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煌めく大地のピオニエーレ

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●きらきらゼリーの開拓者
「ほほー、ここが、ウサギさんの言ってた新たな国ですな!」
 ふわふわ淡雪色の雪だるまが、声を弾ませた。
 雪だるまの後ろから顔を出した虹色ゼリーキューブの群れは、見渡す限りの煌めきにからだをぷるぷると震わせて。
「すごいやウサギさん! ぜんぶゼリーでできてるんだね!」
「すごいや!」
「や!」
 幼子のような声を連ねて、きゃっきゃとはしゃぐ。
 彼らの心が踊るのも無理はない。
 やさしい陽光が降り注ぐ大地。
 そこでは草も、樹も、花も、空に浮かぶ雲ですら、きらきら輝くゼリーでできている。
 一口にゼリーといっても、弾力や色かたちは様々だ。
 力いっぱい体当たりしても崩れず、強い弾力で跳ね返してしまうもの。
 ちょっとつついただけでぷるぷると踊る、柔らかなもの。
 青く透ける水を讃えた湖かと思いきや、一面ひとつのゼリーだったり。
 細かいゼリーが湧出する泉は、感触がほぼ水に近い。
 時計ウサギは懐中時計を懐へしまいこみ、自分たちが立つ大地そのものを靴裏で叩く。ひんやり昇る冷気からもわかる。陽の暖かさにも溶けず、凍ったゼリーが固い大地を作り上げていた。場所によっては地中が透けている。大地すべてが凍っているのではなく、凍っていない場所のゼリーを踏めば、当然ふにっと足元が沈む。
 目つきを和らげる時計ウサギの足元で、ぴょこぴょこと虹色ゼリーたちが跳ね回る。
「ぼくたち開拓者!」
「しゃ!」
 うきうきと宣言して、虹色ゼリーの団体様は新世界へ飛び出していく。
「我輩もがんばって国を創りますぞ!」
 無い腕を鳴らす雪だるまも、マシュマロに気合いを入れ、ゼリーたちの後を追った。
 そんな愉快な仲間たちの後背を眺め、時計ウサギは微笑む。
「……見つけて正解でしたね」

●グリモアベース
「まっさらな不思議の国?」
 集った猟兵たちは、同じ言葉を口にしながら首を傾げる。
 そうなの、と頷いたホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が、できたてほやほやの国なのだと改めて話す。
「そこを開拓しようと、入植者たちが集まり出してるのよ」
 ウサギ穴を通ってやってきた愉快な仲間たちは、どんな国にしようかを考えながら、森を練り歩いている。開拓精神にあふれる彼らの行動力は凄まじい。彼らがただただ国を作り上げていくだけなら、猟兵が赴かなくても、不思議の国はそのうち完成するだろう。
 わざわざ猟兵が向かう必要があるということは、つまり。
「目を付けたオウガ……オブリビオンが襲いにきちゃうの」
 オブリビオンの襲撃までに時間はある。
 そこでまずは手付かずの大地を開拓しながら、何を作るのかを、愉快な仲間たちと一緒に考えて動く。
 そして材料や情報も揃ったところで建造物を創り、植物や泉などで風景も豊かにして、来たるオウガに備える。最後にオウガを迎え撃てば、新たな不思議の国も一先ず安心だ。
「行き先は、すべてがゼリーでできた国よ」
 平たく言うとゼリーだが、煮凝りや寒天、マシュマロ、ドレッシングに使うようなジュレまで様々だ。
 言うまでもないが、ぜんぶ飲食可。
 味も多種多様で、バラのかたちであればバラの味がする──と思い込んでいると、思わぬところで口にしたバラの花がイチゴ味だったりする。
 つまり、味に関してはいざ食べてみるまでわからない。
「それと、生クリームとかチョコとか、そういったものは持ち込まないと無いみたい」
 持参するなり現地で生み出すなりして、ゼリーだらけの国に彩りを添えるのも楽しい。
 ちなみに、愉快な仲間たちのひとり、マシュマロで出来た雪だるまは、マシュマロの類であれば自由に生み出せる。頼ってみても良いだろう。
「愉快な仲間たちさんは、いま森にいるわ。まずは合流してあげてね」
 そして彼らと協力して、あるいは友人たちと楽しく、もしくはひとりで黙々と、環境を整える。大きなものを作るとなると時間や手間もかかりそうだが、技能などを駆使していけば、オウガの襲撃には充分間に合うはずだ。
「襲ってくるのはチェシャ猫よ。爪で引っかいたり、ニヤニヤ笑って追い詰めてくるの」
 愉快な仲間たちにとっては抗えない脅威だが、猟兵にとっては、そうではない。
 しっかりオブリビオンを排除するためにも、戦いでは油断禁物だ。
「それじゃ、用意ができた方から転送します。いってらっしゃい!」


棟方ろか
 お世話になっております。棟方ろかと申します。
 一章と二章が日常、三章はボス戦でございます。

●一章について
 愉快な仲間たちのいる森から、開拓を始めます。
 土(ゼリー)を耕し畑にするも良し。住居作りのため樹(ゼリー)を切るも良し。
 水場を確保し、環境を整えるも良し。ひたすらゼリーを食べていくも良し。
 欲しいなと思った花や生き物を作り出すも良し。
 植えた種や大地に歌を聞かせると、あっという間に作物が実り、花が咲きます。
 基本、難しく考えないでOKです。

●二章について
 国作りが進んだところで、愉快な仲間たちから「ひと休みしよう」と誘われます。
 ひと休みと言いつつ、彼らの見つけたアトラクションで遊びましょう。
 追加リプレイを挿入しますので、一章の段階では「山のような大きなゼリークッション」があるとか「ゼリーの湖へ繋がるゼリー製のロング滑り台」があると、ふわっと想像して頂けると助かります。

●登場人物
 マシュマロ雪だるま、様々な色をしたゼリーキューブ兄弟ご一行、白い髪に白い肌の時計ウサギがいます。名前はまだ無いので、互いに「雪だるまさん」とか「ゼリーくん」と呼び合っています。皆様は、お好きな呼称でお呼びください。
 彼らと無理に絡まなくても大丈夫ですので、やりたいことを絞ってやりましょう。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『お菓子の森のピクニック』

POW   :    お菓子のなる木々の間を巡り、食べ放題を楽しむ

SPD   :    お菓子の森の手入れを手伝いつつ、好みのお菓子を見つける

WIZ   :    日持ちするお菓子を見つけ、持ち帰る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

スノウ・パタタ
ぷるぷるー楽しそうです!かいたくしゃーさんのお手伝い、しに来ましたっ
住むならおうちも必要ですね、ゼリーのおうちになるのかなあ?
ぷるぷる、からふる、好きがいっぱいでわたしも住みたくなっちゃうねえ。

ペットのシラユキが素材探しにぽよぽよ跳ねていく後を追い掛けながら、他にお手伝いが必要そうな人が居たら頑張るこころいき。
高い所の物はホウキで飛んで取りに行ったり、空から良い立地探しをしたり。
おうち、がんじょーにする為に、ちょっと風をあてて琥珀糖みたいにしたら良いかもなの。ガラスみたいになるのよー。風のせーれーさんにお手伝い、お願いできるかなあ?
わくわくがたくさんですね!



 透けた青が天高く横たわり、地では七色が踊る。
 降り注ぐ光は草葉の表面も、地面も、同じだけ煌めかせていた。踏み締めれば固い土のゼリーも、光が抜ければ地の底まで窺えそうなほど透っている。指でつつけば、ぷるぷる。つま先でつついても、ぷるぷる。
 ──楽しいです!
 鼻歌を交えそうな朗らかさを面差しに乗せて、スノウ・パタタ(Marin Snow・f07096)が、ぽんぽんと歩みを弾ませる。少女が跳ねれば雪色のポンチョも楽しげに波打つ。
「かいたくしゃーさん、お手伝い、しに来ましたっ」
 声を弾ませスノウが声をかけたのは、先に不思議の国へ訪れていた開拓者──愉快な仲間たちと時計ウサギ。
 ありがとうございます、と時計ウサギが一礼し、スノウもぺこりと返す。
 まだまだ未開の森は広く、幾重にも重なった緑のゼリーが、明るい濃淡を生み出している。そんな緑あふれる地をくるりと見渡し、スノウは冬や雪を印象付けるストームグラスペンを片手に、行き先を考えた。淀みのない硝子の内側でゆらめく溶液が、スノウの道標を示す。
「あっ、シラユキ、まってっ」
 スノウがこっちだと指差すより先に、ペットのシラユキがぽよぽよと跳ねていく。
 そうして、もちもちぷるぷるの身でシラユキが知らせてくれたのは、森の奥地で積み上げられていたゼリーの岩。もはや岩と呼ぶのが相応しいのかも判らない透明感と色合いだが、大きさだけで言えば確かに岩だ。
 スノウは手の平をぴとりと岩に当て、ひんやりとした感触に意識を沈めた。力を加えると僅かに手の平も沈む。表面だけがざらつき、少しばかり硬いのは、乾きつつあるからだろう。
 ──ゼリーのおうち、できるかなあ?
 想像してみた家の姿は、色とりどりでぷるぷる。スノウの胸も高鳴るぐらいに、好きで溢れた住み処。きっと住みたくなってしまうと、予感が拭えない。その証拠にスノウの頬は幸せを含んでふくらみ、上気した。
 煌めくゼリー岩の周りで、ひょこひょこ駆け回るシラユキを手招き、スノウは囁く。
「風のせーれーさんに、お願いできる、かなあ」
 少女の手に乗ったシラユキは、呟きにきょとりとするばかり。
 小さく頷き、スノウは精霊の助けを得る。宝石箱を開くときのどきどきを糧に、そして開けた瞬間に飛び込んでくる目映い光を思わせる明るさで、精霊を呼ぶ。すぐさま応じて現れた精霊は、甘い夢に浸る少女の心を読み、こくりと首肯する。
 直後、精霊が踊った。宙にふわりと舞い上がり、世を吹き渡る風の清澄な空気で、スノウが佇む一帯の岩たちをくるんでいく。岩を削る荒々しさはなく、ただ抱きしめるかのような優しさで。
 わあ、とスノウが嬉々とした声を転がす。精霊が風でつくりあげた岩は、まるで食べられる宝石。琥珀糖のような風合いを纏い、家の基礎にも壁にも敵した素材となる。
「おうち、がんじょーにできそうっ」
 建材が生み出せれば、あとは立地のみ。スノウは放棄に跨がり、風の精霊と共に空高くへと飛ぶ。
 高所から眺めてわかるのは、湖、平野、丘陵、山、大きな川。ゼリーが象る大自然をひとつひとつ指差し確かめて、スノウが書き留めていく。この情報を共有すれば、他の猟兵たちの作業も進みやすい。
 見はるかす世界は広大で、どこまでもきらきらと輝いている。
 雪の白さと空の蒼さに憧れる少女は、光が踊る世界の中で大きく両腕を広げた。深呼吸をし、ペンをかざしてくるりと回す。溶液や沈澱の具合で、天気を見るために。
「きょうは、ずっと晴れです!」
 よかった、と微笑むスノウの瞳も、きらきら輝いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィルジール・エグマリヌ
お菓子の森……嗚呼、夢のような響きだね
何を食べようか――じゃない、何を創造しようか

折角雪だるまくんが居るのだから
冬景色を楽しめる場所が有っても良いかも知れない
小さな湖を見つけたら彼に声を掛けてみよう
湖の周囲にマシュマロの雪を積もらせたら
とても綺麗だと思うんだ――手を貸して貰えないかな?

良い返事を貰えたら、召喚したレギオン達にも手伝わせて
ささやかな雪景色を作り上げていこう
ところで此の湖って何味なんだろう?
誘惑に耐え切れずほんの少し摘み食いしたり

――そうだ、雪景色には雪だるまも必要かな
積もる雪に剣を当て炎属性攻撃、フォンダンの要領で温めながら
アートの技術を活かして小さな雪だるまを形成してみよう



 薫る風さえも煌めいて映る中で、ひとりの青年が、うっそりと吐息をこぼした。
 ──お菓子の森……嗚呼、夢のような響きだね。
 踊る心を咥内に含み、ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)が宝石箱をひっくり返したかのような景色を眺める。生命の息吹にあふれた瑞々しい森も絶佳に変わりないけれど、甘い宝玉の数々で成された森も美しい。
 ──さて、何を食べ……。
 意識せず零れた思考にかぶりを振り、ヴィルジールは顎を撫でて言を紡ぎ直す。
 ──じゃない、何を創造しようか。……ん?
 先に不思議の国を拓いた愉快な仲間たちの姿が、視界の隅を過ぎる。
 ヴィルジールはふと思い至った。雪だるまを模った入植者がいるのだ。雪だるまといえば冬。一面の銀世界に佇むかの者の姿は、冬の風物詩ともいえる。ならば寒空の下らしい情緒を創りだせば、この不思議の国も豊かさが増すはずだ。
 先に立地を確認した猟兵のおかげで。湖の場所も把握できている。
「雪だるまくん」
 声をかけると、彼はすぐにヴィルジールの元へ歩み寄った。
 なんですかな、と問う声は妙に落ち着き払っていて、愛らしい見目との差が激しい。
「湖の周りに雪を積もらせたら、綺麗だと思うんだ。どうかな?」
「ほっほー、妙案ですな!」
 湖畔に深々と積もる白花を想像して、雪だるまの表情も和らぐ。
「しかし広い湖と聞いておりますぞ。我輩と貴殿だけで手が足りますかな」
 必要であれば時計ウサギやゼリーキューブたちの手を借りよう。
 そう言いかけた雪だるまの気を察し、ヴィルジールはゆるりと首を振って。
「手数は充分だ。造作ない」
 端的に答えた。
 そしてすぐさまヴィルジールが呼び寄せたのは、小型の戦闘兵器──レギオンの群れ。小型といえど高性能な兵器たちは、主の意思に沿い、光散る地表を進み出す。カシャリ、カシャリと機械音を弾ませていく行進に、雪だるまも朗笑を零した。
「素晴らしき哉! 開拓も楽しくできそうですぞ!」
 それっ、と掛け声と共に雪だるまが噴き出したのは、無数のマシュマロ。真白の粒が青く突き抜ける空へ舞い、ぽこぽこと地面へ落ちていく。雪片よりも牡丹雪のようで、ほうとヴィルジールは唸った。そうして次から次へと生まれゆくマシュマロ雪の塊を、心強いレギオンたちが懸命に運ぶ。艶めく緑と土が織り混ざった畔に、淡い光を放つ白が敷き詰められていく。
 ぷぷぷとマシュマロ雪を吐き出す雪だるまをよそに、ヴィルジールは湖を覗いた。一般的な水であれば、清冽な様に空を映すばかりだろう。しかし今この世界を作り上げているのはゼリーだ。水ほどの鏡面にはならずとも、貴公子然としたヴィルジールの姿は青に映りこむ。
 ──此の湖、何味なんだろう?
 試しにひと欠片を摘んでみれば、口へ放った途端に溶け、澄んだ水と化した。鼻を抜けるのは水の薫り。喉元を過ぎるのは冷たさとまろやかさ。ヴィルジールは細い息を吐き、辺りを見渡した。小型兵器の働きにより、陽光を受け七色に輝いていた湖畔に冬が訪れている。
 ──せっかくの雪景色だ。
 ヴィルジールは積雪へ剣の切っ先を当て、刀身に星図を赫々と浮かび上がらせる。とろけたマシュマロで形成していくのは、雪だるまだ。
 湖畔の守り神として佇む立派な白玉に、ヴィルジールも満足げに口端をあげた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィオリーナ・フォルトナータ
ラナ様(f06644)と

新しい国…やはり必要なのは一息つくことが出来る場所だと思うのです
ですので、お茶会が出来そうなテーブルや椅子を拵えられましたらと
わたくし、力仕事には少し自信がありますのでお任せ下さいね
とは言え組み立てるのにも時間が掛かるでしょうから
少し形を整えればそのまま使えそうな、程よい硬さの四角いゼリーがあれば…
ラナ様、流石です。これくらいならちょうど良さそうですね(怪力で持ち上げながら)
聞けば歌を聞かせると花が咲くとか
ラナ様のお歌、聴かせて頂けると嬉しいです

雪だるまさんにお会いできましたら、一緒にお茶会はいかがでしょう?
マシュマロにゼリーに、美味しい紅茶
残りの作業も頑張れそうですね


ラナ・スピラエア
フィオリーナさん(f11550)と

わあ…!
すごいですね、この一面全部ゼリーだなんて
フィオリーナさんが頼もしい!
えっと、私はあんまりお役に立てないと思いますけど…
でも、頑張りますね!

