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砂上のラビラント

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索

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●紅き月と蒼き影
 ――それは遙けき砂漠に点在する、ある町に伝わる物語。どこにでも伝わり、嘘かまことかも知れぬ、蜃気楼めいた言い伝え。
 その町の領主にはふたごの娘がいたそうな。紅溶かした大きな月のような、婀娜めく蜜色の髪のハトラ。星夜に落ちる影のような、醒めた青髪のルトラ。
 魔術の腕に覚えのあったこのふたごは、町に不思議を敷き詰める。
 強かな陽射しを避ける石煉瓦の町は一色で、どこを切っても同じ顔。領主の館の他には見栄えする色ひとつない、迷い路のよう。
 ――ならばそんな退屈は、楽しい幻に沈めてしまいましょう!
 そうして渇いた砂上の町は、ある夜唐突に水の幻影に包まれる。
 月色のハトラは虹色の魚たちを。影色のルトラは藍深き水の流れを。
 かくして砂漠の中、一夜限りの海は成り。人々は惑いの中、踊り明かした。
 愉快な悪戯を愉しんだふたごの娘たちは、その余る力を世に人に役立てよと父領主に叱られて、勇者の旅路へ連なったのだとか。
 可笑しげに腕絡ませて、くすくす笑い響かせて――それは戦いというよりも。
 まるで、世界に悪戯をしに行くのだと言わんばかりに。

●砂漠の海アランカラ
「――なんて姫さんたちの話が、その町には伝わってるそうだ」
 一口に勇者と括れどいろんな奴がいるもんだと、グレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)は愉快げに肩を揺らす。
 アックス&ウィザーズの勇者伝説のひとつ。砂漠のオアシス領を丸ごと作り替えた、白壁の迷宮のようなその町の名は、アランカラ。――二つ名を、砂漠の海。
 もう生きて知る人もない、刹那的で享楽的な姫君たちの物語を人々は愛し、ふたりの伝説になぞらえた祭りを千の夜ごとに催すのだという。
「詳しいいきさつは参加すりゃ見えてくると思うけどさ。とにかく皆、この姫さんたちの物語が好きらしい」
 先ずはその祭りに足を運び、町に伝わる勇者の伝説に触れて欲しいとグレは言う。
 群竜大陸を匿しているというオベリスクの話も耳に入り始めた。そんな風に、千を数えるという勇者らの物語を紐解くことは、今後齎される大陸の情報、その切り口にも、確かな影響を与える筈だと。

 祭りと銘打ってはいるものの、見るべきものはシンプルに現象だ。――すなわち、町に出現する幻の海を楽しむ、という。
 町の外では、海になぞらえた飲み物が振る舞われている。未成年にはライチやレモンで風味付けした炭酸水、大人にはエールやリキュール。
 泡と青に染まり、仄かな潮の風味を感じるそれを受け取ったなら、露店でも売っている色とりどりのショールをひと色、男も女も手にとって。
 そうして門を潜ったならば、その先はここにないはずの海の幻燈の中。
 人々の奏でる調べに乗り、幻の泡沫に溺れ、友や幻の魚と踊り、ただ愉快に一夜を過ごす――それだけの享楽の祭り。
「少しは興味が湧いたって顔だね。砂漠の夜の夢、存分に楽しんでおいで」
 土産話をよろしく頼むよと、向かえぬ身を惜しみもせず磊落に笑って、グレは猟兵たちを紅い光の向こうへと送り出した。


五月町
 五月町です。
 砂漠の幻夜に皆様をお連れいたします。
 お目に留まりましたらよろしくお願いします。

●第1章:
 ふたごの勇者が発ったと言われる町で、魔法に彩られた祭りの夜を楽しむ日常章です。友人と踊ったり魔法を眺めたり、愉快な夜を過ごしましょう!
 詳細はオープニング及び章冒頭をご確認下さい。
 勇者の物語については触れなくても構いません。情報収集のプレイングがあった場合は、その部分は的中した場合のみの描写しますので、多くは祭りを楽しむことに割くことをお勧めします。

●第2章:
 詳細は冒頭部追加をお待ちください。

●第3章:
 詳細は冒頭部追加をお待ちください。

●プレイング受付について
 1章は冒頭部追加後、9日朝8:30から受付を開始します。
 以降は各章とも、プレイング受付期間をマスターページとTwitter(@satsuki_tw6)でお報せします。

 お連れ様がいらっしゃる場合は、名前/ID、もしくはグループ名の記載をお願いします。2〜3名様がご満足いただきやすいと思いますが、それ以上の場合もできるだけ頑張ります。
 また、プレイングの送信時間を合わせて頂けると、こちらの採用のタイミングが合わずプレイングをお返しする、といったことも少なく済むと思います。
 特にグループ参加のお客様はご協力いただけると助かります。

 それでは、どなたにも好い道行きを。
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第1章 日常 『ダンス!ダンス!ダンス!』

POW   :    力強くパフォーマンスする

SPD   :    自身のテクニックを生かす

WIZ   :    伝統的な踊りを舞う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幻に泳ぐ
 陽が落ちれば、人々の期待が町の空気を震わせる。
 白壁の町が夜影に包まれ、空に熱孕む月と冴えた星影が笑うころ。どこからともなく、魔法の気配が立ち上ってくるのだという。
 それが織りなすものは、二つ名の通りの『砂漠の海』。
 青い水の幻術に満たされた町には、一夜限り、淡く輝く魚たちの幻影が泳ぎ出す。捉えることも触れることも叶わぬそれを、アランカラの人々はああ、また姫様方の悪戯だと愉しく見上げては踊り、踊っては見上げて過ごすのだ。
 光はその魚たち、そして青い青い水の輝きばかり。歩くに足る明るさは、それで充分に賄われる。
 砂漠には決して現れぬ筈の景色に、浮かれた人々はあぶくのように輝く鉱石のかけらで彩られた、色とりどりの繻子を身に纏う。
 腰や頭に巻いてみたり、腕輪や指輪に括ってみたり。はらりひらりと揺れる彩りがあらわすものは、空想の魚たちの纏う鰭。
 ――そう。これは、人も幻も浮かれ泳ぐ、砂漠の夜の蜃気楼。

 紅き月のハトラと青き影のルトラ。
 ふたりの姫君の残した幻燈は今、月影の下に開演のときを迎えていた。
●幻に泳ぐ
 陽が落ちれば、人々の期待が町の空気を震わせる。
 白壁の町が夜影に包まれ、空に熱孕む月と冴えた星影が笑うころ。どこからともなく、魔法の気配が立ち上ってくるのだという。
 それが織りなすものは、二つ名の通りの『砂漠の海』。

 青い水の幻術に満たされた町には、一夜限り、淡く輝く魚たちの幻影が泳ぎ出す。捉えることも触れることも叶わぬそれを、アランカラの人々はああ、また姫様方の悪戯だと愉しく見上げては踊り、踊っては見上げて過ごすのだ。
 光はその魚たち、そして青い青い水の輝きばかり。歩くに足る明るさは、それで充分に賄われる。
 砂漠には決して現れぬ筈の景色に、浮かれた人々はあぶくのように輝く鉱石のかけらで彩られた、色とりどりの繻子を身に纏う。
 腰や頭に巻いてみたり、腕輪や指輪に括ってみたり。はらりひらりと揺れる彩りがあらわすものは、空想の魚たちの纏う鰭。
 ――そう。これは、人も幻も浮かれ泳ぐ、砂漠の夜の蜃気楼。

 紅き月のハトラと青き影のルトラ。
 ――ふたりの姫君の残した幻燈は今、月影の下に開演のときを迎えていた。
●渇き満ちる夜
 ――鮮やかな夜がやってくる。
 ひとたび門をくぐったら、その先は幻想の青の満ちる場所。
 触れ得ぬ海に染まるため、人々は海色の杯を乾して――そして悠々と泳ぎ出すのだ。
 鬱憤も憂鬱も全て溶け出でる、魔法の海の底へ。
リル・ルリ
■コノハ/f03130
アドリブ等歓迎

コノハ!魔法の海だ
砂の海が初めてならば
魔法の海も初めて
好奇心に尾鰭揺れて笑顔咲く

わぁコノハ、美人だね
嗚呼とても綺麗な砂漠のさかな

僕もおめかし
秘色に重ねる輝石煌めく桜の薄絹、尾鰭には真珠と輝石を連ねて
かの姫のようにエキゾチックな衣装を纏い、頭には瑠璃のたーばんを
…あれ?前が見えない
コノハに巻き直して貰えば
ありがとと微笑んで
これで君の顔もよく見える

コノハは綺麗なものが好きと聴いたから
幻想の夜に添える歌を歌おう
綺麗と喜んで貰えれば嬉しい

らいち、のそーだ!
渡された冷たい海は心地よく身体に染み込んで
コノハの海のお酒も綺麗だね
かんぱい、だ
幻想の夜
洒落た台詞も良く似合うよ


コノハ・ライゼ
リルちゃん(f10762)と

青藍の上衣にターバン巻いて、薄紫の繻子を後ろ頭に靡かせれば
砂漠の民のお魚になれたかしら?ナンて
ふふ、リルちゃんもよくお似合い!魔法の海の住人のよう
あら、緩みそうなら巻き直してあげるヨ
その目にこの景色が映せないナンて勿体ないものネ

魚の合間を泳ぐのは楽しいケド、歌や踊りは観客側が好き
一面の煌めきにも負けない綺麗な歌声に揺れてこの海を望めたら
これ以上の贅沢なんてないンじゃなくて?
魔法をかけたという姫君たちも、きっと喜んでるとも

お疲れサマと気になってた様子のライチのソーダを差し出して
海色のリキュールとで乾杯しよ
キレイな海と、歌声に――なぁんて、一度言ってみたかったんだよねぇ



 藍色の上衣にターバン合わせ、くるり繻子を絡めれば、振り返る度に視界に靡く薄紫。砂漠の民のお魚になれたかしら――と口の端上げるコノハ・ライゼ(空々・f03130)に、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は語り切れぬ賛辞を薄花の瞳の煌めきに示す。
「わぁコノハ、美人だね。嗚呼、とても綺麗な砂漠のさかな」
「ふふ、リルちゃんもよくお似合い! 魔法の海の住人のよう」
 泳ぎ出す少年に目を細め、コノハが謳い上げるのも無理からぬこと。
 白磁の肌に添う桜の薄絹は瞳と揃い。柔く熱を孕むようなその色にも、愉しげに跳ねる尾鰭にも、連ねる輝石や真珠の泡は美しく映える。白羽の花咲く秘色の髪は、瑠璃色のターバンの端からひとすじ、零れて。
 姫君もかくやと人々の吐息と視線を集めるリルを、青年は恭しく伸べる掌でエスコートする。――けれどおめかしした少年の、気取りない愛らしさはいつものままで、
「……あれ? 前が見えない」
「あらあら、緩みそうなら巻き直してあげるヨ」
 うつくしいものを識ってはうたうその心が、この景色を映さないなど勿体なくて。くすり、長い指先で手早く巻き直してやれば、煌めく瞳が顔を出した。
「ありがと。これで君の顔もよく見える」
「ふふ、物好きなお言葉だコト。――さてリルちゃん、魅せてくれるカシラ?」
 行き交う魚の合間を泳ぐのは楽しくも、この海の底にいっとう似合いの愉楽をコノハは知っている。ふわりと緩めた瞳を返事に、エスコートの手をそっと離れた少年は空の海に躍った。
 ――……♪
 その喉は、一瞬で一夜の魚たちを魅了する。
 一面の煌めきにも劣らず煌めく銀細工の声。幻想の夜に添う、容易く触れれば壊れそうなその歌は、魔法の海に新たな泡沫を、漣を呼ぶ。
(「ふふ、さすがネ。人魚の歌声に溺れてこの海を望むナンて、これ以上の贅沢なんてないンじゃなくて? ――ネエ、姫君たち」)
 天頂を目指す泡沫の歌に、くすくすと笑う声が混ざった気がしたのは――きっと、この夜の織り成す魔法のひとかけら。
「お疲れサマ」
「! らいち、のそーだ!」
 冷ややかで甘い海の雫でひといきに喉を潤し、どうだった、と問う歌姫の眼差しは、答えを聴く暇もなく綻んだ。海の美酒を傾ける男の微笑みが、すべて語ってくれたから。
「アラ、アタシとしたことが。順番が逆になっちゃったわネ」
 乾杯しよ、と向ける杯に嬉しげに笑み咲かせ、対の杯をぶつけたら――りりん、と澄む響きに、少年の脳裏をまた新たな歌が巡る。
「かんぱい、だ」
「乾杯。キレイな海と、歌声に――なぁんて、一度言ってみたかったんだよねぇ」
「ふふ、洒落た台詞も良く似合うよ」
 ことにこんな、幻想の夜には。
「……ね、コノハ、今、新しいうたが浮かんだんだ」
「あらあら、まあ。最初に聴く栄誉に与って宜しいカシラ?」
 漂う水泡が、囁き交わすふたりをなぞり駆けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

静海・終
素敵な魔法の夜、心も躍るひと時
存分に楽しませていただきましょう


ドラゴンランスの涙とお揃いの深い蒼のショールを頭からかぶりひらひらと
あぁ、ここは故郷を思い出しますねえ
頬の鱗を撫でる
魚の遺伝子を持つ我が身が馴染む夜
海の底を思い出して笑うと涙を抱き上げ柄にもなくくるりと回る
子供の様に魚を追いかけ走り出したくなる
大きな子供過ぎるので我慢しますけれどね、ふふ
素敵な悪戯を考えるお姫様たちもいたものですね
あぁ、とても、懐かしい
目を細めると遠く、遠くになった光景を思い出す
さて、海を味わいに行きましょうか
この海ならば酔ってもきっと楽しさ以外には溺れません
涙はお酒…はダメなので甘いものにしましょうねえ



 ――遥かな波の響きが。
 静海・終(剥れた鱗・f00289)の心に打ち寄せてくる。とおい、とおい、海の記憶。魔法に織り上げられた幻なれど、魚の遺伝子を持つ身にはどこか快く、馴染む心地。
 ああ、ここは――ふかい、ふかい、懐かしい海の底。
「さあ存分に楽しませていただきましょうねぇ、涙?」
 ……ギャウ?
 掲げた頭上、小さく首を傾げた槍の仔竜に微笑んで、柄にもなくくるりと身を躍らせた。その上を悠々と泳ぎゆく群れの影を目にすれば、心はすぐにその軌跡を追いかける。
「ふふ、この身までは流石に。大きな子供過ぎるので我慢しますけれどね、ふふ」
 なんて大がかりで、なんて罪のない、素敵な悪戯だろう。時を経てなお揺らがぬ魔法が、こうして今を生きる己をも魅了する。
 ――細めた瞳に重なる、遥か彼方の景色。心の底に沈んだものが泡沫に押し上げられてくるのも、かの姫君たちの魔法のかけらだろうか。
(「あぁ――とても、懐かしい」)
 ゆらりと過去を揺蕩ううちに、ふと。
「それはそうと……涙、ご覧になりましたか?」
 ギャ? と瞬く仔竜にも気は漫ろ。この海には随分と、大きな子供たちも多いようで――心の底から波の如く湧き上がる楽しさに、ひとときばかり溺れても許されるだろうか。
 堪えきれない衝動が背を押した。ひらり、海に躍る繻子の鰭。花色に空色、森の色に雲の色、鮮やかに明滅しては空を往く魚たちに連なって、終は泳ぐ。躍る。
「このまま海を味わいに行きましょうか。この海ならば、酔ってもきっと楽しさ以外には溺れません」
 酒より早く、魔法に酔い惚れる足遣い。溜息で追う仔竜がつん、と鰭に取りつけば、終はからりと笑う。ええ、勿論、忘れてなど。
「涙はお酒……はダメなので、甘いものにしましょうねえ」
 酒気嗜む者も、それ以外も。――この夜には誰ひとりとして、素面でなどいられないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【梟】

青きリキュールの澪の中
泡沫は煌き弾ける夢の如し

器を鳴らして乾杯の声
一口含めば忽ち
身の裡に遥かな海が広がる

肩に纏う繻子は己の瞳と同じ青磁色
幻影に紛れてしまうやもしれぬ淡い彩りなれど
揺らぐ水にひらりひらり
時に密やか耀う魚影として
或いは
眠たげに欠伸する泡みたいに燈って
ゆぅるり海に溶け入り揺蕩う心地

誰が一番素敵な魚を見つけられるか勝負しましょうか

提案もそこそこに
光る魚を追っては
彼方へふらり
此方へ手を伸ばしする様は
好奇心に瞳を輝かせる稚魚のよう

夜に溺れる逍遥の末
薄紅色と烏羽色の美しき魚達の元へと辿り着いて
笑みを咲かせる

見つけましたよ
ねぇ――、あなたがた

皆々が纏う繻子の鰭
どの幻魚よりも、いっとう綺麗


華折・黒羽
【梟】

硝子弾く音
真似る様青を含めば未だ知らぬままの泡の感触
舌を打つ刺激
僅か獣の尾がぶわり
怪訝に眉寄せ炭酸水なる物はそろり戻され

広がった幻術に仰ぐ視線が捉える夢
彩る魚で灯された波に縫い付けられて

勝負…ですか

舞う様に駆ける二人を見るも
手首に巻かれた烏羽色の繻子を揺らし
急く事無いまま歩はゆるり
目に映る幻影はどれもが綺麗で
最たるを決められない

此方彼方と手を伸ばす綾さんは
魚と踊っている様にも見え

視界を掠めた月光の尾鰭
振り返れば目の前には花世さんの姿
提案に首は横に振って

不意に繻子と戯れる魚の影
尾鰭で打つ波が繻子を揺らして踊る様に
導かれる様その手を伸ばした先
二人の笑みが影に添う

綺麗だな

ぽつり零れた、泡沫の音


境・花世
【梟】

さあ、まぼろしの夜に乾杯しよう
滄海の杯はきっと魔法の薬
さっそく尾鰭が生えてしまったみたいだ、と
繻子をひらり纏って

勝負する? 泳ぎなら負けやしないよ

腰に括った薄紅の尾鰭をたなびかせ
透きとおる泡沫をしゃらんと連ねて
一足先に泳ぎ出した青磁のさかなを追う
迷子にならないように気をつけて、と
かろやかに楽しげに泳ぎ越し

青く揺蕩う海の底、ひときわ輝く月光の鱗
あのさかなをつかまえ――わあ、黒羽?
同じ幻魚の前で行き会えば目を丸くして、
山分けしようかと悪戯っぽく問い
やさしいきみの応えにくすくすと

やがて集うさかなの群れのわたし達
色とりどりに気儘に夜を彩る様は、ああ、
確かにいちばんだ、と笑うように尾鰭揺らして



 ――さあ、まぼろしの夜に乾杯しよう!
 高らかにうたう声ひとつ。境・花世(*葬・f11024)の華やぐ声、その魔法にかけられた男たちの手。浮かぶ海に高く掲げた三つの硝子の杯は、のどやかな泡沫の中でもりりん、と美しく声を合わせる。
「……!」
「あはは、黒羽、びっくりした?」
 付け根から先へと雷流すように、ぶわりと広がった黒猫の尻尾。身を震わせる華折・黒羽(掬折・f10471)の感想は、寄せた眉根が口より上手に語ってみせる。
 戯れに魔法の薬と花世が嘯く滄海のしずく。深みより浮き上がるこまやかな海底の呼吸を模したその泡を、僅かに残してつと追い遣った黒羽にくすり笑って、都槻・綾(夜宵の森・f01786)は悪戯な笑みの花世と共に、青いうたかたの夢をひと息に飲み乾した。
 黒羽のそれとは違う明らかな酒気に、視界も心も揺れる心地。身を浸しゆく海の気配に身を任せ、軽くなる足に任せて駆け出せば、肩より零れる青磁の繻子は、海の深藍に紛れることなく海流を描いた。
「誰が一番素敵な魚を見つけられるか、勝負しましょうか」
「勝負する? ――泳ぎなら負けやしないよ」
 今度はしゃらら、硝子の雫纏った薄紅の鰭が視界を過る。
 勝負の一声に、鮮やかな瞳には好戦の気が咲いて。輝く幻影の魚たちと戯れる綾に、花世も負けじと続く。
「ねえ、迷子にならないように気をつけて?」
 ちろりと睨み笑う瞳が、綾を泳ぎ越していく。白ひと色に彩られた海中の町を、戯れを知る獣のように、或いはいとけない子の遊びのように、追って追われてかろやかに。
 我先にと馳せるふたりを映す黒羽の双眸は、絶やさぬ警戒をごく僅か、和らげたようにも見えた。――それともそれは、映り込む魔法の海が見せた魔法だろうか。
「勝負……ですか」
 それは少し気が進まない。群れ泳ぐ小魚たちの群遊を見上げ、ゆらりと大きな影を落とした巨きな魚影を見送って、急ぐことなく逍遥する黒羽。背には烏の翼、手首には揃いの鰭が並び戦ぐ。心の赴くままにゆらりと連なる、その泳ぎ。
 彼方で魚影のひとつとなろうとしてか、或いは溶け入りそうに笑う海底の泡となろうとしてか――好奇心のまま泳ぐ稚魚のように、戯れに手をのべ躍る青年を写していた海色の眼差しを、不意に眼前を駆け抜けた強い輝きが奪っていく。
「わあ、黒羽? そうか、きみも?」
 ――あのさかなに魅入られたんだね。
 眼前を過った銀の鱗、月色の尾鰭。その煌めきをゆびさきにただ留まらせたくて、艶やかな光の跳ねる黒毛皮のまえあしを伸ばしたとき、鮮烈な花色のさかなと行き会った。
 腰の繻子を華やぎに揺らし、艶やかに咲く瞳の薄紅に光を燈して、花世は眩しいほどきらきらと笑ってみせる。しなやかな白い腕を伸ばし、含むように口角を上げて。
「ね、一緒に掴まえて山分けしようか」
「――それは」
 悪戯な声に首を振れば、やさしいね、と慈しみ咲う声。ふたり言の葉交わすたび、こぽこぽと湧き上がる泡沫の森を、銀の魚は光散らしてすり抜けてゆく。
 捕らえず、けれど追いかけて。並べ伸ばしたてのひらは、思いがけぬ強さで誰かに捕らえられた。
「見つけましたよ。ねぇ――」
 どの幻魚よりも一等淡く躍るさかなは、あなたがただと。淡い青の鰭はためかせた綾が愛しげに微笑めば、ああ本当、と可笑しげに震えるからだに、花世の薄紅の鰭もひらりと笑う。
「ふふ、つかまった。確かにいちばんだ」
 ――そのさまが、ああ、なんて。
「……――綺麗だな」
 黒羽の喉から零れた泡沫のつぶやきを、聞き留めて笑むふたりこそ、幻の夜に揺蕩う群れの中でもいちばんと、あたたかく腑に落ちる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
星を擁した細波を
今宵は帽子代わりに被れば視界は波の波の向こう
泳ぐ子らの灯りを返しきらと瞬く魔法にかかる

煌めく灯りは指先にさざめく声に紛れる波の行方を追って
ゆらと尾を曳く心の向くまま辿りましょうな
擦れ違えばくるり返して円弧を描いてまたあとで
ひそり交わして笑う声も現の境をとかしたようで
呼応する光の謳う、ほうへ
いらえる子の誘う、ほうまで

お姫様方の演目は、どんな音色を、奏でるかしら
密かに紡いでのせたなら、波間追いかけ唄いましょ
耀う夢に僕のうちまで透かして通り抜けて行くものだから
塗り替わる世界に溺れて朝まで忘れそう
ねえ、お空をゆく子は、僕とも踊ってくださるかしら


イトゥカ・レスカン
海を香らせるリキュールに頭上を過る小魚の群れの幻
触れられないならば温度もきっとない筈なのに
不思議ですね、ひんやりとした水の中にいる心地がします
腕に結んだ繻子は夕焼けの色
道案内の様な長い尾鰭の魚を追いかけて風に泳がせる
本当に砂漠が海になってしまうなんて、驚くばかりです
青く青くゆらゆら揺れる水のひかり
ああ、と見惚れるままに溢れた吐息すら
泡になって昇っていくような
そんな錯覚すら起こってしまう
いっそ一緒に泳げれば良いのに
こんなに綺麗でも幻ならば、流石に空は泳げません
少しだけ残念ですね
代わりにしばらく踊って頂けませんか?
側へ泳ぎきた魚たちへ誘うように手を差し出し
ふわりひらり、泳ぐヒレは本当に海を漂う様



 グラスの縁に積もるかけらを舐めれば、鼻先に潮が香る。ふと頭上を過った光に顔を上げれば、小さな魚たちの群影がきらきらと流れていく。
 ――これも、幻? 瞬きして伸ばすイトゥカ・レスカン(ブルーモーメント・f13024)の掌に、触れることなき幻は戯れるように纏いつき、駆け抜ける。
 その存在に熱はない。けれど視覚がそうさせるのか、それともこれも魔法の仕業であるものか――喉を流れ落ち、身を燃やす酒気の熱に、この海は不思議とひやりと寄り添うよう。
 白壁の街は水の青に沈んで、イトゥカの腕からひらりと泳ぎ出す夕陽色の繻子を鮮やかに対比させている。ゆらゆらと空を蛇行する深海魚の長い尾鰭を道案内に、軽く地を蹴れば心なしか体も軽い。
「……本当に砂漠が海になってしまうなんて」
 砂の夜の肌寒さすら、海のそれと錯覚させる惑いの魔法。瞠る目を隠さずゆけば、月光を透かした水の揺らめきがくらり、足許を不確かにして。
(「――ああ、」)
 体がどこまでも軽くなって、まるで泡になって昇っていくようだ。不確かな心地に不快はなく、寧ろ身を任せてしまいたくなるけれど。
 これは千に一夜の幻。共に泳ぎ浮かぶことまでは叶わないのが惜しまれて、せめて、とイトゥカは恭しく手を伸べる。ダンスの相手を乞う、紳士のように。
「代わりにしばらく踊っていただけませんか?」
 応えたのは虹を帯びる銀色の鱗。広げれば淡く透ける七彩に綺麗ですねと微笑んで、ひらりくるりと躍るふたりは離れては出会い、出会っては離れる。現と幻の重なる夜を体現するかのように。
 あたたかな橙の鰭が視界に揺れれば、冴えた瞳をあたたかに和らげて、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は波間にゆるりと歩みを進める。
 浅瀬に落ちる影のような髪を纏める帽子の代わりに、今日は硝子の星で彩る漣の繻子。大いなる海の幻影をその薄物で透かし見れば、揺らぐ大気の波はさらに彼方へ遠退いて――だからなおさら、追いかけたくなってしまうのだ。
 人の声すら波音に溶け、心のまま海の迷宮を辿りゆく。踏み入るは初めての白の路に、イアのあしどりは惑うことなく迷子を愉しんだ。
 一夜限りの鰭で飾ったさかなたちも、華麗に空を泳ぎ来る幻のいのちたちも、擦れ違えば隔てなく。描く円弧のステップで笑み声交わせば、躍る泡沫に現の境も溶けゆくよう。
 呼応する光の謳う、ほうへ――いらえる子の誘う、ほうまで。
「さて、お姫様方の演目は、どんな音色を、奏でるかしら」
 往く道の共にはさやかな歌声連れて、イアは退く波を追いかける。
 さわさわと胸に寄せ来る漣は、次第に大きなうねりを帯びて――終いにはひたりとひややかに、快く心を浚い透かして駆けてゆく。
 ふふ、と泡のような笑みを零して空に手を伸ばす。町ごととぷりと包んだ海、翻る現、塗り替わる世界。
「戻るせかいを、朝まで忘れてしまいそう。――ねえ、お空をゆく子は、僕とも踊ってくださるかしら」
 誘いにこたえる幻の鱗は、朝光のいろ。
「……おや、それでは還る都を思い出してしまいそう」
 ましろの鰭と縁交わして、イアは踊る。還る世界を忘れながら――それでも決して、忘れずに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・スノーバー
魔法が見れるって聞いたらね、うずうずして来ちゃったっ!
ぼく、お姫さん達が自分達の楽しいを皆に広めれてるの凄いなって思ったんだー。
だって、此処に確かに海があるんだよー!
(ショールをとりあえず頭から被ってみつつ)この中ならお魚さんになれるし
炭酸水が、お水の中で息をする呼吸の泡みたいで、ぱちぱちはじけて心の中の拍手が浮かんでくるみたい!
音楽、どんな楽器使ってるのかな?踊りはどういう風なのかな?
最初はお邪魔にならないように気を付けつつ、じっくり観察して
もし憶えれて大丈夫そうなら一緒に踊ってみたいな。
躍り方自体が自由で大丈夫とかだったら、雰囲気に気を付けて混ぜてまぜてー?って飛び入りするっ!


セリオス・アリス
アドリブ歓迎
はっ…!すっげーな
笑うように息を吐き
幻の海に目をやる
この間は不思議な空間で泳いだ
依頼で海をみたことだってある
それでも初めてじゃないがあまり馴染みはない海
それをこんな砂漠でみるのは正直
わくわくが二倍どころじゃねえな
エールを煽って
露店でショールを買う
ひとつはお土産に
アイツの部屋に自分のあげたものが増えてく様子を思い浮かべ
機嫌よく笑って
エールは持ち帰れねぇのが残念だ
もう一杯おかわり!

せっかくこんな海の中みたいなんだ
じっとしてるのももったいねぇ
踊っている人の輪に飛び込んで
一人でいる
町のお嬢さんの手をするっとすくって小首を傾げる
なぁ、俺と踊って?
嫌がられてなければ『手を握り』エスコートしよう


ソラスティベル・グラスラン
ほほう!何とも楽し気なお話ですね!
勇ましき勇者の苦難続く冒険譚は王道
うふふ!ならば破天荒な双子姫は一体どんな物語を紡いだのでしょう!

わあぁ……こ、これが『砂漠の海』なのですね!
水の無いこの地に海を齎すなんて…なんて素敵な魔法でしょうかっ

本物の海では息が長続きしませんが、ここなら!
街の人々を真似て輝く鉱石の欠片を身に着け、翼で空を飛び
宙に浮かぶお魚さんに交じり、戯れるように踊り飛びます!
可能なら【誘惑・おびき寄せ】でお魚さんを集め魚群に
ふふふ、気分は人魚さん!

月明かりのスポットライトがわたしを照らす
眼下の皆さんがわたしを見ている
時を越えて尚残る素敵な魔法
ああ、どうか夜よ、明けないで―――



●巻き戻す物語
「……つまりはお父上のお仕置きだ。だけど姫様方は、まるで堪えていなさらんかったとさ」
 くすくすと笑い潜ませ、肩を揺らして。次の悪戯を思いついた子どものように足取り軽く、町を出ていく双子姫。
 手を焼かされてきた人々の心には安堵が半分――そして残った半分に、困ったもんだと皆が苦笑した。
 ――だって誰ひとり、淋しくない者はいなかったんだ。
 門の外、訪れるものへ語り聞かせる老女の笑みに、ほうほうと。頬杖ついて耳傾けるソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)の瞳は、宝石のようにきらきらと輝いていた。
「ほほう! 何とも楽し気なお話ですね!」
 勇ましき勇者の冒険譚に、苦難の道は王道の展開なれど。微かな影すら寄り付かせない華やかな物語には、興味をそそられて。
「うふふ! 破天荒な双子姫は、それからどんな物語を紡いだのでしょう!」
「ふふ、その先は誰も知らないのさ。さ、お嬢ちゃんも泳いでおいで」
「はい、行ってきますね! お話ありがとうございますっ!」
 纏う繻子は夕焼けの色。きらきら連なり輝く鉱石のビーズを供に、門をただ一歩越えたなら――、
「わあぁ……こ、これが『砂漠の海』なのですね! なんて素敵な魔法でしょうかっ」
 水の気の薄いこの地に海を齎す、大魔法。浪漫も彩りも溢れる海に、ソラスティベルは翼を広げて泳ぎ出す。
 興味ありげな魚たちは、薄紅に橙、新緑に白金、とりどりのひかりでソラスティベルを魅せに来る。うっすらと青白い光を放つ大きなさかなの下に寄り添い飛びながら、小魚たちと戯れて。
「こっちこっち、ここですよー! さ、一緒に泳ぎませんかっ?」
 まぼろしに効くだろうかと試した誘いは、この海では思う効果を発揮できるようだ。体すれすれをなぞっていく群れにそれに触れることはできないのに、くすぐったい心地がして思わず身を震わせ笑う。
「ふふふ、気分は人魚さんですね! わあ、月が……!」
 魚の影を外れれば、海底から見上げる月は青白い。見下ろす町には翼持つ少女を羨ましげに見上げる人々の姿。手を振ってくるくると戯れ泳ぎながら、ソラスティベルは思う。ああ、
(「どうか夜よ、明けないで――」)
 ――そんな夜の始まりに立つ青年がひとり。
「はっ……! ――すっげーな」
 深海に沈む青の瞳が、内包する心のひかりを映してきらりと輝いた。
 長く囚われの身にあったセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)にとって、海とは馴染みの深いものではない。
 自由を得、友の手に再び辿り着いてから、幾度かは目にしている。不思議な空間で泳ぎもしたし、仕事で目にしたこともある。けれど。
「こんな砂漠でみるとか正直、わくわくが二倍どころじゃねえな……!」
 一夜限りのまぼろしとは言う。知る者には綻びのある海かもしれない。けれどセリオスにとって、門の向こうにあるそれは紛れもなく、唐突に砂の海の中に発現した『海』だった。
「……っくー、美味い! おっさん、もう一杯おかわり!」
「おうよ、……ってか呑ませてから言うことじゃねぇけどな、兄さん、あんた成人してるよな?」
「了解、さてはおっさんぶっ飛ばされてえんだな?」
 聞き捨てならない言葉は二杯目のエールで帳消しに、海に彷徨い込む前にと覗いた露店には美しく織られた色が溢れる。
 美しく醒めた彩りの美酒を、相棒の唇に届けられないことが少し惜しくて。だから、土産のショールには銀の泡纏うエールと同じ色を選んだ。――アイツに似合いの、けれど少しだけ青みの強い色の繻子。
 自分にはと引っ掴んだ一枚は、深海から浅瀬へのグラデーション。鮮やかとは言い難い色合いなれど、七色弾く飛沫めいた銀ビーズが散るさまは、さも華やかだ。黒髪にふわり被って影に沈めば、白皙の顔に輝く瞳はさながら海底の宝石のよう。そんなだから、
「――おっと、なあ、お嬢さん」
「! はい……っ」
 華やかに踊る人々の輪から、つと一つ、手を掬い取れば、町娘の顔には朱が上る。かわいいなと笑って、
「なぁ、俺と踊って? じっとしてるのももったいねぇ夜だからさ」
 ひとときの思い出を君と。ぱちりと音のしそうなウインクに、くらくらと揺らぐ娘。
 ははっと愉しげに笑う声は、一夜限りの浮かれ騒ぎに――戯れ笑うさざなみの音に溶けていく。
 広場の踊りの輪はとても気安く、余所者をも愉快な気配の中に容易く受け入れ呑み込んでいた。町の人々の手で紡がれる旋律も、この町に根付くものではあるのだろうけれど――音楽を知る者の耳に聴けば、時折混ざる調子外れの音、唐突に混ざるアレンジ、乱入する奏で手――と、適当も良いところだ。
 けれど、それが混ざる者たちの安堵を誘う。はあーっ、とあからさまにほっとした吐息を零したユキ・スノーバー(しろくま・f06201)もそのひとりだ。
「魔法が見れるって聞いたらね、うずうずして来ちゃったっ!」
 こんなに大がかりで華やかな魔法と聞いたなら、弾む心を抑えつけてなどいられない。
「ぼく、お姫さん達が自分達の楽しいを皆に広めれてるの、凄いなって思ったんだー」
 ――だって、此処に確かに海があるんだよー!
 ぴこぴこと動く耳を埋める水の音、鼻先をくすぐる潮のにおい。感触はないけれど寄せ来る波の濃淡に、ユキをひと口で食べてしまいそうな大きな口した魚たち!
「姫様方は勉強熱心だったそうだからねえ。見たことのない海のことも、きっと書物で学ばれたんだろうねえ」
「えっ、見たことなかったの?」
「勇者様の旅路に連なるまでは、この町を出たこともなかったって聞いてるよ」
 旅の商隊が持ち込む本が集められる町の図書館に籠りきり、二人でよく魔法の勉強をしていたそうだと、恰幅の良い町の女がリズムを取りながら言う。ごくごく飲んだレモンソーダのぱちぱちは、まるで拍手みたいだとユキは思った。
「すごいよね、ぼくらもこの中ならお魚さんになれるし」
「そうだろ? ほら、坊やも泳いでおいで。輪踊りの曲だよ」
「うんっ、行ってくるー!」
 門の外で受け取った檸檬色のショールをふんわり被り、ユキも広場の中心へ泳ぎ出す。
 ようく観察していたからわかっている。踊りはてんでんばらばらで、見よう見まねで大丈夫。住人も余所者も、大人も子どもも混ざっているから、遠慮なんてすることもない。
「ぼくもまぜてまぜてー?」
「うん、こっちが空いてるよー!」
 誘う子どもの声にぴょんと跳ねて、ユキは駆けていく。
「ねえねえ、せっかくだからここの踊りも教えてくれないかなーっ」
「えっ、あたしでいいの? ええとね、じゃあ……」
 ゆるり腰を巡らせて、手は左右反対に――教わった踊りは思いがけず難しくて、ぶきっちょな所作にいいぞがんばれ、と人々の声が踊る。それさえも、ユキは楽しい。
(「だってさっ、これがお姫さん達が伝えたかったことなんだよ」)
 溢れ出す笑い声が、月に向かってこぽこぽと昇っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
【雅】
ショールの色お任せ

キトリとチロと一緒!そんでせーちゃんも一緒とは今日は楽しい祭じゃな!
チロをだっこして。キトリは迷子にならんようにせーちゃんの肩におるかの?
ダンスは任せよ
ステップはこのとおりよ(すたたたんっとリズム踏んで)

でもチロとも手を繋いで踊りたいの…
しかし人混みでは…あっ、ええ方法がある
せーちゃん、チロを抱っこしておくれ!
そしてわしがチロとキトリと手を繋ぎせーちゃんはステップを踏む…
雅なステップじゃ
ばっちりではなかろうか、わし天才では?

