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盗人流儀、緋鯉の暖簾

#サムライエンパイア

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 静かな夜ではなかった。
 その屋敷の上、高い空には、疎らに浮雲が漂うばかりで月の灯りを遮る物は殆どない。冬の澄んだ夜を透き抜けた銀光が、血濡れた障子を照らす。
 静かな夜ではなかった。
 親を失った子の泣き声も、疾うに血と共に畳に吸い込まれて、人の寝息の一つも聞こえない。人の形をした物は幾つもあるが、動く人影は一つとしてない。壁に掛けられた家紋代わりの鯉刺繍の暖簾が吸い切れない血を滴らせる音が、妙に低く響く。
 踏み荒らされた屋敷には、痕跡だけを残してその下手人は一人として残っていない。
 否、ただ一つ、瓦屋根の傘の下で月光から隠れるように佇む影が一つ。むせる様な血の匂いが充満する中、商家の全てが惨殺されるという凶行の中、血の一滴すら着物の裾に残さないその人影は、嘆息し眼前の燃える死体に目を呉れた。
 命乞いの言葉と共に、身を焼いた男から炎が広がっていく。やがて鐘が鳴り響き、火消衆が屋敷に到着した頃には、もうその人影はその場から煙に巻かれたように、消え失せていた。

 昼、楊枝を噛みつつ馴染の煮売屋の一席に尻を吸い付かせた男は、走り込んできた若手の同心の言葉に目を見開いてから、辟易とした声を漏らした。
「岩猿が」
「へえ、襤褸長屋の方で布やら米やら、置かれてました」
「鯉屋ってさ、あくどい噂あった?」
「……あっしの耳には」
「それに、殺しどころか火付けかあ」
 火付改めである所の男は、着流しを糺す同心を呆と見ながら、さながら夕餉を思う様に軽く呟く。
「岩猿がねえ」
 岩猿というのは、近年街を騒がせている盗賊の事だ。以前改方が背中を斬りつけた所、岩を殴ったように刀が負け刃こぼれし、直後、猿のように逃げていった、との事から、いつの間にか岩猿などと呼ばれている。
 その盗賊、岩猿であるが、道理から外れた行いをしている、という噂の多い商家や武家ばかりを狙い、殺しもしない。更に盗んだものを貧しい者の住まう場所に放置するなど、所謂義のある賊などと呼ばれる輩である。その義賊がこの頃起きている火付強盗の犯人じゃないか、等と噂が立っているのだ。
 殺しは兎も角、火付など行えば、これまでの義賊の行いなど全て掻き消える。
「呑気ですね、磯山さん」などと同心が呆れる前で、火付改めは、薄い酒を呷ってため息をついた。
「死罪は変わんないしなあ」と返した火付改め男は、勘定を懐から払い置くと、騒がしい表に出ていった。


「というわけで、次の事件が起きるという事だよ」
 と赤い毛並みのケットシー、長雨は、グリモアを手慰みに動かしながら告げる。
 グリモアスペースは、姿を移ろわせてサムライエンパイアの街並みを映し出す。大きな商家の門前、鯉刺繍の暖簾が掛けられた商家から丁稚が駆けていく。今はまだ、平和そのものの風景だが、明日の夜、この屋敷は周囲を巻き込んで炎上する。
「義賊、なんてのも気になるけれども、まあ、まずはこの事件を食い止める事から始めようじゃないか」
 と長雨は提案する。
 事件が起きるまで、あと一日猶予がある。その一日を使って盗賊を迎え撃つ準備を進める。
 もしそれが出来なければ、
「一家、従業員、齢六つの丁稚まで容赦なく皆殺しというわけだね」
 やれやれ、と長雨は首を振って、出来る事と言えば、と瞑目する。
「用心棒になったり、罠を張ったり……前の現場から手口を探ったりも出来るかな? それ以外にもやりようはあると思うよ、皆さんの機転に期待だね」
 長雨は、一抹の不安も覚えていない、という笑みを浮かべる。
「さて、冒険の始まりだ」
 待ちきれない、と彼の表情はそれを雄弁に語っていた。


おノ木 旧鳥子
 閲覧ありがとうございます。おノ木 旧鳥子です。
 探索シナリオとなるのでしょうか。
 RPなど、楽しんでいただければ、私も楽しく描けるかと思いますので、ぜひ楽しんで書いてください。
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第1章 冒険 『火付盗賊から店を守れ』

POW   :    用心棒として雇われる

SPD   :    罠や仕掛けを作る

WIZ   :    盗賊の襲撃手口を推理

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

唐木・蒼
皆殺しに火付け、なーんて予知を聞かされちゃあ見過ごすわけにもいかないわ!
下手人が誰であろうと止めたいし、仮に襲われる側に黒い噂があったとしても疑惑のままで始末なんてのも、少なくとも私の流儀には反するし?
一丁やってみようじゃない。
【POW】
残念ながら頭を使うのは苦手だしね、用心棒として警護ってのが妥当でしょ、私の場合は。
正面から堂々と素性を明かして売り込み。アピールすべきはこの腕っぷしと…報酬がお腹一杯の食事って所かな。猟兵が用心棒で雇われたって噂が広まってくれればそれも抑止力として働けば。
荒事になった時様に干し肉でも貰ってユーベルコードの準備を。叩きのめして捕まえたいわね。



「猟兵、というと……あの?」
「ええ、その猟兵よ」
 白い妖狐の蒼は店先で少し待った後、現れた男に鷹揚に頷いた。この鯉屋の手代である彼は、蒼をじっと見つめて悩むように顎を擦る。
「つまり、ここで何かが起きると……火事、とかでしょうか」
「話が早いわね」と蒼は、男が端的な話からこれから起きる事を察した事を理解して少し驚いた。と同時にふと思い出す。
「そういえば、何件か起こってるものね」
 鯉屋の前にも、商家が焼かれているというのは聞いていた。
「そう、だから、雇わない? 猟兵が用心棒、ってのも良いアピールになると思うわよ。報酬は、そうね、お腹一杯の食事って事で」
 色白の肌に浮かぶ青い瞳を微笑ませて、蒼は単刀直入に尋ねた。
 頭を使うのは苦手。と何一つ隠す事なく自らを売り込んだ彼女は、手代の反応を待った。
「一つ、確認しておきたい」
「ええ」
 述べた手代は蒼を屋敷へと案内する。塀に囲われた敷地には蔵や屋敷と、庭が存在した。
「貴女が用心棒としてどのようなものか、試させてもらいたい」
 庭の中で手代は、棒を持った三人の男を呼び寄せ、言う。その手代の眼は蒼を見定めようとする力強さが籠っている。
 男達は元々、警備として雇われているのだろう。
「腕試しってわけね、いいわよ。……でも」
「なんでしょう」
「私が合格だった時は、もう一つ報酬お願いしようかしら」
 三人の男が、構えながら蒼を囲む。彼女を中心に正三角形を結ぶような形で止まった。手代の合図があれば、即座に飛び込んでくるだろう。
 三対一。通常なら、ほぼ確実に負ける状況で蒼は余裕に満ちた表情を浮かべている。
「干し肉幾らかを譲って頂戴」
「……」
 手代は目を見開き、頷く。その直後、開始を告げる合図の声が放たれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・十右衛門
【POW】
用心棒として雇われる。従業員に店の主人を呼ぶように頼み、安心安全のために用心棒はいらんかのうと自分を売り込む。
力を見せる必要があれば【怪力】を見せつける。



「店の主人を呼んでくれんかのう」
 と、十右衛門が声をかけた途端に、飛ぶように駆けて行った店の丁稚に首を傾げていると、奥からやはり慌てたように二人の男が駆け付ける。
 米俵やらが乗った人一人簡単に押しつぶせそうな大八車を暇潰しに眺めていた十右衛門はその慌てぶりに更に、首を傾げる。
「はい、……なんでしょうか」
「ここの主人さんかの?」
 十右衛門が店構えに反して、随分と若いと尋ねるとその男は首を振る。
「いえ、手代でございます。表は私に任されておりますので」
 うむ、と十右衛門は、黙考して頷いた。なるほど、急な訪問であれば番頭や大旦那にいきなり会わせてくれること等ほとんど無いだろう。
「ほうほう、そりゃ無理言ったのう」
 朗らかに返しながらも、十右衛門は手代と名乗った男の隣に侍る男に視線を飛ばした。
 護衛なのだろう、が、それにしても警戒をしすぎているように思えた。まるで、初めから十右衛門を脅威と見ている様な気さえしながら、彼はしかし、隙を見せる事などなく手代に本題を振る。
「唐突な話じゃが、用心棒にいらんかのう?」
 と掛けた言葉に、二人は明らかに動揺を示す。
「……、腕に自信があるという事で」
「んむ、ほれ」
 と、十右衛門は、近くに停めてあった大八車の引手を掴むと、荷をそのままにぐいと持ち上げた。紐に縛られた荷は零れ落ちる事は無いが、軋む木材の悲鳴に、それがただ力のみで行われている事がありありと伝わる。
 自重に車が壊れる前に地面に下した十右衛門の目の前で、二人の男は閉口して十右衛門を凝視していた。
「力不足じゃろうか?」
 と、戯れに問いかけた言葉に、手代はただただ、首を横に振るばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

石上・道順
子すら弑する犯人への怒りがあった。事件を防ごうという決意もあった。だがその為に動き出そうとする足を縫い止めるものがあった。

事件への激しい違和感だ。

今回の事件は本当に義賊岩猿の仕業か?模倣犯?何故殺す必要がある?そもそも何故火付けを行った!?

頭を過ぎったのは些か突飛にすら思える発想だった。岩猿が盗みをした後に、火付強盗が来たのではないか?既に岩猿は動いているのでは?

