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夜に濡れる涙雨

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索

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●涙雨
 きっと。ひどく単純な話だったのだ。
 大層な話じゃない。
 手放すことより、失くすことの方が嫌だっただけ。だから、この雨はーー……。

●黒鶫と海と天の夜
 我らが羽の住処。鳥の住処から天の川を通る時は、庭の守り神たるシェーナの里で羽を休めると良い、と年嵩の黒鶫は言いました。
「海に星が揺蕩い、天の川を遍く映す里だ」
 その黒鶫はもう、随分と羽を痛めておりました。天の川を渡るには風切り羽根を休めなければならないというのに、決まった星の巡りに黒鶫はシェーナの里に向かうというのです。
「アルミエの木を羽休めに使うと良い。彼処はよくよく雨が降るのだから」
 ならば雨より先に飛んでしまえば良いだろう、と若い黒鶫は言いました。
 雨よりも風よりも早く飛んでしまえば良いと水鳥も言いました。
 ですが、年嵩の黒鶫はゆっくりと首を振ります。
「あれは空から降る雨ではないのだよ。あれは天から降る涙雨なのだから」
 それは遠き日に旅立った勇者の伝承。
 里の守り手とその騎士の別れと祈りの話。
 守護を願い、武運を願い、里の守り手から魔法の紋を分け与えられた騎士は群竜大陸へと向かったのです。帝竜ヴァルギリオスとの戦いに参加した騎士は、沈みゆく群竜大陸と運命を共にしたという。
「きっと……止むことなど無いのだろうよ」
 勇者は動物たちの言葉を聞くことに長けておりました。連れには二羽の鳥。一羽は里に残され、一羽は運命を共にしたという。
 勇者の願いと思いを、聞き届けて。

●夜に濡れる涙雨
「その里には、黒鶫の語りから始まる勇者の話が伝わっているんだ」
 双剣の勇者って言ってね、とユラは集まった猟兵たちを見た。
「別名が黒鷹の騎士。二羽の鷹を連れていたって話なんだ。おにーさん、おねーさんは鷹って見たことある?」
 おっきいんだよね、と言うユラは情報としては知っているんだけど。と息をついた。
 アックス&ウィザーズに伝わる勇者伝説のひとつ。潮騒と渡り鳥と共に生きる里、シェーナに伝わる勇者の伝承だ。
 帝竜ヴァルギリオスと共に蘇ったとされる群竜大陸。未だ、所在の掴めないが理由のひとつに、オベリスクの存在も知られてきている。
「おにーさん、おねーさんたちには、嘗て、群竜大陸に渡り、帝竜ヴァルギリオスとの決戦に挑んだっていう勇者一行の痕跡を見つけてきて欲しいんだ」
 その一行の一人と伝わるのが、このシェーナから旅立ったという双剣の勇者。
 動物たちと語らう術を持っていたという勇者は、シェーナの守護者の騎士であったという。
「使命に目覚めた騎士に、守護者は旅立ちの許可を告げたのですーー……って伝承でね」
 旅立ちの際に、守護者は一族に伝わる守りの紋章を授けたという。魔法の言葉は、群竜大陸にあっても勇者を守り続けたという。
「その紋章に因んだ祭りが、シェーナで行われるんだ」
 門外不出であったその『言葉』が祭りと称して多くの人に刻まれるようになったのは、勇者の行く末をーー群竜大陸での戦いを知ることとなったからか。
 沈みゆく群竜大陸と運命を共にした勇者を見知った者は、もう、誰もいない。だからこそ、語り部は鳥たちから始まり、鳥を魂の運び手というシェーナの人々は、幸いと守護の祈りを込めて守りの『言葉』を肌に描き、勇者の伝承と共に生きるのだ。
「形は紋章みたいな感じかな。タトゥーっていうと分かりやすいかな」
 嘗ては婚礼の折に、家々の間で交わされていた紋章の分け身だ。
「詳しい話は、きっと向こうに行けばわかると思うよ」
 里の誰もが知る、双剣の勇者の伝承。彼が守り、一羽を残した里にはきっといろんな話が残されているのだろう。その伝承を知っていくことが、その痕跡に触れることとなる。
 ひとつひとつ解き明かしてゆくことが、群竜大陸へと向かう道を切り開いていくこととなるだろう。

「お祭りは、海蛍が見れる時期に行われるんだ。新月の夜、海と空に星がある時に、ってことで」
 海蛍たちを守る為に、海岸への出入りは禁止されている。代わりに、夜空の星と海蛍を眺めるのにはぴったりの庭園が解放されているという。
「里では、伝承にもあった紋章を入れてもらうこともできるんだ」
 シェーナの里に伝わる祈りの言葉。
 守護を願う言葉は装飾文字と共に刻まれる。
「共通しているのは鳥の羽が絵柄に一つはいることだけど、あとはどんな守りの言葉を望むかで変わるんだ」
 アルミエという木々の実を使ったもので、数日ほどで消えるタトゥーだから、安心してやれるよ、とユラは笑みを見せた。
「お祭りの日は弱い雨になると思うから、気をつけてね」
 それは、伝承に残る涙雨。
 祭りの日、星の巡りのその時に降り注ぐ雨。
 勇者の旅立ちの日、守護者から紋を受け取った騎士がーー里を出た日なだから。


秋月諒
 勇者の伝説を辿るってドキドキしますね……。
 秋月諒です。
 どうぞよろしくお願い致します。

●各章について
 第一章、第二章での「POW」「SPD」「WIZ」は参考までに。
 やりたいことを書いていただければ幸いです。
 第二章までは弱い雨が降っています。

 第一章……シェーナの里でのひと時。

 双剣の勇者が旅立った里のお祭りに参加します。
 当代の守護者もお祭りに参加しているようですが、一章では姿を見せません。 
 海蛍を眺めたり、月のない夜の星を眺めたり。シェーナの里に伝わる魔法の文字を刻むこともできます(ざっくり、ヘナタトゥーみたいなものだと思っていただければ)
 詳細は第1章冒頭(後に追加)をご覧ください。

 *海蛍が驚いてしまう為、海岸に降りること、海に入ることは禁止です(プレイングを採用しません)

 *リプレイはお祭りでの1シーンとなります。目的を絞っていただけると、ご希望のシーンの描写になりやすいかと。

 勇者の伝承については、特別、聞き込みをしていなくてもお祭りを楽しんでいれば里の人々から聞くことができます。

 第二章……現時点では不明です。

 第三章……現時点では不明です。

●プレイングの受付について。
 第1章は冒頭の追加後、6月11日朝8時半から受付を開始します。
 受け付け期間前にいただいたものは、一度返させていただきます。

 第二章、第三章につきましてはマスターページとTwitterでご案内させていただきます。

 1人〜3人での参加推奨です。
 2人以上で参加の場合は、IDか合言葉を記載してください。
 また、プレイングの送信時間を合わせていただけると幸いです(タイミングが合わず、お連れ様が不採用となってしまう場合は、あわせてプレイングを返させていただいております)

 それでは、勇者の伝承が残る里にて。
 海と天に星が揺蕩い、涙雨の残る地にて。
 皆様をお待ちしております。
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第1章 日常 『海蛍と星空のシンフォニア』

POW   :    海蛍を眺めながらカフェで楽しむ

SPD   :    海蛍と星空を眺めながら散歩する

WIZ   :    海にそっと笹舟を流す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●黒鶫と水鳥の旅
 さぁ、見送りに羽はいらぬ。風だけを頼りに進むと良い。年嵩の黒鶫に囀りに、年若い黒鶫と水鳥は羽を広げて空を渡りました。そうして、光り輝く海を見れば、大きな大きな木が見えました。
「あれが、アルミエの木かな?」
「そうみたいだ。じゃぁ、あれが里だね」
 黒鶫の言葉に、水鳥はそう囀り、やがてやれやれと息をつきました。羽ばたきを弱めた水鳥に、黒鶫は驚きました。
「どうしたんだい?」
「雨だよ、雨」
 年嵩の黒鶫が言っていたように、雨が降り出してきたのです。

●シェーナ 星の巡り
 星の瞬きを、夜に羽を休める鳥たちの囁きを聞いたことがある?
 歌うよう告げる里の人々は、家々に風見鶏を持つ。鳥は魂を運ぶのだ。生まれる時も、去る時も。闇夜の訪れの前に鳥はやってきてーーその先へと運ぶ。潮騒と鳥と共に生きる里・シェーナは魔法を紡ぐエルフや人が多く住む里だ。祭りの日には、小さなカフェテリアが開き、海蛍を眺めるためにとテイクアウトの飲み物を用意する。
「夜の祭りだけど、星が綺麗だから目が慣れてしまえば大丈夫よ」
 足元には、小さなランプがいくつも並ぶ。魔法の言葉を描かれた光る鉱石は、弱く降る雨の中、きら、きらと光る。
「弱い雨だけれど、みんな傘はささないのさ。とっても濡れてしまうってわけじゃないけれど。これは、涙雨だからって」
 エルフの娘は、そう言って軽く肩を竦めた。
 星の巡り。海の巡り。
 海蛍がその光を灯す日に、勇者は旅立ちーー降り注いだ雨は、里に残った一羽は何を伝えたのだろう。
 里の中を歩いていれば、勇者の伝承に触れる機会もあるだろう。
 シェーナの里に伝わる、魔法の言葉を描いて貰うのであれば紋章と鳥の看板を掲げた店に行けば良い。
「それがシェーナの紋章。守りの言葉。羽は、その思いを、祈りを必ず届けるように」
 一羽の鳥を相棒に持つ青年はそう言って微笑んだ。
 魔法の言葉はシェーナの紋章。
 彼らしか知り得ぬ言葉は、きっと望みの形からでも一緒に探してくれるだろう。
 それが貴方の守りとなり、誓いとなり、貴方を守る力となるのならばーー……。
 それが、刻み手たちの祈りの言葉。最後に描く鳥の羽は運び手に想いを届けて貰う為に。
 海蛍を眺めるのも良いだろう。夜に降る雨と共に里を巡っても、紋章を描いて貰うのも良いだろう。
 遠くに見えるのはアルミエの木々。
 さぁ、シェーナの里でどんな時間を過ごそうか。
黒天・夜久
星を眺めながら雨の中を散歩……、というのは中々に得難い経験でしょうね。木の実でタトゥーというのも……、本で読んだことはありますが、実際に見るのは初めてです。やってもらいましょうか。
村の中でいつもの恰好はうっかりおばけか何かに間違われそうなので、外套は解除しておきましょう。(服装は肩出し)
散歩も風景も楽しみですが、一応何か怪しいものがないかどうかは気にしていましょう。月に叢雲、花に風……、というたとえもありますし。



●雨夜の星に
「星を眺めながら雨の中を散歩……、というのは中々に得難い経験でしょうね」
 ほう、と黒天・夜久(f16951)は息をついた。闇夜に足を踏み出せば、足先に仄かな明かりに気がつく。ランプは魔法の言葉が描かれたものだと里の人々は笑い告げる。
「それで、足元は明るいと……」
「えぇ。お兄さんは我らが紋章に興味が?」
 からり、と笑ったフェアリーがそう言ったのは、夜久の腕に紋章を見たからだろう。
「木の実でタトゥーというのも……、本で読んだことはありますが、実際に見るのは初めてでしたので」
 この地では紋章と言われるそれを体験するのは初めてだった。手首には鳥の羽を、羽ばたくように肘へと向かって描かれた紋様が彼らの紡ぐ守りの言葉だという。
「はは。まぁ、そうだろうね。シェーナはそういう里だったんだから」
 ずっと昔ーーそれこそ、伝承にある頃からそれよりも昔であれば、随分と隔絶された里であったという。
「それも伝承にあった頃に変わったらしい」
 歌うようにフェアリーの男は告げる。
「里が外に目を向け、外に向けても歩き出したのはその頃で……そうして、今はこうして祭りとなれば門を開くのさ」
 旅の客人を招くように、と告げるフェアリーに、そういえば、夜久は思う。里の道は、随分と入り組んでいた。それ自体は然程珍しくはないのだが、所謂看板というものが少なかった。店々のそれも真新しく、道によっては本当にそこを上がるのかという細い階段もあった。私有地かと思えばそうでもないのか。夜の潮風が心地よい通りに、いつもの外套を解除しておいて良かったと思う。肩を出したこの格好でも、表の通りで他の客にも驚かれたのだ。肩を出したこの格好でなければ、今頃、うっかりおばけか何かに間違われていたことだろう。
「……あの、向こうに見えるのはタトゥーに使っている木でしょうか」
 大樹なのだろう。弧を描く緩やかな階段を上がっていけば遠くに、濃い闇とは違う影があったのだ。海と里が光に溢れ、星々の煌めきは里を照らすというのにあそこだけがーーひどく、暗い。
「あれは……ああいうもの、なのでしょうか」
 フェアリーとはさっき別れてしまった。通りに戻れば話は聞けるだろうが、風景を楽しみながら散歩をしていても何処かから話を聞くことはできるだろう。
(「他に、一応何か怪しいものがないかどうかは気にしていましょう」)
 ほう、と夜久は息を吐き、視線をあげた。
「月に叢雲、花に風……、というたとえもありますし」
 艶やかな黒髪を揺らし、夜久は星の煌めく里の奥へと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
(クールナイフ/f02662)
やわらかな土の感触は星海では感じることの無かったもの
潮、草、雨のにおい
育成プログラムから教わらなかったもの
星の民が焦がれ夢見た、

――あいた!

気を取られていたら人とぶつかってしまって
慌てて頭を下げたけれど

……クールナイフおにいさん?
やっぱり!
すごいや、ほんとうに会えるなんて
おにいさんも『勇者のものがたり』を?おれも!

……いいの?
うれしい!おれ、きっと役にたってみせるね

地上からは、星の海がこんなふうに見えているんだね
すごく、すごくきれいだ

ね、おにいさん
おれたちもまほうのことばを授けてもらわない?
この旅路に、いい風が吹きますようにって
ひとを辿れば、きっとすぐ見つかるよ!


クールナイフ・ギルクルス
(カーティス/f00455)

涙雨なら外套のみでフードは被らず、潮の香りの中を行く
普段は森の中にいることが多い
こんなに強い潮の匂いは初めてで
海の存在を強く感じるなか空を見上げる
惹かれるのは空の星と海の星
目を細め見上げていると足に軽い衝撃
悪いと謝りながら視線を下に向ける

カーティス……か?

思っていたよりずいぶん小さいなと思いながら
低い視線に合わせるようにしゃがみ込む

こんなところで会えるとは思ってなかったな
ん、辿るところ
なら一緒に行くか?

気張る姿が頼もしくてクツクツ笑いながら
宜しく頼むわ

お前のところから見る星とはやっぱ違うんかね
素直な感想に頷きながら、改めて星空を見る

風か
いいけど、お前店場所わかんの?



●見果てぬ海
 潮の匂いがした。弱い雨に外套のフードを外し、黒髪を晒す。肌に感じる夜気は男の知るものとは違う。ほんの少し、重いのだろうか。木々の騒めきに似た音に低い階段を上っていく。はた、はたと外套を揺らす風が、ふ、と強くなり、ふいに視界がひらけた。
「ーー……」
 小さく、きっと小さく己は息を飲んだのだろう。辿り着いた庭園でクールナイフ・ギルクルス(手癖の悪い盗賊・f02662)は、は、と息を落とした。
 これが、海かと。
 薄く開いた唇は、果たして言葉を落とすに足りただろうか。普段は森の中にいることが多いのだ。こんなに強い潮の匂いはクールナイフにとっては初めてだったのだ。
 頬に感じる風。鼻先で踊る空気。
「……」
 海の存在を強く感じながら、クールナイフは空を見上げた。惹かれるのは空の星と海の星。目を細め見上げていれば、ぽすり、と足に軽い衝撃があった。
「――あいた!」
 ひと、だ。
 上を見ている間に、気がつかずにぶつかってしまったのだろう。
「悪い」
 謝りながら視線を下に向ければ、柔らかな茶色の髪。あちらも気がついたのだろう、慌てて頭を下げた少年はやがて、ぱ、と顔を上げてーー青い瞳を瞬かせた。
「……クールナイフおにいさん?」
「カーティス……か?」
 思っていたよりずいぶん小さいな、と思いながらクールナイフは少年ーーカーティス・コールリッジ(CC・f00455)と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。やっぱり! と声を上げるカーティスの瞳がキラキラと輝く。
「こんなところで会えるとは思ってなかったな」
 クールナイフのその言葉に、カーティスは笑みを見せて頷いた。
「すごいや、ほんとうに会えるなんて。おにいさんも『勇者のものがたり』を?」
「ん、辿るところ」
「おれも!」
 此処はーーやわらかな土の感触は星海では感じることの無かったものだった。
 潮、草、雨のにおい。
 育成プログラムから教わらなかったもの。
 それを簡単に、本物、と言っていいのかは分からない。宇宙艇の乗組員でありパイロットであるカーティスにとってこれは感じることの無かったーー多分、そう、初めてのものだ。星の民が焦がれ夢見たーーそう、考えながら歩いていたら、同じように魅入られていたひとにぶつかってしまったのだ。
「なら一緒に行くか?」
 しゃがみこみ、視線を合わせたクールナイフにぱち、とカーティスは瞬いた。
「……いいの? うれしい! おれ、きっと役にたってみせるね」
「宜しく頼むわ」
 クツクツと笑いながら、クールナイフはそう言って瞳を、ほんのわずか、緩めた。
 二人、揃って歩き出せば慣れない潮の香りがふわり、と揺れた。ざぁあ、ざぁああん、と聞こえる波音に誘われるように振り返れば見えたのは満点の星空。
「地上からは、星の海がこんなふうに見えているんだね」
 すごく、すごくきれいだ。
 目を輝かせて見上げていれば、感心めいた声がする。
「お前のところから見る星とはやっぱ違うんかね」
 傍を見れば、星空を見上げたひとの髪がさわ、さわと揺れていた。ほう、と落ちた息はどちらのものであったか。
「ね、おにいさん。おれたちもまほうのことばを授けてもらわない?」
 ひょい、とクールナイフを見上げて。降りてきた視線に出会えば、笑みを見せてカーティスは告げた。
「この旅路に、いい風が吹きますようにって」
「風か。いいけど、お前店場所わかんの?」
 ふ、と落ちた息はーー今度は少し笑みを帯びたのか。
「ひとを辿れば、きっとすぐ見つかるよ!」
 いこう、と声をかけて。二人、潮の匂いが踊る里の奥へと歩き出した。勇者の伝承にもあった紋章へと出会う為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

カフェで飲み物買って、鉱石ランプの傍らをそぞろ歩く
おー、キレイ!ホントに海にも空にも星がある!
波に揺らめく青白い光から空に向かい順に眺め

そういえば、涙雨って言うんだってねぇ
旅立ちの日……ナンの涙だろ
悲しい、寂しい……嬉しいなら、良い涙?想像なら出来る
ケドこんな雨のような気持ちを、オレは知らない気がする

アンタにもあった?
涙を流す程の、悲しいや寂しい

……無くても生きてこれたケド
じゃないと自分のコト、分からないままだと思うンだ
忘れてしまったのかもしれないって、最近、気付けたから
探してみようかな、なんてネ

笑ってくれる隣見て肩を竦めおどけて
大丈夫もアリガトも、涙雨に溶かし


火狸・さつま
コノf03130と

珈琲片手に
わわ、一面、綺麗!だね!
と、若干はしゃぎつつ
ランプも、素敵…!


溢れる想いの結晶
心配、寂しい悲しい…そんな雫、なの、かな
嬉し涙なら、良いのに、ね


ん?んー…うん
悲しい、は…辛くて苦しくて…
コノちゃん、悲しい、ない、の?
知りたい、の…?
首を傾げ
コノには、いつも笑って幸せで居て欲しい、よ…
けど…そう
そう、思うのも、きっと何か意味のある…天よりのギフト
幸せに生きるために必要な…

コノの悲しいが見つかって戻っても
周りに、沢山人が居るの、忘れないで、ね
俺も居るよ、なんて。笑いかける

今の自分に繋がる、記憶
コノの世界を彩る感情
どんなでも、きっと、大切だから
思い出せると、イ、ね…?



