エクストリームぐるぐるバット!!
●なんか世界が傾いたり歪んだりして見えるよね
夏の日差し!
銀色に輝く砂浜!
打ち寄せる波!
汗をさらう温い風!
水着を着て日光浴するキマイラ!
パラソル手に持ちはしゃぐテレビウム!
なんかぐったりしてる怪人!
そう。世界を物理的に二分するほどの戦争を経て平和を取り戻したキマイラフューチャーは、さっそく夏の季節感を味わう遊びが流行し始めていた。スイカをバールで叩いたり、色水を水鉄砲で撃ち合って勝負したりするやつである。
さて。
ここになんかぐったりしてる怪人がいる。そのやや後方にもなんかぐったりしてるキマイラがいる。どちらも浜辺に設置された小さなサーキットめいた場所で大の字になっていた。時折ゾンビのような呻き声をあげながら、這って進んでいる。
一体どうして二人がこのような有様になっているのか、その原因はスタート地点を見ればわかることだろう。そこには二つのバットが放り捨てられているのだ。
おわかりいただけただろうか。
彼らはスタート地点で地面へ突き立てたバットへ額を付け、そのままぐるぐると高速回転してからスタートを切ったのである。
これは平衡感覚を失いながらサーキットを駆け、ぐわんぐわんに視界が揺れる転倒してゴールめがけて這う芋虫になり、観客は応援したりヤジを飛ばしたり真顔で解説したりする競技だ。
エクストリームぐるぐるバット。この砂浜で人気を催している遊びの名だった。
●あのぐったりしてた怪人、オブリビオンなんですよ
「皆さん聞いてください」
白い軍服に包んだ少女のグリモア猟兵。ヴィル・ロヒカルメ(ヴィーヴル・f00200)が木製バットを両手で弄ぶ。
「キマイラフューチャーにバットでぐるぐるして走り出すレースがありまして。怪人が参加するみたいなんです」
レースに優勝して話題を独占するつもりなのか、途中でキマイラを襲う予定なのか定かでないが、どちらにせよ怪人の残党を放置するわけにはいかない。
「皆さんにお願いしたいのは、このレースへ出場して怪人を倒してもらうことなんです」
ちなみにサーキット外で怪人を襲うのはスポーツマンシップに反する行為であるうえに、観客の顰蹙を買うためできない。
あくまで正々堂々とレースに参加し、レースのルールに乗っ取ったうえでラフプレイで始末する必要があるのだ。
「あ、でもきちんと本気でバットでぐるぐる回らないとダメですからね。手を抜いたりしたらすぐバレちゃいますよ」
そこだけは注意してくださいねと彼女は言う。
「レースのルールは単純です。きちんと本気で全力でぐるぐる回ってからスタートすること。あとレース続行不能になったら失格だそうです」
重要なのはこの二点。ラフプレイの制限はないのだ。当然ながら怪人も反撃してくるだろう。
「とりあえずそんな感じです! よろしくお願いします!」
最後にそう締めくくって、グリモア猟兵の少女は集まったものたちを送り出すのだった。
鍼々
鍼々です。今回もよろしくお願いします。
今回は目が回った状態で怪人とぐっだぐだなバトルをするネタシナリオになります。レースでゴールすることは重要でないのであまり気にしなくて大丈夫です。猟兵の身体能力で全力でぐるぐるしたらどうなるんでしょうね。
あくまで趣旨が『お互いに目を回しながらぐだぐだな戦いをする』というものですので、特別な技能やユーベルコードで目が回るのを無効化して普通に戦うような内容のプレイングは採用率が下がります。ご注意ください。
また、今回は1~3章とも同じような内容となりますので、1章から3章まで継続しての参加はあまり考慮していません。既にプレイングを採用されている方は、まだプレイングを採用されていない方に比べて優先順位が少し下がります。その代わり2章のみ参加、3章のみ参加というのは大歓迎ですので、興味がありましたらよろしくお願いします。
ネタシナリオですので、気軽な気持ちでお楽しみください。
第1章 日常
『その名はSヨン』
|
POW : 直線スピードこそパワー
SPD : コーナーこそ魅せ場
WIZ : 何か走ってたら色が変わったり
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
頭が向日葵になった怪人がスタートラインにつく。
猟兵の存在に気付くと、バットを肩に乗せながらビシッと指さしてきた。
「猟兵……。前の戦争で我々は敗北したが、しかし!」
拳をぎゅっと握り、足を肩幅に開いて身構える。
「我々はまだ諦めてない! 必ず、このエクストリームぐるぐるバットを制して、怪人の時代を取り戻してみせる!」
気炎を吐くランナーに、野次馬ならぬ観客のキマイラたちが声を上げる。かき氷やアイスやら焼きそばなど食べたりしてエンジョイしていた。怪人の残党の活動のことをあまり気にしていないらしい。
やがて、スタートの時間が迫る。
「うおおおおおおおおおッ!!」
怪人は雄たけびを上げながら砂浜へバットを突き立て、そして頭を付けて回転し始めた!
隣・人
「成程。つまり隣人ちゃんの出番ですね!!!」
予め【回転椅子で三半規管を振り回しておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強。即ち、ぐるぐるする事で気分の悪さは免れないが、ハイハイの速さは凄まじい域に到達する
なんか綺麗なモザイク出しながらゴールまで全力ハイハイ
途中で怪人とすれ違ったりしたらぶん殴ります
脳震盪引き起こす程度の威力で
あ。見破られる可能性も高いですが大丈夫ですね
だって怪人もぐでんぐでんでしょうし
●
砂を激しく蹴りながら回転する怪人に、キマイラたちがドン引きしたりヤジを飛ばしたり手を叩いたりと様々な反応を見せているとき、スタートラインにひとりの猟兵が立った。
「成程。つまり隣人ちゃんの出番ですね!!!」
一体何がなるほどなのか、隣・人(六六六番外・f13161)は事務用椅子を勢いよく降ろす。
「椅子……?」
「砂浜で椅子…?」
「バットの代わりに椅子でぐるぐるするのか?」
反応はこちらも様々だ。一部はルール違反の可能性について指摘している。だって椅子はバットじゃねぇじゃんという論調であった。
だが!
キマイラたちは自分らの予想が甘いことを思い知らされる!
