるようなことができれば――そう思うのは自然なこと。けれども、何をしたら彼女を喜ばせることができるのか、それが問題なのだ。
(「仕方ねーけーとりあえず、馨子のねーちゃんを探すかのー」)
 彼女を捕まえられなければそもそも意味がない。鎮は砂浜と店舗などの建物の間にある道路を、目的の人物を探しながら歩き始めた。

 * * *

 目的の彼女を見つけたのは、鎮が肩に乗せている小龍だった。小龍と意思疎通を交わしながら進んでいけば、意外にも彼女がいたのは浮き輪やビート板、小さなゴムボートやビーチボールなどの水泳用品のレンタルや販売を行っている店の前だった。
「馨子のねーちゃん?」
「あっ……海神様」
 普段と違う装いの彼女に遠慮がちに声をかければ、振り向いた彼女は鎮を認めて微笑んだ。
「いらしてくださったのですね」
 紫丿宮・馨子の言葉に頷いて、鎮は問いを紡ぐ。
「もしかして、これから泳ぎに行くところじゃったか?」
「あ、いえ……」
 随分と真剣に物色しているようだったのでてっきりそうだと思ったのだが、どうやら違うようだ。彼女は口ごもった後、恥ずかしげに告げる。
「わたくし実は……泳いだことがないものですから……泳げるかどうかもわからず……」
「ふむ」
「……湯浴み以外でたくさんの水の中に入ることも経験がなくて……ですから、知識では知っていても、今の自分にどの道具が必要かわからなくて……」
 もう一時間くらい立ち尽くしているという彼女になるほど、と頷いて。
「じゃあ、ひと休みせんか? この前の礼に、礼にしては安ぃけど、食事でも奢らせてくれんじゃろうか。甘味でもええよ」
 鎮が指したのは、フードコートの一角。その提案に馨子は頷いて。
「そうですね、このままここにいても無為に時間だけを消費してしまうでしょうから……お言葉に甘えさせてくださいませ」
 そうして彼女が指定したのは、ファーストフードのある一角だった。

 * * *

「改めて、この前はありがとうなー」
「いえ、お礼を言われるほどのことはいたしておりませんよ」
 食べ物のトレイをテーブルに乗せて、二人がけの席に座って改めて礼の言葉を述べた鎮。彼の言葉に馨子はいつものように微笑んだ。
「水着もよう似合うとるよー」
「ふふ、ありがとうございます。そう言っていただけると、意を決したかいがあるというものです」
「ところで、なんでここ選んだん?」
 鎮が問うたのは、現在二人がいる場所と、彼女が選んだ食べ物についてだ。ふたりのトレイには、いわゆるハンバーガーと飲み物と、ポテトやナゲットが乗っている。普段、純和風の彼女からは想像し難い選択であることは確かだ。
「この間お話していて、わたくしも無性に食べたくなったものですから」
 確かに先日、マイブーム的な食べ物の話をした時、鎮が挙げたのはサンドイッチやハンバーガーだった。普段米食であるサムライエンパイア出身・在住の鎮にとっては、他の世界に行ったらついつい口にしたくなるものである。
「なるほどなー」
(「儂に気ぃつかってくれたんじゃろなぁ」)
 そう思いもしたが、口にはせずに。
「では、いただきましょうか」
「そうじゃな」
 包みを開けてそれぞれハンバーガーにかじりつく。UDCアースのものとはまた少し、違った味がした。もちろん、美味なのは同じだが。

