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クッションのおかげで助けるべきアリスを見失った件

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●飛びこんだ先は、クッションでした
「はっ、はぁ……! はっ……!」
 懸命に走る少女『リラ』は、息苦しくなる胸を押さえた。
 甘い匂いのするチョコやクッキーの森から、もうどれほど走ってきただろうか。
 怪しいバニーガールに見つかり、謎の首無しフラミンゴに追われ、逃げ惑ううちにいつしか辺りは木々も見えぬ平原地帯だった。
「私いまどこにいるの……? あっちはまだ私を追ってきてるの……?」
 不安に駆られて後ろを振り返るリラ。森では入り組んだ地形を利用して、いくらか追手との距離を離せていたから、いくらかは余裕があると思っていた。
 が、遠くにうっすら、駆けてくる大群が見える。
 フラミンゴのピンク色が、大挙して向かってきているのが見える。
「う、嘘……! もうこんな近くに……どうしよう、どうしよう……!」
 捕まっては終わりだ、と前を向いて駆けだすリラ。
 だが今は、地平線すら見える平原にいる。身を隠せるような場所も見当たらない。ただ走るだけではいずれ、首無しフラミンゴたちに追いつかれてしまう。
「何か、何か……あっ!!」
 リラがあるものに気づき、足を止めた。
 少し横へそれたところに、切り立った崖のようになっている場所があった。その下に何かありはしないか、とリラはそーっと縁から直下を覗きこむ。
 その下には海がひろがっていた。
 だがここはアリスラビリンス。海と言っても、そこを満たすのは水ではない。
「……クッション?」
 見渡す限りの空間にひろがるのは、クッションだった。
 四角かったり丸かったり長かったり、赤かったり青かったり白かったり、形状もさまざまなふかふかクッションがぎっしりと敷き詰められていた。
 深さがどれほどあるかわからない。
 けれどあれだけふかふかならば落ちても怪我はしないだろう。
「このままじゃ捕まっちゃうし……行くしかないよね!」
 意を決するや、リラの足は崖の縁から踏み出していた。
 ぼふんっ――と落ちた衝撃でクッションが花びらのように舞い上がる。
 そしてやっぱり結構深かったようで、リラの体は沈んだきりまったく見えなくなってしまった。

●あれアリスどこいった?
「新たに見つかった世界――『アリスラビリンス』での仕事をお前たちに頼みたい」
 グリモアベースに集まった猟兵たちにそう告げると、プルート・アイスマインドはグリモアの輝きを宙に投影した。空間が額のように切られ、別の世界の情景が浮かび上がる。
 見えたのは、眩しいほどの青空と、そよ風がひろがる大地。
 そして息を切らせて走る1人の少女だった。歳は十代半ばといったところだろう。長い金髪を振り乱して、後ろを気にしながら走りつづけている。
「アリスラビリンスについてはもう知っている者も多いだろう。人を喰らうオウガが跋扈し、異世界から召喚された人間が餌となる運命に抗っている。この少女もその1人だ」
 少女は異世界人――つまりはアリスラビリンスで言うところの『アリス』だという。
 様子を見るに、オウガに追われていることは明白だった。
 いくらか察したような目を猟兵たちが向けると、プルートはマスクの下で笑う。
「話が早くて助かる。お前たちに頼みたいのはこの少女の救出だ。今はなんとか奴らから逃げおおせているようだが、それも長くは続くまい。彼女を保護し、彼女を狙うオウガ――オブリビオンを骸の海に還してくれ」
 少女を助け、悪を討つ。
 実に単純で爽快な依頼である。
「ではすぐに転移させるぞ。アリスラビリンスは無数の『不思議の国』が連なる奇妙な世界だ。普通であれば想像もつかん状況に遭遇することもあるかもしれん。注意するようにな」
 プルートがグリモアを光らせ、猟兵の転送を開始する。
 己の体が薄まるような感覚を覚えながら、猟兵たちはこれより向かわんとするアリスラビリンスの情景を、逃げつづける少女の様子を見やった。
「あっ」
 プルートの間抜けな声。
 ――アリスが、なんか死ぬほど大量のクッションの中に飛びこんでった。
 そしてぱったりと姿が見えなくなった。
 盛大に見失った。
 もっとヤバげに言うなら救出対象が行方不明になった。
 転移しつつある猟兵たちは半眼でグリモア猟兵さんを見つめた。
 グリモア猟兵さんはぐっと無責任に親指を立てた。
「とりあえず! 見つけるところから始めよう!」

 ちくしょう! なんて幸先が悪いんだ!!


星垣えん
 新世界はなかなかにエグい世界のようですね。
 クッションでふっかふかの海がありやがるとは……!

 というわけで大量のクッションにまみれながらアリスを見つけたりなんやかんや戦ったりしましょう! というか2章と3章が戦闘フラグメントだから戦闘のが多めだ!
 でもクッションに埋もれてれば何かこうほのぼのすると思っている!

 1章では、クッションの海に飛びこんでアリス『リラ』を見つけて下さい。
 2章では、リラを捕まえに来た首無しフラミンゴの群れを撃破して下さい。
 3章では、なんか札束とか持ってる兎さんを撃破して下さい。

 救出対象であるアリス『リラ』はユーベルコード『アリスナイト・イマジネイション』を使えるので、うまく指示すれば2章の集団敵相手ならそれなりに戦うことができます。
 3章のボス戦ではさすがに戦力にならず、むしろ足手まといです。

 皆さんのプレイングお待ちしております!
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第1章 冒険 『クッションの海を越えて』

POW   :    片っ端からクッションを投げ飛ばして進みながら探す。

SPD   :    沈む前に踏み出しクッションの海を走り抜けて探す。

WIZ   :    クッションの動きから居場所を想定して飛び込んで探す。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マーロン・サンダーバード
POW

なんてこったい!ならば人海戦術といこうか
カモン!太陽おじさん!今日はメルヘンにいこうぜ

【迷彩】の知識や【物を隠す】テクを知ってる俺の目から
ただのクッションの揺れか、人の移動による動きか見分けて探し出すとするぜ

あと太陽おじさんと一緒に時々ジャンプしてクッションの上に出つつ
一緒に「太陽!」とポーズを取る
敵意のない証ってやつさ
あと普通に呼びかけてみるか
「おーい聴こえてるかー!?俺は太陽の使者サンダーバード!君を助けにきた超クールなスーパーヒーローだよー!」
返事してくれたらいいんだけど、彼女も必死だろうからな
俺の呼びかけすら敵の罠かと思うかもしれねえ

それでもめげないからこそヒーローだよな!太陽!


黒城・魅夜
……ここが新しい世界ですか。
微笑ましい光景の裏に悍ましい悪鬼どもが跋扈する……ここもやはり歪んでいるのですね。

私は本来、殺し、屠り、滅ぼすもの。救うことは得手ではないのですが、アリスさんを守らねばなりませんね。
とはいえ、このクッションの山に音は吸収され、足場は不安定。これは見た目以上に厄介です。
……何かふわふわして緊張感がそがれそうですし。

五感を共有する鮮血の胡蝶を舞わせてアリスさんを追跡指定。
併せて私自身も【第六感】を用い、さらに【見切り】を使ってクッションの動きを読んでアリスさんを探しましょう。
いざとなればクッションを【範囲攻撃】で【なぎ払って】しまったほうが見つけやすいかもしれません。


サラ・カトレット
大変!アリスさんがクッションの海に消えちゃいました!
早く見つけてあげなきゃ…でも
この中からどうやって探せばいいの?

【WIZ】
兎に角自分もクッションに飛び込んで捜索を

飛び込む際に隠れやすそうな場所を選んだ可能性があるかも
クッションが高く積まれている箇所や密集してる場所を中心に飛び込んでみます

声は届くのかしら?
「リラさん何処ですか?私は敵ではありません、居たら返事して下さい~」

【勇気の歌】(歌唱・優しさ)で励まし敵意が無い事を示しつつ声掛けを
(見切り)でクッションの動きにも注視を

にしてもこのクッション、フカフカで気持ちいいですね
ちょっと楽しくなってきちゃい…
駄目よサラ、遊んでいる場合じゃないわ!