「逝きますよ彼方へ、起こしましょう惨劇」
未だぐるぐる回っている怪人の隣で彼女も同じくバットを砂に突き刺し、そして額を押し当てた。
「隣人ちゃんハリケーン!」
そして椅子に座りながらガッと砂浜を蹴り、勢いで回転するではないか。
バットを支柱にホイールをガリガリ鳴らしながら回転のボルテージを上げてゆく光景に誰もが絶句である。
「まさかのぐるぐる補助具……!」
「砂浜で車輪とかどうなってんのアレ」
異様な威圧感を醸しながら回転する怪人と猟兵に観衆は固唾を呑んで見守るしかない。特にストップウォッチを持っていたキマイラは、進むタイムカウントと回転の光景を交互に見て顔を青くしていった。
まだ。まだ回るのか。
やがて誰もが酷使される三半規管を思い浮かべ悲痛な表情になったときのことだ。
「ねえ、見てアレ!」
隣人に動きがあった。
「顔が青いよあの人!」
動きがあると言っても顔色に変化が起きただけである。だがぐるぐるバットと顔色の変化を結び付ければ、何が起きるか容易に想像できるだろう。
「ヤバイ、やばいってアレ!!」
「出ちゃう!! 虹色のキラキラしたやつ出ちゃう!」
危険を察知したのだろう。慌てて怪人がスタートを切る。もちろん即座にバランスを崩して倒れ、芋虫めいた動きになった。
だが隣人は回り続ける。蒼い顔で頬をいっぱいに膨らませながら。
「だめえええ!!」
「もうやめてえええ!!」
出た。
騒然とする観衆。慌ててカメラを背ける実況者。死に体で碌なリアクションを返せない怪人。
三者三様の悲鳴を上げる砂浜のなかで、バットから解き放たれた隣人は高速でハイハイを始める。彼らは気付くだろう。隣人はあくまでレースに徹していることを。目的はゴールに違いないのだ。
隣人はユーベルコードによって極限まで強化された身体能力を遺憾なく発揮して、高速ハイハイを披露する。
しかしここにひとつの誤算が生れていた。
「あの人どこに向かってんだ?」
「ゴールはそっちじゃないぞ……?」
限界まで三半規管を虐め抜いたが故の前後不覚。今の彼女に上下左右を聞こうと五円玉と答えられるのが関の山だろう。ゴールを目指そうとゴールがどこかわからなければ暴走するしかないのだ。
著しいコースアウトにより、あっさりと彼方の砂浜に消えてゆく。遠くから聞こえる無数の悲鳴だけが彼女の目印に違いない。
「……」
この場合だと怪人の勝ちになるのかなと、キマイラたちは顔を見合わせる。サーキットには生まれたての小鹿のような足で立ち上がろうとする怪人だけがいた。
ふと、そこへ一人のキマイラが声をあげる。
「ねえ戻ってくるよ!」
大小様々な悲鳴を引き連れ、ブーメランのような軌道で隣人がサーキットへ戻る。果たして眩暈から回復したのだろうか。答えは否だ。
「ば、馬鹿! こっちへ来るな!」
足が震えて立ち上がれない怪人が慄いた。高速で暴走する隣人の軌道から察したのだろう。このままでは自分に直撃すると。
「止まれッ! 止まれ――ッ!!」
結果
隣人:コースアウト
怪人:レース続行不能
判定により隣人の勝利
成功
🔵🔵🔴
この後の清掃作業により、レース再開まで30分を要した。
●
「ク、ひまわり怪人がやられたか…!」
バットを手に持ちながら呻くのは頭に氷の山とシロップを掛けた、かき氷怪人である。
ちなみにひまわり怪人は倒されたものの、まだまだ頭がひまわりになっている怪人の在庫は残っている。倒されたのは所謂、ひまわり怪人Aというやつだ。
「だが! 俺はひまわりのやつほど甘くないぞ!」
勇ましく指さしてくるかき氷怪人。その後ろでひまわり怪人Bからブーイングが飛んだ。
フィン・クランケット
おわかりいただけませんけど!?
うぅ、見てるだけで酔いそう…
お昼先に食べたことを後悔してますけど、でもでも、見てしまったオブリビオンは見逃せません!
やぁってやりますよ!!
レースに参加
ぐるぐる回ってスタートします
うぇえぇ…想像以上に世界が回るぅ…
命中させなきゃいけない技は、こんな状況じゃ当てられっこないんですから、周辺一帯を変えちゃえば当てるも何もないんですよ!(名案)
と、雑な考えでUCを発動させます
結果的に滑りやすくなった足元のせいで、余計に戦いがぐだぐだになります(迷案)
このぉ当たれえぇぇ…!!
薙刀を振るうも空振り連発
最終的にはヤケクソでポシェットの中の物をあれこれ投げます
倒れてぇぇぇ!!!!
●
スタート前のパフォーマンスに沸き立つ観客席であるが、反対に猟兵は遠い目を浮かべていた。
「あ、はい」
成り行きでスタートラインで立つことになったフィン・クランケット(蜜柑エルフ・f00295)である。
うおおおおお! などと雄たけびを上げながらバットで回転し始める怪人と盛り上がるキマイラたちに付いていけない。
「うぇええ……」
高速回転。砂浜をえぐるステップ。きらきら舞う氷の結晶。高速回転。なんか暑苦しい気合。
「見てるだけで酔いそう……」
頭の先からピンと出た髪と長い耳がぐんにょり垂れる。一段飛ばしで駆け登っていく無責任な周囲のテンションにもそうだが、自分が怪人と同じものを期待されてることにも辟易するしかない。
「姉ちゃーん頑張ってー!!」
「レッツゴータイフーン!」
野次ともつかぬ暢気な応援に思わず拳を握ってしまう。
「私、もうお昼食べてるんですよぉ……!」
もうヤケクソだった。
「やぁってやりますよ!!」
バットを握り。地面へ押し付け。頭を付けながら回転した。
秒で後悔した。
だってやばい。数回転しただけで内臓が遠心力でひっくり返り、平衡感覚が麻痺する。体がおかしくなっていくのが実感できた。
「想像以上に世界が回るぅ……」
世界から迷子になる感覚。もはや言語化の難しい圧迫感と不快感にたまらずバットを手放した。スタートまでに何回転したかわからない。
「これはだめですねぇ……」
全身を打つ衝撃があったと思ったら、地面がすぐ近くにあった。少し遅れて自分が倒れたことを知った。相変わらずぐるぐる回る視界のなかで、なにやら倒れてる怪人らしきものが見えたから、あっちも同じ状況なのだろう。
怪人を攻撃しようにも、視界がぐわんぐわんして狙いなんて付けられるわけがない。ゴールを目指そうにも、方角という概念が頭の中でぐっちゃぐちゃである。無理。
「――と、思いましたかぁ!」
このまま大人しくゾンビの仲間入りなどしてたまるものか。震える足でなんとか立ち上がり、フィンは予め思い描いた作戦を実行するのだ。
狙いを付けられないなら、狙いなど必要ないほどの広範囲攻撃を叩きつけてやればいいのだ!
「こうしてしまえば当てるも何もないんですよ!」
かくして夏の砂浜に突如冷気が渦巻き、氷の花が咲き乱れた。
そして何が生まれたのかというと、フィンの後頭部に生えた立派なたんこぶだ。
がくがくした足で立っていたフィンはものの見事に凍り付いたサーキットでつるりと滑り、頭から倒れたのである。
当然ながら怪人も転んでいた。
わあいダメージ入ったぞ、などと喜ぶ場合じゃない。
そもそも怪人を倒さなければいけないのだ。
「かくごぉー!」
愛用の薙刀をポシェットから取り出し、怪人めがけて振り回す。
「ッ!? 何の!!」
対して怪人も頭からスプーンを抜き放ち、振り回す。
「このぉ当たれえぇぇ…!!」
「負けるか……ッ!」
縦横無尽に振り回される薙刀とスプーン。カンフー映画のヌンチャクもかくやというほどに激しい攻防であるが、悲しいかなお互いに全く届いてなかった。
「あっ」
それどころか適当に振った薙刀がサーキットの壁にぶつかり、つつつ…とさらに怪人から遠ざかる始末。
「……」
「……」
「……」
沈黙があたりを包んだ。誰もが『え、どうすんのこれ?』という顔をしていた。
回転による眩暈はいくらか回復してきたが、完全に凍ったサーキットでは進むのも戻るのも敵わず、進退窮まっている。
「このままふたりとも失格なのかなぁ」
「仕方ないねー」
などとキマイラが呟いた瞬間のことだ。
キッと覚悟を決めたフィンがおもむろにポシェットへ手を突っ込んだ。
取り出したるは昼食時に呑んだラムネの空瓶である。
「あたってぇぇぇ!!」
大きく振りかぶって、投げる!
「え、遠距離攻撃だー!!」
ポシェットから手当たり次第に雪合戦の要領で投げる。投げる投げる。無我夢中だった。観客といえばスタンディングオベーションである。盛り上がれば何でもいいらしい。
「なんだと!?」
怪人もただ投げられるわけではない。すかさず頭のかき氷へ手を突っ込み、雪玉にして反撃を始める。
「うおぉぉぉ!」
「倒れてぇぇぇ!!!!」
泥仕合はその後、かき氷怪人の氷が尽きるまで続いた。
結果
フィン:コース途中でギブアップ
怪人 :氷がなくなって再起不能
判定によりフィンの勝利
成功
🔵🔵🔴
●
燦燦と輝く太陽が凍ったサーキットを溶かすまでのあいだ、観客のキマイラたちは思い思いにコンコンしたり買い物したりで時間を潰す。
「次のレースいつごろかなー」
「はやく始まるといいねぇ」
暢気にインターバルを満喫する彼らと打って変わって、怪人達は腕を組みながら物々しい雰囲気を醸し出す。
不意に、一体の怪人が足を踏み鳴らした。
「全く……情けない!」
渦巻状の頭部を持つ蚊取り線香怪人である。
「どいつもこいつも軽く回転しただけで目を回しおって……!」
そういう競技だからしょうがない、などという反論を許さぬ威圧感があった。
「こんなもの、あらかじめぐるぐるしておけばどうということはないのだ……!」
物理的に頭部がぐるぐるしている線香怪人はバットを観客へ、そして猟兵へと突き出す。
「次の相手は俺だ、格の違いを思い知らせてやる!」
かくして、蚊取り線香怪人Aとの戦いの火蓋が切って落とされるのだった。
三咲・織愛
ムーくん(f09868)と
知っていますか、ムーくん!