即座に動かねば

式神を放ち他の猟兵と連絡を取る。特に正面から行き信頼を得た唐木殿に御助力願い、財のある場所全てに行きユーベルコードと式神を用いて財が持ち出される際把握出来るようにする。

特に米俵には縄に擬態させた本体や複製を巻く等したい。



放っていた式神から、他の猟兵たちの了承の返事が返ってきた。
 年季の入った縄を思わせる長髪を揺らし、道順は自らの本体、縄を複製していた。
「あとは、この蔵くらいかと」
「左様であるか、感謝する……この中は?」
「……米蔵でございますね」
「なるほど」
 言いづらそうに案内役は声を潜めた。米と言えば重要な財産そのものだ。その場所を猟兵相手とは言え、声が縮こまる事も得心がいく。
 道順は、深く切り込む事なく扉を開いてもらい、中の俵を検める。その一つに複製した縄を巻き付かせて、扉を閉めた。
「あの」
 閂にも式札を貼り付ける様子を、じ、と見る案内役が恐る恐る尋ねる。
「岩猿が私共を狙うのでしょうか」
 火の出た屋敷は、地獄すら恐れぬ悪行を影で行っていたという噂すらある、と困惑を顔中に浮かばせる案内役に道順は、脳内を巡る思考に少し動きを止め、こう答えた。
「かもしれない、少なくとも私はそれを防ぐために動いているのだ」
「そんな」
 何故殺した?
 と、疑問が湧く。これまで殺さずに盗みだけを働いていたのに。そもそも、皆殺しは時間がかかる。
 何故火をつけた?
 理由が浮かばない。
 石猿が殺しと火付けを行う動機がどうにも思い当たらなかった。
 ならば、と走った発想に道順は、ここまで急いだのだ。突飛な発想だろう。だが、可能性としては十分に存在している。
 火付け強盗が起きるのは明くる夜だが、盗みが入るのが夜とは限らない。
 目的は火付強盗を防ぐ事ではあるが、石猿と強盗が共犯である可能性なくはない、と道順は静かにその時を待つことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイチェル・ケイトリン
もう他の猟兵さんが危険をおしらせしてくれてるみたいだから
わたしも猟兵って名乗って近づいてこっそり天下自在符を見せて
なかにいれてもらうね。

つよいひとたちがたたかってあげるみたいだから
わたしは得意な念動力技能でダミークラフトをつかって
お店のひとたちをまもってあげる仕掛けをつくるね。

木と土からお店の人たちの偽物をつくるよ。
もちろんじぶんではなんにもうごけないけど、
そんなのわたしが念動力でうごかしてあげればいい。
お店の障子の外からみたら人影がふつうにみえればいいし。

ほんとのお店の人が安全にいられそうなばしょもあとで
用意してあげられるっておはなしして、がんばるね。


蒐集院・閉
火付け。殺人。何れにせよ、人の命が奪われるのは、とじは見逃せません。

【POW】で用心棒として雇って貰えますよう、お願いしましょう。
嘘偽りは必要なし。素性を全て明かし、事情を話します。(「礼儀作法」を使用)
鉄塊。黒剣。とじの手札を可能な限り全て見せ、力を示します。(「怪力」「激痛耐性」を使用)
ユーベルコードだけはお許しを。とじの内は、灼熱地獄ですので。
なのでお屋敷には入りませぬ。外にて警備に当たりましょう。

報酬は望みませぬ。
とじはヤドリガミ。人に使われ、役立てる事こそが喜び。
それがとじの選んだ生。どうか、御一考を。


亞東・霧亥
【SPD】
賊が侵入し易そうな場所にレプリカクラフトで『仕掛け罠』として、俺と同じ背丈の極めて精巧な人形を複数設置。

10立方メートルまでなら、10体以上は創れるはず。
これで、侵入場所が複数箇所あっても、出来る限りの対応は可能。

更に、夜陰に乗じて襲撃してくるなら、動かなくても人形だとバレる確率は減る。

もし、『仕掛け罠』を排除しようとしたり、人形だと気付いて触れたりしたら、即座に罠が発動。賊は感電するだろう。
または、賊が警戒して別の場所に移動するなら、それも良し。
他にも依頼を受けている者が居れば、賊を排除するだろう。



レイチェルは同年代の少女に見上げられながら、木と土から作り上げた人の偽物を屋内へと運び入れていた。
 障子を絞めれば仕掛けは完了だ。この人型は自分で動くことは無いがレイチェルの念動力で多少動かす事は出来る。
 精密な動きでなくとも、問題はない。
「お店の人が安全にいられるところも用意するからね」
「ありがとう、ございます」
 とぎこちなく頭を下げる少女にレイチェルは一人頷く。人形の形作られていく過程に声を上げていた少女は、それでも僅かに震えていた。
 怖くない、という事はきっと無いのだろう。
 全員がこの店と屋敷から離れれば、人目に付く。ここから逃がす事は難しいだろうが、この仕掛けと、他の猟兵達の働きがあれば、安全地帯を作り出すことは可能だろう。
「まだ、できること、あるよね」
 まだ、人形を作り出す余裕はある。
 動けるのなら、動かない理由はない。レイチェルは頭を上げた少女の不安に揺れる瞳に笑みを返し、再び庭へと向かった。

 鎖を手足首に纏う女性が、静かに庭に立っていた。
 鉄すら打ち破らんとばかりに勢いよく放たれた棒突きを避けもせず、閉はその身に衝撃と痛みを受け入れていた。
「どうか、とじの力を御役立てていただきたいのです」
 数で囲んでもかすり傷一つ付けられなかった経験に、死合さながらの一撃を放っていた屋敷の用心棒は、しかし、その攻撃にも表情一つ変えず、身じろぎすらせず立つ閉に驚愕の前に恐怖すら覚えていた。その一撃に、彼女は灰色の髪を揺らすばかりだった。
 打ち抜いた感触が決して硬いわけではなかった。人を打ち抜いた感触そのものであったにも関わらず、風が吹いたかのように微動だに動きを見せなかったのは、その怪力によって衝撃を全て受け、殺し切ったからだろう。
 それを為せる力で、先に見せられた鉄の塊としか思えない剣を振るうのだとしたら、やはり用心棒たちの手に負えるものではない。
「……手代」
 用心棒は、只管に訴えかける黒い瞳を向けられる手代に許しを乞うような声を絞り出す。本来、主である手代に意見する権利はないが、閉が一切攻撃の意思を見せない事も相まり思わずと声を出していたのだ。
 手代の男も即座に首肯していた。年若い女性をただ、棒で殴るだけの光景を見たい訳ではないのだろう。
「ええ、十分です。こちらからこそお願いいたします、蒐集院殿」
「ありがとうございます」
「感謝など……」
 と閉の言葉を返そうとした手代に、閉は静かに首を振るい、細い目を更に細めて微笑みを作った。
「それでは」
 と手代は、彼女が報酬すら必要ないと言っていた事を思い出し、頭をただ下げる。
「お願いいたします」
「はい」と閉は、芯のある声を返した。

「ここら、だな」
 と、日が暮れてきた中、霧亥は屋敷の塀を巡回しながら、賊の侵入がありそうな箇所に仕掛けを施していく。
 人目のない場所、月の影ができやすい場所、塀によじ登りやすい場所。そう言った部分に仕掛け罠として精巧に作り上げた人形を配置していく。
 黒い髪に黒い瞳、服装まで黒く纏う彼の姿を模したそれらは、やはり自ら動くことは無い。
 だが、塀を乗り越えた瞬間に夜闇の中に人影を見つければ、それをただの人形だと即座に判断することは先ず無いだろう。
 人と断じて、他の場所に迂回するならば良し。他の場所にも猟兵がいる、どれ程敵うかは分からないが元々の用心棒も配置されている。
 信用できるならば、目鼻は多い方が良い。
 もし、人形だと気付いて、侵入の邪魔だと触れようとすれば感電の罠が発動する。
 十数と配置したどれかが一つでも功を奏したならば、それで十分だ。
「……陽が落ちる」
 太陽が山の影へと身を隠しつつある。眠たげに空が瞬きするような明滅の後、山の影が夜よりも先に街を覆った。
 街の影に潜む者達が動き出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『義賊と盗賊』

POW   :    義賊を見つけて問いただす、襲撃の予想される場所で用心棒として雇われる

SPD   :    義賊を追跡、罠や仕掛けを用意して盗賊を捕まえる

WIZ   :    貧しい民に扮して義賊と接触、襲撃現場の調査や聞き込み

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


風を裂く微かな音が夜闇を駆けた。煤が塗された小さな刃は、月光を潜るように細い喉元へと一直線に飛翔する。
 音もなく、人影すら現すことなく、人体の急所を狙いすまされた凶器は、しかし、その役目を果たす事なく、軌道状で弾き飛ばされた。
 それは常人であれば、確実に命を奪い取れただろう一撃だったが、それは完全に不意を突かれた場合だ。
 黒剣が夜に風鳴りを響かせる。
 手裏剣を弾いた閉は、直後飛び込んできた黒づくめの人影が振り下ろした刃を鉄塊で砕き割り、体をのけ反らせた無防備な腹部へと黒剣の柄を突き立てた。妙な気配を纏う人影が、力なく倒れ伏す間に、遠くで短い男の悲鳴が上がった。
 グギャ、という声を発した男は罠として設置されていた人形に剣を突き立てたまま、電流に焼かれている。
 塀を超えた場所に置かれていた霧亥の仕込み罠を人と間違えたまま攻撃し、気を失った仲間を一瞥すらせず、後を追った二つの人影は敷地の中へと降り立つと、人形を無視し、屋敷へと突貫する。
 蝋燭の微かな光が照らす屋敷の障子に、布団に入った子を寝かしつける親の影が映っている。
 二つの人影は、同時にその部屋へと飛び行った。連携の仕草もなく、片方は親の眉間へと、片方は子の胸へとそれぞれに短刀を突き立てる。
 ぐしゃり、と刃が二体の人形の急所を抉っていた。レイチェルが子を撫でる仕草を行わせていた人形だ。
「……!」
 異変に気付いた親の人形を破壊した男が、咄嗟に人形から身を離す。その寸前、人形に隠れていた男、十右衛門の機械の掌がその顔面を鷲掴み、床へと叩き伏せた。
 と、同時、子の人形から短刀を引き抜いたもう一人へと壁に隠れていた蒼が男へと迫る。急所目掛け短刀を突き放つ男の腕を、掌底で跳ね上げると、蒼はそのまま懐へと這入り、勢いのまま肩から腰までをその男へと衝突させた。
 その日の襲撃は、その全てが誰も害することなく、捕縛された事によって幕を下ろした。

