豪華寝台列車で行く 一泊二日スイーツビュッフェの旅
●甘香
まず鼻腔をくすぐる香り。焼きたてのスポンジケーキ。バニラビーンズ。チョコレート。甘酸っぱい香りはイチゴだ。
それから食堂車の扉。動いていない列車の中は少し不思議な感じがする。凝った装飾を施した銀のノブを掴み、スライドさせた。目に飛び込んできた惨状は、まるで絵本のような世界を描き出している。
辺りを見渡した。壁、床、天井といったありとあらゆる面がクリームで覆われ、パステルカラーに塗り替えられている。そこここにはイチゴやチョコレートの飾りなどファンシーな造形が彩っていた。現実感が遠のいていく。
しかし、少し前まではこのような有り様ではなかった。僅かな時間で今の状況を作り出した元凶を特定しなければならない。『私』は滑らないように足元を見ながら踏み込む。そして視線を上げると、視界の端で何かが動いた。
そちらへ顔を向けた瞬間、眼前に迫るもの。それが”ケーキ”であると認識したのが、最後の記憶だった。
●予知
「皆様、ようこそおいでくださいました」
真白のローブに身を包んだ涅・槃(空に踊る人工の舞姫・f14595)が皆を出迎える。
「早速ですが此度の事件について説明致しますわね」
今回はUDCアース。豪華寝台列車がオブリビオンの襲撃を受ける予知を視た。デジタルデバイスがその詳細を映し出す。
都心駅を出発して大回りルートで夕焼けの郊外へ抜け、遠く夜景を眺めながらの夕食。深夜は満天の星空の山間部を駆け抜ける。朝靄の田園風景を堪能しながら朝食を摂って停車。列車を降りてケーキ工場で昼食とケーキビュッフェを楽しみ、再乗車した後は最短で都心へ戻って終着だ。
「既にUDC組織の方に交渉頂いて、皆様の席を確保しておりますわ」
襲撃の正確な時間が判らないため、最初から乗車してもらうこととなる。予知では窓の外は明るく感じたため、どうやら昼間らしい。出発直後か、到着間際か。
「ただ、本来は事前予約が必要なため、貸し切りではございません」
心配ないとは存じますが、と言い置いて非常識な行動は慎むよう、ニコリと微笑んで釘を刺す。
「では、オブリビオン出現まではごゆるりとお過ごし下さい」
示す先は準備の整ったテレポート空間。UDC組織が運営する旅行会社の駅構内臨時案内所の風景が広がっている。職員たちがパンフレットなどを抱えて待ち構えていた。
宮松 標
何度目かの宮松 標です。全ワールド制覇目指してUDCアースへ!
オープニングの通り、豪華寝台列車を楽しんでいるとオブリビオンの襲撃に遭います。猟兵の皆様はこれを討伐してください。
豪華寝台列車は全車両二階建ての五両編成です。
先頭車両と最後部の上階が展望室兼ティーラウンジ。下階は運転席とスタッフルーム。
二両目上階が食堂車、下階が厨房。三・四両目が上下階とも寝台車となっています。適当です。
ディナーコース:サラダ・パン・スープ・魚料理・肉料理・デザート・コーヒーor紅茶。
略式コースで、デザートとコーヒーor紅茶はラウンジにて。プチケーキが選び放題です。もちろんおかわり可。
襲撃は翌朝ケーキ工場周辺の予定です。ビュッフェ描写は参加人数とタイミング次第となっております。
では良い旅を。
第1章 日常
『豪華寝台列車でゴー!』
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POW : コース料理に舌鼓を打つ。三ツ星シェフの作る豪華なコース料理に酔いしれ。
SPD : 車窓を楽しむ。成人にはお酒、未成年にはジュースが提供される。
WIZ : 先頭の展望室に行って夜空を裂く様を眺める。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
UDC組織職員扮するコンダクターに案内されてプラットフォームへ降り立つ猟兵たち。傾き始めた陽射しを艶やかに弾く瑠璃紺の車体が、出発の刻を待っている。
花狩・アシエト
やばい!
超豪華なんですけど!えっ、タダ…?いいの?
あとで請求が来るとかないよね?
ごほん!大人っぽくスマートに…(ブツブツ
コース料理をいただくぜ
ファッ
(めっちゃ豪華じゃん…)
しかもうまい…!
魚これ?めちゃうまなんですけど
食後はコーヒーで!デザート食べ放題なんて…ちょっと後ろめたいな…きょうだいたちに食わせてやりたい…
イチゴのケーキにチョコケーキ、あとプチモンブランもうまそうだなぁ
食べれる食べれる
うお、葡萄のタルトか?これ
めちゃくちゃおいしそう
いただきまーす
……うまい!
どれも一口、二口サイズでどんどん食べれるな
甘さも程よくて、コーヒーと合わせればベストマッチ!