今キマイラフューチャーでナウなヤングにバカウケな競技があるんです
それがこれ、エクストリームぐるぐるバットです!!
見ていてください!
私、絶対に優勝してみせますから!
という訳で正々堂々とぐるぐるします。ぐるぐるします!
3倍くらいぐるぐるしてみせます!
さあ、行きますよ……きゃーーーーっ!(すってーん)
きもちわるい……ぐるぐるします……
でも、絶対に、負けたくない……!
ぐぁし!と怪人の足を持って引き留めます
なんなら足首を潰します
足首以外も潰しまくります
ムーくん……後は任せましたよ!
私の代わりにぐるぐるバットを……!
ムルヘルベル・アーキロギア
同行:織愛(f01585)
ワガハイもうこうして引きずり回されるの三度目ぐらいなのであるがどうして来てしまうのであろうな
なんとかソサエティ的な闇の力を感じざるを得ないのである……
え? ああ、うん、織愛オヌシはもうなんか自由にやればよい
ワガハイ見届けてやるから……え? いやワガハイはぐるぐるせぬが? するわけないが?
だってほらあの握力で無双しておるではないか、あーあ怪人がミンチみてえだ、である
……いやシリアスな感じで言われようが絶対しないが?
えっなんであるかこの観客や周囲からの"圧"は
……あーもーワガハイ帰りたいー!!(怖いので泣きながらぐるぐるし始めて倒れて口からキラキラしたものをロッパーする)
●
薄い茶髪の娘が袖を引く。ねぇねぇといっぱいの好奇心を宿らせた瞳でサーキットを見、そして同行者へ向いた。
「知っていますか、ムーくん!」
「知らないが」
三咲・織愛(綾綴・f01585)はつれない反応に臆さず、興奮気味に語りだす。
「今キマイラフューチャーでナウなヤングにバカウケな競技があるんです」
細く白い手がサーキットを指差した。
「それが、これ!」
銀色に輝く砂浜と水着のキマイラたちと、全身タイツの怪人と落ちてるバット。これぞまさしく。
「エクストリームぐるぐるバットです!!」
高らかに声をあげる織愛へ、キマイラたちがうおーとかなんとか沸き立つ。怪人も深く頷きながら仁王立ちで挑戦者を待つ。
そして、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)はそのことごとくを無視して夏の空へ思いを馳せた。
空が綺麗であるな。
思えばこうして織愛に引きずり回されるのもこれでおよそ三度目。強制イベントが待ち受けているとわかっていてどうして来てしまうのだろうか。ムルヘルベルは透明感のある紫の眼を細めた。雲は何も答えてくれない。
顔を降ろせば、真っ直ぐな視線を注いでくる織愛がいる。いつの間にかバットを両手で握りしめていた。
たかがバットで回転し目を回しながら走る競技だというのに、信じられないモチベーションである。とてもムルヘルベルには付いていけない。
「見ていてください!」
声をあげながら腕まくりして、織愛はスタートラインへとずんずん進んでゆく。さながらホームラン宣言をするバッターのように、バットを怪人へ突きつけて火花を散らした。
「私、絶対に優勝してみせますから!」
ここまで見せつけられてムルヘルベルはもうすっかり遠い目である。
「織愛オヌシはもうなんか自由にやればよい……」
すべて放り投げて観客席へ入る以外になかった。
スタートラインにて猟兵と怪人が相対する。
織愛は口元を真一文字に結んで相手の頭部を見上げた。蚊取り線香怪人だ。ぐるぐるした頭部を持っている。エクストリームぐるぐるバットにおいて非常に恵まれたフィジカルと言えよう。生半可な回転では太刀打ちできないはずだ。
ならば。
「三倍……」
彼女は突き出した手から指を三本立てる。
「三倍くらいぐるぐるしてみせます……!」
夏の日差しにきらきらする織愛。三倍という単語に動揺する怪人。盛り上がる観客。ラムネを飲むムルヘルベル。
海の風が二人の間を通り抜け、勝負の熱気をさらってゆく。
「いいだろう。それならば……」
やがて怪人が口を開く。全身に力がみなぎり、砂浜にバットが突き立てられた。
「正々堂々……」
織愛もまたバットを突き立て、頭を乗せた。
「勝負!」
ざりっと白砂が蹴られる。舞い上がったそれが地面へと落ちるよりも前にステップが刻まれていく。陽光を浴びて煌く砂は回転の激しさを物語っていた。
織愛の回転は三倍回って見せるという言葉の通りに、早い。怪人が一回転する間に彼女は二回転以上している。
「……っ!」
しかしエクストリームぐるぐるバットは体に多大な負荷を掛ける競技である。眼を閉じて回る織愛の眉間には皺が寄り、掻き回される三半規管と、遠心力に振り回される内臓の不快感に歯を食いしばって耐えていた。一瞬でも気を抜ければ足がもつれて転ぶだろう。集中力を要求する足運びとそれを削る過酷な違和感に額から汗が飛ぶ。
「やるな小娘……だがこの勝負は俺が勝つ!」
「さあ、行きますよ!」
回転を終えた怪人がバットを放り捨て、千鳥足でスタートした。やや遅れて織愛も駆けだす。
だが。
「こ、転んだー!!」
「お姉さん……回りすぎだったんだ!」
絹を裂くような悲鳴を上げて、華奢な体が地に伏せた。それはもう見事な転倒だった。
きもちわるい。
ぐるぐるする。
全身から危険信号が渦巻いて、織愛は砂上で喘いだ。
重力の捩じれる感覚に翻弄されて起き上がることさえできない。
ぼやける視界に怪人の背が見える。相手は千鳥足だ、距離はまだほとんど離れていない。
がむしゃらに手を伸ばす。このままでは負けてしまう。そんな想いが体を突き動かした。
三咲織愛という娘は負けず嫌いなのだ!