キトリともっとうまく踊れるように練習せんとな
チロは…大きくなってまた踊ろうの!
ふたりはわしのプリンセスぞ!立派に王子を務めよう、なぁせーちゃん


チロル・キャンディベル
【雅】
ショールはお任せ

嵐吾にぎゅっと抱きつきながら
わあ、すごい…!
1日だけの海なんて、勇者さんすごい…!
チロはダンスはわからないけど、ワクワクしてきちゃった

今度は清史郎がぎゅってしてくれるのね
わーい、てしがみついたら
手をのばせばおっきな嵐吾の手と、ちっちゃなキトリの手
すごい、みんなでいっしょにおどってる!

お魚さんがちかづいてきたら、そっと手をのばして
いっしょに?
ならみんなでいっしょにおどりましょ!
キトリとだっておどりたいの
だって今夜は、勇者さまがそうしてほしいって言ってるから

チロ、おっきくなったらもっとステキになるのよ
そしたら嵐吾とも清史郎とも、もちろんキトリともおどるの!


キトリ・フローエ
【雅】
ショールの色お任せ
すごいわね、砂の海の街に青い海が見えるわ!

まあ、じゃあせっかくだから今日は清史郎の肩にお邪魔させて頂こうかしら?
レディみたいなお辞儀をしてそっと肩に掴まる
そうよ、あたし達、ダンスを踊れるのよ。舞踏会に行ったことがあるの!
清史郎は、雅に舞うのは得意だから
こういうダンスもきっと大丈夫よね

ハンカチサイズのショールを両手の指輪に結んで
ねえ、チロもお姫様みたいでとっても可愛いわ!
もちろん嵐吾と清史郎は王子様!
手を繋いでステップを、前よりは上手に踊れたら
あたし今、とっても嬉しくて、楽しい!
ふふ、お魚さんたちもチロと一緒に踊りたいみたい
チロ、後であたしとも踊ってね、お姫様達みたいに!


筧・清史郎
【雅】

砂漠の海と、双子姫の勇者伝説か
今宵は俺もらんらんと、二人の姫との時間を楽しもう

ほう、随分と人で賑わっているな
逸れぬよう、キトリは俺の肩にどうだろうか
どうぞ、お姫様(雅に
ダンスか、舞ならば嗜んではいるが
おお、なかなかのステップだな、らんらん(微笑み
ショールは桜の彩で

ふむ、身長差があるからな
人も多いし、何か良い方法は…
おお、それは名案だ、らんらん
では、チロルは俺が抱っこしよう(優しくふわりと
手繋ぐ皆に合わせ、俺もステップを(雅に魚の鰭の如く桜のショールひらり靡かせつつ
慣れた舞とはまた違った趣きだが、こういう踊りも非常に楽しいものだな

王子様か、では確りと姫たちをエスコートするとしようか(微笑み



●環紡ぎ
「すごいわね、砂の海の街に青い海が見えるわ!」
 風に羽戦く妖精翅は、この夜ばかりは海に躍る。
 細やかに震えるそばから、星のような鱗粉に水泡のまぼろしを含ませるキトリ・フローエ(星導・f02354)。生み出された淡い輝きにわあと歓声を上げ、チロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)は兄のような青年の腕の中から、そのうたかたに手を伸ばす。両の手首にきゅっと巻き付けた淡い橙のショールが、ひらりと戦いだ。
「すごい……! 一日だけの海なんて、勇者さんすごいの……!」
「ふふん、今日はよき、楽しい祭りじゃな! キトリとチロ、そんでせーちゃんも一緒におる!」
 身軽に抱き上げた少女越しにのう、せーちゃん、と見遣る終夜・嵐吾(灰青・f05366)。崩れるように笑う柔和な目のいろに、典雅な微笑みで返した筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)もまた、意図せずとも舞いさすような指先を空に向ける。纏う藍と紫に、ふわりと淡く裳裾引く繻子の桜はよく映えた。
「砂漠の海と、双子姫の勇者伝説か――」
 けれど今日の彼らの姫君は、傍らの愛おしむべきちいさきものたち。歩み進めば頭上に魚は躍り、揺れる視界にのひとの群れが泳ぐ。随分と賑わっているものだと目を細め、小さな淑女へ声を掛けた。
「チロルはらんらんが居るから大丈夫だろう。逸れぬよう、キトリは俺の肩にどうだろうか」
 ――どうぞ、お姫様。ここにと肩先払ってゆるりと和ぐ眼差しに、まあ、と。ドレスの裾をきゅっと摘んで、キトリは笑う。
「じゃあ、せっかくだから――お邪魔させて頂こうかしら?」
 飛び移る軌跡にふわりと靡くのは、日光を織り上げたような淡いきいろ。両手の指輪に結んだハンカチサイズの繻子は、まるで羽衣のよう。
 藍色の肩に翅を休めたキトリに、そわそわと身を揺り動かして、ぴこぴこと耳を揺らしてチロルが笑う。
「チロはダンスはわからないけど、ワクワクしてきちゃった」
「! 心配ないぞ、チロ。ダンスは任せよ。ステップはほれ、このとおりよ」
「――きゃあ!」
 すたたたんっ、と軽快に地を踏んで、くるり一回転する嵐吾。小さな魚の群れがふわりと身に添えば、ぎゅっとしがみついた少女もきゃらきゃらと笑う。
「おお、なかなかのステップだな、らんらん」
「ふふ、そうよ、あたし達、ダンスを躍れるのよ。舞踏会に行ったことがあるの!」
 肩の上で主張して、キトリは添えられた清史郎の手をパートナーに、ひらり踊ってみせる。そうか、と柔く相好を崩し、
「キトリのダンスも愛らしい。……ふむ、舞ならば嗜んではいるが」
「清史郎は、雅に舞うのは得意だから。こういうダンスもきっと大丈夫よね!」
 こうするのよ、と預けるキトリの手のかたちに、こうするのか、と倣ってみる清史郎。微笑ましい遣り取りを横目に嵐吾はふと、
「どうしたの、嵐吾?」
「ふむ、チロとも手を繋いで踊りたいと思っての……しかし人混みでは」
「ふむ、身長差があるからな。人も多いし、何か良い方法は……」
 一行が行きついた大通りも、たくさんの人で溢れていて。小さなチロを降ろすのは難しいやも――いや、
「あっ、ええ方法がある。せーちゃん、チロを抱っこしておくれ!」
 ぱちり瞬く六つの瞳。こうしてこう、こうじゃ――と、てきぱき実践する嵐吾によって、完璧なその作戦は整えられる。
 優しく受け取る清史郎の右腕に、わーいと無邪気に手を伸ばしたチロルが収まって。左の肩には不思議そうに小首を傾げたキトリが立って。
 チロルの右手とキトリの左手に、自分の両手を添わせ。逸れぬように清史郎の片手を自分の腰に添えさせたら――完璧じゃ、と満足げな呟きが零れる。
「さあせーちゃん、ステップを踏んでおくれ! 雅なステップじゃ!」
「おお、これは名案だ、らんらん。慣れた舞とはまた違った趣だが……」
 こんな踊りも楽しいものとは初めて知った。友を満たす充足を近い眼差しに知って、ふふんと鼻高々の嵐吾。
「そうじゃろう? ばっちりではなかろうか!」
 わし天才では? ――笑う青年の腰に戦ぐ鰭は、セルリアンブルー。くるりくるり、嫋やかに地を踏む清史郎の腰に桜色が添えば、ついては離れ、離れてはつくふた色はまるで追いかけ合うよう。
「すごい、みんなでいっしょにおどってる!」
「――わ、ちょっと嵐吾、もう少し指を前に出して! それじゃ落っこちちゃうわ」
「ふむ、こうかの?」
「そうそう! ふふっ、ねえ、前より上手に踊れてるかしら?」
 触れるからだよりゆびさきより、心が輪を結ぶ。それがとても幸せで――胸の奥からしゅわりと水泡が浮かび上がるようで。
「ねえ皆、あたし今、とっても嬉しくて、楽しい!」
 キトリの瞳が輝けば、妹のようなチロルもにこにこと。四人の舞いに惹かれてか、訪れた銀色の群影にわあと歓声揃えて。
「ふふ、お魚さんたちもチロと一緒に踊りたいみたい」
「いっしょに? ならみんなでいっしょにおどりましょ!」
 舞う四つ色に銀の彩がひらめいて。泡の音のような笑い声の合間に、キトリはねえ、と囁く。
「ね、チロ、後であたしとも踊ってね!」
 双子姫がそうしたように。煌めく橙を纏ったお姫様のような、大事な子にそう告げたなら、返るのは輝くような笑顔。
「うん、キトリとだっておどりたいの!」
 だって今夜は、と見上げる空には魚の影。どこかで響く誰かの笑い声、その中できっと、
「勇者さまがそうしてほしいって言ってるから!」
「おや二人とも、わしらを忘れんでおくれ」
 小さなキトリとももっと上手に踊れるように、練習を積んで。少しずつ大きくなっていくだろうチロルに、取る手の高さもステップも合わせて。
 共に過ごす日々が少しずつかたちを変えていっても、己の心を掬い得たふたりの少女は、きっと変わりなく嵐吾のプリンセスだから。
「踊る相手が必要なら、立派に王子を務めよう。なぁせーちゃん!」
「王子様か。では確りと、姫たちをエスコートするとしようか」
 ふにゃり綻ぶ笑み顔に、雅やかな清史郎の微笑が並ぶ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジュマ・シュライク
リオ(f14030)と
砂漠を海とはよく言うけれど、まさか海の幻を生み出すとは思いませんでしたわ。
触れそうで触れない、幻の魚。
魔法は傷つけるものばかりではないと教えてくれるお祭りですわね。

リオは海を見たことがありまして?
アタシはあの潮気が無い分、こちらの海の方が気に入りましてよ。
なんて冗談を含みつつ。

いつか本物の海を見せて差し上げたいですわね。
夏の海は命に溢れ。冬の海は静か。
この幻の海の絢爛豪華さは、夏の海に似ているかしら?

リオの見立ては流石の一言。
貴方こそ、どれを纏ってもその銀糸が映えましてよ。
踊る色とりどりの布はまるで熱帯魚のよう。
賑やかな輪は眺めるのが専門なのだけど、偶にはよいかしらね。


リオ・フェンブロー
ジュマ(f13211)と
こんなにも賑やかなのですね
踊る青に幻の魚達に笑みが漏れる
えぇ、私も魔法の力がこんなにも人々を笑顔にできるとは思いもしなかった

いえ、海は。
資料としては知ってはいるのですが…
ひどく、広大で、確か舐めると塩辛いとか

潮気…成る程、噂に聞いた通りなんですね
髪の長い貴方は大変そうですね、ジュマ
クスクスと笑いつつ

夏の海…ですか?
季節を感じることができるのもきっと楽しいんでしょうね
えぇ、いつか本物の海も見てみたい

色取り取りの繻子はどれも美しく
立ち姿も美しい貴方なら、きっとどんな色も似合うでしょうが…
光を含むこれなど如何ですか?

では、私達も踊りましょうか?
賑わいなど久しいですが、偶には



●幻に想う現
「――こんなにも賑やかなのですね」
 幻術の波がゆらりと打ち寄せれば、満ちる青は濃淡を鮮やかにして。その垣間をすり抜けていく魚たちの軌道は、まるで空へ翔けゆく流れ星。
 意識の底に微かに過ったものには蓋をして、リオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)はふふ、と笑み零す。月灯りを跳ね返す銀の髪に親しみを覚えてか、銀の鱗持つ魚たちが髪をつついていく。――触れた気配を持たぬ幻影なれど、髪はふわりと戦ぐのが不思議だった。
 砂漠を海とはよく言うけれど――と、ジュマ・シュライク(傍観者・f13211)は長い指先をリオに親しむ魚へと伸ばす。触れられそうで、決して感触を残すことはない、たしかなまぼろし。
「魔法は傷つけるものばかりではないと教えてくれるお祭りですわね」
 かの双子姫たちもかく在ったのだろうか。それとも戦場に在れば、並ぶ笑みを戦意に代え、武を紡いだものか。
 華やかなこの魔法が解けぬよう、寄す波に溶かすように静かに零した吐息は、こぽりといくつかの泡を作って空へ上っていく。えぇ、と穏やかな同意が返った。
「私も魔法の力がこんなにも人々を笑顔にできるとは思いもしなかった」
 それにしてもと相手を見遣り、ジュマはもう一つ感嘆を泡にする。光含むこれなどは、と見立てて貰った銀鼠色の繻子は、輝石の欠片を雫と纏い、黒衣に紅の髪を流したジュマの身に美しく添っている。
 そしてリオの纏うそれは、躍る七彩。なだらかに美しく紡ぎ変えたその繻子は、熱帯に棲む魚のよう。しんと淡いリオの出で立ちを引き立てている。
「立ち姿も美しい貴方なら、きっとどんな色も似合うと思ったのですが」
「流石の見立てですわ。貴方こそ、どれを纏ってもその銀糸が映えましてよ」
 耀く糸に喩えられた髪に少しわらって、少年のように海を仰ぐリオ。その傍らにジュマはそっと問いを置く。――リオは海を見たことがありまして?
「いえ、海は」
 資料としては知っている。彼の知る宙ほどではないにしろ、それはひどく広大で――確か、
「舐めると塩辛いとか」
「ああ、そう。ご存知ですのね」
 くすり笑って、肩になだれる紅に触れるジュマ。
「アタシはあの潮気がない分、こちらの海の方が気に入りましてよ」
 なにしろ実体がない。薫りこそすれ、髪を絡ませることもない。
「……成る程、噂に聞いた通りなんですね。髪の長い貴方は大変そうですね、ジュマ」
 くすくすと零れ落ちる笑い声に、銀色の気泡が生まれゆく。立ち上っていくそれを不思議そうに見上げる横顔に、ジュマは静かに目を伏せた。
「いつか本物の海を見せて差し上げたいですわね」
「……私に?」
「ええ。この幻の海の絢爛豪華さは、夏の海に似ているかしら?」
 ――命に溢れさざめく夏の海。眠る命に凛と澄む冬の海。友の声が描き出すそれらを、リオは瞼裏にそっと浮かべてみる。
「――えぇ、いつか本物の海も見てみたい。ご一緒していただけますか」
 零れたのは紛れもない本心だ。それを掬い知った紅髪の男は返事に代えて、唇と瞳だけを微かに和らげる。胸に落ちる安堵ばかりは悟られぬよう。
 ありがとうと笑みを浮かべたリオの手が、そっと伸びる。
「では、私達も踊りましょうか」
「――、そうですわね。賑やかな輪は眺めるのが専門なのだけど、偶にはよいかしら」
 これほどの賑わいは久しく知らない。その中に身を浸すことからも、ふたりは長く遠ざかっていたけれど。
 今宵くらいは魔法にかかり、彩異なる鰭を交わして、温みに触れてみるのもいい。
 ――努めることなく笑み向けられる友は、ここに在る。こうして共に、在れるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウルスラ・クライスト
【紅満点】
長い三つ編みを右肩に流し銀白で誂えた男装姿
魚の一尾を気取るべく、虹色のベールを肩に纏って
千に一夜の祝祭へ

ふぅ~ん…幾千夜を数えるほど魔法が続いているの?
姫君が旅立ってもずっと
心待ちに数えているのね…
けなげなこと。毎夜だって溺れて、踊ったらいいのに。

短杖でレプリカクラフトを紡ぎ
キャロルと踊る魚たちの軌跡に蒼い蝶、
藍色の水には星々を。

折角の一夜なら、踊りましょう?
お誘いの為にこんな服なのよ。ねぇ澪、紅色の素敵なお嬢さん。
(由良と悪戯の様に示し合わせて、レディに恭しく一礼を)

由良姫も、どうぞ一曲お付き合い下さいね。
両手に花なら、私もね。
(杖で燕尾をロングドレスに引き伸ばし、満足げに微笑む)


月永・由良
【紅満点】
(身形は男装なれど、腕輪には華を――姫君に因んだ深藍のショールをひらりと絡め)

嗚呼、実に興味深い
異世界にはこれ程に目映い魔法もあるのだな
(己が馴染んだ夜の世界や術とは対照的な、彩溢れる幻想に敬慕と好奇心浮かべ)
更に華ある皆の装いやウルスラの魔法もあるとなれば、心踊ずにはいられない

古き姫君の粋な計らい――そして両手の花々との折角の一時、心行くまで浸り尽くそうか

(キャロルのステップを合図に、ウルスラと共に悪戯っぽく澪へと手を)
さぁ姫、どちらの手を取る?
――なんて、欲張りも上等

そして無論、私も欲張るとも
(喜んで、とウルスラに笑んで応じ)

皆で一緒に、思うままに
手を取り合って魚と戯れ海を巡ろう


キャロライン・ベル
【紅満点】
(うら若きお嬢様方の盛装に見合うよう、精一杯のおめかしで)
(目を輝かせショール見つめ――選んだ色は、ルトラ姫に肖った綺麗な青)

まぁ、まぁ…!
なんと素晴らしい魔法でしょう
世に、人に、今も残る幸いを齎した姫君達
その素敵な心意気満ちる海に、わたくし達も是非溺れましょう
(お嬢様方とおさかなさんの煌めく姿に目を細めつつ、姫君達とウルスラちゃんの魔法に誘われて、軽やかにステップを踏んでみせて)

とっておきの悪戯が巡る、幻想の夜
身も心も自然と踊り出してしまうよう
(花咲く様子に一層笑み
わたくしは背丈低い為おさかなさんをお相手に――お嬢様方の影に戯れ彩り添える様にくるりひらり)
忘れられない夜になりそうね


鳳来・澪
【紅満点】
(折角だからと現地の盛装に粧し込み、仕上げの繻子はハトラ姫に準えた紅月色に
異国情緒溢れる空気に、既に胸は踊るばかり!)

夢心地とはこのこと!
街と人を明るく照らす、愛嬌たっぷりの魔法――こんな悪戯かけられたら、愛さずには、溺れずにはおれんよね!
歓喜満ちる祭の潮騒に紛れて、今にも姫様達の笑い声が聞こえてきそう

(煌めく魚や皆に見惚れていたら、不意の誘いに目をぱちくり――した直後、満面の笑みで双方の手を取り)
えへへ、じゃあ喜んで――欲張る!
両手に花で役得!
(姉様方に黄色い声上げつつ、キャロルちゃんとは足並み揃えて舞い泳ぎ)

夢幻の海は一夜限りでも、思い出は輝き続ける――またとない夢の夜に感謝を!



●伝説の再来
 ――ああ、夢心地とはこのことだ!
 光淡い夜なれど、愛嬌たっぷりの魔法が照らす。この海の潮騒は、人々の笑い声と歓喜。そのさざめきに双子姫の声も聴こえてはこないかと、鳳来・澪(鳳蝶・f10175)はくるり喧噪に身を躍らせる。
「こんな悪戯かけられたら、愛さずには――溺れずにはおれんよね!」
「本当に――まぁ、まぁ……! なんと素晴らしい魔法でしょう」
 人々の歓喜に染められて、キャロライン・ベル(アンダンテ・f03974)の声も上擦った。世に人に、ただ今まで残る幸いを齎した姫君たち。
「なんと素敵な心意気満ちる海かしら――わたくし達も是非溺れましょう」
「うん、折角やから楽しまんとね、キャロルちゃん!」
 手を取り合うふたりに行き会う人々が振り返るのは、そのすがたゆえ。砂漠の町の倣いを敬い、美しい盛装に身を包んだふたりを、仕上げに彩るはふたいろの繻子。
 紅き月のハトラ、青き影のルトラ。この夜を往く者なら誰だって、伝説のふたりを準えたすがたと知れる。双子姫に肖る者は、町の人々の中にも珍しくはない。だから皆、口々にこう笑うのだ。
「姫様方、悪戯が過ぎませんように」
「好い夜をありがとうね、姫様たち」
 くすぐったそうに身を震わせるふたりのもとへ、男装の麗人たちが歩み寄る。
「嗚呼、実に興味深い。――異世界にはこれ程に目映い魔法もあるのだな」
 すらりと美しい肢体は、贅沢に布地を使った男の装いの下へ。生まれ落ちた夜の世界に馴染んだ月永・由良(氷輪・f06168)には、刻一刻と彩りを変えゆく青の幻想はあまりに鮮やかだ。敬慕と好奇に染まる銀の瞳に、ウルスラ・クライスト(バタフライエフェクト・f03499)は赤く冴えた眼差しを並べる。
 ふうん、と面白げに見渡す視線は興味に満ち、それでも何故かひと色醒めて。けれど長く編んだ髪を右肩に流し、銀白の男装に身を窶したその手が杖を躍らせる頃には、その顔には享楽の色が浮かんでいた。
「ふふ、愛らしいわね、二人とも」
 紡ぎ手向けるは蒼の蝶。金銀の光を振り撒いて踊る魚たちには蒼い蝶を、藍染む水には星々を。未だ見ぬ海への憧憬に瞳輝かせる人々のため、姫君たちの魔法に敬意を示す人々のため――紡ぐ術で海を侵しはせず、ただ一瞬で掻き消すけれど。瞬く間の彩りにもふたりの姫君は気づき、笑み綻んだ。キャロラインの描くステップが、まぼろしの動きを真似てかろやかに跳ねる。
「折角の一夜なら、躍りましょう? お誘いの為にこんな服なのよ」
「古き姫君の粋な計らい――そして両手の花々との折角の一時、心ゆくまで浸り尽くそうか。さぁ姫、どちらの手を取る?」
 踊るキャロラインの目配せにくすりと笑んで、ウルスラと由良が恭しく差し出す手は、ともに紅色の素敵なお嬢さん、澪へ。
 きょとんと瞬いて一拍、花咲くように破顔して、
「えへへ、じゃあ喜んで――欲張る!」
 姉様方のふたつの手をとり、両手に花だと微笑めば、とられた二人も思わず見交わし、笑い零れる。
「両手に花なら、私もね。由良姫も、どうぞ一曲お付き合い下さいね」
「ふふ、無論、私も欲張るとも。喜んで」
 恭しく傅く由良が、空いた手を取るその前に。ウルスラは燕尾の裾を杖でからげ、つと引き伸ばす。男装から麗しき娘のドレスへと、変化した装いに満ちた吐息を零し、娘は海へと泳ぎ出るのだ。
「うふふ――では、お嬢様方に彩りを添えなくてはね」
 来たるにじいろの群影を軽やかなステップに迎え入れ、楽しげに踊るキャロライン。手を取り合う若者たちのダンスに目を細めれば、交互に返る眼差しが彼女に幸せをくれる。
「ああ――忘れられない夜になりそうね」
「うん! 夢幻の夜は一夜限りでも、思い出は輝き続けるんよ!」
 足並み揃え舞い踊るキャロラインと澪。その言葉に、ウルスラはふと思案する。
 姫君が旅立ってなお、幾千夜を数える魔法。千の夜ごとに開かれるというこの海を、人々が心待ちに数えているというのなら、
「ふぅん……けなげなこと。望むなら毎夜だって溺れて、踊ったらいいのに」
「ただ踊るだけなら毎晩だって踊れるさ、お嬢さん。――ただこの海は、千日ごとにしか生まれない」
 魔法の発動する夜は定まっているのだと、すり抜ける一瞬にそう伝えて、この町の住人だろう男の笑顔が行き過ぎる。
「――ふぅん、そうなの」
 頭からふわりなだれる虹色の繻子の向こうに、ウルスラは海を透かし見る。その瞳にこの華やかな魔法がどう映ったかは、彼女だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フランチェスカ・ヴィオラーノ
ソアラくん/f18166と

見て見て!
せっかく踊るんだもん、えへへ
衣装、用意して貰っちゃった♪
…って、あれ、ソアラくん?

鼻血、結構出てたけど大丈夫かなあ
タフだなあ…苦笑
ある意味見習いたいような、そうでもないような

見た目はばっちり決めたけど
いざ踊り出してみると
体が全然音楽に乗れてない
そりゃそうだよね
母様は私を社交界に出す気なんて無くて
運動もダンスもしてこなかったもの

魚が泳ぐように優雅に踊れたらいいのに
今の私は溺れかけの陸上生物みたい
うぅ、恥ずかしくて消えたくなる…

ソアラくんに哀れみを向けられたように感じて
思わずムキになり

ひっどーい!
確かに下手すぎて消えたくなってたけど、ずばり言わなくたって!


ソル・アーラ
愛しのフラン先輩/f18165と!

黄金色のショールを肩に巻き
へへ、どうです、せんぱ!?(アラビアンな衣装の先輩に息を飲み)
はうっ!(鼻血を出してぶっ倒れる)

す、すみません
先輩のあまりの美しさに…!(そっと鼻血拭き)

それじゃあ一緒に踊りましょう!こういうのは得意なんです!
大丈夫ですよ、社交ダンスって訳じゃありませんし
音楽に乗って、この海を泳げばいいんですよ(軽やかに舞ってみせ)

幻想的な光景の中踊る先輩が、綺麗で夢のようで※フィルターかかってます。本人大苦戦中
どこかの世界の物語で聞いた人魚姫を思い出して、呟く

消えないでくださいね、先輩

って、ええ!?俺、そんなつもりじゃ…!
ご、誤解ですよ、先ぱーい!



●人魚姫
 肩に纏ったひとひらは、光を編んだような黄金色。太陽の名を冠する自分らしい彩りと、ソル・アーラ(空回りの太陽・f18166)は満足していた。これならきっと、愛しの先輩も見直してくれる筈――、
「へへ、どうです、せんぱ……」
「見てみて、ソアラくん! せっかく躍るんだもん、えへへ」
 用意して貰っちゃった、とにっこり微笑むフランチェスカ・ヴィオラーノ(月灯りのヴィオラ・f18165)の装いは、砂漠の地に伝わる伝統のもの。――つまりは少々艶やかな、
「はうっ!」
「って、あれ、ソアラくん?」
「す、すみません。先輩のあまりの美しさに……!」
「もう、いつもそんなことばっかり……本当に大丈夫?」
 思い込んだら一直線の愛情と、想い人の魅力ゆえ。卒倒した少年は赤いものを拭き拭き、逞しく起き上がる。タフだなぁ、と笑われながら。
「コホン、それじゃあ気を取り直して……一緒に踊りましょう! こういうのは得意なんです!」
 差し出されたソルの手に掌を預け、最初のステップを踏み出したはいいけれど――あれ、と違和感に眉を寄せるフランチェスカ。
 くぐもった水音の向こう、遠くから響いてくる不思議な音色は軽やかなのに、体が思うように動かない。音楽に乗れていない。
「ああ、やっぱり……そりゃそうだよね」
 はあ、と溜息をひとつ。どうしたんですかと心配げなソルに大丈夫、と笑った顔は、ほんの少し弱々しい。
「見た目はばっちり決めたけど、見た目ばっかりだなあって。母様は私を社交界に出す気なんて無かったから、運動もダンスもこれまでしてこなかったもの」
 見上げる空に、魚たちはきらきらと優雅に鰭を躍らせている。あんなふうに踊れたらいいのに――と焦がれる眼差しに、ソルはぎゅっとフランチェスカの手を握り締めた。
「大丈夫ですよ、社交ダンスって訳じゃありませんし。ほら、周りの人達だって、みんな気楽にしているでしょう?」
 音楽に身を委ねて、この海を泳げばいい――そう笑うソルの足捌きは、気楽というにはあまりにスマートで。
「……うぅ、恥ずかしくて消えたくなる……」
 まるで溺れかけの陸上生物みたい、と肩落としつつ奮闘する少女。その健気な姿は、ソルの瞳には誰よりも美しく尊くて(※フィルター)――自分の手を取って微笑む姿(※フィルター)も、夢のようで。
 だから、そういう意味だったのだ。その姿のように、儚く美しい人魚姫のように、
「消えないでくださいね、先輩」
「……ひ、ひっどーい!」
「ええっ!?」
 確かに下手すぎて消えたくなってたけど! ソルに握られた手をぶんぶん振って、フランチェスカは怒りを露わにする。
 ――そんな哀れむみたいに、ずばり言わなくたっていいじゃない!
「お、俺、そんなつもりじゃ……!」
「うるさーい! ソアラくんなんてもう知らない!」
「ご、誤解ですよ、先ぱーい!」
 ぷりぷりと元気よく肩を怒らせる少女、情けなく追いかける声。周囲に踊る人々はぱちりと目を瞬いて――若いねぇ、と微笑ましく眼差しを溶かした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナミル・タグイール
にゃー!どこ見てもキラキラにゃー!とっても綺麗デスにゃ!
金ピカ多めのショールも付けてご機嫌猫
伝説のお宝情報を探しにきたけど、この町がもうお宝にゃー!
こんなキラキラ町にできるなんて勇者ってすごいデスにゃ!
頑張れば持ち帰れないかにゃー?って魚につんつんしてみたり抱きついてみたり
触れなくてもすごいにゃー!って勝手にテンションが上って楽しむ猫

確保が無理そうならちょっとだけ残念だけど…諦めてお祭りを楽しむにゃ!
きらきらに囲まれながら美味しいお酒をがぶがぶ…幸せデスにゃ!
魚や皆の金ピカ装飾ダンスをみて楽しみながら潰れるまで飲んじゃうにゃ!

・絡みアドリブ大歓迎


ヴァルダ・イシルドゥア
未だ見ぬ海を思わせる其処に、ひかりの雨が落ちてくる
人々の纏う繻子が陽炎のように揺らめいて
それはとてもうつくしくて
紐解かれた物語に、そのまま迷い込んでしまったような

アナリオン、……ああ、なんてこと……!

名を呼べば応じる仔竜が
続く私のことのはをわかっていると言わんばかりに
くるりと宙を旋回した

雫のような輝きを散らしたあおいろを纏う
それはそう、まるで
幼い頃、父さまと母さまが語って聞かせてくれた
『お姫さま』みたいだなんて――胸を踊らせるのは、恥ずかしいこと?
ああ、でも、

赤き月に、青き影に
姫君たちが齎した、やさしい魔法に満たされて

爪先を滑らせ、街を満たす音楽に
纏った『ひれ』を翻し
仔竜とふたり、水底を舞った



●光に躍るこころ
「にゃー! どこ見てもキラキラにゃー! とっても綺麗デスにゃ!」
 艶やかな金と紫と。ナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)のふたいろに彩られた美しい瞳は、空を泳ぐものたちの輝きを映していっそう鮮やかに輝いた。
 昂揚にふるりと震える漆黒の髪と毛並みには、金刺繍で彩られた豪奢なショールがよく映えた。しゃらんしゃらんと裾に揺れる金の薄片を鳴らして、通りへと踊り出る。
 勇者の伝説――その言葉が秘めるは浪漫とお宝の気配! そわりと第六感に揺れる猫毛に従ってこうして訪れてはみたけれど、
「この町がもうお宝にゃー! こんなキラキラ町にできるなんて、勇者ってすごいデスにゃ!」
 町まるごとは流石に持ち帰れない、けれどこの魚ならもしかするかも? 興味ありげに近づいてきた魚たちのまぼろしを、追ってはするり、また追ってはするりの繰り返し。
「にゃにゃー、頑張れば持ち帰れないかにゃー? やっぱり無理デスかにゃー」
 すかっ、すかっと空を切る爪先にがっかりすることもなく、むしろナミルの声は華やいでいく。
 統率のとれた群れの泳ぎも、ふわふわと鰭戦がせ駆け抜ける速さも、悠々と空をゆく絨毯のような大きな影も。どれも本物のようなのに、触れない。――そんな魔法が楽しくて、愉しくて。
「にゃー……確保できないのはちょっとだけ残念だけど、いいのデスにゃ! ここでしか楽しめないこと、めいっぱい楽しんで帰りマスにゃ!」
 なにしろ、配られる海色の美酒に対価は要らないのだ。広場の段差を椅子代わりに、きらきら寄せ来る波の輝きと目映い魚たちと戯れながら――美味しいお酒をがぶがぶと。
 いい飲みっぷりだねぇ、と嬉しげに、住人たちはどんどんお酒を注いでくれさえする。はー、とうっとりした吐息をひとつ、ナミルは叫んだ。
「幸せデスにゃ! ……ここは天国ですかにゃー!?」
 踊る人々と魚の群れが、ゆらゆらと揺れる。それは魔力で紡がれた潮流――によるものばかりではなく。
「うふふ……楽しいデスにゃ……今日はとことん飲んじゃうにゃ……皆、ゆらゆらして楽しそうデスにゃー……♪」
 くらくら惑わすは魔法ばかりではないようだ。ナミルの楽しい宴は続いていく。意識がふわり、この海に溶けるまで。
 ――そんなふうにして、黒猫が少しばかり静かになったころ。
「アナリオン、……ああ、なんてこと……!」
 感極まって震える声が、魔法の海に漣を立てる。
 ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)は、森しか知らぬ娘だった。森を出て、既にいくつかの世界を踏み、少しずつ世界の輝きを知り行く途上の少女。
 それが、出逢ってしまったのだ。未だ見ぬ物語の一編に。
 知り得ぬ海、その深き底を思わせる町に、降り注ぐ光の雨は群れる小魚たちの群泳。地上すれすれへ舞い降りてはぐるりと旋回し、大渦をなす青白い輝き。
 わあと声を上げながら踊る人々の背に腰に、ひらりと躍る彩りはまるで陽炎。うまく紡げぬ声は銀の泡となって、さながら人魚姫のよう――、
「ねえ、見ている? ――アナリオン!」
 キュイ、と一声高く鳴き、頭上をくるりと旋回する仔竜も、帯のようにひらひらと踊る魚と戯れている。円舞のような遣り取りを暫し見上げ、ヴァルダはふわり、深いあおの繻子をヴェールのように頭に纏う。
 雫めいた輝石の輝きを透かし見れば、幼い頃、寝物語に聞かせてもらった『お姫様』のよう――なんて、想像に頬がぱっと染まる。
(「こんなふうに胸を躍らせるのは、恥ずかしいこと? ああ、でも」)
 紅き月と青き影。そう呼ばれた姫君たちのやさしい魔法に導かれ、少女は非日常に誘い出される。
 満ちる楽の音と潮騒に、爪先も指先も操られたことにして、この海に泳ぐ人々の彩りに、魅了されたせいにして。
 幻満ちる空を泳ぐアナリオンに恭しく一礼したら、ヴァルダはゆるりと踊り出す。
 小さな唇に浮かぶのは笑み。――恥じらいはいつしか、うたかたとともに弾けて消えてしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
メーリ(f01264)と

ほんとうの海はまだ見たことがないからわくわく
メーリも?
うん、ぜったいきれいだよ

ショールの前で足を止め
メーリはなにいろにする?
きっとどんな色でも似合うと思うけど
言い伝えを思い出し
メーリに合わせるのは深い藍色
波にも似た裾のフレア
うん、にあうねっ

差し出されたら
きれい
するり腕に絡めて一回転
ありがとうっ

うん、たのしいしうれしいっ
きらきらしてるのはメーリの方だよ

わあっ
すごいね
いこう、といつもの調子で手を引きかけて
ちょっと考える
だってダンスだもの
わたしといっしょにおどりませんか?
なんて手を差し出して

まぼろしの海が
おどる尾鰭が
きらめく瞳が
あんまりきれいだから目を細めて
ふふ、たのしいねっ


メーリ・フルメヴァーラ
オズ(f01136)と

思えば本物の海は私も見たことないかも?
幻でもきっと綺麗だね

オズはねこれが似合うよ!
差し出したのは蜂蜜に仄かに虹の光沢刷いたショール
裾に躍る金属と輝石が鱗と水飛沫みたい

お互いに似合うの選ぶの楽しいねって
笑顔弾ければさあ行こう
ダンスフロアは石煉瓦の街
迷い路でもすぐにオズは見つかるよ
だってきらきらしてるから!

ダンスのお誘いはいつもよりちょっと恭しくて
少しだけくすぐったいけど嬉しくて
喜んで!って手を預けよう

ストール靡かせ幻の夜を泳ごう
触れられなくても確かにそこにある
あったかい気持ちと一緒だね
うん
私もすっごく楽しいよ!

砂漠の夜の蜃気楼
それでも今しあわせな気持ちは
紛れもない真実なんだ



●並びゆく迷い路
「ほんとうの海はまだ見たことがないから、わくわくする」
「私も見たことないかも? 幻でもきっと綺麗だね」
「メーリも? うん、ぜったいきれいだよ」
 砂漠と町を仕切る高い門の向こうは、ぼんやりと輝く藍に沈んでいる。そのひといろに染まる前に、なないろの繻子の山から鰭を見つけださなければ。
「メーリはなにいろにする?」
 きっとどんな色でも似合うと思うけれど。オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)がメーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)のために選り出したのは――ひらりと波打つ裾のフレアが美しい、深い藍のショール。
「うん、にあうねっ」
「ほんと? どこにつけようかな、やっぱり鰭だから腕かな」
「うん、むすんであげようか」
 器用な指先がきゅっ、とメーリに鰭をくれるその間に、水秘める瞳はわあ、と見開かれる。色の氾濫の中に見つけた、やわらかな蜂蜜色。手に取れば淡く流れる虹の光沢、その先に躍る青い輝石と金色は、鱗と飛沫で彩ったよう。
「オズはねこれが似合うよ!」
「にあうかな? ありがとうっ、メーリ。――きれい」
 腕に絡めてくるりと回ったら、七色の余韻が残る。そうして、ふたいろのさかなの出来上がり。
「ふふ、お互いに似合うの選ぶの楽しいね」
「うん、たのしいしうれしいっ」
 どちらともなく手を取りあって、門を超えればそこは見知らぬ水の底。零れる笑みが飛沫のまぼろしを生んで、ふたりはわあっと揃いの声を上げた。
「すごいね、これが――魔法?」
「うん、きれいだね……! あっ、あれオズの鰭にそっくり!」
 ひらりと長い鰭を揺らし、泳ぎ去るふしぎな魚は蜜の色。追いかければたちまち、噂通りの迷路の中。
 纏いつく青の中、同じ石煉瓦の建物が並ぶ町並みを行けば、閉じ込められてしまったよう。でも、すこしも心細くない。だってはぐれてしまっても、
「すぐにオズは見つかるよ。だってきらきらしてるから!」
 笑む顔に瞬いて、きづいてないんだ、とオズも笑う。
「きらきらしてるのはメーリのほうだよ」
 その髪も瞳も、笑顔も、ぜんぶ。もっときらきらしてほしくて、いつも通りに差し出――そうとした手はちょっと、迷って。だってダンスのお誘いだから、
「わたしといっしょにおどりませんか?」
 ほんのり恭しいオズの紳士の礼が、少しだけくすぐったくて――けれど瞳にはいつものあどけない笑みがあるから、つい嬉しくなって、
「――喜んで!」
 預けた手に燈るぬくもりを頼りに、一夜の海へ泳ぎ出す。
 靡く色彩から零れ出る泡沫のまぼろしは、ふたり笑うたびにも溢れ出して海を飾る。その輝きを映してまたメーリの瞳が笑い、水紡いだような髪も躍るから、オズはつい目を細めてしまう。
 ――なんて、きれい。
「ふふ、たのしいねっ、メーリ」
「うん、私もすっごく楽しいよ!」
 繋ぐ手にぎゅっと力を込める。
 このひとときが、砂漠の夜の蜃気楼だとしても、朝には尽きるものだとしても。今しあわせな気持ちは、胸から消え去ることはない。
 こころに優しく刻まれたいろ。紛れもない、真実だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

姫城・京杜
與儀(f16671)と!