●涙の在り処
 海合いの地特有の風が、通りを抜けてゆく。ひゅう、と聞こえた音は鳥たちが遊ぶ音に似ていただろうか。あれに囀りがひとつ増えれば、黒鶫たちが噂をしているの、と秘密一つ打ち明けるようにして告げたのはカフェに来ていた少女だった。母親の手伝いをしているという彼女から受け取った飲み物を手に、海がよく見えるという道へ向かった。螺旋階段にも似た道筋は、巻貝に似ていたのだろうか。トン、と一段を上りきれば、視界がひらけた。
「おー、キレイ!」
 紫雲に染めた髪が、潮風に揺れる。ぱち、と瞳を瞬かせコノハ・ライゼ(空々・f03130)は声をあげた。
「ホントに海にも空にも星がある!」
 話に聞く庭園までの裏道だったのだろう。この空間は、里の人々がすれ違う為か、それとも長く緩やかな階段で足を休める為だろうか。身を乗り出さずともよく見える青白い光。潮騒が海の香りを運んでくる。波に揺らめく青白い光からゆっくりと空を眺め見れば幻のように瞳の中に、海の星が残る。
「わわ、一面、綺麗! だね!」
 ランプも素敵だと、はしゃぐように火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は声を上げる。ぴん、とたった耳は波音を拾ったのか、ぴくり、ぴくりと小さく動く。珈琲を片手に長身の彼のはしゃぐ姿に笑みを零し、コノハは低いフェンスに背を預ければ、はたり、と頬に弱い雨が触れた。
「そういえば、涙雨って言うんだってねぇ。旅立ちの日……ナンの涙だろ」
 シェーナの里から勇者が旅立った日。
 守護者から紋章を受け取った騎士が、この地を出た日に降ったという雨。里の皆が、傘を差さずに受けるという涙雨は、騎士の主人に由来するのだという。
『里の守り手。守護者の方に縁があるの』
 だからみんな、傘はささないのよ。とコノハとさつまに告げたのはあのカフェの少女だった。
「心配、寂しい悲しい……そんな雫、なの、かな」
 溢れる想いの結晶。
 掌に受け止めて、さつまは柔く言の葉を落とした。
「嬉し涙なら、良いのに、ね」
「……」
 嬉し涙、とさつまの言葉に、傍を見れば漆黒の髪を涙雨が濡らしていた。ぽつり、ぽつり、伝い落ちる滴がランプの明かりにきら、とひかる。
「悲しい、寂しい……嬉しいなら、良い涙? 想像なら出来る」
 ケド、とコノハは息を落とした。
「こんな雨のような気持ちを、オレは知らない気がする」
 己の裡に、雨音が届くようだった。反響して響くようでいてーー通り過ぎるような音。弱い雨は、雨音さえも残さないというのに。
「アンタにもあった? 涙を流す程の、悲しいや寂しい」
「ん? んー……」
 凪ぐような瞳だった。
 薄氷の瞳に、僅か考えるようにしてさつまは頷いた。
「うん」
 こくり、と一つ頷いて。緩くなってきた珈琲に手を添える。
「悲しい、は……辛くて苦しくて……、コノちゃん、悲しい、ない、の?」
 瞳を上げれば、ひたり、と視線があった。
「知りたい、の……?」
 首を傾げれば、ほんの少しの苦笑が耳に届く。
「……無くても生きてこれたケド。じゃないと自分のコト、分からないままだと思うンだ」
 小さく、落ちた息ひとつ、コノハは吐息を零すようにして笑った。
「忘れてしまったのかもしれないって、最近、気付けたから、探してみようかな、なんてネ」
 口元、最後は小さくあげて。ふ、と落ちた息に、コノには、とさつまの声が小さく揺れた。
「いつも笑って幸せで居て欲しい、よ……」
 けど……そう、と口を開く。
「そう、思うのも、きっと何か意味のある……天よりのギフト」
 幸せに生きるために必要な……。
「コノの悲しいが見つかって戻っても、周りに、沢山人が居るの、忘れないで、ね」
 視線を合わせて、そうしてさつまは小さく笑った。
「俺も居るよ、なんて」
 今の自分に繋がる、記憶。
 コノの世界を彩る感情。
「どんなでも、きっと、大切だから。思い出せると、イ、ね……?」
 涙雨が頬に触れる。肩を竦めおどけた彼に、祈るようにそう、さつまは思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルノルト・ブルーメ
一体、どれだけの数の勇者が
それぞれの想いを抱いて……その地に向かい
そして、大陸と運命を共にしたんだろうね……

色々な勇者の伝承を辿ったけれど
遺された伝承のどれもが人々に敬愛されていたから
この地も、きっと愛されて敬われて……
そして、誇りとされているんだろうね

折角の機会だ
紋章を入れて貰おうかな――

誇りと矜持をかけて、大切な娘への守護を願おう

こんな事、娘に言ったら
もう子供じゃないと拗ねられてしまうだろうけれどね?
入れて貰う場所を選べるのならば、左手の甲にお願い出来るかい?

紋章が刻まれる間
一つ気になっていた事を聞いてみようか
里に遺された鷹の……その後はどうなったのか
何か逸話は残ってないんだろうか?



●対の鳥
 潮風の抜ける通りを歩いてゆけば、遠く、海蛍が見えた。満点の星空に僅か目を細め、アルノルト・ブルーメ(f05229)はランプに彩られた里を歩いていく。祭りの日は客人も多いのだろう。海沿いの里に、様々な衣装の人々が姿を見せる。夜の闇も気にする事なく、ランプの明かりを辿っていく人々の中、掠れるように勇者の伝承を聞く。
 双剣の勇者。又の名を黒鷹の騎士と呼ばれたその者は、帝竜ヴァルギリオスとの戦いの為にこの里を旅立ったのだという。
「一体、どれだけの数の勇者が、それぞれの想いを抱いて……その地に向かい。そして、大陸と運命を共にしたんだろうね……」
 今まで、色々な勇者の伝承を辿ってきた。だからこそ、アルノルトは思うのだ。
「遺された伝承のどれもが人々に敬愛されていたから、この地も、きっと愛されて敬われて……
そして、誇りとされているんだろうね」
 その全貌はまだ、分からないけれどーー大切にされていることは確かなのだろう。そうでなければ、今日まで祭りが残ることも無いだろう。
「それに……、あぁ、あの店みたいだね」
 里に代々伝わる魔法の言葉を刻む店。刻む、と言ってもアルミエと呼ばれる木の実を使った一時的なものだという。ーーそれでも、魔法は宿っているのだろう。魔法の言葉に翼を宿し、楽しげに歩いていく人々を眺めながら、ふ、とアルノルトは笑った。
「折角の機会だ。紋章を入れて貰おうかな――」
 里には紋章を刻むことができる店が、幾つもあった。工房を名乗るところもあれば占い師めいた姿の者がいる店もある。辿り着いたのは、フェアリーの青年が営む店だった。
「それで、どんな意味が宿った言葉が良いんだい?」
「誇りと矜持をかけて、大切な娘への守護を願おう」
 迷うことなくアルノルトはそう言った。娘か、と零したフェアリーが少しばかり驚いたような声を残すのはーーあまり、子持ちに見えなかったからか。
「大切なんだな」
「えぇ」
 フェアリーには少しばかり大きな筆を手に、下絵を描いた彼に、アルノルトは吐息を零すようにして笑った。
「こんな事、娘に言ったら、もう子供じゃないと拗ねられてしまうだろうけれどね?」
「そりゃぁそうだ。娘ってやつは、思うより早くレディになるもんさ」
 くつくつと笑ったフェアリーに、それは困ったね、と男は苦笑した。
 左手の甲へと刻まれる紋章は、緩やかに弧を描く。花びらのようにも、陣を描くように見えた。
「そういえば、一つ気になっていたんだが、里に遺された鷹の……その後はどうなったのか
何か逸話は残ってないんだろうか?」
「ーーあぁ、勇者が里に残した方か」
 あるさ、とフェアリーは器用に筆を動かしながら言った。
「里に残った鳥は、里の守護者と共にこの地を守ったのさ。鳥は魂の運び手。勇者の魂をいずれこの地に運ぶ為かーー守護者の魂を運ぶ為かってね」
 守護者が次の守護者を選ぶその時まで、一羽はこの地を共に守り続けたのですーーと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

あー?紋章?
なんで俺が、お前とそんな……チッ、仕方ねェなァ!
ほら、どれにするんだ。早く決めろ
なんでも俺に入れたらかっこいいに決まってるだろォが

ああ、そうだな
星だらけ
(「涙雨、か……雨、なァ……」)
雨は俺にとって縁深いもの。切っては切れぬものだからこそ、この身に注ぐは少し嬉しい
いいもんだな、と笑みこぼし――傍らが珍しく静かとそっと視線をむける
ああなんか考えてやがる。こういう顔をした後は、ちょっとばかりめんどくさい

蹴りをいれるかと動く間際に名を呼ばれ、いつもの調子に戻っているのは珍しい
そうだな、綺麗だ。けど、お前と一緒に見るより美人と見てェ景色だよ
と、揶揄って


姫城・京杜
與儀(f16671)と!

伝承の紋章を入れて貰えるってよ!
一緒にお揃いで入れるよな…って、なんでって…
うう、與儀がイヤなら、仕方ねェな(しょんぼり
…え、入れる?
やったー!一番カッコイイの入れて貰おうな!(うきうき

わ、すげェ!
ほら與儀、海と空一面に星が!(小声ではしゃぐ
伝承に残る涙雨、か
(「雨は嫌いじゃねェけど…雨に降られるとどうしても、思い出しちまう」)
伝承の、里に残った一羽の気持ち…俺には分かる気がする
だって俺も、あの時――

柄にもなく、つい黙って感傷的になっちまったけど
…でも、今は
「與儀、與儀っ、綺麗だな!」
護れる、手の届く距離に、與儀がいるからな
ん?俺は與儀と見れてすげー嬉しいぞ!(にこにこ



●触れる涙雨
 潮風がランプに彩られた通りを抜けていく。今日という日、祭りに遊びに来た人たちの為だろう真新しい看板がひとつ、ふたつと目につく。流暢に描かれた魔法の言葉のおかげか、看板は淡く、光を帯びる看板に声を上げる長身がひとりーー……。
「伝承の紋章を入れて貰えるってよ!」
 姫城・京杜(紅い焔神・f17071)だ。薄闇にあって尚映える赤い髪を揺らし、上機嫌に今にも歌い出しそうな男の声が先を歩く少年を呼び止める。
「一緒にお揃いで入れるよな……」
「あー? 紋章?」
 どこか夢見心地な男の声を、真正面から叩き割る声音だった。かつん、と進む足の一歩が地面を叩き、振り返れば英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)のキラキラと輝く金色の髪が揺れる。薄く開いたその声の低さか、その「不敵」さに気がつく者がいれば分かるだろう。
「なんで俺が、お前とそんな」
 この二人の、見目に反した関係に。
 少なかれど、大人と子供。保護者などという関係ではあるまい。
「なんでって……うう、與儀がイヤなら、仕方ねェな」
 しょんぼりとした長身と、その姿に舌を打った少年の、どちらがーー……。
「チッ、仕方ねェなァ!」
「……え、入れる? やったー! 一番カッコイイの入れて貰おうな!」
 わんこ、なのか。
 俄然、うきうきとした様子の京杜に、與儀は呆れたように息をつく。
「ほら、どれにするんだ。早く決めろ」
 京杜とて気がついてはいるのだろう。その上、害がなければお揃い側に心が寄る。鮮やかな赤が機嫌よく紋章の下書きを辿るのを視界に、不敵に笑う少年は息をついた。
「なんでも俺に入れたらかっこいいに決まってるだろォが」
 結局、京杜が紋章を選んだのはそれから少ししてのことだった。存分に悩んだのはーー結局、自分だけのもの、ではないからだろう。海と空がよく見えるという庭園へと向かい歩き出せば、揺れる手に美しい紋章が目に付く。手の甲を辿り、指先に花を咲かす。手首に見える翼が、シェーナの里に縁の深い鳥たちを示しているのだろう。
 鳥は魂を運び、そして軈て攫う。
 生まれの時に羽を休め、去る時に羽ばたくのだ。
 とん、と弧を描く階段を上りきれば、先に、ひらけた視界が京杜の目に入る。遠くあった星空が、大きい、とそう感じたのは空と海の境を見失ったからかもしれない。
「わ、すげェ! ほら與儀、海と空一面に星が!」
「ああ、そうだな。星だらけ」
 小声ではしゃぐ京杜の横、與儀はほう、と息をついた。潮騒に眼下の景色が煌めき。瞬きは空へと続く。海蛍たちの青白い光と似て、少しばかり違う空の星々は深い闇を彩る。
「……」
 見上げていれば、はた、はたと頬が濡れた。シェーナの涙雨だろう。伝承に残る涙雨。
(「雨は嫌いじゃねェけど………雨に降られるとどうしても、思い出しちまう」)
 伝承の、里に残った一羽の気持ち……俺には分かる気がする。
(「だって俺も、あの時――」)
 胸の奥が、ざわつく。熾火のようにあり続ける「あの時」が京杜の裡を揺らしていた。
「ーー……」
 雨が、頬に触れる。涙雨と言わずとも、雨というものは與儀にとっては馴染みのあるものだった。
(「涙雨、か……雨、なァ……」)
 縁深いのだ。切っては切れぬものだからこそ、この身に注ぐは少し嬉しい。
「いいもんだな」
 そう、笑みを零し、濡れた髪もそのままに傍を見る。珍しくも静かな長身はーーこの顔には、覚えがある。
(「ああなんか考えてやがる」)
 こういう顔をした後は、ちょっとばかりめんどくさい。
(「……蹴るか」)
 一発。
 とん、とつま先で地面を叩けば、ぱ、と藍の瞳が先にこちらを向く。
「與儀、與儀っ、綺麗だな!」
「ーー」
 珍しい、と思う間に名前を呼ばれる。
「そうだな、綺麗だ。けど、お前と一緒に見るより美人と見てェ景色だよ」
 揶揄いを乗せた先、見上げるよりも波間へと目をやる。
「ん? 俺は與儀と見れてすげー嬉しいぞ!」
 そんな與儀の横顔を、京杜は見ていた。
 今はーー護れる、手の届く距離に、與儀がいるという事実を噛みしめるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と

テレビでは見たことあるけど、あんなにすごい海蛍は初めてだ…
凄いですね、星が降ってきたみたいな…確かに、海の天の川
確かに、夏が近いから濡れてもすぐ乾きそうです
…でも、ラナさん
冷えて寒くなったら言って下さいね、一応コートがあるんで

せっかく来たし、魔法の言葉を描いてもらいますか?
足元が不安なようなら手を差し出してエスコート…
というほどスマートには出来ないけど
手を取ってくれたならそっと繋いではぐれないように
…あたたかいです、とっても

ラナさんは手の甲にします?じゃあ俺もそうしようかな
守りの言葉は、可能なら勇者が授かったのと同じものを
何だかそれだけで強くなれる、そんな気がするから


ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と

海蛍ってすごい綺麗なんですね…!
天にも地にも輝きが
まるで星の中にいるみたい…
星が降ってきた…ふふ、素敵な表現ですね
雨に濡れるのは少し新鮮で
でも、心地良いと思うのはもう夏が近付いているからですかね?
ふふ、はい
寒くなったら言いますね

新月だから、もっと暗いと思ってました
それでも、夜だから少し心許無いですけど…
差し出された手に自分の手を重ねて
温かい、ですね
夜の恐怖が薄れていくよう

蒼汰さんは魔法の言葉、どこに書いて貰いますか?
やっぱり手の甲ですかね
勇者の伝承のお守りなら、とっても加護がありそうですよね
んー…私も同じ紋章にしようかな
ふふ、どんな幸せを運んでくれるんでしょうか



●つま先の並ぶ距離
 潮風が、薄くあった夜空の雲を流していく。夜に慣れた瞳が映した白い波は、満天の星空に僅か残った雲のようだ。あれを、鳥の羽休めと呼ぶのだと告げたのは里のエルフであった。ランプの継ぎ足しにいくのだと、空中に紋章を描いた少年は肩のフクロウと一緒に通りをかけていく。
 シェーナの広場は、少しばかり他より高く造られていた。庭園へと向かう道すがら、里を見下ろしーーそうして、その先に夜の海と、青白く輝く光を見る。
「海蛍ってすごい綺麗なんですね……!」
 淡い桜色の髪を揺らしながら、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は目を輝かせた。
「天にも地にも輝きが。まるで星の中にいるみたい……」
 丁度、背の低い建物ばかりだ。きっと、立っている自分たちの方が背が高い。感嘆に溢れる息があれば、息を飲む音もある。
「テレビでは見たことあるけど、あんなにすごい海蛍は初めてだ……」
 金の瞳は、まっすぐ、見入るようにシェーナの海と、空を捉えていた。
「凄いですね、星が降ってきたみたいな……確かに、海の天の川」
 月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)の言葉に、ラナは、ぱち、と瞬き微笑んだ。
「星が降ってきた……ふふ、素敵な表現ですね」
 伝承に曰く、鳥たちは羽の住処から、天の川を通るという。旅をする鳥たちも羽を休めるこの地には、幾つもの鳥の巣があった。背の低い家々の間にも、ちょこん、と乗った籠は渡り鳥を招いてのことだろう。小さな傘を思い出し、指先に乗る雨粒を思う。雨に濡れるのは少し新鮮だ。
「でも、心地良いと思うのはもう夏が近付いているからですかね?」
「確かに、夏が近いから濡れてもすぐ乾きそうです」
 濃灰色のロップイヤーもしんなりはしていないらしい。ランプの明かりで雨粒がきら、きらと光ってこそ見えるが、それだけのこと。けれど「……でも、ラナさん」と口を開いたのは蒼汰の方だった。
「冷えて寒くなったら言って下さいね、一応コートがあるんで」
「ふふ、はい。寒くなったら言いますね」
 蒼汰の優しさに、ラナは微笑んで頷いた。
 二人、歩き出せば涙雨もふわり、舞い上がる。気まぐれな潮風に拐われ、けれど、またぱたぱたと落ちてくる。
「せっかく来たし、魔法の言葉を描いてもらいますか?」
 シェーナに伝わる魔法の言葉。紋章には鳥の翼が寄り添うという。蒼汰の言葉に、ラナは瞳を輝かせた。
「はい」
 魔法を、学ぶのが好きなのだ。
 この地は、独特の言葉で魔法が描かれている。明かりはどれも柔らかく、足元を照らしていた。
「新月だから、もっと暗いと思ってました。それでも、夜だから少し心許無いですけど……」
 夜の星を楽しむのであれば十分なのだろう。それでも、慣れぬ場所を歩くには心許ない。小さな悩みはーーけれど、差し出された手に答えを得る。
「……」
 どうぞ、と言うべきだったのか。ラナさん、と良かったのか。緩やかな下りの階段に、先に一歩、下りていた蒼汰は手を差し出した先で悩んでいた。エスコート、というほどスマートには出来ないけれど。
「ありがとうございます」
 重ねられた彼女の手を、はぐれないようにそっと繋ぐ。
「温かい、ですね」
「……あたたかいです、とっても」
 里の子供達も海蛍の明かりを目指して元気に駆け回っていく。足元を縫うように一人が抜けていけば、あ、と瞬いた蒼汰がこっちです、とラナを呼ぶ。
「もう、待ってよー!」
 置いていかれた妹か、それとも姉か。
「ふふ、元気いっぱいですね」
「そうですね……」
 駆け抜ける姿に、二人、目を合わせてーーそうして、気をつけてね、と見送る頃には紋章を描く店の並ぶ通りへとたどり着いていた。
「蒼汰さんは魔法の言葉、どこに書いて貰いますか? やっぱり手の甲ですかね」
「ラナさんは手の甲にします? じゃあ俺もそうしようかな」
 エルフの青年が絵師を務める店には、様々な紋章が描かれていた。羽の形も様々に。
「紋章は何にされますか?」
「守りの言葉は、可能なら勇者が授かったのと同じものを」
 何だかそれだけで強くなれる、そんな気がするから。
 蒼汰の言葉に、職人は微笑んで頷いた。絵筆に、シェーナの里と共に育った木の実。
「勇者の伝承のお守りなら、とっても加護がありそうですよね。んー……私も同じ紋章にしようかな」
 ふふ、とラナは笑みを零す。
「どんな幸せを運んでくれるんでしょうか」
 勇者が授かった紋章。
 里の守護者に伝わっていた魔法の言葉。手の甲に色が落ちれば、詩の一節を紡ぐかのように絵師が笑った。
「こいつは、鳥の紋章さ」
 鳥が魂を運び、軈て去るように。
 天の川を渡り、自分がその場にいなくとも、共に居なくとも。
「貴方をずっと守りますように、ってね」
 守れますように、と。願いも込められた勇者と守護者のーー紋章。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

王・笑鷹
里の珍しいものを探しつつ、海蛍も見に行くヨ!
ワタシの耳と尻尾が雨でしんなりしないように、ちゃんとマントを被って……
コソ泥じゃないヨ。安心してネ?

言葉は大事、よくわかるネ。
騙……じゃなかった、信用して貰うタメには言葉選びが大事だしネ。
ネ、商売繁盛の紋章ってどんな感じカナ?
このタトゥー用の墨も売れそうダナー天然素材だしネ!