 * * *

「本当はなー、何か馨子のねーちゃんが喜ぶようなこと、したかったんじゃよ」
「あら……こうして時間を割いてわたくしに会いに来てくださるだけで、わたくしは嬉しゅうございますよ」
「そう言うと思ったけー、自力でなにかみつけたかったんやけどなー」
 馨子が告げたのはもちろん本心なのだろう。それを疑うつもりはないが、なんとなく、これだけでは気がすまない。
「でしたら……」
「ん?」
 言葉を切った彼女に、聞き返すように告げると。
「今度、ご迷惑でなければ、水の使い手としてのお話を聞かせていただきとうございます」
「そんなんでええんか?」
「ええ、わたくしは、水系統はあまり得意ではないものですから」
 新たな約束が彼女の望みにかなうものであるならば、断る理由はないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
‪(アドリブ歓迎)‬
‪夏の太陽に照らされた輝くような海も良いですか、この時間帯の海も良いものですね。‬

‪必要ないサングラスを片方に砂浜をフラフラと。‬
‪水着は一応着ていますが海には入りたいとも思えない。見るのは好きなのですがね。‬

‪おや、そこの綺麗な方。よろしければ私と……あ、よく見たら馨子殿ではありませんか。‬
‪ここに来る前に見た時も思いましたが、普段との装いの違いに驚きますね。でも、とても似合っていますよ。‬
‪そんな貴女とデートしてみたいですね。甘いカキ氷でも一緒に食べに行きませんか?



 夕陽に照れされた海は、昼間の海とはまた違った表情を見せている。
(「‪夏の太陽に照らされた輝くような海も良いですか、この時間帯の海も良いものですね」)
 白を基調にしたラッシュガードに、青地に控えめに模様の入ったサーフパンツ姿のステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、サングラスを片手に砂浜を歩いていた。もっと日差しの強い真昼の海であれば必要だっただろうが、柔らかな夕陽にサングラスは必要ない。
 水着は一応着ているのだが、海には入りたいとも思えないステラ。だから砂浜も、波打ち際というより建物側寄りを歩いている。見るのは、好きなのだが。
 数人の女性客や女性スタッフに一緒に海で遊ばないかと声をかけられたりもしたが、彼女たちが気分を害さないように上手く断ってきた。口説くのは慣れている。息をするように口説く、とどこかで言われていそうだ。だがそれと同じくらい、相手の気分を害さずに辞するすべも持ち合わせていた。口説くだけ口説いて、自分の都合だけで相手の気分を害して別れたり、必要な情報が得られたからといって突然態度を変えて切り捨てるような形は、スマートではないから。
 さて、これからどうしようか。こちらから、女性に声をかけてみようか――そう思い、視線を巡らせて目についたのは、ステラと同じく波打ち際よりも建物に近い位置の砂浜に、ひとりで立っている女性だ。斜め後ろからなので表情ははっきりとは窺えないが、長い黒髪が美しい。

「‪おや、そこの綺麗な方。よろしければ私と……」
「えっ……」

 近くまで来て声をかける。振り向いた彼女と視線が合えば。

「「あっ……」」

 驚きの声が見事にはもった。
「よく見たら馨子殿ではありませんか」
「まあっ……ステラ様。いらしてくださったのですね」
 ステラが声をかけた彼女――紫丿宮・馨子は、嬉しそうに微笑む。
「‪ここに来る前に見た時も思いましたが、普段との装いの違いに驚きますね」
「ふふっ……驚いていただけたのでしたら、わたくしの小さなはかりごとは大成功にございます」
「でも、とても似合っていますよ」
 口説く時にすらりと口をついて出てくるのは美辞麗句だが、既知の彼女には美辞麗句ではなく心からの言葉を贈る。
「そんな貴女とデートしてみたいですね。甘いカキ氷でも一緒に食べに行きませんか?」
「あら、わたくしをお誘いくださるのですか? 嬉しゅうございます。一度、ステラ様に口説かれてみとうございました」
 瞳を合わせ、笑い合って。
「では、お手をどうぞ」
 ステラが差し出した腕に馨子は迷わずに腕を絡め、ふたりは飲食店の並ぶ界隈へと歩いていった。