砂漠の夜の祭りか、賑やかでわくわくするな!
な、與儀!(全力で嬉し気

俺、こうみえても躍りの素養はあるんだぞ(どやぁ
てことで與儀、俺と躍りませ…ええっ!?
一緒に踊らねーの!?

す、すきにしてろっていわれても…
(数秒考えて)…よし、好きにするぞ
ということで、與儀探してついてく
別行動しててなんかあった時、護れないと困るからな!
でも邪魔しちゃ悪いから、そっと尾行

途中何人かになんか踊りの誘いかけられるけど、ごめんな、と断りいれつつ
お、いた、與儀!
ちっせェから見失わないようにしないと(見守る

…え、俺と踊ってくれるのか!?
やったー!
踊る、踊るっ(にこにこ
ん?超楽しいだろ、ほら(うきうき


英比良・與儀
ヒメ(f16671)と

しかし、俺はお前と踊る気はない
なんでわざわざ、男と踊らんといかん
お前は好きにしてろ、俺もする。じゃあな!

と、人ごみに紛れ。こういう時小さいのは便利だな
賑やかなのは良い
しかし一人で過ごすのもなー
目の前を泳ぐ、その尾鰭を追って一時重ねる姫様を探そう

一人で居る娘を見つければ誘う
お嬢さん、踊って……踊……あー、もう
仕方ねェなァ!
おいヒメ!
わかってんだよ、でかい身体してバレねェはずないだろうが

そんなに俺と踊りたいなら踊ってやるよ
そんなに踊りたいって喜ぶもんかよ
男同士で楽しいかァ?
俺は踊るなら美人を前に……ああ、ヒメも一応顔はよかったな
楽しいっつうか、面白ェよ……お前みてんのが



●君しかいない
 悠々と泳ぎゆく魚に、満ちる青。浮かれ踊る人々の気配が、姫城・京杜(紅い焔神・f17071)の垂れ目をさらに緩ませる。
「すっげえ……砂漠の夜の祭りか、賑やかでわくわくするな! な、與儀!」
「そーだなー」
 人波を容易にすり抜け、彼方此方に視線を向けつつ迷いなく。進みゆく英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)の小さな背に、青年は鼻高々、語りかける。
「なあなあ、俺、こうみえても踊りの素養はあるんだぞ」
「へー、そうか」
「ふふん、てことで與儀」
 たたっと歩幅を広げれば、たちまち與儀に追いついてしまう。進路にするりと回り込み、たっぷりとしたマントの代わりに羽織った紅葉色の繻子をばさりと躍らせ膝をついたら、
「――與儀、俺と踊りませ……」
「なんでわざわざ、男と踊らんといかん」
 じとり半目で見返す與儀に、ええっ、と情けない声。
「一緒に踊らねーの!?」
「確かに一人で過ごすのもあれだが。双子姫の祭りだぞ、一時重ねる姫様を探すだろ、普通。という訳で、お前と踊る気は、ない」
 にっこりと――けれどばっさりと。彩度の高い青の鰭を戦がせて。ちょうどすり抜けていった美しい紅色の鰭に、おっと心惹かれるまま、少年は身を翻した。
「お前は好きにしてろ、俺もする。じゃあな!」
「あっ、與儀! ……す、すきにしてろっていわれても……」
 途方に暮れたまま残された大の男の方が子供のようだ。――否、あの少年とて子供ではないのだけれど。
「……よし、好きにするぞ」
 京杜の望みは、與儀を見守ること。護ること。共に在ること。浮かれ騒ぎの夜の中でも、それは変わらないから――人波の中に消えてしまった金色の影を追いかけて、そっと見守る。たとえ手を取ることが許されなくても。
「あら、お兄さんよかったら私と――」
「ごめんな、ちょっと急いでるんだ!」
 急く美丈夫の横顔に誘いは数多。けれど止まらず進んだ足は、やがて與儀の姿を見つけ出す。
「お嬢さん、俺と――……いや、なんでも」
 恭しく悪戯っぽく差し出した手、きらりと輝く完璧な造作。まぁと年頃の娘を微笑ませた美少年――がふと、不自然に顔を背ける。
 気を取り直して次。
「お嬢さん、ひとりなら――、……失礼」
 再び目を逸らしてくるり、回れ右。
 そして三人目に声を掛けんとしたその視界の端に、もう既に『それ』はいた。
「お嬢さん、踊って……踊……あー、もう仕方ねェなァ! ――おいヒメ!」
 與儀の怒声に、高い背がびくりと跳ねる。海の青に負けず耀く強い赤の髪、名を呼ばれて嬉しそうな顔。
「えっ、えっ、なんでわかったんだ?」
「わかってんだよ、でかい身体してバレねェはずないだろうが! ……ったく、そんなに俺と踊りたいなら踊ってやるよ」
 やりにくくて仕方ねェ、と溜息の與儀とは対照的に、ぱっと華やぐ京杜の笑顔。
「……! やったー! 踊る、踊るっ」
「おい待て俺が女側ってどういうことだよ」
 差し出された手に不満を述べ、ついでに長い脚をひと蹴りしつつ。くるりくるりと踊り始める京杜のご機嫌顔に、は、と苦笑が零れる。
「男同士で楽しいかァ? 俺は踊るなら美人を前に……ああ」
 そういえば、と京杜をまじまじ見遣る。こいつも一応顔はよかった。
「ん? 超楽しいだろ、ほら」
 ほらほらほら、と。跳ねるステップに踊りづれェだろと膝蹴りをかまし――それでも、やっぱり與儀は、最後には笑ってしまうのだ。
「楽しいっつうか、面白ェよ……お前みてんのが」
 くるくると閃き躍る紅と蒼が、海の底に銀の泡を結ぶ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
玄冬(f03332)と
【WIZ】
薔薇色の繻子をストールみたいに肩からかけようか
アンジェリカにはこの地の装束を着せるよ
紺碧に映える月白がいい
月と星影に呼ばれた蜃気楼の海を
僕等も泳いで魚になりに行こう

僕は踊り慣れてるからね
それに伊達に生き永らえている訳じゃないさ
世界知識とダンスを使って
伝統的な踊りにチャレンジしてみようかな
ん、女か男かって?
…無粋だなぁ、玄冬ちゃん
僕等は魚なんだから
どっちにもなれるのさと微笑み返す

くるくる回る
繻子のストールは熱気を孕んだ風を受け
はためき揺らめき
一等大きな鰭を持つ魚になろう
そうすれば
愛しい町から砂漠の海へ飛び出していった姫君のように
何処までも泳いでいける気がするよね


黒門・玄冬
クリストフ母さん(f03332)と
砂上の迷宮
見渡して思う
行き交う魔法の波は呼び水だろうか

習いならば断わる理由もない
黒を含んだ藍色の繻子を頭に巻いた
魚になりに行こうと告げる
彼女と彼女の人形に呼ばれ泳ぎだす

祈りを込めて力強く
僕に出来ることと言えばそれだけだ
人形を連れ伝統に挑むという彼女をみて
どちらの役を?と
疑問が口をついて出た
…そうでしたね
でも
この人がこうして煙に巻く様になったのは
いつからだったろう

拳を振り、地を踏みしめる
武と祈りを定めた型を
邪心を捨て
無心に磨き上げてゆく
魚なら回遊魚だろうか
一巡終え渇いた喉を茘枝水で潤す
ふと見える景色には
魚達の繻子の鰭と鉱石の鱗が
幻想の灯に照らされ煌いていた
POW



●深き懐
 ――この魔法の波は呼び水だろうか。
 渇いた砂漠の地、オアシスだと語られたこの町に、豊かな水喚ぶための。あるいはもっと壮大な、麗しき魔法を奏でたいと願ったのかもしれない。
 しんと静かな影の色を含んだ藍の繻子。習いならばと頭に巻いて、黒門・玄冬(冬鴉・f03332)は寄せ来る波にただ、身を打たせるままにする。
「ああ、見立て通りだ。よく似合うな、その装束」
 十指の銀環で彩られたクリストフ・ポー(美食家・f02167)の人形は、今日はこの砂漠の町の装いに身を包んでいる。淡い月白のたっぷりとした布地には金糸の刺繍が施され、この地での花嫁の装いかと見紛うほど。
 いい仕事だと目を細めたクリストフの肩には、ふんわり掛けた薔薇色の繻子。ぴんと弾けば幻の海に美しく映えて、熱帯に棲まう魚のようだ。
 ここは月と星影に喚ばれた蜃気楼の海。ならば、
「さ、僕らも泳いで魚になりに行こう」
 微笑むクリストフの足取りは、既に躍るように軽い。連なり泳ぎ出る二人と一体の傍らを、ゆらりくらりと踊る人々が行き過ぎていく。決まった型こそないものの、似通う所作にはこの町の伝統が確かに息衝いていて、
「ふうん……こんな感じか。僕は踊り慣れてるし、伝統的な踊りにチャレンジしてみようかな。ねえアンジェリカ」
 花嫁人形を抱きくるりと踵を返せば、玄冬はことりと首を傾げた。
「あなたはどちらの役を?」
「ん? 男か女かって? ……無粋だなぁ、玄冬ちゃん」
 母たる人形師は手を伸ばし、あやすように黒髪を掻き混ぜる。
「僕等は魚なんだから、どっちにもなれるのさ」
 微笑みが花嫁人形の向こうに隠れては現れ、また隠れる。一等大きな鰭持つ魚に――と、魔力の波と人々の熱気に躍る繻子をはためかせ、くるくると。
「……そうでしたね」
 静かな答えを携えて、玄冬の瞳はそっと母を見守っている。――この人がこうして煙に巻くようになったのは、いつからだったろう。
「ほら――玄冬ちゃんもおいで」
 子の思惑など知らず、それとも知ってか、クリストフは微笑みで招く。
 華やかで絢爛なこの地の舞でなくとも、この海は受け入れてくれれる。それを肌で知り得たから、玄冬はひとたび強く伏せた瞼を開く。
 地を踏む足も、満ちる青へと振り出す拳にも、その所作のひとつひとつに定められた武と祈りを意識したなら、心は自然と澄んでいく。――邪を棄て、ただ、無の境地へと。
 ひとつの流れを辿り息を吐けば、目の前を駆け抜けていく魚の群れ。それは流星群のように空へと巡り、直向きに舞へと注いだ心を映すよう。
 ふふ、と零れた声に顔を上げれば、傍らに薔薇色の瞳がある。
「こんな心地だったのかな――愛しい町から砂漠の海へ飛び出していった姫君達は」
 風の吹くまま、心赴くままに、鰭を自由に戦がせて。何処までも泳いでいけそうで。
 愉しげなクリストフへの答えを探すように、玄冬は人波に目を遣った。
 踊る魚たちの鰭、煌めく鱗――海の幻想に照らされたそれらはただ鮮やかに、青年へ瞬き返すばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
アオイ(f04633)と

彼女と同じ色に染まりたくて青色の繻子を纏う。
砂漠の海は息が出来るのも不思議なぐらいだ。

また踊れるのが嬉しい。
「E Hula Mai Kakou(踊りましょう)」
あの夜その手を取りたくて彼女の故郷の言葉で誘った。
あれから自分の心はずっと踊っている。

所有物という言葉に胸が痛む。
自由を奪われ見ていることしか出来ないというのはおそらくダンスだけではなかっただろう。
でも、本当は自分だって彼女を閉じ込めておきたいと願ってはいないだろうか。
彼女の時を止めこの腕の中に。
そんな心が恐ろしくて繋いだ手から伝わってしまわないよう祈る。

それでもその瞳に映る自分を見つけると思わず期待してしまう。


アオイ・フジミヤ
シンさん(f04752)と

砂漠の海だなんて想像するだけでわくわくする
繻子は月の色で染めたような“柔らかな黄”を、頭に巻いて街を歩こう
彼の髪にも近い色がいい

シンさん、あの夜みたいに踊らない?
私の故郷でも夜通し踊るお祭りがあった
……親がいなかった私は、故郷の島の領主様の”所有物“だったから
踊ることを”主“から許されなかったのだけれど

本当はずっと踊りたかった
その夜だけは、愛する者同士、堂々と手を繋いで傍にいられるから

彼の手を取って、泳ぐようにくるくると
その時だけは繻子を指輪に巻き付けて

触れられた手が熱い
……この想い、伝わってしまわないで

海色の瞳に彼だけを映して
このまま時が止まってしまえばいいのに



●同じ青に染む
「わあ……素敵ね」
 勿忘草の青を宿した瞳に、海の藍が流れ込む。
(「想像するだけでわくわくしていたけれど――」)
 行き交う光のすべてが、あらゆる色を纏う魚の群れ。挨拶のように傍らを過ぎ行く子らを目を細めて見送って、アオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)はふふ、と笑みを零す。触れられないのに髪を掬っていく悪戯で不思議な水の流れは、鮮やかな青い髪を纏めた柔らかな黄色の繻子をふわり、棚引かせて駆けていった。
 そう、それは傍らの彼の髪の色にも似ていて。
「シンさん、あの夜みたいに踊らない?」
 勿論、と頷いたシン・バントライン(逆光の愛・f04752)の纏うそれは、僅かに緑を含んだ美しい青。同じ色に染まりたいと選んだ色を揺らめかせ、手を伸べる。
「またあなたと踊れるのが嬉しい。――E Hula Mai Kakou」
 踊りましょう、と。その手を取りたくて、彼女の故郷の言葉を選んだ夜を思い出し、同じ言葉を重ねた。
 海底は、呼吸を奪われないのが不思議なほど。――けれど少しだけ胸が詰まるのは、あの夜からずっと踊り続けるこの心のせいだ。
 遠慮がちな最初の一歩は、すぐに大きな流れのひとつに変わる。人波の中に溶け込みながら、ねえ、とアオイは語り掛けた。
「私の故郷でも、こんなお祭りがあった」
 夜を徹して踊って、皆がはしゃいで声を上げて。けれどその賑わいは、自分には少し遠かったのだと。
「親がいなかった私は、島の領主様の『所有物』だったから――踊ることを『主』から許されなかったのだけれど」
 ひとかけらの辛さもなく、ただあったこととして語るアオイの痛ましさに、シンの瞳は翳る。見ていることしか出来なかったものは、踊りだけではなかった筈だ。
 ――けれど、ああ、と胸裏に嘆息する。
(「でも、本当は自分だって願ってはいないだろうか。……彼女をこの腕の中に閉じ込めておきたいと」)
 自由を得た筈のアオイに、ふと自覚した思いはあまりに恐ろしくて。確かに愛おしいのに、傷つけてしまいそうで。
「……シンさん?」
「……ああ、すみません。何でもありませんよ、アオイ」
 不思議そうな眼差しを和らげて、アオイは続きを紡ぐ。
「私ね、本当はずっと踊りたかった。その夜だけは、愛する者同士、堂々と手を繋いで傍にいられるから」
 くるくると戯れるように誘い踊る娘の指輪には、髪から解いた繻子の黄色。靡く髪にシンの纏う青が並び戦ぐさまは、同じ心に染まりゆくよう。――互いにはまだ、気づかずに。
 触れた手の伝いゆきそうな熱を、ふたりはまだ恐れている。かたちのちがう、けれど同じ色したその想いが、相手に知られてしまうことを。
(「……ああ、このまま」)
(「叶うなら、こうしてあなたを映したまま」)
 心も体も浮足立って、いつしか地の感触を忘れそうになる。
 溺れるというなら寧ろ――時が止まってしまえばいいのにと、ふたり重ねたその思いに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダヴィド・ゴーティエ
ミェル(f06665)と共に

砂漠を満たす魔法よりも
御転婆な双子に手を焼いたであろう
父領主の気苦労を慮り乍ら
祭事の空気には慣れぬが
慣わしならばと黒雲母鏤めた
白銀の繻子を剣の柄に括り付け

鮫……
妻の言葉に面を顰め沈思
さざめき笑う声に
眉間の皺は深まるばかり
何時の間に酒精を口にしたのか
酒酔いの相手はしない事にしていると断じるも
目を離せば転倒しかねない
覚束ない足取りに嘆息して嫋やかな手を取り
お前に怪我でもさせようものなら
我が家臣共から責められる

細い指が示した夜空を見上げ
それが魔法で創られた幻だと識っていても
輝く虹の美しさに目を奪われる
口許に知らず笑みが上ったとてそれもまた
砂漠に浮かぶ蜃気楼の様なものだろう


ミェル・ゴーティエ
ダヴィド様(f06115)と

砂上の町を水で満たす―
なんて粋な魔法でしょう!
白雲母の欠片がしゃらり鳴る
珊瑚色の繻子をショールの様に纏えば
青い水底を游ぐ熱帯魚にでもなった心地

旦那様は、ええと、鮫…?
苦虫を噛み潰した様な
あなたの横顔にころころ笑い
敬愛する彼にこんな冗談が
言えてしまうだなんて
海色リキュールの魔法かしら
うふふ、酔ってませんと嘯くも
あらふしぎ
足取りはゆらゆら波間を歩くよう

不意に取られた手に瞳を丸くして
彼の不器用な優しさに頬を緩める
美しいあなたを海の生き物に譬えるなら
高潔な白鯨の方が相応しいかも知れません

まああなた、ご覧になって
色とりどりの魚が夜空に連なる様は
まるで祭宴の夜を祝福する虹の架橋



●その微笑みも幻に
「砂上の町を水で満たす――なんて粋な魔法でしょう!」
 水のまぼろしに広がる淡い髪。その上から纏った珊瑚色の繻子が、これもふわりと戦ぐさまを不思議そうに見つめ、ミェル・ゴーティエ(白の福音・f06665)は金色の瞳を和らげた。
「……父領主はさぞ気苦労の絶えなかったことであろうな」
 砂漠の地の――海。その在り得ない絢爛を前に、思わず眉間を揉む気難しい顔。沈みそうに重い吐息すら、銀の泡沫として掬い上げる魔法の海を仰ぎ見て、ダヴィド・ゴーティエ(ダンピールの黒騎士・f06115)の渋面はまさに苦々しいと評するに相応しい。
「まあ、そんなことを仰らないで。ふふ、青い水底を游ぐ熱帯魚にでもなったようではございません?」
 祭事の賑わいには不慣れでありつつも、慣わしを反故にする無粋まではダヴィドは持ち合わせない。佩いた剣の柄には、黒雲母の欠片を鏤めた白銀の繻子が結わえつけられている。自らの白雲母の煌めきと対をなすそれをひらり、白魚のような指先で弄んで、ミェルは小さく首を傾げた。
「旦那様は、ええと、鮫……?」
「鮫……」
 渋面に、ひときわ深い皺が刻まれる。自分の軽口が可笑しくて、ミェルはころころと笑い声を奏でた。
 ――敬愛するひとにこんな冗談が言えるなど、あの泡を含んだ海色のリキュールにも魔法が掛かっていたのかもしれない。
「――お前は何時の間に酒精を口にしたのだ」
「うふふ、酔ってません」
「酒酔いの相手はせぬぞ」
 苦言と共に振り解こうとした手が止まる。なにしろ危ういのは言の葉ばかりではなく、足取りまでも波間を行くようにふわふわとして、いつ転んでもおかしくはない様相だ。
 柔く嫋やかな手を包み込むように取れば、あら、と問い返すように瞬く瞳。
「……お前に怪我でもさせようものなら、我が家臣共から責められる」
 少しは汲んでは貰えぬものかとあらぬ方角を見る眼差しに、ミェルはくすくす、海を銀泡で飾るばかり。
「……あなたはそういう方ですね。不器用だけれど、優しい方」
 その在り方が美しいと少女のように頬を染め、ミェルはそっと囁いた。
「海の生き物に喩えるなら、高潔な白鯨の方が相応しいかも知れません」
 戯言をと零れる吐息を掬い上げるように覗き込み、
「そう地面ばかりをご覧にならないで」
「お前が見ていないものを、誰が代わりに見るというのだ」
「ふふ、そんなに心配なさなくても大丈夫ですのに。――まああなた、ねえ、ご覧になって。ほら、あちらを!」
 愉しげな声に急き立てられ、示す細指を辿れば、そこには群れなし躍る魚たちの七彩が弧を描く。
 海中に輝く虹、その美しさが幻であると識っている。確かに識ってはいるけれど――皺に沈みがちな瞳は、僅かに見開かれて。
「……ふふ、あなた、お気づきですか?」
 笑っていらっしゃいますよ、と嬉しそうな声が添う。――そうだとすれば、それはきっと。
「……砂漠に浮かぶ蜃気楼の様なものだろう」
 双子姫の魔法に理由を借りて、男は僅かばかり笑みを深めた。
 涼やかな海の底に、触れる手の熱はひときわ暖かく肌に沁みてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

海月・びいどろ
千夜一夜を物語る、そのひとつ
ふたごの紅と青の残した、魔法
…とても、すてきないたずら、だね

シトラス香る、ぱちり弾けた炭酸水を頂いて
紺碧のショールに身を包んで、行くよ
人波に乗って、この夢に溶けてゆく

水なき海は広大な砂の地
いつしか踏み締めた足跡を消すだろうけれど
それでも、こうして、人々に語り継がれて残るもの
…どんな歌が流れているだろう
月影の二人の一片も、あるかな

今宵は、ゆめまぼろしに游いで
光る鱗をした、さかなたちと、存分に
ボクらも、おどろう

杖の先より、電子の海へ交信を
喚び出した桃色をした海月の双子
ぬいぐるみたちと、いっしょに
ふわり、ゆらゆら、夜に舞うの
うたかたの波間に、漂いながら


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

素敵な伝説だよね
登場人物が皆、楽しそうで
水が貴重な砂漠にこの景色を描いた悪戯も
其れを受け入れ楽しむ街の人々も、僕は好きだな

炭酸水を受け取ったら、振る舞ってくれた人に声をかけ
ね、伝承の話を聞かせてくれる?
多分グレさんが話してくれたのと同じなのだけれど
現地の人の言葉や心を聴けたら、きっと楽しい

リチュが選んだショールに目を瞬くと、嬉しげに笑って
じゃあ僕は、「僕」の持ち主であるリチュの瞳と同じ
金が煌めく藍色の、晴れた夜空を映した水面のようなこの彩を

水底の砂漠に泳ぐ鰭の鮮やかさが弾めば、
…ああ、楽しそう
踊った事など全く無いのだけれど
もし、楽しげな人々に手を引かれれば、その時は是非


リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と

砂漠に海、ねぇ
幻とはいえスケールのデカい魔法だぜ
それが今も残ってるってのもすげぇよな

バディペットのポワレも連れてくか
アロワナの形に生まれたからには
一度くらいは空じゃなくて水の中も泳いでみてぇだろ?

とりあえず作法通りに
まずは飲み物を、それからショールだな

いつも紅茶ばかりで炭酸水なんて飲んだことねぇな
おすすめを訊いてみて、それを貰うとするか
もし伝承の話が聞けるならオレも耳を傾けよう

ショールは…そうだな
その艶やかな白いのがいい
これ、お前の目にそっくりだぜ、タロ

幻の海、光の魚、綺麗なんだろうな
海の底を歩くってのはこんな感じなのかね
…ま、実際の海はこんなに賑やかじゃねぇだろうけどな



●歌われる伝承
 千夜一夜を物語るひとつ――ふたごの紅と蒼の残した魔法。
「……とても、すてきないたずら、だね」
 爽やかな柑橘の香る泡が、鼻先にぱちりと弾ける。淡くも確かなその感触が沁み渡ったら、プリズムのまぼろしで満ちる海月・びいどろ (ほしづくよ・f11200)の体もしゅわりと音を立てるよう。
 紺碧の繻子をふわりと纏えば、波間に躍るいきものたちの仲間。鰭かそれとも海月の足か――ゆらゆらとショールを泳がせて、びいどろもこの一夜の夢に身を委ね、溶けていく。
 音もなく人の波に乗るびいどろの足の下で、さらりと砂が歌った。耳にひたりと響く音、ひんやりと身に打ち寄せる感触なき波の気配に、忘れてしまいそうになる。
 けれどこの水なき海は、広大な砂の地なのだ。こうして踏みしめた足跡すら、いつしかさらりと消してしまう。――旅立った双子の姫の軌跡すら、重なり来る現の波に追いやられ、今はもう過去の海の向こう。
(「それでも、こうして、人々に語り継がれて残るもの」)
 流れる歌に足を止める。心地好い調べに身を揺らして耳傾ければ、それがかの二人を歌ったものだと知れる。

 ――愛しいふたいろの耀きはどこに。
 ――ふたりはもう還らない。
 ――千の夜ごと湧き出でる、青き漣を形見として。

 ああ、惜しんでいるんだ――と、びいどろは目を閉じる。その瞼に何かが触れた気がしてふわりと瞼を上げれば、銀色の魚がゆらり、誘うように目の前を行き過ぎていく。
「……うん、そうだね。ボクらも、おどろう」
 今宵ばかりは、ゆめまぼろしの波間に揺蕩う魚たちと。纏う鱗を光らせて、連れる鰭を躍らせて、うたかたの波間に漂いにいこう。
 揺らした杖に導かれ、電子の海から仮初の海へ。桃色海月の双子たちと一緒に、びいどろはふわりと宙に浮かぶ。
 過ぎればきっと、この海は瞬きのあいだ。だからせめて、夜が明けるまではこのまま――ふわふわと。

「あの歌、聞こえた? ――素敵な伝説だよね」
 幻の海に淡くその身を色づかせて、タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)はふわりと白く輝く瞳を『持ち主』へと向けた。繊細なるかんばせの娘、リチュエル・チュレル(星詠み人形・f04270)は鷹揚に頷いて、淡い彩刷いた唇を開く。
「砂漠に海、ねぇ。幻とはいえスケールのデカい魔法だぜ。海の底を歩くってのは、こんな感じなのかね」
 思いがけず豪快な言の葉に、擦れ違う人が思わず振り返る。常のことなのだろう、占い人形の娘はまるで意に介する様子もなく、藍の瞳にきらきらと、過ぎゆく魔力の魚を映していた。
 否――違う。リチュエルの周囲を揺蕩うその魚は、空を泳ぐ機械人形だ。身をくねらせて悠々と魔力の波を越えゆくものに、リチュエルは笑みを浮かべる。
 ――アロワナの形に生まれたからには、一度くらいは水の中も泳いでみてぇだろ? なぁ、ポワレ。
「綺麗なもんだな。……ま、実際の海はこんなに賑やかじゃねぇだろうけどな。……って、うわ、なんだこれ」
 舌に乗せた途端、しゅわっと弾けるライチソーダ。紅茶ばかりのリチュエルにはなんとも目新しいものだ。恐る恐るもうひと口、次いでひと口と運ぶ様子を見るに、不味くはなかったらしい。
「ふふ、美味しいね。……ところでリチュ、君はどんなショールを選んだの」
「オレ? オレはこれ。ほら、お前の目にそっくりだぜ、タロ」
 淡い星の煌めきを鏤めたような、艶やかな白の繻子をふわり、被ってそんなことを言う。ぱちりと瞬いたタロの瞳に、確かによく似た虹の彩が躍って――綻ぶ。
「そうか。僕も、これを選んだんだ。持ち主である君の彩」
 細やかな金をところどころに織り込んだ、藍色の繻子。彼女の瞳を覗き込んだときと同じ、きりりと晴れた夜空を映した水面のような。
 満更でもなく笑む主と共にひらり、色を纏えば、お代わりはどうかと誘いの声が掛かる。有難く冷たい雫を受け取って、タロはね、とその人へ問いかけた。
「伝承の話を聞かせてくれる? 気に入ったんだ、登場人物が皆、楽しそうで」
 水が貴重な砂漠の地に、この景色を描いた罪なき悪戯も、それを受け容れ楽しむ町の人々も。好きだとふわり笑うタロに、配り手の青年は誇らしげに目を輝かせた。
「ええ、俺達も大好きですよ。そりゃ姫様方の時代の人は吃驚しただろうけど――俺達にはもう、生まれた頃から当たり前にある光景ですから」
 だからといって慣れることはないのだと破顔する。そこに透ける故郷への、物語への愛着に、タロがいっそう笑みを深めたとき、ふと、
「……それにしても、この規模の魔法が今も残ってるってのもすげぇよな」
 ぽつり、呟くリチュエルに、思いがけない答えが返る。
「それはこの地ならではのことだそうです、お嬢さん」

 ――話に曰く。
 この地で大がかりな水の幻を生むにあたって、魔力の源とされたものは、やはり水であったらしい。
 渇いた砂漠であれ、地下深く水は眠っている。それを汲み上げて作られた集落が砂漠には点在しているが、中でもこのオアシスに連なる水脈は、彼方の霊峰の魔力を地下水に溶かして運んでくるのだという。
 いかに魔術に長けた姫達であったとはいえ、ただびとの身には操り切れぬ大きなまぼろし。ならばこの地に満ちる力を借りればいいと、そうして編まれたのがこの海なのだと。

「……なるほどねえ。千日の魔力を集めて、ようやく顕現する幻ってわけか」
 壮大だなとひと息笑って、リチュエルは戻ってきたポワレを撫でた。幻の魚たちに学んだものか、泳ぎの腕も上がって見えたのは気のせいか――。
「あっ、輪踊りが始まりますよ。お二人もどうです?」
 青年の誘いに、二人は顔を見合わせる。踊ったことなどないのだけれど、と言葉に詰まるうちにも、わっと集まっていく人の波に背を押され、手を引かれ、あっという間に渦の中。
 鮮やかな鰭の躍るさまを、楽しそう、と眺めはした。けれど今、
「……ああ、これは――楽しい、ですね」
 見様見真似で動かす体に、笑みが零れる。それはリチュエルも同じこと。
 笑う声すら輝くよう。こぽりこぽりと生まれる泡が、月灯りを目指してゆらゆら揺れ咲いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
そうだな…なかなかに型破りで、面白い
勇者一行とは中々に破天荒な者達だったのやも知れぬな

といっても…舞踏など、これしか知らぬぞ
弧描く短剣のひとつを師へと放って
淡い虹の輝く黒真珠色の繻子を
適当に襟元に纏って後ろへ流す

幻の魚を潜って打ち合わせた刃に小さな火花
黄金冠した宝石を離れては追って
影のように、けしてその身を掠める事のないように
すり抜ける魚の鰭に、藍の流れに合わせ
かりそめの海底を戯れ游ぐ

収めた剣の代わりに
今度は飲み物を持ってくるとしよう
泡昇る海の一掬いを其の手に

師父の魔術師の血が騒ぎそうな
月と影の双子が遺した、まるで約束のような魔法は
一体どこから生まれているのだろうな


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
っく、ふふ…どうやらその双子は
余程のじゃじゃ馬娘だった様だ
千夜に一夜の物語――よし、興が乗った
双子が成した幻の海
確とこの目に刻むとしよう

私とジジ、二人揃えばする事は決まっておる
お前も踊りの心得ならばあろう?
頭には金の飾り踊る薄布を
星を纏うかの如き繻子に身を包み
――さあジジ、剣を
短剣を鞘から抜き、一振り
…うむ、悪くない
奏づる調べに合せ剣舞を披露
決して鋒が奴の身に触れぬよう
時には剣を交わせて
中々に出来るではないか、ジジ

演舞終了後、観客へ礼を
打ち鳴らす泡踊る一杯で喉を潤したならば
折角だ、件の双子の話を聞くも一興か
…ふふ、二人が用いたとされる魔術が気になるもので

*従者以外には敬語


冴島・類
随分華やかな魔法の夜だ!
海は好きだけれど
あまり泳ぎは得意じゃない
この祭りなら
幻に揺蕩えて
一夜の夢のようだろうね

浮き足立った人々が奏でる音にうきうき
青に沈む光景を見上げ
折角だ飲み物は…エールをと言いたいとこだけど
見た目で駄目な場合が多いんで
炭酸水をいただき
踊る町の人に声をかけてみる

皆とても楽しそうに踊ってらっしゃる
此処に伝わる踊りがあれば
教えていただけませんか?

