8
バトルオブフラワーズ⑫~黎き焔

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ドラゴンテイマー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#キマイラフューチャー
🔒
#戦争
🔒
#バトルオブフラワーズ
🔒
#ドラゴンテイマー


0




「――『欲望は止められない』。ドン・フリーダムの思想は単純明快だ」
 それは唯一人、花畑を睥睨する様に佇んでいる。
 システム・フラワーズにて遂に顕現したドン・フリーダムを見つめながら、男は冷ややかな眼差しをついと眇めた。
 何かを測る様に――或いはもっと奥深い何か真意を孕んで、目まぐるしく変異する事態をその視界すべてに収めている。
「そして、それは明確に世界を破壊する思想」
 ドン・フリーダムの思想を指して、男は物静かに口にした。
 世界を破壊し得るもの。それを成し遂げる思想。そう、だから選んだのだ。
 目許が歪む。劣悪なそれは、たぶん笑っているのだろう。微かに、けれど、確かに。
「私が与するに相応しい」
 故に彼らに、侵略樹アヴェスタを与えた。
 後は彼ら次第だ――私の役目は「持ち帰る」のみ。己の中で密やかに煽られ膨れゆく愉悦に、彼の――ドラゴンテイマーと呼ばれる男の口端が持ち上がる。
 が、それもふと何かに気付く様にして解け消えた。眼差しが小煩そうに花畑を探る。
 ひとつちいさく、嘆息にも満たぬ吐息が呼気に添う。
「……だが、奴らの出方も見ておきたい」
 譬えるならば、黎き焔。
 冥府の底から燃え上がる様な冷たい熱が、彼の四肢を縁取っていた。
「――いずれ私が、グリモアを再び手にする時の為に」


「ハローやっほーいらっしゃいませ! あたしだよ!」
 人懐こい笑みを浮かべたスワニルダ・ロトゥンハートは、猟兵たちを歓迎する様にその両腕を広げる。
 あたしの顔を知らないひとはちゃあんと覚えて行ってね、と要らぬ愛嬌を添える事も忘れない。
「キマイラフューチャーでの連戦、ほんとお疲れ様! 疲れたわよねそうよね、でもねまだ頑張って貰わないとなの!」
 言葉にいらえる様に、蝶のかたちをしたグリモアの翅が燦めいてひらめく。
 笑みは絶やさぬ儘、その蝶を指先で遊ばせながらスワニルダは継いだ。
「正念場ったら正念場よ、ドン・フリーダムが現れたんだもの! ――でもね、あたしがお願いしたいのは別のコト」
 うふふ、と彼女が笑う。
「システム・フラワーズの中枢からちょっと離れたトコにね、なんかわかんないけどちょーカッコイイおじさまがいるのね? でもね別に戦略的には放っといてイイっぽいんだけど、でもでもやっぱ気になるでしょ?」
 だから斃して来て欲しいの、と変わらぬ調子でスワニルダが言葉を紡いだ。
 ひらりと優雅に猟兵たちの間を翔ぶ蝶のグリモアだけが、その危険さを伝える様に必死で羽搏く。
 それを指先で摘んで手許に引き戻しながら、スワニルダは口端を艶やかに持ち上げた。
「あっとね、おじさま――ドラゴンテイマーって云うんだけどねちょう強いの、絶対先制を取られちゃうの。その対策はちゃんと考えてかないと、手も足も出ないかもだわ!」
 敵からは必ず先制攻撃が行われる。故にそれへの対応をしっかり練っていかなければ、まともに渡り合う事は難しいだろう。
 ぱふ、と両手を重ね合わせてスワニルダは品を作る。所作こそそんなものだが、その眼差しには猟兵たちを案じる色が確かに滲むのだ。
「油断とかほんと駄目だからね! 『黒竜ダイウルゴス』とか召喚してくるみたい、そゆのも気を付けてね。あとねえ、あとは――本当にほんとに、彼、強いわ」
 それじゃあ、と花咲く様な笑みが浮かぶ。
 送り出す為の燐光を得て、舞い飛ぶ蝶がきらきらと躍る。
「ラブユー、みんな大好きよ! だからみんなで戻って来てね――いってらっしゃい!」


