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◆葬・祝の部屋

葬・祝 2021年7月16日

山神の部屋の直ぐ近く。
備え付けだった家具以外がろくにない、使われた形跡もあまりない、殺風景な部屋。
陽当たりと景色だけは、誰かさんの心遣いそのもののように、とても良い。

最近、真新しい飾り棚が置かれた。

☪︎*。꙳

葬・祝の自室

・文机
・行灯
・桐箪笥
・飾り棚

以降、増える可能性あり

☪︎*。꙳

・誰でも入室可
・室内にある物を損なう行為禁止
・棚付近にある物は誰かからの貰い物です、特に一切の手出しは厳禁




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葬・祝 2021年7月16日
(真新しい棚の上。丁寧に置かれた、幾つかの品々。千代紙で折られた手作りのかざぐるま。ふわふわもこもこした動物たちの写真集。術を収めた和装綴じの赤い本と、青い本。棚の足元には赤いラベルの大吟醸の酒瓶。棚に立て掛けるように、烏の濡れ羽色の唐傘)(蒼紫の羽根扇は、今日は朱烏の羽飾りと共に、悪霊のお出掛けのお供として連れて行かれたようだ)
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葬・祝 2021年7月16日
(そう。棚の上と、その周辺は。悪霊の宝箱である)(許可のないお触りの一切は、厳禁だ)
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ヴィズ・フレアイデア 2021年7月19日
「此処にあるもので作れるかなと思ったら案外簡単にできた。たくさん食べて大きくおなり」

