●正義とは
「何故貴方が……いや、そんなことはどうだっていい。ヴィランならば殺していい、殺すべきだなんてそんな貴方の正義を私は認めるわけにはいかない! 貴方を逮捕する、レオン・リーブス!!」
日本某所、とある港湾都市。かつて工業で栄えコンビナートや化学工場が立ち並ぶ海沿いのその街は、近年一帯を取り仕切る大企業が撤退したことで急激な過疎化が進み、その衰退とともに流入した海外のヴィラン達が拠点として主を失った廃工場を占拠し、夜な夜な暗躍する危険地帯と化しつつあった。
そこでユーベルコードを操る強力なヴィランを相手取るため、警察はヒーローの投入を決定する。
警察や企業だけでなく自衛隊の協力すら請うて結集させた、あらゆる技術の粋を極めたパワードスーツに身を包む、日本警察の誇る新進気鋭のアームドヒーロー、サクラ・ライオット。そのスーツ量産に先駆けた実戦テストとして、その人造のチカラを纏う正義の執行者はこの街で戦い――そして敗れ去る。
あるヴィランの逮捕のため出動したサクラ・ライオットは、戦いの最中に乱入した別のヒーロー――既に現役を退き行方は杳として知れず、死んだとも噂される"ザ・ファースト・ヴィジランテ"レオン・リーブスと戦い、そして圧倒的な経験の差と邪魔者の殺害すら辞さない苛烈な覚悟の前に斃され、志半ばでその正義の桜花は散ってしまうのだ。
『悪を殺す覚悟もなく、たかが俺一人すら倒せもしないこれが正義だと? 笑わせる、こんな惰弱な正義を頼るというなら、いっそこんな世界は滅びてしまえ』
ボロボロに破壊されたサクラ・ライオットの中で事切れたヒーロー、その亡骸に相容れぬ正義を抱くオブリビオンは語り掛ける。
――正義とは、悪を根絶やしにする者のことだ。逮捕だ更生だなど生ぬるい。悪は死をもってしかその罪を償えないのだから。そして今、それを為す者が居ないのならばその役目は俺が為さねばならない、と。
●最悪の未来を回避せよ
「――という事件が起き、日本警察のアームドヒーロー"サクラ・ライオット"が死亡してしまいます」
事件発生の知らせを受け集った猟兵たちに向け、パルはグリモアが見せたそう遠くない未来の光景をそう締めくくった。
「最悪なのは、サクラ・ライオットが死亡することで現地のヴィランが活発化、それに刺激されたオブリビオン――ザ・ファースト・ヴィジランテがさらに活動を過激化する可能性が極めて高いということでしょうか」
数十年前、彼がまだ人間として活動していたときからその評価は苛烈の一言だった。ヴィラン含むあらゆる犯罪者に容赦はなく、殺害すら辞さない。その正義の邪魔になるものも、程度の差はあれ穏便とは言い難い手段で排除していたという。
そんな彼がオブリビオンとして蘇った。オブリビオンと化した以上、もはやその正義がもたらす被害はヴィランだけに留まることは無いだろう。
「そこで皆さんにはサクラ・ライオットが殺害される現場に介入し、その保護とザ・ファースト・ヴィジランテ、レオン・リーブスの排除を依頼します」
確実に彼を捕捉できるのは、サクラ・ライオットと交戦するタイミングのみだ。異能を持たず、超技術の武器も殆ど持たない彼は、たいてい姿を見せず用意周到に準備を整え、此処ぞという時にしか現れない。
その「此処ぞ」を、猟兵たちで急襲してレオンを倒すのだ。
が、問題が一つ。
「レオンが介入する直前までサクラ・ライオットはあるヴィランと交戦中でした。いきなり猟兵がその現場に急行しても、現場を封鎖する警察は猟兵の参戦にいい顔をしないんです」
何しろヴィラン相手ならばサクラ・ライオットは優勢であり、その時点では助力を受ける必要はない。そのうえ警察の目的にはヴィラン逮捕に加えてサクラ・ライオットの実戦データ収集も含まれているため、何かと理由をつけて猟兵の助力を拒否しようとする。
そしてレオンが現れた後、警察がサクラ・ライオット単体での解決が不可能だと認識した後では、どんなに急いでも救援はサクラ・ライオットの死に間に合わないのだ。
「ただ幸いなのは、レオンの乱入する事件の発生までまだかなり時間的余裕がある、ということ。先んじて今から現地に転送しますので、適当な事件でサクラ・ライオットと共闘して信頼関係を結んでしまいましょう。その後で問題の事件が起きた時に同行を提案すればいいんです。サクラ・ライオット自身が同行を許可すれば警察も否とは言えませんし、一緒にいればレオンの乱入にも即座に対応できますからね」
皆さんならきっと、ヒーローとも仲良くできるはず。共闘、そして一緒に休息を過ごして信頼しあえば、たとえ相手が伝説のヴィジランテだろうと負けはしないはずです!
そう結んで、パルは転送の準備を開始した。
紅星ざーりゃ
こんにちは、紅星ざーりゃです。
今回ははじめてのヒーローズアース、ヒーローってこういうので合ってるのかな……と戦々恐々としながら頑張って書かせていただく所存です。
今回の最終目標は、ヒーロー「サクラ・ライオット」の生存とオブリビオン「ザ・ファースト・ヴィジランテ」の撃破となります。
方やヴィランといえど生きて法の裁きを受けるべき、方や悪となった以上は死をもって罪を贖うべき。互いの正義のために対立してしまうこの二人の戦闘に介入するために、まずはサクラ・ライオットと共に行動できるよう信頼関係を結ぶのが目的となります。
第一章は集団戦、複数のオブリビオンが起こした事件に多勢に無勢で苦戦を強いられるサクラ・ライオットを華麗に救援していただきます。
サクラ・ライオットもある程度は戦えるので、直接庇ったり回復したりしなくても負けることはありません。ですが、そういった行動を取ってフォローすれば信頼されやすいかもしれません。
第二章は日常、一仕事を終えたサクラ・ライオットと共に休息を楽しみ、信頼関係を強めます。
そしていよいよ第三章では現れた強敵"ザ・ファースト・ヴィジランテ"レオン・リーブスとの戦いになります。
猟兵が介入する場合、サクラ・ライオットは本来のターゲットであるヴィラン逮捕のためオブリビオンを猟兵に任せて別行動を取ります。猟兵たちはヴィランを追い殺害しようとするオブリビオンを押し留め、撃破を目指すことになるでしょう。
正義の形は人それぞれ、人によってはサクラ・ライオットよりレオン・リーブスの正義に共感することもあるかもしれません。
ですが相手がオブリビオンである以上、その正義は世界の破滅に至るもの。皆さんの熱いプレイングで、正義の何たるかを語ってくださいませ。
第1章 集団戦
『スペクター』
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POW : 無音致命の一撃
【その時の状況に最適な暗器】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 不可視化マント
自身に【生命力で駆動する姿を隠せる透明化マント】をまとい、高速移動と【自身の気配を掻き消す超音波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 無法の手管
技能名「【恐怖を与える・傷口をえぐる・恫喝・殺気】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
イラスト:黒江モノ
👑11
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サクラ・ライオット――ライオットアーマーに身を包んだ日本警察が誇るヒーローは、多数のオブリビオンに包囲されつつあった。
匿名で寄せられた廃工場に出入りする不審な団体の目撃証言。思えばこの通報から罠だったのだろう。何しろ敵は踏み込んだサクラ・ライオット以下警察の部隊を準備万端で待ち受けていたのだから。
なんとか一般装備の機動隊を撤退させたサクラ・ライオットは、彼らを逃がす代わりにその身を窮地に取り残されてしまった。
常人の数十倍の膂力をもたらす人工筋肉スーツと、それを護る12.7ミリ重機関銃の直撃にすら耐える特殊合金とセラミックの複合装甲。
ヴィランを殺さず無力化するための非殺傷弾を六発装填した9ミリライオット・リボルバーと高圧電流を帯びることすら可能な超電磁警棒。そしてヴィランの放つユーベルコードを弱体中和する力場を放つ強化カーボン製のライオット・シールドを装備するサクラ・ライオットは、たとえ相手がオブリビオンであったとしてもそう簡単に斃されはしない。
だが。
「流石にこの数はちょっとしんどいですよ……皆を無事に撤退させるには一人だって此処を突破させる訳にはいかない、中々ハードな仕事になりそうだ」
廃工場の唯一の出入り口となった巨大な鉄扉の隙間を背に、盾を構え銃を突きつけオブリビオンとにらみ合うサクラ・ライオット。
敵が警察を直接狙ってきた以上、此処を通してしまえば撤退する同僚の背中を襲って来るだろう。
一人で此処を死守しなければいけない。その勝利条件に対してあまりにも多い敵の数に、サクラ・ライオットは嘆息した。このライオット・アーマーがあれば不可能ではないが、どれだけの激戦になることか。
扇情的な格好のいかにも暗殺者といった風体の、同じ顔をした女たちがサクラ・ライオットの意図を察し、その目的がここの封鎖であると認識して各々の武器を構える。
機動隊が逃げ切るまで、サクラ・ライオットは反撃よりもオブリビオンをこの工場へ封じ込めることを優先するつもりだ。つまり、突破をちらつかせて反撃を封じれば一方的にヒーローを嬲ることができる。
多少抵抗されたとて、サクラ・ライオットの武器は六発装填のリボルバー。こちらは六人以上居るのだから、撃ち尽くさせれば銃は玩具以下と化す。暗躍を邪魔する警察のヒーローを始末する千載一遇の好機というわけだ。
ぺろりと舌なめずりをして、嗜虐的な笑みを浮かべるオブリビオンたち。
猟兵たちが廃工場に転送されてきたのは、まさにそんな戦いが始まる直前であった。
四軒屋・綴
《アドリブ連係絡み歓迎》
『桜の防人』……粋じゃあないかッ!
まずは高らかなBGMと共にユーベルコード発動ッ!帽子の鍔を押さえて指差し確認ポーズッ!勇蒸連結ジョウキングッ!桜の御紋に只今到着ッ!
等と悠長に言っている暇はないなッ!【オーラ防御】【防具改造】【生命力吸収】ッ!オーラの範囲を拡大し生命力を探知して周囲を把握ッ!彼の死角を【かばう】様に『モックズブッパ』をソードモードで構え戦場に飛び込むぞッ!長柄の剣を振り回し【武器受け】ッ!30センチは死守させてもらおうッ!彼の分も含めてなッ!
好機には【念動力】、動きを止め一本足打法で蒸熱と衝撃のホームランッ!
貸しだな、ハンバーガーで返してくれッ!
羽堤・夏
…え~と、つまり…まずはこの人を守ればいいんだな?
そういうことならあたしの十八番だ、任せとけ!
……つっても、ヒーローズ・アースだっけ?ここで…というか別の世界に抜け出すの自体初めてなんだよなぁ…うう、緊張する…
POWで挑戦
ライオットさんは仲間を逃がそうと封鎖?してんだろ?
それに加勢する
ライオットに迫る暗器にあたしの防御オーラを纏わせた日輪丸を割り込ませて武器受けで庇う。
まーあたしもいくらか痛い目見るだろうけど…
何時ものこと、お姉ちゃんならへっちゃらだ!
そんでコードで近づいてきた相手の足を掴んでぶん回す!
怪力に物を言わせて、投げと鉄拳で周囲の悪党をみんな叩き返してやる。
一人も突破させるもんか!
●
「それ以上動くな! 抵抗すれば発砲する!」
そんな警告も、サクラ・ライオットを取り囲むオブリビオン・ヴィラン、スペクターと呼ばれる女たちには通用しない。
そもそも彼女たちはサクラ・ライオットを排除するために罠を張り巡らせたのだ。ここで撃たれたくないので抵抗をやめます、どうぞ逮捕してくださいなどと言うわけがない。
『…………くふっ!』
サクラ・ライオットの正面に立つ一人が不敵に笑い、そのマントに巨大な五指を引き込み隠す。
しゃらりと金属が擦れるような音は、某かの武器を手にした証か。
それに呼応するように、工場に潜むスペクターたちが一斉に戦闘準備を整える。
身を屈め、隠した手には凶器を忍ばせて肉食獣の如く狩りの好機を見定めるスペクター。
「まあ、警告で退くならこうはなりませんか。……ならば警視庁特別装甲機動隊、サクラ・ライオット! 法に基づきお前たちを現行犯逮捕する!!」
戦いの始まりを告げるように、工場の天井を穿つ弾丸。サクラ・ライオットの放った警告射撃が屋根を貫き、小さな穴から差し込む陽光が一筋、サクラ・ライオットとスペクターの間に落ちる。
一斉に飛びかかるスペクターをサクラ・ライオットはシールドで受け止める。たとえ相手がヴィランであろうと、銃をヒトに向けるのは最後の手段だ。盾で受け止め、押し返し、あるいは拳銃のグリップで打撃を加える。
だが決定打がない。さらに銃を収めて警棒を抜く暇をスペクターたちは決して与えない。その一瞬があれば、彼女たちはサクラ・ライオットをすり抜け機動隊の背中を――ともすれば、一般人にさえ危害を加えかねない。僅かたりとも意識を逸らせない状況での多対一に、サクラ・ライオットはじりじりと苦境に追い立てられてゆく。
外に飛び出そうとしたスペクターの一人をタックルで弾き飛ばしたサクラ・ライオット。その眼前に、仲間を囮に好機を伺っていた別のスペクターの笑みが飛び込んでくる。
その手には太く長い針。サクラ・ライオットのアーマーが如何に強固であろうと、その隙間から着用者を殺してみせると言わんばかりの"アームドヒーロー殺し"が、サクラ・ライオットの首筋へと――
「させないよ!」
きぃん、と甲高い音とともに針が折れ、くるくると回転しながら積み上げられたダンボールに突き刺さる。
サクラ・ライオットとスペクターの間に飛び込んだ小柄な影は、盾を構えた腕を軽く振ってその表面が傷一つなく貫かれていないことを確認し、微笑んだ。
「初めての別世界、緊張するけど……でも、オブリビオンが誰かを襲っている所は見過ごせないね!」
日に焼けた小麦色の肌に、向日葵の咲く黄色いリボンの髪飾り。
割り込んだ少女、夏はサクラ・ライオットを庇うように割り込み、肩越しに視線を向けて大丈夫か、と笑いかける。
青と濃いグレーの装甲の中で、サクラ・ライオットがその幼さに目を見開いたのがわかるようで、夏はそれがおかしかった。
「あんたは仲間を逃がそうとここに一人で残ったんだろ? だったらアタシたちも加勢するよ!」
どんな手品か、盾越しに夏を斬りつけようとマントからショーテルを取り出したスペクター。斬りかかってくるその斬撃をスペクターの股の間を抜けて転がるように躱しながら、夏はその足を掴み取る。
『…………!?』
ず、とすさまじい腕力で引き込まれたスペクターが姿勢を崩し転倒すれば、立ち上がった夏は彼女をまるでぬいぐるみのように振り回す。
圧倒的なパワーによって意図せぬ加速を与えられたスペクターが失神し、だらりと弛緩したその身体で飛びかかってきた二人目と三人目を打ち返し、そうして夏は握りしめたスペクターの足を手放した。
遠心力によって飛んでいくスペクター。その着地点めがけて疾走するのは、シンプルな白い人型と実物よりいくらかコンパクトなサイズの赤銅色の蒸気機関車だ。
「来たれマイボディッ!!」
どこからともなく響く、程よくエコーの効いた声。
高らかに打ち鳴らされる勇壮なBGMとともに、人型が跳躍し、空中で両足をぴたと揃えて両腕を水平に伸ばす。
次いで飛び上がった蒸気機関車が分解し、紫電を放ちながら人型を包み込む。ガキィン、と小気味よい音とともに人型に装着されていく蒸気機関車。
シリンダーが回転しながらパーツ同士をつなぎ合わせ、腕の先から飛び出した手が指を反らすようにピンと伸ばして力強く拳を握りしめた。
そうして全身に装甲を纏った人型の頭部に、車掌の制帽を模したバイザーマスクが合体するとその双眸が強い意思を持って輝く。
帽子の鍔を押さえ、まっすぐ前を指差し確認。鋼の戦士がポーズを決める。
「勇烝連結ジョウキングッ! 桜の御紋に只今到着!!」
両肩の煙突から黒煙を噴出し勇ましく名乗りをあげる綴ことジョウキングは、まさに機関車の如き疾走とともに夏の投げたスペクターの着地点に滑り込み、念動力で彼女の軌道を修正して――
「烝熱とォ! 衝撃のッ! ホォームランッッ!!」
その手に握る烝射煙斬モックズブッパをソードモードに変形させ、峰打ちで飛来したスペクターを打ち返せば彼女は打撃で吹き飛ばされたスペクターたちに突っ込んでいく。
放置され錆びついた作業機械を巻き込んでひっくり返り、動かなくなるスペクター達。
一瞬の出来事に硬直していたサクラ・ライオットが我に返った時には、さらに押し寄せるスペクターを相手に夏とジョウキングは勇敢に挑みかかっていた。
「君たちは……援護には感謝するが民間人は危険だ、退避しなさい! ここは警察に任せるんだ!!」
体勢を整えたサクラ・ライオットが二人に並ぶように前に出れば、夏は屈託なく笑って首を横に振る。
「あたしたちはあんたを助けに来たんだよ、サクラ・ライオットさん! 大丈夫、あたしたちは猟兵だ。こんなのいつものことだしへっちゃらさ!」
「そうとも、粋な桜の守り人よ! 俺もヒーローの端くれ、悪を見逃す訳にはいかないというだけのことッ! それでも借りだと思ってくれるならば――この貸しはハンバーガーで返してくれッ!」
乱入者の身を案ずるサクラ・ライオットを心配無用と押し留め、肩を並べて出入り口を封鎖する二人の猟兵。そして、その後ろからはさらに頼もしい仲間たちの足音が聞こえてくる。
「さあ、寄ってたかって一人を攻めるなんてもうさせないよ! ここは一人も突破させるもんか!!」
成功
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東郷・三笠
仲間を守るために殿を務める
その心意気やよし
安心するがよい、騎兵隊の到着だ!
サクラ・ライオットを鼓舞、存在感で鼓舞しつつ戦いに参加
範囲攻撃、一斉発射を用いてUCを使いとりあえず目につく敵を一掃する
数のみを頼りにする奴らなど敵ではないわ
近づかれても先制攻撃、殺気、恐怖を与えるを用いて殺気を放って怯ませ
攻撃される前に刀で切り捨てる
生憎とこちらの得物の方が手が長いのでな
相手が悪かったと思って諦めよ
アドリブで他の方との絡み歓迎
チトセ・シロガネ
すごいスーツでも1人で前に出るのは無謀だヨ!
転送完了と同時にサクラ・ライオットの背後に迫るスペクターの殺気を【第六感】で感知、
その程度の殺気でボクの【覚悟】は揺るがないヨ、【早業】で一気に前に踏み出すネ。
攻撃には【見切り・武器受け】をして【カウンター】からの【破邪光芒】でその悪い手癖ごとバッサリスラッシュするヨ。
サクラ・ライオットには【戦闘知識】を使って説得、協力を要請してみるネ。
今後、スーツの量産を前提にデータ取るなら他者と連携時の戦闘データも取っておいたほうが今後のためにいいんじゃないかナ?協力するヨ!
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
ハァイ、ヒーローさん。
単騎で殿なんて、随分とキツイお役目ねぇ。
こういう時は…えーと、なんだったかしらぁ?
そうそう、「義によって助太刀」するわぁ。
この国だとそういう言い回しするのよねぇ?
そういえば、この国の制式拳銃ってリボルバーだったわねぇ。
さすがにダブルアクション式だったと思うけど。
…それじゃ、シングルアクション式の長所、見せてあげるわぁ。
〇第六感も併用して敵の動きを〇見切って、〇クイックドロウから〇先制攻撃の●鏖殺を叩き込むわねぇ。
瞬間的な連射速度なら、シングルアクションのほうが上なのよぉ?
ああ、それと。生憎だけど、あたし弾切れなんてしたことないのよぉ?
●
猟兵の参戦。スペクターたちにとって、強力な警察のヒーロー"サクラ・ライオット"を一方的に撃破できるアドバンテージである数の優位を覆すそれは、彼女たちの「狩り」が「戦い」へと変わったことを示す。
一方的な暴虐ではない対等のぶつかり合い。戦闘より奇襲や暗殺を得意とするスペクターには面白くない展開だ。
『…………チッ』
舌打ちを一つ、指の間に毒針を挟み込んでサクラ・ライオットに肉薄するスペクター。
そして銃声がひとつ廃工場に轟く。
「警告射撃はした。それでも来るというなら当てる! ――警察官が善意の協力者にまかせて怠けるわけにはいかないっ!」
銃口から立ち上る硝煙。非殺傷弾とはいえ弾丸をむき出しの腹に受けたスペクターはもんどり打って転倒し、すぐさまそれを押さえつけたサクラ・ライオットによって対ヴィラン用の強化手錠をかけられる。
だが、仲間が逮捕されようとスペクターたちは動揺しない。むしろ好機とばかりに手錠を掛けるサクラ・ライオットへと三人がかりで飛びかかる。
だが、サクラ・ライオットは知っている。救援に駆けつけた者たち、彼らが本当に猟兵だというのなら。眼の前のこの女たちが、ただのヴィランではなく過去からの厄災、オブリビオンであるならば。
「安心せよ、騎兵隊の到着だ!」
廃工場の分厚い鉄扉を斬り裂いて、清涼にして澄みわたる一陣の風が吹き込んだ。
「いくらお巡りさんで、スーツがすごくても一人で戦うのは無謀だヨ!」
渾身の居合いで鉄扉を叩き斬り、突破口を文字通り切り開いた三笠。そして彼女が開いた道を駆け抜け、サクラ・ライオットに襲いかかるスペクターにカウンターの刃を当て、弾き返したのはチトセだ。
「不本意ですが助かりました。ですがこれは警察への――」
振り返り、改めて猟兵たちに撤退を促すサクラ・ライオット。その背中に強烈な殺意が叩きつけられる。
今しがたチトセに弾き返されたスペクターが、アーマーの上からでも中の人間を殺傷できると容易に想像できるトゲの生えたフレイルを振り回しながら人間離れした挙動で地を這うように身を屈め疾走る。
サクラ・ライオットが気づいた時にはもうスペクターは至近距離まで迫っていた。ぎぃん、と金属同士が激突するような音響。
――鎖が半ばから千切れ、フレイルの鉄球があらぬ方向へと飛んでいく。
「ハァイ、ヒーローさん。単騎で殿なんてずいぶんとキツいお役目ねぇ」
鈴を転がすような甘い声。にこにこと笑みを浮かべ、手の中のリボルバーをくるくると弄びながら廃工場の中へと歩いてくるのは、ティオレンシアだ。
「こういう時はえーと、何だったかしら」
助けに来た。そういう決め台詞が、この国にはあったはずだ。
うーん、思い出せないわねぇと首を傾げるティオレンシアへと迫るスペクターの集団。
柔和な雰囲気の、この場で最も与しやすそうな女性を狙ってあらゆる暗器が押し寄せ――
「ホント手癖が悪いネ、そういう手はバッサリスラッシュするヨ!」
閃光が踊る。触れるだけで悶絶必至の痛みを齎す猛毒を塗りつけられた刃をすり抜けるようにステップを刻み、目にも留まらぬ速度でスペクターの間を抜けるチトセ。
その歩みに合わせて奔る光の刃が、スペクターの手首を斬りつけ暗器を取り落とさせる。
「生憎とこちらの得物のほうが手が長くてな。相手が悪かったと思って諦めよ」
焔が吹き荒れる。数を頼みに押し込まんとするスペクターたちの一切を視界から逃すことなく、堂々と不動で立ちふさがる三笠のアームドフォートが咆哮する。
幾多の実戦を経て洗練された砲撃は、違わずスペクターたちが握る凶器だけを撃ち抜き砕く。いやそれだけではない。マントの内に忍ばせた予備の武器もまた、違わず破砕してのける。
そうして二人が一瞬の内に制圧してもなおその迎撃をすり抜けたスペクターの肩や腿を、サクラ・ライオットの弾丸が射抜く。
実弾ではない。貫通はしないし流血もしないが、しばらくは動けまい。強力な非殺傷銃がスペクターを押し留め、しかし残る四発ではその全てを止めることは出来なかった。スペクターの数が多すぎるのだ。
チトセと三笠も押し負けてこそ居ないが、サクラ・ライオットの手前不殺を心がけている今、正面の敵を捨て置いて援護には回れない。
いよいよとなれば盾を構え、ティオレンシアの前に立ちはだかって我が身を用いて民間人の盾となろうとするサクラ・ライオット。
しかし当のティオレンシアはぽん、と呑気に手を打って。
「そうそう思いだしたわ。「義によって助太刀」するわぁ。言い回しあってるわよねぇ?」
連続した破裂音。熟練の技術で規格外の速射を見せるティオレンシアの拳銃。
六発の銃弾がスペクターを貫く。だがサクラ・ライオットに倣って致命傷を避けた上での実弾は、スペクターを容易く貫通してしまいダメージこそ与えたものの、痛みや損傷を無視して強行する彼女たちを止めるには至らない。そして装弾数六発を撃ち尽くしたと見れば、スペクターたちにも止まる義理はない。
弾切れを起こした迂闊な猟兵を、この隙に仕留める。そんな確信とともに迫る殺意は、続く十発以上の銃声でかき消された。
「六発撃ったら終わり? そんなこと誰が決めたのかしらぁ?」
柔らかな笑顔は、少しも表情を変えていないにもかかわらず氷のように冷たく見える。逆光を背に、細められた目だけがきらりと光る彼女を地べたに這いつくばるような姿勢で見上げ、スペクターは恐怖した。
目にも留まらぬ速射。それを成し得る神速にまで至る弾込めと、銃の扱いにおける類まれな技量。
只者ではない。そう理解した時には、共に攻め込んだスペクターたちも軒並みチトセと三笠に制圧され沈黙させられていた。
「そのスーツ、量産するためのデータがほしいんデショ? それなら他者との連携データも取ったほうがいいんじゃないかナ? 協力するヨ?」
「それにあなた、実戦は初めてでしょお。さっきからいちいち隙だらけだもの、危ないわぁ」
たとえ猟兵であっても民間人は遠ざけたい。警官としての使命感と、彼女たちの指摘に言い返せない現実がせめぎ合う。
どこで知ったかわからないが、このライオットアーマーは確かに量産前提でデータを収集している。この苦境もまた、新しいライオットアーマーのための貴重なデータとなるだろう。
だが、サクラ・ライオットは一人だ。自分が成果を出して初めて量産型が製造されるのだから。誰かとの連携はその後のことだと、そう思っていたがスペクターのようにヴィランが数を頼みに連携を用いてくるなら、そのデータは量産型が完成する前にほしい。
そして、自分が戦闘の経験が浅いということも事実だ。
日本警察が総力を結集したこのアーマーを警戒してか、ヴィランもいままで小手調べのような小規模な衝突しか起こしていない。未知数の戦闘力を持つサクラ・ライオットと本気で戦う前にそれぞれの目的を果たすなり諦めるなり、すぐさま退くものがほとんどだった。
明確な敵意と殺意をもってサクラ・ライオットを狙う敵は今回が初めて。そしてサクラ・ライオットは兵士や戦士ではなく、警官だ。生命のやりとりに至るまでの戦闘は初めてのこと。
「何もここは我らに任せて帰れと言っている訳ではないのだ。ただ、我らは猟兵。そしてあのヴィランはオブリビオン。倒す相手が同じならば、共同作戦も悪くはあるまい」
三笠の言葉に、サクラ・ライオットは制帽を模した頭部を頷かせた。
「……わかりました、猟兵。貴方達に正式に協力を依頼しま、すッ!」
敬礼とともに共同戦線を受け入れるサクラ・ライオット。その背後から迫るスペクターの横っ面を、振り向きざまのシールドが強か打ち据え地に沈める。
「うむ、敵はまだまだ湧いて出るようだが、もはや貴様は独りではない!」
「そういうコト。と言っても猟兵なんてクセが強いからネ、好き勝手戦ってるからいい感じに連携しに行ってヨ」
「ふふ、ダブルアクションより早いシングルアクションリボルバーの技、見ていっても構わないわよぉ」
サクラ・ライオットが猟兵を受け入れたのならば、後は各々全力を尽くしてこのオブリビオンと化した暗殺者たちを仕留めるまでだ。
果たしてこの堅物ヒーローに、いろいろな意味で癖の強い猟兵たちとうまく足並みを揃えられるかはわからないが。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
エドゥアルト・ルーデル
正統派な正義のヒーローですな
拙者自身はヒーローとも、ましてや正義とも無縁でござるがね
銃弾が底をつきそうなタイミングで登場、ジョークを放ちつつ自分の手持ちの【10mmピストル】を投げ渡して参上でござる
大丈夫中身はゴム弾だから安心してくだされ
拙者が誰かって?ファンボーイかな…
ヒーロー以外に敵がいるとなればこちらに幾らか来るだろうから引き付けつつ工場内を鬼ごっこでござるね
【段ボール】で隠れてやり過ごしたり【罠使い】で工場内にトリモチや捕縛ネットにて無力化しつつ数を減らしていきますぞ
非殺傷って面倒だな…周囲が安全なら捕まえた奴をくすぐって遊んだりしないとストレスフルでござる!
