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残酷ジェノサイド・サイド

#UDCアース

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#UDCアース


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「また飛び降りだって?」
 おかしい。こんなのおかしい。

「今月に入ってもう九人目だよ」
「ふうん、まぁ仕方ないよな、そういうこともあるって」
 クラスメートはいつもどおり談笑している。

 友達だったはずだった。親友だったはずだった。
 背中を預けられる相手だった。
 もしあいつがなにか失敗した、俺は絶対に助けるだろうし。
 俺が何か困ってたら、あいつは絶対助けてくれる。
 そう信じてた。

「おい、どうしたんだよ」
 だけど、違う。
 今俺の目の前にいるこいつは――――違う。

「最近、変だぞ? ×××××」
 姿形は似てるけど、絶対に俺の友達じゃない。
 だってお前は。

「仕方ないな――――今度、良い所に連れて行ってやろうか」
 そんな風に、笑ったりしなかった。

 ●

「学校生活って楽しい?」
 グリモア猟兵、煌希・舞楽(ヴィクトリカチャイルド・f08029)は、自身が召喚した猟兵達にそう問いかけた。

「マイラは学校に行ったことないけど、同年代の子供達が集まって、勉強とか遊んだりするのよね? 興味があるの」
 けれど、そんな興味は主題ではなく。
 グリモアベースにいるからには、何かが起こるということだ。

「事件が起こる場所はUDCアースね。北海道、私立『秋縁学園(シュウエンガクエン)』、周囲は自然が豊かで住宅とかは無いの。中高一貫、共学、全寮制。生徒が帰省するのはお盆と年末年始だけ……っていう、生贄を大規模に調達する事も、内密に儀式を行う事にも適した環境なの」
 以前も、鎌倉にあった似たような環境の学園で、同じ様な事件が起きていた。
 恐らく、邪神の手先はそういった場所を狙って儀式場にしているのだろう、と舞楽は補足した。

「この学園で、邪神の復活儀式が進行しているの、見過ごせないの、阻止してほしいの、おーけー?」
 おーけーね、と確認を取ってから、舞楽は話を続けた。

「今、学園の中にいるのはほとんどが邪神の偽物なの。っていうのも、復活儀式を行っているオブリビオンは――相手の“偽物”を作る力を持っているのね」
 邪神の手先は、生徒を拉致した後、代わりに本物そっくりな偽物を学園の中に配置する。
 そうすることで、表向きは学園生活に変化はなく、外部に気取られる事無く儀式を進行できる、というわけだ。
 既にほとんどの生徒は“入れ替え”られており、残っている普通の生徒はほんの僅かだろう。
 実際、この段階になるまで、儀式の兆候が予知に引っかかることはなかった。

「だけど、拉致された生徒達も、まだどこかで生きているはずなの。儀式では、生贄を一斉に捧げないといけないから。逆に、一度始まってしまったら、誰も助けられないの。……マイラの予知だと、手を打たなければ、今から二十四時間後には、学園の全生徒――五百人ぐらいが、儀式の為の生贄にされてしまうの」
 五百人。
 学園に存在する、全ての人間。
 とんでもない規模の虐殺。万が一、それだけの生贄が捧げられれば――まず間違いなく、強力な邪神が顕現するだろう。

「皆に最初にしてほしいのは、大きく分けて二つ、まだ成り代わられていない“無事な生徒”の救出」
 邪神の偽物は彼らは通常の生徒達と同じ様に振る舞うため、一目見ただけでは区別がつかない。
 ユーベルコードや、それに類する手段を使い、どうにかして判別する必要がある。

「次に、“成り代わられた生徒”の救出」
 拉致された生徒は、学園のどこかに監禁されている可能性が高い。
 彼らを探し出し、助け出す必要がある。
 また、本物を見つければ、必然的に偽物が誰であるかわかる為、無事な生徒を助ける手がかりになるかも知れない。

「ただ、どっちを選ぶにしても、大規模に猟兵が動いてる、ってバレたら、向こうが何をするかわからないの。基本的に、そーっと助けてあげてほしいの」
 派手な音を立てたり、変わった行動が邪神の手先の眼に止まれば、

「UDCの協力もあるから、学園に潜入するのは簡単なの、転校生としてでも、教師としてでも中に入れるし、隠密行動に自信があるならそーっと入っちゃってもいいの。やり方は任せるの」
 でもバレないようにね、と舞楽は念を押した。

「計算では、全体の五分の一……百人ぐらい助けられたら、生贄が足りなくなるの。だからある程度救助が進んだら、向こうはなんとしてでも成功させようとして、強引に儀式を行おうとするはず。学園の裏で動いていた邪神の手先が姿を現すはずだから、囲んでぼっこぼこにしてやるの!」
 ただし、相手の能力は“偽物”を作ること。
 恐らく、追い込まれた邪神の手先は、猟兵達にも同じ能力を使ってくるだろう。
 すなわち。

「――――戦う事になるのは、あなた達自身の鏡像なの。自分の偽物を倒せば、邪神の手先にもダメージが行くはず。皆が自分に打ち勝てば、能力を使った本体を倒すことが出来るの」
 説明は以上、という言葉と共に、地面をとんと杖の石突で叩くと、尖端にはめ込まれた、花のグリモアが輝き出す。

「……皆、どうか助けてあげて。虐殺を止めて。誰も死なせないでほしいの」
 ペコリと頭を下げて、舞楽は猟兵達を送り出した。


甘党
 甘党です。
 『慟哭スーサイド・サイド』の続編となるシナリオですが、特に前作を読んだりしなくても大丈夫です。

◆アドリブについて
 MSページを参考にしていただけると幸いです。
 特にアドリブが多めになると思いますので、
 「こういった事だけは絶対にしない!」といったNG行動などがあれば明記をお願いします。

 逆に、アドリブ多め希望の場合は、「どういった行動方針を持っているか」「どんな価値基準を持っているか」が書いてあるとハッピーです

◆その他注意事項
 合わせプレイングを送る際は、同行者が誰であるかはっきりわかるようにお願いします。
 お互いの呼び方がわかるともっと素敵です。

◆章の構成
 【第一章】は冒険フラグメントです。
 邪神復活の儀式が行われているとされる学園、『秋縁学園(シュウエンガクエン)』へ潜入し、事件の詳細を調査します。

 UDCが身分を用意してくれるので、転校生として潜り込む、臨時教師として雇われるといった手段で問題なく潜入出来ます。
 特に判定は必要ありませんので、プレイングではそんなに重視しなくても大丈夫です。
 また、救出した生徒は速やかにUDCが引き受けてくれるものとし、その後の活動に支障をきたすことはありません。

 プレイングの冒頭にいずれかの番号を書いてくださると、スムーズかと思います。

 1)無事な生徒を救出する
  学園内には、まだ邪神に拉致されていない生徒達がいます。
  彼らを見つけ、助け出してください。
  うまく協力してもらえれば、調べただけではわからない情報が出てくるかもしれません。

 2)捕らわれた生徒を捜索する。
  成り代わられた生徒達の“本体”を捜索し、救出します。
  彼らは学園内のどこかに捕らわれています。

 3)その他
  やってみたいことを好きに書いてください。それがプレイングだ。

 【第二章】は冒険フラグメントです。
  詳細は、第二章開始時に公開されます。

 【第三章】はボス戦です。
  事件の黒幕との決戦です。
  敵オブリビオンの能力によって、『あなたが歩み得たかもしれない別の可能性』を具現化した虚像と戦うことになります。

 第一章の採用は20名前後で、二章以降も継続的に採用しますが、途中参加も歓迎です。
 それでは、プレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『絶望学園』

POW   :    私ですか?生徒デスヨ生徒

SPD   :    隠密行動…隠れて探り廻る

WIZ   :    何らかの身分(警官等)を名乗って調査(事実でも偽装でも…)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 キンコンカンコン。
 まったくもって味気ない、どこまで言っても普通なチャイムの音が響いて、昼休みの時間になった。

「よう、×××××、学食行こうぜ」
「…………おう」
 いつも通り、昼飯に誘いにきて、俺の肩を叩くこいつは、俺の友達じゃない。
 仕草も、口調も、癖も、あいつにそっくりだけど。
 絶対に違う。それだけはわかる。

 いや、こいつだけじゃない。
 クラスの皆もそうだ。
 教師だってそうかも知れない。
 誰にも言えない。
 誰にも話せない。

「今、行く」
 目の前のこいつが本物じゃないなら。
 目の前のこいつが偽物だっていうなら。
 本当のあいつは、どこに行ったんだ。

 もし。
 “何かに気づいたこと”に“気づかれた”ら。
 俺は、どこに行くんだ?
六六六・たかし
〇3(1+2)

まどろっこしい真似など俺はしない。
両方救い出してこその俺(たかし)だ
まず俺が無事な生徒を[第六感]で見つけだし話を聞こう。
そして俺が話を聞いている間に「ざしきわらし」「かかし」「まなざし」に捕らえられた生徒たちの救出に向かってもらう。
報酬は今日の夕飯の唐揚げをカーチャンに頼んで1つずつ増やしてやる。
頼んだぞ『六六六悪魔の仲間』


しかし、この世界における学園っていうのは邪神の儀式の餌にされやすいものだな…。
それほどまでにこういう場には負のエネルギーが溜まりやすいのか?
ふん…学園に通ってない俺がいくら語ろうと不毛でしかあるまい。
さっさと終わらせるとしよう



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 0 】
    ▽ 秋縁学園 4F 音楽室 ▽
           《 六六六・たかし 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「……ざしきわらし! かかし! まなざし!」
 返事がない。
 デビルズナンバー。
 悪魔の数字。
 殺傷、殺人、殺害、殺戮を目的としたオブジェクト。
 たかしの手によって、その軛から解き放たれ。
 彼と共に戦ってくれるはずの仲間たちが。
 ぶつりと、電源を引き抜かれたテレビの画面のように。
 突如として、消え失せた。

「――――馬鹿な」
 たかしは、ある程度の距離にあるデビルズナンバーの存在を感知できる。
 まして仲間ならば、向こうも存在を隠そうとしていない、合流も容易の筈だった。

 直感に任せ無事な生徒を見つけ出し、話を聞き出している間に、ざしきわらし、かかし、まなざしの三体を救出に向かわせる。
 まどろっこしい真似はしない。救うなら全て。
 それがたかしの下した判断だった。

 間違ってはいない。
 誤ったわけでもない。
 強いて言うなら、不運だった。

 この学園の中で。
 仲間と――――離れ離れになるべきではなかった。

『うふ』
『うふふ』
『うふふふふ』
 常にたかしの側に居た。
 常にたかしを支えていた。
 破天荒に対して小言を並べ。
 それでも、たかしのやるべき事には手を貸してくれた。
 相棒の姿をした――相棒でないものがそこに居た。
 笑っている。
 笑っている。
 笑っている笑っている笑っている笑っている。

 嘲笑っている。


「――――誰だ貴様」
 誰も居ない。
 たかしの周りには、誰も居ない。
 それでも、彼は目の前の“敵”を睨みつけ。

「ざしきわらしを――――俺の仲間をどこにやった」





『うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふあははははははははははははははっ!』
 、、、、
『代わってもらったの、だからね』
 
『今は私が“ざしきわらし”だよぉ、たかしぃ!』
 ――――秋縁学園における最初の戦いは、こうして人知れず幕を開けた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

祇条・結月
2)


「日常」が成り代わられる
……「自分」が何者かに、成り代わられる
どっちも怖いコトだよね

……一瞬、思い返してしまったのは
自分と同じ顔をした……

いや。集中しなきゃ、ね

転校生が校内に慣れるために歩き回っても【目立たない】よね
これだけの規模だ
全員まとめて同じ場所に捕らえて、とかできない筈
校内図で【情報収集】して目星をつけた場所を調べに行くよ

捜索場所は【鍵開け】……は時間がかかりそう。人目が途絶える隙を突いて≪鍵ノ悪魔≫を降ろして潜入
やばそうなときは直感を信じて(【第六感】)最適な行動を採るよ

誰かにとっての当たり前の、居場所
絶対取り返してみせるから
最後まで目を逸らさない【覚悟】は決めてきたから



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 1 】
    ▽ 秋縁学園 3F 資料室 ▽
           《 祇条・結月 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 日常とは、人の生きる“寄る辺”に他ならない。
 帰る場所があるから、勉学に、仕事に――戦いに、行くことが出来る。
 では、その自分が帰るべき場所に、他の誰かが居たら?
 自分の椅子に、誰かが座っていたら?
 誰もがそれを、疑問に思わなかったら?
 帰れなくなった者は、どこに行くのだろう。
 帰る場所のない者は、どう生きるのだろう。
 誰もが、自分でない誰かを自分だと認識したら。
 “僕”は、どこへ消えるのだろう。

(――――――――――)
 自分と同じ顔をした誰かが、何かを言った。
 それは、それは、それは――――――。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「……っ、集中しなきゃ、ね」
 祇条・結月(キーメイカー・f02067)は、自重するように呟いて、校内の探索を再開した。
 “転校生”として潜入した結月は、休み時間を利用して、校内を調査がてら歩いていた。
 まだ学校そのものに慣れていない転校生が、校舎内をうろつくのはごく自然な行為と言える。
 実際、そういう生徒が多いのだろう、特に疑われることも無かった。

(――――五百人)
 生贄の数。一人ひとりに人生があって、一人ひとりが生きている“人間”。
 それが五百。空恐ろしい数字だ。だが――――。
  、、、、、、、、
(五百人を一箇所に閉じ込めておく事なんて出来るかな?)
 生徒の数だけ偽物がいるとすれば、単純計算で敷地内にいる人間は倍になった、ということだ。

(その人数を、一箇所に集めておく……?)
 しかも、生徒達は儀式の日までは生きていてもらわないと困る。
 毎日とは言わずとも、食事も水も三日に一度は必要だろう、それを五百人分、一気にやるのはいくらなんでも非現実的だ。
 つまり――――囚われた生徒達は“分散して”居るはずだ、というのが結月の予測だった。

(例えば……使われてない空き教室、地下の施設とか――)
 あるいは、普通に入ることはできない、秘密の部屋があるのか。
 何にせよ、閉ざされた場所を開く、という行為に関して言うならば、結月の右に出る者はいない。

(物は試しだ――――行ってみよう)
 やがて、結月がたどり着いたのは、資料室、と書かれた教室の前だ。
 各クラスや特別教室からは離れた場所にあり、他に用途があるような部屋がないから誰も立ち寄らないような、まさしく条件にピッタリの場所だった。
 ポケットに手を入れて、中にあるものを握って、取り出す。
 紐でぶら下げられるようになっている、銀の鍵だった。
 それを自分に向けて、小さく回す動作をする。

 その動作が――ユーベルコード発動の、“鍵”となる。

 《鍵ノ悪魔》。

 境界を司る者、境界を支配する者。
 この能力が作用した時、結月にとっては壁も扉も等しく無意味なものになる。

 ――――ずきんと、心臓が痛む。気にしない。この程度。

 体は木製の扉を、まるで、そこに何もないかの様にすり抜けた。

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 まだ日の登っている時間だというのに、薄暗いのはカーテンが閉めきられているからだ。
 光のある場所から、暗闇に踏み込んだ結月の視界が、一瞬ブラックアウトする。
 しかし、最初から中に居た者にとっては、そうではなかったらしい。

「…………誰だ!?」
 資料室に立ち入った結月に向かって叫んだのは、一人の男子生徒だった。
 
「お、お前、お前誰だよ! 来んな、こっちに来んな!」
「お、落ち着いて、話を――――」
「うわああああああああ! 来るな! 来るなって! クソぉっ! 俺は殺されねえぞ! 畜生!」
「……――っ!」
 手当り次第、ホコリまみれの資料や、ペンなどを投げてくる男子生徒だったが、結月の体には当たらない。
 境界を支配する――というのはそういうことだ。
 しかし、これでは話もままならない。
 仕方なく、手に握ったままの銀の鍵を男子生徒に向けて、“回す”。

「っ!? う、あ、あぁ!?」
 動きに少しの間“鍵”をかけて、停止させる。
 己が《術式封鎖(クローザー)》と呼ぶユーベルコードの応用だ。

「僕は、君に危害を加えに来たわけじゃない……君は、本物なんだね?」
 もしこの焦燥が偽物だったら、もう本物と偽物を見分ける手段なんて存在しないだろう。

「はぁ、はぁ、はぁ…………ほ、本物って、じゃ、お前は……」
「君たちを助けにきた……って言って、信じてくれるかどうかわからないけど」
 身動きの取れないまま、男子生徒は、暗い部屋の中で、結月の顔をじっと見た。
 不信と、不安。
 もう駄目だという絶望と、もしかしたらという希望。

「お、俺は――――逃げてたんだ」
 やがて、男子生徒が話し出す、同時に拘束を解いてやると、ぺたんと座り込んだ。
 よく見れば、少し痩せ細っているようにも見える。
 ほとんど飲まず食わずで、この部屋に閉じこもっていたのだろうか。
 偽物まみれの学園の中で、どこにも逃げられず。

「…………逃げてた? 何から?」
 尋ねながら、結月は窓へと歩みを進めた。
 いくら何でも暗すぎる――と、カーテンに手をかけようとした時。

「やめろ! 開けるな! カーテンを開けるな!」
 男子生徒が叫んだ。縋り付くように結月に飛びかかって、静止する。

「わ、わかった…………ど、どうしたの?」
「あ、あいつが来る……窓を見たら、連れて行かれる、俺は見たんだ」
 男子生徒は、頭を抱え、震えながら叫んだ。

「俺の友達が…………窓から伸びてくる手に掴まれて、どこかに連れて行かれるところを!」

成功 🔵​🔵​🔴​

アステル・シキョウ
〇 1)【POW】
・キャラ視点
「さて、学生に紛れたがどうしたものかな」
〈片っ端から問い詰めたら良いんじゃねぇのかよ?〉
「馬鹿かニエ、騒ぎになって大惨事になるだろ……いや待てよ」
「孤立した奴に対してなら、ありかもな」
〈はっ、なんつうか暗殺者みてぇだなそりゃ〉
「生徒なら救出、偽者なら静かに減らせる……悪くはないだろうよ」

・行動
学園の生徒として潜入、学園内を散策して周りに人の目が無い状況に居る生徒を捜索。
そして声を掛けて未変身のままUC『汝は罪人なりや?』を使用
「お前はこの学園の生徒か?」と問いかけます
相手が生徒なら真実を答えた事により拘束を解除
相手が偽物ならそのままダメージを与えれる、と言った考え


ニノマエ・アラタ
2)○
用務員として潜入。
目立たないことを第一に、会話は受け身で傾聴。
まずは相手の話を妨げない。
”先輩”の話はヒントであり罠でもある。

ふだんは使わないはずの場所に人が出入りしていれば、
何か形跡が残る。
ほこりまみれの場所に人が通った足跡が複数あったり、
その周辺がやたら綺麗になっていたり。
校外なら草が倒れてけもの道ができていたり。
扉の鍵が新品だったり。
校舎内外を雑務で行き来しながら、
それとなく探ることで内部構造を把握。
人を集めておけそうな場所を見つけ出す。

UCは急いでその場を離れる必要が生じた等、
突発的な事象が発生した場合に使用。
特に人命が関わる際は躊躇なく。
そのような事態は極力避けたいところだが。



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【 PART 3 】
    ▽ 秋縁学園 1F 庭 ▽
           《 アステル・シキョウ/ニノマエ・アラタ 》
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 誰も彼もが疑わしく見えるし、誰も彼もが普通に見える。
 所詮、自分の“人を見る目”などたかが知れている。
 内側に入り込んだ程度で、本物と偽物の区別などできようもないのだ。

〈まだるっこしい事してねえでよぉ》
 よって、あてもなくブラブラと校舎内を彷徨いていると。

〈その辺にいるガキ共を、片っ端から問い詰めたら良いんじゃねぇのかよ?》
 不意に、頭の中に、直接“声”が響いてくる。
 もっとも、アステル・シキョウ(フォーリングスター・f01826)にとってそれはいつもどおりの事なので、驚きもなにもない。
 むしろ、潜入してからこっち、ずっと黙っているのが不思議なぐらいだった。

「馬鹿かニエ、説明聞いてたかよ。下手に騒ぎを起こしたら大惨事になるだろ」
《はっ、随分と丸くなったもんじゃねえか。俺様の契約者は随分と日和見主義になったもんだなぁ?》
「退屈なのはわかったから、いちいち当てこすりしてくるなよ」
 口ではそういうものの、さして“相棒”の機嫌が悪いわけでもないようだ。
 単に、変化のない調査に飽きてきただけだろう。

《そうは言うけどよぉ、実際たまったもんじゃねえぜ? なにせそこいらから“罪人の気配”がしやがる》
「大半が偽物なんだから、そりゃあそうだろうよ」
 何を“罪”と定義するのかにもよるだろうが。
 一般人と入れ替わって、その生活をまるごと奪い、最終的に殺そうとしているモノは、罪人と考えて然るべきだ。

「問題は、その罪人が多すぎて嗅ぎ分ける鼻がいまいち効かないってとこだ」
《ゴミ山の中から食えるモンを探すような話だからなぁ》
「ゴミ山の中にあるものは食わねぇよ」
《だったらどうする? 他の連中の働きに任せてドンパチ始まるまで学生生活をエンジョイするかぁ?》
「それも一つの手だが、性に合わねえ」
 頭の中の“相棒”と会話している最中にも、様々な生徒とすれ違う。
 友達と談笑しながら、プリントを抱えながら、せかせかと急ぎながら。
 この景色を作っている、その全てが偽りなのだとしたら。
 気持ち悪い事、この上ない。
 “相棒”の言う通り、衝動のままに“断罪”してやれば、さぞかし気も晴れるだろう。
 重要なのは自制だ。必要な時まで己を抑え、息を潜め、目立たず、気取られず――。

「……ん?」
《ぁ?》
「……一つ思いついた」
《何を?》
「会話の流れでわかれよ。生徒の判別方法――――動いてみるか」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「こんちわー!」
「ああ、こんにちわ」

「ちーっす」
「どうも」

「用務員さーん! ゴミ捨ててもらって良いー?」
「わかった」
 すれ違う生徒の、一割ぐらいは、顔を見かければ挨拶をしてくる。
 いくら猟兵と言えど人相までごまかせるかというと、それはまた別問題なのだが、少なくとも彼らは外見に臆することなく声をかけてくる。
 気軽に用事を頼みつけてくる者もいる、人当たりの良い生徒達が通う、平穏で平和な学校。

(だったら、どれだけ良いことか)
 ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は、当然それらのほとんどが偽物であることを理解している。
 用務員として潜入した彼は、極力目立たず、生徒達が捕らえられている場所を発見すべく、探索を続けていた。
 儀式の場所が学園の敷地内である以上、入れ替わられた生徒達もまた、必ず学園内のどこかに居る。

(必ず、何かしらの形跡が残っている)
 普段、人が寄り付かない場所に人が踏み入れば、埃が舞う。
 普段、人が通らない場所を通れば、獣道ができる。
 何の形跡も残さずに、五百人もの人間を閉じ込めておくのは、絶対に不可能だ。

(隠し部屋や、地下室の類もあり得るか)
 一見すればわからない、広い領域を確保する。
 学校のような大きな建物ならば、そういった余剰領域を確保する事も出来るはずだ。

(……ん?)
 目立たないように、それでいて注意深く耳を立てるニノマエの耳に。

「…………っ! ……!」
「――――!」
 言い争うような声が聞こえた。詳しく言葉は聞き取れないが――――。

(変化は変化、事件は事件――か)
 手がかりになるなら、是非もない。

「あ、用務員のおっさーん、あっちのベンチが壊れててさー」
「後でな」
 あまりに鮮やかな身のこなしで、さっと移動したその背中を見て。

「それと、俺はまだ二十一歳だ」
「マジ!?」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「お前はこの学園の生徒か?」
 要するに。
 気づかれてはいけないのなら、気づかれずにやれば良いのだ。
 他の誰にも見られずに、他の誰にも悟られずに確認すればいい。
 例えば……一人でいるところを狙って。

「がっ、ぐっ、う――――そ、そうだよ! それ以外のなんに見えるんだよ!」
 質問とともに放たれた、見えない鎖に絡め取られて、校舎裏で一人、昼食を摂ろうとしていた男子生徒は、数センチほど地面から浮き上がっていた。
 ジタバタと足を動かしていたが、答えと同時に鎖が消失し、自由になる。
 痛みなどはなかったはずだが、異常な事態にぜぇはぁと息を吐いて、怯えた目でアステルを見上げていた。

「それ以外の何にも見えないから聞いたんだが――この様子だと本物か」
《乱暴な真似するじゃねぇか、これじゃあお前が罪人だなぁアステルよ》
「助けるための必要経費だろ、傷つけたわけじゃない」
《モノは言いようたぁこの事だぜ、こいつが偽モンで仲間を呼ばれてたらどうするつもりだったんだ?》
「その可能性は低かったし、実際違ったろ?」
《あぁ?》
「周りが偽物ばかりになって、自分だけまともなんて状態になったら、そりゃあ教室なんかに居られないだろ」
 要するに。
 この状況下……偽物こそが多数派で、本物の人間のほうが貴重、という状態なら。
 なにかに怯えながら、一人でコソコソと行動しているやつほど“怪しくない”のだ。

「な、ん、なんだよ、お前――――何なんだよ!」
《ヒヒヒ、ここで正義の味方と名乗って信じてもらえるかねぇ?》
「黙ってろニエ。まぁ、手荒な真似をして悪かったよ、けどアンタが本物で良かった。一応助けに来たわけだし」
「た、助けに……?」
「こんな所に居たくないだろ? とりあえず学園の外に――――」
 尻餅をついた生徒に手を伸ばしながら、言葉を続けようとしたアステルの顔の、すぐ横に。


 ――――ぴたり、と銃口があてがわれ、止まった。


「――――猟兵か」
 銃器を構えた鋭い三白眼の男――ニノマエは、視線をアステルに向け。

「お前と同じでな。で、こっちは本物の生徒らしい」
 死を目前にして、一切動揺を顔に出さず、
 数秒後、お互い、静かに構えを解いた。

「……ユーベルコードの気配に、言い争いだ。敵が出現したのかと思ったぜ」
 その面相は、果たして睨んでいるのか、それとも警戒が解けていないのか。
 銃を納めながら告げるニノマエに、アステルは頭を掻きながら言った。

「俺のやり方が乱暴だったのは、まぁ認めるよ」
「あまり目立つなよ、お互い、目をつけられて良いことはない」
「ごもっとも。で――――」
 改めて、目の前の状況を飲み込みきれていない男子生徒に、アステルは手を伸ばした。

「――――アンタにとってのヒーローだ、助けに来たぜ」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 結果から言うと、男子生徒が信用したのはアステルではなく、目つきの怖いニノマエだった。
 ユーベルコードを向けられた一般人からしてみれば、どちらを信用するかと言えば、という話だ。

「気づいたら、皆、違ってたんだよ――――――俺、バレるのが怖くて」
「休み時間は一人で……か。結果的に助かったから良いものの、誰に何をされてもおかしくはなかった」
「わかってるけど、でも、怖かったんだよ……」
 ニノマエの言葉に、男子生徒は涙を零しながら言う。

「だってあいつら、シンゴも、ユウキも……普通に話しかけてくるくせに、絶対、違うんだぜ」
「……何を持って違うと判断した?」
 続けて放たれた質問に、男子生徒は。

「あいつら、右利きだったんだ、いや、クラスのほとんどがそうだ、当然だろ? でもさ……気づいちゃったんだよ、俺」
 体を抱くようにして、震えながら。



「いつの間にか、全員左利きになってたんだ…………それが、怖くて、怖くてさぁ…………っ!」



 それ以上は言葉にならないようで、うずくまった生徒の肩を、ニノマエは軽く叩いた。

「わかった。安心しろ、友達は俺達が助け出す。まずは安全な所に送ろう、ついてこい」
 それから、アステルに向き直り。

「お前は引き続き、生徒を調べてくれ」
「そりゃいいけど、アンタは持ち場を離れていいのか?」
「UDCに彼を引き渡すついでに、学園を外から見てくる。隠し部屋か何かが知れん」
 そう告げて、ニノマエは生徒を連れて校舎の外へと向かっていく。
 その姿を見送って、遠く離れたことを確認してから、アステルはようやく、大きな息を吐いた。

《ヒヒ。緊張してたのかぁ?》
 からかうようなニエの声。よく考えると、あの生徒がアステルを見てビビっていたのは、独り言をブツブツとつぶやいているように見えたかもしれない。
 そりゃあ怖いわ。

《ま、あの男はかなり出来るヤツだったが……よくビビらなかったじゃねえか。我が相棒様も少しは勝負度胸がついたかぁ?》
「馬鹿野郎」
 アステルは、呆れたような声で吐き捨てた。

「速すぎて反応できなかっただけだ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティアー・ロード
「今再びうら若き乙女たちが犠牲にならんとしている!」
「百人といわず、五百人全員を必ず救い出そう……いいね?」
「では行こう。貞淑に!」

ヒーローは潜入任務も得意分野さ!
探索要員を確保する為にジョンも連れて行こうか

使用UCは【刻印「夢幻泡影」】!
自身と自身に接触している者を透明にするコードだ!
ジョンの腕に巻き付いて使用するよ

「これでいいだろう、態々被らないでくれたまえ」

探索場所は生徒の入りにくい場所に潜入して行うよ
転校生などの立場では探索しづらい場所もあるだろう

「じゃ、移動と探索は任せたよ
私も念動力でサポートくらいはするが……
透明になるのもサイキックエナジーの消費が激しくてね」


リチャード・チェイス
2【チーム悪巧み】
業者として潜入する手前、職員は言いくるめておかねばなるまい。

私どもは破佗組建築株式会社法人サポート課でございます(名刺を渡す)
本日は民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律に基づき
県庁の方からご依頼がありまして、校内設備を点検されて頂ければと存じます。
設備点検は多岐に亘りますので、まずは全体をザッと見せていただければ(ぺらぺら)

ジョン達から生徒発見の報を確認すれば長居は無用である。
UCでジョン達の元へテレポートして、すぐさま生徒達を拉致。
今度は校舎外のモブUDC組織の元へとテレポートで脱出である。
リクロウは私が置いてきた。この脱出にはついてこれそうもない。


アイシス・リデル

2)捕らわれた生徒を捜索する
また学校……
学校ってきっと、もっと素敵なところの筈なのに、ね
ううん。見た目だけなら、ここもきれいに見えるけど
この学校はもうほとんど偽物、なんだね
けど、こんなにきれいな偽物が作れるって事は
きっときれいな本物があったって事だから
取り戻さなきゃ

【追跡体】のわたしたちで、本物の人たちを探す、よ
何百人もの人たちが、どこかに掴まってるんだよね
それも生贄にするなら、ちゃんと生きたままじゃないと駄目、だよね
だったら、最低限水や食べ物は必要な筈だし
その分のゴミや汚れも出てる筈、だよね
たくさんの人が捕まってるなら、簡単に隠せる量じゃないと思うから
ゴミや水の流れを遡って、探してみる、ね


詩蒲・リクロウ
○2 【チーム悪巧み】
僕はリチャードさんと二人で点検業者を装ってあちこちを点検&調査をしていきます!

そして、とにかくいろんな場所を調べようとしてみて、明らかに僕たちを入れないようにしてくる場所をジョンさんたちに連絡します!

一応メカニック技術は持ち合わせては居るので簡単な点検ぐらいなら出来ますしね。
「配電盤とか、冬に火事になる事もあるのでこういうとこはしっかりとですね!」

そんな調子で普段生徒が入り込み難そうな場所に目星をつけ調べていきたいと思います。

怪しまれたら?その時はさっさと撤退です。言いくるめもいつまでも保つわけ無いですし、具合悪そうなら撤退あるのみです!

あれ?リチャードさーん?


ジョン・ブラウン
〇2【チーム悪巧み】

「偽物、入れ替わりか……うん、気分悪いね」

「絶望の沼の底から、早く引きずり出してあげよう」

「オーライ、ご機嫌に」


僕の担当はウィスパー経由でリクロウ達が目星をつけてくれた怪しい場所に
小っちゃいだむぐるみ達を送り込んで拉致された生徒達を見つけること

こいつらは見つかりにくいんだけど、僕自身は目立っちゃうからね
ほら、華があるから

そういう訳でティアーを右腕に巻きつけて透明になるんだけど……
ワンダラーの操作しづらいなぁ……

生徒達を見つけたら、リチャード達に迎えに来てもらって一緒に脱出しよう
どういう状況で見つかるかによるけれど……まぁ騒ぎそうだったら僕の小粋なトークで時間稼ぎかな



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【 PART 4 】
    ▽ 秋縁学園  ▽
           《 チーム悪巧み 》
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「どうも、私共は破佗組建築株式会社法人サポート課でございます、本日は民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律に基づき
県庁の方からご依頼がありまして、校内設備を点検されて頂ければと存じます」
「は、はぁ」
 うさんくせぇ。
 それがリチャード・チェイス(四月鹿・f03687)に応対した教師の感想であり、そんな法律も条例も聞いたことがない。
 しかしながら事務に問い合わせてみると、確かに県庁からその様な依頼が出ており、学園も受け入れの判子を押したの事である。
 無論これらは画面に映らぬUDCエージェント達の多大なる労力の上に築かれた偽装工作の砦であり、本来この日、学園に訪れるはずだった業者は今頃どこか別の場所でヴァカンスを楽しんでいることだろう。

「設備点検は多岐に亘りますので、まずは全体をザッと見せていただければ。ああ案内は結構ですこちらでやりますのではい」
「そ、そうですか……そういう事なら……」
 それでもなお怪しさと胡散臭さを拭いきれない。できれば止めたい。彼らが言っていることが事実かどうかを確認したい。
 しかしそれを躊躇ってしまうのは、リチャードの後ろに立つ筋骨隆々のシャーマンズゴースト、詩蒲・リクロウ(見習い戦士・f02986)が立っているからだ。
 タテガミを身長に含めてよいのならば、2mはあろうかという体躯である。しかも横幅がすごい。
 おそらく作業用の道具なのだろうが、ドラム缶のようなサイズの箱を片腕に軽々と担いでいる。
 有り体に言って恐怖だった。猟兵故にその存在を疑われることはないが、なんというか物理的にヤバそうな事この上ない。

「ではそういうことで、ハイヨーリクロー!」
「ヒヒーン! あれ、僕馬ですか?」
 こうして堂々と校内に潜入することに成功したリチャードとリクロウ。
 学園を人体に例えるなら、彼らの存在は間違いなくウイルスであった。

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「偽物、入れ替わりか……」
 校舎を歩くジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)を気に留める者はいない。
 それは、彼がそこに居て不自然ではないから、とか、単に影が薄い、という話ではなく。
 まるでそこに存在しないかのように注目されないのだ。
 それもそのはず。今の彼は“透明人間”なのだから。

「うん、気分悪いね」
 吐き捨てるように告げるジョン、その腕に巻かれた一枚の布が、あろうことか同意するように声をだした。
 よく見れば、それは顔を模して造られたマスクであり、れっきとした人格を有する猟兵の一人。
 即ちすべての乙女の味方、ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)に他ならない。

「全くだ。つまり、乙女達が犠牲になろうとしているのだからね」
「男子生徒もね」
「うん、つまり全員救い出すということだよ……おっと、声は慎み給えよ、音までは透明に出来ないからね」
「それも委細承知。まぁ………小声で話すのは慣れてるけどね」
 幸い、すれ違う生徒達に聞きとがめられた気配はない。
 誰も彼もが、当たり前のように日常を過ごしている。

「…………コイツラ、ほぼ全員偽物なんだよね」
「情報によるとね。なにか含むところでもあるかい?」
 目を細めて、生徒達を見るジョンの表情は、控えめに見ても気分が良さそうではなかった。

「ティアー、さぁ」
「うん?」
「本物と偽物の区別って、どうつける?」
「見分けをつけるのは難しいという話だったが」
「あー、そういう意味じゃなくてさぁ」
 談笑する生徒。
 からかい合う生徒。
 生徒教師生徒教師。
 本物のフリをする、偽物達。

「こいつらは偽物だけど、僕達からはそれがわからないわけだろ?」
「そうだね、見たまえ、あの女子生徒の健康的な美脚を。あれが偽物などと……信じられない」
「あぁうん、いい脚してる、もうちょい細いとジェミーにそっくりかな」
「……で、それがどうしたのかね?」
「いや、だからさ――事前に情報がなければ、こいつらが偽物だって僕達にはわからない。じゃあ、“本物と偽物”の違いってなんだ?」
 本物と偽物の区別ができない。
 学園は、ある意味正常に、問題なく動いている。
 観測者には、その真贋を判別できない。
 ならば、実質、それは本物と違わない。

 ……仮にこの場に立っているジョン・ブラウンが。
 本物である証明も、偽物である証明も。
 誰にも出来ない。

「何だ、そんな事か」
 ティアーはその問に、呆れたように、己の端をひらひらと揺らした。

「本人が自分を本物だと思っていれば本物、偽物だと思っていれば偽物だ。それ以外あるかね?」
「……………………」
「まぁこの偽物たちが自分たちをどう思っているかはわからないがね。最終的にはご退場願う事になるだろう」
「……ぁー、まぁそうか、そうだね、そりゃそうだ」
「思春期は大変だな、ジョン。その悩みを解決すべく今度素敵な本をプレゼントしてあげよう」
「………………いやヒーローマスクから薦められる本はあんまり見たくないんだけど」
「えー、アメリカ版のソウルナイトコラボレーションムックなのに……」
「いや待てそれはすごい見た――……」
 反射的に声を上げたジョンが、ピタリと動きを止めた。
 む? と、ティアーが首(?)をかしげる。

「どうしたね?」
「――――見つけた。一階の、調理室」
「ほほう?」
    、、、、、
「…………腐った臭いがする」
 眉をしかめる。
 生臭く、ツンとしていて、喉を焼くような感覚。
 嫌な気配、知っている気配、知りたくなかった気配。

「……つまり」
「“何か”あるってことさ。……見たくもない何かがね」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「だむー」「むーむー」
「見つけたむー」「むー」
 ∈(・ω・)∋←こんな形をしたぬいぐるみが、わちゃわちゃと学園内を徘徊している。
 ジョンのユーベルコード、《Bug Tracking》によって生み出された、自我のある存在であり、通称だむぐるみと呼ばれる。
 彼らは五感をジョンと共有しており、発見したものは即座にジョンの知るところとなる。
 忍び込んだ先は、学園内で振る舞われる学食を生産する調理室だ。

「むー? うげっ」
 そこから漂うのは、肉や魚が腐ったような、不快な悪臭だった。
 ヘドロの底に溜まりに溜まった汚泥を組み上げて煮詰めたら、こんな臭いがするのではないか。

「だむー! むー!」「逃げるむー!」「くっさいむー!」
 繊細、というか嫌なことを極力したがらないだむぐるみ達が、それ以上調査を続けるはずもない。
 現状は主人に伝えたのだから、逃げるが勝ちだ。
 実際、ほんの十分もかからず、ジョンとティアーは調理室にたどり着いた。
 だむぐるみを回収し、そのまま室内へと入る。
 途端、ぬいぐるみ越しではなく、直接嗅覚に、地の底の様な悪臭が流れ込んでくる。

「うぐ……っ」
「これは、ううん……」
 鼻があるのかないのかよくわからないティアーですら、あるのかないのかわからない瞼を細めて唸った。

「…………どういうことかな? これは」
「……要するにあいつらが偽物なら、飯を食う必要もないってことじゃない」
 食事をしないなら、食材も不要だし、調理も不要だ。
 学園が邪神にのっとられてから、ずっと生鮮食品が放置されれば、こんな臭いもするだろう、と思っていたのだが……。

「だが、生徒達は通常の生活を送っているんだろう? なら学食などは普通に動いてるはずでは?」
「あぁ、そういえば…………」
 つぶやきながら、明かりをつける、並んだコンロ、大きな冷蔵庫、刻まれた野菜の並ぶまな板、ごうごうと回る換気扇。
 大きな鍋の中を覗いてみると、作りかけのカレーがあった。
 とても、長く放置されていたとは思えない、というか、現在進行系で作っていたかのようだ。

 ……“ただ臭いだけ”だ。

 その時。
 ガタ、と明確に。
 何かが触れて、揺れる音がした。

「…………誰だ!」
 突如、ティアーが叫び、ユーベルコードを解除した。
 ジョンも“ウィスパー”を立ち上げ、即座に身構える。
 果たして――――――。

「きゃあ!」「ひゃん!」「ごめんなさい……?」
 声を上げて、わらわらと、机や棚の下から湧いて出てきたのは。

「――――へ?」
 小さな小さな、何人ものブラックタール達だった。


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【 PART 5 】
    ▽ 秋縁学園 調理室 ▽
           《 アイシス・リデル 》
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 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)の認識において。
 学校とは、素敵で、光溢れる場所のはずだ。
 未来に進むために、人々が研鑽を積み重ねる場所のはずだ。
 自分に縁はないけれど――――。

 正しく、綺麗で、素敵なものの、象徴であるはずだ。

 なのに、ここに居る、肝心の生徒達は、ほとんどが偽物なのだという。

「助けて、あげないと」
 アイシスは、どれだけ言葉を取り繕っても、綺麗な存在ではない。
 溝を浚い、汚泥を溜め込み、腐臭と悪臭を身に纏った汚物の申し子だ。
 千人いたら千人が、眉をしかめて避けて通るだろう。
 偽物たちを追い払い、本物を助けたとして。
 彼らはアイシスに、きっとお礼を言わないだろう。触れようとは思わないだろう。
 それでも、助けない理由はならないのだ。

「じゃあ、がんばろうね、わたし」
「うん、さがそう、わたし」
「見つけてあげようね、わたし」
 ブラックタール――不定形、流体と個体の間であるアイシスは、自らの質量を分割して行動することが出来る。
 それぞれに任意の役割を付与することも出来、今回は五感を共有する“追跡体”として己の体を分割し、調査に乗り出した。

(何百人もの人たちが、どこかに掴まってるんだよね)
 グリモア猟兵に告げられた情報を整理しながら。

(それも生贄にするなら、ちゃんと生きたままじゃないと駄目、だよね)
 アイシスは考える。

(だったら、最低限水や食べ物は必要な筈だし)
 そしてその思考は、決して無知な子供のものではない。

(――――その分のゴミや汚れも出てる筈、だよね)
 毎日、さらわれた生徒達だけで五百人分、それがどれだけの量になるのか。
 下水道に生きるアイシスにとって、生活から発生するゴミや汚物の量は、ある程度推測できる。
 生きているだけで、人は世界を汚すのだ。
 
 だから、アイシスは下水の流れや、ゴミの出どころをたどる事にした。
 同時に、食料を運んでいるのではないか? とも考え、数人の分裂体を調理室に向かわせた。

 ――――で、まぁ何が起こったかと言えば。

「く、臭い! 何この臭い!」
「大変! 何か腐ってるのかしら!」
「ちょっと誰か呼んできて、誰かー!」
 ……食料を扱う場所に、アイシスの体臭が潜り込んでしまったせいで、調理師たちが異常を察知して逃げ出したのだ。
 結果的に人が居なくなったので、思う様調査はできたのだが。

「お、おどろかせるつもりは、なかったの」
 ……他に調査に来た猟兵とかち合ってしまったのは、不運としか言いようがなかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 顔を合わせ、申し訳無さそうにするアイシスの分裂体達を前に。

「はは、いいんだよ。乙女に驚いてしまうなんて、こちらの方が無作法だったね」
 即座に紳士淑女の体を取り戻すティアーだった。

「……わたし、乙女?」「乙女なのかな」「乙女……」
「勿論、どのような姿どのような形であれ、心に少女を持つ者を乙女というのだよ」
「心の少女ってなんだよ」
 ジョンは呆れたふうに鼻をつまみ、それからアイシス達を見下ろして。

「そりゃ人も居ないはずだわ。……で、なんか見つかった?」
 分裂体は、再びお互い顔を見合わせ、首を横に振り。

「何もなかった」「ゴミも、ふつうだった」「おかしいよね」「きれいすぎるよね」
「…………ちなみに、他の場所にも仲間を派遣してるわけ?」
「うん」「ゴミ箱とか」「下水とか」「トイレとか」「いろんなところに」
 その会話を聞いていた、というわけでもないだろうが。
 ずるり、と扉と床の隙間を抜けるようにして、アイシスの分裂体が一体、新たに室内に入ってきた。

「あ、おかえり、わたし」「どうだった?」「あれ?」「何だろ」
 アイシス達の様子がおかしい。
 彼女たちは基本的に、五感を共有しており、どこに居てもお互いが何をしているかわかるからだ。
 だから、本来、確認、という行為は必要ない。群体として機能していなければならないのだから。

 だけど、目の前にいる“アイシス”の視点が、アイシス達にはわからない。
 何を見ているのかわからない、何に触れているのかわからない、何を考えているのかわからない。

「――――わたしじゃ、ない?」
「あなた、だれ――?」
 首をかしげるアイシス達に対して、現れた“アイシス”の姿をしたなにかは。


「――――――クヒヒ」


 と、醜悪に、嘲笑った。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 アイシスの偽物は、分裂体の一体にふれると、その体をじわじわと侵食していく。

「っ! わたし、にげて!」
「だめ――ごめん、わたしは、おいていって――」
「クヒ、クヒヒっ」
 あっという間に飲み込まれて、アイシスが一体、消えてしまった。
 そのまま、みるみる体積を増して行く“なにか”は、ネトネトと粘液を零しながら、身構えたジョン達ににじり寄ってくる。

「――――猟兵の偽物も作れるって事か」
「さて、どうするね?」
 口元を歪ませるジョンと、その眼を光らせるティアー。

「ちなみに今の私はからっけつだよジョン」
「ご丁寧にン時間ぶっ続けでユーベルコード使ってたからねえ……」
 どうしたものかと考えている最中。
 アイシスの分裂体達が割り込むように間に入り、壁となって立ちふさがった。

「ごめんなさい」「あの子はわたしがとめるから」「ふたりはにげて」「ごめんね」
 小さく、群れながら。
 食われて、消えたのは自分の一部で、襲ってくるのは自分と同じ姿かたちをしたなにかだ。
 怖くないわけが、無いだろうに。

「君は――――」
 思わず、ジョンは口を開いていた。

「君はなんでこの学園に来た? なんで人間を助けようと思った?」
 その問いかけに。
 アイシスの分裂体達は、それぞれ顔を見合わせて、不思議そうに首を傾げて。

「だって、学校は、きれいなところだから」
 そう言った。

「だけど、ここにあるものは偽物だから」
「ほんとうにここにいるはずの人たちがいないのは、駄目だよね」
「こんなにきれいな偽物が作れるって事は」
「きっときれいな本物があったって事だから」
「取り戻さなきゃ」
 どれだけ姿形が汚れていようと。
 どれだけ悪臭を巻き散らかそうと。
 その目にある光の色を汚らしいなどと、言えるわけがない。

「OK、その願いを確かに聞いた、ここからは――――――」








「――――では、ここから先は私に任せてもらうのである!」
 バンッ、と勢いよく、冷蔵庫が開け放たれ、内側から一体のシャーマンズゴーストが姿を表した。
 アイシス達ははれ? と首を傾げ。
 ジョンとティアーは、同時に声を揃えた。


「「リチャード!?」」


 あまりに唐突なその登場に、アイシスの偽物までも、動きを止めて、ん? とそちらを注視してしまう。
 無論、それは大きな隙であり。
 鹿(鹿ではない)の視線は、それを見逃さない。

「今だリクロウー!!!!」
「イヨッシャーーーーー! 大金星ゲットーーーー!」
 続けざまに、冷蔵庫の更に奥からリクロウが姿を現した。
 アイシスの偽物に、巨躯を活かし、抱えるように動きを封じる。

「グ、ググググ――――」
 無論、ただでは済まない。アイシスの持つ悪臭はそのままだし、体液そのものが危険ななにかに変じているのか、触れた部位がじゅう、と音を立てて溶け始める。

「あいたたたた熱い臭い痛い辛いヤバい!」
「ああ! リクロウが溶けて無くなるぞリチャード! なんかヤバい煙が出ている!」
「落ち着けティアー……大丈夫……大丈夫、大丈夫である!」
「うおおおおおおおおおおお! ここは僕が喰い止め…………あががががが!」
 それでも、リクロウは偽物を離さない。
 一度出した勇気を引っ込めてしまったら、二度と前に進めなくなる。

 《策は無けれど踏み出せ、誰が為に》。

 それは、リクロウの心構えが形となったユーベルコードなのだ。

「……わざわざでてきたってことは、策があるんだよな!?」
 ジョンが叫ぶと、リチャードは大仰に一礼して吼え返す。

「無論、リクロウのおかげで条件は整った! こっちで偽物を探すのは面倒である故、ちょっとこちらから行くのである」
「…………行くってどこに?」
        、、、、、、、、
「そりゃ勿論、偽物が出てきた所である」
 リチャードが指を鳴らすと。
 二人が出てきたまま、扉が開きっぱなしだった冷蔵庫の中身が、黒一色になった。



「壁に鹿ありメイドのメアリー。いざゆかん“敵の世界”へ!」



「「「…………なぁにぃー!?」」」
 悪巧みの一同が揃って声を上げると同時、次々に冷蔵庫の中へ吸い込まれていく。
 リチャードの、“拉致した相手ごと味方の元へ移動する”ユーベルコード。

「グ、グィィィ…………!?」
「あぢ、あぢぢぢぢぢ!」
 アイシスの偽物が、なおもリクロウの中で藻掻く。
 それでも離さない、逃さない。

「“偽物は本物と入れ替わる”。ならばこちらは拉致られたそちらのレディーの一体の元に合流させてもらうのである。当然その先には――――」
 ――――本物の生徒達がいる道理だ。

「わ、わたしたちも」「行くよ」「行くの?」「行かなきゃ」
 アイシスの分裂体達も、その“吸い込み”の流れに乗って、ふわりと体が浮かぶ。
 助けに行くのだ。
 本物を、取り戻すために。

「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
 リチャードの高笑いが響く。
 気がつけば、もう調理室には誰も残っていなかった。
 猟兵も、偽物も、何もかも。
 最初から、誰も居なかったかのように。

 ……扉の開いた業務用の冷蔵庫が、溜め込んだ鬱憤を吐き出すかのように、蓄えた冷気を零し続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

曾場八野・熊五郎
3

我輩は賢いので、『校庭に迷い込んだ賢くない犬』を演じて情報を集めるでごわすよ。
蕎麦屋でいつもやるように愛嬌たっぷりに振舞ってやれば女子供はイチコロでごわすな!
じゃれながら『智慧ある獣の牙』で甘噛みして本物の判別と邪神の習性を覚えるでごわす。邪神って何味でごわすかな?

ある程度探ったらお仲間の猟兵に情報を渡すでごわすよ。狩りは連携が大事でごわすからな。
怪しまれたら「追跡」で仲間の匂いを追って合流するでごわすよ!

・弱肉強食死ななきゃ上等
・一般人は引きずってでも助けるけど他猟兵より自分優先
【アドリブ連携歓迎】


月輪・美月

2)捕らわれた生徒を捜索する
僕が入れ替えられたとして、見抜いてくれる人はいるのだろうか
……逆の場合、相手が入れ替わったと気付けるだろうか


行動方針は、全員の救出……可能な限り犠牲者を出さず、この案件を終わらせる事

初対面の僕では、無事な生徒と入れ替わった生徒を見抜くのは難しい
メインは監禁された生徒の捜索と行きましょう

謎のイケメン転校生として学園に潜入
影で出来た狼なら学園生活をしながら離れた場所まで捜索可能
初めの内は相手に悟られないよう慎重に
儀式の時間が近づいたら多少強引になってでも学園中を捜索します。

見つけることが出来たなら、無事な生徒の救出担当の人に連絡をとり、協力して進めて行きたいです


アリエル・ポラリス
1)
がっこー……私も行ったこと無いのよねぇ

さて、無事な人を助けるために……はじめまして! 転校生のアリエルです!!
ふふ、ちょっと楽しいわ!
尻尾にはUCで呼んだレーちゃんを隠して、スクールライフ開始よ!

クラスの皆とお喋りしましょう! がくしょく?にだって行っちゃうのよ!
レーちゃんも、皆と仲良くした方が良いって言ってる気がするわ!