仇死原・アンナ
ここが不思議の国…早くアリスを探し出さないと……
だけど…こんなにクッションだらけじゃあ面倒だね…

クッションを投げ飛ばしながら探す

他の同行者と共闘し[視力]で[情報収集]しながらアリスを捜索
[怪力、吹き飛ばし]でクッションを投げ捨てたり掻き分けながら進んでゆく

「面倒くさいなこのクッションの山…燃やそうか…」
[範囲攻撃]を用いて【ブレイズフレイム】を使用、アリスに燃え移らないようにクッションだけを地獄の炎で燃やしてゆこう

無事にアリスを確保できたら[優しく]介抱しようかな

さて…次はオウガとやらを退治しようか

アドリブ絡みOK


烏護・ハル
えっ?
悪い奴やっつければおしまいって言ったよね?
言ってたよね?

……埋もれてるじゃん!浮かんでこないし!
ってゆーか、溺れるんだ、あれ……。


えーっと、えーっと……気絶してなきゃどこかでもがいてるはず、だよね!

クッションがモゴモゴ動いてる箇所とか、不自然に形が崩れた箇所とかないかな……。あとは、大声で呼び掛けてみよう。
リラちゃん、大丈夫ー!?聞こえるー!?
聞こえたら返事してー!それか、体動かしてみてー!

アタリがついたら一気に飛び込んで助けにいこう。
……うぅ、恐い。高い、けど。
早くしなきゃだよね。
えーいっ!


もし飛び込んだ周辺で見つけたか、或いはそこにいなかったら、近くの仲間に教えるよ。
情報共有、大事。


コルチェ・ウーパニャン
ひょえー!!大変だーっ!あ、アリスさーん!!リラちゃーん!!
え、えーとえーとえーと、もぞもぞ動いてるところへ
狙いを定めて『ジャーンプ』!!
コルチェもどっぽーん!!…ぼっすーん?

リラちゃんを呼びながらクッションをえいえいって泳ぐよ!
コルチェの髪の毛、ぴかぴか光るんだぁ。
これを目印にしてもらえないかなあ!?
クッションで光が……光がとおらない!?
で、でも諦めるわけにいかないもんね!
皆で声をかけあって、見つかるまで探すの。
見つけたら『手をつないで』、
海を泳いで、やばやばのフラミンゴさんから距離をとるよ!

大丈夫、コルチェたちが来たからにはもう安心だからね…
やばやばのフラミンゴさんはコワいけど!!


春夏秋冬・ちよ
不思議の国、と言うのが気になっておばあちゃん、お仕事を受けようと思ったのだけど…
まぁ大変、猟兵と言うのはこういうお仕事なのね…
でも、人助けと言うのなら…おばあちゃん、頑張っちゃおうかしら

あらあら、本当に不思議な風景なのね…
後でゆっくり描きたい所だけれど…今は、助ける方が先よね
出来る事を考えると…この子かしら
風竜ちゃんを再現して"騎乗"、上から探させてもらいますね
見つからないなら、風のブレスで思い切りクッションを吹き飛ばすことも考えましょう
怪我させない様にだけ気を付けないと
もし見つけられたら、私と一緒に風竜ちゃんに乗ってしまうのもいいかもしれないわ

※協力・アドリブ歓迎



 柔らかな風が顔をなでてゆく。
 空を飛ぶ大きな竜の背に並び立つ烏護・ハルとサラ・カトレット、そしてコルチェ・ウーパニャンは瞑目してその風を感じていた。
「悪い奴やっつければおしまいって。そう言ってたよね? よね?」
「ええ。そういうお話だったと思います」
「コルチェもそう聞いたよ!」
「やっぱりそうだったよね」
 ハルがぱっと目を開いて眼下の光景を見やると、サラとコルチェも下を覗く。
 見渡す限りのクッションである。
 視界に収まる範囲だけでも何万個とあるだろうクッションである。
 ついでに言えばオウガに追われるアリスもそこにいるはずなのである。
 3人は顔を見合わせた。
「埋もれてるじゃん! 浮かんでこないし!」
「ど、どうしましょう!? どうやってリラさんを探したら!?」
「え、えーとえーとえーと……とりあえずコルチェもどっぽーんするね!!」
「コルチェちゃん!?」
「わ……私も行きます! あのクッションが集まってるところに隠れてるかも!」
「サラちゃんも!? 2人ともこの高さなんだから少しはためらってー!」
 2秒で決断したコルチェやサラが頭からクッションの海にダイブした。その美しい飛びこみを見送ったハルは、はるか直下から『ぼふん』という着水音を聞く。
 そしてクッションがもぞもぞ動き、そのもぞもぞが移動するのを確認する。
 とりあえず無事っぽいので胸をなでおろすハル。
「ってまだ安心できるわけじゃなかったね。どこかでリラちゃんがもがいてるかもしれないし、注意深く見ておかないと……」
「クッションの中で独りは心細いでしょうし、早く見つけてあげないとよね」
 竜の背から身を乗り出して海を観察するハルに、和装のケットシー――春夏秋冬・ちよがすすすっと近づいて微笑む。
 ついでに言っとくと、猟兵たちが乗ってる竜はちよが召喚したものである。探索するなら上からがいいでしょう、ということでさらっと竜を出すさまは只者ではなかった。
「不思議の国、と言うのが気になって来たのだけれど……猟兵と言うのは大変なお仕事なのね。おばあちゃん、風竜ちゃんを召喚できてよかったわ」
「あ、それはほんとに助かったよ」
「ふふ、どういたしまして。それじゃ人助けも頑張りましょうか」
「そうだね!」
 ちよに威勢よく頷いたハルが、再び竜の背から身を乗り出す。
 どこかに不自然なところが、リラの所在を示すものがあるはず……と目を皿にしてクッションの海面を見つめた。するとぐらり、と揺れた個所を見つける。
「あそこかな……よし」
 立ち上がり、いざ飛び降りんと足に力を溜めるハル。
 そしてその体勢は5秒ほどキープされた。
「……うぅ、恐い。高い、けど。早くしなきゃだよね……えーいっ!」
 意を決し、狐耳をぴこっと立てたハルが海に飛びこんだ。重力に引かれた体はぐんぐんと落下、しかし百個以上は重なっているだろうクッションは優しく彼女の体を受け止める。
 が、沈みこんだハルの目にはリラの姿は映らなかった。
「ここじゃなかったかぁ……いやいや、でも一カ所潰せたってことで」
 リラはこっちでは見つからなかった、とハルは近場の仲間に伝えるべく声をあげた。

「なるほど。そっちの方向にはいないか」
 クッションの海を手探りで進んでいたマーロン・サンダーバードが、聞こえてきた声に顔を上げる。と言ってもどこを向いてもクッションなのでほぼ意味はない。
 ふかふかのクッションが満ち満ちる海中は、1m先すらもよく見通せなかった。前に進もうにもそのたびにクッションをどけねばならず、捜索は地味にきつい作業である。
 迷彩や隠匿の心得を活かしてリラの痕跡を探りつづけていたマーロン・サンダーバードは、近場でともに捜索をしていた猟兵に声をかける。
「へい! そっちにはいたか!?」
「いや……今のところは見つかってないよ……」
「こちらも同じく、です」
 返ってきたのは静かな女の声が2つ。
 仇死原・アンナと黒城・魅夜の2人である。何はともあれクッション海の中に入らねば始まらない、ということでアンナも魅夜ももふもふふかふか空間に身を投じていた。
 だが今のところリラの足跡はつかめていない。
 どれほどクッションの山を投げ飛ばし、薙ぎ払おうとも上からぼふぼふっと新たなクッションが落ちてくるドリーミングな状況に、そろそろ2人とも閉口してきた。
「このクッションの山、見た目以上に厄介ですね。音は吸収されますし、足場は不安定」
「そうだね……クッションだらけがここまで面倒だとは……」
「……何かふわふわして緊張感もそがれそうですし」
「……魅夜? 眠くなったりしてない?」
「だ、大丈夫です……」
 アンナの探るような声にぱっと目を見開く魅夜。
 寝てない。ふかふかで気持ちよかったけどさすがに寝てない。
 しかしあまり長居すればどうなるか知れない。クッションの海だもの。
 ということで魅夜は己の肌を切り、流れ出た血から無数の胡蝶を生み出した。魅夜と五感を共有する蝶だ。クッション海の中に放てば広範囲に捜索することができる。
「これでリラさんの位置がつかめればいいのですが……」
「この広さだからな……足だけで捜すのも限界があるかもしれねえ。よしそれなら!」
 ぽん、と手を叩いたマーロンが足元のクッションを蹴りつけて跳躍。一気に海面へと飛び出すと、ユーベルコードによって謎のおじさん『太陽おじさん』を召喚する。
 そして――。
「「太陽!」」
 と太陽っぽい合わせポーズを披露した。
 あまりにも太陽――魅夜は思わず胡乱げに目を細めていた。
「マーロンさん……何をしているのですか……?」
「なに。俺たちは敵じゃないってことをアピールしようと思ってな」
「逆に警戒して出てこないのでは……」
「ああ、彼女も必死だろうし俺の呼びかけすら敵の罠と思うかもしれねえ……」
「いえそういう意味では……」
 言いかけたけど、ガチトーンで案じるマーロンを見て言葉を飲みこむ魅夜。
 きっと話は通用しない。そんな気がしたのでおとなしく胡蝶たちを活用して捜索を再開し、マーロンも太陽おじさんとまた別方向へと潜ってゆく。
 一方でアンナはその場に留まり、ぼんやりと考え事をしていた。
「クッション……」
 目の前で絶壁のように立ち塞がるクッションを見ながら、考え事をしていた。
 投げ飛ばしても吹き飛ばしても立ちはだかりつづけるカラフルふかふかクッションが、もうそろそろ面倒くさかった。
「……燃やすか……」
 呟きと同時にアンナの腕がぼうっと地獄の炎をまとう。
 少し暖まりたいときにちょろっと出す、なんていう芸当もできちゃうアンナだが今回は違う。巨大なバーナーでも噴かしたような勢いで炎を放出し、瞬く間に周囲のクッションたちを飲みこんでゆく。
 もうね、火事まっしぐらの速度でしたよ。

