いわし中華始めました
●怪異
読んで字の如く、怪しく異なるもの。
即ち、日常には本来存在しない筈のもの。
だが、時にそう言う存在は巧妙に日常に潜んで獲物を待っている事がある。
その場合、多くの人はその日常が脅かされている事に気づけない。
「おや? ――確か昨日も」
「そちらもまたですか。奇遇ですなぁ」
お互い名前も知らないサラリーマン達は、軽く挨拶を交わすと、それぞれ目当てとする店の暖簾を潜った。
どちらも豚骨魚介系スープを売りとしている店だ。
――冷やし中華始めました。
戸板や店の壁に貼られた、この時期、多くのラーメン屋に掲げられる謳い文句。
そんな良くある謳い文句の下に、怪異の罠があると誰が思うだろう。
ラーメンを食べると言う行為が、怪異に巻き込まれる入り口になっているなどと、誰が思うというのだろう。
●ラーメン代はおごりです
「ちょっとUDCアース行って、ラーメン食べて来てくれないかな?」
グリモアベースに集まった猟兵達の前で、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)はやぶから棒にそう言った。
UDCアースには、ラーメンストリートなる、色々な種類の味のラーメン屋が軒を連ねるスポットが各地にある。
最近、某所に新しく出来たとあるラーメンストリートは、製麺も施設内で行っているという拘り様が密かな話題になっていたりする。
「そのラーメンストリートでUDC絡みの怪異事件が起こると判明したんだ。人々がどこからともなく出現した魚の渦に飲み込まれ、消えるという事件だ」
ん?
「その魚の群れが、どうやらUDCらしい」
背中側が青みがかってたから、多分イワシ系じゃないかな、とルシルは続ける。
今回の怪異現象は、UDCによる呪いのようなものであるらしい。
呪いであるのならばつまり、その対象となる条件がある。
「魚の渦に飲まれる人は、ラーメンストリートで『日常を満喫している』人。どうやら、ラーメンを食べていた人って事になりそうでね」
ラーメン食べたら、おさかな系UDCに呪われて襲われる。
イヤだ、イヤ過ぎる。
「だからラーメン食べて来てって、話になるわけだ」
怪異の起きる場所。
それに巻き込まれる人々の条件。
ここまで揃っているのならば、手を打てる。
猟兵が怪異に巻き込まれる条件を満たせば良いのだ。さすれば、UDCが出現したその場で迎撃出来る。
「何でラーメン食べるだけで、UDCに狙われるようになるのかは判らなかったけれど。UDCが出てくる前に、何らかの前触れがある筈だから」
逆に言えば、その『何らかの前触れ』が起きるまでは、特に何を心配するでもなく純粋にラーメンを楽しむ事が出来るだろう。
「ラーメンの味? 醤油も塩も味噌もあったと思うけど……予知の中で一番多く見えたのは白いスープだったから、とんこつかな?」
猟兵に問われたルシルは、そこまで言い終わった所で「そうそう」と何かを思い出したように猟兵達を見回し――。
「冷やし中華も始まってるよ」
と付け足した。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
何を隠そう、実は私はとても麺類が好きです。
暑くなって来るとついつい、お昼は冷たい麺を食べたくなります。
今回はUDCアースで起こる事件を、巻き込まれる形で解決して頂きます。
1章は日常です。
ラーメンストリートでラーメン食べてください。
特に事件の事は考えないで、ラーメン食べて下さい。
ラーメン食べるだけでOKです。
日常を満喫することこそが、怪異を呼ぶ条件です。
色んなラーメン屋がある事になってますので、塩でも醤油でも味噌でも豚骨でも冷やしでも変り種でも、言えばなんでも出てきます。
但しラーメンです。そばとかうどんとかパスタとか書いてこられても、そこはラーメンになります。
2章は冒険です。
なんかおかしな事が起こります。詳細は章開始時に。
3章で出現したUDCの群れとの対決になります。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 日常
『行こう! ラーメンストリート』
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POW : 店をはしごして色々な味のラーメンを味わいます!
SPD : お目当ての味のラーメン屋に素早く一直線に向かいます!
WIZ : 口コミなどを調べて、人気店に並びます!
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
霧城・ちさ
・ラーメン屋さんがいっぱいですわね。どこに入ろうか迷いますの。冷やし中華も始まってるなら食べてみたいですわね。いかにもこだわりのありそうなお店を探してそこに決めますわっ
冷やし中華ができそうならそれでお願いしますわね。冷やし中華が品切れだったりしたら醤油のラーメンにしますの
こういうところで食べるのは初めてですし楽しみですわっ
●こだわりの冷やし中華
「本当に、ラーメン屋さんがいっぱいですのね」
これでもかと並んだラーメン屋の幟を眺め、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)の口からほぅと感嘆の吐息が零れる。
「これだけあると、どこに入ろうか迷ってしまいますわ」
ちさの視線が、手元の案内パンフレットと周りの店を行ったり来たり。
「ここもあそこも、皆様冷やし中華始まってますのね」
このラーメンストリート、冷やし中華が始まっている店の方が多いようだ。品切れという心配も、この様子ならばないだろう。
そうなると決め手は――。
「あら、これは……?」
ちさの瞳に飛び込んで来たのは、丁度目に付いたとあるラーメン屋の扉に張られた『冷やし中華はじめました』の張り紙――の横に張られた追加のポップ。
――配合を変えた冷やし専用の特製縮れ麺を使っています!
冷やし専用の特製麺。
そのいかにもな拘りが、ちさの琴線に触れた。
「らっしゃい!」
暖簾をくぐった中にいたのは、ちさの家族を思い出させるような筋肉質な店主。
「ご注文は?」
1人でやっているのだろうか。他の店員の姿が見当たらない。
「冷やし中華をお願いしますわ」
「タレの味は? 醤油とゴマを選べます」
「――……では、醤油で」
ちさとの注文のやり取りが終わると、店主は黙々と調理に入った。
ざっと振って打ち粉を落とした麺一玉をほぐしながら、ぐつぐつ煮立つ鍋に入れる。
(「こういうところで食べるのは初めてですし、楽しみですわっ」)
生粋のお嬢様であるちさにとって、この瞬間は未知の体験。他の具を刻むトントンと言う包丁の音が、ちさの心を逸らせる。
程なく鳴り続けた音が止み、店主が茹で上がった麺を平ザルで掬い上げた。慣れた手付きでザルの上にまとめながら湯を切り、すぐに氷水に晒して冷やして締める。
「お待ちどう」
さほど待つこともなく、ちさの前に色鮮やかな五目冷やし中華が出された。
「カラシと紅生姜は、前の小瓶から好みでどうぞ」
(「こちらで味を調整出来るのは、良いですわね」)
細かな気配りに胸中で賛辞を送り、ちさは手を合わせ割り箸を取った。
まずはそのまま、軽く混ぜてタレを絡めてから麺だけで。
やや濃い目の醤油ベースのタレが、幅のある縮れ麺に良く絡む。
(「特製と言うだけありますわね」)
その麺はつるりとした舌触りと、もちもちとしながらも噛みやすい絶妙な歯応え。特製と言うだけあって、冷やしてあっても硬くなりすぎていない。
尤も、それも茹で加減で変わってしまう――店主の腕もあってこそ。
タレは酸味を抑えてあるので、お酢を足せばよりさっぱりと食べられる。カラシも通常より粘りが少なく、タレに溶けやすいものになっている。
「――あら」
色々試しながら食べていると、気づけば、ちさの前の皿は空になっていた。
それだけ食べる事に夢中にさせられていた、ということか。
「ごちそうさま。美味しかったですわ」
「――ありがとうございやす」
ちさの素直な賛辞に、店主は広くない厨房で小さく頭を下げた。
大成功
🔵🔵🔵
サジー・パルザン
ふん、ラーメンか。うめえって仲間から聞いてる。
いいだろう、俺も一杯貰おうじゃねえか・・・!
ほー、UDCアースには初めて降り立ったが、なんだこの地面。ものっくそ硬い上に、頭上にはいろいろ線がひっぱられてやがる。建物は石づくりか・・・?中の様子が見れる壁とかもあるのか、ほう・・・。
じゃあ、まずはこの店で一番でかい大盛を頼む。喰い応えのあるつけめんってのがいいらしいな。よし豚骨魚介つけめん極大盛りで頼むぜ。
1kgの麺に肉を大量に追加してくれ。あとスープのお代わりも頼むぜ。
さぁ、いただくとするか…!俺の筋肉の維持には相応のエネルギーが必要だからな・・・!後で仲間も来るかもしれんが喰い終わる頃だろうな。
●大盛りの極み
「ほー? UDCアースには初めて降り立ったが、なんだこの地面?」
初めて体験するコンクリートの足場を、サジー・パルザン(ヴァイキングの生き様・f12550)は2,3度確かめるように踏みしめていた。
「ものっくそ硬いな」
石畳とも違う、サジーの記憶にない未知の感覚。
「地面は踏み込み易そうだが、頭上に色々と引っ張られてる線は邪魔そうだな」
戦いに適しているかどうか――という観点で周囲の状況を視てしまうその思考が、サジーと言う男のこれまでの生を物語っていた。
ヨーム戦士団なる所に名を連ね、あらゆるものを砕き倒してきたバーサーカー。
今は信念を得て生き方を変えたが、戦士の気性は健在だ。
「建物は石造りが多いか……ほう、中の様子が見れる壁とかもあるのか」
物珍しげに壁を見ていたサジーは、そのままショーウィンドウを覗き込む。ガラスの向こうに並んでいるのは、ラーメンの食品ディスプレイ。
「ふん、ラーメンを食えば良いんだったな。ラーメンはうめえって仲間から聞いてるぜ。いいだろう、俺も一杯貰おうじゃねえか……!」
ここまで来た目的を思い出し、サジーは視線を巡らせる。
そして、つけ麺の文字がはためく幟を見つけた。
「つけめんが、喰い応えあるんだったな……よし」
仲間から聞いた評判を思い出し、サジーはその店にズンズン向かって行く。
そしてサジーが店の前に立つと、反応して自動ドアが開いた。
(「と、透明の壁が、勝手に動いた……だと……!?」)
UDCアースが初めてでコンクリートの足場も頭上を這う電線も初めてならば、自動ドアだって初めてであろう。
それでもサジーが内心の驚愕をあっさりとねじ伏せて、一歩踏み出せたのは戦士として生きてきたこれまでの人生がものを言ったに他ならない。
どんな意表を突かれても、戦場で固まるなど命取りだ。
(「良いだろう。もはや何が出てきても驚かねえぜ」)
腹を括って座ったサジーの元に、腕など彼の半分もない痩せた若者が近づいてきた。
「らっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?」
「この店で一番でかい大盛を頼む」
迷わず告げたサジーの注文に、メモを取ろうとした若者の手が一瞬止まった。
「ええと……極大盛りの1kgになりますが」
「1kgか。ちょうど良いくらいだな。肉の追加は出来ないのか?」
「あ、はい。チャーシュー追加っすね。スープはどうします? 種類が――」
若者は驚きつつも、サジーの注文を書き留めていく。
「よし。豚骨魚介のスープを、極大盛りに足りる量で頼むぜ」
「かしこまりました。注文入りまーす!」
若者が戻った直後、厨房が一瞬ざわっとなるのをサジーは不思議そうに見やる。何か変な事を言っただろうかと。
とはいえ十数分後には、サジーの前には注文通りの品が並んでいた。うどんにも似た極太の角麺が1kgに、チャーシューだけがゴロゴロ乗った皿。そして、通常つけ麺には使わないラーメン用の丼に並々注がれた魚介豚骨スープ。
「さぁ、いただくとするか……!」
サジーは割り箸を2本取るとそのまま一膳の箸として、麺を取り始めた。スープにたっぷり付けて、一気に啜る。
(「こいつは……確かにうめぇ」)
内心、驚嘆する。一口目からガツンと来る濃い目のスープは、魚と豚骨の旨味が合わさった、サジには未知の味。角麺は弾力のあるしっかりとした歯応え。
ドロリとしたスープは食べている内に少しずつトロトロくらいに変化して、そこに薬味を足すとまた味が変わってくる。
しっかり下味のついたチャーシューは、そのまま食べて良し、スープに付けて良し、麺と一緒に食べても美味しい。
(「止まらんな」)」
サジーほどの常人離れした筋肉量を維持するには、相応のエネルギーが要る。必然、食事量も常人離れしている。
極大盛りの麺とチャーシューがみるみる内に減っていき――。
「ふう。美味かったぜ。馳走になったな」
完食したサジーが満足気に席を立つと、何故か拍手が巻き起こった。
極大盛り完食者、1号だったりしたのである。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
【アドリブ・連携歓迎】
ラーメン食べていると巻き込まれます、っていうのがまたUDCアース的ですよねぇ…。
しかも魚って。イワシって。
まさかと思いますけれど出汁にされた恨みですか…?
──そんなことを考えてたら魚介系ラーメンが食べたくなりました。
このラーメンストリートで一番評判が良くてボリュームのあるお店を情報収集、しかるのちに突撃します。
女性だからといって小盛になさらずとも結構。
むしろ大盛りを注文させて頂きます。
麺の一本、汁の一滴も残さずいただくのが礼儀というものです。
さあ店主様。
替え玉をお願いします。
●美味への礼儀
ラーメン食べると、怪異に巻き込まれます。
聞く人によっては正気を疑いそうなワードだが、穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)の感想は異なっていた。
「またなんともUDCアース的ですよねぇ……」
受け入れている。神楽耶は猟兵にして、UDC極東支部職員である。怪異を相手にすることは、慣れているのだろう。
「しかも魚って。イワシって。まさかと思いますけれど、出汁にされた恨みだったりするんですか……?」
誰に言うでも無く、神楽耶はひとりごちる。
問いと言うより、思考をまとめるための呟き。
推論の域を出ないが、もしそうであるのならば、そういう類の出汁を使っている店に入る事で、より怪異に近づくことができるかもしれない。
「──まあ、そんなことを考えてたら魚介系ラーメンが食べたくなりましたし」
そうと決まれば、行動あるのみ。
神楽耶は慣れた様子で、ラーメンストリートの情報を集めていく。
ネットの情報、周辺の人々の話、他の猟兵の様子。
それらを総合し、神楽耶が見つけ出そうとしているのは、このラーメンストリートで『一番評判が良くてボリュームのあるお店』であった。
「魚介系であることは必須。魚介豚骨も含めるか否か、ですね……」
候補をいくつかまで絞った所で、神楽耶は動き出す。
後は店まで行ってみて、だ。
特にネットの情報は、最新で変わっている事もある。
(「ここは魚介豚骨ですね……純粋な魚介出汁とは言えないですが」)
ボリュームの面では、このラーメンストリートでも3本の指に入ると評判である。その最大の極大盛りは、今まで制覇した者がいないとか。
(「まあ、他も見てから検討を――」)
と神楽耶が踵を返そうとした時だった。
ガラリと扉が開いて、戦士然とした赤髪の男が出てきたのは。何やら、店内から拍手の音も聞こえている。
「美味しいですか?」
「美味え」
何を、とは聞かない。
それだけで十分だった。名前を知らない相手だとしても、今食べてきたばかりの人の感想ほど、生の情報はない。
それが相手も猟兵とくれば尚更だ。
「らっしゃいませー」
1人だと店員に告げて、神楽耶はカウンターに座る。
「ご注文は……」
「チャーシュー麺を大盛りでお願いします」
「大盛り、大丈夫ですか……?」
注文を取りに来た若者は、神楽耶の言葉に目を丸くする。
切り揃えた長い黒髪。楚々とした立ち姿。神楽耶が量を食べられるようには、一般の人間の目にはとても映らないだろう。
「ええ、女性だからといって小盛になさらずとも結構です」
大盛りを、ともう一度告げる神楽耶に頷いて、店員は厨房に告げに向かう。
しばらくして出てきたのは、かなり大きな丼であった。中身さえなければ、大抵の猟兵が余裕で被れるだろう。
並々と注がれたのは、魚介豚骨の濁った黄金に近い色のスープ。麺はつけ麺以外は豚骨系に近いストレートの細麺になるようだ。
「それでは、頂きます」
長い黒髪を後ろで一つに束ね、神楽耶は手を合わせて箸を取る。
スープは見た目の濁りに反して、以外とスッキリとしていた。豚骨と共に多くの野菜を使って、灰汁もしっかりと取っているのだろう。
ストレートの細麺との相性は抜群である。
ゴロゴロと入っている厚めのチャーシューは、下味がしっかりしていて、それだけで食べても美味しいであろうことが伺える。
(「これは、当たりでしたね」)
内心で拳を握りながら、神楽耶は箸と口を動かし続ける。
細麺は太麺に比べてスープを吸いにくく、伸びにくいとはいえ時間との勝負であることに変わりはないのだから。
麺の一本も残さず、美味しい内に頂くのが礼儀であろう。
「ふぅ……美味ですよ、店主様」
だが、神楽耶は3分の2ほど食べた所で、丼から顔を上げて厨房に声をかける。
「では店主様。替え玉をお願いします」
そのオーダーに、店員達がのけぞったそうな。
最終的に替え玉も含めてスープの一滴も残さず飲み干し、神楽耶は拍手で見送られる本日2人目の客になったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
満月・双葉
カエルのマスコットさん、その辺警戒しておいてください。(顔面タックル避けたら後頭部にくらう)
コミュ力で、通りすがりの人達に声をかけつつ、雑誌なども立ち読みしてみたりして(立ち読み禁止なら買います)情報を集めて、色々と食べてみたいですね。
猫舌ですし、食べるのが遅いのでつけ麺が希望です。
ゆず等さっぱりした香りがするものがいいですね。
無論、他のつけ麺も食べてみたいです。
味の研究をしたりして、うちの居候先のカフェメニューに生かせないかも考えてみましょう。
人気メニューとは!
クセになる味とは!
イワシのUDC…はっ、魚介つけ麺
●未来の為のハシゴ
「カエルのマスコットさん、その辺警戒しておいてください」
グルメ情報誌を抱えた満月・双葉(星のカケラ・f01681)は、召喚したカエルのマスコットを見下ろして、そんなお願いを口にする。
次の瞬間、ぴょこんと跳ねる、緑色。
カエルさんはバビュンと弾丸のように飛び上がった。
双葉の顔をめがけて。
「おっと」
カエルの飛び蹴りを、双葉は首だけ動かしてひょいと避ける。なぜかいつも飛び蹴りを入れてくるのだ。
「そう何度も同じ手を食らう筈が――」
などと呟く双葉の頭上で、カエルさんがくるりと回転。跳躍力と重力が釣り合い浮遊状態となったその瞬間に空を蹴って反転。
「ぶふぉっ!?」
双葉の後頭部にカエルさんの一撃が突き刺さった。衝撃で、双葉の虹色の翼からいくつかの色の羽が抜けて辺りを舞う。
「くっ……」
『ケロッ』
後頭部を摩りながら双葉が振り向くと、カエルさんは何事もなかったかのように警戒任務を始めている。それもいつものことだ。
「……まあ良いです」
それ以上の追求を諦め、双葉は周囲の人々に声をかけ始めた。
「さっぱり系なら、鶏ガラ白湯の柚子塩ラーメンの店が良いんじゃないかな」
「成程、成程。ありがとうございます」
折角のラーメンストリート。双葉は何軒か回って、色々なラーメンを食べてみたいと思っているのだ。故に、情報収集である。
「こんな所ですかね。……今聞いたばかりの、鶏ガラの柚子塩、行ってみましょうか」
ある程度情報を集めた所で、双葉はその中の1軒を目指して歩き始めた。
話を聞いて回った分、その足取りには迷いがない。ぴょこんぴょこんと、カエルさんも後に続いていく。
「あ、つけ麺もありますね。良かった」
外に貼り出されたメニューで、冷盛りのつけ麺があることに安堵し、双葉は安心して暖簾をくぐる。猫舌だし、あまり食べるのが早くない双葉にとって、伸びにくいつけ麺はとても向いていた。
「柚子塩のつけ麺の小をお願いします」
「塩つけ小、一丁入りました―!」
やがて、目の前に出てきたつけ麺を見て、双葉はおや、と内心で軽く驚いた。
出てきた麺は、よくある中華麺に近い細めの縮れ麺だったのだ。
だが、その色は何かを練り込んであるのか、独特の色をしている。
「とりあえず、頂きましょう」
柚の皮とカイワレ、白ネギが浮かぶスープに麺を付けて、一口。薄味ながらもしっかりと鶏の旨味の出ている塩味のスープが縮れ麺に絡んで来る。
やはり縮れ麺自体も味が付いているようで、スープの薄味は全く気にならない。むしろ互いに引き立てあっている。
「これ、麺に何を混ぜているんですか?」
「とある魚粉の類でさあ。どんな魚粉かは、企業秘密ってやつで」
双葉の問いに、店主らしい壮年の男は笑って返す。まあそうだろう。答えられるのはそこまで、ということだろう。
(「クセになる味とは、こういう工夫があるものですかね……」)
「ご馳走さまでした」
思案しながらもしっかりと味わい、双葉はその店を後にした。
「さて、次はどこにしましょうか――」
次の行き先を候補の中から考えていると、双葉の視線の先にある少し離れた店から、長い黒髪の少女が出てくるのが見えた。
少し前は、赤毛の筋肉質な青年も出てこなかったか。
その店の両脇では『つけ麺』と『魚介豚骨』の2つの幟がはためいている。
「あ、イワシのUDCもいるんでした……魚介つけ麺もいいですね」
それを見た双葉は、本来の目的を思い出しつつ、もう一つ行きたい店が増えていた。先の猟兵とは面識はないが、遠目でも様子を見れば満足だったのは判る。
(「味の研究をしたりして、うちの居候先のカフェメニューに活かせないか、考えてみたい所ですね……」)
店主の変態性はどうにもならないかもしれないが、メニューの開発はどうにかなる。
(「人気メニューとはどういうものか、調べさせて貰いましょう」)
まずは二軒目の行き先を決めるべく、双葉は人々の話を書き込んだ情報誌を開いた。
大成功
🔵🔵🔵
三池・葛士郞
はっはっは、ラーメンといえばイケメン!
つまりボクの出番だね!
魚の群れごとき、ボクにかかれば造作もない。
つまり恐れる必要はどこにもないな! うん。
生魚とか触ったことないし触りたくないが大丈夫だろう。うん。
ラーメンストリートで塩ラーメンを堪能しよう。
やはりイケメンには爽やかサッパリな塩ラーメンが似合う。
そろそろ暑くなってきたから冷やし中華も捨てがたいが、魚と戦う前にお腹が痛くなってはいけないからね!(弱い)
塩ラーメンよ、イケメンに食べられる、これつまりキミもイケ麺の仲間入りということ。
感謝してボクに食べられるがいい!
(わざとらしく髪をかきあげ、かっこつけながら食べます)
●塩だけに
「はっはっは、ラーメンといえばイケメン! つまりボクの出番だね!」
――などと言っている、青年がいた。
三池・葛士郞(三下系クズイメン・f18588)である。
確かに、葛士郞の顔立ちはとても整っており、イケメンの部類だろう。日本人離れした青い瞳と金髪が白い肌を際立たせる。
場所が場所なら、モデルスカウト辺りが目に止めたかもしれない。
だが――。
「さて。塩ラーメンを堪能しようかな」
だが何故だろう。ふぁさぁっと無駄に髪を掻き上げる仕草も絵になるのに、どこかわざとらしいと言うか。そこはかとない残念さのようなものが醸し出されていると言うか。
「あ、いらっしゃーい」
「塩ラーメンを頼むよ!」
『塩』と太い筆文字で大きく書かれた暖簾を潜った葛士郞は、迎えた若い女性店員に向かって、席につくよりも早く注文を告げる。
「やはりボクのようなイケメンには爽やかサッパリな塩ラーメンが似合うよね」
「そっすねー。塩入りまーす」
ナルシズム全開の葛士郞を、店員は生返事で流して厨房へ注文を持っていった。
「……まあ、座るとしようか」
スン……と勢いを沈めて、葛士郞は大人しくカウンターの席に付いた。
(「ボクのイケメンムーブに動じないだと……あの女性はもしかして、ものすごい強者なのでは? ここは逆らわないでおこう」)
胸中で勝手に女性店員を持ち上げている。ほんの数秒前まで発揮していた尊大さは、一気に萎んでいた。
落ち着くために視線を巡らせると、冷やし中華の文字が目に入って来る。
(「冷やし中華か……もう暑くなってきたから、それも良かったかな」)
葛士郞は胸中で己の選択を顧み出した。
(「いやいや。やはり温かいラーメンで正解の筈だ。魚と戦う前にお腹が痛くなってはいけないからね!」)
葛士郞は、自分のお腹の弱さは把握している。
君子危うきに近寄らずを地で行く事に、躊躇いはない。
避けられるリスクは避けるに限る。
「ま、魚の群れごとき、ボクにかかれば造作もないのだけどね」
いつの間にか、葛士郞は声に出していた。
「生魚とか触ったことないし触りたくないが大丈夫だろう。うん。つまり恐れる必要はどこにもないな!」
或いは、声に出すことで己を鼓舞していたのだろうか。
「塩、お待たせしましたー」
そこに、先程の女性店員が注文の塩ラーメンを持ってきた。
ふわりと立ち昇る湯気から香る、魚介と鶏をあわせたダシの風味。黄金色のスープの中にはストレートの細麺とメンマ、白ネギとチャーシューに煮卵も載っている。
一見シンプルだが、チャーシューが鶏チャーシューだったりと、細かなこだわりも見え隠れしている一品だ。
そんな塩ラーメンに、葛士郞は何故か椅子から腰を上げて――。
「塩ラーメンよ! イケメンに食べられる、それはつまり、キミもイケ麺の仲間入りということ。感謝してボクに食べられるがいい!」
ふぁさぁっ。
わざとらしい仕草で髪をかき上げ、塩ラーメンをびしっと指差し告げる。
場面が場面なら格好も付いたのかもしれないが、相手は塩ラーメンである。
「伝票でーす」
女性店員、淡々と伝票を挟んだバインダーを置いていった。
(「一度ならず二度までも。やはりあの女性は、強者だよ!」)
もう葛士郞の中で、あの女性店員は完全に自分より上位の存在となっていた。
全ては保身ゆえの判断である。
「ふぅ……」
故にスープまで飲み干した葛士郞は、口を拭うと席を立つ。ここは危険だ。
だが、レジにいたのはまたしてもあの女性店員だった。
「……」
「……」
「あのー……」
沈黙に耐えられなくなったのか、店員さんの方が口を開く。
「塩対応は、てんちょの方針なんでー」
「え?」
「ほら。ウチ、塩の店じゃないですか。だから塩対応しろって、わけのわかんない方針ですよねー」
まさかの展開に、葛士郞はパクパクと口を動かすも声が出ないでいる。
「そういう事なんで、あんまり気にしないでください。残念なイケメンだなーとか本当に思ってるわけじゃないんで」
残念なイケメンとか、さっきまで言ってなかった。
葛士郞のメンタルは多分ごりっと削れていた。
大成功
🔵🔵🔵
レナータ・バルダーヌ
ラーメン?冷やし中華?
UDCアースは初めてですし、他の世界でもお目にかかる機会はなかったので楽しみです!
とりあえず店頭やメニューなどの写真を見て、どんなお料理か確認したいです。
……なるほど、パスタみたいなものでしょうか?
