7
涼暮月の甘き憂鬱

#アルダワ魔法学園

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アルダワ魔法学園


0




●今日は雪でも降るのでは。と誰かは言った
 その場にいた彼を知る者たちは皆、目を疑った。彼を知らぬ者でさえ、整ってはいるものの、軽薄で不遜な顔立ちの賭博師然とした――現に根っからの賭博師である男が、グリモアベースに顔を出していた猟兵たちへと手を合わせ、深々と頭を下げているその姿は、些か不釣り合いで滑稽に感じたことだろう。
「頼む! この通りだ、アンタたちの力を貸してくれ!」
 とはいえ曲がりなりにもこの男、クロヴィス・オリオール(GamblingRumbling・f11262)はグリモア猟兵だ。ここグリモアベースで猟兵たちに声を掛けるという事は、何か良からぬものが、けれど今ならまだ救えるかもしれないものが見えてしまったということなのだろう。
 もちろんオブリビオンの関わる事件とくれば、ひとり、ふたりと彼の話に耳を傾ける猟兵たちが集まりだす――その中の何人かには、それにしたってここまで懇願するほどに、彼に「守りたい」「守らなくては」と思わせたものとは一体何なのだろう、という興味に釣られた者の姿もありながら。
 ともあれどうにか話を聞いてもらえそうだ、と一安心したように、砂糖を主食とするような食生活を営むフェアリーは顔を上げるのだった。

●いやいや、今は6月だよ。と誰かが答えた
「転送先はアルダワ魔法学園だ、と来ればもちろん迷宮が絡んでくるンだが……今回はこっちから迷宮を攻め込むンじゃなくってな、厄介なことにあっちから、それも集団で攻め上がって来ちまう。アンタたちにはコイツらをどうにか食い止めてもらいたい」
 煙草の一本も吸わずに真剣な面持ちのクロヴィスは、淡く光るカジノチップを1枚、親指で宙へと弾き飛ばした。くるくると滞空していたチップはやがて、未来へと侵略する過去――すなわち、クロヴィスが見てしまったものを映し出す。

『ぷにー!』『キャンディにされるのはこりごりぷにー!』『ぷにー!』
『ぷにー!』『ボクたちにも、抗議の権利があるぷにー!』『ぷにー!』
『ぷにー!』『この際、力尽くで分からせてやるぷにー!』『ぷにー!』
 とろーりやわらか、ぷにぷにした奴らが迷宮の道にみちみちて、甘い声をあげていた。

「……なにこれ」
「れっきとしたオブリビオンだよ!!!」
 冷ややかな猟兵たちの視線から逃げることなく、鬼気迫る表情でグリモア猟兵は返す。
 煙草を吸いたいのを堪えるように、ああもう、と唸るクロヴィスの続けることには。
「蜜ぷにっつーらしいンだけどな。確かに見た目はこんなんだ。1匹あたりの強さも、学園の生徒で倒せちまうくらいには大したモンじゃねェ。とはいえ、あんだけの量が一気に迷宮から出てきちまったら、ほぼ間違いなく被害は出る……何よりアイツら、明確な目的があって攻め上がってきてやがンだ」
「目的? 目指す場所? あの何も考えてなさそうなぷにぷにに?」
「……あ、そういえば何かさっきあのぷにぷに、キャンディがどうとか」
「そう、『それ』だ。蜜ぷには倒すと身体が崩れて甘い蜜に変わる。学園生徒のおやつにされてる事もあるらしいが、きちんと採取して、うまく加工してやれば――……」
 ぱちん、クロヴィスの指が鳴り、2枚目のチップが弾かれる。

●6月に降るのならアメでしょう。と誰かは笑った
 クロヴィスのグリモアによって映し出されたのは、何やらファンシーでファンタジー、そしてパステル調の色合いが何とも可愛らしい、小さな建造物。
 そしてその入口に掛かったやはり可愛らしい看板には、飴細工で象られた文字。
 ――『キャンディショップ CandyRain』

「ここのキャンディがな、そりゃもう、めっっっっっちゃくちゃ美味い」
 出来りゃあんまり教えたくなかったンだが、と項垂れながらも真顔である。そして声はかなりガチだ。……どうやら常連らしい。
 ――あ、もしかして蜜ぷにに襲われそうになってるのって。
 ――コイツがこんなに頭下げて守りたいのってこれ?
 その場の猟兵たちが大体の事情を察したように、ある者は呆れたように溜息をつき、またある者は、まぁオブリビオンの襲撃であることに変わりはない、と笑って頷く。
 甘い物に目のないフェアリーの言うことには、主に蜜ぷにを原料に様々なキャンディを作って販売をしているショップなのだそうだ。
 そして此度襲い来る大量の蜜ぷにを蜜に変えて持ち込めば、人懐こい笑みを浮かべるキマイラの店主が喜んでキャンディを作ってくれるだろう。甘い物が好きなら、何か蜜を集められるような容器を持っていくのも良いだろう、とも。
 ――恐らくはこのグリモア猟兵、オブリビオンの討伐が無事に成功した暁には、猟兵たちの集めた蜜から作られるキャンディを目当てに、このファンシーなキャンディショップに顔を出すつもりでいるのだろう。懇願っぷりに反して強かである。
「あの頭からっぽそうな大群が、迷宮を上がってきてまで弔い合戦なんてことを考える、っつーのはちっと考えにくい。恐らくはこの蜜ぷに共を扇動した主犯格がいるはずだ。そいつも纏めて叩いてきてくれ……オレが見つけちまった以上、オレは手出しが出来ねェ。なるべくヤツらを待ち伏せしやすいトコに転送するから、……頼んだぜ」
 しかしそんな強かな男はグリモア猟兵であるが故に、大切なものを守るための戦いをただ見守ることしかできない男でもある。
 クロヴィスは心底歯痒そうに、しかし切実に猟兵たちに訴える言葉で締めくくり、3枚目のチップ――猟兵たちを送り出す光を、ぱちんと弾き飛ばすのだった。


黒羽
 甘党ではありますが、意識して食べないとなかなかキャンディって食べない気がします。黒羽です、オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●一章(集団)・二章(ボス)
 集団戦ほぼOP通り、ボスは出てきてからのお楽しみ。

 今回は試験的に、頂いたプレイングの中から【失効日までに書けた分だけ】のリプレイをお返しするように致します。
 プレイングがまだ送信可能な状態でプレイングが失効→再送頂いた場合は、再度採用できないか検討、書ければ失効日までに書きあげる、というスタイルです。
 これが本来のシステムなのかもしれませんが、不採用になる場合もかなり有り得ます。
 そのため、一章で黒羽の力量・スケジュールの問題による不採用としてしまったにも関わらず、二章にプレイングを頂けるお客様がいらっしゃいましたら、なるべく優先的に採用できればと思っております。

●三章(日常)
 キャンディショップでキャンディを作ってもらったり、販売しているキャンディを見たり買ったり、お好きな時間をお過ごしください。飴、キャンディと名の付くものであれば大抵のものはあるのだと思います。
 店主はウサギ耳を生やした巨乳で甘党な女の子です。話しかければ喜んでおすすめのキャンディとか紹介してくれることでしょう。他意はありません。

 POW・SPD・WIZに強くとらわれずとも問題ありません。

 こちらの章では【頂いたプレイングに問題がない限り全採用】を目指したいため、頂いたプレイング数によっては再送をお願いする場合がございます。
 日常を書くのが大好きなため、こちらの章だけのご参加も大歓迎です。

 またクロヴィスは店内をひらひらしつつキャンディを物色しておりますが、お声かけ頂ければ馳せ参じます。恩を着せたかったりお話相手等が必要でしたらどうぞ。

●複数人で参加される場合
 どなたかとご一緒に参加される場合、プレイングに「お相手の呼び名(ID)」の明記をお願いいたします。

●その他
 連携やアドリブ等の目安表記をマスターページの雑記に記載しております。一度お目通し頂ければ幸いです。

 クロヴィスのお願いに耳を貸してしまったあなたも、ゆるかわな敵に癒されてしまったあなたも、キャンディショップで甘いひとときを過ごしたいあなたも、どうか素敵な時間を過ごせますように。
 あなたらしいプレイングを心よりお待ちしております。
75




第1章 集団戦 『蜜ぷに』

POW   :    イザ、ボクラノラクエンヘ!
戦闘用の、自身と同じ強さの【勇者ぷに 】と【戦士ぷに】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    ボクダッテヤレルプニ
【賢者ぷに 】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
WIZ   :    ミンナキテクレタプニ
レベル×1体の、【額 】に1と刻印された戦闘用【友情パワーぷに】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

浅葱・シアラ
いいなー、キャンディー……!シアもキャンディ好き……!
蜜ぷにさん達には悪いけど、やっつけてキャンディになってもらうね……!
甘いお菓子を得るにも、皆命がけなんだ……!

使用するユーベルコードは「エレメンタル・ファンタジア」
【氷属性】と【雨】を合成して降らせるのは【冷気の雨】
いつものように氷柱を丸ごと降らしちゃったら、倒した蜜ぷにの蜜はバラバラに砕けちゃうよね
だから今回は少し趣向を変えて、雨に冷気を纏わせるの!
これを【高速詠唱】で蜜ぷに達がこっちに来る前に早く、何度も何度も発動させるよ!

きっと冷気に触れた蜜ぷには氷漬けになって凍り蜜?になってくれるよね
後は細かく砕いて大き目の瓶に入れて持っていこう!


雪華・グレイシア


やれやれ、慣れ親しんだ姿だけどまさかお店を目指して登ってくるとは
世の中何が起こるか分からないものだ
とはいえ、あのグリモア猟兵さんの頼みを抜きにしても見逃せないのは事実
手早く済ませていくとしよう

とはいえ、こういう手合いへのやり方は決まってる
蜜とはいえ、相手は液体
そして、ボクが得意な【属性攻撃】は氷
なにか特別な液体ならいざしらず、蜜なら凍らせるのは造作もない
まとめて凍らせてしまえば操るもなにもないだろう
それじゃ、お仕事よろしく頼むぜ、冬将軍




『ボクたちの行進を妨げる者が現れたようだぷに!』『ぷにー!』
『ボクたちはおやつじゃない事をわからせるぷに!』『ぷにー!』
 みつみつぷにぷに。みつぷに、みつぷに。
 とろとろぷにぷに、ぴょんこぴょんこと行進してくる蜜ぷにたち。しかしどんなに愛らしくとも、彼らもれっきとした迷宮に巣食うオブリビオン。であれば、自らに敵意を向ける者、すなわち猟兵の匂いに敏感であることは、女の子が甘い物を好きなのと同じくらい、甘い物を食べると幸せになれるのと同じくらい、当たり前のことなのだ。
「あ、いたいた! ……えへへ、甘ーいキャンディの元が、たくさんこっちにむかってきてる……グレイシア、そろそろ準備しよ…!」
 デモ行進をしている傍から早速おやつ扱いをされているが、甘いお菓子を得るために、幸せなひとときを味わうために一生懸命なのだから仕方ない。
 浅葱・シアラ(黄金纏う紫光蝶・f04820)は迷宮の壁からそっと顔を出して、背後に控える仲間にひそひそ声で合図を送る。小さな身体に加えてそっと気配を殺していた彼女は、蜜ぷにたちに視認されることもなく様子を伺い、奇襲のタイミングを見計らっていた。
 そんなシアラの呼びかけに頷きつつ、迷宮の狭い道をむぎゅむぎゅと行進してくる蜜ぷにたちの声を聞きながらその姿を思い浮かべていた雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)は、思わずやれやれと苦笑いを浮かべる。
「迷宮じゃ慣れ親しんだ姿だけど、まさかお店を目指して登ってくるとは……」
 初めての邂逅ではないあのぷにぷに。グリモア猟兵の言っていた通り1匹あたりの強さは決して脅威ではないものの、彼の予知を思えば――彼の懇願抜きに、放っておける相手でもない。
 冷ややかな魔力を蓄えるフェアリーの少女を横目に、グレイシアはひとつ、ふたつと咳ばらいをして、喉の調子を整える。
「……? グレイシア、咳…? 風邪ひいてるのかな……喉、いたい…?」
「いいや? 目には目を、歯には歯を……マーチングにはマーチングを、ってね」
 大丈夫…?と詠唱の準備をしながらも心配そうに見上げてきたシアラに軽く返したウインクは、今度はグレイシアから出された出陣の合図。
 頷いたシアラに先導するように壁から顔を出せば、スライムの放つ甘い香りと、甲高く喚く抗議の声がどっと押し寄せた。
『ぷにー! ついに姿を現したなぷにー!!』
『ボクたちの仲間をたくさんたくさん食べた怨み、その身をもって思い知るぷにー!!』
 ぷにぷにしてる。すごいぷにぷにしてる。あととろとろしてる。とろぷに。
 ――蜜だなんだと言ってるが、まぁ、とどのつまりは液体だ。
「と、くれば……こういう手合いへのやり方は決まってる」
「えへへ……凍らせちゃえば、いいんだよね…! いくよー……!!」
 不敵に笑ったグレイシアの背中から、少しだけいたずらっぽく笑うシアラが顔を出し、手にしたウィザードロッド、ウィッチフェアリアに魔力を込める。
 たちまち迷宮の低い天井に、氷属性の冷気を纏わせた綿飴……ではなく、雨雲が立ち込め、まずは通路の体感温度が5℃は下がったかという頃、グレイシアは温度なき彩の瞳を蜜ぷにたちに向ける。
『ぷっ、ぷにっ……! 何だその目はぷに! ボクたちは屈しないぞぷに!』
『そうだぷに! 友情パワーでもっともっと仲間を呼んでも、ボクよりももっと強い賢者ぷにの力を借りたって良いんだぞぷに!』
 それは口々にぴょこぴょこぷにぷにするスライムたちを憐れむ視線か、それともそんなスライムたちにさえ、同情の欠片も与えぬ冷たき氷人形の瞳か。
 シアラの作りだした、今にも土砂降りの雨が降り出しそうな雲の放つ冷気を、ゆっくりと吸い込み、肺に落とし込む。そして静かに瞼を下ろし、肺はおろか、全身の臓腑が冷え渡るその瞬間を待って。
 ―――――凍えて。
 迷宮の狭い道を凍てつかせる、冬の行進曲が渡り歩く。
 奏でられた歌の名は、『凍てつく大地の将軍』。
 喚びだされたのは、冬統べる将。
 押し迫る冷気に、音圧に、そのとろぷにボディをふるふると震わせる蜜ぷにたちは、悲しいかな反撃の余地すら与えられぬまま、猟兵たちに近い前列から順に液体から個体へとその姿を変えていく。
「わ、すごいグレイシア……じゃあ、じゃあ、シアも…!」
 いくよ…! とウィザードロッドを振り上げた先は、シアラの魔力を、現れた冬将軍の放つ冷気を、存分に吸い込んだ黒い雨雲。降り注ぐのは雨――……ではなく。あれだけ冷えた空間なのだから、氷柱――……でもなく。
 天井に立ち込めていた黒い雲から、真っ白い気体が堰を切ったように蜜ぷにたちへと降り注ぐ。零度をさらに上回る、言うなればドライアイスのような冷気の雨は、みるみる内に蜜ぷにたちを急激に冷やし、凍らせていく。
 一度に降らせられる白い雨の量は限られているはずなのに、何度も高速で繰り返される詠唱が一切の晴れ間を与えない。
『ぷ、ぷに……さ、寒……ぷにゃ………』
 あんなにぷにぷにしていたものが、今や見る影もなくかちこち。
「えへへ、蜜ぷにの氷がたくさんできた…! 後は細かく砕いて、大き目の瓶に入れて、キャンディショップに持っていこう!」
「あっ砕くんだ、これ」
 身体の小さなシアラに代わって瓶を持つグレイシアは思わず素の声をあげつつ、蜜ぷに――最早ぷにではなくなってしまったが――を砕く作業の手伝いに入るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラニューイ・エタンスラント
■心情
クロヴィス……だったかしら?
ともかく、あまりよく知らないのではあるけれど、それでも面白いものが見れたとは思っているわ
だから……えぇ、そう。これはその面白いものが見れたお礼よ。
けして……けして。キャンディショップが気になったからという訳ではないわ。えぇ。

■戦闘
ホーリー・ブレイズ・ブラストでぷに達を攻撃するわ
合体されると面倒だから、個別に攻撃できるといいわね
それでも合体されたら……その時はその時で考えるわ


暁未鳥・狐虎狼
「よし、終わったら………ええと、誰だっけ?クロちゃんだっけ?まあいいや。いっぱい飴ちゃんを奢って貰うとしようか。うん、なら頑張らないとね」
勝手に決めたよ。楽しみにしておくさ。
「じゃあさっさと済ませておやつにしよう。僕はお腹が空いてるのさ」
クロックアップ・スピードで速攻で本体狙いさ。わかんなかったら適当で良いや。全部倒せば良いのだろう?
「邪魔だよ。さっさとやられてくれないかなぁ?そしてキャンディになれ」
他の人との連携?よくわかんないや、そっちで合わせてよ。僕の邪魔にならなければ何でも良いさ。
とにかくまっすぐいって、爪でぶっ飛ばしまくるよ。




「よし、終わったら、あのグリモア猟兵にいっぱい飴ちゃんを奢ってもらうとしようか………ええと、誰だっけ?クロちゃんだっけ?」
「クロヴィス……じゃなかったかしら。私も彼のことは余り知らないのだけれど」
 うろ覚えのグリモア猟兵の名前を訊ねる暁未鳥・狐虎狼(実験体コードNu–E556・f19004)に、ラニューイ・エタンスラント(闇と光のダンピールイェーガー・f05748)は眠たげな声と瞳で答える。もっとも、ラニューイからの回答が来る頃には、狐虎狼の興味はグリモア猟兵の名前からは既に別のところへ――恐らくはこの道をいった先に待ち受けているであろう蜜ぷにの大群、もといキャンディの原材料へと移動していたのだが。
 そんな狐虎狼の様子を気に留めるような素振りも見せず、とはいえ面白いものが見れたわ、と迷宮の道を行く傍ら、ダンピールの少女はグリモアベースでの光景を思い起こしていた。
 大の男が頭を下げて人に頼みごとをするという姿は、やる人がやる人であり、見る人が見るひとであれば真摯な態度にもなろうが、如何せん今回のケースは滑稽極まりないものだった。現にあのフェアリーのグリモア猟兵を知っているらしい猟兵たちの大半が溜息をついていたのが、その良い証拠なのだろう。
 そしてその極めつけ、頭を下げてまで守りたかったものが、まさかキャンディショップだなんて。決して興味などないけれど、そんな滑稽な姿を見せてくれたお礼くらいには、彼の力になってやらないこともない。決して、大の甘党だという彼のお墨付きのキャンディショップに、興味などないのだけれど。
 そんなことを思いながら、時に広く時に狭い迷宮の道を行く。
「さて、そろそろ……この辺じゃない? さっさと済ませておやつにしよう」
 そんなラニューイの胸中など知る由もなく、狐虎狼はグリモア猟兵から告げられていた、逆侵攻軍と出くわすであろう地点に差し掛かったことに気づく。
 恐らくはこの次にある、あの曲がり角の先に――
『出たぷに!敵ぷに!ボクたちの邪魔をするぷに!? 許さないぷにー!』
『女ぷに!女2人組ぷに! どーーーせ甘いものに目がなくって、ミーハーで、流行りのショップのキャンディの材料にされてるって聞いてボクたちを狩りにきたんだぷにー!』
「……うるさいわね、キャンディショップに興味などないと言っているでしょう」
『ぷみゃーーー!?』
 曲がり角を越えたその先に、なるほど予知通りの、耳障りなほどに甲高い声が盛大に出迎えてきた。図星に近い所を不意に言い当てられたラニューイは、不機嫌露わに、半ば八つ当たりにも思える仕草で眩い輝きを放つ無数の焔――仮にも聖なる焔なのだが――を、蜜ぷにの群れへと撒き散らす。
『ぷにーっ!? いきなり何するぷにー! そんな態度をとるなら、ボクたちにだって考えがあるぷにっ! みんな、友情パワーをここへ集めるぷに!』
『『『ぷにーーーーー!!!』』』
 突然火の粉が襲い掛かり、瞬時に溶けてしまった哀れな仲間たちを悼むのも束の間、運よくその焔から免れた蜜ぷにが、ぴょんこぴょんこ、ぷにぷにぷりぷりとこちらは怒りの感情露わに、何やら大きな声で仲間へと呼びかけ、そして仲間の蜜ぷにたちもそれに元気よく答える。
 するとどこからか甘い行進が――みつみつぷにぷに、みつぷに、みつぷに。
 そしてみるみる内に蜜ぷにたちが、重なり、溶けあい、混ざり合い。
 ――ずもももも。そこそこにぷに圧を感じる大きさに成長を遂げた。
「あら、増えたわ……それに合体したわね」
「ちょっと、何してくれてるのさ。邪魔が増えた上に、何かパワーアップしちゃったみたいじゃないか」
「でも、倒した分だけ蜜も増えて……キャンディも増えるってことじゃない?」
「あ、確かに……それならいいか。増えても全部倒せば解決だし」
 いいらしかった。
 悪びれる様子もないラニューイに、しかし自分の中で納得がいってしまえばそれ以上咎めるようなこともなく、狐虎狼はパチンと指を鳴らす。
 何やら策がある様子。いったい何をするのか……とラニューイが緩慢な動作で狐虎狼を振り返った時には、彼女はもうそこには居なかった。
 ――クロックアップ・スピード。
 文字通り、肉体もその能力も、己の身体の限界を超えて稼働させた狐虎狼は、獣の如き鎧装を纏った脚で迷宮の地面を蹴り、一直線に巨大化した蜜ぷにへと突っ込み、獣の如き鎧装を纏った爪でもって飛び掛かる。
『ぷ、ぷにっ……お、おまえなんて怖くないぷに……勇者ぷにを召喚して、勇気ある力を借りればおまえなんて、おまえなんて――』
「……邪魔だよ。さっさとやられてくれないかなぁ?」
 そしてキャンディになれ。抑揚のない狐虎狼の声。
 無機質な音と共に着地をして次の標的へと駆け出した彼女の背後で、ようやくジェリー状のボディが音もなくとろりと崩れ落ちる。
 仲間を呼び出来上がった巨大蜜ぷには数にして6体。そのうちの1体を秒殺して残りは5体。その5体がキャンディの材料となる糖蜜の湖を作るまでに、そう時間は掛からなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
…………この敵、今までも何度か相手にしてきたのだけれど。
正直な所害意より好奇心やら単純な所が目について……その、やりづらいわ。

と、オブリビオンを前にした時としては珍しく、どこか気乗りしない様子で。
過去2回、この種族とは遭遇した事があるけれど。どちらも、なんだか罪悪感を感じる顛末だったから。

……………………はぁ。あの妖精に、ああまで頼まれてしまっては、ね。

どうせ目当ては甘味なのでしょうけれど、と呟きながら、ユーベルコードを歌う。

……ぷにぷに叫ぶ、見た目に可愛らしい生物がぷちぷちとなすすべなく潰されていく様は、自分の歌ながらどこか複雑な心境にさせるもので。

…………正直、一番苦手な敵かしら、ね……。


霧生・柊冬

まさかクロヴィスさんのお菓子を守るためにここまで駆り出されるとは…。
でもこのまま放っておいて万が一にも他に被害が出てしまっては大変です。
出来る限り、僕も協力しましょう。

蜜ぷに自体にはあまり攻撃力はないようにも見えますが…流石に数が増え過ぎると対処が大変そうです。
召喚したぷには合体させないようになるべく散り散りにさせていきましょう。
『夢進月兎』で黒兎を召喚して、兎に乗りながら体当たりを仕掛けたりして皆さんのアシストに回ります。
二人くらいまでならギリギリ乗せられるかも。

召喚した兎が蜜ぷにを舐め始めてる?
ちょ、ちょっと待って!流石にまだそれは集める必要があって…食べちゃ駄目だってばー!




 その毛皮は世界によってはバッグや襟巻に重宝されるほど、その毛の一本一本は繊細で、手触りは極上、保温性も抜群の高級品である。
 急に何の話を始めたか。
「…………気持ちいいわね」
 その答えは、ダンピールの少女、ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)が先ほどから手慰みに、しかし心地よさげに撫でているふかふかのファーシートにある。いや、正確にはシートではなく、およそ2.5mの巨大な黒い兎なのだが。
 霧生・柊冬(frail・f04111)のユーベルコード、『夢進月兎』によって召喚されたこの兎、召喚主である柊冬とミーユイを乗せても尚、あと1人は乗車……積載……同伴可能なゆったりスペース。座り心地はといえば先述のとおりで、豪奢なドレスに身を包んだ夜の令嬢による厳しい審査もパスするほどの高級仕様。
 野生の世界では被捕食者である兎は警戒心が強く、またその四本足には意外かもしれないが肉球がない。しっかりと生えそろった体毛は接地の際にクッションとなり、移動時の静音性も抜群――とくれば、今回のように敵軍を待ち伏せ、奇襲を仕掛けるような作戦にはもってこいの動物といえるだろう。
「気に入ってもらえたみたいで良かったです、この子も喜んでるみたい。……おや、何か聞こえるみたいです。ちょっとだけ声を抑えていきましょうか」
 ぴょんぴょんと軽快に前進していた兎がふと立ち止まり、ふんふんと匂いをたどるように宙を仰ぎ見た。耳がぴんと立ちあがっているのは警戒のサイン、周囲の不審な音を聞き分けるべく、レーダーのようにくるくると動いていた。
 相棒とも呼べる兎の機微を感じ取り、人差し指を唇に当てるジェスチャーを見せた柊冬にミーユイも言葉無くうなずく。
 ――その後もしばらく、そろそろと歩いては立ち止まり、匂いを嗅ぎ分け、音を聞き分け、また静かに前進する、という繰り返しが続き、やがて柊冬とミーユイを乗せた黒兎は、とある曲がり角の手前で立ち止まった。
「……耳には自信があるのだけれど。流石ね、これを聞き取っていただなんて」
 前方、数十メートル先に見える曲がり角の、さらにその向こう側。耳を澄ませたミーユイにも、無邪気で微かな鳴き声がぷにぷにと聞こえてきた。黒兎が小さく、しかし誇らしく鼻を鳴らすのを見て、柊冬は穏やかに笑う。
「ふふ、実は僕にはまだ聞こえていないので、ミーユイさんも相当耳がいいですよ。さて……いよいよ近いということでしょうか。クロヴィスさんの行きつけだから……というわけではないですが。できるだけぼくとこの子でサポートをしますので、頑張りましょうね」
「…………実をいうと、今回の相手……あまり乗り気がしないのよね」
 けれどあの妖精に、ああまで頭を下げられてしまっては、と渋い顔を見せつつ頷くミーユイに苦笑を返しながら、柊冬は突入の合図を送るのだった。

『ぷにゃっ!? な、な、な、なんかでっかいのが来たぷにー!?』
『ぷににーーーーっ!? 踏みつぶされるぷにー!?』
『ぷにゃにゃにゃにゃっ、な、何か舐めてきたぷにー!?』
「ちょ、ちょっと待って! あとで集めなきゃいけないし、これを材料にキャンディを……だ、だから食べちゃ駄目だってばー!?」
 ぷにぷにわいわい、ぷにぷにわらわら、蜜ぷにたちは大混乱。
 ……あと何故か柊冬までもが普段の落ち着いた物腰を崩すほどに大慌て。
 蜜ぷにに興味津々、何より甘い匂いにつられて思わずぺろぺろせずにはいられなかった黒兎を止めるのにそれはもう必死である。
 さて、ともあれ巨大な黒兎、その突進による襲来に気を取られ逃げ惑う蜜ぷにたちの多くは、そこに騎乗している猟兵2人の存在に気づけていない。
「やれやれ……えぇと、蜜ぷにたちが散り散りになってしまいましたが、これで合体は防げたはず……」
「そうね、それにこの位置からなら、私の歌も届きやすい、か……」
 最初はどうなる事かと思ったけど、と黒兎を撫でる傍らで胸を撫で下ろす柊冬。そしてその背後で、ミーユイが蜜ぷにたちを見下ろす。
 柊冬の言う通り、あちらこちらへ散り散りになってしまった蜜ぷにを1匹ずつ追いかけて倒していくのは、成程確かに骨が折れそうだ。それに相変わらずぷにぷにぴょこぴょこ、どうにも悪意やら害意を感じ取れそうにない。
「……えぇと……み、ミーユイさん?」
 やりづらいですか? と気遣うように振り返る柊冬に、大丈夫よ、と短かな溜息と共に返しながら小さく首を横に振る。
 わずかな沈黙は、どうにか彼女の中で罪悪感を吹っ切るためのカウント。
 目を閉じて、白く細い指先がそっと刻印に手を触れる。
 内より湧き出ずる確かな愛を感じながら、脳裏に浮かべた五線譜をたどり、そこに踊る音符をたどる。
 ――おいで おいで、
 奏でるたび、歌うたび。彼女の中に刻まれたスコアから次々にノーツが浮かび上がり、暗き世界から音の弾が溢れ出す。
 まるで何もわかっていないような顔をした蜜ぷにたちに、雨のように降り注いだそれは、恐らく彼らに怯える時間すら与えぬまま、ぷち、ぷち、と小気味のよい音を迷宮に響き渡らせながら、次々に蜜を弾けさせた。
『ぷにっ!? み、みんな急にどうしたぷに!?』
『一体なにが起きてるぷにー!?』
『はっ、黒い雨ぷに! 黒い雨が降ってるぷに!』
『アレに当たると死んじゃうぷに! 逃げるぷにー!!』
 しかしようやく蜜ぷにたちが状況を理解したころには、もう遅い。
『影の国 第2番』は既に中盤を抜け、転調による畳みかけも終わり、そしてクライマックスは――始まりから終わりまで、一息に駆け抜けるようなグリッサンド。
 具現化した音の雨はまさに辺り一帯を影の色で埋め尽くすが如く、視認出来得るすべての蜜ぷにたちを甘い糖蜜へと変えてしまったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エスチーカ・アムグラド


えーっと、えーっと……つまり……
今回の迷宮攻略のご褒美はキャンディということですねっ?!
ふふふー、どんな味なのかなー、楽しみだなー

蜜ぷには剣でお相手しましょうっ!
すぱーっ! ……っと斬れる、のかな……?
まずは試してみないと! 何事も勇気をもって挑戦! 剣だけで戦う実戦練習も兼ねて!
飛びまわって、風に乗って、近づいて、躱して、隙をついて……基本に忠実に戦います!
一対多になったら焦らず距離を取って、囲まれなければ一対一のように戦える、かな?

