猟兵怪異紀行~廃病院発、異界行~
●好奇心は猫を殺す
×県にある廃病院行ったことある人いる?
いない?
先輩達と肝試ししようて話になったじゃん、けどこっち何もないからさ、検索したらその病院の話のってるとこ見つけた。
入院中に死んだのに気付いてない患者がウロウロしてるとか、やばい研究してた医者が死んだ後も研究してるとか、退院できない男の子がずっと追いかけてくるとか、そーゆーのがいっぱい。
医療ミス訴えて診察室で焼身自殺した霊も出るって。あと、患者と看護師と医師と三股してたアホ医者の幽霊。こっちはハサミとかナイフがお腹に刺さったまま仰向けで床這って来るって。こわ。
それで、そこ肝試しにいいじゃんて。どう?
写真撮って、録画して、あとでグループにのせればまた面白いじゃん。
なんでそんなやばいか?
六階建ての建物三つを渡り廊下で繋いでて、三角形になってる。666はやばい数字。入り口が北東で、それが鬼門っていうよくない方角だって説明してるひといた。
一番奥の建物から、反対側にあるトンネル行けるけど、それもやばいって話。入ったひと誰も帰ってきてないって噂。
ほんとかどうか、病院調べたあとにそこも行こうよ。
先輩達にはこれからメッセおくる。
じゃあね。
●猟兵怪異紀行~廃病院発、異界行~
事故が多発するトンネル、カーブの道。
事件・事故によって閉鎖された物件。
大昔そこが処刑場だった等々、そういった曰く付きの場所はどの世界にもあるらしい。
「俺が知ってるのは、宿泊客やスタッフの幽霊が出る廃ホテルに、ギャング達が抗争で死んだ工場跡で…………俺はそういう所には行ってないぞ。行ってない。例外を除いて不法侵入は駄目だ」
やたら真面目な表情になったネライダ・サマーズ(アイギス・f17011)が、実はな、と語り始めたのはUDCアースに存在する、とある廃病院の事。
場所は関東某県某市。
両サイドを背の高い木々に挟まれている為、日中でも暗い坂道を時折カーブを交えながらずっとずうっと上った先。街を見下ろせる高台に、その病院はある。
見た目は至って普通の病院だが、特徴的な造りと方角面での偶然から患者以外のモノも抱え込んでしまったらしく、年を経るごとに不幸な事件や事故、科学では説明の付かない出来事が起きるようになっていった。
結果、病院は閉鎖。
現在は曰く付きの廃病院として、インターネットを中心に話が広がっている。
「それで終われば依頼しないんだけどな、その廃病院にある邪神教団が目を付けた」
『小規模かつ団員増加の気配なし、故に危険度:低』と見られていたのだが、元々存在した『曰く付きの廃病院』の近くに『帰らずのトンネル』を用意し、一般人を生け贄とした儀式を企んでいると判明した。
当然、その教団に対する危険度は跳ね上がっている。
「この日本って国じゃあ今は夏休みなんだろ? そんな場所があるって噂を流せば、興味を持った奴が次から次へとやって来る。それは火に掛けっぱなしの鍋だ。放置すればいつか溢れる」
という事で。
空の青と海の碧。ネライダの目が猟兵達を見てニッ! と笑う。
「そうなる前にその廃病院で肝試ししてきてくれ」
教団の狙いは、一般人に廃病院をぐるっと回らせて恐怖心を抱かせた後、UDCを仕込んだ『帰らずのトンネル』で死ぬほどの恐怖を味合わせ、『向日葵』と呼ばれるUDCが待つ異界に閉じ込める事。
――ならば、その全てを猟兵がクリアしてしまえばいい。
「病院の中はそう複雑じゃないから迷わないと思うぞ。まずは外来診療棟から中に入って、そこから研究・分析棟四階の関係者口を目指してくれ。その先に『帰らずのトンネル』がある」
邪神教団はそこに『六一一『デビルズナンバーはくし』』と呼ばれるUDCを仕込んだ。そのUDCを倒せば、『向日葵』というUDCがいる異界に“飛ばされる”だろう。
向日葵の花が顔になっている少女の如きUDCに、戦闘力らしい戦闘力はない。
しかし『向日葵』が使うユーベルコードは、“迷い込んだ者を異界に閉じ込め続ける”という事に特化している。長居すれば当然、人は人でいられなくなるだろう。
冒険心を抱いた果てが“人でなくなる事”では、あまりにも惨い。
「それじゃあ行くぞ。……ホラーが苦手なやついるか? UDCからお守りだっていくつか数珠貰ったんだが」
もし幽霊に出くわしても、これで殴れば効果がある――カモシレナイ。
東間
東間(あずま)です。
肝試し。向日葵。夏の風物詩ですね!
各章プレイングの受付期間は個人ページ及びツイッター(azu_ma_tw)でお知らせします。
一章プレイングは冒頭場面追加後から。
受付お知らせ前に届いたプレイングは、公平さを保つ為に一度流す事にしています。
お気持ちに変わりなければ、再度送っていただけますと幸いに思います。
●各章説明
一章は廃病院での冒険と書いて肝試し。
唯一開いている【外来診療棟一階、救急センター入口】から中に入り、【研究・分析棟四階・関係者口】を目指してください。
どこをどう進むかは自由です。
怖がった為に二章・三章の敵がパワーアップする事はありませんので、存分にレッツ肝試し。
道中、何か見たり聞いたり感じたりするかもしれませんし、しないかもしれません。それは本物かもしれませんし、誰かの悪戯や勘違いかもしれません。
何が起きるかはあなた次第ですと書いて「ご自由にどうぞ!」ですが、色々盛り込むよりも、一つに絞るのをオススメします。
二章は集団戦、相手は『六一一『デビルズナンバーはくし』』です。
場所は廃病院を出た先、『帰らずのトンネル』にて。
詳細は冒頭公開までお待ち下さい。
※こちらスケジュールの都合により、プレイング受付まで少々お時間いただく可能性があります。ご了承くださいませ。
三章は異界でのボス戦、相手は『向日葵』です。
※POW・SPD・WIZは一例です、どう行動するかはご自由に!
●お願い
同行者がいる方は、迷子防止の為にプレイングにお相手の名前(ニックネーム可)とID、もしくはコンビ名・グループ名の明記をお願い致します。
複数人参加はキャパシティの関係で三人までとさせてください。
プレイング送信のタイミング=失効日がバラバラですと、納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、プレイング送信日の統一をお願い致します。
日付を跨ぎそうな場合は、翌8:31以降の送信だと〆切が少し延びてお得。
以上です。
それでは皆様のご参加、お待ちしております。
第1章 冒険
『曰くつき…大丈夫、恐くないですよ?』
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POW : 恐くない恐くない恐くない恐くない…(気合・自己暗示)
SPD : キチンと準備しておけば関係ありませ、ぎゃー!出たー!(脇目も振らずに逃走)
WIZ : 幽霊なんているわけないでしょ?(存在を信じない)
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●××××病院
夜の中、完全な黒色となって浮かび上がる六階建ての建物。
雑草だらけの駐車場に面したそこが、外来診療棟だ。
ガラスのない自動ドアを越えて中に入る。
広い。
左手には『診察受付』『会計受付』『お薬』のプレートがついた長いカウンター。
それと対面するソファはかなりの数だ。きっと連休前や連休明けは、大勢の患者やその付添い人でごった返していたのだろう。
しかしカウンターもソファも、床も。埃と砂とゴミにまみれている。ソファの中には、外されて転がっているものや、背もたれの頭を乗せる部分が大きくへこんでいるものもあった。
その右手に、レストランと売店がある。当たり前だがどちらも空っぽだ。
レストラン入り口脇のガラス棚は所々割れており、色をなくした食品サンプルと一緒に、人形やぬいぐるみが並んでいる。忍び込んだ誰かが置いたか。髪の長いベビー人形とは珍しい。
各診療科の診察室が並ぶ通路の手前。壁紙が剥がれているそこには、院内の地図のプレートが。ボルトでしっかり固定されているようで、びくともしない。
入院棟は外来診療棟から見て南西。
管理・研究棟は外来診療から見て北西。
各棟二階は渡り廊下で繋がっている。スムーズに移動出来る造りにしたのだろう。
六階建ての三棟で三角形を描かなければ。
違う方角であれば。
ここには、今も大勢の人間がいたかもしれない。
静かだ。
病院内の空気は淀み、湿っている。臭いは埃っぽい。
歩けばそれが、目に見えぬ靄のようについてくるような。
ついてくるのは。
空気だけだろうか。
ザザ・クライスト
ジャスパー(f20695)と参加
「ヤるか?」
煙草に火を点け煙を吸い込んで【ドーピング】
【破魔】の力を働かせながら箱を揺らして一本差し出すが、未成年という話に肩をすくめる
「悪ィな、妙なコトに付き合わせて」
経路は最短コース
偵察にレオンハルトを放つが戻ってこねェ
クソ、遊んでンのか?
「バッ、別にビビってねェ!」
からかうジャスパーに声を荒げるも、
「ハァン? 実はオマエさんがブルってるってワケか」
ニヤニヤとやり返す
が、確かに妙な気配に【野生の勘】がチリチリする
【忍び足】で音もなく進みながらジャスパーの身のこなしに目を細める
滑らかすぎて鳥肌だ、勘もイイ
相当デキるな
「そうしよう。レオンも戻らねェし何かあるぜ」
ジャスパー・ドゥルジー
ザザ(f07677)と
「ヤりましょーか」
自前のナイフを弄びながら
…あ、悪ィ、煙草はパス
これでも未成年なんでさ
ン?
いやいや楽しいから全然アリだぜ
誘ってくれてサンキュな
ところで怖かったら手ぇ繋いでやってもいーぜ
きししと笑み
まァ怖がるよーなタマじゃねえか
進んでいく中で時折背後に気配を感じる
気取られぬように何気ない動作でナイフを投擲してみるが……
おっかしーな、カンが鈍ったかな
何もいねえ
別に幽霊を信じてないわけじゃねーよ
見えない触れないヤツなら
さして脅威じゃねえだろってだけ
それにしても
いるんだかいないんだか
ハッキリしねえのは苦手だ
さっさと先に行こうぜ
進めばわかることもあるだろ
…ちげーよ、怖くなんてない
くるりくるりとナイフが左右に動く。つるりとした刃に何度か白い顔が映った。ぼさぼさとした黒髪の下で紫の目が嗤う。唇が開いて、そして。
「ヤりましょーか」
普通に喋った。
不健康な顔立ちだが幽霊でも何でもない。オウガブラッドの殺人鬼で聖者なジャスパー・ドゥルジー(Cambion・f20695)だ。
自前のナイフを弄っていたジャスパーの視線に、ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は火の点いた煙草に口をつける。深く吸い込めばその味わいと共に感覚が研ぎ澄まされていった。
「ヤるか?」
隣へ目をやりながら煙草の箱を揺らすと、次の一本がひょこっと顔を出す。
「……あ、悪ィ、煙草はパス。これでも未成年なんでさ」
煙草を嗜むにはあと二年要る。
ザザは肩を竦め、目の前の案内プレートを見た。吐き出した煙がぷか、と上昇し、くにゃりと曲がりながら広がって消えていく。
「悪ィな、妙なコトに付き合わせて」
「ン? いやいや楽しいから全然アリだぜ。誘ってくれてサンキュな。で、どう行く」
「そりゃ最短コースだろ」
――という事で二人は外来病棟一階から研究・分析棟四階にある関係者口を最短ルートで行く事にしたのだが、二階渡り廊下でその足を止めていた。ザザが偵察に放った狩猟犬・レオンハルトが戻ってこないのだ。
(「クソ、遊んでンのか?」)
廃病院だ、丁度良い玩具になる物が転がっていてもおかしくない。ベッドフレームの一部、スリッパ――まさか人体標本でも見つけたか? 思案する顔を青白い顔がきししと覗き込む。
「ところで怖かったら手ぇ繋いでやってもいーぜ」
「バッ、別にビビってねェ!」
声を荒げ歩き出す。遊んでいるなら物音で見つけられるだろう。レオンハルトがこちらの足音に気付き、駆けてくるかもしれない。
ずんずんと行く背をジャスパーは愉しそうに見つめ、後をついていく。まァ怖がるよーなタマじゃねえかと、嗤い声は口の中に含んだまま――。
カツンッ。
ぷらぷら遊ばせていた手で投げたナイフが渡り廊下を一瞬で飛んで、壁に当たって、床に落ちる。その音だけが、しんとしたそこに響いた。
(「……何もいねえ」)
おかしい。勘が鈍ったか。何度か背後に感じた気配が“またあった”からやったのだが。足跡や匂いといった、誰かがいた痕跡すら残っていない。あった筈の気配も消えていた。まるで、最初から“そこには何もなかった”ような――。
「ハァン? 実はオマエさんがブルってるってワケか」
回収に行く後ろ姿へニヤニヤとやり返すザザだが、ナイフを使った理由は解っていた。さっきから漂っている妙な気配のせいだ。チリチリとした感覚が取れない。
ニヤつきながらお帰りとからかう声に、ただいまと嗤う顔が向く。
「別に幽霊を信じてないわけじゃねーよ。見えない触れないヤツなら、さして脅威じゃねえだろってだけ」
そうでなかったら――まァ、脅威かもしれねえけど。
見えるし触れるなら、“やれる”のなら。それはそれで対処のしようがある。今のような、いるのかいないのかハッキリしないものの方が苦手だ。
「さっさと先に行こうぜ。進めばわかることもあるだろ」
そう言って先を行くジャスパーの身のこなしは触れる空気と同様に滑らかだ。
先程の反応から勘の良さも伺えて、相当デキるなと目を細めたザザは、音もなく進みながら通路の先を見る。
「そうしよう。レオンも戻らねェし何かあるぜ。さっさと終わらせりゃあ、またブルっちまうこともねェだろ」
「……ちげーよ、怖くなんてない」
大成功
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天杜・理生
ノエミとモニカ(乃恵美・f05894)と同行。
アドリブ歓迎。
妹たちの手を引いて廃病院へ。
幽霊だの残留思念だの、まぁそれくらい在るだろ。
なんだ、ノエミはともかく、お前も怖いのかよ、モニカ。
なんてからかいながら歩いていると不意に只ならぬ物音。
念のため2人を背に庇うように立てば
眼前に落ちてきて泣き喚く赤ん坊の……なんだ、人形か。
……待て、ふたりしてそんなにしがみついたら僕が動けないじゃないか。
落ち着けよ。ただのおもちゃだろ。
怨念はこもってるかもしれないが。なんてな。
ああ、もう、仕方ないな。行くぞ、ノエミ。
大丈夫、お兄ちゃんがついてるよ。(抱き上げて)
モニカは歩けるだろ?(にんまり片手を差し出し)
天杜・乃恵美
おにいちゃん/兄くん(理生:f05895)が引率
最初からユベコで2人に分離
各々理生の手を握る
アドリブ歓迎
◆ノエミ
※主人格・金髪巫女・無垢
おばけのおいしゃさん、ここ?
あたし、こわいよぉ…(ぷるぷる)
にゃーっ!?(理生の背後でぎゅーっ)
うぅ、もうやだぁ…(ぐす)
おにいちゃん、だっこしてくれるの…?(ぎゅむ)
ごめんね…モニカちゃん、だいじょうぶ?
◆モニカ
※副人格・銀髪技師・背伸び気味
アタシは分かってるよ?
コレもオブリビオン案件って
でも直接関係ないホラーはね
過剰演出も苦手だしさ…
ひぃっ!?(同様に理生の背後でぎゅーっ)
って人形か…お、怨念?(びくっ)
う、うん、歩けるよ…(ノエミを羨しげに見つつぎゅっ)
「おばけのおいしゃさん、ここ? あたし、こわいよぉ……」
「アタシは分かってるよ? コレもオブリビオン案件って」
ふわふわとした金髪を揺らす天杜・乃恵美(天杜・桃仁香と共にありて・f05894)は、小さく震えながら自分より大きな右手をぎゅっ。乃恵美と瓜二つ――オルタナティブ・ダブルで現れた桃仁香は落ち着いた様子を見せながら、同じく自分のものより大きい左手に引かれていた。
「でも直接関係ないホラーはね。過剰演出も苦手だしさ……」
「幽霊だの残留思念だの、まぁそれくらい在るだろ。なんだ、ノエミはともかく、お前も怖いのかよ、モニカ」
「違うったら。ホラーは怖がらせるのが目的だから、その演出も……」
二人の妹をからかう天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)だが、その手は妹達の手をしっかり握り締めていた。暗いと怖いがタッグを組んだ廃病院の中であっても、こうしていれば妹達は頑張れるだろう。
(「モニカは背伸びしているからな、我慢できるかもしれないが……」)
ぷるぷる震えながら自分にしがみついている乃恵美は、状況によっては泣き出してしまう可能性がある。――桃仁香も、ぴったりくっついている気がしなくもない。
早めに終わらせよう。
二人の手を引いて階段に向かう。抜け落ちている部分はない。安心して上れそうだ。
「この階段が研究・分析棟に一番近いぞ」
近い。つまり、この状況から素早く抜け出せる。
乃恵美がほっと笑顔を浮かべ、乃恵美は「ふぅん」とクールな表情。仲良く階段に足をかけて、
――ヒュッ。
何かが落ちてきた。
『マアぁぁァあアああマァァァ! マアぁぁ、ァあアあマァァ!』
「にゃーっ!?」
「ひぃっ!?」
乃恵美と桃仁香は悲鳴を上げて理生にしがみついた。理生は何かが落ちてきた瞬間にはもう二人を守るように立っていて――なんだ、と息を吐く。
「……人形か」
ぷくりとした手足を、やけにスローでじたばたさせる赤ちゃん人形。猫のようなぐるぐると音程が変わる声は、よくよく聞いてみると『ママ』を繰り返していた。音声機能が故障しているらしい。
「って人形か……」
「うぅ、もうやだぁ……」
桃仁香は理生の後ろから、そろりそろりと顔を覗かせ安全確認。
乃恵美は肩を震わせ、ぐすぐすと泣いている。
「……待て、ふたりしてそんなにしがみついたら僕が動けないじゃないか。落ち着けよ。ただのおもちゃだろ。怨念はこもってるかもしれないが」
「……お、怨念?」
桃仁香がびくっと震える。乃恵美はたまたま聞いていなかったらしく、やだやだと理生にしがみついたまま。ああ、もう、仕方ないな。優しい声が降った直後、乃恵美の体がふわりと浮いた。
「行くぞ、ノエミ。大丈夫、お兄ちゃんがついてるよ」
「おにいちゃん、だっこしてくれるの……?」
「ああ」
優しい表情に乃恵美はたまらずぎゅむっと抱きついた。でも。でも。自分は抱っこしてもらえたけれど。
「ごめんね……モニカちゃん、だいじょうぶ?」
ほんの一瞬、桃仁香の肩がぴくっとした。
理生が笑う。にんまりと。
「モニカは歩けるだろ?」
「う、うん、歩けるよ……」
桃仁香は抱っこされた乃恵美を羨ましそうに見ながら、差し出された手をぎゅっ、と握るのであった。
大成功
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リグ・アシュリーズ
合法かはさておき。こうやって廃墟探索できるのも役得よね!