月はないのに星も海もキラキラしてて。
海蛍って知っていても、不思議な光景ヨ。
潮風の匂いもちょっと違う。
異国情緒漂う……っていうのはこういうことカナ。

描いてもらった紋様、お宝探しに海辺でうろうろするヨ。
重要なところにはきっと紋様が刻まれてるはずネ!
これは冒険の一貫だからネー合法ヨ。



●外界と紋章
 ぴょこん、と耳の形にフードが山を描いていた。耳付きのフードがついたマントを被れば、薄闇に少女の姿は潜んだ。耳と尻尾がしんなりしないように、と涙雨にマントを引き寄せる客は他にもいるらしい。お陰で、コソ泥と間違われるようなことは無かったがーー尻尾と耳が、右の店に、左の通りにとぴこぴこと忙しい。ほんの少し伺うだけのことでも、結局マントと一緒に動いてしまうのだから。
「意外とお店も多いネ。お土産物屋さんが少ないのは勿体無いネー」
 きらきらと輝く蜂蜜色の髪をフードから零しながら、王・笑鷹(f17130)は息をついた。そう、ちょっとばかり勿体ない。絶対に儲かーー盛り上がるだろうに。シェーナの里に最も多くあるのは紋章を刻む店のようだった。それぞれ、規模は然程大きくはないものの、潮騒と星を眺めながら歩いてゆけば階段の中腹にも店を見つけることができた。長く続く階段の、一休みに置かれた椅子と一緒に、鳥の描かれた小さな看板が目につく。見慣れない文字は、シェーナの里に伝わる言葉で描かれたものだろう。
「言葉は大事、よくわかるネ」
 うんうん、と笑鷹は頷く。
「騙……じゃなかった、信用して貰うタメには言葉選びが大事だしネ」
 どんな商売人にとっても、言葉は大切だ。うん、方向性がどっちにすっ転ぼうとしていても。
「ネ、商売繁盛の紋章ってどんな感じカナ? このタトゥー用の墨も売れそうダナー天然素材だしネ!」
「成る程成る程、久方ぶりの商売人の客じゃないか。あぁ、勿論あるとも。鳥の羽と、星を飾った此のものさ」
 奥から姿を見せたのはエルフの娘だった。見目よりは年を重ねているのか。ベランダの一角を使った席へと笑鷹を招いた絵師は、煙管を置いた。
「なにせ、昔は商人達の間じゃぁ高く取引されてたって話さ」
 貴重だった、というよりは貴重にしてしまっていた、ってものだがね。
 そう言って、絵師は静かに笑った。
「隠れ里という訳じゃないが、この地は開かれてもいなかったからね。先が見えていたようなもので、それでも構わないって頭の固い層もいたのさ」
 それが、勇者とーー黒鷹の騎士と、里の守護者の代で変わったのだ。
「里はひらかれ、その命を伸ばしーーそうして、商売繁盛の紋章も大々的に描かれるようになったのさ」
 鳥の羽を肘に、手の甲から指先には星を描く。美しい紋章の間に見える文字こそが、シェーナの魔法の言葉だろう。
「繁栄と、豊穣。財と運を運ぶことを祈るものさ」
 良き日々を、と職人は笑った。

「これで商売繁盛間違いなしネ」
 儲け話も夢じゃないーーのか。
 隠しきれないご機嫌モードの尻尾を揺らしながら、階段を上がっていけば、空と海の境を笑鷹は見えた。
「月はないのに星も海もキラキラしてて。海蛍って知っていても、不思議な光景ヨ」
 満点の星空の煌めきとは違う。青白い光は呼吸するように揺れ、潮騒が耳に届く。足を止め、振り返ってしまっていたのは何故だろうか。
 潮風の匂いもちょっと違う。
「異国情緒漂う……っていうのはこういうことカナ」
 お宝探しに里をウロウロとしていれば、見慣れぬ紋様が目についた。庭園を外れた場所にあるこれは、看板、だろうか。
「大きな木ネ。紋様の素材の木カナ?」
 でも、と笑鷹は思う。これが木だとすればーーこの看板と一緒に描かれている「×」はなんだろうか。木の枝に対してつけられているとすれば、採っちゃダメとかだろうか。
「天然素材も、無理やりはダメネー……後で、お財布に穴空くヨ」
 うんうん、と頷いた先で、ふと、気がついた。
「飾りが……ないネ」
 看板の木にはある飾りのようなものが、遠く見えるアルミエの木にはついていなかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
庭園から海蛍のあかりを望む
残された鷹は、どんな思いで待ったのだろうな

供をした鳥は、勇者の魂をつれて
もう一羽の元へと還ったのだろうか
この雨は何を歓び、何を悲しむ
染み込ませる様に翼を広げる
なにせ察しが悪い故
直接受け止めてやる位しか出来ぬ

師とは逆の手の甲へ記した紋を
宝石に光る雨粒と海蛍、星のあいだに翳してみれば
ふたつ並べば両翼に見えなくもない
そうか、師父も良く映えているぞ

やわい雨音をそれほど越えぬ程度の声で
紋の意をことばに乗せる

…師父、
何処かへ渡る時は必ず供をさせてくれ
例え、それが沈む大陸であったとて

己の終わりなど恐れまい
星の果つるまで
どこまでも主の翼で在れたことを喜ぼう


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
涙雨、か
果して天は何故涙しているのだろうな
今生の別れに対する嘆きか
それとも鎮魂を込めた祈りか
…残されたものの気持ちなぞ、私にも推し量れまいよ

庭園より臨む星々はさぞ美しい事だろう
天より降り注ぐ星の瞬きを一心に受け
耳を擽る星のささめきに耳を傾け
星光を頼りに、手の甲に入れた紋章を見上げる
うむ、双翼というのも中々に悪くない
ジジも様になっているぞ?
賛辞には当たり前の様に、然し誇らしげな笑みを湛え応える

懇願にも似た囁きを耳にしたならば
決して振り返る事無く
全く度し難い莫迦者だな、お前は
…好きにせよ



●旅立ちのときには
 潮騒を頼りに薄闇を歩いてゆけば、魔法の言葉に明かりを得たランプが里を照らしていた。細い道筋は庭園への近道だという。少しばかり長いが人気の少ないーー空いた道を選べば木々の間から見える星々が二人を出迎えていた。月のない夜に、空には星ばかり。潮風で揺れる木々が、波音に似る。そうして辿り着いた庭園にーー空があける。
「ほう」
 落ちた息は感嘆であったか。満天の星空に出迎えられれば、海風がひゅう、と舞い上がった。靡く髪を僅かに抑え、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は息を落とす。
「此処か」
「そのようだ」
 見上げれば夜の星。長身の視線はーー落とさずとも夜の海を捉えていた。青白い海蛍のあかりに小さく、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が瞬く。青白い光が揺れるように見えるのは、夜の波に揺られてだろうか。ぴぃい、と遠く、寝床に戻ったはずの鳥達の声がする。
「残された鷹は、どんな思いで待ったのだろうな」
 潮騒を耳に、ジャハルは薄く口を開く。
「供をした鳥は、勇者の魂をつれてもう一羽の元へと還ったのだろうか」
 この雨は何を歓び、何を悲しむ。
 シェーナの里では、鳥は魂の運び手と言われている。生まれるその時に魂を運び、死のその時には黄昏よりも早く去らうのだという。
「……」
 ぱたぱたと、涙雨だと言われる弱い雨を染み込ませるようにジャハルは翼を広げた。察しが、悪い方なのは分かっている。だからこそ、直接受け止めてやる位しかできないのだ。
 これが、雨と言わず、涙雨と言われているのだから、そこに「誰か」はあるのだろう。
「涙雨、か。果して天は何故涙しているのだろうな」
 広げられた翼が、艶やかに涙を受けるのを視界にアルバは瞳の蒼玉を細める。
「今生の別れに対する嘆きか、それとも鎮魂を込めた祈りか」
 星の巡りのその時に降り注ぐという雨。里の守護者からーー嘗ての主から、紋章を受け取った騎士が「勇者」はこの雨に触れたのだろうか。それともーー……。
「……残されたものの気持ちなぞ、私にも推し量れまいよ」
 月のない夜に、落ちた影は長い髪の作る色彩の影であった。吐息ひとつ零すように紡がれたアルバの言の葉は風に揺れ、やがて潮騒に触れる。波が少し高くなってきたのか。耳を擽る星のささめきに耳を傾け、天を見上げる。海と空と境界は星々は出会いーーその藍を濃くすれば天より降り注ぐ星の瞬きが瞳に残る。
「……」
 星光を頼りに、アルバは手の甲に入れた紋章を見上げた。飛ぶ鳥の翼と、刻まれた魔法の言葉。言の葉というよりは紋様に似たそれは、美しい装飾で描かれていた。
「ふたつ並べば両翼に見えなくもない」
 掲げたアルバの手に、すい、とジャハルは逆の手を翳した。翼の形、緩やかに描かれた紋様は、こうして並べればまるで一対の鳥のようだ。
「うむ、双翼というのも中々に悪くない。ジジも様になっているぞ?」
「そうか、師父も良く映えているぞ」
 その賛辞に、当たり前の様にーー然し、誇らしげな笑みを堪え応えたからこそーー後に続く音を、捉えることができたのかもしれない。
 やわい雨音をそれほど越せぬ程度のジャハルの声。刻んだ紋の意をことばに乗せる。
「……師父、何処かへ渡る時は必ず供をさせてくれ」
 守護者と騎士は別れ、里の守り手と勇者となった。
 鳥は一羽は里に残りーー残る一羽は勇者と共に沈みゆく大陸と運命を共にした。共に在るということを選べぬままに。
「例え、それが沈む大陸であったとて」
 それは懇願に似た囁きであった。
 決して振り返る事もないままに、アルバは声だけを落とす。
「全く度し難い莫迦者だな、お前は」
 吐息を、零す。落とす息は、果たして揺れたのだろうか。
「……好きにせよ」
 勇者にあったのは、運命であったのか。決意であったのか。
(「己の終わりなど恐れまい。星の果つるまで、どこまでも主の翼で在れたことを喜ぼう」)
 振り返る事もないアルバの傍、ジャハルは刻まれた紋章を見た。
 掲げたままの手にある翼が、双翼がほんの僅か光を帯びた気がした
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルリリー・ベルベット
綺麗な海蛍、なかなか見られるものじゃないわね。
こんなに美しい里に見送られただなんて、贅沢な勇者様だこと。
たまには雨の中で楽しむのも悪くないかもね。

魔法の文字だなんてステキ。
それにもともと婚礼の時に交わされてたの?とってもロマンチックだわ。
ぜひともリリにも魔法を刻んでちょうだい。
そうねぇ、できれば恋の紋章がいいわ。

シェーナではどんな風に婚礼をするの?花嫁さんの衣装は?
紋章を刻んでもらいながら、興味本位で婚礼についていろいろ聞いてみたいわ。
女の子ならやっぱり気になるじゃない。

◆アドリブ・絡みも歓迎です



●白の婚礼
 潮騒に誘われて階段を上がれば、一際広い空間が少女を出迎えた。とん、と軽やかに最後の一段を上がれば海風が背を押す。小さな跳躍の狭間ーーベルリリー・ベルベット(f01474)の瞳に見えたのは満点の星空と、海の輝き。
「綺麗な海蛍、なかなか見られるものじゃないわね」
 青白い光が、眼下の暗闇に揺れていた。月明かりの無い新月にあっても海を青白い光が形作る。ほんの僅か、途切れて見えたのは波に触れたからだろうか。空と海の狭間に、星を望む海蛍の小さな跳躍を見た気がしてベルリリーは笑みを零す。
「こんなに美しい里に見送られただなんて、贅沢な勇者様だこと」
 たまには雨の中で楽しむのも悪くないかもね。
 傘をささずに、気まぐれに。
 散策をするにもシェーナの里は悪く無い。階段が多いのは玉に瑕だけれど、この程度の角度はベルリリーからすれば慣れたものだ。とん、と庭園での時間を楽しめば、次に鉱石ランプの道を辿る。描かれた魔法の文字はーー明かり、なのだろうか。
「魔法の文字だなんてステキ」
 それにもともとは婚礼の時に交わされていたのだという。
 紋章は、家々に継がれるが故にーー婚姻のその時に交わされていたとそう聞けば、乙女の心は弾むものだ。
「あら、あらあら、お嬢さんはシェーナの魔法の言葉に興味があるのかしら?」
 ひょい、と姿を見せたのは身の丈ほどの絵筆を持ったフェアリーの少女だった。紋章を描く店の絵師なのだという。庭園から少し離れたこの場所でも、海と星を眺めることはできる。ベランダへと続く扉を開け放ってーー今日という日の夜更かしを祝って。青く染まる紅茶と、クッキーでフェアリーの少女はベルリリーを出迎えた。
「どんな言葉がお望みかしら?」
「そうねぇ、できれば恋の紋章がいいわ」
「恋ね! ふふ、任せておいて!」
 願う恋かしら。祈る恋かしら?
 歌う様に告げるフェアリーと話しながら、そっと、手の甲に落とされていく色を見る。手首から緩やかに伸びた絵筆は美しい紋章を描く様にシェーナの独特な言葉を描いていく。
「そういえば、シェーナではどんな風に婚礼をするの?」
「今は、あの庭園が一番の人気ね。鳥たちが遊びに来れる様に、彼処でするのよ」
 でも昔は、両家の間だけで行われる小さな式であったらしい。互いの家に伝わる紋章を交わす儀式としての方が少しばかり大きかったらしい。
「今はあの時とは少し違うけれど、指輪を交わす前に紋章を刻み合うのよ」
「それじゃぁ、花嫁さんの衣装は手が出ているものなの?」
「最近はね。でも、こうして描くんじゃなくて、昔のひとは手で触れるだけで描けたそうなの」
 手袋をとって、互いの手を重ねて。
 そうして紋章を交わしたのだという。
「勇者様が、守護者様から紋章を受けたのもその形なのよ」
「勇者様も?」
 小さくベルリリーは瞬く。勇者を送り出す時の餞別なのだろうかと、小さく思った彼女にフェアリーの少女は秘密の話をするように囁いた。
「えぇ。婚礼の日に交わす筈だった紋章を勇者に刻んでしまったの」
 一族に伝わる守りの紋章。群竜大陸にあっても勇者を守り続けたというーー守りの言葉。
「今はもう、里のみんなが描くことができるけれど勇者様の手に灯った様な力は守護者様にしか刻めないのよ」
 守護者の名前はフォルリール。
 稀代の紋章使いでありーーその力に愛された娘。たった一人の騎士を、勇者として見送った彼女の祈りはーーそれはもう、きっと、とびっきりの秘密の恋だったのだと少女は言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『手癖の悪い蒐集家』

POW   :    逃げる宝石トカゲをひたすら追いかける。

SPD   :    罠を仕掛けたり巣まで追跡する。

WIZ   :    宝石トカゲを誘き寄せる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鷹と、一人の守護者
「ーー……さぁ、これで良い。この紋章は、貴方を守り続けるでしょう。我が騎士」
 手の甲に描かれた紋章は、守護者だからこそ紡げるものだった。
 鳥が魂を運び、軈て去るように。
 天の川を渡り、自分がその場にいなくとも、共に居なくとも。この紋章がーー貴方をずっと守りますように。

●黒鶫と水鳥の休息
「……これは天から降る涙雨なら、どうして止むことがないんだろうって」
「まだ悲しいからじゃないのかい?」
 水鳥は羽を手入れしながら言いました。
「もしくは、実はもう辿り着いて、うれし涙なのかもしれない」
 黒鶫と水鳥はそれはそれは色々と考えましたが、答えは出ることはありませんでした。なにせ、勇者に付き添ったという鷹は二人ではないのですから。
「でも、それならばどうしてあの黒鶫は、あんな羽で里を目指すのだろう」
 決まった星の巡りに、どんなに皆が囀ってもシェーナの里を目指す黒鶫のことです。
「分からないよ。でも、もしかしたら鷹を知っていたのかもしれない」
 あの鳥が、まだ小鳥だった頃に。

●アルミエの木
 祭りのひと時を楽しめば、夜も深くなる。眠気に誘われるにはまだ少し早い。里の中、明かりを保つように紋章が描かれば、やはり暗いのかと猟兵たちが声を上げる。ちょっとした疑問ーーというよりは、手伝おうかというそんな声に里の人々は苦笑した。
「なに、何時もであればもうちょっと明るいのさ」
 やれ、と息をついたのは紋章を描いた男であり、その横で筆を片手に息をついたのはフェアリーの青年だった。
「手グセの悪い子たちが出ているからねぇ」
 手グセ? と一つ猟兵が聞けば、フェアリーの絵師は里の奥ーーその背にある大樹の影を指差した。
「アルミエの木、さ」
「ーーあそこには、本来は勇者の残した品に所縁の飾りがあったのです」
 話を継ぐように姿を見せたのは、真っ白な紙を揺らす少女だった。長、と息をつくフェアリーに笑った少女は、猟兵たちを前に一礼をしてみせる。
「私が当代の守護者にございます」
 曰く、この祭りの時アルミエの木にはとある装飾が飾られていたのだという。それはまだ、騎士であった頃の勇者が守護者に送ったもの。シェーナの里に続く紋章を守り続ける彼女へお守りとして渡した光る貝。
「ヴァロ、と呼ばれる貝の髪飾りであったと。守護者は、その髪飾りをとても大事にしていたそうで」
 優しく、芯のある娘と伝わる守護者が唯一怒ったのは勇者として旅立った嘗ての騎士を貶められた時だけだったという。

『我が騎士の旅を、勇者の旅出を蛮行という者がいれば前に出ると良い。我が魔法で相手となりましょう……!』

 魔法で守護者に叶う者はなく。その意味も分かっていた守護者が唯一苛烈にあった瞬間。彼女の髪にはヴァロの髪飾りがあったという。
「祭りの時は、加工したヴァロを飾るんです。キラキラと光るので、これが道標となるように、と」
 彼女に託された鷹がそれをしたという。
「それが、最近どうにも失くなってしまって……」
 どれだけ飾っても、少し高くにおいても宝石トカゲたちがしゅるり、と持って行ってしまうのだ。普段であれば浜に降りる彼らが、アルミエの木から持って行き、素早く姿を消してしまうのだ。
「宝石トカゲをただ捕まえるだけでは意味もなく……彼らの一先ずの巣を探しているのですが見つけられずにいまして」
 困っているという里の人々に、ならば、と猟兵たちは声を上げる。
「まぁ、探していただけるのですか? ありがとうございます。アルミエの木までは、私や里の者がご案内いたします」
 暗い道を照らすように守護者の少女が紋章を描く。やれやれとフェアリーの絵師の青年も連れを名乗り出ればーーさぁ、宝石トカゲとその巣をを探しに出発だ。
アルノルト・ブルーメ
アルミエの木……
騎士と守護者、2人だけの間で交わされた約束の標
やはり、とても大切にされているね
勇者の想いも行いも……それを受け止めた人の想いも

しかし、鴉でもあるまいに光るものが好きとは……
少々お灸を据えるべきかもしれないね?

レプリカクラフト使用
UCで罠を用意したらそれを木の近くに仕掛け
手癖の悪い宝石トカゲを捕獲
一度捕獲した後、解放して塒に帰る彼らを追跡

もう皆が困るようなイタズラをするんじゃないよ?トカゲくん

可能なら、気付かれないように尾に絹糸でも付けようか
切れてしまうかもしれないけれど、ないよりはましだろうから

見失わないように暗視や動物使いの能力も使用して追跡
必要であれば皆との情報共有も行う



●宝石トカゲを追いかけて
 ひとつ、またひとつ、と夜の通りに明かりが灯る。闇に慣れた瞳を静かに細め、アルノルト・ブルーメは笑みを零した。
「アルミエの木……。騎士と守護者、2人だけの間で交わされた約束の標」
 やはり、と柔く男の言葉は落ちた。
「とても大切にされているね。勇者の想いも行いも……それを受け止めた人の想いも」
 アルミエの木。
 そこに髪飾りを飾ったという鷹は、アルノルトが里で聞いた鷹の話で間違いないだろう。どれ程の思いでヴァロをこの木に飾ったのだろうか。だがきっと、この輝きは遠くからでもよく見えたに違いない。こういうもので、と当代の守護者に見せて貰った貝はつやりと美しく、紋章の明かりの下でもキラキラと光っていた。
 これを宝石トカゲが持って行ってしまうのだという。
「しかし、鴉でもあるまいに光るものが好きとは……少々お灸を据えるべきかもしれないね?」
 君のことだよ、とアルノルトは仕掛け罠にかかった宝石トカゲを持ち上げた。
「ギュイ」
「反論かな? 全く」
 ぱくり、と口にくわえているのは済んでのところでつかんだ小さなヴァロだ。キラキラと美しく光る貝殻は、アルミエの木に飾る時は細長く加工されている。その端っこをつかんでいたのだろう。
「もう皆が困るようなイタズラをするんじゃないよ? トカゲくん」
「ギュ、キュイ……!」
 逃げられる、と思えばしゅるりと宝石トカゲは身を返す。薄闇に飛び込んでいく姿は、野生と思えば不思議はないのか。勢いが良いね、と小さく苦笑してアルノルトは揺れる絹糸を見た。
「さて、少しでも持ってくれれば良いけれど。切れてしまうかもしれないけれど、ないよりはましだろうから」
 トカゲの尾に、気づかれないように絹糸をつけていたのだ。するすると揺れる絹糸を追って歩いていく。里を離れ、その背に抱かれる森へと向かうのかと思ったのだがーー……。
「里の外れか……?」
 ぴん、と張った絹糸が何かに引っかかったようにして、途切れる。最後にびちばたと宝石トカゲが暴れたのか、揺れた糸はそれなりに狭い道を宝石トカゲが通って行ったことを示していた。
「彼処のようだね……木のウロ、か」
 それ自体は不思議はない。ほんの少し、溢れた見えた巣穴はひとつだ。群れてはいないのか。いや、それよりアルノルトが気になったのは、予想より溜め込んでいたヴァロが少なめ、ということだ。巣の入り口に必死に落ち葉をかけ集めている姿を遠くから見ながらアルノルトは眉を寄せた。
「宝石トカゲは浜に降りれる……。それでもアルミエの木から持って行っていたのには、もしかしたら意味があるのかもしれないね」
 ひとまず見つけた一箇所を覚え、情報を共有するためにアルノルトは里へと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
(クールナイフ/f02662)
『まじない』をそらに翳せば
自分もこのせかいの一員になれた気がして胸が踊った
そらを違えても、そこに、いのちがあるんだ

ね、おにいさ……、ううん、クー!
おれ、いいこと思いついちゃった

町外れに停めていたStingrayのハッチを開けて手招く

これがおれの相棒!
そらを飛ぶ、星海を泳ぐ翼だよ
さ、乗って!

大柄な彼にはすこうし狭いかもしれないけれど
ぎゅうぎゅう、それさえ楽しくて

ヴァロは輝く道標なんでしょう?
なら、とびきりぴかぴかな場所を探すんだ
クーの鷹の目があれば、ひかりの軌跡を辿ることもわけないさ!

ようし、つかまっててね!

"Double time!"

Stingray、発進します!