いろいろ種類があってどれにするか迷いますね……。
そういえば、予知ではとんこつ?が多いと言っていた気が……うーん、とんこつだけでも何種類かありました……。
こういう時はお店のオススメにしましょう。
あ、牛さんが入っているのはダメです、モーさん(飼っている牛)に怒られるので。
(ダークセイヴァー出身なので、だいたい何でも美味しく食べます)
●未知の料理
「はぁ……こんなにお店があるんですか」
ラーメンストリート入り口の案内板を見上げて、レナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)が感嘆の溜息を吐く。
これほどの店が、しかも特定の種類の料理の店だけが集まるなど、レナータは己の出身世界では見たことがなかった。
(「ラーメン? 冷やし中華?」)
初めて訪れる世界の初めて聞く料理の名前を聞いた時も、レナータの頭の中には疑問符が浮かんでいた。
とはいえ、未知のものに対する恐怖はない。
(「他の世界でもお目にかかる機会はなかった料理なので、楽しみです!」)
むしろ、好奇心の方が強かったのだ。
だからこそ、どこに行こうかと案内板を見上げているという訳である。
流石に、どんな料理であるかは確かめてから食べに行きたい。
「なるほど、麺料理なのですね……パスタみたいなものでしょうか?」
案内のパンフレットの説明に頷いたかと思えば、すぐに首を傾げる。
麺の太さ細さ、味付け、色々あるようだ。
麺の種類で言えばパスタの方がむしろ豊富であるが、それはそれ。
「いろいろ種類があってどれにするか迷いますね……」
やはり初めてという事もあり、レナータはどの店に行くか、決めあぐねていた。
「そういえば、予知ではとんこつ? が多いと言っていた気が……」
とんこつ。豚骨。
豚の骨から出汁を取ったものだと言う説明で、どうやら食べられそうなのは判る。問題は、とんこつでも何種類か、店舗数もいくつもあるという事だ。
「ここで悩んでいても始まりませんね。行ってみましょうか」
1人呟き頷いて、レナータは歩き出す。
目指しているのは、パンフレットで見たとんこつ系の店の中で、パスタに近そうな麺だと思った写真が出ていた店。
その店の暖簾には、他にはない文字が書かれている。
「ガラスの扉……? あら、動きました」
前に立ったレナータに反応して動いた自動ドアに、少なからず驚き目を瞬かせる。
(「この世界は、念動力を使う方が多いのでしょうか?」)
「いらっしゃい!」
サイキッカーであるが故の勘違いをしたまま、レナータは店員に促され席につく。
メニューを開くも、やはりいくつも書いてあって、選べそうになかった。
パタンとメニューを閉じて、レナータは顔を上げる。
「お店のオススメをお願い出来ますか? あ、牛さんが入っていないもので」
「牛を使わないオススメ……お待ちを!」
店長らしい壮年の男性は、レナータの注文にしばし考え込むも、すぐに動き出した。
麺を茹で始めたと思ったら、ジャッジャッ!と大きな音が響き始めた。
その音にレナータが背伸びをして覗き込むと、店主は何故か大きな鉄鍋を抱えて、何かを炒めている。
(「麺料理ではないのでしょうか……?」)
興味深げに見ていたレナータの疑問は、すぐにその答えが出てきた。
白濁した豚骨と鶏ガラのスープの上に、独特の色の太麺。その上に、先程の鉄鍋――中華鍋で炒めた豚肉とかまぼこと野菜を載せたもの。
所謂、ちゃんぽんである。
「まあ……野菜が多いですね。こういうのもあるのですね」
そこまで知らずにオススメと頼んでいたが、野菜が好きなレナータにとって、ちゃんぽんは相性が良い料理だったのではないだろうか。
キャベツも人参も、強火で一気に炒めており、歯応えを残しつつしっかり火が通っているので硬いこともない。炒めるのに使っているのもラード、豚油だから、レナータが後で牛のモーさんに怒られる事もないだろう。
もちもちとした食感の麺は程良くスープを吸って、麺だけで食べても、野菜と一緒に食べても良し。厚揚げやきくらげといった未知の食材も合ったが、レナータの食べられないものは入っていなかった。
(「これは……寒い日に、もう一度食べたいですね」)
最後にスープを飲みながらレナータはそんな事を胸中で呟き、ほぅと溜息を吐いた。
大成功
🔵🔵🔵
浮世・綾華
オズ(f01136)と
後ろからひょこり
目に入るのは俺好みのラーメン
ここでいーの?
ん、そーだなぁ
…俺は醤油ラーメンの野菜餃子セットにする
全部盛り。食える?
塩、好きって言ってたもんな
いちいち実況するオズにくすくすと笑って
ふふ。へたくそ
ひょいっとオズの割りばしを取り上げると
自分が綺麗に割った箸を彼の手へ
お前、あぶなっかしーからこっち
宝探し、は楽しいが
今はしてる暇、ねーぞ?
いいかオズ
ラーメンは時間との戦いだ
と神妙な面持ちで
そう、伸びるから
へいへい、ドーゾ?
オズのもさっぱりしてて美味しい
オズ、野菜たっぷりも好きって言ってなかった?
らーめんじゃないケド、餃子もあげる
外はぱりーで中はじゅわーで美味いよ
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
らーめんらーめんっ
軒先のメニュー覗いて
ここっ
指さすのはシンプルな醤油ラーメンの写真
ここがいいな
いろいろある
どれにしよう
アヤカはもう決めた?
ええっと
じゃあわたしぜんぶもり、しおっ
ふふ、しおらーめんすき
カウンターでそわそわ
ゆでてる
のせてる
あつそうだねえ
まちきれなくて割った箸が
上手く割れずに鋭くなって
あれ?
取り上げられ、わ、と
だいじょうぶだよ
と言いながらありがとうと笑って
みて
チャーシューでぜんぶかくれてる
めくればほうれん草にたまご
たからさがしだ
じかんとのたたかい?
ふーふー
…おいしいっ
アヤカのスープものみたい
こうかんこうかん
うん、おいしい
野菜たっぷりもね、すきだよ
わあ、たべるっ
●時間との戦い、それがラーメン
「らーめんらーめんっ」
「転ぶんじゃねーぞ」
弾む様な足取りで楽しそうに駆けていくオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)に、浮世・綾華(美しき晴天・f01194)が後ろから着いていく。
「アヤカ、はやくはやくーっ」
「ラーメンは逃げねって」
足を止めて軒先のメニューを覗く度に、振り向き急かすオズに笑って返す綾華だが、実はちょっと早足で離れぬように着いて行ってたりする。
そんなやり取りを何度か繰り返した後で、オズが今度こそ本当に足を止めた。
「アヤカ、ここっ。ここにしよっ」
「んー、どれどれ?」
オズが指差すもの後ろからひょこりと見た綾華が、目を瞬かせる。オズの指の先にあるのが、シンプルな醤油ラーメンの写真だったから。
「俺好みのラーメンだけど、ここでいーの?」
「ここがいいな」
いつもと変わらないしあわせそうな笑顔で答えるオズに、それならと綾華も微笑を浮かべて頷き返した。
「「「らっしゃい!」」」
暖簾をくぐった2人に、威勢の良い挨拶が向けられる。
一瞬びっくりして目を丸くしたオズだが、すぐに笑って案内されたカウンター席に、綾華と隣合って座る。
「いろいろあるね」
開いたメニュー表には、表になかった写真も載っていて。
どれにしようと悩むオズのキトンブルーの瞳は、メニューをじいっと上に下にと行ったり来たり。
「アヤカは? もう決めた?」
「ん、そーだなぁ」
オズに問われた綾華は赤い瞳を細めて思案中だが、ラーメンの方は決まっていた。悩んでいるのはセットをどうするか。
「……俺は醤油ラーメンの野菜餃子セットにする」
しばしの思案の末、綾華は指でメニューの1つをトンッと叩く。
「ええっと。じゃあわたしぜんぶもり、しおっ」
綾華がセットを選んだことで、オズもがっつり食べる方向にしたようだ。
「全部盛り? 食える?」
「だいじょうぶ!」
少し心配そうな綾華に、オズは満面の笑顔を返した。
「そっか。塩、好きって言ってたもんな」
「ふふ、しおらーめんすき」
店員を呼んで注文を済ませれば、後は待つだけだ。
なのだが――。
「ゆでてる」
「そりゃ、麺は茹でるもんだからな」
待ちきれないのか、そわそわひょこひょこ覗き込んではいちいち実況するオズに、綾華がくすくす笑って相槌を打つ。
「あつそうだねえ。あ、のせてる」
もうそろそろかと、腰を落としたオズは、今度は割り箸に手を伸ばした。
「んっ……あれ?」
パキンっと音がしたものの、オズの手元に残った割り箸は割れ目が斜めに入ってしまったようで、片方が斜めに鋭くなってしまっていた。
割り箸あるあるであろう。
「ふふ。へたくそ」
口の端を上げた綾華が、割り箸を取って横に構えた。
パキッと音が鳴り、上下に引っ張られた割り箸が綺麗に2つになる。
「ほら」
綾華は手を伸ばすと、オズの手から割り箸をさっと取って、代わりに綺麗に割れた割り箸をその掌に残す。
「え? だいじょうぶだよ」
「いや。お前、あぶなっかしーからこっち」
青い目を丸くするオズに、綾華は問答無用と取り替えた箸の断面を軽くこすり合わせながら返す。
「ん。ありがとう」
オズが笑って返したそこに、2つの丼が届いた。
「わぁ……!」
6――いや、7枚だろうか。
「みて、チャーシューでぜんぶかくれてる」
透き通った混じりけのない鶏ガラ塩スープに蓋をするように、他の具を覆い尽くしたチャーシューの数に、オズが目を輝かせる。
そっとチャーシューをめくれば、見えてくるのは緑と黄色。
「ほうれん草にたまごだ。たからさがしだね」
「宝探しは楽しいが。今はしてる暇、ねーぞ?」
濃い目の鶏ガラ醤油スープの丼を前に、綾華は真剣な目をしていた。
中に見えるは、所謂中華麺な縮れ麺。その上に、オズのそれとは半分ほどのチャーシュー、海苔とメンマと鳴門金時のシンプルな醤油ラーメンである。
「いいかオズ。ラーメンは時間との戦いだ」
ちらりと視線を向けるその顔は、いつになく神妙で。
「じかんとのたたかい?」
「そう。伸びるから」
「のびる……それはたいへんだねっ」
やっとオズも、綾華の表情の理由を理解したようで。
そして2人はしばし無言になって、ずるずると麺を啜る音だけが聞こえてきた。
「ふー……おいしいねっ」
伸びる麺がなくなった所で、オズが一心地。
箸をレンゲに持ち変えて、掬ったスープに、こくりと喉が鳴る。
「アヤカのスープものみたい。こうかんこうかん」
「へいへい、ドーゾ?」
苦笑と微笑の混ざった様な笑みをオズの提案に返した綾華だが、その実、オズの塩ラーメンのスープも気になっていた。
2人は互いに少し丼をずらし、相手のスープを一口。
オズが口にした醤油スープは、見た目の色の濃さに反して口当たりが良く、しょっぱいと感じる事はなかった。むしろ後を引く味だ。
綾華が口にした塩スープは、見た目の色の薄さに反してしっかりと味がついていて、それでいてさっぱりと飲み易い。出汁を取るのに色々使っているのだろう。
「オズのもさっぱりしてて美味しいな」
「うん、アヤカのも美味しいね」
「餃子、お待たせしました」
そこに、野菜餃子を載せた皿が置かれた。
「オズ、野菜たっぷりも好きって言ってなかった?」
「野菜たっぷりもね、すきだよ」
大事に残しておいた煮玉子をはふはふかじりながら、オズは綾華の問いに頷く。
「らーめんじゃないケド、餃子もあげる。外はぱりーで中はじゅわーで美味いよ」
「ぱりじゅわ! たべるっ」
綾華の言葉に目を輝かせ、オズは寄せられた皿に早速、箸を伸ばす。
餃子を取ったオズは、いきなり口に運んだ。ふーふーと冷ますのを忘れて。
綾華が止める間もなかった。
「あふっ」
野菜餃子と言うだけあって、具は野菜が多め。つまり、野菜の水分が出ている。
じゅわーの洗礼が、オズの口の中に広がった。旨味と熱さ。
それもまた餃子の醍醐味ではあるけれど。
「あー……」
しょうがねーなと笑って、綾華は水を入れに席を立った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみっち(f01902)】と
うさみよ、今回の食費は経費で落ちるので俺の奢りでは無いぞ
領収書を切らねば
して、ラーメン屋か
一度入ってみたいと思っていたのだ、同行してくれるのは有難い
ふむふむ、先ずは靴を脱ぐのか…いや待て、誰も脱いでいないぞ
まさか俺が何も知らないからと適当な事を言っていないか…?
しかし何を注文して良いものか迷うな…今回は先輩である
うさみに倣って同じものをお願いしようか
担々麺、というのか、どういった食べ物なのだ?
うさみが平然とした顔で食べているのを見て
自分も何の覚悟もないまま激辛担々麺をおもむろにすすり…
(むせる)
た、確かに甘いものが欲しくなるな
何が何でも俺の奢りにしたいのか…!
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)】と!
ニコの奢りでラーメンだ~♪え、違う?チッ
ニコはラーメン屋は初か!
じゃあうさみっち様が色んなルールを教えてやろう!
まずお店に入ったら靴をきちんと脱ぐんだぞ!
チ、嘘だとバレちゃ仕方ねぇ
じゃあ俺は担々麺にするー!辛さは一番高いやつで頼むぜ大将!
ん?担々麺っていうのはUDCアースの中国発祥の食べ物でな…
(以下うさペディア知識がツラツラと)
んーっうめぇうめぇ!
この後からビリビリ来る辛さがたまらんー!
あ、ニコ!気管に入らないように気をつけろよ!
……ってもう遅いかー
ふー食った食った!
デザートに抹茶アイス食べたい!
え、それはラーメンの奢りに入らねーの?
じゃあニコ、支払いは任せた!
●真紅の衝撃
「ニコの奢りでラーメンだ~♪」
「うさみよ、今回の食費は経費で落ちるので、奢りではあるが俺の奢りでは無いぞ」
奢りと聞いてうきうきと飛び回る榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)をむんずと掴んで、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)が言い聞かせるように告げた。
「チッ」
露骨な舌打ちをして、うさみっちがニコの手から離れる。
「うさみよ……」
「~~♪」
ジト目のニコに、うさみっちはいつもの(廿x廿)な顔でどこ吹く風である。
「そんな事より、ニコ! ラーメン屋は初なんだろ!」
「ああ、うむ。一度入ってみたいと思っていたのだが、機会がなくてな」
そんな事、と脇に避ける仕草をしながらうさみっちが振った話題に、ニコが頷いた。
「よし! じゃあ、うさみっち様が色んなルールを教えてやろう!」
ニコの銀髪の上にブーンと降りて頭に乗りながら、うさみっちがドヤっと告げた。
ニコのマウントを取れそうなこの機会を、うさみっちが逃す筈もない。
「頼むぞ。同行してくれるのは有難い」
ニコも初めてのラーメン屋に緊張があるのか、うさみっちのポジショニングを素直に受け入れていた。
「まずお店に入ったら靴をきちんと脱ぐんだぞ!」
「ふむふむ、先ずは靴を脱ぐのか……」
神妙に頷きながら、ニコはうさみっちを載せたまま、何やら真っ赤な暖簾を気にする事無く潜る。もしかしたらこのやり取りは、ニコに暖簾を気にさせないための、うさみっちのこうどなさくせん、だったのだろうか。
店内を見回すと、皆、靴はいていた。
「いや待て、誰も脱いでいないぞ」
流石に気づいて、ニコがうさみっちを頭上から顔の前に下ろす。
と言うか、下駄箱がまず見当たらない。
「まさか俺が何も知らないからと適当な事を言っていないか……?」
「チッ」
露骨な舌打ち、再び。
「嘘だとバレちゃ仕方ねぇ。あ、2人だぜ」
(「……この件は、あとで話すとするか」)
しれっと嘘と認めつつ、店員に案内を頼むうさみっちの後に続きながら、ニコはそう心に決める。
ここが飲食店でなければ、対うさみっち用グッズが飛び出していたかもしれない。
閑話休題。
「むむ……こう種類が多いと、何を注文して良いものか迷うな……」
席に付いたニコは、今度はメニューの多さに眉をしかめていた。
味の想像が吐くものから、なんだか解らないものまである状態だ。
「俺は担々麺にするー! 辛さは一番高いやつで頼むぜ大将!」
悩むニコを尻目に、うさみっちはさっさと決めて注文を告げる。
「……俺にも同じものを頼む」
遅れない方が良いだろうという思い。そして、何も解らないのだから今回は先輩であるうさみに倣おうという考え。
それが、ニコに同じものを、という選択をさせた。
「頼んでおいてから聞くのも遅い気がするが。担々麺、というのは、どういった食べ物なのだ?」
今更ながら気になって、ニコはうさみっちに問いかける。
「ん? 担々麺っていうのはUDCアースの中国発祥の食べ物でな。ひき肉を載せたラーメンのことだぜ。この担々っていうのはだな……」
そこからしばし、うさみっちの独壇場と化した。
「担々ってのはな。中国の言葉で天秤の棒を指す言葉なんだぜ!」
「元々は天秤棒で片側に調理道具、反対側に材料を担いで、その場で作って提供する形で始まったから、そう呼ばれるようになったらしいぜ」
「あと土偏の坦の字に間違われる事が多いんだってよ!」
一体、どこでそんな知識を仕入れたのか。
だが、このうさペディア知識、肝心な事を言っていなかったのである。
――激辛料理だという事を。
「あ、赤いな……」
目の前に届いた丼の色に、ニコが言葉を失う。
口にしなくても判る。これは絶対、辛いやつだ。
「んーっうめぇうめぇ!」
だが、うさみっちは口の周りを赤くしながら、同じ色の丼から、赤い麺をずるずると啜っているではないか。
「この後からビリビリ来る辛さがたまらんー!」
辛味は来ているようだが、平然と食べ続けている。
(「そうだ。うさみが食べれているのだ。俺も大丈夫だろう」)
そんなうさみっちの様子が、またしてもニコの判断を鈍らせた。
『辛さは一番高いやつ』という注文になっていたことも忘れて、ニコは大した覚悟もなしに箸を伸ばし、ひき肉の絡んだ麺をずずっと一気に啜る。
「あ、ニコ! 気管に入らないように気をつけ――」
「ケホッ! カッ、ケフッ!」
うさみっちが言い終わる前に、ニコは顔を真っ赤にして咽ていた。
「……ってもう遅いかー……あ、水はやめとけ!」
時すでに遅しパート2。
ニコは思わず水のコップに手を伸ばし、ぐいっと煽ってしまう。
そして、目を白黒させて悶絶した。
目の前に丼がなければ、机に突っ伏していたかもしれない。
「あーあ。辛いものを食べた時、飲むのが水だと辛味成分を口の中全体に広げる事になってしまうんだぜ」
うさペディア豆知識、再び。
「さ、先に言ってほし――ケホッ」
ニコの悶絶は、見かねた店員が牛乳をサービスで持ってくるまで続いた。
「ふー食った食った!」
「まだ口の中がヒリヒリするな……」
けっぷ、と膨れた腹を擦るうさみっちの向かいで、ニコが肘をついて項垂れていた。
色々と不覚を取ったと、今更ながら自覚しているようだ。
とはいえ、ニコも激辛担々麺を完食していた。ただいたずらに辛いだけの料理ではないことは、判っている。
だけど、口の中がヒリヒリするのは自分では止めようもないわけで。
「なあニコ。デザートに抹茶アイス食べたい!」
うさみっちがそんな事を言い出したのは、自分が食べたかったからか。それとも。
「た、確かに甘いものが欲しくなるな。だが、デザートは経費に入るのだろうか」
うさみっちに同意しつつ、ニコは眉間を寄せて考え込む。
押し通せば、通りそうな気はするが、それで良いのだろうかと。
「え、デザートはラーメンの奢りに入らねーの?」
「かもしれん」
ニコからその可能性を聞いたうさみっちの判断は、早かった。
「じゃあニコ、支払いは任せた!」
実にイイ笑顔で告げたその答えは、ニコに奢らせる、である。
「何が何でも俺の奢りにしたいのか……仕方ないな!」
ニコにそれに頷かせたのは、まだ残り続けるヒリヒリ辛味のなせる技だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユニ・エクスマキナ
清史郎くん(f00502)と!
奢りだなんて太っ腹なのねー!
ユニは暑い夏に涼しいお店で温かいラーメン食べるのいいと思う!
…なーんて言ったけどユニはあんまりラーメン食べないなぁ
だから今日は超!定番の!ラーメンが!食べたいっ!!
分けっこ賛成~!
ユニ、醤油ラーメン!
豚骨?
食べたことないから食べるの楽しみ!
え?高菜…いれるんだ
(ラーメンに合うのかなって顔
清史郎くんはラーメンを注文するのも雅やかだなぁ…
カタ?何それ?
あ!分けっこするからチャーシューは追加ね!
わーい、いただきます!
ふむふむ、スープからいただくのね
…あつっ(猫舌
でも美味しい♪
豚骨に高菜…合う!美味しい!(衝撃
今度は冷やし中華食べたいのねー!
筧・清史郎
ユニ(f04544)とラーメンを食しに
奢りだそうだ、ご相伴にあずかろう(微笑み
ユニは普段ラーメンは食したりするのか?
俺もそう頻繁には食さない故に、楽しみにしている(微笑み
違う味を頼んで分け合うのはどうだろうか
俺はやはり、豚骨が正義だな
濃厚なスープがよく絡む、真っ直ぐで極細の麺
置いてある高菜も欠かせないな
ユニはどの味にする?
醤油か、良いな
では注文を(雅に
「俺は、ラーメン、カタで」
ユニと取り分けた後、まずスープから味わおう(雅な所作で
麺も…ほう、製麺から拘っているだけあり、これまた美味だ(満足気
ユニはどうだ?
…熱かった様だが、大丈夫か?
高菜も良く合うだろう?
次は冷やし中華も食べに訪れようか(微笑み
●蒼雅紅雛
「今回は奢りだそうだ。ご相伴にあずかろう」
「奢りだなんて太っ腹なのねー!」
かたや穏やかで雅な微笑を。かたや満面の笑みを。
楽しげに歩く筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)もユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)の身長差、約30cm。
なんかこう、親子でも通りそうな2人である。
「ユニは普段ラーメンは食したりするのか?」
「ユニはねー。暑い夏に涼しいお店で温かいラーメン食べるの、いいと思う!」
首を傾け上から問いかける清史郎に、ユニが赤く丸い瞳を向けて告げる。
「……なーんて言ったけどユニはあんまりラーメン食べないなぁ」
「俺もそう頻繁には食さない故に、楽しみにしている」
ぺろっと舌を見せて笑うユニに、清史郎が微笑みかけた。
「だから今日は超!定番の!ラーメンが!食べたいっ!!」
「となると醤油だろうか。俺はやはり、豚骨が正義だな」
ぐっと拳を握って宣言するユニの隣で、清史郎は顎に手を当ててふむと考え込む。
その脳裏に浮かぶは、濃厚な豚骨スープ。
それを真っ直ぐで極細の麺に良く絡めて、一気に啜るのだ。たまらない。
高菜を加えて、味に変化をつけるのも欠かせない楽しみ方だ。
だが、それはユニの望む超定番と言えるかというと――人によるとしか。
「……そうだ。違う味を頼んで、分け合うのはどうだろうか」
「分けっこ賛成~!」
思案の末に清史郎が思いついた案に、ユニが二つ返事で頷く。
これで、2人が目指す店が決まった。
豚骨も醤油もある。特定の出汁に固執しないタイプの、このラーメンストリートでも一番店舗の大きいラーメン屋だ。
「さて。ユニはどの味にする?」
「うーん。……ユニ、醤油ラーメン! 分けっこするからチャーシューは追加ね!」
案内された席に着いた2人は、道中の会話のおかげもあって、ほとんど迷う事無く頼むラーメンを決めていた。
「やはり醤油か。良いな。では注文を」
すっと清史郎が手を上げる。声量も所作も、決して大きくない。動きはむしろ、優雅な感すらあったが、店員の目にはしっかり届いていた。
(「清史郎くんはラーメンを注文するのも雅やかだなぁ……」)
「こちらには醤油ラーメンをチャーシュー追加で。俺は豚骨ラーメン、カタで」
淀み無く注文を伝える清史郎の様子を感心しながら眺めていると、ユニの耳に聞き慣れない単語が入ってきた。
(「――カタ? 何それ?」)
はて、と内心で小首を傾げる。
「油の量とスープの濃さは……」
「油少なめ、スープは普通で頼む」
「清史郎くん。カタって何? なんでユニのにはつけなかったのー?」
注文を取り終えた店員が離れるのを待って、ユニは早速その疑問をぶつけてみた。
「ああ、カタというのはトッピングの類ではなく、麺の硬さ――茹で時間で調節するものだ。豚骨ラーメンに使う極細麺は、硬さを選べるのだよ」
カタの上には、バリカタ、ハリガネなどがあると、清史郎は指を立てて数えるようにしながら説明する。
「ハリガネ……」
ユニの脳裏に浮かぶ、所謂ハリガネ。美味しくはなさそう。
「豚骨は、奥が深いのねー」
お手上げというように両手を伸ばしたユニが何を思い浮かべたのか、なんとなく想像がついて、清史郎はくすりと笑って眺めていた。
ややあって、運ばれてきたのは2つの丼と、4つの取り分け用の小丼。
「さて。取り分けるとしよう」
シュッと袖を絞った清史郎が、2組の箸を器用に使ってスープの水滴すらほとんどこぼす事無く、小丼に取り分けていく。
(「取り分けも雅やかなのねー……」)
ユニはその優雅な手際に感心しつつも、そわそわうずうずしている。
「では頂くとしようか」
「わーい、いただきます!」
2人揃って手を合わせ、次に取るのは、清史郎はレンゲ。ユニは箸。
「まずスープから……」
清史郎がふぅと吹きかければ、レンゲの内で白いスープに小波立つ。それ以上揺らすこと無く、清史郎はほとんど音を立てずに口に入れた。
「うむ……丁寧に出汁を取っているな。いい味が出ている」
「ふむふむ、スープからいただくのねー」
ユニも倣って箸をレンゲに持ち替え、黒いスープを掬ってふぅと吹きかける。少々掬いすぎたか、縁から溢れるスープが落ち着くのを待って、スープを口に――。
「……あつっ」
冷まし足りなかったか、ユニは目を瞬かせた。
「……熱かった様だが、大丈夫か? ユニ?」
「大丈夫よー。それに、熱いけど美味しい♪」
案ずる清史郎に笑いかけ、ユニは今度こそ、レンゲを箸に持ち替えて麺に伸ばした。まずは自分で頼んだ醤油ラーメンの、縮れ麺から。
「スープが絡んで、つるつるって入ってくるのー♪」
「ではこちらも――」
醤油ラーメンに2口目の箸を伸ばすユニの様子に舌を火傷した素振りはないのを安堵して、清史郎も自分が頼んだ豚骨ラーメンに箸を伸ばし、一気に啜る。
「ほう……製麺から拘っているだけあり、これまた美味だ。
糸の様な極細麺でありながら、スープの絡み具合は抜群。舌触りも良く、歯応えもカタにしても硬すぎない。
高菜も塩気が程良いな……そうか。このスープに合わせて作ったのだな」
清史郎の語り口に釣られる様に、ユニは取り分けて貰った豚骨の少丼に視線を送る。入っている高菜をまだ不思議に思いながら、細い麺に絡めてするっと。
口に広がる初めての味わいの衝撃に、ユニが目を丸くした。
「豚骨に高菜……合うのね! 美味しかった!」
「うむ。醤油ラーメンも、オーソドックスでまた良いものだ」
互いにシェアした味の感想を述べながら、ユニと清史郎は暖簾を潜り外へ出る。2人は自分と相手と、それぞれが頼んだ味をたっぷり堪能していた。
ふと、2人が横を見ると『冷やし中華始めました』と貼ってある。これを見るのは、何度目だろうか。
「次は冷やし中華も食べに訪れようか」
「今度は冷やし中華食べたいのねー!」
同時にほとんど同じ事を口にして、清史郎とユニは顔を見合わせ笑い合うのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鵜飼・章
ラーメンは人類が編み出した叡智だ
原点であり頂点のシンプルな中華そば
海の恵みが生んだ芸術魚介系醤油
味噌とバターとコーンは神秘のハーモニーを奏で
豚骨スープにそっと投入される替玉の優しさは
僕の心の虚無を埋めてくれるんだ…(ここまで全部完食済)
ごめん塩はあまり食べない
でも今日は食べてみようかな
嫌いじゃないんだけど…
つけ麺?邪道だ
冷しラーメンも僕は許しません(過激派)
けど一番好きなのは
こってり醤油に食べ応え抜群の極太麺
背脂とニンニクが死ぬほど盛られ
その上に野菜と肉のチョモランマがそびえ立つ
あれだよあれ
所謂二…系だ
全マシマシでお願いします
はあ、幸せ…
事件の前に臭いのケアはしておく
キャライメージ大事だからね
●食後のブレスケアは大事
「ラーメンは人類が編み出した叡智だ」
口元を拭いながら深そうな事を呟く鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の前にあるテーブルの上は、控えめに言ってすごい状況になっていた。
「原点であり頂点のシンプルな中華そば」
鶏がら醤油にチャーシューメンマと縮れ麺。これぞラーメンと言う形。
「原点からの進化形。海の恵みが生んだ芸術、魚介系醤油」
複数の魚介から取った出汁の味わいは、同じ醤油ベースでも
「味噌とバターとコーンが奏でるは神秘のハーモニー」
バターとコーンの甘味が味噌のしょっぱさと絡み合う。
「豚骨スープにそっと投入される替玉の優しさは、僕の心の虚無を埋めてくれる……」
店によっては一玉無料な所もある。替玉はコスパがいい。
――以上の4種のラーメンの空になった丼が、章の前に並んでいるのである。
コーンの一粒、もやしの1本すら残っていない。
「次はどうしようかな……」
だというのにメニューを開く章に、周囲から驚愕の視線が向けられる。その色白で繊細な容貌のどこに、ラーメン4杯と替玉が入って尚、それ以上入ると言うのか。
そんな視線を柳に風と受け流し、章はパラリとメニューを捲り続ける。
「塩か……ごめん、あまり食べないんだ。嫌いじゃないんだけど」
でも今日は食べてみようかな、と思いつつも次の頁へ。
麺とスープが別盛りの写真が並んでいる。言わずもがな、つけ麺だ。
「邪道だ」
近年人気のスタイルを一言で斬り捨てて、章は頁を捲る。
冷やしラーメン始めました、と書かれた頁だった。
冷やし中華と冷やしラーメンの大きな違いのひとつは、そのスープだ。ラーメンと同じ様に、麺が浸るくらいの量の冷たいスープで提供されるものが多い。
「冷やしラーメンも、僕は許しません」
章はそれもバッサリと斬り捨てると、結局塩を頼む事無く店を出て行った。
ああ、やっぱりお腹いっぱいになったのかな……と思った人もいたかもしれないが、そうではない。
ただ単に、別の店に行く事にしただけである。
「一番好きなのは……やはりここだ」
券売機の中から『大』のボタンをぽちっと押して、店内へ。
この系列の店は、外の街中では並ばない事の方が少ないのだが、ラーメンストリートの中だからか、待つ事なく空いている席に着く。
「ニンニクどうしますか?」
「全マシマシでお願いします」
店員からの確認の声に、章は淀みなくコールを告げる。
数十秒後、章の前に出てきた丼は、山の様に詰まれたキャベツともやし、ずらりと並んだ分厚いチャーシューしか見えなかった。
まさに肉と野菜のチョモランマだが、これは氷山の一角に過ぎない。
その下には脂コッテリで濃い目の醤油系スープと、極太麺が隠れている。
章は割り箸を手に取ると、その氷山を崩すべく、まずは濃い目のタレがかけられたキャベツともやしをもしゃもしゃと食べ始めた。
ラーメンは、麺から食べる人の方が多いのではないだろうか。
だが、このラーメン。麺を隠す肉と野菜のチョモランマを、減らさないままかき分けたところで、その下の極太麺は少しずつしか食べられない。
そしてこの極太麺、スープを良く吸うのだ。
だからこそ、章はまずは肉と野菜のチョモランマから食べ始めていた。
その理由は、程なく明らかになる。
無言で食べ進めていた章は、肉と野菜が富士山くらいと言えそうになった所で箸をぐっと深く入れて、ぐいっと極太麺を引き上げた。
スープを溢さない様に気をつけつつ、野菜の上に麺を乗せていく。
野菜と麺を入れ替え、野菜をスープに浸しその上に麺という形にする事で、麺をスープから遠ざけて制限時間をのばす食べ方だ。
この時、野菜の下に実は死ぬほど盛られていた背脂とニンニクも混ぜるようにしておくのも忘れない。
そうしていよいよ、背脂とニンニクがたっぷり絡んだ極太麺を啜る。
野菜と肉続きだった章の口の中に、ニンニクの風味が広がる。極太麺のもっちりとした食感を噛み締める。
「はあ、幸せ……」
食べ応え抜群の極太麺を噛み締めた章の口から、そんな声が思わず漏れる。
それきり無言になって食べ進めた章が次に口にしたのは、食べ終わった丼を上げた後に発した、ご馳走様の一言だった。
大成功
🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
此れなるものが、らーめん…
UDCにおける美食とは伝え聞いていたが、見るのも初めてだ
主君を差し置いて一人美食を味わうなど
従者失格では無かろうかと思いが過ぎる
…否、此れは学術的興味と、毒味
そして何より、事件解決に向けた囮となるため故――いざ
聞いた通りの「トンコツ」なるものを注文
ゆっくりと、興味深く観察しながら食する
…なんと…
味わい深さに、表に出ぬ驚き
知らぬ世界も悪くない
これは師も連れてくるべきであった
否、俺がこれを作れるようになれば解決か
秘伝を探るように口へ運ぶ
店主へは丁重に礼を言って退店するとしよう
…観察不足が否めぬ故
もう一件くらいは許されようか
そう「みそばたー」なる未だ見ぬ品に会わねばならぬ
●美味探求は誰が為に
「へい、豚骨ラーメンお待ち」
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の前に、湯気の立つ丼が置かれた。
「此れなるものが、らーめん……」
UDCアースにおける美食と伝え聞いていたそれを、ジャハルは興味深く観察する。
黒い陶器の器の中に湛えられるは、独特の白濁色のスープ。
器は、スープの色との対比も考えて選んでいるのだろうか。
そのスープを軽く混ぜれば、糸のような極細麺が見える。
上に浮かぶトッピングは厚切りのチャーシューと半分の煮卵、刻んだきくらげと紅しょうがと、豚骨ラーメンの定番だ。
「見た目も匂いも、これは食欲をそそられる……」
立ち昇る湯気を浴びて、ジャハルが黒瞳を瞬かせる。
もう少しゆっくりと観察していたかったが、ジャハルはラーメンについて、美食と言う以外の情報も聞いていた。
曰く、ラーメンは伸びる前に食べるべし、と。
(「どう伸びるのかも気にはなるが、折角の美味。美味しい状態で食すべきだろう」)
胸中で呟くと、ジャハルは一気に麺を啜る。
その瞬間、口に広がる豚骨スープの味と香り。
(「……なんと……」)
豚骨以外にも野菜など様々な食材を煮込んで取った出汁の味わいの深さに、ジャハルは表情こそ変えぬものの、内心とても驚愕していた。
「知らぬ世界も、悪くない」
呟く言葉はそれきり、しばし止まる。
ジャハルの手と口はラーメンを食べる、それだけに動き始めた。
(「手が止まらぬ……これは師も連れてくるべきであったか」)
そんな事を思った瞬間、その顔が脳裏に浮かぶ。
(「主君を差し置いて一人美食を味わうなど……良いのだろうか」)
従者失格ではなかろうか――そんな想いも、過ぎる。
――否。
(「此れは学術的興味と、毒味。そして何より、事件解決に向けた囮となるため故。主君に囮などさせられぬ」)
胸中でそう自分に言い聞かせるように呟くと、ジャハルは止まっていた手を動かし再び麺を啜り始めた。
(「それに、俺がこれを作れるようになれば解決するではないか」)
その為にもと、ジャハルは秘伝を探るように味わいつつも麺を啜り続ける。
そして、最後の1本を啜り終えた、その時だった。
「気に入ってくれたみたいだな」
ジャハルの前に、店主の手が細麺だけが乗った皿を置いたのは。
「……頼んではいないが?」
「外人さんだろ?」
UDCアースの日本でジャハルほどの色黒の肌は多くはない。その顔立ちといい、店主が外国人と思うのも無理からぬ事だろう。
「まあ、そんなようなものだ」
ジャハルが曖昧な答えを返すと、店主は笑って壁の貼り紙紙を指差した。
――替玉一杯無料。
貼り紙にはそう書かれていた。
「体もでかいし、一玉じゃ足りないんじゃないかと思ってな」
少し温くなったスープに茹で立ての替玉を入れれば、少し温くなったスープと合わさって、蘇った様に程よく食べ頃のラーメン再び。
「……なんと……」
その呟きは、今度はジャハルの口を突いて出ていた。
「馳走になったな。大変美味だった。礼を言う」
ジャハルは無骨ながら丁重な礼を店主に述べて、店の暖簾を再びくぐり外へ出る。
「うむ。美味だった……美味だったが」
だが、しばし歩いた所で、その足が止まった。
「……観察不足が否めぬ故、もう一軒くらいは許されようか」
意訳すると、まだ食べたいからもう一軒食べたい、となるだろうか。
替玉までぺろりと平らげ、スープも残さず飲み干したのに、まだ足りないらしい。星守の竜人であるジャハル。喰えば底無しだそうな。
主君を差し置いて、2軒目?