蜜はー……えへへ、フェアリーランドでしまっておいたらチーカもいっぱい持って帰れるかなって


キール・グラナドロップ


美味しいキャンディのお店……!
(お菓子に釣られて依頼を受けた20歳児。なおストッパーになりうる彼に宿るUDCはアルダワの災魔「には」興味がある為止めなかった模様)

わあ、なんかいっぱいいるねえ……増えて合体しちゃうのかあ……なら、【衝撃波】で吹き飛ばして合体しないようにしなきゃね。あんまり強くないならこれだけで倒れてくれないかなあ……無理そうなら【ウィザードミサイル】で攻撃するね。

えっと、倒したあとに出た蜜は……なにか入れ物(フェアリーサイズの瓶等)にいれて【フェアリーランド】の中にしまっちゃおうか。まだ敵はいるっぽいから持ち歩いてたら戦いづらいもんね。


ファラーシャ・ラズワード
【アドリブ○】

女の子は甘いものが好きなの。
そして私は当然女の子(※24歳)
ふふっ、蜜を持ち込めば。戦闘が終わったら、フェアリーランドに詰め込んで、飴の雨。もしたくさんあるなら、同族にもわけてあげようかしら。

さて。とりあえず大群にはこれよね。エレメンタル・ファンタジア。
前衛もいることだし、今日は暴走もしなさそう(フラグ)

今日はー……蜜だし、温めましょうか。
灼熱の間欠泉で。きっと蜜が取れやすいわ。

さてさて、どんな味かしら。
ん~~!あまい!おいしい!(ぺろぺろ)
夢中になるのもわかーー……

あのいつの間にそんな大きな数字に?その位置だとみんな巻き込まれるの。
だから、わたくしが逃げるまではまっ(ぬちゃあ)



 ずももももももももも。
「あ、あのあのっ……何で、どうしてこんな事に……!?」
 ぷるぷる、ふるふる、ぷにんぷにん。
「わたくしが問いたいわ。いえ、心当たりがないこともないけれど、……それよりも今は早く助けて頂戴」
 ……………ぬちゃあ。
「わぁ、これは……すっかり飲み込まれちゃってるね……?」
 ――恐怖、蜜ぷにの逆襲。
 何やら、やたら蒸し暑い迷宮の一角。
 巨大化した蜜ぷにに下半身はおろか、胸のあたりまで蜜ぷにに取り込まれ……失敬、飲み込まれ、ぐったりとしたファラーシャ・ラズワード(幸せを与える青い蝶・f18019)を発見し、おろおろあわあわとするばかりのエスチーカ・アムグラド(Espada lilia・f00890)、そしてしげしげとその様子を眺めるキール・グラナドロップ(影に縋る者・f14289)。
 全員分の身長を足してもまだ1mに満たない彼らは、それぞれの背中にそれぞれに色の翅をもつ小さなフェアリーたちだ。そしてそんな彼らからすると、蜜ぷに単体だとしてもなかなかのサイズであり、ましてや友情パワーぷにが重なり合った蜜ぷにであれば、そのサイズだけでかなりの脅威と成り得る。
 ファラーシャを飲み込みどこか満足気な蜜ぷにの額には、数字の3。
 つまりは3匹の蜜ぷにが合体した姿なのだが、3人の中で一番背の高いキールの身長さえもゆうに越え、また3人の中で一番背の低いエスチーカから見れば、以下に愛らしい顔をしていたのだとしても、尋常ではない威圧感を誇っている。
 ごくりと唾を飲み込み、思わず足元を見れば、かつて蜜ぷにだったと思われる蜜がいくつかの水溜まりを作っていた。やや粘性を持ったそれらは、どうやら熱で溶かされるタイプの攻撃でその命を落としたようだ。――恐らくは今、蜜ぷにの下敷きとなりぐったりとしているファラーシャの戦いの跡だろう。
「わ、わかりました、ファラーシャお姉さんを助けるためにも、チーカ、やってみます! ……何事も勇気をもって挑戦……ですもんねっ!」
 ……と、決意を新たに言ってみたはいいものの、果たしてこのぷるぷるぷにぷになボディは、すぱーっと斬ることができるのだろうか。一抹の不安を振り切るように大きく首を横に振り、エスチーカは愛剣グラディオラの柄に手を掛ける。
「……わたくしまで斬らないように気を付けてね」
『ぷに…? ひょっとしてお前、そのちっこい剣でボクを斬るつもりぷに? ぷにににに、やれるものならやってみるぷにー!』
 ぷにんぷにんぷにんぷにん。通常の蜜ぷによりもやや野太い、あとちょっとイラつく声でエスチーカを笑う蜜ぷにと、その声と揺れる糖蜜の身体を鬱陶しそうにしながらエスチーカの剣を見つめるファラーシャ。そんな様子を横目に、キールはひらり、柘榴を甘く煮詰めたような翅を羽ばたかせ。
「それじゃあ、その大きな子は任せるね。ボクはこれ以上この子が大きくなっちゃわないように、他の子を何とかしてみよう、今回は影くんに手伝ってもらわなくても大丈夫そうかな? ……えいっ」
 巨大な蜜ぷににばかり目を取られてしまっていたが、よく見れば周りにもぷにぷにと無邪気にぴょこぴょこしているのが何匹か見受けられる。
 巨大ぷにが出来上がったことにより完全に戦闘はそちら任せ、剥き出しにした敵意もなく、楽しげにぷにぷにと跳ねる通常サイズぷに。けれど此処、戦場にあるならば、彼らも等しくキャンディの原料……もとい、猟兵の敵であることに変わりはない。
 ひとまずこれで、と軽く勢いを付けて腕を振りかざし、小さな衝撃波を起こす――が、小さな身体から発せられる波をスライム状の彼らはぷにん、と受け止めその衝撃を殺し、コロコロと転がるばかり。
「うーん、これじゃダメかぁ……それじゃあ、ちょっと焦げちゃうかもだけど」
 当初の目的である巨大ぷにから遠ざけることはできたものの、甘いキャンディの原料とはなってくれない。
 しょうがないよね、と肩をすくめたキールの背後に、炎を纏った魔法の矢が無数に現れ、怒涛の勢いで解き放たれた。

『ぷににに、ほらほら、かかってくるぷに!』
「ちょっと、あまり暴れないで頂け……あ、甘い……おいしい…!」
 ぷにんぷにんと(フェアリーからすれば)巨大な体躯を揺らして笑う蜜ぷにに、ひとつ悪態をついてやろうと顔を上げたところで、揺れた蜜ぷにから滴り落ちてきた蜜がちょうど頬にかかる。舐める。甘い!(てーれってー)
 ……いやまぁ舐めるよね、甘いもんね、わかるわかる。とはいえ、何故こんなことに――無様にも蜜ぷにに圧し掛かられ、身動きが取れなくなってしまっているのかを、彼女はもう一度よく考えるべきだ。
 ファラーシャにとっては幸いなことに、この状態に陥る決定的瞬間を捉えたわけではないエスチーカは、挑発してくる蜜ぷにを真剣な表情で睨みつけ、剣を握る手に力を込める。
(やわらかい相手でも、スパッと……きっと、風の力を借りれば簡単にできるのでしょうけれど……いえ、これはきっと、チーカの剣の腕を、稽古の成果を試すとき…!)
 鉄塊を斬ることは、なるほど難しいだろう。
 しかしそれと同じくらい、剣の一振りで水を断ち切るのもまた至難の業だ。
 ともすれば揺蕩うという表現さえも似合いそうなこのぷるぷるボディ。あまつさえ上空から炎の矢が降り注ぎ、迷宮内の温度が上昇したことで、その身体はさらに固体から液体へと近づいている。
 完全なる慢心を曝け出しながら何ひとつ攻撃してくる様子のない蜜ぷにに、内心悔しさも抱きながら、しかし勝機を見出すのなら間違いなくその一点。余りにも大きすぎる、この隙を突くこと。
 ――エスチーカは静かに目を閉じた。
(風の声を聴くように……集中して……耳を澄ませて……、)
「今ですっ! いきますよ、……ッたああああああああああ!!」
『ぷにっ!? そそそ、そんなバカなぷにーーーーっ!?』
 研ぎ澄まされたエスチーカの感覚は、無数の炎の矢によって生み出された空気の流れを正確に読み、一際強く発生する上昇気流を捕まえて、一気に最大高度までその幼い体躯を運ばせる。
 両手で握りしめた剣を深く刺し入れれば、その切っ先に確かな手ごたえを感じた。
 自らを持ち上げた風をパッと手放し、位置エネルギーを目一杯放出しながら、気迫のこもった太刀筋でもって一息に蜜ぷにを両断していく。
『……ぷ、ぷにゃ……あと……5匹くらい、合体していれば…ぷに……』
 スパッ。
 とろり、とろとろ、とろとろとろとろ。
 真っ二つに割れてすっかり弾力を失った蜜ぷには音もなく溶け落ち、倒れているファラーシャを中心に、ひときわ大きな水溜まりを作りあげた。

「2人ともお疲れ様、……ふふ、最後の一撃、すごかったねえ」
「いえいえそんな、えへへへへ、それほどでも、えへへ……あ、でもでもキールお兄さんこそ! 沢山の炎の矢、かっこよかったですよ!」
「わたくしはどうなることかと思ったけれど。いえ、あなた達の見ていないところでちゃんと健闘したのよ? ……とはいえ、2人が来てくれて助かったわ。お礼を言わなくてはね」
 見渡す限り蜜の海となった所へひらひらと降りてきたキールを、エスチーカが、ファラーシャが出迎え、顔を見合わせる。
 恐らくは初めて顔を合わせた3人だけれど、こうして戦いを終えて改めて顔を見合わせた今。何だか自然とお互いの気持ちがわかる気がしたのは、3人が3人皆同じ、フェアリーという種族だったからに他ならないだろう。
 それは小さな身体を持つ者たちに許された、楽園の扉を開く鍵。
「えへへ、これで美味しいキャンディを作ってもらえるかな…!」
「ふふふー、どんな味になるのかなー、楽しみだなー…!」
「女の子は甘いものが大好きなの……沢山あれば皆にも分けてあげられるかしら」
 甘いキャンディが大好きなことに、大人も子供も、男の子も女の子も関係ない。
 それぞれのフェアリーランドにたっぷりの蜜をしまいこみ、妖精たちはその場を後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


…クロヴィス、お前……
公私混同じゃねーのかそれ

ま、知り合いの頼みだし?別にいいんだけどさぁ…
気ィ抜けるビジュアルだよなこいつらよぉ…

…主役に任せてサポートしますよっと
強化されちゃ効率が落ちちまうな
【見切り】で奴らのUC起動を察知、【早業】ですかさず俺のUCを差し込む
効果反転、戦闘力の向上は減衰に変更される
ほら、倒しやすくしたんだからパパッと頼むぞ
休んでる暇は無い。反転反転反転
手当たり次第に反転祭りといくぜ

…っかし、すげーファンシーな群れだなおい
いかにもこう、女が好きそうっつーか…可愛い~とか言いそうというか
…よーわからん感性だ

キャンディ…そんなに美味いのか
………後でもらおっかな


リンタロウ・ホネハミ
これ職権乱用とかになんないんすか???
いやまあ良いっすけどね、一般人に被害が出るのはほんとっすし
アメも久しく食ってないっすしね
そういうわけで"骨喰"リンタロウ、ちょいと甘めに呪骨剣を振るわせてもらうっす!

さてさて、倒すべき敵とはいえ、後でアメの材料になるんすから
倒した後効率良く回収出来るようにしたいっすね
つーわけでゴリラの骨を食って【〇二〇番之剛力士】を発動っす!
蜜ぷにを地面ごとぶっ潰す!地面がえぐれる!
同じとこでそれを繰り返してりゃ、えぐれにえぐれて出来たクレーターに蜜ぷにだったものがたぁっぷり溜まってるっしょ?
後は悠々とそれを掬うだけっすわ

アドリブ・絡み大歓迎




「これ職権乱用とかになんないんすか???」
「俺もそう思う……つか、公私混同じゃねーのかこれ……」
 ――グリモアベースにて3枚目のカジノチップが宙を舞うその直前。
 思わず隣にいた少年に問いかけずにはいられなかったリンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)と、その問いにこめかみを押さえながら溜息混じりに答えたヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、偶然か必然か、迷宮への転移が完了した後も行動を共にしていた。
 とはいえ、今こうして彼らが並んで迷宮を歩いているのも、かのグリモア猟兵からの依頼を職権乱用、公私混同と感じながらも、「まぁいいけどさ」と転移に応じたからに他ならず、そして転移に応じたからには。
『ぷにー! 侵入者ぷにっ、侵入者発見ぷにー!!』
「………ぉ、」
 斥候兵なのだろうか。無骨な足音と無機質な足音にいち早く気付いてぷにぷにと駆けつけ、仲間たちに知らせるためにぷにぷにと声を張り上げた1匹の蜜ぷに。
 しかし、「俺の侵入に気づくとはなかなか優秀じゃねぇか」とヴィクティムが茶化しそうになったのも束の間。
『ぷにー!』『ココでお前たちの運命はおしまいだぷに!』『ぷにー!』
『ぷにー!』『ボクたちみんなの力を合わせれば怖くないぷにー!』
『たくさん集まるぷに、いっぱい集まるぷに!』『ぷにぷにー!』
 いったい何処にこんなに隠れていたというのか。四方八方から蜜ぷにが泉のように湧き出て跳ねて、あっという間に2人の猟兵を囲んでしまった。
「何かおれっちたちの運命ココでおしまいらしいっすけど」
 足元でぴょんこぴょんこと楽しげに――ひょっとしたら真剣に跳ねているのかもしれないが、どうにも傍目には楽しげに――跳ねている蜜ぷにをちょいと指さしながら、リンタロウは隣のヴィクティムを見る。
「こんだけ長閑なインジャン・カントリーもなかなか見ねーが……ま、仕事は仕事だ。それも知り合いの頼みとあっちゃ、手抜くワケにもいかねーか」
 ゆるゆるぷにぷに、ファンシーかつ気の抜けるビジュアルに思わず眉間に皺が寄ったのをほぐしほぐし、少年は頭を『仕事』に切り替えた。そして改めてリンタロウの視線に応えるように、口角をあげる。
「じゃ、そーいうワケで。主役張ってもらうぜチューマ、サポートは任せな」
「了解っすよ。それじゃ、甘ーいオヤツのために一働きするっすかね!」
『なーーーにをこしょこしょ話してるぷに! 隙だらけぷにー!』
『ナメてると痛い目にあうのを教えてやるぷに! ボクらが合体しておっきくなれば、お前たちよりもずっと強いんだぷにー!!』
 ぷりぷりと怒った様子の蜜ぷにたちが、ぷるぷるボディをぷるぷると怒りに震わせ、仲間たちを顔を見合わせる。どうやら宣言通り、友情パワーとやらで合体を試みているのだろう。
 ――しかし、果たして侵入者がそんな事を許すだろうか?
『ぷにー! いくぷにっ、まずはひとーつ!』『ぷにーっ!!』
『ふたーつ!』『ぷにぷにーっ!』
『まだまだいくぷに、みーっつ!』『ぷにぷにぷにーっ!』
 事実、許していた。2人の猟兵を囲った蜜ぷにたちは、あちこちで次から次へと重なり、溶けあい、巨きくなっていく。数は減るが確実にその体積を増していく蜜ぷにを、ヴィクティムもリンタロウもただ見ているだけだ。
 サポートは任せろ、と少年は言った。可愛げこそないが自信の塊のような、そしてその袖の中には数えるのも馬鹿馬鹿しいほどのカードを隠し持つ彼の言うことであれば、その言葉は信じるに値する。
 とある白骨を咥え、タバコのようにぴこぴこと動かしてみせながら、リンタロウはただ、少年の見極める最良のタイミングを待った。
『おまちかねのー…………じゅーう!』『ぷにぷにーーーーっ!!』
 あっという間にヴィクティムはおろか、リンタロウの身長さえも越すほどに成長を遂げた、10匹分の巨大蜜ぷにが10体。改めてぐるりと2人を取り囲み、その圧倒的な体積で以て威圧する。
『ビビったかぷに! これがボクたちの絆の力ぷに!』
『お前たち2人程度に10匹がかりだなんて贅沢だぷに! 感謝するぷに!』
 もはや勝ったも同然とばかりに笑う蜜ぷにたちに、――暢気なものだ、と盤上の支配者は嘆息する。
「3秒だ。3秒したら遠慮なしにぶちかましてくれ」
 説明ひとつなく、そしてリンタロウが返事をするよりも早く、ヴィクティムは動き出していた。
 取り囲むように円陣を組んでくれたのは寧ろ好都合だ。何せ順番に『打ち込む』だけで済むのだから。
 ぷにん、ちゅるん、という感触だけは、些か此方の方が得体のしれぬ薬液にその手を突っ込んでいるようで気乗りがしないが、――液体というだけで『ウイルス』の巡りが恐ろしく早い点も、好都合といえるだろう。
 10体すべての蜜ぷににプログラム『Reverse』を仕込むのに2秒。
 そして最後に打ち込まれた蜜ぷにの全身にウイルスがまわりきるまでに1秒。
 1、2、3、と心の中で呟き数えていたリンタロウが、ぱきん、と咥えていた白骨――ゴリラの骨をへし折り、噛み砕き、嚥下した。
「さぁて何やってたか知らないっすけど、3秒たったんでいくっすよ! こいつに巻き込まれたら命の保証はできないっすから気を付けるっす!!」
 呪われた骨剣を高々と掲げたリンタロウの叫び声に、オーケイ、とヴィクティムが即座に身を引く。
『ぷにぃ! なかなかに重たい一撃の予感ぷに! でも、10匹合体のボクたちなら――……あ、あ、あれっ? あれっ? 何これ、ど、どうして力が湧いてこないぷに!? お、おかしいぷに、ダメぷに、こんなの反則ぷに、ちょっとタンマぁああ……ぷ゛に゛ッ』
 まずは、1匹。
 クラッシュゼリーのように弾け飛び、びしゃりと地面や壁に打ち付けられた蜜ぷに『だったもの』――強いて言うならばその肉片は、とろりとその場で溶け崩れる。
 蜜ぷにを狙ったのか、あるいはその一撃を振り下ろせる場所であればどこでもよかったのか。ゴリラの力を得た力任せの、剣から繰り出されておきながら斬撃ではなく打撃というべき攻撃は、地面を深々と抉り、巨大なくぼみを作っていた。
 ひゅぅ、と何処からか端役の口笛が聞こえる。
「何なら残りの9匹も合わさって、90匹分の合体を見せてくれてもいいんだぜ。いやいや、もっとだ。この迷宮中の仲間たちを呼んできて、合体してくれたってかまわない」
 ――なぁ、スクィッシー?
 本来ならば合体することで増強されるはずの戦闘力は、――正確には、戦闘力を増強させる効果を、彼によって『反転』させられていた。つまり、ウイルスに侵されきった蜜ぷにたちは、『合体すればするほど弱くなる』体質を持ってしまったのだ。
 意地悪く笑うハッカーを「おー怖い怖い」と茶化しながら、リンタロウは2匹、3匹と攻撃力はもちろんのこと、耐久力も著しく低下した蜜ぷにたちを粉砕していく。その度に迷宮の地面は抉れ、くぼみ、――やがてふるふると審判の時を待つ10匹目の蜜ぷにをクラッシュゼリーに変えた頃。
「よーし、こんなモンっすかね! さっすがおれっちの狙い通り! あちこちに蜜がたぁっぷりっすよ!」
「んぁ? 何だよ、蜜あつめてくのか?」
「当然っすよ、アメなんて久しく食ってないっすし! それにあんだけ美味いって力説されちまったら気にならないっすか?」
「あー……まー確かに……」
 ――そもそもが今回の『仕事』の最終目的は、奴の行きつけらしいキャンディショップを守るとかいう、職権乱用、公私混同、私利私欲にまみれたものだったことを思い出す。そして、いかにも女が好きそうなファンシーな敵を倒したところで、更にいかにも女が「可愛い~」とか言い出しそうなキャンディショップの外観も、合わせて脳裏に過ぎる。
「…………そんなに美味いっつーなら」
 ――後でもらおっかな。
 静けさを取り戻した迷宮。
 糖蜜のようにとろりと落つるは、17歳の少年の甘ったるい呟き。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニヒト・デニーロ
別にキャンディに興味があるわけではないけれど、学園の外にオブリビオンがいるのは問題だもの……危機対処。

(一匹捕獲)
……しかしぷにぷにしているわね(ぷにぷに)
とても柔らかいわ。大きなゼリーのよう……かわいい。
持って帰るのは……そう、駄目なのね……至極残念。

せめて、甘いキャンディにしてあげる……おいで、スペースター。

ヒトデ型UFOの上で私は正座。
蜜ぷにの上に直角飛行させて、真下にいる蜜ぷにをミューティレーションビームで捕獲。逃げる個体は謎のメカ触手で捕縛。
みんなUFOの中に詰め込んで。

……その時まで、ゆっくりお休み。
ええ……素材は新鮮な方が、いいでしょう?


パーム・アンテルシオ
蜜ぷにかぁ…ふふ、なんだかちょっと懐かしい。
もう、半年ぐらい前になるんだね。前に戦った時は。
あの蜜、そのまま食べた時も美味しかったんだけど…
それを元に、飴を作っちゃうんだよね。楽しみだなぁ。

それじゃあ…今日も元気に、蜜採取、だね。
倒されたくない、って叫んでる子と戦うのは、ちょっと、心が痛むけど。
この世は、戦いの場は、弱肉強食。甘い考えは通用しないんだ。
ふふふ。ごめんね?

九ツ不思議…妖狐。
バラバラに倒しちゃったら、蜜を集めるのにも時間がかかるから、ね。
戦意をなくした子たちを集めて。いっぺんに倒しやすくするよ。
倒すのは、人任せだけど…きっとどこかに、適任が居てくれるよね。ふふふ。

【アドリブ歓迎】




 迷宮内の小部屋にわんさと集まり、ぷにぷにと鳴き喚き、いやいやあるいは泣き喚き、ぬるぬるぴょこぴょこと逃げ惑う蜜ぷにたち。あまりに小動物的なその逃げ足には、ちょっとだけかわいそうな気もするけれど、それでも彼らはオブリビオンで、ニヒト・デニーロ(海に一つの禍津星・f13061)は猟兵だ。
「待って、待ちなさい、待つべき、あなたは待つべき――…………えい」
 ぷにん。1匹捕獲。
『ぷ、ぷみゃ……!』
「――捕獲成功。………とても柔らかいのね。大きなゼリーのよう。……かわいい」
 ぷにぷにもちもちと手のひらで弄ばれる蜜ぷには、どうやら臆病な個体だったらしい。ニヒトの手の中でぷるぷると怯え、成されるがままとなっている。
 そんな姿もまた小動物じみて愛らしく、どうにも庇護欲をかきたて、気分はまるで雨の中捨てられた子猫を拾った少女、持ち帰ってかわいがりたい衝動に駆られるのだが、……しかしやっぱり彼らはオブリビオンで、ニヒト・デニーロは猟兵だ。
その関係性を、蜜ぷにの手触りを堪能する傍らで改めて見つめなおし、蜜ぷにから片手を外し、――そして、おもむろに横ピース。
そのまま何やら力強く頷き、決意の声音で言い渡す。
「キャンディに興味があるわけではないけれど、学園の外にオブリビオンがいるのは問題だもの……危機対処。……せめて、美味しいキャンディにしてあげる」
『ぷにゅーーーっ!?』
ぴしっと決められた横ピースの向こう側。青く、そして空ろの瞳の奥に何を見たか。ニヒトの手から逃げ出そうと、ぷるぷるびちびち藻掻く蜜ぷに。
 無理もない。ここに来るまでにクラッシュゼリーにされた仲間たちを、ぷにぷに感を失い、ただの蜜と成り果てた仲間たちをたくさん見てきた。
 恐らく次の瞬間には、きっと自分も同じように――……。死を覚悟した蜜ぷにの脳裏には、これまでの蜜ぷに生が走馬灯のように流れゆく。
「……おいで、スペースター」
 ああ、きっとこれがこの猟兵の必殺技なのだろう。急に横ピースをしたのはスペースターとやらを呼ぶためか。せめて、せめて痛みなく一瞬で終わらせてほしい。
 ぎゅっと目をつむり覚悟を決めた蜜ぷにに、みょわわわわわ……と何やら怪しい音と共に謎の光線が照射される。
『……ぷ、ぷに…? あれ…ボク……い、生きてるぷに…!?』
 次の瞬間、蜜ぷには不思議な空間の中にいた。
 前後左右、どこを見ても暗く、たくさん居たはずの仲間はもちろん居ない。
「すぐに、仲間も連れてきてあげる。『その時』がくるまで、ゆっくりおやすみ……鮮度保持」
 先ほどまで自分を捕まえて離さなかった少女の声が頭上から聞こえてくる。
 ――蜜ぷには、少女のユーベルコードによって呼び出された巨大な未確認飛行物体、いわゆるUFO『スペースター』に格納されていた。
 かくんかくんと直角飛行を繰り返し、1匹、また1匹と吸い上げて、更に逃げ惑う者がいれば謎の触手型アームがにゅるりと伸びて、ぷにんと捕獲、即座に格納。
 けれどもまだまだ庫内にはたくさん入りそうだし、何より足元にもまだまだ、ぷにぷにぴょんぴょんと跳ねる蜜ぷにたち。
 するとそこに。
「蜜ぷにを一か所にまとめちゃえば、一気に吸い上げられちゃうんじゃない?」
「……?」
 背筋を伸ばして巨大UFOの上に正座する少女に、不意に届けられた声。
 気づけばいつのまにか辺り一帯、薄桃色の靄が立ち込めていた。その出所を探ろうと、ニヒトが横ピース越しに辺りを見回せば。
「ふふふ、前に食べたときも、とってもおいしかったから。蜜採集なら、手伝うよ」
 そこにはゆらりと九つの尾をくゆらせながら微笑む妖狐、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)の姿があった。
 殺されたくないと嘆きながら、殺されないためのデモ行進を繰り広げていた蜜ぷにたちに手を上げるのは、少しだけ心が痛むけれど。
 ――けれどこの世はいつだって戦場、弱肉強食。弱きものは強きものに捕食される運命にあるのだ。残念ながら、蜜ぷにから溢れる糖蜜のような甘い考えは通用しない。
 とはいえ極力、例えば最初に捕獲された蜜ぷにが願ったように、恐怖や苦しみ、痛みを与えることなく彼らから蜜を採取、そして美味しいキャンディが食べられるのなら、それに越したことはないのだろう。
 ひょっとしたら鮮度だけではなく、品質的にもその方が美味しいのかもしれない。
 迷宮の地面から立ち上り、あっという間に小部屋を満たした桜色の靄。よく見れば天井に近いほどその靄は薄く、地面に近いほど濃い。大気よりも重い性質なのか、いやそもそも猟兵の持ちうる世界の理を越える力に言及することこそ不毛か。
 ともあれドライアイスのように堆積する薄桃の霧は、スペースターにちょこんと正座……もとい騎乗して滞空するニヒトとは非常に相性がいいようだ。
「蜜ぷにがどんどん逃げるのをやめていく……めろめろ?」
 こてん、と首を傾げるニヒトにはその霧の齎す効果が分からないほどに、霧の影響を全く受けていない様子。
 そして術者であるパームはといえば、もちろん涼しい顔。
 濃霧の中を悠々と歩き、霧にアテられて戦意はおろか、逃走することすら諦めてしまった蜜ぷにたちを手あたり次第に拾い上げ、あるいは嗾け、一か所に集めていく。
「ふふふ、そう。めろめろ……なんて、ちょっと照れるけど。『九ツ不思議・妖狐』……この霧に触れた相手の戦意をなくさせちゃう、私のユーベルコードだよ」
 凄いでしょ? とふかふかの耳をぴこんと揺らして、得意げに、無邪気に、――少しだけ妖しく、狐が笑う。
「さて、この子で最後かな。さっきみたいに、あなたのその……何か、大きな……星……えぇと……ひ、ヒトデ……? えぇと……何それ……?」
 全ての蜜ぷにを集め終え、残すは回収作業のみ。UFOに騎乗したまま空中に留まっていたニヒトを見上げたパームは、改めてその異様な光景に目をこする。
 そんなパームの問いかけに動じることなく、パームと蜜ぷにの山を見下ろし、その山の上へとUFOを駆りながら、ニヒトは堂々と答えるのだ。
「ご協力ありがとうございます……感謝の気持ち。それからこの子はスペースター、ヒトデで正解…………私の自慢」
 ――その左目にはもちろん、しっかり決まった横ピースを添えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狗衣宮・藍狐
リリア(f00527)
ジョン(f05137)
と一緒に!
一人のキャンディレイン愛好家として、絶対絶対襲わせないわ!看板娘のドルチェスタちゃんに指一本触れさせないんだから!!

あたしは後衛。リリアとジョンの援護をするわ
フォックスファイアで、リリアとジョンの対処できない蜜ぷにたちを焼いちゃうんだから!
我慢してね二人とも、あとで蜜ぷにでべたべたになった服の代わりは用意してあげるから!

それにしても、なんだか焼けたぷにから甘い匂いが……べっこう飴みたい
……ちょ、ちょっとだけ、試しに焼くだけだから!

こらー!男同士でイチャイチャしなーい!リリアもデレデレするの禁止ー!!

……食べます。食べる。あーん……ん〜💕


虜・ジョンドゥ
藍狐ちゃん(f00011)
リリアくん(f00527)

キャンディレインってあのカワイイお店?
ボクも気になってたんだよね
店主の兎さんにも安心してもらえるよう頑張って退治しちゃお!

ボクは立ち位置でいうと臨機応変な中衛ポジかな
“I”m Resetで蜜ぷに達の攻撃を相殺!
二人が攻撃し易いようサポートにまわるよ!

あっ、藍狐ちゃんお洋服用意してくれるの?
キャンディに合うようなカワイイのがいいなあ♪
…っとと、ボクもべたべたになってきちゃった

あっ、リリアくんボクも蜜ぷに味見していーい?
んー……♪ヒヒッ、美味しいや!
ほらほら、藍狐ちゃんも折角だし食べてみよ!
確かにべっこう飴みたいかも?香ばしくていい匂い!


リリアネット・クロエ
藍狐(f00011)、ジョンドゥ(f05137)とご一緒。

甘い物に目がないからね…、蜜ぷにごめんよ…。
CandyRainのキャンディを食べる為だ…!

