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星屑の井戸

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●井戸の底
 ーーそれは、呪われた剣だという。
 決して抜いてはいけない、呪われた剣。
 間違いがあってはならないからというように、井戸の底に沈められた。もう、水の溜まっていない井戸。
『だいたい、井戸の底に沈めたりなんかしたから水が枯れたんだ。爺さんの時から、水がもう出ないっていうじゃないか』
 兄さんはそう馬鹿にしたように言っていたけれど、だからこそ『持っていける』んだと言っていた。空っぽの井戸の底。大人はみんな近づいてはいけないというけれど、月明かりと星を頼りに行けば、下まで降りることができる。
『こいつがあれば、俺たちは此処から自由になることができるんだ』
 お城にはそれはそれは美しい吸血鬼がいて、此処は『そんなにひどい目』にはあっていないのだという。他の所に比べればマシなのだと大人たちは言っていた。
 どうしたって此処の他に生きて行く場所などないのだから。
「で、も……」
 また『その時』が来たのだ。兄さんがいなくなって随分と経ったけど、剣が此処にあったと言うことは兄さんは失敗したんだ。失敗したけれどーー……。
「時間は、稼いだんだ。きっと。だから今度は私が……」
 妹たちが選ばれないように、妹たちを選ぶ前に。この剣を持って吸血鬼を脅そう。倒せるなんて思わない。ちょっと時間ができれば良い。
「そうしたら、だってみんなで逃げられるかもしれないもの」
 声は震えたけれど、大丈夫、剣は持てた。抜いたら呪われるなら、その時までずっと持っていこう。
「みんなで、明日を迎えられるように」

●朱殷の辿り
 そうして、向かう少女を見送る影がひとつ。赤い、あかい影をした鳥は薄闇の中を飛び立ち主人へと告げる。
「そう。今回の子は適格者足り得るかしら? せっかくあれを置いたのだから。私が用意した舞台で、どんな姿を見せてくれるか興味深い」
 それが幸福であれ、絶望であれ。歓喜であれ恐怖であれ。
「強い感情が沁みた血こそ、良質であるのだから」

●星屑の井戸
「全ては始まりから整えられていた舞台であったということ」
 赤の瞳を僅かに伏せ、辿るようにそう紡ぎ落としたのはシノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)であった。集まった猟兵たちを微笑と共に出迎えたダンピールは艶やかな色彩を乗せた唇に、仕事よ、と告げた。
「場所はダークセイヴァー。古くは花を使った香油作りを行っていたと言うこの地を領地に持つ吸血鬼が、贄を求めた。領地に住まうこととなっている彼らはそれを『選別』と聞いているようだけれど」
 ひとつ、この地には変わった話があるのだという。
「呪われた剣、というものがあると」
 決して抜いてはならない、呪われた剣。
 抜けば呪われると言われたその剣は、古井戸に捨てられた。
「万に一つ、間違って抜くことなどないように。既に水の枯れた井戸から、一人の少女がそれを奪って領主の館に向かってしまったわ。此度の『選別』にて彼女の妹が選ばれる可能性があったから」
 そこまでは、もしかしたらよくある話、とそう言われてしまうものだったかもしれない。小さな反抗。叛逆。反乱に至らずとも、と。だがーー……。
「その全てが、吸血鬼によって整えられた舞台であったとなれば話も違う」
 オブリビオン・朱殷の魔術師。
 彼女は、己の知識欲を満たすために賢者の石の精錬に傾倒する吸血鬼である、という。材料となる血液が枯渇することがないよう、領民は皆殺しにはしない。
「生かさず殺さず、けれど幸福や苦痛などの強い感情が沁みた血を良質とする。ーーこの血は、良質な血を選び、適格者と呼ばれるものを探すために誂えられたものよ」
 嘗て、少女の兄が『呪われた剣』を持って挑み。その前は、土地の大人たちが。
「呪われた剣というものが、あの地に現れたのはそう前のことではないそうよ。少女の兄が懸念した通り、真実、呪われていれば水のあった井戸に落としはしない。最初から、枯れた井戸に放り込まれ、彼処を探すものがいるのを吸血鬼は待っていただけのこと」
 そうして自分に挑むものがいれば、居城の奥深くまで招きーーそうして、その最後を、幸福と絶望で飾り良質な血を探すのだ。

「少女が向かったのは夜中、今から迎えば彼女が領主の間にたどり着く頃には接触できるでしょう」
 けれど、とシノアは言った。
「少女を止めることはできないわ。朱殷の魔術師は向かいくる少女を『適格者』として期待しているからこそ、領主の間までの道を開いている。少女の細腕で辿り着けるように、その過程を観察している」
 そこに猟兵が割り込めば、少女は観察の途中で放り出され無残に殺されてしまうだろう。
「だからこそ、少女を助けることができるのは領主の間にて彼女が朱殷の魔術師と出会っている瞬間よ。そこに、割り込んでいただきたいの」

 少女にバレないように、少女の向かう正面からのルートに影響を与えないように外周から追跡、上階にある領主の間を目指すのだ。

「まぁ、ちょっとした暗殺仕事と狩ね」

 領主の館は、少女が向かったことにより侵入が可能になっている。巨大な門は開かれ、旧市街めいた建物が並ぶその先が朱殷の魔術師のいる領主の館だ。
「外壁を伝い、屋上伝いに移動をしていってちょうだい。そうすれば、領主の館に侵入できる経路を見つけることができるわ」
 館、と言っても城のような作りをされている。尖塔にロープをかけるのも、壁の突起を利用してとりつくのも良いだろう。
「旧市街に生きた住人はいないわ。代わりに、適格者たちが逃げ出した時用の対策に亡霊が潜んでいる」
 彼らは屋根の上に出る。こちらが辿り着けるのは少女が地上の通りを抜けた後だ。屋根上の戦いで倒せれば、少女の本来の道を邪魔することはないだろう。
「領主の間に辿り着ければ、後は朱殷の魔術師の相手を。容易い相手ではないのは事実よ。それに、目の前で彼女の適格者を奪うのですから」
 だからこそ、思うままになど行かないのだと告げて欲しいとダンピールは告げた。あの場で少女は、帰ってこない兄の最後を知ることになるかもしれないけれど。
「妹たちを守ろうとした事実だけは、変わらないのだと」
 それと、とシノアは猟兵たちを見た。
「無事に全てが終わったら、もしよかったら、領地に残る花園を訪ねてみてくれるかしら」
 彼らに唯一残された弔いの地。
 少女の旅立ちに気が付いた村人は、その数人の大人たちは吸血鬼に逆らいに出ようとしたという。
「今回は説得させてもらったわ。待つ彼らの為にも朱殷の魔術師の撃破を。少女の勇気の為にも」
 手のひらに浮かぶ淡い光が花を描く。吐息で触れれば揺らめく光に、武運を、とダンピールは告げた。


秋月諒
 どうぞよろしくお願いいたします。

●各章について
 各章、冒頭追加後、日付を指定してのプレイング募集となります。
 詳細はMSページ、告知ツイッターでご確認いただけると幸いです。
 募集前のプレイングにつきましては、流させていただきます。

 第三章のみの参加も可能です。

 第一章:集団戦『その地に縛り付けられた亡霊』
 領主の館までの道中。旧市街、屋根の上での集団戦になります。屋根上での戦闘方法の対策については、落ちるなど意図的に落ちる要素をプレイングにかけてこない限り特別な対策(アイテムなど)は不要です。
 プレイングによる対策で、より良い結果を得ることはできるかもしれません。

 *沢山落ちると、朱殷の魔術師の意識がこちら向く為、少女の生存率が下がります。

 第二章:ボス戦『朱殷の魔術師』
 領主の間にて、ボス戦となります。詳細は冒頭追加時に。

 第三章:『花咲く季節』
 領地の一角、人々が大切にしてきた花畑でのひと時です。
 POW、SPD、WIZについては参考までに。
 古くは調香師が多く住む地だったようです。

 三章のみ、お誘いがあればシノアがお伺いします。

●領地の人々について
 呪われた剣の意味を大人は知っていますが、そのカラクリを告げれば皆殺しになる可能性も知っていました。現在の領民は生き残りであり、呪われた剣は最初からあったものではないようです。
 少女の行動を知って、吸血鬼の館に向かおうとする人々もいましたが猟兵が動くと知って帰りを待っています。

●呪われた剣を持っていった少女
 妹思いの少女。兄が帰ってこなかった日から、妹たちを守ることを考えている。両親はいない。

 基本は純戦かな、と思いつつ。
 歪な舞台の終わりを告げられるよう。
 皆さま、ご武運を。
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第1章 集団戦 『その地に縛り付けられた亡霊』

POW   :    頭に鳴り響く止まない悲鳴
対象の攻撃を軽減する【霞のような身体が、呪いそのもの】に変身しつつ、【壁や床から突如現れ、取り憑くこと】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    呪われた言葉と過去
【呪詛のような呟き声を聞き入ってしまった】【対象に、亡霊自らが体験した凄惨な過去を】【幻覚にて体験させる精神攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    繰り返される怨嗟
自身が戦闘で瀕死になると【姿が消え、再び同じ亡霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:善知鳥アスカ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●少女の旅路
 そこは不気味な程に静かな通りだった。吸血鬼の館の場所は知っている。だって、絶対に近づいちゃいけないって聞いていたから。今日は馬車も出ていかない。けれど、大きな門がほんの少しだけ開いていたから入ることができた。
「そうっと、そうっと……音を立てないように進まないと」
 呪われた剣は、きっと大人の人が使う剣なんだろう。
 両手で抱えていかないと持つことができない。でもいざという時には抜けるように、ちゃんと柄の場所は覚えている。
「誰にも出会わずに、辿り着けたら……この剣のお陰なのかな? それとも、最初っからこの街には誰もいないのかな……」
 みんな寝ているなら、お願いだから寝ていてと祈るようにして通りを抜けた。

●死者の舞台
 領主の館へ続く門は、堅牢な門であった。館そのものを守るようには見えないのは、領地の館がある区画を囲うようにそり立つ塀が見えたからだろう。少女が通った後、警戒の薄くなったその場所に猟兵たちは忍び込む。旧市街の屋根上へと上がれば、領主の館へと続く通りが『明るい』ことに気が付いた。照明の明るさがあるわけではない、ひとつ、ひとつ偶然のような明かりがポツポツと通りに灯されている。
 まるで舞台の花道のようだ、と思う者もいるだろう。
 まるで、分かりやすい罠だと言う者もいるだろう。
 だがこれが、この地で何年と、何十年と繰り返されてきた舞台の形。
 この地に生きる人々の希望を奪い、だが絶望に沈み切らせず、殺さずの舞台を作った。
 どれほどの人々が此処を抜け、反撃を、反乱を願ったのか。
 その詳細は知れずともーー今日と言う日に、全てを終わりにすることはできる。
 地上の明かりのおかげで、屋根上も真っ暗と言うわけではない。目が慣れれば、問題なく戦うことができるだろう。
「あぁ、ぁ……」
「ひ、ぁ……ふ、ははは……」
 彼らを相手に。
 屋根上には一体、また一体と亡霊たちが現れる。染み出すように、湧き上がるように出てくる彼らを倒しながら進むかーー若しくは、この地に縛り付けられた亡霊を解き放つか、どちらかだ。
 戦いながら進んで行けば、ある一定のラインで屋根上に設置された魔法陣に出会うだろう。死者の血で描かれたそれを壊せば、湧き上がる亡霊の数を一区画ずつ潰せる筈だ。
 一箇所を壊したところで全ての亡霊は消せないがーー少女に追いつくことを考えれば倒しながら進み、見つけた場所で魔法陣を壊しーー領主の間へと向かえば良いだろう。
「……」
 見上げる高さにあるその場所へ向かうために、猟兵たちは旧市街の屋根上を駆けた。
薬師神・悟郎
事前にUCで攻撃力を強化
目立たないように迷彩を施した外套を羽織る

野生の勘と第六感で最適な道を選び、屋根の上を駆ける
壁や障害物はクライミング、ジャンプ、スライディング、ロードワークで対応

道中に敵を目視、距離があれば苦無を投擲し、2回攻撃の先制攻撃
敵の動揺を誘えれば、ダッシュで距離を詰めて暗殺で仕留めにかかる
もし敵からの攻撃を受ければ見切り、咄嗟の攻撃でカウンター

もし離れた位置で味方を目視、万が一その際に彼らの行動が敵に阻害されているような事があれば
早業で弓に持ち替え、スナイパーとしての援護射撃も行う

一度行動を決めたら、迷うことなく素早く行動するよう心掛ける
こんな趣味の悪い遊びは早く終わらせよう


シノ・グラジオラス
妹を守りたい気持ちは分かるが、傍にいなきゃ守れないだろ
それでも剣を取る程には追い詰められてたんだな
彼女を妹達の元へ帰すのが第一
あわよくば彼女に花を持たせてな

細やかな『呪詛耐性』としてフードを被り、『目立たない』よう『忍び足』
『クライミング』で壁から屋根へと登り、
『視力』『暗視』で足場は可能な限り痛みの少ない、戦いやすそうな場所を移動

接敵は『先制攻撃』で距離を詰め『気絶攻撃』『2回攻撃』し、
『見切り』回避
生憎と呪いは間に合ってるんで、自傷してでも正気を保つ

止めは【襲咲き】で必要なら屋根に打ち込んででも落下しないように留意
今更、屋根でも地でも一緒だろ?

猟兵に手を貸さない理由は無い
※アドリブ歓迎



●死者の帳
 宵闇が揺れていった。とろり、溶けるような闇の中、亡霊たちが浮かび上がるのであればーーまだ。そう、まだ“らしい”という言葉で終わらせることができただろうか。た、と青年は壁を蹴り、屋根へと手を伸ばす。軽く掴んだ窓枠から一気に屋根上へと影は飛び上がっていた。
「……」
 はたはたと、揺れるのは目立たないように迷彩を施した外套であった。目深に被られたフードの奥、美しい肌が僅かに見える。夜風に舞い上がった外套を引き寄せるようにして、薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)は息を落とす。
 吐息、ひとつ。
 夜に紛れるように音を落とし、そのまま、一気に屋根の上をかけた。乾いた瓦が僅かに音を残す。ゆらり、ゆらりとただ姿を見せていただけの亡霊たちが一気にこちらを向いた。
「ァア、ァアアア……」
「フ、ハハ、アハハ……!」
 それは笑いか。ーー否、声か。ただ一つ、彼らに許された言葉。音。己から発せられる意思に似た何かは殺意となって悟郎に叩きつけらる。
「ァアアアアア!」
「ーー」
 それが、力となる前に苦無を放つ。ひゅん、と空を切って放たれた暗器が亡霊を貫きーーだが、その衝撃に、灰の躰が止まる。一瞬だ。だがその一瞬を、悟郎は逃さなかった。
「始めようか」
 踏み込んだ体の、三歩目で一気に加速する。屋根瓦を蹴りーー前に、体を倒す格好で飛ぶ。た、と音だけが夜の戦場に残った。二本目の苦無が、真横から飛び込んだ亡霊に吸い込まれる。
「庇った訳じゃない、か」
 ただ、来ただけだ。
 自分という生者を殺すためだけに亡霊の腕は伸びた。
「ァアアアアアアアアア!」
 悲鳴と共に亡霊は霞のような体を変じさせる。呪いだ、と直感的にそう思ったのは、嫌な感覚があったからか。危険、というものを悟郎は知っている。過去の失敗。猟兵となる前にした苦労というものは、体に染み付いているものだ。だからこそ、危険を青年は感じ取る。伸びた腕が掴むように来た指先に身を横に飛ばす。カン、と足元で瓦が割れた。だが、飛ばしたそこで、足裏で屋根を掴む。片足で体を止め、くる、と回るようにして一気に亡霊の後ろに回り込む。
「終わりだ」
「ァアアアアアアアアアアアア!」
 背から突き立てたナイフが、呪いに絡め取られる。だが、深く、深くへと突き立てれば核のような何かに触れた。
「ァア、ア……ッ」
 最後の声が、僅かに跳ねる。ぐしゃり、と泥が崩れるようにして亡霊が消えーーだが、瞬間、体が引っ張られた。
「ァ、ハ、ハハハ……」
「……さっきのか」
 足を取っていたのは最初に苦無を叩きつけた亡霊だった。掴まれているだけだというのに、ぐらり、と視界が歪む。熱いのか、痛いのか。意識を奪うような痛みだけが全身を襲う。確かに血が流れている筈だというのに、感覚が遠ざかるのは亡霊たちの『呪い』か。
「ーー……ッ」
 ぐらり、と身を倒すようにして苦無を足元に放つ。引きずり込もうとする力に沿って放った咄嵯の一撃が亡霊に沈み込めば、キィイイ、と甲高い声が響き渡った。
「ァア、ァアアア……ア?」
 屋根から突如現れ、取り憑こうとしていた亡霊がはじき出される。暴れるように伸びた腕はーーだが、消えた。
「よっ、と」
 見えたのはフードの隙間から揺れる赤茶の髪。薄闇の戦場にあって一瞬、火を思わせる色彩を見せた男の剣が亡霊の腕を両断していたのだ。
「ァアアアア……!」
 絶叫と共に亡霊が身を揺らす。一体、また一体と亡霊が姿を見せていた。気がつかれたと言う訳では無いのだろう。亡霊たちはこの地に縛り付けられたものだ。一体を切り伏せれば、次の一体が怨嗟と共に姿を見せる。
「大丈夫か?」
「ーー……あぁ」
 目深にかぶったフードを少しひいて、軽く悟郎が頷く。気さくに声をかけた男の方もフードを被っていた。
「しかし、数が多いな」
「……、あぁ。いないのはあの通りだけだ」
 ややあって落とされた言葉は、その意味を分かってのことだろう。言葉の奥、滲むような苦々しさに息をつくようにしてシノ・グラジオラス(火燼・f04537)は頷いた。
「まぁ、そうだろうな。そういう風に作られたって感じの場所だ」
 亡霊が屋根上にいるのは、適格者とされた者たちがこの道を引き返した時の為。
 呪われた剣を持った少女は引き返すことはなく進んだのだろう。
「妹を守りたい気持ちは分かるが、傍にいなきゃ守れないだろ」
 呟いてシノは拳を握る。
(「それでも剣を取る程には追い詰められてたんだな」)
 呪われた剣。抜いてしまえば呪われる剣。
 簡単に手に取るようなものでは無いのだから。
「ァア、ァアアア」
「ヒ、ヒハ、ハハハハハ」
 ハハ、と笑いとも、悲鳴とも取れる声を漏らしながら亡霊が来る。風を切る音さえないままに、滑るように向かってくる亡霊へとシノは駆けた。間合いひとつ、潰されるようであれば先にこちらから潰した方が良い。
「こいつで」
 瞬発の加速から、黒剣を突き出す。深く、奥へと沈めれば、ァアアア、と咆哮に似た声が腕を失った亡霊から響く。
「ァア、ァア、ァアアア……」
 伸びたのは腕か。指先か。ぐらり、傾いだ亡霊の口からこぼれ落ちる怨嗟が、一度だけ揺らぐ。
『シノ』
「ーー」
 それは、果たして誰の声であったか。知っているようで、まるで違う声。呟き落とされたその声はーーだが、次の瞬間、悲鳴へと変わった。
 助けてと。違うと。
 嘘だ、と首を振る青年の、目の先に見える母の抱き上げた娘から流れる血は。転がった薬瓶は。
『これで、全部救われるはずだったのにーー……!』
 絶叫に、ぐ、と意識が持っていかれる感覚があった。持っていかれると、とその事実をシノは感じ取る。これが敵の術であると。この亡霊が抱いたものであると。 
「生憎と呪いは間に合ってるんで」
 黒剣に手を滑らせる。滴り落ちた赤が、痛みがシノを現実に引きずり戻し、呪いを振り払う。
 は、と落とす息は一度だけ。眼帯の奥、晒さずに秘めた瞳と共に眼前に敵を見据える。
「踊る覚悟は出来てるか?」
 剣は既に血を吸っていた。
 引き抜いた黒剣を構え直す。シノの言葉に、血を受けた黒剣は変化する。眼前の相手へと、亡霊へと最も適した形へ。至近のこの距離で、選ぶべきはーー短剣だ。
「ァア、ァアア!?」
「今更、屋根でも地でも一緒だろ?」
 振り下ろす一撃と共に、亡霊を屋根へと叩きつける。キン、と刃が奥の方で何かをーー砕いた。
「ァア、ア……ッ」
 最後、跳ねた声がどろりと崩れる体ごと消えていく。屋根上に突き刺した剣を引き抜けばーーひゅん、と音がした。
「ん? あぁ、向こうから追加か」
「ーーあぁ」
 短く応じた悟郎に、これで貸し借りもなしか、とからりとシノは笑う。飄々とした男の、やれと落とした息は一体、また一体と周囲の建物に集まってくる亡霊を見てのことだった。
「倒せるかって言えば倒せるが……キリがないか」
「件の魔法陣を探した方が良さそうだ」
 ぽつり、と悟郎は呟く。
 死者の血で描かれたその陣を壊せば、一区画の亡霊の数を潰せるはずだ。
 永遠に増え続けるものではないだろうが、それでも長く相手にしているだけの時間はこちらにはない。
「こんな趣味の悪い遊びは早く終わらせよう」
「だな」
 悟郎の言葉に、シノも頷くと二人は次の屋根へと移動を始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

上野・修介
※アドリブ、連携OK

「悪趣味だな」

なんであろうとやることは変わらない。
呼吸を整え、無駄な力を抜き、敵を見据える。

目付を広く、戦場全体を観【視力+第六感+情報取集】るように。
まず周囲の敵戦力の数と配置、少女の状態と進行状況を確認し味方に共有。

最優先は少女の進行上にある魔法陣の発見と排除。
敵を倒すのは最小限。

地味に、目立たず、最速で。

得物は素手喧嘩【グラップル】
UCは攻撃力強化

下手に瀕死に追い込めば強化されるので【ダッシュ】で相手の懐に肉薄し一体ずつ一気に確実に始末する。
囲まれそうになれば迷わず退き【逃げ足】仕切り直す。

取り憑かれる、または精神攻撃を受けた際は、自らの顔面に拳をぶち込み正気に戻る。


アルノルト・ブルーメ
手の込んだことを好むのか
それとも……手間を掛ける事を美徳とするのか

どちらにせよ、その拘りが終焉を呼ぶ
こんな悲劇は今日確実に終わらせる

影の堕とし仔使用
召喚した影は亡霊への攻撃と攻撃への盾に使用し
僕自身は迅速に魔法陣を探し出して破壊する事を優先

とは言え、大人しく通らせてはくれないか
Viperで先制攻撃
手首を返して2回攻撃からのなぎ払いの範囲攻撃
そのまま手薄になった個所に肉薄して
VictoriaとLienhardで攻撃し先へと

敵の攻撃は見切りで回避
回避不能な場合はオーラ防御で防ぐ

第六感で魔法陣の場所を探索
発見次第、破魔と封印を解くで確実に破壊

経路上にある魔法陣をすべて破壊しつつ
確実に彼女の後を追う



●舞台
 屋根上から見下ろした通りは、奥へ、奥へと続いていた。道幅は広すぎず狭すぎず、行くべき道はこうして上から見ていればよく分かる。ーーそう、よく分かるのだ。
「悪趣味だな」
 息をひとつ、落とす。屋根上にて瞳を細めた青年は、ほんの僅か乱れた呼吸を整えるように息を吸った。
(「なんであろうとやることは変わらない」)
 上野・修介(ゆるふわモテスリム・f13887)は無駄な力を抜き、敵をーー一体、また一体と染み出してくる亡霊を見据えた。
 何処が密度が濃い、と言う訳でもないのか。通りを挟むように家々の立ち並ぶ旧市街、その彼方此方に亡霊の姿が見えた。瞳を細めた先、視力で足りなければ修介は意識を集中させる。
「ーー……見えない範囲にも、か。何処が敵の密度が濃い、ということはないようです」
「……そうか」
 応じたのは闇色の外套を揺らす男であった。すらりとした長身は屋根の上という場所にいるのを感じさせない。緑の瞳を細め、やがて、ふ、と吐息を零すようにして紡ぐ。
「この辺り一帯に、亡霊が出てくるようにしてあるようだね」
 アルノルト・ブルーメ(暁闇の華・f05229)の声が、低く落ちる。ゆるり見渡した先、薄闇の向こうに解を得たからだ。これは、もとより迎撃用に置かれた亡霊ではないのだ、と。誰かがーーこの領主の館に招かれた『誰か』があの道を通るときの見張りの為だ。
 少女は逃げ帰ることなく進み、だからこそ亡霊達は彼女を追いかけない。
「手の込んだことを好むのか。それとも……手間を掛ける事を美徳とするのか」
 その亡霊も、魔法陣を見つけることがあれば少女の手でもどうにかできるかもしれない。分厚い門は閉ざされたまま、逃げることはできないが、魔法陣の存在が少女に希望を与えるのだろう。
(「その全てを仕組んだ上で、上から見ているのかい?」)
 屋根上にあって、領主の館ーーその入り口は見上げる距離にある。少女は、最後はあの長い階段を上っていくのだろう。
「どちらにせよ、その拘りが終焉を呼ぶ。こんな悲劇は今日確実に終わらせる」
「あぁ。終わらせよう」
 少女はもう、奥へと進もうとしている。
 修介の目に見える範囲は、とうに超えてしまった。今、分かっているのは、既に戦いが始まっているということ。猟兵達の姿に気がついた亡霊達が集まってきているということ。そしてーー……。
「少女の近くにいる亡霊達は、こっちには寄っては来ないようです」
 修介の言葉に、アルノルトは頷いた。
「ならば、僕たちも進むべきだね」
 狙うのは魔法陣の破壊、だ。
「アァアア……」
「ァア、ァアアアアアアア」
 進むべきを決めたからか。それとも、こちらの纏う気配に惹かれてか。亡霊たちが一体、また一体と姿を見せる。浮かびあがるように、染み出すようにして。
「出る」
 紡ぎ出されていた敬語と、纏う空気が一変する。短く、紡ぎ落とされた言葉と共に修介は前に身を飛ばした。
「――力は溜めず――息は止めず――意地は貫く」
 口にして紡ぐそれは、己の戦い方の『基礎』だ。格闘技法をベースした修介の武術は、言ってしまえば喧嘩術でありーーだが、それを、其処だけで止めない覚悟があった。それが実戦であり鍛錬でありーーこうして、口に出すことだ。無意識下で行えている『基礎』を意識的に行うことで、自分を強化する。意識は、握る指先から、瞬発の加速を叩き込む足指までを繋ぐ。
「アァアアアア!」
「ーー」
 だからこそ、叩き込む拳に声はなかった。亡霊の腹へと叩き込んだ拳は泥を掴んだかのような妙な感触を返す。真横から迫る一体はーー避ける。躱しきれずに、腕に引っ掻くような痛みが残ったがーー……。
(「下手に瀕死に追い込めば強化される」)
 ならば、確実に始末できるものから対応すべきだ。
「はぁああ!」
 先の一撃、叩き込んだ亡霊へと修介は踏み込む。絶叫とも悲鳴とも似た声の向こう、霞のような身体を呪いそのものへと亡霊が変化させる。
「アァ、アハ、ハハハハ……!」
 ハハ、と笑う声を最後に、目の前からその姿が消えた。拳は叩きつける前。だからこそ修介は反射的に腕を振るった。
「ァア、ァアア!?」
 バックハンドの一撃。一発、叩き込んだ先で、パキリ、と何かが砕けるような感覚があった。亡霊の核か。どろり、と次の瞬間、崩れ落ちた亡霊の向こう、アァアア、と死者の声が響いた。
「全てを相手にする必要はないな」
 敵を倒すのは最小限で良い。
「ーーあぁ」
 流石に、とアルノルトが息をつく。
「全てを相手にしていては、時間がかかりそうだね」
 だから、と手を伸ばす。指先が闇よりも濃い影に染まる。囁くようにアルノルトは告げた。
「影から産まれ、影にお還り」
 その言葉に反応するように、起き上がるかのように蝙蝠の形をした影が飛び立つ。影の群れは亡霊たちに取り付けば、ぐらりと亡霊たちが揺れた。
「先へ」
「ーーあぁ」
 短な会話で二人は屋根を蹴った。隣の屋根へと飛び移れば、一拍を置いて背後から亡霊たちの叫びが聞こえる。
「まぁ、追いかけては来そうだけど。魔法陣が彼処に無い以上はね」
「長いの必要もない。ーーそれに」
 ふと、何か気がついたように修介が告げる。
「此処にはある」
 研ぎ澄ました修介の感覚が、此処だと告げていた。ぶわり、と湧き上がった亡霊たちの向こう、確かに煙突に何かが書き込まれている。
「魔法陣を頼めるかい?」
「分かった。前に出て、一気に抜こう」
「じゃぁーーおいで」
 さぁ、とアルノルトが囁けば蝙蝠の形をした影が姿を見せる。ふわり、と亡霊の群へと影は向かうがーー流石に、それだけでは止めきれないか。
「アァア、ァア」
「アハ、ヒ、ハハハハ……!」
 アァア、と金切り声に似た音が戦場に響き渡った。不思議はない、この亡霊は完全に倒しきれなければ数を増やしてくるのだ。こちらの攻撃が、通っているからこその問題だ。瀕死になれば亡霊はその姿を消しーー高い戦闘力を持った新しい亡霊を引き寄せる。倒しきれねば、範囲攻撃を仕掛けた分の数だけ亡霊は強化してこちらに向かってくる。魔法陣を見つけることができなければ、先にこちらの方が削られていたかもしれない。
 だが、見つけられた今であれば存分に惹きつけられる。道をつけるためにも。
「とは言え、大人しく通らせてはくれないか」
 ピリ、と絶叫に嫌な感覚が肌に伝わる。ひゅん、とアルノルトはワイヤーを放った。迫る亡霊たちを切り裂いた一撃に、手首を返す。たわんだワイヤーを一気に引き寄せれば、亡霊の体に絡みついた。ピン、とそのまま一気に引く。泥を抜けたような感覚に、浅いか、と息を落とす。倒しきれこそしてはいないがーー手薄にはなった。
「行こうか」
 手の中、落とした二振りの刃に告げる。
「アァアアア……!」
 絶叫と共に、強化された亡霊が姿を見せる。ぐん、と打ち出された腕はーー流石に早いか。
「ーーやれやれ」
 穿つ、一撃が。つめ先が肩に沈む。オーラの防御がなければあと一つ、深かったか。だが、黒剣は届いている。深く、穿ちーー手の中の武器を、流した血で起動させる。振り上げれば、眼前の一体が絶叫を上げた。
「ァアアアアア……ッァア!」
 どろり、と眼前の一体が崩れる。視界が、完全に開ける。その先に、魔法陣が見えた。
「今です」
「あぁ」
 短く応じた修介が一気に屋上を駆ける。身を飛ばすようにして、飛び込んだ先、眼前の魔法陣に拳を握った。
「これで終わりだ」
 ガウン、と穿つ一撃が叩きつけられた。瞬間、キン、と硝子の割れるような音が響き、アァアアアア、と声を上げながら亡霊たちが姿を消していく。
「この一帯はこれで、大丈夫そうですね」
 戦闘状態を抜けてしまえば、するりと戻ってきた敬語を纏って修介が告げる。他の場所にいる亡霊たちに変化はない。魔法陣は細かく設置してあるのだろう。
 ひとまず、道は作った。ならば後は道中にある魔法陣を全て破壊しながら行くだけ。
「確実に彼女の後を追おう」
 アルノルトの言葉に、修介も静かに頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加