教えていただけたなら
共に踊ってみましょうか
瓜江、君もだ
店先で選んだショールは
ひとつは彼の腰に巻き
ひとつは、土産にしよう

舞いながら、彼の手を踏み台に
宙をくるり

とりどりの彩が鮮やかだ
目に魔力を集中したら
姫様達の魔力の残滓を
感じられたら良いのに



●魔法の潮流
「っく、ふふ……」
 町に溢れる双子姫の物語といえば、悪戯話ばかり。
 ――たとえば、付近の砂漠の砂をピンク色に塗り替えてしまっただとか。
 ――あるいは、未熟な果物の色を染め変えて、齧った人に渋い顔をさせただとか。
 ――はたまた、町を脅かした盗賊団を、幻術の宝石で誘き寄せて二人で引っ括ってしまっただとか。
 ああ愉快だったと肩を揺らして、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は弟子を振り仰ぐ。
「どうやらその双子は、余程のじゃじゃ馬娘だった様だ」
「そうだな……なかなかに型破りで、面白い」
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)もふ、と潜むような淡い笑みを唇に上らせ、ゆらゆらと月光を歪ませる青き水空を仰ぐ。
 勇者一行と聞けば、使命が為に堅く実ある歩みを進めたものと思いがちではあるけれど、
「中々に破天荒な者達だったのやも知れぬな」
「ふふ、物語とするならばそれくらいの方が面白かろう」
 或いは、質実剛健たる勇者たちを困惑させるほど、鮮やかな娘たちであったのかもしれない。
「千夜に一夜の物語――よし、興が乗った」
 今宵はその一紡ぎとして。お前も踊りの心得ならばあろう、と問うアルバの眼差しに、弟子は静かに瞬き、けれどその意を正確に汲む。――投げ放たれるは金の短剣。
「舞踏など、これしか知らぬぞ」
「それで充分。――さあジジ、おまえも剣を」
 ぱしりと掴み取れば、美しくなだれる髪を彩る薄布の裾、金の縁飾りがしゃらりと歌った。輝石の欠片躍る月色の繻子をふわりと戦がせれば、鞘から抜き放つ銀刃がしゃんと澄んだ音を奏でる。
 答えに代え、閃かせるは銀の短剣。黒に沈む静かな瞳には遊びがなく、何事かと息を詰め輪をなす人波は、
「うむ、悪くない。……参るぞ、ジジ」
「ああ、何時なりと」
 光を弾いて躍る剣戟に、すぐにわあっと歓声を生む。
 どこからか遠く、水に撓んで届く調べ。律動を掴み繰り出す一閃は即興ながら、その鋩が互いの身を掠めることはない。
 退いては踏み込み、躱しては跳ね、離れては追う。
 眼差しが届かなくばその息を、それすら読めぬなら経験を。積み重ねた日々が紡いだ阿吽の呼吸に、剣はかろやかに舞い踊り、絆は戯れ游ぐ魚と映る。
「ははっ――中々に出来るではないか、ジジ」
「――!」
 弧を描き飛ぶ金剣に銀剣の弧を合わせたら――次の一瞬、互いの手の内に。息詰めた人々の喝采にふと、零したジャハルの安堵の息に、黒真珠の煌めきを紡いだ襟元の繻子がふわり、揺れる。虹の彩が閃き、撓む。
 きん、と高く静かな剣たちのひと声を最後に。鋒を収め恭しい礼を取れば、観衆の拍手に湧き上がった銀泡の群れが、一斉に空へと奔る。
「ふふ、有難うございます。――この息が収まるいとまに、さて……双子の姫の物語など、御聞かせくださる方は?」
 対価にはもうひとさしと微笑むアルバの横顔に、ジャハルは密やかな笑みを零す。――かの姫達の物語は、師父の魔術師の血を騒がせてやまないようだ。
「すまない。町の中で飲み物が貰える場所はないだろうか」
「ああ、それならあっちだが……これを飲みな、まだ手をつけちゃいない。好いものを見せて貰った礼に受け取っとくれ!」
 気の良い男に押し付けられた杯は、十分にひやりとして。手渡す海のひと掬いに、立ち昇る泡がアルバの白い喉を流れゆく。何とはなしに眺め居れば、輝く眼差しにお前も飲まんかと咎められ、ジャハルはするりと海を呑み込んだ。眼差しは自然と彼方の空へ向かう。
 月と影の双子が遺した、千夜に一度の約束のような魔法。
「……一体どこから生まれているのだろうな」
「御存知の方はおられましょうか。ふふ、二人が用いたとされる魔術が気になるもので」
 余所行きの微笑みにジャハルが吐息を零せば、ああ、と住人たちが笑う。
「それは誰も知らないんだ。ただ、魔術に長けた者なら察せられるとかいうけれど」
「――それは?」
 泡を含んだように好奇に輝く眼差しに、人々の答えることには。

 ――この魔法の海にうねり流れる潮流こそは、紡がれた魔力に外ならない。
 何が礎となっているかは誰も知らないけれど。
 魔法を佳く解し、その流れに鼻の利く者なれば――薄らと香るその流れを辿ることも、叶うかもしれないと。

 愉しげに口の端上げたアルバの意志が、波打って伝い来るようだとジャハルは思う。
「……往くのだろう?」
 従者の問いに問うまでもないと答える、少年のような眼差し。やれやれと零す吐息で水泡を作ったジャハルの唇は、裏腹の微かな笑みに彩られていた。

「――ああ、随分華やかな魔法の夜だ!」
 海は好ましくも、泳ぐとなれば得手とは言い難い。けれどこの幻の中ならば、いつまでも揺蕩っていられる。
 思わずぐん、と空満たす幻の水へ伸ばした腕に、おっと、と慌て、冴島・類(公孫樹・f13398)は右の手を引き寄せた。杯の中に躍る泡が、その振舞いを笑うようにしゅわしゅわと歌っている。
「こんばんは、旅の方。海の雫の味はお気に召しましたか?」
「ああ、勿論です!」
 掛かる声には自然と笑みが添う。皆とても楽しそうに踊ってらっしゃる、と微笑む類に、そうでしょうと町の娘はころころ笑った。
「こんな美しい夜はありません。姫様方の魔法の海を楽しみに、皆千夜を待つんです」
「そうなんですね。――此処に伝わる踊りがあれば、教えていただけませんか?」
 これと定めた踊りなんてありませんけど、とまた笑って、娘はゆらりと手を波に躍らせる。細腕に繋がれた淡いみどりの繻子が目の前を過れば、あら、と綻んで、
「――あなたの瞳と同じ色ですね」
 そう言われるくすぐったさには照れ笑い。瓜江の腰にふわりと撒いた鮮やかな橙の鰭を直してやれば、ぎこちなくも二人の動きを真似る仮面の相棒にまた笑って、駆け上がる泡沫のまぼろしを生む。
 弾むこころに抗えず、繋ぐ赤糸に意を汲んで、差し出される瓜江の手を借りる。高くひらりと一回転――体の下をすり抜ける魚たちと、海に抱かれる心地に、ああ、と目を細める。
(「なんて――鮮やかな」)
 土産にと選び腰に結わえた繻子ひとひらも、海底の気配ごと包み込んで揺れていた。
 教えてくれた人と手を振り道を分けたあと、何気なく仰いだ空に目を眇める。四肢から瞳へ、巡る魔力を集めて視たら、姫君達の魔力の残滓が視えはしないかと。
 それはささやかな思いつきだった。けれど、ふと視界に煌めいたいろに、類は瞬く。
 頭上にうねり駆ける、潮の流れ。そこにうっすらと、ついては離れ、絡んでは解れる月と影のふたいろ。
 あれは、と瞬きの間に、絹糸のような彩りは掻き消える。
 そっと結んだ掌を胸に当てたまま、青年は動かなかった。――心に跳ねるなにかを確かめるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『手癖の悪い蒐集家』

POW   :    逃げる宝石トカゲをひたすら追いかける。

SPD   :    罠を仕掛けたり巣まで追跡する。

WIZ   :    宝石トカゲを誘き寄せる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●月影の内緒話
 ――それは、町に伝わる物語のひとつ。
 千の夜をいくつも遡った、月の美しいある夜のこと。
 このオアシスの命である、水源を守るための場所。領主とそれに連なるものしか、踏み入ることを許されない禁足地。
 水の流れは影もかたちもない、石彫刻と緑の庭。けれど確かに水音が耳奥を打つ不思議な場所で。
 双子の姫君は、宝石のような大きな瞳から大粒の雫を零す。
 水音に潜ませたささやきを、互い以外に聞き咎めるものはいないから。手を取り合って、ふたりは誓う。
 
 ――いつか幾千の夜を越える海を作りましょう。こんな嵐の日はきっと、誰の前にも訪れるから。
 ――いつか幾千の夜毎に蘇る海を作りましょう。こんな荒波の日を越えて、きっと誰もが笑えるように。
 ――嗚呼、だけど、今夜だけは構わないでしょう、ルトラ?
 ――ええ、ええ、構わないわハトラ。私と貴女しかいないのだもの――。

 砂の海へと還った母を悼んで、慈しんで。
 わあわあと少女のように泣き濡れた娘たちは、揺れる瞳に光を灯す。

 得意の魔法はふたりで磨き。
 霊峰の魔力を湛えて流れ込む水に、力を借りて。
 それだけでは足りないなら――そう頷いて、双子の姫君はふたいろの身を飾る装飾品を空に浮かべた。
 風の魔法に切り裂かれ、星のように細かく散らされた欠片たちは、この町の民へ。
 彼らが纏って踊るたび、きらきらと笑うたび、魔力はそこへ宿るだろう。なぜなら、

 ――宝石と笑顔は魔法だと、母様は仰ったわ!
 
 声を合わせて、ふたりは笑う。泣き濡れた頬はそのままに。
 その姿がふわり、もつれた魔方陣の光の中へ消えて。その先のことは、誰も知らない。
 知っているのは、ただひとつ。
 その海は確かに、ふたりの手によって紡ぎ出されたということ。

 もう嘘かまことかも知れぬ、蜃気楼めいた言い伝え。
 禁足の地に囁かれた秘密を、知るものがある筈がない。そう、心なき者は言うけれど。
 悪戯好きの月影にも、翳りを帯びる一夜があったのだと。
 それを知るものが語った物語なれば、思いがけず真に迫っているのかもしれない。

●掠め取るもの
 人々の口の端に上る数々の物語が、泡となって空に立ち上り、高みの月へ至ったころ。
 一夜の海に沈んだ町を、異変が駆け抜けていた。
 人々の纏う七彩の輝きが。宝石の欠片と繻子の鰭が、次々と消えていく。
 ひとひら、ふたひら、彩りが消えるたび、ひとひら、ふたひら、泳ぐ魚が掻き消える。
 人々が驚き見上げる空、水のまぼろしの中を上る銀の泡まで途上に失せて。
 海の色、潮の匂い――波音までもが薄まって、彼方の星は揺らぎを弱め、はっきりと瞬きはじめて。
 ――夜明けを待たずに魔法が終わる?
 ――そんなこと、これまでに一度だって。
 奪われた繻子よりもそのことが、人々の心を揺るがしていた。

 けれど、ただびとならぬ目を持つ猟兵たちには、視えていた。
 目にも留まらぬ速さで人々たちの鰭を抜き去っていく、無法ものたちの姿が。
 頭上を泳ぐ魚たちとは異なる、砂色の鱗のところどころに、輝石の輝きを覗かせて。
 それでは足りぬとばかりに、奪った色を身に巻き付けて、人波を俊敏に駆け抜けるもの。
 それは子供ほどの背丈を持ち、二足で駆けるトカゲたち。 
 きろりと強い眼光は、人々の笑みの魔力を宿した輝きを、目利き確かに見抜いていく。
 だが、そうと知れたからには黙っている猟兵たちではない。

 紅き月のハトラと青き影のルトラ。
 ふたりの残した不思議を終わらせないため、無法者たちを追いかけて、猟兵たちは魚たちとともに町を馳せる。
 けれど、命までは奪うまい。
 ただ、今は――皆で笑って、笑わせて。満ちる魔法で幻の海を喚び戻す、希望の物語を紡ぎ出そう。
 トカゲたちが奪うその先には、満ちる魔法が揺らいだ『理由』が待ち受けている筈だから。
フランチェスカ・ヴィオラーノ
ソアラくん/f18166と

何が起こったのかわからず呆気に取られちゃった
私が見てたのはどっちかっていうと悪夢だけど
魔法が解けるのは寂しいし、泥棒さんは良くないよ
海も鰭も取り戻してあげなくっちゃ!
でも…ソアラくんと一緒じゃいまいち気が進まない

…誤解、ならいいけど(むすー)
楽しく踊れるかなあ
踊り方、しっかり教えてよね?

うん、罠なら張れるよ
きらきらの高級ビーズで飾った罠を設置して

ソアラくんのガジェットって便利だね
私は罠くらいしか作れないから羨ましいな
生活に便利なものとか作れたりする?
ほら、お部屋をお掃除するやつとか!
うちのメイドさん、今足りてなくて忙しそうなの

話している内に徐々に機嫌を取り戻す


ソル・アーラ
愛しのフラン先輩/f18165と!

まさか海の方が消えかけるなんて!
折角のお祭り…そして先輩とのデート(※先輩にそのつもりはありません)をこんな事で中止にさせてたまるもんか!

って、いい加減機嫌直してくださいよー
ホント誤解ですから!
海が喚び戻されたら今度こそ、心から楽しく踊ってもらいますからね!(ニカッ)
勿論ですよ!

トカゲ達は繻子を狙ってるんですよね?
だったら沢山レプリカを集めておいて罠を張りましょう!
先輩、そういうUCありましたよね?
もしかしたら宿った魔力も感知しているかもだけど…俺達の本物も混ぜておけば!
ヤツらが繻子を狙ってやってきたら、俺が投網を発射するガジェットで捕まえてやりますよ!



●笑顔と宝石
「……な、何が起こったの?」
 肩を怒らせ人波を掻き分けゆくフランチェスカの足も、町に広がる動揺を察して思わず止まった。
 銀色の泡と魚たちの光が、夜に褪せていく。
 夜空の月と星の瞬きは、それは美しいものではあったけれど。――きょう、千夜に一夜のこの夜に限っては、華やかな魔法とは比ぶべくもない。
 きゃっ、と上がった声に素早く視線をやれば、次の悲鳴が小さく上がる。腰や腕を彩る繻子の鰭を奪われて、茫然とする人たち。その傍らを駆け抜ける土色の影を、鮮やかに輝くフランチェスカの瞳は見逃しはしなかった。
 そして、奪われた彩りとともに一匹、二匹、消え失せる魚たち。
「魔法が解けるのは寂しいし……泥棒さんはよくないよ。海も鰭も、取り戻してあげなくっちゃ!」
 ――待ちなさい! 叫び駆け出すフランチェスカに、目映い太陽の色がいつしか並ぶ。
「まさか海の方が消えかけるなんて吃驚ですけど……! 手伝いますよ、フラン先輩っ」
 追いかけるんですよね! と邪気のないソルの笑顔に、フランチェスカはぷいっと横を向く。
「なによソアラくん。私まだ怒ってるんだからね」
 ソアラくんと一緒じゃ気が進まない! ――なんて顔を背ける間に、姿を消そうとする素早い影。ソルの慌て声がそんなあ、と懇願する。
「いい加減機嫌直してくださいよー、ホント誤解ですから! ほら、あいつ……トカゲが逃げちゃいますよー!」
 むう、とまだ唇を尖らせつつも、少女はアルダワ学園生の本分は忘れない。いまいち気が進まないけど――と言いながら、追う足は横道へ素早く回り込んだ。
「どうすればいいの?」
「トカゲ達は繻子を狙ってるんですよね。なら――先輩、沢山レプリカを集めておいて、罠を張りましょう!」
 そんなユーベルコード、ありましたよね? 微笑むソルをちろりと睨むのも忘れずに、フランチェスカはフックを投げ放つ。狭い路地の空へジグザグに張り巡らされたロープを、持ち替える魔導書から溢れ出した色がふわりと覆った。
 きらきら輝く魔力のビーズを鏤めたショールのレプリカは、本物と遜色ない煌めきで狼藉者を引きつける。けれどその煌めきは――罠。
 飛び込んでくるトカゲの頭に絡みついたショールは、視界を覆って解けない。薄布といえど、夜闇に沈みつつある町の中で、敵の視界を奪うには充分だ。
「さすがです、先輩! よーし、俺も行きますよ……!」
 ガジェットがソルの両手の中でがしゃん、と音を立てる。発射された弾丸は空中で弾け、薄い金属の殻を割り飛び出した網が、トカゲを絡め取る。
「やった……! やりましたねっ、フラン先輩!」
「うん、やったね……っと」
 思わずぱあっと咲きそうになる笑みを慌てて堪えつつ、フランチェスカは後輩の手にある蒸気機関銃を興味深げに眺めた。
「ソアラくんのガジェットって便利だね。私は罠くらいしか作れないから羨ましいな」
「! フラン先輩に褒められた……! 今日はなんていい日なんだろう!」
「……もう、ほんと大袈裟なんだから。ねえ、生活に便利なものとか作れたりする? お部屋を掃除するやつとか!」
 交わす言葉はいつの間にか、いつものふたり。ふふっ、と零れた笑い声と、取り戻したショールの飾りの魔力に呼応して、ぱちん――ふたりの上方に銀色の泡が弾ける。
「! あっ、魚……!」
「笑顔の魔力っていうのは本当なんですね! これもフラン先輩の笑顔が眩しいから……、……あっ!?」
「ど、どうしたの?」
「トカゲが――」
 ソルの手の中、だらりと力なく垂れ下がった網にかかる獲物はない。――逃げたのではない、消えてしまったのだ。
「どうして……実体がなかったってこと?」
「分かりません、でも……魔力は取り戻せたみたいだし」
 傍らの魚をつん、と突いて、ソルは考え込む。
「捕まえて親玉のところに案内させるのは難しそうですね。海を元に戻しながら追いかけましょう!」
 この夜にこのまま終わってもらうわけにはいかないのだと、少年は笑う。だって、
「海が喚び戻されたら今度こそ、心から楽しく踊ってもらいますから。ね!」
「今度は楽しく踊れるかなあ。……踊り方、しっかり教えてよね?」
「勿論ですよ! でも、まずは……!」
 またひとつ、無法者の気配が頭上を走り抜けた。頷きと笑顔を交わし、追いかけていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ソラスティベル・グラスラン
―――許しませんっ!!

幻想の魚と共に飛んでいたわたしは、
そのまま【空中戦・ダッシュ】でトカゲさんたちを追います
人波の上、輝きを失った空を高速で飛翔
トカゲさんたちの動きを【見切り】彼らを捕まえます!
上空からの急降下、彼ら目がけて飛びかかり
足りないならば【気合】と【勇気】で補いますっ!

双子姫と幻想の海に関わる伝承を聞きました
あの海は、幾千の夜を越え受け継がれてきた夢
双子の姫が人々を想い残した幻想、全ての翳りを洗い流す希望の海!

なぜ海が消えてしまったのかは分かりませんが…
少なくとも貴方たちが何かに関わっているのは分かります!
こんな形で夜明けは迎えさせません、人々から鰭を奪う理由を教えて貰いますよぉ!



●終わりは遠く
「――許しませんっ!!」
 こころの中に輝く星のような正義感が、全身から迸る。
 共に泳いでいた魚のひとひらが目の前から消失すると、ソラスティベルは即座にその理由を地上に求めた。翼を畳み滑空していく、その行く手に次々と上がる小さな悲鳴。
 ――その先に、見えた。
「……貴方たちですねっ!」
 勢いよく地に組み伏せたトカゲの一匹が、馬乗りになったソラスティベルの下でふわり、消え失せる。
「むむっ、消えてしまいますか……! いいでしょうっ、それなら追いかけるまでです! すみませんがっ、こちら、持ち主さんたちに返してさしあげてくださいっ!」
 奪り返した美しい鰭たちを何事だと見守る人々に託せば、持ち主らのものだろう、歓声がソラスティベルを追いかけてくる。ありがとうの声に振り向くと――戻った笑顔のそばにふわり、光の魚が蘇ったのが見えた。
 手を振って笑い返したら、笑う自分の傍らにも大きな魚影が寄り添って――やっぱりそうだ、と前を見る。笑顔と宝石、それが人々の手に戻れば、魔法の海は蘇る。まだ、維持できる。
 ――双子姫と、幻想の海。そのなりたちを語る伝承をソラスティベルも耳にした。それは悲しい夜を越え、思いを昇華させる術だった。いつもどおりの悪戯に、切なさと優しさをほんの僅か、混ぜ込んだ。
 その海が今、消えかけている。理屈はわからない、けれどあの奇妙なトカゲたちが関わっていることは、明白だ。
「この海は――幾千の夜を越え、受け継がれてきた夢です! 双子の姫が人々を想い残した幻想、全ての翳りを洗い流す、希望の海!」
 息を切らして駆け抜けるソラスティベルの口上に、過ぎ行く人々の頬には柔らかな笑みが浮かぶ。小さな銀色の魚たちが、傍らに光を燈していく。
 そう、こうやって笑い合うための魔法なのだ。夜通し踊って、華やかに訪れ来る『明日』に目映く照らされるまで。――だから。
「こんな形で夜明けは迎えさせません、人々から鰭を奪う理由を教えて貰いますよぉ!」
 奪われる魔力の源を一枚、また一枚と取り返しながら、ソラスティベルは駆けるのだ。その『理由』に追いつくまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナミル・タグイール
きらきらいっぱいー…全部ナミルのにゃー…(泥酔猫)
…にゃ?なんかキラキラ盗んでるやつがいるにゃ?
ナミルも盗みたかったけどお祭りだから我慢してたのに!悪いやつにゃ!
懲らしめて盗み返してやるマスにゃー!
UCを使ってジャラジャラしながら待機にゃ。
ナミルの輝きに寄ってくれば楽勝なんだけどにゃー
来なかったときのためにビビっときた輝きを見張っておくにゃ。金ピカ以外もチェックにゃ。
敵もキラキラ好きならきっと盗みたくなるようなものも同じにゃ!きっと盗みに来るにゃ!
盗むのが見えた瞬間にまっはで飛びかかって確保デスにゃー!
そのキラキラはナミルの…じゃなくてこの人のにゃ!返せにゃ!

何でも歓迎



●欲望は弁えて
 ――その頃、広場では。
「きらきらいっぱいー……うふふ、全部ナミルのにゃー……」
 石作りの階段に転がって、熱い頬をひんやり冷たい石段に擦り寄せて。金色の爪先で虚空を漂う光の魚にうふふうふふとじゃれながら、泥酔に身を浸していたナミルは、にゃっ、と瞬きをした。
「魚が消えちゃったにゃー……!?」
 触れることも捉えることも叶わないけれど、消えることなくナミルと戯れていた魚たち。それが、ふつりと消えて。くらくら揺れる視界にその向こうを捉えれば――何やらざわめく人々の中に、彩りを奪って駆けるもの。
「……なんかキラキラ盗んでるやつがいるにゃ? むっかー、デスにゃ!」
 お祭りだからナミルだって我慢してたのに――ああ、なんて悪いやつ!
「懲らしめて盗み返してやるマスにゃー! さあ、じゃらじゃら幸せ盗みに来るがいいデスにゃー!」
 二色の瞳がぎらりと輝く。足は酒気に取られよろよろり、けれどそれが全身に纏う黄金の装飾――呪いに満ちた輝きを揺らし、人波の中でひときわ目立たせる。その禍々しい魔力の気配に引き寄せられて、何も知らないトカゲは素早くナミルに襲いかかる――けれど。
「ふふん、引っかかったのにゃ! まっはで確保デスにゃー!」
 泥酔中とは思えぬ機敏さで、大きな黒猫が飛び掛かる。自分の下にぺたりと敷き込んで、じたばたするトカゲからショールを引っぺがし、ナミルは鼻息を荒くする。
「そのキラキラはナミルの……じゃなくてこの人たちのにゃ! 返せにゃ!」
 奪り返したショールにわあっと上がる歓声。そのさざめく声が喚んだかのように虚空を躍り回る小魚の群れを、ナミルは瞳にきらきら映す。
「……ん? あれ、トカゲ消えちゃったデスにゃ……」
 体の下の抵抗が消え、すとんと地に座り込むナミル。けれど、彼方に悲鳴が聞こえれば――この海に、悪党たちがまだいることはお察しだ。
「気持ちは分かるけどにゃ……分かるから許せないデスにゃー! ナミルが我慢してるんだから、お前たちも我慢するデスにゃー!」
 欲望だだ漏れの――けれどこの夜を弁えた正義感に動かされるまま、ナミルはゆらゆらと、遊ぶように駆けていく。
 微笑ましさと感謝にくすくす笑って見送る人々の傍で、また取り戻された魔力がふわり、海の青を深くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)を連れて

ああ? なんかあったみたいだな……
つーか、さっきまで続いてた幻影が消えてるし
おい、ヒメちょっと肩車

あー? あっちのほうで騒ぎおこってるんじゃねェか?
さくっと解決してこようぜ。ほら、あっちだ、あっち
誘導してやっから

ひとの間を抜けて、そのトカゲの姿を見つけたなら追いかけっこ
ヒメ、走れ走れ!
俺楽でいいなこれ……

…追いかけまわしてもなかなか追いつけねェ
俺がのってるからか?
でも、もうちょいだな
追い込めそうなところで、ヒメを踏み台にして跳躍
トカゲの前に回り込んで挟み込む
一瞬留めれば、あとはヒメが捕まえるだろ

蹴られて喜ぶんだよなァ…
肩車はまたされてやるよ


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

何か様子が…?
おう、肩車だな(素直にひょい

與儀、何か見えるか?
…よし、あっちか!
與儀の誘導に従って移動
與儀乗せてるからな
危なくないよう器用に人と人の間すり抜けていくぞ

何かがちょろちょろと…トカゲ?
おう、追いかけるぞ!(速度上げ
…與儀ちっちゃくて軽いからよかったぞ

く、トカゲになんて負けねェ、絶対追いつく!(競争心
って、痛ッ!?(踏み台にされて
でもだてに踏まれ慣れてねェぞ!
すぐに体勢立て直して焔紅葉を放って、動き一瞬止めたトカゲを捕獲だ!
よっしゃ、俺たちの超息の合ったコンビプレイだよなっ(超嬉し気

よし、俺たちの息ぴったりの連携で、次のトカゲ捕まえにいくぞっ(素直に肩車しつつ



●神々の連携
「……? なあ與儀、何か様子が……?」
「ああ? ……ふうん、何かあったみたいだな」
 広がりゆく動揺の気配に、京杜も楽しげに踊る足を止める。片眉を顰めた與儀は、ちらと頭上に視線を走らせた。寄せ来る流れに染め重なった藍色の海は薄まり、人々を照らす魚たちの光も次々と消えていく。
「……さっきまで続いてた幻影が消えてるし。おい、ヒメちょっと肩車」
「おう。與儀、何か見えるか?」
「あー? あっちのほうで騒ぎおこってるんじゃねェか?」
 ――それは先んじてならず者の姿を捉えた猟兵たちの奮闘。よし、と燃えるような京杜の赤い髪を掻きまぜて、與儀は向かうべき方角を指し示す。
「さくっと解決してこようぜ。ほら、あっちだ、あっち」
「……よし、あっちか!」
 少年――の姿をしたものをひとり肩に担ぎ上げながら、その唯一の存在を守るべく在る京杜の身体は揺らぐことなく、器用に人波をすり抜けていく。
「……ん、なんだあれ……すげェカラフルなのが?」
「カラフル? なんだよそれ」
「んー、もう少し近く……なんだ、二足歩行のトカゲか?」
「へ?」
 思わず振り向く京杜の胸をひと蹴り、余所見してないで走れと與儀は急かす。
「ヒメ、走れ走れ! 泥棒トカゲだ!」
「! 泥棒か、おう、追いかけるぞ!」
 肩の上の與儀を庇いつつ、速度を上げる京杜。接近する気配に気づいてか、逃げ出すトカゲとの追いかけっこ。
「俺楽でいいなこれ……」
 しみじみとそう呟いた與儀に目くじら立てるどころか、嬉しげに京杜は笑う。
「……與儀ちっちゃくて軽いからよかったぞ。元の姿なら俺、ぺしゃんこになってたかも」
「はぁ? あのなァ、元の姿なら肩車なんかするか」
「いて、いててっ、蹴るなって危ないだろ!」
 こんな遣り取りをしている故か――そもそもの肩車が原因か。ただびとの目には留まらぬ素早さを誇るトカゲとの距離は、なかなか詰まらない。
「く、トカゲになんて負けねェ、絶対追いつく!」
「んー……俺がのってるからか? でも、もうちょいだな。ヒメ、まっすぐ行かせるな。そこの路地に追い込め、できるな?」
「! 任しとけ!」
 また一段上がる速度に、與儀は口の端を吊り上げる。全速力で追いついた京杜の足がトカゲの進路を阻んだその瞬間、ぐいとその頭を押し肩の上に立ち上がる。
「!? 危な――って、痛ッ!?」
 その程度でこの忠犬が堪えないことなど、知っている。思い切りその肩を蹴り、しなやかな脚で空を切り、くるくると身軽く跳躍した與儀は、路地裏へ誘導されたトカゲの前へ難なく着地する。
「ん? なんだ、お前の相手は俺じゃないぜ」
 そっちそっち、と指し示した後方にトカゲが気を取られた一瞬、與儀は奪われた彩りをばさりと引き剥がす。そこへ襲い来るは、燃える炎と紅葉の彩秘めたはがねの糸。
「――よっしゃ、捕獲だ! 見たか與儀、俺たち超息合ってたよな! すげェコンビプレイだよなっ」
「あーすげェすげェ。……けど、喜ぶのはこれ見てからにしろ」
「これ? ――あっ」
 手応えを失う鋼糸。その内に囚われていた筈のトカゲの姿は、いつの間にか跡形もなく消え去っている。
「……えっ、えっ? 逃げ……た訳じゃねェよな? 俺そんなに強く拘束したつもりは」
「分かってる。……まァあれだ、使い魔みてェなもんだったんだろ。捕まえるんじゃなくて追い掛けねェと駄目か――って、おい?」
 ぐんっ、と突如視界が高くなる。あっという間に肩の上に乗せられた與儀は、眼下の笑顔にはあ、と溜息を吐いた。
「よし、そうと決まれば次のトカゲ追いかけにいくぞっ! 俺たちの連携でこの事件を解決してやろうぜ、與儀!」
「……ったく」
「いってェ!」
 それに異論を唱える気はないけれど。
 いつも通りの苦笑いを零し、與儀はもう一度げしっ、と京杜を蹴りつけた。
 ――これで喜ぶんだよなァ、と呆れ混じりの、愉しげな笑みを浮かべながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛鳥井・藤彦
折角の魔法の海、早う終わらせるのは勿体なさ過ぎるわ。
それに。

「輝きは奪うものと違います。自ら生み出すものや」

魔法の海には敵わんけど、薄まったそれを補うことは出来るかもしれへん。

藤色の繻子をたなびかせ、歌を詠みあげ花鳥風月符を辺りに散らす。
符は鳥の姿を模して風と共に空へ舞い上がり、藤の花へと姿を変える。
藤の大浪が幻の波と魚と合わされば、えらい綺麗な海になると思うねん。
そんで人々の不安をかき消して再び笑顔を、きらきらと輝く魔力を取り戻せるとええなぁって。
僕自身も皆が楽しそうにしてくれはると嬉しいし。

人々の笑顔と魔力でトカゲ達が誘き寄せることが出来たら、藤の大浪に巻き込んで魔法の海へと放流しましょ。


海月・びいどろ
……いけない子たちが、いるね
ひらりと揺らした、この紺碧の尾びれが
彼らを、おびき寄せられると、良いけれど

踊る最中に電子の波間より、海月の兵隊たちを
たくさん喚び出して、おくよ
砂も電子のそれも、偽りの海だけれど
それでも、ほら、しょっぱいの
……どうして、かな

水の魔法で透明な迷彩を纏ったら
目立たないように、情報収集しながら、追跡するよ
いろとりどりの繻子が靡いていたら
失せ物探しで、追いかけっこしよう

きらきら、笑顔も、宝石も
彩りに揺れた尾びれに、さかな
キミたちも、欲しくなってしまったの?

笑うのは、あまり上手くないけれど
見るのは、すてきと思うの
海月たちで囲い込んだら、笑顔も、海も
取り戻さないと、ね



●笑みの花幽かに
「……いけない子たちが、いるね」
 淡い水色に揺蕩う虹のひかり。美しい双眸を微かに眇めて、びいどろはこの地へ手招いた海月の兵隊たちとともに、騒ぎの渦の中心を見つめている。
 踊るように駆け出すさなかも、ふわり、ふわりと増えゆく電子の波間のいのちたち。ゆらり棚引く海月たちの足と、びいどろがその身に纏った紺碧の鰭とはまるで揃いのようだ。
「……そう? そうだね、ここも……幻の、偽りの海だけれど」
 潮の匂いは漂うけれど、その味はない。不思議そうに漂う海月たちと交信しながら先を目指すびいどろは、ふと気づく。背後に素早く接近してくる、自分たちとは違う生きものの気配に。
 水の魔法に身を包み隠せば、不意に消えた輝きに惑う様子の盗人トカゲ。色とりどりの繻子を見に帯びて、ひらひらと駆けゆくさまは不思議と人々の目には入らない。これもまぼろしみたいだと、夢の続きのような心地でびいどろは続く。
 笑顔も、揺れる尾びれの宝石片も――頭上のそらの魚たちも、すべてはきらきらと輝いて、美しく瞬いていて。
(「――キミたちも、欲しくなってしまったの?」)
 土色のからだに持つ宝石の鱗、ごく僅かなそれだけでは足りなくなってしまったのだろうか。声にして問い掛けることはない、応える声も相手は持たない。
 この地でオブリビオンとして出会ってしまったのなら、語らう手はひとつしかないから。知らぬ間に自分を包囲していた海月兵たちにトカゲが大きな眼を瞠ったとき、びいどろは纏う輝きともども、相手の前に姿を現した。
「笑顔も、海も、取り戻さないと、ね。……笑うのは、あまり上手くないけれど」
 ――誰かのそれを、見るのはすてき。
 奪い取られた魔法の欠片を海月たちに取り戻させながら、そう呟いた少年の顔には、苦手だという微笑みが確かにふわり、淡くあわく上っていた。
「そうやねぇ、折角の魔法の海、早う終わらせるのは勿体なさ過ぎるわ」
 折角絵になりそうな話やのに、まだ描けるほども堪能していない――と、飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)は辺りをくるり見渡した。青に染まりそうな白い衣がふわりと靡く。
「それに。輝きは奪うものと違います。自ら生み出すものや」
 さて、ここからどんな絵を描こうか。儚く消えゆこうとする漣に藤色の繻子を靡かせて、藤彦は目を閉じる。
「――『恋しけば形見にせむと我がやどに 植ゑし藤波今咲きにけり』」
 その声は凛と波を伝い、辺りに散らした花鳥風月符を包み込んでいく。たん、と片足を踏み出した瞬間、符は白き鳥のかたちをとり、一心に空を目指す。柔らかな風に巻かれるうちに、咲いて零れて綻んで――降る吹雪は、藤のいろ。
 花で彩られた大浪がざわり、海流と混ざり合う。薄く溶けゆく海の色に、その夜明けにも似た不思議な色はやわらかく混ざり合って、人々の笑みを呼ぶ。歓声を呼ぶ。
 そうしてそれは、『魔法』を紡ぎ直すのだ。深くも鮮やかな青に染め直されて、人々の笑い声を銀の泡に変えて――輝く魚すら生みなおして。
「……ん、ええ感じやね。少しは不安、消えたみたいや」
 きらきらと並び輝く笑みが、謂れの通りに魔法を紡ぐ。その強い気配に誘われて、ふらり寄り付いたならず者たちには容赦はしない。
「あんたら、捕まえたら消えてまうんやね。泳がせて様子見るんも悪くないけど……僕はもう少し、この綺麗な海を見たいだけやから」
 藤の大浪から、魔法の海へ――そして行きつく先は骸の海へ。
「放流しましょ。最後にとびきり綺麗なもん、魅せたるから」
 にこりと微笑み、青年はふたたび符を手にした。淡く発光するそれを扇のように、舞い踊るように巡らせて、花々へ移りゆかせる。
 尽きゆく気配から生まれ直した藤色の魚に目を細め、藤彦は穏やかに、その成り行きを見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
アオイ(f04633)と

宝石と笑顔は魔法。
それは本当にその通りだと隣の女性を見て思う。
彼女の笑顔を見る度に魔法のように自分の世界は彩られる。
自分の胸にある青い宝石のブローチも彼女から貰った魔法の一つだ。
トカゲに盗られてはたまらない。
先手を打とう。

UCで偽物のブローチを作る。
自分で作った偽物といえど目の前で持っていかれると腹が立つ。
「後で締め上げるから覚えとけよ」
彼女の鳥籠がトカゲを捕獲するのを眺めると
なんだか羨ましくなりトカゲに「ちょっとそこどけや」と言いたくなる。
彼女に捕まえられてみたい。
自分の幼い願望だった。

もう少しだけ海の中で踊ろう。
彼女の瞳から悲しい宝石が零れ落ちる事の無いように願う。


アオイ・フジミヤ
シンさん(f04752)と

街の人達の笑顔は奪わせたくないね
捕まえよう!(彼に向って笑う)

彼の色は奪われたくないので
月色の繻子は翡翠色のリングにしっかり留めておく

ブローチが生まれるのを見て思わず拍手
すごいすごい!魔法使いみたいだね、シンさん
泥棒蜥蜴たちを捕まえるためなのについつい楽しくて笑ってしまう

蜥蜴が来たらUC発動
虹を七色の鳥籠の形に具現化して彼のブローチと一緒に閉じ込めよう
柔らかい鳥籠だけれど逃げれないよ

出逢ったときから本当は知っている
いつも私を笑顔に、幸せにしてくれる力を持っている
彼は私にとってかけがえのない魔法使いだということを

笑顔が魔法って本当だね
うん、踊ろう
ずっとあなたの傍に居たい



●君は魔法使い
「――大変。街の人達の笑顔は奪わせたくないね」
 捕まえよう、と華やかな笑みに瞳を輝かせるアオイに、否がある筈もない。頷いたシンは、自身の胸に輝く青い石に触れていた。
 魚たちの光を失いゆく町で、翳ることないアオイの笑顔。彼女自身は人々のそれを守りたいと言ったけれど、シンにとってはアオイの笑顔こそが真に守りたいものだ。
 思い出すのは、伝え聞いた双子姫の物語、その一節。
『――宝石と笑顔は魔法だと、母様は仰ったわ!』
 それは真実だと青年は思う。傍らに在るアオイの笑顔を見る度に、自分の世界は魔法のように染まるのだ。
 そして、かたちを持つ魔法のひとつがこの胸の宝石。彼女から贈らる絵歌大切なブローチを、トカゲなどに盗まれてはたまらない――。
「シンさん?」
「ああ、何でもありませんよ。――それより、これを」
「……わあ! すごいすごい! 魔法使いみたいだね、シンさん」
 青年の手によってたちまち生み出されたブローチのフェイクに、見比べるアオイの瞳が一層輝く。
 それは泥棒トカゲたちを捕まえるための罠――手品や魔法のような、楽しげなものではないのだけれど。それでも子供に返ったかのように、アオイの心は弾む。彼と居るときはいつもそうだ。
「! ……――あ、魚が」
「あなたの笑い声が魔法を取り戻したんですね」
「ふふ、そうかな」
 泳ぎ来る光にちょんと触れるふりしたその指先で、アオイはふわりと七彩を描く。虹の霧はそうと知れぬほどに拡散し、消えゆきそうな青の中に色を潜めた。――そこへ、宝石目掛けてやってくるならず者の姿。
(「――自分で作った偽物といえど……彼女がくれたものを」)
 迷いなく手を伸ばす様に怒りを覚えつつ、自身に言い聞かせる。捕らえた相手を締め上げるのは、後からだ。
 奪った繻子に身を飾る奇妙なトカゲが、偽物の宝石を掴み取った――途端、拡散していた虹の粒子がそこへ集い、大きな檻を創り出す。
「ふふ、どうかな? 柔らかい鳥籠だけれど、逃げられないよ」
 悪戯をする子どもめいた無邪気な笑みで、檻の中のトカゲを覗き込むアオイ。万が一にもあのならず者が彼女を傷つけることがないようにと見守りながら、シンは口にはできない複雑な思いを胸に抱いていた。
(「……彼女に掴まえられてみたいのは、私の方だったのに」)
 幼い願望をこうも易々と叶えられるなんて――そう思うと、言い知れない羨望が込み上げて、
「! アオイ、あれを」
「え? ……あっ」
 おかげで事態に気づくことになった。逃れられない筈の虹の檻の中、トカゲは跡形もなく消え去っている。残されたものは、シンの作り出した偽物のブローチと、トカゲが纏っていた人々のショールだけ。
「……でも、魔法は少し戻ったみたい」
「ええ。取り戻した分だけ……ということでしょうか」
 空気に溶かすように虹の檻を消したアオイの傍らに、興味ありげに近づいてくる光の魚たちがある。触れられない輝きに伸ばした手をそっと掬って、シンは告げた。
「もう少しだけ海の中で踊ろう。……その為にも」
「うん、そうだね。トカゲたちから全て取り返さなくちゃ」
 頷く笑みが生んだ波は、この海にだけ訪れる魔法ではなくて――自分の心にも寄せ来る心地に、アオイは淡く頬を染める。
 本当は、言い伝えを聞く前から知っていた。出逢った時からシンはいつも、自分を笑顔に、幸せにしてくれる不思議な力を持っている。まるで、
「あなたは魔法使い。ねえシンさん、笑顔が魔法って本当だね」
 この騒ぎが落ち着いたら、もう一曲。
 ささやかな願いを掌に受け止めて、シンは微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【梟】

いっとう素敵な魚達を見つけたところですのに
横取りは困りますねぇ

視界の端で繻子の煌く鰭が過ぎ去ったのを捉えたら
二人へ目配せしてトカゲを挟み撃ち

かよさんの瞬発力と素早さ、
黒羽さんの標的を逃さぬ眼差しへ信を寄せ
私は囮となり、気付かぬふりで歩む役

トカゲが背後から接近したところで、くるり!
振り返って捕獲――を、狙ってはみたものの
足元を擦り抜けるすばしっこさや
顔を踏み台にされた挙句に頭上を跳ねて逃げ回ってしまう身軽さに
ついに耐え切れず吹き出して
咲き零れる笑い声に
人々の笑顔もトカゲの興味も誘えたら良い

さぁさ
夢物語を追い掛けましょう

笑い収まらず肩を揺らしながらも
駆け出したのは、さて、誰が一番先だったのか


境・花世
【梟】

青磁のさかな、ではなく美男子の
麗しい目配せに思わずほころんで
夜の波間を往く背を見守ろう

闇の底見透かす眸に奔る影を映したならば、
一足飛びで瞬時に駆け寄って
けれど得意の早業で伸ばした手さえ
軽やかに躱され、――あっ!?

