暗い夜空に、大輪の花が咲く。
ドォン、ドォン……。
低い音が響くと同時、微かな振動が観覧者達の身体を揺らす。円形に広がる火花が幾重にも夜空を彩り、集まった人々の顔を赤に、青へと染め変えていった。
やや離れた位置、神社の境内の方向からは、風が、祭囃子と集った人々の喧騒を運んでくる。
それは賑やかで穏やかな、サムライエンパイアの祭りの夜の風景。
だが、平和な日常を謳歌する人々の中に、異物が紛れ込んでいた。
「ア……アァ……」
その男は夜空を覆う花火を眺めているように見える。
だが男の血走り濁った目は、限界まで見開かれているにも関わらずなにも映してはいない。目と同様に口は開かれており、顔色は青白い。
まるで末期の重病患者であるかのようなその男の異常な風体に、周囲の人々は気付かない。
花火と人混みの喧騒があるから、ばかりではない。人々はその姿を目の当たりにしようとも、なんら違和感を覚えてはいないのだ。
ドンッ。
今も一人、やってきた青年が男にぶつかった。
「おっと、すまねぇ」
青年は男の顔を見、苦笑いを浮かべ、
――そして、片手を上げて通り過ぎて行った。確実に男の姿を確認しているのにも関わらず、その様子にいささかの疑念を持つことも無く。
しばらく後。
男は花火に背を向け、その場を後にする。ゆらゆらと、幽鬼のように身体を揺らしながら。
途中から道を外れ草むらに分け入り、闇の中に姿が消えていく。
それに注意を向ける者は、最後まで、誰一人としていなかった。
「……その男の人は、もう助ける事はできないかもしれません」
神妙な面持ちで告げると、グリモア猟兵ティアラ・パリュールはぎゅっとその小さな手を握りしめ、青い瞳を伏せる。
「でも、これ以上の被害を防ぐことはできます。そこで、今回はみなさんにサムライエンパイアに向かって欲しいんです。最終目標は、この怪異を引き起こしているオブリビオンを倒すことなんですけど、そのためには、敵の居る場所を突き止めなくちゃいけません」
そこで、まず猟兵達には会場の神社へと向かい、祭りに参加して欲しいのだという。
「そのオブリビオンは、『常世神『トコヨノカミ』』といいます。常世神は、花火を見ている人に幻覚を見せて欲望をかきたてます。そして、一定以上の欲望を持っている人を見つけると、その人を自分の領域へと呼び寄せ……」
その身を喰らい腹を満たし、欲望に染まった魂を吸収してさらに成長するのだと、ティアラは告げる。
「強引な調査をして、騒ぎでも起こしてお祭りが中止されちゃうと、常世神を倒すにはまた次の機会を待たないといけません。そうなると、また犠牲者が増えてしまいます。だから皆さんには、ふつうにお祭りを楽しんで頂いた上で花火を見て、常世神の『招待』を受けて欲しいんです」
一定以上の強い欲望を見せた者を、常世神は自分の領域へと招き寄せる。常世神の領域は強力な結界に守られており、例え猟兵であっても招待を受けなければ踏み込むことは難しい。
「でもでも、誰かおひとりでも踏み込むことができれば、しばらくの間はわたしが直接皆さんを、領域の中へ送り届ける事ができるようになるんです。そうなればオブリビオンがいくら強くっても、きっと倒すことができます!」
そう、強い確信をもってティアラは一行の顔を見回した。
「それから、領域の中にはすでに食べられちゃった人たちの残りかす……というのは失礼かもしれませんけど、なごりが残っています。それは、強い感情をもつみなさんを見つけると、襲い掛かってくるはずです。常世神の元へたどりつくには、それも倒さないといけません」
なに、そのくらいは簡単だろう? とばかりに、ティアラの肩に乗っていたふくろう型ガジェット、フクちゃんが片目を閉じた。
「あ、あはは……えっと、それじゃ、今回もよろしくお願いします。皆さんなら、きっとできますから!」
いつものように、ティアラは帽子を取り、笑顔でお辞儀をして。
いつものように、信頼する仲間たちを送り出す。
第六封筒
はじめまして、あるいはまたお会いできて光栄です。
第六封筒と申します。
今回は、サムライエンパイアで起こった事件の解決をお願いします。
第1章では祭りへと参加し、敵オブリビオンからの『招待』を受けて頂きます。
祭りの舞台は神社とその周辺。神社の参道には様々な種類の、無数の屋台が出ていますので、そこでなにか食べたり、ゲームで遊んだりすることが出来ます。
プレイングにはどのように祭りへと参加するかと、花火を見てあなたが抱く欲望について、またその欲望にどのように抗うか(欲望に囚われ切ってしまうと、敵に意識を操作されてしまいます)の記載をお願いできればと思います。
祭りを楽しんで頂いてもいいですし、周辺への注意を向け、招待された一般人を助けたり、独自に敵領域の場所の調査をして頂く事も可能ではありますが、招待を受けない限り、領域へ踏み込むことが難しい点にはご留意を。
第2章では招待を受けて敵の『領域』へと踏み込み、その中に漂う『残滓』 を蹴散らして進んでください。
残滓は直接的には常世神の手下というわけではありませんが、強い思いを持つ者を殺して取り込もうとしてきます。
猟兵からすればさほどの強敵ではありませんが、油断は禁物です。
第3章は敵オブリビオン『常世神『トコヨノカミ』』との対決です。
常世神は女性の死体と様々な蟲の魂が融合した巨体の邪神です。
神社に祭られている神とは別の存在ですので、遠慮なく倒してしまってかまいません。
とはいえ、強力なオブリビオンです。十分にご注意ください。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
第1章 冒険
『祭りに影』
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POW : 屋台を愉しみながら周囲を警戒する
SPD : 祭りの催しを愉しみながら周囲を警戒する
WIZ : 人と話したり、物思いにふけながら周囲を警戒する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
雨宮・いつき
美しく情緒のある情景を人に仇成すために用いるだなんて…
全くもって風情がありませんし、到底許される事ではありません
必ずや悪しき神を調伏致しましょう
敵の術を受けるためには、出来るだけ自然体でいた方がいいのでしょう
屋台で金魚の細工飴を購入して、味わいながら花火を眺める事にします
…ふふ、実は細工飴って買った事なかったんですよね
僕が願う欲望は…
故郷で、遠く離れた人里で打ち上がる花火を皆で眺めたあの時のような平穏
願わくば、ずっとそのような平穏へ身を委ねていたい
…けれど
自分の着ている装束を見て、果たすべき使命を思い返してその欲望に抗います
僕は人の世の為に生きる者
安寧だけを貪る事など、あってはならないのです
久条・逢魔
祭りにある出店を巡りながら、不審な点がないか調査するよ。
もちろんお祭りなので食べ歩きをして、屋台のおじさんにどういうお祭りなのか聞けたら聞きたいかな。
「あ、おっちゃん焼きそば一つ頂戴!」
「このお祭りすごく賑わってるねぇー、どういうお祭りなのかな?」
花火が始まれば楽しそうに見上げるだろうね。もちろん、今回の事もあるから気をしっかり持つとして!
無意識の欲望
【全てのものが終焉の時に、何をするのか、何が起きるのか、失われていく様を見たい】
抵抗
【そんな事をしても、隣には誰もいない。一人きりは寂しいし、先に広がるものが無いなんてつまらない】
*アドリブ可
逢坂・理彦
花火に欲望が反応か…俺も流石に欲はないとは
いいきれないけど。俺の欲は…今、大事に思う人と一緒に居たいっていうそうゆうので…あぁ、でも一度全部を失った俺にはそれはとっても…強欲な願いだろうか?
それならそうでないと否定するためにも抗うしかないだろう。
さて、お祭りを歩きながら【第六感】や【聞き耳】で様子を探ろうか。
欲なんて人それぞれだからねぇ、老いも若きも男も女もどんな人だってもってる。金に愛情なんてのは特にそういうのを招きやすい。そういう人はいるかな?
