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薔薇の迷宮と双子の悪意

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●赤薔薇の迷宮庭園
「あの子は無様だなぁ、アイボリー」
「あの子は健気だね、エボニー」
 むせ返るような花と血の匂いに満ちた美しい庭園を、夜空から見下ろす双子の吸血鬼。
 黒の弟エボニー。白の兄アイボリー。手を結び合う仲睦まじき二人は、くすくす、くすくす、と嘲るような冷笑を浮かべている。

 ――絹を裂くような少女の悲鳴。それは双子の眼下の庭園から上がる断末魔。

「また一人死んだね、アイボリー」
「次は誰かな、エボニー」
 ここは双子の作り上げた遊技場。赤い薔薇の咲く迷宮庭園。
 囚われしは無垢なる少女たち。追い詰めるは不浄なる魔獣たち。

『――ここから出られたら助けてあげる』

 そんな口約束ひとつを希望にして、必死に逃げ惑う彼女たちの姿は、ほんとうに憐れで、健気で、無様で、愚かで。

「出てくるのは誰かな、アイボリー」
「楽しみだね、エボニー」
 くすくす。くすくす。双子の吸血鬼は嘲笑う。
 絶望の中から脱出してきた瞬間の少女の生き血。その甘美さを夢見て心躍らせながら。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(人間の精霊術士・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーにて、少女たちがオブリビオンの作り上げた迷宮に幽閉される事件が起きています」
 首謀者の名はエボニー・アイボリー。双子の吸血鬼の兄弟で、常に一組で行動する。
 彼らには目についた人間を迷宮に囚え、駆け回る様を見物して愉しむ趣味があり、既に多くの罪もない人間がその犠牲となっている。

「迷宮は双子の屋敷の敷地上に築かれた、赤い薔薇の生け垣で出来た巨大な庭園で、内部には数多くの魔獣や危険な生物たちが放たれています」
 吸血鬼の双子は領内のあちこちから若い少女をさらい集め、『脱出できたら助けてあげる』と告げて迷宮に閉じ込める。ほとんどの少女はさ迷い続けるうちに魔獣の餌食となり、二度と外に出ることは叶わない。
「そして仮に、幸運に恵まれて迷宮を脱出できたとしても――双子が約束を守ることはありません。彼らが最も楽しみにしているのは、脱出者の血を飲み干す瞬間なのですから」
 絶望の中で一縷の希望を信じ、困難を乗り越えた少女の「助かった」という希望が絶望に反転する瞬間――その生き血は、悪辣なる吸血鬼にとって最大の甘露となるのだろう。

「迷宮庭園の内部へは、リムがグリモアで直接転移させます。皆様はこれ以上の犠牲者が出る前に、迷宮をさ迷っている少女たちを発見し救助してください」
 迷宮内に放たれている危険生物は、少女たちには脅威であっても、猟兵にとってはさしたる敵ではない。問題はやはり、迷宮の主であるエボニー・アイボリーと、その直属の配下になる。
「高位の吸血鬼である双子には、普段は庭園の手入れを任されている配下のオブリビオンがいます。迷宮への侵入に気付かれれば、まずはこの配下が姿を現すでしょう」
 『黒い薔薇の娘たち』と呼ばれる双子の配下は、その役割上、迷宮庭園の構造を熟知している。主の"庭"を荒らす侵入者を排除せんと襲ってくる敵を、少女たちを護りながら撃退するのは少々骨が折れるだろうが、成し遂げる他に道はない。

「そして最後の障害となるのが、エボニーとアイボリーです」
 迷宮の出口で待ち構えているこの双子を撃破しない限り、死の迷宮から人々が解放されることはない。強敵であっても、避けては通れぬ相手だ。
「彼らの双子ならではの連携は脅威ですが、皆様の力であれば決して勝機のない相手では無いはずです」
 猟兵たちに信頼の眼差しを向けながら、説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべ、薔薇の迷宮庭園への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、吸血鬼の作り上げた迷宮に囚われた少女たちを救い出すのが目的となります。

 第一章では迷宮庭園の中をさ迷う少女たちを発見し、襲ってくる危険生物から彼女らを護りながら出口を目指します。
 第二章では猟兵の侵入に気付いて妨害に現れる『黒い薔薇の娘たち』との集団戦。
 第三章では迷宮の主である双子の吸血鬼『エボニー・アイボリー』との決戦になります。

 悪趣味な吸血鬼の遊戯にどうか終止符を。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『ヴァンパイアの国のアリス』

POW   :    薔薇の生け垣をなぎ倒して迷宮庭園を進み、女の子を助ける

SPD   :    危険生物を素早くかわして女の子を助ける

WIZ   :    迷宮庭園の構造を調べて、抜け道や隠し通路を駆使して女の子を助ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴェル・ラルフ
…悪趣味な双子。吸血鬼そのものが大嫌いだけど…約束守らないってのが、一番、気にくわない。


SPD
まずは、迷宮の中にいる少女たちを探す。少女たちの足跡や音を頼りに[追跡]

途中怪物を見つけたら[早業]で[暗殺]。武器は「明けの鈴」と「暮れの鈴」の対となるナイフ。無駄に動き回りたくないし、さくっと殺っとこう。

少女発見時、敵が周囲にいれば同様に応戦。
「大丈夫?よく頑張ったね」
少女は恐怖に心が締め付けられて、疲弊してるだろう。女の子って繊細だからなぁ…驚かさないように、なるべく優しく笑顔で。

女の子を連れてるから無茶はせず慎重に出口を目指そう。
【雄凰】、おいで。彼女を背に乗せてあげて。

★アドリブ歓迎



「……悪趣味な双子。吸血鬼そのものが大嫌いだけど……約束守らないってのが、一番、気にくわない」
 静かに、噛みしめるような怒気を言葉に乗せながら、薔薇の迷宮庭園に降り立ったのはヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)。
 彼が最初に感じたのは、息が詰まりそうなほど強く満ちた薔薇の香気と、それでも隠しきれぬほどに強い錆びた鉄の匂い――美しく整えられたこの庭の薔薇が一体どれだけの血を吸ってきたのか、それだけで想像するに余りあった。

 怒りの表情を浮かべながらも、ヴェルはまず迷宮に囚われた少女たちを探索する。
 シーフとして豊富な隠密活動の経験を持つ彼にとっては、一般人に過ぎない少女の足取りを探すことくらいは容易いこと。庭園の地面に残る足跡を発見すると、微かな物音や息遣いも聞き逃すまいと耳をそばだてながら迷宮を進みはじめる。

(――見つけた)
 やがて足跡の主を視界に収めたヴェルは、咄嗟に息を潜め、薔薇の生け垣の陰に身を隠す。
 そこに居たのは、探していた少女だけではなく――今まさにその少女に襲いかからんとする、異形の獣がいたからだ。
「グルルルルル……ッ」
「いや、来ないで……っ!」
 瞳に涙を浮かべながら、地面にへたりこんでいる少女。
 猟犬をより獰猛かつ巨大にしたような外観の魔獣は、獲物の命乞いに耳を貸すこともなく、その牙を剥き――。

「――そこまでだ」
 言葉とともに、闇を斬り裂く二振りの刃。
 少女にも魔獣にもまったく気配を悟らせることなく近付いたヴェルは、両手に握った対のナイフ――黒刃の「暮れの鈴」と白刃の「明けの鈴」を振るう。
 無駄な動きを一切削ぎ落とした暗殺の技は、目にも留まらぬ早業で標的の生命を刈り取った。
 どう、と崩れ落ち、それきりピクリとも動かなかった魔獣には目もくれず。武器を収めたヴェルは目を丸くしている少女に手を差し伸べる。
「大丈夫? よく頑張ったね」
 死の恐怖に心を締め付けられ、疲弊しているだろう少女を驚かさないように、整ったかんばせには優しい微笑を浮かべ。少女からすれば、絶体絶命の窮地に颯爽と現れた彼のことが、まるでお伽噺の王子様のように見えたことだろう。

「あ……は、はいっ。助けてくれてありがとうございます……痛っ」
 思わずほうと顔を赤らめた少女は、すぐにはっとなってヴェルの手を取るが、ふいに表情を引きつらせながら脚を押さえる。
 見れば、足首の辺りがかなり酷く腫れている。魔獣に追われ、庭園を逃げ回るうちに挫いてしまったらしい。
(女の子って繊細だからなぁ……)
 戦いの訓練も受けていない少女の心身は儚く脆い。それを改めて実感したヴェルは、彼女の"足"として気紛れで我儘な相棒を呼ぶ。
「雄凰、おいで。彼女を背に乗せてあげて」
 現れたのは彼の倍はあろうかという巨躯を誇る、美しくも勇壮なヘビクイワシ。
 すわ新しい魔獣かと体を強張らせた少女を「大丈夫だよ」と宥め、その背中に彼女の背中を預けた。

(ここから先は無茶はできないな)
 護るものがいればどうしても動きは鈍る。少女を乗せて舞い上がる雄凰を連れて、ヴェルはより一層の慎重さと警戒心を強めながら迷宮を進む。
 今ださ迷っているはずの他の少女たちと、この迷宮の出口を探して。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
吸血鬼のやる事は相変わらず陰険というか…。

【呪詛、情報収集、高速詠唱】による探知呪術で周囲の地形情報や近くにいる少女の居場所を把握…。
【呪法・影竜進化】で連れて来たミラ達を影竜へと進化…。
影に潜航させて地形をショートカットして女の子の下へ先行させ、到着まで魔獣から守って貰うよ…。
ミラ達は喋れないから、一応、「この子達は味方で、今救助に向かってる」って手紙を持たせておくよ…

わたし自身も見つけた抜け道や隠し通路を使い、敵を黒桜や凶太刀で薙ぎ倒しながら後を追って、見つけ次第保護するよ…。

ここまでの間に怪我とかしてるかも…応急キットとか持って行った方が良いかな…。
後は疲労回復と精神安定剤代わりに飴玉…



「吸血鬼のやる事は相変わらず陰険というか……」
 微かに眉をひそめることで不快感を示しながら、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は薔薇の迷宮庭園を見渡す。
 ただ見るだけならば、華美に過ぎることなくよく手入れされた美しい庭だと思えるだろう。しかし今の彼女には一帯に満ちるおぞましい魔力や呪詛がはっきりと視える。
 それがこの迷宮を作り出したオブリビオンの悪意と、犠牲となった人々の遺した怨念であることは明らかだった。

 不可視の霊や魔力を可視化する「霊魔のレンズ」を装着した璃奈は、自らの呪力を使って探知呪術を発動すると、周辺の情報をその視界に表示し把握する。
 その結果、付近に魔獣から逃げているらしい少女の反応を発見した彼女は、迷宮に連れてきた3匹の仔竜――ミラ、クリュウ、アイに【呪法・影竜進化】を使用する。
「我が家族たる竜達……闇の衣を纏いて仮初の進化を得よ……お願いみんな、わたしに力を貸して……」
 璃奈の呪力を与えられた仔竜たちは、一時的に影を操る力を持った影竜へと成長を遂げ。璃奈の願いに応じるように短く咆哮すると、迷宮の影の中に潜航した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……も、もうだめ……」
 璃奈のいる場所から直線距離ではほど近く――しかしその間を生け垣の壁に阻まれた向こう側では、少女が今まさに魔獣の餌食になろうとしていた。
 出口の見えない迷宮を当てどなく逃げ回り、ついに疲労から動けなくなった少女は、襲い掛かる魔獣の牙を前にただ絶望することしかできない。
 ――しかしその時、彼女の足元の影から、3体の影竜が音もなく姿を現した。
「グルルッ!?」
「なっ、何っ?!」
 突然の乱入者に警戒を露わにするのは魔獣も少女も同じ。しかし影竜たちがどちらの味方なのかはすぐに明らかとなる。
 ミラ、クリュウの2体は少女を狙う魔獣に猛然と襲いかかり、3体目のアイは少女の傍らに寄り添いながら璃奈に託された手紙をぽとりと落とす。
『この子達は味方。今救助に向かってる。大丈夫』
 短く簡潔に記されたそれは、少女を安心させるための璃奈からのメッセージだった。

 その手紙の内容に違わず、影竜たちを先行させた璃奈は妖刀を手に迷宮を疾走していた。
 生身である彼女はミラたちのように影に潜って地形をショートカットすることはできないが、探知呪術によって周囲の地形情報は把握済み。隠されていた抜け道や隠し通路も含めて、目的地への最短ルートは頭に浮かび上がっている。
「「「グルルルルッ!」」」
 迷いのない足取りで迷宮を駆ける巫女の少女の前に立ちはだかるのは魔獣の群れ。邪魔しないで、と言わんばかりに璃奈は速度を緩めることなく先頭の一頭を妖刀・九尾乃凶太刀で斬り捨てると、呪槍・黒桜へと得物を持ち替える。
「呪力解放……」
 槍から吹き荒れる黒い桜の花弁にも似た呪力の暴風が魔獣たちを吹き飛ばし。瞬く間に障害を片付けた璃奈は、そのまま生け垣の隙間にある抜け道に飛び込み、影竜たちが護る少女の元へ辿り着く。

「無事でよかった……」
 少女を襲っていた魔獣は、影竜によって既に倒されていた。褒めてほしそうに人懐っこく寄り添ってくるミラたちを撫でながら、璃奈はへたりこんでいる少女の様子を診る。
「足、擦りむいてるね……手当てするから、みせて……」
「あ、ありがとう、ございます」
 準備しておいた応急キットで怪我の処置を行いながら、お礼を言う少女の口にぽい、と飴玉を放り込む。
「! あ、甘い……」
 最初は驚かれたものの、この世界ではなかなか手に入らないであろう甘味は、助けられた安堵感と共に、少女の肉体と心の疲労を癒やしていった。

「このまま出口まで連れて行くから……もう少し頑張って……」
 少し表情の和らいだ少女を励ますと、璃奈は再び探知呪術を起動して迷宮探索を再開する。
 このまま一人でも多くの少女を保護しながら、迷宮の出口を見つけ出すために。

成功 🔵​🔵​🔴​

オウカ・キサラギ
SPD

やっぱり吸血鬼ってヤな奴ばっかりだ!
人に希望を与えて、その後に絶望させて更に命まで奪うなんて本当に許せない!
絶対にやっつけてやるんだからね!