ぼくは前衛で藍狐とジョンドゥを護るんだよ
ぼくのリバティスは炎を操る武器。焔桜の魔槍で蜜ぷに達を燃やしちゃうぞ…!
(なんかカワイイ顔しててやっつけるのが可哀想な気も…。)

蜜でべちゃべちゃに……。
あ、藍狐準備いいね?ありがとう。
飛び散った蜜をすくいとって味見を、、
「ほ、ほら…、ジョンドゥ…。」指にすくった蜜をジョンドゥに。

藍狐が試しに焼いたべっこう飴
「うん、甘くておいしいや…!藍狐もべっこう飴食べよ」




『ぷにーっ! ラクエンへの道を約束された剣を受けるぷにー!』
 ▼勇者ぷに は 蜜で 出来た 剣 を ふるった!
「危ない…っ、……2人のところには、通さないよ…! 灼き尽くせ!」
 ▼しかし 蜜で 出来た 剣 は 焔の斬撃 で 溶けてしまった!
『ぷ、ぷにっ……ぷにゃにゃにゃにゃ……ぼ、ボクの剣がぁぁ…!』
 ▼勇者ぷに は ぷるぷる 震えている!
「う……、溶けた蜜でべちゃべちゃに……」
「ちょっとだけ我慢してねリリア、あとで代わりの服を用意してあげるから……って、ちょっとリリア、前、前!」
「え、本当に? さすが藍狐…って、前……? わ、わわわっ……!?」
『勇者ぷにを助けるぷに! ぷにぷにパンチを受けるぷにーっ!」
 ▼戦士ぷに は ぷにぷにパンチ を 繰り出した!
「おっと、危ない危ない。それじゃ、"無かったコト"にしちゃおうか♪」
 ▼ジョンドゥ は ウインク を した!
 ▼ぷにぷにパンチ は 相殺 されて しまった!
『ぷにゃっ!? た、確かにボクはパンチをしたはずじゃ……?』
 ▼戦士ぷに は 混乱 している!
「た、助かったー……ありがとう、ジョンドゥ」
「ヒヒッ、リリアくんってばちゃーんと前を見てないとだめだよー?」
「もう、冷や冷やしたぁ……ジョンの言う通りよ、リリア。……さてと、あなたたちの仕上げは、……これで、どうかしらっ!」
『『ぷにゃーーーーーっ!?』』
 ▼ランコ は 一斉に 狐火 を 放った!
 ▼勇者ぷに と 戦士ぷに は 溶けてしまった!
          .・。* ***GAME OVER*** * 。・.

「……服からすっごく甘い匂いがする」
「ボクも結構ベタベタになっちゃった、攻撃するたびに蜜が飛ぶんだもんねぇ…」
 この小部屋にも何十匹と居た蜜ぷにたち、その最後の1匹を仕留めた頃には、前衛を張っていたリリアネット・クロエ(Chloe・f00527)の服も、そのすぐ後ろからサポートをしていた虜・ジョンドゥ(お気に召すまま・f05137)の服も蜜でべっとり。
 唯一、後衛を担当していたことで、水飛沫ならぬ蜜飛沫の被害が少ない狗衣宮・藍狐(キューティースタイリスト・f00011)は、2人ともごめんね、と苦笑を浮かべる。
 しかしその傍らで、さてどんな服を用意しようか、と青い瞳を光らせていたのを、ジョンドゥのぱっちり開いた2色の瞳は見逃さない。
「ねぇねぇ藍狐ちゃん、さっきリリアくんに代わりのお洋服があるって言ってたけど……もっちろん、ボクにもあるよね? あのお店のキャンディに合うような、カワイイのがいいなぁ♪」
 カワイイお店にはカワイイお店で行きたいじゃん? と無邪気に笑うジョンドゥに、はいはいと肩をすくめる藍子。そんな2人の様子を見ていたリリアネットは、こっそりとジョンドゥの言う『あのお店』に想いを馳せていた。
 『あのお店』……つまりは今回のオブリビオンによる逆侵攻から護るべき対象、『キャンディショップ CandyRain』。グリモア猟兵の情報によればとっても美味しいキャンディを作ってくれる、見た目にもカワイイキャンディショップ。
 流行に敏感なスタイリストの藍狐も、常に現代的なファッションに身を包むジョンドゥも、口をそろえて「絶対絶対、あのお店は護り切るわ!」「かわいくって、前から気になっていたんだよね♪」と言っていたお店。
 ――甘ぁいキャンディに、カワイイ見た目。
 甘い物にも可愛い物にも目がないリリアネットの心を、揺さぶらない訳がない。
(そのために、ちょっと倒しづらい見た目の蜜ぷにだって、頑張って倒したんだもん…! ごめんよ蜜ぷにたち……でも、CandyRainのキャンディを食べる為なんだ……!)
 ぷにぷにと可愛らしい声で鳴き、無邪気に光るつぶらな瞳で、ふるふると見上げてきた――今はもう、ただの甘い蜜と成り果てた彼らを想う。そう、彼の服にべっとりと纏わりつき、甘ったるく、少し香ばしい匂いを漂わせている蜜ぷにたちに――……
「……ん? 香ばしい……?」
 おかしい、さっきまでこんな匂いはしなかったハズ……と、思わず辺りをきょろきょろ見渡すリリアネットに、藍狐とジョンドゥが首を傾げる。
「どうしたのさリリアくん、そんなキョロキョロしちゃって」
「な、なんか香ばしい匂いしない? 甘いだけじゃなくって……」
「香ばしい匂い…? あ、確かに何だか香ばしい――……あ!」
 藍狐がくんくんと鼻を利かせるように目を閉じると、迷宮の小部屋に充満しだしたこの匂いの、ひとつの可能性に辿り着く。
 ついさっきまで蜜ぷにと交戦していた一角を振り向けば、そこにはまだ、藍狐の放ったフォックスファイアの残り火が燻り、その場に溶け落ちた蜜ぷにの残骸が沸々と泡を立てて煮立っていた。
「ふぅん、なるほどね……、ってことは、もうちょっとだけ炎を増やしたら、もっと煮えてべっこう飴みたいになるかも…? ちょ、ちょっとだけ試しに……」
「あったまって、余計に強い匂いがしたのかな? いい匂い…!」
 甘く煮え立つ匂いにこくりと唾を飲み込んだ藍狐が、再びのフォックスファイアをそっと燻らせる中、リリアネットは残り火からやや離れた位置にある蜜溜まりを覗き込むようにしゃがみ込む。
 ドキドキしながらそっと触れてみれば、素手でも触れられるほどの温かさ。加えて、熱された事で微かな粘度も加わり、水あめのように掬い取りやすい状態になっていた。
 ちょっとだけ味見……、と思わず人差し指を蜜溜まりに挿し入れれば、リリアネットの白く細い指に、透明な蜜がとろりと糸を引き絡みついてくる。
「あっ、リリアくん味見するの? いいないいな、ボクも味見していーい?」
 ゆらめく残り火を反射して、きらきらと光る白糸に目を奪われていたリリアネットの肩口から、おどけたような笑顔を浮かべ、ひょっこりと顔を出してきたのはバーチャルピエロ。
 くりくりっとしたストロベリィとペパーミントのキャンディのような瞳に見つめられ、ちょっとだけ驚いたように、サファイアとアメジストの瞳がぱちくりと瞬き。
「えっと………ほ、ほら…、ジョンドゥ…」
「んー……♪」
 こう……? と恐る恐る確かめるような手つきで、蜜の絡んだ人差し指を差し出すリリアネット。その指先から香る甘ったるさに、陶酔-トリップ-したようにうっとりと目を細めたジョンドゥが、ちゅ、と小さな音を立てながら舌を這――
「こらそこー! ちょっと目を離した隙に男同士でイチャイチャしなーい! リリアもデレデレするの禁止ーッ!!」
 ――うっかり忘れてしまいそうになるが、実はこの3人、男の子2人、女の子1人で構成されているパーティだった。
「えっ……べ、別に、デレデレしてたワケじゃ……!?」
「ヒヒッ、すっごく甘くて美味しいや! ほらほら、藍子ちゃんも食べてみなよー! そっちのべっこう飴みたいなのもイイ匂いしてるしさ!」
 微かに頬を染めて反論するリリアネットに対し、ジョンドゥは藍狐の怒号が飛ぶのに悪びれる様子もなく、悪戯っぽく笑いながらリリアネットから離れる。
 確かに藍狐が密かに熱していた蜜はいつのまにか美しい琥珀色。ジョンドゥの言う通り、先ほどまでよりもずっと強く、甘く香ばしい香りを振りまいていた。
「まーたジョンったら都合のいいことばっかり言ってー……えっ?」
「…………うん、甘くて美味しいや」
 むぅ、と眉を顰めた藍狐の長い狐耳に、ぱきん、と小気味の良い音が聞こえた。思わず音の出所を探せば、そこには既に冷え固まった部分の飴を、こっそりとつまみ食いするリリアネットの姿。
「ちょっともう、リリアまで………」
「藍狐の作ったべっこう飴、美味しいよ。 ほら、藍狐も食べよ?」
 ……ね? と、指でつまんだ飴を差し出し、柔く微笑むリリアネット。
 ――この笑顔に、滅法弱い。
 おや、と小さく含みのある笑みを浮かべた道化師は、コットンキャンディのようにしゅわりと甘く空気に溶けて、あえておしゃべりな口を閉じる。
 むぐ……、と一旦は閉口した妖狐。
 けれどもどれほど飾った所で、狗衣宮・藍狐は女の子。
 甘い魔法には逆らえない。
「………………………食べます。食べる」
 観念したように、それはそれとして甘く香ばしい匂いに誘われるように。
 そして仄かに朱のさした頬を誤魔化すように。
 ぱきん、と薄い鼈甲を割る音が、迷宮に甘くこだました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
積極的な侵略意思はないと
無害化できれば問題ないか


界離で平穏の原理の端末召喚。淡青色の光の、小さな蜜ぷにの針金細工
一度落ち着かせ、このまま進めば纏めてやられると説明
襲撃をやめて安全な場へ移らないかと提案する

提案に乗るなら界離の機能を変更し、創造の原理の端末召喚。淡青色の光の、円を為す二重螺旋の針金細工
無限に広く、穏やかな気候で、何をしても誰も困らない世界を創造し蜜ぷに達を移住
その際、少しばかり蜜を貰えないか頼んでみる
他、彼らが望めばアルダワの迷宮から蜜ぷにを呼び込めるように


平穏無事に過ごしたいだけなら、そこは人も変わりない
住む場が違えば摩擦もないだろう



 迷宮のあちこちでぷにぷにと鳴き声が聞こえてくる。
 また、時折ジェリー状のものが砕ける水音も聞こえてくる。
 恐らくは仲間の猟兵たちが、この迷宮の深部から攻め上がってきているオブリビオン、即ち蜜ぷにの大群を、各々の手法で上手いこと食い止めているのだろう。
 青白い光を纏いながら、迷宮の狭い通路をひとり歩くアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、瞳を閉じた。
「……平穏無事に過ごしたいだけなら、そこは人も変わりない」
 きっとキャンディショップの店主だってそれは同じで、キャンディショップを愛する常連客たちだってそれは同じで。そして自分たち猟兵だって、静かな日々を望み、あるいはそれを手に入れるために剣を取る者も少なくない。
 ――で、あれば。
 中には、血の流れない……もとい、蜜の流れない物語があってもいいだろう。
 曲がり角の向こうから、ぷに、ぷに、と無邪気な行進の声が聞こえてくる。
「……顕せ」
 ユーベルコード『界離』。
 黒衣に包まれた手を伸ばすのは、平穏の原理。
 彼の周りに浮遊する淡青の光によく似た、蒼い瞳が開かれる。
 手のひらに束ねられた針金細工が、此度形作るのは――……

「ぷにゅーっ! ぷにぷに、ぷにー……? ぷーにー♪」
『ぷにっ、侵入者ぷに! 侵入者ぷに! ボクらの邪魔をする――……あれ』
『これは……えっと……な、仲間…ぷに……?』
『ぷに……見慣れない顔ぷに。あと色も何かボクらと違うぷに……』
『でも、何だか友好的ぷに……それにこんな小さい子、放っとけないぷに……』
 突然蜜ぷにたちの目の前に、かなり小さいサイズの蜜ぷに、それも青白く光る謎の個体が現れ、彼らと似た、人懐こい無邪気な声で擦り寄ってきた。
 戸惑うぷに。不信感を抱くぷに。自身よりもかなり小さなサイズに、思わず庇護欲を掻き立てられるぷに。
 アルトリウスと、『界離』によって召喚した青白い蜜ぷにの2人(?)を待ち受けていたのは、蜜ぷに十数匹で構成される小部隊だった。
 ――突然現れた青白い蜜ぷには兎も角、銀髪の青年は敵意を向けるべき相手である。が、本能的に分かっていても、しかしどうやらあの青白い蜜ぷにはこの猟兵に懐いている。果たして攻撃していいものなのだろうか。
 思わぬ事態に面食らい、戸惑っている様子の蜜ぷにたち。落ち着く、まではいかなかったものの、少なくともいきなり攻撃を仕掛けてくる事はなさそうだと、アルトリウスはそっとしゃがみこみ、蜜ぷにたちと視線を合わせる。
「迷宮を出た先のキャンディショップを目指しているそうだな。……だが、この先へ進めば俺の仲間たちが大勢待ち受けている。恐らくお前たちでは歯が立たないだろう。現に、既にかなりの数の蜜ぷにたちが……」
『ぷ、ぷに……! そんなコトないぷに! ボクたちだってやれるぷに! 降伏をすすめにきたんなら、お断りぷにーっ!』
 言葉尻をぼかしたアルトリウスに、ぷるぷるっと恐怖と怒りにスライム状の身体を震わせ、リーダー格の蜜ぷにが食い下がった。仲間の蜜ぷにたちも、そうだそうだ、とぷにぷに後ろから囃し立てる。
「……降伏、ではない。お前たちが少し考えなおしてくれればそれでいい」
 見せた方が早いか、と淡く光る蜜ぷにをそっと手招く。
 すると、針金細工で出来た小さな蜜ぷには――召喚者の指示なので当然と言えば当然なのだが――、何の疑いもなく、ぴょこんとアルトリウスの手の平に収まった。
 ――アルトリウスの周囲に、再び青い光が揺らぐ。
「この迷宮から退去して、この中で暮らさないか。……お前たちが復讐したい相手は、此処にはいないかもしれない。だが、それはお前たちの平穏な暮らしを脅かす者もまた居ないということにもなる……と、思うのだが」
 平穏の原理を元に構築された針金細工はするすると解け、今度は創造の原理を元に再構築。形作られたのは二重螺旋の描く円環、そしてその向こう側に映し出された世界は――。
『ぷに………………』
『誰にも襲われずに、誰かを襲わずに、……ぷに……』
 広大で雄大な土地。穏やかな気候。
 誰に気兼ねする必要もない、ボクたちのためだけに創られた世界。
 ここが、自分たちの目指していた迷宮の外――『ラクエン』なのかもしれない。
 けれど、それで本当にいいのかな。
 ボクたちは蜜ぷにで、ラクエンを目指して、力を合わせて。
 それに、今までキャンディにされちゃった仲間たちのこと。
 ボクたちだけ幸せな世界に行っちゃうのは、何だか仲間を裏切るようで。
 ――困ったように沈黙した蜜ぷにたちを見て、アルトリウスは腰を上げた。
「……無理にとは言わん。だが、よく考えて決めるといい」
 彼らにはオブリビオンとしての本能がある。自身には猟兵としての義務がある。
 ここまで穏やかに話し合えただけでも、きっと大きな奇跡に違いない。

 ――やがて小部屋から出てきたアルトリウスの手には、糖蜜の揺蕩う小瓶が一つ。
 果たして、どのようにしてその蜜を手に入れたのか。
 それはこの迷宮でただひとり、――彼だけが知る物語。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『雪うさぎリーダー』

POW   :    雪兎凍結地獄(コキュートス・セット)
【地形や装備をつるっつるに凍らせる事で】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
SPD   :    雪兎軍団(マイアーミー・セット)
レベル×5体の、小型の戦闘用【雪うさぎ(消滅時に強い冷気を放出)】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    召喚!雪兎王!(カモン・ユキウサキング)
【自分に似た姿の戦士】の霊を召喚する。これは【冷気】や【氷で作り上げた武器】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠中村・裕美です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


===================================
 たくさんのご参加、誠に有難うございました。
 第2章ボス戦は、うさぎさんとの戦いとなります。
 6/14の夕方までには断章をご用意致しますので、今しばらくお待ち下さい。

 また第2章のプレイング受付ですが、
 6/14断章投降後~6/16  あたりが推奨になるかと思われます。
 (6/15の夜 or 6/16から書き始める予定のため)

 よろしければ、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
                                黒羽
===================================
 ――凍らせたり、切り裂いたり、潰したり、捕獲したり、溶かしたり。
 様々な手法で蜜を採取……ではなく、攻め上がる災魔の軍勢を食い止めた猟兵たちは、それぞれの戦利品を手に迷宮の深部へと進んでいく。

 やがて辿り着いたひとつの扉。猟兵たちは顔を見合わせ、頷き合った。
 ――この奥に、蜜ぷにたちを嗾けたオブリビオンが待ち構えている。
「…………この扉、すっごく冷たい。…………えいっ!」
 手を掛けた猟兵がぽつりと呟き、そのまま一思いに押し開けた。

『んーっ、甘くってひんやり、おーいしー! ……って、あれっ、お客さん? も、もしかして蜜ぷにちゃんたち、みーんなアナタたちにやられちゃったの!?』
 冷気の充満した小部屋には、長い兎耳をぴこぴこっと揺らす、青い瞳の少女がひとり。
 足元に散らばる虹色の雫を、ひとつ、またひとつと拾い上げ、ぽぉんと頬張っては、からりころりとご機嫌なリズムで転がす。
 幸せそうに両手で頬をおさえ、無邪気そのもので甘味を堪能していた少女は、突然の猟兵たちの訪問に大きな瞳を見開き、警戒するように耳を立ち上がらせた。ややオーバーリアクションとも思えるような驚き方をした彼女の名は、雪うさぎリーダー。
『そっかぁ、蜜ぷにちゃんたち、仲間をキャンディに変えちゃう悪ーいうさぎさんには辿り着けなかったかぁ……かわいそーう』
 ぐすん、とわざとらしい泣き真似をしながら耳をへにゃり。
『……あ、アタシはいいの、トクベツなの! だってこの迷宮のリーダーだもん。蜜ぷにちゃんたちも多分許してくれてるよ……まぁ了承とる前に凍らせちゃうし、凍らせる現場を見ちゃった蜜ぷにちゃんも一緖に凍らせちゃうんだけどね!』
 えっへん、と胸を張る。…………ささやかな胸だった。
『っていうか、アタシとキャラかぶりすぎだよねー、あのうさぎさん。甘いものがだぁいすきなうさぎさんなんて。その上アタシよりも……ぐぬぬ、おっきいだなんて……! あーもー、なんだかムカついてきちゃった! 蜜ぷにちゃんたちに倒してもらえたらラクだったのになー! そしたらアタシのアイデンティティは守られて、おまけに蜜ぷにちゃんキャンディは独り占めできちゃうのにー!』
 ぴっこん、ぴっこん。揺れる耳は、不服そう。
 甘いものが大好きなうさぎさんなのは同じだが、一点、身体特徴が大きく異なっているのを実は気にしているらしい。
『しょーがないっ! こーなったら、アタシ直々に……凍らせにいっちゃいますか!』

 ――もちろん、邪魔するんならアナタたちからね?
 無邪気な笑顔を浮かべた彼女の周囲に、殺意を伴う冷気が渦巻いた。
暁未鳥・狐虎狼
「ふーん?アレを倒しちゃえば良いんだよね?」
そしたら飴ちゃんいっぱい奢ってもらえるんでしょう?
敵がなんか言ってる?
知らないよ。興味ないし。
邪魔者は喰らいついて引き裂いて倒すだけさ。
獣の僕に変な期待されても困るね。
とはいえ無策に本能任せで蹂躙とはいかないか。
漆黒の粘液を纏って身を固めてから攻めるよ。寒いしね。
どう攻めるかって?
さっきも言ったろう?
とにかく喰らい付いて、この手で引き裂くのさ。
凍らされても部屋の壁を蹴るなりして滑って突撃かな。
敵が増えても、構わず僕は本体狙い。
多少の負傷は気にしないよ。
その分向こうから生命力を奪ってやるからね。
細かい事は任せるよ。面倒だし、お腹空いたからね。


浅葱・シアラ
蜜ぷにの独り占めはダメ!
あっ、そうじゃないね……!
キャラ被りで怒ってけしかけるなんて許せない……!
雪うさぎさんなんて……とろとろにしちゃうから!

使用するユーベルコードは「黄金の地獄」
目覚めて、シアの中に眠る黄金の地獄の炎!
お父さんからもらった地獄の炎はお母さんからもらった黄金の色に染まる!
希望の色を宿した地獄は魔の雪をとろっとろに溶かしちゃうんだから!

行くよ……【属性攻撃】で炎属性を強化して、召喚された戦士の霊ごと燃やしながら雪うさぎさんへ向かって、黄金の地獄を纏いながら突撃だー!



 炎の蝶が疾駆する。
 煌々と、鱗粉のような黄金色の火の粉を振り撒きながら。
 父より授かりし、内なる地獄にその身を燃やし。
 母より授かりし、燦然と輝く黄金色にその身を包み。
 シアラは小さな身体を目一杯に使い、雪うさぎリーダーに突進していた。
「蜜ぷにの独り占めはダメーっ……じゃ、なくて……あ、でも、それもあるかな……? と、とにかく……えーいっ!」
『きゃっ…!? あっ……つーい! だめだめ、こんなの溶けちゃうよ!』
 魔力によってその威力が増幅されたシアラのユーベルコード『黄金の地獄』、彼女が両親それぞれから受け継いだ確かな力は、オブリビオンの冷徹な企みを溶かし崩すべく燃え盛る。
 熱いの嫌ー!耐えられなーい! と駄々をこねるような声をあげながら、ごう、と唸りを上げるような吹雪を呼び、整地と言わんばかりに室内のあちこちを氷漬けにしてはその摩擦を減らす。エアコン感覚で吹雪を呼ぶんじゃない。
『フェアリーさんだと飛べちゃうんだよねー、ってコトは地面とかツルツルにしても意味ないからぁー……吹き飛ばしちゃうね?』
「えっ……、ひう……さ、寒い…………きゃぁッ…!」
 ごめーんね? とかわいこぶったウインクと共に呼ばれた吹雪は、しかして決して可愛いなどと呼べる代物ではなかった。宣言通りにシアラの小さな身体を暴風で吹き飛ばし、ついでに自身の身体や服を焦がしていた炎をも鎮火させながら、一度は詰まった距離をリセットしてしまう。
 尚、恐らくその吹雪の猛威には、若干のジェラシーも混じっていた。
 どう見てもアタシより年下なのに、ちょっと大きすぎない? 生意気じゃない? むきーっ……的な。想いは時として刃を研ぐ、……みたいな。
「っと……君、大丈夫? なんかすごい勢いで飛ばされてきたけど」
「ひぅ…………えっと…あ、ありがと……だいじょぶ……」
 そんなシアラを抱き留めたのは、人にしては随分と硬い感触。
 恐る恐る目を開ければ、狐虎狼が深海のような緑の瞳をぱちくりとさせて、装甲に包まれた手の中にスポンと収まったシアラを覗き込んでいた。
 決してそのつもりがあった訳ではないのだが、どうやら丁度いい位置に彼女が居たらしく、何かが飛んで来たらまぁ反射的にキャッチしてしまったという経緯の元、こうして結果的に手の中に横たわるシアラを、空から女の子が降ってきたような目で見てしまうのも致し方ない。
 ――そんな狐虎狼に対してシアラはといえば。
(ひぅ…し、知らない人……! 手も足も機械……ちょっと、怖いかも…)
 ――でもきっと、助けてくれたし、きっと、きっと、いい人のはず。
 仲間に恵まれ、支え合い、助け合い、悪を誅した母親の光の翅を思い描く。
 友に恵まれ、その力を研鑽し合い、己の地獄と向き合った父親の炎を心に灯す。
 初めて会う人は少しだけ怖いけれど、でも、この場にいるのならきっと仲間だ。協力できるはず、し合えるはず。
 ちょっぴり人見知りな心を奮い立たせ、シアラは装甲の腕からひらりと飛び上がり、狐虎狼に向き直る。
「助けてくれて、ありがと……! …あなたも猟兵、だよね……? ……なら……シアと力を合わせて、がんばろ…!」
 緊張するのをぐっと堪えて笑顔を作り、勇気を出して歩み寄ったシアラに、しかし狐虎狼は素っ気なく、興味を失ってしまったかのように視線を逸らす。
「助けたつもりは別にないんだけどな……たまたまそこに居ただけだし。獣の僕に変な期待されても困るね」
「えっ……で、でも……!」
 ――どうしてそんなことを言うの?
 泣きだしてしまいそうなシアラに、狐虎狼は不思議そうな顔をした。
 そう、彼女は決して、フェアリーの少女を、まるであのオブリビオンのように冷たくあしらったつもりはなく。ただ、その切り替えの早い頭は、もう次の目的に――当初の目的に目を向けているだけだ。
 視線を逸らした先は、あちらこちらを氷漬けにして得意げな雪うさぎリーダー。
「要はアレを倒しちゃえばいいんでしょ? はやく行こうよ、お腹空いたし」
 そう言う間にも、狐虎狼はタールのごとき漆黒の粘液にその全身を飲み込ませていく。――彼女の攻撃の準備はこれで整った。
「多少の損傷は気にしないから、全力でいくよ。何か召喚してきたら僕が本体を狙うから、君はさっきの火で厄介なのを溶かして」
「え…えっ………う、うん……? えっと……い、一緒に戦ってくれるの…?」
 あっという間に真っ黒になってしまった狐虎狼の姿に目を白黒させながら問いかけるシアラに、むしろ狐虎狼が困惑する。
「何でさ。その方が効率的なら一緒に戦う、その方が非効率的ならわざわざ一緒には戦わない。どっちの方が、彼に早く飴ちゃんを奢ってもらえるかを考えるだけ、……違うの? それじゃ、僕はいくからね」
 言うが早いか、狐虎狼はアイススケートの要領で凍り付いた地面を蹴り、猛スピードで滑り駆ける。先ほどはシアラをケガひとつなく抱き留めたその腕には、ケガどころか、命を奪うために尖らせた鉤爪を光らせて。
「……えっと……きっと、悪い人じゃ…ない……よね…? あっ、……ま、待って待って、シアも行くからー……!」
 兎にも角にも、どうやら一緒に戦う方が効率的だと思ってくれたらしい。
 ……お母さん、お父さん、世の中にはまだまだ、シアの知らない人がたくさんいるみたいです。みんなと仲良くできるかなぁ。シアも、お母さんやお父さんみたいに、色んな人と力を合わせて頑張れるかなぁ。
 ――今はまだ、分からないけれど。でも、やれるだけやってみるね。
 あ、でも、飴を奢ってもらう約束なんてしてたっけ?
 小さな身体でも考えることは大きな人たちと同じくらいあるのが、フェアリーのちょっぴり大変なところ。
 それにもちろん、良く分からない理由で一般人を襲うような、ひどいオブリビオンも倒さなくっちゃいけない。
 シアラは慌てて狐虎狼の後を追いかけるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

霧生・柊冬

あの兎の女の子が蜜ぷにを独占していたのですね…
蜜ぷに達に対して愛着があまりないようですし、なんだか可哀そうな気もしますが…このまま凍らせてしまうわけにはいきません
僕達で止めましょう!

地形まで凍らされるとこちらの移動も多少制限されてしまう…
僕は【情報収集】で相手を観察し、小動物のプラウス、ダドゥスに指示を促して雪兎に対抗しましょう。
相手が隙を見せたら、【一梟一兎の攻勢陣】で2匹と一緒に攻撃を与えます!

甘いものが大好きなのはわからなくもないです、僕もそういう人を知ってますから
でも…それを独り占めするのはなんだか勿体ないですよ
皆で分けながら一緒に食べたほうが、きっともっと美味しいでしょうから


ファラーシャ・ラズワード


上手く行ったとしても誰がキャンディを作るのかしらね?
……ほんと、詰めが甘く無様ね。

短い付き合いになりそうだけども、自己紹介を。
わたくしは、幸せの青い蝶。ファラーシャ・ラズワードよ。
あなたが皆から奪っていった、幸せを返してもらいにきたわ。

飛んで煽って視線を向けて死線を潜る。
対集団はともかく対個人はあまり自信ないので囮と援護を。

雪うさぎの真上を飛んで、視線を散らすわ。
こっそりと「不幸せの黒い蝶」を仕込んで。

ふふっ、不思議かしら。なぜか、動きが止まるものね。
普段の行いが悪いんじゃないの?