肝試しというより、純粋に散策を楽しむわ。
騒ぎ立てず静けさの中聞こえる音に聞き入り、
お化けが出ても「あら!」ぐらいの反応。
強い敵意を持つものへは銃で威嚇・応戦するけど、
基本はテリトリーを犯さず穏便に対処。
この病院内のは――行き場を求めて集ってるだけ、のような気もするから。
UDCの廃墟は退廃的で、どこか癒されるのよね。
ここにも歴史や営みがあった事を、伝えてくれる。
同じ廃墟でも、故郷の世界じゃ……跡形も残らないから。
(何度か見た、一夜にして滅ぼされた村の光景を思い出し)
さて、それじゃ。
素敵な遺産を悪いことに使う人たちを、懲らしめに行かないとね?
静かで、暗くて――あ、少し埃っぽい。
空気は、あまり良くない。
廃病院を行くリグ・アシュリーズ(人狼の黒騎士・f10093)は、声と足音を潜めながら足を進めていた。
(「合法かはさておき。こうやって廃墟探索できるのも役得よね!」)
無言でうんうんと亜麻色の瞳を輝かせ、時折静けさの中に聞こえた音へ耳を澄ます。これは――低い唸り声に似ているけれど、風の音。
判断したら、さあ次へ。目指すは研究・分析棟四階の関係者口!
足取りに合わせ、背に流した灰髪が尾のように揺れる。その様は肝試しをしている、というよりも純粋に散策を楽しんでいるようで、見る者がいたなら“夜の廃病院”という恐怖シチュエーションを忘れられる――そんな生き生きとした姿だった。
リグは階段を使って二階に到着すると、足を進める前に左右を確認する。
右良し、左良し。
(「確か二階渡り廊下で繋がってるのよね」)
すぐそこに渡り廊下が口を開けているが、あれは入院棟に通じているものだ。直で行くなら、診察室が並ぶ通路を行く必要がある。
静まりかえった通路はただただ暗い。暗闇に慣れた目は、ある一室だけ中から椅子が『ハァイ』と顔を出しているのを捉えていた。
その先が見えず「邪魔ね」と眉を顰めるも、用意した銃を手にそちらへ向かう。もしもの時はこれで威嚇・応戦すればいい。そういえば幽霊相手にユーベルコードってどれくらい効果が――と思考が飛んだ、その時。
せんせ い。
よろしく おねがい しま す。
かすかな声。女性だ。気配は――開きっぱなしのドアの向こう。
そのドアが、閉じていく。ゆっくり、ゆっくり。
どうして音がしないのだろう。リグはトリガーにそうっと指をかけ、意識を集中させる。そして――指を、離した。
閉じたドアの隣、『呼吸器内科』のプレートが付いた部屋に老齢の女性がゆるゆると入っていく。ハンドバッグにカーディガンとロングスカート。診察を受けに来た、のだろうか。診てくれる医師は、そこにいるのだろうか。
(「……診察されてるところを他人に覗かれるのは嫌よね」)
邪魔にならないよう、そっとそっと通過して。振り返らず、そのまま先へ。
恐れはなかった。UDCアースの廃墟が持つ退廃的な空気はリグを不思議と癒し、ここにも歴史や営みがあったのだと伝えてくれる。同じ廃墟でも、リグの故郷では――瞼の裏に甦る、一夜にして滅ぼされたあの村のように何も残らない。そこに息づいていた全ては奪われて、二度と還らない過去になる。
ぱちり。目を開く。
(「さて、それじゃ」)
壁にくっついているプレートには、奥を指す矢印と『研究・分析棟』の文字。
(「素敵な遺産を悪いことに使う人たちを、懲らしめに行かないとね?」)
大成功
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鎧坂・灯理
肝試しか 法的にどうこうとは今更言わん
この世界、幽霊が実在するからな
掃除ついでにぐるっと回るか
診察室に焼身自殺者の幽霊と三股ドクズの幽霊
入院中に死んだ患者の幽霊と、マッドの幽霊と、退院出来ない少年の幽霊
少年の幽霊と、入院中に死んだ患者の幽霊は違うのか。
幽霊になっていると言うことは死んでいるのだろうが、「退院出来なくて死んだ」=「入院中に死んだ」ではないのか?
……良くわからんな
まあいい、全部片せば同じ事だ
『麒麟』で情報収集 問題があった場所はすべて回る
念動力で霊的存在を片端からUCで破壊して、物理的に成仏させてやる
教団の下らん思惑を完膚なきまでにぶち壊す
肝試し。
夏になるとやたら聞くようになるそれを、鎧坂・灯理(不退転・f14037)は法的にどうこうと今更言う気はない。
肝試しの場にされるのは入ってはいけない時間帯・場所である事が殆どであるが、何せこのUDCアースには幽霊が実在する上に、邪神まで存在している。そういったものが在るのならば、曰く付きの場所が生まれるのは至極当然の事。
「……掃除ついでにぐるっと回るか」
この廃病院には焼身自殺者に三股“ドクズ”、マッドサイエンティストに入院中に死んだ患者と退院出来ない少年といった様々な幽霊が存在していると聞いたが――少年霊と患者の霊は、違う霊なのだろうか。
共通点は“どちらも死んでいる事”。
だが、“退院出来ず死んだ”と“入院中に死んだ”はイコールではないのか?
灯理は思考を巡らせながら、『麒麟』でここにまつわる情報を全て拾い上げていく。この二つの違いは得た情報をさらっても良くわからなかったが――解は、得た。
「おい」
振り返る。
綺麗に揃えられた髪が揺れ、紫眼が圧を孕んで捉えたのは床を這う白衣の男。仰向けになったその腹に突き刺さっているのは、愛と憎悪の証“達”。
「全部片せば同じ事だ。そうだろう、三股ドクズ」
バヅンッ。
まず右腕が吹き飛んで欠片も残さず消えた。
ああ、と引きつったような声が男から聞こえた直後、今度は左腕が。
性能が良過ぎる脳と怪物じみた意志は生前三人を弄んだ元医者を“直接”殴る力となり、どんどんどんどん男を小さく――否、破壊していった。
腹部に生けられてた刃物も男と共に綺麗かつ物理的に成仏すれば、そこは元の、しんと静かで暗い通路に戻っていく。
「……さて」
焼身自殺者の幽霊が出るのは腫瘍内科。
入院中に死んだ患者の幽霊は、入院棟五階廊下をストレッチャーに乗った状態でガラガラと巡っているらしい。死の直前、どこかへ運ばれる最期の記憶が巡り続ける理由なのだろうか。
退院出来ない少年霊は入院棟四階、ナースステーション目の前の談話広場で“ずっと話をしてくれる”話し相手を求めているらしい。
マッドサイエンティストの幽霊は研究・分析棟一階の最奥。危害を加えられたという情報はなかったが、死んだのだから成果など残せまい。無意味だ。
灯理は案内図と情報を重ねながら整理し、それを短い時間で済ませた。通路を行き、階段を上がり、迷う事なく進んでいく。
教団の下らん思惑を完膚なきまでにぶち壊す。
その意志のもとに始まった物理的成仏は、誰にも止められない。
大成功
🔵🔵🔵
碧海・紗
POW
アンテロさん(f03396)は、
幽霊とか…信じますか?
別に怖いわけではありません。
暗いところになら、ずっと居ましたから。
(こんなに不気味ではなかったけど…)
両手を組んで少し背中を丸めた体勢
翼は仕舞います
何かに触れてはコワ…壊してはいけませんし?
廊下に反響する足音は
2人分なのにもっといるようにも感じて
偶に歩幅の間隔を変えて
周りを見過ぎて時々彼に追突
最短距離?
診察室から見える気味の悪い注射針
誰かが通ったと言われれば
ヒッ、と小さく声を零して彼を壁に見えないように
常にぶつかる距離感
然し掴まないのは…怖くない、から。
本当にこっち?
アンテロさん意地悪だから、遠回りしてたり…しません、か?
アドリブ歓迎
アンテロ・ヴィルスカ
WIZ
答えはNo、碧海君(f04532)は霊の存在を信じているのかい?
しかし不思議だね、危険な場所だと分かっているのに
態々こんな時間に自ら肝を冷やしに赴くのか、ヒトは
霊に会いに来た訳ではないし最短ルートを選択
おや、此処は…診察室?
床に光るのは夥しい注射針、なるほど
霊は居なくともマッドな医者がいる可能性までは否定出来ないねぇ
背中にぶつかる衝撃に時折くすりと
……碧海君、あっち。今何かの影が横切らなかった?なんて
敢えての遠回りも悪くない、教団に関する情報もあるかもしれないからね。
アドリブ歓迎
アンテロさんは、幽霊とか……信じますか?
碧海・紗(闇雲・f04532)の質問に、アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)が微笑と共に返した答えは「No」。
「碧海君は霊の存在を信じているのかい?」
「別に怖いわけではありません。暗いところになら、ずっと居ましたから」
こんなに不気味ではなかったけど、という声は心の中に。
両手を組んだ紗の、少し丸めた背中に普段ある黒翼はない。
何かに触れたらコワ――“壊”しては、いけませんし?
言い直したような言葉と、揺れていた黒い瞳。アンテロは口元の笑みをほんの僅かに深める。
しかし不思議なものだ。
ここはヒトの営みが紡がれる場所ではなく、ヒトが失せて荒れ果てるばかりの場所だ。平穏はなく危険だと分かっているのに、ヒトは態々こんな時間に自ら肝を冷やしに赴くという。
八端十字架のヤドリガミたる自分には、それが不思議でならないが。
「碧海君。霊に会いに来た訳ではないし、最短ルートを行こうか」
「最短距離?」
アンテロが指した先には、ドア、ドア、ドア。それに応じた、ソファもいくつか。暗闇にうすら浮かび上がるその形は、物言わぬオブジェのようだった。
廊下には二人だけの足音が反響する。こつ、こつと聞こえるそれが、なぜだか紗の耳には“もっといる”ようにも感じられて。
(「アンテロさんと、私だけ……の、筈」)
こつ、こつ。こつ、こつ。こつ、こつ。こつ、こつ。こつ。
歩幅の感覚を変えてみる。
こつ、こつ。こつこつ。こつ、こつ。こつこつ。
ああ、良かった。変えた通りの数。
しかし道中周りを見過ぎてしまうようで、時々とんっとアンテロに追突してしまう。くすりと聞こえた笑みの音は――すぐそこの宿神から。きっと、そう。別方向からなんて、そんな。
「おや、此処は……診察室?」
「そうみたいですね……でも、どうしてこんなに注射針が?」
一歩入れば、そこは注射針天国といっても差し支えない程、細く尖ったソレで埋め尽くされていた。夥しい量の注射針は未だ無機物である筈なのに、使い手の声を伝えるかのように不気味に光っている。
「なるほど」
「な、なるほどって何がですか?」
「いや、霊は居なくともマッドな医者がいる可能性までは否定出来ないねぇ……と」
床を見ていた紗の顔がさあっと青くなる。
猟兵とはいえ注射針で彩られた床を歩き回れば、怪我をする可能性はあるだろう。アンテロは他を見てみようと紗を次へと促し――とんっ。本日何度目かの、背中に感じた可愛らしい衝撃に、くすり。
「あ、す、すみません」
「平気だよ」
常にぶつかる距離感だが、紗の手は共に行く男の服や手を掴まない。
だって怖くない、から。
「……碧海君、あっち。今何かの影が横切らなかった?」
「ヒッ」
小さく声を零してサッと飛び込んだのはアンテロの背後。自分より17cm以上高い男の体躯が、“あっち”をしっかり隠してくれる壁になる。
くすりと聞こえた笑みに、紗はそうっとアンテロを見上げる。
本当に、こっち? そう思ってしまうのは、アンテロが意地悪だから。
「……あの、アンテロさん」
「何かな」
「遠回りしてたり……しません、か?」
にこ。
「敢えての遠回りも悪くない、教団に関する情報もあるかもしれないからね」
さあ、あっちへ行こうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
雷眉毛さん/f04128
病院。となりますと、あなた薬師でしょう。
ああいうトコの構造、ある程度は分かりません?
…え?討伐対象のUDC?
向日葵が似合う女の子って聞きましたけど。
回想終了。
大の大人が幽霊亡霊ごときにビビってんじゃありませんよ。
ほらさっさとする。置いていきますよ。
――…二人ですよね?足音、一人分多くないですか?
ウソです。
――…そこの部屋のスキマ、ひとの顔がありましたよ。
ウソですよ。
――…いま窓から何かに見られてますね。
ウソですけど。
…え?頬、ですか?
何もしてませんよ。ていうか、できません。
オレ、懐中電灯持ってるし。ずっと照らしてたでしょう。
……ウソじゃないですね。最後のは。
ロカジ・ミナイ
夕立くん(f14904)
…まぁ、病院にはそれなりに詳しいけど?
…そう、向日葵の女の子が
しかたないなぁ、今回だけだよぉ?
ところでここはどういう場所なんだい?
聞いてないよ、こう、イタズラ?冒涜?
そういうのよくないとおも、おもおもおも
足音!?隙間!?イヤァァァ!…あ、気のせい
またそうやって冗談をー
ヒッ、誰!?誰でもない!?
いちいち付き合う僕の身にもなって欲しいね
うっかり腕なんて掴んじゃったじゃないの
大体さ、アイツら死なないしUCも効かないし
ビックリするし辛気臭いしさぁ
キャァァァ!ちょっと夕立くん、今僕のほっぺた触ったね!?
さわっ…ええ!?
確かに君には不可能、だ
ああ、僕もうダメかも
あ、出口はあっちです
これは、矢来・夕立(影・f14904)とロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)の、ある日ある場所ある時間での会話である。
『病院。となりますと、あなた薬師でしょう。ああいうトコの構造、ある程度は分かりません?』
『……まぁ、病院にはそれなりに詳しいけど? ところでさぁ、討伐対象ってどんな?』
『……え? 討伐対象のUDCですか? 向日葵が似合う女の子って聞きましたけど』
『……そう、向日葵の女の子が。しかたないなぁ、今回だけだよぉ?』
回想終了。
そして場面は今現在の二人へと。
廃れに廃れた鉄筋コンクリート製の建物、その屋内は見事に暗く、夕立が懐中電灯で照らしたそこに舞う埃が、ちらちらと輝いた。その後ろを付いて行くロカジが、ところで夕立くん、と声を掛ける。
「何ですか」
「ここはどういう場所なんだい?」
「事件事故が多発した結果、閉鎖された曰く付きの病院です」
「え。嘘でしょ」
「――……」
「ウソですって言ってぇ!」
向日葵が似合う女の子と聞いた瞬間キリッとなっていた雷眉毛が、一瞬でへたれにへたれた。
眉間にギュウ~ッと皺が寄り、ヒンッと食い縛られる口。やだやだと首を振るが夕立はこれっぽっちも止まってくれないので、ロカジはぷるぷるしながら付いて行くしかなかい。
「聞いてないよ、こう、イタズラ? 冒涜? そういうのよくないとおも、おもおもおも、」
カシャーンッ……。
「えっ今の音なに何なのちょっとやめてよ男子ぃ!」
「大の大人が幽霊亡霊ごときにビビってんじゃありませんよ。ほらさっさとする。置いていきますよ」
17歳の容赦のなさが26歳の止まって(そして生まれたての子鹿の如く震えて)いた足を動かした。
歩き出したら後は進むしかない。行くべき道は懐中電灯の光と夕立が示してくれる。階段を上り、渡り廊下を進んで。研究・分析棟の暗く長い廊下を行けば、自分達の足音だけが木霊するよう。それは。
「――……二人ですよね? 足音、一人分多くないですか?」
「足音!?」
「ウソです」
ちょっともー夕立くんさぁ、とロカジの手がひらひら踊るその向こう。夕立の赤い双眸が、ぴたりと注がれていた。
「――……そこの部屋のスキマ、ひとの顔がありましたよ」
「隙間!? イヤァァァ!」
「ウソですよ」
「……あ、ウソなの」
「――…いま窓から何かに見られてますね」
「またそうやって冗談をー……ヒッ、誰!?」
「ウソですけど」
それと映っていたのは恐怖に引きつる同僚の顔だったような。しかし夕立は言わないでおいた。さっさと行きましょう。そう言って前を照らし歩く背に、ロカジはぶつぶつと文句を投げながら付いて行く。
「いちいち付き合う僕の身にもなって欲しいね。うっかり腕なんて掴んじゃったじゃないの。大体さ、アイツら死なないしユーベルコードも効かないし、ビックリするし辛気臭いしさぁ」
ぺた。
ほら今だって僕のほっぺた――……え?