迷路についたらボク自身が見つからないように【迷彩】しながらできるだけ【ダッシュ】で急いで被害者たちを見つけるよ!
見つけたら動揺してるだろうから【コミュ力】【礼儀作法】【優しさ】で落ち着かせよう。
もしケガをしてるなら【医術】で応急処置もしないとね!

被害者たちを連れて脱出する時は【第六感】で怪物の場所を察知して【スナイパー】【先制攻撃】でサクッとやっつけるよ!



(やっぱり吸血鬼ってヤな奴ばっかりだ!)
 純真な怒りを胸に秘めて、オウカ・キサラギ(お日様大好き腹ペコガール・f04702)は薔薇の迷宮庭園を駆ける。
 ここは囚われた者の生命と未来を閉ざす死の迷宮。苦難を乗り越えて奇跡的に脱出を果たしたとしても、待っているのはより深い絶望に満ちた死でしかない。
(人に希望を与えて、その後に絶望させて更に命まで奪うなんて本当に許せない! 絶対にやっつけてやるんだからね!)
 決意を深く固めながら、まずは囚われた少女たちの捜索を。冒険者としてもシーフとしても経験を積んだ彼女の足運びは静かで、風のように素早かった。

 自分自身が見つからないよう、薔薇の生け垣に合わせた迷彩柄の布を使って隠密裏に移動するオウカ。
 徘徊する魔獣も難なくやり過ごし、迷宮内を探索することしばし。ついに彼女は被害者である少女を発見する。
「見つけた! 大丈夫?」
「ひゃっ!? あ、あなたは……? もしかして私と同じ、ここに拐われてきた人……?」
 オウカが声を掛けると、振り返った少女は動揺した様子でおどおどと見つめながら問いかけてくる。
 突然こんな場所に閉じ込められれば、不安になるのも無理はないだろう。少女を落ち着かせるために、オウカは努めて明るい笑顔を浮かべながら優しい調子で話しかける。
「ボクは拐われたんじゃない、キミたちを助けに来たんだよ。あの吸血鬼からね」
「ほ、本当ですか? でも、いったいどうやって……」
「詳しい説明は後でね。その前にケガはしてない? 擦り傷でも化膿すると後が怖いから、ちゃんと手当てしないとね」
 手持ちの道具と医術の知識を活かして、手早くケガの応急処置を行うオウカ。
 治療してもらったことに加え、初対面であることを感じさせない朗らかなその人となりに触れたこともあって、少女の不安と警戒心はやがて緩んでいった。

「これでよしっと。それじゃあ行こうか。ボクの後について来てね」
「は、はいっ」
 こくこくと頷く少女を連れて、オウカは移動を再開する。ここから先の道中は隠密行動に不慣れな素人を連れている分、より注意して進む必要がある。
 五感と第六感を研ぎ澄ませ、常に周辺の状況を把握し続ける。それは他の被害者を探すためでもあり、脅威の接近を見落とさないためでもある。
(――止まって)
 ふいにオウカは囁き声と身振りで少女に合図を送り、近くの生け垣の陰に身を潜める。その視線の先では、一頭の狼のような大柄な魔獣が行く手を塞いでいた。

 もし、これがオウカ一人なら、魔獣に気付かれないようさっと通り抜けることも可能だったろう。しかし少女の方にそれと同じ芸当を求めるのは酷というものだ。
(なら、サクッとやっつけるよ!)
 ポーチの中から愛用のスリングショットと魔石弾を取り出すと、物陰からじっと標的に狙いを定め、ぐっと紐を引き絞って――放つ。
 音もなく飛んでいった弾丸は魔獣の急所にヒットした瞬間、込められた魔力を解放して破裂する。
「ギャゥンッ?!」
 甲高い悲鳴を上げてドサリと倒れた魔獣は、それっきり起き上がってくることは無かった。

「す、すごい……」
「それほどでもないよ。さあ、先を急ごう」
「あ、はいっ」
 悲鳴を聞きつけて新たな魔獣がやって来る前に、オウカと少女は速やかにその場を後にする。
 出口までの道のりはまだ長い。それでも彼女たちの足取りに迷いはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
…つくづくこの世界の吸血鬼は悪趣味で嫌になるわね…。

【ブラッディ・フォール】で「蘇る黒き焔の魔竜」の「黒焔魔竜・ヴェログルス」の力を使用(ヴェログルスの角や翼、尻尾等が付いた人派ドラゴニアンの様な姿に変化)。
【生ヲ貪リ喰ラウ黒キ焔蛇】を庭園中に放って女の子の捜索や魔獣の排除を指示。
女の子を確認次第、生け垣を黒焔【属性攻撃】や黒焔を纏った魔槍で薙ぎ払い、魔獣を排除しながら救出するわ。

女の子に会ったら【催眠術】で落ち着く様に言い聞かせて、精神を落ち着かせた後、救出に来た事を告げて他の生存者のコとかの事も確認しつつ、出口を目指すわ。

いっその事、一気に焼き払ってしまいたいけど…今は我慢ね…



「……つくづくこの世界の吸血鬼は悪趣味で嫌になるわね……」
 薔薇の迷宮庭園を歩くフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)の唇から、ふぅ、と物憂げなため息が零れる。
 同じ種族の血を引く者として、弱者をただ弄ぶようなその性癖には思うところがあるのか。本人に問えば同族とはいえ同類扱いしないでほしい、という答えが返ってくるかもしれない。

「こんな悪趣味な遊戯、さっさと終わらせるわよ」
 そう呟いてフレミアが発動するのは【ブラッディ・フォール】。彼女が過去に討伐したオブリビオンの中から、アルダワの迷宮で交戦した「黒焔魔竜・ヴェログルス」の力をその身に降ろす。
 魔竜の角や翼や尾を生じさせ、人派のドラゴニアンに似た姿に変貌した彼女は、魔竜のユーベルコードの一つ【生ヲ貪リ喰ラウ黒キ焔蛇】を発動する。
 喚び出された禍々しき黒焔の蛇の群れは、本来は敵を蝕み焼き尽くすためのものだが――標的をどこまでも追尾する特性を持つそれを、今回は偵察のために利用する。
「行きなさい」
 フレミアがさっと手を振ると、放たれた黒蛇は庭園中に散っていき、徘徊する魔獣やさ迷う少女の捜索に向かう。
「グルルッ!?」
 排除対象たる魔獣を発見すれば、即座に鎌首をもたげて襲い掛かり。闇と炎そのものである蛇体で縛り上げ、牙から黒焔の毒を注いで焼き尽くす。
 次第に庭園のあちこちからは、焼けた魔獣の骸の焦げ臭い匂いが漂い始めた。

「――見つけたようね」
 魔獣の排除が進む一方、別の蛇の反応から少女の位置を確認したフレミア。
 その方角に向けて手をかざすと、放たれた黒焔の弾丸が薔薇の生け垣を焼いた。
 そのまま彼女は迷路など知ったことでは無いとばかりに黒焔を纏った魔槍「ドラグ・グングニル」で障害を薙ぎ払い、一直線に少女の元へと向かう。
「ひゃっ!? なっ、なにっ?!」
 突然、黒い焔と共に姿を現した金髪紅瞳の美少女に、動転したのは少女のほう。
 魔獣ではないことは一目で分かっても、敵か味方かは分からない――目を白黒させる少女に、フレミアは穏やかに呼びかける。
「落ち着きなさい。わたしは敵じゃないわ。安心して」
「え……ぁ……はい……」
 フレミアの瞳に見つめられながらその言葉を聞いた少女は軽い催眠状態にかかり、平静を取り戻していく。

 もう安心よ、ともう一度言い聞かせてから、フレミアは少女に問いかける。
「わたしは貴女達の救出に来たの。他の生存者のコについて何か知らないかしら?」
「あ……私と同じように、ここに拐われてきた子なら、さっき向こうのほうで出会いました。でも、魔獣に襲われて、はぐれちゃって……」
 相手が魔獣に喰われるところは見ていないが、自分も逃げるのに精一杯で、それから相手がどうなったのかは分からないらしい。
「そう。なら、そのコも助けないとね」
 ある程度の見当がついているなら捜索はできる。フレミアは黒蛇の群れに少女がはぐれたという場所の周辺を探させながら、自身も保護した少女を連れて迷宮を進む。
 その途中に立ちはだかる障害は、迷宮の壁だろうと魔獣だろうと排除する。
「ギャオォォォォッ?!」
 黒焔の魔槍に貫かれた魔獣は、内側から焼かれる苦痛に悶え苦しみながら、フレミアの影を踏むことすらなく塵に還っていった。

「いっその事、一気に焼き払ってしまいたいけど……今は我慢ね……」
 まだ全ての被害者の救助が終わっていない今、これ以上に規模の大きな攻撃をするのはリスクが高い。
 溜まるフラストレーションをぐっと押さえ込みながらフレミアは少女たちの捜索と救助を続け、迷宮の出口を目指すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

迷宮に少女を閉じ込め、例え少女が脱出できたとしても……。
「……」
少女達の末路を想像し溜息をひとつ。
「……悪趣味だな」
最悪の未来を迎えないように、微力ながら力になりましょう。

まずは少女たちをみつけなければ。
恐怖した者の息遣いは荒いはず。【聞き耳】で呼吸の音を探り、迷宮内の少女を見つけます。

「貴女方を助けにきました」
少女を発見したら敵ではないことをアピールして、警戒心を解きます。
迷宮は【失せ物探し】で抜け道を探し出し、出口までなるべくショートカット進行。
道中を邪魔する敵がいたら、UC【執行者たるトランプ兵】で一掃します。
敵の攻撃が少女に向かうようであれば身を挺して【かばう】



「……」
 無言のままに薔薇の迷宮庭園の中を歩く、薄緑の髪に紅瞳の青年。有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は、ここに拐われてきた少女の末路を想像していた。
 迷宮に少女を閉じ込め、例え少女が脱出できたとしても……。
「……悪趣味だな」
 溜息がひとつ、零れる。この想像を、現実のものにするわけにはいかない。
(最悪の未来を迎えないように、微力ながら力になりましょう)
 そう誓いを立てて、青年は迷宮探索を開始する。

(まずは少女たちをみつけなければ)
 息をひそめ、耳をそばだて、周辺の音に聞き耳を立てる。
 聞こえる。恐怖にとらわれた者の荒く乱れた息遣いに、ぱたぱたと慌てて駆けていく軽い足音。それが囚われの少女のものと確信した夏介はすぐにその音を追う。