わあ!テーブル、素敵ですね
お茶会の時間は大切ですからね
んー…あ、あの赤いゼリーなんてどうですか?
大きくて…ちょっと、硬いです

こういうのはお役に立て無さそうなので
その間、周りにお花でも植えようかな
虹色のゼリーのお花とか、咲くでしょうか?
歌は…あんまり自信は無いですけど
じゃあ1つ、幼い頃から聴いていた歌を

雪だるまさんに会えたら
マシュマロを出して貰いたいです
素敵な世界で、お茶会だなんて幸せです
ふふ、はい
頑張りましょうね



 爛然とした色彩を湛えたゼリーが、まだ見ぬ大地でさんざめく。
 わあ、とラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)があげた声さえも煌めいて、ゼリーだらけの世界に転がった。右を向いてもゼリー。左を向いてもゼリー。きょろきょろと見回すたび、淡い桜の髪を楽しそうに揺らして、ラナはあるがままの世界に心身を浸した。
「すごいですね、この一面ぜんぶゼリーだなんて……」
 くんくんと鼻先を鳴らせば、届くのは爽やかな薫りと、甘い芳香。
 きっと口に含めばとろける味わいなのだろうと、頬を押さえたラナの眦もとろける。
 一方で、新しい国に必要なものを考えていたフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は、脳裏を真っ先に過ぎったものをかたちにするべく、唸っていた。
 大事なのは、ひと息つくことが出来る場所だ。有事の際には休める場として。あるいは日常の風景として。戦いや仕事ばかりの日々では、滅入ってしまうだろう。ひとの生活を眺めてきたフィオリーナだからこそ、思い至ったものだ。
 ──先ずは、お茶会が出来そうなテーブルや椅子、でしょう。
 ひとの営みを幾つも映してきたフィオリーナのまなこに、物珍しいゼリーの樹が飛び込む。透ける幹の内には液体と化したジェルが流れ、土から幹へ、そして葉の先端へと運ばれている。ひとつの樹の一生を垣間見て、思わずフィオリーナの頬が緩む。
 太さは充分だ。伐採して形を整えればテーブルになりそうだが、フィオリーナは首を傾ぐ。
「切り倒して組み立てていくとなると、時間も掛かるでしょうから……」
 なるべく早く出来上がりそうなもの。たとえば、少し形を整えてそのまま使える、程よい硬さのゼリーならば。元の形も四角ければ上々。あっという間にテーブルも椅子も完成するはずだ。
 希望を述べるフィオリーナの言葉をふんふんと聞き、ラナは踊るような足取りで小高い丘になったところを登る。空を成す澄んだ青のゼリーや、白く浮かぶ雲のゼリーにも手が届きそうで、ラナは指先を天へ掲げてみた。近そうで遠い。けれど。
 ──きっと、屋根や高い塔からなら。
 空を切り取って味わえるかもしれない。そんな期待を胸で膨らませつつ、一帯を眺める。緑の濃淡が波打つ平野の向こう、ラナは赤く輝くゼリーの岩を見つけた。
「あっ、フィオリーナさん、あの赤いゼリーなんてどうですか?」
 ラナに手招かれ丘へやってきたフィオリーナも、宝石のような光を纏う岩を目にする。
 望むだけでは小柄に見えた岩も、ふたりでいざ近寄ってみると、四人ぐらいなら悠々と囲って座れる大きさだ。ラナが表面を撫でてみる。陽に照らされているためか、ほんのりあたたかい。
「ラナ様、流石です」
 フィオリーナもラナに倣ってゼリーの岩に触れた。
 見目こそゼリーだが、ふるふると震えはせず、思いのほか硬い。だが硬すぎるのではなく、少なくとも刃の類はすんなり入りそうだ。
 拳でこんこんと叩きながら、ラナはううんと小さく唸る。
「大きくて……ちょっと、硬いですね。どうでしょう」
 テーブルや椅子に相応しいか否か、疑問に首傾ぐラナを前にして、フィオリーナは空色の瞳を揺らして笑みを咲かす。
「これくらいが、ちょうど良さそうです。それにわたくし、力仕事には少し自信がありますの」
 彼女の両腕は、宣言通りすぐさまゼリーの岩を持ち上げた。ひょい、と細身ながら正しく軽々と。
 そうして、お任せ下さいね、と微笑みを湛えたフィオリーナの様相は、ゼリーの輝きに包まれた世界を背に、柔らかくも強い。
「フィオリーナさん……頼もしいっ」
 まるで幼子のような無邪気さをはらんで、ラナがはしゃぐ。
 そして作業のため森へ戻る道中、花籠を運んでいるようにも思えるフィオリーナの姿を視界に映して、ラナは告げる。
「えっと、私、あんまりお役に立てないと思いますけど……」
 重量あるものを抱え上げるのは難しい。だが意欲だけは人一倍、ラナの瞳で滾る。
「でも、頑張りますね!」
 言うが早いか先を歩き導いていくラナの後背に、フィオリーナも慈しむ色を双眸に宿した。

 ふんふんと漂う鼻歌は、ラナの手をせっせと動かしていく。
 フィオリーナがテーブルや椅子を作る間、少女は周りを花で満たそうとしていた。ゼリーの光輝であふれる不思議の国だが、見かけた花の種類は驚くほど少ない。だからこそ、植えれば見事な花畑になるだろうと、ラナの心も弾む。
 ──虹色ゼリーのお花とか、咲くでしょうか?
 種を埋めてゼリー状の土で覆えば、きらきらした地面に陽が降った。
 種が寝転ぶ土とラナの様子を眺めたフィオリーナが、そっと声をかける。
「ラナ様のお歌、聴かせて頂けると嬉しいです」
 穏やかに紡がれた言の葉は、ラナの胸を揺さぶる。歌にはあまり胸を張れなくとも、それでもラナにはひとつだけ耳の奥に馴染んでいる歌があった──だから迷わず口ずさむ。
 ほのかに甘い風が吹き渡り、少女の歌を聞いた種たちがもぞりと動きはじめる。そして瞬く間に芽吹き、茎を伸ばして花開いた。ラナが一曲歌い終える頃には、足元を花の絨毯が彩る。
 すごい、と声にならず呟いたラナの傍ら、フィオリーナは温もりを声音に乗せた。
「ここで英気を養えば、残りの作業も頑張れそうですね」
 そう話す彼女に、ふふ、とラナもやさしい吐息をこぼす。
「はい。まだまだ頑張りましょうね」
 お茶のための席は、花園の中で出番を今か今かと待ち続けている。
 ふたりの眼差しは美しい光景を捉え、やがて互いを映す。
「せっかくですから、雪だるまさんをお茶にお誘いしましょう」
 フィオリーナの提案に、ラナもぱちんと手の平を合わせる。
「マシュマロを出して貰えたら、美味しい紅茶と一緒にいただけますね」
 守るべき世界のため、笑みを交わすふたりはただただ、未来を見つめ歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
わ、面白い!
(周囲の光景を興味深げに見渡す
傍らのバディペットのリンデンも同意するように一声鳴く)

ふふ、リンデンもはしゃいでるわね
(走り回る大型犬に笑って声掛け)

鍛錬で鍛えてるもの
資材の切り出し(剣刃一閃を使用)に運搬は任せてね
皆の手伝いに動き回るわ(肉体派なPOW特化)

あとは……
せっかく時計ウサギさんも居るんだし
皆でお茶会が出来る場所が欲しいかしら
椅子と机になりそうなキノコとか、どう?

皆と決めた場所に種を植えるわ

『大きなテーブル並ぶのは、光溢れるお菓子達
あったか薫るティーポット、優しさ湛えるティーカップ
ふわり支える椅子の上、笑顔と共に愛おし時を』

即興で想いを籠めて歌うわ

アドリブ・絡み歓迎


ソラスティベル・グラスラン
わあぁ…早速新たな国の誕生に立ち会えるなんて、感激ですっ
ふふふ、新たな世界で出会う可愛らしい種族の皆さん
これもまた、心暖まる冒険の1ページですね!

【優しさ・コミュ力】
愉快な仲間さんたちと楽しく国を作ります
わたしたちもお手伝いさせてください!

【怪力】で木材や岩をどんどん運び
石材を土台にカット、木材で大きなお家を作ります!
木も岩もゼリーです!どんな味がするのでしょうね?
ふふふ、虹色キューブの皆さんも一緒に運べちゃいますよー!お姉さん力持ちですから!

階段でなくスロープを、中に遊具も作ったり
皆さんがぽよぽよ喜ぶ姿を想うと、一層【気合】が入ります!
皆さんで住める立派なお家を作りましょうっ!おー!【鼓舞】


赫・絲
すごーい、地面までゼリーなの?
今まで見たコトない感じの世界だねー
透明な地面の上でジャンプしたりして感触を楽しみ

とりあえず、何をするにも水は必要だと思うんだー
ちょうど泉もあるみたいだし、そこから水を引き込める水路を作るのはどう?
家とか作るならその近くがいいと思うなー

方針が決まったら水路づくりのお手伝い
ゼリーの地面を掘って水路として使えるように整えて
普通の水よりはちょっと固形だし、傾斜をつけた方が流れやすいかなー?

うう……にしてもこの掘ったゼリー見てるだけでも美味しそーだよー
そうだ!無事に水路が通ったらこの水みたいな柔らかいゼリーからちょっと味見してみちゃお!
どんな味がするかなー

アドリブ歓迎


ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ&連携歓迎
メボンゴ=からくり人形名

新たな世界を開拓するって浪漫だね!
キラキラのゼリーの国ならなおさら
私達もお手伝いするよ!
ね、メボンゴ!

オウガから街を守る堀と壁を作るよ

大地に火属性の衝撃波(メボンゴから出る)を放ち地面を溶かして堀を作る
ゼリーが溶けたら水堀の代わりになるかな?

その後内側にマシュマロで壁を作る
雪だるまさん、大きなサイコロ型のマシュマロ出してもらってもいい?
これくらい、と両手をいっぱいに広げて

愉快な仲間達に手伝ってもらいながらマシュマロブロックを積み上げていく
早業と気合いで素早く手早く
なるべく厚く、飛び越えられないくらいどんどん高く

わー、良い眺め!
キラキラのお花畑があるよ!


フィリア・セイアッド
わあ、綺麗な世界!
暖かな日差しも 色取り取りの花も
「開拓者」と名乗ったひとたちも まるで絵本の中のよう
知らず笑顔になるのを 頬をぺちぺちと叩く
私も頑張ろう
まずは開拓のお手伝い、よね

【SPD】
開拓者さんたちに自己紹介をした後 一緒に森の手入れ
綺麗な水は欲しいわよね 湖とか泉を探して…
近くにゼリーのお花畑はどうかしら
それで併せて食べられたり飾りに使えるようなハーブを植えるの
持ってきた苗を見せて提案
ミントやレモングラス カモミールならゼリーに合いそう
色取りを考えて 楽しく開拓者さんとお喋りしながら作業
ライアを取り出し 歌を歌う
どうか優しい世界になりますように
歌とともに現れた小さな妖精に満面の笑み


レザリア・アドニス
新しい世界が発見されたと聞いて…
アリスラビリンス、なんと、すごい所みたい…

まるで童話の本が、本当の世界になった…っ!
ゼリーの森に「うーわーあー」と感嘆して、無意識にも、年相応に子供っぽい表情になっている
これは、どうやってできたのですか…?
た、食べてみてもいいんですか…?(住人の雪だるまかウサギさんに聞いて、許可貰えたらドキドキと手を伸ばし)
…とても、美味しいです!
でも、食べるばかりじゃ申し訳ないね…何か手伝いできることがあるの?
ゼリーの種をゼリーの大地に植え、誰も気づいていない間に、こっそり歌を歌う
異世界の歌だけど…気に入れればいいね
生えた花や作物に、思わす笑顔を綻ばせる
とても、素敵な世界なの


オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

わあ、きらきらしてる
これぜんぶゼリーなの?
すごいっ

リュカは畑つくる?
わたしね、ちょっとだけ温室のお手伝いしてるから
やったことあるよっ
まかせて

土もゼリーだ
そっちはもう、うえた?

そしたらね、花畑があったらうれしいから
こっちには花をうえてもいいかなあ
この世界の花はふしぎなんだね
わたしがかんがえた花が咲くってかいてある

うーん、かわいい花がいいな
天気がいいと歌って
危険が迫るとおしえてくれる花とか

ねえリュカ
歌を歌うとそだつんだって
リュカは歌、すき?

しばらく耳をすませて
旋律を覚えたら勝手に合わせ

わたしはねえ
と前に子供たちが歌っていた童謡を

育つ姿を見て
歌いながら見て見てと指す
たのしいっ


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と

…すごいな。
すごいっていうか…うん、世界は広いね
面白い

そう。世の中一番食べることが大事だと思うから
とりあえず畑の確保ね
実際の作業はしたことがないけど、話には聞いてる
とはいえ実際やってみないとわからないこともあるから、
ここは経験者のオズお兄さんに教えを仰いでやっていこうかな
うまいこと土を耕したら、とりあえず夏野菜をいくつか植えよう
そっちは花畑にするの?
何の花を植えた?

…歌か
歌えなくはないけど、あんまりうまくもない
でも、そういうならいくつか、旅した土地土地の民謡なんかを歌いながら
お兄さんは何か歌える?
俺も真似して歌ってみる

…うん。楽しい。どんな場所になるんだろうね


レイン・フォレスト
新世界かあ……なんだか彼女にとても似合ってる世界だな
僕には、少し眩しいけど

少し離れた場所で花畑を作ってるフィリアをそっと微笑して見つめ考える
僕には何が出来るだろう……
自分がここの住人だったら欲しいもの
そう考えたら答えが出た
僕が浮浪児だった頃、何よりも欲しかったのは食べ物だった

だからまずは何よりもご飯!
全部ゼリーだし食べられるのは分かってるけど
デザートだけより食事もあった方がって思うから
野菜や芋用の畑を……作れるかな?
畑を耕して、芋とかニンジンキャベツなんかをイメージして作ってみよう

上手くできたらサラダにしてジュレで作ったドレッシングかけてもいいよね
ゼリーをとろとろに溶かしたスープもいいかな?



●国作り
 赫・絲(赤い糸・f00433)の双眸もきらきらと輝き、世界を見はるかす。
「すごーい、地面までゼリーなの?」
 過去に通った世界では、見かけなかった様相だ。
 透明な地面の上で飛び跳ねてみれば、ところによって沈み、ところによっては本物の土のように硬い。
 近くでは、わあぁ、と感激の声をあげてソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)も絶景を拝んでいた。
 ──早速、新たな国の誕生に立ち会えるなんて、感激ですっ!
 しかもここは、不思議の国。
 今まで歩んできた土地とは色味も薫りも異なる世界だ。ソラスティベルの胸も好奇も、高まる一方で。
 ちらりと視線を外せば、愉快な仲間たちの可愛らしい姿が新鮮だ。
 ふふふ、と笑みをこぼしながらソラスティベルは、気合いを拳にきゅっと握りしめる。
「愉快な仲間たちさん! お手伝いさせてくださいね!」
 ソラスティベルの弾んだ声に、彼らもぴょこぴょこ飛び跳ねて応じた。
 くるくると踊るように空も大地も眺めて、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)も微笑む。
「綺麗な世界! こんなところが、あったのね」
 揺らした双翼も、新鮮な世界の風に弾む。
 肌を撫でていく暖かな陽射しも、ゼリーでできた太陽のおかげか、やさしい。そして咲き誇る草花も光を透かし、ゆらゆらと来訪者たちを嬉しそうに出迎えている。ゼリーはゼリーでも、まるで意思を持っているかのようで、フィリアは草花にも会釈をした。
 絵本の中に迷い込んだようにも思えて、自然と綻ぶばかりの頬を、ぺちぺちと叩く。
 ──私も頑張ろう。
 フィリアは決意を小さく、口の中でのみ呟いた。
 そんな友の姿を、まるで絵画のように眺めながらレイン・フォレスト(新月のような・f04730)は口端をあげる。
 ──なんだか、彼女にとても似合ってる世界だな。
 そこかしこで煌々と点るゼリーの光は、闇も夜も知らぬかのようで。
 ──僕には、少し眩しいかな。
 レインは睫毛を伏せ、ひっそり物思う。
 新世界に踏み入れ、喜んでいる猟兵は多い。
 ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は、常より曇りを知らぬ瞳をひときわ輝かせる。
「新たな世界を開拓するって、浪漫だね!」
 新世界。開拓者。キラキラのゼリー。
 考えるだけでも期待と興奮が隠しきれない言葉ばかりで、ジュジュのやる気は上がっていくばかり。
「私達もお手伝いするよ! ね、メボンゴ!」
 白兎の可愛いフランス人形を見やれば、メボンゴは片腕を軽やかに上げる。
「じゃあ私、オウガから街を守る堀と壁を作るよ」
 宣言するが早いか、ジュジュはメボンゴと一緒に駆け出した。
 ジュジュの発言を受け、私は水の確保かなあ、と絲が大きな瞳をくるりと動かす。
「何をするにも、水は必要だよねー」
 先に立地を確認していた猟兵のおかげで、泉が近いこともわかっている。
「はい、綺麗な水はすぐに欲しいですよね」
 言葉を聞いていたフィリアが肯う。
 同意を得られた絲は、すぐさま泉の在り処へと歩き出した。
 そんな彼女たちの少しばかり脇の方。
「わ、面白い!」
 南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は興味深げに景色を確かめながら、歩いていた。
 傍らのバディペット、レトリーバー種に似たリンデンも同意するようにひと声鳴き、駆けだす。
「ふふ、リンデンったら。あんなにはしゃいで」
 いつもは凛として開かれた大きなまなこも、今ばかりは穏やかに丸みを帯びていた。
 撥ねたり弾んだりして喜ぶ猟兵たちの後方、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は呆然と立ち尽くす。
「新しい世界が発見されたと、聞いたけど……」
 話に聞いただけでは、想像もできなかった。暗く沈む闇から遠い、明朗な世界──アリスラビリンス。目の当たりにして一瞬、レザリアは夢でも見ているのかと頬をつねる。けれど痛みは確かで、踏み締めた地面はふにと沈んだ。慌てて足を上げてみると、靴の形がゼリーの地面に模られる。
 ──まるで童話の本が、本当の世界になったかのよう……っ!
 声なき声で感嘆し、直後には「うわあ」と堪え切れずに無邪気な声が溢れ出す。意識せず年相応の面差しを帯びたレザリアの姿に、常の落ち着き払った素振りはない。
「こ、これは、どうやってできたのですか……?」
 時計ウサギに尋ねてみると、開拓者たる白ウサギは双眸をやわらげて。
「私にもわかりません。不思議の国ですからね」
「た、食べてみてもいいんですか……?」
 そわそわと落ち着かないレザリアの様子に、時計ウサギが微笑んだ。構いませんよ、と彼は一言だけ告げる。
 そうして許可を得られた少女は、向こうところ敵なしだ。透けた緑の葉を一枚つまみ、くん、と嗅いでみる。植物の薫りというより、水の薫りがした。好奇心の望むままにぱくりと含めば意外にも、淡い甘さが舌に乗る。
「……とても、美味しいです……!」
 ゼリーの葉は口の中であっという間に溶けてしまった。
 もう一葉、別のかたちをしたものを頬張ると、また違う甘さが滲む。
 賑わいから遠く、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が立つ地でも色彩が弾け、キトンブルーに感情の光を燈す。
「わあ、きらきらしてる、これぜんぶゼリーなの?」
 すごいっ、すごい、と撥ねるオズの心身はまるで踊っているかのようで、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)も静かな双眸に光を宿した。
「すごいっていうか……うん、世界は広いね」
 ──なんて、面白い。
 面差しこそ淡泊ではあっても、リュカの瞳は嘘をつかない。
 そんなリュカのシルエットをも世界ごと括って眺め、オズは吐息だけで笑う。
「リュカは畑つくる?」
「そう。世の中一番食べることが大事だと思うから」
 とりあえず確保しなければならないだろうと、リュカは現実を見据えた。
 実際に作業を経験したわけではない。だが話には聞いて知っている。知識と経験は別物だということもリュカは重々承知していた。だからこそ。
「わたしね、ちょっとだけ温室のお手伝いしてるから」
 やったことあるよっ、と弾むオズの声と眼差しがきらめいて映る。
 まかせて、と胸を張るオズに頼る心を傾け、リュカは早速、畑作りにとりかかった。