「キャァァァ!」
絹を裂くようなロカジの悲鳴に、流石の夕立もどうしましたと振り返る。
涼しげな表情にロカジは頬を指差しながら、今僕のほっぺた触ったね!? と訴えた。さすったりしないのは、触られたばかりのそこに何となく触れたくなかったからだ。しかし。
「何もしてませんよ。ていうか、できません。オレ、懐中電灯持ってるし。ずっと照らしてたでしょう」
「え、でも確かにさわっ……」
「……ウソじゃないですね。最後のは」
懐中電灯。確かに持っている。
反対側の手を使えば――いやいやいやいや。
「確かに君には不可能、だ。……ああ、僕もうダメかも」
へなへな、ぺたり。
座り込んでしまったロカジからは彼が負った精神的ダメージの深さが伺える。その殆どは夕立産だが、トドメを刺したのは“本物”のようだ。
置いていきますよがもう一度通用するかどうか。
考える夕立の前で、疲労困憊といったロカジが何かに気付き、力ない笑みを浮かべる。
「あ、出口はあっちです」
「――……肝試し、思ったより早く終わりそうですね」
これは、ウソじゃないですよ。
夕立の声を受け止めるように、『関係者口』と書かれたプレート付けたドアが暗闇の中で佇んでいた。
あの先に仕込まれた怪談が――『帰らずのトンネル』が、待っている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
波狼・拓哉
おにーさんここについてから気付いた。UDCアースの裏側見過ぎて肝試しで怖がれねぇ…!
まあ、折角来たし一応進んで見よう。研究棟の四階に行けばいいんだっけ…せっかくだし入院棟の方から回ってみるか。
進みにくそうなとこはロープ使ったり地形の利用で進んでいこう。折角だし入院棟の六階まで!
やっぱ六階は結構高いなー…人の出入りも無いから荒れに荒れてるけど。えーっと何がいるんだっけ、追いかけてくる男の子とうろうろする患者…だっけ。…足音は聞こえるけど味方のだろ。いいや戻って目的地目指そう。
…そういや味方でも六階までくる物好きとかいんのかね…ん?あれ、もしかして?
…あ、今のはゾクッて来たわ。
(アドリブ絡み歓迎)
波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は廃病院に到着してから気付いた事がある。
「UDCアースの裏側見過ぎて肝試しで怖がれねぇ……!」
スペースシップワールドやキマイラフューチャーで仕事をした経験はあるが、拓哉の仕事履歴の九割近くをUDCアースが占めている。
結果、大抵の者がゴクリと唾を呑むこの状況であっても全く怖くないという、全国の恐がりが心底羨ましがりそうな状況になっているのだが――それだけUDCアースの平穏に貢献したという証だろう。
それに折角来たのだ。一応進んでみたら、何かしら得るものがあるかもしれない。
拓哉は自動ドアのフレームを越えて中に入ると、そのまま進んで壁の前で止まって案内プレートと見つめ合った。意外と綺麗に残っているものだ。
「研究棟の四階に行けばいいんだっけ……」
目指すはそこだが、折角だし、という気持ちが湧いて向かった先は入院棟だった。
幸いにも渡り廊下はちゃんと繋がっており、足元が崩れる様子もない。拓哉は渡り廊下を行った先、剥がれかけた『STAFF ONLY/関係者以外立ち入り禁止』のステッカーが特徴のドアを開け、六階を目指していく。
「到着ー、っと」
ガチャリ。開けた瞬間、六階に充満していた空気が自分の方へ音もなく雪崩れ込んできたような。そんな感覚に包まれた拓哉がドアから顔を覗かせれば、無人のナースステーションが目に入った。
暗くがらんとしたそこに目をやったのは数秒で、拓哉はとりあえずと一番近い部屋へ向かう。番号室は六〇一。中には、閉じていたり半端に開いていたり、完全に開いていたりとてんでバラバラなカーテンで仕切られたスペースが四つ。
部屋の奥、掛けるものがなくなってるカーテンレールの向こうには天井近くまでの高さを持つ窓があり、外がよく見えた。
「やっぱ六階は結構高いなー……」
黒く広がる木々の先、遥か彼方にきらきら灯る街灯りが、ひぃふぅみぃ――それ以上。人の出入りが無い為に荒れに荒れてはいるが、中に入ってみる。
ベッドフレームに残っているのはマットだけ。枕とシーツ、布団はない。剥き出しのマットはどういう経緯で付いたのかわからない汚れで、ズタボロだった。
「えーっと何がいるんだっけ、追いかけてくる男の子とうろうろする患者……だっけ」
それらしき姿は見当たらない。何せ“成仏させられた”後。しかし拓哉がそれを知る筈もない。隣の部屋も見てみるかと、思った時だ。
ペタ――ペタ――。
足音だ。廊下から聞こえた。距離は――近くない。
(「味方のだろ。いいや戻って目的地目指そう」)
入院棟の奥まで行ってそこから二階を目指すか、先に二階へ下りてそこから渡り廊下のある方へ向かうか。案内プレートを思い出しながら、そういや、と気付く。
(「味方でも六階までくる物好きとかいんのかね……ん?」)
見えていた街灯りが全部なくなっていた。ざわざわと揺れている黒色は――これは。違う、夜空じゃない。木々のそれだ。
(「じゃあさっきの街灯りは?」)
っば。
拓哉の瞳に。窓の向こうに広がる黒色に、再び灯りがついた。
違う。ほのかに濡れたこれは目だ。
それも両目じゃない。左右どちらかの目が、黒一面に並んで――。
「……あ、今のはゾクッて来たわ」
ほんと う ?
「え」
耳元で聞こえた幼い声。
振り返る。
だがそこには誰もいなかった。空っぽのベッドだけが、並んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
ニュイ・ミヴ
【POW】
ふむむ……
おばけ……
他の人も来てるならびっくりさせちゃうかも?
ちょっとヒューマン・ニュイになっておきましょう!
でろでろ人型もどき(本人的には頑張ってる。が、のっべらぼう)に形状を移ろわせつつ、徘徊
散らばったレントゲン
人間ってこんな中身なんだってわくどき目を通し、次々辿ると霊安室か手術室へ続いてる?
電気がない筈が扉の隙間から冷気が揺れて
ぺしょっ。
ぺしょ
やわい何かが這う音が段々早く迫り、
あ
てへへ、いまのはニュイでした
慣れぬ人型で、道中置き忘れた足部分が追いついてきたのにてへぺろ
でも
おばけって、ほんとうはどんななのでしょう
こわいから、わるもの?
割れた鏡は何も教えてくれなくて
※アドリブ他歓迎
ぺたぺた、にゅるにゅる。ぺた、にゅるる。
外来診療棟の暗い廊下を、更に暗い“きらきらを抱いた何か”が進んでいく。
――と、ぴたり止まったそこは壁に付けられた大きな鏡板の前。
「ふむむ……おばけ……」
鏡をじっくり見つめ呟くその正体は、ブラックタールな猟兵のニュイ・ミヴ(新約・f02077)だった。
この廃病院には自分だけでなく他の猟兵もやって来ている。ならば、シチュエーションぷらすニュイのビジュアルいこーる、びっくりさせちゃうかも? というアンサーが頭の中にぷかり。
「……閃きました!」
鏡の前でプリンのように震えると、日夜続けてきた練習の成果を発揮しながら再出発。
普段のニュイから、ヒューマン・ニュイへ。移りゆく形状はでろでろ人型もどき。お顔はのっぺらぼう。
しかし頑張ったニュイの足取りは伸び伸びフリーダム。渡り廊下を行き、辿り着いた研究・分析棟二階で、UDCアースという世界に触れていく。
「ふむふむ、人間ってこんな中身なんですね……」
ぷるりとした手が拾い上げたのは床に散らばるレントゲン写真。どうしてこんなに残って、しかも散らばってるのかは全くわからないけれど――頭部、胸部、腰、足、手。服や肉で見えない人体の構図、骨の形。それは生物を形取る練習に役立つ予感でいっぱいだった。
わくどき目を通したら「お邪魔しました」とぺこり頭を下げて次の部屋へ。
終わったらまた次へ。そしたらまた、と続けて別の階へ。
でろでろ人型のっぺらぼうがカチャリとドアを開けては中に消え、数分後にカチャリと出てきてという図は、知らなければ『おわかりいただけただろうか……?』とリプレイ必至の場面。
そうと知らないニュイは研究・分析棟の各部屋を次々制覇しながら進んでいき、とある場所で、おやおや? と足を止めた。引分式のドアの上には――。
「手術室……?」
視線を、その三文字から下ろしていく。
少しだけ。ドアに隙間が出来ていた。
真っ暗だ。なのに、電気がない筈のそこから冷気が零れて、床に落ちて。ほろほろと揺れているような。
ぺしょっ。
ぺしょ。
聞こえたのは、足音にしては柔い音。人が移動する時には、決してしない音。
遠かったそれが近付いてくる。
ぺしょっ、ぺしょっ、ぺしょ、ぺしょ。
段々とその音は早くなり『何かが這う音だ』と判った時にはもう、音はニュイがいる手術室近くまで迫っていた。
(「ニュイの他にブラックタールはいませんでした。人間じゃなかったら何でしょう。おばけでしょうか」)
黒い体の表面が、かすかに波打つ。
ぺしょ、ぺしょ、ぺしょぺしょ、ぺしょぺしょ。
這う音はもう目の前。速度を上げた音があの曲がり角から顔を出したら、もう――。
「あ」
ぺしょりと姿を見せた黒いシルエット。人の足。けれどそこには、見慣れたきらきらの欠片が漂っていた。
「てへへ、ニュイの足でした。置き忘れちゃったんですねぇ」
てへぺろと笑って自分の足を見れば、くるぶしから下が足りていなかった。一体どこで置いてきちゃったんでしょう? 首を傾げながらぺちゃりとくっつけ、手術室に入ってみる。
入ってすぐ右手には埃を被った銀色の台が複数。壁に四角い装置が付いており、その上には割れた鏡が一枚ずつ。手術前に手を洗う場所のようだ。
(「でも……おばけって、ほんとうはどんななのでしょう」)
映画やドラマ、漫画に小説。色んな形でその姿は伝えられているけれど。
「おばけって……こわいから、わるもの?」
全てをずらして映す鏡は何も教えてはくれず、首傾げる漆黒を映すばかり。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
幽霊オバケの類を怖がる性質でもなく
ヒトのがよっぽど怖いわぁ、ナンて言いながら
怖がる人見て楽しむモンだと思ってたンだけど
よく考えたらアタシUDCと幽霊の違いがよく分からないわ、不覚
ま、物好きな幽霊と出会えるかもしれないし、と敢えて選ぶ一番遠回りな道
折角だし普段覗けないような色んな部屋覗いてこっと
話し相手に管狐呼んで、灯り代わりに頭に【月焔】灯すヨ
周囲をじゃれて飛び回るくーちゃんの影がゆらゆら、月白の焔がふわふわ
コッチのが幽霊みたいねぇ、なんて笑う先見慣れぬ焔がふわり横切ったような
あれ?くーちゃんお友達?
害意が無ければ気にせず旅は道連れのスタイル
さあ目的地までにどれだけ面白いモノを見れるだろうねぇ
幽霊やオバケ、それらの類を怖がるタイプは一定数いるものだが、口にうっすら笑みを浮かべたコノハ・ライゼ(空々・f03130)はそこに当てはまらない。そういう性質ではないし、何より――。
「三股男。復讐した三人。焼身自殺したヒト。……んー、ヒトのがよっぽと怖いわぁ」
ああ、怖い怖い――なぁんてね。
くすり笑ったその足取りは軽やかで、暗闇の中にこつこつと足音を響かせるコノハの傍を管狐が飛び回る。くるりくるりと二周して、しゅぱっとコノハの肩に留まったと思えば鼻先で顔をつんつん、つん。
コノハは管狐の頭を指先で軽くこしょこしょとしてやりながら、どこまでも重たく続く暗闇を歩き続ける。曰く付きであるここなら、肝試しはそれはもう盛り上がるだろう。何せ本物だ。
「あ。怖がる人見て楽しむモンだと思ってたンだけど、よく考えたらアタシUDCと幽霊の違いがよく分からないわ、不覚」
出くわしても区別が付かないから、うっかり“食べちゃう”かも。
(「……そもそも幽霊って啜れる生命力あんのかしらネ」)
今の所――そうだ、今現在、それらしいものとは全く出くわしていない。驚かすタイミングを計っているのか、それとも――と考えた所で、コノハは「ま、いっか」と管狐の頭を撫でる。管狐はささっとコノハの頭を昇ると空中に飛び出し、再び飛び回り始めた。
「物好きな幽霊と出会えるかもしれないし、そン時はそン時」
だったらと敢えて選んだのは一番遠回りなルート。目指す場所は把握している。そしてここは閉鎖された病院。営業中の病院では出来ない事――普段覗けないような部屋にだって行けてしまう。
今いる入院棟なら手術室とナースステーションか。どちらも自分か知人がお世話にならない限り、訪れる機会はない。
「あ、そうだ。くーちゃん」
呼ばれた管狐が振り返る。その頭にひとつ、灯り代わりにと浮かべたのは月白の焔。
真っ暗だった通路が随分と明るくなった。その分、どれだけ荒れてるかも見えたが。砂に枝に埃にゴミ。アララと横目に、月白の焔に照らされながらスタッフ用階段のドアを開け、コツコツコツと上の階へ。
ぐるりとカウンターで囲まれたようなナースステーションは、備え付けの棚などを除くと空っぽだった。カウンターにくっついているテーブルは埃を均一に被っていて、ファイルやカルテが入っていただろう棚とケースには、埃と蜘蛛の巣しかない。
「……ま、こんなもんかしらねぇ」
霊安室はドコだっけ? 一階?
ガチャリと階段のドアを開け、取り敢えず下を目指す。
管狐は退屈なのか、コノハにじゃれては飛び回った。その度に、浮かび上がった影がゆらゆら、焔もふわふわり。コッチのが幽霊みたいねぇ、と笑って一階のドアを開ける。
ふわり。
開けた瞬間、横切った見慣れぬ焔。廊下に出る。何も、ない。
「あれ? 今のくーちゃんお友達? ……そ、チガウの」
首を振った管狐はコノハの周りをぐーるぐる。害意がなければ気にする必要もない。ついてくるなら、目的地まで旅は道連れという事で。
「ちょっとは楽しませてよネ。――あぁでも、」
まだ残ってるカシラ。
薄く笑った目の前で、漂っていた小さな小さな何かの欠片が、ちりりと消えた。
大成功
🔵🔵🔵
蔵方・ラック
【ホラー耐性:激強、何かが起きても現実的な出来事、もしくはオブリビオンの仕業として捉える】
幽霊って、実際見たことないから怖いかどうかもよく分かんないのでありますよね~
そもそも、死んで過去になった人がまだいるのって、オブリビオンとは何が違うんでありましょ?気になるでありますね!
サイバーアイの【暗視】機能を使用
幽霊はいるならむしろ見てみたいので、道中気になる部屋は覗いたり色々してみる
物音を立てるのも、他の人が怖がっていても割とお構いなし
まぁオブリビオンなら怖くないでありますし、コレで殴れば何とかなるらしいでありますから!(貰った数珠を両手に巻いてシャドーボクシング)
アドリブ、絡み◎
桔川・庸介
……今回の依頼、「怖がること」が肝心だっていうから
俺でも役に立てるかもって現場まで飛んで来たんすけど。
いやあ俺、そのー、フツーにホラーとか死ぬほど苦手で。あはは。
この建物見ただけでもう無理かも。マジで。マジで!!
……一応数珠は貰って、握りしめながら青ざめた顔で先へ進む。
だって病院だよ?ほら、手術室とか。あるじゃんか。
中を覗いて見たら、なぜか血の跡がべったりでさ
それを調べてたら……後ろから……
いや、いやいや。ココには敵は居ないって予知でも言ってたし。
大丈夫。何にも出てきやしないって!だいじょ……
……なんか鉄っぽい、やな匂い。き、き、気のせいだよな?
(※相当な怖がりなのでリアクション等ご随意に)
曰く付き“過ぎる”廃病院、その入り口手前で震える影がひとつ。
物理的成仏を逃れた霊がとうとう外に――というわけではなく。
「こんばんは!!」
「ひいっ! 違うんです不法侵入はまだなんで見逃してください!!」
突然バシッとかけられた元気な挨拶に震えていた影――桔川・庸介(「ただの高校一年生」・f20172)が飛び退いた。
「あ、警察じゃない……」
ほっとした青い顔を不思議そうに見る金の双眸。自分より少し目線が高い蔵方・ラック(欠落の半人半機・f03721)に、庸介はいや、その、と言葉を濁して視線を泳がせる。
邪神教団は怖がる事を一つの鍵とした。だったら俺でも役に立てるかも、と現場まで飛んで来た。来たのだが。
「いやあ俺、そのー、フツーにホラーとか死ぬほど苦手で。あはは。この建物見ただけでもう無理かも。マジで。マジで!!」
一応数珠は貰ってあるのだが、もっと貰ってくれば良かったかもしれない。
カタカタ震える庸介の肩を、ラックがぽんっと叩く。
「大丈夫であります! 自分もこれから中に入りますので、」
え、一緒に? 表情を明るくした庸介にラックが力強く頷いた。
「コレで殴れば何とかなるらしいであります。殴れるならやれるでありますよ!」
数珠を巻いた両手を握り締め、シャドーボクシング。
さあ行きましょう。がしりと腕を掴まれた庸介の顔がまた青くなる。一緒に行ってくれるのは凄く心強い。めちゃくちゃ安心だ。でもやっぱり――ここは、怖い。
「実際見たことないから怖いかどうかもよく分かんないのでありますよね~」
サイバーアイの暗視機能で暗闇の先を見るラックの顔は、あっちへきょろきょろ、こっちへきょろきょろ。幽霊らしき姿は――確認出来ない。自分達の声と足音だけが不思議なほどに存在感を増すばかり。
「そもそも、死んで過去になった人がまだいるのって、オブリビオンとは何が違うんでありましょ?」
気になるでありますね!