クールナイフ・ギルクルス
(カーティス/f00455)

手の甲に描かれたお揃いの『言葉』
隣で嬉しそうに翳す姿に緩く口の端を上げる

着いた場所には見慣れない鉄の塊
キカイという物に興味はあったが触れる機会がなかった
それが今、触れるほど近くにあって……
表面にそっと手を伸ばす

翼、これがキカイ
乗り物なのか

カーティスに習って乗り込めば
踊る心を隠せない
色々と見回してしまう
浮き上がるときに感じる重力さえも初体験で
思わず、すげえと音に出て
操縦する姿に目を輝かせる

星の光さえあればどこまでも見通せる
盗ったヴァロを持ち帰ってんなら光が漏れているだろう
*視力、暗視、第六感で空からなら見つけやすいはず
蜥蜴が先に見つかったなら
行先など伝えて足を任せよう



●空からの旅路
 心地よい夜の風がかけていく。紋章によって照らされた通りを歩きながらカーティス・コールリッジは『まじない』を刻んだ手をそらに翳す。
「……」
 自分もこのせかいの一員になれた気がして胸が踊ったのだ。
(「そらを違えても、そこに、いのちがあるんだ」)
 翳す手に紋章の光が触れ、ぱ、とカーティスは傍のひとを見た。
「ね、おにいさ……、ううん、クー!、おれ、いいこと思いついちゃった」
 それこそが空への旅路の始まり。
 里の外れに留めていたStingrayへとーー空陸両用の高速戦闘機へとクールナイフ・ギルクルスを招いたのだった。
「これがおれの相棒! そらを飛ぶ、星海を泳ぐ翼だよ」
 一拍、返事に遅れてしまったのは結局見慣れない鉄の塊に驚いたところもあったからだ。それが今、触れるほど近くにあってーーそこへと、カーティスが手招く。
「翼、これがキカイ。乗り物なのか」
「うん。さ、乗って!」
 明るい声に誘われるままに乗り込めば、踊る心も隠せずに瞳は、色々と戦闘機を見渡してしまった。長身のクールナイフのそんな姿に、射手の少年は笑みを零す。
 Stingrayはいつもより狭くて。でもそれさえ楽しくて。
「ヴァロは輝く道標なんでしょう? なら、とびきりぴかぴかな場所を探すんだ」
「……確かに。星の光さえあればどこまでも見通せる」
 夜の里を思い出し、クールナイフは頷いた。
「盗ったヴァロを持ち帰ってんなら光が漏れているだろう」
「うん。クーの鷹の目があれば、ひかりの軌跡を辿ることもわけないさ!」
 さぁ、操縦桿に手をかけて。立ち上がったシステムに笑い、重量過多では? なんて告げたウィンドウを今日は閉じて。
「ようし、つかまっててね!」
 "Double time!"
「Stingray、発進します!」
 少年は夜の空へ飛び出した。

「すげえ」
 ぐん、と体が引き上げられるような感覚がさしよにあった。これが重力だろうか、とクールナイフは思う。浮き上がる瞬間に感じたそれさえ初めてで、操縦するカーティスの姿に目を輝かせる。ーーだが、空を飛ぶ翼に驚いたのはクールナイフだけではなかった。
「キュ……!?」
「ギ、キュイキュイ……!?」
 里の外れから飛び立ったStingrayに驚いたのだろう。アルミエの木を視線の先に捉えた里の外れから、宝石トカゲたちが慌てて逃げ出していたのだ。この地に住まう宝石トカゲたちにとって、自分たちを見下ろすStingrayは見慣れぬものだ。空に鳥こそあるだろうがーー里の守護者たる娘は言っていた。
『普段であれば浜に降りる彼らが、アルミエの木から持って行き、素早く姿を消してしまうのだと』
 守護者は不思議がっていた。
 それは『普段』ではないことが起きている証拠だ。
 宝石トカゲたちは野生の勘から、巨大な影から逃げていく。見慣れぬものを野生の動物たちは警戒する。ざわつく地上に点々と落ちて見えるのはーーヴァロだろう。
「驚かせちゃったみたい」
「そうだな。すごい勢いだが……これほどまで驚く理由があるようだな」
 カーティスの言葉に、クールナイフは頷く。トカゲの道筋を辿って巣を見つけるのは暫くは無理だろう。
「じゃぁ最初の予定通り、とびきりきらきらな場所を探そう」
「あぁ」
 宝石トカゲの巣。
 ヴァロを持ち帰っているのだ、光が漏れているだろう。巣はトカゲがいなくても探すことはできる。
「ーーあれか?」
 やがて二人の探索者は光を見つける。鷹の目が捉えた光は、キラ、キラと不自然な光を返していた。
「うん、あれであってるよきっと!」
 カーティスが笑みを浮かべる。
 巣を探す探索は随分と時間がかかってしまった。トカゲたちが警戒し、逃げ出した状況を思えば、見つからない可能性もあったはずだ。それでも空からの探索とクールナイフの目で、彼らの家を見つけることができた。長くかかった時間も、苦に感じなかったのはきっとーー二人で楽しく探せたから。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

王・笑鷹
悪いトカゲさんネー、でも神出鬼没っていうなら、コレ。
トカゲホイホイ!
(謎の効果音と共に取り出したるは拳大の宝石と、籠と棒と紐)

こうやってー、アルミエの木の傍で、宝石おいてー、上に籠をセットしてー紐を結んだ棒を引っかけて、ワタシはこの紐の先を握って影に潜むのヨ!
確実に奴らが宝石さらっていくのを追いかけるって戦法ヨ。
ワタシの嗅覚はワタシの宝石を逃さないからネ。

……思えば、ヴァロを借りれば良かったような気もするケド、ワタシの嗅覚っていうか、気合いの問題あるからネ……(と自分を誤魔化す)
自腹切ったからには絶対に逃さないカラ、そこはご安心あれヨ!
それにほら、今日は財と運を運ぶ紋章がついてるしネ?



●煌めきの彼方
「これがアルミエの木ネー!」
 見上げるほどの大きさの大樹だ。花をつけることは無いのか、生い茂った緑が薄闇の中でも王・笑鷹の目によく分かる。紋章による明かりに照らし出されてか、上の方で何かがキラ、キラと光っている。あれがヴァロなのだろう。つるり、とした細長い月白の貝殻は風に揺れる度に、りり、と小さく音を鳴らす。
「あんな高いところにまで飾るのは大変そうダネ……」
 いやこれはもしかして、もしかすると。不思議、とっても伸びる梯子あたりを売りつけ、紹介するのにチャンスなのかもしれない。
「宝石トカゲの話がなくても上までいっぱい飾ると綺麗そうだしネ! きっと便利になるヨ」
 その為にも、もう一度キラキラと光るアルミエの木を見る為にも宝石トカゲと、その巣を見つけるしかない。くるり、と見渡しても、今のところは近くに宝石トカゲの姿はないらしい。
「悪いトカゲさんネー、でも神出鬼没っていうなら、コレ」
 両手で抱えた大きなバックから、謎の効果音と一緒に取り出されたのはーー。
「トカゲホイホイ!」
 拳大の宝石とーー籠と棒と紐だった。
 ぴぴん、と狐の耳を立て、キラキラの宝石を掲げた笑鷹は、取り出した籠たちーー基、トカゲホイホイを設置していく。
「こうやってー、アルミエの木の傍で、宝石おいてー、上に籠をセットしてー紐を結んだ棒を引っかけて」
 そしてこの紐の先を握って、笑鷹は潜んでおくのだ。時刻は夜、影に潜むのも紋章の灯りが届かない場所を選べば容易い。
 そう、これはトカゲに敢えて宝石を攫わせるという戦法だ。キラキラと光るヴァロを持って行ってしまう宝石トカゲからしてみれば、笑鷹が用意した宝石は無視できない筈だ。
「ワタシの嗅覚はワタシの宝石を逃さないからネ」
 なにせ拳大。なにせ宝石。
 なにせーー自分で用意した品だ。そう自前。即ち自腹。
「……思えば、ヴァロを借りれば良かったような気もするケド、ワタシの嗅覚っていうか、気合いの問題あるからネ……」
 気が付いてしまった事実からそっと自分を誤魔化すように視線を逸らす。潜んだ影の中、そのまま沈み込みそうな心に、ケド、と笑鷹は顔をあげた。
「自腹切ったからには絶対に逃さないカラ、そこはご安心あれヨ!」
 それにほら、と手の甲を見る。
「今日は財と運を運ぶ紋章がついてるしネ?」
 ツキは呼べるはず。
 そうして待つこと暫し、宝石トカゲはとうとうやってきたのだ。
「きゅ、ギュギュイ……キュキュキュ!」
 こぶし大の宝石に気がついて、アルミエの木と宝石とを見比べる。籠の存在には気がついていないのだろう。二度、三度と見比べてーー……。
「キュ!」
 大きな方をーー選んだ。
(「うんうん。おっきくてキラキラしてると、ドキドキするネ。その狙いは間違いないヨ」)
 笑鷹的ドキドキポイントは薄くて軽くなっちゃったお財布だったりもするのだが、そこはそこ。背中にのっけようとして失敗し、咥えようとして失敗しーーそれでも宝石トカゲは諦めなかった。
「キュ、キュキュキュキュキュイ!」
 てやっと背中に乗せた拳大の宝石と共にしゅるり、と動き出す。キラキラと輝く宝石を頼りに追跡した笑鷹が辿り着いたのは、里の外れ、反り立った崖の中腹に掘られた横穴だった。
「あそこが宝石トカゲの巣ネ。……でもなんか小さいヨ?」
 ヴァロを溜め込んでいるのは、確かだろう。漏れる光がそれを示している。だが今ひとつーーそう、何というかちょっとばかし宝石いっぱい感が少ないというか。
「もうちょっとあると思ったんだケド。ワタシの嗅覚も鈍ったネ」
 ぺたり、と耳と尻尾をヘタらせながら、笑鷹は息をついた。
「まるであれだと仮の住まいみたいネ」
 宝石を運び込む姿は必死だから、使っていないと言う訳ではないのだろう。いや、もしかしたらーー……。
「新しく巣を作る何かがあったネ?」
 他に宝石トカゲの巣を近くには見かけない。単独で生活するものなのかもしれないが、それにしても、だ。せっせとしまい込まれた拳大の宝石を見送りながら笑鷹は辿り着いた一つの可能性に、一度、里に戻ると決めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
コノf03130と

(コノの、お仕置き……ひぇ)
ちょっと身震いして
ん。取り戻しに、行こ!

盗るのは、ヴァロ、だけ?かな…。
何か、理由とか、あるの、かな……?
首傾げつつ
ヴァロまたは囮の品へ『盗んで巣へ持ち帰ったら騒ぎ立ててしまう』『呪詛』をかけておく

コノと一緒に隠れて
『視力・暗視』でしっかりと見張りつつ
姿見れば、静かにコノへ合図して
見つからぬ様『追跡』する

逃げる方向は『野生の勘』で多少補いつつも
敵の動き『見切り』逃げ切られてしまわぬように
しっかりと『暗視』の『視力』で目標捉えて『追跡』

例え術か技能かで姿晦まされても
通った痕跡等を『情報収集』しつつ
ヴァロの灯りや相方の管狐ちゃん頼りに追いかける


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

泥棒サンにはお仕置きしなくちゃあネ
光の標をどうすんのか知らないケド、思い出ごと盗まれてるようでイイ気はしないもの

ヴァロしか盗らないってンならソレを幾つか拝借しよか
他のでもイイなら別のきらきらにすんね
相方と一緒に『呪詛』を重ね掛け
ソレに【黒管】呼び出して仔狐忍ばせ、分かり易い所に吊るしましょ
大丈夫、必ず取り返して見せるから

ケド捕まえるだけでは意味がない……ってのは
次から次へとキリがない、というコトかしら

付近に潜んで相方の合図を待ち、『追跡』するわね
数や逃げる方角等を『情報収集』しながら見失わないよう
万一見失っても仔狐からの情報辿って巣を見付けるヨ



●お仕置き 追いかけ 鬼ごっこ?
 薄闇に、目はもう随分と慣れていた。見上げた先の大樹にキラ、と小さく残っている光がヴァロだろう。月白の貝殻は、この地に伝わる言葉で光の源、というのだという。海に光を寄せ、深き夜に大地の光と紋章に彩られるシェーナは多くの光を灯し生きているのだろう。
「泥棒サンにはお仕置きしなくちゃあネ」
 それが、ああしてほんの少ししか残らない状況になってしまった。
 一度、大樹を見上げた先、うっそりと笑うように息をついたコノハ・ライゼに火狸・さつまはぴぴん、と耳を立てた。
(「コノの、お仕置き……ひぇ」)
 まだ見ぬ宝石トカゲくんたちの、ぴぎゃってなる顔が見えた気がした。うん。こう、具体的にどうと言うわけではないのだけれども。こう、なんというか。
「光の標をどうすんのか知らないケド、思い出ごと盗まれてるようでイイ気はしないもの」
「ん。取り戻しに、行こ!」
 少しばかりの身震いから、ふるる、と尻尾を揺らして、さつまは顔を上げて頷いた。
 ーー思えばそもそも、宝石トカゲはどんな姿をしているのだろう。大きなトカゲだと里の人々は言っていたが、とりあえずアルミエの木を登るだけの素早さはある、というところだろうか。
「盗るのは、ヴァロ、だけ? かな……。何か、理由とか、あるの、かな……?」
 さつまはそう言って首を傾げた。里の守護者である少女は『普段であれば浜に降りる』のだと言っていた。ならば、里の人々にとっての普通はそっちなのだろう。
「いつもと、違うことなの、かな……?」
「おイタには理由があるのかもネ」
 何にしろ、まずは宝石トカゲを見つけてからだ。今のところ、ヴァロしか盗らないというのであればーーと、二人は里の人から飾る前だというヴァロを借りていた。きら、と手の中でひかる貝殻は、星明かりと紋章の明かりから少し離れたこの場所でも淡く光を寄せる。
 そっと手を翳し、小さくさつまは言葉を寄せた。かけた呪詛は『盗んで巣へ持ち帰ったら騒ぎ立ててしまう』というものだ。コノハも同じように呪詛を重ね掛けると、すい、と掌を夜に伸ばした。
「ヨロシク、くーちゃん」
 姿を見せたのは指先ほどの黒い管狐だ。仔狐忍ばせ、分かりやすい場所にヴァロを吊るす。他のものよりずっと、低い場所だ。
「大丈夫でしょうか……」
 守護者の言葉は、きっと単純な心配だったのだろう。二人を信じていない訳ではなくーーただ、このいつもと違う事態に当代の守護者として何かできればと思うのにーーずっと、上手くいくこともなく今日と言う祭りの日を迎えてしまったからなのだろう。戸惑いと、自らの紡いだ言葉の意味に気がついて、ぱ、と顔を上げた少女が口を開くより先に、コノハは小さく笑った。
「大丈夫、必ず取り返して見せるから」
 口元、柔く笑みを浮かべ。うん、と頷くさつまの姿も重なれば、守護者の少女は、はい、と頷いた。
 そうして、待つこと少し。予想より早く、しゅるしゅると薄闇を抜うようにして宝石トカゲ達は姿を見せた。アルミエの木に登流るより早く、その姿を見つけたさつまがコノハへと合図を送る。小さく、頷いて二人追跡を始めれば宝石トカゲがやけに素早く移動していくのが見えた。意気揚々、と言うよりは、急いでいるように見えるのはどうしてか。はむり、とヴァロを咥えた姿をさつまもコノハも見失いはしないのだがーーだからこそ、妙に急いでいるようにも見えた。
『ケド捕まえるだけでは意味がない……ってのは
次から次へとキリがない、というコトかしら』
『はい。普段、宝石トカゲたちは浜に降りて、ヴァロの貝殻を持って行ったりーー時々、ほんの時々ですが祭りの賑わいに紛れて、髪飾りを持って行こうとしたりはするんですが……』
 ヴァロを借りた時だ。
 こんなに続いたのは初めてなのだと、守護者の少女も言っていた。
「……あれ」
 暗視の瞳で見据えた先、宝石トカゲ達のその動きを逃すことなく追っていたさつまが、困惑に似た声を上げた。
「ばらばらのとこに、いく……?」
「方角は……まぁ大体一緒だけど。離れた所に巣なんて作るのかしら?」
「どう、だろう……? 何か、理由が、ある?」
 小さく言葉を交わして、そうしてまずは左抜けた宝石トカゲの巣を確認する。もう一匹の方はコノハの仔狐からの情報を辿り、確認することができた。どちらもヴァロを仕舞い込んているのが見えたがーーそこに、宝石トカゲは蓋をしていたのだ。上から草をかぶせて。
「隠してるの、かな……?」
 こてり、とさつまは首を傾げる。ならば、何に対してか。里の人間や猟兵達相手ではない、何かがあるような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と

光る貝が飾られた木は、とても綺麗なんだろうな
ラナさん、頑張りましょう

宝石トカゲっていうくらいだから、確かに光り物が好きそうな
光があれば誘き寄せられたりしないかな
属性魔法で小さな光を作って、灯りの代わりに
ラナさん、足元に気をつけて下さいね
トカゲが逃げる方角がわかれば、そちらを中心に捜索
こうやって探検するのも何だか楽しい、のは…一人じゃないからかな
危険があったらラナさんを守ります
紋章のおかげか、いつもより力が湧いてくる気がする

暗い所とか、狭い所にいないかな
それとも…光る貝を持っていったなら巣も光っている可能性も…?
トカゲに出くわしたら追跡
上手く巣の場所がわかればいいけど…


ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と

大切な髪飾り…きっとすごく綺麗ですよね
困ってる人を助けたいし、髪飾りも見てみたいので
頑張りましょうね、蒼汰さん

宝石トカゲさんは、どんな子なんでしょう?
その名前と行いから、綺麗なものが好きなのかな
足元に注意をしながら捜索しましょう!
杖の明かりで照らせば、きっと輝きに近付いてきますね

夜でも心強いのは、手の甲に紋章があるからでしょうか
ふふ、そうですね
一緒に知らないところを探検するのはワクワクします

隅っことか覗き込みつつ
夢中になりすぎて、はぐれないように注意します
宝石トカゲさんの姿が見えないか、よく見ておきます
全部終わったら、アルミエの木の本来の姿が見れるでしょうか?



●煌めきを君に寄せて
 薄闇の中、見上げたアルミエの木は、ひとつ、ふたつと本当に小さな光を添えていた。あれがヴァロなのだろう。月白の艶やかな貝殻。髪飾りとしても使われるそれは、嘗て勇者からーー彼が騎士であった時に主たる守護者へと贈ったものだという。
「大切な髪飾り……きっとすごく綺麗ですよね」
 夜の風が、淡い桜色の髪を揺らしていた。そっと柔らかな髪を抑え、ラナ・スピラエアは大樹へと目をやった。遠く、見える光は宝石トカゲたちから遠ざける為か。夜をひとつ、飾るような明かりに瞳を細めたのは、月居・蒼汰も同じだった。
「光る貝が飾られた木は、とても綺麗なんだろうな」
 金の瞳を緩め、ほんの少しだけ、思う。あの小さな明かりがもっと沢山、この木に寄り添っている姿を。
「ラナさん、頑張りましょう」
「はい」
 苺の色彩を乗せた瞳を瞬かせ、ラナは頷いた。
「困ってる人を助けたいし、髪飾りも見てみたいので。頑張りましょうね、蒼汰さん」
 さて問題は、その宝石トカゲたちをどうやって捕まえるか、ではあるのだがーー……。
「宝石トカゲさんは、どんな子なんでしょう?」
 守護者や里の人々は知っているようだが、探そうにもこちらとしては姿を見たこともないのだ。トカゲさんであることは確か、ですよね。とラナは小さく首を傾げる。
「トカゲさんで、大きな木に登れて」
「……あの高さまでも、なんだか行けるみたい、ですよね」
 少しばかり蒼汰が眉を寄せたのは、大樹に残った飾りのーーその高さだろう。木登りは上手なんですかね、と息を零せば、少しばかり考えていたラナが顔を上げる。
「その名前と行いから、綺麗なものが好きなのかな」
「宝石トカゲっていうくらいだから、確かに光り物が好きそうな」
 光があれば誘き寄せられたりしないかな、と呟く声に、ぽん、とラナは手を打った。
「はい。足元に注意をしながら捜索しましょう!」
 とん、と地面に一つ杖をついて、淡い光をラナが灯す。
「杖の明かりで照らせば、きっと輝きに近付いてきますね」
 ふわり、きらり。柔らかな光が夜に灯る。満点の星空に、月明かりのない里は空の煌めきと手元の淡い光で世界を描く。
「……」
 そう、と掌を前に出して、蒼汰が紡いだ小さな光がふわ、ふわと浮かび上がれば灯りとなる。夜の里をーーその奥へと歩き出すにはきっと、二人の灯りは助けとなるだろう。サクサクと夜の道を進みながら、生い茂った木々をとん、と飛びこす。背の高い木々はあまり近くには無いのだろうか。里から離れれば離れるほど周囲がひらけていく。潮風が少しずつ遠ざかりーー知らない道を、夜、歩いていくというのに心強いのは手の甲に紋章があるからだろうか。知らず、軽やかな足取りで進む娘の髪が揺れ、あ、とふい傍で声がした。
「何かありましたか?」
 少しばかり弾むような声なのは、何かが見つかったかもしれない、と思ったからだろうか。ぱち、と瞬いて言葉を受け取った蒼汰は、えっと、と一つ言葉を落として告げる。
「ラナさん、足元に気をつけて下さいね」
 細い川でも近くにあったのだろうか。小さな窪みがあったのだ。そこに、と指差した先で、今度こそ二人一緒に気がつく。
「これって……足跡、でしょうか」
「ぺたぺたと先に進んでいったんでしょうか?」
 ラナが杖を向ければ、宝石トカゲらしい足跡がしっかりと見える。最初の足跡は少し薄くて、でも、次に見つけた足跡の方が少し深く刻まれていたのは『何か』を持って行ったからだろうか。
「ヴァロが重い……ってことは無いだろうけど、急いでいた……?」
 里の人々は困っていると言っていた。その分やっぱり宝石トカゲも急いで持って行っていたのか。くるくると考えれば、一つ二つと疑問も増える。それなのに、何処か心が弾む。
「こうやって探検するのも何だか楽しい、のは……一人じゃないからかな」
「ふふ、そうですね。一緒に知らないところを探検するのはワクワクします」
 さぁ、探索の始まりだ。
 深く残った足跡を辿って、右に、左に。芝生を覗き込めば残っていたのは足跡の代わりに尻尾の跡。てしてしと叩いたのか。急いだ宝石トカゲの痕跡を探っていけば芝生と小さな花の見える斜面にたどり着いた。
「あそこって光ってる……?」
 蒼汰が見た先、岩場の近く、狭い所から何か光が漏れていた。あの光の感じは、大樹で見たヴァロの光に似ている。だが、いまひとつ、入り口らしい場所が見当たらないのだ。
「巣穴の入り口はどこにあるんでしょう?」
 隅っこを覗き込みつつ、小さく首を傾げたラナの後ろで何かがーー動いた。
「ラナさん!」
 た、と気が付けば体が動いていた。守ろうとは思っていた。けれど、体がそう簡単に動くとは思えなかったというのに。
(「紋章のおかげか、いつもより力が湧いてくる気がする」)
 飛び込んだ先、伸ばした手は、飛び込んできた『何か』とぶつかった。
「ギュイ!?」
 てしん、とぶつかってきた何かが声を上げる。
「ギュ、キュキュキュイー!?」
「あ」
 ぶつかった先、当たり前のように弾き飛ばされた『何か』はくるくるこてん、と転がってーーそうして、二人の光の下、姿を見せた。
「キュ、キュイ……キュ、ギュイキュイ!」
 目が回ったのかくるくると一度身を揺らした後に、だが、ぱ、と顔を上げるのは二人の灯した光に気がついてか。テシテシと隠しきれない尻尾が揺れれば、見つからなかった巣穴の入り口が石の間から見えてくる。
「……えっと、此処が宝石トカゲの巣、みたいですね」
「はい。……でも、この子だけ、でしょうか?」
 小さく、ラナは首を傾げた。
 他の宝石トカゲたちの巣が近くにある雰囲気がない。隠すように作られた巣は宝石トカゲたちの習性なのかもしれないが、何かがまだ、ある気がする。
「全部終わったら、アルミエの木の本来の姿が見れるでしょうか?」
 呟いて、胸の奥湧き上がった疑問に心を寄せる。探索がまだ少し続くようなーーこの発見の先に、何かがある。そう思いながら、ラナは顔を上げた。まずはひとつ、ありがとうございます、と告げるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

そういやこの前もトカゲ、おいかけたな
今日はゆっくりって感じか

トカゲ、飛ぶもんでもねェし視界高くして探す必要もねェな
きらきらしてるもんが好きなのか、その髪飾りが一等気に入りなのか
ほらいくぞ、ヒメ
…お前はちゃんと俺を守ってるよ(小声で)

素早く姿を隠すってことは隠れる場所もありそうだな、探してみるか
捕まえてみる?
やってみるのはいいか、やってみろよ
なんか失敗しそうだけどよ……できたら褒めてやるよ
その塗料の方はちょっといけそうな気もするけどな

しかし宝石トカゲ…っていうくらいだからとってきたもんをしこたま溜めてるだろうなァ
あるべき場所に返してやれたらいいが
巣穴が光ったり、してねェかな


姫城・京杜
與儀(f16671)と

勇者が守護者に贈った髪飾りか
守護相手から貰った物…嬉しくて大切だっただろうな
(入れた守護の紋章見つつ)
…俺が涙雨に濡れたあの日から今日まで
ちゃんと俺は與儀を守れてるだろうか
事情は色々だろうけど
でもやっぱり俺は、護りたいやつを、すぐ傍で守護したい

トカゲの巣を與儀と探す!
どれだけ飾ってもって事は沢山あるのかな?
加工したヴァロあれば木に飾り待つ

現れたトカゲに【焔紅葉】巻きつける!
そのまま巣まで案内してもらうぞ
與儀、完璧じゃね?(どやぁ
もし失敗したら【紅の創造】で銃を
ただの銃じゃねェぞ、撃てば光る塗料がつくやつだ
星の様に光る足跡辿って巣を突き止める!