雪うさぎがボロボロになったら、近づいて足蹴にしたいわね。
ねぇ、どんな気持ち?少しはぷにの気持ちがわかったかしら。


キール・グラナドロップ


わあ、さっきは暑かったのに今度は寒いや。
……えっと……何がおっきいの……?(よく分かってない20歳児)
とりあえず、甘いものをひとりじめするのは良くないと思うよ。

【影喰らい】で影くんに雪兎さん達を冷気ごと食べてもらおう! ふふ、ボクだけが美味しい思いをするのは良くないもんね。

冷気や氷の武器で攻撃してくるのも呼び出して来るのかあ……火の【属性攻撃】【全力魔法】で攻撃して、相殺したり武器を溶かしたりしてみようかな。ボクは飛んでるから地形とかは問題ないかもだけど……寒いのはやっぱりどうにかした方がいいと思うし……



「……えっと……何がおっきいの……?」
 こてん。首を傾げたキールには、雪うさぎリーダーの怒りの発端がわかっていないようだった。けれど何だか怒っているようなのは確かだし、ひとまず困ったようなヒソヒソ声で隣のファラーシャにたずねてみる。
「え゛……」
 いくら同じ種族だからといって遠慮がなさすぎでは。世が世ならセクシャルなハラスメントとして訴えることができるのでは。
 ささやかな膨らみのある個所にざわつきを覚え、ぎょっとしたようにキールを振り向いたファラーシャは、しかしその表情に一切の下心が無いことを読み取って。
「まさかとは思うけれど……もしかしてあなた、本当にわかっていないのね?」
「……え、うん。わかんないから訊いてるんだよ?」
 こってん。
 反対側に首を傾げるキールの、片眼鏡の奥に光る赤い瞳は純真そのもの。
 その様子に一気に気が抜けたように肩を落としたファラーシャは、文字通り魂が抜けていくのではと思えるほどに大きな溜息を吐き出した。
「……無理に分かる必要はないと思うの。だから、そうね……今は目の前の敵を倒すことに集中したらいいのではないかしら」
「えぇと……そ、そうですね、僕もそれが良いかと…!」
 実はこの間ずっと、妖精たちの内緒話に入って良い物かどうか、――加えてその会話の内容的に、更に入って良い物かどうか計りかねていた柊冬は、ついに耐えかねたように口をはさんだ。
 心無しか仄かに頬が色づいているのは、この部屋が真冬のように冷え込んでいるからか、……それとも。
「僕もそういう人を知ってますから、甘いものが大好きな気持ちは分かりますけれど……でも、それを独り占めするのはなんだか勿体ないと思います」
 紡がれる言葉は、少しだけ早口。
 彼の相棒である梟のダドゥスと、黒い兎のプラウスが何だどうしたと主の様子を伺うが、柊冬は構わずキールを諭すように言葉を結ぶ。
「皆で分けながら一緒に食べたほうが、きっともっと美味しいでしょうから」
「あ、うんうん、それはボクにも分かるよ。甘いものをひとりじめするのは、良くないと思う」
『ねーぇー! さっきからアタシ置いてけぼりなんですけど!仲間外れなんですけど! ひとりぼっちにするんなら、みーんなまとめて凍らせちゃうよ!?』
 よかった、わかってもらえた、とキールの様子に柊冬やファラーシャが胸を撫で下ろす。一方で雪うさぎリーダーは何やらヒソヒソと話している猟兵たちの態度が気にくわないのか、地面をツルツルに凍らせるべく、不機嫌な兎がスタンピングをするように地面を踏み鳴らした。
 しかしそんなこともお構いなし。
「だから、この後にボクだけが甘いものを食べるのも良くないよね」
 ね、と笑いながらキールはマイペースに地面へと舞い降り、まだ氷の到達してこないその足元に出来た自分の影を見つめる。すると、ず、ずず……と、仄暗い闇がまるで口を開くように――……否、これは比喩ではない。
 ファラーシャは目を見開き、柊冬の傍に控えていた黒兎のプラウスはその本能からくる怯えか、微かに毛を逆立て、耳を震わせて、その光景を凝視した。
 事実、キールの影は、"大きく口を開けている"のだ。
「だから、影くんには今のうちにー……はい、」
 そんな視線など意にも介さず、赤い瞳のフェアリーは、無邪気な声で――フェアリーとはいえ、とても20歳の男性とは思えないほどに、無邪気な声で――『その場に居る全員に見えている』はずなのに、『彼以外認識できていない』存在へと語り掛ける。

 ――ご飯だよ、沢山食べてね。

『ひっ!? 何それ!?』
 びゃっ! と長い耳を立ち上がらせ、雪うさぎリーダーは目を見開いた。
 そっちがアタシをひとりぼっちにするんなら、こっちからひとりぼっちになってやる。アタシをひとりぼっちにしたことを後悔すればいいんだ。
 地面には分厚い氷の膜を張り、空中には零度を下回るほどの冷気を漂わせ、フェアリーたちの翅を凍り付かせ、一切の接近を許さないつもりだった。羽虫のように凍え死ぬフェアリーを見送って、仲間の居なくなった人間の少年をゆっくりと氷漬けにするつもりだった。
 けれど、今目の前に広がる光景はどうだ。
 冷気も、氷も、オブリビオンの発した殺意の全てが、吸い込まれていく。
 全て、全て、"噛み砕かれ、飲み込まれていく"。
 ――――"喰われていく"。
『あ、あ、あわ…あわわ……ちょっと、意味わかんないんだけどォ……!』
「……ほんと、無様ね」
『っきゃー!? いきなり目の前に来ないでよ、何なのアナタ!?』
 パニック状態の雪うさぎリーダー。涙目で怯える姿は、なるほど兎らしいといえば兎らしい。だがしかし、その可愛らしさに免じて、この大きな隙を見逃してやるほどファラーシャは甘くない。
 接近するなら間違いなく、今この時だ。
「わたくしは、幸せの青い蝶。ファラーシャ・ラズワードよ」
 短い付き合いになるでしょうけれど、とオブリビオンの頭上から送る視線は、意趣返しのように冷ややかなものだった。
 ――わたくしが囮になって彼女の動きを止めましょう。
 だから、攻撃を。
 短く言い残して飛んで行った青い蝶を見つめる柊冬は、固唾を飲んでそのやり取りを見守る。
 ファラーシャの鮮やかな青い翅から降り注ぐ黒い鱗粉は、雪うさぎリーダーにはもちろん、柊冬やキールにも見えていない。
「けれど、ダドゥス……キミには、見えてるんだね? 彼女が何をしているのか……いや、僕たちが攻撃できる隙を生み出すために、彼女が何かをしているのが」
 そう、この小部屋でそれを視認するのはただひとり――否、ただ一羽。柊冬の頭の上に留まっている梟のダドゥスだけが、生まれ持った驚異的な視力でもってその微粒子が舞い降りる軌道を捉えていた。
 その気持ちを読み取った柊冬は、ならばと黒兎のプラウスに視線を送る。
『さっきからずーっとひらひらしちゃって! 目障りなんだけど!』
 手が届くか届かないか、ギリギリのところでひらひらと飛び回る蝶の涼しい顔は、雪うさぎリーダーの愛らしい顔を怒りに歪ませていた。
 ……それもそのはず。
 さっさと雪兎王を召喚して目障りなフェアリーを凍えさせたくとも、先ほどから、何故かここぞという所で行動が阻害される。
 ――なんか埃が目に入ったり。
 ――なんか足元の虹色キャンディに躓いたり。
 ――なんか急に喉に痰が絡んで上手く詠唱ができなかったり。
 どうでもいいような些細な不幸が、次々と降り掛かってくるのだ。
『もーーー何なのー! さっきからアタシに何してるのー!?』
「ふふっ、不思議かしら、不思議よね。だって、急に動きが止まってしまうのだもの。でも……お前の普段の行いが悪いだけかもしれないわ?」
 焦れに焦れた雪うさぎリーダーを見下してくすくすと笑うファラーシャは、仕上げと言わんばかりに更に黒い鱗粉――その正体は彼女のユーベルコード『不幸せの黒い蝶』――を、とびきり沢山振りまいた。
「皆から奪っていった幸せを、返してもらうわね」
 ――代わりに、とびきりの不幸を差し上げましょう。
『不幸なんて要らないんだけど! ってゆーかそんなに行い悪くないし!』
 こうなったらまどろっこしい。召喚技なんて使わずとも所詮虫けら程度の小さな身体、氷漬けにするなんて造作もない。
 オブリビオンが幸せの青い蝶へと冷気を纏った右手をかざす。
(あの至近距離じゃ、本当に凍っちゃうんじゃ……ま、間に合え……!)
 遠目にも分かるほど、小さな身体には耐え難いだろう勢いの冷気。
 キールは咄嗟にウィザードロッドを振るい、冷気とは真逆の属性――熱気を生み出してファラーシャの元へと放ち、相殺を図る。
 極寒の迷宮にふわりと吹いた、髪を揺らす常夏の風。
 キールの動きに気づいたファラーシャが微かに口元を緩ませ、――ありがと、と唇の動きだけで呟いた。
「そう、自分では分かっていないのね。……だから、不幸に見舞われるんだわ」
 それは、その不幸は。
 偶然ではなく、必然だ。
 ――蜜ぷにたちを時に食糧として、時に手駒として使い捨てながら何一つ情をかけることのなかった彼女が持たざるもの。すなわち、仲間を想う気持ちが引き起こした、ごくごく当たり前の、自然現象だ。
 熱い空気は上に昇り、冷たい空気は下に滞留する。
『うわっぷ!? ひゃ、な、なに…っ!?』
 上空を舞うフェアリーへと放ったはずの冷気は、キールの放った熱気によって勢いよく押し下げられ、オブリビオンへと逆流するように降り注いだ。
 元より、一息に氷漬けにしてやろうと思い放った冷気だ。自らに降り掛かれば、如何に普段から冷気を纏っている彼女といえども、身震いする程度にはその体温を下げる。
 本日何度目かの不幸が雪うさぎリーダーを襲い、そしてこれまでで一番はっきりと、明確にその動きを止め、生み出されたものを隙と言わずして何と言うべきか。
「……今だ、ダドゥス、プラウス!」
 そして柊冬が、ダドゥスが、プラウスが、その隙を見逃すはずがなかった。
 ――『一梟一兎の攻勢陣』。
 梟のダドゥスが獲物に飛び掛かるがごとく、勢いよく柊冬の元から飛び立った。そして即座にその軌跡を追いかけるように、黒兎のプラウスが猛進する。
「ファラーシャさん、キールさん、ありがとうございます……これが、僕達のとっておきの一撃です…!」
『…っきゃ、…と、鳥、鳥はやだやだ、怖いよぅ!? それに……う、うさちゃんまで何でぇえ!?』
 鋭い目つきに尖った嘴、そして風を切る音が迫るのに気づいた時には、時すでに遅し――そのすぐ後ろから猛追するプラウスのタックルからは逃れようもない。
 ――同じうさぎちゃんなのにぃ!
 その同じうさぎちゃんを、キャラが被っているから排除しよう、などと言っていたのはどの口だったか。
 そもそもそのつもりもなかったが、尚の事、最早かける慈悲もない。
 猟兵たちは静かに目を伏せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
……なんともはや、我欲にまみれた醜悪な魔物もいたものね。
一見可愛らしい雪うさぎのオブリビオン、その姿を一瞥してはそう言い放ち

いつもより不機嫌を隠しもしないその姿は、どう見ても蜜ぷにに同情や哀れみを覚えているようにしか思えないもので


甘い甘い飴の材料にするために、あなたたちの同族を屠った身で言うのは身勝手の極み、よね。
……わかっているの、そんな事は。
………それでも。少しでも、あなたたちに無念があるなら。
あの、オブリビオンに扇動され、利用されて許せないという想いがあるなら。
……力を、貸して頂戴。

凍らされた蜜ぷに達へ語り掛けるような想いと共に歌うのは、「眷属のための葬送曲 第1番」

…………ありがとう。


ヴィクティム・ウィンターミュート


こりゃまた随分可愛らしい奴だな
ま、内面無邪気故の残酷って感じだけどさ

外見がジューヴだからって容赦はしねーよ
クロヴィスのオーダーだからな
きっちりやりきるさ

ふぅん、なるほどな
アイツは手駒を召喚して戦わせるタイプか
それなら…一個潰してやりゃぁいい

2体目以降の召喚は許さねえ
俺を相手に、一回見せた手札が通ると思うな

まずは1体目の召喚で【情報取集】し、発動プロセス解析
【ダッシュ】【早業】【フェイント】を駆使してヒット&アウェイしつつ
2体目を召喚しようとしたら即座に【見切り】、【カウンター】で俺のUCを飛ばす

相手が悪かったな、クソガキ
俺ぁお前みたいな手合いが一番得意なのさ
手札が尽きるまで、何度も潰してやる



「……こりゃまた随分可愛らしい奴だな」
「……なんともはや、我欲にまみれた醜悪な魔物もいたものね」
 ヴィクティムとミーユイの意見は二手に分かれた。
 あ、やべ、とヴィクティムは咄嗟にミーユイの横顔を伺う。
 醜悪。醜く、極めて不快なこと。
 その不快さを隠す素振りすら見せず、ミーユイはじろりとヴィクティムを一瞥し、更に忌々しげに雪うさぎを睨みつける。
『でっしょでしょ、お兄さん見る目あるね! それに比べてお姉さんってばひどくなーい? 迷宮にはけっこーエグい見た目の子だっているし、その中じゃアタシ、だーいぶ可愛い方だと思うんだけどなー?』
 ヴィクティムの声に元気よく頷くや否や、ミーユイの声には頬を膨らませる。自身の見目を確かめるように右へ左へと腰をひねれば、裾にファーの付いたスカートがひらり揺らめく。長い耳をぴこぴこ動かしながら行うその仕草は、確かに愛らしいと言って差し支えない部類だろう。
「……見た目の話をしているんじゃないのよ。嗚呼、もう。――あの頭の足りなささえも、醜くて見てられないわ」
 天然にしろ、わざとにしろ、そのどちらであっても。
 黄金の蜜を満たしたミーユイの瞳が、まるで煮立った飴のように沸々と、静かに怒りを沸き立たせたのを見て、ヴィクティムは納得したように頷いた。
「あ、そーいうことね。確かに内面無邪気故の残酷って感じ、……とはいえ安心しな、外見がジューヴだからって容赦はしねーよ」
 アイツのオーダーだしな? と付け加えたヴィクティムの声音に、偽りや誤魔化しは感じられない。ミーユイは安堵にも似た小さな溜息を漏らし、改めてオブリビオンを睥睨する。
 つい先ほど、ぷちぷちとその大勢の命を奪ってしまった無邪気なスライム状の生き物たちを――恐らくは、頭の足りなかった害意無き魔物たち。醜く賢しいこのうさぎの、何ともくだらない悪意に煽動された彼らへと思いを馳せずにはいられなかった。
(可哀想――……なんて、思ってしまうのは、)
 きっと、余りにも自分の、自分たち猟兵の身勝手だ。
 一般人を守るという大義名分のもと、甘い飴欲しさに彼らを屠ってしまったのは、あのうさぎの足元に散らばる虹色の雫と大差ない姿に変えてしまったのは、覆せない事実なのだから。
 けれど。それでも。少しでも。
 自身の抱くものと似た、あのうさぎへの怒りがあるというのなら。
 恨みや、無念を感じているというのなら。
「晴らすための、力をあげる。だから……その力を、貸して頂戴」
 オブリビオンを倒すために、オブリビオンの力を借りるだなんて、――少しばかり、甘いのかもしれないけれど。
 でも、今、この時だけは。

 ――目覚めよ、我が同胞よ。

 白い息と共に紡ぐ歌。
 眠り切れぬ死者を呼び起こす、『眷属のための葬送曲 第1番』。
 果たして、応えてくれるだろうか。僅かな不安と共に奏でられたレクイエムは冷え切った小部屋に響き渡り、冷たくなってしまった者たちへと優しく語り掛け、その身体と共に氷漬けにされてしまった心を温めてゆく。
「…………マジか」
 その光景を見ていたヴィクティムが、乾いた笑みを漏らしたのも無理はない。
 雪うさぎリーダーの足元に散らばっていた七色のドロップは、ミーユイの歌に震え、溶けて、じゅるじゅると数か所に寄り集まり、――やがて、顔が付き。
『ぷにっ! ボクたちを生き返らせてくれたのはお前ぷに?』
『ありがとぷに! 感謝ぷに!』
『ちょっとだけなら力になってあげるぷにー!』
 あろうことか、ミーユイの足元で嬉しそうに跳ねまわっているのだから。
「……ありがとう。さ、好きなだけ暴れてらっしゃい」
『『『ぷにーっ!!』』』
「…………いや、マジか」
 死霊術士かはたまたビーストマスターか、……否、シンフォニアであるミーユイの合図を受けて、一斉にぴょこぴょこと駆けだした蜜ぷにたちを見送るヴィクティムは、まさかあの気の抜けるビジュアルと声に再び出くわすことになるとは、と眉間に寄った皺を押さえる。
 ――何より、己を超一流の端役と称するのであれば、いつだってその傍らには立てるべき主役がなくてはならない。だというのに、主役となりそうな歌姫は、先ほど自分に向けた表情とは打って変わって、優しい笑みで蜜ぷにを送り出している。
 と、なれば。
「…………主役って、あいつら……?」
 ……まぁ、そういうことになる。
 ――しかして容赦はしないと言った手前、『仕事』に手を抜く彼ではない。
 気を取り直すような溜息をついたのを最後に、ヴィクティムは目の色を変える。
『うっそ!? 蜜ぷにちゃんたちが生き返った……ってコトは、あーっアタシのキャンディがなーい!? ちょっとちょっと、そんなのナシナシ! もっかい凍ってもらうんだから……カモーンっ、ゆきうさキーング!』
 ――ふぅん、なるほどな、とハッカーの目が光った。
 ぷにぷにと突進する蜜ぷにたちの前に立ちはだかる、雪兎王とか呼ばれたそれは、眼前のオブリビオンに良く似た戦士。
 戦闘を蜜ぷにたちに任せられるのなら、彼は本業に専念できる。
 すなわち、情報収集――発動プロセス解析――プログラム生成。
『ぷにーっ、何度もボクたちがやられると思ったら大間違いぷにー!』
『蜜ぷにちゃんたちが何匹かかったって勝てるわけないでしょ!』
 ――Attack Program『Hijack』――コード変換。
『不意打ちでビックリしただけぷに! 甘くみるなぷに!!』
『な、ちょっ……ゆ、雪兎王! 反撃だよっ!』
 ――対象:『召喚!雪兎王!』――ユーザー書換:Arsen。
『ぷにぷにぷにぷにーっ!!』
『むむむむーっ……い、いいもん! もう1回……カモン!ゆきうさキ――』

 ――ユーザー名:雪うさぎリーダー――抹消――実行。

 確かに2体目の雪兎王を召喚した。
 確かに、ほんの一瞬だけその姿は現れた。
 しかしそれは氷像が溶け落ちるように、蜜が溶け崩れるように。
『……え…消え……? か、かもん……かもーん!!』
「残念だったなクソガキ。俺の居る領域で、一回見せた手札が通ると思うな」
 何度も呼び出されては、次の瞬間には虚しく消えていくうさぎの戦士。
 焦燥の色を隠せないオブリビオンの姿に、ヴィクティムは愉しげに口端を歪め――……その隣には、彼と良く似たニヒルな笑みを浮かべる、雪兎王の姿。
「"コイツ"はもう、お前のモノじゃねぇ……俺のモノだ」
『えっ…えっ…? …ゆ、雪兎王ちゃんってば、なんでそっちに……?』
 超一流のハッカーが仕事を完遂するのに充分すぎた時間は、しかしオブリビオンの少女にとって一体何が起きたのかを理解するのには、まるで足りていないようだった。だが、そんな事情を鑑みてやるような甘さを持ち合わせていたら、成功する仕事も成功しなくなってしまう。
「そら、超一流の端役がここまでお膳立てしてやってんだ――……きっちりキメてくれよ、チューマ!」
『『『ぷにーーーーっ!!』』』
 例えそれが24時間限りの仮初の命で、絆だったのだとしても。
 超一流の端役を自称する彼が、主役をスクィッシーなどと呼ぶ筈がなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

街風・杏花
うふ、うふふ。貴女、おかしなことを言っているの、気付いてます?
ええ、だって――その店主さん、大きいのでしょう? ちっともキャラ、被ってないじゃありませんか。自意識過剰、ってご存知ですか? うふ、うふふ!
(胸の下で腕組んで挑発)

こう見えてもオブリビオン、格上の相手をわざわざ挑発するのは賢明なことではないでしょうね?
であればこそ――私、燃え上がるのです。

さあ、楽しみましょう?
白い炎を身に纏い、呼び起こすは白炎蜃気楼を操る壬生狼のスサノオ。
氷には炎、兎には狼。
重なるように蜃気楼のだんだらを羽織り攻撃強化、いざ、氷を溶かしてずんばらり、です。
甘いものの前には運動ですね。
うふ、うふふ!

※アレンジ大歓迎


ラニューイ・エタンスラント

■心情
まぁ、あなたがどう思ってるかなんて興味はないわ
ただ、全力で殴っていいというのなら実にシンプルね、その点はありがとうと言わせてもらうわ
そして、吹き飛びなさい

■戦闘
基本的にはいかに接近してオーヴァードライブ・ブラッドクロスを当てるかを考えるわ
【技能:属性攻撃】の光魔法で牽制しつつ、相手が地形を凍らせてくるようなら【技能:怪力】で凍った地形を砕いて足場を無理やり作り接近して、オーヴァードライブ・ブラッドクロスをそのお腹に叩き込んであげるわ。こういうの、『腹パン』って言うのだったかしらね?



 うふ、うふふ……とおかしそうな笑みが堪えきれない様子の街風・杏花(月下狂瀾・f06212)に、雪うさぎリーダーはむくれて地団駄を踏んでいた。
『もー、さっきから何なのよアナタ! 何がそんなにおかしいの!?』
 凍らせちゃうよ!? と周囲に渦巻く冷気の勢いを強めながら、きっ、と杏花の顔を睨みつけ――ているつもりなのだが、どうしてもそのすぐ下、豊かに膨らんだハリのある果実に、下唇を噛まずにいられない。
 その様子すらも、その様子こそがおかしくて、杏花は尚も笑みを絶やさずに、そしておもむろに胸の下で腕を組んだ。……ゆさっ。
「あらあら、貴女、おかしなことを言っているの、ご自分じゃ気付いてらっしゃらないのですね?」
 うふ、うふふ。ゆさっ、たゆんっ。
 肩を揺らし笑う度に、2つのたわわな実りは瑞々しい躍動を雪うさぎリーダーへと見せつける。……ぐぬぬ、と下唇を噛む力が強まった。
「だって、店主さんは『大きい』のでしょう? ちっともキャラ、被ってないじゃないですか。あぁ……ひょっとしてあの雪うさぎさんとやら、自意識過剰って言葉をご存知ないのでしょうか?」
 挑発的なポーズを崩さぬまま、隣に並び立った猟兵へと視線を送り、ねぇ? と同意を求めるように声を掛ける。
「さぁね……まぁ、彼女がどう思ってるかなんて興味はないわ」
 すげなく答えたラニューイは、しかし杏花と張り合うほどの質量を惜しげもなく晒しながら、その言葉に偽りなく、興味のなさそうな瞳で雪うさぎリーダーを眼差した。歯牙にもかけないと言いたげなその態度は、その意図の有無に関わらず、杏花とはまた違った角度からの挑発に他ならない。
『むっ……かーーー!! 何なの何なのアナタたち、そのアタシを馬鹿にしたようなカラダと態度はぁ! もーーー怒った、絶対絶対カチンコチンにして、二度と揺れないようにしてやるんだから!!』
 室温が急激な下降を見せた。
 可愛らしい見た目や言葉遣いとは裏腹に、その殺意は明確に、命を奪うための冷気となって2人の猟兵の身体を冷やし取り巻く。
 ――あぁ。
 凍てつく寒さに、杏花は赤い瞳を輝かせる。
 ――うふ、うふふ。
 狂喜に戦慄いた唇から漏れた吐息は、白く、熱く。
「甘いものの前には運動ですね。――さあ、楽しみましょう?」
 宙に吐き出した息よりも白い焔は、いとも簡単に杏花の小柄な体躯を包み込む。
 そう、全てはより強い貴女と対峙するために。
 ただでさえ格上と分かる相手の、さらにその上を引き出すために。
 心はおろか身体にまでも滾ったこの白炎が、よりその熱をあげるために。
「……あぁ、そういうタイプなのね、貴女。炎を使えるのなら丁度いいわ、寒くないし――……あの氷を全部溶かしてもらえそうだもの」
 雪うさぎリーダーによって放たれた冷気を浴びたその時こそ、寒さに晒された二の腕をさすったラニューイだったが、杏花の纏った白炎の傍ではもはや全くといって良いほどに寒さを感じない――寧ろ、少々熱い位には。
 精神的に、そして物理的にも全力で殴れるのなら、それは実に単純明快で分かりやすく、やりやすく、杏花にはもちろん敵にさえお礼を言いたいほどだ。
 筋が凍てつき悴む心配もなくなった今、ラニューイは胸部以上にボリューミーな巻髪を大きく揺らし、雪うさぎリーダーへと向かって歩み出る。
『どんなに熱されたって溶けないくらい冷たくすれば良いだけだもん! ってゆーか……こっちに来ないで!!』
 そんなラニューイを近づかせないと言わんばかりに、雪うさぎリーダーは忌々し気に地面を踏み鳴らした。するとたちまち、地面はスケートリンクのように凍り付き、流石のラニューイも足を止める、が――
「……細かく砕けば溶けやすいわよね」
 ――ちょい、と淑女の嗜みが如く、花咲くドレスの裾を摘まみ上げ。
 乙女の秘め事を晒すが如く、ちらり足元を魅せつけて。
 雪うさぎリーダーを真似るが如く、迷宮の地を踏み鳴らす。
「あらあら、まぁまぁ……あっという間に、みぃんな溶けてしまいましたわね?」
『え、……いつの間に――』
 長い耳を立てて確かめるまでもない。
 ――その声は、背後から聞こえた。
 怪力を秘めたラニューイのヒールが凍り付いた地面を踏み抜いた途端、あんなに分厚く張ったはずの氷は、まるで飴細工のように容易く砕け散り、キラキラと宙へ舞い上がった。
 その光景に呆気に取られ、咄嗟の反応が遅れた雪うさぎリーダーが唯一とれた行動は、その斬れ味を落とすために、杏花の刀にほんの少しの薄氷を纏わせる程度の悪あがき。
 しかしてそれがどれほどの意味を持つかは、雪うさぎリーダー自身が――兎を象る姿の彼女が、一番良く分かっていた。
 何せ前方からはラニューイが、手掌にエネルギーを込めながら迫ってくる。
 そして後方には、この極寒の部屋にあって尚悍ましく燃え盛る白き熱。
 兎を。非捕食者を象るオブリビオンの本能が、警鐘を鳴らす。

 ――"喰われる"。

「ユーベルコード、リベレイション――吹き飛びなさい!」
 ラニューイの掌底が雪うさぎリーダーの鳩尾へと叩き込まれ、裁きの十字を、強く、深く刻みつけるのと同時、その華奢な体は真っ直ぐ後方へと吹き飛ばされる。
 ――その先では、上質な獲物を、獲物が最上になる時を、腹を空かせながらも待ち侘び耐えた狼が、捕食者たる証、鋭き牙を持つ獣が、その証も、欲望も隠すことなく大口を開け、至福の瞬間を待っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
これくらい積極的なら遠慮も不要だろう

破天で対処
高速詠唱と2回攻撃で間隔を限りなく消し、全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化
爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
周囲を纏めて吹き飛ばし回避の余地を与えず、攻撃の密度速度で反撃の機を与えず
それでなお反撃を行うなら自身の攻撃で飲み込んで更に撃ち続け押し切る心算

万一突破されても消失の攻撃吸収・無効化と自動反撃で対処

力で押し通すのを良しとしたのだろう
力で潰されるのも受け入れるが良い
手を休めず攻撃の物量で全て圧殺する


ニヒト・デニーロ
――貴女の都合は知らないけれど。貴女の事情も知らないけれど。
甘い甘いキャンディのために、倒れてもらうわ…………私情優先。

左手を下げて、指の隙間から貴女を見るのをやめる。
私の黒い瞳を通してみたものは――全て、ぐしゃぐしゃになってしまうから。
……混ざれ、混ざれ、混ざれ、混ざれ。
私の左目が開く時、アナタは形を保てぬ躯となる。
小さいうさぎたちもまとめて、かき混ぜてあげる。



『む、ぐ……っ、あっは、なかなかやるね? こーいう単純なのイイよねぇ、アタシだーいすきっ!』
 飴の雨を降りやませに行こうとする兎を押しとどめるのは、絶え間なく降り注ぐ魔弾の青き雨。
 『破天』。アルトリウスの放つ、文字通り天を破るかの如き勢いで襲い来る弾幕に視界を遮られながらも、雪うさぎリーダーは口角を上げて応戦する。
 どんなに可愛い見た目でも、どんなに無邪気で軽薄な振舞いでも、彼女は一介の、迷宮まるごとひとつを根城にしてしまうほどのオブリビオン。
 ひとたび猟兵と相見えれば刃を突き付け合う宿命にあるし、奇襲や連携攻撃ならばいざ知らず、一対一の純粋な力のぶつけ合いであれば、殆どの猟兵を凌駕する。
 一先ずは冷気で薙ぎ払い、雪兎王の氷盾が受け止め、防ぎきれぬ魔弾は氷剣でもって打ち払い、雪兎王が力尽き倒れればまた冷気で薙ぎ払い、その傍らですかさず2人目の雪兎王を召喚する。
 多少の被弾ならば掠り傷と言わんばかりに、膚の上で爆ぜる弾に構いもせず。
 弾幕が僅か途切れる瞬間を見逃すことなく、雪兎王へと指示を飛ばし、氷で出来た弓矢を引き絞らせる。
「……、流石に一筋縄ではいかないか。……しかし」
 ――それは決して、猟兵が引く理由にはならない。
 力で不条理を押し通そうとする彼女の歩みを許してしまう理由にはならない。
 冷えた一矢が肩口を掠り、彼の黒衣を裂いていった。
 けれどもアルトリウスが攻撃の手を休めることはない。

「――それなら、全部一緒に混ぜてあげる……至極単純」

 背後から聞こえた声に、アルトリウスは振り向かない。
 やがて背後から聞こえた声の主は、スタスタとアルトリウスの横を通り抜け、ほんの少し前に出る。彼が、視界に入らないようにする。
 黒い兎耳リボンにゴシック&ロリータのエプロンドレス。御伽噺から飛び出してきたような装いに身を包み、左目にはピースサインを添える少女、ニヒトの後ろ姿だけを捉えながら、アルトリウスは静かに問うた。
「……どういう意味だ」
「全部混ぜる。そのままの意味。……あなたはそのまま、攻撃を続けて」
「無論、そのつもりだ。だが――……」
 アルトリウスが張り続ける淡い青の弾幕をすり抜け、氷の矢がニヒト目掛けて飛来した。――すかさず、青き魔弾が撃ち落とす。
「その場所は危険だ。……援護はありがたいが、俺の後ろからの方が」
 背後から聞こえた声に、ニヒトは振り向かない。
「守ってくれてありがとう。……けれど、ごめんなさい」
 背後から聞こえた声に、ニヒトは振り向けない。
 片時も瞳から離れる事のなかった彼女の左手はゆっくりと降ろされ、今はふんわりと広がったスカートの裾にある。
 指の隙間から覗いていた光景は、尚も変わらず鮮やかで。
 伽藍洞の真っ暗闇。
 型に飴を流し込むように、星が光を吸い込むように。
 雪うさぎリーダーも。
 凍える空気も。
 召喚された雪兎王も。
 ぽこぽこと生み出された小さな雪兎たちも。
 青白く光り爆ぜる、アルトリウスの放った魔弾さえも。
 全て、全て、映し込む。
「私の黒い瞳を通してみたものは――全て、ぐしゃぐしゃになってしまうから」
 ――混ざれ。
 ニヒトの謝罪の言葉の意味を、アルトリウスは理解できないままでいた。
 その理由をはっきりと説明された今ですら、これから何が起きるのかまるで想像がつかないままでいた。
「貴女の都合は知らないけれど」
 けれどそんな都合はお構いなしに、ニヒトは雪うさぎ達を見つめ続ける。
 ―――混ざれ、混ざれ。
 ぐしゃり、ぐしゃり、景色が歪み、視界が拉ぐ。
「貴女の事情も知らないけれど」
 けれどそんな事情はお構いなしに、ニヒトは雪うさぎ達を見つめ続ける。
 ―――――混ざれ、混ざれ、混ざれ、混ざれ。
 ぐちゃり、ぐちゃり、景色は渦巻き、視界は逆巻く。
「甘い甘いキャンディのために、倒れてもらうわ、」
「………………」
 目の前で繰り広げたこの光景こそが、彼女の左瞳が齎すことの、彼女がアルトリウスの後ろには居られなかったことの、最も分かりやすく、適切な説明に他ならない。
 句を絶したアルトリウスを振り返ったニヒトの左目には、
「…………私情優先」
 いつも通りの横ピースが、可愛らしく添えられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
この世は弱肉強食。強者が弱者を食らうのは、当然のこと。
…だけど…その傍若無人ぶり。私は、好きにはなれない、かな。

あなたの力は、氷。私の力は、炎。
ふふふ。もしかして、私たち。相性がいいのかな。なんて。

ユーベルコード…白桃火。
ほら、あなたの大好きな、甘いものだよ。
辺りいっぱいに広がる波。触れれば味覚を貫く、甘い波。
感じ放題、食べ放題だよ。ちょっと熱いかもしれないけど。
あなたの為に用意したんだから。存分に味わってね?