(置手紙と、真夜中だというのに3段重ねのホットケーキがおいてある)
(どうやら魔女は彼が大人サイズになれることを知らないようだ)
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葬・祝 2021年7月23日
(ホットケーキのお皿は綺麗に洗われて、厨房に戻された)(ぺろりと食べ切った辺り、本来飲食が必要なく、満腹も空腹も存在しない妖ならではである)(ご馳走さまでした)
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葬・祝 2021年7月23日
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葬・祝 2021年7月23日
(蜩の鳴き声が降り注ぐ、夕日が射し込む部屋。畳の上に、両腕を枕にするように俯せになった悪霊がぺそりと潰れて、もとい、こぢんまりと不貞寝していた。まだ起きているが、これは紛うことなき不貞寝である。これまた生まれて初めてじゃなかろうか。頭を使いすぎて疲れた。最近ずっと悩み続けていたことは、珮李とクロウと話してもっと深まった。もう引き返せる気すらしない。脳の空回りも過回転も、物凄く疲れる)
……嗚呼もう、頭痛い……分かんない……人ってこんなの普通に整理してるのか……。
(くぐもった声が疲れたようにぼやく。人真似でなく、己の頭できちんと己のものとして考えようとした途端、こんなに分からなくなるなんて、こんなにこわくなるなんて思わなかった。本当に、得てしまった“こわい”と“いやだ”は厄介が過ぎる)(けれど。もう考えるのはいやだ、とだけは言わない悪霊は、今日も愛し子に顔を合わせられないまま、考え続けていた)
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葬・祝 2021年7月23日
(だって)(だって、やっぱり。何度考えたって。何度諦めようとしたって)(渡したくないんだもの)(私のものだって、言いたい)(ずっと言い続けることを許されたい)(……お前のものだと、言って欲しい)(考えすぎると、余計な我儘が増えそうで、いやだった)(考えるけど)
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葬・祝 2021年7月23日
…………つかれた……。
(もう一度、小さく呟いて。 少しだけ、少しだけだから、寝てしまおう)(疲労に身を任せて、重い瞼を閉ざした)(おやすみなさい)
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葬・祝 2021年7月25日
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葬・祝 2021年7月25日
(クロウに買って貰った小物入れの箱を何処に置こうか、棚の前で考える。黒地に白い彼岸花が咲き乱れるそれは、普段、緋色の花ばかり選ぶ自分にしては珍しいものだ。ただ、綺麗だなあと見ていたら、手が伸びて、それを攫って行ったのだ。思わずきょとんとする此方の目の前で、まるで当たり前のような素振りで、恩に着せることもなく、対価を求めるでもなく、ごく自然に金銭のやり取りが行われ、呆気に取られている内に、ほらよ、と小物入れは手渡されて自分のものとなった。確かに、奢ってやる、とは言われたけれど、その場の冗談とばかり思っていたのに)
……あれでお人好しじゃない、なんて無理がありますよねぇ。
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葬・祝 2021年7月25日
(新たに依頼で得て棚の足元に置いた、小さめの西瓜ほどの大きさの透明水晶の木の実を見下ろした。透き通るその中には水晶の砂利と水晶の水草、そして。心に宿った、鮮やかな緋色水晶の彼岸花。水晶の隙間を縫うように泳ぐ色とりどりの小魚たちは、この水晶の中に居る限りは餌も要らないし、ひたすら長生きしてくれる、らしい。それを見下ろして、悪霊は表情が抜け落ちていた幼い顔にぎこちない笑みを浮かべる)(ちょっと頭が疲れていたし、誰も居ないからと人真似を放棄していた。今までは、誰が見て居なくてもずっとそれを続けていたのに)
……今の私じゃ、もうあの子を護れやしないんでしょうけど。
(護れなかったことは、まだ、ない。でも、きっとこれからどんどん増える。きっと、もっともっと弱って行って、色んなことが出来なくなる)(夢の中でさえ護れないことが怖くなった、と彼はそう言った)
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葬・祝 2021年7月25日
(あのヤドリガミ、前は、抉られる、と嫌そうな顔をしていた癖に、無様にも煮詰まってこんがらがってどうしようもなくなった自分なんぞのために、恐らくは人としての心の柔い場所をわざわざ掘り返して丁寧に並べて説明して見せた。あの時、あのヤドリガミ……クロウ、は、あの時、話しながらどんな顔をして居たっけ)(嫌だったのに、抉られたくなかったのに、掘り返したくもなかったのに、聞いてみたら、頼ったら、答えてくれたのは、どうして)
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葬・祝 2021年7月25日