成功したら褒めてくれな、與儀!



●星の源へ寄せて
 リリ、と鈴に似た音がした。鳥の囀りにも似たささやかな音色はアルミエの木に飾られたヴァロの奏でる音だという。小さく聞こえている音も、あと少し飾りが多く残っていれば涼やかに響いたのだろう。潮風に揺れ、歌うように。ヴァロはこの地の言葉で光を意味するという。光の源、と姫城・京杜に説明をしたのはフェアリーの青年だった。
 ーーそもそもあれは、騎士が守護者を見つける為に贈ったものだ。
 呆れ混じりの息は、当代の守護者やあれこれと説明をするついでにアルミエの木に登ろうとしたのを見たからか。虹の色彩を残す羽を震わせ、説教を一つ飛ばしたフェアリーは息をついた。
『その姿が何処に居ても分かるように、とな。何処に居ても守れるように、と言ったというが、どうせ勇者がいた時代の守護者も、あんなお転婆だったに違いないさ』
 シェーナの里は広くーーだが、里の外に守護者は出ることができなかったという。時代だとフェアリーは言った。里の広さなど実際、たかが知れているからな、と言ったフェアリーの青年は、それでもヴァロを使った髪飾りを贈った勇者のことをーーその時はまだ、騎士であった青年の贈り物に意味がないとは言わなかった。
「見つけられるように、か……」
 呟いて、京杜は視線をあげる。騎士はーー勇者は、いずれ、自分が守護者を見つけられない時が来ると思ったのだろうか。主が里から出ることは出来なくとも、彼は、勇者となる兆しを得た後、旅立ちを選んだ。守護者は彼に紋章を刻んだーー彼女が婚礼の折、本当は、交わすはずだった紋章を。
「……」
 旅立ちは離別を描きーーだが、髪飾りをもらった時の話は、それよりも随分と前のことのようだった。守護者が里を回れば、美しい髪を飾り髪飾りが光を寄せる。もしもちょっと抜け出すことがあっても、守護者は見つけられたのだろう。
「勇者が守護者に贈った髪飾りか。守護相手から貰った物……嬉しくて大切だっただろうな」
 守護者は、ずっとその髪飾りを大切にしていたという。
 呟き落とした言の葉と共に、京杜は紋章を描いた手の甲を見る。満点の星空の下、月明かりなど無くとも薄闇の中、京杜の瞳は守護の紋章を見つける。お揃いで入れた紋章。
「……俺が涙雨に濡れたあの日から今日まで、ちゃんと俺は與儀を守れてるだろうか」
 呟きが、言の葉を得て落ちたか。舌の上、溶けて消えたのか。夜風に揺れる外套をそのままに、知らず、空いた拳を握る。
(「事情は色々だろうけど。でもやっぱり俺は、護りたいやつを、すぐ傍で守護したい」)
 それこそが矜持でありーー胸の奥にあり続けるもの。燠火のように、あの日の残像は、感情は京杜の中でくすぶり続ける。消える日など、無いとしてもーー……。
「そういやこの前もトカゲ、おいかけたな。今日はゆっくりって感じか」
 やれ、と息をつく声が耳に届いた。聞こえない訳もないというのに、突然、ひどくすとん、と京杜の耳に英比良・與儀の声が落ちたのだ。
「トカゲ、飛ぶもんでもねェし視界高くして探す必要もねェな。きらきらしてるもんが好きなのか、その髪飾りが一等気に入りなのか」
 眉を寄せ、僅かに考えるよな顔をした後に、與儀は息をつく。まるで、考え込んでいた京杜の姿など見えてはいなかったかのように。
「ほらいくぞ、ヒメ」
「與儀」
 先を歩き出せば、待って、と届く声がある。その声に、きっと伸びているのだろう手に與儀は小さく告げた。
「……お前はちゃんと俺を守ってるよ」
 見えていなかったようでいて、結局、全て見ていた少年の姿をした神は、その言葉を最後に前を向く。一先ずは、宝石トカゲの捕獲、だ。
「素早く姿を隠すってことは隠れる場所もありそうだな、探してみるか」
「トカゲの巣、だよな? 加工したヴァルも借りれたし、これを木に飾って捕まえてみる」
 長身の京杜がひとつ、ふたつと借りてきたヴァルを飾りつければ、アルミエの木はきら、きらと光って見えた。あまり数は残っていないようだがーーそれでも、これだけあれば宝石トカゲを誘き寄せるには十分だろう。
「で、捕まえてみる」
「捕まえてみる?」
 思わず眉を寄せた與儀に、京杜は頷いた。
「現れたトカゲにこれを巻きつけて、そのまま巣まで案内してもらう」
 焔の如き紅を密かに帯びた鋼糸だ。
 これを巻きつければ、巣へと帰ろうとする宝石トカゲの後ろでひらひらしたり、鋼糸で向かう先がーー巣が分かる筈だ。
「……」
 糸、だ。成る程鋼糸か、と與儀は思う。宝石トカゲの行き先は、その距離も詳細は里の人間でも掴めてはいない。掴めていない以上、道中の状態に保証はない。ーーだが。
「やってみるのはいいか、やってみろよ」
「成功したら褒めてくれな、與儀!」
 與儀の言葉に、京杜は目を輝かせる。長身の京杜のその姿は何処と無く微笑ましい雰囲気もあるような気がするがーー……果たして、成功するのか。
「なんか失敗しそうだけどよ……できたら褒めてやるよ」
 小さく息をつき、だが、ふ、と與儀は笑った。
 ーー斯くして、待ちに待った宝石トカゲが現れ、囮のヴァロをはむり、と銜えた。ーー多分、その時までは良かったのだ。
「いまだ」
「ギュ、キュイ? キュイイイイイイ!」
 しゅるり、と舞わせた京杜の鋼糸が絡みつけば、宝石トカゲは慌てたようにヴァロを銜えたまま逃げ出したのだ。しかも、数は二匹。本物のヴァロを囮に使えば、数が増えるのは不思議もないか。ーーだが、京杜とて単純には逃さない。
「與儀、完璧じゃね?」
 指先、鋼糸を操ってしゅるしゅると逃げる宝石トカゲたちに併せて動かす。おー、と声ひとつ、與儀が応じたところでーーピン、と糸が跳ねた。
「あ」
「あー……まぁ、そうだろうな」
 撓んだ瞬間か、それとも抜け出す為に選んだ岩場だったのか。ひとまず一匹に絞ろうかと思ったところで抜け出して行った宝石トカゲに、く、と京杜は声をあげた。
「来たれ、我が神の手に」
 紅葉が、宿り舞う。紅き焔の寄り添う銃を召喚した京杜は逃げる宝石トカゲに向かって声をあげた。
「ただの銃じゃねェぞ、撃てば光る塗料がつくやつだ。星の様に光る足跡辿って巣を突き止める!」
 ーーあ、こっちだったんじゃねぇの?
 と後に、與儀は思ったとか思わなかったとか。塗料の方はちょっといけそうな気もする、という彼の言葉に、京杜は無事に二匹の宝石トカゲに無事にペイントした。
「やっぱり、溜め込んでたか」
 二人が見つけたのは、そり立った崖の下に潜むように作られた宝石トカゲの巣だった。
「しかし宝石トカゲ…っていうくらいだからとってきたもんをしこたま溜めてるだろうなァとは思ってたが……」
 確かに、溜め込んじゃいるが、と與儀は思う。あるべき場所に、返してやることもできるだろう。だがーーどうして、此処には二匹の宝石トカゲしかいないのか。巣はヴァロの淡い光をこぼしていた。蓋をして中を守るように、崖という空間をうまく利用して作られている。いるのだがーー他のヴァロは、宝石トカゲたちの巣は何処にあるのか。
「此処まで群れないもんか?」
「やっぱ、なんか違和感あるよな。與儀」
 まるで、何処かから逃げてきたみたいだ、と 藍の瞳が薄闇の向こうを見据え、呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、悪戯な蜥蜴共には困ったものだ
良いかジジ、くれぐれもその角を奪われるでないぞ?

アルミエの木に到着したならば
我が魔術で発光させた石を木に飾り、囮とする

よしジジ、師を担げ
奴をこの腕に抱き【クリスタライズ】で従者含め透明化
そのまま身を潜め、悪童の出現を待つ
この術は疲れる故な
疾く姿を見せると助かるのだが
軽口には手を首に伸ばし、力を籠める
…おい、聞こえておるぞ?

石が動いたならば、その光を追跡
ジジの速度に振り落とされぬよう確と抱き留める
ふふん、私の魔力を編んだ石だ
なれば私が追跡出来ぬ道理はあるまい
空の彼方だろうと追い詰めてくれる

――っは、そうさな
ならば、鷹の加護と共に往くとしよう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…無論、心得ている
売り捌かれはせぬだけヒトの盗人よりマシか

師の持つ輝く魔法石を囮に
近く、アルミエの木陰に息を潜めつつ
同じく師の術で姿を隠し待つ

今回ばかりは師父を囮には出来ぬ故な
貝は憎まれ口など叩くまい
…はて、首など絞める様な術だったろうか

石が外されれば、音なき風と共に【竜追】にて追尾
煌めきを見失わぬ様、<視力/暗視>ともに最大限活かしながら
なにより師を落とさぬよう注意して
その魔力探知力をも頼りながら
くれぐれも追い越さぬよう蜥蜴の後を追う

手には紋、速く、疾く、輝きの行方を
風の向こうに勇者らの、鳥たちの軌跡を視る
……は、師父よ
この双翼なら――今ならば
鷹とも共に飛べような



●翼の導き
 夜の風が、大樹を揺らしていた。潮風に揺れる葉の音は漣に似ていただろうか。りり、とほんの僅か聞こえた音は飾られているヴァロだという。見上げる程の高さにあるのは、宝石トカゲたちに盗られぬ為だろう。月明かりの無い、満点の星空に月白の貝殻は光る。星の光を受けたのか、昼間の日差しを抱いていたのだろうか。大樹に、細く深い爪痕を見つけるとアルバ・アルフライラは息をついた。
「やれ、悪戯な蜥蜴共には困ったものだ。良いかジジ、くれぐれもその角を奪われるでないぞ?」
 傍を見遣れば、長身の従者が小さく頷きを見せていた。
「……無論、心得ている」
 黒髪から覗く星宿す片角。キラキラと輝くヴァロを狙う宝石トカゲたちにとっては、同じような輝きに見えるかもしれない。夜の暗さに、もう随分と慣れた瞳でアルバが視線をあげれば、小さく、息だけを落としたジャハル・アルムリフが口を開く。
「売り捌かれはせぬだけヒトの盗人よりマシか」
 手癖が悪いのだと、そう里の人々に言われていた宝石トカゲたちだ。巣にしまい込んでいるらしいことだけが分かっていれば、まだ、取り戻す手段はある。
「さて、あとは……」
 アルバの魔術で発光させた石を大樹へと飾る。これを囮にする、という方法だ。淡く、呼吸をするように光る石は、少ないヴァロより強く輝きを見せる。
「よしジジ、師を担げ」
「あぁ、分かった」
 両の手を広げたジャハルに担がれ、アルバはその腕に彼を抱く。すぅ、とひとつ息を吸えばスターサファイアの髪が一度、揺れーーその先から色彩を変えていく。否、見えているのは『その先』の光景。アルバが立っていたその場所の奥ーー肩越しに見えた光景。ジャハルと共に透明化すれば、宝石トカゲとて気が付けない。
「この術は疲れる故な。疾く姿を見せると助かるのだが」
 薄闇の中、小さく言葉を落とす。四肢に至るまでーーその腕に抱いた者を含め透明化させるのだ。ひどく集中する分、疲れもする。吐息ひとつ、夜の闇へと紛れさせれば妙な気配がひとつ。
「今回ばかりは師父を囮には出来ぬ故な」
 貝は憎まれ口など叩くまい。
「……」
 小さく落ちたジャハルの軽口に、アルバは手を従者の首に回して力を籠める。
「……おい、聞こえておるぞ?」
「……はて、首など絞める様な術だったろうか」
 小さく眉を寄せて、首を傾ぐだけの従者にもう一言、言っておくべきか。ジジよ、と薄く開いた唇はーーだが、見つけた姿にぱたり、と止まる。
「……」
 しぃ、と口元指を添えたまま視線で先を指し示す。そこには、しゅるしゅると薄闇を進んでいく宝石トカゲの姿があった。
「ギュ、ギュイ……! キュ、キュイ!」
 ヴァロが遠いことにちょっと凹んだ後ーー仕掛けた光る石に気がついたのだろう。てしてしとテンション高く地面を叩き、軽々と木を登った宝石トカゲは、ていやっと背中に石を乗せて器用に大樹から降り立った。
「キュイ、キュキュイ!」
 そうしてご機嫌な宝石トカゲがしゅるしゅると薄闇の中を移動していけばーー追跡開始だ。
「ーー師父よ」
 風が、ジャハルの髪を揺らしていた。その背に腕を回しながら、風の鎧を身に纏えば夜の闇もジャハルの地になる。音無き風と共に、空を行けば、アルバが僅かに眉を寄せていた。
「里の方からは離れるようだな」
 速度に振り落とされないようにと抱きしめる腕を確りと回したアルバの言葉に、ジャハルは僅かに首を傾ぐ。
「わざわざ毎回、遠くから取りにきていたのか」
「ーー……さてな。違和感はあるが、そういう趣向の持ち主とも言える。まずは辿り着いてからだろうよ」
 薄闇の中を滑るように進む宝石トカゲの姿はーー持って行かれた石の姿は、よく見えている。草場を通ったのか。時折、光が見えなくなることはあったが、あそこだ、と迷いなくアルバの声が追跡を導いていた。
「ふふん、私の魔力を編んだ石だ。なれば私が追跡出来ぬ道理はあるまい」
 空の彼方だろうと追い詰めてくれる。
 緩やかに笑みを唇は笑みを描く。その悠然とした微笑に、知らず、ふ、と息が漏れた。笑うような吐息は、言の葉を纏わぬまま夜に紛れ、紋章の描かれた手をジャハルは見る。
 飛ぶ鳥の翼。 速く、疾く、輝きの行方を。
 風の向こうに、勇者らの、鳥たちの軌跡を視る。
「……は、師父よ。この双翼なら――今ならば、鷹とも共に飛べような」
 唇からこぼれ落ちた声は、柔く響いただろうか。希いを帯びていたか、それとも、空にあって笑うように響いていただろうか。黒の瞳をただひとり、見たアルバは笑う。
「――っは、そうさな」
 揺れる髪をそのままに、己の魔力を追跡し、夜の世界に鮮やかに渡っていく。
「ならば、鷹の加護と共に往くとしよう」
 手の甲に描いた翼は、風と共に空を行く。やがて二人が辿り着いた先は、森のようなーー少しばかり鬱蒼とした地の入り口であった。雑木林程度だろうか。その入り口付近、少し背の高い木に出来た穴に、しゅるり、と宝石トカゲが入り込みあたりを警戒するように、巣穴から鼻先を出していた。
「警戒しているのか」
 小さく、ジャハルがそう呟けば、確かにな、とアルバが声を落とす。
「あの蔓草は巣にかける蓋だろうな。……だが、他に宝石トカゲの巣がある様子もないが……」
 群れない、という可能性はある。その一点は拭えず、だが、疑問点は残る。
「ジジよ。あれは何故隠すと思う」
「……盗られるようなものであるから、か? だが、里の者は宝石トカゲを捕まえたような話はしていたが」
 そこでふと、思う。何かおかしい、と湧き上がった疑問へ解を添えるようにアルバの声が届く。
「ーーあぁ。巣の話などしてはいない」 
 里の者は見つけられていないのだろう。とそう言って、アルバは薄闇の向こうへと目をやった。
「ならば、巣を見つけてくる他の何かがいるのだろう」
 里の人々以外の、何かが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベルリリー・ベルベット
【SPD】
まったく
人のものを勝手に持って行っちゃうだなんて、いけないトカゲちゃんね
持って行ったものはちゃんと返してもらうわ

案内人にお礼を伝えたら行動開始よ

宝石トカゲはキラキラしたものが好きなの?
なら目立つところに綺麗な石を置いて、リリは近くの茂みに隠れて待つわ
周囲に溶け込めそうな色の布を被って【変装】よ

トカゲが石を持って帰ろうとしたら、こっそり後を追いかけるわ
持ち前の【視力】で距離が離れても見逃さないわよ

巣まで辿り着いたらトカゲを捕まえて、持って行ったものを返してもらうわ
このヴァロは大切なものだから取っちゃ駄目よって【動物と話す】で言い聞かせたら分かってくれないかしら

◆アドリブ・絡み歓迎です



●白百合の少女
 りり、と歌うような音がした。囁くような、囀りにも似た音に赤の瞳を瞬く。鳥の声かしら? と柔く言の葉を落とした少女に、小さく笑ったのは案内人を担った当代の守護者であった。
「えぇ。鳥の声に似た鈴のような音が聞こえるんです。潮騒に乗って。……本来であればもう少し、聞こえるんですが」
「トカゲちゃんね」
「はい」
 ベルリリー・ベルベットの言葉に、守護者は苦笑して頷いた。普段であれば浜辺にも自分で降りれていた彼らが、どうしてアルミエの木から持っていってしまうのか守護者としても不思議なのだという。
「探すのは任せて。案内、ありがとう」
「いいえ。皆様に力をお借りすることができて、本当に良かった」
 自分たちでは手が回りきらなかったのだと、申し訳なさそうに言う守護者と別れると、ベルリリーは大樹の周辺を見渡した。すでに罠を仕掛けたり、追跡をしたりした猟兵もいるようだがーー宝石トカゲたちがそこに警戒して姿を見せない、ということはないようだ。皆、トカゲたちにバレることも、大きく警戒させることもなく巣を見つけることができているのか。
「まったく、人のものを勝手に持って行っちゃうだなんて、いけないトカゲちゃんね」
 バラ色の唇を尖らせて、ベルリリーは息をついた。
「持って行ったものはちゃんと返してもらうわ」
 宝石トカゲはキラキラとしたものが好きだという。それなら、とベルリリーは用意した綺麗な石をアルミエの木から少し離れた場所に置いた。大樹からは離れているがーーこの空間を思えば目立つ場所だ。芝生からひょっこりと姿を見せるような形に一つ頷いて、闇色の布を被って夜に紛れる。すぅ、と零す息さえ低めて隠れていれば、しゅるるる、と闇を滑るような音がベルリリーの耳に届いた。
「ギ、ギュ、ギュ、ギュイ?」
 宝石トカゲだ。
 しゅるりと姿を見せた宝石トカゲが、綺麗な石の前でこてり、と首を傾ぐ。不思議なのだろう。だが、二度、三度と首を傾げた先でーー。
「キュイ!」
 負けた。それはもうどうだってくらいに負けた。たしてしとご機嫌に尻尾で地面を叩いて、ひょいと綺麗な石を背中に乗せる。器用に運んでいく姿を確認すると、ベルリリーもそっと薄闇から飛び出した。地を蹴る足は軽やかに、とん、と着地の足音さえ聞かせないのは少女の腕。持ち前の視力で宝石トカゲを追いかけた先、辿り着いたのは里を抱く森の入り口だった。木のウロに辿り着き、ていやっと石を入れた宝石トカゲにベルリリーは足を止める。
(「他に、宝石トカゲたちの姿はない……?」)
 この子だけが、この森の入り口にいるのだろうか。しゅるる、と巣穴に戻ろうとしたところに、とん、と飛び出して捕まえる。
「キュキュイ!?」
 何事なにごと? と言いたげな宝石トカゲに、持って行ったものを返してもらうわ、と少女は告げる。ぶんぶんと振る尻尾は否の印か。だがーー最後は負けるように、しゅてん、と宝石トカゲは尻尾を下ろした。
「このヴァロは大切なものだから取っちゃ駄目よ」
 言い聞かせるように声をかければ、驚いたように尻尾を立てた宝石トカゲがベルリリーをまじまじと見た。
『聞コえルの? 分かるノ? 不思議ダネ。ずっと昔ノ勇者ミタイダ』
「えぇ。聞こえるの。このヴァロは大切なものだから、取っちゃ駄目よ」
 重ねてそう言ったベルリリーに宝石トカゲはだっテ、と困ったように息をついた。
『おっきナやつがイルんダ。おっきなやつが、僕たちノのイエモ集めたモノモ全部壊しちゃうかラ。新しク取ってオいて隠サナいト』
「おっきな……やつ……?」
 それが、宝石トカゲたちがアルミエの木からヴァロを持って行ってしまった理由ならば。彼らが巣穴をバラバラに作るのもその対策なのだろうか。すごく怖いンダヨ、という宝石トカゲはベルリリーをじぃっと見て言った。
『あんナのハ、伝説ノ勇者ジャナキャ倒せナインダ』

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『レッサーデーモン』

POW   :    悪魔の三叉槍
【手にした三叉槍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    金縛りの呪言
【手で複雑な印を結んで】から【呪いの言葉】を放ち、【相手を金縛り状態にさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    呪いの鎖
【投げつけた三叉槍】が命中した対象を爆破し、更に互いを【呪われた漆黒の鎖】で繋ぐ。