 海莉が断のは、太い木々。刃文に朱を差す野太刀にて、見事に切断してみせれば、横たわる木材があっという間に積み上がった。
 重たい資材の切り出しも、そして運搬も、海莉は細腕で軽々こなしていく。心強く機敏な動きで、どう動こうか悩んでいた愉快な仲間たちに声をかける。
「鍛錬で鍛えてるもの。何かあったら、任せてね」
 海莉の言葉に、ありがとう、と愉快な仲間たちが笑顔をとろけさせた。
 そのころ、ジュジュは、大地を溶かして堀の制作にとりかかっていた。
 ──ゼリーが溶けたら、水堀の代わりになるかな? なるよね。
 首を傾げつつも、メボンゴの放った力で地を抉る。メボンゴの働きもあり、あっという間に掘もできあがりそうだ。防護のためにあと必要なのは、壁だろうかと海莉は振り向く。
「雪だるまさん、大きなサイコロ型のマシュマロ出してもらってもいい?」
 これくらい、と両手をいっぱいに広げてみせれば、喜んで、と雪だるまが身を膨らませる。
 ぼん、と一瞬で飛び出したのは巨大なマシュマロ。
「このサイズでどうですかな!」
 誇らしげに告げた雪だるまへ、海莉は静かに頷いてみせた。
 その一方。
「ねえ、ゼリーのお花畑はどうかしら」
 花はいくらあっても足りないぐらいだ。ただでさえ、この国にはまだまだ花の種類が少ないとフィリアは感じていた。
「それ、なーに?」
「なーに?」
 興味を抱いた虹色ゼリーキューブの兄弟たちが、苗を植えようとしていたフィリアの傍へ、ひょこひょこと近寄る。
「ハーブよ。食べることもできるし、飾りにも便利なの」
 持ってきた苗を見せると、ゼリーキューブたちが「へえ」と彼女の手元を覗き込んだ。選んできたのはミントやレモングラスといった、ゼリーにも合うハーブだ。
 そうして身も心も弾ませているフィリアを、レインは少しばかり離れたところから見つめていた。絶え間無く笑うフィリアは、愉快な仲間たちや花ともおしゃべりを楽しんでいて、そんな姿を遠くにレインもまた微笑を頬に含む。
 けれど過ぎるのは迷いだ。
 ──僕には、何が出来るだろう……。
 フィリアのようにすぐさま動き出せず、しばし考えに沈んでいた。
 自分がここの住人だったら、何が欲しいか。そこまで思惟を巡らせてようやく、答えにつながる──食べ物だ。
 浮浪児として困窮する日々の中、レインが最も欲しかったのは。
 空腹は己の、そして周りにとっても大いなる敵となる。よし、と思い立ったレインはすぐさま花畑に背を向けた。すべてがゼリーでできているとはいえ、ぷるぷるふわふわのゼリーばかりでなく、しっかりした食事は必要だ。
 ──野菜や芋用の畑がいいね……作れるかな?
 今ばかりは、掲げるのは武器でも戦いの気配でもなく。
 鍬を手にするイメージで、きらきらと輝く土を耕す。芋に人参なんかがあれば、あらゆる料理が作れるだろう。レインの想像のままに、土は畑の形へと変わっていく。浮かんだ光景がそのまま眼前に現れるかのようだ。
 けれどそれは確かに、レインの心に燈る光によるもの。
 サラダにして、ジュレで作ったドレッシングをかけようか。
 ゼリーをとろとろに溶かして、スープにするのも良い。
 腹が満たされていく幸福へ想い馳せながら、レインの畑作りは恙無く進んだ。
 そのころ、清冽な水のゼリーを湛えた泉では、陽射しを浴びて水面がきらきらと楽しげに踊る。
 ようし、と腕まくりをしながら絲は水路づくりに取り掛かった。
 まず掘るのは地面。柔らかさを確かめながら掘削し、水路としての形と流れを整える。
 ──普通の水よりはちょっと固形なんだよねー。
 完全な液体であれば、動きも読みやすい。しかしゼリーであるという前提は、絲に備わる知識と経験をフル稼働させた。
「傾斜をつけてみたんだ。こっちのが流れやすいかなー」
 胸を張る絲に、愉快な仲間たちから拍手が巻き起こった。
 しかし直後に、うう、と低く呻く。表情こそ苦悶に満ちているようだが、実際は。
「美味しそーだよー……」
 きゅるる、と胃が鳴った。空腹ではないはずだが、甘い薫りの誘惑には抗えない。
「そうだ!」
 ぱちん、と手を合わせて絲が身を撥ねる。鼻歌を交えんばかりの少女の思考は、すでにゼリーの水に沈んでいた。
 ──ちょっとだけ、味見してみちゃお!
 ちょっとだけ。ちょっとだけ。
 まるで自分へ言い聞かせるように小声で言いながら、絲は流れるゼリーの粒を掬う。
 顔を近づけると、澄んだ水の薫りが鼻を抜ける。そっと喉へ流しいれ、絲はひんやりと落ちていくゼリーの風味に瞬いた。


 七色の輝きに満ちた大地に、レザリアはゼリーの種を植えた。
 そして誰の目にもとまらぬ場所で、こっそり歌を紡ぐ。
 少女が綴るのは、異世界の歌。
 ──気に入ってくれたら、いいね。
 すくすくと育ち開花した姿に、笑みを綻ばせる。
 ──とても、素敵な世界なの。
 レザリアが心身を浸した世界は、やさしく、そして美しかった。
 そんな少女からは、遠い場所。
 ソラスティベルの内で燃える炎は、衰えをしらない。そして彼女自身もまた、力を抜くことを知らない。木材や岩を休まず運んでいくソラスティベルのたくましさに、愉快な仲間たちも感心のため息を落とした。
「すごいねー、ちからもちー!」
「ちー!」
 虹色ゼリーキューブの兄弟たちが、ソラスティベルに声をかける。
 家の土台を積んでいたソラスティベルは、ふふんと鼻を鳴らし、胸を張った。
「お姉さん、力持ちですから! 皆さんも一緒に運べちゃいますよー!」
「ほんとー!?」
「とー?」
 幼子の声を連ねるキューブの兄弟たちの期待を一手に引き受け、ソラスティベルは彼らをゼリー板に乗せて、頭上高く掲げ出す。
「スロープと遊び場も、お家に作っちゃいましょう!」
「ましょー!」
 ソラスティベルの掛け声を真似て、虹色キューブの兄弟たちがはしゃぐ。
 そんな彼らを引き連れて、ソラスティベルは家作りに奮闘した。
 ──これもまた、心暖まる冒険の1ページ、ですね!
 新たな歴史が、彼女の人生に刻まれていく。
 意気揚々と動く少女たちの傍、海莉は黙々と種を植えていた。そして澄んだ空気を吸い込む。
 大きなテーブル並ぶのは、光溢れるお菓子達──。
 結わえていく想いは、歌声になる。
 あったか薫るティーポット、優しさ湛えるティーカップ──。
 即興ではあるが、光景を想像した歌声はつよい。
 ふわり支える椅子の上、笑顔と共に愛おし時を──。
 想いを籠めて歌えば、呼び声のような歌は、突き抜ける青空のゼリーへと溶け込んでいく。

 煌めく土は想像のままに耕され、夏野菜を植えれば待ち焦がれたかのように土たちが輝く。
 ありとあらゆるものを楽しんでいるかのようなゼリーの土を、リュカは眩しそうに見下ろした。微かに息を吐いて視線を外せば、オズが足取り軽やかに花を植えていて。
「花畑、かあ。何の花を植えた?」
「かわいい花!」
 思考をそのままオズは口にする。
 天気がいいときには歌ってくれる花。危険が迫るったら教えてくれる花。
 夢を編んだ花ではあるが、不思議の国で咲かない夢はない。
 やがてオズが紡ぐ旋律は、いつかに子どもたちへ歌った童謡。
 促すオズの歌声を耳朶に受け、リュカも目を細めた。
 ──歌、か。
 うまくはないけど、それでも。歌うオズの姿を空気に誘われ、リュカも民謡を口ずさむ。
 彼らの歌声を浴びて、すくすくと、迷いもためらいもなく花たちは育つ。
「たのしいっ! リュカは? たのしい??」
 オズからの無邪気な問い掛けに、リュカはぱしぱしと瞬いてから、僅かに息を潜めた。
「……うん。楽しい。どんな場所になるんだろうね」
 場所作りは、各所で行われている。
 すっかり苗を植えて静かになった大地を前に、フィリアは菫のライアを爪弾く。そして唇で紡ぐのは、春の息吹を招く歌。
 ──どうか、どうか優しい世界になりますように。
 祈りを声に、願いを言葉にフィリアは歌う。
 やさしい天使の歌に導かれたゼリーの妖精たちが、咲き出した花の合間からフィリアを覗いた。
 同じころ。
 ぽん、ぽんとジュジュは、白いドレスの淑女人形メボンゴと一緒に、マシュマロブロックを積み上げていた。なるべく厚く。そして飛び越えられないくらいに、どんどん高く。
 願いのままに積み重ね、最後にはてっぺんにぴょんと飛び乗って、世界を見はるかす。
「わー、良い眺め! キラキラのお花畑があるよ!」
 ジュジュは野の美も明るさも湛えた双眸に、煌めく世界の息吹を映した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ゼリー…また面妖な世界よな
とはいえ開拓とは殊勝な心掛けだ
此処は我々も国作りに手を貸すとしよう
ほれジジ、弱気にならんで
お前も力を貸すが良い

矢張りオウガから身を守る壁は必要であろう
ならば此処は雪だるまに御助力を願い
持ち込んだ白チョコを接着剤としてマシュマロを積み上げる
力仕事はお前の領分だぞ、ジジ
何、多少は時間稼ぎに…って、さてはお前食ったな?
壁を作るとなれば人手は多いに越した事ない
【おお、親愛なる隣人達よ】で呼出した小人にジジの手助けを命じよう
退けられる子等を見ては溜息一つ
やれ、張り合うべき相手は別にいるだろうに
せめて応援でも…おや?
全く、素直でない愛い奴め

*従者以外には敬語


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

敵が居るとは思えぬ世界
…師父よ、俺は此処に居て良いのだろうか
色鮮やかな世界に融け込む師とは真逆に過ぎ
師に乞われるがまま応じる

ふむ…つまり、要塞か
力仕事と聞けば身も軽く
しかし、こんな素材で大丈夫なのだろうか
ずいぶんと柔らかい上に甘いようだが
…一口囓っただけだ

小人…だと
俺では足りぬといのうか、師父よ
従者は一人で充分とばかり
小人達を尾や爪先で押しのけながら黙々と積み上げる
お前達はそこで菓子でも喰っているがいい

威圧感が足りぬ故
短剣で三角錐に削った「ましゅまろ」とやらを接着
棘の壁と見せかけておく
次はこの水のような「ぜりー」で堀を造らねばなるまい
……。…退屈なら手伝え、小人ども



 望む世界は色彩と光に満ちあふれ、けれど住民らしき気配がない。新世界を見渡して、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は口端を緩める。
「……また面妖な世界よな」
 今まさに踏み締めている大地は柔く、しかし歩いてきた道のりはところどころ硬かった。場所により、土という名のゼリーの硬度が異なるのも面白い。ものによってゼリーの状態も、色も、違ってくる。なのにすべてがゼリーという種なのだ。
「斯様な地を開拓とは、殊勝な心掛けだ」
 うむと肯うアルバの声音は朗々として、澄んだ風に乗る。
 快い風は異郷からの来訪者も包み、彼らの視線をそこかしこへと散らせていく。
 日陰が美しく光り、清く穢れなき大地であるとアルバは感じた。
 その一方、変化に富んだ大自然が眩しく、平生見ているものと違ってジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は眉をひそめた。
 爽やかな気象も手伝い、初夏に見る空の碧が、渦巻くような雲を泳がせている。
 とても敵が居るとは思えぬ世界だ。敵がいなかったからこそ、保たれていた絶佳なのだろう。
「……師父よ」
 呼びかけるジャハルの声は、やや心許ない。
「俺は、此処に居て良いのだろうか」
 燦々と射す光が四辺に漲らせるのは、確かな美。鮮明な色に融けこむアルバとは真逆の静寂に、ジャハルは佇んできた。だからこそむず痒さが生じる。
 そんなジャハルの背を押し、アルバが笑む。
「我々も国作りに手を貸すとしよう。ほれジジ、弱気にならんで」
 促されるまま、ジャハルはそろりと歩き出した。

 水場や住居など、住み心地を重視して猟兵たちが勤しむ中、アルバの眼差しは真剣にマシュマロとゼリーを眺めていた。
「矢張り厚い壁は必要であろう」
 雪だるまに助力を願ったことで、彼らの前にあるのは大量のマシュマロ。
 アルバはひとつずつ確かめながら、接着剤として持参した白チョコと共にジャハルへ差し出す。
「お前の領分だぞ、ジジ」
 そう言われて、大きな体躯の青年がぴくりと肩を奮わせた。まなこに光が燈る。
 ──つまり、要塞か。
 他でもない力仕事だと聞けば、ジャハルの身も心も軽くなる。
 戦いへの備えと考えれば、動きに迷いもない。守りの要となるよう、一粒一粒を溶けたチョコでつなぎ合わせていく。
「しかし、こんな素材で大丈夫なのだろうか」
 ふにりとマシュマロをつつきながら、ジャハルが怪訝そうに呟く。
「ずいぶんと柔らかい上に、甘いようだが」
 過ぎる不安は拭えず、しかしそんなジャハルへアルバは躊躇いなく応じる。
「何、多少は時間稼ぎにでも……」
 はたりとアルバの声が途切れた。ぐるりと迂回した眼差しで、ジャハルを射抜く。
「……食ったな?」
「……囓っただけだ」
 隙も抜かりもないジャハルの言動に、アルバは短く息を吐いた。
 それにしても、とアルバは壁を誂える予定の一帯を見回す。頑丈な壁を造るには手が足りない。ならばとアルバが呼び出したのは、童話に登場する小人たち。
ジャハルの手助けをするよう命じれば、小人たちはえっさほいさと働き出す。
 がつん、と頭に衝撃を喰らったかのような顔をしたのはジャハルだ。
 ──俺では足りぬといのうか、師父よ……。
 苦みを噛み締めた彼の表情は険しく、従者は一人で充分とばかりに、小さき者たちを尾や爪先で押しのけた。慌てふためく小人をよそに、ジャハルは黙々とマシュマロを積み上げていく。
「そこで菓子でも喰っているがいい」
 突き放す音で小人たちへ、そう告げながら。
 当然、そんな様相を目の当たりにしたアルバはため息をこぼす。
 ──張り合うべき相手は別にいるだろうに。
 つついて蒸し返すのも躊躇われ、押し黙ったまま見届ける。
 ふかふかな壁は、間近で作業を進めるジャハルから見ても目映い。だが。
 ──威圧感が、足りぬ。
 物足りなさに唸り、すぐさま三角錐に削ったマシュマロを表面に接着した。まるみの強いマシュマロの防護壁も、刺があれば平たく言って強そうだ。
 ちらり。ジャハルは視線を脇へ投げ、じっと見上げてくる小人たちを視認する。
「……退屈なら手伝え、小人ども」
 しまいにはそう呟くジャハルの姿に、見守るアルバは肩を竦めるだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
うさぎ穴をうんしょと抜けて

ゼリー?これも?(岩をぷに)
それも?(葉っぱをぷに)
どこに触れてもぷにぷにしてる
ん、わたしも開拓手伝う
【白銀の仲間】で見えないお友達(うさぎ)をよんで
ね、皆のゼリー運び手伝ってね?

森を作るの?
ん……、雪だるまさん、マシュマロ少しちょうだい?
コーヒー色の寒天の樹を植えて
そのそばに真っ白のキノコ
レインボーのゼリーを地面に敷き詰めたらお花畑
空に向けて、お日様を仰ぐ向日葵を

あとね、これ
持ってきた星形の色彩々の金平糖が入った籠を
うさみみメイドさんに持たせて
紺色の湖にぱらぱらっ
ほら、夜空のお星様

もうすぐ七夕だから
七夕、知らない?
ん、それじゃ笹を作ろ?
ゼリーくん達に七夕教える



 うさぎ穴を抜けると、不思議の国であった。
 うんしょと這うようにして頭を覗かせた木元・杏(微睡み兎・f16565)は、視界いっぱいに広がる光の粒に目を細める。眩しい、というのが第一印象。次第に慣れてきたまなこで改めて確認すると、その印象に好奇が纏う。
 砂と土が混ざったようなざらつきを感じる地面を、軽く撫でてみる。透けて地中が窺えるそれは、間違いなくゼリー。
 生える青々とした草をつまみ、木々に触れる。硬さこそ違えど、いずれもゼリー。
 もしかしてこれも、と灰色の岩をつついてみると指先が沈んだ。やはりゼリーだ。
 ──どこも、ぷにぷに。
 とろけた砂糖の薫りばかりではないが、絶景を織り成すものすべてがゼリーなのだと、杏は実感する。
 すでに他の猟兵たちが拓いていた大地は、いつ訪れた者に対しても両腕を広げ待っていてくれる。
 ようこそ、と世界が笑っているかのようで、杏はそろりと開拓者たちの元へ歩き出した。開拓者である愉快な仲間たちもまた、新たな仲間として杏を喜んで手招く。
「ん、わたしも開拓、手伝う」
 こくんと頷き杏が呼び寄せたのは、見えないお友だち。
 少女の念じる心に応じた白銀がうさぎを模り、そこかしこに置いてあるゼリーの塊を示した。
「ね、皆のゼリー運び、手伝ってね?」
 杏の言葉を受けてうさぎが跳ね、荷運びを手助けする。
 その場はうさぎに任せて、杏はマシュマロ雪だるまのところへ歩み寄った。
「ん……雪だるまさん、マシュマロ少しちょうだい?」
「どうぞですとも!」
 雪だるまは嬉々としてマシュマロを吹き出し、杏はふかふかのマシュマロを抱える。
 彼女の足取りに迷いはなく、空いた土地へ向かうと、すぐに寒天の樹を植えはじめた。コーヒー色の樹が天を仰ぎ、そばに寄せた真白のキノコは木陰で一休み。まろやかな色合いが重なるその地面には、鮮烈な虹色のゼリーを敷き詰めていく。陽を浴びた虹色の地が煌めくたびに、その上を歩く杏の周りで色が踊る。
 そうして生まれた花畑には、シンボルとなる向日葵を佇ませた。
 幾度も確かめ、時には遠ざかり一枚の絵としての風景を見る。満足ゆくまで整えた杏が次に向かったのは、紺色を溶かした湖だ。湖と一手も波打つ水が寄せることはなく、湖という枠の中でふるふると揺れるばかり。そこへうさみみメイドさんを放ち、湖面にめいっぱい金平糖をちりばめる。彩る星は様々な光の粒となって、一面の夜を飾った。
 一部始終を眺めていた愉快な仲間たちも、わあ、と声を弾ませる。
「もうすぐ、七夕だから」
 準えてみたのだと囁く杏に、虹色ゼリーキューブの兄弟たちがきょとんと瞬く。
「……七夕、知らない?」
「知らな~い!」
「ないーっ」
 無邪気に答えたゼリーキューブの団体に、杏はふわりと目つきを和らげて。
「ん、それじゃ笹を作ろ? 教えてあげる」
 織り姫と彦星の物語から、七夕に飾る笹や短冊についても。
 ぷるんと揺れるゼリーキューブの兄弟に囲まれながら、杏は言の葉を紡いでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『不思議なアトラクション』

POW   :    体力の続く限り遊ぶ

SPD   :    スタイリッシュな楽しみ方を編み出す

WIZ   :    「愉快な仲間」達や「アリス」、他の猟兵との交流を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●不思議なゼリーの国
 光彩陸離たる世界は、猟兵たちを快く迎え入れた。
 人工的な建造物のなかった大地に、野の美はそのままに開拓の手が入る。
 青く煌めくゼリーを湛えた泉から湧水を引けば、水流に似た音が耳に馴染む。水路はマシュマロとゼリーで組み立てられた住居や畑へと繋がり、実った作物や咲き誇る花もまた、ゼラチンの透明度と光輝を含んでいた。
 傍には一息入れるのにも向くお茶会の席が設けられ、日々の作業の合間に、あるいはちょっとした集いに利用できる穏やかさで包んである。
 住み処を囲いそびえ立つ壁もまた、マシュマロの淡い真白で煌々と世を照らす。
 そして七色が眩しいこの国で、広い湖畔には冬を切り取ったかのような絶佳が広がる。積もったマシュマロ雪と雪だるまが、訪れる人々の目を癒すだろう。
 愉快な仲間たちと猟兵たちが拓いたこの国の未来は明るく、希望に満ちている。
 そんな中、白い時計ウサギが猟兵たちへ声をかけた。
「ずっと動いてお疲れでしょう。よろしかったら、遊びませんか?」