幼い子供の決意さえ質を高める過程に過ぎないとは吸血鬼の趣向は解せないです
ですが、今回で終わりにしましょう
彼女の決意が我々を招いてくれたのですから

亡霊は数が多いのであれば抜刀術『陣風』
ダッシュにて接近し、先制攻撃・早業にて抜刀術のなぎ払いによる一掃
全てを倒さずとも、進む道さえ開けば突破は容易です
しかし闇雲に探すのでは時間は掛かりそうです

魔方陣が亡霊に関わるものならば第六感で察知できないか試みます
亡霊の数を視力による目視、亡霊の声による聞き耳にて
数が多いならば魔方陣が近い可能性もあるかもしれません
倫太郎殿は破魔の力があるのなら破壊は彼に任せ
その場は私が守りましょう


篝・倫太郎
夜彦(f01521)と

悪趣味極まりねぇ舞台だな……
大概、吸血鬼の趣向とやらは悪趣味だけどよ
あのコの勇気に応えて幕引こうぜ、夜彦
本日千秋楽、ってな

エレクトロレギオン使用
自身と夜彦の死角のフォロー
敵からの攻撃の身代わりを任せる

俺自身は華焔刀で先制攻撃からのなぎ払い
刃を返して2回攻撃
先に行く道が開けたんなら前へ進む

敵の攻撃は見切りや残像で回避
回避が難しい場合は咄嗟の一撃で相殺を狙う

きっちり倒してやる必要はねぇよな?
魔法陣ぶっ壊しゃ、嫌でも全員解放してやれる

夜彦の第六感と状況分析を元に魔法陣を探しつつ応戦
発見したら華焔刀に破魔の力を載せて破壊
別の誰かが破壊してくれたなら次の区画に急ぎ同様に戦闘と対応



●辿り
 亡霊たちの怨嗟の声が、重なり響く。飛び上がった先、ひゅ、と伸びた死者の腕が伸びた。
「よ、っと」
 伸びた腕は穿つ為か掴む為か。だが、伸びた五指に青年は身を逸らす。着地の足をそのまま、強引に飛ぶ力へと変えれば、亡霊の指先が空を切った。
「こっちだぜ?」
 後ろ手に構えた華焔刀で足を払えば、ぐん、と亡霊の顔がこちらを向く。避けた先、わざわざ声ひとつ、掛けてみたのはーー迫る一人を知っていたからだ。
「倫太郎殿」
 感謝を、と男は告げる。その踏み込みに足音は無くーーただ、深く沈み込んだ男の抜刀が月明かりに晒された。
「ァ、ァアアアァアア……ッ!」
 月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の斬撃が、亡霊の腹に沈んだ。怨嗟の声は跳ね、キン、と何か硬い物を切り裂いた感覚だけが手の中に変える。刃を戻せば、どろり、と眼前の敵は崩れ落ちた。
「一先ず、今は一体だけでしょうか」
「ーーだな。まぁ、進んでりゃどんどん出てきそうな感じはあるが……」
 此処は、と巫女の家系を持つ篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は告げる。
「そういう場所だ」
 この空間ーー旧市街そのものが、怨嗟にあふれている。此処を少女は抜けていったのだろう。無事に『通れるようにされた』道を少女は前に進んでいった。
「悪趣味極まりねぇ舞台だな……。大概、吸血鬼の趣向とやらは悪趣味だけどよ」
 えぇ、と夜彦は息を落とす。
「幼い子供の決意さえ質を高める過程に過ぎないとは吸血鬼の趣向は解せないです」
 適格者、と言うのだという。
 血の質を高めると。己の目的の為に吸血鬼はそれを成すという。少女は、領地に『置かれた』呪われた剣を信じて領主たる吸血鬼の所まで向かうのだろう。
「ですが、今回で終わりにしましょう」
 緑の瞳が先を見据える。新たに湧き上がった敵を見据えた。
「彼女の決意が我々を招いてくれたのですから」
「あぁ。あのコの勇気に応えて幕引こうぜ、夜彦」
 本日千秋楽、ってな。
 そう言って、倫太郎はからりと笑い華焔刀を構えた。
「ァアアアア……!」
「ヒ、ハハ、フハハハハ……!」
 一体、また一体と浮き上がり、染み出すように亡霊たちは姿を見せた。広い屋根上に見えた数はひとまずは両手で足りるか。
「前に出ましょう」
「じゃ、援護するぜ」
 た、と僅か、身を低めた先から夜彦が前に飛ぶ。男の瞬発に、伸ばした亡霊の腕が空を切った。早いのだ。夜彦の方が遥かに。
「全て、斬り捨てるのみ」
 沈み込んだ先、夜禱の抜刀が亡霊に沈んだ。腹を割き、頬へと伸びた指先を、その虚ろな瞳を見る。
「ーー」
 目を逸らすことなど無いままに、眼前の亡霊をその一人を見据えーー斬る。無数の斬撃が亡霊を引き裂き、散らす。薄靄の向こう、伸ばされた手にさえ薙ぎ払う斬撃は届く。
「ァアアアア!」
 踏み込んだからだ。二足目、薙ぎ払う夜彦の斬撃に亡霊の腕が飛んだ。絶叫の奥、傾いだ体を眼前の二体が跳ね上げる。
「ヒ、ハハ、ハハハハ……!」
 霞のような亡霊の体が、呪いそのものへと変化すると次の瞬間、揺れるようにしてーー消えた。倒した訳でない。首裏、ひゅ、と感じた何かに夜彦は刃を振るった。
「ァアアアア、ハハ、ヒ、ハ……!」
「浅いですか」
 ぐ、と刃ごと、絡みつくように亡霊の腕が伸びる。ーーだがそこに、機械兵器の影が落ちた。
「援護するぜ!」
 倫太郎の召喚した兵器たちだ。
 取り憑こうとした亡霊の体に飛び込めば、衝撃に死者が呻く。もう一体、飛び込んできた相手へと残りの兵器を倫太郎は向けた。
「そっちもだ」
 兵器への指示を飛ばしながら、己も戦場に飛び込む。亡霊の絶叫に崩された兵器を見送り、滑るように踏み込んだ先で華焔刀で斬りあげる。弧を描くような斬撃に、亡霊が警戒するようにわずかに距離をとった。
「きっちり倒してやる必要はねぇよな? 魔法陣ぶっ壊しゃ、嫌でも全員解放してやれる」
 憂はひとつ、倫太郎の召喚する兵器に対し亡霊は瀕死になると姿を消し、再び同じ強化された亡霊となって召喚されてくるのだ。傷を受ければ、その分強化された亡霊となって戻ってくる。対応は可能だ。傷こそ多くはなるがーーまだ、動ける。
(「相殺を狙うには流石に数が多い、か。ま、戦場じゃ傷はつきものって聞くけどな」)
 それに、強化され、怨嗟とともに起き上がった彼らとて解放する術はある。
「全てを倒さずとも、進む道さえ開けば突破は容易です。しかし闇雲に探すのでは時間は掛かりそうです」
 眉を寄せ、眼前の亡霊を切り伏せた夜彦が息をつく。道はひらけた。人気のない中庭の上を飛び越えるようにして、二人は屋根の反対側にたどり着く。
「探せそうか?」
「はい。魔方陣が亡霊に関わるものならば……」
 倫太郎の言葉に夜彦は頷いた。
 戦場を見渡す。亡霊の数はーーあちらの屋根と同じだ。
(「……いや、同じである筈がない」)
 此方は戦いを重ねた結果、敵の数が増えてもいるのだ。同じであるということは、あの屋根の上は最初から亡霊の数が多いことになる。
「数が多いならば魔方陣が近い可能性もあるかもしれません」
「よっし。じゃぁ向こうに飛び移って行こうぜ」
 さぁ、と告げる声と、跳躍が重なる。飛び込んだ先、ゆらりゆらりと揺れるだけだった亡霊たちが明らかに意思を持ってこちらを見た。
「当たりだな。ーーじゃ、破壊してくる」
「この場は私が守りましょう」
 踏み込みの、その一歩から邪魔をするように飛び込んできた亡霊を夜彦が斬り払う。抜いた刃をそのまま、真横の亡霊へと突き立てた。
「アァアアアアッ」
「フ、ヒ、ハ、ハハハハ!」
 狂った笑い声の響く中を、倫太郎は一気に進んだ。伸びる腕は気にしない。滑り込む刃が全て切り払ってくれるからだ。その一撃を信じて、巫女はいく。琥珀の瞳に魔法陣を捉え、華焔刀に破魔の力を乗せた。
「これで終わりだ……!」
 ざん、と振り下ろす刃が陣を壊せば、キン、と硝子の割れるような音が響きーーアァアアアア、と声を上げながら亡霊たちが姿を消していく。
「この区画はこれで大丈夫そうだな」
「えぇ。急ぎ、先に進みましょう」
 倫太郎の言葉に、夜彦も頷くと旧市街の向こう、領主の館を見据え二人は進み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
マリス(f03202)と

※彼女とは以前、別の現場で遭遇
きちんと面識を持ったのは今回が初

この世界の領地を治める吸血鬼は
皆、こんなものなのか…頭が痛くなるな
くだらん舞台に幕を閉じに行くとしようか

「了解した。行こう、マリス」

戦闘中は常に『オーラ防御』展開

【鳳火連天】発動
敵群と一気に距離を詰め
鉄塊剣に『破魔』の力乗せ『なぎ払い』
数を減らして道を開く

敵の動きを『見切り』『第六感』で読み
マリスに攻撃が集中する気配あらば『かばう』
優しき光を消させはせんぞ
お前こそ、無理はせずにな

魔法陣は発見次第、剣を突き刺し破壊

館進入時は高く飛翔し
尖塔にロープを括り付け
マリスに渡して引き上げよう

※他猟兵との連携、アドリブOK


マリス・ステラ
火神・五劫(f14941)と参加

【WIZ】他の猟兵とも協力します

「主よ、憐みたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと星が煌めく『カウンター』
地縛鎖・星枢に光が宿ればペンデュラムが揺らぎ始める

「五劫、館はあちらのようです」

星枢が周囲の情報を、そして星の導きがダウジングで示される
五劫に告げて先に進みましょう

弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
響く弦音は『破魔』の力を宿して敵の動きを鈍らせる

重傷以上で【不思議な星】
緊急時は複数同時に使用

五劫が囲まれるなら光の『存在感』で敵を『おびき寄せ』る
無理をすることはありません
戦いはまだ始まったばかりなのですから



●灯る光 猛き炎
 屋根上にゆらり、ゆらりと揺れる影があった。霞のような体は怨嗟と呪いを帯びたまま、外敵を見出せば滑るように飛び込んでくる。亡霊たちにとってそれは迎撃なのか、反射でしかないのか。分かっているのは彼らはこのの地に縛り付けられた亡霊であるという事実だ。
「……」
 その彼らが姿を見せるのは屋根上だけだ。旧市街の通りには決して降りずーー否、そもそもあそこでは存在ができないのかもしれない。
「この世界の領地を治める吸血鬼は皆、こんなものなのか……頭が痛くなるな」
 黒の瞳を細め、火神・五劫(送り火・f14941)は息をついた。あの亡霊たちから感じるのは、殺意だけで敵意では無い。放置できる殺意では無いがーーどこか、その殺意すら行き場のない形をしていた。
「くだらん舞台に幕を閉じに行くとしようか」
「ーーはい」
 静かに応じた娘の髪が夜の風に揺れていた。金の髪をそのままに、マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は手を組む。
「主よ、憐みたまえ」
 祈りを捧げれば、星辰の片目に光が灯った。星の形をした傷跡は、淡く柔らかな光となり薄闇を照らす。月明かりでさえ照らしきれぬこの地を癒すように。す、とマリスは指先を伸ばした。手に絡めていた星枢に光が宿れば、ペンデュラムが揺らぎ始めた。
 ーーやがて星の導きは訪れる。
「五劫、館はあちらのようです」
「了解した。行こう、マリス」
 あちらは敵の数の多いようです、と星枢が示す情報を五劫へと告げれば、行き先も決まった。正面では無く、横から回るのだ。敵の数は多いがーーだが、あの多さは少しばかり『異常』でもあった。地上の道と照らし合わせれば丁度、広場のような空間に近い。
(「少女の元へ行ける……いや、少女が上がって来れる、か?」)
 何かが会った時ーーそれこそ、彼女が亡霊と鉢合わせるようなことになった時、上がって来れるような場所。ステラのダウジングがそこを告げたのは『何か』があるからか。
「先に行こう」
 そう、先に告げて五劫は屋根を蹴った。あちらの方が、わずかに低いか。飛び込む五劫に気がついた亡霊たちが腕を伸ばす。ーーだが、先に炎があった。
「ァア、ァアアアア!?」
「我が魂の炎よ、天翔る翼と成れ!」
 五劫の身に、鳳凰が止まる。肩口に触れ、瞬間、ぶわりと鳳凰のオーラを全身に纏った五劫が着地する。だん、と降りたその足で、そのまま一気に前にーー出た。
「はぁあああ!」
 破魔を乗せた鉄塊剣を至近で振るう。力任せのなぎ払いだ。斬る、というよりはぶつけるが近いのか。全力のなぎ払いに眼前の亡霊がどろり、と崩れ落ちる。パキン、の手に返った感触は核に届いた印か。ならば、とそう思った瞬間、ひゅ、と伸びる手が来た。
「五劫」
 だが、死者の腕は届かない。
 ステラの弓が、亡霊を撃ち抜いていたのだ。流星の如く降り注ぐ矢が飛び込む亡霊を撃ち抜けば、その隙に五劫が踏み込む。射抜き、足を止めたのは一瞬ーーだが、それだけあれば五劫にとっては十分だ。
「終わりだ」
 ざん、と火影が亡霊の奥に沈む。どろり、と何か妙なものを斬った感覚が手に返り五劫は気がついた。あと一体、確かにいた筈の亡霊が消えている。
「ァア、ァアアアア!」
「ーー!」
 その解はすぐに訪れた。霞のような身体を、呪いそのものへと変化させた亡霊が『真横』から出てきたのだ。突然、まるで染み出すかのように壁のように伸びていた屋根の飾りから飛び出してきたのだ。ぐ、と腕を掴まれれば焼けるような感覚が全身を襲う。
「取り憑くつもりか」
 引き寄せられる感覚に、半ば無理やり剣を持つ腕を振り上げる。た、と地面を強く蹴ったのは今、この身には鳳凰の加護があるからだ。
「ァアアアア……ァ!?」
 逃がさないと叫んだ亡霊の視線が、勢いよく変わる。何を、と五劫が零した先、見えたのは己の光の存在感で、敵を引き寄せるステラの姿だった。
「無理をすることはありません。戦いはまだ始まったばかりなのですから」
 星の輝きが、破魔の鉉音と共に亡霊を弱体化させる。しゅるり、と滑るように向かってくる死者の群れをまっすぐに見据えたステラの放つ光が亡霊を祓う。
「ァア、ァアアアア!」
 ヒ、フ、ハハ、と笑う声と共に亡霊が一度、身を崩す。瀕死の身から、再び起き上がる為だ。強化された死者はーーだが、その腕を届かせるその前に瞬発の加速から踏み込んだ男に撃ち抜かれていた。
「優しき光を消させはせんぞ」
「ァア、ァアア……ッ」
 跳ねた声と共にパキン、と何かの割れた音が耳に届く。引っ掻くような死者のつめ先に、赤く染まった腕に息だけを吐いた五劫はステラを見遣った。
「お前こそ、無理はせずにな」
 どろりと崩れた眼前の一体ーーその奥に見えた魔法陣に刃を突き立てれば、キン、という音と共に陣は崩れ、ァア、ァアア、と声を上げながら亡霊たちは崩れ落ちていく。
「……」
 その様は、ただ倒した時とは僅かに違う。この陣が彼らを此処に縛り付けていたのかもしれない。悩み、考えるのはーーきっと、もう後のことだ。今はただ、少女の無事とこの狂った舞台の幕を引く為に領主の間へと向かうべきだろう。
 いち早く、領主の館付近へと到達した二人の目に見えたのは、館内の廊下を進む少女の姿だった。追跡するように見えた黒い影は使い魔か。然程攻撃力が高そうには見えなかったがーー館への突入は全員揃ってからの方が良いだろう。静かに視線を交わし、二人は少女の歩みを見守った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ホント吸血鬼ってのは趣味悪くて回りくどいのばっか

花道の灯から少し外れた屋根の上を、落ちないように
敵に掴まれないよう跳躍交え素早く進む

亡霊とかいう喰らい甲斐の無い輩は丸呑みが一番かしらネ、と
右目に仕込んだ「氷泪」を解放
体内の血により赤から薄青へ染まる雷を奔らせ、敵を飲み込む

手が空くならバランスも取りやすくてイイ
屋根から屋根へ跳びつつ『空中戦』仕掛け、手の内の影より【黒嵐】召喚
敵へ旋風ぶつけ反撃を封じながら
『2回攻撃』で『傷口をえぐる』よう雷で撃ち抜いてくネ
魔法陣壊しゃ消えるとはいえ、数が減らないのは厄介だもの

魔法陣を発見したら雷で焦がし「柘榴」で断ち切る
コレじゃ腹の足しにもなりゃしない



●薄闇の空
 ーー古い、骨の匂いがした。
 怨嗟に満ちた叫び声の中、影が飛ぶ。煙突を蹴り上げ、空へと身を飛ばした青年の髪が月明かりに紫雲を晒す。
「ァア、ァアアア!」
「届かないよネ」
 やれ、と着地した先でコノハ・ライゼ(空々・f03130)は良い気をつく。花道の灯から少し離れた屋根の上を、たん、とコノハは蹴った。亡者の群はーー奥の方が多いか。一体一体は然程耐久力は無くとも、面倒な相手であるのは事実だ。腕に浅く受けた傷から流れ落ちた血を見送り、着地した先で領主の館の灯りが見えた。
 分かりやすく、此処だと言わんばかりの灯りだ。
「ホント吸血鬼ってのは趣味悪くて回りくどいのばっか」
 少女は辿りつくだろう。今ここで、帰るという選択をしていない以上。彼女は進みーー吸血鬼は己の元へと辿り着くのを待っている。
 少女の希望を絶望へと変えるために。
 縋るように抱いた剣さえ作り物であったと。
「ァアア、ァアアア!」
「ーー……」
 はぁ、と響く怨嗟に息をつく。亡霊に掴まれないよう進んでいたが、この辺りが限界か。流石に数も多い。領主の館へと近づいている所為か、それともーー何かがあるのか。
「若しくはその両方か、ネ」
「ァアア、ァアアア!」
 ぐん、と滑るようにして飛び込んできた亡霊の腕が突き出される。抜き手に半ば反射的にナイフを持つ手を振り上げた。逆手で受け止め、跳ね上げたそこで、たん、と距離を取る。
「亡霊とかいう喰らい甲斐の無い輩は丸呑みが一番かしらネ」
 す、とコノハは右の瞳に触れる。薄氷の瞳。氷泪。深く刻まれたシルシを、零れえぬ、うすいうすいアオの奥にあるものをコノハは解放する。
「……」
 薄く、落ちた息が夜の闇に揺れる。眼鏡の奥、薄氷の右目が淡く光を帯びーー体内の血が、雷光を呼び寄せる。ゴウ、と一度空が唸り、薄青へ染まる雷が亡霊を飲み込んだ。
「ァ、ァアアアアアアッ」
 最後に一つ、跳ねた声を残し何かが砕ける音がした。どろり、と崩れた亡霊を見送れば、その奥からず、と腕が伸びてくる。
「きりがない」
 その手に、コノハは踏み込む。寸前で顔だけを逸らし、足裏で屋根を掴む。たん、と跳躍は力強く、空でくるり、と身を返した青年の瞳が亡霊を捉えた。
「つかまえて」
 一言、そう、そっと告げれば手の内の影から黒き管狐が姿を見せた。くるる、と耳に届いたその音は鳴き声かそれともーーこの風の音か。
「ヒ、ハ、アハハハ……ハ!?」
 旋風に切り裂かれ、腕を落とした亡霊が怨嗟と共に身を揺らす。崩れないのだ。瀕死の身を、己を押しとどめる地に返せない。あの旋風こそが、亡霊の反撃を“封じた”のだ。
「ァア、ァアアアア!」
 その事実に気がついたのか。亡霊が空に吠える。ぐ、と伸びる腕が、思うより早く近づいたのは奴が浮いたからか。亡霊である以上不思議は無いがーーその程度のことで捕まる気も無い。
「生憎ネ」
 身を、落とす方に力を入れる。着地に勢いをつける。落下の勢いさえ利用するコノハの、だが、足音は小さなままーー氷泪が、亡霊たちを見据えた。
「魔法陣壊しゃ消えるとはいえ、数が減らないのは厄介だもの」
「ァアア、ア……!?」
 ゴウ、と空が唸り声をあげ、雷が落ちる。赤から薄青へと染まる光が亡霊たちを撃ち抜いた。
「ァア、ァアアアッ」
 跳ねた声と共に、キン、と何かが砕ける音が耳に届く。亡霊の核となったものか。
「ーーあぁ、あれかしらネ」
 薄闇を割いた光の向こう、一瞬、見えたものがあったのだ。背後で、空間が揺らぐのに気が付きながらコノハは魔法陣へと向かう。雷で焦がせば、ギンと壁とは思えぬ硬質な音がした。バキ、と罅の入った陣を柘榴で断ち切る。ナイフの斬撃に、ぐらり、ゆらりと背後に立ち上がっていた亡霊たちが崩れていく。
「ァア、ァアア……!」
 絶叫の間、キン、と聞こえたのは硝子に似た破砕音だった。
「コレじゃ腹の足しにもなりゃしない」
 何度目かの息をつき、先を見る。館の近く、尖塔の付近に見える人影は猟兵のものか。
「急ぐかネ」
 この一区画に関しては、亡霊は消えた。薄闇だけが残る空間をコノハは駆けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・明
【花青明】
過去はもう変えられなくても
変えることのできる未来はあるはずなのよ
いけすかないやつら、ぜーんぶこてんぱてんにしてやりましょう!

屋根の上を駆け抜けながら
「空中戦」で戦うわ
落ちそうになったら「吹き飛ばし」の反動を使い「ジャンプ」で戻るわ

「破魔」「鼓舞」を込めて「歌唱」を使った『サウンド・オブ・パワー』で
猟兵の仲間たちの支援を行うわ
攻撃がこちらに来そうになったら「オーラ防御」で防ぎつつ
「カウンター」で「シールドバッシュ」していくわ

ザッフィーロ!オブリビオンなんだから殴れば死ぬわ!頑張って!
死ぬまで殴れば死ぬでしょう! ね、涼さん!
後衛で支援に徹するけれど、魔法陣を見つけて届くなら壊すわ


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【花青明】
十字架と小刀の『破魔』の力を信じつつメイスを伸ばし『ロープワーク』で登り屋根の上を進む
攻撃すれば倒せる…か
彩花が言うならば信じよう…

敵を視認した時は一瞬怯む様に動きを止めるも
別に怖くはないがな。倒せぬ場合はお前達だけは逃げろ…?と声を投げつつ【罪告げの黒霧】を闇に紛れさせて敵へと放とう

明…本当か?ホラー映画の化け物は死なずに襲って来たぞ…?
攻撃が効いたら安堵の笑みと共に嬉々としてメイスを構えよう
攻撃さえ効くのならば恐れる事はない故

その後は前衛にて『かば』い『盾受け』にて皆を庇いながら進んで行こう
勿論魔法陣を見つけた場合は壊す事は忘れん
…攻撃が効かぬ怪談の幽霊が生まれたら大変だから、な


彩花・涼
【花青明】
この世界で好き勝手はさせん…
特に吸血鬼にはな
……ザッフィーロ
亡霊といえど攻撃すれば倒せる、臆するなよ?

【地形の利用】【戦闘知識】で
屋根の滑らない箇所を選んで動くぞ
いざという時は、黒柵で屋根飾り等を起点に命綱代わりに動く

黒爪で【スナイパー】【クイックドロウ】で
【2回攻撃】しながら敵を牽制して黒華・改で斬り込み
【生命力吸収】し敵の生命力を奪おう
亡霊に生命力があるかは不明だがな

敵の攻撃には【見切り】と【残像】で回避し
隙があれば【カウンター】を食らわせる
敵のUCには【呪詛耐性】で耐えきるぞ

メイの支援は助かる…思う存分戦えるからな
数が減ってきたなら一気に終わらせよう
UCですべて撃ち抜いてやる



●今日から未来へと
「アァアア、ァア」
「ァアアアアアアアア!」
 屋根上へと飛び上がれば、最初に見えたのは無数の亡霊たちだった。死者の呻きが重なり響くように夜の空に落ちる。旧市街の屋根上から見れば、地上の通りは明らかに作られた形をしていた。
 いっそわかりやすい程に。
 だが、地上を辿った少女がそれに気がつくことは無い。だからこそ進みーーだからこそ「まだ」生きている。
「過去はもう変えられなくても、変えることのできる未来はあるはずなのよ」
 きゅ、と拳を握り、逢坂・明(絢爛エイヴィヒカイト・f12275)は緑の瞳でまっすぐに前を見た。
「いけすかないやつら、ぜーんぶこてんぱてんにしてやりましょう!」
「この世界で好き勝手はさせん……。特に吸血鬼にはな」
 応じたのは少年のような姿をした娘であった。彩花・涼(黒蝶・f01922)は夜風に外套を揺らしながら、黒爪へと手を伸ばしていた。撃鉄を引くにはまだ少しばかり早いか。最初の屋根を駆け抜け、次の屋根へと飛び移れば死者の群れが近く。
「……」
 そうなれば勿論、十字架と小刀に触れていた長身にも気がつくわけで。
「……ザッフィーロ。亡霊といえど攻撃すれば倒せる、臆するなよ?」
「ーー」
 その声に、長身の美丈夫の反応が一拍、遅れる。はたはたと靡く司祭服はこの中で最も『今の状況』に似合いの筈だというのに銀の瞳は死者の群れを一度見据えていた。
「攻撃すれば倒せる……か。彩花が言うならば信じよう……」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)はそう言ってーーだが、飛び移った先で見た亡霊の群れに、ゆらり伸びる手に一瞬、怯む。
「ザッフィーロ」
 大丈夫か? と僅か気遣うような色を見せた涼の声に、男は緩く首を振る。ぱさぱさ、と髪が揺れた。
「別に怖くはないがな。倒せぬ場合はお前達だけは逃げろ……?」
 そう怖くは無いのだ。別に怖く無い。
 ただそう、倒せなければ面倒なだけだ。あんな霞っぽいのとか。ゆらゆらしているのとか。向こう側の景色が透けているのとか。
「ーー……」
 ちょっとだけ、考えすぎたような気もする。
 は、と小さく息だけを零し、ザッフィーロはその手をすい、と戦場に伸ばした。
「罪なき者には効かぬと聞くが……、……試してみるか?」
 ふわり、と一瞬空間が歪んだ。掌に囁き落とすように零された身に満ちた穢れが混じる黒い毒霧の吐息が亡霊へと向かう。
「アァア、ァアアアア!?」
 避けることなど知らぬ死者が、毒霧に身を染める。踏み込みが一瞬、鈍り、霞のような体がその色を更に澱ませる。
「ァアアア!」
「ーー」
 ぐん、と跳ねるように顔を上げたのは反撃の為か。地を蹴る代わりに、滑るように向かってきた亡霊がザッフィーロの正面を狙った。
「悪いな」
 そこを、涼が撃ち抜く。パン、と乾いた銃撃音と共に頭を撃ち抜き、それでも倒れぬ亡霊の心臓へと二発目を叩き込む。
「ァア、ァアアアッ」
 跳ねるような声を最後に、パキン、と何かの割れる音がした。どろり、と崩れた死者の向こうから、ぐ、と手を伸ばしてきた亡霊に涼は反射的に黒爪を構える。
 ギン、と鈍い音がした。
 抜き手の一撃。浅い衝撃が肩口に残る。けれど此処は、この至近は涼の間合いだ。
「終わりだ」
 銃を持つ片手を下げ、そのまま落ちてきた亡霊に黒華の名を持つ刃を突き立てた。
「ァア、ァアアアアア!」
 一撃に、亡霊が身を揺らした。傾いだのかと思ったがこれはーー違う、と涼は思う。
「気をつけて!」
 後方から明の声が響く。
「そいつ、透けてきてる!」
 まるで『此処』からいなくなるみたいに。
「ーー」
 その言葉に、反射的に身を飛ばした。屋根上とはいえ、滑らない場所は最初から認識している。
「ヒ、フ、ハハ、ハハハハ!」
 亡霊は、霞のような身体を呪いそのものへと変えていく。どろり、と空気が重くなり、怨嗟の密度を上げた死者はーーだが、瞬間、目の前から姿を消した。
(「違うこれはーー『来る』」)
 ぶん、とバックハンドの一撃を涼は選ぶ。半ば勘だ。なぎ払った刃は、ひゅん、と空を切りーーだが、何かに触れる。
「ァアアア、ァアアア!」
 亡霊だ。
 肩口に刃を沈ませたまま、だが、ぐ、と伸びてきた手が涼を掴む。取り憑く気か、死者の呻きに肌が焼けるような痛みが走る。
「悪いがーー……」
 連れていかれるつもりはない、と撃鉄を引く。一撃は浅いがーーだが、ふわり、とザッフィーロの操る毒が届く。指先を空に滑らせ、戦場を見据えた彼を視界に明は声を上げた。
「ザッフィーロ! オブリビオンなんだから殴れば死ぬわ! 頑張って!」
 ひとつ、息を吸う。言の葉に、吐息に。呼吸に、戦う術を込めるように。歌声は破魔を宿す。戦う仲間を鼓舞する。そう、幾ら亡霊でも彼らはオブリビオンで、骸の海へと帰るべきなのだから。
「明い本当か? ホラー映画の化け物は死なずに襲って来たぞ……?」
 ザッフィーロの言葉に明は力強く言い切った。
「死ぬまで殴れば死ぬでしょう! ね、涼さん!」
「ーー……まぁな」
 その言葉の力強さの裏にあるのは、明が亡霊をーーいや、お化けというものをどう思っているかなのか。歌声のお陰で、軽くなった身体で亡霊を振り払った涼は小さく息をつく。呪詛の耐性のお陰で、そこまで踏み込まれてはいない。
「メイの支援は助かる……思う存分戦えるからな」
 敵の数は例え多くともーーこの三人なら戦える。戦い抜くことができる。ひゅん、と飛び込んできた相手に叩きつけたメイスが『効いた』ことで、ザッフィーロも動きを変えてきていた。
「ァア、ァアアア!」
 咆哮とも、絶叫とも聞こえる亡霊の声に、ひゅ、と伸ばされた腕にザッフィーロは身を横に逸らす。最低限の回避から、沈めた身体で一気に踏み込みーー。
「攻撃さえ効くのならば恐れる事はない故」
 メイスを、叩きつけた。
 安堵の笑みと共に嬉々として構えたザッフィーロの一撃に、亡霊が四散する。パキ、と奥の方で何かが砕ける音がする。
「核、か? 随分と乾いた音だったが」
「あれが聞こえたら倒せたってことだね」
 歌声を響かせながら明が告げる。あ、前! と響く声と亡霊の怨嗟が重なった。
「ァアアア、ァア」
「ヒフ、ハハ、ハハハ……!」
 怨嗟の声を重ね二体、その奥に一体、滑るように飛び込んできた亡霊にザッフィーロは動く。涼の前、飛び込んだ男が一撃を受け止めれば、亡霊の霞のような体が変じていく。
「呪いへと身を寄せたか」
「けど、その状態は脆くなる、から」
 どろり、と身をほどくように笑いながら死者が姿を消す。眼前から消えただけ、だ。残る二体はそのまま飛び込んでくれば、庇うようにザッフィーロは手を伸ばした。
「さぁ……」
 囁き落としたその声は、血に染めた指先を向けた亡霊を見据える。零す吐息は毒に染まり、眼前の二体を絡め取る。
「ァア、ァアアアア……ッ」
「ヒ、フ、ハ、ハハハ……!?」
 前の二体だけ。だ。そう分かっている。これはひとつ、準備であり援護なのだから。
「彩花」
「ーーあぁ」
「涼さん!」
 声が届く。歌声が届く。警戒を告げる己の感覚に息を吸い、黒爪を構える。
「ーー其処だ」
「ァア、ァアア?」
 ぐ、と掴まれたそこに、飛び出してきた相手を最後の一体として涼はの瞳は捕まえた。
「舞え……」
 黒蝶が踊る。
 涼の周囲に舞う黒蝶を変化させた漆黒の弾丸が、一気に亡霊へと放たれたのだ。
「ァアアアアア……ッ」
「ヒフ、ハ、ハハハハ……ッ」
「ァアアアア……ッ」
 無数の弾丸が亡霊を撃ち抜き、破砕音が響く。呪いを帯びた体はどろり、と溶けーーその奥に魔法陣が見えた。
「これだな」
 やれ、と息をつきザッフィーロは赤黒くーー古い血で描かれた魔法陣へとメイスを叩き込む。
「……攻撃が効かぬ怪談の幽霊が生まれたら大変だから、な」
 ぽつり、と落とした声は仲間へと届いたか。
 さぁ、先を急ごう、と明の声が夜の戦場へと響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
まさに呪われし選定の剣ですね。
微力ですが、影から助力致しましょう。