「絶対に、負けたくない!」
限界まで伸ばされた手は、やがて怪人の足首を掴んだ。
「勝ったな焼きそば買ってくる」
敵を掴んだしあとは握力で無双して終わるだろうと、ムルヘルベルは楽観しながら小腹を満たすものを求めて歩き出す。すぐそばでキマイラが砂浜をコンコンしているのを見つけ、それに倣うと焼きそばが手に入った。キマイラフューチャーとはつくづく便利な世界である。
さて1分と経たずに戻った彼は、鈍い音と共に怪人の足首が握り潰されるのを見て無言のまま頷く。
予想通りである。遠からず怪人はミンチになるだろう。自分がレースに出る必要はなく、よってぐるぐるを強要されるイベントはやってこない。
「やめて! やめてそこ砕かないで!! 燃焼時間が短くなっちゃう!!」
頭部の渦巻きの外周から割られていく怪人の叫びを背景に、焼きそばを啜る。ソースと青のりのチープな味わいがおいしい。
食べ進める間にも蚊取り線香はぱきぱきと割られていく。流石の怪力だ。安心してみていられる。
しかし、およそ蚊取り線香の半分ほどが割られたとき、織愛に変化が起きた。
「……ううっ」
これまで無慈悲に怪人を握って砕いていた彼女が、青い顔で蹲る。その手は怪人の体を解放し、今や自身の胸に添えられていた。
「どうやら私はここまでのようです……」
眩暈と気持ち悪さが限界に達していたのだろう。薄桃色の瞳に涙の膜が張る。
「そんな、お姉ちゃんが負けちゃうなんて!」
「あの子が負けたら一体誰が怪人に勝てるんだ……!」
観客に動揺が走った。
いやどう見てもあの怪人虫の息であるが。放っておいてもすぐ死ぬが。
ギリギリ判定勝ちか、悪くて引き分けだろうとあたりをつけてムルヘルベルは焼きそばを嚥下した。
「だから……後は任せましたよ! ムーくん!」
「んえ!?」
突然の指名に箸を取り落とす。
織愛の視線が真っ直ぐ自分に突き刺さっていた。彼の背を、嫌な予感が稲妻めいた速度で駆け巡った。
「私の代わりにぐるぐるバットを……!」
「……いやシリアスな感じで言われようが絶対しないが?」
ついそう返して、しまったという顔をする。
周囲のキマイラたちが『こいつがムーくんか』という目で見てくる。織愛の後は任せた発言はしっかりと彼らを焚きつけていた。
キマイラの子供からバットが差し出される。
「ワガハイはぐるぐるせぬが?」
それを押し返した。が、すかさず別の角度からバットが差し出される。
「するわけないが??」
押し返した。また別の人からバットを渡される。
何度拒否しようと結果は同じだ。観客のすべてが『ムーくん』に期待を抱き、そして願いを託していた。
「絶対に嫌である!!」
しばらくして彼は圧力に敗北した。虚ろな眼でバットを持ち、スタートラインに立つ。
何が嫌って、猟兵と怪人がこれまで散々倒れてきた競技に参加させられることもそうだが、何より怪人が既に虫の息で、自分がぐるぐるすることに全く意味がないことが嫌であった。辛い。
「ワガハイ帰りたい……」
力のない呟きが零れ落ちる。それからバットを立て、泣きながら回転するのだった。
結果
織愛 :レース続行不能
ムルヘルベル:レース続行不能
怪人 :レース続行不能
人数が多いので猟兵の勝利
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『夏の思い出トリオ』
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POW : ひまわり怪人・ウェポン
【ひまわり兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : かき氷怪人・ジェノサイド
【かき氷攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 蚊取り線香怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【蚊取り線香】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
輝く砂浜に割れんばかりの歓声が咲く。
猟兵が怪人へ立て続けに勝利したからだ。彼らにとって猟兵はヒーローであり、推しが華々しく活躍すれば応援も拍手も仕方のないことだろう。
当然、怪人にとっては面白くない展開である。
怪人たちにとって、本来称賛を浴びるべきは自分たちなのだ。皆が一様に腕を組み、厳しい表情で猟兵たちを睨み付けている。
「ええい! こうなったら、俺たちの真の実力を見せてやる!」
「いまさらごめんなさいしても遅いからな!」
「泣け! 媚びろ!」
やがてひとりの怪人がバットを掴み、スタートラインに立った。
だが彼の雰囲気は先ほどまでレースに挑んでいた者たちとは違う。バットを強く強く握りしめ、全身から剣呑な空気を立ち昇らせているではないか。
間違いない。
彼はバットでぐるぐるした直後にユーベルコードで攻撃を仕掛けるつもりなのである!
白鳥・深菜
……(あれはバットでぐるぐるした直後に仕掛けてくる。ならば!)
ピャアアアアアアアアア!!!!
(まずは空中浮遊を利用して、
地に足をつけてない勢いでぐるぐるする。
ここで手を抜いてはいけない。むしろ攻撃の事はさておいて、
装備している武器を吹き飛ばさんばかりに本気でぐるぐるする)
――!!
(そして着陸!
遠心力の乗った武器がオブリビオンの方にすっ飛ばし!
【折木に舞う花吹雪】で武器を
無数の白い凍てつく氷の花びらに変え、奇襲敢行!)
****
……みたいな戦法を考えてはいたんだけど、
その前に口から【煌めく月虹の矢】が出てきそうですけど。
たすけて。
(只今後悔レベルの速度でぐるぐる中。顔色は虹色)
●
砂浜を風が吹き、スタートラインに立つ猟兵と怪人のあいだを通り抜けていった。
ひとりはひまわり怪人。
そしてもうひとりは白鳥・深菜(知る人ぞ知るエレファン芸人・f04881)。キマイラであった。
両者、しばらく無言のまま対峙し、やがてバットを取り出す。
腕で手先でくるくると回転させながら突き立てる動作に、観客たちは色めき立つ。終始互いに視線を外さなかった。
「オオオオオオッ!」
野太い声をあげてひまわり怪人が回転を始める。地を踏む足は力強く、速度は竜巻もかくやというほどに激しい。
「そ、そんな…あんな回転を!?」
「すごい、まるで嵐みたい……」
観客のキマイラからどよめきが生まれる。怪人の鍛え上げられた体躯の、その身体能力を遺憾なく発揮したぐるぐるバットは彼らを慄かせるに十分な力があった。
「アイツはひまわり怪人……そうか、そういうことか!」
「知ってるのか!?」
ああ、と渋い顔をしたライオンのキマイラが頷く。ひまわりは太陽の方角を追いかけて向きを変える植物だ。常に太陽を求めて回転するひまわりは、回転のエキスパートと言えよう。ぐるぐるバットにおける適正は、通常のキマイラの比ではない!
だが。
「ピャアアアアア!!」
対して深菜は羽を使い飛び上がり、両手で握ったバットをしっかり頭へと固定する。体の向きは水平のまま、なんと彼女は羽ばたき回転を始めた。
「なんだあれ!?」
「走らずに空中で回転を……!?」
観客の驚きは怪人のときの比ではない。口々に困惑をこぼす彼らは、さらにボルテージを上げてゆく深菜の回転に一歩、また一歩と後ずさった。
ここでひとつ扇風機を思い浮かべて欲しい。いまの深菜は完全にソレである。
「ピャアアアアアア!!」
「まさか、あの動きは……!」
「知ってるのか!?」
渋面を作るライオンのキマイラが静かに首を振る。
「ごめんよくわかんない」
「だよね」
「完全に動きが人外」
「あれ絶対やばいって」
見れば完全にイキっていた怪人すら動きを止めていた。深菜の大回転にドン引きである。
深菜はというと、ただ意味もなく大車輪したわけではない。もちろんぐるぐるバットのルールで回転しなければいけないが、彼女にはそれを越えた狙いがあった。
怪人が回転を終えた直後に襲い掛かってくるならば、こちらも同じタイミングで攻撃してやればいいのだ。回転の勢いを乗せて武器を投げつけよう。得物を氷の花弁にするユーベルコードを彼女は持っていた。
「――!!」
扇風機の軸がブレる。着地の体勢に入ったのだ。高度の維持をやめ、回転しながら重力に引かれて着地、体を巡る勢いを殺さないまま剣を引き抜き、膂力に遠心力を乗せて振り抜く!
電光石火の投擲だ。放たれた白銀のレイピアは閃光となって、
そのまま砂浜の彼方まで飛んでいった。
「……」
「……」
「……」
まあ眼を回してたら狙いなんて付けられないよねって表情で観客たちが顔を見合わせる。
ひまわりウェポンを出そうとしていた怪人も思わず光の軌跡を見送った。
後には眼を回して痙攣する深菜だけが残った。
「ククク…その程度か!」
バットを放り捨てた怪人は足を踏み出し、直ちによろめいて四つん這いになり、勝ち誇る言葉と共に深菜へと近づく。握った手には硬そうなひまわりがある。ひまわりウェポンに違いない。あれで叩くのだ。いっぱい。
だが、怪人は気付かなかった。勝利が目前であるという慢心が彼の目を曇らせた。俯いた深菜の顔色に、観客たちが口にする虹色という言葉に、最後まで気付けなかった。
力なく開く深菜の口から漏れ出る光は虹色。
「あっ」
やがて怪人は顔をあげた深菜から奔流を浴びた。あらゆる属性が凝縮した混沌の光は瞬く間に怪人を呑み込んだ。なおユーベルコードによる魔法攻撃なので環境汚染への心配はありません。ご安心ください。
「アアアアーッ!!」
かくしてひまわり怪人は消滅する。しかし、敵を撃退した猟兵はそのまま砂浜に突っ伏してしまい、動くものは何もなくなった。
結果
深菜:スタート地点で脱落
怪人:レース続行不能
判定により深菜の勝利
大成功
🔵🔵🔵
舞塚・バサラ
【SPD】
………………こう、なんというか
連中も律儀で御座るよな、うん
でもまあ、それが法度であるならば………いざ!