(珮李も。あとで気付いたけれど、服を、掴んだままだった。多分、ずっと。帰りだって、ひどく疲れて、頭が痛くて、寝なくても良い癖にちょっと眠くて、歩くのだって何時もよりずっと遅かったのに。急かされもしなかったし、立ち止まったら待っていてくれた。時々、服を掴んだ手をあのしっぽが柔らかく擽って行った。あれは、そう、多分、あやされていた。慰められて、いた)(分からないけれど、子供相手に、自分もそれを学んだ行動として行うことがたまにあった。あやす。慰める。形だけではあるけれど、認識はある)(あやされて、いた。慰められて、……多分、甘やかされていた、の、だ)(考えることが、ひとつ、ふたつ、波紋が波紋を呼ぶように増えてしまう)
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葬・祝 2021年7月25日
…………あたま、いたい。
(そっと、小物入れを棚の良く目立つ所に置いた。中身は、まだ空だ。何を入れよう)(別に、普段から頭を使わず生活していた訳でもないのに。全て人真似で賄うということは、全てにおいて考えるという工程が必要になる。この妖が比較的ゆったりと話すのも、穏やかな所作を持つのも、そのためだ。タイムラグは出ない程度に、行動の全てに、発言の全てに、状況を判断して適切と思われる対応を選ぶための思考が挟まる。フリーズする時は、思考が追い付かな、曖昧で判断が出来ない、学びの中に同例がひとつも存在しない、などが挙げられる)(此処最近、本当に嘗てないほど、人を頼っている。頼らないと、縋らないと、先が見えない。もう振り返ったって道もなくて、後戻りも出来やしないと言うのに、先が見えずに前にも進めない)
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葬・祝 2021年7月25日
(少なくとも、言語化出来るようにならないと。少なくとも、あの子への被害が出来るだけ少ない物言いが出来るようにならないと)(きちんと、話し合いをしろ、と。我儘を言え、と。“いやだ”と思った気持ちを隠さず伝えろ、と。珮李に、クロウに、言われてしまったから)(表情を放棄したまま、ぐ、と唇を噛んで、深く呼吸をする。珮李が、そうしなさいと教えてくれたから。他の人真似が上手くいかなくても、深く息を吸って、腹の底から吐く。これさえ出来るなら、まだ、もう少し、頑張れる)
……カフカが泣いちゃう前に、顔くらいは合わせられるように戻らないといけませんから、ね。
(あの子はそう簡単には泣かないけれど。それでも。あの子を避ける、なんて、千年ちょっと前にあの子と出逢ってから初めてのことだから)
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葬・祝 2021年7月25日
(気分転換でもするとしよう。それに、お社に居なければ、無理に避けるよりは顔合わせない理由になる。大人しく、狩りでもして来るとしよう。小物入れをそっと撫でて、棚から離れる。縁側から庭へ出て、ふわり、小さな体躯は軽々と空へ舞った)
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葬・祝 2021年7月25日
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葬・祝 2021年7月28日
(部屋の縁側に、鈴も何も取り払った青年姿の厄災がひとり。昨日は結局、ろくに落ち着くことも出来ず、あの娘には随分と手間を掛けさせただろう自覚がある。ずっと頭を撫でていたあの手が、思考整理の役にとても立ったのは事実だった。ずっと思っていたことだが、どうやら、ぬくもりが好き、はそれなりに根っからのものへと変わってしまったらしい。色々と自覚したからか、もうそれくらいでは驚かなくなって来た)(ちりぃん、とぶら下げられた彼岸花柄の風鈴が涼やかに音を立てる。これも、この部屋も、心配するように肩に止まったまま動かない朱蛺蝶も、赤い羽飾りも、全てあの山神からの貰い物だ)(この人格も、名前も、誕生日も、……感情も、)
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葬・祝 2021年7月28日
……あれからの貰い物だと思えば、致死の毒だって構わないと思う辺り。
(ぽつり、庭に舞い散る紅葉を眺めながら小さく呟きを落とした。大人姿の時特有の低く甘やかな声音は穏やかで、けれど、何処か諦観も孕む)(嗚呼、本当に、本当に)
結局、もうどうしようもないんですよねぇ。
(そっと、色付いた唇が微笑う。久しぶりに、まともに表情を作れている気がした)(分からないことが苦しかった。考えても、考えても、焼き切れそうなくらいに思考回路を回しても、空回ってばかりで追い付かなくて。なのに、じくじくと、ずきずきと胸が痛むことも、良く分からなくて。人ではないのだから、ただの概念の塊なのだから、感情なんて分からなくて当然なのだけれど。それでも、苦しかった)
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葬・祝 2021年7月28日
(でも)(これが、“愛”というものならば。痛くても、苦しくても、こわくても、仕方がないのだろう。だって、“恋”をしたあの子が、何百年もあんなに泣いて笑って苦しんで、たったひとつの魂に振り回され続けているんだもの。自分なんぞより遥かに人に近い心を持ったあの子がそうなのだから、自分がこうでも、多分、仕方がないことなのだ)(ぱたりと状態を倒して、縁側で仰向けになる。急に動かれて慌てた朱蛺蝶が肩からふわりと飛んで、視界を横切る。何処からか飛んで来た蛍を追い掛けて遊び始めたそれを、鏡面の眼を細めるように眺めた)
…………似合わないですねぇ、全く。
(紅葉と、彼岸花と、夏の花々と、朱蛺蝶と、蛍。なんて、季節の理に反して、ちぐはぐ)