「――だ、誰っ?!」
 見つけた少女は、これまで酷い目にあったのか。服はボロボロで体は傷だらけ、不安と恐怖に満ちた眼差しで近付いてきた夏介を見つめる。
 夏介は両手を挙げて敵意がないことをアピールしながら、努めて穏やかに丁寧な調子で語りかける。
「貴女方を助けにきました」
「た、助けに……? ほんとに……?」
「本当です。怪我は大丈夫ですか?」
 携帯している簡易医療キットで軽い手当を行いながら、自分の目的を繰り返し説明すれば、やがて少女の警戒心も解れていった。

「では行きましょう。私から離れないように」
「わ、わかりましたっ」
 こくんと頷く少女を連れて、夏介はこの迷宮の出口を求めて移動を再開する。
 失せ物や隠されたものを暴く技に長けた彼は、風の流れやちょっとした違和感から「この辺りかな」と見当をつけ、生け垣の薔薇をかき分ける。
 するとその向こうには、ギリギリ大人一人が通れるくらいの幅の抜け道が通じていた。
 おそらくは庭園の管理者たちが内部を移動するために用意された秘密の通路。これを利用すれば、普通に迷路を進むよりも遥かに速く出口にたどり着けるはずだ。

 抜け道というショートカットを使って快調に迷宮を進んでいく夏介と少女。
 だが、その行く手にはこの迷宮の障害たる魔獣の群れが立ちはだかる。
「グルルルルルル……ッ」
 少女であれ猟兵であれ、侵入者は等しく貪り食らうつもりの獣たちは、低く唸り声を上げながら二人に襲い掛かる。
「きゃ……っ!!」
 思わず悲鳴を上げてうずくまった少女の前に、咄嗟に飛び出して身を挺する夏介。
 獣の牙が腕に食らいつき、僅かに血が流れる――だがこの程度大した傷ではない。
「判決はくだった」
 淡々とした宣告と共に、懐から取り出したのはスペードのエースのトランプ。【執行者たるトランプ兵】が発動した瞬間、夜の帳を切り裂いて、天からの光が獣たちを一掃する。
「「ギャォォォォンッ!?」」
 悲鳴を上げて塵に還っていく魔獣。猟兵の力を以てすれば、この程度の獣など脅威にはなりはしない。

「大丈夫でしたか?」
「は、はい……それよりあなたの方こそ、血が!」
「大した傷ではありません」
 手早く止血を行い、青ざめる少女を落ち着かせると、夏介はまた移動を再開する。
 目指すべき出口は近い。彼はそれを直感で感じ取っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。この迷宮は普通に転移できるみたいね。
あの兄弟が創造した迷宮だったら厄介な事になっていたけど、
これなら何とかなる…かな?

“精霊石の宝石飾り”に魔力を溜め、
目立たない精霊の存在感を見切り、
暗視した精霊の残像に祈りを捧げ協力を呼び掛ける

…風の精霊、大気の精。
魔物の近くにいる少女の居場所を、私に教えて…?

怪力の踏み込みから空中戦を行う“血の翼”の推進力を加え、
UCを発動して霧化し壁をすり抜け、一直線に少女の下へ向かうわ。

魔物は生命力を吸収する大鎌をなぎ払い撃退した後、
事前に【常夜の鍵】を刻んだ手袋を差し出し手を繋ぎ転移させる。

…ん。助けに来たわ。
今から送る場所に居れば安全だから、抵抗しないでね?



「……ん。この迷宮は普通に転移できるみたいね」
 グリモアの力によって薔薇の迷宮庭園に転移したリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、無事に迷宮内に入れたのを確認して小さく頷く。
 以前、今回の事件と同様のオブリビオンと交戦した経験のある彼女は、敵が使うユーベルコードの効果に「空間転移の妨害」があることを知っていた。
「あの兄弟が創造した迷宮だったら厄介な事になっていたけど、これなら何とかなる……かな?」
 少なともこの庭園はユーベルコードの産物ではないらしい。ただ作り込まれただけの迷路が相手なら、攻略の手段も増えるというものだ。

 リーヴァルディは虹色の光を放つ「精霊石の宝石飾り」にそっと指先を当てると、魔力を注ぎながら闇に目を凝らす。
 普段は決して目に映らないが、常にそこに在るもの。自然の象徴である精霊たちの存在を感じ、その残像を捉える。
「……風の精霊、大気の精。魔物の近くにいる少女の居場所を、私に教えて……?」
 精霊との交信に必要なものは祈り。石を通じて協力を呼びかけるリーヴァルディの声に、庭園に吹く風はひゅうと柔らかな音色で応えた。
 風が運んでくるのは音と匂い。薔薇の香りに紛れる獣臭。誰かの足音。荒い息遣い。咆哮。微かな悲鳴――そして血の匂い。

「――!」
 それを感じた瞬間、リーヴァルディは弾けるように地を蹴った。
 ダンピールの脚力に、背中から放出した魔力の双翼――血の翼の推進力を重ね、一直線に救うべき少女の下へと向かう。
 回り道をしている暇はないと、発動するのは【吸血鬼伝承】。物語の吸血鬼さながらの変身能力を得た彼女は、その肉体を霧に変えて迷宮の壁をすり抜ける。
 最速で最短距離を突き抜けたリーヴァルディの視線の先には、今まさに魔獣の牙に噛み千切られようとしている少女の姿があった。

「……やらせない」
 即座に霧化を解除したリーヴァルディがその手に構えるのは、過去を刻むもの、グリムリーパー。
 数多の死者を喰らい過去を屠ってきた大鎌の刃が音もなく閃けば、魔獣の首は胴より離れ、どさりと地に落ちる。
「――ひっ?!」
 首なしになった魔獣の骸が大鎌に生命力を吸い尽くされ、塵に還っていく。目の前でそれを見た少女は、思わず引きつった悲鳴を上げた。
 これが猟兵の力。特にこの世界で幾多の戦歴を積んだリーヴァルディにしてみれば、少女を脅かした魔獣もそこいらの野良犬同然だった。

「……ん。助けに来たわ」
「た、助けに……?」
 突然現れたリーヴァルディの言葉に、少女はすぐには状況を飲み込めないようだった。しかし目の前で魔獣から命を救ってくれたことを考えれば疑う余地はない。何より今、少女には他に縋れるものは何もなかった。
「今から送る場所に居れば安全だから、抵抗しないでね?」
 納得がいった様子の少女に、リーヴァルディは手袋を嵌めた手を差し伸べる。そこには彼女自身の血で描かれた【常夜の鍵】の魔法陣が刻まれている。
「……信じます。あなたのこと」
 差し伸べられた手をぎゅっと繋いだ少女の姿が消える。
 この迷宮の外にある、常世の世界の古城に転送されたのだ。

「……ん。上手くいったみたい」
 転送が成功したことから、リーヴァルディは改めてこの迷宮では転移を妨害する力が働いていないことを確信する。
 この調子で一人でも多くの少女たちを救い出し、常世の城に匿うために、彼女はもう一度精霊石の宝石飾りに触れて、捜索を再開するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アロイス・グレイアム
アレンジ・絡み歓迎

無垢な少女たちを捕らえて惨殺するなど、到底許せないな
この迷宮内にいる少女たちは救ってみせる

少女たちが魔獣の危険に晒されている中、目の前のこいつらに構っている暇はなさそうだ
クーノ、彼女たちの下へ急ぐぞ!
傍らに銀狼を呼び、目を見合わせた

狼と左右に別れ交差しながら進んで敵を攪乱、麻痺攻撃を行い、隙を付いて突破を狙う
少女たちを見つけるのはクーノと第六感に頼るか

肉親を失った俺のような想いに遭わせる訳にはいかない
少女たちは必ず両親に会わせよう



「無垢な少女たちを捕らえて惨殺するなど、到底許せないな」
 静かな口調の裏に義憤を秘め、アロイス・グレイアム(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・f12900)は薔薇の迷宮庭園を駆ける。
 彼方から微かに聞こえる少女の悲鳴。今も救いを求めてさ迷っている彼女たちを救うには一刻の猶予も無い。
「この迷宮内にいる少女たちは救ってみせる」
 誓いを口にしながら走り続ける彼の前に立ちはだかったのは、異形なる魔獣の群れであった。

「グルルルル……ッ」
 野生の獣をより巨大に、かつ凶暴に歪めたような姿を持つ魔獣たち。
 迷宮の捕食者たる彼らの役目は、飼い主の庭の侵入者を残らず喰らい尽くすこと。
 だがこうしてアロイスが対峙している間にも、少女たちは魔獣の危険に晒されている。
「目の前のこいつらに構っている暇はなさそうだ。クーノ、彼女たちの下へ急ぐぞ!」
 彼の呼びかけに応え、傍らに姿を現したのは皇族の守護者たる銀の狼。一瞬、目を見合わせただけで互いの意思と作戦を理解しあった両者は、合図もなく同時に地を蹴った。
「ガルッ!!」
 アロイスは右に、クーノは左に。交差しながら接近する二人の動きに、魔獣がどちらを襲うべきか判断に迷った瞬間。アロイスは皇家に伝わりし魔法剣「雷帝継牙」を抜き放つと、雷光を纏った刃を一閃する。
「ギャゥゥッ!?」
 魔法剣に宿った雷の力が魔獣を感電させ、動きを鈍らせる。その隙を突いてアロイスとクーノは敵の群れを突破し、一気に距離を引き離した。

「クーノ、少女たちの居所は!」
 並走する守護者に尋ねると、銀の狼はその嗅覚を活かして少女たちの行方を追う。しかし迷宮内に充満している薔薇の香りのせいで、その精度も万全とはいかない。
 特にシーフのような探索に長けた技能を持っていない彼らは、分かれ道に出くわせば直感を頼りに進むしかないが――幸いにも今日のアロイスの第六感は冴えていた。

「ひっ!? た、食べないでっ!」
 探索の末に発見した少女は、駆け寄ってくるクーノのことを魔獣と勘違いしたのか、悲鳴を上げて後ずさる。
 すぐにアロイスは銀狼と少女の間に割って入り、警戒を和らげるよう礼節に則った態度で少女に語りかける。
「恐れる必要はない、この狼は味方だ。俺の名はアロイス、君を助けに来た」
「え……た、助けに? 良かったぁ……!」
 ほっと力が抜けてへなへなとへたり込みそうになる少女。その身体を支えながら、アロイスは付近に他の少女や魔獣の気配はないかクーノに探らせる。

「もう少しの辛抱だ。俺たちが必ず出口まで連れて行く」
「は、はい……! ありがとうございます!」
 周囲の警戒を強めながら迷宮を移動するアロイスとクーノ。少女は助けが来た喜びからか、ぽろぽろと涙を零しながらそれについて行く。
「私もう、ダメなんじゃないかって……お父さんやお母さんにも、二度と会えないんだって……」
 ――その言葉は、アロイスに過去の深い傷跡を思い起こさせる。
 失われた故郷。皇族である彼は皇国と家族を滅ぼした炎竜を探すために猟兵となった。この身を賭して仇を討つと、銀の狼に誓いを立てて。
(肉親を失った俺のような想いに遭わせる訳にはいかない。少女たちは必ず両親に会わせよう)
 胸の中の決意をより強く固めて、青年は銀狼と共に迷宮を行く。

 ――だが、少女たちを救出し迷宮を攻略する彼らの元には、新たな脅威が迫りつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『黒い薔薇の娘たち』

POW   :    ジャックの傲り
戦闘中に食べた【血と肉】の量と質に応じて【吸血鬼の闇の力が暴走し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    クイーンの嘆き
自身に【死者の怨念】をまとい、高速移動と【呪いで錬成した黒い槍】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    キングの裁き
対象のユーベルコードを防御すると、それを【書物に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。

イラスト:シャチ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 薔薇の迷宮庭園を攻略し、徘徊する魔獣を駆逐して少女たちを救出する猟兵たち。
 その道程は順調であり、途中で合流した彼らは、その感覚から迷宮の出口からもうほど近いところまで来ていると判断する。
 出口にはまだ、この迷宮を作った吸血鬼という最大の脅威が待ち受けているが――脱出行に一つの目処が立ったことで、少女たちからは安堵の声や表情が漏れる。

 ――だが、それをすんなりと許すわけにはいかない者たちがいた。

「困りますわね、イェーガー。主の庭をこんなに荒らしてしまって」

 ふいに迷宮のどこかから聞こえる女の声。それと同時に猟兵たちは、自分たちが無数の気配に囲まれていることに気付く。
 一体いつの間にここまで近付いて来ていたのか。薔薇の生け垣がひとりでに動き出し、その向こうから姿を現したのは、黒いドレスを纏った気品ある女たちだった。

「そのうえ主の玩具を外に連れ出されてしまうのは見逃せません」
「我らが主がお望みになるのは、自らの力と幸運によって絶望を乗り越えてきた者を、再び絶望に叩き落とした瞬間の甘美な血潮」
「それを邪魔されては、私たちが主のお叱りを受けてしまいますわ」

 右手に羽ペンを、左手に書物を持った女たちは、濁りきった冷たい眼差しで猟兵を、そして少女たちを睨みつける。
 彼女たちは『黒い薔薇の娘たち』。上位の吸血鬼たるエボニー・アイボリーに仕え、この迷宮庭園の管理を任された者たち。
 咲き誇る薔薇の手入れから魔獣の飼育に少女の監視と"補充"まで、この庭の全てを知り尽くした彼女たちにかかれば、こうして侵入者を包囲するくらいは容易なのだろう。

「主の庭に蔓延る害虫は駆除。ここで死んでいただきますわ、イェーガー」

 殺気を放つ黒い薔薇の娘たち。
 猟兵たちは即座に少女たちをかばいながら、臨戦態勢を取るのだった。
フレミア・レイブラッド
害虫呼ばわりとは言ってくれるわね…。見た目綺麗な子達だし眷属に加えてあげるのも、と思ったけど…少しお仕置きが必要かしら?