ようやく掴まえたと思ったら黒羽だった……

二人顔を見合わせて思わずきょとん
そうだよね、ねこだよねと真顔で頷くも
綾の頭の上で踊るとかげにとうとう限界

っふは、おかしい、とかげ可愛、あははは!

眦に滲む雫に夜の灯がきらめいて
さざ波の笑い声が波紋を広げたら、
幻の海はきっとまた満ちるから

さあ、今度こそ追いついてみせようか
駆ける足取りがひらひら泳ぐようなのは
遙けき砂漠の魔法に違いない


華折・黒羽
【梟】

…言ってないで、捕まえますよ

優しく綯う様紡がれる言の葉と笑み受け
思わず零れた己の声にはたと気付けば視線は流れ
気恥ずかしさを紛らす様に零す無愛想

囮役となる綾さんに視線を配り
鰭の揺れる像を見逃さぬ様にと追跡を
加減が出来る様剣の形を成しきらぬ屠に施した縹の符
足止め程度の氷花の仕込みと

トカゲが現れ戯れの鬼事
手がふたつ増えるも変わらずに
ひそり構えていれば突然服を引かれる感覚
視線を移せば八重牡丹の傍らの眸が瞬いて
こちらも瞬く眸

…花世さん…俺は蜥蜴じゃ、ないです

綾さんの頭上でトカゲが踊ればいよいよもって喜劇の様だ
流す様に手を振り咲かせた氷の花
手首に揺蕩う烏羽の鰭に隠れた口元

─鰭の向こうで、もしかすると



●すてきな魚たちの喜劇
「いっとう素敵な魚達を見つけたところですのに、横取りは困ります」
 ねぇ、と続き問う声音、眼差しの柔さ。いっとう素敵と歌われたかたわれ、黒羽は気恥ずかしさに、返す音から愛想を削ぐ。いつもよりも二割ほど。
「……言ってないで、捕まえますよ」
「ええ、勿論」
 周囲を素早く駆け巡るものの気配なら、既に意識に届いている。
 気を払い声もなく、笑うような目配せでひとり路地の方へと歩み出る綾。花世の瞬発力、黒羽の狙い逸らさぬ眼差しの両方に信を置き、気配から視線を外す。
 男の身にゆらりと揺れる繻子の彩りを見失わぬよう、離れて追う黒羽の腰、佩いた黒剣に縹の符はゆるりと伸びて、生かさず殺さずの役目を果たすべく、纏う氷気を淡くする。
 追うものの距離が近づく。青磁の魚ならざる美男子の目配せに、花世が返すのもまた麗しの花のかんばせ、綻ぶ微笑。
 褪せつつある夜の波間に急く娘の心は、これから始まるたくらみのため、少しだけ躍っている。
 暗闇の底まで透かす眼差しが、綾のもとへ奔るトカゲの影を捉える。先を行く青藍の裾が僅かに翻った、それを合図に地を蹴って、素早く手を伸ばす。掴まえた、と思った指先を、
「――あっ!?」
「っ!」
 ひらり掠めて跳んだ影は、人の子どもほど。素早く振り向いた綾の腕をもすり抜けたトカゲは、端正な顔を容赦なくぎゅむっと踏み台に、さらに跳躍する。
「っ、ただじゃ行かせない!」
 倒れ込んだ綾の上に、勢い余り突っ込みながらも手を伸ばす花世。空掻いた手に掴んだ手応えは――もふり、トカゲにしては柔らかな、
「……黒羽?」
「……ええ」
 確かな感触はまぼろしではなく、共に伸ばした友の腕。
「……花世さん……俺は蜥蜴じゃ、ないです」
「そうだよね、ねこだよね」
 二人見開いた目をきょとんと見合わせてみれば、ようやく起き上がった男は強かに踏まれた顔を押さえていて。――顔を上げてみれば、彼方の土煉瓦の家の上、揶揄い跳ねるトカゲの姿。
 湧いて出たのは悔しさよりも、
「……ふ」
「――……っふは、おかしい、とかげ可愛、あははは! 綾の、綺麗な顔――踏まれて――あははっ、ごめん……!」
 堪えきれずに溢れる笑いは涙までも呼んで、けれど華やかに空気に伝播する花世の笑い声が、光のさざなみを生む。と思えばその柔い光輝に醒まされたようにひとひら、ふたひら、小さな魚たちが湧き出でて、堪えていた人々の中にも笑いが起きる――光が湧き上がる。
 たちまち群れなし空へと昇る光の泡と小魚たちが、薄まりゆく海の色を鮮やかな青に染め直す。満たしていく。
「ふふっ、ご、ごめんね? さあ、今度こそ追いついてみせようか……ふふふっ」
「……その有り様で大丈夫ですか」
「へいき、走るよ! ……っ、ふふ」
 ほら見たことか――と嘆息する黒猫と、自らの失態をも笑い零して止まらない綾。いいんだよ、綾だって笑ってる、そう言いながら、花世はよしっと裾の砂を払った。
 黒羽の一閃が氷の小花を編みなして、逃れる敵へと道を繋ぐ――けれど、そのつめたく冴えた煌めきは、果たしてそのためだけに喚ばれたろうか。
 ふわり口許へ揺らした鰭の向こう側。そこにはきっと、もしかして。
「……あっ、黒羽も笑ってる?」
「――、気の所為です。……そんなことより」
「ふふ、そうだね!」
「ええ。さぁさ、夢物語を追い掛けましょう」
 未だ解け得ぬ笑い声に肩を震わせながら、乾いた大地を軽やかに踏みゆく三つの足音に、鰭はゆらり纏いつく。
 確かな筈の駆け足がひらひら揺れ泳いで見えるのは、きっと――遥けき砂漠の魔法、海の底の蜃気楼。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
おや?
瞬きの間に魔力の痕跡が消えたと思ったら

漣のよに町の人々に困惑が広がっていく
その流れを追ったなら
すり抜け、走り抜ける影を見つけ
…トカゲ、か
また何で繻子の鰭を欲しがるんだろう
魔力が必要、なのかな

追跡し様子を観察と共に
幾ばくか奪う様を見てから
取り返し、持ち主に後で届けようと持ち主の顔も記憶できたら

大丈夫
少しだけ待っていて下さい

途中
自身と相棒の身につけていた繻子を用い
ひらと舞わせて誘き寄せ狙い
奪いに近づいて来たら
相棒のものはあえて奪わせ
その隙にUCで一葉式を呼び
トカゲの行く先を暴く為
その背に取り付け追跡

姫様達が笑顔をと願ってかけた魔法のかけら
一夜のうみと笑顔のいろを
戻しておくれ

※連携アドリブ歓迎


ユキ・スノーバー
待ってまってー!未だ魔法のとける時間じゃないんだよー!
小さい分、小回りが利くから合間をくぐって、追いかけっこ勝負な感じかな?
消えちゃうトカゲさんは、持ってないからこそ奪ったんだろうけど
奪っても逃げるだけなのは気になる所なんだよね
でも、泥棒さんは物語でいうお縄につくのがお約束っ。頑張るんるん!

…速さが欲しいから、華吹雪を地面にシューってきらきらにして
氷の上を泳ぐように、すいすいーっと
そんなに目立つ物を奪って、逃げ切れると思ったなんて甘々だよー!
もし他の猟兵さんと連携出来そうなら、追い込みで誘導するね。

取り返したら、元の持ち主さん達に渡したいな。
折角の大切な彩り、少しでも早く戻してあげたいんだよ



●氷上の追跡
 ――それは、ほんの瞬きの間。
 力を集めた瞳にうっすら映った魔力の色、紡がれた漂う術の糸のようなもの。それが消えたと思った途端、鮮やかだった砂上の大海が大きく揺らいだ。
 消えていく光の漣に代わり、波紋を広げていく困惑の気配。追って駆け出す類の視界に、ならず者の姿はすぐに捉えられる。
「……トカゲ、か」
 人々から掠め取った彩りを体じゅうに絡め、駆け抜けていく小さな姿。それを追い掛け懸命に走るテレビウムの少年と、類はいつしか並走していた。
「待ってまってー! 未だ魔法のとける時間じゃないんだよー!」
 これほどの人の流れをひらり、くらり、躱して駆けるのは人の形を持つものには中々に骨で、けれど小柄なユキは人々の陰をすり抜け、足の下を潜って、ぐんぐんトカゲへ近づいていく。
「また何で繻子の鰭を欲しがるんでしょうね。魔力が必要、なのかな」
「あのトカゲさん、捕まえると消えちゃうんだって! 宝石も魔力も、持ってないからこそ奪ったんだろうけど――」
 奪っても逃げるだけなのが気になると息切らすユキに、並べる頷きで共感を示す。奪ったそれを必要としているのは彼等ではなく、もしかしたら――。
「でも。泥棒さんは物語でいうお縄につくのがお約束っ。頑張るんるん!」
「ええ、奪われっ放しという訳には」
 追う道すがら、きゃっと悲鳴が上がる。宝石の薄片が輝く鮮やかな緑の繻子を奪われた女に、同じ色の瞳を向けて類が叫ぶ。
「大丈夫、少しだけ待っていて下さい」
 はっきりとした顔立ちを目に焼き付けて、瓜江と自身とに結び付けた二色の彩をひらりと戦がせる。
(「さあ……おいで、魔力は此方に」)
 猟兵の持つ魔力。そしてこの不思議な夜に、大いに零れた笑みを拾った宝石片の魔力。それらに引き寄せられてか、くるりと踵を返して向かい来るもの。人ならぬ素早さで飛び込んでくるトカゲの前に、瓜江を素早く飛び込ませる。
「この地に坐す草葉の式よ――少しの間、彼と共に」
 その静かな囁きが自分の身に何を起こしたか、トカゲは知ることは叶わなかったろう。ここは緑陰の町、渇きを逃れて育つ草葉のひとひらの姿を借りて、『式』は瓜江の奪われた繻子とともに、身を翻したトカゲと同じ道を行く。
「――これで彼の足取りは分かります。見失っても大丈夫」
「わあ、すごいすごーい! 追いかけるには速さが欲しいから、ぼくは早道を作るねっ」
「早道……?」
 感覚に伝い来るならず者の気配をこっちだと伝えれば、ぱちぱちと叩く手で叩いたユキはアイスピックを地へ向ける。シューッと放たれた白い冷気に彩られ、石煉瓦の地面に生まれる氷の道。
「これは……すごいですね、海だけじゃなくて氷まで」
「えへへーっ、これですいすいーっと氷の上を泳いでいくよーっ!」
 ――いっしょに行こう! ユキに手を引かれるまま氷の道に乗れば、類もあっという間に風になる。駆け抜けるふたりの行く手を先導する真白の華吹雪に、人々が道を開ける。
「……! 見えた、あそこに」
「ぼくも見えたっ! あんなに目立つ物を奪って、逃げ切れると思ったなんて甘々だよー!」
 折角の祭りの夜をもっと輝かせる、大切な彩りだから――少しでも早く皆の手に戻してあげたい。少年の思いに類も頷いて、前を見据える。
「姫様達が、笑顔をと願ってかけた魔法のかけらだからね」
 一夜の海と笑顔の色。先刻ユキが叫んだとおり――終わるにはまだ、早すぎるから。
「取り戻しましょう、必ず」
「うんっ、追いついて取り返したら、元の持ち主さん達に渡しにいかなきゃなんだよ」
 全速力の鬼ごっこは続く。白き氷の絨毯は、この町で一等目立つ建物の方へと続いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、躾のなっていない蜥蜴共よな
さあ往くぞ、ジジ
奴等の居場所、直ぐにでも突き止めてくれる

うってつけの囮…おい、何故師を見る?
…否、止めよ
それ以上は拙いと第六感が告げておる

手には花の洋燈
…これだけ輝いていれば目立つだろう
蜥蜴に警戒を悟られぬよう
然し決して気を抜かず、奴等の到来を待つ
触れられる感覚あれば従者に目配せ
ジジの使い魔に併せ【影なる怪人】を召喚
我々も後を追う
お前は彼の仔の助力をしておやり
ふふん、徹底的に追い詰めてやろう

っは、随分と懐かしいな
あの頃のお前のすばしっこさには手を焼いたものだ
…さて、其処迄は私も分らんよ
分る事は――奴等を追えば、真相に辿り着けるという事だけだ


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
祭を乱す不届き者か
煌めきを好むなら絶好の狩場だろう

うってつけの囮なら此処にいるな
至高の宝石、宿した双つ星を真っ直ぐに
…まさか丸ごと攫いはすまい

多く寄せられてくればいいが
花の洋燈に煌めく貴石と
自身は黒い鉱石の短剣を腰に、待ち構え
師に触れる何かが居たり
短剣の重みが消える感触などの変化あらば
即【月の仔】に命じて追わせ、その後を追う

短剣には月の仔が蜥蜴をすぐ見出せるようにと
保険に繋げておいた光る銀糸
頼むぞ、逃してくれるな

…こうしていると幼い頃を思い出すな、師父
町の民は流れを辿ればとも言っていた
奴等は何処へ向かっているのだろう
源流か、それとも

かの双子もこうして町を駆けたのだろうか



●絢爛なる囮
「ああ、全く――師を何だと思っておるのか、馬鹿弟子め」
 ゆるゆると光を失いゆく海の底、ざわめく人波にひときわ鮮やかな青のひとしずく。
 それは麗しくも美しい輝石のすがただった。言葉ほどの憤りは声にも面にも上らせず、挑むような眼差しは反面、醒めて。我が身に訪れ来る危険など些事であると言わんばかりに、アルバはならず者の到来を待っている。
『煌めきを好む者には、この海は絶好の狩場だろう。――うってつけの囮なら此処にいるな』
『……待て、おい何故師を見る?』
『……まさか丸ごと攫いはすまい』
『否、止めよ。それ以上は拙い』
 そんな遣り取りを弟子たるジャハルと交わしたのは先刻のこと。普段は表情の一つも易くは上らせぬ癖に、あの瞳には微かに愉快が滲んでいたと、アルバは思う。
 その弟子の眼差しを数歩の距離に感じ、わざとらしい不機嫌の眼差しをちらと向けてやる。――その時、微かな気配が身に触れた。
 美しく光を乱反射する黎明の髪、青玉のひとみ。奪い取れぬものでかと惑う小物の気配は、完全なる海の底では燈さずにいた花の洋燈に伸ばされる。その花芯に輝く輝石が掠め取られた瞬間、
(「そら、出番だぞ――死者の国より彷徨い出でし、影なる者よ」)
 瞬きひとつで起動した術式が、亡霊を喚ぶ。即座に盗人を追わせ、見守る弟子へと視線を巡らせれば、
(「――来たか」)
 腰に提げた黒曜石の短剣、その重みがふつと消える感触に、ジャハルも動き出す。感覚の鋭い者でなくば視えはしないだろう、二対の翅持つ月の蛇にしゅるりと追わせる。
(「頼むぞ、逃してくれるな」)
 万一に備えてと魔力を紡いだ銀の糸が、トカゲと蛇とを結びつける。先行する追跡者たちを追い、駆ける師弟は漸く途上に足並みを揃えた。
「……こうしていると幼い頃を思い出すな、師父」
「っは、どうした? 随分と懐かしいな!」
 かたちには見せずとも、こうして時に慕わしい気配を見せる男だ。楽しげに笑うアルバの傍らに、たちまち銀の光が浮かび上がる。
 笑みが取り戻させた『海』のいのちを、薔薇輝石の指先でするりと慈しみ、青い眼差しは懐かしむように遠くを見る。
「あの頃のお前のすばしっこさには手を焼いたものだ。遊びではないというに、全く……毎日が鬼事のようだったものよ」
 静かな眼差しの男は僅かに顔を逸らす。――視線は先行く蛇の意識に重ねたままに。
「詫びはしないが。……町の民は流れを辿ればとも言っていた」
 ふと眇めたジャハルの両の瞳に、ごく微か、ふたいろの流れは色として映る。揺蕩う気配が目指す先は、トカゲたちの駆ける方角に重なるようだ。それは偶然か、或いは。
「奴等は何処へ向かっているのだろう。源流か、それとも――」
「……さて、其処迄は私も分からんよ」
 故に好奇心は星の瞳を輝かせる。真相は面白きものに限らずとも、こうして弟子と渡りゆく過程ならば愉しいものだ。
 労せずともその目に映るふたいろの魔力に、アルバは柔く微笑んだ。
「分る事は――奴等を追えば、真相に辿り着けるという事だけだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジュマ・シュライク
リオ(f14030)と。
まあ、とんでもないお邪魔虫が入ったものですわね。
迷惑な客は出入り禁止になりましてよ?

はあ、ばたばたと走り回るのはシュライクの仕事ですのに……。
繻子で呼べるのなら、ひらひら靡かせて、誘導してやりましょうか。
魔女の眼力、期待していましてよ?

アタシは銀狼でも喚びましょうか。
リオの砲撃を合図に、怯んで脚を止めたところに喰らいついて頂戴。
まあ、祭りの夜に流血沙汰はよくないかしら。
ひとまずは甘噛みにして差し上げて。
――さすがはリオ。完璧なタイミング。完璧な一射でしたわ。

誰の遣いなんだか。
けれど、今宵の魔法は未だ続くように。
良いものを見せていただいたから、力を尽くしましょう。


リオ・フェンブロー
ジュマ(f13211)と
おや、招かれざる客の登場ですか
それとも飛び込みのお客、ですかね?

えぇ、お任せください。
星の海ではもっと物騒な物を見つけていたのですから、ふふ、今日の探し物は楽しいですね

繻子で誘うジュマを視界に、誘われて来るトカゲを見つけましょう
アンサラー を起動。砲塔に込める魔力は最低限に
祭りの夜には、これは無粋でしょうから
トカゲの纏う輝きを見定め、その近くへ牽制の射撃を

ーージュマ、今です。

ありがとうございます。
貴方がトカゲを最後に捕らえてくれたお陰です、ジュマ

さて、本当に何が起きているのでしょうね。
けれど、レディ達の残した不思議がまだ終わらないのであれば
今宵の感謝に力を尽くしましょう



●星の海、砂の海
「――まあ、とんでもないお邪魔虫が入ったものですわね」
 溜息とともに流れる紅の髪。感触はなくもふわりと掬い上げた、先刻までの海、強い魔力の流れが削がれつつあるのを、ジュマは惜しむように肩を竦めた。その強く美しい佇まいに目を細め、リオは冗句に笑う。
「おや、招かれざる客の登場ですか。――それとも飛び込みのお客、ですかね?」
「それにしても随分と欲張りだこと。視えまして? リオ」
 アランカラで最も目立つ建物、領主館へと続く緩やかな道すがら。眼差しは、人々から纏った色を奪っては駆けてくる、小柄な生きものに静かに向けられている。
「迷惑な客は出入り禁止になりましてよ? ――ああ、ばたばたと走り回るのはシュライクの仕事ですのに……ここは貴方の舞台というものかしら、リオ・フェンブロー」
 ――魔女の眼力、期待していましてよ? 含む微笑が繻子の影に淡く消える。えぇ、と請け合う青年は、柔い風貌に反し、既に攻撃的な武器をその腕に携えていた。
 その名はアンサラー、報いるもの――応うるもの。古き伝承に名を得る漆黒のアームドフォート、その照準器を一枚隔て、絶えず騒ぐ人波の隙間をリオの眼差しが掻い潜る。
「お任せください。星の海ではもっと物騒な物を見つけていたのですから、ふふ――今日の探し物は楽しいですね」
 ジュマがひとり舞うように銀鼠色を風に躍らせれば、色靡かせて駆けるトカゲたちの意識がすっと、煌めき零れる光の魔力に囚われたのが感じ取れる。それらを細めた眼で射返して、昂る戦意とともに立ち上る魔力を僅か、砲塔に誘い込む。
「祭りの夜には、これは無粋でしょうから」
「ふふ、皆様、ごめんあそばせ。……そうね、流血沙汰もよくないかしら」
 忘れじの君、と零す一声にふわりと身に添う狼は、視線交わすこともなく主の望みを汲み取った。人を掠めることなどあるはずもなく、リオの射撃はトカゲの足許に突き刺さり砂煙を散らす。
「――ジュマ、今です」
「ええ、心得ていましてよ。ひとまずは甘噛みにして差し上げて」
 宙の射手の鮮やかな仕事に、慌て跳ねるならず者の足許。そこへ、音もなく地を蹴る魂魄の獣が飛び込んだ。
 どうと地を叩き、逞しい前脚の下でじたばたと蠢くものの首筋へ、戯れるように牙立ててみせる。
 途端にぶわり、獲物の気配と姿が海に散逸する。幻のように消えた獲物に、狼は分かっていたかのように主を見上げた。穏やかな眼差しで撫でながら、さすがはリオ、と砲口を降ろした傍らの友に微笑みかける。
「完璧なタイミング。完璧な一射でしたわ」
「ありがとうございます。貴方が捕らえてくれたお陰です、ジュマ」
 一瞬熱を孕んだ血など嘘のように、穏やかに言い交わす二人。けれどその向こうには、まだ胡乱な気配が感じ取れる。
「誰の遣いなんだか。無粋なことには変わりありませんけれど」
「さて、本当に何が起きているのでしょうね」
 放たれたままの繻子を拾って零す吐息に、銀の泡が姿を見せた。取り戻した魔力によって、退きかけた海の気配が戻ってきたことに小さく口の端を上げ、ジュマは通りを見遣る。
 ぴょんぴょんと跳ねてくる小柄な姿は衆目にこそ留まらないが、数多の戦場を経た彼らの眼力を逃れられるほど巧みではない。
「今宵の魔法は未だ続くように。良いものを見せていただいたから、力を尽くしましょう。――もう一射、魅せていただいてもよろしくて、リオ?」
「えぇ、勿論。レディ達の残した不思議がまだ終わらないのであれば、今宵の感謝に力を尽くしましょう」
 交わす笑みが、肌の下でざわりと蠢く戦熱を御する。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■アドリブ等歓迎

海が、消えてしまった
もっと魚とも泳ぎたかったのに
コノハと二手にわかれてトカゲを追うよ
大事な魔法も笑顔も奪うなんて
泥棒はよくない
けれどきっと理由があるはず
取り戻さなきゃ

ゆらり泳いでトカゲを探す
キラキラしたもの、が目的ならば僕の鰭…繻子も狙いにくるかな
宙泳ぎ
僕には彼らを追跡する術は乏しいけれど
だけど、僕にだからできることだってあるはずだから
笑顔が集まればそこに現れるかな
周りの皆に大丈夫だよと微笑み声をかけて安心してもらって
歌唱には励まし…鼓舞を込めて
ゆるり鰭揺らして歌いパフォーマンスをするよ
宝石のような笑顔を咲かせておくれ――彼らが現れたなら『魅惑の歌』で動きをとめる

返してもらうよ


静海・終
おやおや、手癖の悪い子がいるようでございますねえ
笑顔は奪うものではございません、共に作るものでございます
いけない子は捕まえてしまいましょう

ひらひらと揺れるそれを見つければ追いかける
涙に先回りさせ通せんぼしてもらいましょう
ほーら、それを返していただきましょうねえ
魚も海も返してもらいますよ、私はまだ海に溺れていたい
笑顔にお姫様たちの優しい魔法
この子たちは何処から来て何故奪っていこうとするのでございましょう
欲しいのであれば差しあげますが
皆様から同意もなくいただくのはよくない事でございますからね
ゆるりとお説教しながら笑って撫でる
何か理由があるのであれば教えてください、私でよければお力になりましょう



●心なきものの理由
「海が……消えていく」
 歌声に向けられた人々の喝采が、動揺の中に遠退いていく。これがこの夜の常ではないのだと察して――そして目の前を駆け抜けた『泥棒』の残した七色の残像に、リルはふと傍らを見て、ふふ、と笑った。
 今夜の相棒は、既に人波の向こう。追い掛けた先できっと待っていることだろう。だから、リルもリルのやり方で辿り着く。
(「大事な魔法も笑顔も奪うなんて。……泥棒は、よくない」)
 けれどそこには『理由』もある筈だ。人々に笑みを取り戻し、理由に手を伸ばすために、リルは淡くなった海にふわり、自らの鰭と一夜の鰭とを躍らせる。
 追跡の術には乏しい。ゆるり宙を泳ぐ鰭では、あの素早さに追いつけるか――追い縋ることは、できるかもしれないけれど。
「だけど、僕にだからできることだってあるはずだから」
 ――例えば、こんな。
 水に泡を咲かせるように、深海に光を招くように。甘く淡い歌声を響かせたなら、人々の間に満ちるざわりとした揺らぎは収まって。細工物のような繊細なかんばせに笑み咲かせながら、リルは歌い続ける。ゆらゆらと鰭を揺らして、同じ笑み花を誘うように。
(「――そう。笑って……大丈夫だよ」)
 自分だって、もっと魔法の魚たちと泳ぎたかったから。きっと取り戻してみせるから。鼓舞の力に僅かに昂揚する歌声は、少しずつ少しずつ、宝石のようにきらきら輝く人々の笑みを引き出していく。
 そして戻り来る、鮮やかな海のいろ。笑顔は魔法だと謳うかの姫君たちの伝説のとおり、遠退いた青がふんわりと波を打ち寄せ、リルの周囲に戻ってくる。
 集まり始めた観衆の中に、ふと――奇妙な彩が動いた。重ね着た色、きろきろとよく動く眼、そして素早く繻子へと伸びる指。
(「見つけた。逃がさない……」)
 じっと相手を見つめ、リルは歌を紡ぎ変える。
 ――僕をみて、僕の歌を聴いて。離して、あげないから――。
 澄みわたる水底の歌。魅了の響き。美しい雫が波紋を広げるように、切々と心を揺らす歌声。心持つものならば、リルの歌の魔力に絶対に抗い得るものなどはなかっただろう。しかし、
(「効いて――ない? 心が……自我がないのかな」)
 しかし、何故か動かない。動けずにいる。心なきものの心に響かせることはなくも、その恐ろしいほど美しく冴えた歌は、かりそめの体の自由を奪い取った。
(「返してもらうよ」)
 ゆるやかに宙を泳いで進み出たリルが、しゅる、とトカゲの纏う彩りを取り去った。ひとひら、もうひとひら――そして最後のひとひらを取り戻したとき。
 鮮やかさを増す海の中、我に返った盗人は脱兎の如く駆けだした。尾鰭を揺らし、懸命に手を伸ばして、リルは追う。
 追いつけなくてもいい。追い縋れたならそれでいい。その先にきっと、探す理由が見つかる筈だから。

 ――ちょうどその頃、ひとつ向こうの通りで。
「おやおや、手癖の悪い子がいるようでございますねえ」
 声音はそれすらも楽しむよう。目の前を過ったトカゲを逃すまいと駆け出した終は、翼で並ぶ小さな涙に、先にお行きなさいと微笑んだ。
「いけない子は掴まえてしまいましょう。通せんぼ、できますね?」
 ギャッ、と小さな返事を残して海翔ける子も、ひととき共に泳いだひかりの友が消え去ったのには業腹なようだ。微笑ましさとは裏腹に、素早いものに先回りして威嚇する姿はなんとも心強い。
「よくやりました。――ほーら、それを返していただきましょうねえ」
 言ったそばからぎゅっとひとひら、涙が取り返したショールがふわりと膨らんで――ぽん、と姿を現した金色の魚に、小さな獣は瞬きをする。
「そうです、ショールだけではございません。魚も海も返してもらいますよ」
 終はまだ、この海に留まっていたい。溺れていたいと心から思う。人々の笑顔に、姫君たちの優しい魔法――こんな煌めきに満ちた夜、懐かしく遠い記憶に重なる景色の中に。
 けれどふと、疑問が過りもする。このトカゲたちは何処から来て、何故それを奪おうとするのか。
「故あって欲しいのであれば、私のこれは差しあげますが……皆様から同意もなくいただくのはよくない事でございますからね」
 距離を詰めればじり、と退がろうとする小さなならず者を、さらに小さな涙が脅しつける。また一匹、仔竜によって抜き取られた彩りから、手品のように魚が生まれた。
(「言葉は通じているのでしょうかね。これでは、まるで……」)
 心を持たない思念の塊のようだと思いながらも、終はそっと手を伸ばす。
「何か理由があるのであれば教えてください。私でよければ、お力になり――ええと涙、少しお静かにお願いしますね。……おや」
 やはりですかとささやかな吐息を零す。ギャッギャッと喚く涙の一瞬の隙を突き、トカゲは家屋の石壁を素早く伝って逃げ去ってしまった。
「……追いましょう、涙。ああ、落ち込むことはないのですよ?」
 しゅんと翼を畳む子をひと撫で、終は身軽に壁を蹴り、たちまちのうちに家屋の屋根上へ至る。――おそらく彼らの『意思』となっているものへ、辿り着くために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と

よもや幻の海が盗まれるとは驚きだぜ…
コソ泥のせいで千夜もかけた魔法が台無しになっちまうのは業腹だな
…この繻子が奪われるってのも面白くねぇしよ

まずはコソ泥を見つけない事にはどうにもならねぇし
魚がまだ比較的残ってる辺りで待ち伏せするか

失せ物探しや第六感を頼りにコソ泥を探すぜ
不自然に色を重ねた繻子とか怪しいよな
見つけたらUCを使って追跡だ
影の魚の視点を確認しながらを足止めするチャンスを狙おう

細い路地とか、物が積みあがった場所の傍を通るようならタロに報せるぜ
どうするかは…うん、察しろ

上手く足止めに成功したらがっつりお仕置きだ
魔力を含んできらきら光る――水晶玉をお見舞いしてやるぜ!


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

この「海」は大きすぎる魔法、いっぺんには奪えずとも、
ほんのひとひら、然し其れを数多、ともなれば。
……兎も角、伝承の姫君達の想い、町の人々の想い
盗んでいいものは一つとて無いよね

――うん、リチュがその気で探すなら必ず見つかる
影の魚の視点を「視る」リチュのフォローをしつつ
こうしている間に僕らの繻子に手を出されては困るしね

リチュからの報せがあれば、ひとつ頷いて
うん……これくらい物があるならば
積み上がった物をUCで動かして、瞬間的に簡易バリケードに組み立てる
避けて進もうとすれば、自在に動かして妨げて
奪った物を返して貰おうかな
紡がれた場所で愛された魔法は、そのままの方が美しいから



●双白の追跡
「よもや幻の海が盗まれるとは驚きだぜ……」
 繻子の鰭のひとひらがなくとも、まるで魚のように。ひらひらとドレスの裾を躍らせ駆けながら、褪せゆく海を見上げるリチュエルに、タロは淡い眼差しで頷いた。
「この『海』は大きすぎる魔法、いっぺんには奪えずとも、ほんのひとひら……然し其れを数多、ともなれば。叶ってしまうのかもしれない」
 まだ、全てが消え去った訳ではない。霊峰から流れ出すという雪解け水の魔力は、なんとかこの砂漠の海を保ってくれているのだろう。けれど、それではきっと足りないのだ。
「粗方を奪い尽くせば、まだ奪える方へ行く筈だ。魚が多く見える方に行くぞ、タロ」
「うん、リチュがその気で探すなら必ず見つかる」
 猟兵であり優れた占い手であり、主であるひとへの信頼。向ける微笑みに、タロは惜しみなく本心を滲ませる。
 そして自分も、思いは同じ。伝承の双子姫たちの想い、語り継ぐ町の人々の想い――何ひとつとして盗まれて良いものなどない筈だ。
「――狙い通りだ。見つけたぜ、コソ泥ども」
 不敵に笑うリチュエル。人々の目には確かに触れていない、けれど不自然に繻子の彩を重ね纏った小さな影は、いかに素早くとも鮮やかに猟兵の目を惹いた。
「形なき真黒の魚よ、我が影より零れておいで――さあ、元気に泳いでおくれ。これより往けぬ私の代わりに」
 荒いことばは詠唱では正されて、声が凛と澄んだ響きを帯びる。月影にうっすらと浮かび上がる自身の影へとそう宣えば、切り離されたひとひらが美しい鰭の輪郭を持って、空泳ぐひかりたちとは対なすように地を泳いでいく。
「よし、捉えた。追うぞ」
「うん、フォローは任せて」
 影の魚と視界を共有するリチュエルを、守るように手を貸して。それは今にも傍らに現れるかもしれないトカゲたちから、主の鰭を守るためでもある。
 またひとひら、鮮やかなショールを奪い取って、トカゲは路地へ飛び込んでいく。その先が、補修のための建材だろうか――石煉瓦の無造作に詰まれた細い道であることを、共有する魚の視点から知り得た娘が、叫ぶ。
「タロ、行け! どうするかは……うん、察しろ」
「……ふふ、分かったよ。うん……これなら」
 礎とするタロットに見る力は『魔術師』。その腕はたちまち具現化し、盗人の行く手を塞ぐように石煉瓦を打ち崩す。
「これでいいかな」 
「上出来だぜ。ははっ、それじゃあがっつりお仕置きだ」
 引き返す道には、立ち塞がる白き主従。
「さあ、奪った物を返して貰おうかな。……紡がれた場所で愛された魔法は、そのままの方が美しいから」
「魔力が欲しかったんだろう? 代わりにコレをお見舞いしてやるぜ――我が手にシロンの加護を!」
 浮かび上がる水晶珠に秘められた魔力が、燦然と輝き出す。視界を眩ますひかりの中、タロの魔術師の腕がトカゲの動きを封じ込める。そこへ襲い掛かる、水晶の一撃。
 目映い光が止む前に、胡乱な気配はふつりと消えた。
 あとには幾重にも積み重なった鮮やかなショール。その中から、ふわり――新たなひかりの魚たちの群れが、生まれ出る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
メーリ(f01264)と

メーリがやる気まんまんだ
ふふ、でもわたしもっ
だいじな鰭をとりかえさなきゃ
メーリがえらんでくれたんだもの

ガジェットショータイム
ふしぎなしゃぼん玉が出る銃で
とかげを閉じ込めちゃおう
海が消えてしまっても
この虹色の泡がすこしの間代わりになるように
いたずらはだめだよ

ゆくひとの纏うショールを狙うとかげを探して
メーリの声に
まかせてと発射

とかげに当てない見事な射撃に
メーリすごいと拍手して
うんっ
水のように流れるきれいな髪を追いかけ

メーリの笑顔が溢れたら
わたしも笑顔になる
魔法は今ここにある
ふふ、わくわくするね
みんなの宝石をとりもどしたら
またメーリと海の中で踊りたいから

うんうん、がんばろうっ


メーリ・フルメヴァーラ
オズ(f01136)と

自覚してるもん
私とってもご機嫌斜め!
せっかくオズがにあうねって言ってくれたのに
絶対取り返さなきゃとやる気満々

砂色の鱗の輝石の輝きをつぶさに注視
繻子の魔力を狙うなら
――そこっ!

数匹のトカゲを
オズのしゃぼん玉で閉じ込めたら
周囲のトカゲは回避しようとするはず
だから更に浮足立つように
スチームエンジンで強化した詠唱銃で
氷の魔法弾を撃ちまくる!

そしたらトカゲが逃げないかな?
満ちる魔法が揺らいだ『理由』を知ってる
誰かのところに行かないかな
追おう!

宝石と笑顔は魔法なんだって
宝石は今手元にないけど
笑顔ならたくさん持ってるよ
宝石連なるストールも取り戻そう

オズに微笑み紡ぐんだ
ね、頑張ろうね!