暗闇も吹き飛ばすようなラックの明るさに、両手に数珠を巻いた庸介は「いいなぁ」とぽつり。
「何がでありますか?」
「だって病院だよ? ほら、手術室とか。あるじゃんか」
「そうですね、病院でありますからね?」
「手術室を覗いて見たら、なぜか血の跡がべったりでさ。それを調べてたら……後ろから……」
せんせぇ 患者さんの準備 出来ましたぁ。
ニタリ笑う手術着姿の幽霊が、自分をとんっと押して。
それで、中に閉じ込められて。
それで、それで、それで――。
(「いや、いやいや。ココには敵は居ないって予知でも言ってたし」)
ぶるっと震えながら指先で数珠を撫でる。居ない居ない。
すぐそこに同じ猟兵が居るから大丈夫、ほら居――居ない!?
「ま、待って、マジで無理だから……!」
「何がでありますか?」
「うわあッ!?」
突然横のドアがガチャッと開いた。庸介が恐怖映像を思い浮かべていた間に、ラックは気になった部屋のドアを開けていたらしい。驚きで心臓をバクバクさせている庸介に、ラックはけろっとした表情で成果はなかったでありますと告げ、入り込んでいた部屋を振り返る。
「あったのはベッドだけであります。仮眠室のようでありますね!」
見てみますかと言い、庸介が顔を青くするより先にドアを全開にする。
一瞬びくっとした庸介だが、ラックが言った通り中にあるのはベッドだけだった。枕とシーツ、布団は処分されたらしい。残っているのはベッドフレームと、茶色い染みで汚れたマットだけだ。
「……あれ?」
「どうしたでありますか?」
「なんかここ、鉄っぽい、やな匂いしない?」
ラックはベッドに近寄りすんすんっと嗅いでみる。
パッ! と上げた顔は変わらず明るい。恐ろしい廃病院の中であっても、安心出来るそんな明るさだ。しかし、笑顔を形作っていた口が匂いの正体を告げようと動いたなら。
「き、き、気のせい! 気のせいだよな!?」
庸介は慌てて声を上げ、早く行こうと外を指して急かす。
鉄っぽい匂いなんて気のせいだ。埃っぽいのを勘違いしただけ。
きっとそうだ。きっと――。
「血の匂いでありますな! つまりあれは大量出血の痕であります!」
「うわあああああああ! 早く外出よう外!!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鹿忍・由紀
恐怖心も興味も一切無く黙々と目的地に進む
第六感は強いけれど、
自分に害がないものには無反応
多少の霊なら呪詛耐性で無意識のうちに近付かせない
散歩するかのように気怠く歩く
恐怖心もないので施設の見学をしているような余裕
空気が埃っぽくて嫌だなぁ、なんて考えつつ
多少の物音がしても危険がないなら気にも留めない
突然の大きな音には反応するので
響いてくる他の猟兵の悲鳴のほうに吃驚して一瞬止まる
何かあったのかなと思いつつ、
何もなかったかのようにまた進み出す
長居したいところじゃないな、と内心
振り返らずに目的地に向かってただただ歩く
ついてくる何かがいても、
気付いてやることもなく、
いつしか置いてけぼりにして
(「――……悲鳴?」)
真っ暗闇のずっと向こう、遠くからかすかに聞こえた音に鹿忍・由紀(余計者・f05760)は視線を向ける。
(「何かあったのかな」)
悲鳴のようだったから、まぁ、何かあったのだろう。
そう思うが、ここにいる生者は猟兵以外有り得ない。
(「猟兵だったら自力で何とか出来るでしょ、猟兵だし」)
だから視線を戻して歩き始める。
何も感じないわけではない。この廃病院は過去に色々あった分だけ色々と“居る”のがわかる。話の割には随分と少ない印象だが、確かに“居る”。ただし、どういうわけかどれもこれも息を殺すかのように身を潜めている。まるで。
(「何かにびびってる? ていうか、幽霊でも怖いものってあるんだ」)
自分に害がなければどうでもいい。居ても、居ないのと同じだ。
だから由紀は何もせず、そのまま通り過ぎていく。多少の霊であれば耐性によって遠ざけられるのだから、わざわざ何かするなんて面倒なだけ。必要じゃないならやらなくていいでしょの精神だ。
暗闇の中を、淡々と。
散歩するかのように、気怠げに。
そんな由紀の姿はともすれば幽霊と勘違いされたかもしれないが、他の猟兵は既に関係者口を抜けたか、他を歩いているらしく、誰と擦れ違う事もない。
(「怖いとか、興味とか。特に無いし」)
外来診療棟の二階に上がって、奥へ直進して。
研究・分析棟へ渡ったら、階段へ。
閉じられたドアを開けず、何も乗っていないストレッチャーの脇を抜け、ただ黙々と進む由紀の周りにあるのは埃っぽい空気だけ。ごくごく偶に、遠くから悲鳴だったり何かの物音が聞こえるだけで、危険はないと判断したら気に留める事もない。
唯一、引っかかるものがあるとすれば。
(「長居したいところじゃないな」)
内心、そう思うが口にしない。
捨てられた場所。閉じ込められたままの空気。残り続ける何か。
そこにあるものが付いて来ようが、憑いて来ようとしようが、どちらも同じ。
恐怖も興味も湧かないのだから、自分は何もしない。気付いてやる事もない。
ただ、ここの四階にある関係者口を目指すだけ。
(「……外に出たら、空気マシになんのかなぁ」)
ここにあるものはここにあるがまま。
朽ちて果てるその時まで、埃っぽい空気も何もかもが、暗く冷たいハコの中。
関係者口と書かれたそこのドアノブを回して開け、外に出る。
きぃぃ、ぃ、と背後で耳障りな音がじわじわと紡がれて。ガチャリ。完全に、閉じたたら、かつてこの場所がそうされたように――全てそこに、置いてけぼり。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『六一一『デビルズナンバーはくし』』
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POW : 悪魔の紙花(デビルペーパーフラワー)
自身の装備武器を無数の【白い紙製】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 悪魔の紙飛行機(デビルペーパープレーン)
【超スピードで飛ぶ紙飛行機】が命中した対象を切断する。
WIZ : 悪魔の白紙(デビルホワイトペーパー)
【紙吹雪】から【大量の白紙】を放ち、【相手の全身に張り付くこと】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:FMI
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●帰らずのトンネル
『関係者口』から外へ出る。
背後には先程までいた廃病院。目の前には暗く黒いスペースがぽかり。
出てすぐのその場所は、僅かに残る白線の形から一部を駐車場としたスペースだと判ったが、フェンスで囲われたその向こう側に無数の木々が並んでいる。ここも坂道と同様に空を遮られ、昼夜問わず異常な暗さを落とし込まれているようだった。
空気は夏特有の妙な重たさと質感を孕んでいて、五感に届くそれらのせいで開放的とは言い難い廃病院裏手――雑草揺れるアスファルトの地面を行き、フェンスの外に出て右へ向かう。
その先に、例のものが口を開けて待っていた。
ジッ。ジ、ジッ――ジ、ジジ――……。
カーブ描く天井中央で、いつ果てるともわからない灯りが点滅する。
その灯りが点いた瞬間だけ、トンネル内が明るく浮かび上がった。
使われていないトンネルだ。コンクリートと湿気とその他諸々の影響で、中の色は黒と灰と緑が入り交じった色をしている筈だった。だが、そこにあるのは白一色。どこまでも続く、白、白、白。
カサッ。
一つの白が音を立てた。他の白も音を立てた。
一つだった音は膨れ上がり、トンネルの壁も天井も埋め尽くしていた白きもの達が、我も我もと歌うように動き始める。
それは白い花だった。
それは白い紙飛行機だった。
それは白い吹雪だった。
名は『六一一『デビルズナンバーはくし』』。
巣から飛び立つ蝙蝠のように、白き群れが溢れ出す。
ジャスパー・ドゥルジー
ザザ(f07677)と
…うわっ
いやいきなりで驚いただけだ
ビビッてねえっつーの
実体があるなら怖がる必要なんて何もねえ
さァていきますか
極自然な動作で自分の腹にナイフを突き立て肉を抉る【激痛耐性】
其れを代償にUC
相棒の竜は黒い炎で辺りを燃やし尽くす
敵は燃え易くて楽しいだろうが
ザザまで燃やすなよ
スーサイダー?
んな格好いいもんじゃねえよ
何だろな、単に好きなんだ
相棒の攻撃を潜り抜けた奴がいたら
こちらはナイフで応戦
ちょこまか飛び回ってめんどくせえ奴らだ
確実に攻撃を当てる為なら
敢えて的になってやってもいい
丈夫さには自信があるんだ
この位なんでもねえよ
おいおいザザ
それはちょっと格好よすぎるんじゃねえの?
肩を揺らし
ザザ・クライスト
ジャスパー(f20695)と参加
【POW】トンネル内部にて
暗視ゴーグルで暗闇対策
"白"に声を上げるジャスパーに、
「お出ましだ。ビビってねェよな?」
笑い混じりに問いつつ煙草に火を点ける
煙を吸い込めば【ドーピング】
と【破魔】の力が働く
「確かに見えてる。手早く片付けるか」
だったら建物内部のアレは…
考えるのはやめだ
ジャスパーの行動に、
「スーサイダーか」
命を代償に"結果"を求める能力者
危うい野郎だ
【ブラッド・ガイスト】
バラライカで【先制攻撃】
【挑発】し【おびき寄せ】て効率重視
炎に巻き込まれても【盾受け】【激痛耐性】で対応
ジャスパーは【かばう】
「タフなのは認めるが、オレにも格好つけさせろ」
ニヤリと笑う
光が明滅するトンネル内部に紙の音が木霊する。
始めはバラバラだった。それが今ではトンネル内で反響し、一塊の音に聞こえる。
例えるならこれは――荒れて唸る海の声。
そこから飛び出した白色が一つ、海面でジャンプした魚のように飛び出してすぐ、同種が覆い尽くす白い壁面へと戻っていく。
こちらを伺っているのか、それとも逸る気持ちを抑えられず飛んだのか。紙に寄生したUDCの気持ちなぞザザには解らない――が、ジャスパーがどういった声を上げたか、よぉく解っている。確かに今、「うわっ」と言った。
「お出ましだ。ビビってねェよな?」
暗視ゴーグルの下でニヤリとしながら、廃病院でしたように煙草を深く深く吸い込んだ。体の隅々にまで力を行き渡らせるザザの脇腹を、ジャスパーが肘で小突く。
「ビビッてねえっつーの。実体があるなら怖がる必要なんて何もねえ」
「確かに見えてる。手早く片付けるか」
だったら廃病院内でのアレは――と考えようとし、止める。
その僅かな間に、ジャスパーの手の内でパチンッと刃が開いて。
「さァていきますか」
ざくり。“そうする事が当たり前”と、自らの手で自身の腹を捌く。
切って抉ったばかりの1ポンド。放り投げた人肉を喉から黒炎を零す赤い雌竜は一口で呑み、壁覆う紙の群れへと炎を浴びせ始めた。寿命が近い電灯代わりとばかりに、雌竜の炎が二人の周りをごうごうと照らして『はくし』達を焼き消していく。
「ザザまで燃やすなよ」
「スーサイダーか」
「んな格好いいもんじゃねえよ。何だろな、単に好きなんだ」
つーかそっちはどうなんだという声に「さてな」と笑ったザザもまた、自らを傷付けた後。暗視ゴーグル下の目は、炎から逃れこちらへと殺到する花弁を捉えていた。封印解除状態の『バラライカ』を向け――しかし速度は花弁の方が僅かに上。
「お、」
「チッ」
頭上から突っ込まれる直前、二人同時に飛び退く。
標的を逃した花弁は次々にアスファルへ激突して白い小山を作り、しかし再び炎に灼かれるより先に広がって、二人を切り刻もうとする。
「ちょこまか飛び回ってめんどくせえ奴らだな」
ジャスパーは目の前に突っ込んできた花弁へ苦情と共にナイフを揮い、スパッと真っ二つ。腹部からは未だ血が流れているが、激痛は培った才によって痛覚として届いていない。
自らの命、その一部を代償とするオウガブラッドの技。危うい野郎だと思うもザザはそれを言葉にせず、荒れ狂う花弁を捉えながら動き回る。“誘い”に乗った花弁がいくつか雌竜の炎に灼かれ――ザザも炎に当たったが、届く感覚は少しばかり炙られた程度。
それをチラリと見たジャスパーが、動きを弛めた。
「そら、こっちだ」
両腕を広げ、手にしたナイフと悪魔めいた尾を揺らして、きししと嗤う。
丈夫さには自信がある。痛覚への耐性も。故に、敢えて的に“なってやった”ジャスパーへに殺到した花弁の動きは滅茶苦茶だった。
――まるで、喜び狂うような。
標的を過ぎた白い群れが真新しい赤を纏う。
皮膚は裂け、肉が切れた。血がぼたぼたと滴る。――が、痛みはそうでもない。
「タフなのは認めるが、オレにも格好つけさせろ」
ニヤリと笑うザザの後ろ。庇われたジャスパーの肩が揺れる。
「おいおい、それはちょっと格好よすぎるんじゃねえの?」
そう言って、歩いて。隣に立つ。
猟兵二人と炎溢す雌竜。
どれだけ花弁が吹き荒れようと、その動き、決して止まらず。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
波狼・拓哉
うーむこう実害の無い恐怖というのは何か新鮮で怖かった。…そしてあれが実害のある恐怖…いやー見ただけで何となくなりそうに見えてしまうなぁ。
それじゃあ、全部燃やすかー。トンネル内だし引火するもんもないだろ…崩れたりしないようにだけは注意して…ミミックを投擲!化け焦がしな!トンネル崩落しないようにだけ気を付けてトンネル一杯に広がりなー。あ、無差別だし味方は気を付けてね!
自分は衝撃波込めた弾で撃ったりして落としたり衝撃波で炎の勢い強くしたりしてサポートに。飛んでくるのは見切って安全に避けれるようにしておこう。切り傷くらいなら許容範囲だけどね。
(アドリブ絡み歓迎)
拓哉は知った。
実害の無い恐怖というものは、何か新鮮で怖かった――と。
「……そしてあれが実害のある恐怖」
よウこソ、という感じで彼方まで続いている、ように見えるトンネル。邪神教団が仕込んだ『帰らずのトンネル』へのんびり近付きながら、奥へと目を凝らす。
「……いやー見ただけで何とかなりそうに見えてしまうなぁ」
あははと笑ってすぐ手前で立ち止まる。聞こえるのは、回線が灼けるような音立てる電灯の音と――カサ、ガサ、と不気味にはためく紙の壁。
「それじゃあ、全部燃やすかー」
ガサッと大きい音がしたのは気楽に放たれた発言に驚いてか。
しかし拓哉は全く気に掛けない。トンネルをスタスタと進みながら、壁に貼り付く紙以外に引火するような物無し、という予想通りの内部に頷いて――。
「……」
天井をチラリ。後ろをくるり。
上良し。背後良し。
その両手に抱かれた箱型生命体・ミミックの足がぶらぶらと揺れる。ガサ、ガササとはためく音がどんどん大きくなる中、よーしここだなと踏ん張って。
「さあ、化け焦がしな!」
ミミックを投擲!
天井へぶつからないよう注意して放たれたミミックは、丁度いい高さを飛びながら化けていった。その過程で溢れた熱波と動き回る炎は、丸みを帯びた壁へ等しく広がって――つまり、無差別攻撃である。
灼かれながらもフライトに成功し、拓哉目がけ殺傷力の高い着陸を狙った紙飛行機もいた。しかし衝撃波付きの弾丸で撃ち落とされ、運良く近くまで飛べても「おっと」と避けられる。
焼ける紙の音は段々と静かになり、焦げ臭さは紙の消失と共に薄れていく。
しかし。
「長いトンネルだなぁ。……もしかして、まだまだ奥にいる?」
そして出口というものはちゃんと存在しているのか。
奥に目を凝らす。彼方でぼっ、と点いた光が、炎のそれに見えた。
大成功
🔵🔵🔵
ロカジ・ミナイ
夕立くん(f14904)
ホンモノに遭ってしまった…僕の足はカクカクしてるよ
ヒッ、こういうトンネルも何か出そうだしさぁぁぁ
…おや、ご立腹かい?これはこれは、夕立くんの方が怖いね!
いいよ、思いっきりやっちゃいな
ここで見ててあげよう
紙が好きな匂いってどんなもんだろうね、こんな感じかね?
調合したての香油を煙草の葉に垂らせば美味しい煙草の出来上がりよ
吸った奇稲田を六一一の群れに向けて燻らせて
ちょいとばかり萎れてもらおうか
夕立くんのご機嫌が損なわれると困るのよ、
行くのにも帰るのにも、今日ばかりは一人は困る
華麗な戦闘シーンを見ながら吸う煙草は美味いねぇ
なんて心が落ち着くのか
ふふ、再生紙で鼻でもかむのかい?
矢来・夕立
雷眉毛さん/f04128
最後の最後でホンモノに遭ってしまいましたね。え?ワクワクしてないしてない
ヒマワリの似合う女の子まであと一歩で…
…
なんだアイツ。キャラ被ってるんですけど。殺していいですか?