【虜の軍勢】でエビルウィッチ達を魔城から召喚。少女達の護衛を任せるわ。
任せたわよ、貴女達♪

【血統覚醒】を発動。本当の本気を出すまでも無いでしょうし、この状態で相手するわ。
強化された戦闘力と【残像】による高速移動で翻弄し、魔槍の【怪力、早業】の連撃で圧倒し【串刺し】にする等、死なない程度に完膚なきまで叩きのめすわ。

瀕死の状態にしたところで【魅了の魔眼・快】【誘惑、催眠術】で魅了を試してみるわ。魅了された子は眷属へ。拒否するなら…残念だけど容赦なく炎を纏った魔槍でトドメを刺すわ



「害虫呼ばわりとは言ってくれるわね……」
 すっと不愉快さを示すように眼を細めながら、フレミアは魔槍を構え直す。
 その視線の先にいるのは、その身に闇を纏いながら迫る、黒い薔薇の娘たち。
「見た目綺麗な子達だし眷属に加えてあげるのも、と思ったけど……少しお仕置きが必要かしら?」
「ご冗談を。我らの主はただ二人。仕置されるのは貴女のほうですわ」
 微笑みの裏に敵意を秘めて向かい合う両者。一触即発の空気を破ったのは黒薔薇。
 その淑女然とした姿に相反する人間離れした脚力で、主の庭を荒らす敵を排除せんと襲い掛かる。

「任せたわよ、貴女達♪」
「「はいっ、フレミア様!」」
 フレミアは自らの居城より召喚した【虜の軍勢】――かつての事件で遭遇し魅了した魔女たちに救出した少女の護衛を命じ、自らは前線に進み出る。
 真紅に輝くその瞳は【血統覚醒】を発動した証。しかし今フレミアが解放したのは、吸血姫としての彼女の力のほんの一端に過ぎない。
「本当の本気を出すまでも無いでしょうし、この状態で相手するわ」
「ダンピール風情に侮られるのは、不愉快ですわねッ!」
 余裕を見せるフレミア目掛けて、黒薔薇の娘は手刀を振り下ろす。常人が相手ならばそれで容易く首もへし折れよう一撃。しかし今、その手が切ったのは虚空のみ。
 驚く間すら与えず背後に回り込んだフレミアは、まるで虫でも払うかのように魔槍の柄を一振りする。
「きゃぁッ!?」
 血飛沫を散らしながら宙を舞い、迷宮の壁に叩きつけられた黒薔薇の娘は、悲鳴を上げたきりピクリとも動かなくなった。

「な……っ、よくも……!!」
 仲間を一蹴された娘たちは、怒りに表情を歪めながら一斉にフレミアを襲う。
 彼女らもまた吸血鬼の端くれ。闇の力を宿したその肉体から繰り出される徒手空拳は、本来であれば脅威と成り得るはずだった。しかし【血統覚醒】によって強化されたフレミアのパワーとスピードは、彼女たちの身体能力を完全に凌駕している。
「格の違いを理解しなさい」
 目にも留まらぬ速さで薔薇の庭園を駆けまわり残像で敵を翻弄しながら、フレミアは魔槍を突き放つ。ヴァンパイアの膂力と幾多の戦闘で磨かれた技術による、速さと重さを兼ね備えた連撃。たかだか庭師程度の眷属に防ぎ止められるものではない。
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
 圧倒的な力による猛攻を前に、黒薔薇の娘たちは反撃もままならぬまま次々に散っていく。

「馬鹿な、ただのダンピールが、これほどの力を――がッ?!」
 その惨状を目の当たりにして、動揺から驚愕、そして恐怖へと目まぐるしく表情を変化させた黒薔薇の娘――その胸を真紅の魔槍が貫く。
 あえて急所は狙わなかったフレミアは、串刺しにしたその娘の瞳を覗き込んで【魅了の魔眼・快】を発動する。
「わたしの僕になりなさい……あなたはもう、わたしのトリコ♪」
「う……ぁ……ふ、フレミア、様……」
 力の差を見せつけられた上で瀕死の状態にされ、完全に心の折れていた黒薔薇の娘は、魅了に抗えずフレミアに隷属を誓った。

「ご冗談を、と言ったはずです……誰がイェーガーなどの僕に……!」
 同じような状態で、それでも拒絶を示す意思の強い者もいたが――あくまで抵抗するというならフレミアも容赦はしない。魔槍の穂先に炎を纏わせ、灰の一欠片も残さぬよう完全にとどめを刺す。
 何れにせよ黒い薔薇の娘たちは、フレミアという吸血姫を侮った代償と後悔を、その身と心で味わうこととなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オウカ・キサラギ
SPD

捕まった子たちはお前たちのおもちゃなんかじゃない!
そんなに命を弄びたいなら、ボクたち猟兵を倒してからにするんだね!

まず宝石弾を【先制攻撃】【クイックドロウ】で弾幕を張るよ!
その間に宝石弾を被害者の周りに転がしておこう。
被害者を玩具だと言い切るくらいだから、まずボクを狙うだろうけど人質にされたら困るから【罠使い】で簡単な罠を作っておくよ

敵は高速で襲ってくるから【見切り】【聞き耳】【第六感】で最小限の動きで回避するよ!
そんで攻撃の合間に【輝き放つ金剛の弾丸】だ!
敵の数が多いからあんまりしたくないけど、勝つためならボクはとっておきのダイヤも惜しみなく連射で消費しちゃうぞ!

アドリブ歓迎



「捕まった子たちはお前たちのおもちゃなんかじゃない! そんなに命を弄びたいなら、ボクたち猟兵を倒してからにするんだね!」
 迫り来る黒い薔薇の娘たちを前に、少女たちをその背にかばうように立ちはだかりながら、スリングショットを構えるのはオウカ。勇ましい挑発と共に放たれた宝石弾が、先頭にいた敵の一人にヒットする。
「ぎゃぅッ?!」
 弾丸の炸裂による衝撃を浴びて、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる黒薔薇の娘。
 オウカはすぐさま新しい宝石弾をセットすると、矢継ぎ早の射撃で弾幕を張り、敵の接近を牽制する。

「少しはやるようですわね。こちらも少し本気になる必要があるようです」
 敵がただの害虫ではなく、自分たちを害しうる敵だと理解した黒薔薇の娘たちは、迷宮庭園で命を奪われた死者の怨念をその身に纏い、自らを強化する。
 怨念の力によってそれまでとは段違いのスピードを得た娘たちは宝石の弾幕をひらりひらりと躱しながら、その手に呪いによる黒い槍を錬成し、投げ放った。

「これくらい……!」
 オウカは自らの五感と第六感を研ぎ澄ませると、飛来する黒槍を最小限の動作で回避しながら、黒薔薇の娘たちの動きを見極めていく。
(確かに速い。でも追いきれない速さじゃない)
 一瞬のうちに敵の動きのパターンやクセを見切った彼女は、スリングショットに【輝き放つ金剛の弾丸】をセットする。
 それは代用品の石ころに魔力を付与しただけの、普段使用するリーズナブルな弾丸ではない。高純度のダイヤの原石を使用した本物の宝石弾。
「これがボクから贈る冥土の土産だ!」
 黒槍の投擲の合間を突いて発射されたそれは、着弾と同時に膨大な魔力を解き放ち、通常の宝石弾とは比べ物にならない爆発を引き起こす。たとえスピードを強化された黒薔薇の娘たちであっても、避け切れるものではない。
「なに……ッ、きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
 ダイヤの閃光に呑み込まれた娘は、断末魔だけを残して跡形もなく消し飛んだ。

「チッ……あの弾は不味いですわね……」
 オウカの"とっておき"の宝石弾の威力を目の当たりにした黒薔薇の娘たちは、散開して的を絞らせないように戦場に散らばりながら、つけ入る隙を覗う。
 オウカたち猟兵の弱点――それは言わずもがな救出した一般人の少女たちだろう。猟兵たちは常に、彼女らを戦闘に巻き込まないように護りながら戦っている。
「それなら、あれを人質に取ってしまえば……!」
 にやりと邪悪な笑みを浮かべた黒薔薇の娘が、風のような速さで少女たちに迫る。
 不安そうに戦いを見守っていた少女たちの顔が、真っ青な恐怖の色に染まる――だが、黒薔薇の魔手が彼女たちに触れることは叶わなかった。

「捕まえた――ッ?!」
 弾幕を展開している間にオウカがひっそりと少女たちの周りに転がしておいた宝石弾が、踏み込んだ黒薔薇の娘の足元で炸裂し接近を阻む。すかさずオウカは罠にかかった獲物に狙いをつけ、再び金剛の弾丸をセット。
 貴重かつ高価な宝石を使用した攻撃。本当なら敵の数が多い集団戦ではあまり連発したいものではない。しかしオウカには勝つためならとっておきのダイヤでも惜しみなく消費する思い切りの良さがあった。
「その子たちに手は出させないよ!」
 放たれたダイヤの輝きがまた一人、黒い薔薇の娘を消滅させる。
 そのまま次々と金剛の弾丸を連射するオウカを前に、敵は少女たちに近付くことさえできずに数を減らしていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
主の玩具、か…人の命を何だと思ってる…!他人の命を弄び踏み躙る…貴女達はここで狩り尽くす…!

ミラ達に助けた子達を任せて【妖剣解放】…。
更に凶太刀による高速も併せて超高速で敵陣を駆け抜けて斬り捨てながら翻弄…。
敵がクイーンを使って来たら、黒槍を切り払いつつ、敢えて対抗して【unlimited】を展開し【呪詛】で強化…。
逆に一斉掃射で殲滅するよ…。
呪いはわたしの力の源…呪いでわたしに勝てると思った…?
仮にどうにか耐えてキングでコピーしても、元はわたしの技…。特性は全て把握してる…それに、わたしの呪力までは真似できない…。
放つ前に術者を潰せばそれで終わり…。

悪いけど、一人も逃がさない…全員始末する…



「ミラ、クリュウ、アイ……ここはよろしく……」
 影竜から元の姿に戻った3匹の仔竜に救出した少女たちの護衛を任せ、璃奈は黒い薔薇の娘たちと対峙する。
 仔竜たちの力強い応答の咆哮を背に受けながら、抜き放つは妖刀・九尾乃凶太刀。
「主の玩具、か……人の命を何だと思ってる……!」
 抑えきれぬ激情ともに発動する【妖剣解放】。妖刀より放たれし怨念と呪力をその身に纏った彼女は、音を置き去りにして地を蹴った。

「速―――ッ?!」
 目を見張るほどの超加速に反応の追いつかなかった黒薔薇の娘へと、璃奈はすれ違い様に斬り捨てる。敵陣を駆け抜ける彼女の進路上にいた娘たちは、凶太刀の放つ斬撃と衝撃波を防ぐ間もなく一蹴された。
「他人の命を弄び踏み躙る……貴女達はここで狩り尽くす……!」
「このっ……いい気にならないでくださいなッ!」
 その手に握る刃よりも鋭い眼光を双眸に宿し、疾風のように戦場を駆ける璃奈。
 その速度に対抗するために、黒薔薇の娘たちは【クイーンの嘆き】を発動。死者の怨念を纏うことで自らも高速移動能力を得ると、呪いにより錬成した黒槍を一斉に璃奈に投擲する。
 四方八方から飛来する黒槍の雨に対して、璃奈の逃げ場は無い。だが――。