そんな考えも過ぎったが――案内パンフレットを開く手は止まらない。
「否。これも主君の為。そう。俺は『みそばたー』なる未だ見ぬ品に会わねばならぬ」
誰に言うでもなく、されど強い意志を込めて告げると、ジャハルの足はラーメンストリートの奥へと向かって行った。
大成功
🔵🔵🔵
真守・有栖
らぁめん。おごり。食べ放題。
なんっっって気前の良い依頼かしら!
これは食狼たる私の出番ね!!!
さっそく、らぁめんを食べにいくわ!
くんくんとおはなを鳴らし。
じぃーっとおめめで見据え。
ぴくぴくとおみみを揺らし。
狼に相応しきお店を捜索よ!
えぇ、これだけずらりとお店が並んでるんですもの。きっと、私をわふん!と言わせる美味しいお店があるに違いないわ……!
むむむ?此処だわ!
狼の勘が示すお店の暖簾をくぐり。いざ、らぁめんに初挑戦よ!
店長さん!このお店でいっっっちばん狼に相応しいらぁめんをお願いするわ!
これがらぁめん。いい匂いじゃないっ
さっそく頂くわ!ずずーっ。
…………。
何よ。
とっっっても美味しいじゃないの!?
●ないなら作ろう即興で
「らぁめん」
うん。
「おごり」
うんうん。
「食べ放題」
うん――うん?
「なんっっって気前の良い依頼かしら!」
真守・有栖(月喰の巫女・f15177)のもふもふの銀の尾が、その期待と喜びを表しぶんぶんと左右に振れる。
――あれ? 食べ放題とまで言ったっけ?
なんて誰かが聞いたら首を傾げそうだが、その誰かはここにはいないわけで。
「これは食狼たる私の出番ね!!! さっそく、食べにいくわ!」
つまり、張り切る有栖を止める者はいない。
「こんなにたくさん、お店が……これが全部、らぁめん屋なのね!」
ずらりと並んだラーメン屋。
そのどこからも、良い匂いが漂ってくる。
思わず、有栖のおはながくんくんひくひく。
「これだけずらりとお店が並んでるんですもの。きっと、私をわふん! と言わせる美味しいお店があるに違いないわ……!」
逸る気持ちを抑え、有栖はここぞという店を探して回る。
頼りにするのは、匂いだけではない。
目でもじぃっと店構えやメニューを見て、耳をぴくぴく中の音を聞き取り。
狼に相応しく、自分に一番合うであろう店を、有栖は探して回る。
何が何でも美味しいラーメンを食べたいという熱意が見て取れる。ここまで張り切る理由は、単に奢りだから、というだけではなかった。
周りには隠している(つもりだ)が、有栖は割と空回る事がある。そしてその結果、路銀が乏しくなった事も、実は何度か経験していたりする。
故に、望めば確実に、温かい出来たての料理が食べられる。
そんな機会に失敗しないように、有栖の情熱が高まるのも、無理からぬ事であった。
「む? むむむ? 此処だわ!」
やがて、有栖はあるラーメン屋の前で足を止める。黒い暖簾には『北海狼』と白文字で書かれていた。そう。狼の字が入っている。
「狼の名を持つお店なら、きっと狼に相応しきお店よね!」
有栖は自分の勘を信じて、うきうきと暖簾を潜り――。
「店長さん! このお店でいっっっちばん狼に相応しいらぁめんをお願いするわ!」
(「……? 狼?」)
なんとも難度の高そうな注文をかっ飛ばした。
(「狼……狼? 狼ってラーメン食べるのか? 肉か?」)
店長さんの頭の中は『?』になって、考え込んでしまう。
さもありなん。
「………」
「……」
沈黙はどれほど続いただろう。
十数秒か。数十秒か。
(「だ……大丈夫よね? 私の、狼の勘が外れる筈がないわよね?」)
その沈黙は、有栖を不安にさせていた。
「………」
「……」
十数秒か。数十秒か。沈黙が更に続く。
「ええと……その……」
「よし判った。少々お待ちを」
段々心配になってきた有栖が壁のメニューを見ながら何か言いかけるのと、店長さんが頷いて麺を一玉取るのとは、ほぼ同時。
そこからの店長さんの動きは早かった。
冷蔵庫から取り出した何かの肉を厚めに切り落とし、焼き始める。
「うん?」
漂いだした独特の匂いに有栖の鼻がひくひくした所に、焼き色が付いた肉の中に投入されるのはもやし。それをじゃじゃっと炒めると、火を落として蓋をする。
丼に、色の濃い醤油系のスープ、茹で上がった麺、の順に盛り、その上に炒めた肉ともやしをどっさり載せ――有栖の前にそれが出された。
「お待ちどう」
「これがらぁめん。いい匂いじゃないっ」
有栖は割り箸を取るとパキッと……パキッ……と割れずにぐぎぎと割って、丼に箸を付ける。浮かぶ油の玉をかき分け、見えた平麺を掴み上げ、ずずっと一気に。
「…………」
スープが絡んだ麺の味と食感に、有栖の紫の瞳がぱちくり。
続けて謎のお肉をもやしと共にスープに浸してから口に運ぶと、独特な風味の肉汁が口の中いっぱいに広がる。
「何よ」
有栖の耳がぴこぴこ、尻尾がゆらり。
「とっっっても美味しいじゃないの!?」
「狼は獣。獣肉。つまりジビエ。それはラム肉を使ったラーメンだ。何を隠そう、俺は北海道出身でな……」
店長さんの謎の独白に、しかし有栖はわぐわぐと食べるのに忙しくて、ブンブン勝手に動く尻尾だけが応えていた。
大成功
🔵🔵🔵
玖篠・迅
ラーメン屋さんがこんなにたくさん並んでるってのもすごいよな
こんなにあるとどこに行こうか迷うなあ…
電脳ゴーグル使って、どんなラーメン屋さんがあるか調べられるか試してみよっと
あったかいのもいいけど、冷たいのも食べやすくて良さそうだよなあ
せっかくの機会だし、いろんなお店のぞいてみて「野生の勘」でここだ!って思ったお店に入ってみる
お勧めのラーメンがあったらそれ頼んでみようかな
それにしても、なんでラーメン食べると呪われるんだろうな?
魚のUDCだからラーメンの具材に仲間がいると思ったのかな
……うっかり人に捕まっちゃった群れの一匹が材料にされたからとかはない、よな?
●直感を信じて
「え? これ全部ラーメン屋さん?」
ラーメンストリートにずらりと並んだラーメン屋に、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)が思わず目を丸くする。
入り口に置いてあったので持ってきた案内パンフレットを見ても、ラーメン屋以外があるとは書いていない。すべてラーメン屋だ。
「ラーメン屋さんが、こんなにたくさん並んでるってのもすごいな」
感心すると同時にひとつの、迅の前に立ちはだかる。
「こんなにあると、どこに行こうか迷うなあ……」
そう。迅以外の猟兵も、何人かが直面していた問題だ。
「とりあえず、どんなラーメン屋さんがあるか調べてみよっと」
迅は大きなめがねをかけると、コツコツとそれを軽く手で叩いた。
ヴン、と小さな音がして、迅のめがねのレンズの中にラーメンストリートの様々な情報が浮かび上がって来た。
「温かいのもいいけど、冷たいのも食べやすくて良さそうだよなあ」
流れていく情報を目で追いながら、迅の口から悩みの呟きが漏れる。
迅はその眼鏡を、なんか叩いたら動いた不思議なめがね、というくらいの認識で勘で使っているが、見る人が見ればそれが電脳ゴーグルであることがわかっただろう。
「うーん……」
ややあって、軽く眉間を寄せた迅がめがねを外していた。
「情報だけ見てても、どれも美味しそうだよなあ」
気になる事は調べたい性分から、ついつい情報を調べていた。
その情報収集能力故に様々な情報が得られたが、同時に情報だけでは、肝心の味は伝わって来ない事も判ってしまった。
そうとなれば、ここからは動く時間だ。
「せっかくの機会だし、いろんなお店を覗いてみるか!」
困った時は直感に任せる。
これまで、迅がそうして来た事は少なくない。
目当ての店を決めてない割に、迅の足に迷いはなかった。
なんとなく気になった店を外から覗いて、或いは外にあるメニューを眺めて。
「ん?」
見送った店の数が両手の指で足りなくなりそうになった頃、迅は蒼の青年と紅の少女が顔を見合わせ笑い合っている所に、その横をすれ違った。
「今の2人、楽しそうだったな」
2人も猟兵であることは判る。そうなると、目当てはラーメンだろう。もう食べて来たのだろうか――どこで?
迅の視線が彷徨い、周囲に幾つかある店舗の壁を行ったり来たり。
「あそこか?」
直感で何かを感じて、迅の視線は、奥にある一番大きくラーメンの種類も豊富なラーメン屋に向けて止まった。
――お勧めのラーメンってあるかな?
そんな迅の注文で出てきたのは、今日の日替わりラーメン。
「日替わりの魚介味噌豚骨になりまーす」
豚骨ベースの出汁と、魚介出汁とを合わせ、味噌で味を整えたスープ。特定の出汁に固執しない店だからこそ合わせられる組み合わせ。
中の麺はシンプルな中細の縮れ麺。
トッピングはチャーシューと海老。たっぷりのコーンともやしでバターを隠して。
(「日替わりの詳細までは情報がなかったけど……これ、美味しいな」)
味噌の味が濃すぎないスープが絡んだ麺に舌鼓を打ちながら、迅は胸中で呟く。
最終的に勘で選んだ店だったが、当たりだ。
味噌の味が濃過ぎず豚骨と魚介の旨味の出たスープに、食べている内に溶けたバターが混ざって味わいが変わるので、飽きが来ない。
気がつけば、迅の前の丼はスープも残さず空になっていた。
「ふぅ……美味しかったあ」
口元を拭い終えて、迅は背もたれに体を預ける。
「それにしても、なんでラーメン食べると呪われるんだろうな? と言うか、もう呪われたのか?」
食べている間も、食べ終わった今も。
迅にも迅の周囲にも、特に異変は起きていないようだが。
「魚のUDCだからラーメンの具材に仲間がいると思ったのかな」
プリプリの海老の食感を思い出していると、迅の頭の中にふと1つの考えが過った。
「まさかとは思うけど……うっかり人に捕まっちゃった群れの一匹が、材料にされたからとかはない、よな?」
その呟きに答えられる者は、まだ誰もいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ディート・ヴァルト
UDCって邪神かその眷属、なんだよね?
今回のは見た目普通の魚みたいだけど
……食べるつもりはないけど、身とか普通の魚と違いはあるのかちょっと気になるな
案内板とかないか探しながら、何食べようか考えてみようか
実はラーメンって初めてなんだよね
予知で多かったっていうとんこつも気になるけど、期間が決まってるっぽい冷やし中華も気になる
ここでしか食べられないラーメンとかあるとより悩みそうだ
どこのお店のラーメンがおいしそうか探すのも楽しみのひとつかな?
●あご
「へえ。なんだかお祭りみたいだね」
ずらりと並んだラーメン屋と、どの店に入ろうかと探す人が行き交う光景に、ディート・ヴァルト(雪雫・f18982)の表情が綻び笑みが浮かぶ。
変化の乏しい故郷の森を飛び出し旅をしていたディートにとって、活気のある場所は好ましいものの1つだ。
「さて。僕はどのラーメンを食べようかな」
ラーメン自体が初めてであるディートはまず、手前の案内板に視線を向ける。
(「予知で多かったっていうとんこつも気になるけど、期間が決まってるっぽい冷やし中華も気になるんだよね……」)
どれもこれも、全てがディートには未知になる。
どこのラーメン屋がおいしそうだろうかと、探すが中々決まらない。
だが――この迷う時間すら、ディートは楽しんでいた。
「ん?」
ふと、彷徨っていたディートの淡褐色の瞳が動きを止める。
その目に写っていたのは『あごラーメン』なる文字。その下には、地元以外で食べられるのはここだけ、と惹かれる文章も書かれていた。
(「あごラーメン……あごってなんだろう?」)
思わず自分の顎に手を当てながら、ディートはひとりごちる。
まさかこの顎の事ではないだろうけれど。
(「気になる……行ってみるしかないかな?」)
好奇心が刺激され、ディートはラーメンストリートへと繰り出した。
「あごラーメン――本当にあるんだね」
案内板で見つけたその文字を、店の前でも見つけてディートは思わず呟いていた。
暖簾をくぐりガラス戸を開けると、ふわりと香りが漂ってくる。
「いらっしゃいませ」
(「うん。いい匂いだ……潮の香り?」)
店員の声を聞きながら、ディートは嗅いだ匂いに胸中で呟く。
なんの匂いかは判らないが、それがまた色々と唆られる。
「あごラーメンを頂きたいのだけれど」
案内されたカウンターに座りながら、ディートはその向こうの料理人に声をかける。
「はいよ。あご一丁!」
良く聞けば、顎とは言葉の音の調子が違う。
(「さて、何が出てくるんだろうね?」)
待つことしばし。ディートの前に出てきた丼の中には、その瞳に似た色の透き通ったスープが湛えられていた。
スープの中にある麺は、中細のストレートタイプ。
具材は大きな海苔と、わかめとアオサ。謎の白く丸いものも幾つか入っている。
「早速いただくとしよう」
ディートはまずレンゲを手に取り、スープを一口。少し冷まして口に入れると、ほのかなスッキリとした甘みと潮の風味が広がる。
スープの舌触りはあっさりと軽く、それでいて残る旨味が深い。
載せられた海藻とも、スープの風味は良く合っているとディートには感じられた。
麺を啜ると、こちらも絡んで来たスープの風味と良く合う。
「これは……なんだろうね?」
ディートが箸でつまみ上げたのは、白い物体。
つまんでみるとぷにっと弾力があり、容易に形を変えるが崩れる事はない。もぐりと齧ってみれば、魚の風味が広がった。
(「成程。このラーメンは、魚介と海のもので統一しているんだね」)
それが白身魚の身をすって丸めたものだと気づいたディートは胸中で呟き、そこからは無言で食べ進める。
魚介中心にまとめたラーメンの味は、森育ちのディートにとっては新鮮で、夢中になれる味だった。
「ふぅ……」
やがて最後のスープを飲み干して、ディートが空になった丼を置く。
「ごちそう様。――ところで、あごって魚の名前かな?」
席を立ちながら、近くの店員にディートはそう尋ねる。食べた味わいで、魚であろう事は察していた。
「トビウオって言う魚ですよ。一回乾燥させて、出汁に使うんですよ」
店員が指さしたのは、壁にかけられていた写真。
(「あれは邪神かその眷属……ではなさそうだね?」)
妖精の様な翅を持つ魚の写真を見ながら、ディートは胸中でひとりごちる。
翅があるとは聞いていない。もっと普通の魚みたいだった筈だ。
(「さすがにUDCを食べるつもりはないけど、身とか普通の魚と違いはあるのかちょっと気になる」)
そんな事を胸中で呟きながら、ディートは店を後にした。
大成功
🔵🔵🔵
シリン・カービン
【かんさつにっき】
らーめん、ですか。
麦を使った料理の一種なのですね。
私も初めて食べます。
(ガーネットのスマホを覗き込み)
よくわからないので、とりあえずお勧めの豚骨を。
…小太刀、ガーネット。
これは、どうやって使うのですか?
(初めて箸を持つファンタジー系住人)
なるほど、こういう食器なのですね。
今度練習してみます。
それにしても、他所からの来訪者に合わせて
食器を用意してあるとは感心しました。
(外国人向けのフォークを握り)
では、いただきます…
(レンゲを手にグツグツスープの前で固まっている)
あ、いえ、その。
…熱いです。
(小椀に移して冷ました)
「…美味し」(ふーふー)
ところで、
「冷やし中華とはなんですか?」
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
【WIZ】でスマホを活用し、お店の情報を収集
「シリン、小太刀。これがUDCアースの便利アイテム、
スマートフォンだ。これで人気のお店を探そう」
『鶏ガラをベースに、鰹、鰯、鯖のダシを加えて煮込んだ
当店独自の魚介スープ』
……私はこれにしてみるか。シリンは、この野菜タンメンとかどうだろう?
私は普段宇宙船で生産した合成食品ばかり食べているから、
こういった他の世界のグルメを楽しむのが好きなんだ。
これは……今まで全く味わったことのない味付けのスープだ。
ただ塩辛いだけじゃない、飲み干した後も口に残るまろやかな風味……これが魚介ダシの旨味というものか。
小太刀はとんこつか。美味しいか?
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
流石ガーネット準備も抜かりが無いね
そういえば2人ともUDCアースには馴染み薄いんだっけ
ど、どうしてもって言うなら案内しなくもないんだからね?(無駄にツンデレ
どれも美味しそうで目移りしちゃうなぁ
ガーネットは鶏ガラ系の魚介?
じゃあ私は豚骨系で行ってみようかな
折角だし食べ比べしてみよう
風味豊かな濃厚スープが麺に絡んでめっちゃ美味しい
沁みるわぁ
合成食品ってどうやって作るんだろ
それはそれで気になったり
お箸に悪戦苦闘するシリンかわいい!
そして猫舌、やっぱり萌え枠(確信
冷やし中華、それはカキ氷に並ぶ夏の風物詩
張り紙はもう様式美だよね
うん、気になったら試すに限る
オジサン、冷やし中華も追加で!
●ラーメンと文明の利器――かんさつにっき
「成程。らーめんとは、麦を使った料理の一種なのですね」
「うん。そうだよ」
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)の言葉を、ラーメンがどう言う料理であるか簡単に説明していた鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)が首肯する。
「それで……これが全部、そのらーめんの店、ですか」
ずらりと並ぶ数々のラーメン屋。
ラーメンが麦を使った料理と理解したからこそ、特定の料理の店がこれだけの数集まっているという光景が、シリンを驚かせる。
「うむ……これは興味深い光景だ」
ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)の口からも、感嘆の呟きが漏れていた。
「そう言えば2人とも、UDCアースには馴染み薄いんだっけ?」
小太刀が左右に結んだ銀髪をふわりと揺らして、2人の方に振り向く。
「そうだな。まだ余り馴染みはない――が」
小太刀の言葉に、ガーネットは笑みを浮かべてコートのポケットに手を入れた。
「流石ガーネット。準備も抜かりが無いね」
ポケットから出てきたガーネットの手が持っていた機器を見て、小太刀が同じような笑みを浮かべて賞賛を口にする。
「小太刀は知ってるな。シリン、これがUDCアースの便利アイテム、スマートフォンだ」
そう。ガーネットが持つそれは、UDCアースではお馴染みの携帯端末。
確かに小太刀の言う通り、この世界はガーネットの生まれた世界ではない。だが、その世界は人々が宇宙に暮らす世界。
ガーネットはそこで、次世代の宇宙船開発の為の会社を設立し、経営と研究の両方に関わっている。
こと機械分野に於いて、ガーネットがUDCアースで問題を感じる事は多くないだろう。
「ガーネット。それは何に使うのですか」
一方シリンは、ガーネットの手にある小さな画面を興味深そうに覗き込む。
「これで人気のお店を探せるんだ」
ガーネットの指が画面に触れて、その上を滑ると画面がパッパッと切り替わる。
「どれも美味しそうで目移りしちゃうよねぇ」
小太刀も横から覗き込み、3人で1つの画面を見る形になった。
「成程……この小さいものはらーめんを探す道具ですか」
「「うん、間違ってないけどラーメンだけじゃない」」
シリンのちょっとした勘違いにガーネットと小太刀の声が揃ったりしつつ、あそこでもない、ここでもない、とラーメン屋を調べていく。
「ふむ……『鶏ガラをベースに、鰹、鰯、鯖のダシを加えて煮込んだ“当店独自”の魚介スープ』か。私はこれにするかな」
「ガーネットは鶏ガラ系の魚介? その店、豚骨系もあるね……じゃあ私は豚骨系で行ってみようかな」
やがてガーネットが1つのラーメン屋のキャッチフレーズに指を止め、小太刀も同じ店のメニューを確認して頷く。
「シリンはどうする? お勧め?」
「シリンの出身は森だったな? この野菜タンメンとかどうだろう?」
小太刀とガーネットは画面から顔を上げると、悩んでいるのか眉根を寄せたシリンにそれぞれ声をかける。
「そうですね……よくわからないので、とりあえずお勧めの豚骨にしてみます」
シリンも画面から顔を上げると、2人に向けて小さく頷いた。
「これで店は決まったな。場所は――」
ガーネットはスマホを再び操作するが、地図が出てこない。ラーメンストリートの中の地区番号のようなものは出てくるが。
「あ、わかったかも」
再び横から覗いていた小太刀が、その番号を見て声を上げる。
「ど、どうしてもって言うなら案内しなくもないんだからね?」
「はい、どうしてもです。小太刀、お願いしますね?」
何故かここでツンっぽく振舞った小太刀だったが、シリンの素直な一言に、あっさりと顔を赤くして――つまりデレて『こっちよ』と歩き出す。
(「デレるの早くないか?」)
声には出さずに呟いて着いて行くガーネットは、実はこの3人の最年長であった。
「……小太刀、ガーネット。この木の棒は、どうやって使うのですか?」
シリンに試練再び。
無事に目当てのラーメン屋について、テーブル席に案内され、注文を済ませた。
そこまでは何も問題がなかった。
今、シリンは手に取った割り箸をしげしげと見つめている。
「ああ、それはね。こうやって――」
向かいに座った小太刀がシリンの手から割り箸を受け取って、それを横に持って上下に引っ張る。割り箸は、真ん中の割れ目から2つにパリッと割れた。
「この状態で、2本を1組にして挟んで口に運ぶの」
「なるほど、こういう食器なのですね」
割ったあとの割り箸を小太刀から戻してもらうと、シリンは小太刀がやってみせたように指に挟んで動かそうとして――ポロリと割り箸が落ちる。
「難しいですね」
(「お箸に悪戦苦闘するシリンかわいい!」)
眉根を寄せるシリンを、小太刀が正面からそんな思いで眺めていると、シリンの横にすっとカラトリーボックスが寄せられた。
「シリンはこちらの方が使い易いんじゃないか?」
ガーネットが指したのは、外国人向けに用意されたフォーク。
「そうですね。確かにこれなら――他所からの来訪者に合わせて複数の食器を用意してあるとは、感心しました」
「この辺りのサービスの細かさは、宇宙船でも活かせないものか」
カラトリーボックスの中からフォークを取りながら感心と告げるシリンに頷き、ガーネットもそちらの方が慣れているのかフォークを取っている。
「箸は、今度練習してます」
「うん。ラーメンはゆっくり食べてると伸びちゃうからね――あ、来たよ」
シリンが返した箸を受け取りながら、小太刀がその後ろを見て声を上げた。
運ばれて来た、3杯の丼。
鶏ガラと魚介の合わせ出汁に醤油ベースのタレで味を整えたやや色が濃い目のスープが湛えられた丼が、ガーネットの前に。
小太刀の前に置かれた丼には、やや茶色がかった味噌豚骨スープ。
シンプルな濁った白色の豚骨スープの丼は、シリンの前に。
「「「いただきます」」」
3人の声が重なり、それぞれにまずはレンゲを取――。
「「シリン?」」
レンゲを取って、まずはスープを味わおうとしたガーネットと小太刀が、何故か固まっているシリンを見やる。
「あ、いえ、その」
2人の視線に、シリンにしは珍しく戸惑いを露わに短い言葉を呟いて。
「……熱いです」
正直に、告げた。
(「猫舌だなんて、やっぱり萌え枠」)
その素振りと表情でそう確信し、小太刀が心の中でぐっと拳を握る。やっぱり、と言う事は以前も何かあったのだろうか。
「それを使うといい」
ガーネットが各テーブルに備えられている取分用の小椀をシリンの前に置く。
これで3人、準備は整った。
いざ、実食の時である。
「これは……今まで全く味わったことのない味付けのスープだ」
レンゲでスープを掬って口に入れたガーネットの赤い瞳が、思わず見開かれる。
次は中太麺をスープに絡めて、ズズッと啜る。
「濃い目の味は、麺と合う……! しかし、スープのみでもただ塩辛いだけじゃない。飲み干した後も口に残るまろやかな風味……これが魚介ダシの旨味というものか」
「ガーネット、語るねぇ」
「ああ。私は普段、宇宙船で生産した合成食品ばかり食べているからな。こういった他の世界のグルメを楽しむのが好きなんだ」
小太刀からのツッコミに、ガーネットは小さな笑みを浮かべて返す。
「そう言う小太刀は豚骨か。美味しいか?」
「うん。仄かに味噌が香る風味豊かな濃厚豚骨スープが麺に絡んでめっちゃ美味しい。沁みるわぁ」
ガーネットよりも短いものの、小太刀も中々の味の語りっぷりである。
或いは、半ば無意識で負けず嫌いを発揮していたのだろうか。
「らーめん……美味し」
シリンも小椀に移したものをふぅふぅと冷ましながら、豚骨スープとそれを絡ませた細麺の味を噛み締めている。
「あ、そうだ。小椀もまだまだあるし、折角だし食べ比べしてみない?」
小太刀のその提案で、3人は互いのラーメンを取り分け始めるのだが。
互いの味の感想を言っていた口が、次第に言葉少なになり――やがて3人のテーブルからは、麺を啜る音だけが聞こえていた。
3人の前にある丼が、それぞれ空になった頃。
「ああ……美味かった」
余韻に浸るガーネットの隣で、シリンは何やら壁の方を見つめている。
「冷やし中華とはなんですか?」
「それに気付くとは……さすがシリン」
口を開いたシリンに、小太刀が小さな笑みを浮かべる。
「冷やし中華、それはカキ氷に並ぶ夏の風物詩。張り紙はもう様式美だよ」
「……?」
小太刀の説明に、シリンが小首を傾げる。
「ガーネット、まだ食べられる?」
シリンのその表情を見た小太刀は、何故かガーネットにそう問いかける。
「ん? まあ食べられるが……まさか」
「うん、気になったら試すに限る。オジサン、冷やし中華追加で!」
意図に気付いたガーネットに頷いて、小太刀は追加注文の声をあげる。
「ところで私、合成食品ってどうやって作るんだろって気になるんだけど」
「あ、私も気になります」
「ああ、それはだな……」
冷やし中華が届くまでしばし、ガーネットの世界での合成食品の作られる過程の話で3人は盛り上がるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
日隠・オク
サクラコさん(f09974)と!