甘味は、素敵なものだけど…
強すぎる甘味は、感覚を麻痺させて。全てを奪い取る。
甘味以外の事を、考えられなくする。
無害なものも、強すぎると毒になる。
きっと、そういうことだよ。

【アドリブ歓迎】



 愛らしい顔をとろりと溶かして、冷たい雪もとろりと溶かして。
 とろりとろとろ何もかも。熱く、甘く、蕩かして。
『はわ……はわわわ、良い匂い…何これぇ……じゃなくてっ、あわわわあっつーい!? ……で、でもでも…はぅ~、良い匂いぃ……!』
 理性を手放したり引き寄せたり。
 辺り一面に広がる瑞々しい白桃の香りにうっとりしていたかと思えば、スカートの裾に燃え移った桃色の炎を慌てて鎮火させ、冷気を巻き起こして残りの炎も必死で打ち消す。けれども残り香はやっぱり甘くて、――いや、残り香どころか実際に味覚にまで『甘い』と訴えかけてくる不思議な炎に、長い耳を忙しなくぴこぴこと動かしながら、雪うさぎリーダーは葛藤の狭間に居た。
 そんな不思議な炎の波を放った張本人であるパームは、オブリビオンのそんな様子をくすくすと、さていつまで持つだろうか、などと思いながら見守る。
「ふふふ。そんなに喜んでくれるなんて。……もしかして、私たち」
 狐と兎。
 炎と氷。
 そう、この世は弱肉強食。強者が弱者を食らうのは、当然のこと。
 狐が兎を喰らうのも。
 炎が氷を溶かすのも。
「――相性がいいのかな、なんて」
 けれど、奪わなくていいものまで奪う必要なんてない。
 同じ理の下に生きながら、けれど決定的に違っている。
 そんなに、甘ったるい考えに甘ったるく溺れたいのなら。

 ――甘やかし堕とすは、妖狐の得意とする所。

「……大好きなものに溶かされちゃう気分はどう?」
 腕を振り上げ放つ炎は、一体何度目の波になるのだろうか。
「ほら、まだまだ沢山食べてね」
 くすりと笑んで放つ言葉は、一体どちらに向けた言葉なのだろうか。
 白桃の香りを振りまき放たれた炎の波は、狼や狐のような牙こそ無くとも、獣よりもずっと大きな口を開け、雪うさぎリーダーを飲み込みにかかる。
『はぅッ……け、消さなきゃ…ああっでも消しちゃったらこの味が、匂いが……ぁ、あぁ…あつ…しやわせ……あつぃ…、でも……~~…~っ…』
 氷のように冷たいはずの頬はだらしなく弛み、つぅ、と滴が伝っていった。
 意識が溶けゆく。身体が溶けゆく。思考が溶けゆく。理性が溶けゆく。
 戦意が溶けゆく。感覚が溶けゆく。雪兎が溶けゆく。弱者が溶けゆく。
 ――己に甘きその身が故に、いとも容易く溶けてゆく。

 ゆらり。
 小部屋のあちこちに残り揺らめく炎のように、パームは九つの狐尾をくゆらせ、甘く瑞々しい、夏の果実香る桃色を見つめる。
「甘味は、素敵なものだけど……無害なものも、強すぎると毒になる。きっと、そういうことだよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リンタロウ・ホネハミ


おーおー、可愛らしいナリと仕草しといて、言ってることは割と畜生のそれっすね……
まあこっちとしても良心的なところが咎めないんで有り難いんすけどね
そんじゃま、害獣駆除始めますか!

ちょいとやっかいな兎を召喚できるみたいっすけど……所詮は一撃で消える程度のもの
なら味方が冷気を食らう範囲にやってくる前に、全部撃ち抜きゃいい話っす!(先制攻撃+援護射撃+スナイパー)
まあ他の人も戦ってる中で、動き回りながら撃つのは難しいっすけど……
蝙蝠の骨を食って【〇〇六番之卑怯者】を発動!
敵味方の動きを把握・予測して動いて撃つ!
これでヤツの手は封じたっす!

いやぁ、我ながら最高のアシストじゃないっすかこれ?


エスチーカ・アムグラド
あなたが蜜ぷにたちにお店を襲わせようとした張本人ですか……!
……なんだか襲わせようとした理由までちっちゃいですね!?
チーカたち、ここまで来たんだから当然放っておくわけもありません、あなたのそのちっちゃな野望、一刀両断します!

狙うは雪うさぎリーダーただ一人!
雪兎王を倒してもまたすぐ呼び出されてしまったら意味がありませんからね!
寒い中で飛び回るのは肌がひりひりするけれど、雪兎王をリーダーから引き離すようにおびき寄せて……圧されているように思わせて……
遠くからの、一閃っ!
アムグラドの剣の間合い、あなたのようにちっちゃくはありませんからっ!



 エスチーカの周りには常に花が香り、風が吹いているように、雪うさぎリーダーの周りにもまた、常に小さな雪兎や雪兎王が代わる代わる現れては、真冬のような冷気を漂わせていた。
「うぅ……ちょっぴりほっぺたがひりひりします……でも! せっかくチーカたち、ここまで来たんです! あなたのちっちゃい野望なんて、一刀両断にしてみせますっ!」
『ちょっとー! 誰がちっちゃいですってー!?』
「あやややっ!? や、野望ですっ、野望のお話ですよーっ!?」
 雪うさぎリーダーの怒号に合わせて小さな雪兎たちがぽぽぽっと弾け、雪兎王が氷の扇を翻せば、それまで漂うばかりだった冷気が怒気を帯びたかのようにびゅう、と吹雪く。どうやら『ちっちゃい』、禁句らしい。
 ――暦の上では既に夏だというのに、刺すような冷たさがエスチーカの息を白く凍らせ、柔らかな頬を仄かに染める。しかし風の精霊と手を繋ぐフェアリーの剣士は、その冷気さえも切り伏せながら懸命に羽ばたき、雪兎王の気を引きながら、あちらへひらり、こちらへひらり。
「おーおー、小っちゃいのにあんなに頑張っちゃって……あ、いや今の小っちゃいは、年齢とか身体の話っすけどね?」
 せっかくエスチーカが身体を張って誘き寄せてくれているのだ、うっかりあの長い地獄耳に拾われて、こっちに吹雪を飛ばされては敵わないとばかりに独り言ちる。エスチーカの飛び回る姿を片手をひさしにしつつ眺めていたリンタロウは、こりゃーアシストしてやらにゃ、大人も男も廃るってもんですわ、と骨を咥えた口端をにやりと持ち上げるのだった。

 オブリビオンの呼ぶ冷気、エスチーカの翅が起こす風。
 2つが合わさり、時折頬を冷やりと撫でていく風は、確かにふるりと身体を震わせるほどに寒い。人間サイズで比較的身長も高めの自分でさえそう感じるのだ。ただでさえフェアリーという小さな身体を持つ種族、そしてようやく二桁の齢に手が届いたばかりの幼い少女には、果たしてどれほどの寒さなのだろう。
「主に冷気を作り出してんのは、あのちっこい雪兎っすか……」
 この場における最適な『骨』を選び取るために、敵の動きを良く良く観察する。大量にぽこぽこと生まれる雪兎、しかしその戦闘力は極めて低く、エスチーカがひらりと飛び回るついでに刃が触れる程度でも消滅してしまうほどに脆い、が。
「…っくちゅん! ぅー、雪兎さんを消しちゃうと急に寒くなっちゃいます…」
『ふっふーん、人のことちっちゃいって言っておきながら、アナタのほうがよっぽどちっちゃいじゃない。そのちっちゃなカラダでいつまで耐えられるかなー?』
 消滅すると同時にひときわ強い冷気を放出するという点が、どうにも曲者。そのたびに、花が萎れてしまうようにエスチーカは震えあがり、本体である雪うさぎリーダーがその一瞬の隙を突こうとしているのは明らかだ。
 事実、エスチーカ自身がここぞという攻撃のタイミングを、急に襲い来る冷気によって怯まされ、逃し続けているのが見て取れる。
「ふむ、……よーし、大体わかったっす! そんなら、あの子が冷気を食らう範囲にいない内に、オレっちが全部撃ち抜きゃいい話っすね!」
 ――ぱきり。砕き喰らうは、蝙蝠の骨。
 漲る力は『〇〇六番之卑怯者』。見通す目は、眼とは限らない。
 戦場に張り巡らせたのは、超高性能戦闘機に勝るとも劣らない索敵レーダー。
 エスチーカの翅の羽ばたきを、冷気の軌道を、無数の小さな雪兎たちの、その全ての居場所を、位置関係を、動きを、瞬時に掌握し、数秒先までをも予測する。
「あとは……!」
 妖精の少女から離れている雪兎から撃ち抜くだけだ。
 狙撃手の細い瞳が次々に標的を定め、無骨な騎士の指が短弓を引き絞っては放ち、放っては矢をつがえ、また引き絞る。
「あや、次々に雪兎さんたちが消えて……というコトは、もうすぐ冷気が……、……あり? さ、寒くない……?」
 どこかから放たれた矢が刺さった傍から消滅していく雪兎たち。自らの動きを止めてしまう冷気に思わず身構えたエスチーカを、しかし冷気が襲ってくることはなかった。放出される冷気が届かないほどの、遥か遠くにいる雪兎ばかりが消滅しているのだ。
 慌てて矢の飛んできた方角を探すと、ショートボウを片手ににっかりと笑みを浮かべる男の姿が遠くに見える。――いやぁ、我ながら最高のアシストじゃないっすか? と得意げに喋る度、咥えた骨が揺れ動いていた。
「ありがとうございます、お兄さん! あの冷気さえなければ――……これでチーカ、全力で戦えますっ!」
 遠くに見えるお兄さんにも聞こえるように大きな声でお礼を言って、遠くに見えるお兄さんにも見えるように大きなお辞儀。
 春色の髪を大きく揺らして顔を上げ、勇ましく剣を抜いたエスチーカは勢いよく――……雪うさぎリーダーから遠ざかる。
「いいってことっすよ! あんたが全力で戦えるってんなら、たまにはこういうのも悪くな――……って、おいおいおい、全力で戦えるんじゃなかったんすか!?」
『あっはははは、急に怖くなっちゃったのかなー?』
 咥えていた骨を思わずポロリと落としそうになりながら、楽しげに嗜虐的な笑い声を上げながら、リンタロウが、雪うさぎリーダーが、エスチーカの軌道を視線で追いかけた。
 更に逃がさないとばかりに雪うさぎリーダーに嗾けられた雪兎王が、氷の大剣を片手に、エスチーカに勢い良く迫る。
「いいえ、――……ちっとも!」
 しかし、エスチーカの眼中に雪兎王など居なかった。
 最初から彼女は、雪兎王も、小さな雪兎たちも、相手取る気はなかったのだ。
「だって、チーカのこの剣は……アムグラドの剣の間合いは、」
『えっ……そんな遠くから、……やだ、嘘、斬れるワケないでしょーっ!?』
 小さな身体で、小さな剣を、ただ一つ、絞り切った標的へと向かって、大きく、大きく、目一杯の力で振り下ろせば。

 『一閃』。――グラディオラの剣気が開放される。
 不可視の斬撃がオブリビオンを、深く、大きく、斬り裂いた。

「――あなたのように、ちっちゃくはありませんからっ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狗衣宮・藍狐

リリア(f00527)
ジョン(f05137)
と一緒に!

その魂胆がかわいくなーい!!
胸がなくたっていくらでもオシャレできるでしょ!磨いた魅力で戦いなさいよ!!あたしだってそうしてるんだから!!!
もー怒った!ジョン、援護よろしく!リリア、溶かすわよ!

あたしはフォックスファイアで召喚された雪兎王を攻撃するわ。冷気も氷の武器も、あたしの狐火で全部溶かしてあげる!
早業、アートで狐火を巧みに動かすことで、敵を誘惑してこっちへ気を引くことで、リリアとジョンが動きやすいようにするわ!

……ところでリリア。リリアは胸、ちっちゃいのとか気にしないよね?ねっ?
見ないで、えっち!


虜・ジョンドゥ


藍狐ちゃん(f00011)
リリアくん(f00527)
おっけ任せて!
ボクが全力で藍狐ちゃんとリリアくんをサポートするからね

MY AVATARで二人の“ボク”を召喚
Balloon Blume!で撹乱しながら目眩ましとしてだまし討ち!
ほらほら、ボクのカラーボールも蜜ぷにみたいじゃない?
なんて挑発して、二人の連携技が始まるまでの時間稼ぎでもしようかな
前座はピエロの役目ってね!

さぁさ、お手を拝借
これより魅せますは、桜と百合の花の焔の演舞
凍えたその身も心も、溶かし尽くしてみせませう!

あっ、リリアくんてばだめだよー!?
藍狐ちゃんだってお胸なくてもとっても可愛いじゃんか、ね?


リリアネット・クロエ

藍狐(f00011)
ジョンドゥ(f05137)とご一緒

(女の子の胸をどうこう言うのがちょっぴり恥ずかしいリリア)
女の子の魅力は胸だけじゃないから…、お淑やかだったり可憐だったり。
甘い物を美味しそうに食べる女の子はとても魅力的だと思うよ

自分勝手でわがままな子は嫌われちゃうよ?
仕方ない…キミがぼくらに敵意を向けるんだったらこっちだって…!!

焔桜の束縛で雪うさぎリーダーたちを火輪で拘束するよ
焔の攻撃だから雪うさぎに有効だったりするのかな?
トドメはぼくのリバティス・スピアで藍狐と焔技で連携だ!

「ん…!!え、えっと…ぼくあまりそういうの気にしてないから…。」

「あ…。ごめん…、藍狐とっても可愛いよ…!」



「その魂胆がかわいくなーいっ!!」
 藍狐のあからさまに不機嫌な声が、リリアネットの、ジョンドゥの、そして雪うさぎリーダーの白くて長い耳の奥を震わせた。
「胸がなくたって、いッッッッッくらでもオシャレできるでしょ!」
 どん。
「磨いた魅力で戦いなさいよ!!」
 どどん。
「あたしだってそうしてるんだから!!!」
 どどどん。
 拳を握った腕をぶんぶんと振って力説する藍狐。その動きに伴って揺れるのは、彼女の首に愛らしく巻かれた鈴ばかり。ちりんちりんと奏でられる涼し気な音色は、どこか悲しげにも聞こえる。
 きっとこうなってしまっては止まらないね、とジョンドゥが心無しか面白そうにリリアネットにウインクを飛ばせば、リリアネットは、すこしだけ困ったように眉尻を下げた。
「お、女の子の魅力は胸だけじゃないから……、えぇっと……ほら、お淑やかだったり……可憐だったり……」
 つまりは概ね藍狐の言う通り、ということを言いたいらしいリリアネットの頬にはほんのりと朱が差し、ちょっぴりしどろもどろ――に、なった所に。
『はぁ!? アナタに胸がないとか知った事じゃないし! 胸なんてなくってもアタシは可愛いけど、ないよりあった方が良いでしょーがっ!」
「はぁぁあ!? そういう話をしてるんじゃないし、っていうかハッキリ胸がないって言うなー!! ……ッあーもー怒った! リリア、溶かすわよ! ジョンは援護よろしく!!」
「えっ…あ、う、うん……!」
 凡そ彼の言う「女の子の魅力」からは少々離れているようにも見受けられる、怒りと犬歯を露わにした藍狐の掛け声が飛んできた。
(一瞬ぼくが怒られたのかと……!)
 女の子の胸の話は恥ずかしいし、あと胸の話をする女の子、ちょっと怖い。
 思わずびくりと肩を震わせて目を見開いたリリアネットに、やれやれしょーがない、とジョンドゥが肩をすくめる。
 そのままパチン、と右手のユニコーンカラーに染まった指先を打ち鳴らし、パチン、と左瞳に嵌め込んだミントキャンディを隠してしまえば――……研ぎ澄まされた冷気の充ちる迷宮に、ざざ、と電子の乱れが介入した。
「おっけ、任せて藍狐ちゃん。前座は“ボクたち”ピエロの役目さ♪」
 彼の指先とウインクの先、いつのまにか男女の道化師がふたり。まるで双子のように――……いや、三つ子のようにジョンドゥそっくりな彼らは、やはりジョンドゥそっくりに楽し気な笑みを浮かべ、ビビッド・パステル入り乱れるカラーバルーンを見せつけるように取り出した。
『む、最初はアナタから? いいよ、そっちが3人なら、こっちだって3人!』
「ヒヒッ、そーんな増やしちゃって大丈夫? 増えれば増えるほど、お手玉の難易度は上がっちゃうよ~? それじゃあまずは、お手並み拝見っと」
 雪うさぎリーダーの両脇を固めるように雪兎王が2人召喚されるのを見て、にししと笑いながらジョンドゥが目配せをする。すると男の子と女の子、2人の“ボク”がオブリビオンたちを挟むようにしてカラー風船をジャグリング。
『攪乱しようったって、そんな簡単には――……』
 あっちへ投げてこっちへ放って、受け取って返して後ろ手に回して。
 その動きのひとつさえも逃すまいと、雪うさぎたちは耳を立て、目を光らせる。――しかし簡単に追えてしまっては、バーチャルピエロの名も廃るというもの。
 スピードを上げて、ボールも増やして、色も増やそう、カラフルな方がきっと楽しい、楽しいことはいいことだ。
「蜜ぷにのキャンディが大好きなんでしょ? ほらほら、“ボクたち”のコレもぽよんぽよんして蜜ぷにみたいじゃない?」
『どこが! 蜜ぷにちゃんたちの方が、もっと、ずっと……』
「隙ありっ!」
『わぷっ!?』
 ぱちゅんっ!
 オブリビオンの頬に勢いよく弾けたのは、“男の子のボク”が投げつけたショッキングピンクのカラー風船。それはそれは中にたっぷり、蜜のように詰まっていた塗料が、とろりと白い頬を伝い落ちる。
「あっはは! それにほらほら、キャンディみたいにとってもカラフル!」
 蛍光色に染まった雪うさぎの頬を指さし、ひとしきりケタケタと笑ったピエロは不敵に口端を吊り上げる。
「さぁさ、まだまだお手を拝借。これより魅せますは――」
 ぱちゅんっ! ぱちゅんっ! ぱちゅんぱちゅんぱちゅんっ!
 まるでクラッカーを打ち鳴らすかのように続け様に弾けたカラーバルーン。
 縦横無尽に描き出された、舞い散る桜に咲き誇る白百合。
「ショーの準備はばっちりね! ……それじゃあ行くわよ、リリア!」
「うん、行こう藍狐。ぼくらの炎の連携を見せてあげる……!」
 ゆらりゆらめく狐火を燻らせ、紅焔を帯びた魔槍を構え。
 藍狐とリリアネットが、カラフルな塗料に彩られたランウェイを並び歩く。
「――桜と百合の焔の演舞。
    凍えたその身も貴女の心も、溶かし尽くしてみせませう!」

『……っ次から次へと、炎ばっかり!』
 確か青かったような気がする、雪うさぎリーダーのワンピース。確か白かったような気がする、雪うさぎリーダーの長い耳。
 パステルマカロン、ビタミンポップ、ネオンにビビッドのカラフル仕上げ。最早元の色を思い出せないほどに色づいたオブリビオンは、うんざりしたような生温い冷気と共に吐き捨てる。
 雪うさぎたちに向けて二十の狐火を放った妖狐は、この戦場を『ショー』であると言ったその口振りにたがわず、艶めかしく揺らめく炎の美しさはもちろんの事、緩急や軌道までも自在に操り、自らの舞う舞台を彩っていた。
『……熱い、けど………でも、キレー…じゃない……?』
『ん……、あまぁいお砂糖みたいに、蕩けちゃっても……いいかなぁって……』
 否が応にも目を奪われるその妖しい熱に浮かされたように、ふたりの雪兎王の瞳がぼうっと微睡む――……こうなってしまえば、あとは簡単。
「……甘い物を美味しそうに食べる女の子は、とても魅力的だと思うけど。……自分勝手でわがままな子は嫌われちゃうと思うな」
 幸せそうにキャンディを頬張っていた雪うさぎリーダーの無邪気な笑顔は、確かに愛らしかったように思う。
 しかし蜜ぷに達の気持ちを一切顧みず、何なら踏みにじるように貪る彼女のやり方に――少しだけ、冷たい視線を送りながら。リリアネットは、魔槍、リバティス・スピアの矛先をオブリビオンに向けた。
「(む……自分勝手でわがままは良くない、か……)……さ、さぁリリア、あとはお願いね! 火力の増援なら任せて!」
 ――何か思うところがあるような目つきの後に、すい、と藍狐が指揮を執れば、狐火たちは花道のようにリリアネットの攻撃に備えた導線を作る。
「ありがと、藍狐。――逃がさないよ、絶対に!」
『くっ…熱…ぅうぅうっ…、もーっ、雪兎王ちゃんたちはボーッとしちゃって使い物になんないし! 2対1なんて卑怯だよぉ!』
 狐火たちに導かれ放たれた一閃。
 『焔桜の束縛』は、すっかり藍狐の狐火に魅了され、抵抗する気力の削がれた雪兎王もろとも、雪うさぎリーダーを炎の輪に閉じ込めてしまった。
 動けば火傷、逃げねば灼熱。どう足掻いても溶けるより他道がなくなり、うわぁんと大声で泣きだす雪うさぎリーダーの元へ、すかさず狐火による援護射撃が放たれる。
「2体も仲間を召喚しておいて、2対1なんてどの口が言うのよ! あたしとリリアの、2人の焔で――……全部、溶かしてあげる!!」

 ――やがて、自分勝手でわがままな少女が、溶け崩れ、燃え落ちて。
 あんなにも寒かった迷宮に、少しずつ涼暮月の気温が戻りだした頃。

「……ところでリリア」
 さぁ、あとは集めた蜜をお待ちかねのキャンディショップへと運ぶだけ、と来た道を戻るその道中、3人の足音に混じって、ちりちりと微かな音が聞こえる中、更にもうひとつの音、声を重ねる。
 藍狐はぎこちなく尻尾を揺らし、隣を歩く彼を、伺うようにちらりと見て。
「リリアは胸、ちっちゃいのとか……気にしないよね? ……ねっ?」
「ん…!!」
 その話またするの!? ……と、言えるはずもなく。
 リリアネットは言葉に詰まる。
 ――とはいえ、先のオブリビオンとのやりとりを振り返れば、彼女がつまり、その……『小さい』ことは、……多分、気にしているのだろうな、とは、思うので。
「え、えっと…ぼく、あまりそういうの気にしてないから……」
 なるべく傷つけないように、なるべく穏便に済むように、あぁそうだキャンディの話だ、うさぎ耳で甘党で巨乳の店主がやってるとかいう……あっ駄目だまた胸の話になってしまう。
 リリアネットが懸命にああでもないこうでもない、と話題を探し、言葉を探し、思考を巡らせながら、ひとまず言葉を濁すという大人の選択肢を選び取ろうとした――……けれど、そんなものは甘えだと言わんばかりにバーチャルピエロは躍り出る。
「あっ、リリアくんてばだめだよー!? 藍狐ちゃんだって、お胸がなくってもとっても可愛いじゃんか、ね?」
「……………」
「……………」

 あんなにも寒かった迷宮に、少しずつ涼暮月の気温が戻りだした――……はずだったのだが、体感温度はズドンと急降下。
 何でだろう、不思議だな。
 まぁ迷宮だし、不思議なこともあるよなきっと。迷宮だもの。

「あ……。…えっと、ごめん……、藍狐、とっても可愛いよ…!」
「あ……って何よ!ごめんって何よ!! もういいわよ、見ないで!見ないでよ、えっち!!  もう、ジョンの馬鹿! リリアはもっともっと馬鹿っ!!」
「え、えっち…馬鹿……!?(フォローしたはずなのに、なんで……!?)」
 リリアネットが助けを求めるようにジョンドゥを見たところで、ゆめかわバーチャルピエロくんは頬にペイントの涙を流したまま、とっても楽しそうにニコニコしているだけだ。だって道化師って、それがお仕事だもんね。

 ――ともあれ。
 機嫌を損ねた女の子には甘いもの、とかねてより相場は決まっている。

 寒い冬を抜け出した猟兵たちは、六月らしく飴の降る場所へと急ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『キャンディファクトリー』

POW   :    好きな味のキャンディを見たり選んだりする

SPD   :    好きな形のキャンディを見たり選んだりする

WIZ   :    好きな色のキャンディを見たら選んだりする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


===================================
 たくさんのご参加、誠に有難うございました。
 お待たせしました、第3章はキャンディショップで過ごす日常です。
 こちらの章のみのご参加も歓迎致します。

 断章をご用意致しますので、今しばらくお待ち下さい。

 また第3章のプレイングに関しまして、下記数点ご留意願います。

★全員採用予定のため、頂いたプレイング量によっては
 再送をお願いする場合がございます。
★お声かけ頂いた場合のみ、クロヴィスがリプレイ内にお邪魔致します。
★何かを買う・手に入れる等の描写をする可能性が高いですが、
 アイテム発行はございません。

 プレイング送信推奨期間
 【6/20(木)8:30~6/21(金)0:00頃まで】

 よろしければ、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
                                黒羽
===================================
「わぁっ、あまぁい蜜がこんなにたくさん! みんなが集めてきてくれたの!? ってゆか、災魔がアタシのお店を襲おうとしてただなんてホント?」
 蜜を受け取るや否や、ぴこぴこぴこっと元気よく兎耳を動かして虹色の蜜に目を輝かせた。かと思えば、なんだか信じらんないんだよぅ、と考え込むように耳を垂れる。
 まるで花蜜のごとき甘い香りが漂ってきそうなほどに愛らしい店主は、せわしなくその表情を変えながら、その感情を表現する身振り手振りもまた大きく、となればその度にたゆんたゆんと甘そうな果実は大きく揺れて、……ともあれ最後にはありがとーっ!と無邪気に猟兵たちに笑いかけた。
「蜜を集めてきてくれて、お店まで守ってもらっちゃって……転校生の皆には、何かお礼をしなくっちゃだよね! そしたらそしたらー……うん!みんなにはこの蜜を使って、とびっきりに甘ぁいキャンディを作ってあげるんだよ!世界に1つのオリジナルキャンディ……とか、どうカナー? ……あ、もっちろんお店の中も好きに見ていって、オススメとかもどんどん聞いてね!あっでもでも、ぜーんぶ自信作だから迷っちゃうかもだ……えへへ」
 ——甘いものには、人を笑顔にできちゃう魔法があるんだよぅ!
 そういってウインクをする間も笑顔を絶やさない彼女の毎日は、きっと甘いものに満ち溢れているに違いない。
 
 ファンシーな店内の中には色とりどりの、様々な形の、多種多様なフレーバーのキャンディが所狭しと並んでいる。共通するのは、その全てが甘く、その全てが『人を笑顔にしたい』という少女の願いから作られたものであるということくらいのものだろう。

 カラフルでちっちゃな飴玉を日々の小さな幸せにするも良し。
 大きなうずまきキャンディを特別な日のご褒美にするも良し。
 真っ赤なハートのロリポップをプレゼントして誰かを笑顔にするのも、きっとこの店主は喜ぶだろう。

「雲ひとつない青空に、『CandyRain』を降らしましょ……なぁんてね! えへへ、それじゃあ改めて!キャンディショップ『CandyRain』へようこそ! 大歓迎しちゃうんだよ!」

 疲れた体には甘いもの。
 きっとあなたも笑顔になれる、幸せなひとときを楽しんで。
狗衣宮・藍狐

リリア(f00527)
ジョン(f05137)
と一緒に!

キャンディレイン、あたしの楽園……!!
るんるん気分でリリアとジョン、ついでにクロヴィスを連れて入店!

やっほードルチェちゃん、遊びに来たよ!

わ、リリアのそれすっごくキレイ!可愛い!

うっわ、クロヴィスめちゃくちゃここの飴にドハマリしてるのね……
……ねね、クロヴィス。こういう飴ってないかしら?
常連のクロヴィスと相談して、飴玉を見繕う

◎プレゼント
不思議なガラス瓶に入った鈴型のキャンディ。瓶から取り出せるのは、一日に2つだけ
一緒に会うたびにあたしとキャンディをわけっこするの。素敵でしょ?


リリアネット・クロエ

藍狐(f00011)
ジョンドゥ(f05137)とご一緒

わぁ…、ここがCandy Rain…!
ねぇねぇ!ジョンドゥ、藍狐すごいよ!!
見渡す限りのカラフルなキャンディがいっぱいあり瞳をキラキラと輝かせる

ドルチェに
ガチャガチャ風キャンディポットにガラス造りのキャンディポットがあったり
色とりどりの小っちゃな飴玉、色んな形をした棒付きキャンディとすごいカワイイお店だよー!
と店内を見まわしながら声をかける

グレープとソーダを組み合わせた棒付きキャンディを選び
見てみてすっごい色鮮やかで綺麗な飴見つけた!
2人の元へ行くや嬉しいそうな表情をする

◎プレゼント
可愛らしいラッピングに包んだキャンディを2人へプレゼント


虜・ジョンドゥ

藍狐ちゃん(f00011)
リリアくん(f00527)と!

色とりどりの飴玉、何だか瞳みたいで綺麗だな
オリジナルキャンディができるって聞いたし
折角だからボクはそれに挑戦したいかも!