空が飛べれば早かったのですけど。
軽く指先を切って、細い血の網を巡らせ。
私は自分の脚で網を足かけ、進みましょうか。
道筋がわかっているのは有り難いですね――狩りがしやすい。

亡霊には鉄錆仕掛け、畳み掛けるように聖釘を投げる。
血の鎖を繋ぎ、拘束、距離を詰めて止めを狙う。
生身でない相手は戦い甲斐がないですね。

……彼らも曾てこの試練に挑んで敗北した者達なのでしょうか。
その苦痛、私には大した試練でもありませんが。
今日初めて勇者が生まれるかもしれませんよ。

魔法陣もちゃんと破壊しておきましょう。
勇者にも亡霊にも、なるものじゃないですけどね。



●滴り落ちる血の底に
 血の匂いが遠い。古い骨とーー僅か、呪いめいたものの気配が旧市街を包んでいた。巡らせた血の網を蹴り上げ、影は屋根上を行く。
「ァア、ァアアア……!」
 亡霊の伸ばした腕を躱し、夜の空で身を回す。着地さえ鮮血の網の上に。ばさばさと靡く黒衣の裾を払うこともない侭、腕を振るった。ぐん、と振り返った死者の首を落とすように、振るった鉄錆はつぷり、と泥にでも沈んだような感覚を黒蛇・宵蔭(f02394)の手に返す。
「……おや」
「ァアアアア、ァアアアア……!」
 絶叫は怒りか、痛みか。
 獣の咆哮にさえ似たその声は、霞のような体に想像以上の速さを与えていた。来る、と思ったその一拍前に、腕が来る。貫手に、だが正面から来るのであればそこに宵蔭は聖釘を放った。
「ヒ、フフ……アァァアア……ッ」
 跳ねる音を最後に響かせ、亡霊は崩れ落ちた。パキン、と聞こえたのは核が崩れた音だろうか。
「此処に魔法陣はなし、ですか。少女は既に通った後のようですが……」
 向かう道筋、というのが上からであればよく分かる。領主もこれを見下ろしているのか。少女は何も知らずーーいや、待っていることを知りながらその『剣』を信じて進んでいるのだろう。
「まさに呪われし選定の剣ですね。微力ですが、影から助力致しましょう」
 一体、また一体と浮かび上がる死者たちは屋根の上を一区画としているのか。通り抜けた先を追っては来ない。魔法陣を見かけなかった以上、術式的には区画はひとつ、という可能性が高いがーー……。
「ひとまずは目の前の相手、でしょうか」
 奥にある屋根上を見据える。姿こそ見せてはいないがーーいる、と分かる。こちらを待っているのか、行かなければ出てこれないのか。既に猟兵たちの進行が進んでいる今、屋根上の亡霊たちの多くは迎撃の態勢へとそのあり方を変えている。踏み込んできた者への反射的対応ではない。
「ァア、ァアアアアア……!」
 背後で生まれた亡霊にやれ、と息を吐き、鉄錆を持つ腕を横に滑らせる。ひゅ、と空を切り裂く音が耳に届く。手に変える感触は相変わらず悪くーーだからこそ、黒衣は先を行く。
「空が飛べれば早かったのですけど」
 迷うことなく、屋根の端に足をかけ、距離のある夜の闇へと飛び出した。アァアア、と背後で響く亡霊の声を置いて、指先を軽く切れば赤い血が夜の空に舞った。
「我が血よ――捉え、縛り、裂け」
 こぼれ落ちた赤は、地に落ちることなくーー僅か、光を帯びた。赤々と、鮮やかなまでに色彩を見せ天網へと変じる。
「道筋がわかっているのは有り難いですね――狩りがしやすい」
 その網の一角に、足をつく。着地は一瞬。足場にだけして宵蔭は一気に、屋根へと降りる。向かう主を追うように呪血は結実した。
「ァア、ァアアア……!?」
「ヒ、ハ、ァア、ァアア……!?」
 それは血で描かれる卦。
 血で編んだ鎖は、赤々と光る瞳が見据えた先を、夜に立つダンピールのいる地にある者を容赦無く引き裂いた。
「ァア、ァアアア……!」
 霞のような体が裂け、どろり、半身を崩した死者の腕は、だが、鎖に捕らわれてはこれ以上、伸びはしない。伸び切った手に先はなく、咆哮じみた声が響く中、宵蔭は身を前に飛ばした。
「ヒ、ハハハ……!」
 近づけばそれが好機と信じたのか。残る身を前に倒し、喰らいつくように大口を開いた亡霊の喉元へと宵蔭は聖釘を投げつけた。
「ヒ、アア、アァアア……ッ」
 どろり、と死者が崩れる。喰らいつくはずの牙は空を切り、古い骨の匂いだけが漂う。
「生身でない相手は戦い甲斐がないですね」
 流れる血さえなく、落ちるのは霞とーー泥めいた何かか。
「……彼らも曾てこの試練に挑んで敗北した者達なのでしょうか」
 旧市街に生者はいないという。ならばこの旧市街は、何の為に存在していたのか。これ程の規模、最初は普通の旧市街として存在していたのかもしれない。そしてその領主があの吸血鬼であったとすればーーこの地にも同様のことが起きたのか。
「……」
 形ばかり綺麗に出来上がった街を見下ろしていれば、チリ、と肌を焼く感覚がした。
「そこですか?」
 ひゅ、と腕を振るう。左を選んだのはーー結局のところ勘に近い。若しくは己であれば其処を選ぶだろう言うような感覚だった。
『お前は』
「……」
 ぐらり、と揺さぶれる感覚と共に己を呼ぶ声がした。呼ばれている、とそう思ったのは、響いた声に覚えがあったからか。いや、知っているようでそれはまるで知らないような声であった。何を、と薄く唇に笑みを敷いたその瞬間、声は悲鳴に変わった。
 嘘だ。違うと。そんなことではないのだと。亡者へと変じる友人の、弟の前で女は首を振る。
『だって、みんなを助けてくれるって言ったじゃない。私さえこの薬を飲めば、全部終わる筈だって……!』
 絶叫に、ぐ、と意識を持っていかれる感覚があった。引きずりこみますか、とその感覚に、身を裂いていくかのような痛みに宵蔭は薄く笑う。
「その苦痛、私には大した試練でもありませんが」
 それがこの亡霊の抱いたものであるということは、確かに分かった。だからこそ、ひとつ男は告げる。
「今日初めて勇者が生まれるかもしれませんよ」
 浅く切った指先に力を入れるようにして意識を引き戻し、握る鉄錆を赤く染める。現実へと己を引き戻せば、赤く染まった腕が目に移る。そこに伸ばされた腕も死者の空っぽの瞳も。
「ァア、ァアアアアア……ッ」
 そこを見据え、鉄錆を振り上げる。有刺鉄線の鞭は宵蔭を中心に孤を描き、亡霊を引き裂く。霞が散り、パリン、と何かの砕けた音を聞けば屋根上に描かれた魔法陣が目についた。腕を引きおろす勢いそのままに、鉄錆で魔法陣を打ち据えれば派手な破砕音が響き渡った。
「勇者にも亡霊にも、なるものじゃないですけどね」
 どろり、と重く屋根上に残っていた亡霊の名残が砂となって消えていく。月明かりに死者の骸は消え果て、空気の変わった屋根から宵蔭は領主の館へと目をやった。後は、あの場所へ向かうまでだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
随分手の込んだ事やるさよね。なかなか悪趣味だ。

屋根の上の更に上。背中の翼使って空の闇に紛れる様に飛んで進む。
仲間の猟兵を見失わない様に高度は上げず。
敵を見つけたら目敏く炎鎖を撃ち込む。援護的立ち回りも理想。
霞になる前に、浄化の炎でその呪いを焼き尽くしてやろう。
壁や床から出てきても、こちとら基本空中さよ。
捕まる前に空に逃れて鎖で貫く。
魔方陣は発見次第、片っ端から同じ様に鎖で一撃叩き込んでぶち壊す。
延焼する前に、標的焼き尽くしたら炎は消えるように。
目立つのもだし、火事になっても困るよな。

――この亡霊――こいつら、元々この街の住人だったのかな。
こうして倒す事で少しでも救いになれば良いんだけど。


アウレリア・ウィスタリア
ボクは飛べば落ちることはありませんが
念のため落下しそうになれば血糸に鞭剣で身体を支えましょう

あまり目立つわけにはいきませんので
【空想音盤:追憶】の花弁に破魔の力を宿し
破魔の嵐となって一気に進みましょう
亡霊が花弁に触れて怯めば魔銃で確実に仕止めましょう
倒し損ねて繰り返し戦うことになるのは面倒ですから

希望を与えて絶望に落とす
そんな茶番劇、これ以上やらせはしません
絶望に落ちる前に希望を本物に変えてみせますから…

……希望
自分で言っていて不思議ですけど
ボクの中にも、希望が、絶望を封じ込めた思い出以外の
確かな希望はあるのでしょうか

アドリブ歓迎



●緋色の使者 終りの告げ人
 月夜に紅き翼が開いた。闇を縫うように飛ぶオラトリオに亡者たちの手が伸びる。然程、高度は取ってない。気がつかれるのも想定内だ。引きずり下ろすように来る腕を避け、夜空を叩いた羽と共に牽制のサーベルを抜く。
「ァア、ァアアアア……!」
「悪いさね」
 腕を落とす。どろり、と妙な感触が手に返れば、早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は柘榴紅の瞳を細めた。
「……、骨さえ残ってないさね」
 青白い肌も、骨ばった体も。何処までも形は生者のそれを残しているというのに、亡霊たちには中身と言われる物が無い。霊であるから構わないのか。ただ一度、屋根上に足をつけた翼は、くん、と顔をあげた。翼を広げ、飛ぶように地を蹴った。瞬発の加速。亡霊たちの手を縫うように飛び抜け、群れの中央へと向かい炎鎖を撃ち込む。
「終わりさよ」
「ヒ、フ、ハハ、ハハハ……!」
 笑う亡霊の眼前にて沈み込み、展開した鎖が、ごう、と唸った。パリン、と泥のように崩れ落ちる死者の奥で何かが割れる音がする。
「……」
 亡霊として、縫いとめるための核か。
 古い骨の気配に翼は小さく祈りの言葉を口に乗せる。ーーこれで、もう。と囁き落とした言の葉は夜の闇に紛れ、一度の静寂に息を吐く。
「随分手の込んだ事やるさよね。なかなか悪趣味だ」
「……はい」
 応じたのは花弁と共に舞う娘だった。踊るネモフィラの花弁と共に、屋根を飛び越えた娘の髪が揺れーー僅か、琥珀の瞳が細められる。そこに乗った情は果たしてどんな形をしていたのか。黒猫の仮面に覆われたアウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)の表情は伺えずーーだが白黒の翼は、僅か口元に宿った憂いを残すように広がる。
「……」
 此処も、誰かの故郷であったのだろうか。
 ほんの僅か浮き上がった何かは、だが、形を得る前に亡霊の訪いを得た。
「ァア、ァアアア……!」
「ヒ、フ、ハハ、ハハハ……」
 着地に反応したか。それとも『奥に進んできた』事実に反応したのか。通りに少女の姿は既に無くーー彼女は領主の館内部へと入ったのだろう。館近く、尖塔に辿り着いた他の猟兵の合図が小さく、見える。
「警戒の時は終わったから、でしょうか」
「そうさね。反応としてはさっきまでは反射型っぽかったけど……、今は、迎撃型さね」
 空間に飛び込んだ時の反射。目に入った時からの攻撃。旧市街に入った時は、亡霊たちの反応はその程度だった。奥に進むにつれて、警戒が高くなるのは不思議はない。けれどそれも『少女の姿が見えなくなってから』だ。
 元々が、この地に訪れたーー招かれてしまった人を監視する為の亡霊。招くべき少女が主人の居城へと辿り着けば役目の優先順位も変わるか。
「猟兵ってよりは生者を狙うさね」
 飛ぶ鳥さえいれば、彼らはそれを狙うだろう。だが吸血鬼の居城に優雅に飛ぶ鳥の姿もなく、夜半に聞く虫の声もない。あれほど明るいのに、迷い込む者さえいないのだ。
「ま、考えている暇は無さそうさね」
「……はい」
 応じる声はひとつ、短く。
 アウレリアは身を、前に飛ばした。
「ァア、ァアアアア……!」
 接近に、亡霊の腕が伸びる。捉える気なのだろう。腕に、白黒の翼に。むしり取るように伸びてきた死者の指先に地を蹴る。身を横に振って、一度、沈み込んだ体で屋根上に手を置く。
「ここにはない記録を追憶し、空想で奏でる……」
 とん、と白い指先が屋根に触れた。すぅ、小さく息を吸ったアウレリアの手の中、あった武器がネモフィラの花びらへと変わっていく。
「遠い世界の絆の証、愛するもの全て護る勇気の象徴」
 空想音盤。追憶の名を持つその言葉が、破魔の力と共に解き放たれた。
「ァア、ァアアア……!?」
 それは破魔の嵐。花弁と共に舞う娘が、一気に亡霊との距離を詰めた。ネモフィラは伸ばす死者の指を払い、ぐらと揺れた亡霊が身を崩すよりも早く魔銃を向ける。
「倒し損ねて繰り返し戦うことになるのは面倒ですから」
 零距離からの射撃。嵐を縫うように、僅か届いた亡霊の指先がアウレリアの肌を裂く。
「ーー」
 だがそれに、娘は瞳さえ細めずに銃口を向けた。ガウン、と一撃を叩き込み、そのまま、前に出る。ちり、と頬に一瞬、感じた熱があったからだ。
「ーー主よ」
 空へと、飛び上がったオラトリオの姿が其処にはあった。亡霊たちの間を抜い、空へと上がった翼の指先が地上に向く。ばさり、と広げられた翼が月明かりに煌いた。
「罪深き者に裁きと戒めの業火を」
 斯くして、男の白き手から炎は落ちる。手首の傷痕から一筋、伝い落ちた赤は空にて炎へと代わりーー鎖を紡ぐ。炎を纏った鎖は、ただ一度、ごう、と唸る。
「ァア、ヒ、ァ、ァアアア……!」
 見上げた亡霊が腕を伸ばす。ーーだが、穿つ鎖の方が早いのだ。
「ヒ、ハハ、ハ……!?」
 ただ一撃であれば構わぬと。胸を炎を纏った鎖に穿たれながらも進み出そうとした亡霊の足が、崩れた。
「ハ、ハヒ、フ、ハハ、ハハ……!?」
 狂ったような笑いに、その奥にある殺意に。伽藍堂の瞳に翼は紅蓮の炎を以って応える。鎖と炎は浄化の力を持つのだ。
「これで、眠るさよ」
 おやすみとは言えず、だが、怨嗟の瞳から逃れることはしないままに翼は告げる。
「ァア、ァアアアア……ッ」
 最後の声は跳ね、どろり、と崩れた亡霊の向こうから屋根を蹴り上げた死者の咆哮が響いた。何時迄も空にはいさせない、とでも言うつもりか。
「ァア、ァアアアア……!」
 霞のような体を呪いへと変え、突然現れた壁から飛び上がった亡霊はーーだが、その眼前に舞い上がった花を見る。
「……終わりです」
 告げたのはアウレリアであった。ネモフィラの花びらが呪いへと変じた亡霊を包み、あ、と最後、跳ねた声に銃口を向けた。
「――この亡霊――こいつら、元々この街の住人だったのかな」
 飛び上がった一体が現れた壁に、魔法陣は描かれていた。鎖で穿ち、破壊を確認したところで一度、屋根上に降りてきた翼は軽く身を浮かせたまま息を落とす。
「こうして倒す事で少しでも救いになれば良いんだけど」
 亡霊たちは魔法陣の破壊を合図とするように、どろりと崩れていった。この一区画、彼らはもう姿を見せることはないだろう。
「……」
 あれが、亡霊たちをこの場所に縛り付けていたのだろう。古い血と、骨で描かれた魔法陣。
「希望を与えて絶望に落とす。そんな茶番劇、これ以上やらせはしません」
 すぅ、とアウレリアは息を吸う。
「絶望に落ちる前に希望を本物に変えてみせますから……」
 少女は、妹たちの命を守るためにひとかけの希望に縋った。願ったのだ。
「……希望」
 ふと、口にした言葉をアウレリアは繰り返す。口の中、馴染ませるように紡いだ言葉に胸の奥がざわついたのは何故だろうか。
「自分で言っていて不思議ですけど、ボクの中にも、希望が、絶望を封じ込めた思い出以外の確かな希望はあるのでしょうか」
 その解は未だ出ぬまま。夜の風だけが、優しく二人の頬を撫でていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
役者に釘付けの演出家の裏をかいて
横っ面を殴りつけたい
…うふ、野蛮な楽しみだねぇ
でもそれが狩りというものだ

落しては駄目だというなら
高速詠唱Mirror of labyrinthで
屋根上を囲んでしまおう
Open Sesame!出口は一つだ
迷宮内の地形の利用には分があるだろう
時間稼ぎをさせて貰うよ

踊っておくれアンジェリカ
僕の為に

敵動向は暗視、第六感、見切りで予測
接敵して先制攻撃から
フェイントで翻弄しながら死角からの2回攻撃
武器受けと盾受けも行い
膠着すればmariaでの零距離射撃、援護射撃

魔法陣は失せ物探しにあたるかな?
発見次第、破魔と封印を解くで破壊
壊し漏れが無い様に気を配りながら
彼女の後を追うよ



●夜空とワルツ
 軽やかに屋根上を飛びこせば、古い骨の匂いが鼻先で踊った。血の匂いさえ古く、人気の失せた旧市街は作り物の気配だけが残る。
「役者に釘付けの演出家の裏をかいて、横っ面を殴りつけたい」
 ……うふ、と笑う息が溢れた。艶やかな林檎のような赤を含む茶の瞳を細め、クリストフ・ポー(美食家・f02167)は口の端に笑みを浮かべた。
「野蛮な楽しみだねぇ。でもそれが狩りというものだ」
 コトン、と足音は高く。黒衣を揺らしたクリストフは、ふ、と吐息を零して笑った。夜の空気が、騒ついたのだ。揺れるような、淀むような変化。何かな、と今更問う必要などない。
「アァア、ァアア」
「ヒ、ハ、フ、ハハ、ハハハハ……!」
 亡霊たちだ。
 一体、また一体と姿を見せる死者は群れというに相応しいか。屋根上を埋めるには足りずーーだが、さて、ただ倒すのであれば面倒な数だろう。道中、これまでの群れに遭遇したことはなかった。既に魔法陣が壊されている所もあったが、あの陣の範囲から此処はもう外れているということか。
「さて」
 亡霊たちが地上に降りることはなくとも、落とした時、あの旧市街の通りが戦場となった時ーー演出家は舞台の異常に気がつくだろう。知らぬ間に観客が増えたとしても、それを舞台に上げることなぞ許しはしないだろう。
「落しては駄目だというなら、屋根上を囲んでしまおう」
「ァア、ァアアアア……!」
 クリストフを動く気が無いと見たのか。ひゅん、と滑るように亡者がこちらに向かう。瞬間、頬に感じたのは夜気か、死者の起こす風であったか。ひゅ、と首元を狙い、振り下ろされた死者の腕がーー止まった。
「ァア、ァア!?」
「鏡地獄は知ってるかい?」
 ギン、とぶつかったのだ。堅い感触に、死者は漸く気がついたのか。ぐん、と顔が上がる。クリストフへと向けられた伽藍堂の瞳にダンピールは美しく微笑みーー告げた。
「あれ程じゃない、安心し給え」
 斯くして、その地は鏡で出来た迷路に覆われる。屋根上を囲むように、一区画、丸々を閉じ込めてクリストフは床を蹴った。屋根では無い。そこはもう、クリストフの作り出した迷路の中、だ。
「Open Sesame! 出口は一つだ」
 角を曲がり、先の貫手を打ち込んできた亡者へと接敵する。加速するように踏み込んだ先、亡者が振り返った。
「ァア、ァアアア……!」
 逃さぬとでも言うように、吠える亡者が瞬発の加速をする。間合いを喰らい尽くし、呪いとなった身を解き放つもりか。だがーーその腕が、飛んだのだ。
「ァア、ァアアアア……!?」
 霞のような体が、どろりと半分が崩れ、クリストフの視界が開ける。最初に見えたのは美しい白のドレス。伸ばされた指先が、踊るようなほっそりとした腕が、伸ばされれば亡者を切り裂く鎌を揺らした。
 それは麗しの花嫁。
 十指に備う銀の指輪と糸によって誓約された、花嫁の如き戦闘用人形。
「踊っておくれアンジェリカ。僕の為に」
 返す言の葉など無くても、赤い糸を引き寄せればアンジェリカはクリストフに寄り添うように踊る。くる、と回れば鎌が亡霊を引き裂き、エスコートするように差し出した手に白く美しいアンジェリカの指先がたどり着けば、だん、と亡霊の首が落ちる。
「ァア、ァアアア……!」
「ヒ、ハハ、ハハハ……」
 この迷宮は、クリストフが作ったものだ。地形の利用には分がある。呻き声を上げ、怨嗟の言葉を紡ぎながらも彷徨う亡霊たちを翻弄するのは容易だった。
「フ、ハハ……ッヒ、アァアア……!」
 斬撃にどろり、と亡霊が身を崩し、揺らぎと共に立ち上がる。強化された身を持ち、襲いかかってきた亡霊の腕はーーだが、ギン、とアンジェリカに阻まれた。凡そ、死者の腕から出るとは思えぬ堅音に、クリストフは銀の銃身を向けた。
「終わりだね」
 援護の銃弾が亡者を撃ち抜けば、パキ、と核の砕ける音が響く。どろり、とその身を崩した亡者の向こう、鏡が敵の位置を知らせてくる。相当数の亡者を此処に閉じ込めた。時間稼ぎは十分だ。
「アンジェリカ」
 囁くように告げ、手を重ねる。たった一つの出口を抜け、見つけた魔法陣を壊しきれば硝子の迷路から飛び出してきた亡者が砂のように崩れていった。パリン、と最後の破砕音を見送ってクリストフは戦場の奥をーー領主の館を見据えた。
「追いかけるよ」
 多分、少女が領主の間に辿りつくまで、もうすぐだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…つまりは戯れということか
余程退屈しているらしいな

夜に紛れる外套で目立たぬよう
<暗視>で魔方陣を探しながら
余計な音を立てぬよう、行けるところまで
屋根上空を緩やかに滑空

限界地点までに魔方陣がまだ先ならば
空中を渡る師を慣性のまま宙へと放ち、自分は屋根へ
亡霊どもを堰き止める
見えなければ共に

気配を殺し、着地は敵の真上や背後を狙い
短剣で貫き一体でも仕留めておく
【まつろわぬ黒】で牽制も兼ねて弱らせながら
一体を長く生かさぬよう
悲鳴を上げるならその喉ごと串刺しに
敵の数を減らしながら師のもとへ急ぐ

…猟兵のみならず
ヒトの世界を変えてゆくのは
あの兄妹の様な意思持つ者たちであるべきだろう


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、オブリビオンの卑しさには畏れ入る
いっそ哀れにすら思えてくるわ

常ならば艶めく髪を夜色の外套に秘め
持ち前の視力を活用し、音を立てぬよう空中浮遊にて魔法陣を捜索
それに魔術の類であれば優れた魔術師たる私が
オブリビオン如きの編んだ魔力を辿れぬ訳がない
上空より魔法陣を目視したならば、それに向け【暴虐たる贋槍】の一撃を放つ
ふふん、暗殺の類は我が領分ではないが
極力音を立てぬよう最善は尽くすとも
何、天才に遣れぬことはない

亡霊共の始末を担うジジの死角より取り憑かんとしようものならば
悲鳴を上げる暇すらなく贋槍で串刺しにしてくれよう
それは私のものだ、狼藉は許さぬ
大事ないかジジ――先に進むぞ