アドリブ連携歓迎
●
猟兵たちが参戦し、サクラ・ライオットが彼らを信じ背中を任せたことで、戦局は警察有利に進み始めていた。
突破される心配なく目の前の敵と戦うことが出来、一人あたりが相手にする敵の数も劇的に減ってきている。
ヴィランを相手取るにはあまりに非力な通常装備の警官たちと共に活動し、これまで仲間という存在がイコールで護るべき対象だったサクラ・ライオットにとって、肩を並べ互いに助け合う――いや、むしろ自分よりも実戦慣れしていて強い存在である猟兵との共闘は、むず痒くも心強かった。
「悪くない気分だ……」
鋸刃のナイフで刺突してきたスペクターを躱し、その手首を銃把で叩いて武器を落とし蹴脚で胴を薙いで打ち返しながら、サクラ・ライオットは想う。
一方的な関係ではない、互いに助け合う仲間。そんな存在が居ることがこんなにも力をくれるなんて。まるでそう、コミックや特撮ドラマのヒーローのような。そんな気持ちになりながら、猟兵と肩を並べ互いにフォローしあいながら戦うサクラ・ライオット。
「やーれやれ、余計な仕事を背負っちゃいましたぞ。ま、int11のSPECIALな拙者に掛かればこんなカメラの修理くらいチョチョイのチョイでござるけど」
外で突入を控える猟兵に頼まれた仕事を無事に終え、ぐふふと髭面を笑みの形に歪めてエドゥアルトはスペクターと激しい戦いを繰り広げるサクラ・ライオットを見る。
猟兵との連携を意識したことでかなり立ち回りも改善したようだが、それでも弾切れの銃を警棒に持ち替える暇は相変わらず無いらしい。
やれやれ、と肩を竦めてエドゥアルトは潜んでいた物陰から飛び出した。
たとえ相手がオブリビオンでも不殺を心掛ける姿は、正統派と言っていいヒーローの姿。
だが、エドゥアルト自身はヒーローどころか正義とも無縁だ。必要ならば敵は殺すし、そのために多少の卑怯な手段も積極的に用いる狡猾さも持ち合わせている。
だからこそ、ひたむきに真っ直ぐに正義を貫くサクラ・ライオットの姿が眩しい――
「なんてことはあんまり無いんでござるなあ、これが! へーい彼女たち、拙者と遊ぼうぜーィ!」
にこやかに右腕を前に突き出しサムズアップ。スペクター達の視線が集中し、そして彼女たちは顔を見合わせた。
『…………猟兵だ』『誰が行く
……?』『私はヤダ、生理的に無理』『私も』
ヒドイ言われようである。挙句の果てに誰がエドゥアルトを始末するかでじゃんけんまで始める始末。もちろん正義の味方であるサクラ・ライオットはそこを不意打ちするような真似はしない。
さすがほぼ同一存在というべきか凄まじい勢いであいこを出しまくるスペクターをよそに、エドゥアルトはホルスターから拳銃を抜いてサクラ・ライオットに投げ渡す。
こうなるとは思っていなかったが、予想外のチャンスは逃せない。
「大丈夫、中身はゴム弾だから安心してくだされ。ねースペクターちゃーん、そろそろ決着着いたでござるかぁ?」
まだだ、と叫ぶスペクター。その向こうで拳銃を受け取り、弾倉を一旦抜いて中を検めたサクラ・ライオットが頷く。
「確かに。自動拳銃は使い慣れないが、助かりました。貴方は……?」
サクラ・ライオットが誰何すると同時に決着が着いたらしく、嫌々感を隠そうともしない表情のスペクターがエドゥアルトへと飛びかかる。
「拙者? ただのファンボーイかな……ってうわちゃ危ないでござるよ! 毒、毒はレギュ違反ですぞ!?」
あからさまな紫色の毒液を纏ったナイフをローリング回避しながら逃げていくエドゥアルト。
その背中を呆然と見送るサクラ・ライオットに気づかれぬうちに、じゃんけんで勝利を収めたスペクターたちが襲いかかる。
乾いた破裂音。ゴムの弾丸が床に転がり、スペクターが身体を押さえてうずくまる。
「悪いがもう油断はしない。手錠を掛けるのは後、まずはおとなしくして貰うぞ」
襲撃を阻止し、自ら歩み寄ったサクラ・ライオットの拳がスペクターの剥き出しの鳩尾へと深く突き刺さった。
積み重ねられたダンボールやよくわからない機械部品のパックが収められた巨大なラックの間を殆ど無音で走り抜けてゆくスペクター。彼女が通り過ぎたのを確認して、エドゥアルトはダンボールから頭を出す。
工場の奥、かつて資材を保管していたのだろう倉庫の一角までひたすら無様に――そう見えるように演技しながら逃げ込んだエドゥアルトは、スペクターが罠に掛かったことを確信する。
わざわざ出遅れてまで監視カメラ修理に付き合ったのもこのため。薄暗い倉庫では殆ど見えない極細のワイヤーを指でなぞり、エドゥアルトは銃弾一発で片付かない面倒な戦いに渋面を作る。それもワイヤーの震え――どこかでスペクターが罠に掛かったことを示すそれを指先で感じ取った途端に、満面の笑みに変わった。
「この倉庫の入り口はさっき閉じた。他のスペクターは拙者の仲間たちとの戦いで手一杯のはず。つまりここには拙者と彼女のふたりきり、でござるからしてぇ」
こつこつとブーツの底を鳴らして歩くエドゥアルトは、すぐさま目的のものを見つけ出した。
全身にネットを絡ませ、トリモチで壁に磔にされたスペクター。その表情は嫌悪と恐怖と怒りと羞恥に満ち、アイマスク越しでも突き刺さんばかりの視線を感じ取れた。
「ストレス発散タイムでござあっぶね!! マジあっぶねーでござるなこの女ァ! まだお口の中入ってんでしょ全部ペッしなさいペッ!!」
唾を吐きかけるように放たれた毒針を間一髪で躱し、更に連射される針を畳んだダンボールで受け止めてエドゥアルトは距離を詰める。いよいよ毒針の在庫も尽き、死を覚悟したスペクターにエドゥアルトはにっこり笑いかけ、手をわきわきと動かして。
「スペクターちゃーん、あっそびーましょー!」
封じられた倉庫。
エドゥアルトとスペクターが二人きりで入ったきり、そこから誰も出てくることはない。
『あっひゃひひっひくしゅぐるな無理息できなくひぃぃーっ!! 脇腹、脇腹やめ膝裏もっとらめぇぇぇぇー!! ころ、おまえぜったいころ、しゅふふふふひゃーっ
!!!!』
寡黙で狡猾、嗜虐的。暗殺者然としたオブリビオンの爆笑は戦いの騒音にかき消され、彼女が文字通り笑い死にかけ消滅するまで誰にも気づかれることは無かった。
大成功
🔵🔵🔵
アシェラ・ヘリオース
【改変、連携歓迎】
「かっての悪の幹部が、正義の味方の味方か」
そして目指す目標は悪を倒すと息まく正義の味方だ。
錯綜する状況に自嘲の笑みを一つして、気持ちを切り替える。
高級スーツ姿で現着。
空間プロジェクターに状況を反映する【情報収集、失せ物探し、メカニック、ハッキング、撮影】を行い、不自然に“気配が消えた”場所を絞り出す。
「国際警察機構のアシェラ・ヘリオースだ。現地ヒーローに協力を依頼したい」
【礼儀作法】で共闘依頼を提示し、閉所にて【オーラ防御、拠点防御】の布陣を敷く。
「敵は透明化技術及び近接での奇襲が得手だ。私が補助しよう」
【戦闘知識、鼓舞、念動力】で敵の動きを推測及びサクラの支援に徹したい。
リンタロウ・ホネハミ
どっちの正義が正しいかは一介の傭兵には難しくてわかんないっすけど……
報酬分の働きをしねぇのが悪なことぐらいはわかるっす
つーわけで、お仕事頑張っちまうっすかね!
蝙蝠の骨を食って【〇〇六番之卑怯者】を発動!
廃工場の屋根に昇り、外に出る素振りをするスペクターに片っ端から矢をブチ込んでやるっす!
へぇ、奴ら超音波を出すことが出来るんすか?奇遇っすね、オレっちもなんすよ
こっちはさらに超音波を聴くことも出来るっす
つまり、ヤツらは隠れてるつもりが、オレっちに位置を丸裸にされるっつーわけっすね!
まー位置以外も丸裸にしたい感じのお姉さん方っすけど……
敵である以上容赦はしないっす、仕事っすからね
アドリブ大歓迎
バーン・マーディ
そうか
ヴィランを虐殺する正義が首魁か
ならば…我が叛逆の対象だ
【戦闘知識】でサクラと敵の陣形とサクラの防御の甘い位置の把握
その隙とも言える立ち位置に降臨
我はバーン・マーディ
ヴィランである
(若しかしたら警察関係なら知ってるかもしれない
貴様は我が倒すべき相手を呼ぶ為にも必要
ならば…
此度は助けよう(サクラを庇える立ち位置へと立つ騎士
【オーラ防御】展開
敵の攻撃は
【武器受け・怪力・カウンター・二回攻撃・生命力吸収・吸血】で容赦なく斬り捨てて粉砕
それ以上の言葉は無い
唯ヴィランも殺さぬヒーローならば救った分は救おう
敵が多数射程圏内に入ればユベコ発動
物量は我が手段の一つだが
常にそれが有効とは思わぬことだ
●
「そうか。ヴィランを虐殺する正義を討つためならば、我が叛逆の対象となろう」
巨大な魔剣を地面に突き刺し、悪の守護者たる黒騎士バーンが唸る。
サクラ・ライオットはヒーロー、ヴィランであるバーンにとっては相容れぬ敵である。
だが、それ以上にサクラ・ライオットが死ぬことでこの街に台頭するであろうザ・ファースト・ヴィジランテ、レオン・リーブスは脅威だ。サクラ・ライオットは不殺の逮捕を信条としているが、レオン・リーブスはどうやら悪事の大小に関係なくヴィランであればためらいなく殺害するような男らしい。
正義の名の下に苛烈なまでに悪を叩き潰すもの、それはバーンがその身をヴィランに堕してまで倒したかった"邪悪"だ。
側に控える、今は姿を見えぬよう隠した少女の霊に優しい視線を向け、工場内へと歩みを進めるバーン。
邪悪を屠るためならば、その身を正義の盾とし、その剣を悪に向けて振るうことも許容する。それが彼なりの"悪"の在りようだ。
そして、それに足並みを揃えるようにスーツ姿の――ここでいうスーツはヒーローたちの纏う強化服ではなく、フォーマルなビジネス用の衣類のことだ――女が続く。
「かつての悪の幹部と悪の首魁が揃いも揃って正義の味方の味方とはな」
自嘲するように笑い、空中に映し出されたホロディスプレイに描かれる工場内の俯瞰視点――先行突入した猟兵に修理させた監視カメラからの視界をハッキングしたもの――をもとにスペクター達の配置を掌握しながら、アシェラはバーンと共に工場へと踏み込んだ。
「はぁッ! ……これで何人目だ……?」
教本に忠実な見事な体術でスペクターを投げ飛ばし、肩で息をするサクラ・ライオット。その背後から影が伸びる。
二人分の影に最低限の動作で振り向いたサクラ・ライオットは驚愕した。
「バーン・マーディ……!」
「いかにも、我はバーン・マーディ。貴様ら警察の敵、ヴィランである」
ここに来て最悪だ、とサクラ・ライオットが身構える。スペクターとの乱戦に国際手配されている大物ヴィランの登場である。その強さは、サクラ・ライオットが対ヴィラン用重武装を装備していたとて逮捕できるか怪しいところ。
否が応でも警戒を強めざるを得ないサクラ・ライオットに対し、バーンとの間に割って入るようにアシェラが進み出る。
「国際警察機構のアシェラ・ヘリオースだ。こちらが追っている別件について現地当局のヒーローの協力を要請したい。……その話をするためにも、まずはこちらがこいつらの掃討に協力しよう」
話を合わせろ、と鎧に覆われたバーンの脇腹を肘で小突くアシェラ。
「……うむ。貴様は我が倒すべき相手を呼ぶためにも必要。ならば……此度は助けよう」
巨体からは想像も出来ない俊敏さで踏み込み、サクラ・ライオットの前に出るバーン。その魔剣が空気を切り裂く音とともに、不可視の影が飛び込み振り抜いた刃を受け止め火花を散らす。
「ふん……強いのは殺意ばかりで攻撃は軽いな」
魔剣から迸る魔力がスペクターの力を吸い上げ、もともと膂力で戦うタイプではないスペクターの一撃はさらに非力なものとなる。
バーンが軽く押し込めば容易く弾き返せるほどに力を失ったスペクターを、その姿が見えぬまま一刀両断。
真二つに切り裂かれたマントが現れ、その中で呆然とした表情の女がマントと同じ切り口で両断され掻き消える。
「なっ…………殺したのか!?」
「落ち着け、連中はオブリビオンだ。殺す云々以前に生きている存在ではない」
突然の蛮行に納得がいかない、と呻くサクラ・ライオットを諌めるアシェラ。突然意識を切り替えろと言われてもそう易々と出来るわけもないかとアシェラは小さく嘆息し、ならばと続ける。
「そちらはそちらの信念を貫くといい。こちらも可能な限り譲歩はしよう。だが、不殺に拘って被害を拡大させるつもりはないというのは覚えておいてくれ」
さあ、来るぞと前を向くアシェラとサクラ・ライオット。スペクターたちが次々とマントを被り、薄闇に溶けるように姿を消してゆく。
「ふん!」
バーンの放つ剣戟を防御に徹した仲間たちを置き去ることですり抜けた透明化スペクターが、アシェラたちに迫る。
「っ、来ている?! どこから――」
「焦る必要はない。前衛はバーンに任せてこちらは出来ることだけをやろう」
監視カメラの映像から、敵の移動のクセはある程度把握している。あとは彼女たちが消えた位置からその侵攻ルートを推測すれば、
「私が補助する。敵の透明化技術は脅威だが、必ず近距離からの奇襲を仕掛けてくるはずだ。カウンターを狙え、右から二名、次、左一、正面三!」
アシェラの指揮に半信半疑ながら反射的に従うサクラ・ライオットが拳銃を構え、ガイドするように浮かび上がった立体映像のサイトめがけてトリガー。
軽い発射音と共に放たれたゴム弾は空中でなにかに命中して地面へ落ちる。
「本当に居た……! っ、しまった!」
ニ、一、三。揺さぶるように多方向から攻め込んできたスペクターを迎え撃つサクラ・ライオットとアシェラだが、正面から来る三人のうち最後の一人は浮かぶサイトを逆手に取って照準を読み、ナイフでゴム弾を切り落としてのける。
その斬撃の返す刀でサクラ・ライオットの拳銃を押し退け、もう片手に現れた鉄串を指の間に握り込んで喉元へと通そうとしたスペクターの、その肩口に矢が生える。
サクラ・ライオットからすれば、何かが居るがなにもない空間に突然突き立った矢だ。その周囲、消えた鏃の周りからじわりと赤が滲み、苦悶の表情を浮かべたスペクターが現れる。
そこへ更に降り注ぐ矢。たまらず回避しようとしたスペクターだがそれを狙撃手は許さない。追い立てるような射撃はスペクターを捉え、彼女を斃す。
突然の援護射撃にその矢の出処、上を見上げたサクラ・ライオットは工場の天井を支える梁として張り巡らされた鉄骨の上に立つ男を見た。
「正義がどうとかは一介の傭兵には難しくてわかんないっすけど、報酬分の働きをしねぇのが悪なことくらいはわかるっすからね」
頑張っちまうっすよ、とまるで煙草や飴のように咥えた小さな動物の骨、コウモリのそれを噛み砕く傭兵ことリンタロウ。
彼はその名が示すとおり、骨を喰むことでその持ち主たる動物の力を宿す呪いを受けている。
コウモリの骨を飲み込めば、得られるチカラは――
「隠れてるつもりでしょうが丸見えっすよ。それに気配消すつもりで超音波出しまくっちゃって」
自らも超音波を操るコウモリの権能を得たリンタロウにとっては、わざわざソナーで探さなくともやかましい音源には必ずスペクターの姿があるのだから不可視など何の障害にもなりえない。
「オレっちにかかればこんなもんっすよ。敵じゃなきゃ位置だけじゃなくて色々丸裸にしたいお姉さん方っすけど」
スペクターたちはいずれも妖艶な肢体の女性だ。これで全身暗器まみれのオブリビオンでさえなきゃあなあ、と残念がるリンタロウだが、相手がオブリビオンである以上色香に惑わされはしない。
隠れ潜むスペクターに矢を当てれば、仕留めきれずともあとは下の仲間たちがそれを目印に始末してくれるだろう。
リンタロウの援護とアシェラの的確な指揮を受け、サクラ・ライオットも透明化に対する狼狽は最小限に抑えられたようだった。
そして。
「ふんッ」
不可視のままのスペクターが数を頼みに制圧しようとしている巨漢、バーン。
魔剣のリーチでスペクターを寄せ付けない彼だが、スペクターも彼を警戒して致命傷を避け足止めに徹する動きを取り始めていた。
このまま抑えられれば、数の有利で後ろのサクラ・ライオットとアシェラが危ないか。
バーンは切り札を放つタイミングを今と見定める。
「ヴィランも殺さぬヒーローよ、貴様が救った分は我も救おう。我が名はバーン・マーディ、数だけで倒せると思わぬことだ!」
十字の光が無数に煌めき工場を満たし、スペクターを吹き飛ばした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
アリシア・マクリントック
こういうシチュエーションもそれなりに勉強してきました。まずは生身での戦闘を行って文字通りこちらの顔を見せつつ、平和を守る同士であることも見せていきましょう。鳳刀『暁』でサムライダマシイをアピールしていきます!
そして追い詰められたり、危険な状況になったら変身です!これで私はもう「守るべき一般人」ではありません!
何か変身ヒーローらしいかっこいい名前を名乗った方がよさそうですね。どんな名前がいいでしょうか?周りがそう呼ぶだけ、ってパターンもありますし……
八艘翔びで敵の動きを押さえ込みながら数を減らしていきましょう。サクラ・ライオットさんが危なくなったら即座に技を中断してフォローに向かいます。
荒谷・ひかる
たたかうのはあなた一人じゃないよっ、サクラさんっ!
オブリビオンを、ここから逃がさなければいいんだよねっ?
そういうことなら、任せてほしいんだよっ!
【草木の精霊さん】発動
廃工場の内外を植物で覆い、脱出困難な迷路を形成するよっ!
この迷路は精霊さんの意志で形作られたものだから、わたしのお願いで色々と姿形を変えるんだっ。
だから足を引っ掛ける罠とか、急に伸びてくる蔦で妨害とか、弾ける種の爆弾とかでサクラさんを援護するねっ。
通路もうにうに変形するから逃がさないよっ!
(それは迷路としてどうなのか)
あ、でもね。
わたし自身は弱いから……サクラさんに護ってもらっても、いいかなっ?
(庇護欲を刺激する形で「鼓舞」する)
アイ・リスパー
「わあっ、これが日本警察の作ったパワードスーツですか!
アメリカのヒーローのものや、SSWのウォーマシンとは違って
防御と敵の無力化を主目的としたコンセプト、興味深いです!」(メカオタク感
……こ、こほん。
ライオットアーマーの観察は任務が終わってからにしましょう。
「オブリビオンたち!
ライオットアーマーには傷一つ付けさせませんよっ!
……あ、もちろん、装着者もですけど!」
『機動戦車オベイロン』から『多連装ロケットランチャー』を発射しつつ
サクラ・ライオットさんに加勢します。
こちらもパワードスーツを披露しましょう!
【ビルドロボット】でオベイロンを変形させ装着。
『ロボットアーム』による打撃で敵をなぎ払います。
●
「――一体、どうなって……っ!!」
眩い閃光。それは工場内を満たし、放った猟兵の認識する範囲内のすべてのスペクターを討伐した。
だが、スペクターは一体どれだけの戦力を集めていたのか。マントのフードを目深に被った女たちは未だに尽きることなく工場の奥や物陰から姿を現す。
「……くっ」
新たに猟兵から貸し渡された銃の残弾も心許ない。かといって予備の弾倉は受け取っていない。サクラ・ライオットは戦闘中の弾切れよりマシかといよいよ銃を置き、警棒を抜き放つ。
相手はヴィラン。電圧は高めに設定しておく。伸縮型の警棒を伸ばせば、ぱりりと乾いた音とともに青い電光が奔った。
そこに。
「わあっ、これが日本警察の作ったパワードスーツですか! アメリカのヒーローのものや、SSWのウォーマシンとは違って防御と敵の無力化を主目的としたコンセプト、興味深いです!」
早口で朗々と響き渡る少女の声。メカに目がないアイは、参戦するなり目をキラキラと輝かせながらサクラ・ライオットの周囲をくるくると歩き回ってその姿を称賛する。
「ひと目で警察装備とわかる青いカラーリングに制帽風のヘルメット、ヒロイックなのに質実剛健さも感じるアーマーの配置! 両肩の回転灯はいかにも警察って感じですし、背中の白抜きのPOLICEの文字もイカしてます! 装甲は材質なんでしょう、日本警察といえばポリカーボネートかジュラルミン……? でもそんな柔い材質なわけ無いですし。うーん、見た目はセラミック系の複合材でしょうか……?」
異世界の警察用パワードスーツ、しかも実験機を至近距離で観察できるまたとないチャンスにワクワクが止まらないアイは、自分の背中を見つめる苦笑と困惑、そして当のサクラ・ライオットからも向けられる困ったような視線にぴたりと硬直する。
「…………こ、こほん。ライオットアーマーの観察は任務が終わってからにしましょう」
「いや、これでも警察の機密なんだ。悪いが観察は遠慮してくれないかな」
「そんなっ!? ……うう、仕方ありません。任務を優先します……さあオブリビオンたち! ライオットアーマーには傷一つ付けさせませんよ!」
『…………交渉。アーマーは無傷で渡す。中の警官はこちらに渡して貰おう』
観察は遠慮してくれと言われ、あからさまにがっかりしたアイに投げられたスペクターからの提案。
装着者を引き渡せば――彼女たちに渡すということは、つまりそういうことだろう――ライオットアーマーは自分のものになる。ゴクリとアイは唾を飲み、
「……い、いえもちろん装着者も無傷で守りますとも!!」
本当かよ、という敵味方の視線を浴びながら、アイは愛機である機動戦車オベイロンを呼び出すアイ。
工場の壁をぶち抜き突入してきた戦車に飛び込み、オベイロンをトランスフォームさせる。
合体用の小型戦艦は今回お留守番だ。陸戦かつ対人戦であれは持て余すという判断は間違いではあるまい。
合体するなり多連装ロケットランチャーをスペクターの群れに撃ち込むアイ。
爆発する工場。焔を背に散開するスペクターと、図体に似合わぬ機動性でそれを追いアームによる白兵戦を繰り広げるオベイロン。
「……銃や剣や弓矢くらいならまあ、今回は銃刀法に関してとやかく言うつもりは無かったけども」
流石にロケットランチャーはなあ、と困惑するサクラ・ライオット。その肩に手を置くのはアリシアで、腰のあたりに手を置くのはひかるだ。
元気出せよ、という感じに無言の慰めを送る二人の美少女。サクラ・ライオットもここまでくれば猟兵とはそういうものなのだろうと理解しつつあった。ここでは順応出来ないやつから脱落していく。
「ともかく。私達は平和を願い守る者同士、そして私もまた――変身!」
肩に置いていた手をベルトに滑らせ、白銀のアーマーを身にまとうアリシア。
サクラ・ライオットがそうするように、自らも刀を構えればその姿は紛うことなきヒーローだ。
「君もヒーロー……なのか? ……そうか、頼もしい!」
「わたしは皆みたいに戦えないけど……でも、たたかうのはあなただけじゃないよっ、サクラさんっ!」
ひかるもアリシアがそうしたようにサクラ・ライオットを慰めていた手を離し、祈るように両手を組み合わせる。
「みんなが戦いやすいように、ここから敵を出さないように……覆い尽くして、精霊さんっ!」
組んだ手を解き、万歳するように天高く伸ばせば床を突き破り半壊した作業機械を巻き込んで蔦や蔓、木枝がめきめきと伸びて崩れかけの廃工場を満たす。
それは壁と言うには入り組んでいて、迷路と言うにはシンプルな構造をしていた。仲間の戦闘を邪魔せず、かつ敵を逃さないためのひかるが願う戦場だ。
『……それがどうした?』
ひかるの渾身の迷宮をあざ笑うように、袖口から取り出した小さな火炎放射器で迷宮の壁を焼き切り突破を図るスペクター。
が、突然コケた。足元には結わえられた蔦。進もうとした矢先、爪先が蔦の輪っかにハマってバランスを崩したのだ。
そしてその頭上から巨大な種子が落ち、スペクターの頭に当たってぱつぱちと弾け彼女を昏倒させた。最後に迷宮の壁を構成している頑丈な蔓が伸び、手足を雁字搦めに縛り上げて拘束する。
「精霊さんが援護してくれるから、サクラさんもアリシアさんも頑張って! あ、でもわたし自身は弱いの。……サクラさんに守ってもらっても、いいかなっ」
非力な少女からの願い。警察官である以前に一人の人間として、サクラ・ライオットはこの願いを否と言えるはずがない。
「もちろん、私に任せて。そちらの……アリシアさんだったか。援護する、この子を守りながら犯罪者を鎮圧しよう」
「承知しました。そういうことなら私が前に出ましょう」
守るべき対象を得てより闘志を漲らせるサクラ・ライオットに微笑んで、アリシアは跳躍する。うごめく迷路が誘導してきたのか、真正面から駆けてくるスペクターたちへと一直線に。
着地点に次々頭をもたげる蔦を踏み台に、軽やかに跳ぶアリシアがスペクターの群れを駆け抜ける。その一瞬で放たれた斬撃が、厄介なマントとその内の暗器を切り刻んだ。
「ライオットさん!!」
「了解ッ!!」
振り向き叫ぶアリシア。その時にはサクラ・ライオットも駆け出していた。――どういうわけか背中にひかるをおぶったサクラ・ライオットは、盾を前に突き出しスペクターの投げる凶器を弾きながら猛然と走り、そして電磁警棒で彼女たちを打ち据える。
常人なら失神では済まない高電圧をまともに受けたスペクターたちは気絶し倒れ、そのまま消えていった。
不可視化かと念の為警棒で地面を探るサクラ・ライオットが、完全に消滅したことを確認して頷いた。
「この調子なら全員無力化もすぐかな」
「ええ、皆さん強いですから。それにしても不思議な武器を使うんですね。オブリビオンにすら通用する、けれど非殺傷の武器……こういうものを一つ持っていれば、やれることの幅も広がりそうです」
「そうそう。みんな強いんだからっ! 精霊さんが教えてくれてるけど、もうかなりの数のオブリビオンをやっつけてるみたいだよ。残りはそんなに居ないみたいっ」
にこりと笑うアリシアに、サクラ・ライオットの背中でうんうんと頷くひかる。
思わぬ長丁場ももうそろそろ終わる、そんな予測を得て和気藹々とした空気が漂う次の瞬間!