アドリブ連携歓迎です。
祭りにやってきた人々で混雑する、神社の参道。
左右には所狭しと、お好み焼きやたこ焼きといった粉ものから、イカ焼きにとうもろこし、果てはわたあめ、チョコバナナといった甘味まで、無数の屋台がひしめいている。
もちろん、消え物だけではない。射的、型抜き、金魚すくいといった遊戯、お面や水風船といった玩具まで……その種類は多岐に渡った。
そこに、三人の猟兵がやってきた。二人は妖狐、一人は人間だ。
「あ、おっちゃん焼きそば一つ頂戴!」
ソースの香りに誘われて、まず屋台に駆け寄ったのは久条・逢魔だった。
「遊びに来たんじゃないんですよ……」
そう言って、片手を伸ばして逢魔を引きとめかけたのは、小柄な体躯の妖狐の少年、雨宮・いつきだ。
「まあ、いいじゃないか。今回は楽しむことも仕事のうちだろう。そうだ、よかったらおじさんが奢ってあげよう」
対照的な長身。煙管を片手に――勿論、この人混みにあって火は付けていない――飄々とした態度で悠然と歩くのは、こちらも妖狐の逢坂・理彦である。
(そうですね。敵の術を受けるためには、出来るだけ自然体でいた方がいいのでしょう。それなら……理彦さんの言う通り、楽しむ事も仕事のうち、ですよね?)
いつきは内心で考えながら、そうですね、と一言だけ発して理彦に頷いた。
「このお祭りすごく賑わってるねぇー、どういうお祭りなのかな?」
出来上がった焼きそばを受け取りつつ、逢魔が店主に声をかける。
「兄さん、ここの祭りははじめてかい? ……昔この辺りにはお優しい龍神様がいらしてな、ずっと住民と共存してたんだ。ところがある日、龍神様はとある娘に恋をした。龍神様と娘は恋仲になったんだが、娘は人間。当然、百年も経たないうちに、お迎えが来ちまった。龍神様は悲しみの余り、力を制御できなくなってな、大雨が続いて周辺地域を水浸しにしちまった。だから龍神様は、自らの力を封じるために、長い眠りについた。これ以上、住民たちに迷惑がかかるよりは、ってな。……で、だ。今日が娘の命日だと言われてるんだな。その日に、龍神様を慰めるため若い娘たちは舞いを奉納する。その他、俺達住民は、龍神様に俺たちは元気ですよって姿を見せるのさ。それが、この『龍神祭』ってワケだ」
店主は手を止めず、手際よく焼きそばを作り続けながら逢魔に語った。
「だからよ、存分に楽しんで、騒いでいってくれ。……ほらよ、サービスだ。もっていきな」
「そういうことなら、遠慮なく……頂きます。ありがとう!」
店主が差し出したもう一人前の焼きそばを、逢魔は礼を言って受け取り、二人のところへと戻る。
「これ、食べる?」
そしていつきに向かって焼きそばを差し出すのだった。
「え、いいんですか?」
いつきは目をぱちくりとさせつつ受け取り。
「ありがとうございます」
そのぬくもりは、まるでこの地の住民達の心の温かさのようで。
この地で狼藉を働く悪しき神を、本来の守り神である優しき龍神になりかわり調伏するのだと、いつきは心の中で再び決意を固めたのだった。
参道を三人並ぶようにして進んでいく。
逢魔があちこちの屋台に興味をもって首を突っ込み、それについていった理彦が冷やかして回る、というのが、基本の構図となった。
賑やかさを好む理彦にとっては、それは居心地のいい場所で、心和む時間だ。
「あ……」
そうしてもう少しで参道の端に到達しようかというころ、それまでほとんど二人の後をついて歩くだけだったいつきが、ふと一つの屋台に目を留めて立ち止まる。
「ん、どうした?」
急に立ち止まったのをいぶかしみ、なにか怪しげな物でもみつけたのかと、思わず理彦の手が腰の妖刀に伸びかける。
「……へぇ、飴細工かな?」
そこは一件の飴細工の屋台だった。
逢魔がその視線の先を追い、先んじてその前へと足を運べば、理彦もふっと力を抜き、妖刀の柄頭にかけていた手を戻す。
カウンターの中では店主が客のリクエストに従って、豆炭で熱した飴を素手で練り、食紅で色をつけて、時には専用の工具で、時には手で、はさみで、様々な形へと見事な加工を施していくのだ。
中でもいつきの目を引いたのは、赤い食紅で色付けされた、金魚の細工物。
全体が透明なそれは表面が濡れたように輝き、水に入れれば今にも動き出すかのような躍動感を持ちながらも、食べる時に嫌悪感を抱かない程度にデフォルメされた見事な造形。
食べるのがもったいないようなそれを、いつきはじっと眺めている。
「その金魚、もらおうか」
「へい、まいど! ちーっと待ってくださいよ、っと」
店主は見事な手際で、作りかけだったにわとりの飴細工を仕上げる。
理彦はそれを待って金魚の飴細工を受け取ると、その様子を見ていたいつきへとそのまま差し出すのだった。
「そらよ」
「あ、お金、払います!」
慌てて財布を探るいつきに、理彦は片目をつぶってみせる。
「なーに。いいってことさ。こういう時若者に奢ってやるのは、おじさんの義務で、権利なんだぞ?」
「でも……」
「お返しがしたいなら、いつきがもっと大人になってから、子供たちに奢ってやるといい」
「……わかりました。ありがとうございます。……ふふ、実は飴細工って買った事なかったんですよね」
いつきは飴細工を明りにかざしつつ、笑顔でそれを眺める。
「よかったなー! 僕も何か買っていこうかな?」
ぽんぽんといつきの肩をたたき、なぜか嬉しそうな逢魔だった。
屋台を堪能した三人はその後、やや暗い夜道を花火が良く見える付近の河原へと移動していた。
逢魔はわたあめをかじりながら。
いつきは飴を舐めつつ。
理彦はその二人を微笑まし気に見守って。
その時、それに気付いたのは、最後方を歩きつつ聞き耳を立てていた理彦だった。
「……待て。なにか、音がしないか?」
ここまで来ると、花火の音もずいぶんと大きく聞こえるようになっている。そのために聞き取り辛いが、花火の音に紛れてずず、ずず、と何かをひきずるような音が聞こえてくるのだ。
目を閉じ、音の出所を探る。
「あっちか……?」
理彦が目を向けた方向に、いつきと逢魔も目を向けた。
右前方の背丈の高い草むらの中。丁度打ちあがった花火の輝きに照らされて、生気の失せた一人の青年が、林の方向へと足を引きずるようにして向かっていた。
「あれは、まさか!?」
逢魔が声を上げ、
「……きっと、常世神の招待を受けた人でしょうね」
いつきがその言葉を継いだ。
「いま助ける!」
理彦が予備の打刀を引き抜き、草むらへと踏み入る。草を薙ぎ払いつつ青年を追っていくと、ほどなくして足を引きずる青年へと追い付いた。
「待て、戻るんだ!」
肩に手をかけ、強く声をかける。青年は一瞬振り向いたが、そのまま何事も無かったかのように、再び足を進めようとした。
「手荒な真似はしたくないけど……すまない」
トン、と軽く手刀を振るうと、青年の身体はたやすく崩れ落ちる。
――青年は目を覚ました時、自分の行動を覚えていなかった。幻覚を見る直前のみならず、その前数時間に渡り記憶が欠落していたのだ。
花火を見さえしなければもう心配はないはずではあったが、猟兵達は青年を神社に設置された救護所へと送り届けると、安静にするように言い含めた後、再び河原へと足を向けた。
揃って、夜空を見上げる。平穏な時間、恐ろしいほどに澄んだ夜空を色とりどりに染める花火。
そのまま平和な時間が流れたならば、どれほど楽しい気持ちで、一日の終わりを迎えられるだろうか。
だが、その時はやって来た。
いつきは、次々と打ち上げられる花火に重ねて、いつか見た花火を幻視していた。
その花火はとある人里で打ち上げられたもので、いつきがそれを見たのは、人里から遠く離れた故郷の隠れ里での事である。
距離が離れている分、見える花火は小さくて、今のように熱や音、振動を感じる事もなく、目の前の花火とは、純粋な美しさという点では比べるべくもない。
でもその分、里には平穏があった。共に暮らした家族や友人、見守ってくれた大人達がいた。
だから、その時の花火はいつきにとっては目の前の花火と同じくらい、いやそれ以上に美しく、そしてかけがえの無い物だったのだ。
――何も知らず、楽しく幸せだったあの頃に、戻れるものなら戻りたい。願わくば、ずっとあの頃のように、平穏に身を委ねていたい。
そんな思いが胸を満たすに従い、目の前の花火が色あせていく。
過去の光景が膨らみ、現実味を帯び始める。目の前の光景から目を離せない、目が離れない。
……けれど。
「今の僕には、やるべきことがあるんです」
唇を噛みしめて、視線を下に向ける。その身に纏う装束は、いつきの里に伝わる由緒正しきもの。人の世の理を守るという、先祖代々から受けついだ役目を果たす誓い、そのもの。
それを果たさずして、いつきは平穏を得ることなどできないのだ。
もしそれをしてしまえば、いつきは自信の生まれてきた事に、その人生に意味を見出せなくなってしまうだろう。
……だから。
「『ご招待』は、お受けしましょう。でも、僕はあなたの思う通りになりません」
増幅された強い欲望を超える、強い思いがいつきに正気を取り戻させた。
現実に重なり塗り潰そうとしていた幻覚が霧散すると、再び元通りの花火が夜空を覆っている。
「……綺麗ですね」
かつてみた花火も綺麗だったけれど、今だって、いつきは美しい物を見ている。
いつかは、いつきも里へと帰り、平穏な日々を得る事があるかもしれない。でも、それはまだまだ遠い先の話。
いつきの隣では、逢魔がその欲望に抗っていた。
花火の光に合わせて、逢魔の目に見えたのは『世界の終わり』。
視界が赤く染まる。
大地が裂け、生じた亀裂に人々が飲み込まれていく。
太陽が失われ、割れた空からは黒い、翼の有る怪物が無限に湧きだしてきた。
残された人々は絶望に染まり、互いに言い争い、それは殺し合いにまで発展していくのだ。
その光景の中では、逢魔自身も、終焉を産み出す事に加担していた。
「ああ……これが、終焉か」
逢魔は楽しい事が好きだ。それは嘘ではない。だが同時に、自覚はしていないが心の奥底では、いつかはかならずやってくるであろう終焉を夢見ている。
逢魔は、実は過去の記憶を失っている。失われた過去に起こった出来事が、その破滅的な願望の元となっているのだろうか?