●お揃いの魔法銃
 わかってる――そう、自覚してるもん。
 駆けるメーリが追うものは、先刻までは自分の傍らにいた藍のいろ。目の前でひらひらと波打ち泳ぐ裾のフレアに、きゅっと唇を噛む。
「私とってもご機嫌斜め! せっかくオズがにあうねって言ってくれたのに、絶対取り返さなきゃ……!」
「ふふ、メーリがやる気まんまんだ」
 笑い零すオズの傍らにはこぽこぽと、笑みの魔法で戻り来る海の気配が銀泡を生む。もう、と地団太踏むかわり、メーリはふるふるっと首を振って、
「オズのだって取り返すんだよ! あれは、オズに選んだ色なんだから!」
「そうだね、メーリ。わたしもっ。だいじな鰭をとりかえさなきゃ、メーリがえらんでくれたんだもの」
 この海もあのふたいろも、ならず者たちの手になど渡さない。ふたつの唇からはふはっと息が零れて、胸がどくどく歌っている。疲れや苦しさはない。同じ目的に、一緒に傍らを駆けてくれる仲間がいるから辛くない。
「おいつけそう。――いたずらはだめだよ」
 手の中で素早くかたちを変えるガジェットに、オズは子猫のような瞳を丸くして――思わず微笑んだ。
「ふふっ、メーリとおそろいだ」
 凛々しい彼女の真似をして構えてみれば、銃口から弾け飛ぶのは七色のしゃぼん玉。消えかける海の泡を補うようにふわり、浮かび上がった大きなそれに、捕らわれた一匹のトカゲが目を白黒させる。
「すごい、オズ……! メーリもいくよ――そこっ!」
 注ぐ魔力を忙しく変換して、蒸気を吐き出す詠唱銃。しゃぼん玉を逃れたトカゲたちを、さざめき降る氷の星群が掠めていく。
「わ、メーリ、すごいすごいっ」
 ぱちぱちと響くのは弾けるしゃぼん玉と――盛大なオズの拍手。えへへと笑う一瞬にまた、ひかりの魚たちが戻ってくる。
 自由を奪うしゃぼん玉と、降り注ぐ冷たいひかり。浮き足立ち逃げ惑うトカゲたちは、落としたショールを慌てて回収しようとしている。絶え間ない魔法の銃撃で阻みながら、メーリはさせない、と手を伸ばした。
(「――届いた!」)
 トカゲの指先よりも一瞬速く、掴み取ったのは蜂蜜色。お菓子のように甘く優しいオズの色を、真っ先に。
「オズ、取り返したよ! ……あっ」
「まかせてっ。メーリのも、ほらっ」
 ショールの彩より眩しい笑顔でオズが振る色は――あの藍色。思わず笑顔が咲き零れる。
「ありがとう! ……あっ、トカゲたちが逃げる! 狙いどおりだ、追おう、オズ!」
「うんっ、いこうっ」
 満ちる魔法が揺らいだ『理由』を知る、誰かのところへ。こんな大騒ぎを起こしたやつを、一言叱り飛ばしてやらなくちゃ!
 きりりと眩しいメーリの横顔に、オズはくすりとまた笑う。水のように流れる髪をきれい、と追いかけながら、弾む気持ちがどんどん海を呼び戻す。
「ね、宝石と笑顔は魔法なんだって。宝石は――ショールのこれしかないけど、笑顔ならたくさん持ってるよ。オズと一緒なら、惜しみなく零れてくるんだ」
 言葉通りに溢れる微笑みに、ぱちん。傍らで光が弾けたと思えば、それは大きなそらいろの魚に変わる。わあと笑ったオズの背中でまた、ぱちん――今度は蜜色の小魚の群れが、追い風のように泳ぎ出す。
「うん、わたしも。魔法は今ここにある――ね、わくわくするね」
 この夜に心躍らせる人々すべてに、魔法の結晶を取り戻したら――そうしたら。
「がんばろうっ、メーリ」
「うん! 最後まで頑張ろうね」
 またふたりで、輝く海の中で踊りたいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァルダ・イシルドゥア
こんなにうつくしい輝きが広がっていたなら
思わず手を伸ばしてしまうきもちも
すこし、わかってしまいます

けれど……、

誰もがひとつのゆめを見る
姫君たちが齎した、うたかたのゆめ
こんな夜には……血も、涙も、誰にも流して欲しくはないから

生まれながらの光を用い
輝きに満ちたひれを踊らせて
自らを囮にして『あぶくどろぼう』さんを誘き寄せましょう

アナリオン――ね、笑って

それは、父さまのような晴れやかさも
母さまのような穏やかさも足りない
自身無さげな、少しぎこちないものだったかもしれないけれど
心からの笑み
今の私に出来る、月と影の姫君へ贈る、精一杯の
満ちるわだつみの魔法を、夜が明けるまで繋げますようにと

――つかまえました!



●彼方への贈りもの
 思い思いに取る色も、それぞれに躍る色もただ、美しくて。
 夢の中を行くような幻の海を遊び彩る、魚たちの鰭。その輝きに思わず手を伸ばしてしまう心地も、少しなら――と、ヴァルダはこくりと顎を引いた。
 この一夜の遊びに交われぬなら、なおさら欲しかったのかもしれない。或いは他の理由があるのかも。
「けれど……、ねえ、あなたならわかるでしょう」
 盗人たちの心地をなぞり伸ばした指先で、ヴァルダは相棒の仔竜をするりと撫でた。
 双子の姫君の齎した千夜の一夜、誰もが共に見ること叶ううたかたのゆめ。薄まりゆくこの青に、血の匂いも涙の雫も流して欲しくない。――誰にもだ。
「アナリオン――ね、笑って」
 光り泳ぐ友を失った仔竜の手をとって、ふわり、ゆらりと。光がないのがお気に召さないなら――と、この身に命を得た瞬間から身の裡に燈る光を惜しみなく輝かせ、ヴァルダは踊る。
 懐かしい森に住まう父の晴れやかさにも、母の穏やかさにも足りない。未だ出逢わぬものの多さゆえ、そとの世界を歩み始めたばかりのエルフの少女の踊りは、ぎこちなく、自信なく、ゆらりと揺らいで。
 けれど――心からの笑みを空へと向ける。月と影と謳われる双子の姫へ、唯一ヴァルダが贈れるもの。
 あなたがたの創り出した幸い、わだつみの魔法は、夜が明けるまで繋いでみせると、誓いをこめて。
「見つけた。さあ――つかまえました!」
 その輝きに惹き付けられて現れたものを、ヴァルダはぎゅっと抱き留める。
 盗人は影に溶けるように消え去って、残されたのは七色の彩。ひとひら、ひとひら、大切に拾い上げるその内から、こぽり、こぽりと小さな魚が現れ出でて――零れた笑みから生まれた泡がまたひとつ、海の輝きをその地に取り戻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イトゥカ・レスカン
おやおや、これは困った方々ですね
まだ祭りも半ば。ここで魔法が溶けてしまっては皆がっかりしてしまいます
物語は笑顔でフィナーレを。いつだってそういうものですから、ね

宝石を狙っている、ということならば
繻子も気を引けましょうが、こちらならば一等でしょうか
自身の髪の先を一欠片
青と黄褐色、夕暮れの色滲む琥珀の結晶をきらと翳して
髪ならばすぐに戻りますので。万一取られてもこれなら平気です

首尾よく誘き寄せれたら青の散花で足止め
悪いですけれど、奪ったものはお返し頂きますね
夢は夜の内に覚めてしまってはいけないのです
やがて陽が昇る目覚めの時まで
守らせてください、砂漠に満ちる一時の海を
私とてまだ楽しみたりないのですから



「おやおや、これは困った方々ですね……」
 イトゥカの零す言の葉はふわりと柔く、言い知れぬ不安に惑う人々の中へ溶けていく。
 鮮やかなもの、悲しいもの、世界は物語で溢れている。この壮大な魔法の物語には、笑顔のフィナーレこそが似合う筈なのに――半ばにして魔法が解けては、皆も肩を落としてしまうことだろう。
「宝石を狙っている、ということならば……繻子も気を惹けましょうが、こちらが一等でしょうか」
 魔力の宿ったそれをと言うのなら、自身を構成する鉱石の彩りは充分にその資格を持つだろう。クリスタリアンの青年は、自らの髪のひとかけらをそっとその手に折り取った。
 鮮やかに澄むこの海のような青に、渇いた地に似つかわしい黄褐色。その狭間を美しい夕暮れのグラデーションで彩る、ブルーアンバー。
 遠のいた水の彩りのお陰で、月光は皮肉にもはっきりとこの町へ届いている。そのふわりと淡い光を呼び込んで輝く宝石に、目敏いものたちが動き出す。
「――いらっしゃいましたか。悪いですけれど、奪ったものはお返し頂きますね」
 伸ばされるならず者たちの小さな手を跳ねのけるように、青琥珀の花弁が今にも香り立ちそうなブルーエルフィンの花は、しかし硬質な鋭さをもって、トカゲたちだけを的確に斬り裂いていく。
 やがて終わりの来る夜なのだ。時を数え、月が沈み、早い陽が昇れば終わってしまうまぼろしの海。ならばなおさら、短き夜のうちに覚めてしまってはいけない夢だ。
 輝石の花の刃がかすめるだけで、ふつりと気配が失せる。実体なき存在でしたか――と独り言ち、イトゥカは宙に舞い上げられた色とりどりのショールを受け止める。
「すみません。ですが、私とてまだ楽しみ足りないのです。……ああ、戻ってきましたね」
 空を見上げ、イトゥカは柔らかく微笑んだ。
 遠退いていたはずの青が、再び彩度を増していく。そこにきらりと輝くものは――今取り戻した魔力で描き直されたのだろう、群れる魚たちの鱗。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウルスラ・クライスト
(紅満点)

さざめき疾る影、掠奪の嵐に戸惑う街
笑顔に不敵さを浮かべた、可愛い仲間達。
どれも好ましく思うけれど…

ふふ…私も働きましょうか
けなげに待つ人達が…先刻言葉交わした彼が、次の千夜に
また笑いあえなくなったりしないようにね?

飲み干したグラスを靴で踏み砕き
粉々の欠片を核に、マヒ粉を少々。
全力魔法のレプリカクラフトで紡ぎあげるは虹魚の罠
雷の属性を込めたから、
宛ら花火のように、眩く光るのよ。

ふぅっと命を吹き込んだなら、涸れゆく海に放ちましょう。
ドレスを靡かせ、杖はタクトのように
キャロルと由良のダンス、澪の舞に、高らかな歌と光の魔法を添えて。

嵐が凪ぎ、海が再び満ちるまで。
安心なさい。取り戻してみせるわ


キャロライン・ベル
【紅満点】
違う悪戯っ子まで現れてしまったのね
けれどこれは、姫君達の様に人々を楽しませるものではなく――人々を悲しませるもの
斯様な悪戯は、いけないわ

皆と共に相手を誘うよう
揺らぎ乾く海に魔力注ぐよう
今一度煌めく繻子や魚と戯れる様に笑顔でダンスを

――楽しみながらも、聞き耳で変わった足音等に注意
接近察せば耳や尻尾で密かに合図
魔の手はステップ踏み躱して制し、逆に繻子を取り戻しましょう
逃げるならば敢えて泳いで頂いて、出所や行方を追跡調査

煌めく魔法に惹かれるは皆同じ
でもね、奪い去るなんてだめ
この魔法は分かち合って楽しむものよ

返った繻子は人々へ
笑顔と宝石の輝き満ちる海を、再び――大丈夫、嵐もきっと越えられるわ


月永・由良
【紅満点】
良くない波が押し寄せてきたか
招かれざる客には引いて貰わねばね
悪戯は姫君達の魔法のみで十分
皆が愛す海を荒らす真似は認めない

蜥蜴の気を引く為、舞踏は止めず敢えて目立つ立回りを
そして揺らぐ魔法や心を支える為にも、笑み湛え繻子煌めかせ――ウルスラの魔法や残る虹魚達と共に、姫君方を魔の手から守りエスコートする様に

踊子に触れるは厳禁
まして笑顔も宝石も奪おう等、以ての外

厄介な者は捕らえ、何処かへ逃げる・向かう者は追跡し発生源か目的地を探る
街中は無論、禁足地も気掛かりだ

繻子は余裕あれば本来の持主へ
翳ってもまた輝く月の様に、荒れてもまた凪ぐ海の様に
姫君達の願い通り、嵐も荒波も越え、また皆が笑える一時を


鳳来・澪
【紅満点】
姫様達を敬った、楽しい悪戯なら歓迎も出来たけど――これはおいたが過ぎるね
平和な海に荒波起こす海賊さん達には、お引き取り願おか

蜥蜴の気配や動向探りつつも、引き続き笑顔と繻子纏い、皆や魚と合わせて、一等踊り楽しむように――強い魔力が宿るように行動
狙いは彼らの目を引く囮となり、人々の被害を抑える事
宝石と笑顔が魔法の源なら、それを絶やさず此処に示す事

合図や光に注意して、寄ってきたならくるりと舞いつつあしらったり囲んだり、皆と協力し繻子回収

取り戻した輝きは不安げな人々の元へ
今一度、ルトラ姫とハトラ姫に代わって――
皆の笑顔も宝石の輝きも、これ以上は翳らせない
ちゃんと晴らして、満たしてみせるよ



●華やかな罠
「――無粋な輩もいたものね」
 興がさめたと肩を竦めるウルスラに、まあと口許に手をあててキャロラインが首を傾げる。
「違う悪戯っ子まで現れてしまったのね。けれどこれは……斯様な悪戯は、いけないわ」
「そうだな。良くない波……招かれざる客には退いて貰わねばね」
 歌われる双子姫のように人々を楽しませるどころか、その対極。千に一夜の稀なる夜に、悲しみを呼ぶなんて――と、憂いを帯びた金の瞳を、由良の眼差しが大丈夫、と掬い上げる。
「皆が愛す海を荒らす真似は、認めない」
「うん、まだ終わるには早すぎるよ。姫様達を敬った、楽しい悪戯なら歓迎も出来たけど――これはおいたが過ぎるね」
「それならどうするつもりかしら、お姫様?」
 憤慨する澪に、ウルスラはくすりと笑みを向ける。答えなど知っている戯れの問いに、もちろん、と満面の笑みが返った。
「平和な海に荒波起こす海賊さん達には、お引き取り願おか」
 手に手を取って――さあ、踊ろう、踊ろう、踊ろう!
 笑顔と繻子は纏ったままに。先よりもいっそう華やかに、愛らしく。踏み出す足が軽やかに地を叩けば、
「ええ、そうね。今一度、揺らぎ乾く海に笑顔の魔力を注ぎましょう」
 軽く跳ねてはくるりと踊る、ケットシーの淑女の軽やかなステップもそれに添って。息を合わせたふたりの姫君が、音楽さえも止めてしまった町に新しいリズムを作り出す。
(「そう、魔法を喚び戻すことも大事だけど……これは囮。宝石も笑顔もここに示して、目移りなんてさせないんよ」)
 揺れる繻子は澪の黒髪に美しく映え、キャロラインの艶やかな毛色をいっそう引き立てる。人々の心惹く振舞いでありながら、笑む瞳にはどこか冷静な――来ると確信するものへの警戒を残していた。
 麗人たる由良は、そんなふたりの舞姫の手を交互にとり、悠々たる男性のステップを披露する。堂々とした立ち回りは踊りの愉しみを忘れることなく、けれどこれも細やかに周囲に気を配っていた。――どこからかの盗人たちが現れるかわからない。
「共に姫君たちを守ろうか、ウルスラ」
「ふふ……そうね、私も働きましょうか」
 千日を数えては待つ健気な人々――言葉を交わしたかの青年の、次の千夜を彩る魔法の笑みが褪せてしまわぬように。
 乾したグラスを踵で踏み砕き、細やかに煌めく欠片の中へさらりと落とし込むのは淡き麻痺毒。ぱちりと爆ぜる雷霆のかけらを籠めて創り出す剣呑な魔法の罠は、眼前にふわりと消え失せた虹色の魚のすがたをなぞる。
 艶やかな唇がふぅっ、と命の風を吹き込んで、タクトのように杖を振る。高らかな歌声に力を得て、虹の魚は涸れゆこうとする蒼海に、泳ぎ出した。
 触れさえしなければ鮮やかなだけのその姿は、不安に揺れる人々の眼差しを花火のように眩く染め、踊る仲間の楽しげな笑みを照らし出す。――その様子に心惹かれたか、再び始まった楽の音に、ウルスラはくすりと微笑んだ。
「好い心がけだわ。安心なさい。取り戻してみせるから」
 この先に待つ嵐が凪げば、海は再び満ちる。それまでは――と、指揮者と舞い手たちは人々の笑みを奏で続ける。そこへ、紡ぎ直される魔法の気配に顔を出す土色のならず者たち。
「来たんやね。――だけど、渡せるものはひとつもないんよ」
 ひらり、花めき躍らせる扇を畳んでぱちり――美しい鰭を掠め取りにくる無粋な手を弾き、あしらって。澪の目配せに頷いて、キャロラインも躍り出る。
「まあ、私達の魔力に誘われていらしたのかしら。でもね、奪い去るなんてだめ。この魔法は分かち合って楽しむものよ」
 淑女然と窘めながらも、トカゲの手をくるり、ひらりとターンで躱す。それどころか、すり抜ける一瞬で奪い返したのは人々のいろ。
「おや――失礼、踊子に触れるは厳禁。まして笑顔も宝石も奪おう等、以ての外だ」
 お帰り願おう、と行く先阻む由良の長い脚が、二人の姫に手を伸ばしたトカゲたちの足先を掬う。七色の盗品はひらり――転んで破けてしまう前にお預かりしよう。
「さあ、皆様も奪われたものをお取りになって」
「うん、またご一緒に踊らせてほしいな!」
 集めた魔力を失って、逃げていくトカゲは油断なく目の端に。キャロラインと澪のいざないに活気を取り戻す人波から、一行はさりげなく離れ、泳がせる小さな背を追っていく。
 行く先は町中か、トカゲたちの発生源か――物語に聞いた禁足地も気にかかる。
「大丈夫。今一度、ルトラ姫とハトラ姫に代わって――」
 導かれる先の元凶を倒したならば、笑顔と宝石はきっとまた、幻の海を輝きで満たせるだろう。これ以上は翳らせない、と呟く澪に、三つの心も寄り添い駆ける。
 嵐も荒波も越え、双子の姫君の願ったひととき――笑い合える夢の一夜をもう一度紡ぎ出す、その時のために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
おや、ま、僕を置いて游いでいってしまうだなんて
随分、やんちゃな子だった、かしら
それともお前も、遊びたいかな
ころころ上機嫌に、笑ってかくれんぼといきましょか

きらきら去っていった影を招くよに
誘うようにおびき寄せるよに宵に灯りに指先翳し
ひとつふたつ持ち去ったとて、まだお仕舞では、ないのだもの
遊び足りないなら僕とも遊んで、くださるかしらところころと
水の引いた夢の中を次は僕が探し物

朝にかえるにはまだ早いもの、夢の続きを描きましょう
指先に髪に踊る波紋に波の夢
お祭りに聞いた歌をうたいながら、
悪戯っ子の尻尾を追いかけましょうな
全部抱えていったとて、ねえ、
手に溢れてしまうより
みなで眺める方がうつくしいもの、な



●現へ醒めるまで
「おや、ま、僕を置いて游いでいってしまうだなんて――随分、やんちゃな子だった、かしら」
 触れ得ぬゆびさきをひととき預けた光の魚が、ふつりと消える。惜しむ響きを帯びたイアの声が、漣のようにさやかに笑う。
「――それともお前も、遊びたいかな」
 舞うようにひらり、鰭を躍らせて、冴えたる海の彩を纏う青年は盗人の手をすり抜ける。易くは奪えぬ相手と知るや、駆け抜けていくトカゲの身には数多の繻子の色。ああ、そんなに目立っては、と目を細め、イアはこの海とは彩り異にする愉快に身を浸す。――笑ってかくれんぼといきましょか。
 翳す銀のゆびさきには、ひかり。退きゆく波や魚たちの煌めきが遠いならと、近しく迎えた青き火の輝きは、行く手に躍る七色をはっきりと照らし出す。
「さあ、さあ、どの子もおいで。まぼろしを游ぐ魚らから奪うなら、ねえ、こちらにもまだ――ひとひら」
 魔力を宿す繻子の鰭には燈し火の輝きを映し出し、いっとう眩しく輝くように。誘い揺れるひかりに誘い出される盗人たちの気配には、ころりと笑う。
「そうな、ひとつ、ふたつ、持ち去ったとて――まだお仕舞では、ないのだもの」
 遊び足りないなら僕ともと、ゆるり笑って。色纏う影を追って追われる道往きを、愉しんで笑うイアの唇がまたひと色、海を取り戻す。
 弾み零れた呼吸は先刻と同じく、銀の泡を含んでころころと空へ翔けていく。それを愛しく見送りながら、舌に乗せる歌は祭りに聞いた調べ。
「ねえ、お前の理由はどちらにあるかしら。――全部抱えていったとて、ねえ」
 視界を流れゆく色は確かに麗しく、けれどとりどり、皆の手に在った先刻の方が、海の世界はいっそう華やかであったから。
「その手に溢れてしまうより、みなで眺める方がうつくしいもの、な」
 だから、魔法の解ける朝のひかりには猶予を乞うて。まだ早いと笑うそのひとときに、青年は夢の続きの海を描き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ歓迎
土産に買ったショールだけは手を離さず
引かれても強く引き返し
悪いなこれはやる相手が決まってるんだ
…けど捕まえても消えちまうなら
泳がせるしかねぇよなぁ
代わりに自分のショールを掴ませて
追いかけっこをお望みならやってやろう
歌うは【青星の盟約】
攻撃に回す力を全て足に集中
地面を強く蹴るその反動で勢いを増して追いかける

器用に人混みを避けて
まっすぐ進みづらいならジャンプで無理やり前へ
ははっなかなかいい逃げっぷりだな
割りと楽しい…が…遅いぜ
そんなもんなのか?
敵が速く走れば早く目的地につくんじゃないか?
早くまた海が見たくて挑発する

目的の場所についたらショールは返してもらおうか
帰って自慢するのに使うんだ



●譲れぬ君色
 傍らを掠める気配にはすぐに気付いた。きつく握り締めたひとひらの青の一端を、そこに込められた思いも知らず奪いゆこうとするものの手が掬い上げる。
「悪いな、これはやる相手が決まってるんだ」
 くれてやる気などないのだと、同じ青を湛えたセリオスの瞳はきらりと輝いた。不敵な笑みで相対するトカゲの眼は、人々から奪い取ってきたのだろうショールの中に沈んで読めない。
 相手とて、宿る魔力を損なうことは本意ではないのだろう。破れぬように引き合う力の拮抗を、破ったのはセリオスだった。
(「捕まえても消えちまうなら、泳がせるしかねぇよなぁ。……なら」)
 烏羽めいた髪を覆うショールを取り払い、視線を遮るように――ひらり。
「そら、鬼のしるしが欲しいならこっちをくれてやる」
 眼前に散り光る飛沫のような銀ビーズの誘惑に、ならず者は思わず青から手を離し、飛びついた。よし、と瞳に燈る好戦の笑みが深くなる。
 ――退きゆく海の青影の彼方、いと輝ける星よ。歌声に応え力を零せ、駆け風の戦に勝り、我が望みに至れるまで!
 たちまち踵を返す敵の背を、歌声の波が追い上げる。人々の揺らぎ、伝播する不安。それらを一瞬で塗り替えた鮮烈な青の歌は、疾駆するセリオスの脚に力を集約させていく。
 常ならば敵の命を削ぎに躍るはずのその力は、今は地を蹴り、灰色の壁を蹴って、褪せゆく海に踊る星を自由な高みへ至らしめる。弾む息などものともせずに強く笑めば、光の魚が彩るように傍らを跳ねる。
「ははっ、なかなかいい逃げっぷりだな! けど、鬼にはちょっと物足りないぜ。お前が誇る速さってのはそんなもんなのか?」
 歌声を彩る足音の接近に気づいた瞬間にはもう、楽しげな笑みは盗人の隣にあった。挑発が呼び覚ます相手の速度を、まだまだと笑みで煽るのだから人が悪い。
 ――けれど、それもやむなきこと。速く至ればそれだけ早く、この海の絢爛を取り戻せるのだから。
「朝を告げる小鳥の声にはまだ遠い。星々の時間、返して貰うぜ!」
 一瞬一秒でも早くまた、この目に映したくてセリオスは駆ける。
 来たる夏の朝がいかに早くとも、この海に暇を告げる時にはまだ、早すぎるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダヴィド・ゴーティエ
ミェル(f06665)と共に

異変に気付いた時には既に
妻の繻子が掠め取られていた
成程、騒ぎの元凶はこれかと
大した感慨もなく視線を落とせば

……、そうか……
布切れ一枚に斯うも必死になるとは
夫として罪悪感に襲われもしたが
先ずは落ち着けと嘆息し
鞘に結わえた白銀の繻子を解くと
目許に浮かんだ雫をぎこちなく拭う
取り戻すまで持っているがいい
『宝石と笑顔は魔法』なのだろう?

扨、面妖な
捕縛が難しくば彼奴等を追跡し
出処を突き止めるしかあるまい
標的はより多くの繻子を奪った欲深な蜥蜴
自らの巣へと一目散に逃げ帰るであろうから
消失を防ぐ為敢えて捕えず泳がせ
不即不離の距離を保ちその足取りを追う
文字通り尻尾が掴めれば良いのだがな


ミェル・ゴーティエ
ダヴィド様(f06115)と

消えゆく魚を目で追うさ中
脇を擦り抜けたのは風の様な何か
身に纏う珊瑚色の繻子が
掠め取られたのだと気付けば
一気に酔いも醒めて

た、大変、取り戻さなくちゃ!
だってあれは
ダヴィド様と対為す宝石を鏤めた
お揃いの繻子なのですもの…!

涙目で訴えるも彼の言葉に諭され
目許を拭ってくれた白銀の繻子を
ぎゅうと握り締めれば
涙の代わりに零れたのは笑顔
命に代えても死守します!

砂色の鱗は町の彩に紛れようとも
とりどりの繻子を纏い町を駆ける
虹の様な彼らを見失ったりはしない
空を仰げば水面に揺れる月
大の大人が繰り広げる鬼事に
お月様までもが笑っている様で

今この時を心から愉しんでいるわたくしの事は
―秘密ですよ



●月の微笑
「……えっ?」
 さあっ――と、酔いの引いていく音が聞こえるようだった。
 子どものような戯れに、ふわふわと楽しげなステップを踏んでいたミェルが動きを止めてばっと振り返る。低い視線に眼差しを並べてみれば、ダヴィドにも理由はすぐに分かった。
 人波を素早く泳ぎ去っていくならず者の背。その身を不相応に彩る七色には、先刻まで妻の纏っていた珊瑚色も躍っていた。
「――成程、騒ぎの元凶はこれか」
 明滅する不安定な波の色、彼方此方で上がる声。波間を揺らがすような人々の動揺の理由を知って、ダヴィドはなお冷静だった。だから、
「た、大変、取り戻さなくちゃ!」
 取り乱す妻が不思議で、実直な眼差しはつい訝しんでしまう。彼らの身分からすれば決して高いものでもない、祭りの夜のためだけの纏い布のひとひらに、何故そうも必死になるのかと。
 いいえ、そうではないのです、とミェルは必至に訴える。
「駄目、駄目です! だってあれは……!」
 眼鏡の奥の真剣な眼差しが、悔しげに――悲しげに顰められる。ミェルの瞳の縁、盛り上がった雫は今や、繻子を彩った雲母の輝きよりも美しく、零れそうに輝いていた。
「ダヴィド様と対為す宝石を鏤めた、お揃いの繻子なのですもの……!」
「……、そうか……」
 先ずは落ち着けと、諭す声が僅かに和ぐ。その懸命さに初めから添えぬ己が心に、少しばかり呵責を感じながら――白銀の繻子を鞘から抜き取り、妻の目許を彩る雫をぎこちなく拭ってやる。この宝石はあまりにも、胸に痛い。
 取った手にその一端をしっかりと握り込ませて、
「取り戻すまで持っているがいい。『宝石と笑顔は魔法』――なのだろう?」
 その伝承の一端が、己の口にするに似つかわしくない言葉とダヴィドは自覚していた。けれど
(「ああ――本当に優しいかた」)
 目許を拭ってくれる夫の優しさは、まるでこのごく淡い繻子の輝きのよう。ぎゅうと握り締め、微笑んでみせるミェルの胸裏を、ダヴィドは知らない。
 そう――この夜には涙ではなく、笑顔を以て報いようとミェルは思う。敬愛する旦那様が、きっとこの手に対のひかりを取り戻してくれる。その時まではその輝きだけが、この海を守る唯一の魔法。
「命に代えても死守します!」
「……否、命になど代えてくれるな」
 また少しだけ渋くなった声は、流れゆく景色の中に溶けていく。世界中のあらゆる青に沈んだオアシスは、薄まりゆく魔力によって淡くなりゆこうとしていた。
 乾いた輪郭を取り戻した町を、駆け行く盗人がただ砂色の鱗なら、その中に紛れゆくこともあったろう。けれど、この海の誰よりも多くの色を奪って行くものは、その速さを捉えられるものたちの目には何よりも目立つ。
「扨、面妖な……捕縛が難しくば、出処を突き止めるしかあるまい」
 彼方にその一匹と相対する同志の姿を見て、ダヴィドは眉を顰める。攻撃や拘束は、かのトカゲの姿を消失させてしまうようだ。盗品を奪い返すだけであればそれでも良いだろう。だが、
「……泳がせておけば、自らの巣へと一目散に逃げ帰るであろう。奔れるか、ミェル」
「ええ、勿論です!」
「文字通り、尻尾が掴めれば良いのだがな」
 並び駆ける妻の若々しさに知らず目を細め、ダヴィドは前方へ意識を集約する。
 つかず離れず、されど全力の追跡行。その中でも何気なく自分に速さを合わせてくれるひとを横目に、ミェルは蜜色の眼差しをとろりと緩めた。
(「今、このひと時を心から愉しんでいるわたくしの事は――秘密ですね」)
 知ればまた渋面をつくるだろう夫を思い、また愛おしさに胸を温める。その柔い熱があるから、月の下では冷ややかな砂漠の夜だって、決して寒くはない。
 駆けるふたりの頭上には、トカゲたちによって薄められていく海――そして猟兵たちによって取り戻されていく海を見下ろす月。
 その光には姉姫、その影には妹姫。ふたりを思わせる満月は波の彼方にゆらゆら揺れて、大人たちの本気の鬼事を愉しむように笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『パストール』

POW   :    ディス・イリュージョン
自身からレベルm半径内の無機物を【昆虫や爬虫類の幻影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    ドラゴニック・リボン
【召喚した伸縮自在のリボン】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ジャッジメント・パヴィリオン
【杖】を向けた対象に、【巻き付く炎のカーテン】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幻夜の生まれる場所
 千夜ごとの揺り返し、砂漠の夜の蜃気楼。
 紅き月のハトラと青き影のルトラ――ふたりの姫君の創り出した幻燈のはじまりの場所は、この地を護る領主の館の奥にひそやかに在った。
 砂漠の海アランカラの命の源、貴重な水の湧き出す緑陰の水源は、領主に連なる血とそれを護る者に訪れるものを限った禁足地とされている。
 渇きに強い木々の枝葉が、心地よい廂をつくる砂岩の庭。水源――とは言いながら、美しい石彫で彩られたその場所に、滾々と湧き出でる水のすがたは見当たらない。けれど、姿なきその流れの紡ぐ水音は、秘密の庭を訪れるものの耳を、心を癒して憚らない。
 それは地中から聞こえてくるのだが、手荒く床石を剥ごうとも、水源に辿り着くことは叶わない。アランカラの要に施された魔術の守りが、物理的な侵入を拒むからだ。
 入口はただひとつ。『鍵』たる魔法は、アランカラの領主に口伝で代々伝えられている。彼らの言の葉によって生まれる魔法陣、それを経ずして辿り着くことは、決して叶わない場所。
 ――で、あった筈が。

 彼方の霊脈より滔々と流れ来る、細く清かな流れ。
 そのあまい魔力の気配を、匂いを、嗅ぎつけたものたちがあった。
 千日に一度の幻の海のため、蓄積される膨大な力。それは骸の海より蘇った昏き魔術師たちには、渇きの旅路に涸れた喉を潤す、水のひとしずくのようなもの。
 ただびとには至れぬはずのその場所に、捻じ曲がった魔術で無粋にも幾つもの道を繋ぎ、邪なる術を教導するものたち――パストールは侵入を果たした。
 他者に伝うべき言葉を紡ぐこともなく、奇妙な詠唱だけを読み重ねる彼らの目的は知れない。その姿はただ、魔術への妄執に突き動かされたものの末路とも見える。

 アランカラの一夜を彩る海にも似た、冴えた青の光と澄んだ水音が満ちる美しい遺跡の底で、パストールたちは貪欲にも待っている。
 この町の魔力が頂に達し、幻の海を生むそのとき、町の人々からも分かたれる宝石と笑顔の魔力。それをも奪ってここへ戻り来る、彼らの使い魔たちを。

●凶つ魔術師
 幻の海の異変は、既に領主の知るところともなっていた。
 呆然と空を見上げる領主と、それを護る衛士たちの目を掻い潜り、盗人たち、魔力で生み出されたパストールの使い魔らは、館の裏手へ消えてゆく。
 追って辿り着いた猟兵たちを、衛兵たちの誰何の声が押し止めた。――何用あって押し通ろうとするものか、これより先は領主と衛士にしか許されぬ。
 誰かが答える。――この異変を引き起こしたものを追って、ここへ辿り着いたのだと。
 また誰かが乞う。――どうかこのまま追わせてほしい。この海が終わるのは、まだ早い筈だと。
 応酬を見守っていた老領主は、静かに衛士たちを制した。――わたしの命たるこの町を、姫君方の遺したこの夜を護ろうとされるのならば、彼らもまた護り手と呼べようと。
 鶴の一声で開かれた道を、風のように駆けていく。
 禁足地の奥――水音満ちる石庭のそこここに、禍々しい光を浮かび上がらせる鮮紅の魔法陣。その向こうへと姿を消したトカゲを追って、猟兵たちは迷うことなく飛び込んだ。

 ぐらりと視界が揺れたのは一瞬。気づいた時には、彼らは水の中に立っていた。
 青く美しい光の満ちる、それはまさに砂漠の聖域だった。幾つもの部屋に分かたれた遺跡の全容は知れない。けれど、床を浅く覆う水は、きっと全域に広がっているのだろう。
 魔法に通じた者なら感じられたはずだ。肌を粟立たせるほど純度の高い清らかな魔力が、足許の水から豊かに湧き出でている。
 そして、目を細めてみれば。月と影のふたいろ、旧くに紡がれた魔法の糸が、生まれ出す魔力を導くように高い天井へ伸びているのが見えただろう。

 ――けれど。
 双子姫の遺した術を辿り、町へと齎される筈の美しい魔力を、ここで吸い上げる者がある。
 昏く盲いた魔術で世界を害する異変の元凶たちは、きろりと赤く輝く眼で猟兵たちを見返していた。聞くに堪えぬ詠唱を、輪唱のように絶え間なく響かせながら。

 ふたりの勇者が、決して刹那的で享楽的なだけの娘たちではなかったことを知った。――笑い、鮮やかに、愛する人々の生きる日々を彩ろうとしていたことを知った。
 だから、猟兵たちに見過ごす理由はない。
 あの幻燈のために導かれるべき魔力のひとかけらとて、オブリビオンに渡しはすまい。滾る戦意は刃よりも早く、敵を穿つ。
リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と

領主が話のわかるヤツで助かったぜ
信じてもらったからにはきっちりと護ってやろうじゃねぇの

にしても、美しい場所だな…
見た目もだが、空気というか、満ちる魔力がというか
…うん、できれば穢したくはないな
似付かわしくない連中には早々にお帰り願おう

護ろうとする者はまだまだいそうだよな
ならばオレは布石を打とう
弱体化をばら撒くつもりで攻撃だ
荒らさねぇように善処はするが、あんま期待すんなよ

武器落とし、鎧砕き、目潰し、マヒ攻撃を乗せて
範囲攻撃で多くを巻き込めるように
UCを封じられても困るからな、高速詠唱で先手を狙うか

防御では見切りや第六感での回避を狙って
間に合わなければ盾受けや火炎耐性で凌ぐぜ


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

砂漠の水源は、まさしく命の源
禁足の地として代々護られる場所に入り込んだのが、
いっそ只の盗人であれば、まだ良かったのだろうけれど

あまり、この場所を荒らしたくないな……
リチュ、お願いするね
リチュの力で敵の動きが鈍るタイミングを待って、
魔力の枝で灯したUCの炎を
けれどあまりばら撒かずに、流れ弾を作らぬよう一点に集中させる

主人であるリチュより狙われ易いよう、半歩前に出て
自身の守りはオーラ防御を軸に
見切れたならば回避や武器受けも試みる

……今を蝕むばかりの彼らは、きっと奪える限り奪っても満たされる事なく
人々が大切にしてきたものを枯らしてしまうから
その前に彼らのあるべき海へ還そう



●西の水源
「……すげぇな」
 ひたり、踝まで浸す水の上に裾引きながら進み出て、リチュエルは恍惚とした声を零した。
「美しい場所だな……」
 どこが光源になっているのかはよく分からない。薄暗い地下神殿の全域を覆っているのだろう湧き水、その秘められた魔力が光を生んでいるのかもしれない。砂岩を彫り抜いたものと思われる白壁に、あらゆる青を含んだその輝きが波紋を映し出している。
 見た目ばかりではなかった。時々こぽりと音を立てる足許の水、そこから感じられる魔力も、彼方の天井までを満たす空気も。全てが美しく、魔法を扱うものの五感に語り掛けてくる。
「……つくづく、領主が話のわかるヤツで助かったぜ」
 リチュエルの吐息には賛嘆が混じる。本来ならば、面倒な手続きを経て身の証を立てなければならなかったろう。しかし状況が――そしてリチュエルたち猟兵の真摯な眼差しが、領主に英断を下させた。
 おそらく、何の証も立てぬ者がこの場所に入ることは、双子姫の昔にもなかっただろう。
「……いっそ只の盗人であれば、まだ良かったのだろうけれど」
 いかなる大泥棒であれ、水源そのものを盗み出すことはできなかっただろうから。けれど――と、タロは狂気じみた気配を向け来るものへと視線を映し、嘆息する。
 広い一室に数体が散り、赤い眼をぎらつかせてこちらを窺っている。彼ら――パストールたちは、魔道士だ。清らかな水が抱く豊かさ、その力だけを吸い上げることができる、異能のものなのだ。
「ま、何者だろうと変わりないぜ。信じてもらったからには、きっちりと護ってやろうじゃねぇの」
「そうだね、リチュ」
 油断なく杖を敵へ向けながらも、タロは白皙に柔らかな笑みを浮かべ――そして、呟いた。
「あまり、この場所を荒らしたくないな……」
「……うん、できれば穢したくはないな」
 その為にも、似つかわしくない者たちには早々に退場を。ラベンダー色の髪がふわりと広がり、水の齎すそれとは異なる魔力の流れを顕現させる。
「リチュ、お願いするね」
「おう、任しとけ。――護ろうとする者はまだまだいそうだからな、オレは布石を。ただし、あんま期待すんなよ」
 荒らさないよう善処はする、と言い置いて、捧げ持つ祭祀剣。その柄に埋め込まれた宝石の輝きが、脈を打つ。蕾がひらくように色が剥がれたと思った瞬間、銀の短剣のすべてが宝石化し、花と散った。
「潔らかなる乙女は穢れを拒む――可憐なる花を飛礫に変え、清浄なる水を侵すものことを戒めよ」
 守りを、備えを、動きを、五感を。封じ込めるに適する数多の力を宝石の花弁に乗せ、リチュエルはこの一室に散るパストールたちへの楔とする。
 主の力が敵を戒める、その間に。気難し屋のトネリコの杖を宥め、タロは紡ぎ出した炎の矢を宙に浮かべる。冴えた遺跡の空気に煌めきを強めるそれは、タロの指揮のもと、的確にパストールのもとへ集い、爆ぜる。――遺跡を壊す流れ弾とならないようにと。
「! リチュ、退がって」
 迫り来る炎の幕を汚れひとつない外套で叩き落とし、タロはすぐに次の一手を紡いでいた。大きく虚空へ駆け、天井には触れることなく旋回軌道で降り来る炎矢。眩い熱がまた一体、悪しきものを灼き切って消える。
「君達は、今を蝕むことしか知らない。奪える限り奪って、何を涸らしてしまうかも……知らないだろう?」
 そしておそらく、その心は狂気に触れたまま、満たされることもなく強大な術を紡ぐのだ。幻の海という非日常を奪えば、今度は日常を破壊しにかかるだろう。そうなる前に、
「――あるべき海へ還そう」
 この砂漠の愉しき幻ではなく、現の終わりの中。忘れゆかれるだけの過去たちの流れつく、骸の海へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァルダ・イシルドゥア
やわらかな砂
きよらかな水
月と影のふたいろが満ちる
ああ――なんて、……なんて、やさしい……

そう、私たちは
姫君たちの祝福を受けた、蒼海の守り人

人々の幸い、よろこびを抱いた海
あたたかで『あい』に満たされたこの魔法を
汚すことも……まして、奪うことも
決して許される筈がないのです

参りましょう、アナリオン
――アイナノア!