『――――退け! いや退いて!!』
迷宮の壁を切り裂きスペクターが飛び込んできた。ターゲットであるサクラ・ライオットを気にかける余裕もないのか、突き飛ばすように手を伸ばして疾走する彼女を、彼女が斬り裂いた壁の傷口から生えたロボットアームが掴んで引きずり込む。
『ひぃっ! 吊るされるのだけは嫌ぁぁぁ!』
スペクターの悲鳴。ロボットアームがスペクターごと壁の向こうへと消えていったあと、裂け目が閉じていく。
しばらくして、ワイヤーで簀巻きにされたスペクターの団体をぶら下げたオベイロンが意気揚々と帰ってきた。
「サクラ・ライオットさん! これと交換でアーマーを見せてください! 5スペクターくらいあれば検討はして頂けますよねっ!」
干し柿のように吊るされ、ぐったりと抵抗を諦めたスペクターを手に、オベイロンの中でアイはにこやかに笑う。
「あ、ああ、うん。犯人逮捕に協力してくれたわけだし、交渉は……する、するよ、約束しよう」
はたして自分はとんでもない人々に借りを作ったのではないか。背筋が寒くなるサクラ・ライオットだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ビードット・ワイワイ
【PPP開発室】
アドリブアレンジ歓迎
見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり
悪と定義されしものそれに従う有象無象
矮小なりし振るう力、力無ければ世界は変わらず
世界を変えるは強者の力、這いつくばるは弱者の特権
ここが汝の破滅なり
力を借りるは異星の隣人、空より来たるは彼方の船
瞬時に現れ振るわれる異星の力、これにて汝らを骸の海へと還そうぞ
例え姿を眩まそうと生命力吸収し場所を探知し見つけよう
汝ら決して逃れられぬ
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
アンナ・フランツウェイ
【PPP開発室】で参加。
正義は己の悪行や過ちを正当化させるモノ。それに気付いていない奴だらけだからこの世界とヒーローは嫌いだ…。でも知人の依頼だから見捨てるわけにもいかないし、不本意だけど助けようか。
【ダッシュ】で最前線に突入して戦闘。【存在感】でスペクター達の注意をヒーローや開発室の皆から私に引きつける。
突出は危険だけど作戦の内。私を確実に仕留める為、集団で暗器を使った攻撃を仕掛けてくるのを待つ。
暗器で攻撃を仕掛けて来たら、向かってくる暗器の軌道を【見切り】つつ【断罪式・彼岸花】を発動し【カウンター】。
生成した拷問器具で暗器を弾き(【武器受け】)、接近して来たスペクター達をまとめて攻撃!
●
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン。
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン。
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン。
スペクター達の耳朶を打つ謎の音。猟兵たちから身を隠すスペクター達は、その音の出処を探って視線を右往左往させ、そして上からの音だと気づく。
彼女たちが天を見上げると同時、工場の天井の一部が屋根ごとべりべりと音を立てて剥離し、空へと消えていった。
見上げたそこには青空に輝く太陽。アイマスク越しにその眩しさに目を細めたスペクター達は――否、この箇所からこの角度で太陽など見えはしないことに戦慄する。
つまりあの光は太陽などではなく。
『……ゆ、UFO!?』
『何をばかみたいなことを……UFOだ!!?』
『しかもあれはレトロなアダムスキー型! 本当に宇宙人が居たなんて
……!!』
そう、空に浮かぶはUFO。未確認な飛行物体である。三角屋根の円筒の下部に幅広の円盤がくっつき、さらにその下面には三つの光る半球が装着されている、あのタイプのUFOだ。
フォンフォン言いながらくるくると円盤を回転させ、上空にとどまる未確認飛行物体。
その船内でUFOを操縦するリトルグレイ型異星人と共に座するビードットはつぶやく。
「見たり見たり見たり。汝の破滅を見たり。悪と定義されしものそれに従う有象無象。矮小なりし振るう力、力無ければ世界は変わらず。世界を変えるは強者の力、這いつくばるは弱者の特権。ここが汝の破滅なり」
いつもの破滅の聖句だが、今回それを聞くのはリトルグレイの皆さんだけだ。
窓から眼下を見下ろせば、屋根に空いた穴の下でスペクターたちはおーいおーいと手を振っている。彼女たち、意外とミーハーなのかもしれない。
『ねぇ、宇宙人を捕まえて刻んだスペクターって私達が最初になるんじゃない?』
『ええ、これで他のスペクターより一つ上の存在になれるわね』
『あんな警察の木っ端ヒーローなんかより宇宙人のほうがよほどレアだわ。おーい! ワタシタチトモダチ、オリテキテクダサーイ!』
そうでもなさそうだった。ともかく、ビードットは嬉しそうに手を振るスペクターから視線を外してコックピットのボタンを一つ押し込む。
UFOの下面のハッチが開き、トラクタービームが真下に照射される。天井を剥がすときにも使った人工引力光線がスペクターたちをふわりと持ち上げ、UFOに吸い込んでいく。
「……来る隣人、されど見知らぬ者がなぜ力を貸すと思いけり? なぜ解剖されるは他人だと思いけり? かくして彼らはサンプルとなった」
スペクターと入れ替わりにUFOから飛び降り、工場内に降下するビードット。彼が空を見上げれば、三人のスペクター……もといこの惑星のヴィランと呼ばれる人種のサンプルを捕獲したUFOはものすごい速度で空へ消えていった。
「えぇ……?」
その一部始終をみていたアンナは、困惑を隠しきれない。
だって、ねぇ。何あれ。フォンフォンって。
「……正義は己の悪行や過ちを正当化させるもの。それに気づいてない奴だらけだからこの世界もヒーローも嫌い」
『……』
気を取り直し、相対するスペクターに語り掛けるアンナ。
背後で発生した第三種接近遭遇――ついさっき第四種になった――に唖然としていたスペクターも、とりあえずそれを見なかったことにして真剣な表情でアンナと向かい合う。
「でもね、嫌いな相手でも知り合いが助けを求めた仕事なの。見捨てるわけにはいかないよね」
一気に駆け出し、アンナはスペクターとの距離を縮める。隙を晒しつつ派手に動けば、連中は必ずその好機を逃さない。
鎖鎌を振り回すスペクターの反撃を紙一重で見切り、致命傷に至らない傷は敢えて受けて見せることでダメージを演出する。果たしてその釣り針に、アンナの望み通りの得物は掛かった。
眼の前の一人の他に、左右からそれぞれ一人ずつ不可視化を解いたスペクターがそれぞれカタールと投げナイフを手に襲いかかる。
撓る鎖鎌が不規則な軌道でアンナの退路を断ち、投げつけられたナイフが微かな活路への初動を潰す。そうして身動きを封じたところに、勝利を確信して舌なめずりをしながら飛び込んだカタールのスペクター。
その刃がぞぶりとアンナの身体を貫き、そこでスペクターは驚愕に目を見開く。貫いたと思ったアンナは、刃が突き刺さると同時にばしゃりと液状に崩れてその構造を再構成してゆく。
スペクターの両手と首を固定したそれはまるで――
「断罪式・彼岸花。地獄の釜は開いた、断罪の時だ」
血で作られたデコイの陰から現れた本物のアンナが、冷たく冷え切った目でスペクターを見下ろした。その視線が外れると同時、ギロチンの刃が罪人を一人処刑する。
仲間を屠られたスペクターの放つ投げナイフを飲み込みながら、血で形作られた鉄の処女が彼女を飲み込み体内でズタズタに引き裂き屠る。
『…………ッ!?』
そして一瞬で二人の仲間を凄惨に処刑された鎖鎌のスペクターは、じりと後退しながら鎖鎌を振り回す。
追い詰められ出鱈目に振り回しているようで、彼女の振るう鎖鎌は正確に死角からアンナの急所を狙っている。
だが、アンナの手にした血の大鎌が無感動に振るわれればその刃は弾かれる。
一切刃先に視線を向けず、ただスペクターだけを見て振るわれる刃が襲いかかる凶器を防ぎ続ける。
「私は正義なんて旗を掲げる奴らが嫌い。だけど、それすらしないアンタ達みたいな悪も同じくらいに嫌いなのよ」
だから私が、罪を裁く。
大鎌が振るわれ、鮮血が散る。
死体は残らない。罪人の名はスペクター、幽霊は痕跡すらなく消滅するものだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フィーナ・ステラガーデン
【PPP開発室】
正義ってあれでしょ?
最初に強い奴がこれは正義って決めて、皆もそうだって言って決まっちゃった「価値とか法」のことよね?
昔、村で私や妹に石投げてた奴らがこれが正義って言ってたわ。
というわけで私は今回不機嫌よ!
何が正義で何が悪よ!いちいち大義名分作ってないで自分が良いって思ったことしなさいよ!
まあでもパルが言ってたけれどアレ(サクラ)を助けないと良くないのよね?仕方ないわね
で、コレ(スペクター)を倒せばいいのね?
焼き払いたいわね!え?アレが良い顔しない?チッ!!(舌打ち【殺気】)
じゃあ死なない程度にぶっ飛ばしてやるわ!(爆風で巻き込む形で【全力魔法UC】
(アレンジアドリブ大歓迎!)
イデアール・モラクス
【PPP開発室】
クク…ヒーローか、面白そうじゃないか!
ならば私とフィーナがヒーローモノには欠かせぬ美少女ヒロインとして助太刀してやろう!
・行動
「サクラとやら、正義の美魔女ヒロインズが助けに来たぞ!」
『空中戦』で華麗に飛翔しながら舞い降りて『属性攻撃』にて雷を纏わせた魔剣ドミナンスを一閃しサクラの周りから敵を『薙ぎ払い』登場。
「私が手を貸す、無力化しろ!」
UC【色欲の触手】を『全力魔法』で数を無数に増やした上で『高速詠唱』を用いて素早く召喚、『範囲攻撃』で同時に多数の対象を絡め、触手で穴という穴を『串刺し』にして快楽漬けにしてサクラに任せる。
クク…正義の味方には刺激が強すぎるか?
※アドリブ歓迎
●
「クク……ヒーローか、面白そうじゃないか! ならば我らも美少女ヒロインとして助太刀だ!」
意気揚々と天井をぶち抜き、魔力の翼で優雅に舞い降りるはイデアール。
「サクラ・ライオットとやら、正義の美魔女ヒロインズが助けに来たぞ!!」
猟兵たちとともに交戦中のサクラ・ライオットが何事かと見上げれば、妙齢の美女が魔法少女チックな格好とポーズで戦場に舞い降り――剣を一閃、その切っ先から放たれた雷撃がスペクターたちを一掃する。
「フッ、峰打ちだ。私が手を貸してやろう、無力化しろ!」
ノリノリのイデアールさんじゅうさんさい(もうすぐさんじゅうよんさい)を他所に、もうひとりの美魔女ヒロインズことフィーナは不機嫌さを隠そうともせずイライラしながらイデアールの空けた穴から飛び込んでくる。
正義。その言葉にいい思い出はない。
彼女の故郷の人々は、口々に正義を唱え正義を為すために彼女と最愛の妹を迫害した。
結局正義などというのは大多数の望む価値観で、それを定めるのはいつだって強者なのだ。
強者の側に、多数の側に入れない者にとって、正義とは己を踏みにじるための大義名分でしか無い。
「そんなものに頼ってないで自分が良いって思ったことをすればいいのよ!」
イデアールが雷撃で制圧したスペクターに杖を向け、フィーナは己の欲する結果――爆炎魔法による八つ当たりめいたオブリビオンの掃討を行おうとして、踏みとどまる。
「チッ……! 死なない程度、よね。わかってるわよ!!」
したくもない手加減をしないと、サクラ・ライオットはいい顔をしないだろう。
せめてアレが見ていないところなら好きにぶっ飛ばせたのに、と苛立ちをつのらせながらも"死なない程度"の最低限の手加減で容赦なくスペクターを面制圧してゆくフィーナ。
「おー、荒れてるなフィーナよ! どうした、お前もスッキリしてリフレッシュするか? 正義の美魔女ヒロインズのよしみだ、気持ちよくしてやるぞ?」
ド派手な爆撃でスペクターを半死半生に追い込むのがフィーナなら、ちょっとお見せできない手段でスペクターを制圧するのがイデアールだ。
詳細は省くが、いつの間にやら生えてきた触手がそこらじゅうでうねうねしているのとフィーナよりよほどサクラ・ライオットに警戒されているの、そしてサクラ・ライオットが背負った幼い猟兵の視界と両耳を他の猟兵と連携してガッチリ封鎖しているあたりで何が起こったのかはご想像願いたい。良い子は見ては駄目なやつだ。
サクラ・ライオットの正義感的にはギリギリセーフと思いっきりアウトな二人ではあるが、その参戦とわが道を行くフリーダムっぷりが形勢を決定的に猟兵勝利へと傾けた。
『……くっ。無事なものは退くん――』
「させるわけ無いでしょ、吹っ飛びなさいよ!!」
撤退を試みるスペクターたちが集まれば、これ幸いと放り込まれた爆裂魔法が集団丸ごと吹き飛ばす。
『透明化していれば見つからない……私は今のうちに裏口から逃げ、ん? 足裏がぐにゅってひぃぃ!?』
「また一人捕まえたぞ! さあ触手よ電流を放て! どうだ見ろ、傷一つなく容疑者を無力化する美魔女の力を!」
透明化を使って逃げようとするものは、いつの間にか迷宮を構成する植物に編み込まれていた触手をうっかり踏んで足首を巻かれ逆さ吊りにされる。
どちらにせよ待つのは失神のち逮捕だ。どちらの手にかかってそうなるのがスペクターにとって幸せなのかは本人たちにしかわからない。
そうしてサクラ・ライオットの周囲のスペクターは程なくして全滅し、また各々相対していた者を倒した猟兵たちも迷宮に導かれて集合し――
「「「うっわ」」」
口を揃えて惨状に戦慄いた。自分たちが手加減に細心の注意を払っていたのに容赦なく高威力の攻撃をぶちかました痕跡があることに、か。
あるいは、そこらじゅうで痙攣したまま手錠をかけられているぬとぬとのスペクターにか。
「ともあれ、これで全部……か。助かりました。市民のご協力に感謝――」
サクラ・ライオットが敬礼を猟兵たちに投げかけ、事態の終局を宣言しようとしたまさにその時だ。
工場の外からけたたましいサイレンの音と連続した拳銃の銃声が響いたのは。
「…………機動隊の車両の方!」
その発生源を察知したサクラ・ライオットがすぐさま駆け出し、昏倒するスペクターの見張りに最低限の人数を残して猟兵たちもそれに続いて急ぎ工場を脱出する。
「――ふん、あんなに焦っちゃって仲間思いじゃない。正義なんてのは大嫌いだけど、少しだけあんたのことは見直してやってもいいかもしれないわね」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レッグ・ワート
俺は機動隊の撤収支援。先ずは迷彩起こしたドローン上げて現地情報収集。ざっと終わったら工場内のヒーローの立回り撮っとくか。バイク使うかは状況によるが敵の案内はしないようにと奇襲避けに、複製した糸編んで一定距離に張る操作しながら動く。保険だ保険。万一は簀巻いて鉄骨でぶん殴る。
隊には速度そのままと他にも支援の猟兵がいる事伝えて、リーダー格と状況確認。要るなら経路提案もするが、問題無さげで一方的に連絡できるなら、演算した所要時間をヒーローに伝えて貰う。負傷者がいれば引受けて、悪化しない程度の安全運転の早業で先行するぜ。
離脱完了で連絡入れて貰うか俺が工場戻って伝える。立回りのデータ撮れてたら後で渡すわ。
●
時は前後して未だ工場内で猟兵たちとスペクターが交戦していた頃。
3LGことレグは、工場近くの廃墟の屋上で愛車に跨がりドローンを飛ばしていた。
これから己が為すのは機動隊を安全圏まで逃がすそのサポートだ。まずは地形情報を得る、そこから始める必要がある。
迷彩機能で殆ど不可視になったドローンがふわりとレグのバイクから飛び上がり、天高くからの視点で工場地区を空撮していく。
どの道がどこに繋がるのか。最短ルートはどの道を抜ければいいのか。逆に迂回してでも追跡を回避しやすいのはどの道なのか。
地図では読み解けない、後から設置された物でも容易く変動する町並みの、実際の地形情報も正確に入手するにはこれが一番だ。
機動隊の集結地点を捉え、ジュラルミンプレートで強化した護送車に整然と乗車していく彼らを見守ってから、レグはドローンを工場へと差し向けた。
「ヒーローの立ち回りも撮っとくか」
それはちょっとした思いつきにも似た情報収集のはずだった。機動隊の任務がサクラ・ライオットのデータ収集も兼ねていたなら、それを彼らに代わって僅かでも遂行することが警察との交渉材料になるだろう。
そんな発想でふわふわと工場に接近していくドローンが、突如信号をロストする。
砂嵐に変わったドローンの視界を切り離し、自身のカメラアイでその最後に飛行した地点を確認したレグは、大ぶりのナイフが突き刺さってゆっくりと墜落していくドローンと、まるで何者かが駆けるように撓み積もった埃を舞い上げる工場施設の屋根を見た。
「おいおい、そういう連中かよ」
バイクのエンジンを吹かして屋根から飛び降りるレグ。あれが何なのか判断する材料は乏しいが、迷彩化していたはずのドローンを補足し、問答無用で撃ち落としたということは友好的な存在ではないだろう。
敵と仮定して行動するべきだ。軍用機出身の彼の頭脳はそう結論を叩き出し、その目的を自分か撤退中の機動隊のどちらかだと断定する。
仮に機動隊が狙いならばいち早く急行する必要がある。だが自分が狙いならば逆に合流するべきではない。しかし、仮に敵が複数存在して、同時に双方を追っているならば?
戦場では常に最悪を想定するべきだ。双方に追手が付いたと見て、ではどう動くべきか。
合流しないのは悪手だ。サクラ・ライオットが機動隊を逃したということは、彼らの装備では敵に対抗できないということ。
急ぎ合流するのはこれもまた良くない。こちらに付いた追手まで合流しては、レグ一人で処理できる限界を超えかねない。
ベターなのは、レグが可能な限り追手を減らしつつ全速力で合流することか。
「戦闘はあんましたか無いんだけどなァ……」
ともあれ、そういう最悪の事態に備えた準備はある。ハンドルを切って路地に飛び込めば、バイク一台がギリギリ抜けられるかどうかの狭い隙間を巧みな操縦で突っ切って。
風化してひび割れたポリバケツが後方で倒れた音から敵が追撃していることを確認し、準備してあったルートに滑り込むレグのバイク。
各工場の配管が網目のように張り巡らされたそのルートは、機動隊への直線道路にしてパイプラインというおあつらえ向きの道具がある理想の道だ。
準備してあったワイヤーを引き出し、レグは後方を振り向くことなくそれを放つ。
意思を持つかのように蠢くワイヤーは、パイプラインに絡み文字通りの網を張った。そこへバイクに追随するほどの高速で突っ込み、鋭利なワイヤーで肌を裂かれて血を流しながら消滅する敵――スペクターだったもの。
「おう、とりあえず一丁あがりか? ……あっちは、あんま時間なさそうだな」
見えてきた集結地点では、機動隊が護送車に乗り込み窓に張られた金網の更に内側で盾を構え、拳銃でスペクターに応戦しているようだった。
時折聞こえる断続的な破裂音は、彼らの放つ銃声だったのだろう。
「んなもん当たらん、相手すんなそのまま発車しろ!」
バイクでスペクターと機動隊の間に滑り込んだレグが叫ぶ。
「誰だ君は……いや、了解した! 発車、発車!」
レグを猟兵と認識した機動隊員が叫び、護送車がアクセルを踏んで動き出す。
その横にぴったりと同速で付けたレグが、バイクの車上から護送車の窓を叩いた。
「状況は?」
「負傷者数名、命に別状はない。ただ、こちらの盾は貫通される。重ねてなんとか保たせたがそれでも当たり所によっちゃ抜ける。ぶっちゃけ役にゃ立たんと思ったほうがいい。9ミリ拳銃はそもそも狙いがつく距離まで奴さん近づいてこない上、まぐれ弾が当たっても武器かなんかで弾かれてるな」
隊長らしい、五島というネームプレートを胸に付けた機動隊員が開けた窓越しにレグに伝える。
と同時に、二人の間を回転しながら投げナイフが通過していったのを、レグは冷めた目で見送った。どうやらスペクターはこちらを諦めるつもりはないらしい。今も後ろを駆けながら護送車を追跡しているに違いない。
「反撃は効かねえ、かと言ってアイツをこのまま街まで連れて行く訳にゃいかんよな。……オケ、了解した。それなら逃げながら応援を待つ。こっちの仲間がそっちのヒーローの支援に入ってるからもうじき片付けてこっちに来るだろ」
「そうは言うが合流するにしても移動し続けるこちらの位置をどうやって知らせる? それにこの護送車の車高と車幅では通れる道も……」
五島が懸念を示そうとするのをレグは押し留めた。
「任せとけ、この辺の地理は把握済みだ。一応そっちとヒーローの通信回線教えてくれ、先導する」
――スペクターは走る。これは狩りだ。
無力な得物、警察の機動隊員を狩る楽しいゲーム。猟兵が一体加わったが、この期に及んでたった一体加わった所でボーナスポイントのようなものだろう。
そのうえ猟兵は戦闘タイプではないらしい。逃げに徹して、時折警官から借りた拳銃をノールックで撃っているがそんな攻撃に当たってやるほど間抜けではない。
まずは猟兵を仕留め、その後でゆっくりと機動隊員を嬲ろう。警官はどんな悲鳴をあげるだろうか?
命乞いはどんなふうにするのだろうか。もしかしたら勇敢にも最後まで抵抗してくれるかもしれない。
楽しみにニヤリと頬を歪めて唇を舐め、そろそろ追いかけっこも飽きたと巨大な針を抜くスペクター。
護送車のタイヤに投げつければ、あの車は横転して猟兵も巻き込まれるだろう。
その後でゆっくり仕留め――
「制圧ッ!!」
針を構えた腕を大きく振りかぶったスペクターは、突如脇の路地から飛び出してきた青い影に弾き飛ばされ、勢いよく吹き飛んだ。
「来たかヒーロー、タイミングはバッチリだな」
「誘導してくれたのは君か。位置を知らせる等間隔の銃声、それにこちらの移動速度を見越した無線の的確なナビゲート。お陰で最短距離で駆けつけられたよ」
ブレーキを掛けて停車したバイクと護送車。レグはスペクターを弾き飛ばしたヒーロー、サクラ・ライオットを労う。
「いいからそいつをさっさと捕まえるなり倒すなりしてくれ。それで俺の撤退支援は完了だから」
おそらく最後の一体であろうそのスペクターをどうにかしてくれれば、脅威の消滅を以て任務を完了できる。それで終わりだろ、と肩を竦めておどけたような動作をするレグに、サクラ・ライオットのは頷いて起き上がろうとするスペクターに電磁警棒を押し当ててから手錠を掛けた。
「――犯人を殺人未遂および公務執行妨害の現行犯で逮捕!」
サクラ・ライオットを追って駆けつけた猟兵たちも、その勝鬨を聞いて戦いの終わりを悟る。
――とはいえ、これからが本番だ。
まずはサクラ・ライオットと知り合い、ある程度の信頼を得た。ここから更に信頼を深め、レオン・リーブスの襲撃にいつでも対応できるようその任務に同行できる関係を築かなければならないのだから。
「つー訳で、いやどういう訳だって話なんだが、猟兵一同で一旦そちらの拠点まで同行して構わないか? 補給やら今後の協力体制やら何やら、色々話さにゃならんこともあるだろ」
レグの提案に、五島とサクラ・ライオットは顔を見合わせ、それから頷くのだった。
「ああ、是非着いてきてくれ。コーヒーのおまけに表彰状も出してやるぞ」
「五島警部、普通おまけと本体が逆では?」
「いーんだよサクラお前、猟兵は表彰状なんかもらってもあんま嬉しくないもんだって。なあ?」
なあ、と言われても困る猟兵たちだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『エピローグはほのぼのと。』
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POW : 食事で楽しむ!
SPD : ショッピングして楽しむ!
WIZ : 観光して楽しむ!