硝子屋
 お世話になっております、硝子屋で御座います。
 ご覧頂き有難うございます、キマイラフューチャーでの戦争シナリオです。
 少人数でがっつり戦闘を書かせて頂ければ幸いです。

●特殊ルール
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

●判定について
 難易度に応じ、やや厳しめに行います。
 ユーベルコードは勿論、技能も大いにご活用頂ければと思いますが、どちらも『どんな場面で/どんな想定で』等、『どのように使うか』を指定頂ければ判定に加味します。

●プレイングについて
 1人か2人での参加を推奨します。判定優先の純戦の為、描写はアドリブが大変多くなる見込みです。
 状況次第ではありますが、あまり多くは採用しない予定です。
 今回は受付時間を設けませんので、プレイングが送信できる間はいつでも送って頂いて大丈夫ですが、リプレイ返却での受付停止を以て締切と致します為、送ったけどすぐに不採用で戻ってきた…という可能性が御座います。

 それでは、ご参加をお待ちしております。
126




第1章 ボス戦 『ドラゴンテイマー』

POW   :    クリムゾンキャリバー
【赤き剣の右腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【黒竜ダイウルゴスの群れ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ギガンティックダイウルゴス
レベル×1体の、【逆鱗】に1と刻印された戦闘用【大型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    文明侵略(フロンティア・ライン)
自身からレベルm半径内の無機物を【黒竜ダイウルゴスの群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:ハルヨリ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鳴宮・匡
◆レイラ(f00284)と


レイラ、一度だけ手を握ってもらってもいい?
……うん、

(ちゃんと守って、生きて帰る)
(レイラがそう望むのなら、)

大丈夫、……行こうか

大型の竜が複数
厭な感じだが、いつも通りやるだけだ
首魁の目線や気配、動作
周囲状況、敵の陣容、各個体の動き
具に【見切り】、或いは耳で聴き(【聞き耳】)
何処からどのように攻撃が来るのかを予測・推定
回避を試みる

……目の前で何が起こっても、
銃を握る手は、緩めない
ああ、……信じてるから

追撃が降る前に素早く狙いを定め
レイラが作ってくれた隙を逃さず
群なす竜たちの間隙を縫って【千篇万禍】で狙撃
――この一撃だけは、確実に通す

……ったく
ちゃんと連れて帰らなきゃな


レイラ・エインズワース
鳴宮サン(f01612)と

手?
別にいいケド
なんか今日はらしくないネ
落ち着いたナラ、いいケド
怪我はダメって言える相手じゃないケド
ちゃんと帰ろうネ

相手は格上
受けきらないと土俵にすら立てナイ
迫りくる竜の群れ
【呪詛】で動きを鈍らせて
数の薄いところを探して、回避をするヨ
直撃が避けられないなら【オーラ防御】
最悪本体のランタンだけになっても構わない
……大丈夫、コレは生きるタメ、勝つためのコト
だから、信じて?

受けきったら次が来る前に冥府の槍を発射
竜の群れの【情報収集】を欠かさず
動きの止まる一点や隙間を探して
何本かの槍を通路の確保に、何本かは突破口の確保に
ソシテ残り全部を相手に打ち込むカラ
余裕トハ、言わせないヨ