たくさんのラーメン店、これがラーメンストリート……
お魚の怪異、やっつけないといけないですね
まずはラーメンを食べて、ということなので、サクラコさんと一緒にラーメン食べたいと思います
手もみ麺の醬油ラーメン
煮干し鯖節などの魚介類と丸鶏を煮込んだ清湯スープに
数種類の醤油を使用した醤油ダレ
表面にはさらりと鶏油
自家製麺のちぢれた手もみ麺
厚切ロースの炙りチャーシューを載せて(byサクラコさんプレゼンツ
お、おいしそう……。
いただきます。
この組み合わせが生むおいしさを感じます
お、おいしい……!
サクラコさんの頼んだラーメンもとってもおいしそうです……!
ラーメンが雑炊にもなるんですね
鏡彌・サクラコ
【オクちゃんf10977と一緒】
ラーメン大好きサクラコといえば有名でいす!
というわけで、オクちゃんと一緒に食べ歩きですねい
サクラコの作ったマル秘ガイドを見つつ
どれに行きましょうか?
オクちゃんは醤油がお好きそう?
ではこちらで!
サクラコはこちらの鯛をいただきましょう!
鯛の白湯ラーメン
鯛の中骨、鯛煮干しをじっくり煮込んだ白湯スープ
塩田で作られた天日塩
やや固めに茹でられた細麺
低温調理の赤いチャーシューを薔薇の花のように盛り付け
青菜を添えて彩りに
締めに小さめのご飯をいただきお雑炊に
オクちゃんにもちょっと分けてあげますねい
はー、美味しかった!
ごちそうさまでいす!
●拘りの魚介系
ラーメンストリートを歩く、少女が2人。
「たくさんのラーメン店が……これがラーメンストリート……」
長い垂れ耳を左右に揺らし、日隠・オク(カラカラと音が鳴る・f10977)が周囲を見回している。どこを見ても、あっちにもこっちにもラーメン屋である。
「こんなところに、お魚の怪異が現れちゃうんですね」
「出ちゃうみたいですねい」
オクの言葉に、鏡彌・サクラコ(鏡界に咲く花・f09974)が独特の語尾を持つ口調で相槌を打つ。
「お魚の怪異、やっつけないといけないですね。サクラコさん、お願いします」
このオクのお願いは、怪異に直接関係はない。
「ここはサクラコに任せるでいす。ラーメン大好きサクラコといえば、ちょっと有名ですからねい!」
そう。
怪異に巻き込まれる為に必要な、ラーメンを食べる事に関係する話だ。
「サクラコの作ったこのマル秘ガイドがあれば、迷う心配はないでいす!」
サクラコが取り出したのは、ラーメンストリートの各所に置かれた案内パンフレット――に見えるが、そうではない。
追加の情報がびっしりと書き込まれた、まさにマル秘ガイドである。
「どれに行きましょうか?」
「うーん……私、何のラーメンが好きなんでしょう? サクラコさんのお勧めにおまかせしたいです」
サクラコの広げたマル秘ガイドの地図を眺めながら、オクが首を傾げる。
「そうですねい……オクちゃんは醤油がお好きそうなので――」
サクラコはガイド片手に、反対の手でオクの手を取って手を引きながら、ズンズンと迷わずラーメンストリートを進んでいき。
「こちらで!」
やがて、複数種の魚介ベースのスープを売りとするラーメン屋の前で足を止めた。
「いらっしゃい!」
暖簾をほとんど揺らさず潜った2人を、店員の声が出迎える。
「魚介清湯ラーメンと、鯛の白湯ラーメンを1つずつお願いでいす」
案内されたテーブル席に座るなり、サクラコはメニューも開かずに、迷わず2人分の注文を告げた。
「あ、それと締めのご飯もつけてくださいでいす!」
「締めなんですか?」
「あとでわかるでいす」
サクラコの追加で告げた注文を聞いて首を傾げるオクに、サクラコはいつもより少しだけ悪戯っぽそうな笑みを浮かべて返した。
程なくして、2人のラーメンが運ばれて来た。
オクの前に来た丼の中には、透き通ったスープが湛えれている。
透明なスープの正体は、鶏丸一羽を、煮干や鰹節などの特に乾燥させた魚介類と共に煮込んでダシを取った清湯スープに、数種類の醤油を独自の比率で混ぜ合わせた特性の醤油ダレで味を整えたもの。
表面に浮かぶ油は、さらりとした鶏油。
トッピングの中でも特に目を引くのは、厚切ロースの炙りチャーシューである。
「お、おいしそう……いただきます」
オクが箸を入れる前から、透き通ったスープの中には、縮れた手もみ麺が泳いでいるのが見えている。
オクはそれを数本を箸で掴んで、軽くふぅふぅ冷まして一気に啜る。
「お、おいしい……!」
麺を入れた瞬間に口に広がる、潮の香。
鶏ガラと複数の魚介類を纏めたからこそ生まれる、色が薄いのに深い味わい。その美味しさを感じて、オズの口から思わず声が出ていた。
「サクラコさんの頼んだラーメンもとってもおいしそうです……!」
ふと、オクが隣を見ると、サクラコの前に置かれた丼の中は、オクのそれと対象的に白く濁っていた。
「鯛の風味たっぷりで、美味しいですねい」
鯛の身だけではなく、アラや中骨に天日干しにした鯛の干物も一緒にグツグツと、中骨の中の成分が乳化するまで煮込まれた鯛白湯スープ。
味を整えるのに使ったのは、塩田で作られた天日塩。
スープに隠れて見えないが、中にある麺はやや固めに茹でられた細麺。
低温調理でじっくりと熱を通し、レアに仕上げられた赤いチャーシューで薔薇の様に盛り付けられた周りを、茎やガクの様にアオサとほうれん草が彩る。
次第に2人とも静かになり、しばし麺を啜る音だけが聞こえるようになっていた。
さもあらん。
ラーメンはあまり長く時間をかけていると、麺はのびてしまうのだから。
「はあ……おいしかったです。後はスープを――」
「あ、ちょっと待つでいす」
麺を殆ど食べ終わったオクが残るスープを飲み干そうとするのを、サクラコが横から制して止める。
「これでいす、これ」
サクラコが言う「これ」とは注文時に追加しておいたご飯である。
「これを、こうするのでいす」
サクラコはごはんをレンゲで大きく掬うと、それを己の前の丼に静かに投入した。
鯛の白湯スープの中にごはんを入れて混ぜ合わせれば、ラーメン雑炊の完成である。
「このお雑炊が、美味しいのでいす」
にこりといつもの人懐こそうな笑みを浮かべて、サクラコは半分ほど残った茶碗をオクの方へと寄せた。
「オクちゃんにもちょっと分けてあげますねい」
「ありがとうございます」
オクもサクラコに倣って、残るご飯を自分の前の丼に入れていく。
透明なスープにご飯を入れて混ぜれば、中のご飯が泳ぐのが見えた。
「ラーメンが雑炊にもなるんですね」
この締めは初めてだったのか、ご飯を入れた清湯スープを混ぜ、中のご飯が泳ぐのを眺めながらオクが感心したように呟く。
2,3度混ぜたあとでご飯とスープを一緒に掬って口に入れてみれば、確かに雑炊を食べている様な食感が口の中に広がった。
再び、2人は静かになる。
「はー、美味しかった! ごちそうさまでいす!」
「ごちそうさまでした」
はっきりと2人が声を上げた時、それぞれの前にある丼は最後の一滴まで残さず、綺麗に空っぽになっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『とんこつ原理主義あるいは福岡よりの刺客』
|
POW : 厨房や生産施設に押し入って物的証拠を探す等
SPD : 実食して味覚や嗅覚を頼りに異物の正体を類推する等
WIZ : 生産者や愛好者への聞き取りを行って手掛かりを探す等
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●過ぎたるはなんとやら
思い思いに、ラーメンを楽しみ舌鼓を打った猟兵達。
だが、まだ何も異変の兆候は起きる気配はない。
そう思っていた。
だが、それは既に起きていたのだ。
そうと気付いたのは、西の空が赤く色づき始めた頃。
「お疲れ様でーす」
「それじゃお先です」
シフトを終えたのか、あちこちのラーメン屋から、着替えた店員さん達が出てくる。
しかし、しかしだ。彼らの大半は、何故かラーメンストリートの外ではなく奥――製麺施設のある方へと向かっているではないか。
帰らないのだろうか?
「帰らないって言うか、もう帰れないんですよ」
不審に思った猟兵達が後を尾けてみると、彼らの1人が真顔でそう言ってきた。
帰れないとは、一体――。
「もうね。此処のラーメンがないと駄目なんです」
――ん?
「此処のラーメン食べてからじゃないと、寝られない体になってしまったんです」
――んん?
「もう他の食事なんて考えれない! 此処の豚骨魚怪だけ食べられればいいの!」
んんんん???
他の人達から上がる、おかしな声の数々。
帰れない理由。もとい、帰らない理由。ラーメンが好きになり過ぎて。
おかしい。明らかにおかしい。
愛好家だとしても限度がある。
彼らの食べたラーメンに、何か混入されていたのだろうか。
――あれ? もしかして、同じものを食べたかもしれない?
おかしいと言えば、彼らの顔つきもだ。どことなく、違和感があるような。
陽が暮れようとしていた。
夕暮れ時が近づいている。
逢魔ヶ時、人と怪異が交わり易いとされる時間帯が近づいている。
――ラーメンストリートの中でも異変が起きていた。
あちこちに貼られた『冷やし中華始めました』の紙。その先頭の二文字が薄れていき下から別の文字が現れる。
あちこちの冷やし中華は、いわし中華に変わっていた。
そしてもう1つ。
何件かの店で掲げていた、豚骨魚介、の4文字。
その1字がいつの間にか変わっていたのだ。
豚骨魚怪、へと。
====================================
2章について。
ラーメンストリートの店員さん達の中に、
ストリート内の豚骨魚介系ラーメンに
異常な執着を見せる人達がいるのが判明しました。
さらに冷やし中華がいわし中華に。
豚骨魚介が、豚骨魚怪に。
その謎を追っていただく形になります。
ラーメンに何か混入されていたようですが……?
選択肢の項目はあまり気にせず、
やりたいようにやって頂ければ、何とかします。
なお、混入されていた何かによる執着の効果ですが、
猟兵にも効果があるかどうかについては、
効いてもいいし、効かなくてもいい、です。
つまり、皆様個々人の『好きにして』頂いて構いません。
特に有利不利は(成功度の上で)ありません。
(なおネタ的な意味ではどうにかなるかもしれませんが)
=====================================
霧城・ちさ
ラーメンを食べないと寝れない……おかしな行動も気になりますし調査しないといけませんわね。冷やし中華がいつのまにかいわし中華になっていたのも驚きですの
たしかにラーメンは美味しかったですが何か入ってたかどうかを調べないといけませんわっ。正気でない方を元に戻しますわね。治療を試してみてだめなら製麺施設を調べて原因を確認して対策を考えますの
他の美味しい食べ物をお出しした時の反応も見てみたいですわっ
ラーメンに勝てれば眼を覚ますかもしれないですの
協力やアドリブはokですわっ
鵜飼・章
いわし中華はラーメンじゃないけど
豚骨魚怪はラーメンでしょう
なら店員について行って実食するしかない
さあ行くよ
僕に今更怪異の効果があるとも思えないし
【毒耐性】もあるので躊躇なく食べて食レポ
何か違和感があれば解ると思う
ついでに被害者の目も醒ましておこう
魔導書からゴキブリを出し
仲間以外のラーメンや器具に混入させる
すみません
ゴキブリ入ってるんですけど
ここの衛生管理どうなってるんですか?
魚怪系の怪ってまさか……ゴキブリ出汁!
善意のクレーマーを装い
UCと【催眠術】の効果で店員達を洗脳
各会話技能も適当に使って集団パニックを誘発し
怪しい人物を問いつめる
説明してくださいよ
グルメサイトに悪評を書かれたくなければね…
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
そんなにおいしいのかな
ううん、らーめんはおいしかったけど
店員さんについていってみよ
同じお店に入って
わたしもとんこつ食べる
バリカタでっ(言ってみたかった
わ、すごい
さっきとぜんぜんちがう
めんが
かたい
アヤカはかたいのすきなの?
あっ、高菜いれよう
わたしもぴりから食べるっ
ちょっと辛いくらいはへーきっ
アヤカと裏口さがして
そーっと覗いたら調理場
なにか入れてるようすはあるかな
見つかりそうになったらぴゃっと閉めて首振り
次はめんふつうにする
なんだからーめんいくらでも食べられるような気がしてきた
なんでかな
スタッフオンリーに潜入
なにかあるかな
なにをまぜたんだろう
調理場で見た光景を思い出して探す
浮世・綾華
オズ(f01136)と
店員の後を追い店でラーメンを注文
俺もバリカタ
ん、歯ごたえあるのすき
ふふ、そりゃバリカタだからな?
食いづらいならちょっと待ちな
俺は辛子高菜
ぴり辛でうめー
オズもほら
…辛いのダメだっけ?
常連に聞き込み
うまいって声が多かった店の周辺調査
あ、裏口。行ってみよ
おー危ね、せーふせーふ
店内の調査
バリカタじゃねーの?とわざと聞き笑い
オズって見かけによらず結構食うよな
俺はわりと腹いっぱいなんだが
スープの香り、味もしっかり確認してみる
…魚介、豚骨、それ以外の味?
客の話に聞き耳を立てつつ店内を観察
あ、あった。スタッフオンリーの扉
店員の目を盗み…
普通ラーメンに入ってないよーな素材とかありそ?
穂結・神楽耶
【アドリブ・連携歓迎】
いわし中華?
豚骨魚怪?
…何言ってるんですかこの怪奇現象は。
そこ変えてどうするのですか。食べてほしいのですか?
それじゃあお望み通り食べさせて頂きますか。
豚骨魚怪に囚われた店員様方と同じお店へ、同じメニューを注文します。
わたくしはヤドリガミですし、毒にも耐性がありますから大丈夫でしょう。しっかり味合わせて頂きます。
食べて分かればいいのですが、念のため。
『蝶』を飛ばして店の内部も調査しておきますか。
何か見つかれば御の字です。何もないと言うことも恐らくありません…よね?
ひとまず二杯目を食べながら考えましょうか…。
あ、あれ?いつの間に?
満月・双葉
ふむ…何かそれっぽいの食べたような…?
麻薬的な物が入っていたとは思いませんでしたが……
UDC名物邪神の効果がそれなのですかね……?
ちょっとこのムーブメントに乗っかってみるのも悪くないでしょうか。
念の為カエルのマスコットさんに先行して貰い情報収集しつつ進みまょうか。
イワシ中華…イワシは足が早いんでしたっけ…?
カエルのマスコットさん、中毒にならない。
お前の食事シーンはマスコットの愛らしさ無くなるんだから。
子供の夢的なものが破壊されるでしょうが!
三池・葛士郞
魚怪にいわし中華か。
フ…超絶天才のボクにはもう真犯人の姿が見えているよ!
「この事件の犯人は――いわしだ!!」
(誰でもわかる)
そうと決まれば犯人(いわし)を探さないといけないね
豚骨魚怪と銘打つからには、スープに何かが入っていたに違いない
犯人(いわし)はもしや、まだスープで出汁をとられているのでは…?
きっと仕込みも時間がかかるだろうし
なにしろあのラーメンはとても美味しかったからね
ああ、また食べたくなってきたなぁ
なにしろイケメンにイケ麺はつきものだし
というかイケメンはイケ麺を食べなければいけないのでは?
そうだ、食べないと…イケ麺を食べてボクもイケ麺にならなければ!!
(イケ麺を求めてさすらうゾンビ)
ジャハル・アルムリフ
あの味が何者かの思惑であったとは…
確かに忘れ難い美味であったし
叶うなら明日も食したいとは思う
思うが――これは、まさか
否、ひとまず調査だ
夕刻故、これは夕餉
調査に乗り込んだ怪しい店で「トンコツ」を注文
注文を取る者、調理の様子や会話
出入りする業者などを研ぎ澄ませた第六感や視力その他で観察
…しつつ、しかと味わう
うむ、この風味だ、悪と断じるには惜しい
何かおかしなものが混入されていないか
最後の一滴まで違和感を探る
店主殿よ、この店は実に素晴らしい
料理人ならではの拘りと矜恃
己で磨き上げた伝統の技を感じられた
…ならば決して、悪魔に魂など売ってなどおられまい?
怒りか苦悩か、不自然か
ひとつでも端が見えぬものか
ユニ・エクスマキナ
え?(胸に手をあて暫し考え)
うーん、特に変わった気はしないな
清史郎くんは?
…あれ?そんなにラーメン好きだったっけ?
やっぱり、変なラーメン食べたんだ…!
ユニ、責任持って一緒に行ってあげる!
…でも、皆がハマるってことは
もしかして、すごーく美味しいラーメンなんじゃない!?
ユニ、ちょっと食べてみたいかも……!
ねぇ、ユニたちも行ってみよう!
それで、食べてみよう!
ホントにこれが皆毎日でも食べたいラーメンなの?
ふーん……(明らかにがっかりしてる顔
とりあえず食べよっ
うーん、美味しいといえば、美味しいような……?(洗脳されてる
あぁ!どうしよう!
ユニも毎日ラーメン食べに来なきゃいけない身体になっちゃったのねー!
筧・清史郎
ユニ(f04544)と
ユニは変わった様子はないか?
俺も特に自覚はない、が…
ラーメン、か
先程食したはずだが…また食しても良い気はしているな
調査も兼ねて、再び食べに行ってみるか?
ふむ、確かに先程のラーメンも美味であったが
人をダメにするラーメン、か
それは如何ほどのものなのか、確かに興味はそそられる
では食べに行ってみよう(微笑み
…これが、好きになりすぎてしまうラーメンか
一見、それほど夢中になるような、特別美味しそうな見目はしていないが…
この何の変哲もないところが良いのだろうか
では、俺も一口(雅に
普通に美味、だが…普通にな(首傾げつつ
ただ、少し魚介の味が濃い気がするが…ユニ? 大丈夫か?
…替え玉するか?
●怪異の気配
「冷やし中華が、いつのまにかいわし中華に……驚きですの」
文字が変わるという怪奇現象に、霧城・ちさが小首を傾げて目を丸くする。
「こっちは豚骨魚怪に……これも、UDC名物邪神の効果ですかね……」
満月・双葉は、文字が変わった幟に胡乱気な視線を向けている。
「フッ……超絶天才のボクにはもう真犯人の姿が見えているよ!」
そんな2人の間で、三池・葛士郞がふぁさぁと髪をかき上げていた。
「この事件の犯人は――いわしだ!!」
まるで推理ドラマの探偵役の様にびしっと指差し、葛士郞は言い放つ。
看板に向かって。
「それは……グリモアベースでも聞かされてますの」
ちさはいつもの丁寧な言葉遣いでやんわりと葛士郞にツッコミを入れているが、他の猟兵達の中には、何を言っているんだお前は、的な視線を向けている者もいたとか。
「問題はいわしかどうかより、この変わった文字でしょう」
介から怪に変わった幟の文字を、穂結・神楽耶の指が撫でる。
触ったところで特に変化は起きなかった。
(「冷やしがいわし。魚介が魚怪」)
――まさか、食べて貰いたいとでも言うのだろうか?