イラスト:純志

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●片翼の鷹と勇者
『あぁほんっとうにおばかさんね! 何が、失くすことの方が嫌だったなのかしら! 雛鳥の時からやり直すべきだったんじゃないかしら!』
「リーリエ、リリーエさん。それ以上頭をつついたら俺も危ない気がするって」
 深い夜だった。月のない夜。
 ひどく暗い夜も、慣れた瞳であれば里を見渡すのも容易い。髪飾りはキラキラと光り、彼女がーー我が主が何処にいても、きっと見つけることができただろう。里の中にいれば。
「でも、結局嫌だっただけなんだよ」
 里の外であれば、アルミエの木から流石に守護者たる我が主の姿は見つけられず。だが、それを選んだ。世界の為かと言われれば、きっと少し悩んでしまうのだろう。
「大層な話じゃない」
 花嫁となる主を見たくは無かったとか、そういう分かりやすいものだけがあった訳でもない。攫って仕舞えばよかったのよ! と叫ぶ鷹に騎士はーー勇者として旅立った青年は笑った。
「明日、あの人が笑って過ごす世界があって欲しかったんだ」
 手放すことよりも、失くす方が嫌だっただけ。
 世界が滅べば、きっと永遠に失ってしまうだろうから。だから、この雨はーー……。
「最後の、涙雨だ」

●片翼の鷹と守護者・フォルリール
 雨が降っておりました。鷹の羽も濡れてしまいますが、シェーナの里に降る雨が鷹は嫌いでは無かったのです。己の片翼たる鷹は、主であり友であり、兄弟のように育った騎士と共に旅立ち、風切の羽に、ほんの少しの傷を負っていた鷹は里に残りました。
「いいや、残る気でいたさ。どちらかが残っていなければ、姫様は一人では耐えきれなかっただろうから」
 騎士は動物たちと話すことができましたが、里の守護者は話すことはできませんでした。けれど、囀りと言の葉で一羽と一人はとても仲の良い友人となっていたのです。
「私も、リーリエも。ずっと、どうにか慣れば良いと思っていたのさ」
 鷹は羽をふるり、と震わせてそう言いました。
 騎士は勇者となり、守護者は一人のまま里を守り続けておりました。強力な紋章はその身を蝕んでいたのです。婚礼の時は訪れぬまま、次代に教えを残しーーそれでも1日に一度だけ、守護者は大樹の傍で旅立った勇者の無事を願っていたのです。
「けれど、姫様は自分の亡き後のマスターのことばかりを心配していた。だからこそ、旅路を許したのか。私には分からないが、あの時も、手放した事を後悔することはあっても」
 嘆くことはないでしょう、と守護者は笑ったのだと鷹は言いました。
「それから私は、この大樹を守っている。姫様に託された髪飾りを導きに、魂が戻ってくるのを」
「それをどうして僕の話したの?」
 小さな黒鶫はそう言って首を傾げました。他の雛たちは眠くなってしまったのか、うとうととしております。次代の、幼い守護者を見るような気分で鷹は言いました。
「たった一羽、お前が私の話に耳を傾けたからだよ。幼い黒鶫。私は、姫君とマスターが守ったこの地が、魂の交わるこの場所がずっと幸いである事を見届けたいのだ」
 いずれ、魂がたどり着けば私も我らが羽の住処へと旅立つだろう。
「だから、次はーー……」
●夜に濡れる涙雨
 シェーナの里に伝わる勇者の物語。鳥たちが語らい、魂の運びと共に紡ぎ続け、語り続けられるその別れと出会いの地に、ごう、と大地を揺らす落雷が落ちた。尋常ではないその音に、猟兵たちも気がつくだろう。何より、ひどく慌てた宝石トカゲたちに気がつくだろう。雷に驚いたと言う訳ではないのかーーその後、一拍の後に、何かに気が付いたように彼らは慌て出す。
 一つの可能性に気がついている者がいれば、この音の正体こそが宝石トカゲたちが、アルミエの木からヴァロを盗んだ原因と気がつくだろう。
 動物たちと言葉を交わす術を持つ者がいれば、宝石トカゲたちから『おっきナやつがキタ』と聞くことができるだろう。
『あれガ、僕たちノのイエモ集めたモノモ全部壊しちゃう!』
 キラキラしたものも、綺麗なものも。
 全部全部壊して、まっさらにしちゃうんだ、と。
 雷光は里の近くに落ちていた。急ぎ、駆け出した猟兵達の瞳に映ったのは長身の悪魔達の姿だった。
「ル、ァアア」
「グ、ルルァアアアアアアアアアア!」
 咆哮は獅子に似たか。獣に似たか。
 一瞬、光が煌めいた。シャン、と涼やかな音色は守護者が空へと紋章を描いた音色であった。倒せはしまい。ほんの僅かの時間稼ぎ。夜の空へと光を生んだ彼女の紋章は、ヴァロの持つ光に似て、目くらましの効果を紡ぐ。
「みんな、早く逃げて!」
「馬鹿か! お前も逃げるんだよ!」
 フェアリーの青年が声をあげる。今ならまだ、レッサーデーモン達は守護者達の方を向いている。
 猟兵たちであれば奇襲の一撃が紡げるだろう。勇者が愛して守った地を、守護者が守った地をーー鳥達が伝説を語り継ぎ守ってきた地を破壊されない為に。
 さぁ、戦いの時だ。
アルノルト・ブルーメ
なるほど、アレが元凶か

っと、悠長にしてる場合じゃないね
ダッシュで急ぎ接近しViperを放って先制攻撃
手首の返しでフックの挙動を制御して2回攻撃の範囲攻撃でなぎ払い
可能ならば守護者やシェーナの里の者達と敵の間に割って入る

お前たちの相手は僕らだ
余所見している暇はあげないよ

影の堕とし仔使用
召喚した影は自身と仲間への攻撃に対して身代わりに

敵に近接したらVictoriaとLienhard、二刀での攻撃に切替
串刺しになって貰おうか

身代わりにし損ねた攻撃は残像と見切りで回避

戦闘後
守護者たちに怪我がないか確認
トカゲくん達と意思疎通できる者がいるならば
悪さはもうしないよう、ちゃんと言い含めて貰えるといいのかな?


コノハ・ライゼ
たぬちゃんと

なぁるほど、お仕置きが必要なのは、アチラサンのようね?
里の綺麗な言い伝えごと、勇者サマじゃなくても壊しちゃ後味悪いでしょう

里の人と敵との間に割って入るよう即座に駆け
『高速詠唱』で【彩雨】呼び、敵群の進路を阻む氷の壁となるよう降らすヨ
『2回攻撃』により敵を押し返し、相方の背を守るよう再びの氷の雨

三叉槍の動きは『見切り』反撃を躱すケド
もし鎖に捕まってもその鎖を伝い『カウンター』
右目の「氷泪」から雷奔らせ落としてあげよう
ついでに刻んだ『傷をえぐる』よう『生命力吸収』しときましょうか
祭を汚さないよう、丁寧に頂いたげる

さてコイツら倒したら
それでも盗みはダメだとお灸据える位はしとかなくちゃねぇ


火狸・さつま
コノと

わぁ…お仕置き対象が移行した、ね……
けど
あっちなら、遠慮、いらない、ね
ニヤッと笑えば
『早業』敵の真っ只中へと跳び込み
足元にご注意あれ?
…砕け散れ
<彩霞>に水纏わせ振り下ろす『属性攻撃』【粉砕】周辺地形ごと破壊での『範囲攻撃』
続いて『2回攻撃』<雷火>の黒き雷撃周囲へ放つ『全力魔法・範囲攻撃』

相方の氷の雨を背に
其の儘、雷放ちつつ前進
里へは近付けさせない

敵の動き『見切り』攻撃躱し『カウンター』
<雷火>の雷へ水纏わせ感電狙い『気絶攻撃』
相方が居るから向こうは平気と
敵の只中で好き勝手駆け回り攻撃繰り出す

『オーラ防御』にて防ぎ
御しきれぬなら『激痛耐性』



ああ……メッ、は、されちゃう、のか…
ご愁傷様。



●黒角の使徒
 咆哮が、夜を震わせる。キン、と耳に一つ残る音を引き裂くように轟音が落ちた。雷だと、そう思ったのは空を裂く白光を見たからだ。
「なるほど、アレが元凶か」
 三度目の雷光を聞く頃には、アルノルト・ブルーメは駆け出していた。悠長にしている場合でも無い。踏み込んだ足から、一気に体を加速させ、残る距離を薙ぐように放つワイヤーで詰める。
「ル、ァアア!?」
 強かに打ち据えた一撃に、レッサーデーモンが振り返った。三叉槍を持つオブリビオンの光る瞳がアルノルトを見据える。
「グルァアアア!」
「ルァアアア!」
 重ねて響く咆哮は威嚇よりは分かりやすく殺意に満ち、だん、と力強く踏み込んだ異形にアルノルトはワイヤーを操る手首を返す。落ちていく軽量のワイヤーは、ひゅ、と空で高い音を鳴らした。
「グ、ル、ギァアア!」
 踏み込んだ異形が、胴を薙ぎ払っていく一撃に、僅か足が緩む。範囲を狙ってのワイヤーを操れば、ドォン、と轟音と共にレッサーデーモンの操る雷撃が腕を撃った。
「また、随分と盛大だね」
 やれ、と息をつきながら、僅か衝撃の痺れが残る腕に息をつく。痛みは確かにあるがーー問題なく、動く。この程度であれば、と頭の中、組み立てる。レッサーデーモン達の意識は、十分こちらに向いている。範囲を狙った攻撃を仕掛けた分だろう。
 この隙を利用して、彼らは避難を始めている。レッサーデーモンたちは猟兵たちの方を、邪魔者と認識したようだ。
 小さく笑い、さて、と息をつく。グルゥウウ、と唸る異形の声が耳に届いたからだ。瞬間、夜の空が裂ける。轟音に、バチ、と空が光りーーだが、アルノルトは静かに笑った。
「影から産まれ、影にお還り」
 降り注ぐ雷光に影が舞った。羽を持つ影ーー蝙蝠の形をした影が舞い上がり、雷光を受け止める。一撃に影は四散しーーだが、光が晴れた時にはアルノルトは、もう、その場にはいない。
 あの一拍を、利用したのだ。
 間合いへと踏み込んだそこ、抜き払ったナイフと黒刃を向ける。
「グルァアアア!」
 ぶん、と振り下ろされる槍を受け止め、弾きあげた瞬間、ぐん、とそのままレッサーデーモンの影に至近へと飛び込んだ。
「串刺しになって貰おうか」
 その影の下にさえ入るように。突き立てた刃が深く、異形に沈む。
「ギ、グ、ァア、ルァアアア……!」
 絶叫と共に一体、レッサーデーモンが崩れ落ちる。前のめりに落ちてきた体は触れる前に灰に代わりーーだが、瞬間、何かが『来た』
「ーー」
 三叉槍だ。反射的に引き寄せた蝙蝠たちだけではーー投げつけられた槍の一撃には足りないか。ガウン、と穿つ衝撃よりは爆発による熱と衝撃がアルノルトを襲った。
「ルァア、グルァアアア!」
「随分と歓迎されようだね」
 は、と息を吐き、切れた口元を雑に拭う。片手で、だ。黒刃を持つ腕は、漆黒の鎖でレッサーデーモンと繋がれていた。残る異形たちにとって、猟兵は邪魔者でしかないだろう。ーーだが、邪魔者と、そう認識したのであれば。
「お前たちの相手は僕らだ。余所見している暇はあげないよ」
 仕事はできた。
 た、と駆ける仲間の猟兵たちの足音を耳に捉えたところで、アルノルトは静かに笑う。口の端をあげた男に、鎖で繋がれた先の異形が吠える。
「ルァアアアアア!」
 だん、と力強い踏み込みと共に引き寄せられた鎖に、アルノルトは息を吐きーーたん、と踏み込んだ。その間合いを己のものとするために。
「なぁるほど、お仕置きが必要なのは、アチラサンのようね?」
 轟音が空を裂く。夜を無遠慮に照らす光は、守護者が夜の空に描いた紋章とはあまりに違っていた。青の瞳を眇め、コノハ・ライゼは息を落とす。
「里の綺麗な言い伝えごと、勇者サマじゃなくても壊しちゃ後味悪いでしょう」
 声は、低く響かずとも不思議と圧があった。
「わぁ……お仕置き対象が移行した、ね……」
 宝石トカゲさんはむきゅ、とかむぎゅってやつをされなさそうだろうか。
 そわり、とふわもこの尻尾を揺らしーー、青の瞳は、ひたり、と異形の姿を捉えた。
「けど、あっちなら、遠慮、いらない、ね」
 ニヤッと笑い、火狸・さつまは地を蹴った。ぐ、と爪で地を掴むかのように、身を前に飛ばせば瞬発の加速に、風が抜けた。
「ルァア……」
「グルァアアアア!?」
 唸るレッサーデーモンの、振り上げた腕の下を抜け、敵の真っ只中に跳び込む。身を前に倒し、跳躍の勢いで踏み込めば、ざぁああっと砂が舞った。
「足元にご注意あれ?」
 その声に、その言葉に。
 レッサーデーモン達は、この風の主が襲撃者であると知る。ぐん、と金の瞳がさつまを捉えーーだが、伸ばす腕よりも彩霞が水を纏う方が、早い。
「……砕け散れ」
「グルァアアアアア……!?」
 振り下ろす一撃が、異形の胴を斬り裂く。刃を叩きつける勢いは、一拍も待たずに地面にまで衝撃を伝えていた。ガウン、と大地を揺らす程の衝撃に、レッサーデーモンの体がーー浮く。
「ルァアアア!?」
 それは、真横から攻撃に切り替えてきていた異形をも同じだった。敵の真っ只中に飛び込んだのだ。刃は眼前の相手を切り裂けど、敵の三叉槍は四方からさつまを狙う。
 ーーだがそれを、砕けた地面が防いでいた。さつまの一撃は周辺地帯を破壊し、砕けた地面がレッサーデーモンの足場を僅かに、崩す。
「グルァアアアア!」
「ーー」
 怒りとも、苛立ちとも聞こえる咆哮と共に三叉槍が鈍く光る。目の端で捉えたそれは、攻撃力を上げたものか。は、と息だけを落とし、さつまは空いた手に蛮刀を握る手に力を込めた。ぶわり、と瞬間、さつまの狐の尾がーー変じた。ふわふわの漆黒の毛並みを覆うように、尻尾全体に文様が走る。
「ーー雷火」
 告げたのはただその、一言だけ。だが、ふわり髪を揺らす妖狐を中心に黒き雷はーー落ちた。
「グルァアアアア……!?」
 爆圧の黒雷に、レッサーデーモンが煙を上げながら崩れ落ちた。地面に縫い付けられたかのように一瞬、立ちすくみーーぐら、と落ちる異形に僅か、水音が混ざる。
 最初の一撃、刃は水を纏っていた。
 艶やかな刀身を晒す彩霞を構え、真横から伸びてきた三叉槍の一撃を、さつまは浅く、受ける。肩に浅く、入った槍にーーだがさつまは小さく笑った。
「……つかまえた」
 異形の胴はひらいている。
 伸ばされたままの腕を跳ねるように刃を振り上げ、ギン、と槍を浮かせた。
「たぬちゃんも順調ネ」
 ゴウ、と落ちる黒雷が水を纏っているのがコノハの目に見えた。敵陣で引きつける彼の姿を見ながら、里の人との間に割って入れば咆哮がコノハを出迎えた。
「ルァアアア!」
「貴方は……!?」
 驚いた様子の里の一人の声を、散らす程の咆哮は、だん、と踏み込む足尾と共に響いた。振り下ろされる三叉槍に、僅か、足だけを引き、唇に詠唱を乗せる。歌うように小さく。高速で展開された詠唱は、一瞬にして冷気を戦場へと呼び込んだ。
「煌めくアメを、ドウゾ」
 踏み込む足の、その進路を阻むかのように氷の雨が降り注いだのだ。
「グルァアアア!?」
「ギァアアア!?」
 構わず突っ込もうとしていた異形たちが水晶の鋭さに撃ち抜かれ、僅か、身を逸らす。
 氷の壁だ。
 降り注ぐ水晶の針は、レッサーデーモンの足を穿ち、胴を射抜き。その衝撃に、異形は吠える。
「ルグァアアアアアア!」
「ーー」
 絶叫は怒りか、苛立ちか。邪魔を、とでも言うように荒く振るわれた三叉槍が氷の雨に一度、阻まれる。
「今のうちニ」
「あ、ありがとう! お二人も気をつけて……!」
 紋章の守りを、と里の人の声が響く。瞬間、僅かに負っていた傷がじわり、と癒えていく。
「これって……」
 里で刻んだ紋章が、ほんの僅か熱を持っていた。ぱち、と一度瞬きーーだが、ふ、とコノハは笑い、とん、と地面を叩く。
「さァ」
 もう一度、と告げる声と、降り注ぐ氷の雨がさつまの背に向かうレッサーデーモンを撃ち抜いた。
「うん」
 ひゅん、と小さく空を鳴らし、撃ち抜く氷の雨が一瞬の冷気をさつまの元へと運んできた。氷の雨を背に、黒雷と共に妖狐はいく。
「里へは近付けさせない」
「グルァアア!」
 知るかと叫ぶ声か、邪魔なさせぬと苛立つ声か。咆哮と共に飛び込んできたレッサーデーモンの雷に、さつまは前に飛ぶ。瞬発の加速。踏み込みと同時に敵の雷を躱せば、仲間を巻き込むのを構わずに三叉槍が振るわれる。
「ルァアアア!」
「ーー」
 ざん、と勢いよく、薙ぐ一撃がさつまの黒髪を散らし、頬に浅く傷をつくる。ーーだが、それだけだ。身を振るように飛ばし、ざぁあ、と着地した先で、地に手をつけば、ぱら、と弱い雨と共に黒雷がーー落ちた。
「グルァアアア!?」
 ぐらり、と巨体が身を揺らし、倒れる。気絶した異形を前に、さつまは残るレッサーデーモンたちへと踏み込んだ。
(「コノがいるから、向こうは平気」)
 敵の只中で黒の狐は、雷光と戯れる。
 黒雷と剣戟の狭間、ぴん、と機嫌よくたった耳がふいに、鈍い音を聞いた。
「コノ」
「ーー」
 レッサーデーモンの呪いの鎖が、コノハを捉えていたのだ。腕に絡みついたそれに、ルァアアア、と異形が吠える。勝利でも告げるかのように、ぐん、と引き寄せてくるレッサーデーモンへとコノハはただひとつだけ、息をついた。
「まったク」
 一度伏せた瞳。ゆるり、と持ち上げられた両の瞳は、右のそれだけ僅かに色彩を変える。うすい、うすい青。深く刻まれたシルシがーー今、力となって顕現する。
 キュイインン、と一度空が鳴り、雷が呪いの鎖へと落ちた。
「ルァアアアアア!?」
 逃げられはしまい。この鎖は、コノハとレッサーデーモンを結ぶものだ。奔る雷は鎖を伝い、衝撃が異形の体に走る。
「グルァ、ァアアアア!」
 ぐん、と今度こそ力いっぱいに引き寄せてきた異形に、コノハは抗わずに飛ぶ。撓むことさえない鎖の上へと飛び乗るように。とん、と一つ足を落とし見下ろした先、レッサーデーモンの二度目の雷が傷を抉るように走りーーその生命力を吸い上げていく。
「ル、ァ、グルァアアア」
「祭を汚さないよう、丁寧に頂いたげる」
 やがて、ガシャン、という音共に、呪いの鎖が外れレッサーデーモンが崩れ落ちる。灰となり消え果てる姿を目の端に、コノハは息をついた。
「さてコイツら倒したら、それでも盗みはダメだとお灸据える位はしとかなくちゃねぇ」
「ああ……メッ、は、されちゃう、のか……」
 ぴぴん、とたった狐の耳で聞き届けたさつまは、小さく息をついた。
「ご愁傷様」
 キュギュイー、と叫ぶ宝石トカゲたちが、もうしないからー、と言うのが聞こえたような気がして小さく、笑う。
 猟兵たちによって、レッサーデーモンの群れはその数を、確実に減らしつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
《クー:f02662》
そっか、みんなはこのために……
トカゲさん、びっくりさせてごめんね!
クー、いこう!

自動操縦に切り替えたStingrayから飛び降りて
背後から一気に撃ち抜くよ!

クイックドロウを主体に白兵戦に持ち込む
銃身で三叉槍を受け流し乍ら銃口を顎に向けて撃ち抜こう
クーが戦いやすいようにおれが引きつける

不意に
頬を掠めたのは、潮風?
ちがう、

それが彼が齎した水の守りであると知れば
目の前の巨躯を蹴り飛ばして距離を取る
迷わない。彼が、導いてくれるから

ありがと、クー!

里のみんなも、守護者のひとたちも
トカゲたちも、ヴァロのかがやきも!
おれたちが守り抜いてみせる
涙雨は――かなしみのなみだではないのだから!