その最中、こっそり店主のお嬢さんに耳打ちして、

「大切な友達二人にプレゼントしたいんだ。
どんな包装がいいか選んでくれたら嬉しいな」

彼女のオススメのラッピングでキャンディを包もう
ヒヒッ、リリアくんってばなんだか嬉しそうだね
藍狐ちゃんはクロヴィスくんとなーに話してたのー?(ニヤニヤ)

◎プレゼント
ストロベリィとペパーミントを織り交ぜた飴玉
舌も蕩ける程の甘さに次いで
ふわり香る涼風の夏の味
包装は二人に合うものでそれぞれお任せ



「ついに……!!」
「ここが……!!」
 リリアネットとジョンドゥが顔を見合わせ、息を飲む。
 蜜ぷにを蹴散らし、雪うさぎリーダーを成敗し、蜜でべちゃべちゃになりながら、カラフルに熱くなった末、ちょっとだけヘソを曲げながらも――……ようやく辿り着いたのはファンシーでファンタジー、そしてパステル調の色合いが何とも可愛らしい、小さな建造物。そしてその入口に掛かったやはり可愛らしい看板には、飴細工で象られた文字。
「キャンディレイン、……あたしの楽園……!!」
 胸の前で両手を組み合わせて尻尾をふりふり、藍狐はその場に居た誰よりも、その青い瞳を輝かせ、ついに、ついに……!と幸せな感慨にふける。
 ――そのやや後ろでは、リリアネットやジョンドゥに並んだグリモア猟兵(常連)(早く飴食べたい)が、白けた視線を送っていた。
「……そこに居ても飴は降ってこねェぞ、入ンならさっさと行け」
「っもう! 言われなくても分かってるわよ、クロヴィスのせっかち!」
 楽しむ時間くらいいいじゃない!と尻尾を逆立てる藍狐に、そういうモンかね、と同伴の男性陣2人に視線を送る。……視線を逸らされた。

「やっほードルチェちゃん、遊びに来たよ!」
「わわっ、お客さんがいっぱいだ! はぁい、はぁい、いらっしゃいませ、CandyRainへようこそなんだよ、ゆっくりしていってね! あ、クロヴィスもいらっしゃーい♪」
 ミルク色の兎耳をぴこぴこっと揺らして元気に出迎えてくれた彼女こそが、このキャンディショップの店主、ドルチェリッタ・キャンディレイヴ。ここ、アルダワ魔法学園で人々に笑顔と幸せの魔法を広めるべく、日夜甘い香りに包まれているキマイラの少女だ。
 ひとりだけ名指しで出迎えられたグリモア猟兵は小さく手を挙げて短く挨拶をするが早いか、自分の役目は此処でおしまいと言わんばかりに、3人の元を離れていく――が、キャンディを流し込んだかのような鮮やかな4色の翅を見失うことなど、そうそうできる事ではない。
 がちゃりとひねれば飴玉一粒、今日は何の味が出てくるのか楽しみになりそうなキャンディマシン型のキャンディポット。繊細なガラス造りのキャンディポット。ポップなものからメルヘンなものまで様々な形が棚にはずらり。
 パステル、ビビッド、ビタミン、ポップ。まるでカラーバルーンのように色とりどりの小っちゃな飴玉。
 うさぎやハートの定番は勿論、花やフルーツ、中にはケットシーを模した形まで、その全てに共通するのは「可愛い」こと。見た目にも可愛い棒付きのキャンディは、きっと持つ人までも可愛くしてしまう魔法の杖。
「ここがCandyRain…! ねぇねぇ、ここ、すっごいカワイイお店だね!見てるだけで楽しくなっちゃう……あっ!」
 クロヴィスの飛んで行った軌道を追いかけただけで、あちこちに並ぶたくさんのカラフルな「可愛い」が目に飛び込んでくる。思わず同伴していた2人に、そしてそんな可愛いを詰め込んだような世界を作り上げた店主に、高揚した声でその感動を伝えるリリアネット。息を弾ませながらきょろきょろと店内を見渡すうちに、やがて彼は、その青と紫の瞳を一際強く引き付ける輝きに出会う。
 どれほど居ても飽きのこなさそうな店内は、もちろん見るだけじゃなく、実際に手に取る楽しみだってある。思わずリリアネットが手を伸ばした先には――
「見て見て藍狐、ジョンドゥも! すっごい色鮮やかで、綺麗な飴見つけた!」
 夜空のような、夕暮れのような。
 星のような、宝石のような。
 あるいは人魚の涙のような。
 はたまた、ユニコーンの涙のような。
 透き通るブルーと魅惑のヴァイオレットがきらりと光るロリポップ。
「わ、リリアのそれすっごくキレイ! 可愛いっ!」
「ヒヒッ、ほーんとだ。何だかリリアくんの瞳みたいでおいしそ~♪」
「えっ……」
「なーんてね、うそうそ♡ とってもキレイでかわいいよ!」
 彼のそのきらきらと輝く瞳こそがソーダにグレープのキャンディのようだ。いや、キャンディこそが瞳のようなのか、などと思いながら、ジョンドゥは異なる2色の瞳をくりくりっと動かし、傍らの兎耳の店主に話しかける。
「ね、ね、かわいーおねーさん! ここってオリジナルのキャンディも作れるんだよね? ボク、それに挑戦してみたいんだ!」
「おぉっ、自分で作っちゃうカンジかな? うんうん、もっちろん大歓迎なんだよ。ふふっ、キャンディみたいなキミから、いったいどんなキャンディが出来るのか楽しみだね!」
 まるで手品の種を明かすようにもったいぶって後ろ手から取り出されたのは、迷宮の中でふざけあいながらも、ちゃっかりと集めていた幸せの元、甘い糖蜜。
 ジョンドゥの右瞳に似たストロベリィを2つ、ころりころりとまんまるくさせて、ほんの一瞬だけきょとんとした店主は、――すぐにぴこぴこっと耳を揺らして快諾し、いたずらに無垢な笑みを浮かべる少年を工房へと誘うのだった。

「あれ、そういえばジョンとドルチェちゃんがいないわね……」
「えっ…あ、ほんとだ。他のところ見てたりするのかな」
 どこ行ったんだろ、ときょろきょろ見渡しても、――あれも可愛いこれも美味しそう、あっちも見てみたいこっちも買いたい、と甘い魔法にかかった猟兵たちがひしめく店内では、あんなに目を引くゆめかわカラーや、あんなに目立つ長い耳さえも探すのには一苦労。
「ぼく、あっちの方探してくるよ。藍狐はココでキャンディ見てて」
「えっ、ちょっとリリア、それならあたしも……って、行っちゃったぁ……」
 ……心なしか、ほんの少しだけ藍狐の耳が垂れる。尻尾も垂れる。
 どんなに可愛く着飾って、どんなに可愛くはにかんでも、いざという時の気迫や、こういう時の行動力はしっかり男の子なんだなぁ、なんて。
 ちょっぴり寂しげな溜息混じりに、それでもリリアネットの言いつけ通りにキャンディの棚に目を戻すと、
「よぉ、一緒に来てたヤツらはどうした? さては迷子か? ん?」
 意地悪い笑みを浮かべるフェアリーが行儀も悪く、棚に腰掛け足を組んでいた。
「う……く、クロヴィスには関係ないでしょ!」
「くく、あーそうだな関係ねェ。んじゃ、関係のないフェアリー様は買うモン買って、さっさと店を出ていきますかねっと」
 言うが早いか組んでいた足を解き、よっこいせ、と棚から飛び上がる。
 すると同時に、文字通り尾を引くように、するり、ひらりと――人間からすれば短冊程度の羊皮紙が、クロヴィスの飛ぶ軌道に続いた。
「え、ちょっ……何よそれ――」
「うおっ!?」
 反射的に、藍狐はその羊皮紙で出来た尻尾を掴む。
 必然的に、フェアリーはただひとつの拒否権もなくその動きを封じられる。
「どれどれー……………うっわ」
「うっわ、とは何だうっわ、とは」
 ――ぺらりとめくった羊皮紙には、小さな小さな妖精の書いた文字。
 カラフルキャンディ1瓶 フルーツロリポップ各味5本ずつ 花畑の金平糖10袋 夜空の金平糖10袋 スノウホワイト1瓶 リリィホワイト1瓶 ハニードロップ1缶 キャンディレインお徳用パック3袋 フェアリーサイズロリポップ各味10本ずつ ショコラ糖3袋 ウィンターキッス1箱 プティフルール1瓶 特注純蜜キャンディ8粒入×6袋 リトルドロップ1缶 大玉パステルキャンディ5粒 虹の雫1瓶 スイートステラ5本 つららちゃんの瞳6粒 ミルクキャンディ1袋 シュクレアンジュ3本 プティフレイズ1瓶 妖精の初恋3袋 アリスの涙1瓶 シャボンクリスタル1瓶 スイートロンリーポップ5本 琥珀飴1袋 えとせとら、えとせとら、……あんどもあ。
 店頭に並ぶものから、店の奥の奥まで行かないと見つけられないようなものも、そして店主に直接言わないと出してきてもらえないようなものまで。
「これ、ひょっとして全部今日の注文…? 本当、ここの飴にめちゃくちゃドハマリしてるのね、クロヴィスって……」
「そうじゃなけりゃ頭下げてまで頼まねェよ。ほら、分かったなら離――」
「……ねね、クロヴィス。それじゃ、こういう飴ってないかしら?」
「ァん? …………ぁー、……そういう系ならそっちの棚に……」
 その羊皮紙を見てピンときた。人ごみに紛れた今ならば、と、あの子にも、あの子にも、それにあの子の長い耳にだって届かない内緒話を、藍狐は甘党フェアリーに持ちかける。
 こっそり耳打ちされた内容にすぐに思い当たるのは、やはり足しげく通う常連ならでは。そして指さすだけではなく、何よりも目印になる鮮やかな翅でもって先導するのは――何だかんだ、女子供に甘い彼ならでは。
 あれも良さそう、これも気になる。
 あの子にかける甘い魔法を品定めする、甘いひとときが流れていく――

 ――のを、ガラス越しに伺い見ていたのは、3つのストロベリィキャンディと1つのペパーミントキャンディ。そしてその手元の作業台にも、同じ色。
「クロヴィスってば、藍狐ちゃんと何話してるんだろ」
「おやおや、……これはこれは、何か内緒のお話かな? ヒヒッ、確かに気になるね。後でこっそり聞いてみちゃおう!」
 そんな会話をしながら兎耳の店主とジョンドゥが並んで作っていたのは、ストロベリィとペパーミントを織り交ぜた、見た目にも鮮やかなゆめかわキャンディ。
 一見バラバラな味わいも、重ね方をひとつ工夫すればたちまち奇跡的なハーモニーを生む。
 胸を焦がすほどに狂おしく、もどかしいほどに甘酸っぱい。そんな春の初恋を思わせるような淡いストロベリィは、じっくりと舌の上で蕩かす内に、段々と濃厚でジューシーな夏を思わせる味わいに。そしてそんな暑い中をふわりと吹き抜けるからこそ、ペパーミントの香る清涼な風は一層の爽やかさを帯びて、呆れかえるほどに青い空を割る、一筋の飛行機雲のような突き抜けた後味を齎すのだ。
 舌の上で転がすたび、次々と色を塗り替えるように味が変わっていく不思議なキャンディの出来栄えに、満足気にジョンドゥは頷いて。
「実はね、完成したこのキャンディ、大切な友達二人にプレゼントしたいんだ。どんな包装がいいか選んでくれたら嬉しいな」
「おぉ、そうだったんだ……ふふっ、一生懸命作ってたもんね、あたしも責任重大だ! うーんと、せっかく2人に渡すんなら、それぞれ違うラッピングにしちゃいたいなー、リボンは何色がいいカナー……いや、いやいや、ココはあえてリボンじゃなくって、アレもアリだったり……?」
 誰かを笑顔にしてあげたい。自分がこのショップを立ち上げた気持ちは、一度だって忘れたことがない。
 大切な人の笑顔を思い浮かべながら、キャンディを作ったり、選んだりする時間は、きっととても幸せで。もちろんそんな時間をかけて造られたキャンディは、選ばれたキャンディは、きっと贈られた人を幸せにするに違いない。
 店主のミルク色の耳は、今日もご機嫌にぴこぴこぴこっ。
 ちょっと待っててねー、とラッピングの材料を取りに行く彼女の声は、おかしなうさぎの足取りのように、ぴょんぴょんと軽やかなものだった。

「あ、いたいた! 2人とも急に居なくなっちゃったんだもん、探したよー……ほら、あっちで藍狐が待ってるよ」
「おっと、ごめんごめん。ちょっとだけ内緒話をね?」
「内緒話……?」
 不思議そうに首をかしげるリリアネットには、ジョンドゥが後ろ手に持つ――品のある瑠璃の和紙に桜と亜麻色の吉祥結びがあしらわれた物と、やはり品のある白百合色の和紙に藍と紫の吉祥結びがあしらわれた物の、2つの包みが見えていない。
 この包みを見た時、そして包みを開いた時。
 サムライエンパイアを思わせるような、独特の風合いを持った装いの中から飛び出してくる、茶目っ気たっぷりに舌を出したピエロの瞳と目を合わせた時。
 ――キミは、ボクの大事な友達は。一体どんな顔を見せてくれるのだろう。
「そう、とっておきの内緒話さ! もちろん、あとでちゃーんとリリアくんにも話してあげる。さてさて、ボクは藍狐ちゃんのトコに行ってくるね……ヒヒッ♪」
 まるでビックリ箱を隠し持った子どものようにワクワクとした気持ちに、足取りもまるでうさぎのように軽やかに。ピエロは跳ねる、跳ねるはピエロ、ぴょんこぴょんこと、友達の元へ。
 そんなジョンドゥの後を、リリアネットも追いかけ――ようと、したところで。すっかり2人を見送るモードになっていた兎耳の店主を振り返る。
 ひゃわ、と小さな声をあげてまんまるストロベリィをぱちくりさせたおかしなうさぎに、にっこりと笑いかけ、そのミルク色の長い耳にそっと唇を寄せて。
「…ね、ドルチェ。実は、ぼくもちょっとだけ内緒話があって――……」

「あっ、やーっと来た! もう、ドルチェちゃんにリリアも、2人でなーに喋ってたの?」
「ごめんごめん、えっと……ちょ、ちょっとだけ、いろいろ……」
「む、……あーやーしーいー……」
「おやおや~? そーいう藍狐ちゃんこそ、クロヴィスくんとなーんかコソコソお話してるの、ボク見ちゃったんだけど……ヒヒッ、なーに話してたのー?」
「え、そうなの? 藍狐も内緒話……?」
「あ、あたしはその……いいじゃない、別に……!」
 そそくさと目をそらす藍狐、しどろもどろになりながらもどうにか誤魔化せたつもりでいるリリアネット、そんな様子を楽しそうに見ながらも、決して自分の手の内を明かすつもりはなさそうなジョンドゥ。
 そんな3人を見ながら「ポーカーならとんだカモだな」と思いながら呆れるクロヴィスと、そんな3人全員の両手が後ろに回っていることに、兎耳をそわそわぴこぴこさせる店主。
「あー……おい。これ、今日の注文」
「おっとと、はいはーい! いつもありがと、全部持って帰るよね?」
「おう。 それじゃ、あと頼むわ」
 訳知り顔の2人はアイコンタクト、そぉっとその場を後にした。

 それは彼の瞳のような、甘くおかしく吹き抜ける夏の風。
 それは彼の瞳のような、深く淡くさんざめく宝石。
 ――何だ、あたしたちみんな。考えること、同じなのね。
 受け取ったキャンディに目を細め、尾を揺らし。
 後ろ手に隠し持ったプレゼントを、少しだけもったいぶるように弄ぶ。
 妖精に導かれた少女が楽園の中から見つけ出したのは、魔法仕掛けのキャンディポット。透き通るガラス瓶に閉じ込められているのは、キラキラ光る甘い鈴。
 彼女の持つグリモアの光にも似た、淡い桜の文様が刻まれたガラス瓶を、はにかみながらも2人の前へ。そして幸せの音を奏でるように、優しくそっと、一振り、二振り。
 ――ちりん、ちりん。
 愛らしい音と共に2粒の鈴型キャンディが転がり出てきたのを見て、満足そうに、藍狐はゆっくりと顔を上げる。
「――ね、ね、かわいいでしょ、素敵でしょ! でも、どんなに可愛くっても、こうやって1日に取り出せるのは2粒だけ……だからね、一緒に会うたびに、あたしとキャンディをわけっこするの!」

 ――――これからも、この先も。笑顔と幸せをわけっこするの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪華・グレイシア


ふぅ、やれやれ……今回もハズレ、と
蜜ぷにを倒した後、元凶のオブリビオンの相手は他の猟兵に任せて迷宮の奥へと潜り込んでいたわけだけど
大した収穫もなし
【地形の利用】をしながら一足早く迷宮から脱出したら、怪盗衣装から学生服へと着替えて何食わぬ顔で混ざりましょう

でかっ………こほん
店主さんのオススメのキャンディを聞きながら、いくつか気に入った物を購入
キャンディの味を楽しんでいる人が居れば、おすそ分けしながら色々とお話を聞きましょう

甘くて、美味しいお菓子は口の固さも蕩けさせてしまうものだからね?


リンタロウ・ホネハミ

いやぁ、無事にオブリビオンを倒せて良かった良かった!
器量の良いお嬢さんと営む菓子屋がなくなるなんて世界の損失っすからね
さて、それじゃあお言葉に甘えてキャンディを作ってもらいましょうか!

傭兵業やってると極限に疲れて頭が働かねぇときとかあるんすよねぇ
なんで、そんなときでも頭が動くような……
脳に糖分を直接ブチ込むような、そういう甘い飴とかあるとありがたいっすね
ん、はは。ん、すんません、ちと実用一辺倒過ぎて全然可愛くねぇっすね、これは
そんじゃ、せめて形だけでもこの店に相応しい可愛さにして作ってもらえるっすか?
軽率に食べるのをためらうような、とびきりかわいいヤツをね!



 目当ての物を手に入れたら、すぐに姿を消すのが怪盗だ。
 加えて、目当ての物がない場所にはそれ以上の用はない。
 ――するり、小さな隙間に身を滑り込ませるように。
 オブリビオンの討伐を終えてキャンディショップでのひとときを楽しもうとする猟兵たちの足並みに、気づけばひとつ混ざり込んでいた、静かな足音。
(ふぅ、やれやれ……今回もハズレ、と……)
 元凶であったオブリビオンも無事に成敗、甘いキャンディショップを前に凱旋ムード。そんな中にうっかり漏らしてしまいそうになる溜息を、此処に紛れ込ますわけにはいかない、とグレイシアはすんでのところで飲み込んだ。
 怪盗然とした衣装から学生服に装いを変え、何食わぬ顔で仲間たちと足並みをそろえる。迷宮での収穫はなかったものの、これから向かう先で何か情報が得られるかもしれない。
 何と言っても行先はキャンディショップ、甘くて、美味しいお菓子というものは、得てして口の固さも何もかも蕩けさせてしまうもの。
 この辺りに店を構えている店主であれば、必然この辺りの情報には精通していることだろう。きっと有益な情報が得られるに違いない。そう、あのファンシーな扉をくぐれば、きっとそこはめくるめくスイート・スイート・ラビリンス――……
「いらっしゃーいっ!」
 ぽよーーーんぽよーーーーーーんっ!!
「うわでかっ……!?」
 出迎えてくれたのは甘く瑞々しく、何よりたわわに実った果実、正しくスイート・スイート(2つあるんだから2回続くのもまた必然である)なラビリンス(果実の合間に狭い入口が見えているだろう)の持ち主だった。
 女の子のような見た目をしておきながら中身はしっかり男の子なグレイシア、あまりの勢いに思わずクールな相貌を崩して二度見した。二度見した。
 しかしてそこは紳士、流石に三度目はない、とかたく心に決めたように出迎えてくれた店主のくりくりとした瞳と目を合わせる。
 出会いがしらに「でかっ」とか言ってしまったのが申し訳なくなるほどの、キャンディのように透き通った愛らしい瞳だった。
 ここはひとつ紳士的に、この愛らしい店主に取り入ろうと咳払いをひとつ――しかしそんな咳払いに続くように、調子のいい男の声が割って入る。
「いやぁ、無事にオブリビ……おっと、災魔のヤツを倒せて良かった良かった! こーんな器量の良いお嬢さんと、そのお嬢さんが営む菓子屋がなくなるなんて世界の損失っすからね」
 すっ……とグレイシアの横を抜けて出てきたリンタロウは、歯と骨のぶつかる音を鳴らし、蜜の入った容器を揺らしながら店主を見下ろす。――弧を描いた細い瞳は、一見して何処を見ているのか分からない。
「ひゃ、ひゃわ、そんなそんな、世界の損失だなんて大袈裟なんだよぅ…!? えっと、えと……あ、でもでも、うん、助けてくれてありがと! 何かお礼になるようなコトができるといいんだケド……って言っても、あたしに出来るのはキャンディ作りくらいで……えと、甘いもの、好きカナー?」
 ぴこぴこっと慌てたように長い耳を揺らして、困ったように、いやいやその実、満更でもないようにしどろもどろ。リンタロウよりも20センチほど低い身長の店主は、じ、とリンタロウを上目遣いで見上げ、ぴこ、ぴこ、と様子を伺うように長い耳を揺らす。
「もちろんっす、傭兵業やってると極限に疲れて頭が働かねぇときとかあるんすよねぇ。なんで、そんなときでも頭が動くような、脳に糖分を直接ブチ込んでくれるような甘~いヤツを……」
 ――事実、常に戦場に身を置く彼にとって糖分とはすなわちエネルギー源。
 とはいえ、これまでリボンやフリルのたっぷりついたエプロンドレスに身を包み、可愛らしい飴細工で彩られた店内で笑顔を振りまくこの店主に、こんなにも実用性を重視した注文をする者も居なかったのだろう。
 兎耳をぴこぴこん。まんまるい瞳をぱちくりと開いてしばたく店主に、あぁいや、とリンタロウは罰が悪そうに骨を噛む。
「ん、はは、……すんません。ちと実用一辺倒過ぎて全然可愛くねぇっすね、これ。そんじゃせめて、……この店やお嬢さんに相応しいような、とびきりかわいい形に作ってもらえるっすか?」
 うさぎの店主はやっぱり長い耳をぴこぴこん。まんまるい瞳をぱちくりと開いてしばたいて。そのまましばらく不思議そうな顔をして、初めて来るお客さんの顔をじーっと見つめて。
「あははっ! おっかしーんだー、そんなコト言われたのはじめて!」
 言葉通りにおかしそうに笑った店主は目尻に滲んだ涙を拭って、にっこり笑顔に表情を戻すと元気よく頷く。
「うんうん了解だよ、こーんなにたくさんの蜜を持ってきてもらえたんだもん、どんなに疲れてもあっという間にお兄さんを元気にしちゃうような、甘ーいキャンディ作ったげる……でもでも、ちょっとだけ食べるのがもったいないなぁって思っちゃうような、カワイイ見た目で、だね!」
 ちょっと待っててねー! と元気よく店の奥にある工房へ、蜜を片手にぴょーんこぴょんこ。そんなにおかしな注文だったろうか、と思いつつも見送ったのは、その背中か、それとも後ろ姿からでもわかるほどの、兎が跳ねるたびに弾ける双丘か。
「……大きい、ですよね」
 店主の視線が終始リンタロウに向いていたのをいいことに、三度、四度、五度ほどにわたってその質量を確かめていたグレイシアが、しんしんと雪の降りつもる夜のような静けさで呟いた。
 微か、リンタロウの細い目が開かれる。
「…………そっすね」
 次の瞬間には、もういつものリンタロウに戻っていた。
 ファンシーなキャンディショップに佇む、男たちの時間が流れていく。

「じゃじゃーんっ、お待たせしましたー!」
 ぷるんっと……失礼、ぴょこんっと顔を出した兎耳の店主が、出来上がったばかりのキャンディを片手に駆けてきた。
 色も形も様々なキャンディを物珍しそうに物色していた2人は反射的にその声に振り向き、あと反射的に一点に視線を注ぎ、何事もなかったかのように店主の笑顔と、その手にあるキャンディの包みを出迎える。
「お、もうできたっすか。いやーどんなのか楽しみっすね!」
「食べるのを躊躇うほど可愛らしい形、でしたっけ。果たしてどんなものが……」
「ふっふっふー♪ まあまあ、まずは開けてみてよ!」
 リンタロウとグレイシア、それぞれのキャンディに注がれる視線を得意げに受け止めると、店主は嬉しそうに耳を揺らしてリンタロウに、それから隣にいたグレイシアにも可愛らしい巾着包みを手渡した。
 思わず2人は顔を見合わせ、各々の蝶結びにされた巾着をそっと紐解き覗き込む。すると甘い香りの漂う店内にいても分かるほど、コクのある濃厚な香りがふわりと広がって。
「これは………」
「ミルクキャンディ、ですかね? ……ウサギの形の」
 思わずグレイシアが目の前にいる、今現在における最も身近なうさぎを見やる。するとおかしなうさぎは照れくさそうに眉尻を下げて、えへ、と笑って。
「じ、自分のコトかわいいって言うワケじゃないんだけどね? えへへ、でもでも、うさぎさんのカタチって可愛い~って言われるコト多くって…だ、だめかな、簡単に食べれちゃうかな……あ、でもでも、簡単に食べちゃっても大丈夫なようにちょっぴり多めに作ったんだよ!」
 だからたくさん食べてねっ! とぴこぴこ揺れる彼女の耳は、2人に手渡されたキャンディのように、甘ったるいミルク色。
「災魔と戦ってくれる転校生のみんなにはとっても感謝してるの! だからそんな皆が疲れちゃった時は、あたしのキャンディで元気になってくれたら、とってもとっても嬉しいんだよぅ!」
 それはどこにでもいるようなキマイラの少女の、あどけない笑顔。
 何気なくとも、例えグリモア猟兵の個人的な事情が入り混じった案件だったのだとしても、確かにこの店は、この場所は、彼女は、自分たちの手で守ったのだと思わせるには充分すぎる、眩しい笑顔。
 男たちはミルクの香るキャンディの包みを握りしめ、感じていた。
 ――確かに守ったものが此処にふたつ、ぷるんぷるんと在ることを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エスチーカ・アムグラド
あのっあのっうさぎのお姉さんっ!
チーカ、蜜をいーっぱい(妖精基準)取ってきたんですけど……
これでキャンディを作って欲しくって……!
えっとですねえっとですね!三分の一はフェアリー用でー、残りは普通の大きさの!
お宿の人たちにもお裾分けしてあげるんですー

え? 蜜は何処に、ですか?
えへへー、この(フェアリーランドの)中ですよっ!
持ち帰りもここに入れていきますっ!
……うふふ……えへへ……これでしばらくはキャンディランドに……

……あっ!
もしよかったらキャンディを作るところ、見学させてもらったりとかー……
どんな風に出来るのか、チーカ気になりますっ!



「あのっあのっ、うさぎのお姉さんっ!」
 ぱたぱたひらひら、うさぎの耳に負けないくらい、一生懸命に翅を羽ばたかせて飛んできたフェアリーに、接客をしていた兎耳の店主はにっこり振り返る。
「あはっ、ちっちゃなお客さんだ! はいはーい御用は何カナー?」
 フェアリーの相手はとあるグリモア猟兵のおかげで慣れているのだろう、声を拾うのにも、視線を合わせるのに苦労することもなく、ぴこぴこっと耳を揺らして早速注文を取るためのメモをスタンバイ。
「チーカ、蜜をいーっぱい取ってきたんですけど……あのっ、これでキャンディを作って欲しくって……!」
「うんうん、もっちろんだよ! どんなキャンディがいいカナー?」
「えっとですねえっとですね! えぇっとー……三分の一はフェアリー用でー、残りは普通の大きさの!」
 ひぃふぅみー、と指折り数える小さなお手々。
 フェアリー用、と自身を指さす小さなお手々。
 普通の大きさの!と大きく広げた小さなお手々。
 その全てを微笑ましくうんうん、と頷き見守りながらメモを取る。
 フェアリーならではの小ささはもちろん、そのフェアリーの中でもまた小さく幼いエスチーカの動きはひとつひとつが愛らしい。思わず兎耳の店主も蕩けた飴のように顔を弛ませ、書き取った注文内容を確認する。
「普通のサイズはお土産? ラッピングしたほうがいい?」
「はいっ! チーカが住んでるお宿の人たちにもお裾分けしてあげるんですー」
 うふふー、と幸せそうに弛んだエスチーカの頬もまた、蕩けた飴のようで。恐らくは店内いっぱいに広がる、幸せな甘い香りがそうさせているのだろう。
 思わずつっつきたくなるほど可愛らしいほっぺた、つい伸ばしそうになってしまう人差し指をぐっと堪えて、堪えた分だけ店主の耳がぴこぴこっと揺れる。
「そっかそっか、お裾分け……うんうん、甘いものを皆で一緒に食べると、ひとりで食べるよりもずっとずっと美味しいもんね! よーし、それじゃ張り切って作……あ、そいえばアナタの集めた蜜は……?」
 こんな可愛らしい少女からキャンディの贈り物があったなら、きっと誰も彼もが幸せになるだろう。彼女の言う『お宿』のことは知らないけれど、きっと甘い魔法にかかってしまうだろう、『お宿』の人々の笑顔を夢想する。――そんな笑顔を作る手伝いができることが、たまらなく嬉しい。
 そんな幸せを噛みしめながら、凡その構想が決まったメモを片手に、さっそく工房へ向かおうと……したところで、彼女がいーっぱい集めてきたのだという肝心の蜜を受け取っていない事に気づいた店主。
 慌てて振り返ると、エスチーカは「待ってました」と言わんばかりに得意げな顔をしていた。
「えへへー……この中ですよっ!」
 じゃっじゃじゃーん、と小さな手に取り出された小さな壺。
 キャンディのように大きくまんまるなストロベリーの瞳をころりとさせて、ぱちぱちまばたき、耳もぴこぴこ。けれど店主はすぐに思い出す。
 フェアリーランド。それはフェアリーの持つ小さな小さな、不思議な壺。
 このお店の常連客も、最初のうちは何処か得意げに見せてきていたっけ。
「なーるほどっ! あ、じゃあじゃあ、出来上がったキャンディもその中に入れて帰るんだね?」
「そうですそうです、えへへ、そしたらチーカのフェアリーランドはたちまちキャンディランドにー……って、あや、まだチーカ何も言ってませんでしたのに、お姉さん良く分かりましたね!?」
 わくわくキャンディランド計画をあっさりと見破られたエスチーカは、何でですか何でですか、と慌てたように不思議そうに、おかしなうさぎに問いかける。
 けれども兎耳の店主はどこかしたり顔で笑うばかり、エスチーカから小さな壺を受け取ると、くるりエスチーカに背を向けて。
「ふっふっふー♪ お姉さん名探偵の素質があったりするかもだ! さてさてそれじゃ、確かにいーっぱいの蜜、お預かりしたんだよ!」
 うさぎは跳ねる、跳ねるはうさぎ、ぴょんこぴょんこと店の奥にある工房へ――……行くのを、エスチーカが慌てて追いかける。
「むむむむ…………あっ! ま、待ってください待ってください! あのあの、もし良かったら、キャンディを作るところ、見学させてもらったりとか……」
 どんな風に出来るのか気になるんです、と一点の濁りも、一点の曇りも無く、まっすぐ、キラキラと見つめてくる幼い瞳は、一体何味のキャンディだろう。
 ぴこぴこっとミルク色の耳が揺れる。
「ふふっ、もちろん大歓迎なんだよ! それに、フェアリーサイズのちっちゃいキャンディなら、あたしが作るよりもアナタが作った方が上手に出来ちゃうかもだ!」
 好奇心いっぱいのフェアリーの少女に、良かったらやってみる? と誘いをかければ、ふわぁ、と嬉しそうな声を漏らす彼女のキラキラキャンディは、もっともっと輝いて。そんな様子に店主は嬉しそうな笑みを浮かべ、長い耳をぴこぴこ揺らす。
 ――食べてくれる人の笑顔を想像しながら、かきまぜて。
 ――幸せな気持ちになってくれますように、って気持ちも混ぜ込んで。
 ここは蒸気と魔法の世界。
 魔法の壺に閉じ込めた蜜を、おかしな魔法でキャンディに変えて、魔法の壺にしっかりたっぷり詰め込んだなら、……さぁ、これであなたの大切な人たちに、幸せの甘い魔法をかける準備は整った。
 最後の仕上げはあなたの笑顔……なんてことは、きっと言うまでもないのだろう。おかしな兎はにっこり笑顔で、工房から元気よく飛び立つフェアリーを見送るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧生・柊冬

ここが話に聞いていたキャンディショップですか
思っていた以上に可愛らしいお店と店長さんですね
見渡す限りキャンディばかり…見ているだけで甘さでお腹いっぱいになりそう
兎繋がりだからか、兎のプラウス(バディペット)も少し嬉しそう
…だからといってクロヴィスさんは食べちゃ駄目だよ?