●君よ征け
「レイラ、一度だけ手を握ってもらってもいい?」
 眼前には黎き焔を纏う男が、その昏い眼差しで以て猟兵たちを見つめている。
 いつ戦端が開かれてもおかしくはない――そんな状況だからこそ、鳴宮・匡は密やかにそう声にする。
「別にいいケド、……なんか今日はらしくないネ」
 普段の匡を良く良く知るからこそ、レイラ・エインズワースはそんな風に零す。
 それでも開かれた掌に掌を重ねれば、確かなぬくもりが膚を通して伝わるのだ。生きている。確かに、互いに。血が通うが故に暖かく、だからこそこのままで在れと願っている。
 怪我は駄目、と言える相手でもない。だからこそレイラは小さく笑んで、そっと唇をひらく。
「ちゃんと、帰ろうネ」
「……うん、」
 ちゃんと守って、生きて帰る――レイラがそう望むのなら。
 交わした約束を破る訳にはいかないのだ。だからそれも、叶えられる。ふたりの手が解ける様に離れるとい共に匡が眼差しを持ち上げると、ドラゴンテイマーのそれとかち合った。
 男が笑う。歪だった。
「もう祈らずとも良いと見える。死ぬ覺悟は定まったか」
 滑らかに掲げられた彼の指先が、ばきりと鳴らされ空間が揺らぐ――それは死を齎す合図だ。燐光と共に空に描き出される魔法陣から、黒い竜が吼え哮りながら産み落とされてゆく。
 大型のダイウルゴスの群れに、けれど匡は動じない。ただひとつ息を吸って、それから詰める。拍はそれで取れる。ならば充分だ。
「いつも通りやるだけだ」
 風の流れる音に羽搏くそれが混じる。視界外に複数、けれど背後からの挟撃は無し。小細工の要らないほど、一体一体は強いのだろう――無論だ。けれどそれは、まともに渡り合ったらの話だ。
 レイラの紡ぐ呪詛が絡み付くようにダイウルゴスへと放たれる。四肢を、翼を絡め取ってその動きを阻害する援護は、確かに匡の助けにはなるだろう。
「小賢しい」
 片眉を跳ね上げたドラゴンテイマーが、その片足を軽く持ち上げて地面へと叩き付ける。舞い上がる瓦礫が、花弁が、彼の周りに散らばる無機物が、膨れ上がる様にして黒き竜へと変貌する――あまねくそれらが侵略されてゆく。
 苛烈に吼える新手たちは、真っ直ぐにレイラへと群がった。
「相手は格上、受けきらないと土俵にすら立てナイ――……!」
 無論解っている。だから避けるのではなく、敢えてそれらを受ける方を選んだ。展開する防御壁はけれど、決して全てを防ぎ切る事は叶わない。悪辣な竜たちに肩口の肉を、頬を、脹脛を食い散らかされて鮮血が散る。
 飲み下しきれず零れ落ちた苦鳴に、匡であれば彼女の方で何が起きているのか理解するのは造作もない事だったろう――だから、振り向かない。
 ただいらえる代わり、撃鉄を起こす。銃口は一筋も揺れる事なく、ドラゴンテイマーへと据えられている。
「ああ、……信じてるから」
 独り言だ。だからレイラも、震える唇で笑ってみせる。
「――振り向いたら、怒るヨ」
 冥府の底より槍が現出する。それは今度こそ、護るものを違えない。
 継ぐべき者が継いだその槍は、使い手の意志に抗う事なく真っ直ぐにドラゴンテイマーへと突き立てられる――幾筋も、幾本も。
 身を縫い止める様に穿つ槍に、ドラゴンテイマーの唇が忌々しげに歪んだ。その瞬きする程度の一瞬の『隙』を、やはり彼が見逃す筈など有り得ないのだ。
「――視えた、」
 榛色が僅かに見開くと同時、弾丸が放たれる。
 匡の執念が、その弾道を拓いてゆく――この一撃だけは、確実に通す。凪いだ海になら、造作もない事だ。
「きれイ、」
 竜の群れを擦り抜けてドラゴンテイマーの胸を貫くその弾丸を、血に烟るレイラの緋色が見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月居・蒼汰
【WIZ】

花の足場を黒竜に変えると想定
いっそのこと竜そのものを足場にするつもりで駆ける
竜達には翼で飛びつつ空中戦を
振り落とされる前に別の竜に跳んだり
こっちに突っ込んでくる竜がいたら
ぎりぎりまで引きつけて別のに跳び移るとかして
同士討ちとか狙えないかな…?

