底抜けの純粋
憂世・長閑 2019年4月30日
『ありがとう、ありがとう』
『長閑が傍にいてくれるから』
『――はいつも寂しくないのよ』
『貴方の笑顔をみると安心するわ』
『愛らしい貴方のことが、大好きなの』
(うん、うん、オレも大好き)
『長閑、長閑』
『私の愛しい鳥を守ってくれる檻の守り人』
『――は繊細だから、また壊れてしまわないように』
『本当のことを言ってはいけないよ』
『約束だよ、素直で真っ直ぐな、私の可愛い子』
(うん。約束。約束だよ、たったひとりの、俺の――)
『――も、のんちゃんも一緒に、外にいこうよ!』
『とっても綺麗なお花が咲いてたんだ』
『大好きだから、みてほしくって』
『大好きなら傍にいてって、言えばいいでしょ?』
『あ、ぁ……な、んで……?』
(だって、――が悪い子だったから、いけないんだ。仕方ないだろ)
『さや、…さや、……やだ、やだ、ゃ』
『ぁ……あ……ぁぁあ』
『だ、だして……くら、い、くらいとこはいやだ』
『約束するから、ぜったい、――しないから』
『おね……がい、おねがい、――』
(嗚呼、いつだって彼は可哀想)
――だから、オレが、守ってあげないと。
1
憂世・長閑 2019年4月30日
(居間のちゃぶ台で、すやすやとお昼寝。同居している彼も、居候の彼も今日はいないから、ちょっとだけ寂しくて。寂しさを誤魔化すように意識を手放す)(彼が忘れてしまった記憶を、今はオレだけが知っている。何度だって夢にみるのは、主が自分に言い聞かせているようにも思えて)(その度、誓うのだ。大丈夫。オレは約束を破ったりしない。ずっと、ちゃんといい子でいるよ。だって、オレが守らなきゃいけないものはもう、ひとつだけだから)(間違ったりはしないよ)
浮世・綾華 2019年4月30日
(玄関の戸を開いて、ぼろぼろになってしまった羽織りを、それでも丁寧に掛けて。ただいまと口にしなかったのは、ちゃぶ台に俯せになるそいつが見えたからだ)……。(起こしてやっても良かったのだが、何となく眠りを妨げる気にもなれずに。近くに重ねてあった座布団を引いて、胡坐。頬杖をついて瞼を下ろせば、疲れがどっときてため息をひとつ)
浮世・綾華 2019年5月1日
……お前は、(小さな声で。掠れた、漸く音になるくらいの声を零す。手を伸ばして、ぴょこんとはねた亜麻色の髪を人差し指で弄んだ)……知ってん、だろうな。(消え入る音は、先ほどよりもっと。もっと小さく)
浮世・綾華 2019年5月1日
(うとうとと船を漕いで。寝る支度をしなければと思うのに、瞼が重くて)(かくんと落ちた額がちゃぶ台に当たって、ゴト、と音を立てる)……っいて。(額を抑え呟いた)
憂世・長閑 2019年5月25日
(衝撃に、つっぷしていた顔をあげる。重たい瞼を持ち上げれば、額をおさえる様子に、ふわり。台に身を預けたまま、こてりと首を傾げた)……あやちゃん、おかえり。(よくみれば、彼は所々傷だらけで、上を向けばぼろぼろになった羽織が壁に掛けられていた)(怪我をするなだとか、そんなことは今さら思わない。彼はヤドリガミだ。自分と同じ。器物さえ無事なら、何てことはない)
浮世・綾華 2019年8月20日
……はよ。(桃色の眸が観察するように自分をみたが、紡がれたのはたったそれだけの言葉)……――。(聞きたいほどは、山ほどあった。口を開きかけるが、音にならない。今ではもう、こいつしか知らない。それをこいつに尋ねるしかないことが、嫌で嫌で仕方なかった。俺はこいつが、好きではない)(嫌いとも言い切れないのが、自分の甘いところなのだけれど)
浮世・綾華 2019年8月20日
(結局、何も言い出せなかった。いつも、そう。そうやってずっとずっと、過ごしてきたのだ。皮肉を零して、八つ当たりをするようにして。しかしあの人たちがしていたように、結局甘やかして世話を焼く。そうすることで、自分は劣等感を埋めていた――のだろうか。……違うな。放っておけない、なんて生易しいものではない。何より、こいつの本質が、そうさせるのだろう)
浮世・綾華 2019年8月20日
(「長閑、私の可愛い子、愛しい子――……あな…た…………げ……し………よ……」朧げな記憶の中。いつも愛されていたのは、たったひとり……)
浮世・綾華 2019年8月20日
(悪かったのは、誰だったのだろう。確かに俺たちは生きているが、あの人の言い分も分かる。――分かる、というか。呑み込んで、納得するしかなかった俺を違って、こいつは、心から納得していたのだろう。疑問に思う余地など、今だってないのだろう。死ねと言われれば、喜んで死ぬのだろう。むしろ、初めから生きてなどいないという顔をして、恐れなど抱かないのだろう。憂世・長閑はそういう男だ。俺は、知っている。ヤドリガミとして生を受けてなお、所有物としての自分を全うし続けた。でもそれならば、何故お前は――)
浮世・綾華 2019年8月20日
……。(「もうあの人たちはいないのに、何でお前は、死なないんだ?」続いたかもしれない言葉はこうだ。まるで、死んでくれとでも言っているようだと微笑した。酷い生き物になることはいくらだって出来る。自分が善人だとは思っていない。…………試しに言ってみようか。多分こいつは、何も思わない)
憂世・長閑 2019年8月20日
あやちゃん、楽しいこと、考えてる?(難しいことを考えている表情から軈て生まれた笑顔に、柔く微笑んだ)(時々何か言いたげな顔をする彼に、その言葉を尋ねることはしないと決めている……決めたのは、自分ではないけれど)
浮世・綾華 2019年8月20日
……楽しいこと、楽しいことねえ。……そーネ。
浮世・綾華 2019年8月20日
…………。のん……長閑。俺さあ。
浮世・綾華 2019年8月20日
……お前といて、楽しいと思ったことは一度もねーよ?