ごちそうさんでした!
■19:30 食堂車
窓の外はただひたすらに闇が揺蕩う。音もなく押し寄せる夜に囲まれた。遮るものは何もなく、輝く摩天楼は流れゆく。
控えめな光量を絶え間なく放つシャンデリア。足音を極限まで抑える薄手のカーペット。深緑の壁紙は格調高い腰板を伴う。優美なカーヴを描く彫刻を施された椅子。磨きこまれた作り付けのテーブルの艶やかさ。
(やばい!超豪華なんですけど!)
年下の女性コンダクターに案内された花狩・アシエト(アジ・ダハーカ・f16490)は、謳い文句に偽りない極上の空間に圧倒されていた。
(えっ、タダ……?いいの?)
後から請求が来るのではとびくびくしていたが、猟兵向けパンフレットにちゃんと支援の内だと表記がある。さらに夕食のコース料理のメニューを手にしてみた。添えられた写真は全て並べた一覧状態なので、その豪華さが際立つ。
(めっちゃ豪華じゃん……)
感動に打ち震えていると、他の客を案内中の女性コンダクターと目が合った。静かに大騒ぎしている場合ではない。大人としてスマートにカッコ良く、と姿勢を正す。フロアスタッフが一皿目を運んできた。
温野菜のサラダから始まり、美しいコンソメスープに感嘆するとめちゃうまな魚料理へ続き、二種類の盛り合わせな肉料理でメインが終わる。目を輝かせて平らげた事からも満足度は大きい。
メインが済んだらラウンジへ移動を促される。丁寧に淹れられたコーヒーや紅茶の香りに混ざって甘い香りが届く。十種類のプチケーキが食べ放題だ。イチゴのケーキにチョコケーキ、プチモンブラン。どれも美味しそうで迷う。
ふとラウンジから後部へ戻っていく母子の後姿が目に入った。心の奥からじわりと後ろめたさが広がる。
(きょうだいたちに食わせてやりたいな……)
目的地がケーキ工場なのでお土産を見繕うのも良いだろう。どれも一口か二口で食べ切れそうなので迷っていた三種に葡萄のタルトを加え、コーヒーを選ぶ。テンション高い内心を抑えてカウンター席に座った。
「いただきまーす……うまい!」
プチケーキの程良い甘さと薫り高いコーヒーの苦味がベストマッチしている。いくらでも食べられそうだ。だが少し物足りない程度がちょうど良い。空の皿を前に手を合わせる。
「ごちそうさんでした!」
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
寝台列車での旅など、なかなか貴重な経験ですよね
流れる夜空というのも、いつもとは趣が変わって素敵な夜になるでしょう
展望室に到着したなら きっと上ばかり見てしまうかもしれません
強度も透明度も兼ね備えた屋根など、アースの技術はとても発達しているんですねぇ
コーヒーとレアチーズケーキをいただきましょう
ザッフィーロ君のそれもとても美味しそうですね
ふふ、しても良いが、ではなく交換しよう、と言うところですよ
願い事、ですか……
僕も願い事は叶っていますが、強いて言うならばひとつだけありますね
君とずっと一緒にいられますように ……
まぁ、星頼みにはせず己の努力で叶えるつもりですけどね?
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
寝台列車での旅はてれびで見た事があるが…展望室か
宵とは共に良く星は見るが流れる夜空を見るのは初めて故、本当に楽しみだ
展望室では思わず天を見上げつつ案内された席に
…アースの技術は本当に凄いな
ああ、ティールームでは紅茶とミルクレープを頼んでみよう
星空と甘味とは本当に贅沢だ…と。宵は何を頼んだのだ?…後ほど一口づつ交換しても良いが?