目の前の光景から、目が離せない
「はは、はははははは!」
逢魔は全てが失われていく様を見て、笑った。
「……はは」
でも、それは。
無意識下にある願望がそれでも、今を生きている『久条・逢魔』の心はそうではない。
守るべき力なき人々がいる。友達がいる。肩を並べ共に戦った仲間がいる。今はいないが、将来、好きになれるかも知れない女の子も、いる。
「……そんな事は、だめだ」
隣に誰も居なくなってしまう。
「……ひとりになるのは、いやだ」
猟兵の力があれば、一人でも生きられるのかも知れない。でも、それはとても寂しいこと。
「だから、俺は……! 終焉よりも、先にあるものを……楽しい未来を、掴みたいんだ!」
いかに現実的であっても、音や匂いまでしようとも、これは幻覚。目を離せない光景を振り切るため、強引に目を閉じる。
つーっと、目の端から血の涙が流れ、それを引き金に、逢魔は現実へと引き戻される。
「……熱烈な『招待』、ありがとよ。ちょっと待ってろ、すぐに行くから」
ふっと詰めていた息を吐き、固く閉じて強張った目を苦労して開くと、美しい夜空と、それを彩る花火が再び眼前に広がって。
吹き抜ける風が、逢魔の熱くなった頬を撫で、冷やしていった。
二人が招待を受けていたのと同時、少しだけ人混みを外れた場所。
理彦は浮かぶ花火の中に、ただ、思い人の顔を見ていた。
その人と共に歩みたい、ずっと一緒に居たい。
ただそれだけの、ささやかな欲望。
(あぁ、でもそれは……)
しかし一度すべてを失った理彦にとっては、強烈な、強欲にすぎる願いにも感じてしまう。
幻覚は現実へと浸食し、強烈な渇望が理彦の身を焦がす。
――目の前の『これ』になら手が届く。
永遠に幸せな夢を見る事ができるのであれば、それは現実で共に過ごす以上に幸せな事なのかもしれない。
理彦はその手を伸ばしかけた。
だが。
「それで俺だけが幸せになって、どうするんだ。現実のあの人は、どうなる……」
欲望は、別に悪い物ではない。
言い換えれば、願望であり、希望である。
それは人にとって必要なものであり、未来へ繋がる、生きるための原動力。
理彦の願いは、今の自分にとっては過ぎたものかもしれない。
でも、それを理彦一人の願いとしてではなく、二人の願いとすることができれば、どうか。
現実で、その願いをかなえたい。自身もそれで幸せになるし、あの人を幸せにもしたい。その為には、こんなところで夢をみているわけには、いかない。
……ならば。
「抗うしかないだろう」
引き戻された手が、腰の妖刀をゆっくりと引き抜く。
今となっては、目の前の幻覚は、本物にしかみえない。その体温まで伝わってきそうな程だった。その人物が、こっちにおいでと、両手を広げる。
抗いがたい、欲望を感じた。
……それでも。
一閃。
閃いた妖刀が、幻覚をそこに籠った力ごと切り裂いた。
幻覚は霧散し、あとに残るのは元通りの、祭りの空気。
「『招待』は確かに受け取った。でもな、俺に幻とはいえあの人を斬らせた代価……必ず、支払ってもらう」
いつも通りの柔和な表情は崩さない。
しかしその眼光は、闇の中に常世神を見据えてでもいるように鋭かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シン・コーエン
【SPD】で行動。
花火を楽しんでいると、スペースシップワールドの宇宙空間戦闘の火花を思い出してしまう。
そして、『まだ見ぬ強敵と戦ってみたい。トコヨノカミは俺を圧倒してくるような相手なのだろうか?』と強敵との戦いを求める欲望が強く浮かび、『招待』を受ける資格を得る。
欲望に囚われ切る前に花火の音で我に返り、思わず苦笑。
宇宙戦闘では音はしない。
花火は戦闘兵器とは全く異なる、人の心を潤す炎だ。
それを悪用するとは許せんな、トコヨノカミにはその代償を支払ってもらおう。
しばし花火を楽しんだ後、トコヨノカミとの決戦に向かう。
『認めよう、確かに俺は欲深い。』と呟きつつ。
一方、シン・コーエンも、常世神からの『招待』を求めて神社へとやって来ていた。
そう。彼の求める物は、まだ見ぬ強敵との邂逅。シンは先の三人とは合流せず、一通り祭りの空気を味わうと、早々に花火が良く見える河原へと足を向け、夜空を見上げる。
(トコヨノカミは、俺を圧倒してくるような相手なのだろうか?)
そんな事を考えながらも、眼前で次々と打ち上げられる花火はシンの心を揺さぶった。
戦闘を求めてやってきたとはいえど、シンは元々好奇心旺盛である。美しいものを美しいと感じる心を持っている。
ヒュー……。
真っ直ぐ、夜空に向かい火線が伸びる。その到達点、勢いが緩やかになったあたりで、
パァン!
火線が破裂して球形に火花が広がり、赤い華を形作る。華を形作った火花は広がりながら、時には青に、時には黄色に色を変え、
パラパラパラ……。
そうして人々の目を楽しませた後、消えていく。それは全てが、ほんの数秒間の出来事。
「ほぅ……これは、見事なものだな」
思わず、感嘆の吐息が漏れる。
一瞬に凝縮された職人の技術の粋を集めた芸術は、一時シンに戦いを忘れさせるほどに見事なものだった。
しかし、そうした時間も長くは続かない。
いつしか見つめる火花は、次第に別のもの……スペースシップワールドでの、宇宙空間戦闘の光景へと移り変わっていた。
(来たか)
無限の広がりを見せる宇宙空間。飛び交う弾丸。
漆黒の宇宙バイク、愛機シャドウフレアを駆り、戦場を縦横無尽に駆ける。
深紅の炎を纏った機体が駆け抜ける。それだけで、生じさせた衝撃波は雑兵程度ならたやすく粉砕した。
フォースナイトたる己の振るうフォースセイバーの、サイキックエナジーで構成された刃が描く美しい軌跡が、残光となって目の奥に焼き付いている。
――幻影を見つめるうち、もっと、もっとと、強い相手を求める欲望が膨らんでいった。
シンの心を埋める様々な感情は、強い欲望へと塗り潰されていく。
そう、過日戦った、スペースシップワールドのオブリビオン・フォーミュラ、銀河皇帝のような強敵と。
再び刃を交える事がかなうならば、次こそは。
銀河皇帝の姿がはっきりと、現実感を伴ってその眼前に現れたとき、シンは一瞬その魂をもっていかれそうになる。
その時だった。
ドドォーン!!