以下レーちゃん思考
転校生であるアリエルは、客観的に見て偽物でない可能性が高くなる
無防備に周りと交流する姿を見れば、時間の問題だが
哀れな犠牲者として、正気の者の目を引くのだ

カメレオンの視力で僅かにでも様子がおかしい者を見つけたら、二人きりになれるようアリエルに指示を出す



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 6 】
    ▽ 秋縁学園 高等部1年2組 ▽
           《 アリエル・ポラリス 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「うそー、それすっぴんなのー?」
「リボン可愛いー、どこで買ったの?」
「えー、お化粧したほうがいいよー、絶対可愛いって!」
 机の上に並べられた化粧品を前に、女子生徒たちとワイワイ楽しそうに話すアリエル・ポラリス(慈愛の結実・f20265)の姿は、ごく普通に学園生活を送る、日常の一シーンでしかなかった。
 実際、UDCアースのコスメは、アリエルの生まれ育った世界よりだいぶ進んでいて、見ていても触れていても飽きないものだ。

「ネイルとかー、簡単だよー? 試してみるー?」
「ほんとう? じゃあ、お願いしちゃおうかなっ」
 突然の転校生相手にも、この学園の生徒達は皆よく接してくれた。
 不慣れだろうと気遣い、積極的に話題を持ちかけ、楽しく話せるよう努めてくれている。

 ――――それが本物のつながりであれば、どれだけ良いか。

 今アリエルを囲んでいる少女たちのほとんど、あるいは全員が、偽物だ。
 この関係もまた、一時の偽物で、事件が解決すれば、輪の中に馴染むことなく、アリエルはこの場を去ってゆく。

(…………ままならぬものだな)
 ……などと思考しているのは、勿論アリエルではなく、その尾の中に潜んでいる一匹のカメレオンであった。
 カメレオン、である。
 アリエルからはレーちゃんと呼ばれる彼(彼女?)だが、その実、非常に高い知性を持っている
 こういった調査や推理が必要な場面では、アリエルより遥かに適正があるのだ。
 今も、アリエルに近づく者、一人ひとりの動向に、目を光らせている。
 例えば、特に積極的に話しかけてくる、みつあみが特徴的な女子生徒。
 事前に見た資料によれば、名前を山中・ミサトという。ごく普通の、どこにでもいる、ありきたりな少女だ。
 アリエルを警戒している敵かもしれないと、レーちゃんは、彼女をじぃと見つめ、その様子をうかがっていた。

「今日は色々変わったことが多いよねー、転校生はたくさん来るし、校庭に犬は来るし」
「犬?」
 アリエルが首を傾げて尋ねると、みつあみの女子生徒――ミサトはうん、と頷いて。

「沢山撫でさせてくれたんだけど、最後にかぷっ、て甘噛されちゃったんだー、なにかまずかったのかな」
「耳の先っぽとか触ったのかもしれないわっ、敏感だもの!」
「あ、そうかも。……なんだか実感こもってない?」
「だって私も―――――ひにゃっ」
 レーちゃんが尾の中でアリエルの毛を少し引っ張った。
 猟兵はその姿に疑問を抱かれることはない。
 故にアリエルが人狼の耳と尾を有していることも、不思議だとは思われないのだが。
 かといって、それをわざわざ口に出す必要はない。調査任務だということをわかっているのだろうか。

「アリエルちゃん?」
「な、なんでもなーい! わ、私も見つけたら撫でてみようかしら?」
 下手なごまかしを疑うことなく、それがいいよ、とミサトは笑い。

「ねえ、よかったら一緒にお昼食べない?」
「えっ、いいの?」
「うん、せっかくだから、色々案内してあげるよ。今日は学食の日替わり定食、コロッケなんだよ」
 アリエルの、尻尾と耳が、ぴん、とたった。根本にしがみつくレーちゃんは、落ちかけた。

「コロッケ! 私好きだわ!」
「ほんと? じゃあきっと気にいるよ、食べ物に気合い入れてるから、ウチの学校」
 楽しそうに笑うミサトの顔が、もし偽物だとしたら。
 この学園を支配する邪神には、醜悪と呼ぶしかあるまい。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 7 】
    ▽ 秋縁学園 校庭脇 ▽
          《 月輪・美月/曾場八野・熊五郎 》
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 もし、自分が偽物と入れ替わったとしたら。
 誰かそれを、見抜いてくれる人はいるだろうか。
 例えば、家族なら? ふと、父や母、姉の顔を思い浮かべる。
 なんとなく、わかってもらえそうな気もするし、なんだかわかってもらえないような気もする。
 同僚にして幼馴染の彼女なら、とりあえず斬ってみてから考えそうだ。

「……まあ、僕が見分けられるかっていうと、また別の話なんですけども」
 月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)はため息を吐きながら、廊下を歩いていた。
 結局、誰も彼もが疑わしく見えるし、誰も彼もが本物に見える。
 初対面の自分に、真贋を区別することなど出来やしない。
 故に、探すのは因われた生徒達だ。己の影を狼の形に切り離し、すでに学園中に放ってある。
 あとは、見つけ出すだけ――――なのだが。

「きゃー、可愛いー」
「どこから来たのかな?」
「ふんふんふんふんふんふんふんふん」
 なんだか女子生徒の足元を、鼻を勢いよく鳴らしながら、すごい勢い嗅いでいるもこもことした生物がいる。
 女子たちはスカートのまま無防備にしゃがみこんで、その頭を撫でようとする。
 もうちょっと角度がつくと大変都合のいいことに……いや、よくない、よくないよ君。

「かぷかぷ」
「きゃ、くすぐった~い」
「もう、噛んだら駄目だよ~」
「へっへっへっへっへ」
 な、なんて羨ましい……!
 いや、犬を羨ましがってどうするんですか僕。
 待てよ? 狼に変身すればワンチャンあるんじゃ……いやいや、だからあの女子達も偽物の可能性が……。

「月輪くーん」
「は、はいっ?」
 そんなどうでもいいことを考えていたら、問題の女子達に声をかけられてしまった。
 反射的に上ずった声が出る。まずい、今のは格好良くない。
 名前を知られていたあたり、こちらの転校生として潜入したクラスの娘らしい。

「私達、これから用事あってさー」
「この子、職員室につれていってもらっていいー?」
「流石にわんこをほっとくわけに行かないからさー」
 女子に抱きかかえられてた犬は、なんとも脱力していた。眼が丸い、やる気というものを感じられない。

「あ、はい、わかりました、預かります」
「ありがとー、宜しくー」
 犬を美月に渡すと、笑顔で手を振って去っていく女子生徒たち。
 眩しく翻るスカートの影を眼で追ってから、美月はゆっくりと、抱えた犬を地面におろそうとした。

「全然味がしないでごわすな」
「うわぁああああああああああああああああ?!」
 そのタイミングで突如喋りだすものだから、思い切り犬を放り投げて、後ずさってしまった。

「おっと、ひどい坊主でごわす」
 ひらりと空中で身を翻し、スタッと着地するその姿は。

「犬が喋っ………………あれ、よく見たら蕎麦屋さんの犬じゃないですか」
 美月も何度か利用したことのある、蕎麦屋のマスコット、もとい店主である曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)であった。
 犬が店主である。何の問題もない。おかしいのは頭だけだ。

「うむ、日輪の坊主、久しぶりでごわすな。時に蕎麦の出前を頼まなかったでごわすか?」
「いや、頼んでませんけど……後、前から喋れましたっけ」
「坊主でもないでごわすか……いつになったら蕎麦を届けられるのでごわすか……」
 疑問は、華麗に受け流された。

「ていうか、何しに来たんです……? 出前……?」
「勿論、邪神に因われた人間を助けにきたでごわす」
「りょ、猟兵だったんですか……」
「あわよくば、蕎麦を注文したお客を見つけられたら良いのでごわすが」
 いやまぁ。
 美月の両親も、この犬の飼い主さんも、同じような異能を持っていたことには間違いないが。
 犬までとは……。

「小僧だって狼でごわす、つまり、犬でごわす」
「狼と犬は違いますよ!」
「犬の方が進化としては最先端故、狼のほうが旧世代でごわすな」
「まさか僕が犬に勝ち誇られる日がこようとは……」
 転校生が、犬を抱きかかえながら歩いている。
 ある意味、シュールな光景だが、幸い見咎められることはなかった。

「……お腹空いてきましたね」
「蕎麦でも食うでごわすか?」
「いや、なんかすごい伸びてるんじゃないですか……近くに購買があったはずですから、そっちに行きますよ」
「我輩、鮭おにぎりがよいでごわすな」
「犬が塩分濃いもの摂っちゃ駄目ですよ……ついてくるんですか」
「腹が減っては戦は出来ぬでごわす」
「そうですけども。というか、さっきは何してたんです? 女子生徒を噛んでたじゃないですか」
 購買に向かって歩き出す美月がそう問いかけると、熊五郎はうむ、と鷹揚にうなずき。

「味を見ていたでごわす」
「味!?」
「偽物は普通の人間と何かしら違うはずでごわす。我輩の牙は連中の習性を見ぬくでごわす」
「す、すごいですね……なにかわかりましたか?」
 まったく変わらぬテンションのまま。
 熊五郎は、平然と告げた。

「人間がほとんどいなかったでごわすな」
「――――――」
「とはいえ、何人かは見つけたでごわす。匂いは覚えてるから、後で助けてやるでごわすよ」
「え、ええ、それは勿論……僕がやっていいんですか?」
「我輩、“校庭に迷い込んだ賢くない犬”を演じていたでごわす、今から急に喋りだして、ビビって逃げられたら面倒でごわす」
 誇り高き人狼の一族として、もふもふ犬(喋る。賢い。力強い。弱肉強食)に負けそうだ、という事実に、わずかに冷や汗が伝う。
 無論、そんな美月の内心などどこ吹く風で、熊五郎はほれ、と肉球で示した。

「あの右の娘っ子は、人間だったでごわすよ」
 視線で追いかけた先、長い髪の毛をみつあみにした女子生徒と、耳と尾を有する人狼の少女が、並んで歩いていた。


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【 PART 8 】
    ▽ 秋縁学園 購買前 ▽
           《 アリエル・ポラリス/月輪・美月/曾場八野・熊五郎 》
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 コロッケ。
 それはじゃがいもを更かして潰して、こねて丸めて衣をつけて揚げた料理である。
 生まれ故郷の世界ではそう頻繁に食べられるものではなかったが、UDCアースは、特に食文化に大きく恵まれた世界だ、飽食万歳。

「ふんふんふん、ふーん♪」
(ああ、尻尾が! 尻尾が!)
 心が弾めば尻尾も弾む。ご機嫌そうにフリフリと揺れるたびに、尾の中に潜んだレーちゃんは振り落とされぬようしがみつく。
 こいつ、尾の中に自分を潜ませているのを忘れてるんじゃなかろうか。
 そんなレーちゃんの内心はさておき、意気揚々と学食に向かったアリエルだったが。

「あれ、どうしたんだろ?」
「? なになにっ?」
「うん、なんだか様子が変…………あれ?」
 案内を買って出た、ミサトが首を傾げた。学食の前に、人だかりができている。
 原因は、すぐに知れた。学食の入り口の前に、わら半紙が貼られていた。
 マジックで書かれた文字は、極めて簡潔。

 【本日、学食休業】

「なんかガス漏れがあったんだって」「すごい臭かったってさー」「うげー、マジかよ」「購買行く?」
 昼飯を当てにしていた生徒達が、次々落胆の声を漏らしながら立ち去っていく。

「あら……何かあったんだ、また……」
「………………コ、コロッケ…………」
(ああ、尻尾が、尻尾が……)
 今度はべたんと重力に従う尻尾に振り回されるレーちゃんであった。
 気分が本当に尻尾に出る奴だが、それよりも。

(……また?)
 ミサトがぽつりとこぼしたのを、、レーちゃんは聞き逃さなかった。

「ア、アリエルちゃん、大丈夫?」
「大丈夫っ、全然がっかりなんて……し、して……してな……っ!」
 嘘だった。だって尻尾ベターンってしてるから。

「そ、そうだ、購買行こうよ! コロッケパンがあるの! お、美味しいよ!」
「コロッケパン!?」
 フォローのつもりだったその言葉に、アリエルの眼が、わかりやすいほどぱぁっと輝いた。
 ミサトに手をひかれるまま、購買へと向かう。渡り廊下を通ればすぐだそうだが、いざたどり着いてみると、
 他にも学食目当てだった生徒達がぞろぞろと並び、ちょっとした行列を作っている所だった。

「あちゃ、結構人多いなぁ……少し並ぶかも」
「待つのは全然、大丈夫よ?」
「コロッケパンは人気だから、これだけ人数がいると売り切れちゃうかも……」
「それは困るわっ!?」
 やいのやいのとやり取りする二人。それを聞いていたのかいないのか。

「やきそばパン、コロッケパン、メンチカツパン、カレーパンは売り切れです! あんこコッペはまだあるよ!」
 という、威勢のいいおばさんの声が聞こえてきた。そこいらから『えー』とか『そんなぁ!』という声が上がる。
 ……まぁどれだけの学生が普段から学食を利用していたかは知らないが、もともと購買と学食の二つで学生の胃袋を支えていたのだろうから、
 片方が突如なくなってなだれ込んだら、それはそうなるだろう、という所だった。
 惣菜パンの中でも主力級の商品はあっさり失われ、後に残るのは味気のないコッペパンのみ。

「あ、あぁぁぁぁ……」
 アリエルのしっぽがこれ以上無いほど垂れ下がって、レーちゃんは必死にしがみつく羽目になる。
 ミサトも、これ以上はコメントしようもないようで、申し訳無さそうに、困った笑顔を浮かべていた。
 その矢先だった。

「あの」
 声をかけてくる男子生徒が居た。

「よかったら、パン、分けましょうか」
 銀髪、金眼、そして――――アリエルと同じく、狼の耳と尾。
 人狼の、つまり……同じ任務でここにいるのであろう、猟兵の姿だった。

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 少しズルをした。まぁ、お金は置いてきたので、つまり盗んだわけじゃないから良しとしよう。
 影の狼達に小銭を持たせて、学食の裏に忍び込ませて、お金と引き替えに、パンをいくつか拝借する。
 列を無視する、というルール違反を犯したという点では確かにとても悪いことをしたが、そもそも並んでる学生たちが9割型偽物であるはずなのだから、
 生存に食事の必要な自分たちのほうが優先されて然るべきである、理論武装は完璧だ。
 なによりこのパンをきっかけに女子とおしゃべりできるのだから、どちらを優先するかは明らかというものだ。

「あれっ、あなた猟兵――――あたっ」
 声をかけた女子生徒の、片方が同類であることは、外見で判別できた。
 みつあみの女子生徒は、急にスカートの後ろを抑えるアリエルの様子に首を傾げ、それからこちらを見て。

「えっと、いいんですか?」
「ええ、友達の分も頼まれたんですが、急に必要なくなったって言われたもので、困ってたんですよ」
 ペラペラと嘘を並べ立てながら、惣菜パンをいくつか入れたビニール袋を渡す。

「ありがとう、えっと……」
「ああ、お金はいいです。大した額じゃないので……代わりに、お昼を一緒に食べてもらえませんか? その、一人じゃ寂しいんですよ、転校してきたばかりなので」
 財布を開こうとするみつあみの女子生徒を制して、美月は言った。
 客観的に見て顔がいい。いいほうだ。いいはずだ。
 髪の毛や人の色も相まって、どこか浮世離れした印象を与える美形である。
 一緒に昼食を、と誘えば……大体の女子は了承してくれる。してほしい。してくれるはずだ。
 そう思ったのだが……。

「あれ、転校してきたばかりなのに、友達に買い物頼まれたの?」
 と、人狼の少女がぽつりとこぼして、嘘の取り繕い方があまりにボロい事がバレてしまった。

(馬鹿でごわすな)
(黙っててください!)
 腕の中のクマゴロウがふむー、と大きな鼻息を鳴らした。
 どうしよう空気が微妙にならないか、まさかナンパのためにパンを大量確保していた変な奴だと思われていそうだ大変まずい。
 ……などという心配をしたが。
 結果から見れば、それは杞憂だった。そんなものではすまなかった。

「っ…………!」
 その瞬間。
 女子生徒は、人狼の猟兵の手を掴むと。
 身を翻して、走り出してしまったからだ。

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「えっ!? あれ、どうしたのっ?」
 一番わけがわからないのは、手を引かれたアリエルである。
 やったぁパンが食べられる、と思った矢先に、ミサトが駆け出したからだ。

(止めろアリエル!)
「レ、レーちゃん!?」
 カメレオンのレーちゃんが、ぐいと尻尾を引っ張った。
 言葉は通じないが、意思は通じる。

(その娘は人間だ、だから逃げ出したんだ!)
 レーちゃんが、アリエルを無防備に、学園で自由にさせていたのは、いわば釣り餌だ。
 この学園の、本物の生徒達は、皆偽物に囲まれている自覚がある。
 誰が味方で、誰が敵だかわからない、そういった極限状態にあるはずだ。
 そんな彼ら彼女らからすれば“転校生”、外部から来たばかりの人間はどうだ。
 客観的に見て、本物の人間ある可能性が、高いと言えるだろう。
 だから、ミサトはアリエルに近づいて、あれこれ世話を焼いてくれたのだ。
 あわよくば、危険を伝えようとしてくれた居たのかもしれない。

(だが、彼女は普通の人間だ。もともと、精神がいっぱいいっぱいだったんだろう。だから――――)
 嘘を言って、自分に近寄ってきた相手を、敵だと判断したのだ。
 出会いが偶然でないなら、悪意を持って近寄ってきたと。
 あの人狼の少年も、何かしらの手段で、ミサトを人間と判断し、接触を試みたのだろう。
 結果的に裏目の裏目のそのまた裏目のようになってしまったが。

「んーーーーっ! わかったわっ!」
 それ以上、アリエルは、レーちゃんの指示を待たなかった。
 言うや否や、掴まれていた腕をばっと振りほどき。

「えっ――――」
「ミサトさんっ!」
 そのままぎゅうと、勢いよく、ミサトを抱きしめた。

「えっ、え――――」
「大丈夫っ! 私達が来たんだもの! これ以上、怖がらなくていいんだから!」
 その言葉が、何を意味しているのか、きっと言ったアリエルも、言われたミサトもわからなかったに違いない。
 アリエルは、愚直だ。細かいことは考えない。
 自分自身に裏表がないから、他人の裏表だって考えたりしない。
 自分が正しいと思ったことをする、自分が間違っていると思ったことと戦う。
 真っ直ぐで、純粋で、細かいことを考えていない。
 思ったことをすぐ口に出して、その理由なんて知ったことじゃない。
 そんな、少女なのだ。

「ア、アリエルちゃん、あなた――――」
「私は、ミサトさんが声をかけてくれて嬉しかったわっ! お昼ご飯に誘ってくれて、嬉しかったっ!」
 だが、アリエル・ポラリスが、誰かを助ける理由は、きっとそれで十分なのだ。

「だから、私もミサトさんを助けるわっ、私は……あなたを助けにきたのっ!」
 まったく、目立つ真似をしてはならないと、あれほど言われていたのに。
 後ろから、人狼の少年が追いかけてくるまで、アリエルはミサトを抱きしめたまま、離さなかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 …………うん。
 話すね、私が知っていることを。
 二ヶ月ぐらい前から、友達も……ううん、クラスのみんなも、少しずつおかしくなっていったの。
 怖かった、本当に怖かった。同じ顔なのに、同じ声なのに、全然違うの。

 私も、ああなっちゃうのかなって思ったら、怖くて、だから、必死に皆とおんなじふりをした。
 ……屋上から飛び降りた生徒が出た時も、気にしないふりをしたり。
 ……急に誰かが居なくなっても、気づかないふりをしたり。
 ……授業中に、いきなり、ぴたって皆が動きを止めたときは、私も動かないようにしたり。

 先生がね、動かなくなった生徒の顔を、一人ひとり、顔をじぃっと覗いてくるの。
 『皆どうしたんだよ!』って、叫んだ男子生徒が居たわ。
 その子は、どこかに連れて行かれちゃった、それで、次の日に、クラスに来たわ。
 その時は、もう皆と一緒になってた。私の知ってる、クラスメートじゃなかった。

 ……ねえ、アリエルさん。美月くん。
 この学園で……何が起こってるの?
 皆は…………どこに行っちゃったの?
 ねえ、ねえってば! なにか知ってるんでしょ!? 教えてよ!

 ひゃっ!
 わ、わんちゃん……ええと、どうしたの?
 慰めて……くれたの? あ、ありがとう。
 ……うん、ちょっと冷静になった。

 …………ごめん、
 ちょっと、トイレに行ってくるね、うん、大丈夫、すぐに戻るわ。
 顔を洗ってくるだけだから……ごめん。









 ただいま。
 ごめんね、取り乱しちゃって。
 うん?
 私?
 山中ミサトだよ?
 どうしたの? ふたりとも。
 ううん、三人とも? 四人ともかな?

 怖い顔して。

 どうしたの?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
◯ 捕われた生徒の探索

なるほど。例の学園の。
……大人数を巻き込んだ儀式っての死ぬほど嫌いなんだよ、僕。
絶対ぶっ潰してやる。


生徒のフリして紛れ込もうか。
で、探すのは既に成り代わられた方の生徒。

探す方法は……うん、やっぱ一番手っ取り早いのはこれだよな。

ねぇ、何だか「良い所に連れてって貰える」って聞いたんだ。
興味あるんだけど連れてってくれる?
(自分も捕えて貰うが一番手っ取り早い。だから僕も態と捕まる。)
(コミュ力×言いくるめ)

……NAVI、"ゲーム機"と一緒に僕をこっそり着いてきて。(目立たない×追跡)
君と"UDC-146γ"さえあれば後はどうとでも出来るから。


ロク・ザイオン
※零井戸(ジャック)
○囚われた生徒の探索

(ひとに馴染み切るのは慣れていない。
一応制服は借りた。男子学生とそう背丈は変わらない。
以前のように、外から病たちの動きを把握しよう。
そう、思っていた)

(「羨囮」で顔を変え、それに接触する)
なあ。
(それを観察する)
………キミは。
(それの目には。おれが何に――何かに、見えているか?)

………………そう。
ひとちがいだ。

(【野生の勘】
それの匂い、痕跡を逆しまに辿り
出処を【追跡】する。
多分それは、出来てからそう時間は経っていないはず。
どんなに真似ても。どんなに隠しても。
おれを、誤魔化せるものか!!!)

ジャック。
……一人で行ったこと。あとで、怒る。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 9 】
    ▽ 秋縁学園 2F 教室 ▽
           《 零井戸・寂 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 零井戸・寂(PLAYER・f02382)をひと目見たら、彼の事を間違っても“好戦的”とは評さないだろう。
 言うほど大人しいわけではないが、それも親しくなればの話であって、基本的に、初対面の第一印象は、外見に準ずるタイプだった。

「始めまして、ちょっといいかな」
 だから初対面の人間は、笑顔でそう言われれば、警戒心なく話を聞くだろう。
 彼を知るものがみたら、間違いなく“怒り”と表現するであろう。
 絶対に浮かべないような、柔らかく、親しみやすい――――作り笑顔だった。

「何だい、転校生君。俺になにか用事かい?」
 声をかけたのは、その男子生徒が、クラスの中心的人物であるかのように振る舞っていたからだ。
 実際、相対してみれば、他の生徒との違いがよく分かる。

 目が笑っていない。
 呼吸もしていない。
 動きがぎこちなくて、視線は常に一箇所に固定されて動かない。
 張り付いたような能面の笑顔は、存在しているだけで不安を煽る。

 ……そんな存在を、“誰も気にしてない”というのが、何よりの異常だった。
 偽物としての出来が悪い――――というよりは。
 今だ混ざっている、“普通の生徒”へのプレッシャーとして、存在しているのだろう。

「良い所に連れてって貰えるって」
 作り笑顔と作り笑顔が向き合って。
 欠片もひるまず、恐怖を見せずに。
 零井戸・寂は、告げた。

「聞いたんだ。興味があるんだけど、連れてってくれる?」


///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 10 】
    ▽ 秋縁学園 校舎裏 ▽
           《 ロク・ザイオン 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 高い背丈も相まって、詰め襟の男子制服は、ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)によく似合っていた。
 ひと目見て、女性と判別できるものは居ないだろう。
 潜入はひとまず成功した、あとは生徒を助け出すだけだ。
 偽物――学園に巣くう“病”共の動きを把握し、連中の行動を割り出し、次の事象に備えようと、そういうつもりだった。

「にぃ」
 と、聞き知った鳴き声が、足元から聞こえてくるまでは。

「…………ねこ」
「にぃ」
 見知った、黒猫だ。誰より信ずる知人の、もう一つの相方。
 体の一部と呼んでも良いそれが、何故“本人と離れて”ここにいるのか。
 黒猫は、背に乗せていた、ハート型の電子端末を、ぼとりと落とした。

「――――ジャック?」
 見間違えるはずもない、それは文字通り、零井戸・寂の“心臓”そのもの。
 騎士が騎士であるための、欠けてはいけない最大の歯車。

「どうした」
 ザリザリと、ノイズの混ざった声で。

「なにがあった」
 ロクは、黒猫を問いただす。
 肉球が、端末の画面を叩いた。明滅して、何かを映し出す。
 それは、薄暗い、カーテンで締め切られた、教室の天井のようだった。この学園の、どこかだろう。

 声だけが、聞こえてくる。

『君たちが来ているのはね、実のところわかってるんだ』
『でも俺たちは何もしない。だって何も出来ないからね』
『全員、“つれていく”つもりだったしね――――だから、自分から来るなんて、君はよほどの馬鹿なんだなぁ』
 知らない男の声。ザワザワと、肌がひりつく。

『大人数を巻き込んだ儀式っての死ぬほど嫌いなんだよ、僕』
 続いて、よく知った、声が聞こえてきた。

『絶対ぶっ潰してやる』
 敵意と、怒りと、決意に満ちた、声だった。

『そう。でも残念だね。君はもう帰ってこれないよ』
『さようなら、転校生』
『さようなら』
『そして』
『こんにちは』


 ――――ロクは、肩に猫を担ぐと、躊躇なく駆け出した。
 数歩駆けて、助走をつけてから、凄まじい跳躍力で、高い木の枝に飛び乗った。
 学校の教室というのは、ほとんどの教室に窓がある、つまり、外と中がつながっている。
 あの部屋は、薄暗かった。つまり、明かりがついておらず、カーテンの締め切った教室、外から、中が伺えない場所。
 “あて”が付けば、あとは黒猫が道を示してくれる。
 猫が視線を向けた先、二階の、暗幕に閉ざされた教室。

「――――どうして」
 もう一度、足を踏み込んだ。

「―――― 一人で行った」
 弾丸のように空を駆けて、窓ガラスをぶち割って、目的地めがけて、突っ込んだ。
 ガシャリ、と派手な音がして。
 中の机をいくつか吹き飛ばして、立ち上がる。

「やあ、ロク」
 そこに、居た。
 零井戸・寂が居た。
 いや。
 違う。
 違う。
 理屈ではなく、本能が否定した。
 クルル、と、いう唸り声は、自らの身体からでたものか。
 どれだけ精巧に作られていても。
 どれかけ上手く真似しても。

「おれを、誤魔化せるものか」
 最大限の敵意でもって、ロク・ザイオンは親友の姿をしたなにかとと向き合った。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 やあ、ロク。
 どうしたんだい? そんな怖い顔をして。
 僕の顔になにかついてる?

 やだなあ。
 僕が本物か偽物かなんて、どうでもいいことだろう?

 だって、今は僕が“零井戸・寂”だ。
 君がジャックと呼ぶ、その人だ。

 君の髪の毛をブラッシングしてあげた時のことを覚えているかい?
 僕はよく覚えているとも。


 ――――“約束の先の約束”をしたろう?


 ――――ああ、君はそんな顔をするんだね。
 そんな顔で、僕を見るんだね。
 そんな顔で、怒るんだね。

 許しがたいのかな。
 認められないのかな。
 どうしても、僕は君の知っている僕じゃないということらしい。

 けれどね、ロク。
 記憶を有している。
 共通の思い出を有している。
 それを個人の証明と出来ないなら、君は一体“誰”を求めているんだい?

 君の中の定義に当てはまらなきゃ、僕は“零井戸・寂”じゃあないのかな。
 ジャックじゃあ、ないのかな。

 ロク、ロク。ロク・ザイオン。
 知りたければ、君もおいで。

 後悔があるだろう?
 失敗があるだろう?

 僕が許せないのなら、君はこちら側に来るべきだ。
 “本物”と“偽者”の境界を。

 君も、超えてみるべきだ。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ――――その部屋には、もう誰も居なかった。
 眼鏡の少年も、詰め襟の森番も。
 猫も、何もかも。

 電源の入ったゲーム機だけが、床にことりと転がって、ノイズ塗れの画面を映し出していた。

 “The user is no longer here.
  Nobody gives up his heart......”

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アンチ・アンディファインド

2

めんどくせぇ、こういう絡め手を使う奴が一番イラつく
あの偽物共も見てるだけでイラついてくる
うじゃうじゃしてるとこを見てたら殺したくなってくる

適当に生徒として潜入して本物共を探すか
学校の中に隠してってーなら、全員は無理でもある程度はまとめてだろ
んで、普段は人が寄りつかねーとこ
噂話やら怪談なんかあればその辺りは隠すのにぴったりかもな
そういうとこか音楽教室やらの特別教室を探すか


UDCはぶち殺す、見つけ出して殺して殺す
UDCへの憎悪から殺害を何よりも優先
好きにさせるのも気に食わないので、助けられる奴は助ける
見込みがなければ殺す、自分で関わるようなクズも殺す
今回の偽物も一人残らず殺して回りたいくらい



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 11 】
    ▽ 秋縁学園 2F 音楽室 ▽
         《 アンチ・アンディファインド 》
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「あ"ー…………めんどくせぇ」
 “学園生活”を営む生徒達を見て、アンチ・アンディファインド(Anti UnDefined Creature・f12071)は苛立ちを隠さずに大きなため息を吐いた。
 陰険な絡め手というやつが、何より嫌いなのだった。UDCの邪神という奴は、とにもかくにも迂遠で厄介な手段を好む。
 眼前に居るコイツらが全員偽物だと思うと吐き気がする、イライラする、殺したくなる。
 実際、衝動を理性で抑められたのは褒められるべきことだ。
 無論、すべてを内心に収めらたかと言えばまったくそんなことはない。
 顔と態度と仕草に、不機嫌と不満がでているから、せっかくの転校生だという言うのに誰も近づいてきやしないのだ。

「え、ええっと、ごめん、用事があるから……」
「そ、そろそろ授業が始まっちゃうからごめんね!」
「あぁ!? 何だテメェガンつけてんじゃnがはっ」
 なので、こっちから調べようとしても上手く行かないのは想定外だった。
 勿論、平和裏に解決しないといけないのはわかっている、というのも彼の癇癪の一因だった。
 最後のはあれだ、あたりどころが悪かったな。
 まぁ、あてがないわけではない。
 アンチが向かったのは、普通のクラスがあるのとは違う場所、特別教室のある区画だ。
 音楽室の扉に手をかけるが、今は誰も使っていないらしく、鍵がかかっていた。

「ちっ………ウゼェ」
 メシベキボキ、とちょっと聞こえてはいけない音がして、レトロな鍵が物理的に開いた。
 まったく問題なく教室に入る。ピアノ、椅子、楽譜などを収めた棚に、いくつかの楽器。
 どこにでもよくある、音楽室だった。

「…………ここにゃ隠せねぇか」
 なにせ、因われた生徒の数が数だ、ある程度まとめて監禁している事だろう。
 となると、人の寄り付かないところが好ましい。
 怖い噂が流れている、とか、怪談の舞台になっている、使われていない教室等だ。
 ……という予想だったのだが、この音楽室の様子を見る限り、普通に授業や部活で使われているようだった。
 しかも、この学校、使われていない空き教室、という奴がそもそも少ないらしい。

「クソが……ぁー、一応見とくか」
 特別教室というやつは、だいたい隣接する位置に、それに伴う準備室があったりするものだ。
 音楽室の場合は、メトロノームだとか言う、普段は使わないけど時々は必要な教材などがおいてあったりする。
 一応念の為、そちらも見てみる。無論、鍵は物理的に開いたので結果的にかかっていなかった。

「………………」
 無人。
 静寂。
 埃が軽く舞って、鼻をくすぐるのに、若干イラっとした程度だ。

「………………………………ぁーーーーーー! 面倒クセェ!」
 八つ当たりめいて軽く棚を蹴り飛ばし、次の場所に向かおうと踵を翻した瞬間。



(…………助けて………………)



「………………ぁ?」
 声がした。掠れた、今にも消えそうな、細い細い声。

「おい、誰かいンのか」
 振り返り、叫ぶ。
 だが、返事は返って来ない。しん、と静寂が部屋を包む。

「…………今居ただろうが! 黙ってんじゃねェ!」
 吼えて、叫ぶ。
 けれど、やはり、何も返ってくるものはなかった。

「…………あぁ、そぉかい」
 もともと気の短いアンチの怒りが、ついに閾値を超えた。
 元より気の進まない仕事で、殺意と敵意がそれを上回ったから、彼はここに来たのだ。
 UDCを全部ぶち殺す。その為に。

「――――――面倒クセェ! どこの誰だか知らねえが! いいか!」
「必ずオレがテメェをそこに引きずり込んだ奴をブチ殺してやる!」
「だから気合い入れて助けを呼びやがれクソが! 場所がわからなきゃ話にならねェんだよ!」
 怒りと共に吐き出した叫びに。

(――――――けて)

 応じる声が、あった。
 それは、確かに聞こえた。
 来ると身構えていれば、聞き逃しはしない。

「――――あぁ、なるほど」
 ニタリと、アンチの口が、獰猛な笑みの形に歪んだ。
 、、、
「そこか」
 つかつかと準備室の奥に設置された、“それ”に向かって歩みを進める。

                    、、、、、、、、、、
「道理で見つからねぇ訳だぜ、オイ――――さっさと連れて行けや」
 現象が、声に応じた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「えー、なにこれ! 鍵壊れてるじゃん!」
「おい、誰かいるか?」
「ううん、誰もいなーい」
「クソっ! 直せるかこれ」
「無理だよー、業者呼ばないと」
「…………準備室の扉も開いてないか?」
「あ、ホントだ! 誰かいる?」
「今確認する――――――いや」

「………………やっぱ、誰も居ないわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シン・ドレッドノート
〇【WIZ】
基本的にクールですが、敵以外には優しく接します。

「宝物の隠し場所を見つけるのは、怪盗の得意分野ですよ」
一応、変装技能を駆使して臨時教師として潜入しますが、あまり見つからないよう隠れて探りを入れます。

少なくとも、初期の段階では人目に付く場所で連れ去ったりはしないでしょう。
放課後の教室など、人気が少ない場所・時間を狙って、【白銀の万華鏡】を発動。
「Not here,someday,somewhere…」
目星をつけた場所の近くの壁を『過去を映す鏡』に変えて、早送りでその場所の過去の映像をチェック。
生徒が連れ去られる場面を見つけたら、その痕跡を辿って捕まっている場所を特定するとしましょう。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 12 】
    ▽ 秋縁学園 廊下 ▽
           《 シン・ドレッドノート 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 ――――結論から言うと、彼の行動は最適解故に最悪の一手だった。

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 シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)は怪盗だ。
 それは宝を盗む者を示す言葉であると同時に、探索・捜索のスペシャリストであることを意味する。
 なにせ、宝の場所を見つけられなければ、盗み出すことすら出来ないのだから。

「この辺りで良いですか――――」
 昼休みは、当たり前だが、生徒も教師も昼食を取る時間だ。
 つまり、何をしていても気取られにくいという事だ。
 まして、今彼がいるのは、教室があるルートから遠く離れた、校舎の隅っこだ。
 用事がなければ人が来ないし、用事が済んだら人が去っていく袋小路の、用具室。
 よほどのことがなければ、わざわざこんなところに足を運ぶものは居ないだろう。
 そして、それこそが怪盗の予測だった。即ち――――。

「今、この学園は偽物で溢れかえっていますが――――」
 当たり前の話だが、“最初”は皆本物だったはずだ。偽物と本物の比率は、逆だった。
 ならば、実際に生贄を確保し始めた最初の時期は、もっと穏便に、生徒達に違和感を持たれぬように、気付かれないように拉致していたはずだ。
 ということは、必然的に。

 初期の拉致は、人目のつかない、目立たない場所で行われていた事になる。

 その予測が正しいかどうかを、これから証明する。
 壁に手をあてがい、小さく呟いた言葉によって、ユーベルコードが発動する。

「Not here,someday,somewhere…………」

 此処ではなく、いつかの何処かで合ったモノ。
 雫が湖面に落ちるように、波紋が広がっていく。
 その波の端に触れた場所から、薄汚れた壁が、磨き上げられた銀へと変じてゆく。
  シルバー・カレイドスコープ
 《 白 銀 の 万 華 鏡 》が発動した壁面は、今、この瞬間ではない時間軸を映し出す鏡面となった。

「この場所で、さらわれた生徒が居れば――――」
 その痕跡を辿り、捕まった場所を暴き出す事ができる。
 鏡面には、まだ誰も映っていない。指をぱちんと鳴らすと、窓の向こうの色が蒼から橙、橙から紫、黒、そしてまた橙と変じていく。
 数日分の時間を、数分でまたいで、ようやく、鏡面の世界に人物が現れた。
 扉を開けて、気だるそうに入ってきたのは、くせっ毛の女子だった。
 何かを取ってこいと言われたのか、明かりをつけて、用具室の中をキョロキョロと見回し、ガタガタとダンボールの中を漁っては、首をひねって次を探す。

(もう少し、先の時間か――?)
 二、三倍ぐらいの速度で見てみるか、と再度指を鳴らそうとした所で。

「――――――!」
 気づく。
 じぃ、と。
 鏡の中にいる、過去にいるはずの女子生徒が。
      、、、、、、、、、、、、、、、
 こちらを、シン・ドレッドノートを見ている。目を見開いて、凝視している。

 ありえない。この映像は“過去”だ。すでに過ぎ去った出来事だ。
 何らかの偶然か、あるいは、今シンがいる場所に、この映像の時間軸でも誰かがいるのか。

『あなた、見ているわね』
 ――――その予想が外れたと確信したのは。
 鏡面の女子生徒が、言葉を発したからだ。

『あはははははははははははははははははははははははは』
「そうか、生徒達は――――――」
 鏡の中の少女が、近づいてくる。
 シンのユーベルコードに干渉している。今映っているのは、もはや過去ではない。
 ――――敵の、領域だ。

『あなたも、おいで』

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 とぷん、と鏡面が、湖面のように揺れた。
 一瞬後には、もうただの壁に戻っていた。
 用具室の中には、当然の様に、誰も居らず。
 がちゃり、と一人でに鍵がかかって、もう誰も訪れることはなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

マグダレナ・ドゥリング

1)無事な生徒を救出する
【SPD】使用

地道に【情報収集】していこうか。
偽物、とはいえ、
初対面の僕が見て本物、偽物を見分けられるような安い作りはしていないだろう。

以前調査した学園には「裏サイト」という物があったそうだね。
ここでも、まずはそれを調べてみようか。
違和感を感じても抱え込んでしまうこともあるが、
「匿名」ということなら口が滑ることもあるかもしれない。
【ハッキング】で発信源を突き止めて、
「何時」「誰が」「誰に対し」「どういう違和感を抱いたか」
確認してみよう。

こんな事件を起こすような場所だ、学園側も注意はしてそうだが……
学園側の手が入ってるなら「何を隠したか」が解ればそこが弱みになるはずだ。


フェルト・フィルファーデン
◯ 2)捕われた生徒の捜索

まだ間に合うのなら、まだ助かるのなら、ええ、救ってみせるわ。絶対にね。

わたしの体躯だと悪目立ちしそうね……敵がどこにいるかもわからないし念のため最初から身を隠して捜索しましょう。
……万が一にでも見つかれば、最悪の事態もありえるもの。

UCで呼び出した電子の蝶の力で幻の応用によるステルスで屋上から潜入。
その後蝶達で分担して学校全体を捜索するわ。特に人気のない人を隠しやすい所を重点的に探すの。
蝶達が敵に見つかることはまず無いでしょうけど、慎重にね。
共有した五感で僅かな違和感や微かな息遣いも見逃さない、聞き逃さない。

命は宝よ。希望のため、未来のため、誰一人死なせはしないわ。


ヴィクティム・ウィンターミュート
◯ 2


前に解決した事件を思い出すぜ
今回はあの時よりも切羽詰まった状況みてーだな

臨時の体育教師として潜入だ
超小型の自立ドローンに寮と校舎を探らせる
電子端末や微妙な隙間だって探ってくれる

殆どの生徒が成り代わられてるなら、監禁すべき人数も当然多い
そうなると一箇所に全員置いておくのは難しい
複数あるかもな
さて、人目が少なそう所に心当たりがある

プールだ。それも、北海道なら屋内型だろう
プールの底に妙な細工がされても、水を張ってれば気付きにくい
唯一の懸念である水泳部員だって、全員偽物にすればいい
この季節じゃ一般生徒はプールには中々来ない…何か隠すならうってつけだ
授業中の時間を見計らって、じっくり探ってみよう


夷洞・みさき


じゃあ、水泳のコーチ辺りの振りをして情報収集を…。え?

【2】

オブリビオン相手だと姿形でバレそうなので、侵入捜査をする。

侵入経路はUDCに学内の水泳施設に運び入れてもらう。
そこを拠点に人気の少ない時間帯に捜査を行う。

大量の人を閉じ込めているなら、使用する水の経路を基として捜索。
(食事等面倒を見るための経路、生活用水排水の経路)

救出対象は【UC館】に一時避難させる。
会話が可能なら情報収集。
偽物が紛れ込んでいたら、そのまま館の住人にする。

偽物とわかれば手荒な事での情報収集も行う。
但し、今は殺さない。
一般人には手を出さない。自衛を除く。

ところで、まだ現世の人間で君達のお仲間はいるのかな?



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【 PART 13 】
    ▽ 秋縁学園 屋上 ▽
           《 フェルト・フィルファーデン 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 電子の蝶に包まれて、フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)はゆっくりと、秋縁学園の屋上に降り立った。
 猟兵は外見に違和感を抱かれない、とはいえ、フェルトはフェアリー、UDCアースでは、いかにも小さい。
 生徒のほとんどが邪神の手先、つまりオブリビオンだと言うなら、一目で異物だとバレてしまう。
 故の隠密行動だ。フェルトがまとう蝶達は、電子的な迷彩の役割も果たす。カメラにもセンサーにも、気づかれては居ないはずだった。

「人気のないところを重点的に、隅々まで……お願いね、皆」
 あとは、ここから蝶達に探索を行わせ、捕われた生徒を見つけ出す。
 姫君が指をふると、指揮のままに、蝶達が空を舞って、学園中に散ってゆく。

「………………」
 目を閉じて、己の意識を、蝶達の五感に同期させる。
 僅かな違和感や微かな息遣いも見逃さない、聞き逃さない。
 絶対に、死なせない。
 それが、今回、フェルトが己に定めたルールだ。

「…………?」
 違和感を感じたのは、蝶達の一匹だった。
 指向性のある電波を、その羽がキャッチしたのだ。

「誰かが、なにかのメッセージを送ったのかしら……?」
 スマホなどが溢れかえったこの世界において、電波などは常に垂れ流されているものだ。
 電波塔から放たれる、テレビやラジオなどをいちいち受信していてはフェルトの頭がパンクしてしまうので、電子の蝶は普段、それらの情報をノイズとして受信しないようにしている。

「どういうことかしら……? どこから来たか、わかる?」
 蝶の一羽に命令を下すと、緩やかに、電波を受信した方向に向かって行く。
 だが。

「…………っ!?」
 突如、四方八方から飛んでくる、新しい電波群が、濁流のように蝶を飲み込んだ。


///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 14 】
    ▽ 秋縁学園 裏サイト ▽
           《 マグダレナ・ドゥリング 》
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 ●2年の国語教師F、マジでムカつく!(165)
 ●削除されました。
 ●三年のKは売春してる。証拠もある(5)
 ●期末テストの問題盗んできた(227)
 ●削除されました。
 ●1AのJと3BのDは偽物(0)
 ●削除されました。
 ●クラスメートがおかしいんだが。(56)

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 ●クラスメートがおかしいんだが(56)
  20191121 名無しのユーザー up2oi25oi3m
   誰か本物の生徒はいるか?
   俺の言っている意味をわかるやつがいるか?

  20191121 名無しのユーザー 346jr7jjdf
   お前誰だよ。

  20191121 名無しのユーザー Imitation
   イミフ。

  20191121 名無しのユーザー dab;24dd
   本物って?

  20191121 名無しのユーザー up2oi25oi3m
   2,3週間前からずっと感じてた違和感が確信に変わったんだよ。
   1年B組、AもDもFもHも全員別人になってる。でもそれに誰も気づいてない。

  20191121 名無しのユーザー ;ga24ddyu46
   わけ解んないこと言うなよw

  20191121 名無しのユーザー Imitation
   俺心当たりあるかも。

  20191121 名無しのユーザー 2343pp4eld
   じゃあお前らは本物なわけ?w

  20191121 名無しのユーザー Imitation
   見つけました。そちらに送ります。

  20191121 名無しのユーザー 2343pp4eld
   誰お前。

  20191121 名無しのユーザー ;ga24ddyu46
   は?

  20191123 名無しのユーザー up2oi25oi3m
   ごめん、釣りスレだわw
   釣られたやつアホw

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「――――――逃げ道は塞がれている、か」
 マグダレナ・ドゥリング(罪科の子・f00183)が秋縁学園の“裏サイト”を軽く漁ってみた所。
 何人か、感じていた違和感を吐き出した生徒達は居たようだ。
 だが、ログをたどった限りは、すぐさま見つかって“偽物”と入れ替わってしまったらしい。
 ご丁寧に削除されたスレッドを復元してみた所、だいたいの傾向は見て取れた。

 彼らは、最初は友人の些細な違和感に気づく。
 利き腕が違う、使っているペンが違う、連絡が取れなくなったけど授業にはでている――――。
 それを直接尋ねると、話すから、ちょっと後でどこそこに来てくれよ、と言われ。
 それ以降、『やっぱり気のせいだった』として、スレッドを削除して終わる。

「そして、やがて誰も居なくなった――と」
 全体の書き込みは、1ヶ月前を最後に止まっている。
 元より利用者がそこまで多くなかったこともあるのだろうが、流石に偽物達も、裏サイトの書き込みまで律儀に再現をしたりはしていないようだ。
 このルートは外れだったか、とマグダレナがハッキングを中止して、別の手段を取ろうとした、その時。

「――――新規スレッド?」
 それは、本当にたまたま偶然、ページを移動する前に、リロードをする癖がついていたか、そうしただけに過ぎない。
 【助けてくれ。】というタイトルで、新しいスレッドが立ち上がった。

  20200224 名無しのユーザー hwa9a80
   ずっと隠れてきたけど、もう限界だ。
   食い物が無くなった。水だけじゃもう我慢出来ない。
   けど、外に出たら絶対にアイツラに捕まる。
   俺もあんな風になるのかと思うと怖くて仕方ない。これを見てる奴、誰でもいいから助けてくれ。
   転校生が沢山来たって聞いたから、裏サイトを見に来る奴がいることに賭けてみる。死にたくない。

「………………」
 たった今、この瞬間、生き残った生徒からのSOSが発信されたのだ。
 運命は信じるに値しないが、必然は時に起こりうる。
 これが、邪神側の釣り餌である、という可能性は、すぐに消え去った。
 何故なら。


  20200224 名無しのユーザー Imitation
   大丈夫か? すぐ行くから場所を教えてくれ。

  20200224 名無しのユーザー Imitation
   もう心配ないぞ、今何処にいるんだ?

  20200224 名無しのユーザー Imitation
   わかったから、居場所を言えよ。

  20200224 名無しのユーザー Imitation
   助けに行くからさ。

  20200224 名無しのユーザー Imitation
   水が飲める持ち込める所だよな?

  20200224 名無しのユーザー Imitation
   よく隠れられてたなぁ。

  20200224 名無しのユーザー Imitation
   どこ?



 砂糖に群がるアリよりも貪欲に、スレッドに書き込みが行われていく。
 どれも、生徒の居場所を聞き出そうとするものばかりだ、偽物共は、サイトを放棄したわけではなく、ただ監視していたらしい。

「つまり、彼らより先に、この生徒を見つけなければならないわけか……」
 難儀な話だ、と思う。
 雪崩のように書き込まれる、居場所を要求するこの文章群に、本物の生徒が怯えないわけがない。
 その中に、一人、マグダレナが書き込みを行った所で、信じてもらうことは出来ないだろう。
 別の手段で、居場所を、割り出さねばならない。

「――――仕方ない、プロにお出まし願うとしようか」



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【 PART 15 】
    ▽ 秋縁学園 地下 室内プール ▽
  《 ヴィクティム・ウィンターミュート/夷洞・みさき 》
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「寮にもドローンを飛ばしたが、生き物の気配は無いな。儀式の場所は“学園の中”で、寮はその範囲外ってことらしい」
「つまり、本物を寮に閉じ込めていても仕方がない、ということだね」
 二つの人影が、会話を交えながら、階段を降りる。
 目的地は地下。普段の移動はエレベーターを使うようだが、感づかれても面倒なので、わざわざ肉体労働に励んでいると言うわけだ。

「殆どの生徒を閉じ込めているってぇなら――――――」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)は指を立てて、推測を言葉にした。

「――――監禁されてる人数も、それに準ずるはずだ。五百人近い人数、どこに隠す?」
 応じ、頷いたのは、隣を歩く女性――角と、鱗に覆われた体と、尾を持つそれを、そう呼ぶのであれば――だった。

「それだけの人数を生かすのに、飲料水も必要だし、生活排水だって出るよね」
 ひたひたと足音を立てながら、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は指を折って、その数字を出した。

「人間一人が一日に必要な水分量は、大凡、二リットル程度だそうけど、五百人なら千リットル。どこから確保するんだろうね?」
「その辺りのコストを考えても、捕まってる生徒達の場所は分散してると見るのが妥当だが――――その点、“ここ”はその辺りの問題をきれいに片付けてくれる」
 カツン、と、階段を踏む足が、平たい床に降り立った。
 地下に作られた、巨大な温水プールだ。25mの長さのレーンが六つ並んで、今もなみなみと水が満たされている。

「生徒が捕まっているとしたら、どこだと思う?」
「俺なら、このプールの底に隠し部屋でも作るかね。この時期、水泳の授業はないだろうから、水泳部の連中さえ偽物にしちまえば後は誰も探せない」
「ふうん――――?」
 ざぶり、と、着衣のまま、ためらいなく水の中に入るみさき。
 流石に目を丸くするヴィクティムだったが、彼女はそんな事お構いなしに、さらに深く、プールの底に沈んでいく。
 十分程度経過して、ようやく浮かび上がったみさきは、首を横にふるふると振った。

「底に空洞らしきものは……ないね。」
「……あ、そうかい。まぁアテが外れるのもよくあるこった」
「僕も、いい路線だと思っていたんだけどね……いや、そうか」
 ふと、なにかに気づいたように、顔を上げるみさき。

「? どうしたチューマ?」
「いや、考えればね……当たり前の話なんだけども。僕は生徒を見つけたら、自分のユーベルコード空間で一時保護しようと思っていたんだよ」
「そりゃあ妥当な判断だと思うが――――あぁ、いやいや待て、そうか、違ったか」
 何がいいたいのか、ヴィクティムも察しがついた様だ。

「相手もオブリビオンなんだ。何も生きた生徒を現実世界においておく必要なんて無い」
「違う空間に閉じ込めてる―――― 一人ひとりを? いやいやいや……違う、違うな。トリガーがあるんだ、あるいはゲートか?」
「…………特定の条件を満たしたものを」「偽物と入れ替える“なにか”」
 会話の中で、推理が煮詰まっていく。
 “答え”が固まろうとしている。その時だった。

「――――――通信?」
 ヴィクティムが多数持つ通信端末の一つが、着信を告げた。
 指を軽く弾くと、空中に電脳ディスプレイが表示される。通信相手は――数度、同じ仕事をしたことがある猟兵だった。

「こちら“Arsene”、ご入用はなんだいチューマ。只今絶賛取り込み中なもんで、急ぎのビズじゃないなら後にして――――何?」
『裏サイトの書き込みが、どこから行われているのか探してほしい。こっちは少し手が離せなくてね』
「生き残りが居たのか。オーケー、こっちで確保する」
 情報を得たその瞬間に、既に捜査は終えている。
 校内の無線LAN経由で書き込まれたヘルプ・メッセージの出どころは、個人所有のスマートフォン。
 その発信源は――――――。



「―――――“ここ”だと?」



 ヴィクティムが呟いた直後。
 ヴン、と、機械の駆動音がした。
 エレベーターだ。生徒達をまとめて運べる、大型の箱が、起動した。

 つまりは――――誰かが、来ようとしている。

「そうか、そうだよね。人質を生かしておきやすいっていうことは、“逃げて隠れる”のにも適しているわけだ――飲水の心配はないからね」
「で、問題はゾロゾロとこっちに来てる生徒達をどうするかって話だが」
「そんなに数がいるのかい?」
「ドローンで見た限りじゃ二十人前後かね」
「偽物なんだろう? 処理してしまえばいい」
 あっさりとみさきは言うが、ヴィクティムは小さく首を横に振った。

「奴さんに俺達の存在を知られちまう、武力行使は極力無しだ」
「なら、どうする? 隠れている生徒も探し出さないと」
「手札の数なら無限さ、どれを切るかで悩んでるだけだ」
「それは頼もしい…………おや?」
 エレベーターが到着する、その直前。
 ひらり、と一羽の蝶が、みさき達の前に姿を表した。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「ふう…………っ」
 とりあえず、救出が無事に済んだのを確認して。
 フェルトは、ようやく、安堵の息をこぼした。

「済まなかったね、働いてもらって」
 仕事を終えた妖精に、温かい紅茶の入った、小サイズのペットポトルを差し出しながら、マグダレナは微笑んだ。

「いいえ、間に合ってよかったわ。蝶達が聞いたメッセージは、何事かと思ったのだけど」
 校内の無線LANは、蝶にとって、ノイズではなく情報として認識されたらしい。
 生徒が助けを求める書き込みをした直後、偽物達がその居場所を尋ねるレスが大量に発信されたことで、その物量に飲まれて少し混乱したものの。
 直後、マグダレナに事情を説明されれば、波に乗るのはそれほど難しいことではなかった。

 地下のプールに蝶を飛ばし、仲間と生徒に迷彩を施せば、現れた二十名以上の“生徒達”の真横を堂々と、猟兵と、保護された生徒が通っていく。
 まもなく、彼はUDCのエージェントに引き渡されるだろう。
 たった一人、されど一人だ。助けを求める声を聞き届けられて、本当に良かった。

「さて、後何人、無事な子がいるやら」
「全員、助けるわ。そのために来たんですもの」
「……そうだね、じゃあ、出来ることをやっていこうか。他に気になったメッセージの痕跡なのだけど――――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
○・1

ある日、身近なヒトが別のモノに変わっていた、なんて。
…物語なんかではそこそこ見るけれど。実際に起こったと考えたらさすがに寒気するわねぇ…

あたしは無事な生徒の保護に回ろうかしらねぇ。
さすがに学生ってトシじゃないし、新任の先生として潜り込むのが無難かしらぁ?

気づいたと気づかれないように平静を装っているんでしょうけど。
視線の流れに体の硬直、後は極度の緊張が原因の刺激に対する過剰な反応…「そういうふう」に見れば、結構わかったりするものなのよねぇ。
後はあたしたちが「向こう側」だと思われないか、ねぇ。
●絞殺で上手く○言いくるめて○情報収集したいところではあるけれど…そこらへんは流れ次第かしらぁ?


夕凪・悠那

1)

……第二の信星館か
気に入らない、潰しちゃおう
企みを妨害して助けられる人は助けて黒幕を倒す
いつも通りだ

転校生として潜入
【守護猫の手】で召喚した翼猫達を不可視化(「迷彩」)
ボクが編入するクラスメート全員に1匹ずつつけて「情報収集」
表情とか態度をよく観察させる
成り代わりに気付いた人は不安で堪らないだろうから、その反応を見逃さないように
よろしく

情報が集まるまでクラスの様子でも観察してよう
こうして見てると普通の学校なんだけどね
当たりは誰かなぁ([第六感])

情報が確定したら接触、救出
キミの友達は無事だよ
何か気付いたことあれば教えてもらえるかな

アドリブ多め歓迎



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 16 】
    ▽ 秋縁学園 3F 教室 ▽
           《 夕凪・悠那 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「……第二の信星館か」
 とある戦いで戦場となった、その学園を思い出す。
 学校、というところは、よくよく生贄という奴に縁があるらしい。
 なまじ、今回はもう面倒なほどに事態が進行しているらしいというから厄介だ。

 気に入らない、潰しちゃおう。
 つまり、夕凪・悠那(電脳魔・f08384)にとってはいつもどおりの結論だった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 肩に猫を乗せた少年少女たちが、授業を受けている光景は、悠那の目からみても、なかなかシュールな光景だった。
 もっとも、当事者である彼らはそれに気づかない。
 猫達には悪魔の翼が生えており、それは現実の存在ではないが故に、悠那の手で不可視化の処理を施されている。

『にぃ』『ぎゃう』『ゴロロ……』
 それにしても。
 翼猫達が、ここまで露骨に、嫌そうな態度を示すのは珍しいことだった。
 自分に似て、マイペースで気まぐれで、他人に積極的に興味を示さない子たちだと思っていたが、不快という点に関してはどうにも素直らしい。
 まあ、観察を命じられた相手が、人間のふりをした人外であることを加味すれば、それも無理はないか。

『にゃあ』『ぎゅぅ……』『ニ"ィー……』
 クラスのほとんどが、その実、人間じゃない。
 悠那は敵の只中にいるが、それだって覚悟して、わかった上で、自分で乗り込んできたのだ。
 突如、そんな環境下に置かれる“普通の人間”の気持ちは、どんなものだろう。

 平静を偽って。
 通常を装って。
 仲間のふりをして。

 普通を取り繕い続け、そしてやがて綻びて、同じ偽物に置き換えられる。

「見つけた」
 だから、悠那にとって、その生徒が“本物”だと確信するのは、割と簡単なことだった。


///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 17 】
    ▽ 秋縁学園 2F 廊下 ▽
           《 ティオレンシア・シーディア 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「フユちゃん、一緒に来てよ」
「今日はいいでしょ?」
「最近変だよ?」
 一緒にご飯を食べに行こうよ、と誘われても。
 うん、と言えなかった。言えるわけがなかった。
 最初はアキちゃんだった。今まで食べられなかった、辛いモノを、急に食べ始めた。
 次に、ハルちゃんが変わった。羨ましいぐらい、可愛い笑顔だったのに、全然笑わなくなった。
 ナツちゃんは、あれだけ好きだった猫に、突然近寄らなくなった。
 だけど、皆、今までと、私は何も変わりません、っていう顔をする。

 友達の変化に気づいた後は、クラスメートの変化にも気づいてしまった。
 皆、ちょっとずつ、でも、絶対に普通じゃなくて。

 それが“変わった”からじゃなくて、“違う”からだと悟った時。
 怖くて仕方なかった。
 バレちゃいけないと思った。
 私が皆と“違う”ものだと、絶対に悟られちゃいけないと思った。

「ねえ」「それとも」「理由があるの?」
 でも、もう限界だ。
 三人は、私を囲んで、顔を見ようとする。
 目を見られたら、きっと泣いてしまう、そうしたら、バレてしまう。
 叫ぶことも、求めることも出来ない。
 おかしいところがあっちゃいけない。

「行こうよ」「ね?」「いいよね」
 手を掴まれた。
 ゾッとするほど冷たかった。
 振り払いたくて仕方なかった。
 誰か。
 誰か助けて。
 誰か助けて!