試しに一つ買って食べてみる。…美味しい!これはクロヴィスさんが通うのも分かる気がする
せっかくですのでお土産用に手作りキャンディをお願いしてもいいでしょうか?
家で待ってる姉のために、兎の形をした林檎味のキャンディをお願いしたいです
最近の事件で疲れてる事でしょうし…たまには甘いものを一緒にと思って。
たった一人の姉さんですから、ね。


浅葱・シアラ
えへ、兎のお姉さん、無事でよかった……!
えへ……飴の雨……キャンディレインなんて素敵だよね……!

沢山蜜集めて来たよ……!もしよかったら、お願い、聞いてもらってもいい……?


【SPD】で判定
あのね、あのね……!
お父さんとお母さんに、お土産に贈りたいの……!
だから、蝶々の形にキャンディ、作ってもらってもいいかな……?

蝶々、虫さんだけどきっと形綺麗だからキャンディにしても大丈夫かなって……!
お父さんもお母さんも蝶々さんが好きなの、だからお父さんとお母さんが喜ぶように綺麗な蝶々さん作ってくれると嬉しいな……!

あ、少しだけ多めに造ってもらってもいい……?
後でクロヴィスにも分けてあげたいの!



「思っていた以上に可愛らしいお店に、それから店長さんでしたね」
「うんうん、……えへ、兎のお姉さん、無事で良かった……! 飴の雨、…キャンディレインなんて、素敵だよね……!」
 外観はもちろん、店内に入ってからも、そして出迎えてくれた兎耳の少女でさえも、お菓子の国から飛び出してきたようなファンシーな見た目だったことを思い出し、思わず顔が綻ぶ柊冬とシアラ。
 そして柊冬の連れているバディペット、黒兎のプラウスは、店内に立ち込める甘い香りにか、それとも同族の匂いにか、興味深そうに鼻をひくひくとさせて――その兎のプラウスとは少しばかり因縁……というには随分と可愛らしい記憶のあるクロヴィスは、少しばかり距離を開けるように2人と1匹を案内する。
「ま、あんまり教えたくなかったとは言ったものの、……守ってもらったからには、オレがどんだけこの店を守りたかったのかを知ってもらわなくっちゃな」
 そう言ってひらりと降り立ったのは、大小さまざまなガラスのキャンディポットが、いくつもいくつも並ぶ棚。中にはもちろん、カラフルで甘そうなキャンディがたっぷり。
 まずはクロヴィスの小さな身体にとっては腰ほどまであるガラス瓶、続いてその六分の一ほどのサイズの、小さな小さなガラス瓶。2つの瓶の蓋を器用に回し開け、通常の瓶を柊冬に、小さな瓶をシアラに、それぞれ示す。
「ほれ、試しに食ってみろ」
 美味いぞ、と笑うクロヴィスに、思わず柊冬とシアラは顔を見合わせて。
 恐る恐る。ドキドキ。
 それぞれがそれぞれのサイズの瓶にそっと指を伸ばし、幸せの欠片を摘まみ上げる。
「……美味しい! これはクロヴィスさんが通うのも分かる気がします」
「…わ……ホントだ、……えへ。…甘酸っぱくて…ほっぺたが落ちちゃう……!」
「だろ? オレがお前らに頭を下げてでm「でっしょでしょー! もう、ぜーんぶウチの自信作なんだから! クロヴィスみたいにフェアリーのお客さんもいるから、ちっちゃいキャンディもバッチリ用意してるんだよぅ!」
 どどどどーーーーーんっ!
 クロヴィスの台詞を遮るように、何がとは言わないが勢いよくぷるんっと弾けさせながら登場した兎耳の店主は柊冬とシアラに無邪気に笑いかけた。
 急に押し寄せた大口の客足に嬉しい悲鳴をあげていたこの店主、どうやら前の客の対応が終わったらしく、その長い耳で次に対応が必要そうな客の会話を耳ざとくキャッチしていたらしい。無邪気で愛らしい見た目をしておきながら抜け目ない。
「あ、兎のお姉さん…! …えへ、……おっきなキャンディだと、シアたちフェアリーは大変だもんね……すっごく甘くて、おいしかった…!」
「うんうん、えへへー……そういってもらえて、あたしもとーっても嬉しいんだよ! 蜜があればオリジナルのキャンディも作れるから、もしよかったらお土産にもよろしくね!」
 商売根性たくましい一面も見せつつ、けれどこの甘さを、幸せを分かち合ってくれる人に、そして笑顔になってくれる人に、キマイラの店主は心から嬉しそうに笑い、ぴこぴこと兎耳を揺らす。――きっとこの店を開いた原点はそこにあるのだろう。
「へぇ、オリジナルの……」
 そんな良く動く店主の兎耳を見て思わず笑いそうになるのを堪えつつ、柊冬は彼女の提案に興味深そうに頷いた。そして、思い浮かべたのは。
(……最近の事件で、疲れてる事でしょうし……)
 甘い物が大好きな、たった一人の姉のこと。
 探偵帽やルーペにちょこんとついた、可愛らしいウサギの顔や耳。
「それでは、兎の形をした林檎味のキャンディ……できますか? 家で待っている姉に持ち帰ってあげたくて」
(……たまには、作るだけじゃなくて……一緒に食べるのも良さそうですし)
 ――そんな主人の想いを読み取ったか、プラウスが腕の中でもぞもぞと動く。
 すんすん、もひもひ、ぴこぴこ、ふんふん。
「うおッ…と、鼻息、鼻息が……! くそ、油断も隙もねェ…!」
「あぁ、プラウス…駄目だってばクロヴィスさんを食べようとしちゃ……」
「えっ結局オレのこと食べようとしてンのこいつ!?」
 ――いや、特にそんな事もなかったのかもしれない。
 もぞもぞと柊冬の腕から抜け出すようにしていたプラウスの頭部が向かった先は、説明や案内は店主に任せてよさそうだと気を抜いて、柊冬の肩の辺りに滞空していたクロヴィスだった。ふんすふんすと掛かるプラウスの鼻息から逃げつつ、申し訳なさそうにプラウスを遠ざけつつも、しれっと言われた柊冬の言葉にクロヴィスはぎょっとする。
 そんな様子をクスクスと眺めていた店主の元へ、シアラがそっと近づいて。
「あのね、あのね……シアも、お父さんとお母さんに、お土産を贈りたいの……!」
 家で待つ姉へのプレゼントを用意する柊冬を見てシアラが思い浮かべたのは、今は離れて暮らす優しい両親の笑顔。
 こんなに美味しいキャンディがあるんだよ。こんなに美味しいキャンディを作るお店と、その店主さんを、シアたちが守ったんだよ。シア、頑張ったんだよ。
 そんな、いろんな想いと報せをキャンディに乗せて、届けられたら。
「おぉっ、お父さんとお母さんに! うんうん、とってもステキだと思うんだよ!」
 囁くように小さなフェアリーの声も、長く良く聞こえる耳はぴこぴこっと拾う。親孝行さんだね、と褒めるように頷いた店主は、ポケットからメモ帳とペンを取り出した。
「それじゃそれじゃー……えっと、カタチと味はどんなのがいいカナー?」
「えっとね、蝶々…! 蝶々の形にキャンディ、作ってもらってもいいかな……? 味は……お姉さんに、お任せしちゃうね……!」
「蝶々ね、了解なんだよ!何か思い入れのある形なんだね! それからそれから…おっと、味はお任せかぁ……ふたりが喜んでくれそうな味、何がいいカナー…?」
 シアラからの注文をさらさらと書きとりながら、作るキャンディの構想を膨らませる。――この少女がプレゼントしたその先の、両親の笑顔を想像する。
「お父さんもお母さんも蝶々さんが好きなの……だからお父さんとお母さんが喜ぶように、綺麗な蝶々さん作ってくれると嬉しいな……! …えっと、それから……お父さんは、お母さんのことが大好きで……お母さんも、お父さんのこと、大好きで……お父さんは、お母さんのつくるお菓子も好きでね、――」
 そんな店主の想像を助けるべく、――あるいはそのつもりがなくとも、大好きな両親のことを話しだしたら話題に事欠くこともなく、その勢いは止まるところを知らない。妖精の内緒話のような声は一生懸命に様々なことを語り掛けるのだった。

「――はぁい、ふたりともお待たせなんだよぅ!」
 やがて工房の奥から、可愛らしくラッピングされたキャンディが運ばれてくる。
 「キミにはこれ、お姉さんと仲良く、たぁくさん食べてね!」
 長い耳がトレードマーク、デフォルメされたうさぎの顔を象った林檎味のロリポップが偶数本。根本はピンクとブルーのリバーシブルリボンで可愛く結んで、ちょっとしたキャンディブーケのようになっている。
「それからフェアリーのアナタには……はいこれ! お父さんとお母さんのお口に合うといいんだケド……」
 そう言ってフェアリーの少女に手渡したのは、美しく透き通った胡蝶が数匹、甘い幸せを運ぶように舞い飛ぶ小袋。
「ふふっ、味見なら、先にクロヴィスに食べてもらうといいかもだ」
 よくツケにされるんだケド、味覚は確かなんだよねー、と悪戯っぽく笑いながら、内緒話をするように続けて手渡されたのは――そんな胡蝶がぎゅっと可愛く、フェアリーの指にとまりそうなほどに小さなサイズになった数匹を閉じ込めた、小さな袋がもうひとつ。
 ――「後でクロヴィスにも分けてあげたいの!」
 たっぷりと集めた蜜を手渡しながら、無垢な瞳を輝かせる少女。任せられた風味付けに、実のところ少しだけ悩んでいたのだけれど。この店のキャンディを食べ尽くした程の常連客のお墨付きが貰えたのなら、――きっと。
 彼女の両親にも、安心して飛ばすことができるだろう。
 和三盆の甘さが優しく融け込んだ、幸せ運ぶ蝶たちを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
土産にでもしようか……

小さな飴玉を、相手を定めない土産物と考えて購入
あとで小分けしようと思いつつたくさん

制作してもらえるなら、やはり小さなキャンディを願う
金平糖のような星型というか、容器にたくさん入っていそうな形状で
これも渡すつもりで一人か二人分くらいを
特別?でも無いかも知れないが、幾らか交流の多めな相手用に
制作の様子など見ても良いなら見学
興味深いが邪魔はしないように

容器なども店にあるなら見せてもらう
何が良いのか。自分では収納性を考える程度だが
店主のおすすめでもあればそれを採用



 呼吸をすれば甘い香り、耳を澄ませば黄色いはしゃぎ声、顔を上げれば自分に、誰かに、楽しそうにキャンディを見繕う仲間たち。
 黒い手袋を嵌めた手を、色の白い顎にやり、ふむ、と小さな間をひとつ。
 ――様々な世界をわたる猟兵たちだが、その渡った世界の先々で、その土地に根付き、古来より言い伝えられてきた訓戒や風刺を表す短い言葉、すなわち諺なるものに出くわすことも少なくない。
 さて、郷に入っては郷に従え、という言葉はどこの世界のものだったか。些か記憶は朧気であるが、――あるいはどの世界においても似たような意味を持つ言葉が言い伝えられてきているのであろうが。
 何にせよ、今この時こそ、アルトリウスはその訓戒を胸に行動を成すべき時なのかもしれなかった。
「土産にでもしようか……」
 黒ずくめの装いに白い肌。青き光を携えた双眸だけが彼の持つ唯一の色彩。
 そんなアルトリウスにとって、何処か眩しささえ感じるような気がする七色どころでは収まらないほどにカラフルな店内を、まずは見て回ろうと一歩踏み出す。
 すると背後から、何やらぴょこんっと白いふわふわが飛び出した――兎耳だ。
「ふっふっふー♪ もしかしてお兄さん、お買い物? さてさて、どんなキャンディをお探しカナー?」
 アルトリウスのようなクールな男性がこの店の門を叩くこともそうないのだろう、珍しいお客さんにワクワクソワソワした様子の兎耳の店主が、ぴこぴこと嬉しそうに耳を揺らして話しかける。
 くりくり、じーっと見つめてくるピンクの瞳を静かに見つめ返し、そして紡がれたのは抑揚の少ない声。
「不特定多数に配るのに、適したようなものはあるか」
 ……ほぇ、と小さな声が、店主の口から漏れた――けれども、彼女も一人でこのキャンディショップを切り盛りする、いわばプロ。
 キョトンとしてしまった少女の顔を、すぐさま店主然としたものに戻し、長い耳をレーダーのようにぴこぴこぴこっ。
「えっと、それならやっぱりカラフルキャンディがおすすめカナー? あっちにあるレインボーキャンディを、全種類ランダムにたーっくさん入れてあるの!」
 あっちに、と指さした棚には、赤いチェリー、橙のオレンジ、黄色のレモン、緑のミント、青のラムネ、藍のブルーベリー、紫のグレープ。それぞれの色の小粒キャンディをたっぷりと詰めた、ガラス製のキャニスターが等間隔に並んでいた。
 お気に入りの色を買うのも良し、七色全部揃えて並べて楽しむも良しのこの商品はかなりの人気で、生産量もトップクラス。となれば、生産過程で規格外品も少なからず出てしまう。そんな規格外品をたっぷりと詰めた、レインボーキャンディよりも二回りほど大きなお徳用瓶、それがカラフルキャンディというわけだ。
 まんまる綺麗な形ばかりではないにせよ、品質にはまったく問題がない。むしろ所々ヒビや欠けのある見た目は、どこか星屑のようで神秘的……という声もあったりするわけで、まぁ何を言いたいかというと、決して商品の使いまわしとかではないんだよぅ? ――と念を押すような早口で店主は言う。
「…………では、それを」
「はぁーい、カラフルキャンディがおひとつ、だね! 色んな人に配るんなら、小分け用の袋も一緒に包んでおくんだよ!」
 たくさんの人に分けてあげてね、とご機嫌笑顔の店主は、さらりと注文のメモを取る。決して気圧されて購入したわけではない。決して。いいね?
「えと……お買い物はそれだけで大丈夫? オリジナルキャンディも作れたりするんだケドー……」
 有難くもあっさりと購入を決めてしまった彼は、ひょっとしてこのまま退店してしまうのではなかろうか――せっかくの珍しいお客さんをこのまま帰してしまうだなんて、CandyRain店主として、そんなの絶対見過ごせない。
 控えめながらも、ちょっとだけ踏み込んで。
 おずおずとしながらも、じぃっと逸らすことのない視線。
 言葉でも、言外にも、しおらしく、したたかに。
「それなら、購入したそれとは別に……」
 ――1人か2人分ほど、特定の者に、渡すようなものを。
 それを聞いた店主は、……ひゃわ、という声と共に、ぴーんっ、と長い耳を立ち上げる。そしてこくこくぶんぶんと大きく首を縦に振り、そのたび耳もぴこぴこ揺れて。
「甘ぁいキャンディは、絶対絶対キミやキミの大切な人を幸せにしてくれるはずだもん。 幸せのお手伝い、ばっちりしっかり任されたんだよ!」
 ――多分、恐らく、何か早とちってる様子の店主の心はお花畑。とはいえ、「あり、でもでも2人……? ま、いっか、頑張るぞー!」と気合十分、元気よくキャンディ造りに取り掛かる彼女の願いはただ一つ。
 工房に向かう足をぴたりと止めて、笑顔でアルトリウスを振り返る。
「絶対絶対、キミも、キミの大切な人も、みーんな笑顔にさせちゃうんだから!」

 アルトリウスの見守る中、――口数の少ない視線に、ちょっとだけ緊張しながらも――虹色の蜜をトロ火で熱して、まずは幸せを願う気持ちを込めて、くるりくるいと掻き混ぜます。
 とろーりとろとろ、まだまだじっくり。
 くるりとひとつ混ぜるたび、甘い香りが広がります。
 とろぉりふつふつ、ぱちんぱちん。
 飴の弾ける甘い音、長いお耳は幸せそう。
 さぁ、ゆっくりじっくり煮詰めたら、ここから腕の見せ所。

 お砂糖のきらきら瞬く夜空は、ひんやりと冷えた大理石。
 そこへ、蕩ける飴の流れ星がとろりと一筋、たらりと二筋。
 三筋、四筋、五、六、七、八、九――――。

 淡く色づいた砂糖の中に小さくいくつも落とした飴を、熱い内にころころ転がし、充分に砂糖を纏わせれば、みるみる内に数えきれないほどの星が生まれる。
 この工程を、砂糖の色を様々に変えて、繰り返すこと数回。

 ――用意されたのは、細長いガラス瓶。
 それは夜空から朝焼けに移り行くように。
 それは雪が解けて花がほころぶように。
 それは雨が上がり、青空に虹が架かるように。

 たっぷりと、色とりどりの星々を流し込み。

「はぁい、お待たせしました、なんだよ!」

 ゆるやかに、甘やかに。
 彩の移ろう小瓶に巻かれたリボンは、くるり、きゅっと上向きに。
 ちょっとだけ兎耳にも見えるそれは、――どうか、笑顔になれますように。
 おかしなうさぎのおまじない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

暁未鳥・狐虎狼
「キャンディタイムだ!いっぱい食べるよー。クロちゃんのおごりで!」
とりあえず端から端まで食べたいな。ダメかな?
「あ、これ美味しいよ!ほらほら!美味しいね!」
美味しいの見つけたらその辺の人にもおススメしちゃうよ。
逆におススメされたらもらっちゃうよ。
全部美味しかったら?もちろん全部おススメしちゃうさ。

オリジナルも作れるのかい?
そうだなぁ………こういう(へたくそな図解)おっきいロリポップ頼んじゃおうかな。
ほら、僕は手がこれだから。
棒がおっきくてぶっとくないと持ちにくいのさ。
クロちゃんには奢ってくれたおごりにロリポップあげるよ。クロちゃんの奢りで。
大きさの対比的にはお揃いかなー?
おっきな飴は良いね♪



「キャンディタイムだ! いっぱい食べるよー、クロちゃんのおごりで!」
「聞いてねぇぞオイ、つーかクロちゃんって何だクロちゃんて」
「えー何でさクロちゃんの意地悪、僕は最初からそのつもりだったのに」
 すかさずツッコミを入れたフェアリーに唇を尖らせた狐虎狼は、ファンシーな店内の一角にある棚に目を止めて、右から左へと視線を滑らせる。
 赤から紫にかけてグラデーションしていくように並んだキャンディポットは、雨上がりにの雲一つない空に架かった橋のように鮮やかで可愛らしく狐虎狼の目を惹きつけた。
「ね、ね、まずはコレの端から端まで食べたいな。……ダメかな?」
「あ゛ー……まー元はと言えばオレの頼みだしな……ったく、食い過ぎンなよ」
 押して駄目なら引いてみろ。ストレートなおねだりにほんの少しだけしおらしさを混ぜることで、要求が通りやすくなるのは侭ある事だ。加えて甘い物が大好きなこの男は基本的に、女子供の頼みにはやたら甘い傾向にある。
 しゃーねぇ、と紫煙の代わりに溜息をこぼしたクロヴィスの口には、流石に煙草ではなくフェアリーサイズのロリポップ。まるでフィルターを噛み潰すようにがじ、と奥歯でキャンディを噛みながら、店主にはそっと「ツケといてくれ」と目配せ。
 りょーかいだよ、とウインクと共に親指と人差し指で輪っかを作った兎耳の店主は、そのまま狐虎狼の元にぴょんこぴょんこと駆け寄って。
「あははっ、キミってばおねだり上手だね! ウチのキャンディはぜーんぶオススメだから、たーくさん食べて、たーくさん買ってってねー! そこのレインボーキャンディも勿論オススメなんだケド、あっちにあるフラワーキャンディもオススメでー……あとあと、お店にないようなキャンディも作れたりしちゃうんだよ!」
 嬉しそうにぴこぴこと耳を揺らしてセールストークを始めた店主。既にひとつふたつとカラフルなキャンディを摘まんでいた狐虎狼は、それらを口の中でもごもごと転がして。
「ふぅん、オリジナルも作れるのかい? それならー……」
 広げたスケッチブックにペンを走らせる。その間にも店主の勧めるキャンディを次々と口の中へ放りながら、理想のキャンディを描きあげること十数分。
 巨大な装甲に包まれた手がぎこちなくもペンを握り、真っ白なキャンバスいっぱいに、不格好ながらもどうにかそれらしく表現したものは――……
「……いくら何でもでかくねェか、これ?」
 ひらりとスケッチブックを覗き込んだクロヴィス、彼がフェアリーであることを差し引いても、原寸大で描かれたそれは30センチはあろうかというほど大きな棒付キャンディ。
「ほら、僕は手がこれだから、……寧ろおっきくないとダメなんだ。ぶっとい棒じゃないと持ちにくくて、食べづらいのさ」
 現に、店内においてあった通常サイズのロリポップは上手くつかめなかった。一見何でもないような動作に見えて、狐虎狼にとってあの細い棒を器用に摘まんで口に運ぶというのは、どんなに飴が魅力的だろうとも緻密な作業であり、集中力が必要になってしまう。
「ふんふん、なーるほどー……確かにそのおっきな手じゃ普通のロリポップは食べづらいかもだね、よーしそれじゃあ張り切って作っちゃうんだよ!」
 ――笑顔になるためのキャンディを苦労して食べるだなんて、そんなことをこの店主が良しとするはずがない。にっこり笑顔で快諾すると、狐虎狼から蜜ぷにの蜜を大切そうに受け取った。
「うん、じゃあ僕はお店のキャンディ食べながら待ってるから……あ、そうそう。キャンディを奢ってくれたクロちゃんへのお礼に、クロちゃんの分もそのロリポップお願い」
「あははっ、かしこまりましたー、なんだよ! 身長と同じくらいのおっきなロリポップなんて夢みたいだね、クロヴィス!」
「はは、まーな。お前ら人間サイズには出来ない、フェアリー様だけの特権だわ」
 妖精の身体からすれば一抱えもありそうなロリポップ。そこにしがみつく常連客の姿を想像したのか、おかしそうに兎耳を揺らしてクスクスと笑う。
 一方クロヴィスは、キャンディのお礼にキャンディとは、と肩をすくめながらも満更でもなさそうな反応を見せつつ、狐虎狼と共にもう暫く店内を物色しようと翅を羽ばたかせたところで――兎耳の店主が、工房に向かいかけた足をぴたりと止めて振り返る。
「あ、そうそう! お礼ってコトは、このロリポップの分のお代は――……」
「クロちゃんの奢りで」
「え、何で?????」
「はぁい、了解なんだよっ!」
「は????????」
 ――おかしなうさぎさんは元気に跳ねて、工房の奥へ消えてしまいましたとさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラニューイ・エタンスラント
……そうね、興味はないけれど。興味はないけれど!せっかくなのだしキャンディを見て回るのもよいかしらね?
そうね……色とりどりの小さなものがたくさん入っているのがいいかしら?なんだか、不思議で楽しそうだもの
……あら、グリモア猟兵のクロヴィス、だったかしら?
せっかくだし、オススメのものを教えなさい?


パーム・アンテルシオ
それじゃあ、せっかくだから。
オリジナルキャンディ、お願いしようかな。
あなたの、お任せで。
…なんて、無茶振りかな?

すぐには出来ないだろうし、その間…
お店の中。色んなキャンディ。
それに…この空間を前にした、皆の様子。
見せて貰おうかな。ふふふ。

クロヴィスも…あの様子だったし。来てると思うけど。
お得意様みたいな感じに見えたし…
何か、裏メニューとか知ってたりしないのかな。
ふふ。行きつけのお店。お得意様。特別メニュー。
楽しそうで。繋がりのある、人らしくて。
憧れるよね。

甘味は、人を狂わせる。
何より、私自身が知ってること。
他のもいくつか、買って帰ろうかな。ふふ。

それにしても…
…私もいつか、大きくなるのかなぁ…



 それじゃあせっかくだから、と懐からたっぷりと――鮮度の良い蜜の入った容器を取り出して、少しだけ考えるように、あるいは店主の動きを真似るかのように、ぴこん、と狐の耳を跳ねさせて。
「オリジナルキャンディ。あなたの、お任せで……なんて、無茶振りかな?」
 くす、と笑いながら首を傾げるパームの問いかけ。
 やっぱりその耳の動きを真似るように、おかしなうさぎさんは長ーい耳をぴこぴこぴこさせて、小さな鼻をひくひくとさせて、そして、ぴんっと耳を立たせて……ついでに胸元も、ゆさっとさせて。
 ――ほんの少し、そこに視線が行ってしまうのは。そして続けて、自分のなだらかな胸にもちらりと視線が行ってしまうのは……きっと、致し方のないことで。
「うーんうーん、うんっ、了解なんだよ! アナタにぴったりなキャンディ、作ってみるね! ちょっとだけ時間をもらうから、待っててほしいんだよ!」
 にっこり笑って蜜を受け取り、様々なキャンディの並ぶ店内へとパームの視線を促した。
 カラフルで、かわいくって、味も形も、大きさまでも様々なキャンディ。そしてそれを見て楽しそうに笑いあい楽しむ、共に迷宮を踏破した仲間たち。
 そしてその中には――……
「興味はないけれど……せっかくなのだから、少しくらいはキャンディを見て回るのも良いかしらね。 ……興味はないけれど!」
 揺れる果実は瑞々しく、なぜか少しだけぷりぷりと。
 2つに結われたボリュームたっぷりのツインテールは、色とりどりのキャンディに目を奪われる彼女の表情を少しだけ隠してくれていた。
 七色キャンディの詰まったガラスの小瓶は、まるで魔法の薬でも詰め込んだかのように不思議とキラキラ輝いて見える。瓶によって僅かに配色が異なるそれは、正しくどれもが一点物。
 棚の上にいくつも並ぶ小瓶から、ただひとつ自分だけの色を見つけようとしてしまうのは、――女の子ならば、きっと致し方のないことで。
 だから決して、少なくともこの店内には、キャンディに目を奪われる彼女を茶化す者など一人として居ないはずなのだが。
「いやどう見てもありゃ興味アリアリじゃねェか……なぁ?」
 茶化すつもりはなくとも、もう少し素直になればいいのに。そんなラニューイの姿を遠巻きに見ながら、呆れたように苦笑いを浮かべるグリモア猟兵。
 既に何本目かになるロリポップを咥えて店内を飛び回っていた矢先で目に飛び込んできたそんな光景、思わず傍にいたパームに同意を求めるようにクロヴィスは振り返り視線を送る。
「ふふ、甘味は人を狂わせてしまうから。……そんな状態の自分を見られたくないか、……認めたくないのかもしれないね」
 ほら、彼女プライド高そうじゃない、なんて尾を揺らして返してきた、見た目の年齢よりも随分と大人びた態度の妖狐に、そういうモンかね、とぐしゃり、調子を狂わされたように後頭部を乱して、――調子を取り戻すように整えて。
「ところで、……そういうお前は狂わなくっていいのか?」
「……ふふ、そうだね……毒にならない程度に、なら」
 甘い海に溺れ狂う快楽を知る妖精の、にやりと笑んだ誘惑に、パームもまた小さく笑って目を伏せて、どこか艶めかしく九尾を揺らめかせた。
 ほんのわずか、甘い店内に、沈黙が流れる。
 ――駆け引きとも呼べないほどの短い間を破ったのは、かつん、と響いたヒールの音。その出所であるラニューイは、そのままつかつかと2人の元へ歩み寄り、
「あら、あなた……確かグリモア猟兵の。……クロヴィス、だったかしら」
 とぼけたような、眠たげな瞳で四色翅の妖精を捉え、迷宮の中でぼんやりと思い出した名前をはっきりとさせて。その手にはあんなにも見つめていたキャンディの瓶がない――恐らくは決め切れなかったのだろう。
「あなたの頼みで迷宮へ行ってあげて、蜜ぷにたちを押しとどめて、元凶を始末して、それから此処まで来てあげたのだもの……オススメのものを教えなさい?」
「あ゛ー、それを言われると弱ェな……けど、いや、でも別に興味がないってンなら、この店にまで無理に来る必要は――……」
「良いから。早く教えなさい?」
「…………ったく、わぁったよ。ついでだ、お前も笑ってねぇで一緒に来い」
「ふふ。それじゃあ遠慮なく……行きつけの、あなただけの。特別な、とっておきのメニューがあったりするのかな」
 隣でくすくすと笑うパームを少しだけ恨めしくちらりと見て、猟兵たちを戦いの場へと導くはずのグリモア猟兵は、甘い園の、更にその奥へと導いていく。

「お待たせお待たせ、ピンクの妖狐の子はいるカナー? …っと、あれ、クロヴィスってばどしたのどしたの?」
「……あー、どーもそっちのお嬢さん、どれにするか決め切れなかったみたいでな、いつもの『アレ』出してやってくれ」
 ぴこぴこぴょんぴょん、可愛らしくラッピングされたキャンディを手に、ひょっこり店の奥から顔を出してきたおかしなうさぎ。後は頼んだ、とひらりと飛んでいくクロヴィスに、もうひとつ耳をぴこぴこぴこっ。
「全くクロヴィスってば勝手なんだからー……っとと、まずはお願いされてたキャンディを渡さなくっちゃだね!」
 はいどーぞ、と気を取り直したように元気よくパームに手渡されたのは、春めかしいミルキーピンクのロリポップが9本束ねられたキャンディブーケ。
「わぁ……私の色にそっくり。……9本なのは……ふふ、尻尾かな」
「あったりー! ストロベリーミルクに、ちょっとだけ桜の風味を足してみたんだよ! アナタの髪から桜の香りがしたから、もしかしたら好きなのカナーって」
 ブーケを受け取り目を細めたパームに、美味しく食べてね、と無邪気に店主は、笑いかけ、そのままラニューイにも目を向けて。
「ふっふっふー♪ もしかしてその様子だと、いろーんなキャンディがぜーんぶキラキラで、かわいくって、決め切れなかったって所カナー? じゃあじゃあ、そーんなアナタにはー……」
 くすくすぴこぴこ、楽し気に耳を揺らすうさぎの店主は、店の奥からガラスの容器をひとつ持ってきた。
 ――何の色もついていない、無色透明に透き通った、ガラス玉のような、水晶玉のような、まんまるいキャンディがたくさん詰まった小さな瓶。
「何の色もついてない……? いったい何味のキャンディなのかしら」
「ぜーんぶ同じ色に見えるけど、実はぜーんぶ違う味。ぜーんぶ透明に見えるけど、ぜーんぶ……ほら例えば、アナタの髪ならカシス色、妖狐のアナタの髪なら桜色になっちゃうの!」
 1粒小瓶から取り出して、得意げにラニューイやパームの髪に水晶玉を透かす。
「クロヴィスがお店に来たはいいケド決め切れなかった時、いっつもコレを買ってくんだよ! ふふ、今日は何の味に当たるカナー、なんて思いながら食べるの、とってもとっても楽しいんだから!」
 もちろん、どの味でもおいしいよ! とにっこり笑う店主に、ふぅん、と気のない返事を返しながらも、少女の細い指は店主から小瓶を受け取っていて。
 色とりどりに見せかけて、あちらの瓶には赤がない、こちらの瓶には青がない、そちらの瓶には、この何とも言えないニュアンスの美しい色が見当たらない……と、いくつもの瓶を見比べていた時間を思い出す。
「この瓶になら、……全部の色が入ってる、ということね」
 興味のなさそうな、鼻にかかったような、蕩け落ちるような。
 甘い魔法に溺れたような、その中で微かに息継ぎをするような。
 ――そんな吐息がもう一度だけ、ふぅん、と静かに零れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