●世界を変えていくもの
 空っぽの街には、古い血の匂いがしていた。旧市街に生者の気配などなくーーだが、生活の跡のようなものがひとつ、ふたつと目につく。祭りでもあったのか、飾りをひとつ引っ掛けたままの煙突に、ベランダの枯れた花々。裏の通りであれば少女が気がつかぬと、そう思ったのか。整えられた舞台は、歪な箱庭のようにアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)に目に映った。
「やれ、オブリビオンの卑しさには畏れ入る。いっそ哀れにすら思えてくるわ」
 燃ゆる星を抱く瞳を細めたのは、魔法陣の効果範囲が見えたからだ。区画ごとに設置された魔法陣だ。その場に由縁があるのは可能性は高くーー否、旧市街から通りを見張るという形を思えば然程不思議はないのだろう。
「……」
 建物の種類だ。
 商店街。住宅街。
 亡霊たちの姿に変化は無かったが、数には大きく差があった。そも、領主の館があり『旧市街』とその名が残っている以上、此処はきっとーー……。
(「最初は存在した、か」)
 常ならば艶めくスターサファイアの髪を夜色の外套に潜め、音を立てぬようにアルバは空中を浮遊する。指先に足先から魔力を纏い、その瞳で見据えた先で魔法陣を見つけーーそうして、此処まで来たのだ。
「……つまりは戯れということか。余程退屈しているらしいな」
 はた、と揺れる布の音は夜風に紛れていた。夜に紛れぬ外套を纏い、余計な音は立てぬように、と小さな羽ばたきをひとつしたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は息を落とした。
 十字路を前にした旧市街には、やたら亡霊の数が多かったのはあの空間が、普通の街と考えれば人口が多いからか。
「ーー旧市街、その名の通りだろうよ」
 街は存在していたのだろう、とアルバの声が屋根上空を緩やかに滑空するジャハルの耳に届く。
「街であったと? 師よ」
「ーーあぁ。これはそういう魔力の流れだ」
 魔術の類であれば、優れた魔術師たる私がオブリビオン如きの編んだ魔力を辿れぬ訳がない。
 微笑と共に悠然と告げたアルバの眼と共に、二人は魔法陣を上空から破壊し続け進んできた。
『ふふん、暗殺の類は我が領分ではないが、極力音を立てぬよう最善は尽くすとも』
 何、天才に遣れぬことはない。
 そうだな、と従者は頷いたのか小さく微笑んだのか。満足げではあったらしい声は闇に溶け、ひとつ、ふたつと数を数える頃となれば、その系譜も見えてくる。先に進んだ猟兵たちが魔法陣を破壊している分もありーー余計だ。
 この地もまた、吸血鬼の実験場であったのだろうと。
「ァア、ァアアア」
「ヒ、ハハ、ハハハハハ……!」
 鐘楼の残る建物を前に、亡霊たちが月夜に身を起こしていた。数が増えたのは領主の館が近づいたからか。錆びついた鐘が音を鳴らす様子は無いがーー流石に、これ以上進めば敵に気が付かれるだろう。
「ーー師よ」
「あぁ、彼奴ら揃いも揃ってーー……」
 ああも、と続く筈の言葉は、腕を掴まれて消えた。ぱち、と瞬き一つ、ジジと呼ぶ頃には体が飛び上がっていた。ーーそう、飛んでいるのだ。浮いているのではなく。
「ジジ」
「魔法陣を」
 短く告げた従者は、アルバを慣性のまま宙へと放ち、ジャハルは翼で空を叩く。ひゅ、と小さな音と共に屋根へと向かえば、夜に紛れる外套が、はた、と揺れた。
「ァア、ァアアア」
「ーー」
 怨嗟の声は、頭上に迫る男には気がついていないのか。小さな羽ばたきを最後に、ジャハルは身をーー落とす。落下の勢いから、亡者の肩に足を掛ければ、傾ぐ体に黒の瞳を小さく瞬く。
「すり抜けはしなかったか」
「ァア、ァアアア!?」
 背に感じた重みに漸く襲撃者の存在に気がついた亡霊が叫ぶ。怨嗟と殺意に満ちた声はーーだが、落下の勢いのまま死者を引き倒したジャハルの突き立てた短剣によって散らされる。
「ァア、ア、ァアアア……!」
 まだ浅いか。ゆらり立ち上がった亡霊へと踏み込む。剣の間合いからすれば狭く、だが、ただ斬るのでなければ敵の只中に向かう意味もある。
「そら、くれてやる」
 薙いだ剣は亡霊の身に沈み、刃の通る感覚にさえ、ひ、はは、と笑った亡霊が、パキ、と破砕音と共にどろりと崩れた。
「ァア、ァアアア……ッ!?」
 黒刃、だ。
 薙いだ剣、その一撃から放たれた黒刃がジャハルへと手を伸ばす亡霊たちを引き裂いていく。剣風かーー否、魔術のそれに近い黒の刃はジャハルを中心に放たれ、ぐら、と崩れた亡霊へと、その奥を砕く為に屋根をーー蹴る。瞬発の加速から、敵の眼前にて、身を、一度沈める。
「ァア、ァア!」
「ーー」
 斬りあげる斬撃が亡霊の喉を貫く。打ち上げた刃を引き抜き、身を横へと飛ばしたのは反射だ。黒衣が亡者の貫手に切り裂かれ、僅か、肌に届く。チリ、という痛みだけを一度覚え、だが、身を飛ばした先で体を留めーー行く。足を止める気など、無かったのだ。敵の数を減らしながら、師のもとへと急ぐつもりでいたのだから。
「アァア、ァア……」
「ヒ、ハハ、ハハハ……!」
 亡者の数も此処までの群れとなれば、喉を貫く程の必要もないか。両手の数を超えたところで数えるのをやめて仕舞えば、霞のような亡霊の体がーー変わる。呪いそのものへと変じたのか。た、と踏み込んだジャハルの刃より早く、す、と亡霊が消えた。身を隠したのか。
「……」
 何処だとは言わず、剣戟の合間に視線を向ける姿を、アルバは宙から見ていた。ばさ、ばさと揺れる黒衣をそのままに、瞳は魔術の痕跡を探る。あと一つ、あと少しーー解を直前にして、アァア、ァア、と亡霊の声が跳ねた。
「ヒ、ハ、アハハハ……!」
「ーー」
 屋根の傾斜から、亡霊がジャハルへと手を伸ばしていたのだ。腕を掴む指先に、僅か血の匂いがしたのは先にジャハルを貫いていたからか。
「ァア、ァ……!」
 こらきれずか、亡霊の口から溢れた怨嗟に呪いを帯びた声音にアルバは手を向けた。
「それは私のものだ、狼藉は許さぬ」
 瞬間、風が生まれた。戦場の熱を巻き込み、暴虐の二つ名を持つ魔術は贋槍となってアルバより放たれる。
「ーー……ッ」
 パリン、と破砕の音だけが戦場に響き渡った。悲鳴をあげる暇すらなく、串刺しにした宙の魔術師はーーふと、そのまま瞳を細めた。
 一体、消えた先に見えたもの。糸。魔術の痕跡。
「あそこか」
 振り上げた指先が、残る風を贋槍として紡ぎあげーー放った。
「ァア、ァアアアアア……ッ」
 絶叫の果て、長く声を響かせながら亡霊たちは崩れ落ちていく。パリン、と響く破砕音は一度きりに、とん、と屋根へと降り立ったアルバはジャハルを見遣った。
「大事ないかジジ――先に進むぞ」
「あぁ」
 応えは短く、示された先ーー領主の館に視線をやったジャハルが薄く、口を開いた。
「……猟兵のみならず、ヒトの世界を変えてゆくのはあの兄妹の様な意思持つ者たちであるべきだろう」
「……」
 そうだろうな、と答えたのか。将又何も言わず、その言葉を見守ったのか。ほんの僅か、瞳を緩めたアルバは息ひとつ、ジャハルが吸い直すのを待つように夜の風に外套を揺らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノワール・コルネイユ
喩えどんな剣であったとして
素人が手に取ったところで何が出来る訳でもない
それでも、立ち向かおうと言うのだから…愚直なもんだな

…だが、解るよ。それが姉と言うものさ

【目立たない】様に行動して【暗殺】の要領で一体ずつ確実に仕留める
UCは攻撃力重視で発動し、1体に掛ける時間は可能な限り短く
複数体と相対した時は【範囲攻撃】、【なぎ払い】で纏めて斬り伏せる

魔法陣は手早く【破壊工作】で壊し次を探しに行く

亡霊相手に気の利いた手向けの言葉は持ち合わせちゃいない
だが…お前達を此処に縛り付けるものは直に無くなる

手荒で悪いな。今度こそ安寧の眠りに就くがいい

さて…後はこの悪趣味な舞台を作った奴の顔を拝みに行くとしようか



●呪いの剣
 抜けば呪われると聞いた。
 ならば抜かなければ良いと少女は思った。それならば自分にも持っていける。剣を『運ぶ』と言った少女は武器というものを持ったことがあるのだろうか。ーー否、きっと今日という日が初めてなのだろう。
「ーー……」
 屋根の端を蹴る。敢えて浅く飛び、低い屋根に一度身を潜め、揺れる亡霊を見上げるそこに飛び込んだ黒衣が揺れていた。
「ァア、ァアアアア……」
「ーー」
 気がつくか、否か。寸での其処で短剣を放ち、泥のように崩れ込んでくる体に長剣を突き立てーー引きずり落とす。
「ァア、ァアアアア……ッ」
 泥を貫くような感覚と共に、パキ、と奥の方で何かが割れる感覚がした。核が崩れたのか。薄闇に紛れるようにノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は屋根へと飛び上がった。
 古い、骨の匂いがする。死者の揺蕩う気配がする。
「喩えどんな剣であったとして、素人が手に取ったところで何が出来る訳でもない」
 黒髪が風に揺れ、赤い瞳が月夜に晒される。
「それでも、立ち向かおうと言うのだから……愚直なもんだな」
 ほう、とノワールは息をつきーーだが、吐息一つ零すように言った。
「……だが、解るよ。それが姉と言うものさ」
 口元、小さく緩んだのは苦笑かーーそれとも、全く違う色であったか。感情を乗せた瞳は、だが、次の亡霊の姿をひたり、と見る。
「ァア、ァアア」
「ヒ、フ、ハハ、ハハハハハ……!」
 数が多くなってきたのは領主の館に近づいてきたからか。姿を見ないあたり、少女は既に館の内部へと入っているのだろう。尖塔付近に猟兵達の姿も見える。その状況で亡霊たちがノワールの前に姿を見せるのはーーこの『場所』か。一度目の魔法陣破壊の後、確かに暫くは亡霊は姿を見せなかった。目立たないように行動していた分というのもあるが、恐らくはこの『場』だとノワールは思う。吸血鬼狩りの勘か。ノワールが飛び移ってきたこの場所は旧市街にある住宅街のようだった。低めの煙突がいくつも並び、祭りの日の名残か飾りのリボンが残っていた。
「ァア、ァアア」
「ア、ア、ァアアアア……!」
「ーーそうか」
 ただ一言だけをノワールは落とす。亡霊相手に気の利いた手向けの言葉など持ち合わせてはいない。ーーだからこそ、狩人は進むことを選ぶ。 
「捉えた獲物を逃しはしない……!」
 身を倒す。踏み込む足から、一気に屋根を蹴る。瞬発の加速。手にした銀の剣、二振りに光が宿る。
「ァアアア……!」
 ひゅ、と伸びた亡者の手を短剣に滑らせ、真横から伸びた腕が肌を切り裂いていくのはそのままにーー深く、ノワールは亡霊へと長剣を突き立てる。
「だが……お前達を此処に縛り付けるものは直に無くなる」
「ァア、ァア、ァアア……!」
 パキ、と奥で何かを砕く感触が腕に変える。どろり、と泥のように崩れた相手を視界に、逆手に長剣を持った腕をーー振るう。
「ヒ、フ、ハ、ハハハ……!」
「浅いか」
 薙ぎ払う攻撃。攻撃力を強化した剣は、一撃で深くを切り裂いて行ったがーー先に、真横から手を伸ばしてきた相手には、浅いか。追撃に、くる、と片足を軸に身を回した先でーーどろり、と亡霊がその姿を消した。霞のような身体を、呪いそのものへと変化させながら空間に溶け込む。
「ーー」
 消えた、と知覚すれば狩人は迎撃を狙う。彼らがこちらを敵と認識している以上『此処』以外に狙う場所は無いのだから。
「ヒ、ハ、アハハハハ……!」
 ぐ、と腕を掴まれる感覚と同時に、体が引かれた。足元ーー屋根から出てきたか。足ではなく腕を選んできたのは、角度を利用してだろう。後はーー銀剣を嫌ってか。
「ァア、ァアアア……!」
 焼けるような感覚に、取り憑こうとする亡霊の声が、怨嗟が肌を裂く。ーーだが。
「手荒で悪いな」
 先に、ノワールはそう言った。掴む腕に、引き寄せてくる相手に、逆に距離を詰める。片手が捕らえられていたとしても、ノワールの握る剣はーー二振りだ。
「ァ、ァアアア……!?」
 間合いを、己で決める。呪いを帯びた腕を切り上げーー自由になった腕で、短剣を亡霊へと突き立てた。
「今度こそ安寧の眠りに就くがいい」
「ァア、ァアア……ッ」
 最後の声は跳ね、パリン、と砕ける音がする。は、と息を吐き、目の端、見つけていた魔法陣を壊せば、背後に迫っていた亡霊たちが崩れ落ちた。
「さて……後はこの悪趣味な舞台を作った奴の顔を拝みに行くとしようか」
 領主の間は、もうすぐだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『朱殷の魔術師』

POW   :    その技、興味深いわ
対象のユーベルコードを防御すると、それを【鮮血の石が煌く杖に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    美しく踊って頂戴?
自身が装備する【硝子瓶から追尾能力を持つ鮮血の刃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    朱く赤く紅く咲きましょう
全身を【薔薇が香る瘴気】で覆い、自身が敵から受けた【喜怒哀楽の感情の強さ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:佐東敏生

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は玖・珂です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●呪われた剣と少女
 剣は、重かった。呪いの剣がちょっとずつ、重くなったんじゃないかって思うほどに。引きずりそうになるのを何度も持ち直して忍び込んだ領主様の……領主の館はとっても大きかった。
「それでも、ここまで、来れた、から」
 こんなに大きなお屋敷に、誰もいないことはありえなくて。時折聞こえた音や影から隠れるようにしてやっと、辿り着けたのだ。
「この剣のおかげ、かな……」
 広い廊下で見えた亡霊は、剣を見てすっと姿を消した。領主の館に入ってしまえば外の音も聞こえなくて、足音が響くのが怖くて靴も脱いだ。
「……ここ、に」
 大きな扉があった。薄く、開いたままのーー大人だったらきっと通れないその隙間に滑り込む。ギン、と剣が引っかかった。
「あ……!」
「ーーそう、客が辿り着いたようね」
 声が、した。静かな声。恐る恐る見た先、大きな広間のその一角、ソファーに腰掛けていたのはゾッとするほど美しい女のひと、だった。
「あ、貴方が領主さ……、領主、ですか」
 呪いの剣を強く握る。銀とも灰色とも見える長い髪を揺らし、領主が視線をこっちに向けていた。
「そういう貴方は?」
「あ、わたし、は……ッ」
 震える声で、名前を告げる。剣に、一度視線が向けば、顎をひいた。覚悟をした時は、ちゃんと相手をみろ、と。引けない時は、まず顔を逸らすんじゃ無いと兄さんは言っていた。
(「兄さん、兄さん……。私も、ちゃんとできるかな……ううん、できるように、するから」)
 がんばるから、と唇を引き結び、まっすぐ、領主を見た。
「これは、呪われた剣です。貴方達だって、た、倒してしまう程の呪われた剣です」
 抜けば呪われてしまうのだと。領主の館だって全部呪われてしまうのだ。
「それでは、貴方も死んでしまうでしょう」
「貴方を道連れにできます」
 私には、それができる。
 力強く言い切って、剣に手をかける。脱いてはいけない。約束を、交渉をちゃんとするまではーー……。
「それは恐ろしいことね」
「え……」
「それで、貴方は何を望むの?」
 ふ、と領主は笑う。吸血鬼が笑っている。願い通りに、交渉まで話が進みそうなのにどうしてこんなに、おかしいと思うのだろう。剣を握る手が揺れる。カタカタと音がして、そう、と領主の声が落ちた。
「貴方はお兄さんそっくりね」
 ほう、とひとつ、息をつくように。

●朱殷の魔術師
 領主の間はその一部に、硝子の天井を使っていた。月明かりを差し込ませる為か、窓硝子も多く中の様子を伺い知ることができる。
「何を、言って……」
「お兄さんによく似ていると。あぁ、あれは貴方より少し早く、気がついていたかしら」
 剣を抱える少女が震えていた。ソファーから立ち上がった吸血鬼が饒舌に告げる。
「兄妹揃って本当に興味深い。育ちが同じであれば思考は似通うのかしら。あの箱庭では、此処まで来る数は年々減ってきていたけれど……」
 ふ、と笑う姿が見えた。享楽を滲ませるわけでなく、ただ興味深そうに吸血鬼・朱殷の魔術師は少女を見る。
「なにを言って……わ、私はこの剣を」
「その剣、どうして貴方が持って来れたのかしら」
 ひゅ、と少女が息を飲む。私は、と震える手を必死に握る。その姿に、朱殷の魔術師は静かにゆるり、瞳を細めた。
「井戸にあったから。子供しか通れなかったから。枯れた井戸に呪われた剣が落ちているなんて、不思議なことでしょう」
「え……?」
「貴方は、足を止める方ね。あれは、斬りかかってきたものだから、血が流れてしまって手間がかかったわ」
 あの箱庭はストレスを与えた後だったから、と朱殷の魔術師は告げる。別の方向からのアプローチを考えておいてみたのだと。
「呪われた剣、というものを」
「あ、ああ……」
「楽しめたでしょう? あぁ、殺すためではなく、交渉のためにこれを持って来たのは貴方が初めてではあるわ」
 この街を使った時も。箱庭の大人たちが、子供であった頃に遊んだ時も。
「反逆が終わった頃には、あの箱庭は随分と従順になってしまって、良質な血を得るには随分と手間がかかったけれど、それもようやく意味をなすということです」
「なんで、そんな、そんな、こと……ッ」
 少女の声が掠れていた。嘘だ、嫌だ、違う、と首を振り、けれどまだ、心は壊れきれずに強く剣を握る。
「賢者の石の精錬の為。良質な血は必要なもの。適格者は貴方よ。その血に沁みる感情は苦痛かしら。それとも怒りかしら」
 あぁ、壊れないでいてちょうだい、と朱殷の魔術師は告げる。
「貴方が壊れてしまえば、貴方の妹たちの首を並べてその血に強い感情を沁み出させなければいけないのだから」
「ーー……! あぁ、あ、ぁああああ!」
 絶叫と共に、少女が剣を抜いた。

 朱殷の魔術師の意識は完全に少女に向いている。今であれば、窓ガラスを叩き割り、その間に割り込みオブリビオンに奇襲を仕掛けることができるだろう。

 尖塔へとたどり着いていた猟兵たちは、少女の側へと降りることができるだろう。心を壊されかけ、必死に保っている彼女に声をかけることができるだろう。

 広間への突入ポイントに近い屋根に来ている猟兵たちは、朱殷の魔術師の前へと降りることができるだろう。少女と朱殷の魔術師の間に割り込むことができる。

 少女が道中に見た屋敷の亡霊たちも、朱殷の魔術師を倒すことができれば消えるはずだ。
 領地の人々を操り、その心を体を己の知識欲を満たす為にーー賢者の石の精製にだけ使い飼い続けようとする吸血鬼の実験を今日こそーー終わりにするのだ。
火神・五劫
マリス(f03202)と

尖塔より突入

少女のことはマリスに任せ
俺は『オーラ防御』を展開しつつ
敵との距離を詰める

鉄塊剣に【ブレイズフレイム】を纏わせ
『衝撃波』に乗せ放つことで
燃え広がらせて敵の視界を奪おう
少女を逃がす時間を稼ぐ為にな

反撃は『武器受け』『火炎耐性』で防御
可能なら仲間も『かばう』

敵に問うだけ問うてみよう
きっと人の感性とは相容れぬだろうが
「貴様、人の命を何だと思っている?」

多少、傷付こうとも俺は倒れやしない
背を預けられる光があるからな
「感謝するぞ、マリス」

敵の呼吸を『見切り』
間合いに入り込み『カウンター』をお見舞いしよう
マリスの意思も乗せた『破魔』の一撃を!

※他猟兵との連携、アドリブOK


マリス・ステラ
五劫(f14941)と参加

【WIZ】他の猟兵とも協力

飛び込んで少女を『かばう』
距離を取りながら、

「主よ、憐みたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと星が煌めく『カウンター』

「この場は私達に任せてください」

光の『存在感』と微笑みで少女を外へと促す

領主に向き直ると、

「奪おうとするなら、奪われる覚悟をしなくてはなりません」

静かに彼女に告げる
あなたにその覚悟はあるのですか?
これは遊戯ではありません
命のやり取りですから

弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く

負傷者に【不思議な星】
緊急時は複数同時に使用

「五劫、あなたに加護を」

指先が瞬けば『破魔』の力を付与する


アルノルト・ブルーメ
尖塔から

しっかりしなさい、弟妹を救うのだろう?
今日、ここで総て終わらせて、ちゃんと帰らなければいけない
君には帰る場所があるのだから

僕達の言葉はどこまで彼女に届くかは判らないけれど
声を掛けた後は彼女に攻撃が通らないよう
オーラ防御で防ぎつつ攻撃の射線を塞ぐ形で位置取り

影の堕とし仔使用
自身と他の猟兵への攻撃の身代わりを任せる
また少しでも攻撃が通り易くなるよう囮としても使用


僕自身はViperで先制攻撃
手首の返しで2回攻撃
ダメージを受けた場合は攻撃時に生命力吸収も使用して回復

喜びはなく、楽しみもない
怒りも哀しみも薄く
憐れみは……あるかもしれないな

接近戦になったらVictoriaとLienhardで攻撃


上野・修介
※連携・アドリブOK
少女に掛ける言葉はない。
今、俺に出来ることがあるとすれば、一瞬でも速く敵を倒すことだけだ。


――恐れず、迷わず、侮らず
――呼吸を整え――力を抜き――専心する
――熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に

屋根側・ボス近くより飛び込む。

先ずは観【視力+第六感+情報取集】る。
体格・得物・構え・視線・殺気等から拍子と間合いを量【学習力+戦闘知識】る。

防御回避は最小限。ダメージを恐れず【勇気+激痛耐性】、【覚悟】を決めて最短距離を駆け【ダッシュ】、至近での【捨て身】の素手格闘【グラップル】で攻める。

自UCは攻撃重視。もし写されても自分の拳だ。軌道は読めるので合わせて【カウンター】を叩き込む。


クリストフ・ポー
尖塔の窓を割って突入

…やぁ、これは失敬
お取込み中だったかな?

近付き可能なら剣を握って留める
血が流れても大丈夫、慣れてるよと笑い
誘惑と言いくるめを囁く

やめときなさい、お嬢さん
その呪いの剣とやらに
君までが本当に呪われてやることは無い
お兄さんや
あの女に呪われて来た領民の分は
猟兵の僕等が仕返ししてあげる
君は妹たちを護りたいだろう?
その手で守る為には
生き残らなければならないよ
誑かせたら背の後へ下らせる

朱殷の魔術師
気長にやってる様だが
賢者の石の精錬に
一度足りとも成功したの?

未だと踏んで、種を蒔く

実らないのは
素材より、アプローチの誤りじゃない?
量が圧倒的に足りないとかさぁ

可能性という水をやり
疑念の発芽を待つ


木槻・莉奈
シノ(f04537)と
POW選択
尖塔から少女の傍に

あら、誰の事かしら?(しらばっくれて

シノ、こっちは任せていいから集中して!
…あんまり怪我しないでよね

『高速詠唱』『全力魔法』で【トリニティ・エンハンス】
【水の魔力】で防御力を強化
攻撃にはあえて出ず防御に専念、『激痛耐性』筆頭に耐性系フル活用で
回避よりも少女への攻撃を『かばう』事を優先

少女が状況すら判断できない状態なら、軽くでもビンタするなりなんなりこちらに意識を向けてもらうわ

貴女の目的は何?
何の為に此処に来たの?
護りたい人がいるんなら、怒りにも絶望にも、身を任せちゃダメよ

大丈夫、これ以上の犠牲なんて出させないから
もう少しだけ、一緒に頑張って


シノ・グラジオラス
リナ(f04536)と
SPD選択
尖塔から少女の傍に
少女を最優先に『かばう』

(隣を見て)まったく、誰かに似てて放っておけないな
リナこそ無理しないでくれよ、俺が集中できなくなる

俺も妹が自分の背中を追ってくれるなら、嬉しいだろう
でもそれは生きて帰ってこそだ
アンタの兄も持った剣は折れてない。なら、やる事は一つだろ?
俺もあの魔術師のやり口が気にいらない。利害はそれで充分だ