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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●
「というわけで始末書を書くことになった」
警察署に帰還するなり報告に向かった五島隊長とサクラ・ライオット。
戻ってきたのは五島一人で、彼は苦笑しながらそう言った。なんでも解決がほぼ猟兵頼りだったことがお偉い方々の癇に触れたらしい。
「書き上がるまで出動しないでいいってお墨付きまでもらったんで、機動隊の指揮は二班の七雲に任せるとして。お前達の狙いはサクラだよな。アイツが戻ってくる前に事情こっそり教えろよ」
有無を言わさぬ五島に、予知の内容を伝え終えた直後、勢いよくドアを空けて小柄な女性警官が駆け込んできた。
十代半ばほどにも見えるその容姿は、制服に着られているようで微笑ましい。
「佳澄桜羅巡査部長、戻りました。アーマーの着脱はいい加減簡略化してほしいものですね、まったく」
『カスミ"サクラ"』、そしてアーマーの着脱。まさかというワードに、猟兵たちの視線が彼女に集中する。
「ん? ああ、先程はありがとう、おかげで死傷者なく事件を解決できた」
その言い回しは、紛れもなく"あのヒーロー"のものだ。
「そう、こいつがサクラ・ライオットの中の人。佳澄桜羅ちゃん。で、めでたくたった今始末書の代わりに数日間の謹慎を言い渡される可愛そうなお巡りさんだ」
意地悪な笑みを浮かべて桜羅を指差す五島に、桜羅は聞いてないと眦を吊り上げる。
「まあまあ怒るなって。謹慎って言ってもアレだ、業務はやってもらうからよ」
異世界からの来訪者、猟兵。彼らがこの世界の常識を弁えているとは限らない。故に警察官がサポートに付き、彼らの"やらかし"を未然に食い止めるべきだ、だとか。
土地勘のない人間を道案内してやるのも警察官の立派な職務だ、とか。
口八丁で桜羅を言いくるめた五島が、頼むわと猟兵たちに拝むようなゼスチャーを送った。
「ま、観光のつもりで桜羅をこき使ってやってくれ。飯でも買い物でも観光でも、好きに過ごしてくれて構わん。そっちも警察と互いに見張り合いするよかそのほうが動きやすいだろ? 佳澄桜羅巡査部長は恩返しも兼ねて猟兵をしっかり補助するように」
「ぐぬ……了解」
微妙に納得が行かない、といった表情で敬礼する桜羅。
聞くところによれば、この過疎化が進む都市にも未だに踏みとどまっている見どころが幾つか在るらしい。
近隣都市からB級グルメを集めた駅前アーケードは、大抵の食べ物が味わえるとか。
都心部の総合商業施設は、家電や玩具、書籍に雑貨、果てはご当地のお土産まで一通りが取り扱われているという。
最後に、港周辺には水族館やちょっとした遊園地、海の見える展望公園などがちょっとした観光の名所として知られているそうだ。
サクラ・ライオットこと桜羅を連れ回し、その辺りを楽しみながら互いの関係を深めて行けば、より強固な信頼関係を築けるだろう。
猟兵たちはサクラ・ライオットの中の人を連れ、街へと繰り出すのだった。
アシェラ・ヘリオース
【アドリブ、連携歓迎】
「佳澄桜羅巡査部長。よろしく頼む」
完璧な女性士官の【礼儀作法】で一礼し協力依頼。
「サクラ。名物の闇卵丼なるものが気になる。案内してくれ」
街に出るとスーツをラフに着崩して気さくに声をかける。
狙いはB級グルメ探索だ。
こう言うのは意外に美味しいし、外れても笑い話の種になる物だ。
(この固さ。初陣の頃を思い出して面映いな)
内心では微苦笑。
これが力の抜き方を覚える一助になれば幸いだ。
まぁ、自分が楽しむのが優先だが。
『サクラさん。俺らもよろしくッス。駄菓子などを所望するッス』
『それよりも、今晩は俺と海の見えるバーどうッスか?』
ここぞと馬鹿共が沸いてきた。
サクラに任せよう。
何事も経験だ。
バーン・マーディ
POW
日本というのは事食に関しての技術が高い国と聞く
故にここの食事には興味がある故に色々と見て回るとしよう
先ずラーメン
ラーメン屋の屋台にてラーメンを堪能中
桜羅が来たのであれば
ふむ、逮捕を狙うのであれば我は全霊を以て抵抗しよう
その際にここの近辺がどうなっても良いのか
(それでも尚戦うというのであれば攻撃を食らいながらも立ち去る構え
しかし…面白いなこれは…パスタとは違う美味さがある(堪能。桜羅が教えてくれるなら素直に聞くヴィラン騎士
ふむ…スープにも歴史があるのだな…(ラーメンの歴史にしんみり
てっきり中国の方が本場であると思ったが之は之で独自の美味さがある…
…今度挑戦してみるか…(生真面目に味の分析
●
「佳澄桜羅巡査部長、よろしく頼む」
ぴしりと折り目正しい礼とともに、アシェラは桜羅へと道案内を依頼する。
「ああ、了解……ああいえ、はい、了解しました」
それに応える桜羅はやはり不承不承という風だったが、これもある意味仕事の一環だと五島に背中を突き飛ばされて部屋を追い出されてはいよいよ諦めたらしく、おとなしくアシェラに礼を返してガイド役に甘んじる事にしたらしい。
それにしても、アシェラにはライオットアーマーを脱いだ桜羅の言葉遣いが妙に固いように思えた。
緊張しているのだろうか。そう思うと、自分が新米だった頃を思い出して面映ゆくなる。
内心で苦笑しながら颯爽と出口へと歩くアシェラは、警察署の玄関脇に用意されていたフリーペーパーのラックから観光案内のパンフレットを抜き取って広げながらパトカーが停車する駐車場を横切り街へと繰り出してゆく。
かつて工業で栄えた港湾都市らしく、海沿いは殆ど工場らしい。今となっては稼働しているものの方が少ないようだが、視線をそちらに向ければ町並みを越えて天に聳える煙突のうち幾本かは白い煙を靡かせていた。
港の方に行けば水族館や見晴らしのいい公園もあるようだが、女二人、それも仕事の付き合いで行くものでもあるまいと視線を都市部の紹介に移せば、どうやら過疎化に対抗する町おこしの一環としてアーケードをB級グルメストリートと称して様々なB級グルメが集められているらしかった。
「これだな。サクラ、この名物闇卵丼なるものが気になる。ここに案内してくれ」
広げたパンフレットを桜羅に見せながら、一枚の小さな写真を指差すアシェラ。
他の料理はやれ素材がどうだの味がどうだの、チープなフリーペーパーの割にそこそこの熱量で解説されているのだが、それだけ不気味にただ"食べればわかる味"とだけ書かれている。
「えぇ……? せっかくですしこちらのチーズコロッケサンドにしては? こっちのほうが有名ですよ? ほら、この間全国ネットの取材も来てましたし」
あからさまに警戒して嫌そうな顔をする桜羅に、アシェラは真剣な眼差しで反論する。
「こういうよくわからないものほど意外に美味しいし、もし外しても笑い話の種になるだろう。息抜きなんだ、冒険してみようじゃないか」
見たところ生真面目一辺倒の桜羅だが、このまま柔軟性が無いではいずれ折れるなり歪むなりしてしまう。あの五島とかいう隊長のように、とまでは行かないが多少は力を抜いて楽しむ余裕を持たねばこれからきつかろう、という思いやりが四割。
単に自分が興味を持って楽しみたいという思いが六割。アシェラの提案とその真剣さに気圧された桜羅は、つい首を縦に振ってしまう。
十数分後、桜羅の軽自動車を駅前のコインパーキングに停車させた二人はアーケード街にやってきていた。
数年前まではシャッター街だったというが、今はそれなりに活気に満ちている。ここの人々の努力の賜物であろう。過疎化という抗いがたい力にも全力で立ち向かう、この街を愛する人々の頑張りの証とも言える賑わい。
「といっても最初の頃、ここの人たちの力だけでは如何ともしがたかったんですよ。ところがSNSで話題の神出鬼没のラーメン屋台がここに根を張ってくれて、それ目当ての人が集まるようになったから次々と近隣の名店が出店してくれるようになったんですって」
これから行くお店もそのラーメン屋台の系列らしい。暖簾分けした直系の弟子で、元祖譲りのラーメンと店主が独自に開発したサイドメニューが売りなのだそうだ。そのサイドメニューに、闇卵丼があるのだという。味噌汁と漬物、ミニサラダ付きで一食八百九十円(外税)だ。
元祖からの伝統なのだという、屋台形式を守りつつお客の数を増やすべく、屋台を二台連結した上で周囲にもテーブル席を用意するという奇抜なスタイルの店舗が見えてきた。
アシェラの胸には、いよいよ対面する謎の闇卵丼への期待が湧き立ち――
「……ど、どうしてあなたがここにいるんですか!?」
桜羅の絶叫でそのワクワクは一瞬で霧散する。何事かと桜羅が突きつける人差し指の先を辿れば、テーブル席に腰掛けるのはいかにもな鎧姿の巨漢。
「…………ふむ。替え玉、もらおうか」
さすがのヴィラン、警察署までついてきてはいないと思ったらこんな所でラーメンを食べていたのである。
店員がテボから麺を丼に移すのを見届け、表情を変えることなくそれをほぐしスープに絡めながら視線をアシェラと桜羅に向けるその男こそ、バーン・マーディ。国際指名手配のヴィランであった。
「…………くっ、ライオットアーマーさえあれば……」
建前上は謹慎ということで、警棒も手錠も署に置いてきた。歯噛みする桜羅をよそに、アシェラはバーンの対面に座る。ついでに手近なテーブル席から椅子を一つ手繰り寄せ、桜羅にも座るよう促した。
「サクラ、謹慎中なのだから気にするな。それに彼も悪事を働いている訳ではない。猟兵としての活動に免じて見逃してくれないか。此処で揉め事を起こすのは互いに本意ではないだろう?」
「我は貴様が逮捕を狙うというのであれば全霊で以て抵抗しよう。さすればこの近辺がどうなるか――」
上手いな、とアシェラはバーンの言い回しを評価した。彼女が警官である以上、市民に危害を加えるリスクを犯してまで、"今の所大人しいヴィラン"を逮捕することに拘ることは出来ないだろうからだ。仮に丸腰のお前など容易く倒せる、だとかそういう方向の威圧であれば桜羅は負けを承知で飛び込んでいったろう。彼女は正義、ひいては警官としての行いに固執しているフシが在るようだから。
「……くっ、わかりました。今日のところは先程助けられたことも踏まえて見逃します」
それでいいと二人で頷き、アシェラは闇卵丼を注文し、バーンはラーメンを啜る。
「……しかし面白いなこれは。パスタとは違う美味さがある。このスープはなんだ?」
レンゲに掬い取られた、薄く白濁した乳白色のスープ。強めの胡椒のスパイシーな香りの中に、海のもののような味わいとそれとは別に自己主張の少ない、しかし意識を向ければ確かにそこに存在するコクがある。
「それは鶏ガラ……あー、鶏の骨を煮出したスープをベースに、隣市の漁港で穫れた新鮮な魚介を使った魚介ダシを混ぜたものらしいですよ。魚介ダシの配合や原材料は本店の店主のほかは暖簾分けを受けた直系の弟子しか知らないんだとか」
バーンも猟兵だと考えることで自身の精神衛生を保とうとする桜羅が、猟兵への観光案内の一環としてスープの説明をする。てとはいえおしながきの最後のページに書いてある文章をほぼそのまま読み上げただけだったが。初代が如何に苦心して魚介ダシの配合を見出したか、などあっさりとした文章ながらに中々に密度のある文章は、中々どうして読み物としても料理が届くまでの待ち時間を潰すにはちょうどいい文量かつ飽きさせない内容であった。こういう所まで計算されているのであろうか。
「ほう……チキンの骨と魚からこのような。スープにも歴史があるのだな……」
ずず、とストレートの細麺を啜りながらその味にしみじみ想いを馳せるバーン。
「ラーメンと言えば中国が本場であると思ったが、これはこれで独自の美味さがある。日本のラーメンも侮りがたし。……おそらくダシの根幹は鰹節、この香ばしさはトビウオ、いわゆるアゴ出汁であろう……他はなんだ? ……分かれば今度挑戦してみるのだがな」
真面目に名店の味を盗み出すべく分析を開始したバーン。さしもの桜羅も、レシピを盗もうとするヴィランが物理ではなく味覚に頼るのでは糾弾のしようもない。お冷をちびりちびりと飲みながら、じっとその様を見守って――
そこへ、ヤツが現れたのだ。
蓋をされた大きな丼。ラーメン用ではなく、漆塗りの木製だ。同時に出された漬物とミニサラダ、そして味噌汁。味噌汁の出汁はラーメンと同じ魚介ダシを使っているらしい。
「これが闇卵丼か。さて、どんな料理が――こ、これは…………っ!!」
蓋を開いたアシェラの表情が驚きに染まってゆく。まさか、こんなものが闇卵丼だというのか。これが味噌汁と漬物、サラダまで付いて八百九十円(外税)で許されるのだろうか。税込みでも千円を切るのだ。通常ありえない暴挙と言っても過言ではないだろう。店主の正気を疑う気持ちと、これほどまでの料理をこれだけ手軽な価格で提供する侠気への感謝を半々に、割り箸をパキンと割って手を合わせるアシェラ。
「まさか此処でこれほどのものに相見えることになるとはな。サクラ、案内に感謝するぞ」
「えぇ……そこまでですか? ちょっと私にも見せてくださいよ、分けてくれとはいいませんから」
「……我もやや興味があるな。なんだ、その……闇というのは」
どういうわけか見えているはずの位置関係だと言うのに、角度的にどうしても丼の中身が見えない桜羅とバーンが身を乗り出す。と、そこへフードを目深に被ったデフォルメ騎士のマスコットが飛び出した。
「きゃあっ!?」
驚き悲鳴を上げて椅子にひっくり返る桜羅。
『驚かせて申し訳無いッス。お前の顔が厳ついからサクラさんびっくりしちゃったじゃないッスか』
『顔は皆同じッスよ。サクラさん、俺らもよろしくッス。駄菓子などを所望するッス』
『いや駄菓子なんかより、今晩は俺と海の見えるバーなんてどうッスか? ひと夏のアヴァンチュールしませんかッス』
わいわいと騒ぎ立てながら桜羅の前を飛び回るマスコットたちに目を白黒させた桜羅が助けを求めるようにアシェラに視線を遣るが、彼女は今闇卵丼の虜だ。何事も経験だぞ、なんてそれらしいことを言いながら喧しい部下の相手をする時間が惜しいとばかりに箸を動かしている。
ならば頼りたくはないが、とバーンに視線を移せば、桜羅と違ってアシェラの丼を覗き込めてしまったらしい彼は無言で考え込むように瞑目し、目を見開いたかと思えば店員を呼ぶベルを高らかに鳴らして、
「我も闇卵丼をひとつ」
――かくして二人の食事が終わるまで、桜羅は軽薄で陽気な騎士たちに囲まれ公私問わず根掘り葉掘り質問されたり、駄菓子屋で各自に三百円ずつ菓子を買い与える約束をさせられるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アイ・リスパー
「この方がパワードスーツの着用者……
小柄な方を着用者に選んだのは、パワードスーツの小型化が困難で操縦席のスペースを確保できなかったからでしょうか。
恐らくマスタースレーブ方式と思われるパワードスーツの操縦を
小柄な身体で可能にしているのは、彼女が相当身体を鍛えているか、それとも操縦アシストシステムが優秀なのか……
どちらにせよ、思考リンク式の私のパワードスーツと違って興味深いですね」
とにかくサクラさんとは仲良くなりたいところです。
そしてあわよくばライオットアーマーの機密情報を……
え、駄目ですか?
仕方ありません。
サクラさんと商業施設の玩具コーナーでロボを見ましょう!
へえ、ヒーローの玩具もあるんですね。
エドゥアルト・ルーデル
ヒーロー最高!デュフフフドゥフフフゲヒヒヒヒ!
佳澄氏はホームセンターと家電量販店好き?色んな素材が揃うパラダイスでござるよ!
ダクトテープやら電子部品があれば何だって生成出来ますぞ!解体してレンズやネジが入手できればスナイパーライフルぐらい…おおっと内緒でござるよ
試しにあのパワードスーツを【武器改造】して武装とか追加してもいい?手始めにレーザーガトリングとか!ダメカナ?
さて服屋に来たでござるね!佳澄氏ファッションショーの始まりDA!何でって?拙者が見たいからだYO!
並みのアイドル以上に可愛いんだからやらなくちゃ世界の損失だぞとか【言いくるめ】てやってもらいますぞ!
アドリブ連携歓迎
●
「あなたがパワードスーツの着用者……小柄な方が選出されたのは、装備の小型化が困難で内部スペースが確保できなかったからでしょうか。おそらくマスタースレーブ方式と思われるあのスーツの操作をこの華奢な身体で可能としているのはアシストシステムが相当優秀だから? それとも操縦者がそうとう身体を鍛えているから……? どちらにせよ、思考リンク式の私の機体と違って興味深いですね……」
くるくるちょこちょこと桜羅の周囲をうろつきながら興味深そうにライオットアーマーの操縦面を推測するアイが、事ここに至って装着者たる桜羅にも興味を移してぺたぺたとその腕や脚を触る。
夢中になっているアイは技術者の顔だ。彼女にとってライオットアーマーは技術的には数世代古い機体ではあるが、それ故になおさら興味深い。
そんなアイを桜羅は先程から何度も制止しているが、聞こえているのかいないのか自分の世界で持てる技術知識と桜羅の体型や筋肉量、そして戦闘中に見たライオットアーマーの姿から構造を推測することに全力を注ぎ、桜羅が止めるのをよそに手足の長さやスリーサイズまで計測し始めるアイ。
「……あの。あの! あのっ!! 落ち着いてもらえませんか
!!!!」
顔を真っ赤にしてふるふると震えながらアイに懇願する桜羅。ここが総合商業施設の婦人服売り場であるだけまだマシだが、小柄な少女同士(しかし片方は成人済みの立派な公務員である)がメジャーを手に絡み合う姿は若干いかがわしい。
その証拠にほら、さっきからエスカレーター脇のベンチに座って瓶コーラをちびりちびりと飲みながらニヤニヤ見守っている髭面の迷彩が。
「ぐふふふふ佳澄氏とアイ氏……アリでござるな……!」
どちらにもそっちの気はなく、単純に学術的興味と騒ぎを起こさないという職業上の束縛故に生じる尊い光景。
下心が無いというのがいい。こういうのがいいんでござるよこういうのが、と頬を緩ませるエドゥアルトは、しかしその桜羅こそがあの厳ついアームドヒーロー、サクラ・ライオットの中の人であるという事実にも着目する。
ゴッツい重装甲兵器の中の人が可憐で小柄な女性、というある種のギャップ萌えは古来より多くのオタクを死に至らしめた究極兵器の一角を担うものだ。ロボアニメを見てみろ。主人公機の倍くらいある大型機や、重火力型のぶっとい支援機のパイロットは皆ロリかそれに準ずる少女だったろう。皆ってのは言いすぎたかもしれない。
閑話休題、エドゥアルト的にはそういう少女、しかも仕事第一という数え役満萌え属性持ちを、だ。
「ファッションショー……させたいですな」
アイがメジャーを借りるためと引きずり込んだ婦人服コーナー、と併設された子供服コーナーにすばやく視線を巡らせるエドゥアルト。
しっ、見ちゃいけませんと子供の目を隠してエドゥアルトの視界から逃げ去る親子連れ。
彼の紳士的なセンサーは直ちに最適解を導き出す。
「……ぜー……ぜー……ライオットアーマーの構造についてお話できることはありませんし身体を触るのはやめてください!」
肩で息をしながらアイの拘束を逃れた桜羅が眉間に皺を寄せ、いかにも怒っていますというふうにアイに説く。
「はい……そうですよね、出会ったばかりの他人に機密情報を教えられるわけがないですもんね……私だってそうですし……」
しょんぼりと肩を落とし、俯きながらつぶやくアイ。分かって頂けましたか、と桜羅が頷いたのも束の間、アイはがっしと桜羅の右手を両手で包むように握る。
「では仲良くなりましょう! 親しい友人になれば私が機密を漏洩しないと信じてもらえる筈です! そうなればライオットアーマーの機密情報も……」
いい加減にしてください、と桜羅の叫びがフロアに木霊する。
このままではまた不毛な喧嘩――一方的に桜羅が糠に釘を打ち付けまくるだけだが――が始まってしまう。
そんなタイミングで、エドゥアルトのニッコリ顔が二人の間に割り込んだ。
「まーまーまーアイ氏はその辺にしておくでござる。佳澄氏、ここは空気を変えるためにも――ファッションショーの始まりDA!」
「そうです、空気を変えましょう。ファッショ……なんて? なんで?」
ドヤ顔で山と抱えた衣類を桜羅に押し付けるエドゥアルト。アイドル風のフリフリやおもちゃ売り場から引っ張ってきた女児用の魔法少女変身ドレス、どこで見つけたのかバニー服など、時折やばげなものがはみ出しているのが見えるが、概ねそれ以外の真っ当な服に関しては意外なことにまとも、というよりかなりセンスのよいチョイスであった。
「なんでって拙者が見たいからだYO! 佳澄氏化粧っ気ないし私服も制服と何が違うの? って感じにフォーマル地味じゃん? 顔かたちは並のアイドル以上に可愛いんだから飾らなきゃ世界の損失だぞ! アイ氏もそう思うでござろう?」
ぺらぺらぺらりと滑る舌で桜羅を言いくるめにかかるエドゥアルトがちらと視線をアイに向ければ、アイは小首を傾げる。
「で――」
困惑顔のまま口を開いたアイ。そこへエドゥアルトの直感がきゅぴんと額に稲妻を走らせた。
「いいですかアイ氏、ここで佳澄氏が気持ちよく着替えてくれれば着るのが困難なこの辺のDTを三回はぶっ殺せるシリーズ辺りで手伝いが必要になるはずでござる。そこに同性のアイ氏が手を貸せば……」
「ご、合法的に採寸ができる……あわよくば素肌から神経接続コネクタの有無やマスタースレイブ式の動作伝達用操縦桿の固定位置が……」
そうすれば内部のレイアウトがだいぶ想像しやすくなるじゃないですか、と目を輝かせるアイにサムズアップを送るエドゥアルト。
「着ましょう、桜羅さん! 女の子が着飾らないなんて世界どころか宇宙の損失です!」
「えっ、えっ、ええっ……!? ちょ、まだ着るとは一言も――――」
「いやぁ眼福でござったなあ! あっこれ領収書、宛名はグリモアベースで切っといてくだされ」
ホクホク顔で女性もの衣類の紙袋を受け取り、接待費あたりで経費としてグリモア猟兵に請求予定のその代金が記された領収書をポケットにくしゃりと突っ込みながらエドゥアルトは回想する。
「やはりつるぺた合法ロリに大人びたコーデは鉄板も鉄板、性格が大人な分魅力倍増……っ」
「本当に眼福でしたね……! やはりマスタースレイブ型、あの位置に固定具の跡が残るってことは内部スペースは多分あそこからあそこまでで……可動域を考えると補正は大体40%前後かな……? それであの精度、すごいなぁ……」
ニコニコ顔で観察成果を反復し、ライオットアーマーを想像しながらアイは分析する。
「やはり限られた技術レベルで一定以上の性能を求めるとなるとあの方式になるのですから、残りのスペース的に構造はきっと……」
「…………くっ、騙されました……」
楽しげな二人とは相反して、クタクタに萎れて試着室から転がりでた桜羅にエドゥアルトが紙袋を突き出す。
「まぁまぁ、これお土産でござる。せっかく可愛かったんだから今日だけと言わずちょくちょく着てやってほしいですぞ」
渋々受け取り、中を改めた桜羅の顔が青くなる。この数なら結構な金額になったはずだ。
返品、それが無理なら代金を支払うと言い張る桜羅を制して、エドゥアルトとアイは笑う。
「それならもう少し付き合ってほしいでござるよ。佳澄氏はホームセンターとか家電量販店とか好き? いろんな素材が揃うパラダイスでござるから拙者はスッゲ好きなんでござるよなー。ダクトテープやら電子部品があれば何でも作れますぞ。レンズやネジが取れればスナイパーライフルくらい……おおっとこれは内緒でござるよ」
ぱちーんとウィンクして人差し指を唇の前で立てるエドゥアルト。
「いいですねぇ……エドゥアルトさん、他に何か作れますか? ライオットアーマーに取り付ける追加武装とか……」
「背中にミサイルランチャーとか腕をレーザーガトリングに換装とかは出来るでござるよ! 流石に脚を三脚ホイールなんかにしちゃうと佳澄氏入んなくなっちゃうよなあ……」
本人をよそに盛り上がるマッドメカニック二名。
彼らに引きずられるように、あるいはその暴挙を食い止めるために、疲れ果てた桜羅は家電量販店へ付き添うことになるのだった。
――余談として、ヒーローのフィギュアやロボットのプラモデルの代金は取材費では落ちませんでした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アリシア・マクリントック
サクラさんの気分転換も兼ねて、おすすめのスイーツでも食べに行きましょうか。
動物が好きならマリアを連れて公園で遊ぶのもいいかもしれません。どちらがいいですか?
こうやって色々なところを回っていると、私が知っている世界はほんの一部だったのだと実感しますね。
今の私はお忍びで街を回るショーグンのようなもの。いずれ私が家督を継いだ時、みんなが幸せになれるように多くを学ばなければいけません。
サクラさん、貴方が見ている世界のことを教えてください。どんな街があって、どんな人がいるのか。そして……その世界の中で貴方は何者なのか。
……難しい話をしてしまいましたね。せっかくの自由時間ですからもっと楽しみましょうか!
荒谷・ひかる
・WIZ
サクラおねえさんっ、さっきはありがとうございましたっ!(元気よくぺこり)
……ところで、もうそろそろ片付くって辺りで急に眼と耳ふさがれちゃったけど、なにかあったんですか?(純粋な疑問で首傾げ)
えっと、見せられないくらいひどいものがあったのかな(グロ方面と誤解)
……ともあれ、今日はおせわになりますっ!
希望するのは、植物園。
無ければ、植物が多めの公園でも大丈夫っ。
植物が多い所は、草木の精霊さんが元気になるんだっ。
さっき力を貸してくれたから、そのお礼なんだよ。
……あ、この木。
もしかして、桜の木かなっ。
サクラおねえさんは、桜の花って好き?
わたしは好きだよっ!