その後は甘味に舌鼓を打ちつつ景色を眺めよう
留まってみる夜空は識って居るが…移り変わる景色の中瞬く星も美しいな
まるで流れ星の様だとそう漏らしつつ、願い事でもしてみるかと宵へ声を投げてみよう
まあ、そうは言っても俺の願いはもう叶って居る故特にないのだが…な
■21:00 展望室
ディナータイムが終わり、山間部に差し掛かった列車は緩やかに登りゆく。防音が効いていても車体に響く音。その割りに振動はほとんどなく、制震機能が存分に性能を発揮していた。
「寝台列車での旅はてれびで見た事があるが……」
共に見る星とは違う、初めての夜故にザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は本当に楽しみにしている。
「なかなか貴重な経験ですよね」
普段とは趣が変わって素敵な夜になると逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は期待する。
「……展望室か」
最後部にある展望室の扉の前に長身の男性が二人並び立つ。流れる夜空を目当てとして。食堂車と同じ、凝った装飾の施された銀のノブ。スライドすると同時にゴォーと音が響き、足元を照らす小さな照明だけの薄暗い空間が奥へと広がる。今宵は新月故か外は暗闇が走り、時々オレンジの光球が通り過ぎた。
その光景すらも物珍しく、天窓の向こうに目を凝らしながら足元に気を付け、案内されたソファへ辿り着く。それぞれ好みのケーキと飲み物を注文しながら、置かれているリーフレットに目を通した。展望室のスペックやこの時期に見える星空の解説など。
UDCアースの技術力に嗟嘆していると、スピーカーから女性の声が流れてきた。
「まもなく――トンネルを抜け――」
少し聞き取りづらいアナウンスが終わると、暗褐色の車内が一気に静謐な空気に塗り替えられる。眼前は見渡す限り青のグラデーションで構成された木々。少し遅れて周囲から感嘆の吐息が漏れる。二人も天窓へと頤を上げた。
頭上全てを覆い尽くす大小さまざまな煌き。絶え間なく降り注ぐ星の”気”が眼窩を圧迫する。天の川は南から東にかけての地平近くを波打っていた。
天頂よりやや南下したところに一層強く輝くオレンジ色の星。さらに南下して双子のように青白く輝く星。うしかい座αアークトゥルス、おとめ座αスピカだ。
「……アースの技術は本当に凄いな」
太陽光を意識して僅かに偏光がかけられたポリカーボネート製の窓を通して見る景色は、確かに通常とは違う旅情を醸し出している。ザッフィーロの感嘆に宵も述懐した。
「強度も透明度も兼ね備えた屋根など、アースの技術はとても発達しているんですねぇ」
シンプルな皿に盛られたケーキと、タンブラーに淹れられた飲み物が運ばれてきた。同時にテーブルには様々な添え物が並ぶ。3種類のジャム、ホイップクリーム、蜂蜜、粉砂糖。細かく刻まれたフルーツは長くアルコールに漬けてあったようで、ツンと独特の香りが漂う。
タンブラーを手にすれば紅茶の芳香が鼻先を掠めた。その微香を辿るように宵が頭を傾けてくる。ザッフィーロは目線の下に来た黒髪に頬を寄せて囁いた。
「宵は何を頼んだのだ?」
「レアチーズケーキですよ。ザッフィーロ君のそれもとても美味しそうですね」
窓の向こうにはダム湖の水面に映る星空。手元の甘味と、耳に届く互いの呼吸音。これ以上の贅沢があろうか。
「俺のはミルクレープという。……後ほど一口づつ交換しても良いが?」
「ふふ、しても良いが、ではなく交換しよう、と言うところですよ」
すい、と宵が身体を離す。ここは展望室兼ラウンジ。ささやかな灯りの下では他者の姿は見えないが決して二人きりの空間ではない。少し残念そうな銀の視線と深宵色の眼差しが絡んだ。
それぞれケーキに手を伸ばして互いに味わい、添え物の組み合わせを楽しむ。好みが定まる頃にはどちらも皿が空になっていた。
「移り変わる景色の中瞬く星も美しいな」
まるで流れ星の様だと天上を振り仰ぐザッフィーロの口から零れた呟きを聞きながら、宵はコーヒーのアロマと甘味の余韻に浸る。その瞳に映るのは、星影を弾き夜空そのものを宿したような髪。それと、臆する事なく親愛の情を湛えた銀の一等星。例えるなら、窓の外で輝くスピカより雄々しい力強さを備えたシリウス。
「願い事でもしてみるか?」
静かに見つめ続ける宵へ、覗き込み声を投げかけるザッフィーロ。それを僅かに瞼を伏せて応える。
「願い事、ですか……」
考え込むようにゆっくりとタンブラーを傾けコーヒーを一口含んだ。
「まあ、そうは言っても俺の願いは特にないのだが……な」
紅茶を流しこみ、ちらりと艶やかな墨色を見やる。互いに大事な願いはもう叶っているから。
「強いて言うならばひとつだけありますね」
つと思いついたように空を見上げてささめいた。しかし、その願い事は胸の内だけに留める。
(君とずっと一緒にいられますように )
隣で答えを待ちわびるような視線を受け止め、いたずらめいた微笑みを深めた。
「まぁ、星頼みにはせず己の努力で叶えるつもりですけどね?」
天の川が天頂へと高さを増して星月夜はしんしんと更けてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『暴走列車』
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POW : 力技でなんとか電車を停めようとする
SPD : 人をかき分け運転席に行って電車を停めようとする
WIZ : どうにかして乗客を電車内から避難させる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
何事もなく一夜明け、もうしばらくしたら目的地最寄の停車駅に着くという頃。窓の外は広大なケーキ工場の契約農場が見えてきた。このまま順調に――。
唐突な急ブレーキ。制震機能の許容量を遥かに超えた、断続的な衝撃。車内スピーカーからはブツブツザリザリとノイズが空回りする。車輪が甲高い悲鳴を上げた。列車は止まることなく暴走を開始する!