 クッションの海がじわじわと火の海に変わろうとしていた頃。
 コルチェはばたばたと手足を動かし、ぎうぎうのクッションの中を泳いでいた。
「えいえいっ! リラちゃーん! どこー!?」
 リラに呼びかけながら結構な速さで前進してゆくコルチェ。どうあがいてもクッションなので水をかくような推進力は一切得られないのだが、それでも進んでいるのはコルチェさんスゲェの一言に尽きる。
「うー疲れるー! でも負けないよ! コルチェの髪の毛、ぴかぴか光るからね! すごく目立つからきっとリラちゃんからコルチェが見えて――」
 そこまで言って、はた、と泳ぎを止めるコルチェ。
 自身を包囲するクッションが、魔法光ファイバーの髪の光をしっかり照り返していた。
 透過している感がゼロだった。
「光がとおらない!?」
 わあああ、と動揺に陥るコルチェ。
 自分を目印にリラちゃんから来てくれる作戦、の失敗である。
 ――と思ったら次の瞬間、周りのクッションの隙間から細い腕が飛び出した。
「わーっ!?」
「リラさん! ……じゃなくてコルチェさんですか!」
「あっ、サラちゃん!」
 遭遇したのはサラだった。リラを捜してクッションの海を遊泳するうち、サラとコルチェは同じところにやってきたらしい。
「なかなか見つかりませんね……」
「そうだね……でもコルチェ、諦めないよ!」
「そ、そうですね!」
 互いの意志を確認するように、ぎゅっと手を取り合う2人。
 助けを求めるアリスが近くにいるのだ。その一念で、山と積みあがるクッションをかき分けて捜索を続ける。
 かき分けて。
 ずぼっと身を沈めて。
 柔らかい肌触りに頬ずりして。
 そこまでしたらもうサラの表情はゆるゆるだった。
「このクッション、フカフカで気持ちいいですよね。ちょっと楽しくなってきちゃい……はっ!」
 くわっ、と瞼をひらくサラ。
「駄目よサラ、遊んでいる場合じゃないわ!」
「そうだよ! 負けないでサラちゃん!」
 ぶんぶんとかぶりを振るサラにわーわー手を振ってエールを送るコルチェ。
 そうやって元気に騒いでいたときである。
 なんか熱い、と感じた。
 なんかめちゃくちゃ熱い、と感じた。
 照り付ける熱の方角へと振り向く2人。
 轟々と燃え盛る炎が、もう数m先にまで迫っていた。
「「か、火事ー!?」」

「それにしても本当に不思議な風景ね……後でゆっくり描きたい所だわ」
 空からアリスラビリンスの世界を見渡しながら、脳内で絵筆を取るちよ。画角はどうしたほうがいいだろう、色味はどうしようか、そんなことを竜に騎乗しながら考えていた。
「……いけない。今は助けるほうが先よね」
 自分を戒めるように眉間を弾いたちよが、クッションの海を見下ろす。
 そこかしこ炎上していた。
「あらあら」
 とちよは驚いて口に手をあてるが、正直そんなリアクションがぬるいほど燃えてる。
 海の半分ぐらいは燃えてる。
「きゃーーっ!」
「た、退避退避ー!」
「誰ー!? 火をつけたの誰ー!?」
 ぼふん、とクッションを吹っ飛ばして海面の上に逃げてきたのはサラやコルチェ、ハルである。リラを捜してたらいつの間にか火に巻かれる危機だったのでそりゃもう慌てていた。
 はぁはぁと肩で息をする3人。
 随分と疲れているな。犯人であるアンナは彼女らを見て呑気にそんなことを思った。
「クッションが邪魔だったから……」
「けれど燃やすなんて思いきったことを……」
「危うく火事になるところだぜ!」
「消すのもすぐだから……」
 火の海からしっかり脱出していた魅夜やマーロンの前で、腕に灯る炎を消してみせるアンナ。するとクッションにひろがっていた山火事ばりの炎もフッと嘘のように消え去る。
 しかし焼け野原である。
 クッションがなくなったけど、代わりに黒焦げの布地や灰がひろがってる。
「……アリスも燃えたりしてないよな?」
「そこは気を付けたから……」
(「私たち燃えちゃいそうでしたけど……」)
 マーロンの不穏な問いに顔色ひとつ変えず答えるアンナ。その顔には炎の扱いは間違わぬという自信が覗いており、とても命からがら脱出したなどと言える空気ではないとサラは思った。
 が、盛大に延焼したのは好都合かもしれない。
 これならば呼びかけもよく通るだろう。身を潜めているだろうリラの耳にも届くかもしれない。
 ハルやマーロンは手を口元に添え、精一杯に声を張った。
「リラちゃん、大丈夫ー!? 聞こえるー!? 聞こえたら返事してー! それか、体動かしてみてー!」
「おーい聴こえてるかー!? 俺は太陽の使者サンダーバード! 君を助けにきた超クールなスーパーヒーローだよー!」
「リラさん何処ですか? 私は敵ではありません、居たら返事して下さい~」
 サラも呼びかけに加わり、歌声を風に乗せる。
 優しい歌声が周囲へ、辺り一面へとひろがって……そのときだ。
 焼け野原とクッション海の境目あたりが、ぐらりと不自然に揺れた。胡蝶を介して周辺を見ていた魅夜はそれを見逃さなかった。
「あそこ、もしかしたらリラさんじゃないでしょうか?」
「クッションや灰が邪魔になってるわね。風竜ちゃん、ちょっと吹き飛ばしてちょうだい」
 魅夜の反応に気づいたちよが、竜にブレスを吐かせて一帯の掃除を行う。巻き上げられた風でクッションが飛んでいき、その下にいた人間の姿を露にした。
「あ、あの……あなたたちは……敵じゃないんでsか……?」
 クッションを頭からかぶるようにして身を丸めていた金髪の少女――リラがおずおずと猟兵たちに顔を向けた。ひどく怯えた顔だ。だが縋るような色がわずかに、ある。
 コルチェは弾かれたように駆けだし、リラの手を両手で包んでいた。
「わっ!?」
「よかったー! 大丈夫、コルチェたちが来たからにはもう安心だからね……やばやばのフラミンゴさんはコワいけど!!」
「え、も、もう大丈夫……?」
「ああ、大丈夫だよ……」
 戸惑うリラのそばでかがみ、その小さな肩に手を乗せてやるアンナ。
 最初は震えが伝わってきた。だがコルチェが笑いかけ、アンナが宥めてやることで、リラの心にうずいていた恐怖は徐々に静まっていった。
 だがこれも一時的なものだ。
 大元を断ってやらねば、リラに安寧というものは訪れないだろう。
 アンナは立ち上がり、辺りに刃のような鋭い視線を散らす。
「さて……次はオウガとやらを退治しようか」
 猟兵たちとリラが立つ場所はクッションやらが失せ、いくらかひらけた空間に変わっていた。
 そしてその見通しの良い景色の先に見える。こちらに駆けてくる不気味なピンク色の鳥――リラを追い立てていた首のないフラミンゴの大群が。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ネックラック・フラミンゴ』