一際大きな花火の音が、シンの身体を揺さぶり、その幻影は打ち砕かれる。
「……ふっ」
無論、ただ大きな音だけで打ち破られるほど甘い幻覚ではない。しかしシンが、強い精神力で繋ぎとめていた正気を取り戻すには、ささいなきっかけがあれば十分だったのだ。
(宇宙戦闘では音はしない。花火は戦闘平気とは全く異なる、人の心を潤す炎だ)
眼前に広がった、一際大きな大輪の華が消えるほんの刹那。
(このような芸術を、職人の魂を悪用するとは……許せんな)
シンの胸の奥に、様々な思いが浮かび上がっては消える。
招待は、受けた。
「……認めよう、確かに俺は欲深い……」
だが、シンの心を埋めているのはそれだけでは無い。それだけで、埋めて良いものでもない。
吐き気を催す邪悪を滅し、世界を、人々を護る為。シンは己の身体を操ろうとする意志に、操られるのではなく、自らの意思で従い、敵の領域へと足を向ける。
シンの気高き呟きは、誰の耳に届く事も無く、人々の喧騒と花火の中に溶けていった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『残滓』
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POW : 神気のニゴリ
【怨念】【悔恨】【後悔】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD : ミソギの火
【視線】を向けた対象に、【地面を裂いて飛びだす火柱】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ケガレ乱歩
【分身】の霊を召喚する。これは【瘴気】や【毒】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:オペラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『招待』を受けた猟兵達は常世神の潜む『領域』へと踏み込んだ。
神社の近くでありながら、遠い。ほんのわずかに通常空間からずれた場所。
現世と同じでありながら、色あせた風景。その空気は重く、冷たかった。見れば、湿った石の下に、木の洞に、灯篭の影に……潜む気配がある。
敵オブリビオンに食われた者達の慣れの果て、ほんのわずかに残った『残滓』。彼らはすでに、元の人格とは別の存在だ。
それでもなお、元の姿を取り戻さんと、人の想いを喰らう事を望む悲しき者ども。
――不可能だ。いくら人を喰おうとも、在りし日の姿に戻ることなどできはしない。
だからそれは、元となった者達の姿をわずかに残し、ただ冒涜するだけの存在。いかに猟兵と言えど、彼らを救うことは不可能。
できるのは彼らを永久の静かな眠りにつかせる事のみ。
猟兵達は進む。哀れな残滓に安寧を。『招待』に応え、主に終焉を与えるために。
逢坂・理彦
過去を斬ることはあったけれど….今を…あの人の姿をしたものを斬るのは堪えるな…。
ほんと…常世神とやらに対価はしっかり払ってもらはないと…。
あの人は俺にとって守るべき人なんだから…。
「残滓」と言うほどまでに薄くなってしまった存在に哀れみを感じる。
ならばせめて何も残らないくらい綺麗に消してあげよう。
UC【禊祓祝詞】で【破魔】【祈り】【呪詛耐性】を上げて薙刀で【なぎ払い】【範囲攻撃】
敵からの攻撃は【第六感】で【見切り】
アドリブ連携歓迎。
シン・コーエン
陥った境遇には同情するが、人に仇なさせる訳にはいかぬし、放っておいては彼らこそが救われまい。
恨んでくれて構わん、ここで貴方達の未練を殲滅する。
UC:万物両断を使用。
灼星剣を振るい【2回攻撃・光の属性攻撃】と組み合わせて、彼らの未練がこもる残滓を両断し、無へと返す。
”せめて彼らの魂が生まれ変われるように。”と願いつつ。
防御については【見切り、第六感、武器受け、オーラ防御】で避けるか受けるかして対応する。
「俺達に出来るのは更なる悲劇を食い止める事だけだ。必ずトコヨノカミは討つ!」と犠牲者の霊魂に約束する。
一見静かな、薄暗い『領域』内。
180cmを超える長身の二名が並び立つ。
『和』の妖剣士、逢坂・理彦と、『洋』のフォースナイト、シン・コーエン。
雰囲気も、年齢も大幅に異なる二人は、すでに周囲を満たす『残滓』の気配を感じ取っていた。
(『残滓』……と言うほどまでに、薄くなってしまった存在か。哀れだな……。ならばせめてその悲しみも、苦しみも、その罪も、何も残さず綺麗に消してあげよう)
集団敵に備え愛用の薙刀を手にした理彦は、慈悲をもって全ての清算を願う。
(境遇には同情するが、喰われてやるわけにも、余人に仇なさせる訳にもいかぬ。放っておいては貴方達も救われまい。恨んでくれて構わん、ここで貴方達の未練、殲滅する)
片や灼星剣を手にしたシンは、怒りをもって全ての殲滅を誓った。
戦いに挑む心構えの方向は違えど、見据える結末は同じ。
『残滓』に安らかな眠りを、『常世神』には終焉を。
理彦がゆらりと無造作にも見える動きで一歩を踏み出す。
途端、足元に転がっていた小石と地面の隙間から、怪しげな影が立ち上り、見る間に半透明の、足の無い人の姿を形作った。
「さっそくお客さんだ」
理彦は身体を沈めながら捻るように半回転させ、覆いかぶさるように向かって来た残滓をすり抜ける。
すれ違いざま振るった薙刀は残滓の胴体付近を浅く薙いだが、相手の身体には大きな変化は見られない。
相手が人間ならばそれだけで致命傷の筈だが、手癖の一撃で倒れるほどは甘くはないらしい。
「いや、お客さんは俺たちの方かな?」
口元に笑みを浮かべ、首だけでちらりと肩越しに振り返ると、軽口を叩く。
「オオオオオオオ。アタタカイカラダガホシイ。ソノココロノカガヤキガニクイ。クワセロ。クワセロ……」
残滓が血の涙を流す。その身体から発する霊気が急激に膨れ上がった。近くにいるだけで、一般人であれば震えあがり、まともに動けなくなるだろう変化。
「……頼んだ!」
しかし、理彦は一声シンに声をかけると、強化された残滓を背に、領域の先へと歩を進めた。
「ああ、ここは任せよ。……貴方の相手はこっちだ!」
シンは裂帛の気合いを上げ、残滓の注意を引き付けた。
特に打ち合わせをしていたわけではない。
だが、理彦に何か考えがあること、そのために敵を引き付けて欲しいのだという事は、はっきりと理解していた。
理彦が先に進むごとに、あちらこちらから複数の残滓が次々とその姿を現す。
怨念、悔恨、後悔……様々な負の感情が、理彦の精神に叩きつけられた。
(正直、殴り合いよりよほど堪えるな……でも、あの人の姿を斬る事に比べたら)
「楽なモンだよ……!」
次々と回避し時折一撃を加えながら、理彦は多数の残滓を引きずり出し、シンは理彦に引きずりだされた残滓を、その輝きを持って引き付けていく。
『灼光の刃よ全てを両断せよ!』
シンが時に振り下ろすように、時に横に切りつけるように、次々と灼星剣から繰り出すユーベルコード『万物両断』は、すでに何体もの残滓を屠ってはいたが、理彦がひっぱりだす数はそれよりも多い。
「アアアアアア。マブシイ……マブシイ……。キエロ、キエロオオオォォ……」
その時、一体の残滓がシンを睨みつけた。『ミソギの火』が地面を裂き、火柱が噴き出す。
「くっ!?」
直前に危険を察知したシンは一瞬回避を試みようと地面を蹴りかけるが、火柱が噴き出した瞬間、
(これは避けられん!)