やがて先頭展望車の窓が白や茶色の斑に染まり始めた。前方から塗料の塊か何かがぶつかっているような。よくよく観察すれば、ケーキを模した――ケーキそのものであると、猟兵たちは看破する。そして直感した。これはオブリビオンの襲撃であると!
まずは一般乗客を避難させなくては。だが飛び降りたところで猟兵とて無事で済まないだろう。その為には列車を止める必要があるだろう。阿鼻叫喚迸る中、猟兵たちは行動を開始する。
花狩・アシエト
SPD
やべぇ!
なんとか止めねぇと…!
すんませーん!通して通して!
強引に進ませてもらうぞ!
人混みをかき分けていく
ちょっと強引にかき分け、押し込み進む
女性や子供には注意する
先頭についたら運転席に!
クリームべったべたで見えねぇ
運転?したことないね!
テキトーにがちゃがちゃしたら止まるだろ
加速したら、その逆に動かす
冷静に、しかし大胆に…!
これなんのレバー?まぁいいか!
ていうか、車掌さんいるでしょ
教えてよ!
あ、いないから困ってるのか
はい
よっしゃ気を取り直してやるぞ
目標はブレーキ!
車内放送して!「急ブレーキにご注意ください」って!
(がちゃがちゃ)
うおお急ブレーキ!?
わー!
冷静に大胆に!
と、止まった?
「やべぇ! なんとか止めねぇと……!」
真っ先に動いたのは花狩・アシエト(アジ・ダハーカ・f16490)だった。割り当てられていた4号車2階の個室から飛び出すが、通路は人でごった返している。
「すんませーん! 通して通して!」
男性を押し退け強引に進んだ。女性や子どもを潰さないよう気を付けて、人の波を泳ぎ渡っていく。先頭車両の扉に飛びついて隙間に身体をねじ込んだ。頭上に僅かに覗く青空以外は全てクリームで埋め尽くされた展望室の窓が広がっている。
アシエトは慌てて首を巡らせた。扉のすぐ脇に階段を見つけ、飛び降りる。そこは交代の運転士や機関士の仮眠スペースや待機室などが並んでいた。目指すのは一番奥、即ち先頭部分の運転室だ。強引にドアを開け踏み込むとパイロットランプの赤い灯りが無人の室内を薄明るく照らしていた。鉄錆の匂いが鼻につく。
一見ガラス質の壁が本来車窓なのだろう。今はスポンジやクリームで一面覆われて見通すことなど出来ずにいた。
「クリームべったべたで見えねぇ!」
とりあえず適当なレバーに手を伸ばす。グリップが片側に張り出し逆L字形をしたそれを掴んだ瞬間、車体ごと上下に激しく振動した。脱線していないのが奇跡と言えよう。
「これなんのレバー? まぁいいか!」
手にしたレバーは本来主幹制御器と呼ばれる、主に力行(加速)を担うもの。しかし今はどんなに揺さぶられても黙するのみ。
「ていうか、車掌さんいるでしょ? 教えてよ!」
入ってきたドアの方を振り返り、そこにあるモノを見て喉の奥を鳴らした。大きさはそれほどでもないが、乾き始めた血痕がべっとりとへばりついている。人の気配のない通路が奥へと続く。ガタンゴトンとレールを繋ぐ隙間を車輪が噛む音だけがやけに頭へ響いた。
「よっしゃ! 気を取り直してやるぞ!」
やや大きな声で気合を入れる。そのまま一人、2本しかないレバーをガチャガチャと動かしながらしゃべり続けた。
「目標はブレーキ!急ブレーキにご注意ください!」
電話機らしきものを手に叫ぶと、車体が応えるように減速を始める。断続的に耳をつんざく絶叫。
「うおお急ブレーキ!? わー!」
前方の窓に頭から突っ込みそうになるのに耐える。何重もの透明な層の向こうで、何か蠢いた――気がした。
やがて列車は運動エネルギーを失い、前進することを止めざるを得なくなる。
「と、止まった?」
にわかに上階が騒がしくなってきた。一般乗客の避難が始まったのだろう。オブリビオンの襲撃に備えなければならない。アシエトは運転室を後にする。
大成功
🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
襲撃か?
電車は無事止めてくれた様故、宵と共に敵が攻め入る前に避難誘導に向かおう
『礼儀作法』と『言いくるめ』で落ち着く様説得、信用させる様な振る舞いをみせつつ
冷静に後方から逃れる様『救助活動』をして行く予定だ
特に宵は物腰が柔らかい故、人々を安心させる説得が出来そうゆえに説得は任せよう
普通に開く様ならば良いが開かぬ場合は『怪力』にて後方の扉を開け一般人を逃がした後は、前方の扉へと向かい敵を迎え打とうと試みよう
ああ、万が一敵の行動が早く一般人に迫る様ならば『かば』いつつ行動をする予定だな
『拠点防御』ならば…来ると解り防衛するならば打つ手は考えられよう?