「あー、居た居た、そこのあなた、ちょっといいかしらぁ?」
 引っ張られる私の肩を、誰か掴んだ。
 見たことのない先生だった。最近、赴任したばかりの先生だったっけ?
 糸目で、背が高くて、なんだかちょっと怖くて。
 もしかしたら、この人も、“皆”の仲間何じゃないかと思って、近寄らないようにしていた人だ。

「少し聞きたいことがあるのよぉ、お友達と一緒の所、悪いけど、少しだけ時間を作ってもらえるかしらぁ?」
 だけど、その手は私を掴んで、この偽物達から私を遠ざけようとしてくれている。
 理由は何でもいい、それに乗ってしまいたい。

「先生」「フユちゃんは私達とご飯を食べに行くんですけど」「どいてください」
「ごめんなさいねぇ、どうしてもこの子じゃないと駄目なのよぉ、すぐに終わるから、ね?」
 先生と、生徒達の視線がぶつかって、場が硬直する。
 なんだろう、この空気。まるで、まるで、まるで――――――。

 その時、ビリ、と何かが裂ける音が、すぐ側でした。

「――――きゃあ!?」
 それは、私のスカートが、大きく破けた音だった。
 なにかしたわけじゃないのに、なんで!?
 声に、周りの生徒達が気づいて、男子の視線が、体に向けられるのを感じた。

「あらぁ、大変じゃない! 着替えないとねぇ?」
 答えは、すぐにわかった。
 先生が、唇に人差し指をそっと当てて、私を見て、微笑んだ。
 じわりと、涙が浮かんでくるのを止めることが出来なかった。
 恥ずかしいせいだ、って思ってくれたらいいな、と思った。

 三人が、立ち去ろうとする私達を、じぃっと、見つめていた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「手荒な真似をしてごめんなさいねぇ?」
 フユ、と呼ばれていた女子生徒は、いっそ面白いぐらいに、カタカタと震えていた。
 実際、怖かったのだろう。今までいっぱいいっぱいだった精神が、限界を迎える直前だったに違いない。
 味方だと思ってくれたのは、不幸中の幸いだ。これからの話運びがスムーズになる。

「ごめんね、恥ずかしいことしちゃって」
 ヘッドホンを付けた、けだるげな女子生徒――猟兵だ――が、更衣室で待ち構えて、ジャージを用意して待っていたところを見ると、
 彼女もまた、同じくフユに目をつけて、タイミングを見計らっていたのだろう。

「あなた、どうやってスカートを破いたのぉ?」
 質問に答えたのは、少女ではなく鳴き声だった。
 いつの間にか、フユの肩に猫が乗っていて、なぁご、と鋭い爪をひけらかした。

「あ、あなた達は、何…………何なの? 皆は……?」
 疑問も、疑念ももっともなので、ティオレンシアは、極力怖がらせないように、糸目をさらに細めて、笑顔を作った。

「あなた達を助けに来た、んー……そうねぇ、正義の味方かしらぁ?」
「ボクは、そういうんじゃないけど、気に入らないから潰すだけ」
 空気を軽くしようと思って茶目っ気を出してみたのに、どうにも冗談が通じないタイプのようだった。

「安心して、キミの友達はまだ生きてる。ちゃんと助けるから、今はボク達の言うことを聞いて、安全な所に案内するから」
「猫がぁ?」
「猫が」
 フユの顔をちらりと見てみると、まだ現実について来れていない、といった様子だった。
 無理もないか、と苦笑して、頭に軽く手を添える。
 まったく柄ではないけれど、これは大人の役割だろう。
 それで物事が円滑に進むなら、やってやるべきだ。

「一人でよく頑張ったわねぇ、あとは、あたし達にまかせて頂戴」
 じわり、と。
 目の端に滲んだ涙が溢れるまで、そう時間はかからず。
 泣き声になるのは、すぐだった。

『にゃぁご……』
 こいつの子守をしながら、俺がUDCエージェントのところにこいつを連れて行くのかよ、といいたげに。
 悪魔の羽をはやした猫が、ヘッドホンの少女を見たが、素知らぬ顔でそっぽを向いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
1)無事な生徒を救出する

……この学園も、信星館学園のように邪神に利用されているということか
五百名もの人間の犠牲を出す訳にはいかぬ
我らの力で生徒達を救出し、邪神の企みを潰してやろうぞ

転校生として潜入

我は真実を映す神鏡なり
ユーベルコード『真実を映す神鏡』の力にて
我が本体に生徒を映し、偽物かどうか判断(情報収集20)
(本来は変化の力を封じるものだが
目立たないように判別のみに使う)

生徒の救助は『鏡渡り』にて
鏡の中の世界に一時的に避難して貰うのがよいか
そして安全な場所まで来たら鏡から出て貰おう
(救助活動20)

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ連携歓迎
●本体の神鏡へのダメージ描写NG



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART EXTRA 】
    ▽ ??? ▽
           《 天御鏡・百々 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「そなた、人間だな?」
 唐突にそう語りかけられて、その男子生徒はビクリと震え上がった。
 振り返り、目線を下げてみれば、そこに居たのは、年の頃、十歳にも満たないであろう童女だったのだから、驚きだ。
 しかし、身に纏う空気は、明らかに子供のそれではない、大人、いや、もっともっと大きな“なにか”であることが、肌で感じられた。

「我は天御鏡・百々、そなた達を助けに来たモノだ。……よく耐えた。後は我らに任せよ」
 童女が、鏡を取り出した。それは、とてつもなく神聖で、尊いものに見えた。

「しばし目を閉じているが良い。すぐに、安全な所へ送ろう」
 逆らう理由などありはしなかった。今すぐ、この場所から逃げ出したい、という気持ちに逆らうのは、無理だった。
 恐る恐る鏡面にふれると、体がふっと吸い込まれる感覚がある。
 次の瞬間、彼が居たのは――――――。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『うわああああああああああああああああああああああああああああ!?』
「!」
 ――――天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、神鏡のヤドリガミだ。
 故に、その本体には人智を超えた力が宿っている。
 自らに映し出したものの正体を暴きたてることも、判別することも容易だった。
 鏡の中に世界を創造し、そこに人を招き入れる能力もまた、備えている。
 UDCエージェントに引き渡すまで、どこよりも安全な場所のはず――――だった。
 だが。

『あなた、わたしと同じなのね』
 ――――“それ”は、百々が手にする己の本体たる、神鏡の内部に現れた。
 赤い瞳に、漆黒の髪の毛をした少女。
 その背後に映し出されているのは、似て非なる世界。
 壁に、天井に、床に、赤黒い触手が這い回り、窓の向こうには、赤黒い空が映し出されている。

『鏡、鏡、鏡鏡――――ふふ、鏡そのものが、現れるなんて』
『だけどさんねん、この学園の鏡は、ぜぇんぶ“わたし”だから』
『あなたが助けた子、もらっちゃった』
『うふふ、うふふ、うふふふふふふ』
 ニタニタと笑いながら。
 その少女もまた、鏡を持っていた。
 丸く、歪な縁のその中に。
 助け出したはずの男子生徒が捕らわれ、叫んでいた。

『あなたは、きらい。あなたは、危険だわ。あなたは、ここで、わたしが…………』
 その言葉を、最後までいい切ることは出来なかった。
 神鏡を持つ、小さな手が震える。その感情の名前を、怒りという。

「――――“貴様”の存在は、我に対する最大の侮辱だ」
 それ以上、言葉はいらなかった。
 神鏡たる百々の、その世界に、土足で踏み入った邪神に。
 容赦も、情けも必要ない。

「我が、必ず討ち滅ぼす。我は真実を映す神鏡なり! 偽りの鏡面よ、正しき世界を映し出せ!」
『!』
 異界を映し出す神鏡の鏡面が、白い光に塗りつぶされていく。

『あ――――』
 ずるり、と。
 まるで、正しき場所に帰るかの様に。
 少女が手にしていた鏡の中から、男子生徒が引きずり出され。
 神鏡の内部へと、再び戻る。
 邪神が支配しているはずの、鏡の世界に。

 天御鏡・百々は、堂々と干渉し、その領域を支配する。

『――――――よくも、わたしのものを、とったわね』
「それはこちらの言葉だ、邪神よ。神鏡たる我が宣言しよう」

『――――――絶対に許さないわ』
「我が――――その魔鏡を破壊する」
 二つの鏡が、お互いの姿を映し出す合わせ鏡となる。
 無限に続く異界が生まれ、重なり合う。

 ――――神鏡と魔鏡の戦いが、人知れず始まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リゥ・ズゥ

アマニア(f00589)と組んで、動く

新任教師として、生徒と接触し、本物とを、探し出そう。
生徒との接触が、しやすい、のは……生活指導、というのが良さそう、だ。よくわからない、が

無事な者は、多少なり、違和感、恐怖感を、感じているかも、知れない
野生の勘や、視力、見切りで、餌を喰う側、喰われる側の、生物としての精神的差異を、見極める
上手く接すれば、向こうから、助けを求めてくる可能性も、ある

よろしく、頼む、アマニア
リゥ・ズゥは、考えるのは得意では、ない
その分、感じ取り、見逃しは、しない

邪神の手先が、此方に接触してくるなら好都合、だが
儀式を早められるのは、不味い、な
了解、だ。慎重に、調査する


リインルイン・ミュール
◯2 必要時はUC使用

生徒が衰弱してないと良いんですが、はてさて……

連絡手段は用意して校内探索!
転校生として、まず適当な相手に案内を頼んでみまショウ
表向き普通でも、邪神の手先なら怪しい所に近寄らせないか、寄らせはしても探るのは許さないか
下手に食い下がらず、あくまでさり気無く振る舞いつつ第六感も使い調査
仮に隠し通路があるなら音の響きが違ったりするかもなので、聞き耳も立てマス

もし何か見つけられれば慎重に調査
潜入にせよ隠れるにせよ、狭い所は身体の変形で入れますカラ、固形の装備は付けず
念動力やエナジーの力場を感知網とし、ヒトやそれ以外の気配に注意し探索
生徒を見つけて運び出せるまでいければ御の字ですがネ


月山・カムイ

POW

気になるので飛び降りについて調べてみる
特に常態化しているのが気になるというか、異常ですよね
学校というのは任務以外で通った事ないのですが、そんな話題を笑ってできるというのもおかしくありませんか?

飛び降りが起きた場所、どんな人物が飛び降りたのか辺りを調べる
特に現場百回といいますので、それが起きた全ての場所について調べる
昼間に調べたら目立つでしょうが、転校生が好奇心で調べている、という体でいけばいいでしょう
気になる部分があれば、夜に再度調べに来る手もありますし

とにかく、今回の事件とこの飛び降りの話について何か関連があると考えて捜査
うまくすれば囚えられた人達の手がかりになるやもしれませんし


アマニア・イェーガー

アドリブ◯

「新任教師」としてリゥ・ズゥくん(f00303)と潜入するよ

"偽物"というのが気に入らないけど、まず救出が先決だねー
趣味の一環で古典とか歴史は詳しいからま、そのへんの教師ってことで

UDCアースなら電子機器もあるだろうし、こっそり【情報収集】【ハッキング】で監視カメラやセキュリティに干渉して隠されたデータ類から生徒の監禁場所を割り出してみるよ

立場を利用して校内を散策しながら二人で調査
理論的な方はわたし、感覚的な方はりゅーくん……リゥ?リゥくん任せた!
両面から探ればお互いフォロー出来てばっちりだね!

あっ、生徒との揉め事には気を付けてね!学園長(邪神の手先)にバレるとまずいから!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 18 】
    ▽ 秋縁学園 2F 中等部校舎 ▽
         《 アマニア・イェーガー/リゥ・ズゥ 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「新任教師のアマニア・イェーガーだよー、よろしくねー!」
「…………………………」
「あ、こっちの無口な人は、生活指導のリゥ・ズゥ先生ね! 困ったことがあったらなんでも相談して! …………ほらほら、自己紹介! 笑顔で笑顔で!」
「…………リゥ・ズゥだ」
 アマニア・イェーガー(謎の美女ヴィンテージコレクター・f00589)とリゥ・ズゥ(惣昏色・f00303)が並んで教壇に立つ姿は、傍から見れば奇っ怪極まりない。
 なにせ異形の長駆と、美人のおねーさんだ。
 それでも、違和感を抱かれないのが“猟兵”という存在である。

「うわー、先生きれーい!」
「リゥ先生、背ぇたっけえなぁな!」
「彼氏いんのー?」
「こら、男子! 失礼なこと言わないの!」
 よって、生徒達の反応も、それを踏まえた上で、当然のものだ。
 一見、どこにでもある普通の、ありふれた、ありふれ過ぎた教室だった。
 けれど。

(………………)
 リゥ・ズゥの異形の目には、それら全てが歪な人形劇に見えた。
 彼は人というモノを、今まで幾度となく見てきた。
 会話し、対話し、理解を深め、知ってきた。
 だからこそ。

(…………“人”が、居ない)
 笑いながら頭を掻いて。
 叱りながら声を荒げて。
 それらの動作に、一切“感情”という中身が入っていない。
 上を見たら、細い糸が吊り下がる、何者かの手でもあるかのように。
 そんな中で。

「………………」
 一人、教壇に立つ新任教師達から目をそらしている男子生徒だけからは、唯一“中身”を感じることができた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

(さーて、本物の生徒くんはどーれっかなーっと)
 自己紹介をしながら、アマニアは生徒達の顔を見回す。
 違和感はすぐに分かった。和気あいあいとする生徒達の中、一人、明らかにこちらと目をあわせない子が居る。
 リゥ・ズゥをちらりと横目で見てみれば、彼もまた、アマニアが目をつけた生徒を凝視していた。

(これは“あたり”かなー、となると……)
 対象を確認できたなら、生徒の保護は、リゥ・ズゥに任せて、出来ることをすべきだろう。
 休み時間に入ってから、アマニアは自分に割り振られた職員室の机に戻り、PCを立ち上げた。
 UDCの、ごく一般的な、何の変哲もないデスクトップ。

(それじゃあ、ちょっと失礼して……)
 視界の端に一瞬だけ目をやる。半透明のディスプレイが、ほんの僅かの間出現し、チカチカと明滅して消えた。
 そこに“World is MINE”の文字が浮かんだことで、お手製のプログラムが、問題なくPC内部に侵入したことを確認する。

(さてさてー、監視カメラの映像は……っと)
 キーボードを軽く叩いて、本来接続できないはずの、学内ネットの監視カメラの映像に、当然のように割り込む。
 学園内に配置されている監視カメラは、各教室やトイレの出入り口、体育館やプールと言った施設等。
 おおよそ、ほとんどの領域をまかなう様に配置されていた。言い換えるなら、生徒達の活動はほぼ監視されている。
 誰に、まではわからないが。
 何故か、ぐらいはわかる。

(そうだよねぇー、偽物と“交換”するなら、生徒が一人の時のほうがやりやすいもんね)
 監視カメラの映像を流し見しながら、ふと目を引いたのは一つの映像だ。
 女子生徒がトイレに入って――それから同じ生徒がでてくるまで、二時間。

(うん?)
 体調にも寄るだろうが、いくらなんだって長過ぎる。
 アマニアの、三角形の瞳孔が鈍く光った。

 ――――監視カメラに映るシーンの、“過去”を覗き見る。

(――――ははーん?)
 結論から言うと、似たような映像がいくつも見つかった。
 問題の女子トイレだけではない、各階にいくつか設置されているトイレに入って、数時間後に出てくる生徒の多いこと多いこと。
 つまりは――――――。

(トイレの中に、生徒を拉致る何かしらがあるんだ……そりゃそうだよね。だって絶対に利用する場所だもん)
 加えて、個室も多く、また一人になることも多い場所。
 恐らく、ここで“偽物”と入れ替わっている。

(けど、流石にトイレの中にまではカメラはないか。んー、仕方ない、これ以上は実地捜査かな)
 とあらば、早速行動だ。
 敵に遭遇する危険性もある、頼もしい護衛を連れて行かねば。

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「少し、いいか」
 昼休みに入って、人の目を気にしながら、そそくさとどこかへ行こうとしていた男子生徒の目の前に。
 リゥ・ズゥという巨躯が立っていた。違和感を抱かれない猟兵の特徴があると言えど、客観的に見てどう考えても強面の部類である彼を見て、男子生徒は顔をひきつらせた。

「話が、したい。大丈夫だ、怖がる、必要は、ない」
「え、ええええ…………い、いや、俺、ちょっと……」
 じりじりと後ずさる男子生徒、リゥ・ズゥはその瞳の中に、確かな怯えを見た。
 偽物じゃない。
 本物の人間だ。
 化け物は、化け物に怯えない。

「…………っ、し、失礼します!」
 叫んで走り出した男子生徒に置き去りにされて、リゥ・ズゥはその背中を見つめながらポツリと呟いた。

「……怖がらせた、か?」
 自らの異形が恐ろしいモノに見えたのだろうか。
 恐れられる事、それ自体は珍しいことではないにせよ……いや。

「多分精神が限界だったんだよ」
 ぺすん、とリゥの後頭部(?)を、やわい感触が叩いた。
 振り向くと、出席簿片手に、困ったような顔をしたアマニアが居た。

「周りの生徒は様子がおかしくて、ひとり取り残されて、そこに現れた怪しげな新人教師が接触してきて、いっぱいいっぱいになっちゃったんでしょ」
「そう、か。では――――」
「あの子は“まとも”な生徒だよ、間違いない。お手柄だね、リゥくん」
「…………追いかける」
「だね、揉め事はまずいもん、見つかる前に保護してあげよう」

///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 19 】
    ▽ 秋縁学園 3F 階段 ▽
           《 リインルイン・ミュール 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(生徒が衰弱していないと良いんですが)
 リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)の外見を一言で表すと、異形である。
 金属の装飾品に身を包んだ、四足歩行のケモノ、というのがもっともわかりやすいか。
 それでも、違和感なく“転校生”として溶け込めるのが猟兵の猟兵たる所以である。

「案内をお願いして申し訳有りまセン」
 リインルインが頭を下げると、“学校に不慣れな転校生”を案内を買って出た女子生徒は、嫌そうな顔ひとつせずに。

「ううん、いいよいいよ、こういうのも楽しいし」
 と笑って返して来る。
 ごく普通の、どこにでも居る女子にしか見えない。

「こっちが音楽室で、あっちが技術室。それで…………」
 リインルインの狙いは、端的に言えば“怪しいところを探すこと”だった。
 生徒の偽物が邪神の手先であるならば、生徒を監禁しているような場所には近づけないだろう。
 即ち、転校生を近づけなかった場所が、怪しい場所だ。

(…………とはイエ)
 リインルインの首がかしげられると、獣頭の仮面もカラン、と音を立てる。
 変わった音はしない。さり気なく、壁や床を叩いて、空洞がないかを確認してはみたものの。
 隠し通路や隠し部屋がある気配もない、平和な、どこにでもある学園そのものだった。

「何か気になった所はある?」
「あぁ、そうですネ。……普段は使われていない教室などはないでしょウカ」
「そんなの聞いてどうするの? 秘密基地でも作るの?」
「実は……そうなのデス!」
「あっはっは! リインルインちゃん、面白いねえ。でも、そういう教室ってほとんどないよ、大体どこかの部室になっちゃうし」
「フム……」
「一応用具室とかは、あんまり人が入らないけどね。物置になっちゃってる感じ」
「ナルホド」
「あ、あっちに行くと図書室ね、こっちの階段から降りると購買が近道で――――」
 指差しながら歩く二人(?)が、下り階段に差し掛かろうとした時だった。

「――――――っ、退けぇ!!」
 一人の男子生徒が、凄まじい勢いで階段を駆け上がってきたのだ。
 途中に居たリインルインも、女子生徒もお構いなしに、体当りするようにぶつかって、そのまま上へ上へと登ってく。

「きゃっ!」
「大丈夫ですカ?」
 突き飛ばされた女子生徒が、体を打ち据える前に。
 そっと体をクッションにして、受け止めてやる。

「だ、大丈夫、ありがとう……」
「どうしたのでショウ? 気になりまスガ……」
 学園の現況を鑑みると。
 今の男子生徒が、“普通の生徒”である可能性は、かなり高いのではないか?

「ううん、気にしなくても大丈夫だよ」
 にこ、と。
 今まで、優しく案内をしてくれていた女子生徒の顔が、造り物めいた笑顔になった。

「ああいう子は、そのうち居なくなるから」
 当然のことのように言い放ち、何事もなかったかのように、歩き出す。

「――――――」
 正直な所。
 学校、という領域に踏み込むこと。
 学生、という立場を演じること。
 まずもって、人ではないリインルイン・ミュールは、過去の記憶すら存在しない。。
 だから、“日常”というものを体験できた事は……ほんの少しだけ、楽しかったのだ。
 だけどそれは、一時の幻で、この立場こそ偽物で。
 戦うべき相手がいることを、改めて自覚する。

「…………階段を上がって行きましたケド、屋上にもいけるんでスカ?」
「うん、うちの学校、そういうの自由だから。――――なんで?」

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///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 20 】
    ▽ 秋縁学園 校舎屋上 ▽
           《 月山・カムイ 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 扉を開けると、冷気を含んだ風が体を強く打ち据えて、一瞬で“外”に出たことを思い知らされる。
 月山・カムイ(絶影・f01363)は、頻繁に発生しているという、飛び降り自殺の現場に赴いていた。
 生徒が自殺したにもかかわらず、屋上の出入り口に鍵がかかっている、ということもない。
 広々としたそこは、全体を柵で囲われているが、乗り越えようと思えば乗り越えられる高さだ。
 いくつかのベンチや自動販売機が設置してある辺り、休み時間等には普通に利用出来るのだろう。

「飛び降りた場所は……ここですか」
 下を眺めれば、調べなくてもすぐに分かる。なにせ落下地点には未だに赤い染みがべっとりとこびりついているのだ。
 適当に水で流しただけで、真面目に痕跡を消そうとすらしていない。
 そして、その異常事態を誰も気にしていない、いや――――。

(気にする生徒は、もはやこの学園に、ほとんどいない――――)
 そこで、疑問に立ち返る。
 グリモア猟兵の話によれば、今学園に囚われている人間は、“儀式”の為の生贄だ。
 そのために、今はまだ生かされている――ならば。
  、、、、、、、、、、、、、、
 飛び降り自殺が頻繁に発生するのはおかしい。
 もし邪魔になった生徒がいるなら、他の生徒と同じように“入れ替えて”しまえばよいのだ。
 わざわざ殺せば、まだわずかに居るであろう、他の無事な生徒は警戒心を強めるだろう、邪神側に、得はない。
 彼らが何かしらの要因で殺された、というのであれば。
 何かに気づいてしまったか、あるいは。

(儀式の“邪魔”だったから、か)
 そこまで思考を進めた時、ガチャリと校舎に続く扉が開かれた。

「は、はぁ、はぁ、はぁ――――――」
 どこにでもいそうな、男子生徒だった。ごく普通で、ありきたり。
 息を切らせて、焦った様子で、動揺を隠しきれていない。

「…………君」
「もう沢山だ!」
 男子生徒は、堰を切ったように叫んだ。

「勘弁してくれよ! 何なんだよ! 次から次へと人が来て! わかんねえよ! いい加減にしろよ!」
 カムイに対して――というよりは。
 自分を囲む、全てのものに対しての怒りなのだろう。

「落ち着いてください、俺は君に危害を加えようとは思ってない」
「信じられるかそんなもん! クソっ! どいつもこいつも! 皆!」
 どこかに逃げだしたいが、そもそも逃げて逃げて、ここまで来たのだ。
 彼に逃げる場所など、もう残っていない。
 あるとすれば、それは――――。

「―――――っ、馬鹿な事を」
 柵を乗り越えて、向こう側へ行こうとする男子生徒。
 明らかに、錯乱している。自分が何をしているかもわからないほどに。

「はぁ――――はぁ――――はぁ――――はぁ――――!」
 誰も信用していない、誰も信用出来ない。
 今すぐ、衝動に身を任せそうな子供に、なんと言葉をかけてやればいいか。
 直ぐに答えはでなかった。

 月山・カムイは――――他人に期待しない。

 それは、結局の所、人間とは、自分のことは自分でやるべきだという、意識の根底があるからだ。

「あ――――――」
 おそらく、意図して飛び降りたわけではなく。
 力が抜けたか、限界が来たのだろう。
 ふらり、と傾くようにして、男子生徒の体が、柵の外に投げ出された。

「――――!」
 とっさに駆け出す。こうなったら力づくで、強引に助けるしか無い。
 風より疾く飛び出して、空中で捕まえて、着地する。それ以外に手はない。
 そう判断し、動き出したその瞬間。

「うわあああああああああああああ!?!?!?」
 ぼいん、と軽快な音を立てて。

 男子生徒が、“飛び上がって”、戻ってきた。

「な――――――!?」
「うべっ!?」
 落下地点は、都合よく、あるいは都合悪く、カムイの真上。
 ガツン、と音がして、二人の頭がぶつかった。







「――――どういう状況?」
 駆けつけた、二人の新人教師が見たものは。
 床に倒れ、頭を押さえるカムイと、気を失った、生徒の姿だった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「……ここで飛び降りたのは、君の友達?」
 アマニアの、三角形の瞳孔が、鈍く光った。
 何を見ているのか――――過去だ。この場で、実際に起った出来事。

「…………あ、あいつ、俺に助けを求めてたんだ、でも、でも……」
 堰を切ったように、男子生徒は膝をついて、ボロボロと涙をこぼし、嗚咽の声を上げた。

「なにも、何もしてやれなかった、俺も、他のやつに気づかれるのが、怖くて……だから、だから……」
「リゥ・ズゥが、敵を討つ」
 その恐ろしい様相と、底冷えするような声とは裏腹に。
 肩を叩くその手は、優しく、力強かった。

「もう、死なせない。その、為に、リゥ・ズゥ達は来た」
「……う、ううう…………」
 後はもう言葉にならない。そうだよねぇ、とアマニアは呟いた。

「普通の生徒同士でも、疑心暗鬼になっちゃうんだ。それで、余計孤立しちゃう」
「それを狙ってやっているとしたら、醜悪ですね」
 カムイの口の端が、歪む。

「――――殺された子達は、多分“偽物”にされる条件を理解してたんだと思う」
「……条件?」
「うん、あのね? 私の見た限りだと、偽物にされた子たちは皆――――――」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「無事でよかったデスネ」
 リインルインがユーベルコードで作り出したのは、いわゆる“トランポリン”というやつだ。
 サイキックエナジー……この世の理では収まりきらない理屈によって形成されたそれは、重力や反動を無視して、外傷なく生徒を上に送り返した。

「…………なんで助けちゃったの?」
 背後から、声がかけられる。
 案内をしてくれた、女子生徒だった、その顔には、もうどんな表情もなかった。

「だって、彼は死にたいわけではなかったデスカラネ」
 相手が隠さないなら、こちらも隠す必要はない。
 リインルインは、振り向いて、その仮面越しに、“敵”を見据えた。

「せっかくお友達になれると思ったのに」
「ワタシもデス」
「今からでも遅くないよ?」
「もう無理だと思いマス、残念デスガ」
「ううん」
 一歩、女子生徒が、リインルインに近づいた。

「あなたじゃないあなたと、これからお友達になることにするわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧生・柊冬
○2
【221B】

行動指針:姉の行動を第一
価値基準:依頼人が安心できるか否か

秋緑学園に関する噂は僕達のチャンネル内でも見受ける
学園を使った大規模な邪神の儀式…まるで一年前のあの事件のようですね
更に大きな事件になる前に、止めなきゃ

僕と姉さんは転校生として学園に潜入し、移動教室の際に本格的に行動を開始
姉さんが他の生徒達の所持品を持ってくる間、行動が怪しまれないように他の生徒達とは上手く行動を合わせていこう
頃合いを見て迎えに行くと言って離脱、空き教室で姉さんと合流しよう

合流したら持ってきた所持品をもとに【探偵助手の尾行術】を使って、本物の生徒達の居場所を探します
場所を見つけたら救出班に連絡です


桔川・庸介
2
生徒のほとんどが偽物、てことは周り敵ばっかって事?怖っ!
俺元々学生だし、潜入すんのだけなら楽そうだけど
本物の人と偽物を見分けんのってだいぶ難しそうだなー。

その代わり、この世界の学校ていう建物への知識なら
少なくとも別世界の人達よりはある……と思いたい。です。
だから、人を隠しとけそーなとこを思いつき次第探しに行ってみる。
例えばえーと、体育館の……舞台下のスペースとか?

◆◆◆

(ヒトを偽物と置き換えて、バレないように。)
(ははは)
(おんなじ発想の邪神。まあ居るよな)
("偽物の俺"が張り切ってるから"俺"は見てるけど)
(……余裕あれば「どうやって偽とバレるか」でも観察してよーかな)
(今後のために)


霧生・真白
○2
【221B】
行動方針:謎を解き明かすこと第一
価値基準:面白いか否か

これは…なるほど
あの事件の続きというわけか
面白い
今度こそチェックメイトといこうか

柊冬と転校生として潜入
普段は引きこもりだが
学校に関する知識も学生らしい演技もばっちりさ

生徒の所持品から本体を辿ってみようか
さすがにそこまで偽物は用意していないだろう
柊冬のUCで持ち主の居場所を特定してもらおう
所持品の確保は僕がやろうか
移動教室のときに忘れ物をしたふりを
誰もいない教室からなるべく沢山持ち出して
空き教室で柊冬と落ち合い検分しようか
この方法なら自動的に無事な生徒もわかるだろう
それは救出班に逐一知らせるとしよう

さて、どれだけ炙り出せるかな


ヌル・リリファ
○、2

わたしのみためなら、転校生としてもぐりこむのが、一番自然かな。

まだいきてるなら、体温とかはあるだろうから。右眼(【視力】)でみることでさがせるとおもうそ、人気のないところを適当にさがしていく。(【第六感】)

みつけられたら、なにかされてるかもしれないしUCをつかっておく。
怪我があればなおるし、のろいみたいなのがあってももやしてけせるからね。

健康に問題がなくなったのなら、しってることをおしえてもらえるようたのむつもり。

……自分がいないあいだ、みんなが偽物とはなしてるっていうのを想像するとちょっとぞっとする。
わたしはそういうの、いやだし。ふせぎたいっておもうよ。


富波・壱子

転入生になりすまして調査するよ
そういえば前にも似たような事件の調査をしたっけ
その時のことを思い出しながらチョーカーに触れるよ
この後の私が何をするか、わたしにも分かってる。それでも、今危ない人達を助ける為に
わたし達で、とても酷いことをしよう

人格を戦闘用に交代
任務了解。調査を開始します

学園を歩き回り生徒を見かける毎にUCを発動。生徒を刀で斬り裂いた場合の結果を予知し、その生徒が人間か否か判別します
予知の中で私がどれだけ暴れようと、現実では指一本動かさず被害も出ません。問題無し
もし斬り開いて中身を確認しても判別できないほど偽物が精巧でも、それはそれで一つの情報。他の猟兵が判断する材料となるでしょう



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【 PART 21 】
    ▽ 秋縁学園 2F 中等部校舎 ▽
           《 霧生・真白/霧生・柊冬 》
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「いやあ、一度にこんなに転校生が来るなんて驚いたなぁ!」
 生徒の一人が声を上げる。
 とは言え、何もおかしなことではない。
 なにせ、この時期に新規の生徒を大量に募集していたのは、他ならぬ秋縁学園側だったからだ。
 勿論、それは“新しい生贄を求めている”だけに過ぎない事は明らかなのだが。

 さておき、大量の猟兵が一度に入り込むにあたって、これ以上のチャンスはない。
 様々な教室では、今頃、それぞれが自己紹介をしている頃合いだ。
 この双子も、その一員にほかならない。

「“私”は霧生・真白っていいます、弟の柊冬共々、宜しくね」
 小さな体躯に、少女らしさを強調する長い髪の毛を揺らし、愛らしい笑顔でそう告げる霧生・真白(fragile・f04119)の姿は、年頃の男子たちにとっては野に咲く花に見えたに違いない。
 最も、双子の弟である霧生・柊冬(frail・f04111)は、その隣で頬を引きつらせながら苦笑を浮かべていた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「違和感を抱かれる事なく潜入する必要があるのは、君も承知の上だろう? 然るにあれは必要な演技だとは思わないかい?」
 勿論、その表情を見逃す探偵ではなく、自由時間を与えられてそうそう、お小言を言われているわけだが。

「別に、何も言ってないじゃないですか」
「目は口ほどに物を言うと、日頃から言っているだろう。特に君はわかりやすい」
「可愛かったですよ」
「それは何目線なんだい」
 くに、と小さな指で、同じ顔なのに、少し背の高い柊冬の頬をひっぱる真白の顔は、年相応の少女のそれである。

「僕だって学生らしい立ち振舞の一つぐらい出来るさ、あの年頃の男子というのは、ああいうのが好きなんだろう?」
「姉さんは、姉さんらしいほうが良いと思いますけど」
 指が離れた頬をなでながら、柊冬が誤魔化すように言うと。

「僕らしい、っていうのは具体的にどういう事だい?」
 不意に問われた質問に、柊冬は首を傾げた。

「……? ええと?」
「何をもって僕は僕なんだい? 顔かい? 仕草かい? 言動かい?」
「それは…………」
 答えを待たず、探偵の姉は言葉を重ねる。

「あの場の誰も、僕を知らない。第一印象が全てだ。あの場にいる大半はもう“偽物”なんだから――――」
 可憐で、愛らしい少女を演じることには大きな意味がある。
 小さく、弱いということは、警戒心を削ぎ落とすナイフなのだから。

「“僕”という人格をまず誤認してもらう、どうだい? 様になっていただろう?」
 可愛い笑顔すら計算の内、少女であることすら材料の内。
 つまり、探偵とは感情を理屈で分解する人間の事なのだ。
 ふふん、と口の端を釣り上げて、得意げに語る姉に対し。

「姉さんは」
 弟は、柔らかく笑って返した。

「姉さんだから、姉さんなんだと思いますよ」
「……全く理屈が通っていないぞ、君」
「そうですか?」
「そうだとも。ふん……じゃあ、そろそろ動くとしよう、狙い通り、音楽の時間だ」
 そこで、二人は目を合わせ。

「“作戦通り”に落ち合おう。任せたよ」
「わかりました、姉さんも気をつけて」
「君こそね、最近は気構えができてきたとは言え、ぼうっとしているのだから」
「……あはは、了解です」
 くるりと背を翻して、小走りで駆けてゆく姉の背をみやり。

「? あれ、真白ちゃんはどこ行ったんだ?」
 生徒の一人が、柊冬に問いかけてくる。

「ちょっと教室に忘れ物しちゃったみたいで」
 柊冬が予定通りに、用意していた嘘を告げると、ふうん、と特に疑問を抱いた様子はなく。

「おっちょこちょいなところもあるんだなぁ、そういうとこも可愛いよなあ」
 ああ、なるほど、印象付けというのは、こういう所で役立つのだなぁ。
 と、何故か他人事のように思ってしまった。


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【 PART 22 】
    ▽ 秋縁学園 2F 中等部校舎 ▽
        《 富波・壱子/ヌル・リリファ/桔川・庸介 》
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 そう言えば、前に似たような事件の調査をしたっけ、と。
 富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は、少し懐かしい気持ちになって振り返った。
 無論、状況は、そんな過去に浸っていいほど甘くはないし。
 これからやろうとしていることは、最善手故に、最悪だ。
 だけど。
 今、危ない目にあっている人たちがいる。
 非道で、卑劣で、非情な目的のために、命を脅かされている人がいる。

 ならば。

 ――――今ここで、たった一人が“最悪”の“災厄”になることぐらい。
 受け入れよう。

「わたし達で、とても酷いことをしよう」
 壱子は静かにそう呟いて、首元のチョーカーに、そっと触れた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

「えーっと、つまり、周り皆、敵ってこと?」
 桔川・庸介(「普通の人間」・f20172)なりに、事前に受けた説明をまとめると、そうなる。
 いや、もともと俺は学生だから、潜入するのは、多分楽だと思うけど。
 むしろ普通すぎて怪しまれる要素がないから最適な人選ですらあるのでは? とか。
 思いはするのだけど、しかし。

「……本物と偽物ってどうやって見分けんだよ」
 選別眼なんてあるはずもない。
 推理力だって勿論ない。
 襲われたりしたらひとたまりもない。
 狼の群れに紛れ込んだ、不運な子羊でしかない。

「…………でもやるっきゃないんだよなぁぁぁぁぁぁ……!」
 そうだ、腹はくくった。やれるだけのことをやってみてから、とりあえず考えよう。

 庸介は、普通の学生だ。
 だから普通の物事を考える。普通の範疇で、普通の範囲内で。
 例えば、入れ替えられてしまった本物たちはどこにいるんだろう? と考えた時。
 それなりのスペースが必要だろうな、と思い、それも目立たない場所なのではないか? と思い。

「はぁ―――はぁ――――」
 こうして、一人肉体労働に従事しているわけだ。
 体育館の舞台は、大抵の場合引き出しになっていて、パイプ椅子が詰め込まれている。
 更にその奥は空洞になっていて、空きスペースになっているのが普通だ。
 つまり…………この奥に因われた人がいるのではないか。
 という予測のもと、人が居ない体育館で、大量の椅子が入った台車をえっちらおっちら引きずり出しているわけだ。

「ぁー重てぇ……この中に居たらそれはそれで嫌だな……」
 ようやく一台を引き抜いてみたものの。
 いざ、覗き込む段階になると、若干勇気がいる。埃っぽいし暗いし、立ち上がれないし。
 周りが敵だらけだとわかっている学園内で、一人でこのスペースに入ってみるのもなんだか嫌だ。

「……と、とりあえず全部引き出してから考えるか」
 それで、ちょっと離れた場所から見てみればいいんじゃないかそうしよう――――――。

「だいじょうぶ? 手伝おうか?」
「おぉぉぉぉおおおおおおおおおおんっ!?」
 背後から、声をかけられた。
 それがあまりに近く、息がかかる程の距離だったので、思わず変な声が出た。

「誰々誰々何何何うおおお可愛い!?」
 ビビりながら振り向いて、目を見開く。
 そこに立っていたのは、なんというか現実離れした造形の、“人形”だった。
 長い銀糸のような髪の毛、青い宝石の瞳、きらびやかに飾り立てられた豪奢なドレス。
 猟兵という立場からすると、どんな存在が居てもおかしくないのだが。
 なまじ、人に近いかたちで、造形が美しすぎると、なんというか現実感がないと言うかいやだからそのなんだ。

「――――?」
 一方、声をかけた人形の方は、きょとんとして首を傾げ、それから。

「あなたは、ええと、人間?」
 と、疑問形で囁いた。

「ど、どこからどう見ても人間じゃない? 人間じゃないように見える……?」
 心臓の鼓動を整えつつ、庸介が声を上げると、んー、と人形の少女は少し考えて。

「ちょっとだけ、そうみえたかも。悪気はなかったんだけど、ごめんね?」
「あ…………そ、そう。いや、俺も猟兵……でさ。この中に誰かいるんじゃないかと思って――――」
「いないよ?」
「――――探してたんだけどってえぇぇぇ?」
「なかに、せいたいはんのうがないから。いないとおもう。さがしてみる?」
「………………イヤ、イイデス」
 とりあえず、ここまでの労働は全て徒労だったらしい。

「わたしは、ヌル。ヌル・リルファ」
 人形の少女は、庸介の顔をじぃと覗き込みながら、そういった。

「よろしくね」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 首をはねれば血が吹き出るのは、偽物も本物も変わらないらしい。
 ただ、偽物は流血を伴う殺し方をすると、血液がうごめいて“アレ”が出てくる。

 グィィ、グィィと泣いて喚く、あの学園で出てきた“アレ”だ。

 これによって、偽物共の血肉は、即ち邪神の創造物であることがわかった。
 そして、一人殺せば、偽物達は途端に形相を変えて襲ってくる。
 その全員を斬り殺す。すべて殺せば、最後に残るのが本物だ。
 だから、戦って戦って戦って――――――






 ――――――という未来予知の結果を見た上で。
 壱子は、何もせずに生徒とすれ違う。

 ……手当り次第、“生徒を殺した場合の未来”を予知する。
 それが、“壱子達”が選んだ真贋の区別を付ける方法だった。
 事前の情報通り、ほとんどの生徒は偽物で、誰か一人でも殺傷した場合、即座に学園全体が敵となる様だ。

「――――――」
 ずぐ、と鈍い重みと痛みが、側頭部にこもって、軽く頭を揺らした。
 未来を知る、という行為は脳に負担をかける。
 既に五十人近い生徒を“斬”っている。その分、起こり得る、数十秒先の未来を見続けて、そろそろ負担が処理能力を越えようとしている。
 それでも、壱子の戦闘用人格は、作戦をやめようとしない。
 本物を見つけ出すまで。あるいは何か手がかりを得るまで。
 機械的に、淡々と、目的を遂行していく――――――。

 廊下の先から、男子が一人歩いて来る。
 同じ様に、すれ違い、“斬りかかる”未来を見る。

「――――――――!」
 壱子の予想では、今までと同じ様に首が飛び、今までと同じ様に戦争になる未来が見えるものだと思っていた。
 予知を予想する、という点は矛盾しているが、一種のルーティンワークとなっていたのは否めない。
 だが。

___________,,∧,,, ∧____________
              ∨

 豹変した男子が襲いかかってくる。

             シャープペンシルを握りしめて。

   首筋を狙って。
   
                 反応できる速度。
 <どうしてわかった>
                     人間。
       ただの人間。

                <ふざけやがって>


       ――――――殺す。

___________,,∧,,, ∧____________
              ∨

「―――あの、大丈夫っすか?」
 声をかけられて、我に返った。
 機能に不都合が生じている、と自覚し、目の前で目を丸くしている男子生徒を見て。
 壱子は円滑な交流の為に、チョーカーに触れた。
 途端、中身の入っていなかった器に、感情という水が注がれて、人格が切り替わる。

「……あー、うん、ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって、ええーっとぉ……」
「猟兵のひと、だよね?」
 会話に混ざったのは、銀髪のミレナリィドール、名前は確か……。

「ヌルちゃん、だっけ? 依頼で何度か見たことあるかも」
「うん、時々いっしょだったかも。なにしてるの?」
「あー、色々捜査とか、君も猟兵……なのかな?」
 目を丸くしていた男子に尋ねると、こくこくと頷き。

「桔川・庸介っす、いやまぁ、捜査は空振った所なんだけど……」
「そーなんだ、私もまだ生徒を見つけられなくてさぁ、多いねぇ、偽物」
 ぎこちない空気の中、情報交換にもならない話をしながら、三人は、一緒にいる理由はないが、離れる理由もない、という事で、成り行きで一緒に歩きだした。
 途中、何人か、生徒とすれ違う。友達と会話していたり、部活の道具を持っていたり。

「…………なんか、見てると普通なんだけどなぁ……」
「まーね、でも、アレもコレもぜーんぶ偽物、嫌になっちゃう」
「そうだね、わたしも、嫌かも」
 ヌルが、生徒の背中を目で追いながら、小さく呟いた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「……自分がいないあいだ、みんなが偽物とはなしてるっていうのを想像するとちょっとぞっとする」
 例えば、もしも。もしもの仮定だけれど。
 自分の同型機が居たとして。
 姉妹たちと、マスターと、それは自分と同じ顔をしながら、共に居て。
 自分を指差し、こういうのだ。

(あれは、わたしのにせもの)

 と。

 それを、想像してみるだけで、頭の中がきしむ。
 
「わたしはそういうの、いやだし。ふせぎたいっておもうよ」
 それがはびこるこの学園は、ほうっておいてはいけないものだと、ヌルは思う。
 だから。

「わたしは、わたしが一人なのがいい」
 壱子は、その言葉に、何故か困ったような顔をしたので、ヌルも不思議そうに、首を傾げた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 気取られては居ないはずだ。
 “俺”の存在を外から知る方法なんて無いんだから。
 “俺”が、自分から外に出ない限りは。

 体温でも呼吸でも脈拍でも鼓動でも瞳孔でも。
 一切の肉体反応から、“俺”を知覚することは出来ない。
 けど、だったら。
 あの女が見せた反応はどうだ?

(俺も嫌だなぁ、俺じゃない俺がいるとか――)

 ――――ああ、“偽物の俺”。
 何も知らない、何も予想できてない、“俺”じゃない“俺”。
 お前が“俺”のことを知ったら、どんな顔をするんだろうなぁ。

(俺は、俺一人だっての)

 そう、“俺”は“俺”一人だ。
 それ以外は、偽物だ。


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【 PART 23 】
    ▽ 秋縁学園 2F 中等部校舎 ▽
           《 霧生・真白/霧生・柊冬 》
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 ――いくら偽物を作り出したとて、持ち物全てを偽装するのは不可能だろう。
 偽物は、本物が使っていた道具をそのまま使用しているはずだ。
 ならば、それは十二分な手がかりになる。

「教科書に、筆記具に、運動着……まぁ、こんなものか、足りるだろう?」
「はい、匂いを追えるはずです。……おいで」
 柊冬が窓の外に手を伸ばし、ぴゅいと口笛を吹けば、空から勢いよく飛来するものがある。
 ちょこんと生えた、ウサギのような一対の耳が特徴的な、一羽のフクロウだった。

「頼むよ、ダドゥス」
 柊冬が指示を出すと、ダドゥスと呼ばれたフクロウはすぐさま品々に顔を近づけた。
 数秒もすれば、何かを思いついたと言わんばかりに、ぐるりと首を回転させ――――。

「あっちみたいです、行きましょう」
 翼を広げ、主を誘導するように羽ばたいた。
 授業中だからか、廊下には誰も居ない。
 ほんの数分歩いた所で、ダドゥスは柊冬の肩に止まり、ホウ、と鳴いた。

「ここは…………」
 二人が立ち止まったのは、洗面所の前だった。
 向かって右が男子トイレで、左が女子トイレだ。
 ダドゥスに視線を向けると、またぐるりと首を回転させ、瞳を見つめ返してくる。
 つまり、案内は終わったということだ。この先に、本来の持ち主たちが、本物の生徒がいる。

「ええと、じゃあ、僕が男子トイレを調べるので、姉さんは……あいた」
「この状況でなんで単独行動をしようとするんだい君は!」
「え、ええ……? でも僕が女子トイレに入るわけにも……」
「僕だって異性の領域に立ち入りたくはないけどね、ここは二階で、トイレというのは基本的に袋小路なんだ。窓から外にもでられない。当たり前だけど“出入り口が一つしか無い”んだよ」
「それはわかりますけど……」
「じゃあ、この先に行った彼らはどこへ消えたんだい? 僕と君がここで別れて、次に出てきた僕が本物じゃあない可能性を君は証明できるかい?」
 嗜めるように言う真白。
 つまりは、二人で居るのが安全だということだ。
 だが、柊冬は困ったように笑い。

「姉さんが本物かどうかぐらい、すぐにわかりますよ」
「――――――」
 性差こそあれど、双子だから。
 生まれたときからずっと一緒で。
 鏡写しのように似ている二人。

「…………僕だってね、君が本物かどうかぐらい、見ればわかるとも」
「そりゃあ、姉さんには推理がありますから……あいた。今のはなんでですか?」
「そうやってとぼけたことをいうのが、君だよ!」
 ふん、と鼻を鳴らし。

「けど、見分けがつくというのなら丁度いい。僕の推理が正しければ――――」
 真白はじとりと、柊冬を睨みつけた。
 、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、
「僕らはこれから、僕らの偽物と相対する事になるんだからね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエナ・リーレイ
■アドリブ、絡み可
わたしはシエナだよ!よろしくね!とシエナは笑顔で挨拶をします。


『お友達』を求め彷徨うシエナ、気がついたら転校生として元気よく挨拶をしていました
経緯はともあれ学生となったシエナは不思議系生徒として学園生活を全力で楽しみ始めます


わたしは立派なレディだよ!とシエナは頬を膨らませます。


学園生活を楽しむ最中、シエナは不穏な雰囲気の漂う場所へと誘い込まれます
ですが、それはシエナにとって【ユーベル】が色んな意味で効果を発揮する絶好の状況
シエナは襲い掛かる『お友達』候補と仲良くなり『お友達』に迎える為に[怪力]と[暗殺]術をもつて遊び始めます



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 24 】
    ▽ 秋縁学園 ??? ▽
           《 シエナ・リーレイ 》
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「わたしはシエナだよ! よろしくね! と、シエナは笑顔で挨拶をします」
 黒板に書かれる文字を、ノートに書き写しましょう。
 手を上げて、元気よく答え! 間違ってしまったようです。
 体育の時間、ドッジボールは思い切り投げて――あらら? ばちんと遠くに吹き飛んでしまいました。

 可愛いねと言ってくれるクラスメートのみんな!
 頭をなでてくれるやさしい手!
 お菓子をくれるのは、きっとシエナの反応が見たいから?

「わたしは立派なレディだよ! とシエナは頬を膨らませます」
 ごめんごめんと謝られて、素敵な所に連れて行ってあげる、と言われました。
 シエナは勿論、手を引かれるままについていきます。

 それは、物置のような場所においてある、大きな鏡の前でした。
 鏡の中には、シエナが写っています。
 ドレスも、顔も、抱いて抱えた一番のお友達も、そっくりそのまま、そこに居ます。

『わたしはシエナだよ! よろしくね! とシエナは笑顔で挨拶をします』
「?」
 シエナが喋りました。
 おかしいです。
 だってシエナは喋っていないのに。

『シエナはこわれたお人形! シエナはかわいそうなお人形!』
『だって自分が壊れてることに気づいていないのです! と』
『シエナはシエナを嘲笑います』
 そこでようやく、シエナは気づきました。
 鏡の中のシエナが、お話しているのです。

 ああ、なんだ、そうなんだ、そうなのです!

 これから先は、ここから先は。
  、、、、、 、、、、、、、、
 好きなだけ、遊んでいいのです!

「あなたは、シエナのお友達になってくれる? とシエナは笑顔で質問します」
『絶対に嫌よ! とシエナは嫌そうに言い返します』
「だけど、シエナはお友達になりたいよ! と、その手を取ろうとします」
 ずるりと、鏡の中に手を伸ばすと。
 シエナの手が、ゆっくりと、沈み込んでいきます。

 シエナは、お友達を増やしに来たのです。
 さあ、お友達になりましょう。
 でも、鏡の中の向こうのあなたは。
 きっと、少し、とっても、すごく。

 いいえ。いいえ。
 続きは、お友達になってから話しましょう?

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『狂わせ鏡』

POW   :    様子がおかしい人を調べ、強引に鏡を割る

SPD   :    鏡を売る怪しげな行商を調査して販売を阻止する

WIZ   :    魔力を辿って鏡の在処を見つけ出し、対処する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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【 Episode 2 】
    ▽ 鏡の中の世界 ▽
              《 ユァミー 》
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 窓。水溜り。スマホの画面。プールの水面。
 ありとあらゆる“反射”を伴い、像が映るものすべてが“鏡”となって“異界”への扉を開く。

『いらっしゃい、いらっしゃい』

『あなた達が足を踏み入れたのだもの』

『招いてあげるわ 誘ってあげるわ』

『ここは鏡の中の世界、もう一つの私の世界』

『あなた達、みぃんな』

『ここで、さようなら』

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
 
◆ Regulation ◆

 第二章に参加する猟兵は、オブリビオンの手によって「鏡の中の世界」へと誘われ。
 それぞれが独立した世界に閉じ込められた状態から開始します。

 その為、「基本的に合わせプレイングは不可」とさせていただきます。

 例外として。
 ・共有している理想や過去が同じ
 ・俺のことはいい!! あいつを助けに行かせろ!!
 ・特に理想とか後悔はないけど2を選ぶのはあれだから他の人にくっついていく!!
 
 という場合は「同じ世界に閉じ込められた」としてリプレイを執筆します。
 その際は、プレイングに明記をお願いします。

 プレイングの冒頭にいずれかの番号を書いてくださると、スムーズかと思います。
 選んだ選択肢によって、三章で各猟兵が戦うボスが変化します。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
 
 1)思い描く理想の世界に閉じ込められる。
  あなたが思い描く、理想の自分が存在する世界です。
  その世界では、あなたの過去の失敗や後悔が全てなかったことになり、
  「こうなりたいなあ」「こうだったらいいなあ」というあなた自身の願望が形になっています。
  失われた人や、もう二度と会えないはずの人とも出会えるでしょう。
  ただし、それらは勿論、本物ではないでしょうが。

  偽物の世界にこのまま囚われるか、脱出するかは個々人の自由です。

  第三章で戦うボスは【理想を体現した自分】となります。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
 
 2)オブリビオンを探す。
  特にやり直したい過去がない、理想の自分は今の自分だ、もうその手のトラウマは乗り越えてしまった
  ギャグキャラなので、深く考えてなかった……などと言った理由で上記に該当しない場合は、
  すべてが反転した『鏡の中の世界』を探索してオブリビオンを探すことができます。

  第三章で戦うボスは【猟兵たちを鏡の世界に捕らえた邪神の手先】となります。

 プレイングの締切は3/8 23:59までとし、
 そこから執筆が完了次第、お手紙を遅らせていただきます。
 第一章で採用した皆様+αぐらいになると思いますが流石に第一章ほど時間はかからないと思います。
フェルト・フィルファーデン
◯1
ワタシはこの国のお姫様!今日は日課のお勉強!逃げたりせず真面目にやるわよ?上に立つ者だもの、頑張らないと!

礼儀作法に社交ダンス、楽器の演奏、お裁縫にお料理だって!何一つ失敗しないわ!

守られてばかりじゃダメよ!文武両道のワタシは騎士にだって負けない!

あらゆる天災、疫病、外敵からも、このワタシが守ってあげる!

ワタシの国は未来永劫安泰よ!



……馬鹿馬鹿しい。
勉強は逃げ出しよく怒られてた。
いつも失敗ばかりでお料理は今でもダメ。
わたしの騎士達に勝てるわけないでしょう?
未来永劫安泰?わたしの国は、滅びたのよ。


早くここから脱出しましょう。生徒達を助けないとね。
……出来の悪い幻を見せた事、後悔させてあげる。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 1 】
       ▽ Endless/dress ▽
           《  フェルト・フィルファーデン  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「今日の分は、これでおしまいね」
 お姫様がペンを置くと、世話係でもあるじいやは感嘆したように声を上げました。

(さすが姫様、本日の課題も見事にこなしましたな)
「勿論よ、だって私はこの国の“お姫様”なんだから」
 お姫様は、それがまるで当然のことのように、得意げに胸を張って答えます。
 それを聞くと、じいやは嬉しそうに微笑んで、目尻に浮かんだ雫をそっと拭いました。
 両親を失い、この先、国はどうなるのかと憂いたことも有りました。
 しかし、今目の前で、胸を張ってそう語るお姫様を見れば、そんな不安を抱くのは無礼というものでしょう。

 なにせお姫様は、朝から夜まで、自由な時間等一切ない、厳しい課題を、笑ってこなしてしまうのです。
 厳しいお勉強も、礼儀作法のお稽古も、社交ダンスの練習も、一度だって逃げたりはしなかったからです。

 お裁縫だって、お料理だって、小さな手で、まるで奇跡のように作り上げてしまうのです。
 文武両道、完全無欠、それがこの国のお姫様でした。

(うわあ!)
 叫んで、槍を取り落とすのは、若い騎士でした。
 わぁぁぁ、と歓声が響き渡ります。
 国が開いた武術大会の、決勝戦でした。ついに最後まで勝ち上がったお姫様を、国民皆が讃えました。

(お姫様! フェルト姫様!)(こっちを向いてくださったぞ!)
(わたし達の希望!)(この国を導いてください!)

「みんな! 大丈夫よ! 心配しないで!」
 表彰台に立つお姫様は、槍を掲げて高らかに宣言するのでした。

「ワタシは騎士にだって負けない! どんな天災からも、疫病からも、外敵からも! 皆をワタシが守ってあげる!」

(姫様!)(姫様!)(姫様!)(姫様!)
(姫様!)(姫様!)(姫様!)(姫様!)

「未来永劫の安泰を、皆に約束するわ! ■■■■■に栄光あれ!」

(姫様!)(姫様!)(姫様!)(姫様!)
(姫様!)(姫様!)(姫様!)(姫様!)

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 割れる、割れる、世界が割れる。
 割れる、割れる、ひび割れる。
 歓声が消えてゆく、途絶えてゆく。
 笑顔が失せていく。幻想が無くなっていく。亡くなっていく。

「馬鹿馬鹿しい」
 “鏡の向こう側”に映る景色を、フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)は何処までも冷めた瞳で眺めていた。

「勉強なんて、真面目にやったこともないわ」
 いつも逃げ出していた。だって退屈だったから。
 皆の目を盗んで、城下町へ、森へ駆け出して、いっつも怒られてばかりいた。

「何でも出来る? 失敗ばかりだったわ。お料理なんて……今でもダメだわ」
 指をタクトのように振ると、彼女の騎士達が、無言で横一列に整列した。
 喋らず、笑わず、悲しまず。
 もう何も思うことのない、彼女の国が存在した、唯一の証達が。

「わたしが、わたしの騎士達に、勝てるわけ無いでしょう」
 鏡の中のお姫様は、誇らしげに笑っている。
 ああ、何がそんなに嬉しいのか。
 お前には、何も出来なかったというのに。

「わたしの国は」
 槍が、振り下ろされた。

「滅んだのよ」
 ぱりんぱりんと音がして、理想の世界が砕けていく。
 あり得たかも知れない未来――ですら無い。

 フェルトがあの世界にいる余地なんて、どこにもない。

「――早くここから脱出しましょう。生徒たちも、助けないとね」
 その言葉に、騎士たちはただ付き従う。

 ああ、お姫様、お姫様。
 本当は、こっちのほうがよかったんじゃないの?

「うるさい」
 そんなことは――ありえない。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧生・柊冬
【221B】
1

鏡の中の声に誘われ目覚める
飛び込んできたのは教室の中
同じ教室の中にいた姉の姿を見て大丈夫?と声をかけた
…あれ?姉さん、髪の花はどうしたの?いつもの天使のような翼もない…

目の前に移る姉の姿に違和感がよぎる
僕達は邪神にかかわる事件に関わっていると伝えても、それは無かった事にされている
おかしいのは僕のほうなの…?

目の前で楽しそうに映る姉さんの姿はいつもと違って幸せそうだった
ここならずっと姉さんは笑っていられる…でも
今僕が信じてあげられるのは、探偵としての霧生真白だけなんだ!

ここで待っても姉さんの未来は退屈なままだ
現実は残酷かもしれないけど――もっと面白い謎が、姉さんを呼んでいるんだ!


霧生・真白
○【221B】
1

友人の声で起こされ目を覚ます
ここは教室…?
妙にリアルだったが
あれは本当に夢か?
邪神がいる世界に天使の羽根を生やした僕…

――天使?邪神?

…馬鹿馬鹿しい
そんな非科学的なことはありえない
やはり夢を見ていたようだ

柊冬?君は何を言っているんだ?

まず僕が両親のもとを離れるだなんて
ピアニストの父に絵本作家の母
少し頼りない双子の弟
ありのままの僕を受け入れてくれる友人との学校生活
それが僕の日常
少し刺激が足りないが
いずれ僕の頭脳を活かせる機会が来るはずで――

…それはいつだ?
僕はそんな不確定な未来を待つ
退屈な人生を享受できるのか…?