「記憶が無いんだってさ」
 と猟兵達の前で、警察である火付盗賊改方の男が語る。
 猟兵達が襲撃者に感じていた奇妙な感覚が、気を失った瞬間から失せていた事を思い出す。
「まあ、重罪には変わんないけど。あと、岩猿の関与はさっぱりなんだよね」
「……昨夜岩猿は現れなかった。これは確かだ」
 と道順は断言する。布の一枚、米の一粒たりとも盗まれてはいない。
「鯉屋の旦那さんにも確認してもらった。盗まなかったのか盗めなかったのか、兎も角、猟兵の方々にお願いだ」
 と、火付盗賊改方の男は、一枚の紙を取り出した。
「岩猿の予告状だってさ、高札に今朝方張られていたそうだ」
 そこには、こう書かれていた。
「『西鯉屋を狙う』……だって。今までこんなの出したことないのにね」
 ともかく、と彼は言う。この事件は終わっていない、と。
「お願いしたいのは、義賊、岩猿と接触して真相を暴くか。もしくは盗賊、襲撃者の気を失わせずに捕えてほしい」
 猟兵達の報告から、盗賊たちはオブリビオンの影響があると考えられる。異形の、オブリビオン達の相手は、彼らには荷が勝ちすぎるだろう。
 方法は任せる、といって彼は頭を下げた。
蒐集院・閉
外を夜通し見回り、義賊の方が来ますのを待ちましょう。【POW】

手は出しません。
理由を、訳を聞きたいです。
盗みを行えど人を殺めなかった方が、急に火付けなど。
訳がなければ、変わるなど有りえませぬ。(「礼儀作法」「優しさ」を使用)

岩猿様。
どれほど貧富の格差があろうとも、盗みの罪は許されるものではありません。でもそれは覚悟の上なのでしょう。
殺人も、覚悟の上なのでしょうか?とじにはそれが解りませぬ。

それとも…アナタ様は誰なのでしょう。
名乗りなさい。



西鯉屋。
 その名の通り、鯉屋から暖簾分けされた番頭が指揮を執り経営している、いわば鯉屋二号店が件の西鯉屋である。
 昨夜見たものと同じ模様の暖簾が片付けらていくのを見ながら閉は、鯉屋と比べて少し小さくなった屋敷の塀の周りを歩き始めた。
 冬の澄んだ空気が、閉じる夜の帳から冷えて落ちてくる。緩やかな滝のような風に当たりながら、閉はふと足を止めた。
「手は出しません」
 と、暮れた影の中に投げかけた。
「……」
「理由を、訳を聞きたいです」閉は戦闘態勢すら取らず、柔い声を続ける。闇の中に潜んだ人影は、昨夜とは違い落ち着いた様子で影から夜灯りの中に姿を現した。頭まで黒い布で包んだ黒装束の人物。
「盗みを行えど人を殺めなかった方が、急に火付けなど、……訳がなければ、変わるなど有りえませぬ」
 静かに、そこにある事が自然であるかのように、影は佇んでいた。
 閉の声は、一切の鋭さはなく、その人影を只管に慮っている。
「岩猿様。どれほど貧富の格差があろうとも、盗みの罪は許されるものではありません。でもそれは覚悟の上なのでしょう。
 殺人も、覚悟の上なのでしょうか? とじにはそれが解りませぬ」
 少しの困惑に、彼女は動けないでいる。
「すまんね」無理に作ったような皺枯れ声が初めて、言葉を成す。
「俺は只の盗人だ」
 それは、問いかけへの返事なのか。不明瞭な返しだが、閉には何か感じ入る響きがあった。
「アナタ様は、……アナタ様が」
 その時、閉は、目の前の男から奇妙な気配が漂っていない事に気付いた。と、周囲にその危惧すべき奇妙な気配が現れた事も気付く。
 彼女の傍らを、男が通り抜けた。取っ掛かりも無い塀の壁を軽く登ったその背を追うように、奇妙な気配を漂わせた人影が動きを見せる。
 閉もまた、動きだした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

九重・十右衛門
【POW】
義賊を見つけて問いただす。
機械化によって強化された【視力】と聴力による【聞き耳】で義賊に繋がる情報を探して接触する。義賊を見つけることが出来れば、火付け強盗の犯人を問いただす。



十右衛門の耳は、金属が壁を削る僅かな物音を感知した。
「ようよう、来よったか」
 冷えた空気を渡る音のきた方角へと足を向けた十右衛門は、塀の外から一人ではない足音を、更に感じ取る。
後続のその動きは、先頭の足音を追うものだ。これが、強盗一派だけであれば、屋敷へと向かうだろうが、しかしその先頭の足音は、屋敷に向かうのではなく庭の真中を突き進みつつあった。
 十右衛門は、行き先を予測し近道を選択した。急制動を掛け、足裏で砂を擦りながら駆けていた足を止める。
 屋敷を回り込む順路から、敷地内の塀を上ると、その塀を駆け、大きく跳躍。降り立った屋根から庭へとその身を投じたのだ。
「……さて」
 と、上空から現れた十右衛門が、振り直る。
 その先には、追い縋る強盗の輩を背負うように駆ける人影が一つ。
「お前さんが火付け強盗かの?」
 その黒ずくめの人影は周囲に何かを舞わせながら、十右衛門の傍を擦り抜けんと迫る。それを十右衛門は目だけで追いながら、短く問いかけた。
「問答の暇はない」
 擦り抜けざま、ただ言い捨てた男に、十右衛門は一つ、冷えた夜の中に霧息を吐く。その白が空気に溶けきる前に、十右衛門へと強盗の一人から刀が振り下ろされた、その刹那。
 人を裂く音は無く、ただ、甲高い鉄の冷えた悲鳴だけが響いた。
 振るわれた刀は、薄い飴細工を割るが如く、夜闇に銀光をばら撒いて砕け散っていた。
「そうけ」
 大連珠を握った拳が、白刃を破り、放たれた次撃の掌底が強盗の腹を激しく殴打した。数寸は吹き飛んだ仲間の横を他の強盗が障害と認めた彼へと殺到した。
 意識を刈り取るのはいかんかったか、と考えた彼は強盗の顔目掛け跳躍する。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

亞東・霧亥
【SPD】
義賊は追跡、盗賊を捕まえる。義賊は捕まえては為らんという事か?

岩猿は肌が硬くてトリッキーな動きをするらしい。

相手の動きを制限するために、錬成カミヤドリを使う。
懐中時計の様々な部品を展開し、岩猿を常に包囲。
ただし、判りやすい逃げ道は用意する。

俺の錐は『鎧無視攻撃』が出来るから、硬さは問題にならん。
あとは『毒使い』で麻痺毒を切先にたっぷり塗っておく。
包囲されて動きが止まったら、錐を投擲する。

動きが鈍り、義賊を見失うリスクが少なくなったら、次は錬成カミヤドリで盗賊を包囲。

逃げ場を無くし、包囲を狭め、盗賊を中央に集め、死角からワイヤー付きフックを放ち、『ロープワーク』で一網打尽に縛り上げる。



義賊、岩猿と思わしき男の周囲に十六の懐中時計が宙を舞っている。不規則に動きを見せるそれは、しかし、明らかに行き先を誘導するように操作されていた。
「……難しいか」
 と、錘を掌に収め、何時でも投擲できるように構えた霧亥が独り言ちる。
 月光を時折反射させ瞬く懐中時計は、彼が複製した器物だ。その操作も彼が行っているものではあるが、男の動きを完全に制御する事は敵わないでいた。
 なまじ、行き先を限定しているせいか、その動きには、遠距離からの攻撃を乱そうとする緩急が含まれている。
 一か八か、動きの鈍った瞬間を狙うか、と狙いを澄ませたその瞬間に、その男の前に別の人影が降り立った
「……っ」
暗がりにハッキリとは見えないが、その面影には覚えがある。急いた投擲を直前で引き留めた霧亥は、息を吸い、止める。
「問答の暇はない」
 喉を締めたような嗄れ声が、降り立った男の傍を駆け抜ける際に零れ聞こえた。
 その瞬間、引き絞った霧亥の体から、錘が放たれた。
 言葉の直前、一瞬体の止まったその黒づくめの男は、降り立った男、十右衛門の傍を走り抜ける直後まで、不規則な緩急を抑えた動きになっていたのを、霧亥は見逃すことは無かった。
「――ッ」
 冷えた風を穿った錘は、霧亥の狙った通りにその太もも辺りへと突き立った。男の静かな声が、
 錘には、麻痺薬が塗り込められている。軽い麻酔のような薬は、その男の取り柄である機動力を削ぎ落とす事だろう。
 霧亥は、残った十右衛門と殺到する強盗達へと懐中時計を差し向け、その動きを攪乱する。
 十右衛門が跳ね、強盗の一人の顔を踏みつけた。刀を振り上げる多人数の相手を足蹴にした彼に、しかし、追撃が向かうことは無い。
 懐中時計で盗賊達の意識を散乱し固めた霧亥がワイヤー付きフックを擲つと、瞬く間に彼らを団子状に縛り上げていたのだ。
「殺す、ころ、殺し……」
 強盗達は、低く小さな声を発しながら、体を蠢かせている。だが、そこに縄を抜けようという知性はあまり見えない。まるで獣のような狂相に霧亥は、結び目の一つも解く事もない彼らを油断なく見下ろしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

唐木・蒼
いやぁ人形だったり式だったり、皆技があって凄いなぁ。
これほど用意してもらってるなら尚更私が策を練るなんて似合わない事する必要はなさそうね!食べて戦って捕まえるとしましょう。
しかし炊事を生業にしてる人が作る食事は美味しいわ〜。
【POW】
義賊とやらが狙うのならやっぱり蔵かしら?
同じ重さでより大勢に配れるとなると金品の方だと思うし、そっちの蔵の影で待ち伏せね。
対峙できたら貰っておいた干し肉食べてユーベルコードで強化、見えざる拳の「気絶攻撃」で取り押さえを図りましょう。
問い質しは単刀直入に「殺しや火付けをやったのは貴方なの?」って。狐の羽衣の「誘惑」が働いてくれたら御の字ねー。