…宵、敵を迎える準備は良いか?
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
どうやら先頭車両近くに敵がいるようですね
列車は仲間のおかげで止まりましたか
そうなると、残るは一般人の避難とオブリビオンの警戒です
先頭車両近くにいるであろうオブリビオンに対して『時間稼ぎ』つつ
スタッフに協力を仰いで車両の後部近くの扉を解放していき乗客を避難させていきます
避難誘導においては『勇気』『優しさ』を駆使しつつ
『オーラ防御』を展開しながら一般人の護衛を行います
『第六感』で逃げ遅れた人や万が一の事態を察知できたら良いですが
『暗視』『視力』でオブリビオンの警戒も怠らないようにしたいところです
このようなところで防衛戦ですか? いいですね、新鮮で燃えます
4号車1階のツインルーム。窓の外でケーキが飛んでいくのを見送りながら、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は何度目かの衝撃をやり過ごす。最後は脱線するかと思うようなインパクト。
「……襲撃か?」
「どうやら先頭車両近くに敵がいるようですね」
迅速に対処すべく、廊下へ出た。既に車掌を捕まえ事情説明を求める人だかりができている。顔を見合わせてさて、と思ったところで急ブレーキがかかった。慣性の法則で進行方向へと人の塊が押し固められる。二人は少々よろけながらも急激な加速度の変化に耐え切った。
「電車は無事止めてくれた様だな」
「そうなると、残るは一般人の避難とオブリビオンの警戒ですね」
乗客の視線が集まっている事に気付いていないのだろう。二人まとめて壁と密着した状態で冷静に現状を把握し、素早く次の対応を小声で相談する。宵がまだ倒れたままの一般乗客へ対処する間に、ザッフィーロが後方の扉を解放しに向かった。
「皆様お怪我はございませんか?」
宵が人間団子の一角へ向けて『勇気』『優しさ』を上乗せしたオーラをもってにこやかに声をかける。我を取り戻した人々がすっかり毒気を抜かれたように、先程までの勢いをなくして言葉少なにゆるゆると立ち上がっていく。多少身体を打ちつけてはいるようだが、大きなケガはないようだ。
一方ザッフィーロは固く閉じた扉を『怪力』でこじ開けようかと視線を巡らせる。すると存在を主張しているものを発見した。ドアコックという、非常時にドアを手動で開けられるようにするためのハンドル。
この操作によりエア・シリンダーから排出された空気は、まるで破壊を免れた扉の安堵の吐息。後は心得たように、軽い手ごたえでするりと要求に応えた。
外の様子を窺い、安全を確認する。ひとまずオブリビオンはいないようだ。すぐ近くの柵に点検用の出入り口があるのを発見する。その向こうで続々と到着するUDC組織の車両と職員たち。後の避難を請け負ってくれる彼らのところまで誘導すれば良いだろう。
前方で同じように避難が始まったようで、人が降りてくるのが見えた。オブリビオンの更なる襲撃を警戒しながら、宵が先導してきた乗客たちの避難を手伝う。荷物を持ったり、段差を降りられない乗客の手助けをしたり。
先に気付いたのは『視力』で辺りを見渡していた宵だった。ふわと甘く香る風の吹く、列車の”後方”から何かが近付いて来ている。その距離、およそ1km。
「ザッフィーロ君、あれを」
言われて目を凝らすがハッキリとは見えない。だが『第六感』が告げる。
「……オブリビオンか!」
背後を見やるが乗客の避難はまだ終わっていない。迎え討つならば最後尾の展望車より向こうが望ましい。
「……宵、敵を迎える準備は良いか?」
「このようなところで防衛戦ですか? いいですね、新鮮で燃えます」
フッと挑戦的な笑みを見せて二人は駆け出した。
大成功
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アナンシ・メイスフィールド
高鷲君(f17900)と
寝台列車で眠って居たけれども
ブレーキに気付けば自然と目が覚めてしまうのだよ
高鷲君大丈夫かね…と
…襲撃があったのかね?
ならば私達も行かねばならないといけないねえ、うん
高鷲君と手分けして避難誘導を
ああ、ではこちらは任されたのだよ
前方から敵が攻めて来て居るのならば後方に誘導を
急なブレーキで荷物が散乱しているかもしれない故【念動力】にて避難に邪魔な荷を退かし避難を助けるよ
高鷲君は身のこなしが軽やかだからねえ
きっと足元が覚束無い人を助けながら行動してくれるだろうと任せ私は道の整理に専念しよう
高鷲君、全てが終った後ケーキならば奢るゆえアレは食べないでくれ給えよ…!?