(以後、【残像】を出す勢いにて大回転中の間の脳内多重人格会議)
某らは忍び故こんな状況であろうと慌てず騒がず的確に……
どんな人数だろうとこの回転の勢いを乗せた我がUC【技巧:輪廻】にて纏めて薙ぎ払えば問題なし
何より向こうもまた回転によって弱体化、拙者達に攻撃を当てる事すら侭なるまい
これはわたしたちがかったもどうぜん!
(以後、回転を終えての実際の行動)
(覚束ない足元)(なんとか敵を視界に収める)(術を使う為の印を切り間違える)(上空から降ってくる滅茶苦茶ドデカイ蛙)(嫌な音)
●
その影に最も早く気づいたのは誰だっただろうか。
青い海と金色の砂、さらに色とりどりの水着で賑わう浜辺に、薄墨を垂らしたような色の男が立っていた。
観客に紛れながらゆるく腕を組み自然体に立つ様子に、それまで猟兵と怪人の勝負を眺めていたことが伺えよう。だが、怪人が次の挑戦者は誰だと周囲を見回すいまこの瞬間まで、彼の存在に気付けるものは誰もいなかった。
男の名は舞塚・バサラ(罰裁黒影・f00034)。忍びである。
木製バットを肩に乗せ、威嚇するように勿体つけた動作で観客席を睥睨する怪人の視線が、面を付けた忍びのそれと合う。
怪人の動きが止まった。
「……お前」
「いかにも」
忍びの口から声が発せられたことで、周りにいたキマイラがびくりと振り向く。すぐそばにいながら誰一人忍びの存在に気付かなかったのである。
ぶうん、と風を切る音がした。怪人の手からバットが放たれたのである。バットは勢いよく回転しながら忍びの面へと一直線に飛び、そして片手で受け止められた。
怪人からの挑戦状であった。
怪人と猟兵が地面に突き立てたバットへ額を付け、やがて響く合図に合わせて一斉に砂を蹴った。
途端、バサラの姿がブレた。
おおっとキマイラたちにどよめきが走る。
残像を生みながらの回転は、これまでぐるぐるバットを見てきた観客にとっても異様な光景だ。凄まじい回転速度でありながら全くの無音であることも異様さに拍車をかける。
息を呑んで眼前の光景を見守るキマイラたち、そしてシロップと氷の粒を振りまきながら駆ける怪人とは対照的に、忍びの胸の内は至極冷静だった。冷静に思考していた。
なんとまあ、ここまでルール通りである。
目の前に戦争で自分たちを地に付けた猟兵たちがいるのにも関わらず、怪人の仕掛けた勝負はぐるぐるバットの勝負であり、決してルールを逸脱していない。キマイラたちに対してもそうだった。
――こう、なんというか。
――連中も律儀で御座るよな、うん。
呟かれた感想に様々な人格が同意する。それでいて回転する足さばきに一切の乱れがないのはさすが忍びと言うべきか。
――でもまあ。
――それが法度であるならば。
オブリビオンを倒すことに遠慮などない。
――ではどう攻める。
――某らには回転から派生する戦い方があろう。
――この回転の勢いのまま輪廻にて薙ぎ払えば良い。
――いざ。
――いざ。
やがて二人の回転が同時に止まり、バットが捨てられた。
流れる視界、歪む大地、重力が乱れに乱れ、青空へ落ちそうになる。
だが両者は転ばず踏みとどまった。三歩くらいたたらを踏んで堪えた。
かき氷怪人が頭上からスプーンを取り出して滅茶苦茶に振り回す。必殺かき氷ジェノサイドである。だが彼の向いた方向にバサラはいない。背を向けていた。
勝機。
バサラは一息に両手で印を切る。その間にも体はどんどん傾いてゆく。ほぼ水平に傾いてゆく上体を強靭な足腰で支える。鍛え上げられた忍びだ、その程度のことで印を切るのに支障はない。
やがて忍びは印を切り終えて影苦無を振りまき爆炎の嵐を咲かせる、
はずだった。
――あっ。
――あっ。
――あっ。
バサラの内に宿る数多の人格が一斉にやべって顔をした。
やばかった。
印を切り間違えた。
この印で何が起きる? と背筋が粟立つ感覚を覚えながら周囲に警戒を巡らす。
術の暴発で自滅しては元も子もない。
だが、警戒に反して異常は見られなかった。炎も爆発も見られない。
ならば不発に終わったかと胸を撫で下ろした矢先、彼は足元の影に気付いた。
巨大な影だ。明らかに自分のものではない。どれくらい大きいかというと、自分と、ようやくこちらを認識して接近してくるかき氷怪人までをすっぽり覆うほどに大きい。
「……」
恐る恐る上を見上げてみれば。
巨大な巨大な、黒に塗りつぶされた、蝦蟇が落ちてきた。
結果
バサラ:スタート地点で脱落
怪人 :スタート地点で脱落
バサラがやったので判定によりバサラの勝利
成功
🔵🔵🔴
エドゥアルト・ルーデル
ほう…その殺気…やる気か貴様
まさか拙者と同じこと考えてるやつがいたとは…そういうの嫌いじゃないわ!
殺し合いだッ…!クソヤロウ!!"!?"
ようは参加者が拙者だけになれば良いんだ!
グルグルした直後にレースそっちのけでバットを担いで怪人に一直線!
お互いバットで殴り合いでござるよ!自分もベッコベコになろうが最後まで立ってたやつが勝ちでござる!
という訳で野球しようぜ!ボールお前な!
参加したレースはぐるぐるバットレースで
スタート地点から走りもせずに殴り合いました!
猟兵なんてそれでいいんだよ
レースの結果?【知らない人】がゴールまで走っていったでござるよ
●
「ほう……」
無精ひげに囲われた口元が吊り上がる。回転用バットで己の肩を軽く叩くエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)は、蚊取り線香怪人と相対していた。
スタートラインに立つ二人は同じ姿勢で、首を緩く傾げながら互いにガンを飛ばす。
交差する双眸は相手の背にただならぬ気配を感じ取れるだろう。
すなわち、殺気である。
「まさか拙者と同じこと考えてるやつがいたとはな」
「さっそく始めるか、もたもたすることもない」
何やら通じ合っている猟兵と怪人である。観客席で見守るキマイラたちは一斉に疑問符を浮かべていた。
ざわめき。どよめき。キマイラたちは互いに顔を見合わせながら固唾を呑んで戦いの始まりを見守る。
まるで決闘でも始めるかのような雰囲気に、ひとりのキマイラが呟く。
「あ、ああ……勝負は『レース』なのか?」
ただの確認のつもりだったのだろう。答えはわかりきっている。当然だ、なぜならここはぐるぐるバットのサーキットなのだ。
だが。
ランナーの二人は異口同音に否定する!