 マシュマロでできた雪だるまも、ほっほー、と笑いながら呼びかける。
「少し離れてはいますが、それはもう巨大なゼリークッションがありましてな」
 小高い丘どころか、ちょっとした山だと雪だるまは言う。
 頂上まで登るのも一苦労するほど、触れたものを弾く性質で、静かに乗れば身は深く沈み寝転がれるが、勢いをつけて乗れば跳躍できる。楽しいですぞ、と話す雪だるまはしかし、「勢いをつけすぎて吹き飛ばされないように」とも付け加えた。
 一度、勢いあまって頭と胴体が離れ離れになり、探すのに苦労したそうだ。

「あのねあのね、湖へつながるおっっきな樹があるんだー!」
「だー!」
 虹色揺らめくゼリーキューブの兄弟たちが、ころころと跳ね回りながら告げる。
「そのおっきな樹にね、ゼリーの滑り台とブランコをつけたよ!」
「よー!」
 大小様々なブランコと、長い長い滑り台を設置したと彼らは言う。
 そのため天を貫かんばかりの樹の上から、湖へと滑り落ちて行くも良し。
 地に足着かないブランコで、空高く揺れるも良し。
 はたまた、樹の上でゆったり休むだけでも良いだろう。
「思い切り漕いだブランコから湖へ飛び込むのも、楽しいよ!」
 ぷるんと身を跳ねさせて、ゼリーキューブの兄弟たちがはしゃぐ。随分スリルに満ちた遊びを好むようだ。
「ぼくね、樹の高いとこに短冊つけた!」
 猟兵から教わったばかりの『願い事を書く短冊』を、早速ゼリーキューブ兄弟のひとりがつり下げてきたという。笹ではなくとも、飾りたかったらしい。
 また、湖の畔にはマシュマロの雪原が広がっている。しかし、肝心の水温ならぬゼリー温はひんやりする程度だ。湖へ飛び込んでも凍える心配や、全身がびしょ濡れになる恐れもない。なにせこの国は水もゼリーでできているのだから。

 薄く微笑んだ時計ウサギが、そこで猟兵たちへ一礼する。
「その大きな樹の頂までいけば、空や雲も食べられますよ」
 ──空を食べる。
 日常では聞き慣れない言葉の並びに、猟兵たちも目を見開いた。
「最も、飛べる方もいるようですし……わざわざ木登りしなくても良さそうですね」
 微笑む時計ウサギは、懐中時計へ視線を落としながら、思い出したように話す。
「……青空の味は、食べた方の心によって違うみたいです」
 見た目は同じ青空ゼリーでも、ひとによって味も温度も異なる。
 そんな不思議な大空を仰がずに、時計ウサギは続けた。
「ご自由にお過ごしください。何かあれば、すぐに知らせますので」

 さて、きみは何をして過ごそうか。
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ&絡み歓迎
皆と仲良く遊びたいな
もちろんメボンゴも一緒だよ

この世界は楽しいことがいっぱいだね!
空まで食べられちゃうんだ!すごい!

わくわくしながら樹を見上げ
魔法の傘を開いて空中浮遊
メボンゴは片手で抱っこ
風が気持ちいいね

途中で傘をたたみ木登りに変更
愉快な仲間達や他の猟兵と合流
お話ししながら登りたい
好きな食べ物の話とか

頂についたら早速空を食べる
いただきまーす!
(※味お任せ)
ふふ、美味しい!
食べた人の心によって味が違うのって不思議だよね
ねえ、あなたの空はどんな味がするの?
興味津々に味の感想を聞いてまわる

これからもこんな楽しい時間が続くように、この場所と皆を守るために、私は戦うよ
改めて決意を固める


スノウ・パタタ
お空ー!食べるできますかっ?
えとね、えと、まだ食べるはれんしゅーちゅうだけどね、してみたいです…!
わくわく、びゅーんと空を飛んでぷるぷるの青空を一欠片、口の辺りを空けて食べる、をする。まだ味は分からなかった、けれど育っている嗅覚は爽やかなミントを感じ取れた。
すーっと、するねえ!
分け合ったユキさんの目がひんやりしぱしぱしてるので、口直しにと雲に乗せてあげるとうきうきもちもち埋もれていく。
どっちがユキさんか分からなくなっちゃったねえ…落ちちゃうかもだから、持って帰って探すのよー
取り敢えず降りてから雲の中のユキさん探しをしようと、両手いっぱいに雲ゼリーを掴んで地面へ。
もくもく取ってきましたなのよー


レザリア・アドニス
ゼリークッションにゼリーの湖にゼリーの空と雲…っ!
なんと、なんと…(内心大はしゃぎして、髪に花がいっぱい咲く)

ブランコに乗ってのんびり揺れて、空を見上げる
空までがゼリーなんて…想像もできなかったんですね…
そんな空は、どんな味なのかしら…?
そう思いつつ揺れて揺れて、だんだん高くなり、
ふわりとブランコから離れて、風に乗って羽ばたき、大きい樹の頂上にたどり着く
ドキドキして空と雲へ手を伸ばし、少し千切って、口に運ぶ
広くて、高くて、空を見上げたくなる優しい甘さかもしれない
心の味、ですか…
曇ったり、雨だったり、夜だったら、また違う味がするんでしょう

ところで、何かあれば、とは一体…?(兎に尋ね)

(絡み歓迎)


南雲・海莉
頑張ったかいがあったわね!

それじゃゆっくりお茶の時間を……って、こら、リンデンっ
(上着の裾をくわえて引っ張る相棒に苦笑しつつ向き直り)
どうしたの?
(相棒がその場を回ったり、後ろ立ちしたり、吠える方向を見て)
分かったわ、しょうがないわね
(お土産の茶葉と耐熱硝子の茶器セットは時計ウサギさんに渡して)
リンデン、行きましょ

(湖に飛び込んで泳ごうとして
そのまま跳ねて目を丸くする相棒が微笑ましくて)
君、やっぱり水遊びしたかったのね
(中々立ち上がるのも苦労してそうな相棒の近くに滑っていき)
このまま浮いてるのも面白いわよ
(抱き寄せ一緒に寝転がって)

空の青、星屑いっぱいの蒼の湖
不思議で気持ちいい

絡みアドリブ歓迎


ソラスティベル・グラスラン
ふぅっ、よく働きましたねー
心地よい充足感、これだから人助けは止められませんっ
でもその前に少し、休憩しましょうか?

虹色キューブの皆さんと遊びましょう!
ブランコや滑り台を作ったんですか?すごいです!
早速いきましょうっ、皆さんわたしにつづけー!(【鼓舞】)

キューブの皆さんを体に乗せて、ブランコです!
ふふふ、幼い頃から大得意なんですよ
ぷにぷにのブランコは弾力あって、普通より勢いがつきやすく
立ち漕ぎで風を感じながら……ジャンプですっ
うひゃあ!あはは、湖が冷たくて気持ちいいですー!

そういえば空も食べられると言ってましたね
楽しませてくれたキューブの皆さんへお礼に、
ひとっ飛びして青空の味をとってきましょうか!


木元・杏
お茶会の席に、マシュマロの雪に、ブランコ、滑り台
わくわくと最初は地上からぐるっと廻って
一緒に来ている猟兵さん達にもご挨拶
時計ウサギさんの様子もちらと眺めて

次は高い場所から景色を眺める
あ、向日葵も見える(嬉しそうに

樹の上でゼリーキューブ兄弟くん達とも合流
お願い事どんなの?
吊られた短冊に微笑んで
…そっと跳返の符を、樹を守るように吊り下げる

ん、青空ゼリー食べたい(そわそわ)
空の青をひとかけら
すっきりしていて、甘くい
なんだかなつかしいおとぎの国の味

時計ウサギさんも
うさみみメイドさんで青空ゼリーを持って降りて渡す
わたしも上から見てるから、息抜きしてね

【絶望の福音】を発動
異変があればすぐに知らせる


ヴィルジール・エグマリヌ
皆の手が加わった事で、ただでさえ夢のような国が
更に素敵な眺めになったね
遊びのお誘いにも喜んで乗らせて貰おう

色んなお楽しみがあって迷って仕舞うな
折角の機会だ、私は空を食べてみようかな
木登りは初めてだけれど、頑張って登るよ
……時計ウサギ君は木登り得意かな
良ければコツを教えて貰えると嬉しい

樹の頂まで行けば青空へ手を伸ばし
ゼリーの空と雲を一口ずつ味見をさせて貰おう
どんな味がするのだろう、わくわくして仕舞うね

それにしても、手を伸ばせば届く距離に空があるなんて
本当にこの世界はお伽噺のようで夢があるな
時間の許す限り見渡しの良い此の場所から
眼下に広がる開拓済みの光景と
頭上に広がる青空を、もう暫し楽しもうか




 ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)が見回した不思議の国は、はじめの頃の色合いはそのままに、ひとの賑わいを集め、国らしくなっていた。
「夢のような国が、更に素敵な眺めになったね。皆で手を加えたおかげだ」
 清々しい空気が鼻孔をくすぐる。
 そんな彼のつぶやきに、ふう、と小さく安堵の息を吐いたのは南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)だ。海莉の面差しにも、ほのかな笑みが射す。
「ええ、頑張ったかいがあったわね!」
 達成感を胸に、徐に茶葉や茶器のセットを取り出そうとして、不意に海莉は相棒の気配を知る。
「それじゃゆっくりお茶の時間を……って、こら、リンデンっ」
 くいくいと裾を引っ張られ、海莉はリンデンの意識が向かう先を見やった。吠える声も嬉々として、しかも尻尾はぶんぶんと楽しげだ。
 視界に映ったものを見て、ああなるほど、と海莉も察する。
「……分かったわ、しょうがないわね。時計ウサギさん、これどうぞ」
 知覚にいた白ウサギへ茶器のセットを手渡し、海莉ははしゃぐリンデンと共に駆け出す。
「リンデン、行きましょ」
 向かう先は、地に散り敷いた青の光沢。
 同じ頃。ゼリーだらけの世界に、ゼリーだらけの遊具。
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)の髪に咲く福寿草までもが、嬉々として微笑む。
「なんと、なんと……っ」
 震える声は、込み上げる興奮をどうにか抑えようとするたび、強さを増した。
 そんな少女の傍ら、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は魔法の傘を開き、飛んだ。片手に抱いたメボンゴと共に、ゼリーだらけの世界を眺めながらの空中散歩だ。
 雲を送り、雲を払う南風は温もりを帯びてまろい。雲の上まで来て気づく。雲間から零れる日光に、地上の林影が煌めく。
「ん~、風が気持ちいいね!」
 充分に風を感じたあと、ジュジュは傘をたたみ、身軽に樹をのぼり始める。
 足よりも遥か下、広がる木々は明るい緑そのままでありながら、今ジュジュが泳ぐ空模様は、底から朱が混じりつつあった。
 そのころ地上では。
 ふぅっ、と汗拭う仕種をしてソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は胸を張る。
 ──よく働きましたねー。心地よい充足感!
 これだから人助けは止められないのだと、誇る唇も嬉しさに上がるばかり。
 すぐさま、ぷるりと跳ねる虹色キューブたちへ顔を向け、ソラスティベルは遥かなる高みを指差した。
「早速いきましょうっ! 皆さんわたしにつづけー!」
 自らを、そして仲間を鼓舞する掛け声を奏でてソラスティベルは巨大な樹へ向かう。キューブの兄弟たちが、そんな彼女を元気に追う。
 その一方、豊富な遊びを前にヴィルジールは顎を撫でて唸っていた。
 ──迷って仕舞うな。
 空を味わってみたいのは山々だが、木登りは初めての体験だ。頑張って登るつもりではある。だが手段を想像してみても、彼の中でしっくりこない。
「……時計ウサギ君」
 猟兵たちの様子を見守っていた時計ウサギを、ヴィルジールは呼ぶ。
 なんでしょう、と問う白ウサギからは、温厚の気配が途絶えない。
「木登りは得意かな? コツがあれば教えて貰えると嬉しい」
「得意ではありませんが、そうですねえ……」
 白い耳を立てて空気を感知しながら、透き通った巨木を見上げる。
「怖いと思わず枝を掴んでいけば、すいすいいけますよ」
 何せここは不思議の国ですから、と笑う時計ウサギに、違いないとヴィルジールもやや肩を竦め、笑みをこぼす。
 水気を帯びていた日の光も、すっかり森の彼方に消えつつある。
 不思議の国に設けられたアトラクションの数々は、わくわくと頬が緩む木元・杏(微睡み兎・f16565)の足取りと視線に、光を募らせた。地上からぐるりとひと廻りして、樹を伝い高みを目指せば、光にくまなく染まった森が、景勝としてまなこに刻まれる。建造物や湖など、森の合間にぽっかり空く箇所も疎らにあるものの、果てしなく横たわる森だけで不思議の国の広さを体感する。果てまで足を運ばずとも想像できた。彼方へ視線をやれば森尽きる場所も見えるだろう。
 しかしゼリーだらけの世界にも靄は生じ、世界の果てはまだ見えない。
 あ、とそこで意識せず杏の声が零れる。
 ──向日葵も、見える。
 柔らかく双眸を揺らした少女の唇は、嬉しそうな気配を刷いていた。


 世界中でささやくゼリーたちの声も、遥かな高みには届かない。
 レザリアはブランコに揺れながら、大空を見上げていた。
 ──空までがゼリーなんて……想像もできなかった……。
 空はどの世界でも同じ空だと思っていた。
 色や匂いが異なれど、空という大いなる存在に変わりはないのだと。しかしそれが「ゼリー製」だと聞かされては、疼く好奇は拭えない。
 ──どんな味なのかしら……?
 そう思いつつ揺れて揺れて、だんだん高くなり、ふわりとブランコから離れて、風に乗って羽ばたいた。
 レザリアが樹のいただきへ向かう頃、間近で空色ゼリーを眼にしたジュジュが、ぱしぱしとまつげを震わす。
「おいしそうな香り……ほんとに空まで食べられちゃうんだ!」
 早速ジュジュは、いただきます、と手を伸ばす。
 枝を歩く程度の揺さぶりでは落葉もせず、枝葉には青々と輝く葉が茂ったままだ。落下の心配もなく、するりと空から摘みとったのは透けてきらめくゼリー。こぼさぬように頬張れば、とろける甘さが咲き誇り、ジュジュはほっぺたを押さえる。
「美味しいっ!」
 弾んだジュジュの声に引き寄せられ、ぴょこん、と幼い少女が葉の間から顔を出した。
「お空、食べるできましたかっ?」
 浮遊しながらのぼってきたスノウ・パタタ(Marin Snow・f07096)は、猟兵たちの反応に興味津々だ。雪解けの色を宿した少女の大きなまなこが、きらきらと輝いている。
「えとね、えと、わたしも、食べるしてみたいです……どーするですか?」
 食べる、という行為をスノウはまだ身につけていなかった。
 幼子の無垢な質問に、ヴィルジールが口端を緩める。
「皆の様子を眺めていると、わかるかもしれない」
 言葉を紡ぎつつ、ヴィルジールはゼリーの空と雲をひとつまみ。ふくらむ期待をごまかさず、けれど露わにはせず、落ち着いたまま口に含んだ。手で触れたときよりもひんやりと、喉を抜けていくゼリーのまろやかさ。鼻を抜けていくのは、微かな甘さ。
 ヴィルジールの見せた手本に、近くでジュジュもうんうんと首肯した。へええ、とスノウは感心を声に含んだ。
 高所から見下ろす不思議の国は、どこまでも続いた。霞んで見えない先の先まで行けば、また違う風景を見せてくれるのではないかと、レザリアの胸に期待が過ぎる。そう想いながらも天を仰ぎ、胸を高鳴らせながら手を伸ばす。
 満たされた空をすこしだけ千切ると、手には揺らめく青が乗る。もう片方の手で雲を摘みとると、思いの外ふんわりとした塊になった。
 そろりと口に運べば、空色ゼリーが口の中で溶ける。喉を通りすぎる際のひんやりした心地もほのかに甘い。
 他の枝を覗き込んでいたジュジュが、そこで尋ねる。
「ねえ、あなたの空はどんな味がするの?」
「甘い……です。ほんのり、やさしい甘さ……」
 レザリアの回答に、そうなんだあ、とジュジュが微笑む。
 こくんと頷くレザリアの眼差しは、自然と蒼穹を見上げた。
 ──心の味、ですか……。
 曇っている空だと、味も鈍るのだろうか。
 雨が降っていたら、もっと水に近いのだろうか。
 あるいは、夜だったら。味を想像するだけでも心が弾むのを感じつつ、レザリアは空をゆっくり飲み込んでいく。
 ペットのシラユキと一緒に、スノウは皆の食べ方をじいっと眺めていた。
 そして、ふんふんと頷きながら、見よう見まねで青空をひと欠片つまんでみる。
 ──食べるは、れんしゅーちゅうだけど、でもね。
 胸中に沸き起こったわくわくを、流すことなどできない。
 スノウは口を大きく空けて、食べる仕種を真似てみる。もちろん手乗りサイズのシラユキにも、はんぶんこ。頬張れば触れたところから冷たさが伝い、内側を通り抜けていくのは、爽やかさ。
 まだ味は分からなかった。けれど育っている嗅覚が、敏感にミントの香気を感じ取っていく。走る清涼感に、スノウもシラユキもぷるぷるっと震えて。
「あなたの空は? 甘い?」
 ジュジュからの質問に、スノウはかぶりを振る。
「すーっと、する! びっくり。ねえ、ユキさん!」
 スノウが笑いかけると、シラユキは目をひんやりしぱしぱさせていた。不慣れな感覚に硬直しているらしい。
 口直しにと、固まるシラユキを雲へと乗せてあげた。淡くやさしい白に、うきうきもちもちシラユキが沈んでいく。瞬く間に雲と同化してしまったシラユキに、スノウは眼を丸くした。
「どっちがユキさんか、分からなくなっちゃったねえ」
 えへへ、と微かな息で笑ったスノウは、雲が風に運ばれてしまう前に引き寄せる。
 シラユキを探すのは、安定したところで。そう考えて、スノウは大きな雲ゼリーを落とさぬようぎゅっと抱え込んだまま、地上を目指した。
 そわそわと、揺らぐ心を杏は眼差しに乗せる。
 ──ん、青空ゼリー食べたい。
 仲間たちに倣って杏も手を伸ばし、掬うのは空の青をひとかけら。手も服も濡れず、つるんと滑りそうな触り心地の空色ゼリー。透けた先に自らの手も映り込んで、まるで小さな空を手にしたかのようだ。こぼさぬよう口へ流し込めば、すっきりしていて、甘い。
 ──なんだか、なつかしい。
 言葉にするならば、おとぎの国の味。いつかに夢見た世界で味わった、しあわせの味。誰も空の味など知るはずがないのに、どうしてそう感じるのか、杏は不思議で首を傾げた。
 そしてふと思い至り、杏はうさみみメイドさんへ何事かを囁きはじめる。
 空を満喫する猟兵たちのシルエットが浮かび上がる、樹の上。
 風に揺れた葉末で、陽の光が砕ける。
 その光を浴びて、短冊がくるくる踊っていた。杏は薄く笑む。少女の傍には色彩豊かなゼリーキューブたちが跳ねていて。
「お願い事、どんなの?」
 風に舞う短冊を取って読むには気が引けて、虹色キューブたちへ問う。すると兄弟たちは顔を見合わせ、えへへと笑顔を綻ばす。
「いっぱいひとがきますよーにって!」
「賑やかな国になりますよーにって!」
「にって!」
 声を揃えた彼らの話を聞いて、杏はそっと跳返の符をつり下げた。この樹を、彼らの願いを、あらゆる悪意から守るようにと。トランプ型の護符は葉と同じく風と遊びながら、世界を見下ろす。
 吹き渡る風は、そうしたひとの心も遠くへ運んでいく。
 別の枝では、それにしても、とヴィルジールが四顧を一瞥していた。
 数多の英華と斜陽を傍観した双眸も、今ばかりは浪漫を映し、清冽な泉に似た輝きを宿す。
 ──手を伸ばせば届く距離に、空があるなんて。
 腕を限界まで掲げ、蒼穹へ指を挿す。爪が掻くのは澄んだ空気。指の腹に感じるのはひんやりとした水気。しかし水そのものではなく、摘めば青をヴィルジールの手元へ寄せることが叶った。
 そして連れた空の跡に、ぽっかり穴が空くこともない。どこからともなく湧いたゼリーで、天はなみなみと空色を湛え続ける。
 ──本当に、お伽噺のようで夢がある世界だ。
 歩けば枝葉が揺れるも、折れる気配は微塵もなく、だからこそヴィルジールも安心して見晴らしの良い場所を探れた。
 眼下に広がるのは、皆で開拓した世界の姿。頭上にたなびくのは、果てを知らぬ青。遠くを望むも世界の終わりは窺えず、発見されたばかりの国が秘める可能性をヴィルジールは連想した。
 ──もう暫し楽しもうか。
 ぼんやり眺める時間も、思惟に沈む時間も、自分にはあるのだから。
 そうして猟兵ひとりひとり、思いのままに時間を過ごす。
 樹の上を渡りゆく音は静かで、ジュジュもまた世界を一眸に収めていた。
 ゼリーが織り成す世界も、泉や水路の側では水の朗笑が、ざわめく森では木々のお喋りが、絶え間なく聞こえていたのに。今だけはなぜか、雲を連れゆく風音も届かない。
「この世界は……」
 綴る言葉が吐息に紛れた。
「楽しいことがいっぱいだね、メボンゴ」
 輝く景色を前に、ジュジュの目許も光の粒を刷く。呼びかけたフランス人形と並んで拝む世界は、未だ平穏だ。鞄に夢をたっぷり詰め込んで、旅したくなる。だからこそ、こんな時間が続くようにとジュジュは愛らしい人形へ笑みを傾けて。
 ──この場所と皆を守るために、戦うよ。私。
 改めて決意を固めた。
 一方、風を切る勢いでソラスティベルはブランコを漕いでいた。
 しかもひとりではなく、七色に染まったキューブの兄弟たちを、身体に乗せて。
「ふふふ、こういうの、幼い頃から大大大大得意なんですよっ」
 パステルカラーのブランコのぷにぷにした感触も気持ち良く、けれど決して脆くはないため力も込めやすい。頭や肩、膝の上で跳ねるゼリーキューブたちも、ソラスティベルの漕ぐ勢いに楽しそうだ。
「よーっし、これなら!」
 ソラスティベルは軽く跳ね、立ち漕ぎへとスタイルを変える。様々な色のキューブたちが、ソラスティベルにぺとりとしがみついた。彼らがしっかり掴んでいるのを確かめて、ソラスティベルは「せーの」の掛け声と共に、ブランコから手を離した。勢いは余るどころか増しに増したまま、大空の勇者たちを──地上の湖へと見送る。