POW   :    滅多刺しクロッケー
【全身が針で覆われたハリネズミ型のオウガ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD   :    気まぐれギロチン
【刃物状に変化させた羽根を飛ばし、その羽根】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    女王様のローズガーデン
戦場全体に、【赤く塗られた花と鋭いトゲを持つ薔薇の木】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:まつもとけーた

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「――!!」
「――――!!」
 声ならぬ虚ろな音を発しながら、横並びになったフラミンゴたちは脇目もふらずに猛進。おまけに全身針だらけのハリネズミをどこからともなく呼び寄せ、さらに数を増やしてゆく。
 一直線。
 標的は、言うまでもなくリラ。
「き、来た……っ!!」
 迫りくるオウガの群れを前にして、リラは反射的に身を強張らせる。
 逃げ惑う餌を喰らうべく、首無しのフラミンゴたちは我先にとリラに飛びかかった。
マーロン・サンダーバード
おっとォお前らの相手は俺たちだぜ…って頭ないけど聴こえてるのかしら

まずはリラちゃんの保護だな、下手に逃げられてもかばうのは難しいな
「イベントリ」から煙幕…スモークグレネードを出してリラちゃんのほうへ投げる
煙にまかれて見えなくなっちまえば攻撃しづらいだろ?
「お嬢ちゃん、その煙の中で逃げ回ってな!晴れる頃には安全にしといてやるよ」

そうとも俺は太陽の使者サンダーバード!女の子を守るというシチュエーションに素直に滾る男さ!

黄金銃と愛銃ライジングサンで次々とフラミンゴを撃ちぬいていく
一発で倒せなくとも、手傷を負わせた相手を放ってはおかないだろ?
迷路は「紅炎の黄金銃」でぶち抜いて焼き払ってやる!


烏護・ハル
フラミン……ゴ?
えー、何か私の知ってるフラミンゴと違う……。
どっちかっていうと、お肉屋さんの店先に吊るされてたやつと似てる……。
……シュール。

七星七縛符で相手のユーベルコードを先制して阻止できたらいいな。
先手を取れなくても、これ以上あの厄介な迷路は広げさせないよ。リラちゃんが巻き込まれるのだけは避けたいしね。
ついでに破魔の効果も乗せちゃえ。

誘惑スキルも使って、リラちゃんへ群がる個体を少しでも減らせれないかな。おーい、こっちだよー。

ユーベルコードさえ封じてしまえばこっちのもの。
……猟兵は私だけじゃない。
こっちだって頼れる仲間が大勢いるんだからねー。
私が抑えてる間に、皆やっちゃって‼


仇死原・アンナ
首が無いのに動く鳥だなんて…まさに不思議の国…
…それはともかくさっさと奴らを叩き潰そうか…

他の同行者と共闘し、アリスを[かばい]ながら戦闘開始

鉄塊剣を振り回し[なぎ払い、衝撃波、吹き飛ばし]で群がる敵をなぎ払う

敵の攻撃は鉄塊剣による[武器受け、見切り]で防御回避
多少の攻撃は[激痛耐性]で耐える

「針鼠に首無し鳥め…まとめて八つ裂きにしてやる…!」
アリスを鉄塊剣の陰に隠した後に
[呪詛]と[殺気]を纏わせた妖刀を抜き【剣樹地獄の刑】で敵群を八つ裂き滅多刺しにしてやろう…

アドリブ絡みOK



 迫りくる怪鳥の群れが、恐ろしくも地を揺らす。
 その振動が足裏から上ってくるのを感じながらハルは首無しフラミンゴたちを凛と見据えた。
「えー、何か私の知ってるフラミンゴと違う……」
 しゅん……と萎れる狐耳。
「どっちかっていうと、お肉屋さんの店先に吊るされてたやつと似てる……シュール」
「首が無いのに動く鳥だなんて……まさに不思議の国……」
 ぽわぽわと町の肉屋さんを思い浮かべるハルの横を過ぎ、アンナが板金鎧を鳴らして立った。地をさらう波のように押し寄せるフラミンゴたちを見止めると、表情ひとつ変えずに得物を構える。
 悪名高き『鉄の処女』が意匠された、鉄塊剣を。
「……ともかくさっさと叩き潰そうか……」
 アンナの口から、ぽつりと覇気のない言葉がこぼれた。
 だがその腕は獣の四肢のごとく唸り、鉄塊剣を横薙ぎに振りぬいている。剣はフラミンゴ1匹とて捉えていない。捉えるまでもなく、轟然と吹く衝撃波で群れの一角を吹き飛ばしていた。
「――!」
「わーっ……アンナちゃんすっごい」
「……でもまだ、奴らも元気みたいね……」
 呑気にも拍手してしまったハルへ、アンナが目線でフラミンゴたちを見るよう促す。
 後続のフラミンゴたちが倒れた仲間を飛び越え、羽根を飛ばしてきた。中空で断頭の刃へと変じた羽根が、アンナを切り裂こうと襲いかかる。
 が、響くのはギィンという鈍い音だけ。
 アンナが盾がわりに構えた鉄塊剣が、刃の羽根を弾き落としていた。
「……そのぐらいでやられはしないよ……」
 再び敵群を薙ぎ払うべく鉄塊剣を下ろすアンナ。
 それを見てフラミンゴたちは左右にひろがり、彼女を避けるような軌道を取る。危険と判断したのか、アンナを無視してその後ろのリラをかっさらおうと走る。
 けれど、そんな横着は叶わない。
 無数の弾丸。真横から一直線に飛来した。体を射抜かれたフラミンゴたちがすっ転げると、後ろに続いていた仲間も脚をひっかけて面白いように転倒する。
「おっとォお前らの相手は俺たちだぜ……って頭ないけど聴こえてるのかしら」
 黄金銃をくるりと回したマーロンが、フラミンゴたちの空白の頭部を見て首をひねる。
 果たして声は届くのか、それに人語を解するのか。そんな取り留めのないことを考えつつ、マーロンはツールバッグに手をつっこみ、取り出した小さな物体――スモークグレネードをリラのほうへと投げた。
 煙。
 もうもうと濃い煙が、リラもろとも辺りを覆い尽くす。
「えっ? えっ!?」
「お嬢ちゃん、その煙の中にいな! 晴れる頃には安全にしといてやるよ」
 リラに颯爽と言い放ったマーロンが、リボルバー銃を抜く。
 黄金銃とリボルバー、ふたつの銃口がフラミンゴ群に向けられた。
「そうとも俺は太陽の使者サンダーバード! 女の子を守るというシチュエーションに素直に滾る男さ!」
 昂揚を声に滲ませながら、引き金を引く。
 放たれたのは煌々と燃える灼熱の弾。貫かれたフラミンゴは瞬く間に炎に呑まれ、辺りの仲間まで巻き込んで一帯を火の海に変えてゆく。
「――!」
 延焼を免れたフラミンゴたちが、散り散りに動き出す。ある一団は怒ったようにマーロンを狙って銃弾の餌食になり、ある一団は不用意に逃走しようとしたところをアンナに斬り飛ばされた。
 だが狡猾に動く者もいた。
 仲間がマーロンたちの注意を引いたのを利用し、数匹のフラミンゴが煙の中へ突っこもうとしたのだ。目下一番の標的であるリラを正直に狙って。
 しかしそのとき、何処からか聞こえた声がフラミンゴたちの意識を引きつけた。
「おーい、こっちだよー」
 ぶんぶん、とハルが両腕を振っていた。彼女から放たれる言い知れぬ芳香に誘われ、リラを狙うフラミンゴたちが綺麗に進路を真横に逸らしてゆく。
「あ、結構こっちの声聞こえてるんだ。よかった」
 これでリラの危険を減じることができる、と安堵したハルはしばらく走ってフラミンゴたちを誘い出すと、反転。ひとつかみにした数枚の護符を投げつけた。
 七星七縛符――縛りの魔力を込めた護符がフラミンゴに貼りつき、溶けるように体に染みこむ。違和感を覚えたフラミンゴたちはハルを封じこめるべく辺りを薔薇の迷宮で包もうとした。
 しかし、薔薇の木どころか花弁一枚すら現れはしなかった。
 体内に染み入ったハルの護符が、ユーベルコードの発動を許さなかったのだ。
 ハルは愉快そうに、笑った。
「そっちも多いけど、こっちだって頼れる仲間が大勢いるんだからねー。私が抑えてる間に、やっちゃって!」
「……あぁ……まとめて八つ裂きにしてやる……!」
 ハルに呼応したアンナが鉄塊剣を地に下ろし、代わりに妖刀を抜く。緩やかに反った刃から放たれる禍々しいまでの殺気を受け、フラミンゴたちが狂ったように吠えはじめた。
 まるで命乞いをするような咆哮。
 だが、もう遅かった。
「斬り刻む!」
 アンナの腕が妖刀を振るう。ただただ振るい、振るい、振るう。
 何百という狂気的な斬撃――その嵐が過ぎ去ったときには、ネックラック・フラミンゴたちは首どころか肉体のすべてを何処かへと失っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
横並びで一直線。
【先制攻撃】【なぎ払い】【範囲攻撃】してくださいと言わんばかりですね。
ええ、お望みのままに、我が呪われた鎖をご存分に受けてください。