黒竜達の攻撃はオーラ防御も併用しつつ気合いで耐えて
群れを掻い潜りながらドラゴンテイマーを目指して進む
傷が痛む、けど今は我慢
射程圏内まで近づけたらしっかりと狙いを定め(スナイパー)
願い星の憧憬で攻撃(全力魔法)を
二撃目は考えず仲間に託し
この一撃にありったけの力を込めて、叩き込んでやる
何を企んでるかは知らないけど
あんたには何一つ、くれてやるもんか…!



●星は願う
 人体の急所たる胸を穿つ弾丸に、けれどドラゴンテイマーの躰はいちど傾いだのみだった。
「この身に報いるか、煩わしい事だ」
 全く以て忌々しい――そうは言葉にせずとも、その憎悪に彩られた表情が、眼差しが、何よりも饒舌にそれを語るだろう。
 その足裏が再び地を詰る。舞い散る瓦礫が、花弁が、もう一度竜の姿を得て猟兵のひとりへと襲い掛かる――が、その着弾よりも一瞬だけ早く飛び出す影が在った。
「――だよね。そう来ると思ってた」
 恐らくこの戦場で在れば花の足場を竜に変えてくるのでは、と読んでいたが故に、先んじて対応が叶ったのだ。月居・蒼汰は軽やかに飛び来る竜を足場にして、ドラゴンテイマーへの距離をひといきに詰める。
 が、それで全てを振り払えるほど、ダイウルゴスとは易しくはないのもまた事実だ。別方向から襲撃してくる個体に、蒼汰は息を詰めて一際大きく翔んだ。
「ッ、そう簡単に辿り着かせてはくれないか……!」
 涎滴る赤い口をがばりと開ける竜の姿に顔を顰め、そのまま踵で強くその鼻っ面を踏み付ける。ぎゅうと鳴くのを後ろにしながら、踏み出すもう片足でまた次へと飛び出してゆく――想定していたが故の冷静さと、軽やかな身のこなしで蒼汰の軸は安定していた。
 それでも全てを往なし切る事は叶わない。足許を、擦れ違い様に上腕を、黒き竜たちの爪が牙が裂いて、追い立ててゆくのだ。
 展開する防御壁はそう強いものではない。それを補うのは己の気合のみ――じわじわと削られゆく体力に、痩せ我慢をする蒼汰の唇がそれでも笑んだ。
「――痛くとも我慢だ、……だって、漸くあんたに辿り着いた」
 とうとう射程距離に捉えたドラゴンテイマーが、眉宇を顰めて蒼汰を気怠げに見遣る。
「小さき者どもが擦り減りながらも喚くか。実に不愉快よな」
 その言葉は既に、蒼汰の耳には届いていない――だって瞼の奥、頭蓋の彼方で音を立てて緻密な計算式が走っている。確実に彼を、星の乱撃に囚える為に。
 あれだ、と。
 彼方の星に告げる様にドラゴンテイマーを指し示す蒼汰の指先には、誰にも曲げる事の叶わない意志がひとつ、宿るのだ。
 ――彼が何を企んでいるのか、蒼汰は知らない。それでも。だからこそ。
「あんたには何一つ、くれてやるもんか……!」
 奪う者に与えてやる者など何一つ無い。それだけは確かだった。
 喚ばれた星が、さんざめいて燦きながら墜ちてくる――無数の耀きを伴うそれは、蒼汰もドラゴンテイマーをも呑み込んで、花の向こうへと沈んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
先に攻撃されるなら、正面から受けるしか、ない
俺は、正直に向き合う事の方が簡単で、やりやすい
痛みを堪えて、一撃あてるまでは立っている
そういう覚悟は、してきた