はーぁ、終わった終わった
終わった後の飯がキャンディとはな
ま、いいや…クロヴィス、お前ここのヘビーユーザーなんだろ?
オススメ教えろよ。手ェ貸したんだからそれくらいはしろ

あーむっ……ぉー…これは…美味いな
…思い返せば、まともに飴を舐めたことなんて無かったか
こういう嗜好品の類は、中流以上が買うもんだった
ストリートのクソガキが買えるような金もないし、そもそも正規ID持ってない奴は殆どの店に入れやしねぇ


ま、そんな話はいい
もっとキャンディくれよ…ん?そうだよ、気に入ったのさ
あ、包んでもらっていいか?
知り合いの土産にしたい
ドライな傭兵、タフなサイボーグ…他にも大勢渡さないと
あぁ、後…ふてぶてしい従業員にも



 カラフルファンシー、ポップでメルヘンな店内に、凡そ似つかわしいとは言い難い音が響く。一仕事終えた腕の凝りをほぐすように。肩口から大きくぐるりと回す、そのたびに鳴る音は随分と無機質で――けれどその音の出所である、サイバネ化した腕――その持ち主である少年の吐き出す溜息には、随分と体温が籠っていて。
「はーぁ、終わった終わった。終わった後の飯がキャンディとはな」
「おー、お疲れお疲れ。いやー手伝ってくれてサンキュな、おかげでこうして店も無事で……って何だよ、キャンディじゃ不満か?」
 キャンディのようにカラフルな翅をひらめかせる常連客の存在も相まってか、幾分か店の雰囲気に馴染んだ少年、ヴィクティムは肩をすくめる。
「いーや、食えるモンなら何だっていいんだけどさ」
 ちらりと店内を見渡せば、あちらこちらにキャンディが並ぶ。
 むしろ店内には、キャンディしか並んでいない。
 味の種類はもちろん、サイズも大小さまざまに取り揃えられているとはいえ、腹を満たすには心もとなさげな――いかにも女が好きそうな、可愛い~とか言いそうな――ころりカラフル、可愛らしい見た目。
「……ま、いいや。クロヴィス、お前ここのヘビーユーザーなんだろ? オススメ教えろよ、手ェ貸したんだからそれくらいしろ」
「お、奢れとか言われンのかと思ったら。オーケー、そのくらいならお安い御用だ。教えたくなかったとはいえ、連れてきたからにはその魅力を知って帰ってもらわなくちゃな……おーい、『いつもの』、コイツに持ってきてくれ」
 口角を上げたクロヴィスは、休むことなく店内を駆けまわり猟兵たちにキャンディの説明をしていた店主に声を掛けた。
 フェアリーの声というものはやはりその身体に比例しているのか、加えて余り声を張り上げるようなタイプでもないクロヴィスの声を、しかし兎の長い耳はぴこんと容易く拾い上げ、常連客の隣に居たヴィクティムに笑いかける。
「はいはーいっ、そっちの男の子にカナー? ふふっ、クロヴィスのお願いならしょーがないなぁ、『あれ』を食べられるなんてちょっぴりラッキーなんだよ!」
「へぇ、レア物ってワケか」
「まーな。気ィ抜けちまうような相手でも手ェ抜かずに、きっちりやってくれたお前への、……そうさな、ご褒美ってトコだ。もちろん、味は保証するぜ」
 『お礼』という言葉を引っ込めて、即座に『褒美』と言い換えた大人げない大人は、ちょっとだけ得意げにウインクをするのだった。

「……ぉー……これは……」
 兎耳をぴこぴこと揺らしながら。
 ロリポップを煙草のように咥えながら。
 キマイラの店主とフェアリーのグリモア猟兵が、大きな口で『とっておき』をあむり、からころと舌で転がすヴィクティムの様子をじっと見守っていた。
 その空気に若干の居心地の悪さを感じながらも、少年は甘い唾液を飲み下す。
「……美味いな」
「っし! ……ったく、ソレを美味くねェって言われた暁にはどうしようかと思ったぜ、特にお前みてーなひねくれたガキは――」
「はいはいクロヴィス、そこまでそこまで! えへへ、蜜ぷにの蜜の中でもほーんのちょっとしか取れない、純度の高い蜜だけを使った特別なキャンディなんだよ。美味しいって言ってもらえて良かったぁ!」
 思わず拳を握ったクロヴィスと、そんなクロヴィスを諫めながらも嬉しそうに耳を揺らして安堵の笑みをこぼす店主に、ひねくれたガキ、と称された少年は暫し面食らう。
「んだよ、俺だって美味いモンは美味いってちゃんと――……あーでも、」
 再びのどことない居心地の悪さに頬を引っかきながらも、口の中で融けていく澄み切った甘さは、少年の過去を僅かに融かし、咥内に淡く滲ませるのを感じた。
「……思い返せば、まともに飴を舐めたことなんて無かったか」
「うわマジかよ、良く今まで生きて来れたなお前」
「あのな、お前と一緒にすんじゃねぇよクロヴィス。……こういう嗜好品の類は、中流以上の奴が買って楽しむもんだったし、ましてやストリートのガキには買えるような金もなけりゃ、そもそも正規ID持ってない奴は殆どの店に――……っと」
 右へ、左へ、飴を転がすように滑らかに舌が回る。
 それほどに滑らかに、鮮明に、かつての記憶が呼び起こされる。
 素で信じられねェという顔をしたフェアリーの男を思わず苦笑いで嗜めるその傍らで、しかし口の中は、甘く、甘く、――いよいよこの甘ったるい店内に、人間離れした風貌、そしてひねくれた性分が馴染んでいくのを感じていた。
 ――だからだろうか。
 少しだけ哀しそうな顔をしていた店主の顔や、しょんぼりと垂れた耳に気づいたのも、気づいてしまったのも。こんな甘ったるい場所と、こんな甘ったるいキャンディの仕業だったり、するのだろうか。
「……ま、こんな話はいいや。なぁ、まだこのキャンディあるか?」
 軽くかぶりを振って話を打ち切り、薄い肉付きの頬をキャンディで小さく膨らませたヴィクティムが問いかけると、しょんぼりとしていた耳はぴんっと立ち上がる。
「う、うん! クロヴィスが毎回買ってくから、在庫はまだ……」
「よっし、じゃあもっとくれ。あと包んでもらってもいいか? 知り合いの土産にしたい」
 ドライな傭兵に、タフなサイボーグ、何処か放っておけない少女へも、それから、それから――……次から次へと浮かぶ、この甘さを分け与えたいと思う人たちの顔。この甘さを口にしたら、どんな顔をするのか気になってしまう人たちの顔。
 きっと――……くふふ、と笑みを浮かべて、喜んでくれるだろう人の顔。
「あーあー、買いこんでくれやがって……よりによってお前が気に入るとはな」
「くく、そうだよ気に入った。知らなかったんなら覚えとけ、情報ってのはキャンディよりも宝石よりも、貴重で高価なモンなんだぜ」
「……っち、それに代えてでも守る必要があったんだからしょうがねェだろ……ん? おい、随分と可愛いラッピングだな?」
 「お待たせー!」と店の奥から出てきた店主の手には、丁寧にラッピングされたキャンディの小袋がたくさん。そしてその中のいくつかは、――いかにも女が好きそうな、可愛い~とか言いそうな――少しだけ特別なラッピングを施されたもの。
 クロヴィスの問いかけに、キマイラの店主はとびきりの笑顔を浮かべて答える。
「だってコレ、お得意さんにしか出してあげないような特別なキャンディだもん。それを誰かにもプレゼントしたい……ってコトはきっと、キミにとっても特別な人へのプレゼントになるんじゃないカナーって! ……あっ、えとえと、ち、違ったらごめんね?」
 ぴこぴこっと絶えず動く耳は、嬉しそうに、楽しそうに、慌てたように。
 相変わらず分かりやすい店主は、でも、とそんな耳の動きをピタリと止めて。
「甘いものには、人を笑顔にできちゃう魔法があるんだよ。だからね、キミが笑顔にしてあげたい、幸せにしてあげたい人に、渡してくれたら嬉しいな!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

街風・杏花


うふ、うふふ
ひとまずキャンディ、作るとしましょ
お菓子作りは、人並みに。蜜は集めていないのですけど、そこは分けて頂くとして
シンプルに溶かして固めて、べっこう飴風にでも
蜜の甘味を楽しむなら、それだけで

そうして、味見がてら飴を一つ咥えて目を細めたら――ご挨拶
ごきげんよう、クロヴィスさん。
うふ、うふふ。頭を下げられた時は、びっくりしましたけれど。
こんな素敵なお店がお好きなら、しょうがないですね。

あら、あら、からかってなどおりませんとも
飴作りも楽しんでおりますし。良ければお一ついかがです?
味には自信ありですよ。実は、うちの母の故郷には、大人の女は皆、袋に入れた飴を持ち歩く風習がありまして――。


ファラーシャ・ラズワード


さて……それじゃあ、フェアリーランドに詰め込めるだけ詰め込んだ蜜を使ってお願いできるかしら。可愛らしい、うさぎさん?

フェアリーサイズの小さな飴玉。
ヒトにはとってもとっても小さいけれど。
頬張ると、幸せになれる楽しめる。そんな素敵な飴玉を。

っと、作ってる間、シャワーを貸してもらえるかしら。
蜜を全身に浴びて、ね……




さて、1人ですねてるのかしら。それとも、誰か相手してくれてるのかしらね。

してなかったら、仕方ないわね。フェアリー用の飴なんて、あんまりないかし、アレだけの量だもの。少し幸せのおすそ分けといきますか。
(誰も行ってない場合クロヴィスに声掛けを)
(誰か行っていたらなしでも構いません)



 とろーり、ふつふつ。甘い泡が膨らんでは消えて、消えては膨らむ。
 最初はぱちんと弾けていた飴の膜も、熱されるうちに段々と粘り気を増し、より香ばしく、より甘ったるく、ともすれば酔いしれてしまいそうな程に幸せな香りを、キャンディショップの奥に充たしていく。
「うふ、うふふ…シンプルに素材の…蜜そのものの味を楽しむのなら、これで充分……いえ、これが一番でしょうね、えぇ」
 その腕には自信があるのだろうか、杏花は満足気に頷きながら、可愛らしいピンクのミトンを嵌めた手で、煮立った飴をゆっくりと火からおろす。
 ――さて、そこからはスピード勝負。さっとミトンを外したかと思えば握ったのはロリポップ用の細いスティック、とろとろの熱々に煮詰まった飴が完全に冷えて固まってしまう前に、手早くクルリと絡めとるや否や、次々に空き瓶に挿していく様は、まるで花器に花でも生けるかのような鮮やかな手つき。
 あれも食べたい、これも買いたいと工房の外から聞こえてくる賑やかな声をBGMに、店主に工房の一角を借りた彼女は、八つ時の準備をするメイドよろしくキャンディ……もとい、べっこう飴づくりに精を出していた。
 やがて、あんなにとろとろだった飴が、透き通る琥珀石のように固まった所を1本摘まみ、
「これは……これはこれは、うふ、うふふ。我ながら、えぇ、我ながらなかなか、上手に出来たのではないでしょうか」
 うっかり落ちないように頬を抑えて、強大な敵を前にして昂る乙女のように、甘やかな夢に浸る乙女のように、杏花はうっとりと赤い目を細める。
 さて、それではご挨拶に――……とべっこう飴を生けたキャニスターを手に工房を出ようとした所へ、べっこう飴とはまた別の甘い香りがふわり、ひらり。
「あら、あら、あら……そちらから出向いてくださるだなんて。うふ、うふふ、ごきげんよう、クロヴィスさん――と、甘い香りの、そちらのお方は?」
「おう、さすがは屋敷勤めのメイドともくりゃ、いいモン作ってンじゃねぇか……ん? そちらの……?」
「わたくしはファラーシャ……ごきげんよう、メイドさん」
 杏花の問いかけに思い当たる所がないのだろう、きょとんとした4色の鮮やかな翅を持つフェアリーの男――の、背後から、すいっと顔を出したもう1人のフェアリー、ファラーシャは小さく会釈する。
 元より艶のある彼女の藍色の髪は、しっとりと濡れて、より艶やかに揺れ――……いや、濡れているからだけではない。
 仄かに甘い香りの残る彼女の髪は、否、髪どころか全長25cmにも満たないその小さな身体は、悲しいかな、つい先ほどまで蜜ぷにの蜜で、かなり、だいぶ、べっとりしていた。彼女の身に何があったのかは1章を読んでね☆
 ともあれそんな苦労の末に採集し、フェアリーランドに格納していた蜜を持ち込んだ彼女は、キマイラの店主に蜜の加工を依頼すると同時に、そのままシャワールームへと直行していた。
 するとどうだろう、マシュマロのような泡立ちのシャンプーを洗い流しても尚、仄かに甘く香る髪は、タオルドライをしただけだというのにうるつやサラサラ、誰もが振り向き嫉妬するキューティクルヘアになっていた!!
 ……そんなわけで図らずも贅沢な蜜ぷにヘアパックを経たファラーシャはちょっとばかり機嫌が良くなり(大抵の女の子という生き物は、自身の容姿がうまく決まっただけで、その日1日をご機嫌に過ごせるものなのだ。尚、逆もまた然り)、飴の煮える匂いに誘われてふらふらと工房へ引き寄せられていくクロヴィスを見つけ、こっそりひらひらその後を着けてきていたという訳だ。
「1人でさみしく拗ねてるのかしら、なんて思っていたけれど……どうやらその心配はなかったみたいね」
 幸せのお裾分けでもしようと思ったのだけれど、と、親しげにグリモア猟兵に声をかけた杏花と、その手にあるべっこう飴を一瞥して、ふい、と顔を逸らすファラーシャ。そんな微細な動きでも、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「え、あ、ぁー……? …まぁ、おかげさまで?」
 煮詰めたべっこう飴も、元はファラーシャの洗い流した蜜と同じものだというのに、――そのどちらも甘く幸せを運ぶ香りには違いないが、いやはやこうも香りが違うものか、とどこか暢気なことを考えていたクロヴィスは、いまいち煮えきらない返事を返した。
 すると間髪入れずに彼を嗜める声が、杏花から、
「まぁ、まぁ、いけませんわクロヴィスさん! 彼女のお優しい心遣いを、殿方であるあなたがそんな風にあしらっては!」
「もーっ、そーだよクロヴィスぅ! せっかくファラーシャが、クロヴィスにもキャンディ分けてくれようとしてたのに!」
 ――そして、工房内にある別の作業台で黙々と作業をしていた、恐らくはそれなりの付き合いの、兎耳の店主からも。
 突然の女性陣からの袋叩きに、え、と思わず面食らっているクロヴィスからもぷいっと顔を背けたファラーシャは、想定外に事が大きくなってしまったのだろうか、何やらもごもごと小さな声で。
「う……別に、心遣いなんて……それにキャンディだって、集めた蜜の量が多くて、わたくしだけでは食べきれないからと、仕方なく……」
 ほら、フェアリーサイズのキャンディなんて、なかなか無いでしょうし。それに、そう、フェアリーランドに詰め込めるだけ詰め込んだ蜜は、かなりの量だったし。
 ――何よりわたくしは、幸せを運ぶ青い蝶だから。ほんの少しだけ、彼にも幸せのお裾分けをしてあげてもいいかな、と思っただけであって。
 だんだんと居た堪れない気持ちにすらなってきたファラーシャに、構わず兎の店主はファラーシャの言葉を繋ぐように、今しがた制作を終えたばかりの特注キャンディを手に、じゃじゃーん、と楽しげな効果音付きでファラーシャの元へ。
「そうだよ、ファラーシャの集めてきてくれた蜜がたくさんあったから、こーんなにたくさんできたの! はい、お待たせしました、なんだよ!」
 ほら! と元気よく長い耳を揺らして差し出されたフェアリーサイズのカラフルなキャンディは、数粒ずつ透明な袋に小分けされて、また店主の言葉通り、その小分け袋は彼女の手のひらの上に数十袋――もちろんその袋でさえも、店主や杏花の人間サイズの手のひらでは、指先でそっと摘まみ上げるようなミニチュアサイズなのだけれど。
 とはいえ、小さいからと侮るなかれ。大きなロリポップにかじりつくのも、大きな飴玉一粒抱きかかえるのも、小さなロリポップを常に咥えているのも、色んな味の小さな飴玉を次から次へと食べるのも。
 そのどれもが、ハッピーでラッキーな気持ちになれる不思議な魔法に変わりない。
「ほー、確かにこりゃたくさん……何、オレにくれンの?」
「……ちょっと。わたくしはまだ何も言っていないのだけれど」
 そんな店主やファラーシャたちの会話に一先ずの顛末を察したクロヴィスは、無遠慮に店主の手のひらに降り立った。……比較的いつものことなのだろう、店主はさして気にした様子もないようだった。
 そして眉を顰めたファラーシャの不服そうな声にもお構いなしに、がさ、と出来立てのハッピーでラッキーなキャンディが詰まった袋を拾い上げ、さっそく1つ頂こうと味を物色する。――こんなに小さな袋でも、フェアリーである彼が持てば手のひらにちょうど収まるサイズ。
「あら、あら、とっても可愛らしいサイズですこと。……うふ、うふふ。急に頭を下げられた時は、びっくりしましたけれど……」
 そんな2人の間を取り持つようにか、それともただの本心か。
 キマイラの少女の手のひらにちょこんと立って、小さな小さなキャンディの袋に見入るフェアリーの姿に、思わず口元を隠して杏花が笑う。
「こんなに可愛らしいキャンディまで作ってくださるような、素敵なお店ですもの。可愛らしいサイズのクロヴィスさんがお好きになってしまうのも、しょうがないですね?」
「…………からかってンな?」
 好きでこのサイズじゃねーよ、と、これでも立派な成人男性のフェアリーがじとりと睨む。とはいえ、比較的小柄な杏花からでさえも、身長30cm強の彼はやはり小さい。加えてそんな仕草に委縮するような性格でもなければ、彼女は尚もくすくすと笑うばかり。
「あら、あら、からかってなどおりませんとも。この通り、飴作りも楽しませてもらいましたし……気の利いたサイズではないかもしれませんが、良ければおひとつ、いかがです?」
 ――味には自信ありですよ。
 そう言って杏花は、ガラス瓶から2本、琥珀色のロリポップを――少しだけ小さめのものを選び、2人のフェアリーに差し出した。
「あら……わたくしにも頂けるの?」
「ち……まぁ、アンタの作る菓子がはずれねェのは知ってるからな」
 ひらり、と杏花の元へ舞い飛んで。とん、と店主の手の平から飛び上がって。
 美しく青い蝶の翅、鮮やかな4色1対の翅、2人のフェアリーがそれぞれ抱きかかえるようにロリポップの棒を持てば、片や黄金の魔石をあしらったロッドのようで、片や琥珀石を削ったランスのようで。
 それはまるでお菓子の城を守る小さな傭兵の如きメルヘンな光景。
「ん…ぁむ…………んーっ、あまーい…!」
「……っあー、うっま…! ちょっとこれ、今度屋敷でも作ってくれよ!」
 ましてやそのまま甘い武器に舌を伸ばし、先ほどまでの仏頂面や不機嫌な素振りはどこへやら、甘い幸せに翅を震わせはしゃぐ姿は、ファラーシャ、クロヴィス共にそれぞれ成人済みであることを忘れてしまうほどに、愛らしいことこの上ない。
「まぁ、まぁ、……うふふ、ふふ。ほら、やっぱり可愛らしいじゃありませんか」
 ねぇ?と思わず傍らにいた兎耳の店主に視線を送れば、――大きな飴にかぶりつくフェアリーの姿を見慣れているはずの彼女もまた、くすくすと笑いながら、長い耳を揺らし、大きく頷き同調の意を示す。
 杏花らにとっては小さな飴でも、フェアリーの彼らにとっては特大の甘い宝石。
 かじるにも融かすにも時間がかかるが、――しかしてそれも、出来立ての飴に舌鼓を打つ、そして見てて飽きの来ない妖精たちの様子を眺める、幸せな時間であることに変わりない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
ごめんなさいね、これだけの量しか獲れなかったの。

そう言って店主へと差し出した蜜の量はほんの僅か。
雪うさぎとの戦いで協力してくれた子達が、これはお礼ぷに!なんて差し出してきたもの。

今回の戦いで、自信を持って提供できる、戦果。
最初に集めた蜜は……さぁ、どこへやってしまったかしら。


当然、そんな僅かな蜜では精製される飴玉はほんの数粒。
可愛らしくパッケージングされたそれを一息に食べるのも、なんだか勿体ない――と思っていた所に丁度よく、通りがかってくれたのは。

……あぁ、クロヴィス、丁度よかった。
一緒におひとつ、いかが?

飴をつまみながら、彼が予知した物語の顛末を報告がてらに語るのは、きっと悪くない時間――。



 思い思いの容器をたっぷりの甘い蜜で満たし、中にはユーベルコードまで駆使して大量の蜜を運び込み、オリジナルのキャンディを依頼したり、作ったり。兎耳の少女のキャンディ工房は書き入れ時でもないのに大忙しのフル回転、嬉しい悲鳴をあげながらも、次々と出来上がったキャンディを手渡しては、幸せな笑顔を受け取っていた兎耳の店主を呼び止める、澄ました声。
「はいはーい! オリジナルキャンディのご注文カナー?」
 さてさて次の依頼は、と元気よく顔を上げた先、そのまんまるいイチゴキャンディのようなピンクの瞳に映ったのは、ストロベリーミルクからローズジャムへ、ゆるやかに波打つ甘い海――……ではなく、髪を持つ、凛とした佇まいの令嬢。
 その手には、片手に収まるほどの華奢な香水瓶。
 繊細なガラスの中で揺蕩うノートはもちろん、とろりと甘い。
「……ごめんなさいね、これだけの量しか獲れなかったの」
 ――その言葉とは裏腹に、眉尻を下げるでもなければ、目を伏せるでもなく。
 背筋を伸ばして胸を張り、真っ直ぐに店主を見つめるミーユイの瞳は、むしろどこか誇らしげなものだった。
 その小さなガラス瓶に閉じ込められた蜜に、一体どんな物語が秘められているのか。無論、兎耳をぴこぴこと揺らす店主は知る由もない。
 けれども蜜を持ってこの工房を訪れたのなら、いや、ここCandyRainの玄関をくぐったのなら。
 兎耳の少女には、等しく幸せの甘い魔法をかける使命がある。
 そしてツンと澄ました少女には、幸せの甘い魔法にかかる権利がある。
 今日という1日だけでどれほどのオリジナルキャンディを作ってきただろう。恐らくは彼女が、今日の最後のお客さん。
「あははっ、だーいじょうぶだいじょうぶ! これだけあるなら、とっておきのキャンディを作ってあげるんだよぅ!」
 屈託のない満面の笑顔でガラス瓶を受け取ったキマイラの少女は、ご機嫌にぴこぴこっと耳を揺らして、不思議な歌を口ずさむ。
 ――雲ひとつない青空に、キャンディレインを降らしましょ。
 ――でもでも雨雲がないところに、雨が降るはずないじゃない。
 ―――――――――それなら。

『ぷにぷにー! なかなかの歌声だったぷにっ! 生き返らせてくれてありがとぷに、またこうやってぷにぷにできて幸せぷに! これはそのお礼ぷに!』
 雪うさぎリーダーの足元に空しく転がっていた冷凍蜜ぷに達への、懺悔にも似た祝福の歌。そんな再びの生をもたらした奇跡の歌を、無邪気に称え歓ぶ彼らから手渡されたのは、ほんのわずかな糖蜜。
 オブリビオンと分かりあうこと。分かりあおうとすることは、難しいのだとしても、無為なことなのかもしれなくても。悪意なき称賛を、そしてそこに支払われた対価を突き返す理由など、どこにもない。
 転移されたその先で、大量の蜜ぷにを夜の歌で圧し潰し、弾けさせ、なみなみと手に入れたはずの大量の蜜は……さて、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
 尤も、戦場を共にしていた猟兵たちも、せっせと飴をこしらえる兎の店主も、彼女に蜜を分け与えた蜜ぷにたちでさえ、それを知る必要などないし、知ることに何ら意味も持たない。――で、あれば。
「…………」
 何やら不思議な歌を歌いながら工房へと消えていった店主の背を見送り、店内を見て回ろうにもキャンディの出来上がりが気になってしまって集中できず、なんとなく店内を見渡しながらも、結局手持無沙汰のまま工房の入口付近で佇んでいる彼女に話すつもりがないのなら、特に語られるべき内容でもないのだろう。
 ――幸い、そんなそわそわと落ち着かない時間はそう長く続かなかったのだから、少なくとも今日のうちに語られることはなさそうだ。
「はぁいお待たせーっ! 出来立てのほやほやなんだよ!」
 可愛らしいラッピングを手に元気よく工房から出てくる店主の声。
 甘い香りを全身に纏った彼女からミーユイに手渡されたのは、からっぽになった香水瓶と、その香水瓶よりもずっと大きく膨れた、ほんのり温かいピンクの包み。
 蜜はこの香水瓶一本分しかなかったはずなのにどういう事なのだろう。あまりに少ないからおまけしてくれたとか?
 いや、それにしては――……
「…………?」
 随分と、ピンクの包みには重さがない。
 本当に中身が入っているのかしら? とでも言いたげな顔で、手渡された包みの重さを確かめようとする手の動きに、くすくすとおかしそうに店主は笑う。
「ふっふっふー、我ながらなかなかの自信作ができちゃったんだよ! でもでも1つだけ注意点! 普通のキャンディは何日かもつんだケド、そのキャンディだけは今日中に食べてもらわなくっちゃなの……っとと、はいはーい御用は何カナー?」
 ご了承くださいなんだよ、と耳を揺らしたおかしなうさぎは大忙し。おすすめのキャンディを教えて欲しいと彼女を呼ぶ声に、ぴょんこぴょんこと行ってしまった。
「今日中に……なら、今食べるのだって問題ないわよね」
 誰にともなくぽつりと呟いたその声は、賑やかな店内に紛れ込んだ。
 疲れたときには甘い物。
 どこぞのフェアリーほどではなくとも、甘いキャンディに顔をほころばせる喜びは知っている。ましてやオブリビオンとの交戦を繰り返した迷宮帰りの身、そんな幸せに手を伸ばすくらい、与えられて当然の権利だろう――なんて己に言い聞かせながらも、実のところ気になっているのは、キャンディの味よりもその中身。
 まるで綿でも詰め込んだかのように膨らんでおきながら、まるで雲を手にしているかのように重さを感じない。――この店内に所狭しと並んでいるような飴玉が入っているとは、とてもじゃないが思えない。
 しゅるりとサテンのリボンを解き、包みの口をそっと広げる。恐る恐る覗き込んだ彼女の瞳に飛び込んできたのは――……
「あら……これは………」
「おー? ……へぇ、綿飴じゃねェか、アイツこんなんも作れたんだな」
 覚えのある見た目、感触、重み、……そして、甘い香り。
 ところどころにキラキラと散りばめられたカラフルな金平糖は、本日最後のお客さんに、店主からのちょっとしたプレゼント。
 とある国の、祭りの夜。慣れぬ騒がしさの中を妖精に導かれ、初めて目にしたあの時と同じ、ふわふわの雲のような不思議な飴が、ピンク色の包みの中いっぱいに詰め込まれ――……ているのを覗き込む、見るも鮮やか、4色の翅。手札のように右目を隠し、尻尾のように結ばれた長い銀髪。ぴこぴこと薄い唇で弄ぶのは、煙草ではなくロリポップ。
 心なしか弾んだ声なのは、恐らくは彼の大好物であるが故か――……なんて、思ってしまいながらも、無遠慮に包みを覗き込んでくるグリモア猟兵から、ひょい、とピンクの包みを遠ざけるご令嬢は、遠のいた綿飴に「あっ……」という顔をした男へと、呆れた眼差しを向けながら肩をすくめて。
「……全く、お行儀の悪いったら」
「良かった所を見たことがあンのか?」
 開き直った様子のフェアリーは、棒付キャンディをちゅぽんと引き抜き、べ、と小さく舌を出す。――ミーユイたちの協力なくしては、たった今買った傍から食べているそのキャンディも味わえなかったのだが。
 深々と頭を下げた時のことなど忘れてしまったのだろうか。
 それとも彼はギャンブラー、あれもブラフだったりするのだろうか。
 ――随分と珍しい態度をとったものだから、いまいち気が進まない中でも、彼のグリモアの光を浴びたというのに。
 何か言いたげな顔のミーユイの眼前に、口元に笑みを浮かべたクロヴィスが、すい、と飛び上がる。そしてまるで猫をじゃらすように、あるいは魔法の杖でも振るかのように手首のスナップを利かせながらフェアリーサイズのロリポップを揺らして。
「このオレでも食ったことないンだぜ、この店の綿飴なんて」
「……そ。 ……それで?」
 何が言いたいのかしら、と。
 未だ、綿飴の詰まったピンクの包みはミーユイの頭上に掲げられたまま。その鮮やかな翅をはためかせれば簡単に届いてしまう高さに、しかしミーユイと目を合わせたまま、フェアリーは「お預け」を受け容れている。
「つまり、今アンタが持ってるソイツは、この店がオブリビオンに襲われてりゃ、オレどころか世界中のヤツが一生食えなかったかもしれねェ味ってワケだ」
「大袈裟に言えば、分けてもらえるとでも?」
「…………だからさ、ありがとな」
「え……?」
「……一回で聞き取れ。歌を武器にするアンタが、耳悪いワケねェだろ」
 ――いつのまにか、手札は裏返されてしまった。
 ロリポップを咥え直したその表情は、確かに視線を合わせているはずなのに、明後日の方向に紫煙を吐き出すかのように、燻る煙の向こう側に霞んでいるかのように、見えなくて、読めなくて。
 ――けれど、彼の言う通り、ミーユイは一言たりとも聞き逃していなかった。
 そして、二度目を言ってくれないということは、……きっと。
 裏返された手札が透けて見える事など決してなく。
 まして賭博師の彼の表情は、ヒントのひとつも与えてくれない。
 けれど、正しい一枚を選び取った確信が胸に宿る。
 あとは、そっとカードを引き抜くだけだ。

「…………ひとくちだけなら」
「お……?」
「……一回で聞き取りなさいな。あぁ、それとも聴覚まで六分の一なのかしら」
 意趣返しとばかりに返したその言葉とは裏腹に、わずかに喜色を帯びた声。
 ゆるゆると頭上に掲げていた腕を下ろせば、長い長いお預けを経て、ピンクの包みいっぱいに詰め込まれた、金平糖入りの綿飴が――……キャンディレインを蓄えた甘雲が、ゆっくりゆっくりと降りてくる。
 ――まぁ、筋金入りの甘党妖精が超絶ひいきにしているキャンディショップの激レア限定品を前に、果たして一口で満足したかどうかは、また別のお話として。

 ミーユイの勝ち得た、ごくごく微量の、誇り高き戦果。
 しかしてそれは間違いなく、極上の甘いひとときをもたらしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月28日


挿絵イラスト