さて一人で踊る趣味はないんでな、ダンスのお相手を願おうか
【襲咲き】を発動し、『野生の勘』『2回攻撃』『範囲攻撃』で
刃を優先、可能なら硝子瓶も叩き落す

残ったのはダメージは全て『武器受け』と『激痛耐性』で受けて
『生命力吸収』でリカバリを



●光
 その瞬間を、言葉にするとすればきっとーー光、だ。
「ぁ……」
 光が来た、と少女ーーノエル・アンダーソンは思った。

「主よ、憐みたまえ」
 飛び込んだ先、トン、と領主の間へと降りた瞬間、金の髪が舞った。捧ぐ祈りに星辰の片目に光が灯り、来訪者の体は淡く輝く光に包まれた。
「な……ぁ……?」
 え? と驚くような声は無かった。ただただ呆然とこちらを見上げる少女は、今の状況を理解できていないのだろう。
 呪われた剣の由来も。
 此処までの道筋も。
 その全てが仕組まれていたと明かされ、叫び出したい心さえ許されずに妹たちの名を出された少女の心は、そう簡単に混乱と困惑から抜け出せるようなものでもないのだろう。
(「ですが……」)
 ひかり、と飛び降りたマリス・ステラと、火神・五劫が辿り着いた時に少女は言った。少女は言の葉を紡いだ。心はまだーー動く。
「ーー五劫」
「あぁ。そちらは頼む」
 短く告げた先、た、と男は前に出た。軸線をーーマリスへの射線を遮るように広間をかければ、上空からの来訪者に館の主人は息をついてみせた。
「来訪者ね。私の実験に、今、観客は必要ないのだけれど」
 ひどく興味の無い声で女主人ーー朱殷の魔術師は告げ、こん、と杖で床を叩いた。瞬間、ぶわり、と舞った風にぶつかるように五劫は行く。振り上げた腕で風を払い、し吹く赤が地獄の炎となって大剣に触れた。
「ーーあら」
 瞬間、熱が生じる。
 火影の名を持つ刀剣は五劫の里、その守り神がその手で鍛え上げたものだという。
 舞い上がった地獄の炎。業火たる男の振り上げた炎が天井まで熱で染め上げる。屋根を、焼くのは一瞬だ。だが、薙ぎ払う地獄の炎は領主の間を燃やす。燃え広がった空間に、朱殷の魔術師は息をつく。
「燃やし尽くして、それだけのことで私の実験を邪魔するつもり?」
 とん、と杖が二度、床を叩く。舞い上がった炎を包むように真紅が踊り、五劫の放った炎を喰らおうと蠢く。
「届かなかったでしょう? ……いいえ、届かせなかったのね?」
 くすり、と一つだけ落とし、けれど、と口元に笑みを敷いた朱殷の魔術師が、その視線を少女へと向けた。
「私を、忘れることはできないでしょう?」
「ーー……!」
 ひゅ、と息を飲む音が炎越しに届き、半ば反射的に五劫は前に出ていた。だん、と踏み込む足音を隠さず、飛ぶように前に出る。打ちおろす一撃に、掲げた杖が守護の赤を張った。
「あら。守りきるとでも?」
 火花が散る。
 腕に返る感触が、重い。杖一つ掲げ、守りを張っただけとは思えない感覚。鋼にでも打ち付けたかのような感触に、浅く、息だけを吐く。悠然とした顔で受け止めた朱殷の魔術師には傷は無くーーだが、その視線は五劫へと向いていた。少女では無い。
(「ならば……」)
 問うだけ、問うてみたいことがあった。
 きっと人の感性とは相容れぬだろうが。
「貴様、人の命を何だと思っている?」
「何を聞くかと思えば」
 朱殷の魔術師が杖を跳ね上げる。弾きあげられるように一瞬、剣が浮けば、薄く笑う魔術師の唇が見える。
「材料でしょう。賢者の石の精錬に必要な大切な材料」
 だから枯渇しないように管理しているのよ。
「手間をかけて」
 ふ、と落とす息ひとつ、鮮血の石が煌く杖がキン、と音をたてた。
「その技、興味深いわ」
「ーー」
 来る、とそう思った瞬間、炎が来た。燃え上がるそれをーーだが、五劫は受け止める。肌が焼け、熱さ、というよりは衝撃が全身を襲った。落ちる血さえ蒸発させるその炎に、だが、男は立つ。
「……」
 膝をつくことも、剣を杖とすることもなく。
 構えた剣が、僅かに炎を受け止めていたのだ。耐性はある。この炎はーー。
「地獄の炎だ」
「ーーあら、そう。耐えるのね」
 それならば、そう。それならば。
 歌うような楽しさも無く、享楽さえ見せぬままに「使えそうね」と朱殷の魔術師は呟いた。
「あの血を、更に良質とする為に」
「……」
 それは、何度目の震えであっただろうか。少女へと向けられた朱殷の魔術師の言葉から、その視線から守るようにマリスは少女へと声をかける。
「この場は私達に任せてください」
 纏う光は、少女の視線をマリスへと向けさせる。しっかりと目が合えば、マリスは微笑んで少女を外へと促した。
「あ、で、でも……」
 それは任せることへの戸惑い、というよりは、未だ、少女の心が揺れていたからだろう。不安と、一筋の光を見たからこそ湧き上がる恐怖。震える指先に、領主の間で上がる剣戟が、戦いの音が恐れを乗せる。
「しっかりしなさい、弟妹を救うのだろう?」
 そこに、声を添えたのはアルノルト・ブルーメだった。幼い少女に、言い聞かせるように一度そう言って、マリスへと目配せする。頷いた彼女が、淡い光と共に戦場へと身を翻せば淡い光が僅かに残る。
「ぁ……」
「今日、ここで総て終わらせて、ちゃんと帰らなければいけない。君には帰る場所があるのだから」
 ね、と最後の言葉は、柔らかく落ちた。
 娘を持つ父親でもある彼の言葉は、少女に何かを思い出させたのか瞳に涙が溜まる。
(「……届いている」)
 零れ落ちた涙をそっと、指先で拭う。二度、三度と瞬いた少女の、こくり、と頷いた姿に微笑むとアルノルトは静かに立ち上がった。
「……」
 はた、はたと黒衣が揺れる。少女に攻撃が通らぬよう、指先でオーラの防御を張る。己の影で庇える範囲にあればーー大丈夫だ。長身のアルノルトの後ろであれば、少女の姿は完全に朱殷の魔術師から隠れる。
「そう」
「……」
 低く、響いた声はその状況に対してでは無い。少女が、猟兵達の声に反応した、という事実に対してだ、とアルノルトは思った。吐息一つ零すようにして、魔術師はこちらを見る。
「その程度のことで、落ち着いてしまえるものなのね」
「……その程度、か」
 これが『その程度』だと言うのか。
 呪われた剣。仕組まれた事実。
 過去に剣を持ち出した兄。それと似ていると言われた理由。
(「此処で、彼女の兄は殺され……剣だけが戻されたのだろうね」)
 少女が強く握ったままの剣は、怒りとも悲しみともつかぬ震えで揺れている。
「えぇ。その程度、よ。負荷が足りなかったかしら。この適格者には随分と手間をかけたのだけど」
 工程があったのだと、朱殷の魔術師は紡ぐ。ひどく当たり前のように。かけた手間には意味がありーーそれを紡ぐことにより、再び少女の心を壊すように。
「あと少し……」
 うっそりと笑う唇が、二の句を紡ぐより先にアルノルトは床を蹴っていた。飛び込みと同時に放つワイヤーが弧を描く。切っ先を朱殷の魔術師の腕にぶつかれば、ギン、と派手な音が響き渡る。
「邪魔をするのかしら?」
「する以外に、何があるのかい?」
 一度、かかれば毒蛇の牙は敵を逃しはしない。
 Viper、と囁くように言の葉を落とし、そのまま一気に距離を詰める。腕を引き身を飛ばし、傾ぐ魔術師の間合いへと飛び込めば赤く輝く杖が向けられた。
「貴方には用はないの」
 瞬間、頬に感じた熱はーーだが、弾ける力となる前に四散する。
「な……?」
「良い仔だ」
 笑うように一つ告げた男の周りに蝙蝠の形をした影が舞う。接近の瞬間、放っていたものだ。熱が確かに頬を焼き、アルノルトの首に傷を残したがーーだがそれが、どうしたいうのか。
(「喜びはなく、楽しみもない。怒りも哀しみも薄く」)
 返す手首が、ワイヤーを引き寄せる。カシャン、と魔術師の腕を離れたワイヤーをそのままに、抜き払ったナイフを突き立てた。
「ーーッ」
「憐れみは……あるかもしれないな」
 流す血は腕を滴り、男の処刑道具を起動させる。深く、抉るように突き立てれば、は、と笑う声が耳に届いた。
「それこそ、私には無用なもの」
「ーー!」
 来る、と思う瞬間、半ば反射的に身を飛ばした。香りがしたのだ。むせ返るほどの薔薇の香り。ただの芳香では無い。
「朱く赤く紅く咲きましょう」
 瘴気、だ。
 自らを強化するように纏い、ふ、と朱殷の魔術師は笑う。
「生命力を奪う気、か」
 ナイフを持ち直し、息をつく。先の一撃、こちらも吸収を使った分、あれの面倒なところは認識している。
「奪おうとするなら、奪われる覚悟をしなくてはなりません」
 笑う魔術師に告げたのはマリスであった。静かに告げた彼女は光を纏い、柔らかな金の髪を夜風に揺らす。
「あなたにその覚悟はあるのですか? これは遊戯ではありません。命のやり取りですから」
「不思議なことを。全ては賢者の石の精錬の為。それこそが絶対」
 領民を殺し尽くすもの達とは違う、と魔術師は告げる。
「材料が枯渇しては錬金に支障をきたすでしょう。良質の血を得る為、落ちた命は賢者の石へと続く礎となる」
 故に、奪ってはいないのだと魔術師は笑う。その手で、その声で、多くの領民の命を奪い、心を砕いてきた魔術師はひどく、当たり前のように言った。
「私はただ使っているだけ。我が領地はその為の場所。貴方の言葉に応えるのであればーーえぇ、遊戯では無いわ。全ては我が錬金の為」
 故に奪ったのではなく。
「私は、使っているだけのこと」
 彼らの血を、命を。
 そう言って、朱殷の魔術師は微笑んだ。
「……」
 奪ったとすら言わないのだ、とマリスは思った。この吸血鬼は領民の命を奪ったとさえ言わず、傲慢にただ使うと言い切る。それが傲慢であるつもりさえ無いのかもしれない。全ては錬金の為の舞台。賢者の石を作る為。その為に、駆け抜けていた『街』は亡者で溢れ、少女の兄は死に、その死さえ利用して少女の心は壊されかけていた。
『ひ、か……り?』
 彼女は彼女の意思で。意地で。その一線を保っていた。仰ぎ見た彼女の、その声をマリスは覚えている。たった一人で、己の命をかけてきた少女の姿を。
「だから貴方達も、適格者の血の精度を高めるために使わせてもらいましょう」
 ぶわり、と風が揺れる。笑う魔術師の声と共に力がーー来た。
「ーー」
 衝撃に、だがマリスは目を背けることはしなかった。ただ指先を前に、纏う星の輝きが防御を紡ぐ。一撃、受け止めた先、続けて向かい来るような風にーー影が、降りた。
「あら」
「多少、傷付こうとも俺は倒れやしない」
 五劫だ。
 軸線へと飛び込んだきた彼が一撃を受け止めていた。血がし吹き、だが、一つ息だけを落とした彼は揺らがずに言った。
「背を預けられる光があるからな」
「ならばその光ごと、全て奪い去ってみましょう」
 シャン、と魔術師の構えた杖が光を帯びる。風が、赤い色彩を帯びる。瘴気か。
「適格者にどんな変化があるか、楽しみです」
「私のためではなく、あなたのためではなく、私たちのために」
 そんなことはさせない、と告げる言葉の代わりに、マリスは五劫へと星の輝きを届ける。傷を癒し、流した血だけを床に残した輝きは聖者の存在を告げる。
「そう、邪魔者がいるようね」
「五劫、あなたに加護を」
 指先が瞬き、加護は五劫へと届く。光の中、た、と男は駆けた。息を吐き、更に濃い瘴気を纏った魔術師が杖を向ける。
「そのようなこと」
 ひゅ、と放たれた風をーー五劫は避ける。火影を斜めに構え、弾きあげた先で、飛ぶように前にーー行く。
「はぁあああー!」
 飛び込む剣の援護に、矢が飛ぶ。マリスの放つ矢は流星の如く。放たれた一撃が魔術師の錬成を阻んだ。
「ーーッ」
 ザン、と振り下ろす一撃が朱殷の魔術師へと届いた。庇うように構えた杖の上を滑り、届いた剣が魔術師の腕を裂く。
「……この、ようなこと!」
 ぶん、と魔術師が腕を振った。瞬間、硝子瓶からこぼれ落ちた鮮血が炎へと変じる。爆発に、身を飛ばせば、右だと告げたアルノルトが残った影の仔達を向かわせた。
「盾とおなり」
 囁くように影の蝙蝠に告げた男に、ぐん、と視線が向く。感謝する、と響く五劫の声に微笑だけを返し、アルノルトはナイフを持ち直す。真正面、視線を受け止めたのは駆ける姿を見たからだ。
「踊る覚悟は出来てるか?」
 たん、と短い跳躍。飛び込んだ先、赤茶の髪が揺れる。
「ーー!」
 迫る大剣が血を帯びていた。刀身に手を滑らせたのは何時であったのか。薄闇を駆ける青年が最後の一歩で、ぐん、と顔をあげる。
「さて一人で踊る趣味はないんでな、ダンスのお相手を願おうか」
 シノ・グラジオラスの刃が朱殷の魔術師の首を浅くーー斬る。
「……ッダンスの相手であれば」
 僅か、息を飲んだ魔術師の香水瓶が揺れる。ぶわり、とその中の赤が揺れた。
「私にも選ぶ権利はあるでしょう?」
 瞬間、鮮血が瓶からとぷり、とこぼれ落ちた。赤は床に落ちるその前に刃となって起き上がりーー踊る。
「貴方が美しく踊って頂戴?」
「ーーさてな」
 鮮血の刃だ。眼前、突き立てるように来た刃に顔だけを逸らし、引いた足を軸に体を無理矢理に回す。構えた大剣はすでに血を帯びているのだから。
 それは亡き恩人から譲り受けた黒剣。燎牙。主の呪われた血すら好む悪食はーー既に、シノの声に『応えて』いた。望む形を取ろうとすれば使う血は増える。体が冷えた感覚と同時に、鼓動は跳ねる。斬る。斬れる、とそう思う。この身は既に、継いだ剣で虚ろを埋めた燃え残りであるとしてもーー。
「はぁああ!」
 眼帯で隠した瞳の奥が、熱い。
 弧を描くように振り上げた燎牙で鮮血の刃を弾きあげ、真横から来た刃は剣の厚みで受け止める。ガン、と弾きあげれば火花が散り、その間を抜けるように真後ろから来た鮮血の刃にシノは腕を振るった。
「ーー!」
 ザン、と衝撃が来た。腕で、ひとつ受け止めたのだ。否、誘いとった、の方が結局は正しいのかもしれない。舞い踊った刃の中、多くは弾きあげ、武器で受け、その衝撃波で払ったのだ。鮮血の刃は空で四散し、残る刃を腕とその身でもらい切った。
「ーーシノ」
 は、と呼ぶ声に応える前に息を吸って、シノは応じた。あぁ、とひとつだけ。大丈夫だと告げるように。
「まったく、誰かに似てて放っておけないな」
「あら、誰の事かしら?」
 しらばっくれて、少女は肩を竦めてみせた。長い髪を揺らし、緑の瞳は一度、シノを見る。その傷を。流れた血を。もしも、憂いを告げるとしてもそれはきっと今ではない。
「シノ、こっちは任せていいから集中して!」
 前に立つシノへと木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)は告げた。守られるだけのお姫様なんて、まっぴらごめんだったから。
「……あんまり怪我しないでよね」
「リナこそ無理しないでくれよ、俺が集中できなくなる」
 あのね、と返す言葉を、ひとまず引っ込める。青の双眸が少女の姿を捉えていたからだ。少女の瞳は揺れている。その手はまだ震えながらもーーけれど、確かに庇いに入った二人を見ている。
「俺も妹が自分の背中を追ってくれるなら、嬉しいだろう」
「あ……」
 それは、少女がもう二度と会うことはできない「兄」の視点。この地に挑み、倒れた一人のもう伝えることはできない思い。それを、自分であれば、という形でシノは紡ぐ。
「でもそれは生きて帰ってこそだ」
 少女の瞳が瞬く。生きて、そう落ちた声に、頷いた。
「アンタの兄も持った剣は折れてない。なら、やる事は一つだろ?」
「で、も……傷、が」
「俺もあの魔術師のやり口が気にいらない。利害はそれで充分だ」
 怪我が、という少女に一つ笑い、ひゅん、と風を斬る音に視線を前に戻す。
「ダンスに誘ったのはそちらでしょう? それとも、その子の方が好みなのかしら?」
 ひゅ、と高い音を立て、瘴気の風がーー舞った。弧を描く一撃は、だが、見上げた少女に届くより先に、止まる。
「……」
「生憎」
 水が、止めていた。唇に乗せた高速の詠唱。逸らすことの莉奈の無い翠の瞳が、水の魔力と共に一撃を受け止めていたのだ。
「通させないわ」
 痛みに耐える。裂くような痛みに、肌が焼ける感覚がある。追撃を狙う魔術師にはシノが駆けた。援護を告げるアルノルトと五劫の間、マリスが癒しを紡ぐ。
「そう。そういう邪魔のをするのね。貴方は。でもその貴方が倒れれば、ふふ、どんな変化が起きるかしら」
 杖を掲げ、踊る刃と共に猟兵たちと切り結び。弾きあげた火花に魔術師は悠然と笑う。こちらの生命力を吸収する瘴気を纏い、柔肌に受けた傷を癒しながら鮮血を踊らせる。
(「……でも」)
 その状況にあって猟兵達は、押されてはいない。傷は受けている。血は、領主の間を濡らしーーだが、剣戟の間、誰一人押し返され切ってはいない。
「あ……っ」
 少女が不意に、息を飲んだ。溢れた血を、見たからだろう。揺れる瞳が、恐怖に飲まれるその前に莉奈は告げる。
「貴女の目的は何? 何の為に此処に来たの?」
「ぁ……、い、妹、が。妹たちが」
「うん」
 名前を、少女は紡ぐ。リラと、ルーシャ。双子の妹たち。まだ、本当に小さいのだと震える声に莉奈は頷いた。
「護りたい人がいるんなら、怒りにも絶望にも、身を任せちゃダメよ」
 指先には血が残っていたから。手を繋ぐ代わりに莉奈は視線を合わせる。柔らかな色を乗せて、少女を守るためーー全ての術で己の防御力を強化し、盾となった莉奈は告げた。
「大丈夫、これ以上の犠牲なんて出させないから。もう少しだけ、一緒に頑張って」
「……っはい」
 剣戟が響く。火花と血が領主の間を彩れば、鉄と血の匂いが空間を支配しようとしていた。流した血だけではない。魔術師の扱う鮮血だ。とろり、と踊る血が、どうしてか甘く香る。
「……ッ」
 その事実が、その異常が少女に恐怖を引き寄せようとしていた。ひた、ひたと迫るそれは、戦場にあって何かをーーそう、自分も何かを、と思う心が彼女にもあったからかもしれない。
「……やぁ、これは失敬。お取込み中だったかな?」
 そこにひとつ、声が降りた。声がひとつして、どうしてかその瞬間にやっと、少女は目の前の人に気がついたように、ぱち、と瞬く。
「やめときなさい、お嬢さん」
 気がつけばその手は剣を握っていた。震える少女の手が、知らず抜き払おうとしていた刃を抑えるように握る。
「……っ血、が……!」
「大丈夫、慣れているよ」
 囁くように告げて、クリストフ・ポーは赤い瞳に緩やかな弧を描く。留めた刃をそっと、床に下ろさせれば、キン、と高い音がひとつ、した。
「やめときなさい、お嬢さん。その呪いの剣とやらに君までが本当に呪われてやることは無い」
 そう告げて、クリストフは戦場へと一度、視線をやった。剣戟が重なる。火花が散る。守るように立った莉奈のお陰で少女に怪我は無い。けれど、此処まで来たからこそ、何かをーー、と少女は思ってしまうのだろう。それこそが、魔術師が少女を適格者と言う理由か。それとも、魔術師が少女のことを逐一口にするからか。
 あれは、大方わざとだろう、とクリストフは思う。そうして少女の心をかき乱しているだけのこと。だが少女にとってはそうではないのだろう。
 助けに来たと言われれば、自分が此処に来たからだと思いーーそうして、剣を抜こうと細い腕が震えていた。
「お兄さんや、あの女に呪われて来た領民の分は猟兵の僕等が仕返ししてあげる」
 君は妹たちを護りたいだろう?
 そう言って、クリストフは少女と視線を合わせた。
「その手で守る為には、生き残らなければならないよ」
「ーーぁ」
 掠れた声に、ぱち、ぱちと瞬いた少女が、手で、と告げる。あぁ、とクリストフは頷いて微笑んだ。
「まも、り……たい。妹たち、を」
 どこか、ぼう、とした様子で少女は頷いた。誘惑を乗せて囁いたのだ。少女にとっては、耐性のないものであったのだろう。
(「これで、ひとまず大丈夫だろう」)
 根本は、朱殷の魔術師を倒すことだろうが。
(「気がついたか」)
 視線が、あった。少女に話しかけているこちらを魔術師は良くは思っていないらしい。不思議はない。魔術師としては彼女を『この状態』にする為に舞台を整えてきた、というのだから。だが、だからこそそこに隙がある。
「朱殷の魔術師。気長にやってる様だが、賢者の石の精錬に一度足りとも成功したの?」
 未だと踏んで、クリストフは種を蒔く。
「何を言って……」
「実らないのは素材より、アプローチの誤りじゃない? 量が圧倒的に足りないとかさぁ」
「ーー」
 押し黙った魔術師に、小さくクリストフは笑う。これは手段。可能性という水をやり、疑念の発芽を待つ。
「私のアプローチに間違いはないわ。そんな戯言に付き合っている暇など……」
 無い、と告げる魔術師の放つ瘴気の風が、クリストフの腕を切り裂く。だが、赤の瞳は弧を描いたまま。眉を立てた魔術師が杖を掲げた瞬間、何かがーー来た。
「……!」
 魔術師の振るう杖が鮮血の風を生んだ。だが、影は瞬発の加速から来た。踊る風に、その鋭さを知りながら構わず、だ。
「ーー」
 黒の瞳は、ただただ、真っ直ぐに朱殷の魔術師を見据え踏み込んでいた。傷を負いに行った訳では無い。ーーただ、そこが最短の距離であったから、だ。

 ――恐れず、迷わず、侮らず。
 ――呼吸を整え――力を抜き――専心する。

 風が、踏み込んだ上野・修介の胴を切り裂いた。脇腹から血がし吹き、だが、震脚を以って上野・修介は体を支える。この程度のこと、覚悟せずに踏み込んだ訳では無い。これは捨て身の攻撃で、だが、捨てる身を、何一つ結ばずに捨てる気など無いのだから。

 ――熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に

 言の葉は紡がず。ただ、修介は己を強化する。叩きつける一撃。拳を強化してーー穿つ。
「ーー」
「……ッァア!」
 踏み込みの勢いを殺さず、流れるように打ち込んだ拳が魔術師の胴に入っていた。
「この、ような……ッ」
 跳ねる声が、敵意に満ちた。掲げられた杖が風を、瘴気を招く。たん、と修介は身を横に飛ばした。最小限、身を僅かに振っただけ、だ。腕に浅く、傷は残るがーーだが、次の一撃叩き込むには問題ない。
「この程度」
 魔術師の間合いを、戦場で修介は見ていたのだ。間合いを、動きを見ていたのだ。だから避けられる。絶対でなくとも、真正面から一撃は受けはしない。
「このような、このようなこと。私の錬成にあって良い筈がない」
 荒く振り上げられた杖が鮮血の色彩を帯びた。ぶわりと唸るような風が舞いーーだが、その中を構わず修介は行く。
(「今、俺に出来ることがあるとすれば、一瞬でも速く敵を倒すことだけだ」)
 少女に掛ける言葉は持ち得なかったのだ。
 それ故に修介は戦うことを選び、迷いの無い、覚悟の拳は朱殷の魔術師に戸惑いを生んだ。
「あって良い筈など、このような形で私の錬成に、研究に間違いなど……なッ!?」
「抱いたね? 疑いを」
 戸惑いはーー疑念の花を咲かせた。
 不意に響いたその声に、魔術師は、は、と顔を上げる。瞬間、白銀の薔薇が魔術師の前に顕現する。
「それを待っていたよ!」
 高らかに告げたクリストフの手の中から、花は舞う。踊るように滑り、抱擁する荊が魔術師の腕を、体をつかんだ。
「……ッァ、く」
 こぼれ落ちた赤に、忌々しく魔術師は息を吐く。身に纏う瘴気を深く濃くするように踊らせ、香水瓶から鮮血を零す。
「錬成を……」
 淡い光と共に、踊る刃が辛うじて荊を切る。だが、しとどに流れる血は朱殷の魔術師の殺意をこちらへと向けていた。
「このような、……っこのような邪魔者であれば、せめて役立ってもらいましょう。全て倒しきったその時、適格者の血にも変化はあるでしょうから」
 賢者の石の錬成の為、役立ってもらうわ。
 そう、魔術師は告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
倫太郎殿と屋根側から戦闘へ入ります

彼女の事は気掛かりではありますが、目の前に居る魔術師もそのままには出来ません
奴こそが元凶なのですから、私達は為すべき事をしましょう

敵からの攻撃は残像・見切りより躱してカウンターによる斬り返し
躱せないものは武器受けにて、その場で受け流す
追尾する刃は躱さず、武器落としにて追尾出来ないよう破壊
最初は倫太郎殿に引き付けて貰い、距離を詰めて抜刀術『静風』
早業併せにて瞬時に斬撃を繰り出す
瘴気へは己が感情に流されず、ただ斬るべき者を見定める
命を弄んだ末に然るべき罰を、覚悟を以て刃を向けよう

貴女は美食家のように振る舞ってはおりますが
私には自らを上品だと気取る獣にしか見えませぬ


篝・倫太郎
夜彦と屋根側から

彼女への声掛けは終わってからだって出来るしな
まずはこの胸糞悪ぃ舞台を設えた奴をぶちのめす

拘束術使用

防御されっと返ってくンのは厄介だけども
これで気を惹けりゃラッキーってな

俺自身は華焔刀で先制攻撃からのなぎ払い
刃先を返して2回攻撃
戦闘知識を活かしてフェイントも交ぜつつ武器落とし狙ってく

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避が間に合わない場合はオーラ防御で防ぐ
防ぎきれない場合は咄嗟の一撃で攻撃を相殺

なるたけ派手に立ち回り
夜彦が立ち回り易いよう、敵の意識を惹き付ける

夜彦の一撃の方が確実に重くて強い
その攻撃を確実に通すのが此処での俺の務めだ

悪ぃな、本命は俺じゃねぇ
悪趣味な芝居はこれで仕舞いだぜ


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【花青明】

明と彩花と共に屋根の突入点から敵と少女の間に割る様に
難しい時は降りた後少女を庇う様移動、敵と対峙を
ああ、少女の守りは確かに任された

戦闘時は中衛にて少女を『盾・武器受』にて『かば』い『カウンター』を返しつつ【穢れの影】にて敵を拘束
皆が攻撃を当てやすい様援護に回ろう

後衛の明と少女が敵の集中攻撃を受けそうな場合は同じく『かば』いながら
今迄賢者の石を精錬出来んのはお前の力不足故ではないか?
幾ら血を得ても同じ事だろうと、そう挑発しこちらに意識を『おびき寄せ』で己へ向けよう

又前衛の彩花が敵の攻撃を受けそうな場合にも【穢れの影】で拘束、援護を
彩花、援護は俺と明に任せろ
…、…全力で仕留めてこい


彩花・涼
【花青明】
なるほど、吸血鬼の実験場か…
人々の感情を食いものにしているわけか
まぁ、それも今日限りにしてもらうが

魔術師と少女の間に降り立とう
ザッフィーロ、少女は頼むぞ
黒華・改と黒爪を持ち
黒爪で【スナイパー】して敵の動きを阻害しつつ
【2回攻撃】で斬りかかり【生命力吸収】【部位破壊】
敵の杖を持った腕を斬り落としにいこう

敵の攻撃は【見切り】ながら【武器受け】する
多少の怪我はメイが回復するので気にせず【激痛耐性】で耐えて
敵に【カウンター】で斬り返す
体力勝負なら回復のない貴様に分はないぞ?

UCは最後の最後に使用し、敵にコピーさせない
2人ともナイス援護だ
これで終わりにする…!


逢坂・明
【花青明】
ひとの一番強い感情は怒りと聞くわ
この魔術師は、怒りと悲哀に満ちたひとの感情が重要なのかしら
―――どっちにしても悪い趣味ね!

広間への突入ポイントに近い屋根から突入するわ
あたしは回復支援特化で行動
ザッフィーロ、涼さん、よろしくお願い
魔術師の目の前に降り立って少女を背に守りつつ戦うわよ

「激痛耐性」「狂気耐性」を念のため展開しつつ
少女に声をかける仲間たちのために「時間稼ぎ」をして

「歌唱」「破魔」「鼓舞」を使った【シンフォニック・キュア】で味方の回復援護を行うわ
あたしのほうへ攻撃が来るならば「オーラ防御」で防げたら
同時に「精神攻撃」をのせた「カウンター」で反撃といきましょう
涼さん、頼んだわ!


ノワール・コルネイユ
とんでもない無謀をやらかしたことは兎も角、全ては妹たちの為だったのだろう
ならば背筋を伸ばして、胸を張れ

お前のその無謀が私達を、訪れる筈のなかった結末を手繰り寄せたんだ

少女の元に降り立って、安全を確保しつつ下がらせる
魔術師に食らいつくのはその後で良いだろう
貴様を倒すのに焦る必要なんぞ無いってことだ

鮮血の刃を幾ら巡らせようと
切り払いながら兎に角踏み込み前へ
距離を詰めて一度捕まえれば追従して斬り付け、逃しはしない

呪いの剣と云うのは存外に、本物だったのかもしれんな
貴様の玩具にされた者達の怨嗟が剣に宿りでもしたか
剣の呪いがお前にこうして災いを齎したのだとしたら…随分な皮肉だな

ま、御遊びが過ぎたってことだ



●踊り場の決闘者たち
 剣戟と火花を散らし、戦場は加速する。猟兵たちを邪魔者と明確に告げた朱殷の魔術師の操る刃は容赦無く猟兵たちを切り裂いていた。
「さぁ、自分を守る全てを失った時、その娘はどんな顔をするかしら?」
 魔術師の声はひどく、楽しげに響く。歌うような声音は、少女の耳に届いているとそう確信しているが故だろう。
「ひとの一番強い感情は怒りと聞くわ。この魔術師は、怒りと悲哀に満ちたひとの感情が重要なのかしら」
 眉を立て、逢坂・明は声を上げる。
「―――どっちにしても悪い趣味ね!」
 たん、と着地と同時に、息を吸う。明の声は、歌は、癒しを紡ぐものだ。
「ザッフィーロ、涼さん、よろしくお願い」
 ら、と音を落とす。柔らかな声音は、旋律は痛みへの耐性と狂気への耐性を明へと紡ぐ。少女へと声をかける仲間たちの為の、時間稼ぎだ。
「ああ、少女の守りは確かに任された」
 応じたザッフィーロ・アドラツィオーネが手の中へと力を落とす。長身の背に庇われた少女が、小さく、視線を向けていた。目が合うその前に一度だけ笑い、はた、と外套を揺らす。大丈夫だ、と言葉で告げるには似合いのものがきっといるのだろう。だからこそ、ザッフィーロたちは守り、戦うことを選んだのだ。
「なるほど、吸血鬼の実験場か……。人々の感情を食いものにしているわけか」
 まぁ、と息をつき、彩花・涼は魔術師を真っ直ぐに、見た。
「それも今日限りにしてもらうが」
「今日限りに全てが終わるのは、貴方達でしょう」
 その血を使う予定もないのだから、と魔術師は笑い杖を掲げた。
「バラバラにしてその子に見せてあげましょう」
「ーー……ザッフィーロ、少女は頼むぞ」
 笑う魔術師にーー吸血鬼に、涼は床を蹴った。踏み込みと同時に、黒爪の引き金をひく。銃弾は、魔術師の腕を撃ち抜きーー僅か、その動きが遅れる。一拍。だがその一瞬があればーー十分だ。二歩目の加速を、足裏で捉えた床を一気に蹴る。飛ぶように間合いへと入り込めば、は、と朱殷の魔術師が顔をあげた。
「ーー……っく」
「遅い」
 告げたのは涼の方だ。振り上げた黒剣がひゅん、と素早く魔術師の腕を狙う。一撃は腕を裂き、し吹く血が涼の腕に落ちる。ショートソードタイプの黒剣だ。狭い間合いでこそ、素早く踏み込める。黒華・改の切っ先が沈みーーだが、違和感がひとつ、涼を襲った。
「ふ」
 魔術師が笑ったのだ。
「ーー」
「甘い」
 瞬間、赤い風が涼を切り裂いた。至近で展開された力は腕は涼の腕を赤く染め、衝撃で体を引き倒そうとする。その重みに、涼は身を横に振った。た、と飛び退いた先、ついた足を軸に剣を構え直す。
「杖を持つ腕を狙うとは、そう、考えたことね。けれど、私がそう容易く杖を落とすと思って?」
「なら、簡単に倒れさせるとは思わないでよね……!」
 反論は後方、明より届いていた。すぅ、と息を吸った彼女の紡ぎ出す歌は仲間の背を押しーーそして破魔の加護を紡ぐ歌。
「誰一人、倒れさせはしないから」
「ーーそう。回復は確かに面倒ね」
 けれど、と魔術師は息をつく。吐息一つ笑みに変え、纏う瘴気の密度をまたひとつ濃くして。
「貴方が壊れてしまえば、それも行えないでしょう」
 香水瓶の中身がとぷり、と戦場に零された。鮮血は、ぶわりと炎へと代わり明へと届く。
「悪いが」
 筈だった。
「……っ邪魔を」
 舞い上がる炎は踏み込んだ男の腕が受け止めていた。熱を帯び、こぼれ落ちた赤と焼けた肌をさして気にする様子を見せることなくザッフィーロは告げる。
「ならば協力をするとでも思ったか?」
 薄く浮かべられた笑みは美しくありながら、どこかぞっとするような冷たさがあった。腕は痛む。熱さの方が先に来たか。だが、この程度で止まる気も膝を折るつもりもザッフィーロには無かったのだ。吸血鬼がどれ程の時を生きたかは知らぬがーー果たしてそれはヤドリガミたる彼に敵う程のものであるのか。
「今迄賢者の石を精錬出来んのはお前の力不足故ではないか?」
 挑発するようにそう、言葉を唇に乗せた。
「幾ら血を得ても同じ事だろう」
「……っそのようなこと、私の錬成に間違いなど無い……!」
 疑念の種は先に一つ、植え付けられていた。
 重ねて響けば、賢者の石の精錬に傾倒する吸血鬼にとって心を揺さぶるにはーー十分だ。
「我が知識による錬成、見せてあげましょう」
 鮮血の石が輝く杖を掲げ、顕現したのは赤く宝石めいた煌めきを持つ熱風だ。ゴウ、と唸る風は次の瞬間、暴風へと変じザッフィーロの元へーー来た。
「ーー」
 衝撃に、メイスを構える。肩口に重く痛みが来る。は、と息だけを落とし、衝撃にザッフィーロはメイスを跳ね上げた。ギン、と鋼めいた音が響き、追撃の風を上空へと散らす。ガシャン、と派手に割れた窓ガラスが落ちる前に溶けて消える。
「受け止めたとて……」
「ーーあぁ、そう言うだろうな」
 告げて、ふ、と一つ笑う。肩口、赤く染めた一撃が少しずつ塞がるのは明の歌、だ。動きはしなかった。守るべきものがあるから。そして、守ることを選んだ男の後ろ、癒すことを選んだ娘は歌をーー絶やさなかったのだ。
「赦しを求めぬ者には何も出来ぬ」
 呟くように言の葉を紡ぎ、ザッフィーロは身に溜めた赦しを与えてきた人々の罪と穢れを放つ。
「……生きる限り纏わり積もる人の子の穢れを今返そう」
 それは無数の手にも似ていた。
 500年分の穢れ。使えども尽きる事は無いそれが、戦場を走る。ひゅ、と穿つ鋭さで魔術師の腕をつかんだ。
「彩花、援護は俺と明に任せろ。……、……全力で仕留めてこい」
「涼さん、頼んだわ!」
 あぁ、と短く応え、涼は床を蹴った。たん、と一歩目から一気に加速して、黒華・改を構える。この一撃で落とせれば、技をコピーされることはないがーーだが、今が機だ。たとえ倒せずとも、防御されなければーーいける。
「2人ともナイス援護だ。これで終わりにする……!」
 黒蝶の群れが剣身に宿る。拘束とて永遠ではないだろう。だが、間に合う。間に合える。リン、と音を鳴らす魔術師の杖が力を持つにはまだ時がありーーその隙を、三人は見逃さない。
「はぁあああ!」
「ーー……っぁあ、あ」
 上段からの振り下ろし。鋭い斬撃が、朱殷の魔術師を切り裂いたのだ。
「この、ような。こんな、こと。私の、錬成の邪魔を……ッ」
 朱殷の魔術師の声が、高く戦場に響き渡っていた。悠然とした笑みを浮かべていた魔術師の姿は今や揺らぎ、疑念と挑発に怒りを見せる。
「適格者の血さえあれば、賢者の石へと至る。そう、強い感情の染み出した血さえあれば。より強いものを、そう。そうね。貴方達全員と、領地のものを並べてみれば……!」
「ーー……ッ」
 狂気に満ちたその声が、少女へと届くその前に黒衣が揺れた。
「とんでもない無謀をやらかしたことは兎も角、全ては妹たちの為だったのだろう」
 ならば背筋を伸ばして、胸を張れ。
 そう、告げたのはノワール・コルネイユだった。薄く開いた少女の唇に、言の葉を紡ぐだけの気力と心は残っていた。少女へと声をかける猟兵達が多くいたからだろう。壊れきることも、諦めることもなくーー魔術師から向けられる言葉にも、飲み込まれることなく少女はいる。
「お前のその無謀が私達を、訪れる筈のなかった結末を手繰り寄せたんだ」
「たぐりよせ……た?」
 ぱち、とそこで、初めて瞬いた少女に、ノワールは小さく笑う。もう少し後ろに下がっていろ、とだけ短く告げる。
 そう、少女の叫びが。少女の覚悟が。魔術師の舞台を、この地で行われ続けていたことを猟兵達に知らせることとなったのだ。
 そして、今、猟兵達は間に合った。
 魔術師を倒すのに焦る必要などない。
 守り役を担う他の猟兵達が、頷く様を見ながらノワールは視線を前へとーー戦場へと、向けた。
「次から次へと、邪魔を……。その適格者には、随分と手間をかけたというのに」
「ーーそれは」
 貴様の勝手な都合だろう。
 言い捨ててノワールは、床をーー蹴った。まっすぐに踏み込み少女に、ふ、と魔術師は笑う。掲げられた杖はーーだが、構えるより先に腕を赤く染めた。
「な……!?」
「さて……狩人の本領発揮と行こうか」
 構えたのは二本一対の長剣。
 真っ正面の踏み込みから、た、と床を蹴り上げて空へと回る。その瞬間も、刃は空を切り裂いていた。舞い上がった炎が断たれーーそこで魔術師は漸く知る。
「剣閃……っ美しく踊って頂戴?」
 空に一度回った理由はたったひとつ。この一撃が縦横無尽に刃を放つから。敵だけを捉えず、空間を捉える刃はーーだが、舞い踊る鮮血の刃を切り払う。前へ、前へと。空にて一度周り、浅く、深く、腕を切り裂かれようと気にするつもりはなかった。
「逃しはしない」
 魔術師を。吸血鬼を。
 狩人たるノワールが逃す気などないのだから。
「ーー……っ刃よ」
 香水瓶からこぼれ落ちる鮮血が、刃となって飛んだ。ひゅん、と穿ちくる刃を払い落とせば血と変わる。ぴしゃん、と落ちる赤の、その雫さえ飛び越えて上段から、ノワールは一気に朱殷の魔術師へと剣を叩き下ろした。
「ーー……っく」
 舞い上がった鮮血の刃が受け止めるように群れる。ーーだが、押し込む銀の剣の方がーー強い。
「っぁあ、ぁ……っ」
 斬り付ける剣が、魔術師の肩を赤く染めていた。は、と息を落とし、深く吸血鬼は瘴気を纏いだす。生命力を奪い取る。その方法でしか、魔術師に回復の手段は無いのだ。奪い取る側であり続けた朱殷の魔術師にとって、此処まで追い詰められる、ということがそも「あり得ない」ことなのだ。
「このようなこと、あっては……ッ」
「呪いの剣と云うのは存外に、本物だったのかもしれんな」
 ぶん、と振るわれた香水瓶に。こぼれ落ちた赤から生まれる熱を避けるようにノワールは飛ぶ。着地のその場所から、ふ、と息だけを落とし狩人は告げた。
「貴様の玩具にされた者達の怨嗟が剣に宿りでもしたか。剣の呪いがお前にこうして災いを齎したのだとしたら……随分な皮肉だな」
 ま、御遊びが過ぎたってことだ。
 息を吐き告げた、ノワールに朱殷の魔術師は首を振る。
「あれは、私が作ったもの。そのようなこと、あり得るはず……!?」
「あり得ぬ、ですか。ならばどのような形であればあり得ると思われたのか」
 声は、低く静かに落ちた。黒髪が揺れる。月舘・夜彦の言葉に、ま、と応じた青年の姿があった。
「碌な考えじゃないだろうな」
 篝・倫太郎だ。大方ーーそう、自分が作ったのだから自分の言うことを聞くべきだとでも言うのだろう。己の知識欲の為だけに、賢者の石の精錬に傾倒しーー街を、実験場にしてきたのだから。
「彼女の事は気掛かりではありますが、目の前に居る魔術師もそのままには出来ません」
 奴こそが元凶なのですから、という夜彦は言った。
「私達は為すべき事をしましょう」
「彼女への声掛けは終わってからだって出来るしな。ーーまずはこの胸糞悪ぃ舞台を設えた奴をぶちのめす」
 応じて、先に床を蹴ったのは倫太郎だった。背に構えていた薙刀をくる、と回し、勢いと共に飛び込む。た、と三歩目で一気に身を前に飛ばせば、魔術師の視線が当たり前のようにこちらに向く。
「私の舞台に、随分な物言いだとこと。邪魔をしに来た身で……!」
 シャン、と鮮血の石を飾る杖が鈍い光を帯びた。ごう、と唸りくる風に倫太郎は身を飛ばす。左に振った先、きゅ、と床を足裏で掴みーーそのまま、一気に踏み込んだ。
「それくらいで帰ると思われてもな」
「大丈夫よ。邪魔者でも、血の精度上げるには役立つでしょう」
 た、と踏み込みで浮かした体から、舞うように華焔刀で薙ぎ払う。杖で受け止められ、キィイン、と甲高い音と火花が散る。
「器用なこって」
 薄く笑いーーだが、落ちる体にそのまま体重をかけて、倫太郎は着地する。腕を引き、刃先を返しての斬撃は魔術師の腕に沈んだ。
「……ッく、この、程度……っ」
「ーーなら」
 こっちは? と告げるように笑いーーふと、静かな声で倫太郎は告げる。
「縛めをくれてやる」
 それは災いを縛る不可視の鎖。絡みついた瞬間ーーヒュン、と何かが空を切った。夜彦の刃だ。流れるように滑り込んだ男の刃が、魔術師の胴を滑るように走り、切り裂いていく。
「……随分と邪魔なこと」
 肩口を露わにし、赤く染めながらも魔術師は悠然と告げた。幾分か落ち着いたのかーーそれとも、猟兵たちを「どう」使うのか、自分の実験の中で道筋が決まったからか。
「朽ち果てなさい」
 ぶわり、と瘴気の風が夜彦へと来た。そう、風だ。だがそれが己に向かい来る一撃であればーー。
「ーー斬る」
 短く告げた男の刃が、夜禱が風を切り落とした。四散した瞬間、わずかに頬を焼いたが、だがそれだけだ。
「……邪魔を。けれど、そう、そうね。いちばんの邪魔は……」
 魔術師はそう言ってーー視線を倫太郎へと向けた。
「貴方ね」
 瞬間、朱殷の魔術師に絡みついていた拘束術が弾けーーぐん、と魔術師が、来た。
「……っ」
 次の瞬間、衝撃が倫太郎を襲った。
 反射的に振り上げた華焔刀が切り裂いたのは熱の半分。は、と荒く息を吐きーー血に腕を濡らしながらも、だが、青年は笑った。
「何を笑って……、まさか……!?」
「悪ぃな、本命は俺じゃねぇ。悪趣味な芝居はこれで仕舞いだぜ」
 は、と振り返った魔術師の視線の奥、刃を構えていたのは夜彦だった。ーーことは、ひどく単純な話だ。真正面から向かったのも、派手な攻撃も全て倫太郎から向かって行っているのだと示すための策。
(「夜彦の一撃の方が確実に重くて強い。その攻撃を確実に通すのが此処での俺の務めだ」)
 そして、倫太郎は完遂したのだ。
「狙うは、刹那」
 刃を収め、集中した男の視線が前を、敵を見据える。
「命を弄んだ末に然るべき罰を、覚悟を以て刃を向けよう」
 踏み込みは、一瞬だった。ぐん、と身を沈ませ、放つ居合の一撃が魔術師の胴へとーー沈む。
「ぁあ、……っぁあああ……!」
 庇い動く杖など間に合うわけもない。直前までその腕は、力は、ただ一人を仕留めようとしていたのだから。
「このような、このような、こと……っあり得ない。あっては、いけない」
 吐き出した赤が、朱殷の魔術師の纏う瘴気さえ汚していた。
「猟兵風情に、私の実験の、私の錬金の邪魔をされるなど……!」
 あり得ないと、許されないと。
 紡ぐ魔術師に夜彦は静かに告げた。
「貴女は美食家のように振る舞ってはおりますが、私には自らを上品だと気取る獣にしか見えませぬ」
 己のあり方が正しいのだと、微笑む獣に過ぎぬのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
朱殷の魔術師の前へ。