(無邪気にとりとめのない会話に興じる)
●
「あ! サクラおねえさんっ、さっきはありがとうございましたっ!」
くたくたに疲れ果ててようやく買い物を終え、荷物を車に積み込み猟兵を警察の手配した宿泊施設に送り届けた桜羅がホテルの玄関先で肩を回し、短時間に凝り固まった筋肉を解していると元気な声がかかる。
そちらに振り向けば、散歩の途中だったのだろう。アリシアに手を引かれたひかるがニコニコと人懐っこい笑顔を向けてぺこりとお辞儀。
その愛らしさに癒やされながらお辞儀を返す桜羅へと、アリシアが一歩前に出る。
「どうやらかなりお疲れみたいですね。気分転換も兼ねておすすめのスイーツでも食べにいきませんか?」
ひかるの手を引くのとは反対の手に、お行儀よく座るマリアを繋ぐリードを握って、アリシアはそう持ちかける。
癖の強い猟兵達と共に過ごすことでこの生真面目な警官の胸中に溜まった疲労を些かなりとも和らげることが叶えば、という提案に、桜羅は暫し考えて。
「ええ、構いませんよ。とはいえ甘味には詳しくなくて」
ちょっと待っていてください、とホテルに引き返しフリーペーパーの観光案内を手にフロントで二、三話をしてから戻ってきた桜羅。
「幾つかおすすめを聞いてきました。ここと、ここ……最近はここも人気があるようですよ」
観光案内のうち、何箇所かを指す桜羅の指を目で追う二人は、最後の一つに頷いた。
「わたし、ここがいいですっ!」
「と、言うことですから此処までの案内をお願いできますか?」
そこは都心部からやや離れた海寄りの、しかし港や工場地帯とは反対側に位置する森林公園だ。ビーチはないが、海が見えるのが売りらしい。本来防潮林として植えられたマツ程度しか木々もない土地だったが、巨大なガラスのドーム型温室を連結し、一箇所で四季折々を見られるという日本でも稀な巨大植物園が先日オープンし、この寂れた都市に活気を呼び戻す一助となっているらしい。
そしてその植物園で穫れたフルーツを使ったジェラートが、年中常に季節に関係なく新鮮な旬の果物が味わえて美味しいのだという。
「ここなら車で……いえ、少し掛かりますが歩きましょうか」
少し距離はあるが、桜羅の車には流石にマリアは乗れないだろう。かといって置いていくというのも可哀想な気がしての徒歩の提案。それに二人は快く頷き、マリアも満足とばかりに小さく吠えた。
「……ところで、あのときもうそろそろ片付くって辺りで急に目と耳塞がれちゃったけど、なにかあったんですか?」
ふと気になることを思い出し、ひかるは何の気なしに桜羅とアリシアに問うた。
あの廃工場での戦いの終盤、二人の魔女が乱入した直後にひかるは耳目を塞がれ、解放されたのは工場外の残党を捕縛するべく飛び出すサクラ・ライオットがアリシアに彼女を委ねたときだった。
外の状況を理解した時には戦場が移り変わっており、あの場で何があったのかはわからない。
「えっ…………と、それは……」
泳ぐ視線をアリシアに向け、助けを求める桜羅。
それを受け止め、困ったように苦笑するアリシア。
「……中々あれは説明し難いですね……どうしましょうか、サクラさん」
答えに窮する二人を見て、ひかるはなんとなくひどいことがあったのだろうと想像する。
それこそ血肉が飛び散り臓腑が転げ落ちるような、想像するに恐ろしい出来事が。
ぶるる、と身震いして恐ろしい想像を振り払い、きゅ、とアリシアと手を繋ぐのとは反対の片手を桜羅へ伸ばすひかる。きょと、とその手を見つめてその意図する所を暫し考えた桜羅は、おずおずとその手を握った。
「ふふー、今日はお世話になります!」
これ以上の追求は無いという安心か、妹と言うには歳の離れた少女の暖かさへの安堵か、ふぅと長い息を吐いた桜羅が頷く。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そんな会話を交わしながら歩き続けた三人と一頭は、今ガラスのドームの中にいる。
トンネル状の通路で結ばれた四つのドームは、それぞれ春夏秋冬の気候をを再現し、それが約三ヶ月の区切りで交代に循環するのだという。
これによって一年どの季節でもあらゆる季節の草花を見ることが出来るのが売りなのだそうだ。もちろんそれとは別に、外国の植物を専門的に取り扱う熱帯館などもあるが、そちらは四季ドームに比べてややこぢんまりとした印象であった。
今はゲート直通のドームは夏になっているらしく、順路に沿って夏秋冬と見て回った一行は、春のドームに立ち入る前に四つのドームそれぞれに設置された喫茶スペースに立ち寄り、ケースの中に並ぶ色とりどりのジェラートを見てどれにしようかと楽しげに相談をしてアリシアはりんごを、ひかるはメロンを選ぶ。
と、会計を終えコーンに盛り付けられたジェラートを受け取った二人は桜羅が未だにアイスケースの前から動いていないことに気づいた。
どうやら真剣に何味にするか検討しているらしい様子に二人と一頭で顔を見合わせ苦笑しながら待つこと暫し、淡いピンクのジェラートを手に戻ってきた桜羅と合流した一行は今、春のドーム内に作られた公園でベンチに並んで腰掛けアイスを楽しんでいた。
「ふふ、アイスも美味しいし植物いっぱいで草木の精霊さんも元気いっぱいになってくれたよっ」
「そうですか。楽しめているなら何よりです」
リードを外され、行儀よく視界の中で他の客の迷惑にならないよう駆けているマリアを見ながら笑うふたり。ふと風に乗って桜色の花びらが舞い降りるのを見て、ひかるがその出処――ベンチの後ろ、少し奥に立つその木を振り返って指差す。
「あ、あの木もしかして桜の木かな。サクラお姉さんは桜の花って好き? わたしは好きだよっ!」
「そうですね……桜はこの国の象徴ですからね、嫌いな日本人はあまり居ないと思いますよ。私は……正義の象徴として好きですね。警察の紋章、本当は太陽を模しているんですがよく桜の代紋って言いますしね」
サクラ・ライオットの"サクラ"も、その桜の代紋から来ているのだと語る桜羅の横顔は、優しげな微笑みを浮かべながらもどこか固い決意に彩られているようだった。
閉園のアナウンスが流れる中、たっぷり遊び疲れた一行がドームを出る。
太陽は随分西寄りに傾き、空はほんのりと茜が差していた。
「こうやって色々な所を見て回ると、私の知っている世界はほんの一部に過ぎなかったのだと実感しますね……」
しみじみと今日一日を振り返るアリシア。貴族の令嬢ではなく、まして猟兵でもなく一人の少女として街を歩くというのは中々に貴重な経験であった。
今日のアリシアには規範たらんと胸を張ってみせねばならない領民は居ないし、猟兵のおかげで救われたと感謝を精一杯に示す人々も居ない。
それが却って、等身大の自分で世界を見つめるいい機会になったように思える。アリシア・マクリントック個人としての視点で見た世界は、マクリントック家の後継ぎとして見る世界とは違った顔をしていた。人は普段どおりの姿で彼女に接し、そこに貴族令嬢への配慮や遠慮はなかった。
だからこそ、いつか彼女が治める領民はどんな考え方をし、どんなふうに生きているのかをほんの一部分でも知ることが出来た。
だから、最後にこの一人から聞かねばなるまい。
「サクラさん、貴方の見ているこの世界はどんな世界で、どんな街がありどんな人がいるのか。そんな世界の中で、貴方は何者なのか。私に教えてはくれませんか?」
アリシアの問いに、遊び疲れたひかるをおぶって先を歩く桜羅がひたと足を止めて振り返る。
「私は世界なんて気にしたことはないです。すみません。……日々発生する犯罪と戦い、いつか平和な日々を掴むために。誰もが怯えることもなければ、突然降りかかる犯罪の脅威に理不尽に奪われないために戦うのが私……いえ、私達警察官なのだと考えて居ますから、それ以上に大きな視点は中々……」
それはアリシアの求める答えであったのだろうか。
気づけば空は群青色に染まり、一等星の輝きだけが微かに空に現れていた。
日中の活気とは裏腹にしんと静まり返ってゆく街を歩き、宿に帰るまでに彼女たちが語らった言葉。それはきっと、お互いに何かの糧になったはずだ。
そうして一日目は何事もなく終わり、二日目の朝がやってくる。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ビードット・ワイワイ
【PPP開発室】
皆のように食事も取らぬで、終わりしタイミングにでも
UFOに乗りて街を見て回ろう
佳澄殿が乗りたいのであれば乗せて辺りを観光しよう
異文化交流、いや異世界交流?どう思いけり、隣人殿?
そうか、そうであろうな。ふむふむふむ、そのようなことが
うむ?言葉が分からぬとな?ははははは、では次の案内を頼もう
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フィーナ・ステラガーデン
【PPP開発室】
サクラを含めご飯に誘うわ!
アンナとサクラが言い合いなりを始めたら途中で
「ご飯中にうるさああい!!」
「自分が信じる道があるなら、それを突き通せばいいのよ!一緒である必要なんてどこにもないわ!
サクラは動いて証明して見せればいいわ!あんたの信じる考えを!
力が足りないなら手伝うわ!一人でやろうと思わないことね!
嫌いな言葉だけどうまく行って初めての「正義」よ!
アンナの事情は分かったけど
そうやって距離を開けようとする姿は見ていて寂しくなるわ!
昔はどうあれ今は私達も一緒にいるわ!
他の人を認める時期が来たんじゃないかしら!
(チキンを口に差し出す)」
まくしたてるわ!!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
イデアール・モラクス
【PPP開発室】
おいおい、まさか中の人がこんなに美味しそうな女だなんてなぁ…じゅるり…おっとイカンイカン。
まぁ今回は健全に仲良ししてやるか…
・行動
私が提供するのは『魔女の食事会』だ。
海の見える展望公園に魔法で椅子やテーブルを用意し、フィーナや桜羅達を誘いUC【使用人召喚】で呼び出したメイド達が作った食事や茶をメイド達の給仕で、皆で楽しむのだ。
「魔法というのも良いだろ、桜羅…私と仲良くすれば魔法の力でもっと愉しくしてやる」
桜羅達が言い争いを始めたら、一言。
「正義などただの言葉に過ぎん、それは願いや信念に言い換えても変わらぬよ。
どう取り繕おうと我らはただ己の道を行くのみ…違うか?」
※アドリブ大歓迎
アンナ・フランツウェイ
【PPP開発室】
皆と食事に来たけど、サクラとは話したくないから、皆から少し離れた席にいよう。…寂しいけど。
もしサクラから質問…特に何故正義を嫌うのかと聞かれたら、私の過去…狂った正義を掲げる人間達にかつて実験体にされた事を話す。
質問に答えたら私も質問する。サクラは不殺にこだわるけど「もしヴィランを殺す以外に止められない状況下でも同じことが言えるのか」と。
答えがどうあれ、サクラの正義は自分の無力を隠す為の言い訳だと指摘。その上で私はアンタというヒーローとその正義を認めない。所詮アンタはレオンと同じだと言おうとするけど…。
フィーナさんに怒られたら、素直に謝る。…でも正義の証明は見させてもらうよ。
●
車内は険悪な空気に満ちていた。
二日目、初日は観光を控えていた猟兵から展望公園へ行きたいという連絡を受けて迎えに来た桜羅の軽自動車には、今彼女を含めて四人の女性が乗っている。
ハンドルを握り、安全運転を心がけながら背後から叩きつけられる殺気にも似た威圧に汗を流す桜羅。
一方助手席に座るイデアールは、窓から道行く人々を眺めては美女を見るたびにおっ、だのと歓声を上げて我関せずという態度。
そして後部座席に座る二人の少女こそ、このなんとも観光とは言い難い空気感を醸し出す元凶であった。
「…………はぁ」
どうしてこうなった、と言いたげな桜羅の小さなため息に、バックミラー越しにギロリと向けられる剣呑な視線。
こちらが鏡越しに視線を合わせればふいと逸らされるその緑色の視線に、桜羅は何度めかのため息を吐いた。
そんな朝イチで疲れ切った様子の桜羅の横顔にちらりと目をやって、イデアールはにまりと笑う。
(まさかアレの中の人がこんなに美味しそうな女だなんてなあ……精神的に疲れている様子の今なら一押しで……)
じゅる、と口の端から流れそうになる涎を啜ってその時に想いを馳せるイデアール。
だがイデアールの部屋はフィーナやアンナと同室だし、桜羅は彼女たちだけでなく他の猟兵の監督と案内をせねばならない。
「連れ込む隙がないのではな。ま、今回は健全に仲良ししてやるか……」
かくして険悪な空気は晴れることなく、公園の駐車場に停められた車から降り立つ一同。
行楽施設の方に人が集中しているのか、それとも単に人自体が少ないのか、見晴らしのいい展望広場は殆ど貸し切り状態だ。
「さぁ来い、私の可愛いメイドたちよ!」
ぱん、と手を鳴らすイデアールに応じるように、どこからともなくメイド服に身を包んだ少年少女たちが現れテキパキとピクニックの支度を済ませてゆく。
イデアールが召喚した豪奢な長テーブルや椅子を飾り立てるようにシミひとつ無い純白のテーブルクロスを敷けば、その上に花瓶に活けられた花まで置いてゆく。
銀製のカトラリーセットが並べられ、どういう原理で稼働しているのか謎深いキッチンカウンターで迅速丁寧に調理を開始するメイドたちの姿に満足気に頷くと、イデアールは一同に席につくように促す。
長辺に2つずつ置かれた椅子に桜羅とフィーナがまず腰掛けると、イデアールは桜羅に密着するようにその隣に、反対にアンナは桜羅と最大限距離を取るように対角に目一杯椅子を動かして座る。
そうして流れる気まずい時間。アンナはやはり桜羅が気に入らないと、フィーナはそれに加えて気に入らないにせよその態度をあからさまにして折角の休暇をギスギスさせるアンナにも怒りを、桜羅は出会ってこっち最初から嫌われっぱなしの理由が分からぬと困惑し、イデアールはそんな桜羅をどうにか口説き落とせないかと真剣な表情で考え込む。そこに言葉は一言もなく、ただ沈黙だけがそこにあった。
「前菜の生ハム盛り合わせでございます」
こと、と音を立ててテーブルに置かれる白磁の皿には、薄くスライスされた生ハムが美しく飾られていた。
フィーナは小さく肉、と呟きフォークで纏めて巻取り一口に頬張ると、おかわり! と威勢よく叫ぶ。
そういうシステムじゃないんだがなあ、と苦笑するイデアールが追加を寄越すよう指示しながら、テーブルクロスの下で密かに桜羅の太腿に手を乗せささやく。
「どうだ、爽やかな外で本格的な料理を楽しむというのは。これが魔法というもののいい所でな、桜羅……私と仲良くすれば魔法の力でもっと愉しいことを教えてやろう」
その魔性の囁きに肩を硬直させた桜羅は、魔女の呼び声から逃れるように視線を彷徨わせ――五回目のおかわりコールをする、どころかカウンターでスライスされている生ハムの原木ごと持ってくるように要求しているフィーナを邪魔するのは危険だと瞬時に理解し、遠く対角線上のアンナに視線を向ける。
「あ、あの。……随分嫌われてしまったようですが、私にはあなたに嫌われる理由がわかりません。無理に仲良くしてくれとはいいませんが、理由くらいは聞いても構わないでしょう?」
その問いはイデアールを躱すためであったが、同時にこのなんとも言えない空気を払拭したいという桜羅の真剣な思いもこもっていた。
それに眉を寄せ、ぎり、と歯を食いしばって、アンナは苛立ちに荒くなりそうな声をどうにか落ち着けながら淡々と答えてゆく。
「私は正義なんて言葉が嫌いだから。正義を掲げて戦うアンタも嫌いよ」
それは何故。ヴィランや犯罪者ならともかく、何があなたをそこまで駆り立てるのか。
桜羅にしてみれば真摯な、しかしあまりに不躾に内面へ踏み込んでいく質問。それに対してもアンナは声のトーンを変えることなく、しかし明確に不快感を滲ませながら応じる。
「私は昔、アンタみたいに事あるごとに正義だなんだって綺麗事を吐く連中に――」
紡がれたアンナの凄惨な過去に、桜羅は言葉を失った。正義を掲げる人々がどこまで狂気に染まりうるかを。その正義の為に弱者をどこまで犠牲にしうるのかを。正義というものが持つ、脆く昏いもう一つの側面、その果てにこの少女が在るのだ。
世界が違う。文明も違う。だから正義の形態もまた違う。言ってしまえばそれまでだが、しかし桜羅の住むこのヒーローズアースでもアンナの憎むその正義はかつて存在した――いや、今も存在するのだ。
人の正義は容易く狂う。――例えば、かつて悪を殺し尽くした伝説のヴィジランテがそうであったように。
「……確かに、正義という言葉を軽率に扱えば人は残酷になれる、のかもしれません。ですがそれを律するために人は法を作り秩序を生み出して、正義を厳しく統制しているんです」
桜羅の反論にアンナはあっそ、と至極単純に返し、運ばれてきたスープを一匙掬ってカラカラに乾いた喉を潤す。
「アンタの質問に答えたから私も質問させてもらうわね。アンタ、不殺にこだわってるみたいだけど……ヴィランを殺さなきゃ止められない、そんな状況下でも同じことを言えるの?」
今度は桜羅が歯を食いしばる番だった。
日本国の警察官である以上、犯人死亡は極限まで避けねばならない事態である。法の裁きを下される前に犯人を死亡させてはならない。
だが、それによって犠牲が増えてしまうならば。その時、桜羅――サクラ・ライオットが取るべき選択は、どうなのか。
「……もし本当に何も手段がないと、私も隊長も、誰もがそう判断したならば――その時は私も犯人を殺害するために実弾を撃つでしょう。それが警官の役目であることは確かです。けれど……そうなる前に食い止めることもまた、警官の仕事だと私は信じています」
「そんなの! 結局命を奪うかどうかさえ人任せじゃない! アンタの正義は覚悟も力もない自分を誤魔化すための言い訳よ!」
がしゃん、テーブルを叩いて立ち上がるアンナ。
「私はやっぱりアンタを認めない。アンタみたいなヒーローも、その正義も認めない! アンタは所詮――」
「だったらどうしろと! 法も秩序もなく正義を掲げることもせず、ただ悪を排除するだけならばそんなのはヴィランと変わらない! 私は警官だ、私達はこの国の警察官なんだ、お前の過去には同情するがその恨み節で私達にまで喧嘩を――」
桜羅もついに限界を迎えて怒り心頭、好き放題に批判するアンナに怒鳴り返す。
まさに一触即発、互いの次の言葉次第で口論は暴力沙汰にまで発展しそうな緊張感を漂わせ、イデアールはそれをつまらなそうに横目で眺めている。
そんな緊迫する状況を一転させたのはフィーナだった。ずずず、と皿ごと傾けスープを飲み干した彼女は、口元をペーパーナプキンで拭って一言。
「あんたたちご飯中にうるさああああい!! 落ち着いて食べられないじゃないの!」
キッと二人を睨みつけ、おろおろと右往左往するメイドに肉をもってこいと命じながらフィーナは言う。
「自分が信じる道があるんだったらそれを突き通せばいいのよ! 一緒の道である必要なんてどこにもないでしょ! サクラはアンタの考えを動いて証明してみせればいいわ!」
不殺の逮捕。それが出来ると言うからにはやってみせろ。フィーナはそう言って、どっかと椅子に腰を沈める。
「私も正義なんて言葉は嫌いだけどね、うまく行って初めて「正義」よ。やる前のそれはただの理屈だわ! でも一人でやろうと思わないことね! 力が足りないときは私達猟兵だって、あのおっさんのキドー隊とかも手伝う、でしょ?」
その言葉に沈黙し、小さくはい、とだけ呟いて座り直す桜羅。
「アンナも。正義が嫌いだって事情はわかったけどそうやって話す前から距離を開けようとしてる姿は見てて寂しくなるわ! 昔はどうだったか知らないけど今は私達も一緒にいるじゃない。他の人を認めていい時期が来たんじゃないかしら?」
それとも私達のこともホントは嫌いだったりするのかしら? とメイドから手渡された骨付きのチキンをアンナの口元に差し出し、フィーナは微笑む。
「……そんなことない。……ごめん、フィーナさん。イデアールさんも。それと……サクラも」
三人に謝り、チキンを一口齧るアンナ。満足気に頷いたフィーナは手の中でチキンを回して、口の付いていない面を今度は桜羅に突きつける。
「……こちらこそ、申し訳ありませんでした。警官が冷静さを――」
「違うでしょ、警官じゃなくて今私達はサクラと話してるの!」
「…………ごめんなさい。私も意固地になってしまいました。貴方達猟兵が私を認められるように努力します」
フィーナに諭され、頭を下げる桜羅も若干困ったように視線をチキンとフィーナの間で行ったり来たりさせ、小さくかじりつく。
「ま、正義などただの言葉に過ぎん。それは願いや信念、好きに言い換えても変わらぬよ。フィーナの言う通り、どう取り繕おうと我らはただ己の道を行くのみ……違うか?」
自分の分のチキンに喰らいつきながらくつくつと笑うイデアールに、三人は頷く。
そうして決して和気藹々とはならないながらなんとか昼食会を終えた一同。片付けをメイドたちに任せ、暫し潮風に当たって――
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
四人まとめて上空に吸い上げられていった。
「あ、あれは
……!」「知っているの!?」
「ええ、あれはウンモ星人のUFO……漢字の「王」に似たマークがその証拠ですわ!」
「ウンモ星人……正確にはUMMO星人、個体名称ユミット……スペインで出現したという宇宙人でございますね。しかしあれは結局でっち上げだったのでは?」
「でも目の前にいるあのUFOはどう説明するんですか!?」
主とその客人を拉致していった謎の飛行物体に右往左往するメイド達。その眼前で、UFOは高速で街の方へと飛び去っていった。
「……まあご主人様ですし、もしかしたら返ってくる頃にはメイドに宇宙人が増えるかもしれませんねぇ」
かくて謎のUFOに拉致された四人は、その内部で目を覚ます。
「起きけりか、トラクタービームの威力は若干調整の予知があろう」
三つ目のロボットを従え彼女らを出迎えたのは、よく見知った破滅ロボ。
「ビードット!? どういうことよこれ!」
「ククク、まったくわけがわからんぞ! なんだここは!」
「ビードットさん……何のつもり?」
知り合いの突然の犯行に食って掛かる猟兵達。それを軽くいなして、ビードットは桜羅に近寄る。
ヴィランが使役する戦闘マシーンにも似たビードットの姿にたじろぐ桜羅へと小さい方のアームを差し出し彼は言う。
「これなるは我らが隣人、遠き異星よりきたる滅びし友なり。彼らが飛行物体を借り受け辺りを観光せり。オススメのフォトジェニックな撮影スポットなど聞きたく思いけり」
「つ、つまり貴方がこのUFOを呼んで観光のためにタクシー扱いをしている、と……?」
滅茶苦茶だ。確かに宇宙から来たヴィランなんかはよくアメリカあたりを襲撃しているらしいが、それにしたってタクシー代わりに宇宙人とは。いや、猟兵にそんな理屈は関係ないか。
「と、とにかく味方……なんですよね? 撮影となると……」
桜羅から空撮の盛り上がる工場地帯や山間部などの絶景スポットを聞き出し、Beドットはロボっぽい宇宙人と未知の言語を交えて盛り上がる。
「異文化交流、いや異世界交流であろうか。どう思いけり、隣人殿?」
《jフィペGHYヴォpアJVNkjsディオjsg;エイdyfdbン》
「そうか、そうであろうな。ふむふむ、そのようなことが」
《イvgヅysjナfklhbdkvhンdsjvグhルgフェアフエ》
「ほう、聞いたか佳澄殿。かような経験滅多に無かろう、必聴であるな」
「いやあの、何言ってるかさっぱり……」
わかります? と聞かれたフィーナ、アンナ、イデアールも困惑顔で首を横に振る。
「うむ? 言葉が分からぬとな。ははははは、そうか。では次の案内を頼もう」
それをさしたる問題ではないと一笑に付して、ビードットはUFOを飛ばす。
――桜羅は、そして女性陣はその日、深夜のベッドの上で目を覚ました。
桜羅は宿舎の自室で、女性陣は割り当てられたホテルの部屋で。果たして喧嘩と一応の和解もあった昼食会のあと、この時間まで何をしていたのだったか。そこの記憶だけがすぽりと抜け落ちているような気がする。
ふと一瞬、窓の外が明るくなった気がしてカーテンを開け外を見るが、何もない。
ただ遠ざかっていく、パトカーや緊急車両のサイレンとも違ったフォンフォンという音だけがいやに耳に残るのだった。
第四種接近遭遇、かくして彼ら(の記憶)は滅んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
●
三日目。二日連続で事件なし。
このヴィランだらけの街で、それは異例とも言える平穏だ。
喜ばしいはずのそれに潜む、恐ろしいものの気配を感じ取り、五島警部は密かに背筋を震わせた。
「あーこりゃ冷房下げすぎだわ。七雲? 七雲さーん? エアコンのリモコンどこ置いたっけ。ちょっと冷房の温度上げてくれよ」
はいはいと仕方なさそうにリモコンを発掘し放り渡す副官役の女性警官、七雲警部補にすまんねと肩を竦めて表示を見れば、設定温度は18度。
「こいつぁ寒いわけだぜ。誰だよこんな温度設定した奴……」
ぴぴぴと設定温度を上げていく五島。環境志向の28度は実際根拠は無いらしいので、快適環境優先で25度設定にしておく。
――それでも悪寒は消えない。やはり良くない予感がするのだ。
猟兵たちが携えてやって来た死の予言。それが本当ならば、そしてそれを齎すものが既にこの街に現れていたならば。この不気味な平穏も説明が付くのではないだろうか。
「…………あ、七雲。今日からちょっと工業地帯の警邏中断して市街地重点で行くように他の課の連中に言っといてくんね? ヴィラン共も大人しいし、ウチのヒーローは出撃不能だしいいだろ?」
聞き入れてくれるかはわかりませんけど、言うだけはと早速連絡のために部屋を出ていく七雲警部補を見送り、一人となった部屋で五島は始末書の束と向かい合う。
「今日で二人分片付いちまうなあ。明日からはサクラも復帰、いよいよ正念場か。頼むぜ猟兵、アテにさせてもらうからよ……!」
四軒屋・綴
いやぁ参ったなッ!ハンバーガーは無かったがたい焼きをおまけしてもらったッ!!(紙袋一杯のたい焼きを抱えて登場)
それでサクラ・ライオットの中の人はどこだッ!
む……そこの可憐な少女は……妹さんだろうかッ!たい焼きをあげようッ!
しかし大変だなッ!公僕という立場はッ!
あれだけの大立ち回りでも始末書とやらが必要なのだろう?