その右腕で深い傷をおわないように急所狙いなら逸らす努力
黒竜の群れは相手するのは無理
なら、自分の野生の勘で図るのはタイミング
ジャンプして、向かってくる鼻面を踏み台にその体の上を走り抜ける
鋼糸で引っ掛けられそうな所あるなら体上を通れなくても、支えにして腹側とか蹴ってやりすごす
無理なら怪我負っても一撃向ける間、この身が持てばいい

群れをこえれたら黎き焔の男の懐に駆けこむ
あとは俺の力の限り、一歩踏んで大連珠巻く右腕にのせて
持てうるもの全部、打ち込むだけ



●覺悟たる
「何たる屈辱、何たる無様……!」
 ドラゴンテイマーは呻く。強かに星に撃たれながらも漸う這い上がり、その眼差しの灯る焔の粘度と昏さは彌増すばかりだ。
「なら、そこに痛みも足してやる」
 彼を待ち構える様に佇んでいた終夜・凛是は、それを聞いて淡と告げた。
 金にも似た眼差し宿す朱い狐を見咎めて、ドラゴンテイマーは苦々しく顔を顰める。そうしてその右腕が、赤い剣へと変生を遂げる――血を吸ったかの如くに赤い腹に、禍々しいひかりがぎらりと走った。
「命知らずと見得る。舌を出せ、斬り落としてくれる」
「こう?」
 凛是はちょっとだけ考える風に瞬いて、べ、と舌を出した。
 音が聴こえるならば、恐らくぶちっと何かが切れたのだろう。凛是からしてみれば、相手にしろと言われた事をなぞっただけなのだけれど――兎角何かの千切れたドラゴンテイマーは、その赤い剣で以て凛是へと真っ直ぐに貫きに掛かる。
 頭部を狙った苛烈な一撃に、凛是の喉が微かに上下する。それもまた一瞬の事で、叶うのは僅かに頭を剣とは反対側へと逸らす動作だけだった。
 ――ぱ、と鮮血が散る。朱い髪が幾筋かはらりと落ちて、浅く大きく切れた側頭部から赫が流れた。
「……ッ、」
 痛い、と苦鳴を漏らして蹈鞴を踏む時間すら惜しい。一撃を入れるまで斃れない覺悟が、凛是にひとつ芯を通している。
 橙の双眸が見開いて、おおきく光を取り込む。視界いっぱいに視えたのは、赤い剣を受けてしまったこの身目掛けて飛び掛かって来るダイウルゴスの群れだ。
 考えるよりも尚疾く、凛是の身体は本能に突き動かされて回避に動く。頭で考えるよりも先に、膚が敵との距離を測って飛び出すタイミングを弾き出す。
「あれは、……無理だな」
 黒竜の群れをそう判じて呟くと共に、ぐ、と腰を落としてから撥条の様に跳ねた。風を受けて落ちる最中に先頭の竜の鼻っ面を踏み付けて、次の竜へと飛び移る。
 付きすぎた勢いを削ぐ為に飛ばす鋼糸は、通り過ぎた竜の尻尾に絡み付いて支点を為す。情けなく上がる竜の悲鳴に浅く笑う様な呼吸を残して、凛是は前へ前へと突き進む――剣の袂へと、ドラゴンテイマーへと。
 脈打つ様に傷が痛む。生暖かい血がひたひたと襟巻きを、衣服を染めている。それでも本能が脚を止めない。
 一撃を向ける間、この身が持てば良い。
「地の底から見上げる空も、良いもんだよ」
 ドラゴンテイマーへと最後のひといきを詰めて、凛是はきゅうと双眸を眇めた。
 身に宿る力が、今まで温存した右腕へと注ぎ込まれる――大連珠が絡むその腕に、最後の一滴まで。
 ――穿つ一瞬は、音無く静かだ。
 凄まじい剛咆が後から漸く追い付いて、黎き焔纏う男諸共、その一帯が崩落してゆく。

