【四方山事】花弔い
境・花世 2021年2月14日
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誰も見ていない深更の桜の根元、かすかな微かな音がする。
それはまるで柔らかな何かがすこしずつ削り取られていくような、
――あるいは、声もなく哭いている気配のような。
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誰でも歓迎の1:1RPスレッド。旅団内外問わず。
20レス程度できりのいいところまで、
或いは2月14日中で終了。
誰も来なければ、ただの独白でおしまい。
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境・花世 2021年2月14日
(はらはらと、薄紅の花が夜に降りしきる。まだ冬の清冽なつめたさを宿して、そのくせ常春の柔らかな色合いで、この世界ではいつでも桜が舞っていた)
(誰も訪れやしない古い境内の奥、一際大きな桜の下で、何かがちいさく蹲っている)
境・花世 2021年2月14日
(そこだけ凝った花びらのような、華やいだ薄紅の衣を纏った、それは女のようだった。白い繊い指先が土を掻いて、すこしずつすこしずつ、掘り進めている)(整った爪が汚れて真っ黒になるのにも、構わずに)
境・花世 2021年2月14日
(ほんのわずかに抉れた程度の、穴とも呼べぬ浅いくぼみに、はらはらと花びらが零れ落ちた。それは桜よりも少しだけ深く上気した色彩で、別の花だと知れる。この場所には桜以外、他の花などひとつも植えられていないのに?)(――否、俯く、女の右目に、それは爛漫に咲いていた。八重咲の、大輪の牡丹)
境・花世 2021年2月14日
…、……これじゃあ、朝までかかってしまうかなあ。
境・花世 2021年2月14日
(さりさりと、音とも言えぬかすかな音を立てて、土はゆっくりと掘られていく。女の指先はすっかり傷んで、けれどその動きは規則的に、止まりはしなかった)
境・花世 2021年2月14日
なんだかすこし、手持ち無沙汰だねえ。手は埋まってるんだけど、なんて。しりとりでもする? 歌でもうたう? 静かなままでもいいんだけど、でも、折角の日だから賑やかでもいいんじゃないかって。
……ほんとにしりとりするの? ひとりでなんて、すごく不審人物じゃない? 歌の方がまだ……ううん、仕方ないなあ、言い出しっぺだからね。
境・花世 2021年2月14日
じゃあ、セオリー通り。“りんご”
境・花世 2021年2月14日
――“極楽浄土”
榎本・英 2021年2月14日
物騒だね?
境・花世 2021年2月14日
…、……次は“ど”だよ、英。
榎本・英 2021年2月14日
……ドーナツ。
境・花世 2021年2月14日
(蹲っていた花が、ひそやかに首を擡げて笑った。薄紅がひらりと舞う) “罪”。ふふ、案外かわいいものを選ぶんだね?
榎本・英 2021年2月14日
嗚呼。先程食べたのだよ。(見覚えのある花が舞い、軈て地に落ちる。深緋もまた地へ向う)蜜蜂。 君は先程から物騒だね。
境・花世 2021年2月14日
“散り散り” ……そうかな? 今、お墓をつくっているせいかも。
榎本・英 2021年2月14日
竜胆。それは誰の墓か聞いても良いかい?(花の横たわるそこへ指を向けた)
境・花世 2021年2月14日
“浮き世”。ええと、いきものじゃないんだけど、これを。(懐から取り出したのは、紫の紗に包まれた小箱。贈り物だろうか、綾糸がリボンのように美しく留められている) 屑籠に放り捨てれば済むんだけど、…そうできなくてね。
榎本・英 2021年2月14日
蓬。……それは、かなしいね。
境・花世 2021年2月14日
“偽証”。だいじょうぶだよ、英。花のあとに実が残らなくても、花がうつくしかったことには変わりないもの。だから……かなしいことなんて、どこにもないんだよ。
境・花世 2021年2月14日
(土だらけの指先でふれた包みは、そこだけ煤けてしまっていた。もう渡されることのない証のように)(そうして女はまた、さりさりと土を掻く。穴は少しだけ、少しずつ、深くなっていく)
榎本・英 2021年2月14日
梅。(深くなった穴をただ見ている事しか出来ない)そうだね。しかし――物にも想いにも罪はないよ。
榎本・英 2021年2月14日
それは埋めても美しいままなのかい?
境・花世 2021年2月14日
“冥府”。ああ――英はいいことを言うなあ。作家だからかな、きみだからかな。(俯いて墓穴を掘る表情は大輪の花に隠されて、けれどその声はひどくやわらかい)
境・花世 2021年2月14日
土の中で眠っていたって、すこしも陰ったりはしないよ。ただ、誰の目にも、映らなくなるだけのこと。
榎本・英 2021年2月14日
風船葛。君の方が良い事を云っているよ。(君の指のその向かい、ペンだこだらけの指で土を掘る)もう既に紗の下に隠れているでは無いか。誰の目にも触れていない。
境・花世 2021年2月14日
“ラブレター”。ふふ、だけど傍に置いておいたら、わたしはついふれてしまうもの。……だから、大切にここに、埋葬しておくんだ。
境・花世 2021年2月14日
(手伝ってくれるその指に、ありがとうと穏やかな声が落ちる。二人分のせいか、男の手のほうが大きいせいか、穴はすっかりと小箱を隠せるくらいの深さになっていた)(ひらひらと散る桜と牡丹とが、まるでゆりかごのようにやさしく墓に降り積もる)
境・花世 2021年2月14日
それじゃあ。そろそろ、おやすみの時間だ。
榎本・英 2021年2月14日
ありがとう。(すっぽり隠れた君は見ないふりをして花の中でねむった)また、おはようを言えたら良いね。
榎本・英 2021年2月14日
(すっかり汚れた君のゆびさきを見つめていた)
境・花世 2021年2月14日
おやすみ、(きみの声にかすかに眉を下げて、ささやくように手向けの詞を添えた) ……また、いつか。
境・花世 2021年2月14日
(ひら、ひら、花はいっそう降りしきって、褥に横たえた小箱も、その上に被せた土も、すっかりと薄紅の中に覆い隠してしまう。ひそやかな埋葬を終えた頃には、それはすっかり跡形もなくなっていた。ただ、花の墓標だけが、その上に置いた女の指だけが、証だった)
榎本・英 2021年2月14日
(下がり眉の君を見ていた。花のようにしたたかで、儚く、けれども――)さて、もう行くかい?
境・花世 2021年2月14日
うん、いくよ、(音もなく立ち上がる。髪に、肩に、いくつも降り積もっていた花がこぼれ落ちた。まるで涙の代わりみたいに)(ほんの少しだけ目を瞑って、もう一度開く。花の弔いは終わって、白い相貌に憂いの影はもう残らない)
境・花世 2021年2月14日
ねえ、英、もうすぐ――あと少しで、春がくるね。
榎本・英 2021年2月15日
嗚呼。春がくるとも。(薄紅の君が香る。春の香りはまだ少し遠い)めざめの春だ。微睡みの春でも良い。うららかな風が届くよ。
境・花世 2021年2月15日
(やがて、ふたつの影が墓標から遠ざかる。あとには冬の終わりの夜と、枯れることのない桜だけが残された)(もう誰もいなくなったそこで、弔われたひとつの想いは眠り続ける。穏やかにひそやかに、美しいままで)