……しかし、規律と規約にがんじがらめに縛られて尚、貴方は人々の前に、無法者の前に立ち続ける。
なればこそ、背負うサクラは輝きを放つ……ということなのだろうな。
だからこそ、だからこそ、だ、俺達を信じてほしい。
……ところでB級グルメとはなんだッ!?是非とも味わってみたいッ!(唐突なポーズ)
羽堤・夏
10歳になる前ぐらいにダークセイヴァーに飛ばされたから、こういう食べ歩きとかしたことないんだよなぁ…
と、駅前アーケードでB級グルメの、肉系の食べ歩きをしようと思ったんですけど…
「うー…ううううー……困ってる人をみちゃうとついぃ…すいませんサクラさん、今ちょっと空いてます?」
と、財布やらアクセサリーやら、落し物をした人とか道に迷ってる人を見つけて
「大丈夫!防人のお姉ちゃんに任せとけっ!」
っていつもの人助けに走りたい所だけど土地勘がなーい!?
なのでサクラさんに助けを求めます…うう、防人なのに情けないっす…
街中に走らせたヘルプハムハムスクワッドにも協力させて、片っ端から人助けじゃー!!
●
「いやぁ参ったなッ! ハンバーガーは無かったがたい焼きをおまけして貰ったッ!!」
はっはっはと笑って山盛りのたい焼きを詰め込んだ紙袋を抱え店を出てくるジョウキング。
どっから摂食するんだろうとかは考えてはいけないやつなのだろう。彼が顔の前に持っていったたい焼きがかじり取られたように消滅していくのを努めて見ないようにしながら、桜羅は会釈程度に頭を下げる。
「チェーン店ならあるんですが、先々週から改装中でして……ご期待に添えず申し訳ないです」
それをジョウキングは笑い飛ばす。
「はっはっは、気にすることはないッ! これはこれで美味というものだッ! ……ところで可憐な少女よ、君は――サクラ・ライオットの妹さんか何かだろうかッ! お兄さんはどこだッ、教えてくれたらたい焼きをあげようッ!」
ここまで案内をしてくれた小柄な私服女性警官――初日に猟兵の見立てで買った服でかろうじて幼なげながらに成人の体裁を保つルックスを獲得した彼女に問いかけるジョウキング。
どうせ謹慎なら本人を案内に付けてくれればよいのに、と思わなくもないが警察にもいろいろとあるのだろう。同じ正義を掲げるヒーローとして是非一度話してみたかったと惜しむ彼に、桜羅はげんなりとした顔で告げる。
「あの、だから私がサクラ・ライオットですって。佳澄桜羅巡査部長、サクラ・ライオットの装着者です」
はははと笑ってたい焼きを一つ押し付け、背伸びする少女が可愛らしいなあと慈しむジョウキングこと綴はそこで一度硬直して。
「……冗談ではなかったのかッ!?」
ぺちんとボディを叩かれた。
アーケードにはどこの店舗の敷地にも属さない、いわゆる休憩スポットが設置されている。
ベンチと自販機が設置されている、あのアレだ。そこにごつい赤銅色の鋼のヒーローと年齢不詳の小柄な少女が並んで座り、缶コーヒーを片手にたい焼きをぱくつく光景はある種異常でありながら、纏う空気の真剣さが妙に馴染んでいるようでもあった。
「しかし大変だなッ、公僕という立場はッ!」
あれだけ大立ち回りを繰り広げ、オブリビオン・ヴィラン相手に死者ゼロで事件を解決してみせた。
だと言うのに指揮系統を無視して猟兵の介入を許したというただ一点で始末書を書かされる羽目になり、桜羅も五島によって謹慎を言い渡されてしまった。
「仕方ありません。貴方のようなフリーランスのヒーローと違って、私達は警官です。警官であるためには規律と規則を重んじなければなりません。確かに今回の一件は現場判断するにはかなり大規模の介入を認めてしまいましたからね」
十数名の猟兵による鎮圧への介入。それは犠牲者の発生を未然に防ぐと同時に、警察の無力を何より大きく喧伝してしまうことにも繋がる。
あのとき指揮系統を優先するならば、桜羅はまず五島に猟兵の介入を伝え、五島から本部へと上げられた情報をもとに上層部が決定を下すべきだった。
そうなればおそらく最前線に桜羅、二陣目に機動隊、そして最終防衛線とは名ばかりの傍観者として猟兵が配されたはずだ。
それでも負けるとは思わないが、機動隊に犠牲者は出ていただろう。だから桜羅も五島も自分の判断が間違いだったとは思っていない、だがそれはそれとして規則を無視したことは揺るぎない事実であるということを認めなければならない。
「……規律や規則に雁字搦めに縛られてなお、あなたは人々の前に、無法者の前に立ち続ける。なればこそ、背負うサクラが輝きを放つ……ということなのだろうな」
しみじみとつぶやく綴。警察官であるということを大切にしながら、それでもヒーローたらんとするサクラ・ライオットは、ただの警察のパワードスーツ隊員ではなく確かに警察のアームドヒーローなのだ。
唯一無二、たとえアーマーが量産され彼女と肩を並べるものがこの先増えようとも、その気高い在り方をも継ぐ者がどれだけ現れるだろうか。
「あなたの誇りも、信念もわかる。俺もヒーローなのだからな。だからこそ、だからこそ、だ。俺たちを信じてほしい」
真剣な眼差しで桜羅と目を合わせる綴。このままだと数日以内にお前は死ぬ、なんて言えるはずもない。だからこれは、全てを明かした訳ではない、フェアでない信頼の要請だ。
それを承知の上だというように苦笑して、桜羅はこくりと頷いた。
「この三日間共に過ごして、貴方たちが信頼に足るということは理解しました。……今後の事に関しては上と五島警部たちの交渉次第ですが、私個人は皆さんを信じますよ」
それは猟兵とサクラ・ライオットの間に確かな信頼が結ばれたことが示された瞬間であった。
「そうか……ありがとう。ところでB級グルメとはなんだッ!? ぜひとも味わってみたいッ!!」
そんなしっとりとした空気を吹き飛ばすように立ち上がり、空になったたい焼きの袋を丸めて屑籠に放り込んだジョウキングがポーズを決める。
じゃあ移動しましょうか、と桜羅も立ち上がった所で、
「あーっ二人ともいいところに!」
ずさささーっとスライディング気味にアーケードを駆け抜ける少女が急ブレーキ。
夏だ。いやスライディング少女が夏の風物詩だ、とかそういう意味ではなく、彼女の名前が夏なのだ。
「ちょっと助けてください!!」
「人助けは良いことですが考えなしに引き受けてはお願いした市民の皆さんの期待に沿えないこともあるでしょう」
「うー……ううううー…………困ってる人をみちゃうとつい「大丈夫、任せとけ!」って言っちゃってぇ……すいません……」
「しかしその精神は立派だぞッ! 俺は感動したッ!! このような若者がまだ居るとはまだまだ世の中捨てたもんじゃあ無いなッ!」
桜羅の言葉に恐縮しぺこぺこと頭を下げ、ジョウキングに慰められながら事情を説明し終えた夏は改めて手伝ってくださいと二人に頼み込む。
パンフレットに載っていた食べ歩ける肉系グルメを楽しもうとアーケードに訪れた夏は、その生来のお人好しから困っている人々を片端から助けていたらしい。
失せ物探しが四件。これは彼女が向日葵の種で雇用する知性ハムスター軍団、人呼んでヘルプ・ハムハム・スクワッドが現在アーケード全域に展開して捜索中。
問題は道案内だ。安請け合いしたはいいがこの羽堤夏、昨日来たばかりの街で土地勘などありはしない。
「というわけでこの人達の案内を……」
夏が連れてきたのは外国人観光客とお年寄り、そして迷子の子供。
それぞれに目的地を訊ね、手近な観光案内パンフに印を付けて夏とジョウキングに手渡す様の手慣れぶりはさすがお巡りさんというところか。
桜羅から受け取った地図を見て頷く二人。
「夏さんはこの子を連れて駅ビルの二階へ。この子がお母さんとはぐれたのは食品館ですが、互いに移動したことを考慮するとエスカレーター前のサービスカウンターで迷子放送してもらうほうがいいでしょう」
了解、お姉ちゃんに任せろ! と威勢よく頷く夏の手を幼い子どもがしっかりとはぐれないよう握りしめる。
「ジョウキングさんはこの御老人をタクシーの停留所まで。流石に目的地は徒歩で向かうには厳しいので、タクシー移動しましょう。タクシー代の不足分はここから出してください」
警察から貸しますのできっと返してくださいね、と財布から紙幣を数枚抜き取って畳み、封筒に入れて警察署の連絡先と所属を書いて渡す桜羅に老人は深く頭を下げた。
そんな老人をジョウキングは軽々と背負い、地図を片手に出発進行と駆け出してゆく。
夏もまた、任務を完了して帰還したハムハムスクワッドを肩に乗せて子供の手を引き目的地へ。
「では私達はこちらに。目的地はちょっと裏道に入りますが、そこまで遠くは――あー……」
そういえば彼らは日本語をあまり話せないと言っていた。眉間にしわ寄せ、拙い英語で道案内を開始する桜羅。
三人が無事に全てのトラブルを解決して再度集合した頃には日も傾きかけていた。
「ご協力に感謝します」
ぴしりと敬礼した桜羅。
「いやいや元はといえばアタシが引き受けまくったのが原因ですし……」
「解決したからいいじゃないかッ! 二人とも見事な正義だったぞッ!」
このトラブルが三人の信頼関係を深めたのは間違いないだろう。
それはそれとして、夏は後先考えない安請け合い癖に対して桜羅から滾々と注意を受けることになるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
うーん…お巡りさんってのも大変なのねぇ?
オエライ方々から色々突き上げ喰らってるみたいだし…
「すまじきものは宮仕え」ってやつ?
好きに過ごしてくれ、ねぇ…
それならあたし、ご飯…というか、お酒飲みたいわねぇ。
色々B級グルメ集めたんなら、地酒とかもあったりするんじゃない?
せっかくだから一緒に飲みましょぉ?
…一応礼儀として聞くけど、お酒飲める歳よねぇ?
…お悩み相談って程のじゃないけど。
愚痴とか不満とか、あるなら聞いたげるわよぉ?
そこそこ溜まってるんじゃない?
(ちなみにこの女、一升空けてなおシラフ。実はそもそも酔った記憶がないレベルの蟒蛇というにも生温いバグじみたナニカである)
●
「うーん……お巡りさんってのも色々大変なのねぇ?」
日中、そんなトラブルがあった――そんな話を聞きながら、頼んであった地酒の瓶を受け取りティオレンシアは桜羅を労う。
「どうも隊長さんともどもおエラい方々から色々突き上げ喰らってるみたいだし……「すまじきものは宮仕え」ってやつ?」
はは、と苦笑する桜羅を招き入れ、ティオレンシアはグラスをふたつテーブルに置いた。
猟兵たちが宿泊するホテルの一室、すっかり日も暮れた部屋で、ティオレンシアはこの三日間で集めたこの辺りの地酒とツマミを広げてささやかな酒宴を開くという。
「せっかくだから一緒に飲みましょぉ? ……一応礼儀として聞くけどお酒飲める歳よねぇ?」
「いったい幾つだと思われていたのかは敢えて聞かないでおきましょう。免許証見せれば納得してもらえます?」
財布からすっと出された免許証の生年月日を、慣れない日本の元号と西暦を照らし合わせてティオレンシアはその年齢を推測し――固まった。
「嘘ぉ、年上だったのぉ……っ!?」
佳澄桜羅巡査部長。小柄な見た目十代半ば、その実平成元年生まれのベテランである。
「ふはぁぁ……やっぱり美味しいですねえ」
くー、と唸りながらグラスの中身を煽る桜羅。
頬に朱が差し、舌の回りも良くなった彼女にお酌をしながら、ティオレンシアも自分のグラスを飲み干した。そこへ桜羅が酌をして、空になった瓶を脇に退けて置く。
三本目だ。一升瓶で三本目。二人で飲んでいるにしても随分な量で、桜羅はすっかりいい気分になっている。一方でその過半を一人で飲んだはずのティオレンシアは涼しい顔でかけらも酔いの気配を感じさせない。
「……さて、お悩み相談って程じゃないけど。愚痴とか不満とかあるなら聞いたげるわよぉ? そこそこ溜まってるんじゃなぁい?」
ゆらゆら揺れる桜羅の頭をぽふぽふと撫で、心に溜まった鬱積を吐き出すよう促す彼女に、据わった目を向けた桜羅が突然涙を流す。
酒に酔った赤ら顔を無表情にして、ぽろぽろと涙を流す姿は若干恐ろしい。
「ひぐっ……うっ……本当に愚痴を言ってもいいんですか……じつは録音されてて上に提出されたりしませんか……」
「しないわよぉ、する必要もないしそんな趣味も無いわぁ」
いったい彼女はここに至るまでどんな経験をしてきたのか。警察組織という厳格な体制の中で自分を押し殺して警察官として働き、サクラ・ライオットというヒーローにまで成り上がった彼女。
その過程で積み重なった不満や愚痴を吐き出せないまま居たのであれば。裏世界を渡り歩くために身に着けた交渉術を駆使してティオレンシアはこの勤勉な警察官の胸に溜まるものを吐き出させる。
静かに頷き、同意を返して心の澱を溶かして押し流すことで、近く迫るであろう危機に対してこのヒーローが全力を発揮できるように。
あるいは彼女の愚痴からこの辺りの警察との交渉材料となる弱みを得るために。どちらがティオレンシアの狙いであるか、それは本人のみぞ知る。
ただ確かなのは、翌日目覚めた桜羅はここ数年で久しぶりに思うほど清々しい気持ちだったということだ。
成功
🔵🔵🔴
レッグ・ワート
警察も大変だなあ。怪我人も近いうちに復帰できそうかい。
今は佳澄の方が良いのかね。とまれ相談だが。修理に場所貸してくれそうなトコあったら紹介してくれないか。多少ドローン直しておきたいんだわ。隊長や七雲って人に聞いた方が良ければそうする。どうよ。
……救護パックの中に色々あるし正直外でもメカニック技能で急場の修理はできる。けどまあ、誰かさんの仕事の邪魔にならない範囲とタイミングで、そいつの話すサクラ・ライオットの誕生話とか、見てて思ってる事なんかを片手間の体で聞けたら上等かね。普段は周りがフォローしてるんだろうが、黙ったり嘘が得意じゃなさそうな感じ心配にならない?ヒーローってああいうの多いの?
⚫
「警察も大変だなあ」
早朝の警察署。パトカーの代わりにライオットアーマーが我が物顔で領土を主張するガレージで、業務用の高電圧ジェネレーターに噛ませたエネルギー変換コネクタの端子を手首で咥え、レグは一息つくようにそう溢した。
「ま、そいつが市民から見えざる警官のお役目だわな、犯罪者を追っかけ回すばっかりじゃ組織ってなぁ回らないもんさ」
すぱ、と紙巻きを口から離し、メンソールの煙を吐き出す五島の苦笑いには疲労が見える。
指令本部の指示を待たずして独断での猟兵との共闘、その命令違反自体は緊急事態ということで追認されこそしたが、組織の指令系統を乱したことには変わりない。その始末書に加えて、ライオット計画においてオブリビオンとの遭遇を見越し、機動隊に代わる支援戦闘部隊として猟兵の協力を仰ぐべきとする新体制を提案する上申書。
ついでに一日目、二日目に桜羅から送られてきた猟兵の行動記録を報告書の書式に纏めているうちに、気づけば一晩明けてそろそろ日も昇ろうかという時間であった。
この数日の日課としてスペクターに撃墜されたドローンの修理のためガレージのカギを借りに来たレグはそんな五島に鉢合わせ、寝ろだの寝れんだのの言い合いをしながら何となくこのくたびれたおっさんと作業前に一服していたのである。
「そいつはご苦労さん。そういや怪我人がいたろ、どうなんだ、復帰の目処とか。近いうちに復帰できそうかい」
このまま疲れる話をする必要もないだろうと、あの時機動隊に負傷者が出ていたことを思い出したレグが問う。
「そいつはなんとも言えんなぁ。いや、怪我自体は半月もありゃ治るらしいんだが凶器になんか塗られてたらしくてな、点滴繋いでとりあえず隔離だとさ」
そりゃ心配だな、と五島の心情を慮り天を仰ぐレグ。その肩――を叩くにはちょっと背伸びをせねばならないのが不格好なので、腕のあたりを五島の分厚い掌が叩いた。
「ま、連中は人間だから病院に突っ込んどきゃそのうち治るさ。それよりお前のドローンはどうなんだよ、修理のほどは。派手に撃ち落とされたんだろ?」
機械は修理してやらんと治らんものなあ、と何かを思う五島。その視線をレグが辿れば鎮座するライオットアーマーがそこに居た。
「俺のは救護パックの中に色々あるし、正直急場しのぎで飛ばすだけなら三十分もありゃなんとかなるからな。それよりあいつ、サクラ・ライオットだっけか? あれの話を聞かせてくれよ」
「ん、ああ。もともとはヒーローをお手軽に増やして治安を維持しようって話でな、あれ」
ぽつぽつと語られ始めた五島の昔話。増加するヴィラン犯罪によって警察官の消耗が激しく、とはいえ本場アメリカと違い日本はヒーローの数もそこまで多くはない。すべてのヴィランをヒーローで対処出来ない以上、警察はその被害を食い止める矢面に立つ必要がある。
そこで時の警察上層部が考えたのが、警官をヒーロー相当に強化するというある種突飛ながら至極真っ当な結論だった。
とはいえ法と秩序を守る警察が非人道的な人体改造など出来るはずもなく、したがって生まれたのが着るヒーローとでもいうべきサクラ・ライオット、ライオットアーマーだったのだ。
「つっても実験機だろ? 何が必要で何が不要かわかりゃしないってんでとりあえず要りそうなもん全部盛りしたら今度は人が入るスペースが無くなっちまってなあ」
バカみたいだろ、と笑う五島は、はぁと大きくため息を吐く。
「ホントは俺が着るはずだったんだよ、アイツ。ただ開発の過程でサイズが合わなくなっちまってよ、結局袖を通すこともなく倉庫行き。技術の粋がこんなポカでお蔵入りだぜ。国民の血税いくら投じたかわかんねえってのに」
「だけど今あのお嬢ちゃんが着てるじゃんか。無駄じゃなかったんだろ、税金も技術も」
そう五島を諭すレグだが、やはり五島の表情は晴れない。
「あいつさ、機動隊志願だったんだがあの見た目……ってかあの体型だろ。体格で弾かれて交通課だったんだよ。チビどもの学校に出向いて交通安全教室とかやってるやつな。わかる?」
なんとなく、と頷くレグを見て、五島は続きを語りだす。
「で、アイツくらいの体型ならライオットアーマーが着れるって分かったんで半ば強引に交通課から引っこ抜いてきたんだ。一回は弾いといてわがままなもんだよなあ。それでアイツは頑張ってんだから偉いよなあ……」
五島の声は桜羅を羨むような、慈しむような、憐れむような。レグのセンサーでは認識し難い感情の色を帯びていた。
「んで、アイツを得て再度開発が始まったライオットアーマーは無事サクラ・ライオットとして完成、今度はアイツのデータをもとにいらない機能を取っ払ったり洗練させたりして量産する段階ってわけよ」
すっかり短くなった煙草を携帯灰皿に押し込み、五島はくぁぁ、と大きくあくびをして伸びをする。
随分と日も昇りかけ、薄暗い青色の世界は朝の白を帯び始めた。
「サクラ・ライオット……サクラだっけか? あいつ黙ったり嘘があんま得意じゃなさそうな感じ心配にならない? ヒーローってああいうの多いの?」
ガレージの柵にもたれ掛かり、眠そうに船を漕ぐ五島に尋ねるレグ。答えが返ってくるとは思っていない。ただ、ヒーローという鎧に着られた不器用なサクラの姿を思い出し、それが彼女生来の気質なのか、それともヒーローたらんとする生真面目な義務感がそうさせるのか気になっただけだ。
「んにゃ。ありゃサクラ本人の素質だな。ほんと不器用なやつでよ……心配にならないわけないだろ」
何度めかのあくびを噛み殺し、五島はやっぱ仮眠室でちょっと寝る、と警察署の中に戻っていく。
「七雲ちゃんが来たら俺仮眠室で寝てるって言っといてくれよ、レグ。ああ、あとお前使った電気代はちゃんと払って帰れよ」
「は? マジかおい金とる気かよ五島お前」
慌ててコードを手首から外し、猟兵の食い扶持は税金からでませーんとおどけながらドアを閉め去ってゆく五島の背中を見送ってレグは思う。
「ま、生真面目すぎるサクラの分は五島の不真面目さがフォローになってる……のか? なってるんだろうな、多分だが」
今回も五島が猟兵の監督という体で休ませなければ、彼女は毎日出動しただろう。そうなると猟兵が張り付く準備が整う前にレオン・リーブスに鉢合わせ殺されていたかもしれない。
そう考えると猟兵というイレギュラーを挟んだとはいえ、二人は案外うまい具合に補い合っているものだと頷くレグだった。
「さて、そろそろドローンの修理を終わらせるかね。今日でサクラも復帰だったか? 今日明日辺りレオンも出そうだし万全にしとかなきゃな」
ケースから工具をざらりと纏めて掬いあげ、必要なものを選んで手の中で――もとい手首ごと回すレグ。
それから程なくして、レグのドローンは再び空に舞い上がると彼に明瞭な視界を齎すのだった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『ザ・ファースト・ヴィジランテ』
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POW : ネヴァー・フォーギヴ
自身の【ヴィランを決して赦さない狂気にも似た信念】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : センス・オブ・ヴィジランス
技能名「【事前準備】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ : キリング・トロフィー
いま戦っている対象に有効な【これまで自身が殺害したヴィランのアイテム】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
イラスト:七緒
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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●
謹慎――という名目で五島が桜羅に与えた休暇にして、猟兵達が伝えたサクラ・ライオットの死に繋がるであろうオブリビオンの襲撃に対して警察組織が猟兵と共同で対抗するための地盤づくりの数日が明け、猟兵たちもレオン・リーブスとの戦いに向け準備を終えつつあった。
桜羅との信頼関係は十分。サクラ・ライオットと五島の後押しで警察も猟兵の介入を承認し、後顧の憂いはもはや無い。
そうしてすべての準備が整い、サクラ・ライオットが現場に復帰したその日の夜、早速事件は起こった。
ヴィランが埠頭の倉庫街を襲い、貯蔵されていた化学物質を強奪しようとしているという通報。
それを受け急行したサクラ・ライオットと、彼女を陰から護衛するように隠れ進む猟兵達が見たのは、倉庫の厳重に施錠された扉を拳の一撃で吹き飛ばしこじ開けるチャイナドレス姿の女と女が開けた倉庫にフォークリフトで突入して中の資材を強奪してゆく人民服姿の仮面の男達。
『アイヤ、もう来たネ? 日本の警察は弱っち癖にすばしこくてやんなるヨ』
中国武術特有の、腰を落としまっすぐ前に突き出した右手の指をピンと揃えて立てて掌を向ける姿勢でサクラ・ライオットを牽制する女は、ちらと視線で男たちに逃げるように促す。
奪われた化学物質を載せたフォークリフトが、フォークリフトらしからぬ速度で走り去っていくのを追おうとしたサクラ・ライオットが、チャイナドレス女の打撃で弾き返された。
サクラ・ライオットは間一髪盾で受け止めたらしいが、それでもパワードスーツを纏った人間を押し返せるだけの膂力は常人ではありえまい。
苦戦の予感に手を貸すべきかと身を乗り出した猟兵を、レオンの強襲に備えるべきだと慎重派の猟兵が無言で制する中、サクラ・ライオットとチャイナドレス女は睨み合う。
『だめだめネ、あれはハイになる漢方にして売る大事な商品のもとヨ。返すわけには行かないアル』
「わざとらしい大陸訛り、それにその腕力。国際指名手配中のヴィランですね? 確か名は……」
『なんだ、知ってるカ。けど敢えて名乗るヨ、ワタシはプロフェッサー・李、気軽に李ちゃんって呼ぶヨロシよ』
呵呵呵と笑う李は、銃を向けるサクラ・ライオットを切れ長の目で睨み付け――
そして突然、後方に飛び退った。
一瞬前まで李が立っていた場所に突き刺さる矢。さらに飛び退った李が体を捻り、仰け反るように上体を地面と平行に倒せば一瞬前まで彼女の胴があった高さを、倉庫の間の路地から飛び出したギロチンのような刃物が掠めて海へと落ちていった。
それを躱したうえで高く脚を上げ、大上段で蹴脚を放つ李。鋼鉄の扉すら破壊するヴィランの怪力で放たれた、砲弾にすら匹敵する蹴りを何ということも無いとばかりに無造作に潜り、その男は現れた。
『急に乱入してくるとは無礼な男ネ。ワタシの蹴りを躱すあたり只者では無いみたいだけど、オマエの仲間カ?』
サクラ・ライオットに乱入者のことを問う李の喉元めがけ、男の振り抜いたナイフが奔ったのと、それを止めるようにサクラ・ライオットが駆け抜け男に体当たりしたのがほぼ同時。
「どこの誰だか知らないが、犯罪者相手とはいえ私の眼の前で殺人は許さない! 殺人未遂で現行犯逮捕する!!」
手錠を取り出し宣言するサクラ・ライオットへと向けられる男の拳銃。
その引き金が絞られるより早く、飛び出した猟兵達がサクラ・ライオットを蹴飛ばし射線から押し出した。
銃声――そして、静寂。
『何だ、お前たちは。俺は悪人を殺しに来ただけだ。それ以外の連中に興味はないが……』
邪魔するのなら殺す。只者ではない殺意とともに告げる男。
サクラ・ライオットが彼の正体に感づく前に、面倒なことになる前に彼女を遠ざけねばならない。一人の猟兵が振り向けば、状況把握が追いつかず一瞬硬直するサクラ・ライオットの向こう、全速力で逃げてゆく李の背中が見えた。
『仲間割れだか何だかわからないが、この機にワタシは撤収させてもらうアルヨ!』
「サクラ・ライオット! いいから李を追え! 機動隊と一緒にあいつの一味を捕まえてこい!」
「そうそう、役割分担で行きましょ! ここは任せなさい!」
その言葉にハッとし、僅かな逡巡とともに「頼んだ」と告げ李を追っていくサクラ・ライオット。
さらに男――オブリビオン、ザ・ファースト・ヴィジランテ、レオン・リーブスも李を追おうとするがそれは猟兵が許さない。
『何のつもりだ。ヴィランを庇い立てする気か?』
ただ事実を確認するように、そこに感情を欠片たりと込めることなく問うレオン。
是と答えても否と答えても、事実としてサクラ・ライオットを守るためには彼女の目の前で李を殺害しようとする彼を邪魔しなければならない。
戦いは避けられない以上、この男が持つ尋常ならざる殺意を受け止める覚悟は必要だろう。
『――俺の邪魔をするつもりなら殺す。ヴィランを庇うつもりなら殺す。答えろ、お前たちは何のつもりで俺の前に立つ』
――最後通牒なのだろう。懐に手を入れ、何らかの武器に触れながら問うレオンへと、猟兵達はそれぞれの回答を叩きつける。
戦いが始まる。レオンと猟兵達、李一党と警察機動隊、ふたつの激突が夜の埠頭を揺るがした。
アリシア・マクリントック
サクラさん、あなたは言いましたね。人々を犯罪から守るのが警察官だと。それならば。
その警察官を守るのは人を治める者の――いいえ、私の役目です!変身!