「「――当然!」」
「「殺し合いだッ!!」」
砂塵を巻き起こす勢いで男二人が回転する。
観客の多くはこのまま二人がなんだかんだどつき合いながらゴールを目指すことを想像しているだろう。だがそれは間違いだ。
人々はぐるぐるバットを、ゴールにたどり着けば勝つ競技だと捉えている。しかし合理的な戦術ではないのだ。
この競技の真の戦い方を、二人の回転が終わった瞬間に彼らは思い知ることとなるだろう。
分厚い靴底のブーツが強く砂を踏みしめる。回転運動の終わりだ。強い力が膝から足先へと駆け抜け、やがてそれは推進力となった。
「要は参加者が!」
「拙者だけになれば良いんでござる!」
至ってシンプルである。ライバルをすべて叩き潰せばその時点で勝利が確定するのだ。
猟兵と怪人はサーキットなど無視した。そしてライバルへと一直線に駆けた。もちろんバットを投げ捨てたりなどしない。これはいまから凶器になるのだ。
二人は瞬く間に距離を詰め、そして高く高くバットを振り上げた。
狙いは頭部。クリーンヒットすれば頭蓋を叩き割る威力だ。
「死ね猟兵ッ!」
「クソヤロウ!!」
目と鼻の先。交差する視線。力任せに振り下ろされる凶器。観客の誰もが惨劇の未来に眼を覆った。
が。
「「オアアアアアッ!?」」
そのまま空振り通り過ぎてすっ転ぶ。
「クッ」
「やるな…!」
杖を支えに素早く立ち直るが、足捌きは千鳥足だ。
レースの勝者を決めるノーガード殴り合いを、狂った平衡感覚が許さない。
水平にスイングされるエドゥアルトのバットが、怪人の頭上を通り抜けてゆく。回避されたのではない。相手が俯いてえずいただけだ。
だが水平に体を捻ったことによりエドゥアルトは平衡感覚を再び失い転倒。胃から急速にせり上がってくる違和感を手で抑え込んだ。
次に怪人の反撃だ。姿勢を起こした彼は倒れた猟兵へとバットを振りかぶり、そして振り下ろす。ザッと鈍い音を立てて砂を抉った。体が浮き上がり上下左右が捩じられてゆく感覚に支配されては、とても狙いなど付けられない。
転んだエドゥアルトの足にもつれて怪人も転ぶ。
「……」
「……」
観客たちは息を呑んだ。完璧な泥仕合である。コメントのしようがない。
あらかじめ転んでおけば、それ以上転ぶことはないとエドゥアルトが気付き、横たわったまま溺れるように殴り合うことで泥仕合はさらに加速した。
しばらく続いた泥仕合に観客が欠伸をし始めた頃である。
「やるでござるな……!」
「お前もな……ッ」
顔中に痣をこさえた猟兵と、蚊取り線香を細かく砕かれた怪人が手を握り合った。
それは勝負の本質を見抜いた二人の、ある種の必然だったかもしれない。お互いに残された体力はごく僅かで、次の攻撃がフィニッシュブローだ。
結局スタート地点から走りもせずにひたすら殴り合いするだけだった。だが猟兵と怪人なんてそれでいいのである。それが流儀なのだ。
ふわり、と温かい感触。
握り合った手を優しく包み込む手があった。
競技を通して通じ合った猟兵と怪人の姿に、一人の人間が胸を打たれたのだ。膝をつき、目尻に涙を浮かべながら両者の健闘を称えて何度も頷いていた。
「……」
「……えっ」
誰。
エドゥアルトと蚊取り線香怪人は顔を見合わせる。突然出てきた人物を二人とも知らない。
「誰!?」
「誰なのッ!?」
やがて人間は訳知り顔で鷹揚に頷き、ゴールを目指して駆けだした。
「ねぇ誰なの!?」
「怖いよぉっ!」
叫ぶような疑問に答える者は誰もいない。観客は大声で謎のランナーを応援し、割れんばかりの拍手でゴールを祝福した。
結果
エドゥアルト:スタート地点で脱落
怪人 :スタート地点で脱落
知らない人 :ゴール
知らない人の勝利
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『怪人アルパカマッスル』
|
POW : ポージング
自身の【肉体美の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : 鋼の筋肉
全身を【力ませて筋肉を鋼の如き硬度】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : つぶらな瞳
【つぶらな瞳で見つめること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【瞳から放たれるビーム】で攻撃する。
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ニィ・ハンブルビー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
猟兵たちの連勝に会場は割れんばかりの歓声と拍手を送った。
が。
「情けないやつめ!」
突然の怒号で一気に静まり返る。
力強い声と、倒れた怪人を一括する言葉。キマイラたちは声の主を怪人の親玉だと悟った。
「エクストリームぐるぐるバットを制すると言っておいてこのざまか!」
誰かがあっと声を上げた。そして誰かが指差した。
観客の顔が一点を向く。そこには、サーキットのゴールでポージングし、二組の上腕二頭筋を膨らませる新たな怪人がいたのだ。
これぞアルパカの頭部を持つ怪人の親玉。
怪人アルパカマッスルである。
「くるがいい、猟兵。俺が真にエクストリームぐるぐるバットを制する……」
怪人は体を捻る。横向きになり大胸筋を強調する。
「筋肉の暴力というものを見せてやろう!」
鬼桐・相馬
鬼に金棒ならぬ木製バット……。
【POW行動】
ルールに則りいいかんじでぐるぐるしたが、木製だとダメだった。角が埋もれて抜けない。
心なしか角が熱い気がする、気のせいか?気のせいだな。……行くぞ!
ぐ、想像以上に目が回るというのはきつい、泥酔状態とはこんな感じか。
……吐き気が。いや、俺はリバースしたことないんだ、こんなところで俺の初めてを奪われてたまるか!
ゴールするより先にオブリビオンだ。肉体美?こっちは見る余裕などない。だがその可燃性の頭に取り付けば俺の勝ちだ。クソ、バットのせいでうまく歩けない、安定が悪い。
掴まえたぞ。[怪力]さあ、俺と一緒に燃え上がろうじゃないか……![恐怖を与える](UC発動)
●
観客席から歩み出て、無言のままスタートラインでバットを立たせる鬼桐・相馬(羅刹の黒騎士・f23529)に、怪人アルパカマッスルは話しかけようと口を開き、閉じた。
言葉など必要ない。
猟兵の本分か、オブリビオンの本能か。あるいは他の、仄暗い性分らしき何かが余計なものを勝負から削ぎ落とす。
交差していた金の眼光と黒の瞳は、次に各々のバットへと落とされる。
やがて力強い足が砂を蹴り、加速と砂塵を生んだ。
二人の選手による、ぐるぐるバットが始まったのだ。
バットを握る相馬は、不意に鬼に金棒という言葉を思い出す。むかし父が発したのか、それともどこかの世界で耳が拾ったのか、わからない。
ただ己の額と砂に挟まれた木製のそれはミシミシと軋んで頼りなく、金属製だったらと思わずにはいられない。
「――いくぞッ!」
アルパカ怪人の言葉と同時に、頭を上げる。回転を終えたタイミングに差はない。
そしてゴールよりオブリビオンの排除を目指して走る相馬を、猛烈な違和感が襲ったのもそのときだった。
―――頭が、重い……!