高鷲・諒一朗
アナンシ(f17900)頼りにしてるぜ!
っぎゃ! え?なんだなんだ?
寝台でぬくぬく寝てたら急ブレーキで頭ぶつけてたんこぶ痛ぇー?!
言いつつさらなる急ブレーキに寝台から転げ落ちつつ廊下にまろび出る
よくわかんねーけど緊急事態だな?
なんとか電車は止まったみてーだから、一般人を避難させてくぜ!
アナンシ、おれは人が詰まりやすい車両の接続部や出口付近を手伝って来るからそっちは頼んだ!
オブリビオンの襲撃には『金狼之勘』で迎撃警戒しつつ
はいはいー押さない走らない喋らないのおはしで避難お願いしまぁす!
ちょーっと先頭車両からケーキが……ケーキ……喰いたい……
オブリビオン倒したらアナンシ引っ張って食いに行くか……!
ガタタンゴトトンと心地よいリズムを奏でる車輪近く、微かな寝息だけが空間を支配する3両目1階のツインルーム。これから襲撃が起こるとも知らず、朝食後の惰眠を貪る猟兵の姿があった。
なんとも気持ち良さそうな時間もいつか終わりがやってくるものだ。唐突なスピードダウンと急激な振動が静寂を突き破り、車両そのものを激しくシェイクする。部屋の中で”ごん”と鈍い音がひとつ。それから短い呻くような悲鳴。
「っぎゃ! え?なんだなんだ?」
声の主は高鷲・諒一朗(ミルザム・f17861)だ。断続的に揺さぶられる中、やや間があってから隣のベッドから別の声が上がった。
「高鷲君大丈夫かね……?」
アナンシ・メイスフィールド(記憶喪失のーーー・f17900)がのっそりと身を起こす。さすがにこの騒動で目が覚めたようだ。そこへまたもや苛烈な振動でベッドから転落する諒一朗。
「たんこぶ痛ぇー?!」
起き上がろうとする間もなく、物理的法則によって足元の狭いスペースを転がされ、そのまま廊下へと放り出された。個室のドアがちゃんと施錠されてなかったのは誰の責任だろうか。
「……襲撃があったのかね?」
騒然となる上階に、アナンシがゆるりと首を傾げた。しかしその問いに答えられる者はいない。列車が停止した事でようやく諒一朗も立ち上がる。
「よくわかんねーけど緊急事態だな?」
「ならば私達も行かねばならないといけないねえ、うん」
このフロアの乗客はほとんどが展望室に行っていたようだ。
「アナンシ、おれは人が詰まりやすい車両の接続部や出口付近を手伝って来るからそっちは頼んだ!」
「ああ、ではこちらは任されたのだよ」
諒一朗が後部へと向かう。個室前で荷物が詰まりおろおろしている乗客を手伝い、ケガ人を背負って先導していく。
「はいはいー押さない走らない喋らないのおはしで避難お願いしまぁす!」
アナンシは2階に上がってみるが、こちらも別の扉から避難を開始したようだ。それから食堂車の方へも顔を突っ込む。急ブレーキや振動でものすごい音を立てていた階下のキッチンは案の定大惨事である。
『念動力』で散乱した調理器具などを片付けて避難経路を作り出していると、奥から車両スタッフたちが出てくる。どうやら手当てをしていたらしく、頭に包帯を巻いた男性と腕を吊った女性などがいた。
「ちょーっと先頭車両からケーキが……」
外に出ると風に乗って甘い香りが届く。それを辿るようにフラフラと目の前を歩いている諒一朗の姿。思わず腕を掴んで引き戻した。
「高鷲君、全てが終った後ケーキならば奢るゆえアレは食べないでくれ給えよ…!?」
アレはオブリビオンだったものだ、と念を押すが未練がましく前方を見ている。
「……ケーキ……喰いたい……」
アナンシにケガ人の避難を手伝うよう促され、諒一朗は頭を切り替えた。
「オブリビオン倒したらアナンシ引っ張って食いに行くか……!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『ケーキ戦隊』
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POW : 甘い香りでパワーアップ!
【空腹を誘う甘い香り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 自慢のケーキをご馳走しよう!
【食欲】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【伸縮自在のフォーク】から、高命中力の【様々なダメージを与えるケーキ】を飛ばす。
WIZ : ほらほら美味しそうだろう?
【心惹かれる美味しそうな香り】【目を奪う美味しそうな見た目】【とろける甘さと美味しさ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:笹にゃ うらら
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「後ろから来るぞ! 気を付けろ!」
誰かがそう声を張り上げた。あと少し、避難が完了するまで時間が要る。猟兵たちはUDC組織職員たちに後を託し、迎撃の体制に入った。
ケーキ形オブリビオンの大群――一体一体は手の平サイズの――が波のように押し寄せてきているのが見えるだろう。
「終わったらケーキビュッフェー!」
コンダクターの女性が待機しているケーキ工場行きのバスを指差す。声援のつもりなのだろうか。
しかし、それを目当てにしている猟兵もいる。否が応にも士気は高まっていった。戦いは既に始まっている――!