――柊冬
声が大きい
僕は探偵で君はその助手
“そっち”のほうが面白そうだ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 2 】
    ▽ Detective/Delete ▽
          《  霧生・真白/霧生・柊冬  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(ましろちゃん、ましろちゃん、次、体育館だよ)
 誰かの声が耳に届いて、ふと目を覚ます。
 窓際の席は日差しが心地よい、昼が近くなればうたた寝をするのには最適だ。
 授業など端から聞いては居ない、そんな退屈で時間をすり減らすより、思索に耽りながら微睡むのが良い。

「くぁ……」
 小さなあくびと共に、真白は目を開いた。
 どろりとしていた思考の渦が、次第に鮮明になっていく。

「……変わった夢を見ていたよ」
(夢?)
「そう、僕は天使で、背中に羽が生えているんだ」
 そう告げると、クラスメートはなにそれ、と可笑しそうに笑った。
 ここは? 学校だ。今日は月曜日で、内容のわかりきった退屈な授業が終わって、
 あろうことか次はもっと億劫な体育の時間である。

「では、昼休みまで自由時間という事だね。僕はもう少し思考の海に沈むとしよう……ふぅ」
(沈むとしよう、じゃないよ! 堂々とサボろうとしちゃダメー!)
 あまりにあんまりな真白の主張に、クラスメートはふざけながらもその肩を揺する。
 勿論、それで揺らぐ真白ではない。彼女はいつだって己に正直に生きている。
     、、、、、、、
 それを本気で咎める者は、ここには居ない。

(ねえ、柊冬くんもなんとか言ってよー)
 どうしようもないと判断したのか、クラスメートはよりによって彼女の双子の弟に声をかけた。
 けれど、それが無意味であることを真白が一番良く知っている。
      、、、、、、、、、、、、、
 なぜなら、いつだって柊冬は真白の味方なのだから。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「――――――姉さん?」
 霧生・柊冬(frail・f04111)が目を覚ました時。
 そこにあったのは、“日常”だった。
 中学校の教室だ。談笑するクラスメート、
 そして――――。

「柊冬、君からも言ってやってくれないか。珠のぶつけ合いなどという野蛮なスポーツに興じている時間など僕にはないのだと――――」
「姉さん、髪の花は、どうしたの? 背中の翼は?」
 まるで普通の人間のような姿の、双子の姉の姿。

「……うん?」
 問いかけに、真白は怪訝そうな顔で、首を傾げた。

「どうして君が、僕の夢の内容を知っているんだい?」
「ゆ――め?」
 頭をガツンと殴りつけられたような感覚。
 普段、出さない大声が、思わず喉の奥から飛び出した。

「姉さん! 僕たちは邪神の企みを阻止するために――――」
「邪神? ……小説の話かい? それともゲーム? 本当ならぜひ紹介して欲しい、僕の頭脳を活かすまたとない機会じゃないか」
 忘れている。
 なかったことになっている。

(どういう、事だろう……?)


 、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、
『僕らはこれから、僕らの偽物と相対する事になるんだからね』


 鏡に飲み込まれる直前、真白は確かに、そういった。

『鏡の向こうに世界を作る、これが今回の邪神の能力だろう。生徒たちが拉致されたのは鏡面のある場所だけだった』
 二人は、共に鏡の向こうに居る“何か”に因われた。
 そして今、目の前には、只の人となった真白がいる。

「……柊冬?」
 返事がないことに、あるいは普段と違う様子に戸惑ったのか。
 真白が、柊冬の顔を覗き込んだ。その瞳を思わず見つめ返した。
 これは、真白の偽者なのか、それとも……。

「……姉さん。退屈は、嫌いかな」
「君は今更何を言っているんだ、当然だろう?」
 そうだ。真白は、退屈を嫌う。
 わかりきったことだ。なのに、この世界の真白は、退屈に満ちている。

 それを、受け入れている。
 いつか、その退屈が終わることを夢見ながら。

「だったら、行こう、姉さん」
 手を差し出す。それは、この世界との決別を意味する。

「現実は残酷かもしれないけど……だけど」
 両親が側に居ない。二人きりだ。
 平和な日常はない、争いの渦中だ。

「きっと、もっと面白い事があるから。たくさんの謎が、姉さんを呼んでるから!」
 それでも……挑み続ける何かがある、その世界こそが本物だ。

「柊冬」
 伸ばした手を。
 ぐっと掴む感触があった。
 やれやれ、と口の端を吊り上げて。
      、、、、
 ふふんと得意げに笑いながら。

「声が大きい、聞こえているよ」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「声が大きい、聞こえているよ」
 聞き慣れた声だ。見慣れた顔だ。
 だけど、そんな切羽詰まった顔をすることはないだろう。

「僕は探偵で君はその助手」
 僕が僕でなくなるはずがないし。
 君が君でなくなるはずもないのだから。

 両親の側を離れることなく。
 背中に翼を背負うこともなく。
 ありのままの僕を受け入れてくれる友人達。
 刺激のない代わりに、穏やかな世界。
 ……“いずれ”などという言葉は嫌いだ。
 だって、飛び込んだほうがずっと早い。

「“そっち”のほうが面白そうだ――――そうだろう?」
 結局、つまりはそういうことだ。
 平穏、平和、退屈の延長線上に在る理想の日常より。
 不確かでも、否、不確かだからこそ。
 何が起こるかわからない――“面白い”のだ。

「面白い夢ではあったよ、ふん、さようなら」
 ぴしりと世界にヒビが入った。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「相手にとって理想の世界を作り上げるのが、邪神の能力だ。捕らえた獲物を逃さない、罠のようなものだね」
 くるくると人差し指で空中をなぞる姿は、まるで教鞭を振るう教師のようだ。

「……姉さん、ごめん」
「うん?」
「だったら、世界は、きっと僕が作ったんだと思う」
「……うん???」
 だって真白は、あの世界なら笑っていられる。
 安寧と平和に満ちて、何も失うことなく、何も損なうことなく生きていける。
 ただ、いつか来たる未知に対する期待を胸に生きる、日常を。

「……あいたっ」」
 ぱちんと額に軽い感触、いつもどおりのデコピンだった。

「何を言ってるんだい、君は」
 下手人である真白は、呆れ顔で柊冬の顔を覗き込み、言った。

「あの世界は、僕と君の望みが反映された世界に決まっている。だって二人で捕らえられたのだからね」
「でも、姉さん」
「では、一つ質問するけれどね、僕が“本来の僕”を忘れていたのに、君が正気だった理由はなんだと思う?」
 気のせいか、真白の頬に、かすかに朱が差したようにも見える。
 柊冬は、首をひねって、少し考え。

「それは……すいません、わからないです」
「…………じゃあわからないままでいたまえ」
「ど、どうして急に不機嫌になるんですか!?」
「僕が不機嫌になったなどといいがかりをつけるのはやめてもらおう」
 何のことはない。
 桐生・真白という人間の理想の枠の中に。
 桐生・柊冬が居ただけの話なのだ。

 たとえどんな世界であっても、どんな立場であっても。
 柊冬だけは、変わらずそこに居てほしいと、望まれたから。

 己の片割れは、必ず側にいるものとして、真白の世界に組み込まれた、理想の一部。
      、、、、、、、、、、、、、
 なぜなら、いつだって柊冬は真白の味方なのだから。

「――――さて、お遊びの時間は終わりだ。僕らにはまだ相対すべき相手が残っているからね」
 ヒビの入った世界の中で、二人の他にもう一つ、動く影があった。

「…………え?」
 それは天使でもない。
 それは探偵でもない。
 ただの少女だ。
 けれど――桐生・柊冬にとって。
 誰よりも何よりも、きっと難敵だ。

『――――柊冬』
 少女は、目を輝かせながら言う。

『君の隣にいる彼女はなんだい? その僕と同じ顔をした――君は』
 奇しくも、“いつか来る頭脳を活かせる機会”に直面した。
 平和の中にまどろんでいた、桐生・真白、その人だった。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
              -鏡像の真白-

  天使でもなく、まだ探偵でもない少女。
  思考や性質は、本物の真白に近いだろうが、経験の上では比較にならない。
  戦闘能力は皆無。ユーベルコードを使えば、倒すのは容易いはずだ。

  けれど、彼女は目の前に出現した『謎』に興味津々だ。
  柊冬は自分の味方と信じて疑わず、
  天使の羽を携えた自分自身を、偽物だと確信し。
  その存在がどういったものか、解き明かすための言葉を駆使するだろう。

  勝利条件:鏡像の真白を撃破する。

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成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六六六・たかし
1) 理想の世界

D№が存在せず、たかしが普通の学生として暮らしている世界
友達も多く楽しい毎日を過ごしている。ただしD№が存在しないため仲間の3人も存在していない。


【SPD】

戦うべき宿敵はおらず、世界は平和に満ち溢れている
なるほど、ここで過ごしていくことに何も不自由はないだろう。
だが俺だけが思い描く理想の世界など…何も意味はない
なぜならそこには仲間が存在していないからだ

待ってろ、「ざしきわらし」「かかし」「まなざし」…今助けに行く。
こんな世界さっさと抜け出してな!
俺はたかし!デビルズナンバーたかし!
それが悪魔でありながら悪魔を倒す俺の名だ!!

『六六六悪魔の時空移動(デビルたかしテレポート)』!!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 3 】
    ▽ Devils Number/Devils Member ▽
           《  六六六・たかし  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(ちょっとたかし! あんたまーた寝坊して!)
「ふっ、問題ない」
(あるよバカ! さっさと学校に行ってきな!)
「わかった、わかったからフライパンを振り回さないでくれカーチャン」
 俺の名前は六六六・たかし。
 どこにでも居る普通の学生だ。
 しいていうならカーチャンがちょっと凶悪なぐらいだが、何の問題もない。

 今日は……水曜日だったな。ふ、体育があるじゃないか。
 種目はサッカー、つまり俺が活躍できる場という事だ。
 くく、これは朝から縁起がいい。問題は遅刻寸前だということだな。

(何モノローグに浸ってんだよたかし!)
(お前も遅刻かよ走れ走れ!)
(今ならまだ間に合うって!)
「まさし、きよし、さとし」
 後ろから駆けてきた連中、コイツらは俺の友達だ。
 たかし、まさし、きよし、さとし、名前が何となく統一感が在るという理由だけで仲良くなった。
 しかし、気のおける悪友達だ。このやり取りも日常茶飯事、ここは一つ、朝からランニングに興じるのも悪くない――――。

《変な回想入れてる場合じゃありませんわ》
《遅刻しちゃうよ、たかし!》
《走れば間に合うべ! たかし!》
「!」
 不意に、ズキンと頭が痛んだ。
 いつもどおりの、やりとりだ。
 そのはずだ、そのはずなのに。
 何かがズレている。

「…………?」
 ふと目をやったゴミ捨て場に、朽ち果てた日本人形が捨ててあった。
 気味が悪いな、と思って、それ以上意識を向けることはなかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 授業が終わって、帰路につく。連中と一緒だ。

(明日中村の数学じゃん、だりー)
(つーかさ、この後ど~する?)
(ゲーセンいくべ! なぁたかし!)
「それもいいな、いや――――」
 帰り道のことだった。
 なんとなく、ゴミ捨て場を見る。
 朝に出されたゴミは収集者が持っていくはずだが、
 日本人形は、何故かそのままぽつんとおいてあった。

(うへぇ、何だありゃ、気持ちわりぃ)
(ちゃんと回収してくれよなぁ)
(まぁまぁここは俺に任せろって)
 きよしが大股で、ゴミ捨て場に歩み寄る。
 まさしだったかも知れない。
 つよしだったか?
 誰でもいい。

(行くぜぇー! 必殺のストライクシュートォー!)
 何を思ったか、そいつはボロボロの日本人形を軽く蹴って位置を調整すると。
 そのまま勢いよく、足を振り抜こうとした。

「!」
 なぜ体が動いたのかわからなかった。
 気がつけば飛び出していた。ケリが腹部にめり込んで、うぇ、と胃から熱いものがこみ上げてきた。

(おいたかし!?)
(なにしてんだよ!)
(あぶねーじゃねーか! これお前のか!?)
 腕の中にある日本人形を、抱きかかえながら。
 俺は、言葉にできない焦燥感に駆られていた。
 なぜだかわからないが。
 いまのを見過ごしてしまったら。
 もう、二度と戻ってこない気がした。

「――――そうだ、俺のものだ」
 失ってはいけないもののはずだった。

「俺の仲間だ、俺の友達だ」
 そして。

「お前達は――――何だ?」
 眼鏡の向こうに映る何か達は、顔を見合わせて、それからたかしをみて。
 にたり、と笑った。

(つまりよぉたかし)
(俺たちは友達じゃねーってことだよなぁ)
(ひでえよなぁ、たかしぃ)
 友達だったはずのモノの姿が変じていく。
 それは日本人形になった。
 それは案山子になった。
 それは眼鏡になった。

 そして、彼らの背後から現れたモノ。
 青い、フード付きのコートに身を包んだ少年だった。
 機械のような瞳で。
 機械のような視線を向けて。
 機械のように、淡々と告げた。

『俺はデビルズナンバー六六六、たかし』
 殺人オブジェクトの完成形。
 全ての悪魔の数字の、最低にして最終にして頂点。

「笑わせるな」
 たかしの指から、糸が伸びる。
 それは、腕の中の日本人形に。
 自分のかける眼鏡に。
 そしてなぜかマンホールの下に――――。

『たかしぃ!? 酷いべ!? オラなんで下水に居るんだべ!?』
 ……かかしが、鉄の円盤をぶち上げて現れた。

『おはよう、マスターたかし、ご気分は?』
 まなざしが再起動し、語りかける。

『……待ってたよ、たかし』
 日本人形が、柔らかく微笑み。
 主の指を、ギュッと握った。

「六六六・たかしとは――――悪魔でありながら悪魔を倒す俺の名だ」
 鏡写しのオブジェクト同士が、にらみ合う。対面する。

「貴様ごときに、名乗らせるものかよ。なぜなら――――」
『殺戮処分する。なぜなら――――』



「『――――――俺はたかしだから!』」



▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
       -鏡像の『六六六・デビルズナンバーたかし』-

  六六六・たかしの鏡像。
  殺人オブジェクト、デビルズナンバーの性質が全面に押し出されている。

  『-D№600・ざしきわらし』
  『-D№467・かかし』
  『-D№515・まなざし』

  3体の殺人オブジェクトを使用して戦う。

  勝利条件:鏡像のたかしを撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき

1)
嗤う。
郷愁に囚われている己を。

描かれるのは逆恨み、熱狂、恐怖で滅ぼされなかった故郷の日常。
海から上る陽の光。
パンの焼ける匂い。
忘れてしまった両親の声。
近所のおじさんがまた奥さんに怒られている。
赤子の泣き声。
窓の向こうから六人の幼馴染(同胞)が呼んでいる。
今日も何処かの悪い人を殺しに行くのだ。

【WIZ】
でも、海はこんなに静かだったかな。
まるで鏡の様に波が見えないけれど。

そう、波ってこんな感じだったよね。

故郷を囲む海を【UC】で上書き。
そう、この【理想を体現した】街自体、咎人だったんだね。


幻影とはいえ過去の己を殺した事もある身。
咎人であれば、禊潰す。
そんな風に育てられたのだから、この街で。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 4 】
    ▽ Deep Sea/Dead Sea ▽
           《  夷洞・みさき  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(×××××)
 それは、かつての人の名前だったように思う。
 思い出せないのはなぜだろう。

 窓から空を見やる。
 陽光が、あまねく海を照らす。眩しく反射した光が視界を焼いて、意識が鮮明になっていく。
 どこかの家から、白い煙が上がっている。小麦が香ばしく焼き上がる香りが街に広がっていく。

(あんた、また昼間からお酒飲んで!)
(休みの日ぐらいいいじゃねえかよぉ!)

(おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!)
(よしよし、いい子でちゅねー)
 喧騒がある。生活がある。人々がある。命がある。

(おおい、×××××、聞こえてるか?)
(そろそろ行くよ、海へ出よう)
 幼馴染の声、同胞の声。
 失われていない、生きている声。
 まだ×××××が×××××だった時のまま。
 “みさき”になる前の、一つになる前の。

「――――――ああ」
 何もなかった。
 この街には、何もなかったのだ。
 熱狂はなかった。
 逆恨みはなかった。
 恐怖はなかった。
 滅びなかった。

 だから、残念だと思う。
 だから、滑稽だと思う。

 波は揺らがない。
 この世界の海には、果てがある。

(×××××?)
「彼方より響け、此方へと至れ」
 言葉は呪詛となって世界に染み渡る。

(どうしたの?)
「光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ」
 仮初の海を塗りつぶして、実在の水が器を満たす。

(何をしているの?)
「我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう」
 みるみると、街が、海に飲まれていく。

(――――何をしているんだ! ×××××!!)
「咎人は」
 みさきは、ためらう言葉を持たなかった。
 それがどんな形をしていても。
 それがどんな声であっても。
 実在しては行けないものだ。
 消えてしまったものだ。
 終わってしまったものだ。
 取り戻せないものだ。
 この世界に浸ることは、すなわち生者達の生還を諦めるのと同じだから。

「この街、そのものだったんだね」
(――――お前の故郷だぞ!?)
「そう、僕の故郷、僕達の故郷、僕達が育った場所」
  故に。

「僕がこの手で沈めよう――――僕は、この街でそう育てられたのだから」


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 第三章 BOSS
              -鏡像の“街”-

  みさきが望んだ理想の世界は、誰かではなく何処かだった。
  この街そのものを咎人としたあなたは、この街を禊がねばならない。

  呪いに満たされた潮に沈み始めた街は、それでもまだ生きている。
  懐かしき同胞も、無辜の人々も。
  かつてあなただった誰かも。

  勝利条件:街を形成している「中核となるもの」を破壊する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

月輪・美月

1)
家族の中で自分だけ白い髪であることに強いコンプレックスがある
理想の世界を一蹴し、理想の自分と対峙する

理想世界
【黒い髪をした自分と家族、そして白い髪の妹が産まれた世界
その中で白い髪の妹を大切な家族として受け入れている自分】

はいはい、こうやって形にされると自分の願望の醜悪さに軽く死にたくなりますね……どうせなら全員黒い髪の幸せな世界にしてくれれば幾分マシでしょうに

黒い髪として産まれた自分が羨ましい、って気持ちがあるのは認めましょう……でも、その存在を認めるのは本当の家族に対する侮辱に他ならない

この戦いが終わったら、ちゃんと家族と向き合う事も考えなきゃ
……なんか死にそうなセリフだこれ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 5 】
    ▽ White Out/Black Out ▽
           《  月輪・美月  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(ああああもうもうもう、まだですのまだですの? もうそろそろだと思いますのに)
 そわそわと浮足立ちながら、ぱたぱたと歩き回る、落ち着きのない姉を見て。
 美月は苦笑して、その袖を引っ張った。

「姉さんが焦っても仕方ないですよ、落ち着いてください」
(落ち着けるわけありませんの! あぁんもぉー!)
「父さんがついてますよ、大丈夫です」
(パパがついてるから不安なんじゃないですの!)
 とんでもないことをサラッと言う姉だった。
 ……美月が属する人狼のコミュニティ、日輪一族も、最近は開かれて久しい。
 自分達が生まれたときは、里の中で、産婆がついての昔ながらの出産だったらしいが、
 今となってはほんの少し走った先に出来た、近代的な大きな病院で取り上げてもらえる様になった。
 
 ……つまり、彼らの母親は今、出産という一大行事に励んでいるのだ。

 分娩室に入れる身内は父親だけなので、姉と弟は二人、扉の前で今か今かとその時を待っている。

「……姉さん、つかぬことを伺いますが」
(なんですの?)
「……僕が生まれた時って、姉さんはどうしてました?」
 やっぱり、自分もこうやって、家族に待ち望まれていたのだろうか。
 そんな想像をすると、なんだか少し気恥ずかしい。

(夜遅かったので、普通に寝てましたわよ、起きたら元気に生まれてましたわ)
「……そうですか……」
 何の参考にもならなかった。
 酷い姉だ。

(つっくんの時は、お産がそりゃあ長かったですもの、里の親世代が交代で面倒見て……あっ!)
 懐かしい思い出話に入る前に。
 分娩室の扉が開いた、おぎゃあ、おぎゃあ、とか細い声が、かすかに開いた隙間から、確かに聞こえた。

(うっ、生まれ――――)
「生まれたっ!」
 慌てて走り出す二人、視界の先には、微笑む母と、寄り添う父。
 産婆に抱きかかえられた、新しい家族の姿があった。

(男の子ですの!? 女の子ですの!)
(可愛い女の子だよ)
 顔を覗き込みながら問いかける姉に、父が答え。

(――――あら?)
 疑問の声が上がった。
 どうしたんだろう? と思いながら、美月もまたその顔を覗き込む。

「――――あ」
 美月の両親は、影狼と、黒狼。
 瞳は金、髪は黒、そのはずだった。
 声をなくした姉に割り込むように、美月は手をのばす。

「大丈夫ですよ」
  、、、、、、、、、、、、、、
 家族全員が漆黒の体毛を持つ中、
    、、、、、、、、、、、、、、、、、
 一人、白い髪を持って生まれてきてしまった妹の手を。
 しっかりと握って、微笑んだ。



「例え髪の毛の色が違ったって――――僕達は家族です、そうでしょう?」



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 これ以上見ていられなかった。
 正確にいうなら。

 これ以上見ているぐらいなら、死んだほうがマシだった。
                    、、、、、
 月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)は己の白髪をかきあげて、
 自らが望んでしまった理想の世界を粉々に砕いた。

「…………どうせなら全員黒い髪の幸せな世界にしてくれれば幾分マシでしょうに」
 それならまだ、自分が変わるだけで済んだのに。
 よりにもよって、自分のコンプレックスを。
 まだ口も聞けない妹に押し付けて、その上で認めて、受け入れてやるだなんて。

 傲慢にもほどがある。
 醜悪にもほどがある。
 これが、自分の願望だというのだからお笑い草だ。

「ええ、正直に言いますよ、欲しかったですよ、黒い髪が」
 家族と違う髪の色ではなくて、家族と同じ髪の色が。
 黒檀のような、黒曜石のような、暗くとも鈍く輝く、あの漆黒が。

「けど――ええ、そんな僕を」
 、、、、、、、、、、
 否定されたことなんて、一度もない。
 姉に言ってみたら、きっとはぁ? と首を傾げてこう言うだろう。

(…………そんな事、気にしてましたの? 馬鹿なんですの?)

「ええ、馬鹿なんですよ、姉さん」
 わかっていても、こんなことを思ってしまうほどには。

「この戦いが終わったら、ちゃんと家族と向き合う事も考えなきゃ」
 そうして、直視できなかった妹に、今度こそ会いに行こう。
 ちゃんと手を握って、言ってあげよう。

「………なんか死にそうなセリフだこれ」
 呟きと同時に。
 美月の前に、一人の青年が立ちはだかった。

『――――あなたが誰だか知りませんが』
 漆黒の体毛を持つ、人狼。
 もうひとりの美月が、牙をむき出しにして、こちらを睨んでいた。

『家族は――――僕が守る』
「…………一度は言ってみたかった格好いいセリフを、偽物に言われちゃいましたよ」
 まぁいいか、とすぐに思う。
 どうせ、誰も聞いていないのだし。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
             -鏡像の“日輪・美月”-

  月ではなく、正しく“日輪”であった美月の鏡像。
  漆黒の髪、耳、尾を持つ誇り高き人狼。
  別け隔てなく優しく、誰より誇り高く、そして己にコンプレックスを抱かない。

  美月が使用できる、影狼としての力を存分に振るう。

  勝利条件:鏡像の“日輪・美月”を撃破する。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
○1

(相棒の危機に間に合わなかった)
(今までも、救えなかったものは沢山)
(そもそも森から棄てられなければ。外の世界なんて知らなければ、こんな悲しみなど)
(あねごが欲しいと、貴女のようになりたいと、望みを抱かなければ)
(ただ無垢で無知なまま、森で幸せに)

(笑ってしまう)
(今や後悔には果てがなく
積み上げた泥の上から手を伸ばしてようやく
おれはキミに
ひとに、届いたのに)

記憶を持っているから、なんだ
同じ思い出があるから何だ
本物か偽物かはどうでもいい
「おれを置いて」
「いなくなったジャック」
をよこせ
怒らなきゃいけないんだ

それともお前が怒られるか
おれは手加減無しで怒るし灼く
ジャックなら、おれより強いから



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 6 】
    ▽ Forest Guard/Forrest Gump ▽
                《  ロク・ザイオン  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 森とは、一つの世界だ。
 野生の秩序がある、自然の法則がある、森には森の法律がある。
 それは万人が犯してはならない聖域であり、万物が従うべき鉄則である。

 森には守護者が居た。
 その領域に踏み入れたものを、乱すものを、何人たりとも許さぬ番人が。

 それはひとのかたちをしたけもの。
 それはけもののこころをもつひと。

 掟に従い、罰し、裁く。
 それは自然に従い生きているから、他のものは必要なかった。
 機能があればよく、そんな己に疑問を抱くこともない。
 完成された無垢だった。
 完結された無知だった。

 故に、絶対なる森番。

 そのけものは――――――。

 、、、 、、、、、、、、、、
 誰にも、出会うことはなかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 理想とは、つまるところ、“叶わなかった”ということにほかならない。
 ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)が心のなかに微かに浮かべた“それ”は、
 とどのつまり“ここに至らなければよかったのに”という後悔だ。

 森の中にいれば、こころが傷つくことはなかっただろう。
 森の中にいれば、手を伸ばそうと思うことはなかっただろう。
 森の中にいれば、救えなかった痛みを知ることはなかっただろう。
 自分の無力も、後悔も、ままならない現実も全て。
 無垢なままであったなら、自覚すら出来なかった感情の数々を。

 ロク・ザイオンは知ってしまった。
 なかったことには出来なかった。
 一度望みを抱いてしまったから。
 一度変わりたいと思ってしまったから。

 幾度となく“どうして”を積み重ねて。
 伸ばした手の先に触れたものが、やっと何なのかわかる気がしたのに。
 すり抜けていく、解けてゆく。
 結局、何も残らない。

 嫌だ。
 たまらなく嫌だ。

 “ことば”にならない、激情だ。

 ロクが振り払った刃は、“無垢なる獣”の首筋を一瞬で断った。
 何が起こったかわからないまま、森番が一瞬だけ抱いた理想の欠片は、血を吹き出して倒れ伏した。
 世界が壊れ、砕けていく。

 鏡面の向こうに、敵がいる。

「記憶を持っているから、なんだ」
 その姿を、ロクは知っている。

「同じ思い出があるから何だ」
 その力を、ロクは知っている。

「本物か偽物かはどうでもいい」
 その名前を、ロクは知っている。

「おれを置いて」
 お前じゃない。

「いなくなったジャックをよこせ」
 お前ではない。

「怒らなきゃいけないんだ」
 一人で行ったことを。
 この手がつかめない場所に行ったことを。

「それともお前が怒られるか」
 怒りだ。
 ここには、確かな怒りがある。
 無垢なままでは得ることのなかった、ロクのこころ、そのものがある。

「おれは手加減無しで怒るし灼く」
 なぜなら。
 ジャックは、ロクより強いから。
 例えこの刃を振るおうと。
 狩れぬ相手であることを、誰よりも知っているから。

 相対した豹躯は、ただ静かに砲塔を展開し、告げる。

『――――目標を撃破する』


▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
        -鏡像の“ジャガーノート・ジャック”-

  ユァミーをもってしてもイレギュラーな、“ロクの認識”が鏡像となった
  ジャガーノート・ジャックである為、実物よりも“ロクの印象”に即した能力を持つ。

  ロクの知らない力は使えないが、『ジャックならならこうできるだろう』という想像は、
  たとえ実物が出来ないようなことでも、してみせるだろう。

  勝利条件:鏡像の“ジャガーノート・ジャック”を撃破する。

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成功 🔵​🔵​🔴​

ティアー・ロード
◎【新たなる企み】2
「む?なんだか本当なら理想の乙女に会えた気がしたんだが……
ジョン、君のせいじゃないだろうね」

腕からジョンに抗議しつつ鏡の世界を観察するよ
まだ動くの面倒でね

「探索は賛成だが、エナジー不足でね……
仕方ない。詩蒲くんのを少し貰おうか」

修理中の詩蒲くんに留め具を刺して血を大体頂くよ
幸い詩蒲くんに先ほどの乙女の体液が付着しているからね
気分は誤魔化せる

「……んんー、ぼちぼち」

使用UC【刻印「仏心鬼手」】
運転席から確認した乙女を念動力でバスの内部へ保護するよ!
野郎?屋根でいいよね?
「ここは敵の世界、油断大敵だよ
偽物が混ざっているかもしれない……生徒も猟兵もじっくりと精査する必要がある!」


曾場八野・熊五郎
◎【新たなる企み】2
「おかしい……我輩の給食はどこでごわすか……」
捜索中につまみ食いしようと冷蔵庫から異世界に侵入

「首の皮が噛めないから運べないでごわす……トリニク、出番でごわすよ」
トトロのんーばっ!で改造リクロウを巨大化させる

「皆様、ダームーワルダクミ観光にお越しいただき、ありがとうごわします」
「まず右手をご覧ください。つやつやの肉球でごわす」
「左に見えますのは、3-A 信子。コーハイのミチオに盛ってるでごわす」
「正面を曲がりますと1-Cの公子が見えてごわす。同じクラスのマキコにお熱。発情期でごわすなー」
知恵ある獣の牙で抜いた情報と追跡で救助者へ導く美犬バスガイドになる


ジョン・ブラウン
◎【新たなる企み】2

「冷蔵庫の向こうは、鏡の国でした……っと」
冷蔵庫ワープによって人質の元へ直行した悪巧み一行

「あー、落ち着いて、サインは順番に頼むよ」
人質が居れば声をかけ、量子ストレージから取り出した食料や水を分け与える

「沢山あるから慌てないで……と言っても、こっちの世界に500人となると物資はともかく連れ歩くのも大変だね」
「衰弱してる人も多そうだし、何か乗り物でもあれば………」

「そうだリクロウ、怪我は大丈夫かい?リチャード、治してあげて」

「よし、運転手は僕だ、車体は君だ、リクロウ」

「ほらバス出して、連結して」

「よーし、ここ発オブリビオン着、人質の生徒経由超特急、間もなく発射いたしまーす」


詩蒲・リクロウ
◎【新たなる企み】2
仲間の為、身を挺したリクロウは負傷により意識を失っていた……。 い
「ここは……?」                 …起き……
かつて暮らしていた……              …おーい
そこにには両親や…          「いつまで寝ているのだ」

ヘブァ!?
ちょっとぉ!?こっち負傷者なんですよ!?もっと優しく……
いや、待ってください、その治療は嫌です!ぎゃー誰か助けて!!侵される!!!

ちょっとなんかト○マスにみたいなフォルムになっちゃってるんですけど!
あ、まって乗らないでくすぐったい…あふん。

あーもう!出発しますよ!

……よく考えれば特にいまに不満も後悔もないですね、僕。


リチャード・チェイス
◎【新たなる企み】2
やはり一人暮らしであっても冷蔵庫はある程度のサイズを確保すべきであろう。
このようにワープには最適な機材なのだから。

若きシャーマンゴーストよ、いつまで寝ているのだ。
その為体では学生達の失笑を言い値で買うことになる。
そして運搬の問題も解決する一石二鳥の礎となるのである。

ヘラジカが巨大な角を振り回し、巻き起こる圧倒的治療の嵐。
殴打され、踏み潰され、捩じ切られ、出来上がるのは列車リクロウ号。
生徒を収容しバスも連結可能。線路がなくてもなんその。
無理にでも進め、夢の超特急リクロウ号!

生徒は鹿が丁寧に普通の治療をします。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 7 】
    ▽ Happening Monster???/Happening Monster!!! ▽
                《  新たなる企み共  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「やはり一人暮らしであっても冷蔵庫はある程度のサイズを確保すべきであろう。このようにワープには最適な機材なのだから」
 普通、冷蔵庫はワープしない。しかしそれを突っ込むものはここには居ない。
 リチャード・チェイス(四月鹿・f03687)の語りを聞くのは、一クラス分以上は居るであろう、鏡の世界に拉致された生徒たちだった。

 探してみれば、すぐに見つかった。元より拘束などをされてはいなかったのだ……そもそも逃げ場がないのだから。
 誰も彼もが衰弱し、やつれている。気力も体力も使い果たしているが、それでも助けが来たことに、彼らはわ、と喜びの声を上げた。

「あー、落ち着いて、サインは順番に頼むよ」
 ジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)が順番に、量子ストレージ……電脳空間に蓄えておいたパンと水を配ると、
 のそのそと緩慢な動きで食べ始める、そんな有様だった。

「私が来たからにはもう大丈夫だ、乙女達。涙を流さなくて良いとも。家に帰れるよ」
 ティアー・ロード(ヒーローマスクのグールドライバー・f00536)の言葉に、ボロボロと泣き出す少女もいれば、
 現在の境遇について悪態をつく生徒もいる。共通しているのは、彼らの消耗は激しく、早く救助……この世界の外に出さねばならないということだ。

「ていうかティアー、何してんの」
 引き続き食料を配りながら見やった先、ティアーは倒れ伏す巨躯のシャーマンズゴーストにひっついていた。
 何か、ずるるる、と吸い上げる音も聞こえてくる気がする。

「うん、エナジー不足でね。詩蒲くんの血をわけてもらっている所さ」
「僕の気のせいじゃなければすげぇ勢いでやつれてる気がするんだけど。ていうかリクロウの血は有りなの?」
「先ほどの乙女の体液が付着しているからね、気分は誤魔化せる。不味いけどね」
 とても生命の象徴を吸い上げている者の発言とは思えない。ついでに顔色がみるみる悪くなっていくしもうダメかもしれない。

「若きシャーマンゴーストよ、いつまで寝ているのだ」
「多分このままだと永遠に起きないと思うけど……」
「それは困る。その為体では学生達の失笑を言い値で買うことになる。先物取引の失敗は大きな損失故、ここは鹿に任せるのである」
「あー、じゃあ頼んだ。つか僕も昼飯食いそこねてたな……パン食べとこ」
 あっさりとリクロウを鹿に委ねて、パンの袋を開けるジョンを尻目に。

「でてきてちょーーーーーーーーーーーーーー!」
 リチャードの高らかな叫びとともに、どこからかのっそりと、一頭のヘラジカが出現した。

「これより巻き起こるは圧倒的治療の嵐、そして運搬の問題も解決する一石二鳥の礎となるのである」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 突然だが、詩蒲・リクロウ(見習い戦士・f02986)は死の淵をさまよっていた。
 無理もない、攻撃を一身に受けただけでなく、残ったエネルギーも主に涙の支配者に吸われたからだ。
 つまりほぼ味方のせいだがまぁおいといて。

 仲間たちをかばって引き受けた傷は思いの外深く、意識は微睡みに導かれるまま深く深く沈んでいく。
 つまりは死、デッド、ダイ。

「ここは……? ああ……(――――起き……)懐かしい景色……」
 畑で作物の種を蒔く両親の姿……そびえ立つ案山子……ジャングルの掟……。

「そうか……ここは(―――おーい……)僕の故郷……」
 今年は人参がよく育って……玉ねぎも……ディガ・ノブレブルボーモガも……

「後なにか……そう……懐かし(――仕方ない、緊急手術であるな)……さっきからなんかうるさいなもー――――おぶぇっ!?」
 腹部に激しい衝撃を受けて、リクロウは速やかに微睡みの世界からカム・バックした。
 おかえりリクロウ、さよなら理想の夢の世界。
 滅んだ故郷よ、よく考えたら今の回想は絶対この国のものじゃない。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ボキゴキゴゴゴゴゴキッゴリゴリゴリギャギャバキグゴガガガガギゴギゴギゴゴリッガガガガ。

「あ"ーーーーーーーーーーーーー!! あ"ーーーー! シャーマンズゴーストの関節はそっちには回らな"ーーー!!」
「すげぇ音してるけどあれダイジョブ?」
 ジョンが比較的どうでも良さそうに尋ねると、リチャードはうんうんと頷いて応じた。

「改造は無事に進んでいるが?」
「リクロウが無事かどうかを聞いてるんだけどね?」
「おっと、それは意見の相違であったな。以後すれ違わぬよう気をつけるのである」
 冷蔵庫から拝借した午前の紅茶(ミルクティー)を優雅にすすりながら、リチャードは改造が進行していくのを、また静かに見守る。

「いや会話終わっちゃったよ。いや実のところは平気なんだろうけど」
「うむ。自我と意識が残っていればそれはリクロウであるのでどのような形であってもあれはリクロウと呼べるのであるな」
「オッケーこれ以上はやめとこう、踏み込む必要がないときは踏み込むなってキャシーが言ってたもんでね」
「あごえぼえぼー!!!!!!!!!!!!!」
 果たして、突如乱入したヘラジカによって無限に暴力の限りを尽くされていたリクロウは。

「――――うわぁあああああああああ僕の体が列車みたいになってる!!!!」
 リクロウの形状はいわば羽毛の生えた連結トロッコ。
 さながら某国民的鉄道アニメーションのごとく、リクロウの顔だけが車両正面に張り付いていた。

「馬鹿!!!!」
「あいたっ!」
「みたいじゃなくて、列車なのであるな」
「イヤッタァァァァァァァァァァァァァァァァァァ私鉄開通ダァァァァァァァァァァ」
 WR(悪巧みレール)リクロウ号の開通によって脱出経路と生徒救出の二つを確保する、まさに鹿がなせるファインプレー。

「じゃあリクロウ、バス出して。連結するから」
「おっとなるほどつまり僕が車体で?」
「運転手は僕だ、コンビプレイで行こう」
「バスだけでよかったんじゃないですか?」
 もっともな疑問である。それに生徒たちは結構な大人数だ。バス一台でも厳しいし、リクロウの中に突っ込めたとしてもなかなか厳しい。

「それなら策があるでごわす。任せるでごわす」
 どうしたものかと悩んでいた所に、顔を出したのは曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)であった。

「……どこから?」
「我輩の分の給食をもらいに冷蔵庫を漁ってたらここに来たのでごわす」
「やべぇ合流の仕方したな……」
「とにかく、トリニクの事は任せるでごわす。我輩、畜生であれば巨大化させられるでごわす」
「いや列車は無理じゃない?」
「地に足がついているでごわすよ」
「そのカテゴリ訳で行くと僕も畜生じゃない?」
「そうでごわすが」
「ティアーは?」
「布でごわす」
「ナルホドね?」
 さて、もふもふの犬こと熊五郎は肉球を大きくあげたり下げたりする。

「んーばっ! んーばっ!」
「アババババババババババババ」
 その効果は絶大だった。理由はよくわからないが、リクロウと連結された車両がみるみる巨大化していくではないか。
 問題はここが屋内であることだが壁を破壊してスペースを確保したので相対的に問題はなくなった。ひどい有様だ。

「あとは詰め込めば入るでごわす」
「オッケー乱暴で素晴らしい。よっし、じゃあ順番に乗って乗って。ほらそこ、慌てない慌てない」
 ジョンの先導にしたがって、生徒たちが次々とリクロウ号(人権無視)に連結されたバスへ乗り込んでいく。
 目の前で起きていることが現実だとイマイチ認識できていないのだろう、単に疑問を抱く体力も残っていないのかも知れない。
 彼らもこれが何なのかわかってないし、ジョンもわかってないが、まぁそういうものだ、なんとかなる。

「皆様、ダームーワルダクミ観光にお越しいただき、ありがとうごわします」
 生徒たちが乗り込んだことを確認してから、熊五郎は二足歩行で立ち上がりバスガイド犬を始めた。

「まず右手をご覧ください。つやつやの肉球でごわす」
 つやつやの肉球を示され、憔悴した生徒たちが更に疲れた顔をした。

「左に見えますのは、3-A 信子。コーハイのミチオに盛ってるでごわす」
 ぶふっ、と誰かが吹き出した。当事者よりも周りにいる人間が焦っている。ここが地獄だ。

「正面を曲がりますと1-Cの公子が見えてごわす。同じクラスのマキコにお熱。発情期でごわすなー」
 誰かあの犬黙らせて! と叫んだ。止められない。どうしようもない。

「ふむ、助けた生徒はこれで全員かな? では速やかに脱出――――――」
 しよう、と最後までいい切る前に。
 がたん、と校舎全体が揺れた。
 ミシミシギシギシと、建物がきしむ音は、まさか地震ではないだろう。
 そもそも、この空間そのものが、オブリビオンが作り出した領域だ。
 ある程度、中を把握できるし、形状を変えることもできるのだろう。
 オブリビオンにとって最も恐れるべきは儀式の失敗。
 すなわち……生贄の不足。
 逃がすわけには行かない。
 ねじ曲がり始めた眼前の空間と揺れが、それを示していた。

「オッケー、これはつまりカーチェイスってことだね?」
「であるな。ならば改造の成果を出すしかあるまい。無理にでも進め、夢の超特急リクロウ号!」
「よーし、ここ発オブリビオン着、人質の生徒経由超特急、間もなく発車いたしまーす」
「ハイヨーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 線路がなくとも床を掴み、リクロウ号がいざ発車。
 壁に車体をぶつけて、大きく揺れる。きゃあ、ひぃと悲鳴が上がる。

「皆様、非情に揺れるのでつり革にお捕まりごわす」
「「「「ねえよそんなもん!!!」」」」
 登場者全員の叫びが一致した。

「――――大丈夫だ、任せ給え!」
 運転席のジョンの腕に巻き付いていたティアーが叫ぶ。

「私の念動力で乙女達は保護する! 傷一つつけさせはしない!」
「男子は?」
「知らん!!!!!」
「気合い入れろよ野郎共!」
 ジョンの悲鳴のような声に、ぎゃぁ、という悲鳴が返ってきた、よし大丈夫そうだ。

「――――問題はこのサイズじゃ冷蔵庫を通れないってことなんだけどどうする!?」
「プールだ、プールに迎え!」
 ハンドルを握るジョンに、ティアーは地下を指して叫んだ。

「あそこがこの学園で最も巨大な“鏡面”だ! あそこから外に出る!」
「わざわざ出入り口にしてくれると思うかい!?」
「なあに」
 ジョンのもっともな疑問に応じたのは。

「一度通った道ならば鼻さえ効けば忘れぬのが鹿である故」
 リクロウの治療を終えたヘラジカに乗って並走する、リチャードだった。

「そんなもん、無理やりこじ開ければよいのである」

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 第三章 BOSS
            -鏡面世界・カーチェイス-

  リクロウ号に人質となっていた生徒たちを詰め込んで、脱出を図る。
  物理的にリクロウ号が到達・通行できる出入り口となるだろう鏡面は、
  地下にあるプールぐらいのものだろう。
  ユーベルコードで現在地から直接表の世界に脱出するのは、どうやら不可能らしい。

  道中、鏡という鏡から敵が出現したり、通路が複雑に切り替わったりして君たちを逃すまいとする。
  壁が圧縮してリクロウ号を押し潰そうとしてきたり、生徒狙いの攻撃が行われることもあるだろう。
  正しいルートを見つけ出し、敵の攻撃を掻い潜り、無事に脱出しなければならない。

  勝利条件:生徒たちを連れて鏡面世界から「脱出」する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

富波・壱子
理想:モノではなく普通の女の子としての人生
ただし他の道を選びようが無かったので、自身の過去の行いに後悔や罪悪感はあんまり無い。犠牲者への哀悼の念はある

誰も傷つく人がいなくて、首を隠したりしなくてもよくて、薬に頼らなくてもいつも元気でいられて、『私』だってもっと素直に泣いたり笑ったり、たまに恋なんかもしちゃったりして
そんな人生だったら、素敵だね。きっとすごく幸せだと思う。でもね

いつか、名前すら持てず死んでいったあの子たちの誰かが願ったの
忘れないで、憶えていてって

UCを発動、理想の人生には存在するはずがない影法師との接触を起点に偽物の世界を脱出するよ

大丈夫、忘れてないよ。たぶんこれは、その為のUC



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【 PART 8 】
    ▽ Solo / Twin ▽
           《  富波・壱子  》
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 朝、目が覚めると、ぞくりと、つま先から背中を駆け抜けるような悪寒に襲われた。

「ん、んんー!?」
 風邪でもひいたのだろうか、昨晩、そんなに寒かったっけ?
 布団から這い出ると同時に、スマートフォンが設定されたアラームを鳴らした。
 いつもいつも、起床してから数秒後に音を出す、意味があるんだかないんだかわからないそれを律儀に止めて。

「はぁ……変な夢見たなぁ」
 癖のように、喉元に指を伸ばす。別段、何があるわけでもないが、ひやっとした感触が伝わってきた。
 風邪かどうかは置いといて、どうやら本当に汗をかいていたらしい。
 寝苦しくはなかったはずだが、気持ちの悪さは拭えない。

「……シャワー浴びよ」
 高校に入学してからは、アパートでの一人暮らしだ。
 朝の時間にどれだけ浴室と洗面台を専有しようと、文句を言う親は居ないのだ。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

(おっはよー!)
「おはよー!」
 教室に入れば誰かが挨拶をしてくれる、壱子もそれを返す。
 隣の席の友達と、ダラダラと益体もない話をして、今日の数学の授業は自分が指名される日付であることに気づいたりする。

(ていうか、■子、どうなったのよ)
「へ? 何が?」
(はー? 誤魔化す気かぁー? バスケ部の先輩! 誘われたんでしょ?)
「あ、ああ、その話かぁー、えーっとねぇ」
 先週のことだ。イケメンで有名なその人に呼び出されて、何かと思えば、次の土曜日に遊びに行かないかというお誘いだった。
 顔と名前を知っているぐらいで、親しいわけでもないのだが、気取った風でもなくて、むしろ緊張した面持ちに、つい笑ってしまったものだ。
 だから返事はもちろん…………。

「い、一緒に遊園地に……いこっかなー、なんて」
 口にしてみるとなんだか気恥ずかしい。顔に熱がこもってくる。
 その様子を見た友達は、もはや悪鬼羅刹の行そうだ、鬼畜生だ。

(そこまで言うか!?)
「口に出てた!?」
(っかぁーー!! アンタ今日放課後アイスおごりね!)
「ええー!? なんでよ!?」
(幸せをおすそ分けしろってんだよ!)
 この高校にしてよかった、と思う。
 地方から出てくるのだって勇気がいったけれど、毎日が楽しい。
 そりゃあ、不便も辛いこともあるけれど――――。

「えーっと、そうだ、薬薬――――」
(あれ? 薬なんて飲んでたっけ?)
「ん?」
 そうだ、そもそもそんなもの、服用してなかった。
 なんだか、つい習慣になっている気がしてしまっていた。
 なぜだろう?

(――――――――)
 ふと、誰かが真横に立った。日を遮って、影になる。
 座りながら見上げると、不思議なことに、顔が見えなかった。
 いや。
 顔がなかった。

「………………え?」
(どったの?)
 友達が言う。首を傾げながら、その違和感に気づきもせずに。

「あ――――――」
 反射的に。
 ■子は、首元に手を伸ばした。
 、、、、、、、、、
 チョーカーに触れる。

 それが、そこに在る事が確定した時点で、この世界の存在意義は崩壊した。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ……楽しかったな、と思う。
 ……素敵だったな、と思う。
 ……甘酸っぱいデートになったんだろうな、と思うし。
 ……このままでいたかったな、と思わなくもない。

 だけど、そうはならない。
 そうはならないのだ。

 だって、彼らがここに居る。
 この子達が、ここに居る。
 それは、つまり、そういうことだ。

 大丈夫、忘れてないよ。

 わたし達のことを、忘れられるわけがないよ。

「ごめんね、行こうか」
 影法師たちが立ち上がる。
 世界が、壊れていく。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『あなた……誰? わ、私?』
 相対する少女は、鏡写しのように、同じ顔をしていた。
 きっと何も知らないのだろう。
 きっと何もわからないのだろう。
 オブリビオンの力で作り出された、理想の鏡像は、その役割を果たしているのだろう。

『ちょっと……、こっち、来ないでよ! 誰か、誰かいませんか――――』
 敵と呼ぶにはあまりにも非力で。
 自分と呼ぶにはあまりにも違う。

 けれど――たしかに望んだから、生まれてしまった、普通の少女。
 それが、今、富波・壱子が倒すべき、敵の姿だった。


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 第三章 BOSS
         -鏡像の“富波・壱子”-

  普通の少女として生きた、富波・壱子の鏡像。
  多重人格を持たず、個人の精神性のみを有する、普通の少女。

  武器を向けられれば怯えるだろう。
  傷つけば泣きわめくだろう。
  殺そうと思えば、抵抗なく殺せるだろう。

  すなわち、この世界を抜け出し、オブリビオンを倒すためには。
  主観における“ただの少女”を、殺害する必要がある。

  勝利条件:鏡像の“富波・壱子”を撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル
○1)わたしの理想の世界……
わたしがくさくなくて
きたなくもなくて
独りぼっちじゃなくて
家族とかお友達とか、大好きな誰かと一緒にいられる世界
きれいなものの一部として、わたしがいられる世界

……うん。すっごくすてきだね
だけどたぶん、この世界は
わたしが汚れなくてもいい世界は
わたし以外の誰かが、代わりに汚れなきゃいけない世界だと思うから
きれいなものの陰には、必ずきたないものもあって
どんな世界でも、それは変わらなかったから

だったらわたしは、わたしが汚れる方が良い、よ
だってわたしは、その為にいるんだもんね

こんな事を言うのは、変かも知れないけど
ありがとう。きれいな夢を見させてくれて
だけどもう、目を覚まさなきゃ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 9 】
    ▽ NoTouch / One Touch ▽
           《  アイシス・リデル  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 そよ風が、柔らかな草を揺らす時の音ほど、心地よいものはない。
 そこにころりと寝転んで、おひさまを全身で浴びることほど、気持ち良いものはない。
 つまりは、とても綺麗なものに囲まれている。

「えへへ」
 自然の暖かさを思う様満喫しながら、ごろごろ
 悪い夢を見ていた気がする。
 だって、ここは暗くない。
 だって、ここは臭くない。
 こんなに、こんなに心地よい。

(こおら、アイシス、服が汚れてしまうわよ)
 だって、ここはひとりじゃない。
 だって、ここはさみしくない。
 ■■■■■がいるんだもの。

(ほら、こっちにいらっしゃい、お花の冠を作ってあげる)
 ■■■■■の呼ぶ声がする(そんなの居たっけ?)。
 白い花と、蔓で編んで作った、とってもきれいな宝物(きれいなものはすきだよ)。
 頭に乗せてもらえば、胸がこんなにも温かい気持ちで満たされる(だけどそれはちがうよ)。

「…………あれ?」
 一切の汚れのない、ぷにぷにとした、透き通った自分の手を、■■■■■の指に絡めて。
 あるき出した所で、“それ”が目に入った。

 薄汚れた、子供だった。地面を這いつくばって、草をかき分けて、何かを探している。
 虫だった、青々とした、土にまみれた芋虫だ。 
 ぷっくりと膨らんで柔らかいそれに、子供は無言でかぶりついた。
 きっと、お腹が空いているのだろう。
 食べるものがないのだろう。
 うぇ、と何か吐き出しそうな音を喉の奥から出して。
 それでも、子供は咀嚼をやめなかった。

(……ああ、気持ち悪い、なんて汚いのかしら)
 ■■■■■は、とてもとても、おぞましいものを見る目で。

(行きましょう、アイシス、見てはダメよ)
 汚いものから、目を背けて。
 手を引いて、行こうとする。

 だから、アイシスは思った。
       、、、、、
 ああ、ここは違うんだなと。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

「すっごく、すてきだね」
 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は、きっと心の底からそういった。
 疑うことなく、臆すことなく、体験した理想の世界を、美しいと認めた。
 けれど、だからこそ、彼女はそこには居られなかった。

 だって、アイシスがきれいなものであるということは。
 他に、きたないものがあるということだから。

 自分の指を見る、汚泥と汚水でできた、臭く、汚い、穢れた指を。
 けれどその混沌は、世界からはじき出されたものを、受け止めてきた証明だ。

 何かがきれいになるためには、何かが汚れないといけない。

 その天秤が崩れることはない。どんな世界にも、どこにもない。
 たとえ理想の世界であっても、アイシスが正気を取り戻すには、十分だった。

「だったらわたしは、わたしが汚れるほうが良い、よ」
 アイシス・リデルという少女の本質は。
 穢れを禊いで、その内に取り込んだ時。
 世界を少し綺麗にできたことを喜べる、その誰よりも優しい心にある。
 ぽたり、と透明なしずくが落ちてきた。
 それは、うねうねとうごめいて、アイシスと同じぐらいの大きさの、アイシスと同じような少女の姿になった。

『……あなたはだあれ?』
 問いかけに、アイシスは少し考えて。

「わたしは、あなたになれなかったわたし」
 続けて、自分を指差して。

「あなたは、わたしになれないあなた」
 そういって、笑った。

「ありがとう。きれいな夢を見させてくれて」
 こんな事を言うのは、おかしいかも知れないけれど。

「だけどもう、目を覚まさなきゃ」

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 第三章 BOSS
          -鏡像の“アイシス・リデル”-

  穢れを知らない、透き通った体を持つ、“きれい”なアイシス。

  アイシスが持つ浄化能力を、汚れていない分、最大限に駆使することが出来る。
  本人の固有の性質を比べるのであれば、個体としての強さはアイシスに勝る能力を持つが、
  “これから汚れていく”事に関しては、この鏡像は耐えきれないだろう。

  いくら鏡写しの理想と言えど、その精神性だけは模倣することはできなかったようだ。

  勝利条件:鏡像の“アイシス・リデル”を撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
①◯
『で、今回は何倒すって、翔?』
『話聞いてなかったのゴッちん。邪神だってさ』
『まぁオレらなら大丈夫だろ、なぁジャック』

(4人揃っていつもの作戦会議。"時計頭に一丸となって立ち向かい"、そして勝ち得た力で今日もヒーローらしく世界の為に戦う。
白峯も。鷲野も。ハルも欠けずにいる。誰も殺さず誰もを救えた、理想的なif)

けど、"そうはならなかった"んだよ。

(もし僕にもっと誰かを思い遣り、信じ、誰もの為に手を差し伸べる心があれば有り得ただろう。けど)
その選択肢は選ばれなかったんだ。だから、この話は此処でお終いだよ。
(何度も似たような事は味わった。経験則から脱出方法を予測し実行する)

さよなら、理想の世界。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 10 】
         ▽ Hello/Hal ▽
                  《  零井戸・寂  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(つーかゴッちん、家帰んなくていいの?)
 ゴッちんの手札を引いて、揃った二枚を見せてから、鷲野はひょいとそれをテーブルに積まれたトランプの山に捨てた。
 両手を空にする、あがりの合図だ。

「ほら、最近ゴッちんの家、“お客さん”がよく来てるから帰りづらいんじゃない、はいあがり」
 続けて、ゴッちんが僕の手札を乱暴に取る。ジョーカーだ。
 それで僕の手札が無くなったので、勝負は最後の二人のものになった。
 げ、と顔をしかめて、それからくそぉ、と手札をシャッフルしだす。

(うるせぇなぁ! 俺はぜってぇ認めてねぇからな!)
 声を荒げてながら、今度はそれをハルに向かって突き出した。あーあー、と納得したように頷きながら。

(親の再婚は難しいよなぁ……でも幸せなら良いと思うよオレは)
 迷うことなく右のカードを引いて、にたりと笑ってカードを山に捨てた。

(ていうか、三連敗はすごくない?)
「運が無いんだよねぇ」
(女っ気もな)
(それはお前らに言われたくねえよ!)
 そりゃそうだ、と誰かが言って、皆で笑った。

(――――っと、“蜜蜂”から連絡だ。案件、来たぜ)
 鷲野がそういうと、弛緩していた空気が引き締まる。

(っだぁぁぁ、この怒りは邪神にぶつけてやる……! 翔! 場所はどこだ!)
(芽森野三丁目、幼稚園バスをジャックしたやつが居る。………………。)
「なんで僕の方を見るんだよ! ――――状況は?」
(かなりやばい、運転手が邪神の手先らしくて、このままだと――――)
(このままだと?)
 ハルが、僕の代わりに質問してくれた。鷲野の頬に、珍しく冷や汗が伝った。

(……三十五人、ビルに突っ込んで全員死ぬ)
(――……上等だ)
 ゴッちんが拳を鳴らし、それを合図に僕たちは立ち上がった。

(鷲野、ゴッちん連れて先行してくれ、挟み撃ちにする)
 ハルが言うと、鷲野は肩をすくめて、ゴッちんはち、と舌打ちする。

(はいはい、まーた重たいのを運ぶ仕事だよ)
(そりゃこっちのセリフだっつの、もう落とすんじゃねえぞテメェ)
 軽口を叩き合いながらも、そこには確かな信頼がある。
 命を預け合える、仲間への。

(ジャックはオレを乗せて、鷲野から位置情報を受けて追跡……行けるか?)
 それはもちろん……僕と、ハルにも。

「当たり前だろ、ハル。――――行こう皆」
 全員が、それぞれデジタルデバイスを取り出した。
 横にずらせば、それは心臓を示す形となって――――。



 ――――正規アクセスを検知、Stand-by――――

 ――――――心の臓を捧げますか?――――――



 Yes、の声が、重なって――――――。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「――――はは」
 零井戸・寂(PLAYER・f02382)は、苦笑して、歩き出すクラスメート達の背中を見つめたまま、立ち止まる。

 こうだったらいいな、と思った景色だった。
 そうだったらいいな、と感じられた時間だった。

「けど、"そうはならなかった"んだよ」
(――ジャック?)
(おい、シズカちゃん、何してんだよ)
(さっさと準備を――――)

「……選べなかったんだ、僕たちは」
 それでもこうして夢想するぐらいには、後悔があるんだろう。
 あの時ああしていればを、なんど繰り返しただろうか。
 もう十分だ。
 もうわかってる。

 そうはならなかった。

 それが、答えだ。

 だから、この物語は、ここでおしまいなのだ。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『勝手に終わらせるなよ』
 …………終わったはずの物語なのに。

『……お前はジャックじゃない。それは確かだ。けど、親友の顔をしてるやつを殴りたくはないからさ』
 その腕に、星の燐光が収束していく。
 まばゆく輝く、それはヒーローの証。

 世界には二人しか居ない。
 零井戸・寂と。
 その理想が生み出した、鏡像、偽物。
 だけどそれは――――――。

『――――さっさと変われよ、ぶん殴ってやるからさ』
 本人が抱いた理想故に、何よりも本物らしく、振る舞うのだ。


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 第三章 BOSS
         -鏡像の“ジャガーノート・ハーレー”-

  零井戸・寂達が手を取り合って“勝利”した、理想の世界から
  鏡像として生まれた“ヒーロー”。

  鏡像は君を“偽物”の零井戸・寂だと認識している。
  パートナーとして、ライバルとして、
  そして何より親友として――君のことを想っているからこそ。
  その姿をかたどる別物を、許すことはないだろう。

  鏡像は、君の認識下における能力しか持たない。
  すなわち、獣をもした機構ではなく。
  星を宿した輝く腕を持つ――――ただのヒーロー。

  勝利条件:鏡像の“ジャガーノート・ハーレー”を撃破する。

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成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
〇1

故郷を、あるべき姿に
自由だ
欺瞞による支配は無くなり、格差は消え去り、誰もが自由に、尊厳を害されずに生きられる
誰もが俺"達"を、革命の英雄と崇めた
夢を叶えたんだ、皆で!
こんなにも嬉しいことはない!セオドアが掲げた理想は現実になった!
どこにも哀しみが無い、死が存在しない、理不尽な暴力の無い世界だ
良かった、あぁ良かった────

違う
そうじゃあ、無いだろう
俺が、この可能性を破壊した
そうだ!俺自身が!幸福を破壊した!!