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葬・祝 2021年7月28日
(嗚呼もう。本当に)(誰より一番)(自分のこの想いこそが、分不相応で、似合わない)
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葬・祝 2021年7月28日
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ヴィズ・フレアイデア 2021年8月29日
(扉の横に一輪挿し)
(満開の向日葵が一輪飾られていた)
(なんて事ない悪戯)
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葬・祝 2021年8月30日
……あら、これは。
(襖を開けて一輪挿しに気が付いて、そっと持って室内に戻った。何処に飾ろうかと視線をうろうろ、やがて良さそうな場所を見付けるとそっと安置して)
ヴィズですかね、この気配は。あの子、私の部屋の前に色々置いて行くのが好きですねぇ。
(パンケーキとか、向日葵とか。可笑しそうにわらいはしたが、別に悪い気分でもない)
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葬・祝 2021年8月30日
(そういえば、と縁側から遠くへ視線を向ける。ヤドリガミの気配がひとつ、神域を去って行った。きっと、また来るとは思うけれど。“行っちゃうんです?”と聞いた通り、残念ではある。でも、次は向こうから遊びに誘ってくれるそうだから、その日を楽しみにしていよう)(楽しみに、出来ると思うのだ。ちゃんと、人真似ではない自分自身の心で)(心というものは、兎角、理解し難くて、制御も大変で、調子の狂うことばかりだけれど。楽しいとか、嬉しいとか。好きだとか。愛おしいだとか。それらをきちんと感じられるようになったことが、ごく一部の相手にだけでもそれを実感を伴った心として認識出来ることが、)(嬉しい)
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葬・祝 2021年8月30日
(さあ。今夜は、何をして朝を待とうかな)
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葬・祝 2021年8月30日
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葬・祝 2021年9月26日
(誰かへの贈り物を考えるのは、とても苦手。だって、生まれてこの方、あの子以外へ何かを差し出すことを考えたことがなかったから。あの子へ何かを差し出すのも、最初は苦手だったっけ。下手くそで、理解が及ばなくて、多分、有り難迷惑なものも多かったのではないかと思う。でも、一度も受け取りを拒否されたこともないし、必ず最後にはありがとうと笑ってくれたから。自分はこうやって、この二日間でふたり分の贈り物を用意して、自分が貰った分を彼らに返そうとしている訳である)(物は違えど、何方も、祝いを込めた品。己には心底似合わないけれど。君たちの幸いを、願う)
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葬・祝 2021年9月26日
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葬・祝 2021年9月26日
(部屋を見回す。何時も通り、貰い物を飾ったりお気に入りを置いたりしている以外にはほとんど物のない部屋だ。今日からこの部屋は、本当に物を置くためだけの部屋になる。言わば、宝物置き場、だろうか?)(部屋を出て、直ぐ其処には、新しい己の部屋がある。あの子の部屋。今日からは、自分も帰る部屋。鏡面の眼を細めるように、ふふりと機嫌良く悪霊は笑う。帰る場所があの子の元であることは、思った以上に、幸せなことであるらしかった)(これは、今日からずっと続く、新しい幸福)
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葬・祝 2021年9月26日
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葬・祝 2021年11月4日
(部屋にはちんまりと、朱い烏のぬいぐるみが鎮座している。そのぬいぐるみは、今は少年の姿をした悪霊の腕の中。畳にそのまま転がった妖は、ぬいぐるみをぎゅっと大切そうに抱き締めたまま、身体を丸めるようにすやすやと穏やかな寝息を立てていた。眠る必要なんぞなかったはずのこの悪霊は、最近こうして惰眠を貪る時間を意図的に持つようになった。最近は夜も、山神を腕に眠っていることが多い)(生き物のように眠っている時間を持つ方が、少しばかり霊体の消費が抑えられると知ったからだ。それと、もうひとつ。先日に大怪我をしたばかりの妖は、少しだけ弱っていた。有り体に言えば、疲れ切っていたのだ)
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葬・祝 2021年11月4日
(眠り続ける悪霊の内側で、)(それは、息衝く)
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葬・祝 2021年11月4日
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葬・祝 2021年11月23日
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=38105