「「「バットが角に刺さってるーっ!?」」」
観客の叫びのなか相馬は膝をついた。頭を苛む重量感と、僅かでも首を動かすたびに生じる、謎の遠心力めいた感覚が意識を滅茶苦茶にかき乱してくるのだ。
吐き気がする。泥酔状態もこのようなものなのだろうか。ぎりぎりと奥歯を食いしばっていても、千々に乱れた思考が口から漏れてしまう。
「角が、……。気のせいか、気のせいだな……」
「「「気のせいじゃないと思うよ!」」」
観客のキマイラたちのツッコミが届くことはない。
猟兵は敵を意識するのに必死で、歓声など雑音にしか聞こえなかったのだ。
片手で頭を抑えながら無理矢理に進む。足を引きずるたび、体が徐々に傾いてゆくが、それでも転倒せずにいられたのは生来の強靭な体幹のおかげだろう。
見ればオブリビオンもこちらを向いて、ポーズを取ろうとしたまま呆けているではないか。めまいに戦意を失ったかと相馬は分析する。
「おまえ、角……」
敵が何か言ってるが全然わからない。
「バット刺さってるバット!!」
観客が何か言ってるが全くわからない。
ただひとつわかるのは、敵の可燃性の頭に取り付いてやれば勝ちだということのみ。
鬼桐相馬はただそれだけを信じて邁進する。
これがアルパカ怪人にはさぞ恐ろしいものに映っただろう。
頭からバットを生やした男が、ふらつき足を引きずりながら迫ってくれば怪人だって怖い。誰にでも怖い。
「やめろ、くるな……っ。こないで!!」
半狂乱になって腕を振り回すアルパカ怪人。それが偶然にもバットに当たり、相馬の頭を横に向かせた。
「う……ッ!」
「あっ」
「あっ」
吐きそう。当人の相馬はもとより、見守っていたキマイラたちも慌てた。みるみるうちに顔色が悪くなっていく。
腹から喉までを順に強く絞られたようで、喘ぐように口を開いた。
「ぐ、吐いてたまるか……!」
「耐えた!」
「耐えた、リバース回避!」
「つよい!!!」
キマイラたちはガッツポーズした。隣人と抱き合った。口笛を吹き、相馬の歯を食いしばる姿を称える。よくやった、リバース回避えらい。
だがこの光景もアルパカ怪人には、迫りくる幽鬼へ青い顔が追加されただけにしか見えない。恐怖である。恐怖しかない。
「ひ、い……!」
堪らず後ずさるも、回転の影響は怪人の足腰も蝕んでいた。もつれて転倒し、逃げられないことを悟ったアルパカの表情が歪む。
ついに、相馬の手が伸ばされ、怪人の毛へと届いた。
「掴まえたぞ……」
さあ。
体から冥府の炎が舞う。それは始めにバットを青黒く染め上げ焼き尽くし、次に怪人を包み込むのだ。
「一緒に燃え上がろうじゃないか……!」
炎は瞬く間に成長し二人を覆い隠す。やがて炎の中でうっすらと、ふたつの影の倒れる姿を映すだけとなった。
結果
相馬:スタート地点で脱落
怪人:スタート地点で脱落
ふたりとも燃えたから判定により相馬の勝利
大成功
🔵🔵🔵
朧・紅
《紅》人格で参加
アドリブ歓迎
わぁわぁ、これ運動会ってやつでは!?
僕初めてなのですよぅ
天涯孤独な子は喜んだ
全力でぐるぐる、元気に駆けだし
うやぁ~~…うゃん!
コケた
世界が、回る、です
運動会はこんなに過酷な競技なのですかっ
立てない
…あ
乗り物を足にするとか言うですし愛器も僕の足ですね?
ギロチン刃に乗り
ぅやー!これで一等賞ですー!
観客席の壁に刺さった
三半規管は死んでる
うや?
おかしいのですね…もう一回
ギロチン刃を増やせばゴールを目指して一直線です!
だが、曲がる
僕はゴール目指してるつもりですが怪人の方へ
うっかり力ませる間もなく不意打ちに突撃しちゃうかもですが他意はないのです
うゆ?なにか轢きましたです?
●
「うやぁ~~っ!!」
「ぎえああああああああッ!?」
ビードロ玉を瓶の中で転がすような可愛らしい叫び声と、ガチで生死の境をひた走る悲鳴が会場に木霊した。
蹴り上げられた白砂が燦々と降り注ぐ陽光を浴びてサーキットを彩り、躍動する怪人の肉体から溢れる水の滴が煌めく。
それは一面だけに注目すれば美しい光景と言えるかもしれない。
だが現実逃避はいけない。走る怪人以外にもきちんと注目しよう。
サーキットの壁を跳ね回りながら削る回転ギロチンの火花と、その上で目を回していてギロチンが制御不能であることを理解せしめてくる少女の姿がある。
「一体何が起きてるんだ……?」
おかしいな。自分たちはパニック映画めいた悪夢じゃなくてぐだぐだレースを見に来たはずだったんだけどな。観客席にひしめくキマイラ達は、眼前で繰り広げられる光景に首を傾げるしかない。完全に理解を超えた展開があった。
「というか何だソレは!?」
そう言って怪人が絶叫混じりに指摘する物体は、浮遊する謎の回転ギロチンのことだ。その上には幼い赤毛の少女が乗っている。なんで乗ってるんだ。意味がわからない。そもそもギロチンは乗り物じゃないだろう。
これはバットで回転するレースだったはずだ。一体どこにギロチンの登場する余地があるというのか。
怪人の疑問も当然のことだ。悪夢の始まりの経緯を知るには、いくらか時を遡る必要がある。
数分前。
「これが運動会ってやつでは!?」
銀色の砂浜に脈絡なくどーん、と設置されているサーキット場に朧・紅(朧と紅・f01176)の胸が躍った。さすがお祭り好きのキマイラ達が住む世界である。たかだかぐるぐるバットのために用意されたサーキットに、赤毛の二つ結びを揺らして可愛らしく跳ねた。
場所が海水浴場であるとか、コースが何故か四つん這いの移動に特化しているとか、細かい部分に差異があるものの、彼女のイメージする運動会というものに似ていたのだ。初めての参加となれば舞い上がっても仕方がない。
だから、次の挑戦者はいるかと息巻くアルパカ怪人に、
「僕です!!」
と勢いで挙手してしまった。
「よろしくお願いしますー!」
バットを地面へ押し付け、頭を当てる。そこから舞い上がりそうなテンションのまま、元気に駆けて回転を始める。
あ。唇が蕾のように開いた。短く溢れた声は、彼女の想定外を表していた。
――世界が。
回る。
体の内側がひっくり返そうな感覚とガチめの不快感に危ないと思った。
――運動会はこんなに過酷な競技なのですか。
でも、と少女は歯を食いしばる。まだまだ回転し始めたばかり。スタートすらしていないレースの最序盤だ。ここは踏ん張って堪えるしかない。
だが。
「……あっ!?」
体軸が傾き、重心がずれる。手元からバットが弾き出される感覚。一瞬の浮遊感ののち、砂の地面が体を打つ。
転んだと理解するのに二秒ほど掛かった。紅はすぐに立ち上がろうとするものの、上下の感覚がすっかり迷子で、地面に手をつく動作すら覚束ない。
「た、立てない……」
バットはどこだろう。まだ規定の回転数まで届いてないのに。探しに行きたいのにどこを見ればいいかわからないし、自分がどこを見ているのかもわからない。世界が視界がぐるぐるとかき混ぜられてゆく。
「回らなきゃ……」
視界の隅で怪人がスタートを決めているのを認め、少女はなんとかそれだけを絞り出した。
そしてすぐに思いついた。
別に回転さえできればバットじゃなくてもいいですね?
紅は悩むことなく、ギロチン刃を取り出す。
「は?」
アルパカ怪人は思わず振り向いた。
「なんで??」
観客達の目が点になった。
「乗り物を足にするとか言うですし、愛器も僕の足ですね?」
暴論だ。前半の台詞に辛うじて頷く全員が、後半の台詞で一斉に首をかしげる。
「これに――、乗ります!」
信じられないという視線を浴びながら、浮遊しながら高速回転する刃に飛び乗ると、少女の体も合わせて回転を始める。
まずコンマ数秒で規定の回転数を突破した。
続いてスタート……しようとしたが壊滅した三半規管は前進を許さない。そのまま紅はギロチンの上でバランスを崩した。
それがいけなかった。
安定を失ったギロチンの行動が下がり僅かに地面と触れた瞬間、爆発的な火花と加速が生まれる。
制御不能の回転ギロチンwith少女が観客席の壁に突っ込んだことで、キマイラ達は阿鼻叫喚の様相をなした。
さらに壁を跳ね返ったギロチンが運良くコースに復帰し、コース壁の中をピンボールのように跳ね回ることで悪夢が始まったのだった。
そして現在に至る。
「おああああ!?」
野太い悲鳴を上げながらアルパカ怪人が伏せた。その直上を回転ギロチンが通り抜ける。ぞわりとした感触と喪失感。恐る恐るうなじに触れてみれば見事に剃毛されていた。
「おまえ……」
すうっと目の奥で闘志が燃える。ここまでコケにされて黙っていられようか。いまこそ猟兵に怪人の意地を見せつける時ではないか。
前方で壁に反射し、再び襲いかかる刃と少女をアルパカ怪人は睨みつけた。
丸太のように鍛え上げられた四肢へ力が漲る。全身のあらゆる筋繊維が強靭な剛性を獲得する。その防御力は城壁と呼ぶにふさわしい。
鍛え上げられたこのアルパカ怪人が、ギロチンの上で目を回すだけの幼い少女に負ける道理などあるだろうか。
いや、ない。あるわけがない。
「うおおおおおおッ!!」
裂帛の気合を発して怪人が身構え、恐るべき回転刃と少女を受け止めようとした。
……。
………。
「……うゆ? なにか轢きましたです?」
結果
紅 :最終的にコースアウト
怪人:コース半ばで脱落
判定により紅の勝利
大成功
🔵🔵🔵
ハルア・ガーラント
ふふふ、鳥は飛べる分平衡感覚とかがすごいんですよ。
ん、わたし鳥? オラトリオ? 翼あるだけじゃ……?