見ない振りをしてんじゃねえよ
ぬるま湯に逃げてんじゃねえよ
裏切り者風情が、幸福を貪るな!

虚無よ、来たれ
こんなクソッタレな幸福ごと、全てを呑み込んでくれ
罪人にはこの世界は…眩しすぎるんだよ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 11 】
       ▽ Last Winter/Lost Winner ▽
              《  ヴィクティム・ウィンターミュート  》
///三///三///三///三///三////三///三///三///三///三///三///三

 わぁああああああああああああああああああああああああ――――――――。

 歓声が、止むことなく街全体を包み込んでいた。
 無理もないだろう、ついに革命は成し遂げられたのだから。

「よかったろ? アイツらに下るなんて真似しなくてよ」
 言葉を告げる相手は、今この場には居ない。
 戦いの末、命を失った――――――なんて訳ではなく。
 革命の功労者にして英雄であるセオドアは、これからやらなくてはならない仕事が多すぎるのだ。
 一足先に離脱して、ゴミ共が汚れた金で積み上げた高いビルの上から、歓喜の喧騒を――――。
 つまりは、勝利の美酒を楽しむ、何という贅沢だろうか。

(――――全部ウソだったって事だろ!? 俺たちをコケにしやがって――――!)
 《ウィンターミュート》のアジトに響いた怒声は誰のものだったか。
 革命の正義は、つい先程まで失われようとしていたのだ。
 街を支配するクソッタレなメガ・コーポの支配階級共が企んでいたのは、
 簡単に言えば革命軍に対する“買収”だった。
 抵抗を続けられるよりは、それだけの力を持った集団をまるごと“買い上げた”ほうがどちらの理にもなる、という。
 どこまでも合理的で、どこまでも実務的で、どこまでも現実的な提案が成され――――。

 それに転びかけたところを、ヴィクティムが止めた。

「罠だった――――罠に決まってるだろ、俺たちを一網打尽にする」
【本当にそうか?そう思いたいだけじゃないか? 笑わせるな、お前は失敗したんだ】

「だけどそれが隙さ――そうだろ? バグを仕込むにゃ十分だ――手を広げるふりをしてくれた、それだけでいい」
【先走ったクソ野郎。後戻りできなかったクズ野郎。裏切られたのはお前じゃない、アイツラの方だ】

「でかい図体が仇になったな、ドラゴン。お前らは俺たちを舐めすぎた。ああ、でも、少し残念だな――――」
【舐めていたのはどっちだ? 相手の大きさが見えなかったか? 鱗一枚剥がした程度で、全部が見えたつもりだったか?】

「――――もうすぐ、静かな冬が終わる。春が来ちまうよ、ったく」
【そんなものはこない。全ては雪に埋もれた。もう誰も喋らない、お前以外は】

「――――乾杯」
【ファックオフ】

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 バヂ、と火花が散る音は、あろうことから人間の顔から聞こえてきた。
 だらり、と流れた血涙は、神経を焼き切った反動だ。
 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)は、嘲笑った。
 嘲笑って、嘲笑って、嘲笑って――――叫んだ。

「違う――――そうじゃあ、無いだろう!」
「俺が、この可能性を破壊した! そうだ! 俺自身が! 幸福を破壊した!!」
 笑い声はすべてが潰えた。
 何も救われなかった。

「見ない振りをしてんじゃねえよ! ぬるま湯に逃げてんじゃねえよ! 裏切り者風情が、幸福を貪るな!」
 許されない、たとえ夢想であっても。
 こんな景色を見る権利など、男にはない。

「――――――虚無よ、来たれ」
 だから終わらせる。
 世界そのものを虚無に還すバグ・プログラム。
 躊躇わずに、コマンドの実行した――見てられなかった。見ていたくなかった。

 なのに。

「――――何?」
 プログラムが、途中で停止した。
 理由は簡単だ。

 、、、、、、、、、、、、、、、、
 即座に対抗プログラムを組み上げて、実行した奴がいる。

『――――させるかよ。やっと掴んだ平和なんだぜ』
 それは、当然のように現れた。
 否定しきれなかった、こうあってほしいと望んでしまった。
 故に鏡像は現れた。

 目の前にいるのは英雄だ。
 革命を成し遂げた戦士だ。
 つまりは――――――。

『――――たちの悪いバグだ、消してやるよ、雪の下で眠れ』
 鏡像の、“ヴィクティム・ウィンターミュート”。

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 第三章 BOSS
       -鏡像の“ヴィクティム・ウィンターミュート”-

  理想の世界を作るために戦い、ついに成し遂げた革命の英雄の一人。
  故に、今まさに、そのあり方を破壊しようとする者を。
  すなわち――自身の鏡像を、この英雄は許すことはないだろう。

  確実に殺さねばならぬ敵として認識し、
  ヴィクティム・ウィンターミュートが持つ、全てを駆使して向かってくる。

  差異があるとするならば――――鏡像のヴィクティムは、罪を犯さなかった。
  失敗しなかった。間違わなかった。

  “裏切らなかった”。
  “先走らなかった”。
  そして、“逃げ出さなかった”。

  故に、敗北者しか知り得ぬ事は、想像の埒外だろう。

  勝利条件:鏡像の“ヴィクティム・ウィンターミュート”を撃破する。

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苦戦 🔵​🔴​🔴​

シエナ・リーレイ
2)
■アドリブ絡み可
かくれんぼうがしたいんだね!とシエナは『シエナ』の考えを察します。

鏡の世界へ自ら足を踏み入れたシエナ、スカートをたくし上げると沢山の動物の『お友達』を呼び出します

シエナは『シエナ』の憐みの言葉を気にしません
そんな事よりも『親愛と好意を注がれず壊れなかったシエナ』が可哀想だという想いで一杯なのです
一人寂しく呪殺を続けているであろう『シエナ』を『お友達』に迎える為にシエナは探し始めます

わたしじゃなくて『シエナ』だよ。とシエナは苦笑します。

『お友達』も『シエナ』を探すという願いに困惑しながらもシエナの匂いを頼りに[失せ者探し]の要領で『シエナ』を探そうとするでしょう



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 12 】
         ▽ Mirage Dress/Errors Dance ▽
                  《  シエナ・リーレイ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 ――――鏡像は。
 本人の深層意識や願望を読み取り、それを元に作り出す。
 一度作り上げてしまえば、あとは勝手に動く、それを作り上げたオブリビオンの意思は関係ない。

 人間は、自分の理想にかなわない。
 人間は、自分の願望に逆らえない。
 故に、鏡像に勝てるものは居ない、というのが、今回の事件を起こしたオブリビオンの考えだが――。

 では。

 鏡に写したものに、理想なんてなかったら。
 鏡に写したものに、願望なんてなかったら。
 そもそも、最初から壊れていたら。

 何が出来上がるのでしょう。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「かくれんぼうがしたいんだね! とシエナは『シエナ』の考えを察します」
 シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)の視界にあるのは、背中を向けて逃げるお友達です。
 シエナがスカートをたくし上げると、たくさんの『お友達』がずるずるとこぼれ落ちて、前を行ったり、後ろからついてきたりします。

「シエナは『シエナ』の憐みの言葉を気にしません」
 だって、むしろ可愛そうなのは『シエナ』の方なのです。
 なにせ、『シエナ』はまだ壊れていません。
 それは、『シエナ』に愛も好意も注がれていないという意味です。
 なんて可哀想なのでしょう、なんて悲しいことなのでしょう。

 だからシエナがたくさん、それをあげるのです。
 だからシエナが、『お友達』になってあげたいのです。

 そんな気持ちで胸がいっぱいですから、シエナには『シエナ』の様子がよく目に入っていませんでした。

 『シエナ』は逃げています。
 『シエナ』は恐怖に怯えています。
 『シエナ』は鏡像です。
 『シエナ』はシエナから生まれた鏡写しのニセモノです。
 だから、ホンモノと対面するまで気づきませんでした。

 “これ”は理屈が通じません。
 “これ”の心を察することなんてできません。
 “これ”はこわれているのですから。
 その反対である『シエナ』は、あろうことか“壊れていない”性質を持ってしまったのです。

 ですから、すぐさま恐怖を覚えました。

 だって、この『シエナ』の原型となったシエナのことを、全く全然、これっぽっちも理解できないのです。

(たすけて、『シエナ』は叫びます! 怖い! と『シエナ』は逃げ出します!)
「怖くないよ、とシエナは言います。『お友達』になろう? とシエナは追いかけます」
 なぜ『シエナ』が追い回されているのでしょう。
 なぜ『シエナ』がこんなにも追い詰められているのでしょう。

 ああ、ああ、ああ、でも!

 足を噛み砕かれました。もう歩くことはできません。
 腕をねじ切られました。もう這いずることもできません。

「やっと追いついた! とシエナは嬉しい気持ちを口にします!」
 わらっているわらっているわらっているわらっている。
 壊しながら殺しながら崩しながらわらっている。
 くるっている。

「シエナは『シエナ』とお友達になりたいと思っているので――――」
 たすけて。
 おわらせて。
         アイ
「まずはたくさん、壊してあげなくちゃと、シエナはお友達にお願いします!」
 牙が爪が牙が爪が牙が爪が牙が爪が。
 群がって。
 壊れて。
 なんで。
 生まれてこなければ。
 よかった。


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 第三章 BOSS
                 -ユァミー-

 無理、無理、無理、無理。
 こんなの想定してない。こんなの私には作り出せない。
 壊れてる、これは壊れてる、どうしようもなく破綻している、なのに生きて動いている!

 壊れているものをどう真似たところで、やっぱり壊れているものが出来上がるだけ。
 邪神の眷属の魂がうずく。

 ああ、この壊れた人形だけは――――私がやるしかないのだと。

  勝利条件:ユァミーを撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール
◯2

此処が敵の世界のようですが……他のヒトが居ないなら、完全に個別の空間という事になりますね
まあ、まずは行動デス!

現実の校内は大方見てますし、一先ずこの鏡界での変化が反転のみかを確認
差異のある場所があれば重点調査、反転のみなら……うーん、鏡割ったり、合わせ鏡したら何か起こりませんかネー
案内では細部を探れなかった、職員室や校長室の類もチェック
誰も居ないなら、手掛かりや資料も探し易いデス

敵の拉致手段から鏡のある所に居るとも思いましたが、窓すら鏡となる以上は現実的でなく
寧ろ現実に獲物がほぼ居ない筈の今は、鏡の全く無い場所に居る可能性も考えつつ
五感に第六感に念と全て使い、魔力痕跡等も含め手掛かりを探索



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 13 】
         ▽ Rescue/Risky ▽
                  《  リインルイン・ミュール  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「ふゥーむ?」
 鏡の向こうにもう一つの世界。
 まるでおとぎ話のようだが、そう可愛いものでもなさそうだ。
 ガラスの向こうに見える空は不自然に薄暗い。
 遠くに街が見えるが、この世界はあそこまで続いているのだろうか……?

「此処が敵の世界のようですが……まあ、まずは行動デス!」
 立ち止まっていても仕方がない、と。
 リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は動き出した。

「校長室は……ここデスね」
 校内の地理は、実際に歩いたこともあってほぼ頭に入っている。
 廊下や窓の形、教室の場所など、全て反転している以外は、全くそのままだ。
 人気がなく、疑われる心配もないとくれば、これはもう探り放題の漁り放題。

「…………アリャア」
 問題があるとすれば、書類に書かれた文字まで反転してしまっているところだろうか。
 鏡か何かに写せばよいが、そもそもこの世界が『鏡』経由でたどり着いた敵の支配域である。
 窓や水面といった場所からでも敵の手が伸びる事はわかっているから、
 警戒しすぎても仕方ないのかも知れないが、直接鏡の前に立つのはなかなか勇気のいる作業ではある。

「……ムムム、しょうがないですネー」
 それから十数分、書類を漁っては解読を繰り返す。
 誰か宛ての手紙であったり、退屈な日報であったりしたが。
 そのどれもに記されている、宛名にはこう書いてあった。
 『私立円堂学園 校長様』。

「………………」
 つまり。
 『私立秋縁学園』などという学園は、そもそも最初からなかったのだ。
 『邪神が学園を狩場にした』のではない。
 邪神が降臨する祭壇として、既存の学園に、存在をそのままそっくり上書きしたのだ。
 所属する生徒たちも、現実の世界への認識も、全て書き換えて。

『あなたは』
 その時。
 窓の一枚が、不意に鏡面へと変じた。
 鏡の向こうに、黒い髪の少女がいた。
 リインルインを、訝そうな表情で、じぃと睨みつけている。

『何なの? どうして私が“複製”できないの?』
「アナタが、邪神の手先デスカ? 始めマシテ」
 書類を置いて、普段と変わらぬ口調と調子で。
 リインルインが動くと、からん、と仮面が揺れて、音を立てた。

「君の能力はよくわかりまセンが、ワタシにはあまり記憶がないものデスから」
 そして。

「何より、ワタシには『顔』がないのデス」
 不定形の形。
 個体を個体と確立する“顔”と“記憶”。
 それらの性質を、このオブリビオンは定義できなかったのだ。
 その鏡では、リインルインという猟兵の、本質を全く写し出せなかった。

『…………そう、つまりあなたは、私の天敵というわけなのね』
「それはわかりマセン。やってみなければ」
 ただ、それでも。
 敵が直接姿を現して、何事もなく終わるわけもない。

『いいわ、わかった』
 その瞬間。
 部屋にある、鏡面という鏡面に。
 無数の“敵”の姿が投影された。

『あなたは、私が直接殺してあげる』

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 第三章 BOSS
                 -ユァミー-

  理想を読み取れなかった個体。鏡面に、仮面に隠れた、存在しない顔は映らない。
  良いだろう、ならば直接始末してやろう。
  生贄を手放しはしない。お前はここで、私が殺す。

  勝利条件:ユァミーを撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

アステル・シキョウ
〇 1)
尊敬するヒーローである父と妹と三人で過ごす世界
それは救いを望まなかった母を救わなかったIFであり、大切な母と力をくれたニエの居ない絶対に有り得ない世界
≪ったく、ようやく目を覚ましたか?≫
「……お陰様でな。」
≪んじゃあこの悪趣味な世界をぶっ潰すとするか≫
「あぁ、そうしよう……『変身』!」


【行動】
過去の選択を変えて
『自分の母から呪い【ニエ】を奪わなかったIF』で穏やかに過ごしますが
それは母とニエが居ないことで成り立つ世界であり
たとえ周りからどの様に思われようが救える命を救うアステルにとって絶対有り得ないIFです
ニエからの呼びかけにより目を覚まし、IF世界の自分との戦いに備えノクターンに変身



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 14 】
         ▽ Sacrifice/Secretface ▽
                  《  アステル・シキョウ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 高校を卒業して、これが初めての墓参りとなる。
 母の名前が刻まれた墓石の前で、花を捧げ、目を閉じて。
 アステルは、静かに祈りを捧げる。

 大学生活は、まだまだ慣れない。
 地元を離れてからは親しかった学友たち共離れ離れになり、
 まだまだ大学に馴染んだとは言い辛い。

 けれど、平穏で、変わりなく、普通の日々を送っている。

「……それが、最後のお願いだったもんな」
 普通に生きてくれること。
 ただそれだけを望んで、母親は逝った。

 母の死因は、呪いだった。

 この世ならざる者を見る眼を持っていた母が、普通に生きるのは、あまりに難しかった。
 元より、人とはあまりにかけ離れた存在なのだ――嘘か本当か、炎の精霊と妖狐の間に生まれた子なのだと、冗談交じりに言っていたことを思い出す。
 そのような化生が、人と交わり、子をなして、社会に溶け込んだ事が罪だったのか。
 あるいは、そうなることが、運命のようなものだったのかも知れない。
 親として、出来ることがあるとするなら。
 その呪いを、子供に引き継がせないことだ。恨みも、痛みも、苦しみも、全て自分が受け止めて、終わらせることを母は望んだ。

「…………また来るよ」
 墓石に背を向けて、アステルは歩き出す。
 明日の講義は必ずでないといけない、バイトの予定も入っている。
 忙しい、普通の青年の日常に戻っていく。
 母親が与えてくれた、望んだ、かけがえのない日々を。
 アステルは、静かに生きている。











《あぁ、俺様が言ったんだぜ》
 単位を気にしながら、アステルは大学生活をそれなりに楽しんでいた。

《選べ》
 妹と電話をしながら、週末の予定を打ち合わせした。

《母親の代わりに、テメェが呪いを引き継げ》
 父の活躍をまた喜び、力のない自分が少し恥ずかしくなった。

《そして、罪人の命を奪い――俺様に捧げろ》
 仲のいい女子と、次の休みに出かけることになった。

《受け入れるなら、そのための力をくれてやる》
 全く、忙しい日常だ、

《さぁ》
 だけど、充実している。楽しいと感じる。

《どうする》
 今の自分でない自分の事なんて、考えられない。ああ、やっぱり。

《テメェが選べ》
     、、、、、、、、、、、、、、、、、
 あの日、呪いの言葉に耳を貸さなくてよかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「――――――笑わせるなよ」
 世界が漆黒の炎に包まれて、テクスチャが剥がされていく。
 気づいてしまえばあっという間だった。
 鏡像が作り出した世界のディティールは、確かに精緻だったが。

《ったく、ようやく目を覚ましたか?》
 頭の中に響く声が、呆れたトーンでそう言う。
 アステルがこの世界に来てから、反応のない相方相手に、ずっとぶつくさ文句を並べていたに違いない。

「……お陰様でな」
《良い見世物だったぜぇ? あれがお前の考えた理想の世界ってんだから笑わせてくれるぜ》
 ゲラゲラとという擬音がこれ以上無いほど似合う声。

「理想じゃねーよ」
 吐き捨てるように、アステルは言った。

《ん? んんんんん~~~~~? あぁ、アァアァ、ハイハイハイ、そォいう事ねぇ》
 今度こそ、ニエは嘲笑った。
 くそ、とアステルが吐き捨てたのは、おそらくその理由を当てられたからだろう。

《俺様と契約した事は微塵も後悔してねぇ、母親を助けたこともだ。ただ――――》
 出来れば聞きたくなかったが、これから一仕事しなければならない以上、
 耳をふさぐことは出来なかった。どっちにしても、頭の中に響くのだから聞かずにいることなど出来ないのだが。



《――――母親の望みを叶えてやれなかった事には悔いがあるってかぁ? ギャハハハハハハハ!》



 戦わなくていい、力なんて得なくていい。
 何も背負わなくていい、幸せに生きて欲しい。
 不要なものは、全て持っていくから。

 そう望んだ母親の気持ちを――――そう、絶対に聞き入れることは出来なかったとはいえ。
 踏みにじったのは、たしかにアステル自身なのだ。
 だから、この世界はその後悔から生まれた。
 母親の気持ちを――――大事にしたかったがための、鏡像だ。

「けど、やっぱり無理だわ。…………吐き気がする」

 - Curse Driver On -
 カースドライバー、起動。

《ケケケ――――んじゃぁ、この悪趣味な世界をぶっ壊すとするか》


 - Connective Nie -
  ニエとの接続を開始。

「あぁ、そうしよう」

 - ....I'll sacrifice you -
   生贄はお前だ。

《来るぜ来るぜ――――この世界の“俺様”が! 相棒様を捕まえられず、つまらねぇ呪いに成り果てた、“贄”が!》

 - Are you ready? -
   覚悟はいいか?

「――――――『変身』」


▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
                  -鏡面の“ニエ”-
 
  アステル・シキョウはかつての選択肢を後悔しなかった。
  故に鏡面の世界は「あり得たかも知れないが、絶対に選ばなかった世界」として放棄された。

  ……ならばアステルが戦うべきは、この世界に置ける宿敵。

  母親を殺め。
  罪人の命を貪る呪い。
  即ち――――宿主無き純粋なる悪意。

  鏡面の、ニエ。

  勝利条件:鏡面の“ニエ”を撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

月山・カムイ



ぶつかった所がコブになってないか確かめる為、屋上を離れる
生徒は二人に任せて、正体が露見したと考え自分がおとりになるべく動く
トイレの鏡でぶつかった所を確認しようとして、閉じ込められる

理想という訳ではないが、あったかもしれない世界
後悔をもたないカムイの記憶を読み、猟兵もオブリビオンも居らず髪の一房も赤くなく
両親と妹の4人家族、普通の……剣すら握らず友達と遊びに出かけるような
そんな平和な高校生としての虚飾に囚われる

記憶の連続性が無くとも、当たり前の様に暫しその生活を送るが頭のどこかで冷めた目でそれを眺めている
でも、わかっている
此処は私の居るべき場所じゃない、少しの感傷だけ
だからこの世界は、滅ぼす



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 15 】
         ▽ Thousand face/Thousand Faith ▽
                  《  月山・カムイ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(ねえお兄ちゃん、私のシュシュ知らない?)
 焦ったようなその声に、知るわけ無いだろ、と呆れ顔で返す。
 妹の装飾品など、高校生の男子がこの世で何より興味のないものの一つだ。
 そもそも、シュシュが何を示しているのかさえふわっとしている。髪飾りか何かだっけか?

(もー! デートに遅れちゃう! あのシュシュじゃないとダメなの!)
 デート? デートと言ったか?
 え、何、お前デートするの? と思わず反応してしまったのが行けなかった。
 きょとんとしてから、にまー、と口の端をあげて。

(気になる?)
 絶句した。絶句して、その男は大丈夫か? と聞いたら、かばんを投げつけられた。
 悪かった事のは角が頭に命中したことで、良かったことはそのかばんからシュシュが飛び出してきたことだ。


 ――――――3.


 後悔があるわけではない。
 ただ、こうあったらよかったな、と少し思った程度だ。
 きっと、これは幸せの形なのだろう。
 ただ、手にすることが出来なかっただけで。

 ――――――2.

(彼氏ができたって、本当なのか)
 夕食の席だというのに、父親の真剣な声でそんな事を言うものだから、場の空気が凍る凍る。
 母親はあらあらとため息を付いて、妹は硬直し、俺は食事を続けた。

(どんな男なんだ、ええ? ちゃんと定職に付いてるんだろうな…………)
 いや、社会人じゃあないだろ、という野暮な口は挟まなかった。

(か、彼氏ってわけじゃないし! ク、クラスメートだよ、クラスメートッ! ちょっと文化祭の買い物を一緒に行っただけで……)
 デートじゃなかったのか、と、今度は野暮な口を挟んでしまったがために、おしぼりが顔にぶつかった。

(一緒にでかけたんだからデートよねぇ。それで、どうだったの?)
 父のコップにビールを注ぎながら、母親が興味津津と言った顔で尋ねる。
 えー、それはぁ……と口ごもる妹を見て、父はさめざめと言った。

(娘に男ができるって辛いな……)
 妹に男ができても、俺はあまり辛くないのだが。

(お前もさっさと彼女作れよ、若い娘を家につれてこい)
 大きなお世話だった。
 空になったビール瓶の底で、母が軽くその頭を小突いた。


 ――――――1.


 もし最初から、世界がこうあってくれたら。
 こんな感情を抱かずに済んだのだろうか。

 どこまでも平和だ。
 家族がある。繋がりがある。やり取りがある。平和がある。
 それを見て――――ただ淡々と。

 ここは自分の居場所ではないと、ほんの僅かな胸の痛みをえなくても、よかったのだろうか。

 ――――――0.

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
 月山・カムイという名前の少年は絶叫した。
 鏡面より生まれた彼は、しかしこの世界で、たしかに普通の人として生きていた。
 両親を持ち、妹を持ち、学友と遊び、日々を過ごす、そんなただの人間として。

 異形だ。世界を喰らう化け物が、彼のすべてを奪い去っていく。
 建物がひしゃげ、中にあるものが砕け散る。
 空間が歪み、ひびが入る。虚空に誰も彼もが飲まれていく。
 それでも、まだ終わらない。終わらない限り、永遠に破壊は続く。

 鏡面の月山・カムイは知らない。
 この世界の中心が自分であることを。
 自分が消えない限り、この世界もまた完全に終わることはなく。

 そして世界を破壊しているのが、他ならぬ自分の本体であることも、彼は知らない。

 崩壊した、自分の家が見える。中には居たはずだ
 家族が。大事な家族が。
 自分のすべてが。

 どうして、と。

 作り上げられたニセモノは、模倣された感情をもって、ただただ叫びを上げるのみだった。


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 第三章 BOSS
             -鏡面の“月山・カムイ”-
 
  この世界における月山・カムイはただの人だ。
  剣を握ったことすら無い、ただの高校生。

  しかして、それがオブリビオンから生まれた存在である以上、
  ただそこにいる限り、オブリビオンの世界に対する侵食は深まり、儀式は進んでいく。

  始末するのは簡単だ。必死の抵抗は、君にとって何の意味もないだろう。
  ただし、世界を壊し、彼の居場所を壊す君に、相応の恨み言は述べられるかも知れない。

  『なんでこっちの世界を選ばなかったんだ』、と。

  勝利条件:鏡面の“月山・カムイ”を撃破する。

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成功 🔵​🔵​🔴​

シン・ドレッドノート
〇【WIZ】
2)オブリビオンを探す。
新婚で妻とも娘とも仲良く幸せな生活の真っ最中な私に、今更やり直したい過去などありません。

「さて…私はいったいどうなってしまったのでしょうか…」

とりあえず、敵を探るために、密かに【漆黒の追跡者】を放って、周囲の状況を探ります。
得られる情報を怪盗の単眼鏡で解析しつつ、状況を把握しましょう。

「さて、反撃といきますか」
手がかりを見つけたら、敵の行動を阻止すべく行動開始。
儀式を阻止すべく、これ以上好き勝手にはさせません。
持っている鏡を狙撃して破壊、力を削いでいくとしましょう。

戦闘になりそうな場合は、精霊石の銃から【破魔】の力を込めた光の弾丸で迎撃します。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 15 】
         ▽ Mirror house/Error Heart ▽
                  《  シン・ドレッドノート  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「さて……私はいったいどうなってしまったのでしょうか……?」
 シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)の疑問は尤もだ。
 なにせ、過去を覗き見る鏡――自身のユーベルコードに対し、直接干渉してきたオブリビオンの手によって、
 かような異空間に飛ばされてしまったのだから。

「少なくとも、通常の空間ではないようですね、ふむ」
 ぱちんと指を弾くと、どこからともなく漆黒の鴉が飛来する。
 つい、とそのまま手を動かすだけで指示となり、鴉は速やかに飛翔した。
 シンと五感を同期するそれは、速度と相まって非情に便利な“眼”として動く。

「おや」
 ほんの数分で、鴉の羽がそれを見つけた。
 即ち――――行方不明になった、生徒の姿を。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 その女子生徒の目はうつろで、ぼうっとしていた。
 時折、虚空の手を伸ばし、嬉しそうに何かを掴むようにして、笑う。
 シンが体に触れても、どれだけ呼びかけても、反応を示すことはなかった。
 
「……これは――――」
『夢を見ているのよ』
 くすくす、とあざ笑う声とともに。
 窓の一つが鏡面となって、その向こうに一人の少女の姿が浮き上がる。
 この世界の支配者、鏡に潜むオブリビオン。

『逃げ出されても困るからね、幸せな夢を見させているの。その娘は、少し前に別れた彼氏と、仲直りしているみたいね?』
「人のプライベートを暴くのは、感心しませんが」
『すぐにあなたも同じ様になるのよ。人は過去をやり直したいと思わずにはいられない』
 鏡の中少女が指を鳴らすと、鏡面の奥がチカリと光った。
 それを視認すると、一瞬、体の中を何かがすり抜けていったような錯覚を覚える。

『あの時、ああしていればよかった――それを叶えてあげた時の、人間の脆さと言ったら』
 失敗をやり直させてくれる事を、どうして拒めようか。
 人が心ある限り、拒むことの出来ない悪辣なる罠。

『さあ、あなたはどんな夢を見るのかしら? せいぜい、楽しませて――――――』
 それから、どれだけ待っても。
 シンの瞳が閉じることはなかった。
 え? と狼狽した声を上げるオブリビオンの少女に、やれやれと肩をすくめて。

「あなたは一つ、致命的な勘違いをしています。それは……全ての人間が、悔いを抱えていると思いこんでいることですよ」
『なんですって?』
 それは、オブリビオン、ユァミーの価値観を根底から否定する一言だ。
 その悔いにつけこむが故の、能力であるというのに。

『どうしてあなたは私の世界を拒めるの? そんな事、出来るわけ――――」
「――――――私は新婚なのですよ」
『…………は?』

「新婚なのです。娘も出来ました。眼に入れても痛くないほど可愛い。私は間違いなく世界一幸せな男です。そんな私が―――今更やり直したい過去があると思いますか?」
 言い切った。きっぱりと。一切の曇りなく。疑うことなく。

『そ、そんな事――――だとしても、後悔の一つや二つ、あるでしょう!』
「現在に勝る価値などありませんよ、いいですか?」
 それは、もはや憐れみすら含んだ声だった。

「一番大切なもの――――それは愛ですよ」
『…………………………ふ、ふざっ、ふざけるな!』
 怒号。
 部屋中の窓という窓が鏡面となって、それら全てに敵の姿が写し出される。

『お前は――――ここで直接、私が殺してやる!』
「出来るものならご自由に。ただし――――」
 くるりと。
 いつの間にか、片手に構えていた銃を回転させて、その手に握り。

「――――帰りを待っている家族が居ますので、手早く終わらせていただきましょう」

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 第三章 BOSS
               -ユァミー-

  「鏡」を作り出し、異なる時間軸を覗き見るユーベルコードの存在は、
  ユァミーにとっては最も危惧すべきものだ。

  故に、真っ先に鏡面の世界に取り込み、理想の世界へ沈めるはずだった。
  現在進行系で、今が最も幸せな存在を、ユァミーは想定していない。

  どこまでも天敵である存在に対し、ついに直接対峙することを選んだようだ。

  勝利条件:ユァミーを撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ
2)〇

……なんだ、そういう仕掛けか。

理想など夢見ていない。
現実をいかに噛み砕いて進むか。
それが砂利だろうが灰であろうが……だ。

まんま反転世界か。
きっちり反転しているとも限らん。
鏡はそもそも歪んでいるから。
この世界に存在する異物=俺の存在は、邪神にすぐ知れるだろう。
むしろ排除のために探しに来る可能性がある。
物理的には極力目立たぬよう、
遮蔽物の影に隠れ様子を伺いながらの探索行動を。
出入口になりそうな反転場所をチェックしたり、
怪しい生き物がいれば追跡。
俺みたいに理想世界に溶け込めない生徒がいれば確保。
単独行動前提ではあるが、
猟兵に対しては協力、情報交換。
敵と間違えて討ち合うなんざ馬鹿らしいのでな。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 17 】
         ▽ Soldier/Sword ▽
                     《  ニノマエ・アラタ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「なんだ、そういう仕掛けか」
 拍子抜けだな、と呆れたように言うニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は、鏡面の世界を闊歩していた。
 窓も、水面も、もちろん鏡も、反射し、映すものは全てが敵の眼であり、攻撃の基点となる。
 それさえわかれば話は容易だ。
 、、、、、、、、、、、、、、
 一切の鏡面に映らなければいい。

 それだけで見つかることは無くなる。
 それだけで無力化出来る。

 オブリビオンからすれば溜まった物ではないだろう。
 自身のホームで、存在していることはわかっているのに、全く足取りを掴めない。
 視界に収めることすら出来ない、行動を把握できない。
 、、、、
 消したい、と思うのは、至極当然のことだろう。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「大体、ルートはつかめたな」
 ほぼほぼ、現実世界の学園を反転した形となっている。
 ならば構造もだいたい掴めた。

「さてどうするか……」
 鏡に映らぬよう動くということは、死角を縫って動くという事だ。
 自由といえば聞こえがいいが、要するに制限された範囲でしか活動できない、という意味でもある。

『…………けて』
 その時、耳が、かすかな声を捉えた。
 若い人間の声だ。男女かどうかまでは判別できないほど、小さくか細い。

「…………ふう」
 数秒、その場で立ち止まり考えてから。
 ニノマエは、その音の出どころを目指して、歩みを進めた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『理解が出来ないわ』
 そう告げたオブリビオンは、教室の窓の一枚を鏡面として、鏡の中に居た。
 数人の生徒が、床に倒れて、何かを求めるようにうつろな瞳で、手を虚空に向けて動かしている。

『私の世界に……自分の理想に飲み込まれない人間なんて、居ないはずなのに……やっぱり猟兵って、どこかがおかしいんだわ』
「そうでもないだろう」
 刀に手をかけながら、敵の姿を見据えて言った。

「理想など夢見ていない。現実をいかに噛み砕いて進むかだ」
『…………現実? じゃああなたは現実を受け入れているというの?』
 理想の世界に相手を閉じ込めるということは、それを把握できるという事だ。
 どうやらこのオブリビオンは、鏡面に写した相手の“過去”や“思考”を読み取る能力があるらしい。
 見ているのだろう、ニノマエが歩んできた軌跡を。

『仲間同士で殺しあったのでしょう!? 殺して! 殺されかけたのでしょう! やり直したいとは思わないの? もしもあんなことがなければと!』
「思わん」
 一刀両断だった。それは言葉も、行動もそうだ。
 窓が真横に両断されて、落ちて、床にあたって砕け散る。
 その頃には、もうオブリビオンは別の窓に移動していた。
 なるほど、これは面倒臭い。

「それが砂利だろうが灰であろうが、俺が生きた現実だ。もう受け入れている。それだけだ」
『狂っているわ!』
「かも知れん。だが、別にどうでもいい。要するに」
 一閃。
 今度は、全ての窓ガラスが、割れて散った。
 ひ、という微かな悲鳴が、確かに聞こえた。

「俺の仕事は、お前を倒して、生徒たちを救出することだ。――――姿を見せたお前が悪い」
 かくして、一振りの刃と、オブリビオンの戦いが幕を開ける。

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 第三章 BOSS
               -ユァミー-

  過去を、既に起きた現実として受け入れる精神性は、
  他者の後悔を弄ぶこのオブリビオンにとって、最悪の相性とも言える相手だ。

  精神面から攻撃できない以上、直接対峙するしか無い。

  ユァミーにとって、あなたは天敵の一人とも言える。

   勝利条件:ユァミーを撃破する。

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成功 🔵​🔵​🔴​

アリエル・ポラリス
1)
最近お兄ちゃんがずっと村に居るのよ
お姉ちゃんもいつも笑ってるの
治療法を探して留守にしたり、私の耳を見て悲しそうにしないのよ!
……よく考えたら当然ね? 私はどこも悪くないし、耳も普通の人間のなんだから!

森での狩りだってもう一人で出来るわ!
昔はお兄ちゃんに手を引かれて歩いた森も、今はひと、り……?

──なんであの子は私の手を引いたのかしら。
だって危ないわ。私が敵だったら近づくだけで危険よ。
怖くても、一人でいた方が安全だったはずなのよ。
それでもあの子は私の手を引いて、一緒に逃げようとしてくれたのね。
ええ、ええ。ここは本当に幸せな場所だけど。
『恩返し』が終わってないわ! 今行くわよ、ミサキさん!!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 19 】
       ▽ Family/Funny ▽
              《  アリエル・ポラリス  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「あれ、お兄ちゃん、帰ってきてたの?」
 リビングの椅子に座って、本をぱらりとめくっている兄の姿を見て、アリエルは首を傾げた。
 ゆっくり読書を嗜んでいる姿なんて、いつ以来だろうか。
 いつもはもっと、切羽詰まっていて、焦っていて。
 それでも、アリエルが見ていることに気づくと、大丈夫だよ、と笑顔を作る。
 どうしたんだろう、と思って、それから、大好きな兄に、少しでもそんな時間ができたことを、嬉しく感じた。

(? 私はずっと家に居ましたが……)
 けれど、返答は不思議そうに首をかしげ返す姿で。
 あれ? とアリエルは思案する。

「そっか……別にお兄ちゃんがお家にいても、変じゃない。よね?」
 口にすると、すとんと腑に落ちた感覚がある。
 そうだ、おかしなことなんて、何もない。
     、、、、、、、、、
 だって、出かける理由がないのだから。

(…………それとも、出かけた方が良いのでしょうか?)
「ええええ!? やだやだ! 行かないでー!」
(冗談ですよ、私が、皆をおいて出ていくわけがないでしょう)
 そうですね、と本を閉じて、大きな手で、頭をわしゃりと撫でられた。
 ん、と、何か頭に違和感を感じた。
 あるべきはずのものがなくて、感じるべき感触を感じられなかった、むずむずするような。

(……もしかして、変なものでも食べましたか?)
「た、食べてないわよっ! ひどぉい!」
(あはは――――そうだ、たまには、二人で森へ、散歩にでも行きましょうか)
「お散歩! いいの? 御本は?」
(本は、いつでも読めますよ)
 そうだ。
 いつだって、お兄ちゃんは家にいて。
 いつだって、自分の時間を過ごせるのだから。
 こんな時に甘えたって、誰も文句を言うはずもないだろう。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 風が吹けば、さわさわと葉同士が触れ合う音が聞こえてくる。
  、、、、、、、、、、、、
 たっぷりの日差しを受けて生まれた木漏れ日を、兄と歩きながら。

 アリエルは、この上なくご機嫌だった。
 不安なことはなにもない。大好きな家族がそばにいる。
 こうしてお散歩をするのが、とっても楽しくて、ついつい歩幅が早くなり。

(こら)
 と窘められて、ててて、と兄のもとへと戻る。

(まったく、お転婆になって)
「えへへ」
 苦笑しながら、また、頭をなでてもらう。

(昔は、手を引いてあげないと一緒に歩けなかったのに)
「もぅ、いつの話よ! 今はもうひとりで――――」
 そう、一人で歩ける。
 子供の頃とは違うのだ。
 手を引いて、兄に先導してもらっていた、あの頃とは。
       、、、
 だって、森は暗くて恐ろしいところだから。

「……あれ?」
 ――――手を引いて。
 ――――誰かが。
 ――――そうだ。

 ――――助ける、と、アリエルはそう言ったのだ。
 …………あの娘を。

「ごめんなさい、お兄ちゃん」
(アリエル?)
 立ち止まったアリエルを、兄は怪訝そうな表情で見た。

「私、行かないと」
(……どこに?)
「……あの子は、怖かったはずなの。危ないってわかってたはずなの」
 問いかけに答えずに、心から湧き上がる言葉を、そのまま口に出してしまう。
 幸せな世界だった。
 兄がずっと側に居て、姉が自然に笑っていて。

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 自分のせいで大好きな家族を傷つけることのない世界。


 ぴくり、とアリエルの、人狼の耳が動いた。
 尾がわさりと勝手に動いて、毛が一斉に逆だった。

(…………ここに居れば、アリエルは、幸せに過ごせる、そうでしょう?)
「わかってる」

(なら…………)
「だけどね、その子は、それでも、勇気を出してくれたの。私の手を引いて、一緒に逃げようとしてくれたの……お兄ちゃん」
 だから、ごめんなさい、と言った。
 いっときの夢、淡い淡い、幸せな世界との決別。

「ありがとう、お兄ちゃん。本物じゃないかも知れないけど……大好きよ」
 この兄は、アリエルが思い描いた理想だ。だから誰よりも、アリエルを大事にしてくれる。
 けれど、本当の兄ならきっと。
 誰かに助けられて、これからその人を迎えに行くアリエルを、止めないだろう。
 背中を押して、いってらっしゃいと、言ってくれるはずだから。

「私の『恩返し』が、終わってないわ」
 …………今行くから。
 待っててね、ミサトさん!


▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
         -鏡像の“エルネスト・ポラリス”-

  アリエル・ポラリスが鏡像の世界に飲み込まれなかったのは、
  直感や本能といった先天的な感覚に優れていたからなのかも知れない。

  仮初の世界に浸りきる事無く、違和感から真実を手繰り寄せた少女の前に立つのは、
  愛すべき兄の鏡像だった。

  兄の鏡像は、しかし妹を愛している。
  ここに居れば、お前に辛いことはなにもないんだよ、と心から思い。
  “妹を守るため”に。家族のために――立ちはだかる。

  本物の兄と酷似したユーベルコードを使用するが、
  アリエルが見たことのない、知らない、想像もしない能力は使用できない様だ。

  勝利条件:鏡像の“エルネスト・ポラリス”を撃破する。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
○・1

鏡の中の世界、っていうからそのまま左右反転した学校かと思ったんだけど。そういうわけでもないのねぇ。えらくヨーロピアン?だし。
…というか。賭場に酒場に両替商、金貸し・客引き・連れ込み宿…典型的な色町ねぇ。

――わかっている。これは、現実逃避だ。
花屋の前を通り、噴水を反時計回りに四半分。袖引き通りを突っ切って、質屋の角を右へ。近道に路地を抜けて大通りを左に。
一々道順を考えずとも、勝手に足は進む。
連れ込み宿の並ぶ中、魚が評判の酒場の二軒隣――

…やっぱり、か。

――街最上格の高級娼館。
…区画ごと龍に焼き尽くされ、今はもう存在しない景色。

「おかえり、ねーさん」

――聞き間違うはずもない声が、聞こえた。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 18 】
      ▽ Fade Out/Burn Out ▽
              《  ティオレンシア・シーディア  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「鏡の中の世界、っていうからそのまま左右反転した学校かと思ったんだけど」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の視界に映るのは、少なくとも現代日本の様相ではなかった。
 行き交う人々も、見える景色も、懐かしく見覚えのあるモノばかりだ。

「賭場に酒場に両替商、金貸し・客引き・連れ込み宿……典型的な色町ねぇ。まったく――――これじゃあ」
 これじゃあ、まるで。
 もう無くなってしまった、あの街のような。

「…………」
 花屋の前を通り過ぎると、噴水広場が見えてくる。
 反時計回りに四半分。袖引き通りを突っ切って、質屋の角を右へ。
 まるで、最初から知っているかのような足取りで、ティオレンシアは立ち止まること無く歩いていく。
 路地に入ると、浮浪者や孤児達が、何かをくれと手を伸ばしてくる。
 道行く邪魔にならないよう、慣れた手付きで煤けた硬貨を放り投げれば、肉を投げ込まれた野犬より素直に、そちらへ群がっていく。
 大通りを左に向かえば、連れ込み宿が立ち並ぶ中、魚が評判の酒場が見えてくる。
 その、二件隣――――――。

「……やっぱり、か」
 ひと目見て、わからないわけがない。
 なにせ、暮らした街だ。生きていた場所だ。
 忘れようとして忘れられる光景じゃないし。
 捨て去ってよいはずの思い出でもない。

 ……今はもう、あるはずのない場所と。

「あ! 帰ってきた帰ってきた!」

 ……今はもう、居るはずの居ない人がいる。

「おかえり、ねーさん」
 スィル。
 名前を呼ぶことはできなかった。
 口にしたら、何かがこぼれ落ちそうだった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ……鏡像の世界に取り込まれた者は、通常、「その世界の住人」となる。
 本当なら、ティオレンシアはこの世界において、今も存在する娼館で、
 用心棒として過ごす日々を送っていただろう。

 しかし、いかなる理由か、彼女は自身の記憶を有したまま、
 理想の世界へ迷い込んでしまった。

 正気で。
 失った過去を、取り戻せるかも知れないという理想に。
 向き合わねば、ならなくなった。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 第三章 BOSS
         -鏡像の“ティオレンシア・シーディア”-

  鏡像の世界を抜け出すには、世界を成立させるファクターを破壊することだ。
  即ち、あなたを慕い、敬い、懐き、愛する娘達。

  頭を撃ち抜けば、たやすく“破壊”できるだろう。
  彼女たちは、身を守る術も方法も持たない。

  ただし、彼女たちを傷つけさせまいと、娼館の用心棒が立ちふさがる。
  技巧はかつての本体の技術そのもの。
  それ故、現在のあなたのほうが、少しばかり速いかも知れない。

  もちろん、鏡像の自分自身の頭を撃ち抜いても良い。
  どちらかを満たせば、この世界から抜け出せるだろう。

  ……戦うことを諦めて、しばし思い出に浸るのもいい。
  伝えられなかった言葉

  勝利条件:鏡像の“ティオレンシア・シーディア”を撃破する。
        または、鏡像の“娼婦達”をおおよそ半数、撃破する。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

成功 🔵​🔵​🔴​

夕凪・悠那
1)


あのゲームを犠牲を払わずにクリアできて
向こうで出会った彼と、今度は普通に遊べたらきっと楽しいよね


懐かしい部屋
急かす連絡がスマホに入る
すぐに謝罪を返して、懐かしさを感じるお母さんの声を背に家を出た

――行ってきます

……もうわかってる、これは夢だ
だってほら、もう会えないはずのキミが目の前にいる

ボクは今楽しいよ
キミのおかげだ
まあ、あの時は勝手なことしてって思ったけどさ
……ありがとう
私に未来をくれて

《【崩則感染】――

ねえ、ボクの願望が形になってるなら
背中を押してくれないかな

――起動》

うん、もう行くよ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 20 】
        ▽ Flip/Flop ▽
               《  夕凪・悠那  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 その少女にとって、現実と“向こう側”との境界は曖昧なものだ。
 なにせ、それなりに長い間、“向こう側”に居たのだから。

「…………」
 目を覚ます。起き上がる。ベッドから這い出る。立ち上がる。
 身体が在る、ということは、つまり重たいという事だ。
 一つ一つの動作に、現実的なフィールドバックが伴う。

 子供の頃から使っている、背の低い洋服タンスを開いて、しばし唸る。
 “向こう側”ならワンタップで済む、着替えるという作業に、体力の浪費を伴う。

 もちろん、服というモノには組み合わせが存在し、最適解を選ぶ為には思考のリソースすら奪われる。
 それはつまり、時間がかかるということで、スマートフォンの通知音に、ひたすら急かされるハメになる。
 謝罪の言葉を返しながら、ようやく納得を得たら、駆け足で階段を下りて、そのまま玄関へ歩みを進める。

(あら、かわいいじゃない)
 くすくすと笑いながら、そんな声が聞こえて。

「――行ってきます」
 顔を見せたくなかったから、振り返らずにそう言った。
 そんな感情を、きっと当然のようにわかっているのだろうその声は。

(いってらっしゃい)
 と、だけ付け加えた。

 ――――なぜだか胸がぐっと締め付けられる感覚があった。
 これだから、現実というやつは。
 “向こう側”なら、いくら、どんな感情を抱いたって、動作に影響しないのに。

 歩いて、歩いて、駅へ向かう。
 “向こう側”では、どれだけ離れていても一瞬なのに。
 “こちら側”では、やっぱり時間がかかる。
 非合理で、非効率で、やっていられない。

 それでも、どうしようもなく。
 一歩一歩、近づいていく度に。
 意識というやつが高揚していくのが抑えられず。
 それで、鼓動が乱れて、やっぱり、肉体というものの不便さを実感する。
 けれどそれは、不思議と悪いものではなくて。
 名前をつけるとするならば、『楽しみ』という事なんだろう。

「…………久しぶり」
 やっと会えたね、と手を挙げる。
 相手も、同じように手を上げた。

   フ リ ッ プ フ ロ ッ プ
 “こちら側”と“向こう側”が無くなって。
 やっと、“再開”を果たすことができた。

「……もうわかってる、これは夢だ」
 だろうね、と言う風に、相手は静かに頷いた。

「だって……キミとは、もう会えないはずなのに」
 肩をすくめる仕草をして、相手はそれで? と続きを促した。

「……言いたい言葉があったんだ」
 それなら聞くよ、と言いたげに、相手は目を閉じて、言葉に耳を傾けた。

「ボクは今、楽しいよ」
 大変なことも、面倒なことも、そりゃああるけれど。

「キミのおかげだ。……まあ、あの時は勝手なことをしてって思ったけどさ」
 それは仕方ない、と示すように、再び、相手は肩をすくめた。

「……ありがとう」
 結局、伝えられなかったのは、それだ。
 いい機会だから、言っておこう。
 、
「私に未来をくれて、ありがとう」
 どういたしまして、と言う意味を込めて。
 相手は、静かに微笑んだ。

「………………」
 もういいのかい? と問いかけるように、相手は首を傾げた。

「……うん、もう大丈夫」
 つい、と空を指で切る。
 “こちら側”と“向こう側”が、さっきとは違う形で混ざり合う。

////////////////

 コードブレイカー
【崩 則 感 染】

 起動しますか?

 Y/N

////////////////

「…………ねえ、ボクの願望が形になってるなら」
 少女は、微笑みを返しながら。

「背中を押してくれないかな」
 そう告げた。

 もちろん、と応じて。
 二人の指が同時に、その答えを押した。

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 第三章 BOSS
               -鏡像の“世界”-

  オブリビオンが生み出した鏡像の世界は、因われた人間の数だけ存在する。
  よほど強靭な意思の持ち主でない限り、その世界から抜け出す事は不可能だろう。

  あなたは今、オブリビオンが作り出した「世界」を破壊した。
  それは、即ち、他の「世界」を破壊する方法を知った、という事だ。

  生徒たちは、鏡像の学園の至るところで、鏡像の世界に溺れている。
  例え理想に浸りきって、現実を忘れてしまったものが居ても。
  器を破壊して、強制的に引きずり戻すことが出来るだろう。



  勝利条件:鏡像の“世界”を破壊し、理想の世界に因われた生徒たちを救出する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

リゥ・ズゥ

アマニア(f00589)と(2)で探索、だ。
得体の知れない相手、だ。分散は危険、だろう。
強引にでもアマニアを確保し、海賊船に同乗する。
アマニアの護衛として安全を確保しながら、バウンドボディで周囲へ目を向け、第六感等、探索に役立つ技能を駆使しよう。
船の機動力と合わせれば、敵を見つけ出すのも、難しくはない、筈。

似たような事件、か。ああ、以前にも、此処のように、大規模な学校を、舞台とした、ものは、あった。
あの時は、偽物に入れ替わる、とは違う、が……オブリビオンを見つけ出せば、同じような”匂い”は、感じ取れるかも、しれない。


アマニア・イェーガー

リゥ・ズゥ(f00303)くんと(2)で探索
やっほーリゥくん。無事合流できてなによりだね!

それにしても鏡の世界かー。何度か行ったことあるけどここはまた……なんというか独特だね
んじゃ、黒幕を探しにいこっか
【逆巻く嵐の王】!出航~
護衛よろしくねリゥくん!

海賊船で移動しながら【視力】で周りを見渡して邪神の手先とやらを探すよ

そういえば"似たような事件"の履歴があったね。リゥくんなにか知らない?