https://tw6.jp/club/thread?thread_id=71236&mode=last50
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葬・祝 2021年11月23日
(目を覚ます)(傷が熱くて、全身が痛い。彼の前ではなるべく気付かれぬようにと思ったけれど、多分、最後にクロウのユーベルコードで袈裟懸けに斬り裂かれた傷が一番深い。身体が酷く重い。なのに、存在感が希薄になったように、痛み以外の全ての感覚が遠くて薄い。なるほど、霊体……魂が直接大怪我をすると、こうなるのか。思考を巡らせていないと、自分……“はふり”まで遠く薄くなって分からなくなりそうで、少しだけぞっとする。次からはもう少し防衛手段を用意しておこう。肉体がある時と同じに考えると痛い目を見る。まだ肉体を失って一年半。様々なことに慣れない)
……ッ、は、(体力を戻さないといけないから眠りたいのに、気を抜くと薄くなる自我がもう一度眠ることを危険と判断する。困ったな、と小さく呟く声には、僅かな熱。魂だけでも、傷や毒の影響は発熱するのか。まあ、それもそうか。魂だけでも毒が効くのだから)
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葬・祝 2021年11月23日
(身体を縮こまらせるように丸めて、数時間。ふと、何かに呼ばれた気がした。誰も居ないはずなのに、何かに呼ばれている。薄い自我をやけに刺激するそれは、声を介さない。けれど、確かに呼ばれていた。手をついて、泥から身体を引き剥がすように何とか身を起こす。途端にずきりと痛みを覚えて、巻いて貰っていた包帯にじわりと赤い粒子が滲む。まるで引き止めるように朱蛺蝶がひらひらりと顔の前を飛ぶのに構わず、一歩、一歩、壁に手をついて、頽れそうになりながら不安定に歩を進め)
…………、……呼んで、る、(今、何をしているんだろう。私は。分からない。何か)(何か、が)(呼んで、る)(こんなやっと意識を繋ぎ止めている状態で、何故呼び声に応えなければならない?)(でも、脚が止まらない)(呼んでいる)(……何が?)
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葬・祝 2021年11月23日
(熱に浮かされたようにふらりふらりと進む内、透け掛けた裸足で石畳を踏み、少年の姿は鳥居を過ぎる。自分の意思で、自分の足で神域の外へ出ることを、何かに求められていた。それを危険だと冷静に判断する頭と、それすら霞んで行くように呼び声に応えようと足を動かす身体。何かに引っ張られるように、引き摺られるように、満身創痍の身体は歩みを止めない)(やがて)(何処か虚ろに神域の端まで辿り着いた少年の姿の妖は、神域を覆う結界の外へ手を伸ばす)
──ッあ!? (指先が結界を抜けた途端、その手に何かが絡み付く。はっとしたように意識がはっきりするも、引きずり出そうと絡むその力は強く、体重がないが故に踏ん張ることも出来ない小さな身体は肩が抜けそうな勢いで引かれ、容易く結界の外へ放り出される)
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葬・祝 2021年11月23日
(ざわり)(空間が歪むように白い羽としか言いようのない何かが出現する)(幾つも、幾つも、幾つも幾つも幾つも)(誘き寄せて鉄壁の護りから放り出した少年の身体を受け止めたそれは、爆発的な勢いで増えて絡み付き、逃げようと藻掻く身体を押さえ込んで衣服の下へと潜り込む)
……何、や、め、……いッ、あ゙……! ……っ、……ッ!!(痛みに呻く声も構わず、包帯の下へ潜り込むそれは全身の傷口の中へ押し入り、少年の体内へ入り込んで行く)(蟲。蟲だ、これは)(混ざる)(痛みに開いた口内へも入り込むそれに喉を塞がれ、声を奪われる。激痛と、得体の知れない何かが身体に強制的に入り込む嫌悪。嘗て依頼で遊ぶように受け入れてみせたものとは、全く違う)(混ざってしまう)(ただでさえやっと繋いでいた意識の糸が、ぐらりと揺らぐような感覚を最後にふつり。途切れた)
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葬・祝 2021年11月23日
(白い羽のような蟲の群れは、意識を失った黒緋の少年の身体に群がり、押し寄せ、痛みと衝撃にびくりびくりと跳ねて震える小さな身体の中へと無理矢理消えて行く)(やがて、その姿は消え去った)(気を失い、痛みに疲れたようにぐったりと倒れ伏したままの少年の身体から、蟲たちに食い破られ意味をなさなくなった包帯がはらりと落ちる。その白い肌に、先程まで確かにあった無数の傷跡は影も形もなく)(まるで、何かがその傷を埋めて塞いだかのように、霊体の身体は形を取り戻していた)
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葬・祝 2021年11月23日
(ふ、と意識が浮上する)(酷く身体が重くて、疲れ切っているような感覚。気を失っていた、のだろうか。結界から出た場所で転がっていたのに誰にも狙われなかったのは、僥倖としか言いようがない。ゆるりと瞳を瞬いた妖は、地面に手をついて、気怠そうに身を起こした。痛みは、ない)