ご機嫌よう、魔術師どの。
貴方の研究が結実しないこと、大変残念です。
ええ、今まで流れた血が哀れでなりません。

さあ、起きなさい、鉄錆。
肉を裂き、血を啜れる獲物ですよ。

鮮血の刃は撃ち落としつつ、多少は我慢。
逆に砕いた刃の影に身を潜め、奇襲を狙いましょうか。
喩え、私の位置を突き止めても安心はできませんよ。
鉄錆は鞭。多少、変幻自在。
守りを砕き、傷を抉り、命を啜ることに貪欲ですから。

機を見て、血界檻鎖。
内側に棘のあるゲージで拘束し、攻撃と同時に他の猟兵さんの機会も作れたら。
折角です、ご自身の血を賢者の石に転用なさっては?
その機会も、もうありませんが。

選別の勇者譚は今日でお終いです。


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と屋根側から侵入
我々破壊者が娘に出来る唯一は、彼の魔術師を殺す事
何より賢者の石なぞに執着する愚か者は
一度完膚なき迄に甚振らねば気が収まらぬ

魔方陣より【女王の臣僕】を召喚
多少動きを封じたならば危険も減る
強化されればされる程、従者へ掛る負担も馬鹿にならぬ
流石に莫迦者に対して無感情を貫き通す自信はない故
ならば――我が渾身の全力魔法にて骨の髄まで凍り尽くそう
四肢の感覚が徐々に失われていく感覚
精神影響は如何程であろうな
…罅?斯様なもの構っていられるか

よもや心配は不要だろうが
私が援護するとはいえ油断するな
ジジの餓竜を盾に身を守り、彼奴の写し業を相殺
莫迦め、把握しておらんとでも思うたか?


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

壁でも窓でも構わぬ、砕いて吸血鬼と少女の間へ
【餓竜顕現】を用い
餓竜の身体ごと壁とし両者の視界を遮りながら
薙ぎ払う剣で前進を阻む

あの少女の視界を穢すな、残り滓
ひと息に距離を詰め
黒剣による<部位破壊>で杖を狙う
そら、此れも正真正銘の呪われた剣だ
貴様はこの地に凝る「呪い」
同じ呪いを以て制してくれよう

背からは師の感情が熱として伝うよう
――珍しいことだが
今宵ばかりは止めはすまい
罅入る音色も少しの間振り切って

映された場合は餓竜を盾とし
作った一瞬の隙は師が過たず突いてくれるだろう
それを逃さず、懐へ

篭めた呪詛ごと叩き込んで
街は貴様の遊び場ではない
渇きなら此処で満たして行くがいい


早乙女・翼
尖塔から舞い降りて少女の元に。
膝をついて出来るだけ視線の高さを合わせ、優しく毅然と声をかけ。

君がここに来た事は決して無駄じゃない。
ご覧。君の行動のお陰で俺達はあの女の陰謀を知った。
こうして大勢で駆けつける事が出来た。
――俺達は、君の手にした剣に喚ばれたも同然。
君の勇気に敬意を。君の刃となりてあの女を滅ぼそう。

紅い花には俺にも覚えがあるさよ。
剣を思い切り投げつけ羽翼の結界を展開。
攻撃と同時にこいつは目眩ましにもなってくれる。
その間に他の猟兵が攻撃しかけてくれたら有り難いな。
そして俺は少女を抱えて魔術師から離れた広間隅っこに退避。
猟兵連中が派手に戦っても大丈夫なように。
見届けよう、あれの最期を。


コノハ・ライゼ
尖塔側
少女を『かばう』よう降り、抜いた剣を押さえ留める
オレにはこのコの感情の如何程も分かりはしないケド

ココまでよく耐えたネ
こんな呪詛にまみれた舞台、最後まで付き合う事はナイ
君は、明日の陽を見るんデショウ?

呪いはオレが頂くヨ、言って留めた剣で自身の肌を裂き
「柘榴」へ血を与え【紅牙】発動
一息に距離詰め一対の牙と化した柘榴で『部位破壊』狙い喰らいつく
もし術を記録されても
一度きりでどこまで上手に真似れるかしら?
安い挑発に『呪詛』を混ぜ

反撃は『見切り』躱し『マヒ攻撃』乗せた『カウンター』
からの『2回攻撃』で刻んだ『傷口をえぐる』攻撃で捩じ込む刃から『生命力吸収』
「とられる」側になった気分はどう?


アウレリア・ウィスタリア
希望を奏でよう…!

【空想音盤:希望】を発動して突入
破魔の光で瘴気を払い魔術師へ魔銃を撃ち込む

賢者の石がどんなものか、ボクは知りません
けれど、ボクには何の価値も無いものです
人の命を使い潰す価値もないもの
だからお前を滅ぼそう
復讐者であるボクがこれまで無念に散っていった人々の代わりに
お前に復讐を果たそう

高速で魔術師の周囲を飛び回り
破魔の光で周囲を満たそう
魔銃で牽制して魔術師の動きを制限しよう

ボクの中にある感情がどういうものかわからない
正直、お前に憎しみや怒りを抱いている訳じゃない
それでもボクはボクの役割を果たす

復讐者としてその首を斬り飛ばす

隙を見て接近
鞭剣をその首に放ちその身に纏う瘴気ごと斬り裂く



●朱殷
 たったひとつ。ただひとつだ。
 目指すのは賢者の石の精錬。己の知識欲を満たす為、それを求めた。其の為の土地。其の為の領民。錬金に支障が出ぬよう、管理していたというのに、舞台まで整えたというのに。
「邪魔を、邪魔を邪魔を……!」
 香水瓶から零れ落ちる鮮血が血の炎を呼ぶ。硝子瓶から紡ぐ赤とは使い分けるのか。踊る刃の隙間を縫うように炎は戦場を焼いていく。
「街の亡霊たちでさえ、私の錬成の役に立ったというのに。役に立たぬその血で私の邪魔だけをするというのね」
 猟兵、と低く、唸るような声がした。ぶわり、と燃え上がった炎はーーだが、戦場を包む前に引き裂かれる。
「ーーな」
 シャン、と音がした。金属の音。弧を描いた有刺鉄線は炎熱を引き裂き、火花と共に魔術師の赤を四散させる。
「ご機嫌よう、魔術師どの。貴方の研究が結実しないこと、大変残念です」
 黒衣が揺れる。黒揃えの衣装は、シャンデリアの灯りはあれど、吸血鬼の居城に於いて影と映る。長身の影法師。炎を四散させた鞭ーー鉄錆を引き寄せ、黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は静かに、告げた。
「ええ、今まで流れた血が哀れでなりません」
「……私の研究が、無為であったかのような言いようね」
 結実しないと? と魔術師の声が落ちる。ひた、ひたと這うような苛立ちを肌に感じながら宵蔭は「えぇ」と告げる。口元、僅か浮かべた笑みは吐息を零すように。
「だから言ったのですよ。流れた血が哀れでならない、と」
「ーーそう、貴方は特に念入りに処分しましょう」
 とぷり、と魔術師が手にした硝子瓶の中身が溢れ出す。鮮血は血に落ちることさえ無いままに、刃へと変じていく。
「さぁ、美しく踊って頂戴? その血の一滴まで……!」
 ぶわり、と瞬間、領主の間を血の匂いが満たした。甘く花のように感じるのは魔術師の纏う瘴気が理由か。それともあの瓶の中身であるからか。花のような芳香は何処までも甘く届いても、弧を描き来る『それ』は獲物を追う獣そのものだ。
「ーー」
 首元、薙ぐように来た刃に腕を振り上げる。手にした鞭が鮮血の刃を切り落とし、僅かに腕に返る感触が、鋼を打つ程の硬さを伝えてくる。
(「それなりに頑丈なようですが」)
 切り裂けるものであるのならば。
「さあ、起きなさい、鉄錆。肉を裂き、血を啜れる獲物ですよ」
 鮮血の刃を砕き、とろり、溢れた赤をその身に受けた鉄錆が一瞬、鈍い光を帯びた。瞬きにも似たそれに、僅か瞳だけを緩め宵蔭は足を引く。半身で弧を鮮血の刃の軌道を躱し、背後から迫る刃は腕で受け止める。カン、と一度足を止めれば、影が落ちる。鮮血の刃が群となり作ったーー影だ。
「さぁ、存分に踊ってみせなさい?」
 ふ、と笑う朱殷の魔術師の声と共に刃は雨のように宵蔭へと穿たれる。
「ーー」
 最初の一刀が肩を撃ち抜く。衝撃に、僅か引いた足はーーだがそこで、止まる。
「鉄錆」
 口元、浮かべた表情は。声音は何にひとつ変わらぬままに。薙ぎ払うように宵蔭は鉄錆を振り上げた。穿つ刃を払いあげ、砕けば破砕音と水音が混ざり響く。派手な赤は一瞬にして戦場を染め上げーー故に、男を隠す。影のような黒衣も、白い顔も。
「隠れたつもり? 私が、私の錬成物で見失うと思うのかしら?」
 赤く、輝く石をはめた杖を掲げ魔術師は笑った。瞬間、大気が熱を帯びーー影に潜み、踏み込んできていた宵蔭の姿を露わにする。だがーー。
「あぁ、私の位置は突き止めましたか」
 静かに笑い、告げた男の腕は動いていた。緩やかに、薙ぐように。
「鉄錆は鞭」
 多少、変幻自在のもの。
 血を啜り、肉を裂く機を知ればーー喰らいつくことに憂いなど無い。
 たん、と宵蔭はそのまま、ゆらり、と一度身を揺らしーーた、と床を蹴った。身を前に倒し、一気に踏み込む男の手が後ろへと流れれば鉄錆は戦場にて大きく弧を描く。ひゅ、と落ちた音に、その出所に魔術師が気が付いた所でーーもう、遅い。
「ーーッ」
「守りを砕き、傷を抉り、命を啜ることに貪欲ですから」
 朱殷の魔術師の背を、鉄錆は打ち据えていた。抉るような一撃に、魔術師が踏鞴を踏む。
「このような真似を、私に……!」
「さて、踊りに誘ったのはそちらでは?」
 叩きつけられる殺意に悠然と告げ、た、と宵蔭は床を蹴る。後方、踏み込む『羽音』を聞いたからだ。
「希望を奏でよう……!」
 声は、風と共に届く。淡く落ちたその影に身を潜めるように、た、と一度退く男の姿を確認するとアウレリア・ウィスタリアは一気に、魔術師の懐へと飛び込んだ。
「空を……!?」
 まさか、と落ちた魔術師に、応える代わりに花嫁姿の天騎士へと変身したアウレリアは魔銃を叩き込んだ。た、とつま先だけ床に落とし、放つ銃弾の間には次の場へと飛ぶ。破魔の光は、魔術師の纏う瘴気を砕いていく。
「……ッまさか、私の衣を」
「賢者の石がどんなものか、ボクは知りません」
 けれど、とアウレリアは告げる。振り返る魔術師の放つ炎より早く飛び、僅か、その身に擦り花嫁姿を赤く染めながらも。
「ボクには何の価値も無いものです」
 羽を持つ娘は言葉を紡ぐことをやめない。感情を表すことが苦手な彼女の、けれど心の裡にあった言葉。
「人の命を使い潰す価値もないもの」
 だからお前を滅ぼそう、とアウレリアは告げた。
 賢者の石の錬成の為、魔術師は多くを奪ってきた。奪った気さえ、果たしてあるのか。未だ錬成の為と告げ。人々を材料と告げる朱殷の魔術師にとって領民を殺し切らないのさえ錬成を滞りなく行う為だという。
「復讐者であるボクがこれまで無念に散っていった人々の代わりにお前に復讐を果たそう」
 告げて、飛ぶ。魔銃を構えた腕を伸ばし、放つ銃弾と共に魔術師の後ろへと入り込む。その軌跡を辿るかのように破魔の光が戦場を満たそうとしていた。光は、魔術師が紡ぐ瘴気を薄めていく。
「そう、今度はそうして邪魔をするというのね」
 銃弾は杖を構えた魔術師の腕を撃ち抜いていた。たとえ生命力を吸収する力を瘴気から得ているとしてもーー魔術師の回復は間に合ってはいない。だが、その状況にあっても朱殷の魔術師が逃亡を選ぶこともなく、は、と笑う。
「ーーその復讐、果たさずして散れば……あぁ、あの娘はどんな血となるのかしら」
 此処にいる全員を。私の研究を侮辱したものを。疑念を抱かせたものを。全て、すべて斬り伏せて。
「血の海にあの娘を歩かせれば、あぁどんな感情が染み出すかしら」
「そんなこと、させはしない」
 向けた銃口が淡い光を帯びていた。ヤドリギの精霊が宿り、神さえ撃ち抜く威力を持つ魔銃。空想と共に歩み、理想を奏でーー魂の奥底に眠る希望の光と共に天騎士へと変身したアウレリアは覚悟と共に告げた。
「絶対に」
 た、と床をける。高く飛び上がったアウレリアの下、羽の作る淡い影に立つ男は静かな笑みと共に空間に力を呼び込んでいた。
「こいつは、苦痛を与えるための一品ですよ」
 歪んだのは、魔術師の周囲にある空間。内側に棘があるゲージが、立ち上がったのだ。
「な……っぁああ……!?」
 振り返った魔術師の腕が、棘に囚われる。こぼれ落ちた赤に、宵蔭は静かに告げる。
「折角です、ご自身の血を賢者の石に転用なさっては?」
 その機会も、もうありませんが。
「選別の勇者譚は今日でお終いです」
「この、ような……ッこのようなこと……!」
 ありえない、と叫ぶ魔術師が宵蔭の召喚したゲージを焼くように炎を上げた。ーーだが、囚われの事実は変わらず。永遠では無い。だが、そのいっ時を逃すことなくーーアウレリアは行った。
「ボクの中にある感情がどういうものかわからない。正直、お前に憎しみや怒りを抱いている訳じゃない」
 それでも、と思うのだ。
 仲間の猟兵達に庇われている少女に。道中見た、街に囚われていた亡者達に。
「それでもボクはボクの役割を果たす」
 滑空から一気に、アウレリアは魔術師の懐へと飛び込む。身を沈め、構えたソード・グレイプニルで狙うのは首、だ。
「復讐者としてその首を斬り飛ばす」
「ーー!」
 振り上げる一撃が、魔術師の首に沈んだ。
「ぁあ、ぁあああ……!」
 し吹く赤が床を濡らす。だが、それでもまだ倒れきりはしない、とアウレリアは感じ取る。とぷり、と瓶の中、注がれていた赤が光を帯びたのだ。
 ーー爆発。
 来る、と身を飛ばした娘の前、熱が上がる。躱しきれずに僅か、受けた傷をーーだがそのままに復讐者は戦場をーー魔術師を見据えた。
「あぁ、あぁ、そうね。次は苦痛ではなく幸福としましょう」
 杖を持つ指先を赤く染め、瓶を操る腕を変色させるまで酷使しーーだが、魔術師は笑う。苛立ちを告げ、殺意を隠すことなく見せながらーーけれど、と笑う。
「貴方達を全て片付け、そうしてまた始めれば良いだけのこと」
 街も、材料も。
 領民を増やすなど容易いこと。
「あぁ、次は全て私の錬成した薬で忘れ去って、自ら血を差し出すほどの幸福な領地を作り上げたら良い。苦痛の沁みた血にも亡霊にも少し飽きていたところよ」
 あぁ、だから、だから。
「貴方達の首など、並べて亡霊達の贄としましょう。猟兵。せめてその程度は役に立ってみせて」

●永劫の果て
 ぶわり、と薔薇の香りが濃くなる。むせ返るほどの甘さは、魔術師が纏う瘴気を深くしたからだった。
「……っ」
 その空気の中、猟兵達に庇われながら少女は小さな体を震わせていた。震えたく無い。大丈夫だと言いたいのに、できない。守ってもらっているのに。そう、確かに分かるのにまだお礼だってちゃんと口にできていない。
「あ……っぁ、わた、し」
 手が、剣にかかったままだった。強く握っていたからだろう。浅く、抜ける。キン、と硬く、高く響いた音と一緒に魔術師の声がひどく近くに感じてーー……。
「ココまでよく耐えたネ」
 だが、それを抑える手があった。鞘がずるりと抜け落ち、顕となった刀身を少女が持ち上げる前にーー持ち上げられてしまう前に、コノハ・ライゼは告げる。
「こんな呪詛にまみれた舞台、最後まで付き合う事はナイ」
 オレにはこのコの感情の如何程も分かりはしないケド、と一人思う。そう、分かりはしないけれどあの魔術師の目論見通りにさせる必要など一欠片も無いのだ。
「君は、明日の陽を見るんデショウ?」
「ーーあし、た」
 明日の陽。
 なぞるように落ちた少女の言葉に、コノハは頷く。ソ、明日。夜が終わってーーそうして、当たり前のようにやってくるもの。
「えぇ、えぇえぇ。貴方に明日の陽はあっても、そこの猟兵たちにはそれはなくてよ?」
「ーーっァ」
 ひく、と少女が震える。剣戟の間、声を上げた魔術師が薄く笑う。炎と血の間、追い詰められた事実さえ認識しながらも、己が適格者と告げた少女のーーその血に強い感情を滲ませるように言の葉を紡ぐ。
 猟兵達への嫌がらせであれば、切り込むことによってそちらに集中させただろう。だが、朱殷の魔術師にとって少女は賢者の石の精錬に続く材料のひとつ。どれほどの状況にあろうと、例えば、と思うのだろう。口にしている通り。猟兵達を倒しきったその時、たった一人生き残った少女の心にはどんな強い感情が滲むのだろうか、と。
「ーー……」
 その手の笑みだ。
 青の瞳に魔術師の目を一度納め、コノハは少女に向き直る。こちらの視線に気がついて、薄く口を開いた少女に、コノハは言った。
「呪いはオレが頂くヨ」
「ーーえ」
 留めていた呪いの剣で、自分の肌を裂く。つぷり、と沈んだ切っ先が、コノハの腕を赤く、染める。ぱた、ぱたぱたと落ちる赤に、意識を引き戻した少女が、は、と顔をあげる。
「血が、傷、それに、呪い、って……」
「言ったでショ。頂くヨ?」
 指先は赤く染まり、手にしたナイフへと滴り落ちる。柘榴。刻まれた溝は真紅に濡れーー姿を変えていく。牙状殺戮捕食形態。少女に背を向ければ、絹のストールが揺れた。はら、はたと、と少女の視線を一度集めれば、魔術師の声が落ちる。
「その程度のことで、私の……」
「あの少女の視界を穢すな、残り滓」
 瞬間、魔術師の纏う瘴気がーー揺れた。斬り裂かれたのだと朱殷の魔術師が気がついた瞬間、影が落ちる。
「ーー……竜」
 そこに現れたのは、鋼の鱗と眼球無き瞳を持つ、半人の暴竜であった。魔術師と少女。その視界を遮るように暴竜とジャハル・アルムリフはーー踏み込む。膝を折り、体を一度深く沈めた男の瞬発の加速。は、と息を飲んだ魔術師が向けた杖をジャハルへと向ける。
「させは……!」
 しない、と叫ぶ魔術師の動きが一拍ーー鈍る。傷が痛んだのか。否。そこに、青が舞ったからだ。
「控えよ、女王の御前であるぞ」
 無数に舞う青き蝶。その鱗粉が魔術師の体を、その動きを鈍らせていたのだ。
「……魔術師……ッ」
「愚か者が」
 戦場において、とアルバ・アルフライラは告げる。この場を己が実験場というのであれば。
「よそ見をする者がおるか」
 己を一度見た魔術師へと悠然と告げる。身を庇うように展開した赤が、振り上げるジャハルの刃によって斬り裂かれていたのだ。
「な、まさか……!?」
「そら、此れも正真正銘の呪われた剣だ」
 刃は杖にぶつかる。何度となく猟兵達の攻撃を受け止め、時に払い上げーー耐えきれずに押し込まれていた赤き杖が、軋む。
「貴様はこの地に凝る「呪い」」
 ぶつけるように叩きつけた一撃は、だが、硬い感触と共に破砕の音をジャハルは聞く。
「同じ呪いを以て制してくれよう」
「……っそのような、こと……!」
 ぐ、と押し込めば火花が散り、杖の上を滑らせた刀身を一度浮かせーー一気に振り下ろした。
 ガシャン、という音と共に、杖が欠ける。飾りが落ち、引き寄せていた熱風が、一度、空に抜ける。
「な……!?」
 ごう、と轟音と共に天井が破壊された。砕け落ちる破片さえ飲み込み、炎が領主の間を押し広げていく。
「私の、杖を……このような、このようなこと……!」
 貴方、と叫ぶ声と共に硝子瓶の中身が、戦場へと零れ落ちた。瞬間、生じた爆発が腕を焼く。接近を厭うかのようなそれに、身を横に振る。剣を縦に構えたのはーー半ば、反射だ。ギン、と硬い音と共に炎の中から来た魔術師の一撃を、ジャハルは受け止める。
「ーー」
 三連の魔術の矢。浅く、腕に受ければーー後ろから冷気が来た。師父の魔術だ。
「我々破壊者が娘に出来る唯一は、彼の魔術師を殺す事」
 さわ、さわとブルーサファイアの髪が揺れていた。展開されていく魔法陣が、指先まで滑るように落ちていく光が魔力を回すアルバの姿を顕にする。
「何より賢者の石なぞに執着する愚か者は、一度完膚なき迄に甚振らねば気が収まらぬ」
「……」
 珍しい、とジャハルは思う。師の感情が熱として伝うようだ。
(「……だが」)
 今宵ばかりは止めはすまい。
 キン、と高く、澄んだ音をーー己が守るべきひとに入る罅を。その音色を少しの間振り切るようにーー駆ける。足を止める気など、結局無かったのだ。たん、と踏み込み、落ちた瓦礫を飛び越えれば、瘴気の炎が壁のように立つ。だが、薄い。舞い踊る破魔の光が、その密度を着実に払っていたのだ。踊る鞭の間を駆け抜け、打ち出した突きに、召喚した餓竜が呼応する。
「映せ」
「これ以上、これ以上……!」
 殺意を隠すこともなく、魔術師は荒く硝子瓶を振り上げた。踊り出した鮮血がぶわり、と魔術師を庇うように立ち上がりーージャハル達を、弾く。
「ふふ、あははは……! 私の研究は終わらない。賢者の石を精錬するのは私よ。全ては、その為の材料に過ぎない」
 さぁ、と朱殷の魔術師は告げる。
「その技、興味深いわ」
 その言葉を合図とするように、鮮血の石が煌く杖が光を帯び、戦場に赤き獣が姿を現した。
「私の役に立ちなさい。手始めに、あの魔術師から」
 巨体、だ。見上げる程の赤き獣。竜に似たそれが高く飛び上がりーーアルバへと向かった。
「……」
 ごう、と吹く風に、だが表情一つ変えることなくアルバは杖を構える。圧迫の風。烈風の爪。その身を打ち砕かんと向いた一撃はーーだが、割り込む一人が受け止めていた。
「師父よ」
 餓竜だ。
 半人の暴竜は、ジャハルの動きをトレースする。故に、従者が守りに入ればその一撃を、竜は受け止めるのだ。
「莫迦め、把握しておらんとでも思うたか?」
 は、とアルバは笑う。口元、恐ろしくも美しい程の笑みを浮かべ。
 それは、己の死霊召喚を基盤として編まれたものだ。その堅牢を、師父たるアルバが知らぬ訳もない。ゆるり弧を描いた唇は、魔術を紡ぐ。こちらの扱う術は、奴の強化を誘う。されればされるほど従者へ掛る負担も馬鹿にならない。
(「流石に莫迦者に対して無感情を貫き通す自信はない」)
 ならば選ぶ手はひとつ。
「――我が渾身の全力魔法にて骨の髄まで凍り尽くそう」
 魔術を回す。パキ、パキと戦場を漂う砂埃さえ凍り落ちていく。そして、多重に展開された魔法陣は氷冷の世界を紡ぎあげる。
「っく、このような……!?」
「四肢の感覚が徐々に失われていく感覚。精神影響は如何程であろうな」
 悠然と、アルバは告げる。罅の入った体が、欠け落ちた破片が魔力へと昇華されていく。ほう、と落とした息さえ白く染まる世界にーー迷いなく、竜が行く。その背を見送り、展開した魔法を矢へと変じさせていく。
 行け、と告げることはなく。だが、向かうことを知った魔術師の紡ぐ青き魔力が朱殷の魔術師が操る炎を食らう。
「させると思うか?」
「街は貴様の遊び場ではない」
 凍りと炎がぶつかり合い、衝撃が抜ける。その煙の中、一気に踏み込んだジャハルの剣が朱殷の魔術師へと叩き落とされた。
「渇きなら此処で満たして行くがいい」
「ッ……ッァア、ァアアア……!?」
 ザン、と重い一撃と共に、魔術師の構えた杖が砕け散り、冷気に包まれた腕ごとーー落ちる。
「ァア、ア……っこの、ような。このようなこと、猟兵が、猟兵風情が……!」
 炎と氷を以って戦場に光が散り、魔術師の咆哮にも似た声が響く。賢者の石を。錬成を。ーー血を。
「誰にも私の錬金を邪魔はさせない。全て、その為にあるのだから。この地も、材料たちも……!」
 全て、と叫べばーーその声が、少女の心を揺さぶった。恐怖を穿つように、猟兵達が守るものを、己の錬金に必要なものを、己の手で返事させる為に朱殷の魔術師は声をあげる。
「全て、賢者の石の為に……!」
「ーーっ」
 石、と小さく落ちたその声が、続く何かを拾う前に赤い羽が舞った。ひら、ひらと舞い落ちる羽が少女の視界を覆い、その視線を浚う。
「あ……」
 揺れる瞳が、見上げるようにみた先で揺れていたのは赤い髪だった。真っ赤な柘榴紅の髪を夜風に揺らし、ふ、と早乙女・翼は瞳を緩めた。
「君がここに来た事は決して無駄じゃない」
 少女の前、膝をついて視線をあわせる。あの魔術師の声よりも、自分の方へとせめて意識を向けられるように。優しく、毅然と声をかけた。
「ご覧。君の行動のお陰で俺達はあの女の陰謀を知った。こうして大勢で駆けつける事が出来た」
「……かけ、つける」
 なぞるようにそう、言葉を落とした少女に翼は頷いた。広げた背の羽で少女を庇うようにしながら。
「――俺達は、君の手にした剣に喚ばれたも同然」
 少女の瞳に色が戻っていく。澄んだ、空の青に似た瞳に涙がたまる。拭おうと必死になる指先に、大丈夫だと告げるようにそっと、翼は手で触れた。
「君の勇気に敬意を。君の刃となりてあの女を滅ぼそう」
 剣戟が、戦場に爆風を生んでいた。舞い上がった炎を散らし、落ちた血さえ今は置いて猟兵達は戦場を駆ける。その向こう、苛立ちを見せる魔術師の声が高く響く。
「滅ぼすなど、貴方達にできるわけないわ。私は私の研究を終わらせはしない。血もある。強い感情が滲み出す血を、その娘の前で全て終わりにしてあげるわ……!」
「ーーこれ以上」
 細身のサーベルを抜き払い、翼は低く告げた。
「喋るなさね」
 ごう、と唸るように来た炎をサーベルで斬り払う。炎熱から少女を守るように羽を広げ、僅かに腕を焼いていった熱に息だけをつく。少女の前、声を荒げることだけはしないまま手にした剣をーー放つ。
「紅い花には俺にも覚えがあるさよ」
 思いっきり剣を投げつければ、魔術師が操る鮮血が壁となる。
「その程度……っな、羽根!?」
 受け止めた筈だった。弾きあげた筈だった。
 だがサーベルは、淡い光と共にその姿を変じていた。
「死天使の羽根と彼岸花」
 それは深紅の鳥の羽根。緋色を纏う男の、鮮やかな羽。そしてーー曼珠沙華の花びらだった。祈るように、聖句を紡ぐように翼は告げる。血と古い骨の香りが届く戦場にて。全ての惨状を紡ぎあげた主へと。
「死に逝く者に捧げよう」
 葬送へと至る結界を紡ぐ。
「っ、ぁあ、っく、こ、ん、な……っ」
 魔術師の声が跳ねた。払うように向ける筈の腕は、凍り、切り落とされて既に無い。た、と床を蹴り、短な詠唱と共に放たれた力はーーだが、結界に阻まれる。芳香が、羽根が力となって朱殷の魔術師を捉えていた。
「……」
 その中を、た、と駆ける仲間の姿を翼は見る。これは目眩しにもなる攻撃。それを理解しているからこそ、翼は羽を広げ魔術師の視線を受け止める。
「このようなこと、私は、認めない……!」
「ーーソウ?」
 斯くして、赤と緋の間、駆け抜けた男の牙が届く。一対の牙と化した柘榴で、コノハは魔術師の腕へと喰らい付いていた。
「な……!?」
 衝撃に魔術師が踏鞴を踏む。ばたばたと落ちた血に、瘴気をかき集めるがーーだがあまりに足らない。
「こっちさね」
 魔術師の視線が、コノハへと向いたのを見ると、翼は少女にそう、声をかけた。膝を折り、そっと手を差し出す。重ねられた少女の手は、まだ少し震えてはいたがーーきつく、握り返されたそれに翼は頷いた。 
「行こう」
 抱き上げて、羽を広げる。魔術師から離れるように広場の隅へと飛ぶ。他の猟兵達がどれだけ派手にやっても大丈夫なように。
「見届けよう、あれの最期を」
 熱が舞う。氷が踊る。打ち据える鞭の間、血の中を破魔の光が踊る。少女へと紡ぎ続けた言葉は、魔術師の呪いのような言葉からの脱却となりーー魔術師へと猟兵が向けた力と言葉は、確実にこの災厄の主を弱らせていた。
 全ては賢者の石の為と言いながら、ただの一度の成功はあったのか。己の知識欲を満たすその為だけに、固執して沈めた領民達が、彼らの日々が、営みがーーいま、一振りの剣と共に猟兵たちを呼び寄せた。
 この舞台に、幕を引く為に。
「その技、貰っていくわ」
「一度きりでどこまで上手に真似れるかしら?」
 とぷり、と揺れた硝子瓶の中身が変容する。刃の代わり、喰らいつく牙へと変じたそれに、コノハは囁くように告げる。安い挑発に呪詛を混ぜ、一度、引き抜いた牙でーーその赤を、受け止める。
「な……!」
 余波はある。肩口に、頬に傷が走りーーだが、コノハの牙は刎ねあげる。残る牙を交わし、紅牙へと変じた柘榴が魔術師の腕を喰らい、払いあげられた先ーー胸に、沈む
「「とられる」側になった気分はどう?」
「……っぁ、あ、この、ような……ッ」
 深く、ふかく。柘榴が魔術師の胸に沈む。傷口からねじ込んだ刃が、魔法陣と共に生命力を奪っていく。
「わた、しの研究……賢者の、石を。血を、適格……」
「……」
 適格者を、と最後、怨嗟を残すように少女へとーー賢者の石の材料として、見出した血へと向ける言葉を柘榴は穿つ。マヒで動くことなく、小さく震えていた魔術師の腕が止まり、がしゃん、と硝子瓶が落ちた。
 ガシャンと瓶は砕け散り、中の鮮血は、崩れ落ちた朱殷の魔術師の姿と共に、赤い霧の中にーー消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『花咲く季節』