咄嗟に判断し、方針を切り替えた。灼星剣を引き戻すと、神速で気合いを込めた万物両断を放ち、火柱を斬る。分かたれた炎はそれでもなおシンを炙ったが、輝くオーラに包まれたシンの身体にほぼダメージは無い。
ふっと一息をつく暇もあればこそ、周囲の残滓たちが一斉にシンへと力の籠った視線を向ける。
流石にこれだけの数を受ければ、致命的というほどではないにせよ、後の戦いに支障が有るかもしれなかった。
「頃合いかな……」
ようやく、理彦が足を止める。
『諸々禍事罪穢を払へ給ひ清め給ふと申す事の由を天つ神地の神八百万神々等共に聞食せと畏み畏み白す』」
そして、残滓達がユーベルコードを放つよりも一瞬早く、理彦が『禊祓祝詞』を発動させた。
湿った地面を強く蹴り、反転する。強く破魔の祈りを込めた薙刀『墨染桜』が、重苦しい空気を切り裂き、光の尾を引いた。シンとの間に開いていた距離を一瞬で駆け抜けて、多数の残滓を薙ぎ払い、屠っていく。
「おやすみ。みんなを残滓にした対価、俺への支払いと一緒に、常世神とやらにしっかり払ってもらうからな……」
切り裂かれた残滓達は破魔の力により浄化され、光の粒へと変化して、理彦の呟きと共に闇の中へ溶けていった。
そしてシンが、残った数体の残滓達を見据え、剣を構えつつ前に出る。
「お見事。あとはまかせてもらおう」
シンの振るう剣は、お手本通りというべき美しい型だった。
(せめて、彼らの魂が生まれ変われるように)
そう、一太刀ごとに願いを込めて。
ほどなくして、見える範囲の残滓の姿はなくなった。
「俺達に出来るのは更なる悲劇を食い止める事だけだ。必ずトコヨノカミは討つ!」
そのシンの言葉は、自らへの誓いか、犠牲者たちへの約束か。あるいは、その両方。
いずれにせよ、為すべきことは決まっている。
残滓を蹴散らした二人は、全ての元凶たる常世神を討つべく、さらに瘴気渦巻く領域の奥地へと向かうのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
久条・逢魔
自分の欲望を見せられて、招待された先ではこれか……。素敵なお祭りだったろうに…せめて早く解放してあげるよ。
彼らが襲ってくれば、刀を振るい【先制攻撃】で斬り捨てる。
攻撃には【破魔】が通用するなら利用
ウィザード・ミサイルを牽制で放ちながら【残像】を駆使して本体を捉えられないようにする。
味方との連携があるなら、邪魔にならないように相手の撹乱もしていきたいね
たとえ成れの果てでも、斬るのは少し心苦しいね……
必ず、君たちの仇をとってみせるよ……だから、ゆっくりお休み
*アドリブ可
雨宮・いつき
黄泉へと向かう事も出来ず、現世に縛られた魂…
彼等を人へ戻す事は叶いませんが、せめて死出の旅に出れるように致しましょう
距離を空け、取り囲まれないように立ち回りを意識しつつ
現れる残滓と霊達を雷撃符による【マヒ攻撃】で動きを鈍らせていきましょう
溢れる瘴気は【破魔】の力を込めた狐火で払い、
稲荷符を使って追加で霊力を込め、強力にした狐火をさらに合体させます
巨大にしたそれは、黄泉へと誘いし送り火
せめてもの手向けとして、残滓達を一思いに焼き払いましょう
どうか迷うことなく彼岸を渡れますよう
どうか安らかに眠りにつけますよう
ただ祈るばかりです
ほぼ同時刻。
久条・逢魔と雨宮・いつきも、先の二人と同じように領域内へと踏み込んだ。
ところが、先に進む二人の後を追っていたはずが、いつのまにか眼前にその姿は見えなくなっている。
ほんの少し踏み込むタイミングが異なった事が、このようなズレを産み出したのであれば、領域内ではそもそも時間の流れすら歪んでいるのかもしれなかった。
二人の目の前に続く道は、空気が重く冷たいのは先の二人の時と一緒ながら、無数の青い鳥居がずっと続く不思議な光景。
一見、清浄な空気と厳かな雰囲気すら感じさせる鳥居の連なりは、実際に踏み込んでみるとただひたすらに禍々しく、不吉なものに感じられた。
逢魔が、自然に前に立つ。
いつきはいかにも年下で、守りたくなるような雰囲気を発している。それが、判断の大きな理由だが、自身が刀を獲物にしている事も無関係ではない。
――ざわざわと、進む先から無数の気配がした。
鳥居から伸びた影がぐにゃりとうねり、立ち上がって、残滓がその姿を露わにする。
常世神に喰われた者たちの慣れの果て。その身に残るのは僅かな面影と、憎悪、苦悶、怨恨。
あらゆる負の想念のみを胸に抱き、ただ生者の強い思いだけに惹きつけられる者共。
「自分の欲望を見せられて、招待された先ではこれ、か……」
逢魔は片手で無造作に刀を構えつつ、もう片手には魔力を練り上げていく。
「せめて、早く解放してあげるよ」
その言葉に呼応するように、一斉に残滓が動き始めた。
オォオ……ウォウ……。
ウウウ……ウゥウ……。
それは、能において亡霊が出現する時に唄われるのと同じもの。
次第にその声は重なり、増幅されて、不気味な嘆きは領域全体に響き渡るかのように広がっていった。
そして増幅されたのは、声だけではない。実際に前方に見える残滓の数も急激に増え、通路が見えないほどにまでなっている。
「……っ。多いな!」
ろくに狙いもつけず、練った魔力を解放。百を超える『ウィザード・ミサイル』の赤い輝きは、前方を埋め尽くす残滓へと吸い込まれ、何体かを燃やし尽くす。
同時に刀を構えて斬り込み、数度斬りつけて一体の残滓を闇へと返した。
一撃で仕留めるには、力が足りない。
「きついな……でも、やるしかない!」
逢魔は間合いを保ち、再びウィザード・ミサイルを準備しつつも刀を振るい、いつきへとその矛先が向かぬよう前線を支えるのだった。
「黄泉へと向かう事も出来ず、現世に縛られた魂……」
彼らを前にして、いつきは悲痛な表情を浮かべ、しかし強い決意をもって、霊力を込めた符を構える。
「彼等を人へ戻す事は叶いませんが、せめて死出の旅に出れるように致しましょう」
一歩、二歩。下がって距離をとる。逃げたのではない。自らの術がもっとも効果的になるよう間合いを計り、準備していた雷撃符を複数、惜しげもなく解き放った。
符に込められた魔力が雷となり、最前線で数体の残滓を絡めとる。面で展開された雷撃が、残滓の攻撃と侵攻を阻んでいた。
『集い爆ぜるは幽幻の炎……』
続けていつきの詠唱が響く。いつきの身体を囲むように、青白い無数の狐火が浮かび上がった。
「……これは、せめてもの手向けです!」
いつきの指先には、いつのまにか先ほどとは別の符が挟まれていて、符の輝きが空中に破邪の陣を描いてゆく。
ゆるり、と動き出した『火行・狐妖蒼火』が破邪の陣を通り抜けると、高温の狐火がさらに輝きを強くし、勢いを増した。
そして、狐火は回転しながら次々と合流し……最後には巨大な、煌々と輝く一つの白い太陽となって、あたりを眩く照らし出す。
「いきます!」
鳥居の幅いっぱいにまで大きくなったそれを、いつきは解き放つ。
逢魔が咄嗟に鳥居の影に身を寄せ、そのすぐ脇を、加速しながら狐火が通りすぎていった。
……消えていく。声も無く、影も残さず、無数の残滓が光の中へと。
あとには、ただ静寂と、鳥居だけが残っていた。
(どうか迷うことなく彼岸を渡れますよう)
いつきはひととき目を閉じ、願う。
(どうか安らかに眠りにつけますよう)
重ねて、報われぬ残滓達の為に、ただ祈った。
「たとえ成れの果てでも、少し心苦しいね……」
ポンポンといつきの肩を叩き、逢魔は呟く。胸中を満たす想いは、いつきと同じだ。
(必ず、君たちの仇をとってみせるよ……だから、ゆっくりお休み)
空を仰ぎ見るように、犠牲者達へと誓う。