「いやぁ、皆技があって凄いなあ……」
 と、干し肉の切れ端を、煙草宜しく噛みながら蒼は立っている。
 隠れていた場所は、蔵の影。だが、庭を突っ切るように駆けてきた男の引き連れてきた喧騒に、もはや隠れる必要はない、と蔵の正面で仁王立ちにて待ち構えていた。
「……でも、あの方角だと蔵からは少し遠いのよね」
 まるで、この蔵を狙っていたとは考えにくいルートだ、とぼんやり考えた蒼は、しかし、その考えを深める事はしなかった。
 彼女がすべきことは、彼女こそが知っている。
「いらっしゃい、岩猿さん」
 仁王立ちから、構えを取る。妖狐の力のような不思議な力を纏った両手が、嫣然と半身に開いた彼女の体の前で、狙いを定めた。
 片足を引きずるように、肩で息をした男が、岩猿が蒼の前にその姿を現していた。
 武骨な格闘の構えを取っているにも関わらず、どこか刺激的な雰囲気醸し出す彼女に岩猿は、漸く立ち止まった。
 その距離は、蒼の歩幅で五歩程。踏み込めば、一秒と経たず一撃を打ち込める間合いの中。
 岩猿が感じたのは、強化された拳が体を揺らす衝撃だけだっただろう。
「殺しや火付けをやったのは貴方なの?」
「……っ!」
 男は動く事すら出来ないでいた。眼前にあるのは、つい先ほどまで目の前にいた相手の体。
 彼の腹部に、蒼の拳が触れている事にも彼は気付いているのだろうか。
「できると、思うのか」
「……いいえ」
 この攻撃に対処できないのであれば、ここまでの中で戦闘の一つでも行っていれば、確実に敗北し、捕らえられている。
 これまでの傾向からして、誰とも戦闘を行わない事は、ありえないだろう。きっとたぶん。
 最後に曖昧な不安を残した蒼は、崩れ落ちる男の体を支えながら自分の中の考えを簡潔させる。そして、そうして仲間の一人から聞いていた話を想起していた。
「やっぱり、あなたは」

成功 🔵​🔵​🔴​

石上・道順
昨夜の一幕を経て気になったことがあった。
これまで考えていたのは、岩猿とオブビリオンは別にいて、共闘もしくは隠れ蓑の関係で襲撃して来ている可能性だった。
しかし、操られていた者共のことを考えると別の可能性が思い浮かんだ。それは、岩猿にオブビリオンが憑いた可能性だ。これまでの奪った財の行く先を鑑みるに、ただ操作されている可能性は低い。

「岩猿がオブビリオン?超常の力の対価のための強盗?あるいは憑かれたか?」

元より真っ向から切った張ったするのは得意でないのだ、守りは他のものに任せ、式符や変装を駆使して義賊の情報、あるいは襲撃される場所や人の共通項を探り、敵の正体と動きを見極め他の者に伝えるべきだろう。



時は少し遡り、西鯉屋襲撃日の昼前。
 街の端に無造作に建てられた長屋へと、道順は赴いていた。
「石猿様はそりゃあ大層な、貧しい儂らに施してくださるすこぶる素晴らしい方で、岩猿様のお陰で儂らも山賊に落ちんで済んどるいうなもんだ」
 と、興奮気味に語る襤褸を纏う男の言葉を道順は、静かに頷いて聞いていた。
 ここから未来の言葉に直すと「すっげえすごい」と変わらず、濃度の薄い話だったが、慕われている事は重々に伝わった。
「……となると、鯉屋の前も?」
「鯉屋……?」
「ああ、捕り物があったってえ」
 首を傾げた男に代わって傍で聞いていた男が声を発する。
「なんじゃ、火付と岩猿様一緒にしてんのかい、そりゃあ無えさな」
 と男達が顔を見合わせてへっへと笑う。
 火付を操っていたオブリビオンが岩猿と同一であれば、その目的を施しを受けた者から聞けるかと、赴いたのだが返る言葉はそれを否定したがる物ばかりだった。
「この辺火付けが出とったようじゃけども、岩猿様もご無沙汰だったの」
「今朝も一月ぶりじゃったしな」
 場末の男達会話を呑み込みながら、思考を整理する。
「……今朝?」
 ふと道順は、引っ掛かりを覚えて、考えを止めた。
「おん、布やら米やら」
「他の長屋連中と分けて方々に売りにいっとるんだ」
 鯉屋の襲撃から明けた朝、施しがあったという。
 予知の中で、鯉屋の火付強盗の後に行われていた施しが、それを阻止した後でも発生していたのだ。
 だが、
「鯉屋からは盗み出されていないのである、一体どこから……」
「じゃあ別の所から、ってことかね。どうせ盗まれた誰かも大っぴらに盗まれたなんざ言えんさな」
「そりゃ、岩猿様に狙われたなんざ悪評にしかならねえわ」
「西鯉屋はさぞかし大慌てじゃろうな」
「……そうであるか、良い話を聞かせてもらった、ありがとう」
「いんやあ、べっちゃないさ」
 と答える男は、やはり上機嫌なものだ。飢餓から逃れた安堵がそうさせているのだろうか、と道順はその場を離れながら、考えていた。
「やはり、被害のあった者は、被害を隠そうとしている。いや、岩猿は隠せる程度の被害に抑えていた?」
 そこから日中をかけて、街の裕福な商家や武家を巡り情報を集めた道順は、暮れゆく街に目を遣りながら、仲間へと共有すべく考えを纏めていく。
 岩猿と火付け強盗の犯行は明らかに性格が違う。と同時に、岩猿と思わしき犯行は続いている。
 大小はあれど、岩猿の被害を受けた家は町民から疎まれる要素のある場所だった。式符を忍び込ませ、変装で口を滑らせ、そこまでして漸く引き出した断片の情報を繋いで、道順は確信しつつあった。
「岩猿とオブリビオンは」

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイチェル・ケイトリン
ひとびとのうわさから義賊にぬすまれたらしいお店をさがしてわたしが得意な念動力技能と透明化念動力操作をつかってしのびこんでかくにんするね。
念動力で空中にふわふわと浮いてうごけば、あしおともたたないし。

おんなじときにじけんがおきてた、ならアリバイっていうのがあるんだよね。

やりかたがぜんぜんちがうからつながりがあるともかんがえられないから、火付けと義賊はちがうことになるもの。

それをかくにんしたらほかの猟兵さんにもおしらせして、義賊をさがすよ。

火付けをおいつめるのに、べつのことがあるとやりにくいから、きちんとわけてやっていきたいものね。



「アリバイって言うんだよね……」
 と陽の落ちゆく街の中で、そう口走りそうになった言葉を喉の奥に呑み込んでレイチェルは一歩一歩を警戒しながら進んでいく。
 道順の報告と合わせて、昨日岩猿の被害を受けたかもしれない候補の屋敷に彼女は忍び込んでいた。正面から乗り込めば、天下自在符があるとはいえ、被害の誤魔化しを画策することは想像に難くない。
 廊下の正面から歩いてきた女中の姿に、レイチェルは息を止め、壁際に体を寄せた。
 息を止め、足を止めたレイチェルの隣を通った女中には、姿が見えることは無い。光を念動力で操作して装備ごと姿を空気に溶かしているのだ。
 だが、物音や体温は消すことは出来ず、当然実体を無くすこともできない。つまり触られればソコに透明な何かがある、と知れる。接触すれば、大抵は狐狸の類かと混乱するだろうが、猟兵だと気付く者もいるだろう。
 用心棒として猟兵の存在を喧伝した上で昨夜の捕り物だ。当然、街では噂になっている。
「……ふう」
 絶えず疲弊し続ける透明化の上、床鳴りの大きい廊下では体重を念動力で誤魔化してもいる。
 浮くのは、できないな。と、レイチェルは自分の疲れ具合を鑑みて判断する。無暗に念動力を使うと、屋敷の只中で動けなくなる可能性まである。
 ここは、いわば義賊が狙うような武家屋敷だ。領主の裁きを待つ前に刀を突きつけられてもおかしくはない。
 軽い気持ちで忍び込んだ事に少し後悔を覚えながらも、彼女は進む。
「……西鯉屋、か」
 とレイチェルの耳に、誰かの声が聞こえ彼女は耳を澄ます。その屋号は、今朝方岩猿が狙うと、高札に掛けていた名前。
「ああ、あの番頭、最近どうにもきな臭かったからな。いい機会だ縁を切る」
「鯉屋は受け入れてくれないでしょう? 益々厳しくなりますよ」
「火付けに遭う前から、西鯉屋は火中の栗だ。おまけに家中油が撒かれていると見える。そんな家に間借りが出来るか」
「……?」
 レイチェルは、事情の呑み込めない会話にめまいを覚えながら、それでも拾える情報が無いかと耳を澄ませ続けていると、岩猿、という単語を聞き取った。
「して、蔵破りはやはり岩猿か」
「恐らく、質屋で蔵にあった布が置かれたそうで」
「……忌々しい、たかが張り紙貼りの腕一つで」
 やはり、岩猿は、昨夜この屋敷に盗みに入ったようだ。レイチェルはそれを確認すると、念動力に乱れを起こさない様慎重に気を付けながら、その場を去った。
 やはり、岩猿は昨夜、鯉屋には現れていなかった。
 情報を共有した猟兵達は、それらが示す事実を確認していく。
 
 そして、再び、襲撃の夜。
「……ん?」
 まず、異変に気付いたのは、霧亥だった。ロープで焚き木の束宜しく、一緒くたに纏められて、さながら多足の芋虫のように蠢いていた強盗達が、眠るようにその意識を手放したのだ。
 出来の悪い悪夢のように、ただ殺意を垂れ流すだけだった傀儡は、その糸を全て断ち切られたように、唐突に昏睡した。
 それを傍で、同様に見ていた十右衛門は、蔵の方角を向き直る。恐らくその場にいた猟兵は、皆察知しただろう。
 その存在に、オブリビオンの気配がした。