 * * *

 せっかくだからと屋外に設置されたイートインスペースの、白い椅子へと腰を掛けて。ふたりの間のテーブルの上に乗っているのは、レインボーカラーのかき氷とミニマカロンアイスの入ったバスケット。マカロン好きのステラとしては無視できぬものだったため、かき氷はシェアして食べようと馨子が提案したのだった。
 マカロンアイスを食べ、かき氷に両サイドからスプーンを刺して一口ずつ。
「甘くて、冷たくて、美味しゅうございますね」
「貴女と共にいると、すべてがいつも以上に美味に感じますね」
 サラリと紡がれた言葉に、馨子はくすくすと楽しそうに微笑んでいる。
「申し遅れましたが……ステラ様の水着姿もとてもよくお似合いですよ。女性に声をかけられたりはいたしませんでしたか?」
「ありがとうございます。確かに、馨子殿に出会うまでに魅力的な誘いがいくつかありましたね」
「まあっ……それらを蹴った上で、偶然わたくしに声をかけてくださったのでしたら――これは、運命、でしょうか?」
 ところどころに挟み込まれる演技じみた言葉は、お互い分かって紡いでいるのだ。だから、自然とどちらからともなく笑いが漏れる。
「そういえばその下に……あちらの水着を?」
「ええ。さすがにパレオはつけていませんが」
 馨子が指しているのはステラの今の水着姿ではなく、コンテストに出場したもう一着の方だ。男装ではなく、女性らしい可憐な水着姿。
「ステラ様も……あちらのお姿、普段の装いと違って、また一段と素敵にございましたよ」
「ありがとうございます。少し、恥ずかしくはあるのですが」
 あちらの水着姿をコンテスト以外で見ることができるのは、ただひとり――それを知っているから、馨子は見せてほしいなどとは口にしない。
「……羨ましゅうございますね」
 ただ、そうぽつりと呟いて、優しい瞳でステラを見つめただけだ。
 彼女のその言葉が指しているのが具体的にどの部分であるのか、ステラは測りかねた。けれど、なんとなく、感じるものはあって。

「今、貴女と私は、互いに想い合い、ひと夏の恋をしている――それではご不満ですか?」
「まさか。こんな素敵な方がお相手でしたら、不満など浮かぶいとまもございませぬほどに、夢中になってしまいます」

 ふふふ、と微笑みあって、溶けかけているかき氷を慌ててスプーンで掬う。
 今、この時だけの、ひと夏の、恋――それは、甘く、楽しいものとなる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩波・いちご
ルネさん(f00601)と水着で【夜】のデートです
水着は水着コンのもの

「花火しましょう」
と、用意してきた花火を色々と
2人で仕掛け花火を眺めながらおしゃべりしたり
「2人きりっていうのもなかなか珍しいですよね」
普段は寮の仲間も一緒だったりしますしね
ねずみ花火と追いかけっこしたり
(それで2人ぶつかって抱き合う格好になって真っ赤になったり「あ、すみません……」)

最後は線香花火で〆
花火越しに見るルネさんの表情が色っぽくてドキッと
「あ、落ちちゃう…」
火花が途切れ、線香花火の先がくっつくように、どちらからともなく私たちの顔も近づいて
…唇を重ねます
「んっ…」
そのままもうしばらく2人でこうしてましょうか…ね?


ルネ・アッシュフォード
●プレイング
いちご(f00301)ちゃんと参加します
水着は水着コンテストの物を着用します
●プレイング
いちごちゃんと一緒に水着で【夜】の浜辺でデートするよ
「お昼間とは雰囲気違うね…?」
とあたりをきょろきょろしつつ、用意してきた花火を楽しみます。
噴き出し花火に火をつけ、眺めたり。
(ねずみ花火と追っかけっこしているいちごちゃんとぶつかって抱き合う形になれば少し頬を染め「だ、だいじょうぶだよ」と)
「そうだね、普段は寮の子たちと一緒だからね」
あの賑やかなのが好きなんだけどねっと笑って呟いて
〆は線香花火
花火越しにじーっと、いちごちゃんを見つめ
「…あ」
火花が途切れれば吸い込まれるように顔を近づけ唇を重ねます