クールナイフ・ギルクルス
カーティスと
全て敬語

鳥達が守ってきた伝説の地を汚させないために
驚かせてしまった宝石トカゲのために

ええ、目の前の邪魔物を排除しましょう

カーティスよりも先に地に降り
闇に姿を隠す
大地に落ちた雫を
空気中に舞い遊ぶ水の粒子を
魔法の力で集めて攻撃に利用する
水を操るのは十八番
ここは水の気配が溢れている
変える形は水の刃

子どもだからと守りに入るのは彼に失礼
小さくても立派な猟兵なのだから
ならば彼が動きやすいよう
印を結ぶ敵を集中的に攻撃し呪言の妨害
死角からの敵も把握して
後でと言わず二つ三つ
水があればいくらでもお見せしましょう
物理的な攻撃は身を翻し当たらなければ問題ない

他人などどうでもいいが
後味の悪い結果は望みません



●星と森の使徒
 夜の里に、轟音が響きわたる。空から降り注ぐ雷光とはあまりに違う。空を行く術を持つ少年にとってはよく分かることでもある。あれは、空から大地に落ちるものではない、と。高速戦闘機Stingrayを空に滑らせ、カーティス・コールリッジは眼下に広がる光景を見た。
「そっか、みんなはこのために……」
 レッサーデーモン達が、その槍を振るっていたのだ。降り注ぐ雷光は大地を揺らし、獣の唸り声めいた音が夜の戦場に響きわたる。
「鳥達が守ってきた伝説の地を汚させないために、驚かせてしまった宝石トカゲのために」
 すぅ、と息を吸う。夜風に揺れる黒髪をそのままにクールナイフ・ギルクルスは地上をーー戦場を見据えた。一体、二体……両手で数えずとも良さそうだが、まだ異形の群れは残っている。
「トカゲさん、びっくりさせてごめんね! クー、いこう!」
「ええ、目の前の邪魔物を排除しましょう」
 先に、と告げる言葉は短くあった。行きます、と落とされた言葉は、敬語へと移り変わり着地の音さえ消したエルフは夜の闇に身を隠す。靡く外套さえ闇に潜ませ、指先だけが夜気をなぞっていく。
「これを使うのは得意でね」
 大地に落ちた雫を。
 空気中に舞い遊ぶ水の粒子にクールナイフは触れていく。指先で撫でるように、ほんの一瞬、短い光は魔法であった。水を操るのはクールナイフの十八番だ。涙雨に濡れたこの里には、水の気配が溢れている。
 そして、力は刃となって顕現する。
「ーー」
 放て、と告げることもないまま、指先ひとつ踊るように水の刃はレッサーデーモンへと切りかかった。
「ルグ、ァアア……!?」
 その衝撃に、こぼれた赤に、レッサーデーモンは襲撃者の存在に気がつく。ぐん、と振り返り、半ば反射で振るわれた槍をクールナイフは操る水で受け止めた。
「グル、グルァアアアア!」
「威嚇、ですか」
 鼻息荒く、ぐ、と押し込んでこようとする相手に、一度身を引く。ぱしゃん、と受け止めていた水が崩れればレッサーデーモンが、勢いを止めきれずに傾ぐ。
「ルァアア!」
 たん、とその隙を使い、身を引く。片足で軽く、逸らすだけに。頬を濡らす涙雨はクールナイフの指先を伝い、魔法と共に形を変える。真横から迫る腕を払えば、ごう、と雷光が間近に響いた。
「落として来ますか」
 こちらが水を使うのならば、か。深い意味もなくか。だが、ごう、と空に響く轟音の間、異形の声がクールナイフを捉えた。
「ルグ、ァルァアアア!」
「ーー」
 複雑な印を結び、放たれた言葉が呪となってクールナイフに届いたのだ。痺れのような感覚に、動きが鈍る。動かす筈の足が、言うことを聞かずーーただ、光だけが来る。
「クー!」
 高く、響いたカーティスの声と同時に熱が戦場を駆けた。自動操縦に切り替えた高速戦闘機から飛び降り、一気に前へと飛び込んできた少年の熱線銃が奥のレッサーデーモンを撃ち抜いていたのだ。
「グルァアアアア!」
 邪魔を、と叫ぶ声か。印を邪魔され、ぐらり、傾いだ異形の真横、飛び込んできたレッサーデーモンの槍がカーティスに落ちる。
「ーーっさせないよ」
 その重い一撃を、カーティスは銃身で受け止めた。ぐ、と押し込まれるような感覚に、けれど、顔を上げる。迷うことなく撃鉄を引き、異形の顎へと向けて撃ち抜いた。
「ルグァアアアア!?」
 熱線に、ぐらり、と異形が崩れ落ちる。その重みを交わすように、カーティスは、とん、と先に出た。
「クーが戦いやすいようにおれが引きつけるよ」
 返る言葉を聞くより前に、レッサーデーモンの雷光が来た。身を横に飛ばし、たん、と地をければーー頬に、柔らかな何かが触れた。
(「潮風? ちがう」)
 これは、とカーティスは思った。頬を掠めたこれはーークールナイフの齎した水の守り。
「ーー」
「グルァアア!?」
 目の前に迫った異形を蹴り飛ばし、カーティスはレッサーデーモンから距離をとる。
 迷わない。彼が、導いてくれるから。
「ありがと、クー!」
 駆け抜ける姿は、光か星に似ているのだろうか。銃口を向け、群れの中に滑り込み行く姿に子供だからと守りに入るのはやはり、彼に失礼でしたね、とクールナイフは思った。
(「小さくても立派な猟兵なのだから」)
 先のものは、援護の為に紡いだ水だ。敵の攻撃を妨害するように、操る水は刃となる。
「ルグァ、グルァアアア!」
「させると思いますか」
 指先が複雑な印を結ぼうとすれば、クールナイフの水が戦場を走る。ひゅん、と空を切り裂く音と共に、レッサーデーモンの腕が跳ねれば、呪は結実しないまま四散する。
「他人などどうでもいいが、後味の悪い結果は望みません」
「グルァアアア……!」
 ぐん、と飛び込んで来ようとした一体に、水を盾に紡ぐ。刃とて、真正面に展開すれば壁となる。一拍を受け止めれば、その背をカーティスが撃ち抜く。
「里のみんなも、守護者のひとたちも。トカゲたちも、ヴァロのかがやきも! おれたちが守り抜いてみせる」
 涙雨は――かなしみのなみだではないのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

王・笑鷹
トカゲさんも犠牲者だったのネ……。
まったく、迷惑なヤツだヨ!
でもこっちには加護があるからネー。

狐の奇術でダガーを複製、飛ばすヨー!
フェアリーさん達にもお世話になったからネ。
流れ弾がいかないよう気をつけるヨ。

印を結ぶ暇なんて与えないように、目の前にひゅんひゅん飛ばして邪魔をするヨ。
ワタシ、逃げ足には自信あるからネ。
頑張って捕捉されないように頑張るヨ。

引っかき回して、チャンスが来たらダガーを一斉にレッサーデーモンに向けるヨ。
さあさあ、お立ち会い。
悪魔の的当て、全部当たれば拍手を頂戴。
外れても華麗なる剣の舞いをとくと見よ……ってネ!

ネ、黒鷹の騎士サン……今も魔法の紋はみんなを守ってるヨ。



●星見場の相対者
 轟音と共に、雷が大地に降り注いでいた。涙雨を僅かに照らし、四散させる光はレッサーデーモン達の操る雷であった。槍を振るい、咆哮と共に落とされる雷光は、立つ地面さえ揺らしていた。
「ビリビリするヨ……。全く、近所迷惑も良いとこだネ!」
 狐の耳をふるふると揺らし、王・笑鷹は少しばかりしっとりとした尻尾を揺らした。
「トカゲさんも犠牲者だったのネ……」
 雷光を聞いた時には、笑鷹の宝石を必死に抱え込んでいた宝石トカゲは二度、三度と振り返りながら逃げて行ってしまっていた。何処か、一度安全な場所へと隠れたのだろう。
「まったく、迷惑なヤツだヨ! でもこっちには加護があるからネー」
 手の甲に描かれた紋章。
 シェーナの里、その歴史のひとつ。鳥の羽と星を飾った紋章は繁栄と、豊穣。そしてーー財と運を運ぶのだ。
「グルァアアア……」
「ルァアアア!」
 異形の群れが雷光と共に里を目指す。爆ぜた地面に、舞い上がった石飛礫に笑鷹は地を蹴った。
「早く逃げろ」
「こっちだ、早く……!」
 逃げようとすればレッサーデーモン達は追うのか。距離こそまだあるが、完全に安心はできない。避難する里の人々の中に、紋章を刻んだ一人を見つければ、ぱち、と瞬く瞳に出会った。
「!」
 あんたは、と続く筈の言葉に、唇に指先をあてる。しー、ダヨ。言葉なく、そう告げた笑鷹は、二度目の跳躍で一気に間合いへと飛び込んだ。
「お代は見てのオカワリ……じゃなくて、オカエリ!」
「グルァアア!?」
 ひゅん、と一本、抜き払ったダガーがレッサーデーモンの眼前を踊った。放ったのではない。ただ、踊ったのだ。嫌うように異形が腕で払えば、真横から次のナイフが飛ぶ。
「まだまだあるヨ」
「ルァアア!」
 複製した無数のナイフを、念力で飛ばし操っているのだ。落としたところで意味もない。
「フェアリーさん達にもお世話になったからネ。流れ弾がいかないよう気をつけるヨ」
「商売人さんっも、気をつけて!」
 聞こえた声に、じわり紋章が熱を持つ。パワーアップネ? と小さく首を傾ぐがーー答えは、そこには無い。ただ、踏み込む体が少し、軽くなった気がする。ひゅん、と穿つ三叉槍に、身を横に飛ばし、片足をついたところで笑鷹は落ちたナイフを蹴り上げる。
「も一個追加ネ」
「ルグァアアアアア!」
 攻撃が届かぬことへの苛立ちか。右に、左に走り回る笑鷹を捕まえるのは難しい。
「グルァアアア!」
「ルァアア!」
 咆哮と共に、重なり響いた雷光が一瞬、笑鷹の視界を奪う。だが、その先にダガーを向かわせれば、ギィアア、と叫ぶ声が耳に届く。
「こっちはダメネ」
 ワタシ、逃げ足には自信あるからネ。
 金の髪を揺らし、た、と駆け抜けた先で、ひとつ音を聞く。ーー呪詛だ。
「わお」
 印を結ぶ暇など与えないように、目の前でダガーを飛ばし妨害してきたがーーあちらも意地か。
「グルァア、ルァルァアアア!」
 翻弄される一体の背後、印を完成させたレッサーデーモンの咆哮と共に呪いの言葉が響き渡った。バチ、と痺れに似た感覚で体の動きが、止まる。その機を逃さぬと突き出された三叉槍が笑鷹にーー届いた。
「グルァアアア!」
「ワタシの一張羅にひどいことするネ!」
 正しくは、裂けたのはフードの方なのだが。
 チリ、と腕が痛む。だが、叩きつけられた衝撃は笑鷹の体を傾けた。ーーそう、動いたのだ。
「お客サンが足を止めた時は、一度で仕留めないとダメネ!」
 傾ぐ体をそのままに、ふ、と息を吐く。下がっていた足で、たん、と地を掴みーー笑鷹は飛んだ。
「ルァアア!?」
 追いかけるように仰ぐレッサーデーモンの肩を蹴り上げ、くるり、とその向こう、印を結んだ一体をも視界に収める。
「さあさあ、お立ち会い。悪魔の的当て、全部当たれば拍手を頂戴」
 ぶわり、と笑鷹を中心にしてダガーが踊る。狐の指先が示すがままに、くるり、と円形に展開されたダガーは、たん、と地を叩く笑鷹の合図で一斉にーー放たれた。
「外れても華麗なる剣の舞いをとくと見よ……ってネ!」
「グル、ァアアアア!?」
「ルァアアアアア……!」
 構えた槍で弾くにも足らず、レッサーデーモンにダガーが沈む。印を結ぶ手をひっかけたまま、眼前の一体が崩れ落ちればーー一拍の後に、真横で構えられた槍も届くことなく異形は崩れ落ちる。
「ネ、黒鷹の騎士サン……今も魔法の紋はみんなを守ってるヨ」
 手の甲がほんのりと暖かい。さわさわと、ほんのりと潮風の届く地で笑鷹はそう、呟いた。守り抜く為に旅立った彼が、愛したこの地で。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と

守護者さん達の方を向いている間に高速詠唱
願い星の憧憬を広範囲に降らせ先制攻撃を試みる
里の人達が避難する時間を稼げれば上々、攻撃が向くなら庇いに
勿論ラナさんも守ります
槍は出来れば躱したいけど、衝撃はオーラ防御で耐えて
ラナさんの攻撃に合わせて傷が深い個体を優先的に減らしていきます

多分俺も、失くすくらいなら手放す方を選ぶだろう
勇者として旅立った人の多くが
そんな風に大切なものを置いていったと思うから
傍に居てくれるなら、なんて、今の俺には多分言えない

想い合えた二人なら、きっとどんなに離れていたって想いは変わらないはず
それに空は繋がってるから
いつかどこかで魂が巡り会えると信じたい


ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と

里の人や鳥さんの想いも、勇者とお姫様の想いも乗せた髪飾り
その光を奪うのは許せないです!
大丈夫、蒼汰さんと一緒だから頑張れます

守護者の人達を守る事を第一に
後方からウィザード・ミサイルで敵を攻撃
多くの敵を狙えるよう意識して
蒼汰さんや誰かが怪我をしたら、優先的に回復を

守る為に旅立った…
それはとても美しいけれど
やっぱり私は、大切な人には傍に居て欲しいって思います
一緒じゃないと紡げない、幸せがあるはずだから
それはお姫様も同じだったなんて…
思っちゃうのは、自分勝手ですかね

だから私は、一緒に旅立てる力が欲しい
とは言えない位未熟だけど
そうですね、今は空で繋がれるよう
お祈りしましょう?



●星の雫 願いの先
「ル、グァアアアア!」
 咆哮が夜の空を震わせていた。爆ぜる雷光が一瞬、闇を払う。轟音は重なり響き、ビリ、と走る二人の足元を震わせる。
「見えました」
 先にそう、告げたのはラナ・スピラエアだった。苺色の瞳がまっすぐに、その一角を捉える。紋章の光と共に駆ける守護者たちだ。逃げる者を追うのは異形の性か。コン、とヒールが地面を叩き、転がった石を飛び越える。
「ーーはい」
 その横を、一足早く青年が抜けた。
 転がる石を踏み、た、と跳躍した月居・蒼汰がレッサーデーモンの群れへと指先を向ける。着地のそこ、小さく息を吸えば金の瞳が僅かに、光を帯びた。
「俺だって、一応、やる時はやるから」
 彼方より来たりて、星は降る。
 瞬間、夜の闇を星々の光が貫いた。戦う意思と共に紡がれた星の光に、異形たちが仰ぎ見た頃にはもうーー遅い。
「グルァアアアア!?」
 衝撃が、レッサーデーモン達を貫いた。星の光に操る雷が空に抜け、その余波さえ星々の光が散らしていく。広範囲へと展開された力は、それ故に多くの異形の視線を蒼汰へと集めていた。
「ルァアアア……!」
「グルァアアアア!」
「ーー」
 威嚇など、容易いものでは無い。敵意だ、と蒼汰は思う。でも、と唇を引き結ぶ。臆する気は無い。やるとそう決めて、里の人たちもラナさんも守ると決めたのだから。
「ルグルァアアアアアア!」
 咆哮と共にレッサーデーモンが来た。だん、と一気に踏み込んでくる異形が三叉槍を振り上げる。
「ーーっ」
 た、と身を僅かに逸らし、は、と息だけを吐いて蒼汰は真っ直ぐに敵を見据えた。こちらへと意識を向けるように。それは、後方から放たれる光を知っていたからだ。
「いきます」
 展開されたラナの魔法陣から、ウィザード・ミサイルが放たれた。蒼汰の横を抜け、弧を描くようにしてレッサーデーモン達を魔法の光が撃ち抜けば、は、とその異形の群れの先にいた少女が振り返る。
「皆様……」
「どうか、今のうちに!」
 ラナの言葉に守護者は頷いた。みんな、と告げる守護者が里の方を指差しーー最後、一度だけ二人に振り返る。
「どうか、皆様にも鳥と紋章の加護を」
 その言葉に、ぽう、と手の甲が熱を持つ。もしかして、と小さく瞬いた先でーー雷が落ちた。
「ルグァアア、グルァアアアア……!」
「……なんだが、考える時間はくれないみたいですね」
「はい。でも、少しあたたかいですね」
 手の甲に宿る揃いの紋章。鳥の紋章は、勇者が授かった紋章と同じだという。
「里の人や鳥さんの想いも、勇者とお姫様の想いも乗せた髪飾り。その光を奪うのは許せないです!」
 大丈夫、とラナは息を吸う。
「蒼汰さんと一緒だから頑張れます」
 駆け出した守護者たちに意識が向かないように、ラナは魔法陣を展開させる。真っ直ぐに、夜の戦場を見据えれば、馳ける二人の光にレッサーデーモン達はこちらへと意識を完全に向けたらしい。二人攻撃を合わせ、傷の深い敵を優先的に狙っていく。飛び込むような接近から、振り下ろす槍が届くより先に蒼汰がレッサーデーモンの足を撃ち抜けば、真横から蒼汰を狙う異形へとラナの光が届く。
「グルァアア、ルァアアア……!」
 崩れ落ちた個体の後ろ、飛び越えるように一体がぐん、と顔をあげラナを見据えた。
「ルァアアア!」
「ーー!」
 咆哮と共に、光が爆ぜた。雷だと気がついた時、ビリ、と肌に感じる感覚にラナは気がつく。これは、目眩しだと。ならば、その目的はーー。
「ーー」
「蒼汰さん」
 攻撃だと、そう気がついた時、踏み込む蒼汰の姿が見えた。レッサーデーモンの槍が蒼汰を穿ち、爆発が生じる。ガウン、と重い音と共に風がラナの髪を揺らした。
「グルァア、ルァ、ルァアアア!」
「……」
 それは、咆哮でもあり呪文めいた異形の声だった。衝撃は、オーラの防御を張ってある程度は防げたがーー痛みはある。は、と息を吐いて蒼汰は前を見た。呪いの鎖でこちらを結び、落ちる異形の声は上機嫌のそれか。
「……」
 多分俺も、失くすくらいなら手放す方を選ぶだろう。
「いたいのいたいの、とんでゆけ」
 色とりどりの薬瓶から溢れた、傷を癒す雨雫が頬に、腕に触れていく。流れた血だけを置いて、強化を施された体に力が篭る。
「勇者として旅立った人の多くが、そんな風に大切なものを置いていったと思うから」
 拳をひとつ握る。
 傍に居てくれるなら、なんて、今の俺には多分言えない。
 指先ひとつ動かさぬまま、唇は詠唱を紡ぐ。星の光が再びーー踊る。
 バリン、と呪いの鎖が軋む。砕けるにはまだ足りないか。ーーだが、残る一手はラナの紡ぐ魔法が描いた。
「ルグ、グルァアアア……!?」
 拘束を抜け出し、一気に眼前の一体を打ち倒した蒼汰の肩に流れた血だけが残っていた。
「守る為に旅立った……」
 小さく、ちいさくラナは呟く。
「それはとても美しいけれど。やっぱり私は、大切な人には傍に居て欲しいって思います」
 一緒じゃないと紡げない、幸せがあるはずだから。
 守護者と騎士の、二人でいた日々の話を里の人々はたくさん知っていた。ずっと大切にされていた髪飾りのことも、守護者の最後のことも。
(「だから私は、一緒に旅立てる力が欲しい。とは言えない位未熟だけど」)
 咆哮が遠のく。
「想い合えた二人なら、きっとどんなに離れていたって想いは変わらないはず」
 それに空は繋がってるから。
 小さく、紡ぎ落とした蒼汰の髪が揺れる。夜の風に、願いを込めるように。
「いつかどこかで魂が巡り会えると信じたい」
「そうですね、今は空で繋がれるよう。お祈りしましょう?」
 髪飾りをつけた守護者を、見つけたと笑う騎士がーーおかえりと、ただいまをきっと、言えているように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

全部悪いのはアレってことか
ヒメ、任せる。守ってくれよ
お前は――俺の守護者だからな

――なんて、言うのは喜ばせるだけだが。まァ、いいか。たまには。
たまには、こういうのも悪くない
……喜び過ぎて失敗しなきゃいいが

手近なものを竜巻へ
宝石トカゲから借りれるならキラキラしたものでもいいかもな
投げつけられる槍も巻き上げてしまえばいい
攻撃受けて怪我したら、ヒメがへこむからなァ……そうなると、めんどい
だから自分の身を一番大事に動くように

おいヒメ、怪我してもあとで治してやるからな
気にせず、動け

もう一回?
言うわけねェだろ。何度も言ってたら、安くなる
こういうのはそう簡単に言うもんじゃ、ねェんだよ


姫城・京杜
與儀(f16671)と

護る事は俺の矜持
與儀もこの地も守ってみせる
手の甲の紋章と涙雨に誓ってな!

!(與儀の言葉に笑顔ぱぁっと
ああ、俺は與儀の守護者だからな!(張り切り
【紅き陽炎】で守り超強固にして臨む!

天来の焔を掲げ與儀かばい絶対に守る!
三叉槍も呪いの言葉も強化した盾や怪力で完全に防いでやる
それに守るってのは防ぐだけじゃねェぞ
強化シールドバッシュや焔連ね握る拳で敵をぶん殴る!
「は、攻撃は最大の防御とも言うだろ!」
與儀に向かう敵は焔紅葉で妨害
絶対行かせねェ!