しかし、ゆっくりしてはいられなかった。残滓は全滅したわけではない。時間が経てばまた鳥居の影から、落ち葉の下から、水たまりから、湧いて出てくるに違いないのだ。
「……いきましょう! 元凶を、倒しに!」
周囲に再び残滓の気配が満ちつつある中、そうして二人は鳥居の中を駆けだしていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ハル・パイアー
「招待を受けていない身の上ではあるが入れはするようだ。ならば微力ながら手助けをさせてもらおうか」
小官は領域に侵入し戦闘に参戦します
主な行動はUC《ディスインテグレータ》にて、敵対対象の因子を崩壊させ消滅させます
まずはN=ムーバーに騎乗して敵対対象の行動を予測しながら回避に努め
パターンを学習後、敵の耐久可能と見込んだ攻撃に対して射程に収められる秒数の待機時間を設定
バイクや自身の毒耐性などで攻撃を受けつつ発射姿勢を維持し射撃します
他に有効打を与えられる兵装に心当たりがありませんので苦戦や無理は承知の上です
「では、そちらの怨嗟とやらとこちらの覚悟。どちらが強いかの我慢比べをしよう」
「招待を受けていない身の上ではあるが、入れはするようだ」
『領域』外周付近。矮躯に特徴的な白髪の、一人の少年が足を踏み込んだ。
ハル・パイアーは愛用の宇宙バイク、N=ムーバーを駆り領域内を進む。
奥へ進むに連れ、空気が変わるのが肌で感じられる。徐々に重く、冷たくなる、粘ついた空気が肌をねぶっていった。
「……来たか」
前方に、ぽつりと一体の『残滓』が現れたのを見て、ハルは警戒を強める。
いる。
一体ではない。無数の気配が、ハルの前方に蠢く。だが、元より戦うつもりでやってきたハルには望む所だ。
残滓達を挑発するように、ギリギリをかすめるように走り抜け、蛇行しつつも前へと。少しでも多数を集めて、殲滅できれば、それだけ後に続く者達は楽になるはずだから。
そうして進むうち、ついに前方方向は無数の残滓で埋め尽くされてしまう。
しかしそれは想定内の事。
ハルの狙いは、自らのユーベルコード『ディスインテグレータ』での広域殲滅。
その為にわざと敵の横ギリギリを走る事で、残滓を引き付けると同時に、攻撃を誘発し、その攻撃方法と行動パターンを集積してきたのだ。
「さてと……。では、そちらの怨嗟とやらとこちらの覚悟。どちらが強いかの我慢比べをしよう」
動きを止めたハルに前方の残滓達が、怨念を糧としてその身を強化し、迫る。
『WARNING DISINTEGRATION ALARM……CHARGE COMPLETE. STANDBY READY?』
必要なのは、わずかな時間。
「SET. SEVEN SECOND.」
7秒の待機時間を宣言すると、ハルはN=ムーバーを巧みに操って、その車体で正面から迫りくる残滓の攻撃を受けきった。
6、5、4、
左右から迫り来る残滓。左の残滓が伸ばした手を、右へと身体を捻って避ける。
3、2、
同時に、その勢いを利用して、右側に居た残滓にN=フューザーで切りつけた。残滓は倒れないが、時間稼ぎには十分だ。
1、
そこへ、後方からも残滓が迫る。やや距離はあった。しかし目に見えない瘴気の腕が、ハルへと届き背中を浸食していた……だが、それも、
「想定内だ」
0。
武装の封印が解ける。変化し現れた砲塔を、背中に侵食した呪詛の痛みを無視しつつ、まずは正面の敵へ。次に左右の残滓へと向け、弾丸を続けざまに叩き込んだ。
迫っていた残滓がその勢いで吹き飛んだ。起き上がろうとする残滓達。だが、起き上がる寸前で、その動きが止まった。
そう、ディスインテグレータの真価は、その弾丸の単純な破壊力にはない。射程内事象を崩壊させる因子を射出する兵器なのである。本来であれば、空間に影響を及ぼすような、異常現象等に行使されるべきその能力だ。
破魔とは異なる力。事象を崩壊させるその因子は、次々と数十体もの残滓達を、その苦しみと存在を消し去っていく。
「殲滅、完了」
――あとには、ただ静寂だけが残り。
その中をハルは、他の猟兵達と合流し常世神を倒すべく、再び先を目指すのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『常世神『トコヨノカミ』』
|
POW : 猪突猛進
単純で重い【巨体から繰り出される体当たり】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 脱皮転生
【脱皮をする 】事で【無数の翅で飛び回る飛翔形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 大量発生
自身からレベルm半径内の無機物を【 数多に蠢く蟲の群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:はるまき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「仇死原・アンナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
グチャ、グチャ……パキッ。ジュルル……。
闇の中からおぞましい音が響く。
『領域』の奥底で、蠢くモノがいる。
人間の女性をベースとしながらも、幾多の虫の魂が寄り集まりその形質を複数が融合した、ねじれた形で表に出している。
それは心が弱い者であれば姿を見ただけで正気を失いかねない、異形。
さらにそれが10メートルに届こうかという巨体なのだから、なおさらだ。
人の姿をわずかにとどめた部分も、おおよそ人間の動きをしていない。
そもそも、人の部分が残っている事さえも、意識して観察しなければわからない可能性すらある。人の脳は、異形を理解できるようには出来ていないのだから。
その巨体が、渦巻く輝く闇の中で振り返る。
――ああ。その体内へと、咀嚼され飲み込まれていくのは、今宵の犠牲者か。
猟兵達には、ニタリ、と異形が……『常世神『トコヨノカミ』』が哂ったように、見えた。
人の身を喰らって腹を満たし、欲望を飲み込み力を増した常世神は、まるで水を得た魚のように、猟兵達へと迫る。
残滓では近寄る事すらできぬ、質量さえともなう闇の中で、猟兵達が万全の力を発揮するには、なにか工夫が必要かもしれなかった。
逢坂・理彦
あぁ、酷く醜悪な姿だね。
灯りも兼ねてUC【狐火・椿】を使おうか。
色々対価も払ってもらわないといけないし…はじめようか?
【呪詛耐性】を上げて挑む。
攻撃には全て【破魔】載せる
薙刀で大きく【なぎ払い】斬り込み傷口を狙うように狐火で焼く。
敵攻撃は【第六感】【聞き耳】で感覚を研ぎ澄まし【見切り】可能なら【カウンター】
幻とはいえ俺にあの人を斬らせたこと後悔させてあげるよ。
アドリブ連携歓迎。
雨宮・いつき
人を想う心優しき龍神様への祭祀を利用し、人に仇成す
その不届き千万の蛮行、許し難いです
稲荷符へと【力を溜め】、【全力魔法】による召喚
御喚びするのは九頭龍大明神
この地を護る龍神様に代わり、かの者を討ち倒しましょう
常世神へ向け【破魔】の力を込めた水の息吹を撃ち込みます
手傷を追わせる事が出来れば御の字ですが、
主な目的は清き飛沫で闇を払い、身に浴びて瘴気に対抗する事
そして九頭龍様に敵の気を向ける事です
その隙に雷撃符を用いて走らせた雷を以って、巨大な【破魔】の陣を地面に描きます
瘴気を払う陣の中から雷の刃を突き上げて、操る蟲の群れごと焼き切り、
九頭龍様の全力の水の息吹で穿ちます!