初手飛竜翔
空中戦で流星槍を主軸に前衛で立ち回る
相手を撹乱し他の猟兵が立ち回り易いよう
敵のリボンは竜たちに炎を吐かせ少しでも効果を削げれば

夜明けとともに溶けてしまう夢だとしても
みなはそれに、希望を見出すのです
纏った『ひれ』のきらめきに
明日を生きる喜びを抱いて

姫さま、……守ってみせます、きっと!



 踏み出せばさらりと足に寄り来る砂の肌触り、冷たくも清らかな水の感触。
 それは柔らかな熱の色に染むヴァルダを拒むことなく、ひんやりと優しく迎え入れた。
「ああ――なんて、……なんて、やさしい……」
 あの上から来たのだと高い天井を見上げれば、月と影のふたいろの魔力が糸をなし、縒り合わされて上っていくのが見える。ふと、心を正される思いがある。
(「そう、領主様も分かってくれた。私たちは、あの魔法の……姫君たちの祝福を受けた、蒼海の守り人」)
 不躾に見つめ返すパストールの赤い眼、無限にも思われる単調な詠唱に、畏怖がないといえば嘘になる。けれど、人々の幸いと歓びを抱いた海、幻であれど本物のようにいのちを抱き、勇者の昔からこの今までも、暖かな藍と愛で満たし続けたこの魔法を、
「汚すことも……まして、奪うことも。決して許される筈がないのです」
 囁きは少しずつ強く、空気を震わせる。頼りなく揺れる声が確かになっていく。そして呼ばわる時には、その意志は確たるものとなっていた。
「参りましょう、アナリオン――アイナノア!」
 常に傍らに在る『太陽の仔』は槍として。そして新たに来たる『太陽の君』は、ヴァルダを背に乗せ、内に秘めるいのち、蒼き炎を少女のそれと繋ぐ。
 その間にも襲い来る炎の幕から、巨竜の翼がヴァルアを庇う。痛ましさに僅か眉を寄せ、それでもヴァルダは敵を目指す。
 夜明けとともに溶けてしまう夢だとしても、それに見出される希望があるから。纏った鰭に揺れる煌めきに惑わされ、夢を見て。悲しみも苦しみも、この一夜だけは忘れて。そうして明日を生きる喜びを、その胸に抱き直すのだから。
「姫さま、……守ってみせます、きっと!」
 月に従うさだめを携え生まれた少女は、月と影と謳われるふたりにそう誓う。急降下する翼を絡め取りに来るリボンを、焔の吐息で弾き、道を拓いて――そして、
「我が身、ひかりの導となりて……馳せよ、アナリオン!」
 呼応する声に代え、竜の仔が放つものは――光。
 頬を掠める攻撃に臆することなく貫いた一突きは、光輝の中に邪悪なる術士を見事、浄化した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛鳥井・藤彦
全く無粋な輩もいたもんや。
事情によっては手心加えてもええかな思うとったけど、その必要はなさそうや。
ほな、いくで。

炎のカーテンには海の碧で対抗や。
腰に提げた幾つかの絵具壺から選んだのは、目も醒めるような紺碧の海色。
そんなお気に入りの青い塗料をぶちまけさせて貰います。

もし当たらんくても、海色で染められた場所は僕の領域やし?

大筆構えて、なぎ払い吹き飛ばす位はさせて頂きますわ。

嫌やわー、僕荒事は苦手なんやけど。
でも、あんさんの顔見てたらつい、筆持つ手に力入ってまうみたいで。
堪忍なぁ。

全く申し訳なさそうな顔でも声でもない?
まぁまぁ、そこは見逃したってや。



「全く――無粋な輩もいたもんや」
 やれやれと首を振り、名のままの藤色の瞳を眇めた藤彦の口許は笑っている。
 砂漠の町の地下に秘された遺跡、これほどの青の氾濫。あらゆる諧調の青を波と光の揺らぎの中に見る、絵師垂涎の稀なる光景。
 その美しさも価値も、魔力としてしか量れないものを、無粋と呼ばずして何と呼ぼうか。はは、と小さく笑い零して、藤彦は小さな壺を腰の吊り紐から引き抜いた。
「手心加える必要はなさそうや。――ほな、いくで」
 自身を抱き取りにくる炎の幕へ、蓋を開けて放り投げる。眩い熱の色に触れた途端に弾け散る陶器片、けれどそれと同時に、目の醒めるような海の色が、冴え冴えと熱の色を塗り変える。
「どうや? 炎のカーテンには海の碧で対抗や」
 熱を突き抜けた色の雫はパストールに降りかかり、鮮やかなその色で命を侵食していく。恨みがましい響きを帯びる詠唱にまた笑い、
「お気に入りの色なんやけど――あんさん方には気に食わんかったみたいやなあ。まあ、あの海を何とも思わん輩やし?」
 しゃあないなあ、ともう一度。今度は意のまま、周囲に浮かんだ絵具の雫を大筆で掬い取り、振り放つ。
 今度はごう、と咆える炎の幕に軍配が上がった。白い衣を焦がす熱にあちち、と踊って、けれど藤彦の顔から笑みは消えない。
「外れてもええんよ。さあ、これでもうここは僕の領域やけど、どう戦ってくれるんかなあ」
 ――『この戦いが終わるまで』、その体、借り受けるんよ。
 足許に広がる水は藤彦の望みを汲み、外れた碧の雫にひととき身を染める。ひとつの結界と化したそこから流れ込む力に口角を上げ、大筆を構えて駆ける。
「はー嫌やわー、僕荒事は苦手なんやけど。でも、あんさんの顔見てたらつい、筆持つ手に力入ってまうみたいで」
 眼差しの帯びる剣呑な色。言葉とは裏腹の鮮やかさで、青年は笑う。炎の幕が消え失せるのを待たず、その熱を筆の柄で突き抜けて。ひらり翻す穂には、先刻の碧。
「――手加減できんけど、堪忍なぁ」
 ゆるり和ぐ声の向こうから振り抜いた大筆が、敵を壁に叩きつける。海の色に染まったパストールの口から零れる音が消えたのを確かめて、はー難儀した、と青年はぽきり肩を鳴らした。
 ――水源に広がる絵具の色が消えていく。戦の昂りが引き潮のように藤彦の内から退いていったのを察したかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フランチェスカ・ヴィオラーノ
ソアラくん/f18166と

勇者の伝説を追うのは三度目
今回は変わった勇者様だなって思ってたけど
名前だけの勇者じゃなかったんだね、やっぱり
奪った魔力
全部、返してもらうから!

ラブラブデート?
ああ、うん
カップルさん達も沢山いたもんね
がっかりさせるわけにはいかないよ!

魔術は人を、時には世界を脅かす
…それは痛いほどによくわかっている
だからこそ私は
正しく、人々を幸せにする魔法を使いたい

序盤は先制攻撃等を駆使して敵の詠唱を阻害するよ
本格的に動きを封じるのはソアラくんに任せるね
彼の合図に応えて全力魔法
そしてウィザード・ミサイルを敵の頭目掛けて放つ!
どう、これでも耐えられる!?
勇者様の分も、おまけしちゃうから!


ソル・アーラ
愛しのフラン先輩/f18165と!

お前になんか魔力は渡さない!
祭りを中止にさせる訳には行かないんだ!
今度こそ先輩に楽しく踊って貰わなきゃ!
ラブラブデートの終わりはやっぱり笑顔じゃなきゃな!

お、俺たちの事だと思われてない…(ががーん)
…って、凹んでる場合じゃない
勇者の望んだ皆の笑顔を守らなきゃ!
それが何より先輩の望みなんだから!

スチームエンジンでガジェットを強化
氷の属性魔法弾を相手の足元に撃ち込むぜ
水を凍らせて動けなくしてやる!
これ以上皆の為の魔力を吸い取らせはしない
相手の炎は防御で耐える
俺は大丈夫です、先輩!
それよりも今がチャンスです
ドカンとやっちゃって下さい!
そしてまたお祭りに戻りましょう!



「……今回は変わった勇者様だなって思ったけど」
 名ばかりの勇者ではなかったのだと、フランチェスカは鮮やかな瞳を魔力の光に煌めかせた。
 壮大な悪戯の果てに、町を追い出されるように勇者の旅路に連なった双子姫。あれだけの魔法を扱う手腕が、勇者としていかに振るわれたのか――それは誰も知らないことではあるけれど。
「これで終わりになんてさせないよ。奪った魔力、全部、返してもらうから!」
「そうだ、この町の魔力はお前らになんか渡さない!」
 挑みかかるフランチェスカを背に庇うように、ソルも声を上げる。祭りを中止にさせる訳にはいかない。今度こそ、フランチェスカに楽しく踊って貰わなければならないのだ。
「ラブラブデートの終わりはやっぱり笑顔じゃなきゃな! ね、先輩!」
「ラブラブデート? ああ、うん、カップルさん達も沢山いたもんね。がっかりさせるわけにはいかないよ! ……ってあれ、ソアラくん?」
 眩しいほどの純真な笑顔に、ソルはがくりと膝を折った。足許の水の冷たさが身に沁みる。
(「お、俺たちの事だと思われてない……」)
 さめざめと泣――いている場合ではない。ポジティブに切り替え早く、ソルはざばっと水を掻き立ち上がった。
「やりましょう、先輩! 勇者の望んだ皆の笑顔を守らなきゃ! それが何より、先輩の望みなんですよね?」
 落ち込んで――立ち直って。くるくると表情を変える少年に瞬いて、けれどそんな後輩は少し眩しく、微笑ましくて。フランチェスカは思わずくすりと笑う。
「そうだね。やろう、ソアラくん!」
「はいっ!」
 新たな蒸気エンジンを組み足したガジェットから、撃ち出す魔法弾の属性は――氷。僅かに下方を狙って放たれたそれは、炎の幕を生み出すパストールに届くことなく水へと落ちる。
「外れた……! ソアラくん、もっと狙って!」
「いえ、これでいいんですっ!」
「えっ?」
 落ちた氷弾からぱきぱきと広がっていく氷が、敵の動きを封じ込める。目を瞠ったフランチェスカをぐっと後ろに下げ、少年は迫る炎をその身に受け止めた。
「ソアラくん!」
「俺は大丈夫です、先輩! それよりも今のうちに、ドカンとやっちゃって下さいっ!」
 ――そしてまた、お祭りに戻るのだ。曇りない笑顔にこくりと頷きをひとつ、フランチェスカは前を見る。
 魔術は危ういもの。使い方を誤れば人を、世界を脅かすもの。フランチェスカはそれを、痛いほどに知っている。大切な父を奪ったものも、それに類するものだ。
(「でも、だからこそ私は」)
 杖を突きつけ、詠唱を凛と響かせる。全力を乗せた魔導の力に、足許の水が共鳴して波紋を描き出す。
「私は――正しく、皆を幸せにする魔法を使うの! さあ、勇者様の分もおまけしちゃうから!」
 魔力のひかりを撚り、熱を生む。魔法の矢は杖に導かれ、燃え上がる軌跡を残して飛んでいく。目指す先はもちろん、この町に異変を齎すものの懐だ。
「どう、これでも耐えられる!?」
 ――答えの代わりに、詠唱が止まる。欲望のままに水源を暴いたものは、美しき矢と澄んだ水の魔力に浄化され、かき消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
メーリ(f01264)と

みつけた、メーリっ
斧をくるり駆け出し
ガジェットショータイム

みんなのストールも魔法も、かえしてもらうからねっ

攻撃は武器受け
メーリのところにはいかせないよ

リボンに巻き付かれても
へいきだよ
だって
メーリも、シュネーもいるからねっ

ぐいっとリボン引き寄せ倒したら
反撃開始

メールの射撃を邪魔しないよう
飛び回りながらも動線確保
メーリの流れ星が今日もきれいだから
拍手の代わりに武器を一振り
氷に囚われたパストールをまとめてやっつけるよ

しずかにしてね
あの町に、きみたちの魔法はいらないよ

メーリの笑顔を感じたら綻ぶ
頼もしいのはメーリこそ
いっしょだからぜったい負けないって思えるんだ
これもきっと魔法だね


メーリ・フルメヴァーラ
オズ(f01136)と

お姫様たちの幻の一夜は
夢だけど夢じゃない希望に満ちている
絶対にここの魔力を渡したりしない
きらきらのストールもきらきらの笑顔も
勝手に誰かに使われるためにあるんじゃない

鱗も宝石も取り戻したし
笑顔は隣のオズのがとびっきり
だから大丈夫って自信をもって言えるんだ
ストール靡かせ常に戦場を駆け
リボンの先端を注視し回避を狙う

オズの動きに連携
月影に星を添わせよう
天翔ける綺羅星の在処で
出来るだけ多くのパストールを巻き込む
魔法弾は氷属性
そしたら水自体に被害は及ばないし
周囲ごと身動き封じられるかもだし一石二鳥

適宜射撃で援護し破顔
オズは今日もとっても頼もしい!
夜を泳いで一緒に戦えることが嬉しいな



「みつけた、メーリっ」
「うん! ――逃がさない、そこまでだよ!」
 淡い空と煌めく水と。ふたつの青は視線を交わし、飛沫を跳ね上げ駆けていく。
 銃を形作っていたオズのガジェットが、持ち主の意思を映してすがたを変えていく。目の前の敵群を倒し、皆のストールも魔法も返してもらう――その思いが映し出したかたちは、オズのてのひらに最も馴染んだもの。噴き出す蒸気で加速度を上げる巨斧。
「メーリのところにはいかせないよ……!」
「! オズ!」
 自在に奔るリボンを柄で受け止めて、だいじょうぶっ、とオズは笑う。
「へいきだよ。だってメーリも、シュネーもいるからねっ」
 絡みつくリボンを逆手に取って、えいやっと思い切り引き寄せる。術を紡ぐことに専心しているためか、さしたる抵抗もなくばしゃん! と引き倒されるパストール。それでもまだ止まぬ詠唱は気味が悪い――けれど、
「うん、任せて! 鱗も宝石も取り戻したし、今度はメーリ達の番!」
 反撃開始。含むオズの笑顔がとびきりだから、メーリだって自信を持って笑い返せる。大丈夫だと言い切って、妖しい詠唱を跳ね除けられる。
「絶対にここの魔力を渡したりしない。きらきらのストールも笑顔も、勝手に誰かに使われるためにあるんじゃない!」
 躍る斧がリボンを切り離しても、その先端はまた邪魔者たちを狙い来る。囚われぬよう蒸気を烟らせ、飛沫を跳ね上げて、くるくると戦場を駆け巡るオズが気を逸らしてくれる間に――真直ぐに向けた詠唱銃が、きらきらと光を蓄積していく。
「あなたたちにはこっちをあげる。――お姫様たちの月影に添う、魔力の星だよ。零さず全部受け取ってね!」
 映す属性は『氷』。水を濁らせることのない冷ややかな星々が、銃口から溢れ出す。青く冴えた魔力は紡ぐメーリの色。きらきら、しゃらしゃらと歌い輝き、その音色でかの詠唱を掻き消していく。
「わ、すごいメーリっ、動きが止まったよっ」
 敵を射抜き、水に落ちたものはその足許を凍らせて戒める。迸る流れ星は、眩く強いメーリの心を映したようで――今日もきれい、と目を細める。
「えへへ、今度はオズの番だね!」
「うん、もちろんっ。あの町に、きみたちの魔法はいらないから」
 ――しずかにしてね。
 星々の囁きを損なわぬ優しくひそやかな言の葉を、オズは苛烈な斧の刃に乗せる。重い一閃を華奢なからだで軽々と操れるのは、勝手知ったる得物のおかげ。
 メーリの星彩がきりりと冷やした空間に『Hermes』の咲かせる蒸気は、細やかにその軌道を正してくれる。襲い来るリボンの速さに追いつき、弾き返せるほどに。そして、
「ふふっ、オズは今日もとっても頼もしい!」
「メーリこそ。いっしょだから、ぜったい負けないって思えるんだ」
 星を紡ぎ、閃きを担い、優しくはない戦いの中で互いを守り、いつもの笑みを交わす。それがこんなにも力になるのも、
「ふふ、これもきっと魔法だね、メーリ」
「うん。――こんなきらきらの夜を泳いで、一緒に戦えることが嬉しいな」
 幻の海、幻の一夜。けれど繋いだ笑顔や絆は、夢にはならない。消えてはいかない。
「町の人たちに、海をはやくかえしてあげないとねっ」
「そうだね、メーリもオズともっと踊りたい!」
 薙ぎ払う斧の軌道を追いかけて、星が降る。倒れたパストールの影が、満ちる魔力に浄化されて消えたなら――ふたりぱちりと重ね合わせた両の手、くるりと廻る足取り。
 ふたいろの鰭を交わして喜び合うふたりは、一足早く、楽しい夜をひらりと泳ぐ魚に還る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
綺麗な水の中
満ちる清い力に肺の中まで澄む

嗚呼…そう
甘露に寄ってきた
無粋な盗っ人だったのか

無理に繋いだ陣が嫌な感じだったし
赤い目が明らかに敵意バシバシで息が漏れ

秘された大切な場所を
無理矢理暴くなんて
それは
柔い花を踏み散らかすのと同じぐらい

…そう、気にくわないなあ

瓜江を前に踏み込ませ
敵の動きを引きつけ
中距離から薙ぎ払いで牽制
杖の動き、術の流れを良く見て
彼の影に紛れて側に踏み込み
炎放つと見定めた瞬間相棒は下がらせ
UCで軽減しながら自身で飛び込み
杖を叩き斬る

可能なら
自身の魔力を大地伝いに流し
姫達の魔法の糸や運ぶ流れや
地脈侵すものを引っ剥がしたい

終われば
街に返しに行きたいな
鰭も…笑顔も

※共闘アドリブ歓迎



 足を濡らす水は美しく澄んで、満ちる清らかな魔力は空気を伝い、肺の中までもつめたく浄めていくようで。
 呼吸をひとつ、爪先から指の先まで冴え冴えとその力を行き渡らせ、類は静かに視線を持ち上げた。この場所に不似合いな歪な視線、ぎらつく敵意が突き刺さるようで、溜息を吐く。
「嗚呼……そう。甘露に寄ってきた、無粋な盗っ人だったのか」
 瓜江、と一言呼ぶだけで、仮面の友は飛沫を走らせ、敵前に跳び込んでいく。彼と類とを繋ぐ赤い糸は、敵意露わな赤い視線を切り裂くように戦場に躍る。
 あの眼の色には、砂岩の庭に描かれた禍々しい魔法陣を思い出してしまう。追って飛び込み、この水源へと至る間――無理に繋がれたその道は、まるで悲鳴を上げているようだった。
 砂漠に在って、水とは命そのもの。涸れてしまえば、町もいずれ涸れることとなるだろう。故にこそ大切に秘され、守られてきた場所。双子の姫の悪戯を父親が叱ったのも、そんな場所だったからに相違ない。結果がいかに罪のない、今に連なる美しい娯楽だったとしても、領主として、そうしない訳にはいかなかったのだ。
 限られた者にしか許されない道、魔道による封印。大事に、大切に守られてきたものを――欲望のために、無理矢理に暴く。それは、
「柔い花を踏み散らかすのと同じぐらい……そう、気にくわないなあ」
 橄欖石めく瞳を微かに眇め、瓜江の陰から見定める敵の影。強弱織り交ぜる操り糸は、虚空を掴む類の動きそのものを、前に立つ絡繰人形に担わせる。素早く空を掻く指先が風を生み、敵を怯ませる――跳び退いた敵の翳した杖に、光が燃える。その瞬間、操り糸は大きく空に弧を描いた。
「――ありがとう、瓜江」
 半身たる友に業火の熱を――煤に塗れたあの記憶を被らせはすまい。糸に引かれるまま跳び退る瓜江と身を入れ替え、類はその身と外界との境界を薄くする。ひととき霊体と化したからだには、襲い来る炎の幕は見目ほどの烈しさを持たない。
「謝罪は要らないな。あなたの得たものは、全て奪ったものだ。……僕らは、それを返して貰うだけ」
 この純然たる魔力を使った企みは、あどけない姫君たちの海ひとつで充分だ。魔力の礎とする、ただそれだけのために奪われた鰭も笑顔も、取り戻して人々の手に返す。
 炎を突き破り、再び現に輪郭を定めた類は短刀を振り下ろす。杖で受け止めた――そう敵が油断した一瞬、
「風集い、舞え」
 周囲を舞う見えざる翅果が、その本体へ突き刺さった。
『――……!』
 詠唱の響きが潰える。貫かれ斬り裂かれた体は骸の海に溶ける影となり、清らかな水の上にどろりと落ちる。けれど、それは水の放つ浄化の気に包まれて、たちどころに消え失せた。
「……これでよし、と。あとは、あれを」
 水に浸かった繻子の鰭を拾い上げる。乾燥した町の外気に晒してやれば、すぐに乾くことだろう。そしてまた、今宵の役目を立派に務める筈だ。
 人々の笑顔を生む、という――双子の姫に託された大切な役目を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
水を掬うよに光に翳すよに
そうっと手を伸べたなら
揺蕩う流れに目を伏せて
呪いの代わりに、謡いましょうな

独り占めはすこうし魅力的だけど
おいたが、過ぎては叱られるよう
影の尾捕まえたら、遊びましょう

こんなに綺麗な夜だもの
うつくしく青い夢だもの
紅に染まる光を掬って
きちんと皆に返さねばねえ
祈りの潰えて良い筈もなく
祭りの夜に沈む顔があっても、嫌よ
だから僕も赫辜の星を、幻を、紡いでお前を還しましょ
きらきらするのがお好きでしょうと紡ぐ魔法で穿ちましょう
物語にして語り継ぐほど、うつくしい祈りが僕はすきだから
真直ぐ躊躇わず貫きましょう傾けた信をのせたぶんだけ
せめて鮮やかに眸にやいて、ひとつと逸らさずおやすみなさい



●南の水源
 ゆらりと揺れるのはひかりか、水か。
 目映い青の輝きにそっと翳したイアの手も白い頬も、美しい跳ね返しに染まる。砂漠の町の命と言うのであれば流れてはいるのだろう、けれどやわらかに停滞しているようにも見えるその流れに目を伏せて、イアは歌を紡いだ。町で聞いた、あのしらべを。
 冷たくも澄んだ歌声が、降り立った南側の一室に響く。厭うようにわんと高まる呪言の輪唱は、異変の元凶――パストールたちのものだ。
 ふと儚い笑みを唇に乗せ、イアは冴えた星の輝きを伸べた掌に集めていく。この美しい場所も澄んだ魔力も、誰にも譲らず独り占め。それは確かに少しだけ、心躍らすことではあったけれど。
「ほうら、影の尾捕まえた。――おいたが、過ぎては叱られるよう」
 掌の上に紡いだ星が赤く冱える。青に滲む空間に凛と、異色の星条を広げていく。きらきらするのがお好きでしょう、そう魔力をいっそう注ぎ込めば、禍々しい別種の赤に瞳を染めた魔導士たちは、焦がれるようにイアへ眼を向ける。
 そのままを返すイアの眼差しは、咎の色には染まらない。
(「こんなに綺麗な夜だもの――うつくしく青い夢だもの」)
 きちんと皆に返さねば、と思うのだ。千夜毎に繰り返されてきたこの『祈り』が、こんな私欲に潰えて良い筈もない。絢爛な祭りの夜に、沈む顔があるのも――嫌だ。
 かしゃん、と掌の中で星が砕けた。小さな破片のひとつひとつに鮮やかな光輝を纏ったそれが、高い天井へと翔ける。攻撃と見て阻みに来るリボンがイアの腕を強かに捉えても、締め上げても、もう遅い。
「物語にして語り継ぐほど、うつくしい祈りが僕はすきだから――ひとつと逸らさずおやすみなさい」
 降る星を導く心にひとひらの迷いもない。地上に待つ人々から預かった信頼を乗せた分だけ、真直ぐに敵を穿つ。
(「ああ、せめて――」)
 終わりを描く、この鮮やかないろを覚えておこう。ぐらりと倒れた影を見送り、灼きつけた瞼をそっと下ろした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■コノハ/f03130
アドリブ等歓迎

おかえりコノハ
このトカゲが原因みたいだ
僕も同感
皆の笑顔も魔法も泥棒するなんていけないよ

駆けるコノハに微笑む
この感じは悪くない
今は君の歌姫として、精一杯歌おうか
歌唱には君の背をおす鼓舞をのせて
血すらこの場に落とさぬと言う君の心意気がすきだから
君のための『凱旋の歌』を歌おうか
もっと鋭く研ぎ澄まして一滴すらも零さぬように
転じ奏でる『魅惑の歌』このトカゲには届くだろうか
こんな夜に縛られるのも魅惑的だろ?

攻撃はオーラ防御の水泡で防ぎ
僕は大丈夫だよと微笑もう
君の足を引っ張りたくはない
思いっきり行っておいで

水は僕も大好きだ
住処であり命の源
笑顔咲く幻想の夜を
穢させはしないよ


コノハ・ライゼ
リルちゃん(f10762)と合流

力だけ掠め取ろうなんざ図々しいコト
奪うなら奪われる覚悟デショ、と水蹴り「柘榴」を肌に滑らし【紅牙】発動
リルちゃんが敵鈍らすのに合わせ刃の牙で一閃
血が落ちる前に『2回攻撃』で『傷口をえぐる』よう噛み付き
零さぬよう柘榴に血肉を喰らわせ『生命力吸収』
その血を、この場に落としたくはナイ

幻影へは目もくれず、ケド邪魔なら右目の「氷泪」より雷奔らせ叩き落とす
リルちゃんの歌が届かナイ訳が無い
ケド少しでも集中出来るよう精々派手に暴れて
『かばう』のもお任せあれ、ってネ

ヒトの笑顔は好きなモノの中でも特に好きなモノ
そして水は命の源、ヒトを生かすモノ
蔑ろにしてンの、気に入らねぇンだよネ



 陽光の橙が不意に覗く、紫雲の髪。ふわりと揺れた見慣れた色に、おかえりとリルは声を掛けた。
「お待たせネ、リルちゃん。まあまあ、力だけ掠め取ろうなんざ図々しいコト」
 物言いは緩く、けれどゆるり敵を射るコノハの眼差しは剣呑だ。くすりと笑い、リルもことりと首を傾げる。
「僕も同感。――皆の笑顔も魔法も泥棒するなんて、いけないよ」
「そうネ。……奪うなら奪われる覚悟デショ。一滴の血も、この場に落としやしないワ」
 幼子を叱るにも似た柔い声を背に、コノハは水を蹴り、一瞬も惜しむように間隙を詰めにいく。その背にリルはああ、と微笑んだ。この感じは悪くない。
「今は君の歌姫として、精一杯歌おうか」
 あの細くも広い背に、鼓舞の追い風寄せるように。
(「ふふ、コノハ。僕はね、君のその心意気がすき」)
 この美しく澄んだ水に、一滴の濁りすら零したくないと望んだ澄んだこころが。だから、
 ――……希望の鐘を打ち鳴らす、絢爛の凱旋を――!
 硝子の喉が紡ぐのは凱旋の歌。戦いの終わりには一足早く、けれど勝利を約束するかのような。
 もっと鋭く研ぎ澄まし、一滴すら零さぬように。その志を叶えておいでと貸した力を余すところなく受け取って、コノハは『柘榴』にそれを伝わせる。
 この場には水の青に染まる鉱石の貌の刃。けれど薄ら伝う紅だけは変わらずに、左右の手に躍るコノハの『牙』はパストールに喰らいつく。
「全部啜ってあげる。――イタダキマス」
 巡る血管を巧みに避け、銀の鱗もものともせず。深々と突き刺さったそれにも耳障りな詠唱は止まらずに、砂岩の一塊をかの盗人トカゲに変じさせ、襲いかからせる。それを、
「煩ぇよ、ってネ」
 右目の刻印が喚ぶ青白い雷の牙が、届くことなくそれを貫いた。そうしてコノハが集めた敵意を、華やかに散らす声がある。
 ――何を見ているの どこを見ているの 何を聴いているの?
 転調、そしてあまく透き通る魅惑の歌に紡ぎ変え、リルは波紋を映す瞳をゆるりと蠱惑的に和らげた。ぎょろりと剥かれた赤眼が、不躾にリルを射る。けれどその口許からは、絶え間なく響いていた詠唱が止まっていた。
「ふふ、そうだよ。……ね、こんな夜に縛られるのも魅惑的だろ?」
 さあ、行って。思いっきり行っておいで。美しい水面に絶え間なく波紋を広げ、敵を魅了してやまない歌声に意を汲むと、コノハはさすがネ、と笑った。
 人の笑顔は、好きなものの中でも一等。そしてこの水も命の源。人の笑顔を生かすものだ。
「蔑ろにしてンの、気に入らねぇンだよネ」
「うん。――笑顔咲く幻想の夜を穢させはしないよ」
 重なる心が望みを叶える。
もう一閃、そしてもう一節、パストールを穿ったふたつの力に水は応え、帯びる浄化の魔力の中に、倒された敵のすがたを掻き消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【梟】

――あぁ、

青き水の何と清らかなこと
芯を潤す、心震える、凛と鈴音の如き響きを感じる

奪わせる訳にも
穢させる訳にも
参りませんねぇ

符を霊水に浸すよう
はらはらと掌から零しながら
二人へ向けて紡ぐ言葉は穏やか――なれど、

破魔の祈りを籠め
手印を結んで高める属性攻撃の力
高速詠唱で朗と詠い紡ぐ鳥葬の調べ

途端に
煌く飛沫を上げて水辺から飛び立つ幾多の鳥

かよさん黒羽さんの名を呼び
呼吸を合わせ
間断なく叩き込む二回攻撃

駆ける双子姫の幻想――絢爛な牡丹の姿に笑み湛えつつ
水纏う疾風なる羽搏きで
骸達を彼方の海へと還そう

全てを終えたら
馨遙で遺跡を修繕、浄化
花々など繊細ないのちは手植え

次なる千の日にも
幻燈を眺めに訪れたいですね


境・花世
【梟】

一夜泳ぎ続けた砂漠の魔法が
やさしくこの胸に満ちるから
守る理由なんて、それだけでいい

ねえ綾、きみもそんな顔をしてるよ

呼ばう声にかろやかに笑って翻す花扇、
刹那に分かたれた私とわたしのシンメトリー
双子姫に敬意を表して――いくよ、

黒羽が作ってくれた氷花の道を
迷いなく敵へ向かって駆け出そう
早業で攻撃を躱し、ふたり分の姿で攪乱しつつ、
詠唱する敵の口に“燔祭”を過たず投擲

咲け、と一声放ったならば
敵を苗床に咲く花が、清かな水に映えるだろうか

零れた涙がいつかうつくしい海になる
そんなお伽噺を信じたくなる夜だったよ
――うん、いつかきっとまた、
遺跡の静謐を直しながら、二人のさかなに囁きかけて


華折・黒羽
【梟】

足先を撫で滑り往く清浄
疎いとて感じるその魔力は
伝え継がれてきた
かの姫君達の涙の清らかさを内包しているようで

僅かばかりこの身には過ぎたものの様に
けれどその思いとて今はひそり伏したまま

詠唱に耳をひくり動かし
屠を構え我先にと駆け征く
綾さんの言葉背に受けたなら
返答は行動にて示そう

盾と
矛と
道と
成れ

火炎耐性その身に
向かい来る攻撃はなぎ払い

─力を借ります、宵色の姫達

纏う縹が清らかな水の恩恵を受け
先よりも透き通った多くの氷の花を咲かすだろう

足元より伸びるは氷花の花道
駆け抜けた花世さんの咲くふたつの背と
鳥の羽搏く様を見送る
──今一度と、己も背を追った


戦闘後は倣い修繕を
使えるは身一つと力仕事を請け負おう



 ――ぱしゃん、と。
 塗れた音を奏で舞い降りたその瞬間から、この遺跡に満ちる水のように、花世の胸を浸す思いがある。
 一夜泳ぎ続けた砂漠の海。その魔法がいともやさしく、さいわいをこの心に波寄せるから。
「守る理由なんて、それだけでいい。ねえ綾、きみもそんな顔をしてるよ」
「違いありません。あぁ、青き水の何と清らかなこと」
 心の芯を潤し震わす、凛と澄んだ鈴の音色すらその在り方に聴かれるような。まぼろしの音を心に聴き、綾は微笑んだ。
「奪わせる訳にも、穢させる訳にも参りませんねぇ」
 はらはらと掌から零れる符を水に浸して、穏やかにそう紡ぐけれど。手印結ぶ手に籠める祈りと力には、明確な討伐の意志がある。
(「盾と……矛と。――道と、成れ」)
 黒羽の身に纏いつく靄が、耳震わせた敵の呪言と自身の戦意に反応し、かたちをなしてゆく。
 『屠』はこの身、この身は『屠』。我が身たる刃を翳し我先にと駆けゆく身に、向かい来る炎の幕を耐える力がふと湧き起こる。やわらかな体毛をちりりと灼きに来る熱を薙ぎ払い、黒羽は対極の力を紡ぐ。
「――力を借ります、宵色の姫達」
 言の葉にした途端、身に帯びる呪印に流れ込む清浄なる魔力。それを礎に紡ぎ出す氷の花はよく澄んで、慎ましくも華やかに敵を戒める。
「流石黒羽さん、お早い。では――『時の歪みに彷徨いし御魂へ、航り逝く路を標さむ』」
 澄む水に浮かんだ符が、藍に染まり水面を蹴る。詠い紡ぐ鳥葬に呼び覚まされた鳥たちが、妖しき術紡ぐものたちへ終わりへの道筋を描き示す。
「花世さん」
 返事の代わりの笑い声、ひらりと游ぐ花扇。扇面がふわりと空を切れば、その彼方と此方にふたり、並ぶ姿はまるで映し鏡だ。分かたれた『私』と『わたし』、双子姫をなぞらえたような親しさで見交わして、
『いくよ、』
 水上に黒羽が奔らせた凍れる花の道を、百花の王を宿す娘は並び馳せる。かたわれが氷上をゆけば一方は空を、一方が扇を翻せばかたわれは袖を目隠しに。呪詛を乗せたリボンがひとりを捉えた瞬間、もうひとりが術者の頭の上を跳ぶ。
「――咲け。そして、存分に召し上がれ」
 それはその口に投げ込んだ血と狂気を糧とする種へか、あるいは途端に咲き零れた花々で口塞がれたパストールへか。呪詛の代わりに口内を満たした花の彩りは、獰猛に絢爛に命を喰らってゆく。
 絢爛なる二枝の牡丹に笑み零し、綾は呼吸を並べる。水纏う羽戦きを連ねれば、僅か足りぬ力にもうひと色を呼ばわる花世。
「黒羽!」
「はい、――今一度」
 鋭く、ひといきに。この水も空間も、濁らせる暇など与えずに。
 黒羽の漆黒の切っ先が触れた瞬間、包み込む絶対零度の氷の中に、その命は散り消えた。
 足先を清かに撫でていく水の流れには、魔術に疎い黒羽にも掬い取れたほどの魔力が満ちる。静けさを取り戻した水にじっと眼差しを落とした。
 その在りようを喩えるのなら、そう。伝え聞いた双子の姫たちの秘密、分かつ涙の清らかさ。――この身で触れることすらも、過ぎたことと感じてしまいそうな。
 思いは伏して表しはしないのに、くすりと笑み綻んだ花世の眼差しはまるで見透かしたよう。つい背けてしまう顔を咎めることなく、花は全てを愛して笑う。
 いつかの遠い日、零れた涙がうつくしい海を紡いだ。
 そんなお伽噺を信じたくなるようなあの夜へ、奪うものから解き放たれた魔力が還っていく。――まだ、続くのだ。
「次なる千の日にも、幻燈を眺めに訪れたいですね」
「うん、いつかきっとまた」
 けれど今はまだ、この夜の底に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
アオイ(f04633)と

千日分の笑顔を返してもらう。

UC
死霊騎士と死霊蛇竜を召喚しまずリボンを、次に炎を封じる為に杖から先に破壊するよう指示。
特にアオイを捕まえようと伸びるリボンは許し難い。
彼女に触れる全てのものに自分は嫉妬する。
死霊が倒されそうになったら囮にして剣を抜いて戦う。

アオイと千の夜を越えた先でまた一緒に踊ろうと、そんな幸せな約束を。
途切れることのない寝物語なんて必要なくずっと一緒にいられたらいい。
でも本当は千の夜も一緒に居たいと、万の夜も越えて行きたいと、それを言葉にしてしまったらこの関係はどうなるのだろう。
…言ってしまうだろうな。
でも今日は何も考えずに彼女の手を取り踊っていよう。


アオイ・フジミヤ
シンさん(f04752)と

随分無粋な侵入者だね
優しい姫様達が、人々の笑顔の為に作った笑顔と魔法を
独り占めにするなんて

砂漠の海を、泳ぐ魚を
泳ぐように笑う街の人達を護りたい
よし、姫様達の代わりにぶったたこう

UC発動
直接的に被害が及びそうな炎のUCをまず洗い流す
一緒に幻影も流せるよう広範囲に
衝撃波でリボンを叩き落とし空中戦で移動
囮として自分に目を向けさせる

シンさん
次のお祭りは千の夜を超えた先にあるんだよね
その時はまた一緒に踊りたいな

その未来の約束は、笑顔と幸せの魔法

その頃、私達はどこにいて、何をしているんだろう?
楽しく笑っていられたらいいな!
(願わくは、ずっとずっと、あなたの隣にいられたらいい)



「……随分無粋な侵入者だね」
 アオイのやわらかな瞳がふと、敵とすべきものを捉えて厳しい色に染まる。
 深く輝き満たす蒼海、昇る銀の泡とひかりの魚たち。七色と宝石で彩った鰭を纏い、泳ぎ出る人々を思い出す。
「あれは、優しい姫様達が町の人々の笑顔の為に作った魔法だよ。それを独り占めにするなんて」
 あの鮮やかな光景を乱す、妖しげな呪文の響き。魔術に魅入られたパストールたちの欲望にぎらつく赤い眼は、この夜にはまるで似合わないから、アオイは思う。
 この悪意から、砂漠の海を、泳ぐ魚たちを――揺蕩い笑う町の人々を護りたい。
「よし、姫様達の代わりにぶったたこう!」
 嫋やかな横顔から零れ出る勇ましい言葉が眩くて、シンは目を細めた。
「ああ、勿論だ。――千日分の笑顔を返してもらう」
「うん、一緒に行こう!」
 くるよ、と告げた警戒の声。鮮やかに燃え上がる業炎の幕へ、指輪を彩る翡翠色の『海の欠片』を突きつけてアオイが叫ぶ。
「来るならおいで! 私の“海”、全部流そう――」
 浅く静かに足許に揺れていた水が、輝きに呼応する。この場に満ちるあらゆる青の色彩から、翡翠や瑠璃の輝きを秘めた波が紡ぎ出され、無粋な熱を押し流し打ち消していく。
「今のうちに、シンさん!」
「ああ」
 清浄なる地に青年が喚び出すものは、命なき騎士と蛇竜、その御霊。アオイが押し開いた道を駆け、パストールが頂く杖を打ち砕きにかかる。
「! ……させるものか」
 自身と亡霊たちをすり抜けるようにリボンが駆け抜ければ、シンはすかさず攻撃対象をそちらへ切り替えた。
「――軽々しく彼女に触れるな」
 その感情が何者か、シンには分かっている。好意であろうと敵意であろうと、彼女に触れるものすべてに抑えきれない妬心を抱く。それを許せるほどにはまだ、当然のように彼女に触れられる手を自分は持っていないのだ。一夜の遊興の中に、踊るアオイの手を取ることは許されてはいても。
 騎士と蛇竜に意識を注ぎ、一歩も動くことの叶わぬ身で、囮として鮮やかに空を躍るアオイをシンは見ている。――気づけばその名を呼んでいた。
「アオイ。千の夜を越えた先で、また一緒に踊ろう」
「! シンさん?」
 ひとつ瞬く間にも、アオイは生み出す衝撃の波でリボンを叩き落とす。苛烈な一撃を担いながらも、返る声は漣のように優しい。
「ふふ、そうだね。次のお祭りは千の夜を越えた先か……その時はまた一緒に踊りたいな」
 幸せそうに綻ぶ声が、シンの胸を衝く。
 本当はそんな遠い一夜だけではなくて、至るまでの千の夜も共に居たい。万の夜も一緒に越えて行きたい。それを言葉にしてしまったら――今のふたりでいられるだろうか。
 不安を掻き立てられるのは、妖しい響きを連ねるあの呪文のせいだ。首を振り、シンは二体の制御に集中する。蛇竜の剥く牙が、騎士の振り翳す剣が、その喉を貫き声を――命を止めた。そうして漸く自由を取り戻した青年に、お疲れさまとアオイは笑う。
「次のお祭りの頃、私達はどこにいて、何をしているんだろう? ね、その時もふたりで楽しく笑っていられたらいいな」
 そのかろやかな言葉の裏に潜むアオイの本心を、シンはまだ知らない。――願わくはひとときだけではなく、ずっとずっとあなたの隣にと、想いを重ねていることを。
「……海が元通りになれば、まだ祭りは続くだろうか」
「うん。町に戻ったらもう一曲、踊ってくれる? シンさん」
 まだ告げられない言の葉を秘めて、ふたいろの魚はまた、アランカラの一夜を泳ぎ出すのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

物分かりの良い領主だ。ああいうやつが上に立ってるとこはいい街なんだよな
さてお姫さん達の心を、果てさせるわけにはいかねェな
美しいもんに惹かれるのはわかるが、それを吸い上げてなんにする
お姫さん達のしたことより、人の心震わせることには――使わないだろ
楽しい時間を貰った礼は、しっかりさせてもらおうぜ
ヒメ、落とすなよ!