紙の弱点はよく知ってます。どうすればバラバラになるかも。
【紙技・彩宝】。千代紙の弾と策なら幾らでも。
例えば使い捨ての刀。
コレなら紙飛行機を斬って切断されても構わない。
同じように紙飛行機を当てて相殺するってのも手です。
花びらと白紙は『封泉』を起爆して吹き飛ばす。
そのまま破れてくれれば頭数が減って更にお得ですね。
オレに使われない紙に生まれてきたことを悔やむんですね。
再生紙になって出直してきてください。
ホンモノに遭ってしまい、しかも頬をぺたっとされてしまったロカジの心は傷付いていた。向日葵の似合う女の子にぺたっとされるならともかく、ホンモノからのお触りは嬉しくない。
「見てよ夕立くん、僕の足はカクカクしてるよ」
「そうですね、最後の最後でホンモノに遭ってしまいましたね」
「……何かワクワクしてない?」
「え? ワクワクしてないしてない」
夕立と心が擦れ違っている気がする。
しかも廃病院を出てほっと一息つけたかと思えば、次が待っていた。
真っ暗かと思えばジ、ジジと音を立てて明滅する電灯。いかにもという雰囲気漂うトンネルに、ロカジはヒッと声を漏らして夕立の後ろに隠れる。
「こういうトンネルも何か出そうだしさぁぁぁ」
「何言ってるんですか、ヒマワリの似合う女の子まであと一歩で……」
ッジ――ジィ、ジジジジ。
灯りが数秒間だけ点いた。
その間、トンネルの中がよく見えた。
“よく見えた”のは向こうも同じだったのか、それとも自分達の天敵たる存在を感知してか。一つ二つと壁から離れ飛んできた白色に、夕立の双眸が冷えていく。あれは、紙だ。
「なんだアイツ。キャラ被ってるんですけど」
おや。気付いたロカジの顔が明るさを取り戻す。
「ご立腹かい?」
「殺していいですか?」
音になって届いた疑問符が飾りでしかない事は明白。夕立の中で『六一一『デビルズナンバーはくし』』は今ここで滅する事が決まった。それは何があろうと覆らない。
「これはこれは、夕立くんの方が怖いね!」
調子を取り戻したロカジはいいよと笑ってトンネルに笑みを向ける。
あーあ、世の中には怒らせちゃいけない人がいるのにねぇ。
「思いっきりやっちゃいな。ここで見ててあげよう」
「ええ。特等席でどうぞ」
振り返らず言った夕立の手には、いつの間にか千代紙の刀がひとつ。
「紙の弱点は何か。どうすればバラバラになるか。――こうすればいいんですよ」
出鱈目な速さで迫る紙飛行機を捉え、一閃。
飛び立ったばかりの紙飛行機は刀によって短いフライトを強制終了。そして命中したものを切断する紙飛行機を切った為、刀もはらりと裂けて散っていくが、夕立が持つ千代紙の弾と策に限界はない。
「生憎、幾らでもできるんですよ」
超速度で向かってくる紙飛行機一つ一つに、千代紙の刀も一振りずつ。斬っては散る刀を使い捨て、たまに紙飛行機を当てて相殺なんて事も出来てしまう。
少々便利過ぎるかもしれないが。
特技・得物共に折紙である夕立だからこその戦いを眺めていたロカジは、そうだそうだと手を動かす。紙が好きな匂いがどのようなものか、はっきりとは知らないが。
「こんな感じかね?」
調合したての香油を煙草の葉にぽたり。それだけであら素敵、名医の処方箋(とても細かい調合記載済、親切)によって美味しい煙草が出来上がり。すう、と吸い込んだ煙は紙の群れへ燻らせて。
「ちょいとばかり萎れてもらおうか。夕立くんのご機嫌が損なわれると困るのよ」
暗い廃病院。出口の見えないトンネル。
行くのにも帰るのにも、今日ばかりは一人は困る。
行きも帰りも頼りにされている夕立はというと、足元に紙飛行機の残骸を広げていた。あの場から動かぬまま周囲を白く染めていく様は、実に華麗な戦闘シーン。それを見ながら吸う煙草の美味いこと。なんて心が落ち着くひととき。
煙草の煙がぷかり漂う間に、また飛行機が両断されて墜ちた。
「オレに使われない紙に生まれてきたことを悔やむんですね。再生紙になって出直してきてください」
「再生紙ねぇ。ふふ、再生紙で鼻でもかむのかい?」
「――……そうですね。それくらいの役になら、立たせてあげてもいいです」
ウソですよ。
飛んできた紙飛行機が、スパンッと斬られた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桔川・庸介
ハアッ、ハア……そ、外、出れたのはいいけど
次のトンネルもなんかもう露骨にやばいトコじゃん!
山道のトンネルなんて病院と同じくらい定番だって!!
俺、むしろ邪神教団の思うツボにハマってる?うう……
(今すぐに引き返して帰る、といった考えはなぜか浮かばない)
立ち止まってても仕方ないし、恐る恐るトンネルを覗く。
つってもなんでか暗いし、なんも見えないけど。
とりあえず、スマホのライト機能をオンに……ヒッ!?
な、なに、なんかがすげー勢いで飛んできて、
あれ。血。切れてる。
……ッうわあああああ!?なに、なんだよあれ!!
逃げッ、逃げなきゃ、やばい、今度こそしぬ!!!
【※アドリブ、絡み、苦戦以下判定も歓迎】
蔵方・ラック
白い紙!ははぁ、コレは御札で異界への道を封じてるって趣向でありましょうか!
それともトンネルを訪れる人をこの先に封じこめてやるって事でありましょうかね!
まぁどっちでも、紙なんか破ってしまえば関係ないのであります!
相手のUCに対抗するようにこちらも無数の杭を生成
【見切り】で紙の花弁の動きを見極め
突き刺して破ったり、床や壁に杭で留めるようにして無効化する事を狙う
同じ数なら、鉄と紙のどっちが強いかは自明の理って奴でありますよ!!
アドリブ、連携OK
関係者口から外へ飛び出して、暑くはあるが中とは違う空気を吸ったら「ああ、やった! 外だ!」と。普通は、そう思うのだろう。しかし庸介の心はこれっぽっちも安まらなかった。
「ハアッ、ハア……そ、外、出れたのはいいけど、次のトンネルもなんかもう露骨にやばいトコじゃん! 山道のトンネルなんて病院と同じくらい定番だって!!」
「定番でありますか?」
首を傾げるラックの表情は相変わらずけらっと明るい。
何って――車で行ったらフロントガラスに手形の後がびっしりべったり。バックミラーに怨霊がウラメシヤ。歩きで行けば新品の電池を入れていた懐中電灯がつかなくなったり、足を引っ張られたり等々。
ホラーゲームなら、主人公補正がない限りまず死ぬ。ゲームオーバー。
山道のトンネルとはそういうものなのだと庸介は震えた。
「俺、むしろ邪神教団の思うツボにハマってる? うう……」
どこからどう見ても恐怖におののいている庸介だが、“今すぐ引き返して帰る”という考えはなぜか浮かばない。スタスタ歩くラックの後ろをびくびくしながらついて行き、トンネル入り口が見えた所でハッと気付く。
(「俺達以外の猟兵が先に入ってたら、怖いものはいないんじゃ……?」)
「ずいぶんと長いトンネルのようでありますねー」
明るさが眩しくかつ頼もしいラックを横に、期待で目を輝かせながら恐る恐るトンネルを覗く。安全確認は大事だ。しかし電灯がろくに機能していない為、何も見えないに等しい。
「えっとスマホスマホ……」
ライト機能をオンに、と前へ向けていた顔を下向きに。
顔全体がスマホ画面の明るさに照らされて、
――ヒュッ。
「……ヒッ!?」
何かが高速で頬を掠めてすぐ、頬を垂れ落ちていくものを感じ指先で拭ってみる。
ぬるりとした液体。鉄の匂い。鮮やかな赤。
――血だ。
「先手を取られたようでありますな!」
「ッうわあああああ!? なに、なんだよあれ!! 逃げッ、逃げなきゃ、やばい、今度こそしぬ!!!」
悲鳴を上げてその場でガタガタおろおろキョロキョロ以下エンドレス。それをニコニコ眺めていたラックは、遠くから聞こえ始めた音――その正体である白い紙を視認し声を上げて笑う。
「ははぁ、コレは御札で異界への道を封じてるって趣向でありましょうか!」
「ええっ!?」
「それともトンネルを訪れる人をこの先に封じこめてやるって事でありましょうかね!」
「ひいッ!」
なんてやり取りしている間に、群れて迫る敵群の音はどんどん大きくなる。
「まぁどっちでも、紙なんか破ってしまえば関係ないのであります!」
しかしラックの明るさはこれっぽっちも変わらない。
迫り来る白色が、ばらりと解けて広がった。呑み込んで殺し尽くそうとする花弁の群れは無数。しかしラッカの放った杭もまた無数。
――向こうが数で攻めてくる?
――であれば、こちらも数で攻めればいいという事でありましょう!
全ての杭が花弁を突き刺し、破り、貫いていく。肌を露わにした壁や床へ激しく留められた花の数もまた無数。その脇から鋭く舞い込んだ花弁がいくつかあったものの、ラッカは「あはは!」と笑って軽快にジャンプ。
「同じ数なら、鉄と紙のどっちが強いかは自明の理って奴でありますよ!!」
勢いよく飛んだものだから視界の上下がぐるりと逆転。
浮遊感を覚えるその瞬間も杭の音は轟いて――花という花に片っ端から勝利していく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リグ・アシュリーズ
あら。せっかく静かな廃墟だったのに。
戦う場所にこだわりはないけど、既に誰かが戦ってるなら
トンネル内にためらわず踏み込むわ。
加勢はいるかしら?と隣に並び立ち、援護します。
黒剣で横に【なぎ払い】、紙を引き裂くように戦います。
中核を叩くまでは紙片が増えるだけとしても、
一枚一枚の攻撃の重さは減らせるはず。
戦いの最中、地面を何度かつま先で小突き、
アスファルトなど「砕いて武器にできそう」なものを探すわ。
敵が紙片の花びらを飛ばしてきたら、待ってましたとばかりに
剣で地面を砕き、打ち上げた破片を回転斬りでバラまくわ。
『砂礫の雨』。
一枚ごとの質量が減った今なら、打ち落とすのも楽なはず。
このまま一気に行きましょう!
ニュイ・ミヴ
わ。
スパッと切れて吹き飛ぶからだ
おばけはもっとやわらかイメージだったのでびっくりです!
でも、触れられるということは食べられますよね
いただきます
出会ったその場で戦闘
オーラ防御と第六感で致命打のみ避けたり、緩衝材に触覚を差し込みながら攻撃を受ける。激痛耐性で堪え、からだを散布し付着させ
頃合いを見て【ンヌネノ・ミヴ】発動し反撃&生命力吸収
もし協力できるなら他の方をかばうよう飛び出し、同じ動きを
塊はフンッッて数珠取り込んだグーで殴ります!
ああ
にんげんごっこもおしまいですね
こちらも飛び散り、不定形に寄り集まりうにょうにょ
噂、生贄
ひともおばけも
本物のおばけのみなさんに迷惑をかけてはだめです
※アドリブ他歓迎
廃病院に続いて外――『帰らずのトンネル』でもニュイはヒューマン・ニュイモード。全体のフォルムは心なしか柔らかくなりつつあるが、当人もとい当タールは気にせず明るくなったり暗くなったりを繰り返すトンネルをペタペタと進み、
スパッ。
「わ」
お花が、と言いかけた瞬間“左腕”が切られて吹き飛んでいく。
アスファルトに落ちた左腕がぺしょっと音を立てるが、びっくりしたニュイの意識は自分の前方――紙の音を幾重にもさせて翔てくる白い花弁達へ。
「おばけはもっとやわらかイメージでした……!」
しかも向こうが透けて見えない。ざざざと音を響かす花弁の群れは、白色の向こうを閉ざすように広がっていく。
「でも、触れられるということは食べられますよね。でしたら!」
ニュイは両手を合わせ――ようとして「切られちゃったんでした」と思い出し、右手をぺとりと胸の位置に当てる。
「いただきます」
白い花弁。人体をにゅるんと模した黒いタールの体。
出会ったふたつは、ほぼ同時にその身を躍らせた。
ニュイを丸呑みにして切り刻もうとカーブを描く花弁。対するニュイは、その意志を感じ取った瞬間、考えるより先に大きく後ろへ跳躍する。逃した得物を喰らおうと、白色は花の波をより広げながらその勢いを増して。
「うーん、仕方ないです。背に腹はかえられません」
食べるのはいいけれど食べられるのはちょっと。
ニュイは迫る白波へと触角をぞぶんッ! 差し込めば当然攻撃を受けるが、耐えれない程ではなく。
何のこれしきと欠けた分をぷるり震わせ、ついでにオマケですと散布して、ぴとり。感覚をフルに使い――荒れ狂う花弁と踊り合うそこに、輝くような灰色が真っ直ぐ飛び込んだ。
「加勢はいるかしら?」
躊躇う事なくトンネルに踏み込んだリグが笑ったなら。
「ぜひ!」
星を浮かべた黒いヒューマン・ニュイがぷるりっ。
新手に一瞬動きを止めていた花弁が、ざざざ、ざざざと音を響かせる。白色から溢れる殺気にリグは「あら」と目を丸くした。
「せっかく静かな廃墟だったのに」
どこかの誰かのせいで台無し。
一気に薙ぎ払った黒剣で花波の壁を砕き、次が来るより先に動き回る。こうすれば、もし紙片が増えるだけだとしてもサイズが減少した分、攻撃の重さも減らせる筈。
絶えず動きながらつま先でこつこつと軽やかな音を響かせて。ふふと笑ったニュイの体が、音に合わせて左右にゆらゆらり。楽しげな様子に気付いたリグも、にこっと笑った。
笑う二人を覆い尽くそうと溢れるように広がる紙の花びら。真っ白な――筈のそこにくっつく黒色にリグは両目をぱちり。数は、ひぃふぅみぃ――それ以上。
「さあどうぞ」
お口に合うとうれしいです!
今ですと見たニュイの声と共に黒色が白の内にとぷんと消え、次いで起こったのは、空全体を照らす雷の如き轟音。音と共に花々が内側から裂けて破れて、散り散りになる。
リグの亜麻色に映る、より儚くなった花吹雪も“今が好機”と告げるサイン。時に斬り付け、時に防御として使っていた黒剣。その切っ先を真下に向けて、
「せー、ぇのっ!」
力いっぱい砕いた。
黒剣の突きを受けたアスファルトが無事でいられるわけがない。大中小様々な破片が打ち上げられ――ベストな高さ、ドンピシャのタイミングというそこで今度は回転斬り。
リグに狙い定めていた花びらが降り注いだ砂礫の雨に撃たれて消えていく。かろうじて逃れた花びらがあろうとも、バネのような勢いで飛び出したニュイが、
「フンッッ!」
数珠を取り込んだグーで撃沈パンチをお見舞いするわけで。
「いいパンチね。ありがとう、助かったわ! このまま一気に行きましょう!」
「ふふ、どういたしまして! そしてガッテンです!」
ああしかし、人間ごっこもお終いの気配。
でろでろ人型がバッと弾けるように飛び散って、不定形に寄り集まりうにょうにょといつものニュイに戻っていく。
作られた噂。向日葵にとされる生贄。
この件には、その両方にふたつのものが関わっているけれど。
にゅるんと触覚を動かして示した、バツひとつ。
「ひともおばけも、本物のおばけのみなさんに迷惑をかけてはだめです」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鹿忍・由紀
病院内で戦うことにならなくて良かった
建物の中よりかは大分空気がマシだ
それに、この暗さは俺には都合が良い
数には数を当てる
自分はゆるりとした動きで
影からダガーを浮かび上がらせる
動きとは対照的な勢いで敵の花弁を相殺しながら叩き落としていく
すり抜けてくるものは自らのダガーで切り捨てる
一斉に相手をするのは面倒だけど
数を減らせば対応しやすくなるでしょ
まるで蟲だね
害虫駆除でもしてる気分だ
そういえばコイツらもさっきの病院も恐怖心を味合わせることが目的だったんだっけ
折角の舞台装置を無駄にしちゃって悪いね
微塵もそんなこと思っていないし、
恐怖心などどこにもないただただ面倒そうな気怠い無表情
“暗い”と“明るい”を繰り返す一本道。
形作る物はコンクリートにアスファルト。
思い出したように明るくなる以外はあの廃病院とそう大差ないが、向こうと違い、埃っぽさ無しという所がいい。
(「建物の中よりかは大分空気がマシだ」)
しかし由紀の表情に「マシだ」と語る色は浮かんでいない。
寒色の瞳はただ前を見て。
ゆらりゆらりと歩く足取りも、いつも通り。
ふいに聞こえ始めた音。見えた色。
それを切欠に由紀の顔がほんの少しだけ動いた。響いて広がって、濃度を増すそれに対し由紀は「ふぅん」と気怠げに、目と指先を向ける。
ラフに前方を示した瞬間、夥しい数の黒色が由紀の足元から飛び立った。ゆるり指したのと真逆の勢いで翔たそれ――影より複製したダガーが存在感を広げつつあった白色を視界から消すように埋めて、切って、打って、落として――殺していく。
「あ、」
ダガーの向こうからすり抜けた花弁があった。
(「一つ、二つ……ああ、三つだった」)
退屈そう。興味がなさそう。
そんな眼差しのまま、ダガーを握った手だけを一呼吸の間に数回揮う。
儚い形通りの同じ本物だったなら、そのままひらりと舞えたのだろう。しかしアンディファインド・クリーチャーであるならば、猟兵を前にして自然へ還る未来など有り得ない。
紙の花弁をばらばらにして落とした由紀は、軽く息を吐いて前へ向かう。
思った通り、数を減らしたおかげで面倒臭さは減少。対応しやすくなった。
ああ、でも。このやり方は何かが思い浮かぶ。
何だっけ――とぼんやり考え、辿り着いた。
「まるで蟲だね。害虫駆除でもしてる気分だ」
もう一つ、気付いた事がある。
(「そういえば、コイツらもさっきの病院も、恐怖心を味合わせることが目的だったんだっけ」)
恐怖心。
恐れる。怖がる。
うわー、きゃー、っていうアレやソレ。
由紀は廃病院を歩いていた時の事を振り返る。視線は横へ逸れ――ゆるゆると戻った。
「折角の舞台装置を無駄にしちゃって悪いね」
なんて言葉にしたけれど、柔らかな髪の下から覗く目は清々しいほどに普段通り。
申し訳なかったとは微塵も思っていない。
あの時も今も、恐怖心などどこにもない。
ただただ面倒そうな気怠い無表情で――ああ、次は何だったっけと、思うだけ。
大成功
🔵🔵🔵
天杜・理生
ノエミ(乃恵美・f05894)と同行。
アドリブ歓迎。
抱き上げて運んでいたノエミを下ろして優しく頭を撫で
よく頑張ったな、ノエミ。
ここから先はしっかりやれるね?