「ぅ……」
 気を失った岩猿は、しかし、数秒蒼の腕に支えられた後にすぐ意識を取り戻した。 数時間は、昏倒するような打撃だったにも関わらず、数秒で気が付いたの理由は、その表情が語っていた。
「どう、」
 しましたか、と駆け付けていた閉が問いかけるや、否や、弾くように蒼の腕から離れた岩猿の胸に、蝋燭程の小さな火が彼の黒装束の胸辺りに灯っていた。
 否、それは第三者から放たれた火弾であった。
「……っ」
 蔵の影、蒼が隠れていれば鉢合わせしたかもしれない場所から、細い指の先だけが月光に浮かんでいる。ゆらりと影から染み出る様にその人影は、その色を濃くしていく。
 吸い込まれるように、岩猿の胸に着弾した火は、瞬く間に彼の体を焼き尽くす。そんな想像が脳内を駆け巡った猟兵達の眼前で、しかし、その火は岩猿の体を焼くことは無かった。それは袂で力なく、彼の呼気に応じて揺れているばかり。
 熱は感じているのか、いないのか、表情どころか肌の色すら見えぬ黒装束からは看破しきれないが、しかし岩猿は、その火を知っているかのように一瞥するだけで、その影へと顔を向け続けていた。
「教えて?」
 その声は、夜に似合わないあどけない声色であった。
 鈴が鳴るように、可憐な声。影から歩み出るその声の持ち主は、その印象通りの人相をしていた。
 桃色の着物に黒の袴を重ね、栗色の髪を柔らかく束ねた少女。
 可愛らしい様相は、しかし、この現状においては彼女の不気味さを際立たせる要素にしか成り得ていなかった。
 少女は、問いかける。
「極意書の場所は、どこ?」

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『勘解由小路・桔梗』

POW   :    無念の報復
【陰陽道の術で召喚した武器の群れ 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    信康招聘
自身が戦闘で瀕死になると【一体の強力な妖狐 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ   :    知識の蒐集
質問と共に【指先から蝋燭の火程度の大きさの炎 】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠デナーリス・ハルメアスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


その問いかけは、岩猿の盗んだ何かに関するものなのだろうか。
 猟兵達が、口を開く前に、岩猿自身が声を発した。
「知るか、化け物」
 その声色は、胸を焼かれる痛みに苦し気だった。
 胸に灯っていた火は、言葉と共に揺らめいて、僅かに火の粉を散らしながら、膨れ上がり、消えていった。
「そう」
「……ッ」
 岩猿は、脱力しその場に崩れ落ちた。麻痺毒に加え、疲労が嵩んでいる。もはや立つ事すら困難な状態だろう。
 猟兵達は、オブリビオンの動きに身構えつつも考える。
 もし、今の問い掛けに、命乞いをして偽りを口にすれば、どうなっていたのだろうか。
 あの火は、彼を包み込んで燃やし尽くしただろうか。それが、屋敷の中であったならば。
事件の犯人は目の前にいる。
 猟兵の敵、オブリビオン。
 少女の形をしたそれは、邪気の見えない表情で猟兵に向き直った。
「私の邪魔をするの?」
 声が呪いを結び、彼女の背後に刀剣が車輪のように広がる。
 逃がしてはいけない、と本能が告げていた。
 目の前の存在は紛れもなく、災いだ。
亞東・霧亥
【POW】

【レプリカクラフト】
攻撃を受けると破裂して煙を撒く【仕掛け罠】として、極めて精巧な俺自身を創る。
10立方mまでで10体作製し、敵を包囲する様に設置。

煙が晴れる前に勝負を着けたいので、敢えて攻撃を喰らうつもりで『激痛耐性』を使用する。
周囲に煙幕が出来たら、なるべく音を立てないよう『忍び足』で近付き、錐に塗った『毒使い』の劇毒による『暗殺』を試みる。

「これで倒せなかったら、仕切り直しは大変そうだな。」



 猟兵達は、静かに、だが、雄弁にその問いかけに、臨戦態勢という行動を以て答えとする。
 逃さない。はっきりとそう意思を持った猟兵達の返答に、少女は徐に薄紅の唇を開いた。
「……そう?」
 首を傾ぐその表情は、語尾を疑問に彩りながらも然したる興味を引いているようには思えなかった。
 垣間見える疑念は何に対してなのか、心中を語らぬ少女の思惑を知る者はいない。
 そんな少女の表情に、自らと同じ『宿ったモノ』としての自然を感じ取りながらも、霧亥はしかし、その同族たる少女の行動を阻む為の手段を講じる。
 先ず、一つ。
 現れるのは、鏡に映したように精巧で、決して動く事のない霧亥の像。
 同時に動いた仲間へと放たれた数多の武器を横目に、霧亥は駆ける。
 少女を囲むように出現した像、その数は十。
「さて」
 と、彼は手の中で錘の柄をくるり、と回し、手に馴染ませるように握り込んだ。
 長い闘いにはならない。と彼の勘が告げている。
 ならば、例え、身に攻撃を受けても研ぎ澄ませた一撃を文字通り刻みこむ為に、霧亥は息を潜めながら、好機を見極めんと集中を研ぎ澄ませていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

唐木・蒼
ええ、勿論邪魔するわ。あなたはオブリビオン、私達は猟兵、それだけでも充分な理由だけど…自分の目的の為に他人を利用して、人々の命を奪う事すら厭わないんじゃより見過ごせないわよ!
いきさつは岩猿さんに訊くとして、あなたはちゃっちゃと片付けてあげるわ。
【POW】
あの武器達が飛んでくるとなると本体への強引な攻撃はリスクが大きいかなー…生憎隠密行動とかもできないし、それなら武器を叩き落して味方の為の道を作る方が役立てそう。いくらなんでも無限に武器を出せる訳でもないだろうし。
私を狙って武器が飛んでくるなら願ったり、ユーベルコードが当てやすいわ。「鎧砕き」を活用して確実にブチ壊していきましょう!



 崩れ落ちた岩猿が地面に落ちる寸前で受け止め、ゆっくりと地面へと寝かせた蒼は、少女の言葉に、当然と答えを心中に浮かべていた。
 ええ、勿論邪魔するわ、と。
 体には、まだ、干し肉を喰らった際の力が巡っている。
 刃が降る。
「っ!」
 蒼へと飛来した剣が二振り。弧を描き、彼女を挟撃する左の一つを潜り躱し、その後を追うように横転して、右の刃の軌道から身を逸らす。
 なるほど、と彼女はその軌道に少女の思考を読み取った。
 コンマ数秒の差異ではあったが、その二撃は全くの同時攻撃でない。左の剣は蒼の首筋を狙い、直後、右の刃は恐らく、蒼の太ももを狙った軌道。
 急所である首筋を狙いながらも、その致死の一撃を囮にした脚の機動力と、大腿動脈を切り裂く事を狙う一撃。
 それは偶然ではなく、明らかに剣の一本一本を操作した動きだ。
 ならば、こそ。
 その軌道には意思が乗り、絞り込める。剣の迎撃は難しくない。それが少女に届くかは、その時次第ではあるが。
「……気になる事はあるけどね」
 と呟いた自らの言葉を静かに諫めて、目の前の敵に彼女は集中する。
 事件の経緯は、岩猿から直接後から聞けばいいと、意識を切り替える。
 それが叶わない願望であるという事を、彼女はまだ知らず、しかし拳は猛る。
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

亞東・霧亥
【SPD】

器物は大概、身体の中心にあるものだ。
背後から忍び寄り、背中から器物へ一撃。だが、それだけでは足りないだろう。
背骨に肋骨。
人の形を成したなら、それらも器物を囲んでいるに違いない。

機会を窺いつつ策を練り直す。
『忍び足』で背後を取り、『グラップル』でうつ伏せに組み伏せる。
背骨と肋骨を避け、器物付近に錐を刺した後は刺傷から、この「王水」を注入する。
銀以外のあらゆる金属を急速に腐食させる王水なら、器物に深刻なダメージをもたらすはず。

あとは、瀕死になると顕れるという妖狐だが。
妖狐が仕掛ける前に『零距離射撃』の【クイックドロウ】で器物を破壊する。

綱渡りの計画だが、やるしか無さそうだ。



 目の前の少女、オブリビオンは、霧亥と同じヤドリガミである。
 とするならば、彼女という『現象』を形作る器物も、霧亥と同様に存在するはずだ。それは、空を舞う剣に関するものか、指先に灯した炎に関するものか、はたまた、隠した何かに関するものか。
 いずれにせよ、と霧亥は握る錘の柄を指で撫でる。ざらついた木の繊維が指の皮膚を擦る感触に意識が研がれていく。
 器物は大概、身体の中心にあるものだ。
 霧亥の狙いは、一点。背骨と肋骨の檻に守られた胸の中心。
「っ」
 構えた直後、霧亥の首が撥ね跳んだ。男の首が回りながら夜の闇に踊る。
 それを横目に。
 霧亥は体を走らせる。
 彼自身の首は体と分かたれてはいない。
 首を砕かれたのは彼を模した人形。弾かれた武器が配置していた仕掛け罠の像を縊り割いたのだ。宙の首も、地面の体も、まるで体内で大量の風船が膨らむかのように皮膚を盛り上がらせ、体積を増加させていく。
 膨張と収縮、その均衡の一瞬のあと、巨大な掌を叩き合わせるかの如く、ばん、と音が弾けて周囲を煙幕が包む。
 夜の影を吸い込んだように暗い煙幕の中へと霧亥は溶け込んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイチェル・ケイトリン
みんなのうしろにしずかに立って念動力でサイコキネシスをつかって霧亥さんに協力するね。