おう、怪我なんて元から厭わねェぞ
俺は與儀の守護者だからな!(嬉し気に

なぁなぁ、與儀っ
敵倒したらまたさっきの守護者云々っての言ってくれな!(そわ



●雷光と炎
「ルグァアア……!」
「グルァアアア!」
 咆哮と共に、次々と雷光が落ちていた。大地を揺らし、巻き上がった土埃さえ焼き消す。そこに、ヴァロを求めてという程の意識は感じず、ただただ、暴れ、奪う為だけにレッサーデーモン達は雷光を落としているのだとーーそう、英比良・與儀の瞳は思った。殺意も敵意も、ろくなものでは無い、と。
「全部悪いのはアレってことか」
 は、と息を落とせば夜風が與儀の金色の髪を揺らした。瞳にかかった髪を払い、視線をあげれば、はたはたと揺れる外套が視界に入る。
「……」
 一歩、與儀を守るように姫城・京杜が前に出ていたのだ。
「護る事は俺の矜持」
 それは、京杜という神の存在の基点か。
 灼熱を思わせる髪を揺らし、打たれ強さだけはやたら誇れるのだという京杜は言った。
「與儀もこの地も守ってみせる。手の甲の紋章と涙雨に誓ってな!」
 揃いの紋章。きつく、一度拳を握れば、ぽう、と淡く熱を帯びた気がする。もしかして、と京杜が手の甲へと視線を落とせばーーあぁ、と傍から声がした。
「ヒメ、任せる。守ってくれよ」
 呼ぶ声だ。自分を呼ぶ声。
 振り返れば花浅葱色の瞳が、自分を見据えていた。
「お前は――俺の守護者だからな」
「!」
 その言葉に、ぱぁっと京杜は笑顔へと変わる。長身の青年にしては少しばかり驚きもあるーーなんともでっかいわんことでも言いたげな姿に、だが與儀が今更驚く訳も無いままに。
「ああ、俺は與儀の守護者だからな!」
 張り切って、きゅ、と握った拳に炎が宿った。柔く揺れる陽炎に、夜の闇が照らされていく。とうに慣れた瞳とて、そこに明かりが灯れば夜を意識しーーその闇を裂いていく力を知る。
「立ち昇れ陽炎、我が神の盾に」
「ルグァアアアア!」
 咆哮が、二柱の神が立つ戦場に響き渡った。雷光が、轟音を立てながら落ちれば京杜は、た、と地を蹴った。瞬発の加速。一気に踏み込んだ京杜に振り返るには、レッサーデーモン達の意識は、散りすぎていた。
「グ、ギァアア!?」
 眼前へと飛び込み、迷いなく下から拳を叩き込む。その衝撃に、漸く眼前の敵を捉えた異形が、金の瞳に殺意を滾らせた。
「ルァアアアア!」
 咆哮と共に、振り返った異形の三叉槍が真横から来た。ぶん、と振るう衝撃をーーだが、京杜は振り上げた腕で受け止める。
 ガウン、と重い音と共に舞い上がったのは燃える焔と天に舞う紅葉。ただ一つ素直に、受け止めた理由はこれだ。
 守るということは、防ぐだけではないのだと。
 薄く開いた唇から笑みを作り、は、と息を落とした京杜は、その衝撃を利用するように僅か、身を引いた。逃げる為ではなく、避ける為でも無い。ただ、使う為だ。
「は、攻撃は最大の防御とも言うだろ!」
 焔を重ね、握る拳と共に、くる、と一度身を返した京杜の拳がレッサーデーモンへと沈んでいた。
「グ、ギ、ァアアア!」
 灰となって崩れゆく異形を見送りながら、ふ、と與儀は息をついた。
『お前は――俺の守護者だからな』
 自分で言った言葉ではあるのだが。見事なまでに喜ばせた、と思う。
「まァ、いいか。たまには。たまには、こういうのも悪くない」
 戦場には焔と紅葉と共に踊る守護者。穿つ槍さえ払い上げ、深く踏み込んだ先、叩きつけた拳が風を呼ぶ。
「……喜び過ぎて失敗しなきゃいいが」
「グルァアアア!」
 吹き飛ばされたレッサーデーモンが崩れ落ちれば、その向こう、ゆらりと立った異形が槍を高く掲げていた。雷光か、と與儀が眉を寄せたところで指先を空に滑らせる。
「変われ」
 ひら、と手の中、落としたのは宝石トカゲから借りたキラキラとした石たちだった。地に落ちるそれより先に、煌めきは竜巻へと変じる。暴風は駆けるように雷光を構えた異形を切り裂いた。
「ルグァアアア!?」
 衝撃に、レッサーデーモンの視線がこちらを向く。引き裂いた腕では足りないか。ぐら、と身を起こし、迷いなく放たれた三叉槍に與儀は息を落とした。
「巻き上げてしまえばいいからな」
 戦場に生じた竜巻は、與儀の思うがままに操られる。暴風は牙となり壁となり、その風の間を守護者は駆ける。舞い上がった髪が灼熱の色彩を残し、僅か、染まった腕が眼前の相手を打ち払った瞬間、飛ぶように真横に出た。
「絶対行かせねェ!」
「ーー」
 竜巻の間、縫うように駆けていたレッサーデーモンが、與儀を狙っていたのだ。穿つ一撃に京杜は割り込む。ぶわり、と舞い上がった焔が槍を包み、拳で打ち上げれば斜線がずれる。ーーだが、ゴォオ、と爆発だけが生じた。
「……」
 その熱に、その風に。
 だが瞳を一つ細めてみせるだけで與儀は言った。
「おいヒメ、怪我してもあとで治してやるからな。気にせず、動け」
 無事とそう、分かっていたからだ。
 だからこそ、與儀はそう言う。土埃と熱の向こう、変わらぬ様子で立ち上がった京杜の姿を見ながら。
「おう、怪我なんて元から厭わねェぞ」
 その身を強化したのは神の盾。
 容易く破られるものではなくーーだが、紅い焔神は己の傷を厭いはしない。
「俺は與儀の守護者だからな!」
 嬉しげに一つ笑い、視線は流れるように與儀を狙った異形へとーー向いた。
 た、と地を蹴り、身を前に。飛び込む姿に、與儀は竜巻を操り切る。暴風を指先で踊らせ、己へと向かいくる槍を雷を弾く。
(「怪我したら、ヒメがへこむからなァ……そうなると、めんどい」)
 だから自分の身を一番大事に動くように。
「ルグァ、グルァアア!」
「……」
 咆哮に視線を上げれば、金の瞳が捉えていたのは複雑な印を結ぶレッサーデーモンだった。溢れるのは呪言か。異形が見据えた先に京杜を見つければ、僅か瞳だけを細めて與儀は風をーー向ける。
「なぁなぁ、與儀っ。敵倒したらまたさっきの守護者云々っての言ってくれな!」
「もう一回?」
 焔踊る戦場に、そわそわとした京杜の声が響く。眉を寄せた先、與儀は息をついて見せた。
「言うわけねェだろ。何度も言ってたら、安くなる。こういうのはそう簡単に言うもんじゃ、ねェんだよ」
 ーーならば、あの一言はとっておきだったのか。その答えは分からぬまま、眼前の一体を打ち倒した二人の向こうーー残る敵はもう、然程多くは無い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、破壊しか知らぬ悪魔共め
貴様等が蔓延れば美は損なわれる
故に――鏖だ

雷光とはこう扱うものだ
【雷神の瞋恚】による範囲攻撃で一掃を試みる
我が渾身の魔術、喰らう事を光栄に思い死ぬが良い
入る罅も気に留めず高速詠唱にて次の敵に狙いを定める

三叉槍が投擲されれば魔術で打ち落として阻止
戦の中でもジジを疎かにする私ではない
槍で貫かれんとすれば灰すら残さず焼いてくれる
繋がれた鎖で体勢を崩した敵には此れ好機と畳み掛ける
…無茶をする従者には溜息しか漏れんがな

戦の後、蜥蜴達の前に宝石を添える
…もう勝手に持ち出してはなりませんよ?
空仰ぐジジに倣い顔を上げる
心地好い夜だ
――そして、少しだけ寂しい夜だ


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…語り継がれしもの達の全てを知る由はないが
帰るべき場所、なのだろう

なれば貴様らは邪魔だ
面を覆う攻撃は師に任せ
雷の間を駆け抜け、【竜墜】にて直接打ち砕く
足元を崩せば槍も思い通りには構えられまい
黒剣や籠手で受け止めて耐え、隙を狙う

師へと投げられる槍とて同じく
鎖が繋がれれば寧ろ好都合
怪力で逆に引き摺り出してくれよう
どうした、力自慢の暴れ者ではなかったのか


蜥蜴どもの家も再建してやらねばなるまいな
だが、次からは無断で盗るな

やがては雨も上がるのだろうと天を仰ぐ
師父も、そんな風に思う事があるのだな

もはや手の届かぬ所にあったとて幸いを望む
そんな存在があること
…それだけは、分からなくもない


ベルリリー・ベルベット
なるほど、アイツが宝石トカゲの言ってた「おっきなやつ」なわけね
別にリリは伝説の勇者じゃないけど、アイツらが元凶だって言うならやっつけてあげるわよ
トカゲちゃんともそう約束しちゃったし

まず、一体の背後から素早くナイフで奇襲をしかけるわ
敵が金縛りをかけようとしたら『敵を盾にする』で身代わりに

奇襲後はフック付きワイヤーを木に引っ掛けて『ジャンプ』
そのまま木々の間を飛び移りながら『空中戦』を仕掛けましょう
『2回攻撃』で手数を増やした【早撃ちシンデレラ】で空中から狙い撃ちしてあげる

守護者たちは無事かしら?
トカゲちゃん。おっきなやつは倒したんだから、今度こそヴァロは取っちゃ駄目だからね

◆アドリブ・絡み歓迎



●比翼
 雷光が、夜を裂いていた。爆圧の光を大地へと叩きつけ、吼える異形はその牙を剥き出しに嘲笑っていた。レッサーデーモン達は数を減らそうとも逃げ出す様子も無く、ただ残る大地を荒らしていく。
「ルグァアアア……!」
「グルァアアア!」
 舞い上がる埃があれば撃ち払い、逃げ出した虫でさえ追いかけるように振るわれる槍が雷光を帯びる。
「やれ、破壊しか知らぬ悪魔共め」
 そこに、声が落ちた。
 夜の風に美しいスターサファイアの髪を揺らし、コツン、とヒールを鳴らす。姿を露わとしたのは奴らの操る雷のその質の悪さにか。
「貴様等が蔓延れば美は損なわれる。故に――鏖だ」
「グルァアア……?」
 アルバ・アルフライラの声に、足音に。僅かに異形の一体が視線を上げる。ーーだが、バチ、と空を震わせた音にレッサーデーモン達は気がつかない。己達の操る雷とは性質の違うーー雷神の二つ名と共に紡がれる力は集まろうとしていた。
「ルァア……」
「雷光とはこう扱うものだ」
 瞬間、夜の空を光が焼いた。目を焼くほどの光に、異形たちが一斉に空を仰ぐ。
「ルグァアアア!?」
「グルァアアア……!?」
 それは威嚇か、衝撃か。
 空を震わせ走る雷光は、やがて多重展開された魔法陣とともに結実する。
「我が渾身の魔術、喰らう事を光栄に思い死ぬが良い」
 ゴォオオオオ、と空を震わせ、天より穿たれた雷がレッサーデーモン達を撃ち抜いたのだ。
「ルグァアア……」
「グルァアアア!」
 爆圧の光に、異形が崩れ落ちる。片腕と足を使い生き延びたか。背の僅かの羽を広げ、ぐん、と勢いよく身を跳ね上げたレッサーデーモンが三叉槍を構えた。
「ルァアアア!」
「ぬるいわ」
 ひゅん、と穿ちくる一撃に杖を向ける。放つ魔術が槍を打てば、斜線がずれる。空へと逃げた槍を重ね回した魔術にて打ち落とせば、パキと体に罅が入った。落ちた青は、闇に溶けた。それとも道しるべとなったか。夜の闇を崩れ落ちるレッサーデーモン達の群れの中を、ジャハル・アルムリフは行く。身を低め、その姿に気がついた頃には振り上げた黒剣で首を落とす。
「ル、ァアアア!」
「……語り継がれしもの達の全てを知る由はないが」
 帰るべき場所、なのだろう。
 首の皮一枚、繋がった状態で金の瞳を向けてくる異形へと、ジャハルは黒剣を押し込む。
「なれば貴様らは邪魔だ」
 ぐん、と踏み込んだ先、ふ、と落とす息と共に足を引く。態勢を崩してきたレッサーデーモンの背へと回り込み、黒剣を落とした。
「グ、ギ、ァアアア!?」
 ぐら、と崩れ落ちる異形の向こう、チカ、と何かが光った。槍か、と思った次の瞬間、雷がジャハルの前に落ちる。
「師父」
「灰すら残さず焼いてくれる」
 アルバの雷だ。穿つ光に槍が砕け、一拍の後に消失すれば続く雷光が構えた異形ごと焼き尽くす。
「ルグァアアア!」
「グ、ギギィアアアア!」
 全力で展開された師父の魔術の狭間を、ジャハルは縫うように駆ける。圧倒的な光の中を、僅か、目を細めることさえしないままに。ぐらり、身を傾がせながらも生き残ったレッサーデーモンへと一気に踏み込む。
「ルグァアア!」
 ぐん、と振り下ろされた槍を黒剣で受け止め、跳ね上げるとそのまま一気に、ジャハルはレッサーデーモンの間合いへと踏み込んだ。
「墜ちろ」
 空いた手が、瞬間呪詛を纏う。竜化の力。単純だがそれ故に重く。多少態勢を崩していようがーー付き合いは長いのだ。
 迷いなく、拳はレッサーデーモンへと沈んだ。
「グル、ァアアアア!?」
 ガウン、と穿つ衝撃が、同時に地面をも破壊した。一体を崩せば、真横に見えた異形さえ体勢を崩す。グルァア!? と苛立ち紛れの声と共にレッサーデーモンの構えていた槍が空を切った。爆砕は生じずーー空手となった異形へとジャハルは迷わず飛び込んだ。
「逃すと思うか」
「グルァアア!」
 落ちる雷光が、僅か肌を焼いた。構わず振り上げた黒剣が異形の喉を裂く。ぐらり、と今度こそ崩れ落ちていく。群れの数も随分と減ったか、とそう思った時ーー目の端で、何かが光った。さっきとは違う。これはーー……。
「槍か」
「ルグァアアアア!」
 咆哮とレッサーデーモンは三叉槍を投げていた。ひゅ、と加速する一撃が狙う先はアルバだ。
「ーー」
 その切っ先に、僅か、瞳を眇めるだけであったアルバの前、ぐん、と腕が伸びた。ジャハルのものだと気がついた瞬間、爆発が生じた。炎熱に髪が揺れーーだが、アルバはため息をつく。
(「無茶をする」)
 ジジ、と声ひとつ欠けた先、レッサーデーモンと鎖で繋がれたーー繋がれる状況を是としたジャハルは、ふ、と笑みを零していた。
「グルァア!?」
「どうした、力自慢の暴れ者ではなかったのか」
 その怪力で、繋がれた事実を利用するようにジャハルはレッサーデーモンを引きずり出す。群れの中、ず、と一体が引きずり出されれば、分かりやすく異形の群れがざわめいた。残り数少ないこの状況で、レッサーデーモン達の戸惑いは致命傷となる。
「天罰と心得よ」
 手にした仕込み杖が光を帯びる。流麗な一振りの描く煌めきが夜の色彩を寄せーー空に、光が満ちる。青の双眸が異形の群れを捉えれば、雷は瞋恚となりーー落ちた。
 ゴォオオオ、と空に音が抜けた。一帯に残っていたレッサーデーモン達が灰となって崩れ落ちれば、咆哮も止む。僅か、まだ残っているようだが、同時に駆ける猟兵の気配もある。
「キュ、キュキュギュイ」
「キュイギュイ!?」
 いつの間にか、逃げ出した宝石トカゲ達がアルバ達の所に戻ってきていた。
「蜥蜴どもの家も再建してやらねばなるまいな。だが、次からは無断で盗るな」
「キュ、キュギュイ!」
 コクコクと頷いているのか。宝石トカゲの頭が揺れる。無事に喜んでいるのかーー少しばかりの余裕ができたのか。キラキラと見上げてくる宝石トカゲ達に、ほう、とアルバは息をつき、宝石をトカゲ達の前に添えた。
「……もう勝手に持ち出してはなりませんよ?」
「キュキュー!」
「キュイ、キュイキュイ!」
 アルバの言葉に、宝石トカゲ達は嬉しそうに、くるり、と回って見せた。

 宝石トカゲ達にやたら懐かれた師父が、漸くの見送りとなる頃には頬に触れる雨も随分と弱くなってきていた。
(「やがては雨も上がるのだろう」)
 天を仰げば、同じように横でアルバも顔を上げていた。
「心地好い夜だ」
 夜気が頬を撫でる。靡く髪をそのままに、だが、薄く開いた唇は言の葉を落とす。
「――そして、少しだけ寂しい夜だ」
「師父も、そんな風に思う事があるのだな」
 小さな瞬きよりも、ほう、とジャハルは息を落とした。この空を、守護者と騎士も見上げてきたのだろうか。旅立った勇者と、里を守り続けた守護者とーーそのあり方を変えても。
(「もはや手の届かぬ所にあったとて幸いを望む
そんな存在があること」)
 ……それだけは、分からなくもない。

●勇者と猟兵
「グルァア、ルァアアアア……!」
 咆哮と共に、大地が揺れていた。二度、三度と続いた雷光に宝石トカゲたちは、しゅるり、と身を隠してしまっていた。逃げないと、と重なった声は不安と恐怖に満ちていた。
「……」
 その声を、宝石トカゲとの会話で聞いていたベルリリー・ベルベットはひとつの解を得ていた。
「なるほど、アイツが宝石トカゲの言ってた「おっきなやつ」なわけね」
 巣を壊して行くのだと宝石トカゲは言っていた。レッサーデーモン達の動きは、何かを目指しているというよりは、ただ破壊を楽しんでいるように見えた。逃げる宝石トカゲを追い回すのも、逃げる人々を追い回すのもレッサーデーモン達にとっては同じことなのだろう。
「別にリリは伝説の勇者じゃないけど、アイツらが元凶だって言うならやっつけてあげるわよ」
 ピンクの瞳を細め、ふ、とベルリリーは笑った。
「トカゲちゃんともそう約束しちゃったし」
 小さな笑みは、しゅるん、と逃げたトカゲ達に。ほら逃げテ、とベルリリーにも告げた彼らの姿はもう見えないけれど。その言葉で十分なのだから。
「ルグァア、グルァアアア!」
「ーー」
 ドォン、と大地を揺らす雷光に、少女は飛ぶ。たん、と踏み込む足音さえ響かせずに、一足で間合いへと飛び込めば、ルグァア、と唸る声だけが耳に届く。ーーそう、レッサーデーモンは振り返らないまま。少女の操るナイフが背の翼を切り裂いた。
「ルグィァアアアア!」
 衝撃に、初めて異形が振り返る。ぶん、と反射で振るわれた槍に少女はくるり、と後ろに飛ぶ。切っ先を足場とすれば、レッサーデーモンの金の瞳が苛立ちを乗せた。
「グルァアアア!」
「ごめんあそばせ?」
 言の葉をひとつ作り、ひゅん、とベルリリーはワイヤーを上へと放った。長く、伸びた木へと軽々と引っかければ追いかける雷光よりも早く、妖精と呼ばれた少女は飛ぶ。
「グルァアア」
「ルグ、ァアアア!」
 ごう、と夜気を震わせる程の咆哮と共に、雷光が来た。まっすぐ、穿つかのように落ちてきた来た光にベルリリーは迷わずーー飛ぶ。枝からワイヤーを離し、次の枝には手を伸ばして。くるん、と回った少女が次の枝をワイヤーで捉える。
「ル、グルァアアアアア!」
 させるか、とでも言うように雷光が三叉槍から放たれた。空を走る光にーーだが、空中を己の舞台とする少女はくる、と回る。一度、ワイヤーから手を離して、指先はナイフを絡め取る。
「ダメよ、目をそらしちゃ」
 青の髪を揺らし、ふふ、とベルリリーは笑う。雷光は、僅かに足を赤く染めたけれどーー妖精と歌われた少女は笑みを消さない。指先に構えた三本のナイフを放ち、夜の狭間を飛びながら続けざまにナイフを放つ。
「狙い撃ちしてあげる」
「ルグァアアアア!」
 深く沈んだ刃が異形を切り伏せれば、穿たれながらも、ぐ、と顔を上げたものが呪詛を組む。
その姿に、ぱち、とベルリリーは瞬きーーワイヤーを持つ手を、僅か、緩めた。
「ダメよ」
 告げる先はまっすぐにこちらを見据えた異形に。グルァア、と笑うようにベルリリーを見据えた敵に少女は笑いーー手を、伸ばす。
「グルァア!?」
 掴んだのは、真横にいたレッサーデーモン。空中を移動しながら掴んだ腕は、叩きつけられる呪言の軸線を見事に塞いだのだ。
「ルァアアア!?」
「グルァア!?」
 敵を盾として、そのまま、とん、と蹴り上げる。ふ、と笑った少女は夜の空に踊りーー残るナイフの全てを叩き込んだ。
「これにて、終幕ね」
 とん、と軽やかにベルリリーは着地する。ドレスの裾を掴み、一礼をして見せた少女は夜の風に、ふ、と笑った。逃げていた筈の宝石トカゲたちが姿を見せていたからだ。
「守護者たちは無事のようね」
 猟兵たちが率先して飛び込んでいったお陰だろう。
「ギュ、キュキュイ?」
 無事だったのかと、聞くような声に、ベルリリーは息をついた。
「トカゲちゃん。おっきなやつは倒したんだから、今度こそヴァロは取っちゃ駄目だからね」
『キュ、キュキュイ。分かっタヨ。あのおっきナやつがイナイなら、僕たちモ違うノを選ブヨ』
『浜辺ニ降りルンダ』
『キラキラ、探しテ』
 ねぇそれより、それよりそれより。
 キュイキュイと鳴きながら、宝石トカゲ達はきらきらとベルリリーを、平穏の訪れた夜に立つ猟兵達を見ていった。
『勇者サマだったんダネ!』
「別に、リリは……」
 キュイキュイ、と勝手に盛り上がる宝石トカゲ達に少女はそ、と息をつく。咆哮と轟音はすでになくーーただ、静かな夜だけがそこにあった。
 遠い日に、守護者と勇者もーー騎士も見上げたシェーナの夜。その平穏と明日を、猟兵達は守りきったのだ。

●黒鶫と水鳥
 そうして羽の住処へと戻った黒鶫と水鳥は驚きました。年嵩の黒鶫が、里へと向かおうとしていたのです。
「そんな羽ではたどり着けないよ」
「きっと途中で落ちてしまう」
 鳥たちはそう囀りますが、年嵩の黒鶫は話を聞きません。誰もが諦めていく中、戻ってきた黒鶫と水鳥は仕度を続ける黒鶫の傍にやってきました。
 もしかしたら、黒鶫は勇者の鷹と約束をしたんじゃないかと思いました。
「それなら、僕たちが一緒に見てくるよ」
「さっき行ったばかりだしね」
 そうして年かさの黒鶫は、若い黒鶫と水鳥と共にシェーナの里へと飛び立ちました。
 勇者と守護者の話を聞きながら。
 彼らと共にあった二羽の鷹の話を聞きながら。
 終ぞ新しい番を得ることが無かった鷹が、ひとつの光と共に旅立った後ーー彼の代わりに里を見守るのだと決めたのだという話を。
 二羽の若い鳥はその話を聞き、今度は自分たちが見守るのだと言いました。
「涙雨は守護者の涙。騎士の涙。夜に濡れ、朝には止む。朝日と共に我らが囀る頃には、頬を濡らす雨は煌めきへと変わるのだよ」
 我らの羽だけが伝う物語と共に。
 夜に濡れる涙雨がーーいずれ晴れる時まで。
 その涙を忘れることなく伝う為に。
 鳥たちの囀りが伝承を紡ぎ、紋章が伝説を紡いだのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月19日


挿絵イラスト