大丈夫。お兄ちゃんがちゃんと護るよ。
モニカもサポートよろしくな。
ノエミを庇うことを優先し、意識しながら立ち回るとしよう。
言葉と遠呂智で挑発し
敵を盾にしながら向かってくる紙飛行機や白紙を打ち落とすとしよう。
加えて、敵対心からUC発動。
僕の妹には触らないでくれるかな。
しかし、空気感は変わらない割に白いだけで明るい気がしてしまうものだな。
せめてお経やら怪談話やらでも書いておいてくれれば雰囲気も出たろうに。
いや、これはこれで怪談みたいなものなのか?
天杜・乃恵美
おにいちゃん(理生:f05895)と同行
今回はノエミ主導、アドリブ歓迎
う、うん…あたし、がんばるっ
でもおにいちゃん、はなれちゃやだよ?
んと、モニカちゃん…どうすればいいかな
『このオバケは紙製だし、景気よく燃やそう』
なんだかまっしろであかるいけど
もっとあかるくすればこわくないもんねっ
それそれくーるくるっ!
えへへ、おにいちゃんカッコいいっ…♪
◆戦闘
戦闘行動へ入る時に打ち合わせて2人融合
【夜刀の標にて奉る】で真っ赤な新体操用リボンを召喚
実は魔法金属製の鞭『プリマ・ディ・フランマ』
【破魔】の【祈り】を籠めて舞うと浄化の炎を起こす
守ってくれる理生を【鼓舞】する様に舞い
浄炎を以て紙を【なぎ払い】焼き尽くす
赤ちゃん人形事件からずっと、理生は乃恵美を抱いて運び、桃仁香には手をぎゅっと握られていた。だが、外にたどり着いた今、二人は涙を引っ込めている。
「よく頑張ったな、ノエミ。ここから先はしっかりやれるね?」
仕込まれた怪異『帰らずのトンネル』。そこにいる敵へと立ち向かわなければならない。そっと下ろされた乃恵美は、優しく微笑む理生へこくりと頷いてみせた。
「う、うん……あたし、がんばるっ。でもおにいちゃん、はなれちゃやだよ?」
「大丈夫。お兄ちゃんがちゃんと護るよ。モニカもサポートよろしくな」
「任せてよ」
よろしくされた桃仁香は自信覗く笑みを浮かべ、乃恵美と並び立つ。
並んだ二人の体がひとつに融け合った後、天杜“兄”妹の姿はトンネルへと吸い込まれて――手の埋まっている猟兵の脇を抜けてきたか、向こうから見れば新手である“三”人目指し飛んでくる白紙の群れ。しかし『はくし』達は理生が鋭く打ち鳴らした『遠呂智』の音に、一瞬動きを鈍らせる。
「何だ、UDCの癖に乗馬鞭を恐れるのか」
言葉と武器を使った挑発に『はくし』達は、ざざ、ざざざと、音を震わせ始めた。
それが一際大きくなった瞬間、ダムの放流が如く一気に巻き起こる紙吹雪。濁流から飛沫が起こるなら、紙吹雪から放たれた白紙がそれだろう。しかしどれだけ勢いを付けようとも、妹達を護ると決めた兄を止めるのは難しい。強固な意志と共に黒髪が翻り、敵を盾にしたと思えばピシャリと『はくし』を打ち落とす。
そんな“兄”――理生と約束した乃恵美は、護られながらもう一人の妹と相談中。
「んと、モニカちゃん……どうすればいいかな」
『このオバケは紙製だし、景気よく燃やそう』
なるほど!
つぶらな瞳をぱっと輝かせた乃恵美が『鳥石楠さま』に祈り、「モニカちゃん」と呼べば「いいよ」と頼もしい声。そして何もない空中から現れたるは、真っ赤な新体操用リボン――に見える、魔法金属製の鞭『プリマ・ディ・フランマ』。
「なんだかまっしろであかるいけど、もっとあかるくすればこわくないもんねっ」
理生と交わした約束。
そして、理生の為に。
想い籠めて舞う乃恵美から、清らかな気配が浄化の力と共に溢れ出す。
巻き起こったものに『はくし』達が圧され、乱れれば、理生の揮う『遠呂智』が更なる音を響かせる。目の前の勇姿に乃恵美は笑顔を輝かせた。
「それそれくーるくるっ!」
手首のスナップをきかせ、真っ赤なリボンと共に、より愛らしくより華やかに舞う。
妹からの応援に理生は一瞬表情を和らげて――その隙に横を抜けようとした大量の白紙を容赦なく打ち据えた。
「僕の妹には触らないでくれるかな」
ふつりと沸いた敵対心が神性纏いし毒蛇を喚ぶ。
ひとたび沸き上がった心は毒蛇を『はくし』に導く印となり、鋭い牙が真っ白な紙の器へと殺到した。
喰われていく『はくし』の動きは哀れな獲物といった様で、『遠呂智』を揮っては引き裂くような音響かす理生の表情も、決して標的を逃さぬハンターのよう。――その表情は、後ろに護られている乃恵美と桃仁香には見えず。
「えへへ、おにいちゃんカッコいいっ……♪」
結果、ぽやんと笑顔が咲くわけで。
声から二人とも大丈夫そうだと判断した理生は、しかし、と考える。
空気感は院内とそう変わらない割に、白いだけで明るい気がしてしまうものだ。せめてお経や怪談話でも書いておいてくれれば、雰囲気も出たろうに。例えば、はらりと落ちた紙を拾ったらびっしりと――という具合に。
(「いや、これはこれで怪談みたいなものなのか?」)
可愛い妹達の為、それは口にしないでおく兄心。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
白いトンネルってのも嫌いじゃないケドね
悪さするってんなら染め変えちゃいましょ
『オーラ防御』纏い白の中に駆けこむネ
受けた傷の分は後できっちり返してもらうから
出来るだけ多くを巻き込める立ち位置で【黒電】喚び放つヨ
くーちゃん、あの花弁ぜーんぶ歓迎してあげて
黒だけじゃ寂しいでしょう、と『2回攻撃』
「氷泪」より『範囲攻撃』で紫雷を奔らせ『生命力吸収』してみるネ
紙じゃあ食いでも無さそうだケド、取られた分くらい取り戻さなくちゃ
何より食わず嫌いは良くないものねぇ、ナンて
先ずは美味しく頂いて
それから雷に染められて綺麗に燃え尽きて頂戴な
「かえらず」は今日でオシマイ
一片たりとも残さないよう、丁寧に狩りつくそうねぇ
碧海・紗
薄気味悪いトンネル
あまり気分はのりませんけど…
1人でだって、戦えますよ?
からくり人形の可惜夜を盾に
トンネルへと向かいます
紙吹雪が張り付いても
人形一体が動けなくなるなら
背に腹はかえられぬ、ですっけ?
オーラ防御も使用して敵の攻撃への対策を
なるべく近くに一体でも多くの敵をおびき寄せたなら
鈴蘭の嵐発動
薄気味悪いトンネルでも
一枚一枚が紙ならば
少しは気持ちも前向きに…
けれど「飛ばされる」とは
その先に待つお相手様にも
十分気をつけないといけませんね…
アドリブ、絡み歓迎
薄気味悪いトンネル。
それが『帰らずのトンネル』に対する紗の第一印象だった。
点いても点かなくても嫌な雰囲気を醸し出しそうな電灯の音が、妙にハッキリと届くのも薄気味悪さに拍車をかけている。
だから、正直言ってあまり気分は乗らない。だが。
「……一人でだって、戦えますよ?」
「二人だったら?」
「ひゃっ?!」
ぽそっと落とした独り言にまさかコメントが寄せられるなど考えもしなかったし、場所が場所だ。
小さな悲鳴と一緒に跳ねた肩へ、あーゴメンねぇと香るような声。
恐る恐る振り返れば、申し訳なさそうに笑う薄氷色の持ち主がいた。
「コノハっていうの。ソッチも猟兵でしょ? 今から?」
「あ、はい。そうです、今から」
呟いた紗の隣には慎ましい夜を思わす絡繰り人形がひとつ。
コノハはヨロシクネと笑ってからトンネルに目を向けた。どこか親しげだった笑みがゆるりと細められた瞬間、“食す側”の空気をかすかに覗かせる。
「白いトンネルってのも嫌いじゃないケドね、悪さするってんなら染め変えちゃいましょ」
遠くからわざわざ飛んできてくれたのか。電灯と一緒にちかちかと明滅する風景の中、ざざざと飛んで現れた『はくし』達。あれを染め変えるとして――では何色に?
ふと色の事を考えてしまった紗だが、油断しているかというとそうでもない。
オーラを纏い、絡繰り人形の『可惜夜』の真っ直ぐ後ろを走る姿に、同じく護りのオーラを使用中のコノハは成る程ネと笑みひとつ。そして獲物を目に、楽しげに笑って一気に駆けた。
数秒で狭まる敵との距離。
勢いでふわりと踊る髪の下、静かに煌めいたのは不敵な色と――。
「くーちゃん、あの花弁ぜーんぶ歓迎してあげて」
ばちりと爆ぜる黒を纏った、愛らしい影狐。
コノハの前いっぱいに広がっていた花びら全てが、影狐の疾駆を受けて吹き飛んだ。
空覆う暗雲に広がる稲妻のように一瞬で起きた光景。紗は『可惜夜』の後ろでぱちりと目を瞬かせるが、迫り来る次の白色を見て唇を結ぶ。足を止めればチャンスとばかりに吹き荒れた紙吹雪と、そこから放たれる白い塊――何も書かれていない、大量の白紙。
繋いだ糸越しに『可惜夜』の浴びた衝撃と圧が伝わった。まるで濁流を受け止めたよう。指を動かしてみるが『可惜夜』は僅かにしか動かない。
(「やっぱり。でも、」)
操り手である自分が全身に白紙を貼り付けられて動けなくなるより、いい。
『可惜夜』を盾に進んだのはその為だ。背に腹はかえられぬ。ここで紙にまみれて倒れたら――『帰らずのトンネル』が、本物になってしまう。
白い濁流が絡繰り人形を封じきる直前。多くの『はくし』が、より近くへ来た時。
(「今……!」)
紗の宝珠が愛らしい白色に変じ、『はくし』を一気に包み込む鈴蘭の暴風と化した。
(「あれは紙。たくさんありますけど、一枚一枚は、紙」)
そう考えれば、少しは気持ちも前向きに――なるような。
けれどこの後“飛ばされる”というから、前向きになりかけた気持ちに不安が少々足されてしまう。この先に待つ相手にも十分気を付けないと――と思った、その視界。まだ飛んでいた――いや、飛べていた『はくし』が紫雷に貫かれた。
「黒だけじゃ寂しいでしょう」
右目に宿る刻印。『はくし』を捉えては“喰らって”いく、冷たく眩い牙。
「紙じゃあ食いでも無さそうだケド、取られた分くらい取り戻さなくちゃ。何より食わず嫌いは良くないものねぇ」
「……あ、それもそうですね?」
「ナンて」
「え」
きょとん、と丸くなった目にコノハはニッコリ笑顔。
人差し指を口に当て、さァてと静かに弧を描く。
「先ずは美味しく頂いて。それから雷に染められて、綺麗に燃え尽きて頂戴な」
暗いそこに、紫の光を奔らせる。
だって『かえらず』と付けられたここは今日でオシマイ。ただのトンネルに戻ってもらうから――いけない白紙は一片たりとも残さないよう、丁寧に。丁寧に。
イタダキマス。
ゴチソウサマ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『向日葵』』
|
POW : あの日、あの時、あの場所で
小さな【相手の戦闘力を無効化する向日葵畑】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【郷愁漂う優しく平和な真夏の異界】で、いつでも外に出られる。
SPD : あたしといっしょに遊ぼ?
【幻影としての向日葵】の霊を召喚する。これは【嗅いだ者を幼少期の姿にする夏の香り】や【触れた物を無垢な童心に還す夏の風】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 夏はいつまでも
戦闘力のない【太陽】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【日が暮れ、暮れる毎に相手の敵愾心を削る事】によって武器や防具がパワーアップする。
イラスト:+風
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠詩蒲・リクロウ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●夏
最後の『はくし』がアスファルトに落ち、カサ、と音をたてる。
端から細かい欠片となって崩れ始めたのは、寄生していたものが息絶えたからか。UDCの宿主となっていた紙も『はくし』と共に消滅し、仕込まれたものの失せたトンネルが本来の姿を取り戻していく。
始まりは、まだ息が残っていた電灯の音。
ジジ、ジ、ジジジ、と点いたり消えたりを繰り返すトンネルは、一般的なトンネルと同様に黒と灰と緑が入り交じった色をしていた。その色は暗闇が晴れた瞬間、どこまでもどこまでも続いているのが見えて――。
こ っち だ よ。
ジッ。
灯りが消えた。真っ暗になる。黒一色。明るいものなんて何もない。
黒が、闇が、どんどんどんどん深くなる。
足元が。五感が沈むような感覚に侵されて――。
ぢぢぢぢぢぢぢぢ――。
急に視界が晴れた。
空が濃い。何か棲んでいそうな入道雲が列を作っている。
聞こえるこれは。確か、蝉の声。ひぐらしだ。
き ゃ はは。
ふいに笑い声がした。幼い少女の、無邪気な声だった。
鬼灯揺れる麦わら帽子が、向日葵と一緒にアスファルトの坂道の向こうへ消えていく。
行かないと。
陽炎が昇る坂の先へ行って。あの少女に会わないと。
でないとずっと、夏の中。いつかの未来で、異界の胞に溶けてしまう。
天杜・理生
ノエミ、モニカ(乃恵美・f05894)と同行。
アドリブ大歓迎。
【SPD】
少女を追いながら、風と香りに感じた変化に
灯りが消える瞬間に咄嗟に引っ掴んだままだったノエミを突き離す。
これはまずいことになった。
“兄”に“少女時代”などあってはならないというのに。
とはいえ、妹たちは必ず無傷で船に帰さねば。
肩につかない長さの髪、随分と低い両目分の視界。
幼少のわたしの姿か。
僕を保てるうちにかつての名すらエテと偽って
お兄さん?ううん、見てない。
でも、それなら早く帰り道を探そ?
ふふ、だって、ねぇ、向日葵さん?
キミもこの子達も、わたしも、帰る場所は違うでしょ?
夏はいつか終わらなくっちゃ。ね?
(蠱惑的な少女の姿)
天杜・乃恵美
エテ(理生・f05895)と一緒
アドリブ歓迎
◆ノエミ
わ、キレイな向日葵♪
あれ…おにいちゃん、どこ!?
モニカちゃん、来てっ(ユベコ起動)
エテちゃん、しってる?
片目のおにいちゃん
…そっか
うーん…そだね
あそぼっ、エテちゃん!
おーにさーんこーちらっ♪
◆モニカ
…へえ、エテちゃんか
ああ、日暮れまで長居するのはね
ノエミ、エテちゃん、一緒に探そっか?
皆の帰路を回れば、兄くんも居るさ
…ちょ、待ってよっ!?
大丈夫
コレもまた夏の遠い想い出に『される』
でも、ソレでいいんだ…多分ね
◆背景
2人は元々『永遠の幼女』として製造
また「理生は兄」と洗脳で認識歪曲
(更にノエミは無垢性を人為的に固定)
故に「エテ=理生」とは分からない
遠ざかる笑い声を追う。
陽炎揺らぐ先、坂を上った瞬間に見えた麦わら帽子。走る少女の後ろ姿。理生たちを振り返るように、麦わら帽子の鬼灯がカラカラ踊る。
「おい、待――」
乃恵美と手を繋いでいた理生は、少女の、向日葵を抱えているのとは逆の腕へと手を伸ばす。
指先が触れた。麦わら帽子の下で髪が舞う。少女が振り返る。
そこに顔は無かった。
代わりに大輪の向日葵がひとつだけ。
向日葵が揺れる。
呼吸をするように、海流に揺れるイソギンチャクじみた動きで、じわり、じわり。
ね ぇ、 遊ぼ ?
脳に『少女』の声が響き、世界いっぱいに夏の花が咲く。
花そのものが太陽のように鮮やかで生命力に満ちていた。キレイ、と乃恵美はパッと笑顔を浮かべ手を伸ばす。小さな指先が――眩い黄色の先へとすり抜けた。
「あれ……」
どうしてと両目をぱちぱちさせる乃恵美に『向日葵』がくすくす笑う。種も仕掛けも全部知ってるよと語るような笑い声で、乃恵美の周りをぱたぱた駆け回る。
触れられない向日葵。不思議な向日葵。
けれど不思議な事はもう一つ。
「……おにいちゃん?」
姿を見失ってキョロキョロしても、兄の「どうしたんだ」という優しい声はどこからも聞こえなくて。でも――向日葵の子とは違う、別の『知らない子』が少し離れた所にいる。
夏の風に、綺麗な黒髪を揺らしている子。身長も、髪の長さも、“兄”とは違うけれど。
もしかしたら、何かしってるかな。
「モニカちゃん、来てっ」
最初に感じたのは陽射しに焼かれる緑の香り。そして己に起きた変化。
もう一人の自分たる桃仁香を喚び、こちらへとやって来る乃恵美の姿は変わっていない。しかしこれはまずいことになったと理生――『知らない子』は『向日葵』を見る。
随分と軽くなった頭に触れる。髪は肩につかない長さ。目線も低い。
(「幼少の姿、か」)
ああ、まずい――“兄”に“少女時代”など、あってはならないというのに。
だが、己に起きた変化以上に心を砕かねばならないのは妹たちの安全だ。ここが異界であろうと妹たちは必ず無傷で船に帰してみせる。“僕”を保っているうちに自らを『エテ』と偽るなど、苦でも何でもない。
「……へえ、エテちゃんか」
「ねえエテちゃん、しってる? 片目のおにいちゃん」
「ううん、見てない」
「……そっか」
「でも、それなら早く帰り道を探そ?」
しゅんと肩を落とした乃恵美と、乃恵美と繋いだ手をぎゅっと握った桃仁香。二人の視線に、『エテ』は笑う。
「ふふ、だって、ねぇ――」
向日葵さん? 『エテ』の声に、駆け回るのに飽きてきたらしく、ゆったり歩いていた『向日葵』が振り向いた。太陽を追って咲く花が、三人の猟兵にその顔を向ける。
「キミもこの子達も、わたしも、帰る場所は違うでしょ?」
夏はいつか終わらなくっちゃ。ね?