 夜の帳が降りた海に、ふわふわと幻想的な光が漂う。それは自己主張しすぎることなく、ぼんやりと発光して。風に流されたわけでもなく、ときおり不規則に漂って。
「昼間とは雰囲気違うね……?」
 夕方の海ももちろん素敵だった。昼間の海とはまた違うなと思った。けれども光漂う夜の海は普通の夜の海とも違っていて、雰囲気に飲まれそうにもなる。
 桃色寄りの薄紫色の水着にその豊満な身体を包んだルネ・アッシュフォード(妖狐の剣豪・f00601)は、なんだか落ち着かずにきょろきょろあたりを見回してしまう。落ち着かないのはこの海の夜の雰囲気だけが原因ではない。ルネの歩調に合わせて隣を歩く、彼のせいでもある。
「この辺なら良さそうです。さて、花火しましょう」
 立ち止まって振り向いたのは、彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)。ワインレッドにチェック模様の入った表地の下に、もう一段おとなしい色の布を重ねて、フリル状にしたビキニを身に着けているいちごは、外見だけ見ればどこからどう見ても女の子だ。ルネと歩く姿も女の子の二人連れに見えたことだろう。現に男性客に声をかけられたりもしたが、彼はれっきとした男の子である。
 水の入ったバケツを置いて、まずは手持ち花火から。シュッと吹き出る炎や、パチパチ弾ける火花を楽しんで。
 あたりに人がいないことを確認して、噴出するタイプの花火を倒れないようにふたりで並べて。火をつけたいちごがルネのいる位置まで戻ってくるのを待って、ふたりでそれを眺める。
 噴水のように吹き出したかと思えば、ぱちぱちと火花が散って。赤だったかと思えば、黄色へと色を変えたり。そんな不思議な光景に、視線を向けて。
「ふたりきりっていうのもなかなか珍しいですよね」
「そうだね、普段は寮の子たちと一緒だからね」
 普段は寮の仲間たちが一緒の事が多いものだから、なんとなくふたりきりというのが落ち着かない気がする。けれどもそれは居心地が悪いというのとは、ちょっと違って。
「あの賑やかなのが好きなんだけどねっ」
 笑って呟かれたルネのその言葉は、いちごとふたりきりというこの時間を否定するものではない。
 吹き出し花火が終わるのが、妙に遅く感じさえした――不思議だ。

「次はこれにしましょう」
 そう告げていちごが取り出したのは、ねずみ花火だ。3つのねずみ花火に一度に火をつけ、自分たちの前へと放る。砂浜をしゅるしゅる回転しながらせわしなく走るねずみ花火もまた、夜に映えて。
 けれども。
「あっ、こっちに来ます!」
「えっ……ど、どっちに逃げればっ……!?」
 3つのねずみ花火がそれぞれバラバラにふたりに接近してくるものだから、ふたりとも慌てて逃げ惑うことになってしまった。自然と、視線も砂浜の上のねずみ花火ばかりを見ることになり――。

「きゃっ!?」
「わっ!?」
 
 気がつけば、お互いの位置を把握できていなかった。ぶつかって、抱き合う格好になって初めてそれに気が付き。

「あ、すみません……」
「だ、だいじょうぶだよ」

 けれども薄着で触れ合うハプニングに、ふたりの意識は互いにだけ向いて。
 なんとなく、素早く離れるのは違うような、もったいないような、もう少しこうしていたいような……。
 いつの間にかねずみ花火は、気を使ったかのように動きを止めていた。