「――当たらないッ?!」
 妖剣解放に加えて凶太刀の呪力によって我が身に音速を超える速さを付与した璃奈は、涼しい表情で黒槍を切り払う。
 娘たちと璃奈のユーベルコードは、怨念や呪いの力による加速や攻撃などの似通った性質を持つ。しかし魔剣の巫女として研鑽を重ねてきた璃奈の操るそれは、黒薔薇の娘たちより遥かに洗練されている。
「呪いはわたしの力の源……呪いでわたしに勝てると思った……?」
 黒槍の投擲に敢えて対抗して璃奈が発動したのは【unlimited curse blades】。その魔力から生み出された魔剣・妖刀の現身の数々が敵陣目掛けて放たれる。
「「まさか、そんな―――ッ!!!!?」」
 一本の威力でも総数においても黒槍を遥かに上回る魔剣の一斉掃射。迎撃も回避も叶わない圧倒的な力と物量が、驚愕する黒い薔薇の娘たちを殲滅していく。

「く、ぅ……なんという力……ですがその技、確かに記録しました!」
 辛うじて魔剣の掃射を耐え抜き、血まみれで立ち上がった娘の手には、黒い装丁の書物と羽ペンが握られていた。
 その身で体験した敵のユーベルコードを記録し、1度だけ再現する。それが彼女たちの有するもう一つのユーベルコード。
「死になさい、貴女自らの力でッ!」
 たった今記録した【unlimited curse blades】のページを開き【キングの裁き】を発動する黒薔薇の娘。その周囲に展開されるのは璃奈が放ったのと同じ魔剣と妖刀。
 だが、その本数は璃奈の時よりも遥かに少なく、一本一本に宿る呪力も弱々しい。それを指摘するように璃奈が言う。
「コピーしても、元はわたしの技……。特性は全て把握してる……それに、わたしの呪力までは真似できない……」
 例え技の形を模倣できても、それを発動させるのは本人の力。黒薔薇の娘一人の魔力では、魔剣の巫女の呪力には到底及ばない。
 結果的に彼我の力の差を歴然と示すことになってしまった娘は、顔を真っ赤にしながら激高する。
「だッ、黙りなさいっ! 魔剣よ、ヤツを串刺しに―――ッ!?」
 模倣された魔剣が発射されるよりも速く、凶太刀の呪力を解放した璃奈は娘の懐に飛び込んでいた。
 放たれる前に術者を潰す。彼女のスピードがあればこそ可能なシンプルな対処法。
「悪いけど、一人も逃がさない……全員始末する……」
「待っ……きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
 一切の容赦なく一閃された刃が、断末魔の悲鳴ごと黒薔薇の娘を散らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。包囲されている以上、受け身は下策ね。
彼女達に害が及ぶ前に、終わらせるわ。

左眼の聖痕に魔力を溜め【黒炎覚醒】を発動
心の傷口を抉るような邪神の呪詛(精神干渉)に気合いで耐え、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して【朱凰炎帝】を発動する

…そう。私も吸血鬼という害虫を駆除して回っているの。
お前達もお前達の主も、等しく地獄に送ってあげる。

黒炎の結界を展開して周囲の時間を停止させ、
周囲にいる敵の居場所を暗視して見切り、
黒炎の大鎌を怪力任せになぎ払う時属性の2回攻撃を行うわ。

…まぁ、もう聞こていないでしょうけど…。

…第六感た聞き耳が自身や娘達の危険を感知したら、
武器で受け止め、黒炎のオーラで防御するわ。



「……ん。包囲されている以上、受け身は下策ね」
 四方から聞き取れる戦闘音と幾つもの気配を感じながら呟くリーヴァルディ。その左眼に刻まれし聖痕が、魔力の蓄積によって燐光を放つ。
「彼女達に害が及ぶ前に、終わらせるわ」
 漆黒の大鎌の刃を下げて、意識をより深い領域へと集中させながら。吸血鬼狩りの娘は討つべき敵を見据えている。

「終わらせる? それはこちらの台詞ですわ!」
「散りなさい、害虫が!」
 襲い掛かるのは死者の怨念を纏った黒い薔薇の娘たち。人外のスピードで接近する娘たちの爪と牙が、錬成された呪いの黒槍の投擲が、一斉にリーヴァルディを狙う。
 だが、その攻撃が標的を貫く刹那の差で――聖痕の封印を解放したリーヴァルディの【代行者の羈束・黒炎覚醒】と【朱凰炎帝】が発動する。
「……そう。私も吸血鬼という害虫を駆除して回っているの」
 その身を喰らいて顕現する"名も無き神"の力。それを吸血鬼化した自らの生命力を触媒として呼符に宿し、放つ。黒い炎を宿した符は戦場の四方へと散ると、この一帯を覆う結界を展開した。
 その瞬間――まるで凍りついたかのように、世界が沈黙する。投げ放たれた黒槍は空中で静止し、黒薔薇の娘たちは悪鬼の笑みを浮かべたまま目の前で固まっている。
 "名も無き神"の力とは時間さえも焼却する黒炎。その力の結界に覆われた戦場の時間は、今や完全に停止していた。

 ――それと同時に、心の傷を抉られるような痛みが、この結界を長くは維持できないことをリーヴァルディに告げてくる。邪神の力を引き出すことは、邪神に汚染されることでもある。身に余る力を使い過ぎた末路はヒトとしての破滅に他ならない。
 リーヴァルディは邪神の精神干渉に気力を振り絞って耐えながら、その身より迸る黒炎を大鎌へと伝わらせる。
「お前達もお前達の主も、等しく地獄に送ってあげる」
 周囲の敵の配置を瞬時に見切り、力任せに振るう大鎌の一閃。過去を刻む刃と時を灼く炎が、同時に黒薔薇の娘たちをなぎ払い――。

「……まぁ、もう聞こていないでしょうけど……」

 ――少女のぽつりとした静かな呟きと共に黒炎の結界が解除され、世界は再び時を刻み始める。
 そこには彼女を襲った黒薔薇の娘たちの姿は影も形もなく、断末魔の悲鳴さえも焼却された時の狭間に消えていった。
 他の者たちからすれば、それは突然消滅したようにしか見えなかっただろう。

「な――何をしたッ?!」
 得体の知れぬ現象を前にして恐怖に震える叫び声。黒炎の焼却を免れた娘たちは、それまでの余裕をかなぐり捨ててリーヴァルディに襲い掛かる。
 吸血鬼でさえも怖気を感じるほどの邪神の気配が「危険だ」と本能的な警戒心を呼び起こしたのだ。
「この娘は危険……ここで確実に排除する……ッ!」
「……残念だけど、そうされるつもりはないわ」
 もはや形振り構う様子のない黒薔薇の娘たちの動きを、リーヴァルディは研ぎ澄まされた聴覚と第六感によって見切っていた。
 黒炎覚醒によって増大した反応速度を活かして敵の攻撃を大鎌で受け流し、身に纏う黒炎のオーラで防ぎ止める。そして間髪入れぬ反撃が、愚かな黒薔薇を焼き刻む。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
「熱ぃ、熱いアツイアツイッ?!」
 吸血鬼の娘たちがどれだけ泣き叫ぼうとも、その炎と刃に一切の慈悲はなく。リーヴァルディは冷徹かつ迅速に敵を排除していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

少女たちを「玩具」扱いですか。
貴女方も貴女方の主と同じように、救い難い存在のようだ。

確実に仕留めるため、何より少女たちを攻撃に巻き込まないように、投擲武器は使わないようにします。
近接武器の「処刑人の剣」を構えて【殺気】を放つ。
「黒い薔薇、裁かれるのは貴女たちです」
「……いきます。覚悟を」
【ダッシュ】で相手との距離を一気に詰めて、剣を振り下ろす【先制攻撃】
相手に防御させる暇など与えません。

先制攻撃に成功したら、一度相手との距離をとって様子見
敵の攻撃はUC【白騎士の導き】で予測して回避
そのまま【目立たない】ように背後に回りこみ背後から斬りつける【暗殺】
「……終わりだ」
躊躇はしない。



「少女たちを『玩具』扱いですか。貴女方も貴女方の主と同じように、救い難い存在のようだ」
 丁寧な口調のまま語りながらも、冷ややかな眼差しで黒い薔薇の娘たちを見据えるのは夏介。処刑人の一族の生まれである彼が構えるのは、「切断する」ことに特化した切っ先を持たない斬首の剣。
 殺すべき標的を確実に仕留めるため――何より少女たちを戦闘に巻き込まないために投擲武器を封印した彼は、人形のような無表情のまま宣告する。
「黒い薔薇、裁かれるのは貴女たちです」
「―――ッ?!」
 放たれる殺気。それは数多の流血と死を生み出してきたはずの娘たちですら、寒気を感じるほどの鋭さを秘めていた。

 殺気に怯んだ娘たちの僅かな隙を見逃さずに夏介は駆け出す。瞬きする間もないうちに相手との距離を一気に詰め、処刑人の剣を振るう。
「……いきます。覚悟を」
 防御させる暇など与えない。私情を混じえず、機械のような正確さで振り下ろされた刃は、過つことなく咎人の首を刎ねる。
 無闇に傷つけるためでも苦痛を与えるためでもない、ただ死をもたらすための斬撃――その女は最期まで自分が死んだことにすら気付いていなかっただろう。

「な――ッ」
 あまりに鮮やかな手並みで仲間を斬首された娘たちは、驚きのあまり即座に行動に移れない。その間に夏介は一度相手との距離を取って戦場の様子を広く見渡す。
 その視線はまるでチェスの盤面とその上の駒を見ているように無機質で。それを侮りと受け取った娘たちの金縛りがようやく解ける。
「くっ、舐めないでッ!」
 怒りと共に死者の怨念をその身に纏って駆けだす。そのスピードは風よりも速く、手元に錬成した黒い槍は禍々しい呪いの力を帯びている。
 ――だが、どれだけ動きが速くなっても、動きの「質」は変わらない。夏介の目には彼女たちの攻撃が手に取るように予測できる。
「次の一手は、もう見えました」
 【白騎士の導き】に従って半歩、身体を右に移動させる。その直後に彼のいた場所を呪いの黒槍が貫く。その次は一歩後ろに。その一歩で絶妙に間合いを外された黒薔薇の娘の手刀が空を切る。
 最小限の動作での、紙一重の回避。まるで自分自身も盤上の駒の一つのように、最適の一手で夏介は敵の攻撃を躱していく。

「くそっ! どこに行った……?」
 そして気がつけば、夏介の姿は黒薔薇の娘たちの視界から忽然と消えていた。
 最適の防御はそのまま攻撃への布石となる。殺気を消して目立たぬように敵の背後に回り込んでいた彼は、再び処刑人の剣を振り上げる。
「……終わりだ」
 躊躇はしない。振り下ろされた断罪の刃が、悟らせぬまま黒薔薇の命を摘み取る。
 その業前は断末魔を上げる暇もなく、あまりに正確な斬撃だったために、刀身にほとんど血が付かないほどだった。

 また一人、処刑を果たした夏介は、何の感情も見せないまま次の標的へと視線を向ける。その紅い双眸に射抜かれた娘の口から、思わず悲鳴が漏れる。
「ひ……っ」
 黒薔薇の娘たちの間に恐怖が広がっていく。だがそんなことは夏介に関係はない。
 この場に居るすべての咎人を裁くまで、処刑人の剣は止まらない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴェル・ラルフ
うーん、見解の相違かな。僕、君たちの方が害虫だと思うけどね。


SPD
守りながらの戦いは難しいな…真の姿にはならないでおこう。
…多分、怖がらせちゃうからね。

少女たちはひとつところに。できれば、【雄凰】そのまま護衛して。

背後の少女たちに攻撃がいかないように神経を尖らせつつ、黒い槍は【反照舞踏脚】で避けながら叩き落とす。

庭園の薔薇に罪はないけど…利用させてもらおう。攻撃すると見せかけて、生け垣を回し蹴りで[吹き飛ばし]て[目潰し]に利用。飛び散る花に紛れて[早業]で距離を詰めてナイフで[串刺し]