……とはいえ、さすがに数が多いですね。
それに、リラさんも守らなければなりませんし。
では短剣でこの身を斬り裂き、吹き出した血で霧を作り出して、【早業】でリラさんの姿を隠してしまいましょう。

まあ、あなたたちには頭がないですから視覚は関係ないのかもしれませんが、この霧は全ての感覚を鈍らせるもの。
そして同時に――
霧に包まれたものを内部から我が鎖で引き裂くものです。
ピンクのフラミンゴさん、紅くなってくださいな、血で染まって。
さあ……喰らい尽くせ汚濁の魂!



 ずらりと横並びに整い、編隊のように押し寄せるフラミンゴたち。
 その情景を真夜中のように黒い瞳に映しながら、魅夜は少しばかり呆れていた。
「横並びで一直線……まとめて葬ってくださいと言わんばかりですね。ええ、お望みのままに、我が呪われた鎖をご存分に受けてください」
 一塊であるならば討ちやすい、と得物である鎖を持ち出す魅夜。
 だがその手は鎖を投げ放つ前に止まった。
「……さすがに数が多いですね。それにリラさんも煙だけで隠れ続けられるかはわかりませんし……別の手を使いますか」
 鎖をぐるぐると腕に巻きつけ、収めた魅夜は、代わりに短剣を抜いた。
 血浴みの女王――物々しい名を持つ剣の刃で、白い腕をなでる魅夜。肌に赤い線が走り、見る間に鮮血が散るが、その血は大地を濡らすことはなかった。
 真紅の霧。
 魅夜の腕から噴き出た血は中空で濃霧と変わり、一帯を赤々と染め上げていた。
 同時に近づいてくるフラミンゴたちにも異変が生じる。まるで酔ったかのように方向感覚を失い、右に左に逸れて、隊列を無惨にも崩しはじめたのだ。
「――!」
「あなたたちには頭がないですから視覚は関係ないのかもしれませんが、この霧は全ての感覚を鈍らせるもの。そして――」
 混乱の収拾を図るかのように鳴くフラミンゴへ、静かに告げて、魅夜が細い指をかざす。
「我が鎖の呼び水となるものです」
 ピンクのフラミンゴさん、紅くなってくださいな――そう口にした魅夜の指が、振り下ろされる。
「さあ……喰らい尽くせ汚濁の魂!」
「――!」
 まるで花が咲くように、フラミンゴたちの体の内側から鎖が飛び出し、肉を切り裂く。
 屍山血河――魅夜の視界には、あっという間に怪鳥の屍が積みあがっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コルチェ・ウーパニャン
出たなぁ、やばやばのフラミンゴさん!!
こういうときは、えーとえーと……えーとえーと……?(読み込み中の髪がピカピカー)

こ、こまかいことは気にしなーい!!
ペタッと貼って大安売り!
コルチェのピカリブラスターから射出して貼りつく特売シールで、大サービスだよ!
特売シールから出てくるのは光の津波!
薔薇の迷路を埋め尽くして、行き止まりでは荒れ狂って、
フラミンゴさんをざぶーんって流しちゃう!
強いぞー!眩しいぞー!

制御のことも、方向だけ決めたあとは、とりあえず気にしなーい!
みんなが散開する前に、みんなのいない方に向けて撃てば、残りは全員、やばミンゴさん達だよね!!
出力重視で、ガオガオーンだよ!


春夏秋冬・ちよ
クッションの海が無くなってしまった事は残念だけど…何とか見つけられてよかったわ
大丈夫?怪我とかはないかしら?
…あらあら、どうやらのんびりしている時間も無いみたいですね

私はリラさんの護衛に集中させてもらうわね
集団相手に大立ち回りするには歳を取りすぎてしまったわ
(できないとは言ってない模様)
大丈夫よリラさん、猟兵の皆さんはとっても強いですからね

分断されない様には警戒しておきますよ?(迷宮対策)
杖に氷竜ちゃんの力を『抜剣』、槍にしてここまでたどり着いた敵を倒しましょう
それと…リラさん、強い物を想像できる?
思いつかないのなら…さっきの風竜ちゃんならイメージしやすいのではないかしら?

※協力・アドリブ歓迎


サラ・カトレット
な、何だかとても不気味な鳥さんですね…けど、怖くなんてないですから
リラさんには指一本触れさせません!

【WIZ】
『大丈夫よリラさん、私達が付いているわ
すぐにやっつけちゃうから!

リラさんを励まし傍で援護(鼓舞・優しさ)
自衛優先で無理はしない様お願い

迷路内では(見切り)や(オーラ防御)で背後や視界外からの攻撃に警戒

接敵時は(全力魔法)で強化した【桜花爛漫】
(マヒ攻撃)の香りを付与し足止めしつつ攻撃を
ハリネズミさんごと纏めてお掃除しちゃいます

魔力に反応する隠し通路や抜け道等はあるかしら?
(第六感)にも頼りつつ迷路内を探索

『リラさんも気付いた事があれば何でも言ってね?
何があっても貴女の事は守って見せるわ



「大丈夫? 怪我とかはないかしら?」
「あ、はい……大丈夫です。ありがとうございます……」
 赤霧や白煙で視界がよく利かぬ中で、ちよはへたりこむリラの体をお節介に入念に確認した。
「外はどうなっているんでしょう……?」
「大丈夫よリラさん、猟兵の皆さんはとっても強いですからね」
「そうそう、リラさんには指一本触れさせません!」
 辺りから聞こえる戦闘音に不安げに耳をそばだてていたリラの背中に、ちよとサラが掌を当てる。その温かみが背を通って中に染みこむようで、リラも不思議と気分を落ち着けることができた。
 一方、フラミンゴが突っこんでこないかと傍らで備えていたコルチェはくるっとサラたちへ振り向き、ちぱちぱと瞬きをする。
「それにしてもフラミンゴさん、やばやばだったね!」
「え、ええ。何だかとても不気味な鳥さんでしたね……」
「そうね。あれの相手は遠慮したいわ。大立ち回りするには、おばあちゃん歳を取りすぎてしまったもの」
 サラが困ったように笑う横で、ちよが肩を揉みながら息をつく。
 などと和やかトークしていたら、唐突に煙の流れが乱れた。
 そして次の瞬間――。
「――!」
 1匹のフラミンゴが駆けこんできたのを皮切りに、続々と群れが雪崩れこんでくる。出鱈目に走ってきたものが、偶然にも一同のもとにやってきたのだ。
「来たなぁ、やばやばのフラミンゴさん!!」
 オウガが来るなり、コルチェの表情が凛とした猟兵のものへと変わる。
 迎撃するべく思考を巡らせるコルチェ。魔法光ファイバーの髪がそんな彼女の思考過程を映すかのようにぴかぴかと明滅した。
「こういうときは、えーとえーと……」
 ぴかぴかと明滅した。
「えーとえーと……?」
 ぴかぴか。
「えーとえーと……!」