 * * *

 小さくて静かだけれど、確かにここにある灯火。
 向かい合ってしゃがんで火をつけたのは、線香花火だ。
 落ちないように、落とさないようにと最初は花火を見ていたはずなのに。
(「あっ……」)
 うつむき加減で花火を見つめるルネの顔を、花火越しに見つめたいちごの鼓動が早くなる。なんでだろう、妙に彼女が色っぽく見えて。
「……、……」
 視線に気がついたルネもまた、顔を上げて彼の青い瞳を見つめる。
 絡み合った視線を、なかなかほどくことができなくて。
「あっ、落ちちゃう……」
「……あ」
 ようやく花火に意識を向ければ、火花が途切れ――線香花火の先がくっつくように、どちらからともなく、吸い込まれるように……。
「んっ……」
 重なる唇は、線香花火が消えても、暫くの間離れることはなかった。
 もうしばらくこのままで――それが、ささやかな願い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
友達の明(f00192)と【夜】に

水着コンテスト、入賞おめでとう
今日はその労いに
ちょっとの夜更かしは…特別だよ

いつもと変わらぬ服で、袖とズボンの裾だけまくって
今日は本当におめでとう
可愛らしかったよ、本当に

お祝いにアイスを食べようか
オレはスミレのアイスにしようかな
メイは?

寄せては返す波音が心地いい
人工精霊光と言われて、精霊使いのオレには不思議な光景
綺麗と言われて雪精のneigeも嬉しげにくるり

…メイ、食べる?
スミレのアイスを見せて
スプーンですくって、その小さな口へ
喜んでくれたら、表情は判りにくいだろうけれど、そっと目を細め
メイがくれるなら、1口貰って
甘い、美味しいね
そっと彼女の髪をそっと撫でた


辰神・明
ディフおにいちゃん(f05200)と【夜】に

ディフおにいちゃーん!(とてとて)
うん!メイ、頑張りました、です……!
夜ふかしさん、いつもはめっ!だけど
でも、今日だけは……特別、です、ね?

(褒められ慣れていないので、真っ赤に)
ディフおにいちゃんの、水着姿も
とーっても!うーんと!かっこいいと思うの、です

メイは、メイは……イチゴがいい、です!
スミレのアイスも、きれー、です

人工精霊さん……!
ネージュさんみたいに、きらきら……!
ふわりふわりと浮かぶ光を、目で追いかけて

た、食べたい、です
わがままかな、と思うけれど
スミレのアイスはおいしくて、お返しにイチゴも一口
ディフおにいちゃん、楽しそう……です?嬉しい、な



「ディフおにいちゃーん!」
 自分へと、手をぶんぶん振りながらとてとてと歩いてくる辰神・明(双星・f00192)を、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は静かに待つ。少女が傍らへとたどり着けば、ディフはしゃがんで視線の高さを合わせるようにして。
「水着コンテスト、入賞おめでとう」
 紡ぐ声は柔らかく、穏やかに。
「うん! メイ、頑張りました、です……!」
「今日はその労いに、ちょっとの夜更かしは……特別だよ」
 告げれば少女の表情がぱあっと花開いたものだから、連れてきてよかったと、ディフは心の中で呟く。
「夜ふかしさん、いつもはめっ! だけど、でも、今日だけは……特別、です、ね?」
 まだ七歳の明にとって、夜の海、夜の街並みは特別なものだ。普段は特別な場合を除いて、夜に外に出るどころか就寝していてもおかしくない時間だ。けれども今日、まだ眠くならないのは、お祭りの空気にあてられて興奮しているからだろうか。
 はぐれないように、とそっと差し出されたディフの手を握り、ふたりはゆっくりと施設へと向かって歩いてゆく。
「今日は本当におめでとう。可愛らしかったよ、本当に」
「あ、ありがとう、です……!」
 彼の真っ直ぐな称賛に、褒められ慣れていない明は夜でもわかるほど頬を染める。
 少女らしい、清楚で可愛いワンピース姿の水着は、水着のアクセントに使われている濃いめのピンク色の布をリボンにした帽子と、ペンギン(?)のビーチボールと合わさって、明の可愛さを的確に引き立たせていた。
「ディフおにいちゃんの、水着姿も、とーっても! うーんと! かっこいいと思うの、です」
「そう、かな?」
 ディフはいつもと変わらぬ装いで、違う部分といえば袖とズボンの裾をまくっているくらいだ。あまり自分の水着姿は想像できないが、そう言われると少し考えてみようか、とも思う。
 そんなふたりがたどり着いたのは、屋外にある軽食とスイーツのコーナーだ。そばにイートインスペースもある。
「お祝いにアイスを食べようか。オレは……スミレのアイスにしようかな」
 ラインナップを見て早々に決めたディフは、カウンターのメニューが見やすいようにと明を抱き上げた。
「メイは?」
「メイは、メイは……イチゴがいい、です!」
 豊富なラインナップに少々迷った様子の明だったが、選んだのはかわいいピンク色をしたいちごのアイス。
「スミレのアイスも、きれー、です」
 ディフの選んだスミレのアイスは柔らかな薄紫色をしていて、まるで明の髪の色のようだった。