空気をうごかして煙幕を維持するの。

敵は武器をそれぞれ操作してるって蒼さんがしらべてくれた、それなら見えなきゃうごかせないよね。

敵が煙幕を突破しようとしてきたらまた霧亥さんのおてつだい。
敵におそいかかるように人形をうごかしてあげるね。

うごいてる人形を攻撃したら、また煙幕。
そうなれば、敵は霧亥さんを攻撃しにくくなるとおもうもの。


信康、

将軍やってる徳川家光さんのおじさんのなまえかな。

まあ、敵が町でやろうとしてたことがおっかなすぎるから、話をききたいとかぜんぜんおもえないし、あとで幕府のひとにおしえてあげればいいよね。



 話をききたいとかぜんぜんおもえない。
 それが、夜闇に立つ少女にレイチェルが思う事だ。
 どうやら、探し物をしているようだ、と言う事情は、彼女の質問から鑑みる事はできる。けれども、その為に人を殺し、挙句家を焼き、更に人を巻き込んで、一切の悪意も害意も見せない少女を、レイチェルはただ、おっかない、と恐れにも感情が一周回って呆れにすら近づいていた。
「わたしにできること。おてつだい、だよね」
 掌を前に突き出して、意識を集中させる。
 サイコキネシスは、見えない力場を操る能力だ。サイキックエナジーを放って、物を触らずに精密動作することも、深志の腕が握るように動かす事も出来る。
 だが、その形は人の腕にはとどまらない。
 首を撥ねられた人形から、溢れ出た煙幕の中へと霧亥が溶け込んでいくのを見たレイチェルは、サイキックエナジーを操作し、空気を掴んだ。
 彼女がイメージしたのは、団扇と人の手。ともすれば河童の手の平のような巨大な手のような力場が、空気を泳ぐ。
 その手は、普通ならば霧散していく煙幕の粒子を、少女の周囲に重点的に纏わせ続ける事を叶えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 霧の中に紛れる様な隠密行動は、蒼にはできない。
 干し肉の、保存食特有の強烈な塩みが未だに口の中で弾けている。嚥下した肉の香りと凝縮された旨味が腹の中で熱く燃えている。
 否、燃えているのは、目の前の少女、無邪気なる悪鬼への怒りだろうか。
 他人を利用し、無辜の民すら脅かすそのあり様を、見逃せるはずもなかった。
 だからこそ、蒼は自らの最大戦略を以て、オブリビオンに敵対する。
 すなわち。
「踏み込んで」
 亜麻色の髪が、桃色の袖が、白く染める視界で踊る。
 両こぶしを軽く撓め、前傾姿勢のまま駆けだした蒼のすぐ傍を、振るわれた剣が薙ぐ。
 絶えずかき混ぜられ、球体状に保たれた霧の中で、その狙いは精彩を欠いたもの担っているのは明らかだ。
 昨夜、鯉屋で見た人形操作と似た感覚だ。と頭の片隅で思考しながら、蒼は霧の中少女に肉薄する。
 閃くは、銀光。
 少女の瞳が、蒼の視線を受け止めていた。視界が悪くとも、至近距離ならば外すことは無い。なるほど、と脳筋じみた目の前の敵の対応に、蒼は納得しながらも地面を踏みしめた。
 蒼の左腕が放たれると同時に、二振りの刀剣が彼女の胴体を挟みちぎらんと迫り、ふいに霧が解けた。
 直後、煙幕が濃く弾ける。その中で、蒼の拳は確かに少女の額を打っていた。左のジャブが少女との距離を、動きを、そして、準備を完了させる。
「振り抜くッ!」
 ならば当たらぬ道理はない。至近距離は、彼女の得意とする間合いだ。

 レイチェルは、サイキックエナジーを裂いて振るわれる剣筋に、咄嗟に霧の制御を手放すと、霧亥の配置していた仕掛け罠を弾き飛ばす事で蒼に振るわれる刀の一本を弾くことに成功していた。
「……ふぅ」
 と、息を吐く間もなく、力場を操っていく。チャージ、と呼ぶにふさわしい蒼の攻撃は、文字通り煙に巻くためのものでもある。
 霧の中に紛れる様な隠密行動は、蒼にはできない。

 ハンマーを固まり始めたセメントへと叩きつける様な轟音が煙幕を震わせる。
 霧亥は、音もなく砂利の上に脚を運んでその轟音が、蒼の一撃によってもたらされたものだろう、と予測する。
 周囲に巻かれた煙幕は、実際の所、霧亥達にもデメリットをもたらしている。見えないからと数本、がむしゃらにも振るわれる刃が煙の中に舞っている。
「……ッ」
 息を詰め、僅かに体を逸らす。脇腹を掠めた刃が、熱を線状に残して消えていく。
 攻撃はほぼ無軌道に思える。だからこそ、予測がつかず幾つかの負傷を受けていた。
 だが、それに声も一つも漏らさず、彼は着実に己の為すべきことを成していた。
「……!」
 すなわち、少女の背後、既に彼の手の中にある錘の届く距離で、そして、それはまさに今、無防備な少女の背中へと突き立てられた。

 もし、がむしゃらに振るわれている、という霧亥の予測をレイチェルが聞いていたならば、彼女は、ちがう、と首を振っただろう。
 刃は確かに、彼女の明確な意思の下、彼女の狙い通りのものを切断し続けていた。
「……っ」
 頬に汗が伝う。
 放った力場は、確かに煙幕を留める事に成功していた。だが、それは一瞬の油断によって瞬く間に覆されてしまう分水嶺の上で揺れる状況に過ぎない。
「つかんだところから、きり取られていっちゃ……っ」
 その瞬間、その変化は唐突に。
 霧を留めていた力場全てが、刈り取られた。

 霧亥は、自らの錘が僅かに人体の急所を逸れた事を、手応えから悟る。
 だが、更に霧亥は不意打ちに、少女の体が僅かに硬直した好機を逃さない。振り向こうとした少女の動きに追従し、腕を掴むと重心を崩した。
 その体が地面に触れるや否や、霧亥の錘が深々と突き立てられ、穿った傷口からある液体が流し込まれた。
 銀以外の金属を溶かし、そして、生体にも深刻な影響を与える王水は、人の体を模したヤドリガミの体をも、内部から焼き溶かす。
「器物は、ここじゃねえのか」と、そこにヤドリガミの本体たる器物が無い事を、形を保つ少女の肉体から読み取ると、もう一度、と錘を掲げ。 
 そして、それは招聘される。
 器物を壊すには至らなかった。
 だが、それでも、錘に塗りこめられた強力な毒は、刺し貫いた傷口の周辺を殺し巡る。軟な人間であれば、致死量を優に超える猛毒は、確かに少女の命を脅かしていたのだ。
 
「――」

 瞬間、霧が切り刻まれる。
 少女を守るように。一人の妖狐が剣を纏っていた。

 僅かに、その瞬間動いた口の動きをレイチェルは、偶然にも明確に瞳に写し取る。
「信康」と、紡がれた動きにふと、知識が浮上する。
「徳川家光さんのおじさんのなまえ、だっけ」
 彼女の知る歴史に則るならば、その名は確かに、当代将軍のおじのものだった。
 しかし、それ以上、考察を進める事は出来なかった。
 拳が鋼を打つ快音が響く。
 
 煙幕が一気に晴れた夜の下。蒼は飛来した剣を叩き落し、躱し、躱し切れず血を浮かばせながら、背中を過ぎていく剣の腹を裏拳で吹き飛ばした。
「霧亥さん」
 息をする一瞬に、その名を呼ぶ。
 霧亥へと振るわれた剣の悉くを優先して、迎撃した蒼の視界で彼が放った射撃は、しかして、妖狐の手に連動するように重なった刃によって、少女に届く前に消え失せる。

 ヤドリガミの命は僅か。
「紙片なんてこんなものね」
 だが、少女を模るモノに恐怖の表情は無く、ただ、猟兵達を虚ろな笑みで見つめていた。
亞東・霧亥
「熱線銃は射線が通らない。仕方無い、ド突き合うか。」

ようやく追い付いたメタルウィンドを槍にして構える。
まずは信康を片付けないと。

地面スレスレに前屈しながらの『ダッシュ』で肉薄する。
桔梗の攻撃は『見切る』ため、常に信康を盾に動き回る。
当てる気の無い『2回攻撃』も織り混ぜながら、『カウンター』を狙う姿勢を見せる。

バレバレのカウンターを狙い、逆に信康からの攻撃を喰らいに行く。
攻撃される瞬間に『激痛耐性』を発動。
攻撃を喰らいながら、信康を『串刺し』にする。
身体に当たらなくても良い。
一瞬でも動きを止められたら、本命をぶちこむ。

『グラップル』『早業』で予備動作を短縮し、【激震脚】を放つ。

「引っ込んでろ!」



 重なる刃に防がれた熱線。
 現れた男の睨む視線。それに驚異の一つと、意識されたことを自覚しながら、霧亥はため息をつくように息を吸う。
「仕方ない」
 と、言葉が彼の口から刻まれる。
「全く、……遅い」
 駆ける。
 その言葉は、彼の脚運びにではない。
 その言葉は、彼の首を刈るように、脚を撥ねる様に、肩を抉るように、放たれたいずれの刃に向けてでもない。
 地面すれすれに、体を折り曲げる様に前傾し、なおもバランスを保ちながら僅かに地面から跳躍し刃の隙間を潜り抜けた彼の頭上。
 それは、舞い降りた。
 左、着地した霧亥の隙を狙う直剣。右に更に信康の放った追撃の曲剣。
「疾……ッ」
 吐き出す息は短く鋭く、翼を畳んだ竜槍が薙ぐ。挟撃の狭間に霧亥の手中へと舞い降りた鈍色の翼が、他でもない彼の腕によって振るわれた。
 振り下ろし左を、振り上げ右を、瞬時に弾き飛ばした霧亥は、その手に槍を携え信康へと肉薄する。
 絶えず、少女からは視線を遮るように、立ち位置を動かしながら霧亥は信康が刃を握る瞬間を見定めた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ウーゴ・ソルデビラ
おーっす、横から邪魔するぞ。長雨のオッサンから大体事情は聞いて来た。猫の手ならぬ蝙蝠の手が来たぜ。削るだけ削るから止めはバッチリきめろよな。
とりあえず、増えちまった手数を減らさなきゃな。飛び道具は持ってないから、【捨て身の一撃】になる【覚悟】が要るか。【WIZ】の攻撃には馬鹿正直に答えとく。ぽっと出の奴に聞ける事なんざ限られてるしな。【ダッシュ】して間合いを詰めて、【攻撃力重視】の【寝苦露腐悪慈威・有獲奔】を信康に叩き込む。敵からの攻撃は【野生の勘】と【見切り】で躱すぞ。信康を何とかしたら、次はヤドリガミ。武器の群れに気を付けながら、また懐に飛び込んで殴りつけてやんよ。