 しばらくお待ちください――。

「……こ、こまかいことは気にしなーい!!」
 考えをぶった切ったコルチェがガーリーで丸っこいスーパーガンを抜いた! フェルマーの原理云々でとにかくすごい『ピカリブラスター』のトリガーを引くと、ぺぺぺぺっと謎の特売シールが発射されてフラミンゴたちに貼りつく!
「――!」
 攻撃されたと認識したフラミンゴが鳴き、辺り一帯の地面から急激に木が生えてくる。真っ赤な花弁と鋭い棘を備えた木々が生物のように蠢き、みるみるうちに巨大な迷路を形成してゆく。
「薔薇の迷路……! でもそれも気にしなーい!」
 コルチェが言い放った瞬間、貼りつけたシールが閃光を発した。というよりも溢れた。シールからは津波じみた光の奔流が放出され、フラミンゴたちをまるっと呑みこんで押し流してゆく。
「このままやばミンゴさん達を流しちゃおう!! 出力重視で、ガオガオーンだよ!」
 ぽんぽんぽん、とシールを射出して光の渦を作り出すコルチェ。フラミンゴたちも逃れようともがくが、抜け出すことも叶わず迷路の彼方へと消えた。
 コルチェはサラたちへ振り返る。
「今のうちに迷路を脱出ー!」
「ええ。こんな危ない迷路は早く出ちゃいましょう」
「さ、行きましょうリラさん!」
「はいっ!」
 くるっと反転し、入り組んだ薔薇の通路を駆けだす一同。
 先頭を走るサラは注意力を研ぎ澄まし、視界の外にまで意識を向ける。すると迷路の曲がり角、その死角に気配を感じた。即座に自身にオーラをまとわせる。
「――!」
「それぐらい、もう見切ってます!」
 飛び出したフラミンゴの攻撃を防御して弾くや、背中らへんからスポッとフライパンを取り出すサラ。
 フライパンである。
「フライパンだー!」
「フライパンね」
「フライパン……?」
「別にお料理するわけじゃないですよー!」
 サラがフライパンに魔力を流しこむと、硬質なフライパンが淡く輝いて霧散する。宙に散った光は次第に桜の花弁と化して、フラミンゴを包みこんだ。甘く香る花びらに囚われたフラミンゴは体が痺れる感覚に襲われ、力なくその場に倒れた。
「よし、今のうちに先へ――」
「み、皆さん! こっちからも!」
 サラが通路の先へ進もうとしたとき、後ろのリラから声があがる。追ってきたらしきフラミンゴたちが、どたどたと後方から迫っていた。
 リラには触れさせない――サラとコルチェがリラをかばうように後ろに回る。
 だが2人が武器を構えるより早く、フラミンゴはちよの氷槍に貫かれていた。竜の力を再現し、牙を宿らせた杖をフラミンゴから引き抜くと、ちよはリラに微笑んだ。
「とりあえずは無事に済んだけれど……リラさんにも自衛の手段があったほうがいいわよね。リラさん、強い物を想像できる? 思いつかないのなら……さっきの風竜ちゃんならイメージしやすいのではないかしら?」
「あっ、空を飛んでいた竜ですか……? そ、それならたぶん……!」
 頷いたリラがしばし目を閉じ、想像する。雄々しくも空を飛ぶ竜の姿を、瞼の裏にありありと。
 目を開いたとき、リラは竜を象った荘厳な鎧を身にまとっていた。
「それならリラさんも戦えそうね」
「は、はい!」
「じゃあ4人で脱出だよ!」
「行きましょう! おそらく出口はこっちです!」
 迷路を駆け抜ける4人。時折現れるフラミンゴを退け、打ち倒し、進みつづけた一同はとうとうフラミンゴたちの薔薇迷路を抜け、太陽の下に出た。
 すると、周辺にはもうフラミンゴは1匹もいなかった。迷路の中にかなりの数が入りこんでいたのだ。それを途上ですべて倒したことで、辺りはすっかり平穏な時間を取り戻していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ふてぶてしい黒兎』

POW   :    ほら代金だ。しばらくそこで止まっていたまえ。
【札束】が命中した対象に対し、高威力高命中の【金額に比例した秒数の時間停止魔法】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    私の時間を奪うなら、その分の代金を払いたまえよ。
戦場全体に、【あらゆる行動に対価を要求する不思議時空】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    諸君の実力なら、これくらい払えば十分であろう。
全身を【時空間圧縮魔法】で覆い、自身の【支払った財産】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。

イラスト:ゆりちかお

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニィ・ハンブルビーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 フラミンゴたちの狂騒が失せて一転、クッション海の跡地一帯は静寂に包まれていた。
 だが、その静かな時間も長くは続かなかった。

「おやおや、フラミンゴどもがやられているではないか」

 いかにも高慢ちきな声が、猟兵たちとリラの耳朶を打った。
 声のほうへと視線を飛ばせば、黒い兎耳をぴょこぴょこ揺らす女が、カツカツとヒールの靴音を鳴らしながら歩いてきている。
 歩くたびに上着の裾から零れ落ちるのは――紙幣だ。どこのものかも知れぬ不可思議な紙幣を、ばらばらと散らかし、それを気にする様子もない。
 札束とともに襲来した女は、少しばかり距離をとったところで立ち止まった。
「まったく、アリスよ。この私の手を煩わせるなんて、身の程を弁えてほしいのだが? きみはいつ食われてもいい餌だから時間を無為に過ごそうが構わないのだろうが、私の時間はきみのとは違って貴重なことこの上ないのだからね。詫びとしてきみの命を私に払いたまえよ」
 兎女の言葉は、実に真っ正直な響きを持っていた。
 大仰にして傲慢なその言い分は、すべて偽りなき本音なのだ。
 自分の命は何よりも貴く、アリスの命は何よりも劣ると曇りなく信じている。
「さあ早く。払わぬとは言わせないよ」
 代金を払いたまえ。
 そう口にして、黒兎はリラに向けて歩きはじめた。
烏護・ハル
……うん、何言ってるのかさっぱり分かんないや。

そっちこそ、支払う代償はお高いからね。

あなたがリラちゃんに手を出した。
私達にとってはそれで十分。
それがあなたに『支払って貰う』理由だよ。
そのポロポロ零れてるお金程度で清算できると思わないでよね。

……リラちゃん、安心して。
あんなのすぐに片付けちゃうからさ。

フォックスファイアを広範囲に展開。さらに炎の属性を上乗せして、あっつあつの空間で焼き尽くしてやるんだから。
時空間圧縮魔法か……。破魔の力で弱体化できれば御の字。
飛翔力を弱まったら、火球を一気に寄せ集めて巻き込んじゃえ。

戦いが終わったらどうしよっかな。
リラちゃん疲れてるだろうし、お茶会とかどう?どう?


仇死原・アンナ
すまないが…この子の命を貴様如きに払うわけにはいかないんだ
代わりに貴様に払ってもらおうか、金じゃあない…貴様の命をだ

アリスを護りつつ同行者と共闘

敵の札束攻撃は鉄塊剣での[武器受け]や[なぎ払い]で防御

鞭を振るい[ロープワーク、マヒ攻撃]で敵を捕縛

拷問具を放ち[傷口をえぐり鎧無視攻撃]することで[部位破壊]を狙い敵を痛めつけ妨害する

「貴様の命もその紙切れも地獄の炎で焼き裂いてやる…!」
[力溜め]し[衝撃波、範囲・属性攻撃]と同時に【火車八つ裂きの刑】を放ち、敵も紙幣も地獄の炎で焼き尽くそう…

戦闘後はアリスを安全な場所まで護衛しながら誘導しようかな…

アドリブ絡みOK


春夏秋冬・ちよ
あらまぁ、良く考えると作る物はそうなっちゃうのね
でもそれなら、あの黒兎さんから退避しておく事はできそうかしら
そうね…それならおばあちゃん、ちょっと頑張っちゃおうかしら

たしか疑念を覚えると弱くなっちゃうのよね?この場では危険になるだけだわ
それなら判り易く強いと思えれば強固になるのかしら?
…実はおばあちゃん、リラさんと似たような事が出来るのよ?
風竜ちゃんの力を借りた『竜鎧』を発動…さすがに少し疲れるわ
"空中戦"で猟兵の皆さんの援護をすべく、体勢を崩す風のブレスを篭手から放ちましょう
そして隙を見つけて傘で必殺の"ランスチャージ"ですよ
本当に久しぶりだけど、何とかなってよかったわ

※協力・アドリブ歓迎


マーロン・サンダーバード
ひゃっほうバニーだ!!…なんだ敵か
まったくいきなり罠にかけようとするなんざ恐るべき敵だぜ
その傲慢ちきなところも嫌いじゃないが、お嬢ちゃんに手ぇ出すなら邪魔しなくっちゃ
俺は太陽の使者サンダーバード、バニーに惑わされない男だからな!