「……何言ってるんですか、この怪奇現象は。そこ変えてどうするのですか」
そんな考えが過ぎってしまい、神楽耶の口から思わず怪異へのツッコミが飛び出す。
「この現象の意図は判らないけれど、確かな事がひとつある」
と、それまで黙って周囲の変化を見守っていた鵜飼・章が口を開いた。
「いわし中華はラーメンじゃないけど、豚骨魚怪はラーメンでしょう」
何を言っているんだお前はパート2。
「冷やし中華から変わったのなら、いわし中華も冷やしの同類だろう。僕は許さない」
「……ラーメンのジャンルの問題でもないような」
章の口から飛び出す過激発言に、神楽耶は思わず突っ込んでいた。
怪異にツッコミ、猟兵にもツッコミ、忙しい。
「というか、何時からいわしで魚怪なんでしょうね」
ふと、双葉が上げた声に視線が集まる。
「いえ、その……最初からだったら、何かそれっぽいの食べたような……?」
麻薬的な何かが入っていたとは思いませんでしたが、と双葉は付け加える。
その言葉に、衝撃を受けた者が何人かいた。
「まさか、あの味が何者かの思惑であったかも知れぬと言うのか……」
ジャハル・アルムリフも、その1人である。
(「確かに忘れ難い美味であったし、叶うなら明日も食したいとは思う。思うが――これは、まさか」)
目を閉じ、記憶を反芻すれば、まだ思い出せる。
あの味は純粋な美味であったと思いたい反面、ジャハルの星守の、護竜としての経験と第六感が、怪異を前にただ素直に信じることの邪魔をする。
そして――。
「ユニは変わった様子はないか?」
「え?」
筧・清史郎にそう問われ、ユニ・エクスマキナはどきりとした様子で目を丸くして、思わず胸に手を当てた。
「うーん………特に変わった気はしないのねー」
しばし考え、ユニは自分は大丈夫だろうと頷く。この時は、確かにそう思っていた。
(「だってユニが昼間食べたのは、シンプルな醤油ラーメン……あれ?」)
そこまで考えて、ユニはふと気づく。
気づいてしまう。
そう。危ないのは、むしろ――。
「清史郎くんは?」
「俺も特に自覚はない、が……ラーメン、か」
ユニに問われた清史郎は、顎に手を当て何か考え込むように視線を伏せる。
「清史郎くん?」
「いや、先程食したはずだが……また食しても良い気はしているな」
顔を上げた清史郎は、真顔だった。
「……あれ? そんなにラーメン好きだったっけ?」
「いや、そう頻繁に食すものではなかったのだが。不思議だな。調査も兼ねて、再び食べに行ってみるのも良い気が――」
「やっぱり、変なラーメン食べたんだ……!」
清史郎は不思議だとどこか優雅に笑っているが、ユニの方があたふたしている。
「変なラーメンだったかは、なんとも言えねーけど。ひとつ判った事があるぜ」
そこに浮世・綾華がメモを手に戻ってきた。
「アヤカがね。じょうれんさん、に話を聞いてきたの」
その後ろから、オズ・ケストナーがひょこりと顔を出した。彼らの言う常連は、先の帰らないとか言っていた人達だろう。
「うまいって声があったのは、見事に文字が変わっている店ばかりみたいだぜ。ざっと見聞きした程度だけどな」
「そんなにおいしいのかな? ううん、らーめんはおいしかったけど」
綾華の聞き込みにオズも同行していたのだが、人々の反応を見ていても、オズは首を傾げずにはいられなかった。その足元を、緑の影が通り抜ける。
「カエルさんも同じだと言っていますね」
双葉の肩に、緑のカエルのマスコットが乗って来た。
念の為にカエルさんを先行させて、情報を探らせていたのだ。
「決まりだね。豚骨魚怪と銘打つからには、スープに何かが入っていたに違いない」
葛士郞が無駄に自信ありげにポーズを決める。
「そうと決まれば犯人(いわし)を探さないといけないね!」
「こうなると、何か入ってたかどうかを調べないといけませんわっ」
続く葛士郞の言葉に、ちさがぐっと拳を決意で固めて頷く。
「なら、手段は1つだ――店員について行って実食するしかない」
「そうですね。このムーブメントに乗っかってみるのも、悪くないでしょうか」
「それじゃあお望み通り食べさせて頂きますか」
「そうだな。ひとまず調査だ」
章の提案に、双葉と神楽耶も頷く。
「ねぇ、ユニたちも行って食べてみよう! ユニ、責任持って一緒に行ってあげる!」
「うむ。やはり興味はそそられるしな」
責任を感じているのか、小さな拳を握るユニに、清史郎が微笑みを浮かべて頷く。
他の猟兵達からも、ツッコミの声は上がらなかった。
猟兵達は、再びラーメンストリートに向かうのだった。
●ラーメンに悪魔は潜むか
「夕刻故、これは夕餉」
そう自分に言い聞かせ、ジャハルは1軒の店に踏み込んだ。
勿論、様子がおかしくなった人が入っていった所である。
「トンコツを頼む」
「はーい。トンコツ一丁です!」
注文をとりに来た店員。厨房で調理に入る店員、店主。
ジャハルはその様子をつぶさに観察し、違和感がないか見極めんとする。
(「これと言っておかしな様子は……少なくとも、悪意はなさそうだが」)
そうしている内に、丼が運ばれてきた。
「うむ、此れだ」
数時間前にも見た、独特の色の白濁スープ。色は少し異なり、茶色がかっている。
混ぜてみれば、やはり見えてくる極細麺。
一気に啜れば、これまた口に広がる味と香り。
(「うむ、この風味だ」)
全く同じではない。何か、なかった味わいがあるようだが――味わいの深さと言う意味では遜色はないだろう。
毒があるとも思えない。
それでも、油断は禁物。ジャハルは何かおかしなものが混入されていないか、スープの最後の一滴まで、麺の1本も残さずに、違和感を探りつつ――完食した。
(「やはり、悪と断じるには惜しい味だ」)
だが、怪異が外で起きているのも事実。
故にジャハルは――直接、問う事にした。
「店主殿よ、この店は実に素晴らしい。料理人ならではの拘りと矜恃、己で磨き上げた伝統の技を感じられた」
「そうかい……そいつは、ありがてえ言葉だ」
ジャハルの堅いが率直な賛辞に、店主が表情を綻ばせる。
「……ならば決して、悪魔に魂など売ってなどおられまい?」
スっと目を細め、ジャハルは問い質す。もとより、ジャハルの性格は至誠である部分がある。こう言う局面で搦め手は、あまり長けている方ではない。
(「さあ。どう出る。怒りか、苦悩か、不自然か」)
なにかひとつでも、感情の端が出ないか。それを見逃さぬよう、ジャハルが店主を注視していると、店主はふっと笑みを浮かべて観念するかのように両手を軽く掲げた。
「いやぁ、参った。こんなに舌の肥えてる外国のお客さんは始めてだ」
そう言うと、店主は何か茶色い粉が入った袋をジャハルに見せた。
「これは?」
「魚粉だ」
その名の通り、魚を乾燥させた後に粉にしたものである。
「此処の製麺工場で作られてて、希望する店に配られてるんだ。練りこまれてる麺もあるし、スープに溶かせば、あっと言うまに豚骨魚介になる代物さ。
こんなもんに頼るようじゃ、悪魔に魂を売ったと言われても反論できねえなぁ」
ふっと自嘲気味に、店主は笑う。
その答えはジャハルが危惧していたものではなかった。
(「少なくとも此処は、この店主は美味を求めている。先の一杯に何かが入っていたとしても、それは他の者の思惑であろう。――工場、か」)
「そうか。不躾に変なことを聞いてすまなかったな。馳走になった」
ジャハルは丁重に頭を下げると、店を出る。
「製麺工場……すぐに向かうか、もう一軒くらい確かめるか……」
この選択も、ジャハルにとっては難問になりそうだ。
●謎の魚粉
「イワシは足が早いんでしたっけ……?」
「そうですね。マグロを10とするなら、いわしは1しか保たないとか」
双葉の呟きに、神楽耶が返す。
文字が変化したとは言え、ラーメンストリート全体で見れば、変化を起こした店はさすがに限られる。
店員についていった結果、2人は同じ店に入っていた。
敢えて分ける必要もないだろう。
「お待ちどう! いわし中華と、豚骨魚怪ラーメンです!」
そんな話をしながら待っていると、双葉の前にいわし中華、神楽耶に豚骨魚怪ラーメンがそれぞれ出てきた。
豚骨魚怪ラーメンは、見た目は普通の豚骨魚介と変わらないように見えた。
少なくとも、神楽耶が昼間に食べたラーメンと大きく変わらないように見える。
「……」
一方、双葉のいわし中華には、通常の五目冷やしならチャーシューかハム辺りがあるところに、煮付けられた魚の身が入っていた。いわしだろう。
「すみません」
双葉は軽く手を挙げ、配膳した店員を呼び止める。
「これはいわしの身ですか」
「そうですよ。いわし中華だから」
「では、この麺は? この麺にも、何かの魚粉を混ぜてあるんですか?」
「えっと、それは……その……製麺工場で作ってて、その、秘密です」
双葉の問いかけに、1つ目は迷わず頷いた店員だが、2つ目は周りを気にしながら答えにくそうに頷く。
そして、2人がそんなやり取りをしているその間に。
――花の袂へ、羽根を拡げて。
小声で呟いた神楽耶がテーブルの下に隠した指先が赤く瞬いて、そこから現れた炎蝶の群れがひらひらと店内に飛び出していた。
(「食べて分かればいいのですが、念のためです」)
追跡対象を特に持たされなかった赤鉄蛺蝶は、そのまま厨房の方へ飛んでいく。
本来なら虫などご法度であろう場所だが、神楽耶のユーベルコードで喚ばれた蝶は極めて見つかりにくい。
「それでは、頂きます」
今回も長い黒髪を後ろで一つに束ね、神楽耶は手を合わせて箸を取る。
「そうですね。頂きましょう」
双葉も頷き手を合わせる。
その足元で『ケロッ』と緑のカエルさんが鳴いた――次の瞬間。双葉の皿の上から、いわしの切り身が一切れ消えた。
(「……ふむ。食べても即、どうこうなるって事はなさそうですね」)
カエルさんの様子で少なくとも劇薬でない事を確かめ、双葉もまずイワシの身を口に運んだ。やや濃い目に甘辛く煮付けられた身は、噛めば簡単に崩れて、タレの甘辛い味の後に魚の旨味が広がった。
やや酸味が利いた麺の中華タレとの相性も、抜群。それがかかったきゅうりや錦糸卵とも一緒に食べても合う味付けだ。勿論、麺と一緒に食べるのもいい。
(「やはり麻薬的な物が入っているとは思えませんね……普通に美味しいですよ」)
『ケロケロ』
双葉が夢中になって啜っていると、足元から鳴き声が聞こえた。
「だめです。カエルのマスコットさん、中毒にならない」
ボソボソと小声で、双葉はカエルさんに告げる。
「お前の食事シーンはマスコットの愛らしさ無くなるんだから。子供の夢的なものが、破壊されるでしょうが!」
その食事シーンがどんなものであるかは――謎である。
(「何の話をしてるんでしょうね?」)
双葉とカエルさんのやり取りを眺めながら、神楽耶は豚骨魚怪ラーメンを無言で啜っていた。
実際、食べてみても双葉には昼間のラーメンとの大きな違い――少なくとも怪しい違いは感じられないでいた。
麺は確かに違う。昼間の店よりもこちらは太く、よく見れば何かが練りこまれているようで粒粒が見える。後はチャーシューの数が少ないとか、具材の違いはあるが。
(「強いて言うなら、少しスープの味がすっきりしているような……」)
黄金に近い色の濁ったスープを飲みながら、神楽耶は考える。
後味がやや軽いと言うか。しつこくない。だが、それが逆に後を引く。
その時、神楽耶の脳裏に赤鉄蛺蝶からの映像が届いた。厨房の奥の様子だ。何かの粉末がたっぷり入った丼に、今飲んでいるのと同じスープが注がれている。
(「粉末……そう言えば、面にも魚粉がどうとか」)
神楽耶が胸中で呟いた時である。
「ここにイケ麺はあるかい? ないようだね! じゃ!」
店の扉が開いたかと思うと、そこに残念そうな金髪碧眼イケメンが立っていて、そんな事を言ったかと思うとさっさと去っていった。
「あれって……」
「間違いない筈です」
思わず顔を見合わせる、双葉と神楽耶。
あれはさっきまで一緒にいた猟兵の1人ではなかったか。別行動をとってから、まだそんなに時間は経っていないが……?
「ひとまず二杯目を食べながら考えましょうか……」
「……え? もう食べたんですか?」
神楽耶の口から漏れた呟きに、まだ食べ終わっていない双葉が目を丸くする。
「あ、あれ? いつの間に?」
それで神楽耶自身、自分の目の前の丼がいつの間にか空になっていて、平然と次を頼もうとしていた事に気付かされるのだった。
●裏口×バリカタ×スタッフオンリー
「アヤカ。うらぐちだね」
「裏口だな」
別の店員の後を着けたオズと綾華は、店に入る前にぐるりと周りを一周。裏口らしい扉を見つけていた。
「ひらくかな?」
「どうだろうな。鍵かかってても、俺が開けてやるよ」
そっとドアノブに手を伸ばすオズの背中を、綾華が見守る。実際閉まっていても、この程度の鍵ならば綾華の技術で簡単に開けられるだろう。
――カチャリ。
そんな危惧を他所に、ノブはあっさりと回った。
(「そーっと、そーっと」)
胸中で言いながら、オズは音を立てないようにドアを引く。隙間から、ふわっと湯気と何かの香りが漂って来た。
(「りょうりばだ」)
(「この匂い……厨房に繋がってるのか」)
目を輝かせるオズの後ろで、綾華もすん、と鼻を鳴らして匂いに気付く。
だがそれ以上、中の様子を伺うのはさすがに難しい。
(「なんだろう? なにかの……粉?」)
オズが、ちらりと見えた中の様子を何とかもっと伺おうとする余り、ついついその手がドアを動かしてしまっていた。
キィと小さな音が鳴る。
「んん? あれ? おい、誰だ裏口開けっ放したの――」
(「ぴゃっ!?」)
気付かれた、とオズの背中にぞわりと走ったその時。
「ここにイケ麺は――ここにもイケ麺はないようだね! じゃ!」
そんな声が店の中の方から聞こえてきた。
店員達がそちらに気を取られた瞬間、綾華はオズの手を引いて裏口を離れ、店の前に何食わぬ顔で戻っていく。
「おー危ね、せーふせーふ」
「せーふっ」
そして、金髪の青年と入れ替わりに店に入っていった。
「わたしも、とんこつ食べるっ。バリカタでっ」
「じゃ、俺もバリカタ。他は普通で2つな」
やはり食べてみるのが早いか。と言う事で、2人とも豚骨魚怪ラーメンをオーダー。
程なく出てきたのは、白く濁った独特のスープ。
真っ白でないのは、魚介――或いは怪か、の成分も混ざっているからだろう。
「わ、すごい。さっきとぜんぜんちがう」
オズが驚いたのは、そのスープの色もだが。
「めんが、かたい」
「ふふ、そりゃバリカタだからな?」
麺の硬さにキトンブルーの瞳を丸くするオズに、綾華が微笑む。
「アヤカはかたいのすきなの?」
「ん、歯ごたえあるのすき。食いづらいなら、ちょっと待ちな」
目を丸くしたまま小首を傾げるオズに答えとアドバイスを送り、綾華はレンゲを取ってスープを啜る。
(「……イワシかは判らんけど魚介の香りはするな。あと豚骨、それ以外の味はなさそうだが?」)
2口、3口。スープの香り、味を確かめ、大きな違和感を感じなかった綾華はテーブルに供えられていた、小さな銀の器に手を伸ばした。
蓋を開けると、濃い緑色のなにかが入っている。
「あっ、高菜」
「そうそう。辛子高菜。ぴり辛でうめーぞ」
オズに頷きながら、綾華は高菜をたっぷりとって、丼に。漬け込まれた高菜から染み出した色が、スープの色をまた変えていく。
「オズもほら、どうだ。……辛いのダメだっけ?」
「わたしもぴりから食べるっ。ちょっと辛いくらいはへーきっ」
オズは笑いながら、綾華に負けじとたっぷり高菜を取って入れた。
「次は、めんふつうにする」
「バリカタじゃねーの?」
バリカタがあまり気にいらなかったらしいオズに、綾華がわざと、笑って聞き返す。
「んー……でもなんだか、らーめんいくらでも食べられるような気がしてきた」
なんでかな、と少し考え込むような顔になったオズの答えは、綾華の予想外。
「オズって見かけによらず結構食うよな。俺はわりと腹いっぱいなんだが」
「そだちざかり?」
「いつか俺よりでかくなる気か」
そんな話を笑ってしていた綾華の目が、スッと細められる。
「――気付いてるか? あっちの奥」
「スタッフオンリー、あったね」
オズもこくんと頷いた。
トイレのドアに、少し離れて並んだドアにSTAFFONLYの文字。厨房からは離れているのもあり、トイレに立つ振りをすれば難しくないだろう。
まず綾華が先に行って、カチャカチャっと軽く鍵を開けて手招き。
オズは慌ててトイレに駆け込む振りをして、開いた扉の中にするりと入り込む。
倉庫だろうか。薄暗い空間に目が慣れると常温保存できる食材や、食器類が所狭しと並んでいるのが見えてきた。明かりはつけられない。このまま探すしかない。
「さーて、何があるか。普通ラーメンに入ってないよーな素材とかありそ?」
「あ。これ、アヤカ!」
オズの手が何かを掴んで、綾華の前に差し出す。
「さっきうらから見たときに使ってた、あやしいこなかも!」
「これ……魚粉か? 一袋、頂いとくか」
そして2人は謎の袋を綾華の袖に隠し、何食わぬ顔で店を出るのだった。
●善意のクレーマー作戦
「これが豚骨魚怪ラーメンですか」
頼んで出てきた、見た目よくある豚骨魚介と変わらないラーメンを、章は迷わず箸をつけて麺を啜り出していた。
「うん。豚骨は極細麺に限る」
口当たりと喉越しの良い極細麺が、章の口にドンドン吸い込まれていく。
「スープは豚骨よりもさらりとしているね。後味がすっきりしていて――ああ、これは後を引くやつだ。ついつい飲んでしまう悪魔のスープだ」
躊躇なくスープも飲んで、その感想をぽつぽつと口にする。
「麺は、何を混ぜてる?」
普通の麺ではない。それは章も気付いていた。
勿論頼んであった替玉の、茹でられたままの麺をじっと見てみると、何かが混ざっているらしい小さな点のようなものが見えた。
突くべきところは決まった。
章は替玉も1本残さず食べつくし、スープも飲み干してから行動に移った。
(「ついでに他の人の目も醒ましておこう」)
パラリと図鑑の頁を捲る。それは、ただの図鑑ではない。
自然数の集合。
そこに記された生物を呼べる図鑑。
「すみません」
席を立った章が店員を呼びつける。
「この水、こんなの入っているんですけど。ここの衛生管理どうなってるんですか?」
「っ!?!?!?!?」
章が指差したのは、店内の各所におかれた水のピッチャー。
言われて覗き込んだ店員が、目を丸くして顔を青くする。
その中には、章が図鑑から呼んだとある生物が入っていた。
それは、黒い悪魔。
どこに出てもおよそ望まれないであろう存在。
特に飲食店にはいてはならない存在。
そう。
Gで始まる、あの虫である。ザ・コックローチ。
「魚怪系の怪ってまさか……」
と章がたたみかけようとした時だった。
「ゴッキーじゃないか! それはイケないね。僕の求めるイケ麺にはいらないよ!」
唐突に入ってきた金髪碧眼の多分イケメンが、一瞬で出て行ったのは。
濁した言葉を半分言っちゃいやがって!
その後に顔を覗かせたピンク色の少女が、ぺこりと頭を下げて後を追っていく。
「え、ちょっと……」「うわマジか……」
ひそひそざわざわ。
他の人達がそわそわと小声で話出している。例のGは魔力で出来た幻であるが、魔力を知らない上に章の語り口の与える恐怖と催眠術の効果もあって、人々はそれがそうであると信じていた。
「ち、違う。こんなものを料理になんか!」
厨房から出てきた店主の言葉では、最早静まらない。
「何を入れているか、説明してくださいよ。そうしてくれれば、さっきの彼には僕から言っておきますから。グルメサイトに悪評を書かれたくなければね……」
そんな打ち合わせは何もしてないのに、いけしゃあしゃあと章は店主に詰め寄る。
「……あごだ」
やがて、店主は搾り出すように口を開いた。
「空跳ぶ魚の魚粉ってんだから、あごだろ。麺にも入ってて、スープにも使ってる。干物から出汁をとるより簡単で旨味も出るから、つい、ついよぉ……」
「そうですか。ではこれは、不幸な偶然ですね」
店主の言葉に嘘がないと確信し、章は優しく告げるのだった。
何しろ、善意のクレーマー(のつもり)である。
●まだ大丈夫、多分
「先程のラーメンも美味であったが、人をダメにするラーメン、か」
「皆がハマるってことは、もしかして、すごーく美味しいラーメンなんじゃない!?」
期待が膨らむ清史郎とユニの視線の先で、2人が尾けていた人が店に入る。
「さて。一体、如何ほどのものなのか。食べに行ってみよう」
「うん。ユニも、ちょっと食べてみたくなってきたかも……!」
2人は顔を見合せ頷き合うと、同じ店に入っていった。
念のため、尾けていた人からは、離れて座る。
「豚骨魚怪2つ――でいいかな?」
「お願いなのよー!」
清史郎がすっと手を上げ、店員を招いて注文をとる。
(「注文する時も雅やかなのは、変わってないのねー」)
その仕草に、ユニはひとつ安堵のポイントを見つけていた。
ややあって、2人の前に同じラーメンが置かれた。
「……これが、好きになりすぎてしまうラーメンか」
その中身は、ごく普通の――昼間、清史郎が頼んでいた豚骨ラーメンと、濁ったスープの色と具材が若干違うくらいに見えた。
「一見、それほど夢中になるような、特別美味しそうな見目はしていないが……」
「ホントにこれが皆が毎日でも食べたいラーメンなの? ふーん……」
はてと内心で首を傾げる清史郎の向かいでは、ユニがあからさまにがっかりした顔になっていた。
声のトーンも、弾むような調子がなくなっている。
「この何の変哲もないところが良いのだろうか」
「とりあえず、食べよっ」
「そうだな」
つい考え込んでいた清史郎は、気を取り直したユニの一言で自分が箸も取らずに考え込んでいた事に気付いて、苦笑を浮かべて頷く。
「では、一口」
シュッと袖を絞ってから箸を取ると、清史郎は極細面を摘んでズッ…と一気に啜った。
麺を啜るだけだというのに、清史郎の動きには無駄がない。
意識しているのかいないのか、啜る音すら静かである。
(「やっぱり雅やかなのねー」)
「普通に美味、だが……普通にな」
感心するユニの視線の先で、清史郎はしきりに首を傾げている。
実際に食べてみても、このラーメンのどこに病みつきになる要素があるのか。清史郎は良く判っていないのが実情だった。
「ただ、少し魚介の味が濃い気がするが……ユニ? 大丈夫か?」
「え? うーん、美味しいといえば、美味しいような……?」
清史郎に問われたユニの答えも、歯切れが悪い。
美味しくないというわけではない。普通に美味しい。何一つ、変な味もしない。
ただ、期待したほど凄いものではなかった、と言うだけだ。
「でも、なんだか止まらないのねー?」
だがそうは言いつつも、ユニの手は止まらなかった。
気がついたら、ユニの前の丼は麺が空になっていて。
「……替え玉するか?」
「する!」
自分も麺がなくなった清史郎の提案に、ユニは迷わず頷いてしまう。
頷いてから、はっとした顔になった。
「あぁ! どうしよう! ユニも毎日ラーメン食べに来なきゃいけない身体になっちゃったのねー!」
その時、店のドアが開いた。
「イケ麺! イケ麺は……ううむ、ここにもないか!」
見覚えのある金髪の青年は、ぐるりと店を見回しただけで出て行ってしまった。その後を桃色の髪の少女が追いかける。
「ユニ、まだ大丈夫そうな気がしてきたのねー」
「ああ、そうだな」
思わず顔を見合わせ、頷きあう。
「そうだ、ユニ。替玉でいいのか? いわし中華も試してみるか?」
「あ! 今度は冷やし中華って言ってたものね」
ユニと清史郎は替え玉を頼むか、別の猟兵に言わせれば冷やし中華の亜種になるいわし中華を頼むかで、しばし相談する。
やがて、何事もなかったかの様に運ばれてきた替玉の麺は、良く見れば極々小さな黒っぽい点が入っている麺だった。
●イケ麺ゾンビの対処法
さて、先ほどからちらほら顔を出している金髪は、全て葛士郞である。
彼がイケ麺なるものを求めるようになってしまったのにも、理由があった。
「犯人(いわし)はもしや、まだスープで出汁をとられているのでは……?」
最初の内は、葛士郞も真面目に推理していたのだ。
「ラーメンの仕込みは、時間がかかるものと聞くからね。あの塩ラーメンも、きっと仕込みも時間がかかるだろう」
葛士郞がそう思う根拠は、ただ1つ。
「なにしろあのラーメンはとても美味しかったからね」
そう。実際に、自らの口で、舌で感じた味である。
「ああ、また食べたくなってきたなぁ」
記憶を反芻していると、葛士郞は口の中に味の余韻が蘇ってくるよな気がした。
そしてまた食べたい、と言う気持ちも。
こちらは、気がするではない。確信に近い。
「なにしろイケメンにイケ麺はつきものだしね」
そう。その確信を抱いてしまった瞬間が――イケ麺なるワードが葛士郞の中で誕生した瞬間だった。
「というかイケメンはイケ麺を食べなければいけないのでは?」
段々、その思考がおかしくなってくる。
「そうだ、食べないと……イケ麺を食べてボクもイケ麺にならなければ!!」
こうして――。
正気を失った葛士郞は恐らくどこのメニューにもないであろう、イケ麺なるものを求めるイケ麺ゾンビと化してしまったのだ。
「くっ……ここにもイケ麺はないか!」
「あら? あの方は……」
そうして徘徊するようになった葛士郞を見つけたのが、ちさだった。
ちさは他の猟兵達の動きを見て、ラーメンを食べて確かめる人手は、充分ではないかと考えた。
「ラーメンを食べないと寝れない……おかしな言動も気になりますの」
正気を失っているのならば、治療できないだろうか。
(「何とか、元に戻してあげたいですわ」)
だが、そこでちさは問題がひとつある事に気付いた。
何と言って治療を始めれば良いのだろうか、と言う問題である。
正気を失っていると言うのは、精神の問題。怪我の類と違い、見て明らかな傷があるわけではないのだ。
彼らは自分達が普通でなくなったと、どこまで理解しているのだろう。
他のラーメン、食事では我慢出来なくなった――というようなことを自ら口にしていたが、果たしてその状態が異常だと判っているのだろうか。
(「判っていないとしたら、どう切り出すべきでしょう……」)
悩んでいるちさが目にしたのが、何かがおかしくなった葛士郞と言う事である。
「あの! 治療させてください!」
「邪魔をしないでくれ。ボクはイケ麺になるんだ!」
徘徊する葛士郞と、追いかけるちさ。
ちさにとって、葛士郞が何処かの店に入ってイケ麺があるかを尋ねる短い時間が、聖なる光を浴びせるチャンスだった。
そして――何度目かのちさの光を浴びた葛士郞が突然、よろよろぱたりと倒れた。
「はぁっ……はぁっ……こ、今度こそ、どうですか!」
着いて回ったことと、聖なる光の高速治療を繰り返したことで、ちさは息を切らしたまま倒れた葛士郞を見下ろす。
「イケ麺……イケ……うん、ボクはイケメンだ」
やがてむくりと起き上がった葛士郞は、通常運行になっていた。
「キミがボクを治してくれたんだね?」
「は、はい……え、え?」
頷いたちさが、目を丸くする。
何故なら、葛士郞がいきなり土下座はじめたからである。
(「どうしましょう。まだ治療が足りないのでしょうか」)
この時、ちさは思い知った。正気に戻す治療の難しさを。
その人の正気の状態を知らなければ、どこで正気と判断するのだろう。
「あの、まず顔を上げて頂いて……それで、どんなラーメンを食べたら、先程のような状態になってしまったのですか?」
今回のおかしな言動は、ラーメンが関係している筈である。
ちさは正気と状況の確認を兼ねて、そう尋ねてみた。
「ラーメンかい? 塩ラーメンだけだよ!」
「豚骨でも、魚介でもなくてですの?」
「いわしも入ってなかったね!」
驚くちさに、葛士郞は自信たっぷりに頷く。
「……でも、いわしの出汁が入っていたかもしれない。もしや、まだスープで出汁をとられているのでは……ん? こんなことを、つい最近も考えたような?」
「これは、製麺施設を調べて原因を確認して対策を考えた方が良さそうですの!」
首を捻る葛士郞を残し、ちさの足はラーメンストリートの奥へと向かっていた。
大成功
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レナータ・バルダーヌ
どうしましょう、食べてしまいました。
体に悪いものでなければいいのですけど……。
…うっ、体が……!
…なんだか痒いと思ったら虫に刺されてます……。
近くに蚊でもいるのでしょうか、とりあえずここから離れましょう。
あら?お店の貼り紙が入る前と変わっていますね。
いわし…魚怪……そういえばお店の厨房を覗き込んだときに、干乾びた小魚の入った袋があったような気が。
もしやこれは、食材にされたいわしさんの怨念では?
店員さんたちについていけば何かわかるかもしれません。
製麺施設に潜入して、何か怪しいことが行われていないか調べます。
あ、体調は特になんともないのでご心配なく。(毒耐性)
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
(思わず看板を二度見)どういうことだ。鰯中華……?
いや、それよりも何よりも、私は豚骨魚怪ラーメンの味が
気になって仕方ないんだ。ハマるとか癖になるとかそういう
チャチなレベルじゃない……とにかく、私はこの暖簾をくぐらずには
いられないんだ。カウンターに食券を置き、厳かに呟く。
「……豚骨魚怪ラーメン一丁」
<コミュ力><世界知識>を活用して、情報を引き出してやる。
「九州には、有名なお店が沢山あるんですね。で、あえて大将が魚介ラーメンを選んだ理由とは?」
ラーメンがテーブルに着いたら、いよいよ実食だ。味覚や嗅覚以外にも、
<第六感>を使って味わうぞ。ラーメンの中に入っているのは、何なんだ?
真守・有栖
怪しいわね?これはとっっっても怪しいわ!
麺狼たる私に隠し事とは良い度胸じゃないのっ
さらなる美味しいらぁめんを求めて、調査開始よ!!!
じぃーっ。ぴくぴく。くんくん。
狼を駆使して、店員さんたちの後を追うわ!
豚骨魚怪。らぁめんひしめくお店の店員さんが通い詰めるほどですもの。
一度食べたら病みつきになる、そんなとっっっても美味しいらぁめんに違いないわね!
えぇ、分かってるわよ?
これは調査(尻尾ぱたぱた)
けっっっして、食に餓えているわけではないわ(ぐぅう、とお腹が鳴る)
けれども!百見は一食に如かず、よっ
らぁめんを突き止めたら、身を以て味わ……確かめるわ!!!
…………。
何よ。
すんごく美味しいじゃないの!?!?
シリン・カービン
【かんさつにっき】
「…ガーネット?」
様子がおかしい。
呼んでも上の空で、取り憑かれた様に暖簾をくぐって行く。
おかしい。
あんな熱いもの、そうそう何杯も食べられるはずないのに。
こほん。
夕闇の街を見渡せば、精霊達の様子もどこかおかしい。
何かが変わっていくのを恐れている様な…
『…!』
微かな悲鳴の方を見れば看板の文字が変って行く。
怪異に書き換えられることで、文字の精霊が悲鳴をあげているのか。
異変を辿れば元凶に辿り着けるかもしれない。
文字の精霊に尋ねながら街の奥へ潜ります。
【スプライト・ハイド】で闇に融け込む様に姿を消して、
「二人とも、気をつけて」
あ、冷ましたラーメンはまた食べたいです。
アドリブ・連携可。
玖篠・迅
もしかしてこれがルシルの言ってた『何らかの前触れ』?
…そうなら考えてたよりずっと怖いなこれ
少しは話しできるみたいだし、製麺施設に向かってる人に豚骨魚怪って何なのか聞いてみる
どんなラーメンかとか、どこで食べれるのかとか
いわし中華の事もなにかしってるかな?
ある程度教えてもらえたり、話が全くできない時に「破魔」の護符をその人に貼ってみる
何かに憑かれてるような感じだし、魔除けで何とかならないかな
教えてもらえた場所があったらそこに行って、なかったら製麺施設のほうに向かうな
こっそり忍び込んで、何をどんな風に作ってるか確認したい
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
豚骨魚怪…(着ぐるみ怪人想像し
あれ、ちょっとかわいい?
とか言ってる間にガーネットのグルメ魂に火が点いてる!?
確かにね、どんな味かめっちゃ気になるしね
あといわし中華って、ホントに鰯乗ってるの?丸ごと乗ってるの?
気になって夜も眠れない
ああ、なんて巧妙な罠なの!(真顔で葛藤
でも虎穴に入らずんば虎子を得ず
事件解決の為に、ここはひとつ味見だけでも…(うきうき
オジサン、いわし中華も追加で!(晴れやかな笑顔
もし丸ごと鰯なら
目が合った瞬間から食という名の戦闘開始
皮と肉と骨の繋がりを瞬時に見切り
構えた箸で器用に解す
成程この隠し味(混入物)は…
綺麗に美味しく戴いて大満足
あれ?何調べてたんだっけ?