【SPD行動】
はふうぅ、前言撤回です。こんなに過酷な試練がこの世にあったとは……! 翼重い、頭くらくら……っう、駄目です、今出てきちゃ駄目ぇえ、天使の矜持が!
も、もおですね。さっさとオブリビオン倒した方がゴールするより早いです。どこ……茶色い毛と体、どこ?
見えた!!
頭上の光るわっかに力を集めに集めてUC発動。
鋼をも溶かす天使兵の熱線を受けるがいいッ……です……!
あれ、何だか違うところに当たった? 何やら悲鳴や爆発が。でももう無理、確認できない、おなかを抱えてうずくまるしかできないです……。おえ。
●
サーキットスタート地点。
最後の挑戦者としてその娘が立ったとき、会場が湧いた。
キマイラたちは諸手を挙げて拍手し、アルパカ怪人は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
原因は娘、ハルア・ガーラント(オラトリオのバロックメイカー・f23517)の背に広がる純白の翼にあった。
「勝負あり、ですね」
得意気に胸を張るハルアを見て、観客達がざわざわする。
「最後に立ちはだかるのが鳥のキマイラとはな……」
なんで? 鳥のキマイラだと何で強いの? 顔を見合わせる観客達だが、続く怪人の言葉に理解の色を浮かべる。
「鳥は……平衡感覚がすごい!」
「すごいの!? すげぇ!」
「平衡感覚がすごいのすごい!!」
ふわっとしか理解していないキマイラ達だが、興奮を肌で感じながらハルアはさらに勝ち誇った。
「任せてください……このオラトリオに!」
「え、鳥じゃないの?」
会場がしん、と静まり返る。
「……鳥と同じ翼があります!」
「「「やったー!!」」」
翼があるから実質鳥と同じ理論に観客席は再び湧いた。キマイラ達はオラトリオというものを知らないが、そこはノリである。
ハルアのドヤ顔はわたし平衡感覚すごいんですよを殊更主張する。
そして、怪人とともにバットを地面に立ててスタートの合図を待ち、やがて発砲音が響くと同時に砂を蹴り回転を始めた。
もちろんオラトリオは鳥じゃないのでハルアは回転直後に崩れ落ちた。
「はふうぅ……」
高速でぐるぐるしたせいで目までぐるぐるしてくる。足は震えて立ち上がることさえ怪しい、鳥っぽい翼もただ空気抵抗を生み出すだけでしかなかった。これなら羽ばたいて加速すればよかったと考えるも、結局目を回すのだから結果は同じだと悟る。
「ハハハ、なんだその程度か!」
「うう、このままじゃ……」
四つん這いながらもゴールに進む怪人に対して、自身はスタートラインで蹲ったまま動けない。先にゴールされるという焦りがふつふつと心を炙る。
だが、もっとヤバいものがあった。
胃から喉元へ急速に登ろうとしてくる不快感。すなわち嘔吐感だ。
「と、鳥じゃないねーちゃん……!」
青い顔で口元を抑えるハルアの状況から、とても動ける状況じゃないと観客は察した。
――だめ、出ちゃう! 天使の矜持を危うくしちゃうもの出ちゃう!
天使の矜持だけでなく乙女の尊厳的にも大ダメージだ。
こうなったら。
ハルアは俯いた姿勢から顔を持ち上げ、涙に滲む視界で怪人を探す。そう、このままゴールへ進むより、怪人を倒したほうが早いのだ。吐き気にも優しい。
朧な視界のなかで茶色い毛を探す。いた。観客席の方角にいっぱい。だが四つん這いで動いているのはサーキットの中にしかいない。
「見えた!!」
「なにッ!?」
ハルアの頭上、円環を描く光が現れる。見る見るうちに輝きを増してゆく様に、怪人は咄嗟に立ち上がった。四つん這いでは対処できないと判断したのだ。ポーズを取りながら全身を力ませる。
「この鋼の筋肉に防げぬものなど――……」
「鋼をも溶かす天使兵の熱線を受けるがいいッ……です……!」
瞬間、輪から光が迸った。大地を焼く真夏の日差しを幾重にも束ねたような、灼熱の光道が怪人へ真っすぐ伸びる。
恐るべき破壊をもたらす天使の力はしかし、
「ぬぅ……ッ!」
アルパカ怪人の肉体に命中することなく、真横を通り過ぎていった。
「外れた!?」
キマイラ達の悲鳴が上がる。ちゅどーん、という爆発音もあった。観客席は阿鼻叫喚の有様である。だがここはギャグ時空だから観客は死なないので安心してほしい。
「ね、ねーちゃん!!」
それよりも若干焦げたキマイラ達は泣きそうな顔でハルアを見る。嘔吐感に崩れ落ちる彼女を。誰もが彼女の勝利を願っていたのに。
「負けちゃ、だめだ……!」
ハルアはもう俯き両手で口を抑えていた。誰かが肩に触れたら、その拍子で出してしまう危機的状況だった。頭上の輪ももう消えてしまった。
そこへ、怪人がゆっくり近づいてゆく。
「お前は強敵だった……」
低く響く怪人の声にハルアの体がびくりと震える。攻撃が当たらなかったのだと理解したからだ。
「もう諦めろ。楽になってしまえ」
怪人はゆっくり手を伸ばす。とどめを刺すには、限界を超えて水を注がれたコップの、張り詰めた表面を崩すだけでいい。
「だめ―――ッ!!」
じわりじわりと体の末端から力が抜けていく。
やっぱり自分には無理だったんだ。いらない子だから、頑張ってもだめなんだ。
もうこれで終わってもいいんじゃないか。
キマイラ達の悲鳴すら、もう遠い。
結果
ハルア:レース続行不能
怪人 :健在
判定により、
「ねーちゃんなら絶対勝てるから!」
靄のかかった頭のなかで、不思議とその言葉がすっと響いた。
「……」
薄く、本当に薄く口を開いて。恐る恐る深呼吸する。
――あと少し、あと少しだけ頑張ろうかな。
こんなに応援してくれる人がいるから。
せめてひと呼吸分だけでも、頑張ろう。
「これで終わりだ」
怪人の声が耳を打つ。
肩に手が触れて、押されて、体が少し揺れる。
だが彼女は耐えた。
「――なに!?」
ハルアの眼差しが驚く怪人を射抜く。天使の輪が再び現れる。輝きを放つ。
「や、やめろ!!」
「この距離なら、当たりますよね」
掠れた、絞り出すような弱々しい声だった。だがその場の者達には何よりも力強く感じた。
「ねーちゃん復活!」
「かっこいいー!!」
さあ。
――あっついですよ、……覚悟してください!
天使の輝きが二人を白く染める。
直後、凄まじい光と熱の奔流が怪人アルパカマッスルを飲み込んだ。
「「「やったー!!」」」
結果
ハルア:健在
怪人 :レース続行不能
判定によりハルアの勝利
おえっ。
「「「ぎゃああああッ!?」」」
大成功
🔵🔵🔵