花狩・アシエト
さっさと倒して!ビュッフェ!(
よっしゃ、倒させてもらうぜ
一番近くの敵に寄って「力溜め」の「界刀閃牙」を放つ
ぬ!あまい香りが腹にくる…
アイテムの「干し肉」の匂いをくんかくんかして気を紛らわす
甘味より、肉だからな!
弱っているやつにとどめをさしていく
俺は!早く!スイーツが食べたい!
ふぅ…さて、ビュッフェするか!
食事も揃ってるんかな〜
食事系は軽めに、スイーツを主に選んでこう
炭酸ソーダのフルーツポンチだろ、スフレパンケーキに生クリームたっぷりかけて〜、マカロンタワーまであるじゃん!やばい、食べ放題
紫陽花色のゼリーに、あとは何がいいかな〜、パスタで休憩するか!
まだまだ食べるぞー!
アドリブ、絡み歓迎
杉崎・まなみ
「…えへへ…美味しいなぁ~」
実はひっそり乗り込んでいた真奈美は、豪華列車で食事が頂けるというその文だけ見て参加を決めた猟兵
展望室の片隅で1人夜景をずっと見て、急停車の時も吹っ飛ぶ料理をものともせず、食堂車で料理を頬張ることに夢中でいて
「ようやくお出ましの、デザートぉ!
えぇ、このひとときを待っていましたとも!」
さぁ…いただきまーす…って、あれ?フォークを刺したらスポンジに顔が…?
ここでオブリビオンと気付く
「もう少しで食べちゃう所だった…けど、美味しそう…
ダメダメ!倒すことに集中しないと(よだれ)」
【大地の奇跡】で風を起こし香りを寄せ付けず、更にスポンジとクリームやチョコを引き剥がしにかかります
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
ケーキビュッフェは構いませんが、本当にきみは甘味に目がないですね……
後衛として彼の背を守りつつ、ひたすらに攻めてまいりましょう
ザッフィーロ君の攻撃を見たならば
それでは僕も彼らに食べさせてみましょうかと
「属性攻撃」「全力魔法」をのせた 『サモン・スタースピリット』で星の精霊を呼び出しましょう
僕の魔力の代わりに甘い敵を喰らうといいですよ
そうして「範囲攻撃」で攻め手を狭めつつ「一斉発射」で仕留めてしまいましょう
亡骸がそのままなら僕も精霊に食わせますかね
もちろん、お付き合いしますよ
最初からそのつもりで来たわけですしね
それに、僕は甘味で幸せそうなきみを見に来たんです
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
終ったらケーキビュッフェだと…!!
宵、早く倒してしまわんとな…!
前衛として宵の前に立ち『盾受け』で『かばい』つつ行動
食い物の形をしている故…普通に攻撃するのは忍びないからな
『高速詠唱』を駆使し【蝗達の晩餐】にて蝗達にケーキを食わせつつ、近づいてきた敵はメイスにて迎撃しよう
その際はメイスの鎖を伸ばし『なぎ払い』ながら盾にて敵の攻撃を『盾受け』しつつ『カウンター』にて攻撃して行こうか
ああ、勿体ないな…
…もし倒した亡骸が其の侭ならば後で蝗達に食わせてやろう
食い物は無駄に出来んからな
戦闘後は瞳を輝かせながら次はケーキビュッフェだなと宵へ視線を向けよう
勿論付き合ってくれるのだろう?