ディート・ヴァルト
食べたのはあごラーメンだったから、豚骨魚怪とは関係なさそうなのは幸いかな
文字が変った紙に魔法みたいな仕掛けがないか見てみようかな
UDCアースの術式にはまだ詳しくないけど、他にはないものがあればそれが原因だろうし
あとは豚骨魚怪を掲げている店に共通点がないか、店員の人に聞いてみようか
材料の仕入れ先とかが同じならそれがヒントにならないかな
……豚骨魚怪といわし中華を食べてみるのは最後の手段にしとこうかな
どんな物体もといラーメンなのかすごく興味がそそられるんだけども
●ラーメンストリートにて
「あら? ここもですか。お店の貼り紙が入る前と変わっていますね」
「もしかして、これがルシルの言ってた『何らかの前触れ』なのか?」
レナータ・バルダーヌの指が、いわし中華、と書かれた貼り紙をなぞり、電脳ゴーグルをかけた玖篠・迅は豚骨魚怪、と書かれている幟を見やる。
どちらも少し前までのラーメンストリートにはなかった文字だが、今はちらほらと散見されるようになっていた。
「……そうなら、考えてたよりずっと怖いなこれ」
明確な証拠こそないので仮定の様に言ってはいたが、迅はこれが『何らかの前触れ』であろうと確信に近いものを感じていた。
文字が変わると言う異常事態、そうそうあってたまるものか。
「うーん……」
一方、ディート・ヴァルトは『いわし中華』とある貼り紙に顔を近づけて、それをじっと見つめていた。
ディートはまだ、UDCアースの術式には詳しくはない。
けれども、他の貼り紙――文字が変わっていない貼り紙にないもの、何らかの違いなどがあれば、そのくらいは気付ける筈だ。
そう思って視ていたのだが、貼り紙それ自体は、特に何の変哲もない文字の書かれた紙切れであるようだ。何か術式の類が仕込まれていた様子はない。
(「外的要因からの変化――ろくな痕跡も残さずに?」)
痕跡をディートが読み取れなかったのも、ここが既に文字の変化が終わっていた場所だったから、という理由も大きかった。
もしもディートが、今まさに文字が変化したばかりの貼り紙を見ていれば、また違うものを見て取れていただろう。
「紙自体は、普通の紙のようです。何か得体の知れない力が働いたようですが」
自分の言葉に完全に納得し切れないものを感じつつ、ディートは紙から顔を離すと諦めるように首を横に振った。
「得体の知れない力……もしやこれは、食材にされた、いわしさんの怨念ではないでしょうか?」
その評価を聞いたレナータが、ぽつりとそんな事を呟く。
「怨念なぁ……」
レナータの呟きを聞いた迅は、七つ道具にある霊符の中から破魔の力を込めた一枚を選ぶと、いわし中華の文字の上からペタリ。
「少なくともこの紙は、何かに憑かれてるってわけじゃなさそうだ。魔除けの符が反応しないからな」
迅がその手を放すと、霊符はペラリと剥がれて落ちた。
「そうですか……お店の厨房を覗き込んだ時に、干乾びた小魚の入った袋があったような気がしたので、もしやと……あら?」
そこまで言ってから、レナータは気付いた。
「どうしましょう、食べてしまいました」
「「え?」」
その言葉に、言ったレナータ自身も含めて、迅とディートも目を丸くする。
「僕が食べたのは『あご』という魚のラーメンだったから。豚骨魚怪とは関係なさそうなのは幸いなかな」
「俺は……食っちまったな。魚介味噌豚骨っての」
安堵するディートの横で、迅が表情を曇らせる。
「体に悪いものでなければいいのですけど……うっ……!」
言ったそばからレナータが短い呻きを上げて、半ば剥き出しの肩を抑えた。
「体が……!」
「お、おい。大丈夫か?」
「体に何か異変が……?」
目の前でレナータに起きた異変に、迅だけでなくディートも流石に表情を曇らせる。
「……なんだか痒いと思ったら、虫に刺されてます……」
だがレナータは、そんな2人に構わずしれっと言ってのけた。
手を離した肩には、赤い点がぽつっと浮かんでいた。
「私、毒耐性もありますんで、多少の毒ならなんともないのでご心配なく。ですが近くに蚊がいるみたいですし、とりあえずここから離れ――どうしました?」
レナータが顔を上げると、迅とディートが何とも言えない顔をしていた。
どこからツッコんでいいやら、と言った様子だ。
「いえ、何でもありません。移動するのは賛成ですよ。ここにいても、後は豚骨魚怪ラーメンを食べるしかなさそうですからね。
本音を言えば、ディートは豚骨魚怪ラーメンに、すごく興味があったけれど。
それを食べるのは、最後の手段にしておきたいという思いもあった。
「んじゃ、あそこ行ってみるか。製麺施設」
迅の指は、ラーメンストリートの奥を指していた。
●変わる文字と心
一方その頃。
(「何、この感じ。精霊が騒がしい様な……」)
夕闇に染まりゆく空の下、シリン・カービンは見渡すラーメンストリートに何かの違和感を感じていた。
故郷の精霊ほど馴染みはないが、何か精霊の怯えの様な気配をシリンは感じていた。
『……っ!?』
悲鳴にも似た声なき声が、シリンの頭に直接降ってくる。
「これは……!」
弾かれたように頭上を見上げたシリンの目の前で、店の看板に書かれていた文字が『豚骨魚怪』と『いわし中華』へと変化していった。
(「文字が――そういう事。先の精霊の悲鳴は、怪異に書き換えられた文字の精霊が上げていたもの!」)
シリンがそれに気づけたのは、変化のその場に居合わせたと言う運の要素もある。既に変化が終わった後であれば、シリンとてここまでは判らなかっただろう。
「ガーネット、小太刀。見てましたか?」
「ああ。見た。見たぞ。どういうことだ。鰯中華……?」
シリンが話を振ると、ガーネット・グレイローズも真剣な顔で看板と、扉にも書かれた店名を二度、三度と見比べる。
「うん。豚骨魚怪になったね……」
2人の隣で頷く鈍・小太刀の脳裏には、豚骨魚怪の4文字から何故か連想した、イワシの着ぐるみを着た怪人の姿が浮かんでいた。
それ世界違う。
「……あれ? ちょっとかわいい?」
「何がですか」
思わず浮かんだものがそのまま口を突いて出ていた小太刀に、シリンの冷静なツッコミが冴え渡る。
だが――変化は文字だけに留まっていなかった。
「いや。それよりも何よりも、私は豚骨魚怪ラーメンの味が気になって仕方ない」
2人のやり取りにツッコむでも無くそれよりで片付けて、ガーネットの赤い瞳は文字が変わったその店に釘付けになっている。
「ハマるとか癖になるとか、そういうチャチなレベルじゃ断じてない……」
「ガーネット?」
「とか何とか言ってたら、ガーネットのグルメ魂に火が点いてる!?」
ぶつぶつと呟くガーネットは、シリンと小太刀の声が聞こえていないのか、財布を手に券売機にふらりと寄っていく。
「とにかく、私はこの暖簾をくぐらずにはいられないんだ」
そして豚骨魚怪の食券を手に、ガーネットは迷わず店の中へと入っていった。
「……豚骨魚怪ラーメン一丁」
注文を告げるガーネットの声が聞こえた後、店の扉が自動で閉まる。
「ガーネットの様子、おかしかったですね……。あんな上の空と言った風で、取り憑かれた様に暖簾をくぐって……あんな熱いものそうそう食べられる筈ないのに」
見送ったその様子を、シリンは訝しんでいた。
「あ、シリン的にはそこなんだ。猫舌」
「その……こほん」
呟きを聞いていた小太刀の一言に、シリンの視線が彷徨い、小さく咳払い。
「でも確かに、どんな味かめっちゃ気になるよ」
「小太刀もですか」
じぃっと見てくるシリンの視線に苦笑しつつ、小太刀は続ける。
「いわし中華って、ホントに鰯乗ってるの? 丸ごと乗ってるの? とか、気になって夜も眠れない。ああ、なんて巧妙な罠なの!」
「まだ夕方ですよ」
再びシリンが小太刀に冷静なツッコミを入れるそこに、ふらりと若者が現れる。
どこか他のラーメン店の店員のようだ。
「それは食べてみれば判るよ」
と言い残して、店内に去っていった。
「怪しいわね? ここはとっっっても怪しいわ!」
そこに響き渡る、新たな声。
「豚骨魚怪。らぁめんひしめくお店の店員さんが通い詰めるほどですもの。一度食べたら病みつきになる、とっっっても美味しいらぁめんに違いないわね!」
「あれ?」
「――あら?」
現れた真守・有栖と、小太刀が顔を見合わせ共にぱちくり。
「猟兵の様ですが、知り合いですか?」
「ん、別の世界でちょっとね」
小声で尋ねるシリンに小太刀も小声で返し。
「入る?」
「勿論よ!」
小太刀が短く問えば、有栖も短く返して頷く。
「行くんですね」
「行くわ。虎穴に入らずんば虎子を得ずって言葉があってね」
やや不安そうなシリンに、小太刀は真顔で頷く。
「怪しいと判っていて飛び込む必要も時にはあるものよ。だから事件解決の為にも、ここはひとつ味見だけでもって」
顔の割に、小太刀の声はうきうき弾んでいたけれど。
「えぇ、分かってるわよ? これは調査。百見は一食に如かず、よ。けっっっして、食に餓えているわけではないわ」
話を合わせる有栖も、尻尾がぱたぱた、お腹がぐぅっと鳴っていたけれど。
「そうですか……私は精霊の様子が気になるので、別口で調べてみます。小太刀、ガーネットを頼みましたよ――気をつけて」
そう言い残し、シリンはどこかへ駆けていった。
そして小太刀と有栖は、ガーネットのいる店内へ――。
「あ、やっぱり来たんだ」
「へ?」
有栖の顔を見るなりそう言った先の若者に、有栖の目が点になった。
●それぞれの味わい方
話は少し遡る。
(「麺狼たる私に隠し事とは良い度胸じゃないのっ」)
有栖は声に出さず胸中で呟いて、目を付けたラーメン店の店員の後を着けていた。
(「さらなる美味しいらぁめん……絶対に見つけて見せるわ!」)
紫の瞳に決意を燃やし、有栖は進む。
じぃーっと店員の背中を見つめ、耳をぴくぴく足音を拾い、くんくんと漂うおいしい匂いに唆られそうになりながら、何とかつけてきたのだ。
隠れることを忘れて。
「きっとラーメン食べたいんだろうなぁと思って」
(「くっ……この探狼たる私が、一般人に悟られるなんて……不覚ね!」)
声に出すのだけは何とか堪えて、有栖はテーブルの下で拳を震わせていた。
「おまたせ。豚骨魚怪が二丁、いわし中華が一丁だ」
そんな話をしている間に、件のラーメンは完成していた。
ガーネットの前には、豚骨魚介ラーメン。
そして――。
「ホ、ホントにまるごとのイワシ……!」
「…………」
小太刀と有栖の前に出てきた皿には、頭付きで甘辛く煮付けられたイワシが一匹まるごと乗っかってる冷やし中華が出てきた。
「いわし中華のインパクト、すごいな……」
思わずガーネットが、自分の丼と見比べる。豚骨魚怪の方は、少なくとも見た目はどこも怪しい感じはないからだ。
とは言え、食べてみなければわかるまい。
「いよいよ実食だな」
「そうね。これは――戦いよ」
「わふわふ」
そして文字通り三者三様に箸を構えて、それぞれにラーメンに取り掛かった。
(「これは……見た目以上に、風味が深い」)
ガーネットの口の中に、鶏ガラ系の魚介とはまた違う風味が広がる。豚骨のまろやか且つ濃厚な中に、魚怪の風味が生きた味だ。
啜る麺は細いが、それ自体にも何か不思議な味が付いている。
「このラーメンの麺に入っているのは何なんだ? もしや……魚粉か?」
ガーネットは味覚のみならず、嗅覚、そして第六感も駆使して、目の前のラーメンを食べながら解析していく。
(「これが豚骨と魚介の合わせた味か……大将の言葉も頷ける」)
2人が入ってくる前、既に注文を済ませたガーネットは、ただ黙ってラーメンを待っていたわけではなかった。
「九州には、有名なお店が沢山あるんですね。で、あえて大将が魚介ラーメンを選んだ理由とは?」
「豚骨魚怪はな……豚骨だけじゃ出せない味が、出せる。そこに気づいちまったのさ」
こっそりスマホで調べたこの世界の知識と、持ち前のコミュ力を活かし、店主から話を聞いていたのだ。
本人の言によれば、店主が豚骨魚介を始めたのは、純粋な美味の追求。それが「魚怪」であれ「魚介」であれ、ガーネットはそこに嘘や悪意はないと感じていた。
(「イワシの骨は……断つなら、ここね!」)
小太刀の目は真剣そのもの。
まあ何をやっているかと言うと、全力でイワシの身を解しているのだが。
鰭と皮と肉と骨の繋がりを瞬時に見切って、的確に箸を入れて、解す。
それだけといえばそれだけだが、小太刀の箸捌きたるや、素晴らしい。
イワシの身は柔らかい分、骨に残りやすくもある。
だが、物の数十秒で小太刀が解して外した骨には、身はほとんど付いていなかった。
「うん……良い味付けね、このイワシ」
小骨も綺麗に外してから、小太刀はイワシを一口。
「成程。麺にも何か隠し味を入れてるのね。魚に合うように」
更にタレを絡めた麺を啜ると、小太刀はそこに何か他の味を感じ取った。
「何よ、このイワシ」
一方、同じいわし中華を食べていても、有栖の食べ方は別物だった。
「すんごく美味しいじゃないの!?」
有栖は、イワシの頭からバリバリ頂いているのである。
イワシの骨はあまり硬くない。南蛮漬けのように、頭から食べられる調理法も確かに存在する。この煮付けが、そうであるかは別問題だが。
「これだけ美味しいなら、一度食べたら病みつきになるのも頷けるわね!」
尻尾までバリバリ頂いてから、有栖は麺を啜り出す。
調査だと言うことを覚えているのだろうか。銀の尾も左右にぶんぶん揺れているし、ちょっぴり不安になるが、有栖も良い食べっぷりだった。
「魚粉だな――」
3人それぞれの丼と皿が空になったのを見計らって、ガーネットが口を開く。
「先ほど、大将にも確認した。魚粉を混ぜた麺を使っていると」
「成程ねぇ」
ガーネットの言葉に、得心が言った様子で小太刀が頷く。
有栖もこくこく頷いているが、判っているのかいないのか。
「その麺は、製麺施設で作っているらしい。行くべきは、そこだろう。ところでシリンはどうしたんだ? 店の前までは一緒だった筈だが」
「シリンなら別口から調べるって――あ」
一番UDCアースに慣れてなさそう仲間を1人にしたことに、ガーネットと小太刀はここに来てようやく気づいた様子だった。
●製麺施設へ
「いたずら妖精いたずら妖精――」
夕焼けの色に染まりゆくラーメンストリートを、シリンが駆け抜ける。
「その手を繋げ」
シリンの口がその言葉を唱えきった瞬間、その体が闇に溶ける様に消えていった。
透明となったシリンは、誰に見咎められる事も無く、ラーメンストリートを奥へ奥へと進んでいく。
当初、シリンは精霊の声に案内を頼むつもりであったが、ラーメンストリートから文字の精霊は少なくなっていた。
怪異によって既に書き換わったそこに、文字の精霊はいなかったのだ。
それでも、まだ変わっていない文字の精霊からの情報と、文字変化の場所を辿る事で、シリンは着実に製麺施設へと近づいていた。
(「あれは――?」)
やがて、固く閉ざされた金網の門の前で、押し問答をしている人影が見えてくる。
その内何人かは、猟兵のようだった。
「門を開けてくれませんか?」
「僕たちは、ただ中を見学したいだけです」
「急に来られても、流石に見学っていうのはね……」
レナータとディートが、門の前にいる警備代わりの店員に詰め寄っていた。
「何か都合の悪いものでも、作って卸しているんですか?」
特にディートは、悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、一歩も引かずに問を重ねている。
道中、イワシ中華か豚骨魚怪を掲げる店の数件に寄って、材料をどこから仕入れているのかディートは尋ねていた。
そして、共通しているのは、やはりこの製麺施設だった。
麺以外にも、魚粉も作っているとか。
「そう言われてもねえ。今日は見学許可出てないし――」
しかし店員も簡単に折れず、一見やんわりと2人を断る。
「それにねえ。この先には、このラーメンストリートに欠かせない秘密の魚粉を作ってる場所もあるんだよ? あれは、一度使って食べたら病み付き間違いなし!」
――ん?
「だから、本当は味わって貰いたいくらいなんだけどね?」
んん?
「でもこれ以上、ラーメン好きのライバルが増えるのは困るから!」
「そういう問題じゃ――ないだろ!」
段々言ってる事がおかしくなってきた店員に、迅が霊符をシュッと投げ放つ。
警備の店員の体にふわりと張り付いた霊符は、迅が込めていた破魔の力を以って、残っていた何かを外に押し出すように払っていった。
「こ、ここは……私は一体」
3人の目の前で、憑き物が落ちた様に店員が口を開いた。
(「お。貼り紙には効果がなかったけど――人には効くのか! ダメ元でやってみて正解だったな!」)
「ちょっといいかな? いわし中華の事、何か覚えてるかな?」
胸中でぐっと拳を握りながら、迅はまだぼうっとした様子の店員に問いかける。
「いわし中華……食べた事があるような……?」
「では、豚骨魚怪はどうですか?」
頼りなさげに首を傾げる店員に、ディートが更に問いかける。
「豚骨魚介? それなら、このラーメンストリートにも食べられる店が沢山……はっ? そうだ、ラーメンを食べないと……!」
それに答えた店員だったが、答える後半からまたラーメンに傾倒した言葉が、その口から飛び出すようになっていた。
「げ。一枚じゃ足りなかったか……もう一枚行っとくか!」
「いえ。ここは今の内に、潜入してしまいましょう」
2枚目の霊符を取ろうと、七つ道具に手を伸ばしかけた迅を制して、レナータが突入を促す。
「何か怪しいことが行われているなら、1人に拘っている場合ではありません」
レナータの言葉に、ディートも無言でそれに頷く。
3人はまた正気を失いそうな店員が呻いているその隙に、後ろの門を開けて施設の中へと入っていった。
そして、その後に。透明化したままのシリンもこっそりと続いていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
日隠・オク
サクラコさん(f09974)と!
怪異、ですね……!
一体何が……。
えっと、私はとくに変な感じはしませんでしたが……。
とてもおいしいラーメンでした。
とても……。
(また食べたそうだけど異常はない様子
はっサクラコさんが……い、いつも通りですね?
はい、調査ですね!
何かが普通のラーメンとは違うのでしょうか。
あの、エラっぽいものが見えたりするような……
サクラコさん冷静に……!
あっラーメンはほどほどに……!
おー!と手をつきあげ厨房突撃についていきますね
鏡彌・サクラコ
【オクちゃんf10977と一緒】
【POW】
【アドリブ歓迎】
ん?
いわし中華はありそうな気がするでいす
でも豚骨魚怪はダメでしょう?!
はあん、ラーメン美味しかったですよねい
くっ、このラーメンが無ければ生きていけないような感覚はひょっとして…
え?ぜんぜんいつも通りですか?
そういえばそうでいす(けろり)
よし、オクちゃん、一緒に調べに参りましょう!
おかしくなっている方々の顔を見ます
はっ、これはインスマス顔?!
すみません。なんか別のものが混じりましたねい
でもたぶんそんなお魚フェイスなのでは?
ヨイ出汁が取れそうな…はっ、毒されてる?
よーし、厨房に突撃してみましょう!
我々を待ち受けるのは如何なる怪異なのか?!
●突撃、厨房
「はあん、ラーメン美味しかったですよねい」
「はい、雑炊まで、とてもおいしいラーメンでした」
隣を歩く鏡彌・サクラコの笑顔に、日隠・オクも釣られて笑顔で頷く。
「とても……」
ただオクは満足しきったとは言えなさそうだった。
もっと食べたそうな空気が、少しだけ漂っている。
「くっ……!」
「サクラコさん?」
だがその隣のサクラコが、突如うめき声を上げた。
「このラーメンが無ければ生きていけないような感覚はひょっとして……」
「……い、いつも通りですね?」
じぃっと自分の掌を見つめるサクラコに、オクがおずおずと告げる。
「え? ぜんぜんいつも通りですか?」
「ラーメン大好きサクラコさん、じゃないですか」
首を傾げたサクラコに、オクが当然だと返す。
「そういえばそうでいす」
オズの一言で納得したサクラコは、けろりとした様子で顔を上げた。
視線の先で、幟がはためいている。
「でも豚骨魚怪はダメでしょう?!」
そこに書かれた文字に、思わずサクラコがツッコミの声を上げた。
「まあ、いわし中華はありそうな気がするでいす」
「ありそうなんですか!? ラーメンは奥が深いんですね」
かと思えばいわし中華を受け入れるサクラコに、オクが目を丸くする。
「ですが、どちらも文字が変わったのは……確かに怪異、ですね……!」
「そうでいすね」
少し目を細め声の温度を下げたオクの言葉に、サクラコも真顔で頷く。
「よし、オクちゃん、一緒に調べに参りましょう!」
「はい、調査ですね!」
そしてサクラコとオクは、ラーメンストリートの中へ駆け出していった。
「まずは様子がおかしくなっている方々の顔を見てみるのでいす」
そう言うと、サクラコは周囲を見回し――1人、それらしい人を見つける。
「ちょっといいでいすか?」
『ぎょっ?』
サクラコに声をかけられたサラリーマンらしい男が、驚いてか変な声を上げる。
「あの、エラっぽいものが見えたりするような……」
オズには、その男の首筋が妙にだぶついているように見えていた。
「こ、これはまさかあの奇病では?」
正面に回ったサクラコから、驚愕の声が上がる。
サクラコには、心当たりがあるのだろうか。
「サクラコさん?」
「いえ。ちょっと別なものが混ざってしまったみたいですねい」
オクに呼びかけられ、サクラコは首を横に振った。
「でも、あのお魚っぽいフェイスはヨイ出汁が取れそうな……はっ!」
「サクラコさん冷静に……!」
どうにも様子が少しおかしそうなサクラコを、オクが心配そうに止めるのだった。
「……悠長に調査していたら、サクラコと言えども、どうにかなってしまいかねないみたいですねい」
再び(多分)正気に戻れたサクラコが、オクをじっと見る。
まだすぐどうにかなることはないだろうが、とは言え、それもどの程度の時間、続くだろうか。
「かくなる上は、厨房に突撃してみましょう! オクちゃん」
「おー!」
ぐっと固めた拳を突き上げるサクラコに、オクも同じように拳を突き上げ唱和する。そのまま突撃したのは、1軒のラーメン屋の裏だった。
「我々を待ち受けるのは如何なる怪異なのか? いざ!」
ガチャッ!
店の裏口のドアを掴んだサクラコの手元で、音が鳴る。
鍵が、かかっていた。
「……オクちゃん。開けられないでいすか?」
「や、やってみます!」
ぐっと拳を握って、オクが解錠にかかる。
鍵を壊してもいいのなら、サクラコも開けるのは難しくないのだが――。
カチャリ。
「な、なんとかなるものですね」
「オクちゃん、偉いでいす」
安堵の笑顔で顔を見合わせた2人は、ゆっくりと裏口を開け――。
「ちょっと見せて欲しいでいす!」
そしてサクラコは、直球で乗り込んだ。
「お、おじゃましまーす」
その後ろから、おずおずとオクも入っていく。
「お客さん……こっちから入って貰っちゃうのは困りますよ」
そして気づいた店員に、さくっと店から放り出される。
そんなやり取りを、数軒繰り返す内に、サクラコもオズも見て、気づいていた。
「サクラコさん、どのお店の厨房にも、何か茶色粉がありましたよね?」
「魚粉ですねい。しかしあんな大量に……ここで作ってるそうじゃないでいすか」
首を傾げるオクの横で、サクラコはラーメンストリートの奥を指差す。
その方向にあるのは、ラーメンストリートの店以外では製麺施設のみ。
「では、次は製麺施設に突撃、ですか?」
「怪しいでいすから! 」
そして再びサクラコが掲げた拳に、オクも同じように掲げた拳をこつん、と合わせた。
魚粉。
多くの猟兵達が、たどり着いた怪しいもの。
時にスープに溶かされ、時に麺に練り込まれ。
それらは、製麺施設で作られているのは、まず間違いなさそうだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『六二五『デビルズナンバーいわし』』
|
POW : 悪魔の魚群(デビルフロック)
全身を【「デビルズナンバーいわし」の群れ】で覆い、自身の【群れの大きさ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : 悪魔の犠牲(デビルサクリファイス)
対象のユーベルコードに対し【数十匹のデビルズナンバーいわし】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ : 悪魔の共食(デビルカニバリズム)
戦闘中に食べた【犠牲となったデビルズナンバーいわし】の量と質に応じて【悪魔の力が体に凝縮され】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
イラスト:井渡
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
(6/19中に導入部を記載しますので、少々お待ち下さい)
●イワシの頭も信心から、とは言うけれど
いわし中華。
あるいは豚骨魚怪。
それらのラーメンを敢えて食す事で、文字通り体を張って調査した猟兵達がその目で視たもの、その舌で味わったもの。
そして、いわし中華にも、豚骨魚怪にも共通しているもの。
それらに共通しているものは――魚粉。
そしてラーメンストリートの奥。
併設された製麺施設に忍び込んだ猟兵達は、視てしまった。
施設内にある、巨大な水槽。その中を泳いでいる大量のイワシの体に『625』の数字が刻まれているのを。
もしや、これが全てオブリビオン――いわしなのか。
――クモ。
猟兵達の脳裏に、直接届く謎の声。
――ヨクモ。
これはいわしの思念?
――ヨクモ!
いいや、これこそがいわしの呪詛。
いわし達の溜まりに溜まった呪詛が、堰を切ったように溢れて流れ出していた。
――ヨクモ! ヨクモ! ヨクモ!
溢れた呪詛は、施設の外へも伝播して行き――空が青く染まった。
日が落ちて夜になったから?
否。この青は夜の青ではない。白も混ざった、青魚の青。
空を埋め尽くし渦を巻いているのは、いわしの新たな群体である!
「成功だ! 成功した! いわしを食材にして呪詛を吐かせる事で新たないわしの群体を呼び寄せることに成功したぞ!」
この時、製麺施設の屋上で、イワシ色に渦巻く空を見上げた顔に歓喜を貼り付かせた何やら首謀者輩がいた。
「予想より数は少ないようだな? もっと大量の群体を期待し――ん? ま、待てなんでこっちに来びゃぼばがかががが!」
直後、降ってきたいわしの群れに飲み込まれて骨も残さず消えた男は知らない。
オブリビオンは猟兵を見ればそれが敵だと判るという。であれば、いわし達もそうだった筈だ。猟兵達がいわしの水槽を見たことで、敵に散々食われたと気づいた。
そのショックが、いわし達の呪詛が溢れるのを早め、結果的に新たな群体の数を少なくすることになっていたのだと。
それでも、迂闊な男が一瞬で消えた様に。
いわしは人々の驚異となり得る。
『デビルズナンバー』いわし。
見た目イワシでありながら、その1匹1匹が鋭い牙を持ち、迂闊に食おうとした相手を逆に食ってしまう凶暴な輩だという。
今この瞬間、その凶暴性は遺憾なく発揮されようとしていた。
====================================
3章について。
ラーメンストリート上空に現れた、いわしとの集団戦です。
やつらは、空を泳いでやってきます。
なんかすげー沢山いる感じです。
頑張って全滅させてください。
いわしは製麺施設上空が最も数が多く、ラーメンストリート外周に向かうほど層が薄くなっているようです。
製麺施設で他のいわしが色々されていたのを知っているようで、施設絶許状態。
なお3章開始時の位置について。
基本的には好きなようにプレイングをかけて頂いて大丈夫です。
但し『製麺施設内部』からスタート出来るのは、2章プレイングにて、製麺施設に触れていた方のみ、とさせて頂きます。
他の方は、製麺施設に最も近づけて、そのすぐ外です。
施設内可の方でも、いわしが降ってくる前に施設から抜け出した、という形でプレイングかけていただいても構いません。
前述の通り製麺施設上空がいわしの数が多いので、施設内部は一番リスキーですから。
敢えてハードモードご希望の方はどうぞ。
====================================
満月・双葉
なぁにあれ。文字通り鰯雲。わぁすごーい(棒)
おねーちゃんおねーちゃん、いわしがいっぱーい『力を貸して』?
姉を召喚して援護させつつ、掃討作戦に出ます
可能なら他の猟兵と合流し共に数を減らしましょう
合流に成功したなら姉と共に援護射撃に徹します。その際は、暗殺の要領で気配を消し地形の利用で死角に潜み、武器の投擲と射撃をスナイパーで精度をあげて行います
自分が主攻撃になる場合は羽根で飛び空中戦を展開し、虹瞳で生命力吸収攻撃をしつつ、敵の命を視ながら弱った個体から弱点をつく鎧無視攻撃で桜姫で捌いていきます。
ラーメン美味しかったんですけどねぇ…オブリビオンなら仕方ないですよねぇ…おっと(大根による咄嗟の一撃)
三池・葛士郞
生臭い!
てかてかしてる!
怖い!
ぼ、ボクのようなイケメンがイワシ臭くなるのは世界の損失だからね!
ボクを護る栄誉をキミに与えよう!
(ガクブルしながらその辺の人に言うもののすぐ土下座謝罪)
うぅ、イワシ臭いよぅ青光ってるよぅ…
くそぅ、イケメンは孤独、孤高!
がんばれボク!!
もちろん外縁部のイワシが一番薄いところにいくとも
でもやっぱり怖いので
姑息に人の後ろとか建物の影に隠れながら攻撃するよ!
「いけ、ドラゴン! ボクは触りたくないからお前ががんばれ!」
逃げたり隠れたりしつつ
ちまちまと攻撃する
戦略だよ、戦略!
そういうことにしておいてくれたまえ!
(ツッコミ・シバキ等々大歓迎)
穂結・神楽耶
【アドリブ・連携歓迎】
本当にいわしじゃないですか!?
え……って、あれ。
もしや。
オブリビオンを食べていた…ってことですか……?