さて、君たちの悪趣味なご主人方を探さなくちゃ。

★アドリブ・連携歓迎


アロイス・グレイアム
アレンジ・絡み歓迎
【POW】
皆、無事だったか
だが、敵もそんなに簡単に逃してくれるはずもないな

少女たちを背に隠すように翼を広げると、薔薇の娘たちとの間に立った
剣を振るうと少女たちに襲いかかろうとしていた敵に雷の《範囲攻撃》《麻痺攻撃》を行う
綺麗な顔で隠せない程、醜悪な中身が滲み出ているな
薔薇の娘が仕掛けてくる前にこちらから攻撃《先制攻撃》

その忙しない右腕をもらおう
薔薇の娘の右腕を攻撃《部位破壊》

少女たちを絶対に守ってみせる



「皆、無事だったか。だが、敵もそんなに簡単に逃してくれるはずもないな」
 他の猟兵と救出されてきた少女たちと合流を果たしたアロイスは、つかの間の安堵を表情の浮かべ、そしてすぐにまた気を引き締める。
 怯える少女たちを背に隠すように黒竜の翼を広げると、黒い薔薇の娘たちとの間に立つ。それと同じように彼女らの護衛に立ったのはヴェル。
「君たちはひとつところに。できれば、雄凰はそのまま護衛して」
 護衛しやすいように纏まるよう少女たちに呼びかけ、探索中にも役立ったヘビクイワシの雄凰が、その上空から少女たちに近付く敵の動きに目を光らせる。
「守りながらの戦いは難しいな……真の姿にはならないでおこう」
 多分、怖がらせちゃうからね、と。口元に微笑を浮かべながらも、背後の少女たちに攻撃がいかないように神経を尖らせつつ、ヴェルは戦況確認を行う。

 猟兵と少女を襲撃した黒い薔薇の娘たちの多くはすでに、応戦に向かった猟兵たちの活躍によって撃破されている。認めざるを得ない劣勢に追い込まれた娘たちは、苦渋の表情を浮かべながら奥歯を噛みしめる。
「まさか害虫相手にこれほどの失態……」
「このままでは、主に申し開きのしようがありません……」
「かくなる上はこの命に代えてでも、使命を果たさせていただきます――!!」
 不覚と汚名を返上するべく決死の覚悟を固めた彼女たちは、死者の怨念をその身に纏うと猛然たる勢いで襲い掛かる。主の敵と用済みの玩具を始末するために。

「うーん、見解の相違かな。僕、君たちの方が害虫だと思うけどね」
「減らず口をッ!!」
 涼しい表情で挑発するヴェル目掛けて、怒りの籠もった呪いの槍が投擲される。
 迂闊に避ければ背後にいる少女たちに当たる。そう瞬時に判断した彼は靭やかに舞うような身のこなしで襲撃を放ち、飛んでくる槍を一本残らず叩き落としていく。
「舞い散る朱、煙に巻け」
 跳躍して回転して翻り、回避と反撃を同時に行う攻防一体の【反照舞踏脚】。華麗なる少年の舞いは黒薔薇の娘たちの攻撃を寄せ付けない。
 しかし彼一人がカバーできる範囲は限られている。一方からの攻撃を防いでいる間に、迷宮の中を移動してきた敵が、別方向から奇襲を仕掛ける。
「用済みの玩具は、さっさと処分されなさい――ッ!!」
 吸血鬼の爪牙を剥き出しにして、少女たちに襲い掛かる黒薔薇の娘たち。しかしその凶牙が少女たちの喉笛を噛み千切るよりも速く、アロイスが雷帝継牙を振るう。
「少女たちは絶対に守ってみせる」
「ガ――ッ!?」
 魔法剣より放たれし雷は、たとえユーベルコードで加速していようとも逃れられるものではなく。稲妻の嵐が黒薔薇の娘たちを感電させ、肉体の自由を奪う。
 獲物を目前にして足止めされた彼女たちの表情は、まさしく悪鬼の形相と呼ぶに相応しく歪みきっており。
「綺麗な顔で隠せない程、醜悪な中身が滲み出ているな」
 麻痺が解ける前に肉迫したアロイスの斬撃が、悪鬼たちを纏めて斬り捨てていく。

「クッ……これでもまだ、玩具のひとつも処分できないなんて……!」
 護衛に回った猟兵たちの守りを突破できない黒い薔薇の娘たちは、次第に焦燥に駆られるようになる。攻撃はより苛烈さを増すが、焦りは視野を狭め判断力を低下させる。それを好機と見たのはヴェル。
「庭園の薔薇に罪はないけど……利用させてもらおう」
 力強い踏み込みから繰り出される回し蹴り。それは接近する敵を狙うように見せかけ――この迷宮の壁となっている薔薇の生け垣に叩き込まれる。
「なぁ、ッ!?」
 吹き飛ばされた生け垣が目眩ましとなって、娘たちの視界を覆い隠す。
 彼女らはこの庭園の管理者。丹精込めて育て上げた生け垣を目の間で足蹴にされて破壊された怒りと衝撃は計り知れず、それゆえに大きな隙を晒すこととなった。

「これで終わらせるよ」
 飛び散る薔薇に紛れて素早く距離を詰めたヴェルは、まだ動揺から脱せていない娘たちを黒と白の短剣で次々に貫いていく。
「が………ッ」
 一突きで心臓を串刺しにされた娘たちは、短い断末魔を残して塵に還っていく。
 薔薇の花が散り終えた時、そこにまだ生き残っていた黒薔薇の娘は、たった一人。呆然とする相手にヴェルはナイフの血を拭いながら微笑みかけ。
「さて、君たちの悪趣味なご主人方を探さなくちゃ」
「そんな……こんなことって……」
 悪夢を見ているような表情を浮かべながら、娘は取り出した羽ペンの先を書物に走らせる。猟兵のユーベルコードを記録し、そこから逆転の一手を放つつもりか。
 そうはさせまいと彼女に迫ったのはアロイス。その手に握りしめた剣は雷を纏い、闇を祓うかのごとく輝いて。
「その忙しない右腕をもらおう」
 雷速の斬撃がペンを握る腕を刎ねる。鮮血がほとばしり、絶叫する黒薔薇の娘。
 金眼の黒騎士はそのまま間髪入れず、返しの太刀で娘の首を狙い――。

「……申し訳ありません、エボニー様、アイボリー様――」

 その言葉を最期に、黒い薔薇の娘たちと猟兵の戦いは幕を閉じたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『エボニー・アイボリー』

POW   :    黒鍵の天使
【アイボリーを求めること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【36の音の斬撃】で攻撃する。
SPD   :    白鍵の悪魔
【エボニーを求めること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【52の音の衝撃】で攻撃する。
WIZ   :    黒檀と象牙の調和
戦場全体に、【空間転移すら妨害】する【ピアノの鍵盤】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:つばき

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はウラン・ラジオアイソトープです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 黒い薔薇の娘たちを退けた猟兵たちは、再び少女たちを連れて迷宮を進む。
 もはや彼らの前に障害となるものは無く、時折現れる魔獣を一蹴しながら、薔薇の庭園を歩き続けること暫し――ついにその前方に迷宮の出口が現れる。

「来たね、アイボリー」
「来てしまったね、エボニー」

 そこで待ち構えていたのは、黒い翼持つ黒衣の少年と、白い翼持つ白衣の少年。
 脱出した者たちを高みより見下ろす、双子の吸血鬼――薔薇の迷宮庭園の主、エボニー・アイボリー。

「予想外だよ、何もかも」
「せっかくのゲームの最中にいきなりの乱入」
「庭園はメチャクチャ、庭師もみんな殺されて」
「そのうえ玩具をみんな連れて来てしまうんだから」

 まるでピアノの連弾のように、伸びやかな声で交互に話す双子。思わず聞き惚れてしまいそうになるその美声の裏には、生者への悪意と嘲笑が満ちている。
 ただ佇んでいるだけでも、凄まじい邪気を感じる――黒い薔薇の娘とは比較にもならぬ、高位の吸血鬼としての力を。

「でも、これはこれで面白い」
「君たち猟兵は僕らオブリビオンの支配に抗う、人々の希望」
「その希望を目の前で踏みにじり、引き裂いてみせれば」
「より深く絶望したその子たちの血潮は、どんな味がするんだろう!」

 悪趣味としか言いようのない期待感に胸を膨らませ、鬼気迫る笑みを浮かべながら、地に降り立つエボニーとアイボリー。
 その視線はまっすぐに猟兵だけを見つめている。彼らが望むのは少女たちの絶望の血潮。故に、この段階ではまだ少女たちを攻撃の標的とする気はないようだ。
 猟兵たちにとっては、後ろを気にする必要がない分好都合とも言える。

「さあ始めよう、アイボリー」
「演奏の時間だね、エボニー」
「「君たちのための特別な迷宮(ステージ)。死の演奏会にようこそ!」」

 迷宮を脱出したばかりの猟兵たちの周囲が、新たな迷宮に変化していく。
 紅い薔薇ではなく、黒檀と象牙。ピアノの鍵盤が作り出す白と黒の迷宮に。
 これが少女たちを救い出すための最後の試練。決戦の時を迎えた猟兵たちは、覚悟を胸に臨戦態勢となった。
オウカ・キサラギ
WIZ
アドリブ絡み○

ついに見つけた!
こんな惨劇は絶対に終わらせてやるぞー!

まずは迷路だね!
能力で作られた迷路だし攻略は難しそうだ。
でもボクは炎精で作ったちびオウカを総動員してあらゆるルートを虱潰しに調べるよ!
行き止まりなら帰ってくるぐらいの指示は出せるから、とにかく数を頼りに進むよ!
罠があるかもしれないからそこは【第六感】と【罠使い】の知識で見つけて破壊、または【ダッシュ】や【ジャンプ】で避けるよ!

出口についたらちびオウカ達を合体させたビッグオウカで【先制攻撃】だ!
その隙にボク自身もありったけの宝石弾で【クイックドロウ】【属性攻撃】だ!
勝負は出口を見つけてからの短い時間!
絶対に仕留めてやるぞ!


ヴェル・ラルフ
残念ながら、僕に音楽の教養はないけど…悪趣味なやつの演奏ってどんなかな。


SPD
仲良しの双子。どちらか片方でも封じられれば、連携は防げるかな。
…片割れを傷つけられた怒りに、手元も狂いやすそうだし。
仲間の意図に合わせるけど、特になければアイボリーを狙おう。

【日輪葬送】漆黒の炎に身を包み、「僕がある程度の距離を保ったところから閃光を放つ」錯視を引き起こす。
その実、早業で近接、アイボリーに暗殺技。ナイフで傷口をえぐる。脚部など、ある程度の行動制限できる所を狙おう。


少しぐらい、予想外のことがあった方が楽しいんじゃない?
残念ながら…演奏の方は、乱れて聴いてられたもんじゃないけどね。

★アドリブ・連携歓迎


アロイス・グレイアム
アレンジ・絡み歓迎

吸血鬼が奏でる死の歌か
犯した罪を懺悔し、自分たちの葬送でも歌うがいい
無垢な少女たちを玩ぶ双子の吸血鬼、貴様らは許す訳にはいかない

UC【天雷蒼牙】発動
敵の音の衝撃を避けつつ背後に移動
剣から複数の雷の斬撃《麻痺攻撃》

この鍵盤を模した迷宮なら真の姿を解放しても大丈夫だな
世界に仇なすオブリビオン、一族を失った痛みは忘れない
だから俺は仲間も少女たちも守ってみせる!
真の姿・黒竜となり敵の正面に立ち咆哮を上げる
双子の攻撃を防ぐ盾となる《痛覚無効》《かばう》



「ついに見つけた! こんな惨劇は絶対に終わらせてやるぞー!」
 この事件の元凶を視界に捉えたオウカは、すかさず宝石弾をセットしたスリングショットの紐を引き絞る。
 だが、変化していく戦場から作り上げられた鍵盤の壁が、彼女の射線を阻んだ。
「威勢がいいけど、届くかな?」
「だってここはもう僕らのステージ!」
 クスクスと笑う双子の吸血鬼は、そのまま迷宮の向こうに消えていく。自分たちと戦うつもりなら、これくらいは攻略してみせろと言うことか。

「まずは迷路だね! よし、みんなおいで!」
 敵の消えていった方角を睨みながらオウカが喚び出したのは【炎精】、通称ちびオウカの軍団。使役者の姿形をぷちサイズにしたような炎の精たちを目の前にずらりと整列させ、迷宮探索の指示を出す。
「行けるところまで進んで、行き止まりなら帰ってきてね。終わったら後でお菓子あげるから頑張って!」
 お菓子と聞いてやる気を出したちびオウカたちは、四方八方に散ると迷宮の攻略ルートを調べはじめる。
 召喚可能な全個体を総動員しての虱潰し。強引な攻略法ではあるが、この状況ではそれが最適解か。