 絶類の景色は、たしかに海莉とリンデンの前にある。星の涙を湛えた湖は、夜の名残を閉じ込めたかのようだ。麗らかな風声が渡る空の行方にも拘わらず、そこだけ時間を止めたかのようでもある。
 景色に見とれて海莉がほうと息を吐く傍ら、リンデンは嬉々として尾を振り、緑陰から迷わず飛びだした。そのまま湖へ身を任せて跳ねるも、川や普通の湖とは勝手異なるゼリーの感触に、ぱちくりとリンデンが眼を真ん丸にする。そんな様相さえ微笑ましくて、海莉は吐息だけで笑った。
「……君、やっぱり水遊びしたかったのね」
 パシャパシャと水を掻くようにリンデンは、細かく波打つゼリーに埋もれ、立ち上がるのにもひと苦労している。
 海莉もさすがに相棒を放っては置けず、眦をやんわり緩めて近づいた。歩めば水とは違い、埋もれる感触にくるまれる。澄んだ風が甘いひと吹きで落としたような星たちが、少女の身を浸していく。リンデンが慌てる前に抱き寄せ、囁いた。
「このまま浮くのも面白いわよ」
 そう提案して一緒に湖面へ寝転がる頃には、たなびく白雲の瞬きに、切れ間から暖かな光が覗く。
 遠い物音をも鮮やかに届ける空の青、星屑いっぱいの湖の蒼。
 ──不思議。
 耳の片隅でさざめく木の葉の朗笑が、海莉を心地好いまどろみへと誘っていく。
 そうして海莉が揺蕩う湖の畔に、両手いっぱいの雲ゼリーで顔が隠れたまま、スノウが舞い降りた。
「もくもく取ってきましたなのよー。ユキさんー、ユキさん~」
 抱きしめたふわふわ雲からシラユキを探し出したスノウの眼前、湖面で水柱ならぬゼリーの柱があがる。
「うひゃあ!」
「ひゃあ!」
「ひゃあっ」
 いくつもの叫び声が連なって飛沫が過ぎた頃、衣服についた光の粒を振り払ってソラスティベルが湖から上がる。
「あははっ、冷たくて気持ちいいですー!」
 一緒に浮かんできた虹色キューブたちも、水ゼリーを吸収するでもなく、ぷるぷると振り落とす。
 楽しかった、楽しかった、とはしゃぐゼリーキューブたちを振り返り、ソラスティベルはふと思い出す──空も食べられることを。
「虹色キューブさん! わたし、ひとっ飛びして青空の味とってきますね!」
「ほんと!?」
「やったー!」
 きゃっきゃと弾む虹色キューブたちへ、ちょっと待っててくださいね、と微笑んでソラスティベルは竜の翼を広げた。そして言葉通りひとっ飛びに、宙へ踊り出る。鳥の羽音も風の鳴き声もなく、今だけはソラスティベルの大舞台だ。
 天へ飛んだソラスティベルを見上げ、スノウは「わあ」と声をときめかせた。スノウにとって、雲の行き来を眺めるうちに日が暮れてしまうほど、仰いだ大空は常に変わりゆく世界の象徴でもある。そんな象徴を自在に翔ける翼は、勇ましい軌跡となった。
 虹色キューブたちと一緒になって、スノウが空を眺めるその後ろ。
 樹から下りてきていたレザリアは、気にかけていたことを傍観者として佇む時計ウサギに尋ねた。
「ところで、何かあれば、とは一体………?」
 時計ウサギはやおら頷き、微笑を湛える。
「オウガ襲来の危機は、いかなるときも拭い切れませんから」
 楽しげに生きていても、やはり気にしているのだろう。そんな時計ウサギの顔を覗き込み、大丈夫、とレザリアは静かに紡ぐ。
 そんなふたりの元へ、杏も歩み寄る。彼女の手にはうさみみメイドさんがいて。
「わたしも見てるから。息抜きしてね」
 そう杏は告げ、うさみみメイドさんが主の代わりにそっと差し出した手土産のは、青空ゼリーだ。
 時計ウサギはレザリアと杏に一礼し、やさしい空の欠片を受けとった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィリア・セイアッド
「アイビス」で
わあ 可愛い国になったわね
ぱちりと胸の前で手を打ち きらきらした目を周囲へ
レインの畑の緑もとても綺麗、ね
少し背の高い友人を見上げて笑顔
【WIZ】を選択
ウサギさんや愉快な仲間たちの言葉に 大きな樹を見上げて
空まで登れる ブランコのついた大きな樹…?
とても楽しそうね ねえレイン、行ってみましょうよ
彼女の手を取って 大きな樹の元へ
?ブランコ、乗ったことがないの?
じゃあ私がこいであげる 
二人乗り 座るレインの後ろに立って思いっきりこぐ
感じる風や陽射しが気持ちよくて
初めてのブランコに歓声をあげるレインが嬉しくて 満面の笑み
優しい 生まれたばかりの国
どうか幸せにと祈りをこめて歌を歌う


レイン・フォレスト
【アイビス】で
あは、畑ってなんか違うかなとも思ったんだけど
フィリアにそう言って貰えるなら嬉しいよ
フィリアの花達はさすがだよね

手を取られるままに来てみた所で見た物に驚嘆の声を上げて
凄いなあ、これは
ブランコや滑り台、かあ
僕、どれも遊んだ事ないや
漕いでくれるの?じゃあ……

ブランコへ座って後ろに立った友人に思わず振り返る
え、そう言う風に立って乗るの?
わ、わっ(動き出したので慌てて前を向き)
徐々に動くブランコに身を任せてる内に何となく分かってきたかも
揺れに合わせて動けばいいんだよね

高く上がって見えてくる空、遠くの景色

うわあ…空を飛んでるみたいだ、すごい!
このまま空中に身体を投げ出したら本当に飛べそうだ



 日陰で新緑がざわつく中、ふたりの少女は新しくできあがっていく国を眺めていた。
 ぱちん、とフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)が胸の前で手を打つ。
「可愛い国になったわね」
 朗笑の代わりに弾む声音。見渡すフィリアの双眸もゼリーの国が放つ輝きと同じく、きらきらと光景を映した。自分たちの手で生んだ景色は格別だ。そこへ注がれた陽の光も、昼の香を篭めて照るばかり。ゼリーでできた葉や樹を透けた陽射しも、畑を目映く見せる。
「レインの畑の緑もとても綺麗、ね」
 並ぶレイン・フォレスト(新月のような・f04730)を見上げ、フィリアが笑みを含んだ息を吐く。
「あは、畑ってなんか違うかな、とも思ったんだけど……」
 レイン本人は僅かに肩を竦めつつ、けれど気恥ずかしそうな笑みを唇に刷いた。
「フィリアにそう言って貰えるなら、嬉しいよ」
 実った数々の息吹を前に、レインもようやく頬を緩める。畑の成果が目に見えて出るのは、やはり喜ばしいものだ。そうしてふと視線を流せば、友のつくった区画もそばにあって。
「フィリアの花達は、さすがだよね」
 花もハーブも歌によって見事に咲き誇り、すでにたくさんの光の粒を転がして、ゼリーでできた不思議の国に馴染んでいる。
 愛おしむような眼差しを花へ向けていたレインはそこで、遥かな高みまで突き抜けんばかりの巨大な樹を見上げるフィリアに気づく。
「ねえレイン、行ってみましょうよ」
 レインが声をかけるよりも先に、フィリアが彼女の手を取る。
 蒼穹へ向けて伸びる樹を視線で示せば、レインも迷わず頷いた。
「ブランコ、があるんだよね」
 どことなくしっくり来ない音を紡ぎながら、レインは弾む少女の足取りについていく。
 遠く思えて近い樹は、幹だけでなく枝も太い。たとえ嵐が襲っても、折れはしないだろう。けれど樹皮を撫でてもまるみがあり、でこぼこしていても滑らかに感じる。その幹の内側は透けているため、光が踊るのも容易に窺えた。
 手を取りあい、ふたりは大きな樹を上っていく。よくある樹と勝手は違うかと思ったが、いざのぼってみると意外とすいすい進めた。手足をかけるたび枝のゼリーが吸い付き、のぼる彼女たちを支えてくれているようでもあった。
 そうして高所へ到り、凄いなあ、とレインは驚嘆を声に乗せる。ゼリーが模ったのはブランコや滑り台。樹と一体化している遊具にぱちりと瞬くも、夢ではなく現実だ。
 風に揺れるブランコを前にして、レインははたと立ち止まる。固まるレインに首を樫井だのはフィリアだ。
「ブランコ、乗ったことがないの?」
「ああ、うん。どう動かせばいいのかわからなくて」
 座って揺らす遊具であると認識はしているが、身体をどう使えば良いのか迷いが隠せない。
「そうなのね。じゃあ私がこいであげる」
 任せてと頼もしくフィリアが告げれば、レインもすぐに首肯する。ゼリー製とはいえ、ふたりでも充分乗れる頑丈さのブランコだ。レインが腰掛け、後ろに立ったフィリアが遠慮なく、躊躇いもなく、漕ぎ出す。
 あまりに勢いがつくまでが早く、レインは眼を見開いて。
「わ、わっ……!」
 握る手にも力がこもる。恐さではなく驚きがレインの中で勝り、しかしそれも次第に前後に揺れるブランコの浮遊感と、浴びる風に溶けていった。
 頂点に達した瞬間に、ふわりと浮く感覚。直後勢いよく走るブランコ。地に足がついていないため、はじめこそ慣れはしなかったが、言葉通り空中散歩をしているようで、レインはやがて絶景を一望する余裕も生まれてきた。
 近くで見た木々や森ばかりでなく、ここから遠く丘や山の裾をめぐる緑も、煌めいている。
「空を飛んでるみたいだ、すごい!」
 風音にも負けない声で、レインが告げる。
 フィリアは陽射しや風の心地よさはもちろん、歓声をあげたレインの様子も嬉しくて、思わず笑顔が溶ける。
 すごい、すごいと繰り返すレインと満喫する空の旅。そして眼下には、不思議の国。渓流の水ゼリーは清く、樹林は風が吹くごとに輝いた。今はまだ在らずとも、樹の頂きから村が望めるようになれば、立ちのぼる炊煙も眺めるようになるだろう──優しい、生まれたばかりの国。
 蒼穹の中でフィリアは歌を口ずさむ。どうか幸せにと、祈りをこめて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオリーナ・フォルトナータ
ラナ様(f06644)と

お疲れ様でした、ラナ様
こうして、皆様と一緒に一つの国を作り上げるというのも素敵なものですね
時計ウサギ様のお言葉に甘えて、満喫しに参りましょう

わたくしもこんなに大きなブランコは経験がなく
けれど高く漕ぎ出せば、空からの景色もまた格別で
ラナ様、せっかくですから、このまま湖に飛び込んでみますか?
おそらく一番高い所に上がるタイミングで飛び出せば
勢いもそのまま、湖まで跳べるはずです
風がきっと背中を押してくれるから、大丈夫

ええ、一緒に参りましょう
瞳交わして微笑んで、ぐんと力を入れて大きく漕いだらせーの、で空へ
ドレスのスカートはしっかりと押さえつつ湖へ
…ああ、本当に。鳥になった心地です


ラナ・スピラエア
フィオリーナさん(f11550)と

改めてお疲れ様でした!
ふふ、素敵な国作りのお手伝いが出来て嬉しいです
折角だからこの世界を満喫したいです
ブランコとか木登りとか、そういう経験が無いので興味があります!

ブランコに乗ったら、この世界をどこまでも見渡せて
わあ…!すごい綺麗で、可愛い世界
ふふ、いつまででも居たいくらい
このまま飛び込むってどうしたら良いですかね?

一番高いところで…
勇気が入りますね
…えっと、フィオリーナさん
いっせーの、で一緒に飛んでも良いですか?
一緒なら大丈夫な気がします

瞳を交わして同時に飛び出せば
淡い空に2人分のピンクの髪色が映えて
ドキドキするけど、憧れの空を飛ぶ経験が出来て嬉しいです



「お疲れ様でした、ラナ様」
 フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)はスカートをつまみ、ふわりと一礼した。
「お疲れ様でした!」
 ぺこりとラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)も返す。
 互いの区切りはその挨拶にて。そしてふたり同時に辺りを見回し、移ろう景色を眼裏に留める。訪うて間もない時の煌めきは褪せぬまま、開拓された地は様変わりした。人跡未踏のゼリーで溢れていた地も、ひとの生活を感じさせるかたちや色が生まれつつある。
 素敵なものですね、とフィオリーナが笑みを唇に刷く。
「こうして、皆様と一緒に一つの国を作り上げるというのは」
 感慨に耽るフィオリーナのそばで、ラナがこくんと頷いた。
「ふふ、素敵な国作りのお手伝いが出来て嬉しいですっ」
 まだまだ開拓や建造できはしても、ひとまずの風景は得た。休憩にと思い思いに過ごしはじめた仲間たちを見送り、ラナもまだまだ太陽沈まぬゼリーの国に思いを馳せる。
「この世界を満喫したいですね」
 密を絡めて飴にしたかのような、甘い声でラナが紡ぐ。
 無邪気を秘める少女のつぶやきに、フィオリーナも目を細めた。
 満喫しに参りましょうと差し出したフィオリーナの手が、ラナの好奇心に重なり大樹へと向かう。

 天へ近づくほどに、空気は冷えていく。
 そして地上を歩いていた頃と同じ水の香は、どこからともなく届いた。空は空でも、ゼリーでできているからだろう。乾ききった風ではなく、かといって湿って重たい風でもなく。清々しい気を含んだ風に押し上げられながら、フィオリーナとラナは樹上へのぼる。
 ブランコ。木登り。聞き覚えこそあれど体験がないため馴染みは薄く、ラナは胸を高鳴らせた。
 目の前にはゼリー製の長いブランコ。樹から吊され、乗り手を今か今かと待ち続けている。
 桜苺の少女の傍らで、フィオリーナもそわそわと疼く気持ちを口端に乗せた。
「こんなに大きなブランコは、わたくしも経験がなく……」
 しかも、地に足つかぬ空の上。
 突風はなくとも、ブランコで遊ぶには不慣れな高さだ。
 けれど不安や恐れはなく、ふたりして漕ぎ出せば、格別の景色を眼下に一望できる。
 世界をどこまでも見渡せることに、ラナは苺色の双眸をきらきらと輝かせた。木々の上から大観する不思議の国は、開拓していて時間が過ぎたというのに、衰えぬ光彩に満ちている。それどころか時間の経過に合わせて、色の重なりが揺れ動く様も美しい。
 ブランコを繋ぐ樹を見やれば、葉ごとに清らかな光を放つ。綺麗、可愛い世界、と歓喜の声がラナの唇からぽろぽろと零れていく。
 勢いが乗ってきたところでふと、フィオリーナは囁いた。
「ラナ様、このまま湖に飛び込んでみますか?」
 正しくそれは魅惑の誘い。
「飛び込む、ってどうしたら良いですかね?」
 ラナが首傾げたのにつられて、フィオリーナも小さく唸る。
 前後するブランコの勢いは増す一方だ。おそらく一番高い所に上がったタイミングで飛び出せば、空高く跳べるはずだとフィオリーナは答える。
「風がきっと背中を押してくれるから、大丈夫」
 さすがにすぐさま実行するには勇気のいる行為で、ラナはむむっと口をすぼめた。そして。
「……えっと、フィオリーナさん」
 おずおずと尋ねるラナの声が、風に紛れて届く。
「いっせーの、で……一緒に飛んでも……良いですか?」
 そうっと聞いた声は、耳元での囁きに近い。
 夢から覚めたようなまなこを瞬いて、フィオリーナは花咲くように微笑んだ。
「ええ、一緒に参りましょう」
 肯うフィオリーナに、ラナもほっと安堵の息をこぼす。
 ──いっしょなら、大丈夫な気がします。
 梢を渡る風を聞きながら、心待ちにするのは互いの手。一緒に、という短い言の葉に込められた繋がり。
 機は逸さず。淡くやさしい視線を重ねて微笑めば、せーの、と声までもが重なる。
 そうしてふたり、空へ飛翔した。
 大地を歩いていたときは、頭上高くそびえて見えた木々も、その梢の光までも、つま先で踏んで空を歩む。
 フィオリーナもラナも、スカートはしっかりと押さえつつ、空中の甘い香りの中をゆく。
 ──ああ、本当に。
 鳥になった心地です。
 そう睫毛を奮わせてフィオリーナが実感していると、ラナから握る手にきゅっと力がこもった。「見てください」と言わんばかりの手につられ、フィオリーナも世界を見るる。
 風吹く野は遥か眼下に。清き風と共に歩む晴れは、彼女たちをくるんで。
 漕ぐ足に任せて空巡るふたりは、頬に集う熱も踊る髪も気にとめず、ドキドキをさえずり、笑いあう。
 まるで今か今かと、心が待ち続ける花開くときのように。
 夜寒に耐え、春を迎えたときの浮かび上がる足取りのように。
 互いを想い空に舞うふたりの少女は、綻ぶ笑みの雨を大地へ注ぎ、湖へ落ちていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、お前は毎度変な所で気後れするな
空を仰ぐ様子が微笑ましく
ならば私は背を押すだけ
お前の遣りたいよう遣れば良い
…おい待て、何故師を担――おぉっ!?
あっという間に連れて来られた天空にて
口に運ぶ雲の断片は如何様な味か
雲が斯様に甘いとは知らなんだ