 せっかくだからと海の近くへと向かい、砂浜へと降りる階段へふたりで腰を下ろして。
 寄せては返す波音が耳朶に触れ、とても心地よい。
 建物の近くにはあまりいなかった光が、ふよふよとふたりのそばへと寄ってきた。
「人工精霊さん……!」
 明はその柔らかな光に目を輝かせたが、精霊使いのディフとしてはなんだかとても不思議な感じである。
「ネージュさんみたいに、きらきら……!」
 ふわりふわり、ふよふよと他の光たちもふたりの周りを泳ぐ。その姿を明は目で追いかけている。
 明に綺麗と言われて、ディフの肩付近にいた雪の精霊のNeigeは嬉しそうにくるりくるりと回ってみせた。だが、Neigeは途中で回転を止めて、ディフの頬をつんつんとつつくように触れてきて。
「ああ、ありがとう。メイ、アイスが溶けてしまうよ」
「あっ……そう、でしたっ!」
 Neigeとの意思疎通により得た情報で、ディフは明のアイスへと視線を向ける。ディフのスミレのアイスはカップに入れてもらったので多少溶けても大丈夫だろうが、コーンに乗せてもらった明のいちごのアイスは溶けたら垂れてきてしまう。
 慌てて溶けかけた部分から食べ始める彼女を、穏やかに見守って。ちょっと落ち着いたかなというタイミングで、ディフは口を開いた。
「……メイ、食べる?」
「た、食べたい、です」
 向けられた、スミレのアイスの入ったカップ。わがままかな、とは思うけれどあの綺麗な薄紫色がどんな味なのか、気になって。
「はい」
 スミレのアイスを掬ったスプーンを向けられて、明は思い切ってぱくりっ。
「おいしい、です……!」
 彼女が素直に感情をぶつけてくるものだから、ディフは無意識にそっと、目を細めた。
「お返しに、一口、どう、ですか?」
 貰いはしたが使用していなかったスプーンでいちごのアイスを掬い、躊躇いがちに明は差し出す。迷惑かな、なんて思いもしたけれど。
「ありがとう」
 ディフは躊躇わずに一口もらって。
「甘い、美味しいね」
 そう告げる声音が、いつもより多少弾んでいるように聞こえて。心配が杞憂だった安堵で明は胸をなでおろした。
「ディフおにいちゃん、楽しそう……です? 嬉しい、な」
 滅多に表情を動かすことのないディフ。けれどもなんとなく、声色と言葉からだけでなく、他の部分からも彼が楽しそうな気配を感じたものだから、明ははにかむように微笑んで。
 ディフはそれに言葉ではなく、彼女の髪を優しく撫でることで応えた。

 * * *

 波音は、色を変えながら来客者達の耳に囁き、あるいは彼らにそっと寄り添う。
 黄昏と薄闇は繰り返す。
 寄せては返す波のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月03日


挿絵イラスト