憂世・長閑 2019年8月20日
(そんなふうに言葉をまっすぐに向けられること自体が珍しいように思えて、一瞬目を見開き、瞬く)
憂世・長閑 2019年8月20日
……うん、そう?そっか。(思考する、というほど、何かを考えることもなかった)
憂世・長閑 2019年8月20日
俺は、あやちゃんといると楽しいのに……。うーんと、まあでも――。(目を細める。哀しいとか、そういう感情は特になかった。そもそも、あまり感じたことはない)……楽しいって思う必要は、ないよな?(無垢に首を傾げた)
浮世・綾華 2019年8月20日
……は。(殆ど想像した通りの答えが返って、嗤うことしか出来なかった)(楽しいと笑う癖に、楽しいと思う必要はないと言う。嗚呼、なんて歪なんだろう)お前は、何で生きてるの?(勢いで出た言葉だった。先ほどの答えからして、此方の答えも、もう想像はついている)
憂世・長閑 2019年8月20日
……今日のあやちゃんは、お喋りだな。(尋ねられた言葉はただの世間話として消化する。特に何も思わなかった。ただ――今までと違うということだけを感じて。嗚呼、もしかしたら、君は――と)
憂世・長閑 2019年8月20日
――しねと、言われていないから。(誰に?決まっている。たったひとりの、オレの主だ。目を細めて告げる)
憂世・長閑 2019年8月20日
(君が何かを知ってしまったというのなら、何かを思い出してしまったというのなら。俺に出来ることはひとつだけだと思っている。それは今も昔も変わらないけれど。君が知ってしまったことを想定した“指示”を、オレは受けていなかった。正しいことを肯定しろとも、そのことに対して、何も言われていない。……まだ、明確に告げられたわけではないから、そもそも答えを導く必要はないけど)(困ったように、眉を下げる)
浮世・綾華 2019年8月20日
……一生言われないじゃん。それ。お前一生生きてんのかよ、勘弁してくれ。(もういない人に、どうやって言われることが出来るのか。冗談めかして笑う)
浮世・綾華 2019年8月20日
……。(珍しいことも、あるものだ。いつも振り回されて、うだうだと何かを考えるのは自分のほうで、彼はただ笑っているだけ。何かを思考しながら、こまったような表情を浮かべる長閑に、思わず笑みが零れた)……何考えてんのか知らんが、お前もそんな顔すんだな。ハジメテみたわ。
憂世・長閑 2019年8月21日
……ふふ。(冗談めかして言っているのが分かって、また笑う)(そもそも、前提として間違っているのかもしれない)でも、うん。難しいことは分からないけど、オレ――。
憂世・長閑 2019年8月21日
(……もし、しぬと表現されることを望むことがあるなら、それは君がしんだときだ。だってオレは、錠だから。だって、今となっては、君だけがオレの鍵だから。君がいないと、意味を持たない。そんなのはガラクタだと思う。多分、主の望んでいた自分ではない)
憂世・長閑 2019年8月21日
……ううん、何でもない。
浮世・綾華 2019年8月21日
言いたいことがあるなら、言えよ。……まあ、いいケド。――つーか、いい加減寝んべ。お前も、こんなとこで寝てんなよ。ちゃんと布団で寝ろ。(立ち上がれば疲れを癒そうと風呂へと向かう)(これは、俺が本当のことを完全に思い出す、少しだけ前の話だ)-fin-