 目立たぬよう行動していると言え、殺意の高い攻撃を確実に当てようとする男を、あの信康という何かは特に警戒しているようだった。
 信康が放った刃が暴風のように操る刃の群れを黒づくめの男が躱し抜いた、矢先、その頭上から槍がその頭頂目掛けて、バリスタから放たれる矢弾の如く放たれる。
 だが、その刃が脳を叩き割るその前に、横合いから唐突に、蠢く触手の束がその槍を奪っていった。
「おーっす!」
 茶髪に濃い肌は、暗がりの中でもどこか軽々しさを感じさせる。その少年、ウーゴは特攻服の裾へと、槍を放り投げた触手を引き戻しながら手を上げて気さくな挨拶を放った。
「猫の手ならぬ蝙蝠の手が来たぜ」と冗談めかす彼は、長雨の要請に応えた猟兵だ。
 強力なオブリビオンの出現に、長雨が追加の人員をよこしていたのだ。手数を補う増援に猟兵達は喜び、そして、もう一人、喜色を見せる人物がいた。
「貴方は、奥義書の事知ってる?」
 火が闇を渡り、新しく現れた彼の胸へと飛び込む。
 それは真偽を見定める炎なのだろう。岩猿が解放された様子からそう確信を覚えていた他の猟兵達が彼に言葉を放つ前に、彼は既に言葉を紡いでいる。
 曰く。
「んなモン知る、か! ッバーカ!!」
 この状況に於いては、一切の曇りなく満点の答えを即答した彼は、次ぐ言葉も待たず、地面を蹴り飛ばした。
 突貫、肉薄。いや、それを確かに形容するならば特攻だ。
 弾けた炎など気にする様子もなく、彼は駆け抜ける。狙うのは、信康。邪魔なそれのカタを付けようと駆ける彼に刃が舞うが、迎撃は想定済み。多少傷つこうが構わない。
 体が動くがままに野生児じみた動きで、大地を這い、宙へ跳ぶ。
「うおっ」
 空中の無防備な彼に放たれた大鎌を、空中からナニかの大爪を地面へと伸ばし更に跳躍。そのまま、信康へとその爪を振り下ろしにかかる。。
 得体のしれない生物の体をも操るウーゴに接近を許してしまった信康は、少し苦い表情を見せ、爪の一撃を鋼を引き寄せ防いでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

富井・亮平
【心情】
見つけたぞオブリビオンッ! 貴様らの存在を、このイェーガーレッドは決して許さないッ!
今こそ正義の鉄槌を下してやるッ! 覚悟しろッ!

【行動】
「ゆくぞッ! トォリニティィィ・エェンハンスッッッ!!!」
ルーンソードに風の魔力が宿るッ!
この魔力がもたらすのは防御力だッ!

正義の熱い魂によって旋風を巻き起こし、飛来する武器の群れの迎撃や受け流しを試みるッ!
相手の攻撃をうまくさばく事ができれば、その隙に肉薄して通常攻撃を仕掛けることもできるだろうッ!
そう、エンハンスによって得るのは盾の代わりとして使う力というわけだッ!

相手がムキになるようであれば、私に注意を惹きつけることもできるだろうなッ!



 信康の意識へと物理的に割り込んだウーゴ。それを横目にもう一人、新しく現れたまだ幼さを僅かに残す男性の声が暗闇を裂く。
「覚悟しろ、オブリビオンッ!」
 刃を突きつけ、亮平は名乗りを上げて、宣言する。
 だが、少女は感情を映さぬ瞳に彼の姿を映して、剣戟を操る。五つの刃がそれぞれの方向からその四肢を抉り取らんと迫る。
「このイェーガーレッドが正義の鉄槌を下してやるッ!」
 その手の中で、ルーンソードが淡く光を放つ。纏う魔力は、荒れるような風の魔力。熱き言葉に呼応するように。
「ゆくぞッ! トォリニティィ……エェン、ハンスッ!!」
 旋風が巻き起こった。
  暴風のような刃の群れであれば、旋風が木葉の如くそれを吹き散らす。纏った魔力を剣の一振りで周囲に展開した事によって、一瞬風の盾が生みだされていたのだ。
 風の魔力を更に纏わせながら、思惑の通りになった亮平は、もう一度少女へと剣を向け。
「どうした、今度はこっちから……、っ!?」
 走り出そうとした瞬間、先ほどの倍、十本以上の刀剣が降り注ぐ軌跡に慌てて、再度風の盾を振るっていた。
 どうにか全て弾きながらも、これ以上増えられるとちょっと厳しいです、と展開される次弾に心中冷や汗を流していた。
 高鳴る心臓を押さえて、小さく安堵の息をついてどうやら攻撃に転じるタイミングを逃した事を悟り。
 そして、上手く少女自身の意識をも引きつけられている事に、僅かに心を躍らせる。

成功 🔵​🔵​🔴​

リンゴー・アップルトン
オブリビオンと分かっていても、女の子相手ってのはやりにくいもんだ。もうちょっと怪物っぽい見た目になってくれないもんかね?
まぁ、いいさ。給料分はちゃんと働かせてもらうぜ。

〇SPD
乱戦の隙をついてオブリビオンに接近し、ナイフによる直接攻撃を試みる。
当たればよし。近接距離を維持しながらしつこくナイフ攻撃。

避けられた場合は無理をせず離脱。
距離を取って銃に持ち替え、飛来する刀剣を撃ち落としながら防御に徹する。俊敏に動いて的を絞らせない。なるべく射線上に信康と桔梗が並ぶように位置取りし、隙が生まれるのを待つ。
隙ができたら再度突撃。



「ははあ、若いねえ」
 目の前の少年が張り上げた声にリンゴーは笑いを零しつつ、自身を切り刻もうとするかのような戦場の空気に心が撫でられていくのを感じる。
 この手足は結局、この空気に懐かしさを覚えているのだ。
「まあ、その相手が」
 女の子ってのは、やりにくいもんだが。と、呆れの笑みの端に苦みを残して、少年に剣の雨が集中した一瞬の隙に滑り込む。
 ダガーを握り、肉薄したリンゴーは先ずは軽く線を引くように刃先を滑らせた。狙うのは少女の腕。
 陽炎のように避けられた直後、切り返し刺突。更にダガーを自らの頭上に投げ、背中側で右手にキャッチして、反転、捻りを加えた斬撃を放つ、その寸前にリンゴーの視界に鉄の光が過った。
「ッ」
 ナイフを空中に置くように手放し、旋回していた体を無理に押し留めると、身を屈める。飛来した剣はその屈んだ頭上を、正しく殺人的な軌道を描き、リンゴーの髪を数本奪い取って地面へと突き刺さった。
「そっち、……っ!」
 攻撃の元は、傷を負いながらも少女の援護をしてのけた信康という個体。それに一瞬の視線を向けながら、気付く。
 左手を伸ばし、重力に従って落ち始めたダガーを回収すると、宙返り少女から距離を取った。空中で捻りを加え、右に持った銃の引き金を引き今度は少女から放たれた剣刃の軌道を逸らして、距離を取る。
 肩口を一度抉られたのみで、六本もの刃を潜り抜けたのは幸運か、体の勘が戻っているのか。
「は、やっぱネエちゃんのビンタとは違うぜ」
 戦場の痛みに、しかし、その笑みが崩れる事は無い。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

氷魚・晴天
 長雨くんに呼ばれてきたけど、ちょっと出遅れちゃったかな?
 やれるだけやってみるよ。

 信康の牽制に参加しようかな。【忍び足】で近づいて【残像】を錯覚させる脚捌きで攪乱しつつ、刃からの水滴を放つよ。
【属性攻撃】の【2回攻撃】、「細雨砕岩」で素早く信康を突いていこう。
 狙うのは、ウーゴくんがつけてくれた傷口。【傷口を抉る】ようにして、攻撃は【第六感】でどうにか対処する。

 後で、岩猿の人にも話を聞いてみたいな。

 アドリブや絡みの描写も歓迎だよ。



 異形の腕を操る少年の猛攻に隠れるようにして、青い毛並みのケットシーが動く。
「っ!?」
 物言わぬ剣士、信康はその視界の端に動く影を捉え、目線は目の前の敵に向けたままに、刃の群れを差し向けた。
 空中を舞い奔る刃は重い鉄の音を響かせながら動いた影へと殺到し、しかし、何も貫く事なく地面へと次々と突き立つのみだった。
「加勢するよ」
 素早い脚捌きから錯覚した残像は、鮮血を溢れさせる代わりに、数滴の水飛沫を信康へと放っていた。
 否。それを放ったのは残像ではなく、刃が負った残像の主、晴天だ。
 彼が放った水滴は、彼自身の力を宿し信康の傷口へと命中する。それは、一切の攻撃にもならないかもしれない。だが、それに宿った力は、同室の力を宿した晴天の刀を導く。
 正に目にも止まらぬ速度が、彼の姿を歪ませる。
 数歩。それは信康と晴天の距離だ。その距離を瞬きの間で駆け抜けた晴天は、その速度を殺さぬままに、引き絞る体から超速の刺突を放った。
「……っ!」
 驚愕と恐怖。
 その瞬間、それを感じ取ったのは、信康ではなく晴天であった。
 背に氷を押し付けられるような感覚に、狙う傷に向いていた意識が周囲へと散る。
 背後。先ほど残像を裂いた武器が肉薄した晴天の背中に突き立たんと迫っていたのだ。
 回避か、迎撃か。
 その選択肢を脳裏に掠めた彼は、しかし、その選択肢を迷うことは無かった。突貫一択。
 もはや打ち放てば確実に傷を抉る距離において晴天は、背後の刃を無視し、攻撃を優先し、鋭い刃はその傷口を深々と貫いた。



 脇腹に深々と突き立った晴天の刀。
 そして晴天の背中へと突き立つ刃。
 放たれた弾丸如き勢いで彼の内臓を滅多やたらに引き裂かんとしたその刃は、その全てを空中で塵に変える。
「そこは、通さないわっ!」
 轟音、快音。横合いから武器の群れへと突っ込んだ拳が、触れる鋼鉄の悉くを粉砕する。
 叩き割り、弾き落とし、圧し砕き、全身に切り傷を作りながらも、彼女、蒼は拳を猛らせる。
 自分を狙うなら、狙いやすい。だが、仲間を狙う攻撃も狙いにくいということは無い。
「やっぱり」と猛攻の中で再び立ち上った煙幕の動きがオブリビオンの少女の攻撃を妨げる様に動くのを見て頷く。
 この刃は、霧を掌握しようとしているレイチェルの念動力すらも切り裂いている。
 信康、という個体の出現で煙幕の維持が希薄なものになっているのは、それが原因だろう。
 仲間の道を作る事を最優先に、武器の迎撃を選択していた蒼は露払いの如く飛来した斧の刃を、振り返りざまに掬い上げるように拳を振り上げ、打ち壊す。
「ありがと」
「お安い御用よ!」
 晴天が短く放った感謝の言葉に、彼女は朗らかに応える。彼の笑みに少しの硬直があるのは、第六感に植え付けられた死の恐怖だろうか。
 だが、その表情はすぐに引っ込み、代わりに軽い笑みが浮かぶ。
 互いに、互いの狙う敵を見つめる。晴天は信康、蒼は彼らへと襲いかかる鋼と少女。駆けた晴天の脳天を裂こうとした刃を、蒼は素早く拳で打ち抜くと、更に宙を舞う刃へと攻撃を仕掛けていく。