二人の妖狐は、闇の中で常世神と対峙した。
『ぽとり、ぽとりと椿の様に』
静かな、だが常とは異なる怒りをその裏に帯びた冷たい声色で、理彦の詠唱が響く。
理彦のユーベルコード狐火・椿。
その名の通り、椿の花の様に丸いころりとした炎がいくつも闇の中に落ちる。ほぼ等間隔に配置された狐火が、理彦と常世神の間を一本の道で繋いだ。
「さぁてと……はじめようか? 色々とツケが溜まってるんだ、まとめて支払ってもらわないとね」
薙刀を構え、狐火に照らし出された常世神に一直線に迫る。その動きには、瘴気の影響は感じられない。
商売柄、瘴気には慣れていた。理彦はその身に纏った霊力により、瘴気を受け流すようにして影響を抑えているのだ。
「……幻とはいえ俺にあの人を斬らせたこと後悔させてあげるよ」
理彦はいつきには聞こえないよう、常世神へと言葉を投げかけた。
そしてもう一人。いつきは飛び出した理彦の後ろで、稲荷符を構える。
(人を想う心優しき龍神様への祭祀を利用し、人に仇成す……その蛮行)
少年らしい真っ直ぐな怒りを胸に、それでも頭の中は冷静に。
「不届き千万、許し難いです」
稲荷符へと全力を集中し、術式を編む。
『水神の逆鱗に触れし者に、清き怒りを与え給え……』
詠唱と共に、膨大な霊力が符へと流れ込む。完全に制御しきれていない怒りによってわずかに溢れた残滓は、いつきから放出されその身を闇の中で白く輝かせる。
『参りませ、九頭龍大明神!』
この地を愛した龍神に代わり常世神を倒さんと、いつきが喚んだのは九頭龍大明神。
だが、出現しつつあった九頭龍の姿が揺らぐ。現世と半分ズレたこの空間と瘴気は、その召喚に常以上の力を必要とさせているのだ。すでに全力を振り絞っていたいつきに、その余力は無いはずだった。
失敗。その二文字が頭をよぎった時、いつきの脳裏に、九頭竜とは異なる龍の姿が浮かび上がる。
「この地を守護する龍神よ! 邪悪を滅ぼす為、僕に力を貸してください!」
我知らず、叫んでいた。すると、どうしたことか。再びいつきの身からは霊力が溢れたのだ。
それは、この地で眠る龍神の後押しだったのか、いつきの想いが生みだしたものなのか、わからなかった。
だが、ひとつ確かなのは、その力により『龍神絵巻開帳』が成立した事。
闇の中、神々しい輝きを纏う、巨大な白い九頭龍が顕現した。
理彦を踏みつぶそうと動き出していた常世神の気が一瞬それる。その機を逃す理彦ではない。
「足元ががら空きだ」
駆け抜けながら、ざん、と薙刀が常世神の足の部分にあたる芋虫の先端を切り払う。体液を噴出する傷口に、手近にあった理彦が操作した狐火が地面を転がるように潜り込む。
じゅうじゅうと傷口が焦げ、人を焦がしたかのような嫌な臭いが周囲を満たした。
常世神は悲鳴をあげるでもなく、ぎろりとただその複数ある瞳で理彦を見る。効いているのか、いないのか。
いや、効いてはいるはずだ。傷口の端は真っ黒に炭化し、中央部付近からは未だどろりとした体液が覗いている。
「僕と九頭龍様を無視するとは、いい度胸ですね」
背後に回り込みつつ、続けざまに切りつける理彦に常世神が気を取られているうちに、今度はいつきが仕掛けた。
九頭龍の複数の口が開いて、高圧の水流の息吹が吐き出されると、常世神を打ち据える。
たまりかねたのか常世神は大きく跳躍すると、ブブブとその背の複数の羽根を蠢かせ、濃密な闇を踏み台にして闇の中を滑空。
薙刀が届かなくなると理彦は再び狐火を操作しぶつけるが、強固な外皮に阻まれ、大したダメージにはならない。
だが、清流のブレスの効果はそれだけにとどまらず。飛散した清き飛沫が辺りに満ちると、この常世神の寝床全体の瘴気を、闇をわずかに薄めたのだ。
――落ちる。足場がなくなり、常世神は再び地べたへと舞い戻った。
だが、常世神もやられるばかりではない。地面の上に無数の気配が生まれ、それは蠢く無数の蟲へと変化を遂げて。
おぞましき蟲達は空から地面から、理彦といつきへと殺到してくる。
個々はそれほどの脅威ではないが、なにしろ蟲は周辺の無機物から産まれ続けているのだ。理彦は位置を絶えず変えながら薙刀で、いつきは術で対抗するが、二人は身体に幾つかの傷を受けてしまう。二人の動きが鈍ると、常世神の注意は再び水流を放とうとしていた九頭龍へと移り、体当たりを仕掛けていった。
巨体と巨体がぶつかる。すさまじい轟音が響き、辺りに水と汚泥が舞い散った。
「……僕たちから注意が逸れた。すこしだけ、僕に時間をください!」
いつきは雷撃符を取り出すと、理彦へと声をかける。
「あぁ、わかった! 蟲一匹、近寄らせないよ」
理彦はいつきのところまで舞い戻り、気迫を込めて、総動員した狐火と薙刀で近寄る蟲達を殲滅していく。
「天空を駆ける者、強壮なる雷神の御手……」
雷撃符から放たれた雷は、地面を走る。その軌跡は、いつきを中心とした巨大な破魔の陣を描き出し。
「闇を切り裂く大いなる雷よ。今、破邪の剣となりて、邪悪を滅ぼす力を我に与えよ!」
そして、術が完成する。場全体を覆うほどに巨大な陣は眩い光を放ち、次々と大小様々な雷の刃が天へ向かって立ち上った。
蟲達が小さな刃に焼き尽くされていき、一際大きな刃は常世神の巨体を穿つ。さらに、九頭龍が放った先ほど以上に強烈な水のブ息吹が、至近距離から常世神の羽根をぼろぼろに引きちぎっていった。
九頭龍の姿が薄れ、送還されていく。その身をこの場に留めていた全ての力を、今の一撃で出し切ったのだ。
いつきも限界を超えるほどに霊力を消費し、その場に膝をつく。
常世の神のダメージは大きい。雷に穿たれぶすぶすと煙を上げ、ベースとなっている女性の身体は、半ばからちぎれかけてさえいた。
それでも、止まらない。少年が、自身に大きなダメージを与えたと理解しているのだろう。いつきへと、硬質な刃状の腕を伸ばす。
「あ……」
膝をつくいつきには、避けられないタイミング。
だが。
「おっと、やらせないよ」
理彦が迫る腕の前に立ち塞がる。ぐるりと薙刀を旋回させ、腕のつなぎ目をすぱりと、音も無く断ち切った。
「す、すみません。ありがとうございます……」
「なーに、蟲一匹たりとも近寄らせないって、言っただろう?」
パチリといつきにウインクを飛ばす。
「だけど……ここまでだな。退こう」
「でも……」
「十分、仕事はしたよ。あとは……頼もしい、俺達の仲間が始末をつけてくれるさ。だろう?」
有無を言わさずいつきの小柄な身体を抱き上げて、理彦は常世神から距離を取る。
後に続く仲間たちに、あとは任せたと全幅の信頼を寄せて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シン・コーエン
トコヨノカミか、いかにも邪悪そうな絵面だな。
速やかに殺そう。
この闇は俺達の動きを阻害するかもしれない。
なので【オーラ防御】を展開して闇による干渉を排除する。
その上で【ダッシュ・ジャンプ・空中戦・残像】を組み合わせた縦横自在な動きで敵に捕捉されないようにしつつ、【2回攻撃・衝撃波・風の属性攻撃】で灼星剣を振るってトコヨノカミを斬り裂く!
敵のUCに対しては、【第六感・見切り・ダッシュ・ジャンプ】で大きく移動して致命的な一撃を避ける。
その後すぐに動き、大技放った直後のトコヨノカミに対し、灼星剣による前述の攻撃に加え、UC:灼閃・連星を使用。
一気に追い詰める!