POW   :    花の側まで近づく、花を愛でる

SPD   :    花の香りを楽しむ、花を愛でる

WIZ   :    花の造形や生態を思う、花を愛でる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星屑の井戸
 少女が抱いていた呪われたの剣は、あの街を通り抜けた時に淡い光となって消えた。領主の間で、魔術師が倒れたその時に消えなかったのは呪われた剣のーーその持ち手たちの想いであったのか。薄闇を抜け、出会い、助け出した少女と共に朝焼けの大地を歩く。嘗て、領主が適格者を運ぶ為に使ったという馬車の姿も既になく、轍だけが通り残っていた。
 領主の館に残っていた亡霊たちも姿を消した。否、解き放たれたのだろうと猟兵達は思った。魔術師により作られたーーあの形にされた街は、今は正しく眠りについた。
「あ……」
「おねえちゃん……!」
 隠してたどり着いた小さな町の門は、開いていた。領主の館から少しばかり離れた地にあるその町では、誰もが寝ずに帰りを待っていたのだろう。眠気に擦った手を、きゅ、と握った幼い少女たちが、猟兵が助け出した少女へと駆け出していく。
「ノエルおねえちゃん……!」
「おねえちゃん!」
 とん、とぶつかるようにして抱きついてきた妹たちに、あ、と声を漏らした少女ーーノエルは息を飲みーー……。
「リラ、ルーシャ……ッ」
 そうして、大切な妹達の名前を呼びながら、泣いた。

●調香の地
 古くは、この地は星の降る場所と言われたのだと猟兵達に語ったのは町の人々だった。少女の無事の感謝を告げ、争うことさえできなかった自分たちに、と唇を噛んだ彼らに誰かが首を振った。猟兵たちにさえ勝ち、再び研究を続けるつもりでいた魔術師は雄弁であった。彼らの多くも、その心を折られてきたのだろう。
「どうか、もしよければ丘で花を見ていってください。此処には、それくらいのものしかありませんから」
 誰もが眠そうな顔をしながら、それでもと待ち続けた少女の帰還。此処を領地としていた魔術師がいなくなったことにより、彼らの生活も変わっていくのだろう。
「お帰りなさい。お疲れ様」
 猟兵たちを出迎えたシノアは、町の人々が簡単な飲み物を用意してくれたのだと言った。花の浮かんだ、レモネードに似たドリンクだ。
 古くは調香師が集う町だったというこの場所は、美しい花の群生地を持つ。色彩は様々に、だが、どれもが朝日を受けて淡く光を帯びるという。
 町の人々の誘い通り、丘の花を見るのも良いだろう。
 少女と、その妹たちに声をかけるのも良いだろう。領主の間で声をかけた者たちであれば、少女もよく覚えている。
 朝日を迎える地で、昨日までとは違う明日を迎えた町でーーさぁ、どう過ごそう?


*マスターより*
 ご参加ありがとうございます。
 秋月諒です。

1)丘で花を見る
2)少女に声をかける

 このどちらかが選択可能です。
 町の人々が用意したレモネードが振舞われているようです。
 領主の館があった街に戻ることはできません。
 少女に声をかける場合、ボス戦で声をかけるプレイングがあった方々は、少女が相手を覚えています。(声をかけていない方も会話は可能ですが、反応に差があります)

 お誘いがあればシノアがお伺いします。

*プレイング募集期間について
 マスターページ、告知ツイッターでご案内します。募集期間の数日前にご案内させていただきますので、お手数ですがご確認いただけると幸いです。
クリストフ・ポー
2)
飲物は有難く頂いて
気さくに話掛けるよ

ノエルちゃんヤッホー♪
少しは落ち着いたかな?
良ければ
其方の可愛いお嬢さん達も紹介してくれる?
リラちゃん、ルーシャちゃんだね
僕は没落貴族の人形師のクリストフだよ
宜しくねー☆

花咲き乱れる箱庭
その影で真っ赤な血が流れた
町を愛するのと同じ位
人々に残る悲劇の痕は
指を鳴らして『お終い』とはいかない

君達のお兄さんは
何という名前だったのだろう?
僕は彼等が此処へ呼んだと思うよ
そしてこれからは
君達が頑張らなきゃねと笑う

去った者に
この先の希望は叶えられない
叶えるのは何時だって
遺された者だ

シノアがいて御邪魔で無ければ
成果はどうだい?と尋ねる
返答が有れば笑って
家路までが狩りだよ!


上野・修介
※絡み・アドリブ歓迎
「さて、終わりか」

まず町の周囲を探索【視力+第六感+情報収集】し残党などを確認。

確認し特に問題なければ、少々考える。

「さて、どうしたもんかな」

まず可能であれば、犠牲になった人々の墓に手を合わせる。

墓前に手を合わせたら、レモネードを1杯だけもらい、花畑や周囲の風景を眺める。

また念の為、周囲を警戒しておく。
性分とはいえ、楽しんでいる他の猟兵達や街の人々に水を差さない程度に、さり気なく。

柔軟したりながら戦闘の振り返る。

一つの戦いは終わった。
なら次の戦いがある。

――行住坐臥造次顛沛

次の戦いでも「少女」を助けられるように。
思考は途切れず、次を、先を見据える。



 古くは、この地は調香師たちが多く住む場所であったのだという。町を囲むように作られた壁が残っていた。刻まれていたのは花の飾りだろうか。壊れて随分経つようだ、と上野・修介は思った。
「さて、終わりか」
 町の周囲の探索は終わった。周囲に何かがいるような気配は無くーー残党の姿もない。領主・朱殷の魔術師が消えたことにより配下の吸血鬼や亡霊たちも姿を消したのだろう。
「さて、どうしたもんかな」
 そうして、戻ってきた修介を出迎えたのは町の大人であった。周囲の探索に向かっている者がいる、と聞いていたのだろう。深々と頭を下げた男は、黒髪に霜を乗せ、シワの入った手のひらをきつく、握っていた。
「あんた達のおかげだ。あんた達が来てくれたから……あの子も、皆も……報われた」
「……」
 ありがとう、と重ねて感謝を告げた男は、涙ぐむようにして姿を消した。
(「声の頃は、見た目より若いのか……? 何かが、あった人なのか」)
 報われた、と男は言った。
 若しかしたら過去に領主へと何かの行動を起こした一人なのかもしれない。生き残ったのか、生き残らされたのか。町の端に住むという男の背を見送ると修介は墓前へと向かった。小さいが、墓があるのだとそう聞いていたからだ。


「ノエルちゃんヤッホー♪ 少しは落ち着いたかな?」
 レモネードを手に、足取りも軽く。ふわりと外套を揺らしたクリストフ・ポーは領主の間にて出会った少女ーーノエルの元へとやってきていた。
「あ、貴方は……! あ、あの時の、怪我は……!」
 ぱ、と顔を上げたノエルに、大丈夫、とクリストフは微笑む。差し出して見せた掌には黒の手袋に傷こそあれど、白い掌には傷は残っていない。ぱちぱち、と瞬いたノエルに、ふ、と笑って、良ければ、と囁いた。
「其方の可愛いお嬢さん達も紹介してくれる?」
「あ、はい」
 一瞬、見惚れていたのか。跳ねた声の可愛らしさに、ふ、と笑っていれば、姉の言葉に頷いたノエルの妹たちが深々と頭を下げた。
「リラです」
「ルーシャ、だよ?」
 頭を下げた後、そうして落ちた声は幼い妹たちらしいのだろう。慌てるノエルに微笑んで、クリストフは視線を合わせる。
「リラちゃん、ルーシャちゃんだね。僕は没落貴族の人形師のクリストフだよ、宜しくねー☆」
 気軽にかけた言葉はーーだが、小さな妹たちには初めて聞くような言葉だったらしい。
「ぼつ、らく……?」
「お姉ちゃん、ぼつらくって……?」
 なになに? と姉を振り返る幼い妹二人に慌てたのはノエルだ。
「あ、ご、ごめんなさい……!」
「あはは。ううん、気にしない気にしない」
 とはいえ、没落とは、と此処で講義を始める訳にもいかなさそうだった。
 花咲き乱れる箱庭。その影で真っ赤な血が流れた。
(「町を愛するのと同じ位、人々に残る悲劇の痕は指を鳴らして『お終い』とはいかない」)
 よく冷えたレモネードを口につけ、クリストフは、そっと、ノエルを見た。
「君達のお兄さんは、何という名前だったのだろう?」
「おにいちゃんの、名前……ですか?」
 ぱち、ぱちと瞬いたノエルに微笑んで頷く。
「僕は彼等が此処へ呼んだと思うよ」
 それは声であったか、祈りであったかは知れず。ーーだが、今日のこの切っ掛けとなったのだろうと。昨日とは違う明日へ。もう、諦めることなどしなくて良いのだと。
「……ぁ」
 ひゅ、とノエルが喉を鳴らす。泣き出しそうになった少女が、堪えるのを見守る。ゆっくりで良いんだと、そう言って。不思議そうにする妹たちがつられて泣き出すその前にーーその名前は紡がれた。
「ルーク、です……。おにいちゃん、ルークって言って……っ」
「うん。ルーク、か。ーーこれからは君達が頑張らなきゃね」
 そう言って、クリストフは笑った。
 去った者に、この先の希望は叶えられない。
「叶えるのは何時だって遺された者だ」
「ーー……っはい」
 お兄ちゃんの分も、いっぱい。
 そう言って、強く、つよく握り締められた拳に、大丈夫だというようにそっと、触れた。
 涙を拭う手もゆっくりに。慣れぬ剣を握っていた少女はーー今は妹たちと手をつないでいる。
「成果はどうだい?」
 三人と別れると、クリストフは町から花畑へと上がってきたダンピールへと声をかけていた。揺れる髪をそのままに、シノアは吐息を零すようにして微笑んだ。
「そうね。上々……と言ったところかしら? 貴方は如何? 人形師殿」
 良き狩りであったかしら?
 問いかけに首は傾ぐこともないままに。赤茶色の瞳は、視線があったそこで、ふ、と笑った。
「家路までが狩りだよ!」

「ーー」
 ノエルと、その妹たちの周囲にも危険は無いらしい。あの後、墓前で手を合わせた修介は、軽く周囲の警戒をしていた。何かを感じたからーーというよりは結局、性分なのだ。他の猟兵たちに水を差さぬよう、さり気なく視界から外れるように歩を進める。
(「一つの戦いは終わった。なら次の戦いがある」)
 悲劇は絶えず、悲鳴も、誰かの願いも祈りもこの世界には溢れている。
「――行住坐臥造次顛沛」
 次の戦いでも「少女」を助けられるように。
 修介の思考は途切れず、次を、先を見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
翼さん(f15830)と
シノアさんもお招きして

お疲れ様でした。
姉妹が無事再会出来て、良かったですね。
有り難くレモネードをいただきつつ、花でも眺めますか。
ええ、とても安らぐ味ですね。

この世界でこんなにも匂い立つ花を見られる地があるとは。
事件に関わってよかったと思う瞬間ですね。
そうですね、彩りに。まずは彼らの心が鮮やかに救われるよう。

しかし、あの少女は解き放たれたのでしょうか。
勇者と持て囃されて、息苦しくなったりはしないでしょうか。

声をかけにいった翼さんを遠くで見つつ。
……彼は優しいですね。
私は自分のために来たものですから。

シノアさんでしたら、どうします?
いえ、貴方は臆さず彼女を慰めるでしょうね。


早乙女・翼
宵蔭(f02394)と。

妹さん達に囲まれる少女をひとまず見届け、目を細め。
嬉しそうで何よりだ。
シノアに声をかけ。君のお陰でもあるさよ、と感謝を告げ。

レモネードを受け取って一口。
ん、良い香り。浮かぶ花を見、そして花畑を見つめ。
上手く言えないけどさ、これだけの彩りがあるのだから。
この町を支配していた闇が晴れた今、人々の心も鮮やかな色に満たされると良いな、なんて。

宵蔭の言葉には苦笑い。杞憂さよ、そんなの。
そしてそのまま少女に近付いて。
本当に無事で良かった。けど、もう無茶はするなよ?
皆は君を褒め称えるだろうけど、君は君だ。自信を持って。
そのうちまた会いに来るさよ。それまで妹さん達と元気でいろな。



「おねえちゃん」
「ん? なあに?」
 やわく、声を返す辺りが『お姉ちゃんっぽさ』なのだろうか。二人の妹たちと一緒に話をしている少女に翼は、ふ、と柘榴紅色の瞳を細めた。
「嬉しそうで何よりだ」
 吐息を零すように小さく翼は笑う。気配ひとつ、気がついたのか宵蔭がレモネードを手に瞳に弧を描く。
「お疲れ様でした。姉妹が無事再会出来て、良かったですね」
「……えぇ、本当に」
 ほう、と息を一つ落としたのはシノアだった。町の人々への説明は済んだのか。戻りがてら声をかけられた娘へと翼は視線を向ける。
「君のお陰でもあるさよ」
「駆けつけてくれた人たちがいるからよ」
 そうでなければ、届かなかった。
 静かに告げーーふ、とシノアは笑う。このままだと堂々巡りになりそうね、と赤の瞳に弧を描き、ありがとう、と言の葉を受け取った。
「それと、お疲れ様」
 喉を潤すレモネードは、この地に伝わる味なのだという。名物という程ではなく、親から子へ。師匠から弟子へ。引き継がれるように伝わってきた飲み物。喉を癒し、疲れを癒す。古くは調香師の集う町であった頃の名残だ。
「この世界でこんなにも匂い立つ花を見られる地があるとは」
 事件に関わってよかったと思う瞬間ですね。
 小さな発見だ。
 深き夜と闇に覆われたこの世界で、偶然、出会った場所。
 口元に微笑を浮かべた宵蔭に、ややあって翼は口を開いた。 
「上手く言えないけどさ、これだけの彩りがあるのだから」
 白に青。薄いピンクに、ほんのりと染まる緑。様々な花々は総じて甘い香りしていた。甘すぎはしない、仄かな香りは元からのものなのか。それともーーこの丘が、ただの花畑となってからか。
「この町を支配していた闇が晴れた今、人々の心も鮮やかな色に満たされると良いな、なんて」
 さぁああ、と花を揺らす風が、翼の髪を揺らした。願うような、祈るような男の言葉に、宵蔭もひとつ、頷く。
「そうですね、彩りに。まずは彼らの心が鮮やかに救われるよう」
 吹き抜ける花風に烏羽色の髪が、赤の瞳を隠す。しかし、と落とした声は、ひどく平坦なようでいて常と変わらぬ穏やかな調子で紡がれた。
 あの少女は解き放たれたのでしょうか、と。
「勇者と持て囃されて、息苦しくなったりはしないでしょうか」
 今や彼女は、領主である吸血鬼を倒したそのきっかけ、だ。町の人々はその無事を喜び、帰還を喜んでいる。ーー其処に、過ぎた羨望を押し付けるものがいないとも言えない。
「杞憂さよ、そんなの」
 ふ、と吐息を零すようにそう言って、翼は笑った。静かな笑みと共に、ひら、と手を振った彼は少女の元へ向かうのだろう。
「……彼は優しいですね。私は自分のために来たものですから」
 その背を見送り、宵蔭は小さく笑った。苦笑であったかーー果たして只の笑みであったか。
「シノアさんでしたら、どうします?」
「ーー私?」
「いえ、貴方は臆さず彼女を慰めるでしょうね」
 するり、と落ちた言葉に、シノアは小さく瞬きーー眼帯に指先をかけた。両眼を晒したのは多分それが一つ応えであるような気がしたからだ。
「狩人としての責務にある私であれば、そうでしょう。けれど、ダンピールである私は、慰めるよりきっと敵を斬る方が向いているわ」
 慰めるにはきっとこの手は向いていない。
 小さく笑い、貴方は、と薄く開いた唇を結ぶ。わぁ、と少女の声が聞こえたからだ。
「あの時のオラトリオのお兄さん……!」
「本当に無事で良かった。けど、もう無茶はするなよ?」
 片膝をついて、ノエルと視線を合わせる。広げた羽は、強く風が吹いたからだ。守るように広げた翼を、綺麗だと言ったノエルに、翼は、ふ、と笑う。
「皆は君を褒め称えるだろうけど、君は君だ。自信を持って」
「私は、わた、し……ですか?」
「そうさよ」
 小さく頷いて、翼は言った。怒られたけど、怒られきらなかったのだと。領主様が倒れたからだと、言われた少女はやはり混乱していたのだろう。翼の言葉をなぞるように、紡ぐ。
「自信を、持つ……」
 その姿に、翼は微笑んだ。
「そのうちまた会いに来るさよ。それまで妹さん達と元気でいろな」
 少女たちの明日は、きっと昨日よりもっと良い素敵な日々になるのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
少女、ノエルに声掛ける

明日を、迎えられるネ

良かったと安心する気持ち
明日の景色が何も変わらなくても、きっと見え方は違うだろうと祝福に似た思い
どれも嘘では無いけれど
彼女を奮い立たせた感情は、やはり今の自分には理解できるとは言えず
再会の涙の意味も、よくは分からなかった
だから、もしまだ彼女に話す元気があるのなら、ひとつ

涙の意味を、教えて貰っても?

その表情が曇るなら、すぐに謝罪し撤回しよう
自分にないものを知りたいだけの、只の我が儘だから

星の降る場所だなんて、ナンて素敵な呼び名なのだろう
そんな地で、朝日のもと美しい花と飲み物を楽しめるだけでも来た甲斐があったというモノだもの

(アドリブ等歓迎)



 柔らかな風が、少女の髪を揺らしていた。ほんのりと踊る甘い香りは、この地で使われてたという花の名残だろう。調香師の多く住まう土地であったという町は、今や丘にある花の名を知る者も無くーーだが、ひどく大切にされているのは見てわかった。
「明日を、迎えられるネ」
「……! あの時の! 手の傷は大丈夫でしたか?」
 ぱ、と顔を上げるノエルの瞳は、領主の間で見た時とは随分と違う色をしていた。芯があるーーと言えば良いのか。問題ないヨ、と言葉をひとつ作ってコノハはノエルの隣に腰掛けた。
 良かったと安心する気持ち。
 明日の景色が何も変わらなくても、きっと見え方は違うだろうと祝福に似た思い。
 どれも嘘ではないけれどーーだが、未だ分からないものがコノハにはあった。
 ノエルを奮い立たせた感情。
 吸血鬼へと向かうこと自体は、例え伝説の剣があったとしても恐怖であっただろうに。事実、ノエルはあの剣で「倒せる」とは思っていなかったのだ。「あの剣」を使い、交渉は出来るとそう思っていたようだがーーそれも、命をかけることにはなっていたのだろう。
(「如何程も」)
 その事実を、概要として掴むことはできてもコノハにはそれが分からない。理解できるとは言えず。再会の涙の意味も、よくは分からなかった。
「涙の意味を、教えて貰っても?」
 だからこそ「それ」を聞いて見たかった。
 顔が曇るのであれば、すぐに謝罪して撤回する筈であった言葉は小さな瞬きと共に、ノエルに受け入れられた。
「えっと、これが……ちゃんと答えになっているか、分からないんですけど」
 手を良いですか、とノエルは問う。見上げた少女の緑の瞳がコノハの頷きに、ぱ、と嬉しそうな色に変わる。怪我の確認か。添えた掌に、ほ、と安堵の息を零したノエルはまっすぐにコノハを見上げた。
「こうして、届いたからです」
「ーー」
「あ、えっとその。言い方があっている、のかは分からないんですけど。手を、繋げるのは届いているからで。誰かと一緒にあるからで……」
 自分のことも、えっと皆さんに助けてもらったから大丈夫だっただけ、なんだけど。とノエルは言葉を紡ぐ。
「でも、えっと自分以外のことはもっと、どうしようもできないことがいっぱいあって」
 わたしが帰って来れても、町の人たちが無事かも分からなくて。すごく怖いところはあって。でもみんなが居たから。
「大切な誰かに、届いたから。……おにいちゃんも、もう居なくても、この町に一緒に帰ってきてリラとルーシャに届いた気がして」
 ええっと、と悩むのは、ノエルが必死に言葉を紡ごうとしているからだろう。難しい話は苦手なのだと、妹たちがいる分、少しばかり背伸びして見せても年相応に、ぐぬぬぬ、と悩み出す少女にコノハは小さく笑った。
「アリガト」
「う、うまく言えていたか分からないんですけど、明日の陽をみんなと見られるから」
 それはあの時、コノハがノエルにかけた言葉だった。

 うまく言えたでしょうか、とぐぬぬ、と悩むノエルにアリガト、ともう一つ告げておく。丘を駆け抜ける風は爽やかな花の香りと共に、コノハの髪を揺らす。
 ノエルは眠いとぐずりだした妹たちの世話に向かっていた。家で眠れば良いと言いはしていたがーーあの様子の妹たちが、彼女の傍を離れるのは難しいだろう。
「星の降る場所だなんて、ナンて素敵な呼び名なのだろう」
 そんな地で、朝日のもと美しい花と飲み物を楽しめるだけでも来た甲斐があったというモノだもの。
 緩やかに色彩を変えていく空を眺めながら、夜明けに向かう空を眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルノルト・ブルーメ
彼女に伝えるべき言葉は
あの戦いの最中で既に掛けたのだけれど
けれど、あれはここに帰るまでの話

であるなら、少しばかり話を
疲れ果てているだろうから、本当に少しだけ

お疲れさま、ノエル
あの状況の中、よく頑張ったね?
疲れているだろうけれど、少し話をしても……?

怖ろしい領主はもう居ない

君の弟妹を思う勇気が、意志が……
誰かが言っていたようにこの結末を手繰り寄せた
だから、この朝がある

領主が居なくなったことで
これからの生活も少しずつ変わるだろうし
別の形で辛い事に巡り合うかもしれない
けれど、どんな出来事に巡り合っても
忘れないでおいてくれるかい?