…………
不本意ながら。
ええ本当に不本意ながら!美味しかったですが!
オブリビオンを美味しく頂いていたという事実が!
悔しい上にちょっと生理的に無理です!
【朱殷再燃】『なぎ払い』『範囲攻撃』
この入れ食い状態、まとめて片付けずしてどうしろと!
手あたり次第、できるだけ多くのいわしを巻き込むように炎を撃ちます。
あちらからの攻撃は『オーラ防御』でそらしましょう。
それでは、焼きいわしにして差し上げます。
食材になりたいものからかかってきなさい!
●双子と朱殷と三下
――ヨクモ! ヨクモ! ヨクモ!
「うん?」
何かが聞こえた様な気がして、満月・双葉は空を仰いだ。
少し前、日が暮れていたのだ。
そこにはもう、夜空がある筈である。
「なぁにあれ」
あり得ない青色に、双葉の口調が思わずおかしくなる。
「文字通り鰯雲。わぁすごーい」
「そんな棒読みで何を言って――」
近くにいた穂結・神楽耶も、双葉の言葉につられて空を仰いで――見た。
夜空ではなく、イワシ色の空を。
「本当にいわしじゃないですか!?」
いつの間にかイワシ色になっていた空に、神楽耶も思わず声が上がる。
「ふっ……犯人はいわしだと言ったけれど、まさかこれ程の複数犯だったとはね。このボクの目を持ってしても見抜けなんだ」
いつの間にそこにいたのか。
神楽耶の後ろでは、三池・葛士郞も遠い目で空を仰いで――。
「っていうか、多すぎるよね? 怖いよ!」
遠い目と言うか、怯えていた。
「あれは怖いとかそう言うレベルではな――っ!」
――ギョォォォォッ!
何か奇声を発して降ってきたいわしを、神楽耶が抜き放った結ノ太刀がスパッと腹を斬り裂き開きにおろす。
「おっと」
双葉は何だか凶悪なオーラを纏った大根で、咄嗟にいわしを叩き落とす。
「ひぃっ! ビチビチしてるしてかてかしてる! 青光ってる! 生臭い!」
大根に頭を粉砕されたいわしの残骸が、葛士郞の足元に落ちて跳ねていた。
「おねーちゃんおねーちゃん、いわしがいっぱーい。――力を貸して?」
その悲鳴を聞き流し、双葉は彼女を喚んでいた。
『……』
現れた黒髪の女性の霊は、その背中に双葉と同じ七色の翼を広げ、どこか双葉に似ている顔立ちをしている。
それもその筈。霊の女性は双葉の双子の姉なのだから。
「ボ、ボクのようなイケメンがイワシ臭くなるのは世界の損失だからね! ボクを護る栄誉をキミ達に与えよう!」
そんな事をのたまいながら、葛士郞が顔の前でガクブル震える腕を振り上げる。
髪をかき上げようとして、空振ったようだ。
――ギョォォォォッ!
そこに再び空から奇声が響いて、神楽耶の体が暗く朱い炎に包まれた。
それはいわしを1体開きにおろした、その直後のことである。
(「って、あれ? もしや」)
神楽耶は気づいてしまっていた。
(「オブリビオンを食べていた……ってことですか……?」)
その可能性に気づいてしまっていた。
そうかもしれないし、そうでもないかもしれない。
「…………」
だが、否定しきれないその可能性に、神楽耶が押し黙る。
何故なら――不本意ながら、オブリビオンだったとしても美味しかったから。
(「ええ本当に! 不本意ながら! 美味しかったですが! オブリビオンを美味しく頂いていたという事実が! 悔しい上にちょっと生理的に無理です!」)
「燃え盛れ、我が悔悟──!」
というわけで、今回はちょっぴり悔悟が強いかもしれない神楽耶の【朱殷再燃】が発動し、その体が炎に焼かれる神霊となったのである。
ボゥッ!
迸った炎が、降ってきたいわしを焼き落とす。
ゴッ!
ゴッ!
別の方向から降ってきたいわしを、双葉は今度は馬の置物で、姉の霊は手にしたフルートでそれぞれぶっ叩いて頭を粉砕してみせた。
野菜やら置物やら楽器やら。本来鈍器でないそれらで物理的な一撃(ツッコミ)を入れるその様を見れば、2人をよく知らない人でも、血縁者かな、と思うであろう。
『……』
双葉の姉の霊は、たった今いわしを叩き落としたフルートを手に、振り向いた。口元に微笑みこそ浮かんでいるが、その目は全く笑っていない。
姉の霊の視線の怖さ。
そして暗く朱い炎に焼かれる神楽耶の姿。
「あ、ごめんなさいすいません生意気言いました」
2人の迫力は、葛士郞に土下座謝罪しながらバックダッシュさせるのに十分だった。
「え、あの、ちょっと待――」
「ごーめーんーなーさーいー!」
神楽耶が静止しようとしたのも聞かず、葛士郞は土下座ポーズのまま店と店の隙間に消えていった。
神楽耶はかつて、御神体と崇められた太刀のヤドリガミ。その根幹には、女神としての慈愛が今もある。請われたならば守るのもやぶさかではなかったのだが。
「まあ、あの人も猟兵だし大丈夫でしょう。多分」
「それもそうですね!」
双葉の言葉に神楽耶も頷いて、空に向き直る。
「それでは――焼きいわしにして差し上げます!」
言い放った神楽耶の体から、炎が燃え上がる。
勢いを増した炎を、神楽耶は右手の先に集めて――そのまま薙ぎ払った。朱炎が轟と燃え広がり、降ってきたいわしを群れで焼き焦がす。
「火力は任せます。そちらに集めますから――お願い、おねーちゃん」
自らはフードを被りながらの双葉のお願い、に姉の霊はフルートを口につける。
辺りに、フルートの音色が響き出した。
双葉の姉が持つフルートは、ただのフルートではない。
その音色は、聞くものに狂気を与える。
元々溢れた呪詛で怒れるいわしである。フルートの音色が与える狂気に、いわし達が抗える筈もなかった。
――ギョッギョォォォォォッ!
呪詛じみた奇声を上げて、いわしの群れが喰らい合う。
別の個体を食う事でその身に宿る悪魔の力を凝縮させたいわしの群れが、グンッと弾丸のように降って来る。
「この入れ食い状態――まとめて片付けてあげましょう!」
朱炎一閃。
音で狂わされ真っ直ぐに己に向かって降ってくるいわしの群れを、神楽耶が放つ炎で纏めて薙ぎ払う。
いわし達の視線は、暗く朱い炎に焼かれ続ける神楽耶へと集中していた。
さながら光に寄せられる魚が如く。
「援護するので、多少の撃ち漏らしは気にせずどうぞっと」
呟いた双葉が音もなく投擲して、僅かに炎が届かなかったいわしを叩き落とす。
双葉は既に少し離れた立て看板の陰に入り、目立たないよう気配を抑えていた。
標的を分散させない為である。
加えて、周囲にラーメン店のあるこの地形ならば、いわしが降ってくる軌道は自ずと限られてくる。
標的と軌道が判っているのなら、それがどれほど速かろうと問題はない。
「食材になりたいものから、かかってきなさい!」
「ラーメン美味しかったんですけどねぇ……オブリビオンなら仕方ないですよねぇ」
神楽耶が炎を放ち、双葉が援護に回る。
即興にしては噛み合った戦術を取る2人の周りには――いつしか、いわしの焼ける香ばしい匂いが充満していくのだった。
一方その頃。
「うぅ、イワシ臭いよぅ……」
葛士郞は、ラーメンストリートの店の隙間を、外周目指して歩いていた。
少しでもいわしの少ない方向へ、ということである。
だが――店と店の隙間など、長く続かない。やがては葛士郞も、いわしが弾丸のような速度で飛び交う道に出なければ行けない時が来た。
「1人で何とかするしかないか……イケメンは孤独、孤高だね! がんばれボク!」
そう自分を鼓舞する様に言うと、葛士郞は意を決して――石突を持った槍をちょっとだけ道に突き出して、その穂先でいわしを1体貫いた。
その瞬間、槍がドラゴンへと姿を変える。
「いけ、ドラゴン! ボクは触りたくないからお前ががんばれ!」
がんばれボクと言った舌の根も乾かぬ内に、ドラゴンに丸投げする葛士郞。
「戦略だよ、戦略。さあドラゴン、ボクの分もがんばべっふぅっ!?」
何故か葛士郞を尻尾の一撃で黙らせて、召喚ドラゴンは大口を開けて、いわしの群れをむっしゃむっしゃと喰っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浮世・綾華
オズ(f01136)と
あ、イワシだ
イワシの渦だ
っぽいな
施設の方に集まってる?
でもどーせ全部倒さなきゃなら
俺らは此処(ラーメンストリート上)からいくか
ええ…共食いすんの
敵ギリギリまで引き付け
黒鍵刀ではじきカウンター
ぴちぴちはねるイワシを横目に…
うわっ、オズの方の量ヤバくネ?
オーズー、だいじょうぶかー?
えいえい声が聞こえるから大丈夫そうだが
イワシに埋もれるオズが捌ききれない分を
鬼火を範囲/属性攻撃、早業で展開させ丸焼きに
あ、すげー香ばしい香りする
…流石にこれは食わんが
なー、良い匂い
ま、今度ちゃんとしたイワシ食わせてやるよ
ラーメンはもう十分食ったし
ほかほか白米と塩焼き
ん、またイワシに埋もれんなよ?
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
空、そらっ
指さし
あれをたおせばいいのかな
いわし?
それが魚怪?
うん、わかったっ
わたしは空を飛べないもの
近づいてきてくれるまで待って
ぐんっと回した斧で範囲攻撃
まわるように泳いでくるなら逆回転で斬りつける
攻撃は武器受け
倒しながら施設へ近づくよ
いわし増えてきたね
えっ、ともぐい?
聞き返しながらガジェットショータイムを使おうとしたら
いわしがたくさん
わあ、アヤカが見えない
えいえいっ
アヤカの声がする
だいじょうぶーっ
と元気よく返事
わ、アヤカありがとうっ
ほんとだ、いいにおい
わあ、こんどっ?
たのしみ
アヤカのごはん、おいしいもの
よーし、がんばってたおすよ
アヤカのごはんごはんっ
うん、きをつけるっ
●いつか、本当の鰯を食べよう
「アヤカ、空、そらっ」
何やら軽く興奮した様子で、オズ・ケストナーが指を空に向ける。
「んー?」
浮世・綾華がその方向を仰ぎ見れば――。
「あ、イワシ」
そうとしか言いようがないほどに、空がいわしに渦巻いていた。
――ヨクモ!
2人の耳に届く、呪詛じみた思念。
「あれをたおせばいいのかな? いわし? あれが魚怪?」
綾華を見上げるオズの瞳は、興奮で丸く見開いている。
「っぽいな――っ!」
オズに答えかけた綾華が、咄嗟に長柄を掴む。
ジャラリと鎖を鳴らして翻った黒鍵刀の鋭い刃が、いきなり飛んできたいわしをスパッと真っ二つにおろす。
「わ! まだ動いてる!」
「ま、敵なのは間違いねーな」
半分になってもまだぴちぴち動いてるいわしに、オズが更に目を丸くして、綾華はそちらを見ないようにいわしを見上げる。
良く見渡せば、いわしの層も一定でないのが見て取れた。
「製麺施設の方に多く集まってるみたいだな?」
「じゃあ、わたしたちそっち行く?」
2人の視線が、ラーメンストリート奥の製麺施設上空に向けられる。
「でも、どーせ全部倒さなきゃならないだろうし、俺らは此処から倒していくか」
「うん、わかったっ」
――ギョォォォォッ!
綾華の言葉に頷いたオズが斧の様なものを担ぐと同時に、空から奇音が響く。
どうやら、2人を進ませまいというつもりのようだ。
「ギリギリまで引き付けるぞ」
「わたしたち、空を飛べないものね」
いわし空から飛び出す2つのいわしの群れに、綾華とオズはそれぞれ向き合い、背中合わせに得物を構える。
綾華は黒鍵刀を、鋒を下に斜めにして。
オズは斧型ガジェット『Hermes』を、担ぐ様にようにして。
そこから、1歩、2歩と距離を取り――綾華が先に動いた。
「っ!」
綾華の口から溢れ出た短い呼気を、鎖の音がかき消す。
振り上げた黒鍵刀から放たれた黒い波動が、迫りつつあったいわしの群れを纏めて切り散らした。
ゴインッ、とその後ろで鈍い音。
オズが地面に突き立てる様に構えたHermesで、いわしの突進を受け止めた音だ。
出鼻をくじかれたいわしだが、奴らもそんな事ではめげない。
だが、いわし達が再び回遊を始めようとしたその刹那、オズが両手で掴み直したHermesから蒸気が噴き上がった。
「よいしょぉ!」
その勢いに乗せて、オズは自身の身の丈程もあるHermesをいわしの回遊とは反対の方向にぐるんと振り回し、いわしの群れを纏めて薙ぎ払った。
まず第一波は難なく凌いだ。
綾華とオズは互いに振り向き、笑みを交わす――そこに。
ぽとり。
何かが落ちて来た。
尾だ。いわしの尾だ。
「ええ……」
それが意味するところを何となく察して空を仰いだ綾華が、思わず半眼になる。
「こいつら、共食いすんの?」
呻く綾華の視線の先では、いわしが別の個体を食い合っている。そうすることでその身に宿る悪魔の力を食った方に凝縮させているのだ。
「えっ、ともぐい?」
聞き返しながらHermesを掲げたオズの頭上に、まあるい陰がさす。そして――どっすんと降ってきたゆうに数十匹のいわしの塊に、オズの姿が飲み込まれた。
「ん? うわっ」
音の方を見た綾華が、流石に驚いた声を上げる。
「オーズー、だいじょうぶかー? いわしの量ヤバくネ?」
「アヤカー! いわしがたくさんで見えないけど、だいじょうぶーっ」
呼びかければ、いわしの中からオズの声が返ってくる。
そしてにょきっとHermesの先端が出てきて、「えいえいっ」と振り回すオズの声も聞こえてきた。
「声が聞こえるから大丈夫そうだが……」
綾華の赤い瞳が、スッと細められる。
大丈夫そうだからと言って、放っておける性格でもない。
「――ほら、喰らいな」
その手から離れた黒鍵刀が――解けて燃えた。
黒鍵刀が形を変える。
緋色に燃える鬼火の花弁と、そこに混ざる白菊。緋白二色の無数の花弁が、綾華を中心に風に舞い踊るように広がっていく。
さながら燃ゆる花の嵐。
花弁が触れたいわしが悉く燃えていく。オズを包んでいたいわしの塊も。
「わ、アヤカありがとうっ」
何が起きたかすぐに理解したオズが、再びHermesを掲げる。そこから放たれた新たなガジェットが何かを放出した。
何かは空中で広がり、いわしがそれに絡まっていく。
「あ、投網か」
オズのガジェットから放たれたそれが投網と気づいた綾華が花弁を操り、網に絡め取られたいわしを容赦なく焼いていく。
気がつけば、2人の周りに動くいわしは残っていなかった。
「あ、すげー香ばしい香りする」
「ほんとだ、いいにおい」
こんがり焼き立ていわし。オブリビオンでも、匂いは美味しそう。
「ま……流石にこれは食わんが。今度ちゃんとしたイワシ食わせてやるよ」
「わあ、こんどっ? たのしみ! アヤカのごはん、おいしいもの!」
綾華の言葉に、オズは蒼い瞳をぱっと輝かせる。
「いわしは塩焼きで、あとはほかほか白米と」
「よーし、がんばってたおすよ! アヤカのごはんごはんっ」
新たな楽しみが出来た。
Hermes片手に弾むような足取りで歩き出すオズの後ろを、綾華が着いていく。
「ん、またイワシに埋もれんなよ?」
「うん、きをつけるっ」
いつか、オブリビオンではない美味しいイワシを食べるため。
2人はまだまだいるいわしの駆除へと向かっていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鵜飼・章
ラーメンも食べたし帰ろ…ん?
わあ空がいわし色
そういえば仕事中だった
いいだろう
何にでも天敵は存在する
世界は弱肉強食だと思い知るといい
魔導書からイワシクジラを数頭召喚し
【騎乗】して空を泳ぎながら製麺施設へ
この子たちはその名の通り鰯が大好物なんだ
皆、ご飯だよ
【恐怖を与える】とUC【無神論】で圧力をかけ
慎重にかつ容赦なく食べさせていこう
数十匹の鰯を放たれたら鴉を飛ばし対抗
互いを喰らいあう鴉と鰯…
衝撃映像だね
製麺施設周辺の鰯が多すぎたら
クジラを少し追加投入する
後でちゃんと消すから大丈夫
ところでこのオブリビオン美味しいかな
どうしても気になるから
追いつめたら僕も一匹さばいて刺身にする
これが自然界の厳しさだ…
レナータ・バルダーヌ
外の様子がおかしい気がするので、一旦施設から出ましょう。
わわっ、空一面にいわしさんが……!
……なんだかちょっと楽しそうです、わたしも混ぜてください!
【ブレイズソニックトレイル】で両翼の痕から炎を噴射して、魚群の流れに合わせて一緒に空を飛びます。
もしかしたら【衝撃波】で1尾が3枚になってしまったり、後ろの方から香ばしい匂いが漂ってくるかもしれませんけど、きっと気のせいです。
それにしても、まさか本当にいわしさんの怨念だったとは……。
あっ、そういえば「ごちそうさま」を忘れてました!
もしかしてそのせいで怒ったのでしょうか?
いわしさんごめんなさい、ごちそうさまでしt……え、違います?
●空中戦
――ヨクモ!
「ラーメンも食べたし帰ろ……ん?」
クレーマー作戦の副次効果でたっぷりラーメンを頂いた鵜飼・章は、何かを感じてラーメンストリートの出口に向かっていた足を止めた。
同じ頃。
製麺施設に潜入していたレナータ・バルダーヌは、何か外の様子がおかしい気がして施設の外に飛び出していた。
そして、2人は離れた場所で同時に見た。
「わあ空がいわし色」
「わわっ、空一面にいわしさんが……!」
いわし色に染まった空を。
「……。そう言えば仕事中だった」
猟兵の仕事でラーメン食べに来ていた事を、章はいわし空で思い出す。
「いいだろう」
そんな事実をさらっと流して、章は一段冷たい声を発した。
掲げるは『自然数の集合』。店でGを喚んだ時とは比べ物にならない魔力が、開かれ光を放つ頁から放たれていた。
「何にでも天敵は存在する。世界は弱肉強食だと思い知るといい」
淡々と告げる章の後ろに、15mを超える巨大な影が3つほど現れる。
細長く、背びれを持つシルエット。
ナガスクジラ科に属する中でも、3番目に大きいとされるイワシクジラが章を背に乗せて、いわしが溢れる空へ飛び立っていった。
「まさか本当にいわしさんの怨念だったとは……」
飛び立つクジラの姿は、製麺施設のすぐ外にいるレナータにも見えていた。
「おや? ……アレはなんでしょう?」
見えてはいたが、距離がある。遠目では良く見えない。
あと、何だか音が聞こえてくる様な――。
「……なんだかちょっと楽しそうです。わたしも混ぜてください!」
だから、レナータも飛ぶことにした。
(「この間の傷が開きませんように……」)
胸中でそう願いながらオーラを纏うレナータの背に、獄炎が顕現する。
かつて翼があった痕から広がった炎は翼の様に広がり――されと翼にはならずに、その先端が渦巻いていった。渦巻く炎は炎の筒となり、そこから炎を噴射する。
炎の翼をロケットに変えて。
レナータは、いわし空へ飛び立った。
――ぽぷー♪
空に、オカリナの音が響く。
吹いているのは、クジラの背に乗った章だった。
――ぺぷー♪
上手くはないが下手でもない。微妙な音色は虚無の音。聞いた敵の精神を削り動きを止める――音の形をした哲学。
「音楽の神様は僕が嫌いなんだ」
章いわく、そう言う事らしい。
「皆、ご飯だよ」
章が告げるその声に、背中に章を乗せたクジラもその左右を並走する2体のクジラも口を大きく開ける。
無神論で動きを止められたいわしの群れを、クジラが喰らい始めた。
「うん?」
空気の振動に気づいた章が、首の向きを変える。
次の瞬間、章の目の前にレナータが飛んできた。
「この生き物は……何でしょう?」
「ああ。この子たちはイワシクジラ。その名の通り鰯が大好物なんだ」
音の壁を超えて飛んできたという事実を、当のレナータもそれを目の当たりにした章もまるで気にする事無く、空中でクジラ談義が始まる。
「この子たちが好きなのは生のイワシなんだ。だから、バラバラにしたり焼いたりしないで貰えると」
そんな事より、レナータが止まった時の衝撃で三枚に降ろされたり、レナータが飛んできた方から香ばしい匂いが漂う方が、章は気になるらしい。
「あら?」
そして、レナータ自身、それは無自覚だった。
まあ、超音速に達する程の飛行中の背後のことだ。見えて無くても無理はない。
「ごめんなさい。向こうを飛んできますね」
言うが早いか、レナータはあっさりと音の壁を突破して飛び去った。
「ああ、またいわしが減って……でもまだ、僕が食べる分もあるからいいか」
何か不穏な事を呟いて、章は再びオカリナに口をつける。
――ぱぷー♪
どこか気の抜ける音色に乗って、章の肩から鴉達が飛び立った。
鴉は形成されつつあった数十匹のいわしの塊を喰い散らかし――。
「よしよし。ちゃんと取ってきたね」
塊の中からいわしを1匹、章の元に取って来る。
章はぴちぴち跳ねるいわしを標本用の針で手早く縫い止めると、メスを入れて腹を掻っ捌き、開いて骨と実を切り分けていく。
「これが自然界の厳しさだ……」
ばくんばくんとイワシを食らうクジラの上で。
章は刺し身におろしたイワシを。鴉達はその腸を喰らっていた。
美味しいのか、どうしても気になったそうである。
「あっ」
ズドンッ。
再び大気を震わせて、レナータが急停止する。
その目の前に、いわしが壁を作っていた。しかも、いわしがいわしを喰っている。
「そういえば「ごちそうさま」を忘れてました!」
その光景に、レナータはふとそんな事を口に出していた。
「もしかしてそのせいで、共食いするほど怒ったのでしょうか?」
いわし達が共食いを始めているのは、これ以上いわしを焼かせまいとして、悪魔の力を凝縮してレナータを食い止める気なんだと思うのだけれど。
「いわしさんごめんなさい、ごちそうさまでし――」
――ギョッギョォォォォォッ!
そうと気づかず、頭を下げたレナータの言葉を、怨嗟じみたいわしの奇声のようなものが遮った。
「……え、違います? って、ひゃぁぁっ」
牙を剥いて襲いかかるいわしに、レナータは慌てて反転し、飛び出す。
その炎でいわしを蹴散らして。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真守・有栖
いわしの群れを退治。
そして、美味しく頂く。
えぇ、此処からが本番っ
今宵はいわし三昧よ……!
問題は如何にして食べるかよね。
私は食べる方の狼で、料狼ではないわ……ぐぬぬっ
と、思ったけれども!此処には料理が上手い店員さんたちがたっっっくさんいるじゃないの!
安全な場所に避難してもらいながら、非常食も兼ねて美味しいいわし料理をわっふり盛り沢山に作って頂く。……これだわ!!!
刃に込めるは“鰯”の一念!
おさかなは別腹。餓えた狼のぺこぺこはとっっってもがるる、でがぶり!よっ
迸る烈光で空泳ぐいわしの群れごと一気に成敗……!
落下した切り身を回収。お届け。料理。わぐわぐ。わおーん!の流れね!
さぁ、推して参るわよ!!!
●意念ノカタチ
――ヨクモ!
「出てきたわね。此処からが本番っ」
空から降ってくるいわしの、呪詛めいた念やら奇声やらに、真守・有栖が真っ向から声を張り上げる。
「いわしの群れを退治。そして、美味しく頂く。今宵はいわし三昧よ……!」
食欲全開で。
どのくらい全開かと言えば、まだ食べてもいないのに銀の尾がゆらゆら揺れているくらいである。
「問題は如何にして食べるかよね。私は食べる方の狼で、料狼ではないわ……」
ぐぬぬと拳を握る有栖の頭上では、奇しくもクジラに乗った誰かがその上でイワシを捌いて刺し身にしている真っ最中だったりしたのだが。
だが、有栖は上を見ずにぐるりと周囲を見回した。
そして、お店の中から不安そうに伺っているラーメン店の店員と目があった。
「そうよ!」
有栖の目が、期待に輝く。
「此処には料理が上手い店員さんたちが、たっっっくさんいるじゃないの!」
彼らにはこのまま、安全な場所に避難してもらう。
そして、店内で美味しいいわし料理をわっふりと盛り沢山に作って頂く。
「これだわ!!! 非常食も兼ねられて、完璧ねっ!!!」
ラーメン屋の人たちの皆が、果たして魚を捌いた経験があるだろうかという部分については、ちょっと疑問の余地は無くもないが。
有栖はそんな事は露にも気にしていない。
「斬って、切り身を回収。お届け。料理。わぐわぐ。わおーん! 完璧ね!!!」
もう有栖の目には、空を泳ぐいわしは食材にしか写っていなかった。
――ギョッギョォォォォォッ!
その食欲を感じ取り、いわし達が奇声を上げる。
いわしがいわしを覆い、1つの魚群を形成していく。
「塊になれば食べきれないとでも? おさかなは別腹! 餓えた狼のぺこぺこは、とっっってもがるる、でがぶり! よっ」
食欲と気合いたっぷりに言い放ち、有栖の手が腰の月喰を抜き放つ。
鞘走った刃から、光が迸り――弾けた。
「はえ?」
いつもと違う様子に、有栖の口から思わず声が漏れる。だが、驚きながらも身体は染み付いた通りに刀を振り切っていて。
そして――鰯型の光刃が放たれる。
光刃『月喰』。込めた意念を光に変える刃。
抜刀の直前。
有栖が刃に込めた一念は――“鰯”。
「ちょ、ちょっと? 月喰? どうしちゃったの!?」
驚く有栖の周りに、鰯光刃に切られたいわしの身がぼとぼと落ちて来ていた。
大成功
🔵🔵🔵
鏡彌・サクラコ
【オクちゃんf10977と一緒】
【アドリブ歓迎】
青魚で有名な鯖は鯖節としてラーメン屋さんでも使われます
でも鯖節だけ炊くとすごく臭いがキツイのですよ!
え?そんな蘊蓄を語っている場合じゃない?
まあ、なんか敵の数が多いですねい?
敵が七分で空が三分でいす!
オクちゃん、無理は禁物ですねい
安全第一無理せずやっつけましょう!
いわしはやっぱり塩焼きにして炊き込みご飯がベストでしょうかねい?
などと食欲を向けると呪詛が飛んできますねい
UC(オペラツィオン・マカブル)
ひらりひらりと避けつつ
ハクナキを操って三枚におろします
戦闘後は
はあ、なんか運動したらお腹がすきました
秋刀魚のラーメン屋さんがあるので行ってみましょう!
日隠・オク
サクラコさん(f09974)と
大変な敵です……デビルズナンバーいわし……!
気を引き締めていきます!
(ラーメンの話を聞いて)
サクラコさん、詳しい。
いわし雲という言葉があった気がします。
空一面にいわしが浮いて……いるんでしたっけ。
はい、無理はしません
でも頑張ります!
UCはサモニング・ガイスト使用
敵の攻撃は出来る限り避けながら
(羽はあるけど飛ぶことはほとんどない様子、素早く動いたりな地に面した動き)
霊を召喚して戦います
焼きますね!