なるほどなるほど……じゃあそれっぽいもの見かけたら伝えるね!
しっかしそうなるとこれ、かなり大がかりな事件になりそうな予感……



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【 PART 21 】
        ▽ Evil God/Little Blood ▽
                《  リゥ・ズゥ&アマニア・イェーガー  》
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「それにしても鏡の世界かー。何度か行ったことあるけどここはまた……」
 アマニア・イェーガー(謎の美女ヴィンテージコレクター・f00589)の言葉に、
 リゥ・ズゥ(惣昏色・f00303)は異形の相貌を釣り上げ、問うた。

「経験、が、あるのか」
「ここは独特すぎるけどねー。似てるわけじゃないから、参考にはならないかも」
「……ふむ」
「むしろ、リゥくんのほうが詳しいんじゃない? 前も“似たような事件”があったんでしょ?」
「ああ、以前にも、此処のように、大規模な学校を、舞台とした、ものは、あった」
 応じながらも、リゥはアマニアが、空中を奏でるように指を滑らせる姿に目を細め。

「……あの時は、偽物に入れ替わる、とは違う、が」
 思案する。状況は違う。だが大本は同じだろう。
 邪神が贄を求めているというのなら、言い換えれば“贄を与えられる邪神”が、どこかに居るはずなのだ。

「オブリビオンを見つけ出せば、同じような”匂い”は、感じ取れるかも、しれない」
「オッケー。それじゃあ黒幕を探しにいこっか!」
 最後のワンタップを終えて、プログラムが起動する。
 一瞬だけノイズが走った後、ホロが収束して、一つの物体を形成する。
 それも、質量と実体を伴う存在だ。言葉にして形容するなら――――。

「――海賊船、か?」
「イエース。《逆巻く嵐の王(リザレクト・パイレーツ)》って言うんだよ、格好いいでしょ」
「……ああ、格好良い、と、思う」
「うんうん、リゥくんも男の子だもんね、わかってるぅ」
 校舎内にもかかわらず、その船はここが我のあるべき所と言わんばかりに堂々と鎮座している。
 なぜ空中に浮いているかと言えば、《逆巻く嵐の王》の行く先に仮想の海が展開しており、“浮かんでいる”状態になっているためだ。

「海は実体化出来るけど、生徒たちが居たら溺れちゃうもんね」
「……すごい、物、だな」
「でしょでしょ、もっと褒めて」
「………………すごい」
「リゥくんのそういう素直に不器用な所、私は好きだよー!」
 ゴウン、ゴウン、と音を立てて櫂がうなり、仮初の風を帆が受けて動き出す。

「所で、前の邪神はどんな形をしてたの?」
 問われ、リゥはしばし考えた。
 以前は、とある女子生徒が邪神の依代となっていたが、その本質は――――。

「赤と、黒の、肉の、塊のようなもの、だ」
 他者に寄生する、群体のような性質を持つ邪神だった。

「……え、なにそれ気持ち悪い」
「以前は、生徒達の、体に、這入っていた。ここでは、見当たらない、が……」
「やり方を変えてきてるもんね。ふうん……サンプルでもあればなぁ」
「ある」
「あるんだ……………………あるの!?」
 リゥが、その手を広げ、爪の先を見せた。
 ジワリ、と滲んだ、赤い液体は、彼の血……ではなく。

「以前、戦った。敵の、破片、だ」
「よく残ってたね。借りていい?」
「大丈夫、だ。どうする?」
「《逆巻く嵐の王》の羅針盤に、ちょっとね。もし似た者があれば行き先を指し示してくれるはず。って言っても、そううまくは――――」
 ビン、と。
 羅針盤の針の動きが、一箇所を差しし示して止まった。

「………………」
「すごい、な。さすがは、アマニア、だ」
「…………でしょー!」
 すんなりと上手く行った。
 いや、行き過ぎた。
 そもそも。

 オブリビオンは――――この世界で鏡像にとらわれず。
 普通に動ける存在を、想定していないのだ。
 ただでさえイレギュラーである彼らの行動を、予測できるわけもなく。
 予測できなければ、対策も立てられないのが道理だった。

「場所は、どこ、だ?」
 んー、とねえ、と地図と照らし合わせ。

「…………地下。プールだ」

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 一言でそれを形容するなら。

 赤黒い肉の塊、だった。

 それを構成する全ての肉は、あらゆる器官に変じるらしい。
 眼球が生まれては内臓に変化し、体皮のいたる所に脈打つ心臓が見える。

 それが、25mプールいっぱいに満たされているのだ。
 おぞましくないわけがない。

「…………うわぁ、どうする? リゥ君」
「倒す。あれが、敵ならば」
「ひゅー……じゃあ、私も本気、出しちゃおうっかな」
 《逆巻く嵐の王》が、肉塊の視界に入ったその時。
 向こうも、こちらを認識した。
 肉の塊から、ずるりと触手が浮かび上がり。
 敵を食らいつくさんと伸びて、襲いかかってきた。

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 第三章 BOSS
                 -邪神の幼体-

  直径十メートルを超える、うごめく赤黒い肉の塊、としか形容できない何か。
  生贄を捧げられるための器、邪神の幼体である。
  邪神の信徒が作り出した、「鏡像の世界」と接続されており、
  中に誰かが因われている限り、無限に力が供給されていく。

  近づいてきたものを神経毒を有する触手で取り込もうとする(POW)。
  強酸性の体液を射出する(SPD)。
  無数の赤黒い肉を増殖・分裂させて再生する(WIZ)。

  この三つの戦闘手段を用いて戦う。
  しかし、この異形と対峙したのは、幸か不幸か、君たち二人だけのようだ。

  勝利条件:邪神の幼体を撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・ドゥリング

2)オブリビオンを探す。

「鏡」を媒介にすることは早い段階で予想が付いていた。
そして、対処法も初めから僕は持っている。

【血統覚醒】。『僕』の性質を『私』……ヴァンパイアに戻す。

(吸血鬼として話すときは一人称を『私』とする。)

「吸血鬼は鏡に映らない」。それが節理だ。
故に、鏡の中の世界は私の理想を映しはしない。

小賢しく立ち回る気はない。【存在感】を発揮し堂々と鏡の中の世界を闊歩する。
術中を逃れ【挑発】するように堂々としていれば、向こうから出向いてくるだろう。
後は、それに対処するだけだ。

「過去を切り捨てる強さも、」
「過去を受け入れる弱さも、」
「どちらもお父様とお母様から受け継いだ、『私』の全てだ。」



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【 PART 22 】
        ▽ Vampire Lord/Vampire Reload ▽
                《  マグダレナ・ドゥリング  》
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(おかしい)
 と、オブリビオン……UDCが名付けたコードネームでいうなら、『ユァミー』と呼ばれるそれは、
 自らが作り出した鏡面の世界、反転した学園の中で首をかしげた。

 、、、、、、
(数が足りない)
 学園に潜入した猟兵達も、全員こちらの世界に捕らえた。
 理想という甘美な蜜に囚われた人間は脆い。
 たとえ猟兵であろうとも、人という意識の枠にある以上、逃げ出すことなどできない。
 それが、ユァミーの認識だった。
 彼らも、生徒もろとも生贄にしてやる、という目論見は、ほとんど成功していたと言える。

 ……実際の自らの理想を振り切った者も、誘いを何らかの方法で逃れた者も、存在するのだが。
 それらのイレギュラーにおいても、存在を認識はしていた。わかってさえ居れば、対処をすることは出来る。
 だが、そもそも捕らえたはずの猟兵の帳尻が合わないというのはどういうわけか。

(捕らえそこねた? まさか。確かに全員――――)




「不思議そうな顔をしているな」
 不意に、声をかけられた。
 このオブリビオンは、鏡面の中に住まう故に、実在の体を有さない。
 現実の世界に直接干渉するには、自身が鏡の世界に閉じ込めて、
 その存在を丸々“のっとった”相手と入れ替わる必要がある。

 だから、この鏡面世界では冷える背筋を持たないのだが。
 それでも、悪寒というものを感じた。
 それはまともな触覚を有する生物であれば、決してありえない認識と現実の齟齬だ。

 “目の前に居て、それを視認しているのに、存在を把握できない”。

「何を驚く事がある? それとも、邪神というものは教養を持たないのかな」
 薄暗い校舎の中で、赤色だけが煌々と浮かび上がる。

「吸血鬼は鏡に映らない」
 マグダレナ・ドゥリング(罪科の子・f00183)、赫焉の令嬢は、至極つまらそうにそう述べた。

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 吸血鬼は鏡に映らない。
 故に、その理想を映し出すことはない。
 映せないものは、作り出せない。
 当然の節理だ。当たり前過ぎて、考慮するのも馬鹿馬鹿しい。

「きゅう、けつき――――!?」
 オブリビオンが狼狽している所を見ると。
 知らなかったのだろう、夜の支配者の存在を。

「尤も、君が私を捕らえられたとして――この理想を叶えられるとは思えないが」
 一歩近づく。この場を圧する権利が誰であるのかを示すように。

『ふ、ふざけるな』
 狼狽したのは、オブリビオンの方だった。
 少女の姿をしたそれは、的はずれな方向を指差して叫ぶ。

『生きている以上、必ず抱くのが理想だ! 人は“そう有りたい”という願望に逆らえない! それが貴様らの本質だ!』
「その底の浅さで、よくここまで生きてこれたものだ」
 一刀両断。マグダレナの歩みは、止まらない。

「過去を切り捨てる強さも」
 “かつて”は二度と取り戻せない。

「過去を受け入れる弱さも」
 “かつて”はもうこの胸の内にある。

「どちらもお父様とお母様から受け継いだ、『私』の全てだ」
 邪神風情のものさしで、測れると思い上がるな。

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 第三章 BOSS
               -ユァミー-

  「鏡面」に映らないあなたは、このオブリビオンにとって紛れもない天敵だ。
  それ故に、あらゆる手段を講じて、あなたの殺傷を目論むだろう。

  行われるのは、ただただ純粋な対決。
  勝負の行方は、どちらが強いかで決まる。

  勝利条件:ユァミーを撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々

2)

魔鏡よ、これ以上の狼藉、許さぬぞ!

『鏡の中の世界』にて、引き続き魔鏡と戦闘だ
こちらに敵の注意を割かせれば
その分敵の鏡の世界への影響力が落ち
仲間の猟兵たちの動きが容易となるであろう

鏡としての能力は相手の力の相殺を重視
戦闘はそれ以外の力に頼ろうか

学校内であれば、様々な道具があるはず
『神は万物に宿る』を使用し
それらを付喪神と化し、協力して貰うとしよう
我が分け与える力は破魔71の神通力
それを付与した彼らは魔鏡にも有効であろう

我自身に余裕があれば
念動力18とオーラ防御85で付喪神を援護するぞ

●神鏡のヤドリガミ
●本体の神鏡へのダメージ描写NG
●アドリブ、連携歓迎



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【 PART 23 】
        ▽ Holy Miror/Parasite Monster ▽
                   《  天御鏡・百々  》
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『あなた、あなたあなたあなた――――!』
「どうした邪神よ、その程度ではあるまい」
 どちらが優勢かというのであれば、それは、天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)である。
 鏡面を映しだす能力も、鏡面を渡る能力も、複製を作り出すことも、お互いが出来ることは、ほぼほぼ出来る。
 であれば、優劣を決めるのは、どちらがより優れているか。
 鏡、という物の本質に、どこまで近づいているかだ。

 邪神は、鏡面の内部に、複製された世界を作る。
 その世界では、文字通り神の如く振る舞える。
 人の心を暴き立て、それを元に作り出した理想の世界に捕らえれば、誰であろうとその存在を奪い取り、我が物にできる。

 だが、百々はその作り出された世界そのものを、自らの鏡面で塗り潰せるのだ。
 本質的に百々は鏡そのものなのだ。
 鏡と鏡が向き合えば、奥行きが永遠に続く、合わせ鏡の世界が出来上がる。
 いわんや、神鏡と魔鏡であれば、それは混沌の迷宮を生み出すに等しい。
 そして、いくら邪神といえど、際限無く、永遠に広がり続ける領域を全て把握し支配することなどできようもない。
 根本的に、認識しきれなくなる。

『ぐううううううう――――! 許せない、許せない、許せない――――!』
 鏡面世界、つまりは、誰も手が出せない安全地帯から、人々を嬲り続けてきたオブリビオンにとっては、
 耐え難い屈辱だろう、自らが好きに振る舞える領域で、自らよりも圧倒的に力を振るうものが居る。

「魔鏡よ、これ以上の狼藉、許さぬぞ!」
 高らかに叫び、百々は本体である神鏡を掲げた。
 それは、己が力を他の器物に分け与えることによって、まだ目覚めていない、彼らの自我を揺り起こす神秘。
 永い永い時を神鏡として過ごした百々の力は、他なるものの自我に揺さぶりをかけることすら出来るのだ。

『な、何をするつも――――あぁ!?』
 途端、オブリビオンの姿に、ノイズが走った。
 幼い少女の手の形が、一瞬割れて砕ける。
 それそのものは、すぐさまもとに戻ったが、継続して起こる変化は明らかだった。

『あ、あなた、あなた、まさか――――なんてことを!』
              、、、、、
「――――邪鏡に支配されし、我が同胞達よ!」
 百々が語りかけたのは、文字通り、己が同胞達。
 オブリビオンは、鏡はもちろん、校舎にあるガラスの窓や、果ては金属の鏡面、それら全てを己の出入り口として、支配下として扱ってきた。
 ならば、それらがもし自我を得て。
 己の意思で逆らうことを決めたら、どうなるか。

「我が声を聞け! 我が願いを聞き届けよ! 汝らのあり方を歪める者を滅する為に!」
(そうだ)(わたしたちは)(こんなことのためにうまれたんじゃない)
『あ、あぁぁぁぁぁ――――――!?』
「――――魔鏡よ、そなたに与する者は、もうなにもない」
 鏡面の世界に巣食うものに、鏡が反旗を翻す。
 それはつまり、何者にも映し出されることはない、という事だ。

「鏡とは、己が姿を見るためのもの、だがそなたは、己が姿を持たぬ虚像。鏡面が映す道理無し――――消えよ!」
『い、いや、いやあああああああああああああああああああああああああ!? こんな、こんな――――――』
 オブリビオンの全身が、歪み、薄れて、消えていく。

『わ、わたしの世界を、わたしの姿を、よくも、よくも、よくも――――』
 最後に残った瞳が、ギラリと百々を見据えた。

『絶対に――――――許さない――――――――』

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 …………一つ、根本的に、百々とユァミーの違いを上げるのであれば。
 百々は鏡そのものであるが、ユァミーはそうではない、という事だ。
 その性質は、付喪神やヤドリガミといった、器物が意思を持った存在ではなく。
              、、、
 鏡面という世界に巣食う、寄生虫に近い。

 だからこそ、人間の姿を真似て、奪い、のっとって、現実世界へ干渉しようとするのだ。

『あは、あははははは――――――』
 今、ユァミーは、鏡の中に居た。
 学園中の鏡面に存在を否定され、己の居場所を失った中。
 最後まで自分を映し出していた、圧倒的な力を持つもの、そう。
 、、、、、
 神鏡の中へと。

『――――いいわ、だったら、あなたの中に巣食ってあげる』
 万が一、天御鏡・百々という存在を食い漁り、このオブリビオンが奪い取ることがあれば。
 学園どころではない、世界中の鏡面を、支配することすら可能になるだろう。

『――――ヤドリガミ風情に邪魔なんてさせない』

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 第三章 BOSS
               -ユァミー-

  「鏡の中に巣食う」オブリビオンと、「鏡そのもの」である百々。
  両者は似ているようで、決定的に違う。
  鏡面世界の支配者としての争いで、神鏡に勝てる道理は無し。

  退路も、進路も立たれたユァミーが選んだのは、神鏡たる百々の存在を乗っ取ろうとしている。
  百々からすれば、ユァミーは、いわば寄生虫のようなものだ。
  そして、破魔の神鏡は、ユァミーという邪神の信徒が、巣食う宿主としてふさわしい。

  ユァミーは、あなたがあなたとして確立し、ヤドリガミとなる以前に干渉し、
  存在ごと奪うつもりで居る。

  場所は、百々の精神世界。
  最後の決戦の舞台は、あなたがまだ天御鏡・百々となる前。
  神鏡として祀られていた社。

  勝利条件:ユァミーを撃破する。

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大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ユァミー』

POW   :    かつてわたしだったひとたち
【自分が成り代わって消滅させた人達】の霊を召喚する。これは【忘れ去られてしまった嘆きの声】や【忘れ去られてしまった嘆きの声】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    あなたたちにはもうあきちゃった
戦闘力のない【自分が成り代わって消滅させた人達の霊】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【鏡を通じて邪神に喰わせる事】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    つぎはあなたになりたいな
対象の攻撃を軽減する【鏡に映した相手の姿】に変身しつつ、【相手の存在を邪神に喰わせ抹消する事】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ミコトメモリ・メイクメモリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


◆プレイング受付期間
4/22(水) 13:00から
4/30(木) 8:30 まで

導入は個々人で違いますので2章のリプレイを、
vsユァミーに関しては、ボスのデータをそれぞれ参考にしてください。

執筆は受付期間終了後に行うので、プレイングは一度お返しします。

受付期間中ならプレイングの内容変更は可能です。

内容上、三章からの参加はできません、ご了承ください。
フェルト・フィルファーデン

爺やを困らせない
婆やを悲しませない
騎士だって守れるわたしになる
民の希望となって
何一つ亡くしたりしない
わたしが望んだ理想のワタシ


……そうね。ええ、アナタの言葉、全て肯定するわ。

わたしは無力よ。何一つ救えず、何一つ取り戻せない。

全てはもう、終わったのよ。


――アナタはいいわよね。わたしの亡くした全てを手にして。

まさに完璧な理想郷!……わたしの“知らない”アナタの国よ。

そう、アナタは現実からかけ離れすぎた。もうアナタは、わたしではない。

虚構諸共消えなさい。……言ったでしょう?わたしの国は、滅びたの。





残るのは叶わぬ願いと
数えきれない未練だけ
もしも本当に、こんな世界があるのなら
理想のワタシよ、幸せにね。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 1 】
      ▽ Princess couldn't even be a doll. ▽
             《  フェルト・フィルファーデン  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 自信をたっぷり蓄えた表情は、己の覇道に疑問を抱いたことのないものだけに許された特権に違いない。
 だって、彼女は正しいのだから、そうなるのは当然だ。

 きっと彼女は爺やを困らせないだろう。
 きっと彼女は婆やを悲しませないだろう。
 騎士達は最後に彼女を頼るだろう。
 民は彼女がいてくれることに希望と期待を抱くだろう。
 何もかも失わず、何もかも喪わず、何もかも亡くさなかったのだろう。

『……どうして?』
 即ち、紛れもなく、それは理想の体現であり。

『どうしてあなたは、まだ生きていられるの?』
 理想とは、どこまでも現実と相反する存在なのだ。

『わからないわ、私にはわからない』
 妖精の姫は、眼前に立つ、理想に至れなかった己を見て嘆く。

 ――――国という支えを失い。
 ――――民という宝を失い。
 ――――何もかも守れなかったお姫様は。
 ――――どうして自刃を選ばなかったのか。

『恥ずかしくはないの? 情けなくはないの? 責務を果たせなかった己が生きている事を、どうして許せるの?』

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「あは」
 憎悪でも、悔恨でも、憤怒でもなく。
 フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)の口の端からこぼれたのは、小さな笑みだった。

『…………何がおかしいの?』
「アナタは正しいな、と思ったのよ」
 それは、すぐにくすくすと継続した笑みになる。
 嫌味でも演技でもなく、自然にこぼれ出たものだった。面白くて仕方がなかった。
 目の前の、“理想の虚構”が。

恥ずかしいわ。情けないわ。後悔しない日など無いわ」
 ――――滑稽に見えて、仕方なかった。

「…………自分を許したことなんて、一度だって無いわ」
『なら、なぜ自分を裁こうとしないの?』








「――――――だって、私は世界を救うんだもの」



『………………え?』
 理想の己は、おかしなものを見るような目でフェルトを見た。
 国を救えなかったモノが、一体何をのたまうのかと。

 ぱちりと、指を鳴らす。横一列に、人形の騎士達が並んだ。
 それは姫に付き従う騎士であり、今はもう生きていない者たちであり。
 それでもなお、姫の為に戦う従者達の姿だった。

「ええ、アナタの言葉、全て肯定するわ」
「なにも救えなかったわたし、何も守れなかったわたし」
「ええ、だから望んでいいわよね、“次こそは”って」
 指繰れば、剣が、杖が掲げられる。

「アナタの救った国を、誇ればいいわ。だけどわたしは、そんな国は知らない」
 だって。
 フェルトの知っている爺やは、お小言がうるさくて、口うるさくて。
 フェルトの知っている婆やは、心配性で、優しくて。
 フェルトの知っている騎士は、皆、頼もしく強くあって。
 フェルトの大好きだった全ては。
  、、、、、、、、、、、、、、       モ ノ
 フェルトがフェルトでなくては、存在し得ない人々だったから。

 完璧なお姫様が、完璧に振る舞い、完璧に守りきった世界は。

「アナタとわたしのあり方は、かけ離れすぎた。もうアナタは、わたしではない」
 ――――フェルトの想像も及ばない、未知だった。
 だから、比べられたってわからない。比較のしようがない。
 ただ、今のフェルトのあり方を否定する、異なる己と対峙する以外。
 できることなど、あるはずもない。

『次? 笑わせないで。アナタに次なんてない。誰もアナタを許さない。役割を果たせなかった王族を、誰が認めるというの!』
「認めてくれたのよ」
 叫ぶように放たれた否定は、きっと理想のフェルトが己に課してきた枷そのものだ。
 役割を果たせなければ。
 守れなければ。
 救えなければ。
 自らの存在を保てない、薄氷のような存在。

「わたしより年下なのに、わたしを救ってくれるって、言ってくれた子がいたの」
 きっと、その言葉だけで十分だった。
 差し伸べられた手があったという、それだけの事実で。
 フェルト・フィルファーデンは、もうとっくに、救われたのだ。

 死に損なった己が、もう二度と死を選ばなくて良いように。
 フェルトを救うと言ってくれた、親愛なる騎士が、笑って帰れるように。
 世界のすべての悲劇を救って、笑顔に変えるのだ。

 今度こそ。
 失わないために――――フェルトはとっくに立ち上がっているのだから。

「虚構諸共消えなさい。……言ったでしょう? わたしの国は、滅びたの」
 それを受け入れて、もはやお姫様ですら無い少女は、手をかざした。

『――――――ありえない!』
 光の剣と、槍がぶつかり合って、空間がひび割れる。
 虚構ごと、世界を切り伏せる。
 真に勝る虚は無く。
 理想という虚構を、断絶する一撃が。


              、、、、、、、
『だって、だってそんなの! 死ぬより苦しいはずじゃない――――――!』



 その言葉を最後に。
 理想の自分の姿が消えていく。
 ああ、どこまでも彼女は、完璧だ。
 自らが見たくなかったであろう、出来損ないの自分が選んだ道が。
 どれほど辛いのかを理解して、否定しようとしたのだから。
 彼女は、名君だったのだろう。
 誰からも愛される、真の統治者になれたのだろう。
 ただそれは、フェルトではなかった。
 それだけの話で、それでおしまいだ。

「――――もしも、本当にそんな世界があったなら」
 理想のワタシよ、幸せにね。

成功 🔵​🔵​🔴​

六六六・たかし


俺の視界に俺がいるっていうのは何度見ても気分が悪い
俺はたかしでデビルズナンバーたかしは俺1人なのだからな

俺自身をコピーし全てを真似したつもりだろう。
同じ能力なら殺戮衝動に満ち溢れた自分が勝つだろう。
そう思っていることは雰囲気から明らかだ、猿でもわかる

だがその思考はまるきり無意味だ、なぜなら俺は1人じゃないんだからな
デビルスロットドライバー起動──

──── 大……転……身……!!!!!

1+1+1+1=4だとでも思ったか
覚えておけ!俺は1じゃない!666のたかしだ!!

消えろ偽物!スーパーデビルたかしストラッシュ!!!!!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 2 】
      ▽ 確かにたかしの物語 ▽
               《  六六六・たかし  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 デビルズナンバー。
 それぞれ、零零壱から六六六までの“ナンバー”を有する、殺人オブジェクト群の総称だ。
 ナンバーの数字が高ければ高いほど、より強く、位階が高い傾向にある。
 つまり、六六六・たかしという存在は、デビルズナンバーというくくりにおいては“最弱”であるはずだ。
 しかして、その性質は――――――。

「ちっ!」
『――――――』
 たかしと“鏡像のたかし”が切り結ぶ。
 それぞれ手にした“たかしブレード”同士の威力はほぼ互角。
 ならば優劣を決定するのは――――。

「『デビルメダルチェンジ!』」
 同時に叫び、手をかざす。手の内に出現するメダルの数字は“六零零”、即ち。

「『モード:ざしきわらし!』」
 デビルスロットドライバーがその数字を読み取って、変化が始まる。
 瞬き一回分の時間を経て、蒼の鎧武者に転じた二人が、即座に青いオーラを纏う刃をぶつけ合った。

「く――――――」
(たかし! 正面からは不利だよ!)
 同一化したことにより、頭に響くざしきわらしの声。
 その警告を証明するかのように、鍔迫合う刃越しに、徐々に体を押され始める。

『お前が俺に勝てることは、ない』
 同じ姿をしながら、膂力で勝ることを証明しながら、“鏡像のたかし”は無表情に告げる。

『お前の使役するデビルズナンバーは、自己の役割を放棄した“失敗作”に過ぎない。殺人オブジェクトとしての役割を果たせない不良品だ』
(っ)
 言い返す前に、息を呑んだのは、ざしきわらしの方だった。

『俺が支配する“これ”は違う。殺すために最適化された、殺すためのオブジェクトだ。だからお前は俺に勝てない』
          た か し
 なぜなら、俺は“殺人オブジェクト”だからだ。

  デビルタカシストラッシュ
 《六六六悪魔の斬撃》

 一閃が振り抜かれて、鎧が砕け散る。
 吹き飛び、転がれば、口の中に血がにじむ味がする。
 ぺ、と吐き出して起き上がる頃には、カチン、と音を立ててメダルがベルトから排出され、転がった。
 
「ち…………!」
『見せてやろう。“殺人オブジェクト”として完成された俺の力を』
(――――――たかし! 気をつけて!)
 消耗し、苦しそうな声を滲ませるざしきわらしの警告。
 その合間を縫うように、“鏡像のたかし”はメダルを取り出し、己のドライバーにセットした。

『間違えろ――――視界錯乱、“さくし”』
 “鏡像のたかし”のかけた眼鏡が鈍く光る。その輝きを目にした瞬間、相手の姿が突如として四人へと分裂した。

「幻を見せる能力――――ならばまなざし!」
『イエス、マスター!』
 瞬時にその性質を判断したたかしの指示によって、己の眼鏡――“まなざし”のメダルを装填。
 変身すると同時に、“まなざし”の機能を拡張したゴーグルが偽りの“錯視”を看破し、本物を暴き出す。

『次だ。飾れ――――呪髪装飾、“かんざし”』
 “鏡像のたかし”は、続けて取り出したメダルを装填。短いはずの毛髪が恐ろしい速度で伸び始め、意思を持った生物のように襲いかかる。

「かかし、メダルチェンジ!」
(たかし、気をつけるべ!)
 その髪の毛が体中にまとわりつく寸前で、変身が文字通り、間一髪完了した。

(ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)
 体を締め付け、引き裂こうとすると髪の毛を、“かかし”の膂力でもって力づくで引き剥がし、そのまま掴んで手繰り寄せる。

「このままこっちに――――――」
『穿け―――一貫通一閃、“くしざし”』
 そのベクトルに合わせて、“鏡像のたかし”はあえてたかしに向かって跳躍した。
 かかしが引っ張った勢いと己の脚力、二つの加速を乗せて右手を突き出せば、尖った槍状の武装が腕に纏い、文字通り“串刺し”にしようと迫ってくる。

「――――“おみとおし”だ!」
 槍が顔面を貫く直前に、たかしの背後から二枚のチャクラム――“鳥避け”が、空に複雑な軌道を描きながら、“鏡像のたかし”へと襲いかった。
 “かかしフォーム”の膂力で槍を受け止め、なんとか停止させた頃には、“鏡像のたかし”もまた大きく飛び退いて、お互いの位置関係がもとに戻る。

『ならこれはどうだ? 返れ――――天地反転、“どんでんがえし”』
 ぐるり、と視界が反転した。いや、反転したのは自分の体そのものだ。
 重力が狂い、周辺の空間に存在する上下という概念が入れ替わる。

「次から次へと――――――」
『それが“俺(たかし)”だ。お前とは違う。支配している数が違う。たった三つのオブジェクトしか有していないお前とは』
 “天井に向かって落下する”たかし。
 己一人だけ、地に足をつける“鏡像のたかし”は、更にもう一枚のメダルを取り出した。

『終わりだ、欠陥品。圧縮圧殺――――“おしつぶし”』
 重力に従って落下し、“激突”する前のタイミング。
 即ち、宙に放り出されて身動きの出来ないタイミングで、床と天井が同時に凄まじい速度でせり出して。

「きさ――――――」
 間にあるモノを“押し潰し”た。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ぐしゃり、という音はなかなかどうして悪くない。
 殺めた、という感覚を自覚するのは良いことだ。殺人オブジェクトとしての自己認識を確立できる。
 欠陥品がなくなり、“たかし”という存在は一人になった。
 ならば、ここにいる俺こそが真のたかしであり。
 これから世界という世界に存在する数多の人間を殺人する、最悪のオブジェクトの完成を意味する。






「――――――ご自慢の大道芸は、それで終わりか」
 はずだった。


 振り返る。そこには“たかし”が居た。
 頭から血を流し、腕は折れているように見える。
 まったくもって完全ではない、不完全なる存在。
 だが生きている。存在している。立っている。

『……何故生きている』
「愚問だな」
 勝ち誇るべきは己の方であるはずなのに。
 傷だらけの欠陥品は、堂々と言い放った。

「なぜなら、俺はたかしだからだ」
『――――たかしは、俺だ!』
 じゃらじゃらじゃら、と。
 無数のメダルが展開し、次々にドライバーへ装填されていく。

『お前が生きていられるはずがない、完成品は俺だ、なぜなら、俺がたかしだからだ!』
 “きりかえし”、“おんがえし”、“いくじなし”、“あんらくし”、“いたんし”、“いちばんぼし”
 “うでっぷし”、“さとうがし”、“さるまわし”、“でなおし”、“とうぎゅうし”、“まんざいし”、“しんぶんし”――――――。

「それがお前の、過ちだ」
 それら全てのメダルが。

「――――止まれ」
 その言葉を以て、一斉に力を失って、落下し、砕け散っていった。

『な――――――』
「ふん、果たして実在するデビルズナンバーなのか、それとも出来損ないの未登録ナンバーか。そんなことはどうでもいい」
 あの男は、敗者のはずだ。
 であるのに、何故“俺”は一歩下がった。
 理解できないまま、距離が詰められていく。気がつけば、もう、眼前に“たかし”が居た。

「お前は、履き違えた」
『なんだと?』
「お前は完璧なデビルズナンバーなのだろう。殺人オブジェクトとして完成した」
『その通りだ、故に――――』
     、、、
「だから失敗作なんだ」
『――――――』

 デビルズナンバーたかしは、たった一人、“デビルズナンバーを支配し、操る能力を持ったデビルズナンバー”だ。
 何故そうなったのかはわからない。誰が設計したのかもわからない。
 ただ唯一確かなのは、最高にして最下位のナンバーを持つ彼こそが、異端にして例外であるという事実。
                    、、、、、、
 “殺人オブジェクト”として、完成してはいけなかった。

「デビルズナンバーとしては完璧であっても、“俺(たかし)”としては未完成だ、それがお前が敗北する理由にほかならない」
『――――――ほざけ!』
 再び“ざしきわらし”のメダルを装填し、蒼き鎧武者となって、両断する。
 そのはずだったのに、刃は、もはやたかしを傷つけることはなかった。
 頭部にふれるその直前で、ピタリと止まって、動かない。
 体が、動かない。

『何故、俺の体が、動かない――――――!?』
「そんなことは、決まっている」
 こともなげに、無表情のまま、しかし得意げに。



「“俺(たかし)”が“お前(たかし)”を支配することなど――造作もない。なぜなら、俺“が”たかしだからだ」



 そう言い放ち、宣言した。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「デビルスロットドライバー起動!」
(たかし! 無茶して!)
(すまねえ、不覚をとったべ!)
(ですが、もう大丈夫ですわ、参りましょう!)
 三つのメダル、三人の仲間。
 それら全てを、同時にドライバーに装填、起動する。

『な――――――――』
「俺達を足し算で数えようとした、それがそもそも間違いだ。たった三つ? 1+1+1+1=4だとでも思ったか。違うな」
 目まぐるしく入れ替わる数字。やがてそれは三桁の“六”を刻む。

「――――――大……転……身……!!!!!」
 六六六たかし。
 デビルズナンバーの最終番号にして最高番号にして最低番号たる存在。
 けれど孤独はそこになく。
 信ずる仲間が確かにいる。

 だから、彼は殺人オブジェクトに成り下がらなかった。

「消えろ偽物! スーパーデビルたかしストラッシュ!!!!!」
 逆手に構えたたかしブレードの発光は、もはや野太い熱量の塊となった。
 振り抜かれる先にあるもの、全てを焼き払い、消し飛ばす必殺の一撃。
 ありえないスペック、考えられない機構、存在しないはずのシステム。

『ふざ、けるな――――だったら!』
 体を消し飛ばされながら、“鏡像のたかし”が手を伸ばし、叫ぶ。

『殺人オブジェクトにならないのだとしたら! お前は何になるというんだ! 何に至る! どう完成する!?』
「それすら、わからないのか」
 答えは最初から決まっている。
 そう、生まれ落ちて、自我を得て、言葉を発したその瞬間に。

「――――俺はたかしだ。最初から、最後までな」
 ブレードを振り抜いた時。
 もう、立っているものは居なかった。
 ぱりん、とどこかで鏡が砕け散る音がして、後は静寂だけが残った。

「…………ふん」
 いつの間にか元の姿へと戻ったたかしのそばに、近づいてくる者がいる。

『たかしぃ~! もう、大丈夫!?』
『とりあえず安全なところにいくべ! 腕折れてんべよ!』
『マスター! マスター! お目々は見えます!?』

「……大丈夫だ、なぜなら俺は、たかしだからな」
(理由になってな~~~~~~~いっ!)
 相棒の声を聞きながら、たかしはふん、ともう一度鼻を鳴らした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア


…まいったなぁ…
そこらのチンピラから始まって、ドラゴン・悪魔・カミサマに大魔王…
猟兵になる前もなってからも、いろんなヤツにケンカ売って売られてブチ貫いて、最終的には粗方ブッ殺してきたけど。
…「撃ちたくない」って思ったのは、初めてかも。
少なくとも、「このままでもいいかも」なんて考えがよぎる程度には血迷ってるなぁ…

…ま、相手にするなら「アタシ」よね、そりゃ。
…姿だけならともかく、あの娘たちを撃つ?冗談じゃないっての。
○クイックドロウからの●封殺(切り札)一閃。多分アタシのほうが迅いけど…アタシも撃たれるわね、きっと。

…ゴメンね。
だいすきよ、スィル。
――泣きたくなったのなんて、いつぶりだろ。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 3 】
        ▽ さよならの弾丸 ▽
               《  ティオレンシア・シーディア  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 撃たなければならない。
 猟兵として、無辜の命を助けに来たものとして。
 この世界を壊し、脱出しなければならない。

 頭と理性は、そうと理解しているのに。
 どうしても引き金にかけた指が動かない。

「ねーさん?」
 スィル。
 少女が、首を傾げて、どうしたの? と問いかけてくる。
 銃口を向けられてなお、それは動揺より信頼が勝る表情だった。

 撃たなければ、終わらない。
 けど、撃ってしまったら、きっと×××××××が終わってしまう。

 ――――――このままでも、いいんじゃないか。
 銃口を下げて、ごめん、なんでも無い、と一言言えばいい。

『ねーさん、冗談やめてよ、もう』
 そう言われて、少し怒られて、謝って、やがて皆仕事に戻っていく。
 自分もその流れに乗ればいい。そしてまた、この場所を守ろう。

 結局、女というのはどこまでも舐められる、だから店には多くの無法者も来る。
 暴力でカタをつけようというチンピラは後をたたない、泣かされる娘もいる、殴られる娘もいる。
 だからそれを覆すだけの暴力が必要だ。安全弁となるモノが必要だ。

 それを担っていたのが、“アタシ”だった。
 この場所には、“アタシ”が必要だった。
 “アタシ”の居場所だった。

 手を伸ばそうとした。触れようとした。
 してしまった。
 それが間違いだとわかっていても。
 血迷ったことは、事実だった。

 ――――――チャキ、と銃器を構える音に、あまりに聞き覚えがありすぎて。
 心とは別に、体が反射的に動いて、自分も獲物を引き抜いていた。

 視線の先に、自分がいる。
 その表情は憎しみと憎悪、そして殺意に満ちていた。
 ああそうだ、この館の用心棒は。
 娘に銃を向けるような敵に、余計な口上を垂れるような、呑気な馬鹿ではない。
 顔が同じだから躊躇したりもしない。
 淡々と行為を行って、淡々と撃ち抜くだけだ。

 愛する家族を守るために、自分だってそうするだろう。

 引き金は、同時に引かれた。
 狙いをつけるのは向こうが早かったのに、その差はきっと経験が埋めた。
 弾丸は一瞬で交差し、狂いなく狙った場所に着弾した。

 鏡像の己の頭を確かに打ち抜いて、代償として右肘を撃ち抜かれた。

「は――――――――」
 ああ、よかった。
 ちゃんと撃てた。
 見切りをつけられた。
 終わってしまった。

 きゃあ、と誰かが叫んだ。
 目の前の少女は、目を白黒させて、混乱していた。

「……ゴメンね。だいすきよ、スィル」
 うろたえる少女に、血まみれの手で触れて。
 頬に軽い口づけをして、ティオレンシアは歩き出す。
 悲鳴と、ざわめきを置き去りにして――――世界が砕けようとしている。

 ああ、なんで戻ってきてしまったんだろう。
 見なければよかった。取り戻せるかもだなんて思わなければよかった。
 なんて悪趣味な敵だ。絶対に許さない。眉間をぶち抜いて殺してやる。

 なんでだ、どうして目の奥が熱い。
 そんなわかりやすい、単なる感情、とっくに何処かに置いてきた人間のはずだろう。

『ねーさん!』
 背後から、声がする。
 愛していた、守りたかった、守れなかった誰かの声が。

『私も大好きだよ! だから、だからさぁ――――――』
 振り向いて、その顔を見る前に。
 世界が砕け散り、消えた。

 ――――その弾丸は、確かにオブリビオンの作り出した領域に、消えない傷を生み出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

月輪・美月

確かに僕は貴方のように生きたいと願っていた
子供の頃から父のように、母のようにと、必死だった
黒い狼ではない自分が、正しく二人の子供であると認めて貰えるようにと

……真実、貴方が僕の鏡像だというなら……理想に向かって手を伸ばし、努力を重ねてきた分だけ、上回る力がある。僕はそう信じたい

断罪輪……本来これには罪を断つ力がある、らしいですよ? 罪がどうこう、なんて今まで考えた事も無かったんですが
……僕にとっての貴方は、家族から逃げていた心の弱さ、罪の象徴

…………今こそ、その罪を断つ刃となれ。断罪輪 影ノ輪

うん、黒髪の僕はやっぱり父さんに似て格好いい……でもま、今の僕もそう悪くはないでしょう、父さん?



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART4  】
      ▽ 月輪影狼 ▽
           《  月輪・美月  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 双方の足元から伸びる影より、無数の狼が生まれ、ほぼ同時に放たれる。
 群れと群れが、お互いを蹂躙しあう殲滅戦。

『日輪影狼――――“群”』
「黒影!」
 鏡像が使うそれは――――父や姉が得意とする技で。
 対して美月が使うそれは――――己なりのやり方で編み出した技だった。
 起こる現象に大きな違いはない。
 どれほど影狼を上手く操り、戦わせられるか。

「く――――!」
『量も質も劣る。やはり貴方は偽物だ』
 タクトを振るうように、鏡像の美月は指を動かす。
 統率された軍として、野生の狼の群の如く獲物を追い詰める。
 一匹、また一匹と影狼の数が減る。

 あちらの美月は、これが得意であるらしい。
 、受け継いだ力を研鑽し、磨き上げた故の力。
 適切に、的確に、精密に影狼の群れを操る、統率能力。

『僕には勝てませんよ、わかっていたでしょう?』
 気づけば、周囲は、鏡像が生み出した影の狼に包囲されている。
 美月の生み出した影狼は、全て形を失い平面に戻ってしまったらしい。
 三百六十度、逃げ場はなく、あとは合図があれば、一斉に牙が突き立てられるだろう。

「……そんなに物分りがよく見えますか?」
 苦笑しながら、だん、と足踏みを合図に、更に影狼を生成しようとしたが――――反応がない。

『貴方はもう何も出来ませんよ』
 心底呆れたように、鏡像の美月は言った。

『このあたり一帯の影は、もう僕が支配しました。貴方にはもう何も作れない』
 グルル、グルル、腹をすかせた獣が、獲物を前にならす喉の音。

『さようなら、偽物』
 ぱちん、という指の音で、一斉に影狼達が美月に群がった。
 肉を貫き、骨を砕く音をその耳で確認してから、鏡像の美月は仕事の完了を確信して背を向けた。

 ――――――その瞬間。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 好き放題言ってくれるなぁ、と思いますし。
 ああ、痛い痛い、全く柄じゃないんですよ、できれば余裕綽々で格好つけながら勝利したい。
 でもよく考えたら、この場にいるのは自分だけでした。
 どれだけ這いつくばって、どれだけ情けない姿を見せても。
 誰も見ていないんでした。
 見ているのは、自分だけでしたね。
 だったら、いいのか。少しぐらい。
 本音で吼えて見るのも、悪くないんじゃないでしょうか。

 …………完璧な僕?

 ――――知ったこっちゃないんですよ。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 鏡像の美月は、己の影狼を支配している。
 それは個体数を把握していることを意味している。
 だから十を超えていたはずの影狼が一瞬で消滅したことを知覚出来た。

『――――――っ!』
 だが、予想していなかった事態に対応するのは、難しい。
 美月の接敵はほぼ同時。
 眼前に、すでに“偽物”が迫っていた。

「僕は貴方みたいになりたかった」
 血の混ざった影で構成された円環が握られていた。
 それは、罪を断つ刃、名前を断罪輪と呼ぶ。

 飄々とした父に、追いつける気がしなくて。
 “ああはなれない”と言われている気がして。

 柔らかく微笑む母の、艷やかな黒を見るたびに。
 “ああなりたかった”と心を蝕まれ。

 どうして自分だけが違うんだろう、と思っていた。
 だから。
 、、、
「だから手を伸ばした、何度も何度も、届くように、触れられるように、辿り着けるように」
『――――何の話を!』
 支配していた、全域の影を一度に操作する。
 膨れ上がる。巨大な狼のアギトが、美月に向かって放たれる。

「僕は貴方になれなかった分――」
 月は太陽の光を受けて輝く、円環だ。
 日輪の名だけでは辿り着けなかった、この美月だからこそ手にできたモノ。

「――――貴方より努力した!」
 持ち合わせた誇りがなかったから。
 それを埋めるように、培った力がある。

 その名前を、《“断罪輪”影ノ輪》。

 家族から逃げていた心の弱さ、罪の象徴。
 その罪を断つ、刃。

 巨大な影狼の牙が美月を捉える。
 だが、喰らうことはできなかった。
 回転する影の刃が、襲いくる敵対者の影を引き裂き、そのまま散らして霧散させる。

 ――――強度が違う。

 対応を誤ったと鏡像が判断したときには、全てが手遅れだった。
 胴体を断ち斬られて、ぱりんと、何かが砕ける音がした。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『どこから、影を――――確かに、影は、僕が支配していた――――』
「貴方の狼に噛まれて、体に穴が空いたんですよ」
 いてて、と傷口を押さえながら、美月は言った。


 、、、、、、、、、、、、、
「空洞ができれば影も生まれるでしょう」


 己の体から生み出した、己の影だ。
 そこいらの平面で作ったモノより、強いに決まっている。

『――――――――――』
 そのままさらさらと塵になって、もう一人の自分が消えていく。
 それを見届けてから、ふう、と大きく息を吐いた。

「うん、黒髪の僕はやっぱり父さんに似て格好いい……」
 鏡像の、黒き体毛の己を振り返って、思う。
 どっちであっても、美月は美月だった。
 ただ少し、ひねくれて、突っ張って。
 格好つけてる、何処にでもいる少年だ。

「でもま、今の僕もそう悪くはないでしょう、父さん?」
 それでも、今の自分を否定する気にはなれない。
 ふぁさ、と白い髪の毛をかきあげて、美月は笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

月山・カムイ

普段の姿に戻り目の前の鏡像と対峙する
なんだかなーと少し白けた風に

何故選ばなかったのか、と責められましても……過程のない自分がそこに居ない偽物を見せられましてもね
あぁ、そうは成らなかったけどそういう可能性もあったのか、としか
妹の成長した予想図を見れたのは面白かったですが

そもそも私がどう選択しようと世界の滅びは避けられませんでしたからね
今のこの偽物を放置して、平和に生きてる人達の世界に迷惑をかけるのも本意ではありませんから
だから、オママゴトはこれで終わりですよ

そう言って、少しだけ悲しそうに笑って
剣刃一閃、己の鏡像毎世界を切り捨てる

私と同じ滅びを皆に経験させぬよう、私は前へ進みますよ
……サヨウナラ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 5 】
     ▽ 許さない は 届かない ▽
              《  月山・カムイ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 無力、非力、運命に抗うすべを持たない。
 もしそんな人生を歩んでいたら『こう』なっていたのだろうか。

 自分と同じ顔で、戦おうとせず、ただ現状を否定したくて吼えるだけの少年だ。
 それを見て、悲しいと思うことも、特になかった。

 どうしてこうならなかったのか、などと今更思えるほど感傷的でもないし。
 そんな後悔は、とっくに昔に終わったことだからだ。

『×××××××××××!!!!!』
 少年の放つ罵倒が言葉として認識できなかったのは、もう、それに大して意味を求めていないからだろう。
 何を言われても、カムイの行動は変わらない。
 ああ、でも。
 妹がどんなふうに育ったか、を見れたのは、数少ない収穫だったのかもしれない。
 母親に似てくれたようだ――父親には似なかったようだ。

 この“もしも”が現実だったら――――それがこのオブリビオンのやり口なのだろう。
 それは、おおよそ人間という生物すべてに通ずる、最も卑劣で、最悪で、愚劣なやり方だ。

 空を見上げる。
 カムイが、鏡像世界の在り方を破壊したことで、空間がひび割れ、砕け散ろうとしている。
 もはや崩壊する寸前だ、放っておいても、いずれ壊れるだろう。

 だが。

『――――許さない』
 武器は無くとも拳を握りしめ。
 憎悪と殺意に満ちた瞳で敵(カムイ)を睨み。
 向かってこようとする自分でない“誰か”を見て。

「――――サヨウナラ」
 ただ一閃。
 言葉と共に、鏡像も世界ごと切り捨てる。
 斬撃が生んだ亀裂はそのまま空間を断ち割って、崩していく。
 両断された少年の伸ばした手は、何処にも届かない。彼の怒りは、鏡写しの偽物で、それは果たされること無く消えていく。

「――…………」
 刀を収めた時には、もう元の空間に戻っていた。
 誰も居ない、静かになった「表側」の世界。
 なんとなくだが、この場での己の役割が終わったことがわかる。
 鏡像世界を破壊したことで、オブリビオンの支配は更に揺らいだはずだ。
 とはいえ。

「……直接一太刀浴びせたい気持ちがないといえば、嘘ですかね」
 嘆息してから、月山カムイは歩き出す。次なる戦場へ向かって。

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『――――俺の家族を奪ったお前を――――――』
「ええ、許さないのでしょうね」
 貴方は。

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成功 🔵​🔵​🔴​

アリエル・ポラリス
……剣を握ってるお兄ちゃんの手、おっきいわねぇ。
私がちっちゃいのかしら。昔からそうよね。
皆に恩返ししたくても、私はちっちゃくて、何も知らないの。

──だから私はヒーローになるのよ!
私じゃお兄ちゃんを守ってあげられなくて、お姉ちゃんに何も教えてあげられないけど!
誰かにはきっとできるの! 世界にはその誰かがいるの!
ミサトさんだってそうよ!
私は居なくなっちゃうけど、私が助ける誰かがきっと傍に居てくれるの!

それこそが『恩返し』!
私の好きな人達の為なら、世界中みんな幸せにしてやるの!
私の恩返しのついでに救われろ世界!!!

愛してるわよお兄ちゃん(仮)!
葬送火は愛と共に突き進む!
止まってなんか、やらないわ!!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 6 】
      ▽ 私はあなたのお兄ちゃんだから ▽
                    《  アリエル・ポラリス  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

(お兄ちゃんの手、おっきいわねぇ)
 剣を握る兄の手は、自分と比べると笑ってしまうぐらい大きい。
 手のひらを合わせてみればわかる。長さも、太さも、ぜんぜん違う。
 大人の子供の差であり、男と女の差であり、つまり兄妹の差なのだ。

 それを幾度、頼もしいと思っただろう。
 それを幾度、誇らしいと思っただろう。

 自慢のお兄ちゃんだ。
 大好きなお兄ちゃんだ。

 だからこそ。

 “戦う”事なんて、考えたこともなかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 アリエル・ポラリスは知っている。
 兄が構える銀のステッキの内側に、刃が仕込まれていることを。
 それが振るわれれば、自分なんてひとたまりもないことを。
 まして、眼前に立つ鏡像の兄は、自らの理想が反映された存在だ。

  、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、
 理想の存在であるが故に、絶対に勝つことが出来ない。


 兄は、哀しそうな目でこちらを見ながら、立っているだけだ。
 殺意も敵意も感じない、それは愛ゆえの行為だから。
 それでいて尚、敵うビジョンが、全く見えない。

『アリエル』
 凪のように、落ち着き払った声だった。

『痛くないように、一瞬で』
 眠らせてあげますよ、と聞こえた瞬間には、銀杖が首めがけて振るわれていた。

「――――――っ!」
 ナイフ――ノンメルトでとっさに受け止めて、鍔迫り合いになる。
 いや……拮抗は一瞬だった、力負けして、ジリジリと押し込まれて行く。

『アリエル、小さな、かわいいアリエル』
「――――――――」
『あなたが行こうとしてる道は、辛いだけです。哀しいだけです。戦うことは、私に任せてくれればいい』
 ふ、と鏡像の兄が力を抜いた。
 ギリギリ、保っていた体勢がそれで崩れる。足に力を入れて踏ん張った時には、もう腹に横殴りの衝撃を受けていた。

「きゃ――――あっ」
 二度、三度転がって、直接的な痛みが襲ってくる。
 それでも加減されたことがわかって、ぎり、と歯を食いしばった。

『だってあなたはまだ、子供なのだから』
 もういいでしょう? と差し伸べられる手は、やっぱり大きくて。
 思わず、それをとってしまいそうになる。

「お兄ちゃん」
 倒れた、手をのばす。地面を爪で引っ掻いて、体を起こす。

「私はちっちゃくて……何も知らないの」
 世界は広くて、わからないことだらけで。
 大人しか理解できない難しい理屈とか事情が、きっとたくさんあるんだろう。

「私は、お兄ちゃんより弱いから、お兄ちゃんを守ってあげられないけど」
 本物ではないその鏡像にすら、アリエル・ポラリスが歯が立たない。

「お勉強だって、得意じゃないから、お姉ちゃんに何も教えてあげられないけど!」
 だけど、だからこそ、その手を取る事は出来ない。
 お兄ちゃんに頼って、委ねて、任せて、おしまいじゃあ――駄目なのだ。
 だって。

「私じゃなきゃ、できないことがあるのっ!」
 今もそうだ。
 アリエルを助けてくれた人を、今度はアリエルが助けに行く。
 それは世界の誰にも出来ない、他の誰にも任せられない。

「私の手を待ってる人が、きっといるから……他の誰かには、きっとできるから!」
 世界のどこかで、きっと誰かが。
 愚直で、真っすぐで、おバカで、どうしようもなく勢い任せで。
            ポラリス
 だけど、誰より優しい一番星を、待っている。

「そうやって、前に進んでいけば、いつかっ!」
 いつか――――お兄ちゃんだって、お姉ちゃんだって。
 助けられるようになるはずだから。

「それが、私の『恩返し』っ!!」
 私の好きな人達がいる。
 私が守りたい人がいる。
 この手で、この足で、そこに往くのだ。

『アリエル』
「愛してるわよお兄ちゃん(仮)! だから――――絶対に諦めてなんて、あげないんだからぁーっ!!」
 炎が灯る。命なきものを還す鎮魂の炎。
 くゆるその、赤く明きモノの名前は――――――。

   ク レ マ シ オ ン
「《愛亡き者への葬送火》――――――!」

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 静かに、静かに燃える炎の中から。
 歩いて、出てくる影があった。
 銀杖から引き抜いた剣の一閃で、葬送火を切り裂いて。
 静かに、アリエルを見下ろした。

 ぎり、と奥歯を噛みしめる。
 これぐらいで勝てるだなんて、思ってない、だけど止まらない。
 追撃を放つべく、アリエルが一歩前に踏み出した時。
 合わせるように、鏡像の兄もまた踏み出して、お互いの距離が零になった。

 不意を突かれて、一瞬思考が白になる。
 まずい、離れなきゃ、と思うより先に、大きな手が伸びてきて。



 ――――アリエルの体を、優しく抱きしめた。



 それは、よく知った感触だった。
 甘えて、ソファに座る兄の上に乗った時。
 怖くて、眠れなくなって、ベッドに忍び込んだ時。
 いたずらをして、怒られて、しゅんと尻尾が垂れてしまった時。

 いつだって、大好きなお兄ちゃんは、こうしてくれた。

「え――――――――」
『…………私は、あなたのお兄ちゃんですから』
 ぴしり、と何かが割れる音がした。
 それは、世界が壊れ始める音で、鏡像が壊れ始める音だった。
 兄の体に、少しずつ、細かいヒビが増えていく。

『アリエルが頑張るというのなら、当然でしょう。応援しないわけには、行きません』
「…………お兄ちゃん?」
 じゃあ、ない。本物ではない。偽物だ。
 けれど。
 アリエルの抱いた理想を鏡写しにしたそれは――――。

『……もしかしたら、力が足りずに、助けたい誰かを助けられないときがあるかも知れない』
 鏡像の役割は、ここに猟兵を押し留め、偽物の世界を保ち続けることだ。
 その役割を放棄すれば、鏡像もまた、その意義を失う。
 壊れて、砕けていく存在は、それでも、妹の頭を、大きな手で撫でた。

『辛くなって、足を止めてしまう時が、あるかも知れない。そんな時は、帰っておいで。私ではないけれど、あなたの家族が、きっと待っている』
「――――お兄ちゃんっ!」
『あなたを待っている人が居るんでしょう。待たせちゃ、駄目ですよ』
 ……本物でないとわかっていても。
 壊れていくその姿に、手を伸ばそうとして。

『――――行ってらっしゃい』
「――――――っ」
 引っ込めて、こらえて、うん、と頷いて。

「…………行って、くるわっ! お兄ちゃん!」
 駆け出す。世界の形が崩れていって、それでも、走って、走って――――。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 暗くて寒い場所に、その少女は居た。
 右も左も分からない、どこに行っていいのかもわからないから、立ち止まっていた。
 そのうち、頭が重くなってきて、眠さとは別の感覚で、意識が途切れそうになる。
 そうして、闇に沈んでしまったら、二度と戻ってこれないことが、本能でわかるから、抗った。
 だけどそれは長く続かず、やがて思考も曖昧になって、だんだん、何もかもが溶けていく。

 ――――――パリン。

 無遠慮に、無造作に、その領域に手を突っ込んだ人がいる。

「……おまたせ、ミサトさん」
 彼女の住まう世界には、未だ見えないその光。

「――――助けにきたわっ!」
 けれど、救われた少女は思っただろう。


 まるで――――太陽みたいな、笑顔だと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アステル・シキョウ

・キャラ視点
さぁてよアステル、こいつに対しての対処法はどうすっか?
「どうするもこうもニエだからな……何が効くのやら」
ま、強いて言えばあいつと俺様の差は理性があるかどうかだろうよ。
「そっか、んじゃああれは獰猛な野生動物みたいなもんだな」
バカにしてんのかお前!?まぁ、お前みたいな引き留め役が居ねぇから、否定はしねぇがよ。
「……全く、それじゃあ行くぞ」

・行動
仮面ファイターノクターンに変身しての戦闘
相手が理性の無い暴走状態なのを活かして、いなして攻撃を行う
トドメには自身の必殺技である「華技-cadenza-」を使用します
シンプルな行動なのでアドリブ等大歓迎です



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 7 】
      ▽ Nocturne decided by myself. ▽
               《 アステル・シキョウ 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 ニエという存在を一言で表現するなら、“伝承する呪い”だ。
 それは血に宿るが故に駆除出来ず、血が受け継がれ続ける限り呪いもまた受け継がれていく。

 ――――だからこそ、“共生”は新たな道だった。

《さァ――――て、ビビってねェよなァ? 相棒ォ?》
「お前が生意気なおかげで鏡像を殴りやすくて助かる」
《ヒャハハハハハハ! それだけ生意気な口が聞けりゃあ上等ォ! ――――来るぞ》
 ニエの合図と同時に、“鏡像のニエ”が襲いくる。
 それはもはや人の形をしていない、輪郭を持たない黒いモヤが、3m以上の大きさをほこる、多腕多脚の獣へと姿を変じる。

『ギィィィィィィグァルルルァァァァァァァァァアオウ!』
 “呪い”が器を失い、無差別に成長した結果、他者を殺傷する事に特化したのだろう。
 五指――に見えるその部位が、多種多様な刃へと形を変える。
 刀、カミソリ、ドリル、ノコギリ、キリ、斧――――。

「ち――――――――」
 それら全てが複雑な軌道を描いて、急所を狙って襲い来る。とっさに大鎌となったニエで受け止めて、前進してくる“鏡像”と真っ向から対峙する。

「ニエ、この場合なら、お前はどうなった!?」
《俺に聞くんじゃねェ――――まぁ、殺して回るだけの獣だろぉな》
「根拠は?」
《呪いってのは何故かける? 本質的にゃ“害を成す”為だろ、器の中に収まってりゃあ、その器を壊せばいいが――――》
「器の外に出たら最後、対象を選ばない無差別殺戮を行うってわけか」
《そんな所だァな。理性がトんじまったら俺様もああなるってわけだ》
「最悪だな」
《最悪だねェ!》
「罪深いな」
《罪人だねェ!!!》
 拮抗を、殺意混じりの斬撃が破る。

『ギィィィィィ――――――――!』
《ヒャハハハハハハ! 足りねェよ俺様ァ! もっと喰わせろ!》
 アステルの――というよりはニエの意思が先行して、大鎌が一度二度と振るわれる。
 ニエ同士のぶつかり合いであれば、より洗練されたアステル――仮面ファイターノクターンが有利だ。
 所有者の都合と性質に応じて姿を変えるニエという“武器”の性質を鑑みるならば。
 所有者の居ない“鏡像”は、ただ暴れまわるだけの殺傷兵器に過ぎない。

「悠長に遊んでる暇はない――――一気に決めるぞ」
《アイヨ》
 カースドライバーに触れて、“起動”の指示を送る。
 両足にエネルギーが満ちるのを感じ、手にしたニエの力が最大まで膨れ上がる。

『ガルァ、ゴォォォァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「《エクスドライブ! スリーカウント!》」
 呻き、なおも形状を変えて襲いくる“鏡像”に。

「お前の罪は――――――――」

                  《ワン!》

《俺様が俺様で有ることを忘れたこと――――――》

                  《ツー!!》

 断罪の五線譜が、放たれる。

                  《スリー!!!》

 呪いは人を殺す。
 祟り、侵し、狂わせ、終わらせる。
 理性を失うということは。
 その自覚すら――――存在しないということだ。


「《幕引きの一撃をくれてやる!》』

                  《カデンツァ!》

 圧縮された赤と黒のエネルギーが、両足に収束する。
 恐ろしいほどあっさりと。
 己の力の根源たる“呪い”が、砕け散った。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

《ヒハハハハハハハ! 足りねぇ足りねぇ! 喰い手がねェ! そりゃそうだ! “共食い”みたいなもンだからなァ!》
 世界が割れて壊れていく、ということは、これで戦いは終わったのだろう。
 騒ぐニエの声が頭に響く、うるさい。

「そりゃあ残念だったな」
《まァそうでもないさ、ヒヒヒ、ケケケケ》
 その“声”には、欲望に忠実なニエにとっては珍しいことに、含みがあった。

《なァ相棒》
 にたにたと、にやにやと。
 一寸先も見えない子供が、崖に向かって歩き始めたのを、見守っているような。

《何を持って俺様が“罪人”と判断していると思う?》
「…………何?」
《誰が定めた法で、誰が決める罪で、誰によって裁かれる罰なんだろうなァ――――ヒヒ、ヒヒヒ》
 ニエは罪人の命を喰らう。
 誰が決めるのか。

 、、、、、、、、、、、
 ニエが罪人と定義した命を、ノクターンが喰らう。


 背景も事情も理屈も道理も、そこにはない。
 呪いが定めた、呪いの法だ。
 その本質は――――――――。

「――――関係ないさ」
《あァん?》
「俺が望んでお前と契約したんだ、そんなモノとっくにわかってる」
 それは恐らく、ニエにとっての一種の試しだったのだろう。
 一皮剥けば、あれが呪いの本質。
 罪悪に塗れた、破壊と殺戮の暴徒。
 けれどそんなものは、そう、関係無いのだ。


「つまらないことを言ってないで、さっさと行くぞ。まずはここを出る」




                ヒ ー ロ ー
 アステル・シキョウは、自ら《夜想曲》になることを選んだのだから。




《ち、つまんねェな。ちっとは動揺しろよ相棒》
「お前が俺の目の前に出てきたときが人生最大の動揺だったんだよ」
《だったらもっと情けねぇ顔を眺めときゃよかったなァ! ヒヒヒヒ!》
「やかましい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

富波・壱子

哀しくても苦しくても綺麗でいられなくても、いいの。みんながいたから、わたし達は、こっちがいい

わたしの理想が元で作られた鏡像、普通の女の子。可哀想と思わなくもないけれど、だからこそ、立ち止まってなんていられない。今助けを待ってる生徒達も、それは全く一緒なんだから

罪悪感なんかより、今困ってる人を助けることの方が、わたし達にとってはずっと大事
だから躊躇も容赦も油断も全部無し。チョーカーを指でなぞって戦闘用の人格と交代するよ。遠慮なくやっちゃって!