何のつもりか、ですか?法に従わず私刑を行う貴方を止めるつもりです。どのような悪でも法によって裁かれなければなりません。もちろん、それが今を生きる者であればですが。
道を外れた過去の亡霊よ、あるべき所へ還りなさい!
鍛え抜かれた技が最大の武器であるのなら、私がこのまま戦うのは不利ですね。少しずるいかもしれませんが……扉よ開け!フェンリルアーマー!
このスピードならそう簡単には捉えられないはず……マリアも交えた連続攻撃で相手の動きを押さえ込みましょう。
●
猟兵の叱咤を受け、まっすぐに李を追いかけ走り出すサクラ・ライオット。
その背中を追おうとする男を食い止めるように割り込んだ少女。
「サクラさん、あなたは言いましたね。人々を犯罪者から守るのが警察官だと」
レオンが李を止めるべく投げたナイフを――確実に頸動脈を断ち切るであろう軌道を描き飛んでゆくそれをレイピアで叩き落としてアリシアは想う。
彼女は為すべきを為すために、此処を自分たちに任せて行ったのだ。ならば自らの為すべきは。
「その警察官を守るのが人を治める者の……いえ、私の役目です! ――変身!」
掲げたバックルから白銀の鎧が現れ、アリシアの身を包む。だが、そのほんの一瞬に満たない変身のその隙をレオンは見逃さなかった。
振り下ろされるのはソードブレイカー。かつて剣を使うヒーローを狙い、その剣を折って殺害することに執着し、そして在りし日のレオンによって討たれたヴィランの武器である。アリシアの細剣では――いや、変身後の彼女が振るう直剣ですら受ければ折られ、そして変身のために回避は出来ぬ絶体絶命。
だが、ぎゃりと火花を散らしてその刃は止められる。
受け止めたのは刃。しかし一本ではない。三対六つの鋼の爪が、ソードブレイカーを逆に絡め取りレオンの手から弾き飛ばす。
「――貴方の最大の武器が鍛え抜かれた技であるのならば、私にその域を越えることは出来ないでしょう。ですが、私には友とこの鎧があります! よもや卑怯とは言いませんね?」
フェンリルアーマー。手甲から伸びる爪を用い、より流麗に、より素早く舞踏のステップを刻むが如く強化されたアリシアの鎧。それを纏ったアリシアが、さらに距離を詰め刃を振るう。
「先程貴方は何のつもりかと問いましたね。法に従わず私刑を行う貴方を止めるつもりです。どのような悪であろうと法によって裁かれなければなりません!」
反省の時間も、更生の余地も無く、一個人の判断で犯罪者が殺される。
レオンは言う。それこそがさらなる犠牲者を防ぐ唯一の解だと。
アリシアは言う。それは人の理を外れた傲慢だと。
『法の裁きは非力に過ぎる。外来の猟兵風情が分かったような口を利くな』
アリシアの連撃を躱しながら後ろへ退るレオンが、不意に積み上げられた木箱を殴りつけ、合板の箱へと手を突っ込み中身を引きずり出す。
いつから用意していたのか。レオンの執念、周到さを示すようにそこから引き出された武器――長くしなる鞭は、レオンが振るうとその先端を毒蛇の頭へと変じてアリシアを追う。
速度に優れたフェンリルアーマーにすら追いつき、その腕に巻き付き大きく口を開けて毒液の滴る牙を見せつけ威嚇する毒蛇鞭。
これもかつてレオンに殺されたヴィラン――罪のない人々を拉致し、サーカスと称して無謀な芸を強いては死なせていた道化師――の使っていた物だ。
噛まれれば即死こそないが、のたうつような苦しみが三日三晩続いた後死に至るという。それがアリシアの首筋を狙い、爬虫類の鋭利な視線を向ける。
振りほどこうにもレオンの膂力か鞭の力か、そう易々と引き剥がすことも出来ないようであった。
「くっ……そのようにヴィランを討つことを邪魔するものにさえ容赦なく力を振るう貴方の振る舞い、ヴィランと何が違うというのですか!!」
『違う。俺は大多数のために少数を切り捨てるだけだ。お前は為政者だと言ったな。ならばわかるはずだ。百人を殺すヴィランを殺すために十人を殺す、その必要性を』
蛇から視線を外し、レオンのマスクに隠された目を見つめて訴えるアリシアへとレオンは自らの正義を語り、その少数となれと鞭を手繰って蛇へとトドメを命じて――
「……マリア!」
アリシアの呼びかけに応えて倉庫の陰から飛び出した狼が蛇の胴を噛み、引きちぎる。
頑丈な鞭も狼の牙の前にはあえなく断ち切られ、蛇への変化もかき消えアリシアの腕からぼたりと落ちた。
「ヴィランとはいえ今を生きる者を独善が為に殺す者、道を外れた過去の亡霊よ! 在るべき所へ還りなさい!」
視線で頷き合い、マリアとともに左右から挟撃を掛けるアリシア。
新たな武器を掴ませる時間を与えない。その連撃はレオンを確かに捉え、爪牙が彼のコートに覆われた手足に深く突き刺さった。
手応えあり。致命傷ならずとも、決して浅くない一撃を加えた――その直後、マリアがレオンを離して小さく吠える。
マリアが何かを察し離脱を促している。信頼する友の判断を疑うことなく、速やかにアリシアが飛び退った直後。
『もとより俺は正道など行っていない。俺が骸の海に還るとき、それはこの世から一切のヴィランが死に絶えるときだけだ』
凄まじい殺意とともにアリシアを睨みつけ何かを地面に叩きつけたレオンの足元、猛烈な勢いで噴き上がった煙が彼の姿を覆い隠した。
風に乗って流れてくるのは、距離を取ってなお不快な刺激臭。もしこれを至近距離で浴びていたならば、自分はともかくマリアはしばらく再起不能レベルのダメージを受けていたかもしれない。
そしてその匂いを身に纏ったであろうレオンを相手に、マリアと二人で再度仕掛けることは出来ない。
一撃は与えた、その一撃を糧に誰かが彼を倒してくれるはずだ。
レオン・リーブスと違い、アリシア達は一人ではない。それ故の脆さはあるだろう。けれど、それ故の強さはたった一人で居るよりもずっと彼女たちを強くするのだ。
成功
🔵🔵🔴
羽堤・夏
アドリブ・絡み歓迎
…あたしは防人だ。
防人らしく、命を守る。
死を持ってしか償えない?
ふざけんな、それっぽっちで償えるはずないだろ。
あたしは死に逃げなんて許さない。
防人として死んでそれまでなんて赦さない。
その為にオブリビオンを殺す。
行くぞ悪童顕現!
身体能力が増幅するなら、それがあたしの怪力を上回る前にありったけブチ込む。
過去の癖に今に手を出すこの人の殺気に、あたしの覚悟をぶつけて挑む。
いてぇのは慣れてる、攻撃をこちらで引き受け毒でも怪我でも耐えればいい。
日輪丸で切り裂き、傷口にコードで作り出した拳の太陽をねじ込む。
傷口を焼き、さらにえぐり、焼く。
攻撃を受けねじこむ隙を作り出し、押し込み続けるぜ。
荒谷・ひかる
ひっ……!
(殺気に当てられて声にならない声が出る)
(恐怖で身体が竦み、震えるが、それでも思っていることをぶつける)
なんでもかんでもすぐ殺しちゃったら、手がかりだって、そこでなくなっちゃうんだよっ!
あ、あなたのそれは正義じゃないっ!
ただの癇癪と我儘なんだよっ!
【水の精霊さん】発動
水の精霊さんにお願いして、追尾するような軌道の鉄砲水を周辺の水面から沢山発生させる
そのうち一つは上空に打ち上げ、雨のように周辺に散布して地面を濡らし、精霊さんの加護を得られるフィールドにして味方を援護(鼓舞)する
なお万一敵の攻撃により意識を失った場合、怒った精霊さんが彼女を護ろうとして攻撃が激化する(暴走する)
●
『惰弱な正義だ。今のヒーロー共も、あの猟兵共も……そんな甘さで守れるならば、俺は……』
手傷を負い、一旦後退して応急手当を試みたレオン。傷口をベルトで縛り上げ、これ以上の出血を防ぎながら彼は李たちを追うべく歩き出す。
そこに、幸か不幸かひかるは鉢合わせてしまった。
出血しながらも義務感と殺意と狂気によって僅かも痛みを感じぬように振る舞うその在り方は、オブリビオンだからという以上にもはやヒトから逸脱している。
ヒトの形をし、ヒトの為を騙ってヒトを殺すモノ。そんなものと不意に遭遇してしまった少女は、声もなく、体はガタガタと震え、身を竦ませて立ち止まる。
『邪魔だ。どけ』
そんな少女が相手であれ、退かねば殺すと我が道を塞ぐものすべてに等しく一片の容赦もなくレオンは殺意を向けるのだ。
これもオブリビオンとなり歪んでしまった彼の妄執の果てなのだろうか。その殺意の矢面に立ち、泣き出してしまいそうになりながら、ひかるは必死に声ならぬ声を言葉へと織り上げてレオンに己が思いの丈をぶつける。
「あ、あなたみたいになんでもかんでもすぐ殺しちゃったら、手がかりだってそこでなくなっちゃうんだよっ! あ、あなたのそれは、せ、正義じゃないっ! ただの癇癪で、我儘なんだよっ!」
目に見えている犯罪者を排除したとて、その後ろに目に見えぬより大きな悪があるのかもしれない。
法に則りヴィランを捕らえ、その行いの細部までも調べ上げて真実を探り当てる警察やサクラ・ライオットのようなヒーローであればそんな巨悪を察知し、それと戦うことも出来るだろう。
だがレオンは違う。レオンがどんな情報網を持っていたとしても、たった一人、目につく悪を片端から殺していては真実に辿り着くまでに膨大な時間を掛けて回り道をすることになるだろう。
百を殺すヴィランを十の犠牲で屠るというレオン。
だが、仮にその百を殺すヴィランを十人倒し、千を脅かす巨悪に辿り着くまでにどれだけの犠牲が必要なのか。
一見して合理的に、小を犠牲に大を生かすと言うレオンだが、その実は狂気に飲まれより大きなモノを見落としているのだと、この少女はそう指摘する。
それを、レオンは腕を組み、黙して聞き入れ――そして、無造作に懐から抜いた拳銃をひかるの額に突きつけた。
「えっ――」
乾いた破裂音が響き、反動に硝煙くゆらせる銃口が跳ね上がる。
「まッ……にあった……ッ!!」
死の予感に目を固く閉じたひかるが恐る恐る瞼を開いたとき、そこには黒々とした底知れぬ銃口ではなく背中があった。
ひかるを庇い、盾を構えて立ちふさがる背中。サクラ――ではない。
「あたしは防人だ。防人らしく、命を守る」
その背中の持ち主は振り返り、心配ないと笑って盾を振るいレオンを押し返す。
「ヴィランの罪は死を以てしか償えない? ふざけんな!」
舌打ちとともに続けざまに放たれた銃弾を、決して面積の広くない盾で正確に受け止め弾き、彼女――夏は吼える。
「あたしは死に逃げるなんて許さない。死んでそれまでなんて赦さない! アンタのやってることは悪人を楽な所に逃してるだけだ! 過去のくせに今の悪人逃してるんじゃねぇ! 行くぞ悪童顕現!」
駆け出し、果敢にレオンに挑みかかる夏。日輪の如き盾に付けられた刃を振るい、レオンに斬りかかる少女に、レオンは拳銃とは反対の手へ禍々しく湾曲したショテルを取り出し応じる。
『巨悪を知るための手がかりを殺すな、なるほどお前の言うことには一理がある』
夏と激しく切り結びながらひかるに声をかけるレオン。
『次からは拷問に掛けてから殺すことにしよう』
だが、理解を示しても同意はしない。それほどまでにこの男の理想は歪んだ形で癒着してしまったのだ。
『死が逃げだと、お前の言うことにも一理がある』
次いでレオンは夏に視線を向け、突然ショテルの動きを止め盾の斬撃をその身で受ける。
鮮血が飛び散り、返り血が夏の頬を染める。それが一瞬、目に血が入らぬようにと彼女の瞼を閉じさせた。
そのほんの僅かの隙を逃さず、レオンの手が盾を掴み人外の力で夏の手からそれを奪い取り、投げ捨てさせた。
からん、と盾が遠くレオンの背後に落ち、金属が転がる音を立てる。
武器にして防具を奪われた夏の首筋へとレオンの一撃が奔った。
「精霊さん! ばしゃーん! とお願い! あの子を守って!」
それを阻止するようにひかるの渾身の力を振り絞った叫びが、辺りの水面を波立たせた。
海が。水溜りが。蛇口の下、いつからか置き去りにされたままの水を湛えたバケツが。一斉にさざめき、蛇のように空中を這う鉄砲水となってレオンを襲う。
その猛攻を凌ぐため、夏の首を刈るはずだったショテルで打ち払うレオン。そこへ、敢えてレオンではなく天へと登った水が超局地的な雨と化して降り注ぐ。
それは夏の顔をべっとりと塗りつぶし、彼女の視界を封じていたレオンの返り血を洗い流した。
『ちッ……!』
鉄砲水自体をいくら打ち払ってもいくらでも再生すると理解したレオンが、空になったバケツを蹴り飛ばしひかるの頭に当てる。
頭蓋への衝撃に気絶するひかるが倒れるのを、視界の戻った夏はすかさず駆け戻り抱きとめそっと地面へ横たえた。
自分と変わらない年頃といえど、自分よりずっとおとなしく優しい少女への仕打ちに怒りを滾らせる夏が立ち上がりレオンを睨めば、それはひかるの使役していた精霊たちも同じだったらしい。
鉄砲水は蛟と化し、レオンの攻撃を物ともせず彼を追う。その対応に追われるレオンは、先程のように夏にまで十全の迎撃を向けられないだろう。
駆け出す夏へと向けられ、狙いも付けずに放たれた弾丸は、それ自体も某かのヴィランの曰くの品なのだろう、夏を目掛けて弾道を変えながら襲いかかる。
「大丈夫」
肩口を弾丸が貫く。
「大丈夫、大丈夫……!」
太腿を、脇腹を弾丸が食い破り、骨にも当たったか全身に響くような痛みが走る。
「大丈夫だ、いてぇのは慣れてる!! 拳骨、喰らえッ!!」
太陽の如き灼熱の輝きを纏う拳が、降り注ぐ雨を蒸発させながらレオンの腹を抉る。
『ごフッ
…………!!』
口の端から血反吐を溢れさせながら吹き飛ぶレオン。その身がなにかにぶつかり落ちるより先に、夏を追い抜き駆け抜けた怒れる蛟がその身を丸呑みして天高く登ってゆく。
そうして遥か高空でただの水へと還った龍は、腹の内に飲み込んだ主の敵対者を地面へと放り投げたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ビードット・ワイワイ
【PPP開発室】
アドリブアレンジ歓迎
見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり
悪を許さぬ心、悪を滅するその意思も
それは全て過去のもの。過去の信念貫くならば
それを善と言うならば、汝を滅する我も善
我が善と信じているゆえ。ここが汝の破滅なり
UCにて招く異星の隣人。何度も呼んですまぬな
李一党は早々に拐って退場してもらおう
隣人殿、これらは生きて返して貰えればそれでよい
うむ、うむ、うむ?改造は遠慮してもらおう
それ以外であれば、存分に。では向こうででも
我はこのスイッチにて攻撃しておこう
【範囲攻撃】全砲門開放【一斉発射】
念入りに【2回攻撃】
フォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォン
イデアール・モラクス
【PPP開発室】
クク…なかなか混沌としてきたじゃないか、イイぞ!
これでこそ私が来た甲斐もある!
・行動
「愚問だな、私は悪だぞ!
気の向くまま壊し、犯し、滅ぼす女…お前の敵だよ!」
UC【魔導覚醒】を『高速詠唱』で行使。
本気モードになり、魔導防壁を纏いながら空を縦横無尽に飛翔し、両手から次々と『全力魔法』の力で威力を増した『属性攻撃』魔法【風の刃、聖なる光線、闇の球体、炎弾、氷の槍、足元から隆起する石の棘】を無詠唱連射、圧倒的弾幕の『範囲攻撃』と成して『一斉射撃』の飽和攻撃をかけ、相手の攻撃を相殺『武器受け』しながら敵を『なぎ払う』。
「私に有効な武器など有りはせぬぞ、アーハッハッハ!」
※アドリブ歓迎
●
天高くから放り投げられたレオンは、そんな状況にあっても至極冷静に対応してのける。
傷ついた身体では万全ではないだろう。だが、前もって施された準備は彼の命を助けるのだ。
前もって用意していたワイヤーフック。それを撃ち出し、"空中に浮かぶ"建造物に引っ掛け落下速度を軽減する彼は、その違和に天を仰ぎそして絶句した。
「見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり。悪を許さぬ心、悪を滅するその意思も、それは全て過去のもの。過去の信念貫くならば、それを善と言うならば、汝を滅する我も善。我が善と信じているゆえここが汝の破滅なり」
レオンが見上げた空に浮かぶのは、甲殻類のような円盤から三本のフレキシブルに波打つ脚を伸ばす未確認飛行物体だ。
その機内で、タコのような触手の上に頭部を持つ異星からの隣人にカメラアイを向け、ビードットは一人破滅の聖句を唱える。
「さて、何度も呼んですまぬな。ひとまず此処は砲撃を加えたのち、隣人殿たちの望みを叶えに行くとしよう」
ぽちり、ビードットの巨大な指がボタンを押せばUFOの下面、三つ目のように輝くビームキャノンが開口する。
隣のスイッチを押すとそこから放たれた光がワイヤーでぶら下がるレオンをかすめ、地上を焼いた。かろうじて建造物には当たらなかったが、地面に巨大な焦げ跡が残ってしまった。
それを確認し、しかしレオンは未だ健在であることにむぅと唸るビードットがもう一度射撃。
今度も当たるものかとワイヤーを揺らし、ビームを掻い潜りながら地上に降りたレオンが駆けてゆくのを見つけ、更に無言で念入りに彼を追いビームを連射するビードットだが、宇宙人たちがビームは燃費が良くないから使いすぎるなと慌てて制すればおとなしく引き下がるほかない。
何より彼が向かう先には、ビードットの信頼する仲間たちが待ち受けている。
「そういうことならば仕方あるまい。ならば隣人殿らの目的を遂げにゆくとしよう」
フォンフォンと音を立ててのそのそと倉庫の屋根上を歩いてゆくトライポッドを眺めながら、イデアールはニヤリと笑みを浮かべた。
「クク……中々混沌としてきたじゃないか。いいぞ、これでこそ私が来た甲斐もある!」
ぶわり、溢れ出る魔力はこの世界の神族にすら匹敵するだろうか。
その傍若無人、唯我独尊の在り方はまさしく暴君、あるいは荒神とも呼べるかもしれない。
イデアール・モラクス。本気の力に覚醒した魔女の前に、レオンは追い込まれたのだ。
『……次から次に、猟兵というのはよくよく他人の邪魔をするのが好きと見えるな』
忌々しげに呟くレオンは、そのまま無造作に拳銃の引き金を引く。
それを魔導障壁で逸したイデアールは、魔導の力で空中を歩きながらその赤い双眸でレオンを見下ろした。
「お前はさっき私達に問うたな。なぜ邪魔をする、だったか? 愚問だな。他の連中は知らんが私は悪だぞ! 気の向くまま壊し、犯し、滅ぼす女――」
お前の敵だよ。その言葉を彼女の瑞々しい唇が紡ぐのと、ワイヤーフックを巧みに用いイデアールと同じ高さまで跳躍したレオンが"魔女殺し"の鉄杭を突き立てるのは同時。
『お前が悪だと自称するならば殺す。それ以上話すことはない』
「いいぞ、それでこそだ"ヒーロー"! だがな、その棒っ切れがなんだか知らんが私に有効な武器など有りはしないぞ、アーッハッハッハ!」
高笑いしながら障壁の密度を高めるイデアール。その強烈な防御の前に、魔女を殺すというためだけに強化された鉄杭がみるみる腐食し崩れ去ってゆく。
『概念持ちの凶器とはいえ所詮は狂人の玩具に過ぎないか。ならば』
魔女狩りを称し、婦女を儀式的な手法で次々殺傷した犯罪者。彼の遺した遺物が消滅するならばとレオンは次なる武具をワイヤーフックで手繰り寄せる。
それは魔法の杖だ。豪奢な貴金属の装飾が施された杖は、かつてある神族が用いた神代の遺産。その神がヒトに絶望し、悪神と化してヒーローに討たれたとき行方知れずとなった品は、魔法使いではないレオンをしてイデアールに比肩する魔法の力を発揮しうるまさにアーティファクト。
イデアールを蹴り飛ばすように魔導障壁を踏みつけ、倉庫の屋根上に降りたレオンが杖を震えば炎が鞭のようにしなり空中の魔女を舐める。
それを風の刃で切り刻み、宙を舞う炎の切れ端を射出した氷の槍で貫き倉庫上を掃射するイデアール。
そして降り注ぐ氷槍はレオンの杖が放つ雷撃によって分解され、空気中に煌めくダイヤモンドダストと化して吹き飛ばされる。
『これを用いて互角か。いや、俺がこれを用いれば互角に戦える程度であるなら、殺す手はある』
「ハーッハッハ! 面白い道具を使うじゃあないか! ええ? ならば小手調べはここまでだ!」
炎が、氷が、風が、岩が、光が闇があらゆる万物がイデアールの背後で殺意を帯びた凶器へと化して眼下の獲物を睥睨する。
それを見上げるレオンもまた、イデアールの圧倒的な物量に対抗するべく杖を掲げ、死せる悪神の力を引き出してゆく。
天と地と、ふたつの境界で膨大な魔力が激突し生じた衝撃波が、一帯の空を薙ぎ払う。
フォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォン
フォンフォンフォンフォンフォンフォンフォンフォォォォ
――背後からの衝撃波をもろに浴び、トライポッドはつんのめるように転びかけるのを重力制御でどうにか踏みとどまった。
ちょうどその姿勢は、倉庫の上から戦場を覗き込むような形となる。ビーム砲の照準用に取り付けられた三つ目のサーチライトが地上を走れば、戦いを止め呆然とそれを見上げるフルフェイスヘルメットの警察官と仮面の人民服たち。
「どうやら李本人は居らぬようだな。サクラとどこかで戦っておるのであろう」
残念、と肩――があるのかはさておき、触手を竦め頭を少し傾げる宇宙人にビードットは申し訳無さそうにそう告げた。
ヴィラン。常識外の異能や身体能力を発現し、猟兵でもオブリビオンでもないのにユーベルコードを使える人種。
それを調査したかったという宇宙人だが、今日のところは李の手下でいいと妥協するようだった。
警官隊の持つ射出機や彼らの足元に転がる見慣れぬ形状の缶を見るに、手下もまた催涙ガスか何かが漂う中で重装備の警官と無手で互角にやり合う程度の力量はあるらしい。やはり常人ではあるまい。
「李一党には早々に退場してもらおう。隣人殿、これらは生きて返して貰えればそれでよい」
具体的にはどこまで赦されるのかと触手を使ってボディランゲージする宇宙人にビードットは仔細な条件を詰めてゆく。
「うむ。金属チップの埋め込みは良いであろう。うむ、隣人殿たちとの邂逅の記憶の抹消も良いであろう。うむ……うむ? いや、改造は遠慮してもらおう。それ以外であれば存分に」
残念、とまたも触手を竦めた宇宙人はトライポッドを戦場の真ん中まで進め、アブダクションを開始する。
フォンフォン言いながらビームで李一党を吸い上げてゆくトライポッド。
逃げる人民服の仮面の男たち。
突然乱入したUFOと李一党、どちらと戦うべきか困惑する機動隊。
その機動隊員を間違えて吸い込むトライポッド。
それは拐ってはいけない方の地球人だと制止するビードット。
フォンフォン言いながらビームの向きを逆に切り替え地上に降ろされる機動隊員。
フォンフォンが止む頃、地上には機動隊員たちだけが残されていた。
「案ずるな、警官たちよ。李一党は暫くしたら警察署にでも送り届けよう。さすれば牢屋にでも放り込むとよい」
外部スピーカーで伝えられたビードットの言葉に、警官たちは胡乱な返事しか返せない。
かくして彼ら(の正気が疑われそうな戦闘の一部始終)は滅んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アイ・リスパー
「レオン・リーブス、あなたがヒーローだったなら、その問答に答えたでしょう。
ですがオブリビオンとなったあなたと交わす言葉はありません!
オブリビオンは滅するのみ!」
【ビルドロボット】でオベイロンを纏い言い放ちます。
ロケットランチャーと荷電粒子砲を受けてください!
「くっ、素早いですね……
なら!」
上空に待機させておいた小型宇宙戦艦を呼び寄せ
【夏の夜の夢】で合体します。
そして上空に滞空しながら【超伝導リニアカタパルト】のリニアレールを展開。
【マックスウェルの悪魔】で砲身を絶対零度に冷やし超伝導状態にして
マスドライバーで敵に向かって質量弾体を撃ち出します!