魚のだしのラーメンは、おいしかったです。
お、おいしそう
●鰯節もあるそうです
イワシ色に染め上げられた空。
ヨクモ、ヨクモ、と呪詛めいた怨念がそこから降り注ぐ。
「なんか敵の数が多いですねい? ざっと、敵が七分で空が三分でいす!」
そんな空を仰ぎ見ても、鏡彌・サクラコは平然としていた。
「いわし雲、という言葉があった気がします」
だから隣で見上げている日隠・オクも、慌てる事無くそんな事を思い出している。
「空一面にいわしが浮いて……いるんでしたっけ?」
「いわし雲は、いわしの群れのように見える雲のことで、いわしが浮いている空の事ではないですねい。ちなみに鯖の模様のように見える事から、鯖雲とも呼ばれるでいす」
オクの勘違いを正すサクラコの脳裏に、鰯よりも幾らか大きな青魚が浮かんだ。
「鯖は青魚で有名なのですが、鯖節としてラーメン屋さんでも使われます。
そして、なぜか急にサクラコの話がラーメン方向に脱線した。
「私が食べたラーメンにも、使われてたんでしょうか?」
オクも釣られて、最初に食べた魚介清湯ラーメンを思い出して首を傾げる。
「その可能性はあります。何故なら、鯖節はそれだけで炊くと、すっごく臭いがキツイのですよ!」
答えるサクラコの語り口には妙に熱が入っている。
鯖節にまつわる経験が何かあるのだろうか。
「更に炊いたあとの出汁が冷えても臭いがキツイ! そこで、鰹節なんかと一緒に炊かれてラーメンなどの温かいものの出汁に使われる事が多いのでいす!」
「成程……さすがサクラコさん、詳しい……」
サクラコの鯖節トークに、オクは神妙な顔で頷いている。
そんな2人の直ぐ側を、ギュンッと斜めに横切ったいわしが地面に突き刺さった。
いわしが。地面に。突き刺さった。
「大変な敵です……デビルズナンバーいわし……!」
「蘊蓄を語っている場合じゃなかったですねい」
アスファルトの地面に食いついたいわしを見下ろし、オクもサクラコも流石に幾らか表情を引き締め、空を仰ぎ見る。
「あれ? ちょっと減ってます?」
「あ、なんか大きいのが食べてますよ!」
首を傾げるサクラコの隣で、オクが空に増えていた大きな影を指差す。遠くの方では、地上から炎が噴き上がるのも見えた。
地上で、空中で。
サクラコが薀蓄を語っている間に、いわしと猟兵の戦いは始まっていた。
「サクラコさん。私達も気を引き締めていきましょう!」
「オクちゃん、無理は禁物ですねい」
緊張した面持ちになって諸刃の短剣を構えるオクの肩を、いつも通りの笑顔を浮かべたサクラコの手が叩く。
「安全第一無理せずやっつけましょう!」
「はい、無理はしません。でも頑張ります!」
顔を見合わせる2人の頭上で、いわしの魚群が動き出した。
降り注ぐイワシの青の中、黒と白の髪が付かず離れず舞うように揺れている。
ゆらり、ひらり。
身体の力を抜いたサクラコが舞うように身を翻せば、糸の先も続く。操るのは、姉妹のように良く似た白いおかっぱ頭の和装少女人形――名を白名鬼(ハクナキ)。
「いわしはやっぱり塩焼きにして、炊き込みご飯がベストでしょうかねい?」
わざといわしに食欲を向けるような事を呟き、いわしの気を惹きつける。
――ギョォォォォッ!
まんまと釣られたいわしが塊となって降って来た――瞬間、サクラコと白名鬼の距離が大きく離れた。
離れたその間には、複雑に絡み合った繰糸がピンと張っている。
糸が網の役割を果たして、いわしの塊を止めた。後から後から押し寄せるいわしに押されて、最初にかかった数匹が3枚におろされる。
それを見ながら、サクラコが腕を振り上げた。白名鬼がくるくる回れば、いわしの群れも折り重ねられる。
「お返しでいす!」
そして、白名鬼の手でいわしの塊がいわしの群れに投げ返された。
いわしといわしがぶつかり合い、いわしが散らばる。
放たれた数本の槍が、それらを纏めて貫いた。
オクが召喚した、古代の戦士の霊が放った槍だ。
「焼きます!」
槍が貫いたいわしを、オクは霊の放つ炎で追い打ちをかける。
すぐに、いわしの串焼きが出来上がった。
「こんがり丸焼き――え?」
オクが目を丸くする。
こんがり焼かれたいわしを、別のいわしが喰らったのだから。その体におそらく僅かに残っていたのだろう、悪魔の力を喰らい取る為に。
「っと」
速度を上げて襲いかかってきたいわしを、オクはナイフで弾き返した。
立て続けに来る数匹を、それぞれに一撃加えて弾き返し続ける。そのナイフは、オクが昔から持っているものだ。手に良く馴染んでいる。
そして、弾かれたいわしを古代の槍が貫いた。術者を守る様に立ちはだかった霊が、次のいわし群れに炎を放つ。
「はあ、なんか運動したらお腹がすいて来ました。サクラコが知ってる秋刀魚のラーメン屋さんがあるので、行ってみましょう!」
「秋刀魚の……お、おいしそうです!」
からくり人形と霊を操りながら、サクラコとオクはいわしをおろし、焼いていく。
程なくして、2人の頭上からいわしの匂いが薄れていった。
まだ、食べるんですか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユニ・エクスマキナ
清史郎くん(f00502)と!
うわぁ、これがイワシ色の空…!
ユニ、初めて見たのねー!
記念に写真撮っておこうっと(スマホ向けてパシャ
…うーん、全然可愛くない
消しておこうかな…
え?敵!?このイワシが?
ねぇ、清史郎くん
もしかして、ユニたち、このイワシ食べちゃったのかな?
いやー!なかったことにしたーい!!
3枚おろし?ってどうやるの?(検索中
は!?待って、ユニもー!
流れるようにイワシが3枚おろしに…!
イワシをおろす姿が雅やかなのは清史郎くんだけなのね、きっと
ユニもちょっとやってみたいけど
あ、刃物ないなぁ
これで出来るかな?
(マニュアル振り回して挑戦
あー、もう!
とりあえず最後にラーメン食べて帰りたいのねー!
筧・清史郎
ユニ(f04544)と
…む、空が魚介色に染まっているが…恐らく敵では、と
確かに魚粉使用の麺類は美味しくいただいたが
いわしの呪詛に食われるわけにはいかんな
いわしは全て3枚におろさせて貰おう
写真は…そうか可愛くなかったか(だが少し欲し気
いわしにはひよこで対抗(ひよこブレイド抜き
可愛い見目のふわもこだが切れ味は抜群だ(きり
回数重視【桜華葬閃】でイワシを次々おろそう(雅に
敵を覆う魚群ごと斬る
ユニにイワシ迫る気配あれば庇い
扇で受け刀で斬り伏せ、確りと料理しよう
大丈夫か?きっと俺たちが食べたのは普通のイワシだ
3枚おろしの仕方も今度教えよう(微笑み
そうだな、全て捌き終えたら
口直しにラーメンでも食べて帰ろうか
●イワシの身は柔らかい(魚の場合)
その空を見た2人の反応は、実に対象的だった。
「む、空が魚介色に染まっているな?」
「うわぁ、これがイワシ色の空……! ユニ、初めて見たのねー!」
筧・清史郎は眉根を寄せる一方で、ユニ・エクスマキナはその瞳をぱぁっと楽しそうに輝かせていた。
「記念に写真撮っておこうっと」
淡いピンクの筐体のスマホを取り出すと、ユニはそれを持った手を下げて、自分と清史郎といわし空が収まる様にレンズを上に向ける。
「清史郎くん、難しい顔してないで、笑って!」
「む? こうか」
ユニに請われ、清史郎が微笑を浮かべたところでシャッターがパシャリ。
「……うーん? ……全然可愛くないのねー」
「……そうか。可愛くなかったか」
頬を膨らますユニの様子に、清史郎も残念そうに呟く。
「消しておこうかな……」
「消してしまうのか? まあ、敵だろうしな」
不満げだったユニだが、清史郎の一言を聞いて目が点になった。
「……。……え? 敵!? このイワシが?」
ズドンッ!
驚くユニの後方で、降ってきたいわしが突き刺さった。
「ねぇ、清史郎くん……もしかして、ユニたち、このイワシ食べちゃったのかな?」
ギギィと音が鳴りそうな動きで振り向きそれを見たユニの顔は、悲しげだった。
「いやー! なかったことにしたーい!!」
――ギョォォォォッ!
ユニの上げた悲鳴じみた声に、なぜかいわしが奇声を返した。なかったことにしたいというのも、それはそれでお怒りの対象らしい。
「大丈夫か?」
ユニを狙って飛んできたいわしの群れに、清史郎が蒼天桜雪を叩きつける。
蒼地の扇が振るわれれば雅に桜舞い、いわしが蹴散らされた。
「きっと俺たちが食べたラーメンに使われていたのは普通のイワシだ」
普通という根拠はないのだが、ユニのあんな反応を見せられては、清史郎はそう言わざるを得なかった。普通ではない根拠もないし。
(「魚粉が混ざっていた形跡はあったのだが……」)
それは言わぬが花だろうと、胸中で結論付けて清史郎がいわしの群れに進み出る。
その手元で、ぴぃぴぃぴよぴよ、ひよこを鳴かせて。
――ギョォォォォッ!
奇声を上げたいわしがいわしを纏って、群れの厚みを上げて飛んで来ていた。
――閃き散れ、黄泉桜。
ひよこが鳴いて、桜花舞う。
三枚におろされたいわしが、その足元に散らばっていた。
「いわしの呪詛に食われるわけにはいかんのでな。向かってくるならば、全て三枚におろさせて貰おう。この刃、ただのふわもこひよこと侮ってくれるなよ」
ひよこブレイドの鋭い切っ先を向けて、清史郎が凛と告げる。
「流れるようにイワシが3枚に……!」
ユニの目には、清史郎はひよこブレイドを一閃しただけに見えた。
だから、簡単そうに思えたのだ。
「三枚おろし? ってどうやるの?」
ユニがスマホに視線を落とし、ぽちぽち検索を始める。
その間、いわしはと言うとガブガブ共食いしていた。
「ユニもちょっとやってみたいのねー」
検索した画面には、包丁を研いでおきましょう、と書かれていた。
「……刃物ないなぁ」
持ち物で、いきなり躓く。
「代わり……これで出来るかな?」
ユニが代わりとしたのは、分厚くて重いユニのマニュアル。
確かに、角は鋭い。刃物的な鋭さではないけれど。
「三枚おろしなのねー!」
「ん? あ、ユニ、それは待――」
清史郎が気づいた時には、ユニがマニュアルの角をいわしに振り下ろしていた。
ぐしゃぁっ。
半ば潰れたいわしが地面に叩きつけられて、ユニの足元に色々飛び散った。
「…………」
マニュアルを手にしたまま数歩後退って、ユニが固まる。
その表情は、ずーんと暗くなっていた。
まあ、共食いで強化されたいわしでなかったら、マニュアル自体がもっと悲惨な事になっていたかもしれないのだが。
「イワシをおろす姿が雅やかなのは、清史郎くんだけなのね、きっと」
「刃物を使わないとな? 三枚おろしの仕方、今度ゆっくり教えよう」
落胆するユニを慰める様に、清史郎が微笑みかける。
その一方でひよこブレイドが閃く度に、三枚におろされたいわしは増えていく。
「……清史郎くんなら、舟盛りも造れそうなのねー」
「舟があれば造れるな」
色々諦めの顔で検索に戻ったユニが見つけたものに、清史郎がさらりと頷く。
「あー、もう! とりあえず最後にラーメン食べて帰りたいのねー!」
「そうだな、全て捌き終えたら、口直しにラーメンでも食べて帰ろうか」
空間に出したディスプレイからいわしの電影を放つユニに、清史郎はひよこブレイドを優雅に振るいながら頷いた。
まだ、食べるんですか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
…なんと
否、散々喰われれば無理もなしだろうか
隠し味に魚粉を使うことは覚えておかねばならぬが
最早イワシの嵐ではないか
群れの動きを伺いながら
その隙を狙い、翼で製麺所屋上へ向かう
着地後、此方へとおびき寄せる様に声を
――お前達の「らーめん」は美味かったぞ
できれば俺は明日も喰いたい
十二分に此方へ敵意が向けば
イワシの射線上で黒剣を水平に
刃を前方へと向けて突き出し、構え
自分は【星守】を用いる
卑怯な手やもしれんが
…運の悪い者が開きか下ろしとなることを狙って
また、狙われた者の前へ割り込み壁ともなろう
数が減ってくれば
黒剣で衝撃波を生みながらなぎ払い、各個撃破
…許せ、イワシ達よ
お前達の犠牲、その美味は確と語り継ごう
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
空が鰯で埋まってる!?…これがホントの鰯雲?
中心は製麺所ね
シリン居た、援護するよ!
ガーネットと共に前に出て
大技使うシリンの防御をカバーする
雨音の先の未来を読んで
雨の様に襲い来る鰯の群れを予知
庇う形で割り込み刀で武器受け
カウンターで捌いて開きにするね
相殺しようと魚群を放ってくる?上等じゃない
こちらに注意を引きつつ群れを減らせるなんて好都合よ
今度は3枚に卸してあげる
さあ、かかって来なさい!
迎撃しながら群れを観察し情報取集
群れのリーダーを見つけたら
動きを見切りスナイパーで狙い定め破魔の矢を放つ
あ、ガーネットが焼いた魚、ちょっと美味しそう…
いやいや、思ってないから、思ってないからね?
玖篠・迅
魚って基本的に海とか川から釣るものだったよな?
どんなきっかけで空飛ぶいわしを食材にしようと思ったんだろ…
とりあえず施設内に従業員とか他の人が残ってたら危ないし、急いで避難させないとだよな
いわし…じゃないオブリビオンに襲われたら、式符・朱鳥で鳥たちに相手してもらう
その間に残ってる人がいないか、「第六感」で人のいそうなとこ行ったり「聞き耳」で何か聞こえた場所を確認するな
もし余裕があれば数羽の朱鳥に人を探すのも手伝ってもらう
ラーメンに魅了された人だったら、「破魔」の護符2枚はって正気に戻るか試してみたり、無理だったら施設外のラーメン屋さんで食べ放題が始まるんだとか言って誘導できるかなあ…
ディート・ヴァルト
なんとなく変な感じがしたから施設を出てたんだけど、まさか空を埋め尽くす魚が見れるとは思わなかったな
…世界はほんと広いねえ
怪しい魚の魚粉の存在は残念だったけど、ここのラーメンはおいしかったしね
他のラーメン店の人や物に被害がいかないようになんとか頑張ってみるかな
属性は「雷」自然現象は「暴風」のエレメンタル・ファンタジアを使うよ
空を泳ぐなら荒れる風は邪魔だろうし、雷で痺れてくれればより動きにくくならないかな
なるべく暴走させないように落ち着ける場所で使うようにするけど、暴走しちゃった時は…ごめんね?
シリン・カービン
【かんさつにっき】
異様な気配を感じ建物の外に出てみれば、
空を覆う鰯、鰯、鰯…
「私は猟師であって漁師では無いのですが…」
(ブツブツ言いながらも目はマジ)
この大群体を相手にするなら広範囲の術が一番。
【エレメンタル・ファンタジア】で
『炎』の『大渦巻』を製麺所上空に形成。
鰯の群れを吸い込みながら焼き尽くしましょう。
ですが、暴走の危険のあるUCを扱うには、
制御に全力を注がなければなりません。
あの群れの中、防御もせずに何秒保つものか…
「ガーネット、小太刀!」
覚悟を決めて術の発動にかかった私の元に
頼もしい援軍が。
二人の援護を得て改めて詠唱にかかります。
「小太刀、集中」(とりあえず突っ込み)
アドリブ・連携可。
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき】
シリンを追ってここまで来たが……。ここは製麺所か。奥から強い妖気を感じるぞ。
「食材になって喰われた鰯の怨念を利用し、より多くの群体を召喚しようとしたのか。よく考えたな」
シリンのエレメンタルファンタジアは、制御が難しい危険な技。ならば私と小太刀で発動中の隙をカバーしよう。 敵は恐らく発生した自然現象に耐えるために、仲間を共食してパワーアップを図るだろう。ならば……
【念動武闘法】で、クロスグレイブを複製。〈念動力〉でそれらを操り、全方位から魚群を囲んで射撃し、捕食を妨害してやる。シリンの周囲にも砲台を展開させ、向かってくる奴はことごとく焼きイワシにしてやる!
※アドリブネタ歓迎。
●製麺施設の攻防
「なんと……最早イワシの嵐ではないか」
自ら嵐と形容するその中を、ジャハル・アルムリフの背には鉤爪を持つ白亜の竜翼が広がっていた。
弾丸の様に飛んでくるイワシに、ジャハルは速度を落とさず自らもぐるりと身を翻してやり過ごして、飛んでいく。
同じ時、別の地点では。
「空が鰯で埋まってる!? ……これがホントの鰯雲?」
「上手いこと言ってないで、急ぐぞ!」
共に空を見上げながら、鈍・小太刀とガーネット・グレイローズも、降ってくるいわしを切ったり叩き落としたりしながら、地上を駆け抜けていた。
いわしが現れた直後は、地上でも空中でも、こんな風にいわしの中を突破して進むのは余裕な事ではなかった。
地上で、空中で。
他の猟兵達がイワシを減らしたからこそ、縫って突ける隙もできた。
この機を逃す手はない。
3人は目指す。空を埋めるいわしの群れの中心――その下にある製麺施設へと。
「私は猟師であって、漁師では無いのですが……」
製麺施設の建物の上で、シリン・カービンが目を細めてブツブツ呟いていた。
呪詛が広がっていき精霊が騒ぐ異様な気配を感じて建物の外に出てみれば、空が一面のいわし、いわし、いわし。
シリンでなくても、愚痴の1つもこぼしたくなるというものである。
とは言え、その目は猟師のそれになっていた。
「こんな大群体、猟銃では効率が悪すぎますね」
シリンの頭の中で、自らの取り得る最適な攻撃が浮かぶ。
「まさか空を埋め尽くす魚が見れるとは思わなかったな」
そして、やはり違和感を覚えて別の出口から施設の外に出たディート・ヴァルトも、同じ空模様を見上げていた。
「……世界はほんと広いねえ」
ディートの口元には、楽しげな笑みが浮かぶ。
こんな空、変化の乏しい故郷の森では決して見られなかっただろう。
とは言え、ディートも楽しんでいるばかりではない。
「他のラーメン店の人や物に被害がいかないように、なんとか頑張ってみるかな」
空を埋め尽くすいわしを敵と認識し、意識を切り替える。
奇しくも、2人共エルフであり、精霊と契約を結びし者。
故に取り得る最適解も、自然と同じものになった。
即ち――エレメンタル・ファンタジア。
「属性」と「自然現象」を操る大技である。
「制御に全力を注ぐ必要がありますが、防御も満足に出来なくなる。あの群れに反撃されてしまったら、果たして何秒保つものか……」
「なるべく暴走させない様にするけど……暴走しちゃった時は、ごめんね?」
シリンとディートはそれぞれに、全く別の方向に覚悟を決めて、自然を操るだけの魔力を高め始めた。
空に現れた赤い炎が回り出し、風の中に雷が走り出す。
――ギョォォォォッ!
同時に、空から響くいわしの奇声。
「これは――もうひとり術者が?」
「1人じゃなかったみたいだね」
シリンとディートが互いの存在と、いわしの動きに気づいたそこに。
3つの影が、製麺施設の敷地内に飛び込んできた。
「シリン居た! 先に行ってるよ!」
その姿を見つけた小太刀が、言い残して駆ける速度を上げる。
タンッと響かせた足音を置き去りに施設の壁を駆け上がり、シリンをも跳び超えた。
「そう簡単に当てられるとは思わない事ね」
呟く小太刀の脳裏に、遠く雨の音が鳴っている。
その手は既に、古びた柄を握っていた。
鞘走った『片時雨』の刃の如く、雨音で研ぎ澄まされた小太刀の意識は、数十匹のいわしが雨と振ろうとしているのを読んでいた。
その出鼻をくじいて切り散らすのに、一太刀あれば事足りる。
「待たせたな、シリン」
「ガーネット、小太刀!」
その一太刀の間に、ガーネットもシリンの元に辿り着いていた。
【かんさつにっき】の3人が、再び一同に集まった。
「奥から強い妖気を感じるな?」
「空にいるのと同じいわしが、食材になっていたようです」
問うガーネットに、シリンが中で見たものを簡潔に告げる。
「成程。食材になって喰われた鰯の怨念を利用し、より多くの群体を召喚しようとしていたのか。よく考えたな」
「えっと、そこ感心するとこかな?」
そこに降りてきた小太刀が、ガーネットの呟きに思わずツッコミを入れる。
そんなやり取りを見ているだけで、シリンの気は随分と楽になっていた。
「小太刀。私達で、シリンの術が終わるまで守るぞ。それでいいな? シリン」
「頼みます」
「了解!」
2人と頷き合い、ガーネットは空を仰ぎ見る。
その視線の先では、いわしがいわしを喰らっていた。
「共食してパワーアップを図る気か。無駄だ」
小さな笑みを浮かべたガーネットの背後に、巨大な十字架がずらりと浮かび上がる。
十字架型のビーム砲塔デバイス――クロスグレイブ、計41門。
「神殺しの力の一端をお見せしよう」
ガーネットの念力によって41門全てがバラバラに動き、空へ浮かび砲門を向ける。
「悉く焼きイワシになるがいい!」
角度や向きを変えた41条のビーム光が、いわしの群れへと放たれる。
それは触れれば焼かれる光の檻。ガーネットがその向きを変え続ける事で、光は共食を妨害するに留まらず、飲まれたいわしがこんがり焼かれて落ちていった。
「ガーネットが焼いた魚……ちょっと美味しそう……」
目の前に落ちたこんがりいわしに、小太刀が思わずぽつり。
「小太刀、集中」
手が離せないながら、シリンがすかさずツッコミ。
「暴走したらあの炎の渦がどうなるか、私にもわかりませんからね?」
「い、いやいや、思ってないから。本気で美味しそうとは思ってないから――ね!」
脅す様な事を言って窘めるシリンに、ちょっと慌てて小太刀が返す。
実際、小太刀はこんがりいわしに、そこまで気を取られていなかった。ガーネットの光をかいくぐった一匹が、その目前で3枚におろされたのだから。
「さあ、3枚におろされたいのから、かかって来なさい!」
「「だから集中」」
まだいわしが食材に見えてそうな小太刀に、今度は2人の声がツッコんだ。
ディートのすぐ近くに、白亜の翼を広げたジャハルが降り立つ。
「――お前たちのらーめんは美味かったぞ!」
そして、翼を畳むなり、頭上に向かって声を張り上げた。
「出来れば明日も食いたいくらいだ。隠し味にいわしの魚粉を使う事は、覚えておかねばならぬな」
空まで届く様に大きな声で、ジャハルが続ける。
(「うん。怪しい魚粉の存在は残念だったけど、ここのラーメンはおいしかった」)
その声を聞きながら、ディートは声に出さずに頷いていた。
ここで声に出してしまえば、ジャハルの取った行動の意味が薄れる。
ギョォォォォ!
奇声を上げたイワシが、ジャハルに突っ込んでくる。
その敵意を真っ向から浴びて、ジャハルは剣を構えた。天つ星が為の、影の剣を。
ぞぶっ。
突っ込んできたイワシが、黒い刃に突き刺さる。
「ほう。自ら食材になりに来るとは、殊勝な心掛けだ」
今度ははっきりと挑発的な笑みを浮かべて、ジャハルは更に言い放った。
いわしを食材として見ているかのような言葉も、更に挑発するような言葉も、全てが己に敵意を集める為のジャハルの策。
自身を仲間の盾とするために。
「触れるな」
十二分に敵意を集められたと踏んで、ジャハルが剣を構えたまま呟く。
その褐色の肌の上を、呪詛が象る竜の鱗が覆っていく。
これでもう、いわしの牙がジャハルに届く事はあるまい。その代わりジャハル自身動けなくもなったが、それは構えた剣が固定された事も意味していた。
(「……許せ、イワシ達よ」)
やや卑怯かもしれないと、ジャハルは胸中でいわしに詫びる。
(「ここまでして貰って、暴走させるわけにはいかないね」)
いわしの攻撃を集める姿に、ディートの胸中の戦意も高まっていく。
「しばらくは保たせる。今の内に、その技を完成されよ」
「助かるよ」
振り向かず告げるジャハルに礼を述べ、ディートは更に魔力を高めていった。
そして――シリンとディート、2人のエレメンタル・ファンタジアが重なり響く。
●魚怪ですから
一方、その頃。
「これで良し、と」
まだ製麺施設の中にいた玖篠・迅の前には、空になった水槽があった。
最初に呪詛を吐き出した、いわしの群れ。
式符・朱鳥――火の呪力を宿した赤い鳥を操り、迅はその群れを駆除していたのだ。
だが――。
ガシャーン!
ぱりーんっ!
ガラスが割れるけたたましい音が、あちこちから響いて来る。
製麺施設の窓を突き破って、突っ込んで来るいわしがいるのだ。
「魚って、基本的に海とか川から釣るもんだったよな?」
朱鳥を再び操り、飛び込んで来たいわしを焼いたり叩き落としたりしながら、迅は思わず呻いていた。
そもそも、魚が窓から飛び込んでくる、それ自体が魚類にあるまじき光景である。
でもまあ、魚怪だし。
「空飛ぶイワシなんて、どんなきっかけで食材にしようと思ったんだろ……」
迅の呟きは至極真っ当な疑問であると言えよう。尤も、それを答えられる者はこの場に一人もいなかった。
それを画策した何者かは、とっくに食われているし。
『ギョ……ギョ……』
『ヨクモ……ヨクモ……』
朱鳥に叩き落とされて床でぴちぴち跳ねているイワシは、意味のない奇声か呪詛じみた念をこぼすばかりだし。
「……まあ、いいか。それどころじゃなさそうだしな」
猟兵という敵がいるのに、わざわざ施設内まで飛び込んでくるいわし。
まだ中に残っている迅が狙われているという可能性もあったが、迅の直感がそうではないと告げていた。
まだこの中に、誰か残っていると。
「ていうか、お前らも食材にされてんなよ」
『ギョ……ギョ……』
ぴちぴち跳ねるイワシを踏まないように越えて、迅は施設の奥へと進んで行った。
●偶然の産物
シリンが起こそうとしたのは、『炎』の『大渦巻』。
ディートが起こそうとしたのは、『雷』の『暴風』。
風は炎を熾し、その大渦の勢いと大きさを強くしていく。
渦巻く炎の燃焼が周囲の大気を飲み込み、それを焼く過程で雷の強さを増していく。
シリンとディートのエレメンタル・ファンタジアの現象が、どちらも風に纏わる現象を発生させるものであったのは、ほんの偶然である。
だがそれが偶然であれ近しい部分があった2つの術は、2人の予想を超えた干渉を起こしていた。
名前のない自然現象。
敢えて言うならば、雨の代わりに炎を纏った台風、だろうか。
「おお……いわしがどんどん焼けていくね」
「焼けるなんてもので済めば良いが」
小太刀とガーネットが見上げる先では、いわしがこんがりを通り越して炭になるまで焼かれまくっていた。
「小太刀。ガーネット。来てくれてありがとう。お陰で暴走させずに済みました」
2人に礼を述べるシリンの額を、汗の珠が伝う。
これほどの現象を制御し切れたのは術の制御に専念できたからに他ならない。
「空を泳ぐなら荒れる風は邪魔だろうし、雷で痺れてくれればより動き難くなるんじゃないかと思ったけど……こんな風になることもあるんだね」
ディートの顔にも疲れの色が滲んでいたが、その口元には笑みが浮かんでいた。
1人では起こせなかったであろう現象は、ディートの好奇心にも火を付けたか。
「お前達の犠牲、その美味は俺が確と語り継ごう」
雷と炎で炭化したいわしの残骸が降る空を見上げ、星守を解いたジャハルは静かに呟いて黒剣を鞘に収めた。
●魚怪粉の驚異
再び、製麺施設内。
「見ろ! イワシだ、イワシが降ってきたぞ!」
「これで魚粉作り放題ですね!」
「なんでイワシが降ってくるのに疑問持たないんだろうな!?」
直感と物音を頼りに迅は施設内に残されていた人々を探し出す事に成功していたが、人々のアレっぷりに、手を焼いていた。
施設の奥に未だに残っていた人々は、ラーメンストリートで見た人々以上に、頭が魚粉でやられているご様子。
「これで正気に戻ってくれ!」
迅は破魔の力を込めた符を2枚ずつ、人々にぺたぺた貼って回る。
「イワシ……イワシ?」
「魚粉……なんで作るんだっけ?」
まだ若干怪しいが、幾らかマシにすることは出来たようだ。
「かなり長期間、あの魚粉とラーメンを食っちまってたのかね」
だとしたら完全に戻すのは無理かもしれないと、迅は胸中で嘆息する。
「よし。外に行こうぜ。外のラーメン屋さんで食べ放題が始まるんだってよ」
「「食べ放題だとぉ!?」」
(「あ、これ釣れるのか!?」)
まんまと彼らの食欲をそそる事に成功した迅は、施設の外へと促す。
そうして――残っていた人々を引き連れ迅が外に出た時、施設上空では炎と雷がぐるぐると荒れ狂った直後であった。
つまり、いわしが焼かれまくった匂いが充満し、その炭が降っている状況である。
「いわしが……焦げている!」
「いけない、折角の魚粉が」
「朱鳥、押さえといて」
再びおかしくなりかけた人々を、迅は合体させた式符にそっと押さえさせた。
●そして、いつもの夜が来る
猟兵達の活躍によって、呪詛を放っていたいわしも呪詛で呼ばれたいわしも、その場で全て駆除された。
全て――の筈である。
連絡を受けた現地のUDC組織にも確認して貰ったので、撃ち漏らしはないだろう。
迅によって発見された重症の人々を含め、いわしの魚粉、或いはそれを使ったラーメンを摂取し続けていたであろう人々も、現地UDC組織によって保護された。
数日の入院(というより監視下における健全な食事)によって、魚粉の影響が抜ければ日常に戻れるそうである。
ラーメンストリート自体も、設備を入れ替えて存続するそうである。
数日後――。
『入荷された食材の不備と故障した機械の修繕』という名目で、しばらく営業停止していた件のラーメンストリートが営業を再開した。
ストリートのほとんどの店舗に、冷やし中華始めました、と良くある、そして怪異の影響のない貼り紙が出ていたそうである。
大成功
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