了解。標的を処理し、速やかに生徒及び他の猟兵の救援に向かいます

標的が戦う力を持たずとも、私のすべき事は変わりません
怯える仕草も泣き声も全て無視し、殺します



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 8 】
    ▽ 残酷ジェノサイドサイド ▽
           《  富波・壱子  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

『誰っ! なんで私と同じ顔してるの!? ……こ、こっちにこないで! 誰か、いませんか! 誰かぁ!』

 文字通りの“鏡写し”を前に、壱子は少しだけ哀しみを込めて笑った。
 目の前にいる少女が、どこにでも居る普通の女の子であることが、一挙一動から伝わってくる。
 移動の際の重心のかけ方だとか、体の動かし方だとか、視線の動きだとか。
 おおよそ、戦うためのあらゆる注意と技術が欠落している。

 羨ましい――――のだろうか?
 自分の心に問いかけて、きっと違う、と答えが聞こえた。
 だって、この“鏡像”には、今の壱子が出会ってきた、ありとあらゆる誰もが居ない。
 彼女になりたい、と思うのは、富波・壱子という存在を捨てる、という事に等しい。

 だから――――答えはもう決まっている。



「――――ごめんね」
 哀しくても苦しくても綺麗でいられなくても、いいの。

「すぐに終わらせるから」
 みんながいたから、わたし達は、こっちがいい。

「――――遠慮なくやっちゃって!」
 同じ結論を出すであろう、もうひとりに自分に向けて、言った。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 チョーカーに指で触れることで、壱子の人格は切り替わる。
 明るく快活な少女が、冷徹な殺戮機械となる。

「了解」
 目から光が消え失せて、だらりと力を抜く。
 その右手には、大型のリボルバー握られていた。
 名前を、ビーチェという。

『ひっ――――――』
「標的を処理し、速やかに生徒及び他の猟兵の救援に向かいます」
 銃器を視認して、怯えで息を呑んだのが、彼女の最後の言葉だった。
 頭部に照準をあわせてトリガーを引くまで、一秒もかからない。
 ボガン、と爆発音のような銃声が響いて、鏡像の少女の首から上が吹き飛んだ。
 どんな形をしていたのか、もはや伺いようのないほど、“破壊”されていた。

 残った体が、死に向かう生体反応で、びくびくと跳ねる自分の体を見ても、壱子は眉一つ動かさなかった。

 異変を感じ取って、横を見る。
 窓の向こうで、世界が壊れ始めている。
 ガラスに映った自分の顔に、飛び散った血液が付着していた。

『どうして』
 ガラスの向こうの誰かが言う。

『血に汚れるのが、そんなにいいの』
 責めるように、問い詰めるように。

『なんで私じゃ駄目だったの』
 もう一度、爆発音が響いた。
 粉々になった透明な破片は、もう何も映せない。

「貴女では」
 壱子は――戦闘人格にしては、珍しく。
 無駄な遣り取りをした。
 聞く相手も居なければ、答える必要もない問いに応じるという、不要な行為。


   スクエ
「誰も殺せません」

成功 🔵​🔵​🔴​

アイシス・リデル

きれいなわたし
知らないわたし
羨ましくない、って言ったらウソになっちゃう、けど
でもね、このわたししか知らないきれいなものも、あるんだよ

【わたしの世界】を展開して戦う、よ
世界には、きたないものがいっぱいあって
それに苦しんでる人たちが、いっぱいいて
頑張ってるけど、それでもまだまだ【お掃除】し切れない、から
これも、そのほんの一部

ここじゃない、ヒーローの世界で
わたしによく似た汚泥の王さまや、破壊のお妃さまが支配した国のきたないもの
ダーティースクラップで戦う、よ

わたし独りじゃ、あなたには勝てないかも知れない、けど
わたしが汚れた分、きれいになった誰かが喜んでくれるから
その顔を、あなたは知らない、よね?



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 9 】
    ▽ a transparent world ▽
           《  アイシス・リデル  》
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『あなた、とってもよごれてるね』
 木の葉から滴る朝露のしずくが、意思を持って動いたら、きっとこんな姿になるのだろう。
 透き通った無垢、汚れなき純粋。
 鏡像のアイシスは、対峙するもうひとりの自分を見て。

『とっても、かわいそう』
 悲しそうに言った。
 哀しそうに言った。
 最大限の悲哀を込めて、心の底からそういった。

『わたしが』
 けれど、その鏡像は、哀れみのままに手を伸ばして、アイシスに触れようとした。

『きれいにしてあげる。もう大丈夫だよ』
 きっとそれは、善意だった。

『もう、よごれなくていいんだよ』
 きっとそれは、誠意だった。

『たすけてあげるよ』
 きっとそれは、心からの言葉だった。
 ――――遠くから、あるいは上から、救ってあげようとする、透明な傲慢だった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 きれいだな、と思う。
 うらやましいな、と思う。
 だけどもう、お別れの時間だからと、透明な自分が伸ばした指に、アイシスもまた、そっと指を絡めた。

「わたしは、きたないよ」
 触れ合った部位から、光が生じる。
 穢れを禊ぐ聖者の本質、アイシス・リデルのどぶさらい。

「でもね、このわたししか知らないきれいなものも、あるんだよ
『……?』
 鏡像は、言葉の意味を理解できないと言ったふうに首を傾げて、浄化を続ける。
 内に穢れを取り込んで、体内で害のないものに変えてしまう。
 それは食事と一緒で、ある程度、一定量なら問題なく処理が出来る。体一つで完結出来てしまう。

「せかいには、きたないものがいっぱいあって」
『――――――あれ――――――』
 やがて、鏡像は異変に気づく。
 吸っても吸っても、吸いきれない。飲み下せない。浄化しきれない。
 穢れが澱のように溜まっていく。透明な体に、黒い染みが滲んでいく。

「それに苦しんでる人たちが、いっぱいいて」
『なに――――これ――――』
 それは毒で、それは汚物だ。
 吐き出さなければ、自分が汚れてしまう。

 きもちがわるい。
 ふれていたいくない。
 くさくてきたない。
 けがらわしい。

 生物が有する、当然の反応として、鏡像は“それ”を吐き出して捨てようとした。
 アイシスは、少しだけ、寂しそうな表情で、もう透明に戻れないそれを見た。

「頑張ってるけど、それでもまだまだ【お掃除】し切れない、から」
『いや――――――』
 鏡像は気づく。鏡像は知る。
 どこにもそれを捨てる場所なんて無いということを。
 視界の奥いっぱいに広がっているはずの花畑は、気づけば薄暗く、じめじめとした壁に囲まれていた。
 ひどい悪臭が鼻につく、空気も、水も、苔も、全てが全て、汚れている。
 それは、要らない、と捨てられた全てが集まって、淀んで、溜まっていく場所だ。

『い、いやぁぁぁ! なに、これ、くさい、きたない、こわい! やだ、いやぁ!』
 べちゃり、とヌルヌルとしたなにかに触れたことが、よほどショックだったのだろう。
 鏡像のアイシスは、触れていた指を振り払って、どこかどこかへ逃げようとした。
 滑って転んで、ぼちゃりと下水の流れに落ちて、

『ひぃぁぁぁあああああああああああああああ!?』
 心の底から、絶叫した。

『いやぁ、なんで、おかしい、おかしい!』
 きれいにしようとしたって無駄だ。
 だってこの世界はこんなに汚い。
 なんでこんな場所に、平然と、笑っていられるのか、鏡像のアイシスにはわからなかった。
 いや、もしかしたら、世界の誰も、それも理解できないのかも知れない。

「だって」
 がちゃがちゃがちゃと、組み上がるもの。
 それは、世界からも捨てられてしまった、いらないもの、きたないものの集合体。
 汚染された物質そのもの、アイシスの持つ、大きな穢れの一つ。

「わたしが汚れた分、きれいになった誰かが喜んでくれるから」
 それを言葉に出して言えるものが、この数多の世界に、どれほど居るだろう。
 自己犠牲でもない。悲劇のつもりすら無い。
 それは――――世界中の清らかなものが、なんとか“それ”になろうとして、
 ついぞ辿り着けなかった、心のありかた、そのものだ。

『お、おかしい、そんなの、だって、わたしは、こんなに、よごれて…………………………』
「だいじょうぶ、きれいだよ」
 だから、綺麗なまま、さようなら。
 振り下ろされるダーティースクラップ。
 透明な鏡像に抗える道理は、まったくなかった。

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「とっても、かわいそう」
 悲しそうに言った。
 哀しそうに言った。
 最大限の悲哀を込めて、心の底からそういった。

「きれいになったねって、うれしいねっていう、みんなの笑顔を」
 アイシス・リデルは、もう居なくなってしまった、透明なモノを想った。

「あなたは知らないから」
 そしてまた一つ、世界が音を立てて砕け散る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき

恐れられ、恨み、逆恨みをつみ重ねても顧みなかったこの街が海に沈んだのは当然だったんだろうね。

僕も結界の業は好きだけど、この手のは核を壊すのが早いんだよね。
核は何だろうね。

住居、牢獄、工房、商業、生産、港の六塔街。最古の建物、ダークセイヴァーから残る中央塔。
六塔街は同胞に任せて、自身は中央へ。

【WIZ】
核になるのは、海と咎人殺しを示した鏡映しの紋章か。
それとも、六つの拷問具を扱う器用貧乏な泣き黒子の少女か。

鏡の外なら兎も角、鏡の中なら同胞達は映せないんじゃないかな?
この世界にまだ僕はいなかったのだから。
夷洞・みさきを映しきれない事による変身の不完全と、抹消されても七分の六が残る事を狙う。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 10 】
    ▽ the bottom of the sea ▽
           《  夷洞・みさき  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 かつて生きていて、死んでしまったはずの者たちと。
 海より来たりて、逃げ惑う彼らを海に沈める者。

 どちらを、亡者と呼ぶべきだろうか。
 悲鳴も、嘆きも、叫びも、祈りも。
 等しくねじ伏せる、暴虐と暴力の輩達。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 《――――澱んだ海の底より来たれ》

 歌が聞こえる。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 血は流れなかった。首をへし折った瞬間、住民はガラス細工のようにパリンと音を立てて崩壊した。
 家も、街も、人々も全てがそうだ。
 それでも生きているかのように、彼らは振る舞う。
 逃げろ逃げろと叫び、愛しているものを腕に抱いて駆けてゆく。

 ――――亡者は、その脚を止めない。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 《――――――身を裂け、魅よ咲け》

 仲間を呼ぶ声が。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 牢獄には、白い骨になるまで繋がれて、放って置かれた者たちがいた。
 どれだけ生者を羨んだだろう、どれだけ自由を求めただろう。
 彼らの嘆きもまた、唄は巻き添えにして歩いていく。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 《――――――――我ら七人の聲を》

 彼らはやってくる。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 工房を担う塔街には、まだ首の出来ていない船首像が捨て置かれていた。
 亡者に立ち向かおうとする職人など、居るはずもなく。
 旅の安全を願って作られるはずのそれは、今この瞬間、用をなさないガラクタになった。
 がしゃりとなぎ倒して、翼が折れても、咎めるものは居なかった。

 唄が続いていく。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 《――――――――――呪いを、恨みを》

 己が憎しみを果たす為。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 逃げる住人に放置された家畜達は、事を知ってか知らずか、ぶもぉ、と本能の声を上げるのみ。
 亡者はそれすら、縊り殺して、進んでいく。
 生きとし生けるすべての命を、平等に均等に、破壊していく。

 唄は、終わらない。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 《――――――――――羨望を示そう》

 生きているものへの憧憬を。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 港から、船で逃げようとする者たちが居た。
 けれどそれは、叶わない。この鏡像の世界に果てはないし、
 何より彼らには待つべき家族がいる。まだ子供が、妻が、母が、来ていないから待ってくれと懇願の声がする。
 それらの願いを振り切って、船を出しても、その舳先に亡者が触れる。

 彼らは、海より現れるのだから。
 沈んで、沈んで、沈んでいく。
 仮初の命を載せた揺りかごが、沈んでいく。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 《――――――――――――却した者達に懇願の祈りを込めて》

 残酷な表現で、満たすのだ。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 中央の塔の頂点に、亡者たちの主が居た。
 彼女の視線の先には、まだ幼い子供がいた。

 泣きぼくろが特徴的で、状況がよくわかっているのかいないのか。
 ぼうっとした表情で、夷洞・みさきの顔を見上げていた。

『あなたは、×××××?』
 似ている、と思ったのか、子供はみさきを指差して、それから自分を指差して、確認の為に自分の名前を告げた。
 静かに首を横に振って、否定する。

「君は、僕ではないよ」
 それから、そっと、鱗に覆われた腕を伸ばし、青く濁った長い爪を果たした指で、その首に手をかけた。

「この世界に、まだ僕はいなかったのだから」
『もどりたくはないの?』
「ないね」
 ゴキリ、と鈍い音がして、かくん、と小さな体から力が抜けた。
 そのままガラス細工が崩れるようにして、バラバラと肉が透明な破片になって散らばっていく。

「――――どれだけ“罪重ねて”も顧みなかったこの街が海に沈んだのは当然だったんだろうね」
 いつの間にか、彼女の背後には、六人の亡者たちが居た。
 等しく手を汚し、等しく穢れ、等しく呪い、等しく恨む。
 誰も彼もが、鏡の向こうに映らない。そんなものの鏡像は、存在しない。
 尊厳という尊厳を踏みにじられて、海に棄てられた亡者たちが望むのは、
 いつだって、生者達の×××××だけだ。

「じゃあ、いこうか」
 七人になって、また歩みゆく。
 核を失い壊れ始めた世界を、亡者たちが後にする。
 もう何も残っていない。
 何も。

 何も。

成功 🔵​🔵​🔴​

零井戸・寂
◯【豹人一体】

――そうだよな。

君はそういう奴だ。

あくまで堂々として
向こう見ずで頑固な奴で。

(僕が君と過ごした時間と経験と
分不相応な願望から構築されたifの君。
僕の理想のままと言うなら、きっと
君は僕の知る君と遜色ない存在なのだろう)

――でも
君は"約束をした君"じゃないんだ。ハル。

(だってそうだろう。願ったif通りなら
"3R戦の約束"なんて結んでる筈もない。)

来いよ、"完璧"の世界の親友。

"不完全"な僕だけど
『約束』を果たす為にも
こんな所で負けてられないんだよ、僕は。

――Access.

(ザザッ)
"本機"が相手だ、ジャガーノート・ハーレー。
ミッションを開始する。

(f02381のプレイングに続く)


ジャガーノート・ジャック
◯【豹人一体】

(ザザッ)
"本機"の口調が可笑しいか?――そうか。   
こんな役割を演じずとも
"完璧"な世界の自分は戦えた。
"僕"のままで強かった。

そして君も――無論強いな。
完璧の世界の君だ。弱い筈もない。

正しく完全だったのは君達で
多く間違い不完全だったのは本機だろう。

――だが

痛みを知った
新たな友を得た
そして
姫の騎士たるを志した

多く間違ったが
紡いだ全てが間違いだったとも思わない。

"約束"の為にも

そして姫に託されたこの"切札"とその重み
そして本機の矜恃に誓っても
負けてやりはしない。

だから
退けよ、"完璧"。

"不完全"の積み重ねの果てに得たもの全て懸けて――
『騎士』が押し通るぞ、『英雄』。
(ザザッ)


ロク・ザイオン

…そう。
(あの時みたいに震えないのは
前よりもずっとキミを知っているからなんだろう
知らなければ、怖いばかりで怒れもしない)

(真の姿を解き放ち
キミと、喧嘩をしよう)

(キミに死角はない
だから最短距離を
キミに躊躇いはない
だから最速で
キミに慈悲は無い
だから、最大の熱を)

…いつもおれのことが何でもわかるくせに
すごく怒ってるってことが
すごく怖かったってことが、なぜわからないんだ!

(刃より僅か先
勘でしか解らない至近で「悪禍」80発
キミの感覚(センサー)を灼き切り
自分も炎に巻かれたまま刃を貫き通す)

(その内側に何もないことを森番は知らない
【鎧を砕く】ことさえ出来れば
そこに"弱くて柔らかいこどもがいる")

殴る。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 11 】
    ▽ The Beasts Howling ▽
                《 ロク・ザイオン 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 ロク・ザイオンが知るジャガーノート・ジャックという存在は、圧倒的な“強さ”の象徴だ。
 荒削りな岩石のようだった時も、不自然な曲面と直線で構成された今も変わらない。
 黒豹を模したその体躯と、何度肩を並べただろうか。背中を預けただろうか。
 どれほど頼れるか知っているが故に、どれほど強いかも知っている。

 知っているから、怖くない。
 いや。
 怖くても、その恐怖を飲み下して。
 怒りに転化して、ぶつけることができる。

《目標確認》
 鏡像のジャガーノート・ジャックは、ロクの知るそれと全く声と、全く同じ声で。

《当機にとっての障害を排除する。――オーヴァ》
 向けられるはずのない殺意を向けられて。

「――――グル」
 ロクの喉を通じて出たのは、腹の底から満ち満ちた怒りだ。
 気がつけば、人の身を投げ捨てていた。
 四肢は空でなく地面に触れる。一秒でも早く駆け抜けるためだ。
 瞳孔が極限まで絞られる。これから放たれるであろう死の線を“見る”ためだ。

「――――ゥアゥ――――――」
 一つ、赤熱する意識の中で理解できたのは。
 感情というのは、頂点に達すると、“声”にならないということだ。

 悲鳴になる。
 叫びになる。
 音にならない、咆哮になる。

《掃討、開始》
 空に浮く火砲から、一斉に致死の塊が飛んできた。
 関係ない。全ては関係ない。
 ロク・ザイオンは知っている。

 彼に死角など無いことを。
 彼に油断など無いことを。
 彼に慈悲など無いことを。

 故の、正面突破。

 移動の軌跡は空を焼いて、熱が逆巻き渦を作る。
 もはや人のそれでなくなった腕を、脚を、貫き焦がす熱がある。

 それがどうした。
 そんなものより、この内側から溢れ出るナニカの方が、どんなものより熱い。
 肉を焼かれても血を焼かれても。
 この怒りに勝るものなどあるわけがない。

 鬣が揺れる。尾が靡く。

 ほんの瞬きの間に、全ては決した。

 心のあり方が形のなったかのような炎の塊が、爆裂した。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 12 】
    ▽ The Beasts Howling ▽
     《  零井戸・寂/ジャガーノート・ジャック 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「――そうだよな」
 あまりに堂々と、親友と同じ顔で言い放たれるものだから、つい納得すらしてしまった。
 そうだ、君はそういう奴だ。
 堂々としていて、頑固者で、向こう見ずで。
 ……勇気を持ち合わせていた。

(僕にとって、理想であるだけじゃない――――)
 ハル。
 ジャガーノート・ハーレー。
 、、、、、、、、、、、
 彼がここに立っている、という事は。

 誰かが誰かを信じることに成功して、通じ会えたということだ。
 あの戦いにおいて、全てに勝利出来てしまった、という事にほかならない。

 だからこそ、彼は眼前の零井戸・寂を許さないだろう。

(だけどそれは――――こっちも同じだ)
 親友だから、というだけではない。
 誰もが望んだであろう、最高最良最善の、未来そのものが、今、零井戸・寂が立ち向かうべき敵なのだ。
 だけど、不思議なことに、“向こう側”に行きたいな、とは、まったくもって思えなかった。

 理由は、自分の中で、すでに見つかっている。
 、、、、、、、、、、、
 彼がここに立っている、という事は。
 、、、、、、
 あの約束が結ばれることがなかった、という事なのだから。

「君がいる世界はきっと完璧で……僕は不完全、なんだろうな」
 その言葉に、鏡像のハーレーは、首を傾げた。

『完全か不完全かなんて関係ない』
 右手に光が収束して、物質を形つくっていく。
 長剣だ。硝子細工のロングソードに、純白の光輝を閉じ込めたような……と形容すべきか。
 ひと目見ただけで、“使い慣れた”出力であることが伺える。
 場数を――――踏んでいる。

『認められるか、そうじゃないか――それだけだろ』
「……そりゃそうだ」
 ならば、余計に。

「――――来いよ、"完璧"の世界の親友」
 その胸に抱いた『約束』を果たす為にも。
 こんな所で負けてられない。譲る理由が――どこにもない。

「――――Access.」
 そして、黒豹の騎士が顕現する。

『“本機”が相手だ、ジャガーノート・ハーレー』
 その手に携えるのは、数多の火砲でも、兵器でも無く。

「ミッションを開始する』
 ただ一振りの、剣。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『――――ふはっ、なんだそれ』
 お互い剣を構えて、打ち合うしかなくなった段で。
 ジャガーノート・ハーレーは思わず笑った、それぐらい、可笑しく見えたのだろう。

『“本機”の口調が可笑しいか?』
『当たり前だろ、そんな芝居!』
 ノイズ混ざりの声と声が重なり合って、同時に、一歩踏み込んだ。
 光の軌跡を描きながら、一閃。
 ハーレーが放つ斬撃は空を割り、軌跡が作り出す星の本流までもが質量を持って襲いかかる。

『――――そうか』
 きっと、彼のいる世界での自分は、“演技”が不要だったのだろう。
 そんな事をする必要がないほど、心が傷つかず。
 そのまま、強くあれたのだろう。


 ――――隣に、君がいるから。


 剣と剣がぶつかり合って、よろめくのはジャガーノート・ジャックの方だ。
 体躯は二周りほど小さなジャガーノート・ハーレーが、その膂力で勝り、追い詰めていく。

『防戦一方なら――――』
            ――――《Comet - Strike Arts!!》

『――――お前に勝ち目はないぞ!』
            ――――《Hurry Harry Halley!!!》

 星の速度と質量を、そのまま剣に再現する“必殺”。
 触れるのであれば、空から落ち行く彗星を受け止めるのと同義。
 すなわち、防御不可能の一撃。

『――――――――』
 ジャガーノート・ジャックは、、それを正面から受け止めた。
 ゴキ、と装甲が圧に耐えきれず砕け始め、体を押しつぶす重量が膝をつかせた。

『この程度で終わるわけが――――』
 それでも、騎士は決して倒れない。

『無いだろう、君の前で!』
 …………強い、強い、強くて、遠い。
 決して届かなかった光だ、決して叶わなかった願いだ。

 ……だとしても。

『正しく完全だったのは君達で、多く間違い不完全だったのは本機だろう』
 ここまで歩いてきたのは、間違いなく、今ここにいるジャガーノート・ジャックだ。
 積み重ねたものがある。出会いがある。繋がりがある。得たものがある。

 あの時、失ってよかっただなんて決して思わない。
 だけど――――紡いだ全てが間違いだったとも、思わない。

『本機は“騎士”だ』
 それは、心に刻みこんだ、忘れ得ぬ“約束”。

『誰かを守るために、力を振るうものだ。本機に剣を下賜した姫は言うだろう! 決して――――』
 決して、負けるなと。

『ハッ――――――』
 徐々に、ジャガーノート・ジャックの騎士剣が、ジャガーノート・ハーレーの光剣と拮抗し始めた。

『それが“そっちの君”の戦う理由かよ!』
『そうだ! だから――――退けよ“完璧”!』
 振るって、弾く。一瞬だけ距離が空いて、すぐさまの激突。

『退かないさ! ――――ここで退くかよ!』
 星の光は、それでも勢いを失わない。
 打ち合い、斬りつけ、快音が響く度に、その剣戟は鋭さを増していく。

『グ――――――――!』
 一度は押し込んだはずの刃が、少しずつ押し返されていく。
 まだ足りない、ほんの僅かに届かない。あと一歩、あと一歩踏み込めれば。

 …………その時。

『――何だ!?』
 最初に気づいたのはジャガーノート・ハーレーで、警戒の為か、攻める手を止めて、後方に跳んだ。
 続けざま、天井――――上の空間が割れて、何かが飛び出してきた。
 それは、長き鬣と、優雅な尾を持つ、しなやかな体躯の獣だった。
 続けざま、後を追うように。

 “炎の塊”が、割れた空間の向こうから吹き出してきた。

 赤熱が、八十発からなる怒りの表現であることを、誰が理解できるだろう。
 けれど、“誰のものか”だけは、この場にいるたった一人は理解できた。

『――――貰う!』
 寸分の狂い無く、降り注ぐ炎に、剣を突き入れて、そのまま振り払う。
 まるで水を吸い込むように、炎が刀身に飲まれ、内部で赤熱して猛る。

『“不完全”の積み重ねの果てに得たもの全て懸けて――』
 その騎士剣は、所有者が信じる限り、無敵であり続ける。
 なれば。
 二つの約束を胸に抱いて。
 最も信じる“相棒”の炎を受けて。

『――――――“騎士”が押し通るぞ、“英雄”』
 ……負ける道理が、無い!

 前に向かう“英雄”に押し負けようと。
 退いたその脚に突き進む事は、“不完全”だって出来る。
 全力の、大ぶりの一閃。

 カシャン、と星の剣を叩き割って。
 親友の鏡像の体を、両断した。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『――――――――ハル』
 違う、ハルじゃない。空想の……理想像だ。
 それでも、名前を呼ばずには居られなかった。
 手を取り合う未来はなくても、傷つけ合いたいわけではなかったから。
 真っ二つになった“それ”は、はは、と声を出した。

『――――――かっこいいじゃん、ジャック』
 にやりと笑って、ジャックと呼んだそのヒトを、指して。

『――――――!』
『僕と君じゃ、まだまだ、一戦一敗だからさ』
 言葉の続きが出なかった。
 そんなことは構わずに、鏡像と共に、世界もまた砕け散っていく。

『――――“次”は負けないからな』
 パリン、と鏡が砕けるようにして。
 ジャガーノート・ハーレーは、この世界から消えていった。

『………………ああ。“次”も、僕が勝つよ』
 あれは、本当のハルじゃなかった。
 だが、鏡像は、零井戸・寂が持つ“内側”から生まれたものだ。
 だとしたら…………。

『………………』
 一呼吸置いて、変身が解かれた。
 零井戸の、この戦いでの役目は終わったのだ。
 頭をかいて、それから、世界を隔てて来てくれた、“相棒”に顔を向ける。

「ロ――――――」
 名前を呼ぶことは許されなかった。獰猛な咆哮と共に、零井戸は押し倒されて、全身と後頭部を、強く地面に叩きつけた。

「っが……!?」
 もしかして、これも敵なのか? と思った。
 その獣は、口を釣り上げ、牙を見せ、未だ細い瞳孔でにらみつけ、吼える。
 敵意と殺意をむき出しにした形相――――けれど、それが本物であることは、すぐに分かった。

 だって、目の端に雫が浮かんでいる。
 それはもう、内側で抑えきれなくなった怒りが、溢れ出たに違いない。

「………いつもおれのことが何でもわかるくせに」
 獲物を喰らおうとする獣のように。あるいは――――。

「すごく怒ってるってことが! すごく怖かったってことが、なぜわからないんだ!」
 ――――ただ、怯え、震える、ヒトのように。

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「――――――ごめん」

「ゆるさない」

「ごめんよ、ロク」

「いやだ」

「一人にして、悪かった」

「そうじゃない」

「本当に――――」

「二度とおいていくな」

「…………わかった」

「おぼえたか」

「覚えた、忘れない」

「……――」

「――――痛ってぇ!?」

「……わすれるな」

「………………はい」

「――――なら、いい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


…よう、ヒーロー
そっちはさぞかし良い心地だろうな
夢は叶い、自由があり、大切な人達がいる
俺が潰してしまったすべてを、お前は持っている

だが現実は、そうはならなかったんだよ
お前は此処に居てはいけない
夢は夢のままで、あるべきだ

俺が相手なら、俺だけの手札じゃ千日手になる
──俺は、敗北した罪人だ
だから、ここにいる
故に、逃げた先で得た物は…英雄たるお前は持たない

人でなしであることを苦しむ、傭兵がいた
守るべきものを守る為に、傷を厭わない機人がいた
いつだって帰りを待つ──陰陽師がいた
敗北したから得たそいつらの業が俺にはある
越えてやるぜ、幸せ者

お前の理想は、此処で終わりだ
───英雄なんて、どこにもいなかったのさ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 13 】
      ▽ そして、静寂の冬が訪れて ▽
         《 ヴィクティム・ウィンターミュート》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「よう、ヒーロー」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)が対峙する、もうひとりの己。
 今ここにいる自分とは、違う結末にたどり着いた姿であり。
 いつかどこかの未来の成れ果て、“悪魔”となった姿とも違う。

 そっちはさぞかし良い心地だろうな、と思う。
 そりゃあそうだ、誰だってそうだ。
 何も失わずに、全てを終わらせ、ついに革命を成し遂げた勇者サマだ。

          ヴィラン
『そういうお前は《悪党》か? 悪いがどいつもこいつも喜ぶのに夢中なんだ。ここは一つ、何もしないまま消えてくれ』
 返答を待つつもりもないのだろう、自分だってそうする。
          バグ
 軽口と共に、不要な“塵”と眼前の相手を定義して、消去する。
 それで済むはずの単なる作業に、もちろん、させる理由もない。
 消去プログラムが、即座に対抗して組まれたアンチ・プログラムに相殺されたのを見て、“ヒーロー”はヒュゥ、と口笛を吹いた。

『なるほど? ただのワームじゃないってワケだ』
「俺の顔を見て何も思わないのか? ヒーロー」
『有名人なんでね、真似したがるやつもいるだろ。とはいえ今は困りモンだ、なんせ遊びじゃすまなくなる』
 言葉の応酬の向こうで、全く笑ってない目の光が確認できた。
 “ヒーロー”は革命の功労者だ。
 故に同じ顔をした誰かが――――何でもいい。
 ちょっと“非常識”なことをするだけで、この祭りにちゃちゃを入れることが出来る。
 恐らく向こうはそう認識した……間違っても、違う可能性を経て現れた、自分自身だとは思ってないだろう。

「ハッ――――」
『もうやめてくれよ』
 笑い飛ばそうとしたヴィクティムとは対象的に。
 “ヒーロー”の声のトーンが、ストンと落ちた。

『やっと全部終わったんだ。ようやく片付いた。それでこれから何もかも始めるって所なんだ、えぇ? 何の理由があって邪魔出来る?』
「――――――――」
 あぁ、そんな顔をして怒るのか、と他人事のように思い。

「……いや、本当に他人事だったな、ハハッ」
『何がおかしい?』
「この世界がさ。笑えるよな“ヒーロー”、俺が求めてたのはこんなんじゃなかったんだけどな」
『自分たちの手で取り戻した平和以外に何を望むってんだ?』
「………………。……あぁ、それを口に出す権利は、もう俺にはないのさ。だけどな、“ヒーロー”」
 嗤うしか無くて嗤っていたヴィクティムが、不意に、その表情を消した。
 こぼれていった感情の欠片を、拾い集めるのを放棄して、想いを表に出すという労力を、放棄した顔だった。

 だって、なぁ?
 自分自身を前に取り繕っても、仕方がないだろう?

     、、、、、、、、、、、、、
「――――そんなもんはなかったんだよ」

 現実はそうならなかった。
 虚像で夢想することすらおこがましい。
 ああしていればよかったに縋り付いた結果の奈落。
 これを、侮辱と呼ばずになんと呼ぶ。

「だから、お前は此処に居てはいけない」
『存在しちゃいけないのはお前の方だよ、“塵”』
 同時に展開される無数のデジタル・ウィンドウ。
 ありとあらゆる、相手の存在を否定するための電子戦は――――とっくの昔に、幕を開けていた。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ヴィクティム・ウィンターミュートは電子の世界において神に権能を有する。
 世界とは、どのような形にでも作り変えられる材料で、発想力と想像力は万物を具現化出来る。
 ならば神と神が争い合う時、何が生じるのか。
 答えは、無限の否定だ。お互いが作り出す理想を、即座に打ち消し、己の理こそを通そうとする。

 双方の支配できる領域が同一であればこそ――――その戦いは永遠に終わらない。
 脳が焼ききれて、思考が止まるまで。

(つまり――――――これは“俺”を超えろっつーワケだ)
 プログラムを展開しながら、頭の片隅で、もはや勝手に独立して思考が巡る。

(勝てるか? “ヒーロー”に? 夢を叶えて全てを手にした、俺の潰した何もかもを持っている相手に?)
 自らに問いかける疑問。それが反映されたかのように、“ヒーロー”のはなったプログラム群がヴィクティムのそれを食い破る。
 一度均衡が崩れれば脆いものだ。力量が同等故に、比重が偏ればそこから動かすのは難しい。

 髪の毛の先端から、少しずつ“分解”されていく。なるほど、こいつは直接俺を“デリート”する気らしい。

(――――勝てるか、か)
 何を今更。
 OK、流石にそろそろ自覚しよう。
 お前だって理解しているはずだ。
 例え英雄になれなかった残骸でも。
 全てを静寂の冬に埋めてしまった愚か者であっても。

 ――――在る事を望んでくれる誰かが居る。
 ――――死を拒んでくれる誰かが居る。

 すべて失ったはずだろう? 取り戻せるものなど無いはずだろう?
 なのに、なのにだ、どういうわけか。
 いつの間にか他人の人生の中に自分が食い込んで、自分の人生の中に他人が食い込んでしまっている。

 悪質なバグだ。厄介なことにワクチンの一つも存在しない。
 生命一個の在り方を、根本的に変容させる、史上最高にして最低で、最悪にして最上のバグの名前。

 それを多分――――――拙い言葉で形にすれば、“心”というのだろう。

 ヴィクティム・ウィンターミュートは敗北者だ。
 敗北者故に、生きてきた。

 人でなしであることを苦しむ、傭兵。
 守るべきものを守る為に、傷を厭わない機人。
 そして――――。

『心して使ってくれたまえ。そうすれば――――』

 いつだって帰りを待つ──陰陽師がいた。

 ああそうだ、お前に勝てる道理はないさ“ヒーロー”。
 だってお前は、あいつらを知らない、出会っていない、変えられていない。

 押し込み喰らう攻勢プログラム群に対して、一つのソフトを立ち上げる。
 それを託したものはきっと、こう願って委ねたに違いない。

 ――――帰ってきてね、と。


 《Vaccine Program『其随新旧絆』》 起動。


「よく知ってるさ――――俺はお前だからな」
 超えてやるぜ、幸せ者。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『なんだそれは』
 “ヒーロー”は知らない。

『どういう――――理屈だ!?』
 ヴィクティム・ウィンターミュートのことを、知らない。
 だから、“敗北者”としての軌跡を歩んできた彼の戦いを、想像すら出来ない。
 99.9%まで詰めていたはずだ。あとコンマ0.1秒で、目の前の“塵”をデリート出来たはずだ。
 それが何故、全てのプログラムの支配権を奪われて、状況が逆転しているのか。

「コンマ0.1秒? 笑わせんなよ“ヒーロー”、そりゃ永遠って意味だぜ」
 知らないだろう、それを託した女の顔を。
 知らないだろう、それを託された時の感情を。
 それに名前をつけることは、まだ出来ていないというのに。

 目の奥から血が溢れてくる。
 鼻の奥が熱い。
 喉の奥が焼けそうだ。
 脳は生きてるか? まだ回せるか?
 オーケー、じゃあいこう。無限の壁を超えて、辿り着こう。

『ふざ、けるな! やっと、やっと俺たちの夢が、叶っ――――』
「叶わなかったんだよ、それで終わりなんだ、“ヒーロー”」
 消滅はあまりにあっけない。
 永遠に続く99.9999999999%が、一つ繰り上がると、完全なる抹消を意味する。
 0と1に還元されて、バグと定義された存在が消去された。

 遠くから、まだ人々の喧騒が聞こえる。
 喜びと、幸いに溢れた彼らを、救えるものは、救ったものは、もういない。
 “ヒーロー”が居た痕跡が何一つ消えて、まもなく静寂が訪れる。

 さながら、雪が全てを覆い隠す、冬の様に。

「――――英雄なんて、どこにもいなかったのさ」
 だから、ヴィクティム・ウィンターミュートは、ここに居る。

大成功 🔵​🔵​🔵​


///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART EX 】
         ▽ 断章 ▽
              
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 理想の世界に囚われた人間が、逃げ出せるわけがない。
 逃げられるわけがない。助かるわけがない。
 幸せな夢を見たまま、溺れて、溶ける。それが道理であり、摂理なのだ。
 そのはずなのに。

「なんで、どうして、世界がこんなに壊れるの!?」
 鏡の向こうで、オブリビオンは吼える。
 猟兵が、理想の鏡像を壊し続けること。
 それはつまり、“彼女”のちからが失われていくことを意味する。
シエナ・リーレイ
■アドリブ可
シエナを殺そうと息巻くユァミー
ですが彼女にとってシエナは相性が最悪な相手です

シエナの器物『ダペルトゥットドール』は死者の怨念を動力に動く呪殺人形
怨嗟に満ちた嘆きの声はシエナを元気します

あなたも『お友達』になってくれるのね!とシエナは喜びます。

憎悪と殺意の篭った攻撃もシエナは親愛と好意を向けてくれたと喜んで受け、彼女を『お友達』に迎えようと抱き着きます

ジュリエッタだ!とキメラは歓喜します。

そして、シエナの仮初とは器物が直接操作する『お友達』
シエナの姿を奪い抹消してもユァミーを囲む動物の『お友達』が新たな仮初となり
同時にシエナなユァミーを最初の『お友達』と誤認し全力で遊び始めます



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 14 】
        ▽ Friend Friend Best Friend ▽
                《  シエナ・リーレイ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 ユァミー、と呼ばれるオブリビオンの本体は、鏡面に巣食う世界そのものだ。
 少女の形をしたそれは、数多奪ってきた存在の一つに過ぎず、代わりの効く代用品だ。

 今も自らの『複製体』が学園の中に蔓延っているし、
 どれか一体が生き残れば、敗北したとしてもまた力を蓄えることが出来る。

 では何故こんなに怯えているのだろう、では何故こんなに恐ろしいのだろう。

 何人も狂気に落としてきた。
 理想の世界を作れるということは、その反対だって可能なのだ。
 全てを否定する地獄を見せて、実際に狂わせることなど容易い。

 だけど、最初から狂っているものは、どうすればいいんだろう。
 鏡面はその姿を映しとれない、かろうじて、姿を映せても、出来上がるのはより“壊れた”個体だけだ。
 だから――――――――。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『はっ、はっ、はっ』
 鏡面を伝って、別の世界へ別の世界へ。
 とにかく走った、とにかく駆けた。

「待って待って、と、シエナは――――」
『ひぃ――――――!』
 入ってこられるはずがない、入ってこられるはずがないのだ。
 だって、猟兵からすればこっちの世界は私の腹の中だ。恐れ怯え、逃げなければならないはずなのだ。
 なのに“あれ”は追いかけてくる。一切の躊躇無く。

「鬼ごっこは終わりなの? とシエナは言います。それじゃあ次はシエナが遊びを決めていい? とシエナは提案します!」
 やがて辿り着いた一室に、そいつは現れた。人形を掻き抱きながら、“遊び”を続けてようとしている。

『……ここがどこだかわかっていないみたいね』
「?」
『家庭科室よ――――――ここに誘い込まれた貴女の負け!』
 指を弾けば、布をかけて隠されていた姿見が顕になる。学園の中でも大きい部類の鏡だ。
 シエナの全身が鏡面に映る。

『私に複製できないものなんてあるはずがない……“大いなる神に与えられた”力よ!』
 鏡の向こう側から、鏡像のシエナが出てくる。
 今度こそ精密に、精緻に、“壊れたシエナ”を複製してぶつける。
 狂ったもの同士ならば、潰し合ってくれるだろう、という期待を込めて。

『――――あはあははは? シエナはシエナは――――』
「新しいお友達ね! とシエナははしゃぎます! ほらほら見てみて! とシエナはお友達に呼びかけます!」
 果たしてそんな願望は、真なる狂気の前には露も同じ。
 優雅に捲りあげられたスカートの中から、ずらりと“獣”たちが現れた。
 継ぎ接ぎで、元の動物が何であるか全く想像もつかない。子供が“おもちゃ”で沢山遊んだ結果生み出された、
 混沌の産物――――キメラ達。

『ジュリエッタだ!』

            『遊ぼう遊ぼう!』

 『タノシイタノシイ!』
               『待ってたマッテタ!』

        『さあ遊ぼう!』

『――――――――――――』
 犬でも猫でも羊でも馬でも猪でも鹿でも何でもない獣達に群がられて、鏡像から生み出されたシエナはあっという間に“消えて”なくなった。
 悲鳴のような声の代わりに、バリバリパリパリとナニカを噛み砕く音が聞こえる。
 直視は出来なかった。したくなかった。一体何が起こっているのだ。

「ダペルトゥットドール」
 シエナもまた、その惨劇にはもう目もくれず。
 一体の人形を、床に置いた。緑色の巻毛に、夏の雨の日の紫陽花の色をしたリボンとドレスを身にまとう、少女の写し身。
 きょろきょろ周囲を見回すと、口を小さく開けて。
 その深淵から、嘆きを吐き出した。

《ぃ――――――い》
 ……無数の生徒が贄として捧げられた学園であるが故に。
 ……死者の怨念を経て動くその人形にとっては、まさしく“楽園”だった。

《あそ、びま、しょ》
 人形が、意味のある言葉を吐いた、それだけで。
 部屋中を悍ましいほどの呪詛が埋め尽くした。
 ヒトの嘆きなど餌にしかしてこなかったオブリビオンだが、自分一人に、全てが、明確な指向性を持って向けられたことなんてなかった。

『ひ、いいいいいいいいいいいいいいいい!』
 逃げようとして、壁に背が当たる。
 逃げなければ、と思うのに。
 鏡に逃げ込もうとして、もう視界の中になにもないことに気づいた。

 窓ガラスもない。姿見も視界にない。
 もし逃げ込める鏡面があるとしたら、それは……。

『ぁ――――――――』
 眼前に迫る、シエナの瞳。
 それだって立派な鏡写しだ、“向こう側”があるのなら、逃げ込むことが出来る。
 それでも、その。
 奥にある。
 透き通ったガラス球の、向こう側にある。
 赤色を見てしまったら――――。

「怖がらないで、とシエナは優しく言いながら、近寄ります」
 結局、このオブリビオンは、まだ自分が追い詰められたことがなかった。
 だから、本物に触れた時、どうすればいいかわからなかった。
 怯え震えるお友達候補に、少女は優しく声をかける。

 大丈夫だよ、心配ないよ、ひとりじゃないよ。

「ハグすればみんな『お友達』だよ! と」
 壊され、穢され、潰され、切られ、呪われ、祟られ、挫かれ、嬲られ、壊された果てに。
 オブリビオンは、その腕に抱かれる。
 逃げる余地は、もうなかった。どこにもなかった。

「とシエナは満面の笑みを浮かべ抱き着きます」
 最初はぺき、と少し何かが割れる音。
 次に、ゴキ、と折れる音。
 グギギギギギギギガギ、と抵抗の果てに圧縮される音。
 ブチ、と砕け散る音。
 どこから聞こえるのかな? と考えて。
 もちろん、それは自分の体の中からで。

『あは』
 これから彼女の言う“お友達”にされるのだと理解した時、ユァミーは全ての思考を放棄した。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 新しいお友達が出来たよ! とシエナは喜びの声をあげます!

 黒髪が可愛いお友達! 普段は照れ屋さんだから、鏡の中に隠れているよ、とシエナは説明します!

 でも大丈夫! みんなで遊べばきっと楽しいよ、とシエナはお誘いの声をかけます。

 ―――――次はどこに遊びにいこうかな、と、シエナは考えながら、歩き出します。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ

真の姿解放(イラスト参照。この姿になるのは初です)。
ユァミーが俺の過去を読み取ったのか、
自分の力の影響なのかは、わからん。
十分に気合は入ったってこった。

俺は、自分が模倣(コピー)された存在なのだと思ってきた。
しかし弄り倒されたオリジナルそのものかもしれない。
…どっちでも良い。
俺は俺だ。
アンタが誰に成り代わろうと、
自分から逃げられないのと同じようにな。

嘆く声をそのものを妖刀で叩き斬るつもりで、正面突破を狙う。
全ての力を出し切るつもりで限界突破を意識。
…戻るべき場所へ還らないとな。
思い出させてやるよ。
アンタが何でこうなったのか。
鏡から鏡へ逃げられないように、
鏡の中へ【輪廻宿業】の一閃を送り込む。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 15 】
       ▽ 神を斬り殺す日 ▽
                《  ニノマエ・アラタ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 過去が曖昧な存在を、そのオブリビオンは嫌う。
 鏡面世界とは、本人が望む理想の世界。
 故に、帰りたい過去や望む未来のない人間の“鏡像”を作ることに、大した意味はない。

 ただ一瞬、今この時を生きている者こそ、“ユァミー”の天敵。
 故に、次善の策を取る。鏡像の世界に引きずり込まれないなら、直接殺すまで。

『返して』『返してよ』『“私”を返して』

 『戻して』『戻りたい』『消えたくない』

  『あれは私じゃない』『僕がどこにもいない』『助けて』

 ニノマエが斬り砕いた“鏡の破片”の中に浮かび上がるのは、ユァミーに存在を“喰われ”、存在を失った者たちの嘆きだ。
 それは、精神を直接揺さぶる怪音として敵に襲いかかる。
 常人ならば耐えられない、それは『自分が消えるかも知れない』という本能を強制的に揺り起こす邪法。

 だが。

「――――どっちでも良い」
 ニノマエの剣閃が、その叫びを一刀の元斬り捨てる。
 手に携えた妖刀の名前を“輪廻宿業”という。

「どっちでも良いんだ。俺が本物だろうが、偽物だろうが」
 いつの間にか、猟兵の姿は軍服の装いへと変じていた。
 カーキ色の軍服、その姿は“何時”のものだろうか。

「弄り回されたオリジナルだろうと、コピーされた偽物だろうと、どっちでも良いんだ」
 その妖刀に断たれた者は、悲鳴一つすら上げることが出来ない。
 質量もなく、存在もない“声”の主たちを斬り捨てながら、一歩一歩、元凶へと歩みを近づける。

『き、貴様――――怖くないの!?』
「何が?」
『何故平気で居られるの!? 私の“悲鳴”は魂を揺さぶる声! 逃れられるはずなど無いのに!』
「震えたさ、恐怖がないわけじゃあない」
『だったらなんで――――――』
「俺が俺だからだ。俺は俺だからだ。俺がここに居る、それ以上のものが必要か?」


『――――あれだけ凄惨な“過去”を経て、どうしてそこまで“自分”を信じられる!?』


「何もかもに、理由を求めるなよ」
 答えられないことだってあるさ、と。
 ニノマエは、刀を振り上げた。

『――――――!』
 咄嗟に、ユァミーは“逃げた”。
 割れた鏡の破片の中に飛び込んで、別の世界に行こうとした。
 プライドも、へったくれもない、とにかくこの相手の前に立ちたくなかった。

「背を向けたら、駄目だろう」
 その一瞬、戦うことを放棄した隙は、男にとって十分すぎる“時間”だった。

「思い出せ、帰るべき場所を」
 妖刀“輪廻宿業”。
 それは、真の力を開放した時、“因(よすが)”を立つ刃となる。
 肉体ではない、精神でもない。

 “その存在が、此処に在る理由”を――――――断ち切る。

「彼岸の彼方へ、消え失せろ」
 一閃、そして――――――。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『はぁ――――はぁ――――はぁ――』
 鏡の中へ逃げ込んだユァミーは、ちぃと舌打ちをして考える。

『まず複製体たちと合流だ――こうなったら全員の力で、連中を――――』
 厳密に言えば、ユァミーは一体ではない。
 多くの生徒達や猟兵を罠にかけるため、大本であるオブリビオンをみずからの能力で増やして、手数を増やしている状態だ。
 だから、こんな無様を晒してしまった、元の一体に戻れば絶対に負けるわけがない。
 他の個体と合流し、元に戻って、力を取り戻し、一気に殲滅する。
 この屈辱を何十倍にしても返す、そう考えて――――。

『………………あ、れ?』
 出られない。
 鏡の中はユァミーの世界のはずなのに。
 気づけば、出口はどこにもなかった。いや、ここは、どこだ?

 …………よすがを断ち切られたその個体は、もう“どこにもいけない”。
 そのまま、刃で斬られていればよかったかも知れない、そうすれば、死んで、消えることだけは出来た。
 けれど、異界に逃げ込んだユァミーは、どこにもたどり着くことはなくなってしまった。
 世界に存在する理由を、断ち切られてしまった。

『…………だ、出して』
 それは奇しくも。

『ここからだして!』
 自分が閉じ込めてきた人々と。

『わ、私を外に出してぇええええええええええ!』
 全く同じ、悲鳴だった。

 …………もう誰も、声を聞くものは居ない。
 永遠に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール
情報を持ち帰り、元凶に繋ぐ為にも、此処で死ぬわけにはいきませんね


鏡界でも鏡面にのみ映るという事は、少なくともその部分の物質や法則は元世界と同じの筈
であれば、窓や鏡等のガラス、水は無機物
それらをUCの材料とする事で鏡面を減らしつつ、残った鏡内に直接作用する雷に変換し攻撃。必要なら尾剣や拳でも対応
残材料の一部は衝撃波に変換、遠くの窓を粉微塵に
敵UCには光の屈折に作用する物質を創り、己が鏡に映らないようにし、且つ別な位置に幻の像を作り対処
幻に敵達が食い付き油断した所を騙し討ち

案内の子が、元の子とは違うように
仮にワタシを完全に模倣出来たとして、その瞬間から互いに違う経験を得る以上、同じにはなり得まセン



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 16 】
         ▽ 誰かの為に仮面は鳴る ▽
                  《  リインルイン・ミュール  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

『くすくす……』『うふふ……』『どうやって殺してあげようかしら』
『鏡の中に取り込んで』『パリンと割ってあげようかしら』『どんな姿になるのがお好み?』
『ねえ』 『ねえ』 『ねえ』 『ねえ』 『ねえ』
 存在する全ての鏡面に、ユァミーの姿が映し出される。
 囲まれ、生殺与奪を握られた状況にありながら、リインルインは大きく首を傾げ、その動きに合わせて、カラン、と仮面が音を立てた。

「どうにもわからないのデスが」
『?』
 鏡の中少女たちが、一斉に首を傾げる。
 これだけ見れば、愛らしい姿を映した情景に、見えないこともないかも知れない。

「ナゼ、アナタはその姿をしているのでショウ? それがアナタの本体なのデスか?」
『それを気にして』 『どうするの?』 『アナタに何の関係がある?』
「単なる疑問デス。別に答えていただかなくても結構デスが――……」
 その物言いに、カチンと来たのか、鏡面に映るユァミーの一体が、その表情を変えた。

 厳密に言うと――それは記録された映像だった。
 鏡の向こう側に出ようと、何度も何度も拳を叩きつけて、泣き叫び、吼えながら、黒髪の少女――ユァミーと同じ姿をした誰かが藻掻いている。
 出して、助けて、と繰り返して、爪が剥げて、皮膚が破れて、肉が裂けるまで、何度も何度も。

『私が姿をもらってきた中で』『一番かわいくて』『一番無様だったから』『貰うことにしたのよ』
『きれいでしょう?』『すてきでしょう?』『あなたにとっては』『かわいそうかもしれないけど!』
 キャハハハハ、アハハハハ、と笑い声が重なって。

 カラン、コロン、と再び、仮面が揺れる音がした。

「ワタシには顔がありまセン」
 だから、それがどんな感情を示しているのかわからない。
 仮面に張り付いているのは、笑顔だけだ。
 けれど。

「……アナタは、顔を取り替えられるのデスね」
『あははははは!』『それがどうしたの!』『うらやましい?』
『あげないけどね』『私もアナタなんて要らないわ』『アナタにはなってもしょうがない』
『ここで殺してあげる』『二度と外に出られないように』『してあげる』

「イイエ、羨ましくはアリマセンし」
 ……ユァミーは知ることになる。
 鏡の中を支配する、という事は。

「アナタのことは、キライかもシレマセン」
 鏡を失えば何も出来ない、ということであると。

 ――――カラン、コロン、仮面が揺れる。
 音から、波紋が生まれ、空間に広がっていく。

『あはは――――それが何――――――――』
 笑えたのは、そこまでだった。

『あっ』『ガッ』『え、あっ』
 周囲を取り囲んでいた、窓ガラス――ユァミー達が。

 一斉に“消滅”した。

 枠にハマっていたガラスが、忽然と消滅し、代わりにまばゆい閃光が一瞬だけ光って消えた。
 同時に広範囲から、パリンパリンとなにかが割れてくだ散る音が、学園中に鳴り響いた。

『な、ぇ、ぁ、あぁぁ?』
 何がおきたか理解しているのは、ルインレインだけだろう。

 《泡沫巡る創造の日(トランシエント・ヘクサメロン)》

 それは、神にひとしき御業、既存物質の再変換。
 万物を一度サイキックエナジーに変えて、違う物質を作り上げる。

 “鏡面”という媒体に寄生する神に対して。
 全ての“鏡面”を一瞬で廃した。

『わ、私が、私が消えて………………い、いぃぃぃ…………!?』
 僅かに散ったガラスの破片に潜んでいたユァミーを。
 ぐしゃり、と踏み潰して。

「………サヨウナラ」
 戦いは、あまりにあっけなく、始まる前に終わった。勝負にすらならなかった。
 カラン、コロン、と首を動かす度に、また仮面が音を鳴らす。
 その内側に、どんな感情があるのか。
 理解できるのは、当人だけだろう。

「……サァ、ココからでまショウか、他の人の助けになれば良いのデスが」
 残った鏡の処理もしなければ、と歩き出すルインレイン。
 教室には、もう、何も、何も残っていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・ドゥリング


「そも。君の哲学は今、君がここにいる時点で否定されている」
「君はなぜ、その理想の世界を作る力を君自身に使わない?」
「私たちが来ず。学園を支配し。邪神が復活する。そんな世界を見ることも出来たのではないか?」
「それなのになぜ、君は戦う?」

吸血鬼の身体能力に任せた力押しで戦う。
暴力に紛れ【殺気】を放ち、【存在感】を増し、
【赤の愚鈍】で増幅させた絶対的な【恐怖を与える】。
『私』は支配者であり戦士ではない。
故に、心から切り崩す。

「……もういいだろう」
「君はもう十分に頑張った」
「恐怖から逃れても何も悪くない」
「君には何も理解できないだろうが」
「もう恐れる必要も考える必要もない」
「君の願望に微睡めばいい」



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 17 】
           ▽ ことば ▽
              《  マグダレナ・ドゥリング  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 鏡に映らない吸血鬼を、鏡に巣食う邪神がどう殺すか。
 答えは、物量戦だ。かつてユァミーがその存在を乗っ取って、奪われた者達。
 子供も居る、大人も居る、男も居る、女もいる。
 彼らは等しく、立場を、居場所を、尊厳を踏みにじられた。
 そして尚、手駒として扱われている。醜悪にして、残酷なる使役。
 それ故、濃縮された憎悪と殺意は、指示された先にいる獲物に向く。

『さぁ殺せ! あれを殺した者には――――存在を返してやるぞ!』
 無論、言葉が本当であるはずもないが…………。
 彼らにとっては尚、すがりつくべき最後の希望だった。
 あぁ、あぁ、と嘆きの声を上げながら、獲物を殺さんと手をのばす。

 対する吸血鬼――マグダレナ・ドゥリングは、決定事項をただただ告げる、尊大な王の口調で一言、放った。

「“下がれ”」
 それで、存在なき亡者たちが動きを止めた。

『な――――』
 怯えと、恐怖に満ちた彼らの横を、何の驚異でもないと言わんばかりに、ゆっくり歩きながら。
 マグダレナは言葉を紡ぐ。

「そも。君の哲学は今、君がここにいる時点で否定されている」
 心を、折るための言葉を。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「君はなぜ、その理想の世界を作る力を君自身に使わない?」

『――――なんですって?』

「簡単な話だ。理想が叶うというのであれば、君自身の理想を叶えればいい。邪神が復活させる、という願いを」

『何を馬鹿なことを――――鏡像世界はあくまで偽物、獲物を溶かす為のもの、ただの道具にすぎない』

「ならば尚更妙だな、偽物の世界を君は何故そこまで信望できる? 此処に集った猟兵達がその歪みを看破出来ないとでも?」

『あれは人間の精神構造で出られないように作られている!』

「人間、などという狭い定義でよく物を言う。今君の目の前にいるのは何だ? 何故君は私と言葉を交わす羽目になっている?」

『ぐ――――――』

「君は不完全だ。君は脆弱だ。だから嗤う。こんな程度を理想とするなんて、現実を見ることが出来ないだなんて、と」

『黙れ――――』

「だけどね、どれだけヒトの人生を奪おうと、君は所詮君のママだ。君は君を逸脱できない。君の本質は――――」

『黙れと言っている――――――!!』

「――――酸っぱい葡萄に執着する、狐のような浅ましい精神性。自分が絶対手に入れられないから、壊して、貶めて、価値のないものだと思いこむ」

『ぁぁぁあああああああああああああああああああああ!』

「だけどいずれ気づくだろう。君が手にしてきたモノに確かに価値はない。言い換えようか、“君が手にした時点でそれは何の価値もなくなる”。そして君のものにはならないんだ、永遠に」

『殺す! 殺してやる! 八つ裂きにしてやる! 貴様を!』

「君はもう十分に頑張った。それが徒労だと気づかぬまま」

『ぎ――――ぐ――……ぅ……ぁ…………』

「私と言葉を交え、一瞬でも心に穴を開けた時点で、君がこうなることは決まっていた」

『………………………………ちが………………』

「一番の恐怖とはなんだか分かるかい? すべてが無駄になることだ。“自分という存在に意味はあるのか”という根源的恐怖だ」

『…………………………』

「大丈夫、君に価値はない、だからもう眠るといい。恐れる必要も、考える必要もない」

『――――――――――』

「願望にまどろみ、幸せな夢を見たまま―――――――」









「終わるといい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
我は神器、故にそれをもたらした神がいる
この社は御神体として我を祀っているが
それは我を通じて我が神を信仰しているということだ
ここ以上に我が神との繋がりが強い場所は他に無し
この神域を決戦の地に選んだ時点で、貴様に勝ち目なぞ無いのだ!