札束は色んな意味で怖いから手に持った時点で銃で撃たせてもらおうかな
【武器落とし】の要領で…撃つのに別な勇気が要るな
迷路に支払う対価とやらを持っちゃいないんだよな
だから「対決の黄金銃」を使う!
無敵の太陽パワーで強引に壁をブチ破るのさ

そしてもちろんバニーちゃんにも対決の黄金銃だ!
金の力、バニーの力を超えるもの…それが太陽!
全弾叩き込んだ時それが正しいかわかる…はずさ


コルチェ・ウーパニャン
こ、こんなキモチ初めて…! これが、『キライ』…!?
コルチェ、身に覚えのないお支払い、だいっキライ、かも……!!
こんなのに付き合ってたら貯金出来ないでしょー!
貯金が出来ないってことは……生きてけないでしょー!?

わーん、ゆるせなーい!
お金をだいじにしないのもゆるせなーい!!
リラちゃん待ってて! コルチェがぜったいぜったーい骸の海に帰ってもらっちゃうからね!!

ピカリブラスターに『キケン』のシールを貼ってパワーアップー!
クイックドロウで両手で構えたピカリブラスターから光線がガオーーーン!!
ピカリブラスターの実力、おやすく見積ってもらっちゃ困るな!
このピカピカは、光と同じスピードで飛んでくんだから!!


黒城・魅夜
いいですとも、対価をお支払いしましょう。
短剣で自らの体を斬り裂き、血を噴き出させます。
――ですが、私の血は高くつく。
そのことを身をもって理解していただきましょうか。

吹き出した血は霧となって広がります。
あなたが迷路の中にいようと出口にいようと関係なく、そして私があなたを視認していようがいまいが関わりなく、血の霧はあなたを染め――
その身体を内側から我が108本の呪鎖が引き裂くでしょう。

お札が好きなのですね。
ええ、とてもあなたに良くお似合いだと思いますよ、その薄っぺらく脆弱なところがね。

戦いの後はリラさんをお見送りしましょう。
本当のふかふかのクッションで、ゆっくりお休みになってくださいね。


サラ・カトレット
払いませんっ!
命が貴いのは確かですが…
そこに優劣なんか存在しませんし、決める権利は誰にもありません!