「あなたにライオットアーマーは傷付けさせません!」
●
上空で繰り広げられる壮絶な魔導砲撃戦の余波を機動戦車オベイロンの装甲越しに感じながら、アイは夜空を彩る戦いの光を見上げていた。
レオン・リーブスという男の執念は凄まじい。
度重なる猟兵との連戦で手傷を負い、相手の独壇場である魔導戦においても唯一つのアーティファクトだけを頼みに互角に渡り合う。
どれだけアイが演算をやり直しても、いま現実に目の前で繰り広げられている激しい戦いは"ありえない"のだ。
常人が、オブリビオンとなったとはいえただの人間の範疇で修練を重ねただけに過ぎないヴィジランテが、格上であろう猟兵を相手に互角に戦う。
それだけではない。あまつさえその中で狙撃の機を伺うアイにさえ警戒の視線を飛ばして見せるのだ。
もはやこれはヒトではない。ましてヒーローですらないだろう。
ヴィランを殺す、そしてその障害となるものを殺す。正義という言葉の為に正義を捨てさり、その執念だけで道理を覆すもの。
「あなたがヒーローだったなら、私の理解と演算の及ぶ相手だったなら、あなたと問答もできたでしょう」
けれど、もはや猟兵とは別の意味で常識の埒外の存在へと成り果てた彼にアイの言葉は届くまい。
「――ですからオブリビオンとなったあなたと交わす言葉はありません。ただ滅するのみ!」
本当ならばここ一番、必中必殺のタイミングで撃ちたかったがそうも言ってはいられまい。オベイロンの操縦桿を握りしめ、トリガーを引くアイの指。
その指令に従い、雌伏していた人型戦車が主砲たる荷電粒子砲を放つ。
地から天へ、駆け昇る一筋の流星のごとき荷電粒子の砲撃。そしてそれに追随し、扇が開くように等間隔にばら撒かれたロケット弾。
爆発とプラズマの天蓋が、レオンを空から叩き落とす――筈だった。
だが荷電粒子砲の砲身に巻き付くワイヤーが、そしてそれが勢いよく巻き取られてゆきピンと張り詰める様が、レオンがその砲撃を紙一重で回避してみせたことを如実に示す。
そのワイヤーを辿るように視線を向ければ、爆発を目くらましに魔女から身を隠し、ワイヤーを引き戻す力で地表を滑りながらオベイロンに肉薄する男の姿。
咄嗟にロケットランチャーの残弾を撃ち尽くし、その上でアームで殴りつけ迎撃を試みるアイだが、ロケットは至近距離では照準を十分に付けること叶わず爆風でレオンのコートをはためかせるに留まり、拳は軽やかに跳ぶ男に踏みつけられてしまう。
「くっ、素早いですね……!」
『お前も俺の邪魔をするか』
がきん、とアームの関節に突き立てられるレオンの杖。オベイロンの出力で強引に曲げられた関節は挟まった杖を砕き折るが、その破片を噛んで稼働率が低下したのか片腕がレッドアラートを発するのをアイは苦々しく確認し、鳴り響く警告音を落として無事なもう片腕で機体に張り付くレオンを振り払う。
「オベイロンの機動力ではこの距離での対人戦は難しいですね……なら!」
荷電粒子砲の一撃で夜空に浮かぶ雲に空いた穴。そこから一隻の宇宙戦艦が降下してくる。
アイが呼んだ、オベイロンの対たる切り札、ティターニアだ。
『なっ
…………!』
UFOの次は宇宙戦艦。ヒーローズアースにおいても滅多に起こりうるものではない邂逅に僅かにレオンが狼狽えたその隙に、損傷した腕をパージして飛翔したオベイロンがそれと合体する。
通常、このクラスの兵器同士の合体は大きな隙となるだろう。
そして独特の美学を持つヴィランならともかく、合理的に効率的に敵を排除するレオンにとってその隙は見逃すまでもない最大の好機。
だが、その隙を晒してまで堂々と合体変形を為せる理由がある。それは規模の違いだ。一人の人間に過ぎないレオンがこれを阻止してダメージを与えるには、よほどの高威力の攻撃を放たねばならないだろう。が、それを為しうるアーティファクトは今しがた砕け散ったばかり。
そうして手も足も出ない状態で合体を見届けるしかなかったレオンは、自らを狙う巨大な砲に気づき、その狙撃を回避するべく走り出す。
『――お前も同類か!』
吐き捨てるようなセリフは、一帯を丸ごと吹き飛ばすような艦砲射撃でレオンを討ち滅ぼそうとするアイへの悪態であろう。
悪人を殺すために犠牲を許容する己と、オブリビオンを殺すために破壊を許容するアイ。
そこに何の違いがあろうかという呪いの言葉。
「いいえ、違います。私はあなたを殺すためじゃなく、ライオットアーマー……サクラさんを守るために撃つんですから! リニアカタパルト展開、超電導磁石冷却確認。質量弾体を射出します!」
天から落とされた巨大な質量は、地を砕き瓦礫を撒き散らす暴風を着弾点周辺に吹き荒れさせる。
だが、アイはレオンが考える以上にその威力を制御していた。
万にひとつもサクラ・ライオットや警官隊の居るであろうエリアに瓦礫が飛散しないように、その演算能力でもって正確に調整された出力や射角は、極めて極小の範囲でのみ必殺の破壊を引き起こしたのだ。
「照準地点に着弾、誤差はコンマ08以下……戦果確認は地上の猟兵に任せましょう」
天に座する巨大な人型戦艦は砲を収め、何処かで戦うサクラ・ライオットの勇姿を見るため埠頭全体にセンサーを奔らせ走査を開始するのだった。
成功
🔵🔵🔴
『呵呵呵、日本警察のヒーロー、ちょーと舐めてたネ』
片腕を押さえ、くらりと傾ぐ身体を気力でなんとか立たせる李。
リボルバーの弾丸を撃ち尽くさせることは出来たが、そのすべてを拳で打ち払うことは叶わず。非殺傷とは言え対ヴィラン用の弾丸をいくらか受けてなお立っていられるのは、スペクターなどとは"功夫"が違うということか。
尤も、影に潜み複数人で取り囲み暗器で密かに急所を突くスペクターと、正面からの打撃の応酬で敵を捻じ伏せる李ではバトルスタイルが違うということも考慮せねばなるまいが。
そしてそんな李の前では、砕けた盾を取り落し、もはや高圧電流はおろか静電気すらも流れぬ電磁警棒の成れの果てを杖のように使って李同様気力で立つサクラ・ライオットの姿。
割れたヘルメット越しに覗く桜羅の右目がじっと李を睨み、李もまた笑みを貼り付けたような糸目から鋭い視線を桜羅へ向ける。
どちらも次の一撃が最後。これを決めたほうが勝者となる。
互いにそれを感覚で理解し、それ故に確実に勝利の一手を刻むべく虎視眈々とその時を待つ。
満身創痍の二人も、いざその瞬間が訪れれば獅子のように虎のように獰猛に相手を制圧するべく激突するのであろう。
「私はともかく機動隊は舐めないほうがいい。警部のことだ、今頃お前の部下は全員逮捕された頃だろう」
実戦経験が違うからな、と五島への信頼を語る桜羅は、ふともう一つの戦い――李を殺させず、またその逮捕の邪魔をさせぬよう謎の乱入者の足止めに残った猟兵たちを思い出す。
果たして彼らは無事だろうか。そう意識を向けたその時、彼らが戦っていた辺りで生じた二度の激しい衝撃が大地を揺るがした。
「っ!?」
『你没有防范!!』(油断したな!!)
ちょうど猟兵のことを考えた所に尋常ではない地震。思わず李から視線を外してしまったその一瞬を彼女は見逃さない。
僅か一瞬の間に懐に飛び込んだ女は、たとえ戦車の正面装甲であろうとも貫き内部に衝撃を伝播させる気功を帯びた掌底を桜羅の頭部目掛けて放つ。
その掌が直撃するまでのほんの刹那、桜羅は――
アンナ・フランツウェイ
【PPP開発室】
(【呪詛天使・再臨】で怨念が表に出た状態。怨念はアンナと違い、正義自体は否定しません。)
来たわね、薄汚い正義気取りが。私も正義は嫌いだけど、少なくとも…サクラの掲げる正義の方が遥かにマシよ。
私は開発局の皆の前に出て前衛を担当。
大鎌で振るい【なぎ払い】【部位破壊】と、終焉剣で【傷口をえぐる】【生命力吸収】を混ぜた斬撃を交えて攻撃、切り刻んで行くわ。
狂気にも似た信念、我が憎悪を以て打ち砕く!
切り刻みながら私は叫ぶ。その叫びは何故かアンナの慟哭も混じって聞こえるような…。
「何故よ…!その正義を掲げるのなら、何故あの日私の妹分を、あの日の
私(アンナ)を助けてくれなかった!答えなさい!」
フィーナ・ステラガーデン
【PPP開発室にて参加】
ふん!別にこっちは殺さず捕まえるとかおめでたいこと考えて無いわ!
ただあんたが邪魔なのよ!
っていうかあんたオブリビオンじゃない!
行く場所は牢屋じゃないわ!骸の海よ!!
そうねえ。属性攻撃とかで支援に徹するわ!
今回は戦う前に色々あったし
仲間にUCを使って良い所は譲りたいわね!
こういうのは本人で答えを見つけるべきよねえ。
(フィーナは噛ませ役、引き立て役を希望
もしくはフィーナは目立たない)
(アレンジアドリブ大歓迎!)
●
『まだだ……まだ俺は』
艦砲射撃で埠頭に穿たれたクレーターから這い出し、全身に赤黒い血を滲ませた男は呟く。
肌が裂かれ血が滲もうと、肉が抉られ身体を動かすことすらままならずとも、骨が砕けただそこに在ることすら地獄の責め苦を帯びようとも。
『まだ俺は、正義を為していない……!』
悪を殺し、殺し、殺して殺して殺し尽くし、二度と悪たらんとする者が生まれぬ世界。
善良な人々がほんの僅かにも怯えることなく、理不尽な悪の手に掛かり失われることもない世界。
生前から願ってやまない、本当の秩序を。それを掴むために人生を捧げ、それを今度こそ為すために過去から蘇った男の前に、一人の少女が立ち塞がる。
「来たわね、薄汚い正義気取りが」
開口一番で男を否定する少女は、大鎌をぶんと振るってここは通さぬと雄弁に語る。
『正義気取り……正義気取り、か。今の世のお前たちにはそう見えるのか』
平和になったものだと嘲るように吐き捨てる男は、両の袖口から飛び出した刃を身体の前でクロスさせるように構えて少女と相対した。
殺してでも押し通る。殺してでもここは通さぬ。両者の意見は決して交わらず、故に決着は刃でもってのみ決まりうる。
そんな二人をやや離れたところ、倉庫の外壁に寄りかかって見守る魔女はそっと少女の鎌へと己の魔力を飛ばし、刃に炎を纏わせる。
「別にこっちは殺さず捕まえようなんておめでたいことは考えてないわ」
そもそも相手は生きた犯罪者ではなく、そこに在るだけで世界をじわじわと破滅へ歩ませるオブリビオンである。その上にこの男の執念は逮捕などという生ぬるい決着を望めばたちまちに呑まれ殺されてしまうほどに凄まじい。
故に魔女は告げるのだ。これから彼を送るのは牢屋などではない、骸の海だと。
『退かないならば死ね』
先手を切ったのは男。全身に大怪我を負っているとは思えない鋭い連撃は、炎を纏った大鎌を回し捻ってそれを防ぐ少女をじりじりと追い立てる。
「アンタなんかに道を譲るくらいなら死んだほうがマシね……!」
それを堅実に弾き返し、そうして一瞬の好機に男を押し返した少女の鎌が男を斬りつける。燃える刃が肉を引き裂き傷口を焦がせば、只人であれば絶叫し気絶、あるいは即死しかねないほどの痛みが男を襲う。
だというのに男は声の一つも漏らさず、顔色ひとつ変えず、その斬撃を放った鎌をさらなる連撃でかち上げ弾き飛ばす。
「私達は正義が嫌い。だけど少なくともアイツの……サクラの掲げる正義のほうがアンタより遥かにマシよ!」
鎌を飛ばされた少女が更に迫る追撃の刃から逃れるべく身を捻る。一撃、二撃、躱すたびに洗練され少女の動きを読むように鋭さを増す斬撃。それを食い止めるように放たれたのは、魔女の唱えた火炎魔法だ。
「一旦仕切り直しなさい! 武器、まだ持ってるでしょ!」
己は今回、引き立て役に徹しよう。自分以上に"正義"へのわだかまりを持つ少女を見てそう決めた魔女は、援護射撃とともに少女が抜き放つ黒塗りの剣へと再び炎を纏わせた。
精神力だけで炎が与える痛み、苦しみを噛み殺した男へこれがどれほどの意味を持つかはわからないが、やらないよりはずっとマシだと魔女は己の魔導と少女の実力を信じる。
あいつを倒して、納得できる答え……それか落とし所を見つけられるといいけど。
魔女が見る少女の背中、黒い翼を背負うその背中は、怒りと苦しみと、そして悲しみが張り付いているようで。
「アンタの狂気、我が憎悪を以て打ち砕く!」
攻防が逆転する。少女の振るう黒剣は、男の二刀をもってしても防ぐのが手一杯であった。
腕力ではない。技量でもない。速度ですらない。ただ、その刃に炎とともに纏わりつく数多の憎悪が、何故という悲しみに満ちた呪いが男を圧倒せしめるのだ。
その怨念は、かつて男の正義がために死んでいった者たちの魂だ。冷徹な正義の遂行者によって、一切の酌量なく等しく死を以て断罪された者たち。
彼らの"何故"に、男は二刀を振るいそれを防ぎながら応える。
『何故、だと? それが正義だからだ。悪を前に見て見ぬ振りをした。眼前の悪を通報せず野放しにすることを許した。個人の情で悪人を庇った。悪に手を貸したも同然のお前たちも悪だからだ』
どんな小さな悪であれ、いずれ巡り巡って大きな悪へと繋がるのならば。それを摘むことこそ正義だと男は言う。
その言葉に、少女は激昂した。
「何故よ!」
ぎん、と刃同士が激突し、火花を散らす鍔迫り合いの中で少女は問う。
「そんな正義を掲げるなら、何故あの日私の妹分を――」
少女の表情が怒りに満ち、いや悲しみに満ち――一人がふたりにブレるような不思議な感覚の中で、少女は叫ぶ。
「あの日の私を、何故助けてくれなかった! 答えなさい!!」
信じていた両親に裏切られて売られた。
狂った研究にその身を供され、二度ともとの生活を送れない身体にされた。
憎悪と嫌悪に満ちた怨念をその身に押し込まれ、故に彼女は彼女たちにされた。
すべて、全部、正義のためだと言っていた。そんな邪悪な正義があったというのに、なぜこの男はそれより些細な悪を狩って正義だなどと嘯くのか。
悪を殺して悦に浸る正義より、青臭く多くを取りこぼしてでも助けを求める声に応える正義の方がまだずっとマシではないのか。
――言っても仕方のないことだとわかっている。
彼と彼女は生きた時代が違う。生まれた世界が違う。分かってはいるが、それでも。
『…………すまん』
それは男の胸に、ほんの僅かにでも残っていたのだろうヒーローの矜持の最後のひと欠片。
正義のために邪道に墜ちた男も、初めからそうだったわけではないのだ。彼にも最初は救いたい誰かがいて、守りたい何かがあったのだ。
その想いを再び燃やすように、男の胸を貫く処刑剣が魔女の力で炎を纏う。
「なんでアンタが謝るのよ……! だから正義なんて大嫌い! 出来もしないことを、やろうともしなかったことを、後からさも真剣なふうに後悔して、詫びて……それで赦されるわけ無いでしょ!」
だろうな、と声ならぬ声を唇から紡ぎ、男はふらりと少女の脇を抜け、魔女の傍らを通り過ぎ夜の埠頭へと消えてゆく。
感情を爆発させ涙を流す少女も。少女を労るようにその傍らへと歩み寄る魔女も、致命傷を負った男を追うことはない。
「答えは見つかったかしら? すっきりした?」
「…………するわけ無いでしょ、ばか……」
年長者らしく少女を優しく慰める魔女と、敵を打ち倒してなお胸にわだかまる物を抱えた少女。
二人の声をかき消すように、埠頭に打ち寄せる波が騒がしい音を立てていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
バーン・マーディ
…下らぬ…実に下らぬ問いだ
我はヴィラン…悪なり
正義とやらの殺戮を止めるのも我が役目
愚か者は死んでも治らぬというが貴様はその典型だろう
死して尚その…「正義」を抱えるか(面識はあったのかも
言うべき言葉は二つだ
貴様の行為は「悪」である
如何に正義・覚悟という耳障りの良い言葉で並べようとその事実は変わらん
そして…殺すならば殺される覚悟も当然出来ているな?
【オーラ防御】展開
【武器受け】で可能な限りダメージ軽減
(但しヴィランを名乗った以上確実に狙われる事は覚悟
ユベコ発動
【カウンター・怪力・二回攻撃・生命力吸収・吸血】で反撃!
【戦闘知識】で常に動きを把握して攻撃の意図や相手の仕掛けについても可能な限り把握
アシェラ・ヘリオース
「悪いがここは通行止めだ。今のお前の在り方こそが、お前の憎むヴィランそのもだと知れ」
左手のフォースの輝きと共に黒のスペーススーツ姿に【早着替え】する。
かっては悪の帝国の指揮官等もやっていたのでヴィラン認定を受けて異論は無い。
だが、かって高潔であった筈の男の過去のためにも、今目の前にいる残骸は骸の海に還さねばならない。
・戦術方針
下手に力で圧倒する動きは逆効果、やるなら一撃だ。
黒刀を風車手裏剣に変形。高速で回転させ【念動力】【オーラ防御】【戦闘知識】【時間稼ぎ】で防御に徹する。
その間に両掌の間でフォースを超圧縮しつつ時を待つ。
隙があれば【衝撃波】として圧縮した力を解き放とう。
【アドリブ連携歓迎】
●
「ようやく来たか。随分と遅かったな」
満身創痍、生きていることすら不思議なほどのダメージを受けてフラフラと現れた男の前に二人の人間が立つ。
両者ともに黒衣を身に纏う、女は元・悪逆の銀河帝国将校アシェラ・ヘリオース。
そして双眸を伏せ、沈黙を守る男は元・神聖騎士にして暗黒騎士バーン・マーディ。
『何処かの甘い正義気取りが邪魔をしてくれたんでな……』
一言発するごとに血を吐き出しながら言い返す男は、かつて"ヴィジランテ"と呼ばれたレオン・リーブス。
誰もがかつて己の正義を信じ、そして己の正義が歪み間違っていたことを知る者たちだ。
「そうか。続けざまで悪いがここは通行止めだ。今のお前の在り方こそ、自身の憎むヴィランそのものと知れ」
闇のフォースの力を身にまとい、アシェラはレオンへと告げる。けれどその瞳に、ヴィランへの軽蔑はない。
彼女が見るのは、オブリビオンとなり拡大したエゴに呑まれた残滓ではなく、その男を通じて見るかつて真剣に正義を志した高潔だったはずの男の姿だ。
「…………久しいな、レオン。愚か者は死んでも治らぬと言うが、貴様がその典型だったとはな」
そして沈黙を守っていたバーンも口を開く。もしレオンが完全に狂気に呑まれ殺戮しか選べぬただのオブリビオンと化して居たならば、言葉を交わすこともなく一撃のもとに介錯しようとその在り方を見定めていたバーンは、ほんの僅かかもしれないが男の中にかつて肩を並べたヒーローの面影を感じ取ったのだ。
「死して尚その……「正義」を抱えるか」
若き神聖騎士バーンと、"ヴィジランテ"レオン。在りし日の二人は、ともにヴィランと戦うものとして人々の前に立ち、襲い来る脅威と戦った戦友だった。
いや、向こうがバーンをどう認識していたかは定かではない。多くの脅威が連日のように迫る中、二、三度他のヒーロー連中とともに同じ地区を守った、その程度の間柄。
であっても、その在り方は鮮烈だった。悪を赦さず、悪に与するものを赦さず、容赦も慈悲もない苛烈なレオンの戦いは、いつしかヴィランに対する過剰な弾圧へ反感を覚え離反したバーンの脳裏に楔のように刻みつけられていたのだ。
あれは、彼こそは我が絶望した「正義」の体現者。であれば蘇り再びその「正義」を成そうとするそれこそ、バーンにとって――
「貴様に言うべき言葉は二つだ。貴様の行為は「悪」である。如何に正義や覚悟などと耳障りのいい言葉を並べ立て飾ろうともその事実は変わらん」
そして――
瞑目するバーンの瞼が開かれる。真っ直ぐにかつての友、そして決して理解し合えぬ不倶戴天の敵を見据える彼は宣言する。
「殺すならば、殺される覚悟も当然できているな?」
『……殺されずとも死にゆく身体だがな。ああ、お前たちも俺の"正義"を邪魔すると言うならば殺すとも』
コートの裾から折りたたみ式の剣を抜き、じゃきんと金属の擦れる音とともに刀身の長い刃を展開してレオンは応じる。
「私は銀河帝国近衛騎士、アシェラ・ヘリオース」
「……暗黒騎士バーン・マーディ。我ら「ヴィラン」たる者が貴様に引導を渡そう」
『そうか、俺の最後の相手はヴィランか。――ありがたい』
二人の名乗りに微かに頬を歪め、レオンは駆け出し傷だらけの身体でバーンの首筋目掛け剣閃を奔らせる。
常人ならば一撃で首を落とされたであろう斬撃。しかしそこへアシェラが割り込み、剣を変形させた巨大な手裏剣を盾代わりに斬撃を受け止める。
「――やらせはせん!」
『いいや、殺るッ!』
ぎゃり、と押し込まれる刃。単純な力であればアシェラは僅かに及ばないだろう。だがそれを巻き込むように高速で回転する手裏剣が刃を絡め取り、折り砕く。
「まずは武器一つッ!」
どれだけの武器を隠し持ち、どれだけの罠を張り巡らせていようと一つ一つ潰し、反撃の時を待つ。
守勢のアシェラは堅固だが、しかしレオンという男の戦歴を知らぬ彼女にとって、受け身は相応の危険も孕む。
「――むっ、退け!」
自らを庇うため割って入った女騎士を更に押し退け庇うバーン。その鎧を、その肌を、砕けたはずの刃が蛇のように這い回り切り刻む。
蛇腹剣の亜種なのだろう。複数のワイヤーで繋がれた刃は、柄を繰るレオンの指先一つでまさに蛇の如く鎌首をもたげ太い血管の走る腿や首といった急所へと噛み付こうとする。
「うぉぉ……ッ!」
それをバーンは素手で握り、掌が裂けるのも構わず怪力で引っぱりレオンごと地面に叩きつける。
『ぐっ……まだだ』
剣を手放し、地面を転がり二人の追撃を躱して立ち上がるレオンの手には短機関銃。
ぱぱぱ、と軽快な銃声とともに放たれた弾丸をアシェラは盾で、バーンは身体を覆う漆黒の粘液で受け止め無効化する。その一瞬の防御の隙を狙い大跳躍したレオンが、頭上から複数の投げナイフを投擲すると、バーンの粘液とアシェラのフォースオーラがそれを空中で受け止め叩き落とす。
「手傷を負ったから、だけではない。目が曇ったせいか鈍ったな、レオンよ」
「一人で戦う者の限界だな。連戦の疲弊、そして過ちを指摘するものの不在。戦う前からお前の負けは決まっていたんだ」
二人に告げられ、レオンは静かに頷く。
「だろうな。そうかもしれん。だが俺は、俺の生涯を間違っていたなどと言うつもりはない。俺の正義は正しい。それを否定するならば
…………」
瞬時に距離を詰め、最後に残った投げナイフの一つをアシェラに突き立てるレオン。
だが、その刃はアシェラの胸ではなくその両掌の間に幾重にも圧縮されたフォースの狭間へと突き刺さり、そして敢え無く粉々に砕け散る。
「加減はなしだ。誇りを抱いて骸の海へ還れ」
零距離、密着した状態でフォースが爆ぜる。弾き飛ばされたレオンは埠頭に積み上げられたコンテナに激突し、ずるずると座り込むようにくずおれた。
その前に立つバーンは、今度こそ死んでもおかしくはないほどにダメージを負ったレオンを見下ろし、そしてその息があることに微かに片眉を上げる。
『俺は……俺の正義は、間違ってなど……』
「かも知れぬな。ならば正義とやらの殺戮を止めるのも我が役目、我はヴィラン……悪、なれば」
『そうか…………マーディ、お前が……何を見たかは知らん。……だが、お前がそうやって生きるなら……俺のように、貫いてみせろ
…………』
それはかつてともに戦った者へのエールなのか、それとも第ニ第三の己を生み出す呪いなのか。
その言葉に応えること無く、振り下ろされた刃は正義に執着し、正義を為し、正義のために外道へと墜ちた男に今度こそトドメを差したのだった。
●
「――かくて李一党は首謀者の逮捕によって壊滅。構成員は……えっ何、UFOに攫われた? 後日警察署に送り届けられる? 誰だよこんな報告書書いたやつ、俺が怒られるんだが?」
埠頭での戦いから一夜明けて。警察署の一室、機動隊に与えられたその部屋で自身の机に向かう五島は一人ごちる。
李とサクラ・ライオットの戦いは、サクラ・ライオットの勝利に終わった。
そのまま戦っていれば危ないところだった。事実、李にボッコボコに壊されたライオットアーマーは整備スタッフが金切り声を上げて失神するほどの状態だったという。
そこを切り抜けたのは、
「やっぱヒーローってのは何か素質があんのかねぇ」
予備バッテリー――かっこよく言い直せば隠し機能というやつなのだろう。正義感だとか闘志だとか、いわゆる"熱血"的なものをどういう理屈か電力へと転換するシステム。
不安定にも程があるため、量産の際は真っ先にオミットされることが確定し、また機能自体も止められていたはずのそれが李との戦いの中突如覚醒――というと聞こえはいいが、停止のために取り付けられたリミッターが李の打撃で破損したため復旧したおかげで、土壇場ギリギリサクラ・ライオットの出力が向上、電磁警棒も復旧し李を打倒できたということらしい。
その一方で、猟兵とオブリビオン――聞けばアメリカでは伝説とさえ言われる最初のヴィジランテ、レオン・リーブスが蘇り襲ってきたらしい――との戦いは猟兵勝利で終わった。
「ウチのヒーローには傷一つなし。その他死傷者もなし。奴さんの手管を知り尽くしたヴィランが猟兵に居たおかげで残された罠もだいたい回収済み。は、いいんだが……」
ド派手にやりあってくれたおかげで埠頭の地形はちょっと変わるわ搬入されていた物資に損害が出るわ。
警察の責任を問われる前に早々に"猟兵との共同作戦"を打ち出して良かったと五島は心底安堵に胸をなでおろした。
猟兵がやったことなら仕方がない、オブリビオンから世界を守るためだ。そういう理屈で損害は諸々の支援団体が賄ってくれる。
便利なるかな猟兵。自分も猟兵ならこんな板挟み中間管理職を辞められるのだろうか。無理だろう。でも、夢見るだけなら自由なはずだ。
万事恙なく円満に――とは行かないのが世の常だが、それでも最良に近い結末で事件は解決した。
いつの間にか書き慣れてしまった堅苦しい文体で報告書を締めくくり、ペンを置いた五島が椅子の上でぐぐっと背伸びすれば、騒がしい足音が廊下を――
「警部、またヴィランが事件を! 猟兵の皆さんにも帰る前に協力を願いました、私達も出動を!」
「はいよ、サクラお前さあ、俺が出動命令出す前にアーマー着てくんのやめない? 見てるだけで暑苦しいわソレ」
サクラ・ライオットを先頭に、今日も機動隊はヴィランの脅威から市民を守る。
だが、今日からは街を守るのは彼らだけではない。彼らと共に戦い、縁を結んだ猟兵たちもまた、ヒーローだけでは力及ばぬとき駆けつけるだろう。
「警察だ! 武器を捨て直ちに投降しろ! 抵抗する場合は――」
夏空の下、サクラ・ライオットの声が響き渡る。
正義の下完全な秩序が訪れる。ある"ヒーロー"が願ったそんな日は、今しばらく来ることはないはずだ。
けれど、不完全な平和でも、それを守るために命と誇りを懸ける人々がいる限りきっと――
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
最終結果:成功
完成日:2019年07月26日
宿敵
『ザ・ファースト・ヴィジランテ』
を撃破!
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