……あ、れ……私、何して、……? 確か、白い、羽のような蟲が、……あれは、一体……? (頭がくらくらする。どうしてか、あれほど酷かった怪我が治っている。治した記憶なんてないのに)(とくり。不意に、身体の奥底で何かが胎動した。それは、己の魂の核を包み込む形で何時の間にか存在し、まるで肉の身体があった頃のような安定感を齎していた)
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葬・祝 2021年11月23日
……何、これ……。…………、……癒着、は、していない。でも、同化している……?(困惑と共にそっと己の中を探ってみたものの、魂の核に癒着して乗っ取ろうとする類のものではない、らしい。けれど、霊体と同化したらしいそれらは、まるで巣を守ろうとする兵隊蜂のように己の中に巣食っていた)(白い羽のような、蟲)(ならば、己の霊体はこの蟲たちの巣になったとでも言うのだろうか?)(肉を掻き分け傷口に入り込む感覚や、喉を塞いで体内に入り込む感覚を、確かに覚えている。けれど、どうしてか、己の魂の核を包み込むように存在する蟲たちに、嫌悪はもう浮かばなかった)(己の中から聖者の性が消えていることには、直ぐ気が付いた。ほとんど使うことのなかった性だから、別に困りはしないけれど。代わりのように、其処には己の中に巣食った蟲たちを手足のように自由に扱うための力が芽生えているらしい)
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葬・祝 2021年11月23日
……分からないですね、ちょっとあとで調べてみないと。困りましたねぇ、あんまりカフカに心配を掛けたくないし、クロウにも知られたくないんですけど……。(ただでさえ、昔から少しずつ弱り続けて来た上に一度死した自分を一番心配しているのはあの子だ。おまけに、またしてもあの子が出掛けている最中に大怪我をしたのは自分である)(それに、泣かせてしまったクロウのこともある。幾ら前後不覚になるほど弱っていたとしても、折角運び込んでくれた神域から操られるように誘き出された挙句に良く分からないものに巣食われた、だなんて、怪我が治ったことは良いことだが、それはともかくバレたら間違いなく再び自己嫌悪の加速で落ち込まれる)
……魂の核の保護に有用だから自分から招き入れた、……ってことにするしかないですかねぇ……。(嘘なんて、普段滅多に吐くものではないのだけれど)
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葬・祝 2021年11月23日
多分、これも猟兵の力の一環っぽいですし。(新しいユーベルコードを得た感覚があるから、多分間違っていない。まして、聖者の性と引き換えに得た力だ。得た、というか、押し掛けられた、というか。何だか無性に疲れ切って重い身体で地面に座り込んだまま、何度か手を握っては開いて、感覚を確かめる。とりあえず、せめて神域の中に戻らないと。今の疲労度を考えると、襲われても逃げられる気がしない)
……この蟲、結界通れますかね……? (立ち上がろうとしたものの、身体に力が入らない。心配するように周囲を飛ぶ朱蛺蝶を横目に、仕方なく後の更なる疲労を甘んじて受けることにして、座り込んだままでふわりと宙に浮かぶ。そのままぺたりと神域の結界に触れた手は、問題なく向こう側へと抜けることが出来た。どうやら、この蟲は既に自分の一部と認識されているらしい)
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葬・祝 2021年11月23日
……まぁ、バレたら素直に叱られましょう……。(下手に黙っていても、あの依頼での怪我に関しては何かの折にクロウが謝罪と共に伝えてしまう可能性が高い。その場合は間違いなく、自分のせいであんなことになって何か支障が残っていたら、とか、お前の大切な奴を傷付けた、という多大な罪悪感込みの善性の懺悔であることは疑いようもない。ので、怪我のことも、この蟲についても、大人しく伝えることにしよう。怪我はどうしてかもう治っているし、極度の疲労状態であることさえ除けば何の支障もない)(あの子が帰って来るまでにこの疲労をある程度までは落ち着かせて、蟲の使い方と性質を少しは掴まなくては)(やることが増えてしまった)(でも、今は)
…………、……ちょっと、もう、……。(やっとのことで自室の布団に辿り着くと、のろのろと潜り込んで、力尽きたように眼を閉ざした)
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葬・祝 2021年11月23日
(静寂)
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葬・祝 2021年11月23日
(少年の周囲に、ふわりと白い羽が舞った。遊ぶように、ふわり、ふわり。まるで朱蛺蝶を追い掛けて笑うように、それは飛ぶ)
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葬・祝 2021年11月23日
(やがて、ひらり。眠る悪霊へと落ちて消えた)(それは、息衝く)
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葬・祝 2021年11月23日
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