少女には似つかわしくない眼差しに『向日葵』の肩が揺れる。きゃはは。聞こえた笑い声は、すぐそこにいるのになぜか遠くから聞こえた。
それに気付かない乃恵美は小さく唸ってから、こく、と頷いて。円らな瞳は真っ青な空と入道雲を見てわくわくと輝き始めた。早くかえらなきゃ。でも、せっかくの夏だから!
「あそぼっ、エテちゃん! おーにさーんこーちらっ♪」
「ちょ、待ってよっノエミ!?」
ぴょんぴょんと跳ねるように駆け出した乃恵美の後を、『向日葵』も嬉しそうに追いかける。それを『エテ』がしょうがないなと笑って走り出して、桃仁香も慌てて追いかけた。
(「……エテちゃんの言ったとおり、早く帰り道を探したほうがいいんだろうけど」)
夏はいつか終わる。
そうして“コレ”もまた夏の遠い想い出に“される”。
(「でも、ソレでいいんだ……多分ね」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桔川・庸介
恐怖に怯え叫びながら駆け込んだ先は、真夏。
目を見開いて呆けてたら、蜃気楼の先に少女が。
「ま、待って!」
一面の向日葵の中を走り抜ける。
夏の香りが鼻を抜けて、じわりと切なさが滲む。
脳裏には過ぎ去った日々の思い出が、
おもいで?
おかしいな。
懐かしい「気持ち」は確かにあるのに、何も見えない。
なにかを、忘れてきたような。忘れた□か□□□□
【不詳の輪郭】
――錯覚だよ。
思い出なんてあるわけない。
お前は後から生まれた人格なんだから。
マスクの下で独りごちる。
黄色の波の中、少女の首に躊躇わず手をかける。
「感傷に浸るの、趣味じゃないんだ」
けれど薄れていく世界の中、ほんの一瞬。
無邪気に走る、幼い自分の影を見た気がする。
怖くて恐ろしくて、涙と叫び声が出て。震えて駆け込んだ先は――真夏。
え、と見開いて呆ける庸介の顔を陽射しがちりちりと照らし、ぬるりと汗が一筋垂れた時。無音で昇る蜃気楼の先に、少女がいた。
「ま、待って!」
きゃっきゃと駆け出した後を慌てて追いかけるその周りが、車窓向こうでびゅんびゅんと過ぎていく景色のように変化する。坂道はいつの間にか土になり、周りには緑と力いっぱい花を咲かせた黄色い列。
一面の向日葵に囲まれながら走り抜ける庸介の鼻を、夏の香りが抜けていった。
ああ、太陽を浴びた緑と土の香りだ。じわりと視界が滲む。切なさが胸に沸いて、脳に至る。そこには過ぎ去った日々の思い出が、
(「おもいで?」)
おかしいな。
庸介の意識が、内側に縫い止められる。
懐かしい“気持ち”は確かにあるのに、どうして脳裏には何も見えないんだろう。
(「まるでなにかを、忘れてきたような。忘れた□か□□□□――……」)
手が、顔を隠していく。
手が、離れる。
庸介の顔は、黒いマスクが完全に隠していた。
「――錯覚だよ」
マスクの下、思い出なんてあるわけないと独りごちる声。
「お前は後から生まれた人格なんだから」
それを聴くのは、自分を黄色い波の中へと連れてきた『向日葵』だけ。
ただ自分を見上げる『向日葵』の傍へ、一歩、二歩と近付いて、その首に躊躇わず手を掛けた。
「感傷に浸るの、趣味じゃないんだ」
ぎり。ぎり。
細い首に指が沈むたび、世界も一緒に薄れていく。
だけどその中で、ほんの一瞬だけ。無邪気に走り回る、幼い自分の影を見た気がして。
ばい ば い。
お にいち ゃん 。
――夏が、遠ざかっていく。
大成功
🔵🔵🔵
ザザ・クライスト
ジャスパー(f20695)と参加
「夏か」
煙草に火を点ける
紫煙を吐き出して蘇る記憶
暑い夏の日だった
"オレ達"はある要人を監視、必要に応じて"処理"する任務に就いていた
エレメントを組んだのは後輩である少尉
額の汗を拭いスコープを通して要人を窺う事を繰り返す
その慣れが油断を招いたのか
発見されたオレ達は逃走を試み、オレは成功し、少尉は失敗した
少尉を人質にオレは投降を呼びかけられて──
夏が終わる
気づけばジャスパーがいる
「よォ、不景気なツラだなァ?
」
切り返しに「誰が」と悪態を吐くが、顔は笑ってる
黒剣を抜く
「ひと暴れしたい気分だぜ。"少し"巻き込んでも大丈夫だろ?」
反応にクッと笑う
可愛い奴
【魔弾の射手】を使用
ジャスパー・ドゥルジー
ここは…どこだ
なんで俺人間の子供になってんだ
ああ、これが敵の幻術か
これは人間だった頃の俺か
覚えちゃいねえけど、そうか
そういう事か
…人間?
『ぼく』はなにを考えてたんだっけ
ぼくは……人間だ
弱い人間だから…にげなきゃ
だってぼくは鬼なんかじゃない
悪魔なんかじゃ、ない
でも、何から?
……待って!
視界を横切った麦わら帽子のお姉ちゃんを必死で追いかける
あの人がなにか知ってる気がして
振り向いたお姉さんの顔は向日葵で、そして…
そして俺は目を覚ます
気がつくと近くにはザザ(f07677)が
ーーんだよ、俺がいなくて寂しかったか?
ああいいぜ
言ったろ、頑丈だって
その代わり俺も遠慮なく行くぜ
歯ァ食いしばってな
「夏か」
呟いたザザの口で煙草が軽く上下する。
火をつけ紫煙を吐き出せば、ゆらゆらと昇っていくそれに重なる“あの、暑い夏の日”。
要人を監視し、必要に応じて“処理”する任務についた自分たち。エレメントを組んだ、後輩である少尉。
夏だ。額からはどうしたって汗が垂れてくる。それを拭い、スコープを通して要人を伺う。それと何度も何度も、何度も繰り返して――それに慣れて、油断を招いてしまったのだろうか。
監視していた自分たちが発見され、見られる側になる。
そうなったらもう監視など意味はない。“処理”も出来ないだろう。
『オレ』と『少尉』は逃走を試みた。『オレ』は成功した、捕まらなかった。だが『少尉』は失敗して。人質になって。
――声がする。
『少尉』を人質に投稿を呼びかける声。『オレ』に出てくるよう繰り返す声。
投稿を呼びかけられて、『オレ』は――……。
ジャスパーは知らない場所に一人でいた。
世界が広い。空が遠い。それから、手が小さくなっている。
(「なんで俺人間の子供になって――……ああ、これが敵の幻術か」)
つまり“これ”は、“この自分”は、人間だった頃のジャスパー・ドゥルジーというわけだ。“そうだった頃”なんて覚えちゃいないジャスパーだが、そうか、そういう事かと納得して。
「……人間?」
ぱち、と瞬き一回。
『ぼく』はなにを考えてたんだっけと上を見る。空はすごく青くて、すごく大きい雲がいっぱい。ぢいぢいすごい音もしていて、それからそれから。
「ぼくは……人間だ」
それも、弱い人間だから――ああ、にげなきゃ。だってぼくは鬼なんかじゃない。悪魔なんかじゃ、ない。ぼくは、ぼくはよわい、にんげんなんだ。でも、にげるって――『何』から?
途方もない感覚に呑まれそうになったジャスパーを掬い上げたのは、視界を横切った麦わら帽子だった。たたたと駆ける後ろ姿が、遠ざかる。
「待って!」
あの人が何か知ってる。
お姉ちゃん、お姉ちゃん待ってと必死で追いかけるジャスパーの目に、振り向いた『お姉ちゃん』の顔が映る。太陽を浴びて輝くあれ。風もないのに揺れる黄色いあれ。あれは。
ふいに、夏が終わった。目が、覚める。
静かに交わった赤と紫が、ニィ、と笑った。
「よォ、不景気なツラだなァ?」
「――んだよ、俺がいなくて寂しかったか?」
誰がと悪態を吐いたザザの手は黒剣へ。
「ひと暴れしたい気分だぜ。"少し"巻き込んでも大丈夫だろ?」
いいぜと笑ったジャスパーの手で、パチンと銀の刃が咲く。
「言ったろ、頑丈だって。その代わり俺も遠慮なく行くぜ。歯ァ食いしばってな」
笑う二人の前には向日葵咲かせた少女が一人。
夏の終わりは、間近。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リグ・アシュリーズ
足元の浮遊感に、これは取り込まれたわね、と苦笑い。
次に広がる景色は、風の吹きぬける住宅街――と、夏空。
これは……こんな空の下の思い出を持たない私にも、わかるわ。
この景色は美しい。
めぐる季節の一部分を切り取ったように、美しいまま、動かない。
目を閉じ、思いをはせる。
子どもの足取りなら、どこへ向かうか。
坂道をのぼった先の公園、木陰のブランコに麦藁帽子の後ろ姿を見つけ。
こんな所にいたのね、と声をかけます。
季節はめぐるもの。私もあなたも、そろそろ帰らなくちゃ。
でも――忘れられない景色をありがとう。
静かに黒剣を引き抜き、異界に別れを告げるわ。
どうしても思い残しがあるなら。
――また次の夏、遊んであげるわ。
向日葵畑の“向こう側”に連れて行かれるというのは、奇妙なものだった。
足元の浮遊感に「取り込まれたわね」と苦笑いしたのも束の間、突如広がった景色がリグの五感をざあっと撫でていく。
「これは……」
元気に吹き抜けていく夏の風。それを受け止め、流していく住宅街。それから、どこまでも広く、鮮やかな夏の空。
色と光に溢れた空の下。
この思い出を持たないリグにもわかる。この景色は、間違いなく美しい。
同時に、この景色は巡る季節の一部分を切り取ったように美しいまま、動かない。
贅沢なほどに美しい景色だが、リグは目を閉じて一時的に“夏”を外にやる。暫くしてから目を開けたリグは、夏のひとときを永遠と保つ住宅街の中を歩き出した。陽射し浴びるアスファルトや塀の照り返しはなかなかキツいものがあるが、曲がり角で足を止め、道の先を見て、確認しては歩き続ける。
そうして辿り着いたのは公園だった。坂道の先、蝉の声がライブのようにやかましいのは木々があるからか。その中の一本、木陰で灼熱地獄とならずに済んでいるブランコに、麦わら帽子を被った後ろ姿があった。
ああ、やっぱり。子どもの足取りなら、ここだと思ったのだ。
「こんな所にいたのね」
ブランコに腰掛けていた少女が振り返る。向日葵の花がリグを見て、きぃっ、きぃっ、とブランコをこぎはじめた。子どもから見た夏は楽しい時間でいっぱいだろう。だけど。
「季節はめぐるもの。私もあなたも、そろそろ帰らなくちゃ」
きーぃ。きーぃ。
強くこぎ始めたのが抗議の姿勢に見えて、リグは困ったように笑う。うん、そうね。ずっと続いてほしい時間は、誰にでもある。それでもやっぱり、季節はめぐるのだ。
「でも――忘れられない景色をありがとう」
知らない景色。知らない季節の風景。
そっと伝えた言葉に、『向日葵』がブランコをこぐのを止めた。
花の先端、風もないのにさわさわと揺れる向日葵に見上げられているリグの手が黒剣を引き抜き、静かな音を響かせる。ブランコから下り、そのまま正面に立つ『向日葵』の“視線”を、リグは真っ直ぐ受け止めた。
「どうしても思い残しがあるなら。――また次の夏、遊んであげるわ」
約束を交わして。夏よ、さようなら。
大成功
🔵🔵🔵
碧海・紗
1人では心細く…
コノハさんに感謝を
気を取り直し市松発動
手のひらサイズの白と黒を召喚して敵に挑みます
って
アンテロさん(f03396)!
今まで何処にいたんですかっ
安心したのも束の間
向日葵が真っ青な空に映える
視界が驚くほど低くなり
暗くて狭い空間で育った私の
知らない綺麗な世界…
キラキラのたいようと
わたがしみたいなくも!
あかるくてたのしい
あたしずっと
こんなせかいに憧れてたの
真っ黒な翼を広げたら
思い出した現実の過去
不吉と言われた黒い羽根
私には似合わない…
気性の荒い黒が
今回ばかりは擦り寄って
掛けられた眼鏡
顔を上げて
翼を褒められ輝く瞳
…私が好きなのは
夏と言うより
綺麗な空を飛ぶこと
あとは甘いものと
それから、…ー
アンテロ・ヴィルスカ
碧海君(f04532)と/POW
市松の片割れ、此方に僅かに早く気が付いた白を指先で撫でて
…どこに。俺はずっと君と一緒に居たけれど?
なんてね、少し遊んでいただけ
言いつつ花畑ごと、敵を鎖で捉え斬りかかれば
突然切り替わった景色はUDCアースの町の一角
隣の彼女と入れ替わり、遠くには見覚えのある花を頭に咲かせた少女
是れまた見覚えのある眼鏡を拾い上げて、小さなお嬢さんに掛けてあげようか
やぁ、黒い翼が素敵だね?
……君くらいの年の俺の持ち主は冬の合間の日が沈まない夏が好きだったな。
暑い季節の何がそんなに良いのか、俺にはさっぱり分からないのだけど…
空ばかり眺めているね君も、そんなに夏が好きかい?
碧海君。
夏で満ちた異界に小鳥の囀りが踊る。
さっきは同じ猟兵と。今度は、召喚した二羽の文鳥『白』『黒』と。
戦う意志を浮かべた紗の指に留まる『黒』が愛らしく首傾げた先には、心なしか輪郭が揺らぐ少女『向日葵』がいて――ふいに『黒』の片割れである『白』がぴゅんっと飛んでいった。
あ、と目で追いかけた先。ぴたりと留まった『白』を指先で撫でる長身の男。
途端、紗の表情が驚きと安心でぱっと輝いて。
「アンテロさん! 今まで何処にいたんですかっ」
どこに、と言われても。
「俺はずっと君と一緒に居たけれど? ……なんてね、少し遊んでいただけ」
チチッ。囀った『白』が素早く飛び立つと、アンテロは内を伺えぬ微笑を浮かべたまま鎖をじゃらり。音を立てた次の瞬間、それは『向日葵』を斬る一撃となって――だが刹那の瞬間、向日葵が世界を変えた。
音もなく溢れて広がった向日葵。舞台の幕を上げるように大量に生まれた太陽の花は波のように流れ、唐突に晴れた。
(「ここは……UDCアース、かな」)
「わあぁ……」
聞こえた声はとても幼かった。
目を向ければ頭部に見覚えのある花を咲かせた少女が一人。自分のすぐ隣には、これまた見覚えのある物が落ちている。おやおや、落とし物だ。届けてあげよう。
少女の心を奪って視線を釘付けにしているのは、世界に映える向日葵の後に見た、頭上に広がる真っ青な空。果てなどない世界は、暗く狭い空間で育った『私』の知らない、綺麗な世界。
「すごいすごい! キラキラのたいようとわたがしみたいなくも!」
あかるい!
たのしい!
少女は頬を紅潮させ、ずっと憧れていた世界を全身で受け止める。溢れる喜びと感動は背にある翼に伝わって。ばさりと広がった翼を羽ばたかせたなら、あの雲に届いたかもしれない。
しかし自身の翼を見た少女は見る間に元気をなくしていく。喜びを溢れさせていた翼はゆっくり閉じられて、青空を見上げていた視線がアスファルトに落ちた。
――なんて黒い翼。
――あれは不吉なものだ。
何度も言われた言葉。思い出した現実の過去。この真っ黒な翼ならあの空へ飛んでいけるだろう。でも。
(「私には似合わない……」)
眩しい空、輝く太陽。広くて綺麗な、この世界は。
沈む心にチチッと囀り被せた『黒』がじっと見つめてくる。気性の荒さが伺える眼差しだが、決して少女の肩から離れようとしない。
「やぁ、黒い翼が素敵だね?」
驚いて上げた顔に掛けられたものが、少女の心と世界をクリアにしていく。深く沈みかけていた心が、あっという間に浮き上がる。
輝く瞳に見られながらアンテロは「うん」と頷くと、少女がしていたように空を見た。青い空に一瞬、光の欠片が踊る。
「……君くらいの年の俺の持ち主は冬の合間の日が沈まない夏が好きだったな。暑い季節の何がそんなに良いのか、俺にはさっぱり分からないのだけど……」
UDCアースの北極圏などに訪れる夏はこことは全く違う。白夜という名の通り、明るい夜が続く夏だ。だが、ここの夏は光と熱が燦々と降り注いでは全てを包み込んでいる。
「空ばかり眺めているね君も、そんなに夏が好きかい?」
碧海君。
眼鏡の下、少女の――紗の瞳がぱちりと瞬いた。
アンテロを見て。空を、見る。
「……私が好きなのは」
夏というより、綺麗な空を飛ぶ事。
あとは甘いものと。
「それから、……――」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
あの人を夢に見ると思った、のに
真っ青な空、白い積乱雲、潮の香りが混ざる温い風
頬に張りつく白に近い銀の髪、おにぎり持つ手は細く小さい
これは優しい次兄が持たせてくれた
岩の浜辺では快活な姉が波間を跳ねて
やがて陽が傾きだせば山裾の海辺の日暮れは早く
カメラ片手に迎えに来るのは偶にしか戻らぬ長兄
小柄な弟の手を引き、大きな手と背にじゃれつき家路につく
紫に染まる空と兄姉達を見上げる大好きな時
大好きな人達の記憶
――違う
知らない、しらない、”自分”のじゃナイ
コレは何度も繰り返し聞かされた、あの人の
……では、オレは誰?