眼前の青に見蕩れる従者を眺めていると
ぐらり、風に身が揺らいだ
重力に従う侭――どうやら私は落ちているらしい
暫くすれば、私は大地に到達するだろう
ゼリーに叩きつけられ砕けるなぞ滑稽にも程がある
これが走馬灯なる物か等と感心していると

触れるぬくもり
柔らかな衝撃
…ああ、肝が冷えると思うたぞ
して、空の味は如何だった?
お前が気に入ったならば、それで良い


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…我等が混ざって構わぬのだろうか
再び不可解な感覚に襲われるも
視線は、つい青空へと釘付けに

うむ、師父の勧めなら仕方あるまい
しっかり捕まっておられよ
師を担ぎ、翼で空へ

…なんと、雲に触れられるとは
ひと千切りした雲を師にも手渡して味を確かめ
実に不可思議だ

次は樹を足場に空へと手を
透き通る宝石に似た一片を口へ
――これは…
驚きに思わず手が離れ
…師父が、消えた?

我に返れば急ぎ梢を蹴り、追い縋る
横風に流される姿は流星…などと言っている場合ではない
巨大な丘が眼下に見える、気がする
【星追】で一気に距離を詰め
師を確保し減速、ゼリーの山へと


…実によく跳ねたな
師父よ
あの青は、懐かしい味がしたぞ



 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の表情は困惑に満ちていた。
「……我等が混ざって構わぬのだろうか」
 ゼリー特有の煌めき。ぷるぷると揺れる弾力。それらが満ちる国でアトラクションに興じる猟兵たちを見送ったあと、ジャハルは不可解な感覚に襲われ、複雑そうに眉根を寄せる。
 言葉にしてみても拭えず、固い面差しのままでいるジャハルの脇から、短いため息が落ちる。
「やれ、お前は毎度変な所で気後れするな……」
 ゆるく促すも、偏った思考に沈むばかりだろう。それがあまりに容易く予測できて、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はかぶりを振った。
 けれどよくよく確かめずとも声音や表情とは異なり、ジャハルの双眸は青空に釘付けだ。眼は口ほどに物を言うとの喩えをアルバは脳裏に過ぎらせつつ、仰ぐ弟子の姿を微笑ましく眺める。
 ──ならば私は背を押すだけ。
 無垢と呼ぶべきか、無邪気と呼ぶべきか。戦に挑む際であれば迷いや躊躇いを持たぬジャハルも、こうしたときにふと、幼子にも見紛う淀みなき色を滲ませてくれる。そんな彼へアルバは告げた。
「お前の遣りたいよう遣れば良い」
 アルバの反応を受け、ジャハルはゆっくり顎を引き。
「うむ、師父の勧めなら仕方あるまい」
 飛翔の準備をはじめたジャハルに、おい待て、とアルバの制しがすかさず入る。
「何故、師を担……」
「しっかり捕まっておられよ」
「お、おぉっ!?」
 問いに答が返るより早く、瞬く間に空高く突き抜けた。
 地へ落ちようとする重力をものともせず、ジャハルに連れられてアルバが訪うのは天空。反射的に当たりを見回すも、空の上には梢に止まり鳴く鳥も、覆いかぶさる木々もない。横たわる広い野や湖に群がる森はすべて眼下で、正しく空は唯一無二の絶景だ。
 何気なくアルバが一瞥すると、ぬるき陽に晒された横顔が映る。そしてジャハルのまなこが微かに見開かれた。
「……なんと」
 雲に触れられるとは。
 驚きを隠さず師を抱えていた片手を空へ手向け、雲をひと千切り。あまりにも軽く、摘み損ねたら飛んでいってしまいそうな雲のかけらを、ジャハルはアルバへ手渡した。ぱしぱしと睫毛を震わせながら、雲の断片に吸い付くアルバをよそに、ジャハルももうひとつ塊を手にして、口へ放り込む。
 ──実に不可思議だ。
 含んだ途端に溶け出した雲は、じゅわりと咥内や舌に染み入る。
 ほのかな甘みを感じたかと思えば、次の瞬間には澄んだ水の香が鼻を抜けた。
 間近でアルバも、なるほどと唸る。
「雲が斯様に甘いとは知らなんだ」
 アルバの味わった雲もまた甘い。
 そうしてふたり雲の味を知ったあと、ジャハルは樹を足場に今度は青へと手を伸ばす。
 雲よりも先、いつもであれば触れること能わず、空振るだけの蒼穹。宝石に似た一片はしかし、今ばかりは掴めた。ふるりと透ける、無色に近い青。まじまじと確かめるジャハルの瞳に、空色が映り込んだ。青は青だが、手にした宝石の中で青が流れている。空を閉じ込めたかのようなゼリーだ。
 ──これは……。
 夢中になり、意識せずジャハルはもう片方の手も蒼穹へ向けた。
 刹那、ジャハルに寄り添っていた温もりが途絶える。
「……師父?」
 消えた、と理解した瞬間、振り向く間もなくジャハルは梢の末を蹴っていた。流星のごとき速さで大地めがける煌めきを、音なき旋風で追い縋る。

 遠い葉擦れの音が鮮やかに聞こえる。空のにおいが濃かった気に、森の深いにおいが混じりだした。
 一瞬のうちにそこまで判じて、アルバは気づく──落下しながらも思いの外、自分は冷静らしい。
 間もなく大地に到達するだろう。ゼリーに叩きつけられ、星が砕ける様まで瞬時に想像できた。
 これが走馬灯なる物か、と感心に身を委ねていると、突然降って湧いたのはぬくもりだ。衝撃は柔らかく、痛みや辛さは微塵も感じない。
 睇視するアルバに、穏やかな色が射した。
「……肝が冷えると思うたぞ」
 ふ、と笑いながらアルバが囁く。
 ジャハルは風を味方に減速しながら、師を抱えて漸くほっと吐息をこぼす。
「して、空の味は如何だった?」
 詰るでも訊くでもなく、アルバはそう続けた。
 そんな師の重みを実感しつつ、ジャハルは瞳を揺らす。
「あの青は、懐かしい味がしたぞ」
 横切る穏やかな響きに、アルバの唇は笑みを刷く。
「お前が気に入ったならば、それで良い」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

くも、わたしも雲たべてみたいっ
ガジェットショータイム
おおきなスプーンで雲をすくって
わ、すごい
ほんとうにとれちゃった

リュカ、たべようっ
スプーンから小さな匙でひとすくい
あまい、おいしいっ
あったかくて
わたあめみたいな味
ふふ、今度おまつりでたべてたしかめてみようね

ね、ね
せっかくだから青空もたべちゃおう
もう一度スプーンを空へ

こっちはひんやり
ソーダの味
わたしね、雲も空も
食べられたらきっとこんな味ってずっと考えてたんだ
思ったとおり、おいしいねえ

ぽかぽかだもの
わたしも青空のほうが今日はおいしいって思うな

ブランコものってみたかったんだ
リュカもいっしょにっ
手を取り向かう
そうだね、こぐぞーっ


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
食べる…か
せっかくだから、雲とか食べたいかも
お兄さん、行こう
お兄さんのスプーンから、雲を分けてもらって、
ん、甘い
……うん、美味しい
わたあめ…これがわたあめか
本物とはどう違うんだろう。食感は…
って、感心してる間にお兄さんはもう空のほうに

勿論食べるよ、青空も
成る程、同じ甘い、でも、味が違うんだね
お兄さんは、どっちの方が好き?
俺は青空のほうが、食いでがあってお腹が膨れる気がする(夢のない回答
ぽかぽか…確かにそうだね
なんだかとても美味しい

ブランコ?勿論乗ろう
手を繋いで向かう
これを漕げばいいんだよね。さっき食べた青空に届くぐらいこげるだろうか
…よし、せっかくだから、頑張ろう



 ──食べる……か。
 どうにもしっくりこない表現に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はむず痒そうに唇を引き結んだ。多くの景色を逍遥し、戦場を渡り歩いてきた身ではあるが、空や雲を食べるといった機会はなかったように思う。空に似た何か、雲に似た何かは見聞きしても、実物を手に取り味わえるなどとは、まさか。
 だから雲を食べてみたいと、リュカは呟いた。
 そうして細く紡がれた彼の言葉に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が口角をこれでもかと上げる。
「いくよっ、おおきなスプーン!」
 声を弾ませて、オズがどどんと置いたのは巨大なスプーン型ガジェット。
 オズが得意げに匙を揮えば、夢も希望も掬いとる丸みへ、空に揺蕩う白がつるんと転がった。
「わ、すごいっ。ほんとうにとれちゃった」
 ぴょんと飛び跳ねて成果を喜んだオズは、すぐさまスプーンを覗き込む。ふんわりした雲のかけらは、息を吹きかけると飛んでいってしまいそうなほど、軽く見える。けれどスプーンのサイズもあって、少し吹いただけではびくともしない。ふるふると揺れるばかりだ。これなら簡単に食べられるだろう。
「リュカ、たべようっ」
 じゃじゃんと言わんばかりに楽しげな表情で、オズが小さな匙を取り出す。
 言いながら彼は、巨大スプーンに盛られた雲の山から、ひとすくい。鼻先を近づければ、澄んだ水の香を知る。けれど川や雨のにおいとは、どことなく違うように感じた。薫る水気はあっさりとしていて、くすぐる好奇のままにオズはぱくりと頬張る。
 途端に、遥かなる高みにたなびく雲の一片は、ぱちぱちと咥内で弾けた。ひんやりしているかと思いきや、人肌のようなやさしいぬくもりを感じる。
 そして何よりも。
「あまい、おいしいっ」
 蕩ける甘さはしつこくなく、後味は爽やかだ。
 所感を素直に言葉へ乗せたオズを見やり、ふうん、とリュカは唸る。そろりと、オズの持つ匙から雲を分けてもらい、白く透ける雲のかけらをリュカも口へ放り込んだ。含んだ瞬間にしゅわりと溶けて、頬の内側や舌にやさしい甘さが染み込んでいく。嚥下するまでもなく、あっという間に雲は跡形もなく消えた。
「ん、本当だ、甘い……美味しい」
 ぽつりとこぼすリュカに、オズが嬉々として眦を和らげる。
「あったかくて、わたあめみたい!」
 はしゃぐオズの言葉に、リュカが瞬く。
 ──わたあめ。これが。
 未知の感覚を得た気がして、リュカの双眸が揺れる。わたあめなるものを、彼は知らない。話には聞いていたため、想像はできても、本物がいかなる感触で、どのぐらいの口溶けなのかも。
 無垢をはらんだリュカの面差しを睇視して、オズはふふと吐息だけで笑う。
「ね、ね、今度、おまつりでたべてたしかめてみよっ」
 おまつり。今度はその言葉に、リュカが顎を引いた。
 本当のわたあめに僅かな時間、想いを馳せていると、その間にオズが青空をスプーンで掬っていて。
 オズはまたもや躊躇いなく頬張る。ふくらむ雲のかけらとは異なり、透けた空色を閉じ込めたゼリーは、ひんやりと染みるソーダ味。
「わたしね」
 オズに続いて青空を口にするリュカへ、静かにオズが唇を震わす。
「雲も空も、食べられたらきっとこんな味ってずっと考えてたんだ」
 夢でも幻でもなく、現実になった。
 だからこそオズには言いきれる。思ったとおり、おいしいと。
 話を聞いていたリュカも、何事か考えてから口を開いた。
「……俺は青空のほうが、食いでがあってお腹が膨れる気がする」
 戦いに生きた少年の迷いなき回答も、オズは嬉しそうに見守ってくれる。そして。
「次はブランコ! いっしょにいこ!」
 訪う空は青く瞳に映り、風の音がオズの耳をくすぐる。
 ようやく到るであろう暮色も、林影を濃く伸ばすよりも先に彼らのシルエットを雲間に描いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『チェシャ猫』

POW   :    キャット・マッドネス
【殺戮形態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    チェシャ・スクラッチ
【素早く飛び掛かり、鋭い爪での掻き毟り攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    ストレンジ・スマイル
【ニヤニヤ笑い】を向けた対象に、【精神を蝕む笑い声】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●招かれざる客
 山の向こうに落ちようとする陽は、まだ落ちず。
 青空の果てに滲みだした赤もきらきらと、空のゼリーへ浸透していく。
 たらふく空を味わい、あるいはブランコや湖の煌めきを満喫し、猟兵たちは大樹の元に集う。そこへ届いたのは、駆けてきたマシュマロ雪だるまからのSOSだ。
「築いてくださった守りの壁に、ガリガリと引っ掻き音が響いたのですぞ!」
 まだ壁は破られていないが、放っておけばそのうち侵入を許してしまうだろう。
「ええそれはもう! ガリガリと! シャクシャクと削られておりますな!」
 固めのマシュマロには爪痕を刻まれ、柔い箇所は身を掻き出すように抉られているという。壁のおかげで騒がしさ窮まりない音が響き、いち早く襲来にも気づけた。
 時間を稼げているため、猟兵たちが壁の元へ戻るのも従容として対応できる。
「……私どもは、戦う術を持ちません」
 時計ウサギが猟兵へ告げ、恭しく頭を下げた。
「お願いします、皆様。どうか、オウガを倒してください」
「お願い!」
「します!」
 願いを寄せた時計ウサギに、虹色ゼリーキューブの兄弟たちが続ける。
 そして雪だるまもぺこりとし、猟兵へ国の未来を託した。

「シャッシャッシャッ! こんな壁で防ごうとしても無駄ニャ!」
 マシュマロの防護壁を壊しながら、一匹のチェシャ猫が高笑いを響かせていた。
 赤黒い毛並みは不気味に艶めき、楽しみも幸せも剥ぎ取らんばかりに、爪と牙を剥き出しにする。
「ぜ~んぶ引き裂いてやるから、潔く出てこいニャ!」
 シャッシャ、とチェシャ猫はどら声で笑い、獲物を狩るため壁を崩していく。

 愉快な仲間たちを大樹の麓へ残したまま、猟兵たちはマシュマロ壁の外へ向かう。
 煌めく不思議の国を、オウガ──オブリビオンから守るために。
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ&連携歓迎

マシュマロの壁が役に立って良かった
綺麗で素敵なこの世界に手出しはさせない、絶対に!

早業+二回攻撃で手数を増やす

白薔薇舞刃で視界を遮るよう撹乱しながら攻撃
ほ~ら、猫ちゃん!楽しいでしょ?

敵の攻撃は見切り+第六感+早業で即対応
メボンゴから衝撃波を出して勢いを削ぎ、メボンゴやナイフで武器受け
オーラ防御も併用

敵が強化したらメボンゴを片手操作で素早く動かす
フェイントで隙を作り、もう片方の手でナイフ投擲
即座にメボンゴを手元に戻しダッシュで距離をとる

ニヤニヤ笑いには狂気耐性と気合いで対抗
愉快な仲間達を思い浮かべ守りたい気持ちを心の支えに

お前の笑いは効かないよ
心に届くのは本当の笑顔だけだから


スノウ・パタタ
皆のじゃまじゃまするのは、めー、です。えいえいしますなの!
【白雪姫の童話】ユキさんと相性の良い花の色水を塗布、増殖の速度を上げ大量のぷるぷるで埋め尽くします。
飛び越えようと踏むと滑る、増え続けるので囲んで数の暴力で身動きを取りずらくする目論見。
おしくらまんじゅう状態でユキさんの毒でも動きを鈍らせ、ランダムで発生する属性持ちのウミウシが感電を引き起こしたり発火したりと手の内を読ませない方針。
ねこさんモテモテ、です!このまま囲んで、ぎゅうぎゅうもしちゃうのよー!