成功 🔵​🔵​🔴​

花剣・耀子
アレが何かを謀っているのなら、あたしも計りに征くわ。
手の内を見せて貰いましょう。

先手を取られるのは判っているのよ。
赤き剣に対しては咄嗟にアメノハバキリを盾に。
ここで斃れなければ上々。
逆手にフツノミタマを抜いて、放たれた黒竜をなぎ払いましょう。
鱗を砕いて弾き飛ばして、黒竜を黒竜で押し返しながら、
少しでも威力を殺すように。

即死しなければ、それで良い。
痛みも呪詛も喉の奥で噛み潰すわ。
彼我を結ぶ線上で行動を阻害する黒竜を斬り捨てながら、
最短距離を最速で踏み込みましょう。
殺されきるまでの一瞬が、あたしの時間よ。

一閃で良い。
おまえがどんな存在であれ、此処に存在しているのなら。
あたしの剣はお前を斬るわ。



●不沈の青
 沈まねど、その躰には少しずつ疲弊と痛みとが積み重ねられてゆく。
 崩落の煙が落ち着く頃、その中から竜の一頭が重たげに羽搏く姿を現すだろう――足にはドラゴンテイマーがその身を委ね、戦場へと舞い戻ろうとしていた。
「何を謀っているのかしらね」
 黎き焔纏う男の姿をひたと見据えて、花剣・耀子は囁いた。
 彼女の手許では、その白いゆびさきが揮う剣たちが啼いている。風がその鞘を撫でる度に音がしているのかもしれなかったし、本当に吼えているのを抑え付けているのやもしれない。
「――ならば、あたしも計りに征くわ」
 視線は揺らがぬ儘に、冷めた青がひとつ瞬いてそう零す。
 手の内を見せて貰いましょう――囁く彼女の唇が、緩く結ばる。視界の先では足場を得たドラゴンテイマーが、劣悪に笑って此方を獲物と定めたところであった。
 男の片手に赤き剣が現出する。枉々しいものの顕現の如くに鋭利なひかりを弾く剣の腹に、底冷えするものを覚えて耀子は浅く喘いだ。喉が呼吸を求めて少しだけ鳴る。
「この身を測るか。傲岸な女だ」
 とん、と――翔ぶ所作はそんな表現で纏まる程の軽さだった筈だ。ドラゴンテイマーは低く嗤って、その一歩を踏み出しただけだった筈だ。だと云うのにその体躯は真っ直ぐに、最短距離を耀子へと詰めて来る。
 流れる儘に繰り出される赤い剣を、けれどほんの一瞬の差で以て押し返す。封印の施された鞘が、ぎん、と不快な音を立ててその剣の刃へと噛み付いていた。
 その裡に渦巻く呪詛が、或いは悪さをしているのやもしれなかった。
「ッ、」
 それでも全てを往なし切れない。刃は僅かにその切っ先を耀子へと届かせ、頬の浅い肉を裂いてゆく。
 視界の端を細かな花弁が咲き群れる様にして染める鮮血より、耀子が懸念したのはそれに依って喚び出される黒き竜の群体だった。
「斃れていないもの――上々だわ、」
 言葉は拍だ。声は重石だ。それは浮つく身体をこの戦場へと縫い止めて、耀子の身体を次の挙動へと駆り立てる。
 逆手に抜くは布に封じられた残骸だ。刀のかたちをしたそれを、半ば暴力めいた力で思い切り振り抜き薙ぎ払う。
 獣の悲鳴が幾つも上がって、先陣を駆けていた黒竜の個体がふたつ、みっつと撃ち返されてゆく――好機を読んだ耀子の爪先が、だん、と音を立てて花畑を蹴り上げた。
 花弁を纏い駆け出す羅刹が、構えた刀の柄で小気味良く竜の腹を突き上げ放る。飛んだ先で別の個体にぶつかり、もつれ合って竜たちが崩れゆく。
「殺されきるまでの一瞬が、あたしの時間――」
 痛みは無い。呪詛など視えない。全て喉の奥で噛み潰した。何も要らない。ただこの身を突き動かす衝動だけが在れば良い。
 眸の青が深度を増す。尚も冷えるそれで以て、ドラゴンテイマーの袂へと辿り着く――それは視えると同時だった。
 耀子は既に、剣を抜いた。
「斬るわ」
 花弁が、鮮血が、黎の焔が、剣に裁かれ撒き散らされる。
 相対する男の苦鳴すら、花の硲へと千千に散らされてゆく。
「だっておまえ、此処に存在しているのでしょう」

