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花獄

団長：境・花世

時折通りすがる誰かが見惚れるのも知らず、
花はただ咲いては種を孕み、根を張るばかり。

春は、あえかに匂う梅から始まる。
桜が夢幻のように散りゆけば、
初夏を告げるのは真白い空木の花。
潸々と濡れる紫陽花の青さが褪せたなら、
やがて朝顔の目覚める朝がやってくる。
晩夏は彼岸花の紅に蕭やかに葬られ、
気付けば金木犀が甘やかな秋を告げる。
いろは紅葉が朔風に攫われた先、
真白く降り積もる玄冬のさなかには、
可憐な首を凛と擡げる寒椿。

――門扉に鍵は掛かっておらず、
もしも一歩踏み入ったなら、
真新しい案内標に気付くだろう。

“花の種、あり〼。”

一体どこから響くのか、はらはらと笑い声が散る。
花はもっともうつくしく咲ける場所を探しているのだと、
――誰とも知れぬ声が、そう云った。

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時折通りすがる誰かが見惚れるのも知らず、
花はただ咲いては種を孕み、根を張るばかり。

春は、あえかに匂う梅から始まる。
桜が夢幻のように散りゆけば、
初夏を告げるのは真白い空木の花。
潸々と濡れる紫陽花の青さが褪せたなら、
やがて朝顔の目覚める朝がやってくる。
晩夏は彼岸花の紅に蕭やかに葬られ、
気付けば金木犀が甘やかな秋を告げる。
いろは紅葉が朔風に攫われた先、
真白く降り積もる玄冬のさなかには、
可憐な首を凛と擡げる寒椿。

――門扉に鍵は掛かっておらず、
もしも一歩踏み入ったなら、
真新しい案内標に気付くだろう。

“花の種、あり〼。”

一体どこから響くのか、はらはらと笑い声が散る。
花はもっともうつくしく咲ける場所を探しているのだと、
――誰とも知れぬ声が、そう云った。

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