身を守ることは、ヒメに任せた
俺は肩車のおかげで視界も高いしよく見える
これを使うのはちょっともったいない気もするが、ショールを小さな竜巻に変えて操る
風に任せて、吹き飛べ
向けてきたその杖ごと、その体巻き上げて落とす

ヒメ、よくやった(わしゃわしゃと頭撫で)
でもチョーシ乗んな


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

今夜は與儀と踊れたし、すげー楽しい夜をこの街ですごせた
そんな楽しかった砂漠の夜の夢
お姫様たちの遺したこの夜を、與儀と一緒に護りたい
盗人みたいなことはもうやらせねェぞ

俺が與儀を落とすわけねェだろ!
俺が確り支えて守ってやるから、任せたぞ!

俺は與儀を守り支えること最優先
天来の焔で盾受けして、與儀のこと身を挺してかばう
昆虫や爬虫類の幻影は【紅き猛火】で全て逃さず燃やし尽くす!
炎のカーテンも天来の焔で防ぎ弾いて、逆に灰にしてやるぞ
攻撃できそうなら與儀の風に合わせて【紅き猛火】を
風に煽られた炎で、その目論見ごと焼き尽くす!

俺たちの抜群のコンビネーションをみたか!
な!與儀!(にこにこ



●東の水源
「物分かりの良い領主だ。ああいうやつが上に立ってるとこはいい街なんだよな」
 判断の責は負うが、総じてその機も判断も過たない。そしてそんな領主の一言に、人々は信を置き従った。好もしい在り方に與儀の瞳は穏やかに凪いで、ならば尚更応えてやろうと心は思う。
「さて――お姫さん達の心を、果てさせる訳にはいかねェな。楽しい時間を貰った礼は、しっかりさせてもらおうぜ」
「ああ、盗人みたいなことはもうやらせねェぞ」
 あの領主と傅く人々と。それに劣らぬ與儀への信を深い藍の瞳に宿し、京杜は頷く。
 砂漠の夜の夢は、夢にはならない。取って貰った手、楽しく踊った一曲。双子姫の遺した現の夜を、共に過ごした與儀と自身とで守るのだと。
 白手袋に揺らぐ焔のいろは、その片端から紅葉の輪郭をなぞっては消える。肩上に乗せた與儀を傷つけることは決してなく、鮮やかに守る紅き魔力の盾。それに守りを任せ、與儀は高みから前を見る。――虚ろにも睨みつける、濁った赤き眼を。
 美しいものに惹かれるは人の性、神たる己の身にもその感情は近しいものだ。けれど、
「それを吸い上げてなんにする? お姫さん達のしたことより、人の心震わせることには――使わないだろ」
 距離を詰める二人の前に解き放たれるのは、かのトカゲたちの幻影。それを燈す焔弾で片端から焼き穿ちつつ、京杜は駆ける。
「ヒメ、落とすなよ!」
「俺が與儀を落とすわけねェだろ! あんな炎、逆に灰にしてやる――舞い踊れ紅葉、我が神の猛火に!」
 支え守るは従者が務め。けれどその枠組み以上に深い信頼で、ふたりは繋がっている。あいつは任せたぞと笑う京杜に生意気、と口の端上げて、與儀はするりと繻子の鰭を頭上に揺らした。
「お前らにくれてやるには過ぎた光だけどな。――もったいねェし、終わったら返して貰うぜ」
 振る煌めきがたちまちごう、と渦を生む。生み出された竜巻は決して大きいものではない、けれどその内に圧縮されたエネルギーを、與儀は涼しい顔で操り、制しきる。
 風に任せて、吹き飛べ――神たるものの言の葉は力を孕み、拒もうと敵の向け来る杖ごと絡め取り捻じ上げて、渦の中に取り込んだ。頭上高く巻き上げられたパストールがきろり、こちらを見下ろした。
 生み出されようとする炎の幕。その気配を察し、一足早く。
「遅ェ! その目論見ごと焼き尽くす!」
 京杜の放つ炎弾が、與儀の風に煽られて渦をなし空へと翔け抜ける。そのひかりが、ひとひらの繻子へと立ち戻ったショールを守るようにくるりと閃いて消えたとき――禍々しい術者の姿は、神火の中に灰すら残さず尽きていた。
「ヒメ、よくやった」
 ひらり落ちてきた繻子を頭に被り、犬にするようにわしゃわしゃと手荒く髪を撫でてやれば、紅の従者はにへ、と緩い笑みを零す。
「おう! へへ、俺たちの抜群のコンビネーションをみたか! な、與儀!」
「チョーシ乗んな」
「っ痛ェ! 與儀ぃ!」
 げし、とひと蹴りして降り立った與儀は、無垢な少年の顔で笑う。ぽいぽいと脱ぎ捨てられるブーツに目を剥いて、続く抗議を引っ込めた京杜は無論、それを慌てて受け止める。
 戦熱に火照った脚に、澄んだ冷たさが心地好い。見上げる與儀の瞳には、紡がれた魔力が天井へ――地上へと昇っていく様が確かに映っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎
お前らの望みが何かは知らねぇが
他人から奪って叶える望みがろくなもんかよ
お前らに似合いの海は骸の海だ
とっとと帰れよ
【望みを叶える呪い歌】を歌い速度をあげて『先制攻撃』
風の『属性』を剣に纏わせ『2回』斬りつけて
飛んできたリボンは『見切り』回避…けど数が多くちゃかなわねぇな
まあ…そん時はそん時だ
ユーベルコードが封じられても
俺には『歌』があるんでね
…ちぃと借りるぜ?
足元の水を、魔力を使ってリボンを切断
多少切れても気にしない
自由になった腕を大きく振り回し
『全力』の魔力を込めた拳で殴り付けよう
何匹吹っ飛ばされればやめるか勝負といこうじゃねえか

幻の海と、奪ったショールは返してもらうぜ


ユキ・スノーバー
悪い魔法使い発見っ!
大人しく骸の海にかえってもらうからねっ!
度が過ぎる独り占めは、争いの種になっちゃうのは如何考えても判る筈なんだけど
生きる上での活力ともなると、欲深くなっちゃうんだね…

だからって、皆の楽しみを取り上げても良い理由にはならないし
此処を護っていた人達の頑張りが無になっちゃうのは、ぜーったいやっ!
魔力たっぷりのお水、持ってかれないように
表面を氷でガード(コーティング?)して、少しでも保護したいなっ。
欲張りさん駄目だよって事で、華吹雪でアタックかまして詠唱妨害とか
吹雪を敵に集めて、寒さで集中出来なくするとか
呪文が意味無くなる様、アイスピックで引っ掻いて音打ち消しでの妨害とかするよー!



「悪い魔法使い発見っ!」
 ぱしゃん! と水面を打って降り立ったユキは、つぶらな瞳できゅっとパストールを睨みつける。
 自分の、いや猟兵たちの姿を目にしても、狂気に侵された赤い眼はまるで動じることはなく、不気味なほどに淡々と呪詛の音を紡ぎ続ける。ぶぶぶんとアイスピックを振り回し、ユキは憤慨した。
「余裕の顔はそこまでなんだよー! 大人しく骸の海にかえってもらうからねっ!」
 そう、これは度が過ぎる独り占め。すべてすべて奪おうとすれば、それは争いの種と化してしまう。そんな当たり前のことが、力ある魔法への欲に駆られたパストールたちには分からないのだ。
 それが生きる活力なのだとしても、皆の楽しみを取り上げても良い理由にはならない。何よりも、
「此処を護っていた人達の頑張りが無になっちゃうのは、ぜーったいやっ!」
 魔力を秘めた水に触れようと、下ろされたパストールの杖がこつん、と阻まれる。ユキが奔らせた華吹雪が、一足早く水面を凍り付かせたのだ。
「魔力たっぷりのお水、これ以上あげないっ! 欲張りさん駄目だよっ」
 氷上を滑りゆくのは雪国生まれのユキにはお手のもの。動きを縛られた敵のもとへついーっと駆けゆく間にも、
 ――ぎょりぎょりぎょりぎょり。
 氷を掻くアイスピックが何ともいえない音を立て、妖しげな詠唱を妨害する。放たれるそばから消えゆこうとするトカゲたちの幻影ごと、真っ白に澄んだ雪の吹雪で包み込んで、
「みんなにお祭り返してもらうんだよ。覚悟ーっ!」
 その中から突如現れた氷の嘴が、術者を打ち倒す。おおすげぇ、と浮かべたセリオスの笑みが少しだけ苦く軋むのは――ぎょりぎょりと響く音が、美しき歌に親しむ彼の耳には些か慣れないものだから。
「わーわーっ、ごめんねーっ!」
「平気平気、あいつらにも効いてるみてえだし。足止めありがとな」
 気のいい笑みひとつ、小さなテレビウムの少年に残して、セリオスは氷上を足場にたん、と空へ翔ける。零れる歌声はその脚に翅を生んだかのように、一瞬でセリオスを敵前へ至らしめた。
 自らの喉に奏でる歌声は、青年を裏切らない。身の裡の深くから、もしかすればさらに深き魔力の淵から引き出されたちからは、
「俺の望みのままこの地に躍れ――邪心をも魅せ、悪辣を裂き、咲かすことなく骸に還せ!」
 華やかな光帯びる『風』の魔力でひとたび射抜き、防御の暇も与えずにもう一閃、纏う剣戟のもと斬り裂いていく。
 けれど、敵も受けるばかりではない。歌声に圧されていた詠唱は、風に乗り巧みに躱していたリボンの一端がようやくセリオスを捉えた、その一瞬の隙にその不快な響きを取り戻す。
 ち、と小さく舌打ちするも、白皙に満ちる笑みは消えない。
「ったく、こうも数が多くちゃかなわねぇな。……けど、お生憎さん」
 この剣が使えなくとも、ユーベルコードが封じられても。セリオスの最大の武器は、そこにない。――自分には歌がある。
「この口を塞ぐのが先だったな。……ちぃと借りるぜ?」
 清らかな水面に揺らぐ魔力は不意にしんと、歌声に耳澄ますように静まった。
「星々の歌を届けよう――綻ぶは誓い、咲くは一閃、星の歌は風を編み、蔓延るものをここに穿たん!」
 歌声が呼ぶ風が魔力を掬い上げる。鋭くも鮮やかに編み上げられた見えざる斬撃は、一瞬でリボンを切り刻み、セリオスを戒めから解き放った。
「さて、何匹吹っ飛ばされればやめるだろうな? ま、懲りねえヤツの末路は見えてるけど」
 お前らの望みが何かは知らねぇが、と吐き捨てる声すら凛と澄む。自由を得た拳を憂さ晴らしのように叩き付け、笑みを作る。
 他人から奪って叶える望みが、私欲が、ろくなものである筈がない。
 魔導の頂を求めてか、それとも他の故あってのことか。セリオスには知る由もない。知ろうとも思わない。直向きに力を求めることを悪いとは言わないが、その純然は、町の人々の幸いを願った双子姫のそれほどにはこの夜に、あの海には似合わないのだ。
 ――似合うのはそう、
「骸の海だ。――とっとと帰れ」
 人々から奪われた繻子の彩を叩きつける一撃と引き換えて、青年は低く笑った。
 どろりと輪郭を失って溶けた影は、足許の水の湛える光に掻き消され、あとかたもなく消え去った。
 やったねーっと手を挙げる無邪気なユキににっと笑って、掌をぱちり合わせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イトゥカ・レスカン
砂漠においてこれ程の海を描く魔力
覚えはなくとも魔法に嘗て親しんだと思われる身なら満ちる魔力を確かに感じられる
透明で清らかな、まさに澄んだ水の様な……
術者であればそれが魅惑的に映ることもありましょう
けれど、あなた方にはお譲りできません
彼の姫君たちの願いを
街の人々の希望を、一夜の夢を
私欲の為に潰えさせるなど、見過ごせませんから

強欲なる敵へ向けるは青の散花
此度の魔法の由来は水ではありませんが
深く満ちた青はどこか通じるものがある
ならば揺蕩う水の流れの様に
押し流せ青の花
花とは言えど魔力で編み上げた宝石の一欠片
炎で払えるなどと思わないでください
尊き笑顔の齎す魔法は、あなた方には不釣り合いです



 記憶にはなくも、己の身はいつか魔法というものに親しんだのだろう。イトゥカの体の底に流れるなにかが、清らかな水満ちるこの地に巡る魔力を確かに感じ取っていた。
「……まさに澄んだ水の様な……これほどに透明で清らかな力とは」
 だからこそ、砂の地にあれほどの海を描くに足りたのだろう。滾々と湧き出でる澄明なる魔力は、それ故に、術者には魅惑的にも映ったのだろうとイトゥカは思う。
「――けれど、なればこそ。あなた方にはお譲りできません」
 何の為に紡がれるのかも知れない呪詛。力を高める、ただその為だけにあると見ゆる在り方。それは、無私なる双子姫の願いに勝るものではあり得ない。
「町の人々の希望を……一夜の夢を、私欲の為に潰えさせるなど、見過ごせませんから」
 その言葉を敵意と読んでか、赤い眼がきろりとイトゥカを射抜く。炎幕が焼き尽くしに来る前に、聖痕より巡らせた力をパストールへ向ける。
 足許に、周囲に揺れる青く醒めたひかり。水に由来するそれは彼の描く青の散花――青琥珀のひかりとは似て異なるもの。けれど青き宝石の花弁は今、満ちる水の魔力を借りて冴え渡っている。
 ひとたびは空を切った花の嵐を、灼熱が包み込む。熱の色の中に青の色も、イトゥカ自身も捉われて、疼くような痛みが身を苛む。けれど、
「――花とは言えど、魔力で編み上げた宝石の一欠片。全て炎で払えるなどと、思わないでください」
 噛み締めるように耐え、力を巡らせる。町に溢れた人々の笑顔、動揺に翳りが差した顔を思い出す。彼らから奪った魔力、あの鮮やかな魔法は、邪に力を行使するものには不釣り合いだ。
「……――押し、流せ……!」
 絞り出す声に、熱に囚われた宝石の一片が反応する。小さな煌めきはひとつ、ふたつと煌めきを呼び、十、二十と輝き増して、再び咲き荒れる。
 躍る斬撃は銀の鱗を強かに斬り裂き、満ちる水に降らせていく。やがて美しい暴風が収まったとき、烈しい熱も敵意も、その空間から全て消え去っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュマ・シュライク
リオ(f14030)と
美しい場所。
砂漠の中の水の聖域ということも尚更だけれど。
魔力が満ちていて、とても素晴らしいところですわね。
ですから、無粋な方にはお帰りいただきましょう。

黒狼は皆『死』を孕んでいましてよ。
リオの射線を確保すべく、指示を出し。
黒狼たちにはしっかりと喰らいついてもらいましょう。

近づく者はシュライクに任せる。
まあ、自分も楽しませてもろたし。まだ楽しむ時間も残ってるやろし。
炎のカーテンはオーラで防御し、メイスで反撃。

リオの鳥のように自由な様、羨ましくってよ。
海の次は空……楽しみですわね?

二人の姫の逸話は様々あれど。
民のために力を尽くすからこそ。勇者となれたのでしょうね。


リオ・フェンブロー
ジュマ(f13211)と
えぇ、本当に美しい場所です。
この世界は不思議ですね。これ程までに美しい魔力を持つ乙女たちが勇者とは。
だからこそ、その詠唱は此処には似合いますまい
骸の海にお帰りいただきましょう

私は中遠距離から射撃を。
アカシック・レムナントを発動
アンサラーに強化を回し魔剣はフェイントに
遺跡に気をつけ、空中戦と行きましょう。

ジュマの言葉には小さく笑い
では何時か鳥が貴方を空に招きましょう。ジュマ

炎のカーテンは魔剣の射出で対応を
砲撃を扱う私にとって熱は慣れたものですよ

この地は貴方が奪い尽くせるものではないでしょう
簒奪者を穿て、アンサラー

そうですね。
多くを愛し、愛された勇者だったんですね。



●北の水源
「美しい場所――」
 ジュマの一言には全てが内包されていた。
 砂漠の中の水の聖域。人々の命であり宝である、そのことが殊更に、青に満ちる神秘の遺跡をより魅せるものとしているけれど。
 ――満ちる魔力の美しさは、それを感じ取る素養を持つものにはより美しく煌めいて映るものだ。
 あれが視えまして? と問う声に視線を掬われ、リオも顔を上げる。高き天井に紡がれゆくふたいろの魔力は、月とその影の色。この水源に満ちる清らかな魔力を町へ連れゆく、美しい導き糸だ。
「とても素晴らしいところですわね」
「ええ、本当に美しい場所です」
 膨大なこの地の魔力を、長き時、命尽きてなお導き続けられる才覚。これほどに美しい魔法を紡ぐことのできる乙女たちが、勇者とは――この世界は不思議ですねと、リオは素直に零す。
「だからこそ、あの詠唱は此処には似合いますまい」
「ええ。無粋な方にはお帰りいただきましょう」
 耳に障る響きさえなくば、この地はより美しく澄んだものになろう。金と青、ふたいろの眼差しは鳥のように鋭く紡ぎ手たちを射た。
 かの声に得た不快を狙い澄ます力へ換えるジュマ。その傍らに密やかに、影のように現れついた黒狼。それは数多の命の終わりを見つめ、弔い来た男に沁みついた死の概念そのもの。
「さあ、しっかりと喰らいついて――その身に孕んだ『死』、刻みつけてさしあげて、敏く可愛い子たち」
 敵意に敏き狼の群れは、その勢いに主の言の葉をなぞる。開かれた射線に目配せをひとつ、リオは唇に弧を描き頷いた。
「――ではひとつ、この地の憂いを絶ちましょう」
 長く尾を引く銀の三つ編みが、宿る力を身に巡らせたかのように光を失う。血に眠る力に喚ばれ、見えざる魔剣が群れをなす。――その灰の色、不可視の剣こそが魔女たる証。
 敵には視得ぬ虚空の刃、その輪郭を感覚に捉え、リオは水を蹴った。虚空に躍るひとつひとつが魔力の楔、それを頼りに男の体はふわりと空に浮く。その背に集ったいくつかの刃、その姿なき翼に助けられ、リオは狙撃に適する一点を高みに見出した。
「――ふふ、リオは本当に鳥のよう」
 その自由な様が羨ましいと衒いなく目を細めるジュマのもとへ、笑み声が降る。
「では何時か、鳥が貴方を空に招きましょう。ジュマ」
「まあ、海の次は空……楽しみですわね?」
 軽やかな戯れを咲かせながらも、リオの砲撃は的確にパストールたちを貫いていく。地上から虚空へと狙いを移した炎の幕、その熱すら懐かしむように目を細めた。
「砲撃を扱う私にとって、熱は慣れたものですよ」
 戦場で最も熱きものは、常にこの身の傍らにある。アンサラー、数多の戦を共に潜り来たものにそっと触れつつ、虚空に散る魔剣たちを眼前に喚び寄せる。刃の壁が僅かに熱を和らげた。
 一方の水満ちる地上――黒狼の群れを抜け出たものに、あらとジュマは目を瞠る。
「貴方も働いてくださいな。少しは楽しんだのではなくて、シュライク?」
 吐息を零したその唇が、まあ、と一段低い声を紡ぎ、
「自分も楽しませてもろたし――まだ楽しむ時間も残ってるやろし」
 貰った分くらいは働こか、とひそり笑い、第二の人格たる『シュライク』は炎の幕を厭うことなく敵に肉薄する。宝珠と骨に彩られた華やかなメイスを、砕かんばかりの勢いで叩きつける。
「……その熱量じゃ、死までは燃やし尽くせんよ」
「その通りです。そしてこの地も、貴方がたが奪い尽くせるものではないでしょう」
 声が静かに笑う。和いだ瞳は鋭く狙うべき一体を見定めた。
「――簒奪者を穿て、アンサラー」
 不意に凛と締まる声。青に満ちる水源を駆け抜けた白光は、シュライクが豪快に薙ぎ払った一体の命を止める。
 満ちる水のもとへリオが舞い戻れば、再び『ジュマ』がお疲れ様と迎え入れる。
 かの町に聞いた双子姫の逸話には、様々なものがあった。起こりも知れず、嘘と誠も今となってはわからない――けれど。
「民のために力を尽くすからこそ。勇者となれたのでしょうね」
 その在り様を慈しむように、静かに天井を仰ぐジュマ。そうですね、と声に温もりを取り戻し、リオも眼差しを並べた。
「――多くを愛し、愛された勇者だったんですね」
 その優しさと愛らしさすらひとつの強みとして、苛烈なる旅路に身を連ねる。
 戦いの世には、そんな物語もまた、あり得たのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミェル・ゴーティエ
ダヴィド様(f06115)と

禁足地とされるだけあって
霊験灼かな美しい場所ですね
信じて道を開いて下さった
皆様のご期待に応える為にも
必ずや邪教の徒を討ち取りませんと

ジャッジメント・クルセイドで
パストールの詠唱を妨げながら
後方より旦那様を支援いたします
彼の戦い振りを傍で拝見するのは久しく
相変わらず惚れ惚れする程お美しい…
はっ いけないわ
今は戦いに集中しなくては!

UCを封じられたならば
前衛へと移り怪力を活かした
気絶攻撃にて立ち回りましょう
眼鏡を外してメイスを構え
心配ご無用ですダヴィド様
わたくし肉弾戦の心得も御座いますので!

満ちる魔法は渇いた砂漠に
笑顔の花を咲かせる為のもの
誰にも摘み取る権利はないのです


ダヴィド・ゴーティエ
ミェル(f06665)と共に

妻の言葉に首肯し
双月が喜びと悲しみを頒ち合った場所
本来ならば他人が土足で
踏み入って佳い場所ではない
――貴様も、無論我等もだ

UC《嘶く骸馬》を使用
冥府より喚び戻した愛馬に跨り
血塗られた黒剣を抜く
術士の類とは頗る相性が悪いが
妻の裁きの光に怯んだ隙を突き
一気に距離を詰め剣を振う
痛手を負えば刃越しに血を啜り
彼奴の生命力を吸収しよう

……その眼鏡は装飾品だったのか
活き活きと鈍器を構える
ミェルからそっと目を反らし
今後夫婦間で無用な諍いは
起こすまいと固く心に決める

彼の娘達は誰よりも人民を愛したが故に
今日まで愛されてきたのだろう
如何に膨大な魔力に変換したとて
所詮貴様には御し切れまいよ



「まあ……霊験灼かな美しい場所ですね」
 禁足地とされるだけはあると目を輝かせるミェルに、ダヴィドも静やかに首肯した。
 美しき砂漠の禁域、命の源であり宝の在処。そして、双子の月が悲しみを頒ち合い、心を合わせ、さいわいを開く喜びへ紡ぎ変えた場所でもある。
 この地においては異邦の者の自分たちも、本来ならば立ち入れる筈もない。それを、領主とそれに連なるものたちは信じて道を開いてくれた。
 その期待に応えなければと張り切るミェルは、すぐに見つけた。水の中に佇む邪教の徒、この異変の源にあるものを。
「他人が土足で踏み入って佳い場所ではない。――貴様らも、無論我等もだ」
 踏み込むダヴィドの足許、清かな水の調べからゆらりと立ち上がる漆黒の影。冥府より喚び戻した愛馬は、生前と変わりなき姿で――そして生前よりも大きく頼もしき姿で、主への信を示す。
「よくぞ目醒めた、モルガン。墓碣の下は怠屈であろう? 惨澹たる夜を再び共に駆け抜けようぞ」
 嘶きが満ちる詠唱を打ち消した。術士となれば、自身にとっては決して相性の良い相手ではない。されど退く足も、ダヴィドは持ち合わせていない。共に武勇を響かせた漆黒の友と共に在れば、尚更だ。
 暗闇に染まる黒剣を掲げれば、目の前が光で灼かれた。
「支援いたします。――どうぞお静かに」
 降り注ぐ天からのひかりが、紡ぎ止まぬパストールたちを黙らせる。振り返らずとも、きっとその顔は微笑んでいるのだろう。若き妻の齎した衝撃から、パストールたちが我を取り戻す前に――ダヴィドはひといきに距離を詰め、黒剣を振り下ろす。
 その技を戒めに来るリボンに眉を顰めるも、手を止める暇などない。受けた傷をものともせずに振り抜く一閃、その刃を伝い来た鉄の香の雫を啜り、力とする。
「……ああ、久しいことです。旦那様の戦い振りを傍で拝見するなんて……」
 ミェルが惚れ込んだのは、そのひとつだけではないけれど。敵前に在って気高く美しく、勇ましいその姿は未だ、彼女を魅了してやまないものだ。
(「……はっ、いけないわ。今は戦いに集中しなくては!」)
 淡い紅茶色の髪をふるりと振った娘のもとへ、戒めのリボンが襲いかかる。封ぜられた術に困惑を浮かべたのは一瞬――ミェルは素早く敵前へ駆け込んだ。
「――ミェル、前へは」
「心配ご無用です、ダヴィド様。わたくし肉弾戦の心得も御座いますので!」
 きりりと笑う娘の瞳を、遮る硝子は今はない。手にはメイスを握りしめ、寧ろ生き生きとそれを振う姿に、
「……その眼鏡は装飾品だったのか」
 新たな顔を見たと、ダヴィドはそっと嘆息する。――今後は夫婦間での無用な諍いは起こすまい。
 満ちる魔法は、渇いた砂漠に笑顔の花を咲かせるため。咲いた笑顔を礎として、魔法は強まり、また笑い声を増やしていくのだから、
「……誰にも、どんな脅威にも、摘み取る権利はないのです」
 敵を薙ぎ払いながら凛とそう告げたミェルの表情も、聖女の如く慈愛に満ちている。このような光が何故、我が傍らにあるのか――その思いは常に、ダヴィドの胸裏に燈り続けているけれど。
 かの双子もこうもしなやかであったろう、と妻に重ね見る。誰よりもこの町を、そこに住まう人々を愛したが故に、今日まで愛されてきた。千夜越しの祭りは、こうまでも待たれてきた。
「――如何に膨大な魔力に変換したとて、所詮貴様には御し切れまいよ」
 そう断じ突き込んだ鋩が、敵の心臓を捉える。
 伝う赤が清冽な水を汚す前に命は尽きて、どろりと崩れる影と化したものは、骸の海へと還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
それは矮小な貴様等には過ぎた宝だ
不敬者には相応の罰を――遺さず殲滅するぞ、ジジ

ふふん、魔術とはこうして使う物だ
多くの邪術師、幻影を巻き込むよう【女王の臣僕】を召喚
彼奴等ならば魔力の糸を疵付ける事はなかろう
氷漬けにした個体を粉砕する為にも
これ程適した者は居るまい――ジジ!

強靭な輝石の身を持つ私といえど
まともに炎に炙られては堪らぬ
聞き耳、第六感を駆使
杖を向けられる前、眼前に氷を生成
魔術から逃れんと試みる…が
聞き分けのない従者を持つと苦労する
…後で覚悟しておれ

戦が終り、静寂が訪れたならば
暫しふたいろの魔力を眺めても罰は当たるまい
彼女等の愛したこの地が
末永く笑顔で満たされれば良い


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
魔術の心髄を求めるモノも
只の寄生虫に成り下がってはな

まずは師の盾として在り
…承知した
氷結の術に合わせ【まつろわぬ黒】を

凍りついたパストールを砕き、或いはその後の動きを鈍らせ
逃れたモノへは牽制となるよう
<衝撃波>も篭め利用する

接近してくる連中がいれば黒剣で一体一体仕留め
距離が開けば繰り返し黒刃を放つ
手繰られる無機物の幻影達も巻き込み撃ち落としながら
師へと放たれる炎は身を以て庇う
欠けでもしたらまた持ってゆかれるぞ
横目で下手な冗談めかして
幸い、冷やすには事欠かぬ故

彩り、生かす
この街の血が如く流れる青
枯れさせてはなるまいよ

探知の不得手な目を眇めて師に倣う
…喜んでいるだろうか



 地上では好奇に美しく輝いた、星を含んだ輝石の瞳。アルバのそれは今、酷く冷たく冴えきっていた。
 この場に満ちる魔力は、力のために力を求める矮小な術者には過ぎたる宝。美しき魔術への敬意なきものに、奪わせていい輝きではない。
「ああ。魔術の心髄を求めるモノも、只の寄生虫に成り下がってはな」
 油断なく並び控える従者と眼差しを交わすことなく、アルバは告げた。
「不敬者には相応の罰を――残さず殲滅するぞ、ジジ」
「ああ、無論」
 その身は師の盾として。無作法に手を伸ばすパストールたちを、ジャハルは天つ星がため振るわれる影にて両断する。
「気安く触れるべきものではない。――退け」
 退かば斬らぬという訳でもない。遠巻きに伺うものたちの吐く呪詛は、在り続ける限りこの町を蝕むものだ。
 壁となるジャハルの背を、濁りなき声が打った。
「控えよ、女王の御前であるぞ」
 魔術とはこうして使うもの――凛と響く詠唱に、一室は心地好い緊張に満たされる。声に応え、襟元をふわりと彩ったひかり。青き戒めの蝶の群れをなしたそれらは、主の瞬きひとつで一斉に翔び立った。
 場に満ちる水のそれより冷ややかに降る鱗粉は、アルバの思惑通り、地上へと美しく紡ぎなされるふたいろの糸も、青に満ちるこの遺跡をも傷つけることなく敵の動きを止める。
「愚かなる氷像を粉砕する為にも、これ程適した者は居るまい。――ジジ!」
「……承知した」
 気乗りせぬ声は己の感じる未熟ゆえ。かの晴れやかな蝶を礎として編まれた黒き刃たち――まつろわぬ黒は、僅かなジャハルの気後れとは裏腹に、師の評価に忠実な働きを見せた。凍てつく敵を貫き、砕き、満ちる水の浄化の魔力の中へ還していく。
 ふふ、と笑い声が零れた。
「そう腐るな。充分に役を果たしておるではないか」
「……」
 ふいと背けた眼差しで次を射る弟子を楽しげに見送ったアルバは、ふと眉根を寄せる。
「――焔か」
 人の身ほど熱に弱い訳ではないが、まともに炎に炙られては敵わない。凍えかけたパストールの手が、かろうじて杖を掲げ熱の気配を生み出そうとすると、アルバは同じく突き上げた杖で備えた。
 描き出す魔法紋が結ぶものは、氷。僅かでも熱を和らげんと紡いだ『盾』は、その前に躍り込んだ弟子によっていっそう強固なものとなる。
「ジジ! 庇い立てするなと――」
「欠けでもしたらまた持ってゆかれるぞ」
 町での一幕を揶揄する横目を、きろりと睨みつける。
「全く――聞き分けのない従者を持つと苦労する」
「幸い、冷やすには事欠かぬ故」
 影の色をひとひら、留まった蝶のひややかさが彩って。これも大丈夫だと言っている、と紡ぎ足すから、
「……後で覚悟しておれ。手酷い手当ては避けられぬと思えよ」
 ならば早く終わらせてくれると、アルバは蝶を殖やしていく。
 高まる冷気に氷像を増やしては、それを打ち砕き。それで最後、と告げる声に呼ばれ、黒刃の一閃がひときわ冴える。
 叩き割った欠片たちは縺れるような影を生み、水に溶けることなく掻き消える。そうして最後に残ったひとひらの蝶が、礼を尽くす淑女のようにふわりと過り、消える。
 地の底を這うような詠唱もなく、戦いの音もなく。
 ただこぽこぽと、絶え間なく湧き出でる水の音だけが反響する遺跡。これがこの場のあるべき姿かと、誰もが思ったことだろう。
 満ちる力への畏敬ゆえに、声は自然と小さくなった。しめやかな静寂の中、師弟は静かに天を仰ぐ。水に満ちる魔力が美しく絡み合うふたいろの魔力を辿り、静かに流れ出ていくさまを。
「彼女等の愛したこの地が、末永く笑顔で満たされればいいな」
 魔法とはかくあるものだ。そう笑う師に、ジャハルは微かに瞳を和らげる。
「ああ。……喜んでいるだろうか」
 ――答えはない。けれどきっとと、満ちる星に輝く瞳が告げている。

●夜明けまでの蜃気楼
 ――四つの部屋を結ぶ通路の中央、そこにも満ちる水の底に、美しく冴えた青い輝きが沈んでいた。
 それこそがこの地へ至る、本来の扉。母を亡くした夜、双子姫が涙を拭って訪れた――そして現在まで連なる領主の血脈が、大切な水源を護り抜くために幾度となく潜ったであろう入り口だ。
 そこに一歩踏み込めば、心地好い魔力が猟兵たちを導く。あの赤い魔法陣より至った時とは明らかに違う、確かな魔法の手が彼らを地上へ連れ出した。
 そこには、取り戻された物語の続きが待っている。
 千夜に一夜、繰り返される幻燈。紅き月と蒼き影の作り出した砂漠の海。
 翳りある日々を大らかな愉しみの中に濯ぎゆく、偉大なる蜃気楼。

 光る魚たちに導かれ、猟兵たちは再び海へ泳ぎ出す。
 夜明けまでのひととき、いま一度青に染まるために。
 ――その頭上を駆け抜けたふたいろの魔力に、くすくすと。
 並び生きた双子の笑い声が零れ咲いた気がした――と、新しい物語をひとつ、この町に増やして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月04日


挿絵イラスト