「こっちだよ!」
 オウカは仲間の猟兵たちを連れて、ちびオウカが発見したルートを先導する。
 ここはオブリビオンの能力で作られた迷宮。先刻の薔薇の迷宮以上に警戒を強め、知識と思考と直感をフル回転させる。
「そこの足元の鍵盤、気をつけてね。踏んだら罠が作動するよ!」
 罠を発見すれば警告を発しながらスリングショットで破壊、もしくは作動する前に跳び越えるか駆け抜けて被害を回避。
 シーフである彼女の導きによって、猟兵たちは力を温存したまま迷宮を進むことが出来ていた。

「おや、もう来たみたいだよ、アイボリー?」
「ずいぶん早かったね、エボニー」
 迷宮の出口の前に駆けつけた猟兵たちを見て、待ち受けていた双子は少々予想外だと目を丸くする。
 その僅かな動揺の一瞬を見逃さず、先頭に立つオウカは先制攻撃を仕掛けた。
「さぁ、大暴れの時間だよ!」
 使役者の号令に応えて、迷宮に散っていたちびオウカたちが一斉に集まってくる。
 一つ一つは小さな炎でも、合体すれば大きな炎に。全ての炎精はここに一つとなり、ちびオウカを超えるちびオウカ――ビッグオウカが爆誕する。
「いっけぇーっ!!」
 放たれた猛火の一撃はまっすぐに標的目掛けて飛んでいき、慌てて身を翻した双子の至近距離で大爆発を起こした。
「くっ……アイボリー!」
「しまっ……エボニー!」
 巻き起こる炎熱は惜しくも大きなダメージを負わせることは叶わなかったが、爆風によってエボニーとアイボリーは別々の方向に吹き飛ばされいく。

「残念ながら、僕に音楽の教養はないけど……悪趣味なやつの演奏ってどんなかな」
「吸血鬼が奏でる死の歌か。犯した罪を懺悔し、自分たちの葬送でも歌うがいい」
 オウカが双子を分断した直後、地を蹴ったのはヴェルとアロイス。一瞬の目配せで互いの意図を理解した二人は、それぞれの得物を構えながら同時にユーベルコードを発動する。
「赫う鮮緑、貫け肉叢」
「唸れ、雷鳴の鋼牙よ!」
 【日輪葬送】を発動したヴェルの身体は漆黒の炎の渦に包まれ、【天雷蒼牙】を発動したアロイスは青い雷光をその身に纏う。勢いよく加速しながら駆ける二人の標的は、双子の兄――白鍵の悪魔アイボリーであった。

「なるほど、僕たちの連携を封じて各個撃破するつもりか。でも甘く見ないでね!」
 猟兵たちの狙いを瞬時に悟ったアイボリーが叫ぶと、何処からともなく聞こえてきたピアノの音が52の衝撃となってヴェルとアロイスを襲う。
 だが、雷光を纏ったアロイスは稲妻のごとき俊敏さで音の衝撃を躱していき。一方のヴェルは衝撃を受けないように距離を保ったまま、その背から緑色の炎の光芒を放とうとする。
「ちっ、ちょこまかと――」
 舌打ちしたアイボリーが光芒に気を取られた隙を突いて、背後に回ったアロイスが雷帝継牙を振り下ろす。だが、敵はまるでそれを予測していたかのように、振り返ることすらなくひらりと刃を躱してみせた。
「見え透いた陽動だね! こんなものに僕が引っかかるとでも――ッ?!」
 白の吸血鬼の余裕の言葉は、最後まで続かなかった。
 アロイスの剣を回避した直後、目の前にいたヴェルのナイフが、彼の翼を切り裂いたからだ。

「な、に……? お前は、さっきまであそこに居たはずだろう?!」
 離れていたはずのヴェルがいつの間に接近していたのかと、動揺するアイボリー。
 実は彼が見た「ある程度の距離を保ったところから閃光を放つヴェル」の姿は、ヴェルが纏う漆黒の炎が引き起こした錯視。まんまと敵が惑わされている隙に、本当のヴェルは近接戦の間合いまで肉迫していたのだ。
 幻惑に自らの暗殺の技を重ねることで、ヴェルが与えた一撃。そこにすかさずアロイスが追撃を加える。
「無垢な少女たちを玩ぶ双子の吸血鬼、貴様らは許す訳にはいかない」
「がぁ……ッ!?」
 翼や脚を狙って繰り出される幾つもの雷の斬撃が、アイボリーを斬り裂きながら感電させ、肉体の自由を奪う。さらにヴェルも白と黒のナイフを振るって、動きの止まった標的の傷をより深く抉っていく。
「ぎぃぃぃっ!」
 苦痛にうめくアイボリーの悲鳴が、迷宮の中を反響する。

「アイボリーっ?!」
 兄の悲鳴を聞いたエボニーは慌てて彼の元に駆けつけようとするが、オウカの放つ宝石弾とビッグオウカの炎がそれを阻んだ。
「行かせないよ!」
「くそっ! 邪魔を――するなァッ!!」
 片割れを傷つけられた怒りに我を忘れたエボニーは、メチャクチャなピアノの音を弾き鳴らして36の音の斬撃を放つ。狂ったような軌道を描く斬撃はビッグオウカを元のちびオウカにバラバラに切り刻み、さらにオウカへと襲い掛かる。
 避けきれないと判断し、思わず身構えて急所を守るオウカだったが――予想された痛みとダメージはいつまでも襲ってこない。
「この迷宮なら、真の姿を解放しても大丈夫だな」
 彼女とエボニーの間に立っていたのは、真の姿である黒竜となったアロイス。偉容を誇るその巨躯が、音の斬撃を全て防ぎ止めていた。

「な……っ、今のを正面から耐えたって言うのかい!?」
「世界に仇なすオブリビオン、一族を失った痛みは忘れない。だから俺は仲間も少女たちも守ってみせる!」
 過去の痛みに比べれば、この程度の傷など何ほどのものでもない。悪しき吸血鬼と正面から対峙する黒竜の咆哮が、戦場に轟く。
 その堂々たる姿にたじろいだエボニーを襲うのは、ヴェルが放つ鮮緑の光芒。
「少しぐらい、予想外のことがあった方が楽しいんじゃない? 残念ながら……演奏の方は、乱れて聴いてられたもんじゃないけどね」
「くっ……アイボリー!」
 弟は兄に呼びかけるが、翼と脚にダメージを負ったうえに感電させられたアイボリーは、すぐに弟の助けに向かえる状態ではなかった。
 虚しく黒鍵の音色を鳴らしながら、降り注ぐ光芒に足止めされるエボニー。
「今だっ!」
 その隙にオウカはありったけの宝石弾を取り出すと、矢継ぎ早の勢いで発射する。
 撃ち尽くした後のことや長期戦の備えは一切考えない。彼女は最初から、敵を見つけてからの短い時間に持てる全てを叩き込むつもりだった。
「絶対に仕留めてやるぞ!」
 全開の気合と魔力の籠もった宝石弾が、次々と黒の吸血鬼に着弾し、爆ぜる。
「ぐっ、がぁっ、ぎっ、ごぉッ!?」
 自慢としていたはずの連携を分断された双子は、逆に猟兵たちの連携によって劣勢に追い込まれていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。即興で行われる演奏会なんて願い下げ。
お前達の弱点は既に見切っているもの。
後は下らない劇の幕を引くだけよ。

…敵の攻撃は視認していないと意味がない。
私は【見えざる鏡像】で不可視化した後、
“おそろいの帽子”に魔力を溜めて“忍び足の呪詛”を発動

周囲の第六感に干渉して自身の存在感を消して、
目立たない気合いや殺気から位置を悟られないように気配を遮断。
敵の音属性攻撃の対象から外れ隙を伺うわ。

…迷宮の変化にもお前達の意志が介在している。
ならば、私に見破れない道理はない。

迷宮の変化を【吸血鬼狩りの業】で見切り接近
生命力を吸収する大鎌をなぎ払い、
傷口を抉る2回攻撃で仕留めるわ。

…吸血鬼狩りの業を知りなさい。


雛菊・璃奈
その傲慢な態度も、他人を玩具としか思わない考えも…
貴方達の遊びももうお終い…ここで、終焉だよ…。


相手も二人だし、可能であれば他の猟兵と連携して戦闘…。
相手の連携を封じる為にこちらも連携して戦闘するよ…。
【九尾化・魔剣の媛神】で封印解除…。
無限の魔剣で全体を攻撃範囲に収めつつ、魔剣の斉射で互いの支援を都度寸断させ、能力と凶太刀の超神速による【呪詛】を纏った凶太刀、神太刀の斬撃で追い込んでいくよ…。
合間に莫大な呪力を用いた【呪詛、高速詠唱】での呪力縛鎖や呪術で攻撃を仕掛け、最後は【ultimate】の一撃で片方だけでも仕留める…!

後はミラ達と一緒に連れて来られた子達を元の村に帰して一件落着かな…?


フレミア・レイブラッド
その傲慢さ…貴方達吸血鬼は変わらないわね…。
その傲慢さが原因で何人の吸血鬼が倒されたか、身を以て知りなさいな

魅了した黒い薔薇の娘には、2章で召喚したエビルウィッチの二人や助けた少女と一緒に下がってる様伝えるわ。

【吸血姫の覚醒】発動。もう一方の動きに注意しつつ、もう片方を【念動力】で動きを阻害し、覚醒による超高速で一気に接近して【怪力、早業、串刺し】魔槍を叩き込むわ!
二人同時に相手するのは流石に面倒だしね…一気に片方を片づけさせて貰うわ!
敵を【見切り、第六感】で見切り、音の斬撃を速度で回避したり、【念動力】や【武器受け】で防ぎつつ集中的に攻撃。
最後は【神槍グングニル】で跡形も無く消し飛ばすわ!


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

「ここで消えるのは私達ではありません。……お前たちだ」
2人をまっすぐ見つめてそう宣言し「処刑人の剣」を構える。

敵との間合いを詰めて剣を振るう。
【野生の勘】や【第六感】で回避できそうな攻撃は避ける。
そうでない攻撃は【激痛耐性】であえて受ける。
臆せず怯まず攻撃を続けることで、敵に【恐怖を与える】
こちらの攻撃に対して、敵が一歩引けばそれは臆した証拠。

「今、『怖ろしい』と思ったか?……ならば」
すかさずUC【黄泉へと誘う紅の乙女】を発動し、敵を攻撃。
「……首をはねよ、と女王が言った」

敵の攻撃を受けてできた傷は、すべて終わってから自分で治すことにします。
それよりも、少女たちの救出が優先です。



「まったく、マナーのなっていないお客だね……」
「これじゃあ、僕たちの演奏が台無しだ!!」
 猟兵たちの猛攻を受けて傷ついた双子の吸血鬼は、整った顔立ちを忌々しそうに歪めながら叫ぶ。
 想定していたワン・サイド・ゲームを崩され、圧倒的な蹂躙劇を楽しむつもりが、予想外の反撃を受けて怒り心頭といったところか。

「……ん。即興で行われる演奏会なんて願い下げ。お前達の弱点は既に見切っているもの。後は下らない劇の幕を引くだけよ」
 そんな逆上する双子を冷ややかに挑発したのは、リーヴァルディ。数多のオブリビオンと吸血鬼を刈り取ってきたその漆黒の大鎌は、新たな獲物にピタリと刃を向けている。
「下らないだって、僕らの演奏が?」
「ならお断りさ、耳の腐った観客は!」
 プライドの高い双子はかぁっと顔を紅潮させると、互いの手を繋ぎながら音の衝撃と斬撃を同時に放とうとする。
 だが、戦場にピアノの音が流れる寸前、リーヴァルディは親友から贈られた「おそろいの帽子」に魔力を籠めて被ると、不可視化のユーベルコード【見えざる鏡像】を発動する。
(……敵の攻撃は視認していないと意味がない)
 双子の放つ36の斬撃と52の衝撃は、あらかじめ標的を視認していなければ狙いを定められない。ならば彼らの視界から消えてしまえば、攻撃の対象となることは避けられる。
「「くそっ、どこに行った!」」
 双子は苛立ちながら消えた相手の気配を探るが、帽子に籠められた目立たなくなる加護や、同時に発動させた"忍び足の呪詛"を纏ったリーヴァルディの気配は完全に遮断され、その存在を察知することは容易ではない。