(アドリブお任せ)


レザリア・アドニス
これは、オウガ…この世界の、オブリビオン
やっぱり、どこでも、同じことをしているんですね

大丈夫、あなたたちを傷つかせない
と愉快な仲間たちを宥めて、敵に立ち向かう
猫なのに、全然かわいくない
外見も、やっていることも
でもこれでいい
躊躇わなく倒せるんです

死霊騎士を召喚して前に壁になってもらう
猫なので動きは早いから、両側や後方に回り込まれないように常に注意
飛びかかってくるやつは騎士の盾で叩き返す

高速詠唱して炎の矢を素早く編み出し、一体ずつ集中攻撃して生命力を奪う
殺戮形態のがいればできるだけじっとして、炎の矢でほかの敵を踊らせる

にゃにゃうるさいやつは精神力勝負
ベールのオーラと強い意志で防御する
無視すればいい



 豊かな色彩が透け、降り注ぐ光が砕けて遊ぶ様子を、猟兵たちはそこかしこで見てきた。空も大地もゼリーでできた不思議の国。そこを蹂躙するべく襲来したオウガ。
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は思わず、瞼を伏せた。
 ──これが、オウガ……。
 マシュマロの壁を壊そうと爪を揮う脅威の姿が、そこにある。
 正しくこの世界のオブリビオンが。
 傷つかせたりしないと、愉快な仲間たちへレザリアは告げてきた。彼らにオブリビオンの牙が剥く前に倒さねばと、思いが募っていく。
 そしてレザリアがすぐに召喚したのは、死霊騎士だ。どっしりと構えた死霊騎士を壁に立てば、チェシャ猫が目障りだと飛びかかる。
 相手は猫だ。恐らく動きも早いだろうと予想し、死角へ回り込まれないよう、レザリアは注視する。警戒する彼女の気を察してか、オウガは死霊騎士へと突撃した。
 そうして騎士が、盾でオウガを叩き返す間。
 マシュマロの壁が役に立って良かった、と胸を撫で下ろしたジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が相棒を連れて動き出す。
 ──手出しはさせない、絶対に!
 白いドレスの人形と共に、敵を狙い澄ます。
 仲間の行動を確かめ、スノウ・パタタ(Marin Snow・f07096)も顎を引く。
「皆のじゃまじゃまするのは、めー、です」
 いつもは空を映すまなこに、敵の輪郭をはっきりと捉えて。
「えいえいしますなの!」
「シャッシャッシャ! やれるかニャ?」
 余裕を含むチェシャ猫と、仲間が話す僅かな時間に、ジュジュはくるりと手首を捻らせた。片手にメボンゴ。もう片方の手で軽々とトスした武器。常であれば暁もたらす金の弓も、薔薇が彩る銀のナイフも──今ばかりはジュジュの手を離れ、主の意思に沿った花びらへと姿を変える。
 白薔薇が舞う光景と佇むジュジュは、秘密めいた花園よりも、花に囲われ笑み咲く人々の輪が似合う。そんな明るさで踊らせながらも、敵の視界を遮るよう掻き乱す。
「ほ~ら、猫ちゃん!」
 靴に羽根が生えたかのような軽やかな足取りで、ジュジュがオウガを呼ぶ。
「楽しいでしょ?」
 はしゃいで誘うように。けれど細い指先はしかとメボンゴを連れて。
 シャッシャッシャ、と甲高く笑ったチェシャ猫が、返事の変わりにジュジュ目掛けて突進していく。すべてを引っ掻くであろう爪と、すべてを喰らわんばかりの牙。鋭利な武器で飛びつくチェシャ猫に、迷いや動揺は無い。
「おまえたちに楽しむ権利はニャイ!」
 しかもジュジュの言葉を理解したようで、遮ろうと襲いくる。
 ──権利を主張するんだね。
 考えながらも、ジュジュの朗らかな笑みに一寸の陰りもない。それでも思うところはあり、ジュジュはメボンゴを操った。
 迫りくる爪を躱した瞬間、メボンゴから展開した衝撃波を地に叩きつけ、傍にいたチェシャ猫の足をふらつかせる。
「ニャ、ニャニャッ!?」
 たたらを踏むオウガめがけて、勢いやまぬうちに火矢が飛ぶ。素早い詠唱で魔力を練り上げ、レザリアが放った矢だ。炎は躊躇いなくチェシャ猫の太い尾を射抜く。ちぎられた尾も、オウガの毛並みも赤が瞬く間に包む。
 痛みにギシャアと悲鳴をあげたチェシャ猫をよそに、レザリアは静けさを湛えた眼差しを向けて。
「……やっぱり、どこでも、同じことをしているんですね」
 ぽつりと零した声は、揺れていた。
 様々な世界に蔓延る過去の骸──オブリビオン。思い馳せればレザリアの心に靄がかかる。それぞれの不思議の国に跋扈し、住民たちを苦しめているかれらオウガもまた、例に違わず傍若無人な振る舞いに明け暮れていると。レザリアはそれを実感した。
 だからこそ、と貫く少女の視線は、強い。
 そして炎にあわてふためくオウガを前に、スノウもぴょんぴょこ跳ねる。
「ユキさん、たくさんです!」
 あどけなさの残る少女が呼んだのは、バディペットのシラユキウミウシ。
 もちもちぷるぷるの感触が心地好いシラユキは、スノウの声を合図にふるりと身を震わす。スノウが花の色水をそっと塗布していくうちに、一匹だったシラユキが二匹に、二匹だったシラユキが四匹に、とあっという間に分裂し、増殖していった。
「アチチニャ! 熱いニャ!!」
「あちちは、消すのです!」
 未だに火矢の熱から逃れられないチェシャ猫へと、スノウがシラユキの群れを突撃させる。辺り一帯を埋め尽くすほどの、白くてまあるいぷるぷる。消火と言いつつシラユキたちでオウガを囲い込めば、ちりちりになった毛並みもひんやりと落ち着く。
 喉元過ぎた熱さを忘れたのか、チェシャ猫がウミウシの輪を抜けだそうとする。だが、かれのしっかりした足はシラユキを踏む度に滑り、増殖を続けるシラユキのおしくらまんじゅうに遭って、身動きがままならない。
「ググググッ、邪魔ニャ~!」
 半ば自棄になってシラユキを蹴飛ばす。しかし軽い雪玉に思えて、つるんと表面をなぞるだけでなかなか蹴られず、オウガは難しい顔つきをした。
 シラユキの海から上がろうと格闘するオウガをよそに、今のうちですー、とスノウが仲間へ囁く。
 そしてジュジュとレザリアが肯い、動き出した。
 すかさず炎を編んだのはレザリアだ。結わえた色は、彼女が纏う黒に映える。
「猫なのに、全然かわいくない」
 呟くレザリアの言葉は紛れも無い本音だ。猫が本来もつ愛くるしさは、目の前のチェシャ猫から微塵も感じられない。けれど、それで良いともレザリアは思惟する。
 直後に矢が飛翔した。ゼリーの煌めきがやまない空を。
 代わりにオウガが向けたニヤニヤ笑いも、矢を射たレザリアの精神を崩すまでに至らない。
「だから、躊躇いなく倒せるんです」
 見目も行いも可愛くないからこそ、迷いは一切生じなかった。
 ギャ、と再び悲鳴が上がり、炎の矢がチェシャ猫の毛並みをますます惨めにさせる。盛る炎と貫く矢の苦痛から逃れようと、オウガは暴れ出した。だがそんなかれも、大量のシラユキに埋もれたままでは、まともに避けられない。
「ねこさんモテモテ、です!」
 スノウがシラユキを応援するべく、声も身も弾ませた。
「もっと、ぎゅうぎゅうしちゃうのよー!」
「やめるニャー!!」
 もがくオウガの抗議など聞くはずもなく、シラユキたちがオウガを圧していく。しかし敵も黙ってはおらず、シラユキをガツガツと爪で引っ掛け、掻き分けだした。
 オブリビオンの意識が、スノウとシラユキに注がれているうちに、ジュジュが武器を手にする。すると気配に感づいたチェシャ猫が、ひくりと耳を動かしジュジュを振り返った。下卑た笑いで少女を突き刺そうとする。だが。
「……お前の笑いは効かないよ」
 一手の答えを、ジュジュが言葉で返した。
 ジュジュの胸中には今、守りたいという気持ちが滾っている。加護に守られた彼女は、オウガの嫌な眼差しを通さない。
「心に届くのは、本当の笑顔だけだから」
 笑顔が見たい。それこそが、ジュジュの原動力。
 白薔薇の花びらが、きらきらと舞う風と共に踊る。
 チェシャ猫は全身を花びらに撫でられ、笑顔とは程遠い面差しを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
何だ此奴は
可愛げの欠片もない
壁如き破壊して思い上がるなぞ程度が知れる
ふふん、私が被るのは可愛い猫故な
ほれ阿呆言っとらんで蹴散らすぞ

さて、貴様は如何様な死に様が御望みだ?
火炙りか、雷で打ち据えてくれようか
戯言と共に編んだ魔方陣より【女王の臣僕】を召喚
馬鹿は頭でも冷やさねば治るまい
…然し下卑た笑声よな
私が怖気づくとでも思うたか?
狂気耐性で凌ぎ、声すら凍らせてくれよう

彼奴の狂化対策も考えてある
蝶を誰もいない場所へ
誰より速く移動させ、猫を誘導しよう
罠に掛かれば此方のもの
この隙を好機として畳み掛けようぞ

戦が終われば国の修復を
さあ小人達、もう一働きだ
…ふふ、きっとこの国は良い物になる


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
猫…なのか、アレは
もう少しマシな見目ではなかったか

つい隣と見比べるも
師父の被るモノとも違うようだ
成る程、承知した

激痛耐性はじめ耐えうる術で保たせながら
【竜墜】にて狙う、が
怯みすらしなくなる形態とは面倒だ
師父よ、あの猫と「遊んで」やってくれ
師の術でひらめく翅に気を取られた隙に一撃を

…猫が笑うとは知らなかったぞ
しかし、実に煩い
竜墜による、地の破砕音で笑い声を掻き消さんと
蝶に氷漬けにされた身体の部位を砕いてくれよう
折角築いた国を荒らしてくれた礼はしてやらねばな


ついで故、壊された箇所の修復まで行ってゆくか
そら再び出番だぞ、小人ども
…こればかりは、人手が多いに超した事はないのでな



「何だ此奴は」
 開口一番、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は感じたままを包み隠さず呟く。彼の眼差しは怪訝や嫌悪ではなく、ただただ呆れ返っていた。そう感じた原因となる存在はしかし、尾を焼かれても尚、板金を引っ掻き立てるような耳障りな笑いをやめない。
「可愛げの欠片もない」
 ため息混じりに呟き一瞥すると、防護を担うマシュマロの壁は無残に引き裂かれ、傷から粉を吹いている。爪痕を刻んだ当のチャシャ猫は、柔く甘い壁を痛め付けただけだというのに、態度が傲岸にみえた。程度が知れる、とアルバはた二度目の息を吐く。
 そんな彼の傍ら、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は一度ほそめた目にまばたきも交え、対象を確かめた。
「猫……なのか、アレは」
 フォルムや毛並み、顔立ちに歩き方──いずれも想起した姿と見合わない。僻事の権化を前にして、ジャハルの思考へ違和感が押し寄せた。猫に明るくなくとも知れる。荒れ野を生き抜く猫も、もう少しマシな見目ではなかったか、と。
 何気なく、ジャハルの視線はスターサファイアの煌めきを放つ隣へ逸れた。
「師父の被るモノとも違うようだ」
 微かな囁きを耳にし、得意げにアルバが鼻を鳴らす。
「私が被るのは可愛い猫故な。ほれ、阿呆言っとらんで蹴散らすぞ」
 言いながら、冗句に興じた弟子の背をはたいた。
 促されたジャハルは、承知した、と静かに顎を引き、駆け出す。
 地力も気迫も充分だ。ジャハルに備わり、ジャハルが培ってきた抗う力のすべてを以って、殺戮に走ったオウガからの猛攻に耐える。言葉も成さず、奇怪な鳴き声で襲いくる理性なくチェシャ猫の威勢は、眉間のしわを僅かに深めた。火力も然ることながら、自分たちの仕掛けた一手にもオウガは怯まない。殺戮形態を採った敵の凶悪さを目の当たりにして、ジャハルは唇を震わす。
「師父よ」
 呼びかけは端的だ。
 アルバが振り向くより早く、ジャハルは続ける。
「あの猫と『遊んで』やってくれ」
 多くを語らずとも、通じる。
 ゆえにアルバは肯い、星の瞬きのように息を継いで敵を見澄ます。シャッシャッシャ、と笑う奇妙な猫へ一歩だけ寄れば、敵の警戒心はアルバだけを捉えた。チェシャ猫が動くものへ目をやる気質を持とうとも、光輝をちりばめながら歩むアルバを無視できない。
「希望位は耳に入れてやろう。如何様な死に様が御望みだ?」
 アルバが口にしたのは選択肢。そして手で紡ぐのは術式。
「火炙りか、或いは雷で打ち据えてくれようか」
「死に様!? ニャニをふざけたことを!」
 怒髪が天を衝かんばかりに毛並みを逆立て、チェシャ猫がアルバへ牙を剥く。
 敵の威嚇が鳴り響く間に、アルバは編んだ魔方陣から無数の青き蝶を召喚した。蝶を象った霊は鮮烈な存在感を放ちながらも、淡く溶けてしまうほどの神秘を湛えている。そんな蝶が舞い散らせる、冱てる鱗粉。オウガの毛の根本まで入り込んだ細片は、悪意の塊をひやりと蝕む。
 礼と言わんばかりにオウガは、ニヤつく表情をアルバへ返した。そして轟くのは、精神を蝕む笑い声。だが。
「私が怖気づくとでも思うたか?」
 アルバの声音は冷たく、オウガの身を侵食する微小の鱗粉と共鳴する。威嚇してばかりいたチェシャ猫の喉を凍てつかせ、もがく姿を捉える。苦痛に喚きごろごろと転がり出すオウガの姿はなんとも哀れだ。
 ──馬鹿は頭でも冷やさねば治るまい。
 アルバがそう思う頃、ジャハルが渾身の一撃をオウガへ叩き込んだ。ズン、と大地が奮え、地へ埋め込まれた敵と共に辺りがひび割れる。ジャハルにとって付き合いの長い技だ。地形への影響も承知の上で、範囲が最小となるよう縦に鋭く敵を叩いた。
「……然し、下卑た笑声よな」
 着地するジャハルへと、アルバが紡ぐ。
 拳の熱を冷ましながら、ジャハルも頷いた。
「……猫が笑うとは知らなかったぞ。しかし……」
 ──実に煩い。
 ふたりの視線の先、チェシャ猫は地に空いた穴から這いあがり、ふるりと全身を震わせて、纏わり付くゼリーの欠片や鱗粉を払い落とす。
「よくもやってくれたニャ! 許さんニャ!!」
 怒りを露わにするオウガの振る舞いに、冷やして治る頭でもなかったか、とアルバはかぶりを振る。
 直後、チェシャ猫は自らの形態を殺戮に特化した姿へと変貌させる。ところ構わず、動くものを襲い、動く命を切り刻む狂化の姿。けれど、予めそうした行動も予測済みだ。対策は練っている。
 アルバは再び青の蝶を解き放つ。空よりも青く、星空の彼方よりも深い命を燈して、蝶は飛ぶ──誰もいない場所へ、誰よりも速く。
 その青い煌めきが見えていなくても、あるいは光に心惹かれなくても、チェシャ猫は早く動く蝶へ飛び掛かった。そうして誘導された猫の姿は、見紛うはずのない好機。
「畳み掛けようぞ。ジジ」
 アルバの言葉を合図に、ジャハルが矢庭に走り出す。
 墜とすのは竜。食らいつく勇猛さを一点に集わせ、青き蝶を掻き消すオウガめがけて、放つ。青く満たされた喉元をも叩く勢いで攻めれば、地の破砕音で笑い声も素早い動きも掻き消えた。蝶に氷漬けにされた身体の部位を砕いてくれよう
 ──折角築いた国を荒らしてくれた礼だ。
 深く押し込んだ一撃に、チェシャ猫が掠れた悲鳴をこぼす。それでも尚、しぶとくオウガは立ち上がった。
 そんな敵を見据え、アルバが吐息だけで笑う。
「小人達に、また出番を呉れてやらねばな」
 国作りに励んだ小人たちを思い起こした彼に、ジャハルも眦を和らげた。
「ああ、そのためにも」
 オウガを倒さねば。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイン・フォレスト
【アイビス】で
そうだね、せっかくの美しい場所を穢させるわけにはいかない
さっき見た空と地上の風景を思い出し、フィリアの言葉に一つ頷き

大丈夫、安心して
君達の事もこの場所もきっと守ってみせるから
住人達に笑顔を見せて

【SPD】
猫は嫌いじゃないんだけど、こいつのドヤ顔はなんだか腹が立つ
お前に引き裂かせたりなんかしないから覚悟しろよ、
猫相手にスピード勝負は無謀かもしれないけれど、と呟いて弾丸装填
「先制攻撃」を狙い【ブレイジング】を放つ
宣戦布告なんてしてやるもんか
いきなり行かせて貰おうか

背中に聞こえる声に「君こそだよ!」と返して

オウガの攻撃は「見切り」で回避
タイミングが合いそうなら「カウンタ-」を狙う


フィリア・セイアッド
「アイビス」で
生まれたばかりのこの国を 壊させたりなんかしない
ね、レイン
友人と目を合わせて頷いた後 開拓者の皆へ笑顔
ここで待っていて あなたたちのお仕事は、国を作ることだもの
【WIZ】を選択
わぁ 大きなネコちゃん
目をぱちくり 若干気の抜ける感想を
この優しい国を引き裂くなんてさせない
敵の眼を真っ直ぐに見て そう告げる
駆けだすレインに 怪我をしないでねと
ライアを奏で 心を乱す笑い声をかき消すように
開いた花に 萌える緑に 輝くような皆の笑顔が私は好き
だからこの場所を守りたいの
守りたいという気持ちと祈りを力に変え 歌う
自分への攻撃はオーラ防御
仲間の怪我は春女神への賛歌で回復



 穏やかなひとときは遠ざかり、迫るのは戦いの気。
 国作りに勤しみ、一息ついて、遊んで、そうして煌めく希望に満ちていた時間は疾うに過ぎた。
 フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は静かに未来を、近づくざわつきを見据える。
「生まれたばかりのこの国を、壊させたりなんかしない」
 風光に恵まれたゼリーの国。
 悪意に蝕まれるなどあってはならないと、少女の胸に滾る想いは強い。
「ね、レイン 」
 振り向くフィリアの先には、レイン・フォレスト(新月のような・f04730)がいた。
 レインはゆっくり頷き、甘く薫る世界を一望する。
「……そうだね」
 さっき見た空と地上の風景を思い出した。
「せっかくの美しい場所を、穢させるわけにはいかない」
 決意は固く、レインの胸にも迸る。
 ここで待っていて、とフィリアが囁けば、雪だるまがうむむと唸って。
「な、何か我輩にもお手伝いできることがありましたらば……!」
 申し出を遮るように、フィリアは首を横に振る。
 大丈夫、と返すフィリアの声音は温かく、やさしい。
「あなたたちのお仕事は、国を作ることだもの 」
「そうだよ。安心して」
 レインも雪だるまたちへ続けた。
「君達の事も、この場所も、きっと守ってみせるから」
 言いながらレインが薄い笑みを浮かべると、頼もしい言葉に時計ウサギが頭を下げた。
「……痛み入ります」
  そうして見送る愉快な仲間たちの想いと共に、フィリアとレインはマシュマロの壁へと意識を傾ける。