【WIZ】
人をお金で釣るなんて…嫌な感じです
あのお札が力の源なのかしら(第六感)
先ずは手数を減らす事を念頭に戦いましょう

遠距離での戦闘を心掛け
(全力魔法)で【桜花爛漫】の花弁を増幅
更に(属性攻撃)で(炎)を付与

札束の動きを(見切り)や(オーラ防御)で躱し
狙いを札束に定めて全て燃やす勢いで攻撃を

隙を見て本体に攻撃が通りそうなら(マヒ攻撃)を付与
強化や飛翔能力を封じつつ畳みかけていきましょ

『リラさんも言われっぱなしじゃ嫌でしょ?
思い切り言い返してしまってもいいんですよ
大丈夫、私達が付いてますから♪



 この世にはただ我のみ。
 猟兵とリラへ歩み寄ってくる黒兎の足取りは、そう語るかのように大きい。尊大、傲慢、さまざまな形容が思い浮かぶが、共通するのは快くないということだ。
「こ、こんなキモチ初めて……! これが、『キライ』……!?」
 コルチェは湧き上がる感情を持て余し、ぱたぱたと足踏みした。
「コルチェ、身に覚えのないお支払い、だいっキライ、かも……!! こんなのに付き合ってたら貯金出来ないでしょー!」
 わーっと発散すべく叫ぶコルチェ。話せば長くなるようでそう長くもないのだが、彼女は訳あってお金を貯めるべく、目下倹約に精を出している。ゆえにお金の重みとかそんなんには敏感なのである。
 こんな相手は許せない――コルチェは黒兎の足元に落ちる紙幣を見て固く決意。
「リラちゃん待ってて! コルチェがぜったいぜったーい骸の海に帰ってもらっちゃうからね!!」
「コ、コルチェさん……」
「私も力を尽くします! 誰の命だって優劣なんか存在しませんし、決める権利は誰にもありません!」
 リラが少し案じた瞳で見つめるコルチェの隣で、サラがディアンドルの紺色の裾をはためかせる。一介の村娘に過ぎない彼女が怯まずにいられるのは、その胸に義憤が燃えるから。
 そして、同じ思いを抱くアンナとハルが、いるからだ。
「すまないが……この子の命を貴様如きに払うわけにはいかないんだ。代わりに貴様に払ってもらおうか……命をな……」
「あなたはリラちゃんに手を出した。それだけであなたに『支払ってもらう理由』は足りる。そのポロポロ零れてるお金程度で清算できると思わないでよね」
 鉄塊剣を構えるアンナの黒鎧から蒼い炎が迸り、ハルが持つウィザードロッドの石突がカツンと地を突いて音を響かせる。
 そこから退くつもりはない――しかと接地した2人の足は、物言わず語っていた。
「み、みなさん……」
「……リラちゃん、安心して。あんなのすぐに片付けちゃうからさ」
 胸の前できゅっと手を握るリラに、ハルは振り返って耳を立て、微笑む。
 黒兎は片眉をぴくりと動かし、大きく大きく首を振った。
「やれやれ。きみたちも私の時間を奪うつもりかね? 代償は大きくなるが、それでも構わないのだね?」
「……言っただろ。払うのは貴様だ……」
「聞き分けのない女だ。金なら払ってやってもいいんだがね」
 これで手打ちとしないか、と黒兎が分厚い札束をアンナへ投げつけた。無造作に。そのあまりに軽率な仕草にコルチェはやっぱり「ゆるせなーい!」と傍で騒いだが、それよりアンナは紙幣が放つ不気味な気を敏感に察知していた。
 アンナが振るった『鉄の処女』が風音をあげ、重い札束を落とすと、黒兎は黒い耳をぴくんと震えさせた。
「私の厚意を無下にするとは。きみも疑り深いな」
「……汚れた金に興味はなくてね……」
「ほう。汚れても金は金だと思うがね」
 譲らず、視線をぶつけるアンナと黒兎。
 その張りつめた空気の横から、サラは黒兎がちらつかせる紙幣をじーっと見つめていた。
「……嫌な感じです。あのお札が力の源なのかしら……?」
「ああ。俺もそうじゃないかと思っていたぜ!」
 威勢よくサラの隣に姿を現したマーロンが、黄金の銃を抜いた。
 銃口の向く先は黒兎が手に持つ札束……なのだがマーロンの指は引き金にかかったまま、いったん止まる。
「……しかしこれはちょっと撃つのに別の勇気が要るな」
「そんなこと言ってないで撃ってください!」
「冗談! もちろん冗談だぜ、サラのお嬢ちゃん!」
 サラに揺すられて慌てて引き金を引くマーロン。ぶっ放された銃弾が中空を突き抜け、黒兎が持つ札束を見事に叩き落とす。黒兎は、無惨に穴が開き破れた紙幣を無感情に見下ろすと、マーロンたちへ顔を上げた。
「徹底的に反抗する気かね。ならば生きては帰さんよ?」
「ふっ。その傲慢なところ、俺は嫌いじゃないぜ。あとバニースーツもな」
「マーロンさん……」
 臆面もなくバニースーツとか言いだした男へ、サラが物言いたげな半眼を向けるが、マーロンはそれをまるっとスルーして黄金銃をかざした。
「だが、リラのお嬢ちゃんに手ぇ出すなら俺はあんたの前に立つぜ。俺は太陽の使者サンダーバード、バニーに惑わされない男だからな!」
「ほ、本当に信じていいんですよねマーロンさん!?」
 颯爽を黒兎へ銃撃をくれてやるマーロンに追随するように、サラが魔力を高める。溢れる魔力は桜色に輝き、やがて燃え立つ花弁となると、黒兎を包囲して襲いかかった。
 銃弾が黒兎の頬を掠める間に、サラの炎の桜花が辺りに散乱した紙幣を巻き上げる。地面にあった札束が炎に平らげられ、消し炭と化して風に消えると、黒兎は舌打ちして初めて苛立ちを滲ませた。
「すべて燃やされてはたまらん。なのでさっさと使うとしよう」
 黒兎が懐から3つ抜き取り、舞い上げる。華奢な全身を強大な魔力が覆い、その足が地を蹴ると黒兎の体ははるか上空に飛び上がっていた。
「あっ!」
「逃がさねぇよ!」
「それしきの速さで、私を捉えられるのかね?」
 上空に上がった黒兎は、戦闘機と見紛うような速度だった。空を自在に飛び、嘲笑うようにサラとマーロンの追撃をかわす。
 だが愉快な飛行の中で、黒兎は見過ごせぬものを見つけた。
「ほら、リラさん。ここは危ないわ。なにかショックを受けて創造した鎧が弱まっちゃったら大変ですものね。向こうのほうに逃げておいて?」
「わ、わかりました……! ちよさんたちも気を付けて……!」
 ちよに背中(というか脚)を押される形で、リラがその場から退避しようとしている。留まっては直接的な危険もあるし、ユーベルコードで作った無敵鎧にも悪影響があるかもしれない、というちよの判断である。
 黒兎はギッ、と奥歯を噛んだ。看過できるわけがない。自分の目的はリラの、アリスの肉なのだから。また逃げ隠れられてはたまったものではない。
「逃げられるとは思わんことだよ!」
 逆さまに体を倒した黒兎が、超速度で滑空する。
 隕石のように一直線。
 恐ろしい落下物となって迫る黒兎に気づき、リラは狼狽しきってちよを振り返った。
「ち、ちよさん! 上から……!」
「あら、危ないわね。でも大丈夫よ」
 にこりと柔らかく笑うと、ちよは跳躍し、迫ってくる黒兎とリラの間に体を入れた。
「……実はおばあちゃん、リラさんと似たような事が出来るのよ?」
「え?」
 リラが訊き返す間もなく、ちよの体から眩い輝きが放たれる。
 鎧だ。
 何の変哲もない和装姿だったちよの全身が、一瞬にして眩く荘厳な鎧に包まれていた。背部には翼のような意匠が施され、腕には竜爪のような籠手がはめられている。
「よ、鎧……」
「風竜ちゃんの力を借りた鎧よ。さすがに少し疲れるわね」
「そんな鎧がどうしたと言うんだね!」
 黒兎が吶喊してきた――が、ちよはその鎧でもって落下の衝撃を受け止めきった。しかもそれに留まらず、籠手から風のブレスを放出し、黒兎の体を巻き上げる。
「なっ……私を弾き返すのかね!?」
 空中で体勢を整え、驚きの表情で見下ろす黒兎。
 だが彼女の視界にちよの姿はなかった。
 というか何もなかった。
 あるのはただひとつ、ぴかぴかとした極彩色の輝き。視界を埋め尽くすような極大の光線が、地上から猛然と空へ奔っていた。
「な、なんだねこれは!?」
 素早く横へ滑って辛うじて被弾を防いだ黒兎が、再び視線を下ろす。
 地上から逆に見返してきているのは、コルチェだった。黄色と黒の不穏なシールを貼りつけた『ピカリブラスター』を構えたコルチェが、猛烈にひたすらにトリガーを引いていた。
 一条、また一条、恐ろしい光線が天へ昇る。
「『キケン』のシールで出力アーップ! ガオーーーンだよ!!」
「くっ!?」
 飛び回る黒兎だが、光に等しい速度で飛んでくる攻撃はかわしきれない。大出力を一身にくらい、高速機動に鈍りが生じる。
 ハルはそれを見て取るや、すぐさまロッドを天に掲げた。
「さあ囲んじゃうよ! あっつあつの空間で焼き尽くしてやるんだから」
 ロッドの宝玉が赤く光ると同時に、上空に無数の火球が生まれる。妖狐たる力は瞬く間に黒兎を包囲して、空間もろともに炎上させる。
 黒兎の服が焦げ、耳が燃え、肌が焼ける。
「あぁ、熱い熱い熱いィィ!!!」
「あなたみたいな人は、黒焦げになっちゃえばいいよ!」
 漂う火球が寄り集まり、黒兎に殺到した。その灼熱の一撃に黒兎はついに飛翔すらも覚束なくなり、ふらふらと高度を下げてゆく。
「アンナちゃん! 捕まえちゃえ!」
「……ああ、いい加減、飛ばれては面倒だからね……」
 ハルの景気のいい声を受けたアンナが、鎖の鞭を振り上げた。先端にある棘付きの鉄球が黒兎の周りをぐるぐると回り、がっちりと捕縛して地面に叩きつける。
「ぐがっ……!!」
「貴様の命もその紙切れも地獄の炎で焼き裂いてやる……!」
 アンナが大きく構えた、剣と呼ぶにはあまりに無骨な鉄塊に、轟々と地獄の炎が宿った。
 燃え盛る刀身が一振り――途端、大波のような炎が放射状にひろがる。喰い尽くす。黒兎の体を飲みこみ、その紙幣すらも灰燼に帰す。
 黒兎は火だるまになって悶えながら、消えゆく紙幣に手を伸ばした。
「金が……私の財が……!」
「最後まで、そんなものに縋るのですか。憐れですね」
 燃える黒兎を見下ろし、淡々と告げるのは魅夜だった。その心底冷たい眼差しがプライドを傷つけたのだろうか、黒兎は地面に爪を立て、必死の形相で立ち上がる。
「……勝ち誇るなよ、愚者め。私はいつだって債権者なのだよ! 下でもがく者を見下ろすのはいつだって私なのだよ!!」
 黒兎のなけなしの気概が咆哮となって、戦場に響く。すると大気が、空間が歪曲し、一帯に不可思議な雰囲気が満ちてゆく。
 数秒の後――魅夜は、不気味なほどに広大な迷路の中に取りこまれていた。
「これは……」
『そこは私の箱庭さ! さあ、取り立てを始めようではないか!』
 どこからか響く高らかな声を聞きながら、魅夜は足を踏み出した――が、動かない。
 力をこめようとも……いやそれどころか力をこめることすらできない。
「動けんだろう? そこは私の領域だからね。動きたければ代金を払いたまえ。誰かの領地を通るのならそれは当然のことだろう?」
 くはは、と哄笑する黒兎。迷宮内に響くその声に、魅夜は底知れぬ浅ましさを見た気分で、小さくため息をついた。
「代金ですか。いいですとも、対価をお支払いしましょう――ですが気をつけることです。私の血は高くつきますよ」
「……なに?」
 黒兎が尋ね返すときには、すでに魅夜の短剣が彼女の肌を切りつけていた。一筋の線から赤い血があふれ、それはフラミンゴたちを葬ったときのような濃霧へと変じる。
 瞬く間に、迷路は魅夜の鮮血の霧で満たされていた。
 どこもかしこもが赤く霞がかった其処はもう、黒兎の領地ではない。
「ガッ……アアアアアアアッ!!!!!」
 魅夜のところから何枚も壁を隔てただろう、どこかから、黒兎の悲鳴が聞こえた。壁を叩きつける血飛沫の音も聞こえる。霧を介して潜りこんだ魅夜の呪鎖が、黒兎の体を引き裂いてしまったのだろう。
「そこか!」
 マーロンは黒兎の声を頼りに、迷路の外壁に人差し指を向けた。
 奴の居場所まで何枚と厚い壁が立ちはだかるだろう。だが関係ない。
「金の力、バニーの力を超えるもの……それが太陽!」
 マーロンの手に、太陽のように眩い黄金銃が顕現する。かざしていた人差し指をその引き金にかけると、砲弾のように強烈な一撃が迷路を一直線に貫いた。
 その途上にあった、黒兎もろとも。
「……私の…………財…………」
 地に倒れた黒兎が、手を伸ばす。
 焦げた黒炭と化した紙幣へと。求めるように。
「お札が好きなのですね。ええ、とてもあなたに良くお似合いだと思いますよ、その薄っぺらく脆弱なところがね」
 傍らに立った魅夜が告げた言葉を、黒兎が聞いていたかは、もうわからない。

「あの、みなさん……ありがとうございます!」
 すべてが無事に終わると、リラは猟兵たちへ深く頭を下げた。ひとりひとりと握手を交わし、きらきらと輝いた笑顔を見せて。
 命を救ってくれたことの感謝は、もちろんあるだろう。
 だが笑顔の理由はそれだけではなかった。
 どこか遠くを指差して、彼女は晴れやかな顔で、言ったのだ。
「なんだか、この先に行けば……いいような気がするんです。この先にきっと何かが」
 何かいいことがあると思う。
 そう駆けだしたリラを、猟兵たちもまた、笑って見送ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月06日


挿絵イラスト