怖れ慄く様な表情は敵に対してでなく、顔覆い幻影掻き消して後退る
帰して、の一言と共に「氷泪」の一撃
あの人を夢に見ると。そう、思ってた。
けれどコノハが見たのは、どこまでも広くどこまでも青い空とそこに浮かぶ白い積乱雲。
頬を撫でた温い風には潮の香りが混ざっていて、潮風のせいか頬に髪が貼り付いた。紫雲だった筈の髪は白くて、気付けばおにぎりを持っていた手も細く、小さい。
「これ、は」
――ほら。
そう言ってこのおにぎりを持たせてくれたのは――……そうだ、優しい次兄だ。
弾むような笑い声に視線が惹かれる。岩の浜辺で波間を跳ねるあの姿は、兄姉の中でも特に快活な姉。
その向こうに広がる海と空はひどく鮮やかで――やがて陽が傾きだせば、山すその海辺はあっという間にその顔を変えていく。海と空、岩に浜。全てが活き活きとしていた場は、日が暮れるにつれて静かな眠りへと。
――おーい、お前ら。
たまにしか戻らない長兄がカメラ片手に迎えに来る。小柄な弟の手を大きな手で引いて歩く長兄の、もう片方の手と背に自分はじゃれついて。紫に染まる空と兄姉たちを見上げる帰り道。
大好きな時間。
大好きな人たちの記憶。
「――違う」
“なぜ”って?
だって知らない、しらない、”自分”のじゃナイ。
だって“コレ”は“何度も繰り返し聞かされた”!
誰から聞かされた?
誰の思い出を聞いた?
夏の海。はしゃぐ兄姉。皆でついた黄昏色の家路。
――これは。
――これは、あの人のだ。
「……では、オレは誰?」
嬉しくて楽しくて、幸せな顔を浮かべていた子どもは消えていた。
いるのは、怖れ慄くような表情を浮かべた一人の子ども。
おに ぃちゃ ん 。
表情を向ける先は『向日葵』じゃあない。細い指は顔を覆い、幻影を掻き消して。ざり、ざり、と後退る。
「ねえ」
日は落ちていた。辺りは豪雨が来る直前のように暗い。
ぱちり。右目から一瞬零れたのは冷たい雷彩。
「帰して」
空を裂くように、暗闇に光が奔る。
聞こえた幼い悲鳴は――ああ。誰のものだったろう。
大成功
🔵🔵🔵
ロカジ・ミナイ
夕立くん/f14904
突然
夏の匂いが鼻をつく
密度の高い空気と白粉が混ざった匂い
相手の汗に濡れた髪が頬に貼り付いて気持ちが悪かった
知らないおじさんの煙草の匂いがすると
火を連想させて暑苦しかった
…ああ
煙草
煙
香を、調合しなきゃ
この臭いを消さなきゃならない
君はどんな匂いが好きかね
石鹸の匂い、花火の匂い、
…いや
プールの匂いがいいかな
プールってテンション上がるよね~
僕も子供の頃に知りたかったよね~
夕立くんが上手く風をしのいでくれたからね
いーい香りが立ち込めた
大人に戻ったらお仕置きの時間だ
さぁ夕立くん、やっておしまい!
(僕もちゃんと戦います)
ところでさ、
ちいちゃい僕、可愛かったでしょ
え?ちゃんと僕を見てよ!
矢来・夕立
雷眉毛さん/f04128
※方針
夏の香り:煙の匂いで対抗
風:遮蔽を作って妨害
※
夏は好きじゃない。殺した痕跡が残りやすいから。
汗とか、死臭とか…あと、腐ったりとか。
…向日葵の香りを上書きしたら無効化できませんかね。
詳しいことはそこの煙と調合のプロに任せます。
香りで子どもになるのは姿だけらしい。
となると、怖いのは風ですね。
【紙技・彩宝】。壁を作る。
接敵する時にも壁を作りながら移動。
風よけにも、遮蔽にも使えますし、
目隠しとして《だまし討ち》の起点にできますしね。
霊をスルーして向日葵本体を《暗殺》
塩素の匂いってそうやって調合できるもんなんですね。
…え?ちいちゃい頃?見てませんでした。
笑い声がした。
あそぼう、あそぼうと不安定に揺れる少女の声。それが向日葵を“咲かせて”、夏を溢れさせていく。そうして生まれた“夏”が、ロカジと夕立をすっぽり包み込んで――。
突然鼻を夏の匂いがついたものだから、幼いロカジは顔を顰めた。
見えない筈の空気なのに、鼻をつくそれは高い密度で体の内外を通っていくし、白粉が混ざった匂いもする。相手の汗に濡れた髪が頬に貼り付いて、他人の物が頬にべたりという現実と感覚がとにかく気持ち悪かった。
(「知らないおじさんの煙草の匂いもする」)
煙草。匂いと煙がぷかぷかと出るそれ。使うには――火。火が。
暑苦しい。
「……向日葵の香りを上書きしたら無効化できませんかね」
声がした。隣を見るだけなのになぜだか頭が重い。
黒髪の下、真っ赤な目を覗かせた幼い子どもが、理知的な目付きで千代紙を操っていた。
「煙と調合のプロに任せますよ」
「……ああ」
煙草。煙。
そうだ、彼の言う通り香を調合しなきゃ。この臭いを消さなきゃいけない。
「君はどんな匂いが好きかね」
夕立くん。
名を呼べば、理知的な雰囲気の子ども――ロカジと同じく幼い姿となった夕立は、これ以上の風は欲しくもありませんのでと、千代紙で壁作りの真っ最中。
風。香り。どちらもユーベルコードによってもたらされるのならば、こちらもユーベルコードで対抗すればいい。ああ、香りの効果が“嗅いだ者を幼少期の姿にする”だけで良かった。
「何でもいいですよ」
ふわり。かさり。踊る千代紙が自分たちを守る壁になっていく。幼い姿になっているとはいえ、風から守るとなればそれなりの高さが要る為、見上げていたロカジの頭はかなり傾いていた。
「ふぅん、そっか。じゃあ石鹸、花火……」
暫し夏の空色を目に映していたが、視線を手元に戻して調合し始める。その間、夕立作の『壁』越しに少女の笑い声が右から――と思えば左から聞こえてくるが、それだけだった。風は届かず、声だけが聞こえる。
そうこうしている間に、ロカジにとっては懐かしい匂いが立ちこめて。
「塩素の匂いってそうやって調合できるもんなんですね」
「まぁね。プールってテンション上がるよね~。僕も子供の頃に知りたかったよね~」
夏の間だけ生まれる、あの匂い。
陽射し浴びた緑やアスファルトとはまた別の、夏の香り。
懐かしむ声に夕立は「そうなんですか」と返し、小さな手で得物を握る。汗、死臭。それから、腐敗。夕立にとって夏とは殺しの痕跡が残りやすい季節だ。好きか嫌いかと言われたら、“好きじゃない”。
――ふいに、目線が高くなり始めた。小さかった手も戻り始めてと、丁度いいタイミングで“やりやすくなった”夕立の姿にロカジは笑う。
「さぁ夕立くん、やっておしまい!」
え? 勿論僕も戦うとも。
『ところでさ』
『はい』
『ちいちゃい僕、可愛かったでしょ』
『……え? ちいちゃい頃? 見てませんでした』
『嘘でしょ、ちゃんと僕を見てよ! ちいちゃい僕とか超レアだよ!?』
『わあー、かわいいですねー』
『棒! 凄く棒!』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鹿忍・由紀
声を追って坂を登れば一面の向日葵畑
ダークセイヴァー出身である
自分の過去とは一切縁のない、
平和な向日葵畑を静かに見渡す
思い出もなければ感傷もない
余所者としての居心地の悪さが多少あるだけ
幻影なのは向日葵なのか、自分の方なのか
穏やかな空気の中を冷たい瞳のまま
向日葵を掻き分けて、時には踏み折って、
まっすぐに敵の方へと歩み進んでいく
夏は夕立に気を付けなくちゃ
姿を捕捉出来れば、
影のダガーの雨を降らせて攻撃兼足止め
追いかけっこは終わりだよ
そろそろ、帰ろう
先の攻撃で倒れた敵へ気怠い動きで近付いて
少女の首を自分のダガーで躊躇いなく一閃
相変わらずなんの感傷もない顔して
ここが一番、居心地が悪いよ
表情は変わらないまま
た、た、た、と声を追って坂を登る。
その先に何があるかなんて由紀は知らなかったし、興味もなかった。だが、突如として坂の向こうに現れた向日葵畑に足が止まる。夜と闇に覆われた世界、ダークセイヴァーで生まれた由紀の過去は、目の前に広がる風景と一切縁のないものだったから。
陽光降り注ぐ世界。時間。
それは特別でも何でもない、当たり前の日常で。
育つままに育って枝葉を伸ばした植物。黄色い花びらを広げる太陽の花。
全てがあまりにも、平和で。あまりにも、縁がない。
だから思い出も感傷も生まれず――ただ。余所者としての居心地の悪さが、多少生まれるだけだった。
(「どっちが幻影なんだろうね」)
熱を孕んではいるが穏やかな空気の中、冷たい瞳のまま足を動かし始める。手を伸ばし、黄色と緑の波を掻き分けて。それでも不十分な時はぐしゃりと踏み折って、向日葵畑の中、ふらふら遠ざかろうとする麦わら帽子を追いかける。
追いつくのはそう難しい事ではなかった。
真っ直ぐ歩み進んで、見えた後ろ姿に特別何か考えるわけでもない。
「ねえ」
麦わら帽子が振り返る。
こちらに向けられた向日葵の顔はまるで、閉じ込めた猟兵が太陽であるかのように。
「夏は夕立に気を付けなくちゃ」
青空の下、降り注いだのは雫ではなく影刃の雨。
麦わら帽子が裂けて、鬼灯が一つ、ぷつんと外れて落ちた。
「追いかけっこは終わりだよ」
一歩、二歩、三歩。走るでもなく、強く踏み締めるでもない。ただ、気怠そうな足取りで近付いて――。
「そろそろ、帰ろう」
向日葵の下に覗く白い首を、何の躊躇いもなくダガーで切り裂いた。『向日葵』に視線注ぐ由紀の視界、そこに入り込む夏の風景はまるで、脳の奥底にまで入り込もうとするようだった。
「ここが一番、居心地が悪いよ」
変わらない表情。
“平和な”向日葵畑。
夏を咲かせた少女の顔――向日葵の花弁、その先端だけが、ぐにゃりと蠢いた。
大成功
🔵🔵🔵
ニュイ・ミヴ
【SPD】
まって
追いかけて跳ねているうちからだはバラけ(【ワフマニ】)
あそぼうよ、と呼びかけてくるのは幾つものニュイかもしれません
ニュイたちに体当たりされてコロコロ
断然勢いよく坂を下るニュイは、幻影向日葵を跳ね飛ばしながらきっと照りつける太陽にどろどろ。おばけになるってこんな気持ちなのかも、とすこし
とけてなくなって
そして迷子になる
…のでしょうが、向日葵さん。ニュイはニュイ以外になれませんし、夏は今日がはじめてです
べちゃっ!
と止まるまで、飛び散ったニュイが一部でも本物向日葵に付着していたら『聖痕』串刺し
手を繋いで
追いかけっこはおわり
ですので
あなた(夏)がニュイになってくださいね
ほら。帰りましょう
こっ ち、 こ っ ち。
も っと あそ ぼ ぅ よ。
「まって」
追いかけっこがしたいんでしょうか?
不思議に思いながら追いかけ跳ねるニュイの体は、いつの間にか端がバラバラと解けていた。追いかけた後を示す目印の如く、ニュイの後にはきらきらとした黒くて柔らかそうな欠片が点、点々、点々々。
あそぼうよという声は不思議な距離感で聞こえるけれど――これは、誰の声だろう。先を走る少女のものだと思う心があるのに、後ろに点々と落ちている幾つもの自分かもしれないと、そう思う心もある。だって。
「わ、」
下り坂に突入したニュイは、後ろに落としていった『ニュイたち』に、ぷちんっ! と体当たりされてしまったし。
コロコロ下る勢いはさっき以上。本物ではない向日葵をついついうっかり跳ね飛ばし、遥か天空で輝く太陽の照りつけで、柔らかフォルムはどろどろに。ぐるんぐるん回る視界で見た自分の影に、ニュイは今の状態を――今の自分の姿が、何となく見えた。
(「……ああ。おばけになるってこんな気持ちなのかも」)
とけてなくなって。
そして迷子になる。
肉体(からだ)はないのに魂(なかみ)だけはあって、でも“かえる”場所がわからない。それがおばけなのだとして。本物も、こんな風になるのだと――そうだとしても。
「ひま、わりさんっ」
転がるニュイに呼ばれた『向日葵』が、坂の終わりで振り返る。
(「ニュイはニュイ以外になれませんし、夏は今日がはじめてです」)
きっ! と注がれる陽射し。暑い坂道。向日葵の花。
本物の夏と異界の夏はほぼ同じなのだろう。
ただ、少し違う。少しずれている。ここにある夏全てが、ここに来た誰かを閉じ込め続ける為にだけある。陽射しと熱は、何も育まない。
べちゃっ!
ようやく止まったニュイから『ニュイ』が飛び散った。水たまりから跳ねた雫のように一瞬で飛んだその一部は『向日葵』に付着し、それは自由自在に姿形を変える“夜”となって『向日葵』を貫く。
勢い余ってぶらぶらと揺れる『向日葵』の両手を、ふに、とニュイの柔らかな“手”が繋いで。
「追いかけっこはおわり。……ですので、あなたがニュイになってくださいね」
ほら。帰りましょう。
促された『向日葵』の花の顔。陽色の先端が少しだけ、しゅるりと内向きに巻かれていく。それはまるで、帰りたくないと訴えるような――。
大成功
🔵🔵🔵
波狼・拓哉
…夏だねぇ、うん。それ以外の感想が出てこねぇや。このまま溶けるのも面白そうではあるけど…まあ行くか。
じゃ、いつも通りお願いしますねミミックさんと。何があるか分からんから先導よろしく。
しかし、夏の夕暮れってのはどうしてこう…寂しい?…かな。そういう感情を受け取るんだろうね。適度に空が広いからか、時間が遅いからか…まあ色々考えられるよねぇ。けどまあ、明けない夜はないってね。寂しさ感じるのも一時的なもの。受け止めた感情全てを消化して前に進むしか道はないものだと俺は思うよ。
まあ、そういうわけだし悪いけど押し通るよ、向日葵の娘?…娘でいいんだよね?君事態に思うことは特に無いからね。
(アドリブ絡み歓迎)
不思議な感覚に襲われた後、拓哉の目の前はがらりと変わっていた。
しかし。
「……夏だねぇ、うん。それ以外の感想が出てこねぇや」
空も雲も、暑さも音も、何もかもが夏。異界に飛ばされると予め情報を得ていなければ、“人気のない、とても夏らしいどこか”としか思えないほどだ。
いやー本当に夏だななんて拓哉は目の前の風景をのんびり眺めていた、のだが。
「あー、このままだと溶けるんだっけ。それも面白そうではあるけど……」
うーん。と数秒考えて出した答えは「まあ行くか」。
「じゃ、いつも通りお願いしますねミミックさん」
何せここは異界なので。
何があるのかわからないので。
先導をよろしくされたミミックはシュタッとアスファルトに立ち、スタスタと歩き始める。拓哉はその後を付いて歩き――お、と気付いた。
こちらを見る一人の少女。
片割れをなくした鬼灯が揺れる麦わら帽子。向日葵の顔。
ちょっと遊びに行って帰ってくるのに良さそうな、ラフな服装に向日葵三本。
陽炎のせいなのか何なのか、その輪郭は距離を測るのに一瞬迷うほどに朧気で。
「あれか……って、あれ?」
細い体の向こう、青空に浮かんでいた太陽の色。眩い白だったその輝きが、金、オレンジと“暮れ始めた”。深い青は紫を帯び、真っ白だった入道雲は茜色の光を受けた黒いシルエットへ。空全体に薄くかかって不思議な色を生むオレンジは、沈みゆく太陽のそれだ。
夏の夕暮れに“寂しい”と思うのはなぜだろう。適度に空が広いからか、遅い時間だからか。そういう感情を受け取る理由は色々と考えられる。
「けどまあ、明けない夜はないってね」
寂しさを感じるとしても一時的なものだから、受け止めた全てを消化して。そうして前に進むしか道はないものだと、拓哉は笑って。『向日葵』の前に、立つ。
「まあ、そういうわけだし悪いけど押し通るよ、向日葵の娘? ……娘でいいんだよね?」
訊いても答えはなかった。ただ、さわさわと花が揺れるだけ。
「まぁいいか。君事態に思うことは特に無いからね。それじゃ、」
ばいばい。
●夏の終わり
一つ。二つ。
細長い、黄色い花弁がぱらぱらと落ち始める。
手にしていた向日葵の茎が、プラスチック片のようにぽろぽろと欠けていく。
崩れ始めた『向日葵』の体の輪郭は水に浸った落書きのように滲んで揺れて。
……ぢ。
ぢ、ぢぢぢ、ぢぢぢぢぢぢ――。
どんどん強くなるひぐらしの声に、キィン、と耳鳴りが重なった。二つの音は脳の奥を目指すように強く大きく響き合うが、痛みも苦しみも与えずただ広がって。そして、視界が白に染まり出す。
青空。雲。太陽。それから、向日葵。全てが真っ白に染まってから、どれくらい経ったろう。気付くとそこは真っ暗だった。
ばちんッ。
強く響いた音に振り返る。散っていく火花は――ぐるりとカーブ描く天井から。
ジ、ジジ、と点いたり消えたりを繰り返す電灯の、どれが最後になるか判らない声。
真っ直ぐ続く頼りない灯りのその先に、ふわりと白い光が滲み出す。暗くて黒い、肝試しにはうってつけなトンネルを、光はどんどん染め上げていった。ぼやけていた光の輪郭は時間が経つにつれ明確に。そして半円描く出口が――朝が、顔を出す。
大成功
🔵🔵🔵