「こそこそ隠れて、ネズミみたいなやつ!」
「だったら他の奴らと纏めて消し去ってや――ッ!」
 迫る危険を察知して、はっと身を翻すエボニー・アイボリー。直前まで彼らのいた空間を薙いだのは、斬首に特化した処刑人の剣。
「ここで消えるのは私達ではありません。……お前たちだ」
 その担い手たる夏介は、斬るべき敵をまっすぐ見つめてそう宣言すると剣を構えなおす。
「処刑人なんてお呼びじゃないんだよ! いくよエボニー!」
 新たな標的を目前に捉えたアイボリーが52の衝撃を放つ。白鍵の悪魔が奏でる音撃を、夏介は研ぎ澄ませた野生の勘と第六感によって察知する。
 最小限の動作のみで衝撃を躱しながら反撃の隙を窺う――しかし彼がアイボリーの攻撃を回避した先には、三日月のような笑みを浮かべたエボニーがいた。
「いいよアイボリー! 刎ねるならまず自分の首にしなよ、ばーか!」
 双子による時間差での連携攻撃――黒鍵の天使が奏でるは36の音の衝撃。避けられないと夏介が悟った直後、音の刃が彼の身体をズタズタに切り裂いていく。

「「ははは、見たか! キミたちのような下等生物にはそのザマがお似合いさ!」」
 血塗れになった夏介の姿を指さしながら、闇夜を背に哄笑する双子の吸血鬼。だが、その余裕の振る舞いは長くは続かなかった。
 夏介はまるで痛みを感じていないかのような涼しい表情のまま、紅い瞳で敵を見つめたまま再び剣を振るう。
「なっ!」
「まだ動けるのかい!?」
 確実に仕留めたと思った彼らの油断が回避を遅らせ、刃が双子の肉を裂く。
「「ぎゃっ!?」」
 まずは一撃。しかしこの程度ではまだ足りない。傷を負いながらも臆せず怯まず間断なく続く夏介の攻撃は、双子の黒と白の衣装を紅に染めていく。

「くぅ、っ! しぶといやつだね、アイボリー」
「なら今度は一緒にやろう、エボニー」
 止まらない夏介の猛攻に苛立った双子は、見えないピアノの連弾を行うように、指先を虚空に踊らせる。
 斬撃と衝撃による同時攻撃で、今度こそ相手の息の根を止めようという狙いだ。
「いくよ――ッ?!」
 だが、攻撃が発動するその寸前、音の斬撃を奏でようとした黒鍵の天使の指が止まる。
「どうしたの、エボニー?」
「わ、わからない、指が……」
 まるで誰かの見えない手に握りしめられたように、指が動かない。困惑する彼を捕らえていたのは、【吸血姫の覚醒】を遂げたフレミアの視線だった。

「その傲慢さ……貴方達吸血鬼は変わらないわね……」
 真の力を解放し、4対の真紅の翼を生やした17,8歳程の外見へと変貌したフレミアは、真祖の魔力を迸らせながら双子を睥睨する。
 彼女が念動力によって双子の片割れの動きを阻害し、連携を崩す。その間隙を突いて高速接近するのは、【九尾化・魔剣の媛神】を発動した璃奈。
「我が眼前に立ち塞がる全ての敵に悉く滅びと終焉を……封印解放……!」
 その身から解き放たれた夥しい呪力によって、鍵盤の迷宮を崩壊させながら。瞬きする間もなく肉迫した九尾の妖狐は、手にした二振りの妖刀による超神速の斬撃を白鍵の悪魔に叩き込む。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!?」
「アイボリーっ?!」
 使い手に音を超える速さを付与する妖刀・九尾乃凶太刀と、超常の存在から不死性を封じる妖刀・九尾乃神太刀による連撃は、高位の吸血鬼に対して絶大な威力を発揮する。
 絶叫する兄を助けようと、エボニーはまだ動くほうの手を彼に伸ばすが――その時、二人の間を引き裂くように、璃奈の展開した無数の魔剣が上空より降り注いだ。

「二人同時に相手するのは流石に面倒だしね……一気に片方を片づけさせて貰うわ!」
 魔剣のカーテンが双子を分断した直後、フレミアは魔槍ドラグ・グングニルを構えて一気にその片割れへと接近する。
 狙いは黒鍵のエボニー。念動力による拘束を脱される前に、瞬間移動かと見紛うほどの速度で間合いに踏み込んだ吸血姫は、覚醒により強化された膂力を以て魔槍を叩き込む。
「ごが、ぁッ?!」
「エボニーッ!!」
 竜の牙さえも凌駕しようかという重さと鋭さを宿した一撃が、エボニーの胸を深々と貫く。
 弟の窮地を聞きつけた兄は、慌てて援護のためにユーベルコードを発動しようとするが――その指先が音の衝撃を奏でるよりも速く、虚空より出現した鎖が彼の腕を縛り上げる。
「なっ!? なんだよこれ、はなせッ!」
「放さない……」
 それは璃奈が紡ぎ上げた呪力の鎖。喚きながらもがく吸血鬼が縛めより逃れる前に、九尾の妖狐はさらなる詠唱を紡ぐと呪術による追撃を仕掛ける。
 封印解放によって得た莫大な呪力を用いた呪術は、不死の吸血鬼にすら"終焉"をもたらさんと、その肉体を徐々に崩壊させていく。

「ぐ、ぅ……っ、まずいよ、アイボリー」
「くっ……仕方ない、仕切り直しだよ、エボニー」
 猟兵たちの連携によって得意の連携を封じられ、分断されて各個に追い詰められていく双子の吸血鬼。
 もはや自分たちの劣勢を認めざるを得ない窮地に立たされた彼らは、苦渋の表情を浮かべながら同時に叫ぶ。
「「迷宮よ、僕たちの姿を隠せ!」」
 その瞬間、戦場に展開されていたピアノの鍵盤の迷宮が、うねるように形を変えていく。
 新たに作り上げられた壁や天井が、双子と猟兵たちの間に立ち塞がり。黒檀と象牙の調和の中に溶け込むように、黒と白の吸血鬼の姿が遠ざかっていく。
「ちょっぴり侮っていたよ、君たちのことを……」
「だけど残念だったね、ここは僕らのステージ。そんなに演奏会が嫌なら、永久にここを彷徨っているがいいさ!」
 ここは空間転移すら妨害するユーベルコードの迷宮。本気で彼らがここに猟兵を「閉じ込める」ことに専念すれば、脱出は至難となる。
 プライドを捨てた消極的な戦術だが、それだけに厄介ではある。不死なる吸血鬼である双子は、その気になれば迷宮で猟兵たちが干乾びるまで、いつまでも待つことが出来るのだから。

「しょせん定命の者ごときが、僕らに敵うはずないのさ」
「さあて、君たちが飢えて死ぬまで、高みの見物と―――ッ?!」
 その瞬間、エボニーとアイボリーは勝利を確信していただろう。だが、迷宮を逃走する彼らの表情は、その後方から聞こえた「音」に凍りつく。
 こつん、こつん、と鍵盤の床を叩く足音。そしてざくりと鍵盤を斬り裂く刃の音。
「この音――」
「まさか――ッ!」
 振り返った双子が見たものは、処刑人の剣を構えながらゆらりと近付いてくる夏介の姿だった。
 傷を癒やす暇もなかった筈なのに、まだ首を刈ろうと追ってきていたと言うのか。機械的なまでのその執念に、思わず双子は後ずさる。
「馬鹿なっ?!」
「一体、どうやってこの短時間で追いついて――」
「……私が導いたのよ」
 続く「声」は、すぐ近くから。まるで影のように音も気配もなく、双子の傍らに姿を現したのはリーヴァルディ。
「……迷宮の変化にもお前達の意志が介在している。ならば、私に見破れない道理はない」
 おぞましきヴァンパイアどもを駆逐するために、少女が修練と研鑽を重ねた【吸血鬼狩りの業】。その秘奥は吸血鬼のあらゆる行動と攻撃を予測する。
 どれほど複雑な迷宮を作り上げようとも、狩るべき標的を彼女が見失うことは、絶対に無い。

「……言ったでしょう、お前達の弱点は既に見切っていると」
 愕然とする双子の前で冷たく言い放ちながら、リーヴァルディは過去を刻む黒き大鎌を振りかぶる。
 ここは既に彼女の間合い。回避も防御も間に合わない、致死の領域。この瞬間と距離を掴むために、リーヴァルディは姿と気配を消して好機を待ち続けていたのだ。
「「――ッ!」」
 目前には吸血鬼狩り。後方からは処刑人。文字通りに進退窮まったエボニーとアイボリーが青ざめる。そんな彼らの表情を見つめながら、夏介は淡々と言葉を紡ぐ。
「今、『怖ろしい』と思ったか? ……ならば」
 戦場で一歩でも引けばそれは臆した証拠。あまつさえ逃走を図ったならば、それは『恐怖』を抱いたがゆえに他ならない。
 咎人たちの前で彼が召喚するのは【黄泉へと誘う紅の乙女】。踊るように宙を舞う少女の赤いドレスの中から覗くのは、血の滴る巨大な大鎌。
「……首をはねよ、と女王が言った」
「……吸血鬼狩りの業を知りなさい」
 宣告は静かに。紅の乙女が放つ大鎌の一閃は双子の首を深く切り裂き、悲鳴さえも上げさせない。
 同時にリーヴァルディが振るった斬撃は、一瞬のうちに二度。黒き大鎌の刃が双子の傷口を抉り、その生命力を根こそぎ喰らい尽くしていく。

「「―――ッ!!!!」」
 全身からおびただしい量の鮮血を散らしながら、がくり、と膝をつく双子の吸血鬼。
 彼らの作り上げた鍵盤の迷宮が、ガラガラと音を立てて崩壊していく。それを維持できるだけの力が、もはや残っていないのだろう。
「そん、な……僕たちが……負け、る……?」
「ありえ、ない……猟兵ごときに……不死の吸血鬼が……」
 息も絶え絶えとなりながらも、敗北という現実を直視できない彼らの前に「決着」を突きつけるのは、崩れた壁の向こう側からこちらに殺意と刃を向ける二人の猟兵。
「その傲慢さが原因で何人の吸血鬼が倒されたか、身を以て知りなさいな」
「その傲慢な態度も、他人を玩具としか思わない考えも……貴方達の遊びももうお終い……ここで、終焉だよ……」
 真祖の全魔力を魔槍に圧縮した、全てを滅ぼす【神槍グングニル】の投擲が、黒鍵の天使を貫き。
 無限の魔剣を一つに集束させた、終焉をもたらす【ultimate one cars blade】の斬撃が、白鍵の悪魔を断つ。

「「そんな―――馬鹿なァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!?」」

 恐怖と絶望に満ちた断末魔の二重奏を奏でながら、消滅していく双子。
 それが迷宮庭園の吸血鬼、エボニー・アイボリーの最期であった。



「……終わったわね」
 迷宮の完全な崩壊を確認したリーヴァルディは、ふうと息を吐きながら帽子をそっと脱ぐ。親友から贈られた大切な品が、吸血鬼の返り血を浴びていないか確認して。
 そこに救出された少女たちが、戦いの終わりを察して猟兵の元に駆け寄ってくる。
「全員無事のようね」
「はい!」
 安否確認を行うフレミアに頷いたのは、先の戦いで魅了された黒い薔薇の娘。
 彼女と、召喚された魔女たちが一緒にいたこともあって、少女たちの中に戦闘に巻き込まれた者はいないようだ。
「本当に、助けてくれてありがとうございました!」
「いえ。貴女方を助けられて、良かった」
 歓喜の表情を浮かべてお礼を言ってくる少女たちに、夏介は淡々と応えながら傷の手当てをする。
 吸血鬼との戦いはすべて終わった。ここまで負傷よりも少女たちの救出を優先してきた彼にも、ようやく一息つける時が来たようだ。
「後は連れて来られた子達を元の村に帰して一件落着かな……?」
 吸血鬼の支配から解放された少女たちを見守り、璃奈はじゃれついてくるミラたち仔竜を撫でながら呟く。
 領内のあちこちから攫われてきた彼女たち全員を故郷まで送り届けるのはそれなりの労力がかかるが、吸血鬼との戦いに比べれば何ほどのこともないだろう。


 ――かくして薔薇の迷宮庭園に囚われし少女たちは、無事に故郷の地を踏むことができた。
 もはやこの地に血の薔薇が咲くことも、邪悪なピアノの音色が響くこともない。
 それは猟兵たちがまた一つ、この世界を覆う闇を祓った証であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月17日


挿絵イラスト