成功 🔵​🔵​🔴​

オブシダン・ソード
詞波(f09892)の剣として

心躍る、かい。君ならそう言ってくれると思ったよ
竜殺しの剣なんて箔が付いて良いよね

●先制攻撃対応
詞波の【天梁】を先に発動
ああ、君ってやっぱりどうかしてる。褒めてるんだよ?

潰しに来る赤剣にはオーラ防御で緩和を
痛いのは嫌だってば
そっから先は…良いさ、せめて【鼓舞】することになれば良い。君を信じよう
一度凌ぎ切ったのなら僕の方もUCを発動
また先制が来るよ。でも、身体強化された君なら対応できるでしょ?
頼むよ相棒

●反撃
君、ああいうワイルドなのって好み?
軽口叩いて鼓舞したり、死角からの攻撃に警告したりしながら、彼女の斬撃に合わせてUCを発動
片端から斬り捨てよう

その首、僕等が貰うよ


葦野・詞波
オブシダン(f00250)と

握るのは久しいな、オブシダン
鈍らにはなっていないな、重畳だ

強敵相手は悪くない
寧ろ心躍る、そうだろう、相棒
ドラゴンキラーとして名を馳せる千載一遇の機会だ
相棒が悲鳴を上げるまで存分に斬らせて貰う

相棒を手にとり【天梁】の誓いを立て
死線を彷徨うような心踊る戦いを演じる為
敢えてクリムゾンキャリバーの赤き剣を武器受け
痛いのは慣れているだろう、お互い

次撃の黒竜の群れは見切りの目で避けて見せるとも
私を信じろとしか言えないが
誓いが成就すれば容易い事だ
二度目となれば尚更

避けきった後はこちらの番だ
相棒の【ハンドシェイク】で
ドラゴンテイマーの首を断ちに行く
邪魔をする者は全て切り捨てるまでだ



●一対
「握るのは久しいな、オブシダン」
 葦野・詞波がそう囁くと、ふと口端を緩めて男は笑う。
 いらえる代わりに、一歩彼女の隣へと歩を進める。その姿が解ける様に、男のそれから黒曜石の一振りに変生するのを見届けて、詞波は躊躇いなく彼を――オブシダン・ソードの柄を取った。
 鈍らになっていないのなら重畳だ。握り心地が、その感触がかつてと変わらぬのを直に感じ取りながら、詞波は継ぐ。
「強敵相手は悪くない――寧ろ心躍る、そうだろう、相棒」
「心躍る、かい。君ならそう言ってくれると思ったよ」
 掛けられた声に、黒曜石から弾む様に愉しげな声が返る。
 竜殺しの剣だなんて箔がつく。ひとりと一振りはそんな風に密やかに笑い合いながら、滑らかな所作でドラゴンテイマーへと向き直った。
 最早男には残されたものなどなく、その胸の裡に巣食う何某かの挟持やそういったもので動いているのやも知れない、そんな風にも思える風体だった――猟兵たちの我が身を厭わぬ攻撃を、しっかりと力量を見定め立てた対応を、幾度もその身に浴びて尚死ぬ事は叶わない。
 まだ、まだ斃れられない。その妄執だけが、ドラゴンテイマーの芯を為している。喩え再び骸の海より蘇るのだとしても。
「――随分と、旧式の剣を番えるものだ。圧し折れば、その黒曜の欠片も花畑を彩る星となろう」
「このオブシダンを旧式と侮るか。剣を見る眼はないらしいな」