今日の、この朝を――

ノエル、君の勇気に乾杯を
グラスを掲げて小さく笑んで



 穏やかな声が、花畑に続いていた。少女のーーノエルの帰りを待っていた妹たちのものだろう。眠いのだと目を擦りながら、それでもと側にいたがる二人に結局諦めたのは町の大人たちの方だった。あと少し、外にいたいのだというノエルに合わせて毛布に包まれた妹たちがうとうとと舟を漕ぐ。
(「彼女に伝えるべき言葉は、あの戦いの最中で既に掛けたのだけれど」)
 けれど、とアルノルト・ブルーメは思う。あれはここに帰るまでの話だ。
「お疲れさま、ノエル。あの状況の中、よく頑張ったね?」
「あ、えっと。いえ、ありがとうございます? あれ? あってます……か?」
 助けてもらったのはわたしなのに、とこてと首を傾げた少女にアルノルトは、ふ、と笑った。
「じゃぁ、僕もありがとう、かな? 疲れているだろうけれど、少し話をしても……?」
 小さな声でね、と指先を自分の唇に添える。内緒話のようにそうしたのは、彼女の幼い妹たちが眠りにつこうとしていたからだった。ならうようにそうした少女に小さく笑って、アルノルトは傍に座った。
「怖ろしい領主はもう居ない。君の弟妹を思う勇気が、意志が……誰かが言っていたようにこの結末を手繰り寄せた」
 だから、この朝がある。
 暗く沈むような夜の空に少しずつだが光が差し込んできている。いずれ、夜が明けるのだろう。
「領主が居なくなったことで、これからの生活も少しずつ変わるだろうし。別の形で辛い事に巡り合うかもしれない」
 けれど、どんな出来事に巡り合っても。
「忘れないでおいてくれるかい? 今日の、この朝を――」
「あ、さ……」
 なぞるようにそう言ったノエルに、アルノルトは小さく微笑んだ。
「ノエル、君の勇気に乾杯を」
 グラスを掲げて。これから先という未来を生きていく彼女に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
マリス(f03202)と

三人分のレモネードを手に
向かうはマリスと少女の下へ

飲み物を渡した後は
少女の家族の魂が
安らかに眠れるよう願いつつ、一口

このレモネードとやら、爽やかで美味いな
まるで涼し気な風のようだ
街の者の間で受け継がれてきた味なのだろうか

しばし黙って彼女らの様子を見守ろう
マリスの言葉は、少女に届いているだろうか

俺が少女に言えることといえば…一言だけだな
「生きろよ。絆結んだ、皆と共に」

少女の家族、街の者
俺たち猟兵に、未だ見ぬ誰か
その繋がりがきっと
この世界の未来を紡ぐ力となる
俺は、そう信じている

ありがとうな、マリス
俺の背を守ってくれて
闇に覆われた世界を照らす
あたたかな光を見せてくれて


マリス・ステラ
五劫(f14941)と参加

「主よ、憐れみたまえ」

その墓を前に祈りを捧げる
それはノエルの両親のものであり、彼女の兄も今はここにいる
弔いに丘で摘んだ花を供える

それが終わると少し離れたノエルと五劫の元へ

「ありがとうございました、ノエル」

彼女の兄が繋いだ"バトン"
それはノエルが受け取って、だから私達に繋がった

差し出された飲み物は涼しく爽やかな味がする

「あなたがいたからあの吸血鬼を倒せたのです」

私だけの力ではなく、五劫がいて、他の猟兵達、帰りを待っていた町の人達や妹達もそうです
ひとは独りではないのですから
五劫に向き直り、

「それはお互い様というものです」

あなたの見せた姿勢もまた光の形
頼もしかったです、五劫



 夜の空がゆっくりと染まっていく。帯のように差し込む光を眺め、マリス・ステラは小さな墓の前、膝を折った。
「主よ、憐れみたまえ」
 墓石に刻まれた名前は掠れていた。ノエルの両親のものであると聞いたのは、町にある小さな墓所を訪ねた時であった。祈りを捧げ、伏せた瞳をゆっくりと開く。あとひとつ、横にある小さな墓はノエルの兄のものだという。
「……」
 弔いに丘で摘んだ花を備える。白く小さな花だ。仄かに甘い香りは、この地に長く親しんだものなのだという。
 星の降る場所。
 朝日を受けて淡く輝くという花畑は、今、光を帯びているのだろうか。
「マリス」
「ーーはい。行きましょう、五劫」
 三人分のレモネードを受け取っていた青年に、ゆっくりと立ち上がる。供えられた花を看取った五劫は、僅か祈るようにその瞳を伏せた。
「ひかり、の……ひととおにいさん……?」
 ぱち、ぱちとノエルは瞬きーーノ慌てて頭を下げた。
「あの時は、あ、ありがとうございました」
 緊張しているのだろう。既に寝入っていたノエルの妹たちが、むにゃむにゃと声を零す。五劫からのグラスを受け取ると、マリスは小さく微笑んだ。
「ありがとうございました、ノエル」
「え……?」
 これを、と五劫から差し出されたグラスを受け取ったノエルは、マリスの言葉に首を傾げた。助けてもらったのは、自分の方なのに、とそう思ったのだろう。けれどーー。
(「彼女の兄が繋いだ"バトン" それはノエルが受け取って、だから私達に繋がった」)
 レモネードは、涼しく爽やかな味がする。あの戦場にあった炎とはあまりに違う。
「あなたがいたからあの吸血鬼を倒せたのです」
「わたしがいた……から……」
 ぽかん、とする少女がグラスをきゅ、と握る。レモネードは、この町に伝わってきたものなのだと五劫の言葉に、笑って答えた少女は震えるように一度強くグラスを握った。
「わたし……わたしは、でも。だめって言われてた剣を持って行って、勝手に領主様の……領主の館にも行って。それで、みんなさんに助けてもらわないと、きっと……」
 帰ってこれなかったのに、そう震えるように溢れた声を聞き届けて、マリスは視線を合わせて告げた。
「私だけの力ではなく、五劫がいて、他の猟兵達、帰りを待っていた町の人達や妹達もそうです」
 ひとは独りではないのですから。
「ひとりじゃ……ない」
「生きろよ。絆結んだ、皆と共に」
 マリスの言葉は、少女に届いているだろうか。
 きっと、ノエルの心を震わせているのだろう。はた、はたと落ちる涙を、耐えるように頭を振るう。どうして涙が出るのか分からないと、そう呟く少女に五劫は言った。
「生きろよ。絆結んだ、皆と共に」
 一言。
 そう、言えることがあるとすればこれくらいだと、そう思っていた。
 失ったものがある。奪われたものも。
 戦場に赴くのは誰かの為ではなく、己の為ーーそう、五劫という存在はあった。
 何を重ねて見た訳でもない。ただ、そう思ったのだ。生きろ、と。
(「少女の家族、街の者。俺たち猟兵に、未だ見ぬ誰かーーその繋がりがきっと、この世界の未来を紡ぐ力となる」)
 俺は、そう信じている。
 ぐ、と強く涙を拭う少女に赤くなると短く告げて。五劫は傍を見た。
「ありがとうな、マリス。俺の背を守ってくれて」
 闇に覆われた世界を照らす、あたたかな光を見せてくれて。
「それはお互い様というものです」
 向き直ったマリスが、そっと告げる。
 あなたの見せた姿勢もまた光の形。
「頼もしかったです、五劫」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
倫太郎殿と丘へ花を見に行きます

ノエル殿の無事もですが、彼女達の町も解放される
穏やかな生活が暮らせられるようになれば良いですね

丘へ着きましたら、まずは倫太郎殿、腕を見せてください
……戦いとは言え、隙を作る為に傷付けてしまいましたね
すぐ治るものでも私の気が済みません
包帯を巻いて処置しますので、その間頂いたレモネードを
わかりました、私も後程頂きます

囮ならば生身の貴方より、仮初の体を持つ私がやるべきです
今度されるのなら私に任せてください

や、やだ……
互いに譲れないのであれば、貴方の傷が少しでも済むよう精進致します
それでいいですね?
それから……私へのお気遣いも感謝致します

そうと決まれば後は花見です


篝・倫太郎
夜彦と花を

領主が居なくなりゃ落ち着くもんな
そう同意を返して

夜彦の訴えに首を傾げ
続く生真面目な言葉に思わず声を立てずに笑い

囮は身体張ってナンボだから
俺は気にしてねぇけど、それであんたの気が済むなら……

いや、いやいやいや
どうせなら一緒に飲もうぜ?
1人で呑んでも、なんかつまんねぇし

……やだ
夜彦の言いたい事は判らなくもねぇけど
俺にとって生身とか仮初とかはどうだっていい
俺だってあんたが傷付くのは嫌だし

何より……ああいう時は
あんたの一撃のが速くて絶対的に強いし重い

適材適所ってやつだろ?
でも……ありがとな

彼の言葉にはこくこく頷き返し

ほら、飲もうぜ?
花も綺麗だし、見ないの勿体ねぇよ
あぁ、匂いもいいな……この花



 淡い青の花びらが、夜から朝へと向かう風に揺れていた。戦場を越えてきた身には心地よいのだろうか。結い上げた長い髪を揺らし、月舘・夜彦は、ほう、と息をついた。
「ノエル殿の無事もですが、彼女達の町も解放される。穏やかな生活が暮らせられるようになれば良いですね」
「領主が居なくなりゃ落ち着くもんな」
 静かに頷きを返した篝・倫太郎の頷きを見送って、夜彦は向き直る。
「まずは倫太郎殿、腕を見せてください」
「腕?」
 首を傾げた倫太郎に、夜彦は頷く。
「えぇ、腕です。……戦いとは言え、隙を作る為に傷付けてしまいましたね」
 持ち上げられた片腕を見遣れば、一拍の後、声を立てずに倫太郎は笑った。
「囮は身体張ってナンボだから」
「すぐ治るものでも私の気が済みません」
 ぴしゃり、と言い切れば、小さな笑いも観念したとでも言うように肩を竦めて。俺は気にしてねぇけど、と倫太郎は顔を上げた。
「それであんたの気が済むなら……」 
「包帯を巻いて処置しますので、その間頂いたレモネードを」
「いや、いやいやいや。どうせなら一緒に飲もうぜ? 1人で呑んでも、なんかつまんねぇし」
 待っていて、中身が変わるようなものでもない。小さく、眉を寄せていた夜彦が「わかりました」と頷くのを見て、倫太郎は小さく息をついた。
「囮ならば生身の貴方より、仮初の体を持つ私がやるべきです」
 しゅるしゅると、慣れた様子で包帯が巻かれてゆく。生真面目な彼らしいのだろうか。白で覆われていく腕を見ていれば、静かな声がひとつ耳に届いた。
「今度されるのなら私に任せてください」
 ヤドリガミであれば、本体となるものは別に在る。きゅ、と結び目を作った夜彦が視線を上げた。
「倫太郎」
 目が合えば、僅か拗ねるように声が落ちた。
「……やだ」
「や、やだ……」
 慣れぬ言葉をなぞるように、そう紡ぎ落とした夜彦に倫太郎は言った。
「夜彦の言いたい事は判らなくもねぇけど、俺にとって生身とか仮初とかはどうだっていい。俺だってあんたが傷付くのは嫌だし」
 何より……、と真っ直ぐに倫太郎は夜彦を見た。
「ああいう時は、あんたの一撃のが速くて絶対的に強いし重い」
 適材適所ってやつだろ? と一つ笑って。綺麗に包帯の結ばれた腕を軽く持ち上げる。
「でも……ありがとな」
「互いに譲れないのであれば、貴方の傷が少しでも済むよう精進致します」
 夜彦の落とした息は、生真面目であるが故か。ほんの僅か瞳を細めた夜彦の、それでいいですね? という言葉にこくこく、と頷く。
「それから……私へのお気遣いも感謝致します」
 小さく微笑んだ夜彦につられるようにひとつ笑って。ほら、とグラスを手に取った。
「飲もうぜ? 花も綺麗だし、見ないの勿体ねぇよ」
 花が踊る。淡く差し込む朝日に、ひとつ、ふたつと花弁が光りだす。空に残る深い夜の色彩が緩やかにあけようとしていた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シノ・グラジオラス
リナ(f04536)と2に

遺した兄の気持ちが分かるのもあったが、
リナ以上に…俺自身が同じ遺される者として
ノエルと似てたから放っておけなかたんだろう

レモネードを手に、ノエルに声を掛けに行く
妹って2人だったのか。どおりでシッカリしてると思った
これから周囲も頼って無理せずにな
今度は妹達に背中を見られてるんだ、あんまり無茶すると俺みたいに我が身に返るぞ?
と少し冗談を交えて
すまんって、俺ももう少し善処します

リナは俺の妹じゃなくて、妹は今日は来てないんだ
リナは…少し悩み、今一番収まりがよい言葉を、
けれど少しだけ曖昧な表現で優しく紡ぐ
ノエルと同じ、遺された俺が俺で居られる為の大切な子(ひと)だよ、と


木槻・莉奈
シノ(f04537)と2に

誰かの背中を見て自分も何かをって気持ちや、誰かを護りたいって気持ちはよくわかるし、どうにか助けられたらと思ってたんだけど…よかった、本当に

ノエル、本当によく頑張ったわね
頑張ってくれて、ありがとう
妹ちゃんたちも、お姉ちゃんの事待っててくれてありがとうね

怪我?大丈夫大丈夫、あれくらいなんてことないわ
妹ちゃんたちの大事なお姉ちゃんを護れたんだから軽いものよ

あら、シノったら分かっててその言い草なのかしら?(ジト目で見遣りつつ
そうしてちょうだい、危なっかしいんだから

……?(妹みたいなもの、もしくは幼馴染といわれると思っていたからか、不思議そうに首を傾げるも口は挟まず



「誰かの背中を見て自分も何かをって気持ちや、誰かを護りたいって気持ちはよくわかるし、どうにか助けられたらと思ってたんだけど……」
 おねえちゃん、と眠そうな瞳を擦っていた幼い妹たちが、ぎゅ、とノエルの腰に抱きついていた。動けないよ、と笑うノエルと妹たちの姿を見ながら、ほう、と木槻・莉奈は息をつく。
「よかった、本当に」
「……あぁ」
 吐息ひとつ、零すようにしてシノ・グラジオラスは頷いた。
 兄さん、と兄を呼んでいた少女は、おにいちゃん、と柔らかな声でその名を口にしていた。領主の館に居た時は気を張っていたのだろうかーー町に戻ったことで本来の少女らしい口調に戻ったのかもしれない。
 背伸びするにはきっとまだ早い年頃だ。
 二人の幼い妹達が、ノエルの言う「兄」の話を口にすることは無かった。幼さ故かーーそれ以前に、町の人々もあまり、口に出してもいないようだった。
「……」
 それを優しさと見るかは、きっとそれぞれなのだろう。
 幼い妹二人とノエルだけの家族だ。彼女の両親はすでに亡くーー彼女の兄もまた、家族を失わない為の領主に挑むことを選び、命を落とした。ノエルだけがそれを知っていることになる。
(「遺した兄の気持ちが分かるのもあったが、リナ以上に……俺自身が同じ遺される者として、ノエルと似てたから放っておけなかたんだろう」)
 失ったものがある。
 短くなった寿命。嘆きこそしていないが、シノの中で、自分の優先度が地に落ちた。友人や家族ーー幼馴染の方がずっと大事で。それでいて『遺される』と言うことを知っていた。

「ノエル、本当によく頑張ったわね。頑張ってくれて、ありがとう」
 微笑んだ莉奈に、ぱ、とノエルが顔を上げる。視線を合わせるようにしてしゃがみ込めば、ぱちぱちと、ノエルの幼い妹たちが姉と莉奈を交互に見ていた。
「おねえちゃん? この人たち……?」
「こ、この人たちじゃなくて。ごめんなさい。えっと、あの時はありがとうございました。お姉さん、お兄さん」
 ぺこり、と頭を下げるノエルに習うように妹たちも頭を下げる。それでも伺うようにしているのは、やっぱり莉奈たちが誰か気になるからだろう。大丈夫よ、と笑って、顔を上げてと幼いノエルの妹たちに莉奈は手を振った。
「妹ちゃんたちも、お姉ちゃんの事待っててくれてありがとうね」
「うあ、えっと、その」
「ありがとう?」
 照れた様子ではわわっとする幼い妹たちが、微笑ましい。笑って頷いた莉奈の前、ノエルは幼い妹たちに簡単な説明をするつもりのようだった。助けてくれたのだと言って、すごく強くて格好良くてーーと、そこまで言ったところで、ノエルは、はたと気がついた。
「怪我! お姉さん、お兄さん、あの時の怪我は……っ」
「怪我? 大丈夫大丈夫、あれくらいなんてことないわ」
 ひらひら、と莉奈は手を振った。柔らかな黒髪がふわり、と揺れれば、わぁ、とノエルの妹たちーーリラ、ルーシャが声を上げる。
「妹ちゃんたちの大事なお姉ちゃんを護れたんだから軽いものよ」
 擽ったそうに一つ笑う。痛くないですか? と恐る恐る聞くノエルに大丈夫、と莉奈が笑みを零せばーーノエルもこくり、と頷いた。
「妹って2人だったのか。どおりでシッカリしてると思った」
「しっかり……してます、か?」
「あぁ」
 でも、とシノは小さく息を吐く。ノエルに届かない程に小さく。
「これから周囲も頼って無理せずにな。今度は妹達に背中を見られてるんだ、あんまり無茶すると俺みたいに我が身に返るぞ?」
 冗談交じりに、そう声を上げれば横で妹たちと話していた莉奈の視線が向く。
「あら、シノったら分かっててその言い草なのかしら?」
 じとー、と。それはもう強い視線で。
「すまんって、俺ももう少し善処します」
「そうしてちょうだい、危なっかしいんだから」
 全く、と落ちた息に苦笑して、シノが軽く肩を竦める。そうそう逆らえるものでは無いのだ。うん。
「……お姉さんは、お兄さんの妹さん……じゃないんです、か?」
 右に、左にと見比べたノエルの問いかけにシノはゆるく首を振った。
「リナは俺の妹じゃなくて、妹は今日は来てないんだ。リナは……」
 何を、どう言えば良いのか。
 未だ、自分の中で形になっていない何かを探すようにーー今、一番収まりの良い言葉を。けれど少しだけ曖昧な表現で優しく紡いだ。
「ノエルと同じ、遺された俺が俺で居られる為の大切な子(ひと)だよ、と」
「ーー!」
 ぱち、ぱちとノエルが瞳を輝かせる。はい、と頷いた少女とシノを前に、莉奈だけが小さく、首を傾げていた。てっきりーーそう、てっきり。妹みたいなものとか、幼馴染と言われると思っていたのに。
「……?」
 やさしく甘い、花香る風が舞った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【花青明】
本当に良い香りがするな…調香師達が集って来ていたのも頷ける
…又香りを愛する者達がやってくれば良いのだが

町の者に渡された花の浮かぶ爽やかな香の飲み物を飲みつつ明と共に彩花の元へ
彩花はこの世界出身だったか
少なくともあの少女と町は救えたから、な
…俺達に出見ても来る事を続ければきっと少しづつでもこの世界の為になって行くのだろう

…?明
それは、褒めてくれているのか?
何だ、もう一度言ってくれても良いのだぞ…と
…、…彩花、そ、それは言わぬ約束だろう?!
倒せるならば俺もなんだ、恐れる事など無いのだぞ…!?
だがまあ、又3人でならばその、アースの化け物が出る屋敷とやらに行って見ても良いかもしれん、な


彩花・涼
【花青明】
ああ、美しい花だな
この世界にももっと多く咲き誇って欲しいが
まだまだ時間が掛かりそうだ…
それまで、私は戦い続けねば……

うん?なんだメイ
ああ、レモネードを持ってきてくれたのか
すまないな、メイもお疲れ様だ
やはり自分の世界の敵には
少し感情的になってしまうな
そうだな…彼女たちを助けられたのは
とても喜ばしい事だ…
負けずに頑張ってほしい

ザッフィーロもお疲れさまだ
少しは亡霊等に耐性はついたのか?
メイも頼もしかったと言っているし
これを期に弱点は克服しておいたほうがいいぞ
今度UDCアースのお化け屋敷にでも行ってみるか?


逢坂・明
【花青明】

……香りの良い、美しい、花ね
花は、好きよ。何も言わず、語らず、ただ風に揺られるがまま、その美しい姿を見せて誇っているから
これは、レモネード? 花を浮かべるなんて、お洒落なことをするのね
うん……まぁ、美味しいんじゃ、ないかしら?

涼さんは、何かを考えているのかしら
彼女たちに何か思うところがあったようだし……いつか、その心の裡を聞いてみたいわ
お疲れ様の労いついでに、レモネードのお代わりを持って行こうかしら

ザッフィーロ、……ええとその、お疲れさま
頼もしかったわ。また一緒に戦ってあげない、こともないわ
……なによその顔。あぁ、もう言うんじゃなかった。いまのはなし、なしよ! もう! なによその顔!



 ーーこの地の花に、名前は無いのだという。きっと昔はあったのだろう、というのが町の者の話だ。名が潰えた理由は知らずーーだが、星の降る場所という名だけが残った。
「……」
 薄く、帯のように差し込む日差しにザッフィーロ・アドラツィオーネは瞳を細めた。
『それでも、この町にある光なんだ』
 大切にされているのだろう。花畑には手入れの跡が見える。白い花に、淡く色づくピンクもあれば薄い青もある。色とりどりの花たちは、身を寄せ合うように丘を染めていた。端の方から光が触れれば淡く、輝いていく。
「本当に良い香りがするな……調香師達が集って来ていたのも頷ける」
 靡く外套をそのままに、ほう、と息をつく。
「……又香りを愛する者達がやってくれば良いのだが」
 領主たる吸血鬼は消えた。嘗て調香師の集った町にーー彼らが居なくなるだけの何があったのかは不明だが、狂気の主人は既に居ないのだ。いずれ、話を聞いた調香師が再びこの地を訪れることもあるかもしれない。
(「……もしくは」)
 町のうちの誰かが。
 花の浮かぶレモネードを受け取った時、丘の話をした町の人の話によれば、調香師の家系にあった者であれば数人町に残っているのだと言う。
『もしかしたらいずれ……、いえ。こんなことを考えられるようになるとは思いもしなかったので』
 苦笑交じりに告げた町の男は、折角だから、と三人分のグラスを持ち運ぶことになったザッフィーロに籠を手渡した。これがあれば少しは運びやすいでしょうから、と。
 爽やかな果実の香りがふわり、と舞った。

「……香りの良い、美しい、花ね」
 その籠どうしたの? と瞬いた逢坂・明にことの説明を終える頃には、丘に咲く花に光が差し込んできていた。
 花弁は淡く輝く。
 白に、青に。薄いピンクは頬を染めるように。白かと思っていた花弁が薄い緑に染まりーー爽やかな香りを届ける。
「花は、好きよ。何も言わず、語らず、ただ風に揺られるがまま、その美しい姿を見せて誇っているから」
 花を揺らす優しい風が、ミルクティブラウンの髪をふわり、と揺らす。緩やかに描く弧をそのままに、一度遠くを見るように瞳を細めた明は、ふ、と落とす息と共によく冷えたグラスを受け取った。
「これは、レモネード? 花を浮かべるなんて、お洒落なことをするのね。うん……まぁ、美味しいんじゃ、ないかしら?」
 口の中に残る酸っぱさとほんのりと感じる甘さは蜂蜜だろうか。グラスを口につけながら、明は視線をゆっくりとあげた。
「涼さんは、何かを考えているのかしら」
 その呟きは、果たして音となって響いたのだろうか。舞い上がる風に攫われたか。帽子を押さえながら、明は彼女の背を見ていた。
(「彼女たちに何か思うところがあったようだし……いつか、その心の裡を聞いてみたいわ」)
 ひとり、花を見ていたからだ。
 別にそれほど離れた距離にいる訳では無い。それでも何処か、話しかけて良いのかどうか悩むような距離。揺れる髪が、彩花・涼の表情を隠していたから。
「ーー……お疲れ様の労いついでに、レモネードのお代わりを持って行こうかしら」
 切っ掛けには、きっと丁度良い。
 
 舞い上がる風に、血の匂いはもう無かった。狂気を口にした領主も既に無くーーあの館を含む一帯はいずれ崩れ落ちるのだろう。多くを領主の魔術に頼っていたのだ。狂気も恐怖も、全て地に帰る。
「ああ、美しい花だな」
 ふわり、と舞った白が、ふと涼の指先に触れていった。舞い上がればその分、花弁は輝く。星の降る地ーーここがそう言われる所以が其処にはあった。光に僅か、眩しそうに涼は瞳を細める。
「この世界にももっと多く咲き誇って欲しいが、まだまだ時間が掛かりそうだ……。それまで、私は戦い続けねば……」
 故郷を守るために、涼は戦ってきた。戦場に長くあった彼女にとって、平穏の光景は知っているようでーー少しばかり遠いものであるのかもしれない。苦笑もなければ苦々しい表情もないままに、真っ直ぐに紡がれた言葉は近く足音にふつり、と消えた。
「うん? なんだメイ。ああ、レモネードを持ってきてくれたのか」
 すまないな、メイもお疲れ様だ。
 よく冷えたグラスを受け取れば、爽やかな香りと出会う。そっと、口につければ程よい甘さが喉をぬけた。
「やはり自分の世界の敵には、少し感情的になってしまうな」
「彩花はこの世界出身だったか」
 瞬きの代わりに、声はひどく静かに落ちた。
「少なくともあの少女と町は救えたから、な。……俺達に出見ても来る事を続ければきっと少しづつでもこの世界の為になって行くのだろう」
 ザッフィーロのその言葉に、彩花は薄く口を開く。花風がふわり、と髪を揺らした。
「そうだな……彼女たちを助けられたのはとても喜ばしい事だ……。負けずに頑張ってほしい」
 領主の吸血鬼は消えた。彼女たちが迎えた明日は、今までとはきっと違うものになっていくのだろう。
「ザッフィーロ、……ええとその、お疲れさま
頼もしかったわ。また一緒に戦ってあげない、こともないわ」
「……? 明。それは、褒めてくれているのか?」
 ぱち、とザッフィーロが瞬く。今度こそ一度きょとん、とした後に、明の言葉に笑った。
「何だ、もう一度言ってくれても良いのだぞ……」
「いまのはなし、なしよ! もう! なによその顔!」
 あれは何というべきか。噂のドヤ顔的何かなのか。ぴしっと指差した先、明の隣で彩花が笑った。
「ザッフィーロもお疲れさまだ。少しは亡霊等に耐性はついたのか?」
 ほら、と思わず明が声を上げれば、彩花が静かに笑う。吐息を零すような微笑に、さっきまでのーー一人で花畑を眺めていた後ろ姿に見た気配は遠い。
「メイも頼もしかったと言っているし、これを期に弱点は克服しておいたほうがいいぞ。今度UDCアースのお化け屋敷にでも行ってみるか?」
「……彩花、そ、それは言わぬ約束だろう?!
倒せるならば俺もなんだ、恐れる事など無いのだぞ……!?」
 だがまあ、とザッフィーロは紡ぐ。苦笑に似て少し違う、楽しげな笑みで。
「又3人でならばその、アースの化け物が出る屋敷とやらに行って見ても良いかもしれん、な」
 最後はきっと、こうしてーー三人で話す楽しい時間に出会えるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノワール・コルネイユ
己が生きる為に家族を売る者、他者を殺める者
そんな光景を幾つも見てきた

この仄暗い世界では、生きる為に誰かを犠牲にすることを強いられることもある
或いは、それを自ら選ぶ者もいて、それも決して少なくはない

なのに彼女は妹たちの未来を想い、そして立ち向かう道を選んだ

愛や勇敢さに満ちた綺麗ごとを口にするのは簡単だろう
然し、実際に危機に瀕した時に命を賭けられる者は極僅かだ
だからこそ

嗚呼、立派だったよ。お前は

だが、こんな冒険は今回限りにしておいてやってくれ
帰りを待つ者達も、気が気でなかった様だしな

あまり人を褒め慣れていないんでな
お前達の姉を責めてる訳でも、怒ってる訳でもないんだ
そんな顔をしないでくれると助かるよ



 おねえちゃん、と呼ぶ声が少しずつ小さくなってきていた。眠いのだろう。それでもノエルの腰に抱きついたまま、幼い妹たちが離れる雰囲気は無かった。
「ここで寝ちゃうと、風邪をひいちゃうよ」
「……でもやだ」
「わかってるけど。おねえちゃんは、まだいるなら……いる」
 幼い妹たちにも、ノエルがまだ「此処にいる」ことは何と無く分かっているようだった。家にはまだ帰りにくいのか。それともこの花畑に何か思い出があったのか。ふわり、ふわり、夜から朝に向かう風に揺れる花畑が淡く輝く。
「……」
 己が生きる為に家族を売る者、他者を殺める者。そんな光景を幾つも見てきた。
(「この仄暗い世界では、生きる為に誰かを犠牲にすることを強いられることもある。或いは、それを自ら選ぶ者もいて、それも決して少なくはない」)
 この地は決して、生きやすい土地ではない。
 それは、吸血鬼狩りを生業とする武侠達の元で育てられたノワール・コルネイユには痛いほどよく分かっていた。
「なのに彼女は妹たちの未来を想い、そして立ち向かう道を選んだ」
 ノエルの背を見ながら、ノワールは小さく瞳を細める。少しだけーーほんの少しだけ眩しそうに。
 愛や勇敢さに満ちた綺麗ごとを口にするのは簡単だろう。然し、実際に危機に瀕した時に命を賭けられる者は極僅かだ。
「だからこそ」
 やわく、言の葉を落としグラスの残りを飲みきる。ノワールはゆっくりとノエルの元へ向かった。夜明けを待つ娘が振り返れば、領主の間で見た時よりも少し違う少女の瞳と出会う。
「おねえさん……!」
「嗚呼、立派だったよ。お前は」
 怪我は、と問うノエルに、ゆるく首を振ってノワールはそう言った。ぱち、と少女は瞬く。
「わたし……でも、無謀なことを、して」
 領主の間での会話を覚えているのだろう。顔を上げたノエルに、ノワールはあの時の言葉をなぞるように言った。だがその無謀が私達を、訪れる筈のなかった結末を手繰り寄せたんだ、と。
「だが、こんな冒険は今回限りにしておいてやってくれ。帰りを待つ者達も、気が気でなかった様だしな」
「あ……」
 妹たちにかけるように、と町の人たちから渡された毛布。夜明けを見るのかしら、と渡されたクッション。街中を抜けた時、頬に残った汚れを拭いてくれた町の大人たちは、皆、ノエルの帰りを待っていた。
「おねえちゃん……?」
 眠そうな目を擦る、妹たちも。
「……っごめんなさい。わたし」
 ぱた、ぱたと涙が溢れる。何に謝った言葉かは分からずーーけれど、そう待たれていたのだとすごく実感したのだ。こぼれ落ちる涙が止まらない。ぐ、と拭おうとすれば、ほんの少しだけ困ったような顔をしたノワールの手がそれをとめた。
「あまり人を褒め慣れていないんでな。お前達の姉を責めてる訳でも、怒ってる訳でもないんだ
そんな顔をしないでくれると助かるよ」
 指先で涙を掬う。じぃっと見ているノエルの幼い妹たちにそう言って、ノワールは静かに告げた。
「立派だったよ、お前は」
「……っはい」
 褒められているのは分かっていたから。怒られている訳じゃないのもよく分かっていたから。たくさんの言葉をもらって、沢山の話を聞いてもらってーーそうして夜明けを感じた少女は涙を流す。喉を震わせた涙は、きっと今日という日までずっと溜め込んでいた何かで。年相応に見える涙はーーきっと、兄を喪った日からずっと封じられていたものだったのだろう。
「わたし、わたし、も……っ会えて、よかったって」
 皆さんと、妹たちと。町のみんなと。
 哀しみを零して、安堵を零して。震える喉で兄の名を呼んでーーそうして最後に、ノエルは笑った。
「ありがとう、ございます」
 夜が明ける。薄い帯のように差し込んできた光が、少しずつその力を増していく。さぁあ、と吹き込む風が花を揺らした。舞い上がった花弁が光り輝き、花畑を眺める猟兵たちを町の人たちを一つ撫でて夜空の名残と共に消えていく。
 さぁ、新しい明日の始まりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月20日


挿絵イラスト