「……えへへ……美味しいなぁ~」
誰もいなくなった食堂車にただ一人。あの喧騒をものともせずにやり過ごし、軽食を頬張る聖職者。デザートを頼もうと見回すが彼女以外は皆避難した後だ。仕方がないので席を立ち人を探して車両を移動する。
最後尾の展望車からオブリビオンが押し寄せてくるのを見つけて言い放った。
「ようやくお出ましの、デザートぉ!」
杉崎・まなみ(貴方を癒やす・f00136)はチョコレート色の髪を揺らし大急ぎで飛び出していく。
「終ったらケーキビュッフェだと……!!」
迎撃に向かう途中で女性コンダクターの声援を受けてザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が吠える。
「宵、早く倒してしまわんとな……!」
銀の瞳を輝かせてスピードを上げた。後衛として彼の背を守るため後を追う逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は堪えきれず微苦笑を浮かべる。
「ケーキビュッフェは構いませんが、本当にきみは甘味に目がないですね……」
「さっさと倒して! ビュッフェ!」
左手で握った剣の表面に刻まれたルーン文字が、陽光を浴びて複雑に煌く。花狩・アシエト(アジ・ダハーカ・f16490)が右手の刀を軽く振るえば、最前列の数体がまとめて両断されて地面に転がり空気に溶けた。
「よっしゃ、倒させてもらうぜ!」
ぐっと溜めてから回るように二本の刃が時間差で敵を薙ぎ払う。触れる端から霧が晴れるようにオブリビオンが消えていった。
「えぇ、このひとときを待っていましたとも!」
まなみがフォークを手に駆け抜ける。斬新なビュッフェですね、と聞こえたのは気のせいか。
元気の良いいただきますの声と同時にショートケーキ目掛けてフォークを突き刺した。だが、顔に気付いてバッチリ目が合ってしまった瞬間、弾けるように消えてしまう。ようやくビュッフェではなくオブリビオンだと気がついた。
「もう少しで食べちゃう所だった……けど、美味しそう……」
スイーツな見た目の敵に後ろ髪を引かれるのを振り払って対峙する。
「食い物の形をしているのならば……」
ザッフィーロが高速詠唱で【蝗達の晩餐】を放つ。イナゴの大群の影がオブリビオンたちを食い荒らし、その進撃を止める。普通に攻撃するのは忍びないからな、と呟いて。それを見て宵はなるほど、と星精霊たちを呼び出す。
「それでは僕も彼らに」
召喚の代償として術者の魔力ではなく甘い敵を喰らえと。星精霊たちが地を疾駆し次々と貪っていく。勢力図は瞬く間に塗り替えられた。
戦場を満たす甘い香りが空腹を刺激する。それに抵抗するべく、ポケットに忍ばせた干し肉を鼻に近付け胸一杯に吸い込むアシエト。肌がべとつくような空気と、ささやかな肉の残り香を押しのけるスパイスの主張。
僅かな足掻きを嘲笑うかのようにオブリビオンが積み上がり、距離をじりと詰めてくる。甘味より肉!と忍び寄る糖度の粒子を振り払って正気を保つ。
甘ったるいスペースに清澄な風がふわと流れ込んでその場を浄化していく。風はそのままケーキたちを舞い上げてバラバラに分解して吹き散らした。敵を倒す事に集中しているまなみの【大地の奇跡】が聖域を作り出していく。
星精霊を召喚している間無防備となる宵にオブリビオンを近付けさせまいと、メイスで薙ぎ払い粉砕するザッフィーロの姿は戦神の如く。
アシエトの剣戟が、まなみの疾風が、ザッフィーロの影が、宵の星精霊たちが。線路上を埋め尽くしたケーキ型オブリビオンを駆逐するには、そう長い時間はかからなかった。
「次はケーキビュッフェだな」
戦闘終了をUDC職員に報告し、宵へ向き合うザッフィーロ。その瞳は喜色に満ちて煌いた。
「勿論付き合ってくれるのだろう?」
「もちろん、お付き合いしますよ」
まるで子どものようにはしゃぎながらバスへと宵の手を引いて乗り込んでいく。その横顔に届くかどうかの呟き。
「最初からそのつもりで来たわけですしね」
中ではアシエトがケーキ工場のパンフレットを広げていた。
会場入りしてまず目に飛び込んできたのは吹抜を貫くようにそびえるチョコレートファウンテン。回りを取り囲むのはマカロンやドーナツなどの焼き菓子。カカオの泉にダンピングさせるのも良いだろう。
ショートケーキを始め、抹茶のスフレ、ガトーショコラ、紅茶のシフォン。季節のフルーツが詰まったパウンドケーキ。自分でデコレートするプリン・ア・ラ・モードはお子様にも大人気だ。
並ぶのは甘味に留まらず。3種類のカレー、5種類のパスタ、8種類のピッツァ、10種類のおにぎり。12種類あるというパンはスイーツとの境目が曖昧になる。
季節の特設コーナーを彩るのは紫陽花色のゼリー。かたつむりやカエルなどを模ったものや、雨をテーマに見た目が爽やかなスイーツ。ソーダのプールを泳ぐフルーツたちは夏を先取りしているようで。
もちろんコーヒーも紅茶もジュースもたくさんの種類が選ばれる時を今かと待っている。
「さて、ビュッフェするか!」
車内である程度目星を付けていたものの、いざ目の前にすると誘惑が多すぎると嘆き嬉しそうに困っている食いしん坊たち。アシエトは真っ先にスフレパンケーキを選び、生クリームをたっぷりと乗せた。
それぞれ甘味を頬張っては自分が選んだものの感想を述べ合う。どの顔も歓喜に満ち満ちて。至福のオーラをまとう皆を見渡し、自分の隣で視線を止める。その光景こそが自分の望みであったと、宵は己が幸せを噛み締めた。
◆◆◆おしまい◆◆◆
大成功
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