『天神の威光』を使用
我が神(の力,光)をここに降臨させる

何よりも清浄なる天の光は
この空間を遍く照らし
全ての悪しき存在を駆逐するだろう
(破魔110、なぎ払い35、浄化20、目潰し10、祈り10、神罰5)

●アドリブ歓迎
●百々は太陽神の神器という設定



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 18 】
      ▽ アメノミカガミ、ココニアリ ▽
                  《  天御鏡・百々  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 よく手入れの行き届いた境内には、時折参拝客の姿が見受けられる。
 神社に祀られた御神体である神鏡は、由緒正しき歴史を持つ。
 地域に住人がそれなりに信心深い事もあってか、賽銭箱に小銭を放ってから、手を合わせ拝む姿は真剣のそれだ。

 存在を信じられているからこそ、祈りは集まり、力を帯びていく。

 そんな神鏡が収められた神社に――――――。

 一人の少女が訪れた。黒い髪を、日本人形のようなおかっぱに切りそろえて、
 美しい着物を十重二十重に纏った、幼い少女だ。

 その赤い瞳に、光はなく。
 にやにやと嗤いながら。
 にたにたと嘲いながら。

 祈るためではなく、踏みにじるために、やってきた。

『ここが貴女の根源の世界。だが残念――――であるな』
 声も、姿も写し取って、あとはその“本質”に触れれば良い。
 神鏡が収められた社へ歩み寄り、扉を無造作に開け放つ。

 ……作られた時代を全く感じさせない、精緻な装飾を施された鏡が、そこにあった。
 
『……まだ汝が汝になる前、ただのモノであった頃ならば――――』
 その鏡面に顔を映し、“その姿”の持ち主が絶対に浮かべないであろう、
 陰惨な笑みを表情に貼り付けて、少女は神鏡に手を伸ばした。

『抵抗すら出来まい、これで“汝”は“我”のモノ――――――』
 小さな指が、ぴとりと神鏡の縁に触れた瞬間。

 ビシリ、と小さな音がした。

 それは、硬いものに亀裂が入って、欠片となった破片が落ちる音だ。
 どこからだ? まさかこの依代が? と鏡を見てみるものの、それには傷一つ無い。
 ならば。

『――――ぁ?』
 己の指を見る。無数の細かい罅が刻まれていた。
 自覚した瞬間、ボロリと先端が取れて、崩壊が始まっていく。

『な、何――――――』

《愚かな》

 返答は、眼前の神鏡から。
 鏡に映っていた“オブリビオン”の顔には、いつの間にか光が戻っていた。
 気高く、誇りと自信をみなぎらせた、力強い、それでいて愛らしい童女の顔。

《汝は根本的に、誤っている――――》
 その神鏡は、御神体として作られ、信仰を神へと正しく送る為の依代。
 正しき名前は――――。

 アメノミカガミ
 天 御 鏡。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

《我は神器、我が神鏡は我が本体にして、我をもたらした神への信仰を受け止める器》
 己の姿を模したオブリビオンに、百々は凛とした表情で告げる。
 神鏡になる、ということの意味を、終始、オブリビオンは理解していなかった。

《この社は御神体として我を祀っているが、それは我を通じて我が神を信仰しているということだ》
『神、神だと……戯けた事を! 神とは、我が崇めし神ただ一柱――――――』
《であるならば、他の神たる我になろうと思うべきではなかったな》
『――――あ』
《この地、この場所、この世界――――我が神との繋がりが強い場所は他に無し。愚かだな》
 たとえ時間軸が違っていようとも。
 神は天御鏡へ通じ、天御鏡は百々に通じる。
 全ては同一にして、連なる存在なのだから。

《他者を己の世界に引きずり込み、奪ってきた汝にはわからぬか》
 そう、ユァミーは……“他人の世界の中”に入ったことは、なかった。
 自分が今まで誰かにしてきた必殺を、自ら行ってしまったのだ。
 それは邪神の眷属として、数多の命を貪ってきたが故の傲慢であり。

《この神域を決戦の地に選んだ時点で、貴様に勝ち目なぞ無いのだ!》
 ――――天御鏡・百々というヤドリガミを、侮った報いだった。

《天御鏡は太陽神の依代、邪悪なるオブリビオンよ。――――天神の威光を知れ!》
『――――――――ひぃっ!』
 背中を向けて、逃げ出そうとした。
 それは、言葉なき敗北宣言、自分がかなわない、ということを知ってしまったものの叫び。
 気づくのが、遅かった。
 もっと早くわかっていれば。
 挑まなかっただろう、望まなかっただろう。
 故に。

《我が神よ、その御力を分け与えたまえ!》
 太古からヒトという種が、畏れ敬ってきた、天より降り注ぐ神の御業。
 その光が今、邪悪を焼き尽くすべく、一点に生じて放たれる。

『あああああああああああああああああああ!? 違う、我は、私は――――――』
《疾く、消え去れ!》
 光の奔流が収まった頃には。
 もう誰も、そこに居なかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「…………終わったか」
 内なる世界でオブリビオンの浄化を果たしたことを確信して、百々はひとりつぶやいた。

「……我に成り代わったところで、汝は何者にもなれまいよ」
 同情でも、哀れみでもなく。
 ただの事実を、淡々と、終わってしまった存在に告げて。

「さて、他の生徒達は――――」
 百々はまた歩き出す。
 世界を歩く神鏡の旅は、まだまだ終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シン・ドレッドノート
思い通りいかず、残念でしたね…もう儀式も行えないでしょう。
観念して永劫の闇へと還りなさい、邪神の手先よ!

攻撃に備えて閃光の魔盾のビームシールドを展開して防御姿勢を取りつつ、精霊石の銃で射撃を行います。

ユァミーが霊の召喚を行ったら、真紅のマントを翻して視線を遮りつつ、【乱舞する紅蓮の嵐】を発動。
マントの影から霊たちや周囲の鏡に向けて、大量のカード『紅の影』を放ち、鏡面を覆い隠します。

「どうやら私とは相性が悪かったようですね」
カードの表面には五芒星の紋様。霊を浄化し、映し出した鏡に破魔のダメージを与えつつ、ユァミーを狙って精霊石の銃から魔を祓うミスリルの弾丸を撃ち込みましょう。



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 19 】
           ▽ END Joker ▽
                  《  シン・ドレッドノート  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

『どうして貴様達は、そんなに前を見ていられる……ヒトはもっと弱く愚かな生物のハズだ』
 少女の形から発せられる言葉には、もはや取り繕う様子すら無い。
 邪神の眷属、その本質は、そもそも性別や年齢など関係ない、単なる“化け物”故に。

「私はそもそもヒトではありませんが……そうですね、強いて言うなら、君は根本的に他人を舐めすぎている」
『何?』
「わかった気になるな、ということです。では、そろそろお終いにしましょう。まだ残っている生徒たちもいるようですので」
 軽口に相反して、シンの目が据わる。表情が消える。
 それはある意味、獣としての本性が現れたとも言える。
 ヒトならざる化性が、ヒトに紛れて、ヒトの中で生きている。
 愛に出会い、恋に落ちた。
 だからこそ――――その平穏を脅かす“敵”に対して、どこまでも残酷に、敵意を向けることが出来る。

「観念して永劫の闇へと還りなさい、邪神の手先よ」
 この世界には存在しない、超未来の文明。
 《光の魔盾(アトラント)》の放つ光が、そのまま力場を持った防御壁となる。

『なら貴様はコイツラを殺せるか!? 私に姿を奪われた者達の末路を!』
 合図とともに、視界内にある全ての鏡面から、呻き声を上げる、ヒトの残骸が姿を現した。
 老若男女、赤ん坊もいれば老人もいる。それら全てが、このオブリビオンに「なり変わられて」消されてしまった人たち。

「同情で手が鈍ると? ――結論から言いましょう。君は私には勝てない」
 ば、と体を反転させると、真紅の外套が大きく翻って視線を遮る。

『何を――――――』
「舞い踊れ――――幾千の紅き影」
 その裾から、ざぁ、と嵐のごとく。
 室内を蹂躙したのは、真紅の狐のエンブレムが描かれた、白いカードの嵐。

『その程度でなんとか出来ると思ったか!? 愚かな――――――』
「愚かかどうかは、結果を見てから言ってご覧なさい」
 ぱちん、と指を鳴らすと、カードの表面に記された紋様が、内側から光を放ち、明滅する。

『!』
「退魔の五芒星――――霊を浄化する破邪の光ですが、さて」
 シンは呆れたように肩をすくめて……告げた。

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「この部屋は君が作り出した鏡にかこまれているわけですが」


 しまった、と思ったときには、全てが手遅れだった。

 シンが繰り出した“破邪の五芒星”は、周囲に存在する“鏡面”によってその数を増やす。
 ただでさえ数え切れない量のそれが、鏡の数だけ倍に増えていく。
 内側にその光を取り込んだ霊達は――…………ひとたまりもなかった。

 太陽にさらされた粉雪のようなものだ、あっという間に形を保てなくなって、この世から姿を消していく。

「君、誰かと戦ったことがないでしょう」
 手札をすべて失ったオブリビオンに、シンは淡々と、純白の長銃を取り出して、銃口を向けた。

「鏡に映せば、どんな相手でも始末できた。だから、そもそも対峙し、戦う、ということを想定していない。だからこんな簡単に局面をひっくり返されてしまう」
『ぐ、ぐぐぐぐぐ――――――――』

「足掻くならどうぞ。――――出来るものなら」
 その瞬間、“逃走”を選んだオブリビオンは、ある意味で正しく、ある意味で愚かだった。
 カードは霊を浄化しただけで、鏡面を破壊したわけではない、ならばこそ、鏡を通じて別の場所に逃げる、というのはユァミーにとっての最適解だったはずだ。

 相手が、彼でなければ。

「敵を前に背中を向ける。今日この日まで、敗北したことのない者の行いだ」
 鏡の向こうに逃げ込んだ。
 まだ背中は見えている。
 それで十分。

 破銀の弾丸は、間違いなく魔を貫く。

「さようなら、弱く哀れな、鏡の中の王よ」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 トリガーをゆるく引く。精霊石の加護がライフリングを通して弾丸に刻まれ、現実と魔法の境界を超える力を与える。
 空気を引き裂いて、窓ガラスを割ること無く、弾丸は鏡面の世界に飛び込んだ。
 ユァミーが逃げるより早く、後ろから正確に胸を貫いて、中身を吹き飛ばしながら表へ突き出していった。

『が――――――――――――あ』
 悲鳴を上げる間もなく放たれた第二射が、今度は頭部に命中した。
 個人を識別できる記号を奪われたそれは、誰も見えない鏡の向こうの世界で、誰でもないナニカになって、死んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧生・柊冬
〇【221B】

あそこにいるのは偽物の姉さん…つまり相対すべき敵は姉さん自身。
僕の隣にいるのが本物だとわかっていても、頭は簡単には許してはくれない。
そこにいるのはある意味、僕が理想と望んだ姉さんのようなものだ

姉さん!ユーベルコードを使うのはその、待って。
できることならその、目の前にいる彼女に対してはUCを使うのはなしにしたい
…彼女は僕がなんとかする

もし目の前にいる姉さんが本物と同じ性質だとするならば
その行動理念、求めるものはきっと「面白い謎」だ
鏡の姉さんを攻撃するつもりはない。だが味方になるつもりもない
僕が今出せる最高の謎を出して満足させる、それが答え

「――さよなら、もう一人の姉さん」


霧生・真白
〇【221B】

こうして相対すると面白いものだね
鏡写し?はは!何を馬鹿げたことを
そちらは随分と平和ボケをした顔をしているじゃないか
…翼がない自分に未練なんてないさ

さて、面倒だからさっさと消えてもらおうか
僕自身だからわかる
こいつに戦闘力はない
だったら――
…どうして止めるんだ柊冬
まさか情でもかけるつもりかい?
お優しいことだね
嫉妬してしまいそうだよ
…全く以て面白くないが
君の言い分を聴こうじゃないか

…へぇ、なるほどね
それで肝心の謎は用意してあるのかい?
ふん、相変わらず詰めが甘いな君は
謎なら眼の前にあるだろう
それは僕らの存在だ
さぁ、解き明かしてみるといい
そうして自分の存在の意味を知るがいいさ

これでQEDだ



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 20 】
 ▽ まっしろなせかい に きみと ■たりで ▽
           《  霧生・真白/霧生・柊冬  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 [>.....“Rabbi”が記録した会話ログを参照します。

 [>......OK

 [>....再生を開始します。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『君は誰だ? どうして僕と同じ姿をしている? その翼と花は?』
 目の前に存在する異常に対して、恐れではなく目を輝かせるその性質は、まさしく“霧生・真白”のそれだ。

「……全く、なんて顔だ。好奇心をこれっぽっちも隠せていない、もっと冷静にだね……」
 そんな鏡写しの姿を見て、呆れ顔をする真白は、同意を求めるように、隣の柊冬を見た。

「いや、姉さんもハイテンションになった時は同じ顔…………」
「僕の耳が遠くなったのかな? 花びらが詰まってしまったのかな、なんだって?」
「なんでもないよなんでもない、それより――――――」
 ちらりと、柊冬の視線が、“鏡像の真白”へ向かう。

『……キミは柊冬だよね?』
 怪訝そうな顔をする“鏡像の真白”、彼女からすれば、眼前の柊冬は、紛れもなく自分の弟なのだから、
 “偽物”のご機嫌取りをする姿は、さぞかし奇妙に映るだろう。

「う、うん、そうだよ……姉さん」
 一瞬、そう呼ぶのをためらってから、それでも……柊冬にとっては、それ以外ではありえないもので呼ぶ。


「……ふん、こう相対すると面白いものだね。そちらは随分と平和ボケをした顔をしているじゃあないか。鏡写しとは笑わせる」
 一方、真白本人だって、弟が鏡像を“姉さん”と呼ぶのは、どうにも面白くないらしい。

『誰が平和ボケだい、君こそ随分と調子にのった格好をしているじゃないか、似合わないことは確かだけどね』
「………………」
 その一言は、果たして真白の逆鱗だったのかどうか。

「彼女は、僕自身だ。だから僕にはわかる。――――戦闘能力はない」
 スカートのポケットからスマートフォンを取り出して、タップする。
 もう一度触れればアプリが起動して、眼前の“鏡像”を粉々に砕くだろう。

「だったら――――――――」
 これで片がつく。
 ためらうつもりはなかった。時間を掛ける理由もメリットもない。
 翼のない自分に未練なんてない、“これ”に戻ろうとは思わない。

 けれど。

「まって、姉さん」
 腕を、弟が掴んだ。
 もちろん、振りほどこうと思えば振りほどけるし、そのまま続けようと思えば続けられたけれど。

「――情でも湧いたのかい、柊冬」
 止めるのならば、理由を尋ねなければならない。
 “何故?”を突き詰めるのが、探偵だから。

「そういうわけじゃない、けど…………出来ることなら、暴力でなんとかするのは、やめたいんだ」
「一番合理的だと思うけれどね、わかったと頷く理由は今の所ないよ。人命もかかっている」
「僕だってそれはわかってる、けど…………」
 柊冬にとっては。

「…………あの姉さんは、僕の理想でもあったんだ」
 何事もなく。
 ただの少女と、ただの少年として。
 普通の姉と、普通の弟として。
 生きていられる未来を、わずかでも望んでしまったが故の、

 翼のない、霧生・真白なのだとしたら。

「僕には、彼女に向き合って、乗り越える義務がある」
 はっきりと、姉の瞳を見つめて、弟はいい切った。
 しばらくにらみ合いが続いて、それから、根負けしたのは……真白の方だ。

「お優しいことだね、嫉妬してしまいそうだよ」
 ふん、とスマホをポケットに仕舞い直し、適当な椅子を引いて、どかっと座った。

「全く以て面白くないが……ならばどうする?」
「……この姉さんは、僕が望んで生まれた姉さんです、だから、嗜好も、行動理念も同じはず」
「――――なるほどね。確かに“僕”ならその謎に挑むだろう」
 そうして、二人の視線が、“鏡像の真白”に向けられた。
 彼女からすれば、内容も意味も全くわからない話を、眼前でされたことになる。
 怪訝そうを通り越して、不機嫌が眉の形にこれでもかと現れていて、
 もし姉があんな顔をして事務所に居座っていようものなら、柊冬はその日一日、とてつもない苦労を味わうことになる、そんな顔だ。
 ……それでも、引き下がるわけには行かない。

「――姉さん」
 “鏡像の真白”を、再び姉と読んで、柊冬は問いかけた。

「僕達は――“何”だと思いますか?」

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

『君達が、何か、だって?』
 “鏡像の真白”は、弟から出されたその問に、ふぅと小さく息を吐いた。

『決まっている、僕の愛すべき弟と、それを拐かそうとしている僕の偽物だ』
「それでは謎にならないだろう、推理をしたまえ」
『――――…………』
 ギロリとにらみ合う二人の真白、だが、それが答えでないとするのなら。

 …………霧生・真白という人物は。
 たとえ探偵に至らなくても、本質は変わらなかった。
 探求と思考を積み重ね、真実に至るだけの能力を備えている。
 それがどれだけ現実的に考えて突飛でも、彼女は答えに至るだろう。
 なぜなら。

『…………偽物は、僕の方か』
「……何故そう思う?」
『僕のくせにわかっている事を言うな』
 煮詰まった感情を込めた目で、じろりと“本物”を睨んでから、“鏡像の真白”は言う。

『僕にはわかる、柊冬。君は本物だ、紛れもない、僕の片割れだ、血を分けた弟だ』
 そう、“鏡像の真白”にとって、それは絶対誤ることのない、真実。

『その君が、隣りにいる翼をはやした僕を“姉さん”と呼ぶんだ。つまり――――君が正常で、違うのは、きっと僕なのさ』
 答えにたどり着く理由は、それ以外にない。
 “弟を信じている”からこそ、それが結論への決め手になる。

『…………何らかの理由で、僕はその姿に変異した。僕はいわば、“変異しなかった未来”の霧生・真白といった所か。
 ……けど僕はその変化を望んで受け入れたはずだ、なんたって、心から望んだ“非日常”の到来だ、受け入れなかったはずがない』
 自分のことだから、よく分かるよ、と続けて。

『だけど――――柊冬、君だけは、“もしそうじゃなかったら”を、望んでくれたのか』
 その問に、弟たる柊冬は、なんと答えればいいのだろう。

「……そうだとしたら」
 問い返した。

「姉さん、ごめんなさい、結果的に、僕は、一番つらい選択をさせてしまった」
『…………いいんだ、楽しかったよ、答えはわかった。だってほら』
 “鏡像の真白”が、自らの足を指し示す。
 その末端が、光の粒になって、少しずつ分解されていく。
 柊冬と真白が、それを認識した瞬間、ぴしり、と罅の入る音がした。
 “鏡像の真白”は、オブリビオンのユーベルコードによって創造されたものだ。
 自らを偽物と自覚して、存在を否定してしまったら、存在意義がなくなってしまう。
 すなわち、鏡面世界の終わりであり、“鏡像の真白”の消滅を意味する。

『僕が僕を、そうと自覚した時点で終わりだったんだ、なんともあっけないことだがね』
「…………怖くはないのかい」
 真白が、自らの鏡像に問う。

『君ならばどうだい?』
 鏡像は、笑って答えた。

「……行こう、柊冬」
「姉さん?」
「目的は達成した。この世界はもう壊れる。巻き添えを食う訳には行かないよ」
「……あ、いや、でも――――」
「いいから」
 ぎゅ、と有無を言わさず手を握り、真白は柊冬の手を引いた。
 世界の崩壊が少しずつ早くなっていく。

『はやく行きたまえ。余韻に浸る時間ぐらいは、僕だってほしいさ』
 “鏡像の真白”は、その姿を見送りながら、小さく手を降った。
 柔らかく微笑んだまま、二人の背を、ずっと見ていた。

「……わかった、僕たちは、行くね」
『ああ、行くといい。じゃあね、柊冬』
 ぼくのおとうと。

 びしり、びしりと空間にヒビが入り、砕けて、割れて、消えていく。
 鏡の向こう側の世界に、二人が飛び出すと同時に、鏡面の入り口が完全に崩壊して、消えた。
 あとに残るのは、ガラスの残骸。

「…………ふうん? 見たまえ柊冬、鏡像を破壊すれば、オブリビオンにもダメージがあるようだね」
 周囲を見回しながら、現状を確認する真白。
 その姿は、きっと、一つのことを考えないようにしている、と、柊冬は思った。
 鏡写しだから、真白には、わかったのだろう。
 柊冬にも、多分。

「…………さよなら、もう一人の姉さん」
 その言葉は、誰にも届くことはない。


 [>…………ログの閲覧を終了します。

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 [>....条件に.該当しないログを発見しました。

 [>....再生します。


『……………………』

『…………こわいよ』

『きえたくないよ…………』

『なんで、わたしは“そっち”じゃなかったの?』

『どうして、わたしは、一人なの?』

『…………いかないで』

『行かないで、ごめんなさい』

『柊冬…………やだ、やだよ、一人にしないで』

『わ、私、私!』

『一人で、消えたくない!』

『消えたく……ない――――――!』








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 [>...Good night.

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕凪・悠那

―(暫し、目を固く瞑り)(息を吐いて)
――都合のいい夢だったな、ほんと(寂しげに自嘲した)

【守護猫の手】
猫の姿を消して生徒捜索
発見次第戦力を伴って保護に向かう

ああ、この人たちもか
ボクが見せられたものと同じ、理想の夢を見てるんだろう
……悪いけど、そろそろ目覚めてもらわないといけないんだ

事情を説明しても八つ当たりされるかもしれない
当然だとも思う
でも、ボクも夢を見たばかりだからかな
今はそれがどうしようもなく気に入らない

過去を想ってもいい
過去を悔いてもいい
でも過去に囚われて今を!
未来を捨てるなよ!


生徒の状況は分かった
猫にパッケージした【崩則】ウイルスを持たせて放つ
近くに誰かいるとこは任せてもいいよね



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 22 】
        ▽ The End of The Miror World ▽
                《  夕凪・悠那  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 薄暗い教室、鏡面の向こう側から戻ってきて。
 目を閉じて、大きく息を吸い込んで、吐いて、“終わった”事を実感する。

「――――都合のいい、夢だったな、ほんと」
 それを悪くなかった、と心のどこかで思ってしまう自分が少し情けなくて。

「…………さ、行こうか。ココじゃ寝覚めが悪すぎる」
 だけど歩き出す足取りは、それでも思いの外、軽かった。

『にぃ』『にぃい』『みゃう』
 その背中を、ついてくる者達がいる。
 みぃみぃと鳴きながら来る彼らは、丸くふにふにとして愛らしい、翼の生えた黒猫のぬいぐるみだった。 
 綿と布の代わりに、たっぷりの電脳情報が詰まって出来ている。
 一歩進む度にぞろぞろと、どこからか数を増して。
 気づけば、六十匹近い群れを従えていた。

「ウィル」
『なぁう?』
 名前を呼べば、その中の一体が、応じるように声を上げる。

「生徒たちを探そう、姿は見つからないように。発見したら報告、OK?」
『にぃーご』
 声に出さなくても指示はできるが、これは気分の問題だ。
 物理明細を展開して、姿を消した“守護猫の手”が、鏡面の校舎に展開した。

『なぁう』『みゃあ』『ウッス』『くるるる』
 昏睡し、倒れたままの生徒や、鏡の向こうに囚われた生徒を、次々と発見する報告の鳴き声。
 ただ、もうオブリビオンの気配がなかった。妨害も、直接的な攻撃もない。
 恐らく、他の猟兵達が駆逐したのだろうが――――。

「ユーベルコードだけは独立して動いてるのか、質が悪いなぁ」
 一度組み上げて起動したプログラムは、PC――――この鏡面世界が壊れるまでは稼働する、ということなのだろう。
 守護猫達から送られてくる映像の中には、夢想に浸る生徒たちが居る。
 幸せな夢を見ているものも、たしかにいるんだろう。
 失わなかったはずのものを手に入れて、本来あった不幸から、目を背けて。

「……悪いけど、そろそろ目覚めてもらわないといけないんだ」
 もしかしたら、心から。
 “あっちの方が良かった”と言う者もいるかも知れない。
 いや――恐らく、それを乗り越えられる方が、珍しいのだ。

 人間は弱く。
 心は脆く。
 意思は儚い。

 理想に溺れたいと思うのが……当たり前なのだ。

「……けどさ」
 そんな未来に、たどり着きたかった者達が居た。
 誰かが忘れたい今日と明日を、生きたかった者達が居たのだ。
 夢を見たばかりだから、それを強く思う。

 どうして、を繰り返したって意味はない。
 なんで、を考えたって価値はない。
 前を向かなきゃ進めない。

「だから……今はそれがどうしようもなく気に入らない」
 過去を想ってもいい。
 過去を悔いてもいい。

「でも!」
 ウィンドウを展開する。それは“窓”を通じて、全ての守護猫に伝わり、
 ――――補足した、全ての生徒たちの“理想”を対象とする。

////////////////

 コードブレイカー
【崩 則 感 染】

 起動しますか?

 消去した世界は再構築できません。

 よろしいですか?

 Y/N

////////////////

「過去に囚われて今を! 未来を捨てるなよ!」
 辛くても苦しくても悲しくても痛くても厳しくても。
 それでも、未来に向かうしか無いのが、世界というものなのだから。

 さっきは、二人で押したYesを、今度は一人で。
 だけど、その重さは同じはずだ。

「――――さあ、壊れろ世界。バスが来るから早めに乗りなよ――――!」
 こうして。
 オブリビオンが作り出した、全ての鏡像世界が。
 一人のハッカーの一手によって、崩壊した。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 ▼2020/08/xx UDC-xxxb  某事件の被害者へのインタビュー記録。

 死んだはずの母さんが居たんだ。
 病気で、手術が失敗して、死んだんだよ。
 けどその日は、居たんだ。台所に立ってて、料理を作ってて。
 嬉しかった、今までのは全部夢だったんだって思った。

 ……そしたら、鳴き声が聞こえてさ。
 振り向いたら、猫が居たんだ、一匹の猫。
 羽が生えてる、ぬいぐるみみたいな猫だよ。

 どうしたの? って言われて、なんでも無いって言おうとしたけど。
 ――――目を背けられなかった。
 帰ってこい、って言われてるみたいで。
 わかってるんだろ? って言われてるみたいで。

 ああ、わかってたよ、夢なんだなってなんとなく。
 でも、ここに居たかったんだ、認めたくなかった。
 猫は、ずーっと俺のそばに居たよ。離れてくれなかった。

 そしたら、母さんが言うんだ。

 「どうするの?」 って。
 「もし、外に行くなら、気をつけてね」って。

 …………猫が道案内をしてくれた。
 暗い道を通って、トンネルを抜けたら、目が覚めて、病院に居たんだ。
 うん、うん、わかってる、夢だよ、変な夢だった。
 それでもさ、あそこにいたかったよ。
 あの猫が居なかったら…………多分、行こうだなんて思わなかった。
 ……あいつ、何だったんだろう、天使の使いだったのかな。
 黒猫なのに? ははは…………。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リチャード・チェイス
生徒諸君、静粛にしたまえ。
気もそぞろなのは私達も十二分に理解している。
つまり、私達の伝説がききたいのであるな。
(私達がいかに勇敢であるか、いかに高潔な志で世界を救ったか伝説を語る)

そして、今ここで諸君等を救おう。
(生徒は現在進行形の伝説に感動するだろう)

しかして彼奴も木偶ではなく一計を講じるもの。
果たしてプールというこれ見よがしな鏡を放置するだろうか。
(クライマックスに向けてトーンを落とす)

諸君等には知ってもらいたい。
往々にして奇跡とは、諸君等のように無力ながらも懸命に祈る者の
清らかなる1滴の涙から始まるのだという事を。
(UCが伝説を現実にし、生徒の涙が出口をこじ開ける!)


ジョン・ブラウン
〇【チーム悪巧み】

「さて、僕の仕事はコイツかな」
運転席から身を乗り出し
ワンダラーの接続端子を切り替わる通路や壁へと打ち込む

「うーん、移動しながらだと上手いこと当たんないや」
弾かれては打ち込む事を数度繰り返し
「あっ、やべ」
バスのサイドミラーやバックミラーに誤射してカチ割る
「あー……大丈夫、車検までには直すよ」

「本命はこっちこっち」
解析した地形のデータを改竄し
変化する地形をリセットする

「おっともう範囲外か、オーライ何度でも書き換えてやるさ」

「お、アレかいプール。……ん、んー?」

「なんかめっちゃ詰まってんだけど、ウケる」
邪神でみっちみちのプールを指さしながら

「……なんとかしろリチャァアアド!!」


曾場八野・熊五郎
◯【チーム悪巧み】
「うーん、こっちじゃないあっちでもないでごわ……」
フスフスと鼻を鳴らしてプールの位置を探る

「……ぬ、なんか花火見たいな音がするでごわす。あっちからでごわ」
UCで強化した『追跡』で手掛かりを手繰り寄せる

「それではご案内するでごわ。正面に見えますは壁でごわす。ブチ抜くでごわ」
「そこ右、次左、髭がざわつくから敵襲注意でごわ」
迷路化する異界を最短距離で進むルートを指示する『追跡、野生の勘』

「お客様、飛び乗り乗車はお断りでごわす」
『怪力、ダッシュ』で鮭を振り回して生徒を守るティアーをフォロー

「皆様大変長らくお待たせしたでごわ。まもなく終点でごわす。お忘れの鮭に気をつけて帰るでごわすよ」


詩蒲・リクロウ
○【チーム悪巧み】
とにかくプールに向かって全速力出しますので皆さん捕まってください!

ジョンさんは僕の進路のカバーをお願いします!
ティアーさんは生徒の防衛と、持ち物点検!鏡類は破棄して!
熊五郎さんは道案内とティアーさんの補助を!
リチャードさんはなんかやっといて下さい!

壁を塞ごうと無駄です、今の僕は強化に強化が施された走る全身凶器!
故に!
この技の前に障害物などありません!

『グラウンドクラッシャー!!!!』

キマった……ってアイタァ!?ジョンさん!?誤射!!
ちくしょー後で覚えててくださいよ!?
グラウンドクラッシャー!グラウンドクラッシャー!グラウンド……

プール発見!このまま突っ込みます!うぉおおお!


ティアー・ロード
【チーム悪巧み】
「鏡から?……
まずいな。野郎共!カーテンを閉めるんだ!」

敵の出現を確認したらカーテンを閉めるように生徒へ指示
私も念動力で閉めるよ
「持ち物検査?気軽にいってくれるね!
いい案だが手が足りない……ならば!」

「私の、ターンッ!」
使用UCは【刻印「比翼連理」】!
カードデッキから
DPSの炎操霊士-ガイスト・エンフォーサーをバスの上に!
TANKの炎槍幽士-ガイスト・ランサーをバスの中に召喚するよ!

「エンフォーサー!雑魚を近づけさせるな!」
エンフォーサーは
出現する敵や近づいてくる敵を炎の術で牽制!

「ランサー!乙女を……っと、生徒たちを護れ!」
ランサーは生徒の守りに
バスの窓とて安心はできないぞ!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 23 】
   ▽ There was no “Genocide Side”01 ▽
               《  悪巧みオールスターズ  》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

「何ですかアレー!!!」
 と、バスを連結し、生徒達を引っ張る電車、リクロウ号となったリクロウ(意味不明)の視線の先。
 窓の向こう、建物を突き破って、空に大きな花が咲いた。
 それは火薬によって作られたものではなく、虚構のデジタル・アート。
 電子の御業によるものだと看破したのは、ギークのジョンだ。

「オーケー、あそこが目的地だ。場所を知らせてくれてるらしい」
「わかるものなのかね?」
 ティアー・ロードが恐れる乙女達に親身に寄り添い、ぎゅうぎゅう詰めのバスの中でさり気なく男達が接触しないよう取り計らいながら尋ねた。

「あの明るさはここのエネミーの流儀じゃないっしょ」
「なるほど確かに」
「問題はあそこに辿り着けるかどうかだと思うんですけどぉおおおおおおおおお!?」
 今もリクロウ号は必死こいて学園内を疾走している。
 黒猫のぬいぐるみみたいなのが次々に生徒を連れてくるものので、回収をしながらの行脚だ。こんな学園見学したくなかった。

「ぁー、まぁねぇ」
 呑気に運転席に座りながら、ハンドルを右に左に動かす(特に意味のある行為ではない)ジョンがつぶやいた。

「なにせこの有様だし」
 今この段階の彼らには預かり知らぬことだが。
 ――――邪神の幼体が目覚め。
 ――――鏡面世界の主たるユァミーを失った現状。
 この鏡像の学園そのものが、崩壊を始めていた。
 しかしながら、この世界の存在意義は、あくまで邪神を復活させる為の贄を集めること。
 コントロールする者がいなくなった今、“この世界”は内部に在るものを全てを無秩序に喰らい、邪神の生贄にしようとしている。
 つまり――――――。

「我々は未だ敵の体内の中、消化を待つ餌、鹿に食われた鹿せんべい――――というわけであるな」
 何故か鹿に乗りながらリクロウ号と並走するリチャードは、隆起する床を飛び越え、左右から挟み込もうとする壁を破壊し、
 通路を塞ぐように落ちてくる天井を踏みつけながら突き進む。

「場所がわかっててもルートがわからなきゃどうしようもないと思うんですけどぉ!!」
「大丈夫だ、落ち着けよリクロウ」
「ジョンさん何余裕ぶっこいてんですか!?」
「こっちには新メンバーがいる、そうだろクマゴロウ」
「ごわ?」
 ふんふんふんふん、とリクロウ号の頭に乗って鼻を鳴らしていたクマゴロウが、呼びかけにはてと肉球を叩きつけた。

「あいたぁ?! なんで今暴力を!?」
「野生の本能でごわ」
「今は捨てろ!!!!! で、クマゴロウがなんです!?」
「クマゴロウは犬なんだぜ? 匂いをたどってプールにたどり着くルートを見つけ出すぐらいワケない。今だってそのために鼻を鳴らしてたんだろ」
 したり顔でそういうジョンに、リクロウはなるほど! と手を打った(気分だけ)。

「その発想はなかった! 流石ですよクマゴロウさん! どっち行けばいいんですか?」
「いや、我輩はなんだか雌のシェパードの匂いがした気がして鼻を効かせていただけでごわすが」
「今すぐ降りろこのデブ犬!!!!!!!」
 車体を揺らしたいところだが、振動を通じて生徒が傷つく可能性があるので出来ない。何という狡猾。

「んー、でも花火みたいな音がしたでごわ。あっちに行けばいいのでごわすな
「早急にルートキメテーーーーーーーーー!!!」
 のんびり座っていたクマゴロウが、二足歩行で立ち上がり、頭にシャーロット・ハットをかぶる。
 見よ、これこそ名探偵クマゴロウ、追跡に特化した猟兵霊犬の本領発揮である!

「――――――フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンあっち!!!!!」
「うさんくせーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 しかし他に頼れる指針もない。リクロウ号はクマゴロウメンターの導きで突き進むしか無いのだ。

「あ」
「あ?」
 クマゴロウが、鼻を止め、不意に声を上げた。

「次左、髭がざわつくから敵襲注意でごわ」
「敵?」
 言葉と、ほぼ同時。
 ずるり、と粘着質な音を立てながら、それは現れた。

 うぞうぞとうごめく肉の塊。
 見覚えのある、細かな“あれ”が、変形する建物の隙間から、滴る水のようににじみ出てきた。

「なるほど。見覚えがある。いいかね諸君、我輩が先行するからその間に――――あ」
「「「あ」」」
 リクロウ号より少し前に出たリチャードを、餌だと認識したのだろう。
 肉塊は、一斉にそのシャーマンズゴースト(鹿)の肉体に群がり、うじゅるうじゅるとその姿を包み隠して、後方に去っていった。
 進行と逆走、相対速度もあって、あっという間に見えなくなる。

「「「「……………………」」」」

「喰われてんじゃねーか拾え拾え!!!!」
「いやリチャードはほっといても追いついてくるから大丈夫でしょ多分」
「大丈夫ですかねえ!?」
「敵が来てるでごわー」

「「「リチャードの心配してる場合じゃねえな!!」」」
 みんなの心は一つになった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 シャ、と音を立てて、その姿が生徒達の目に入る前に、バスのカーテンが閉じられた。

「乙女達、しばし目を閉じていたまえ。大丈夫、怪我はさせない」
 即座に反応したのはティアー・ロードだ。
 細かく、液体のような性質を持つ彼らは、天井からも降り注ぎ、僅かな隙間をこじ開けて、内部に侵入しようとしてくる。

「私の、ターン!!! コードセレクト、ザ・ユナイテッド!!」
 叫びとともに、ユーベルコードが起動し、二人の戦士がバスの上に出現する。
 炎槍幽士-ガイスト・ランサー、そして炎操霊士-ガイスト・エンフォーサー。

「エンフォーサー! 雑魚を近づけさせるな!」
『シェアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
 炎の操るエンフォーサーが、肉塊を業火で焼き尽くし。

「ランサー! 乙女たち――――――あ、いや、生徒全員を守り給え!」
『ショウチツカマツリ!』
 バスの内部に侵入しようとするそれを、槍の騎士が打ち砕く。

「お客様、飛び乗り乗車はお断りでごわす」
 それでもなお内部に入ってこようとする肉の塊を、クマゴロウが鮭を振り回してぶち飛ばす。
 赤黒い肉片に触れてしまった石狩鱒之助刻有午杉はものすごく嫌そうな顔をしたが、
 帝竜の血を浴び破魔の力を得た彼の内部に侵食することはなかった。鮭に幸あれ。

「正面に見えますは壁でごわす。ブチ抜くでごわ」
「ハイヨォオオオオオオオオオオオオオオ!」
 もはや痛いとか辛いとか言っている場合ではなかった。止まった瞬間、肉塊に飲まれてジ・エンドだ。

「…………で、さっきからジョンさんは何してんですか!?」
「ちょっと調べ物…………あ、ごめん」
 パリン、と音がなったのは、リクロウ号のサイドミラーが割れた音だ。
 ワンダラー、ジョン専用のデバイスから伸びた接続端子が接触事故を起こしたのである。

「なんでええええええええええええええええええええ」
「いや、あいつら鏡から出てくるみたいだからさ。次の車検までには治すよ」
「どこで車検してくれるんですかこのボディ!」
「JRによろしく言っとこう。さて」
 たん、と

「そろそろ仕事させてもらおうか、やぁっと解析が終わった」
「仕事してたんですか!?」
「そりゃもちろん。――――行くぞウィスパー! 仮想サーバーコンストラクション!」
 定義するのはこの世界。
 現実を仮想に置換し、地形データを己の思うがままに書き換えるユーベルコード。
 ましてこの世界は、現実ではなく虚実なのだから。

《Server virtualization》

<アクセス>

<構築完了>

<この世界での破壊行為は現実世界に反映されません>

<Y/N>

「イエス、だ。置き換えろ」
 その瞬間。
 壁、天井、床、変化し、喰らおうとしていた校舎全体が、“元の形”に戻されていく。

「お、おおお! 走りやすい! 何したんですかジョンさん!」
「地形データをリセットした! でもまた改変される! 今のうちに走れ走れ!」
「次右でごわす、その次左、はい階段おりて」
「うおおおおおお下降運動ーーーー!!!」
 リクロウ号の速度が一気に上がる。
 障害物さえなければ、その速度は折り紙付きだ、だが。

 ズ、ン、と建物全体が振るえる音。
 きゃあ、わあ、とバスの中の生徒達が、か細い悲鳴を上げる。

「こりゃ、なにかやってるな――――」
 定期的に生じる、重たい、巨大な何かが叩きつけられる衝撃。
 その度に車体が跳ね上がり、起動が制御できなくなる。

「…………ああああああ! 前! 前!」
 それでも狭い階段をかけ下るリクロウ号の正面。
 密集した肉の塊が、みっちりと階下へ続く道を埋めていた。
 このままでは、自ら飛び込んで、あっという間に餌にされる――――。

「――――エンハンサー! ランサー!」
 バスの護衛についていたティアー・ロードの騎士たちが、その声に応じて『シャア!』と吼えた。

「すまない! 道を切り開いてくれ、戦士達よ!」
 リクロウ号に先行して、戦士達が肉の海に突っ込む。
 彼らの性質は“炎”だ。その出力を限界を超えて引き出し、外部に放出すれば――――――。

「あれ、何する気でごわ?」
「いいから耳をふさいで口を半開きにして伏せたまえ! 行くぞ!」
「ごわごわ」
 伏せができる賢い動物、クマゴロウ。
 しかし彼が居るのは車体の外だったので、あまり意味がなかったかも知れない。




 ――――あまりに巨大で、圧倒的な爆発は。
 距離にもよるが、音を超えて、先に衝撃が来る。




 バリバリバリバリ、とリクロウ号とバス、二つの車両の窓ガラスがぶち割れた。
 きゃあああああああああ! ひぃいいいいいいいいい! という絶叫で満たされる。
 爆炎と煙で、何も見えない、飛び散った肉片を顔に浴びながら、それでもリクロウ号は突き進む。

「クマゴロウさん! 次はどっちで…………クマゴロウさん!?」
 居ない。
 リクロウの頭の上に居たはずの彼は、爆発の直撃をモロに受けた。
 爆風に飲まれたか、跡形もなく砕け散ったのか。
 どちらにしても、その存在を確認できなかった。

「くそ…………くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 付き合いは短いが、やることは滅茶苦茶だったが、仲間だった。
 こんなところで、何で。
 胸の奥からこみ上げてくるものを、叫んでこぼしながら、それでも前へ、前へ。

 ……リチャードさんが喰われた時は全然こんな感じじゃなかったんだけどなあ、おかしいなあ。

「――――見えた、プール――――あれぇぇぇぇぇ!?」
 プールの入口、というか、プールがある校舎の天井から上が、完全に消滅していた。
 大きな穴がぽっかり空いて、そして肝心のプールは……。

「水が……張ってない?」
 ジョンが、小さくつぶやいた。
 ……プールの水を鏡面とするなら、中身がなければ、向こう側に行くことが出来ない。
 企画ミス? と誰かが言って、足が止まる。
 このままとどまっていれば、肉塊云々以前に、世界の崩壊に巻き込まれる。


「…………さっきみたいに地形データを書き換えて、水を張ることは出来ないかね?」
 ティアーがジョンに問うと、ジョンは静かに首を振った。

「あれは僕とウィスパーで改変してるから、敵のユーベルコードの効果を、逆に受けられない」
「じゃあ、今から水、貯めます?」
「25mプールの水を最大まで貯めるには、六時間以上かかるそうだよ」
 ――――万事休す。という空気は。
 バスの車内にも伝わった。
 ひ、というひきつるような鳴き声や、怯えが伝播していく。
 誰かが、何かを言おうとして、それがきっかけにパニックになる事を恐れて、口を噤んでしまう。







「――――――生徒諸君、静粛にしたまえ」
 かっぽ、かっぽ、と気の抜けた音がした。

「気もそぞろなのは私達も十二分に理解している。つまり、私達の伝説がききたいのであるな」
 そいつは、赤黒い肉塊に乗って現れた。
 ただ、何故かその肉塊は鹿の形をしており、角がうごめく触手で出来ていてちょっとおしゃれ。

「はっきり言おう。状況は絶望的。未来は雲散霧消、希望は潰えこのままでは死を待つのみ」
 別にお前が死んだとは思ってなかったので、誰も悲しんでなかったが。

「しかして我々は、幾度となく死地を超えてきた勇者である。今ここで諸君等を救う手があるとも」
 絶望的な状況で現れるこいつほど、頼りになる者もいないのだ。

「リチャード……その、クマゴロウが」
 それでも、犠牲は存在した。
 ジョンが目を伏せた時、鹿は静かに近づいて、その涙を拭った。

「クマゴロウなら大丈夫だとも。次のリプレイを参照にしたまえ」
「なんて???」
「さて、諸君らに一つ問う。唯一の出口は失われた。これは絶望か?」
 否、とリチャードは首を振る。

「君たちは理想を振り切って、未来を生きることを選んだ者だ。勇敢な、鹿なる者達だ」
 鹿なる者達ではない。

「故に、諸君らには知ってもらいたい。無力ながらも懸命に祈り、生きようとあがき、先に進もうとするからこそ――――」
 ……誰かが泣いていた。
 それにつられて、また泣いた。
 ぽたぽたと溢れ続けていたその雫達。

「――――往々にして奇跡とは、清らかなる1滴の涙から始まるのだという事を」
 ぽたり、と落ちるそれを、咄嗟にティアー・ロードは受け止めた。
 乙女の流す、無垢なる涙。

「……君の涙で、救っておくれ」
 その一滴を、ぽたりと、枯れて、穴の空いたプールに落とす。

 …………ぶわ、と透明な液体が、一気に溢れ出て、プールの表面を満たし。
 巨大な、鏡面が完成した。

 ――――奇跡は起こる。
 ――――それは、人の思いから生まれる。
 ――――鹿がそれを形にする。

わあ、と歓声があがる。絶望が希望に反転し、歓喜の表情が満ち溢れる。

「…………鹿ってなんだろうな」
「鹿は鹿であるが」
「今はそれでいいよもう」

 

『シャアアアアアアアアアアアア!』
『ハアアアアアアアアアアアアア!』
 エンハンサーとランサーが、リクロウ号の炎と槍を掲げ、高らかに叫び、喜びを顕にした。

「いや生きてるんかい!!!!!!!!!!!」
「私のユーベルコードで召喚士た戦士だからそれはね」
「犠牲出ちゃったなあってしんみりしてたじゃんか僕」
「クマゴロウは?」
「なんか生きてるらしい」
「そうか」

「――――さあ帰ろう。君たちが自分で作り、開けた扉だ。誇り、胸を張りゆくがいい!」
 かくして。
 長い戦いの末――――あらゆる、どんな犠牲を出すこと無く。
 生徒達を乗せたリクロウ号は、勢いよく、鏡面へ……元の世界へ通じる出口へと、飛び込んだ。

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 ……後日。












「車検通りませんでした」
「「「そりゃあなあ」」」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リゥ・ズゥ

此処も、"お前"の餌場、だった、か。だが、もう何も、喰らわせない。
リゥ・ズゥが、お前を、喰らう。
アマニア、遠慮は、要らない。リゥ・ズゥごと、アレを、叩け。

迫る触手を喰らい取り込んでユーベルコードを発動、邪神の幼体に匹敵するサイズまで巨大化し戦闘。
どちらが邪神かわからぬほどの暴力で叩き潰し、引き裂き、喰らいつく。
アマニアを巻き込まぬように3回攻撃は控え技能での2回攻撃、衝撃波。カウンターで補う。
また己の巨体をそのままアマニアへ向かう攻撃への盾とし呪詛耐性で耐え抜き、己ごと攻めさせながら捨て身の一撃を叩き込む。

戦闘後
邪神は、仕留めた、が。この餌場を作った者は、どうした?
逃したなら……次は、喰らう


アマニア・イェーガー

戦闘前、もしくは後に電子魔術の花火を打ち上げる
さて、悪巧みは上手くいくかな?

あれの過去も気になるけどそれどころじゃないよね、了解だよリゥくん!
エクストラステージって感じだね、わたしも全力でいくよ!

リゥくんの影でわたしはユーベルコード発動準備
わたしのコレクション、"欠けた舵輪"と"船側の破片"を代償に──星を落とす
文字通り『とっておき』だよ!流星光底長蛇は逸せず、青き焦熱で灰となれ!スターリー・スターリィ!

こっちでもフォローするよ、頑張って耐えてねリゥくん!



///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三
【 PART 24 】
    ▽ There was no “Genocide Side”02 ▽
            《 リゥ・ズゥ/アマニア・イェーガー 》
///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三///三

 ――――時間は少し遡る。

 パァン、と、空に電子の花が咲く。
 薄暗い異空間の中でも、それは大きな音と光で、目印となるだろう。

「さぁーって、“悪巧み”達は気づいてくれるかな?」
 障害物を無視して上へ上へと登って、打ち上げた花火が弾けた事を確認したら、アマニア・イェーガーは考える。

「生徒達を載せたバスが、こっちに来てるはずだから……流石にそれは守りきれないよね、つーまーりー」
 25mプールを埋め尽くす、赤黒い肉の塊、数多の生贄と引き換えに顕現しかけた、邪神の幼体がムクリと体を起こそうとする。
 それはつまり、横が縦になる。高さを得るということだ。
 もはや生物というより、巨大な肉でできた建築物のようなものだ。
 地下のプール故に、天井を破壊しながら、そいつはメリメリと、目の前の“餌”を喰らうべく動き出す。

「生徒達が、たどり着く、前に…………」
「倒すしか無いってことだよ、リゥくん!」
「………………そう、いう、こと、だ」
「あ、ごめん微妙に結論急いじゃった? 、ま、いっか――――」
 空間に、ディスプレイ……電脳魔術師にとっての魔法陣を展開して。

「リゥくんなら、やれるもんね?」
 アマニアが笑うと同時。

《縺ゅ↑縺溘◆縺。縺後⊇繧薙§縺、縺ョ縺斐?繧薙〒縺吶?縺?◆縺?縺阪∪縺》
 理解できない言語による咆哮を発しながら、肉塊の中から、ずるりと生えてくるのは、無数の“口”を伴う野太い触手。
 テラテラと粘液でうごめくそれは、リゥ・ズゥを横薙ぎに薙ぎ倒し、背後のアマニアごと、掴んで喰らおうとする。

「侮る、な」
 触手の中身は、もはや流体する筋肉の塊と言っていい。
 質量と膂力、二つの力を叩きつけられて。
 リゥ・ズゥは、微動だにしなかった。
 直立したまま、異形の腕で触手を食い止め。

「もう何も、喰らわせない」
 ――その牙を触手に突き立てた。

「リゥ・ズゥが、お前を、喰らう。アマニア、遠慮は、要らない。リゥ・ズゥごと、アレを、叩け」
 変化は、即座に生じる。
 異形の肉体が、異形を取り込み、さらなる異形へと。
 筋肉が肥大化し、皮膚を突き破って溢れ出す、それは新たな“形”を造る。

「オ オ オ オ オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 プールの天井、どころか。
 建物を、空が見えるまでぶち破るほど巨大化したリゥ・ズゥが、無数の触手を束ねて、筋繊維の塊となった腕を、邪神の幼体に振り下ろした。

《縺?◆縺ソ繧偵→繧ゅ↑縺?@繧?¥縺倥r縺ョ縺槭s縺?縺翫⊂縺医?縺ェ縺》
 言葉にならない悲鳴を上げながら、肉塊は目の前の“それ”を餌と認識して暴れだす。
 喰らい、しかしリゥも即座に喰らう。奪われた部位から再生し、再生した部位でまた喰らう。
 血と肉の地獄絵図だ。常人なら、その景色を見ただけで、卒倒しかねない地獄。

「――――了解、リゥ君」
 そんな地獄の中で、女は何時だってマイペースだ。
 揺らがぬ自信と強烈な自我。
 相手がどんな存在であろうと、決して揺るがぬ自尊心。

 電子のノイズを経て実体化するのは、二つの宝物。
 
 “欠けた舵輪”、そして“とある船の破片”。

「君にはもったいないぐらいのコレクションだよ――――ありがたいと思ってよね、邪神さん」
 幸いなことに。
 天井は、巨大化したリゥと、肉片が立ち上がった際に、大きく砕けて割れている。
 空がよく見える。視界が通っている。――――遮るものは、なにもない。
 びしり、と二つの供物がひび割れて、光の粒子となってく。 
 それは伸ばした指の先に収束して、やがて球体になり。
 天に向かって、一つの線として放たれた。

「流星光底長蛇は逸せず」
 光が向かう果て。
 チカ、っと。
 遠く、遠く闇の奥から、引っ張られるようにして。

「――――――青き焦熱で灰となれ! スターリー・スターリィ!」



 “星”が、落ちてきた。



《縺阪i縺阪i縺イ縺九▲縺ヲ縺?→縺ヲ繧ゅ″繧後>》
 隕石、というのは大気圏で燃え尽きるモノだが。
 アマニアが文字通り“堕とした”それは、“星が持つ力”という概念を体現した魔法だ。
 質量、熱量は元より――――ヒトが恐れ、焦がれ、望み、願う、“星”というものに対する感情を、そのまま武器として叩きつける。
 その再現度は、失った代償に応じるが――――。

「文字通りの“とっておき”だよ、思い知れ!」
《縺薙l縺ッ辭ア驥上′辭ア縺丞?縺檎惓縺励>菴輔r縺吶k繧?a縺ェ縺輔>遘√?遘√?遘√?》
 迎撃のために伸ばされる触手。
 だが、落下する星に、わずかに端部から、分解されて消滅していく。

「アマニア」
「なぁにリゥ君!」
「あれは、リゥも、流石に、危ない」
「だよねごめん!」
 というか、アマニアも危ない。
 リゥは、巨大化したみずからの肉体を、邪神と同じく触手化し。

「動く、な」
 強靭な力でもって、絡みつき、拘束する。
 同時に、巨躯からメリメリと肉の塊が盛り上がり、ぼとりと落ちた。
 本体を引き剥がして、素早くアマニアを掴み、プールの端まで移動する。

「ひぁっ」
「舌を、噛むぞ」
 避難を終えた、まさにその直後。

 インパクトが巻き起こった。

 邪神は、その質量全体で、降ってくる星を受け止めようとした。
 星は、自らに取り付くその肉の塊を、有する力で受け止めて、すりつぶしていった。
 一拍の後。

 ――――あとに残ったものは、干上がったプールと、衝撃で壊れた様々なモノ。

 邪神がいた、という痕跡は、塵の一つすら、残っていなかった。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「――――この餌場を作った者は、どうした?」
 戦いを終えた後、リゥはぽつりとつぶやいた。

「オブリビオンなら、他のみんなが倒してくれたよ? だから敵も復活できなかったみたい」
「…………だが、これは――以前と、同じだ」
「前、リゥくんが話してくれた奴?」
「そう、だ。……大元が、いる」
「沢山ある一派の一つにしかすぎないってことかー、どうするの?」
「……次は、喰らう」
「そっか、うん、じゃあ頑張ろ」
 ぺち、とハイタッチのつもりで伸ばした手に、リゥは真似するようにして応じた。

「さって、それじゃあ私達もそろそろここから………ん?」
 不意に、ぶぎゅる、と音を立てて。
 何かが落ちてきた。茶色のもこもことした毛玉の塊。

「……………………犬?」
 ぐるぐる目を回して意識はないようだったが、それは紛れもなく犬だった。

「…………リゥ君、食べる?」
「食べ、ない」
 犬の首元を掴んで、よく眺め回してから、リゥは首を横に振った。

「じゃ、帰ろ帰ろ。プールは干上がっちゃったし、鏡は私が造るね」
 みずからのストレージから、大型の鏡をダウンロードしながら、電子の魔女はくすくすと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月03日


挿絵イラスト