「邪神よ、己が罪を自覚して消え失せろ。」
撤退していく二人を背にかばうように、シンが立ち塞がる。その身は黄金の輝きに包まれて、周囲の闇を圧していた。
「貴様がトコヨノカミか、思っていた以上に邪悪な姿だな」
シンは滑らかな動作で灼星剣を抜き放ち、剣先を常世神へと向け、告げる。
「――速やかに、排除する」
大きなダメージを残す常世神へ注意を残しつつ、戦場を見まわす。
先ほどの攻防で地面はぬかるんでいる上、巨体が暴れまわった事であちらこちらが抉られていた。
普通ならば、圧倒的に不利な戦場。しかし、それならばそれで、戦いようというものがあるのだ。
狙いを定めた常世神が迫る。
すると、地面を蹴ったシンの姿が、残像を残しその場から消えた。
ドカンと叩きつけられた一撃は、正確に残像が残る地面を叩いたが、シンはそのころにはすでに常世神の後方、やや離れた位置にまで到達していた。
地面の状況を見極め、硬い足場を見つけてそこを起点に大きくジャンプする事で、距離を稼いだのだった。
「ハッ! セヤッ!!」
気迫を込めて、風の力を込めた灼星剣を二度、縦横へと振り抜く。その刃は闇を切り裂き、生まれた衝撃派が一直線に常世神の背面を切り裂いた。
だが、浅い。
一度さらに距離を取りつつ、シンは考える。この巨体に決定打を与えるには、もっと深く……敵の懐へと飛び込んで、直接剣を振るわなくてはいけないだろう、と。
その為には敵の大技をギリギリで躱し、体勢を崩したところに己のユーベルコードを叩き込むしかない。
シンは戦場を縦横無尽に駆け巡り、何度も小さな攻防を繰り返しつつ好機を待つ。
その間、双方いくらかダメージを与えあってはいたが、シンはほんのかすり傷程度。常世神は己の回復力で傷の多くを回復していた。
そして。
「……来るか」
ブブブブと羽根を震わせ、地面に接する蟲の足が力強く大地に食い込む。
濃くなった瘴気が吹き付けるようにしてシンの体表を撫で、表面を覆うオーラをも蝕みじわりと体力を奪った。
そうして、爆発的な勢いで巨体が弾かれるように突進する。単純なだけに、速い。そして、まともに喰らえばどれだけのダメージを受けるか、わからない。
だが、シンは動かない。むしろ目を閉じた。目よりも、風の動きと気配を頼りに、タイミングを見計らう。
そうしてギリギリまでひきつけ、直前でジャンプして落下してくる常世神から、最小限だけ身を躱し――あれだけの巨体相手には、相応に大きく動く必要があったが――常世神の身体から生える蟲たちの攻撃は、剣を間に挟みこむようにして痛撃を避けた。
「邪神よ、己が罪を自覚して消え失せろ!」
ドン! と常世神が着地した地面が大きく破壊されるが、その前にシンは高く跳躍していた。
『唸れ、灼星剣!』
切り上げるように繰り出した『灼閃・連星』の一撃目が、女の身体の腕に当たる蟲を斬り飛ばした。
「これは、これまでに殺された人々の怒り!」
常世神の身体の上に着地し、振り上げた勢いをそのままに剣の軌道を下に向ける。
「そしてこれが、俺の怒り!」
灼閃・連星の二撃目が、女の身体の胴部を深々と刺し貫く。
常世の神の身体を蹴り、深く刺さった剣を抜きながら地面へと降り立つ。
「……どうだ、美味いか? 俺の、貴様を殺すという欲望の味は」
人であれば致命傷であろう傷を負った常世神を振り返り、剣にまとわりつく体液を振り払いつつ、シンは不敵な笑みを浮かべるのだった。
成功
🔵🔵🔴
久条・逢魔
やっと、元凶が見えたね。
うん、だいぶ痛つけられてるようだし、さっさとかたをつけなきゃ。……これ以上犠牲者を出さないためにも。
相手を見据えて、何か行動を取ろうとしたなら【先制攻撃】で一撃与えるよ。飛んで逃げるなら【ジャンプ】【破魔、衝撃波】で撃ち墜とそう。
群れをなすなら【範囲攻撃】で出来る限り撃ち落とし、相手の手を潰しながら追い詰める。
突進してくれば【幻影】で逃げつつ、大ダメージをくらえばUC『戦場の亡霊』を発動して翻弄しながら【捨て身の一撃】を叩き込む。
神様名乗るなら覚えておけよ……俺たち人の力を!
*アドリブ可
猟兵達の猛攻を受けてなお、常世神は立っていた。
蓄積されたダメージが大きいのは間違いない。
損傷は全身に及んでおり、切断された部位は一見、元通りに復元しているようにも見えるが強度が先ほどまでとは比べるべくもない。
痛みを感じることはないのか、これまでと同じように動いてはいるのだが、時折、その動きが鈍るのも見受けられる。
歪な羽根もそれは同じで、もはや闇の中を泳ぐ事はできないようだった。
「終わりにしよう……これ以上、犠牲者を出さないためにも」
逢魔は熾火の様な怒りを胸に秘め、静かに、告げる。
今、常世神と対峙しているのは、逢魔一人だ。
しかし今、常世の神と戦っている逢魔は決して一人ではなかった。
仲間達が与えた傷が確かに、逢魔が常世神と戦う為の助けとなっている。
常世神の犠牲となった人々の無念が、逢魔の背を押している。
ジジ、と背の羽根を動かしながら、常世神が先に動く。
単純で重い、巨体から繰り出される体当たりは、迷いが無く、速い。
軌道の予測は簡単であっても、その巨体による効果範囲と多少の方向修正が効く事を考えれば、決して回避がたやすいとは言えないだろう。
しかし、逢魔は常世神の攻撃が届くのに先んじて一撃を放つ。
仲間が一度切り落とした、常世神の足の部分にあたる芋虫の先端が、同じように再び切り落とされた。
そして、あらかじめそれによって敵の狙いが逸れるのも予想している。後方へとジャンプした逢魔をかすめるようにして、常世神は逢魔の左後方へと。
攻防は続き、逢魔は繰り返し味方が穿った傷を狙い、少しずつ常世神の体力を奪う。
一方、逢魔も直撃を受ける事は無いものの、敵の体当たりに、蟲たちに、その鋭利な腕に、体力と、そして文字通り身体を削られていく。
ぽたりぽたりと垂れる雫は、そろそろ無視できない量となっている。
――だが、そこに逢魔の勝算はあった。
ぼう、と逢魔の背後に現れたのは【戦場の亡霊】。
自身が瀕死になることで召喚されるそれは、高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦ういわば自分自身の影。
亡霊は常世神を挟んで逢魔の丁度反対側へと立つと、まるで鏡写しのように逢魔と同じ攻撃を繰り出すのだ。
再び攻防を重ねる。
前後からの攻撃により、常世神を追い詰めていくも、追い詰められているのは逢魔も同じ。
あと一度、大きなダメージを負えば、動けなくなる。そうでなくても血を流しすぎている。限界は遠からず、やってくるだろう。
「……約束したから」
体当たりを避けた直後、一時的に動きを止めた常世神に炎の矢を放つ。
「仇を取るってな!」
炎の矢によって周囲が赤く染まったのを煙幕代わりに、戦場の亡霊と位置を入れ替わる。それにより、向きを変えて再び体当たりをしかけようとする常世神は一瞬だけ、亡霊と逢魔とを見誤った。
亡霊へと体当たりを仕掛ける常世神。亡霊は、それを避けない。
囮となった亡霊の送還と引き換えに、逢魔は大きくジャンプをし、巨体の背へと着地するとその身を駆け上がった。
ベースとなっている女性の身体に肉薄する。その頭が振り返る。
が、遅い。
「ここからなら、良く聞こえるだろ」
逢魔は血を流しすぎてやや軽くなった、だが鉛のように重い体を、限界を超えた力で動かす。
「神様名乗るなら、覚えておけよ……!」
刀を大きく振りかぶり、女の身体を袈裟懸けに斬り下ろした。
「俺たち人の力を!」
入り込んだ刀身が、ほとんどなんの手ごたえも無く女の肩口から胴部へ、そのまま脇腹へ抜ける。
仲間により一度切断されかけていた箇所から、完全に切り離された女の上半身がずるりと滑って、巨体から転がり落ちていく。
残った巨体もぐらりと傾き、そのまま地面へと叩きつけられる。
と、全ての力を使い果たしていた逢魔も、べちゃりと地面へと投げ出された。
「……やった、な」
満身創痍。
かろうじて仰向けになったが、地面に倒れたまま。血と泥で全身はどろどろだ。
それでも、逢魔は満足げに微笑んだ。
常世神が倒れた事で領域が消え、周囲が徐々に明るくなっていく。
それからしばらくして。
――――遠くから、仲間たちの声と祭りの喧騒が、地面へ転がったままの逢魔の耳へと届いた。
大成功
🔵🔵🔵