 到達して真もなく、わぁ、と思わず声をあげたのはフィリアだ。
「大きなネコちゃん。でも……」
 ぱちりと瞬く目は、どことなく不思議そうだ。
 凶悪な爪と牙だけでなく、顔つきすら悪そうなチェシャ猫。逆立つ毛並みは艶めいているものの、フィリアの想像していた見目と、オウガたるチェシャ猫があまりにも違いすぎて。
「よく見かけるネコちゃんとは、だいぶ違うのね」
 気の抜ける感想を口にした。
 そんな友の気質にわずかに目を細めたレインはしかし、すぐさま鋭い眼差しを敵へ向ける。
  愛くるしさの欠片もないチェシャ猫は、シャアシャアと威嚇混じりに立っている。宣戦布告なんかしてやらない。そう息を吸い、レインは駆け出す。
「怪我、しないでねっ」
 案ずるフィリアの声を背に、
「君こそだよ!」
 レインは返事だけを後ろへ送った。そうして禍々しいオウガを改めて視界におさめる。
 ──猫は嫌いじゃないんだけど。
 牙を剥いて笑うチェシャ猫の顔を見れば、その気質は知れた。
 ──こいつのドヤ顔は、なんだか腹が立つ。
 悪意の塊が、過去から蘇り今を生きる者たちを食い荒らす。そんな光景も容易く想像できてしまうほど、オウガの姿を見て眉間を寄せる。曲がりなりにも相手は猫。速さに長けた生き物には違いないと感じつつ、レインは弾丸を装填する。速さでなら、レイン自信も負けていない。
 金属を擦り合わせたような甲高い音を鳴らすオウガへ、先制攻撃を狙い連射する。仕込まれた射撃術はぶれることなく正確さとスピードを保ち、チェシャ猫の毛並みを荒れさせた。ニギャア、と紛れも無い悲鳴をあげてレインをねめつけ、チェシャ猫が飛び掛かろうとする。
 そこでフィリアがライアを奏でた。あたたかく流れる音色が聞こえたことで、威勢よく突撃していくチェシャ猫は調子を崩す。事態が把握できずきょろきょろ見回す猫をよそに、フィリアは銀糸の茉莉花を靡かせる。
 ──開いた花に、萌える緑に、輝くような皆の笑顔が……私は好き。
 秘める想いを束ねて、喉から解き放つ。 この場所を守りたいという気持ちと、美しい光景が損なわれぬようにとの祈りを力に変え、フィリアは歌う。
 ようやく歌声に気づいたオウガが振り返ると、フィリアの視線がかれを射抜いた。
「させない」
 敵の眼を真っ直ぐに見て、フィリアが告げる。
「この優しい国を引き裂くなんて」
「ニャニを、生意気ニャ!」
 頭に血を上らせたのか、オウガが迷わずフィリアへニヤついた笑いを向けた。
 だからフィリアは喉を開く。心を乱す笑いを、精神を侵すいやらしい笑声を、かき消すように。
 歌声に気を取られている隙に、レインが駆けた。間合いは縮めた。この距離から撃てば、絶大な威力になると予測できる。
 しかしオウガも咄嗟に反応した。飛び掛かりながら、振りかざした爪で掻くも、動きを見切ったレインには大した脅威にならない。躱すレインの残像すらチェシャ猫には追えず、銃口を猫の耳へ押し当てる。
 レインのブレイジングは標的を誤らない。速射が風を切り、空間を震わせてオウガを貫く。
「お前に引き裂かせたりなんかしない」
 篭めた弾の最後の一発に、レインは改めて意思を乗せて。
「覚悟しろよ」
「よくもやったニャ!」
 怒りに血走る目がレインを狙い、爪で押し返した。飛びのく際に僅かながら傷を受けたものの、戦場に響き渡る春の歌が痛みを覚える間も与えず、傷口をふさぐ。
 降りしきれと歌う少女の声が、そこに春を招いた。春の木漏れ日は、柔らかな丸みを帯びて煌めく。風吹き渡る野に降る春の陽光は、芽吹く命を助けるため。清らに咲ける花のため注がれる。その癒しをレインへもたらした友を振り返り、レインは微笑みを傾けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオリーナ・フォルトナータ
ラナ様(f06644)と

お任せ下さい
皆様を守るために、わたくし達は今、こうしてここにいるのです
せっかく皆様と一緒に創り上げた国ですもの
オウガの侵略は許しません。絶対に

わたくしはトリニティ・エンハンスで攻撃力を重視しての強化を
ラナ様への攻撃を庇いつつ、また無差別攻撃の囮となれるよう
ラナ様よりも前に出て、素早く動くことを心がけて立ち回ります
攻撃は盾で受けつつカウンターで反撃し
纏めて複数体を攻撃できるようなぎ払い、敵を倒していきます
ラナ様の魔法はとても美しく、籠められた想いは真っ直ぐで
わたくしも、力が湧いてくるよう
大丈夫、ラナ様の想いは必ず届きます

無事に戦いが終わりましたら、またお茶会をしましょうね


ラナ・スピラエア
フィオリーナさん(f11550)と

そうです、今日私達がここにいるのは皆さんを守る為
戦いは得意じゃないですけど
私だって、精一杯頑張ります!

前に出るフィオリーナさんを後衛から援護
ウィザード・ミサイルで敵を狙いつつ
フィオリーナさんが怪我をした時は、癒雨ノ雫での回復を最優先
辺りに被害が出ないことを第一に

華麗ながら頼もしい姿に、思わず微笑んで
私だってこの国を守りたいから
だから、しっかり想いを込めて魔法を紡ぎます
この国を傷付けることも
住人の皆さんを傷付けることも許しません!
フィオリーナさんの凛々しさも
きっと住人の人達に伝わっていますよ

全て終わったら
またゆっくりお茶を楽しみたいです
マシュマロも味わえるかな



 空は果てしなく穏やかで、けれど迫る戦いの気に怯える者たちの空気はおののいていた。
 不安や恐怖は、どんなに平穏な世界にも存在する。ましてやオブリビオン──オウガによって齎される脅威であれば、ただ日常を送るだけとは違う怖さだろう。
「お任せ下さい」
 そんな愉快な仲間たちへ、フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)の声はまっすぐ、揺るがず向けられる。
「皆様を守るために、わたくし達は今、こうしてここにいるのです」
 自らの役目に沿い告げるフィオリーナの言葉を、彼らだけでなくひとりの少女も聞いていた。
 ──そうです。
 少女ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)はきゅっと拳を握りしめる。
 ──今日、私達がここにいるのは……皆さんを守る為。
 震えるのは拳か心か。包むように瞼を閉じ、胸を押さえ、ラナは短くほうと息を吐く。ゼリーの国でのお茶会も、遊戯も、目映いばかりに煌めいていた。そこから遠く離れた戦の音にはまだ慣れない。躊躇いはしたけれど迷いはなく、ラナは甘い空気を飲み込む。
 少女がそうしている間にも、フィオリーナは時計ウサギや愉快な仲間たちへ、想いを傾けていた。
「せっかく皆様と一緒に創り上げた国ですもの」
 湛えるのは優しさ。綻ぶのは笑み。
 大丈夫、と声かけるよりも頼もしくフィオリーナの声音が紡ぐ。
「オウガの侵略は許しません。絶対に」
 強き芯を思わせる調子に、時計ウサギが深々と頭を下げた。
 どうかよろしくお願いしますと、改めて彼の口から托される。彼らの気持ちに頷いた後、フィオリーナは常と変わらぬ面差しで振り返る。
「参りましょう、ラナ様」
「! はいっ」
 戦いはあまり得意ではない。
 それでも内側に湧く気持ちは、ひたすらラナに前を向かせた。

 金を編み上げた柄の先に、真っ直ぐに伸びる一振り。未来を切り開く剣を掲げ、フィオリーナは三種の属性を練り上げ、己の力を高めた。彼女の動きに反応してか、チェシャ猫がシャーッとひと鳴きして殺戮形態へと変貌する。猫が失うのは理性、代償に得るのは恐ろしい力だ。
 空気を伝うぴりりとした緊張感にも動じず、フィオリーナは紋章が刻印された盾を構える。足取り軽く、跳ぶように移動して攻撃に備えると、その動作に反応してオウガが突撃してきた。盾で受け止め一瞬生じた隙を剣で突く。理性と別れたチェシャ猫には思わぬ反撃だったのか、腕を裂かれ悲鳴をあげた。
 しかし構わず爪をフィオリーナへ立てようとしたオウガへと、今度は後方から魔法の矢が射抜く。ラナが魔力を練り上げ作った矢だ。
 ──私だって、精一杯がんばります!
 煌々と尾を引いた矢が、チェシャ猫の意識も惹く。身震いしたオウガが理性を取り戻し、ラナへ向けるのはニヤついた顔。そして響くのは、金属を爪で引っ掻くかのような、甲高く耳障りな笑い声。思わず耳を塞ぎたくなるも、笑い声は聴覚を突き抜けて頭の中まで侵そうとする。
 ラナはそこでふと、フィオリーナを視界に入れた。咲き誇る花園に佇む、そんな景色の似合うフィオリーナの後背。敵と相対する頼もしい姿に、ひとりではないと、これ以上ないほど強く感じさせた。
 ──私だって、この国を守りたいから。
 想いに副って、矢を結い上げる。この国や住人を傷つける真似はさせないというラナの情が、鋭利な矢となり敵を射る。
「許しません。絶対に」
 凛として立ちチェシャ猫を撃つラナを見つめて、フィオリーナの瞳が光を帯びて揺れる。
 ──とても美しいです。
 彼女の展開する魔法も、籠められた真っ直ぐな想いも。
「ラナ様を見ていると、わたくしも力が湧いてくるようです」
 臆面なくフィオリーナが告げると、ラナは苺色の双眸をぱしぱしと震わせた。
 だからフィオリーナは言葉を続ける。
「大丈夫、ラナ様の想いは必ず届きます」
 あたたかい言葉がラナの喉を潤し、すっと胸まで流れていく。
 受け取り、浸みていく心地よさは自然とラナに笑みを咲かせた。
「フィオリーナさんの凛々しさも、きっと住人の人達に伝わっていますよ」
 返る言の葉もあたたかく、フィオリーナは顎を引く。
 シャーッ、と突如として叫び声をあげたオウガが、そんなふたりのひとときさえも切り裂く。殺戮形態による猛攻が舞い込むが、フィオリーナが抜かりなく盾で受け、衝撃を一手に引き受けた。猫のかたちをしているとはいえ、爪の威力は侮れない。ぐっと押し込まれたフィオリーナを見やって、ラナが色とりどりの薬瓶を喚び寄せた。
 光の粒子を散らす薬瓶から注ぐのは、傷を癒し強化する雨の雫。雫に力を与えられたフィオリーナは、チェシャ猫へ剣を突き刺し、その毛並みを赤黒く染みさせた。痛みに悶え、オウガは距離を置く。
 ラナの元へは通すまいと阻むフィオリーナと、そんな彼女の背を支え癒すラナ。
 付け入る隙のないコンビネーションに、チェシャ猫はギリギリと歯がみし、痛みを逃すべく大地にゴロゴロと転がりだす。
 暫く立ち上がりそうもないチェシャ猫を遠くに、ラナは穏やかな光景を想起する。
 ──また、ゆっくりお茶を楽しみたいですね。
 頬に思い浮かべた美味をたっぷり含めば、顔に感情が溢れでた少女を見て、フィオリーナも眦を和らげる。
「無事に戦いが終わりましたら、またお茶会をしましょうね」
 その言葉に、ラナはくるりと相らしいまなこを動かして。
「……マシュマロも、たっぷり味わえるでしょうか」
 ふわふわマシュマロをそのまま口へ放り込んだときの、雲を食むような甘さ。
 炙ってとろけたマシュマロを、チョコと戯れさせてみたり。
 濃厚なミルクティーにマシュマロを浮かべてくるくる泳ぐ様を楽しんだり。
 そうして甘い誘惑に想い馳せる少女に、フィオリーナは頬を緩めた。
「ええ、きっと。心ゆくまで堪能できるはずですから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

あんしんして。やっつけてくるからね
と笑い壁の外へ

いこう、リュカ
駆けつけ下から振り上げるように一撃
避けられてもだいじょうぶ
かべからはなすのが目的だから

これ以上かべは
ううん、この国は傷つけさせないよ

攻撃は武器受け
リュカのところには行かせないからね
がちっと柄で受けて押し返す

【ガジェットショータイム】
ねこのおもちゃといえば毛糸のボール
トゲと鎖がついてるけど
これになら爪をたててもいいよっ

カラフルなフレイルを振り回す
リュカが攻撃するための動線は確保しながら

リュカの気遣いには笑顔で答え

リュカがどれだけ打ち抜いても
こちらに釘付けにできるように
ボールを躍らせ

終わったらまたみんなで遊ぶんだ


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と

…折角、いい感じに楽しんでたのに
うん、じゃあ、いってくる。手早く片づけよう

猫から少しはなれたところから射撃
狩りの時、獲物を追い立てるときの要領で牽制しつつも壁から離れるように誘導していこう
折角みんなで楽しくやってるんだから、それを壊さないでほしい

誘導完了したら
ひとまず防御はお兄さんに任せて、
俺は攻撃。隙を見せたらUCで全力で急所を狙いにいくけれども
基本は無理せずお兄さんを援護射撃しながら着実に削っていくよ
敵の攻撃に対して阻害するように撃ち込んでいけたらいい
お兄さんも、無理しないでね

ああ、終わったらまた遊ぼうか
今度は…そうだね夕焼けの空でもつまみ食いしに行こう



「……折角、いい感じに楽しんでたのに」
 深く静かにリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は息を吐いた。ゼリーだらけの国にも馴染んだ矢先の襲撃。肩を落とすのも宜なるかな、リュカの眼差しはすでに淡雪色の壁へと向かいつつある。
 急ぎながらも慌てず、彼のそばでオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は愉快な仲間たちへ笑顔を傾けた。
「あんしんして」
 濁りなき声音は優しくも強い。
「やっつけてくるからね。いこう、リュカ」
 必要な言葉だけを紡いだ彼へ、時計ウサギは深々と頭を下げる。
「うん、じゃあ、いってくる」
 リュカも愉快な仲間たちへ挨拶をし、見送りに背を向けた。
 そうして意識を寄せるのはマシュマロの壁。
 駆けつけたふたりは、壁を傷つけていたオウガの姿を捉える。形容するならば猫。しかし猫と呼ぶにはあまりに凶悪な見目だ。愛らしいと感じる情も持たず、敵は敵として見据えたオズが駆ける。後方でリュカが立ち位置を定める間、オズはチェシャ猫めがけ身の丈ほどのガジェットを振り上げた。重量を感じる刃だが、揮うオズの腕も表情も軽々として。
 気配を察したオウガは寸前に飛びのくも、オズは動じない。
 ──やった、かべからはなせた。
 むしろオズの面差しは明るく、壁から遠退いた敵を前に得物を構え直す。
「こっちは腹が減ってるニャ! 邪魔するニャ!」
 シャーッと牙を剥いて威嚇するチェシャ猫の存在は、戦う力を持たぬ者からしたら脅威だろう。
 けれど猟兵にとっては抗える相手。打ち崩せる対象。
「これ以上かべ、ううん、この国は傷つけさせないよ」
 告げたオズへ、チェシャ猫が飛びかかる。目にも止まらぬ速さで掻きむしろうとするオウガの爪を、オズが刃で滑らせた。
 そこへ、絶妙な間合いをとっていたリュカが立ち撃ちする。
 ──手早く片づけよう。
 リュカが想定したのは狩り。獲物を追い立てるときの要領だ。チェシャ猫は鳴きながら跳ね回り、銃弾から逃れていく。敵からすれば見事に避けきった感覚だろう。しかしリュカに焦りや動揺は一筋も流れず、笑みもしない。黙したまま敵を見つめ、次なる弾の行く先を狙う。
 ──折角みんなで楽しくやってるんだから、それを壊さないでほしい。
 想いを弾に篭めて撃ちだせば、チェシャ猫がリュカへと迷わず突進を試みた。
 仕返しニャ、と駆けた猫の爪はしかし、オズが軽々と柄で受け押し返す。
「リュカのところには行かせないからね」
 思わぬ妨害にチェシャ猫が地団駄を踏む。
 直後、オズが披露したのはガジェットによるパフォーマンスショウ。オズに蓄積された知識の一葉から、引き出したのは猫の遊びに関する部分。
 ──ねこのおもちゃといったら、毛糸のボールだよね。
 澄んだキトンブルーが映すのは、球体型ガジェットだ。球体にころころと纏わり付いてじゃれる猫の姿は、眺めている者の心を癒す。眼前の猫に可愛いげは微塵もないが、それでも有用だ。ましてやボールに鎖とトゲがついていれば尚更。
 だからオズはボールを転がした。
「これになら、爪をたててもいいよっ」
 朗々とオズが告げる。ぴくりと反応したチェシャ猫は、あっという間にガジェットに釘付けとなった。ころん、と右へ転がれば右へ。左へ踊れば左へと、オウガの顔がつられていく。まるで遊びたい想いに勝てない猫だ。一般的な猫よりもだいぶ邪悪な存在だが、それでも猫の性分には抗えないのかもしれない。腰を低めて飛び掛かれば、ガジェットのボールは全身でチェシャ猫を受け止めた。満遍なく突き出ているトゲと共に。
「ギニャー!」
 わかりやすい悲鳴をあげて、オウガはボールを蹴りながらオズへ突撃する。
 しかしチェシャ猫の爪が気まぐれにオズを襲おうとも、豊かな色彩をリズミカルに振り回せば、オズ自身に被害は及ばない。そして無邪気に跳ね回るボールの誘惑へと、チェシャ猫は再び飲み込まれていく。
 ──この位置なら、だいじょうぶ。
 目線を投げずともオズは感じていた。動線は、きちんと確保できていると。
 オズが受けた感覚に違わず、リュカは愛用のアサルトライフルを構え、頬付けする。オズの動きの甲斐あって視界は良好。しかも標的の意識は、オズとガジェットから暫く離れそうにない。
 ──球にじゃれているのは、狙いやすい。
 戦場を渡り歩いてきたリュカにとって、安定した弾道を得るのは容易だ。だからといって侮りもせず狙いを定め、弾を撃ち込み着々と任を果たしていく。銃撃に追い込まれてチェシャ猫が飛び跳ねるように身悶える様を遠目に、リュカは身軽に戦場を駆けるオズへ顔を向ける。
「お兄さん、無理しないでね」
 やわらかい声をかけてきたリュカに、オズは頬の高さをふっくりと上げる。そして応じるようにガジェットのボールをチェシャ猫の眼前へ転がした。踊るボールにオウガは毛並みの荒れた耳をぴくぴくさせ、飛びつく。そうなれば当然、ボールのトゲがチェシャ猫に穴を開ける。
 痛みに悶え隙を見せたオウガめがけ、リュカが銃口を向ける。掲げた灯り木は、幻想も装甲も打ち破る星を撃ちだした。星の弾丸は瞬く間にオウガの毛を散らす。ギャアともニャアとも言い難い悲鳴をあげて飛びのくチェシャ猫をよそに、リュカは新たな星を装填する。
 そんな彼の姿を、オズも見ていた。
 継ぐ息はなくとも弾む声はある。歓喜に溢れる涙はなくとも、悲喜を映す瞳はある。だからオズは瞼も口も大きくひらいて、世界を織り成す要素を内側まで浸透させた。
「まだまだ、いっぱい見たいものあるからね」
 不思議の国は広大だ。きっと稜線を超えた先には違う景色が待っていて、青く透ける今の空だって時間を経るごとに色合いを変えていく。すべてを見尽くすこと叶わずとも、時間が許す限り遊べる。だから。
「終わったらまたみんなで遊ぶんだ」
 わくわくした心を零さんばかりに抱えて、オズは紡いだ。
 そんな青年の姿はあるがまま、リュカの双眸にも映る。いつだって目映い明るさを放つオズの、いかなる時でも変わらぬ様相に、リュカは眦を和らげた。
「ああ、終わったらまた遊ぼうか。今度は……」
 言いながらふとリュカの眼差しは、オズが背にした暮れなずむ世界を捉える。
「……そうだね、夕焼けの空でもつまみ食いしに行こう」
 リュカからの魅力的な提案に、オズは盛大に跳ねて喜んだ。
 一日の終わりは、まだ遠い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月11日


挿絵イラスト