「どうした! 剣勢が弱まってきているぞ、オブリビオンッ!」
 亮平が、風纏う刃で身を刻もうとする武器を吹き飛ばして挑発する。
 長い戦闘において、疲弊の天秤は明確に、オブリビオンへと傾きだしている。リンゴーは、刀剣を銃撃で撃ち落としながら、少女の隙を見出してはナイフによる斬撃を繰り出していた。
「いまいち決め手に欠けるぜ」
 と剣の嵐に身を退いたリンゴーが愚痴った瞬間、宙を舞っていた剣の半数程が突如として消え失せた。
 否、燃え尽きるように灰へとその姿を煙幕の中に溶かしていったのだ。
 そして再び、煙幕が吹き飛ぶ。

 手数は力だ。
 ウーゴはそれを、舌打ちにのせる。
 左右から、上空から、襲い来る武器は目の前の男が握る武器以上に厄介だ。
「おい、テメェ!」
 足元を這う斬撃を跳んで避けながら、ウーゴは間近にいた霧亥に指を突きつけた。
 突然の指定に、一瞬困惑しながら視線だけをウーゴへと向けた。
「削る! ぶち込め!」
「……は?」
 短すぎる提案。
 まだ成人もしていない容姿のウーゴの言葉に、一瞬、どれに突っ込むかを迷い、彼の視線に得心する。
「ああ」
 同時に、二人は疾走した。
「――」
 それを迎撃せんと武器が宙を駆ける。四方から彼らを囲む武器群に、しかし霧亥は足を緩めることは無い。
 代わりに、その足を緩めたのはウーゴだ。
「邪魔クセエんだ、いい加減よォ!」
 ステップを挟み、翼を広げ、ダッシュの勢いを殺したウーゴは、特攻服の左右の袖口から巨大な怪物の爪を伸ばし吠える。
 野生の勘は、彼に軌道を教え、彼の体は、確実にそれらを見切っていた。悉くが爪に分断され、それで足りぬ刃は新たに増やした肉の鞭が打ち据え、粉砕されていく。
 殺到した刃は、少なからず彼の体に傷を作りながらも、只の一つも致命傷を与える事無く、霧亥に至っては切っ先すら届かせる事も許されず、消失していた。
 霧亥は背後で連続する破壊音に背を押されるように信康へと迫る。
 少女の視線を信康で断つように動く霧亥に、信康は正面に対面する。二点を結ぶ線状を動く霧亥の動きは、ある程度予想がつくのだろう。霧煙る中でも、それ自身が握る剣は、振るわれた槍の攻撃を弾き、霧亥の肩口を食い破った。
「……っ!」
 熱鉄を浴びたような痛みに、霧亥が力を緩めることは無い。
 そんな痛みは、承知の上だ。剣が肉を削ぐ瞬間、穂先が閃く。攻撃を誘い、その隙を狙った刺突。
 首を狙った一撃は、それでも、僅かに身を逸らした信康の肩を貫く。奇しくもその攻防は互いの肩を穿ち抜いた。
「こっちが本命だ」
 動きが止まる。防ぐ腕も刃もこの瞬間は無い。
 ならば、外れる道理はなく、怯む必要もない。
 足を上げる挙動すらなく、踏みしめた霧亥の脚が大地を震わせた。
「――引っ込んでろ!」
 轟音と衝撃。大地が紛れもなく、轟く。
 衝撃波すら発生させる踏み込み、纏っていた煙幕が一切の干渉を許さず爆散した。
その正しく爆心地にいた信康は、衝撃に四肢をもぎ取られながら上空へと吹き飛ばされ、二度と地面に落ちる事無く、紙を燃やすように端から灰に姿を変えていき、そよぐ風にすら吹き消えた。

 煙幕が吹き飛ぶ。
 先程、オブリビオンによって行われた行為は、しかし今度は猟兵によって齎された現象だった。
 宙に打ちあがり剣刃と同様に灰へと変わりゆく、信康の姿がそれを如実に説明している。
 クリアになった視界で、散っていた剣が、刀が、全ての刃がオブリビオンの周囲へと集まる。
 信康が斃された事で、刃の繰り手は少女一人。疲労で操作範囲を狭めざるを得なくなったのだろう。
「責めない手は無えじゃねえの!」
 肉薄するのは、リンゴーだけではない。亮平が、ウーゴが、霧亥が、晴天が、蒼が少女へと駆ける。
「……っ!」
 その瞬間、少女には自らに迫る全ての存在を明確に感知し得ていた。そして、それら全てを迎撃する能力も、未だ健在だった。
だからこそ、少女にとっての失策は、明瞭になった視界に映る全てを迎撃しようとした事だ。
「違う……?」
 彼女が感知した自らに迫る存在の中に、煙幕を掌握する必要の無くなったレイチェルの念動力によって高速で接近する仕掛け罠がある事に、気付くのが遅すぎた。
 それが、煙幕を噴き出す罠である事に気付いた時には、既に罠は、三度、煙幕を噴出していた。
 更に、それは周囲に散らばる事無く、少女の視界だけを真白に閉ざす。
「……っ」
 だが、視界を塞がれた程度で前後不覚に陥る少女では、オブリビオンではない。
 彼女は、自らが生んだ隙を埋める為、最も近く自らにいた猟兵からの攻撃を防御しようと、大剣を召喚しそれを壁にする。
 彼女の思惑通り、猟兵の攻撃は大剣の腹へと吸い込まれ、召喚した大剣は、その猟兵の小さな拳が突き破り、破砕し潰えた。
 蒼が優先するのは、仲間の道を開く事。そして少女が防御する際、武器を壁にするのを何度も見てきた。
 攻撃に合わせるように、防御剣を召喚するのであれば、煙幕に拳を突き入れればそれで十分だ。
「レイチェルさん!」
 そのまま攻撃へと転じる防御法を砕く為に、誰よりも早く肉薄した蒼はレイチェルへと言葉を投げる。
 道は作った。ならば、道を見えるように。
 少女の極々周囲に蟠っていた煙幕が、猛烈な風と共に吹き飛ぶ。
 蒼の屈んだ背を飛び越えるようにして、良平が切りかかる。
「終わりだ! オブリビオンっ!」
 大上段に振り上げられた剣は、その軌道の予測は容易い。だが、その予測に対して体を動かす事は少女には出来ないでいた。
「オレも、まあ、給料分はちゃんと働かせてもらうぜ」
 悪いな、嬢ちゃん、と。
 少女の背中にナイフを突き立てたリンゴーが謝辞を口にする。それに少女が答える間もなく。
 亮平の振り下ろした風を纏う刃が、少女の体を切り裂いた。
 逆袈裟に、肩口から脇腹までを一文字に分たれた少女の体は、その重量を支え切れるわけもなく地面へと落ちる。
「……そう……ざんねん」
 虚ろな瞳で、微かに動いた唇がそれだけを語り、彼女の体もまた、煤へと焼け焦げていった。

 そうして、この街を襲った火付強盗の黒幕は、猟兵達によって倒された。
 俄かに訪れた動乱は、いくつかの焼け跡を残して、訪れた時と同様に唐突にその息を潜めたのだった。


 後日、蒼はとある人物を探して、岩猿の死刑の話で俄かに賑わう街を歩いていた。
 あの夜。気を失った岩猿という盗賊を連行していった火付盗賊改方の男。たしか磯山と名乗っていた彼だ。
 岩猿の経緯を聞きたいと、サムライエンパイアに再び訪れた彼女は街並みの中に、文字通り毛色の違う人物を見止める。
「あれは、確か」と青い毛並みに、そういえば名前を知らないと思い出しながら、戦闘の助力に来てくれた猟兵に声を掛けた。
「ここにいるだろうって言われたんだ」
「磯山さん?」
 晴天、というケットシーに蒼は、閉店の文字が雑に張り付けられた煮売り屋の小屋を見つめた。
 果たして、目当ての人物はその中にいた。
「岩猿? お上の沙汰通り死罪だよ」
 捕まった山賊もろとも、打ち首だ。と事も無げに告げられた。息を呑む二人に男は続けた。
「西鯉屋も、近くに山賊集めてたらしくってね、それで取潰し。本家潰したかったんだろうけど」
 強盗に見せかけて、鯉屋本家を弱らせようと集めた山賊をオブリビオンに乗っ取られた、というのが見解らしい。
「あ、此処にいたんですか磯山さん」
 と、その時、磯山の手下である男が店に入ってくる。と同時にうんざりとした口調で愚痴りだした。
「どうやっ、牢抜けしたんでしょう岩猿。しかも牢名主に御咎め無し、な、ん……て」
 彼は、言葉の途中で蒼と晴天の姿を見て、表情を青褪めさせる。晴天は、どうにも聞いてはいけなかったようだと耳を倒し、蒼はその言葉を反芻し疑問を口にしていた。
「死罪じゃあ?」
「表向きはね、はぁ。逃げられちゃったから」
 口を押さえた男に流し目を送る磯山に、蒼はじゃあ、と言えば、彼は肩を竦めた。
 罪人が裁かれず、野放しになったという事実に、どこか複雑な、しかし救われたような心地を感じていた。
 岩猿の行動原理や理由に謎は晴れないが、それでも良かったと思う。
 悪人ではない。僅かではあるが、彼と直接言葉を交わし、蒼はそう思わざるを得なかった。
 少なくとも、今街で死を嘆かれる彼が只の悪人だったとは思いたくなかったのだ。
「どこかで大根でも煮てるんじゃない」
 と、ため息をついた改方の声に、蒼は少しばかり晴れやかな気分で笑みを浮かべた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月05日


挿絵イラスト