 詞波の手に在る黒曜石の剣を嘲り笑うその声に、彼女がついと片目を眇めて凛と返す。わあ照れるな、とその手許でオブシダンが賑やかに喋った。
 来るのならば備えるだけだ。詞波の指先ひとつひとつまで意志が宿り、番えたオブシダンをすらりと構える――その身へと、大いなる試煉が課されゆく。
 気配を感じ取ったオブシダンが、感嘆する色に染まる息を吐いた。
「ああ、君ってやっぱりどうかしてる。褒めてるんだよ?」
 ふたりの視界の向こうでは、赤い剣を番えたドラゴンテイマーが大きく花畑を蹴って身体を前へと倒した所だ。瞬きひとつ、ふたつもはきっと要らない――たったそれだけの一秒にも満たぬ挙動で、黎き焔を纏う男は詞波とオブシダンの眼前へと肉薄する。
「痛いのは嫌だってば、」
 ついと詞波の唇端が艶やかに持ち上がるのを見て、オブシダンは嘆息めいた声を零す。赤い剣が黒曜石の切っ先を逆撫でし詞波の膚を裂く、その寸前に挟まれる防御壁が、生まれた端から衝撃で吹っ飛び散り消えていった。
 ぎゃり、と不快な音が鳴く――それはドラゴンテイマーの操る赤き剣の腹が、無遠慮にオブシダンの縁を撫ぜたそれだ。
 深く裂かれた肩口から鉄錆いろの花を散らしながら、ぐらりと傾ぐ自らの四肢を詞波のヒールが強く支えた。
「何を。痛いのは慣れているだろう、お互い」
「――良いさ、そら、相棒。竜が来るよ」
 穿つ獲物を仕留める為に、ドラゴンテイマーの口許が劣悪に笑う様が視えた。趣味が悪いと嗤って吐き捨て、この傷跡目掛けて黒の竜が群がるのを見遣る――到達は直ぐだ。
 黒曜石が周囲の光を呑んでぎらりと皓る。頼むよ相棒、と軽やかなオブシダンの声が告げるのに、彼の柄を番え直す事で返事と為す。
「――信じておいで、この私を」
 誓いは既に成就したのだ。
 迫り来る竜の群れを、故に避ける事はそう難しくもない。飛躍的に増した身体能力に背を押され、そのまま詞波は前へと躍り出る。ドラゴンテイマーを剣の範囲に収めるまで、一歩、二歩、――さあ、届くぞ。
「熱烈だね! 君、ああいうワイルドなのって好み?」
 ひといきに距離を詰めるその様子を見遣って、オブシダンが軽やかに笑う。その言葉ですら詞波の芯を鼓舞するのだ。柄と指先がしっかり繋がっている限り、ふたりは相棒なのだから。
 別々だった呼吸が、そこでぴたりと合う波長を得る。それが合図だ。言葉はない。必要ない。
「さあ行こうか、相棒」
 ――其れは、一閃。
 大きく、けれどただの一つたりとて無駄のない斬撃が、黒竜の群れを、その向こうに護られるドラゴンテイマーの頸を絶つ。
「邪魔をする者は、」
 苦悶と絶望に汚れた顱が舞い上がるのを見遣る詞波が、つと、銀の眸を眩しげに狭めた。
「全て、切り捨てるまでだ」

 やがてその躰も頸も、音なく静かに骸の海に呑まれゆく。
 ここに顕現せし黎き焔は、確かに猟兵たちの手によって討たれたのだ。
 嗚呼、焔が花の翳へと消えてゆく。散り消える間際の竜が、葬送を真似る様にひとつ、長く尾を引く咆哮を上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月29日


挿絵イラスト